(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】大型車両向け逆タイヤモデルブースト機能
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20241106BHJP
B60W 40/10 20120101ALI20241106BHJP
B60T 8/175 20060101ALI20241106BHJP
B60T 8/176 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W40/10
B60T8/175
B60T8/176 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522678
(86)(22)【出願日】2022-01-31
(85)【翻訳文提出日】2024-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2022052223
(87)【国際公開番号】W WO2023066527
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】ヘンダーソン,レオン
(72)【発明者】
【氏名】サリフ,ラマダン
【テーマコード(参考)】
3D241
3D246
【Fターム(参考)】
3D241BA50
3D241CA15
3D241CA19
3D241CD12
3D241CE09
3D241DA13B
3D241DA13Z
3D241DA39B
3D241DA39Z
3D241DB27A
3D241DB27Z
3D241DB32Z
3D246DA01
3D246GB01
3D246GB02
3D246GC14
3D246GC16
3D246HA64A
3D246HB11A
3D246HC04
3D246JA15
3D246JB11
3D246JB41
(57)【要約】
大型車両(100)の少なくとも1つの駆動され及び/または制動される車輪(102、310)を制御するためのコンピュータ実装方法であって、デフォルトの逆タイヤモデル及びブースト逆タイヤモデルを設定すること(S1)であって、各逆タイヤモデルは、車輪(102、310)における縦方向の車輪スリップ(λ)と縦方向車輪力(Fx)との間のそれぞれの関係(200)を表し、ブースト逆タイヤモデルは、デフォルトの逆タイヤモデルと比較して、車輪(102、310)のより高い最大車輪スリップ値(λ
lim)に関連付けられることと、車輪(102、310)によって発生される所望の縦力(F
x)を示す運動要求(a
req)を取得すること(S2)と、ブースト信号を検出することに応答してブースト逆タイヤモデルをアクティブな逆タイヤモデルとして選択し、検出しない場合は、デフォルトの逆タイヤモデルをアクティブな逆タイヤモデルとして選択すること(S3)と、運動要求(a
req)に応じて、アクティブな逆タイヤモデルに基づいて、少なくとも1つの駆動され及び/または制動される車輪(102、310)を制御すること(S4)と、を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型車両(100)の少なくとも1つの駆動され及び/または制動される車輪(102、310)を制御するためのコンピュータ実装方法であって、
デフォルトの逆タイヤモデル及びブースト逆タイヤモデルを設定すること(S1)であって、各逆タイヤモデルは、前記車輪(102、310)における縦方向の車輪スリップ(λ)と縦方向車輪力(Fx)との間のそれぞれの関係を表し、前記ブースト逆タイヤモデルは、前記デフォルトの逆タイヤモデルと比較して、前記車輪(102、310)のより高い最大車輪スリップ値(λ
lim)に関連付けられていることと、
前記車輪(102、310)によって発生される所望の縦力(F
x)を示す運動要求(a
req)を取得すること(S2)と、
ブースト信号(550)を検出することに応答して前記ブースト逆タイヤモデルをアクティブな逆タイヤモデルとして選択し、検出しない場合は、前記デフォルトの逆タイヤモデルをアクティブな逆タイヤモデルとして選択すること(S3)と、
前記運動要求(a
req)に応じて、及び前記アクティブな逆タイヤモデルに基づいて、前記少なくとも1つの駆動され及び/または制動される車輪(102、310)を制御すること(S4)と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記デフォルトの逆タイヤモデルのピーク縦方向車輪力と比較して、より高い車輪スリップ値に対応するピーク縦方向車輪力(240)を有する前記ブースト逆タイヤモデルを設定すること(S11)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記デフォルトの逆タイヤモデルと比較して、より小さいスリップ剛性値(260、270)を有する前記ブースト逆タイヤモデルを設定すること(S12)を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記デフォルトの逆タイヤモデルと比較して、より高い車輪スリップ限界(230)を有する前記ブースト逆タイヤモデルを設定すること(S13)を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記大型車両(100)のアクセルペダル位置またはブレーキペダル位置の関数として前記運動要求(a
req)を取得すること(S21)を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記大型車両(100)に含まれる車両運動管理VMMシステムの運動支援装置MSD協調機能(530)から、または前記大型車両(100)に含まれる自律もしくは半自律運転機能から前記運動要求(a
req)を取得すること(S22)を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ブースト信号(S31)は、アクセルペダル位置またはブレーキペダル位置が所定の閾値を超えることによってトリガされる、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ブースト信号(S32)は、トリガ装置の操作によって手動でトリガされるように設定される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ブースト信号(S33)は、前記大型車両(100)が車両速度の許容閾値を下回る速度で動作していることを条件とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ブースト信号(S34)は、前記大型車両(100)が車両ヨー運動の許容閾値を下回るヨー運動で動作していることを条件とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも駆動され及び/または制動される車輪(102)の横力要件を決定すること(S35)を含み、前記ブースト信号は、前記横力要件が横力要件閾値を下回ることを条件とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ブースト信号(550)の検出に応答して前記デフォルトの逆タイヤモデルを更新すること(S5)を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
プログラムがコンピュータ上で実行されるとき、請求項1~12のいずれか1項に記載のステップを実行するための前記プログラムのコード手段を含む、コンピュータプログラム。
【請求項14】
大型車両(100)の少なくとも1つの駆動され及び/または制動される車輪(102、310)を制御するための制御ユニット(300、400、500、1000)であって、前記制御ユニットは、
デフォルトの逆タイヤモデル及びブースト逆タイヤモデルを設定し、各逆タイヤモデルは、前記車輪(102、310)における縦方向の車輪スリップ(λ)と縦方向車輪力(Fx)との間のそれぞれの関係を表し、前記ブースト逆タイヤモデルは、前記デフォルトの逆タイヤモデルと比較して、前記車輪(102、310)のより高い最大車輪スリップ値(λ
lim)に関連付けられており、
前記車輪(102、310)によって発生される所望の縦力(F
x)を示す運動要求(a
req)を取得し、
ブースト信号を検出することに応答して前記ブースト逆タイヤモデルをアクティブな逆タイヤモデルとして選択し、検出しない場合は、前記デフォルトの逆タイヤモデルをアクティブな逆タイヤモデルとして選択し、
前記運動要求(a
req)に応じて、前記アクティブな逆タイヤモデルに基づいて、前記少なくとも1つの駆動され及び/または制動される車輪(102、310)を制御する、ように設定された処理回路(1010)を備える、
制御ユニット(300、400、500、1000)。
【請求項15】
請求項14に記載の制御ユニットを備える、大型車両(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大型車両の安全かつ効率的な車両運動管理を確実に行うための方法及び制御ユニットに関する。本方法は、トラック及びセミトレーラなどの貨物輸送車両での使用に特に好適である。しかし、本発明は、他のタイプの大型車両、例えば、建設機械及び鉱業車両、ならびに自動車にも適用できる。
【背景技術】
【0002】
従来、大型車両は、アクセルペダルまたはブレーキペダル位置に基づいて決定され、デジタルインタフェースを介してサービスブレーキや推進装置などの運動支援装置(MSD:motion support device)に送信されるトルク要求信号を使用して制御されてきた。しかし、代わりに、中央の車両コントローラから様々なアクチュエータに送信される車輪スリップ要求または車輪速度要求を使用してアクチュエータを制御することによって、利点が得られる場合がある。これにより、アクチュエータ制御が車輪端部に近づくため、待ち時間が短縮され、MSDのより高速で正確な制御が可能になる。車輪スリップベースのMSD制御アプローチは、バッテリまたは燃料電池車両の車輪端部電気機械での使用に特に適しており、車軸速度を高帯域幅で正確に制御できる。車輪スリップベースの車両運動管理とそれに関連する利点については、例えば、WO2017/215751及びWO2021/144010で説明されている。
【0003】
大型車両の車輪スリップまたは車輪速度ベースの制御は、車輪スリップと発生する縦方向車輪力(longitudinal wheel force)との間の近似された関係に依存することが多く、逆タイヤモデル(inverse tyre model)と呼ばれることが多い。しかしながら、大型車両は、複雑な動的機械システムであり、正確にモデル化することが困難で、例えば、道路の摩擦条件の変化または車輪垂直抗力の変化などに応答して挙動が急速に変化する場合がある。したがって、逆タイヤモデルは、常に完全に正確であるとは限らず、車輪スリップベースまたは車輪速度ベースの大型車両制御システムにおける性能の低下につながる可能性がある。
【0004】
車輪スリップと発生した縦方向車輪力との間の近似された関係における誤差に対してより耐性のある車両運動管理方法が求められている。
【発明の概要】
【0005】
本開示の目的は、上述の欠陥を少なくとも部分的に克服し、大型車両を制御するための改善された方法を提供することである。この目的は、大型車両の少なくとも1つの駆動され輪及び/または制動される車輪を制御するためのコンピュータ実装方法によって達成される。本方法は、デフォルトの逆タイヤモデル及び少なくとも1つのブースト逆タイヤモデル(boost inverse tyre model)を設定することであって、各逆タイヤモデルは、車輪における縦方向の車輪スリップと縦方向車輪力との間のそれぞれの関係を表し、ブースト逆タイヤモデルは、デフォルトの逆タイヤモデルと比較して、車輪のより高い最大車輪スリップ値(λlim)に関連付けられることを含む。本方法は、また、車輪によって発生される所望の縦力を示す運動要求(motion request)を取得することと、ブースト信号を検出することに応答してブースト逆タイヤモデルをアクティブな逆タイヤモデルとして選択し、検出しない場合は、デフォルトの逆タイヤモデルをアクティブな逆タイヤモデルとして選択することと、運動要求に応じて、アクティブな逆タイヤモデルに基づいて、少なくとも1つの駆動され及び/または制動される車輪を制御することと、を含む。
【0006】
このようにして、例えば、アクティブな逆タイヤモデルに関連する車輪スリップ限界によって決定される許容可能な最大車輪スリップは、ブースト信号の生成によって一時的に増加させることができる。この機能は、例えば、困難な状況で上り坂を運転しているとき、または運転者、リモートコントローラ、もしくは自律運転アルゴリズムがデフォルトの車輪スリップ限界値を超える車輪スリップが望まれると判断し、追加のブーストを与える他のシナリオで有用であり得る。開示された方法により、車輪スリップと発生した縦方向車輪力との間の近似された関係における誤差に対してより耐性のある車両運動管理方法が提供される。提案された方法は、運転シナリオ及び車両の全体的な動きに対する所望の効果に応じて、単一の車輪、車軸の車輪、または車両の3つ以上の車輪のブースト逆タイヤモデルを選択的に作動させることができる。
【0007】
デフォルトの逆タイヤモデル及びブースト逆タイヤモデルは、いくつかの異なる方法で設定されることができ、2つ以上のブースト逆タイヤモデルは、また、例えば、各ブースト信号レベルが、ブースト逆タイヤモデルのセットからのそれぞれのブースト逆タイヤモデルの起動に対応する2つ以上のレベルを有するブースト信号を使用することによって、設定及び選択され得る。
【0008】
いくつかの態様によれば、本方法は、最大力の要求が、デフォルトの逆タイヤモデルを使用するときと比較して、ブースト逆タイヤモデルを使用するときにより高い車輪スリップをもたらすように、デフォルトの逆タイヤモデルのピーク縦方向車輪力と比較して、より高い車輪スリップ値に対応するピーク縦方向車輪力を有するブースト逆タイヤモデルを設定することを含む。他の態様によれば、ブースト逆タイヤモデルは、デフォルトの逆タイヤモデルと比較して、より小さいスリップ剛性値で設定され、これは、また、所与の車輪力がデフォルトの逆タイヤモデルと比較して、ブースト逆タイヤモデルのより高い車輪スリップにマッピングされるという結果をもたらす。更なる態様によれば、ブースト逆タイヤモデルは、デフォルトの逆タイヤモデルと比較してより高い車輪スリップ限界を有するだけであり、すなわち、2つのモデルは本質的に同じであるが、車輪スリップ限界は、デフォルトの逆タイヤモデルを使用するときと比較して、より高い車輪スリップが車輪によって発生することを可能にするように異なって設定される。例えば、車輪スリップ限界は、デフォルトの逆タイヤモデルのピーク力位置から第1の距離で、かつブースト逆タイヤモデルのピーク力位置まで第2の距離で設定されてもよい。
【0009】
運動要求は、例えば、アクセルペダル位置またはブレーキペダル位置の関数として取得することができ、これにより、運転者は、例えば、所定の閾値を超えて、あるいは所定の時間にわたって、ペダルをかなり強く踏み込むことによって、便利な方法でブーストモードを開始することができる。この方法は、加速、すなわち前進に関連して最も有用であるが、減速、すなわち急制動時に関連しても重要な用途が見出され得ることが理解される。
【0010】
代替的に、またはブーストモードのペダル位置トリガの補足として、運動要求は、以下でより詳細に説明するように、大型車両に含まれるVMM(vehicle motion management)システムのMSD協調機能から、及び/または大型車両に含まれる自律または半自律運転機能から取得されてもよい。これは、車両制御機能が、少なくとも一時的に、例えば、過度に控えめなスリップ限界が設定されていると考えられる場合に、ブーストを得るために、車輪スリップを一時的に増加させる選択肢を有することを意味する。これにより、自律制御アルゴリズムまたは半自律制御アルゴリズムの制御の自由度が向上し、これは利点である。
【0011】
ブースト信号は、例えば、アクセルペダル位置またはブレーキペダル位置が閾値を超えたときにトリガされる場合がある。ブースト信号は、車室内のボタン、スイッチなどのトリガ装置の操作によって手動でトリガされてもよい。当然ながら、このタイプのトリガ装置は、上述したように2つ以上のレベルで構成されてもよく、したがって、アクティブな逆タイヤモデルであるべき2つ以上の逆タイヤモデルのセットからブースト逆タイヤモデルを選択するために使用されてもよい。ブースト信号は、また、アクセルペダル位置またはブレーキペダル位置が、所定の期間にわたって閾値を超えることによってトリガされてもよい。
【0012】
車両(the vehicle:大型車両)の安定性を損なわないようにするために、ブースト信号は、任意選択で、車両が車両速度の許容閾値を下回る速度で動作していることを条件とする。したがって、運転者がペダルを完全に押し下げ、または車室内の手動のブースト信号生成ボタンを押しても、車両の移動速度が速すぎる場合は、ブースト信号は生成されない(また、ブースト逆タイヤモデルはアクティブな逆タイヤモデルとして選択されない)。ブースト信号の生成は、車両が車両ヨー運動の許容閾値を下回るヨー運動で動作していることを条件とすることもでき、その結果、ヨー運動が大きすぎる場合にはブースト逆タイヤモデルは選択されない。これは、車両がコーナリングしている場合には、旋回操作の正常な完了が危うくなる可能性があるため、ブーストモードが許可されないように方法を構成することができることを意味する。その理由は、縦方向の車輪スリップが増加すると、横力を発生させる能力が低下するためであり、これは、ブースト逆タイヤモデルがアクティブな逆タイヤモデルであるときに起こり得る。同様に、この方法は、当然ながら、少なくとも駆動され及び/または制動される車輪の横力要件を決定することを含み、ブースト信号は、横力要件が横力要件閾値を下回ることを条件とすることができる。このようにして、ブースト逆タイヤモデルがアクティブな逆タイヤモデルであるときに許容される車輪スリップの潜在的な増加によって車両の安定性及び安全性が損なわれない。
【0013】
この方法は、また、所定の期間のみ、ブースト逆タイヤモデルをアクティブな逆タイヤモデルとして選択することを含み得る。この期間の後、逆タイヤモデル設定を、例えば、デフォルト設定または何らかの他の暫定値に戻すことができ、すなわち、デフォルトの逆タイヤモデルに徐々に戻すことができる。これにより、例えば車両の車輪が路面に食い込むのを防ぐことができ、これは当然ながら利点である。
【0014】
態様によれば、ブースト信号は、リモート制御トリガ装置の操作によってリモートでトリガされるように構成される。これにより、オペレータまたは車両外部の自律機能がブーストモードをトリガして、例えば車両が難しい坂道などを通過できるようになる。この方法では、追加の機能がリモート機関によって車両に付与されてもよく、これは、例えば、安全な操作を確保するために自律車両がかなり控えめな車輪スリップ値で動作する必要がある限られたエリアなど、状況によっては利点となる可能性がある。リモート機関は、車両の操縦性を一時的に高め、車両が動けなくなる、または始動性の向上が必要な状況から抜け出すために、自律車両または半自律車両がより高い車輪スリップ値で動作することを一時的に許可する場合がある。
【0015】
この方法は、また、ブースト信号の検出に応答して、少なくとも1つの駆動され及び/または制動される車輪に関連付けられたデフォルトの逆タイヤモデルを更新することを含み得る。これは、通常の動作条件での車両の動きを管理するために使用される逆タイヤモデルが時間の経過とともに改良され、より正確な逆タイヤモデルにつながることを意味し、これは利点である。このように逆タイヤモデルを更新する場合、ブースト逆タイヤモデルがアクティブな逆タイヤモデルとして選択されたときに許可される、設定された車輪スリップ限界を超えて車輪スリップが一時的に増加することが許可される場合に何が起こるかを確認することが有利であり得る。
【0016】
本明細書では、上述の利点と関連付けられた制御ユニット、車両ユニット、コンピュータプログラム、コンピュータ可読媒体、及びコンピュータプログラム製品も開示されている。
【0017】
全般的に、特許請求の範囲において使用される全ての用語は、本明細書において特に明確に規定されない限り、技術分野におけるその通常の意味に従って解釈すべきである。「要素、装置、コンポーネント、手段、ステップなど」への全ての言及は、特に明確に述べられない限り、要素、装置、コンポーネント、手段、ステップなどの少なくとも1つの例を指すものとしてオープンに解釈すべきである。本明細書で開示した任意の方法のステップは、特に明確に述べられない限り、開示した正確な順番で行う必要はない。本発明の更なる特徴及び本発明に伴う利点は、添付の特許請求の範囲及び以下の説明を検討すれば明らかになる。当業者であれば理解するように、本発明の異なる特徴を組み合わせて、本発明の範囲から逸脱することなく、以下で説明するもの以外の実施形態を作成し得る。
【0018】
上記、ならびに追加の目的、特徴、及び利点は、例示的実施形態の以下の説明のための非限定的な詳細な記載を通じてよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】車輪スリップの関数としてのタイヤ力の例を示すグラフである。
【
図4】車輪スリップブーストの例示的な構成を示す図である。
【
図5】車両制御機能アーキテクチャの例を示す図である。
【
図6】いくつかの例示的なデフォルト及びブースト逆タイヤモデルを示す図である。
【
図7】いくつかの例示的なデフォルト及びブースト逆タイヤモデルを示す図である。
【
図8】いくつかの例示的なデフォルト及びブースト逆タイヤモデルを示す図である。
【
図11】コンピュータプログラム製品の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
例示的な実施形態を示す添付の図面を参照して、本開示を以下により完全に記載する。しかしながら、本開示は、多くの異なる形態で具体化されてよく、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、むしろこれらの実施形態は、完璧さと完全さのために提供されている。記載全体を通して、同様の参照文字は同様の要素を指す。
【0021】
図1は、ここではトラックの形態の例示的な大型車両100を示している。その車両は、複数の車輪102を備え、車輪102の少なくともサブセットは、それぞれの運動支援装置(MSD)104を備える。
図1に示される実施形態は、車輪102のそれぞれにMSDを示しているが、当然ながら、例えば、1対の車輪102が、そのようなMSD104なしで構成されてよい。また、MSDは、例えばディファレンシャル装置を介して、2つ以上の車輪に接続されて配置されてよい。
【0022】
当然ながら、本明細書で開示される方法及び制御ユニットは、ドローバー接続を備えたトラック、建設機械、バスなどの他のタイプの大型車両にも有利に適用することができる。車両100は、3つ以上の車両ユニットを含んでもよい。すなわち、台車車両ユニットを使用して2つ以上のトレーラを牽引してよい。
【0023】
MSD104は、車両の各車輪または車軸の両方の車輪にトルクを発生させるために配置されてもよい。MSDは、例えば、車両100の車輪(複数可)に縦方向車輪力を提供するように構成された電気機械106などの推進装置であってよい。したがって、そのような電気機械は、車両100のバッテリ(図示せず)または他のエネルギ貯蔵システム(複数可)を充電するための回生制動モードで構成されるだけでなく、推進トルクを生成するように適合されてよい。電気機械は、エネルギを蓄えずに制動トルクを生成してもよい。例えば、制動抵抗器などを使用して、制動中に電気機械から余分なエネルギを放散してよい。
【0024】
MSD104は、車両を減速させるために車輪102によって制動トルクを生成するように配置されたディスクブレーキやドラムブレーキなどの摩擦ブレーキも備えている場合がある。ここで、加速という用語は、正の加速(推進)と負の加速(制動)の両方を含むように広く解釈されるものとする。
【0025】
本明細書に開示された方法は、主に大型車両の推進、すなわち加速を制御することに関する。しかしながら、開示された方法は、また、大型車両の減速、すなわち制動操作中にも使用され得る。
【0026】
更に、各MSD104は、MSD104の動作を制御するために配置されたそれぞれのMSD制御システムまたは制御ユニット330に接続されている。MSD制御システム330は、好ましくは分散運動支援システム330であるが、集中型の実装も可能である。更に、無線リンクを介して車両からアクセス可能なリモートサーバ120など、MSD制御システムの一部の部品は、車両から離れた処理回路上で実装されてよいことを理解されたい。更に、各MSD制御システム330は、有線、無線、または有線と無線の両方であってよいデータバス通信装置114を介して車両100の車両運動管理(VMM)システムまたは機能360に接続されている。これにより、車両運動管理システム360とMSD制御システム330との間で制御信号を送信することができる。車両運動管理システム360及びMSD制御システム330については、
図3及び
図5を参照して以下で更に詳細に記載する。
【0027】
VMMシステム360及びMSD制御システム330は、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、プログラマブルデジタル信号プロセッサ、または別のプログラマブルデバイスを含み得る。システムは、更に、または代わりに、特定用途向け集積回路、プログラマブルゲートアレイまたはプログラマブルアレイロジック、プログラマブルロジックデバイス、またはデジタル信号プロセッサを含み得る。システム(複数可)が、上述のマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、またはプログラマブルデジタル信号プロセッサなどのプログラマブルデバイスを含む場合、プロセッサは、プログラマブルデバイスの動作を制御するコンピュータ実行可能コードを更に含み得る。様々な車両ユニット処理回路の実装態様は、
図10に関連して以下でより詳細に説明する。
【0028】
一般に、車両100上のMSDは、例えば、パワーステアリング装置、アクティブサスペンション装置などとして実現されてよい。これらのタイプのMSDは、車両を加速または制動する縦力を直接生成するために使用することはできないが、大型車両の全体的な車両運動管理の一部であるため、本明細書で開示される車両運動管理の方法の一部を構成できる。特に、大型車両100のMSDは、車両によって所望の運動を得るために協調されることが多い。例えば、2つ以上のMSDを一緒に使用して、所望の推進トルクまたは制動トルク、車両による所望のヨー運動、または何らかの他の動的挙動を生成することができる。
【0029】
図2は、縦方向の車輪スリップの関数として達成可能なタイヤ力の2つの例200を示すグラフである。車輪スリップと生成されるタイヤ力との間のこのタイプの関係を、ここでは逆タイヤモデルと呼ぶ。逆タイヤモデルは、
図2に示すような関数にすることも、
図7及び
図8に示すように、車輪スリップ範囲の一部にわたる単なる区分的線形近似にすることもでき、これらについては、以下でより詳細に説明する。
図2の例は、正の車輪力、つまり加速の場合である。車輪スリップと負の車輪力、つまり制動との間にも同様の関係が存在する。
【0030】
縦方向の車輪スリップλ
xは、SAE J370(SAE Vehicle Dynamics Standards Committee、2008年1月24日)によると以下のように定義し得る。
【数1】
ここで、Rは有効車輪半径(メートル)であり、ω
xは車輪の角速度であり、v
xは車輪の縦方向速度(車輪の座標系において)である。したがって、λ
xは-1~1に制限され、車輪が路面に対してどのくらいスリップしているかを定量化する。車輪スリップは、本質的に、車輪と車両との間で測定される速度差である。したがって、本明細書で開示した技術は、任意のタイプの車輪スリップ定義と使用するために適応できる。また、車輪スリップ値は、車輪の座標系において表面に対する車輪の速度を考慮した車輪速度値と同等であることも理解される。VMM360及びオプションでMSD制御システム330もオプションで(車輪の基準フレームで)v
xに関する情報を維持する一方、車輪速度センサなどを使用してω
x(車輪の回転速度)を決定することができる。
【0031】
車輪(またはタイヤ)が車輪力を生成するためには、スリップが発生する必要がある。スリップ値が小さい場合、スリップと生成された力との関係は、ほぼ線形であり、比例定数は多くの場合タイヤのスリップ剛性(slip stiffness)Cx260、270として表される。タイヤには、縦力(longitudinal force)Fx、横力(lateral force)Fy、及び垂直抗力(normal force)Fzがかかる。垂直抗力Fzは、いくつかの重要な車両特性を決定するための鍵である。例えば、垂直抗力は、車輪によって達成可能なタイヤ縦力Fxを、かなりの程度まで決定する。なぜなら、通常はFx≦μFzだからである。ここで、μは道路摩擦条件に関連付けられた摩擦係数である。所与の車輪スリップに対して利用可能な最大の横力は、「Tyre and vehicle dynamics」,Elsevier Ltd.2012,ISBN978-0-08-097016-5(Hans Pacejka著)に説明されているいわゆる魔法の公式(Magic Formula)によって説明することができ、車輪スリップ及びタイヤ力も詳細に説明されている。
【0032】
逆タイヤモデルを使用して、所望のタイヤ縦力Fxと、車輪スリップλとの間で変換することができる。車両の車輪にトルクを伝えることができるVMMとMSDの間のインタフェースは、上述したように、従来、車輪スリップを考慮せずに、VMMから各MSDへのトルクベースの要求に焦点を当ててきた。ただし、このアプローチには重大な性能上の制限がある。安全を最重視すべきまたは過度のスリップ状況が生じた場合、別個の制御ユニット上で動作される関連する安全機能(トラクション制御、アンチロックブレーキなど)は通常、スリップを制御に戻すために、介入してトルクオーバーライドを要求する。このアプローチに関する問題は、アクチュエータの一次制御とアクチュエータのスリップ制御とが、異なる電子制御ユニット(ECU:electronic control unit)に割り当てられるため、それらの間の通信に伴う待ち時間によって、スリップ制御性能が著しく制限されることである。更に、実際のスリップ制御を実現するために使用される2つのECUで行われる、関連するアクチュエータとスリップの仮定が一致しない可能性があり、これにより準最適な性能につながり得る。代わりに、VMM360と1つまたは複数のMSDコントローラ330との間のインタフェースで車輪速度または車輪スリップベースの要求を使用することにより、大きな利点を実現することができ、これによって、難しいアクチュエータ速度制御ループをMSDコントローラに移行し、MSDコントローラは一般的に、VMM機能のサンプル時間と比較してかなり短いサンプル時間で動作する。このようなアーキテクチャによって、トルクベースの制御インタフェースと比較してはるかに優れた外乱除去を得ることができ、したがって、タイヤ道路接地面において生成される力の予測可能性が改善される。
【0033】
図2を再び参照すると、例示的なタイヤ縦力Fx1、Fx2は、小さな車輪スリップに対してほぼ直線的に増加する部分210を示し、その後、大きな車輪スリップに対してより非線形の挙動を示す部分220が続く。線形領域210において車両動作を維持することが望ましい。線形領域210では、適用されたブレーキコマンドに応答して取得可能な縦力がより予測しやすく、必要に応じて十分なタイヤ横力を生成することができる。この領域での動作を確保するために、例えば0.15程度の車輪スリップ限界λ
lim230を、所与の車輪に課すことができる。
【0034】
タイヤモデルFx1は高摩擦のシナリオ、つまり、良好なタイヤを使用した乾燥した道路を表し、Fx2は摩擦が減少したシナリオを表す。ここで留意すべきは、摩擦係数μと共に、達成可能な最大タイヤ力が低下することである。また、ピーク車輪力に対応する車輪スリップ値は2つの曲線間でわずかにシフトし、曲線Fx1のピーク240は、曲線Fx2のピーク245と比較して、より高い車輪スリップで発生することに留意されたい。したがって、曲線Fx2のピーク245の左側にいくらかの余裕を持たせて設定された車輪スリップ限界λlimは、実際には曲線Fx1が車輪スリップと車輪力の実際の関係に近い場合には、過度に控えめである可能性がある。
【0035】
一般的に、車輪スリップ限界230を、所定のパラメータまたはハードコードされたパラメータとしてではなく、逆タイヤモデルに応じて設定することが有利である。例えば、想定される逆タイヤモデルのピーク値に対して設定された車輪スリップ限界は、車両の現在の動作条件に一致する。ただし、想定される逆タイヤモデルに基づいて設定されたスリップ限界をオーバーライドし、デフォルトの逆タイヤモデルでシステムによって通常許可されるよりも高い車輪スリップを発生することが依然として望ましい場合がある。例えば、デフォルトの逆タイヤモデルが意図せずに過度に控えめであることがあり、これは、デフォルトの逆タイヤモデルのスリップ限界が所望の車輪スリップでの動作を妨げるため、車両による完全な潜在的なトラクション力または制動力が利用できないことを意味する。実際、他の方法で使用されるデフォルトの逆タイヤモデルの場合と比較して、より多くの車輪スリップを発生させることを可能にする、より「積極的な」逆タイヤモデルを一時的に使用することが望ましい場合がある。このようなより積極的な逆タイヤモデルは、車両の1つまたは複数の車輪、または1つまたは複数の車軸に対して望ましい場合がある。
【0036】
例えば、大型車両運動管理が、曲線Fx2による逆タイヤモデルをデフォルトの逆タイヤモデルとして使用し、実際には曲線Fx1が車輪スリップと縦方向車輪力との間の真の関係をより正確にモデル化すると仮定する。更に、線形領域210での動作を保証するために、デフォルトの逆タイヤモデルFx2に対して車輪スリップ限界が230で設定されていると仮定する。このスリップ限界により、車両は、
図2の破線Fによって示されるよりも多くの車輪力を生成することができず、これは真のピーク240における最大達成可能車輪力F’をはるかに下回る。
【0037】
運転者または自律運転システムもしくは半自律運転システムなどの何らかの他の形態の車両コントローラが、車両100上のいくつかの車輪によって十分な車輪スリップが生成されることを潜在的に許可しないように設定されたデフォルトの逆タイヤモデルをオーバーライドすることを可能にするために、本明細書では、より多くの車輪スリップが生成されることを可能にするブースト逆タイヤモデルへの一時的なシフトを可能にすることが提案される。1つまたは複数のそのようなブースト逆タイヤモデルは、システムによって設定され、次いで、例えば何らかの形態のブースト信号に応答して必要に応じて一時的に起動することができ、このブースト信号は、例えば、運転者が特定の閾値を超えてアクセルまたはブレーキペダルを押し下げることによって、または運転者がダッシュボード上のブーストボタンなどの車室内手動制御を操作することによってトリガされ得る。自律運転モードと人間中心の運転モードの両方を含む特定の車両及びユースケースでは、人間の運転者に自動運転者よりも多くの制御権限を与えることができることが望ましい場合があり、本明細書で開示される技術は、許容可能な車輪スリップ及び一般的な車両挙動に対するそのような増加したレベルの制御を提供するために使用され得る。
【0038】
ブースト信号機構は、また、例えば、そのような高い車輪スリップ動作が有利であり、安全であると考えられ得ることが望まれるときに、一部の車両が一時的に高いスリップ値で動作することを可能にするために、制御塔などの一部のリモート機関によって使用されてもよい。
【0039】
また、観察された車両挙動に基づいて逆タイヤモデルがリアルタイムで更新される場合、状況によっては、車輪スリップが現在の「既知の」タイヤモデルのピークを超えることができることが有益であり得る。車両が人間の運転者によって運転されているとき、アクセルペダルは、特定の状況においてより高いスリップターゲットを「強制」するために使用することができ、(例えば)現在のタイヤモデルのパラメータ化が過度に控えめである場合、いくらかの追加のトラクション性能を得ることができる。このようにして、車両コントローラは、少なくとも一時的に、デフォルトの逆タイヤモデルの想定されるピーク車輪力スリップを超えて、車輪力と車輪スリップの関係を「調査する(probe)」ことができる。
【0040】
機能安全に関する議論では、このタイプの車輪スリップ限界の「オーバーライド」を追加すると、ここでは人間の運転者は臨界状況(例えば、列車の軌道上で停止し、発進しようとしている)で常により高いスリップターゲットにオーバーライドすることができるため、逆タイヤモデルに配置される機能安全要件の数を減らすことができる。
【0041】
ここで
図3を参照すると、全体の車両制御システム300は、1つまたは複数の車両ユニットコンピュータ(VUC:vehicle unit computer)上で実装されてよい。VUCは、ある機能が、上位層の交通状況管理(TSM:traffic situation management)ドメイン370に含まれてよく、他の機能が、下位機能層に存在する車両運動管理(VMM)ドメイン360に含まれてよい階層化された機能アーキテクチャに従って編成された車両制御方法を実行するように構成されてよい。
【0042】
図3は、ここでは摩擦ブレーキ320(ディスクブレーキまたはドラムブレーキなど)、推進装置340、及びパワーステアリング装置330を含むいくつかの例示的なMSDによって、車両100の例示的な車輪310を制御するための機能300を模式的に示す。摩擦ブレーキ320及び推進装置は、車輪トルク生成装置の例であり、1つまたは複数の運動支援装置制御ユニット330によって制御することができる。制御は、例えば、車輪速度センサ350から得られる測定データと、レーダセンサ、ライダセンサ、ならびにカメラセンサ及び赤外線検出器などの視覚ベースのセンサなどの他の車両状態センサ370から得られる測定データとに基づく。MSD制御システム330は、1つまたは複数のアクチュエータを制御するように構成されてよい。例えば、MSD制御システム330が車軸上の両方の車輪を制御するように構成されていることは珍しくない。
【0043】
TSM機能370は、10秒程度の計画対象期間で運転操作を計画する。この時間枠は、例えば、車両100がカーブなどを通過するのにかかる時間に対応する。TSM機能によって計画及び実行される車両の操作は、所与の操作で維持される車両の前方方向及び旋回の所望の目標車両速度を記述する加速度プロファイル及び曲率プロファイルに関連付けることができる。TSM機能は、安全かつロバストな方法でTSM機能からの要求を満たす力配分を実行するVMM機能360から所望の加速度プロファイルareq及びステアリング角(または曲率プロファイルcreq)を継続的に要求する。VMM機能360は、約1秒未満のタイムスケールで動作する。VMM機能360については、以下でより詳細に説明する。
【0044】
車輪310は、縦方向速度成分v
x及び横方向速度成分v
yを有する。縦方向車輪力F
xと横方向の車輪力F
yがあり、車輪には垂直抗力F
zも作用する(
図3には示されていない)。特に明記しない限り、車輪力は車輪の座標系で定義される。つまり、縦力は車輪の回転面に向けられ、横方向の車輪力は車輪の回転面に垂直に向けられる。車輪の回転速度はω
x、半径はRである。
【0045】
図2のグラフ200によって例示される逆タイヤモデルのタイプは、VMM360によって使用されて、ある車輪で所望のタイヤ力を生成することができる。VMMは、所望のタイヤ力に対応するトルクを要求する代わりに、所望のタイヤ力を等価の車輪スリップ(すなわち、対地速度に対する車輪速度)に変換し、このスリップを代わりに要求することができる。主な利点は、MSD制御デバイス330が、例えば、車輪速度センサ350から取得された車両速度v
xと車輪回転速度ω
xとを使用して、所望の車輪スリップでの動作を維持することにより、はるかに高い帯域幅で要求されたトルクを伝達できることである。車両速度v
xは、全地球測位システム(GPS)受信機などと組み合わせた、レーダ、ライダ、視覚ベースのセンサなどの様々な車両センサから取得することができる。
【0046】
制御ユニットは、1つまたは複数の所定の逆タイヤモデルを、例えばルックアップテーブルまたはパラメータ化された関数としてメモリに記憶するように構成することができる。逆タイヤモデルは、また、車輪310の現在の動作条件の関数としてメモリに記憶されるように構成され得る。これは、逆タイヤモデルの挙動が車両の動作条件に応じて調整されることを意味し、これは、動作条件を考慮しないものと比較して、より正確なモデルが得られることを意味する。メモリ内に記憶されるモデルは、実験及び試行に基づいて、または解析的導出に基づいて、または2つの組み合わせに基づいて決定することができる。例えば、制御ユニットは、現在の動作条件に応じて選択される異なるモデルの組にアクセスするように構成することができる。ある逆タイヤモデルは、垂直抗力が大きい高荷重運転用に調整することができ、他の逆タイヤモデルは、道路摩擦が低いなどの滑りやすい道路状態用に調整することができる。使用すべきモデルの選択は、所定の組の選択ルールに基づくことができる。またメモリ内に記憶されるモデルは、少なくとも部分的に、動作条件の関数とすることができる。したがって、モデルは、例えば、垂直抗力または道路摩擦を入力パラメータとして取得し、それによって車輪310の現在の動作条件に応じて逆タイヤモデルを取得するように構成してもよい。動作条件の多くの態様は、初期設定の動作条件パラメータによって近似できるが、動作条件の他の態様は、より小さい数のクラスに大まかに分類できることが理解される。したがって、車輪310の現在の動作条件に応じて逆タイヤモデルを取得することは、多数の異なるモデルを記憶する必要があることも、細かい粒度で動作条件の変動を考慮できる複雑な解析関数を記憶する必要があることも、必ずしも意味しない。むしろ、動作条件に応じて選択される2つまたは3つの異なるモデルがあれば、十分であり得る。例えば、車両が大量に荷物を積んでいる場合はあるモデルを使用し、車両が大量に荷物を積んでいない場合は他のモデルを使用する。全ての場合において、タイヤ力と車輪スリップとの間のマッピングは、動作条件に応じて何らかの方法で変化し、マッピングの精度を向上させる。
【0047】
また、逆タイヤモデルは、車両の現在の動作条件に自動的にまたは少なくとも半自動的に適応するように構成された適応モデルとして、少なくとも部分的に実施してもよい。これは、所与の車輪スリップ要求に応答して生成される車輪力に関して所与の車輪の応答を常にモニタリングすること、及び/または車輪スリップ要求に応答する車両100の応答をモニタリングすることによって達成することができる。次に、車輪からの所与の車輪スリップ要求に応答して得られる車輪力をより正確にモデル化するように適応モデルを調整することができる。
【0048】
逆タイヤモデルは、リモートサーバ120から、例えばソフトウェアの更新として自動的に設定することができる、または車両の日常的な整備を行う技術者によって手動で設定することもできる。
【0049】
図3の例のVMMモジュール360は、デフォルトの逆タイヤモデル361及びブースト逆タイヤモデル362で構成された少なくとも2つの異なる逆タイヤモデルを有し、ブースト逆タイヤモデル362は、デフォルトの逆タイヤモデルと比較して、車両の1つまたは複数の車輪についてより高い最大車輪スリップ値に関連付けられている。したがって、ブースト逆タイヤモデルでは、デフォルトの逆タイヤモデルと比較して、より積極的な車両制御が可能になる。VMMモジュールには逆タイヤモデル選択モジュールも含まれており、このモジュールは、ブースト信号が検出されない限り、デフォルトの逆タイヤモデル361をアクティブな逆タイヤモデルとして設定するように適合されている。ブースト信号が検出されると、逆タイヤモデル選択モジュールは、代わりにブースト逆タイヤモデル362をアクティブな逆タイヤモデルとして設定する。これは、デフォルトの逆タイヤモデルがアクティブな逆タイヤモデルとして選択されたときと比較して、少なくとも一時的に、正の推進車輪スリップはより大きく、負の制動車輪スリップはより小さく(より負になる)なることができることを意味する。
【0050】
したがって、VMMシステム及びMSDコントローラは、車輪のデフォルト挙動と比較してより積極的な車輪スリップ挙動を得るために、デフォルトの逆タイヤモデルの公称車輪スリップ限界を超える車輪スリップで車輪を制御することを少なくとも一時的に可能にされる。例えば、VMM機能によって使用される逆タイヤモデルが
図2のFx2機能であるが、Fx1関数が実際の関係に近い場合、ブーストモードでは、少なくとも限られた期間中、車両がピーク力240に近づくことができる。その結果、困難な路面摩擦条件の上り坂の道路を走行したい運転者は、デフォルトの逆タイヤモデルの車輪スリップ限界を超えて車輪スリップを一時的に増加させて、これにより縦方向車輪力が増加するか否かを確認することができる。この機能は、今日の多くの乗用車に搭載されている「ステップダウン」または「キックダウン」加速ブーストモードのタイプと本質的に似ている。
【0051】
図4はタイヤモデル選択機能400の例を示している。運動要求のための1つの入力ポート及びブースト信号のための1つの入力ポートが存在する。タイヤモデルモジュール410は、運動要求信号を車輪スリップ限界付きのトルク要求、及び/または車輪スリップまたは車輪速度要求に変換し、MSDコントローラ330に送信する。選択モジュール420はブースト信号を受信し、このブースト信号は、例えば、アクセルペダルまたはブレーキペダルが何らかの閾値を超えて押し下げられたことを示す信号である可能性がある。選択モジュール420は、ブースト信号の状態に基づいて、車両の制御に使用するアクティブな逆タイヤモデルを設定する。ブースト信号を検出することに応答してブースト逆タイヤモデル430をアクティブな逆タイヤモデルとして選択し、検出しない場合は、デフォルトの逆タイヤモデル440をアクティブな逆タイヤモデルとして選択する。この例では、選択モジュールは、アクティブな逆タイヤモデルをパラメータ化するためのパラメータを選択する。逆タイヤモデルを定義するために使用できるパラメータのいくつかの例については、
図6~8に関連して以下で説明する。ただし、逆タイヤモデルパラメータは、タイヤモデルパラメータのセットだけでなく、タイヤモデル全体も含む場合があることが理解される。
【0052】
図5は、本明細書で開示の方法に適用可能な車両制御機能アーキテクチャの例を示し、TSM機能370は、車両運動要求375を生成し、車両運動要求375は、車両が従うべき所望のステアリング角δまたは同等の曲率c
reqを含んでよく、所望の車両ユニット加速度a
reqと他のタイプの車両運動要求も含んでよく、それらは一緒に、所望の速度プロファイルで所望の経路に沿った車両による所望の運動を記述する。運動要求は、操縦を成功裏に完了するために生成する必要がある必要量の縦力及び横力を決定または予測するためのベースとして使用できることが理解される。
【0053】
VMM機能360は、約1秒程度の計画対象期間で動作し、TSM機能からの加速度プロファイルareq及び曲率プロファイルcreqを車両100の様々なMSDによって作動される車両運動機能を制御するための制御コマンドに継続的に変換し、MSDは、能力をVMMに報告し、次にそれらは、車両制御の制約として使用される。VMM機能360は、車両の状態または運動推定510を実行する。すなわち、VMM機能360は、MSDに接続していることが多いが必ずしも接続しているわけではない車両100上に配置された様々なセンサを使用して動作を監視することによって、車両の組み合わせの様々なユニットの位置、速度、加速度、及び連結角度を含む車両状態sを継続的に判断する。
【0054】
運動推定510の結果、すなわち、推定された車両状態sは、力生成モジュール520に入力され、力生成モジュール520は、車両100を必要な加速度プロファイルareq及び曲率プロファイルcreqに従って移動させ、所望の車両挙動に従って動作させるように様々な車両ユニットに必要とされる全体的な力V=[V1,V2]を決定する。必要な総力ベクトルVは、MSD協調機能530に入力され、MSD協調機能530は、車輪力を割り当て、ステアリングやサスペンションなどの他のMSDを協調させる。MSD協調機能は、i番目の車輪に対するMSD制御割り当てを出力し、これは、トルクTi、縦方向の車輪スリップλi、車輪回転速度ωi、及び/または車輪ステアリング角δiのいずれかを含み得る。そして、連携されたMSDは、共に、車両連結100による所望の運動を得るために、車両ユニットに対する所望の横方向Fy及び縦方向Fx力、ならびに必要なモーメントMzを提供する。
【0055】
例えば、全地球測位システム、視覚ベースのセンサ、車輪速度センサ、レーダセンサ、ステアリング角センサ、及び/またはライダセンサを使用して車両ユニットの運動を決定し、この車両ユニットの運動を所与の車輪310のローカル座標系に変換することによって(例えば、縦及び横の速度成分に関して)、車輪基準座標系における車両ユニットの運動を、上記のように、車輪310に関連して配置された車輪速度センサ350から得られるデータと比較することによって、リアルタイムで車輪スリップを正確に推定することが可能になる。
【0056】
したがって、本開示のいくつかの態様によって、VMM機能360は、力生成及びMSD協調の両方を管理する。すなわち、VMM機能360は、例えば、TSMによって要求される必要な加速プロファイルに従って車両を加速させる、及び/または同じくTSMによって要求される車両による特定の曲率運動を生成するTSM機能370からの要求を満たすために車両ユニットで必要とされる力を決定する。力には、例えば、ヨーモーメントMz、縦力Fx、及び横力Fy、ならびに異なる車輪に加えられる異なるタイプのトルクが挙げられ得る。力は、TSM機能370によって生成された制御入力に応答して、例えば、TSM機能によって期待される車両挙動を生成するように決定される。
【0057】
図2に関連して上述したタイヤモデル540を使用して、所与の車輪iの所望のタイヤ縦力Fxiと、車輪の等価の縦方向の車輪スリップλ
iとの間を変換することができる。このタイヤモデルは、上で説明したようにブースト信号に基づいて適合され、つまり、アクティブな逆タイヤモデルは、ブースト信号に応じて、デフォルトの逆タイヤモデルとして、または特定の車輪に対してより多くの車輪スリップを生成できるブースト逆タイヤモデルとして選択される。
【0058】
要約すると、
図9のフローチャートを参照すると、本明細書では、大型車両100の少なくとも1つの駆動され及び/または制動される車輪102、310を制御するためのコンピュータ実装方法が開示されている。本方法は、デフォルトの逆タイヤモデル及びブースト逆タイヤモデルを設定すること(S1)であって、各逆タイヤモデルは、車輪102、310における縦方向の車輪スリップλと縦方向車輪力Fxとの間のそれぞれの関係を表し、ブースト逆タイヤモデルは、デフォルトの逆タイヤモデルと比較して、車輪102、310の最大車輪スリップ値λ
limがより高く関連付けられることを含む。2つ以上のブースト逆タイヤモデルを設定することができ、推定される道路傾斜や摩擦係数などの車両の動作条件に応じて、使用するブースト逆タイヤモデルを選択できることが理解される。
【0059】
いくつかの態様によれば、この方法は、デフォルトの逆タイヤモデルのピーク縦方向車輪力と比較して、より高い車輪スリップ値に対応するピーク縦方向車輪力240を有するブースト逆タイヤモデルを設定すること(S11)を含む。これは、デフォルトの逆タイヤモデルの場合と比較して、ピーク車輪力の位置がより高い車輪スリップ値にシフトされることを意味する。これは、また、例えば車輪スリップ限界を設定するためにピーク力の位置を使用するシステムが、意図されるように、デフォルトモデルを使用するときと比較して、ブーストモデルを使用するときにより高い車輪スリップを制御することを可能にすることを意味する。
図6は、このタイプの再設定の例を示し、デフォルトの逆タイヤモデルは、ピーク力位置610を有する曲線Fx3として示され、ブースト逆タイヤモデルは、ピーク力位置620を有する曲線Fx4として示されている。曲線Fx4は、曲線Fx3を単純にシフトしたバージョンであり、デフォルトの逆タイヤモデルのピークと比較して、ピークの位置がより高い車輪スリップ値の方向にシフトされていることを意味する。車輪スリップ630のオフセットは、例えば車輪スリップ0、1などで設定することができる。2つ以上のブースト逆タイヤモデルに対して、2つ以上のオフセット値を使用することもできる。オフセットは、また、ブースト信号の検出に応答して徐々に増加させることができ、その後、一定期間後に徐々にゼロまで減少させることができる。
図6の点線640に示すように、オフセット曲線に任意選択の調整を追加して、ゼロのスリップ値に対応するように生成されるタイヤ力をゼロにすることができる。
【0060】
他の態様によれば、この方法は、デフォルトの逆タイヤモデルと比較して、より小さいスリップ剛性値を有するブースト逆タイヤモデルを設定すること(S12)を含む。
図7は、2つの逆タイヤモデルの例700を示している。この場合、逆タイヤモデルは、スリップ剛性Cx1及びCx2によって上昇が与えられる線形モデルとして近似され、この場合、ブースト逆タイヤモデルのスリップ剛性値Cx2は、デフォルトの逆タイヤモデルCx1と比較して小さくなる。各逆タイヤモデルは、想定されるピーク力位置730、740におけるそれぞれの車輪スリップ限界値710、720に関連付けられている。スリップ剛性Cx2を有するブースト逆タイヤモデルは、デフォルトの逆タイヤモデルと比較して、より高い最大車輪スリップ値に関連付けられることに留意されたい。
図8は、デフォルトの逆タイヤモデル810及びブースト逆タイヤモデル820の例を示しており、ブースト逆タイヤモデルのピーク力位置p2は、デフォルトの逆タイヤモデルのピーク位置p1と比較して高くなっている。これは、また、ブースト逆タイヤモデルでは、想定されるピーク位置での車輪スリップ限界を超える車輪スリップを許可しないデフォルトの逆タイヤモデルと比較して、より高い車輪スリップを制御できることを意味する。
【0061】
他の態様によれば、この方法は、デフォルトの逆タイヤモデルと比較して、より高い車輪スリップ限界値230を有するブースト逆タイヤモデルを設定すること(S13)を含む。したがって、同じ基本逆タイヤモデルをデフォルトモデルとブーストモデルの両方に使用することができ、2つを区別するために車輪スリップ限界を変更することが理解される。例えば、車輪スリップ限界は、デフォルトの逆タイヤモデルの場合はピークから10%の車輪スリップとして定義でき、ブースト逆タイヤモデルの場合はピークでの車輪スリップとして定義できるか、または、ブースト逆タイヤモデルの場合は、ピークから10%を超えた車輪スリップとして定義することもできる。
【0062】
図9を引き続き参照すると、この方法は、車輪102、310によって発生される所望の縦力Fxを示す運動要求a
reqを取得すること(S2)を含む。運動要求は、上述のように、大型車両100のアクセルペダル位置またはブレーキペダル位置の関数として決定されてもよい。運動要求a
reqは、また、大型車両100に含まれるVMMシステムのMSD協調機能530から、または車両100に含まれる自律もしくは半自律運転機能から取得することができる。
【0063】
更に、この方法は、ブースト信号550を検出することに応答してブースト逆タイヤモデルをアクティブな逆タイヤモデルとして選択し、検出しない場合はデフォルトの逆タイヤモデルをアクティブな逆タイヤモデルとして選択すること(S3)と、運動要求areqに応じてアクティブな逆タイヤモデルに基づいて、少なくとも1つの駆動され及び/または制動される車輪102、310を制御すること(S4)とを含む。
【0064】
ブースト信号の生成は、1つまたは複数のトリガに基づいてもよく、潜在的に1つまたは複数のパラメータにも条件付けられてもよい。トリガは、設定された条件が全て満たされた場合にのみブースト信号の生成を引き起こす何らかの形式のイベントである。例えば、ブースト信号S31の生成は、任意選択的に、閾値を超えるアクセルペダル位置を含む。したがって、全ペダル範囲の80%を超えるなど、運転者がペダルを十分に押し下げると、全ての設定された条件も満たされる場合にブースト信号が生成される。ブースト信号は、また、アクセルペダルまたはブレーキペダルが完全に押し下げられたときに、機械的または電気的スイッチによって生成されるように設定することができる。更なる態様によれば、ブースト信号は、アクセルペダル位置またはブレーキペダル位置が、所定の期間にわたって閾値を超えることによってトリガされる。この場合、ここで説明するブースト機能がトリガされる前に、運転者はペダルを一定時間押し下げる必要がある。
【0065】
上述したように、ブースト信号は2つ以上のレベルを含むことができ、ブースト信号の各レベルは、複数のブースト逆タイヤモデルから対応するブースト逆タイヤモデルを選択させる。例えば、運転者がアクセルペダルを70%以上90%未満で踏んだ場合、第1のブースト逆タイヤモデルがアクティブな逆タイヤモデルとして選択され、運転者が次に同じペダルを90%以上で踏んだ場合、第2のブースト逆タイヤモデルが、大型車両の制御に使用されるアクティブな逆タイヤモデルとして選択される。
【0066】
ブースト信号S32は、また、手動トリガ装置の操作によってトリガされるように設定され得る。この手動トリガ装置は、例えば、車室内のボタン、または車両の制御システム上のメニュー選択オプションであってもよい。したがって、設定された公称車輪スリップ限界を超える追加の車輪スリップを得たい運転者は、車輪スリップ限界をより高い大きさの値にシフトするために手動トリガ装置を作動させてもよい。この手動トリガ装置は、また、当然ながら2つ以上のレベルを有してもよく、各レベルはブースト逆タイヤモデルに対応する。
【0067】
当然ながら、ブースト信号は、また、リモート制御トリガ装置の操作によってリモートでトリガされるように設定され得る。例えば、リモート制御塔などは、ブースト機能をリモートで作動させ、設定された車輪スリップ限界値の大きさを公称車輪スリップ限界値からブースト車輪スリップ限界値まで増加させる機能を実装するリモート制御システムを備えてもよい。次いで、リモート制御トリガ装置は、所与の車両が公称の構成と比較してより高い車輪スリップ限界で動作することを可能にする機能を実装し、これはいくつかのシナリオでは所望され得る。例えば、近くに他の車両がない場合、より高い車輪スリップで動作することは安全であるとみなされ、車両運動管理性能の観点から、車輪スリップを更に増加させることが有益であると判断される場合がある。
【0068】
ブースト信号S33は、車両100が車両速度の許容閾値を下回る速度で動作していることを条件とすることができる。これは、車両の速度が速すぎる場合に車輪スリップ限界の大きさの増加が許可されないことを意味し、そうしないと、車両が不安定な状態または望ましくない状態に陥るリスクが増加する可能性がある。更に、ブースト信号S34の生成は、車両100が車両ヨー運動の許容閾値を下回るヨー運動で動作していることを条件としてもよい。したがって、車両が大きく旋回している場合、つまり、曲率が大きすぎる経路をたどっている場合は、車輪スリップ限界の増加は許可されない。車両が非常にゆっくりと移動している場合は、ヨー運動の条件は無視され得ることが理解される。したがって、車両100が車両速度の許容閾値を下回る速度で動作している場合、車両がより速く移動している場合と比較して、より大きなヨー運動が許可される可能性がある。
【0069】
この方法は、少なくとも駆動され及び/または制動される車輪102の横力要件を決定すること(S35)を更に含むことができる。ブースト信号の生成は、横力要件が横力要件閾値を下回ることを条件とすることができる。その理由は、車輪が大きすぎる縦方向の車輪スリップで動作している場合、横力はほとんど発生しないからである。したがって、横力を発生させる必要がある場合、そのような横力を発生させることができないレベルまで車輪スリップの増加を許可するのは不適切であり得る。しかしながら、低速に関する条件は、横力要件に関する条件よりも優先され得ることが理解される。
【0070】
更なる態様によれば、この方法は、また、ブースト信号の検出に応答して、少なくとも1つの駆動され及び/または制動される車輪102に関連付けられたデフォルトの逆タイヤモデルを更新すること(S5)を含む。これらの態様は、例えば推定された縦方向車輪力に基づいて逆タイヤモデルが連続的または定期的に調整されるときに関連する。この場合、VMMシステムは、車輪スリップと、それに対応する推定または測定された車輪力の値の記録を保持することができる。例えば、一部の電気機械は、適用されたトルクを示す出力信号をリアルタイムで提供し、それを車輪力に変換することができる。ただし、ブーストモードを使用して一時的に許可しない限り、設定された車輪スリップ限界を超える大きなスリップ値が発生することはないため、逆タイヤモデルは不正確になる。
【0071】
図10は、MSD制御システム330またはVMMシステム360のいずれかなど、本明細書の説明の実施形態による制御ユニット1000のコンポーネントを、いくつかの機能ユニットの形で模式的に示す。処理回路1010は、例えば、記憶媒体1030の形態のコンピュータプログラム製品に記憶されたソフトウェア命令を実行することができる、適切な中央処理装置(CPU)、マルチプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ(DSP)などの1つまたは複数の任意の組み合わせを使用して、提供される。処理回路1010は、少なくとも1つの特定用途向け集積回路ASIC、またはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)として更に提供されてよい。詳細には、処理回路1010は、
図9に関連して、及び本明細書で一般的に説明した方法などの一連の動作またはステップを制御ユニット1000に実行させるように構成される。例えば、記憶媒体1030は一連の動作を記憶してよく、処理回路1010は記憶媒体1030から一連の動作を読み出して、制御ユニット1000に一連の動作を実行させるように構成されてよい。動作の集合は、実行可能な命令の集合として提供され得る。したがって、処理回路1010は、本明細書で開示される方法を実行するように構成される。
【0072】
例えば、記憶媒体1030は、また、磁気メモリ、光学メモリ、ソリッドステートメモリ、または更にリモートに搭載されたメモリのうちの任意の単一のものまたは組み合わせであり得る永続記憶装置を含み得る。
【0073】
制御ユニット1000は、更に、少なくとも1つの外部デバイスと通信するためのインタフェース1020を備え得る。よって、インタフェース1020は、アナログコンポーネント及びデジタルコンポーネントと、適切な数の有線通信用ポートまたは無線通信用ポートとを備えた1つまたは複数の送信器及び受信器を含み得る。
【0074】
処理回路1010は、例えば、インタフェース1020及び記憶媒体1030にデータ及び制御信号を送信することにより、インタフェース1020からデータ及びレポートを受信することにより、ならびに記憶媒体1030からデータ及び命令を取得することにより、制御ユニット1000の通常の動作を制御する。制御ノードの他のコンポーネントならびに関連する機能は、本明細書で提示した考え方を不明瞭にしないように省略する。
【0075】
図10は、大型車両100の少なくとも1つの駆動され及び/または制動される車輪102、310を制御するための制御ユニット1000の例を示している。制御ユニットは、デフォルトの逆タイヤモデル及びブースト逆タイヤモデルを設定するように配置された処理回路1010を備え、各逆タイヤモデルは、車輪102、310における縦方向の車輪スリップλと縦方向車輪力Fxとの間のそれぞれの関係を表し、ブースト逆タイヤモデルは、デフォルトの逆タイヤモデルと比較して、車輪102、310のより高い最大車輪スリップ値λ
limに関連付けられている。処理回路は、また、車輪102、310によって発生される所望の縦力Fxを示す運動要求a
reqを取得し、ブースト信号を検出することに応答してブースト逆タイヤモデルをアクティブな逆タイヤモデルとして選択し、検出しない場合は、デフォルトの逆タイヤモデルをアクティブな逆タイヤモデルとして選択し、運動要求a
reqに応じて、アクティブな逆タイヤモデルに基づいて、少なくとも1つの駆動され及び/または制動される車輪102、310を制御するように設定される。
【0076】
図11は、上記のプログラム製品がコンピュータ上で実行されるときに、
図9に示される方法及び本明細書で説明される技術を実行するためのプログラムコード手段1120を備えるコンピュータプログラムを担持するコンピュータ可読媒体1110を示す。コンピュータ可読媒体及びコード手段は一緒に、コンピュータプログラム製品1100を形成し得る。
【国際調査報告】