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特表2024-541867ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物ならびに1,4-ジオキサンのバイオレメディエーションのためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物ならびに1,4-ジオキサンのバイオレメディエーションのためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20241106BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20241106BHJP
   B09C 1/10 20060101ALI20241106BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20241106BHJP
【FI】
C12N1/20 F ZAB
C12P1/04 Z
B09C1/10
C02F3/34 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523417
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(85)【翻訳文提出日】2024-05-20
(86)【国際出願番号】 US2022078425
(87)【国際公開番号】W WO2023070028
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】63/270,543
(32)【優先日】2021-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
(71)【出願人】
【識別番号】306018457
【氏名又は名称】ザ・トラスティーズ・オブ・コロンビア・ユニバーシティ・イン・ザ・シティ・オブ・ニューヨーク
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】サンブロット,レイモンド
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4D004
4D040
【Fターム(参考)】
4B064AB08
4B064BJ08
4B064CA02
4B064CB11
4B065AA15X
4B065AA15Y
4B065BB04
4B065BC08
4B065BC21
4B065CA56
4D004AA41
4D004AB08
4D004AC07
4D004CA18
4D004CA19
4D004CC07
4D040DD03
4D040DD12
4D040DD14
4D040DD16
(57)【要約】
1,4-ジオキサン及び/またはペルフルオロアルキル及びポリフルオロアルキル化合物(PFAS)及び/またはBaPを効率的に分解し、他の環系有機汚染物質を効率的に分解することが可能な、Geobacillus sp.菌株を用いたバイオレメディエーションを実施するためのシステム及び方法が提供される。例示的なバイオレメディエーション方法には、過剰量の1,4-ジオキサン及び/またはPFAS及び/またはBaPを含む土壌に有効な分解量の細菌を投与する工程と、土壌に投与された細菌を、インキュベーションを促進し、かつ1,4-ジオキサン及び/またはPFAS及び/またはBaPの濃度を、規制機関によって指定され得る最大濃度未満まで低減させるのに好適な期間、所与の温度でインキュベートする工程と、が含まれる。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4-ジオキサン、及び/または、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、ペルフルオロペンタン酸(PFPeA)、ペルフルオロヘプタンスルホン酸(PFHpS)、ペルフルオロペンタンスルホン酸(PFPeS)、4:2フルオロテロマースルホン酸(4:2FTS)、6:2フルオロテロマースルホン酸(6:2FTS)、8:2フルオロテロマースルホン酸(8:2FTS)、ペルフルオロオクタンスルホンアミド(FOSA)、N-エチルペルフルオロオクタンスルホンアミド酢酸(NEtFOSAA)、N-メチルペルフルオロオクタンスルホンアミド酢酸(NMeFOSAA)、ペルフルオロブタン酸(PFBA)、ペルフルオロブタンスルホン酸(PFBS)、ペルフルオロデカン酸(PFDA)、ペルフルオロドデカン酸(PFDoA)、ペルフルオロデカンスルホン酸(PFDS)、ペルフルオロヘプタン酸(PFHpA)、ペルフルオロヘキサン酸(PFHxA)、ペルフルオロノナン酸(PFNA)、ペルフルオロノナンスルホン酸(PFNS)、ペルフルオロテトラデカン酸(PFTA)、ペルフルオロトリデカン酸(PFTrDA)、及びペルフルオロウンデカン酸(PFUnA)から選択される1つ以上のPFAS化合物を含む、土壌、堆積物、廃水、または吸着材のバイオレメディエーションのための方法であって、
バイオレメディエートされる前記土壌、堆積物、廃水、または吸着材に、Geobacillus midousuji、またはそれから誘導された変異体を投与する工程と、
前記土壌、堆積物、廃水、または吸着材中で、約1時間~約20日間の範囲の期間、約40℃~約70℃の範囲の温度、及び約80%~約100%の範囲の湿度で、前記Geobacillus midousujiをインキュベートする工程と、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記Geobacillus midousujiが、株SH2B(American Type Culture Collection(ATCC)番号55926)、株SH2A(ATCC番号202050)、またはこれらの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
インキュベーション後の前記土壌、堆積物、または廃水中の1,4-ジオキサンまたは前記PFAS化合物の濃度が、約100百万分率(PPM)未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
インキュベーション後の前記土壌、堆積物、または廃水中の1,4-ジオキサンまたは前記PFAS化合物の濃度が、約50PPM未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
インキュベーション後の前記土壌、堆積物、または廃水中の1,4-ジオキサンまたは前記PFAS化合物の濃度が、約20PPM未満である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記Geobacillus midousuji対前記土壌、堆積物、廃水、または吸着材の比が、約0.01w/w%~約1w/w%の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記比が約0.01w/w%~約0.1w/w%の範囲である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記比が約0.08w/w%~約0.15w/w%の範囲である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記比が約0.1w/w%である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
約60℃~約65℃の範囲の温度の好気的条件下、B複合ビタミン及びアミノ-Nを含む培地中で、前記Geobacillus midousujiを微量金属とインキュベートすることにより、前記Geobacillus midousujiは、前記土壌、堆積物、廃水、または吸着材でインキュベートする前に活性化されて対数期増殖に入る、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記Geobacillus midousujiとインキュベートする間、前記土壌、堆積物、廃水、または吸着材を、1日に少なくとも約1~約5回回転させる工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記土壌、堆積物、廃水、または吸着材中の前記Geobacillus midousujiが不活性化される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記土壌、堆積物、廃水、または吸着材中の前記Geobacillus midousujiの前記インキュベーションが、好気的条件下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記土壌、堆積物、廃水、または吸着材中の前記Geobacillus midousujiの前記インキュベーションが、嫌気的条件下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つのタンパク質産物を精製または採取することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記PFAS化合物が、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、ペルフルオロペンタン酸(PFPeA)、ペルフルオロヘプタンスルホン酸(PFHpS)、ペルフルオロペンタンスルホン酸(PFPeS)、6:2フルオロテロマースルホン酸(6:2FTS)、ペルフルオロブタン酸(PFBA)、ペルフルオロデカン酸(PFDA)、ペルフルオロヘプタン酸(PFHpA)、及びペルフルオロヘキサン酸(PFHxA)から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記Geobacillus midousuji、またはそれから誘導された変異体が、生物膜の形態で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記Geobacillus midousuji、またはそれから誘導された変異体が、静止期に、芽胞形態、プランクトン形態、生物膜形態、またはプランクトン形態と生物膜形態との組み合わせで投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記投与されたGeobacillus midousuji、またはそれから誘導された変異体が、固定膜バイオリアクター中に固定化された生物膜の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
Geobacillus midousuji、またはそれから誘導された変異体と、
約60℃~約65℃の範囲の温度の好気的条件下、B複合ビタミン及びアミノ-Nを含む培地中で、前記Geobacillus midousujiを微量金属とインキュベートすることにより、前記Geobacillus midousujiを、土壌、堆積物、廃水、または吸着材でインキュベートする前に活性化して対数期増殖に入れるための使用説明書を含む印刷物と、
1,4-ジオキサン、及び/または、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、ペルフルオロペンタン酸(PFPeA)、ペルフルオロヘプタンスルホン酸(PFHpS)、ペルフルオロペンタンスルホン酸(PFPeS)、4:2フルオロテロマースルホン酸(4:2FTS)、6:2フルオロテロマースルホン酸(6:2FTS)、8:2フルオロテロマースルホン酸(8:2FTS)、ペルフルオロオクタンスルホンアミド(FOSA)、N-エチルペルフルオロオクタンスルホンアミド酢酸(NEtFOSAA)、N-メチルペルフルオロオクタンスルホンアミド酢酸(NMeFOSAA)、ペルフルオロブタン酸(PFBA)、ペルフルオロブタンスルホン酸(PFBS)、ペルフルオロデカン酸(PFDA)、ペルフルオロドデカン酸(PFDoA)、ペルフルオロデカンスルホン酸(PFDS)、ペルフルオロヘプタン酸(PFHpA)、ペルフルオロヘキサン酸(PFHxA)、ペルフルオロノナン酸(PFNA)、ペルフルオロノナンスルホン酸(PFNS)、ペルフルオロテトラデカン酸(PFTeDA)、ペルフルオロトリデカン酸(PFTrDA)、及びペルフルオロウンデカン酸(PFUnA)から選択される1つ以上のPFAS化合物を含む、土壌、堆積物、廃水、または吸着材中で前記Geobacillus midousujiを使用するための使用説明書であって、前記土壌、堆積物、廃水、または吸着材が、約1時間~約20日間の範囲の期間、約40℃~約70℃の範囲の温度、及び約90%~約100%の範囲の湿度に維持される、前記使用説明書と、を含むキット。
【請求項21】
前記Geobacillus midousujiが、SH2B株(ATCC番号55926)、SH2A株(ATCC番号202050)、またはこれらの混合物である、請求項20に記載のキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる2021年10月21日出願の米国特許出願第63/270,543号に対する優先権を主張する。
【0002】
政府使用許諾権
本発明は、National Science Foundationから授与された助成金1927687の政府支援を受けて実施された。政府は、本発明において特定の権利を有する。
【0003】
本発明は、有毒な有機汚損物質(pollutant)で汚染された土壌及び堆積物に対する環境復元技術の分野に関し、より具体的には、Geobacillus sp.細菌株またはその強化されたバリアントを使用して汚染物質のレメディエーションを強化するためのシステム及び方法に関する。
【0004】
本発明はまた、1,4-ジオキサン及び/またはペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物(PFAS)で汚染された、土壌、堆積物、及び吸着材(例えば、市販の吸着材)、ならびに水及び地下水などの吸着材物質のバイオレメディエーションのための方法、より具体的には、Geobacillus sp.細菌株またはその強化されたバリアントを使用して汚染物質のレメディエーションを強化するためのシステム及び方法にも関する。
【背景技術】
【0005】
人間の産業活動により、大量の多様な汚損物質及び有毒な化合物が発生する。これらの中には、発がん性の多環芳香族炭化水素(PAH)、ならびにペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、GenX(ヘキサフルオロプロピレンオキシド二量体酸(HFPO-DA)フッ化物のアンモニウム塩)及び多くの他の化学物質を含む合成工業化学物質の群であるペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物(PFAS)が含まれる。PFASは1940年代から生産されており、現在では米国全土の土壌及び地下水サイトで発見されており、Environmental Protection Agency(EPA)により全ての曝露経路による人体への健康危険として分類されている。PFOA及びPFOSは環境中に残留し、人体に蓄積される。これらは至る所で使用されており、世界人口の大部分はその組織中に測定可能なレベルのPFASを有する。PFASは、乳児の出生体重の低下及び免疫系への影響など、健康に悪影響を及ぼすことが示されている。PFOAはヒトのがんに関与しており、PFOSはヒトの甲状腺機能を損なうことが示されている。
【0006】
PFASの発生源としては、食品包装、防汚性布地などの家庭用製品、及びTeflonなどの焦げ付き防止製品、ならびに消化剤の泡などが挙げられる。PFASは、特にPFASを使用する製造施設、埋立地、ならびに消防訓練施設、軍用航空機施設、及び民間空港がある地域で飲料水を汚染することが示されている。環境中のPFAS汚染に伴う最も深刻な問題は、日常的な訓練プログラムの一環としてこれらの化学物質を大量に使用してきた空港及び消火訓練施設に関連する。PFASは水溶性であり、土壌を介して移動し、地下水を汚染する。顕著な例は、Wurtsmith Air Force Base(Iosco County Michigan)からのこれまでの放出に関連する地下水汚染である。ここでは、PFASのプルームがヒューロン湖の付近まで到達している。
【0007】
PAHに汚染された土壌及び堆積物のレメディエーションは、通常は埋め立てまたは焼却による。地下水からPFASを除去する手段はほとんど存在しない。現在の解決策としては、ポルトランドセメント及びCetcoのFluoro-Sorbなどの吸収剤で障壁を組み立て、吸収剤をPFASに結合させてPFASを土壌層中に固定化し、PFASを封じ込めて地下水への移行を防ぐが、PFASを分解しないことが挙げられる。他の解決策としては、汚染された地下水を汲み上げてイオン交換樹脂で処理することが挙げられる。この樹脂はPFASで汚染された二次廃棄物流であり、典型的には地上で保管される。この処理により、地下水からPFASが除去されるが、分解されるわけではない。
【0008】
場合によっては、溶媒洗浄によって樹脂を再生して、高濃度のPFASを含む溶媒の溶出液を得ることができる。この汚染された溶出液は続いて地上で保管され、再び地下水を清浄化するが、PFASは分解されない。
【0009】
場合によっては、PFASは、水溶液を使用して再生可能な活性化ナノセルロースに結合され得る。この汚染された溶出液は続いて地上で保管され、再び地下水を清浄化するが、PFASは分解されない。
【0010】
場合によっては、PFASは熱処理によって除去され、揮発性化合物へと変換され得る。この蒸気は収集され、冷却され、凝縮され得る。この汚染された凝縮液は続いて地上で保管され、再び地下水を清浄化するが、PFASは分解されない。
【0011】
PFASを分解する手段はほとんど存在しない。高温で焼却するとPFASが分解されると言われているが、焼却炉の煙突の外側でPFAS分子の残留物が発見されており、耐火性となるように設計されたこれらの化合物は焼却による分解にも耐性があることを示唆している。
【0012】
汚損物質及び毒性化合物の中には1,4-ジオキサンも含まれる。1,4-ジオキサン(ジオキサン、p-ジオキサン、ジエチレンジオキシド、ジエチレンオキシド、ジエチレンエーテル、及びグリコールエチレンエーテルとしても知られている)は、米国全土の地下水サイトで発見されており、EPAにより全ての曝露経路による人体への発がん性がある可能性があると分類されている。2016年までに、1,4-ジオキサンはEPAの国家優先リスト(別称:スーパーファンドサイト)の複数のサイトで特定された。職業上の曝露限界値及び健康影響に基づく飲料水の指標値が、連邦当局及び州当局によって設定されている。汚染された食物及び水の摂取、皮膚接触、または蒸気の吸入によって曝露が生じる場合がある。飲料水に対する連邦政府の最大汚染物質レベルは設定されていないが、EPAは飲料水に対する1日、10日、及び全生涯の健康勧告レベルを算出している。EPAは、住宅地の空気スクリーニングレベルに加えて、住宅地及び産業地の土壌スクリーニングレベルも公表している。
【0013】
1,4-ジオキサンは、1,1,1-トリクロロエタン(TCA)などの特定の塩素系溶剤中で安定剤として広く使用されており、TCA汚染サイトに加えて、特定の溶剤放出サイトで見ることができる。1,4-ジオキサンは、医薬品の製造における精製剤としても使用される。1,4-ジオキサンは、シャンプー、デオドラント、及び化粧品などの一部の消費財、ならびに染料、グリース、不凍液、及び航空機用除氷液などの工業用化学物質中に存在する副産物である。更に、1,4-ジオキサンはポリエチレンテレフタレート(PET)プラスチックの製造における副産物であり、典型的にはPET製造施設で発見される。
【0014】
1,4-ジオキサンは水と完全に混和性であり、土壌から地下水へと容易に浸出することができ、地下水中を急速に移動することができる。飽和帯中で最も混和性の高い有機汚染物質の一つである1,4-ジオキサンは、溶媒プルームの先端よりも更に下り勾配であることが見出され得る。1,4-ジオキサンの存在は、関連する溶媒プルームの長さの2倍で記録されている。1,4-ジオキサンは土壌中の有機物質に対する親和性が低く、また溶解相から蒸気相に分配される可能性が低いため、地下水への移動及び地下水内での移動が促進される。
【0015】
これらの要因と、1,4-ジオキサンが地表下では生分解されにくいという発見とが相まって、大量のジオキサン地下水プルームに寄与している。例としては、Gelman Sciences Plantから広がってヒューロン川(Huron River)に接近し、アナーバー(Ann Arbor)の水道の脅威となる可能性があるゲルマンプルーム(Gelman plume)が挙げられる。ロングアイランド(Long Island)のベスページ(Bethpage)にあるNorthrop Grummanサイトから生じた大量の1,4-ジオキサン地下水プルームは、現在、全長4.3マイル、幅2.1マイル、及び深さが最大900フィートであり、地域の水道の脅威となっている。
【0016】
1,4-ジオキサンで汚染された地下水土壌は、典型的には、粒状活性炭吸着(GAC)と組み合わせた高度酸化処理によって処理される。高度酸化処理は、過酸化水素及び紫外線(UV)または過酸化水素及びオゾンで水を処理することを伴う。酸化は、ペルオキソン及び鉄活性化過硫酸塩酸化を使用して実施することもできる。酸化処理はエクスサイチュで実施することができ、ここでは水を反応器系に圧送し、得られた副産物をGAC処理によって除去することができ、処理済みの排出水を再注入することができる。
【0017】
この方法はインサイチュでも行うことができ、ここでは空気でスパージングした地下水に過酸化物が注入される。得られた副産物はバイオレメディエーションによって除去することができる。電気抵抗加熱、ならびにファイトレメディエーション及びバイオレメディエーションも1,4-ジオキサンの分解に使用されている。
【0018】
1,4-ジオキサンの好気的微生物分解は、少なくとも4つの細菌種、すなわちAmycolata sp.株CB1190、Mycobacterium vaccae、及びRhodococcus sp.の2つの株において説明されており、これらはジオキサンを主な増殖基質として使用することができる。ジオキサンの生分解の証拠は好気的系から得られる。更なる微生物株が、分解を起こすためにブタンまたはテトラヒドロフラン(THF)などの他の代謝産物が存在する必要のある、1,4-ジオキサンの共代謝分解を触媒することが示されている。Lowry Landfill Superfundサイトでは、1,4-ジオキサンとTHFとの共代謝分解のために常在微生物群が利用されている(DiGuiseppi et al.,Remediation J.,27(1):71-92,2016)。
【0019】
バイオレメディエーションの取り組みが成功する度合いは、使用される微生物の種類、及び毒性化合物を破壊または分解する能力に大きく左右される。しかし、現在のバイオレメディエーションのアプローチでは、処理可能な汚損物質の範囲が限定される。更に、分解生成物自体が毒性であり、追加の分解が必要になる場合もある。バイオレメディエーションのその他の制限は、(i)適切な処理計画を設計するために必要な複雑な科学的知識、(ii)酸素を必要とする菌株の分解を最適化するために好気的条件を維持することの難しさ、及び(iii)汚染物質の生物学的利用能である。
【0020】
PFAS化合物を含有する土壌、堆積物、水、及び吸着材をレメディエートするための改善された方法、特にPFAS及び1,4-ジオキサンなどの新たに出現した汚染物質を分解する改善された方法が、継続的に必要とされている。
【発明の概要】
【0021】
本発明者らは、1,4-ジオキサン及び/またはPFAS及び/または多環芳香族炭化水素(PAH)、より具体的にはベンゾ[a]ピレン(BaP)で汚染された地下水、土壌、及び堆積物、またはその他のマトリックス(吸着材など)を浄化し、1,4-ジオキサン及び/またはPFAS及び/またはベンゾ[a]ピレン(BaP)などのPAHを分解することのできるGeobacillus midousuji細菌を特定した。
【0022】
本開示は、1,4-ジオキサン及び/またはPFAS及び/またはベンゾ[a]ピレン(BaP)を含む、土壌、堆積物、廃水(例えば、地下水)、または吸着材のバイオレメディエーションのための方法を提供する。この方法は、(a)バイオレメディエートされる土壌、堆積物、廃水、または吸着材に、Geobacillus midousuji、またはそれから誘導された変異体(例えば、Geobacillus midousujiの分解活性を有する)を投与する工程と、(b)土壌、堆積物、または廃水中で、約1時間~約20日間の範囲の期間、約40℃~約70℃の範囲の温度、及び約80%~約100%の範囲の湿度で、Geobacillus midousujiをインキュベートする工程と、を含み得る。
【0023】
Geobacillus midousujiは、SH2B株(American Type Culture Collection(ATCC)番号55926)もしくはそれから誘導された変異体(例えば、その分解活性を保持している)、SH2A株(ATCC No.202050)もしくはそれから誘導された変異体(例えば、その分解活性を保持している)、またはそれらの混合物であり得る。
【0024】
特定の実施形態では、インキュベーション後の土壌、堆積物、廃水、または吸着材中のPFASの総濃度は、約100百万分率(PPM)未満、約50PPM未満、または約20PPM未満である。
【0025】
特定の実施形態では、インキュベーション後の土壌、堆積物、廃水、または吸着材中の1,4-ジオキサンの濃度は、約100百万分率(PPM)未満、約50PPM未満、または約20PPM未満である。
【0026】
特定の実施形態では、インキュベーション後の土壌、堆積物、廃水、または吸着材中のBaPの総濃度は、約100百万分率(PPM)未満、約50PPM未満、または約20PPM未満である。
【0027】
Geobacillus midousuji対土壌、堆積物、廃水、または吸着材の比は、約0.01w/w%~約1w/w%、約0.01w/w%~約0.1w/w%、約0.08w/w%~約0.15w/w%、または約0.1w/w%の範囲であり得る。
【0028】
特定の実施形態では、約60℃~約65℃の範囲の温度の好気的条件下、B複合ビタミン及びアミノ-Nを含む培地中で、Geobacillus midousujiを微量金属とインキュベートすることにより、Geobacillus midousujiは、土壌、堆積物、廃水、または吸着材でインキュベートする前に活性化されて対数期増殖に入る。
【0029】
この方法は、Geobacillus midousujiとインキュベートする間、土壌、堆積物、廃水、または吸着材を、1日に少なくとも約1~約5回回転させる工程を更に含み得る。
【0030】
一実施形態では、Geobacillus midousuji、またはそれから誘導された変異体は、静止期に、芽胞形態、プランクトン形態、生物膜形態、またはプランクトン形態と生物膜形態との組み合わせで投与される。
【0031】
別の実施形態では、Geobacillus midousuji、またはそれから誘導された変異体は、生物膜の形態で、土壌、堆積物、廃水、または吸着材に投与される。例えば、Geobacillus midousuji、またはそれから誘導された変異体は、固定膜バイオリアクター中に固定化され(例えば生物膜の形態で)、続いて土壌、堆積物、廃水、または吸着材と接触され得る。更に別の実施形態では、投与されたGeobacillus midousuji、またはそれから誘導された変異体は、固定膜バイオリアクター中に固定化された生物膜の形態である。
【0032】
一実施形態では、土壌、堆積物、廃水、または吸着材中のGeobacillus midousujiは不活性化される。
【0033】
土壌、堆積物、廃水、または吸着材中のGeobacillus midousujiのインキュベーションは、好気的条件下で行うことができる。土壌、堆積物、または廃水中のGeobacillus midousujiのインキュベーションは、嫌気的条件下で行うことができる。
【0034】
この方法は、少なくとも1つのタンパク質産物及び/または少なくとも1つの界面活性剤産物を精製または採取することを更に含み得る。
【0035】
本開示は、(i)Geobacillus midousuji、またはそれから誘導された変異体と、(ii)約60℃~約65℃の範囲の温度の好気的条件下、好適な培地(例えば、B複合ビタミン及びアミノ-N、ならびに微量金属を含む増殖培地など)の中で、Geobacillus midousujiをインキュベートすることにより、Geobacillus midousujiを、土壌、堆積物、廃水、または吸着材でインキュベートする前に活性化して対数期増殖に入れるための使用説明書を含む印刷物と、土壌、堆積物、廃水、または吸着材中でGeobacillus midousujiを使用するための使用説明書であって、土壌、堆積物、廃水、または吸着材が、約1時間~約20日間の範囲の期間、約40℃~約70℃の範囲の温度、及び約90%~約100%の範囲の湿度に維持される、使用説明書と、を含むキットを提供する。
【0036】
Geobacillus midousujiは、SH2B株(American Type Culture Collection(ATCC)番号55926)もしくはそれから誘導された変異体(例えば、その分解活性を保持している)、SH2A株(ATCC No.202050)もしくはそれから誘導された変異体(例えば、その分解活性を保持している)、またはそれらの混合物であり得る。
【0037】
本発明の一態様によれば、1,4-ジオキサン及び/またはPFAS及び/またはベンゾ[a]ピレン(BaP)を含む土壌のバイオレメディエーションのための方法が提供される。本方法は、バイオレメディエートされる土壌に、ATCC202050、ATCC55926、またはこれらの混合物の強化菌株である、指定されたATCC55926のSH2B株であるGeobacillus midousujiを、約0.01%~約1%の範囲の比(Geobacillus midousujiの湿重量対土壌の重量のw/w)で投与する工程を含む。この方法は、土壌中でGeobacillus midousujiをインキュベートする工程も含み、ここで土壌は、約1時間~約480時間の範囲の期間、約40℃~約70℃の範囲の温度及び約80%~約100%の範囲の湿度で維持される。
【0038】
別の態様によれば、ATCC202050、ATCC55926、またはこれらの混合物の強化菌株である、指定されたATCC55926のSH2B株であるGeobacillus midousujiを、約0.01%~約1%の範囲の比(Geobacillus midousujiの湿重量対土壌の重量のw/w)で含むキットが提供される。このキットは、約60℃~約65℃の範囲の温度の好気的条件下、好適な増殖培地(例えば、B複合ビタミン及びアミノ-N、ならびに微量金属を含む増殖培地)中でGeobacillus midousujiをインキュベートすることにより、Geobacillus midousujiを、土壌でインキュベートする前に活性化して対数期増殖に入れるための使用説明書を含む印刷物を更に含む。更に、このキットは、1,4-ジオキサン及び/または1つ以上のPFAS(本明細書に記載されるものなどの)及び/またはベンゾ[a]ピレン(BaP)を分解するためにGeobacillus midousujiを土壌中で使用するための使用説明書を含み、ここで土壌は、約1時間~約180時間の範囲の期間、約40℃~約70℃の範囲の温度及び約90%~約100%の範囲の湿度で維持される。別の実施形態では、この使用説明書には、Geobacillus株が約15℃~約35℃の範囲の雰囲気温度で添加され得ることが記載されている。
【0039】
これら及びその他の態様、特徴、及び利点は、添付される本発明の特定の実施形態の説明、ならびに添付の図面及び請求項から理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の1つ以上の実施形態による汚染物質のバイオレメディエーションのための例示的な方法を示すフロー図である。
図2】本発明の一実施形態による汚染物質のバイオレメディエーションのための例示的なシステムの側面図を示すブロック図である。
図3】本発明の1つ以上の実施形態による、ベンゾ[a]ピレン(BaP)及びPCBを含む土壌の分解実験のピーク高さ対保持時間の結果をプロットするグラフである。
図4】本発明の1つ以上の実施形態に従って調製された細菌ブロスの上清の2次元ゲル電気泳動の結果を示す画像である。
図5A】本発明の1つ以上の実施形態に従って調製された54kDaタンパク質バンドのマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間分析の結果を示すグラフを含む。
図5B】本発明の1つ以上の実施形態に従って調製された116kDaタンパク質バンドのマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間分析の結果を示すグラフを含む。
図6】本発明の1つ以上の実施形態に従って調製されたトリプチケースソイブロスから改質テリフィックブロスへと増殖培地を最適化することによって株細胞収量が向上することをグラフで示す、光学密度対インキュベーション時間をプロットした図である。
図7】モノオキシゲナーゼの酸化生体内変換反応の例、ならびにジオキシゲナーゼ及びペルオキシダーゼの酸化生体内変換反応の例の分子構造のグラフ表現である。
図8】Aは、Geobacillus SH2B株由来の使用済み培地の抽出物の分析結果を示す薄層クロマトグラフィー(TLC)プレートの写真を含む。Aのプレートは、リンモリブデン酸(PMA)で染色されており、レーン1のジラムノリピッド標準からのD3及びD4バンドと一致する、レーン2及び3の試料のバンドの存在を示している。Bは、Geobacillus SH2B株由来の使用済み培地の抽出物の分析結果を示す薄層クロマトグラフィー(TLC)プレートの写真を含む。Bのプレートは、プリムリンで染色され、紫外線下で撮影されており、レーン2のジラムノリピッド標準からのD3及びD4バンドと一致する、レーン3及び4の試料のバンドの存在を示している。Cは、Geobacillus SH2B株由来の使用済み培地の抽出物の分析結果を示す薄層クロマトグラフィー(TLC)プレートの写真を含む。Cのプレートは、アントロンで染色されており、レーン2のジラムノリピッド標準からのD3及びD4バンドと一致する、レーン3及び4の試料のバンドの存在を示している。
図9】Aは、汚染された地下水からのPFASが蓄積された使用済み吸着材から抽出された特定のPFAS化合物の濃度を十億分率(ppb)単位で示す棒グラフである。実施例1に記載の対照またはGeobacillus midousuji SH2Bで処理してから48時間または72時間後に、最も高濃度で存在する4種のPFAS(PFHxS、PFOA、PFOS、及びPFPeA)をAに示す。Bは、汚染された地下水からのPFASが蓄積された使用済み吸着材から抽出された特定のPFAS化合物の濃度を十億分率(ppb)単位で示す棒グラフである。実施例1に記載の対照またはGeobacillus midousuji SH2Bで処理してから48時間または72時間後に、中濃度で存在する2種類の形態のPFAS(PFHpS、PFPeS)をBに示す。Cは、汚染された地下水からのPFASが蓄積された使用済み吸着材から抽出された特定のPFAS化合物の濃度を十億分率(ppb)単位で示す棒グラフである。実施例1に記載の対照またはGeobacillus midousuji SH2Bで処理してから48時間または72時間後に、低濃度で存在する18種類の他の形態のPFASをCに示す。
図10】Aは、汚染された地下水からのPFASが蓄積された使用済み吸着材からの特定のPFAS化合物の含有量を示す棒グラフである。実施例2で説明したように、Geobacillus midousuji SH2Bでの処理後、または処理なし(対照)で、最も高濃度で存在する6種のPFAS(PFHxS、PFOA、PFOS、6:2DTS、PFHxA、及びPFPeA)をAに示す。Bは、汚染された地下水からのPFASが蓄積された使用済み吸着材からの特定のPFAS化合物の含有量を示す棒グラフである。実施例2で説明したように、Geobacillus midousuji SH2Bでの処理後、または処理なし(対照)で、より低濃度で存在する18種の形態のPFASをBに示す。
図11】Geobacillus midousuji SH2B(処理1、2、及び3)で98時間処理したPFOS溶液中の総有機フッ素(TOF)濃度を十億分率(ppb)単位で示すグラフであり、細菌を添加していない対照の結果は黒丸で示されている。
図12】実施例5で説明するとおり、Geobacillus midousuji SH2B(T1、T2、及びT3)で8時間処理した後、または処理なし(対照)の水溶液中の1,4-ジオキサンの濃度を示す棒グラフである。
図13】実施例6で説明するとおり、Geobacillus midousuji SH2Bで28時間処理した後、または処理なし(対照)の水溶液中の1,4-ジオキサンの濃度を示す棒グラフである。
図14】28時間のインキュベート期間中の実施例6の処理済み試料及び対照試料の600nmで測定された光学密度(OD)のグラフである。
図15】実施例7に記載のGeobacillus midousujiによって形成された生物膜の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本出願は、国際公開第2020/214890号及びその優先権出願である2019年4月17日出願の米国特許出願第62/835,148号を参照により組み込んでいる。
【0042】
概説及び導入部として、本発明のシステム及び方法は、Geobacillus sp細菌株、例えばGeobacillus midousuji細菌株SH2B(ATCC受託番号55926)及び/または株SH2A(ATCC番号202050)を用いてバイオレメディエーションを実施することを目的とする。
【0043】
Geobacillus midousuji細菌は、化学合成、グリーンケミストリー、またはバイオレメディエーションの用途において、強力な反応物質の代替として使用できる、化学的及び生物学的に活性な様々な分子を生成する。これらの化合物には、界面活性剤及びプロテアーゼ、ならびにエナンチオ特異的反応、または化学系もしくは生物系における活性酸素種の抑制に使用できるその他の酵素が含まれる。この細菌は、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、多環芳香族炭化水素(PAH)、及びペルフルオロ化合物(例:ペルフルオロオクタン酸またはPFOA)を含む化学廃棄物のレメディエーションに使用され得る。反応は、好気的条件または嫌気的条件のどちらでも幅広い温度範囲で実行できるため、現在のレメディエーションのコストを大幅に削減できる可能性を持つ。
【0044】
1つ以上の実施形態によれば、Geobacillus midousuji細菌の様々な株を使用して、土壌及び堆積物または水道もしくは吸着材などの他の汚染されたマトリックスから、1,4-ジオキサン及び/またはPFAS、ならびに多環芳香族炭化水素(PAH)、より具体的にはベンゾ[a]ピレン(BaP)を浄化することができる。浄化は好気的条件または嫌気的条件のどちらでも行うことができるため、レメディエーションのコストが低下する。本明細書に開示される実施形態はまた、Geobacillus midousujiを用いたバイオレメディエーションによって処理可能な汚損物質の範囲を拡大する。開示された実施形態は、とりわけ、Geobacillus midousujiの応用範囲を、エナンチオ特異的反応、界面活性剤及びプロテアーゼ、ならびに化学系及び生物系における活性酸素種の抑制まで拡大すること、1,4-ジオキサン及び/またはPFAS、ポリ塩化ビフェニル、ベンゾ[a]ピレン(BaP)を含む多環芳香族炭化水素、ならびにペルフルオロ化合物を含む化学廃棄物を効果的にレメディエートすること、一定の温度範囲(40~70℃)にわたり好気または嫌気的条件のいずれかで化学廃棄物を効果的にレメディエートすること、地下水中の汚染物質の水相をレメディエートするための充填床カラムでの使用が可能であること、ならびにレメディエーションコストを低減することが挙げられる、様々な有益な結果を達成する。
【0045】
本方法では、Geobacillus midousuji細菌を、土壌、堆積物、廃棄物(例えば、廃水)、または吸着材とともに、酸素または硝酸塩(NO )下でインキュベートすることができる。吸着材は、例えば水溶液からの1,4-ジオキサン及び/またはPFAS及び/またはベンゾ[a]ピレン(BaP)を結合するために使用される材料であり得る。例えば、吸着材はイオン交換樹脂またはセルロース材料(例えば、活性化ナノセルロース)であり得る。
【0046】
本発明の方法によって分解可能なPFAS化合物としては、カルボン酸、スルホン酸、及び炭酸類、例えば、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、ペルフルオロペンタン酸(PFPeA)、ペルフルオロヘプタンスルホン酸(PFHpS)、ペルフルオロペンタンスルホン酸(PFPeS)、ペルフルオロブタン酸(PFBA)、ペルフルオロブタンスルホン酸(PFBS)、ペルフルオロデカン酸(PFDA)、ペルフルオロドデカン酸(PFDoA)、ペルフルオロデカンスルホン酸(PFDS)、ペルフルオロヘプタン酸(PFHpA)、ペルフルオロヘキサン酸(PFHxA)、ペルフルオロノナン酸(PFNA)、ペルフルオロノナンスルホン酸(PFNS)、ペルフルオロテトラデカン酸(PFTAまたはPFTeDA)、ペルフルオロトリデカン酸(PFTrDA)、及びペルフルオロウンデカン酸(PFUnA);フルオロテロマー類、例えば、4:2フルオロテロマースルホン酸(4:2FTS)、6:2フルオロテロマースルホン酸(6:2FTS)、及び8:2フルオロテロマースルホン酸(8:2FTS);スルホンアミド類、例えば、ペルフルオロオクタンスルホンアミド(FOSA)、前駆体化合物類、例えば、N-エチルペルフルオロオクタンスルホンアミド酢酸(NEtFOSAA)、及びN-メチルペルフルオロオクタンスルホンアミド酢酸(NMeFOSAA);ならびに代替化合物類、例えば、ヘキサフルオロプロピレンオキシド二量体酸(HFPO-DA-GenX)が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、土壌、堆積物、廃棄物(例えば、廃水)、または吸着材としては、前述のPFAS化合物の1つ以上が挙げられる。別の実施形態では、土壌、堆積物、廃棄物(例えば、廃水)、または吸着材としては、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、ペルフルオロペンタン酸(PFPeA)、ペルフルオロヘプタンスルホン酸(PFHpS)、ペルフルオロペンタンスルホン酸(PFPeS)、6:2フルオロテロマースルホン酸(6:2FTS)、ペルフルオロブタン酸(PFBA)、ペルフルオロデカン酸(PFDA)、ペルフルオロヘプタン酸(PFHpA)、及びペルフルオロヘキサン酸(PFHxA)から選択される1つ以上のPFAS化合物が挙げられる。
【0047】
多環芳香族炭化水素(PAH)は、発がん性形態を含む環境汚損物質の一種である。これらは、有機物質の不完全燃焼、特に石油製品の燃焼によって生成される。
【0048】
PAHのうち、ベンゾ[a]ピレン(BaP)は強力な発がん性物質であり、タバコの煙、加工肉、ならびに汚損された水、土壌、及び空気中に高濃度で見出される(https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/benzo-a-pyrene(2018年12月5日取得)。これらの細菌株を使用する本明細書に開示されるシステム及び方法は、より毒性の高いPAH汚損物質の1つであるBaPを効果的に分解することが可能である。更に、本明細書で使用される細菌は、人体の健康にも有害な他の環系有機汚染物質を効率的に分解することが可能である。PAHは、2つ以上の縮合芳香族環を持つ有機化合物の大きなグループである。これらは、水への溶解性は比較的低いが、親油性は非常に高い。典型的に発がん性物質である可能性があるとみなされる8つのPAH(Car-PAH)は、ベンゾ(a)アントラセン、クリセン、ベンゾ(b)フルオランテン、ベンゾ(k)フルオランテン、ベンゾ(a)ピレン(BaP)、ジベンゾ(a,h)アントラセン、インデノ(l,2,3-cd)ピレン、及びベンゾ(g,h,i)ペリレンである。US Environmental Protection Agency(EPA)は、重要汚損物質として16種類の非置換PAH(EPA-PAH)を公布した。(Srogi,Monitoring of environmental exposure to polycyclic hydrocarbons:a review,Environ Chem Lett 5:169-195(2007))。
【0049】
更に、1つ以上の実施形態によれば、本明細書に記載の細菌は、土壌及び堆積物中のPCB、ダイオキシン、及び塩素化合物;地下水中のジオキサンの処理に使用することができる。更に、1つ以上の実施形態によれば、この細菌類は、以下を含む、更に多くの種類の塩素系溶剤及びその他の扱いが困難な化合物を効率的にレメディエートすることが可能である:ダイオキシン及びフラン(試験では、振とうフラスコ及びベンチスケール実験に基づいて、6日間でダイオキシンレベルが60%減少したことが示されている)、PCB(試験では、実験室及びスケールアップ実験に基づいて、6日間でPCBレベルが50%減少したことが示されている)、PAH(試験では、48時間でBaPが95%減少するなど、PAHが急速に減少したことが示されている)、BTEX(試験では、BTEX成分(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、及びキシレン)の濃度が減少したことが示されている)、ならびに塩素系溶剤(RCRA-US Federal Resource Conservation and Recovery Act(https://www.epa.gov/rcra(2020年4月15日取得))。
【0050】
Geobacillus midousuji(例えば、SH2B株(ATCC番号55926)及び/またはSH2A株(ATCC番号202050))は、土壌、堆積物、水(例えば、地下水及び廃水)、及びその他の汚染されたマトリックス、例えば吸着材などの汚染物質を含む環境状況において、PFAS及びBaPを効果的に分解することができる。本文全体を通して使用される「細菌」という用語は、Geobacillus midousujiのみならず、より一般的には、有意な汚染物質分解能力を有することが判明している任意の他の細菌種も指す。Geobacillus midousujiの例としては、SH2B株(ATCC受託番号55926)、及び/またはSH2A株(ATCC受託番号202050)が挙げられる。本発明の実施形態は、バイオレメディエーションを通じて汚損物質を処理するための好気的な解決策及び嫌気的な解決策の両方を提供することができる。本明細書で提供される方法及びシステムは、レメディエーションのコストを削減し、エネルギーコストを削減し、汚損物質標的の幅を拡大し、無細胞の分解系を提供し、かつキットで使用することができる。
【0051】
特定の例示的な実施形態及び試験が、主にGeobacillus midousuji由来の特定の株、例えばATCC受託番号55926のSH2B株に基づいて示されかつ説明されている限り、本発明は必ずしもそれほど限定されるものではない。例えば、ATCC受託番号202050のSH2A株を使用した構成では有益な結果が示唆されている。Geobacillus midousujiに関する考察、及び微生物ATCC55926または202050を含む物質分解の例示的なアプローチは、米国特許第6,420,165号明細書及び同第6,190,903号明細書に示され、かつ説明されている。本明細書で参照されるGeobacillus株の寄託の詳細は、(i)Budapest Treaty for The International Recognition Of The Deposit Of Microorganisms For The Purposes Of Patent Procedureの規定に基づいて1997年1月21日にAmerican Type Culture Collection(ATCC)(12301 Parklawn Drive,Rockville,Md.20852,U.S.A.)に寄託された細菌株Bacillus midousuji SH2Aである。細菌株SH2Aは、ATCC受託番号55926も付与されており、(ii)Budapest Treaty for The International Recognition Of The Deposit Of Microorganisms For The Purposes Of Patent Procedureの規定に基づいて1997年10月24日にAmerican Type Culture Collection(ATCC)(12301 Parklawn Drive,Rockville,Md.20852,U.S.A.)に寄託された細菌株Bacillus midousuji SH2Bである。細菌株SH2Bは、ATCC受託番号202050も付与されている。
【0052】
上記の細菌株によって分解される有機物質としては、プラスチック、具体的にはポリエチレンが挙げられるが、これに限定されるものではない。特定の一実施形態では、ポリエチレンは、分解プロセスを促進するために、細菌株による処理の前に照射線を照射されてもよい。具体的には、このような実施形態では、ポリエチレンに紫外線を照射することができる。
【0053】
上記の細菌株によって分解される有機物質には、タンパク質、具体的には家庭、及び食品加工、農業、酪農、または漁業などの産業の廃棄物も含まれる場合がある。具体的な例としては、木材パルプ、紙製品、貝類、コーヒー豆のかす、マグロの頭部、イカ、及びこれらの産業のその他の副産物が挙げられるが、これらに限定されない。更に、台所廃棄物もこれらの細菌によって分解され得る。台所廃棄物としては、紙製品、貝類、コーヒー豆のかす、マグロの頭部、イカ、ならびに台所のゴミ箱、ゴミ捨て場、及びその他の消費者廃棄物中に見られるその他の副産物が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0054】
糖を含む有機物質は、上記の方法によって分解することができる。具体的には、このような糖としては、マンノース、マルトース、トレハロース、フルクトース、及びラフィノースが挙げられるが、これらに限定されない。これらの糖の多くは台所の廃棄物の中で見ることができ、これらは食品加工産業及び果実など農産業の副産物である。
【0055】
有機物質にはアミノ酸系の化合物も含まれる。これらの化合物は、天然または合成のタンパク質、ポリペプチド、ペプチドである可能性がある。有機物質には、核酸分子、具体的にはデオキシリボ核酸分子も含まれる場合がある。これらの細菌株におけるDNAアーゼ活性が説明されている。米国特許第6,420,165号。
【0056】
本発明の方法及び組成物は、廃棄物を処理するために使用することができる。廃棄物は、産業廃棄物、農業廃棄物、人間の都市廃棄物、肥料、家庭下水、及び産業廃水である場合がある。廃棄物は、製造ガスプラントの廃棄物、煤煙、または使用済み石油製品である場合がある。廃棄物は、有機物の不完全燃焼によって生成される場合がある。
【0057】
本発明の方法は、酵素、プロテアーゼ、1-ピロリンカルボキシレートデヒドロゲナーゼ(P5C)、アコニット酸ヒドラターゼ(アコニターゼ)、ジオキシゲナーゼなどの化学的及び/または生物学的に活性であり得る少なくとも1つのタンパク質産物を生成することができる。タンパク質産物(複数可)は、エナンチオ特異的反応に使用することができる。タンパク質産物(複数可)は、エナンチオ特異的酵素、界面活性剤、及び/または化学系及び/または生物系において活性酸素種を抑制するための薬剤であり得る。
【0058】
例示的なバイオレメディエーション方法:
図1は、本発明の1つ以上の実施形態による汚染物質のバイオレメディエーションのための例示的な方法100を示すフロー図である。方法100の工程は、物質を元の位置から移動させることなしにインサイチュで実施することもでき、土壌、堆積物、水などを元の位置または用地から除去した後にエクスサイチュで実行することもでき、または前述のいずれかの組み合わせでもよい。
【0059】
インサイチュのバイオレメディエーションは、土壌を別の位置に移動させることのない、地中の土壌のレメディエーションを伴う。例示的な方法100は、例えば汚染物質の元の位置の近くで、またはいくらか離れた指定された土壌レメディエーション現場で、エクスサイチュで実行することもできる。エクスサイチュのバイオレメディエーションは、掘削された土壌をライニングされた地上の処理エリアに配置する生物学的プロセスである。レメディエーションゾーン内での微生物培養物の育成は、酸素の存在下、すなわち好気的条件下でも、酸素なし、すなわち嫌気的条件下でも行うことができる。インキュベーション条件は、分解を必要とする汚染物質の性質及びその環境状況に応じて変化する場合がある。前述のように、Geobacillus midousuji(ATCC55926)SH2B株は、1,4-ジオキサン、PFAS、及びBaPが挙げられるがこれらに限定されない汚損物質を処理するための好気的溶液または嫌気的溶液の両方を提供することができる。大半の汚染物質の場合で好ましい実施形態は、好気的条件下で微生物のインキュベーションを行うことであるが、これは、典型的には汚染物質の分解速度がより速いためである。
【0060】
工程105で、レメディエーションを必要とする汚染土壌の体積または重量が得られる。例示の目的のために、方法100は、1,4-ジオキサン及び/またはPFAS、ならびに任意選択的にBaPで汚染された土壌をインサイチュでレメディエートすることを背景として説明されている。図2は、本発明の1つ以上の実施形態による例示的なバイオレメディエーション方法100が実施される例示的なシステム200を更に示す。具体的には、図2は、土壌210及び周囲の地面215の体積の断面を示すシステム200の側面図である。
【0061】
工程105には、本明細書で更に説明するように、レメディエーションプロセスの後続の工程に情報を提供するために使用され得るベースライン土壌特性を決定するために、土壌体積の特定の特性を測定することが含まれる場合がある。測定値は、例えば、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、GC質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)、飛行時間型イオン質量分析(TOF-SIMS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-ToF MS)、ゲノミクス及びメタゲノミクスのための遺伝子増幅及び遺伝子配列決定、トランスクリプトミクスのためのcDNAの次世代配列決定、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)、及びその他の方法を用いた、pH、酸化還元電位(ORP)、ならびに汚染物質及び生物学的環境の測定を含む、当該技術分野で既知の測定装置(図示せず)及び技術を使用して収集することができる。https://www.atsdr.cdc.gov/toxprofiles/tp69-c6.pdf(2021年10月20日取得)。土壌から得られる測定値には、少なくとも1,4-ジオキサン、PFAS、BaP、またはその他の対象の汚染物質の濃度が含まれることが好ましい。その他の測定されるパラメータとしては、水分含有量、土壌のサイズ分布、土壌の温度、及び通気レベルが挙げられる。特性のうち1つ以上が、レメディエーションの前、その最中、またはその後に測定可能であることを理解されたい。堆積物、水、空気などの環境中の汚染物質の存在に関するその他の測定値も、土壌に対して実施したものと同様の方法で取ることが可能である。
【0062】
工程105には、レメディエーション用に土壌210を調製する工程が更に含まれ得る。土壌の調製は、当該技術分野で既知の装置及び技術を使用して実施可能である。土壌の調製は、例えば土壌の特性が土壌の効果的なバイオレメディエーションに適していることを確実にするために、測定された土壌の特性に応じて実施することが可能である。例えば、土壌または堆積物の調製は、数インチを超える大きさの岩及び破片を取り除くために材料をふるい分けすること、最適な湿度条件を提供するために土壌に散水するかまたは乾燥させること、ならびに酸または塩基で土壌のpHを調整することを含み得る。
【0063】
工程110では、バイオレメディエーション細菌であるGeobacillus midousujiを土壌に投与する。より具体的には、一実施形態では、ATCC受託番号55926のSH2B株は、土壌のバッチに細菌を散布または混合するなどの、当該技術分野で既知の技術を使用して投与することができる。好ましくは、有効な分解量の細菌が土壌に投与される。例えば、細菌対土壌の比は、約0.001%~約1%(Geobacillus midousujiの湿重量対土壌の重量のw/w)、より好ましくは約0.01w/w%~約0.1w/w%の範囲であり得る。その他の範囲としては、0.05~0.5w/w%、0.02%~0.6%、及び1%~5%が挙げられる。
【0064】
細菌は、土壌中の1,4-ジオキサン及び/またはPFAS、ならびに任意選択的にBaPの量を、政府の規制機関によって義務付けられた許容レベルまで分解するのに適した量で投与することができる。例えば、U.S.Environmental Protection Agency(EPA)は、住宅地及び産業地の土壌におけるBaPの地域選別水準(regional screening level、RSL)を定義している。米国EPAは、そのIntegrated Risk Information System中で最新のBaP毒性値を公開しており、公開時点では、住宅地及び産業地土壌の最新のRSLは、それぞれ0.11mg/kg(ppm)及び2.1mg/kg(ppm)であると記載している(https://www.epa.gov/iris(2021年10月20日取得))。更なる例として、EPAのIRISサイト(https://www.epa.gov/risk/regional-screening-levels-rsls-generic-tables(2021年10月20日アクセス)を使用すると、表の「がん(Cancer)」列の「住宅地(residential)」及び「複合労働者土壌(Composite worker soil)」で、0.1のTHQを使用して、これらの集団のSLがそれぞれ1.8mg/kg(ppm)及び22mg/kg(ppm)であることが確認されている。RSLモデルを使用すると、RSLは住宅地土壌で1.78mg/kg(ppm)であり、建設現場土壌で66mg/kg(ppm)である。米国EPAが定義するPFASのRSLはまだ決定されていないが、飲料水中のPFOS及びPFOAに0.027~300一兆分率(ppt)の規制限度を設定する州が増えている。欧州の様々な機関も同様のガイドラインを採用している。米国EPAは、地下水中の1,4-ジオキサンのRSLを94一兆分率(ppt)と定義している。
【0065】
したがって、投与される細菌の量は、土壌中の1,4-ジオキサン及び/またはPFAS、ならびに任意選択的にBaPのレベル、のみならずレメディエーション後の目標レベルの関数となり得、例えば、10mg/kg(PFASまたはBaPの重量/土壌重量)の土壌には、2.1mg/kg(PFASまたはBaPの重量/土壌重量)の土壌よりも多くの細菌が使用されることになる。投与される細菌の量は、他の土壌汚染物質(複数可)の存在、上記の汚染物質(複数可)を分解するために使用される特定の微生物培養物(複数可)、特定のバイオレメディエーションアプローチ、及び土壌のその他の特性によっても変化し得る。一実施形態では、土壌に投与される細菌の量は、土壌の重量に対して約0.01%の重量のGeobacillus midousujiから1%超までの範囲内であり得る。細菌の初期播種量は、土壌または堆積物中のより高い濃度の1,4-ジオキサン及び/またはPFAS及び/またはBaPに対応できるように、増やすこともできる。土壌処理用の細菌の調製もまた変化し得る。細菌は、土壌に播種する前にまず対数増殖期に至らせることもでき、あるいは細菌は、まだ休眠期にある間に保管庫から土壌に適用することもできる。
【0066】
本開示を考慮すれば、本明細書に記載される「有効な分解量」の決定は、当業者の知識の範囲内であり、対象の廃棄物を効率的に分解するために必要な細菌の量を決定するために、他の様々な方法を使用してもよい。1,4-ジオキサン及び/またはPFAS及び/またはBaPならびにGeobacillus midousujiの場合、1,4-ジオキサン及び/またはPFAS及び/またはBaPの量は、当該技術分野で既知の任意の技術、例えば、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高圧液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー(GC)、GC質量分析(GC-Mass Spec)、飛行時間型イオン質量分析(TOF-SIMS)を用いて決定することができる。「有効な」または「有効な分解量」という用語は、特定の実施形態では、米国EPAなどの政府機関によって設定された標準レベルを指す場合がある。
【0067】
次に、工程115で、バイオレメディエーション細菌が添加された土壌の体積がインキュベートされる。1,4-ジオキサン及び/またはPFAS及び/またはBaPの分解を促進する細菌のインキュベーションには、特定の環境条件が必要となる場合がある。例えば、Geobacillus midousuji細菌株(ATCC受託番号55926)SH2B株及び/または(ATCC202050)SH2A株を40℃~70℃でインキュベートすることが好ましい場合がある。好ましいインキュベーション条件を維持することにより、インキュベーション、ならびにひいては1,4-ジオキサン及び/またはPFAS及び/またはBaPの分解が促進され得る。したがって、工程115には、図2に示すように、例えばプラスチックライナーまたは一時的な温室型囲い220を使用して、処理エリアを少なくとも部分的に囲い込むことが含まれ得る。工程115には、インキュベーション期間中に土壌の目標温度が維持されるように囲い内の雰囲気温度を制御することも含まれ得る。工程115には、当技術分野で既知の手法を使用して囲い220内の環境、より一般的には土壌210内及びその周囲の環境に空気及び/または酸素及び水分を供給することも含まれる場合があるため、かかる任意の技術を方法200と関連して使用することができる。
【0068】
土壌の調製は、好気的または嫌気的、低pHまたは高pHなどの特定のバイオレメディエーション手法に応じて変化し得る。土壌の調製は、土壌汚染物質(複数可)の種類、または当該汚染物質(複数可)を分解するために使用される細菌培養物(複数可)の種類に応じても変化し得る。
【0069】
インキュベーションは、適用された細菌による汚染物質の効果的な分解に適した時間だけ実行することもできる。例えば、Geobacillus midousuji細菌株(ATCC受託番号55926)SH2B株及び/または(ATCC202050)SH2A株は、約1時間~約40日間の範囲の期間、約80%~約100%の範囲の湿度で、土壌と共にインキュベートされ得る。所定の時間は、土壌の状態、汚染物質のレベル、適用される細菌の量、その分解速度、及び所望の最終的な汚染物質レベル、ならびに環境条件などのパラメータに基づいて事前に決定できる。インキュベーションの期間は、問題の汚染物質(複数可)の推定分解速度の関数としても定義でき、また、後に1,4-ジオキサン及び/またはPFAS及び/またはBaPなどの汚染物質の残留濃度を測定することによっても確認できる。
【0070】
更に、汚染物質のさらなる除去をもたらすために、工程105~115の1つ以上の態様をインキュベーション中に繰り返すことができることも理解されたい。また、インキュベーション中に、当該技術分野で既知の技術を使用して土壌の体積を定期的に回転させることにより、曝気を行うことができる。一実施形態では、回転は1日に1回実施することができ、オーガー、園芸用耕運機、バックホー、シャベル、または当該技術分野で既知のその他の土壌処理装置を使用して土壌を混合することを伴うことができる。回転は、材料を回転チャンバー内でインキュベートすることにより、連続的に行うこともできる。
【0071】
土壌のインキュベーションには、土壌の含水量を最適なレベルに保ち、ひいては汚染物質の分解速度を最大速度に維持するように、定期的に土壌に散水することが必要になる場合がある。
【0072】
更に、インキュベーション中に、細菌及び/または土壌汚染物質の濃度、及び/または土壌または環境の他の測定可能な状態を、少なくとも定期的に、例えば、1、2、3、4、5、10、20、30、40、50、100、もしくは180時間ごとに、または必要に応じてより頻繁に測定及び監視することができる。より好ましくは、状態は12、24、48、96、または192時間ごとに監視することができる。したがって、細菌による汚染物質の分解を促進できるように、監視された条件に基づいてインキュベーション中に動的な調整を行うことができる。例えば、プロセスロスを調整するために追加量の細菌を再投与して土壌体積内に分配することができ、また、土壌のpHを最適な範囲内に維持することができる。
【0073】
バイオレメディエーション方法200の工程は、制御システムを使用して実行することができる。制御システムは、バイオレメディエーションシステム200の動作を積極的に監視し、動的に制御して、動作及び効率を向上させるように構成することができる。例えば、システムの前述の動作入力パラメータ及びリアルタイム条件の1つ以上を、動作前及び/または動作中に制御システムを使用して、測定、監視、及び分析することができる。したがって、制御システムは、バイオレメディエーションシステムの効率を最適化できるように、特定の制御可能なシステムパラメータを定義または調整することができる。
【0074】
更に、図1に示すように、方法100は、インキュベーションの後で土壌を処理する工程120を更に含むことができる。インキュベーション後の処理は、微生物集団による汚染物質の分解を促進するために実行することができる。インキュベーション後の処理は、バイオレメディエーションプロセスの任意の副産物の分解を増進するために実施することもできる。100℃超の加熱などのインキュベーション後の処理を、最初に導入された残留する細菌を死滅させるために用いることもできる。
【0075】
Geobacillus株を土壌浄化に適用することに加えて、このバイオレメディエーションは、汚染物質が溶解した水性形態である水及び地下水の浄化にも適用可能である。この用途では、細菌及びそれに関連する酵素を使用して、揮発性有機化合物(クロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン)溶剤、ペルクロロエチレン(PCE)、トリクロロエテン(TCE)、1,1,1-トリクロロエタン(TCA)、クロロメタン、及び塩化メチレン)、ガソリン炭化水素(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、及びキシレン(BTEX)など)、ならびに酸素化物及び冷媒などの水混和性汚染物質を分解する。Geobacillusの処理は、1,4-ジオキサン及びPFASなどの地下水中の新たに出現した汚染物質にも適用可能である。
【0076】
Geobacillus midousuji細菌株(ATCC受託番号55926)SH2B株及び/または(ATCC202050)SH2A株を、本発明の方法で使用することができる。特定の実施形態では、Geobacillus株、例えばSH2B(ATCC受託番号202050)は、下記のように増殖、保管中の生存率、環境的レメディエーションにおける活性、及び有用な生成物の生産を改善するために、以下で説明するように細菌の前培養によって改質または強化することができる(「強化細菌株」と指定される)。現在使用されている菌株の初期分離株は、Geobacillus midousuji細菌株(ATCC受託番号202050)SH2B株、またはGeobacillus midousuji細菌株(ATCC受託番号55926)SH2A株である。Geobacillus midousuji細菌株の増殖強化は、培地及び増殖条件を最適化することによって達成された。特に、これらの菌株は、菌株の元の説明で指定されていたトリプチケースソイブロス(TSB)よりも、改質版のテリフィックブロス(mTB)でより良好に増殖することが判明した。mTBは、グリセロール成分を除去し、微量金属を補充することでG.midousujiの増殖を支援するように更に最適化されて、細胞及びそのオキシダーゼの力価を改善するように特異的に改質されたテリフィックブロスが生成された。具体的には、図6に示すように、新しい培地配合により、総細胞収量が2.0×10細胞/ml未満から4×10細胞/ml超に増加した。
【0077】
保管中の細胞の生存率も、実験室での一連の菌株選択によって最適化された。これは、急速な増殖が開始する前の遅延期間が、非強化細胞の場合の約5時間から、保管用に最適化された細胞株の場合の3時間未満まで低減されたことによって証明された。このようにして、現在の作業株(SH2B2)の表現型は、細胞生産のための増殖選択及び-80℃での凍結保存によって改良され、ATCCから入手可能な初期分離株の特性よりも優れたものとなった。以下の表1に、スクロースを含む代表的なmテリフィックブロスの成分及び量を示す。
【表1】
表1
【0078】
図6は、光学密度対インキュベーション時間をプロットしたグラフであり、増殖培地をTSBから改質テリフィックブロスに最適化することで菌株細胞収量が向上することをグラフで示している。改質テリフィックブロス(mTB)を使用して、細胞力価が4.0×10細胞/mlを超え、増殖曲線の遅延時間が約3時間である株を分離した。
【0079】
以上のことから、本開示の発明の実施形態は、Geobacillus midousuji株(ATCC受託番号55926)SH2B株の商業的適用を、BaPの分解、ならびに2)細胞間タンパク質及び細胞外タンパク質の生成まで拡大することなどを含む様々な利点を実現することが理解できる。Geobacillus midousuji細菌株(ATCC受託番号55926)SH2B2株による細胞外タンパク質の生成は、細胞外使用のための有用な産業用酵素を生成するための基盤を提供する。
【0080】
細菌株(ATCC受託番号55926)SH2B2株の対数増殖期の最後における細胞外タンパク質の総生成量は、0.94~1.47mg/mlの範囲内であり、ゲル電気泳動によって示される通り、20種類を超える異なるタンパク質で構成されていた。これらの産業用途としては、ジオキシゲナーゼ酵素及びアコニターゼ酵素に基づくエナンチオ特異的反応の使用が挙げられる。図7は、モノオキシゲナーゼの酸化生体内変換反応の例、ならびにジオキシゲナーゼ及びペルオキシダーゼの酸化生体内変換反応の例を示す。
【0081】
本発明の方法及びシステムには、使用説明書を含む印刷物と共にキットも含まれる。
【0082】
本明細書に開示される本発明の実施形態は、有毒化学物質の使用及び非極性溶剤を伴う反応を回避するという利点を更に提供する。
【0083】
BaPの分解
試験結果から、本明細書に記載のGeobacillus株は、有機物の不完全燃焼によって生成される強力な毒素であるベンゾ[a]ピレン(BaP)を分解することが可能であることが実証された(補足資料中の図1)。この結論は、BaPが約10ppmの濃度で添加され、ポリ塩化ビフェニル(PCB)の混合物が約20ppmの濃度で添加された土壌のインキュベーションに基づいている。Geobacillus midousuji(ATCC受託番号55926)SH2B株を、10mlの土壌を含む3つの個別のインキュベーションチャンバーに添加した。
【0084】
4番目のチャンバーは、細菌以外は同じ成分を全て含む対照として調製した。土壌を回転させながら60℃で5日間インキュベートした。5日後、処理したインキュベーションの全てで、BaP及びPCBのレベルが対照よりも大幅に低下した。Geobacillus菌株がダイオキシン及びポリ塩化ビフェニル(PCB)を分解することは過去に示されてきたが、BaPを分解する能力が実証されたのはこれが初めてである。別の実施形態では、土壌は60℃で5日間インキュベートされず、Geobacillus株は、約15℃~約35℃の範囲の雰囲気温度に維持された土壌に添加される。
【0085】
ベンゾ[a]ピレン(BaP)及びPCBを含む土壌での分解実験の結果を図3に示す。このグラフは、62℃で5日間インキュベートした後での、抽出された汚染物質のガスクロマトグラフィー分析を示している。
【0086】
「対照」とは、Geobacillus株なしでのインキュベーションを指す。「処理」とマークされた3つのクロマトグラムは、Geobacillus株と共にインキュベートした同じ試料の3重分析である。
【0087】
排出されたタンパク質産物
A.ピーク数
Geobacillus株の増殖中、上清中に多数のタンパク質が出現した。タンパク質を、改質テリフィックブロス上で増殖させた後の対数増殖期後期に採取した。図4は、細菌ブロスの上清の2次元ゲル電気泳動の結果を示す。左端のレーン「A」はタンパク質サイズマーカーを示している。レーン「B」は増殖前の新鮮な培地を示している。レーン「C」は好気的培養条件からの上清を示している。レーン「D」は嫌気的培養条件からの上清を示している。これらの結果は、振とうフラスコ実験及び撹拌バッチバイオリアクターより採取された試料から一貫して生成された。いずれの場合も、遠心分離した発酵ブロスの上清を透析膜で元の濃度の約20倍に濃縮した。続いて、この濃縮物をポリアクリルアミドゲルのウェルにロードし、電気泳動によってタンパク質を分離した。これらのタンパク質の生産量は、嫌気的増殖中よりも好気的増殖中の方が有意に多かったが、いくつかのタンパク質は両方の増殖条件で有意なバンドを維持した。
【0088】
B.ピーク特性決定
54kDa及び116kDaのタンパク質バンドは、好気的及び嫌気的増殖の両方で強度を維持した優勢なバンドであったため、これらを更に特性決定した。これらのバンドを電気泳動後にゲルから消化し、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-Tof)質量分析によって分析した。正ビームモード及び負ビームモードの両方で記録されたペプチドが最も有意であると考えられたが、他のピークのうちいくつかも有効なペプチドを表している可能性がある。これらのスキャンではオリゴヌクレオチドも現れる可能性があるが、ピークを最小限に抑えるために、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)などのマトリックスを使用した。図5A及び5Bは、2つのタンパク質のMALDI-Tof分析の結果を示している。どちらの場合も、試料はCHCAマトリックス(飽和)7:3の水/MeCN(0.1%TFAを含む)で調製され、試料と7:3で混合された。
【0089】
現在のMALDI-ToFデータベースからの2つの細菌タンパク質は、これらが生成したペプチドピークに基づくとこれらのピークに最も類似しており、これを以下の表2に示す。これまでに配列決定されたタンパク質は、Geobacillus midousuji細菌株(ATCC受託番号55926)SH2B株の上清ブロスから分析されたものと一致する。タンパク質IDは、MALDI-ToFによって検出された、未知のタンパク質とMALDI-ToFデータベース中のタンパク質との間でのペプチドピークの最も近い一致に基づいた。
【表2】
表2
【0090】
C.排出タンパク質の商業的利用
増殖培地中に分泌される酵素の量、及びこのマトリックスからタンパク質を採取することの相対的な容易度は、このタンパク質プールの商業的応用を評価するための基準を提供する。Geobacillus株によって排出されるタンパク質の総量は、対数増殖の終わりまでに0.94~1.47mg/mlとなる。アコニターゼのピークは総タンパク質プールの約10%と推定され、1-ピロリン-カルボキシレートデヒドロゲナーゼのピークは総プールの約5%と推定される。この基準に基づくと、最適化されたバッチ発酵実施のうちの1つにおけるアコニターゼ及び1-ピロリン-カルボキシレートデヒドロゲナーゼの生産量は、それぞれ約0.12mg/ml及び0.06mg/mlとなる。
【0091】
ジオキシゲナーゼの能力
Geobacillus株の環系有機汚染物質を分解する能力は、上流ビフェニル経路の発現によるものと考えられている。この経路における制限段階は、第1の酵素であるジオキシゲナーゼである。この酵素は、そのアッセイに使用される基質に基づいて、フェノールジオキシゲナーゼまたはトルエンジオキシゲナーゼとして示される。図6に示すように、酵素特異的アッセイに基づいて、Geobacillus midousuji(ATCC受託番号55926)SH2B株が、トルエンジオキシゲナーゼを発現することが確認されている。具体的には、図6は、Geobacillus株中のトルエンジオキシゲナーゼ酵素の存在を検査するための酵素アッセイの結果を示す。インドキシル濃度の増加(青色で塗りつぶされた円形)は、基質としてのインドールに作用するトルエンジオキシゲナーゼの存在を示す。赤色で白抜きの四角形は、インドキシル由来のインディゴ染料のその後の蓄積を反映する。PCBの分解の原因となる主要な酵素はこのジオキシゲナーゼであると思われる。
【0092】
ATCC受託番号202050またはATCC番号55926を有するGeobacillus midousuji(G.midousuji)細菌株は、化学的及び生物学的に活性な様々な分子を細胞間及び細胞外の両方で生成する。これらの発見により、G.midousujiの商業的応用範囲が、エナンチオ特異的反応、界面活性剤及びプロテアーゼ、ならびに化学系及び生物系における活性酸素種(ROS)の抑制までと大幅に拡大する。更なる発見により、SH2B株が分解することのできる有機汚損物質の種類が拡大して、毒性の強いベンゾ[a]ピレンなどの多環芳香族炭化水素(PAH)、ならびに現在費用対効果の高い処理方法が存在しないペルフルオロオクタン酸(PFOA)などのペルフルオロ化合物及び1,4-ジオキサンなどの新たに出現した汚染物質が含まれるようになる。
【0093】
いくつかの種類の実験室培養実験で、バイオ生成物の生成及び汚損物質の分解が観察された。1つの実験では、様々な回数かつ様々な組み合わせで様々な微量金属を添加した、トリプトン、ペプトン、及び酵母エキスを含む様々な液体増殖培地で、G.midousuji株をインキュベートした。増殖率は約62℃で最適であったが、レメディエーション応用の設計に柔軟性をもたらす温度範囲である40~70℃でも増殖が記録された。増殖率は通気した場合に最大となったが、電子受容体として酸素の代わりに硝酸塩(NO )を使用しても増殖が確認された。
【0094】
使用済み培地と超音波処理による細胞溶解後の細胞材料との両方でバイオ生成物を分析した。培地の発泡及び液体の表面張力の低下によって証明されるとおり、培養物は有意な界面活性剤を生成した。タンパク性物質を、個々のタンパク質バンドのゲル電気泳動及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-ToF)質量分析によって分析した。いくつかのタンパク質は好気的増殖に特有であり、化学反応系及び生物医学分野におけるROSの抑制に用途を有する。酵素アッセイにより、細胞間産物中のトルエン1,2ジオキシゲナーゼ酵素が実証された。このRieske非ヘム鉄オキシゲナーゼは、抽出して無細胞モードで使用して、汚染物質のレメディエーションにおける芳香族環構造を分解し、グリーンケミストリーに応用するためのエナンチオ特異的反応を実行することができる。
【0095】
他の試験では、G.midousujiが嫌気的にPCBを分解できることが実証された。増殖条件は以下の通りであった。PCBに汚染された土壌約30kgを、G.midousuji、及びトリプチケースソイブロスと500mMの硝酸ナトリウムとの溶液と混合し、混合物を数週間にわたって60℃で加熱した。これによりPCBが大幅に減少し、物質を曝気せずに汚損物質を破壊し、レメディエーションコストを大幅に削減することが可能であることが示される。
【0096】
いくつかの成功したインキュベーションのアプローチが用いられた。これらは、150ml及び300mlの液体培養物、酸素あり及びなしの攪拌バッチ反応器、28Lの発酵反応器、ならびに生細胞及びガラスビーズを入れた充填床カラムを使用した振とうフラスコ実験を含んだ。充填床カラムは、地下水の1,4-ジオキサンなどの水相汚染物質をレメディエートするための方法を提供する。
【0097】
図8は、Geobacillus SH2B株由来の使用済み培地の抽出物の分析結果を示す3枚の薄層クロマトグラフィー(TLC)プレートの写真を含む。プレートAは、リンモリブデン酸(PMA)で染色されており、レーン1のジラムノリピッド標準からのD3及びD4バンドと一致する、レーン2及び3の試料のバンドの存在を示している。プレートBは、プリムリンで染色され、紫外線下で撮影されており、レーン2のジラムノリピッド標準からのD3及びD4バンドと一致する、レーン3及び4の試料のバンドの存在を示している。プレートCは、アントロンで染色されており、レーン2のジラムノリピッド標準からのD3及びD4バンドと一致する、レーン3及び4の試料のバンドの存在を示している。ラムノリピドは、β-ヒドロキシル化脂肪酸鎖に連結した糖部分としてのラムノースを含有する、生物界面活性剤の1クラスである。ラムノリピド類は、石油、食品、農業、及びバイオレメディエーションなどの多くの産業で幅広く応用することができる。ラムノリピド類は、有機物及び重金属で汚損された用地のバイオレメディエーションに効果的である。これらはまた、原油及び植物油などの廃棄炭化水素の分解も促進する。
【0098】
理解できる通り、前述のシミュレーション及び試験の結果は、本発明の実施形態による例示的なバイオレメディエーション系及び方法の利点を示している。
【0099】
試験結果から、本明細書に記載のGeobacillus株は、Environmental Protection Agency(EPA)が推定ヒト発がん性物質と見なしている、新たに出現した地下水汚染物質である1,4-ジオキサン及び/またはPFASの分解が可能であることが実証される。
【0100】
実施例1
4種類の形態のPFAS化合物(PFHxS、PFOA、PFOS、及びPFPeA)を水試料に添加した。水試料中で、PFAS化合物の初期濃度は250~500ppbの範囲であった。水試料は、未処理のままにするか、またはGeobacillus midousujiのSH2B株で処理してから、60℃に維持した。それ以外の点では、全ての水試料は同じ条件に晒された。粘土吸着材は汚染された水試料からPFASを吸着した。処理から48時間及び72時間後に、添加された4つのPFAS化合物、及びその他のPFAS化合物の濃度を、同位体希釈法を伴う固相抽出法及び液体クロマトグラフィー/質量分析法(EPA537.1/533)によって分析した。添加された4つのPFASの総量は、対照と比較して、48時間後及び72時間後でそれぞれ18.4%及び79.6%減少した。結果を図9Aに示す。他のPFASを使用した結果も識別され、図9B及び9Cに示される。
【0101】
各PFASの4つの列の識別は図の凡例に示される。図に使用されている略語の完全な化学名を以下の表3に示す。
【表3】
表3
【0102】
実施例2
PFASを含む使用済み吸着材を用いた追加試験が行われ、Geobacillus midousujiで処理した場合、これらの吸着材に代表される二次廃棄物流も処理可能であることが示された。Geobacillus midousuji(ATCC受託番号55926)SH2B株を、ミシガン州にある実際の地下水処理用地からの使用済み吸着材を含む試験容器に追加した。この使用済み吸着材には、汚染された地下水に由来する吸着されたPFAS化合物が含まれていた。対照として、細菌以外の全ての同じ成分を含む追加の容器を用意した。水を、60℃で72時間インキュベートした。図10Aに結果を示すこの試験では、対象の分析プール内の総PFAS含有量の80%超を占める6つのPFAS化合物(すなわちPFOS、PFHxS、PFPeA、6:2FTS、PFHxA、及びPFOA)が、処理された2つの容器中でそれぞれ24.1%及び64.5%減少した。他のPFASを使用した結果も同定され、図10Bに示される。
【0103】
実施例3
水を含有する試験容器にPFOAを約500ppbの濃度で添加した。水をGeobacillus midousuji SH2Bで処理し、60℃に維持した。並行対照を実施し、これは、対照にはGeobacillus midousujiまたは他の細菌が含まれていなかったことを除いて処理された試料と全ての点で同様の条件に晒された。72時間の処理後、各容器の3つの画分(液体上清、Geobacillus midousuji細胞のペレット、及び密閉容器のヘッドスペース中に生成された揮発性物質)内でPFOAの濃度を分析した。揮発性物質を、ポリウレタンフォーム(PUF)試料及びアンバーライトイオン交換樹脂上で収集した。PFOAを、揮発性の収集材料及びペレット画分から抽出し、上清画分と共に、同位体希釈法を伴う固相抽出法及び液体クロマトグラフィー/質量分析法(EPA537.1/533)によって測定した。対照中のPFOAレベルは変化しなかった。処理された容器の上清中のPFOAレベルは減少し、上清の減少の32%~49%は、細胞ペレット中のPFOAによるものであった。揮発性画分中のPFOAは、全ての容器でほんの僅かであった。全体では、処理された容器に添加された元のPFOAの36.1%及び21.9%を対象の分析プールから除去した。結果を表4に示す。
【表4】
表4
【0104】
実施例4
PFO溶液を調製し、Geobacillus midousuji SH2B(T1、T2、及びT3)で処理した。Geobacillus midousujiによる処理を、対照としてG.midousujiを含まないことを除いて全ての点で第1の容器と同様の第4の容器と並行して、3つの容器で96時間にわたり実施した。存在する炭素-フッ素化合物の総量を推定する総有機フッ素プール(TOF)を測定し、結果を図11に示す。
【0105】
実施例5
3つのフラスコ(T1、T2、及びT3)に、約1000ppmの1,4-ジオキサン(DX)を含む水溶液をロードし、Geobacillus midousuji SH2Bで8時間インキュベートした。更に2つの対照フラスコ(C1及びC2)を用意し、細菌を含まないこと以外は同じ条件の下で試験した。得られた溶液中の1,4-ジオキサン含有量を、EPA法8270D-SIMによって分析した。処理の終了時、対照フラスコ内の1,4-ジオキサンの濃度は平均で1230ppmであったのに対し、処理された試料では461ppmであった。結果を図12に示す。
【0106】
実施例6
実施例5に記載の実験を繰り返したが、(i)水溶液の初期1,4-ジオキサン含有量をはるかに低くし(実施例5の初期1,4-ジオキサン含有量の10%未満)、(ii)2つのフラスコのみをGeobacillus midousuji SH2Bで処理し、(iii)処理時間を28時間(8時間の代わりに)にした。結果を図13に示す。28時間後、処理された試料に含有される1,4-ジオキサンは、対照試料よりも平均で13.9%少なかった。
【0107】
この試験中、600nmでの溶液の光学密度を測定することにより、細菌の増殖を監視した。図14は、処理された試料ではGeobacillus midousujiが予想通りに増殖し、対照試料では細菌の増殖が起こらなかったことを示し、これは、結果の差が細菌の増殖に起因し得ることを裏付けるものである。
【0108】
実施例7
図15は、Geobacillus midousujiによる生物膜の形成を示す。微生物細胞は、顕微鏡写真では緑色蛍光の棒状構造として見ることができる。この増殖様式によって、菌株と粒子状物質に関連する汚染物質とが物理的に密接に接触する。更に、この生物膜は菌株の固定化を容易にするため、固定床バイオリアクター、多孔性物質中への閉じ込め、及びマイクロカプセル中への封入に使用することが可能である。
【0109】
当業者であれば、本発明の様々な組み合わせ、代替案、及び修正が考案できることを理解されたい。本発明は、添付の特許請求の範囲内にあるこうした代替案、修正、及び変更を全て包含することを意図している。
【0110】
本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本開示の限定を意図するものではない。本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が別途明らかに示さない限り、複数形も含むことを意図する。用語「含む(comprise)」及び/または「含んだ(comprising)」は、本明細書で使用するとき、述べられる特徴、要素、ステップ、動作、成分、及び/または構成要素の存在を明記するものであるが、1つ以上の他の特徴、要素、ステップ、動作、成分、構成要素、及び/またはその群の存在または追加を排除するものではないことが更に理解されよう。
【0111】
また、本明細書で使用される表現及び専門用語は、説明を目的としており、限定的なものとみなされるべきではない。本明細書における「including(含む)」、「comprising(含む)」または「having(有する)」、「containing(含有する)」、「involving(伴う)」及びこれらの変形の使用は、その後に列挙される項目及びそれらの等価物、ならびに追加の項目を包含することを意味する。
【0112】
本発明を、その好ましい実施形態を参照して具体的に図示及び説明したが、当業者であれば、本発明の主旨及び範囲から逸脱することなく、本発明の形態及び詳細に様々な変更がなされ得ることを理解されよう。したがって、本発明の範囲は、上記の説明によってではなく、添付の特許請求の範囲によって示されるものである。特許請求の範囲の等価の意味及び範囲内に入る全ての変更が、その範囲内に包含されるものとする。

図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【国際調査報告】