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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】測定デバイスにおける信号の線形化
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/305 20210101AFI20241106BHJP
   A61B 5/276 20210101ALI20241106BHJP
【FI】
A61B5/305
A61B5/276 200
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522638
(86)(22)【出願日】2022-10-09
(85)【翻訳文提出日】2024-04-16
(86)【国際出願番号】 EP2022078004
(87)【国際公開番号】W WO2023078640
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】21206863.9
(32)【優先日】2021-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【弁理士】
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145654
【弁理士】
【氏名又は名称】矢ヶ部 喜行
(72)【発明者】
【氏名】フランク クリストフ フロリアン
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA01
4C127CC01
4C127EE08
4C127KK03
4C127KK05
(57)【要約】
信号伝達関数の非線形性によって引き起こされるコモンモードからディファレンシャルモードへの変換を補償するための電気検知信号を前処理するための方法。入力信号に線形化関数を適用して、非線形性を打ち消す。前記方法は、標準化された試験信号の複数の組が測定動作の入力チャネルに適用される較正プロセスと、各々の試験信号の組に対し測定される対応する試験出力とを含む。線形化関数のパラメータは、取得される試験出力のデータセットに基づいて設定される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定デバイス上で実施するためのコンピュータ実装方法であって、前記方法は、
前記測定デバイスの少なくとも2つの入力チャネルから信号を読み込むステップであって、各々の前記入力チャネルからの信号は、夫々のセンサ要素から受信される、ステップ、
前記入力チャネルの各々に線形化関数を適用するステップであって、前記線形化関数は調整可能なパラメータを持つ、ステップ、
少なくとも1つの出力測定値を導出するために、前記線形化関数を適用した後に、前記入力チャネルに計算アルゴリズムを適用するステップ、及び
前記出力測定値を示すデータ信号を出力するステップ
を有する差動測定動作と、
前記測定デバイスの前記入力チャネルに一定値の較正入力信号の複数の組を適用するステップ、
較正データセットを形成するために、前記線形化関数を適用することなく、前記較正入力信号の各々の組に前記計算アルゴリズムを適用し、各々の出力測定値を記録するステップ、及び
前記較正データセットに基づいて、前記線形化関数の前記調整可能なパラメータをフィッティングするステップ
を有する、
前記差動測定動作とは異なる時間に行われる較正動作と
を有する、コンピュータ実装方法。
【請求項2】
前記線形化関数は、多項式関数である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各々の入力チャネルで受信した前記信号は、非線形伝達関数によって処理された真の検知信号を表すと仮定され、
前記線形化関数の前記調整可能なパラメータをフィッティングするステップは、前記較正データセットに対し、前記非線形伝達関数を前記入力信号に適用しなかった場合に取得されるような、各々の較正入力信号に対する理論上の真の出力測定値と、前記較正データセットに記録される実際の出力測定値との間の誤差を最小化することを有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記計算アルゴリズムは、前記入力チャネルへの1つ以上のベクトルの適用を有し、各々のベクトルは、前記入力チャネルの組から出力測定値へのマッピングを定義し、前記出力測定値は、前記入力チャネルと、前記ベクトルの要素によって定義される重みとの線形結合であり、較正は、前記1つ以上のベクトルに部分的に基づいて行われる、請求項1乃至3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記差動測定動作は、複数の異なる出力測定値を導出するために、複数の前記ベクトルの適用を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記測定デバイスは、3つ以上の入力チャネルを有し、前記複数のベクトルの各々は、前記入力チャネルのサブセットのみからのマッピングを定義する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記差動測定動作は、複数の線形化関数のデータセットの参照を有し、各々の線形化関数は、前記複数のベクトルのサブセットのみに関連付けられ、所与のベクトルに関連付けられた線形化関数のみが、夫々の前記ベクトルを適用する前に、所与の入力チャネルに適用される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記入力チャネルは、各々がディファレンシャルモード成分、コモンモード成分及びオフセットを有すると仮定され、前記較正手順は、前記入力チャネルの前記オフセットに対する既定の確率分布の参照を有する、請求項1乃至7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記線形化関数及び前記較正動作は、前記較正された線形化関数が、前記確率分布において最も高い確率を持つオフセットの組に対しては、より最適な線形化を提供し、前記確率分布において低い確率を持つオフセットの組に対しては、あまり最適ではない線形化を提供するように構成される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
各々の入力チャネルで受信した前記信号は、非線形伝達関数によって処理された真の検知信号を表すと仮定され、
前記線形化関数の前記調整可能なパラメータをフィッティングするステップは、前記非線形伝達関数を前記入力信号に適用しなかった場合に取得されるような、較正入力信号の組に対する真の出力測定値と、前記較正データセットに記録される実際の出力測定値との間の誤差を最小化する最適化プロセスを有し、
可能なオフセットの組に対するより最適な線形化は、較正後に、前記可能なオフセットの組を持つ入力信号に対する前記出力測定値において、平均誤差がより小さいこと意味し、及び
前記可能なオフセットの組に対するあまり最適ではない線形化は、較正後に、前記可能なオフセットの組を持つ入力信号に対する前記出力測定値において、平均誤差がより大きいことを意味する、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
プロセッサ上で実行されるとき、前記プロセッサに、請求項1乃至10の何れか一項に記載の方法を行わせるように構成されるコード手段を有する、コンピュータプログラムプロダクト。
【請求項12】
入力/出力部、及び
1つ以上のプロセッサ
を有する処理装置において、
前記1つ以上のプロセッサは、前記1つ以上のプロセッサが差動測定動作を行う第1のモードで動作可能であり、前記第1のモードは、
測定デバイスの少なくとも2つの入力チャネルから信号を読み込むステップであって、各々の前記入力チャネルからの信号は、夫々のセンサ要素から受信される、ステップ、
前記入力チャネルの各々に線形化関数を適用するステップであって、前記線形化関数は調整可能なパラメータを持つ、ステップ、
少なくとも1つの出力測定値を導出するために、前記線形化関数を適用した後に、前記入力チャネルに計算アルゴリズムを適用するステップ、及び
前記出力測定値を示すデータ信号を出力するステップ
を有し、
前記1つ以上のプロセッサは、前記1つ以上のプロセッサが較正動作を行うように構成される第2のモードで動作可能であり、前記第2のモードは、
前記測定デバイスの前記入力チャネルに一定値の較正入力信号の複数の組を適用するステップ、
較正データセットを形成するために、前記線形化関数を適用することなく、前記較正入力信号の各々の組に前記計算アルゴリズムを適用し、各々の出力測定値を記録するステップ、及び
前記較正データセットに基づいて、前記線形化関数の前記調整可能なパラメータをフィッティングするステップ
を有する、処理装置。
【請求項13】
夫々のセンサ要素からの少なくとも2つの入力信号チャネルを同時に読み込むための少なくとも2つの信号入力ポート、及び
請求項12に記載の処理装置
を有する測定デバイス。
【請求項14】
請求項13に記載の測定デバイス、及び
前記信号入力ポートに接続するための少なくとも2つのセンサ要素を有する信号測定装置
を有する、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体信号の測定値を計算するための測定デバイスへの入力信号を線形化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
差動測定(differential measurement)は、物理的特性(例えば、圧力、温度、電圧)の測定の一種であり、この測定からの関連する出力は、2つの点x、xで測定された前記特性の差yであり、ここで、各々の点での絶対値は関連しない。各々の点での前記物理的特性の値は、コモンモード成分cと、ディファレンシャルモード成分dとを含むものとしてモデル化される。ディファレンシャルモード成分dは、各々の点xにおいて反対の符号で発生する。例えば、2つの点における特性の値x、及びこれらの点からの理想的な出力測定値yは、例として、

=0.5d+c
=-0.5d+c
ideal=x-x=0.5d+c-(-0.5d+c)=d

である。
【0003】
理想的な事例において、xとxとの差を計算することは、コモンモード成分cを取り除き、ディファレンシャルモード成分dだけを残す。
【0004】
しかしながら、何らかの実際のシステムにおいて、信号xは、前記測定値の計算を行う前に、伝達関数fの制約も受ける。伝達関数は、回路内の電気部品、例えば、ダイオード、サイリスタ、トランジスタのような半導体部品、並びに、例えば、演算増幅器及びAD変換器のような、より複雑な回路の動作が原因で生じる。

real=f(x)-f(x)=g(d,c)
【0005】
伝達関数f(x)は、実際の出力値yを、d及びcの関数gとする。これは、コモンモードからディファレンシャルモードへの変換(CM2DM)と呼ばれ、cは普通、dに比べ大きく、出力に現れるほんの少しのcでさえも、信号に影響を及ぼし、dの一部又は全部を隠す(マスク)するので、測定の精度及び信頼性を著しく低下させる。
【0006】
伝達関数fが線形であると仮定する場合、CM2DMは、(xの値に関係なく)これら伝達関数をより同等にさせることによって減らすことができる。しかしながら、伝達関数が非線形である場合、これら入力信号は、異なるオフセットを持ち、非線形性のため異なる位置にあり、これが、入力信号に僅かに異なる小さい信号利得を生じさせる場合があるので、伝達関数をより同等にさせるだけでは十分ではない。
【0007】
図1は、例示的な線形伝達関数14及び非線形伝達関数12a、12bを概略的に示す。図から分かるように、非線形伝達関数では、信号に対し結果生じる利得は、入力信号の値(x軸)の非線形関数である。描かれるグラフのy軸は、所与の入力信号値(x軸)に対応する出力値を示す。少なくとも一定のオフセットを持つ小さい信号に対する利得は、曲線の傾きに対応する。従って、伝達関数によって適用される利得は、入力信号のオフセットが、この入力信号のベースラインの位置を非線形伝達関数に沿って変化させるので、このオフセットに依存する。
【0008】
このオフセットは、ディファレンシャル成分dの一部として理解される。オフセットの主な原因は、皮膚-電極接触面の動作であり、この動作は、数百ミリボルトまでの電位を生じさせる想定外のバッテリとして作用する。測定デバイスのユーザは通常、このオフセットに関心はないが、生理学的原因によるものであるdの成分には関心がある。生理学的な電気活動は、最も典型的には、AC信号成分の形式である。前記オフセットは、場合によっては“真の(true)”ディファレンシャル成分であるかもしれないが、ユーザが信号の生理学的(AC)成分にのみ関心がある場合、これは関連しない。
【0009】
入力チャネルの伝達関数の非線形性は、パッシブ半導体(例えば、過電圧保護のために使用されるダイオード又はサイリスタ)から、演算増幅器及びアナログ-デジタル変換器(ADC)までに及ぶ、著しい非線形挙動を示す、入力経路における構成要素によって引き起こされる。
【0010】
入力チャネルの非線形挙動は、伝達関数の線形成分を同じにしたとしても、著しいCM2DMをもたらす可能性がある。
【0011】
例として、図2は、非線形伝達関数が、測定システムにおいて計算される差動信号にどのような影響を与えるのかを図示する。図2(a)は、(シミュレーションした)真の差動信号dを示す。図2(b)は、2つのセンサ信号x及びxを示し、各々の信号は、コモンモードc、ディファレンシャルモードd及び夫々のオフセットを含む。
【0012】
図2(c)は、測定デバイスによって計算された結果生じる復元された差動信号16を示し、ここで、各々の入力信号は、伝達関数(f及びf夫々)の制約があり、差動信号は、単に2つの入力信号の差として計算されている。図2(c)は、比較し易いように、同じ軸上に前記真の差動信号18も示す。図2(c)から分かるように、計算された差動信号は、差動信号自身の大きさを略上回る振幅の雑音を多く有し、その結果、信号対雑音比が悪くなる。
【0013】
差動測定は、電気医療応用において広く利用される。例として、例えば、心電図記録法及び脳波記録法(夫々、心臓及び脳の電気的活動)のようなよく知られた測定モダリティは、差動測定である。他のあまりよく知られていない測定モダリティには、神経電図検査法及び筋電図検査法が含まれ、これらも差動測定である。新たな電気解剖学的イメージング応用も部分的には、差動電圧測定に基づいている。
【0014】
電気医療応用における関心のある信号は、一般に、筋肉又は神経組織の生理学的活動によって生成される時変(AC)信号である。
【0015】
ソース信号は、コモンモード成分c、ディファレンシャルモード成分d及びオフセットkを有し、サンプリングされる信号は、さらに、伝達関数の制約を受けている。オフセットkは、各々のソース信号毎に異なる。オフセットは、例えば、患者と測定システムとの間における接触面の電気化学的特性によって引き起こされる。例えば、ECG測定装置の場合、これは、典型的には、患者の皮膚に貼り付けられる接着電極から成る。コモンモード成分の最も一般的なソース(供給源)は、様々な可能な経路/ルートによって測定に混入する可能性がある電力線干渉である。特に、干渉は、患者によって(患者が干渉源の近くにいる場合は容量性であり、或いは患者が電気接地に接触している場合は伝導によって直接的である)、ケーブル配線(ケーブルが完全にシールドされていない場合にはさらに多い)又は測定電子機器(患者モジュールは通常、ガルバニック絶縁されているが、依然として接地との容量性接続を持つ)を介して測定に混入する可能性がある。
【0016】
コモンモード干渉の他のソースは、例えば、患者、測定デバイスの近傍で或いはそれらに接触して、又は単に同じ電源回路上で動作する電気デバイスを含み、それらの特性(周波数、振幅、経時変化など)は、典型的な電力線干渉パターンと大きく異なる。
【0017】
コモンモード干渉は、最先端の装置において、推定される干渉の寄与を補償するためにコモンモード成分の一部が取り除かれる(除去される)処理動作によって対処される。除去されるコモンモード成分の割合は、コモンモード除去比として知られている。
【0018】
例えば、既知の装置は、駆動右脚(driven-right-leg)ループ、レコーダ及びケーブル配線のシールド、精密部品の使用、並びに入力チャネルの線形等化のような手段を用いて、コモンモード干渉を対処することができる。
【0019】
臨床環境において干渉が発生する事例において、時には、デバイスは、電極を取り付ける前に皮膚の下処理を行う、電極が正しく患者に取り付けられているかどうかを検証する、電極を定期的に交換する、及び干渉の可能性のあるソースである、患者の近傍にある電気デバイスをチェックし、取り除くための指示をオペレータに出すための機能を含んでもよい。この機能が干渉を減らすことができない場合、例えば、患者又は機器を90度回転させるようなさらなる提案が出される。
【0020】
非線形性は、出力の利得に影響を与えると単に考えられ、製造試験の限界は、この出力の利得を許容範囲内に維持するように設定される。これにより、前記デバイスは、適用可能な規格及び規制に準拠することを保証するが、依然として、伝達関数の非線形性が原因による、著しいCM2DMの発生を可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
最先端の電気生理学的レコーダは、可能な非線形入力チャネルの伝達関数がデバイスのコモンモード除去比に及ぼす影響を考慮していない。この非線形性に対処するための方法は価値がある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、請求項により規定される。
【0023】
本発明の一態様によれば、測定デバイス上で実施するためのコンピュータ実施方法が提供される。前記方法は、差動測定動作を有し、前記差動測定動作は、
前記測定デバイスの少なくとも2つの入力チャネルから信号を読み取るステップであって、各々の入力チャネルからの前記信号は、夫々のセンサ要素から受信される、ステップ、
前記入力チャネルの各々に線形化関数を適用するステップであって、前記線形化関数は調整可能なパラメータを持つ、ステップ、
少なくとも1つの出力測定値を導出するために、前記線形化関数を適用した後に、前記入力チャネルに計算アルゴリズムを適用するステップ、及び
前記出力測定値を示すデータ信号を出力するステップ、
を有する。
【0024】
前記方法は、前記差動測定動作とは異なる時間に行われる較正動作をさらに有し、前記較正動作は、
前記測定デバイスの入力チャネルに、一定値の較正入力信号の複数の組を適用するステップ、
較正データセットを形成するために、前記線形化関数を適用することなく、前記較正入力信号の各々の組に前記計算アルゴリズムを適用し、各々の出力測定値を記録するステップ、及び
前記較正データセットに基づいて、前記線形化関数の調整可能なパラメータをフィッティングするステップ
を有する。
【0025】
従って、前記方法は、入力信号チャネルに線形化を適用することに基づき、ここで、線形化関数のパラメータは、標準化された試験信号が前記測定デバイスの入力チャネルに適用され、対応する出力測定信号が記録される較正動作に基づいて構成される。試験入力と測定される試験出力との関係に基づいて、線形化関数のパラメータの適切な組を決定することができる。
【0026】
前記信号は電気生理学的信号でもよい。
【0027】
幾つかの実施形態において、前記線形化関数は多項式関数でもよい。
【0028】
幾つかの実施形態において、各々の入力チャネルで受信される信号は、非線形伝達関数によって処理された真の検知信号を表すと仮定され、ここで、線形化関数の調整可能なパラメータのフィッティングは、非線形伝達関数を入力信号に適用しなかった場合に取得されるような、較正入力信号の組に対する真の出力測定値と、較正データセットに記録される実際の出力測定値との間の誤差が最小化される最適化プロセスを有する。
【0029】
前記伝達関数の非線形性は、典型的には、測定デバイスの外部にある検知装置内ではなく、測定デバイス自身内の電気部品の影響によって主に生じていることに留意されたい。ケーブルは、例えば抵抗器及びコンデンサのような線形部品のネットワークとしてモデル化されるので、測定セットアップの外部部分によってもたらされる非対称性は、主に線形効果である。従って、この理由から、較正プロセスは、一定値の較正基準信号を直接入力ポートに適用することによって達成されることができる。非線形性は、測定デバイス自身の電子機器内に(例えば、保護ダイオード/サイリスタ、演算増幅器、AD変換器、電源から)誘発される。
【0030】
幾つかの実施形態において、前記計算アルゴリズムは、1つ以上のベクトルを入力チャネルに適用することを有し、各々のベクトルは、入力チャネルの組から出力測定値へのマッピングを定義する。出力測定値は、入力チャネルの線形結合であり、この線形結合の重みは、ベクトルの要素によって定義される。線形化関数のパラメータの較正は、前記1つ以上のベクトルに部分的に基づいて行われる。言い換えると、線形化関数の較正は、出力測定値を計算する際に用いられる前記計算アルゴリズムに部分的に基づいて行われる。例えば、簡単に言うと、線形化関数のパラメータの較正は、前記ベクトルを較正入力信号に適用することによる予測される出力(expected output)と、前記ベクトルを較正入力信号に適用することによる実際の出力との差異又は誤差を最小化するプロセスを有することができる。
【0031】
幾つかの実施形態において、前記測定動作は、複数の異なる出力測定値を導出するために複数の前記出力ベクトルの適用を有することができる。
【0032】
幾つかの実施形態において、前記測定デバイスは、3つ以上の入力チャネルを有することができる。幾つかの実施形態において、前記複数の出力ベクトルの各々は、前記入力チャネルのサブセットのみから夫々の出力測定値へのマッピングを定義する。
【0033】
幾つかの実施形態において、前記測定動作は、複数の異なる線形化関数のデータセットを参照することを有し、ここで、各々の線形化関数は、前記複数の出力ベクトルのサブセットのみに関連付けられ、夫々の出力ベクトルを適用する前に、所与の出力ベクトルに関連付けられた線形化関数のみが所与の入力チャネルに適用される。言い換えると、異なる入力チャネルは、異なる線形化関数の制約を受けてもよく、各々の入力チャネルは、適用されるべき特定の出力ベクトルに応じて、2つ以上の線形化関数を用いて処理(別々に、並列して動作)されてもよい。
【0034】
例えば、簡単な例示的事例は、4つの入力チャネルを持つシステムであり、ここで、計算アルゴリズムは、2つのベクトルの適用を有し、第1のベクトルは、第1の入力チャネルと第2の入力チャネルとの間の差を計算し、第2のベクトルは、第3のベクトルと第4のベクトルとの間の差を計算する。
【0035】
この場合、第1のベクトルが適用される第1及び第2の入力チャネルの最適な線形化は、第2のベクトルが適用される第3及び第4の入力チャネルの線形化とは別々に行われる。これは、例えば、第1の入力チャネルと第4の入力チャネルとのペアは、前記2つのベクトルの1つを計算する際に一緒に使用されないため、較正手順は、第1及び第4の入力チャネルの線形性がどの程度一致しているかを考慮する必要がないからである。
【0036】
幾つかの実施形態において、入力チャネルは、各々が、ディファレンシャルモード成分、コモンモード成分及びオフセットを有すると仮定され、ここで、較正手順は、前記入力チャネルのオフセットに対する既定の確率分布を参照することを有する。この確率分布は、較正アルゴリズムにおいて明示的(能動的)に又は非明示的(黙示的)の何れかで使用され、線形化関数に使用するための適切な推定されるオフセットの選択又は決定を誘導する。
【0037】
例えば、較正手順は、最初に、線形化関数を適用することなく、較正入力信号の各組に計算アルゴリズムを適用することによって取得される較正データセットを記録し、この較正データセットは、適用される各々の較正入力信号に対する、及び様々な可能なオフセット値の各々に対する、夫々の較正出力値を有する。この較正手順は、次いで、例として、コスト関数を生成することを有し、このコスト関数は、可能なオフセットの組合せの全てに対する較正入力値の関数として、これら較正出力値の傾きの絶対差の合計として計算される。言い換えると、入力チャネルのオフセットの可能な組み合わせの各々に対し、適用される較正入力信号の関数として、較正出力値の夫々の組が取得される。較正出力値のこれらの組の各々は、適用される較正入力値に対する(較正入力値の関数としての)傾きを定義する。コスト関数は、オフセットの異なる組み合わせに対するこれらの傾きの差に基づいて計算され、最適化(フィッティング手順)は、このコスト関数を最小化すること(それによって入力チャネルを線形化すること)に基づいている。
【0038】
前記デバイスが通常の動作中であるとき、可能なオフセットの組合せの全てが等しく起こり得る場合、コスト関数のさらなる改善は不可能である。線形化関数の最適なフィッティングは、入力チャネルの伝達関数の傾き(すなわち、適用される較正入力信号の関数としての較正出力値)が、入力チャネルのオフセットの全ての組み合わせに対して同一になることをもたらす。これは、個々の入力チャンネルの各々を線形化することに相当する。
【0039】
例えば、駆動右脚(DRL)回路のような追加の回路が存在することによって、オフセットの幾つかの組合せが他の組合せよりも可能性が高い(又は低い)ことに関する予備知識がある場合、この知識は、可能性の高いオフセットの組合せにはより多くの重みを与え、可能性の低い組合せにはより少ない重みを与えるために適用されることを可能にする。非線形性の種類及び線形化関数に応じて、これは、可能性が低い又は異常な動作条件においてCM2DMが悪化するのを犠牲にして、予測される動作条件に対するCM2DMを低減することができる。
【0040】
幾つかの実施形態において、線形化関数及び較正動作は、較正される線形化関数が、前記確率分布において最も高い確率を持つ前記オフセットの組に対しては、より最適な線形化を提供し、前記確率分布において最も低い確率を持つ前記オフセットの組に対しては、あまり最適ではない線形化を提供するように構成される。
【0041】
例えば、各々の入力チャネルで受信される信号は、非線形伝達関数によって処理された真の検知信号を表すと仮定されることができ、ここで、線形化関数の調整可能なパラメータをフィッティングすることは、前記非線形伝達関数を入力信号に適用しなかった場合に取得されるような、較正入力信号の組に対する真の出力測定値と、較正データセットに記録される実際の出力測定値との間の誤差が最小化される最適化プロセスを有する。この場合、可能なオフセットの組に対するより最適な線形化は、前記可能なオフセットの組を持つ入力信号に対する、較正後の出力測定値における平均誤差がより小さいことを意味し、可能なオフセットの組に対するあまり最適ではない線形化は、前記可能なオフセットの組を持つ入力信号に対する、較正後の出力測定値における平均誤差がより大きいことを意味する。
【0042】
これは、全ての可能なシナリオを考慮することを可能にするが、オフセットがより一般的な組からより一般的でない組に変化するにつれて、線形化の品質のスムースな劣化(smooth degradation)を提供する。
【0043】
本発明のさらなる態様は、プロセッサ上で実行されるとき、上述した或いは以下にさらに説明される任意の例又は実施形態に従う、若しくは本出願の任意の請求項に従う方法をプロセッサに行わせるように構成されるコード手段を有するコンピュータプログラム製品を提供する。前記コードは、前記プロセッサが、入力信号チャネルのソースとして機能する2つ以上のセンサ要素と動作可能に結合されるとき、前記プロセッサに前記方法の測定動作を行わせることができる。前記コードは、プロセッサが較正入力信号の一連の組を連続的に移植/供給されるとき、前記プロセッサに前記方法の較正動作を行わせることができる。
【0044】
本発明のさらなる態様は、入力/出力部、及び1つ以上のプロセッサを有する処理装置を提供する。前記1つ以上のプロセッサは、少なくとも第1のモード及び第2のモードで動作可能である。第1のモードにおいて、前記1つ以上のプロセッサは、差動測定動作を行うように適応し、この差動測定動作は、少なくとも、
前記測定デバイスの少なくとも2つの入力チャネルから信号を読み取るステップであって、各々の入力チャネルからの前記信号は夫々のセンサ要素から受信される、ステップ、
前記入力チャネルの各々に線形化関数を適用するステップであって、前記線形化関数は調整可能なパラメータを持つ、ステップ、
少なくとも1つの出力測定値を導出するために、前記線形化関数を適用した後に、前記入力チャネルに計算アルゴリズムを適用するステップ、及び
前記出力測定値を示すデータ信号を出力するステップ
を有する。
【0045】
第2のモードにおいて、前記1つ以上のプロセッサは、較正動作を行うように構成され、前記較正動作は、
前記測定デバイスの入力チャネルに一定値の較正入力信号の複数の組を適用するステップ、
較正データセットを形成するために、前記線形化関数を適用することなく、前記較正入力信号の各々の組に前記計算アルゴリズムを適用し、各々の出力測定値を記録するステップ、及び
前記較正データセットに基づいて、前記線形化関数の調整可能なパラメータをフィッティングするステップ
を有する。
【0046】
本発明のさらなる態様は、夫々のセンサ要素から少なくとも2つの入力信号チャネルを同時に読み込むための少なくとも2つの信号入力ポート、及び上述したような、本開示に概説される任意の実施形態或いは例に従う、又は本出願の任意の請求項に従う処理装置を有する測定デバイスを提供する。
【0047】
本発明のさらなる態様は、上述したような、本開示に概説される任意の実施形態或いは例に従う、又は本出願の任意の請求項に従う測定デバイスを有するシステムを提供する。このシステムは、前記信号入力ポートに接続するための少なくとも2つのセンサ要素を有する信号測定装置をさらに有する。
【0048】
本発明のこれら及び他の態様は、以下に記載される実施形態から明らかになり、これを参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
本発明をより良く理解するため、及び本発明がどのように実施されるかをより明確に示すために、単なる例として、添付の図面が参照される。
図1図1は、例示的な線形伝達関数及び非線形伝達関数を示す。
図2図2は、ディファレンシャル及びコモンモード干渉を示す。
図3図3は、本発明の1つ以上の実施形態に従う例示的なシステム及び処理装置を示す。
図4図4は、本発明の1つ以上の実施形態に従う前記処理装置によって行われる測定動作の例示的な処理ワークフローを概略的に示す。
図5図5は、本発明の1つ以上の実施形態に従う前記処理装置によって行われる較正動作の例示的な処理ワークフローを概略的に示す。
図6図6は、2つの入力信号チャネルの組のオフセットに対する例示的な確率分布を示す。
図7図7は、線形化においてオフセットの確率密度が考慮されていない場合の、低確率、中確率及び高確率のオフセット状態において取得される出力信号の例をより詳細に示す。
図8図8は、線形化においてオフセットの確率密度が考慮されている場合の、低確率、中確率及び高確率のオフセット状態において取得される出力信号の例をより詳細に示す。
図9図9は、単一の線形化関数が各々の入力信号チャネルに適用され、単一の出力ベクトルが両方の入力チャネルに適用される一例に従う例示的な処理フローを示す。
図10図10は、2つの出力ベクトルが、3つの入力チャネルの組の異なる選択される組合せに適用される、さらなる例に従うさらなる例示的な処理フローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明は、図面を参照して説明される。
【0051】
詳細な説明及び特定の例は、装置、システム及び方法の例示的な実施形態を示しているが、これらは単に例示を目的としたものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではないことを理解されたい。本発明の装置、システム及び方法のこれら並びに他の特徴、態様及び利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲及び添付の図面からより良く理解されるであろう。図面は単に概略的なものであり、一定の縮尺で描かれていないことを理解されたい。また、同じ又は類似の部分を示すために、図面全体にわたって同じ参照番号が使用されることを理解されたい。
【0052】
本発明は、信号伝達関数の非線形性によって引き起こされる、コモンモードからディファレンシャルモードへの変換を補償するための電気検知信号を前処理する方法を提供する。入力信号に線形化関数を適用して、非線形性を無効にする。この方法は、標準化された試験信号の複数の組を測定動作の入力チャネルに適用し、試験信号の各々の組に対し、対応する試験出力が測定される較正プロセスを含む。線形化関数のパラメータは、取得される試験出力のデータセットに基づいて設定される。
【0053】
この概念のさらなる例として、その詳細が後続する節にさらに詳述される、好ましい(しかし完全に網羅していない)実施形態の1つの例示的な組に従って、出力測定を定義する差又はベクトルを計算する前に、1つ以上の線形化関数h(x)を入力信号に適用する測定デバイスを提供することによって、入力チャネルの伝達関数の非線形性によるコモンモードからディファレンシャルモードへの変換の課題を解決しようとする手法が提供される。線形化関数は、前記デバイスの入力に一定の入力信号のシーケンスを適用し、(生の/線形化されてない)出力を記録することによって、較正手順において決定されるパラメータを使用する。較正入力値及び較正出力値のデータセットは、測定値を計算する際に前記デバイスが使用するベクトルに関する情報、及び好ましくは、各々の入力信号内の成分として含まれると仮定される予測信号オフセット値(又はオフセット値の組合せ)の所定の統計的分布と一緒に使用され、チャネルオフセット値の可能性の高い組合せには最適な線形化を、及びレアな組合せには最適ではない線形化を提供する線形化パラメータを計算する。
【0054】
図3は、本発明の1つ以上の実施形態に従う例示的な処理装置22及びシステムを示す。
【0055】
処理装置22は、入力/出力(I/O)部26、及び1つ以上のプロセッサ24を有する。本例において、I/Oは、2つの入力チャネル32a、32b及び1つの出力チャネル36を持つ。しかしながら、他の例において、I/Oは、3つ以上の入力チャネルを持つ、及び3つ以上の出力チャネルを持つことができる。
【0056】
夫々のセンサ要素52a、52bは、各々の入力チャネル32a、32bに接続される。各々のセンサ素子は、被験者の身体上のある位置において生体信号を取得するように適応する。一例として、これらセンサ素子は、各々がECG電極でもよい。各々のセンサ素子52a、52bからの信号は、夫々の入力信号54a、54bを入力チャネル32a、32bに供給する。
【0057】
1つ以上のプロセッサ24(図3には1つしか示されないが、実際には複数のプロセッサからなる組立体が使用されてもよい)は、入力チャネル32a、32bから入力信号を受信し、これらの信号の処理を行い、1つ以上の出力測定値38を導出し、次いで、これら出力測定値は、測定データ信号42として出力チャネル36を介してエクスポートされる。
【0058】
1つ以上のプロセッサ24は、異なる夫々の時間に行われる、差動測定動作及び較正動作を含むコンピュータ実装方法を行うように特に適応する。
【0059】
図4は、差動測定動作の処理ワークフローを概略的に示す。図5は、較正動作の処理ワークフローを概略的に示す。
【0060】
前記差動測定動作は、1つ以上のプロセッサ24によって行われる以下のステップを有する。
【0061】
この測定動作は、前記測定デバイスの少なくとも2つの入力チャネル(チャネルA 32a及びチャネルB 32b)からの信号を読み込むステップを有する。各々のチャネルからの信号は、夫々のセンサ要素52a、52bから受信される。測定デバイスは、前記受信した入力信号に適用され、これら入力信号をデジタル化するアナログ-デジタル変換手段を含むことができる。
【0062】
前記測定動作は、入力チャネルの各々に、調整可能なパラメータを持つ線形化関数62を適用するステップをさらに有する。
【0063】
前記測定動作は、少なくとも1つの出力測定値38を導出するために、線形化関数62を適用した後、前記入力チャネルに計算アルゴリズム64を適用するステップをさらに有する。計算アルゴリズムに供給される入力チャネルは、好ましくはシングルエンドの入力チャネルであり、測定アルゴリズムからの出力は、好ましくはシングルエンドの出力信号である。
【0064】
出力測定値38を示すデータ信号42が出力される。このデータ信号は、入力/出力部26の出力チャネル又はポート36を介して出力される。
【0065】
前記測定動作は、ハードウェア(ASIC、FPGA)及び/又はマイクロプロセッサ(マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ)上で実行されるソフトウェアを使用して完全に又は部分的に行われることができる。
【0066】
1つ以上のプロセッサは、図5に示される以下のステップを有する較正動作を行うようにさらに動作可能である。
【0067】
この較正動作は、一定値の較正入力信号74a、74bの複数のn個の組72を測定デバイス22の入力チャネル32a、32bに適用するステップを有する。このn個の組は、1つずつ順番に適用される。各々の組の較正入力信号は、入力チャネルに同時に適用される。較正入力信号の一定の信号値は、他では“較正点”と呼ばれることがある。
【0068】
前記較正動作は、較正データセット44を形成するために、線形化関数を適用することなく、較正入力信号74a、74bの各々の組72に計算アルゴリズム64を適用するステップ、及び各々の出力測定値38を記録するステップをさらに有する。各々の出力測定値38は、I/O26の出力チャネル36を介してデータ信号42の形成で出力されてもよい。前記較正データセットは、デバイス22の局所的なデータストアに又は遠隔のデータストアに記憶されることができる。
【0069】
前記較正動作は、前記較正データセット44に基づいて、線形化関数62の調整可能なパラメータをフィッティングするステップをさらに有する。
【0070】
測定動作及び較正動作に関して、処理装置22は、少なくとも第1及び第2のモードで動作可能であり、第1のモードにおいて、前記処理装置は、測定動作を行うように適応し、第2のモードにおいて、前記処理装置は、較正動作を行うように適応する。
【0071】
前記較正動作は、前記測定動作とは異なる時間に行われる。前記較正動作は、測定に使用する前、例えば工場で又は使用前の初期化中に、1回行うだけでよい。代替的に、前記較正動作は、現場で測定デバイスを用いて行われてもよい。それは、反復して行われてもよい。
【0072】
測定デバイス22は、第1又は第2のモードの選択を制御するためのユーザ入力をユーザが提供することを可能にするユーザインターフェースを含んでもよい。これらのモード選択のオプションは、例えば、デバイスが、最初に設定又はセットアップモードに入るときのような、デバイスの特定の初期設定又はモードにおいてのみ利用可能とすることができる。幾つかの例において、測定デバイスは、データ接続を介して別個の二次デバイスから既定の制御信号を受信することに応じて、較正モードに入るように適応してもよい。前記データ接続は、前記測定デバイスに含まれる専用の制御又は設定ポートによって容易とすることができる。前記データ接続は、測定デバイスのポートから取り外し可能でもよい。例えば、ユーザは、前記測定デバイスに接続可能であり、自動的に前記較正ステップの実行を促す別個のデバイスが供給されてもよい。幾つかの例において、前記較正動作は、前記二次デバイスに記憶されるアルゴリズム又はコンピュータプログラムでもよく、その場合、提供される発明は、この二次デバイスと組み合わせて前記測定デバイスを有してもよい。
【0073】
製造後に、現場で較正動作を実施する機能は、部品の経年劣化、及び伝達関数の非線形性の経時的な変化を考慮して、定期的に再較正を行うことを可能にする。
【0074】
さらなる例において、前記2つのモードは、エンドユーザが自由に選択できなくてもよい。例えば、デバイスは、出荷時に測定動作モードにされてもよく、ここで、較正モードは、専用のデータ入力ポートを介して、及び/又は工場で利用することができるキー用いてのみアクセス可能である。
【0075】
幾つかの例において、前記測定デバイスは、ECG測定デバイスである。幾つかの例において、測定デバイスは、測定値38を表示する際に使用する、及び/又はユーザ制御コマンドを受信するためのユーザインターフェースを有してもよい。
【0076】
測定動作において適用される計算アルゴリズム64に関して、これは、1つ以上のベクトルを入力チャネルに適用することを有し、各々のベクトルは、入力チャネルの組から出力測定値へのマッピングを定義し、ここで、出力測定値は、入力チャネルと、ベクトルの要素によって定義される重みとの線形結合である。測定動作において適用される1つ以上のベクトルは、局所的なデータストアに記憶され、例えば、製造中又はセットアップ中に予め記憶され、測定動作の実行中に取り出されてもよい。
【0077】
前記ベクトルは、入力チャネルの線形結合を定義することができ、ここで、重み係数の合計はゼロである。例えば、最も簡単な場合、出力測定値は、単に2つの入力信号の差とすることができる。この場合、前記係数は-1及び1であり、その合計はゼロである。
【0078】
幾つかの実施形態において、前記測定動作は、複数の異なる出力測定値38を導出するために、複数の前記出力ベクトルの適用を有することができる。
【0079】
幾つかの実施形態において、前記測定デバイスは、3つ以上の入力チャネルを有し、ここで、前記複数の出力ベクトルの各々は、これら入力チャネルのサブセットのみからのマッピングを定義する。
【0080】
上述した特徴の最小リストは、組み合わされるとき、本発明の方法を使用しないデバイスが著しい干渉によって劣化した出力信号を示す環境において、干渉に対してより耐性を示し、妨害を受けないきれいな出力信号を提供する測定デバイスもたらす。これは、より正確な測定値をもたらすので、より正確な診断及び後続する治療につながる。
【0081】
線形化に関するさらなる詳細を説明する。
【0082】
ある簡単な例によれば、前記1つ以上の線形化関数h(x)は、多項式関数でもよく、ここで、線形化関数の調整可能なパラメータは、例えば、

h(x)=ax+bx+cx+d

のような多項式の係数である。これは、多項式の値を計算するために必要な乗算演算の数がほんの少しであるため、計算効率がよい。計算効率(低次)と精度(高次)との間の好ましいバランスに基づいて選択すれば、低次又は高次の多項式を使用することができる。
【0083】
1つ以上の線形化関数は、好ましくは、モノリシック関数であるが、これら関数は、効率的に動作するのに十分なスムースさを示す必要があるため、代わりに、例えば、三次スプライン又はより高次のスプラインのような区分的関数でもよい。
【0084】
さらなる実施形態において、前記1つ以上の線形化関数は、h(x)の基礎として他の関数、例えば、三角関数、例えば、

h(x)=a*tanh(b*x+c)+d

のような双曲線正接tanh(x)を使用することができる。
【0085】
コンパイルされた較正データセット44に基づく前記係数の計算は、凸最適化問題として与えられる。これは、例えば、回帰アルゴリズムのような、自動関数フィッティングアルゴリズム及び解法(ソルバー)を用いて容易に解くことができる。
【0086】
ここで、これら実施形態の少なくとも1つの組に従う1つの実装をより詳細に概説する。この実施形態の組において、線形化パラメータの計算は、測定動作において、測定値を計算する際に使用される1つ以上のベクトルを利用する。
【0087】
簡単に言うと、較正動作中、以下の情報、
較正入力信号の各々のペアの値、
これら信号に行われる計算、及び
出力として提供される測定結果
が知られている。これら信号に対して行われる計算の知識(すなわち、ベクトルを入力信号に適用する)に基づいて、CM2DM干渉がない場合の“予測される”出力測定値となるものを特定することが理論的に可能である。従って、予測される出力と測定される出力との差異を使用して、線形化関数のフィッティングを誘導することができる。言い換えると、この線形化関数のフィッティングは、既知の入力及び既知の計算関数64に基づく“真の”予測される測定値の出力と、較正中の実際の測定値の出力との誤差を最小化することを目的として行われる。複数の較正信号の組が適用され、理想的には、規則的に増加又は減少する差を定義するので、較正データセットにおいて前記誤差の非線形性が示されるので、それは、線形化関数のフィッティングにおいて適切に考慮される。
【0088】
従って、要約すると、各々の入力チャネルで受信した信号は、非線形伝達関数によって処理された真の検知信号を表すと仮定され、ここで、線形化関数の調整可能なパラメータをフィッティングすることは、較正データセットに対し、非線形伝達関数を入力信号に適用しなかった場合に取得されるような、各々の較正入力信号に対する理論的な真の出力測定値と、較正データセットに記録される実際の出力測定値との間の誤差を最小化することを有する。
【0089】
さらなる例として、較正入力信号に関して、単一の入力チャネルの線形化のために、較正点(すなわち、較正入力信号の信号値)の組は、この単一のチャネルの較正入力信号の組にすぎない。例えば、入力範囲が0V~1.0Vの場合、較正信号値は、0V、0.25V、0.5V、0.75V、1.0Vとして選択することができる。この電圧のリストは、較正点の組に対応する。このことは、各々の入力チャンネルが他のチャンネルとは無関係に線形化されるマルチチャンネルの場合にも当てはまる。
【0090】
入力チャネルの組合せを考慮したマルチチャネル線形化の場合、較正点の組は、較正入力信号値の組合せから成る。2つのチャンネル及び上記電圧のリストを用いる事例において、校正点の全ての組は、{0V、0.25V、0.5V、0.75V、1.0V}×{0V、0.25V、0.5V、0.75V、1.0V}の全組合せ5=25(デカルト積とも呼ばれる)、すなわち、(0V、0V)、(0V、0.25V)、...、(0.25V、0V)、(0.25V、0.25V)、...、(1.0V、1.0V)から成る。この組の規模は、入力チャネルの数に応じて指数関数的に増加し、10個の入力チャネル(例えば、12誘導ECGレコーダ)及び5つの試験電圧を備えるシステムにおいて、較正点の全ての組は、略1000万個の要素が含まれる。
【0091】
最も簡単な事例において、これらの組み合わせの全ては、線形化関数をフィッティングするプロセスが考慮される。しかしながら、最先端のプロセッサは、そのようなデータ処理量を処理することができるが、線形化関数のフィッティングに、可能性のある較正点のサブセットだけを使用する場合、較正動作を加速することができる。測定動作に使用されるベクトルの知識(例えば、ECG測定動作は、2つ以上の入力胸部リードを含むベクトルを形成しないという知識)に基づいて、要素がデータ点の組から除外される。
【0092】
前記デバイスが有効な出力を生成すると予測する条件を前記要素が提示しない、又は例えば、入力チャネルの平均を0.5Vにする駆動右脚(DRL)回路が存在するため、前記要素は実際には生じないという知識に基づいて、これら要素を除外することもでき、これは、例えば、(1.0V、1.0V)及び(0V、0V)のような入力信号の組合せは、計算において無視できることを意味する。例えば、通常の動作中、(0V、1.0V)、(0.25V、0.75V)、(0.5V、0.5V)、(0.75V、0.25V)及び(1.0V、0V)の組合せは最も適切であり、他の如何なる組み合わせは、一時的な状態、又は異常/故障の状態を提示する。
【0093】
上述したように、1つの困難は、実際の使用において、センサ測定入力信号54a、54bが、標準的なディファレンシャルモード及びコモンモード成分に加えて、特定のオフセットを各々が持つと予測されることである。これらオフセットは、上述したように、装置のセットアップの物理的特性に依存する。線形化関数自身においてオフセットが考慮されない場合、オフセットは、出力測定信号において対応する非線形のひずみを生じさせるので、これらオフセットは、非線形関数(すなわち、線形化関数h(x))の適用を含む処理動作に著しい困難を生じさせる。しかしながら、これらオフセットは事前に知ることはできない。従って、最も適切な解決法は、入力チャネルのオフセットの推定される確率分布を利用して、少なくともこの確率分布の最も高い確率範囲内にあるオフセットが、出力測定信号において、非常に大きなひずみを生じさせないように、線形化関数のパラメータを設定又は調整することである。理想的には、入力信号のオフセットの関数として、結果生じるオフセットに関するひずみが比較的にスムースに変化するように、線形化関数も調整される。言い換えると、信号の(可能性のある)オフセットが、可能性の高い範囲から可能性の低い範囲に移動するにつれて、出力測定信号に大きなジャンプ又は不連続性が存在するのではなく、むしろ結果生じる信号のひずみがスムースに増大し、従って、信号の精度がスムースに劣化することが好ましい。
【0094】
従って、上述した実施形態の組に従って、入力チャネルは、各々がディファレンシャルモード成分、コモンモード成分及びオフセットを有すると仮定され、ここで、較正手順は、これら入力チャネルのオフセットに対する既定の確率分布を参照することを有する。
【0095】
言い換えると、較正入力値及び較正出力値の較正データセット44は、測定値を計算する際にデバイスが使用するベクトルに関する情報、及び各々の入力信号内の成分として含まれると仮定される入力信号のオフセット値(又はオフセット値の組合せ)の既定の統計的分布と一緒に使用され、チャネルのオフセット値の可能性の高い組合せに対しては最適な線形化を、及びレアな組合せに対しては最適でない線形化を提供する線形化パラメータを計算する。
【0096】
特に、幾つかの実施形態において、線形化関数及び較正動作は、較正される線形化関数が、前記確率分布において最も高い確率を持つオフセットの組に対してはより最適な線形化を提供し、及び前記確率分布においてより低い確率を持つオフセットの組に対しはあまり最適ではない線形化を提供するように構成される。
【0097】
この状況において、可能性があるオフセットの組に対するより最適な線形化は、較正後に、前記可能性があるオフセットの組を持つ入力信号に対しては、出力測定値における平均誤差がより小さいことを意味し、及び可能性があるオフセットの組に対するあまり最適でない線形化は、較正後に、前記可能性があるオフセットの組を持つ入力信号に対しては、出力測定値における平均誤差がより大きいことを意味する。
【0098】
単一のチャネルのみを用いた応用では、線形化の品質は、伝達関数(すなわち、適用された較正入力信号の関数としての較正出力値の関数)の理想的な線形関数からの偏差によって測定される。
【0099】
しかしながら、本発明の開示に記載される応用の種類において、このように、各々の入力チャネルを単純に線形化することは、未較正の状態に比べて大幅な改善を提供するかもしれないが、線形化関数の所与の自由度によって、コモンモードからディファレンシャルモードへの変換を減らすという点では、最適な結果とならない場合がある。
【0100】
特に、最適な線形化は、予測される動作条件中にCM2DMが存在しない場合に達成される。予測される動作条件は、例えば入力信号の経路に駆動右脚(DRL)フィードバックループ(以下参照)が存在し、これが入力信号の電位の合計を固定値にさせるという要因によって制約を受けることがある。最適化アルゴリズムは、例えば、入力電極の電位の合計がこの固定値に近い条件では、CM2DMを減らすことにより大きな重要性を割り当てる、及び前記合計が予測される値と異なる条件では、より少ない重要性を与える又は重要性を与えない。
【0101】
例として、図6は、第1の入力チャネル(チャネルA)及び第2の入力チャネル(チャネルB)のみを有する入力チャネルの組のオフセットに対する例示的な確率分布を示し、ここで、システムのセットアップは、駆動右脚(DRL)回路を含む。グラフは、

(チャネルA+チャネルB)/2=0.5

であるシステムに対するスケーリングされた確率密度関数を示す。
【0102】
さらに説明すると、電気生理学的測定デバイスは、しばしば、入力電極の電位の負の合計(正又は負の一定のオフセット)を指定される電極を介して患者にフィードバックするフィードバック回路を実装する。ECGにおいて、これは、多くの場合、右脚電極であり、なので、前記回路は、駆動右脚“DRL”回路又は右脚駆動“RLD”回路と呼ばれるが、一般に、如何なる身体部分に取り付けられる電極も使用されることができる。他の測定において、“アクティブ電極”、“基準電極”又は“駆動電極”という用語が使用されてもよいし、DRL回路の代わりに“フィードバック回路”という用語が使用されてもよい。
【0103】
DRL回路の主な目的は、コモンモード信号を低減することである。これは、一般に、低周波数に対して非常に効果的に機能するが、その効果は、より高い周波数では、制御ループの不安定性、及びデバイスから患者に流れる電流の制限によって減少する。
【0104】
DRL回路の別の効果は、動作点を確立することである。DRL回路は、入力電極の電位を、それら電位の合計が一定のオフセットに略等しい状態にさせる。通常の状態では、この動作点にすばやく(1秒以内で)到達する。従って、このシナリオにおいて、入力チャネルの電圧は、本例では0.5Vの一定のオフセットに対して、(1.0V、0V)、(0.75V、0.25V)、(0.5V、0.5V)、(0.25、0.75)及び(0V、1.0V)の較正点に近いと仮定される。
【0105】
これは、例えば、xの任意の正の整数乗は、x>=0では単調であるため(ここでxは、入力チャネルへの入力信号の値である)、線形化関数として多項式を使用することが合理的な選択肢となる。
【0106】
しかしながら、入力ポートとプロセッサとの間に接続されるADCは、しばしば、バイポーラサンプリングを使用する、及びADC範囲の中間点は0Vであることに留意されたい。これは、線形化関数を選択及び適用するとき、考慮される必要がある。
【0107】
図6を参照すると、測定範囲は、0~1であり、中間点は、0.5である。右脚駆動(RLD)は、2つのチャネルの平均を0.5に維持するように動作する。この特定の事例において、これは、合計をゼロにする入力チャネルのオフセットの組合せは、より可能性が高く、及び合計をゼロ以外の値にする入力チャネルのオフセットの組合せは、可能性が低いことを意味する。これは、後者の組み合わせは、DRL制御ループのセトリング(settling)中(これは、短時間の一時的な期間である)又は異常な動作条件中にのみ生じるからである。幾つかの実施形態において、このことは、オフセットの確率分布を決定するときに考慮される。例えば、最適化プロセスは、特に、より通常の状況に対して、線形化がさらに改善される場合、上記の状況に対する線形化の品質を無視することができる。
【0108】
さらに、全ての電極が上手く同様に取り付けられ、同じ時間長にわたって使用されてた場合、これらの電極が生成するDCオフセットは略等しい。他方、これら電極が異なる経年劣化又は取り付け品質を持つ場合、これら電極のDCオフセットは、異なる可能性がより高い。前記最適化プロセスは、x1≒0.5、x2≒0.5である状況(ここでx1及びx2は、第1及び第2の入力チャネルの信号である)に対しては、線形化をより強く最適化することができるが、これが成立しない状況は、測定のセットアップが不十分であることを示しているが、異常な動作状態を示さないので、この状況を完全に無視するべきではない。
【0109】
オフセットの確率分布関数は、事前に決定され、後の使用のために記憶される。それは、経験的試験によって、又は理論/分析モデリング或いはシミュレーションによって決定することができる。
【0110】
線形化関数のフィッティングが、入力信号チャネルのオフセットの確率分布を考慮することは必須ではない。しかしながら、線形化パラメータの計算が、確率分布関数を考慮しない場合、その結果は、線形化の結果が、可能性が高い条件では悪くなり、可能性が低い条件では良くなる場合が(逆説的に)あることである。
【0111】
このことは、例えば、図7及び8に示される。各々の図面における各々のグラフは、センサ要素からの“真の”入力信号82、実際の記録された(補正されていない)入力信号84及び線形化関数の適用後の補正された入力信号86を示す。
【0112】
図7は、信号オフセットの予測される確率分布を考慮するために、線形化関数をフィッティングしない事例における、一連の異なる確率のオフセット条件の結果を示す。図8は、信号オフセットの予測される確率分布を考慮するために、線形化関数をフィッティングした事例における、同じ一連の異なる確率のオフセット条件の結果を示す。図7のシナリオにおいて、コモンモード干渉抑制は、実際には、可能性がより高いオフセットのシナリオよりも、可能性がより低いオフセットのシナリオの方が、大幅に良好であることが分かる。対照的に、図8の事例において、信号の補正は、可能性がより高いオフセットのシナリオが最もよく、可能性がより低いオフセットのシナリオは最も悪い(これは明らかに好ましい結果である)。
【0113】
確率密度関数は、線形化関数のフィッティングに使用することができ、フィッティング/最適化に使用されるコスト関数において、可能性が高い動作条件にはより高い重みを適用し、可能性が低い又は異常な動作条件にはより低い重みを適用することができる。この状況における動作条件は、例えば、入力信号のオフセットの可能性がより高い及び可能性がより低い組合せ、及び/又は入力信号値の可能性がより高い或いは可能性がより低い組合せを指す。
【0114】
これらの適用された重みは、前記最適化プロセスに、より小さい重みを持つ状態を犠牲にして、より高い重みを持つ状態の線形化を改善させる。
【0115】
これをさらに説明するために、線形化関数のフィッティングを計算する速度を上げるために、可能な入力チャネル信号の特定の可能性が低い組合せを較正データセットから完全に除外することを上述したが、確率分布の使用は、より洗練された手法を可能にする。この確率分布は、入力信号の異なる組合せ及び/又はオフセット値の異なる組合せが、通常の動作条件で起こるそれらの推定される確率に従って、最適化動作(すなわち、線形化関数のパラメータのフィッティング)において異なる重みが割り当てられることを可能にする。
【0116】
例えば、上述した2つのチャネルの例を続けると、(0.5V、0.5V)の較正点付近の入力電圧は、新規の電極及び患者の皮膚への適切な取り付けである場合の動作条件を表しているのに対し、(1.0V、0V)、(0V、1.0V)、(0.25V、0.75V)及び(0.75V、0.25V)の較正点付近の入力電圧は、電極を長時間使用したことにより劣化した状況で起きている(後者は一般に前者よりも可能性が低い)。さらに、(0.25V、0.5V)、(0.75V、0.5V)、(0.5V、0.25V)、(0.5V、0.75V)の較正点付近の入力電圧は、その間、デバイスは依然としてノイズのない出力を生成すべき一時的な状態を表している。
【0117】
チャネルの非線形性が原因によるCM2DMを低減するために、較正動作で使用される最適化アルゴリズムは、各々の較正点(ここで、較正点は、入力チャネル信号の特定の組み合わせを意味する)において、適用される入力チャネル信号の組の関数として、出力測定値の傾き(又はその傾きのある程度の近似)を可能な限り同等にさせる線形化関数のパラメータを求めることができる。
【0118】
このコスト関数を数学的に記述する1つの方法は、各々の較正点におけるこれらの傾きの絶対差の合計である。
【0119】
例えば、較正手順は、最初に、線形化関数を適用することなく、計算アルゴリズムを較正入力信号の各々の組に(すなわち、各々の較正点で)適用することによって取得される較正データセットを記録し、この較正データセットは、各々の適用される較正入力信号に対する、及び様々な可能なオフセット値の各々に対する、夫々の較正出力値を有する。前記較正手順は、次いで、例として、可能なオフセットの組合せの全てに対し、較正入力値の関数として、較正出力値の傾きの絶対差の合計として計算されるコスト関数を生成することを有する。言い換えると、入力チャネルのオフセットの各々の可能な組み合わせに対し、適用される較正入力信号の関数として、較正出力値の夫々の組が取得される。これら較正出力値の組の各々は、適用される較正入力値に対する(その関数として)傾きを定義する。コスト関数は、オフセットの様々な組合せに対するこれらの傾きの差に基づいて計算され、最適化(フィッティング手順)は、このコスト関数を最小化すること(それによって入力チャネルを線形化すること)に基づいている。
【0120】
最も一般的な動作点において、CM2DMが最も低減するようなバイアスを最適化プロセスにかけるために、各々の較正点における傾きの絶対差に、この較正点の付近で動作する確率に相関する重み係数を乗算することができる。この確率は、確率密度関数(PDF)として表すことができる。確率分布関数に使用される確率は、推定されることができる。
【0121】
各々の較正点は、適用される較正入力信号の組に対応し、ここで、各々の較正入力信号は、例えば、メインの信号成分と較正オフセット成分との合計を含む。このように、較正は、様々な可能な(ディファレンシャルモードの)入力信号値、及びオフセットの様々な可能な組み合わせを考慮することができる。
【0122】
オフセットの確率分布に関して、これは、測定及び較正動作の前に決定することができる。異なる実施形態は、これらオフセットの確率密度関数に関して行う仮定が異なる。幾つかの場合において、追加のデータが利用可能でない場合、オフセットの正規(すなわち、ガウス)分布が仮定される。他の場合には、より複雑な確率分布(例えば、非対称分布も含む様々な関数)を使用することができる。利用される確率分布は、理論的な仮定に基づいて計算されてもよいし、又は信号のオフセットの経験的に取得されるデータセットに基づくこともでき、これは次いで、統計分析され、確率分布を識別する。
【0123】
前記較正点における確率密度関数の値は、較正係数を計算するとき、重み係数として直接使用される、又は重み係数は、確率密度関数の関数として導出される。
【0124】
出力測定値を計算する際に2つ以上の出力ベクトルが適用される場合、これら異なる出力ベクトルに対し、僅かに異なる線形化関数(又は少なくとも同じ線形化関数の異なるフィッティング/最適化のバージョン)を用いることが有利である。例えば、所与の出力ベクトルによって適用される特定のマッピング動作によって、出力測定誤差において結果生じる非線形性は異なる。従って、前記異なる出力ベクトルの所与の1つ又はそれ以上に特有である線形化関数を持つことが、出力測定における誤差低減を向上させる。
【0125】
従って、幾つかの実施形態によれば、測定動作は、複数の線形化関数のデータセット(又は同じ線形化関数の複数の異なるフィッティング/最適化のバージョン、すなわちフィッティングしたパラメータの異なる組を持つ)を参照することができ、ここで、各々の線形化関数は、前記複数の出力ベクトルのサブセットのみに関連付けられ、所与の出力ベクトルに関連付けられる線形化関数のみが、夫々の出力ベクトルを適用する前に所与の入力チャネルに適用される。
【0126】
追加又は代替として、幾つかの例において、前記測定動作は、1つ以上の入力チャネルの異なるサブセットに適用するために、複数の異なる線形化関数を用いることができる。各々の入力チャネルに対し、異なる夫々の線形化関数が存在してもよい。これにより、異なる入力チャネル経路に沿った非線形伝達関数の差異を考慮することを可能にする。
【0127】
例として、図9及び図10は、測定動作の2つの例示的な処理フローを示す。図9の例において、測定デバイスに供給される2つの入力信号、すなわち第1の入力信号54a及び第2の入力信号54bがある。各々の入力信号は、夫々の非線形伝達関数102a、102bの制約を受けると仮定され、これが、入力信号自体の非線形関数である誤差を前記信号に取り入れる。アナログ-デジタル変換(ADC)60が、測定デバイスにおいて受信した信号に適用される。図9の例において、各々の受信される入力信号は、異なる夫々の線形化関数62a、62bを用いて処理される。次いで、これら2つの信号は、補正される入力信号の線形結合から成る出力測定値38を生成する計算アルゴリズム64への入力として提供される。
【0128】
図10の例は、各々が、異なる夫々の非線形伝達関数102a、102b、102cの制約を受けていると仮定される3つの入力信号54a、54b、54cがあることを除けば類似している。この例において、2つの異なる計算アルゴリズム64a、64bを適用することによって、2つの異なる出力測定値38a、38bが取得される。第1の計算アルゴリズムは、入力信号のサブセット、特に(線形化後の)第1の入力信号54a及び第2の入力信号54bのみを受信する。第2の計算アルゴリズム64bも、入力信号のサブセット、特に(線形化後)第2の入力信号54b及び第3の入力信号54cのみを受信する。各々の計算アルゴリズム64a、64bは、複数の線形化関数62a、62、62c、62dの異なるサブセットに関連付けられる。特に、線形化関数62a及び62bは、第1の計算アルゴリズム64aに関連付けられ、ここで、第1の入力信号54aは、第1の計算アルゴリズム64aに適用する前に、第1の線形化関数62aを用いて処理され、第2の入力信号54bは、第1の計算アルゴリズム64aに適用する前に、第2の線形化関数64bを用いて処理される。線形化関数62c及び62dは、第2の計算アルゴリズム64bに関連付けられ、ここで、第2の入力信号54bは、第2の計算アルゴリズム64bに適用する前に、第3の線形化関数62cを用いて処理され、第3の入力信号54cは、第2の計算アルゴリズム64bに適用する前に、第4の線形化関数64dを用いて処理される。
【0129】
例えば、測定ベクトルを1つ以上の入力較正信号に適用することによって、予測される出力と実際の出力との間の誤差を最小化するために前記較正を行うとき、出力測定ベクトルが考慮されるという事実が上述されている。
【0130】
これまでに説明した例示的な実施例は、2つの入力チャネルを持つシステムのみを具体的に述べてきた。入力チャネルが2つしかない場合、その測定値を計算するために1つのベクトルのみが可能であり、これは、2つの入力チャネル間の差の計算に対応する。
【0131】
さらなる例示的な例として、x1、x2及びx3とラベルが付いた3つの入力チャネルを持つシステムを考えることができる。この場合、各々の個別の信号と、それ以外の2つの信号の各々との間の差を計算するための3つの計算ベクトルが可能である。しかしながら、計算ベクトルは、例えばx1-(0.5*x2-0.5*x3)のような“仮想”点を使用することもできるので、実際には無数の計算ベクトルが理論上は可能である。どのベクトルを使用するかは、アプリケーション、すなわち、どの生理学的信号を測定するかに依存する。例えば、12誘導ECG測定デバイスの状況において、9個の入力電極(3個の四肢電極RA、LA、LL及び6個の胸部電極V1...V6)の異なる組合せ間の差信号に対応する12個のベクトルが典型的に計算される。例えば、EEGのような他の測定モダリティは、全ての電極のペア間のベクトルを計算することができる。
【0132】
従って、計算手順に用いられるベクトルの知識を使用して、前記較正動作中に、各々のベクトルに対し考慮されなければならない較正点の組を減らすことができる。2つの較正点(ここで較正点は、入力チャネル信号の特定の組を意味する)が、所与のベクトルによって利用される入力チャネルに関してのみ異なる場合、このベクトルに対し、これら較正点の1つだけがコスト関数において考慮される必要がある。
【0133】
例えば、複数の胸部電極(V1、V2、…)を持つECGにおいて、2つの異なる胸部電極間の差を計算するベクトルは使用されない。
【0134】
本発明の原理は、任意の種類の検知又は測定デバイスに適用することができる。例としては、例えば、ECG測定デバイス、電気解剖学的イメージングシステム、EEGレコーダ、AEDデバイス、胎児/産科ECGレコーダ、電気解剖学的イメージングシステムのような電気医療測定デバイスを含む。しかしながら、アプリケーションは、電気医療デバイスに限定されるのではなく、差動測定値が取得される他の分野において用いられる。例えば、実施形態は、ECG機能を備えるスマートウォッチ又はフィットネストラッカーのような臨床状況以外のアプリケーションにおいて有益に利用される。本発明の実施形態は、入力チャネルの伝達関数の非線形性を介したコモンモードからディファレンシャルモードへの変換が問題を起こす任意の差動測定デバイスにおいて有益に利用される。
【0135】
要約として、本発明の実施形態の1つの特に有利な(完全に網羅されていないが)組の特徴が以下に要約される。
【0136】
実施形態の少なくとも1つの組の目的は、出力である差分又はベクトルを計算する前に、入力信号に線形化関数h(x)を適用する測定デバイスを設けることによって、入力チャネルの伝達関数の非線形性によるコモンモードからディファレンシャルモードへの変換の問題に対処することである。線形化関数は、前記デバイスの入力に一定の入力信号のシーケンスを適用して、(未処理/未較正の)出力を記録することによって、較正手順において決定されるパラメータを使用する。入力値及び出力値の組における情報は、デバイスによって使用されるベクトルに関する情報、及びオフセット値(又はオフセット値の組合せ)の統計的分布と一緒に使用され、チャネルのオフセット値の可能性が高い組合せに対しては、最適な線形化を提供し、レアな組み合わせに対しては、あまり最適でない線形化を提供する線形化パラメータを計算する。前記レアな組み合わせは、通常、皮膚電極の接触不良のような、測定に関する何らかの問題を示すので、これは、オフセット条件が、良い(good)/一般的から悪い(common to poor)/レア(uncommon)へと変化するとき、出力測定値のグレースフルデグラデーション(graceful degradation)を提供する。
【0137】
上述した本発明の実施形態は、処理装置を用いる。この処理装置は、一般に、単一のプロセッサ又は複数のプロセッサを有することができる。この処理装置は、単一の収容デバイス、構造或いはユニット内に配されてもよいし、又は複数の異なるデバイス、構造或いはユニット間に分散されてもよい。従って、特定のステップ又はタスクを行うように適応又は構成される前記処理装置に対する言及は、複数の処理構成要素の任意の1つ又はそれ以上によって、単独で若しくは組み合わせて行われるステップ又はタスクに対応してもよい。当業者は、そのような分散された処理装置をどのように実施され得るかを理解するであろう。処理装置は、データを受信する及びデータをさらなる構成要素に出力するための通信モジュール又は入力/出力部を含む。
【0138】
処理装置の1つ以上のプロセッサは、必要とされる様々な機能を行うために、ソフトウェア及び/又はハードウェアを用いて、多くの方法で実装される。プロセッサは通例、ソフトウェア(例えば、マイクロコード)を用いて、前記必要とされる機能を行うようにプログラムされる1つ以上のマイクロプロセッサを用いる。このプロセッサは、幾つかの機能を行うための専用ハードウェアと、他の機能を行うための1つ以上のプログラムされるマイクロプロセッサ及び関連する回路との組合せとして実装されてもよい。
【0139】
本開示の様々な実施形態に用いられる回路の例は、これらに限定されないが、従来のマイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)を含む。
【0140】
様々な実施において、前記プロセッサは、例えばRAM、PROM、EPROM及びEEPROMのような揮発性及び不揮発性コンピュータメモリである1つ以上の記憶媒体に関連付けられてよい。この記憶媒体は、1つ以上のプロセッサ及び/又はコントローラ上で実行されるとき、前記必要とされる機能を行う1つ以上のプログラムで符号化されてもよい。様々な記憶媒体は、プロセッサ又はコントローラ内に取り付けられてもよいし、又はこの記憶媒体に記憶される1つ以上のプログラムがプロセッサに読み込まれるように、搬送可能でもよい。
【0141】
開示される実施形態に対する変形例は、図面、本開示及び添付の特許請求の範囲を検討することにより、特許請求される発明を実施する際に当業者によって理解及び実施されることができる。請求項において、“有する”という用語は、他の要素又はステップを排除するものではなく、要素が複数あることを述べなくても、その要素が複数あることを排除するものではない。
【0142】
単一のプロセッサ又は他のユニットが、請求項に列挙される幾つかのアイテムの機能を果たすことができる。
【0143】
特定の手段が互いに異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用できないことを示すものではない。
【0144】
コンピュータプログラムは、例えば、他のハードウェアと一緒に或いはその一部として供給される光記憶媒体又はソリッドステート媒体のような、適切な媒体上に記憶/配布されることができるが、例えば、インターネット又は他の有線若しくは無線電気通信システムを介するような、他の形態で配布されることもできる。
【0145】
“に適応する”という用語が請求項又は明細書に使用されるとき、この“に適応する”という用語は、“ように構成される”という用語と同じであることを意味する。
【0146】
請求項における如何なる参照符号も、その範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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【国際調査報告】