(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞の老化を迅速かつ非侵襲的に検出するためのマイクロ磁気共鳴リラクソメトリー(μMRR)
(51)【国際特許分類】
G01N 24/08 20060101AFI20241106BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G01N24/08 510Q
G01N24/08 510L
G01N33/483 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525234
(86)(22)【出願日】2022-10-27
(85)【翻訳文提出日】2024-06-21
(86)【国際出願番号】 US2022047982
(87)【国際公開番号】W WO2023076447
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ジョンユン ハン
(72)【発明者】
【氏名】ロウリー ボイヤー
(72)【発明者】
【氏名】スミサ スレンドラン タマラス
(72)【発明者】
【氏名】シュ フイ ネオ
(72)【発明者】
【氏名】チン アン ティー
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045CB01
2G045DB11
2G045FA36
2G045FA37
(57)【要約】
老化細胞は、磁気共鳴リラクソメトリーを使用して検出され得る。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
老化細胞を検出する方法であって、
複数の細胞を含む液体試料をセンサに装填すること;
該液体試料を含む該センサを磁気共鳴リラクソメトリー装置の検出コイルの内側または近くに配置すること;および
該液体試料中の老化細胞の量を検出するためにT
2値を測定すること、を含む前記方法。
【請求項2】
前記センサが、チューブまたはチャンバである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液体試料中の前記老化細胞の量が、参照試料と比較して測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記液体試料中の前記老化細胞の量が、前記液体試料中のフェリチン濃度に比例する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
老化細胞の量を検出するためにT
2値を決定することが、前記液体試料中のFe
3+の量を定量することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試料中に老化細胞が存在するか否かを判定するため、前記T
1緩和時間がT
2値と組み合わされて使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記T
1またはT
2値を決定することは、1分未満の期間にわたってパルス列を供給することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記T
1またはT
2値を決定することは、2~70回のスキャンを取得し、平均化することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記T
2値が、老化細胞の数が増えるにつれて低下する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞が、間葉系間質細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、造血幹細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞が、人工多能性幹細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
磁気共鳴リラクソメトリー装置の検出領域が、約1μL未満の体積の試料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
T
2を決定することには、細胞の常磁性イオンまたは強磁性イオンの含有量を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記常磁性イオンまたは強磁性イオンは、銅を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
患者に対する幹細胞または前駆細胞の有効性を改善する方法であって、
請求項1から15のいずれか一項の方法により、試料中の老化細胞を検出すること;
該試料中の該老化細胞の数を減らすために、該試料中の細胞を濃縮すること、を含む前記方法。
【請求項17】
細胞を濃縮することには、該試料を細胞分離装置に通すことを含み、それによって該試料中の老化細胞を非老化細胞から分離することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
該細胞分離装置が、マイクロ流体スパイラルパスを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
老化細胞を検出するためのシステムであって、
液体試料中の老化細胞の量を検出するように構成された磁気共鳴リラクソメトリー装置;および
該磁気共鳴リラクソメトリー装置からの出力に基づいて、該液体試料中の該老化細胞の量を減らすための細胞分離装置を備える、前記システム。
【請求項20】
前記液体試料が、マイクロキャピラリー内に収容される、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記液体試料が、細胞バッチから採取される、請求項19に記載のシステム。
【請求項22】
前記細胞分離装置は、前記老化細胞の量を検出することに基づいて、前記細胞バッチから老化細胞を除去する、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記細胞分離装置は、マイクロ流体セルソーター、慣性集束装置、マイクロ流体濾過装置、遠心流動装置、決定論的横置換(DLD)チップ、接線流精密濾過装置、またはそれらの組み合わせを含む、請求項19に記載のシステム。
【請求項24】
該細胞分離装置が、マイクロ流体スパイラルパス装置を含む、請求項19に記載のシステム。
【請求項25】
前記磁気共鳴リラクソメトリー装置は、前記液体試料中の老化細胞の量を検出するためにT
2値を測定するように構成されている、請求項19に記載のシステム。
【請求項26】
前記液体試料中の前記老化細胞の量が、前記液体試料中のフェリチン濃度に比例する、請求項19に記載のシステム。
【請求項27】
前記磁気共鳴リラクソメトリー装置は、老化細胞の量を検出するためにT
2値を測定するように構成され、該液体試料中のFe
3+の量を定量することを含む、請求項19に記載のシステム。
【請求項28】
前記老化細胞が、間葉系間質細胞(MSC)、造血幹細胞(HSC)、または人工多能性幹細胞(iPSC)を含む、請求項19に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権の主張)
本出願は、2021年10月28日に出願された米国仮出願第63/272,738号の優先権を主張するものであり、引用によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【0002】
(技術分野)
本発明は、非侵襲的検出のためのシステムおよび方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
細胞老化とは、加齢やその他の外的または内的条件により、細胞の遺伝的、代謝的、および形態的変化を伴う細胞周期離脱につながる細胞状態である(参考文献1)。老化は癌の発症および腫瘍の進行を防ぐために重要となり得るが(参考文献2~5)、体内の老化細胞の蓄積は、特に神経変性、心血管疾患、変形性関節症、腎機能障害、非アルコール性脂肪肝疾患、2型糖尿病などの加齢性疾患において、有害な影響を及ぼす可能性がある(参考文献3、6、7)。老化特性を持つ細胞は、加齢性疾患に罹患した組織に存在することが多く、その検出と除去が医学的介入の主要な目標となっている(参考文献2)。老化細胞では、DNA複製、DNA修復、および細胞周期に関与する遺伝子の発現が低下する(参考文献8)。さらに、老化細胞は細胞老化関連分泌現象(SASP)を示し、組織の微小環境の変化、局所または全身の炎症、正常な組織構造の破壊を引き起こし、老化細胞の免疫クリアランスに対する耐性をもたらす(参考文献3、6および9)。加齢とは別に、DNA損傷(参考文献10)、活性酸素種(ROS)(参考文献11)、特定の癌遺伝子の活性化(参考文献12)、およびインターフェロン-βの暴露(参考文献13)のような腫瘍関連ストレスも細胞老化を誘発する(参考文献2)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(概要)
成体間葉系間質細胞(MSC)の試験管内培養における老化細胞の存在は、再生医療および細胞療法における臨床的有用性に疑問を投げかけている。マイクロスケール磁気共鳴リラクソメトリー(μMRR)と検出システムを用いて、不均質な細胞培養中の老化細胞を非侵襲的かつ迅速に検出する方法が報告されている。たとえば、μMRRで測定されたT2緩和時間は、継代やドナーの違い、慣性スパイラルマイクロ流体装置によってサイズ選別されたMSC、および老化誘導されたMSCなど、多様な条件下での老化細胞の割合と強く相関していることが示されている。μMRR測定は、しばしば細胞の破壊につながる、従来の老化検出のアッセイともよい相関を示した。老化細胞の存在は、MSCの多系列分化能力と品質に影響を与える可能性があるため、本明細書に記載のμMRRアッセイおよびシステムは、患者に対するMSCの有効性を改善するための、有望で非侵襲的かつ迅速な重要な品質分析法である。
【0005】
ここでは、マイクロ磁気共鳴リラクソメトリー(μMRR)を用いた、陽子の横緩和に基づく迅速かつ非侵襲的な細胞老化の検出について説明する。
【0006】
一態様では、老化細胞を検出する方法は、複数の細胞を含む液体試料をセンサに装填すること、液体試料を含むセンサを磁気共鳴リラクソメトリー装置の検出コイル内に配置すること、および液体試料中の老化細胞の量を検出するためにT2値を決定すること、を含むことができる。センサは、チューブでもチャンバーでもよい。
【0007】
別の態様では、患者に対する幹細胞または前駆細胞の有効性を改善する方法は、本明細書に記載の方法に従って試料中の老化細胞を検出すること、および試料中の細胞を濃縮して試料中の老化細胞の数を減少させること、を含むことができる。
【0008】
別の態様では、老化細胞を検出するためのシステムは、液体試料中の老化細胞の量を検出するように構成された磁気共鳴リラクソメトリー装置と、磁気共鳴リラクソメトリー装置からの出力に基づいて液体試料中の老化細胞の量を減少させる細胞分離装置と、を含むことができる。特定の状況では、液体試料は、細胞バッチから採取されてもよい。細胞分離装置は、老化細胞の量を検出することに基づいて、細胞バッチから老化細胞を除去することができる。
【0009】
特定の状況では、磁気共鳴リラクソメトリー装置は、液体試料中の老化細胞の量を検出するためにT2値を測定するように構成することができる。
【0010】
特定の状況では、液体試料中の老化細胞の量は、液体試料中のフェリチン濃度に比例し得る。
【0011】
特定の状況では、磁気共鳴リラクソメトリー装置は、老化細胞の量を検出するためにT2値を測定するように構成することができ、液体試料中のFe3+の量を定量することを含む。
【0012】
特定の状況では、液体試料中の老化細胞の量は、参照試料と比較して決定され得る。
【0013】
特定の状況では、液体試料中の老化細胞の量は、液体試料中のフェリチン濃度に比例し得る。
【0014】
特定の状況では、老化細胞の量を検出するためにT2値を決定することには、液体試料中のFe3+の量を定量することを含み得る。
【0015】
特定の状況では、磁気共鳴リラクソメトリー装置は、高周波プローブを含み得る。
【0016】
特定の状況では、試料中に老化細胞が存在するか否かを判定するため、T1緩和時間がT2値と組み合わせて使用され得る。
【0017】
特定の状況では、T1またはT2値を決定することは、1分未満の期間にわたってパルス列を供給することを含み得る。
【0018】
特定の状況では、T1またはT2値を決定することは、2~70回のスキャンを取得し、平均化することを含み得る。
【0019】
特定の状況では、T2値が、老化細胞の数が増えるにつれて低下することがある。
【0020】
特定の状況では、細胞は、幹細胞または前駆細胞を含み得る。例えば、幹細胞または前駆細胞は、間葉系間質細胞(MSC)、造血幹細胞(HSC)、または人工多能性幹細胞(iPSC)を含み得る。
【0021】
特定の状況では、磁気共鳴リラクソメトリー装置の検出領域は、約1μL未満の体積の試料を含み得る。たとえば、体積が、0.1μL未満、約0.01μL未満、約0.001μL未満、または約0.0001μL未満になることがあり、特定の状況によっては、体積は約1pLから10pLになることがある。
【0022】
特定の状況では、T2を決定することには、細胞の常磁性イオンまたは強磁性イオンの含有量を測定することを含み得る。常磁性イオンまたは強磁性イオンは、鉄または銅を含み得る。
【0023】
特定の状況では、細胞を濃縮することには、試料を細胞分離装置に通すことを含み得、それによって試料中の老化細胞を非老化細胞から分離する。
【0024】
特定の状況では、細胞分離装置は、マイクロ流体セルソーター、慣性集束装置、マイクロ流体濾過装置、遠心流動装置、決定論的横置換(DLD)チップ、接線流精密濾過装置、またはそれらの組み合わせを含み得る。
【0025】
特定の状況では、細胞分離装置は、マイクロ流体スパイラルパスを含み得る。
【0026】
特定の状況では、液体試料がマイクロキャピラリー内に収容され得る。
【0027】
他の態様、実施形態、および特徴は、以下の説明、図面、および請求項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
(図面の簡単な説明)
【
図1A】
図1Aは、磁気共鳴リラクソメトリー(MRR)装置の概略図を示している。
【
図1B】
図1Bは、磁気共鳴リラクソメトリー(MRR)装置と細胞分離装置とを含むシステムの概略図を示している。
【
図2】
図2は、拡大培養から老化MSCを分離し、そのMRRを検出するプロトコルを示している。図に示すように、スパイラルマイクロ流体装置は、1つの注入口と2つの排出口を有している。MSC培養液をマイクロ流体装置に送液し、3.5ml/minの速度で選別して内側排出口から大きな細胞(22~26μm)を採取し、外側排出口から再び1.5ml/minの速度で細胞を選別して、小さくて増殖している細胞(11~15μm)と中サイズの細胞(15~22μm)を採取する。選別された全細胞の正規化濃度は、マイクロキャピラリーチューブに充填され、MRRによって分析される。
【
図3A】
図3Aは、正常細胞と老化細胞における鉄イオンの異なる挙動を示す概略図を示している。
【
図3B】
図3Bは、本明細書に記載されたシステムおよび方法で使用できるパルスシーケンスを示している。
【
図3C】
図3Cは、MRRシステムおよび老化測定を示している。
【
図4A】
図4Aは、スパイラルマイクロ流体装置を用いた、若い/増殖中のMSCと老化MSCとのMSC拡大培養からの分離を示している。MSC拡大培養は、マイクロ流体装置に送り込まれ、様々な速度で選別され、異なるサイズのMSCが排出口で採取される。
【
図4B】
図4Bは、スパイラルマイクロ流体選別装置を用いて選別されたMSCの細胞径(μm)を示している。
【
図4C】
図4Cは、スパイラルマイクロ流体装置を用いた、2人のドナーからの未選別MSCとサイズ選別されたMSCの平均T
2値(n=6)を示している。大細胞(22~26μm)は、第1ラウンドの選別で採取されたサイズ選別されたMSCであり、中細胞(15~22μm)および小細胞(11~15μm)は、第2ラウンドの選別で採取されたものである。未選別・小細胞(n=6、*P=0.001)および未選別・大細胞(n=6、*P=0.002)の統計分析は、両側T検定によって行った。
【
図4D】
図4Dは、未選別MSCとサイズ選別されたMSCのmRNA発現レベルを示しており、大型MSCにおける老化マーカーP16とP21の過剰発現を示している。
【
図4E】
図4Eは、2つの異なるドナーからの未選別MSCとサイズ選別されたMSCのルミネックスアッセイが、老化に関連する分泌表現型の過剰発現を示していることを示している。
【
図4F】
図4Fは、未選別MSCとサイズ選別されたMSCのβ-ガラクトシダーゼ染色を示しており、老化MSCの細胞質が青く染色されている(黒矢印)。
【
図5A】
図5Aは、異なるドナーD1からD5(継代3)からのMSCのT
2値(n=3)を示している。
【
図5B】
図5Bは、継代3における各MSCドナーの多系列分化(脂肪形成、骨形成および軟骨形成)の画像を示している。カルシウム沈着についてはアリザリンレッドS染色で骨形成誘導が確認され、脂質滴の検出についてはオイルレッドO染色で脂肪形成の分化が確認された。軟骨形成の分化は、サフラニンOによるグリコサミノグリカン染色によって確認された。
【
図5C】
図5Cは、3から8まで連続的に継代したMSCの平均T
2値(n=3)を示している。
【
図5D】
図5Dは、同一のドナーからの継代P7のMSCのP21およびP16の相対的なmRNA発現値を、対照としての継代P4と比較して示している。
【
図5E】
図5Eは、同一のドナーからの継代P4、P6およびP8のMSCのβ-ガラクトシダーゼ染色を示しており、老化MSCの細胞質が青く染色されている(黒矢印)。
【
図6A】
図6Aは、継代P3、P5、P6およびP3からのドキソルビシン処理されたMSCとして拡大培養されたMSCの免疫蛍光画像を示している。細胞は、赤色蛍光を発する老化マーカー(γ-H2aX巣)と、緑色蛍光を発する増殖マーカー、5-エチニル-2'-デオキシウリジン(Edu)によって染色される。細胞核は、DNAに結合すると青色蛍光(DAPIとして示す)を発するNucBlue(Hoechst 33342)で対比染色される。
【
図6B】
図6Bは、継代P3、P5およびP6のMSCのβ-ガラクトシダーゼ染色を示しており、老化MSCの細胞質が青く染色されている。
【
図6D】
図6Cおよび6Dは、全画像における青色蛍光染色の数に対する緑色と赤色蛍光染色の数をカウントすることによって算出した、増殖(Pf)指数(%)と老化(Sn)指数(%)を示している。P3、P5、P6およびDOX処理したMSCにおいて3回繰り返した染色実験のそれぞれから合計10枚の画像を、(
図6C)および(
図6D)にプロットされているPf指数(%)とSn指数(%)の計算に使用した。
【
図6E】
図6Eは、P3、P5およびP6の異なる継代におけるMSCの老化関連マーカーp16およびp21の相対的なmRNA発現値を示している。
【
図6F】
図6Fは、P3、P5、P6およびDOX処理の平均T
2結果(n=3)を示している。P3とDOX(n=3)の統計分析は、(
図6C)、(
図6D)および(
図6F)において両側T検定によって行われ、P値は、それぞれのグラフに示されている。
【
図6G】
図6Gは、異なる濃度(10および20mg/ml)でTGB-β1(青)とIL-1(赤)で処理された対照MSC(同じドナー、継代4)の平均T
2値(n=3)を示している。
【
図6H】
図6Hは、老化MSCのMRRアッセイの検出限界を示している。対照用MRRと、継代4で同じドナーのMSCを処理したTGF-β1(10および20mg/ml)のマイクロキャピラリーチューブ内の細胞数の増加に伴うMSCの平均T
2値(n=3)が示されている。マイクロキャピラリーチューブ内のPBSのT
2値(n=3)は、図(
図6B)の下部に黒いバーで示されている。
【
図7A】
図7Aは、未選別のMSCと選別されたMSCのT
2値を示している。大細胞(22~26μm)は、第1ラウンドの選別で採取された選別されたMSCであり、中細胞(15~22μm)および小細胞(11~15μm)は、第2ラウンドの選別で採取されたものである。
【
図7B】
図7Bは、未選別の細胞と選別された細胞の多系列分化(骨形成および軟骨形成)の画像を示している。
【
図8】
図8は、老化MSCのMRRの検出限界を示している。対照MSCとTGF-β1(10および20mg/ml)で処理したMSC(ドナー3、継代4)の様々な細胞濃度のT
2値が示されている。PBSのT
2値は、図の下部に黒いバーで示されている。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(詳細な説明)
細胞老化とは、加齢およびその他の外的または内的条件により、細胞の遺伝的、代謝的、および形態学的変化を伴う細胞周期の終了につながる細胞状態である(参考文献1)。加齢とは別に、DNA損傷(参考文献10)、活性酸素種(ROS)(参考文献11)、特定の癌遺伝子の活性化(参考文献12)、およびインターフェロン-βの暴露(参考文献13)のような腫瘍関連ストレスも細胞老化を誘発する(参考文献2)。
【0030】
組織で観察される生体内老化に加えて、細胞老化は培養細胞でも観察される(参考文献14)。例えば、間葉系幹細胞/間質細胞(MSC)は、虚血性疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、再生能疾患、および変性疾患への適応のため、多くの臨床試験で集中的に研究されてきた(参考文献9)。しかし、老化MSCはその臨床応用において重大な課題を突きつけている(参考文献14および15)。MSCの臨床的可能性にもかかわらず、試験管内での長期培養後、MSC群には、形態学的変化および表現型変化とともに増殖停止が観察される(参考文献14および16-18)。さらに、高齢のドナーから単離されたMSCは、若いドナーよりも高いレベルの老化を示す(参考文献19)。老化MSCにおいては、細胞は、肥大して平らになり、硬化した核と顆粒状の細胞質を有する(参考文献3、14、18および20)。老化MSCは、多系列分化能力を低下させ(参考文献14、17、18および21)、分泌機能および免疫調節機能を変化させるため、治療的価値が低下する(参考文献3、22および23)。
【0031】
老化MSCを検出する標準的な方法は、細胞老化バイオマーカーである酸性リソソームβ-ガラクトシダーゼ(β-gal)の組織化学的染色である(参考文献3および24)。染色手順には、安定したpH(~6)、細胞固定、および長い培養期間(>12時間)が必要である。あるいは、改良型コロニー形成ユニットアッセイ(CFU-f)によって、複数回の継代後のMSCの残存増殖能を推定することにより、細胞老化を検出することができる(参考文献18、25および26)。リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)は、老化関連マーカーp16、p21、p53の遺伝子発現レベルを提供することによって、老化を検出することもできる(参考文献3、6および27)。しかし、これらのアッセイには時間と手間のかかる手順が必要である(参考文献28)。加えて、これらの方法は破壊的なエンドポイントアッセイであり、細胞製造中のMSCの品質管理には適切ではない。したがって、再生医療の細胞治療の品質管理にとって、MSCの老化状態をリアルタイムで定量できる迅速な検出方法が重要である。
【0032】
鉄ホメオスタシスとその機能不全が、老化および関連する症状と関連していることを示す重要な証拠がある(参考文献29~33)。細胞鉄は、Fe
2+(反応性、不安定または「遊離」鉄、反磁性)またはFe
3+(常磁性、しばしば鉄貯蔵タンパク質フェリチンと結合)の形で存在する(
図2A)。鉄恒常性細胞では、さまざまな鉄輸送系タンパク質(例えば、トランスフェリン(Tf)、TfR1、フェロポルチン、NCOA4、DMT1)と調節因子(例えば、p53、NRF2)によって(参考文献34)、Fe
2+/Fe
3+の取り込み、バランシング、リサイクルが維持され、多くの異なる分子経路が関与している(参考文献35)。 注目すべきは、細胞内鉄の増加は、老化表現型の普遍的な特徴であり、細胞老化の「天然のマーカー」として役立つ可能性があることを示す証拠が増えている。老化細胞は、鉄ホメオスタシス・タンパク質を調整することにより(参考文献36)、また貯蔵鉄をFe
2+にリサイクルするフェリチノファジー(参考文献37)(Fe
3+結合フェリチンのオートファジー)を阻害することによって、鉄(フェリチンに結合したFe
3+)を最大30倍まで蓄積する。このフェリチン(Fe
3+)への鉄の隔離は、フェリチノファジーから放出される不安定な鉄(Fe
2+)を必要とするユニークな細胞死経路である(参考文献39)、フェロトーシスも防止する(参考文献38)。したがって、細胞内鉄(Fe
3+)を直接定量することで、細胞老化の検出のための非侵襲的手段を提供できる可能性がある。
【0033】
マイクロスケール磁気共鳴リラクソメトリー(μMRR)は、効率的なマラリア診断法として以前に報告されている(参考文献40)。感染した赤血球(RBC)のヘモゾイン結晶中の常磁性Fe3+の磁化率の増加は、非感染/健康なRBCの反磁性Fe2+状態よりも速い陽子の横緩和(T2)を引き起こした(参考文献40および41)。さらに、糖尿病患者の血液中の酸化ストレス反応のμMRRベースの表現型検査が、従来のA1c検査の代替法として報告された(参考文献42)。また、分子および細胞標的を免疫磁気標識した類似のμMRR装置を使用し、腫瘍細胞(参考文献43~45)、バクテリア(参考文献46)、および結核菌(参考文献47)の高感度検出も報告されている。本明細書に示されるように、μMRRは、MSCの老化を検出するための非侵襲的、非標識的、かつ迅速な方法であり、細胞由来製品のためのMSC製造中に増殖能力が限られているMSCを同定することができ、他の細胞および組織における細胞老化を検出するために、この方法のより広範な適応への扉が開かれた。
【0034】
本明細書に記載されたシステムおよび方法は、少数の細胞(<105)を必要とし、試薬またはサンプル調製工程を必要としない、迅速で非侵襲的なアプローチによって、試験管内で老化細胞を定量する能力を提供する。磁気共鳴リラクソメトリー装置によるFe3+の直接定量は、qPCR、Luminexアッセイ、β-ガラクトシダーゼ染色などの老化細胞の測定に一般的に使用されている、従来のエンドポイントかつ時間のかかるアッセイと、予想外によく相関した結果を示した。陽子共鳴緩和を測定すると、試料中の老化細胞の割合が明らかになる。常磁性Fe3+(反磁性Fe2+は除く)は、磁化率を増加させ、細胞内の水分子の陽子核緩和を刺激するため、この測定は細胞鉄のFe3+含有量を具体的に定量化することになる。以前は、細胞内Fe2+(不安定鉄)は、比色法およびその他のアッセイで測定されていたが(参考文献54)、おそらくFe2+の反応性のため、Fe2+の信頼性の高い定量的検出は一般的に困難であった(参考文献55および56)。MRR測定は、試料中のFe3+の量を定量化するために使用できる。試料中のFe3+の量は、細胞老化と相関している可能性がある。
【0035】
磁気共鳴リラクソメトリーを実施するための装置は、例えば、米国特許10,429,467号に記載されており、引用によりその全体が組み込まれている。
図1Aに示すように、装置は、MRRシステムを含むことができる。
図1Aは、本開示の一態様による磁気共鳴リラクソメトリー(MRR)システム100の概略図である。システム100は、MRRシステム100を制御するためのFPGAベース(Field-Programmable Gate Array-based)の高周波(rf)スペクトロメータ、高周波パルスの生成のための第1のダイレクトデジタルシンセシスモジュール、生成された高周波パルスを高周波(rf)プローブおよび検出コイル110に送信するためのトランスミッタ(TRANS)、高周波プローブからの共振情報を受信するためのレシーバ(RCVR)、第1のパワーアンプ(PA)、プリアンプ(p-amp)、送信モードでは高周波(rf)プローブに高出力励起パルスを送信し、受信モード中にレシーバから高出力励起パルスを分離するためのデュプレクサ(Dup)、およびマグネットシステム120を含むことができる。試料130は、RF検出コイル内に配置できるチューブまたはチャンバーなど(例えば、マイクロキャピラリーチューブ)のセンサ内に配置することができる。多くの実施形態では、FPGAベースの高周波(rf)スペクトロメータは、FPGAベースの高周波(rf)スペクトロメータおよび第2のダイレクトデジタルシンセシス(DDS)を制御するように構成されたパルスプログラマー(PPG)を含むことができる。第2のDDSは、固定の中間周波数(IF)を生成することができる。第1のDDSは、可変の所望の周波数を生成するように構成することができる。本開示の一態様によれば、FPGAベースのスペクトロメータは、「Takeda K.(2007), “A highly integrated FPGA-based nuclear magnetic resonance spectrometer,” Rev Sci Instrum 78(3):033103」および/または「Takeda K.(2008)“OPENCORE NMR: open-source core modules for implementing an integrated FPGA-based NMR spectrometer,” Journal of Magnetic Resonance 192(2):218-229」に記載されている設計を使用することができ、これら2つの参考文献の教示が参照によりその全体が組み込まれている。
【0036】
MRRシステム100との間の情報の処理を容易にするために、FPGAベースの高周波(rf)スペクトロメータは、例えば、パーソナルコンピュータ、携帯電話および/またはポータブル電子タブレットを含む少なくとも1つの外部電子デバイスに接続可能である。MRRシステム100と少なくとも1つの外部電子デバイスとの接続は、USB、HDMI、および/またはWi-Fiおよび/またはBluetoothなどのワイヤレス接続手段の少なくとも1つを介して行うことができる。
【0037】
従来のNMRシステムでは、装置の主なコストは、超伝導磁石(または永久磁石)と高周波(rf)スペクトロメータにかかっていた。本開示の一態様によれば、システム全体のコストは、2500ドル未満になる可能性があり、そのコストの大部分はFPGAチップ(各1000ドル)、外部GHzクロック(各250ドル)、DDS(Analog-Device社製:AD9858、各400ドル)、1ワットパワーアンプ(100ドル)、プリアンプ(50ドル)、レシーバ(RCVR)(AD8343、各4ドル)、トランスミッタ(TRANS)(AD834、各20ドル、およびAD8343)、およびUSB(FT2232D、各10ドル)にかかる。括弧内に示されているのは、使用された主な電子部品のコストである。ピンコネクタ(例えば、SMA)、キャパシタ、rfスイッチ、rfトランス、rfフィルタなどのその他の周辺部品は、それぞれ10ドル未満である。
【0038】
MRRシステム100は、陽子、フッ素、リン、炭素などのNMR活性核を検出するために、様々なモードで動作するように適応可能である。MRRシステム100が動作する各モードで使用される磁場は、どの核種を検出するかによって異なる。動作モードによっては、MRRシステム100は、約0.1~3テスラ(T)の磁場で動作することができ、これは約1~150MHzに相当する。例えば、MRRシステム100が陽子NMRモードで動作している場合、磁場は約0.76Tであり、これは陽子NMR周波数の約31.9MHzに相当する。
【0039】
MRRシステム100は、パルスプログラマと第2のDDSから構成されるFPGAベースの高周波(rf)スペクトロメータによって制御することができる。CMOS技術と比較して、FPGAには再プログラム可能という利点がある。FPGAベースの高周波(rf)スペクトロメータは、例えば、米国カリフォルニア州サンノゼのAltera Corporation、米国カリフォルニア州サンノゼのXilinx, Inc. などのベンダーが提供するツールやソフトウェアを使用してプログラム可能である。例示的な実施形態では、FPGAチップには、ブレッドボード(ACM-202-80C8、ヒューマンデータ社、日本)に埋め込まれたEP3C80F780C8N(Altera社Cyclone III)を含むことができる。このチップは、81000個のロジック素子を有し、フルに使用すると3つの独立したif出力を生成できる。
【0040】
パルスプログラマは、高出力の励起rfパルスを生成できる。生成されたrfパルスは、次いで第1のパワーアンプを通過し、約1~1000マイクロ秒の間最適化されたrfパワーを生成し、すべての核を効果的に励起する。高出力のrfパルスは、rfプローブに送信される。これについては、本明細書でさらに説明する。
【0041】
例示的な動作では、液体状態と固体状態のNMRに使用されるパワーは、それぞれ約0.1W~10W、および約100W~1000Wである。MRRシステムには「強力な」パワーアンプが不可欠であることが多いが、そのような「強力な」パワーアンプはかさばり、高い消費電力を必要とするため、現場作業に深刻な制約が生じる。例えば、斬新で軽量な1ワットパワーアンプは、4cm×4cmのプリント回路基板で構成できる。ソレノイド型マイクロコイル(内径700~1000μm、例えば750、800、850、900または950μm)をさらに採用して、強い振動磁場B1を生成し、自由誘導減衰(FID)またはスピンエコーからの信号を拾うことができる。デュプレクサを採用することにより、送信モードでrfプローブに送信される高出力励起ifパルスを、受信モード中にレシーバまたは検出コイル110から分離することができる。FID/スピンエコーは、その後、ゲイン20dB、ノイズ指数2.83のプリアンプ(AMP-75+、Mini Circuits社、米国)で増幅され、最後に適切なローパスフィルターでフィルタリングされ、レシーバ回路に送られる。FIDは、静磁場(従来はz軸)を中心として回転する非平衡核スピン磁化によって生成される観測可能なNMR信号である。この非平衡磁化は、核スピンのラーマー周波数に近い共鳴高周波パルスを印加することによって誘導することができる。スピンエコーとは、90度の反転を1回行った後、共鳴時に180度のパルスで反転させたリフォーカスパルスである。
【0042】
マグネットシステム120は、持ち運び可能で軽量(例えば、約60g)であり、高い静磁場を発生させるように構成できる。マグネットシステム120は、rfプローブに隣接して配置された少なくとも1つの磁石を含むことができる。代替の実施形態には、rfプローブに隣接して配置された少なくとも2つの磁石を有することが含まれる。rfプローブは、少なくとも2つの磁石の間に配置され得る。マグネットシステム120は、永久磁石および/または電磁石を含むことができる。マグネットシステム120に使用される永久磁石は、例えば、ネオジム系磁石を含むことができる。
【0043】
磁気共鳴リラクソメトリー装置の検出領域は、検出用の約1μL未満の体積の試料を含み得る。例えば、試料は、キャピラリーチューブ、またはマイクロキャピラリーチューブ、またはチャンバーなどのセンサ内に供給できる。試料を周囲環境から密閉することで、磁気共鳴リラクソメトリー装置の老化細胞検出能力に悪影響を及ぼす可能性のある酸素およびその他の物質の暴露を減らすことができる。
【0044】
本明細書に記載されるように、また上述した装置の説明に基づいて、老化細胞を検出する方法は、複数の細胞を含む液体試料をセンサに装填すること、液体試料を含むセンサを磁気共鳴リラクソメトリー装置の検出コイル内に配置すること、および液体試料中の老化細胞の量を検出するためにT2値を決定すること、を含むことができる。老化細胞の量を検出するためのT2値の決定の詳細について以下に説明する。例えば、T2値が老化細胞の数が増えるにつれて低下することがある。特定の状況では、T2を決定することには、細胞の磁化率指数を測定することを含み得る。
【0045】
現在のμMRRセットアップは、例えば液体試料中の細胞懸濁液の測定にのみ適している。μMRRセットアップは、細胞培養プレート上の接着細胞に設計することができる。本明細書に記載された装置、システム、および方法は、老化細胞の同定プロセスを簡素化することによって細胞集団からの老化細胞の除去を促進し、そのアプローチを細胞操作技術と組み合わせて使用することにより、細胞療法の開発および改善に使用することができる。
【0046】
特定の例では、液体試料中の老化細胞の量は、参照試料と比較して決定され得る。装置は、液体試料中の老化細胞の量を迅速かつ確実に測定するために校正され得る。あるいは、装置が2つのサンプルを比較して、液体試料中の老化細胞の相対量を測定することもできる。例えば、2つの試料は、老化細胞の相対濃度が高いものと低いものとを区別することができる。
【0047】
特定の例では、液体試料中の老化細胞の量は、液体試料中のフェリチン濃度に比例し得る。以下で説明するように、液体試料中のフェリチンの量と液体試料中の老化細胞の量との間の予期せぬ関係は、磁気共鳴リラクソメトリー装置を使用して試料中の老化細胞の存在をモニタ、測定、または決定することを容易にする特徴の1つである。
【0048】
老化細胞の量を検出するためにT2値を決定する1つの方法には、液体試料中のFe3+の量を定量することを含み得る。特定の状況では、T2を決定することには、細胞の他の常磁性イオンまたは強磁性イオン(例えば、銅、具体的には銅イオン)の含有量を測定することを含み得る。他の常磁性イオンまたは強磁性イオンには、コバルト、ニッケル、またはマンガン、コバルトイオン、ニッケルイオン、またはマンガンイオンを含むことができる。磁気共鳴リラクソメトリー装置は、Fe3+に相関する陽子緩和挙動をモニタするように構成できる高周波プローブを含むことができる。例えば、T1またはT2値を決定することには、5分未満、4分未満、3分未満、2分未満、または1分未満の期間にわたってパルス列を供給することを含むことができる。
【0049】
老化細胞の検出精度を向上させるに、様々なアプローチが採られ得る。例えば、T1またはT2値を決定することには、複数のスキャンを取得して平均化することを含むことができる。最大100(またはそれ以上)のスキャンが平均化され得る。スキャン回数は、80未満、70未満、または60未満にすることができる。より一般的には、10~50スキャンが平均化され得る。少なくとも、特定の状況下では、2スキャン、4スキャン、5スキャン、8スキャン、10スキャン、12スキャン、14スキャン、16スキャン、18スキャン、20スキャン、22スキャン、24スキャン、26スキャン、28スキャン、または30スキャンが平均化され得る。特定の状況では、試料中に老化細胞が存在するか否かを判定するため、T1緩和時間がT2値と組み合わせて使用され得る。
【0050】
本明細書に記載された装置、システム、および方法は、多くの異なる細胞タイプの老化をモニタまたは分析するために使用できる。細胞集団中の老化細胞を同定することで、その集団を精製または純化して老化細胞を除去することができ、治療などの望ましい用途における細胞集団の生産性を向上させることができる。例えば、細胞は、幹細胞または前駆細胞を含み得る。例えば、幹細胞または前駆細胞は、間葉系間質細胞(MSC)、造血幹細胞(HSC)、または人工多能性幹細胞(iPSC)を含み得る。例えば、間葉系間質細胞(MSC)は、望ましい細胞療法においてより効果的に使用することができる。
【0051】
上記のシステムは、患者に対する間葉系間質細胞の有効性を向上させるために使用できる。有効性を向上させる方法は、上述したように試料中の老化細胞を検出すること、および試料中の細胞を濃縮して試料中の老化細胞の数を減少させること、を含むことができる。細胞分離装置は、膜を含む細胞分離システム、老化細胞を除去するための隔離剤、またはマイクロ流体装置であり得る。例えば、細胞を濃縮することには、試料を細胞分離装置に通すことを含むことができる。
【0052】
細胞分離装置、例えばマイクロ流体スパイラルパス装置は、試料中の非老化細胞から老化細胞を分離するために用いることができる。細胞分離装置は、マイクロ流体セルソーター、慣性集束装置、マイクロ流体濾過装置、遠心流動装置、決定論的横置換(DLD)チップ、接線流精密濾過装置、またはそれらの組み合わせを含み得る。細胞分離装置は、老化細胞のモニタリングに基づいて老化細胞を除去することができる。例えば、細胞分離装置は、老化細胞の量を検出することに基づいて、細胞バッチ(例えば、液体試料が採取された細胞バッチ)から老化細胞を除去することができる。
【0053】
図1Bに示すように、本明細書に記載されたシステムは、磁気共鳴リラクソメトリー装置200および細胞分離装置240を含むことができる。例えば、老化細胞を検出するためのシステムは、液体試料中の老化細胞の量を検出するように構成された磁気共鳴リラクソメトリー装置と、磁気共鳴リラクソメトリー装置からの出力に基づいて液体試料中の老化細胞の量を減少させる細胞分離装置と、を含むことができる。
【0054】
磁気共鳴リラクソメトリーを用いた老化MSCの非侵襲的かつ迅速な検出について説明する。
図3Aに示すように、正常細胞と老化細胞では鉄イオンの化学的性質が異なることが意外にも発見されている。正常細胞は、多数の鉄輸送体と鉄結合タンパク質によって媒介される鉄ホメオスタシスを維持している。老化細胞は、常磁性Fe
3+(不活性型の鉄)の蓄積と相関している。例えば、正常細胞はFe
2+とFe
3+の平衡と交換を踏むが、老化細胞はFe
3+を蓄積する。
【0055】
図3Bに示すように、T
2値を測定するためのCPMG(Carr-Purcell-Meiboom-Gill)パルスシーケンスは、MRRの永久磁石によって生成される不均一な磁場中で効率的に機能することができる。共鳴周波数21.65MHzの陽子核に、エコー間時間間隔tエコーで高周波パルス列を照射し、時間の経過とともに緩和するまで数千回のエコーを繰り返す。この時間の経過とともに減衰するエコーの高さを横緩和時間T
2と呼ぶ。
【0056】
図3Cに示すように、MRRシステムは、強い磁場を提供するポータブル永久磁石で構成することができる。自作の高周波(RF)検出プローブが、RFスペクトロメータに接続されている。T
2測定のために、マイクロキャピラリーチューブ内のMSC試料(若い/増殖中/老化MSC)がRF検出コイル内に配置され得る。マイクロキャピラリーチューブには、RF検出コイルの4mmの検出範囲に4μlのMSC試料が入っている。一般的に必要な細胞数は、検出体積内に60,000個のMSCである。明るい領域は、マイクロキャピラリーチューブを密封するためのクリストシールである。右側は、若いMSCと老化MSCの
1Hスピン-スピン緩和時間T
2を示しており、老化MSCでは若いMSCよりもT
2が減少している。
【0057】
結果
MRRアッセイにより、スパイラルマイクロ流体装置を用いたサイズ選別によって濃縮された大型MSCの老化レベルが高いことが確認された
【0058】
前臨床試験および臨床試験では、MSC培養での老化の形成が細胞の治療効果をしばしば低下させる。以前、細胞サイズは、その他の生物物理学的特性とともに、MSCの表現型を区別するための非侵襲的マーカーとして同定されていた(参考文献48および49)。小型のMSCは、一般に多能性MSCであるのに対し、大型のMSCは増殖が制限され、骨系統へより顕著に分化する傾向がある。慣性マイクロ流体装置によって分類された大型MSCは、小型のMSCと比較して、増殖能が制限されており、倍加時間が長い老化表現型を示すことが見出された(参考文献50)(
図4A~4F)。MRRアッセイは、スパイラルマイクロ流体装置を用いたサイズ選別に基づいて、大型MSCがより老化していることを示している。同じマイクロ流体装置を使用して、MSCを3つのサイズグループ(未選別、小型(11~15μm)、中型(15~22μm)、および大型(22~26μm)に選別した(
図4Aおよび4Bを参照)。サイズ選別された細胞は、次いでμMRRを使用して分析された(
図4C)。すなわち、MSCがマイクロキャピラリーチューブに加えられ、T
2測定のためにμMRR装置の高周波(RF)検出コイル内に配置された。選別されたMSCのMRR分析では、小型細胞から大型細胞へとT2値が減少しており(
図4C)、純水では~2000msである水の陽子核緩和が、老化MSC内の常磁性鉄(Fe
3+)不純物により著しく減少していることを示している。加えて、老化関連マーカーp16およびp21の発現レベルは(qPCRで測定)、中型および小型グループと比較して大型細胞で上昇した(
図4D)。さらに、β-gal染色(
図4E)は、MRRとqPCRの両方の結果と強く相関した。μMRRで測定したT
2値が低いことと合致して、大型グループ細胞と未選別グループ細胞でより高い強度のβ-gal染色が観察された。これらの結果は、老化細胞におけるFe
3+の保存に関する以前の報告(参考文献36)を支持するものである。なぜなら、T
2緩和が速くなるのは、細胞内の常磁性Fe
3+含有量の増加によるものだからである。老化関連分泌表現型(SASP)に関連する分子の分泌も、未選別MSC亜集団、サイズ選別されたMSC亜集団(小型、中型、大型)で測定された(
図4D)。SASPに関連する主要な分泌マーカーの高い発現が、より大きな細胞のMSCで認められた。例えば、引用によりその全体が組み込まれている、「Lu Yin, Zheng Yang, et al., Biomaterials, 240, 119881 (2020)」を参照。
【0059】
MRRに基づく老化測定は、異なるドナーからのMSCの多系列分化能力の変化と相関している
【0060】
MRR分析では、異なる継代およびドナーからのMSCにおける多系列分化の変化を測定する。MSCの重要な治療品質は、脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞などの細胞系列への多系列分化する能力である。異なるドナーからのMSCは、その多系列分化能力にばらつきがあり、これが治療用MSCの一貫した品質管理を実現する上で、重要かつ十分に理解されていない制限となっていた。ここでは、5つの異なるドナー(D1~D5;ドナーの説明については「方法」を参照)から試験管内で継代3まで培養したMSCを分析した。MRR分析では、各T
2実験に6×10
4の正規化細胞数を用いた。
図5Aは、異なるドナーからのMSCのT
2プロファイルを示している。対応するドナー(D1からD5)からのMSCの多系列分化能力を染色によって測定した(
図5B)。分化能力を分析することによって、D1 MSCは、多系列分化能力を完全に有しており、D5は最も限定的な能力を有していることが認められた。各ドナーからのMSCのT
2値は、全体的な分化能力と相関しており、D1からのMSCで最も高いT
2値が観察されたのに対し、D5からのMSCでは最も低いT
2値が測定された。つまり、低いT
2値は、多系列分化能力の低下に対応していた。特定のドナーからのMSCにおける多系列分化能力の低下は、集団中の老化細胞の割合が高いことによる影響を受けている可能性があり、このことは細胞増殖にも影響する可能性がある。
【0061】
MRR分析は、MSCの連続継代により細胞老化が増加することを示している
【0062】
MRRを標準アッセイと相関させることは可能である。MSCの試験管内培養の間、細胞老化は、連続継代中に増加する傾向がある。老化細胞は、MSCの増殖、および分化能力、ひいては臨床用途の細胞の品質に影響を与える可能性がある。したがって、老化細胞を迅速に同定し、MSC培養の各継代から老化細胞を潜在的に除去することが重要である(参考文献50)。次に、ドナー1のMSCを、試験管内培養条件下で、連続継代P3からP8まで分析した。μMRRを使用して、各継代からのMSCの正規化濃度のT
2値を
図6Gに示す。最も高いMSCのT
2値が初期の継代で観察されたが、これらのレベルは後の継代で徐々に低下した。β-gal染色を示す細胞の強度と数に基づいて、老化細胞の割合が大きかった後期継代からのMSCは、最も低いT
2値を示した(
図6H)。同様に、細胞周期阻害マーカーp16とp21のqPCRは、初期継代と比較して後期継代からの細胞で最も高い発現を示した(
図6E)。
【0063】
免疫蛍光アッセイとMRRによる老化検出
【0064】
細胞の状態をMRR T
2値と直接相関させるために、増殖と老化を同時に測定した。同じドナーからのMSCは、継代3、継代5、および継代6に連続して継代された。老化細胞の陽性対照として、継代3の細胞もドキソルビシン(DOX)で処理した。ドキソルビシン(DOX)は、DNA損傷と活性酸素種を生成し、腫瘍細胞に老化を誘導する化学療法剤である。DNAシンセシスを測定するために、活発な細胞増殖の指標としてEdU(5-エチニル-2'-デオキシウリジン)を使用した(緑色で表示)。対照的に、老化細胞はγ-H2AX巣(赤色で表示)を蓄積することが知られている。これらの画像から増殖(Pf)指数と老化(Sn)指数を計算し、それぞれプロットした(
図6Cおよび
図6D)。全ての継代からの細胞とDOX処理細胞のMRR実験も行い、各条件でのT
2値を示した(
図6F)。染色画像とPf/Sn指数のグラフから、P3にはより多くの増殖細胞(EDU)が存在していた。Pfは、後期継代(P5およびP6)に徐々に減少し、DOX処理細胞で最も低かった。Sn指数は逆の傾向を示し、P3およびP5と比較して、P6およびDOX処理細胞でより多くの老化細胞(γ-H2aX)が観察された。これらの結果は、T
2の測定と強く一致しており(
図6F)は、MRRアッセイが老化細胞を非侵襲的に検出する堅牢な方法であることを裏付けている。加えて、後期継代(P6)ではβ-gal染色細胞の割合が高く、それぞれの継代からのT
2の結果と一致した。同様に、p16とp21の高い発現がP6からのMSCで観察されたqPCR(
図6E)は、μMRRの測定を裏付けた。
【0065】
サイトカインの処理による老化誘導
【0066】
トランスフォーミング成長因子-β1(TGFβ1)やインターロイキン-1(IL-1)などのサイトカインは、MSCの老化を誘導する。TGFβ1は、増殖や細胞死を含む多くの細胞機能を制御するTGFファミリーメンバーである(参考文献51および52)。IL-1は、炎症性サイトカインであり、その発現はSASPに関連している(参考文献53)。そこで、MSCを異なる濃度(10ngおよび20ng/ml)のTGFβ1およびIL-1で処理し、mMRRアプローチを用いて測定を行った。TGFβ1およびIL-1処理細胞のT
2値は、サイトカイン濃度の増加とともに減少した。老化細胞は、IL-1処理細胞よりもTGF-β1処理細胞の方が多く(
図8)、これはIL-1処理細胞よりもT
2値が低下していることでも確認された。
【0067】
MSCドナーは増殖能力に差があるため、MRRアッセイの検出限界(LOD)を細胞数の観点から求めることが重要である。全てのμMRR実験において、正規化細胞数は、マイクロキャピラリーチューブ内の4μl量で6×10
4であった。ここでは、
図6Hおよび
図8に示すように、μMRR検出のために細胞濃度をさらに低く、4×10
4、2×10
4、1×10
4細胞に減らしてLODを分析した。MSCを異なる濃度(10および20mg/ml)のTGFβ1で処理して老化を誘導し、これらの細胞をMRR検出のために採取した。TGF-β1処理されたMSCおよび未処理のMSCの検出体積4μl中の1、2、および4(×10
4細胞)のバッチをMRRで分析した。PBSのT
2値も、(処理された、および未処理の)MSCのT
2値と比較されている。この分析では、未処理のMSCおよびPBSのT
2値と比較した場合、1×10
4細胞の最低濃度でも、老化MSCのT
2値に有意な差があることを示している。まとめると、本明細書に記載されているデータは、MRRが異種培養における老化細胞の存在を非侵襲的に測定するために使用できることを示唆しており、これがMSCのような臨床グレードの細胞治療製品のバルク培養を改善するために採用される可能性がある。
【0068】
試験管内で老化細胞を定量する新しい方法が確立された。この方法は、迅速で、非侵襲的で、必要な細胞数が少なく(<105)、かつ試薬またはサンプル調製工程を必要としない。μMRRによるFe3+の直接定量は、qPCR、Luminexアッセイ、β-ガラクトシダーゼ染色などの老化細胞の測定に一般的に使用されている、従来のエンドポイントかつ時間のかかるアッセイと、予想外によく相関した結果を示した。常磁性Fe3+(反磁性Fe2+は除く)は、磁化率を増加させ、細胞内の水分子の陽子核緩和を刺激するため、この測定は細胞鉄のFe3+含有量を具体的に定量化することになる。以前は、細胞内Fe2+(不安定鉄)は、比色法およびその他のアッセイで測定されていたが(参考文献54)、おそらくFe2+の反応性のため、Fe2+の信頼性の高い定量的検出は一般的に困難であった(参考文献55および56)。Fe3+の定量には、フェリチンが代用マーカーとしてよく使われる(参考文献57)。フェリチンは、最大4500原子のFe3+鉄を収容できる大きな(~480kDa)タンパク質複合体であるが、フェリチン濃度は、細胞内に蓄積されたFe3+量とうまく相関しない可能性がある。全鉄濃度測定のICP-MS定量化(参考文献58)が鉄定量化の現在の標準であるが、これは蓄積されたFe3+を正しく反映していない可能性がある。
【0069】
従来の鉄の定量法とは対照的に、MRRは、一般的な鉄の生物学を進歩させるという点で独特な立場にある。μMRRは、老化細胞の完全な非侵襲的な表現型検査を可能にし、同じ細胞上の他の指標の生物学的および機能的測定を下流で行うことを可能にする。この能力により、MRRと他の生化学的および機能的測定値との間に強固で直接的な相関関係を構築することが可能になる。特に老化細胞に固有の細胞表面マーカーの総意がないことを考えると、このアプローチは、この分野にとって変革をもたらす可能性がある。
【0070】
加えて、ここで利用されている「鉄イメージング」モダリティは、MRIのT1およびT2強調イメージングで既に広く使われている(参考文献59~62)。したがって、細胞老化のMRR定量化からの知見は、生体内病理学と容易に比較することができる。最新のMRIアプローチの解像度が100μm未満であることからすると(参考文献63)、生きた組織内の老化細胞の非侵襲的検出は、将来実現可能かもしれない。最も重要なことは、MSCの老化の程度を定量化する能力は、MSCの治療への応用が他に類を見ないほど可能になることである。MSCの品質変動は、主に老化の程度の違いによるものであり、ドナーに依存するMSCの品質変動が未解決の重大なボトルネックとなっている。μMRRは、培養ベースの生産プロセスにおいて、MSCの迅速で非侵襲的な品質スクリーニングツールとして構想されている。
【0071】
この研究では、異なるドナーからのMSCの多系列分化能力もMRRの結果とよく相関しており、強力な多系列分化能力を有するMSCから測定されたT2値が最も高かった。この技術は、増殖および分化能力が最も高いMSCを患者固有の方法でリアルタイムでスクリーニングするのに役立つであろう。この新しい生体工学モダリティを、MSCまたはその他の細胞治療製品のバイオマニュファクチャリングを最適化するために適用することもできる。例えば、MRRは、マイクロ流体選別を用いて老化細胞を除去できるような方法で、細胞培養をリアルタイムでモニタするのに用いることができる(参考文献50)。したがって、このアプローチは、治療用途向けのよりグレードの高いMSCおよび細胞製品を製造するために、この分野の主要なボトルネックを克服する可能性がある。
【0072】
方法および材料
MSC培養
【0073】
骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)は、Lonza Pte社およびRooster Bio Inc.社から購入した。細胞は、ウシ胎児血清(FBS): 10%、グルタマックス: 1%、ペニシリン/ストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific社、シンガポール): 1%を添加した低グルコースDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)内に、37℃、CO2: 5%の雰囲気下で、初期細胞密度1500細胞/cm2の組織培養プレート(TCP)で増殖させた。培地は、2日ごとに交換し、さらなる実験または継代培養のため、細胞を80%の密集度で採取した。細胞の採取中に、3分間、0.25%のトリプシン-EDTA(Thermo Fisher Scientific社、シンガポール)で細胞を培養した。細胞数は、使い捨て血球計(INCYTO社、韓国)を使用し、トリパンブルー排除法で算出した。特に明記されていない限り、継代3(P3)からP5までのMSCをさらなる実験に使用した。MSCの老化誘導は、5、10、または20ng/mlのTGF-β1を含む培地で3日間処理することによって行われた。ドキソルビシン(DOX)処理では、細胞を1500細胞/cm2で播種し、1μMのドキソルビシン(Sigma社)とともに37℃で24時間培養した。その後、培地を取り出し、新しい培地を細胞に加え、分析前に24時間培養した。
【0074】
慣性スパイラルマイクロチャンネル装置によるMSC選別
【0075】
慣性スパイラルマイクロチャネル装置は、前述と同じ方法で設計および製造された(参考文献50)。この装置は、半径が12mmから4mmに減少する8つのループと、幅580μm、内側85um、外側高さ133μmの台形断面を有している。それは、選別される細胞懸濁液の導入のための1つの注入口と、選別された細胞の採取のための2つの排出口を有している。デザインは、微細加工されたアルミニウム鋳型(Whits Technologies Inc.社、シンガポール)に彫り込まれ、装置は、ベースと硬化剤の混合物(Sylgard 184、Dow Corning Inc.社、米国)の比率が10:1のポリジメチルシロキサン(PDMS)から鋳造された。
【0076】
選別する前に、MSCを培地に100~200万細胞/mlで再懸濁し、タイゴンチューブ(Spectra Teknik Pte Ltd.社、シンガポール)に接続されたシリンジ(Thermo Fisher Scientific社、シンガポール)に充填した。チューブを装置の注入口に挿入し、選別された細胞を採取するために2本の別々のチューブを排出口に挿入した。シリンジポンプ(PHD2000、Harvard Apparatus Inc.社、米国)を使用して、装置内の細胞懸濁液の流量を制御した。2つの系列選別を行い、MSCをサイズの異なる3つの集団に分離した。第1の選別は、3.5ml/minで行われ、内側の排出口で採取された細胞が最大の亜集団(22~26μm)である。内側の排出口で採取された細胞は、1.5ml/minで第2の選別にかけられ、内側排出口と外側排出口で採取された細胞は、それぞれ中サイズの亜集団(15~22μm)および最小の亜集団(11~15μm)である。この実験では、未選別のMSCを対照として使用した。高速CCDカメラ(Phantom v9、Vision Research Inc.社、米国)を搭載した倒立顕微鏡(IX71、Olympus Co.社、日本)によって、慣性スパイラルマイクロチャネル装置内の分離をリアルタイムで可視化した。
【0077】
MRR測定
【0078】
MRRは、B0 = 0.5 Tのポータブル永久磁石(Metrolab Instruments社、プラン・レ・ウアット、スイス)と卓上型NMRコンソール(Kea Magritek社、ウェリントン、ニュージーランド)で構成されている。
1H MRR測定は、磁石内部の21.65MHzの共振周波数で行われた。MRR試料をマイクロキャピラリーチューブ(外径:1,500μm、内径:950μm)(22-260-950、Fisherbrand社、ウォルサム、マサチューセッツ、米国)に収容するために、内径900μmの検出マイクロコイルを備えた単一共鳴陽子MRRプローブを使用した。MRRプローブでは、電子部品とコイルを単一のプリント回路基板に実装した(
図3C)。(参考文献照40)すべての実験は、温度コントローラー(RS component社、英国)によって維持された磁石内部:26.3°Cで行われた。
【0079】
全てのMRR実験において、特に明記されていない限り、MSCの正規化濃度(3×10
5細胞)を使用した。MSC試料を300gで5分間スピンダウンし、上清を吸引した。ペレットを20μlのPBSに懸濁し、長さ4mmのマイクロキャピラリーチューブに充填する。マイクロキャピラリーチューブをクリストシールで密封し、MRR測定用のコイルに取り付けた。陽子横緩和率T
2は、標準のCPMG(Carr-Purcell-Meiboom-Gill)パルスプログラムによって測定された(参考文献64および65)(
図3B)。トランスミッタのパワー出力は、全てのT
2測定において、パルス長16μsの単一90°パルスで12.5mWに維持した。全ての実験において、エコー間時間60μs、エコー数4000のCPMGパルス列を使用した。全てのスピンが熱平衡に戻るのに十分な2秒のリサイクル遅延を使用した。信号の平均化のために、全ての実験において、24回のスキャンを実行した。
【0080】
リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)分析
【0081】
総RNAは、製造元のプロトコルに従って、RNeasy Mini キット(Qiagen社、米国)で抽出された。RNAの濃度は、NanoDrop UV-vis 分光光度計(NanoDrop Technologies社、米国)を使用して測定した。その後、iScriptTM cDNAシンセシスキット(Biorad Laboratories社、米国)を使用して、200ngの総RNAを逆転写反応させた。表1に示すプライマーでSYBR Greenシステムを用いてリアルタイムPCRを実施した。ABI 7500リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystem社、米国)を用いて、95℃で10分間のリアルタイムPCRと、95℃で15秒間の変性ステップおよび60℃で1分間の伸長ステップを含む40サイクルの増幅と、を実行した。遺伝子発現レベルは、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)に対して正規化し、それぞれの対照群を参照して、式:2-ΔΔCtを用いて算出した。
【0082】
表1.リアルタイムPCRのプライマー
【0083】
【0084】
馴化培地およびELISA
【0085】
サイズ選別したMSCをT75フラスコに播種し、翌日に培地を除去する前に一晩付着させた。細胞をPBSで1回洗浄し、無血清培地で37℃、CO2: 5%で48時間培養した。次に、培地を採取し、4500 x gで15分間遠心分離して細胞残屑を除去した。上清を採取し、アミコンウルトラ15フィルタ(3kDaカットオフメンブレン)で500μlに濃縮し、分析前に-80℃で保存した。製造元の指示に従って、Luminex(登録商標)ベースのマルチプレックスアッセイ(R&D Systems社)を使用して得られた分析対象物(MCP-1、IL-6、IL-8、TGF-β1)の濃度値を正規化するために、各条件における細胞数を決定した。全ての試料は、技術的に複製して分析され、2人の異なるドナーについて実施された。データは、MAGPIXリーダー(Millipore社)で取得され、濃度は、Milliplex Analystソフトウェア(Millipore社)を使用して5パラメータロジスティック回帰(SSL5)を使用してフィティングした標準曲線を使用して、測定された平均蛍光強度(MFI)から導き出した。
【0086】
試験管内多系列分化
【0087】
培地を取り出す前に、MSCを24ウェルプレートに播種して一晩付着させ、製造元のプロトコルに従って、骨形成と脂肪生成のための特定の分化培地(STEMCELL Technologies社)に交換した。カルシウム沈着についてはアリザリンレッドS染色(ScienCell社)で骨形成誘導が確認され、脂質滴の検出についてはオイルレッドO染色(Sigma社)で脂肪形成の分化が確認された。軟骨形成のために、MSCを15mlチューブに1×106細胞/ペレットで300 x g、5分間でペレット状にした。このペレットに軟骨形成培地(STEMCELL Technologies社)を加え、サフラニンOによるグリコサミノグリカン染色する前の3週間、培地を隔日で交換した。
【0088】
老化アッセイ
【0089】
MSCを6ウェルプレートに初期細胞播種密度1500細胞/cm2で播種し、3~5日間培養した。老化β-ガラクトシダーゼ染色キット(Sigma Aldrich社)を使用して、製造元のプロトコルに従って老化細胞を同定した。簡単に説明すると、細胞を室温で10分間固定し、X-galを含む染色溶液中で37℃で一晩培養した。X-gal基質切断の結果として、青色の沈殿物で陽性に染色された細胞は、老化細胞を示した。
【0090】
免疫蛍光法および共焦点顕微鏡
【0091】
細胞中の別の老化マーカー(γ-H2AX巣)(参考文献66)および増殖マーカーである5-エチニル-2′-デオキシウリジン(Edu)とともにSA-βgalを検出するために、プロトコルを前述のように実行した(参考文献67)。簡単に説明すると、細胞を10μM(Edu)(Click-it(登録商標) Edu Alexa Fluor(登録商標) 488イメージングキット、Invitrogen社)で24時間培養した後、10% の中性緩衝ホルマリン(Sigma社)で固定し、製造元の指示に従って染色キットの成分を使用してSA-βGal染色した(#9860, Cell Signaling Technology社)。その後、製造元のプロトコル(Invitrogen社)に従ってEdu標識を検出した。
【0092】
免疫染色のために、細胞をPBSで洗浄し、ブロッキングバッファー(0.5%のウシ血清アルブミンを含むPBS)で1時間培養した後、ブロッキングバッファー中のマウス抗ホスホヒストンH2A.X(Ser139)抗体(05-636、Millipore社)と4℃で一晩培養した。次に、細胞をRhodamine RedTM-結合二次抗体((Jackson Immuno Research Laboratories社)で1時間培養し、PBSで3回洗浄し、NucBlue(Hoechst 33342)含有マウンティング溶液(Invitrogen社)で対比染色した。画像は、20倍の対物レンズ(Olympus社)を使用したFV1200共焦点顕微鏡で取得した。染色したSA-βGal細胞は、位相差顕微鏡でも可視化された。
【0093】
以下の参考文献は、その多くが本明細書で引用されており、参照によりその全体が組み込まれる。
【0094】
参考文献
【0095】
【0096】
1つ以上の実施形態の詳細が、添付の図面および詳細な説明に記載されている。その他の特徴、目的、および利点が、詳細な説明、図面、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。本発明の多数の実施形態について説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変更を加えることができることが理解されるであろう。また、添付の図面は必ずしも縮尺どおりのものではなく、本発明の様々な特徴および基本原理をいくぶん簡略化して表現していることを理解されたい。
【国際調査報告】