(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】電荷検出質量分析のための自動イオン集団制御
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20241106BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20241106BHJP
H01J 49/26 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G01N27/62 E
H01J49/00 360
H01J49/00 310
H01J49/26
G01N27/62 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525230
(86)(22)【出願日】2022-10-28
(85)【翻訳文提出日】2024-06-24
(86)【国際出願番号】 US2022048203
(87)【国際公開番号】W WO2023076583
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】500041019
【氏名又は名称】ノースウェスタン ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】503363806
【氏名又は名称】サーモ フィニガン エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Thermo Finnigan LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100229448
【氏名又は名称】中槇 利明
(72)【発明者】
【氏名】センコ,マイケル ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】マクジー,ジョン ピー.
(72)【発明者】
【氏名】カファダー,ジャレッド オットー
(72)【発明者】
【氏名】ケレハー ニール エル.
(72)【発明者】
【氏名】コンプトン,フィリップ ディー.
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041AA06
2G041AA08
2G041CA01
2G041FA12
2G041GA05
2G041GA06
2G041GA08
2G041GA13
2G041LA20
(57)【要約】
質量分析のための自動イオン制御を実施する方法は、電荷検出質量分析によって、取得イベント中に質量分析器によって分析されるイオンの集団の質量電荷比(m/z)の関数として強度を表す複数のピークを含む、質量スペクトルを取得することを含む。質量スペクトルに基づいて、質量スペクトルの選択されたm/z範囲の測定された信号密度が決定される。後続の取得イベントのためのイオン集団制御パラメータは、測定された信号密度、及び、目標信号密度に基づいて設定される。イオン集団制御パラメータは、後続の取得イベント中に質量分析器によって分析される、イオンの集団を調整する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動イオン制御を実施する方法であって、
電荷検出質量分析によって、取得イベント中に質量分析器によって分析されるイオンの集団の質量電荷比(m/z)の関数として強度を表す複数のピークを含む、質量スペクトルを取得することと、
前記質量スペクトルに基づいて、前記質量スペクトルの選択されたm/z範囲の測定された信号密度を決定することと、
前記測定された信号密度、及び、目標信号密度に基づいて、後続の取得イベントのためのイオン集団制御パラメータを設定することであり、
前記イオン集団制御パラメータは、前記後続の取得イベント中に前記質量分析器によって分析される、イオンの集団を調整する、
設定することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記イオンの集団は、前記取得イベント中に前記質量分析器によって分析される前に、蓄積時間にわたってイオンストア内に蓄積され、
前記イオン集団制御パラメータは、前記後続の取得イベント中に前記質量分析器によって分析される前に、前記イオンが前記イオンストア内に蓄積される前記蓄積時間を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオン集団制御パラメータは、前記質量分析器に注入されるイオン束を調整するイオン光学系に印加される電位を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記測定された信号密度を決定することは、
前記質量スペクトルの前記選択されたm/z範囲に含まれる隣接ピークの各セットについてのピーク間隔値を計算することと、
前記計算されたピーク間隔値のセットに基づいて、前記選択されたm/z範囲についてのグローバルピーク間隔値を決定することと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記計算されたピーク間隔値の前記セットは、最小の計算されたピーク間隔値、又は、閾値ピーク間隔値未満である前記ピーク間隔値のパーセンテージを含む、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記後続の取得イベントのための前記イオン集団制御パラメータを設定することは、
前記測定された信号密度、及び、前記目標信号密度に基づいて、前記後続の取得のための前記イオン集団制御パラメータにおける変化量を決定することと、
前記イオン集団制御パラメータにおける前記決定された変化量に、フィルタ又は変化限界を適用することと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、更に、
前記取得イベントの前に、前記イオン集団制御パラメータを設定するユーザ入力を受信することと、
前記取得イベントの前に、前記ユーザ入力に基づいて、前記取得イベントのための前記イオン集団制御パラメータを設定することと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記質量分析器は、軌道静電トラップ質量分析器、静電線形イオントラップ(ELIT)質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR)質量分析器、電気セクタ質量分析器、軌道周波数分析器、又は、飛行時間型質量分析器を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記測定された信号密度を決定することは、
前記質量スペクトルの選択されたm/z範囲内の占有されたm/z空間を決定することと、
前記占有されたm/z空間内の信号の合計された強度を決定することと、
前記合計された強度及び前記占有されたm/z空間に基づいて、前記測定された信号密度を決定することと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記占有されたm/z空間を決定することは、
前記選択されたm/z範囲を、各々がビン幅を有する複数のビンに細分することと、
前記選択されたm/z範囲において、汚染物質に対応するピークを識別することと、
前記占有されたm/z空間から、汚染物質に対応する前記ピークを含むビンを除外することと、
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
汚染物質に対応する前記ピークを識別することは、
前記質量スペクトルの前記複数のピークに含まれる前記ピークに電荷状態を割り当てることと、
閾値電荷状態レベル以下の電荷状態を割り当てられたピークを汚染物質として識別することと、
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記占有されたm/z空間を決定することは、更に、
前記質量スペクトルにおいて、前記選択されたm/z範囲に含まれる前記ピークの中の最大強度レベルを有するピークのセットを識別することと、
前記占有されたm/z空間から、前記最大強度レベルを有する前記ピークを含むビンを除外することと、
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記占有されたm/z空間内の信号の前記合計された強度を決定することは、
前記選択されたm/z範囲を複数のビンに細分することであって、各ビンが強度値を有する、細分することと、
前記占有されたm/z空間に含まれる各ビンの前記強度値を信号重みで重み付けすることと、
前記占有されたm/z空間に含まれる前記ビンの前記重み付けされた強度値を合計することと、
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
第1閾値未満の強度値を有するビンに対する前記信号重みは、0(ゼロ)であり、
前記第1閾値以上であるが第2閾値未満である強度値を有するビンに対する前記信号重みは、ゼロより大きく、かつ、1未満であり、
前記第2閾値以上の強度値を有するビンに対する前記信号重みは、1である、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1閾値以上であるが前記第2閾値未満である強度値を有する前記ビンに対する前記信号重みは、前記第1閾値及び前記第2閾値に対する前記ビンの前記強度値に基づく、
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
質量分析を実施するための装置であって、
蓄積時間にわたって、試料から生成されたイオンを蓄積するイオンストアと、
取得イベント中に、電荷検出質量分析によって、質量スペクトルを取得する質量分析器であり、
前記質量スペクトルは、前記蓄積されたイオンが前記質量分析器に移動された後に、前記蓄積されたイオンに由来する検出されたイオンの質量電荷比(m/z)の関数として強度を表す複数のピークを含む、
質量分析器と、
コンピューティングデバイスであり、
前記質量スペクトルに基づいて、前記質量スペクトルの選択されたm/z範囲の測定された信号密度を決定することと、
前記測定された信号密度、及び目標信号密度に基づいて、後続の取得イベントのための前記蓄積時間を設定することと、
を行うように構成されている、コンピューティングデバイスと、
を備える、装置。
【請求項17】
前記測定された信号密度を決定することは、
前記選択されたm/z範囲に含まれる隣接ピークの各セットについてのピーク間隔値を計算することと、
前記計算されたピーク間隔値のセットに基づいて、前記選択されたm/z範囲についてのグローバルピーク間隔値を決定することと、
を含む、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記計算されたピーク間隔値のセットは、最小の計算されたピーク間隔値、又は、閾値ピーク間隔値未満である前記ピーク間隔値のパーセンテージを含む、
請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記後続の取得イベントのための前記蓄積時間を設定することは、
前記測定された信号密度、及び、前記目標信号密度に基づいて、前記後続の取得のための前記蓄積時間における変化量を決定することと、
前記蓄積時間における前記決定された変化量に、フィルタ又は変化限界を適用することと、
を含む、請求項16に記載の装置。
【請求項20】
前記コンピューティングデバイスは、更に、
前記取得イベントの前に、前記蓄積時間を指定するユーザ入力を受信することと、
前記取得イベントの前に、前記ユーザ入力に基づいて、前記取得イベントのための前記蓄積時間を設定することと、
を行うように構成されている、請求項16に記載の装置。
【請求項21】
前記質量分析器は、軌道静電トラップ質量分析器、静電線形イオントラップ(ELIT)質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR)、電気セクタ質量分析器、軌道周波数分析器、質量分析器、又は、飛行時間型質量分析器を含む、
請求項16に記載の装置。
【請求項22】
前記測定された信号密度を決定することは、
前記質量スペクトルの選択されたm/z範囲内の占有されたm/z空間を決定することと、
前記占有されたm/z空間内の信号の合計された強度を決定することと、
前記合計された強度及び前記占有されたm/z空間に基づいて、前記測定された信号密度を決定することと、
を含む、請求項16に記載の装置。
【請求項23】
質量分析を実施する方法であって、
蓄積時間にわたってイオンストア内に、試料から生成されたイオンを蓄積することと、
前記蓄積されたイオンを質量分析器に移動することと、
電荷検出質量分析による前記質量分析器によって、取得イベント中に、前記移動されたイオンの質量スペクトルを取得することであり、
前記質量スペクトルは、前記移動されたイオンの質量電荷比(m/z)の関数として強度を表す複数のピークを含む、
取得することと、
前記質量スペクトルに基づいて、前記質量スペクトルの選択された範囲の測定された信号密度を決定することと、
後続の取得イベントのために、前記測定された信号密度、及び、目標m/z密度に基づいて、前記蓄積時間を設定することと、
を含む、方法。
【請求項24】
前記測定された信号密度を決定することは、
前記質量スペクトルの前記選択されたm/z範囲に含まれる隣接ピークの各セットについてのピーク間隔値を計算することと、
前記計算されたピーク間隔値のセットに基づいて、前記選択されたm/z範囲についてのグローバルピーク間隔値を決定することと、
を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記後続の取得イベントのための前記蓄積時間を設定することは、
前記測定された信号密度、及び、目標信号密度に基づいて、前記後続の取得のための前記蓄積時間における変化量を決定することと、
前記蓄積時間における前記決定された変化量に、フィルタ又は変化限界を適用することと、
を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記測定された信号密度を決定することは、
前記質量スペクトルの選択されたm/z範囲内の占有されたm/z空間を決定することと、
前記占有されたm/z空間内の信号の合計された強度を決定することと、
前記合計された強度及び前記占有されたm/z空間に基づいて、前記測定された信号密度を決定することと、
を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記質量分析器は、軌道静電トラップ質量分析器、静電線形イオントラップ(ELIT)質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR)質量分析器、電気セクタ質量分析器、軌道周波数分析器、又は、飛行時間型質量分析器を含む、
請求項25に記載の方法。
【請求項28】
個々のイオン質量分析を実施する方法であって、
蓄積時間にわたってイオンストア内に、試料から生成されたイオンを蓄積することと、
軌道静電トラップ質量分析器によって、前記蓄積されたイオンのm/zの関数として強度を表す質量スペクトルを取得することと、
前記質量スペクトルに基づいて、前記質量スペクトルの選択されたm/z範囲の測定された信号密度を決定することと、
前記測定された信号密度、及び、目標信号密度に基づいて、後続の取得イベントのための前記蓄積時間を設定することと、
前記質量スペクトルによって表されるイオンの電荷状態を決定することと、
前記イオンの前記電荷状態、及び、前記イオンの前記m/zに基づいて、質量の関数として前記個々のイオンの強度を表す質量領域スペクトルを生成することと、
を含む、方法。
【請求項29】
前記方法は、更に、
前記選択されたm/z範囲を指定するユーザ入力を受信すること、
を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記選択されたm/z範囲の前記測定された信号密度を決定することは、
前記選択されたm/z範囲に含まれる隣接ピークの各セットについてのピーク間隔値を計算することと、
前記計算されたピーク間隔値のセットに基づいて、前記選択されたm/z範囲についてのグローバルピーク間隔値を決定することと、
を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記計算されたピーク間隔値の前記セットは、最小ピーク間隔値のセットを含む、
請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記後続の取得イベントのための前記蓄積時間を設定することは、
前記測定された信号密度、及び前記目標信号密度に基づいて、前記後続の取得のための前記蓄積時間における変化量を決定することと、
前記蓄積時間における前記変化量に、フィルタ又は変化限界を適用することと、
を含む、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2021年10月29日に出願された米国仮特許出願第63/263,309号、及び、2022年6月3日に出願された米国仮特許出願第63/365,797号に対する優先権を主張するものであり、それらは、本明細書によって、それらの全体が参照により組み込まれている。
【背景技術】
【0002】
質量分析の初期の時代において、全てのイオン源は、もっぱら、一価イオンを生成していた。質量分析計は、イオンの質量電荷比(m/z)を測定するが、電荷(z)は常に1に等しいため、質量の決定は、単純であった。質量分析が、多価イオンを生成するイオン源(例えば、エレクトロスプレーイオン化源)と組み合わされたとき、質量の決定は、より困難になった。イオンにおける電荷が曖昧である場合、計算された質量も曖昧である。この問題に対する元の解決策は、同じ質量の隣接する電荷状態ピーク間のm/z間隔を使用することであった。高分解能質量分析器の開発に伴って、隣接する同位体ピーク間のm/z間隔を測定することによって電荷を決定することがより一般的になり、その理由は、これらが1ルトン離れていることが知られているからである。電荷を決定するこれらの方法は、両方とも、明確な電荷状態も同位体分布も容易には見分けることができない非常に複雑なスペクトルを課題とする。
【0003】
電荷の曖昧さを解決するための1つの解決策は、電荷検出質量分析(Charge Detection Mass Spectrometry、CDMS)の使用である。CDMSのいくつかの実施態様では、各イオンのm/z、及び、電荷zの両方を同時に感知することが可能な検出器を用いて、イオンが、一度に1つずつ分析される。これは、従来から、静電線形イオントラップ(Electrostatic Linear Ion Trap、ELIT)を用いて実施されており、そこでは、画像電流検出器が、一対のイオンミラーの間に配置され、イオンが検出器を何度も通過することを可能にし、感度及び電荷割り当て精度を向上させる。m/z解像度が概して不十分であり、イオン対イオン相互作用が軌道を乱してイオン寿命を制限する可能性があるため、ELITは、単一イオンのみで、最も良好に動作する。
【0004】
1回の通過で検出可能な信号を生成するのに十分な電荷を有するイオンに対して、ELITは、トリガーモードで動作することができ、そこでは、イオン源とELITとの間の光ゲートが開放されて、イオンが入ることを可能にし、このゲートは、最初のイオンが検出器を通過するとすぐに閉鎖される。しかしながら、ほとんどのイオンは、1回の通過で検出されるのに十分な電荷を担持していない。これらの場合、ゲートの開放時間は、最も一般的に、1つのイオンがトラップされる平均時間に設定されるべきである。これは、イオン到達時間がランダムに分布しているため、ゼロ又は2つのイオンを観察する確率が1つのイオンを観察する確率とちょうど同じ高さの確率であるという点で、多少非効率的である。したがって、平均して、単一のイオンが、スペクトルの50%未満で検出される。
【0005】
近年、軌道静電トラップ質量分析器(Orbitrap質量分析器の形態で、Thermo Fisher Scientific社、Waltham,MA、によって製造及び販売されている)が、CDMSのために使用されている。Orbitrap分析器の性質に起因して、高分解能及び高空間電荷耐性の両方を用いて、数百の個々のイオンが同時に検出され得る。この多重化は、複雑な分析物混合物に対してさえ、統計的に有意なデータを取得することができる速度を著しく増加させる。Orbitrap分析器を使用するCDMSの特定の実施態様は、個別イオン質量分析(I2MS又はI2MS)と呼ばれ、イオン集団の軸方向振動によって生成される過度信号を処理して、共鳴イオン選択的時間概観(Selective Temporal Overview of Resonant Ions、STORI)プロットのセットを生成することに関与する。各STORIプロットの傾きは、分析されるイオン集団における異なるイオン種の電荷に比例し、イオンの電荷は、傾き対電荷較正関数によって決定することができる。各イオン種の決定された電荷z、及び、m/zを使用して、質量(m)の関数として検出された信号をプロットする真の質量スペクトルを生成することができる。
【0006】
Orbitrap分析器を用いてイオン測定を多重化する能力を用いると、各スペクトルにおいて過剰に多いイオンを観察することが可能である。I2MS法が実践されるOrbitrap質量分析計では、イオン源によって生成されたイオンは、Orbitrap分析器における質量分析の前に、イオン光学系を介して、イオントラップ(代替的に、イオンストアと呼ばれる)に移動される。イオンがイオントラップ内に蓄積される持続時間(多くの場合、イオン注入時間、蓄積時間、イオン蓄積時間、又は、イオン充填時間と呼ばれる)は、Orbitrap質量分析器によって測定されるイオンの数を決定する。I2MSでは、スペクトル内の検出された各信号は、m/z領域に沿って、そのスペクトル内の他のあらゆる信号から分解される。複数の信号がm/zにおいて重複する場合、その信号に寄与する複数の個々のイオンが存在するか、又は、その個々のイオンの合計された電荷のうちの1つのイオンが存在するかを決定することは困難になる。例えば、同じm/zの2つ以上のイオンが同時に検出される場合、そのm/zにおける全てのイオンの正味の電荷のみが既知であり、かつ、各イオン上の電荷、又は、イオンの実際の数さえも既知ではないため、電荷状態は、曖昧になる。それほど深刻ではない事例では、分解されているが、隣接するm/zのイオンは、それらの信号が、互いに建設的、かつ、破壊的に互いに干渉する。これは、信号強度の決定に影響を及ぼし得るため、電荷決定の精度を低下させ得る。
【0007】
m/z領域における各信号間の重複を最小限にするため、各スペクトルにおいて測定されるイオン集団を制御して、個々のイオン分解能を達成することができる。しかしながら、制限されたイオン集団の使用は、代表的なサンプリングのためのスペクトルの数を増加させ、それによって、試料に対してI2MSを実施するための時間が長くなる。したがって、理想的な条件下では、非常に多くのイオンが、各スペクトルにおいて観測されることになる。その結果、全データセットの取得は、可能な限り最短時間で完了することができるが、任意の1つのスペクトルにおけるイオンの数は、隣接信号又は重複信号間の干渉を引き起こすほど多くはない。
【0008】
自動利得制御(Automatic Gain Control、AGC)は、トラップイオン質量分析計におけるスペクトルダイナミックレンジと空間電荷効果との間のバランスを取るために使用されている技法である。しかしながら、AGCは、取得されたスペクトル内の総信号(例えば、総イオン電流(total ion current、TIC))を測定して、後続の蓄積時間を調整し、目標総信号に到達させるため、AGCは、CDMSにとって理想的とは言えない。CDMS、特に、I2MSにおいて、総信号は、全てのイオンの電荷状態の合計に比例する。分析物イオンの電荷状態が実験前に未知である場合、適切な目標信号を選択することは不可能である。したがって、質量分析技術において、個々のイオンレジームにおけるCDMS、及び、I2MSデータ取得とともに使用するのに好適である自動化イオン蓄積時間選択技法に対する明確な必要性が残っている。
【発明の概要】
【0009】
以下の説明は、本明細書で説明される方法及びシステムの1つ以上の態様の基本的な理解を提供するために、かかる態様の簡略化された概要を提示する。本概要は、全ての企図された態様の広範な概観ではなく、全ての態様の主要又は重要な要素を特定することも、任意又は全ての態様の範囲を明確に記述することも意図されていない。その唯一の目的は、以下で提示される、より詳細な説明に対する前置きとして、簡略化された形態で、本明細書に記載される方法及びシステムの1つ以上の態様のいくつかの概念を提示することである。
【0010】
いくつかの例示的な実施形態では、質量分析のための自動イオン制御を実施する方法は、電荷検出質量分析によって、取得イベント中に質量分析器によって分析されるイオンの集団の質量電荷比(m/z)の関数として強度を表す複数のピークを含む、質量スペクトルを取得することと、質量スペクトルに基づいて、質量スペクトルの選択されたm/z範囲の測定された信号密度を決定することと、測定された信号密度、及び、目標信号密度に基づいて、後続の取得イベントのためのイオン集団制御パラメータを設定することであり、イオン集団制御パラメータは、後続の取得イベント中に質量分析器によって分析されるイオンの集団を調整する、設定することと、を含む。
【0011】
いくつかの例示的な実施形態では、質量分析を実施するための装置は、蓄積時間にわたって、試料から生成されたイオンを蓄積するイオンストアと、取得イベント中に電荷検出質量分析によって質量スペクトルを取得する質量分析器であり、質量スペクトルは、蓄積されたイオンが質量分析器に移動された後に、蓄積されたイオンに由来する検出されたイオンの質量電荷比(m/z)の関数として強度を表す複数のピークを含む、質量分析器と、コンピューティングデバイスであり、質量スペクトルに基づいて、質量スペクトルの選択されたm/z範囲の測定された信号密度を決定することと、測定された信号密度、及び、目標信号密度に基づいて、後続の取得イベントのための蓄積時間を設定することと、を行うように構成されている、コンピューティングデバイスと、を備える。
【0012】
いくつかの例示的な実施形態では、質量分析を実施する方法は、蓄積時間にわたってイオンストア内に、試料から生成されたイオンを蓄積することと、蓄積されたイオンを質量分析器に移動することと、電荷検出質量分析による質量分析器によって、取得イベント中に、移動されたイオンの質量スペクトルを取得することであり、質量スペクトルは、移動されたイオンの質量電荷比(m/z)の関数として強度を表す複数のピークを含む、取得することと、質量スペクトルに基づいて、質量スペクトルの選択された範囲の測定された信号密度を決定することと、後続の取得イベントのために、測定された信号密度、及び、目標m/z密度に基づいて、蓄積時間を設定することと、を含む。
【0013】
いくつかの例示的な実施形態では、個々のイオン質量分析を実施する方法は、蓄積時間にわたってイオンストア内に、試料から生成されたイオンを蓄積することと、軌道静電トラップ質量分析器によって、蓄積されたイオンのm/zの関数として強度を表す質量スペクトルを取得することと、質量スペクトルに基づいて、質量スペクトルの選択されたm/z範囲の測定された信号密度を決定することと、測定された信号密度、及び、目標信号密度に基づいて、後続の取得イベントのための蓄積時間を設定することと、質量スペクトルによって表されるイオンの電荷状態を決定することと、イオンの電荷状態、及び、イオンのm/zに基づいて、質量の関数として個々のイオンの強度を表す質量領域スペクトルを生成することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
添付の図面は、様々な実施形態を例解しており、本明細書の一部である。例解された実施形態は、単なる例であり、本開示の範囲を制限するものではない。図面全体を通して、同一又は類似の参照番号は、同一又は類似の要素を指示する。
【
図3】自動イオン制御を実施する例示的な方法を示す。
【
図4】ピーク間隔アプローチに従って、自動イオン制御を実施する例示的な方法を示す。
【
図5】合計強度アプローチに従って、自動イオン制御を実施する例示的な方法を示す。
【
図6】自動イオン制御を用いてCDMSを実施する例示的な方法を示す。
【
図7】本明細書で説明される動作、方法、及び例示的なプロセスのうちの1つ以上を実施するように具体的に構成することができる例示的なコンピューティングデバイスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
自動イオン制御(Automatic Ion Control、AIC)と呼ばれる、イオン集団制御パラメータの自動決定及び設定のための方法、システム、及び装置が、本明細書で説明される。いくつかの例では、本明細書で説明されるAICの方法、システム、及び装置は、I2MSなどのCDMS分析のために使用される。本明細書で説明されるAIC技法は、干渉信号を有する確率がm/z領域における信号密度に関連するため、信号密度メトリックに基づいて、イオン集団制御パラメータを決定する。高い信号密度を有する質量スペクトルは、m/z領域において重複するか又は近接するピークを有する可能性がより高く、これに対して、低い信号密度を有する質量スペクトルは、これらの干渉を有する可能性がより低い。イオン集団制御パラメータは、取得された質量スペクトルから測定されたときに、信号密度が目標信号密度に近づくか又は十分近くなるように、調節されることができる。目標信号密度は、特定の実験条件及び目的のために、干渉イオンの発生を許容できる低い量に制限しながら、各スペクトル内の適切な数のイオンを取得するように選択され得る所定の値である。
【0016】
いくつかの例では、AICを実施する方法は、取得イベント中に質量分析器によって分析されるイオンの集団のm/zの関数として強度を表す複数のピークを含む、質量スペクトルを取得することを含む。質量スペクトルの測定される信号密度は、質量スペクトルに基づいて決定される。いくつかの例では、測定される信号密度は、ピーク間隔アプローチに従って決定される。他の例では、測定される信号密度は、合計強度アプローチに従って決定される。後続の取得イベントのためのイオン集団制御パラメータは、測定された信号密度、及び目標信号密度に基づいて設定される。イオン集団制御パラメータは、取得イベント中に質量分析器によって分析されるイオンの集団を調整する。いくつかの例では、イオン集団制御パラメータは、イオンが質量分析器によって分析される前の、イオンがイオンストアに蓄積される蓄積時間である。他の例では、イオン集団制御パラメータは、質量分析器に送達されるイオンの束を調整するイオン光学系(例えば、レンズ)に印加される電位である。
【0017】
ピーク間隔アプローチでは、質量スペクトルの測定された信号密度を決定することは、質量スペクトルの選択されたm/z範囲(例えば、対象のm/z範囲)に含まれる隣接するピークの各セットについてのピーク間隔値を計算することを含む。計算されたピーク間隔値のセットに基づいて、選択されたm/z範囲についてのグローバルピーク間隔値が決定される。合計強度アプローチでは、測定された信号密度を決定することは、質量スペクトルの選択されたm/z範囲内の占有されたm/z空間を決定することを含む。占有されたm/z空間内の信号の合計された強度が決定される。測定された信号密度は、占有されたm/z空間内の合計された強度、及び占有されたm/z空間に基づいて決定される。ピーク間隔アプローチ及び合計強度アプローチについては、以下に、より詳細に説明される。
【0018】
これより、図を参照して、様々な実施形態及び例が、より詳細に説明される。本明細書で説明される方法、システム、及び装置は、本明細書で明らかになるであろう様々な利益を提供する。AICを実施するための方法、システム、及び装置は、質量分析計と併せて使用され得る。したがって、これより、例示的な質量分析計が説明される。説明される質量分析計は、例示的なものであり、かつ、非限定的なものである。
【0019】
図1は、質量分析計100の例示的な機能図を示している。図に示すように、質量分析計100は、イオン源102、イオンストア104、質量分析器106、検出器108、及びコントローラ110を含む。質量分析計100は、特定の実施態様に適合し得るようには図示されていない、任意の追加又は代替の構成要素(例えば、イオン光学系、レンズ、フィルタ、イオン貯蔵デバイス、イオン移動度分析器、衝突セル、イオン束モニタ、等)を更に含むことができる。
【0020】
イオン源102は、試料からイオン112を生成し、イオン流112内のイオンをイオンストア104に送達するように構成される。イオン源102は、以下に限定されない、電子イオン化、化学イオン化、マトリックス支援レーザ脱離/イオン化、エレクトロスプレーイオン化、大気圧化学イオン化、大気圧光イオン化、誘導結合プラズマ、等を含む、任意の好適なイオン化技法を使用することができる。イオン源102は、試料からイオンを生成し、かつ、そのイオンをイオンストア104に送達するための様々な構成要素を含むことができる。
【0021】
イオンストア104は、蓄積時間にわたって、イオン流112に含まれるイオンを蓄積するように構成されたデバイスである。本明細書で使用される場合、「蓄積時間」とは、イオン源102によって生成されたイオンが、放出されて、質量分析器106に移動する前に、イオンストア104内に蓄積する持続時間を指す。蓄積時間は、また、イオン注入時間又はイオン充填時間として知られている場合がある。いくつかの例では、イオンストア104は、質量分析などの下流プロセスをバッファリングするように構成されたイオン貯蔵デバイスであり、それによって、取得速度及び機器感度を増加させる。いくつかの例では、イオンストア104は、多重極イオンガイド(例えば、四重極イオンガイド、六重極イオンガイド、八重極イオンガイド、等)、線形四重極イオントラップ、三次元四重極イオントラップ、円筒形イオントラップ、環状イオントラップ、軌道静電トラップ、キングドントラップなどのビーム型デバイス、又はトラッピングデバイスである。いくつかの例では、イオンストア104は、Orbitrap質量分析計で使用されるタイプの湾曲トラップ(Cトラップとしても知られる)の形態を取る。
【0022】
いくつかの例では、イオンストア104は、質量分析器106から上流に配置された衝突セルである。本明細書で使用される場合、「衝突セル」とは、制御された解離プロセス、又は、イオン対イオン反応プロセスを介して、生成イオンを生成するように配置された任意のデバイスを指す場合があり、衝突活性化解離のために使用されるデバイスに限定されない。例えば、衝突セルは、衝突誘起解離(collision induced dissociation、CID)、電子移動解離(electron transfer dissociation、ETD)、電子捕獲解離(electron capture dissociation、ECD)、光誘起解離(photo-induced dissociation、PID)、表面誘起解離(surface induced dissociation、SID)などを使用して、イオンを細分化するように構成されてもよい。衝突セルは、質量分析器106及び/又は質量フィルタから上流に配置されてもよく、衝突セルは、イオンのm/zに基づいて、細分化されたイオンを分離する。
【0023】
イオンストア104におけるイオンの蓄積は、本明細書で説明されるAICの方法、装置、及びシステムによって調整され得る、イオンストア104内のイオンの目標集団、したがって、目標信号密度を達成することができる。イオンの蓄積は、任意の好適な方法で調整することができる。いくつかの例では、イオンストア104におけるイオンの蓄積は、イオン流112を透過させるか、又は、遮断するかのいずれかを行うゲート装置(図示せず)によって調整される。このゲートは、適切な数のイオンを計量しながら供給するように、所与の時間の間、開放され得る。その後、ゲートは、閉鎖される。次いで、蓄積されたイオンは、イオンストア104から質量分析器106にイオン流114で移動することができる。イオン蓄積の調整のための他の技法が使用され得ることが認識されるであろう。
【0024】
質量分析器106は、蓄積されたイオンの質量分析を実施するように構成されている。質量分析器106は、イオンの画像電荷信号が誘導及び記録される、電荷検出質量分析及び/又はフーリエ変換質量分析(FTMS)に好適な任意の好適な質量分析器、又は分析器の組み合わせによって実装されてもよい。質量分析器106の例としては、イオントラップ質量分析器(例えば、線形四重極イオントラップ、三次元四重極イオントラップ、円筒形イオントラップ、環状イオントラップ、等)、飛行時間型(time-of-flight、TOF)質量分析器、電気セクタ質量分析器(例えば、中央電荷管を有する二重電気セクタイオントラップ)、線形四重極質量分析器、静電イオントラップ質量分析器(例えば、Orbitrap質量分析器、キングドントラップ、静電線形イオントラップ(ELIT)、軌道周波数分析器(orbital frequency analyzer、OFA)、等などの軌道静電トラップ)、磁気イオントラップ、及び/又はフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier transform ion cyclotron resonance、FT-ICR)質量分析器が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
いくつかの例では、質量分析計100は、タンデム質量分析(例えば、MS/MS)を実施するように構成されたタンデム質量分析計(タンデムインタイム又はタンデムインスペース)、多段質量分析(MSnとも示される)を実施するように構成された多段質量分析計、又はハイブリッド質量分析計である。例えば、質量分析器106は、複数の質量分析器、質量フィルタ、及び/又は、衝突セルを含んでもよい。いくつかの例では、質量分析器106は、三連四極質量分析器などの複数の質量フィルタ及び/又は衝突セルの組み合わせを含み、そこでは、衝突セルは、独立して動作可能な質量フィルタ間のイオン経路内に置かれる。他の例では、質量分析器106は、直列に配置されたToF質量分析器及びOrbitrap質量分析器を含む。
【0026】
図1は、イオンストア104が質量分析器106から上流に配置されていることを示すが、イオンストア104は、タンデム質量分析計又は多段質量分析計内のイオン源102から検出器108までのイオン経路に沿った任意の他の場所(例えば、第1質量フィルタ(Q1)と衝突セル(Q2)との間、及び/又は、衝突セル(Q2)と第2質量フィルタ(Q3)との間)に配置されてもよい。追加的に、質量分析計100は、質量分析計100がタンデム質量分析計又は多段質量分析計である場合など、1つを超えるイオンストア104を含んでもよい。
【0027】
イオン検出器108は、様々な異なるm/zの各々において、質量分析器106内か、又はイオン流116内のいずれかのイオンを検出し、それに応答して、イオン強度を表す電気信号を生成するように構成される。この電気信号は、検出されたイオンの質量スペクトルを構築することなどの処理のために、コントローラ110に送信される。例えば、質量分析器106は、分離されたイオンの放出ビームを検出器108に放出することができ、その検出器は、放出ビーム内のイオンを検出して、コントローラ110によって使用されて質量スペクトルを構築することができるデータを生成又は提供するように構成される。イオン検出器108は、以下に限定されない電子増倍管、ファラデーカップ、などを含む、任意の好適な検出デバイスによって実装されてもよい。
【0028】
本明細書で使用される場合、「質量スペクトル」又は「スペクトル」とは、イオンのm/zの関数とする、イオンの強度のプロットを指す。本明細書で使用される場合、「強度」又は「信号強度」とは、検出器の応答を指し、絶対存在度、相対存在度、イオン数、強度、相対強度、イオン電流、又はイオン検出の任意の他の好適な尺度を表し得る。
【0029】
コントローラ110は、質量分析計100の様々な動作を制御するように構成される。例えば、コントローラ110は、イオン源102、イオンストア104、質量分析器106、及び/又は、検出器108に含まれる様々なハードウェア構成要素の動作を制御するように構成されてもよい。例示するために、コントローラ110は、イオンストア104及び/又は質量分析器106の蓄積時間を制御し、振動電圧電源及び/又はDC電源を制御してRF電圧及び/又はDC電圧を質量分析器106に供給し、RF電圧及びDC電圧の値を調節して、分析のための有効なm/z(質量許容範囲枠を含む)を選択し、(例えば、検出器利得を調節することによって)イオン検出器108の感度を調節するように構成することができる。
【0030】
コントローラ110は、また、質量分析計100のユーザと、コントローラ110との間の対話を可能にするように構成されたユーザインターフェースを含むこともでき、かつ/あるいは、提供することもできる。ユーザは、触覚、視覚、聴覚、及び/又は、他の感覚型通信によるユーザインターフェースを介して、コントローラ110と対話することができる。例えば、ユーザインターフェースは、情報(例えば、質量スペクトル、通知、など)をユーザに表示するためのディスプレイデバイス(例えば、液晶ディスプレイ(liquid crystal display、LCD)表示スクリーン、タッチスクリーンなど)を含むことができる。ユーザインターフェースは、また、ユーザが入力をコントローラ110に与えることを可能にする入力デバイス(例えば、キーボード、マウス、タッチスクリーンデバイス、等)を含むこともできる。他の例では、ディスプレイデバイス及び/又は入力デバイスは、コントローラ110とは別個であってもよいが、そのコントローラに通信可能に結合されてもよい。例えば、ディスプレイデバイス及び入力デバイスは、有線接続(例えば、1つ以上のケーブルによる)及び/又は無線接続(例えば、Wi-Fi、Bluetooth、近距離通信、等)を経由して、コントローラ110に通信可能に接続されたコンピュータ(例えば、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、モバイルデバイス、等)内に含まれてもよい。
【0031】
コントローラ110は、特定の実施態様に役立つことができるように、任意の好適なハードウェア(例えば、プロセッサ、回路、等)及び/又はソフトウェアを含むことができる。
図1は、コントローラ110が質量分析計100(例えば、質量分析計100上にある1つ以上のオンボードプロセッサ)内に含まれることが示されているが、コントローラ110は、別の方法として、有線接続(例えば、ケーブル)及び/又はネットワーク(例えば、ローカルエリアネットワーク、無線ネットワーク(例えば、Wi-Fi)、ワイドエリアネットワーク、インターネット、セルラーデータネットワーク、等)を経由して、質量分析計100に通信可能に結合されたコンピューティングデバイスなどによって、質量分析計100とは完全に又は部分的に分離して実装されてもよい。
【0032】
図1の例では、質量分析計100の様々な構成要素は、単一の構成要素に組み合わせることができる。例えば、イオンストア104及び質量分析器106は、単一のトラッピング型質量分析器に組み合わされてもよく、そこでは、イオンは、蓄積時間にわたって蓄積されてイオンの目標数に達し、その後、蓄積されたイオンの質量分析が実施される。
【0033】
図1の例では、質量分析器106によって分析されるイオンの集団は、イオンがイオンストア104内に蓄積される蓄積時間を調節することによって、調整され得る。代替的な例では、質量分析器106によって分析されるイオンの集団は、質量分析器106に送達されるイオン束を調整するイオン光学系(例えば、レンズ)に印加される電位を調節することによって、調整されてもよい。例えば、レンズ(
図1には図示せず)に印加される電圧を調節して、イオンビーム112及び/又はイオンビーム114を合焦又は脱焦させ、質量分析器106によって送達及び分析されるイオン集団を減少又は増加させることができる。下流プロセス(例えば、質量分析)のためのイオン集団が、イオンストア104によってではなく、イオン光学系によって調整されるいくつかの例では、イオンストア104を省略することができる。
【0034】
本明細書で説明されるAICの方法、システム、及び装置は、本明細書で説明される質量分析計100の一部として若しくはそれと併せて、かつ/あるいは、液体クロマトグラフィ質量分析(liquid chromatography-mass spectrometry、LC-MS)システム、高性能液体クロマトグラフィ質量分析(high-performance liquid chromatography-mass spectrometry、HPLC-MS)システム、ガスクロマトグラフィ質量分析(gas chromatography-mass spectrometry、GC-MS)システム、又はキャピラリ電気泳動質量分析(capillary electrophoresis-mass spectrometry、CE-MS)システム、などの複合分離質量分析システムを含む、任意の他の好適な質量分析計若しくは質量分析システムを用いて動作することができる。本明細書で説明される方法、システム、及び装置は、また、分析物がカラム内の分離なしに移動相中に注入され、かつ、質量分析計に入るフロー注入質量分析(flow-injection mass spectrometry、Fl-MS)などの連続的フロー試料源と併せて動作することもできる。
【0035】
いくつかの例では、質量分析計100を使用して、I2MSを実施することができる。I2MSは、以下の刊行物を含む特許及び科学文献に広く記載されており、それらの全ては、参照により、本明細書に組み込まれている。それらは、SenkoらによるPCT公開国際公開第2020/219605号、Kafader et al.によるMultiplexed Mass Spectrometry of Individual Ions Improves Measurements of Proteoforms and Their Complexes、Nat Methods 2020 April 17(4),pp.391-94、Kafader et al.によるSTORI Plots Enable Accurate Tracking of Individual Ion Signals、J.Am.Soc.Mass Spectrom.(2019)30:2200-2203、及び、Kafader et al.によるIndividual Ion Mass Spectrometry Enhances the Sensitivity and Sequence Coverage of Top Down Mass Spectrometry、J.Proteome Res.2020 March 6 19(3)pp.1346-50である。一般に、I2MSは、Orbitrap質量分析器内のイオンの集団の軸方向振動によって生成される過度信号を処理して、共鳴イオンの選択的時間概要(Selective Temporal Overview of Resonant Ions、STORI)プロットのセットを生成することに関与する。各STORIプロットの傾きは、分析されたイオン集団内の異なるイオン種の電荷に比例する。イオンの電荷は、傾き対電荷較正関数によって決定することができる。各イオン種の決定された電荷z及び測定されたm/zを使用して、検出された信号を質量mの関数としてプロットする質量領域スペクトルを生成することができる。本明細書で使用される場合、「質量領域スペクトル」又は「真の質量スペクトル」とは、質量の関数として、検出されたイオンの強度をプロットしたものを指す。質量スペクトルにおいて表される分析物は、任意の好適なCDMS法を使用することによって、質量領域内に配置され得る。
【0036】
記述されたように、I2MSでは、質量スペクトル内の各検出された信号(本明細書では、ピークとも呼ばれる)は、m/z領域に沿って、そのスペクトル内の他のあらゆる信号から分解される。複数の信号がm/zにおいて重複する場合、その信号に寄与する複数の個々のイオンが存在するか、又は、その個々のイオンの合計された電荷のうちの1つのイオンが存在するかを決定することは困難になる。その結果、イオン種の電荷を決定し、分析物を真の質量領域に配置することは困難である。
【0037】
1回の取得で取得することができる個々のイオンの適切な数は、m/z空間において重複することなく存在することができる分析物の電荷状態の数、及び、同位体チャネルによって制限される。これらのチャネルが存在し過ぎる(すなわち、複数のイオンイベントを作成する)ことにより、不確実な電荷がもたらされ、したがって、その信号に対する不確実な質量割り当てがもたらされることになる。曖昧な電荷割り当ての可能性を最小化するために、質量分析器は、小さいイオン集団(例えば、短い蓄積時間又は減衰したイオンビームによって達成される)を用いて動作されてもよく、これは、同時に発生するイオンに対して低い確率でスパーススペクトルを生成する。しかしながら、イオン集団を意図的に制限することは、統計的に関連する質量領域スペクトルを生成するのに必要とされる取得数を増加させる(すなわち、実験時間を上昇させる)。
【0038】
本明細書で説明されるAICの方法を使用して、m/zにおいて重複する干渉イオンの発生を、許容できる数、及び/又は、許容できるm/z領域に同時に制限しながら、各スペクトル内のイオンの数を最適化することができる。本明細書で使用される場合、「最適化する」及びその変形は、可能な解のセットの中から、改善された又は最適な解を探し求めることを意味するが、最適化プロセスが最良の解を見出す前に終了するとき、事前定義された基準を満たす複数の解が存在するとき、ある解が最小基準を満たすとき、又は、選択された最適化技法が最善の解に収束することができないとき、などには、最良の解は、必ずしも取得することができない。同様に、本明細書で使用される場合、「最適」パラメータ(例えば、パラメータの「最大」又は「最小」の値)は、最適化プロセスを実施した結果として得られた解を意味し、したがって、必ずしもパラメータの絶対極値(例えば、絶対的な最大又は最小の値)ではない可能性があるが、依然としてパラメータを調節して、改善をもたらす。
【0039】
AICに関連付けられた1つ以上の動作は、自動イオン制御システムによって実施することができる。
図2は、例示的な自動イオン制御システム200(「システム200」)を示している。システム200は、質量分析計100によって(例えば、コントローラ110によって)全体的又は部分的に実装することができる。代替的に、システム200は、(例えば、別個及び/又はリモートのコンピューティングシステム又はサーバによって)質量分析計100とは別個に実装することができる。
【0040】
システム200は、互いに選択可能に、かつ、通信可能に結合された記憶設備202及び処理設備204を含むことができるが、これらに限定されない。設備202及び204は、各々、ハードウェア及び/又はソフトウェア構成要素(例えば、プロセッサ、メモリ、通信インターフェース、プロセッサによる実行のためにメモリ内に記憶された命令、等)を含むか、又は、それらによって実装することができる。いくつかの例では、設備202及び設備204は、特定の実施態様に役立つことができるように、複数のデバイス間、及び/又は、複数の場所間に分散することができる。
【0041】
記憶設備202は、処理設備204によって使用される実行可能データを維持(例えば、記憶)して、本明細書で説明される動作のうちのいずれかを実施することができる。例えば、記憶設備202は、処理設備204によって実行されて、本明細書で説明される動作のうちのいずれかを実施することができる、命令206を記憶することができる。命令206は、任意の好適なアプリケーション、ソフトウェア、コード、及び/又は、他の実行可能データインスタンスによって実装することができる。記憶設備202は、また、処理設備204によって、取得され、受信され、生成され、管理され、使用され、かつ/あるいは、送信された任意のデータを維持することもできる。
【0042】
処理設備204は、本明細書で説明される様々な処理動作を実施する(例えば、記憶設備202に記憶された命令206を実施する)ように構成することができる。本明細書で説明される動作及び例は、処理設備204によって実施され得る、多数の異なるタイプの動作のうちの単なる例示的なものであることが認識されるであろう。本明細書の説明では、システム200によって実施される動作への任意の言及は、システム200の処理設備204によって実施されることが理解され得る。更に、本明細書の説明では、システム200によって実施される任意の動作は、システム200が、動作を実施するための別のコンピューティングシステム又はデバイスに、指示又は命令することを含むと理解され得る。
【0043】
これより、AICを実施する例示的な方法が説明される。AICの方法は、Orbitrap質量分析計を用いて実施されるI2MSと関連して、本明細書で説明される。しかしながら、AICの方法は、それに限定されるものとして解釈されるべきではなく、質量分析の他の方法、並びに、CDMSの他の方法を含み、かつ/あるいは、任意の他のタイプの質量分析器(例えば、TOF質量分析器、FT-ICR質量分析器、ELIT質量分析器、OFA、電気セクタ分析器、等)を使用する、他の分析方法に首尾一貫して適用され得る。
【0044】
図3は、AICを実施する例示的な方法300を示している。
図3は、一実施形態による例示的な動作を示しており、他の実施形態は、
図3に示された動作のうちのいずれかを省略し、追加し、再順序付けし、かつ/あるいは、修正することができる。
図3に示された動作のうちの1つ以上は、システム200、その中に含まれる任意の構成要素、及び/又は、それらの任意の実施態様(例えば、質量分析計100、質量分析計100の1つ以上の構成要素、及び/又は、質量分析計100とは別個のリモートコンピューティングシステム)によって、実施することができる。
【0045】
動作302において、システム200は、取得イベント中に質量分析器によって分析されるイオンの集団のm/zの関数の関数として強度を表す複数のピークを含む、質量スペクトルを取得する。いくつかの例では、イオンの集団は、蓄積時間にわたってイオンストア内に蓄積されたイオンを含む。他の例では、イオンの集団は、質量分析器に送達されるイオンビーム内にイオンを含む。システム200は、検出器(例えば、検出器108)から受信した信号に基づいて、質量スペクトルを生成することができ、又は、この質量スペクトルは、質量分析計(例えば、コントローラ110)によって生成され得る、システム200に提供され得る。いくつかの例では、取得イベントは、試料の実験分析の一部である。他の例では、取得イベントは、試料の実験分析の前に実施される調査スペクトルを取得することを含む。
【0046】
動作304において、システム200は、質量スペクトルに基づいて、質量スペクトルの選択されたm/z範囲の測定された信号密度を決定する。この選択されたm/z範囲は、質量スペクトルの検出枠の全体、又は、その任意の部分を含み得る。いくつかの例では、選択されたm/z範囲は、ユーザ入力によって指定され、関心対象となる狭いm/z範囲であってもよい。上で説明されたように、信号密度は、様々な異なるアプローチに従って、画定及び決定され得る。単純なアプローチでは、AICは、スペクトル内で観察される信号の数を調整する。この実施態様では、信号密度は、取得イベントのm/z範囲によって分割されたピークの数である。しかしながら、このアプローチは、過度の単純化を表し得る。信号の数を単純に計数することは、ピークのm/z幅を考慮に入れず、これは、隣接信号が干渉するか又は重複するかどうかに影響を及ぼし得る。標準条件を用いて取得された質量スペクトルと、第1質量スペクトルの分解能の2倍であるm/z分解能で収集したものと、を考える。より高い分解能の質量スペクトルを用いると、各ピークがより少ないm/z空間を消費するため、重複するピークを有する確率は、より小さい。
【0047】
ピーク間隔アプローチでは、信号密度は、概して、質量スペクトルの選択されたm/z範囲内の隣接するピークの間の間隔を、ピーク幅を単位として表す(例えば、反比例して示す)。ピーク間隔アプローチでは、測定された信号密度は、信号強度に関係なく、以前取得された質量スペクトルから決定される。ピーク間隔アプローチに従って、取得された質量スペクトルの測定された信号密度を決定するための方法が、
図4を参照して、以下において、より詳細に説明される。合計強度アプローチでは、信号密度は、概して、質量スペクトルの選択されたm/z範囲内のm/z空間の単位当たりの信号の量(信号強度)を表す。合計強度アプローチでは、信号密度は、実験実行の前に実施された調査スペクトル、及び、検出された信号の強度の要因に基づいて決定される。合計強度アプローチに従って取得された質量スペクトルの測定された信号密度を決定するための方法は、
図5を参照して、以下で、より詳細に説明される。測定された信号密度を画定及び決定するための他のアプローチが、想定され、かつ、方法300の範囲内にあることが認識されるであろう。
【0048】
動作306において、システム200は、測定された信号密度、及び、目標信号密度に基づいて、後続の取得イベントのためのイオン集団制御パラメータを設定する。後続の取得イベントは、次の取得イベント、又は、動作302の取得イベント後に発生する任意の他の取得イベント(例えば、N番目の取得イベントであり、ここで、Nは、1より大きい整数である)であってもよい。イオン集団制御パラメータは、後続の取得イベント中に質量分析器によって分析されるイオンの集団を調整する。いくつかの例では、イオン集団制御パラメータは、イオンが後続の取得イベント中に質量分析器によって分析される前に、イオンがイオンストア内に蓄積されている蓄積時間である。他の例では、イオン集団制御パラメータは、質量分析器に送達されるイオン束を調整するイオン光学系に印加される電位である。
【0049】
目標信号密度は、特定の実験条件及び目的に対して、干渉するイオンの発生を許容できる低い量に制限しながら、各スペクトル内のイオンの数を最適化するように選択することができる、所定の値である。目標信号密度は、概して、質量分析器の特性及び動作パラメータ(例えば、分解能)に依存し、いくつかの例では、また、方法パラメータ及び分析物特性(例えば、分析物イオンの濃度、分子量、及び/又は、分子量分布)にも依存し得る。いくつかの例では、目標信号密度は、経験的に決定される。他の例では、目標信号密度は、1つ以上の方法パラメータ、機器要件、機器内のイオン監視デバイス、及び/又は、実験分析のための試料、若しくは、分析物特性に基づいて決定される。いくつかの例では、システム200は、ユーザが目標信号密度を選択又は設定する入力を提供することを可能にすることができる。代替的に、システム200は、実験のための1つ以上の機器、方法、及び/又は、分析物パラメータ、及び/又は、条件に基づいて、目標信号密度を自動的に選択又は設定することができる。
【0050】
いくつかの例では、ユーザは、目標信号密度が、干渉を最小化にする信号密度を十分に上回るモードで動作するように選択することができる。例えば、ユーザは、できるだけ迅速にデータを収集することに関心がある場合があり、これらのケースでは、低い信号密度領域において観察される信号の数を増加させるために、高い信号密度領域における干渉を可能にすることが有利である場合がある。したがって、ユーザは、関心対象のある、狭いm/z範囲を選択することができる。
【0051】
後続の取得イベントは、動作302の取得イベントの後に実施される任意の取得イベントであってもよい。例えば、ピーク間隔アプローチでは、後続の取得イベントは、実験実行中に実施される次の取得イベントであってもよい。合計強度アプローチでは、後続の取得は、継起調査取得であってもよい。
【0052】
システム200は、任意の好適な方法で、測定された信号密度、及び、目標信号密度に基づいて、後続の取得イベントのためのイオン集団制御パラメータを設定することができる。これより、イオン集団制御パラメータを設定する例が、蓄積時間を設定することに関連して説明される。ただし、同じ又は同様の原理を適用して、質量分析器に送達されるイオン束を調整するイオン光学系に印加される電位を設定することができる。
【0053】
いくつかの例では、蓄積時間と信号密度との間の関係は、線形であると仮定することができ、測定された信号密度に対する目標信号密度の比(「信号密度比」)が増加するにつれて、蓄積時間は、増加する(信号密度は、密度の増加に伴って増加する単位で表されると仮定する)。例えば、後続の取得イベントのための蓄積時間は、以下の式(1)に従って、決定することができる。
【0054】
【数1】
式中、T
subsは、後続の取得のための蓄積時間であり、T
currentは、動作302の現在の(直近の)取得イベントにおいて使用される蓄積時間であり、目標信号密度は、所定の目標信号密度であり、測定された信号密度は、動作304において決定された通りである。信号密度比が1.0よりも大きい場合、測定された信号密度は疎であり過ぎることが想定され、したがって、後続の取得イベントのための蓄積時間は、それに応じて、増加されるべきである。信号密度比が1.0未満である場合、測定された信号密度が密であり過ぎることが想定され、したがって、後続の取得イベントのための蓄積時間は、それに応じて減少されるべきである。信号密度比が1.0に等しい(又は、1.0の閾値量以内である、例えば、±10%である)ときに、測定された信号密度は、目標信号密度に十分近く、したがって、後続の取得イベントのための蓄積時間は、同じままであり得ると想定される。
【0055】
ピーク間隔アプローチを例示するために、目標信号密度が10%(10個のピーク幅毎に1セットの隣接ピーク)であり、測定された信号密度が20%(5個のピーク幅毎に1セットの隣接ピーク)であり、取得イベントのための取得時間Tcurrentが1秒であった場合、システム200は、後続の取得イベントのための蓄積時間Tsubsが半(1/2)秒に減少されて、信号密度を減少させるべきであることを決定し得る。これに対して、目標信号密度が10%(1セットの隣接ピーク)であり、測定された信号密度が5%(20ピーク幅毎に1セットの隣接ピーク)であり、取得イベントのための取得時間Tcurrentが1秒であった場合、システム200は、後続の取得イベントのための蓄積時間Tsubsが2秒に増加されて、信号密度を増加させるべきであることを決定し得る。目標信号密度が10%(1セットの隣接ピーク)であり、測定された信号密度が9%(9個のピーク幅毎に1セットの隣接ピーク)であり、取得イベントのための取得時間Tcurrentが1秒だった場合、システム200は、後続の取得のための蓄積時間Tsubsが1秒であり、変化させるべきではないことを決定し得る。
【0056】
代替的な例では、蓄積時間と信号密度との間の関係は、非線形である。任意の非線形関数を使用して、蓄積時間を、測定された信号密度及び目標信号密度に相関させることができる。いくつかの例では、非線形関数は、測定された信号密度が高いか、又は、閾値レベルを超えるときに、使用することができる。いくつかの例では、システム200は、使用されるべき線形(例えば、式(1))又は非線形の相関性を指定するユーザ入力を受信することができる。
【0057】
システム200は、後続の取得イベントのための蓄積時間を、計算された蓄積時間Tsubsとして設定することができる。したがって、後続の取得イベントは、新しい蓄積時間で実施される。
【0058】
I2MSの個々のイオンレジームの低イオン量で動作するとき、信号密度及び/又は信号強度は、ランダムな機会に起因するか、又は、イオン源からのイオン束の変動性に起因するかのいずれかとは関係なく、不安定であり、かつ、1つのスペクトルから次のスペクトルに著しく変化し得る。イオン源からのイオン束は、例えば、変化するイオン化条件に起因して、又は、試料がフロー注入分析、液体クロマトグラフィ、若しくは、キャピラリ電気泳動を介して、オンラインで分析されることに起因して、変化する可能性がある。したがって、いくつかの例では、システム200は、蓄積時間における変化量(例えば、動作302の取得イベントに対する、後続の取得イベントのための蓄積時間における増加又は減少)を決定し、かつ、フィルタを適用するか、若しくは、蓄積時間の変化量に対して変化限界を課すことにより蓄積時間の変化量を調節することによって、後続の取得イベントのための蓄積時間を設定する。ランダムな機会に起因する影響を最小化するように構成されたフィルタ係数を有する指数関数フィルタなど、任意の好適なフィルタが適用されてもよい。追加的又は代替的に、最大変化量(例えば、10ミリ秒(ms)の最大変化量)、又は、変化量の所定のパーセンテージ(例えば、50%、33%、20%、等)などの任意の好適な変化限界が適用されてもよい。フィルタ又は変化限界を適用することによって、蓄積時間は、分別的又は段階的方法で変更されてもよく、このことは、蓄積時間における広いスペクトル対スペクトル振動の発生を回避又は低減する機能を果たし、かつ、蓄積時間に安定性を加える。
【0059】
いくつかの例では、システム200は、1つ以上のフィルタパラメータ(例えば、係数)及び/又は変化限界パラメータを設定するユーザ入力を受信するように構成され得る。そして、そのユーザ入力に基づいて、フィルタパラメータ及び/又は変化限界パラメータを設定することができる。例えば、ユーザは、指数関数フィルタ、最大変化量、及び/又は、変化量の所定のパーセンテージのうちの1つ以上のパラメータ、並びに、どのフィルタ又は変化限界が適用されるべきかを指定することができる。
【0060】
これより、ピーク間隔アプローチ及び合計強度アプローチによる例示的なAICの方法が説明される。以下の例は、蓄積時間を調節することを参照して説明されるが、イオン光学系に印加される電位を調節して、質量分析器に送達されるイオン束を調節することにも、同様に適用され得る。
【0061】
図4は、ピーク間隔アプローチに従って、AICを実施する例示的な方法400を示している。
図4は、一実施形態による例示的な動作を示しており、他の実施形態は、
図4に示された動作のうちのいずれかを省略し、追加し、再順序付けし、かつ/あるいは、修正することができる。
図4に示された動作のうちの1つ以上は、システム200、その中に含まれる任意の構成要素、及び/又は、それらの任意の実施形態(例えば、質量分析計100、質量分析計100の1つ以上の構成要素、及び/又は、質量分析計100とは別個のリモートコンピューティングシステム)によって、実施することができる。
【0062】
動作402において、システム200は、蓄積時間にわたってイオンストア内に蓄積され、取得イベント中に質量分析器によって分析されるイオンのm/zの関数として強度を表す、複数のピークを含む質量スペクトルを取得する。システム200は、動作302に関して上述した任意の方法を含む、任意の好適な方法で、動作402を実施することができる。
【0063】
動作404において、システム200は、質量スペクトルの選択されたm/z範囲に含まれる隣接ピークの各セットについてのピーク間隔値を計算する。上記に説明されたように、選択されたm/z範囲は、質量スペクトルの検出枠の全体、又は、その任意の部分を含むことができる。いくつかの例では、選択されたm/z範囲は、ユーザ入力によって指定され、関心対象となる狭いm/z範囲であってもよい。質量スペクトルは、m/zが増加する順番で、m/z領域に沿って配置された複数のピークを含む。本明細書で使用される場合、隣接ピークのセットとは、質量スペクトルのm/z領域に沿って互いに最も近い2つのピークを意味する。したがって、最低及び最高の検出されたm/zにおけるピーク以外では、各ピークは、2つの隣接ピークを有することになる。隣接ピークのセットについてのピーク間隔値は、m/z領域に沿った、隣接ピーク間の距離である。システム200は、隣接ピークの各セット間の間隔を計算する。
【0064】
同時に起こるイオンの確率は、スペクトルの分解能に関係する。より高い分解能は、2つの隣接信号が互いに干渉する確率を低減することになる。この理由を説明するため、信号密度は、スペクトルの実際のピーク容量を反映する単位で測定される。したがって、ピーク間隔アプローチにおける信号密度は、m/z範囲にわたってピークの数を単純に測定する代わりに、ピーク幅に関して測定される。
【0065】
このピーク幅は、任意の好適な方法で決定することができる。いくつかの例では、ピーク幅は、予想された機器ピーク幅である。他の例では、ピーク幅は、質量スペクトルから測定されたものとしてのピーク幅である。例えば、ピーク幅は、質量スペクトル内に含まれる全てのピーク、又は、選択されたm/z範囲(例えば、ユーザによって選択された関心対象のm/z範囲)内の全てのピークの平均ピーク幅であってもよい。スペクトルから測定されたピーク幅は、都合のよいことに、検出期間全体を必ずしも生き残らないイオンの原因を説明する。これらのイオンは、所与の検出時間に対して予想されるよりも広いピークを生成する可能性があり、より広いピークを有することは、重複する信号の確率を増加させることになる。測定されたピーク幅を使用することは、また、検出期間中に不安定なm/zを有するイオンの原因を説明する。これらの不安定なイオンは、最も典型的には、大きな生体分子複合体であり、これらは、不完全に脱溶媒和しているか、又は、検出期間中に共有結合を細分化するものである。イオンが背景ガス分子と衝突すると、イオンは、加熱され、付着した溶媒を効果的に沸騰させて、質量を減少させ、したがって、測定されるm/zを減少させる。ドリフトするm/zは、安定なm/zを有するイオンから予想されるよりも広いスペクトルのピークを生成する。
【0066】
動作406において、システム200は、動作404において計算されたピーク間隔値に基づいて、選択されたm/z範囲についてのグローバルピーク間隔値を決定する。このグローバルピーク間隔値は、測定された信号密度として使用される。グローバルピーク間隔値は、平均値、加重平均値(例えば、より小さいピーク間隔値をより重く重み付けする)、中央値、又は、選択されたm/z範囲内の計算されたピーク間隔値の任意の他の統計的表現であってもよい。本明細書で説明される例では、グローバルピーク間隔値は、パーセンテージとして表される(例えば、M個のピーク幅毎に1つのセットであり、ここで、Mは、グローバルピーク間隔値である)。ただし、グローバルピーク間隔値は、本明細書で説明される式がそれに応じて適合されるならば、任意の他の方法で(例えば、M個のピーク幅毎によって)表されてもよい。
【0067】
実際の試料の質量スペクトルは、概して、ピークがm/z領域にわたってランダムに分布しているのではなく、イオン電荷が量子化されているため(例えば、zは、整数値のみであり、これは、m/zの変動性を抑制する)、かつ、分析物内で起こる可能性のある微妙な質量の変動性の多くの原因により、ともにクラスター化する傾向があることを示している。微妙な質量変動性のいくつかの原因としては、例えば、同位体変動性、翻訳後修飾、並びに、陽イオン及び溶媒の付加が挙げられる。このクラスター化は、特に、イオン信号が取得範囲の上限m/z及び下限m/zまで拡張しない場合、スペクトルの大きな領域を完全に空のままで残る可能性がある。空のm/z領域は、干渉信号の確率が増加した高密度の局所領域が存在する場合であっても、測定された信号密度を人為的に減少させることができる。
【0068】
ピークの不均一な分布及びクラスター化に対処するために、方法400は、スペクトルの最も密度の高い領域、又は、選択されたm/z範囲のみを考慮することができる。これは、動作404において計算されたピーク間隔値のサブセットに基づいて、グローバルピーク間隔値を計算することによって達成することができる。ピーク間隔値のサブセットは、概して、最小ピーク間隔値を含み、これは、スペクトル又は選択されたm/z範囲の最も密度の高い領域を表す。いくつかの例では、計算されたピーク間隔値のサブセットは、最小ピーク間隔値のパーセンテージ(例えば、50%、40%、30%、等)を含む。例えば、システム200は、計算されたピーク間隔値を昇順でリストに配列してもよく、計算されたピーク間隔値の上位50%、40%、30%、又は、他のパーセンテージのみに基づいて、グローバルピーク間隔値を計算してもよい。他の例では、計算されたピーク間隔値のサブセットは、閾値ピーク間隔値未満の全てのピーク間隔値を含む。いくつかの例では、閾値ピーク間隔値は、目標信号密度に基づいて設定される(例えば、目標信号密度の200%又は300%)。
【0069】
動作408において、システム200は、測定された信号密度(例えば、動作406において計算されたグローバルピーク間隔値)、及び、所定の目標信号密度(例えば、目標ピーク間隔値)に基づいて、後続の取得イベントのための蓄積時間を設定する。システム200は、動作306に関して上述した任意の方法の中に含まれる、任意の好適な方法で、蓄積時間を設定することができる。
【0070】
動作408が完了すると、方法400の処理は、動作402に戻り、方法400は、後続の取得イベントに対して再度実施される。方法400を用いると、ピーク間隔アプローチは、後続の取得イベントのための蓄積時間を決定するためのガイドとして、各スペクトルを使用することによって、任意の変化するイオン束を考慮する。
【0071】
ピーク間隔アプローチでは、信号密度メトリックの使用は、スペクトルに出現する可能性のある低電荷汚染物質の影響を排除する際に有益である。少数のイオンの存在により、CDMSが、汚染の影響をより受けやすい低濃度試料とともに実施されることが可能になる。汚染物質は、典型的には、1つ又は2つの電荷のみを運ぶ低質量種である。CDMS(これは、概して、電荷を検出して、その電荷を低電荷状態の個々のイオンに割り当てることができない)において検出可能であるために、汚染物質からの信号は、同じm/zにおける非常に多数のイオンから生じることになる。これらは、特異ピークであり、かつI2MSによって取得される典型的な質量スペクトルは、数百の個々のイオンを含み得るため、これらの特異ピークは、信号密度に対して有意に寄与せず、したがって、最適化された蓄積時間に影響を及ぼさない。
【0072】
図5は、合計強度アプローチに従って、AICを実施する例示的な方法500を示している。
図5は、一実施形態による例示的な動作を示しているが、他の実施形態は、
図5に示された動作のうちのいずれかを省略し、追加し、再順序付けし、かつ/あるいは、修正することができる。
図5に示された動作のうちの1つ以上は、システム200、その中に含まれる任意の構成要素、及び/又は、それらの任意の実施態様(例えば、質量分析計100、質量分析計100の1つ以上の構成要素、及び/又は、質量分析計100とは別個のリモートコンピューティングシステム)によって、実施することができる。
【0073】
動作502において、システム200は、蓄積時間にわたってイオンストア内に蓄積され、取得イベント中に質量分析器によって分析されるイオンのm/zの関数、として強度を表す複数のピークを含む、第1質量スペクトルを取得する。システム200は、動作302に関して上述した任意の方法を含む、任意の好適な方法で、動作502を実施することができる。いくつかの例では、第1質量スペクトルは、高蓄積時間を設定し、かつ、調査スペクトルを取得することによって取得される。システム200は、第1質量スペクトルを使用して、測定された信号密度を決定するときに除外されるべきm/z空間内の任意の領域(例えば、ノイズ及び/又は低質量汚染物質信号によって占有される領域)にフラグを立てることになる。
【0074】
いくつかの例では、第1質量スペクトルは、イオンの集団の母集団を表す。母集団測定において、複数の取得又はスペクトルを使用して、大きなイオン集団(典型的には、排他的ではないが、105個以上の総電荷)をサンプリングすることができる。複数のスペクトルは、母集団測定のために、合計又は平均化されてもよい。他の例では、第1質量スペクトルは、個々のイオン測定によって取得される。例えば、複数の取得又はスペクトルを使用して、プロテオフォームなどの最も豊富な分析物集団の複数の集団を適切にサンプリングすることができる。
【0075】
動作504において、システム200は、動作302において取得された質量スペクトルの選択されたm/z範囲内の占有されたm/z空間を決定する。上記に説明されたように、選択されたm/z範囲は、質量スペクトルの検出枠の全体、又は、その任意の部分を含むことができる。いくつかの例では、選択されたm/z範囲は、ユーザ入力によって指定され、関心対象となる、狭いm/z範囲であってもよい。占有されたm/z空間は、質量スペクトルのm/z領域において、関心対象となる検出可能なイオン信号によって占有される可能性が高い空間である。システム200は、任意の好適な方法で、占有されたm/z空間を決定することができる。
【0076】
いくつかの例では、システム200は、占有されたm/z空間から、最小閾値強度値(例えば、5%相対存在量、3%相対存在量、等)未満の信号のみを含む、任意のm/z領域(例えば、以下に説明されるようなm/zビン)を除外する。最小閾値強度値未満の信号は、ノイズとみなされ、したがって、ノイズ信号を包含することは、占有される領域が単一イオンレベルの信号を有するかどうかを判定する際に役立たないため、ノイズを含む任意のm/z領域は、占有されるm/z空間からもっぱら除外される。
【0077】
いくつかの例では、占有されたm/z空間は、また、汚染物質によって主に又は単独で占有された空間も除外する。いくつかの試料は、占有されたm/z空間の決定を妨げる汚染物質を含む可能性がある。汚染物質は、試料調製中に除去されない試料からの豊富な低質量種、又は、調製プロセス中に添加され得る他の物質を含む可能性がある。母集団測定中に、汚染物質は、スペクトルを支配して、目標分析物を所望の相対存在量未満に押し下げる可能性がある。したがって、汚染された試料に対する占有されたm/z空間は、そうでなければ予想される、占有されたm/z空間よりも大幅に小さい。大幅に小さい占有されたm/z空間は、結果として、より大きな測定された信号密度をもたらし、それは、AICアルゴリズムを駆動して、蓄積時間を減少させ、それによって、タイムリーなI2MS実験について実用的であるものを超えて、イオン集団を縮小させる。
【0078】
いくつかの状況では、汚染物質のピークは、一連の密な同位体分布などの単純すぎる分布として提示される。質量スペクトルの処理のために使用されるリアルタイム電荷デコンボリューションアルゴリズム(例えば、高度ピーク判定(Advanced Peak Determination、APD)、THRASH、又は、MaxEnt)は、選択されたm/z範囲内に含まれる各ピークに電荷を割り当てることができる。したがって、汚染物質は、それらの割り当てられた電荷状態に基づいて識別することができる。低い電荷状態を割り当てられたイオンは、汚染物質とみなされる。例えば、システム200は、閾値電荷状態値(例えば、+2)以下の電荷状態に割り当てられた、選択されたm/z範囲内の全ての信号を、推定汚染物質として識別してもよい。閾値電荷状態値を選択して、優勢な汚染物質の最大電荷状態と合致させることができる。占有されたm/z空間及び測定された信号密度を決定するときに、システム200は、汚染物質を包含する全ての領域を除外することができる。
【0079】
いくつかの汚染物質ピークは、電荷デコンボリュータを使用しても、電荷状態を識別又は割り当てられない場合がある。したがって、いくつかの例では、システム200は、また、占有されたm/z空間から、少数の最も豊富なピークを包含する領域を除外して、電荷状態が割り当てられない、偶発的な汚染物質ピークも捕らえる。例えば、システム200は、最も豊富なピークの閾値数(例えば、15、10、8、5、等)を含む領域を除外してもよい。代替的に、システム200は、最大閾値強度レベル(例えば、80%、90%、95%、等の相対存在量)を上回る全てのピークを包含する領域を除外してもよい。いくつかの非汚染物質ピークは、このようにして、誤って除去される可能性があるが、一定の偽発見率を仮定すると、これらの誤差は、目標信号密度における原因を矛盾なく説明することができる。
【0080】
試料処理、又は、試料自体内の分子の変動性を介して導入される、ポリマー又は柔軟剤など、いくつかの汚染物質は、上述した方法によっては除外されない(例えば、最小閾値強度値と最大閾値強度値との間の強度値を有する)ピークを生成する。したがって、いくつかの例では、システム200は、占有されたm/z空間から、識別された、若しくは、識別可能な汚染物質を有するか又は有する可能性が高い、選択されたm/z範囲の任意の領域を除外する。例えば、システム200は、選択されたm/z範囲内のピークのライブラリ検索、及び/又は、予期される汚染物質のm/zのリストに基づいて、汚染物質を識別してもよい。
【0081】
システム200は、選択されたm/z範囲を、ビン幅ΔiのN個の重複しないビンに細分化し、以下の式(2)に基づいて、占有されたm/z空間を計算することによって、占有されたm/z空間を決定することができる。
【0082】
【数2】
式中の、Nは、ビンの数であり、添字iは、1~Nのビンを示し、ビン幅Δ
iは、各ビンの幅(m/z単位)であり、w
iは、各ビンに割り当てられたビン重みである。ビン幅Δ
iは、各ビンに対して一定(例えば、5m/z、10m/z、等)であってもよく、m/zの関数として変化してもよく、特定のm/zにおける検出可能な信号の密度の関数として変化してもよく、ユーザ定義されてもよく、又は、別様に割り当てられてもよい。いくつかの例では、ビンには、ゼロ(0)以上、かつ、1(1)以下のビン重みw
iが割り当てられる。ビン重みw
iは、ビンの信号強度に基づいて決定することができる。ビンの信号強度は、例えば、ビン内の全てのピーク強度の最大値、平均値、中央値、又は、総和(合計)であってもよい。
【0083】
例えば、最小閾値強度値(例えば、ノイズ)未満の強度値を有し、かつ/あるいは、汚染物質信号に関連付けられた各ビンには、ゼロ(0)のビン重みwiが割り当てられ得る。このようにして、システム200は、占有されたm/z空間から、ノイズ及び/又は汚染物質を含む領域を除外する。いくつかの例では、ノイズ又は汚染物質信号に関連付けられていない各ビンには、1のビン重みwiが割り当てられる。他の例では、ノイズ又は汚染物質信号に関連付けられていないビンは、等しく重み付けされないが、代わりに、各ビンの信号強度に基づいて重み付けされる。
【0084】
例示するために、ビンの信号レベルが第1閾値強度値(例えば、最小(ノイズ)閾値強度値)未満である場合、システム200は、ビンに、ゼロ(0)のビン重みwiを割り当てることができる。ビンの信号レベルが第1閾値強度値以上であるが、第2閾値強度値未満(例えば、15%、20%、25%等の相対存在量)である場合、システム200は、ビンに、0よりも大きいが1未満であるビン重みwiを割り当てることができる。ビンの信号レベルが第2閾値強度値以上であるが、第3閾値強度値(例えば、汚染物質のカットオフのための最大強度値)未満である場合、システム200は、ビンに、1のビン重みwiを割り当てることができる。ビンの信号レベルが第3閾値強度値よりも大きい場合、システム200は、ビンに、ゼロ(0)のビン重みwiを割り当てることができる。第1閾値強度値と第2閾値強度値との間のビンの場合、ビンに割り当てられたビン重みwiは、同じであってもよく、第1閾値強度レベルと第2閾値強度レベルとの間の各ビンの強度の関数として線形に変化してもよく、又は、各ビンの信号強度に基づいて非線形に(例えば、指数関数的に、段階的に、等)変化してもよい。
【0085】
いくつかの例では、第1閾値強度レベル、第2閾値強度レベル、及び、第3閾値強度レベルのうちの任意の1つ以上は、m/zとともに線形に変化する(例えば、m/zが増加するにつれて、線形に減少する)。これは、個々に分解されたイオンの強度が、m/zが減少する(電荷zが増加する)につれて、増加するためである。
【0086】
本明細書に記載されているように、ビン重みwiを使用して占有されたm/z空間をスケーリングすることによって、低い信号強度を有するビンの占有されたm/z空間への寄与は、より高い信号強度を有するビンの占有されたm/z空間への寄与よりも小さく重み付けされ得る。これは、より高い信号強度を有するビンが、より低い信号強度を有するビンよりも信号干渉に対して寄与する可能性がより高いからである。
【0087】
動作506において、システム200は、占有されたm/z空間内の信号の合計された強度を決定する。システム200は、第1質量スペクトルを通って進み、各ビンの信号強度を問い合わせて、占有されたm/z空間から除外された、選択されたm/z範囲の任意のビンの信号強度を除外する。例えば、システム200は、以下の式(3)に従って、占有されたm/z空間内のビンの信号強度を合計することによって、合計された強度を決定することができる。
【0088】
【数3】
式中で、Nは、ビンの数であり(式(2)と同様)、添字iは、1~Nのビンを示し、W
iは、各ビンに割り当てられた信号重みであり、r
iは、各ビンの信号強度である。システム200は、ビン重みw
iについて上述した任意の方法で、各ビンについての信号重みW
iを決定することができる。例えば、最小閾値強度値未満の信号強度を有し、かつ/あるいは、汚染物質信号に関連付けられた各ビンには、ゼロ(0)の信号重みW
iが割り当てられ得る。ノイズ又は汚染物質に関連付けられていない各ビンには、1の信号重みW
iが割り当てられ得る。他の例では、ノイズ又は汚染物質に関連付けられていないビンは、等しくは重み付けされないが、代わりに、ビン重みw
iについて上述したように、各ビンの信号強度r
iに基づいて重み付けされる。いくつかの例では、各ビンについての信号重みW
i及び、ビン重みw
iは、同じである(例えば、W
i=w
i)。他の例では、各ビンについての信号重みW
i及びビン重みw
iは、異なってもよい。本明細書で説明されているように、ビンの信号強度をスケーリングすることによって、合計された強度に対する低い信号強度を有するビンの寄与は、より高い信号強度を有するビンの寄与よりも小さく重み付けされ得る。この場合も、これは、より高い信号強度を有するビンが、より低い信号強度を有するビンよりも信号干渉に対して寄与する可能性がより高いためである。
【0089】
動作508において、システム200は、占有されたm/z空間内の合計された強度、及び、占有されたm/z空間に基づいて、測定された信号密度を決定する。例えば、システム200は、以下の式(4)に従って、測定された信号密度を決定することができる。
【0090】
【数4】
式中で、占有されたm/z空間は、動作504において決定された通りであり、合計された強度は、動作506において決定され通りである。
【0091】
動作510において、システム200は、動作508において決定されたように、測定された信号密度(単位m/z当たりの強度)、及び、所定の目標信号密度に基づいて、後続の取得イベントのための蓄積時間を設定する。システム200は、動作306に関して上述した任意の方法の中に含まれる、任意の好適な方法で、蓄積時間を設定することができる。
【0092】
動作512において、システム200は、目標信号密度が達成されたかどうかを判定する。いくつかの例では、システム200は、測定された信号密度が測定された信号密度の閾値量(例えば、5%、10%、15%、等)以内にあるときに、目標信号密度が達成されたと判定する。システム200が、目標信号密度が達成されたと判定した場合、方法500の処理は終了し、AICは完了したとみなされる。次いで、動作510において設定された蓄積時間を用いて、実験分析を実施することができる。システム200が、目標信号密度が達成されていないと判定した場合、方法500の処理は、動作514に進む。
【0093】
動作514において、システム200は、第2質量スペクトルを取得する。動作512は、動作502について本明細書で説明された任意の方法を含む、任意の好適な方法で実施することができる。例えば、第2質量スペクトルは、別の調査スペクトルであってもよい。ただし、第2質量スペクトルは、動作510において設定された蓄積時間を用いて取得される。動作514が完了すると、方法500の処理は、動作506に戻って、第2質量スペクトルの測定された信号密度を決定する。方法500の処理は、システム200が、目標信号密度が達成されたことを決定するまで、継続し、かつ、繰り返すことができる。
【0094】
方法500は、実験分析の前、及び/又は、最中の、任意の好適な時間に実施することができる。例えば、方法500は、I2MS実験を開始する前に実施されてもよい。追加的又は代替的に、方法500は、実験分析中に実施されて、蓄積時間を再較正することができる。いくつかの例では、再較正は、ユーザによって開始される。代替的な例では、システム200は、1つ以上の調査スペクトルを定期的に取得して、測定された信号密度を目標信号密度と比較し、再較正することが保証されるかどうかを判定する。例えば、システム200は、動作502、504、506、508、及び、512を定期的に実施して(当面の間、動作510を省略する)、方法500を実施して蓄積時間を再較正するべきかどうか判断することができる。
【0095】
上記に説明したように、方法300、400、又は500は、I2MS実験中に実施されて、試料を特徴付け、その試料中の分析物の質量領域スペクトルを取得することができる。分析物としては、免疫グロブリン又はその重鎖、軽鎖、若しくは、Fdドメインなどの、1つ以上のプロテオフォーム又はそれらの生体分子複合体が挙げられ得るが、これらに限定されない。本明細書で使用される場合、「プロテオフォーム」とは、単一遺伝子のタンパク質生成物が見出され得る異なる分子形態の全てを指し、遺伝的変異、選択的スプライシングされたRNA転写及び翻訳後修飾、並びに、その他類似のものに起因する変化を含む。いくつかの例では、試料中のプロテオフォームは、IgG、IgA、IgE、又はIgMなどの免疫グロブリンである。I2MSは、識別前にプロテオフォームを分離することなく、複雑なプロテオフォーム混合物及びそれらの複合体を測定することを可能にする。
【0096】
AICを使用するI2MS技法は、本明細書に記載されているように、血漿を処理するための完全な解決策、及び、自動化されたI2MS分析に向けて、首尾よく統合することができる。自動化されたI2MS分析は、混合物の複雑さに左右されることなく、数百人もの患者のコホート群におけるタンパク質分析のための研究を開放した。質量領域におけるスペクトル出力は、任意の更なるデコンボリューションソフトウェアを全く必要とせず、このプラットフォームにより、6~100kDaの範囲にわたる、変性タンパク質混合物の分析及び特徴付けが可能になり得る。I2MS分析の高い処理能力の自動化は、また、無傷のタンパク質に対する高分解能質量領域スペクトルの高速かつ堅牢な取得も可能にする。
【0097】
図6は、AICを使用してCDMSを実施する例示的な方法600を示している。
図6は、一実施形態による例示的な動作を示しているが、他の実施形態は、
図6に示された動作のうちのいずれかを省略し、追加し、再順序付けし、かつ/あるいは、修正することができる。
図6に示された動作のうちの1つ以上は、システム200、及び/又は、質量分析計100、それらの中に含まれる任意の構成要素、及び/又は、それらの任意の実施態様(例えば、質量分析計100、質量分析計100の1つ以上の構成要素、及び/又は、質量分析計100とは別個のリモートコンピューティングシステム)によって、実施することができる。方法600の動作は、本明細書で説明される任意の方法を含む、任意の好適な方法で実施することができる。
【0098】
動作602において、試料から生成されたイオンは、蓄積時間にわたってイオンストア(例えば、イオンストア104)内に蓄積される。いくつかの例では、試料は、プロテオフォームである。
【0099】
動作604において、高分解能質量分析器(例えば、軌道静電トラップ質量分析器)は、取得イベント中に、蓄積されたイオンのm/zの関数として強度を表す質量スペクトルを取得する。いくつかの例では、質量分析器は、I2MSモードで動作して、個々のイオンレジームにおけるイオンの集団の質量スペクトルを取得する。
【0100】
動作606において、質量スペクトルの選択されたm/z範囲の測定された信号密度は、質量スペクトルに基づいて決定される。いくつかの例では、測定された信号密度は、ピーク間隔アプローチに従って決定される。他の例では、測定された信号密度は、合計強度アプローチに従って決定される。
【0101】
動作608において、後続の取得イベントのための蓄積時間は、測定された信号密度、及び、目標信号密度に基づいて設定される。
【0102】
動作610において、質量スペクトルの選択されたm/z範囲内のピークによって表される個々のイオン種の電荷状態が決定される。例えば、電荷状態は、電荷デコンボリューションアルゴリズムによって決定されてもよい。代替的に、電荷状態は、I2MS技法に従って(例えば、STORIプロットを生成し、そして、傾き対電荷較正関数に基づいて電荷状態を決定することによって)決定されてもよい。
【0103】
動作612において、質量の関数として個々のイオン種の強度を表す質量領域スペクトルは、個々のイオン種の電荷状態、及び、個々のイオン種のm/zに基づいて生成される。
【0104】
次いで、方法600の処理は、動作602に戻り、プロセスは、後続の取得イベントに対して繰り返される。動作602において、イオンは、方法600の以前のサイクル中に動作608において設定された蓄積時間にわたって、イオンストア内に蓄積される。
【0105】
本明細書で説明された方法、装置、及びシステムに対して、様々な修正が行われ得る。いくつかの例では、システム200は、ユーザ入力を要求して、AICの方法の設定を管理又は調節するように構成することができる。例えば、システム200は、ユーザから、方法設定、目標分析物のリスト、選択されたm/z範囲、及び/又は、方法300、400、500、及び/又は600に関連付けられたパラメータの任意の他の初期値、若しくは、デフォルト値を取得することができる。システム200は、また、蓄積時間が変化するか、若しくは、閾値量によって変化するとき、などの特定の変化、又は、評価が、パラメータ(例えば、目標信号密度、蓄積時間、等)が調節されるべきであることを示すとき、などの変化の必要性を、ユーザに通知するように構成することもできる。
【0106】
ある特定の実施形態では、本明細書で説明されたシステム、構成要素、及び/又は、プロセスのうちの1つ以上は、1つ以上の適切に構成されたコンピューティングデバイスによって、実装及び/又は実施することができる。この目的のために、上述したシステム及び/又は構成要素のうちの1つ以上は、本明細書で説明されたプロセスのうちの1つ以上を実施するように構成された、少なくとも1つの非一時的コンピュータ可読媒体上に具現化された、任意のコンピュータハードウェア及び/又はコンピュータ実装された命令(例えば、ソフトウェア)を含み得るか、あるいは、それらによって実装され得る。具体的には、システム構成要素は、1つの物理的コンピューティングデバイス上に実装されてもよく、又は、2つ以上の物理的コンピューティングデバイス上に実装されてもよい。したがって、システム構成要素は、任意の数のコンピューティングデバイスを含んでもよく、いくつかのコンピュータオペレーティングシステムのいずれかを採用してもよい。
【0107】
ある特定の実施形態では、本明細書で説明されたプロセスのうちの1つ以上は、非一時的コンピュータ可読媒体において具現化され、かつ、1つ以上のコンピューティングデバイスによって実行可能な命令として、少なくとも部分的に実装され得る。一般に、プロセッサ(例えば、マイクロプロセッサ)は、非一時的コンピュータ可読媒体(例えば、メモリなど)から命令を受信し、かつ、それらの命令を実行し、それによって、本明細書で説明されたプロセスのうちの1つ以上を含む、1つ以上のプロセスを実施する。かかる命令は、様々な既知のコンピュータ可読媒体のいずれかを使用して、保管及び/又は送信され得る。
【0108】
コンピュータ可読媒体(プロセッサ可読媒体とも呼ばれる)は、コンピュータによって(例えば、コンピュータのプロセッサによって)読み出すことができるデータ(例えば、命令)を提供する際に関与する任意の非一時的媒体を含む。かかる媒体は、不揮発性媒体及び/又は揮発性媒体を含む多くの形態をとり得るが、それらに限定されない。不揮発性媒体は、例えば、光ディスク又は磁気ディスク、及び、他の永続メモリを含むことができる。揮発性媒体は、例えば、ダイナミックランダムアクセスメモリ(「dynamic random access memory、DRAM」)を含むことができ、これは、典型的には、主メモリを構成する。コンピュータ可読媒体の一般的な形態には、例えば、ディスク、ハードディスク、磁気テープ、任意の他の磁気媒体、コンパクトディスク読み取り専用メモリ(「compact disc read-only memory、CD-ROM」)、デジタルビデオディスク(「digital video disc、DVD」)、任意の他の光媒体、ランダムアクセスメモリ(「random access memory、RAM」)、プログラマブル読み取り専用メモリ(「programmable read-only memory、PROM」)、電気的消去書き込み可能読み取り専用メモリ(「erasable programmable read-only memory、EPROM」)、FLASH-EEPROM、任意の他のメモリチップ又はカートリッジ、若しくは、コンピュータが読み取ることができる任意の他の有形媒体が含まれる。
【0109】
図7は、本明細書で説明された動作、方法、及びプロセスのうちの1つ以上を実施するように具体的に構成され得る、例示的なコンピューティングデバイス700を示している。
図7に示すように、コンピューティングデバイス700は、通信インフラストラクチャ710を介して互いに通信可能に接続された通信インターフェース702、プロセッサ704、記憶デバイス706、及び、入力/出力(「input/output、I/O」)モジュール708、を含み得る。
図7には、例示的なコンピューティングデバイス700が示されているが、
図7に例示されている構成要素は、限定的であることを意図されていない。他の実施形態では、追加又は代替の構成要素が使用され得る。これより、
図7に示されたコンピューティングデバイス700の構成要素が、更に詳細に説明される。
【0110】
通信インターフェース702は、1つ以上のコンピューティングデバイスと通信するように構成することができる。通信インターフェース702の例としては、有線ネットワークインターフェース(ネットワークインターフェースカード、など)、無線ネットワークインターフェース(無線ネットワークインターフェースカード、など)、モデム、オーディオ/ビデオ接続、及び、任意の他の好適なインターフェースが挙げられるが、これらに限定されない。
【0111】
プロセッサ704は、概して、データを処理すること、及び/又は、本明細書で説明された命令、プロセス、及び/又は、動作のうちの1つ以上をインタープリットし、実行し、かつ/あるいは、それらの実行を指示することを可能にする、任意のタイプまたは形態の処理ユニットを表す。プロセッサ704は、記憶デバイス706に記憶されたコンピュータ実行可能命令712(例えば、アプリケーション、ソフトウェア、コード、及び/又は、他の実行可能データインスタンス)を実行することによって、動作を実施することができる。
【0112】
記憶デバイス706は、1つ以上のデータ記憶媒体、デバイス、又は、構成を含むことができ、任意のタイプ、形態、及び、組み合わせのデータ記憶媒体及び/又はデバイスを採用することができる。例えば、記憶デバイス706は、本明細書で説明された不揮発性媒体及び/又は揮発性媒体の任意の組み合わせを含むことができるが、これらに限定されない。本明細書で説明されたデータを含む電子データは、記憶デバイス706内に一時的に、かつ/あるいは、恒久的に記憶することができる。例えば、プロセッサ704に指示して、本明細書で説明された動作のうちのいずれかを実施するように構成されたコンピュータ実行可能命令712を表すデータは、記憶デバイス706に記憶されてもよい。いくつかの例では、データは、記憶デバイス706に存在する1つ以上のデータベース内に配置されてもよい。
【0113】
I/Oモジュール708は、ユーザ入力を受信し、かつ/あるいは、ユーザ出力を提供するように構成された1つ以上のI/Oモジュールを含むことができる。1つ以上のI/Oモジュールを使用して、単一の仮想体験のための入力を受信することができる。I/Oモジュール708は、入力及び出力の潜在能力の支えとなる任意のハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせを含むことができる。例えば、I/Oモジュール708は、キーボード若しくはキーパッド、タッチスクリーン構成要素(例えば、タッチスクリーンディスプレイ)、受信機(例えば、RF又は赤外線の受信機)、運動センサ、及び/又は、1つ以上の入力ボタンを含む、ユーザ入力を取り込むためのハードウェア、及び/又は、ソフトウェアを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0114】
I/Oモジュール708は、出力をユーザに提示するための1つ以上のデバイスを含むことができ、それらには、画像エンジン、ディスプレイ(例えば、表示スクリーン)、1つ以上の出力ドライバ(例えば、ディスプレイドライバ)、1つ以上のオーディオスピーカ、及び、1つ以上のオーディオドライバが含まれるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態では、I/Oモジュール708は、画像データをディスプレイに提供して、ユーザに提示するように構成される。グラフィカルなデータは、特定の実施態様に役立つことができるように、1つ以上のグラフィカルユーザインターフェース、及び/又は、任意の他のグラフィカルコンテンツを表すことができる。
【0115】
いくつかの例では、本明細書で説明されたシステム、コンピューティングデバイス、及び/又は、他の構成要素のうちのいずれかは、コンピューティングデバイス700によって実装され得る。例えば、記憶設備202は、記憶デバイス706によって実装されてもよく、処理設備204は、プロセッサ704によって実装されてもよい。
【0116】
以上の説明では、様々な例示的な実施形態及び例を、添付図面を参照して説明してきた。しかしながら、以下に示す特許請求の範囲に記載された主題の範囲から逸脱することなく、様々な修正及び変更をそれらに対して行うことができ、追加の実施形態及び例を実装することができることは明らかであろう。例えば、本明細書で記載された一実施形態、又は、例示的な特定の特徴は、本明細書で記載された別の実施形態又は例示的な特徴と組み合わされても、又は、それらに置き換えられてもよい。したがって、本明細書及び図面は、限定的な意味ではなく、例示的な意味で考慮されるべきである。
【0117】
本開示の利点及び特徴は、以下の実施例によって更に説明することができる。
【0118】
実施例1.質量分析のための自動イオン制御を実施する方法であって、電荷検出質量分析によって、取得イベント中に質量分析器によって分析されるイオンの集団の質量電荷比(m/z)の関数として強度を表す複数のピークを含む、質量スペクトルを取得することと、質量スペクトルに基づいて、質量スペクトルの選択されたm/z範囲の測定された信号密度を決定することと、測定された信号密度、及び、目標信号密度に基づいて、後続の取得イベントのためのイオン集団制御パラメータを設定することであり、イオン集団制御パラメータは、後続の取得イベント中に質量分析器によって分析される、イオンの集団を調整する、設定することと、を含む、方法。
【0119】
実施例2.測定された信号密度を決定することは、質量スペクトルの選択されたm/z範囲内に含まれる、隣接ピークの各セットについてのピーク間隔値を計算することと、計算されたピーク間隔値のセットに基づいて、選択されたm/z範囲についてのグローバルピーク間隔値を決定することと、を含む、実施例1に記載の方法。
【0120】
実施例3.グローバルピーク間隔値は、計算されたピーク間隔値のセットの平均値又は中央値を含む、実施例2に記載の方法。
【0121】
実施例4.計算されたピーク間隔値のセットは、計算されたピーク間隔値の最小値のほぼ50%を含む、実施例3に記載の方法。
【0122】
実施例5.計算されたピーク間隔値のセットは、計算されたピーク間隔値の最小値のほぼ40%を含む、実施例3に記載の方法。
【0123】
実施例6.計算されたピーク間隔値のセットは、閾値ピーク間隔値未満であるピーク間隔値を含む、実施例3に記載の方法。
【0124】
実施例7.後続の取得イベントのためのイオン集団制御パラメータを設定することは、測定された信号密度、及び、目標信号密度に基づいて、後続の取得のためのイオン集団制御パラメータにおける変化量を決定することと、イオン集団制御パラメータにおける決定された変化量に、フィルタ又は変化限界を適用することと、を含む、実施例1に記載の方法。
【0125】
実施例8.変化限界は、イオン集団制御パラメータにおける変化量の所定のパーセンテージを含む、実施例7に記載の方法。
【0126】
実施例9.フィルタは、イオン集団制御パラメータにおける最大変化量を含む、実施例7に記載の方法。
【0127】
実施例10.フィルタは、指数関数フィルタを含む、実施例7に記載の方法。
【0128】
実施例11.フィルタのパラメータ、又は、変化限界を設定するユーザ入力を受信することと、ユーザ入力に基づいて、フィルタのパラメータ、又は、変化限界を設定することと、を更に含む、実施例7に記載の方法。
【0129】
実施例12.取得イベントの前に、イオン集団制御パラメータを設定するユーザ入力を受信することと、取得イベントの前に、ユーザ入力に基づいて、取得イベントのためのイオン集団制御パラメータを設定することと、を更に含む、実施例1に記載の方法。
【0130】
実施例13.質量分析器は、軌道静電トラップ質量分析器、静電線形イオントラップ(ELIT)質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR)質量分析器、電気セクタ質量分析器、軌道周波数分析器、又は、飛行時間型質量分析器、を含む、実施例1に記載の方法。
【0131】
実施例14.測定された信号密度を決定することは、質量スペクトルの選択されたm/z範囲内の占有されたm/z空間を決定することと、占有されたm/z空間内の信号の合計された強度を決定することと、合計された強度及び占有されたm/z空間に基づいて、測定された信号密度を決定することと、を含む、実施例1に記載の方法。
【0132】
実施例15.占有されたm/z空間を決定することは、選択されたm/z範囲を、各々がビン幅を有する複数のビンに細分することと、選択されたm/z範囲において、汚染物質に対応するピークを識別することと、占有されたm/z空間から、汚染物質に対応するピークを含むビンを除外することと、を含む、実施例14に記載の方法。
【0133】
実施例16.汚染物質に対応するピークを識別することは、質量スペクトルの複数のピークに含まれるピークに電荷状態を割り当てることと、閾値電荷状態レベル以下の電荷状態を割り当てられたピークを汚染物質として識別することと、を含む、実施例15に記載の方法。
【0134】
実施例17.占有されたm/z空間を決定することは、質量スペクトルにおいて、選択されたm/z範囲に含まれるピークの中の最大強度レベルを有するピークのセットを識別することと、占有されたm/z空間から、最大強度レベルを有するピークを含むビンを除外することと、を更に含む、実施例15に記載の方法。
【0135】
実施例18.占有されたm/z空間内の信号の合計された強度を決定することは、選択されたm/z範囲を複数のビンに細分することであって、各ビンが強度値を有する、細分することと、占有されたm/z空間に含まれる各ビンの強度値を信号重みで重み付けすることと、占有されたm/z空間に含まれるビンの重み付けされた強度値を合計することと、を含む、実施例14に記載の方法。
【0136】
実施例19.第1閾値未満の強度値を有するビンに対する信号重みは、0(ゼロ)であり、第1閾値以上であるが第2閾値未満である強度値を有するビンに対する信号重みは、ゼロより大きく、かつ1未満であり、第2閾値以上である強度値を有するビンに対する信号重みは、1である、実施例18に記載の方法。
【0137】
実施例20.第1閾値以上であるが第2閾値未満である強度値を有するビンに対する信号重みは、第1閾値及び第2閾値に対するビンの強度値に基づく、実施例19に記載の方法。
【0138】
実施例21.質量分析を実施するための装置であって、蓄積時間にわたって、試料から生成されたイオンを蓄積するイオンストアと、取得イベント中に、電荷検出質量分析によって質量スペクトルを取得する質量分析器であり、質量スペクトルは、蓄積されたイオンが質量分析器に移動された後に、蓄積されたイオンに由来する検出されたイオンの質量電荷比(m/z)の関数として強度を表す複数のピークを含む、質量分析器と、コンピューティングデバイスであり、質量スペクトルに基づいて、質量スペクトルの選択されたm/z範囲の測定された信号密度を決定することと、測定された信号密度、及び、目標信号密度に基づいて、後続の取得イベントのための蓄積時間を設定することと、を行うように構成されている、コンピューティングデバイスと、を備える、装置。
【0139】
実施例22.測定された信号密度を決定することは、選択されたm/z範囲に含まれる隣接ピークの各セットについてのピーク間隔値を計算することと、計算されたピーク間隔値のセットに基づいて、選択されたm/z範囲についてのグローバルピーク間隔値を決定することと、を含む、実施例21に記載の装置。
【0140】
実施例23.グローバルピーク間隔値は、計算されたピーク間隔値のセットの平均値、又は、中央値を含む、実施例22に記載の装置。
【0141】
実施例24.計算されたピーク間隔値のセットは、計算されたピーク間隔値の最小値のほぼ50%を含む、実施例23に記載の装置。
【0142】
実施例25.計算されたピーク間隔値のセットは、計算されたピーク間隔値の最小値のほぼ40%を含む、実施例23に記載の装置。
【0143】
実施例26.計算されたピーク間隔値のセットは、閾値ピーク間隔値未満であるピーク間隔値を含む、実施例23に記載の装置。
【0144】
実施例27.後続の取得イベントのための蓄積時間を設定することは、測定された信号密度、及び、目標信号密度に基づいて、後続の取得のための蓄積時間における変化量を決定することと、蓄積時間における決定された変化量に、フィルタ又は変化限界を適用することと、を含む、実施例21に記載の装置。
【0145】
実施例28.変化限界は、蓄積時間における変化量の所定のパーセンテージを含む、実施例27に記載の装置。
【0146】
実施例29.フィルタは、蓄積時間における最大変化量を含む、実施例27に記載の装置。
【0147】
実施例30.フィルタは、指数関数フィルタを含む、実施例27に記載の装置。
【0148】
実施例31.コンピューティングデバイスは、フィルタのパラメータ、又は、変化限界を設定するユーザ入力を受信することと、ユーザ入力に基づいて、フィルタのパラメータ、又は、変化限界を設定することと、を行うように、更に構成されている、実施例27に記載の装置。
【0149】
実施例32.コンピューティングデバイスは、取得イベントの前に、蓄積時間を指定するユーザ入力を受信することと、取得イベントの前に、ユーザ入力に基づいて、取得イベントのための蓄積時間を設定することと、を行うように、更に構成されている、実施例21に記載の装置。
【0150】
実施例33.質量分析器は、軌道静電トラップ質量分析器、静電線形イオントラップ(ELIT)質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR)質量分析器、電気セクタ質量分析器、軌道周波数分析器、又は、飛行時間型質量分析器、を含む、実施例21に記載の装置。
【0151】
実施例34.測定された信号密度を決定することは、質量スペクトルの選択されたm/z範囲内の占有されたm/z空間を決定することと、占有されたm/z空間内の信号の合計された強度を決定することと、合計された強度及び占有されたm/z空間に基づいて、測定された信号密度を決定することと、を含む、実施例21に記載の方法。
【0152】
実施例35.質量分析を実施する方法であって、蓄積時間にわたってイオンストア内に、試料から生成されたイオンを蓄積することと、蓄積されたイオンを質量分析器に移動することと、電荷検出質量分析による質量分析器によって、取得イベント中に、移動されたイオンの質量スペクトルを取得することであって、質量スペクトルは、移動されたイオンの質量電荷比(m/z)の関数として強度を表す複数のピークを含む、取得することと、質量スペクトルに基づいて、質量スペクトルの選択された範囲の測定された信号密度を決定することと、後続の取得イベントのために、測定された信号密度、及び、目標m/z密度に基づいて、蓄積時間を設定することと、を含む、方法。
【0153】
実施例36.測定された信号密度を決定することは、質量スペクトルの選択されたm/z範囲に含まれる隣接ピークの各セットについてのピーク間隔値を計算することと、計算されたピーク間隔値のセットに基づいて、選択されたm/z範囲についてのグローバルピーク間隔値を決定することと、を含む、実施例35に記載の方法。
【0154】
実施例37.後続の取得イベントのための蓄積時間を設定することは、測定された信号密度、及び、目標信号密度に基づいて、後続の取得のための蓄積時間における変化量を決定することと、蓄積時間における決定された変化量に、フィルタ又は変化限界を適用することと、を含む、実施例35に記載の方法。
【0155】
実施例38.測定された信号密度を決定することは、質量スペクトルの選択されたm/z範囲内の占有されたm/z空間を決定することと、占有されたm/z空間内の信号の合計された強度を決定することと、合計された強度及び占有されたm/z空間に基づいて、測定された信号密度を決定することと、を含む、実施例35に記載の方法。
【0156】
実施例39.質量分析器は、軌道静電トラップ質量分析器、静電線形イオントラップ(ELIT)質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR)質量分析器、電気セクタ質量分析器、軌道周波数分析器、又は飛行時間型質量分析器を含む、実施例35に記載の方法。
【0157】
実施例40.個々のイオン質量分析を実施する方法であって、蓄積時間にわたってイオンストア内に、試料から生成されたイオンを蓄積することと、軌道静電トラップ質量分析器によって、蓄積されたイオンのm/zの関数として強度を表す質量スペクトルを取得することと、質量スペクトルに基づいて、質量スペクトルの選択されたm/z範囲の測定された信号密度を決定することと、測定された信号密度、及び目標信号密度に基づいて、後続の取得イベントのための蓄積時間を設定することと、質量スペクトルによって表されるイオンの電荷状態を決定することと、イオンの電荷状態、及び、イオンのm/zに基づいて、質量の関数として、個々のイオンの強度を表す質量領域スペクトルを生成することと、を含む。
【0158】
実施例41.イオンストアは、Cトラップ又は衝突セルを含む、実施例40に記載の方法。
【0159】
実施例42.選択されたm/z範囲を指定するユーザ入力を受信すること、を更に含む、実施例40に記載の方法。
【0160】
実施例43.選択されたm/z範囲の測定された信号密度を決定することは、選択されたm/z範囲に含まれる隣接ピークの各セットについてのピーク間隔値を計算することと、計算されたピーク間隔値のセットに基づいて、選択されたm/z範囲についてのグローバルピーク間隔値を決定することと、を含む、実施例40に記載の方法。
【0161】
実施例44.計算されたピーク間隔値のセットは、選択されたm/z範囲内の全てのピーク間隔値未満を含む、実施例43に記載の方法。
【0162】
実施例45.後続の取得イベントのための蓄積時間を設定することは、測定された信号密度、及び、目標信号密度に基づいて、後続の取得のための蓄積時間における変化量を決定することと、蓄積時間における変化量に、フィルタ又は変化限界を適用することと、を含む、実施例40に記載の方法。
【0163】
実施例46.試料は、プロテオフォームを含む、実施例40に記載の方法。
【0164】
実施例47.イオンは、無傷のタンパク質を含む、実施例40に記載の方法。
【0165】
実施例48.試料は、生体分子複合体を含む、実施例40に記載の方法。
【0166】
実施例49.イオンの集団は、取得イベント中に質量分析器によって分析される前に、蓄積時間にわたってイオンストア内に蓄積され、イオン集団制御パラメータは、イオンが後続の取得イベント中に質量分析器によって分析される前に、イオンがイオンストア内に蓄積される蓄積時間を含む、実施例1に記載の方法。
【0167】
実施例50.イオン集団制御パラメータは、質量分析器に注入されるイオン束を調整するイオン光学系に印加される電位を含む、実施例1に記載の方法。
【国際調査報告】