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特表2024-541859幹細胞の遺伝子改変による複数のT細胞受容体を有するT細胞
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】幹細胞の遺伝子改変による複数のT細胞受容体を有するT細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20241106BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20241106BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20241106BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20241106BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C12N15/63
C12N5/0783
C12N15/62 Z
C12N15/867 Z
A61K35/17
A61K35/545
A61P37/00
A61P35/00
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523117
(86)(22)【出願日】2022-10-13
(85)【翻訳文提出日】2024-06-12
(86)【国際出願番号】 US2022046548
(87)【国際公開番号】W WO2023064455
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】63/255,632
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524142703
【氏名又は名称】アッピア バイオ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】チーンチュ エス.カン
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー スコット ウィーゾレク
(72)【発明者】
【氏名】シー ワン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB63
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB09
4C087ZB26
(57)【要約】
本開示は、増強された抗腫瘍表現型を有するマルチTCR T細胞を生成する方法を提供する。T細胞は、造血幹細胞に第1のTCRを導入し、続いて第2のTCRを導入することによって、造血幹細胞から作製される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞を生成する方法であって、
造血幹細胞(HSC)を、第1のT細胞受容体(TCR)を含むガンマデルタ(gd)T細胞又はインバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞へとインビトロで分化させるプロセスを実施すること、及び
少なくとも第2のTCRを前記gdT細胞又はiNKT細胞に導入して、2つの別個のTCRを有するT細胞を生成することを含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも第2のTCRを前記gd T細胞又はiNKT細胞に導入後に、前記T細胞を増殖させることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記HSCをgd T細胞へと分化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2のTCRがアルファベータ(ab)TCRである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記HSCをiNKTへと分化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のTCRがアルファベータ(ab)TCRである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記インビトロ分化ステップが、前記第1のT細胞受容体をコードする1つ以上の核酸を前記HSCに導入することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2のTCRを導入することが、前記第2のT細胞受容体をコードする1つ以上の核酸を前記gdT細胞又はiNKT細胞に導入することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記インビトロ分化ステップが、キメラ抗原受容体(CAR)及び1つ以上の導入遺伝子のうちの少なくとも1つをコードする1つ以上の核酸を導入することを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つ以上の導入遺伝子が、サイトカイン、チェックポイント阻害因子、トランスフォーミング増殖因子ベータシグナル伝達の阻害因子、サイトカイン放出症候群の阻害因子、神経毒性の阻害因子、又はT細胞をより強力にするか、疲弊若しくは拒絶の影響を受けにくくするための他のペイロードのうちの少なくとも1つを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1及び/又は第2のTCRが、遺伝子改変TCRである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記遺伝子改変TCRが、前記第1のTCRと前記第2のTCRとの間のTCRミスペアリングを防止するための1つ以上の修飾を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記修飾が、マウス定常ドメイン、ジスルフィド架橋、及び他の二量体化ドメインのうちの1つ以上を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記HSCが前駆細胞に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記前駆細胞が多能性幹細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記インビトロプロセスが、前記T細胞をより強力にするか、疲弊又は拒絶を受けにくくするために、前記HSC又は前駆細胞の遺伝子編集を更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記第2のTCRが、がん生殖細胞系列抗原、ウイルス抗原又は腫瘍特異的ネオ抗原に指向する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも第2のTCRを導入する前記ステップが、複数の異なるTCRを導入することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
各異なるTCRが、異なる腫瘍特異的ネオ抗原に指向する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ネオ抗原反応性TCRが、末梢血T細胞若しくは腫瘍浸潤リンパ球から得られるか、又はそれらに由来する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第2のTCRを導入するステップが、レトロウイルス形質導入、レンチウイルス形質導入、又はヌクレオチド導入の非ウイルス方法論を介して、前記gd T細胞又はiNKT細胞に1つ以上の核酸を移入することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記方法が、前記第2のTCRによって認識されるペプチドを担持したHLA適合又は部分適合PBMCを用いた前記T細胞のインビトロ活性化及び増殖を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
治療の方法であって、
HSCを得ること;
前記HSCを、第1のT細胞受容体(TCR)を含むガンマデルタ(gd)T細胞又はインバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞へとインビトロで分化させるプロセスを実施すること;
少なくとも第2のTCRを前記gdT細胞又はiNKT細胞に導入すること;
得られたT細胞を活性化して、2つの別個の機能的TCRを有するT細胞を生成すること;及び
前記T細胞を被験体に導入することを含み、前記少なくとも第2のTCRが、前記被験体における細胞の表面に発現される疾患関連抗原に指向する、方法。
【請求項24】
前記HSCが、前記被験体から得られるか、又は前記被験体に由来する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記HSCが同種HSCである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記方法が、前記インビトロ分化ステップを実施した後、前記疾患関連抗原を標的とする1つ以上のTCRを特定するデータを得ること、及び続いて、前記少なくとも第2のTCRを導入するステップを実施することを更に含む、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、幹細胞を複数のT細胞受容体で遺伝子改変する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インビトロでのT細胞の生成及び増殖は、がん治療を含む広範な臨床応用において有用である。例えば、臨床データは、腫瘍抗原特異的受容体を有する遺伝子改変T細胞が、一部の患者において転移性がんの退縮を引き起こすために有用であることを示す。残念ながら、全ての患者がこのような治療から恩恵を受けるわけではない。その理由の1つは、インビトロでの増殖中に、一部のT細胞が疲弊又は老化し、インビボでの治療効果及び持続性が制限されることである。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、少なくとも2つの異なるT細胞受容体(TCR)及び/又はキメラ抗原受容体(CAR)を有する多数のT細胞を迅速かつ効率的に生成するためのシステム及び方法を提供する。複数の異なるTCRを有するT細胞(マルチTCR T細胞)を生成することによって、本発明の方法は、複数の異なる抗原を認識するT細胞を生成し、それによって、治療的処置としての該T細胞の効力を向上させることができる。同様に、本発明は、異なるTCR、又はTCRとCARを共発現するT細胞を生成する方法であって、特異的ながん細胞標的化特性を付与する最適な表現型を細胞にもたらす、方法を提供する。
【0004】
特定の実施形態において、本開示は、幹細胞、例えば、造血幹細胞(HSC)からマルチTCR T細胞を作製する方法を提供する。HSCを出発物質とすることによって、本発明のシステム及び方法は、本発明のT細胞の製造において幹細胞の自己再生及び細胞分化能を活用する。
【0005】
本発明の方法において幹細胞(例えば、HSC)を使用する利点としては、その再生能と増殖能が挙げられる。同種細胞療法では、多くの場合、治療の単回用量に数十億個の細胞を必要とする。幹細胞には潜在的に無限の増殖能があるため、本発明の方法は、高品質の細胞産物を大規模に生成すること、及びこれらの産物を迅速に治療のために利用可能にすることに十分に適している。更に、幹細胞の顕著な特徴は、異なる細胞タイプへの分化能である。本開示の文脈において、分化能は、例えば、とりわけ、ナチュラルキラーT細胞、アルファベータT細胞、ガンマデルタT細胞などを含む、広範なT細胞サブタイプを生成し得る細胞製造プラットフォームを提供する。
【0006】
特定の態様において、本発明の方法は、少なくとも第1のTCRをコードする導入遺伝子を導入することによって、HSCから遺伝子改変T細胞を生成することを含む。HSCは、TCRを発現するT細胞に分化する。分化後、T細胞は、1つ以上の選択、成熟、増殖、及び/又は凍結保存ステップに供され得る。これらの前述のステップのいずれかの前又は後に、1つ以上の異なるTCR/CARをT細胞に導入し(例えば、導入遺伝子の導入を介して)、それによって、複数の異なるTCR及び/又はTCRとCARを有する遺伝子改変T細胞を生成することができる。
【0007】
HSC由来のT細胞に所望のTCR/CARを付加する能力は、本発明の方法にいくつかの利点を与える。例えば、本発明の特定の方法において、HSCをT細胞に分化させる。これらのT細胞は、成熟、選択、増殖、及び/又は凍結保存され得る。一般に、このプロセスのステップには合計で約2~4週間掛かる。本発明の方法を用いると、分化後のT細胞に、また任意選択で、選択、成熟、増殖、及び/又は凍結保存後のT細胞に、1つ以上の追加のTCR/CARを導入することができる。
【0008】
分化後に追加のTCR(複数可)を加えることは、既製のHSC由来遺伝子改変T細胞を出発物質として、T細胞を、病態、例えば、がんに固有の抗原を標的とする受容体で遺伝子改変することを可能にする。これにより、単一受容体T細胞を生成するために使用される2~4週間の期間後に追加の受容体を加えることができるため、TCR(複数可)及び/又はCARの所望の組み合わせを有するT細胞を生成するために必要なリードタイムを短縮することができる。
【0009】
加えて、最初のTCRの後に追加のTCR(複数可)又はCARを加えることにより、本発明の方法は、導入された複数の異なる受容体を発現する間の、長期培養によるT細胞の転写及び表現型の変化のリスクを回避し得る。更に、分化したT細胞が追加を受け入れる準備ができていることにより、本発明の方法は、TCRのミスペアリングを最小限に抑えてマルチTCR T細胞を生成するためのより高い柔軟性をもたらす。TCRミスペアリングは、内在性又は導入TCRのα鎖又はβ鎖が、別の導入TCRのα鎖又はβ鎖と誤ってペアリングする現象である。これにより、例えば導入TCR(複数可)の表面発現が低下する。本発明の方法を使用することによって、例えば、マウス定常ドメイン、ジスルフィド架橋などの修飾を使用して、第1の導入TCRを、第2の導入TCRとのミスペアリングの可能性が減少するように遺伝子改変することができる。あるいは、又は加えて、第1の導入TCRをガンマデルタ(γδ)TCRとし、第2の導入TCRをアルファベータ(αβ)とすることができ、これは、同様に、ミスペアリングの可能性を低減する。
【0010】
したがって、本発明は、同種の、既成の、HLA拘束性のないNKT又はγδT細胞であって、凍結保存し、その後解凍して使用することができる、細胞を作製するためのプラットフォームを提供する。次いで、これらの細胞は、患者特異的な方法で、例えば、特定の病態を標的とするCAR又はTCRの導入によって、更に遺伝子改変され得る。したがって、本発明の幹細胞培養物及び組成物は、無数の病態にわたる何千もの異なる患者を治療するために使用することができる。
【0011】
本発明は、遺伝子改変T細胞を生成する方法を提供する。例示的な方法は、造血幹細胞(HSC)をインビトロで分化させて、HLA拘束性のない第1のT細胞受容体(TCR)を含む同種ガンマデルタ(γδ)T細胞又はインバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞を生成するプロセスを実施することを含む。本方法は、少なくとも第2のTCRをγδT細胞又はiNKT細胞に導入して、2つの別個のTCRを有するT細胞を生成することを更に含む。特定の態様において、第2又は追加のTCRは、HLA拘束性又は患者特異的であり得る。
【0012】
特定の態様において、本方法はまた、少なくとも第2のTCRをγδT細胞又はiNKT細胞に導入後に、T細胞を成熟させることを含む。
【0013】
本発明のいくつかの方法において、HSCをγδT細胞に分化させる。特定の態様において、第2のTCRは、アルファベータ(αβ)TCRである。本発明のいくつかの方法において、HSCをiNKTに分化させる。特定の態様において、第2のTCRは、アルファベータ(αβ)TCRである。
【0014】
特定の方法において、インビトロ分化ステップは、第1のT細胞受容体をコードする1つ以上の核酸をHSCに導入することを含む。第2のTCRを導入することは、第2のT細胞受容体をコードする1つ以上の核酸を、γδT細胞又はiNKT細胞に導入することを含み得る。
【0015】
インビトロ分化ステップは、キメラ抗原受容体(CAR)及び1つ以上の導入遺伝子のうちの少なくとも1つをコードする1つ以上の核酸を導入することを更に含み得る。特定の態様において、少なくとも1つ以上の導入遺伝子は、サイトカイン、チェックポイント阻害因子、トランスフォーミング増殖因子ベータシグナル伝達の阻害因子、サイトカイン放出症候群の阻害因子、神経毒性の阻害因子、又はT細胞をより強力にするか、疲弊若しくは拒絶の影響を受けにくくするための他のペイロードのうちの少なくとも1つを含む。
【0016】
本発明の特定の方法において、第1及び/又は第2のTCRは、遺伝子改変TCRである。特定の態様において、第1のTCRは、遺伝子改変TCRである。特定の態様において、第2のTCRは、遺伝子改変TCRである。本発明による遺伝子改変TCRは、第1のTCRと第2のTCRとの間のTCRミスペアリングを防止するための1つ以上の修飾を含み得る。例示的な修飾としては、マウス定常ドメイン、ジスルフィド架橋、及び他の二量化ドメインのうちの1つ以上が挙げられる。
【0017】
特定の方法において、HSCは、多能性幹細胞などの前駆細胞に由来する。したがって、インビトロプロセスは、T細胞をより強力にするか、疲弊又は拒絶を受けにくくするために、HSC又は前駆細胞の遺伝子編集を更に含み得る。
【0018】
例示的な方法において、第2のTCRは、がん生殖細胞系列抗原、ウイルス抗原又は腫瘍特異的ネオ抗原に指向する。
【0019】
特定の態様において、少なくとも第2のTCRを導入するステップは、複数の異なるTCRを導入することを含む。それぞれの異なるTCRは、異なる腫瘍特異的ネオ抗原に指向するものであり得る。ネオ抗原反応性TCRは、末梢血T細胞又は腫瘍浸潤リンパ球から得られるか、又はそれらに由来し得る。
【0020】
特定の例示的な方法において、第2のTCRを導入するステップは、レトロウイルス形質導入、レンチウイルス形質導入、又はヌクレオチド導入の非ウイルス方法論を介して、γδT細胞又はiNKT細胞に1つ以上の核酸を移入することを含む。
【0021】
特定の態様において、本方法は、第2のTCRによって認識されるペプチドを担持したHLA適合又は部分適合PBMCを用いたT細胞のインビトロ活性化及び増殖を更に含む。
【0022】
本開示の発明はまた、本発明のマルチTCR細胞を用いた治療方法を提供する。例示的な治療方法は、HSCを得ること、及びHSCをγδT細胞又はiNKT細胞へとインビトロで分化させるプロセスを実施することを含み、分化T細胞は第1のTCRを含む。本方法はまた、少なくとも第2のTCRをγδT細胞又はiNKT細胞に導入すること、及び得られたT細胞を成熟させて、2つの別個の機能的TCRを有するT細胞を生成することを含み得る。次いで、本方法は、T細胞を被験体に導入することを含み、少なくとも第2のTCRは、被験体における細胞の表面に発現される疾患関連抗原に指向する。
【0023】
特定の態様において、HSCは、被験体から得られるか、又は被験体に由来する。
【0024】
例示的な方法において、本方法は、インビトロ分化ステップを実施した後、疾患関連抗原を標的とする1つ以上のTCRを特定するデータを得ること、及び続いて、少なくとも第2のTCRを導入するステップを実施することを更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】マルチTCR T細胞を生成する方法を示す図である。
【0026】
図2】3つの異なるプロセスによるエクスビボT細胞製造の段階を示す図である。
【0027】
図3】インビトロでT細胞を生成する2つのプロセスの比較を示す図である。
【0028】
図4】HSCからマルチTCR T細胞を生成する本発明の方法の大まかなステップを示す図である。
【0029】
図5】HSCからマルチTCR T細胞を生成する本発明の方法の大まかなステップを示す図である。
【0030】
図6】HSCからマルチTCR T細胞を生成する本発明の方法の大まかなステップを示す図である。
【0031】
図7】マルチTCR T細胞を増殖/活性化させるためのPBMC細胞株の比較を示す図である。
【0032】
図8】抗原提示PBMCの存在下でマルチTCR T細胞を増殖させた結果を示す図である。
【0033】
図9】抗原提示標的細胞株の生成を示す図である。
【0034】
図10】本発明の方法を使用して生成されたマルチTCR T細胞の細胞傷害性効力を示す図である。
【0035】
図11】本発明の方法を使用して生成されたマルチTCR T細胞の細胞傷害性効力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
キメラ抗原受容体(CAR)T細胞の臨床研究は、B細胞悪性腫瘍などの特定の病態の治療において顕著な結果を示している。しかしながら、現在、CAR T細胞療法を含む商業的な方法は、個別の(ad hoc)生成に関連するロジスティックス及び高いコストにより、その広範な使用が制限されている自己CAR T細胞を含む。同種CAR T細胞療法では、患者の治療において直ちに利用可能なあらかじめ作製された細胞ストックを提供することで、自己細胞の限界に対処している。しかし、その可能性にもかかわらず、治療上有効な同種CAR T細胞を一貫して生成する方法は確立されていない。ほとんどのプロトコルでは、例えば、少なくとも2回の活性化ステップを伴う長期間のエクスビボ培養が必要であり、これは過剰分化、T細胞の疲弊、及び/又は細胞老化を引き起こし、インビボ効力を損なう可能性がある。参照により組み込まれる、Jafarzadeh,2020,Prolonged Persistence of Chimeric Antigen Receptor(CAR)T Cell in Adoptive Cancer Immunotherapy:Challenges and Ways Forward,Frontiers in Immunology,11(702):1-17を参照のこと。
【0037】
本開示は、少なくとも2つの特有なT細胞受容体(TCR)の導入により、幹細胞(例えば、造血幹細胞)から表現型及び細胞機能が改善されたT細胞を製造するための信頼性の高い方法を提供する。本開示は、多数のマルチTCR T細胞を迅速かつ効率的に製造する方法を提供する。更に、製造プロセス中の異なる時点においてTCRを添加することができる。したがって、本発明の特定の態様において、T細胞は造血幹細胞から作製することができ、次いで増殖、成熟、及び/又は保存のステップを受けることができる。これらのT細胞は、1つ以上の追加のTCRを導入することができる、既製の出発点となり得る。必要に応じて、異なる患者の異なる疾患を治療するために必要な、別個の抗原を標的とする特定の追加のTCRを細胞に導入することができる。
【0038】
本発明の特定の好ましい方法は、第1のTCRを造血幹細胞(HSC)に導入すること、及び該細胞をガンマデルタ(γδ)T細胞又はインバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞に分化させることを含む。続いて、1つ以上の異なる追加のTCRをT細胞に導入して、少なくとも2つの別個のTCRを有するT細胞を生成する。
【0039】
HSCをγδ又はiNKTに分化させることは、本開示の方法にいくつかの利点をもたらす。
【0040】
例えば、特定の方法は、細胞のレシピエントにおいて有害な免疫反応を起こすことなく、細胞を普遍的な既製の使用(例えば、元の細胞が得られた個体以外の個体のために調製される)に適したものにする1つ以上の特徴を有するように遺伝子改変されたインバリアントNKT細胞として機能するように幹細胞(HSCなど)を修飾することを含む。
【0041】
iNKT細胞は、Tリンパ球の小さな亜集団であり、がん治療などの既成の細胞治療に有用となるいくつかの特徴を有する。iNKT細胞は、腫瘍抗原及びMHC拘束性とは無関係に複数の種類のがんを標的とする顕著な能力を有する。iNKT細胞は糖脂質抗原を認識し、そのためMHC拘束性を有しない。iNKT細胞の天然リガンドはまだ完全に同定されていないが、iNKT細胞は多くの腫瘍組織に由来する、ある種の保存された糖脂質抗原を認識することができるようである。
【0042】
更に、iNKT細胞は、腫瘍細胞を標的化し、攻撃するのに有用ないくつかの機構を含む。iNKT細胞は刺激前において休眠状態を維持するが、刺激されると、腫瘍標的細胞を殺傷するために細胞を活性化する大量のサイトカインを迅速に生成する。更に、iNKT細胞誘導抗腫瘍免疫は、腫瘍抗原及びMHC拘束性とは無関係に複数の種類のがんを効果的に標的とすることができ、それによって腫瘍の免疫逃避を効果的に阻止し、腫瘍の再発の可能性を最小限に抑えることができる。
【0043】
同時に、iNKT細胞は、ミスマッチしたMHC分子及びタンパク質自己抗原を認識しないため、移植片対宿主病(GvHD)を引き起こさない。同様に、iNKT細胞は、宿主対移植片(HvG)枯渇を回避するように遺伝子改変され得る。強力な遺伝子編集ツール(例えば、CRISPR-Cas9)システムが利用できることで、iNKT細胞を遺伝子組換えして、宿主免疫細胞を標的とした枯渇に抵抗性を持たせることが可能となる。iNKT細胞はまた、同種NK細胞殺傷に対してもともと抵抗性を有するようである。
【0044】
iNKT細胞はまた、がんと強い関連性を有する。ヒトにおいて、固形がんや血液がんの患者ではiNKT細胞存在比率が減少しているが、iNKT細胞数の増加は予後の改善を示している。したがって、iNKT細胞は、本発明の方法を使用して作製される場合、導入TCRに応じて、様々な疾患の治療に有効な「既製の」細胞産物として機能し得る。複数回用量で患者への十分なiNKT細胞の移入を可能にすることで、患者に、闘病のためにiNKT細胞の全可能性を利用する最良の機会をもたらし得る。
【0045】
iNKT細胞と同様に、γδT細胞も成人の末梢血においてTリンパ球の比較的小さなサブセットを形成している。γδT細胞は、通常、ヒト血液中のCD3陽性T細胞の1%~10%のいずれかを占める。しかしながら、MHC分子に担持された抗原由来ペプチドを認識するαβTCRを発現する従来型T細胞とは異なり、γδT細胞は、典型的には、抗原プロセシング及びMHC/HLA拘束性とは無関係に標的抗原を認識する。γδT細胞は、適応免疫系の形質(例えば、クローン性再編成されたTCR遺伝子の発現)を共有する。同時に、γδT細胞は自然免疫細胞と類似しており、エフェクター機能を活性化するための抗原プロセシングの必要性がない。したがって、γδT細胞はTCR刺激に迅速に応答する。
【0046】
活性化γδT細胞は、様々な種類の固形腫瘍やその他の悪性腫瘍を溶解することができ、多くのサイトカインを生成する。TCRに加えて、γδT細胞はまた、追加の活性化受容体を発現し得る。例えば、γδT細胞は、自然免疫細胞の機能的受容体、例えば、NKG2D、NKp30、及び/又はNKp44などの活性化ナチュラルキラー(NK)受容体を共発現することが多く、これらは細胞傷害効果を誘発する。したがって、γδT細胞は、ストレスを受けた細胞及び悪性細胞を感知する、2つの独立した認識経路を有する。
【0047】
更に、末梢血から単離されたインビトロ活性化細胞は、様々な固形腫瘍及び白血病/リンパ腫細胞に対するγδT細胞の強力かつHLA非依存的な活性を示している。
【0048】
したがって、本開示は、造血幹細胞(HSC)に第1のTCRを導入すること、及び該細胞をガンマデルタ(γδ)T細胞又はインバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞に分化させることによって、幹細胞を使用してT細胞を生成する方法を提供する。続いて、1つ以上の異なる追加のTCRをT細胞に導入して、少なくとも2つの別個のTCRを有するT細胞を生成して、抗腫瘍活性が増強されたT細胞を生成する。
【0049】
本開示は、幹細胞(例えば、HSC)からTCR、キメラ抗原受容体(CAR)、及び/又は少なくとも1つの追加の導入遺伝子を含む複数の導入遺伝子が組み込まれたT細胞を生成するためのシステム及び方法を更に提供する。幹細胞から生成プロセスを開始することによって、本発明のシステム及び方法は、「より若い」表現型及び増強された抗腫瘍活性を有するT細胞の製造のために、自己複製能及び細胞分化能を利用する。特に、本開示は、少なくとも1つのTCRをコードする核酸をCD34陽性幹細胞に導入し、続いて少なくとも1つの追加のTCRを導入することを提供する。複数のTCR(並びに任意選択で、任意の導入されたCAR及び追加の導入遺伝子(複数可))の複合発現により、本開示の方法を用いて生成されたT細胞は、がんの治療に有用な特異的がん細胞標的化特性を有する。
【0050】
図1は、本開示のマルチTCR T細胞を生成するための本発明の方法の全体的な概要を示す。図1に示されるように、本プロセスは、幹細胞(例えば、HSC)への第1のTCRの導入から開始される。したがって、幹細胞は、T細胞、好ましくはγδT細胞、iNKT細胞に分化する。驚くべきことに、本発明者らは、第2のTCRが分化したT細胞に導入される場合、本発明の方法は特有の柔軟性をもたらすことを発見した。示されるように、T細胞の成熟前など、製造プロセスの初期に、第2のTCRを導入することができる。あるいは、T細胞の増殖前又は増殖中など、プロセスの中間点で、第2のTCRを導入することができる。本明細書に開示される方法はまた、増殖後、並びに潜在的には凍結保存、活性化、及び増殖ステップ後でさえも、第2のTCRを与えることを企図する。したがって、本開示の方法は、HSCから多数のT細胞を生成し、該細胞を培養又は凍結保存で維持し、患者の要求に応じて必要とされる第2の抗原特異的TCRを該細胞に導入することを可能にする。したがって、本開示の方法は、製造時間を短縮してマルチTCR T細胞を作製することを可能にする。
【0051】
本開示の方法及びシステムはまた、以前の方法と比較して短縮されたエクスビボ培養時間を使用して、初期T細胞、すなわち第2のTCRを導入する前のT細胞を生成するステップを組み込んでもよい。本発明の特定の方法は、従来のT細胞分化方法において使用される1つ以上のエクスビボ活性化ステップを省略することによってエクスビボ培養を短縮し、これによりエクスビボ製造プロセスを最大で2~3週間短縮する。本発明の他の方法は、単一の活性化ステップを提供する。本発明の方法は、被験体への投与後に、インビボで長い活性化及び/又は増殖プロセスが起こり得ることを認識する。エクスビボ細胞培養を短縮することによって、本発明の方法では、T細胞生成中に転写及び/又は表現型の変化が起こる機会が最小限となる。更に、エクスビボ培養時間を短縮することにより、T細胞の維持に必要な高価な細胞培養消耗品の量が減少する。
【0052】
異なる態様において、本開示は、単一の活性化ステップでT細胞産物を作製するためのマルチステップワークフローを提供する。特定の方法は、HSCをマルチTCR T細胞へとインビトロ分化及び成熟させるステップを含むプロセスを、1つのみのインビトロT細胞活性化ステップで実施することを含む。得られたマルチTCR T細胞産物は、治療又は研究に使用することができる。T細胞製造の従来の方法は、少なくとも2つの別個のインビトロT細胞活性化ステップを必要とする。複数の活性化ステップは、一般に、複数の培地の種類、すなわち、異なる活性化因子を含有する培地を伴う。有利なことに、単一の活性化ステップによるT細胞の生成は、細胞培養の時間を短縮し、T細胞の疲弊に関連するマーカーの発現が少ない、より有効なT細胞産物を生成する。
【0053】
本発明の方法は、より少ないインビトロ細胞培養でマルチTCR T細胞産物を生成するのに有用である。インビトロ細胞培養を短縮することによって、本発明の方法は、より効果的で、含有される疲弊/機能不全T細胞がより少ないT細胞産物を生成する。T細胞産物は、T細胞疲弊に関与するタンパク質、例えば、PD-1、CTLA-4、LAG-3、TIM-3、2B4/CD244/SLAMF4、CD160、TIGITを、2つ以上のT細胞活性化ステップによって生成されたT細胞よりも低いレベルで発現し得る。T細胞産物はまた、より高いレベルのIL-2を発現し得る。
【0054】
特定の実施形態は、マルチTCR T細胞又は初期T細胞(第2のTCRの導入前)を生成するためのマルチステッププロセスであって、ステップのうちの1つのみがT細胞活性化ステップである、マルチステッププロセスを含む。単一の活性化ステップは、活性化培地、例えば、抗体などのT細胞活性化試薬を含む培地中でT細胞を培養することによって行うことができる。
【0055】
いくつかの例において、活性化ステップは、末梢血単核細胞(PMBC)ベースの活性化を含む。PMBCベースの活性化は、アルファ-ガラクトシルセラミド(aGC)担持PBMC、可溶性抗CD3/28陽性PBMC、及び可溶性抗CD2/3/28陽性PBMCにT細胞を導入することを含み得る。いくつかの例において、活性化ステップは、抗原提示細胞(aAPC)ベースのT細胞活性化ステップを含む。したがって、活性化ステップは、T細胞をaAPCに導入することを含み得る。好ましくは、aAPCは放射線照射される。aAPCは、CD80-CD83-CD137L-CAR抗原を発現する遺伝子改変K562細胞であり得る。aAPCは、aAPC+CD1d、及び/又はaAPC+CD1d+/-aGCであり得る。他の例において、活性化ステップは、フィーダーフリーベースのT細胞活性化ステップを含む。フィーダーフリーベースのT細胞活性化ステップは、T細胞に、抗CD3、抗CD28、抗CD2/3/28、CD3/28を含む可溶性抗体を導入することを含み得る。いくつかの実施形態において、本方法は、IL-7/15、IL-2、IL-2+21、IL-12、又はIL-18のうちの1つ以上を含む培養培地を含む。いくつかの実施形態において、培地はIL-15を含有する。
【0056】
特定の態様において、本発明の方法は、少なくとも第1のTCRが導入された幹細胞を得るステップを含む。本方法は、幹細胞(例えば、CD34+造血幹細胞/前駆細胞)を得ること;1つ以上の核酸(例えば、第1のTCR、及び任意選択で1つ以上の追加のTCR、CARをコードする核酸、並びに/又は追加の導入遺伝子)を幹細胞に導入することを含み得る。第1のTCRの導入後、本方法は、T細胞を生成するために幹細胞のインビトロ分化及び成熟を実施することを更に含む。図1に記載されているように、少なくとも第2のTCRは、分化及び成熟ステップの間の様々な時点で導入することができる。少なくとも第2のTCRの導入後、マルチTCR T細胞は、(例えば、同種療法又は研究に)使用又は保存され得る。特定の態様において、本方法は、単一のインビトロ活性化ステップを実施すること、又はインビトロ活性化ステップを実施しないことを含む。
【0057】
本発明の特定の方法は、幹細胞を得るステップを必要とする。好ましくは、細胞はCD34+細胞である。非限定的な一実施例において、CD34+幹細胞は造血幹細胞/前駆細胞である。造血幹細胞又は前駆細胞は、造血と呼ばれるプロセスにおいて他の血液細胞を生み出す幹細胞である。
【0058】
造血幹細胞/前駆細胞は、健康なドナーから得ることができる。造血幹細胞/前駆細胞は、例えば、骨髄、末梢血、羊水、又は臍帯血から得ることができる。造血幹細胞/前駆細胞は、臍帯の両端をクランプし、クランプした両端の間から針で血液を吸引することによって、臍帯血から得ることができる。造血幹細胞/前駆細胞は、陽性免疫磁気分離技術を使用して臍帯血から単離することができ、クエン酸-リン酸-デキストロース(CPD)を抗凝固剤として臍帯血に添加することができる。臍帯血から得た細胞は、凍結保存され、使用されるまで例えば摂氏-80度の温度で保存することができる。
【0059】
本開示の方法の実施において、幹細胞を得ることは、好ましくは、造血幹細胞/前駆細胞を含む凍結保存されたCD34+臍帯血細胞のバイアルを受け取ることを含む。凍結保存された臍帯血細胞のバイアルは、例えば、ドライアイス上の断熱容器に入れられた状態で細胞バンクから受け取ることができる。
【0060】
凍結保存された臍帯血細胞のバイアルは、当技術分野で公知の方法に従って解凍することができる。例えば、細胞バイアルを37℃の水浴に約1~2分間入れることによって解凍することができる。いくつかの好ましい実施形態において、細胞が解凍されると、形質導入効率を高めるためにウイルスと標的細胞との共局在化を促進する試薬でプレコートされた組織培養皿に、細胞をプレーティングする。
【0061】
CD34+細胞は、標準的な6ウェルディッシュに、例えば、10,000細胞/ウェル、15,000細胞/ウェル、又は20,000細胞/ウェル、又は25,000細胞/ウェル、又はそれ以上でプレーティングされ得る。好ましくは、細胞は15,000細胞/ウェルでプレーティングされる。
【0062】
本方法は、CD34+幹細胞に、第1のTCR、及び任意選択で1つ以上のCARをコードする1つ以上の核酸、並びに/又は追加の導入遺伝子を導入することを更に含み得る。続いて、本方法は、少なくとも第2の別個のTCRをコードする第2の核酸(複数可)を導入することを更に含み得る。いくつかの実施形態において、導入されたTCRにより、がん細胞の表面に発現された特異的タンパク質を標的とすることができるT細胞が生成される。
【0063】
好ましい実施形態において、導入されるTCRのうちの1つ以上は、iNKT TCRをコードする核酸によって導入される。iNKT TCRは、iNKT細胞受容体のアルファ鎖、iNKT細胞受容体のベータ鎖、又はその両方、のうちの1つを含み得る。好ましくは、iNKT細胞受容体は、幹細胞がアルファ-ガラクトシルセラミドを認識するように、幹細胞によって発現される。他の好ましい実施形態において、導入されるTCRのうちの1つ以上は、デルタガンマT細胞TCRをコードする核酸によって導入される。TCRは、TCRのガンマ鎖、TCRのデルタ鎖、又はその両方、のうちの1つを含み得る。
【0064】
本発明の方法によって生成されるT細胞は、導入TCRをコードする導入遺伝子以外に、少なくとも1つの追加の導入遺伝子を発現するように遺伝子組換えされてもよい。導入遺伝子は、例えば、サイトカイン、チェックポイント阻害因子、トランスフォーミング増殖因子ベータシグナル伝達の阻害因子、サイトカイン放出症候群の阻害因子、又は神経毒性の阻害因子のうちの1つであり得る。したがって、本発明の方法は、エフェクター機能が増強されたマルチTCR T細胞を生成するのに有用であり得る。
【0065】
例えば、いくつかの例において、本発明の方法は、IL-2、IL-7、IL-1-15のうちの1つ以上をコードする導入遺伝子の導入によってもたらされる、改善された増殖及び持続能を有するCAR T細胞の製造に有用である。いくつかの例において、方法は、例えば、IL-12、IL-18のうちの1つ以上をコードする導入遺伝子の導入によって、増加したIFN-g生成、したがって改善されたT細胞ポテンシーを有するCAR T細胞を提供し得る。いくつかの例において、本発明の方法は、IL-21を含む導入遺伝子を導入することによってナイーブT細胞生成を増強するのに有用である。いくつかの例において、本明細書に記載される方法は、例えば、IL-6、GM-CSF、又はサイトカイン放出症候群及び神経毒性の他のメディエーターの阻害因子を導入することによって、改善された安全性特性を有するCAR T細胞の生成を提供する。方法は、例えば、TGF-Bチェックポイントの阻害因子を介して、腫瘍微小環境に対抗するのに有用なペイロードをもたらすことによって、改善された効力を有するCAR T細胞を提供し得る。
【0066】
1つ以上の核酸を幹細胞に導入することは、ウイルス形質導入法又は非ウイルス性トランスフェクションによって達成され得る。いくつかの例において、例えば、1つ以上の核酸を導入する方法は、例えば、Sleeping Beautyトランスポゾン/トランスポザーゼシステムを使用する非ウイルス法を含む。Sleeping Beautyトランスポゾンシステムは、正確に定められたDNA配列を細胞の染色体に導入するように設計された合成DNAトランスポゾンを含む。このシステムは、トランスポザーゼを複数の不活性な魚類配列から復活させたTc1/mariner型システムを用いる。有利なことに、非ウイルス法は、コスト削減の利点をもたらし、特定のウイルスの使用に伴うリスクを軽減することができる。しかしながら、非ウイルス法は効率の低下を伴う可能性がある。したがって、好ましい実施形態において、ウイルス形質導入によって、例えば、レトロウイルスを介して、核酸を幹細胞に導入する。
【0067】
ウイルス形質導入法は、その汎用性からよく認識されており、レンチウイルスベクターの使用を含み、該ベクターは、分裂細胞及び非分裂細胞の両方に、かなりの量の核酸を形質導入するのに有用である。レンチウイルスベクターの使用は安全であると考えられ、多くの場合、長期の導入遺伝子発現をもたらす。したがって、方法101は、好ましくは、レンチウイルス形質導入を介して1つ以上の核酸を34+幹細胞に導入(109)する。幹細胞のレンチウイルス形質導入に関する考察については、参照により組み込まれるJang,2020,Optimizing lentiviral vector transduction of hematopoietic stem cells for gene therapy,Gene Therapy(27):545-556を参照されたい。
【0068】
本発明の方法は、幹細胞に核酸を導入するためのいかなる1つのプロセス又は実験手順によっても限定されない。いくつかの例において、単一のレンチウイルスベクターが使用される。単一のレンチウイルスベクターは、TCR、CAR、及び追加の導入遺伝子のそれぞれをコードし得る。他の例において、少なくとも2つの別個のレンチウイルスベクターが使用され、少なくとも2つのレンチウイルスベクターの各々は、TCR、CAR、及び追加の導入遺伝子のうちの少なくとも1つをコードし、その結果、形質導入時に、TCR、CAR、及び追加の導入遺伝子の各々が幹細胞に形質導入される。更に、2つ以上のレンチウイルスベクターが使用される場合、本方法は、2つ(又はそれ以上)のレンチウイルスベクターを幹細胞に導入する時間的順序によって限定されない。ベクターは、同じ形質導入において同時に導入されてもよく、又は順次導入されてもよい。
【0069】
特定の態様において、本発明の方法は、幹細胞(例えば、HSC)の、T細胞へのインビトロ分化及び成熟を含むプロセスを実施することを更に含む。
【0070】
本明細書中に開示される細胞製造方法の利点の1つは、単一の出発物質、すなわち幹細胞から広範なT細胞サブタイプを生成できることにある。本発明の方法によって生成されるT細胞は、例えば、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞、制御性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、インバリアントナチュラルキラーT細胞、アルファベータT細胞、ガンマデルタT細胞を含み得る。好ましい実施形態において、方法101は、インバリアントナチュラルキラーT細胞を生成することを含む。インバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞及びガンマデルタT細胞の生成は、同種細胞療法への適用のために好ましい。特に、移植片対宿主病を誘発することなく、がんを治療するための抗原特異的T細胞応答を活性化し、増殖する能力。
【0071】
したがって、本発明の方法は、幹細胞(例えば、HSC)の、T細胞(例えば、iNKT又はγδT細胞)へのインビトロ分化及び成熟プロセスを実施することを含み得る。以下に詳細に論じられように、幹細胞のインビトロ分化及び成熟を実施することは、プロセスがその後にT細胞の活性化及び増殖のインビトロステップを含まないという条件で達成され得る。
【0072】
CD34陽性細胞からT細胞への分化は段階的に起こり得る。第1の段階は、CD34陽性幹細胞からCD4及びCD8二重陰性T細胞へのインビトロ分化を含み得る。CD34陽性幹細胞の分化は、一般に、例えば、1~2週間の培養中に、サイトカイン及び/又はケモカインの組み合わせにCD34陽性幹細胞を導入することを含む。いくつかの例において、サイトカイン及び/又はケモカインは、市販の前駆細胞増殖サプリメント、例えばSTEMCELL社からStemSpanの商品名で販売されているサプリメントによって提供され得る。インビトロプロセスを実施する実施形態は、CD4及びCD8二重陰性T細胞からCD4及びCD8二重陽性細胞への成熟を更に含む。いくつかの例において、二重陰性細胞を成熟させることは、市販の前駆体成熟培地、例えばSTEMCELL社からStemSpanの商品名で提供されている前駆体成熟培地中で細胞を培養することを含む。いくつかの実施形態において、細胞は、前駆体成熟培地中で7日間培養される。
【0073】
特定の態様において、CD34+幹細胞の、T細胞へのインビトロ分化及び成熟プロセスを実施することにより、CD4陽性CD8陽性T細胞が生成される。CD4陽性CD8陽性T細胞は、ナイーブT細胞であり得る。ナイーブT細胞は、一般的に、L-セレクチン(CD62L)及びC-Cケモカイン受容体7型(CCR7)の表面発現によって特徴付けられる。いくつかの例において、活性化マーカーであるCD25、CD44又はCD69が存在しないこと、及びメモリーCD45ROアイソフォームが存在しないことである。ナイーブT細胞はまた、サブユニットIL-7受容体アルファ、CD127、及び共通ガンマ鎖、CD132からなる機能的IL-7受容体を発現することがある。ナイーブT細胞は、保存のために凍結保存してもよく、同種細胞治療中に被験体に導入してもよい。特定の態様において、ナイーブT細胞は、第1のTCR受容体のみを含み、第2のTCR受容体は凍結保存又は同種細胞治療での使用の前/後に導入される。被験者の体内では、ナイーブT細胞は末梢リンパ管を通って循環し、最初の抗原刺激を待つことができる。ナイーブ細胞のTCRを介して最初の刺激を受けると、細胞は、活性化、共刺激、及び接着に関連する表面分子の発現を調節し始める。これらの分子及び/又は第2の導入TCRの発現パターンを用いて、T細胞サブセットのエフェクター及び抗原経験を更に規定することができる。
【0074】
いくつかの実施形態において、CD4陽性CD8陽性T細胞を、凍結保存及び/又は同種細胞療法レシピエントへの投与の前にインビトロで増殖させる。CD4陽性CD8陽性T細胞の増殖は、IL-7、IL-15、CD3、CD28、CD2、アルファ-ガラクトシルセラミドのうちの1つ以上の存在下で細胞を培養することを含み得る。特定の態様において、T細胞を、第2のTCRの導入前にインビトロで増殖させる。あるいは、T細胞を、第2のTCRの導入後にインビトロで増殖させてもよい。特定の方法では、T細胞を、第2のTCRの導入前及び第2のTCRの導入後にインビトロで増殖させてもよい。
【0075】
本発明の特定の方法では、インビボ活性化機構を利用することで、従来の方法で使用されている、必要なインビトロ培養ステップを減少させる。2つの活性化ステップを受けることなくマルチTCR T細胞が生成され、被験体の体内に導入されると、T細胞は、例えば二次リンパ器官で樹状細胞などの適切に活性化された抗原提示細胞(APC)に遭遇したときに完全に活性化される。APCが主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII分子を介して適切なペプチドリガンドを提示する場合、導入TCRのうちの1つ以上によって認識される。この相互作用は、T細胞を活性化するために重要である。
【0076】
APCによって送達される2つの他の刺激シグナルが必要な場合もある。これらのシグナルは、APC表面の2つの異なるリガンド、例えば、CD80及びCD86によって、T細胞上の表面分子、例えば、CD28へと供給され得る。活性化のために重要な他の因子としては、T細胞をエフェクターT細胞の様々なサブセットへの分化に誘導することに関与する因子(例えば、サイトカイン(例えば、IL-6、IL-12及びTGF-β))が挙げられる。活性化T細胞のCD28依存性共刺激は、活性化T細胞自体によるIL-2の生成をもたらし得る。IL-2の発現に続き、ICOS及びCD40Lなどの他の調節分子に加えて、CD25としても知られているIL-2受容体の第3の成分(α鎖と呼ばれる)のアップレギュレーションも起こり得る。IL-2が高親和性受容体へ結合すると細胞増殖が促進され、APC、主に樹状細胞は、環境条件に応じて、様々なサイトカインを生成するか、又はCD4+Tリンパ球からサイトカイン生成エフェクター細胞への分化を誘導する表面タンパク質を発現する。
【0077】
図2は、HSCを出発物質とする3つのエクスビボT細胞製造プロセスの段階を示す。これらの図示されたプロセスは、第1のTCRを導入して、HSCからT細胞、好ましくはiNKT又はγδT細胞を生成することを含む。図1に示したように、本発明の柔軟な方法は、様々な時点で第2のTCRを導入することを可能にする。
【0078】
図2において、一番上のプロセス203は、HSCからT細胞を作製するための従来のエクスビボプロセスを表す。対照的に、エクスビボプロセス205及び207は、より迅速かつより少ないステップでT細胞を生成するための、本発明のエクスビボプロセスで使用されるステップを示す。
【0079】
従来のプロセス203において、成熟T細胞は、少なくとも2つのインビトロ活性化ステップに供される。このプロセス203では、少なくとも35日のエクスビボ細胞培養を必要とし、より長い培養(多くの場合、42日を超え、多くの場合、それより長い)を必要とすることもある。
【0080】
逆に、本発明のプロセス205では、全てのエクスビボT細胞活性化ステップを省略する。したがって、本方法205では、わずか21日以内にT細胞を生成することができる。エクスビボ活性化ステップを省略することによって、HSCを出発物質としてエクスビボ培養を使用する、T細胞を製造するためのこのプロセスは、従来のプロセス203よりも実質的に短い時間しか掛からない。したがって、従来のプロセス203に必要とされる35~42日以上ではなく、本発明のプロセス205は、わずか21日で治療に使用可能なT細胞を生成することができる。
【0081】
図2は、HSCからT細胞を生成するための本発明の別のプロセス207を示す。示されるように、このプロセス207は、単一のエクスビボ活性化ステップを含む。したがって、本発明のこのプロセスも、HSCからT細胞を製造するための従来のプロセス203に対する改善を示す。単一の活性化ステップを使用して、T細胞を製造するための本発明の該プロセスは、約28~31日でマルチTCR T細胞を含む同種T細胞を生成することができる。これらの方法は、特定の活性化ステップが特定の種類のT細胞、TCR、複数のTCRの組み合わせ、及び/又はT細胞治療に対して有する利点を、従来のプロセスでシングルTCR T細胞を生成するよりも短い時間で達成することができる。例えば、単一の活性化ステップは、第2のTCRが導入されたT細胞、第2のTCR導入後のマルチTCR T細胞、及び/又は治療的処置の一部として被験者に導入された際にT細胞が治療及び/又は増殖するようにプライミングされていることを確実にするために、有効な量のT細胞を生成するのに有用であり得る。
【0082】
図3は、インビトロでT細胞を生成する2つのプロセスの比較を示す。第1のプロセス(バージョン1.0)は、2つの活性化ステップを含む。二重陽性T細胞を、例えばCD3/CD28/CD2及びIL-15を含む異なる活性化培地で処理することにより達成される2ステップの活性化プロセスでは、本明細書に開示される本発明のプロセスよりも少なくとも1週間、一般にはそれ以上製造プロセスが長くなる。図3に示される第2のプロセス(バージョン2.0)は、インビトロ活性化を省略している。
【0083】
本発明の方法は、単一の活性化ステップを含み得る。単一の活性化ステップは、T細胞を、活性化試薬と共に7日以下の期間培養することを含み得る。他の実施形態において、単一の活性化ステップは、6日、5日、4日、3日、2日、又は1日以下の間、活性化培地中でT細胞を培養することを含む。他の実施形態において、単一の活性化ステップは、8日、9日、10日、11日、12日、13日、又は14日より長く、活性化培地中でT細胞を培養しないことを含む。単一の活性化ステップは、単一の種類の活性化培地でT細胞を培養することを含み得る。単一の種類の活性化培地は、可溶性抗体などの活性化試薬を含み得る。単一の活性化ステップは、T細胞を抗原提示細胞(例えば、aAPC)と共培養することを含み得る。単一の活性化ステップは、T細胞をPBMCと共培養することを含み得る。
【0084】
本発明の好ましい方法は、マルチTCR T細胞への第2のTCRの導入後における活性化ステップを含む。本発明の特定の方法は、マルチTCR T細胞への第1のTCRの導入後における活性化ステップを含む。本発明の特定の方法は、マルチTCR T細胞への第1及び第2のTCRの導入後における活性化ステップを含む。
【0085】
本発明の方法は、造血幹細胞/前駆細胞からのT細胞の生成を含む。造血幹細胞/前駆細胞は、一般に、臍帯血中に見出され得るCD34+細胞と関連している。いくつかの例において、細胞は、前駆細胞に由来し得る。いくつかの例において、細胞は、胚性幹細胞などの多能性幹細胞である。
【0086】
HSCから生成された同種CAR T細胞は、特定の病態に対する治癒的治療アプローチを提供し得る。しかしながら、GVHDを含むいくつかの制限がある。GVHDは、同種細胞療法に関連する罹患率及び死亡率の多くの原因となるドナーT細胞媒介アロ反応性プロセスである。いくつかの臨床研究では、ドナーiNKT細胞は病気の再発リスクを増加させることなくGVHDを予防できることが示されている。ドナーCAR iNKT細胞の養子移入とそれに続くインビボ活性化及び/又は増殖は、GVHDの症状を予防又は緩和し得る。この保護効果は、アロ反応性T細胞のTh2極性化及びドナー制御性T細胞(Treg)の増殖によって媒介され得る。本発明の方法によって生成される同種iNKT細胞はGVHDを引き起こさないため、本明細書に記載される方法は、「既製の」CAR免疫療法のための理想的なプラットフォームを提供する。
【0087】
本発明の方法は、TCRの抗原認識領域の機能的再配列を介して抗原特異性を獲得する、治療的に活性なT細胞を製造するのに有用である。TCRは、主要組織適合性複合体分子に結合した抗原を認識する、T細胞(又はTリンパ球)の表面に見出される分子である。TCRは、少なくとも2つの異なるタンパク質鎖(例えば、ヘテロ二量体)から構成され得る。ほとんどの(例えば、95%の)T細胞において、TCRはアルファ(α)鎖及びベータ(β)鎖からなるが、一部の(例えば、5%の)T細胞において、TCRはガンマ(λ)鎖及びデルタ(δ)鎖からなる。このようなT細胞は、細胞表面TCR分子に抗原特異性を有し、古典的CD3陽性、アルファ-ベータ(αβ)TCR CD4陽性、CD3陰性αβTCR CD8陽性、ガンマデルタ(γδ)T細胞、ナチュラルキラーT(NTK)細胞などを含むがこれらに限定されない異なる表現型サブセットにインビボで分化し得る。更に、T細胞は、ナイーブ、セントラルメモリー、エフェクターメモリー、ターミナルエフェクターなどを含むが、これらに限定されない様々な活性化状態を更に含み得る。
【0088】
非限定的な一実施例において、T細胞は、腫瘍細胞に対して細胞傷害性を指向する1つ以上の人工TCRを発現するように遺伝子操作され得る。例えば、人工TCRのうちの1つ以上は、特異的ネオ抗原を標的とし得る。ネオ抗原は、一般に、腫瘍細胞の突然変異によって生じる腫瘍特異的抗原である。ネオ抗原はまた、ウイルス感染、選択的スプライシング、及び遺伝子再編成によって生じることもある。ネオ抗原は、一般に、正常な健常細胞では発現されない。したがって、ネオ抗原は、被験体の遺伝子改変免疫細胞が特異的に指向する理想的な標的を提供する。特定の態様において、本発明の遺伝子改変免疫細胞は、異なるネオ抗原を標的とする導入人工TCRを有する。特定の態様において、本発明は、細胞の別々の集団が、それぞれ異なるネオ抗原に指向する異なる導入TCRを有する、遺伝子改変細胞の組成物を提供する。
【0089】
特定の態様において、本発明の方法は、CAR T細胞の製造を提供する。CAR T細胞は、免疫療法に使用するための、人工T細胞受容体を有する遺伝子操作T細胞である。CAR(すなわち、キメラ抗原受容体)は、例えば、レトロウイルスベクターによって促進されるコード配列の移入を介して、TCRを有する幹細胞にモノクローナル抗体の特異性を融合(graft)させるために使用され得る。CARは、特異的タンパク質を標的とする新しい能力をT細胞に与えるように遺伝子改変された受容体タンパク質である。この受容体は、抗原結合機能とT細胞活性化機能の両方を単一の受容体に兼ね備えたキメラ構造である。したがって、本発明の方法は、がん細胞をより効果的に標的化して破壊するためにがん細胞を認識する1つ以上のCARを含む組換えT細胞を生成することにより、免疫療法のための製品を提供する。
【0090】
本発明の方法の実施において、養子免疫療法において使用されるエフェクター細胞(例えば、T細胞)を遺伝子改変するのに適した任意のCARを、本発明において使用することができる。本発明において使用することができるCARとしては、参照により組み込まれる、Kim and Cho,2020,Recent Advances in Allogeneic CAR-T Cells,Biomolecules,10(2):263に記載されているものが挙げられる。
【0091】
CARは、一般に、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインを含む。細胞外ドメインは、抗原結合/認識領域/ドメインを含み得る。CARの抗原結合ドメインは、特異的抗原、例えば、腫瘍抗原、病原体抗原(例えば、ウイルス抗原)、CD(分化抗原群)抗原に結合するのに有用である。細胞外ドメインは、新生タンパク質を小胞体に指向させるシグナルペプチドを含むこともある。シグナルペプチドは、CARがグリコシル化され、細胞膜に固定される場合に必須であり得る。膜貫通ドメインは、膜を横切る疎水性アルファヘリックスである。膜貫通ドメインが異なれば、受容体の安定性も異なる。抗原認識後、受容体はクラスター化し、シグナルが細胞に伝達される。最もよく使われる細胞内成分は、3つのITAMを含有するCD3Xiである。CD3Xiは、抗原結合後、T細胞に活性化シグナルを伝達する。CARは、抗原結合ドメインを膜貫通ドメインに連結するスペーサー領域も含むことができる。スペーサー領域は、抗原結合ドメインが抗原認識を容易にするために様々な方向に向きを変えられるように、十分に柔軟でなければならない。スペーサーは、IgG1のヒンジ領域、又は免疫グロブリンのCH2CH3領域及びCD3の一部であり得る。
【0092】
現在、CARには3世代ある。第1世代CARは、典型的には、T細胞受容体鎖の細胞質シグナル伝達ドメインと融合した膜貫通ドメインと融合した抗体由来の抗原認識ドメイン(例えば、単鎖可変フラグメント(scFv))を含む。第1世代CARは、典型的には、内在性TCRからのシグナルの主要な伝達物質であるCD3 Xi鎖の細胞内ドメインを有する。第1世代CARは、HLAを介した抗原提示とは無関係に、単一融合分子においてde novo抗原認識をもたらし、CD3Xi鎖シグナル伝達ドメインを通じてCD4+及びCD8+T細胞の両方の活性化を引き起こすことができる。第2世代CARは、第1世代CARに類似しているが、CD28又は4-1BBなどの、2つの共刺激ドメインを含む。これらの細胞内シグナル伝達ドメインが関与することで、T細胞の増殖、サイトカイン分泌、アポトーシスに対する抵抗性、インビボでの持続性が改善される。第3世代CARは、CD28-41BB又はCD28-OX40などの複数の共刺激ドメインを組み合わせて、T細胞活性を更に増強する。
【0093】
特定の態様において、本発明のマルチTCR T細胞を製造する方法は、1つ以上の追加の導入遺伝子、すなわち、第1の導入TCR及び/又は第2の導入TCRに加えて導入遺伝子を導入することを含む。例えば、追加の導入遺伝子は、1つ以上のサイトカインをコードし得る。サイトカインは、インターフェロン、インターロイキン、増殖因子など、免疫系の特定の細胞によって分泌され、他の細胞に影響を与える物質に関する。特定の態様において、IL-2、IL-7、IL-15、IL-12、IL-18、又はIL-21のうちの1つ以上をコードする導入遺伝子を細胞に導入して、T細胞の機能、効力、及び/又は抗原標的特異性を促進する。
【0094】
マルチTCR T細胞への1つ以上の導入遺伝子の導入は、T細胞増殖及び持続性(例えば、IL-2、IL-7/15を使用)、IFN-g生成及びT細胞ポテンシー(例えば、IL-12、IL-18を使用)などの特性を改善し、ナイーブサブセットを増強する(例えば、IL-21)、安全性を改善する(例えば、IL-6、GM-CSF又はCRS及び神経毒性の他のメディエーターの阻害因子を介して)、又は腫瘍微小環境(TGF-B、チェックポイントなど)と闘うことによって効力を改善し得る。
【0095】
例えば、IL-12及びIL-18は、T細胞における特定のエフェクター機能の増強において主要な役割を果たす。IL-12は、特定のNK細胞及びTリンパ球を活性化し、Th-1型応答を誘導し、IFN-ガンマ分泌を増加させることが知られている。IL-12の誘導性発現は、リンパ腫、肝細胞がん、卵巣腫瘍、B16黒色腫などの特定の病態に対するCAR T細胞の抗腫瘍能を増強し得る。IL-18もまた、T細胞の治療可能性を改善するために使用されている。当初はIFN-ガンマの強力な誘導因子として同定されたIL-18は、T細胞及びNK細胞活性化並びにTh-1細胞極性化に寄与する可能性がある。例えば、メソ標的化T細胞に、IL-18をコードする導入遺伝子を供給して、IFN-ガンマの分泌を増大させ、がん細胞を根絶することができる。更なる考察については、参照により組み込まれるTian,2020,Gene modification strategies for next-generation CAR T cells against solid cancers,Journal of Hematology & Oncology,volume 13(5)を参照されたい。
【0096】
IL-7、IL-15、及びIL-21は、幹細胞様メモリーT細胞表現型の生成を促進するのに有用である。この表現型は、インビボにおけるT細胞の増殖及び持続性の増加をもたらし得る。いくつかの例において、IL-2をコードする導入遺伝子を細胞に導入する。IL-2を用いてT細胞を生成することにより、腫瘍環境で見出される条件に応答する能力が改善されたT細胞がもたらされ得る。例えば、IL-2を供給することは、栄養感知及び取り込みに関与するタンパク質の誘導及び生成を促進し得る。
【0097】
いくつかの実施形態において、導入される追加の導入遺伝子は、サイトカイン放出症候群の阻害因子である。サイトカイン放出症候群は、多くの場合T細胞療法に伴う、重篤で生命を脅かす可能性のある副作用に関する。サイトカイン放出症候群は、例えば、IFN-ガンマ及びIL-6を含む過剰な炎症性サイトカイン放出に起因する急速な(過剰)免疫反応として現れる。サイトカイン放出症候群に関与する多くのサイトカインは、JAK-STAT経路を介して作用することが知られている。したがって、いくつかの実施形態において、本発明の方法は、インビボでのT細胞増殖、抗腫瘍活性、及びサイトカインレベルを改善するために、JAK経路の阻害因子を発現するT細胞を生成することを含む。例えば、IL-6、JAK-STAT、又はBTKの機能を阻害する導入遺伝子が供給され得る。更に、阻害因子は神経毒性の阻害にも有用であり得る。T細胞関連神経毒性は、多くの場合発作及び昏睡などの重篤な神経障害を引き起こす症候群である。
【0098】
他の例において、方法は、T細胞を生成するために使用される1つ以上の導入遺伝子をHSCに導入することを含む。特定の態様において、導入遺伝子は、チェックポイント阻害因子、例えば、免疫チェックポイント阻害因子である。免疫チェックポイントは、免疫系における特定の態様の制御因子である。正常な生理学的状態において、チェックポイントは免疫系が健康な組織を維持する宿主の抗原に応答することを可能にする。がんにおいて、これらの分子は、腫瘍細胞の回避を促進する。いくつかの例において、導入遺伝子は、抗カテプシン抗体、ガレクチン-1遮断抗体及び抗OX40アゴニスト抗体などの抗体又は抗体フラグメントをコードし得る。抗体は、分泌されるか、又は細胞の表面に発現され得る。例えば、PD1又はPDL1を標的とする抗体が分泌され得る。
【0099】
特定の態様において、導入された導入遺伝子は、トランスフォーミング増殖因子ベータの1つ以上の阻害因子を発現する。遺伝子改変細胞は、その効力を制限する不利な微小環境に直面する。環境を調節することは、T細胞の増殖、生存する能力及び/又はがん細胞を殺傷する能力を促進するのに有用であり得る。腫瘍環境内における主な阻害機構の1つは、トランスフォーミング増殖因子ベータである。したがって、本発明のいくつかの態様は、トランスフォーミング増殖因子ベータの阻害因子をコードする導入遺伝子を導入することを含む。阻害因子は、例えば、抗体又はそのフラグメントであり得る。抗体又は抗体フラグメントは、T細胞から分泌されて、トランスフォーミング増殖因子ベータの正常な機能を妨害し得る。
【0100】
本発明の特定の方法は、腫瘍微小環境のマーカーを介して固形腫瘍タイプを標的とするマルチTCR T細胞を生成することを含む。特定の態様において、本発明の方法は、第1のTCRを導入後にCARを導入することを含む。このような方法において、CARは、細胞の使用要件に応じて、代わりに、又は加えて導入される。したがって、本発明は、腫瘍特異的標的を必要とせずに腫瘍微小環境のマーカーを認識するために使用することができる、シングルドメイン抗体(VHH)ベースのキメラ抗原受容体を有するCAR T細胞を生成する方法を含む。本発明によるVHHベースのCAR T細胞は、免疫チェックポイント受容体を介して、あるいは間質及び細胞外マトリックスマーカーを介して、腫瘍微小環境を標的とすることができ、同種免疫不全動物モデルにおいて固形腫瘍に対して有効である。
【0101】
したがって、本発明の方法は、腫瘍特異的抗原発現のない可能性がある腫瘍を標的とするCAR T細胞を作製するのに有用である。重鎖のみの抗体(VHH又はナノボディ)の可変領域は、従来の短鎖可変フラグメント(scFv)に匹敵する親和性を有する、小型で安定なラクダ科動物由来のシングルドメイン抗体フラグメントである。VHHは一般にscFvよりも免疫原性が低く、サイズが小さいため、scFvが認識するエピトープとは異なるエピトープにアクセスすることができる。したがって、本発明によって提供されるVHHは、CAR T細胞において適切な抗原認識ドメインとして機能し得る。scFvとは異なり、VHHは、V領域ペアリングに伴う追加のフォールディング及びアセンブリステップを必要としない。VHHは、広範なリンカー最適化又は他のタイプの再フォーマットを必要とせずに表面ディスプレイを可能にする。様々なVHHベースの認識ドメインをスイッチアウトする能力により、それぞれの新しい従来型抗体をscFvに再フォーマットする必要なくアクセス可能な、高度にモジュール式のプラットフォームがもたらされる。
【0102】
多くの微小環境は、PD-L1などの阻害分子の発現を伴う。認識ドメインとしてVHH、例えば、PD-L1特異的T細胞を使用して、本発明の方法によって生成されるマルチTCR、及びTCRとCAR T細胞は、腫瘍微小環境を標的とすることができる。PD-L1は、腫瘍細胞だけでなく、浸潤する骨髄系細胞やリンパ球にも広く発現している。PD-L1を認識するCAR/TCRは、免疫阻害を緩和すると同時に、腫瘍微小環境におけるT細胞活性化を可能にするはずである。したがって、PD-L1を標的とするT細胞は、腫瘍微小環境をリプログラミングし、免疫抑制シグナルを弱め、炎症を促進し得る。例えば、参照により本明細書に組み込まれるXie,2019,Nanobody-based CAR T cells that target the tumor microenvironment inhibit the growth of solid tumors in immunocompetent mice,PNAS April 16,2019 116(16)7624-7631において論じられている通りである。
【0103】
本開示の態様によれば、CD34+幹細胞は、第1のTCR、1つ以上の異なるTCR/CAR、及び追加の導入遺伝子(例えば、サイトカイン)を発現するように遺伝子操作される。特定の態様において、TCR(複数可)、CAR(複数可)、及び/又は追加の導入遺伝子をコードする1つ以上の核酸は、レトロウイルス形質導入を使用して導入される。特定の態様において、第1のTCR及びそれに続くTCR/CARは、レトロウイルス形質導入を使用して、製造プロセス中の異なる時点で導入される。
【0104】
培養中のヒト細胞に感染するレトロウイルスベクターと適切なパッケージングとの組み合わせは、当技術分野で公知である。好ましい実施形態において、第3世代レンチウイルスベクターが、第1のTCR及び/又は第2のTCR/CARを導入するために使用され得る。ベクターは、好ましい抗原を標的とする抗体又は抗体フラグメントの配列を含有するcDNA配列で遺伝子組換えされ得る。例えば、Carpenito,2008,Control of large,established tumor xenografts with genetically retargeted human T cells containing CD28 and CD137 domains,PNAS,106(9)3360-3365;Li,2017,Redirecting T Cells to Glypican-3 with 4-1BB Zeta Chimeric Antigen Receptors Results in Th1 Polarization and Potent Antitumor Activity,Human Gene Therapy,28(5):437-448;Adusumilli,2014,Regional delivery of mesothelin-targeted CAR T cell therapy generates potent and long-lasting CD4-dependent tumor immunity,Science Translational Medicine,261(6):1-14;(各文献は参照により組み込まれる)に記載されている通りである。
【0105】
本開示のいくつかの態様は、HSCに複数の導入遺伝子を導入して発現させることを含む。複数の遺伝子の発現を促進するために、核酸において2A配列、すなわち2Aペプチドのコードドメインを有する導入遺伝子を分離することが有用であり得る。2A自己切断ペプチド又は2Aペプチドは、18~22アミノ酸長ペプチドのクラスであり、タンパク質の翻訳中にリボソームスキッピングを誘導することができる。細胞内で、2Aペプチドのコードドメインが2つのタンパク質(例えば、TCR及びCAR)の2つのコードドメインの間に挿入されている場合、リボソームスキッピングにより、ペプチドは独立してフォールディングした2つのタンパク質に翻訳される。
【0106】
本発明の方法は、遺伝子改変HSCを臨床応用のためのT細胞に形質転換するのに有用である。形質転換の方法は一般に、部分的には、第1のTCRの導入による、HSCからT細胞への分化を含む。細胞分化は、細胞が1つの細胞タイプから別の細胞タイプへと変化するプロセスである。通常、細胞はより特殊化したタイプに変化する。HSCからT細胞への分化は、複数の分化段階を含み得る。第1段階として、CD34+細胞はCD4 CD8二重陰性T細胞に分化し得る。二重陰性T細胞の生成は、造血サイトカインを含む細胞因子カクテルの存在下でのCD34+細胞の培養によって達成することができる。カクテルは、SCF(例えば、hSCF)、Flt3L(例えば、hFlt3L)、少なくとも1つのサイトカイン、及び造血特異化のためのbFGFを含み得る。サイトカインはTh1サイトカインであってもよく、該サイトカインにはIL-3、IL-15、IL-7、IL-12及びIL-21が含まれるが、これらに限定されない。細胞は、CD34、CD31、CD43、CD45、CD41a、ckit、Notch1、IL7Rαの発現について、FACSによって免疫表現型解析することができる。
【0107】
二重陰性T細胞は、抗原非依存的成熟プロセスを介して更に分化され、機能的不活性化T細胞を生成し得る。このプロセスは、リンパ系前駆細胞増殖培地中で二重陰性T細胞を培養することを含み得る。この培地は、例えば、フィーダー細胞、SCF、Flt3L及び少なくとも1つのサイトカインを含み得る。サイトカインはTh1サイトカインであってもよく、該サイトカインにはIL-3、IL-15、IL-7、IL-12及びIL-21が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、サイトカインは細胞の生存及び/又は機能的能力を増強し得る。
【0108】
活性化及び/又は増殖ステップを受けていないマルチTCR T細胞を含むT細胞を含む細胞産物は、新生物、病原体感染、又は感染症の治療のため、被験体に全身的に又は直接供給することができる。一実施形態において、本発明のマルチTCR T細胞は、目的の臓器(例えば、新生物が生じた臓器)に直接注射され得る。あるいは、マルチTCR T細胞及び該細胞を含む組成物は、例えば、循環系(例えば、腫瘍血管系)への投与によって、目的の臓器に間接的に供給され得る。特定の態様において、T細胞の活性化及び増殖は、被験体への導入後にインビボで起こる。
【0109】
本発明のT細胞及び該細胞を含む組成物は、任意の生理学的に許容されるビヒクル中で、通常は血管内に投与され得るが、細胞が再生及び分化のための適切な部位(例えば、胸腺)を見出し得る骨又は他の好都合な部位に導入することもできる。通常、少なくとも100,000個の細胞、時には、10,000,000,000個以上の細胞が投与される。
【0110】
本発明の方法は、同種細胞療法で投与するための医薬組成物と組み合わせることができる細胞の組成物を提供する。本発明の治療用組成物(例えば、HSCに由来するマルチTCR T細胞を含む医薬組成物)を投与する場合、該組成物は一般に、単位用量注射可能形態(溶液、懸濁液、エマルジョン)で製剤化される。組成物は、治療上有効な濃度で提供され得る。治療上有効な濃度とは、治療により有益な又は所望の臨床結果に影響を及ぼすのに十分な量である。有効量は1回分以上の用量で被験体に投与され得る。治療の観点からは、有効量は、疾患の緩和、改善、安定化、回復若しくは進行の遅延、又は他の方法で疾患の病理学的結果を軽減するのに十分な量である。有効量は一般に、医師がケースバイケースで決定するものであり、当業者の技能の範囲内である。有効量を達成するための適切な投与量を決定する際、典型的にはいくつかの因子が考慮される。これらの因子としては、被験者の年齢、性別及び体重、治療される病態、病態の重篤度、並びに投与される抗原結合フラグメントの形態及び有効濃度が挙げられる。
【0111】
本発明の抗原特異的マルチTCR T細胞を使用する養子免疫療法では、10,000,000~10,000,000,000の範囲の細胞用量を注入することができる。マルチTCR T細胞を被験体に投与すると、T細胞は、抗原依存性活性化プロセスを受ける場合がある。
【0112】
本開示は、細胞療法及び/又は研究のためのマルチTCR T細胞の製造方法を提供する。特定の態様において、方法は、エクスビボ細胞培養の時間を短縮することにより、マルチTCR T細胞の経済的な製造方法を提供する。特定の関連する態様において、本発明の方法は、増強された細胞傷害性効力を有するマルチTCR T細胞の製造を提供する。長期の細胞培養は、従来、特定の細胞タイプの転写及び表現型の変化を伴うものであった。培養中のT細胞の転写及び表現型の変化は十分明らかになっていないが、本開示は、長期培養中の細胞の意図しない変化が、観察された治療効果の低下や同種細胞で確認された製造バッチのばらつきを説明する可能性があることを認識する。例えば、T細胞の長期細胞培養は、エフェクター機能の喪失を反映する疲弊マーカーのレベルの上昇を引き起こし得る。例えば、長期培養は、PD1、LAG3、CD244、CD160の発現増加を伴う場合がある。更なる考察については、参照により組み込まれるWherry,2016,Molecular and cellular insights into T cell exhaustion,Nat Rev Immunol,15(8):486-499を参照されたい。エクスビボ製造を短縮することによって、本発明の方法は、治療上有効なT細胞の一貫した生成に有用である。
【0113】
したがって、一態様において、本開示は、T細胞を生成する方法を提供する。本方法は、造血幹細胞(HSC)の、マルチTCR T細胞へのインビトロ分化及び成熟を伴うプロセスを実施することを含むが、該プロセスは、第2のTCRの導入の前又は後に続くマルチTCR T細胞の活性化及び/又は増殖のインビトロステップを含まないという条件がある。特定の態様において、マルチTCR T細胞の活性化及び/又は増殖は、被験体への導入後にインビボで起こる。特定の態様において、活性化及び/又は増殖は、インビボ及びインビトロの両方で起こる。特定の態様において、マルチTCR T細胞を生成する方法は、単一のインビトロ活性化及び/又は増殖ステップのみを含む。有利なことに、シングルTCR T細胞のみを作製する従来の方法における複数のインビトロ活性化及び/又はT細胞増殖ステップを省略することで、本発明の方法は、より短い時間でマルチTCR T細胞を生成することができ、増強された治療効力を有するT細胞を生成することができる。
【0114】
本発明の方法は、安全かつ有効な同種療法をもたらすのに有用である。いくつかの例において、方法は、製品の品質を確保するために、製造中の1つ以上の時点で細胞産物を特性決定することを含み得る。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、第1及び/又は第2のTCRの導入後にT細胞を分析して、T細胞によって発現される1つ以上のタンパク質を同定することを含む。1つ以上のタンパク質は、1つ以上のCCR7、CD62L、又はCD45RAを含み得る。タンパク質は、ナイーブ幹細胞に関連するマーカーを含み得る。分析は、好ましくは、細胞表面タンパク質を分析するハイスループット法、例えば、FACSなどの、バルク中の個々の細胞における蛍光シグナルベースの方法を含む。本発明の特定の方法では、複数の分析ステップを使用して、第1のTCRの導入、次いで第2のTCRの導入を確実にする。
【0115】
オンデマンドで治療が可能であることは、同種細胞療法の1つの利点である。方法は、臨床応用前における細胞の製造を含み得るため、いくつかの好ましい方法は、T細胞を凍結保存することを含み得る。これは、マルチTCR T細胞を凍結保存することを含み得る。好ましい態様において、本発明の方法は、第1のTCRの導入後にHSCからT細胞を生成することを含む。得られたTCRは必要になるまで凍結保存される。必要に応じて、特定の患者の抗原に特異的な第2のTCRを保存されたTCRに導入して、マルチTCRを生成する。これにより、患者特異的なマルチTCR T細胞を生成するのに必要なリードタイムが劇的に短縮される。T細胞を凍結保存することは、該細胞が患者によって必要とされるまでの、細胞の安全かつ有効な保存に有用である。凍結保存は、細胞産物を患者に投与することができる臨床施設へ輸送するのにも有用である。いくつかの好ましい実施形態において、二重陽性T細胞(例えば、ナイーブT細胞)は、インビトロ活性化ステップを行うことなく凍結保存される。特定の態様において、第2のTCRは、保存されたナイーブT細胞に導入される。第2のTCRの導入後、細胞は、1つ以上の増殖、活性化、成熟、及び/又は保存ステップを受けることができる。
【0116】
過去10年にわたって、免疫療法は新世代のがん治療となっている。特に、細胞ベースの細胞療法は非常に有望であることが示されている。その顕著な例が遺伝子改変養子T細胞療法であり、該療法は、特定の血液がんを効果的に標的とし、顕著な効力を有することが示されている。しかしながら、現在の治療用プロトコルのほとんどは、自己養子細胞移入からなり、患者から採取された免疫細胞が加工され、この1人の患者を治療するために使用される。このようなアプローチは、コストが掛かり、製造に手間が掛かり、必要とする全ての患者に広く送達することが困難である。本明細書に記載される方法による同種免疫細胞産物は、大規模に製造することができ、より多数の患者を治療するために容易に流通させることができるため、大きな需要がある。
【0117】
いくつかの実施形態は、複数のTCRを有する遺伝子改変iNKT細胞又は遺伝子改変iNKT細胞の集団に関する。少なくともいくつかの場合において、遺伝子改変iNKT細胞は、少なくとも1つの遺伝子改変T細胞受容体を含む。特定の態様において、該細胞は、2つ以上の遺伝子改変TCRを含む。あるいは、又は更に、該細胞は、内在性TCR及び1つ以上の遺伝子改変TCRを含む。細胞に関連して論じられる任意の実施形態は、そのような細胞の集団に適用することができる。特定の実施形態において、遺伝子改変iNKT細胞は、以下:i)インバリアントアルファT細胞受容体コード配列の全部若しくは一部;ii)インバリアントベータT細胞受容体コード配列の全部若しくは一部、又はiii)追加の導入遺伝子、のうちの1つ、2つ、及び/又は3つを含む核酸を含む。更なる実施形態において、以下:i)インバリアントアルファTCRの全部若しくは一部;ii)インバリアントベータTCRの全部若しくは一部、及び/又はiii)追加の導入遺伝子、をコードする配列を有する核酸を含む遺伝子改変iNKT細胞が存在する。本発明の特定の方法において、これらのiNKT細胞に1つ以上の追加のTCRが導入される。
【0118】
特定の態様において、遺伝子改変iNKT細胞は、増加したレベルのNK活性化受容体、減少したレベルのNK阻害性受容体、及び/又は増加したレベルの細胞傷害性分子を発現するように遺伝子改変される。いくつかの実施形態において、NK活性化受容体は、NKG2D及び/又はDNAM-1を含む。いくつかの実施形態において、細胞傷害性分子は、パーフォリン及び/又はグランザイムBを含む。いくつかの実施形態において、阻害性受容体は、KIRを含む。増加又は減少は、健康な個体から単離された非遺伝子改変iNKTにおける同じマーカーのレベルに対するものであり得る。更なる態様は、遺伝子改変iNKT細胞の集団に関し、細胞の集団は、増加したレベルのNK活性化受容体、減少したレベルのNK阻害性受容体、及び/又は増加したレベルの細胞傷害性分子を有する。
【0119】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変iNKT細胞は、非相同(heterologous)プロモーターの制御下にある核酸を含み、これは、該プロモーターが、核酸の転写を制御する同じゲノムプロモーターではないことを意味する。遺伝子改変iNKT細胞は、1つ以上のコード配列を含む外来性核酸を含み、その一部又は全部が、本明細書に記載される多くの実施形態において非相同プロモーターの制御下にあることが企図される。
【0120】
特定の実施形態において、少なくとも1つのインバリアントナチュラルキラーT細胞受容体(iNKT TCR)及び第2の導入TCR、並びに自殺遺伝子を発現する遺伝子改変インバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞が存在し、該少なくとも1つのiNKT TCRは、外来性核酸から、及び/又は組換え改変プロモーター領域の転写制御下にある内在性インバリアントTCR遺伝子から発現される。iNKT TCRは、「CD1d分子によって提示される脂質抗原を認識するTCR」を指す。iNKT TCRは、アルファ-TCR、ベータ-TCR、又はその両方を含み得る。いくつかの例において、利用されるTCRは、MAIT細胞TCR、GEM細胞TCR、又はガンマ/デルタTCRなどの「インバリアントTCR」のより広い群に属することができ、その結果、HSC遺伝子改変MAIT細胞、GEM細胞、又はガンマ/デルタT細胞がそれぞれ得られる。
【0121】
特定の実施形態において、自殺遺伝子は酵素ベースである。これは自殺遺伝子の遺伝子産物が酵素であり、自殺機能が酵素活性に依存することを意味する。1つ以上の自殺遺伝子が、単一の細胞又はクローン集団において利用され得る。いくつかの実施形態において、自殺遺伝子は、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-TK)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)、シトシンデアミナーゼ(CD)、カルボキシペプチダーゼG2、シトクロムP450、リナマラーゼ、ベータ-ラクタマーゼ、ニトロレダクターゼ(NTR)、カルボキシペプチダーゼA、又は誘導性カスパーゼ9をコードする。米国特許第8628767号、米国特許出願公開第20140369979号、米国特許第20140242033号、及び米国特許第20040014191号(これらは全て、参照によりその全体が組み込まれる)に記載されるものなどの、自殺遺伝子使用のための当技術分野における方法を用いることができる。
【0122】
更なる実施形態において、TK遺伝子はウイルスTK遺伝子、すなわち、ウイルス由来のTK遺伝子である。特定の実施形態において、TK遺伝子は、単純ヘルペスウイルスTK遺伝子である。いくつかの実施形態において、自殺遺伝子産物は基質によって活性化される。チミジンキナーゼは、ガンシクロビル、ペンシクロビル、又はそれらの誘導体によって活性化される自殺遺伝子産物である。特定の実施形態において、自殺遺伝子産物を活性化する基質は、検出されるように標識されている。いくつかの例において、基質は、イメージングのために標識され得る。いくつかの実施形態において、自殺遺伝子産物は、TCR-アルファ又はTCR-ベータの一方又は両方をコードする、同じ又は異なる核酸分子によってコードされ得る。特定の実施形態において、自殺遺伝子は、sr39TK又は誘導性カスパーゼ9である。別の実施形態において、細胞は外来性自殺遺伝子を発現しない。いくつかの実施形態において、遺伝子改変iNKT細胞は、アルファ-ガラクトシルセラミド(a-GC)に特異的に結合する。
【0123】
更なる実施形態において、本発明の方法によって生成されるマルチTCR T細胞は、少なくとも1つのHLA-I又はHLA-II分子の表面発現がないか、又は低下したT細胞を含む。いくつかの実施形態において、HLA-I及び/又はHLA-P分子の表面発現がないことは、個々のHLA-I/II分子をコードする遺伝子を破壊することによって、又は全てのHLA-I複合体分子の共通成分であるB2M(ベータ2ミクログロブリン)をコードする遺伝子を破壊することによって、又は全てのHLA-II遺伝子の発現を制御する重要な転写因子であるCIITA(クラスII主要組織適合性複合体トランス活性化因子)をコードする遺伝子を破壊することによって達成される。特定の実施形態において、細胞は、1つ以上のHLA-I及び/又はHLA-II分子の表面発現がないか、又はそのような分子の発現レベルが(少なくとも)50、60、70、80、90、100%(又はその中から導き出せる任意の範囲)低下している。いくつかの実施形態において、iNKT細胞が遺伝子編集によって操作されたため、HLA-I又はHLA-IIは該細胞において発現されない。
【0124】
いくつかの実施形態において、iNKT細胞は、細胞に導入された1つ以上の組換えベクター又は1つ以上の組換えベクター由来の核酸配列を含む。特定の態様において、iNKT細胞は、製造プロセス中の異なる時点で導入された2つ以上の組換えベクターを含む。特定の実施形態において、組換えベクターは、ウイルスベクターである、又はウイルスベクターであった。更なる実施形態において、ウイルスベクターは、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、又はアデノウイルスである、又はそれらのウイルスであった。特定のウイルスベクターの核酸は、宿主ゲノム配列に組み込まれることが理解される。
【0125】
「ベクター」又は「コンストラクト」(遺伝子送達又は遺伝子導入「ビヒクル」と呼ばれることもある)は、インビトロ又はインビボのいずれかで宿主細胞に送達されるポリヌクレオチドを含む高分子、分子の複合体、又はウイルス粒子を指す。ポリヌクレオチドは直鎖状分子であってもよく、環状分子であってもよい。ベクターの一般的なタイプである「プラスミド」は、染色体DNAから独立して複製することができる、染色体DNAから分離した染色体外DNA分子である。特定の場合において、プラスミドは環状の二本鎖である。
【0126】
特定のタンパク質を「コードする」「遺伝子」、「導入遺伝子」、「ポリヌクレオチド」、「コード領域」、「配列」、「セグメント」、「フラグメント」、又は「導入遺伝子」は、適切な制御配列の制御下に置かれた場合、インビトロ又はインビボで、転写され、任意選択で遺伝子産物(例えば、ポリペプチド)に翻訳される核酸分子である。コード領域は、cDNA、ゲノムDNA、又はRNAのいずれかの形態で存在し得る。DNAの形態で存在する場合、核酸分子は、一本鎖(すなわち、センス鎖)又は二本鎖であり得る。コード領域の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドン及び3’(カルボキシ)末端の翻訳停止コドンによって決定される。遺伝子には、原核生物又は真核生物のmRNAからのcDNA、原核生物又は真核生物のDNAからのゲノムDNA配列、及び合成DNA配列が含まれ得るが、これらに限定されない。転写終結配列は通常、遺伝子配列の3’側に位置する。
【0127】
本明細書において「細胞」という用語は、当技術分野において最も広い意味で使用され、多細胞生物の組織の構造単位であり、外部から隔離する膜構造によって取り囲まれ、自己複製能を有し、遺伝情報及び該遺伝情報を発現する機構を有する生体を指す。本明細書中で使用される細胞は、天然に存在する細胞又は人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子組換えされた細胞など)であり得る。
【0128】
iNKT細胞は、マウスからヒトまで高度に保存されているアルファベータTリンパ球の小集団である。iNKT細胞は、がん、感染症、アレルギー、及び自己免疫を含む多くの疾患の制御において重要な役割を果たすことが示唆されている。刺激を受けると、iNKT細胞は細胞集団として及び単細胞レベルでの両方で、IFN-ガンマやIL-4などのエフェクターサイトカインを迅速に大量に放出する。次いで、これらのサイトカインは、自然免疫系のナチュラルキラー細胞及び樹状細胞(DC)などの様々な免疫エフェクター細胞、並びに活性化DCを介した適応免疫系のCD4ヘルパーT細胞及びCD8細胞傷害性従来型アルファベータT細胞を活性化する。iNKT細胞はその特有の活性化機構により、抗原やMHC拘束性とは無関係に複数の疾患を攻撃することができ、魅力的な万能治療薬となっている。
【0129】
これまで、主にがんを標的とする一連のiNKT細胞ベースの臨床試験が行われてきた。最近の臨床試験では、頭頸部扁平上皮がん患者において抗腫瘍免疫が促進されたことが報告され、iNKT細胞ベースの免疫療法の可能性を証明した。しかしながら、現在までのほとんどの臨床試験は、内在性iNKT細胞の直接活性化又はエクスビボ増殖に基づいているため、少数の患者に対する短期間の限られた臨床的利益しかもたらさず、十分な結果は得られていない。ヒトのiNKT細胞は存在比率が低くばらつきが大きいこと(血中約0.01~1%)、また活性化後に急速に枯渇することが、これらの試験の成功を阻む大きな障害になっていると考えられている。
【0130】
iNKT細胞は、人工多能性幹(iPS)細胞から遺伝子改変されている。参照により組み込まれる米国特許第8,945,922号を参照されたい。iPS細胞は、外来性核リプログラミング因子であるOct4、Sox2、Klf4、c-Mycなどを体細胞に導入することにより作製される。残念ながら、外来性核リプログラミング因子の転写レベルは、細胞が多能性状態に移行するにつれて低下するため、安定したiPS細胞株の生産効率が低下する可能性がある。更に、Oct4、Sox2、Klf4、c-Mycは発がんにつながるがん遺伝子であるため、外来性核リプログラミング因子の転写がiPS細胞で再開され、iPS細胞由来の細胞から新生物発生を引き起こす可能性がある。
【0131】
本発明の方法は、例えば、米国特許出願公開第20170283481(A1)号及び国際特許出願第2019241400号(それぞれ参照により組み込まれる)に論じられているように、iNKT細胞を生成するために使用することができる。
【0132】
一例として、いくつかの実施形態において、本発明の方法は、CD4/DN/CD8サブセット又はTh1、Th2、若しくはTh17サイトカインを生成するサブセットなどのiNKT細胞のサブセットから得られる1つ以上のiNKT TCR核酸配列を含み、二重陰性iNKT細胞を含むiNKT細胞を生成する。いくつかの実施形態において、iNKT TCR核酸配列は、がん、例えば、黒色腫、腎臓がん、肺がん、前立腺がん、乳がん、リンパ腫、白血病、血液悪性腫瘍などに罹患していた、又は罹患しているドナーのiNKT細胞から得られる。いくつかの実施形態において、iNKT TCR核酸分子は、1つのiNKT細胞由来のTCRアルファ配列と、異なるiNKT細胞由来のTCRベータ配列とを有する。いくつかの実施形態において、TCRアルファ配列が得られるiNKT細胞、及びTCRベータ配列が得られるiNKT細胞は、同じドナーから得られる。いくつかの実施形態において、TCRアルファ配列が得られるiNKT細胞のドナーは、TCRベータ配列が得られるiNKT細胞のドナーとは異なる。いくつかの実施形態において、TCRアルファ配列及び/又はTCRベータ配列は、発現のためにコドン最適化される。いくつかの実施形態において、TCRアルファ配列及び/又はTCRベータ配列は、未改変配列によってコードされるポリペプチドと比較して、1つ以上のアミノ酸置換、欠失、及び/又は切断を有するポリペプチドをコードするように改変される。いくつかの実施形態において、iNKT TCR核酸分子は、CD1d上に提示されたアルファ-ガラクトシルセラミド(アルファ-GalCer)を認識するT細胞受容体をコードする。いくつかの実施形態において、iNKT TCR核酸分子は、発現ベクターに含有される。いくつかの実施形態において、発現ベクターはレンチウイルス発現ベクターである。いくつかの実施形態において、発現ベクターは、iNKT TCR核酸分子でMIGベクターのIRES-EGFPセグメントを置換したMIGベクターである。いくつかの実施形態において、発現ベクターはphiNKT-EGFPである。
【0133】
いくつかの実施形態において、核酸は、本明細書において論じられるようなα-TCR及び/又はβ-TCRをコードする核酸配列を含んでもよい。特定の実施形態において、1つの核酸がα-TCR及びβ-TCRの両方をコードする。更なる実施形態において、核酸は、自殺遺伝子産物をコードする核酸配列を更に含む。いくつかの実施形態において、選択されたCD34+細胞に導入される核酸分子は、α-TCR、β-TCR、及び自殺遺伝子産物をコードする。他の実施形態において、方法はまた、自殺遺伝子産物をコードする核酸を選択されたCD34+細胞に導入することを含み、この場合、TCR遺伝子の少なくとも1つをコードする核酸とは異なる核酸分子が自殺遺伝子産物をコードする。
【0134】
遺伝子改変iNKT細胞及びiNKT細胞集団を調製、作製、製造、及び使用する方法が提供される。方法は、実施形態において、以下のステップのうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又はそれ以上を含む:造血細胞を得ること;造血前駆細胞を得ること;1つ以上の造血細胞になることが可能な前駆細胞を得ること;iNKT細胞になることが可能な前駆細胞を得ること;1つ以上の細胞表面マーカーを使用して、混合細胞の集団から細胞を選択すること;細胞集団からCD34+細胞を選択すること;細胞集団からCD34+細胞を単離すること;CD34+細胞とCD34-細胞とを互いに分離すること;CD34以外の又はCD34に追加した細胞表面マーカーに基づいて細胞を選択すること;iNKT T細胞受容体(TCR)をコードする1つ以上の核酸を細胞に導入すること;iNKT T細胞受容体(TCR)をコードするウイルスベクターを細胞に感染させること;iNKT T細胞受容体(TCR)をコードする1つ以上の核酸を細胞にトランスフェクトすること;iNKT T細胞受容体(TCR)をコードする発現コンストラクトを細胞にトランスフェクトすること;iNKT T細胞受容体(TCR)をコードする外来性核酸を細胞のゲノムに組み込むこと;自殺遺伝子産物をコードする1つ以上の核酸を細胞に導入すること;自殺遺伝子産物をコードするウイルスベクターを細胞に感染させること;自殺遺伝子産物をコードする1つ以上の核酸を細胞にトランスフェクトすること;自殺遺伝子産物をコードする発現コンストラクトを細胞にトランスフェクトすること;自殺遺伝子産物をコードする外来性核酸を細胞のゲノムに組み込むこと;遺伝子編集のために、1つ以上のポリペプチドをコードする1つ以上の核酸、及び/又は核酸分子を細胞に導入すること;遺伝子編集のために、1つ以上のポリペプチド及び/又は核酸分子をコードするウイルスベクターを細胞に感染させること;遺伝子編集のために、1つ以上のポリペプチドをコードする1つ以上の核酸、及び/又は核酸分子を細胞にトランスフェクトすること;遺伝子編集のために、1つ以上のポリペプチド及び/又は核酸分子をコードする発現コンストラクトを細胞にトランスフェクトすること;遺伝子編集のために、1つ以上のポリペプチドをコードする外来性核酸、及び/又は核酸分子を組み込むこと;細胞のゲノムを編集すること;細胞のプロモーター領域を編集すること;iNKT TCR遺伝子のプロモーター及び/又はエンハンサー領域を編集すること;1つ以上の遺伝子の発現を抑制すること;単離されたヒトCD34+細胞における1つ以上のHLA-I/II遺伝子の発現を抑制すること;遺伝子編集のために、1つ以上の核酸を細胞にトランスフェクトすること;単離又は選択された細胞を培養すること;単離又は選択された細胞を増殖させること;1つ以上の細胞表面マーカーで選択された細胞を培養すること;iNKT TCRを発現する単離されたCD34+細胞を培養すること;単離されたCD34+細胞を増殖させること;iNKT細胞を生成又は増殖させる条件下で細胞を培養すること;人工胸腺オルガノイド(ATO)系において細胞を培養して、iNKT細胞を生成すること;無血清培地で細胞を培養すること;ATO系において細胞を培養することであって、ATO系が、Notchリガンドを発現する間質細胞の選択された集団を含む3D細胞凝集体と、無血清培地とを含む、ATO系において細胞を培養すること。一実施形態において、1つ以上のステップが除外されてもよいことが特に企図される。
【0135】
遺伝子改変iNKT細胞を作製するために使用され得る細胞は、造血前駆幹細胞である。細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)、骨髄細胞、胎児肝細胞、胚性幹細胞、臍帯血細胞、又はそれらの組み合わせから得てもよい。本開示は、「HSC-iNKT細胞」、造血幹細胞(HSC)及び/又は造血前駆細胞(HPC)から遺伝子改変されたインバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞、並びにそれらを作製及び使用する方法を包含する。本明細書で使用される場合、「HSC」は、HSC、HPC、又はHSC及びHPCの両方を指すために使用される。「造血幹細胞及び前駆細胞」又は「造血前駆細胞」は、造血系列にコミットしているが、更なる造血分化が可能である細胞を指し、造血幹細胞、多能性造血幹細胞(造血芽細胞)、骨髄前駆細胞、巨核球前駆細胞、赤血球前駆細胞、及びリンパ系前駆細胞を含む。「造血幹細胞(HSC)」は、骨髄系(単球及びマクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞)、並びにリンパ系(T細胞、B細胞、NK細胞)を含む全ての血液細胞タイプを生み出す多能性幹細胞である。本開示において、HSCは、「造血幹細胞及び前駆細胞」と「造血前駆細胞」の両方を指す。造血幹細胞及び造血前駆細胞は、CD34を発現してもよく、発現しなくてもよい。造血幹細胞は、CD133を共発現してもよく、CD38発現に対して陰性、CD90に対して陽性、CD45RAに対して陰性、細胞系マーカーに対して陰性、又はそれらの組み合わせであってもよい。造血前駆細胞/前駆細胞には、CD34(+)/CD38(+)細胞及びCD34(+)/CD45RA(+)/lin(-)CD10+(リンパ系共通前駆細胞)、CD34(+)CD45RA(+)lin(-)CD10(-)CD62L(hi)(リンパ系刺激多能性前駆細胞)、CD34(+)CD45RA(+)lin(-)CD10(-)CD123+(顆粒球-単球前駆細胞)、CD34(+)CD45RA(-)lin(-)CD10(-)CD123+(骨髄性共通前駆細胞)、又はCD34(+)CD45RA(-)lin(-)CD10(-)CD123-(巨核球-赤血球前駆細胞)が含まれる。
【0136】
特定の方法は、1つ以上の核酸を細胞に導入する前に、選択されたCD34+細胞を培地中で培養することを含む。細胞を培養することは、選択されたCD34+細胞を、1つ以上の増殖因子を含む培地と共にインキュベートすることを含み得る。いくつかの実施形態において、1つ以上の増殖因子は、c-kitリガンド、flt-3リガンド、及び/又はヒトトロンボポエチン(TPO)を含む。更なる実施形態において、培地は、c-kitリガンド、flt-3リガンド、及びTPOを含む。いくつかの実施形態において、各増殖因子、又はこれらの特定の増殖因子の、任意の及び全ての合計のいずれかに関して、1つ以上の増殖因子の濃度は約5ng/mL~約500ng/mLである。培地中における単一の増殖因子又は増殖因子の組み合わせの濃度は、約、少なくとも約、又は多くとも約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255、260、265、270、275、280、285、290、295、300、305、310、315、320、325、330、335、340、345、350、355、360、365、370、375、380、385、390、395、400、410、420、425、430、440、441、450、460、470、475、480、490、500(又は導き出せる任意の範囲)ng/mL又はmg/mL以上であり得る。
【0137】
いくつかの実施形態において、細胞は、無細胞培地で培養される。特定の実施形態において、無血清培地は、外部から添加されたアスコルビン酸を更に含む。特定の実施形態において、方法は、アスコルビン酸を培地に添加することを含む。更なる実施形態において、無血清培地は、以下の外部添加成分:FLT3リガンド(FLT3L)、インターロイキン7(IL-7)、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、幹細胞因子(SCF)、IL-2、IL-4、IL-6、IL-15、IL-21、TNF-アルファ、TGF-ベータ、インターフェロン-ガンマ、インターフェロン-ラムダ、TSLP、チモペンチン、プレイオトロフィン、又はミッドカインのうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、又は16種全て(又はその中から導き出せる任意の範囲)を更に含む。更なる実施形態において、無血清培地は、1つ以上のビタミンを含む。いくつかの場合において、無血清培地は、以下のビタミン:ビオチン、DLアルファ酢酸トコフェロール、DLアルファ-トコフェロール、ビタミンA、塩化コリン、パントテン酸カルシウム、パントテン酸、葉酸ニコチンアミド、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、イノシトール、ビタミンB12、又はこれらの塩のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12種(又はその中から導き出せる任意の範囲)を含む。特定の実施形態において、培地は、ビオチン、DLアルファ酢酸トコフェロール、DLアルファ-トコフェロール、ビタミンA、又はそれらの組み合わせ若しくは塩を含む、又は少なくとも含む。更なる実施形態において、無血清培地は、1つ以上のタンパク質を含む。いくつかの実施形態において、無血清培地は、以下のタンパク質:アルブミン若しくはウシ血清アルブミン(BSA)、BSAの画分、カタラーゼ、インスリン、トランスフェリン、スーパーオキシドジスムターゼ、又はそれらの組み合わせのうちの1、2、3、4、5、6、又はそれ以上(又はその中から導き出せる任意の範囲)を含む。他の実施形態において、無血清培地は、以下の化合物:コルチコステロン、D-ガラクトース、エタノールアミン、グルタチオン、L-カルニチン、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、プトレシン、亜セレン酸ナトリウム、若しくはトリヨード-I-チロニン、又はそれらの組み合わせのうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は11種を含む。更なる実施形態において、無血清培地は、B-27サプリメント、ゼノフリーB-27サプリメント、GS21TMサプリメント、又はそれらの組み合わせを含む。更なる実施形態において、無血清培地は、アミノ酸、単糖類、及び/又は無機イオンを含む、又は更に含む。いくつかの態様において、無血清培地は、以下のアミノ酸:アルギニン、システイン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、グルタミン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、ヒスチジン、チロシン、若しくはバリン、又はそれらの組み合わせのうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、若しくは13種を含む。他の態様において、無血清培地は、以下の無機イオン:ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、窒素、若しくはリン、又はそれらの組み合わせ若しくは塩のうちの1、2、3、4、5、又は6種を含む。更なる態様において、無血清培地は、以下の元素:モリブデン、バナジウム、鉄、亜鉛、セレン、銅、若しくはマンガン、又はそれらの組み合わせのうちの1、2、3、4、5、6、若しくは7種を含む。
【0138】
いくつかの方法において、細胞は、人工胸腺オルガノイド(ATO)系において培養される。ATO系は、細胞の凝集体である三次元(3D)細胞凝集体を含む。特定の実施形態において、3D細胞凝集体は、Notchリガンドを発現する間質細胞の選択された集団を含む。いくつかの実施形態において、3D細胞凝集体は、CD34+形質導入細胞を、物理的マトリックス又は足場上の間質細胞の選択された集団と混合することによって作製される。更なる実施形態において、方法は、CD34+形質導入細胞及び間質細胞を遠心分離して、物理的マトリックス又は足場上に配置される細胞ペレットを形成することを含む。特定の実施形態において、間質細胞は、インタクトな、部分的な、若しくは改変されたDLL1、DLL4、JAG1、JAG2、又はそれらの組み合わせであるNotchリガンドを発現する。更なる実施形態において、NotchリガンドはヒトNotchリガンドである。他の実施形態において、NotchリガンドはヒトDLL1である。
【0139】
細胞は直ちに使用されてもよく、又は将来の使用のために保存されてもよい。特定の実施形態において、iNKT細胞を作製するために使用される細胞は凍結されているが、作製されたiNKT細胞はいくつかの実施形態において凍結されてもよい。特定の態様において、細胞は、デキストロース、1つ以上の電解質、アルブミン、デキストラン、及びDMSOを含む溶液中にある。他の実施形態において、細胞は、無菌、非発熱性、及び等張性の溶液中にある。いくつかの実施形態において、遺伝子改変iNKT細胞は造血幹細胞に由来する。いくつかの実施形態において、遺伝子改変iNKT細胞は、G-CSF動員CD34+細胞に由来する。いくつかの実施形態において、細胞は、がんを有しないヒト患者の細胞に由来する。いくつかの実施形態において、細胞は内在性TCRを発現しない。
【0140】
遺伝子改変iNKT細胞は、患者を治療するために使用され得る。いくつかの実施形態において、方法は、1つ以上の追加の核酸を細胞集団に導入することを含み、該細胞集団は、あらかじめ凍結及び解凍されていてもよく、されていなくてもよい。この使用は、既製のiNKT細胞を作製する利点の1つをもたらす。特定の実施形態において、1つ以上の追加の核酸は、1つ以上の治療用遺伝子産物をコードする。治療用遺伝子産物の例としては、少なくとも、1.抗原認識分子、例えばCAR(キメラ抗原受容体)及び/又はTCR(T細胞受容体);2.共刺激分子、例えばCD28、4-1BB、4-1BBL、CD40、CD40L、ICOS;及び/又は3.サイトカイン、例えばIL-lcc、IL-Ib、IL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-9、IL-15、IL-12、IL-17、IL-21、IL-23、IFN-g、TNF-a、TGF-b、G-CSF、GM-CSF;4.転写因子、例えばT-bet、GATA-3、RORyt、FOXP3、Bcl-6が挙げられる。治療用抗体は、キメラ抗原受容体、一本鎖抗体、モノボディ、ヒト化抗体、二重特異性抗体、一本鎖FV抗体又はそれらの組み合わせとして含まれる。
【0141】
いくつかの実施形態において、本発明は、遺伝子改変細胞又は組成物を被験体に送達するための薬物送達デバイス、例えば注射器と共にパッケージングされた、本発明による1つ以上の遺伝子改変細胞又は組成物を含むキットを提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、遺伝子改変細胞を培養及び/又は保存するための1つ以上の試薬と共にパッケージングされた、本発明による1つ以上の遺伝子改変細胞又は組成物を含むキットを提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、細胞、例えば、CAR及び少なくとも1つの追加の導入遺伝子を含むiNKT細胞を活性化する1つ以上の薬剤と共にパッケージングされた、本発明による1つ以上の遺伝子改変細胞又は組成物を含むキットを提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、OP9-DL1間質細胞及び/又はMS5-DL4間質細胞と共にパッケージングされた、本発明による1つ以上の遺伝子改変細胞又は組成物を含むキットを提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、抗原提示細胞又はCD1d発現人工抗原提示細胞と共にパッケージングされた、本発明による1つ以上の遺伝子改変細胞又は組成物を含むキットを提供する。
【0142】
本発明の方法は、任意の数の病態及び/又は疾患を治療するための遺伝子改変細胞を製造する方法を提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、被験体を治療する方法であって、本発明による1つ以上の遺伝子改変細胞、本発明の方法に従って作製された1つ以上の遺伝子改変細胞、本発明による1つ以上の組成物を被験体に投与することを含む、方法を提供する。いくつかの実施形態において、被験体は、マウス又は実験動物などの動物である。いくつかの実施形態において、被験体は、ヒトである。いくつかの実施形態において、被験体は、がん、細菌感染、ウイルス感染、アレルギー、又は自己免疫疾患を有する。いくつかの実施形態において、がんは、黒色腫、腎臓がん、肺がん、前立腺がん、乳がん、リンパ腫、白血病、又は血液悪性腫瘍である。いくつかの実施形態において、被験体は、結核、HIV、又は肝炎を有する。いくつかの実施形態において、被験体は、喘息又は湿疹を有する。いくつかの実施形態において、被験体は、I型糖尿病、多発性硬化症、又は関節炎を有する。いくつかの実施形態において、被験体は、治療有効量の1つ以上の遺伝子改変細胞を投与される。いくつかの実施形態において、1つ以上の遺伝子改変細胞の治療有効量は、治療される被験体の体重1kg当たり約10×10~約10×10細胞である。いくつかの実施形態において、本方法は、1つ以上の遺伝子改変細胞の投与前、投与中、及び/又は投与後に、iNKT細胞を活性化する薬剤、例えば、α-GalCer又はその塩若しくはエステル、α-GalCer提示樹状細胞又は人工APCを投与することを更に含む。
【0143】
「キメラ抗原受容体」又は「CAR」という用語は、免疫エフェクター細胞に任意の特異性を融合させる、遺伝子改変受容体を指す。これらの受容体は、モノクローナル抗体の特異性をT細胞に融合させるために使用され、そのコード配列の移入はレトロウイルスベクター又はレンチウイルスベクターによって促進される。受容体は、異なる供給源による部分から構成されるため、キメラと呼ばれる。これらの分子の最も一般的な形態は、モノクローナル抗体由来の一本鎖可変フラグメント(scFv)とCD3-ゼータ膜貫通ドメイン及びエンドドメイン、CD28若しくは41BB細胞内ドメイン、又はそれらの組み合わせとの融合である。このような分子は、scFvによる標的の認識に応答してシグナルを伝達する。このようなコンストラクトの例としては、ハイブリドーマ14g2a由来のscFv(ジシアロガングリオシドGD2を認識する)との融合体である14g2a-Zetaがある。T細胞がこの分子を発現すると(例えば、オンコレトロウイルスベクター形質導入によって達成される)、T細胞はGD2を発現する標的細胞(例えば、神経芽腫細胞)を認識し、殺傷する。悪性B細胞を標的とするために、研究者らは、B系列分子CD19に特異的なキメラ免疫受容体を用いてT細胞の特異性をリダイレクトした。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の可変領域が柔軟なリンカーによって融合され、scFvを形成する。このscFvの前にはシグナルペプチドがあり、新生タンパク質を小胞体に導き、その後表面発現させる(これは切断される)。柔軟なスペーサーにより、scFvは抗原結合を可能にするために様々な方向に向きを変えことができる。膜貫通ドメインは典型的な疎水性アルファへリックスで、通常はシグナル伝達エンドドメインの元の分子に由来し、細胞内に突出して所望のシグナルを伝達する。
【0144】
特定の態様において、本発明は、HSCからCAR T細胞を生成する方法を提供する。本方法は、HSCに第1のTCRを導入して、T細胞、好ましくはガンマデルタT細胞又はiNKT細胞を生成することを含み得る。続いて、T細胞にCAR又は第2のTCR及びCARを導入する。結果として、TCR及びCAR、又はマルチTCR及びCAR細胞が生成される。
【0145】
好ましくは、CARは、特定の腫瘍抗原に指向する。CARが指向し得る腫瘍抗原の例としては、例えば、少なくとも5T4、8H9、anbbインテグリン、BCMA、B7-H3、B7-H6、CAIX、CA9、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD38、CD44、CD44v6、CD44v7/8、CD70、CD123、CD138、CD171、CEA、CSPG4、EGFR、ErbB2(HER2)、EGFRvIII、EGP2、EGP40、ERBB3、ERBB4、ErbB3/4、EPCAM、EphA2、EpCAMを含むEGFRファミリー、葉酸受容体-a、FAP、FBP、胎児型AchR、FRcc、GD2、G250/CAIX、GD3、グリピカン-3(GPC3)、Her2、IL-l3Rcx2、ラムダ、ルイス-Y、カッパ、KDR、MAGE、MCSP、メソテリン、Mucl、Mucl6、NCAM、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、PRAME、PSC1、PSCA、PSMA、ROR1、SP17、サバイビン、TAG72、TEM、がん胎児性抗原、HMW-MAA、AFP、CA-125、ETA、チロシナーゼ、MAGE、ラミニン受容体、HPV E6、E7、BING-4、カルシウム活性化塩素チャネル2、Cyclin-Bl、9D7、EphA3、テロメラーゼ、SAP-l、BAGEファミリー、CAGEファミリー、GAGEファミリー、MAGEファミリー、SAGEファミリー、XAGEファミリー、NY-ESO-l/LAGE-l、PAME、SSX-2、Melan-A/MART-1、GPl00/pmell7、TRP-1/-2、P.ポリペプチド、MC1R、前立腺特異抗原、b-カテニン、BRCA1/2、CML66、フィブロネクチン、MART-2、TGF^RII、又はVEGF受容体(例えば、VEGFR2)が挙げられる。CARは、第1、第2、第3、又はそれ以上の世代のCARであり得る。CARは、任意の2つの非同一抗原に対して二重特異的であってもよく、又は3つ以上の非同一抗原に対して特異的であってもよい。
【0146】
特定の態様において、本開示は、増強された抗腫瘍表現型を有するマルチTCR T細胞を含むT細胞を生成するためのシステム及び方法を提供する。特に、本開示は、T細胞受容体(TCR)、第2のTCR及び/又はキメラ抗原受容体(CAR)を含む複数の導入遺伝子、並びに少なくとも1つの追加導入遺伝子で遺伝子改変された幹細胞(例えば、HSC)からT細胞を作製する方法を提供する。HSCを出発物質とすることによって、本発明のシステム及び方法は、改善された抗腫瘍表現型を有するT細胞の製造のために、幹細胞の自己再生及び細胞分化能を利用する。特に、本開示は、第1のTCR、第2のTCR及び/又はCAR、並びに少なくとも1つの追加の導入遺伝子をコードする核酸をCD34+幹細胞に導入することを提供する。TCR及び/又はTCRとCARの複合発現は、特異的がん細胞標的化特性を有するT細胞を提供するのに有用である。更に、少なくとも1つの追加の導入遺伝子を与えられたことで、本発明の方法によって生成されたT細胞は、標的がん細胞と接触したとき、がんの治療に有用なカーゴ(例えば、サイトカイン)を備える。
【0147】
例えば、好ましい実施形態において、本発明の方法は、レンチウイルス形質導入を介してHSCに核酸を導入することを含み、これは、製造プロセス中の複数の時点で起こり得る。1つ以上の核酸の導入により、少なくとも第1のTCR、第2のTCR及び/又はCAR、並びに追加の導入遺伝子を発現するHSCが得られる。追加の導入遺伝子の組み込みは、改善された機能的特性(例えば、改善された細胞増殖、持続性、安全性、及び/又は抗腫瘍活性)を有する治療用T細胞を提供するために有用である。
【0148】
1つ以上の追加の導入遺伝子は、サイトカイン、チェックポイント阻害因子、トランスフォーミング増殖因子ベータシグナル伝達の阻害因子、サイトカイン放出症候群の阻害因子、又は神経毒性の阻害因子のうちのいずれか1つ以上を含み得る。例えば、IL-2、IL-7、IL-15、IL-12、IL-18、又はIL-21のうちの1つ以上をコードする導入遺伝子が提供され得る。
【0149】
したがって、いくつかの例において、本発明の方法は、例えば、IL-2、IL-7、IL-1-15のうちの1つ以上をコードする核酸を導入することによって、改善された増殖及び持続能を有するT細胞の製造を提供する。いくつかの例において、方法は、例えば、IL-12、IL-18のうちの1つ以上をコードする導入遺伝子の導入によって、増加したIFN-g生成、したがって改善されたT細胞ポテンシーを有するT細胞を提供し得る。他の例において、本発明の方法は、IL-21を含む導入遺伝子を導入することによってナイーブT細胞生成を増強するのに有用である。いくつかの例において、本明細書に記載される方法は、例えば、IL-6、GM-CSF、又はサイトカイン放出症候群及び神経毒性の他のメディエーターの阻害因子を導入することによって、改善された安全性特性を有するT細胞の生成を提供する。方法は、例えば、TGF-Bチェックポイントの阻害因子を介して、腫瘍微小環境に対抗するのに有用なペイロードをもたらすことによって、改善された効力を有するCAR T細胞を提供し得る。
【0150】
本発明の特定の方法は、単一のインビトロ活性化ステップを含む。いくつかの例において、T細胞は、例えば1~3日間、試薬で短時間活性化され、続いて、活性化試薬は、細胞を連続的に刺激せず、したがって細胞を疲弊させないように、培地から除去されることが多い。活性化後、活性化されたT細胞集団は、急速に、例えば、24時間ごとに数が2倍に増殖し得る。増殖を促進するために、いくつかの試薬を添加してもよい。いくつかの実施形態において、本方法は、IL-7/15、IL-2、IL-2+21、IL-12、又はIL-18のうちの1つ以上が添加され得る培養培地を含む。
【0151】
いくつかの例において、単一の活性化ステップは、PMBCベースのT細胞活性化を含む。したがって、活性化ステップは、aGC担持PBMC、可溶性抗CD3/28陽性PBMC、及び可溶性抗CD2/3/28陽性PBMCをT細胞(又はマルチTCR T細胞)に導入することを含み得る。いくつかの例において、活性化ステップは、抗原提示細胞(APC)ベースのT細胞活性化ステップを含む。したがって、活性化ステップは、T細胞をAPCに導入することを含み得る。APCは、CD80-CD83-CD137L-CAR-抗原を発現する遺伝子改変K562細胞であり得る。APCは、APC+CD1d、及び/又はAPC+CD1d+/-aGCであり得る。他の例において、活性化ステップは、フィーダーフリーベースのT細胞活性化ステップを含む。フィーダーフリーベースのT細胞活性化ステップは、T細胞に、抗CD3、抗CD28、抗CD2/3/28、CD3/28を含む可溶性抗体を導入することを含み得る。いくつかの実施形態において、T細胞活性化ステップは、活性化増殖培養培地に添加された異なるサイトカインIL-7/15、IL-2、IL-2+21、IL-12、IL-18の存在下でT細胞を培養することを含む。
【0152】
以下の実施例は、本発明の方法によって提供される、CD34+細胞からのT細胞及びマルチTCR T細胞(例えば、iNKT及びγδT細胞)を製造するための有用な例示的プロトコルを提供する。更なる実施例及び考察については、参照により組み込まれるWO2019241400A1を参照されたい。
【0153】
実施例1:CD34+HSPC細胞培養及びレンチウイルス形質導入
-2日目:前刺激
1.24ウェル非組織培養処理プレートの適当なウェル数(約15×10細胞/ウェル又は0.1×10アリコートについて6ウェルを播種することが推奨される)を、PBSで希釈した20μg/mLレトロネクチン(RN)0.5mL/ウェルでコートする。1mg/mLのRNストックアリコートは、60マイクロリットルのアリコートで-20℃において保存することができる。
2.室温(RT)で2時間(h)インキュベートする。
3.RNを吸引し、PBSで希釈した2%BSA 0.5mL/ウェルで置換する。30%BSAアリコートを-20℃で保存する。
4.室温で30分間インキュベートする。
5.吸引し、PBS 0.5mL/ウェルで置換する。
6.標準的な手順に従ってCD34+細胞の0.1×10アリコートを解凍して幹細胞培地に入れ、300gで10分間スピンする。
7.上清を吸引し、幹細胞培地に再懸濁し、血球計数器を使用して計数し、細胞計数を記録する。いくつかの例において、出願人は、0.1×10アリコートの細胞数は、少なすぎて信頼できないことを見出した。
8.CD34+細胞を幹細胞培地で0.05×10細胞/mLに希釈する。
9.RNコートしたウェルからPBSを吸引し、300μL細胞/ウェル(約15×10細胞/ウェル)を播種する。
10.37℃、5%CO2で12~18時間インキュベートする。
【0154】
-1日目:形質導入
1.濃縮レンチウイルスベクター(LVV)を解凍し、穏やかにピペッティングして混合する(ボルテックスせず、再凍結しない)。
2.形質導入チューブを準備する。
a.MOIが100~200になるのに十分な量を計算し、適量のLVVを1.5mLチューブに移す。
b.適量のPGE2を同じチューブに添加して、全培養量の最終濃度が10nMとなるようにする。
c.適量のポロキサマーを同じチューブに添加して、全培養量の最終濃度が1μg/μLとなるようにする。
3.形質導入チューブの内容物を適切な培養ウェルに加え、プレートを穏やかに揺り動かして混合する。
4.細胞を37℃、5%CO2で24時間インキュベートする。
【0155】
0日目:収穫
1.穏やかにピペッティングすることによって細胞を収集してプレートから取り出し、コニカルチューブに移す。
2.同量の冷X-VIVO-15でウェルを洗浄して、プレートにまだ付着している細胞を取り出し、コニカルチューブに移す。
3.顕微鏡で確認し、必要に応じて冷X-VIVO-15で更に洗浄して、プレートから全ての細胞を収集する。
4.300gで10分間スピンし、上清を吸引する。
5.段階2(すなわち、実施例2)に進む。
【0156】
実施例2:iNKT-CAR細胞の生成;分化
0~14日目:分化(期間:2週間)
1.12ウェル非組織培養処理プレートの適当なウェル数(1,000~2,000細胞/ウェル又は12ウェル/15,000細胞を播種することが推奨される)を、PBSで1:200に希釈された、STEMCELL社からStemSpanの商品名で提供されているリンパ系分化材料などのリンパ系分化コーティング剤(LDCM)1mL/ウェルでコートする。4℃で12~18時間インキュベートする。
2.LDCMを吸引し、2mL/ウェルのPBSを添加する。
3.段階1(すなわち、実施例1)で収集された形質導入CD34+細胞を、STEMCELL社からStemSpanの商品名で販売されているリンパ系前駆細胞増殖培地などのリンパ系前駆細胞増殖培地(LPEM)に再懸濁する。
4.LPEMで細胞濃度を1~2×10細胞/mLに調整する。
5.LDCMコートプレートからPBSを吸引する。
6.LCDMコートプレートに0.75mL細胞/ウェルを播種する。
7.細胞を37℃、5%CO2でインキュベートする。
8.3日目に、新しいLPEMを0.25mL/ウェル添加し、培養を継続する。
9.7日目及び11日目に、細胞を乱すことなく0.5mL/ウェル未満を慎重に除去し、新しいLPEM 0.5mL/ウェルを補充する。
10.14日目まで培養を続ける。
11.段階3(すなわち、実施例3)に進む。
【0157】
実施例3:iNKT-CAR細胞の生成;成熟
14~21日目以降:成熟(期間:1~2週間)
1.6ウェル非組織培養処理プレートの適当なウェル数(50~100×10/ウェルを播種することが推奨される)を、PBSで1:200に希釈したLDCM 2mL/ウェルでコーティングする。播種前日に調製する場合は4℃で12~18時間、播種当日に調製する場合は37℃で2時間インキュベートする。
2.LDCMを吸引し、4mL/ウェルのPBSを添加する。
3.14日目に、細胞生存率カウンター(例えば、Beckman Coulter社からVi-Cell XRの商品名で提供されている細胞生存率カウンター)を使用して、細胞を収穫及び計数する。
a.穏やかにピペッティングすることによって細胞を収集してプレートから取り出し、コニカルチューブに移す。
b.1mL/4ウェルの冷SFEM IIでウェルを洗浄して、プレートにまだ付着している細胞を取り出し、コニカルチューブに移す。
c.顕微鏡で確認し、必要に応じて冷SFEM IIで更に洗浄して、プレートから細胞を収集する。
4.0.2×10細胞のアリコートを分取し、フロー染色のために96ウェルV底プレートに播種する。
5.適量の細胞を分取して、段階3のために播種し、300gで10分間ペレット化する。
6.上清を吸引する。
7.細胞を、T細胞前駆体成熟培地(TPMM)、例えば、STEMCELL社からStemSpanの商品名で提供されているT細胞前駆体成熟培地に、2.5~5×10細胞/mLで再懸濁する。
8.LDCMコートプレートからPBSを吸引する。
9.2mL細胞/ウェルをLDCMコートプレートに播種する。
10.細胞を37℃、5%CO2でインキュベートする。
11.残りの細胞を300gで10分間ペレット化する。
12.残りの細胞を吸引し、適量の凍結保存溶液、例えば、STEMCELL社からCryoStor CS10の商品名で販売されている凍結保存溶液に、2~5×10細胞/mLとなるように再懸濁する。
13.1mL/クライオバイアルに分注し、適切に(例えば、マイナス80℃の冷凍庫で)凍結する。凍結の24時間以内に液体窒素保存に移す。
14.17日目に、新しいTPMMを2mL/ウェル添加し、培養を継続する。
15.21日目に、ウェルの中央の細胞から100μLをピペッティングしてフローサイトメトリーのために試料を収集し、フロー染色のために96ウェルV底プレートに播種する。
16.ウェルの中央の細胞から更に100μLを収集し、細胞生存率カウンターを用いて計数する。
17.TCR発現が50%超、CD4/CD8二重陽性発現が20%超であり、細胞サイズが縮小している(HSCからT細胞への発達を示す)場合、細胞を凍結保存し、同種療法のために提供してもよく、又は任意選択で、段階4で示されるように増殖させてもよい。これらのパラメーターが満たされない場合、必要なフィード及び継代を伴って培養を継続する。2mL/ウェル未満を除去し、3~4日ごとに新しいTPMM 2mL/ウェルを補充し、培養物がコンフルエンスに近づいたら、培養物を継代する。上記の基準が満たされるまで、この確認を24/25日目及び28日目に再び行う。
【0158】
段階4:iNKT-CAR細胞の生成;任意選択の増殖:
21~28日目(基準が21日目に満たされたと仮定。適宜調整する):刺激(期間:1週間)
1.21日目に、細胞を収穫し、細胞生存率カウンターを使用して計数する(関連するエクセルシートに計数を記録する)。
a.穏やかにピペッティングすることによって細胞を収集してプレートから取り出し、コニカルチューブに移す。
b.4ウェル当たり2mLの冷細胞増殖培地(EM)、例えばThermoFisher社からOpTmizerの商品名で提供されている細胞増殖培地でウェルを洗浄し、プレートにまだ付着している細胞を取り出し、コニカルチューブに移す。
c.顕微鏡で確認し、必要に応じて冷EMで更に洗浄して、プレートから細胞を収集する。
d.0.2×10細胞のアリコートを分取し、フロー染色のために96ウェルV底プレートに播種する。
e.適量の細胞を分取して、段階4のために播種し、300gで10分間ペレット化する。
f.上清を吸引する。
g.2×10細胞/mLの細胞を、10ng/mLでIL-7及びIL-15を含むEMに再懸濁する。
2.所望の刺激方法(複数可)に応じて、以下の指示のサブセットに従う。iNKT-CAR細胞の最終濃度を、条件間で1×10mLに固定する。
a.刺激なし
i.10ng/mLでIL-7及びIL-15を含むEM培地で、細胞を1×10細胞/mLに希釈する。
ii.細胞を播種し、37℃、5%CO2でインキュベートする。
b.CD3/可溶性CD28コート
i.1.23μg/mLのCD3でプレートを37℃で2時間コートし、使用前にPBSで洗浄する。
ii.10ng/mLでIL-7及びIL-15を含むEMで、細胞を1×10細胞/mLに希釈する。
iii.可溶性CD28を細胞懸濁液に1μg/mLで添加する。
iv.細胞を播種し、37℃、5%CO2でインキュベートする。
c.可溶性CD3/可溶性CD28とPBMC
i.ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を解凍し、6,000radで照射する。
ii.10ng/mLでIL-7及びIL-15を含むEMに、PBMCを再懸濁する。
iii.iNKT-CAR細胞とPBMCを1:2~3(iNKT-CAR:PBMC)の比率で混合し、iNKT-CAR細胞の最終濃度が1×10細胞/mLになるようにする。
iv.可溶性CD3及び可溶性CD28を細胞懸濁液に1μg/mLで添加する。
v.細胞を播種し、37℃、5%CO2でインキュベートする。
d.StemCell Technologies社からImmunoCult Human CD3/CD28 T Cell Activatorの商品名で販売されている活性化剤などのCD3/CD28 T細胞活性化剤を供給する。
i.10ng/mLでIL-7及びIL-15を含むEM培地で、細胞を1×10細胞/mLに希釈する。
ii.CD3/CD28 T細胞活性化剤を細胞懸濁液に25μL/mLで添加する。
iii.細胞を播種し、37℃、5%CO2でインキュベートする。
e.StemCell Technologies社からImmunoCult Human CD3/CD28/CD2 T Cell Activatorの商品名で販売されている活性化剤などのCD3/CD28/CD2 T細胞活性化剤を供給する。
i.10ng/mLでIL-7及びIL-15を含むEMで、細胞を1×10細胞/mLに希釈する。
ii.CD3/CD28/CD2 T細胞活性化剤を細胞懸濁液に25μL/mLで添加する。
iii.細胞を播種し、37℃、5%CO2でインキュベートする。
f.aGC担持PBMC
i.ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を解凍する。
ii.2μg/mLのaGCを含むEMに10×10細胞/mLを再懸濁し、37℃、5%CO2で1時間インキュベートする。
iii.aGC担持PBMCを収集し、6,000radで照射した。
iv.細胞をEMで少なくとも2回洗浄して、未結合aGCを除去する。
v.10ng/mLでIL-7及びIL-15を含むEMにPBMCを再懸濁する。
vi.iNKT-CAR細胞とPBMCを1:2~3(iNKT-CAR:PBMC)の比率で混合し、iNKT-CAR細胞の最終濃度が1×10細胞/mLになるようにする。
vii.細胞を播種し、37℃、5%CO2でインキュベートする。
g.K562-CD80-CD83-CD137L-A2ESO人工抗原提示細胞(aAPC)。
i.培養物からaAPCを収集し、10,000radで照射する。
ii.iNKT-CAR細胞とaAPCを4:1(iNKT-CAR:aAPC)の比率で混合し、iNKT-CAR細胞の最終濃度が1×10細胞/mLになるようにする。
iii.細胞を播種し、37℃、5%CO2でインキュベートする。
h.K562-CD80-CD83-CD137L-A2ESO-CD1d人工抗原提示細胞(aAPC-CD1d)。
i.培養物からaAPCを収集し、10,000radで照射する。
ii.iNKT-CAR細胞とaAPCを4:1(iNKT-CAR:aAPC)の比率で混合し、iNKT-CAR細胞の最終濃度が1×10細胞/mLになるようにする。
iii.細胞を播種し、37℃、5%CO2でインキュベートする。
i.aGC担持K562-CD80-CD83-CD137L-A2ESO-CD1d人工抗原提示細胞(aAPC-CD1d)。
i.培養物からaAPCを収集する。
ii.2μg/mLのaGC(α-GalCer Prep SOPを参照)を含むEMに10×10細胞/mLで再懸濁し、37℃、5%CO2で1時間インキュベートする。
iii.aGC担持aAPCを収集し、10,000radで照射した。
iv.iNKT-CAR細胞とaAPCを4:1(iNKT-CAR:aAPC)の比率で混合し、iNKT-CAR細胞の最終濃度が1×10細胞/mLになるようにする。
v.細胞を播種し、37℃、5%CO2でインキュベートする。
3.24日目に、セルカウンターを使用して細胞を計数し(関連するエクセルシートに計数を記録する)、10ng/mLでIL-7及びIL-15を含むEMを使用して細胞を1×10細胞/mLに希釈する。必要に応じて培養容器に移す。PBMC又はaAPCを利用する場合、この時点で得られた細胞数は解釈がより困難であり得、この場合、細胞を乱すことなく培養培地の半分を慎重に除去し、10ng/mLでIL-7及びIL-15を含む等量の新しいEMを添加する。PBMC又はaAPCを含まない条件で希釈を必要としない場合も、この半分の培地交換を行う。
4.26日目に、細胞生存率カウンターを使用して細胞を計数し(関連するエクセルシートに計数を記録する)、10ng/mLでIL-7及びIL-15を含むEMを使用して細胞を1×10細胞/mLに希釈する。必要に応じて培養容器に移す。
5.28日目に細胞を収穫し、Vi-Cellを使用して計数する(関連するエクセルシートに計数を記録する)。
a.0.2×10細胞のアリコートを分取し、フロー染色のために96ウェルV底プレートに播種する。
b.0.2×10細胞のアリコートを分取し、更なるフロー染色のために96ウェルV底プレートに播種する。
c.1×10細胞のアリコートを分取し、10ng/mLでIL-7及びIL-15を含むEMを使用して細胞を1×10細胞/mLに希釈し、縦断的追跡のために播種する(任意選択のステップ、細胞凍結完了後に優先)。
d.残りの細胞を300gで10分間ペレット化し、上清を吸引する。
e.適量の凍結保存培地に、25~50×10細胞/mLとなるように再懸濁する。
f.1mL/クライオバイアルに分注し、適切に凍結し、凍結の24時間以内に液体窒素保存に移す。
【0159】
実施例5:HSCからのマルチTCR T細胞の生成
本実施例は、HSCからマルチTCR T細胞を生成するために使用される方法を提供する。これらの方法では、マルチTCR T細胞を生成するために第2のTCRが導入されるタイミングが異なる。しかしながら、プロトコルにおけるこの違いにもかかわらず、本実施例の各方法では、HSCを出発物質として約30日でマルチTCR T細胞を生成する。更に、本実施例の全ての方法は凍結保存ステップを含んでおり、これによりマルチTCR T細胞を必要に応じて迅速に生成すること、及び/又は必要な時に使用するために保存することができる。
【0160】
バージョン1
本方法の第1のバージョンでは、HSCをT細胞(この特定の実施例ではiNKT又はγδT細胞)に分化させ、その中に抗原指向性TCRを導入する。本方法のこのバージョンの大まかなステップは、図4に示される。
【0161】
最初に、方法は、TCR/CAR T細胞を生成するために、実施例1~4に概説されるものと同じ又は類似の方法で開始される。したがって、本方法は、前刺激ステップ、形質導入ステップ、及び/又は収穫ステップを含む初期段階403を含み得る。この初期形質導入ステップの結果は、第1のTCRをコードする核酸をHSCに導入することである。ここでも、実施例1~4の方法と同様に、本方法は、導入された第1のTCRを有するHSCをT細胞(例えば、iNKT又はγδT細胞)に分化させるステップ405を更に含む。実施例1~4と同様に、T細胞は、成熟ステップ407並びに増殖及び/又は活性化ステップ409に供される。本実施例では、増殖後、シングルTCR T細胞を凍結保存する。凍結保存及びその後の解凍の後、T細胞は第2ラウンドの形質導入を受け、その間に第2のTCRがT細胞に導入される。この場合、レンチウイルス形質導入を介して第2のTCRを導入した。この第2のTCRは、ESOがん-精巣抗原を特異的に標的とする。
【0162】
本方法の結果、HSCがiNKT細胞又はγδT細胞に形質転換し、該T細胞は、iNKT/γδTCRに加えて、がん抗原を特異的に標的とする第2のTCRも発現する。
【0163】
バージョン2
本方法の第2のバージョンのステップは、図5に示される。本方法のステップは、バージョン1と同様に進行する。ただし、本方法は柔軟であるため、増殖、活性化、及び/又は凍結保存の最終ステップは、第2の抗原特異的TCRの導入後、すなわち、21日目~34日目の間に行われる。
【0164】
バージョン3
本方法の第3のバージョンのステップは、図6に示される。これらのステップは、先の2つの方法と同じである。したがって、本方法は、前刺激ステップ、形質導入ステップ、及び/又は収穫ステップを含む初期段階603を含む。本方法は、導入された第1のTCRを有するHSCをT細胞(例えば、iNKT又はγδT細胞)に分化させるための1つ以上のステップ605を更に含む。実施例1~4と同様に、T細胞は、成熟ステップ607並びに増殖及び/又は活性化ステップ609に供される。ただし、本方法のこのバージョンでは、第2の標的特異的TCRが、約14日目、すなわち、T細胞成熟の前又は開始時に導入される。
【0165】
実施例6:γδマルチTCR抗原特異的T細胞の生成
HSCを使用して、図6に示される方法で概説したステップに従ってγδT細胞を生成した。簡単に述べると、HSCは、γδTCRを細胞に導入するレンチウイルス形質導入を受けた。細胞は分化ステップ605を受けた。分化後、得られたγδ(「GD-T」)T細胞は、ESOがん-精巣抗原を標的とするTCRを導入する第2のレンチウイルス形質導入を受けた。
【0166】
成熟後、得られたマルチTCR T細胞(γδTCR及びESO標的化TCRを有する)を、ESO抗原提示(ESOp担持)HLA-A2 PBMCとの接触を介して増殖/活性化した。
【0167】
特定の変型例において、PBMCをスクリーニングして、活性化/増殖抗原を十分に高いレベルで発現しているかどうかを決定することができる。図7は、該スクリーニングの結果を示す。図では、PBMC株D4105が最も高いHLA-A2発現を示した。したがって、マルチTCR T細胞を増殖させるために該株を選択した。
【0168】
図8の右パネルに示されるように、マルチTCR T細胞(GD-TCR/ESO-TCR)は、ESOp-PBMCとの接触により顕著な増殖を示した。対照的に、ESO-TCRを有しない細胞(「NTD」)は、PBCMとの接触による増殖をほとんど示さなかった。
【0169】
マルチTCR T細胞の効力を試験するために、HLA-A2-ESOを発現する標的細胞を生成した。このような株を3つ生成した。2株はヒト卵巣がん細胞株(SKOV3-luc及びOVCAR3-luc)に由来し、1株は多発性骨髄腫患者(MM.1S-luc)の末梢血に由来するものであった。細胞にESO抗原を発現させる導入遺伝子をこれらの株に形質導入した。これらの試験細胞株に関するデータを図9に示す。
【0170】
次いで、これらの細胞を使用して、マルチTCR T細胞の細胞傷害性効力及び特異性を測定した。簡単に述べると、マルチTCR T細胞を、各試験細胞株、及びESO抗原が形質導入されていない標的細胞親株に曝露した。同様に、本発明の方法を使用して生成したが、第2のESO特異的TCRを導入していないγδT細胞を、試験細胞株及び対照株に曝露した。全ての実験を繰り返したが、T細胞を、γδT細胞の活性化に寄与することが知られているアミノビスホスホネートゾレドロン酸(ZOL)と接触させることも追加した。図10及び図11は、これらのインビトロ殺傷アッセイの結果を示す。
【0171】
全ての標的細胞株にわたって、マルチTCR T細胞(ESO特異的TCRを含む)は、シングルTCR T細胞と比較した場合、ESO抗原発現標的細胞に対してより大きな細胞傷害効果を示した。これは、第2のTCRがγδT細胞に適切に導入されたこと、及び該T細胞が抗原特異的細胞傷害効果を有することを裏付けている。更に、全てのT細胞(すなわち、γδT細胞及びマルチTCR T細胞)において、ZOLとの接触により、T細胞の殺傷能力が増強された。これは、ZOLがγδT細胞を活性化することが知られており、マルチTCR T細胞がγδTCRを含むことから予想される。
【0172】
参照による組み込み
本開示全体を通して、特許、特許出願、特許公開、雑誌、書籍、論文、ウェブコンテンツなどの他の文書への参照及び引用がなされている。全てのそのような文書は、全ての目的のために、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0173】
均等物
本明細書に示され、記載されるものに加えて、本発明の様々な変更及びその多くの更なる実施形態は、本明細書に引用される科学文献及び特許文献への参照を含む本明細書の全内容から当業者に明らかになるであろう。本明細書の主題は、その様々な実施形態及びその均等物において本発明の実施に適合させることができる重要な情報、例示及び指針を含有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】