IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコ カンパニー リミテッドの特許一覧

特表2024-541928フェライト系ステンレス鋼及びその製造方法
<>
  • 特表-フェライト系ステンレス鋼及びその製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241106BHJP
   C22C 38/40 20060101ALI20241106BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/40
C21D9/46 R
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524740
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(85)【翻訳文提出日】2024-04-24
(86)【国際出願番号】 KR2022015994
(87)【国際公開番号】W WO2023075287
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】10-2021-0143706
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク, スホ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン, ジウン
(72)【発明者】
【氏名】ユ, ジヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヒフン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA05
4K037EA12
4K037EA15
4K037EA18
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EB06
4K037EB08
4K037EB09
4K037FA02
4K037FA03
4K037FC03
4K037FC04
4K037FE03
4K037FE05
4K037FF03
4K037FG00
4K037FH01
4K037FJ06
4K037FK03
(57)【要約】
【課題】箱焼鈍を省略し、連続焼鈍を実施しながらも、伸び率が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.01%以上0.1%以下、Si:0.01%以上1.0%以下、Mn:0.01%以上1.5%以下、P:0%超過0.05%以下、S:0%超過0.005%以下、Cr:13.0%以上18.0%以下、N:0.005%以上0.1%以下、Al:0.005%以上0.2%以下、Ni:0.05%以上0.25%以下を含み、残部がFe(鉄)及びその他不可避不純物からなり、下記式(1)で定義されたAc1値が920以上990未満であることを特徴とする。
式(1):Ac1=36*[Cr]+90*[Si]+760*[Al]+350-(800*[C]+1300*[N]+150*[Ni]+50*[Mn])
(前記式(1)において、[Cr]、[Si]、[Al]、[C]、[N]、[Ni]、[Mn]は、各元素の含有量(重量%)を意味する)
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.01%以上0.1%以下、Si:0.01%以上1.0%以下、Mn:0.01%以上1.5%以下、P:0%超過0.05%以下、S:0%超過0.005%以下、Cr:13.0%以上18.0%以下、N:0.005%以上0.1%以下、Al:0.005%以上0.2%以下、Ni:0.05%以上0.25%以下を含み、残部がFe(鉄)及びその他不可避不純物からなり、
下記式(1)で定義されたAc1値が920以上990未満であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
式(1):Ac1=36*[Cr]+90*[Si]+760*[Al]+350-(800*[C]+1300*[N]+150*[Ni]+50*[Mn])
(前記式(1)において、[Cr]、[Si]、[Al]、[C]、[N]、[Ni]、[Mn]は、各元素の含有量(重量%)を意味する)
【請求項2】
伸び率が27%以上であることを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
重量%で、C:0.01%以上0.1%以下、Si:0.01%以上1.0%以下、Mn:0.01%以上1.5%以下、P:0%超過0.05%以下、S:0%超過0.005%以下、Cr:13.0%以上18.0%以下、N:0.005%以上0.1%以下、Al:0.005%以上0.2%以下、Ni:0.05%以上0.25%以下を含み、残部がFe(鉄)及びその他不可避不純物からなり、下記式(1)で定義されたAc1値が920以上990未満であるスラブを製造する段階、
前記スラブを再加熱する段階、
前記再加熱したスラブを熱間圧延後、巻き取って、熱延鋼材を製造する段階、
前記熱延鋼材を、下記式(2)を満たす熱延板焼鈍熱処理温度T(HRA、℃)で熱延板焼鈍した後、冷却後に酸洗して、熱延酸洗した熱延板を得る段階、
前記熱延酸洗した熱延板を冷間圧延して、冷延板を製造する段階及び、
前記冷延板を、下記式(3)を満たす冷延板焼鈍熱処理温度T(CRA、℃)で冷延板焼鈍した後、冷却後に酸洗する段階を含むことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
式(1):Ac1=36*[Cr]+90*[Si]+760*[Al]+350-(800*[C]+1300*[N]+150*[Ni]+50*[Mn])
(前記式(1)において、[Cr]、[Si]、[Al]、[C]、[N]、[Ni]、[Mn]は、各元素の含有量(重量%)を意味する)
式(2):840≦T(HRA、℃)≦Ac1-20
式(3):870≦T(CRA、℃)≦Ac1-20
【請求項4】
前記再加熱する段階は、1100~1250℃で行われることを特徴とする請求項3に記載のフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項5】
前記熱間圧延は、800~950℃の仕上げ圧延完了温度で行われることを特徴とする請求項3に記載のフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項6】
前記巻き取りは、750~850℃で行われることを特徴とする請求項3に記載のフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項7】
前記熱延板焼鈍及び前記冷延板焼鈍は、30秒以上10分以下で行われることを特徴とする請求項3に記載のフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項8】
前記熱延板焼鈍した後の冷却及び前記冷延板焼鈍した後の冷却は、10~50℃/sの冷却速度で行われることを特徴とする請求項3に記載のフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項9】
前記冷間圧延は、60~90%の圧下率で行われることを特徴とする請求項3に記載のフェライト系ステンレス鋼の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼及びその製造方法に係り、より詳しくは、箱焼鈍を省略しながらも、伸び率を向上させたフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト系ステンレス鋼は、高価な合金元素の添加量が少なく、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて価格競争力の高い鋼材である。フェライト系ステンレス鋼は、耐食性に優れ、建築材料、輸送機器、家電、台所機器などの用途に広く用いられている。
一般的に、430系の熱延鋼材は、箱焼鈍(Box Annealing)工程を実施し、箱焼鈍工程は、オーステナイト相からフェライト相に相変態する温度である800~850℃で、35~50時間にわたって行う。前記箱焼鈍の目的は、熱間圧延時に形成された変形組織を再結晶させ、オーステナイト相をフェライト相及び炭化物に分解させることにある。しかしながら、箱焼鈍工程は、エネルギー消耗が大きいだけでなく、長時間熱処理により生産性が低下する問題点を有している。したがって、エネルギー低減及び生産性の向上による製造コストの低減を図ることができる連続焼鈍型製造技術の開発が推進されてきた。
【0003】
特許文献1では、連続焼鈍が可能なように合金設計した430鋼に対して熱間圧延時に粗圧延パス当たり20%以上の圧下率で1パス以上行うことを開示しており、特許文献2では、仕上げ圧延開始温度を950℃以上、巻き取り温度を650℃以下で行うとき、スティッキング(sticking)欠陥が発生することなく、品質特性が良好な内容を開示している。
なお、430系ステンレス鋼に対して箱焼鈍を省略し、連続焼鈍した後、通常の焼鈍条件で熱処理する場合、熱間圧延後に冷却される途中に析出した微細なCr炭化物の形成によって伸び率が低くなるおそれがある。
これを解決するために、合金成分によって計算された相変態温度であるAc1と関連した熱延鋼材及び冷延鋼材の焼鈍熱処理温度を制御し、伸び率を向上させようとする試みが殆どないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57-70230号公報
【特許文献2】特開昭57-155326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したような問題を解決するための本発明の目的は、箱焼鈍を省略し、連続焼鈍を実施しながらも、伸び率が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.01%以上0.1%以下、Si:0.01%以上1.0%以下、Mn:0.01%以上1.5%以下、P:0%超過0.05%以下、S:0%超過0.005%以下、Cr:13.0%以上18.0%以下、N:0.005%以上0.1%以下、Al:0.005%以上0.2%以下、Ni:0.05%以上0.25%以下を含み、残部がFe(鉄)及びその他不可避不純物からなり、下記式(1)で定義されたAc1値が920以上990未満である。
式(1):Ac1=36*[Cr]+90*[Si]+760*[Al]+350-(800*[C]+1300*[N]+150*[Ni]+50*[Mn])
前記式(1)において、[Cr]、[Si]、[Al]、[C]、[N]、[Ni]、[Mn]は、各元素の含有量(重量%)を意味する。
また、本発明のフェライト系ステンレス鋼は、伸び率が27%以上である。
【0007】
また、本発明のフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.01%以上0.1%以下、Si:0.01%以上1.0%以下、Mn:0.01%以上1.5%以下、P:0%超過0.05%以下、S:0%超過0.005%以下、Cr:13.0%以上18.0%以下、N:0.005%以上0.1%以下、Al:0.005%以上0.2%以下、Ni:0.05%以上0.25%以下を含み、残部がFe(鉄)及びその他不可避不純物からなり、下記式(1)で定義されたAc1値が920以上990未満の、スラブを製造する段階、前記スラブを再加熱する段階、前記再加熱したスラブを熱間圧延後、巻き取って、熱延鋼材を製造する段階、前記熱延鋼材を、下記式(2)を満たす熱延板焼鈍熱処理温度T(HRA、℃)で熱延板焼鈍した後、冷却後に酸洗して、熱延酸洗した熱延板を得る段階、前記熱延酸洗した熱延板を冷間圧延して、冷延板を製造する段階及び前記冷延板を、下記式(3)を満たす冷延板焼鈍熱処理温度T(CRA、℃)で冷延板焼鈍した後、冷却後に酸洗する段階を含む。
式(1):Ac1=36*[Cr]+90*[Si]+760*[Al]+350-(800*[C]+1300*[N]+150*[Ni]+50*[Mn])
前記式(1)において、[Cr]、[Si]、[Al]、[C]、[N]、[Ni]、[Mn]は、各元素の含有量(重量%)を意味する。
式(2):840≦T(HRA、℃)≦Ac1-20
式(3):870≦T(CRA、℃)≦Ac1-20
【0008】
また、本発明のフェライト系ステンレス鋼の製造方法において、前記再加熱する段階は、1100~1250℃で行う。
前記熱間圧延は、800~950℃の仕上げ圧延完了温度で行う。
前記巻き取りは、750~850℃で行う。
前記熱延板焼鈍及び酸洗と前記冷延板焼鈍及び酸洗は、30秒以上10分以下で行う。
前記熱延板焼鈍した後、冷却及び前記冷延板焼鈍した後、冷却は、10~50℃/sの冷却速度で行う。
前記冷間圧延は、60~90%の圧下率で行う。
【発明の効果】
【0009】
また箱焼鈍を省略し、連続焼鈍を実施しながらも、焼鈍熱処理温度を制御し、伸び率が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供することができる。
また、長時間を必要とする箱焼鈍工程を省略することによって、製造コストを節減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】伸び率27%以上を確保できる焼鈍熱処理温度の範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.01%以上0.1%以下、Si:0.01%以上1.0%以下、Mn:0.01%以上1.5%以下、P:0%超過0.05%以下、S:0%超過0.005%以下、Cr:13.0%以上18.0%以下、N:0.005%以上0.1%以下、Al:0.005%以上0.2%以下、Ni:0.05%以上0.25%以下を含み、残部がFe(鉄)及びその他不可避不純物からなり、下記式(1)で定義されたAc1値が920以上990未満である。
式(1):Ac1=36*[Cr]+90*[Si]+760*[Al]+350-(800*[C]+1300*[N]+150*[Ni]+50*[Mn])
前記式(1)において、[Cr]、[Si]、[Al]、[C]、[N]、[Ni]、[Mn]は、各元素の含有量(重量%)を意味する。
【0012】
以下では、本発明について図面を参照して詳しく説明する。以下の実施形態は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施形態に限定されず、他の形態で具体化することができる。図面は、本発明を明確にするために、説明と関係ない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素のサイズを多少誇張して表現することができる。
明細書全体において、任意の部分がある構成要素を「含む」というとき、これは、特に反対する記載がない限り、他の構成要素を除外するものではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
単数の表現は、文脈上明白に例外がない限り、複数の表現を含む。
【0013】
以下、本発明の合金成分含有量の数値限定理由について説明する。以下では、特別な言及がない限り、単位は、重量%である。
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.01%以上0.1%以下、Si:0.01%以上1.0%以下、Mn:0.01%以上1.5%以下、P:0%超過0.05%以下、S:0%超過0.005%以下、Cr:13.0%以上18.0%以下、N:0.005%以上0.1%以下、Al:0.005%以上0.2%以下、Ni:0.05%以上0.25%以下を含み、残部がFe(鉄)及びその他不可避不純物からなる。
【0014】
C(炭素)の含有量は、0.01%以上0.1%以下である。
Cは、強力なオーステナイト相安定化元素であり、固溶強化による材料強度の増加に有効な元素である。これを考慮して、Cは、0.01%以上添加する。しかしながら、Cの含有量が過剰な場合には、強度が過度に増加し、鋼材の伸び率、靭性などを低下させる。これを考慮して、C含有量の上限は、0.1%に制限する。
【0015】
Si(シリコン)の含有量は、0.01%以上1.0%以下である。
Siは、製鋼段階で脱酸剤として添加される元素であり、降伏強度及び耐食性を向上させるのに効果的である。また、Siは、フェライト相の安定性を高めることができる元素である。これを考慮して、Siは、0.01%以上添加する。しかしながら、Siの含有量が過剰な場合には、材質の硬化を起こすことによって、伸び率及び靭性が劣るおそれがある。これを考慮して、Si含有量の上限は、1.0%に制限する。
【0016】
Mn(マンガン)の含有量は、0.01%以上1.5%以下である。
Mnは、耐食性を改善するのに効果的な元素である。これを考慮して、Mnは、0.01%以上添加することができ、好ましくは、0.2%以上添加する。しかしながら、Mnの含有量が過剰な場合には、介在物(MnS)を形成し、鋼材の熱間加工性、軟性及び靭性を低下させる。これを考慮して、Mn含有量の上限は、1.5%に制限し、より好ましくは、1.0%に制限する。
【0017】
P(リン)の含有量は、0%超過0.05%以下である。
Pは、鋼中に不可避に含有される不純物であり、酸洗時に粒界腐食を起こし、あるいは熱間加工性を阻害する原因となる元素である。したがって、Pの含有量は、できるだけ低く制御することが好ましい。これを考慮して、P含有量の上限は、0.05%に制限する。
【0018】
S(硫黄)の含有量は、0%超過0.005%以下である。
Sは、鋼中に不可避に含有される不純物であり、結晶粒界に偏析して熱間加工性を阻害する原因となる元素である。したがって、Sの含有量は、できるだけ低く制御することが好ましい。これを考慮して、S含有量の上限は、0.005%に制限する。
【0019】
Cr(クロム)の含有量は、13.0%以上18.0%以下である。
Crは、酸化性環境で不動態皮膜を形成し、耐食性を向上させる元素である。これを考慮して、Crは、13.0%以上添加する。しかしながら、Crの含有量が過剰な場合には、スラブ内デルタ(δ)フェライトの形成を助長し、伸び率及び衝撃靭性が低下し、製造コストが上昇する。これを考慮して、Cr含有量の上限は、18.0%に制限する。
【0020】
N(窒素)の含有量は、0.005%以上0.1%以下である。
Nは、Cと同様に、侵入型元素であり、固溶強化効果によって鋼材の降伏強度を向上させるのに効果的な元素である。これを考慮して、Nは、0.005%以上添加する。
しかしながら、Nの含有量が過剰な場合には、衝撃靭性及び成形性が劣るおそれがある。これを考慮して、N含有量の上限は、0.1%に制限する。
【0021】
Al(アルミニウム)の含有量は、0.005%以上0.2%以下である。
Alは、強力な脱酸剤であり、溶鋼中に酸素の含有量を低減する役割をする元素である。これを考慮して、Alは、0.005%以上添加する。しかしながら、Alの含有量が過剰な場合には、非金属介在物が増加し、冷延ストリップのスリバー欠陥が発生すると同時に、溶接性を劣化させる。これを考慮して、Al含有量の上限は、0.2%に制限する、より好ましくは、0.15%以下に制限する。
【0022】
Ni(ニッケル)の含有量は、0.05%以上0.25%以下である。
Niは、鋼材を軟質化する効果がある。これを考慮して、Niは、0.05%以上添加する。しかしながら、Ni含有量が過剰な場合には、費用が上昇する問題がある。これを考慮して、Ni含有量の上限は、0.25%に制限する。
【0023】
本発明の残部の成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料叉は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるので、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者なら誰でも知ることができるので、そのすべての内容を特に本明細書で言及しない。
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、下記式(1)で定義されたAc1値が920以上990未満である。
式(1):Ac1=36*[Cr]+90*[Si]+760*[Al]+350-(800*[C]+1300*[N]+150*[Ni]+50*[Mn])
前記式(1)において、[Cr]、[Si]、[Al]、[C]、[N]、[Ni]、[Mn]は、各元素の含有量(重量%)を意味する。
【0024】
Ac1は、オーステナイト相からフェライト相に変態する温度をいう。本発明では、合金組成及び成分範囲の設計を通じて計算されたAc1値を基に、焼鈍熱処理温度を制御することによって伸び率を向上させる点を一特徴とする。
Ac1計算値が低い場合には、低い温度で熱処理し、熱延板連続焼鈍時に再結晶が十分に起こらない。これを考慮して、Ac1計算値は、920以上になるように合金組成及び成分範囲を設計する。しかしながら、Ac1計算値が高すぎる場合には、C、Nなどのオーステナイト形成元素の含有量が減少し、炭化物及び窒化物の生成が不十分なので、強度が劣るおそれがある。これを考慮して、Ac1計算値は、990未満になるように合金組成及び成分範囲を設計する。
前記計算されたAc1値を基に、焼鈍熱処理温度を制御することによって、本発明のフェライト系ステンレス鋼は、伸び率が27%以上である。
【0025】
次に、本発明のフェライト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
本発明のフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.01%以上0.1%以下、Si:0.01%以上1.0%以下、Mn:0.01%以上1.5%以下、P:0%超過0.05%以下、S:0%超過0.005%以下、Cr:13.0%以上18.0%以下、N:0.005%以上0.1%以下、Al:0.005%以上0.2%以下、Ni:0.05%以上0.25%以下を含み、残部がFe(鉄)及びその他不可避不純物からなり、下記式(1)で定義されたAc1値が920以上990未満の、スラブを製造する段階、前記スラブを再加熱する段階、前記再加熱したスラブを熱間圧延後、巻き取って、熱延鋼材を製造する段階、前記熱延鋼材を、下記式(2)を満たす熱延板焼鈍熱処理温度T(HRA、℃)で熱延板焼鈍した後、冷却後に酸洗して、熱延酸洗した熱延板を得る段階、前記熱延酸洗した熱延板を冷間圧延して、冷延板を製造する段階及び前記冷延板を、下記式(3)を満たす冷延板焼鈍熱処理温度T(CRA、℃)で冷延板焼鈍した後、冷却後に酸洗する段階を含む。
式(1):Ac1=36*[Cr]+90*[Si]+760*[Al]+350-(800*[C]+1300*[N]+150*[Ni]+50*[Mn])
前記式(1)において、[Cr]、[Si]、[Al]、[C]、[N]、[Ni]、[Mn]は、各元素の含有量(重量%)を意味する。
式(2):840≦T(HRA、℃)≦Ac1-20
式(3):870≦T(CRA、℃)≦Ac1-20
【0026】
前記各合金組成の成分範囲及び前記式(1)の数値限定理由は、上述した通りであり、以下では、各製造段階についてより詳細に説明する。
まず、前記合金組成及び前記式(1)を満たすスラブを製造した後、一連の熱間圧延、熱延板焼鈍及び酸洗、冷間圧延、冷延板焼鈍及び酸洗する工程を経る。
前記スラブは、再加熱温度1100~1250℃で熱間圧延する。
スラブの再加熱温度が低すぎると、圧延ロールの負荷が大きくなる。これを考慮してスラブの再加熱温度は、1100℃以上とする。しかしながら、再加熱温度が高すぎると、スラブの結晶粒径が粗大化し、強度が劣るおそれがある。これを考慮して、スラブの再加熱温度の上限は、1250℃に制限する。
【0027】
次に、前記熱間圧延は、800~950℃の仕上げ圧延完了温度で行う。
仕上げ圧延完了温度が低い場合には、圧延負荷が増加し、生産性が低下するおそれがある。これを考慮して、仕上げ圧延完了温度は、800℃以上とする。しかしながら、仕上げ圧延完了温度が高すぎる場合には、結晶粒径が増加し、強度が減少する。これを考慮して、仕上げ圧延完了温度は、950℃以下に制御する。
また、前記巻き取りは、750~850℃で行う。
巻き取り温度が低い場合には、コイルの形状を制御しにくく、巻き取り温度が高すぎる場合には、巻き取り後、持続的な相変態によって後工程で不良を起こすおそれがある。これを考慮して、巻き取り温度は、750~850℃に設定する。
【0028】
その後、前記熱延鋼材を、下記式(2)を満たす熱延板焼鈍熱処理温度T(HRA、℃)で熱延板焼鈍する。
式(2):840≦T(HRA、℃)≦Ac1-20
熱延板焼鈍熱処理温度T(HRA、℃)が低い場合には、再結晶が十分に行われない。ただし、後工程で冷延板焼鈍を行うので、比較的低い温度で進めることができる。これを考慮して、熱延板焼鈍熱処理温度T(HRA、℃)は、840℃以上とする。しかしながら、熱延板焼鈍熱処理温度T(HRA、℃)がAc1温度以上の場合には、オーステナイト相が形成され、熱処理後に急冷時にマルテンサイト相を形成する。これを考慮して、熱延板焼鈍熱処理温度T(HRA、℃)の上限は、Ac1-20に制限する。
前記熱延板焼鈍は、30秒以上10分以下で行う。
熱延板焼鈍時間が短い場合には、残留マルテンサイトの分率が高くて、伸び率が劣るおそれがある。これを考慮して、前記熱延板焼鈍は、30秒以上行う。しかしながら、熱延板焼鈍時間が長すぎる場合には、結晶粒の粗大化によって強度が低下することがあり、表面酸化層の厚さが厚くなって、酸化層の除去のための酸洗時間が長くなり、酸化層の除去が十分に行われないことがある。これを考慮して、前記熱延板焼鈍は、10分以下に制御する。
【0029】
前記熱延板焼鈍した後、冷却は、10~50℃/sの冷却速度で行う。
冷却速度が低い場合には、軟質化による組織の不均一化によって伸び率及び成形性が低下するおそれがある。しかしながら、冷却速度が高すぎる場合には、過度な硬質化によって伸び率に悪影響を及ぼす。これを考慮して、冷却速度を10~50℃/sに制御する。 前記冷間圧延は、60~90%の圧下率で行う。
圧下率が低い場合には、冷間加工による蓄積エネルギーが十分でないので、再結晶組織を得にくい。しかしながら、圧下率が高すぎる場合には、圧延によるクラックが発生することがある。これを考慮して、圧下率は、60~90%に制御する。
【0030】
その後、前記冷延板を、下記式(3)を満たす冷延板焼鈍熱処理温度T(CRA、℃)で冷延板焼鈍する。
式(3):870≦T(CRA、℃)≦Ac1-20
熱延板焼鈍熱処理温度T(HRA、℃)と同様に、冷延板焼鈍熱処理温度T(CRA、℃)が低い場合には、再結晶が十分に行われない。これを考慮して、冷延板焼鈍熱処理温度T(CRA、℃)は、870℃以上とする。しかしながら、冷延板焼鈍熱処理温度T(CRA、℃)がAc1温度以上の場合には、オーステナイト相が形成され、熱処理後に急冷時にマルテンサイト相を形成することがあるので、冷延板焼鈍熱処理温度T(CRA、℃)の上限は、Ac1-20に制限する。
前記冷延板焼鈍は、30秒以上10分以下で行い、前記冷延板焼鈍した後、冷却は、10~50℃/sの冷却速度で行う。
冷延板焼鈍時間及び冷却速度の数値限定理由は、上述した通りである。
【0031】
以下では、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。ただし、以下の実施例は、
本発明を例示して具体化するためのものだけであり、本発明の権利範囲を制限するための
ものではないことに留意する必要がある。これは、本発明の権利範囲が特許請求の範囲に
記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるためである
{実施例}
下記の表1に示した様々な合金成分の範囲について、スラブを製造した。製造したスラブを1200℃で再加熱した後、800℃の仕上げ圧延完了温度で熱間圧延した後、750℃で巻き取って、熱延鋼材を製造した。
Ac1は、下記式(1)で定義された値をいう。
式(1):Ac1=36*[Cr]+90*[Si]+760*[Al]+350-(800*[C]+1300*[N]+150*[Ni]+50*[Mn])
前記式(1)において、[Cr]、[Si]、[Al]、[C]、[N]、[Ni]、[Mn]は、各元素の含有量(重量%)を意味する。
【0032】
【表1】
【0033】
製造した前記熱延鋼材を、熱延板焼鈍熱処理温度T(HRA、℃)で10分間熱延板焼鈍した後、30℃/sの冷却速度で冷却後に酸洗して、熱延酸洗した熱延板を得た。次に、60%の圧下率で冷間圧延した後、冷延板焼鈍熱処理温度T(CRA、℃)で10分間冷延板焼鈍した後、30℃/sの冷却速度で冷却後に酸洗して、鋼を製造した。下記の表2には、熱延板焼鈍熱処理温度T(HRA、℃)、冷延板焼鈍熱処理温度T(CRA、℃)、製造した鋼の厚さ及び伸び率を示した。
伸び率は、Zwick Roell社の引張試験機を用いて測定した。
【0034】
【表2】
【0035】
表2に示す通り、実施例は、いずれも、下記式(2)及び式(3)を満たす焼鈍熱処理温度で焼鈍を行った。したがって、実施例は、いずれも、伸び率が27%以上を満たした。
式(2):840≦T(HRA、℃)≦Ac1-20
式(3):870≦T(CRA、℃)≦Ac1-20
比較例A3、A5、B2及びC1は、式(2)を満足しなかった。
比較例A3、A5、B2及びC1は、熱延板焼鈍熱処理温度T(HRA、℃)が840℃以上を満足せず、再結晶が十分に行われなかったため、伸び率が27%以上を満足しなかった。
比較例A1、A2、A4、A6、B1及びC2は、式(3)を満足しなかった。
比較例A1、A2、A4及びA6は、冷延板焼鈍熱処理温度T(CRA、℃)が870℃以上を満足せず、再結晶が十分に行われなかったため、伸び率が27%以上を満足しなかった。
比較例B1及びC2は、冷延板焼鈍熱処理温度T(CRA、℃)がAc1-20℃以下を満足せず、オーステナイト相が形成されることによって、熱処理後に急冷時にマルテンサイト相が形成された。したがって、伸び率が27%以上を満足しなかった。
図1は、伸び率27%以上を確保できる焼鈍熱処理温度の範囲を示すグラフである。
図1に示す通り、下記式(2)及び式(3)を満たす焼鈍熱処理温度で焼鈍を行った場合には、伸び率が27%以上を確保できることが分かる。
式(2):840≦T(HRA、℃)≦Ac1-20
式(3):870≦T(CRA、℃)≦Ac1-20
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、箱焼鈍を省略し、連続焼鈍を実施しながらも、焼鈍熱処理温度を制御し、伸び率が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供することができ、長時間を必要とする箱焼鈍工程を省略することによって、製造コストを節減できるので、産業上の利用可能性が認められる。

図1
【国際調査報告】