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特表2024-541967ヒト前脳神経前駆細胞を生成するためおよびそれをパルブアルブミン陽性介在ニューロンに成熟させるための方法および組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ヒト前脳神経前駆細胞を生成するためおよびそれをパルブアルブミン陽性介在ニューロンに成熟させるための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0797 20100101AFI20241106BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20241106BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20241106BHJP
【FI】
C12N5/0797
C12N5/10
C12N5/0735
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525238
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-06-05
(86)【国際出願番号】 US2022041663
(87)【国際公開番号】W WO2023075913
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】63/273,742
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/391,206
(32)【優先日】2022-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523373821
【氏名又は名称】トレイルヘッド バイオシステムズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】アミニ ヌーシン
(72)【発明者】
【氏名】ファン シャオグワン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB05
4B065BB06
4B065BB11
4B065BB12
4B065BB13
4B065CA44
(57)【要約】
化学的に定義された培地を使用してヒト多能性幹細胞からヒト前脳神経前駆細胞および成熟前脳ニューロンを生成するための方法が提供される。前記方法は、OTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞の最初の生成を可能にし、さらに培養することにより、NKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞の生成およびそれに続くASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)の生成が可能になる。前記MGE-NPCをさらに、未熟ニューロンおよび成熟GABA作動性介在ニューロンに分化させる。培地、単離された細胞集団、およびキットも提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、AKT経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、およびPKC経路アンタゴニストを含む培地中で0日目から3日目までヒト多能性幹細胞を培養して、ヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)を得ることを含む、ヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ FB-NSCを生成する方法。
【請求項2】
BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、およびSHH経路アゴニストを含みかつAKT経路アンタゴニストおよびPKC経路アンタゴニストを欠く培地中で3日目から6日目まで前記FB-NSCをさらに培養して、ヒトNKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)を得る、請求項1記載の方法。
【請求項3】
TAK1経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、TGF-β経路アンタゴニスト、TRK経路アンタゴニスト、ノッチ経路アンタゴニスト、およびIGF1経路アゴニストを含む培地中で6日目から9日目まで前記VFB-NSCをさらに培養して、ヒトASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)を得る、請求項2記載の方法。
【請求項4】
CREBまたはPKA経路アゴニスト、バルプロ酸または類似体、サブスタンスPまたは類似体、GDNF経路アゴニスト、およびmTOR経路アゴニストを含む培地中で9日目から12日目まで前記MGE-NPCをさらに培養して、ヒト未熟ニューロンを得る、請求項3記載の方法。
【請求項5】
BDNF経路アゴニスト、IGF-1経路アゴニスト、アスコルビン酸または類似体、ピルビン酸ナトリウムまたは類似体、LPAまたは類似体、N2サプリメント、およびNEAAサプリメントを含む培地中で12日目から26日目まで前記ヒト未熟ニューロンをさらに培養して、成熟パルブアルブミン+ 介在ニューロンを得る、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記ヒト多能性幹細胞が人工多能性幹細胞(iPSC)である、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記ヒト多能性幹細胞が胚性幹細胞である、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記ヒト多能性幹細胞が、培養中にビトロネクチンコーティング済みプレートに付着している、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記BMP経路アンタゴニストが、LDN193189、DMH1、DMH2、ドルソモルフィン(Dorsopmorphin)、K02288、LDN214117、LDN212854、フォリスタチン、ML347、ノギン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記BMP経路アンタゴニストが、前記培地中に100~500nMの範囲内の濃度で存在する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記BMP経路アンタゴニストが、前記培地中に250~275nMの濃度で存在するLDN193189である、請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記MEK経路アンタゴニストが、PD0325901、ビニメチニブ(MEK162)、コビメチニブ(XL518)、セルメチニブ、トラメチニブ(GSK1120212)、CI-1040(PD-184352)、レファメチニブ、ARRY-142886(AZD-6244)、PD98059、U0126、BI-847325、RO 5126766、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記MEK経路アンタゴニストが、前記培地中に50~150nMの範囲内の濃度で存在する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記MEK経路アンタゴニストが、前記培地中に100~110nMの濃度で存在するPD0325901である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記WNT経路アンタゴニストが、XAV939、ICG001、カプマチニブ、エンド-IWR-1、IWP-2、IWP-4、MSAB、CCT251545、KY02111、NCB-0846、FH535、LF3、WIKI4、トリプトニド、KYA1797K、JW55、JW 67、JW74、カルジオノーゲン(Cardionogen)1、NLS-StAx-h、TAK715、PNU 74654、iCRT3、WIF-1、DKK1、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
前記WNT経路アンタゴニストが、前記培地中に50~150nMの範囲内の濃度で存在する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記WNT経路アンタゴニストが、前記培地中に100~110nMの濃度で存在するXAV939である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記SHH経路アゴニストが、プルモルファミン、GSA 10、SAG、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
前記SHH経路アゴニストが、前記培地中に250~750nMの範囲内の濃度で存在する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記SHH経路アゴニストが、前記培地中に500~550nMの濃度で存在するプルモルファミンである、請求項18記載の方法。
【請求項21】
前記AKT経路アンタゴニストが、MK2206、GSK690693、ペリフォシン(KRX-0401)、イパタセルチブ(GDC-0068)、カピバセルチブ(AZD5363)、PF-04691502、AT 7867、トリシリビン(NSC154020)、ARQ751、ミランセルチブ(ab235550)、ボルスセルチブ(Borussertib)、セリセルチブ(Cerisertib)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
前記AKT経路アンタゴニストが、前記培地中に50~200nMの範囲内の濃度で存在する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記AKT経路アンタゴニストが、前記培地中に138nMの濃度で存在するMK2206である、請求項21記載の方法。
【請求項24】
前記PKC経路アンタゴニストが、Go 6983、ソトラスタウリン、エンザスタウリン、スタウロスポリン、LY31615、Go 6976、GF 109203X、Ro 31-8220メシレート、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
前記PKC経路アンタゴニストが、前記培地中に50~200nMの範囲内の濃度で存在する、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記PKC経路アンタゴニストが、前記培地中に110nMの濃度で存在するGo 6983である、請求項24記載の方法。
【請求項27】
前記TAK1経路アンタゴニストが、タキニブ、デヒドロアビエチン酸(Dehydoabietic acid)、NG25、サルササポゲニン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項3~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
前記TAK1経路アンタゴニストが、前記培地中に1~5uMの範囲内の濃度で存在する、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記TAK1経路アンタゴニストが、前記培地中に2uMの濃度で存在するタキニブである、請求項27記載の方法。
【請求項30】
前記TGFβ経路アンタゴニストが、A 83-01、SB-431542、GW788388、SB525334、TP0427736、RepSox、SD-208、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項3~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
前記TGFβ経路アンタゴニストが、前記培地中に250~750nMの範囲内の濃度で存在する、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記TGFβ経路アンタゴニストが、前記培地中に500nMの濃度で存在するA 83-01である、請求項30記載の方法。
【請求項33】
前記TRK経路アンタゴニストが、GNF-5837、BMS-754807、UNC2020、タレトレクチニブ、アルチラチニブ、セリトレクチニブ、PF 06273340、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項3~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
前記TRK経路アンタゴニストが、前記培地中に25~75nMの範囲内の濃度で存在する、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記TRK経路アンタゴニストが、前記培地中に50nMの濃度で存在するGNF-5837である、請求項33記載の方法。
【請求項36】
前記ノッチ経路アンタゴニストが、GSI-XX、RO4929097、セマガセスタット、ジベンゾアゼピン、LY411575、クレニガセスタット、IMR-1、IMR-1A、FLI-06、DAPT、バルプロ酸、YO-01027、CB-103、タンゲレチン、BMS-906024、アバガセスタット、ブルセインD、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項3~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
前記ノッチ経路アンタゴニストが、前記培地中に50~150nMの範囲内の濃度で存在する、請求項36記載の方法。
【請求項38】
前記ノッチ経路アンタゴニストが、前記培地中に100nMの濃度で存在するGSI-XXである、請求項36記載の方法。
【請求項39】
前記IGF1経路アゴニストが、IGF1、IGF1-Ado、X10、メカセルミン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項3~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
前記IGF1経路アゴニストが、前記培地中に5~15ng/mlの範囲内の濃度で存在する、請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記IGF1経路アゴニストが、前記培地中に10ng/mlの濃度で存在するIGF1である、請求項39記載の方法。
【請求項42】
前記CREBまたはPKA経路アゴニストが、cAMP、ジブチリル-cAMP、8-Br-cAMP、cAMPS-Sp、CW 008、ホルスコリン、8-CPT-cAMP、CW 008、N6-ベンゾイル-アデノシン3',5'-サイクリック一リン酸ナトリウム塩、アデノシン3',5'-サイクリック一リン酸ナトリウム塩一水和物、(S)-アデノシンサイクリック3',5'-(ヒドロゲンホスホロチオエート)トリエチルアンモニウム、Sp-アデノシン3',5'-サイクリックモノホスホロチオエートトリエチルアンモニウム塩、Sp-5,6-DCI-cBiMPS、8-ブロモアデノシン3',5'-サイクリックモノホスホロチオエートSp-異性体ナトリウム塩、8-ブロモ-アデノシン3',5'-サイクリックモノホスホロチオエートSp-異性体ナトリウム塩、Sp-8-pCPT-サイクリックGMPSナトリウム、8-ブロモアデノシン3',5'-サイクリック一リン酸、N6-モノブチリルアデノシン3':5'-サイクリック一リン酸ナトリウム塩、8-PIP-cAMP、Sp-cAMPS、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項4~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項43】
前記CREBまたはPKA経路アゴニストが、前記培地中に0.5~2.5μMの範囲内の濃度で存在する、請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記CREBまたはPKA経路アゴニストが、前記培地中に1.0~1.5μMの濃度で存在するcAMPである、請求項42記載の方法。
【請求項45】
バルプロ酸または類似体が、バルプロ酸、バルプロエート、バルプロ酸ナトリウム、およびバルプロ酸セミナトリウムからなる群より選択される、請求項4~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項46】
バルプロ酸または類似体が、前記培地中に250~750nMの範囲内の濃度で存在する、請求項45記載の方法。
【請求項47】
バルプロ酸が、前記培地中に450~550nMの範囲内の濃度で存在する、請求項45記載の方法。
【請求項48】
サブスタンスPが、前記培地中に100~150nMの範囲内の濃度で存在する、請求項4~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項49】
前記GDNF経路アゴニストが、GDNF、BT13、BT44、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項4~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項50】
前記GDNF経路アゴニストが、前記培地中に5~50ng/mlの範囲内の濃度で存在する、請求項49記載の方法。
【請求項51】
前記GDNF経路アゴニストが、前記培地中に10ng/mlの濃度で存在するGDNFである、請求項49記載の方法。
【請求項52】
前記mTOR経路アゴニストが、MHY1458、NV-5138、テストステロン、3-ベンジル-5-((2-ニトロフェノキシ)メチル)-ジヒドロフラン-2(3H)-オン(3BDO)、3BDO、L-ロイシン、NV-5138塩酸塩、NV-5138、L-ロイシン-d1、L-ロイシン-2-13C,15N、ロイシン-13C6、L-ロイシン-d7、L-ロイシン-d10、L-ロイシン-d2、l-ロイシン-d3、L-ロイシン-18O2、L-ロイシン-13C、L-ロイシン-2-13C、L-ロイシン-13C6-15N、L-ロイシン-15N、L-ロイシン-1-13C,15N、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項4~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項53】
前記mTOR経路アゴニストが、前記培地中に1~3μMの範囲内の濃度で存在する、請求項52記載の方法。
【請求項54】
前記mTORアゴニストが、前記培地中に2μMの濃度で存在するMHY1458である、請求項52記載の方法。
【請求項55】
前記BDNF経路アゴニストが、BDNF、ロチゴチン、7,8-DHF、ケタミン、トリサイクリックダイマーペプチド-6(tricyclic dimeric peptide-6)(TDP6)、LM22A-4、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項5~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項56】
前記BDNF経路アゴニストが、前記培地中に5~50ng/mlの範囲内の濃度で存在する、請求項55記載の方法。
【請求項57】
前記BDNF経路アゴニストが、前記培地中に10ng/mlの濃度で存在するBDNFである、請求項55記載の方法。
【請求項58】
アスコルビン酸またはその類似体が、ビタミンC、2-ホスホ-L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸、リン酸アスコルビルナトリウム、リン酸アスコルビルマグネシウム、アスコルビルグルコシド、アスコルビン酸テトラヘキシルデシル(THD)、エチル化L-アスコルビン酸、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項5~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項59】
アスコルビン酸または類似体が、前記培地中に100~400μMの範囲内の濃度で存在する、請求項58記載の方法。
【請求項60】
2-ホスホ-L-アスコルビン酸が、前記培地中に200μMの濃度で存在する、請求項58記載の方法。
【請求項61】
ピルビン酸ナトリウムが、前記培地中に100~300μMの濃度で存在する、請求項5~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項62】
LPAまたはその類似体が、リゾホスファチジン酸、2-[[3-(1,3-ジオキソ-1H-ベンゾ[デ]イソキノリン-2(3H)-イル)プロピル]チオ]安息香酸、1-オレオイルリゾホスファチジン酸ナトリウム塩、UCM-05194、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項5~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項63】
LPAまたは類似体が、前記培地中に100~400nMの範囲内の濃度で存在する、請求項62記載の方法。
【請求項64】
LPAまたは類似体が、前記培地中に200nMの濃度で存在するO-LPAである、請求項62記載の方法。
【請求項65】
前記N2サプリメントが、前記培地中に1%の濃度で存在する、請求項5~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項66】
前記NEAAサプリメントが、前記培地中に1%の濃度で存在する、請求項5~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項67】
(a)BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、AKT経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、およびPKC経路アンタゴニストを含む培地中で0日目から3日目までヒト多能性幹細胞を培養して、ヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)を得ること;ならびに
(b)BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、およびSHH経路アゴニストを含みかつAKT経路アンタゴニストおよびPKC経路アンタゴニストを欠く培地中で3日目から6日目まで前記ヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ FB-NSCをさらに培養して、ヒトNKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)を得ること
を含む、ヒトNKX2-1腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)を生成する方法。
【請求項68】
前記BMP経路アンタゴニストがLDN193189であり、前記MEK経路アンタゴニストがPD0325901であり、前記WNT経路アンタゴニストがXAV939であり、前記SHH経路アゴニストがプルモルファミンであり、前記AKT経路アンタゴニストがMK2206であり、かつ前記PKC経路アンタゴニストがGo 6983である、請求項67記載の方法。
【請求項69】
LDN193189が前記培地中に100~500nMの範囲内の濃度で存在し、PD0325901が前記培地中に50~150nMの範囲内の濃度で存在し、XAV939が前記培地中に50~150nMの範囲内の濃度で存在し、プルモルファミンが前記培地中に250~750nMの範囲内の濃度で存在し、MK2206が前記培地中に段階(a)において50~150nMの範囲内の濃度で存在し、かつGo 6983が前記培地中に段階(a)において50~150nMの範囲内の濃度で存在する、請求項68記載の方法。
【請求項70】
LDN193189が前記培地中に段階(a)において275nMおよび段階(b)において250nMの濃度で存在し、PD0325901が前記培地中に段階(a)において110nMおよび段階(b)において100nMの濃度で存在し、XAV939が前記培地中に段階(a)において110nMおよび段階(b)において100nMの濃度で存在し、プルモルファミンが前記培地中に段階(a)において550nMおよび段階(b)において500nMの濃度で存在し、MK2206が前記培地中に段階(a)において138nMの濃度で存在し、かつGo 6983が前記培地中に段階(a)において110nMの濃度で存在する、請求項69記載の方法。
【請求項71】
(a)BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、AKT経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、およびPKC経路アンタゴニストを含む培地中で0日目から3日目までヒト多能性幹細胞を培養して、ヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)を得ること;
(b)BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、およびSHH経路アゴニストを含みかつAKT経路アンタゴニストおよびPKC経路アンタゴニストを欠く培地中で3日目から6日目まで前記ヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ FB-NSCをさらに培養して、ヒトNKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)を得ること;ならびに
(c)TAK1経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、TGF-β経路アンタゴニスト、TRK経路アンタゴニスト、ノッチ経路アンタゴニスト、およびIGF1経路アゴニストを含む培地中で6日目から9日目まで前記ヒトNKX2-1+ VFB-NSCをさらに培養して、ヒトASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)を得ること
を含む、ヒトASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)を生成する方法。
【請求項72】
前記BMP経路アンタゴニストがLDN193189であり、前記MEK経路アンタゴニストがPD0325901であり、前記WNT経路アンタゴニストがXAV939であり、前記SHH経路アゴニストがプルモルファミンであり、前記AKT経路アンタゴニストがMK2206であり、前記PKC経路アンタゴニストがGo 6983であり、前記TAK1経路アンタゴニストがタキニブであり、前記TGF-β経路アンタゴニストがA 83-01であり、前記TRK経路アンタゴニストがGNF-5837であり、前記ノッチ経路アンタゴニストがGSI-XXであり、かつ前記IGF1経路アゴニストがIGF-1である、請求項71記載の方法。
【請求項73】
LDN193189が前記培地中に100~500nMの範囲内の濃度で存在し、PD0325901が前記培地中に50~150nMの範囲内の濃度で存在し、XAV939が前記培地中に50~150nMの範囲内の濃度で存在し、プルモルファミンが前記培地中に250~750nMの範囲内の濃度で存在し、MK2206が前記培地中に段階(a)において50~150nMの範囲内の濃度で存在し、Go 6983が前記培地中に段階(a)において50~150nMの範囲内の濃度で存在し、タキニブが前記培地中に段階(c)において1~5uMの範囲内の濃度で存在し、A 83-01が前記培地中に段階(c)において250~750nMの範囲内の濃度で存在し、GNF-5837が前記培地中に段階(c)において25~75nMの範囲内の濃度で存在し、GSI-XXが前記培地中に段階(c)において50~150nMの範囲内の濃度で存在し、かつIGF-1が前記培地中に段階(c)において5~15ng/mlの範囲内の濃度で存在する、請求項72記載の方法。
【請求項74】
LDN193189が前記培地中に段階(a)において275nMおよび段階(b)において250nMの濃度で存在し、PD0325901が前記培地中に段階(a)において110nMおよび段階(b)において100nMの濃度で存在し、XAV939が前記培地中に段階(a)において110nMおよび段階(b)において100nMの濃度で存在し、プルモルファミンが前記培地中に段階(a)において550nMおよび段階(b)において500nMの濃度で存在し、MK2206が前記培地中に段階(a)において138nMの濃度で存在し、Go 6983が前記培地中に段階(a)において110nMの濃度で存在し、タキニブが前記培地中に段階(c)において2uMの濃度で存在し、A 83-01が前記培地中に段階(c)において500nMの濃度で存在し、GNF-5837が前記培地中に段階(c)において50nMの濃度で存在し、GSI-XXが前記培地中に段階(c)において100nMの濃度で存在し、かつIGF-1が前記培地中に段階(c)において10ng/mlの範囲内の濃度で存在する、請求項73記載の方法。
【請求項75】
(a)CREBまたはPKA経路アゴニスト、バルプロ酸または類似体、サブスタンスPまたは類似体、GDNF経路アゴニスト、およびmTOR経路アゴニストを含む培地中で0日目から3日目までヒト内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)を培養して、ヒト未熟ニューロンを得ること;ならびに
(b)BDNF経路アゴニスト、IGF-1経路アゴニスト、アスコルビン酸または類似体、ピルビン酸ナトリウムまたは類似体、LPAまたは類似体、N2サプリメント、およびNEAAサプリメントを含む培地中で3日目から17日目まで前記ヒト未熟ニューロンを培養して、ヒト成熟パルブアルブミン+ 介在ニューロンを得ること
を含む、ヒトMGE-NPCからヒト成熟パルブアルブミン+ 介在ニューロンを生成する方法。
【請求項76】
前記CREBまたはPKA経路アゴニストがcAMPであり、前記バルプロ酸または類似体がバルプロ酸であり、前記サブスタンスPまたは類似体がサブスタンスPであり、前記GDNF経路アゴニストがGDNFであり、前記mTOR経路アゴニストがMHY1458であり、前記BDNF経路アゴニストがBDNFであり、前記IGF-1経路アゴニストがIGF-1であり、前記アスコルビン酸または類似体が2-ホスホ-L-アスコルビン酸であり、前記ピルビン酸ナトリウムまたは類似体がピルビン酸ナトリウムであり、かつ前記LPAまたは類似体がO-LPAである、請求項75記載の方法。
【請求項77】
cAMPが1.0~1.5μMの範囲の濃度で存在し、バルプロ酸が450~550nMの範囲の濃度で存在し、サブスタンスPが100~150nMの範囲の濃度で存在し、GDNFが5~50ng/mlの範囲の濃度で存在し、MHY1458が1~3μMの範囲の濃度で存在し、BDNFが5~50ng/mlの範囲の濃度で存在し、IGF-1が5~50ng/mlの範囲の濃度で存在し、2-ホスホ-L-アスコルビン酸が100~400μMの範囲の濃度で存在し、O-LPAが100~400μMの範囲の濃度で存在し、ピルビン酸ナトリウムが100~300μMの範囲の濃度で存在し、N2サプリメントが0.5%~1.5%の範囲の濃度で存在し、かつNEAAサプリメントが0.5%~1.5%の範囲の濃度で存在する、請求項76記載の方法。
【請求項78】
cAMPが1.0μMの濃度で存在し、バルプロ酸が500nMの濃度で存在し、サブスタンスPが100nMの濃度で存在し、GDNFが10ng/mlの濃度で存在し、MHY1458が2μMの濃度で存在し、BDNFが10ng/mlの濃度で存在し、IGF-1が10ng/mlの濃度で存在し、2-ホスホ-L-アスコルビン酸が200μMの濃度で存在し、ピルビン酸ナトリウムが100μMの濃度で存在し、O-LPAが200μMの濃度で存在し、N2サプリメントが1.0%の濃度で存在し、かつNEAAサプリメントが1.0%の濃度で存在する、請求項77記載の方法。
【請求項79】
BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、AKT経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、およびPKC経路アンタゴニストを含む、ヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)を得るための培地。
【請求項80】
BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、およびSHH経路アゴニストを含む、ヒトNKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)を得るための培地。
【請求項81】
TAK1経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、TGF-β経路アンタゴニスト、TRK経路アンタゴニスト、ノッチ経路アンタゴニスト、およびIGF1経路アゴニストを含む、ヒトASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)を得るための培地。
【請求項82】
CREBまたはPKA経路アゴニスト、バルプロ酸または類似体、サブスタンスPまたは類似体、GDNF経路アゴニスト、およびmTOR経路アゴニストを含む、ヒト未熟ニューロンを得るための培地。
【請求項83】
CREBまたはPKA経路アゴニスト、バルプロ酸または類似体、サブスタンスPまたは類似体、GDNF経路アゴニスト、およびmTOR経路アゴニストを含む、ヒト成熟GABA作動性介在ニューロンを得るための培地。
【請求項84】
ヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)の単離された細胞培養物であって、BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、AKT経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、およびPKC経路アンタゴニストを含む培地中で培養されたヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ FB-NPCを含む、前記細胞培養物。
【請求項85】
ヒトNKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)の単離された細胞培養物であって、BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、およびSHH経路アゴニストを含む培地中で培養されたヒトNKX2-1+ VFB-NPCを含む、前記細胞培養物。
【請求項86】
ヒトASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)の単離された細胞培養物であって、TAK1経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、TGF-β経路アンタゴニスト、TRK経路アンタゴニスト、ノッチ経路アンタゴニスト、およびIGF1経路アゴニストを含む培地中で培養されたヒトASCL1+ MGE-NPCを含む、前記細胞培養物。
【請求項87】
ヒト未熟ニューロンの単離された細胞培養物であって、CREBまたはPKA経路アゴニスト、バルプロ酸または類似体、サブスタンスPまたは類似体、GDNF経路アゴニスト、およびmTOR経路アゴニストを含む培地中で培養されたヒト未熟ニューロンを含む、前記細胞培養物。
【請求項88】
ヒト成熟GABA作動性介在ニューロンの単離された細胞培養物であって、BDNF経路アゴニスト、IGF-1経路アゴニスト、アスコルビン酸または類似体、ピルビン酸ナトリウムまたは類似体、LPAまたは類似体、N2サプリメント、およびNEAAサプリメントを含む培地中で培養されたヒト成熟GABA作動性介在ニューロンを含む、前記細胞培養物。
【請求項89】
請求項1記載の方法によって生成されたヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)。
【請求項90】
請求項2記載の方法によって生成されたヒトNKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)。
【請求項91】
請求項3記載の方法によって生成されたヒトASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)。
【請求項92】
請求項4記載の方法によって生成されたヒト未熟ニューロン。
【請求項93】
請求項5記載の方法によって生成されたヒトパルブアルブミン+ 成熟GABA作動性介在ニューロン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年10月29日に出願された米国特許仮出願第63/273,742号および2022年7月21日に出願された米国特許仮出願第63/391,206号の優先権を主張する。それらの先行出願の全内容は、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
政府の使用許諾権利
本発明は、米国陸軍ACC-AGP-RTPによって授与された助成金番号W911NF-17-3-0003の下に政府の支援を受けて行われたものである。米国政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
前脳は、中枢神経系(CNS)の必須の機能的領域である。前脳ニューロンの機能障害は、重症の神経疾患をもたらす可能性がある。前脳のGABA作動性介在ニューロンは、CNSの主要な抑制性ニューロンである。GABA作動性介在ニューロンは、皮質の機能的成熟の重要な局面に貢献する。皮質GABA介在ニューロンは、前脳腹側領域の内側基底核原基(MGE)を起源とする。GABA作動性介在ニューロンの機能障害は、神経変性疾患または精神疾患を招くことが報告されている(Fishell and Rudy (2011) Annu. Rev. Neurosci. 34:535:567(非特許文献1);Le Magueresse and Monyer (2013) Neuron 77:388-405(非特許文献2))。したがって、GABA作動性介在ニューロンへと発達できる細胞を含む、前脳系列に分化決定された神経前駆細胞をヒト多能性幹細胞(hPSC)から得られることは、このような前脳関連神経疾患および精神疾患を潜在的に処置するための手段を提供する。
【0004】
hPSCから神経前駆細胞を得るための初期のアプローチは、フィーダー細胞層ならびに血清および/または他の定義されていない成分を含有する培地を使用していたが、これは臨床使用に不適切である。最近になって、化学的に定義されたフィーダーフリーシステムが開発された。例えば、胚様体プロトコルを使用して前脳神経上皮細胞を誘導するためにhPSCを最初に分化させ、それに10日を要し、続いて得られた細胞をSHHアゴニストと共に培養し、NKX2-1発現MGE前駆細胞およびGAB介在ニューロンサブタイプの成熟を数週間のうちにもたらすというアプローチが報告された(Liu et al. (2013) Nat Protoc. 8:1670-1679(非特許文献3);Yuan et al. (2015) Sci Rep 5:18550(非特許文献4))。当技術分野において、接着分化プロトコル(Yan et al. (2013) Stem Cells Transl. Med. 2:862-870(非特許文献5))および非接着分化プロトコル(Crompton et al. (2013) Stem Cell Res. 11:1206-1221(非特許文献6))と称されるアプローチを含むさらなる前脳分化プロトコルが報告された。
【0005】
Wnt阻害が前脳神経前駆細胞を分化させるための戦略に組み入れられ、Wnt阻害のタイミングが、GABA作動性介在ニューロンの内側基底核原基前駆細胞の分化をモジュレートすると報告された(Ihnatovych et al. (2018) Stem Cells International, vol. 2018, Article ID 3983090(非特許文献7))。
【0006】
最近になって、さらなる化学成分を使用するフィーダーフリープロトコルが開発された。1つのアプローチは、神経外胚葉前駆細胞(ロゼット)をもたらす8日の神経誘導期に続く、さらに8日の領域化期を必要とし、領域化期は16日目までに前脳前駆細胞をもたらす(Comella-Bolla et al. (2020) Mol. Neurobiol. 57:2766-2798(非特許文献8))。
【0007】
前脳神経前駆細胞の分化のためのさらなるプロトコルは、培地中のTGFβアンタゴニストの包含などによるSMAD2/3阻害の使用を含む(例えば、Nicholas et al. (2013) Cell Stem Cell 12:573-586(非特許文献9);米国特許出願公開第2016/0272940号(特許文献1);米国特許出願公開第2019/0062700号(特許文献2);米国特許出願公開第2021/0040443号(特許文献3)を参照されたい)。
【0008】
前脳神経前駆細胞の分化のためのさらなるプロトコルは、米国特許出願公開第2015/0361393号(特許文献4)および米国特許出願公開第2017/0292112号(特許文献5)にも記載されている。
【0009】
したがって、いくらかの前進があったものの、ヒト多能性幹細胞から前脳分化決定済み神経前駆細胞および成熟GABA作動性介在ニューロンを生成するための効率的で確固とした方法および組成物の必要が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0272940号
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/0062700号
【特許文献3】米国特許出願公開第2021/0040443号
【特許文献4】米国特許出願公開第2015/0361393号
【特許文献5】米国特許出願公開第2017/0292112号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Fishell and Rudy (2011) Annu. Rev. Neurosci. 34:535:567
【非特許文献2】Le Magueresse and Monyer (2013) Neuron 77:388-405
【非特許文献3】Liu et al. (2013) Nat Protoc. 8:1670-1679
【非特許文献4】Yuan et al. (2015) Sci Rep 5:18550
【非特許文献5】Yan et al. (2013) Stem Cells Transl. Med. 2:862-870
【非特許文献6】Crompton et al. (2013) Stem Cell Res. 11:1206-1221
【非特許文献7】Ihnatovych et al. (2018) Stem Cells International, vol. 2018, Article ID 3983090
【非特許文献8】Comella-Bolla et al. (2020) Mol. Neurobiol. 57:2766-2798
【非特許文献9】Nicholas et al. (2013) Cell Stem Cell 12:573-586
【発明の概要】
【0012】
本開示は、9日を要する3段階プロトコルで前脳神経幹細胞(FB-NSC)、腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)および内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)を含むヒト前脳神経前駆細胞を生成する方法を提供し、MGE-NPCは、さらなる17日を要する2段階プロトコルで成熟GABA作動性介在ニューロンにさらに分化させることができる。この方法は、培養3日以内でFB-NSC、培養6日以内でVFB-NSC、培養9日以内でMGE-NPC、培養12日以内で未熟ニューロン、および培養26日以内で成熟パルブアルブミン陽性介在ニューロンの生成を可能にする、化学的に定義された培地を使用する。異なる種類の神経前駆細胞および成熟ニューロンを得るために使用される定義された培地は、多能性幹細胞における特定のシグナル伝達経路活性を作動させるまたはそれと拮抗する小分子作用物質を含み、その結果、前脳神経系列に沿った分化が促進され、細胞成熟および前脳神経前駆細胞関連バイオマーカーの発現をもたらす。本開示の方法は、ある特定の試薬の必要性を避けて、初期プロトコルと異なる成分を含む分化用培地を使用する(例えば、本開示の方法は、二重SMAD阻害を必要としない)。本開示の方法はまた、培地中の小分子作用物質の使用が培養成分の正確な制御を可能にし、神経誘導期の必要性を回避し、MGE-NPCへの分化に続いて成熟GABA作動性介在ニューロンにさらに成熟するために必要な時間が先行技術のプロトコルと比較して有意に短縮するという利点を有する。
【0013】
したがって一局面では、本開示は、BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、AKT経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、およびPKC経路アンタゴニストを含む培地中で0日目から3日目までヒト多能性幹細胞を培養して、ヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)を得ることを含む、ヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ FB-NSCを生成する方法に関する。
【0014】
前記方法は、BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、およびSHH経路アゴニストを含む培地中で3日目から6日目までFB-NSCをさらに培養して、ヒトNKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)を得ることをさらに含むことができる。
【0015】
前記方法は、TAK1経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、TGF-β経路アンタゴニスト、TRK経路アンタゴニスト、ノッチ経路アンタゴニスト、およびIGF1経路アゴニストを含む培地中で6日目から9日目までVFB-NSCをさらに培養して、ヒトASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)を得ることをさらに含むことができる。
【0016】
前記方法は、CREBまたはPKA経路アゴニスト、バルプロ酸または類似体、サブスタンスPまたは類似体、GDNF経路アゴニスト、およびmTOR経路アゴニストを含む培地中で9日目から12日目までMGE-NPCをさらに培養して、ヒト未熟ニューロンを得ることをさらに含むことができる。
【0017】
前記方法は、BDNF経路アゴニスト、IGF-1経路アゴニスト、アスコルビン酸または類似体、ピルビン酸ナトリウムまたは類似体、LPAまたは類似体、N2サプリメント、およびNEAAサプリメントを含む培地中で12日目から26日目までヒト未熟ニューロンをさらに培養して、成熟パルブアルブミン+ 介在ニューロンを得ることをさらに含むことができる。
【0018】
一態様では、ヒト多能性幹細胞は人工多能性幹細胞(iPSC)である。一態様では、ヒト多能性幹細胞は胚性幹細胞である。一態様では、ヒト多能性幹細胞は、培養中にビトロネクチンコーティング済みプレートに付着している。
【0019】
一態様では、BMP経路アンタゴニストは、LDN193189、DMH1、DMH2、ドルソモルフィン(Dorsopmorphin)、K02288、LDN214117、LDN212854、フォリスタチン、ML347、ノギン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、BMP経路アンタゴニストは、培地中に100~500nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、BMP経路アンタゴニストは、培地中に250~275nMの濃度で存在するLDN193189である。
【0020】
一態様では、MEK経路アンタゴニストは、PD0325901、ビニメチニブ(MEK162)、コビメチニブ(XL518)、セルメチニブ、トラメチニブ(GSK1120212)、CI-1040(PD-184352)、レファメチニブ、ARRY-142886(AZD-6244)、PD98059、U0126、BI-847325、RO 5126766、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、MEK経路アンタゴニストは、培地中に50~150nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、MEK経路アンタゴニストは、培地中に100~110nMの濃度で存在するPD0325901である。
【0021】
一態様では、WNT経路アンタゴニストは、XAV939、ICG001、カプマチニブ、エンド-IWR-1、IWP-2、IWP-4、MSAB、CCT251545、KY02111、NCB-0846、FH535、LF3、WIKI4、トリプトニド、KYA1797K、JW55、JW 67、JW74、カルジオノーゲン(Cardionogen)1、NLS-StAx-h、TAK715、PNU 74654、iCRT3、WIF-1、DKK1、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、WNT経路アンタゴニストは、培地中に50~150nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、WNT経路アンタゴニストは、培地中に100~110nMの濃度で存在するXAV939である。
【0022】
一態様では、SHH経路アゴニストは、プルモルファミン、GSA 10、SAG、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、SHH経路アゴニストは、培地中に250~750nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、SHH経路アゴニストは、培地中に500~550nMの濃度で存在するプルモルファミンである。
【0023】
一態様では、AKT経路アンタゴニストは、MK2206、GSK690693、ペリフォシン(KRX-0401)、イパタセルチブ(GDC-0068)、カピバセルチブ(AZD5363)、PF-04691502、AT 7867、トリシリビン(NSC154020)、ARQ751、ミランセルチブ(ab235550)、ボルスセルチブ(Borussertib)、セリセルチブ(Cerisertib)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、AKT経路アンタゴニストは、培地中に50~200nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、AKT経路アンタゴニストは、培地中に138nMの濃度で存在するMK2206である。
【0024】
一態様では、PKC経路アンタゴニストは、Go 6983、ソトラスタウリン、エンザスタウリン、スタウロスポリン、LY31615、Go 6976、GF 109203X、Ro 31-8220メシレート、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、PKC経路アンタゴニストは、培地中に50~200nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、PKC経路アンタゴニストは、培地中に110nMの濃度で存在するGo 6983である。
【0025】
一態様では、TAK1経路アンタゴニストは、タキニブ、デヒドロアビエチン酸(Dehydoabietic acid)、NG25、サルササポゲニン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、TAK1経路アンタゴニストは、培地中に1~5uMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、TAK1経路アンタゴニストは、培地中に2uMの濃度で存在するタキニブである。
【0026】
一態様では、TGFβ経路アンタゴニストは、A 83-01、SB-431542、GW788388、SB525334、TP0427736、RepSox、SD-208、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、TGFβ経路アンタゴニストは、培地中に250~750nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、TGFβ経路アンタゴニストは、培地中に500nMの濃度で存在するA 83-01である。
【0027】
一態様では、TRK経路アンタゴニストは、GNF-5837、BMS-754807、UNC2020、タレトレクチニブ、アルチラチニブ、セリトレクチニブ、PF 06273340、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、TRK経路アンタゴニストは、培地中に25~75nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、TRK経路アンタゴニストは、培地中に50nMの濃度で存在するGNF-5837である。
【0028】
一態様では、ノッチ経路アンタゴニストは、GSI-XX、RO4929097、セマガセスタット、ジベンゾアゼピン、LY411575、クレニガセスタット、IMR-1、IMR-1A、FLI-06、DAPT、バルプロ酸、YO-01027、CB-103、タンゲレチン、BMS-906024、アバガセスタット、ブルセインD、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、ノッチ経路アンタゴニストは、培地中に50~150nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、ノッチ経路アンタゴニストは、培地中に100nMの濃度で存在するGSI-XXである。
【0029】
一態様では、IGF1経路アゴニストは、IGF1、IGF1-Ado、X10、メカセルミン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、IGF1経路アゴニストは、培地中に5~15ng/mlの範囲内の濃度で存在する。一態様では、IGF1経路アゴニストは、培地中に10ng/mlの濃度で存在するIGF1である。
【0030】
一態様では、CREBまたはPKA経路アゴニストは、cAMP、ジブチリル-cAMP、8-Br-cAMP、cAMPS-Sp、CW 008、ホルスコリン、8-CPT-cAMP、CW 008、N6-ベンゾイル-アデノシン3',5'-サイクリック一リン酸ナトリウム塩、アデノシン3',5'-サイクリック一リン酸ナトリウム塩一水和物、(S)-アデノシンサイクリック3',5'-(ヒドロゲンホスホロチオエート)トリエチルアンモニウム、Sp-アデノシン3',5'-サイクリックモノホスホロチオエートトリエチルアンモニウム塩、Sp-5,6-DCI-cBiMPS、8-ブロモアデノシン3',5'-サイクリックモノホスホロチオエートSp-異性体ナトリウム塩、8-ブロモ-アデノシン3',5'-サイクリックモノホスホロチオエートSp-異性体ナトリウム塩、Sp-8-pCPT-サイクリックGMPSナトリウム、8-ブロモアデノシン3',5'-サイクリック一リン酸、N6-モノブチリルアデノシン3':5'-サイクリック一リン酸ナトリウム塩、8-PIP-cAMP、Sp-cAMPS、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、CREBまたはPKA経路アゴニストは、培地中に0.5~2.5μMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、CREBまたはPKA経路アゴニストは、培地中に1.0~1.5μMの濃度で存在するcAMPである。
【0031】
一態様では、バルプロ酸または類似体は、バルプロ酸、バルプロエート、バルプロ酸ナトリウム、およびバルプロ酸セミナトリウムからなる群より選択される。一態様では、バルプロ酸または類似体は、培地中に250~750nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、バルプロ酸は、培地中に450~550nMの範囲内の濃度で存在する。
【0032】
一態様では、サブスタンスPは、培地中に100~150nMの範囲内の濃度で存在する。
【0033】
一態様では、GDNF経路アゴニストは、GDNF、BT13、BT44、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、GDNF経路アゴニストは、培地中に5~50ng/mlの範囲内の濃度で存在する。一態様では、GDNF経路アゴニストは、培地中に10ng/mlの濃度で存在するGDNFである。
【0034】
一態様では、mTOR経路アゴニストは、MHY1458、NV-5138、テストステロン、3-ベンジル-5-((2-ニトロフェノキシ)メチル)-ジヒドロフラン-2(3H)-オン(3BDO)、3BDO、L-ロイシン、NV-5138塩酸塩、NV-5138、L-ロイシン-d1、L-ロイシン-2-13C,15N、ロイシン-13C6、L-ロイシン-d7、L-ロイシン-d10、L-ロイシン-d2、l-ロイシン-d3、L-ロイシン-18O2、L-ロイシン-13C、L-ロイシン-2-13C、L-ロイシン-13C6-15N、L-ロイシン-15N、L-ロイシン-1-13C,15N、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、mTOR経路アゴニストは、培地中に1~3μMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、mTORアゴニストは、培地中に2μMの濃度で存在するMHY1458である。
【0035】
一態様では、BDNF経路アゴニストは、BDNF、ロチゴチン、7,8-DHF、ケタミン、トリサイクリックダイマーペプチド-6(tricyclic dimeric peptide-6)(TDP6)、LM22A-4、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、BDNF経路アゴニストは、培地中に5~50ng/mlの範囲内の濃度で存在する。一態様では、BDNF経路アゴニストは、培地中に10ng/mlの濃度で存在するBDNFである。
【0036】
一態様では、アスコルビン酸またはその類似体は、ビタミンC、2-ホスホ-L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸、リン酸アスコルビルナトリウム、リン酸アスコルビルマグネシウム、アスコルビルグルコシド、アスコルビン酸テトラヘキシルデシル(THD)、エチル化L-アスコルビン酸、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、アスコルビン酸または類似体は、培地中に100~400μMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、2-ホスホ-L-アスコルビン酸は、培地中に200μMの濃度で存在する。
【0037】
一態様では、ピルビン酸ナトリウムは、培地中に100~300μMの濃度で存在する。
【0038】
一態様では、LPAまたはその類似体は、リゾホスファチジン酸(LPA)、2-[[3-(1,3-ジオキソ-1H-ベンゾ[デ]イソキノリン-2(3H)-イル)プロピル]チオ]安息香酸、1-オレオイルリゾホスファチジン酸(O-LPA)、UCM-05194、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、LPAまたは類似体は、培地中に100~400nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、LPAまたは類似体は、培地中に200~300nMの範囲内の濃度で存在するO-LPAである。
【0039】
一態様では、N2サプリメントは、培地中に0.5%~1.5%の範囲の濃度で存在する。
【0040】
一態様では、NEAAサプリメントは、培地中に0.5%~1.5%の範囲の濃度で存在する。
【0041】
別の局面では、本開示は、
(a)BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、AKT経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、およびPKC経路アンタゴニストを含む培地中で0日目から3日目までヒト多能性幹細胞を培養して、ヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)を得ること;ならびに
(b)BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、およびSHH経路アゴニストを含みかつAKT経路アンタゴニストおよびPKC経路アンタゴニストを欠く培地中で3日目から6日目までヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ FB-NSCをさらに培養して、ヒトNKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)を得ること
を含む、ヒトNKX2-1腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)を生成する方法を提供する。
【0042】
一態様では、BMP経路アンタゴニストはLDN193189であり、MEK経路アンタゴニストはPD0325901であり、WNT経路アンタゴニストはXAV939であり、SHH経路アゴニストはプルモルファミンであり、AKT経路アンタゴニストはMK2206であり、かつPKC経路アンタゴニストはGo 6983である。
【0043】
一態様では、LDN193189は培地中に100~500nMの範囲内の濃度で存在し、PD0325901は培地中に50~150nMの範囲内の濃度で存在し、XAV939は培地中に50~150nMの範囲内の濃度で存在し、プルモルファミンは培地中に250~750nMの範囲内の濃度で存在し、MK2206は培地中に段階(a)において50~150nMの範囲内の濃度で存在し、かつGo 6983は培地中に段階(a)において50~150nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、LDN193189は培地中に段階(a)において275nMおよび段階(b)において250nMの濃度で存在する。PD0325901は、培地中に段階(a)において110nMおよび段階(b)において100nMの濃度で存在し、XAV939は培地中に段階(a)において110nMおよび段階(b)において100nMの濃度で存在し、プルモルファミンは培地中に段階(a)において550nMおよび段階(b)において500nMの濃度で存在し、MK2206は培地中に段階(a)において138nMの濃度で存在し、かつGo 6983は培地中に段階(a)において110nMの濃度で存在する。
【0044】
なお別の局面では、本開示は、
(a)BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、AKT経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、およびPKC経路アンタゴニストを含む培地中で0日目から3日目までヒト多能性幹細胞を培養して、ヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)を得ること;
(b)BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、およびSHH経路アゴニストを含みかつAKT経路アンタゴニストおよびPKC経路アンタゴニストを欠く培地中で3日目から6日目までヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ FB-NSCをさらに培養して、ヒトNKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)を得ること;ならびに
(c)TAK1経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、TGF-β経路アンタゴニスト、TRK経路アンタゴニスト、ノッチ経路アンタゴニスト、およびIGF1経路アゴニストを含む培地中で6日目から9日目までヒトNKX2-1+ VFB-NSCをさらに培養して、ヒトASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)を得ること
を含む、ヒトASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)を生成する方法に関する。
【0045】
一態様では、BMP経路アンタゴニストはLDN193189であり、MEK経路アンタゴニストはPD0325901であり、WNT経路アンタゴニストはXAV939であり、SHH経路アゴニストはプルモルファミンであり、AKT経路アンタゴニストはMK2206であり、PKC経路アンタゴニストはGo 6983であり、TAK1経路アンタゴニストはタキニブであり、TGF-β経路アンタゴニストはA 83-01であり、TRK経路アンタゴニストはGNF-5837であり、ノッチ経路アンタゴニストはGSI-XXであり、かつIGF1経路アゴニストはIGF-1である。
【0046】
一態様では、LDN193189は培地中に100~500nMの範囲内の濃度で存在し、PD0325901は培地中に50~150nMの範囲内の濃度で存在し、XAV939は培地中に50~150nMの範囲内の濃度で存在し、プルモルファミンは培地中に250~750nMの範囲内の濃度で存在し、MK2206は培地中に段階(a)において50~150nMの範囲内の濃度で存在し、Go 6983は培地中に段階(a)において50~150nMの範囲内の濃度で存在し、タキニブは培地中に段階(c)において1~5uMの範囲内の濃度で存在し、A 83-01は培地中に段階(c)において250~750nMの範囲内の濃度で存在し、GNF-5837は培地中に段階(c)において25~75nMの範囲内の濃度で存在し、GSI-XXは培地中に段階(c)において50~150nMの範囲内の濃度で存在し、かつIGF-1は培地中に段階(c)において5~15ng/mlの範囲内の濃度で存在する。一態様では、LDN193189は培地中に段階(a)において275nMおよび段階(b)において250nMの濃度で存在し、PD0325901は培地中に段階(a)において110nMおよび段階(b)において100nMの濃度で存在し、XAV939は、培地中に段階(a)において110nMおよび段階(b)において100nMの濃度で存在し、プルモルファミンは培地中に段階(a)において550nMおよび段階(b)において500nMの濃度で存在し、MK2206は培地中に段階(a)において138nMの濃度で存在し、Go 6983は培地中に段階(a)において110nMの濃度で存在し、タキニブは培地中に段階(c)において2uMの濃度で存在し、A 83-01は培地中に段階(c)において500nMの濃度で存在し、GNF-5837は培地中に段階(c)において50nMの濃度で存在し、GSI-XXは培地中に段階(c)において100nMの濃度で存在し、かつIGF-1は培地中に段階(c)において10ng/mlの範囲内の濃度で存在する。
【0047】
なお別の局面では、本開示は、
(a)CREBまたはPKA経路アゴニスト、バルプロ酸または類似体、サブスタンスPまたは類似体、GDNF経路アゴニスト、およびmTOR経路アゴニストを含む培地中で0日目から3日目までヒトMGE-NPCを培養して、ヒト未熟ニューロンを得ること;ならびに
(b)BDNF経路アゴニスト、IGF-1経路アゴニスト、アスコルビン酸または類似体、ピルビン酸ナトリウムまたは類似体、LPAまたは類似体、N2サプリメント、およびNEAAサプリメントを含む培地中で3日目から17日目までヒト未熟ニューロンを培養して、ヒト成熟パルブアルブミン+ 介在ニューロンを得ること
を含む、ヒト内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)からヒト成熟パルブアルブミン+ 介在ニューロンを生成する方法に関する。
【0048】
一態様では、CREBまたはPKA経路アゴニストはcAMPであり、バルプロ酸または類似体はバルプロ酸であり、サブスタンスPまたは類似体はサブスタンスPであり、GDNF経路アゴニストはGDNFであり、mTOR経路アゴニストはMHY1458であり、BDNF経路アゴニストはBDNFであり、IGF-1経路アゴニストはIGF-1であり、アスコルビン酸または類似体は2-ホスホ-L-アスコルビン酸であり、ピルビン酸ナトリウムまたは類似体はピルビン酸ナトリウムであり、LPAまたは類似体はO-LPAである。
【0049】
一態様では、cAMPは1.0~1.5μMの範囲の濃度で存在し、バルプロ酸は450~550nMの範囲の濃度で存在し、サブスタンスPは100~150nMの範囲の濃度で存在し、GDNFは5~50ng/mlの範囲の濃度で存在し、MHY1458は1~3μMの範囲の濃度で存在し、BDNFは5~50ng/mlの範囲の濃度で存在し、IGF-1は5~50ng/mlの範囲の濃度で存在し、2-ホスホ-L-アスコルビン酸は100~400μMの範囲の濃度で存在し、O-LPAは100~400μMの範囲の濃度で存在し、ピルビン酸ナトリウムは100~300μMの範囲の濃度で存在し、N2サプリメントは0.5%~1.5%の範囲の濃度で存在し、かつNEAAサプリメントは0.5%~1.5%の範囲の濃度で存在する。
【0050】
一態様では、cAMPは1.0μMの濃度で存在し、バルプロ酸は500nMの濃度で存在し、サブスタンスPは100nMの濃度で存在し、GDNFは10ng/mlの濃度で存在し、MHY1458は2μMの濃度で存在し、BDNFは10ng/mlの濃度で存在し、IGF-1は10ng/mlの濃度で存在し、2-ホスホ-L-アスコルビン酸は200μMの濃度で存在し、ピルビン酸ナトリウムは100μMの濃度で存在し、O-LPAは200μMの濃度で存在し、N2サプリメントは1.0%の濃度で存在し、NEAAサプリメントは1.0%の濃度で存在する。
【0051】
別の局面では、本開示は、ヒト前脳神経幹細胞または前駆細胞を生成するための様々な培地に関する。一態様では、本開示は、BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、AKT経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、およびPKC経路アンタゴニストを含む、ヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)を得るための培地を提供する。一態様では、本開示は、BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、およびSHH経路アゴニストを含む、ヒトNKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)を得るための培地を提供する。一態様では、本開示は、TAK1経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、TGF-β経路アンタゴニスト、TRK経路アンタゴニスト、ノッチ経路アンタゴニスト、およびIGF1経路アゴニストを含む、ヒトASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)を得るための培地を提供する。一態様では、本開示は、CREBまたはPKA経路アゴニスト、バルプロ酸または類似体、サブスタンスPまたは類似体、GDNF経路アゴニスト、およびmTOR経路アゴニストを含む、ヒト未熟ニューロンを得るための培地を提供する。一態様では、本開示は、BDNF経路アゴニスト、IGF-1経路アゴニスト、アスコルビン酸または類似体、ピルビン酸ナトリウムまたは類似体、LPAまたは類似体、N2サプリメント、およびNEAAサプリメントを含む、ヒト成熟GABA作動性介在ニューロンを得るための培地を提供する。
【0052】
別の局面では、本開示は、ヒト前脳神経幹細胞または前駆細胞の単離された細胞培養物に関する。一態様では、本開示は、ヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)の単離された細胞培養物を提供し、該細胞培養物は、BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、AKT経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、およびPKC経路アンタゴニストを含む培地中で培養されたヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ FB-NPCを含む。一態様では、本開示は、ヒトNKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)の単離された細胞培養物を提供し、該細胞培養物は、BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、およびSHH経路アゴニストを含む培地中で培養されたヒトNKX2-1+ VFB-NPCを含む。一態様では、本開示は、ヒトASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)の単離された細胞培養物を提供し、該細胞培養物は、TAK1経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、TGF-β経路アンタゴニスト、TRK経路アンタゴニスト、ノッチ経路アンタゴニスト、およびIGF1経路アゴニストを含む培地中で培養されたヒトASCL1+ MGE-NPCを含む。一態様では、本開示は、ヒト未熟ニューロンの単離された細胞培養物を提供し、該細胞培養物は、CREBまたはPKA経路アゴニスト、バルプロ酸または類似体、サブスタンスPまたは類似体、GDNF経路アゴニスト、およびmTOR経路アゴニストを含む培地中で培養されたヒト未熟ニューロンを含む。一態様では、本開示は、ヒト成熟GABA作動性介在ニューロンの単離された細胞培養物を提供し、該細胞培養物は、BDNF経路アゴニスト、IGF-1経路アゴニスト、アスコルビン酸または類似体、ピルビン酸ナトリウムまたは類似体、LPAまたは類似体、N2サプリメント、およびNEAAサプリメントを含む培地中で培養されたヒト成熟GABA作動性介在ニューロンを含む。
【0053】
なお別の局面では、本開示は、本開示の方法によって生成されたヒト前脳神経幹細胞または前駆細胞に関する。一態様では、本開示は、本開示の方法によって生成されたヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)を提供する。一態様では、本開示は、本開示の方法によって生成されたヒトNKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)を提供する。一態様では、本開示は、本開示の方法によって生成されたヒトASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)を提供する。一態様では、本開示は、本開示の方法によって生成されたヒト未熟ニューロンを提供する。一態様では、本開示は、本開示の方法によって生成されたヒトパルブアルブミン+ 成熟介在ニューロンを提供する。
【0054】
本開示の方法および組成物は、研究または治療目的の、例えば神経障害の処置(例えば、てんかんを処置するための移植)における、ヒト前脳神経幹細胞または前駆細胞の生成に有用である。
【0055】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】FEZF2の最大発現のために最適化された12因子実験のHD-DoEモデルからの結果を示す。モデルの上部セクションは、FEZF2のために最適化されたときの予備選択された53遺伝子の発現レベルの予測を示す。モデルの下部セクションは、このモデルで試験されたエフェクターおよびFEZF2の最大発現へのそれらの寄与を示す。値の列は、モデルを模倣するために必要な各エフェクターの濃度を指す。
図2】SIX3の最大発現のために最適化された12因子実験のHD-DoEモデルからの結果を示す。上部および下部セクションは、図1についての説明と同様である。この条件は、SIX3の高い発現のための重要なインプットとして因子寄与24.9および23.7でのエフェクターLDN193189およびTTNPBを強調している。
図3】OTX2の最大発現のために最適化された12因子実験のHD-DoEモデルからの結果を示す。上部および下部セクションは、図1についての説明と同様である。この条件は、OTX2の重要なインプット最小発現として因子寄与28.8でのエフェクターTTNPBを強調している。
図4】試験した12個のエフェクターの濃度に対するOTX2、FEZF2およびSIX3遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。OTX2の発現およびそれらの因子寄与に及ぼすLDN193189およびXAV939のプラスの影響をエフェクター毎にプロットの傾きによって示す。
図5】FEZF2の最大発現のために最適化された12因子実験のHD-DoEモデルからの結果を示す。上部および下部セクションは、図1についての説明と同様である。この条件は、FEZF2の最大発現に重要なインプットとして因子寄与12.2でのエフェクターMK2206を強調している。
図6】試験した12個のエフェクターの濃度に対するFEZF2の発現レベルの動的プロファイルを示す。FEZF2の発現に及ぼすLDN193189、XAV939、PD0325901、MK2206、プルモルファミンおよびGO6983のプラスの影響ならびにそれらの因子寄与をエフェクター毎にプロットの傾きによって示す。
図7】分化のステージ2のためのレシピを作成するためにステージ1の神経幹細胞に適用された12因子実験のHD-DoEモデルからの結果を示す。このモデルは、NKX2-1の最大発現のために最適化されている。上部および下部セクションは、図1についての説明と同様である。この設定は、因子寄与26.3でNKX2-1の発現におけるSANT-1のマイナスの役割を強調している。
図8】12個のエフェクターの濃度に対するNKX2-1、PAX6およびNKX2-2遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。NKX2-1に及ぼすPD0325901およびXAV939のプラスの影響ならびにSANT-1およびTTNPBのマイナスの影響ならびにそれらの因子寄与をエフェクター毎にプロットの傾きによって示す。
図9】分化のステージ3のためのレシピを作成するためにステージ2の神経幹細胞に適用された12因子実験のHD-DoEモデルからの結果を示す。このモデルは、ASCL1の最大発現のために最適化されている。上部および下部セクションは、図1についての説明と同様である。この設定は、因子寄与18および14でA8301およびGSI-XXのプラスの役割を強調している。
図10】12個のエフェクターの濃度に対するASCL1、DLX1およびLHX6遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。ASCL1およびLHX6の発現レベルに及ぼすA8301、GSI-XXおよびプルモルファミンのプラスの影響ならびにそれらの因子寄与をエフェクター毎にプロットの傾きによって示す。
図11A図11A~11Bは、分化のステージ1のレシピ中の6つの検証済みエフェクターの濃度に対するOTX2、FEZF2およびSIX3遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。図11Aは、最終決定されたすべてのエフェクターの存在下での関心対象の遺伝子の発現レベルを示す。図11Bは、1回につき1つの最終決定されたエフェクターが存在せず、その他が存在する場合の関心対象の遺伝子の発現レベルを示す。
図11B図11Aの説明を参照のこと。
図12】分化のステージ1のレシピ中の6つの検証済みエフェクターの濃度に対するFEZF2の発現レベルの動的プロファイルを示す。1回につき1つの最終決定されたエフェクターが存在せず、その他が存在する場合のFEZF2の発現レベルを示す。
図13A図13A~13Bは、分化のステージ2のレシピ中の4つの検証済みエフェクターの濃度に対するNKX2-1、PAX6およびNKX2-2遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。図13Aは、最終決定されたすべてのエフェクターの存在下での関心対象の遺伝子の発現レベルを示す。図13Bは、1回につき1つの最終決定されたエフェクターが存在せず、その他が存在する場合の関心対象の遺伝子の発現レベルを示す。
図13B図13Aの説明を参照のこと。
図14】NKX2-1の発現レベルの最適化のために使用された12因子HD-DoEモデルにおける2つのエフェクターの相互作用プロットを示す。青のプロットは、XAV939の濃度が増加する一方でプルモルファミンの濃度がその最高値(500nM)に保たれた場合のNKX2-1の発現レベルを示す。緑のプロットは、XAV93の濃度が増加する一方でプルモルファミンの濃度が0に保たれた場合のNKX2-1の発現レベルを示す。
図15A図15A~15Bは、分化のステージ3のレシピ中の6つの検証済みエフェクターの濃度に対するASCL1、DLX1およびLHX6遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。図15Aは、6つの因子すべての存在下での関心対象の遺伝子の発現レベルを示す。図15Bは、1回につき1つの最終決定されたエフェクターが存在せず、その他が存在する場合の関心対象の遺伝子の発現レベルを示す。
図15B図15Aの説明を参照のこと。
図16図16A~16Cは、ステージ1、2および3の処置の終了時の腹側前脳由来神経前駆細胞の蛍光画像の写真を示す。SIX3、OTX2、背側前脳マーカーPAX6、腹側前脳バイオマーカーNKX2-1、DLX5およびMASH1、MGE特異的バイオマーカーLHX6およびSOX6、汎ニューロンバイオマーカーであるβIII-チューブリン、GABA作動性介在ニューロンバイオマーカーGABA、増殖バイオマーカーKI67ならびにグリアバイオマーカーOLIG2およびGFAPを含む前脳バイオマーカーで細胞を染色する。図16Aは、3日目の細胞(ステージ1の終わり)の蛍光画像の写真を示す。図16Bは、6日目の細胞(ステージ2の終わり)の蛍光画像の写真を示す。図16Cは、9日目の細胞(ステージ3の終わり)の蛍光画像の写真を示す。
図17】多能性幹細胞からMGE-NPCを生成するための3ステージプロトコルに関する本開示の代表的な培養方法の概要図である。
図18】MGE-NPCから成熟GABA作動性介在ニューロンを生成するための2ステージプロトコルに関する本開示の代表的な培養方法の概要図である。
図19】MEF2Cの最大発現のために最適化された12因子実験のモデルからの結果を示す。モデルの上部セクションは、MEF2Cのために最適化された場合の予備選択された53個の遺伝子の発現レベルの予測を示す。モデルの下部セクションは、このモデルで試験されたエフェクターおよびMEF2Cの最大発現へのそれらの寄与を示す。値の列は、モデルを模倣するために必要な各エフェクターの濃度を指す。
図20】12個のエフェクターの濃度に対するMEF2C遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。MEF2Cに及ぼすcAMP、バルプロ酸、サブスタンスP、およびGDNFのプラスの影響ならびにそれらの因子寄与をエフェクター毎にプロットの傾きによって示す。
図21】PVALBの最大発現のために最適化された8因子実験のモデルからの結果を示す。上部および下部セクションは、図19についての説明と同様である。この条件は、PVALBの最大発現に重要なインプットとして因子寄与14.6、12.8、15.04でのエフェクター、BDNF、IGF-1、および2-ホスホ-L-アスコルビン酸を強調している。
図22】8つのエフェクターの濃度に対するPVALBの発現レベルの動的プロファイルを示す。インドラクタム-V、オレイン酸、2-ホスホ-L-アスコルビン酸、BDNF、IGF-1のプラスの影響およびそれらの因子寄与をエフェクター毎にプロットの傾きによって示す。
図23】分化のステージ5のためのレシピを作成するためにステージ4の神経幹細胞に適用された8因子実験のモデルからの結果を示す。このモデルは、PVALBの最大発現のために最適化されている。上部および下部セクションは、図19についての説明と同様である。この設定は、PVALBの発現におけるN2のプラスの役割を15.9の因子寄与で強調している。
図24】8つのエフェクターの濃度に対するPVALB遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。PVALBに及ぼすN2のプラスの影響ならびにGSI-XX、THI0019およびヘパリンのマイナスの影響ならびにそれらの因子寄与をエフェクター毎にプロットの傾きによって示す。
図25】分化のステージ5のためのレシピを作成するためにステージ4の神経幹細胞に適用された8因子実験のモデルからの結果を示す。このモデルは、PVALBの最大発現のために最適化されている。上部および下部セクションは、図19についての説明と同様である。この設定は、ホルスコリンおよびピルビン酸ナトリウムのプラスの役割を3.14および17.1の因子寄与で強調する。
図26】8つのエフェクターの濃度に対するPVALB遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。PVALBの発現レベルに及ぼすピルビン酸ナトリウムおよびホルスコリンのプラスの影響ならびにそれらの因子寄与をエフェクター毎にプロットの傾きによって示す。
図27A図27A~27Bは、分化のステージ4のレシピ中の5つのエフェクターの濃度に対するMEF2C、PVALBおよびソマトスタチン遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。結果は、7つの因子すべての存在下での関心対象の遺伝子の発現レベルを示す。
図27B図27Aの説明を参照のこと。
図28A図28A~28Bは、分化のステージ5のレシピ中の3つのエフェクターの濃度に対するPVALBおよびソマトスタチン遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。結果は、表示の因子の存在下での関心対象の遺伝子の発現レベルを示す。
図28B図28Aの説明を参照のこと。
図29】分化のステージ5のレシピ中のN2エフェクターの濃度に対するPVALBおよびソマトスタチン遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。結果は、N2因子の存在下での関心対象の遺伝子の発現レベルを示す。
図30】分化のステージ5のレシピ中のピルビン酸ナトリウムの濃度に対するPVALBおよびソマトスタチン遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。結果は、ピルビン酸ナトリウム因子の存在下での関心対象の遺伝子の発現レベルを示す。
図31A図31A~31Bは、分化のステージ5のレシピ中のエフェクター濃度に対するLHX6およびGAD1遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。結果は、すべての因子の存在下での関心対象の遺伝子の発現レベルを示す。
図31B図31Aの説明を参照のこと。
図32】ステージ4の処置の終了時での分化した介在ニューロン細胞の蛍光画像の写真を示す。NeuN、背側前脳マーカーPAX6、GAD65、ネスチン、MASH1、汎ニューロンバイオマーカーであるβIII-チューブリン、SOX2、およびSOX6を含む前脳バイオマーカーで細胞を染色した。結果は、3日目の細胞(ステージ4の終わり)の蛍光画像を示す。
図33】5つの処置の終わりでの分化した介在ニューロン細胞の蛍光画像の写真を示す。GAD65、MASH1、MAP2、シナプシン、GABA作動性介在ニューロンバイオマーカーGABA、LHX6、神経フィラメント、パルブアルブミンおよびGFAPを含む前脳バイオマーカーで細胞を染色した。結果は、17日目の細胞(ステージ5の終わり)の蛍光画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
発明の詳細な説明
小分子ベースのアプローチを使用して化学的に定義された培養条件で、ヒト多能性幹細胞から前脳神経前駆細胞のみならず、成熟GABA作動性介在ニューロンの生成を可能にする方法論および組成物が本明細書に記載される。本開示の方法は、OTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)が3日で生成され、続いて培養6日目までにNKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)が生成され、続いて培養9日目までにASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)が生成される3ステージプロトコルで内側基底核原基神経前駆細胞(GABA作動性介在ニューロンへの前駆細胞)を生成する。したがって、本開示は、化学的に定義された培養条件を使用して先行技術のプロトコルよりも有意に短い時間でMGE-NPCを入手することを可能にする。MGE-NPCは、MGE-NPCが最初に3日で(MGE-NPCを生成するための9日間プロトコルに続く培養12日目に)未熟ニューロンに分化し、続いて14日で(培養26日目に)成熟パルブアルブミン+ 介在ニューロンに分化する2ステージプロトコルに従いさらに分化することができる。
【0058】
実施例1に記載されるように、高次元実験計画(High-Dimensional Design of Experiments)(HD-DoE)アプローチを使用して、遺伝子発現などのアウトプット応答に対して複数のプロセスインプット(例えば、小分子アゴニストまたはアンタゴニスト)を同時に試験した。これらの実験は、所定の条件下、短い時間で、FB-NSC、VFB-NSC、およびMGE-NPCを含む前脳神経幹細胞および前駆細胞を生成するために十分な、特定のシグナル伝達経路のアゴニストおよび/またはアンタゴニストを含む化学的に定義された培地の特定を可能にした。実施例2に記載の個別のアゴニストまたはアンタゴニストを除去する効果を検討した因子致命度解析によって最適化培地をさらに検証した。免疫組織化学によって、実施例3に記載の分化プロトコルによって、生成された細胞の表現型をさらに確認した。
【0059】
図17は、3ステージプロトコルを使用してFB-NSC、VFB-NSCおよびMGE-NPCを生成するための本開示の方法の態様を略図で示す。
【0060】
図18は、2ステージプロトコルを使用してMGE-NPCから未熟ニューロンおよび成熟パルブアルブミン+ 介在ニューロンを生成するための本開示の方法の態様を略図で示す。
【0061】
本発明の様々な局面は、以下のサブセクションにさらに詳細に記載される。
【0062】
I. 細胞
本開示の培養に使用される出発細胞はヒト多能性幹細胞である。本明細書に使用される場合、「ヒト多能性幹細胞」という用語(hPSCと略される)は、多様な異なる細胞型に分化する能力を有するヒト幹細胞を指す。本明細書に使用される場合の「多能性」という用語は、異なる条件下で全部で3つの胚細胞層(内胚葉、中胚葉および外胚葉)に特徴的な細胞型に分化する能力を有する細胞を指す。多能性細胞は、例えば、ヌードマウスおよび奇形腫形成アッセイを使用して、主としてそれらが全部で3つの胚葉に分化する能力によって特徴付けられる。多能性についての好ましい試験は、3つの胚葉の各々が細胞に分化する能力の実証であるものの、多能性はまた、胚性幹(ES)細胞マーカーの発現によって証明することができる。
【0063】
ヒト多能性幹細胞は、例えば、人工多能性幹細胞(iPSC)およびES細胞株などのヒト胚性幹細胞を含む。人工多能性幹細胞(iPSC)の非限定的な例は、19-11-1、19-9-7または6-9-9細胞(例えば、Yu, J. et al. (2009) Science 324:797-801に記載)を含む。ヒト胚性幹細胞株の非限定的な例は、ES03細胞(WiCell Research Institute)およびH9細胞(Thomson, J.A. et al. (1998) Science 282:1145-1147)を含む。ヒト多能性幹細胞(PSC)は、細胞をPSCと特定するために使用することができる細胞マーカーを発現する。多能性幹細胞マーカーの非限定的な例は、TRA-1-60、TRA-1-81、TRA-2-54、SSEA1、SSEA3、SSEA4、CD9、CD24、OCT3、OCT4、NANOGおよび/またはSOX2を含む。本開示の前脳神経前駆細胞を生成する方法は、出発多能性幹細胞集団を分化(成熟)させるために使用されるので、様々な態様において本開示の方法によって生成された前脳神経前駆細胞集団は、TRA-1-60、TRA-1-81、TRA-2-54、SSEA1、SSEA3、SSEA4、CD9、CD24、OCT3、OCT4、NANOGおよび/またはSOX2からなる群より選択される1つまたは複数の幹細胞マーカーなどの1つまたは複数の幹細胞マーカーの発現を欠如する。
【0064】
多能性幹細胞は、細胞分化を誘導する本明細書記載の培養条件に供される。本明細書に使用される場合、「分化」という用語は、典型的には特定の細胞系列への分化決定の表現型特徴を示している、より原始的なステージからより成熟した(すなわちあまり原始的でない)細胞への細胞の発達を指す。
【0065】
本明細書に使用される場合、「神経幹細胞」は、神経系列に分化決定されているが、神経系列に沿った異なる細胞型に分化する能力をまだ有する点で多能性幹細胞よりも大きく分化している細胞を指す。
【0066】
本明細書に使用される場合、「神経前駆細胞」は、神経幹細胞よりも大きく分化しているが、特定の神経細胞型にさらに分化できる細胞を指す。
【0067】
複数の態様では、細胞は、神経前駆細胞または前脳領域に分化決定された神経細胞の特定のバイオマーカーなどの1つまたは複数のバイオマーカーの発現に基づき特定および特徴決定することができる。「陽性」バイオマーカーは、関心対象の細胞上に発現されるものであり、一方で、「陰性」バイオマーカーは、関心対象の細胞上に発現されていないものである。
【0068】
関心対象の細胞の特徴決定において発現を評価することができるバイオマーカーの非限定的な例は、OTX2(Hoch et al. (2015) Cell Reports 12:482-494)、SIX3(Lagutin et al. (2003) Genes & Development 17:368-379)およびFEZF2(Zhang et al. (2014) Development 141:4794-47805)を含む前部神経外胚葉および前脳の発生およびパターン形成に関与する遺伝子、NKX2-1を含む腹側前脳に発現される遺伝子および背側前脳マーカーであるPAX6の非存在(すなわち、陰性バイオマーカーとしてのPAX6)(Stoykova et al. (2000) J. Neurosci. 20:8042-8050)、ならびにASCL1、LHX6およびDLX1を含む内側基底核原基(MGE)領域のニューロン前駆細胞に発現される遺伝子(Silberberg et al. (2016) Neuron 92:59-74)を含む。複数の態様では、FB-NSCはOTX2+ FEZF2+ SIX3+である。複数の態様では、VFB-NSCはNKX2-1+である。複数の態様では、VFB-NSCはNKX2-1+かつPAX6陰性(PAX6-)である。複数の態様では、MBE-NPCはASCL1+である。複数の態様では、MBE-NPCは、ASCL1、LHX6およびDLX1より選択される少なくとも2つのマーカーが陽性である。複数の態様では、MBE-NPCはASCL1+ LHX6+ DLX1+である。
【0069】
他のバイオマーカーは、βIII-チューブリン(汎ニューロンマーカー)、KI67(増殖マーカー)、DLX5(前脳のLGEおよびMGE領域に発現されるニューロン前駆細胞マーカー(Wang et al. (2010) J. Neurosci. 30:5334-5345))、OLIG2(オリゴデンドロサイトマーカー)、GFAP(グリアマーカー)、DCX(未熟ニューロンを特定するマーカー)、SOX6(MGE領域の有糸分裂後前駆細胞に発現されるマーカー(Batista-Brito et al. (2009) Neuron 63:466-481))およびGABA(GABA作動性介在ニューロンによって特異的に発現されるマーカー)を含んでいた。
【0070】
本明細書に使用される場合、細胞による関心対象のバイオマーカーのわずかな「低」レベルの発現は、バックグラウンドレベルを最大で20%、より好ましくは20%未満、15%未満、10%未満または5%未満上回るレベルを指すことが意図される(ここで、バックグラウンドレベルは、例えば、細胞によって発現されないと考えられる陰性対照マーカーの発現レベルに対応する)。
【0071】
複数の態様では、本開示の方法によって生成された細胞は前脳神経幹細胞(FB-NSC)である。本明細書に使用される場合、「前脳神経幹細胞」または「FB-NSC」は、OTX2、FEZF2およびSIX3より選択される少なくとも1つのバイオマーカー、好ましくは2つまたは3つすべてのバイオマーカーを発現する幹細胞由来神経幹細胞を指す。FB-NSCはまた、βIII-チューブリンおよび/またはKI67を含むが、それに限定されるわけではない、さらなるバイオマーカーを発現する場合がある。
【0072】
複数の態様では、本開示の方法によって生成された細胞は、FB-NSCよりも大きく分化した(より大きく成熟した)細胞であり、かつ腹側系列に沿って分化決定された、腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)である。本明細書に使用される場合、「腹側前脳神経幹細胞」または「VFB-NSC」は、バイオマーカーNKX2-1を発現する幹細胞由来神経細胞を指す。一態様では、VFB-NSCは、バイオマーカーPAX6を発現しない、またはそれをわずかに低レベル発現する。さらに、VFB NSCはまた、βIII-チューブリンおよび/またはKI67を含むが、それに限定されるわけではないさらなるバイオマーカーを発現する場合がある。
【0073】
複数の態様では、本開示の方法によって生成された細胞は内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)である。本明細書に使用される場合、「内側基底核原基神経前駆細胞」または「MGE-NPC」は、ASCL1、LHX6およびDLX1より選択される少なくとも1つのバイオマーカー、好ましくは2つまたは3つすべてのバイオマーカーを発現する幹細胞由来神経細胞を指す。MGE-NPCはまた、βIII-チューブリンおよび/またはKI67を含むが、それに限定されるわけではないさらなるバイオマーカーを発現する場合がある。
【0074】
本開示の方法によって生成された分化決定されたMGE-NPCは、例えば、本明細書記載の培養プロトコルに従って成熟GABA作動性介在ニューロンを生成するためにインビトロでさらに培養することができる。本明細書に使用される場合、成熟GABA作動性ニューロンは、バイオマーカーであるパルブアルブミンを発現し、LHX6、MAP2、GABAおよび/またはGAD1も発現する場合があるニューロン由来細胞を指す。
【0075】
II. 培地成分
FB-NSC、VFB-NSCおよびMGE-NPCのみならず、MGE-NPCから未熟ニューロンおよびパルブアルブミン+ 介在ニューロンを生成するための本開示の方法は、細胞シグナル伝達経路の特異的アゴニストおよび/またはアンタゴニストを含む培地中でヒト多能性幹細胞を培養することを含む。様々な態様では、培地は、血清を欠き、外因的に添加された増殖因子を欠き、動物性製品を欠き、無血清であり、ゼノフリーであり、かつ/またはフィーダー層フリーである。様々な態様では、培地は、SMAD2/3阻害物質もしくはアンタゴニストを欠くか、二重SMAD阻害物質もしくはアンタゴニストを欠くか、またはTGFβ経路アンタゴニストを欠く。
【0076】
実施例1に記載されるように、BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、AKT経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、およびPKC経路アンタゴニストを含む培地は、OTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)をわずか3日で生成するために十分であった(本明細書において分化プロトコルの「ステージ1」と呼ぶ)。BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、およびSHH経路アゴニストを含む培地中でのFB-NSCのさらなる分化は、さらなる3日でNKX2-1+ VFB-NSCを生成するために十分であった(本明細書において「ステージ2」と呼ぶ)。TAK1経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、TGF-β経路アンタゴニスト、TRK経路アンタゴニスト、ノッチ経路アンタゴニスト、およびIGF1経路アゴニストを含む培地中でのVFB-NSCのなおさらなる分化は、もう3日でASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)を生成するために十分であり(本明細書において「ステージ3」と呼ぶ)、MGE-NPCを生成するために全体として3ステージの9日間プロトコルであった。MGE-NPCは、CREBまたはPKA経路アゴニスト、バルプロ酸またはその類似体、サブスタンスPまたはその類似体、GDNF経路アゴニスト、およびmTOR経路アゴニストを含む培地中で3日間さらに培養することによってさらに未熟ニューロンに分化することができる(本明細書において「ステージ4」と呼ぶ)。最終的に、未熟ニューロンは、BDNF経路アゴニスト、IGF-1経路アゴニスト、アスコルビン酸または類似体、ピルビン酸ナトリウム、O-LPAまたは類似体、N2サプリメントおよび可欠アミノ酸を含む培地中で2週間(14日)さらに培養することによってさらに成熟GABA作動性介在ニューロンに分化することができる(本明細書において「ステージ5」と呼ぶ)。
【0077】
本明細書に使用される場合、細胞シグナル伝達経路の「アゴニスト」は、細胞シグナル伝達経路を刺激する(アップレギュレーションする)作用物質を指すことが意図される。細胞シグナル伝達経路の刺激は、例えば、シグナル伝達経路に関与する細胞表面受容体を活性化するアゴニスト(例えば、アゴニストは受容体リガンドであることができる)の使用によって、細胞外で開始することができる。追加的または代替的に、細胞シグナル伝達の刺激は、例えば、シグナル伝達経路の成分と細胞内で相互作用する小分子アゴニストの使用によって、細胞内で開始することができる。
【0078】
本明細書に使用される場合、細胞シグナル伝達経路の「アンタゴニスト」は、細胞シグナル伝達経路を阻害する(ダウンレギュレーションする)作用物質を指すことが意図される。細胞シグナル伝達経路の阻害は、例えば、シグナル伝達経路に関与する細胞表面受容体を遮断するアンタゴニストの使用によって、細胞外で開始することができる。代替的または追加的に、細胞シグナル伝達の阻害は、例えば、シグナル伝達経路の成分と細胞内で相互作用する小分子アンタゴニストの使用によって、細胞内で開始することができる。
【0079】
本開示の方法に使用されるアゴニストおよびアンタゴニストは、当技術分野において公知であり、市販されている。それらは、培地中で、所望のアウトカム、例えば、関心対象の前脳マーカーを発現する前脳神経幹細胞または前駆細胞の生成を達成するために有効な濃度で使用される。適切なアゴニストおよびアンタゴニスト剤、および有効濃度範囲の非限定的な例は、下にさらに記載される。
【0080】
BMP(骨形成タンパク質)経路のアンタゴニストは、BMPと、アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)(例えば、ALK2およびALK3を含むが、それに限定されるわけではないI型BMP受容体)であるBMP受容体との結合によって生物学的に活性化されるBMPシグナル伝達経路を阻害(ダウンレギュレーション)することができる作用物質、分子、化合物、または物質を含む。一態様では、BMP経路アンタゴニストは、LDN193189、DMH1、DMH2、ドルソモルフィン、K02288、LDN214117、LDN212854、フォリスタチン、ML347、ノギン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、BMP経路アンタゴニストは、培地中に100~500nM、100~400nM、150~350nMまたは200~300nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、BMP経路アンタゴニストはLDN193189である。一態様では、BMP経路アンタゴニストは、培地中に100~500nM、100~400nM、150~350nMまたは200~300nMの範囲内の濃度で存在するLDN193189である。一態様では、BMP経路アンタゴニストは、培地中に段階(a)(ステージ1)において275nMおよび段階(b)(ステージ2)において250nMの濃度で存在するLDN193189である。
【0081】
MEK経路のアンタゴニストは、MAPK/ERK経路(Ras-Raf-MEK-ERK経路としても知られる)の成分のうちの1つまたは複数のシグナル伝達経路を阻害(ダウンレギュレーション)することができる作用物質、分子、化合物、または物質を含む。一態様では、MEK経路アンタゴニストは、PD0325901、ビニメチニブ(MEK162)、コビメチニブ(XL518)、セルメチニブ、トラメチニブ(GSK1120212)、CI-1040(PD-184352)、レファメチニブ、ARRY-142886(AZD-6244)、PD98059、U0126、BI-847325、RO 5126766、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、MEK経路アンタゴニストは、培地中に25~300nM、50~150nM、50~250nM、75~200nMまたは100~120nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、MEK経路アンタゴニストはPD0325901である。一態様では、MEK経路アンタゴニストは、培地中に25~300nM、50~150nM、50~250nM、75~200nMまたは100~120nMの範囲内の濃度で存在するPD0325901である。一態様では、MEK経路アンタゴニストは、培地中に段階(a)(ステージ1)において110nMおよび段階(b)(ステージ2)において100nMの濃度で存在するPD0325901である。
【0082】
WNT経路のアンタゴニストは、カノニカルWnt/β-カテニンシグナル伝達経路を阻害(ダウンレギュレーション)することができる作用物質、分子、化合物、または物質を含み、それは、Wnt-タンパク質リガンドとFrizzledファミリー受容体との結合によって生物学的に活性化される。一態様では、WNT経路アンタゴニストは、XAV939、ICG001、カプマチニブ、エンド-IWR-1、IWP-2、IWP-4、MSAB、CCT251545、KY02111、NCB-0846、FH535、LF3、WIKI4、トリプトニド、KYA1797K、JW55、JW 67、JW74、カルジオノーゲン1、NLS-StAx-h、TAK715、PNU 74654、iCRT3、WIF-1、DKK1、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、WNT経路アンタゴニストは、培地中に10~500nM、50~250nMまたは50~150nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、WNT経路アンタゴニストはXAV939である。一態様では、WNT経路アンタゴニストは、培地中に10~500nM、50~250nMまたは50~150nMの濃度で存在するXAV939である。一態様では、WNT経路アンタゴニストは、培地中に段階(a)(ステージ1)において110nMおよび段階(b)(ステージ2)において100nMの濃度で存在するXAV939である。
【0083】
SHH(ソニックヘッジホッグ)経路のアゴニストは、SHH経路を経由するシグナル伝達を刺激(活性化)することができる作用物質、分子、化合物、または物質を含み、それは生物学的に、SHHとPatched-1(PTCH1)受容体との結合およびSmoothened(SMO)膜貫通タンパク質を経由する伝達を伴う。一態様では、SHH経路アゴニストは、プルモルファミン、GSA 10、SAG、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、SHH経路アゴニストは、培地中に100~1000nM、200~800nM、250~750nMまたは500~600nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、SHH経路アゴニストはプルモルファミンである。一態様では、SHH経路アゴニストは、培地中に100~1000nM、200~800nM、250~750nMまたは500~600nMの濃度で存在するプルモルファミンである。一態様では、SHH経路アゴニストは、培地中に段階(a)(ステージ1)において550nMならびに段階(b)および(c)(ステージ2および3)において500nMの濃度で存在するプルモルファミンである。
【0084】
AKT経路のアンタゴニストは、AKT1(PKBまたはRacPKとも呼ばれる)、AKT2(PKBβまたはRacPK-βとも呼ばれる)およびAKT3(PKBγまたは胸腺腫ウイルス癌原遺伝子3とも呼ばれる)を含むセリン/トレオニンキナーゼAKTファミリーメンバーのうちの1つまたは複数のシグナル伝達経路を阻害(ダウンレギュレーション)することができる作用物質、分子、化合物、または物質を含む。一態様では、AKT経路アンタゴニストは、MK2206、GSK690693、ペリフォシン(KRX-0401)、イパタセルチブ(GDC-0068)、カピバセルチブ(AZD5363)、PF-04691502、AT 7867、トリシリビン(NSC154020)、ARQ751、ミランセルチブ(ab235550)、ボルスセルチブ、セリセルチブ、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、AKT経路アンタゴニストは、培地中に25~300nM、50~200nM、75~200nMまたは125~150nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、AKT経路アンタゴニストはMK2206である。一態様では、AKT経路アンタゴニストは、培地中に25~300nM、50~200nM、75~200nMまたは125~150nMの範囲内の濃度で存在するMK2206である。一態様では、AKT経路アンタゴニストは、培地中に段階(a)(ステージ1)において138nMの濃度で存在するMK2206である。
【0085】
PKC(プロテインキナーゼC)経路のアンタゴニストは、PKCシグナル伝達経路を阻害(ダウンレギュレーション)することができる作用物質、分子、化合物、または物質を含み、それは、生物学的にPKCファミリーメンバーによって媒介される。PKCファミリーのセリン/トレオニンキナーゼは、アイソフォームα、β1、β2およびγを含む「古典的」PKC下位カテゴリーを包含する15種類のアイソザイムを含む。一態様では、PKC経路アンタゴニストは、PKCα、PKCβ1、PKCβ2およびPKCγより選択される少なくとも1つ(他の態様では、少なくとも2つまたは3つ)のPKC酵素の活性を阻害する。一態様では、PKC経路アンタゴニストは、Go 6983、ソトラスタウリン、エンザスタウリン、スタウロスポリン、LY31615、Go 6976、GF 109203X、Ro 31-8220メシレート、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、PKC経路アンタゴニストは、培地中に10~500nM、50~300nM、50~150nMまたは75~150nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、PKC経路アンタゴニストはGo 6983である。一態様では、PKC経路アンタゴニストは、培地中に10~500nM、50~300nM、50~150nMまたは75~150nMの濃度で存在するGo 6983である。一態様では、PKC経路アンタゴニストは、培地中に段階(a)(ステージ1)において110nMの濃度で存在するGo 6983である。
【0086】
TAK1(MAP3K7としても知られる)経路のアンタゴニストは、TAK1(MAP3K7)を経由するシグナル伝達を阻害(ダウンレギュレーション)することができる作用物質、分子、化合物、または物質を含む。一態様では、TAK1経路アンタゴニストは、タキニブ、デヒドロアビエチン酸、NG25、サルササポゲニン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、TAK1経路アンタゴニストは、培地中に1~5uM、1~3uMまたは1.5~2.5uMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、TAK1経路アンタゴニストはタキニブである。一態様では、TAK1経路アンタゴニストは、培地中に1~5uM、1~3uMまたは1.5~2.5uMの濃度で存在するタキニブである。一態様では、TAK1経路アンタゴニストは、培地中に方法の段階(c)(すなわち、ステージ3)において2uMの濃度で存在するタキニブである。
【0087】
TGFβ(形質転換増殖因子β)経路のアンタゴニストは、TGFβ受容体ファミリーメンバー、セリン/トレオニンキナーゼ受容体ファミリーを経由するシグナル伝達を阻害(ダウンレギュレーション)することができる作用物質、分子、化合物、または物質を含む。一態様では、TGFβ経路アンタゴニストは、A 83-01、SB-431542、GW788388、SB525334、TP0427736、RepSox、SD-208、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、TGFβ経路アンタゴニストは、培地中に300~800nM、250~750nM、300~650nMまたは400~600nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、TGFβ経路アンタゴニストはA 83-01である。一態様では、TGFβ経路アンタゴニストは、培地中に300~800nM、250~750nM、300~650nMまたは400~600nMの濃度で存在するA 83-01である。一態様では、TGFβ経路アンタゴニストは、培地中に方法の段階(c)(すなわち、ステージ3)において500nMの濃度で存在するA 83-01である。
【0088】
TRK経路のアンタゴニストは、TrkA、TrkBおよび/またはTrkCチロシンキナーゼを経由するシグナル伝達を阻害(ダウンレギュレーション)することができる作用物質、分子、化合物、または物質を含む。一態様では、TRK経路アンタゴニストは、GNF-5837、BMS-754807、UNC2020、タレトレクチニブ、アルチラチニブ、セリトレクチニブ、PF 06273340、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、TRK経路アンタゴニストは、培地中に30~80nM、25~75nM、30~65nMまたは40~60nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、TRK経路アンタゴニストはGNF-5837である。一態様では、TRK経路アンタゴニストは、培地中に30~80nM、25~75nM、30~65nMまたは40~60nMの濃度で存在するGNF-5837である。一態様では、TRK経路アンタゴニストは、培地中に方法の段階(c)(すなわち、ステージ3)において50nMの濃度で存在するGNF-5837である。
【0089】
ノッチ経路のアンタゴニストは、ノッチ転写因子を経由するシグナル伝達またはその活性を阻害(ダウンレギュレーション)することができる作用物質、分子、化合物、または物質を含む。一態様では、ノッチ経路アンタゴニストは、GSI-XX、RO4929097、セマガセスタット、ジベンゾアゼピン、LY411575、クレニガセスタット、IMR-1、IMR-1A、FLI-06、DAPT、バルプロ酸、YO-01027、CB-103、タンゲレチン、BMS-906024、アバガセスタット、ブルセインD、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、TRK経路アンタゴニストは、培地中に25~200nM、50~150nMまたは75~125nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、ノッチ経路アンタゴニストはGSI-XXである。一態様では、ノッチ経路アンタゴニストは、培地中に25~200nM、50~150nMまたは75~125nMの濃度で存在するGSI-XXである。一態様では、ノッチ経路アンタゴニストは、培地中に方法の段階(c)(すなわち、ステージ3)において100nMの濃度で存在するGSI-XXである。
【0090】
IGF1(インスリン様増殖因子1)経路のアゴニストは、IGF1経路を経由するシグナル伝達を刺激(活性化)することができる作用物質、分子、化合物、または物質を含む。一態様では、IGF1経路アゴニストは、IGF1、IGF1-Ado、X10、メカセルミン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、IGF1経路アゴニストは、培地中に2~20ng/ml、5~15ng/ml、または7.5~12.5ng/mlの範囲内の濃度で存在する。一態様では、IGF1経路アゴニストはIGF1である。一態様では、IGF1経路アゴニストは、培地中に2~20ng/ml、5~15ng/ml、または7.5~12.5ng/mlの濃度で存在するIGF1である。一態様では、IGF1経路アゴニストは、培地中に方法の段階(c)(ステージ3)において10ng/mlの濃度で存在するIGF1である。一態様では、IGF1経路アゴニストは、培地中に方法の段階(e)(ステージ5)において10ng/mlの濃度で存在するIGF1である。
【0091】
CREBまたはPKA経路アゴニストは、CREBまたはPKA経路を経由するシグナル伝達を刺激(活性化)することができる作用物質、分子、化合物、または物質を含む。一態様では、CREBまたはPKA経路アゴニストは、cAMP、ジブチリル-cAMP、8-Br-cAMP、cAMPS-Sp、CW 008、ホルスコリン、8-CPT-cAMP、CW 008、N6-ベンゾイル-アデノシン3',5'-サイクリック一リン酸ナトリウム塩、アデノシン3',5'-サイクリック一リン酸ナトリウム塩一水和物、(S)-アデノシンサイクリック3',5'-(ヒドロゲンホスホロチオエート)トリエチルアンモニウム、Sp-アデノシン3',5'-サイクリックモノホスホロチオエートトリエチルアンモニウム塩、Sp-5,6-DCI-cBiMPS、8-ブロモアデノシン3',5'-サイクリックモノホスホロチオエートSp-異性体ナトリウム塩、8-ブロモ-アデノシン3',5'-サイクリックモノホスホロチオエートSp-異性体ナトリウム塩、Sp-8-pCPT-サイクリックGMPSナトリウム、8-ブロモアデノシン3',5'-サイクリック一リン酸、N6-モノブチリルアデノシン3':5'-サイクリック一リン酸ナトリウム塩、8-PIP-cAMP、Sp-cAMPS、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、CREBまたはPKA経路アゴニストは、培地中に0.5~2.5μM、0.75~2.0μM、または1.0~1.5μMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、CREBまたはPKA経路アゴニストはcAMPである。一態様では、CREBまたはPKA経路アゴニストは、培地中に0.5~2.5μM、0.75~2.0μM、または1.0~1.5μMの濃度で存在するcAMPである。一態様では、CREBまたはPKA経路アゴニストは、培地中に方法のステージ4において1.0μMの濃度で存在するcAMPである。
【0092】
ステージ4の培地は、バルプロ酸またはその類似体を含む。一態様では、バルプロ酸またはその類似体は、バルプロ酸、バルプロエート、バルプロ酸ナトリウム、およびバルプロ酸セミナトリウムからなる群より選択される。一態様では、バルプロ酸または類似体は、培地中に250~750nM、300~600nM、または450~550nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、バルプロ酸が使用される。一態様では、バルプロ酸は、250~750nM、300~600nM、または450~550nMの濃度で使用される。一態様では、培地中に方法のステージ4において500nMの濃度で存在するバルプロ酸が使用される。
【0093】
ステージ4の培地は、サブスタンスPまたはその類似体を含む。サブスタンスPは、その多数の類似体が当技術分野において記載されているアミノ酸11個の神経ペプチドである(例えば、Datar et al. (2004) Curr. Top. Med. Chem. 4:75-103に総説されている)。一態様では、サブスタンスPまたはその類似体は、培地中に50~250nM、75~200nMまたは100~150nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、サブスタンスPが使用される。一態様では、サブスタンスPは、50~250nM、75~200nMまたは100~150nMの濃度で使用される。一態様では、培地中に方法のステージ4において100nMの濃度で存在するサブスタンスPが使用される。
【0094】
グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)経路のアゴニストは、GDNFシグナル伝達経路を刺激(アップレギュレーション)することができる作用物質、分子、化合物、または物質を含む。一態様では、GDNF経路アゴニストは、GDNF、BT13、BT44、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、GDNF経路アゴニストは、培地中に1~100ng/ml、5~50ng/ml、10~25ng/ml、または12.5~17.5ng/mlの範囲内の濃度で存在する。一態様では、GDNF経路アゴニストはGDNFである。一態様では、GDNF経路アゴニストは、培地中に1~100ng/ml、5~50ng/ml、10~25ng/ml、または12.5~17.5ng/mlの濃度で存在するGDNFである。一態様では、GDNF経路アゴニストは、培地中に方法のステージ4において10ng/mlの濃度で存在するGDNFである。
【0095】
mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)経路のアゴニストは、mTORC1およびmTORC2複合体の中心的成分であるmTOR、PI3K関連キナーゼファミリーメンバーを経由するシグナル伝達を刺激(アップレギュレーション)することができる作用物質、分子、化合物、または物質を含む。一態様では、mTOR経路アゴニストは、MHY1458、NV-5138、テストステロン、3-ベンジル-5-((2-ニトロフェノキシ)メチル)-ジヒドロフラン-2(3H)-オン(3BDO)、3BDO、L-ロイシン、NV-5138塩酸塩、NV-5138、L-ロイシン-d1、L-ロイシン-2-13C,15N、ロイシン-13C6、L-ロイシン-d7、L-ロイシン-d10、L-ロイシン-d2、l-ロイシン-d3、L-ロイシン-18O2、L-ロイシン-13C、L-ロイシン-2-13C、L-ロイシン-13C6-15N、L-ロイシン-15N、L-ロイシン-1-13C,15N、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、mTOR経路アゴニストは、培地中に1~5μM、1~3μM、または1.5~2.5μMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、mTOR経路アゴニストはMHY1458である。一態様では、mTOR経路アゴニストは、培地中に1~5μM、1~3μM、または1.5~2.5μMの濃度で存在するMHY1458である。一態様では、mTOR経路アゴニストは、培地中に方法のステージ4において2μMの濃度で存在するMHY1458である。
【0096】
脳由来神経栄養因子(BDNF)経路のアゴニストは、BDNFシグナル伝達経路を刺激(アップレギュレーション)することができる作用物質、分子、化合物、または物質を含む。一態様では、BDNF経路アゴニストは、BDNF、ロチゴチン、7,8-DHF、ケタミン、トリサイクリックダイマーペプチド-6(TDP6)、LM22A-4、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、BDNF経路アゴニストは、培地中に1~100ng/ml、5~50ng/ml、10~25ng/ml、または12.5~17.5ng/mlの範囲内の濃度で存在する。一態様では、BDNF経路アゴニストはBDNFである。一態様では、BDNF経路アゴニストは、培地中に1~100ng/ml、5~50ng/ml、10~25ng/ml、または12.5~17.5ng/mlの濃度で存在するBDNFである。一態様では、BDNF経路アゴニストは、培地中に方法のステージ5において10ng/mlの濃度で存在するBDNFである。
【0097】
ステージ5の培地は、アスコルビン酸またはその類似体を含む。一態様では、アスコルビン酸またはその類似体は、ビタミンC、2-ホスホ-L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸、リン酸アスコルビルナトリウム、リン酸アスコルビルマグネシウム、アスコルビルグルコシド、アスコルビン酸テトラヘキシルデシル(THD)、エチル化L-アスコルビン酸、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、アスコルビン酸または類似体は、培地中に50~500μM、100~400μM、または200~300μMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、2-ホスホ-L-アスコルビン酸が使用される。一態様では、2-ホスホ-L-アスコルビン酸は、50~500μM、100~400μM、または200~300μMの濃度で使用される。一態様では、培地中に方法のステージ5において200μMの濃度で存在する2-ホスホ-L-アスコルビン酸が使用される。
【0098】
ステージ5の培地は、ピルビン酸ナトリウムまたはその類似体を含む。一態様では、ピルビン酸ナトリウムまたはその類似体は、50~500μM、100~300μM、または150~250μMの濃度で使用される。一態様では、培地中に方法のステージ5において200μMの濃度で存在するピルビン酸ナトリウムが使用される。
【0099】
ステージ5の培地は、リゾホスファチジン酸(LPA)またはその類似体を含む。一態様では、LPAまたはその類似体は、リゾホスファチジン酸、2-[[3-(1,3-ジオキソ-1H-ベンゾ[デ]イソキノリン-2(3H)-イル)プロピル]チオ]安息香酸、1-オレオイルリゾホスファチジン酸ナトリウム塩、UCM-05194、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一態様では、LPAまたは類似体は、培地中に50~500nM、100~400nM、または200~300nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、O-LPAが使用される。一態様では、O-LPAは、50~500nM、100~400nM、または200~300nMの濃度で使用される。一態様では、培地中に方法のステージ5において200nMの濃度で存在するO-LPAが使用される。
【0100】
ステージ5の培地は、N2サプリメントをさらに含む。本明細書に使用される場合、「N2サプリメント」は、神経由来細胞の増殖を促進するための細胞培養サプリメントの混合物を指す。N-2サプリメント(ThermoFisher Scientific)、N2サプリメント-A(Stem Cell Technologies)、N-2 MAX培地サプリメント(R&D Systems)、およびN-2サプリメント(CSH Protocols)を含むが、それに限定されるわけではない様々なN2サプリメントが、当技術分野において公知である。N2サプリメントは、トランスフェリンファミリー分子のみならず、さらなる増殖促進分子を含む。一態様では、N2サプリメントは、ホロ-トランスフェリン、インスリン(組み換え完全鎖)、プロゲステロン、プトレシン、亜セレン酸塩、レトロプロゲステロン、メドロゲストン、ノルエチンドロン、クロルマジノン酢酸エステル、シプロテロン酢酸エステル、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル、およびメゲストロール酢酸エステルを含む。一態様では、N2サプリメントは、培地中に0.1%~5%、0.5%~3%、または1~2%nMの範囲内の濃度で存在する。一態様では、N2サプリメントは、培地中に方法のステージ5において1%の濃度で存在する。
【0101】
ステージ5の培地は、可欠アミノ酸(NEAA)サプリメントをさらに含む。本明細書に使用される場合、「NEAAサプリメント」は、細胞増殖を促進するためのアミノ酸混合物を指す。MEM可欠アミノ酸溶液(ThermoFisher Scientific)、OriCell(商標)NEAA細胞培養サプリメント(Cyagen)、およびSuperCult(登録商標)可欠アミノ酸(NEAA)細胞培養サプリメント(Creative Bioarray)を含むが、それに限定されるわけではない様々なNEAAサプリメントが当技術分野において公知である。一態様では、NEAAサプリメントは、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、プロリン、セリン、およびチロシンを含む。一態様では、NEAAサプリメントは、培地中に0.1%~5%、0.5%~3%、または1~2%の範囲内の濃度で存在する。一態様では、NEAAサプリメントは、培地中に方法のステージ5において1%の濃度で存在する。
【0102】
アゴニストまたはアンタゴニストが方法の1つ超の段階で使用される場合、一態様では、作用物質が培地中に存在する各段階について使用されるのは、同じ特定のアゴニストまたはアンタゴニストである。別の態様では、同じシグナル伝達経路に影響する異なるアゴニストまたはアンタゴニストが、方法の異なる段階に使用される。例えば、段階(a)および(b)(ステージ1および2)に使用されるBMPアンタゴニストについて、一態様では、段階(a)および(b)で同じBMPアンタゴニストが使用される。別の態様では、段階(a)および(b)で異なるBMPアンタゴニストが使用される。同様に、段階(c)および(e)(ステージ3および5)で使用されるIGF-1経路アゴニストについて、一態様では、段階(c)および(e)で同じIGF-1経路アゴニストが使用される。別の態様では、段階(c)および(e)で異なるIGF-1経路アゴニストが使用される。
【0103】
アゴニストまたはアンタゴニストが方法の1つよりも多い段階で使用される場合、一態様では、作用物質が培地中に存在する各段階について使用されるのは、同じ濃度の同じアゴニストまたはアンタゴニストである。別の態様では、異なる濃度の同じアゴニストまたはアンタゴニストが、方法の異なる段階に使用される。例えば、段階(a)および(b)(ステージ1および2)に使用されるBMPアンタゴニストについて、一態様では、段階(a)および(b)において同じ濃度の同じBMPアンタゴニストが使用される。別の態様では、段階(a)および(b)において異なる濃度の同じBMPアンタゴニストが使用される。同様に、段階(c)および(e)(ステージ3および5)に使用されるIGF-1アゴニストについて、一態様では、段階(c)および(e)において同じ濃度の同じIGF-1アゴニストが使用される。別の態様では、段階(c)および(e)において異なる濃度の同じIGF-1アゴニストが使用される。
【0104】
III. 培養条件
上述の下位セクションIIに記載の化学的に定義された最適培地と組み合わせて、本開示のFB-NSC、VFB-NSC、MGE-NPC、未熟ニューロンおよび成熟GABA作動性介在ニューロンを生成する方法は、当技術分野において細胞培養のために確立された標準的な培養条件を利用する。例えば、細胞は、37℃で、5% O2および5% CO2条件下で培養することができる。細胞は、96ウェルプレートなどの標準的な培養容器またはプレート中で培養することができる。ある特定の態様では、出発多能性幹細胞が、好ましくはビトロネクチンなどの細胞外マトリックス材料でコーティングされたプレートに接着される。一態様では、幹細胞は、ビトロネクチンでコーティングされた培養表面(例えば、ビトロネクチンでコーティングされた96ウェルプレート)上で培養される。
【0105】
多能性幹細胞は、分化の前に市販の培地中で培養することができる。例えば、幹細胞は、分化プロトコルの開始前にEssential 8 Flex培地(Thermo Fisher # A2858501)中で少なくとも1日間培養することができる。非限定的な例示的態様では、幹細胞は、ビトロネクチン(Thermo Fisher # A14700)でコーティングされた96ウェルプレート上に150,000個/cm2の密度で継代され、分化の前にEssential 8 Flex培地中で1日間培養される。
【0106】
分化プロトコルを開始するために、幹細胞が培養されている培地は、下位セクションIIに上述された、シグナル伝達経路アゴニストおよび/またはアンタゴニストが補充された基本分化培地に交換される。基本分化培地は、例えば、細胞の生存度および増殖を維持するために必要であるが、血清(基本分化培地は無血清培地である)またはFGF2、PDGFもしくはHGFなどのいかなる他の外因的に添加された増殖因子を欠くさらなる標準的な培地成分を補充された市販の基剤を含むことができる。非限定的で例示的な態様では、基本分化培地は、1x IMDM(Thermo Fisher #12440046)、1x F12(Thermo Fisher #11765047)、ポリ(ビニルアルコール)(Sigma #p8136)を1mg/ml、化学的に定義された脂質濃縮物(Thermo Fisher #11905031)を1%、1-チオグリセロール(Sigma #M6145)を450uM、インスリン(Sigma #11376497001)を0.7ug/mlおよびトランスフェリン(Sigma #10652202001)を15ug/mlを含有する(図17および図18に示される例示的な分化プロトコルに使用されるように、本明細書において「CDM2」培地とも呼ばれる)。
【0107】
培地は、典型的には定期的に新鮮培地に交換される。例えば、一態様では、培地は24時間毎に交換される。
【0108】
FB-NSC、VFB-NSC、MGE-NPC、未熟ニューロンおよび成熟GABA作動性介在ニューロンを生成するために、出発幹細胞は、最適化培地中で、細胞分化、および分化決定済みのFB-NSC、VFBNSC、-MGE-NPC、未熟ニューロンまたは成熟GABA作動性介在ニューロンに関連するマーカーの発現のために十分な時間培養される。実施例に記載されるように、FB-NSCの生成のために最適化された1つ、VFB-NSCの生成のために最適化された第2、MGE-NPCの生成のために最適化された第3、未熟ニューロンの生成のために最適化された第4および成熟GABA作動性介在ニューロンの生成のために最適化された第5の、5ステージ方法での多能性幹細胞の培養が、わずか9日の培養でMGE-NPCおよびわずか26日の培養で成熟介在ニューロンの産生をもたらすことができると発見された。第1ステージ(FB-NSCをもたらす)についての培養期間は0日目から3日目までであり、第2ステージ(VFB-NSCをもたらす)についての培養期間は3日目から6日目までであり、第3ステージ(MGE-NPCをもたらす)についての培養期間は6日目から9日目までであり、第4ステージ(未熟ニューロンをもたらす)についての培養期間は9日目から12日目までであり、第5ステージ(成熟介在ニューロンをもたらす)についての培養期間は12日目から26日目までである。
【0109】
したがって、本明細書において「段階(a)」または「ステージ1」とも呼ばれる、FB-NSCを生成する方法の第1ステージでは、多能性幹細胞は、ステージ1に最適化された培地中で0日目から3日目まで、または0日目に開始して3日目まで継続して、または72時間(3日間)、または少なくとも60時間、または少なくとも64時間、または少なくとも68時間、または少なくとも70時間、または少なくとも72時間、または60時間、または64時間、または68時間、または70時間、または72時間培養される。
【0110】
したがって、本明細書において「段階(b)」または「ステージ2」とも呼ばれるVFB-NSCを生成する方法の第2ステージでは、段階(a)で生成されたFB-NSCは、ステージ2に最適化された培地中で4日目から6日目まで、または4日目に開始して6日目まで継続して、または4日目に開始して72時間(3日間)継続して、または4日目に開始して少なくとも60時間、もしくは少なくとも64時間、もしくは少なくとも68時間、もしくは少なくとも70時間、もしくは少なくとも72時間継続して、または4日目に開始して60時間、もしくは64時間、もしくは68時間、もしくは70時間、もしくは72時間継続してさらに培養される。
【0111】
したがって、本明細書において「段階(c)」または「ステージ3」とも呼ばれるMGE-NPCを生成する方法の第3ステージでは、段階(b)で生成されたVFB-NSCは、ステージ3に最適化された培地中で6日目から9日目まで、または6日目に開始して9日目まで継続して、または6日目に開始して72時間(3日間)継続して、または6日目に開始して少なくとも60時間、もしくは少なくとも64時間、もしくは少なくとも68時間、もしくは少なくとも70時間、もしくは少なくとも72時間継続して、または6日目に開始して60時間、もしくは64時間、もしくは68時間、もしくは70時間、もしくは72時間継続してさらに培養される。
【0112】
したがって、本明細書において「段階(d)」または「ステージ4」とも呼ばれる未熟ニューロンを生成する方法の第4ステージでは、段階(c)で生成されたMGE-NPCは、ステージ4に最適化された培地中で9日目から12日目まで、または9日目に開始して12日目まで継続して、または9日目に開始して72時間(3日間)継続して、または9日目に開始して少なくとも60時間、もしくは少なくとも64時間、もしくは少なくとも68時間、もしくは少なくとも70時間、もしくは少なくとも72時間継続して、または9日目に開始して60時間、もしくは64時間、もしくは68時間、もしくは70時間もしくは72時間継続してさらに培養される。
【0113】
したがって、本明細書において「段階(e)」または「ステージ5」とも呼ばれる成熟GABA作動性介在ニューロンを生成する方法の第5ステージでは、段階(d)で生成された未熟ニューロンは、ステージ5に最適化された培地中で12日目から26日目まで、または12日目に開始して26日目まで継続して、または12日目に開始して、パルブアルブミン+ 成熟介在ニューロンを生成するために十分な時間培養を継続して(例えば、ステージ5の培地中で14日または2週間の培養で)さらに培養される。
【0114】
IV. 使用
FB-NSC、VFB-NSC、MGE-NPC、未熟ニューロンおよび成熟GABA作動性介在ニューロンを生成するための本開示の方法および組成物は、多様な使用のためのこれらの細胞集団の効率的で頑健な利用可能性を可能にする。例えば、方法および組成物は、GABA作動性介在ニューロンの機能障害を伴う神経変性および精神の疾患および障害の理解および潜在的処置を助けるために、GABA作動性介在ニューロンへの分化を含む前脳神経前駆細胞の発達および生物学の研究に使用することができる。例えば、本開示の方法を使用して生成されたFB-NSC、VFB-NSC、MBE-NPC、未熟ニューロンおよび成熟GABA作動性介在ニューロンは、細胞上に発現された表面マーカーと結合する作用物質を使用して、当技術分野において確立された方法によりさらに精製することができる。したがって、一態様では、本開示は、FB-NSC、VFB-NSC、MGE-NPC、未熟ニューロンまたは成熟GABA作動性介在ニューロンを単離する方法であって、
本開示の方法によって生成されたFB-NSC、VFB-NSC、MGE-NPC、未熟ニューロンまたは成熟GABA作動性介在ニューロンを、FB-NSC、VFB-NSC、MGE-NPC、未熟ニューロンまたは成熟GABA作動性介在ニューロンによって発現される細胞表面マーカーと結合する少なくとも1つの結合物質と接触させること;および
結合物質と結合する細胞を単離して、それにより、FB-NSC、VFB-NSC、MBE-NPC、未熟ニューロンまたは成熟GABA作動性介在ニューロンを単離すること
を含む、方法を提供する。
【0115】
一態様では、結合物質は、抗体、例えば細胞表面マーカーと結合するモノクローナル抗体(mAb)である。抗体と結合する細胞は、蛍光標示式細胞分取(FACS)および磁気細胞分離(MACS)を含むが、それに限定されるわけではない、当技術分野において公知の方法によって単離することができる。
【0116】
前脳神経系列の前駆細胞はまた、GABA作動性介在ニューロンの機能障害を伴うこのような疾患または障害のいずれかを含む、疾患または障害を有する対象への細胞の送達による神経変性または精神の疾患および障害の処置に使用するために構想されている。成体脳への胚性内側基底核原基(MGE)細胞の移植は、移植された細胞の分散および移動ならびにGABAを発現するニューロンへの分化を結果としてもたらすことが示されている(Alvarez-Dolado et al. (2006) J. Neurosci. 26:7380-7389)。したがって、一態様では、前脳神経系列前駆細胞は、てんかんの処置に使用される。マウスの出生後新皮質へのGABA作動性介在ニューロン前駆細胞の移植は、てんかん発作を軽減することが示されている(Baraban et al. (2009) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 106:15472-15477)。てんかんの処置における神経前駆細胞の使用はまた、Shetty and Upadhya (2016) Neurosci. Biobehav. Rev. 62:35-47およびLybrand et al. (2020) Neuropharm. 168:107781に総説されている。
【0117】
GABA作動性介在ニューロンの欠損または活性低下はまた、アルツハイマー病または自閉症患者の認知障害と関連する。したがって、本開示の前脳系列細胞はまた、アルツハイマー病および自閉症を含むが、それに限定されるわけではないGABA作動性介在ニューロンの機能復元から利益を受ける場合がある認識障害と関連する障害の処置に使用することができる。
【0118】
本開示の細胞はまた、GABA作動性介在ニューロンの機能障害を伴う疾患または障害を処置するための潜在的薬物のスクリーニングまたは新規な細胞療法の開発に有用である。
【0119】
V. 組成物
他の局面では、本開示は、培地および細胞培養物のみならず、単離された前駆細胞および細胞集団を含む、FB-NSC、VFB-NSC、MGE-NPC、未熟ニューロンおよび成熟GABA作動性介在ニューロンを生成する方法に関する組成物を提供する。
【0120】
一局面では、本開示は、BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、AKT経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、およびPKC経路アンタゴニストを含むヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)を得るための培地を提供する。適切な作用物質およびその濃度は、下位セクションIIに記載されたものを含む。
【0121】
一局面では、本開示は、BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、およびSHH経路アゴニストを含むヒトNKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)を得るための培地を提供する。適切な作用物質およびその濃度は、下位セクションIIに記載されたものを含む。
【0122】
一局面では、本開示は、TAK1経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、TGF-β経路アンタゴニスト、TRK経路アンタゴニスト、ノッチ経路アンタゴニスト、およびIGF1経路アゴニストを含むヒトASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)を得るための培地を提供する。適切な作用物質およびその濃度は、下位セクションIIに記載されたものを含む。
【0123】
一局面では、本開示は、MGE-NPCからヒト未熟ニューロンを得るための培地であって、CREBまたはPKA経路アゴニスト、バルプロ酸または類似体、サブスタンスPまたは類似体、GDNF経路アゴニスト、およびmTOR経路アゴニストを含む、培地を提供する。適切な作用物質およびその濃度は、下位セクションIIに記載されたものを含む。
【0124】
一局面では、本開示は、ヒト成熟GABA作動性介在ニューロンを得るための培地であって、BDNF経路アゴニスト、IGF-1経路アゴニスト、アスコルビン酸または類似体、ピルビン酸ナトリウムまたは類似体、LPAまたは類似体、N2サプリメント、およびNEAAサプリメントを含む、培地を提供する。適切な作用物質およびその濃度は、下位セクションIIに記載されたものを含む。
【0125】
一局面では、本開示は、ヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)の単離された細胞培養物であって、BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、AKT経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、およびPKC経路アンタゴニストを含む培地中で培養されたヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ FB-NPCを含む、細胞培養物を提供する。適切な作用物質およびその濃度は、下位セクションIIに記載されたものを含む。
【0126】
一局面では、本開示は、ヒトNKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)の単離された細胞培養物であって、BMP経路アンタゴニスト、MEK経路アンタゴニスト、WNT経路アンタゴニスト、およびSHH経路アゴニストを含む培地中で培養されたヒトNKX2-1+ VFB-NPCを含む、細胞培養物を提供する。適切な作用物質およびその濃度は、下位セクションIIに記載されたものを含む。
【0127】
一局面では、本開示は、ヒトASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)の単離された細胞培養物であって、TAK1経路アンタゴニスト、SHH経路アゴニスト、TGF-β経路アンタゴニスト、TRK経路アンタゴニスト、ノッチ経路アンタゴニスト、およびIGF1経路アゴニストを含む培地中で培養されたヒトASCL1+ MGE-NPCを含む、細胞培養物を提供する。適切な作用物質およびその濃度は、下位セクションIIに記載されたものを含む。
【0128】
一局面では、本開示は、ヒト未熟ニューロンの単離された細胞培養物であって、CREBまたはPKA経路アゴニスト、バルプロ酸または類似体、サブスタンスPまたは類似体、GDNF経路アゴニスト、およびmTOR経路アゴニストを含む培地中で培養されたヒト未熟ニューロンを含む、細胞培養物を提供する。適切な作用物質およびその濃度は、下位セクションIIに記載されたものを含む。
【0129】
一局面では、本開示は、ヒト成熟GABA作動性介在ニューロンの単離された細胞培養物であって、BDNF経路アゴニスト、IGF-1経路アゴニスト、アスコルビン酸または類似体、ピルビン酸ナトリウムまたは類似体、LPAまたは類似体、N2サプリメント、およびNEAAサプリメントを含む培地中で培養されたヒト成熟GABA作動性介在ニューロンを含む、細胞培養物を提供する。適切な作用物質およびその濃度は、下位セクションIIに記載されたものを含む。
【0130】
一局面では、本開示は、本開示の方法(すなわち、培養プロトコルの段階(a)またはステージ1)によって生成されたヒトOTX2+ FEZF2+ SIX3+ 前脳神経幹細胞(FB-NSC)を提供する。
【0131】
一局面では、本開示は、本開示の方法(すなわち、培養プロトコルの段階(a)および(b)、またはステージ1および2)によって生成されたヒトNKX2-1+ 腹側前脳神経幹細胞(VFB-NSC)を提供する。
【0132】
一局面では、本開示は、本開示の方法(すなわち、培養プロトコルの段階(a)、(b)および(c)、またはステージ1、2および3)によって生成されたヒトASCL1+ 内側基底核原基神経前駆細胞(MGE-NPC)を提供する。
【0133】
一局面では、本開示は、本開示の方法(すなわち、培養プロトコルの段階(a)、(b)、(c)、および(d)またはステージ1、2、3、および4)によって生成されたヒト未熟ニューロンを提供する。
【0134】
一局面では、本開示は、本開示の方法(すなわち、培養プロトコルの段階(a)、(b)、(c)、(d)および(e)またはステージ1、2、3、4および5)によって生成されたヒト成熟パルブアルブミン+ GABA作動性介在ニューロンを提供する。
【0135】
本発明は、さらに限定するものとしてみなされるべきでない以下の実施例によってさらに例示される。本出願全体にわたり引用された図面およびすべての参考文献、特許、および公開された特許出願の内容は、参照により本明細書に明白に組み入れられる。
【実施例
【0136】
実施例1:NKX2-1およびASCL1を発現する幹細胞由来内側基底核原基神経前駆細胞の生成のためのプロトコルの開発
培養9日後にヒト多能性幹細胞を、NKX2-1およびASCL1を発現する前駆細胞へと導くことができる内側基底核原基由来神経前駆細胞の生成のための3ステージレシピを開発した。これらの細胞は、さらに成熟GABA作動性介在ニューロンに分化することができる。
【0137】
本実施例は、以前にBukys et al. (2020) Iscience 23:101346に記載された高次元実験計画(HD-DoE)法を利用する。この方法は、コンピュータ化設計ジオメトリーを採用して複数のプロセスインプットを同時に試験し、深いエフェクター/応答空間の数学モデル化を与える。この方法により、細胞分化の間などに複雑なプロセスを制御する組み合わせシグナル伝達インプットを見出せるようになる。これにより、複数のもっともらしい重要なプロセスパラメーターの試験ができるようになる。それは、このようなパラメーターが遺伝子発現などのアウトプット応答に影響するからである。遺伝子発現は、例えばヒト細胞の、表現型の顕著な特徴を提供するので、この方法を適用して、どのシグナル伝達経路が細胞運命を制御するかを特定および理解することができる。本実施例では、多能性幹細胞状態から直接、中脳神経前駆細胞によって発現される遺伝子を誘導するための条件を見出す目的でHD-DOE法を適用した。
【0138】
ステージ毎にレシピを開発するために、3日間処置後に2セットの予備選択された53個の遺伝子の発現に及ぼす複数のシグナル伝達経路のアゴニストおよびアンタゴニスト(本明細書においてエフェクターと呼ばれる)の影響を試験し、モデル化した。これらのエフェクターは、幹細胞を特定の運命に段階的に分化させる間に一般に使用される小分子またはタンパク質である。エフェクターの選択は、発達途中の脳の前脳領域における神経誘導および幹細胞から神経前駆細胞への分化に関する最新文献に基づいた。
【0139】
エフェクターを試験するために、一連の濃度のエフェクターの48種類またはそれ以上の異なる組み合わせに対する細胞の応答を評価することができる、少なくとも8つの因子を用いた実験を計画した。モデルを解析するために、本発明者らは、OTX2(Hoch et al. (2015) Cell Reports 12:482-494)、SIX3(Lagutin et al. (2003) Genes & Development 17:368-379)およびFEZF2(Zhang et al. (2014) Development 141:4794-47805)を含む、前部神経外胚葉および前脳の発生およびパターン形成に関与する遺伝子の発現に焦点を合わせた。後期ステージで、本発明者らは、終脳の背腹側パターン形成およびNKX2-1を含む腹側前脳に発現される遺伝子および背側前脳マーカーであるPAX6の非存在に焦点を合わせた(Stoykova et al. (2000) J. Neurosci. 20:8042-8050)。遺伝子発現レベルに及ぼす各エフェクターの影響は、モデル化の間に各エフェクターについて計算される因子寄与と呼ばれるパラメーターによって定義される。
【0140】
前脳に分化決定した神経幹細胞へのステージ1の分化
分化のステージ1のためのレシピを特定するために、D-最適性による実験計画の圧縮を使用して生成されたエフェクターの96個の異なる組み合わせをロボット的に調製した。基本培地中にエフェクターの組み合わせを調製し、続いてそれを細胞に添加し、次いで細胞を分化させた。3日後にRNAの抽出を行い、量的PCR分析を使用して遺伝子発現を得た。データを正規化し、部分的最小二乗回帰分析を使用してエフェクター設計へとモデル化した。その結果、遺伝子特異的モデルが生成され、これらのモデルは、Q2予測力が最大となるようにモデルが調整された後、組み合わせ的におよび個別にエフェクターが個々の遺伝子の発現を制御する能力を説明した。次いで、望ましさに対処するために、被験空間内の解を探索することができた。
【0141】
SIX3の3300での最大発現およびFEZF2の1355の発現値のために最適化することは、頑健な解をもたらした。AGN193109、LDN193189、CHIR99021、XAV939、IGF2、プルモルファミン、4-オキソ-RA、TTNPB、SR11237、FGF8、PD0325901およびA8301を含む12種類のエフェクターの試験からこのモデルを導出した。図1に示すように、3つの因子、すなわちBMPシグナル伝達経路の阻害物質であるLDN193189、WNTシグナル伝達経路の阻害物質であるXAV939、およびSHH経路のアゴニストであるプルモルファミンは、SIX3の発現に対してそれぞれ16、5および5の因子寄与でプラスの影響を有した。このモデルはまた、RAアゴニストであるTTNPBが、SIX3の発現に対して21の因子寄与で有意なマイナスの作用を有したことを示した。SIX3の最大発現の80%を達成する規格内で、この複合培地組成は、3.4%の不適合のリスクに対応する0.6のCpk値(工程能力指数)を有した。
【0142】
前脳遺伝子の発現をブーストすることができる任意のさらなる因子を見出すために、別個に3576の発現値でのFEZF2の最大発現のためにもモデルを最適化した。FEZF2の最大発現の80%を達成する規格内で、この複合培地組成は、3.3%の不適合のリスクに対応する0.61のCpk値(工程能力指数)を有した。図2に示すように、LDN193189は今回もFEZF2の発現に対して25の因子寄与で有意なプラスの影響を有すると特定された;MEK阻害物質であるPD0325901、TTNPBおよびプルモルファミンはまた、10、24および7の因子寄与でその発現にプラスの影響を有した。6348でのOTX2の最大発現もまたモデル化し、OTX2の最大発現の80%を達成する規格内で、この複合培地組成は、6.6%の不適合のリスクに対応する0.49のCpk値(工程能力指数)を有した。図3に示すように、モデルは、8の因子寄与でLDN193189を最高のプラスのエフェクターとして示した。XAV939およびPD0325901はまた、プラスの影響を示したが、それらの因子寄与は低かった。最高の因子寄与を有するエフェクターは、29の因子寄与で有意なマイナス影響を有したTTNPBであった。
【0143】
この実験で3つの遺伝子すべてを最適化する潜在性を有する因子のセットを見出すために、OTX2、FEZF2およびSIX3の最大発現に焦点を合わせて動的プロファイル分析により新しい評価を行った。結果を図4に示す。この分析に基づき、OTX2およびSIX3の両方にマイナスの影響を有することが示されたTTNPBをレシピから除去し;OTX2にマイナスの作用を有したが、SIX3およびFEZF2にプラスの影響を有したプルモルファミンを算入した。
【0144】
多能性からの前脳分化のための条件をさらに強化するために、さらなるHD-DoE実験を行った。さらなる遺伝子調節モデルを得て、それらを分化プロトコルの準備のために使用した。この実験における因子は、LDN193189、PD173074、BLU9931、プルモルファミン、SC79、MK2206、ZM336372、PD0325901、CHIR99021、XAV939、UCLA-GP130、トファシチニブおよびGO6983を含んでいた。図5に示すように、FEZF2のために最適化した場合、LDN193189、プルモルファミン、AKT阻害物質であるMK2206、PD0325901およびXAV939は、それぞれ18、11、11、15および12の因子寄与でその発現にプラスの影響を有した。FEZF2の最大発現の80%を達成する規格内で、この複合培地組成は、2.7%の不適合のリスクに対応する0.63のCpk値(工程能力指数)を有した。動的プロファイル分析を、エフェクター間の相互作用を評価するためにも使用した。図6に示すように、FEZF2の発現レベルを目標範囲外にする因子を除去し、残りのエフェクターは、LDN193189、PD0325901、XAV939、プルモルファミン、MK2206およびGO6983を含んでいた。
【0145】
両方のHD-DoE実験を考慮すると、このようにFEZF2、SIX3およびOTX2の頑健で高い発現に関連するような、神経幹細胞の同一性を有する前脳領域へと細胞の分化を最大化する条件は、以下のエフェクターインプットを含んでいた:LDN193189、PD0325901、XAV939、プルモルファミン、MK2206およびGO6983。ステージ1の分化のための代表的なレシピを下の表1に要約する。
【0146】
(表1)ステージ1のレシピのための検証されたエフェクター
【0147】
腹側前脳神経幹細胞へのステージ2の分化
ステージ2での前脳に分化決定された神経幹細胞の腹側前脳神経幹細胞への分化をさらに導くために、HD-DoE実験をステージ1の処置終了後3日間行った。このときに、本発明者らは、腹側前脳領域に発現されるNKX2-1の最大発現および背側前脳領域に発現されるPAX6の最小発現に焦点を合わせた。この12因子実験は、LDN193189、BMP7、PD0325901、MK2206、A8301、XAV939、CHIR99021、プルモルファミン、SANT-1、AGN193109、TTNPBおよびGSI-XXを含んでいた。図7に示すように、NKX2-1の発現についてモデルを最大化した場合、LDN193189、PD0325901、MK2206、XAV939、プルモルファミンおよびノッチシグナル伝達経路の阻害物質であるGSI-XXを含む、その発現レベルを増加させることができた6つのエフェクターを特定した。動的プロファイル分析を使用して、PAX6およびNKX2-2の最小発現レベルを同時に達成するためにモデルを修正した。図8に示すように、この結果として、MK2206およびGSI-XXの除去がもたらされた。
【0148】
細胞の腹側前脳に向けた最大分化のために異なる最適化設定でモデルを考慮すると、分化のステージ2のためのレシピは、LDN193189、PD0325901、XAV939およびプルモルファミンを含んでいた。ステージ2分化のための代表的なレシピを下の表2に要約する。
【0149】
(表2)ステージ2のレシピのための検証されたエフェクター
【0150】
内側基底核原基前駆細胞へのステージ3の分化
細胞を内側基底核原基前駆細胞の運命にさらに導くために、実験開始前に合計6日間ステージ1およびステージ2の培地で処理された細胞に、さらなるHD-DoE実験を3日間行った。この実験は、13種類のエフェクター、LDN193189、A8301、GNF5837、AZD3147、GSI-XX、タキニブ、PD0325901、PD173074、BLU9931、IGF-1、MHY1485、プルモルファミンおよびプロストラチンを含んでいた。このモデルでは、本発明者らは、ASCL1、LHX6およびDLX1を含む、内側基底核原基(MGE)領域内のニューロン前駆細胞に発現される遺伝子の最大発現に焦点を合わせた(Silberberg et al. (2016) Neuron 92:59-74)。モデルを1700でのASCL1の最大発現のために最適化した場合、A8301、GSI-XX、プルモルファミンおよびTAK1経路の阻害物質であるタキニブが、それぞれ18.1、14.1、12.7および10.1の最高因子寄与を有した。GNF5837およびIGF-1はまた、9.4および7の因子寄与でその発現にプラスの影響を有した。MHY1485はまた、プラスの寄与を有したが、係数は2未満であった(図9)。ASCL1の最大発現の80%を達成する規格内で、この複合培地組成は、3.6%の不適合のリスクに対応する0.59のCpk値(工程能力指数)を有した。
【0151】
ASCL1、LHX6およびDLX1の発現にプラスの影響を有する共通因子を見出すために動的プロファイル分析を使用した。図10に示すように、GSI-XX、タキニブおよびGNF5837が3つの遺伝子すべての発現に類似の効果を有し、A8301およびプルモルファミンがASCL1およびLHX6についてのみプラスの傾向を示したのに対し、それらはDLX1に有意なマイナス影響を有しなかったことが観察された。IGF-1は、DLX1の発現レベルにマイナスの影響を有したにもかかわらず、ASCL1およびLHX6にプラスの効果を有したため、これをレシピに追加した。したがって、ステージ3の分化培地の成分としてA8301、GSI-XX、タキニブ、GNF5837、IGF-1およびプルモルファミンを含む6つのエフェクターを最終決定した。ステージ3分化のための代表的なレシピを下の表3に要約する。
【0152】
(表3)ステージ3のレシピのための検証されたエフェクター
【0153】
実施例2:幹細胞由来の腹側前脳神経前駆細胞を誘導する培養条件の因子致命度解析
検証された各因子の除去の影響を評価するために、動的プロファイル分析を使用し、最終決定された各因子が存在せず、その他が存在する条件で関心対象の遺伝子の発現レベルを比較した。関心対象の遺伝子の発現レベルは、所望のアウトカムが達成可能であるかを明らかにするので、この因子致命度解析は、各インプットエフェクターの重要性の程度を明らかにした。
【0154】
ステージ1のレシピにおいて、6つの最終決定された各因子を個別に除去し、その他の5つの因子が存在する場合の前脳遺伝子の発現レベルを、6つの因子すべてが一緒に存在する場合と比較して評価した。結果を図11A~Bに要約する。LDN193189を除去した場合、FEZF2、OTX2およびSIX3の発現レベルは、それぞれ2000から1000に、5500から4000に、および3000から0に激しく減少した。XAV939の非存在は類似の効果を有し、FEZF2、OTX2およびSIX3のレベルはそれぞれ1700、5000および1000に低下した。プルモルファミンを除去した場合、FEZF2およびSIX3のレベルは1000および3000未満に減少したのに対し、OTX2のレベルは6500に増加した。PD0325901の除去の結果としてFEZF2レベルの低下がもたらされたが、これは、その他の2つの遺伝子に有意な影響を有しなかった。MK2206およびGO6983の非存在の効果もまた検討し、両方の因子の結果として、図12に示すようにFEZF2の発現レベルの3500から2700および3200への減少がもたらされた。
【0155】
ステージ2のレシピにおいて、4つの最終決定された各因子を除去し、その他の3つの因子が存在したままである場合のNKX2-1、PAX6およびNKX2-2の発現レベルを、4つの因子すべてが存在する場合と比較して評価した。結果を図13A~Bに要約する。PD0325901の非存在は、NKX2-1およびNKX2-2のレベルを5000から3200におよび100から0に低下させたのに対し、PAX6を0から5000に増加させた。LDN193189の非存在下でNKX2-1のレベルは有意には変化しなかったが、PAX6およびNKX2-2のレベルは両方とも0よりも低下した。XAV939を除去することは、NKX2-1のレベルを5000から3000に低下させたのに対し、PAX6およびNKX2-2の両方をそれぞれ10000および200に増加させた。別の観察は、XAV939とプルモルファミンとの相互作用であった。XAV939の非存在下で、NKX2-1に対するプルモルファミンの影響はマイナスになり、図14の相互作用プロットに示されるように、NKX2-1のレベルは両方の因子が存在する場合に、より高い。
【0156】
ステージ3のレシピにおいて、6つの最終決定された各因子を除去し、その他の5つの因子が存在したままである場合のASCL1、DLX1およびLHX6の発現レベルを、6つの因子すべてが存在する場合と比較して評価した。結果を図15A~Bに要約する。A8301を除去することによって、ASCL1のレベルは1650から1000に減少したが、DLX1およびLHX6の値は有意には変化しなかった。GSI-XXを除去することは3つの遺伝子すべての値に有意な影響を有し、ASCL1、DLX1およびLHX6の発現レベルをそれぞれ1650、220および240から1200、50および140に減少させた。タキニブを除去することはASCL1に類似の効果を有したが、DLX1およびLHX6の発現レベルは180および170に低下した。プルモルファミンの非存在下で、ASCL1およびLHX6の値は1200および190に低下したが、DLX1は同じままであった。プルモルファミンと同様に、GNF5837を除去した結果、ASCL1の1300およびLHX6の160でのより低い発現がもたらされたが、DLX1に有意な影響を有しなかった。予想通り、IGF-1の非存在下で、DLX1の値は410に増加したが、ASCL1およびLHX6は、それぞれ1390および220に減少した。
【0157】
実施例3:NKX2-1およびASCL1を発現する幹細胞由来腹側前脳神経前駆細胞の免疫細胞化学的検証
実施例1に記載の開発されたレシピを検証するために、ステージ1、ステージ2およびステージ3分化培地で細胞を処理し、各ステージの終わりに免疫細胞化学を使用して、腹側前脳領域および神経前駆細胞のバイオマーカーを評価した。バイオマーカーは、SIX3、OTX2、βIII-チューブリン汎ニューロンマーカー、NKX2-1、PAX6、KI67増殖マーカー、前脳のLGEおよびMGE領域に発現されるDLX5ニューロン前駆細胞マーカー(Wang et al. (2010) J. Neurosci. 30:5334-5345)、LHX6、OLIG2オリゴデンドロサイトマーカー、MASH1(ASCL1)、GFAPグリアマーカー、未熟ニューロンを特定化するDCXマーカー、MGE領域の有糸分裂後前駆細胞に発現されるSOX6マーカー(Batista-Brito et al. (2009) Neuron 63:466-481)ならびにGABA作動性介在ニューロンによって特異的に発現されるGABAマーカーを含んでいた。結果を図16図17および図18に示す。
【0158】
免疫細胞化学画像によって、ステージ1の終了までに細胞の90%超でSIX3およびOTX2の発現を確認し、PAX6およびOLIG2は検出されなかった。KI67もまた、大部分の細胞で検出され、このことは、細胞がこの時点で増殖性であることを確認するものであった(図16)。ステージ2の培地で処理した後、NKX2-1およびGABAの発現が大部分の培養細胞で観察され、それらの少数もMASH1を発現し、これは、分化途中の細胞の腹側領域化を確認するものであったのに対し、PAX6は未検出のままであった(図17)。ステージ3の終了時の9日目までに、大部分の培養細胞でNKX2-1、DLX5およびMASH1が検出され、培養物の半分超でβIII-チューブリン、DCX、LHX6、およびSOX6が検出され、これは、細胞の前脳MGE領域への分化決定を確認するものであった(図18)。培養細胞の一部でKI67も検出され、これは、これらの細胞が増殖し、拡大増殖する能力をまだ有することを示しており、したがって、このレシピは、結果として増殖性細胞と有糸分裂後MGE分化決定細胞との混合培養物をもたらす。
【0159】
9日後の分化細胞における腹側前脳神経前駆細胞マーカーの検出および背側前脳マーカーの非存在は、ヒト人工多能性幹細胞由来のMGE分化決定神経前駆細胞のための3ステージ分化プロトコルのために生成されたレシピの有効性および頑健性を確認するものであった。
【0160】
実施例4:パルブアルブミンおよびGABAを発現するMGE-神経前駆細胞由来ニューロンのためのプロトコル開発
本実施例では、培養17日後にMGE前駆細胞を、パルブアルブミンおよびGABAを発現する成熟PVALB介在ニューロンに導くことができる、内側基底核原基(MGE)由来神経前駆細胞からのニューロン成熟のための2ステージレシピを開発した。
【0161】
各ステージのためのレシピを開発するために、3日間処理後の2セットの予備選択された53個の遺伝子の発現に及ぼす、本明細書でエフェクターと呼ばれる複数のシグナル伝達経路のアゴニストおよびアンタゴニストの影響を評価し、モデル化した。これらのエフェクターは小分子またはタンパク質である。それらは、幹細胞の特定運命への段階的分化の間に一般に使用される。エフェクターの選択は、発達途中の脳の前脳領域での神経誘導および幹細胞の神経前駆細胞への分化に関する最新の文献に基づいた。
【0162】
本明細書において開発された最終のステージ4およびステージ5のレシピ中のエフェクターをそれぞれ下の表4および5に示す。
【0163】
(表4)ステージ4のレシピ中の検証されたエフェクター
【0164】
(表5)ステージ5のレシピ中の検証されたエフェクター
【0165】
エフェクターを評価するために、一連の濃度のエフェクターの48種類またはそれ以上の異なる組み合わせに対する細胞の応答を評価することができる少なくとも8つの因子を用いた実験を計画した。モデルを分析するために、本発明者らは、LHX6(Yuan et al. (2018) Elife, 7:e37382)、DLX5(Wang et al. (2010) J. Neuroscience 30:5334-5345)、ASCL1(Shi et al. (2016) J. Biol. Chem. 291:13560-13570)を含む、前脳介在ニューロンの成熟の発生およびパターン形成に関与する遺伝子の発現に焦点を合わせた。後期ステージでは、本発明者らは、パルブアルブミンを含む介在ニューロン成熟遺伝子およびソマトスタチンの非存在に焦点を合わせた(Horn and Nicoll (2018) Proc. Natl. Acad. Sci. 115:589-594)。遺伝子発現レベルに及ぼす各エフェクターの影響は、モデル化の間にエフェクター毎に計算される因子寄与と呼ばれるパラメーターによって定義される。
【0166】
分化のステージ4のレシピを特定するために、D-最適性による実験計画圧縮を使用して生成されたエフェクターの48種類の異なる組み合わせをロボット的に調製した。基本培地中にエフェクターの組み合わせを調製し、続いてそれを細胞に添加し、次いでそれを分化させた。3日後にRNAの抽出を行い、定量PCR分析を使用して遺伝子発現を得た。データを正規化し、エフェクター設計への部分的最小二乗回帰分析を使用してモデル化し、結果として遺伝子特異的モデルの生成をもたらし、それは、最大予測力のためのモデル調整後に個別の遺伝子の発現を制御するエフェクターの能力の説明を組み合わせ的におよび個別に提供した。次いで、望ましさに対処するために被験空間内の解を探索することができた。MEF2Cの最大発現について453の値に最適化することは(Pai et al. (2020) Elife 9:54903)、頑健な解をもたらした。このモデルは、cAMP、IGF-1、バルプロ酸、GSI-XX、LDN193189、サブスタンスP、SB431542、PD173074+BLU-554、MK2206、GDNF、PD0325901およびMHY1458を含む12種類のエフェクターを試験することから導出された。バルプロ酸は、ヒストンデアセチラーゼを阻害し、γ-アミノ酪酸(GABA)を増加させることができる。MHY1458はmTORシグナル伝達経路の活性化因子であり、サブスタンスPはタキキニン神経ペプチドファミリーのメンバーであり、cAMPは、CREBおよびPKA経路の活性化因子である。GDNFは、グリア細胞株由来神経栄養因子のリガンドであり、GDNF経路を活性化することができる。それらは、MEF2Cの発現に対してそれぞれ12、0.04、9、15、および5の因子寄与でプラスの影響を有した(図19)。このモデルはまた、BMP阻害物質であるLDN193189、TGFβR阻害物質であるSB431542、FGFR阻害物質であるPD17/BLU、ノッチ阻害物質であるGSI-XXが、MEF2Cの発現に11、7.9、7.5、11.6の因子寄与で有意なマイナス効果を有したことを示した。MEF2Cの最大発現の80%を達成する規格内で、この複合培地組成は、6.7%の不適合のリスクに対応する0.4のCpk値(工程能力指数)を有した。
【0167】
この実験においてMEF2Cを最適化する潜在性を有する因子のセットを見出すために、MEF2Cの最大発現に焦点を合わせた動的プロファイル分析により新しい評価を行った(図20)。この分析に基づき、MEF2Cにマイナスの影響を有することが示されたIGF-1をレシピから除去し;MEF2Cにマイナス作用を有したGSI-XX、LDN19、SB431542、およびPD17も除去した。
【0168】
ステージ5で前脳分化決定神経幹細胞のPVALB介在ニューロン細胞への分化をさらに導くために、本発明者らは、ステージ4の処理の終了後3日間HD-DoE実験を行った。このときに、本発明者らは、パルブアルブミン(+)介在ニューロンに発現されたPVALBの最大発現および別の種類の介在ニューロンであるソマトスタチンの最小発現に焦点を合わせた。この8因子実験は、JQ1、インドラクタム-V、オレイン酸、BDNF、IGF-1、2-ホスホ-L-アスコルビン酸、Albumax、MK2206を含んでいた。PVALBの発現についてモデルを最大化した場合、本発明者らは、インドラクタム-V、オレイン酸、BDNF、IGF-1、2-ホスホ-L-アスコルビン酸、BDNFRシグナル伝達経路のリガンドであるBDNFを含む、その発現レベルを増加させることができた5つのエフェクターを特定した(図21)。本発明者らは、動的プロファイル分析を使用してPVALBの最大発現レベルを同時に達成するためにモデルを改変した結果、2-ホスホ-L-アスコルビン酸、BDNF、IGF1を算入し、一方でMK2206、Albumax、およびJQ1を除去した(図22)。細胞の腹側前脳に向けた最大分化のための異なる最適化設定でモデルを考慮して、分化のステージ5のためのレシピは、このHD-Doe実験からのBDNF、IGF-1、2-ホスホ-L-アスコルビン酸を含んでいた。
【0169】
前脳に分化決定した神経幹細胞のPVALB介在ニューロン細胞への分化に対する他の因子の効果を検討するために、実験を開始する前に、ステージ1からステージ4の培地で合計12日間処理した細胞にさらなるHD-DoE実験を3日間行った。この実験は、8つのエフェクター、プロストラチン、ロシグリタゾン、GSI-XX、ヘパリン、GW0742、N2、THI0019、およびGDNFを含んでいた。このモデルでは、本発明者らは、PVALB(+)介在ニューロンに発現されたPVALB遺伝子の最大発現に焦点を合わせた(Nahar et al. (2021) Front. Psych. 12:679960)。PVALBの最大発現についてモデルを最適化した場合、プロストラチン、GW0742、N2、およびGDNFは、それぞれ13.56、19.499、15.9および8.2の最高因子寄与を有した(図23)。N2の寄与はPVALBの遺伝子発現に有意な効果を有するので、これを本発明者らのステージ5レシピに算入する。
【0170】
動的プロファイル分析を使用して、PVALBの発現にプラスの影響を有する共通因子を見出した(図24)。GW0742、N2、プロストラチン、およびGDNFはPVALB遺伝子の発現に類似の効果を有し、GSI-XX、THI0019、ヘパリンはPVALBの遺伝子発現にマイナスの影響を有したことが観察された。それで、それらをレシピから除去した。
【0171】
前脳分化決定神経幹細胞のPVALB介在ニューロン細胞への分化をさらに導くために、実験開始前にステージ1からステージ4の培地で合計12日間処理された細胞にさらなるHD-DoE実験を3日間行った。この実験は、8つのエフェクター、ホルスコリン、アラキドン酸、VPA、BDNF、BT13、O-LPA、GW7646、およびピルビン酸ナトリウムを含んでいた。このモデルでは、本発明者らは、PVALB(+)介在ニューロンに発現されたPVALB遺伝子の最大発現に焦点を合わせた(Nahar et al. (2021) Front. Psych. 12:679960)。PVALBの最大発現のためにモデルを最適化した場合、ホルスコリン、GW7646、ピルビン酸ナトリウムは、それぞれ3.14、27.2、および17.1の最高因子寄与を有した(図25)。ピルビン酸ナトリウムは、PVALBの発現に有意な効果を有したので、これをステージ5レシピに算入する。
【0172】
PVALBの発現にプラスの影響を有する共通因子を見出すために動的プロファイル分析を使用した(図26)。GW7646、ピルビン酸ナトリウム、およびホルスコリンはPVALB遺伝子の発現に類似の効果を有したのに対し、BT13は、PVALBの遺伝子発現に有意なマイナス影響を有したことが観察された。それで、これをレシピから除去した。
【0173】
実施例5:前脳神経前駆細胞由来介在ニューロンを誘導する培養条件の因子致命度解析
検証された各因子の除去の影響を評価するために、動的プロファイル分析を使用し、最終決定された各因子が存在しないがその他が存在する場合の関心対象の遺伝子の発現レベルを比較した。関心対象の遺伝子の発現レベルは、所望のアウトカムが達成可能であるかを明らかにするので、この因子致命度解析は、各インプットエフェクターの重要性の程度を明らかにした。
【0174】
検証された各因子の除去の影響を評価するために、本発明者らは再度、動的プロファイル分析を使用し、最終決定された各因子が存在しないがその他が存在する場合の関心対象の遺伝子の発現レベルを比較した。関心対象の遺伝子の発現レベルは、所望のアウトカムが達成可能であるかを明らかにするので、この因子致命度解析は、各インプットエフェクターの重要性の程度を明らかにした。
【0175】
ステージ4レシピでは、5つの最終決定された因子の各々を除去し、その他の4つの因子が存在する場合の前脳遺伝子の発現レベルを、5つの因子すべてが存在する場合と比較して評価した。結果を図27に示す。MEF2Cは、PVALB-前駆細胞の細胞運命を決定すると報告された(Mayer et al. (2018) Nature 555:457-462)。本発明者らは、このステージでのMEF2C発現を最適化する。cAMPおよびサブスタンスPは、MEF2Cの発現を増加させ、ソマトスタチンの発現を減少させることが見出されたので、これらをステージ4レシピに算入する。GDNFおよびバルプロ酸は、PVALBの発現に寄与することが見出されたが、ソマトスタチンの発現増加が最小限であったので、それらもステージ4レシピに算入する。MHY1458は、PVALBの発現を増加させることが見出され、これをレシピに算入する(図27)。
【0176】
ステージ5レシピでは、最終決定された7つの因子の各々を除去し、その他の因子が存在したままである場合のPVALBおよびSSTの発現レベルを、7つの因子すべてが存在する場合と比較して評価した。このHD-DoE実験では、2-ホスホ-L-アスコルビン酸、BDNF、およびIGF-1はPVALBの発現にプラスに寄与したのに対し、これらは、別の介在ニューロンマーカーであるソマトスタチンの発現を変化させなかった。2-ホスホ-L-アスコルビン酸、BDNF、IGF-1をステージ5レシピに算入した(図28)。別のHD-DoE実験では、N2および他のエフェクターは、パルブアルブミンの発現に寄与することが見出された。その他も、SST介在ニューロンマーカーであるソマトスタチンの発現を増加させることが見出された。それで、これらをレシピから除去し、N2をステージ5レシピに算入した(図29)。最後のHD-DoE実験では、ピルビン酸ナトリウムがPVALBの発現に寄与することが見出された。ピルビン酸ナトリウムをステージ5レシピに算入した(図30)。最終的に、O-LPAがLHX6およびGAD1の発現に寄与することが見出され、それでこれをレシピに算入した(図31)。
【0177】
実施例6:パルブアルブミンを発現する前脳神経前駆細胞由来介在ニューロンの免疫細胞化学的検証
実施例4で開発されたレシピを検証するために、最初に細胞を実施例1によるステージ1、ステージ2およびステージ3分化培地で、次いで実施例4によるステージ4およびステージ5分化培地で処理し、各ステージの終了時に免疫細胞化学を使用して前脳ニューロンおよび神経前駆細胞のバイオマーカーを評価した。バイオマーカーは、MAP2、NeuN、神経フィラメント、βIII-チューブリン汎ニューロンマーカー、PAX6、LGEマーカー(Kioussi et al. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. 96:14378-14382;Kioussi et al. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. 96:14378-14382)、腹側前脳に発現されるSOX2ニューロン前駆細胞マーカー(Hansen et al. (2013) Nature Neurosci. 16:1576-1587)、LHX6、皮質介在ニューロンマーカー、MASH1(ASCL1)、GFAPグリアマーカー、MGE領域の有糸分裂後前駆細胞に発現されているSOX6マーカー(Batista-Brito et al. (2009) Neuron 63:466-481)およびGABA作動性介在ニューロンによって特異的に発現されているGABAマーカーを含んでいた(図32)。
【0178】
免疫細胞化学画像は、細胞の90%超でステージ4の終了までにNeuNが発現されること(Gusel'Nikova et al. (2015) Acta Naturae 7:42-47)およびPAX6が検出されなかったことを確認した。大部分の培養細胞で観察されたMash1およびSOX6の発現は、分化途中の細胞の腹側領域化を確認した(図32)。大部分の細胞におけるGAD65の検出により、細胞が介在ニューロンであると確認された。
【0179】
ステージ5が終了する27日目までに、大部分の培養細胞でGABA、MASH1、およびLHX6が検出され、MAP2、神経フィラメント、およびパルブアルブミンが、細胞の前脳のMGE領域が分化PVALB(+)介在ニューロンと確認された培養物の半分超で検出された(図33)。本発明者らはまた、大部分の培養細胞で神経フィラメント、シナプシンおよびGAD65を検出し、これは、これらの細胞が成熟ニューロンの機能を有することを示した(Nguyen et al. (2014) J. Neurosci. 34:14948-14960)(図33)。
【0180】
27日目に、分化した細胞において成熟神経分化マーカーが検出され、背側前脳マーカーが存在しなかったことは、分化したパルブアルブミン(+)介在ニューロンへのMGE分化決定神経前駆細胞のための2-ステージ分化プロトコルのための作製されたレシピの有効性および頑健性を確認するものであった。
【0181】
等価物
当業者は、本明細書に記載される発明の具体的な態様の多くの等価物を認識している、または日常的な実験だけ使用して確認できる。このような等価物は、以下の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
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図13B
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図15A
図15B
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図27A
図27B
図28A
図28B
図29
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図31A
図31B
図32
図33
【国際調査報告】