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特表2024-541964変異を含むドーパミン作動性ニューロン及びその使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】変異を含むドーパミン作動性ニューロン及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0793 20100101AFI20241106BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 5/16 20060101ALN20241106BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
C12N5/0793 ZNA
C12Q1/02
C12N5/16
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525222
(86)(22)【出願日】2022-10-28
(85)【翻訳文提出日】2024-06-24
(86)【国際出願番号】 US2022078851
(87)【国際公開番号】W WO2023077050
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】63/273,480
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Linux
(71)【出願人】
【識別番号】510003830
【氏名又は名称】フジフィルム セルラー ダイナミクス,インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】521488495
【氏名又は名称】フジフィルム ホールディングス アメリカ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ラジェシュ ディーピカ
(72)【発明者】
【氏名】ファティ アリ
(72)【発明者】
【氏名】リュウ ジン
(72)【発明者】
【氏名】バクシー キランマイエー
(72)【発明者】
【氏名】ディッカーソン サラ
(72)【発明者】
【氏名】プーン ウェイン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QQ91
4B063QR77
4B063QR80
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065BC01
4B065CA44
(57)【要約】
本開示は、疾患関連変異を含むiPSC由来のドーパミン作動性ニューロンを提供する。iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンを、神経変性疾患の診断、予後、及び処置のための新規標的、バイオマーカー、及び治療薬を同定するなどの神経炎症の研究に使用する方法が本明細書でさらに提供される。本細胞培養モデルを用いて神経炎症を研究するためのアッセイが本明細書でさらに提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコシルセラミダーゼ(GBA)変異、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)変異、又はα-シヌクレイン(SNCA)変異を含む、単離された人工多能性幹細胞(iPSC)由来のドーパミン作動性(DA)ニューロン細胞株。
【請求項2】
GBA変異を有する、請求項1に記載の細胞株。
【請求項3】
GBA N370S変異又はLRRK2 G2019S変異を有する、請求項2に記載の細胞株。
【請求項4】
GBA N370S変異、GBA L444P変異、又はGBA RecNil変異を有する、請求項2に記載の細胞株。
【請求項5】
GBA N370S変異を有する、請求項2に記載の細胞株。
【請求項6】
LRRK2変異を有する、請求項1に記載の細胞株。
【請求項7】
LRRK2 G2019S変異、LRRK2 R1441G変異、LRRK2 R1441C変異、又はLRRK2 I2020T変異を有する、請求項1に記載の細胞株。
【請求項8】
LRRK2 G2019S変異を有する、請求項1に記載の細胞株。
【請求項9】
SNCA変異を有する、請求項1に記載の細胞株。
【請求項10】
SNCA A53T変異、SNCA E46K変異、SNCA重複、又はSNCA三重複を有する、請求項1に記載の細胞株。
【請求項11】
SNCA A53T変異を有する、請求項1に記載の細胞株。
【請求項12】
前記iPSC由来のDAニューロン細胞株のiPSCが、神経変性疾患を有するドナーからエピソーム的に再プログラムされたiPSCである、請求項1~8のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項13】
前記iPSC由来のドーパミン作動性ニューロン細胞株のiPSCが、パーキンソン病のドナーからエピソーム的に再プログラムされたiPSCである、請求項1~8のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項14】
前記iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンのiPSCが、GBA変異、LRRK2変異、又はSNCA変異を含むように遺伝子操作されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項15】
ヒト細胞株である、請求項1~15のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項16】
前記iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンが、中脳ドーパミン作動性ニューロンである、請求項1~15のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項17】
前記iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンが、FOXA2及びチロシンヒドロキシラーゼ(TH)を発現する末期ドーパミン作動性ニューロンである、請求項1~15のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項18】
前記iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンが、疾患関連変異を有していない健康なドナーから再プログラムされたiPSCから分化したDAニューロンと比較して、TH、DDC、MAOA、及び/又はCOMT転写産物レベルが少なくとも50%増加している、請求項1~17のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項19】
前記iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンが、疾患関連変異を有していない健康なドナーから再プログラムされたiPSCから分化したDAニューロンと比較して、KCl刺激に応答したドーパミンの放出が少なくとも30%増加している、請求項1~18のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項20】
前記iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンが、疾患関連変異を有していない健康なドナーから再プログラムされたiPSCから分化したDAニューロンと比較して、細胞死、ミトコンドリアストレス、及びα-シヌクレインタンパク質凝集が増加している、請求項1~19のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項21】
アイソジェニックである、請求項1~20のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項22】
SNCA変異を含む前記iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンが、疾患関連変異を有していない健常なドナーから再プログラムされたiPSCから分化したDAニューロンと比較して、リソソームGCase活性が低下している、請求項1~20のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項23】
SNCA変異を含む前記iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンが、疾患関連変異を有していない健常なドナーから再プログラムされたiPSCから分化したDAニューロンと比較して、リソソームGCase活性が低下している、請求項1~20のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項24】
前記iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンが、RNA配列決定及びカルシウムイメージングによって測定される細胞内カルシウムシグナル伝達が欠如している、請求項1~20のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項25】
適当な容器に入れられた請求項1~21のいずれか一項に記載の細胞株を含むキット。
【請求項26】
第1の容器に入れられたGBA変異を含むiPSC由来のDAニューロン細胞株、及び第2の容器に入れられたLRRK2変異を含むiPSC由来のDAニューロン細胞株を含む、請求項25に記載のキット。
【請求項27】
第1の容器に入れられたGBA N370S変異を含むiPSC由来のDAニューロン細胞株、及び第2の容器に入れられたLRRK2 G2019S変異を含むiPSC由来のDAニューロン細胞株を含む、請求項25に記載のキット。
【請求項28】
疾患関連変異を有していないiPSC由来のDAニューロン細胞株をさらに含む、請求項25に記載のキット。
【請求項29】
前記iPSC由来のDAニューロン細胞株のiPSCが、健康なドナーからエピソーム的に再プログラムされたiPSCである、請求項28に記載のキット。
【請求項30】
前記健康なドナーが、神経変性疾患を有していない、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
第3の容器に入れられた、疾患関連変異を発現するように操作されたiPSC由来のDAニューロン細胞株をさらに含む、請求項25~30のいずれか一項に記載のキット。
【請求項32】
前記疾患関連変異が、α-シヌクレイン(SNCA)の変異である、請求項31に記載のキット。
【請求項33】
前記SNCAの変異が、ミスセンス点変異である、請求項32に記載のキット。
【請求項34】
前記ミスセンス点変異がA53Tである、請求項33に記載のキット。
【請求項35】
それぞれ適切な容器に入れられた星状細胞、周皮細胞、脳微小血管内皮細胞、ミクログリア、及び/又はニューロンをさらに含む、請求項25又は27に記載のキット。
【請求項36】
それぞれ適切な容器に入れられた、ドーパミンのレベル、GBA活性、ニューロンマエストロ多電極アレイ(MEA)多活性、及びα-シヌクレイン媒介タンパク質凝集の低下を検出するための試薬をさらに含む、請求項25~35のいずれか一項に記載のキット。
【請求項37】
TH、DDC、MAOA、及び/又はCOMT転写レベルを測定するための試薬をさらに含む、請求項25~36のいずれか一項に記載のキット。
【請求項38】
グルコセレブロシダーゼ(GCase)活性を検出するための試薬、及び/又はカルシウムイメージングを行うための試薬をさらに含む、請求項25~37のいずれか一項に記載のキット。
【請求項39】
前記試薬が、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)試薬としてさらに定義される、請求項36に記載のキット。
【請求項40】
ELISAプレートをさらに備える、請求項39に記載のキット。
【請求項41】
神経変性疾患の検出のための、請求項25~40のいずれか一項に記載のキットの使用。
【請求項42】
前記神経変性疾患が、パーキンソン病である、請求項41に記載の使用。
【請求項43】
神経変性疾患の処置用の治療薬のスクリーニングのための、請求項25~40のいずれか一項に記載のキットの使用。
【請求項44】
請求項25~40のいずれか一項に記載のキットのパーキンソン病のモデルとしての使用。
【請求項45】
GBA変異、LRRK2変異、又はSNCA変異を含むiPSC由来のDAニューロンを含む培養物。
【請求項46】
GBA N370S変異、LRRK2 G2019S変異、又はSNCA A53T変異を含むiPSC由来のDAニューロンを含む、請求項45に記載の培養物。
【請求項47】
GBA N370S変異を含むiPSC由来のDAニューロンを含む、請求項45に記載の培養物。
【請求項48】
LRRK2 G2019S変異を含むiPSC由来のDAニューロンを含む、請求項45に記載の培養物。
【請求項49】
SNCA A53T変異を含むiPSC由来のDAニューロンを含む、請求項45に記載の培養物。
【請求項50】
細胞培養物が、2次元(2D)培養物である、請求項45~48のいずれか一項に記載の培養物。
【請求項51】
培地がDAPTを含む、請求項45~50のいずれか一項に記載の培養物。
【請求項52】
細胞が、細胞外マトリックスタンパク質でコーティングされた表面で培養される、請求項45~51のいずれか一項に記載の培養物。
【請求項53】
前記細胞外マトリックスタンパク質が、マウスEngelbreth-Holm-Swarm腫瘍から精製された基底膜抽出物(BME)である、請求項52に記載の培養物。
【請求項54】
前記細胞外マトリックスタンパク質が、MATRIGEL(登録商標)、GELTREX(商標)、コラーゲン、又はラミニンである、請求項52に記載の培養物。
【請求項55】
細胞培養物が、3次元(3D)培養物である、請求項45~54のいずれかの培養物。
【請求項56】
細胞培養物が、星状細胞、周皮細胞、脳微小血管内皮細胞、ミクログリア、及び/又はニューロンをさらに含む、請求項47~55のいずれか一項に記載の培養物。
【請求項57】
前記iPSCがヒトである、請求項45~56のいずれか一項に記載の培養物。
【請求項58】
ゼノフリー、フィーダーフリー、及び/又は馴化培地フリーである、請求項45~57のいずれか一項に記載の培養物。
【請求項59】
培地が規定培地である、請求項45~58のいずれか一項に記載の培養物。
【請求項60】
請求項45~59のいずれか一項に記載の培養物の神経変性疾患のモデルとしての使用。
【請求項61】
前記モデルが、GBA N370S変異を含むiPSC由来のDAニューロン、LRRK2 G2019S変異を含むiPSC由来のDAニューロン、健康なドナーからのiPSC由来のDAニューロン、又はSNCA A53T変異を発現するように操作されたiPSC由来のDAニューロンを含有する培養物を含む、請求項60に記載の使用。
【請求項62】
請求項1~16のいずれか一項に記載のiPSC由来のDAニューロン又は請求項45~59のいずれか一項に記載の培養物と試験化合物を接触させて、細胞の機能活性、生理機能、又は生存率を測定することを含む、神経変性疾患を処置するための治療用化合物をスクリーニングする方法。
【請求項63】
機能活性の増加が、前記試験化合物が神経変性疾患を処置できることを示す、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
ドーパミンのレベルを測定することを含む、請求項62又は63に記載の方法。
【請求項65】
細胞株をKClと接触させることをさらに含む、請求項62~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
機能活性を測定することが、GBA活性、MEA活性、α-シヌクレイン媒介タンパク質凝集、及び/又はミトコンドリアROSレベルを測定することを含む、請求項62~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
機能活性を測定することが、グルコセレブロシダーゼ(GCase)活性を測定することを含む、請求項62~66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
GCase活性の少なくとも10%の増加が候補化合物を同定する、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
カルシウム振動を測定するためにカルシウムイメージングアッセイを行うことをさらに含む、請求項67に記載の方法。
【請求項70】
カルシウム振動を測定することが、ピーク数、ピークレート、及び曲線下面積からなる群から選択される測定値の1つ以上を測定することを含む、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
測定されたカルシウム振動が、AHNニューロン又は変異ニューロンと関連し得る、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
カルシウム振動を測定することを、化合物スクリーニングに使用することができる、請求項70に記載の方法。
【請求項73】
前記ドーパミンのレベルが、ELISAアッセイによって測定される、請求項64に記載の方法。
【請求項74】
前記ELISAアッセイが、競合的ドーパミンELISAである、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
ドーパミンのレベルを測定することが、ドーパミンのmRNA及び/又はタンパク質レベルを測定することを含む、請求項64~74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項76】
ドーパミンの少なくとも30%又は30ng/mL超の増加が候補化合物を示す、請求項64~74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
TH、DDC、MAOA、及びCOMT転写産物レベルを測定することをさらに含む、請求項62~76のいずれか一項に記載の方法。
【請求項78】
α-シヌクレイン蛋白質凝集が、チオフラビン染色及びαシヌクレイン発現によって測定される、請求項66に記載の方法。
【請求項79】
前記神経変性疾患がパーキンソン病である、請求項62~78のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
TH、DDC、MAOA、及び/又はCOMTのRNA発現の少なくとも1.5倍の増加が候補化合物を同定する、請求項62~79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
MEA活性の増加が候補化合物を同定する、請求項62~79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項82】
α-シヌクレインの発現及び凝集並びに/又はミトコンドリアROSの少なくとも30%の増加が候補化合物を同定する、請求項62~79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
GBA活性の少なくとも50%の減少が候補化合物を同定する、請求項62~79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項84】
GBA変異又はLRRK2変異を含むiPSC由来のDAニューロンをサンプルと接触させることを含む、神経変性疾患のスクリーニング方法。
【請求項85】
神経変性疾患をスクリーニングすることが、GBA N370S変異又はLRRK2 G2019S変異を含むiPSC由来のDAニューロンをサンプルと接触させることを含む、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
SNCA A53T変異を含むiPSC由来のDAニューロンを前記サンプルと接触させることをさらに含む、請求項84又は85に記載の方法。
【請求項87】
前記GBA N370S変異を含むiPSC由来のDAニューロン及び/又は前記LRRK2 G2019S変異を含むiPSC由来のDAニューロンが、請求項1~16のいずれか一項に記載の細胞である、請求項84又は86に記載の方法。
【請求項88】
前記サンプルが、患者サンプルである、請求項84~87のいずれか一項に記載の方法。
【請求項89】
前記サンプルが、血液サンプルである、請求項84~88のいずれか一項に記載の方法。
【請求項90】
前記ドーパミンのレベルを検出することをさらに含む、請求項87~89のいずれか一項に記載の方法。
【請求項91】
ドーパミンのレベルの増加が、神経変性疾患の存在を示す、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、又は多発性硬化症である、請求項84~91のいずれか一項に記載の方法。
【請求項93】
前記神経変性疾患が、パーキンソン病である、請求項84~91のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2021年10月29日に出願された米国仮特許出願第63/273,480号の利益を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
この出願は、電子的に提出され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、配列表XMLを含む。2022年10月27日に作成された前記XML配列表は、CDINP0111WO.xmlというファイル名で、サイズは1,933バイトである。
【背景技術】
【0003】
1.分野
本発明は、一般に、分子生物学及び医学の分野に関する。より具体的には、本発明は、誘導多能性幹細胞(iPSC)から分化したニューロンの組成物及びその使用方法に関する。
【0004】
2.関連技術の説明
ヒトiPSC由来のドーパミン作動性ニューロンは、前脳及び線条体を含む中枢神経系(CNS)の様々な領域を神経支配するヒト中脳ドーパミン作動性ニューロンの発生学的及び生理学的に適切なインビトロモデルを提供する。ドーパミン作動性ニューロンの喪失は、CNSのドーパミンレベルの低下を引き起こし、パーキンソン病(PD)を含む神経変性状態を引き起こす。ドーパミン作動性ニューロンは、加齢とともに減少し、加齢とともに増加するドーパミン酸化によって生じる酸化ストレスに対して選択的に脆弱である。疾患モデリングには、疾患関連変異を有するドーパミン作動性ニューロンに対する満たされていない要望が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
いくつかの実施形態において、本開示は、グルコシルセラミダーゼ(GBA)変異、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)変異、又はα-シヌクレイン(SNCA)変異を含む単離された人工多能性幹細胞(iPSC)由来のドーパミン作動性(DA)ニューロン細胞株を提供する。
【0006】
いくつかの態様において、細胞株は、GBA N370S変異又はLRRK2 G2019S変異を有する。特定の態様において、細胞株は、GBA N370S変異、GBA L444P変異、又はGBA RecNil変異を有する。特定の態様において、細胞株は、GBA N370S変異を有する。特定の態様において、細胞株は、LRRK2 G2019S変異、LRRK2 R1441G変異、LRRK2 R1441C変異、又はLRRK2 I2020T変異を有する。特定の態様において、細胞株は、LRRK2 G2019S変異を有する。特定の態様において、細胞株は、SNCA A53T変異、SNCA E46K変異、SNCA重複、又はSNCA三重複を有する。いくつかの態様において、細胞株は、SNCA A53T変異を有する。
【0007】
いくつかの態様において、iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンのiPSCは、GBA変異、LRRK2変異、又はSNCA変異を含むように遺伝子操作される。
【0008】
いくつかの態様において、iPSC由来のDAニューロン細胞株のiPSCは、神経変性疾患を有するドナーからエピソーム的に再プログラムされたiPSCである。特定の態様において、iPSC由来のDAニューロンのiPSCは、パーキンソン病のドナーからエピソーム的に再プログラムされたiPSCである。
【0009】
いくつかの態様において、細胞株は、ヒト細胞株である。特定の態様において、iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンは、中脳ドーパミン作動性ニューロンである。いくつかの態様において、iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンは、FOXA2及びチロシンヒドロキシラーゼ(TH)を発現する末期ドーパミン作動性ニューロンである。特定の態様において、iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンは、疾患関連変異を有していない健康なドナーから再プログラムされたiPSCから分化したDAニューロンと比較して、TH、DDC、MAOA、及び/又はCOMT転写レベルが少なくとも50%増加している。特定の態様において、iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンは、疾患関連変異を有していない健康なドナーから再プログラムされたiPSCから分化したDAニューロンと比較して、KCl刺激に応答するドーパミンの放出が少なくとも30%増加している。いくつかの態様において、iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンは、疾患関連変異を有していない健康なドナーから再プログラムされたiPSCから分化したDAニューロンと比較して、細胞死、ミトコンドリアストレス、及びα-シヌクレインタンパク質凝集を増加させた。特定の態様において、SNCA変異を含むiPSC由来のドーパミン作動性ニューロンは、疾患関連変異を有していない健康なドナーから再プログラムされたiPSCから分化したDAニューロンと比較して、リソソームGCase活性を低下させた。特定の態様において、SNCA変異を含むiPSC由来のドーパミン作動性ニューロンは、疾患関連変異を有していない健康なドナーから再プログラムされたiPSCから分化したDAニューロンと比較して、リソソームGCase活性を低下させた。いくつかの態様において、iPSC由来のドーパミン作動性ニューロンは、RNA配列決定及びカルシウムイメージングによって測定される細胞内カルシウムシグナル伝達が欠如している。特定の態様において、細胞株はアイソジェニックである。
【0010】
さらなる実施形態は、適当な容器に入れられた本実施形態の細胞株(例えば、グルコシルセラミダーゼ(GBA)変異、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)変異、又はα-シヌクレイン(SNCA)変異を含む単離された人工多能性幹細胞(iPSC)由来のドーパミン作動性(DA)ニューロン細胞株)を含むキットを提供する。
【0011】
いくつかの態様において、キットは、第1の容器に入れられたGBA N370S変異を含むiPSC由来のDAニューロン細胞株、及び第2の容器に入れられたLRRK2 G2019S変異を含むiPSC由来のDAニューロン細胞株を含む。特定の態様において、キットは、疾患関連変異を有していないiPSC由来のDAニューロン細胞株をさらに含む。特定の態様において、iPSC由来のDAニューロン細胞株のiPSCは、神経変性疾患を有していない健康なドナーなどの健康なドナーからエピソーム的に再プログラムされたiPSCである。いくつかの態様において、キットは、第3の容器に入れられた、疾患関連変異を発現するように操作されたiPSC由来のDAニューロン細胞株をさらに含む。特定の態様において、疾患関連変異は、α-シヌクレイン(SNCA)における変異である。いくつかの態様において、SNCAにおける変異は、A53Tなどのミスセンス点変異である。
【0012】
いくつかの態様において、キットは、それぞれ適切な容器に入れられた星状細胞、周皮細胞、脳微小血管内皮細胞、ミクログリア、及び/又はニューロンをさらに含む。特定の態様において、キットは、それぞれ適切な容器に入れられた、ドーパミンのレベル、GBA活性、ニューロンマエストロ多電極アレイ(neuronal maestro multi-electrode array)(MEA)活性、及びα-シヌクレイン媒介タンパク質凝集を検出するための試薬をさらに含む。さらなる態様において、本キットは、TH、DDC、MAOA、及び/又はCOMT転写産物レベルを測定するための試薬をさらに含む。特定の態様において、試薬は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)試薬としてさらに定義される。いくつかの態様において、キットは、ELISAプレートをさらに含む。いくつかの態様において、キットは、グルコセレブロシダーゼ(GCase)活性を検出するための試薬、及び/又はカルシウムイメージングを行うための試薬をさらに含む。
【0013】
神経変性疾患の検出のための、本実施形態のキット(例えば、適切な容器に入れられた本実施形態の細胞株(例えば、グルコシルセラミダーゼ(GBA)変異、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)変異、又はα-シヌクレイン(SNCA)変異を含む単離された人工多能性幹細胞(iPSC)由来のドーパミン作動性(DA)ニューロン細胞株)を含むキット)の使用が本明細書でさらに提供される。いくつかの態様において、神経変性疾患はパーキンソン病である。
【0014】
別の実施形態は、神経変性疾患の処置用の治療薬のスクリーニングのための、本実施形態のキット(例えば、適切な容器に入れられた本実施形態の細胞株(例えば、グルコシルセラミダーゼ(GBA)変異、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)変異、又はα-シヌクレイン(SNCA)変異を含む単離された人工多能性幹細胞(iPSC)由来のドーパミン作動性(DA)ニューロン細胞株)を含むキット)の使用を提供する。
【0015】
さらに別の実施形態において、パーキンソン病のモデルとしての、本実施形態のキット(例えば、適切な容器に入れられた本実施形態の細胞株(例えば、グルコシルセラミダーゼ(GBA)変異、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)変異、又はα-シヌクレイン(SNCA)変異を含む単離された人工多能性幹細胞(iPSC)由来のドーパミン作動性(DA)ニューロン細胞株)を含むキット)の使用を提供する。
【0016】
別の実施形態は、GBA N370S変異、LRRK2 G2019S変異、又はSNCA A53T変異を含むiPSC由来のDAニューロンを含む培養物を提供する。
【0017】
いくつかの態様において、培養物は、GBA N370S変異を含むiPSC由来のDAニューロンを含む。特定の態様において、培養物は、LRRK2 G2019S変異を含むiPSC由来のDAニューロンを含む。いくつかの態様において、培養物は、SNCA A53T変異を含むiPSC由来のDAニューロンを含む。
【0018】
特定の態様において、細胞培養は、2次元(2D)培養である。いくつかの態様において、培地は、DAPTを含む。特定の態様において、細胞は、細胞外マトリックスタンパク質でコーティングされた表面で培養される。例えば、細胞外マトリックスは、マウスのEngelbreth-Holm-Swarm腫瘍から精製された基底膜抽出物(BME)である。いくつかの態様において、細胞外マトリックスタンパク質は、MATRIGEL(登録商標)、GELTREX(商標)、コラーゲン、又はラミニンである。いくつかの態様において、細胞培養は、3次元(3D)培養である。
【0019】
いくつかの態様において、細胞培養は、星状細胞、周皮細胞、脳微小血管内皮細胞、ミクログリア、及び/又は他のタイプのニューロンをさらに含む。
【0020】
ある態様において、iPSCはヒトである。いくつかの態様において、培養物は、ゼノフリー、フィーダーフリー、及び/又は馴化培地フリーである。特定の態様において、培地は、規定培地である。
【0021】
本実施形態の培養物(例えば、GBA N370S変異、LRRK2 G2019S変異、又はSNCA A53T変異を含むiPSC由来のDAニューロンを含む培養物)の神経変性疾患のモデルとしての使用が本明細書でさらに提供される。いくつかの態様において、このモデルは、GBA N370S変異を含むiPSC由来のDAニューロン、LRRK2 G2019S変異を含むiPSC由来のDAニューロン、健康なドナーからのiPSC由来のDAニューロン、又はSNCA A53T変異を発現するように操作されたiPSC由来のDAニューロンを含む培養物を含む。
【0022】
別の実施形態は、神経変性疾患を処置するための治療用化合物をスクリーニングする方法を提供し、この方法は、試験化合物を本実施形態のiPSC由来のDAニューロン又は本実施形態の培養物(例えば、GBA N370S変異、LRRK2 G2019S変異、又はSNCA A53T変異を含むiPSC由来のDAニューロンを含む培養物)と接触させること、及び細胞の機能活性、生理学、又は生存率を測定することを含む。
【0023】
いくつかの態様において、機能活性の増加は、試験化合物が神経変性疾患を処置できることを示す。特定の態様において、この方法は、ドーパミンのレベルを測定することを含む。いくつかの態様において、細胞株をKClと接触させることをさらに含む。いくつかの態様において、機能活性を測定することは、グルコセレブロシダーゼ(GCase)活性を測定することを含む。特定の態様において、GCase活性の少なくとも10%の増加は、候補化合物を同定する。いくつかの態様において、この方法は、カルシウムイメージングアッセイを行ってカルシウム振動を測定することをさらに含む。いくつかの態様において、カルシウム振動を測定することは、ピーク数、ピークレート、及び曲線下面積からなる測定値の1つ以上を測定することを含む。特定の態様において、測定されたカルシウム振動は、AHNニューロン又は変異ニューロンと関連し得る。いくつかの態様において、カルシウム振動を測定することは、化合物スクリーニングに使用することができる。
【0024】
特定の態様において、機能活性を測定することは、GBA活性、MEA活性、α-シヌクレイン媒介タンパク質凝集、及び/又はミトコンドリアROSレベルを測定することを含む。いくつかの態様において、ドーパミンのレベルは、競合的ドーパミンELISAなどのELISAアッセイによって測定される。いくつかの態様において、ドーパミンレベルを測定することは、ドーパミンのmRNA及び/又はタンパク質レベルを測定することを含む。特定の態様において、ドーパミンの少なくとも30%又は30ng/mL超の増加は、候補化合物を示す。
【0025】
いくつかの態様において、この方法は、TH、DDC、MAOA、及びCOMT転写産物レベルを測定することをさらに含む。特定の態様において、α-シヌクレインタンパク質凝集は、チオフラビン染色及びαシヌクレイン発現によって測定される。
【0026】
特定の態様において、神経変性疾患は、パーキンソン病である。
【0027】
いくつかの態様において、TH、DDC、MAOA、及び/又はCOMTのRNA発現の少なくとも1.5倍の増加は、候補化合物を同定する。特定の態様において、MEA活性の増加は、候補化合物を同定する。いくつかの態様において、α-シヌクレインの発現及び凝集及び/又はミトコンドリアROSの少なくとも30%の増加は、候補化合物を同定する。特定の態様において、GBA活性の少なくとも50%の減少は、候補化合物を同定する。
【0028】
別の実施形態は、神経変性疾患のスクリーニング方法を提供し、この方法は、GBA N370S変異又はLRRK2 G2019S変異を含むiPSC由来のDAニューロンをサンプルと接触させることを含む。
【0029】
いくつかの態様において、この方法は、SNCA A53T変異を含むiPSC由来のDAニューロンを前記サンプルと接触させることをさらに含む。いくつかの態様において、GBA N370S変異を含むiPSC由来のDAニューロン及び/又はLRRK2 G2019S変異を含むiPSC由来のDAニューロンは、本実施形態による細胞である。いくつかの態様において、サンプルは、患者サンプルである。特定の態様において、サンプルは、血液サンプルである。いくつかの態様において、この方法は、ドーパミンのレベルを検出することをさらに含む。特定の態様において、ドーパミンのレベルの増加は、神経変性疾患の存在を示す。いくつかの態様において、神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、又は多発性硬化症である。
【0030】
本発明の他の目的、特徴及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、本発明の趣旨及び範囲内の様々な変更形態及び修正形態は、この詳細な説明から当業者に明らかになるため、詳細な説明及び特定の例は、本発明の好ましい実施形態を示すが、例示としてのみ与えられることを理解されたい。
【0031】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の態様をさらに実証するために含まれる。本発明は、本明細書に提示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面の1つ以上を参照することにより、よりよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1A-1F】PDモデリングのためのiPSCの生成及び特性評価。(図1A)エピソームで再プログラムされたiPSC 01279を操作して、ヘテロ接合体(HZ)SNCA A53T変異株を生成した。操作を、模式的に説明し、アミノ酸53のアラニンからスレオニンへの変化を黄色で強調表示している。(図1B)GBA N370S変異を有するPD患者に由来するIPSC。アスパラギン370のセリンへのアミノ酸変化を黄色で強調表示している。(図1C)変異LRRK2 G2019S変異を有するPD患者由来のIPSCを模式的に説明し、グリシン2019のセリンへのアミノ酸変化を黄色で強調表示している。(図1D~1F)正常核型、SNCA A53T、GBA(N370S)、及びLRRK2(G2019S)を詳述する各iPS細胞株由来のGバンド中期細胞の細胞遺伝学的解析。
【0033】
図2A-2C】疾患モデリングのための、明らかに健康な正常(AHN)iPSC、操作されたアイソジェニックiPSC、及びPD患者からのドーパミン作動性ニューロンの生成及び特性評価。(図2A)iPSCからドーパミン作動性ニューロンへの時系列の分化プロセス及びそのプロセス全体を通して利用されたサイトカインの概略図を示す。(図2B)中脳転写因子FOXA2及びLMX1を発現する、17日目のドーパミン作動性前駆細胞の代表的なフローサイトメトリードットプロット。(図2C)FOXA2及びチロシンヒドロキシラーゼ(TH)酵素(チロシンからのドーパミン合成に必要な酵素)を発現するプロセス終了時のドーパミン作動性ニューロンの代表的なフローサイトメトリードットプロット。
【0034】
図3A-3C】(図3A~3B)末期DAニューロンの免疫蛍光染色。(図3C)ドーパミン作動性ニューロンにおけるFOXA2及びTHタンパク質の定量化フローサイトメトリー解析。
【0035】
図4A-4C】GBA及びLRRK2 PD患者iPSC由来のDAニューロンは、ドーパミンの合成及び分解に関与する酵素の異常なmRNA発現及びタンパク質発現を示す。(図4A)ANH、操作された及びPD患者由来のDAニューロンにおけるTH、DDC、MAOA、及びCOMT転写産物レベルの定量化。(図4B)ANH、操作された及びPD患者由来のDAニューロンにおけるTH及びDDCタンパク質レベルの定量化。(図4C)各タンパク質の曲線下面積に基づいたTH及びDDCタンパク質の定量化、並びにMAPT発現に対する正規化。(P値<0.05、**P値<0.01、***P値<0.001)。
【0036】
図5A-5B】GBA及びLRRK2 PD患者iPSC由来のDAニューロンは、KClで刺激されるとより多くのドーパミンを放出する。(図5A)製造元の指示に従って、GBA、LRRK2、SNCA、及びAHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットを解凍し、21日間プレーティングし、細胞によって放出されるドーパミンのレベルを、競合ドーパミンELISA(Eagle Biosciences Cat.No.DOP31-K01)を用いて定量化した。Graphpad PRISMでグラフ化した検量線を示す。(図5B)DAニューロンのドーパミン放出を、KCLで刺激されたHBSS緩衝液中の培養21日目のAHN DAニューロンによって放出されるドーパミンと比較した(P値<0.05、**P値<0.01、***P値<0.001)。
【0037】
図6A-6E】SNCAが操作されたiPSC及びPD患者iPSC由来のDAニューロンは、より高い細胞死及びミトコンドリアストレスを明らかにする。(図6A)異なる時点における1μMのYOYO-3ヨウ化物(死細胞)及びカルセインAM(生細胞)による末期DAニューロンの代表的な染色。(図6B)GBA、LRRK2、SNCA、及びAHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットを解凍し、プレーティングした。生細胞/死細胞のパーセンテージを、緑と赤のチャネルの陽性オブジェクトに基づいて計算した。このデータは、96ウェルプレートの1ウェル(0.143cm)あたりの生細胞を示している。(図6C)MitoSOX色素で染色し(左の画像)、相の画像と重ね合わせ(中央の画像)、生細胞についてカルセインAMで共染色した(右の画像)DAニューロンの代表的な画像。(図6D~6E)AHNニューロンと比較した、疾患ニューロンにおけるMitoSOXシグナル強度(平均±SD)の定量化及びMitoSOX陽性細胞のパーセンテージを示す。(P値<0.05、**P値<0.01、***P値<0.001)
【0038】
図7A-7C】SNCAが操作されたiPSC及びPD患者iPSC由来のDAニューロンは、著しく多いaSynタンパク質凝集を有する。(図7A)チオフラビン(Th-T)染色を行って、オリゴマーaSyn(4μM/ml)を24時間添加した後の22DIVに、生DAニューロン培養物上に凝集したaSynを明らかにした。(図7B)すべてのaSyn細胞をカウントし、異なる発現ビンの個々のニューロンにおけるTh-Tシグナル強度に対してプロットした。(図7C)Th-T画像を、活性オリゴマーaSynで処理した21DIVに、DAニューロン培養について、24時間、48時間又は72時間定量化した(n=4、ダネット多重比較検定による一元配置分散分析)。
【0039】
図8A-8C】SNCAが操作されたiPSC及びPD患者iPSC由来のDAニューロンは、より大きなaSyn凝集を有する。(図8A)Mメソスケール診断(MSD)U-PLEXヒトα-シヌクレインキット(MSD-K15)を用いたα-シヌクレインタンパク質凝集の定量化。分析物の濃度を、検量線にバックフィッティングすることによってECLシグナルから決定した。(図8B~C)GBA、LRRK2、SNCA、及びAHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットを、培養中に21日間又は42日間アッセイした。
【0040】
図9A-9F】SNCAが操作されたiPSC及びPD患者iPSC由来のDAニューロンは、低いGCase活性を有する。GBA、LRRK2、SNCA、及びAHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットを解凍し、14日間プレーティングし、サンプルを回収してRNASeq解析及びウェスタンブロット解析のために提出した。GBA転写産物のFPKM値を定量化した(図9A)。溶解物中のGBAタンパク質の量を、各タンパク質の曲線下面積に基づいて定量化し、MAPT発現に対して正規化した(図9B)。基質としての異なる濃度の4-メチルウンベリフェリル-β-D-グルコピラノシド(4-MU)(図9C)及びGCase特異的阻害剤コンズリトールBエポキシド(CBE)(図9D)を試験した。10mMの4-MUと2mMのCBEが最適な濃度であることが判明し、これを、以下のGCase活性アッセイに使用した。異なる濃度のタンパク質溶解物も、AHN DAニューロン由来のGCase活性について試験した(図9E)。5ugのタンパク質溶解物を使用して、異なるDAニューロン間でGCase活性を比較した(図9F)。(n=4、p<0.001 平均比較のためのダネット検定による一元配置分散分析)。(P値<0.05、**P値<0.01、***P値<0.001)。
【0041】
図10A-10B】SNCAが操作されたiPSC及びPD患者iPSC由来のDAニューロンは、ニューラルネットワーク活動の進化における違いを明らかにする。GBA、LRRK2、SNCA、及びAHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットを解凍し、48ウェルのClassic多電極アレイ(MEA)プレート(1ウェルあたり120K細胞の細胞密度でロットあたり8ウェル)に完全なBrainPhys培地にプレーティングした。ニューロン活動を、Axion MaestroMEAを使用して定量化した。その結果、35日目のラスタープロット(図10A)におけるAHN細胞と比較して、GBA、LRRK2、及びSNCAニューロンにおける活動及びネットワーク強度が低いことが、経時的なバースト率、ネットワークバースト頻度、及び同期指数の定量化(図10B)で明らかになった。
【0042】
図11A-11C】解凍の14日後のRNAseqデータ解析。変異DAニューロンの転写産物をAHN DAニューロンに対してプロットすると、遺伝子発現レベルにおいて高い相関を示し、有意に異なる転写産物を色で強調表示した(図11A)。AHNサンプルと比較した変異体サンプルについての差次的遺伝子発現解析を行い、有意に変化した転写産物の数をベン図にまとめた(図11B)。DAVIDデータベースのAHN DAニューロンと比較して、変異DAニューロンで差次的に制御された転写産物の遺伝子セットの濃縮及び経路解析。色で強調表示した経路は、すべての変異DAニューロンにおいて一般に調節された経路であった(図11C)。
【0043】
図12A-12C】iPSC由来のDAニューロンのパネルを用いた化合物スクリーニング。(図12A)AHNを対照とした、GBA及びLRRK2 DAニューロンにおけるGcase活性に対する3つの濃度での12の化合物の効果。(図12B)組み合わせスクリーニングでは、改善されたGCase活性を示す最初のスクリーニングから4つの分子をピックアップし、GBA細胞で試験するために異なる方法で組み合わせた。単一化合物を、急性曝露(3日)と慢性曝露(2週間)の両方について試験した。組み合わせスクリーニングは、10uMのアンブロキソールによる慢性処理がGBA細胞において最も高いGCase活性を有することを示した。(図12C)これを、AHNと比較して、LRRK2、SNCA、及びGBAにおいてさらに試験した。解凍の21日後に、10uMのアンブロキソールで2週間処理すると、すべての変異ニューロンでGcase活性が有意に増加した。(点線は、DMSOビヒクル対照のGcaseレベルを示す、***P値<0.001)
【0044】
図13A-13D】iPSC由来のDAニューロンのカルシウムイメージング。プレーティングの14日後のDAニューロンのカルシウム振動の痕跡をFDSS/μCELL器具を用いて20分間捕捉した。(図13A)10uMのアンブロキソールで1週間処理した後のAHN及び3つの変異すべてのCa振動のベースライン測定値。未処理のAHN DAニューロンと比較して、アンブロキソールによる処理は、AHN、LRRK2、及びSNCA DAニューロンに過興奮性を引き起こしたが、GBA変異DAニューロンのピーク数とピークレートを救った。(図13B)ピーク数、(図13C)毎分ピークレート、及び(図13D)ピーク振幅(平均)を含むカルシウム過渡特性を、Waveformソフトウェアを用いて各細胞株のすべてのウェル(反復)について定量化した。
【発明を実施するための形態】
【0045】
特定の態様において、本開示は、疾患関連変異を有するヒトiPSC由来のドーパミン作動性ニューロンを提供する。本明細書では、前脳及び線条体を含むCNSの様々な領域を神経支配するヒト中脳ドーパミン作動性ニューロンの発生学的及び生理学的に適切なインビトロモデルとしてのこれらの細胞の使用がさらに提供される。
【0046】
ドーパミン作動性ニューロンの喪失は、CNSのドーパミンレベルの低下を引き起こし、パーキンソン病(PD)を含む神経変性状態を引き起こす。ドーパミン作動性ニューロンは、加齢とともに減少し、加齢とともに増加するドーパミン酸化によって生じる酸化ストレスに対して選択的に脆弱である。本研究は、GBA(N370S)又はLRRK2(G2019S)変異(GBA及びLRRK2株はパーキンソン病進行マーカーイニシアチブ(PPMI)iPS細胞バンクの一部である)及び遺伝子操作されたSNCA A53T iPSCのいずれかを受け継いだ2人のPD患者からのiPSC由来のドーパミン作動性ニューロンの生成及び特性評価について概説する。健康なドナー及びPDドナーに由来する末期ドーパミン作動性ニューロンを、GBA活性、ニューロンMEA活性、及びα-シヌクレイン媒介タンパク質凝集について評価した。これらの結果は、皿の中のPDの多くの特徴を要約した。具体的には、本研究は、GBA及びLRRK2由来のDAが、AHN DAと比較してより多くのドーパミンを産生及び放出することを実証した。GBA及びLRRK2 DAはまた、SNCA DAに匹敵する高いα-シヌクレイン凝集も示した。さらに、すべての変異DA(GBA、LRRK2、及びSNCA)は、より低いGBA活性を示し、それらのニューロンネットワーク活動は、AHN DAと比較してより速く発達したが、その後、時間の経過とともに減少した。
【0047】
したがって、疾患特異的な変異を有するヒトiPSC由来のドーパミン作動性ニューロンの本パネルを、様々なインビトロ用途に使用して、ドーパミン作動性ニューロン変性の機構的洞察及び新規治療標的の同定を明らかにすることができる。
【0048】
したがって、特定の実施形態において、本開示は、パーキンソン病などの神経変性疾患の診断、予後、及び処置のための新規な標的、バイオマーカー、及び治療薬を同定するなど、神経炎症の研究のためのインビトロ培養モデルを提供する。特定の態様において、本細胞及びモデルは、パーキンソン病の早期発症の検出に使用することができる。
【0049】
本明細書では、本細胞培養モデルを用いて神経炎症を研究するためのアッセイがさらに提供される。本モデルの結果は、GBA活性、ニューロンMEA活性、ミトコンドリア酸化ストレス及び膜電位、リゾチーム及びオートファジー活性、並びにα-シヌクレイン媒介タンパク質凝集であり得る。患者からのiPSCに由来するこれらのDAニューロンは、2D又は3Dオルガノイド系におけるヒトミクログリア及び星状細胞などの他の細胞間の複雑な相互作用を理解して、神経変性疾患を模倣するためのより正確なモデルを作成するためのインビトロツールを提供する。本方法によって生成された細胞は、疾患モデリング、創薬、及び再生医療に利用することができる。
【0050】
いくつかの態様において、本DAニューロンは、ドーパミン放出アッセイを用いて、又はニューロンにおけるTH、DDC、MAOA、及びCOMT転写産物及びタンパク質発現レベルを測定することによって、PDの早期診断に使用することができる。リソソーム酵素グルコセレブロシダーゼ(GCase)活性アッセイは、PDの家族性又は散発性に関係なく、早期診断テスト並びに薬物及び化合物をスクリーニングするための疾患表現型として、PD及びゴーシェ病の患者由来のDAニューロンの両方に使用することができ使用できる。α-シヌクレイン凝集及びミトコンドリアROSレベルもまた、早期診断並びに薬物及び化合物のスクリーニングのための疾患の情報としても使用することができる。
【0051】
I.定義
本明細書で使用される場合、「1つの(a)」又は「1つの(an)」は、1つ以上を意味し得る。本明細書で特許請求の範囲において使用される場合、「含む」という語と併せて使用される場合、「1つの(a)」又は「1つの(an)」という語は、1つ以上を意味し得る。
【0052】
特許請求の範囲における「又は」という用語の使用は、代替物のみを指すように明示的に示されない限り又は代替物が相互に排他的である場合を除き、「及び/又は」を意味するために使用されるが、本開示は、代替物のみ及び「及び/又は」を指す定義をサポートする。本明細書で使用される場合、「別の」は、少なくとも第2のもの又はそれを超えるものを意味し得る。
【0053】
「本質的に」という用語は、方法又は組成物が特定のステップ又は材料のみを含み、それらの方法及び組成物の基本的な及び新規の特性に実質的に影響を及ぼさないものを含むことを理解されたい。
【0054】
本明細書で使用される場合、特定の物質又は材料を「実質的に含まない」組成物又は培地は、30%以下、20%以下、15%以下、より好ましくは10%以下、さらにより好ましくは5%以下又は最も好ましくは1%以下の物質又は材料を含む。
【0055】
本明細書で使用される場合、「実質的に」又は「およそ」という用語は、関連する基本機能に変化をもたらすことなく、許容される程度に変化し得る定量的比較、値、測定又は他の表現を変更するために適用され得る。
【0056】
「約」という用語は、一般に、記載された値を測定するための標準的な分析技術を使用して決定された、記載された値の標準偏差内を意味する。この用語は、記載値のプラス又はマイナス5%を指すことによっても使用され得る。
【0057】
本明細書で使用される場合、特定の成分に関して「本質的に含まない」は、本明細書において、特定の成分のいずれも意図的に組成物に配合されておらず、且つ/又は汚染物質として若しくは微量でのみ存在することを意味するために使用される。したがって、組成物の任意の意図しない汚染に起因する特定の成分の総量は、0.05%を十分に下回り、好ましくは0.01%を下回る。最も好ましいのは、標準的な分析方法で特定の成分の量を検出できない組成物である。
【0058】
本明細書で使用される場合、「細胞株」は、特定の条件下で無限に増殖する同じタイプの1つの細胞又は細胞のセットに由来する確立された細胞培養物である。細胞株の細胞は、均一な遺伝子構成を含み得る。
【0059】
「フィーダーフリー」又は「フィーダー非依存性」は、フィーダー細胞層の代わりとして、サイトカイン及び成長因子(例えば、TGFβ、bFGF、LIF、その類似体若しくは模倣物)が補充された培養物を指すために本明細書で使用される。したがって、「フィーダーフリー」又はフィーダー非依存性の培養システム及び培地を使用して、多能性細胞を未分化及び増殖状態に培養及び維持し得る。いくつかの場合、フィーダーフリー培養は、動物ベースのマトリックス(例えば、MATRIGEL(商標))を利用するか、又はフィブロネクチン、コラーゲン若しくはビトロネクチンなどの基質上で培養される。これらのアプローチにより、マウス線維芽細胞の「フィーダー層」を必要とせずにヒト幹細胞を本質的に未分化の状態に保つことができる。
【0060】
「フィーダー層」は、本明細書において、培養皿の底などの細胞のコーティング層として定義される。フィーダー細胞は、栄養素を培地に放出し、多能性幹細胞などの他の細胞が付着できる表面を提供することができる。
【0061】
「規定」又は「完全規定」という用語は、培地、細胞外マトリックス又は培養条件に関連して使用される場合、ほぼ全ての成分の化学組成及び量が既知である培地、細胞外マトリックス又は培養条件を指す。例えば、規定培地には、ウシ胎児血清、ウシ血清アルブミン又はヒト血清アルブミンなどの未定義の因子が含まれていない。一般に、規定培地は、組換えアルブミン、組成が既知である脂質及び組換えインスリンが補充された基礎培地(例えば、アミノ酸、ビタミン、無機塩、緩衝液、抗酸化剤及びエネルギー源を含む、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、F12又はロズウェルパーク記念研究所培地(RPMI)1640)を含む。完全規定培地の例は、Essential 8(商標)培地である。
【0062】
ヒト細胞で使用される培地、細胞外マトリックス又は培養システムについて、「ゼノフリー(XF)」という用語は、使用される材料が非ヒト動物由来ではない状態を指す。
【0063】
「処置」又は「処置すること」には、(1)疾患の病状又は総体症状を経験又は示している対象又は患者の疾患を阻害すること(例えば、病状及び/又は総体症状のさらなる発展を抑止すること)、(2)疾患の病状又は総体症状を経験又は示している対象又は患者の疾患を改善すること(例えば、病状及び/又は総体症状を逆転させること)、及び/又は(3)疾患の病状又は総体症状を経験又は示している対象又は患者の疾患に測定可能な減少をもたらすことが含まれる。
【0064】
「予防的処置」には、(1)疾患のリスクがあり、且つ/又は疾患の素因がある可能性があるが、疾患の病状又は総体症状のいずれか又は全てを依然として経験又は示していない対象又は患者において疾患を発症するリスクを低減又は軽減すること、及び/又は(2)疾患のリスク及び/又は素因がある可能性があるが、疾患の病状又は総体症状のいずれか又は全てを依然として経験又は示していない対象又は患者における疾患の病状又は総体症状の発症を遅らせることが含まれる。
【0065】
本明細書で使用される場合、「患者」又は「対象」という用語は、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット又はそれらのトランスジェニック種などの生きた哺乳動物を指す。特定の実施形態において、患者又は対象は、霊長類である。ヒト患者の非限定的な例は、成人、若年、乳児及び胎児である。
【0066】
「効果的」という用語は、その用語が本明細書及び/又は特許請求の範囲で使用される場合、所望の、期待される又は意図された結果を達成するのに適切であることを意味する。化合物で患者又は対象を処置することに関連して使用される場合の「有効量」、「治療有効量」又は「薬学的有効量」は、疾患を処置又は予防するために対象又は患者に投与されたとき、そのような疾患の処置又は予防に影響を与えるのに十分な量である化合物の量を意味する。
【0067】
一般に本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される」とは、健全な医学的判断の範囲内において、過度の毒性、刺激、アレルギー反応又は合理的な利益/リスク比に見合った他の問題又は合併症がなく、ヒト及び動物の組織、器官及び/又は体液との接触での使用に適した化合物、材料、組成物及び/又は剤形を指す。
【0068】
「誘導多能性幹細胞(iPSC)」とは、因子の組み合わせ(本明細書では再プログラミング因子と呼ぶ)の発現又は発現の誘導によって体細胞を再プログラミングすることによって生成される細胞である。iPSCは、胎児、出生後、新生児、若年又は成人の体細胞を使用して生成することができる。特定の実施形態において、体細胞を多能性幹細胞に再プログラミングするために使用することができる因子には、例えば、Oct4(Oct 3/4と呼ばれることもある)、Sox2、c-Myc、Klf4、Nanog及びLin28が含まれる。いくつかの実施形態において、体細胞は、体細胞を多能性幹細胞に再プログラミングするために、少なくとも2つの再プログラミング因子、少なくとも3つの再プログラミング因子又は4つの再プログラミング因子を発現することによって再プログラミングされる。
【0069】
「細胞外マトリックスタンパク質」という用語は、周囲の細胞に構造的及び生化学的サポートを提供する分子を指す。細胞外マトリックスタンパク質は、組換え型であり得、またその断片又はペプチドも指す。例には、コラーゲン及びヘパリン硫酸が含まれる。
【0070】
「接着培養物」は、細胞又は細胞の凝集体が表面に付着した培養物を指す。
【0071】
「懸濁培養物」は、細胞又は細胞の凝集体が液体培地に懸濁中に増殖する培養物を指す。
【0072】
「三次元(3D)培養」は、生体細胞が3次元全てで成長又は周囲と相互作用することができる、人工的に作成された環境を指す。3D培養物は、バイオリアクター、細胞がスフェロイドに成長することができる小さいカプセル又は非接着培養プレートなどの様々な細胞培養容器で成長することができる。特定の態様において、3D培養は、足場なしである。対照的に、「二次元(2-D)」培養は、接着表面上の単層などの細胞培養を指す。
【0073】
「凝集体促進培地」という用語は、作用機序について一切の制限がない細胞の凝集体形成を増強する任意の培地を意味する。
【0074】
「凝集体」という用語、すなわち胚様体は、懸濁液中で培養された分化細胞、部分分化細胞、及び/又は多能性幹細胞を含む細胞の均質又は不均一なクラスタを指す。
【0075】
「ニューロン」又は「ニューロン細胞」又は「ニューロン細胞型」又は「神経系統」は、任意のニューロン系統細胞を含み得、特段の記載がない限り、一切の制限がないニューロン個体発生の任意の段階にある細胞を指すものと見なすことができる。例えば、ニューロンは、ニューロン前駆細胞及び/又は成熟ニューロンの両方を含み得る。「神経系細胞」又は「神経系細胞型」及び「神経系系統」細胞は、特段の記載がない限り、制限がない任意のニューロン系統及び/又は神経個体発生の任意の段階を含み得る。例えば、神経系細胞は、ニューロン前駆細胞、グリア前駆細胞、成熟ニューロン、及び/又はグリアを含み得る。
【0076】
本明細書で使用される場合、「中脳DAニューロン前駆細胞」、「mDAニューロン前駆細胞」、及び「mDA前駆細胞」は、互換的に使用され、FoxA2、Lmx1、及びEN1(中脳特異的マーカー)を発現するニューロン前駆細胞を指すが;この細胞は、Nurr1を発現しない。中脳DAニューロン前駆細胞は、GBX2、OTX2、ETV5、DBX1TPH2、TH、BARHL1、SLC6A4、PITX3、PITX2、GATA2、NR4A2、GAD1、DCX、NXK6-1、RBFOX3、KCNJ6、CORIN、CD44、SPRY1、FABP7、SLC17A7、OTX1、及び/又はFGFR3の1つ以上を発現し得る。mDA前駆細胞は、分化の異なる段階で選択された遺伝子を発現し得る。
【0077】
本明細書で使用される場合、遺伝子の「破壊」は、破壊がない場合の遺伝子産物の発現レベルと比較した、細胞内の対象遺伝子によってコードされる1つ以上の遺伝子産物の発現の排除又は減少を指す。例示的な遺伝子産物には、遺伝子によってコードされるmRNA及びタンパク質産物が含まれる。破壊は、一時的又は可逆的である場合もあれば、永続的である場合もある。切断型又は非機能性の産物が産生され得るという事実にもかかわらず、いくつかの場合、破壊は、機能性又は完全長のタンパク質又はmRNAの破壊である。本明細書のいくつかの実施形態において、発現とは対照的に、遺伝子の活性又は機能が破壊される。遺伝子破壊は、一般に、人工的な方法、すなわち化合物、分子、複合体又は組成物の添加又は導入により、且つ/又はDNAレベルなどにおいて、遺伝子の核酸又は遺伝子に関連する核酸の破壊によって誘導される。遺伝子破壊の例示的な方法には、遺伝子サイレンシング、ノックダウン、ノックアウト及び/又は遺伝子編集などの遺伝子破壊技術が含まれる。例には、RNAi、siRNA、shRNA及び/又はリボザイムなどのアンチセンス技術が含まれ、これらは、一般に、発現の一過性の低下並びに例えば切断及び/又は相同組換えの誘導による、標的遺伝子の不活性化又は破壊をもたらす遺伝子編集技術をもたらす。例には、挿入、変異及び欠失が含まれる。破壊は、典型的には、遺伝子によってコードされる正常又は「野生型」産物の発現の抑制及び/又は完全な欠如をもたらす。そのような遺伝子破壊の例は、遺伝子全体の欠失を含む、遺伝子又は遺伝子の一部の挿入、フレームシフト及びミスセンス変異、欠失、ノックイン及びノックアウトである。そのような破壊は、コーディング領域、例えば1つ以上のエクソンで発生し得、その結果、完全長の産物、機能性産物又は終止コドンの挿入などによる任意の産物を産生することができなくなる。そのような破壊は、遺伝子の転写を防ぐために、転写の活性化に影響を与えるプロモーター若しくはエンハンサー又は他の領域の破壊によっても起こり得る。遺伝子破壊には、相同組換えによる標的遺伝子の不活性化を含む遺伝子標的化が含まれる。
【0078】
II.iPSC由来のドーパミン作動性ニューロン
A.多能性幹細胞
特定の実施形態において、本開示は、iPSCなどの多能性幹細胞からのドーパミン作動性ニューロンの分化のための方法を提供する。分化は、当技術分野で公知の方法によって、又は本明細書に開示される方法によって行うことができる。
【0079】
理論的には、多能性幹細胞は、体のどの細胞にも分化することができ、多能性の実験的決定は、典型的には、多能性細胞の各胚層のいくつかの細胞型への分化に基づいている。いくつかの実施形態において、多能性幹細胞は、胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚性幹(ES)細胞である。他の実施形態において、多能性幹細胞は、体細胞をリプログラミングすることによって誘導された人工多能性幹細胞である。いくつかの実施形態において、多能性幹細胞は、体細胞核移植によって得られる胚性幹細胞である。多能性幹細胞は、健康な対象(例えば、健康なヒト)又は疾患(例えば、神経変性疾患、パーキンソン病など)を有する対象から得られるか、又は由来し得る。
【0080】
人工多能性幹(iPS)細胞は、ES細胞の特徴を有する細胞であるが、分化した体細胞のリプログラミングによって得られる。人工多能性幹細胞は、様々な方法によって得られる。1つの方法では、成人のヒト皮膚線維芽細胞に、レトロウイルス形質導入を用いて転写因子Oct4、Sox2、c-Myc、及びKlf4をトランスフェクトする(Takahashi et al.,2006,2007)。トランスフェクトされた細胞を、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加した培地中のSNLフィーダー細胞(LIFを産生するマウス細胞線維芽細胞株)にプレーティングする。約25日後、ヒトES細胞コロニーに似たコロニーが培養物中に出現する。ES細胞様コロニーを、bFGFの存在下でフィーダー細胞上でピックアップし、増殖させる。いくつかの好ましい実施形態において、iPS細胞は、ヒトiPS細胞である。
【0081】
細胞特性に基づくと、ES細胞様コロニーの細胞は、人工多能性幹細胞である。人工多能性幹細胞は、ヒトES細胞に形態学的に類似しており、様々なヒトES細胞マーカーを発現する。また、ヒトES細胞の分化をもたらすことが知られている条件下で増殖させると、人工多能性幹細胞は、それに応じて分化する。例えば、人工多能性幹細胞は、ニューロン構造及びニューロンマーカーを有する細胞に分化することができる。例えばYu and Thomson,2008に記載されるものを含む実質的にすべてのiPS細胞又は細胞株が本発明とともに使用できると予想される。
【0082】
別の方法では、ヒト胎児又は新生児線維芽細胞に、レンチウイルス形質導入を用いてOct4、Sox2、Nanog、及びLin28の4つの遺伝子をトランスフェクトする(Yu et al.,2007)。感染の12~20日後、ヒトES細胞の形態を持つコロニーが見えるようになる。コロニーをピックアップして増殖させる。コロニーを構成する人工多能性幹細胞は、ヒトES細胞に形態学的に類似し、様々なヒトES細胞マーカーを発現し、マウスへの注入後に神経組織、軟骨、腸上皮を有する奇形腫を形成する。
【0083】
マウス細胞から人工多能性幹細胞を調製する方法も公知である(Takahashi and Yamanaka,2006)。iPS細胞の誘導には、典型的には、Soxファミリーの少なくとも1つのメンバー及びOctファミリーの少なくとも1つのメンバーの発現又は曝露が必要である。Sox及びOctは、ES細胞の同一性を特定する転写調節階層の中心であると考えられている。例えば、Soxは、Sox-1、Sox-2、Sox-3、Sox-15、又はSox-18であり得;Octは、Oct-4であり得る。Nanog、Lin28、Klf4、又はc-Mycのような追加の因子は、リプログラミング効率を向上させることができ;リプログラミング因子の特定のセットは、Sox-2、Oct-4、Nanog、及び任意選択によりLin-28を含む;又は、Sox-2、Oct4、Klf、及び任意選択によりc-Mycを含むセットであり得る。
【0084】
IPS細胞は、ES細胞と同様に、SSEA-1、SSEA-3、及びSSEA-4(Developmental Studies Hybridoma Bank, National Institute of Child Health and Human Development, Bethesda Md.)、並びにTRA-1-60及びTRA-1-81(Andrews et al.,1987)の抗体を用いて、免疫組織化学又はフローサイトメトリーによって同定又は確認できる特徴的な抗原を有する。胚性幹細胞の多能性は、例えば、8~12週齢の雄のSCIDマウスの後脚の筋肉に約0.5~10×10細胞を注入することによって確認することができる。3つの胚葉のそれぞれで少なくとも1つの細胞型を示す奇形腫が生じる。
【0085】
本発明の特定の態様において、iPS細胞は、例えば上述したように、Klf又はNanogと組み合わせて、Oct4及びSox2などのOctファミリーメンバー及びSoxファミリーメンバーを含むリプログラミング因子を用いて、体細胞をリプログラミングすることから生成される。体細胞は、例えば、線維芽細胞、ケラチノサイト、造血細胞、間葉細胞、肝細胞、胃細胞、又はβ細胞などの多能性に誘導され得る任意の体細胞であり得る。いくつかの実施形態において、T細胞もまた、リプログラミングのための体細胞の供給源として使用することができる(例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2010/141801号パンフレットを参照されたい)。
【0086】
リプログラミング因子は、1つ以上のベクター、例えば、組み込みベクター、染色体に組み込まれないRNAウイルスベクター(参照により本明細書に組み込まれる米国出願第13/054,022号明細書を参照されたい)、又はEBVエレメントベース系などのエピソームベクターを含む発現カセットから発現され得る(例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2009/149233号パンフレット;Yu et al.,2009を参照されたい)。さらなる態様において、タンパク質又はRNA(mRNA又はmiRNAなど)のリプログラミングは、タンパク質又はRNAトランスフェクションによって体細胞に直接導入することができる(Yakubov et al.,2010)。
【0087】
多能性幹細胞の調製及び培養の方法は、奇形癌及び胚性幹細胞を含む細胞生物学、組織培養、及び発生学における標準的な教科書及びレビューで確認することができる:すべてが参照により本明細書に組み入れられるGuide to Techniques in Mouse Development(1993);Embryonic Stem Cell Differentiation in vitro(1993);Properties and uses of Embryonic Stem Cells:Prospects for Application to Human Biology and Gene Therapy(1998)。組織培養で使用される標準的な方法は、一般にAnimal Cell Culture(1987);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(1987);及びCurrent Protocols in Molecular Biology and Short Protocols in Molecular Biology(1987 & 1995)に記載されている。
【0088】
体細胞をリプログラミング因子に導入又は接触させた後、これらの細胞は、多能性及び未分化状態を維持するのに十分な培地で培養することができる。人工多能性幹(iPS)細胞の培養には、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2007/0238170号明細書、同第2003/0211603号明細書、及び同第2008/0171385号明細書に記載されている霊長類多能性幹細胞、胚性幹細胞、又はiPS細胞を培養するために開発された様々な培地及び技術を使用することができる。当業者には公知であろう多能性幹細胞の培養及び維持のためのさらなる方法を本発明とともに使用できると考えられる。
【0089】
特定の実施形態において、非規定条件を使用することができる;例えば、幹細胞を未分化状態に維持するために、多能性細胞を、線維芽細胞フィーダー細胞又は線維芽細胞フィーダー細胞に曝露した培地上で培養することができる。或いは、多能性細胞を、TeSR培地(Ludwig et al.,2006a;Ludwig et al.,2006b)又はE8培地(Chen et al.,2011;国際出願PCT/US2011/046796号明細書)などの規定フィーダー非依存性培養系を用いて培養し、本質的に未分化状態で維持することができる。フィーダー非依存性培養系及び培地を使用して、多能性細胞を培養して維持することができる。これらのアプローチにより、ヒト多能性幹細胞は、マウス線維芽細胞「フィーダー層」を必要とせずに、本質的に未分化の状態を維持することが可能になる。本明細書に記載されるように、所望に応じてコストを削減するために、これらの方法に様々な修正を加えることができる。
【0090】
様々なマトリックス成分を、ヒト多能性幹細胞の培養、維持、又は分化に使用することができる。参照によりその全内容が本明細書に組み入れられるLudwigら(2006a;2006b)に記載されているように、例えば、コラーゲンIV、フィブロネクチン、ラミニン、及びビトロネクチンを組み合わせて使用して、多能性細胞増殖のための固体支持体を提供する手段として培養表面をコーティングすることができる。
【0091】
また、Matrigel(商標)を使用して、ヒト多能性幹細胞の細胞培養及び維持のための基質を提供することができる。Matrigel(商標)は、マウス腫瘍細胞から分泌されるゼラチン状タンパク質混合物であり、BD Biosciences(New Jersey,USA)から市販されている。この混合物は、多くの組織に見られる複雑な細胞外環境に類似し、細胞生物学者によって細胞培養の基質として使用されている。
【0092】
多能性幹細胞の神経分化効率(特に中脳DA分化効率)を改善するための方法を提供することができる。多能性幹細胞の分化は、付着したコロニーで、又は細胞凝集体の形成によって、例えば、それらの凝集体が胚様体(EB)と呼ばれる低接着環境などで、様々な方法で誘導することができる。EB内の分子及び細胞の形態形成シグナル及びイベントは、発生中の胚におけるそのような細胞の自然な個体発生の多くの側面を模倣している。細胞をニューロンの分化に導く方法は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2012/0276063号明細書に提供されている。DAニューロンの分化のためのより詳細で特異的なプロトコルは、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2013/067362号パンフレットに記載されている。
【0093】
胚様体(EB)は、ES細胞又はiPS細胞などの多能性幹細胞由来の細胞の集合体であり、マウス胚性幹細胞を用いて長年にわたって研究されてきた。インビボ分化に固有の手がかりのいくつかを再現するために、3次元凝集体(すなわち、胚様体)を中間段階として生成することができる。細胞凝集が始まると、分化が始まることができ、細胞は、限られた程度まで胚発生を再現し始めることができる。それらは、栄養外胚葉組織(胎盤を含む)を形成することはできないが、生物に存在する実質的に他のすべてのタイプの細胞が発生し得る。本発明は、凝集体形成後の神経分化をさらに促進することができる。
【0094】
細胞凝集は、懸滴、非組織培養処理プレート又はスピナーフラスコへのプレーティングによって強制することができ;どちらの方法も、細胞が表面に付着して典型的なコロニー増殖を形成するのを防止する。ROCK阻害剤又はミオシンII阻害剤を、凝集体形成の前、最中、又は後に使用して多能性幹細胞を培養することができる。
【0095】
多能性幹細胞は、細胞培養の技術分野において公知の任意の方法を用いて凝集促進培地に播種することができる。例えば、多能性幹細胞は、単一コロニー又はクローン群として凝集促進培地に播種することができ、多能性幹細胞もまた、本質的に個々の細胞として播種することができる。いくつかの実施形態において、多能性幹細胞は、当技術分野で公知の機械的又は酵素的方法を用いて、本質的に個々の細胞に分離する。非限定的な例として、多能性幹細胞は、細胞と培養表面との間及び細胞自体の間の結合を破壊するタンパク質分解酵素に曝露することができる。凝集体形成及び分化のために多能性幹細胞を個別にするために使用できる酵素は、トリプシン、TrypLEなどの様々なその市販製剤、又はAccutase(登録商標)などの酵素の混合物を含み得るが、これらに限定されない。特定の実施形態において、多能性細胞は、本質的に個々の(又は分散した)細胞として、培養表面上での培養物形成のための培養培地に添加又は播種することができる。
【0096】
例えば、分散した多能性細胞を培養培地に播種することができる。これらの実施形態において、培養表面は、当技術分野で標準的な無菌細胞培養方法と適合する本質的に任意の材料、例えば、非接着性表面から構成することができる。培養表面は、本明細書に記載されるようなマトリックス成分を追加的に含み得る。いくつかの実施形態において、マトリックス成分は、表面を細胞及び培地と接触させる前に、培養表面に適用することができる。
【0097】
コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、及びマトリゲルなどの基質を、分化を誘導するために使用することができる。分化は、増殖を再開始することなく(すなわち、ニューロスフェアが分離することなく)、増殖誘導成長因子の存在下で細胞を懸濁液中に放置することによっても誘導することができる。
【0098】
いくつかの実施形態において、細胞は、培養培地中の固定基質上で培養する。次いで、増殖誘導成長因子を細胞に投与することができる。増殖誘導成長因子は、細胞を基質(例えば、ポリオルニチン処理プラスチック又はガラス)に付着させ、平坦化し、異なる細胞型への分化を開始させることができる。
【0099】
B.ドーパミン作動性ニューロン
中脳のドーパミン作動性ニューロンは、哺乳動物中枢神経系におけるドーパミン(DA)の主な供給源である。それらの喪失は、最も顕著な人間の神経疾患の1つであるパーキンソン病(PD)に関連している。いくつかの実施形態において、ドーパミン作動性ニューロンは、国際公開第2013067362号パンフレット;同第2013163228号パンフレット;同第2012080248号パンフレット;又は同第2011130675号パンフレットに記載されているように生成することができる。
【0100】
いくつかの実施形態において、以下の方法を使用して、胚性幹細胞又はiPS細胞などの多能性幹細胞からドーパミン作動性ニューロンを生成することができる。例えば、いくつかの実施形態において、米国特許出願公開第2012/0276063号明細書の方法を使用して、多能性幹細胞からニューロンを生成することができる。例えば、いくつかの実施形態において、bFGF及びTGFβを、凝集体形成の開始前(細胞がまだ接着培養物中にある間)にiPS細胞などの多能性細胞を培養するために使用される培地から取り出すことができ(例えば、TeSR又はEssential8培地などの規定培地から取り出し)、次いで、これを使用して、多能性細胞のニューロン分化を促進することができる。いくつかの実施形態において、iPS細胞をTeSR増殖因子の非存在下で「プライミング」する、すなわち、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)及びトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)を有していない任意の培地で培養すると、凝集体形成前の数日間、細胞は、純度、迅速性、及び一貫性を有する神経系統に発達し得る。ニューロンを生成するための他の方法には、Zhangら(2013)、米国特許第7,820,439号明細書、国際公開第2011/091048号パンフレット、米国特許第8,153,428号明細書、同第8,252,586号明細書、及び同第8,426,200号明細書が含まれる。いくつかの態様において、単一SMAD又は二重SMAD阻害を使用して、iPSCをDAニューロンに分化させることができる。
【0101】
いくつかの態様において、多能性細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞)を中脳ドーパミン作動性細胞などの神経細胞に変換する方法において、単一のBMPシグナル伝達阻害剤又は単一のTGF-βシグナル伝達阻害剤のいずれかが、SMADシグナル伝達を阻害するために使用される。例えば、いくつかの態様において、多能性細胞は、中脳DAニューロンを含む神経細胞の集団に変換され、分化が、単一のBMPシグナル伝達阻害剤を含む培地中で起こる。いくつかの実施形態において、BMP阻害剤は、LDN-193189、ドルソモルフィン、又はDMH-1である。BMPシグナル伝達の阻害剤の非限定的な例には、ドルソモルフィン、ドミナントネガティブBMP、切断型BMP受容体、可溶性BMP受容体、BMP受容体-Fcキメラ、ノギン、LDN-193189、フォリスタチン、コーディン、グレムリン、ケルベロス/DANファミリータンパク質、ベントロピン(ventropin)、高用量アクチビン、及びアムニオンレス(amnionless)が含まれる。いくつかの実施形態において、核酸、アンチセンス、RNAi、siRNA、又は他の遺伝的方法を使用して、BMPシグナル伝達を阻害することができる。本明細書で使用される場合、BMPシグナル伝達阻害剤は、単に「BMP阻害剤」を指し得る。BMP阻害剤は、分化の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、及び/又は17日目に、又はその中で導出可能な任意の範囲(例えば、1~17日目、1~16日目、1~15日目、2~15日目など)に分化培地に含めることができる。いくつかの実施形態において、BMP阻害剤は、分化の1~17日目のすべての日で分化培地に含められる。それにもかかわらず、BMP阻害剤を特定の時間、例えば上記の日の1日目、2日目、又は3日目に分化培地から取り除くことが可能であり得ると予想される。いくつかの実施形態において、BMP阻害剤は、任意選択により、11~17日目の分化培地に含められず、いくつかの好ましい実施形態において、BMP阻害剤は、1~10日目の分化培地に含められる。
【0102】
いくつかの態様において、多能性細胞を単一SMAD法を用いて、約360~456時間、より好ましくは約384~432時間の期間分化させて神経系細胞の培養物を生成した。単一SMAD法では、多能性細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞)を中脳ドーパミン作動性細胞などの神経細胞に変換する方法において、単一のBMPシグナル伝達阻害剤又は単一のTGF-βシグナル伝達阻害剤などの単一のSMAD阻害剤を使用してSMADシグナル伝達を阻害する。一般に、他の二重SMAD分化法とは対照的に、単一SMAD分化法は、単一のSMAD阻害剤のみを利用し、第2のSMAD阻害剤は、分化培地に含めない。例えば、いくつかの態様において、多能性細胞は、中脳DAニューロン前駆細胞を含むニューロン前駆細胞の集団に変換され、分化が、単一のBMPシグナル伝達阻害剤を含む培地中で起こる。
【0103】
いくつかの実施形態において、BMP阻害剤は、LDN-193189、ドルソモルフィン、DMH-1、又はノギンである。例えば、細胞は、約1~2500、1~2000、又は1~1,000nMのLDN-193189(例えば、約10~500、50~500、50~300、50、100、150、200、250、300、500、750、1000、1250、1500、1750、2000、2250、又は約2500nMのLDN-193189、又はその中で導出可能な任意の範囲)を含む培地で培養することができる。いくつかの実施形態において、細胞は、約0.1~10μMのドルソモルフィン(例えば、約0.1~10、0.5~7.5、0.75~5、0.5~3、1~3、0.25、0.5、0.75、1、1.25、1.5、1.55、1.6、1.65、1.7、1.75、2、2.25、2.5、2.75、3、又は約2μMのドルソモルフィン、又はその中で導出可能な任意の範囲)を含む培地で培養することができる。いくつかの実施形態において、細胞は、約1μMのDMH-1(例えば、約0.2~8、0.5~2、又は約1μMのDMH-1、又はその中で導出可能な任意の範囲)を含む培地で培養することができる。以下の実施例に示されるように、LDN-193189、ドルソモルフィン、及びDMH-1はいずれも、iPS細胞から中脳ドーパミン作動性ニューロンを生成する単一SMAD阻害法での使用に成功している。
【0104】
いくつかの態様において、TGFβ阻害剤を、単一のSMAD阻害剤として使用してSMADを阻害し、iPS細胞などの多能性細胞から中脳ドーパミン作動性ニューロンを生成することができる。例えば、いくつかの実施形態において、分化培地は、少なくとも第1のTGFβシグナル伝達阻害剤を含む。TGFβシグナル伝達の阻害剤の非限定的な例には、A-83-01、GW6604、IN-1130、Κi26894、LY2157299、LY364947(HTS-466284)、A-83-01、LY550410、LY573636、LY580276、NPC-30345、SB-431542、SB-505124、SD-093、Sml6、SM305、SX-007、Antp-Sm2A、及びLY2109761が含まれる。例えば、分化培地中のTGFβ阻害剤は、SB431542であり得る。いくつかの態様において、細胞は、約0.1~100μMのSB431542(例えば、約1~100μM、10~80μM、15~60μM、20~50μM、又は約40μMのSB431542)を含む培地中で培養される。本明細書で使用される場合、TGFβ受容体阻害剤を含むTGFβシグナル伝達阻害剤は、単に「TGFβ阻害剤」と呼ぶことができる。いくつかの実施形態において、TGFβ阻害剤は、分化培地に含められない。いくつかの実施形態において、TGFβ阻害剤(例えば、SB431542)は、単一のSMAD阻害剤として、1~3日目、又は1日目、2日目、3日目、及び/若しくは4日目に分化培地に含められる。以下の実施例に示されるように、いくつかの実施形態において、BMP阻害剤が単一のSMAD阻害剤として使用されるのは、これらの化合物が、TGFβ阻害剤の使用と比較して、多能性細胞の中脳DAニューロンへの優れた分化を生じさせることが観察されたためである。
【0105】
いくつかの態様において、MEK阻害剤は、例えば、BMP阻害剤又は単一のSMAD阻害剤と組み合わせて、iPS細胞などの多能性細胞から中脳ドーパミン作動性ニューロンを産生させるために分化培地に含められる。いくつかの実施形態において、MEK阻害剤は、PD0325901である。使用できるMEK阻害剤の非限定的な例には、PD0325901、トラメチニブ(GSK1120212)、セルメチニブ(AZD6244)、ピマセルチブ(AS-703026)、MEK162、コビメチニブ、PD184352、PD173074、BIX02189、AZD8330、及びPD98059が含まれる。例えば、いくつかの実施形態において、この方法は、約0.1~10μM(例えば、約0.1~5、0.5~3、又は0.5~1.5μM)のPD0325901などのMEK阻害剤の存在下で細胞を培養することを含む。いくつかの実施形態において、細胞は、分化の3日目、4日目、5日目、又は3~5日目にMEK阻害剤(例えば、PD0325901)と接触させる。
【0106】
いくつかの実施形態において、中脳DAニューロン前駆細胞は、以下を含む方法によって生成することができる:多能性細胞の集団を得ること;MEK阻害剤(例えば、PD0325901)を含む培地中で細胞を神経系統細胞集団に分化させること(培地は、分化の1日目に外部から添加されるFGF8bを含まない);及び神経系統細胞集団の細胞をさらに分化させて、中脳DAニューロンの濃縮された集団を提供すること。いくつかの実施形態において、1日目の分化培地中へFGF8(例えば、FGF8b)を含めることは、いくつかの例において、中脳DAニューロン前駆細胞への細胞の分化を阻害又は防止し得ることが観察された。いくつかの実施形態において、FGF8は、任意選択により、例えば、分化の9、10、11、12、13、14、15、16、17日後、又はその中で導出可能な任意の範囲の後に分化培地に含めることができる。例えば、好ましくは、多能性細胞の接触が、1日目に分化培地中の単一のSMAD阻害剤で開始される。
【0107】
いくつかの態様において、Wnt活性化因子(例えば、GSK3阻害剤)は、iPS細胞などの多能性細胞から中脳ドーパミン作動性ニューロン前駆細胞を生成するために、例えばBMP阻害剤又は単一のSMAD阻害剤と組み合わせて分化培地に含められる。いくつかの実施形態において、多能性細胞を、中脳DAニューロンを含む神経細胞の集団に分化させ、この分化は、少なくともWntシグナル伝達の第1の活性化因子を含む培地中である。
【0108】
様々なWnt活性化因子又はGSK3阻害剤を、本開示の様々な態様において使用することができる。例えば、WNTシグナル伝達の活性化因子は、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK3)阻害剤であり得る。GSK3阻害剤の非限定的な例には、NP031112、TWS119、SB216763、CHIR-98014、AZD2858、AZD1080、SB415286、LY2090314、及びCHIR99021が含まれる。いくつかの実施形態において、多能性細胞を、SB415286ではない単一のSMAD阻害剤と接触させる。いくつかの実施形態において、Wntシグナル伝達の活性化因子は、CHIR99021である。したがって、いくつかの態様において、実施形態による使用のための培地は、約0.1~約10μMのCHIR99021(例えば、約0.1~5、0.5~5、0.5~3、約1.25超~2.25、約1.25、1.5、1.55、1.65、1.7、1.75、1.8、1.9、2.0、又は約1.75μMのCHIR99021、又はその中で導出可能な任意の範囲)を含む。いくつかの好ましい実施形態において、約1.6~1.7μM又は約1.65μMのCHIR99021が使用される。
【0109】
いくつかの態様において、ソニック・ヘッジホッグ(SHH)シグナル伝達の活性化因子は、iPS細胞などの多能性細胞から中脳ドーパミン作動性ニューロンを生成するために、例えばBMP阻害剤又は単一のSMAD阻害剤と組み合わせて、分化培地に含められる。いくつかの実施形態において、ソニック・ヘッジホッグ活性化因子は、ソニック・ヘッジホッグ(Shh)又は変異Shhである。Shhは、例えば、ヒト又はマウスのタンパク質であり得、又はヒト又はマウスのShhに由来し得る。例えば、いくつかの実施形態において、Shhは、マウスC25II Shh又はヒトC24II Shhなどの変異マウスShhタンパク質である。いくつかの実施形態において、分化培地は、Shh(例えば、C25II Shh)及びSHHの低分子活性化因子、例えば、プルモルファミンなどの両方を含む。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、ソニック・ヘッジホッグのShh及び/又は活性化因子は、神経底板(neural floor plate)の分化を促進し得る。
【0110】
iPS細胞を含む多能性細胞由来の神経細胞型の培養物も市販されており、購入することができる。例えば、iCell(登録商標)Neurons、iCell(登録商標)DopaNeurons、及びiCell(登録商標)Astrocytesは、ヒトiPS細胞に由来し、Cellular Dynamics International(Madison,Wisconsin)から購入することができる。iCell(登録商標)ニューロンは、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)由来のニューロンであり、天然のヒトニューロンに特徴的な生化学的、電気生理学的、及び病態生理学的特性を示す。iCell(登録商標)Neuronsは、その高純度、機能的関連性、及び使いやすさにより、基礎研究や医薬品開発の多くの分野における神経生物学の調査に非常に有用なインビトロ試験システムである。
【0111】
いくつかの実施形態において、規定培地(すなわち、組織、フィーダー細胞、又は細胞馴化培地を含まない培地)を使用して、iPS細胞などの多能性細胞からニューロン又は星状細胞を生成することができる。
【0112】
神経系細胞は、いくつかの表現型基準に従って特徴付けることができる。基準には形態学的特徴の顕微鏡観察、発現した細胞マーカーの検出又は定量化、酵素活性、神経伝達物質とその受容体、及び電気生理学的機能が含まれるが、これらに限定されない。
【0113】
いくつかの実施形態において、モデルは、マイクロ流体デバイス内に提供することができる。インビトロ血管モデルの形態を含む、細胞の支持に有用な様々なマイクロ流体デバイスの構成が当技術分野で公知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2011/0053207号明細書及び米国特許出願公開第2014/0038279号明細書を参照されたい。一般に、本明細書で教示される血液脳関門モデルを含むマイクロ流体デバイスは、内皮細胞層及び神経細胞層が、モデルの内皮細胞層と流体接触する第1のチャンバー又は開口部と、モデルの神経細胞層と流体接触する第2のチャンバー又は開口部との間の境界を画定するように、血液脳関門モデルをその中に受け入れるような寸法のチャンバーを含み得る。流体は、培地や緩衝液などの液体であってもよい。このデバイスは、各チャンバーの流体入口及び流体出口、それらに接続された流体リザーバ(例えば、培地リザーバ)などをさらに含み得る。
【0114】
いくつかの実施形態において、細胞培養に使用される細胞は、健康なドナーから得られた細胞から生成されたiPS細胞から生成される。他の実施形態において、ドナーは疾患を有する。例えば、いくつかの実施形態において、ドナーは、神経学的又は神経変性疾患などの疾患、例えば、てんかん、自閉症、注意欠陥多動性障害(ADHD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、シャルコー・マリー・トゥース(CMT)、ハンチントン病、家族性てんかん、統合失調症、家族性アルツハイマー病、フリードライヒ運動失調症、脊髄小脳失調症、脊髄性筋萎縮症、遺伝性痙性不全対麻痺、白質ジストロフィー、フェニルケトン尿症、テイ・サックス病、ウィルソン病、依存障害、抑うつ、又は気分障害などを有する。この疾患は、遺伝性疾患又は特定の神経疾患に対する遺伝的感受性の増加であり得る。さらに、本明細書では、本細胞培養モデルを用いて神経炎症を研究するためのアッセイが提供される。
【0115】
細胞は、一般に、フラスコ、6ウェル、24ウェル、又は96ウェルプレートなどの組織培養プレートなどの適切な培養容器に播種される。細胞を培養するために使用される培養容器には、特に限定されないが:内部で幹細胞を培養できるのであれば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリ皿、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、チューブ、トレイ、CELLSTACK(登録商標)チャンバー、培養バッグ、及びローラーボトルが含まれ得る。細胞は、培養の必要性に応じて、少なくとも又は約0.2、0.5、1、2、5、10、20、30、40、50ml、100ml、150ml、200ml、250ml、300ml、350ml、400ml、450ml、500ml、550ml、600ml、800ml、1000ml、1500ml、又はその中で導出可能な任意の範囲の体積で培養され得る。特定の実施形態において、培養容器は、バイオリアクターであってもよく、これは、細胞が増殖できるように生物学的に活性な環境をサポートするエクスビボの任意のデバイス又はシステムを指し得る。バイオリアクターは、少なくとも、又は約2、4、5、6、8、10、15、20、25、50、75、100、150、200、500リットル、1、2、4、6、8、10、15立方メートル、又はその中で導出可能な任意の範囲の体積を有し得る。
【0116】
C.遺伝子破壊
特定の態様において、SNCA、GBA又はLRRK2遺伝子の発現、活性又は機能は、PSC(例えば、ESC又はiPSC)などの細胞において破壊される。いくつかの実施形態において、遺伝子破壊は、ノックアウト、挿入、ミスセンス又は二対立遺伝子フレームシフト変異などのフレームシフト変異、遺伝子の全部又は一部、例えば1つ以上のエクソン又はその部分の欠失及び/又はノックインなどの遺伝子の破壊をもたらすことによって実行される。例えば、破壊は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)及び転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)などのDNA結合標的ヌクレアーゼ及び遺伝子又はその一部の配列を標的とするように特別に設計されたCRISPR関連ヌクレアーゼ(Cas)などのRNA誘導ヌクレアーゼを含む配列特異的又は標的ヌクレアーゼによって行うことができる。
【0117】
いくつかの実施形態において、遺伝子の発現、活性及び/又は機能の破壊は、遺伝子を破壊することによって実行される。いくつかの態様において、遺伝子は、その発現が、遺伝子破壊の非存在下又は破壊をもたらすために導入された成分の非存在下での発現と比較して少なくとも又は約20、30又は40%、一般に少なくとも又は約50、60、70、80、90又は95%減少するように破壊される。
【0118】
いくつかの実施形態において、破壊は、一過性又は可逆的であり、その結果、遺伝子の発現は、後に回復する。他の実施形態において、破壊は、可逆的又は一過性ではなく、例えば永続的である。
【0119】
いくつかの実施形態において、遺伝子破壊は、典型的には、標的化された方法において、遺伝子における1つ以上の二本鎖切断及び/又は1つ以上の一本鎖切断の誘導によって実行される。いくつかの実施形態において、二本鎖又は一本鎖切断は、ヌクレアーゼ、例えば遺伝子標的化ヌクレアーゼなどのエンドヌクレアーゼによって行われる。いくつかの態様において、切断は、遺伝子のコード領域、例えばエクソンにおいて誘導される。例えば、いくつかの実施形態において、誘導は、コード領域のN末端部分の近く、例えば第1のエクソン、第2のエクソン又は後続のエクソンで発生する。
【0120】
いくつかの態様において、二本鎖又は一本鎖切断は、非相同末端結合(NHEJ)又は相同性指向修復(HDR)などによる細胞修復プロセスを介して修復を受ける。いくつかの態様において、修復プロセスは、エラーが発生しやすく、フレームシフト突然変異、例えば二対立遺伝子フレームシフト変異などの遺伝子の破壊をもたらし、これは、遺伝子の完全なノックアウトをもたらし得る。例えば、いくつかの態様において、破壊は、欠失、変異及び/又は挿入を誘発することを含む。いくつかの実施形態において、破壊は、早期停止コドンの存在をもたらす。いくつかの態様において、挿入、欠失、転座、フレームシフト変異及び/又は未成熟終止コドンの存在は、遺伝子の発現、活性及び/又は機能の破壊をもたらす。
【0121】
いくつかの実施形態において、遺伝子破壊は、RNA干渉(RNAi)、短鎖干渉RNA(siRNA)、短鎖ヘアピン(shRNA)及び/又はリボザイムなどによるアンチセンス技術を使用して達成されて、遺伝子の発現を選択的に抑制又は阻止する。siRNA技術は、遺伝子から転写されるmRNAのヌクレオチド配列と相同な配列と、ヌクレオチド配列に相補的な配列とを有する二本鎖RNA分子を用いたRNAiである。siRNAは、一般に、遺伝子から転写されるmRNAの1つの領域と相同/相補的であるか、又は異なる領域と相同/相補的である複数のRNA分子を含むsiRNAであり得る。いくつかの態様において、siRNAは、ポリシストロン構築物に含まれる。特定の態様において、siRNAは、内因性mRNAからの野生型及び変異体タンパク質の翻訳の両方を抑制する。
【0122】
いくつかの実施形態において、破壊は、遺伝子に特異的に結合又はハイブリダイズする、DNA結合タンパク質若しくはDNA結合核酸などのDNA標的化分子又はそれを含む複合体、化合物若しくは組成物を使用して達成される。いくつかの実施形態において、DNA標的化分子は、DNA結合ドメイン、例えばジンクフィンガータンパク質(ZFP)DNA結合ドメイン、転写活性化因子様タンパク質(TAL)又はTALエフェクター(TALE)DNA結合ドメイン、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)DNA結合ドメイン又はメガヌクレアーゼからのDNA結合ドメインを含む。ジンクフィンガー、TALE及びCRISPRシステム結合ドメインは、例えば、天然型ジンクフィンガー又はTALEタンパク質の認識ヘリックス領域の操作(1つ以上のアミノ酸の変更)を介して所定のヌクレオチド配列に結合するように操作することができる。操作されたDNA結合タンパク質(ジンクフィンガー又はTALE)は、非天然型のタンパク質である。設計の合理的な基準には、既存のZFP及び/又はTALE設計の情報及び結合データを格納するデータベース内の情報を処理するための置換ルール及びコンピューター化されたアルゴリズムの適用が含まれる。例えば、米国特許第6,140,081号明細書;同第6,453,242号明細書;及び同第6,534,261号明細書を参照されたい。また、国際公開第98/53058号パンフレット;国際公開第98/53059号パンフレット;国際公開第98/53060号パンフレット;国際公開第02/016536号パンフレット及び国際公開第03/016496号パンフレット並びに米国特許出願公開第2011/0301073号明細書も参照されたい。
【0123】
いくつかの実施形態において、DNA標的化分子、複合体又は組み合わせは、DNA結合分子と、遺伝子の抑制又は破壊を促進するためのエフェクタードメインなどの1つ以上のさらなるドメインとを含む。例えば、いくつかの実施形態において、遺伝子破壊は、DNA結合タンパク質及び異種調節ドメイン又はその機能的断片を含む融合タンパク質によって実行される。いくつかの態様において、ドメインには、例えば、アクチベーター、リプレッサー、コアクチベーター、コリプレッサー、サイレンサー、癌遺伝子などの転写因子ドメイン、DNA修復酵素並びにそれに関連する因子及び修飾因子、DNA再配列酵素並びにそれに関連する因子及び修飾因子、クロマチン関連タンパク質並びにその修飾因子、例えばキナーゼ、アセチラーゼ及びデアセチラーゼ及びDNA修飾酵素、例えばメチルトランスフェラーゼ、トポイソメラーゼ、ヘリカーゼ、リガーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、ポリメラーゼ、エンドヌクレアーゼ並びにそれらに関連する因子及び修飾因子が含まれる。DNA結合ドメイン及びヌクレアーゼ切断ドメインの融合に関する詳細については、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2005/0064474号明細書;同第2006/0188987号明細書及び同第2007/0218528号明細書を参照されたい。いくつかの態様において、追加のドメインはヌクレアーゼドメインである。したがって、いくつかの実施形態において、遺伝子破壊は、ヌクレアーゼなどの非特異的DNA切断分子と融合又は複合体化された配列特異的DNA結合ドメインから構成される、ヌクレアーゼ及びヌクレアーゼ含有複合体又は融合タンパク質などの操作されたタンパク質を使用する遺伝子又はゲノム編集によって促進される。
【0124】
いくつかの態様において、これらの標的化キメラヌクレアーゼ又はヌクレアーゼ含有複合体は、標的化された二本鎖切断又は一本鎖切断を誘導し、エラーが発生しやすい非相同末端結合(NHEJ)及び相同性指向修復(HDR)を含む細胞のDNA修復メカニズムを刺激することにより、正確な遺伝子改変を実行する。いくつかの実施形態において、ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEヌクレアーゼ(TALEN)などのエンドヌクレアーゼ及びCRISPR関連(Cas)タンパク質などのRNA誘導エンドヌクレアーゼ(RGEN)又はメガヌクレアーゼである。
【0125】
いくつかの実施形態において、ドナー核酸、例えばドナープラスミド又は遺伝子操作された抗原受容体をコードする核酸が提供され、DSBの導入に続く遺伝子編集の部位でHDRによって挿入される。したがって、いくつかの実施形態において、遺伝子の破壊及び抗原受容体、例えばCARの導入は、同時に実行され、それにより、遺伝子は、CARをコードする核酸のノックイン又は挿入によって部分的に破壊される。
【0126】
いくつかの実施形態において、ドナー核酸は、提供されない。いくつかの態様において、DSBの導入後のNHEJ媒介修復は、例えば、ミスセンス変異又はフレームシフトを作製することにより、遺伝子破壊を引き起こし得る挿入又は欠失変異をもたらす。
【0127】
1.ZFP及びZFN
いくつかの実施形態において、DNA標的化分子は、エンドヌクレアーゼなどのエフェクタータンパク質に融合された、1つ以上のジンクフィンガータンパク質(ZFP)又は転写活性化因子様タンパク質(TAL)などのDNA結合タンパク質を含む。例には、ZFN、TALE及びTALENが含まれる。
【0128】
いくつかの実施形態において、DNA標的化分子は、配列特異的にDNAに結合する1つ以上のジンクフィンガータンパク質(ZFP)又はそのドメインを含む。ZFP又はそのドメインは、1つ以上のジンクフィンガーを介して配列特異的にDNAに結合するより大きいタンパク質内のタンパク質又はドメインであり、結合ドメイン内のアミノ酸配列の領域であり、その構造は、亜鉛イオンの配位によって安定化される。ジンクフィンガーDNA結合タンパク質という用語は、よくジンクフィンガータンパク質又はZFPと略される。ZFPの中には、個々のフィンガー組み立てによって生成される、典型的には9~18ヌクレオチド長の特定のDNA配列を標的とする人工ZFPドメインがある。
【0129】
ZFPには、単一フィンガードメインがおよそ30アミノ酸長であり、亜鉛を介して単一のベータターンの2つのシステインと配位した2つの不変ヒスチジン残基を含み、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つのフィンガーを有するアルファヘリックスを含むものが含まれる。一般に、ZFPの配列特異性は、ジンクフィンガー認識ヘリックスの4つのヘリックス位置(-1、2、3、及び6)でアミノ酸置換を行うことによって変更され得る。したがって、いくつかの実施形態において、ZFP又はZFP含有分子は、非天然型、例えば選択された標的部位に結合するように操作される。
【0130】
いくつかの態様において、SNCAの破壊は、遺伝子の第1の標的部位を第1のZFPと接触させることによって実行され、それにより遺伝子を破壊する。いくつかの実施形態において、遺伝子の標的部位は、6つのフィンガー及び調節ドメインを含む融合ZFPと接触し、それにより遺伝子の発現を阻害する。
【0131】
いくつかの実施形態において、接触させるステップは、遺伝子内の第2の標的部位を第2のZFPと接触させることをさらに含む。いくつかの態様において、第1及び第2の標的部位は、隣接している。いくつかの実施形態において、第1及び第2のZFPは、共有結合している。いくつかの態様において、第1のZFPは、調節ドメイン又は少なくとも2つの調節ドメインを含む融合タンパク質である。
【0132】
いくつかの実施形態において、第1及び第2のZFPは、それぞれ調節ドメインを含むか、又はそれぞれ少なくとも2つの調節ドメインを含む融合タンパク質である。いくつかの実施形態において、調節ドメインは、転写抑制因子、転写活性化因子、エンドヌクレアーゼ、メチルトランスフェラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ又はヒストンデアセチラーゼである。
【0133】
いくつかの実施形態において、ZFPは、プロモーターに作動可能に連結されたZFP核酸によってコードされる。いくつかの態様において、方法は、脂質:核酸複合体において又はネイキッド核酸として、核酸を最初に細胞に投与するステップをさらに含む。いくつかの実施形態において、ZFPは、プロモーターに作動可能に連結されたZFP核酸を含む発現ベクターによってコードされる。いくつかの実施形態において、ZFPは、誘導性プロモーターに作動可能に連結された核酸によってコードされる。いくつかの態様において、ZFPは、弱いプロモーターに作動可能に連結された核酸によってコードされる。
【0134】
いくつかの実施形態において、標的部位は、遺伝子の転写開始部位の上流にある。いくつかの態様において、標的部位は、遺伝子の転写開始部位に隣接している。いくつかの態様において、標的部位は、遺伝子の転写開始部位の下流のRNAポリメラーゼ休止部位に隣接する。
【0135】
いくつかの実施形態において、DNA標的化分子は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を形成するためにDNA切断ドメインに融合されたジンクフィンガーDNA結合ドメインであるか又はそれを含む。いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、少なくとも1つのタイプliS制限酵素からの切断ドメイン(又は切断ハーフドメイン)及び1つ以上のジンクフィンガー結合ドメインを含み、これらは、操作されていても又はされていなくてもよい。いくつかの実施形態において、切断ドメインは、タイプliS制限エンドヌクレアーゼFok Iに由来する。Fok Iは、一般に、一方の鎖の認識部位から9ヌクレオチド及び他方の鎖の認識部位から13ヌクレオチドでDNAの二本鎖切断を触媒する。
【0136】
いくつかの実施形態において、ZFNは、操作された細胞に存在する遺伝子を標的とする。いくつかの態様において、ZFNは、例えば、遺伝子のコード領域の所定の部位で二本鎖切断(DSB)を効率的に生成する。標的とされる典型的な領域には、エクソン、N末端領域をコードする領域、第1のエクソン、第2のエクソン及びプロモーター又はエンハンサー領域が含まれる。いくつかの実施形態において、ZFNの一過性発現は、操作された細胞における標的遺伝子の高度に効率的且つ永続的な破壊を促進する。特に、いくつかの実施形態において、ZFNの送達は、50%を超える効率で遺伝子の永久的な破壊をもたらす。
【0137】
多くの遺伝子特異的に操作されたジンクフィンガーが市販されている。例えば、Sangamo Biosciences(Richmond,CA,USA)は、Sigma-Aldrich(St.Louis,MO,USA)と共同でジンクフィンガー構築のためのプラットフォーム(CompoZr)を開発し、研究者がジンクフィンガーの構築及び検証を全体でバイパスできるようにし、数千のタンパク質に特異的に標的化されたジンクフィンガーを提供する(Gaj et al.,Trends in Biotechnology,2013,31(7),397-405)。いくつかの実施形態において、市販のジンクフィンガーが使用されるか又はカスタム設計される。
【0138】
2.TAL、TALE及びTALEN
いくつかの実施形態において、DNA標的化分子は、転写活性化因子様タンパク質エフェクター(TALE)タンパク質など、天然型の又は操作された(非天然型の)転写活性化因子様タンパク質(TAL)DNA結合ドメインを含む。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2011/0301073号明細書を参照されたい。
【0139】
TALE DNA結合ドメイン又はTALEは、1つ以上のTALEリピートドメイン/ユニットを含むポリペプチドである。リピートドメインは、TALEの同族標的DNA配列への結合に関与している。単一の「リピートユニット」(「リピート」とも呼ばれる)は、典型的には、33~35アミノ酸長であり、天然型TALEタンパク質内の他のTALEリピート配列と少なくともある程度の配列相同性を示す。各TALEリピートユニットは、典型的には、リピートの12及び/又は13位において、リピート可変二残基(RVD)を構成する1つ又は2つのDNA結合残基を含む。これらのTALEのDNA認識の天然の(標準的な)コードは、12位及び13位のHD配列がシトシン(C)に結合し、NGがTに結合し、NIがAに結合し、NNがG又はAに結合し、NOがTに結合するように決定されており、非標準(非典型)RVDも知られている。米国特許出願公開第2011/0301073号明細書を参照されたい。いくつかの実施形態において、TALEは、標的DNA配列に特異性を有するTALアレイの設計によって任意の遺伝子を標的とし得る。標的配列は、一般的にチミジンで始まる。
【0140】
いくつかの実施形態において、分子は、TALEヌクレアーゼ(TALEN)などのDNA結合エンドヌクレアーゼである。いくつかの態様において、TALENは、TALEに由来するDNA結合ドメインと、核酸標的配列を切断するためのヌクレアーゼ触媒ドメインとを含む融合タンパク質である。
【0141】
いくつかの実施形態において、TALENは、遺伝子中の標的配列を認識し、切断する。いくつかの態様において、DNAの切断は、二本鎖切断をもたらす。いくつかの態様において、切断は、相同組換え又は非相同末端結合(NHEJ)の速度を刺激する。一般に、NHEJは、切断部位でのDNA配列の変化につながることの多い不完全な修復プロセスである。いくつかの態様において、修復メカニズムは、直接の再ライゲーション(Critchlow and Jackson,1998)又はいわゆるマイクロホモロジー媒介末端結合を介して2つのDNA末端の残りを再結合することを含む。いくつかの実施形態において、NHEJを介した修復は、小さい挿入又は欠失をもたらし、それを使用して遺伝子を破壊し、それにより遺伝子を抑制することができる。いくつかの実施形態において、改変は、少なくとも1つのヌクレオチドの置換、欠失又は付加であり得る。いくつかの態様において、切断誘導性変異誘発イベント、すなわちNHEJイベントに続く変異誘発イベントが発生した細胞は、当技術分野で周知の方法によって同定及び/又は選択することができる。
【0142】
いくつかの実施形態において、TALEリピートは、遺伝子を特異的に標的とするように組み立てられる。18,740のヒトタンパク質コード遺伝子を標的とするTALENのライブラリーが構築された。カスタム設計のTALEアレイは、Cellectis Bioresearch(Paris,France)、Transposagen Biopharmaceuticals(Lexington,KY,USA)及びLife Technologies(Grand Island,NY,USA)から市販されている。
【0143】
いくつかの実施形態において、TALENは、1つ以上のプラスミドベクターによってコードされる導入遺伝子として導入される。いくつかの態様において、プラスミドベクターは、前記ベクターを受け取った細胞の同定及び/又は選択を提供する選択マーカーを含み得る。
【0144】
3.RGEN(CRISPR/Casシステム)
いくつかの実施形態において、破壊は、RNA誘導エンドヌクレアーゼ(RGEN)を介した破壊など、1つ以上のDNA結合核酸を使用して実行される。例えば、破壊は、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)及びCRISPR関連(Cas)タンパク質を使用して実行することができる。一般に、「CRISPRシステム」は、Cas遺伝子をコードする配列、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNA又は活性部分tracrRNA)、tracr-mate配列(内因性CRISPRシステムに関連して「ダイレクトリピート」及びtracrRNA処理された部分的なダイレクトリピートを包含する)、ガイド配列(内因性CRISPRシステムに関連して「スペーサー」とも呼ばれる)及び/又はCRISPR遺伝子座からの他の配列及び転写物を含む、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現に関与するか又はその活性を指示する転写物及び他のエレメントを総称して指す。
【0145】
CRISPR/Casヌクレアーゼ又はCRISPR/Casヌクレアーゼシステムには、DNAに配列特異的に結合する非コードRNA分子(ガイド)RNA及びヌクレアーゼ機能(例えば、2つのヌクレアーゼドメイン)を備えたCasタンパク質(例えば、Cas9)を含めることができる。CRISPRシステムの1つ以上のエレメントは、タイプI、タイプII又はタイプIIIのCRISPRシステムに由来し得、例えば化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)などの内因性CRISPRシステムを含む特定の生物に由来し得る。
【0146】
いくつかの態様において、Casヌクレアーゼ及びgRNA(標的配列に特異的なcrRNA及び固定化tracrRNAの融合物を含む)が細胞に導入される。一般に、gRNAの5’末端の標的部位により、相補的な塩基対を使用してCasヌクレアーゼが標的部位、例えば遺伝子を標的とする。標的部位は、典型的には、NGG又はNAGなどのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列の直接5’の位置に基づいて選択することができる。この点において、gRNAは、ガイドRNAの最初の20、19、18、17、16、15、14、14、12、11又は10ヌクレオチドを標的DNA配列に対応するように修飾することにより、所望の配列を標的とする。一般に、CRISPRシステムは、標的配列の部位でのCRISPR複合体の形成を促進するエレメントによって特徴付けられる。典型的には、「標的配列」は、一般に、ガイド配列が相補性を有するように設計される配列を指し、標的配列とガイド配列との間のハイブリダイゼーションは、CRISPR複合体の形成を促進する。ハイブリダイゼーションを引き起こし、CRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性があれば、完全な相補性は、必ずしも必要ではない。
【0147】
CRISPRシステムは、標的部位で二本鎖切断(DSB)を誘発し、その後、本明細書で説明するような破壊を引き起こし得る。他の実施形態において、「ニッカーゼ」と見なされるCas9バリアントを使用して、標的部位で一本鎖にニックを入れる。対のニッカーゼは、例えば、特異性を改善するために使用することができ、ニックを同時に導入すると5’オーバーハングが導入されるように、配列を標的とする異なるgRNAの対によってそれぞれ指向される。他の実施形態において、触媒的に不活性なCas9は、転写リプレッサー又はアクチベーターなどの異種エフェクタードメインに融合されて、遺伝子発現に影響を与える。
【0148】
標的配列は、DNA又はRNAポリヌクレオチドなどの任意のポリヌクレオチドを含み得る。標的配列は、細胞の小器官内など、細胞の核又は細胞質に位置し得る。一般に、標的配列を含む標的遺伝子座への組換えに使用され得る配列又はテンプレートは、「編集テンプレート」、又は「編集ポリヌクレオチド」、又は「編集配列」と呼ばれる。いくつかの態様において、外因性テンプレートポリヌクレオチドは、編集テンプレートと呼ばれ得る。いくつかの態様において、組換えは、相同組換えである。
【0149】
典型的には、内因性CRISPRシステムに関連して、CRISPR複合体(標的配列にハイブリダイズし、1つ以上のCasタンパク質と複合体を形成したガイド配列を含む)の形成は、標的配列内又はその近く(例えば、それから1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50又はそれを超える数の塩基対内)の一方又は両方の鎖の切断をもたらす。野生型tracr配列の全部又は一部を含むか又はそれからなり得るtracr配列(例えば、約20以上、約26以上、約32以上、約45以上、約48以上、約54以上、約63以上、約67以上、約85以上又はそれを超えるヌクレオチドの野生型tracr配列)は、ガイド配列に動作可能に連結されたtracr mate配列の全部又は一部へのtracr配列の少なくとも一部に沿ったハイブリダイゼーションなどにより、CRISPR複合体の一部を形成し得る。tracr配列は、ハイブリダイズし、CRISPR複合体の形成に関与するのに十分なtracr mate配列に対する相補性(最適にアラインされた場合のtracr mate配列の長さに沿って少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%又は99%の配列相補性など)を有する。
【0150】
CRISPRシステムの1つ以上のエレメントの発現を駆動する1つ以上のベクターは、CRISPRシステムのエレメントの発現が1つ以上の標的部位でのCRISPR複合体の形成を指示するように細胞に導入することができる。成分は、タンパク質及び/又はRNAとして細胞に送達することもできる。例えば、Cas酵素、tracr-mate配列に連結されたガイド配列及びtracr配列は、それぞれ別個のベクター上の別個の調節エレメントに作動可能に連結され得る。代わりに、同じ又は異なる調節エレメントから発現される2つ以上のエレメントを単一のベクターに組み合わせ、1つ以上のさらなるベクターが第1のベクターに含まれないCRISPRシステムの任意の成分を提供し得る。ベクターは、制限エンドヌクレアーゼ認識配列(「クローニング部位」とも呼ばれる)などの1つ以上の挿入部位を含み得る。いくつかの実施形態において、1つ以上の挿入部位は、1つ以上のベクターの1つ以上の配列エレメントの上流及び/又は下流に位置する。複数の異なるガイド配列が使用される場合、単一の発現構築物を使用して、細胞内の複数の異なる対応する標的配列にCRISPR活性を標的化し得る。
【0151】
ベクターは、Casタンパク質などのCRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に連結された調節エレメントを含み得る。Casタンパク質の非限定的な例には、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1及びCsx12としても知られる)、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、それらの相同体又はそれらの改変バージョンが含まれる。これらの酵素は、公知であり、例えば、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9タンパク質のアミノ酸配列は、SwissProtデータベースのアクセッション番号Q99ZW2に見出され得る。
【0152】
CRISPR酵素は、Cas9(例えば、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)又は肺炎球菌(S.pneumonia)由来)であり得る。CRISPR酵素は、標的配列内及び/又は標的配列の補体内などの標的配列の位置で一方又は両方の鎖の切断を指示することができる。ベクターは、変異したCRISPR酵素が、標的配列を含む標的ポリヌクレオチドの一方又は両方の鎖を切断する能力を欠くように、対応する野生型酵素に関して変異しているCRISPR酵素をコードすることができる。例えば、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)のCas9のRuvC I触媒ドメインのアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)は、Cas9を両方の鎖を切断するヌクレアーゼからニッカーゼ(一本鎖を切断する)に変換する。いくつかの実施形態において、Cas9ニッカーゼは、ガイド配列、例えばDNA標的のセンス鎖及びアンチセンス鎖をそれぞれ標的とする2つのガイド配列と組み合わせて使用され得る。この組み合わせにより、両方の鎖にニックを入れ、NHEJ又はHDRを誘導するために使用することができる。
【0153】
いくつかの実施形態において、CRISPR酵素をコードする酵素コード配列は、真核細胞などの特定の細胞における発現のためにコドン最適化されている。真核細胞は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ又は非ヒト霊長類を含むが、これらに限定されない、哺乳動物などの特定の生物のもの又はそれに由来するものであり得る。一般に、コドン最適化は、天然配列の少なくとも1つのコドンを、天然アミノ酸配列を維持しながら、その宿主細胞の遺伝子でより頻繁に又は最も頻繁に使用されるコドンで置換することにより、目的の宿主細胞における発現を強化するために核酸配列を改変するプロセスを指す。様々な種が特定のアミノ酸の特定のコドンに対して特定のバイアスを示す。コドンバイアス(生物間のコドン使用の違い)は、メッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳効率と相関することが多く、これは、とりわけ、翻訳されるコドンの特性及び特定の転移RNA(tRNA)分子の利用可能性に依存すると考えられている。細胞内で選択されたtRNAが支配的であるのは、一般に、ペプチド合成で最も頻繁に使用されるコドンを反映している。したがって、遺伝子は、コドン最適化に基づいて、所与の生物における最適な遺伝子発現のために調整することができる。
【0154】
一般に、ガイド配列は、標的配列とハイブリダイズし、標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指示するために、標的ポリヌクレオチド配列との十分な相補性を有する任意のポリヌクレオチド配列である。いくつかの実施形態において、ガイド配列とその対応する標的配列との間の相補性の程度は、適切なアラインメントアルゴリズムを使用して最適にアラインされた場合、約50%以上、約60%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約97.5%以上、約99%以上又はそれを超える。
【0155】
最適なアラインメントは、配列をアラインするための任意の適切なアルゴリズムを使用して決定され得、その非限定的な例には、Smith-Watermanアルゴリズム、Needleman-Wunschアルゴリズム、Burrows-Wheeler変換に基づくアルゴリズム(例えば、Burrows Wheeler Aligner)、Clustal W、Clustal X、BLAT、Novoalign(Novocraft Technologies、ELAND(Illumina,San Diego,Calif.)、SOAP(soap.genomics.org.cnで入手可能)及びMaq(maq.sourceforge.netで入手可能)が含まれる。
【0156】
CRISPR酵素は、1つ以上の異種タンパク質ドメインを含む融合タンパク質の一部であり得る。CRISPR酵素融合タンパク質は、任意の追加のタンパク質配列及び任意選択により任意の2つのドメイン間のリンカー配列を含み得る。CRISPR酵素に融合され得るタンパク質ドメインの例には、限定されないが、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列及び以下の活性:メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写放出因子活性、ヒストン修飾活性、RNA切断活性及び核酸結合活性の1つ以上を有するタンパク質ドメインが含まれる。エピトープタグの非限定的な例には、ヒスチジン(His)タグ、V5タグ、FLAGタグ、インフルエンザ血球凝集素(HA)タグ、Mycタグ、VSV-Gタグ及びチオレドキシン(Trx)タグが含まれる。レポーター遺伝子の例には、限定されないが、グルタチオン-5-トランスフェラーゼ(GST)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)ベータガラクトシダーゼ、ベータグルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HcRed、DsRed、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)及び青色蛍光タンパク質(BFP)を含む自己蛍光タンパク質が含まれる。CRISPR酵素は、DNA分子に結合するか、又はマルトース結合タンパク質(MBP)、Sタグ、Lex A DNA結合ドメイン(DBD)融合物、GAL4A DNA結合ドメイン融合物及び単純ヘルペスウイルス(HSV)BP16タンパク質融合物を含むが、これらに限定されない他の細胞分子に結合するタンパク質又はタンパク質のフラグメントをコードする遺伝子配列に融合させ得る。
【0157】
D.分化培地
細胞は、細胞の特定の各集団の成長をサポートするために必要な栄養素で培養することができる。一般に、細胞は、炭素源、窒素源及びpHを維持するための緩衝液を含む増殖培地で培養される。培地には、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(非必須アミノ酸など)、ビタミン、成長因子、サイトカイン、抗酸化物質、ピルビン酸、緩衝剤、pH指示薬及び無機塩を含めることもできる。例示的な増殖培地は、幹細胞の成長を強化するために、非必須アミノ酸及びビタミンなどの様々な栄養素が補充された、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)又はESSENTIAL 8(商標)(E8(商標))培地などの最小必須培地を含む。最小必須培地の例には、最小必須培地イーグル(MEM)アルファ培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI-1640培地、199培地及びF12培地が含まれるが、これらに限定されない。さらに、最小必須培地にウマ、仔ウシ又はウシ胎児血清などの添加剤を補充し得る。代わりに、培地は、無血清であり得る。他の場合、増殖培地は、培養において幹細胞などの未分化細胞を増殖及び維持するように最適化された無血清製剤として本明細書で呼ばれる「ノックアウト血清置換」を含み得る。KNOCKOUT(商標)血清置換は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2002/0076747号明細書に開示されている。好ましくは、PSCは、フィーダーフリーの完全規定培地で培養される。
【0158】
いくつかの実施形態において、培地は、血清の任意の代替物を含んでも又は含まなくてもよい。血清の代替物には、アルブミン(脂質に富むアルブミン、組換えアルブミンなどのアルブミン代替物、植物デンプン、デキストラン及びタンパク質加水分解物)、トランスフェリン(又は他の鉄輸送体)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオグリセロール又はその均等物を適切に含有する材料を含めることができる。血清の代替物は、例えば、国際公開第98/30679号パンフレットに開示されている方法によって調製することができる。代わりに、より便宜的には、市販の材料を使用することもできる。市販の材料には、KNOCKOUT(商標)血清代替物(KSR)、組成が既知である脂質濃縮物(Gibco)及びGLUTAMAX(商標)(Gibco)が含まれる。
【0159】
他の培養条件は、適切に定義することができる。例えば、培養温度は、約30~40℃、例えば少なくとも又は約31、32、33、34、35、36、37、38、39℃であり得るが、特にそれらに限定されない。一実施形態において、細胞は、37℃で培養される。CO濃度は、約1~10%、例えば約2~5%又はその中で導出可能な任意の範囲であり得る。酸素分圧は、少なくとも最大又は約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20%又はその中で導出可能な任意の範囲であり得る。
【0160】
本開示の特定の態様による分化培地は、動物細胞の培養に使用される培地をその基礎培地として使用して調製することができる。いくつかの実施形態において、分化培地を使用して、単一のBMP阻害剤又は単一のTGF-β阻害剤のみを用いて、多能性細胞を中脳ドーパミン作動性ニューロン前駆細胞(例えば、D17細胞)に分化させる。例えば、多能性細胞の分化(例えば、中脳ドーパミン作動性前駆細胞への分化)を促進するために使用される分化培地は、単一のBMP阻害剤(LDN-193189又はドルソモルフィンなど;例えば、分化の1~17日目);ソニック・ヘッジホッグ(SHH)シグナル伝達の活性化因子(プルモルファミン、ヒトC25II SHH、又はマウスC24II SHHなど;例えば、1~6、2~7、又は1~7日目);Wntシグナル伝達の活性化因子(GSK阻害剤など、例えば、CHIR99021;例えば、2~17又は3~17日目)、及び/又はMEK阻害剤(PD0325901など;例えば、2~4又は3~5日目)を含み得る。いくつかの実施形態において、単一のTGFβ阻害剤(SB-431542など;例えば、1~4日目)は、単一のBMP阻害剤の代わりに使用することができるが;いくつかの実施形態において、単一のBMP阻害剤は、単一のTGF-β阻害剤の使用と比較して、細胞のFOXA2/LMX1A細胞への優れた分化をもたらし得る。いくつかの実施形態において、FGF-8(例えば、FGF-8b)は、最初の日又は1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10日目、又はそれらの任意の組み合わせの日(例えば、1~8日目)に分化培地に含められず;例えば、いくつかの実施形態において、FGF-8は、9、10、11、12、13、14、15、16、及び17日目、又はそれらの任意の組み合わせの日に分化培地に含められる。様々な実施形態において、分化培地は、TGFβ及びbFGFを含んでもよく、或いは、分化培地は、本質的にTGFβ及びbFGFを含まなくてもよい。
【0161】
特定の態様において、実施形態による分化の方法は、例えば細胞が、
- 単一のBMP阻害剤(又はTGFβ阻害剤);ソニック・ヘッジホッグ(SHH)シグナル伝達の活性化因子;及びWntシグナル伝達の活性化因子を含む培地中の接着培養物において;
- 単一のBMP阻害剤(又はTGFβ阻害剤);SHHシグナル伝達の活性化因子;及びWntシグナル伝達の活性化因子を含む培地中の懸濁液(細胞凝集体が形成される)において;
- 成熟のために、B27サプリメント、L-グルタミン、BDNF、GDNF、TGFβ、アスコルビン酸、ジブチリルcAMP、及びDAPT(及び任意選択により、外部から添加されるレチノール又はレチノイン酸を欠く)を含む神経基底培地中での接着培養物において、培養される様々な培地条件による細胞の継代を含む。
【0162】
基礎培地としては、任意の化学的に規定された培地、例えば、イーグル基礎培地(BME)、BGJb、CMRL 1066、Glasgow MEM、Improved MEM Zinc Option、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、Medium 199、Eagle MEM、αMEM、DMEM、Ham、RPMI 1640、及びフィッシャー培地、それらの変種又は組み合わせを使用することができ、TGFβ及びbFGFを含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0163】
さらなる実施形態において、細胞分化環境は、サプリメント、例えば、B-27サプリメント、インスリン、トランスフェリン、及びセレン(ITS)サプリメント、L-グルタミン、NEAA(非必須アミノ酸)、P/S(ペニシリン/ストレプトマイシン)、N2サプリメント(5μg/mLのインスリン、100μg/mLのトランスフェリン、20nMのプロゲステロン、30nMのセレン、100μMのプトレシン(Bottenstein, and Sato,1979 PNAS USA 76,514-517)、及び/又はβ-メルカプトエタノール(β-ME)も含み得る。フィブロネクチン、ラミニン、ヘパリン、硫酸ヘパリン、レチノイン酸を含むが、これらに限定されない追加の因子を添加してもよいし、添加しなくてもよいことが企図される。
【0164】
成長因子は、分化培地に添加してもよいし、添加しなくてもよい。上記に概説した因子に加えて、又はその代わりに、成長因子、例えば、上皮成長因子ファミリー(EGF)のメンバー、FGF2及び/又はFGF8を含む線維芽細胞成長因子ファミリー(FGF)のメンバー、血小板由来成長因子ファミリー(PDGF)のメンバー、トランスフォーミング増殖因子(TGF)/骨形成タンパク質(BMP)/成長及び分化因子(GDF)ファミリーのアンタゴニストを、プロセスの様々なステップで使用することができる。いくつかの実施形態において、FGF-8は、本明細書に記載されるように分化培地に含められる。分化培地に付加されてもよいし、付加されなくてもよい他の因子には、デルタ様及びJaggedファミリーのタンパク質、並びにガンマセクレターゼ阻害剤及びDAPTなどのNotchプロセシング又は切断の他の阻害剤を含むが、これらに限定されない、Notch受容体ファミリーを介したシグナル伝達を活性化又は不活性化することができる分子が含まれる。他の成長因子には、インスリン様成長因子ファミリー(IGF)、wingless関連(WNT)因子ファミリー、及びヘッジホッグ因子ファミリーのメンバーが含まれ得る。
【0165】
追加の因子を凝集体形成及び/又は分化培地に添加して、神経幹/前駆細胞の増殖及び生存、並びにニューロンの生存及び分化を促進することができる。これらの神経栄養因子には、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ニューロトロフィン-4/5(NT-4/5)、インターロイキン-6(IL-6)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、白血病抑制因子(LIF)、カルディオトロフィン、トランスフォーミング増殖因子(TGF)/骨形成タンパク質(BMP)/成長及び分化因子(GDF)ファミリーのメンバー、ニュールツリン、ニューブラスチン/アルテミン、及びペルセフィンが含まれるが、これらに限定されない、グリア由来神経栄養因子(GDNF)ファミリーのメンバー、及び肝細胞増殖因子に関連する因子及びこれを含む因子が含まれるが、これらに限定されない。最終分化して有糸分裂後ニューロンを形成する神経培養物はまた、5-フルオロ2’-デオキシウリジン、マイトマイシンC、及び/又はシトシンβ-D-アラビノ-フラノシド(Ara-C)を含むが、これらに限定されない、有糸分裂阻害剤又は有糸分裂阻害剤の混合物を含み得る。
【0166】
培地は、血清含有培地又は無血清培地であり得る。無血清培地は、未処理又は未精製の血清を含まない培地を指すことがあり、したがって、精製された血液由来成分又は動物組織由来成分(成長因子など)を含有する培地を含み得る。異種動物由来成分の混入を防止するという観点から、血清は、幹細胞と同じ動物由来であり得る。いくつかの実施形態において、培地は、規定培地であり、培地は、血清又は他の動物組織由来成分(放射線照射マウス線維芽細胞、又は放射線照射線維芽細胞フィーダー細胞で馴化された培地など)を含まない。
【0167】
培地は、血清の代替品を含んでもよいし、含まなくてもよい。血清の代替物は、アルブミン(脂質に富むアルブミン、組換えアルブミンなどのアルブミン代替物、植物デンプン、デキストラン、及びタンパク質加水分解物など)、トランスフェリン(又は他の鉄トランスポーター)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロール、又はそれらに等価物を適切に含む材料を含み得る。例えば、血清の代替物は、国際公開第98/30679号パンフレットに開示されている方法によって調製することができる。或いは、より利便性を高めるために市販の物質を使用することもできる。市販の物質には、ノックアウト血清置換(KSR)及び化学的に規定された脂質濃縮物(Gibco)が含まれる。
【0168】
培地には、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(非必須アミノ酸など)、ビタミン、成長因子、サイトカイン、抗酸化物質、2-メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、及び無機塩も含まれ得る。2-メルカプトエタノールの濃度は、例えば、約0.05~1.0mM、特に約0.1~0.5、又は0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.1、0.2、0.5、0.8、1、1.5、2、2.5、5、7.5、10mM又は任意の中間値であり得るが、その濃度は、幹細胞の培養に適当である限り、特にこれらに限定されない。
【0169】
いくつかの実施形態において、多能性幹細胞は、神経誘導及び底板パターニングを改善するために凝集体形成の前に(例えば、凝集体形成を誘導するために単一細胞又は小さな凝集体に分離する前に)培地中で培養される。本発明の特定の実施形態において、幹細胞は、フィーダー細胞、フィーダー細胞抽出物、及び/又は血清の非存在下で培養され得る。
【0170】
E.培養条件
細胞の培養に使用される培養容器には、特に限定されないが、細胞を培養できる限り、フラスコ、組織培養用フラスコ、スピナーフラスコ、ディッシュ、ペトリ皿、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、チューブ、トレイ、CELLSTACK(登録商標)チャンバー、培養バッグ、及びローラーボトルが含まれ得る。細胞は、培養の必要性に応じて、少なくとも又は約0.2、0.5、1、2、5、10、20、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、800、1000、1500ml、又はその中で導出可能な任意の範囲の体積で培養され得る。特定の実施形態において、培養容器はバイオリアクターであってもよく、これは、生物学的に活性な環境をサポートする任意のデバイス又はシステムを指し得る。バイオリアクターは、少なくとも、又は約2、4、5、6、8、10、15、20、25、50、75、100、150、200、500リットル、1、2、4、6、8、10、15立方メートル、又はその中で導出可能な任意の範囲の体積を有する。
【0171】
培養容器表面は、目的に応じて、細胞接着剤を用いて、又は用いずに調製することができる。細胞接着性培養容器は、細胞外マトリックス(ECM)などの細胞接着用の任意の基材でコーティングして、細胞に対する容器表面の接着性を向上させることができる。細胞接着に使用される基材は、幹細胞又はフィーダー細胞(使用する場合)を接着することを目的とした任意の材料であり得る。細胞接着用の非限定的な基材には、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ポリ-L-オルニチン、ラミニン、ビトロネクチン、及びフィブロネクチン、及びそれらの混合物、例えば、Engelbreth-Holm-Swarmマウス肉腫細胞由来のタンパク質混合物(Matrigel(商標)又はGeltrexなど)及び溶解細胞膜調製物(Klimanskaya et al.,2005)が含まれる。いくつかの実施形態において、細胞接着性培養容器は、カドヘリンタンパク質、例えば上皮カドヘリン(E-カドヘリン)でコーティングされている。
【0172】
その他の培養条件は適宜定めることができる。例えば、培養温度は、約30~40℃、例えば、特に限定されないが、少なくとも又は約31、32、33、34、35、36、37、38、39℃であり得る。CO濃度は、約1~10%、例えば約2~7%又はその中で導出可能な任意の範囲であり得る。酸素圧は、少なくとも又は約1、5、8、10、20%又はその中で導出可能な任意の範囲であり得る。
【0173】
接着培養物は、特定の態様で使用することができる。必要に応じて、細胞は、フィーダー細胞の存在下で培養することができる。フィーダー細胞を用いる場合、胎児線維芽細胞などの間質細胞を、フィーダー細胞として使用することができる(例えば、Manipulating the Mouse Embryo A Laboratory Manual(1994);Gene Targeting,A Practical Approach(1993);Martin(1981);Evans et al.(1981);Jainchill et al.,(1969);Nakano et al.,(1996);Kodama et al.(1982);及び国際公開第01/088100号パンフレット及び米国特許出願公開第2005/080554号明細書を参照されたい)。いくつかの実施形態において、フィーダー細胞は、細胞培養培地に含められず、細胞は、規定条件を用いて培養することができる。
【0174】
他の態様において、懸濁培養物を使用することができる。使用できる懸濁培養物には、担体上の懸濁培養物(Fernandes et al.,2007)又はゲル/生体ポリマーカプセル化(米国特許出願公開第2007/0116680号明細書)が含まれる。幹細胞の懸濁培養物は、一般に、培地中の培養容器又はフィーダー細胞(使用する場合)に関して非接着条件下での細胞(例えば、幹細胞)の培養を含む。幹細胞の懸濁培養物には、一般に、幹細胞の分離培養及び幹細胞の凝集懸濁培養物が含まれる。幹細胞の分離培養には、単一の幹細胞、又は複数の幹細胞(例えば、2~400個程度の細胞)からなる幹細胞の小細胞凝集体などの懸濁幹細胞の培養が含まれる。分離培養を継続すると、培養して分離した細胞が、通常は、幹細胞のより大きな凝集体を形成し、その後、凝集懸濁培養物を生成又は利用することができる。凝集懸濁培養法には、胚様培養法(Keller et al.,1995を参照)及びSFEB(無血清胚様体)法(Watanabe et al.,2005;国際公開第2005/123902号パンフレット)が含まれる。
【0175】
特定の態様において、非静置培養は、多能性幹細胞の培養及び分化に使用することができる。非静置培養は、例えば、振とう、回転、又は攪拌プラットフォーム、又は培養容器、特に大容量回転バイオリアクターを使用することによって、細胞が制御された移動速度に保たれる任意の培養物であり得る。いくつかの実施形態において、ロッカーテーブルを使用することができる。撹拌は、栄養素及び細胞老廃物の循環を改善し、撹拌を使用して、より均一な環境を提供することによって細胞凝集を制御することもできる。例えば、回転速度は、少なくとも又は最大で約10、15、20、25、30、35、40、45、50、75、100rpm、又はその中で導出可能な任意の範囲に設定することができる。多能性幹細胞、細胞凝集体、分化幹細胞、又はそれらに由来する子孫細胞の非静置培養におけるインキュベーション期間は、少なくとも又は約4時間、8時間、16時間、又は1、2、3、4、5、6日、又は1、2、3、4、5、6、7週間、又はその中で導出可能な任意の範囲であり得る。
【0176】
多能性幹細胞の培養のいくつかの実施形態において、培養容器が満杯になると、コロニーは、分離に適した任意の方法によって凝集細胞又は単一細胞にさえ分割され、次いで、これらの細胞は、継代のために新しい培養容器に入れられる。細胞継代又は分割は、細胞が、長期間わたって培養条件下で生存及び増殖できるようにする技術である。細胞は、典型的には、約70%~100%のコンフルエントである場合に継代されることになる。
【0177】
多能性幹細胞の単一細胞の分離とそれに続く単一の細胞継代は、細胞増殖、細胞分別、及び分化のための規定された播種を容易にし、培養手順及びクローン増殖の自動化を可能にするようないくつかの利点を備えた本方法で使用することができる。例えば、単一細胞からクローニングにより得られた子孫細胞は、遺伝的構造が均一であり得、且つ/又は細胞周期が同期し得、これにより標的の分化が促進され得る。単一細胞の継代の例示的な方法は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2008/0171385号明細書に記載されているであろう。
【0178】
F.凍結保存
本明細書に開示される方法によって産生された細胞は、ステージI、ステージII又はステージIIIなどのプロセスの任意の段階で凍結保存することができ、例えば参照により本明細書に組み込まれるPCT公開国際公開第2012/149484A2号パンフレットを参照されたい。細胞は、基質を伴って又は伴わずに凍結保存することができる。いくつかの実施形態において、貯蔵温度は、約-50℃~約-60℃、約-60℃~約-70℃、約-70℃~約-80℃、約-80℃~約-90℃、約-90℃~約-100℃の範囲及びそれらの重複範囲である。いくつかの実施形態において、より低い温度は、凍結保存された細胞の貯蔵(例えば、維持)のために使用される。いくつかの実施形態において、液体窒素(又は他の同様の液体冷却剤)を使用して細胞を保存する。さらなる実施形態において、細胞は、約6時間を超えて保存される。さらなる実施形態において、細胞は、約72時間保存される。いくつかの実施形態において、細胞は、48時間~約1週間保存される。さらに他の実施形態において、細胞は、約1、2、3、4、5、6、7又は8週間保存される。さらなる実施形態において、細胞は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12ヶ月間保存される。細胞は、より長い時間保存することもできる。細胞は、別個に又は本明細書に開示される基質のいずれかなどの基質上に凍結保存することができる。
【0179】
いくつかの実施形態において、追加の凍結防止剤を使用することができる。例えば、細胞は、DM80などの1つ以上の凍結保護剤、ヒト又はウシ血清アルブミンなどの血清アルブミンを含む凍結保存溶液中で凍結保存することができる。特定の実施形態において、溶液は、約1%、約1.5%、約2%、約2.5%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%又は約10%のDMSOを含む。他の実施形態において、溶液は、約1%~約3%、約2%~約4%、約3%~約5%、約4%~約6%、約5%~約7%、約6%~約8%、約7%~約9%又は約8%~約10%のジメチルスルホキシド(DMSO)又はアルブミンを含む。特定の実施形態において、溶液は、2.5%のDMSOを含む。別の特定の実施形態において、溶液は、10%のDMSOを含む。
【0180】
細胞は、例えば、凍結保存中に約1℃/分で冷却され得る。いくつかの実施形態において、凍結保存温度は、約-80℃~約-180℃又は約-125℃~約-140℃である。いくつかの実施形態において、細胞は、約1℃/分で冷却する前に4℃に冷却される。凍結保存された細胞は、使用のために解凍する前に液体窒素の気相に移すことができる。いくつかの実施形態において、例えば細胞が約-80℃に達すると、それらは、液体窒素貯蔵領域に移される。凍結保存は、コントロールレートフリーザーを使用して行うこともできる。凍結保存された細胞は、例えば、約25℃~約40℃の温度、典型的には約37℃の温度で解凍され得る。
【0181】
III.使用方法
本開示は、疾患関連変異を有するiPSC由来のドーパミン作動性ニューロンを生成する方法を提供する。これらは、いくつかの重要な研究、開発、及び商業目的に使用することができる。これらは、ほんの数例を挙げると、インビボでの細胞の移植又は埋入;細胞毒性化合物、発癌性物質、変異原性物質、成長/調節因子、医薬品化合物などのインビトロでのスクリーニング;薬物及び/又は成長因子が作用するメカニズムの研究;患者の癌の診断及びモニタリング;遺伝子治療;並びに生物学的に活性な製品の生産であるが、これらに限定されない。
【0182】
本明細書に提供される中脳DA前駆細胞(例えば、D17細胞)は、本明細書に提供されるDAニューロンの特性に影響を及ぼす因子(溶媒、低分子薬物、ペプチド、及びポリヌクレオチドなど)又は環境条件(培養条件又は操作など)のスクリーニングに使用することができる。
【0183】
いくつかの適用例では、幹細胞(分化又は未分化)を使用して、神経系統に沿った細胞の成熟を促進する因子、又は長期培養におけるそのような細胞の増殖及び維持を促進する因子をスクリーニングする。例えば、候補となる神経成熟因子又は成長因子は、それらを異なるウェル内の幹細胞に添加し、次いで、細胞のさらなる培養及び使用のための望ましい基準に従って、結果として生じるあらゆる表現型の変化を決定することによって試験することができる。
【0184】
本明細書で提供される細胞培養物は、例えば、神経の分化若しくは生存に対する分子の効果の試験、又は毒性試験、又は神経若しくは神経機能に対する分子の効果の試験に使用され得る。これは、ニューロン活動、可塑性(例えば、長期増強)、又は機能に影響を与える化合物を同定するためのスクリーニングを含み得る。細胞培養は、神経幹細胞、神経前駆細胞又は分化神経細胞又は神経細胞型の生物学と相互作用し、それに影響を与える、新薬及び化合物の発見、開発及び試験に使用され得る。神経細胞はまた、軸索ガイダンス、神経変性疾患、神経可塑性並びに学習及び記憶を含むがこれらに限定されない、神経の発達及び機能不全の細胞及び分子基盤を同定するように設計された研究においても非常に有用である。このような神経生物学の研究は、これらのプロセスの新規分子成分を同定し、既存の薬剤及び化合物の新規用途を提供し、新たな薬剤標的又は薬剤候補を同定するために使用され得る。
【0185】
一部の適用例では、化合物を、その潜在的な神経毒性についてスクリーニング又は試験することができる。細胞毒性は、まず、細胞の生存率、生存、形態、又は培地への酵素の漏出に対する影響によって決定することができる。いくつかの実施形態において、化合物が毒性を引き起こすことなく細胞機能(神経伝達又は電気生理学など)に影響を及ぼすかどうかを決定するために試験が行われる。
【0186】
いくつかの実施形態において、1つ以上の特定の化合物を試験して、その化合物が疾患の処置に有益であり得る効果を有するかが決定され得る。機能活性に対する化合物の効果に基づいて、その化合物が疾患の処置に有用であり得るかを判断できる可能性がある。いくつかの実施形態において、細胞は、神経疾患又は神経変性疾患(例えば、自閉症、てんかん、ADHD、統合失調症、双極性障害など)などの疾患(例えば、遺伝性疾患、又は遺伝要素若しくは危険因子を伴う疾患)を有する対象からのiPS細胞に由来する。いくつかの実施形態において、細胞は、神経培養物が疾患状態と同様の特性を示すように、第1の化合物又は毒素の存在下で培養され得る。これらの実施形態において、第2の化合物を細胞培養物に提供して、第2の化合物が第1の化合物又は毒素の影響を緩和又は低減できるかどうかが確認され得る。他の実施形態において、細胞培養物は、化合物が細胞培養物に対して毒性又は有害作用を生じるかどうかを決定するために使用され得る。
【0187】
例えば、1つ以上の候補薬剤が、様々な濃度で培養培地に添加され得る。細胞内で発現される目的のポリペプチドの発現を促進する薬剤は有用であると考えられる。このような薬剤は、例えば、神経発達又は神経機能の欠陥を特徴とする傷害、疾患又は障害を予防、遅延、改善、安定化、又は処置するための治療剤として使用され得る。同定された薬剤は、神経学的状態の処置又は予防に使用され得る。別の実施形態において、オルガノイドの細胞の活性又は機能が、候補化合物の存在下及び非存在下で比較される。細胞の活性又は機能を望ましく変更する化合物は、本方法において有用なものとして選択される。
【0188】
本方法において有用な薬剤は、当技術分野で公知の方法に従って、天然産物若しくは合成(又は半合成)抽出物の大きなライブラリー、又は化学物質ライブラリー、又はポリペプチド若しくは核酸ライブラリーから同定され得る。創薬及び開発の分野の当業者は、試験抽出物又は化合物の正確な供給源が本発明の方法のスクリーニング手順にとって重要ではないことを理解するであろう。スクリーニングに使用される薬剤には、神経学的状態の処置のための治療剤として知られる公知の薬剤が含まれ得る。或いは、実質的に任意の数の未知の化学抽出物又は化合物を、本明細書に記載の方法を使用してスクリーニングすることができる。このような抽出物又は化合物の例には、植物、真菌、原核生物又は動物ベースの抽出物、発酵ブロス、及び合成化合物、並びに既存のポリペプチドの改変物が含まれるが、これらに限定されない。
【0189】
細胞の機能活性を決定するためのアッセイは、生存アッセイ、GBAアッセイ、カルシウムアッセイ、MEAアッセイ、顕微鏡アッセイによるシナプス刈り込み、様々な経路のリン酸化中間体を追跡するシグナル伝達、正常な細胞型及び疾患特異的な細胞型を含む培養培地中に放出された分析物の分析を含み得る。例えば、アイソジェニック操作された細胞又は患者特異的な細胞をAHN対照と比較する疾患モデリング用途の場合、アミロイドベータ、ミエリン、シナプトソーム又はタウなどの神経発生性(neurogenerative)タンパク質への処置又は曝露により、カルシウムシグナル伝達及び電気活性が低下し、神経炎症性サイトカインが増加するであろう。例えば、これらの機能活性測定値のいずれかにおける増加(例えば、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%を超える)は、候補薬剤を示し得る。
【0190】
いくつかの態様において、初期の病原性変化は、神経変性の発生に関連する遺伝子発現プロファイルの変化又は主にダウンレギュレーションを観察することによって定量化され得る。特定の態様において、神経炎症性サイトカインの放出に関連する免疫関連遺伝子のアップレギュレーションは、神経変性に関連するものとして測定され得る。
【0191】
アッセイはハイスループット方式で実施してもよい。例えば、細胞培養物は、潜在的な治療分子の同定のため、培養皿、フラスコ、ローラーボトル又はプレート(例えば、単一マルチウェルディッシュ又は8、16、32、64、96、384及び1536マルチウェルプレート又はディッシュなどのディッシュ)上に、任意選択により規定の位置に、配置する、又は置くことができる。スクリーニング可能なライブラリーには、例えば、小分子ライブラリー、siRNAライブラリー、アデノウイルストランスフェクションベクターライブラリーが含まれる。スクリーニングプラットフォームは、ロボットによる自動化など、自動化することができる。培養プラットフォームは、自動細胞洗浄機及びハイコンテンツイメージャーを含み得る。
【0192】
いくつかの態様において、本アッセイにより、無菌細菌感染(リポ多糖(LPS)曝露)、機械的損傷(引っかき傷)、及び発作活性(グルタミン酸誘導性興奮毒性)を模倣する異なる神経炎症性刺激に対する本細胞培養物の応答を定量化され得る。対照及びLPSに曝露された培養物の分泌サイトカインプロファイルが測定され得る。
【0193】
本明細書に記載されるモデルは、薬剤の血液脳関門通過の薬力学的試験又は薬物動態試験のためなどの、化合物又は処置スクリーニング又は試験(例えば、有効性、毒性、又は他の代謝活性若しくは生理活性について)に使用され得る。このような試験は、本明細書に記載のモデルを、その産物の構成細胞を生存状態に維持する条件下(例えば、酸素添加された培地中)で提供すること;試験される化合物(例えば、薬剤候補)を細胞に適用する(例えば、内皮層への投与によって)こと;次いで、内皮層を通る化合物の浸透及び/又は他の生理学的反応(例えば、損傷、瘢痕組織形成、感染、細胞増殖、熱傷(bum)、細胞死、ヒスタミン放出などのマーカー放出、サイトカイン放出、遺伝子の変化など)を検出することによって実施され得、これは、前記化合物が血液脳関門を通過できるかどうか、及び/又は哺乳動物対象に全身的に(例えば、血管内に)送達された場合に脳内で治療効果、毒性、又は他の代謝活性若しくは生理活性を有するかどうかを示し得る。モデルの対照サンプルを同様の条件下で維持し、それに対照化合物(例えば、生理食塩水、複合ビヒクル又は担体)を適用して比較結果を得てもよく、又は過去のデータ若しくは試験化合物の希釈レベルなどの適用によって得られたデータとの比較に基づいて損傷を判定することができる。
【0194】
試験化合物が免疫活性を有するかどうかを判定する方法は、細胞モデルのDAニューロンによる、免疫グロブリン生成、ケモカイン生成及びサイトカイン生成の試験を含み得る。
【0195】
本明細書で教示されるモデルを用いて試験され得る血液脳関門(例えば、ヒト血液脳関門)を通過する方法には、異なる傍細胞密着結合の透過性、細胞層を通る受動拡散、受容体媒介性トランスサイトーシス、及び/又は細胞流出阻害が含まれるが、これらに限定されない。
【0196】
いくつかの実施形態において、モデルは、薬剤の血液脳関門通過の薬力学的試験又は薬物動態試験のためなどの、モデルの少なくとも一部の細胞が対象からのものである、対象の個別化試験(例えば、有効性、毒性、又は他の代謝活性若しくは生理活性について)に使用され得る。例えば、対象の線維芽細胞は、誘導多能性幹細胞(例えば、誘導多能性神経幹細胞)に指向され得、その後、その細胞は、モデル用の1つ以上の細胞型、例えば、神経細胞、オリゴデンドロサイト、内皮細胞、星状細胞、又はミクログリアに指向され得る。
【0197】
「神経変性疾患又は障害」及び「神経障害」という用語は、末梢神経系又は中枢神経系が主に関与する疾患又は障害を包含する。本明細書に提供される化合物、組成物、及び方法は、神経性又は神経変性疾患及び障害の処置に使用され得る。本明細書で使用される場合、「神経変性疾患」、「神経変性障害」、「神経疾患」、及び「神経障害」という用語は、互換的に使用される。
【0198】
神経障害又は疾患の例には、糖尿病性末梢神経障害(第三神経麻痺、単神経障害、多発性単神経障害、糖尿病性筋萎縮症、自律神経障害及び胸腹部神経障害を含む)、アルツハイマー病、加齢に伴う記憶力低下、老衰、加齢に伴う認知症、ピック病、びまん性レビー小体病、進行性核上性麻痺(Steel-Richardson症候群)、多系統変性症(シャイ・ドレーガー症候群)、筋萎縮性側索硬化症(「ALS」)を含む運動ニューロン疾患、変性性運動失調、大脳皮質基底核変性症、グアムALS-パーキンソン病-認知症複合、亜急性硬化性全脳炎、ハンチントン病、パーキンソン病、多発性硬化症(「MS」)、シヌクレイノパチー、原発性進行性失語症、線条体黒質変性症、マシャド・ジョセフ病/脊髄小脳失調症3型及びオリーブ橋小脳変性症、ジル・ド・ラ・トゥレット病、球麻痺及び仮性球麻痺、脊髄及び球脊髄性筋萎縮症(ケネディ病)、原発性側索硬化症、家族性痙性対麻痺、ウェルニッケ・コルサコフ関連認知症(アルコール誘発性認知症)、ウェルドニッヒ・ホフマン病、クーゲルベルク・ヴェランダー病、テイ・サックス病、サンドホフ病、家族性痙性疾患、Wohifart-Kugelberg-Welander病、痙性不全対麻痺、進行性多巣性白質脳症、並びにプリオン病(クロイツフェルト・ヤコブ病、ゲルストマン・シュトラウスラー・シャインカー病、クールー病、致死的家族性不眠症を含む)などの、慢性神経疾患が含まれるが、これらに限定されない。本開示の方法にさらに含まれる他の症状には、加齢に伴う認知症及び他の認知症、並びに血管性認知症、びまん性白質疾患(ビンスワンガー病)、内分泌又は代謝起源の認知症、頭部外傷及びびまん性脳損傷による認知症、ボクサー認知症、及び前頭葉認知症を含む記憶喪失を伴う症状が含まれる。また、塞栓性閉塞及び血栓性閉塞を含む脳虚血又は脳梗塞、並びにあらゆる種類の頭蓋内出血(硬膜外、硬膜下、くも膜下、及び脳内を含むがこれらに限定されない)、及び頭蓋内及び椎体内の病変(挫傷、穿通、せん断、圧迫、及び裂傷を含むがこれらに限定されない)に起因する他の神経変性疾患も含まれる。したがって、この用語は、脳卒中、外傷性脳損傷、統合失調症、末梢神経損傷、低血糖、脊髄損傷、てんかん、並びに酸素欠乏症及び低酸素症を伴うものなどの、急性神経変性障害も包含する。
【0199】
A.医薬組成物
本明細書では、本細胞及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物及び製剤も提供される。
【0200】
したがって、本発明による対象に投与するための細胞組成物は、化合物を、薬学的に使用することができる調製物に加工することを容易にする賦形剤及び助剤を含む1つ以上の生理学的に許容される担体を使用して、任意の従来の方法で製剤化され得る。適切な製剤は、選択した投与経路によって異なる。
【0201】
本明細書に記載の医薬組成物及び製剤は、所望の純度を有する有効成分(細胞など)を凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で1つ以上の任意選択による薬学的に許容される担体(Remington’s Pharmaceutical Sciences 22nd edition,2012)と混合することによって調製することができる。薬学的に許容される担体は、一般に、使用される投与量及び濃度でレシピエントに対して無毒であり、リン酸、クエン酸、他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;保存剤(オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジンなどのアミノ酸;単糖、二糖及びグルコース、マンノース又はデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;ショ糖、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);及び/又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含むが、これらに限定されない。本明細書の例示的な薬学的に許容される担体には、可溶性中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えばrHuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International,Inc.)などのヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質などの間質性薬物分散剤がさらに含まれる。rHuPH20を含む、特定の例示的なsHASEGP及び使用方法は、米国特許出願公開第2005/0260186号明細書及び同第2006/0104968号明細書に記載されている。一態様において、sHASEGPは、コンドロイチナーゼなどの1つ以上の追加のグリコサミノグリカナーゼと組み合わされる。
【0202】
A.商業、治療及び研究目的での配布
いくつかの実施形態において、製造、流通又は使用中の任意の時間に存在する細胞を含む試薬システムが提供される。キットは、多くの場合に同じゲノムを共有する、未分化の多能性幹細胞又は他の分化された細胞型と組み合わせて、本開示に記載される細胞の任意の組み合わせを含み得る。各細胞型は、事業関係を共有する同じ主体又は異なる主体の制御下において、一緒に、又は同じ施設内の別々の容器に、又は異なる場所で同じ又は異なる時間にパッケージ化され得る。医薬組成物は、任意選択により、機構的毒性などの所望の目的のための書面による説明とともに適切な容器中にパッケージすることができる。
【0203】
いくつかの実施形態において、例えば、細胞を産生するための1つ以上の培地及び成分を含み得るキットが提供される。試薬システムは、必要に応じて、水性媒体中又は凍結乾燥形態のいずれかにパッケージ化することができる。キットの容器手段は、一般に、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ又は他の容器手段を含み、その中に成分を入れ、好ましくは適切に分割し得る。キットに複数の成分が含まれる場合、キットには、一般に、追加の成分が別個に配置され得る第2、第3又は他の追加の容器も含まれる。ただし、成分の様々な組み合わせをバイアルに含め得る。キットの成分は、乾燥粉末として提供され得る。試薬及び/又は成分が乾燥粉末として提供される場合、粉末は、適切な溶媒の添加によって再構成することができる。溶媒は、別の容器手段でも提供され得ることが想定される。本開示のキットは、典型的には、市販のためにキットの成分を密に閉じ込めて収容するための手段も含む。そのような容器は、所望のバイアルがその中に保持される、射出又はブロー成形されたプラスチック容器を含み得る。キットには、印刷形式又はデジタル形式などの電子形式などの使用説明書を含めることもできる。
【実施例
【0204】
IV.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれる。以下の実施例に開示される技術は、本発明の実施において良好に機能するために本発明者によって発見された技術を表し、したがってその実施のための好ましい様式を構成すると見なすことができることを当業者は理解すべきである。ただし、当業者は、本開示に照らして、開示される特定の実施形態に対する多くの変更形態がなされ得、それでも本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく同様又は類似の結果を得ることができることを理解すべきである。
【0205】
実施例1-iPSC由来のDAニューロンの生成及び特性評価
エピソームに再プログラムされたiPSC 01279を操作して、ヘテロ接合体(HZ)SNCA A53T変異株を作製した(図1A)。SNCA A53T HZ(SNCA A53T)iPSCを、ヌクレアーゼ媒介相同組換え及びドナーオリゴSJD 14-132(配列番号:1:GTTTTACAATTTCATAGGAATCTTGAATACTGGGCCACACTAATCACTAGATACTTTAAATATCATCTTTGGATATAAGCACAATGGAGCTTACCTGTgGtgACACCATGCACCACTCCCTCCTTGGTTTTGGAGCCTACAAAAACAAATTCAAGACATAAGTCTCAAGCTAGCCTTAAATTGCTGATTAGCTAGTTTTC)によってAHN iPSC01279から遺伝子操作した。得られたiPSCには、アミノ酸53がアラニンからスレオニンに変化したSNP rs104893877が含まれ、その結果、変異にA53T変異体が生じて、SNCA A53Tヘテロ接合体iPSC株(SNCA A53T)になり、疾患α-シヌクレイン遺伝子(SNCA)及び2つのサイレント変異がPDにもたらされた。この操作は、図1Bに概略的に示され、アミノ酸53のアラニンからスレオニンへの変化を黄色で強調表示して示している。
【0206】
次に、GBA N370S変異を有するPD患者からiPSCを得た。アスパラギン370のセリンへのアミノ酸変化は、図1Bに黄色で強調表示されている。iPSCは、概略的に示されているLRRK2 G2019S変異を有するPD患者に由来し、図1Cに黄色で強調表示されたグリシン2019のセリンへのアミノ酸変化を示している。各iPS細胞株由来のGバンド中期細胞の細胞遺伝学的解析を行って、正常な核型、SNCA A53T、GBA(N370S)、及びLRRK2(G2019S)を詳述した(図1D~1F)。G分染核型決定を行い、WiCell(Madison,WI)によって分析した。
【0207】
時系列のiPSCからドーパミン作動性ニューロンへの分化プロセス及びそのプロセス全体を通して利用したサイトカインの概略図を図2Aに示す。未分化iPS細胞をMATRIGEL(登録商標)コーティングプレート上でフィーダーフリーで培養し、E8培地(Thermo Fisher)を使用して維持した。ニューロンのパターニングを、E8培地を交換し、DMEM/F12基礎培地[N2(1X)、B27(-vitA)(1X)ニューロンサプリメント(Gibco)、LDN193189、SB431542、SHH、プルモルファミン、及びCHIR99021を含む]を添加することによってD0に開始させた。5日目に、細胞を分離し、凝集体としてスピナーフラスコで培養した。この細胞を、DMEM/F12基礎培地[N2(1X)、B27(-vitA)(1X)、ニューロンサプリメント(Gibco)、LDN193189、CHIR99021、及びFGF8を含む]で12日間培養した。この細胞を17日目に回収し、FOXA2及びLMX1を染色することによりフローサイトメトリーによって評価した。細胞を、神経細胞成熟培地(Neurobasal培地+神経系サプリメント及び神経サプリメントB(FCDI)及びDAPT(Tocris))で20日間さらに成熟させ、37日目に分離して凍結保存した。中脳転写因子FOXA2及びLMX1を発現する17日目のドーパミン作動性前駆細胞の代表的なフローサイトメトリーのドットプロットを図2Bに示す。図2Cは、チロシンからのドーパミン合成に必要な酵素であるチロシンヒドロキシラーゼ(TH)酵素及びFOXA2を発現するプロセス終了時のドーパミン作動性ニューロンの代表的なフローサイトメトリーのドットプロットを示す。
【0208】
【表1】
【0209】
免疫蛍光染色を、末期DAニューロンに対して行った(図3A~3B)。凍結保存DAニューロンを解凍し、96ウェルGreinerイメージングプレートに200K/cmでプレーティングした。細胞を、解凍後3日目及び14日目に、PBS中4%パラホルムアルデヒドで20分間固定した。この細胞を、フルオレセイン標識二次抗体を用いて室温で1時間染色し、Hoechstで20分間対比染色して洗浄した。サンプルを、ImageXpress(Molecular Devices)で画像化した(図3B)。フローサイトメトリー解析を、ドーパミン作動性ニューロンにおけるFOXA2及びTHタンパク質の定量化のために行った(図3C)。GBA、LRRK2、SNCA、及びAHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットをプレーティングし、3日目と14日目にAccutaseを用いて37℃で15分間回収した。細胞を、LIVE/DEAD(商標)固定可能赤色死細胞染色キット(ThermoFisher)で染色し、次いで、PBS中4%パラホルムアルデヒドで20分間固定した。この細胞を、FOXA2及びTH発現の存在のために染色し、細胞内フローサイトメトリーによって定量化した。
【0210】
GBA及びLRRK2患者iPSC由来のDAニューロンは、ドーパミンの合成及び分解に関与する酵素の異常なmRNA発現及びタンパク質発現を示した(図4A)。TH、DDC、MAOA、及びCOMT転写レベルを、ANH、操作された及びPD患者由来のDAニューロンにおいて定量化した。GBA、LRRK2、SNCA、及びAHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットをプレーティングし、解凍の14日後に回収し、ペレットを、RNA Seq解析のために提出した。(FPKM)値を用いた、DAニューロンの複数のロットにわたるTH、DDC、MAOA、及びCOMT転写産物の定量化を解析した(図4B)。TH及びDDCタンパク質レベルを、ANH、操作された及びPD患者由来のDAニューロンにおいて定量化した。GBA、LRRK2、SNCA、及びAHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットをプレーティングし、解凍の14日後に回収し、細胞溶解物を、TH(1:250、T2928 Sigma)、GBA(1:100、R&D MAB4710)、DDC(1:500、Novus Biologicals NB300-174)、MAPT(1:1000、MAB361 Millipore)を用いてプローブしたキャピラリーにロードし、製造元の指示に従ってProtein Simpleシステムを用いてTH及びGBAタンパク質の存在を検出した。TH及びDDCタンパク質を、各タンパク質の曲線下面積に基づいて定量化し、MAPT発現に対して正規化した。(P値<0.05、**P値<0.01、***P値<0.001)(図4C)。
【0211】
GBA及びLRRK2 PD患者iPSC由来のDAニューロンは、KClで刺激すると、より多くのドーパミンを放出した(図5A)。GBA、LRRK2、SNCA、及びAHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットを解凍して21日間培養し、製造元の指示に従って、細胞から放出されるドーパミンのレベルを競合ドーパミンELISAを用いて定量化した(Eagle Biosciences Cat.No.DOP31-K01)。3つの技術的反復を、生物学的サンプルごとに行った。検量線をGraphpad PRISMでグラフ化し、図5Aに示した。ドーパミンの定量化を、対数(アゴニスト)対反応-可変勾配(4つのパラメーター)モデルを使用した非線形回帰を使用して行った。DAニューロンのドーパミン放出を、HBSS緩衝液中での培養21日目にKCLで刺激した時にAHN DAニューロンによって放出されるドーパミンと比較した(図5B)(P値<0.05、**P値<0.01、***P値<0.001)。
【0212】
SNCAが操作されたiPSC及びPD患者iPSC由来のDAニューロンは、より高い細胞死及びミトコンドリアストレスを明らかにした(図6A)。GBA、LRRK2、SNCA、及びAHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットを解凍し、プレーティングした。DAニューロンの経時的な生存率及びミトコンドリア酸化ストレスを、38日間の培養での異なる時点での生細胞と死細胞を定量化するカルセインAM及びYOYO-3による生培養染色によって定量化した。1μMのYOYO-3ヨウ化物及びカルセインAMによる解凍の21日後の末期DAニューロンの代表的な染色を図6Aに示す。GBA、LRRK2、SNCA、及びAHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットを解凍し、96ウェル光学プレートに1ウェルあたり64,000細胞の密度でプレーティングした。細胞を1μMのYOYO-3ヨウ化物及び1μMのカルセインAM(Thermo Fisher)とともに室温で30分間インキュベートし、Incucyte S3で30分ごとに3時間イメージングした(図6B)。生細胞/死細胞の割合を、緑と赤のチャネルの陽性オブジェクトに基づいて計算した。細胞をPBSで洗浄し、CellTiter-Glo細胞生存率アッセイ緩衝液で溶解し、1分間振とうした後、10分間インキュベートした。発光シグナルを捕捉し、CLARIOstarプレートリーダー(Molecular Devices)を用いて定量化した。データは、96ウェルプレートの1ウェル(0.143cm)あたりの生細胞を示す。図6Cは、位相画像(中央の画像)及び生細胞についてCalcein AMで共染色したDAニューロン(右の画像)と重ね合わせた、MitoSOX色素で染色したDAニューロン(左の画像)の代表的な画像を示す。
【0213】
GBA、LRRK2、SNCA、及びAHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットを解凍し、プレーティングした。MitoSOX red(5μM)をニューロンに添加し、37℃で30分間インキュベートした。その後、MitoSOXを除去し、カルセインAM(Thermo Fisher, C1430)をニューロンに添加し、Incucyte S3で3時間、30分ごとにイメージングした。2μMのロテノン(ミトコンドリア毒素)を陽性対照として使用した。陽性対照のニューロンを、ロテノンで30分間、37℃で処理し、続いて完全なニューロン培地で洗浄した。AHNニューロンと比較した、疾患ニューロンにおけるMitoSOXシグナル強度(平均±SD)及びMitoSOX陽性細胞の割合の定量化を決定し、その結果をロテノンによって誘導されたミトコンドリアにおけるROSと比較した(図6D~6E)。
【0214】
SNCAが操作されたiPSC及びPD患者由来のDAニューロンは、著しく多いaSynタンパク質凝集を有していた(図7)。α-シヌクレインタンパク質凝集がDAニューロンで観察された。チオフラビン(Th-T)染色を行って、24時間のオリゴマーaSyn(4μM/ml)の添加後、22DIVに生DAニューロン培養上に凝集したaSynを明らかにした(図7A)。すべてのaSyn細胞をカウントし、異なる発現ビンにおける個々のニューロンのTh-Tシグナル強度に対してプロットした(図7B)。Th-T画像を、活性オリゴマーaSynで24時間、48時間、又は72時間処理した培養21日目に定量化した(n=4、ダネット多重比較検定による一元配置分散分析)(図7C)。α-シヌクレインタンパク質凝集アッセイ(Th-T染色)では、細胞を、Th-T染色のために96ウェルプレートに1ウェルあたり64Kの密度で播種した。21日目に、解凍後細胞を4ug/mlの組換えマウスα-シヌクレインタンパク質凝集体(Active)(Abcam,ab246002)で24時間、48時間、及び72時間処理し、次いでチオフラビンTで染色した。チオフラビンT(Th-T)(Abcam,ab120751)をHBSSに溶解した(Th-Tは37℃で8mg/ml(2mM)の濃度で完全に溶解した)。細胞を、培養培地でTh-T色素(最終濃度10μM)及びヨウ化YOYO-3(Thermofisher-Y3606 1uM)で染色した。細胞を30分間インキュベートし、温かいHBSSで洗浄し、Incucyteの20倍対物レンズでイメージングした。Th-Tのシグナルの強度は、IncuCyteソフトウェアを使用して、様々な条件で各ニューロンで定量化した。
【0215】
SNCAが操作されたiPSC及びPD患者iPSC由来のDAニューロンは、より大きなaSyn凝集を有していた(図8)。α-シヌクレインタンパク質凝集の定量化を、Meso Scale Diagnostics(MSD)U-PLEX ヒトα-シヌクレインキット(MSD-K15)を使用して行った。GBA、LRRK2、SNCA、及びAHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットを解凍し、培養中に21日間(図8B)又は42日間(図8C)プレーティングした。細胞を、Haltプロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤カクテル(Thermo Fisher Scientific)を添加したRIPA溶解緩衝液(Cell Signaling)に溶解し、タンパク質含有量を、Pierce BCAタンパク質アッセイ(Thermo Fisher Scientific)を用いて測定した。ヒトα-シヌクレインの定量化を、MSDのMSD-K15キットを用いて行った。GBA、LRRK2、SNCA、及びAHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットを解凍し、最大42日間培養した。分析物濃度を、検量線にバックフィッティングすることによってECLシグナルから決定した(図8A)。検量線を確立して濃度を決定するための計算は、MSD DISCOVERY WORKBENCH(登録商標)解析ソフトウェアを使用して行った。AHNのα-シヌクレインタンパク質濃度が34ng/ml±0.16であるのに対して、SNCA=66.5ng/ml±2.44、GBA=89.5ng/ml±4.45、及びLRRK2=53ng/ml±0.68(平均±SD)であった。α-シヌクレインタンパク質濃度がAHN細胞の20%を超えると常に、病態と見なすことができる。
【0216】
SNCAが操作されたiPSC及びPD患者iPSC由来のDAニューロンは、GCase活性が低いことが観察された。GBA、LRRK2、SNCA、AHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットを解凍し、14日間プレーティングし、サンプルを回収し、RNASeq解析及びウェスタンブロット解析のために提出した。GBA転写産物のFPKM値を定量化した(図9A)。2.5μgのタンパク質を含むすべてのサンプルからの総細胞溶解物を、Protein Simple装置を使用してゲルキャピラリーにロードし、66kd GBAタンパク質の検出を確認した。溶解物中のGBAタンパク質の量を、各タンパク質の曲線下面積に基づいて定量化し、MAPT発現に対して正規化した(図9B)。基質としての異なる濃度の4-メチルウンベリフェリル-β-D-グルコピラノシド(4-MU)(図9C)及びGCase特異的阻害剤コンズリトールBエポキシド(CBE)(図9D)を試験した。10mMの4-MUと2mMのCBEが最適な濃度であることが判明し、以下のGCase活性アッセイに使用した。異なる濃度のタンパク質溶解物も、AHN DAニューロン由来のGCase活性について試験した(図9E)。5μgのタンパク質溶解物を使用して、異なるDAニューロン間のGCase活性を比較した(図9F)。(n=4、p<0.001 平均比較のためのダネット検定による一元配置分散分析)。(P値<0.05、**P値<0.01、***P値<0.001)。
【0217】
GCase活性アッセイでは、GBA、LRRK2、SNCA、及びAHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットを解凍し、14日間プレーティングした。細胞を回収し、溶解し、20,000×gで、4℃で20分間遠心分離した。総タンパク質濃度を、Pierce BCAタンパク質アッセイ(Thermo Fisher Scientific)を用いて測定した。溶解物あたり5μgのタンパク質を使用して、10mMの4-メチルウンベリフェリルβ-グルコピラノシド(glucophyranoside)(4-MU,Sigma-Aldrich,#M3633)(図9C)を含み、2mMのコンズリトール-b-エポキシド(CBE)(図9D)を含む又は含まない1%BSAの存在下でのGCase活性を決定した。組換えヒトグルコシルセラミダーゼ/GBA(rhGBA)(R&D,7410-GHB-020)を陽性対照として使用した。サンプルを37℃で40分間インキュベートし、等量の1Mグリシン(pH12.5)を添加して反応を停止させた。100μlの反応液を、白色の96ウェルプレート(Nunc,#136101)にロードし、蛍光(ex=355nm、em=460、0.1s)シグナルを、CLARIOstarプレートリーダー(Molecular Devices)で測定した。CBE処理されていない溶解物の相対蛍光単位(RFU)を、対応するCBE処理溶解物からシグナルを差し引くことによって計算した。AHN細胞は、変異体と比較してGCase活性が高かった(平均±SD、AHN=31117±639、GBA=13622±385、LRRK2=20619±179、及びSNCA=173429±29300)。
【0218】
SNCAが操作されたiPSC及びPD患者iPSC由来のDAニューロンは、ニューラルネットワーク活動の進化における違いを明らかにした(図10)。GBA、LRRK2、SNCA、及びAHN iPSC由来の凍結保存DAニューロンの複数のロットを解凍し、完全BrainPhys培地の48ウェルClassic多電極アレイ(MEA)プレート(1ウェルあたり120K細胞の細胞密度でロットあたり8ウェル)にプレーティングした。ニューロンの活動を、Axion Maestro MEAを使用して定量化した。数日ごとにMEAを記録して、培養中に同期的にバーストするニューロンネットワークの発達を経時的にモニタリングした。.RAWデータファイルを.spkファイルに変換し、その後、AxionのNeural Metric Toolソフトウェアを使用して解析した。バースト検出は「エンベロープ法」を用いて行った。自然の活動電位(黒い目盛りは「スパイク」)、バースト挙動(青色の目盛り)を観察した。同期ネットワークバーストも検出された(ヒストグラムのピークと、すべての電極のバーストの下のまとまったスパイクの周りの対応するピンク/マゼンタのボックスを参照されたい)。その結果、35日目のラスタープロット(図10A)におけるAHN細胞と比較して、GBA、LRRK2、及びSNCAニューロンにおける活性及びネットワーク強度が低いことが、経時的なバースト率、ネットワークバースト頻度、及び同期指数の定量化で明らかになった(図10B)。
【0219】
RNA-Seq解析では、iCell Dopa Neuron User’s Guideに従って、ドーパミン作動性ニューロンを解凍し、維持した。簡単に述べると、2.0E+6細胞をPLO/ラミニンコーティング6ウェル組織培養プレートにプレーティングし、解凍後15日以上培養する。細胞を、400マイクロリットルのQiagen RLT+溶解緩衝液を使用してウェル内で直接溶解した。それぞれ約200万個の細胞の重複サンプル/ロットを溶解し、RNA抽出が行われるまで-80℃で保存した。QiaSymphonyを使用してRNAを抽出した。サンプルの許容純度を確保するために、RNA濃度が20ng/μLを超えるようにし、吸光度の比(OD 260/280)を2.0より大きくする必要がある。
【0220】
cDNAライブラリーの調製をNovogeneで行い、サンプルに尾部を付け、修飾オリゴでライゲーションし、サイズを選択し、増幅した。次いで、(1)ライブラリーのサイズ分類と品質評価のためのAgilent BioAnalyzer、及び(2)ライブラリーの濃度とIlluminaアンカー配列の存在を測定するためのqPCRを使用して、配列決定の前にすべてのライブラリーを検査した。次いで、RNA配列決定を、Illumina NovaSeq 6000プラットフォームでリード長150塩基対を用いるペアエンド技術を使用して行った。次いで、サンプルあたり2,000万以上のリードペアからなる「fastq」ファイルと呼ばれる出力データファイルを、ハードドライブ上のFCDIに送った。これらの生データファイルを、Linuxクラスタにコピーし、ファイルの整合性を確認した後にアーカイブに保管した。サンプルスワップの可能性を確認するためのコンピュータ内サンプルQCを、bowtie2と呼ばれるアライメントプログラムを使用して、ヒトDNA及びmRNA、マウス、phiX、ウイルス、真菌、及び細菌の配列から構成された社内の配列データベースにリードをアライメントすることによって行った。サンプルは、ヒト配列の75%超を含む場合は合格と見なした。配列決定リードの品質レポートを、FASTQCプログラムを使用して作成した。次いで、すべての高品質のリードを、スプライス対応アライメントプログラム(splice-aware alignment program)HISAT2を用いてHG38トランスクリプトームにアライメントした。次いで、アライメントファイル(bamファイルと呼ばれる)を使用して、Rsubread::FeatureCountsプログラムを用いてリードカウントマトリックスを作成し、このRsubread::FeatureCountsプログラムをさらに使用して、DESeq2プログラムを用いて目的のサンプル間の差次的発現解析を行うことができた。正規化されたリードカウントを、log10(FPKM+0.0001)値に変換し、単純な散布図をTIBCO Spotfireソフトウェアで可視化することができた。
【0221】
変異DAニューロンの転写産物を、AHN DAニューロンに対してプロットすると、遺伝子発現レベルにおいて高い相関を示し、有意に異なる転写産物を強調表示した(図11A)。AHNサンプルと比較した変異体サンプルの差次的遺伝子発現差解析を行い、有意に変化した転写産物の数をベン図にまとめた(図11B)。DAVIDデータベースにおけるAHN DAニューロンと比較した変異DAニューロンにおいて差次的に調節された転写産物の遺伝子セットの濃縮及び経路解析を図11Cに示す。
【0222】
化合物スクリーニングでは、GCase活性の改善にプラスの効果があることが以前に示された12の化合物を選択した。DAニューロンを、96ウェルプレートにおいて高密度(200,000/ウェル)で培養した。Gcase活性を、GBA、LRRK2、及びAHN iPSC由来のDAニューロンから、化合物処理後に測定した。18日目に、解凍後の細胞に、異なる化合物を3つの濃度(表2の化合物の1倍、10倍、100倍)で投与した。プレーティングの21日後(投与の3日後)に、細胞を、100μlのアッセイ緩衝液を使用して溶解し、Gcase活性を、5μgのタンパク質溶解物を使用して測定した。正味のGcase活性を、陰性対照として0.1%DMSO処理細胞と比較してグラフ化した。溶解物中の総タンパク質を、Pierce BCA Protein Assay Kit(ThermoFisher)を用いて定量化した。
【0223】
GCase活性は、疾患ニューロンの化合物スクリーニングの読み出しとして使用することができ、この化合物スクリーニングでは、AHNが対照として機能し、GCase活性を救うことができる化合物が陽性ヒットと見なされることになる。AHNを対照とするGBA及びLRRK2 DAニューロンにおけるGcase活性に対する3つ濃度での12の化合物の効果を図12Aに示す。組み合わせスクリーニングでは、改善されたGCase活性を示す最初のスクリーニングから4つの分子をピックアップし、GBA細胞を用いて試験するために異なる方法で組み合わせた(図12B)。単一化合物を、急性曝露(3日間)と慢性曝露(2週間)の両方について試験した。組み合わせスクリーニングは、10μMのアンブロキソールによる慢性処理がGBA細胞で最も高いGCase活性を示した(平均±SD、ABX=133659±10542と比較してDMSO=90302±3986、GCase活性の48%の増加)。これを、AHNと比較してLRRK2、SNCA、及びGBAにおいてさらに試験した(図12C)。解凍の21日後に、10μMのアンブロキソールでの2週間の処理により、すべての変異ニューロンでGcase活性が有意に増加した。(平均で、AHNは165052から171669、GBAは108417から121225(12%増加)、LRRK2は152793から180112(18%増加)、SNCAは165107から189082(14%増加))(点線は、DMSOビヒクル対照のGcaseレベルを示す、***P値<0.001)。
【0224】
【表2】
【0225】
カルシウムイメージング実験では、DAニューロンをスフェロイド(50,000/ウェル)として384 U底ULAプレート(S-bioプレート)で培養し、Brainphys完全培地(Brainphys基礎培地+神経サプリメントA+NSS)を供給した。プレーティングの7日後に、いくつかのウェルを10μMのアンブロキソールで処理した。プレーティングの14日後(処理の7日後)に、細胞を、1X EarlyTOX心毒性キットにロードし、37℃で2時間インキュベートした後、FDSS/μCELL装置を使用してCa2+振動を20分間捕捉した。波形ソフトウェアをCa振動の定量化に使用し、GraphPad Prismを使用してデータを解析した。
【0226】
プレーティングの14日後のDAニューロンのカルシウム振動痕跡をFDSS/μCELL装置を用いて20分間捕捉した。10μMのアンブロキソールで1週間処理した後のAHN及び3つすべての変異におけるCa振動のベースライン測定値を図13Aに示す。未処理のAHN DAニューロンと比較して、アンブロキソールによる処理は、AHN、LRRK2、及びSNCA DAニューロンに過興奮性を引き起こしたが、GBA変異DAニューロンのピーク数とピークレートを救った。(図13B)ピーク数、(図13C)毎分ピークレート、及び(図13D)曲線下面積/ピーク(平均)を含むカルシウム過渡特性を、Waveformソフトウェアを用いて各細胞株のすべてのウェル(反復)について定量化した。ピーク数は、突然変異(疾患ニューロン)間で異なり、AHNと比較する(平均±SD、AHN=21.55±3、GBA=13.43±1、LRRK2=28.83±3.65、及びSNCA=24.5±5.3)。アンブロキソール処理は、AHN(平均±SD、AHN=33.75±7.14、GBA=21.8±1.8、LRRK2=35.3±3.9、及びSNCA=33.8±1.5)を含むすべてのニューロンのピーク数を増加させた。また、1分間あたりのピーク数であるピークレートも細胞株間で差を示し(平均±SD、AHN=1.12±0.16、GBA=0.72±0.06、LRRK2=1.52±0.16、及びSNCA=1.26±0.3)、アンブロキソールで処理した場合も増加した(平均±SD、AHN=1.74±0.32、GBA=1.13±0.1、LRRK2=1.89±0.18、及びSNCA=1.61±0.12)。カルシウムチャネルが開いている時間及び/又は細胞質カルシウムの直接的な測定値である曲線下の面積も、AHNと比較して変異ニューロンで異なり(平均±SD、AHN=34.6E04±13.5E04、GBA=57.3E04±13.4E04、LRRK2=27.4E04±10.3E04、及びSNCA=41.3E04±17.6E04)、及びアンブロキソール処理は、細胞質カルシウムGBA及びSNCAを減少させたが、LRRK2変異DAニューロンでは減少しなかった(平均±SD、AHN=25.7E04±13.0E04、GBA=38E04±78E03、LRRK2=26.1E04±49.5E03、及びSNCA=37.4E04±41.7E03)。正常で健康な細胞の1分あたりのピーク数であるピークレートは、プレーティングの14日後に0.96<AHN<1.3であり、30%の変化を異常なピークレートと見なす。健康なニューロンの平均曲線下面積は、21.1E04<AHN<48.2E04であり、曲線下面積の変化が40%超は異常なピークと見なす。ピークレートと曲線下面積(ピーク)は、AHNが対照として機能し、これら2つのパラメータを救う可能性のある化合物が化合物スクリーニングの陽性ヒットと見なすことができる場合、疾患ニューロンによる化合物スクリーニングの読み出しとして使用することができる。
【0227】
本明細書で開示及び特許請求される全ての方法は、本開示に照らして過度の実験なしに作製及び実行することができる。本発明の組成物及び方法は、好ましい実施形態に関して説明されてきたが、本発明の概念、趣旨及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の方法及び方法のステップ又は一連のステップに変更を適用し得ることは、当業者に明らかであろう。より具体的には、化学的及び生理学的に関連する特定の薬剤を、本明細書に記載の薬剤の代わりに使用し得、そこで同じ又は同様の結果が得られることが明らかであろう。当業者に明らかなそのような類似の代替形態及び改変形態の全ては、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨、範囲及び概念内にあると見なされる。
参考文献
以下の参考文献は、それらが本明細書に記載されたものを補足する例示的な手順又は他の詳細を提供する範囲で参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
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