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特表2024-5419533-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの単離されたトランス異性体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの単離されたトランス異性体
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/16 20060101AFI20241106BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
A61K31/16
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P35/02
A61K45/00
A61K39/395 T
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525148
(86)(22)【出願日】2022-10-03
(85)【翻訳文提出日】2024-05-22
(86)【国際出願番号】 IL2022051052
(87)【国際公開番号】W WO2023079545
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】63/275,488
(32)【優先日】2021-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.PLURONIC
3.TEFLON
(71)【出願人】
【識別番号】517258408
【氏名又は名称】ティルノーヴォ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】レウベニ,ハダス
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC202
4C084ZC412
4C084ZC751
4C085AA14
4C085BB01
4C085BB11
4C085EE03
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206JA66
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA86
4C206NA03
4C206NA14
4C206ZB26
(57)【要約】
本発明は、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの単離された実質的に純粋なトランス異性体、その調製のための方法、それを含む医薬組成物、及びがんの治療におけるその使用を開示する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式を有する3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体:
【化1】
又はその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
少なくとも80重量%の3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス異性体及び20重量%未満の3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのシス異性体を含む、請求項1に記載の実質的に純粋なトランス異性体。
【請求項3】
少なくとも85重量%の前記3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス異性体及び15重量%未満の前記3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのシス異性体を含む、請求項1に記載の実質的に純粋なトランス異性体。
【請求項4】
少なくとも90重量%の前記3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス異性体及び10重量%未満の前記3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのシス異性体を含む、請求項1に記載の実質的に純粋なトランス異性体。
【請求項5】
少なくとも95重量%の前記3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス異性体及び5重量%未満の前記3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのシス異性体を含む、請求項1に記載の実質的に純粋なトランス異性体。
【請求項6】
少なくとも97重量%の前記3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス異性体及び3重量%未満の前記3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのシス異性体を含む、請求項1に記載の実質的に純粋なトランス異性体。
【請求項7】
活性成分として、請求項1~6のいずれか一項に記載の実質的に純粋なトランス異性体と、薬学的に許容される担体又は賦形剤と、を含む、医薬組成物。
【請求項8】
溶液、懸濁液、又はエマルションの形態である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記薬学的に許容される担体又は賦形剤が、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPCD)である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体又はその薬学的に許容される塩と前記HPCDとの間の重量比が、約1:1~約1:12である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
遮光されている、請求項7~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
可視光に対して不透過性である装置内に保持され、前記装置が、約20%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満の可視波長範囲内の光透過率を有する、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
可視光に対して不透過性である貯蔵容器内に貯蔵され、前記貯蔵容器が、約20%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満の可視波長範囲内の光透過率を有する、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
可視光に対して不透過性である静脈内投与に好適なキットで提供され、前記キットが、約20%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満の可視波長範囲内の光透過率を有する、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項15】
UV光に対して不透過性である装置内に保持され、前記装置が、約20%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満のUV波長範囲内の光透過率を有する、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項16】
UV光に対して不透過性である貯蔵容器内に貯蔵され、前記貯蔵容器が、約20%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満のUV波長範囲内の光透過率を有する、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項17】
UV光に対して不透過性である静脈内投与に好適なキットで提供され、前記キットが、約20%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満のUV波長範囲内の光透過率を有する、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項18】
がんの治療に使用するための請求項7~17のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記がんが、頭頸部がん、肉腫、多発性骨髄腫、卵巣がん、乳がん、腎臓がん、胃がん、造血器がん、リンパ腫、白血病、肺がん、黒色腫、膠芽細胞腫、肝細胞がん、食道がん、胃食道接合部がん、前立腺がん、膵臓がん、及び結腸がんからなる群から選択される、請求項18に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項20】
前記組成物が、抗がん剤と組み合わせて同時投与される、請求項18又は19に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項21】
前記抗がん剤が、(i)上皮成長因子受容体阻害剤(EGFR阻害剤)及びEGFR抗体から選択されるタンパク質キナーゼ(PK)のモジュレーター、(ii)ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)の阻害剤、(iii)マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)阻害剤、(iv)変異B-Raf阻害剤、(v)化学療法剤、並びに(vi)プログラム細胞死1(PD-1)タンパク質、プログラム細胞死タンパク質1リガンド(PD-L1)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)、又はそれらの組み合わせに対する抗体を含む免疫療法剤、のうちの少なくとも1つを含む、請求項20に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項22】
がんを治療する方法であって、治療を必要とする対象に、請求項1~6のいずれか一項に記載の実質的に純粋なトランス異性体、又は請求項7~17のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項23】
前記がんが、頭頸部がん、肉腫、多発性骨髄腫、卵巣がん、乳がん、腎臓がん、胃がん、造血器がん、リンパ腫、白血病、肺がん、黒色腫、膠芽細胞腫、肝細胞がん、食道がん、胃食道接合部がん、前立腺がん、膵臓がん、及び結腸がんからなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
抗がん剤と組み合わせて前記実質的に純粋なトランス異性体又は前記医薬組成物を同時投与することを含む、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記抗がん剤が、(i)上皮成長因子受容体阻害剤(EGFR阻害剤)及びEGFR抗体から選択されるタンパク質キナーゼ(PK)のモジュレーター、(ii)ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)の阻害剤、(iii)マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)阻害剤、(iv)変異B-Raf阻害剤、(v)化学療法剤、並びに(vi)プログラム細胞死1(PD-1)タンパク質、プログラム細胞死タンパク質1リガンド(PD-L1)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)、又はそれらの組み合わせに対する抗体を含む免疫療法剤、のうちの少なくとも1つを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
がんを治療するための薬剤の調製のための請求項1~6のいずれか一項に記載の実質的に純粋なトランス異性体の使用。
【請求項27】
前記がんが、頭頸部がん、肉腫、多発性骨髄腫、卵巣がん、乳がん、腎臓がん、胃がん、造血器がん、リンパ腫、白血病、肺がん、黒色腫、膠芽細胞腫、肝細胞がん、食道がん、胃食道接合部がん、前立腺がん、膵臓がん、及び結腸がんからなる群から選択される、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
抗がん剤と組み合わせて前記実質的に純粋なトランス異性体を同時投与することを含む、請求項26又は27に記載の使用。
【請求項29】
前記抗がん剤が、(i)上皮成長因子受容体阻害剤(EGFR阻害剤)及びEGFR抗体から選択されるタンパク質キナーゼ(PK)のモジュレーター、(ii)ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)の阻害剤、(iii)マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)阻害剤、(iv)変異B-Raf阻害剤、(v)化学療法剤、並びに(vi)プログラム細胞死1(PD-1)タンパク質、プログラム細胞死タンパク質1リガンド(PD-L1)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)、又はそれらの組み合わせに対する抗体を含む免疫療法剤、のうちの少なくとも1つを含む、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
請求項1~6のいずれか一項に記載の実質的に純粋なトランス異性体のシス異性体への変換を防止する方法であって、遮光装置又は容器内で前記実質的に純粋なトランス異性体を維持することを含む、方法。
【請求項31】
前記遮光装置又は容器が、UV-VIS波長範囲内の光に対して実質的に不透過性である、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの単離されたトランス異性体及びがんの治療におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、組織中に広範囲の標的部位を有する世界的によく見られる疾患である。それは、汚染物質から遺伝的素因までの様々な因子の結果としての細胞の制御されていない増殖を特徴とする。現在のがん療法は、固形腫瘍を除去するための外科的介入、並びに化学療法剤、ホルモン、及び免疫療法剤を使用する全身性がん療法を含む。異なる種類のがんを治療することに効果的である様々な既存の薬物が存在するが、多くの場合において、がんは薬物に対して耐性になる。したがって、新しい治療方略が所望される。
【0003】
国際公開第2008/068751号は、インスリン様成長因子1受容体(insulin-like growth factor 1 receptor、IGF1R)、血小板由来成長因子受容体(platelet derived growth factor receptor、PDGFR)、上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor、EGFR)、及びIGF1R関連インスリン受容体(IGF1R-related insulin receptor、IR)の活性化及びシグナル伝達の増加した阻害特性を有する化合物を開示している。
【0004】
国際公開第2009/147682号は、プロテインキナーゼ(protein kinase、PK)及び受容体キナーゼ(receptor kinase、RK)シグナル伝達モジュレーターとして作用する化合物を開示している。国際公開第2009/147682号に更に開示されるのは、そのような化合物の調製方法、そのような化合物を含む医薬組成物、並びにこれらの化合物及び組成物を、特に代謝性、炎症性、線維性、及び細胞増殖性の障害、特にがんなどのPK関連障害及びRK関連障害の予防及び治療のための化学療法剤として使用する方法である。
【0005】
国際公開第2012/117396号は、がんの治療のための、国際公開第2008/068751号又は国際公開第2009/147682号の化合物と、抗がん剤との組み合わせを記載している。
【0006】
国際公開第2016/125169号は、国際公開第2008/068751号又は国際公開第2009/147682号の化合物と、がんの治療のための(i)上皮成長因子受容体阻害剤(EGFR阻害剤)及びEGFR抗体、(ii)ラパマイシンの哺乳動物標的(mammalian target of rapamycin、mTOR)の阻害剤、(iii)マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(mitogen-activated protein kinase、MEK)阻害剤、(iv)変異B-Raf阻害剤、(v)免疫療法剤、並びに(vi)化学療法剤との組み合わせを記載している。
【0007】
国際公開第2019/097503号は、プログラム細胞死1(programmed cell death 1、PD-1)タンパク質に対する抗体、抗プログラム細胞死タンパク質1リガンド(programmed cell death protein 1 ligand、PD-L1)抗体、又はそれらの組み合わせと組み合わせて、インスリン受容体基質(Insulin Receptor Substrate、IRS)及びシグナル伝達兼転写活性化因子3(signal transducer and activator of transcription 3、Stat3)の二重モジュレーターを含む、併用療法を使用するがんの治療に関する。この組み合わせを使用して、抗PD-1抗体及び/又は抗PD-L1抗体に対する腫瘍の応答を増強し、無応答の腫瘍を応答するものに変換し、かつ/又は腫瘍の進行をブロックすることによって、抗PD-1抗体及び/又は抗PD-L1抗体に対する耐性を発生させ得るか、又は発生させた腫瘍を再度感受性にすることができる。
【0008】
国際公開第2009/147682号に初めて開示された3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミド(化合物5)は、インスリン受容体基質(IRS)及びシグナル伝達兼転写活性化因子3(Stat3)の二重モジュレーターである。それは、2つのカテコール環の間を架橋するチオアミドにコンジュゲートされた二重結合を含む。国際公開第2009/147682号は、この化合物、並びにその中に開示されている他の化合物が、とりわけ、シス及びトランス異性体を含む、任意の構造及び幾何異性体であり得ることを教示している。
【0009】
がんの治療に有用な改善されたIRS及びStat3阻害特性を有する化合物に対する、まだ満たされていない必要性が存在する。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋な単離されたトランス異性体、それを含む医薬組成物、及びがんの治療におけるその使用を提供する。
【0011】
3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体は、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのシス及びトランス混合物と比較して、改善された抗増殖活性を提供することが、今回初めて開示される。3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体は、シス異性体と比較して、優れたオクタノール:水分配係数、並びに熱挙動を発揮し、これらの特性は、その改善された生物学的利用能を示すことが、今回初めて開示される。回転しない二重結合を含む従来のシス-トランス立体異性体とは対照的に、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミド中の二重結合の回転は、光への曝露時に自由に起こり、それによって、溶液中のトランス異性体とシス異性体との間の相互変換をもたらし得ることが予想外に見出された。化合物の抗増殖活性は、光誘起異性化に起因して、シス異性体の含量の増加とともに低減することが予想外に示された。更に、トランス異性体は、がん細胞に対して効果的である一方で、トランス-シス混合物は、同じ濃度ではあまり効果的ではないことが予想外に示された。したがって、実質的に純粋なトランス異性体は、シス異性体又は20%超のシス異性体を含有するトランス-シス混合物と比較して、改善された生物学的利用能及びがんの治療における増加した効力を有すると企図される。
【0012】
第1の態様によれば、本発明は、以下の構造式を有する3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体:
【0013】
【化1】
又はその薬学的に許容される塩を提供する。
【0014】
本明細書で使用される場合、かつ別途示されない限り、「実質的に純粋な」という用語は、シス異性体を実質的に含まないトランス構成における化合物3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドを指す。例えば、いくつかの実施形態では、化合物の実質的に純粋なトランス異性体は、約80重量%超の化合物のトランス異性体及び約20重量%未満の化合物のシス異性体を含む。他の実施形態では、化合物の実質的に純粋なトランス異性体は、約85重量%超の化合物のトランス異性体及び約15重量%未満の化合物のシス異性体を含む。更に他の実施形態では、化合物の実質的に純粋なトランス異性体は、約90重量%超の化合物のトランス異性体及び約10重量%未満の化合物のシス異性体を含む。現在好ましい実施形態では、化合物の実質的に純粋なトランス異性体は、約95重量%超の化合物のトランス異性体及び約5重量%未満の化合物のシス異性体を含む。追加の現在好ましい実施形態では、化合物の実質的に純粋なトランス異性体は、約97重量%超の化合物のトランス異性体及び約3重量%未満の化合物のシス異性体を含む。
【0015】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、活性成分として、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体又はその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体又は賦形剤と、を含む、医薬組成物を提供する。
【0016】
ある特定の実施形態では、医薬組成物は、溶液、懸濁液、又はエマルションの形態である。各可能性は、別々の実施形態を表す。
【0017】
追加の実施形態によれば、薬学的に許容される担体又は賦形剤は、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(hydroxypropyl-β-cyclodextrin、HPCD)である。更なる実施形態によれば、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体又はその薬学的に許容される塩とHPCDとの間の重量比は、約1:1~約1:12であり、その間の任意の比を含む。特定の実施形態によれば、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体又はその薬学的に許容される塩とHPCDとの間の重量比は、約1:4~約1:8であり、その間の任意の比を含む。
【0018】
いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、可視光から保護される。具体的な実施形態では、医薬組成物は、可視光に対して不透過性である装置内に保持される。更なる実施形態では、光不透過性装置は、約20%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満の可視波長範囲内の光透過率を有する。
【0019】
他の実施形態によれば、医薬組成物は、可視光に対して不透過性である容器内に貯蔵される。特定の実施形態では、光不透過性コンテナは、約20%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満の可視波長範囲内の光透過率を有する。
【0020】
更なる実施形態によれば、医薬組成物は、静脈内投与に好適なキットで提供され、キットは、可視光に対して不透過性である。具体的な実施形態では、光不透過性キットは、約20%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満の可視波長範囲内の光透過率を有する。
【0021】
いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、UV光から保護される。具体的な実施形態では、医薬組成物は、UV光に対して不透過性である装置内に保持される。更なる実施形態では、光不透過性装置は、約20%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満のUV波長範囲内の光透過率を有する。
【0022】
他の実施形態によれば、医薬組成物は、UV光に対して不透過性である容器内に貯蔵される。特定の実施形態では、光不透過性コンテナは、約20%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満のUV波長範囲内の光透過率を有する。
【0023】
更なる実施形態によれば、医薬組成物は、静脈内投与に好適なキットで提供され、キットは、UV光に対して不透過性である。具体的な実施形態では、光不透過性キットは、約20%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満のUV波長範囲内の光透過率を有する。
【0024】
いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、がんを治療することに有用である。ある特定の実施形態では、本発明は、がんを治療する方法であって、治療を必要とする対象に、本明細書に開示される実質的に純粋なトランス異性体又はそれを含む医薬組成物を投与することを含む、方法を提供する。他の実施形態では、本発明は、がんを治療するための薬剤の調製のための本明細書に開示される実質的に純粋なトランス異性体の使用を提供する。更なる実施形態では、がんは、頭頸部がん、肉腫、多発性骨髄腫、卵巣がん、乳がん、腎臓がん、胃がん、造血器がん、リンパ腫、白血病、肺がん、黒色腫、膠芽細胞腫、肝細胞がん、食道がん、胃食道接合部がん、前立腺がん、膵臓がん、及び結腸がんからなる群から選択される。各可能性は、別々の実施形態を表す。
【0025】
他の実施形態によれば、本発明の実質的に純粋なトランス異性体又はそれを含む医薬組成物は、抗がん剤と組み合わせて同時投与される。いくつかの実施形態によれば、抗がん剤は、(i)上皮成長因子受容体阻害剤(EGFR阻害剤)及びEGFR抗体から選択されるタンパク質キナーゼ(PK)のモジュレーター、(ii)ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)の阻害剤、(iii)マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)阻害剤、(iv)変異B-Raf阻害剤、(v)化学療法剤、並びに(vi)プログラム細胞死1(PD-1)タンパク質、プログラム細胞死タンパク質1リガンド(PD-L1)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4、CTLA4)、又はそれらの組み合わせに対する抗体を含む免疫療法剤のうちの少なくとも1つを含む。各可能性は、別々の実施形態を表す。特定の実施形態によれば、同時投与は、同時に、又は任意の順序で連続して実施される。各可能性は、別々の実施形態を表す。
【0026】
追加の実施形態によれば、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体のシス異性体への変換を防止するための方法であって、遮光装置又は容器内で実質的に純粋なトランス異性体を維持することを含む、方法が提供される。いくつかの実施形態では、遮光装置又は容器は、UV-VIS波長範囲内の光に対して実質的に不透過性である。
【0027】
本発明の更なる実施形態及び適用可能性の全範囲は、以下に与えられる詳細な記述から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の趣旨及び範囲内での様々な変更及び修正は、この詳細な記述から当業者に明らかになるであろうから、詳細な記述及び具体的な実施例は、本発明の好ましい実施形態を示しているが、単に例示として与えられているにすぎないことは理解されたい。
【0028】
本発明は、以下の図面及びその好ましい実施形態の詳細な説明からより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス異性体の原子注釈付きの化学構造。
図2】3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのシス異性体の原子注釈付きの化学構造。
図3】UV光曝露後の3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス及びシス混合物のH NMRスペクトル。
図4A】3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス(4A)及びシス(4B)異性体のUVスペクトル(HPLCピークから取得された)。
図4B】3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス(4A)及びシス(4B)異性体のUVスペクトル(HPLCピークから取得された)。
図5A】3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミド溶液の短期安定性試験のHPLCクロマトグラム:(5A)溶液X1、(5B)溶液X2、(5C)溶液Y1、(5D)溶液Y2、(5E)溶液Z1、及び(5F)溶液Z2。
図5B】3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミド溶液の短期安定性試験のHPLCクロマトグラム:(5A)溶液X1、(5B)溶液X2、(5C)溶液Y1、(5D)溶液Y2、(5E)溶液Z1、及び(5F)溶液Z2。
図5C】3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミド溶液の短期安定性試験のHPLCクロマトグラム:(5A)溶液X1、(5B)溶液X2、(5C)溶液Y1、(5D)溶液Y2、(5E)溶液Z1、及び(5F)溶液Z2。
図5D】3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミド溶液の短期安定性試験のHPLCクロマトグラム:(5A)溶液X1、(5B)溶液X2、(5C)溶液Y1、(5D)溶液Y2、(5E)溶液Z1、及び(5F)溶液Z2。
図5E】3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミド溶液の短期安定性試験のHPLCクロマトグラム:(5A)溶液X1、(5B)溶液X2、(5C)溶液Y1、(5D)溶液Y2、(5E)溶液Z1、及び(5F)溶液Z2。
図5F】3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミド溶液の短期安定性試験のHPLCクロマトグラム:(5A)溶液X1、(5B)溶液X2、(5C)溶液Y1、(5D)溶液Y2、(5E)溶液Z1、及び(5F)溶液Z2。
図6】3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのシス:トランス異性体の異なる比を有する溶液のヒト黒色腫A375細胞における抗増殖活性。
図7A】各異性体の親油性(LogP)を決定するための水とオクタノールとの間の分配係数。(7A)オクタノール相中のシス異性体、(7B)水相中のシス異性体、(7C)オクタノール相中のトランス異性体、及び(7D)水相中のトランス異性体のHPLCクロマトグラム。等体積(13μL)の各相を分析した。
図7B】各異性体の親油性(LogP)を決定するための水とオクタノールとの間の分配係数。(7A)オクタノール相中のシス異性体、(7B)水相中のシス異性体、(7C)オクタノール相中のトランス異性体、及び(7D)水相中のトランス異性体のHPLCクロマトグラム。等体積(13μL)の各相を分析した。
図7C】各異性体の親油性(LogP)を決定するための水とオクタノールとの間の分配係数。(7A)オクタノール相中のシス異性体、(7B)水相中のシス異性体、(7C)オクタノール相中のトランス異性体、及び(7D)水相中のトランス異性体のHPLCクロマトグラム。等体積(13μL)の各相を分析した。
図7D】各異性体の親油性(LogP)を決定するための水とオクタノールとの間の分配係数。(7A)オクタノール相中のシス異性体、(7B)水相中のシス異性体、(7C)オクタノール相中のトランス異性体、及び(7D)水相中のトランス異性体のHPLCクロマトグラム。等体積(13μL)の各相を分析した。
図8A】(8A)FASSGF及び(8B)FASSIF媒体中のシス及びトランス異性体の安定性。
図8B】(8A)FASSGF及び(8B)FASSIF媒体中のシス及びトランス異性体の安定性。
図9A】3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの(9A)トランス異性体及び(9B)シス異性体の熱重量分析スペクトル。(9C)2つの異性体のスペクトルのオーバーレイ。
図9B】3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの(9A)トランス異性体及び(9B)シス異性体の熱重量分析スペクトル。(9C)2つの異性体のスペクトルのオーバーレイ。
図9C】3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの(9A)トランス異性体及び(9B)シス異性体の熱重量分析スペクトル。(9C)2つの異性体のスペクトルのオーバーレイ。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、以下の構造式を有する3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体:
【0031】
【化2】
又はその薬学的に許容される塩を対象とする。
【0032】
本発明は更に、活性成分として、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体又はその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体又は賦形剤と、を含む、医薬組成物を対象とする。
【0033】
本発明は更に、がんを治療することにおける3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体若しくはその薬学的に許容される塩、又はそれを含む医薬組成物の使用の方法を対象とする。
【0034】
本発明は、部分的に、シス異性体とトランス異性体との間の自由な相互変換を可能にしない従来の二重結合とは対照的に、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミド中の二重結合が、UV-VIS光に曝露されたときにトランス異性体からシス異性体に自由に相互変換することができるという驚くべき発見に基づく。実質的に純粋なトランス異性体は、ヒト黒色腫A375細胞の増殖の阻害において高い効力を示したが、両方の異性体の混合物は、A375細胞増殖の阻害においてより低い効力を示した。したがって、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体は、トランス異性体及びシス異性体の両方を含有する混合物と比較して、増強された抗増殖効力を提供する。実質的に純粋なトランス異性体は、そのオクタノール:水分配係数、Biorelevant流体中の安定性、及び熱挙動について更に特性評価された。実質的に純粋なトランス異性体は、胃液及び腸液中でより安定的であり、シス異性体と比較して改善された生物学的利用能を発揮することが示されることが、今回初めて開示される。
【0035】
本発明の原理によれば、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体は、少なくとも80重量%の図1に描写されるトランス異性体及び20重量%未満の図2に描写されるシス異性体を含む。好ましくは、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体は、少なくとも85重量%の図1に描写されるトランス異性体及び15重量%未満の図2に描写されるシス異性体を含む。より好ましくは、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体は、少なくとも90重量%の図1に描写されるトランス異性体及び10重量%未満の図2に描写されるシス異性体を含む。更により好ましくは、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体は、少なくとも95重量%の図1に描写されるトランス異性体及び5重量%未満の図2に描写されるシス異性体を含む。最も好ましくは、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体は、少なくとも97重量%の図1に描写されるトランス異性体及び3重量%未満の図2に描写されるシス異性体を含む。
【0036】
3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体の合成は、当技術分野で公知であるように実施することができる。簡潔に述べると、合成は、以下のステップを含む。第1に、2-ブロモ-3,4-ジメトキシベンズアルデヒド及びマロン酸が、クネーフェナーゲル縮合において反応させられて、2-ブロモ-3,4-ジメトキシ桂皮酸を生じる。第2に、次いで、2-ブロモ-3,4-ジメトキシ桂皮酸が、塩化アシル誘導体に変換され、これが3,4,5-トリメトキシベンジルアミンと更に反応させられて、3-(2-ブロモ-3,4-ジメトキシ-ベンジル)-N-(3,4,5-ジメトキシ-ベンジル)-アクリルアミドを生じる。第3に、次いで、ローソン試薬が、チオ化剤として使用されて、前の化合物から3-(2-ブロモ-3,4-ジメトキシ-ベンジル)-N-(3,4,5-ジメトキシ-ベンジル)-チオ-アクリルアミドを生じる。最後に、三臭化ホウ素が、メトキシ保護基を切断するために使用されて、最終生成物を生じる。
【0037】
いくつかの態様及び実施形態によれば、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体は、胃環境において少なくとも2時間安定したままであるような物理的特性を有する。他の態様及び実施形態によれば、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体は、胃環境において少なくとも3時間安定したままであるような物理的特性を有する。更に他の態様及び実施形態によれば、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体は、胃環境において少なくとも4時間安定したままであるような物理的特性を有する。更なる態様及び実施形態によれば、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体は、腸環境において少なくとも2時間安定したままであるような物理的特性を有する。他の態様及び実施形態によれば、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体は、腸環境において少なくとも3時間安定したままであるような物理的特性を有する。更に他の態様及び実施形態によれば、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体は、腸環境において少なくとも4時間安定したままであるような物理的特性を有する。本明細書で使用される場合、「安定」という用語は、初期濃度の約10%未満の濃度の減少を指す。
【0038】
本発明の実質的に純粋なトランス異性体は、その薬学的に許容される塩として存在し得る。「塩」という用語は、カルボン酸塩又はアミン窒素を含む塩を含むがこれらに限定されない、塩基性及び酸性付加塩の両方を包含し、以下で考察される有機及び無機のアニオン及びカチオンで形成される塩を含む。更に、本用語は、塩基性基(アミノ基など)及び有機又は無機酸との標準的な酸塩基反応によって形成される塩を含む。そのような酸には、塩酸、フッ化水素酸、トリフルオロ酢酸、硫酸、リン酸、酢酸、コハク酸、クエン酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸、パルミチン酸、コール酸、パモン酸、粘液酸、D-グルタミン酸、D-ショウノウ酸、グルタル酸、フタル酸、酒石酸、ラウリン酸、ステアリン酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ソルビン酸、ピクリン酸、安息香酸、桂皮酸、及び同様の酸が含まれる。各可能性は、本発明の別々の実施形態を表す。
【0039】
「有機又は無機カチオン」という用語は、塩のアニオンの対イオンを指す。対イオンには、アルカリ及びアルカリ土類金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、バリウム、アルミニウム、及びカルシウムなど)、アンモニウム並びにモノ-、ジ-及びトリ-アルキルアミン、例えば、トリメチルアミン、シクロヘキシルアミン、並びに有機カチオン、例えば、ジベンジルアンモニウム、ベンジルアンモニウム、2-ヒドロキシエチルアンモニウム、ビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、フェニルエチルベンジルアンモニウム、ジベンジルエチレンジアンモニウム、及び同等物が含まれるが、これらに限定されない。例えば、参照することにより本明細書に組み込まれる、Berge et al.,J.Pharm.Sci.(1977),66:1-19を参照されたい。
【0040】
本発明の範囲内には、本発明の実質的に純粋なトランス異性体又はその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体又は賦形剤と、を含む、医薬組成物がある。医薬組成物は、限定されないが、液体溶液、懸濁液、若しくはエマルションなどの液体調製物の形態、又は限定されないが、錠剤、粉末、カプセル、若しくはペレットなどの固体調製物の形態であり得る。各可能性は、別々の実施形態を表す。
【0041】
実質的に純粋なトランス異性体のシス異性体への相互変換を回避するために、医薬組成物は、好ましくは、例えば、耐光性装置及び/又は容器を使用して、可視光及び/又はUV光から遮蔽される。適切な遮光は、以下のうちのいずれか又はそれらの組み合わせを用いて実施される:琥珀色容器(例えば、琥珀色ガラスクリンプトップバイアル)、アルミホイル被覆、黒色プラスチック被覆、暗室、二重スリーブジャケット、被覆注入キットなどの使用。各可能性は、別々の実施形態を表す。具体的には、耐光性装置、容器、又は被覆は、UV-VIS波長範囲内の約20%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満の光透過率を有する。
【0042】
したがって、本発明は更に、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体の3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのシス異性体への変換を防止する方法であって、上記に詳述される耐光性装置、容器、又は被覆内で実質的に純粋なトランス異性体又はそれを含む組成物を維持することを含む、方法を含む。いくつかの実施形態によれば、耐光性装置、容器、又は被覆は、UV-VIS波長範囲内の光に対して実質的に不透過性である。本明細書で使用される場合の「光不透過性」という用語は、指定範囲内の各値を含む、約100~約800ナノメートル(nanometers、nm)の波長範囲内の光透過を少なくとも部分的に又は好ましくは完全に防止する装置、容器、又は被覆を指す。いくつかの実施形態では、光不透過性装置、容器、又は被覆は、指定範囲内の各値を含む、約100~約400ナノメートル(nm)のUV波長範囲内の光透過を少なくとも部分的に又は好ましくは完全に防止する。他の実施形態では、光不透過性装置、容器、又は被覆は、指定範囲内の各値を含む、約400~約800ナノメートル(nm)の可視波長範囲内の光透過を少なくとも部分的に又は好ましくは完全に防止する。典型的には、UV及び/又は可視範囲内の光透過率は、約20%、15%、10%、5%、又は1%未満であり、各可能性は、別々の実施形態を表す。
【0043】
本発明の範囲内には、本明細書に開示される医薬組成物中の少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤の任意選択的な包含がある。好適な薬学的に許容される担体又は賦形剤には、希釈剤、防腐剤、可溶化剤、乳化剤、アジュバント、及び同等物が含まれるが、これらに限定されない。各可能性は、別々の実施形態を表す。そのような組成物は、液体又は凍結乾燥若しくは別様に乾燥させられた製剤であり、様々な緩衝液含量の希釈剤(例えば、Tris-HCl、酢酸塩、リン酸塩)、pH及びイオン調節剤、表面への吸収を防止するためのアルブミン又はゼラチンなどの添加剤、界面活性剤(例えば、Tween 20、Tween 80、Pluronic F68、胆汁酸塩)、可溶化剤(例えば、グリセロール、ポリエチレングリセロール)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、防腐剤(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール、パラベン)、及び増量物質又は張性調節剤(例えば、ラクトース、マンニトール)を含む。各可能性は、別々の実施形態を表す。
【0044】
更に、本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、当業者に周知であり、0.01~0.1M、好ましくは0.05Mリン酸緩衝液、又は0.8%生理食塩水を含むが、これらに限定されない。加えて、そのような薬学的に許容される担体は、水性又は非水性の溶液、懸濁液、及びエマルションであり得る。各可能性は、別々の実施形態を表す。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、及びオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルである。水性担体には、水、アルコール/水溶液、生理食塩水及び緩衝媒体を含む、エマルション又は懸濁液が含まれる。各可能性は、別々の実施形態を表す。
【0045】
非経口ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル、又は固定油が含まれる。各可能性は、別々の実施形態を表す。静脈内ビヒクルには、流体及び栄養補充液、リンゲルデキストロースに基づくものなどの電解質補充液、並びに同等物が含まれる。防腐剤、並びに例えば、抗菌剤、抗酸化剤、及び同等物などの他の添加剤も存在し得る。各可能性は、別々の実施形態を表す。
【0046】
制御又は持続放出組成物には、親油性デポー(例えば、脂肪酸、ワックス、油)中の製剤が含まれる。また、ポリマー(例えば、ポロキサマー又はポロキサミン)及び保護コーティングでコーティングされた粒子状組成物も、本発明によって包含される。
【0047】
薬学的に許容される担体には、ガム、デンプン、糖、セルロース系材料、ラクトース、アカシア、ゼラチン、アルギン酸、ステアリン酸、又はステアリン酸マグネシウムが更に含まれ得る。各可能性は、別々の実施形態を表す。
【0048】
好適な油性ビヒクル又は溶媒の例は、ヒマワリ油若しくは魚肝油などの植物油若しくは動物油、石油、又は動物、植物、若しくは合成起源に由来する油、例えば、ピーナッツ油、大豆油、若しくは鉱油である。各可能性は、別々の実施形態を表す。好適な水ベースのビヒクルの例は、水、生理食塩水、水性デキストロース及び関連する糖溶液、並びにプロピレングリコール若しくはポリエチレングリコールなどのグリコール、グリセロール、又はエタノールである。各可能性は、別々の実施形態を表す。加えて、所望される場合、本組成物は、湿潤剤若しくは乳化剤及び/又はpH緩衝剤などの少量の補助物質を含有することができる。
【0049】
現在好ましい実施形態では、本明細書に開示される医薬組成物は、キレート剤を含有する。本発明の範囲内の好適なキレート剤には、限定されないが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン、及びそれらの混合物又は組み合わせなどのシクロデキストリン(修飾又は非修飾)が含まれるが、これらに限定されない。各可能性は、別々の実施形態を表す。現在好ましい実施形態では、キレート剤は、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPCD)である。典型的には、HPCDなどのキレート剤は、実質的に純粋なトランス異性体とHPCDとの間の約1:1~約1:12の重量比をもたらす量で組成物中に存在する。本発明の範囲内の実質的に純粋なトランス異性体とHPCDとの間の好適な重量比には、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、約1:9、約1:10、約1:11、又は約1:12が含まれるが、これらに限定されず、各可能性は、別々の実施形態を表す。特定の実施形態によれば、実質的に純粋なトランス異性体とHPCDとの間の重量比は、約1:4~約1:8、例えば、約1:6である。
【0050】
本発明の原理によれば、実質的に純粋なトランス異性体又はそれを含む組成物は、がんを治療するために有用である。
【0051】
したがって、本発明は、治療を必要とする対象に、治療有効量の3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体又はそれを含む医薬組成物を投与することを含む、がんを治療する方法を提供する。
【0052】
本明細書で使用される場合の「治療有効量」は、対象への単回又は複数回用量投与時に、治療利益を対象に提供することに有効である薬剤の量を指す。一実施形態では、治療利益は、がんの治療である。治療に有効であろう量は、障害又は状態の性質に依存し、標準的な臨床技術によって決定することができる。加えて、インビボアッセイが、最適な用量範囲を識別することに役立つために任意選択的に採用され得る。採用される正確な用量はまた、投与経路、及び疾患又は障害の進行にも依存し、開業医の判断及び各患者の状況に従って判断されるべきである。好ましい投与量は、指定範囲内の各値を含む、0.01mg/kg~1000mg/kg体重、0.1mg/kg~100mg/kg、1mg/kg~100mg/kg、10mg/kg~75mg/kg、0.1mg/kg~1mg/kgなどの範囲内であろう。例示的で非限定的な量としては、0.1mg/kg、0.2mg/kg、0.5mg/kg、1mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、50mg/kg、60mg/kg、75mg/kg、及び100mg/kgが挙げられる。各可能性は、別々の実施形態を表す。
【0053】
代替的に、投与される量は、投与される化合物のモル濃度として測定及び表現され得る。限定ではなく例証として、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体は、0.1~10mMの範囲内、例えば、0.1、0.25、0.5、1、及び2mMで投与することができる。各可能性は、別々の実施形態を表す。代替的に、投与される量は、mg/ml、μg/ml、又はng/mlとして測定及び表現され得る。限定ではなく例証として、典型的な量には、1ng/ml~1,000mg/ml、例えば、指定範囲内の各値を含む、1~1,000ng/ml、1~100ng/ml、1~1,000μg/ml、1~100μg/ml、1~1,000mg/ml、1~100mg/mlなどが含まれる。有効用量は、インビトロ若しくは動物モデル試験バイオアッセイ又はシステムに由来する用量反応曲線から外挿され得る。
【0054】
本発明の文脈における「がんの治療」という用語は、以下のうちの少なくとも1つを含む:がんの増殖速度の減少(すなわち、がんは依然として増殖するが、より遅い速度である)、がんの増殖の停止、すなわち、腫瘍増殖の静止、及び好ましい場合では、腫瘍は軽減するか、又はサイズが縮小される。本用語にはまた、転移の数の削減、形成される新たな転移の数の削減、一方のステージから他方のステージへのがんの進行の減速、及びがんによって誘導される血管新生の減少も含まれる。最も好ましい場合には、腫瘍は完全に除去される。加えて、本用語には、治療を受けている対象の生存期間の延長、疾患の進行の時間の延長、腫瘍退縮、及び同等物が含まれる。「がんの治療」という用語はまた、腫瘍形成、原発性腫瘍、腫瘍進行、又は腫瘍転移を含む、悪性(がん)細胞増殖の阻害も指すことを理解されたい。がん細胞に関する「増殖の阻害」という用語は、以下のうちの少なくとも1つの減少を更に指し得る:対照と比較した細胞数(壊死、アポトーシス、若しくは任意の他の種類の細胞死、又はそれらの組み合わせであり得る細胞死に起因する)、細胞の増殖速度の減少(すなわち、細胞の総数は増加し得るが、対照における増加よりも低いレベル又は低い速度である)、細胞の総数が変化していない場合でさえも、対照と比較した細胞の浸潤性の減少(例えば、軟寒天アッセイによって決定される)、低分化細胞型から高分化細胞型への進行、腫瘍性形質転換の減速、又は代替として、1つのステージから次のステージへのがん細胞の進行の減速。
【0055】
本明細書で使用される場合の「がん」という用語は、細胞の集団が、通常は増殖及び分化を支配する制御機構に様々な程度で無反応になった障害を指す。がんとは、原発性腫瘍及び腫瘍転移を含む、様々な種類の悪性新生物及び腫瘍を指す。実質的に純粋なトランス異性体又はそれを含む医薬組成物によって治療することができるがんの非限定的な例は、脳、卵巣、結腸、前立腺、腎臓、膀胱、乳房、肺、口腔、及び皮膚がんである。各可能性は、別々の実施形態を表す。がんの具体的な例は、がん腫、肉腫、骨髄腫、白血病、リンパ腫、及び混合型腫瘍である。各可能性は、別々の実施形態を表す。腫瘍の特定のカテゴリーには、リンパ増殖性障害、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、骨がん、肝臓がん、胃がん、結腸がん、膵臓がん、甲状腺がん、頭頸部がん、中枢神経系のがん、末梢神経系のがん、皮膚がん、腎臓がん、及び上記全てのものの転移が含まれる。各可能性は、別々の実施形態を表す。特定の種類の腫瘍には、肝細胞がん、肝がん、肝芽腫、横紋筋肉腫、食道がん、甲状腺がん、神経膠芽腫、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨形成肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、浸潤性乳管がん、乳頭状腺がん、黒色腫、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん(高分化型、中分化型、低分化型、又は未分化型)、腎細胞がん、副腎腫、副腎様腺がん、胆管がん、絨毛がん、セミノーマ、胚性がん、ウィルムス腫瘍、精巣腫瘍、小細胞、非小細胞、及び大細胞肺がんを含む肺がん、膀胱がん、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、網膜芽細胞腫、神経芽細胞腫、結腸がん、直腸がん、急性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、肥満細胞白血病、多発性骨髄腫、骨髄性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫を含む、全ての種類の白血病及びリンパ腫を含む造血器腫瘍、並びに肝細胞がんが含まれる。各可能性は、別々の実施形態を表す。
【0056】
いくつかの代表的な実施形態では、がんは、頭頸部(head and neck、H&N)がん、肉腫、多発性骨髄腫、卵巣がん、乳がん、腎臓がん、胃がん、造血器がん、リンパ腫、白血病(リンパ芽球性白血病を含む)、肺がん、黒色腫、膠芽細胞腫、肝細胞がん、食道がん、胃食道接合部がん、前立腺がん、膵臓がん、及び結腸がんからなる群から選択される。各可能性は、別々の実施形態を表す。
【0057】
投与経路には、経口、局所、経皮、動脈内、鼻腔内、腹腔内、筋肉内、皮下、静脈内、気管内、気管支内、肺胞内、経粘膜、脳室内、頭蓋内、及び腫瘍内が含まれるが、これらに限定されない。各可能性は、別々の実施形態を表す。本発明は更に、少なくとも1つの追加の抗がん剤を用いた併用療法における3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体の投与を提供する。本発明の原理による、そのような追加の抗がん剤には、エルロチニブ、ゲフィニチブ、ラパチニブ、バンデタニブ、ネラチニブ、イコチニブ、アファチニブ、ダコミチニブ、ポジオチニブ、AZD9291、CO-1686、HM61713、及びAP26113を含む、上皮成長因子受容体阻害剤(EGFR阻害剤);トラスツズマブ、セツキシマブ、ネシツムマブ、及びパニツムマブを含む、EGFR抗体;ラパマイシン(シロリムス)、リダホロリムス(AP23573)、NVP-BEZ235、エベロリムス(Afinitor、RAD-001)、テムシロリムス(CCI-779)、OSI-027、XL765、INK128、MLN0128、AZD2014、DS-3078a、及びPalomid529を含む、ラパマイシンの哺乳動物標的阻害剤(mTOR阻害剤);トラメチニブ(GSK1120212)、セルメチニブ、ビニメチニブ(MEK162)、PD-325901、コビメチニブ、CI-1040、及びPD035901を含む、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ阻害剤(MEK阻害剤);ベムラフェニブ(PLX-4032)、PLX4720、ソラフェニブ(BAY43-9006)、及びダブラフェニブを含む、変異B-Raf阻害剤;トポイソメラーゼ阻害剤、紡錘体毒ビンカ:ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン(タキソール)、パクリタキセル、ドセタキセル、及びアルキル化剤:メクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、メルファラン、イホスファミドを含む、化学療法剤;メトトレキサート;6-メルカプトプリン;5-フルオロウラシル、シタラビン、ゲムシタビン;ポドフィロトキシン:エトポシド、イリノテカン、トポテカン;キノン基を含有する抗がん化学物質:カルバジキノン;抗生物質:ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ダウノルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン;ニトロソウレア:カルムスチン(BCNU)、ロムスチン;無機イオン:シスプラチン、カルボプラチン、及びオキサリプラチン;インターフェロン、アスパラギナーゼ;ホルモン:タモキシフェン、リュープロレリン、フルタミド、及び酢酸メゲストロール、並びにダカルバジン;並びにペンブロリズマブ(Keytruda)、ニボルマブ(Opdivo)、AGEN-2034、AMP-224、BCD-100、BGBA-317、BI-754091、CBT-501、CC-90006、セミプリマブ、GLS-010、IBI-308、JNJ-3283、JS-001、MEDI-0680、MGA-012、MGD-013、PDR-001、PF-06801591、REGN-2810、SHR-1210、TSR-042、LZM-009、ABBV-181、ピジリズマブ、アベルマブ(Bavencio)、デュルバルマブ(Imfinzi)、アテゾリズマブ(Tecentriq)、BMS-936559、CX-072、SHR-1316、M-7824、LY-3300054、FAZ-053、KN-035、CA-170、CK-301、CS-1001、HLX-10、MCLA-145、MSB-2311、及びMEDI-4736を含む、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)、プログラム細胞死タンパク質1リガンド(PD-L1)、及び細胞傷害性Tリンパ球タンパク質4(CTLA4)からなる群から選択される標的に対する抗体を含む、免疫療法剤が含まれる。各可能性は、別々の実施形態を表す。
【0058】
本発明の併用療法の範囲内には、CD20、CD30、CD33、CD52、VEGF、及びErbB2のうちのいずれかを含む標的に対する抗体である免疫療法剤との組み合わせがある。各可能性は、別々の実施形態を表す。
【0059】
併用療法は、単一の医薬組成物内に、並びに同じ対象に同時に、又は当業者によって決定される時間間隔で投与される、2つの別々の医薬組成物内に2つ以上の活性成分を含むことが更に企図される。例えば、本明細書に開示される医薬組成物の投与は、他の抗がん剤の投与の前に、後に、又はそれと同時に行うことができる。他の抗がん剤は、本明細書に開示される医薬組成物を用いた治療の開始前に、又は本明細書に開示される医薬組成物を用いた治療後に投与することができる。加えて、他の抗がん剤は、本明細書に開示される医薬組成物の投与期間中に投与することができるが、治療期間全体にわたって起こる必要はない。別の実施形態では、治療計画は、本明細書に開示される医薬組成物又は他の抗がん剤のいずれかである1つの薬剤を用いた前治療、続いて、1つ又は複数の他の薬剤の追加を含む。投与の交互の順序もまた、当該分野で公知であるように企図される。
【0060】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、「約」という用語は、±10%を指す。
【0061】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明確に別段に指示しない限り、複数の参照を包む。したがって、例えば、「抗がん剤」への言及は、複数のそのような薬剤を含む。「及び」という用語若しくは「又は」という用語は、文脈が明確に別段に指示しない限り、「及び/又は」を含む意味で、一般的に採用されることに留意されたい。
【0062】
本発明の原理は、以下の非限定的な実施例によって実証される。
【実施例
【0063】
実施例1:3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス異性体の合成
化学合成に使用された全ての化学物質を、Sigmaから購入した。
【0064】
2-ブロモ-3,4-ジメトキシ桂皮酸の合成
【0065】
【化3】
触媒量のピペリジン(0.2当量)を、ピリジン(4ml/mmolアルデヒド)中の2-ブロモ-3,4-ジメトキシベンズアルデヒド(1当量)及びマロン酸(1.5当量)の溶液に添加した。反応混合物を120℃まで6時間加熱した。溶液を0℃まで冷却し、濃縮HClをpH<3まで滴加した。沈殿物を濾過によって収集し、水で洗浄し、減圧下で乾燥させて、2-ブロモ-3,4-ジメトキシ桂皮酸を62%収率で白色の固体として生じた。H NMR(400MHz,CDCl+アセトン-d):δ8.07(d,J=15.6Hz),7.45(d,J=8.8Hz,1H),6.95(d,J=8.8Hz,1H),6.31(d,J=15.6Hz,1H),3.93(s,3H),3.85(s,3H)。
【0066】
3-(2-ブロモ-3,4-ジメトキシフェニル)-N-(3,4,5-トリメトキシ-ベンジル)-アクリルアミドのトランス異性体の合成
【0067】
【化4】
塩化オキサリル(4当量)を、CHCl中の2-ブロモ-3,4-ジメトキシ桂皮酸(1当量)の冷却溶液に添加し、溶液を室温で1~2時間撹拌した。過剰の塩化オキサリルを留去し、混合物を蒸発乾固させた。残留物をCHClに溶解させ、CHCl中の3,4,5-トリメトキシベンジルアミン(0.9当量)及びEtN(4当量)の冷却溶液に滴加した。反応混合物を室温で一晩(TLCがアミンの消失を示すまで)撹拌し、次いで、水で処理した。CHClを減圧下で蒸発させ、残留物を濾過し、酢酸エチルで洗浄した。濾液を酢酸エチルで2回抽出し、組み合わせた有機相をNaSO上で乾燥させ、濾過し、溶媒を蒸発させて、褐色の固体を生じた。粗固体をフラッシュクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン)によって精製して、3-(2-ブロモ-3,4-ジメトキシ-ベンジル)-N-(3,4,5-トリメトキシフェニル-ベンジル)-アクリルアミドを55%収率で白色の固体として生じた。H NMR(400MHz,CDCl):δ7.96(d,J=15.6Hz,1H),7.31(d,J=8.8Hz,1H),6.86(d,J=8.8Hz,1H),6.55(s,2H),6.28(d,J=15.6Hz,1H),5.91(bt,1H),4.50(d,J=5.6Hz,2H),3.90(s,3H),3.85(s,9H),3.84(s,3H)。
【0068】
3-(2-ブロモ-3,4-ジメトキシフェニル)-N-(3,4,5-トリメトキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス異性体の合成
【0069】
【化5】
3-(2-ブロモ-3,4-ジメトキシ-ベンジル)-N-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-アクリルアミド(1当量)及びローソン試薬(0.55当量)を、トルエン中で3時間(TLCがアミドの消失を示すまで)還流した。反応混合物を室温まで冷却した。粗混合物をシリカゲル上に吸着させ、カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン)によって精製して、3-(2-ブロモ-3,4-ジメトキシ-ベンジル)-N-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-チオアクリルアミドを50%収率で淡黄色の固体として生じさせた。H NMR(400MHz,CDCl):δ8.05(d,J=15.6Hz,1H),7.45(bt,1H),7.33(d,J=8.8Hz,1H),6.86(d,J=8.8Hz,1H),6.73(d,J=15.6Hz,1H),6.60(s,2H),4.89(d,J=5.2Hz,2H),3.91(s,3H),3.86(s,6H),3.85(s,3H),3.83(s,3H)。
【0070】
3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシフェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス異性体の合成
【0071】
【化6】
三臭化ホウ素(各メトキシ基に対して2.5当量過剰)を、CHCl中の3-(2-ブロモ-3,4-ジメトキシフェニル)-N-(3,4,5-トリメトキシ-ベンジル)-チオアクリルアミド(約20ml/mmol)の氷冷溶液に添加した。反応混合物を室温まで加温させ、5時間撹拌した。溶液を0℃まで冷却し、次いで、冷水で処理した。DCMを蒸発させ、溶液を酢酸エチルで3回抽出した。組み合わせた有機層をNaSO上で乾燥させ、溶媒を減圧下で蒸発させた。粗黄色生成物をアセトニトリルから再結晶化するか、又は水/エタノール若しくはアセトン/クロロホルムの溶媒/逆溶媒系によって結晶化して、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシフェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドを50~60%収率で黄色の結晶として生じることができる。H NMR(300MHz,CDCl):δ4.77(d,2H,J=5.2Hz,CHN),6.43(s,2H,芳香族),6.86(d,1H,J=8.4Hz,芳香族),7.01(d,1H,J=15.2Hz,アルケン),7.16(d,1H,J=8.4Hz,芳香族),8.27(d,1H,J=15.2Hz,アルケン),8.99(br.s.,1H,NH)。
【0072】
実施例2:UV光への3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス異性体の曝露-H NMR分析
緩衝液(pH7.4)中の10%d6-DMSO中の3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの実質的に純粋なトランス異性体の試料を、人工日光で5時間照射した。その後、溶液をH-NMR分析によって特性評価した。溶液は、トランス及びシス異性体の混合物をもたらす、実質的に純粋なトランス異性体のシス異性体への著しい変換を示した。光曝露から生じるシス-トランス混合物の代表的なH-NMRスペクトルが、図3に示される。
【0073】
表1は、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのシス及びトランス異性体について取得されたH-NMR化学シフトを要約する。特に二重結合カップリング(注釈8及び9)において、2つの異性体間の明確な差異が見られる。シス異性体のJHHカップリングが、12.3Hzである一方で、トランス異性体のカップリングは、15.1Hzである。したがって、H-NMR分析を使用して、2つの異性体間の区別を実施することができる。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例3:HPCD中の3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス異性体の製剤の調製
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPCD)中の3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス異性体の製剤(4L、密度1.15g/mL)を、Teflonでコーティングされた制御速度撹拌機を装備した10Lガラス二重ジャケット反応器内で調製した。特に、1,680グラムのHPCDを、50℃/約250RPMで混合しながら注射用水(Water for Injection、WFI)(2,040g)に添加した。溶液を、HPCDの完全溶解後に室温まで冷却した。3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドトランス異性体(280g)を溶液に添加し、完全溶解が達成されるまで、遮光条件下にて室温で混合した。
【0076】
追加のWFI(600g)を、室温/約250RPMで、かつ遮光下で混合しながら、溶液に添加して、反応器の内面を洗浄し、製剤中の合計2,640gのWFIまで体積を完成させた。滅菌及び非発熱性0.22μm濾過ユニットを使用して、バルク溶液を遮光滅菌容器内に濾過及び滅菌した。製剤を、使用するまで-20℃で光から保護された琥珀色バイアル内に貯蔵した。
【0077】
実施例4:光への3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス異性体の曝露-UV分析
600mg/mLのHPCDに溶解された100mg/mLの3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス異性体の溶液を、0.025%リン酸中で0.5mg/mLの3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの溶液まで希釈し、室内照明に曝露された透明ガラスバイアル内でベンチ上に数日間置いた。曝露は、トランス異性体のシス異性体への変換をもたらした。トランス及びシス異性体のUVスペクトルが、それぞれ、図4A及び4Bに示される。
【0078】
実施例5:希釈製剤の短期安定性
人工日光への曝露時のトランス異性体の安定性を評価した。以下の溶液を調製した:
D5W-(DDW中の5%w/vデキストロース):5gのデキストロースを100mlのDDWに溶解させ、0.22μmフィルターを使用して濾過した。
【0079】
原液X-(DMSO中の1,000mM溶液):4.12mgの3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドを10μLのDMSOに溶解させた。原液は、2.3%のシス異性体及び97.6%のトランス異性体を含有することが示された。次いで、915μLのD5Wを添加し、300μLの後者の溶液を600μLのD5W中で更に希釈することによって、原液Xを、3.6mMの3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの濃度まで希釈した。希釈した溶液を2つに分割し、一方を4℃で遮光して保存し(溶液X1)、他方を室温(約20℃)で人工日光に4時間曝露した(溶液X2)。
【0080】
原液Y-実施例3に記載されるように、HPCDを注射用水に溶解させ、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドを添加することによって、(HPCD中の169.9mM溶液):注射用水中の420mg/mLのHPCD中の3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの70mg/mL溶液を調製した。原液は、0.3%のシス異性体及び99.1%のトランス異性体を含有することが示された。次いで、42.4μLの原液Yを1,958μLのD5Wに添加することによって、原液を3.6mMの3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの濃度まで希釈した。希釈した溶液を2つに分割し、一方を4℃で遮光して保存し(溶液Y1)、他方を室温(約20℃)で人工日光に4時間曝露し、次いで、アルミホイルで包み、更に4℃で保存した(溶液Y2)。
【0081】
原液Z-(DMSO中の10mM溶液):4.12mgの3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドを1mLのDMSOに溶解させた。原液は、0.4%のシス異性体及び99.5%のトランス異性体を含有することが示された。次いで、300μLの原液Zを600μLのD5Wに添加することによって、原液を3.6mMの3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの濃度まで希釈した。希釈した溶液を2つに分割し、一方を4℃で遮光して保存し(溶液Z1)、他方を室温(約20℃)で人工日光に4時間曝露し、次いで、アルミホイルで包み、更に4℃で保存した(溶液Z2)。
【0082】
シス対トランス比の決定のための様々な溶液のHPLC分析を実施した。結果が、表2及び図5A~5Fに提示される。特に、図5A、5C、及び5Eは、光から保護された溶液(それぞれ、溶液X1、溶液Y1、及び溶液Z1)のHPLCクロマトグラムを示し、図5B、5D、及び5Fは、光に4時間曝露された溶液(それぞれ、溶液X2、溶液Y2、及び溶液Z2)のHPLCクロマトグラムを示す。
【0083】
【表2】
【0084】
結果は、実質的に純粋なトランス異性体(Rt約16.7分)のシス異性体(Rt約15.0分)への著しい変換が光曝露によって誘導されることを示す。
【0085】
人工日光への曝露時のトランス異性体の安定性の追加の評価を行った。1mM濃度で100%のトランス異性体を含有する溶液を125ルクスの光(1ルクスの光は1ルーメン/平方メートル(lumen per square meter、lm/m)に等しい)に曝露し、シス異性体への変換を異なる時点でHPLCによって決定した。結果が、表3に要約される。
【0086】
【表3】
【0087】
したがって、4℃で125ルクスの光に1時間曝露した後に、トランス異性体のシス異性体への約50%変換が検出された。変換は、2時間の曝露後に64%のシスまで、5時間の曝露後に90%超のシスまで更に進行した。
【0088】
実施例6:3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミド異性体の抗増殖活性
試験製剤
1.5mgの化合物を遮光チューブ内の1.8mLのエタノールに溶解させて、2mM溶液を生じさせることによって、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドの原液を調製した。次いで、1.48mLの溶液を2.52mLの滅菌DDWに添加して、水中の37%EtOH中で0.74mM(0.3mg/mL)の濃度を提供した。溶液を4本のチューブに分割し、チューブ#0を4℃で暗所に保存し、アルミホイルで包んだ一方で、他のチューブを室温で日光に1時間、4時間、及び24時間曝露し、それぞれ、#1、#4、及び#24と標識した。溶液を細胞増殖研究に使用し、化学分析のために更に凍結保存し、アルミホイルで包んだ。各溶液中のシス及びトランス異性体の含量を、HPLCを使用して、光からの特別な注意を払って分析した。
【0089】
細胞培養
A375(悪性ヒト黒色腫)細胞をATCC(American Type Culture Collection)から購入した。細胞を、37℃における95%空気及び5%COの遮光加湿雰囲気中で、10%ウシ胎仔血清、1%グルタミン、1%ペニシリン、及び1%ストレプトマイシンを補充したRPMI 1640培地(完全培地)において培養し、増殖させた。
【0090】
実験設計
研究の設計は、5通りに(濃度当たり5つのウェル)、0、0.1、0.3、1、3、及び10μMの最終濃度における溶液で処理されたヒト黒色腫A375細胞の5つの試験系を含んだ。
【0091】
ヒト黒色腫A375細胞を、完全培地(180μL/ウェル)中で96ウェルプレート(1,500細胞/ウェル)に播種した。細胞の処理の前に、溶液(0.74mM、チューブ#0、#1、#4、#24)を滅菌水中の5%EtOHで0、1、3、10、30及び100μM(細胞増殖アッセイにおける最終濃度の10倍)の濃度まで希釈した。
【0092】
播種の翌日に(0日目)、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミド溶液を上記に示される濃度(20μL/ウェル)で3日間添加した。3日間の処理後、細胞をグルタルアルデヒドで固定し、メチレンブルーを使用して、細胞の生存を定量化した。
【0093】
A375細胞の追加のプレートを0日目にグルタルアルデヒドで固定し、他の全てのプレートと一緒にメチレンブルーで染色して、処理開始時の細胞の生存を定量化した。対照(薬物なし)のOD%を計算することによって結果の分析を実施し、Prismソフトウェアを使用してIC50値を計算した。
【0094】
処理間の差異の統計的有意性を、0.3μM濃度(およそIC50値)でTukeyの事後HSD検定を用いた一元配置ANOVAによって評価した。
【0095】
結果
1時間、4時間、及び24時間の日光への0.3mg/mL(0.74mM)の3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミド溶液の曝露は、シス異性体対トランス異性体の増加した比を有する溶液を生じさせた。A375細胞増殖の顕著な阻害が、異性体の全ての比で検出され、用量依存性効果を示した(表4及び図6)。
【0096】
【表4】
【0097】
重要なことに、80~100%のトランス異性体を含有する試料(光なし又は1時間の光曝露)は、IC50値の著しい変化を示さなかったが(226~222nM)、約50:50(#4)のシス対トランス比におけるIC50値の著しい増加が観察された(352nM)。24時間の光曝露後にシス対トランス比が約80:20まで増加したとき(753nM)、及び全体的化合物(シス+トランス)アッセイに基づいてIC50値を正規化したとき(686nM)でさえも、IC50値の増加の傾向が更に見られた。差異は、統計的に有意である。したがって、これらの結果は、トランス異性体のシス-トランス混合物への相互変換が抗増殖活性の損失を伴うこと、及び実質的に純粋なトランス異性体がより強力な抗増殖剤であることを示す。
【0098】
実質的に純粋なトランス異性体対シス-トランス混合物の抗増殖活性が、以下の細胞株を使用して更に評価される:肺がん:NCI-H1975、頭頸部がん:SCC-9、大腸がん:HCT116、肉腫:SK-ES.1、肝細胞がん:HepG2、乳がん:MDA-MB-468及びMDA-MB-231、多発性骨髄腫:MM1S及びRPMI-8226、卵巣がん:A2780、胃がん:NCI-N87、類表皮がん:A431、リンパ腫:KARPAS、骨肉腫:Saos2、膵臓がん:Panc1、膀胱がん:T24P、膠芽細胞腫:U138MG、前立腺がん:DU145、並びに白血病:K562。細胞が、様々なシス対トランス比を含む、0、0.1、0.3、1、3、及び10μMの濃度における3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミド溶液に曝露される。細胞の増殖及び生存が、メチレンブルー又はミトコンドリア活性アッセイ(例えば、Cell Titer-Glo、WST-1アッセイ)によって測定される。
【0099】
実施例7:分配係数
3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス及びシス異性体のオクタノール:水分配係数を決定した。分配係数は、組織によって吸収される能力と相関することが知られている物質の重要な物理的特徴である。医薬物質の分配は、物質の吸収、体内でのその分布、生体膜及び生物学的障壁を横断する浸透、代謝、並びに排出(absorption of the substance,its distribution in the body,penetration across vital membranes and biological barriers,metabolism and excretion、ADME特性)を決定する主要な因子である、その親油性の評価を提供する。LogP(logarithm of the partition coefficient、分配係数の対数)は、LogPと透過性との間に直接相関を有する、受動的膜分配を支配する重要な因子である。更に、生物学的利用能は、溶解度、透過性、及びクリアランスに大きく依存し、これらは順に、親油性に依存する。0~3の範囲内のLogPは、活性物質の良好な生物学的利用能をもたらすとみなされる。
【0100】
プロトコル
DMSO中の10mMのトランス異性体の溶液を調製し、水中で10倍に希釈した。トランス異性体溶液(5mL)を125ルクスの光に4℃で9時間曝露し、90%超のシス異性体を含有する溶液をもたらすことによって、シス異性体の溶液を取得した。オクタノール:水における分配を、以下のように実施した:20μLの各溶液を、80μLの水(オクタノールによって飽和され、1mMのアスコルビン酸を含有する)及び100μlのオクタノール(水によって飽和された)に添加した。取得された溶液を1分間撹拌し、室温で24時間のインキュベーションのために放置した。次いで、各相をHPLCによって分析した。各相の注入量及び1の応答係数(以前に測定された)に基づいて、較正曲線を使用して、各異性体の濃度(concentration、C)を決定した。
【0101】
図7A及び7Bは、それぞれ、オクタノール相及び水相中のシス異性体(約0.1mM、1%DMSO)のHPLCクロマトグラムを示す。計算されたlogP(log(Coctanol/Cwater))は、-0.18であった。図7C及び7Dは、それぞれ、オクタノール相及び水相中のトランス異性体(0.1mM、1%DMSO)のHPLCクロマトグラムを示す。全ての当該分析について、13μLの体積をHPLCに注入した。水相中のトランス異性体のレベルが、定量限界未満(below the limit of quantification、BLQ)であったため、より多くの体積(35μL)の水相を、反復実験で分析し、分析された体積を考慮しながら、較正曲線を使用したLogP値の計算に使用した。トランス異性体の計算されたlogP(log(Coctanol/Cwater))は、0.86であった。
【0102】
したがって、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス異性体のlogP値は、シス異性体と比較して、その改善された生物学的利用能を示す。
【0103】
実施例8:Biorelevant流体中の安定性
絶食状態をシミュレートした腸液(Fasted State Simulated Intestinal Fluid、FaSSIF)及び絶食状態をシミュレートした胃液(Fasted State Simulated Gastric Fluid、FaSSGF)を含む、Biorelevant流体中の3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス及びシス異性体の安定性を評価した。
【0104】
試薬
FaSSIF/FeSSIF/FaSSGF粉末(Biorelevantカタログ番号FFF01)
FaSSIF緩衝液濃縮物(Biorelevantカタログ番号FASBUF)
FaSSGF緩衝液濃縮物(Biorelevantカタログ番号FASGBUF)
【0105】
プロトコル
1mMの濃度における100%トランス異性体の5mL溶液を125ルクスの光に4℃で9時間曝露することによって、3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのシス異性体を含有する溶液を調製した。
【0106】
FaSSIF及びFaSSGF溶液を、製造業者の指示に従って調製した。
【0107】
3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのシス及びトランス異性体を、FaSSIF又はFaSSGF溶液のいずれかで250μMの最終濃度まで希釈した。試料を時間0及び4時間後に採取した。試料を液体窒素中で凍結させ、分析まで凍結貯蔵した。
【0108】
各時点でのシス及びトランス異性体の濃度をHPLCによって分析した 結果が、表5に概説され、図8A(シス×及びトランス〇)並びに8B(シス*及びトランス〇)に示される。
【0109】
【表5】
【0110】
したがって、トランス異性体が、FaSSGF中で完全に安定したままであった一方で、シス異性体の濃度は、約16%低減した(図8A)。同じ傾向が腸液をシミュレートする溶液で観察されたが、トランス異性体は約7%しか低減せず、シス異性体は4時間後に約55%まで有意に減少した(図8B)。
【0111】
実施例9:水分子との相互作用
熱重量分析(Thermogravimetric Analysis、TGA)を使用して、水分子との3-(2-ブロモ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)-N-(3,4,5-トリヒドロキシ-ベンジル)-チオアクリルアミドのトランス及びシス異性体の相互作用を評価した。
【0112】
Pyrisソフトウェアを使用して、TGAをPerkin Elmer TGA 800上で実施した。10℃/分の速度で30℃から200℃までの温度走査を実施した。異性体を、水(1%DMSOを含有する)中の1mMの濃度で分析した。結果が、表6に概説され、図9A~9Cに示される。
【0113】
【表6】
【0114】
シス異性体中の遊離水が、比較的低い温度で蒸発した一方で、トランス異性体中の遊離水の蒸発は、開始温度、中間温度、及び終了温度を含む、著しく高い温度で起こった。遊離水の蒸発速度も、シス異性体とトランス異性体との間の有意差を示し、それにより、シス異性体中の遊離水は、トランス異性体中の遊離水(23%/分)よりもはるかに速い速度(37%/分)で蒸発した。いかなる理論又は作用機構にも束縛されるものではないが、トランス異性体は、水の組織化に著しい影響を及ぼさず、それによって、遊離吸着水が典型的な溶液のような様式で挙動することを可能にすると思われる。水との分子の相互作用が、生物学的利用能、排出時間、及び分散の機構などのいくつかの生物学的/医学的パラメータと相関し得るため、したがって、トランス異性体は、シス異性体と比較して、水性環境において改善された安定性を発揮すると企図される。したがって、トランス異性体は、シス異性体よりも生物学的に利用可能であると考えられる。
【0115】
本発明の特定のある特定の実施形態を例示し、記載してきたが、本発明は、本明細書に記載の実施形態に限定されないことは明らかであろう。以下に続く特許請求の範囲に記載されている本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、多数の改変、変更、変形、置換、及び均等物が当業者には明らかであろう。

図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
【国際調査報告】