(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】サイトカインストームの影響を治療する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20241106BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20241106BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20241106BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20241106BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241106BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20241106BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241106BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20241106BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20241106BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20241106BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20241106BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20241106BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20241106BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20241106BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241106BHJP
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A61P 33/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20241106BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20241106BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P37/02
A61P31/12
A61K31/7105
A61K48/00
A61K35/76
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K31/713
A61K31/711
A61P31/14
A61P31/16
A61P9/00
A61P1/16
A61P13/12
A61K45/06
A61P31/04
A61P31/10
A61P33/00
A61P35/00
A61P37/06
A61P3/10
A61P3/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525327
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(85)【翻訳文提出日】2024-06-25
(86)【国際出願番号】 US2022047254
(87)【国際公開番号】W WO2023076096
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507235354
【氏名又は名称】ラッシュ ユニヴァーシティ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チュー,スマント・シン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
本発明は、呼吸器系感染症又は非呼吸器系感染症、及び多臓器への影響を含む軽度から重度のサイトカインストームの影響、並びに死亡率の低減に関する予防及び治療に対する新規なアプローチを提供する。より詳しくは、本発明は、重度のウイルス性サイトカインストームの結果としての死亡率を解消又は低減するために枯渇させなければならない特定の組合せ又はサイトカイン又は可溶性受容体について記載する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上のサイトカインの阻害剤の患者への投与を含む、軽度から中等度のサイトカインストームの影響の阻害、治療又は予防を必要とする患者における、軽度から中等度のサイトカインストームの影響を阻害、治療又は予防するための方法であって、1種以上のサイトカインの阻害剤が患者から1種以上のサイトカインを中和又は枯渇させ、軽度のサイトカインストームの症状が緩和される、方法。
【請求項2】
軽度から中等度のサイトカインストームがウイルス感染の結果である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1種以上のサイトカインの阻害剤が、ショートヘアピンRNA(shRNA)を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)又はレンチウイルス、1種以上のサイトカインに対する抗体又は抗体断片、1種以上のサイトカインを標的とするsiRNA又は他のアンチセンスオリゴヌクレオチド、及びサイトカイン媒介受容体に結合して1種以上のサイトカインの結合を防止するアンタゴニストからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
shRNAがベクターに結合されているか又はベクターの一部である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ベクターが、プラスミド、ウイルスベクター、バクテリオファージ、コスミド及び人工染色体からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
抗体又は抗体断片が、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体及び二価抗体からなる群から選択される1つ以上の抗体に対するものである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
抗体又は抗体断片が、2種の異なるサイトカインを標的とする二価抗体である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
1種以上のサイトカインの阻害剤が、改変された1種以上のサイトカイン遺伝子をコードする1つ以上のDNA断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
1つ以上のDNA断片が、CRISPRによって改変された1種以上のサイトカイン遺伝子をコードする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ウイルス感染が、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、他のコロナウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、中東呼吸器症候群(MERS)及びエボラウイルスからなる群から選択される感染によって引き起こされる、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
軽度から中等度のサイトカインストームの影響が、非呼吸器系の影響である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
非呼吸器系の影響が、急性心臓損傷、急性肝臓損傷及び急性腎臓損傷から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
1種以上のサイトカインが、TNFα、IL-2、IL-4、IL-13、IFN-γ又はIL-6を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
2種以上のサイトカインの阻害剤の患者への投与を含む、重度のサイトカインストームの影響の阻害、治療又は予防を必要とする患者における重度のサイトカインストームの影響を阻害、治療又は予防するための方法であって、2種以上のサイトカインの阻害剤が、患者から1種以上のサイトカインを中和又は枯渇させ、重度のサイトカインストームの症状が緩和される、方法。
【請求項15】
重度のサイトカインストームがウイルス感染の結果である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
2種以上のサイトカインの阻害剤が、ショートヘアピンRNA(shRNA)を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)又はレンチウイルス、2種以上のサイトカインに対する抗体又は抗体断片、2種以上のサイトカインを標的とするsiRNA又は他のアンチセンスオリゴヌクレオチド、及びサイトカイン媒介受容体に結合して2種以上のサイトカインの結合を防止するアンタゴニストを含む薬剤からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
shRNAが、ベクターに結合されているか又はベクターの一部である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ベクターが、プラスミド、ウイルスベクター、バクテリオファージ、コスミド及び人工染色体からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
2種以上のサイトカインに対する抗体又は抗体断片が、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体及び二価抗体からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
抗体又は抗体断片が、2種の異なるサイトカインを標的とする二価抗体である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
2種以上のサイトカインの阻害剤が、改変された2種以上のサイトカイン遺伝子をコードする2つ以上のDNA断片である、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
2つ以上のDNA断片が、CRISPRによって改変された2種以上のサイトカイン遺伝子をコードしている、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ウイルス感染が、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、他のコロナウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、中東呼吸器症候群(MERS)及びエボラウイルスからなる群から選択される感染によって引き起こされる、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
重度のサイトカインストームの影響が非呼吸器系の影響である、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
非呼吸器系の影響が、急性心臓損傷、急性肝臓損傷及び急性腎臓損傷から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
1種以上のサイトカインが、TNFα、IL-2、IL-4、IL-13、IFN-γ又はIL-6を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項27】
2種以上のサイトカインの阻害剤の患者への投与を含む、重度のサイトカインストーム後の死亡率の低減を必要とする患者における、重度のサイトカインストーム後の死亡率を低減するための方法であって、2種以上のサイトカインの阻害剤が、患者から1種以上のサイトカインを中和又は枯渇させ、死亡率を低減する、方法。
【請求項28】
重度のサイトカインストームが、ウイルス感染の結果である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
2種以上のサイトカインの阻害剤が、ショートヘアピンRNA(shRNA)を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)又はレンチウイルス、2種以上のサイトカインに対する抗体又は抗体断片、2種以上のサイトカインを標的とするsiRNA又は他のアンチセンスオリゴヌクレオチド、及びサイトカイン媒介受容体に結合して2種以上のサイトカインの結合を防止するアンタゴニストを含む薬剤からなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
shRNAがベクターに結合されているか又はベクターの一部である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
ベクターが、プラスミド、ウイルスベクター、バクテリオファージ、コスミド及び人工染色体からなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
2種以上のサイトカインに対する抗体又は抗体断片が、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体及び二価抗体からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
抗体又は抗体断片が、2種の異なるサイトカインを標的とする二価抗体である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
2種以上のサイトカインの阻害剤が、改変された2種以上のサイトカイン遺伝子をコードする2つ以上のDNA断片である、請求項27に記載の方法。
【請求項35】
2つ以上のDNA断片が、CRISPRによって改変された2種以上のサイトカイン遺伝子をコードしている、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
ウイルス感染が、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、他のコロナウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、中東呼吸器症候群(MERS)及びエボラウイルスからなる群から選択される感染によって引き起こされる、請求項28に記載の方法。
【請求項37】
重度のサイトカインストームの影響が非呼吸器系の影響である、請求項27に記載の方法。
【請求項38】
非呼吸器系の影響が、急性心臓損傷、急性肝臓損傷及び急性腎臓損傷から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
1種以上のサイトカインがTNFα、IL-2、IL-4、IL-13、IFN-γ又はIL-6を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項40】
1種以上のサイトカインの阻害剤の患者への投与を含む、サイトカインストームによって引き起こされるSARS-CoV-2感染後の急性期後後遺症の影響を治療又は予防するための方法であって、1種以上のサイトカインの阻害剤が、患者から1種以上のサイトカインを中和又は枯渇させる、方法。
【請求項41】
SARS-Cov-2感染後の急性期後後遺症の影響が、非呼吸器系の影響である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
非呼吸器系の影響が、急性心臓損傷、急性肝臓損傷及び急性腎臓損傷から選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
1種以上のサイトカインが、TNFα、IL-2、IL-4、IL-13、IFN-γ又はIL-6を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
1種以上のサイトカインの阻害剤の患者への投与を含む、ウイルス感染の再発を予防するための方法であって、1種以上のサイトカインの阻害剤が、患者から1種以上のサイトカインを中和又は枯渇させる、方法。
【請求項45】
ウイルス感染が、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、他のコロナウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、中東呼吸器症候群(MERS)及びエボラウイルスからなる群から選択される感染によって引き起こされる、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
1種以上のサイトカインが、TNFα、IL-2、IL-4、IL-13、IFN-γ又はIL-6を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
1種以上のサイトカインの阻害剤の患者への投与を含む、患者におけるSARS-CoV-2ウイルスmRNAワクチンの影響を治療又は予防するための方法であって、1種以上のサイトカインの阻害剤が、患者から1種以上のサイトカインを中和又は枯渇させる、方法。
【請求項48】
1種以上のサイトカインがTNFα、IL-2、IL-4、IL-13、IFN-γ又はIL-6を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
1種以上のサイトカインの阻害剤の患者への投与を含む、患者におけるウイルス感染を治療又は予防するための方法であって、1種以上のサイトカインの阻害剤が、患者から1種以上のサイトカインを中和又は枯渇させる、方法。
【請求項50】
1種以上のサイトカインがTNFα、IL-2、IL-4、IL-13、IFN-γ又はIL-6を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
軽度から中等度のサイトカインストームが、軽度から中等度のサイトカインストームが起こるいずれかの疾患状態の結果であり、前記疾患状態が、細菌感染症、真菌感染症又は寄生虫感染症、がん、臓器移植、糖尿病及びメタボリックシンドロームからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項52】
重度のサイトカインストームが、重度のサイトカインストームが起こるいずれかの疾患状態の結果であり、前記疾患状態が、細菌感染症、真菌感染症又は寄生虫感染症、がん、臓器移植、糖尿病及びメタボリックシンドロームからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項53】
重度のサイトカインストームが、重度のサイトカインストームが起こるいずれかの疾患状態の結果であり、前記疾患状態が、細菌感染症、真菌感染症又は寄生虫感染症、がん、臓器移植、糖尿病及びメタボリックシンドロームからなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府助成金に関する記載
本発明は、国立衛生研究所から授与された、いくつかの助成金(1R01DK109713、1R01DK111102、1R01DK129522、1R01DK128203)に基づく政府支援を受けて行われた。政府は一定の権利を有する。
【0002】
本開示の一般的な分野は、サイトカインストームの影響の予防及び治療に対する新規なアプローチである。本発明は、重度のウイルス性サイトカインストームの結果としての死亡率を解消又は低減するために枯渇させなければならない特定の組合せ又はサイトカイン又は可溶性受容体について記載する。
【背景技術】
【0003】
COVID-19パンデミックの際立った特徴は、呼吸器、腎臓、脳、肝臓、心臓、胃腸管、眼及び他の多くの臓器を含む多系統病変である。例えば、Huangら、「Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China」、(2020) Lancet 395:497~506頁;Wangら、「Clinical features of 69 cases with coronavirus disease 2019 in Wuhan, China」、(2020) Clin Infect Dis. 71:769~777頁を参照されたい。ウイルスは罹患した臓器で常に検出されるわけではなく、心臓剖検の研究ではウイルスの有無は炎症細胞浸潤の程度に影響しないようであった。Spudichら、「Nervous system consequences of COVID-19」、(2022) Science 375:267~269頁;Topol、「COVID-19 can affect the heart」、(2020) Science 370:408~409頁;Lindnerら、「Association of cardiac infection with SARS-CoV-2 in confirmed COVID-19 autopsy cases.」、(2020) JAMA Cardiol. 5:1281~1285頁;Guptaら、「Extrapulmonary manifestations of COVID-19」、(2020年) Nat Med. 26:1017~1032頁を参照されたい。
【0004】
ウイルス感染は、自然免疫反応及び適応免疫反応の一環としてサイトカインの産生を引き起こす。本発明者らは以前、パンデミックの初期に記録された広範囲のサイトカインストームが臓器損傷に関与している可能性があることを疑い、サイトカイン介在性の末端臓器損傷の新規のエビデンスに基づくモデルを開発した。Huangら、2020を参照されたい。研究した3種類の臓器のうち、心臓病変に関する文献では、心筋トロポニンI値の上昇(急性心筋梗塞に類似)、心筋炎、心筋壊死、心膜炎、不整脈及び心不全が示されている4、7。Topo 2020;Inciardiら、「Cardiac involvement in a patient with coronavirus disease 2019 (COVID-19)」、(2020) JAMA Cardiol. 5:819~824頁を参照されたい。肝障害のエビデンスには、アミノトランスフェラーゼレベルの上昇、肝細胞障害、炎症及び脂肪肝が含まれる8。Hertaら、「COVID- 19 and the liver - Lessons learned」、(2021) Liver Int. 41 補遺1:1~8頁を参照されたい。腎臓の症状発現が入院のCOVID-19患者において非常に多く見られ、40%近くがタンパク尿を発症し、約3分の1が急性腎障害(AKI)を発症する。Chengら、「Kidney disease is associated with in-hospital death of patients with COVID- 19」、(2020年) Kidney Int. 97:829~838頁;Hirschら、「Acute kidney injury in patients hospitalized with COVID-19」、(2020) Kidney Int. 98:209~218頁を参照されたい。重度のタンパク尿及び/又は腎機能障害のあるCOVID-19患者の腎生検研究では、巣状及び分節性糸球体硬化症(FSGS)の虚脱型(collapsing variant)及び急性腎障害が最も一般的に記録されている。Kudoseら、「Kidney Biopsy Findings in Patients with COVID-19」、(2020) J Am Soc Nephrol. 31:1959~1968頁;Nasrら、「Kidney Biopsy Findings in Patients With COVID-19, Kidney Injury and Proteinuria」、(2021) Am J Kidney Dis. 77:465~468頁(2021)を参照されたい。初期の剖検研究ではウイルス粒子が疑われたが、生存患者の腎生検ではいかなるウイルス粒子も確認されなかった。Bradleyら、「Histopathology and ultrastructural findings of fatal COVID- 19 infections in Washington State: a case series」、(2020) Lancet 396:320~332頁も参照されたい。
【0005】
腎臓疾患を中心としたCOVID-19サイトカインストームモデルを構築する利点は、いくつかの要素を共有する風邪のサイトカインストームの稀な症状発現とメカニズム的に比較することができることである。Basnetら、「Rhinoviruses and Their Receptors」、(2019) Chest 155:1018~1025頁;Wineら、「Cytokine responses in the common cold and otitis media」、(2012) Curr Allergy Asthma Rep.12:574~581頁;Nietersら、「Cross-sectional study on cytokine polymorphisms, cytokine production after T-cell stimulation and clinical parameters in a random sample of a German population」、(2001) Hum Genet. 108:241~248頁;Noahら、「Nasal cytokine production in viral acute upper respiratory infection of childhood」、(1995) J Infect Dis. 171:584~592頁;van Kempenら、「An update on the pathophysiology of rhinovirus upper respiratory tract infections」、(1999) Rhinology 37:97~103頁;Whitemanら、「IFN-gamma regulation of ICAM-1 receptors in bronchial epithelial cells: soluble ICAM-1 release inhibits human rhinovirus infection」、(2008) J Inflamm (Lond).5:8頁;Jarttiら、「Systemic T-helper and T-regulatory cell type cytokine responses in rhinovirus vs. respiratory syncytial virus induced early wheezing: an observational study」、(2009) Respir Res.10:85頁;Hersheyら、「The association of atopy with a gain-of-function mutation in the alpha subunit of the interleukin-4 receptor」、(1997) N Engl J Med.337:1720~1725頁;Abdel-Hafezら、「Idiopathic nephrotic syndrome and atopy: is there a common link?」、(2009) Am J Kidney Dis.54:945~953頁を参照されたい。
【0006】
ライノウイルスによってよく引き起こされる風邪は、糸球体疾患であるMCD及びFSGS再発のエピソードの約70%を引き起こす。Passiotiら、「The common cold: potential for future prevention or cure」、(2014) Curr Allergy Asthma Rep.14:413頁;Takahashiら、「Triggers of relapse in steroid-dependent and frequently relapsing nephrotic syndrome」、(2007) Pediatr Nephrol.22:232~236頁を参照されたい。
【0007】
この再発経路は不明であるが、本発明者らはサイトカインストームが主要な役割を果たしていると長い間考えてきた。COVID-19サイトカインストームは、風邪のサイトカインストームよりも広範囲であるため、減算分析によってそれぞれの疾患の特定の側面における主要な要因を同定できる可能性がある。ヒト及び実験的MCDとほとんどの形態のFSGSは、転写因子ZHX2のポドサイト発現低下と関連している。Maceら、「ZHX2 and its interacting proteins regulate upstream pathways in podocyte diseases」、(2020) Kidney Int.97:753~764頁を参照されたい。対照的に、実験的エビデンスは、FSGSの虚脱型では基礎ポドサイトZHX2発現が高いことを示唆している。Maceら、2020。他の多くの細胞とは対照的に、ポドサイトはすべてのZHXタンパク質の大部分を細胞膜(非核)分布において発現する。適切な組合せ及びZHX2発現状態の変化の設定において、全身性サイトカイン放出が正常な(アミノペプチダーゼA/APA、エフリンBl)又は推定上の代替細胞膜アンカーからポドサイト核へのZHXタンパク質の移動を誘導する可能性がある。
【0008】
しかし、COVID-19感染後に見られる結果的なサイトカインストームを理解するための努力にもかかわらず、未だ、この現象の根底にあるメカニズム及び結果としての臨床症状発現を理解することが必要とされている。このような理解は、サイトカインストームに関連した臓器の損傷を低減する治療アプローチの設計を容易にする。
【0009】
本発明は、これらのニーズに応えるものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Huangら、「Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China」、(2020年) Lancet 395:497~506頁
【非特許文献2】Wangら、「Clinical features of 69 cases with coronavirus disease 2019 in Wuhan, China」、(2020) Clin Infect Dis. 71:769~777頁
【非特許文献3】Spudichら、「Nervous system consequences of COVID-19」、(2022) Science 375:267~269頁
【非特許文献4】Topol、「COVID-19 can affect the heart」、(2020) Science 370:408~409頁
【非特許文献5】Lindnerら、「Association of cardiac infection with SARS-CoV-2 in confirmed COVID-19 autopsy cases.」、(2020) JAMA Cardiol. 5:1281~1285頁
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【非特許文献11】Kudoseら、「Kidney Biopsy Findings in Patients with COVID-19」、(2020) J Am Soc Nephrol. 31:1959~1968頁
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【非特許文献14】Basnetら、「Rhinoviruses and Their Receptors」、(2019) Chest 155:1018~1025頁
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【非特許文献19】Whitemanら、「IFN-gamma regulation of ICAM-1 receptors in bronchial epithelial cells: soluble ICAM-1 release inhibits human rhinovirus infection」、(2008) J Inflamm (Lond).5:8頁
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【非特許文献24】Takahashiら、「Triggers of relapse in steroid-dependent and frequently relapsing nephrotic syndrome」、(2007) Pediatr Nephrol.22:232~236頁
【非特許文献25】Maceら、「ZHX2 and its interacting proteins regulate upstream pathways in podocyte diseases」、(2020) Kidney Int.97:753~764頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
(発明の要旨)
本発明は、様々なサイトカインを標的とするメカニズムを提供する。本発明は、死亡率及び末端臓器損傷を含むサイトカインストームの影響を解消又は低減するために枯渇させなければならないサイトカイン又は可溶性因子の特定の組合せについて記載する。
【0012】
SARS-CoV-1及びSARS-CoV-2などの呼吸器系ウイルスを含むウイルス性疾患は、明白な直接的なウイルス感染がなくても非呼吸器系臓器に病理学的影響を及ぼす。それに加えて、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、他のコロナウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、中東呼吸器症候群(MERS)、及びエボラ出血熱などの他の呼吸器系ウイルス及び非呼吸器系ウイルスによって発症する病気もまた、サイトカインストームを引き起こし、死亡及び多臓器損傷を引き起こすことも知られている。
【0013】
SARS-CoV-2の肺外症状発現におけるウイルス性サイトカインストームの役割を研究し比較するため、臨床データから新規のCOVID-19とサイトカインとの組合せ「カクテル」が開発され、マウスに注射された。本発明者らによる以前の研究では、風邪サイトカインの組合せ「カクテル」を使用したライノウイルス風邪感染モデルにおける有効性が実証されている。
【0014】
初期の研究では、本発明者らは、Zhx2flox/flox及びNPHS2プロモーター駆動Creマウスを利用した。しかし、その後、本発明者らは、Zhx2ハイポモルフ状態の確立されたモデルであるBALB/cJマウス及びBALB/cマウス(Zhx2+/+)を使用した。Maceら 2020;Perincheriら、「Hereditary persistence of alpha- fetoprotein and H19 expression in liver of BALB/cJ mice is due to a retrovirus insertion in the Zhx2 gene.」 (2005) Proc Natl Acad Sci USA 102:396~4011頁;Perincheriら、「Characterization of the ETnII-alpha endogenous retroviral element in the BALB/cJ Zhx2 (Afrl) allele」、(2008) Mamm Genome 19:26~31頁;Gargalovicら、「Quantitative trait locus mapping and identification of Zhx2 as a novel regulator of plasma lipid metabolism」、(2010) Circ Cardiovasc Genet. 3:60~67頁;Creasyら、「Zinc Fingers and Homeoboxes 2 (Zhx2) Regulates Sexually Dimorphic Cyp Gene Expression in the Adult Mouse Liver」、(2016) Gene Expr. 17:7~17頁;Jiangら、「Zhx2 (zinc fingers and homeoboxes 2) regulates major urinary protein gene expression in the mouse liver」、(2017) J Biol Chem 292:6765~6774頁 (2017);Erbilginら、「Transcription Factor Zhx2 Deficiency Reduces Atherosclerosis and Promotes Macrophage Apoptosis in Mice」、(2018) Arterioscler Thromb Vase Biol. 38:2016~2027頁を参照されたい。
【0015】
低用量では、COVID-19カクテルは、個々のサイトカインではなく、マウスにおける糸球体損傷及びCOVID-19関連タンパク尿に似たアルブミン尿を誘発した。サイトカインカクテルは培養した糸球体上皮細胞においてSTAT6シグナル伝達を活性化したが、CRISPR B Zhx2ハイポモルフ糸球体上皮細胞ではそれが減少した。選択した単一サイトカインの枯渇により、糸球体損傷及びアルブミン尿が改善した。高用量では、COVID-19カクテルは、個々のサイトカインではなく、マウスにおいて、急性心臓損傷、心筋炎、心膜炎、肝臓及び腎臓損傷を含むSARS-CoV-2疾患の一般的な臨床症状発現、並びに高死亡率を誘発した。STAT5経路、STAT6経路及びNFκB経路がこれらの臓器で活性化された。BALB/cにおけるTNF-αとIL-2又はIL-13又はIL-4の選択的組合せのモデル誘導後の二重枯渇。要約すると、ウイルス性サイトカインストームの全身症状発現、疾患の機序、及び罹患率と死亡率を低減する治療原則が特定された。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の実施形態において、患者から1種以上のサイトカインを阻害する、中和する又は枯渇させることを含む、患者におけるウイルス感染の結果としてのサイトカインストームの影響を阻害、治療又は予防する方法が提供される。
【0017】
いずれかの実施形態において、サイトカインストームは、任意の呼吸器系ウイルス又は非呼吸器系ウイルスによって引き起こされるウイルス感染によって誘発され得る。したがって、ウイルス感染は、SARS-CoV-1及びSARS-CoV-2などの呼吸器系ウイルスを含むウイルス性の病気によって引き起こされる可能性があり、明白な直接的ウイルス感染がない場合であっても、非呼吸器系臓器に対して病理学的影響を及ぼす。さらに、ウイルス感染は、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、他のコロナウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、中東呼吸器症候群(MERS)、及びエボラ出血熱などの他の呼吸器系ウイルス及び非呼吸器系ウイルスによって引き起こされる可能性があり、これらもまたサイトカインストームを引き起こし、死亡及び多臓器損傷を引き起こすことが知られている。
【0018】
別の実施形態において、サイトカインストームは、非ウイルス感染、例えば、細菌、真菌又は原虫によって引き起こされる感染によって引き起こされる。
【0019】
さらに別の実施形態において、サイトカインストームは非感染性の病因によるものであり、例えば、がん若しくはその治療、臓器移植に関連するもの、又は糖尿病などの全身性障害の安定したサイトカイン環境の変化に関連するものなどである。
【0020】
さらに、本発明者らは、風邪(軽度の疾患を引き起こす。)と、例えばSARS-CoV-2によって引き起こされるウイルス感染によって引き起こされるより重度のサイトカインストームプロファイルとの間の大きな違いは、IL-4、IL-13に関連する「アレルギー経路」の随伴性急性活性化の存在であることを発見したので、本発明はまた、アレルギー経路の顕著な随伴性活性化を含むウイルス感染を含む。
【0021】
一部の実施形態において、本発明は、重度のサイトカインストームによって引き起こされる死亡率を低減するために、2種以上のサイトカインを枯渇させる方法を提供する。
【0022】
本発明の他の実施形態において、サイトカインストームによって使用される急性心臓損傷、急性肝臓損傷及び急性腎臓損傷の影響を治療する方法が提供される。一部の実施形態において、サイトカインストームはウイルス感染によって引き起こされる。
【0023】
本発明のさらに他の実施形態において、サイトカインストームによって引き起こされる死亡率を低減する方法が提供される。一部の実施形態において、サイトカインストームはウイルス感染によって引き起こされる。
【0024】
本開示の実施形態において、2種以上のサイトカインの阻害、中和又は枯渇を含む、サイトカインストームによって誘発される多臓器損傷を予防する方法が提供される。
【0025】
本発明のさらに他の実施形態において、1種以上のサイトカインの阻害、中和又は枯渇を含む、SARS-Cov-2感染後の急性期後後遺症の影響を治療又は予防するための方法が提供される。
【0026】
本開示の実施形態において、ウイルス感染の再発を予防する方法が提供される。特定の実施形態において、本方法は、1種以上のサイトカインを阻害する、中和する又は枯渇させる治療を提供することを含む。
【0027】
本発明のさらに他の実施形態において、1種以上のサイトカインの阻害、中和又は枯渇を含む、SARS-CoV-2ウイルスmRNAワクチンの影響を治療又は予防するための方法が提供される。
【0028】
他の実施形態において、サイトカインストームの影響を治療又は予防する方法を試験するための、ウイルス感染及び他の疾患状態によって引き起こされる前記サイトカインストームの動物モデルが提供される。
【0029】
したがって、本発明で提供されるいずれかの方法では、1種以上のサイトカインは、患者に薬剤の患者への投与によって阻害、中和又は枯渇させることが可能であり、その薬剤は、1種以上のサイトカインに対するショートヘアピン型RNA(shRNA)を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)又はレンチウイルス(lentivirus)を含む。
【0030】
一部の実施形態において、shRNAは市販されており、プラスミド、ウイルスベクター、バクテリオファージ、コスミド及び人工染色体を含む、当技術分野で公知の任意のベクターに結合されていてもよいし、又はその一部であってもよい。
【0031】
他の実施形態において、薬剤は、1種以上のサイトカインに対するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を含む。さらに他の実施形態において、薬剤は、1種以上のサイトカインに対するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を含む。さらに他の実施形態において、薬剤は、1種以上のサイトカインを標的とするsiRNA又はアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0032】
さらに他の実施形態において、薬剤は、サイトカイン媒介受容体に結合し、1種以上のサイトカインの結合を防止するアンタゴニストである。
【0033】
本開示の実施形態において、ウイルス感染を治療するための方法が提供される。特定の実施形態において、この方法は、1種以上のサイトカインを阻害する、中和する又は枯渇させる治療を提供することを含む。
【0034】
開示されたいずれかの実施形態において、阻害、中和又は枯渇される1種以上のサイトカインは、TNFα、IL-2、IL-4、IL-13、IFN-γ又はIL-6を含む。
【0035】
処置されるウイルス感染又は他の状態の重症度に応じて、2種以上のサイトカインの阻害、中和又は枯渇が単一のサイトカインの枯渇よりも効果的であり得ることは、本明細書の開示から理解される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1a】
図1a-gは、COVID-19サイトカインストームモデルの開発及び特性決定を示す。(
図1a)ヒト疾患の状況におけるCOVID-19誘発性サイトカインストームの模式図。
【
図1b】COVIDカクテルA~Dの用量Xの組成。
【
図1c】BALB/cJマウスに異なる用量のカクテルDを注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=4匹のマウス)。1/2倍(X/2)は、BALB/cJマウスにおける閾値腎炎原性用量である。
【
図1d】BALB/cJマウスに個々のCOVIDカクテル成分の用量Xを注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=4匹のマウス)。
【
図1e】BALB/cマウスにCOVIDカクテルA~Dの用量X/2を注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=マウス6匹)。
【
図1f】BALB/cJマウスにCOVIDカクテルA~Dの用量X/2を注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=マウス6匹)。
【
図1g】BALB/cマウスにそのままのカクテルCの用量X/2を注射、又はポドサイトを標的とする個々の成分を欠いたカクテルCの用量X/2を注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=6匹のマウス)。P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。すべての有意値は両側検定である。
【
図2a】
図2a-iは、BALB/cマウスにおいて高用量のカクテルD(3倍(3X))によって誘発される全身性損傷を、低用量又は3倍用量の個々の成分と比較した評価である。(
図2a)心筋トロポニンI(cTPI3)レベルによって評価された急性心筋損傷(1群あたりn=8匹のマウス)。
【
図2b】アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性レベルによって評価した急性肝臓損傷(1群あたりn=8匹のマウス)。
【
図2c】質量分析法を使用して測定した血清クレアチニンによって評価した急性腎臓損傷(1群あたりn=8匹のマウス)。
【
図2d】カクテルD3倍用量を注射したマウスからのH&E染色切片を使用した急性心臓損傷の組織学的特徴(1群あたりn=3匹のマウス)。心筋溶解(赤色矢印)、炎症(黒色矢印)、線維破壊(青色矢印)、好酸球増多(緑色矢印)、及び心膜炎(橙色矢印)が認められた。
【
図2e】カクテルD3倍用量を注射したマウスからのH&E染色切片を使用した急性肝臓損傷の組織学的特徴(1群あたりn=3匹のマウス)。肝細胞損傷(赤色矢印)、炎症(黒色矢印)、突出したクッファー細胞(緑色矢印)、再生変化(黄色矢印)、及び中心静脈周囲損傷(青色矢印)が認められた。
【
図2f】カクテルD3倍用量を注射したマウスからのPAS染色切片(列1、2、4)及び腎臓電子顕微鏡(列3)を使用した急性腎臓損傷の組織学的評価(1群あたりn=3匹のマウス)。最初の3列は近位尿細管を示し、最後の列は遠位尿細管を示す。近位尿細管において、空胞化(赤色矢印)、刷子縁破壊(緑色矢印)、及び尿細管変性(黒色矢印)が認められた。遠位尿細管において、剥離のエビデンス(青色矢印)が存在した。泡沫細胞も認められた(白色矢印)。光学顕微鏡スケールバー20μm;電子顕微鏡スケールバー2.66μm。
【
図2g】BALB/cマウスの心臓における組織学的変化の形態計測分析を示す表。
【
図2h】BALB/cマウスの肝臓における組織学的変化の形態計測分析を示す表。
【
図2i】BALB/cマウスの腎臓における組織学的変化の形態計測分析を示す表。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001、すべての値は両側検定に基づいている。
【
図3a】
図3a-hは、軽度及び中等度のサイトカインストームが糸球体疾患及び全身性疾患に及ぼす影響に関する治療戦略を示す。すべての枯渇抗体又はコントロールIgGは、モデル誘導後の1時間に静脈内注射された。(
図3a)BALB/cマウス(1群あたりn=6匹のマウス、用量X/2)におけるカクテルCモデル誘導後のアルブミン尿、続いてコントロールIgG又は枯渇抗体。群は、左から右に効力順に並んでいる。
【
図3b】抗体で1つ以上の成分を枯渇させた後のベースラインとカクテルD用量1.8倍(1.8X)モデル(1群あたりn=8匹のBALB/cマウス)の1日目の尿アルブミンとクレアチニンの比。
【
図3c】抗体で1つ以上の成分を枯渇させた後のカクテルD1.8倍用量モデル(1群あたりn=8匹のBALB/cマウス)の1日目の血清心筋トロポニンI(cTPI3)レベル。コントロール及びカクテルD1.8倍+IgG注射したBALB/cJマウスを比較のために示す。
【
図3d】抗体で1つ以上の成分を枯渇させた後のカクテルD1.8倍用量モデル(1群あたりn=8匹のBALB/cマウス)の1日目の血清ALT活性。コントロール及びカクテルD1.8倍+IgG注射したBALB/cJマウスを比較のために示す。
【
図3e】抗体で1つ以上の成分を枯渇させた後のカクテルD1.8倍用量モデル(1群あたりn=8匹のBALB/cマウス)の1日目の血清クレアチニン。コントロール及びカクテルD1.8倍+IgG注射したBALB/cJマウスを比較のために示す。
【
図3f】コントロールIgGと抗体処理したBALB/cマウスとの間の心臓における形態計測分析と組織学的変化の比較を示す表。
【
図3g】コントロールIgGと抗体処理したBALB/cマウスとの間の肝臓における形態計測分析と組織学的変化の比較を示す表。
【
図3h】コントロールIgGと抗体処理したBALB/cマウスとの間の腎臓における形態計測分析と組織学的変化の比較を示す表。形態計測分析1群あたりn=3匹のマウス。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001、すべての値は両側検定に基づいている。
【
図4a】
図4a-gは、BALB/cマウスの全身性疾患に対する重度のサイトカインストームの影響に対する可能な治療戦略を示している。1群あたりの注射されたマウスの数をパネルaに示す。すべての枯渇抗体又はコントロールIgGは、モデル誘導後の1時間に静脈内注射された。大きな(赤色)アスタリスクは普遍的な死亡率を示す。(
図4a)カクテルD3倍(3X)をコントロールIgG抗体又は枯渇抗体とともに注射したBALB/cマウスの死亡率表。コントロールIgG群において代謝ケージ使用の場合(5/6)の死亡率が使用しない場合(2/6)よりも高かったため、これらの試験においてアルブミン尿の定時採尿は実施されなかった。
【
図4b】カクテルD3倍用量をマウスに注射し、続いてコントロールIgG抗体又は枯渇抗体を注射したマウスの生存マウスにおける1日目の血清心筋トロポニンI(cTPI3)レベル。
【
図4c】カクテルD3倍用量をマウスに注射し、続いてコントロールIgG抗体又は枯渇抗体を注射したマウスの生存マウスにおける1日目の血清ALT活性レベル。
【
図4d】カクテルD3倍用量をマウスに注射し、続いてコントロールIgG抗体又は枯渇抗体を注射したマウスの生存マウスにおける1日目の血清クレアチニンレベル。
【
図4e】コントロール群とサイトカイン枯渇群との間の心臓組織学の形態計測比較。
【
図4f】コントロール群とサイトカイン枯渇群との間の肝臓組織学の形態計測比較。
【
図4g】コントロール群とサイトカイン枯渇群との間の腎臓組織学の形態計測比較。形態計測分析 1群あたりn=3匹のマウス。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001、すべての値は両側検定に基づいている。
【
図5a】
図5a-eは、COVIDカクテルによるシグナル伝達経路の活性化及び疾患メカニズムを示している。カクテルD3倍又はコントロールの生理食塩水を注射したマウス(1群あたりn=3匹)の全臓器タンパク質抽出物のウェスタンブロットによるNFκB/p-p65(肝臓、30分)、pSTAT6(腎臓、60分)及びpSTAT5(心臓、15分)活性化についての定性試験の例。
【
図5b】カクテルCのヒト対応物(最終濃度X/100,000、条件あたりn=3プレート)とインキュベートした野生型及びZHX2ハイポモルフ(CRISPR B)培養ヒトポドサイトにおけるpSTAT6シグナル伝達の活性化を評価する定量試験のウェスタンブロット。
【
図5c】カクテルCとインキュベートしたパネルbからの野生型及びCRISPR Bポドサイトのウェスタンブロットの密度測定。
【
図5d】カクテルC用量X/2を注射した後のIl4a
-/-マウス及びコントロールBALB/cJマウスのアルブミン尿(左パネル)、及び1日目のアルブミン尿のベースラインからのパーセンテージ増加(右パネル)(1群あたりn=5~8匹のマウス)。
【
図5e】糸球体内皮細胞、メサンギウム細胞、及びポドサイトにおいて既に記載されている特異的受容体へのCOVIDカクテル成分の結合可能性、並びにこれらの細胞間のフィードバックループ(赤色)の概略図。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001、
図5dの右側のパネルが片側検定であることを除き、すべての値は両側検定に基づいている。
【
図6a】
図6a-cは、補助的なヒトデータ及びサイトカインカクテルの追加効果を示す。(
図6a)一般のCOVID-19患者、年齢、性別、及び人種をマッチさせた健常なコントロール、並びにタンパク尿を伴うCOVID-19患者におけるELISAにより評価された血漿IL-4Rαレベル。アッセイされた患者サンプルの数を以下に示す。
【
図6b】カクテルD用量X/2の注射後1日目のBALB/cJマウス糸球体の電子顕微鏡画像。局所的な足突起消失(黒色矢印)、内皮空胞化(緑色丸)及び内皮肥大(青色丸)の領域が認められた。
【
図6c】質量分析法により測定した血清クレアチニンは、COVIDサイトカインカクテル用量X/2モデル(BALB/cマウス及びBALB/cJマウス;1群あたりn=6匹のマウス)では増加されない。スケールバー0.5μm。
*P<0.05;
***P<0.001。
【
図7a】異なる用量のカクテルD注射後24時間のBALB/cJマウス(1群あたりn=4匹のマウス)の骨格筋損傷のマーカーである血漿クレアチンキナーゼ。
【
図7b】いくつかの単一サイトカイン注射群におけるレベルの増加がより少ないことをより高い解像度で示すために再プロットした、
図2aから得られた血清心筋トロポニンIレベルのデータ。
【
図7c】いくつかの単一サイトカイン注射群におけるレベルの増加がより少ないことをより高い解像度で示すために再プロットした、
図2bから得られた血清ALTレベルデータ。
【
図7d】
図2a~cに対応する、サイトカイン単回3倍用量を注射したBALB/cマウスの18時間アルブミン尿。カクテルD3倍後のそれらの死亡率が高いことを考慮すると、定時採尿のための代謝ケージ飼育は、この用量のBALB/cマウスでは実施不可能である。
【
図7e】カクテルD3倍用量の注射後24時間のBALB/cマウスの腎臓糸球体の電子顕微鏡写真。広範な足突起消失(赤色矢印)、内皮肥大(緑色矢印)及び糸球体基底膜(GBM)のリモデリング(青色矢印)が認められた。
【
図7f】カクテルD3倍用量の注射後24時間のBALB/cJマウスからのヘマトキシリン及びエオシン染色骨格筋。局所的炎症(黒色矢印)が一部の切片において認められた。
【
図7g】BALB/cマウス(1群あたりn=6匹のマウス、用量X/2)におけるカクテルC誘導後、IL-4Rα、TNFR1、IL-10Rβに対する抗体、又はコントロールIgGを使用した受容体遮断後のアルブミン尿。スケールバー(e)0.5μm、(f)20μm。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。
【
図8a】
図8a-eは、中間用量損傷の組織学を示す。カクテルD1.8倍用量の注射後、モデル誘導後1時間で追加の抗体又はコントロールIgGを注射した後に24時間で安楽死させたBALB/cマウス(1群あたりn=3匹のマウス)の試験からの組織学的切片(
図3を参照)。各群の番号コードは以下のとおりである:「1」=コントロールIgG;「2」=抗TNFα抗体;「3」=抗IL-6抗体;「4」=抗IL-10抗体;「5」=抗TNFα+抗IFNγ+抗IL-4抗体;「6」=抗IL4抗体;「7」=抗TNFα+抗IL-4+抗IL-10抗体;「8」=抗IFNγ抗体;「9」=抗TNFα+抗IL-4抗体。(
図8a)心臓及び心膜のH&E染色切片の2列。心筋溶解(赤色矢印)、炎症(黒色矢印)、好酸球増多(緑色矢印)、心膜炎(橙色矢印)及び心膜微小石灰化(青色矢印)が認められた。
【
図8b】肝臓のH&E染色切片。肝細胞損傷(赤色矢印)、炎症(黒色矢印)、変性変化(緑色矢印)及び再生変化(黄色矢印)が認められた。
【
図8c】肉眼的な尿細管形態を示すトルイジンブルーで染色した腎臓のエポン切片。尿細管空胞化(赤色矢印)及び尿細管変性(黒色矢印)が近位尿細管において認められた。
【
図8d】腎臓尿細管の電子顕微鏡写真。尿細管空胞化(赤色矢印)及び尿細管変性(黒色矢印)が近位尿細管において認められた。
【
図8e】糸球体の電子顕微鏡写真。ポドサイト足突起消失領域(黒色矢印)が認められた。スケールバー(a)20μm(b)20μm(c)20μm(d)0.5μm(e)0.5μm。
【
図9a】
図9a-dは、重度損傷モデルの組織学を示す。カクテルD3倍用量の注射し、モデル誘導後1時間で追加の抗体又は対照IgGを注射した後24時間で安楽死させたBALB/cマウス(1群あたりn=3匹のマウス)の試験からの組織学的切片(
図4を参照)。各群の番号コードは以下のとおりである:「1」=コントロールIgG;「2」=抗IL-2抗体;「3」=抗TNFα+抗IL-2抗体;「4」=抗TNFα+抗IL-13抗体;「5」=抗TNFα+抗IL-4抗体;「6」=抗TNFα抗体;「7」=抗IL-13;「8」=抗IL-4抗体;「9」=抗TNFα+抗IFNγ抗体;「10」=抗TNFα+抗IL-6抗体;「11」=抗IFNγ抗体;「12」=抗TNFα+抗ACE2抗体;「13」=抗TNFα+抗IL-10抗体;「14」=抗IL-6抗体。(
図9a)心臓及び心膜のH&E染色切片の2列。心筋溶解(赤色矢印)、炎症(黒色矢印)、好酸球増多(緑色矢印)及び心膜炎(橙色矢印)が認められた。
【
図9b】肝臓のH&E染色切片の2列。肝細胞損傷(赤色矢印)、炎症(黒色矢印)、変性変化(緑色矢印)及び再生変化(黄色矢印)が認められた。
【
図9c】肉眼的な尿細管形態を示すトルイジンブルーで染色した腎臓の切片2列。尿細管空胞化(赤色矢印)及び尿細管変性(黒色矢印)が近位尿細管において認められた。
【
図9d】糸球体の画像を示す腎臓の電子顕微鏡写真2列。ポドサイト足突起消失領域(黒色矢印)が認められた。スケールバー(a)20μm(b)20μm(c)20μm(d)0.5μm。
【
図10a】BALB/cマウス糸球体におけるサイトカイン受容体の共焦点発現。白色矢印は、ポドサイト(P)、内皮細胞(E)、及びメサンギウム細胞(M)における受容体の発現を示す。TNFR1はポドサイトと内皮細胞とにおいて発現しているので、ポドサイトタンパク質であるネフリン(青色)との部分的な共局在のみが認められる。緑色は核染色である。
【
図10b】BALB/cマウスの腎尿細管におけるACE-2及びサイトカイン受容体の共焦点発現(赤色)。ほとんどの画像は近位尿細管を示すが、IL-10Rβの画像は集合管である。
【
図10c】サイトカインカクテルを構成する組換えタンパク質を使用した枯渇試験に使用した抗体のウェスタンブロット特性決定。スケールバー(a)20μm(b)20μm。
【
図11a】
図11aは、ヒトタンパク質アトラスプロジェクト(Human Protein Atlas Project)(https://www.proteinatlas.org/)から集められたデータの概略図であり、サイトカイン受容体及びACE2腎臓尿細管分節のおおよその分布及び半定量的発現を示す。
【
図11b】サイトカイン受容体及び心筋のおおよその分布及び半定量的発現を示す。
【
図11c】サイトカイン受容体及び肝臓のおおよその分布及び半定量的発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、様々なサイトカインを標的とするメカニズムを提供する。本発明は、死亡率及び末端臓器損傷を含むサイトカインストームの影響を排除又は低減するために枯渇させなければならないサイトカイン又は可溶性因子の特定の組合せについて記載する。
提供される方法の概要
本発明は、患者から1種以上のサイトカインを阻害する、中和する又は枯渇させることを含む、患者におけるウイルス感染の結果としてのサイトカインストームの影響を阻害、治療又は予防する方法を提供する。
【0038】
本発明者らは、いずれかの実施形態において、サイトカインストームは、いずれかの呼吸器系ウイルス又は非呼吸器系ウイルスによって引き起こされるウイルス感染によって誘発され得ると考える。したがって、ウイルス感染は、SARS-CoV-1及びSARS-CoV-2などの呼吸器系ウイルスを含むウイルス性疾患によって引き起こされる可能性があり、明白な直接的ウイルス感染がない場合であっても、非呼吸器系臓器に病理学的影響を及ぼす。さらに、ウイルス感染は、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、他のコロナウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、中東呼吸器症候群(MERS)、及びエボラ出血熱などの他の呼吸器系ウイルス及び非呼吸器系ウイルスによって引き起こされる可能性があり、これらもまた、サイトカインストームを引き起こし、死亡率及び多臓器損傷を引き起こすことも知られている。さらに、本発明者らは、風邪(軽度の疾患を引き起こす。)と、例えばSARS-CoV-2によって引き起こされるウイルス感染によって引き起こされるより重度のサイトカインストームプロファイルとの間の大きな違いは、IL-4、IL-13に関連する「アレルギー経路」の随伴性急性活性化の存在であることを発見したので、本発明はまた、アレルギー経路の顕著な随伴性活性化を含むウイルス感染を含む。
【0039】
本発明の実施形態は以下を提供する。
【0040】
・重度のサイトカインストームによって引き起こされる死亡率を低減するために2種以上のサイトカインを枯渇させる方法;
・サイトカインストームによって引き起こされる急性心臓損傷、急性肝臓損傷及び急性腎臓損傷の影響を治療する方法。本発明者らは、一部の実施形態において、サイトカインストームがウイルス感染によって引き起こされ得ると考える;
・サイトカインストームによって引き起こされる死亡率を低減する方法。本発明者らは、一部の実施形態において、サイトカインストームがウイルス感染によって引き起こされ得ると考える;
・2種以上のサイトカインの阻害、中和又は枯渇を含む、サイトカインストームによって誘発される多臓器損傷を予防する方法;
・1種以上のサイトカインの阻害、中和又は枯渇を含む、SARS-Cov-2感染後の急性期後後遺症の影響を治療又は予防するための方法;
・1種以上のサイトカインを阻害する、中和する又は枯渇させる治療を提供することを含む、ウイルス感染の再発を予防する方法;
・1種以上のサイトカインの阻害、中和又は枯渇を含む、SARS-CoV-2ウイルスmRNAワクチンの影響を治療する又は予防するための方法;
・サイトカインストームの影響を治療する又は予防する方法を試験するための、ウイルス感染及び他の疾患状態によって誘発されるサイトカインストームの動物モデル;及び、
・方法はウイルス感染を治療するためのものである。
【0041】
本発明者らはまた、本発明の方法が、非ウイルス起源の疾患、例えば、細菌感染症、真菌感染症若しくは寄生虫感染症、がん、臓器移植、又は糖尿病若しくはメタボリック症候群などの多臓器疾患の全身性サイトカイン環境の変化に起因する疾患を含む、サイトカインストームが起こるいずれかの疾患状態において使用できると考える。
【0042】
本発明者らは、開示された方法のいずれかにおいて、1種以上のサイトカインを阻害、中和又は枯渇させることができると考える。考えられる1つの方法は、1種以上のサイトカインに対するショートヘアピンRNA(shRNA)を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)又はレンチウイルスを含む薬剤の患者への投与である。shRNAは作製することができる又は購入可能であり、それはプラスミド、ウイルスベクター、バクテリオファージ、コスミド、人工染色体を含む当技術分野で公知の任意のベクターに結合させることができる又はその一部となり得る。
【0043】
1種以上のサイトカインを枯渇させることについて考えられる別の方法は、1種以上のサイトカインに対するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体の投与によるものである。さらに他の実施形態において、薬剤は、1種以上のサイトカインに対するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を含む。
【0044】
薬剤はまた、1種以上のサイトカインを標的とするsiRNA又はアンチセンスオリゴヌクレオチドであり得る。
【0045】
さらに他の実施形態において、薬剤は、サイトカイン媒介受容体に結合し、1種以上のサイトカインの結合を防止するアンタゴニストである。
【0046】
開示されたいずれかの実施形態において、阻害される、中和される又は枯渇される1種以上のサイトカインは、TNFα、IL-2、IL-4、IL-13、IFN-γ又はIL-6を含む。処置されるウイルス感染又は他の状態の重症度に応じて、2種以上のサイトカインの阻害、中和又は枯渇が、単一のサイトカインの枯渇よりも効果的であり得ることは、本明細書の開示から理解されよう。
【0047】
本開示を通じて、様々な数量は、例えば、量、サイズ、寸法、比率などは、範囲形式で示される。範囲形式での数量の説明は、単に便宜上のもので簡潔にするためであり、いかなる実施形態の範囲に対しても柔軟性のない限定として解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、ある範囲についての説明は、文脈上明白に別のことが示されていない限り、その範囲内の可能性のあるすべての部分範囲とすべての個別の数値を詳しく開示したものと考えるものとする。例えば、1~6などの範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの詳しく開示された部分範囲及びその範囲内の個々の値、例えば1.1、2、2.3、4.62、5、5.9などを有すると考えるものとする。これは範囲の広さに関係なく適用される。これらの介在する範囲の上限及び下限は、独立してより小さい範囲に含まれる場合があり、また記載された範囲内において任意の特に除外される限定を条件として、本開示の範囲内に包含される。記載された範囲に限界値の一方又は両方が含まれる場合、文脈上明白に別のことが指示されていない限り、それらの含まれる限界値の一方又は両方を除外した範囲も本開示に含まれる。
【0048】
本明細書で使用される専門用語は、単に特定の実施形態を説明するためのものであり、いかなる実施形態も限定することを意図するものではない。本明細書で使用される場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈上明白に別のことを示さない限り、複数形も含むことを意図する。本明細書で使用される場合の「含む(includes)」、「含む(comprises)」、「含む(including)」及び/又は「含む(comprising)」という用語は、記載された特徴、整数、ステップ、操作、要素、及び/又は成分の存在を特定するが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、操作、要素、成分、及び/又はそれらの群の存在又は追加を排除するものではないことはさらに理解されよう。本明細書で使用される場合、「及び/又は」という用語には、列挙された関連する項目の1つ以上の任意の組合せ及びすべての組合せが含まれる。さらに、「A、B及びCのうち少なくとも1つ」という形式においてリストに含まれる項目は、(A);(B);(C);(A及びB);(B及びC);(A及びC);又は(A、B及びC)を意味し得ることに留意されたい。同様に、「A、B又はCのうち少なくとも1つ」という形式においてリストされる項目は、(A);(B);(C);(A及びB);(B及びC);(A及びC);又は(A、B及びC)を意味し得る。
【0049】
特に明記されていない限り、又は文脈から明白でない限り、本明細書で使用される場合、数値又は数値範囲に関する「約」という用語は、記載された数値及びその+/-10%の数値、又は範囲として挙げられた値については、挙げられた下限値の10%を下回り、また挙げられた上限値の10%を上回ることを意味すると理解する。
【0050】
本明細書に開示されるいずれかの実施形態において、「治療する(treating)」又は「治療する(to treat)」という用語には、既存の症状又は障害の進行又は重症度を抑制すること、遅延させること、停止させること、又は逆転させることが含まれる。
【0051】
本明細書で開示されるいずれかの実施形態において、「患者」という用語はヒトを指す。
【0052】
サイトカイン阻害剤
本発明は、様々なサイトカインがいくつかの異なる非限定的な方法によって中和又は阻害され得ることを企図している。例えば、本明細書に記載のように、標的サイトカインは、1種以上のサイトカイン(sh-「サイトカイン」)に対するショートヘアピン型RNA(shRNA)を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)又はレンチウイルスを含む薬剤の治療有効量の投与によって中和又は阻害され得る。一部の実施形態において、sh-「サイトカイン」は市販されており、プラスミド、ウイルスベクター、バクテリオファージ、コスミド及び人工染色体を含む、当技術分野で公知の任意のベクターに結合させる又はその一部とすることができる。
【0053】
代替的には、本明細書に記載のように、1つ又は複数の標的サイトカインは、1つ又は複数の特定の標的サイトカインに対する抗体、二価抗体、又はモノクローナル抗体を含む薬剤の治療有効量の投与によって中和又は阻害され得る。
【0054】
さらに、本明細書に記載のように、1つ又は複数の標的サイトカインは、1つ又は複数の標的サイトカインを標的とするsiRNA又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む薬剤の治療有効量の投与によって中和又は阻害され得る。
【0055】
また、本明細書において企図されるように、1つ又は複数の標的サイトカインは、標的サイトカイン媒介受容体に結合し、1つ又は複数の標的サイトカインの結合を防止するアンタゴニストを含む薬剤の治療有効量の投与によって中和又は阻害され得る。
【0056】
1つ又は複数の標的サイトカイン阻害剤又はその組成物は、1日1回、1日2回以上、又は1週間に1回投与することができる。1つ又は複数の標的サイトカイン阻害剤又はそれを含有する組成物は、経口投与、筋肉内投与、腹腔内投与又は静脈内投与を含む任意の従来の手段により対象に投与することができる。注射する場合、1回の投与につき単一の部位に注射することも、1回の投与につき複数の部位に注射することもできる。
【0057】
サイトカイン抗体及び関連の阻害剤
より詳しくは、サイトカイン阻害剤は、本明細書に開示のように任意のサイトカインに対する抗体である。1つ以上の標的サイトカインに対する適切な抗体の例は、本明細書に開示されており、当業者に公知である。サイトカイン抗体はまた、1つ以上の標的サイトカインを阻害する抗体断片若しくは二価抗体又はその断片も含み得る。本明細書に記載のように、サイトカイン阻害剤は医薬組成物の一部であってもよく、この組成物は、1つ以上の標的サイトカインに対する抗体又はその断片のいずれかを含み得る。
【0058】
本明細書に記載の抗サイトカイン抗体は、市販されているものを含め、当技術分野で公知の任意の手段によって作製又は入手することができる。また、抗体は特定のサイトカインタンパク質と特異的に反応することができる又はポリペプチドもまたアンタゴニストとして使用することもできると考えられる。本明細書における抗サイトカイン抗体は、サイトカインに結合する抗体若しくはその断片、又は2種の異なるサイトカインに結合する二価抗体であり得る。
【0059】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、天然のものである又は部分的に若しくは完全に合成的に生成されたものかを問わず、免疫グロブリン(Ig)を指す。この用語はまた、抗原結合ドメインである又は抗原結合ドメインと相同である結合ドメインを有する任意のポリペプチド又はタンパク質も網羅する。この用語は、「抗原結合断片」及び以下に記載のものなど、類似の結合断片を表す他の交換可能な用語をさらに含む。
【0060】
天然抗体及び天然免疫グロブリンは、通常、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、2本の同一の軽(L)鎖及び2本の同一の重(H)鎖から構成されている。各軽鎖は、典型的には、1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に連結されているが、ジスルフィド結合の数は異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で異なる。それぞれの重鎖及び軽鎖はまた、鎖内に規則的な間隔でジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、一端に可変ドメイン(「VH」又は「VH」)を有し、その後にいくつかの定常ドメイン(「CH」又は「CH」)を有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(「VL」又は「VL」)を有し、その別の一端に定常ドメイン(「CL」又は「CL」)を有する。軽鎖の定常ドメインは重鎖の第1の定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列する。特定のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間の境界面を形成すると考えられる。
【0061】
本明細書に記載のサイトカイン阻害剤は、「合成遺伝子」に由来する「合成ポリヌクレオチド」に由来する「合成ポリペプチド」であり得るが、これは、対応するポリヌクレオチド配列若しくはその一部、又はアミノ酸配列若しくはその一部が、同等の天然配列と比較して、設計された、又は新規に合成された若しくは改変された配列に由来することを意味する。合成ポリヌクレオチド(抗体又は抗原結合断片)又は合成遺伝子は、限定するものではないが、核酸配列又はアミノ酸配列の化学合成を含む、当技術分野で公知の方法によって調製することができる。合成遺伝子は、典型的には、アミノ酸レベル又はポリヌクレオチドレベル(又はその両方)で天然遺伝子とは異なっており、また典型的には、合成発現制御配列のコンテキスト内に配置されている。合成遺伝子ポリヌクレオチド配列は、天然遺伝子と比較して、必ずしも異なるアミノ酸を有するタンパク質をコードするとは限らない。例えば、これらの配列はまた、異なるコドンを組み込んでいるが同じアミノ酸をコードする合成ポリヌクレオチド配列も含み得る(すなわち、ヌクレオチドの変化はアミノ酸レベルでのサイレント突然変異を表す。)。
【0062】
抗サイトカイン抗体に関して、「抗原」という用語は、それぞれ、本明細書に開示のサイトカインタンパク質のいずれ又はそのタンパク質分子のいずれかの断片を指す。
【0063】
「抗体の抗原結合部分」、「抗原結合断片」、「抗原結合ドメイン」、「抗体断片」又は「抗体の機能性断片」という用語は、本明細書では、1種以上のサイトカインに特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を指すように交換可能に使用される。
【0064】
サイトカイン抗体はまた、「ダイアボディ」が含まれることが想定され、これは2つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片を指し、この断片は、同じポリペプチド鎖(VH-VL)内の軽鎖可変ドメイン(VL)に接続された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。同じ鎖上の2つのドメインの間で対になるには短すぎるリンカーを使用することによって、ドメインは別の鎖の相補的なドメインと対になることが強いられ、2つの抗原結合部位が作製される。例えば、EP404,097;WO93/11161;及びHollingerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444 6448頁(1993)を参照されたい。
【0065】
サイトカイン抗体にはまた、非ヒト(例えばマウス)抗体の「キメラ」形態も含み得ることが想定され、これには非ヒトIgに由来する最小限の配列を含むキメラ抗体が含まれる。ほとんどの場合、キメラ抗体は、マウス Fc の代わりに、通常はヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部が挿入されたマウス抗体である。例えば、Jonesら、Nature 321:522~525頁(1986);Reichmannら、Nature 332:323~329頁(1988);及びPresta、Curr. Op. Struct. Biol., 2:593~596頁(1992)を参照されたい。
【0066】
サイトカイン抗体はまた、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指す「モノクローナル抗体」も含み得ることが想定され、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、微量で存在し得る自然発生可能な変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に対する。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含み得る従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対する。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均質な抗体の集団から得られるという抗体の特徴を示しており、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法によって作製され得る又はファージ抗体から単離され得る。
【0067】
本明細書で使用する場合、「免疫反応性」とは、サイトカインタンパク質上のアミノ酸残基の配列(「結合部位」又は「エピトープ」)に特異的であるが、他のペプチド/タンパク質と交差反応性である場合でも、ヒト使用への投与用に製剤化されるレベルでは毒性がない結合剤、抗体又はその断片を指す。「結合」という用語は、例えば、生理学的条件下での共有結合、静電相互作用、疎水性相互作用、イオン性相互作用及び/又は水素結合相互作用による、2つの分子間の直接的な会合を指し、塩橋及び水橋などの相互作用並びに他の従来の結合手段が含まれる。「優先的に結合する」という用語は、結合剤が、無関係なアミノ酸配列に結合するよりも高い親和性で結合部位に結合することを意味する。
【0068】
本明細書で使用される場合、「親和性」という用語は、2つの薬剤の可逆的な結合の平衡定数を指し、Kdとして表される。リガンドに対する結合タンパク質の親和性、例えば、エピトープに対する抗体の親和性は、例えば、約100ナノモル(nM)~約0.1nM、約100nM~約1ピコモル(pM)、又は約100nM~約1フェムトモル(fM)であり得る。本明細書で使用される場合、「結合活性(avidity)」という用語は、2つ以上の薬剤の複合体の希釈後の解離に対する抵抗性を指す。見かけの親和性は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などの方法、又は当業者によく知られている任意の他の技術によって決定することができる。結合活性は、スキャッチャード分析などの方法、又は当業者によく知られている任意の他の技術によって決定することができる。
【0069】
「エピトープ」とは、抗体の可変領域結合ポケットと結合相互作用を形成することが可能な抗原又は他の巨大分子の部分を指す。
【0070】
「特異的」という用語は、抗体によって認識されるエピトープを含有する抗原以外の分子に抗体がいかなる有意な結合も示さない状況を指す。この用語はまた、例えば、抗原結合ドメインがいくつかの抗原によって担持される特定のエピトープに対して特異的である場合にも適用可能であり、その場合、抗体はエピトープを担持する様々な抗原に結合することができる。「優先的に結合する」又は「特異的に結合する」という用語は、抗体が無関係なアミノ酸配列に結合するよりも高い親和性でエピトープに結合し、そのエピトープを含有する他のポリペプチドと交差反応性がある場合でも、ヒト使用への投与用に製剤化されたレベルでは毒性がないことを意味する。
【0071】
「結合」という用語は、例えば、生理学的条件下での共有結合、静電相互作用、疎水性相互作用、イオン性相互作用及び/又は水素結合相互作用による、2つの分子間の直接的な会合を指し、塩橋及び水橋などの相互作用並びに任意の他の従来の結合手段が含まれる。
【0072】
本明細書で検討されているように、標的サイトカイン阻害剤は、遺伝子発現技術によって生成することができる。「RNA干渉」又は「RNAi」という用語は、siRNAによる遺伝子発現のサイレンシング又は低下を指す。これは、サイレンシングされた遺伝子の配列と二重鎖領域において相同性があるsiRNAによって開始される、動物及び植物における配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングのプロセスである。遺伝子は、生物にとって内因性であっても外因性であってもよく、染色体に組み込まれて存在する又はゲノムに組み込まれていないトランスフェクションベクターに存在していてもよい。遺伝子の発現は、完全に又は部分的に阻害される。RNAiはまた、標的RNAの機能を阻害するとも考えられ得る。標的RNAの機能は、完全又は部分的であり得る。
【0073】
「siRNA」という用語は、低分子干渉RNAを指す。一部の実施形態において、siRNAは、約18~25ヌクレオチド長の二重鎖又は二本鎖領域を含む。多くの場合、siRNAは、各鎖の3’末端に約2~4個の不対ヌクレオチドを含有する。siRNAの二重鎖又は二本鎖領域の少なくとも1つの鎖は、標的RNA分子と実質的に相同である又は実質的に相補的である。標的RNA分子に相補的な鎖は「アンチセンス鎖」であり、標的RNA分子に相同な鎖は「センス鎖」であり、siRNAアンチセンス鎖にも相補的である。siRNAはまた、追加の配列も含有し得る。そのような配列の非限定的な例としては、連結配列、又はループ、及びステム、並びに他の折り畳み構造が挙げられる。siRNAは、無脊椎動物及び脊椎動物におけるRNA干渉の誘発、並びに植物における転写後遺伝子サイレンシングの際の配列特異的RNA分解の誘発で重要な媒介として機能するように思われる。
【0074】
また、本明細書で実施例に開示されているように、CRISPR技術を使用することにより、任意のサイトカイン遺伝子をサイレンシング又は「オフ」にすることができることも検討される。
【0075】
「急性期後後遺症」
SARS-CoV-2又はCOVID-19の「急性期後後遺症」は、「ロングCOVID」とも呼ばれ、本明細書では、COVID-19の原因となるウイルスであるSARS-CoV-2に一次感染した後、数週間から数か月後に経験される可能性のある、本発明の一部として記載の長期的な症状又は影響のいずれかを表すために使用される。
【0076】
一般的な方法
COVID及び風邪のサイトカインカクテル並びに関連の動物試験
実施されたすべての動物試験は、ラッシュ大学又はアラバマ大学バーミンガム校のIACUCによって承認された。すべての動物は、プロトコルに従って人道的扱いを受けた。Dynabeadによるマウス糸球体の分離、ふるい分けによるラット糸球体の分離、組織切片の組織保存、給餌しない代謝ケージでの18時間の採尿、アルブミン尿及びタンパク尿の評価、リアルタイムPCR、共焦点イメージング、電子顕微鏡検査及びサンプル処理、光学顕微鏡検査のための組織学検査、ウェスタンブロット法及び共免疫沈降法の方法は、既に記載されており、公知である。以下を、血清サンプルを使用する市販のキットを使用してアッセイした;マウスALT(BioVision K752-100)、マウス心臓トロポニンIタイプ3(Novus Biologicals NBP3-00456)、マウスクレアチンキナーゼ(Abeam ab155901)及びヒトIL-4Rα ELISA(Abeam ab46022)。以下の抗体をウェスタンブロット用に購入した:抗pSTAT6(Cell Signaling Technology, Inc.Danvers MA、米国;cat # 56554、1:500希釈);抗STAT6(Cell Signaling Technology, Inc. Cat # 5397、1:500希釈)。ZHX1、ZHX2、及びZHX3に対する抗体は、既に記載されている25、37、38。Maceら 2020;Liuら、「ZHX proteins regulate podocyte gene expression during the development of nephrotic syndrome,」 (2006) J. Biol. Chem. 281:39681~39692頁;Clementら、「Early changes in gene expression that influence the course of primary glomerular disease,」 (2007) Kidney Int. 72:337~347頁。
【0077】
すべてのサイトカイン、可溶性受容体及び抗体は、げっ歯類に静脈内注射され、以下にリストアップされている:
【0078】
【0079】
枯渇試験に使用された抗体は、対応する組換えタンパク質を使用したウェスタンブロットによって特性決定された。各用量のサイトカインカクテルは、最終容量100μLの滅菌0.9%生理食塩水に溶解させた。BALB/cJ(Jackson Labs)マウス及びBALB/c(Envigo)マウスを8週齢で購入し、2週間馴化させ、ベースラインの18時間採尿及び尾部血液サンプル採取を実施した。追加のベースライン採尿をBALB/cJマウスに対して実施した。ほとんどのインビボ試験は、10週齢~15週齢の間に実施した。Enpep-/-25;Zhx2def/defの混合バックグラウンドは、Enpep-/-25とZhx2欠損BALB/cJマウスとの間のF2交配によって得られた。サイトカインカクテルの腎炎発症用量スペクトルは、BALB/cJ、BALB/c、IL4r-/-マウス(Jackson Labs)に対して確立された。閾値腎炎原性用量(BALB/cJ、BALB/c、I14r-/-のBALB/cJバックグラウンド、X/2)を使用するマウスサイトカイン試験の際、血管内水分補給を維持するために、サイトカインカクテルの静脈内投与直後に100μLの0.9%生理食塩水を腹腔内投与した。中間カクテルモデル及び高カクテルモデルにおいて、6時間及び23時間に0.9%生理食塩水100μLを2回、追加腹腔内注射した。サイトカイン枯渇試験において、マウスサイトカインカクテル投与後の1時間に、異なるマウス群に50μgのコントロールIgG又はそれぞれの抗体若しくは抗体の組合せを静脈内投与した。
【0080】
血漿クレアチニンの質量分析アッセイ
血清クレアチニンは、Agilent 1290 Infinity II LCシステムと、2x50mm、2μmのTosoh Bioscience TSK-GEL amide-80 LCカラムを組み合わせて使用し、Agilent 64953連4重極質量分析計に接続したLC/MS/MSによって測定した。オーブン温度は40℃で固定した。移動相は、LCMSグレードの水(35%)及びLCMSグレードのアセトニトリル(ACN;65%)中の10mM酢酸アンモニウムで構成した。合成クレアチニン(20μg/ml~0.16μg/ml範囲;Sigma)及び同位体標識クレアチニン(D3-クレアチニン、10μg/ml;Sigma)をそれぞれ標準及び内部標準として使用した。次いで、10ulのサンプル又は標準を5μlの内部標準及び235ulの100%ACNと合わせ、ボルテックスし、4℃で15分間、15000rpmで遠心分離を行った。LCMSグレードの水に溶解した10mM酢酸アンモニウムと65%アセトニトリル200μLとを入れた新しいチューブに上清を移し、ボルテックスし、4℃で15分間、15000rpmで遠心分離を行い、その後測定した。すべてのサンプルは2回測定した。
【0081】
ヒトゲノムDNA及びヒト腎生検の提供元
ネフローゼ症候群の患者36名、コントロールとなる対象33名、及び糖尿病性腎症の患者16名からのゲノムDNAサンプルは、以下の提供元から入手した。(a)DNA、血液、尿サンプルを収集するためのIRB承認プロトコルX080813001により取得した、アラバマ大学バーミンガム校のネフローゼ症候群患者の血漿からの不死化単球、(b)糸球体疾患患者からの保存された腎生検又は健康な生きた血縁の腎ドナーからの移植前腎生検が含まれる、メキシコシティの国立心臓研究所(Instituto Nacional De Cardiologia)でのIRB承認の研究(CONACYT 34751M、CONACYT 11-05、DPAGA-UNAM IN-201902)、(c)ペルーのリマ、アルベルト・サボガル・エッサルド国立病院(Hospital Nacional Alberto Sabogal Essalud)からのIRB免除の保存された腎生検、(d)ポドサイト発現関連遺伝子に公知の変異を持つ、デューク分子生理学研究所(Duke Molecular Physiology Institute)からの既発表43,44のFSGS患者の保存されたヒトDNA、(e)1000ゲノムプロジェクト及びHAPMAPプロジェクトからのDNAを保存する、コーリエル細胞貯蔵機関(Coriell Cell Repositories)。症例とコントロールとの間の分析比較のため、1000ゲノムプロジェクト・フェーズ3 Ensambl v84を単一の追加コントロールとして含めた。
【0082】
Agilentカスタムキャプチャー及びハイスループットIlluminaシーケンシング
第8染色体上のHAS2とZHX2との間のゲノム間隔を分離するために、カスタムキャプチャーシーケンスパネルを作製した。標的間隔は、Agilent SureSelect capture probe design and synthesis(Agilent Technologies、Santa Clara CA)のSureDesignウェブサイトにアップロードされた。ゲノムDNAライブラリーの調製及び間隔キャプチャーは、製造業者の指示書(Agilent Technologies)に従ってQXT SureSelectキットを使用して行った。得られたDNAライブラリーはQPCR(Kapa Biosystems、Wilmington MA)により定量化し、標準プロトコルに従ってIllumina HiSeq 2500又はNextSeq 500でペアエンド100bpシーケンスによりシーケンスした。約1,500万個の配列が反応ごとに得られた。FASTQファイルの生成は、Illumina(Illumina, Inc.、San Diego CA)のbcl2fastqコンバーターを使用して行った。CLC Genomicsソフトウェア(バージョン12、Qiagen、Venlo、オランダ)を使用して、ペアのIllumina配列をhg38データベース(GRCh38.pl3 Primary Assembly)と比較した。3bpサイズ以上の挿入及び欠失、並びに最低20シーケンスの読み取りを分析のために選択した。試験の対象及びコントロールの対象における挿入及び欠失のフィッシャー検定比較がExcel形式でエクスポートされ、その後、コントロールに存在するすべての挿入及び欠失がソフトウェア支援及び手動により除外された。IGVブラウザソフトウェア(Broad Institute、Boston MA)を使用して続いて確認された挿入及び欠失のみを含めた。ホモ接合性の確立には、85%超の配列にInDelの存在すること、またその後IGVにより確認することが必要であった。挿入又は欠失の部位にわずかな不一致(1~2塩基対の位置の相違)が2つのソフトウェア間で時折認められた、CRISPR Cas9試験の設計の間にサンガーシーケンスによって解決された。すべてのゲノムの番号付けは、hg38及びCLCゲノミクスソフトウェアに基づいている。
【0083】
CRISPR/Cas9を使用した培養ヒトポドサイトのゲノム編集
CRISPR Cas9に関する基本的な方法論は既に発表されている。Congら、「Multiplex Genome Engineering using CRISPR/Cas Systems,」 (2013) Science 339:819~823頁を参照されたい。確立された初期継代不死化ヒトポドサイト細胞株51から単一細胞由来の細胞クローンが作製され、ゲノム編集試験に使用された。使用したオリゴヌクレオチド及びプライマーを表4に挙げている。
【0084】
【0085】
CRISPR B
sgRNAプラスミドの作製:10bpの挿入(CACACACACA)を導入するために、挿入部位の45bp下流の特定の部位(Chr8~122、533、694~122、533、695)を認識するsgRNAをBenchlingのウェブサイト(https://benchling.com)を使用して設計した。オリゴG0016及びG0017を、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(NEB)を使用してリン酸化及びアニールし、BbsIで消化し、T7 DNAリガーゼ(New England Biolabs)を使用してpX330-U6-Chimeric_BB-CBh-hSpCas9プラスミド(Feng Zhangからの提供、Addgeneプラスミド#42230)にライゲーションした。ライゲーション産物をPlasmidSafeエキソヌクレアーゼ(Epicentre)で処理して不必要な組換え産物を防止し、次いで、One Shot TOP10細胞(Invitrogen)に形質転換した。10個のコロニーをピックアップし、QIAprep Spin Miniprepキット(QIAgen)を使用してプラスミドを単離した。プラスミドDNAは、プライマーKI145を使用して配列決定した(表4を参照されたい。)。
ドナープラスミドの作製:研究対象の挿入を含む患者E58-13のヒトゲノム配列は、KAPA HiFi HotStart PCR キット(Kapa Biosystems)、特定の患者ゲノムDNA、並びにプライマーKI195及びKI196を使用して増幅され、BamHIとHindIII制限部位との間のpBlueScript II KS+ベクターにクローニングされた。KI207を使用してプラスミドDNAを配列決定し、挿入の存在を確認した。Quikchange変異誘発キット(Agilent Technologies)並びにプライマーのK1215及びK1216を使用してPAM配列に単一変異を作製し、このドナー鋳型プラスミドの切断を防止し、配列決定によってその変化を確認した。次に、このプラスミドをプライマーのK1219及びK1220を使用して線状で増幅し、PCR産物をDpnIで消化し、残存する環状鋳型プラスミドを除去した。ITR配列によって挟まれた抗生物質選択カセット(ピューロマイシン耐性及び切断型チミジンキナーゼ)を、プライマーのK1217及びK1218を使用してPB-MV1 Puro-TKプラスミド(Transposagen)からPCRによって増幅し、Gibson assembly Master Mix(NEB)を使用して挿入の78bp上流のTTAA領域で線状化プラスミド(上記参照)ライゲーションした。NEB(登録商標)5-アルファコンピテントイー・コリ(E. coli)細胞を2μlのアセンブリ反応産物で形質転換した。10コロニーからプラスミドDNAを単離し、プライマーK1217を使用して配列決定し、正しいアセンブリを確認した。
sgRNA及びドナープラスミドを使用するゲノム編集:腎臓病患者において確認されたInDelをインビトロ複製するために、単一細胞由来の培養ヒトポドサイトを、特異的sgRNAを含有するCRISPR/Cas9ベクター並びに、ドナー配列及び抗生物質選択カセットを含有するドナープラスミドを用いたエレクトロポレーション(Biorad Gene Pulser Xcell(商標)エレクトロポレーションシステム、0.2cmキュベット、矩形波モード、150V、10ミリ秒パルス)によってトランスフェクトした。1μg/mlのピューロマイシン二塩酸塩(Gibco)で15日間のインキュベートにより非トランスフェクト細胞を除去した後、10μgの切除のみの(Excision-only)piggyBacトランスポザーゼ発現ベクター(Transposagene)をトランスフェクトし、抗生物質選択カセットを傷跡なく除去した。トランスフェクション後4日に、細胞を2.5μMのガンシクロビル(Sigma)とインキュベートし、残存する切断型チミジンキナーゼ活性を持つ細胞を除去した。単一細胞をピックアップし、クローンを確立し、QIAamp DNA Mini Kit(QIAgen)を使用してゲノムDNAを抽出し、Platinum HiFi DNAポリメラーゼ(Invitrogen)並びにプライマーKI189及びKI188を使用して標的領域をPCR増幅した。PCR産物を、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAgen)を使用してゲル精製し、TA Cloning(商標)キット(Invitrogen)を使用してpCR2.1ベクターにクローニングし、挿入はMl3フォワード・シーケンシング・プライマーを使用して配列決定した。配列は、天然のポドサイトゲノム配列及びドナーの鋳型配列とBLASTによりアラインメントした。
【0086】
CRISPR A
全体的な方法は、使用したプライマー及びオリゴヌクレオチド、並びに以下の部位固有の詳細を除いて、CRISPR Bの場合と同じであった。8bpの挿入物(TGGATGGA)をChr8~122、304、094~122、304、095)に導入し、挿入部位の73bp上流の特定の部位を認識するようにsgRNAを設計した。ドナープラスミドを作製する際、患者特異的ゲノムDNA(患者SF3)をpBlueScript II KS+ベクターのSpeI部位とBamHI部位との間にクローニングした。ギブソンアセンブリの際、抗生物質耐性カセットを、挿入の51bp上流のTTAA領域で線状化プラスミドとライゲートした。
【0087】
インビトロでのSTAT6シグナル伝達試験
野生型(CRISPR改変ポドサイトの前駆体)及びCRISPR-Bポドサイトを、熱不活化10%ウシ胎児血清、1%インスリン-トランスフェリン-セレン(ITS-G、Thermo Fisher Scientific-カタログ番号41400045)、及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Steptomycin)(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号15140122)を含有するRPMI 1640培地で33℃にて培養した。細胞を継代培養し、10cm培養皿に50,000個細胞/皿で播種し、37℃で3日間培養した。次に、培養培地を、熱不活性化0.2%FBS及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含有するRPMI 1640と交換した。24時間後、細胞をカクテルC又は風邪カクテル(X/100,000)で10分間、20分間及び30分間処理した。タンパク質を、プロテアーゼ阻害剤(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号:A32953)及びホスファターゼ阻害剤(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号:A32957)を含有するRIPA緩衝液(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号:89900)を使用して単離した(10mlのRIPA緩衝液には、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤がそれぞれ1錠ずつ含まれていた。)。タンパク質濃度は、Bradfordタンパク質アッセイを使用して評価した。
【0088】
IL-4Rαアッセイ用のCOVID-19患者及びコントロール患者からヒト血漿
ヒト血漿の100μLアリコートは、次の提供元から入手した。(a)ラッシュ(Rush)大学のCOVID-19 Registry and Biorepositoryからの匿名化されたIRB承認の入院COVID患者サンプル、(b)タンパク尿の存在に関して選択された、ラッシュ大学 COVID-19 Registry and Biorepositoryからの匿名化されたIRB承認の入院COVID患者サンプル、(c)Zenbio(Durham NC、米国)から購入した、年齢、性別、人種をa群とマッチングさせた匿名化された血漿サンプル。
【0089】
統計分析
すべてのグラフの値は、平均+標準誤差である。2つの群に関与するタンパク尿、アルブミン尿、又は遺伝子発現の差異については、Microsoft Excel 2013で独立スチューデントt検定を使用した。特に指定のない限り、すべての有意性は両側検定である。
【0090】
以下の実験の実施例をさらに参照されたい。
【実施例】
【0091】
以下の実施例は、本発明の様々な実施形態を説明する目的で提供されており、本開示をいかなる形態に置いても限定することを意図するものではない。本実施例は、本明細書に記載の方法とともに、現在のところ好ましい実施形態を代表するものであり、単なる例示として提供されており、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。特許請求の範囲によって定義される本開示の趣旨の範囲内に包含されるそこでの変更及び他の使用は、当業者には自明である。
【0092】
[実施例1]
新規のCOVID-19サイトカインストームカクテルの開発
図1a~gは、COVID-19サイトカインストームモデルの開発及び特性決定を示す。(
図1a)ヒト疾患の状況におけるCOVID-19誘発性サイトカインストームの模式図。(
図1b)COVIDカクテルA~Dの用量Xの組成。(
図1c)BALB/cJマウスに異なる用量のカクテルDを注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=4匹のマウス)。X/2は、BALB/cJマウスにおける閾値腎炎原性用量である。(
図1d)BALB/cJマウスに個々のCOVIDカクテル成分の用量Xを注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=4匹のマウス)。(
図1e)BALB/cマウスにCOVIDカクテルA~Dの用量X/2を注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=6匹のマウス)。(
図1f)BALB/cJマウスにCOVIDカクテルA~Dの用量X/2を注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=6匹のマウス)。(
図1g)BALB/cマウスにそのままのカクテルCの用量X/2を注射、又はポドサイトを標的とする個々の成分を欠いたカクテルCの用量X/2を注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=6匹のマウス)。P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。すべての有意値は両側検定である。
【0093】
図6a~cは、補助的なヒトデータ及びサイトカインカクテルの追加効果を示す。(
図6a)一般のCOVID-19患者、年齢、性別、及び人種をマッチさせた健常なコントロール、並びにタンパク尿を伴うCOVID-19患者におけるELISAにより評価された血漿IL-4Rαレベル。アッセイされた患者サンプルの数を以下に示す。(
図6b)カクテルD用量X/2の注射後1日目のBALB/cJマウス糸球体の電子顕微鏡画像。局所的な足突起消失(黒色矢印)、内皮空胞化(緑色丸)及び内皮肥大(青色丸)の領域が認められた。(
図6c)質量分析法により測定した血清クレアチニンは、COVIDサイトカインカクテル用量X/2モデル(BALB/cマウス及びBALB/cJマウス;1群あたりn=6匹のマウス)では増加されない。スケールバー0.5μm。
*P<0.05;
***P<0.001。
【0094】
COVIDカクテルA~Dは、集中治療室に入院しているCOVID-19患者をモデル化するために段階的に開発された(
図1b、c)。最初の5種のサイトカイン(
図1b)は、すべてのカクテルに共通である。循環IL-4Rαレベルもまた、タンパク尿を伴うCOVID患者において上昇している(
図6a)。集中治療室のCOVID-19罹患患者及び重度のCOVID-19疾患になりやすい高齢者とメタボリックシンドローム患者においては血漿sACE2レベルが有意により高いことから、COVID-19受容体であるACE2がCOVID-19カクテルに含まれていた。COVID-19罹患患者の血漿IL-13及びIL-4の高レベルは、この疾患におけるアレルギー経路の急性活性化を示唆している。カクテルAからsIL-4Rαを除去し、IL-4及びIL-13を加えることによりカクテルBが作製され、カクテルAにIL-4を加えることによりカクテルCが得られた。カクテルCにIL-13を加えることによりカクテルDが得られた。
【0095】
[実施例2]
COVID-19カクテルによって誘発される相乗的なマルチサイトカイン損傷の全身性症状発現
カクテルDの高用量(3倍)の注射によりアルブミン尿を誘発されるとともに、血清心筋トロポニンI3型(cTPI3;心筋損傷、
図2a)、血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT;急性肝臓損傷、
図2b)、血清クレアチニン(急性腎臓損傷、AKI;
図2c)及び血漿クレアチンキナーゼ(CK、骨格筋損傷;
図7a)の上昇が生じた。
【0096】
図2a~iは、BALB/cマウスにおいて高用量のカクテルD(3倍)によって誘発される全身性損傷を、低用量又は3倍用量の個々の成分と比較した評価である。(
図2a)心筋トロポニンI(cTPI3)レベルによって評価された急性心筋損傷(1群あたりn=8匹のマウス)。(
図2b)アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性レベルによって評価した急性肝臓損傷(1群あたりn=8匹のマウス)。(
図2c)質量分析法を使用して測定した血清クレアチニンによって評価した急性腎臓損傷(1群あたりn=8匹のマウス)。(
図2d)カクテルD3倍用量を注射したマウスからのH&E染色切片を使用した急性心臓損傷の組織学的特徴(1群あたりn=3匹のマウス)。心筋溶解(赤色矢印)、炎症(黒色矢印)、線維破壊(青色矢印)、好酸球増多(緑色矢印)、及び心膜炎(橙色矢印)が認められた。(
図2e)カクテルD3倍用量を注射したマウスからのH&E染色切片を使用した急性肝臓損傷の組織学的特徴(1群あたりn=3匹のマウス)。肝細胞損傷(赤色矢印)、炎症(黒色矢印)、突出したクッファー細胞(緑色矢印)、再生変化(黄色矢印)、中心静脈周囲損傷(青色矢印)が認められた。(
図2f)カクテルD3倍用量を注射したマウスからのPAS染色切片(列1、2、4)及び腎臓電子顕微鏡(列3)を使用した急性腎臓損傷の組織学的評価(1群あたりn=3匹のマウス)。最初の3列は近位尿細管を示し、最後の列は遠位尿細管を示す。近位尿細管において、空胞化(赤色矢印)、刷子縁破壊(緑色矢印)、及び尿細管変性(黒色矢印)が認められた。遠位尿細管において、剥離のエビデンス(青色矢印)が存在した。泡沫細胞も認められた(白色矢印)。電子顕微鏡スケールバーBALB/c、2.66μm。(
図2g)BALB/cマウスの心臓における組織学的変化の形態計測分析を示す表。(
図2h)BALB/cマウスの肝臓における組織学的変化の形態計測分析を示す表。(
図2i)BALB/cマウスの腎臓における組織学的変化の形態計測分析を示す表。光学顕微鏡スケールバー20μm。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001、すべての値は両側検定に基づいている。
【0097】
図7a~g:(
図7a)異なる用量のカクテルD注射後24時間のBALB/cJマウス(1群あたりn=4匹のマウス)の骨格筋損傷のマーカーである血漿クレアチンキナーゼ。(
図7b)いくつかの単一サイトカイン注射群におけるレベルの増加がより少ないことをより高い解像度で示すために再プロットした、
図2aから得られた血清心筋トロポニンIレベルのデータ。(
図7c)いくつかの単一サイトカイン注射群におけるレベルの増加がより少ないことをより高い解像度で示すために再プロットした、
図2bから得られた血清ALTレベルデータ。(
図7d)
図2a~cに対応する、サイトカイン単回3倍用量を注射したBALB/cマウスの18時間アルブミン尿。カクテルD3倍投与後のそれらの死亡率が高いことを考慮すると、定時採尿のための代謝ケージ飼育は、この用量のBALB/cマウスでは実施不可能である。(
図7e)カクテルD3倍用量の注射後24時間のBALB/cマウスの腎臓糸球体の電子顕微鏡写真。広範な足突起消失(赤色矢印)、内皮肥大(緑色矢印)及び糸球体基底膜(GBM)のリモデリング(青色矢印)が存在した。(
図7f)カクテルD3倍用量の注射後24時間のBALB/cJマウスからのヘマトキシリン及びエオシン染色骨格筋。局所的炎症(黒色矢印)が一部の切片において認められた。(
図7g)BALB/cマウス(1群あたりn=6匹のマウス、用量X/2)におけるカクテルC誘導後、IL-4Rα、TNFR1、及びIL-10Rβに対する抗体又はコントロールIgGを使用した受容体遮断後のアルブミン尿。スケールバー(e)0.5μm、(f)20μm。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。
【0098】
cTPI3、ALT及びアルブミン尿もまた、カクテルよりも有意に低いレベルではあったがいくつかの個々のサイトカインについては3倍用量で増加した(
図2a、b;
図7b~e)。アルブミン尿評価のための代謝ケージでの定時採尿は、カクテルD3倍用量を注射したBALB/cマウスにおける高死亡率を考慮して実施されなかった(下記参照)。カクテルD3倍用量は、BALB/cマウスにおいて重度の心臓損傷、肝臓損傷及び急性腎臓損傷を誘発した。心臓組織学(
図2d)では、心筋溶解、局所的な線維破壊及び好酸球増多、炎症(心筋炎)及び心膜炎が明らかになった。肝臓組織学(
図2e)では、実質的肝細胞損傷、突出したクッファー細胞、高頻度の変性変化と再生変化及び軽度の炎症が示された。腎臓の尿細管-間質区画の組織学的評価(
図2f)では、頻繁な空胞化、内腔の拡大、刷子縁破壊及び尿細管上皮細胞の剥離という形で近位尿細管損傷の証拠が明らかになった。上皮細胞の剥離、泡沫細胞、及び空胞形成もまた遠位尿細管において認められた。BALB/cJマウスにおけるカクテルD3倍注射後24時間のこれらの臓器の形態計測学的変化もまた、
図2g、h、iに記載されている。重度又は広範な炎症の証拠は見られなかった。
【0099】
[実施例3]
軽度及び中等度のサイトカインストームにおける相乗作用を破壊するための治療的サイトカイン枯渇
図3a~hは、軽度及び中等度のサイトカインストームが糸球体疾患及び全身性疾患に及ぼす影響に関する治療戦略を示す。すべての枯渇抗体又はコントロールIgGは、モデル誘導後の1時間に静脈内注射された。(
図3a)BALB/cマウス(1群あたりn=6匹のマウス、用量X/2)におけるカクテルCモデル誘導後のアルブミン尿、続いてコントロールIgG又は枯渇抗体。群は、左から右に効力順に並んでいる。(
図3b)抗体で1つ以上の成分を枯渇させた後のベースラインとカクテルD1.8倍用量モデル(1群あたりn=8匹のBALB/cマウス)の1日目の尿アルブミンとクレアチニンの比。(
図3c)抗体で1つ以上の成分を枯渇させた後のカクテルD1.8倍用量モデル(1群あたりn=8匹のBALB/cマウス)の1日目の血清心筋トロポニンI(cTPI3)レベル。コントロール及びカクテルD1.8倍+IgG注射したBALB/cJマウスを比較のために示す。(
図3d)抗体で1つ以上の成分を枯渇させた後のカクテルD1.8倍用量モデル(1群あたりn=8匹のBALB/cマウス)の1日目の血清ALT活性。コントロール及びカクテルD1.8倍+IgG注射したBALB/cJマウスを比較のために示す。(
図3e)抗体で1つ以上の成分を枯渇させた後のカクテルD1.8倍用量モデル(1群あたりn=8匹のBALB/cマウス)の1日目の血清クレアチニン。コントロール及びカクテルD1.8倍+IgG注射したBALB/cJマウスを比較のために示す。(
図3f)コントロールIgGと抗体処理したBALB/cマウスとの間の心臓における形態計測分析と組織学的変化の比較を示す表。(
図3g)コントロールIgGと抗体処理したBALB/cマウスとの間の肝臓における形態計測分析と組織学的変化の比較を示す表。(
図3h)コントロールIgGと抗体処理したBALB/cマウスとの間の腎臓における形態計測分析と組織学的変化の比較を示す表。形態計測分析1群あたりn=3匹のマウス。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001、すべての値は両側検定に基づいている。
【0100】
図8a~eは、中間用量損傷の組織学を示す。カクテルD1.8倍用量を注射し、モデル誘導後1時間で追加の抗体又はコントロールIgGを注射した後24時間で安楽死させたBALB/cマウス(1群あたりn=3匹のマウス)の試験からの組織学的切片(
図3を参照)。各群の番号コードは以下のとおりである:「1」=コントロールIgG;「2」=抗TNFα抗体;「3」=抗IL-6抗体;「4」=抗IL-10抗体;「5」=抗TNFα+抗IFNγ+抗IL-4抗体;「6」=抗IL4抗体;「7」=抗TNFα+抗IL-4+抗IL-10抗体;「8」=抗IFNγ抗体;「9」=抗TNFα+抗IL-4抗体。(
図8a)心臓及び心膜のH&E染色切片の2列。心筋溶解(赤色矢印)、炎症(黒色矢印)、好酸球増多(緑色矢印)、心膜炎(橙色矢印)及び心膜微小石灰化(青色矢印)が認められた。(
図8b)肝臓のH&E染色切片。肝細胞損傷(赤色矢印)、炎症(黒色矢印)、変性変化(緑色矢印)及び再生変化(黄色矢印)が認められた。(
図8c)肉眼的な尿細管形態を示すトルイジンブルーで染色した腎臓のエポン切片。尿細管空胞化(赤色矢印)及び尿細管変性(黒色矢印)が近位尿細管において認められた。(
図8d)腎臓尿細管の電子顕微鏡写真。尿細管空胞化(赤色矢印)及び尿細管変性(黒色矢印)が近位尿細管において認められた。(
図8e)糸球体の電子顕微鏡写真。ポドサイト足突起消失領域(黒色矢印)が認められた。スケールバー(a)20μm(b)20μm(c)20μm(d)0.5μm(e)0.5μm。
【0101】
BALB/cマウスに低用量(X/2)のカクテルCを注射し(
図3a)、続いて単独又は組合せのサイトカイン枯渇を行った場合、抗TNF-α、抗IL-10、抗IFN-γ及び選択した抗TNFα抗体ベースの組合せによってアルブミン尿が有意に減少することを示した。多くの場合、より多くのサイトカインを枯渇することは、特に軽度のサイトカインストームモデルにおいては必ずしも良いことであるとは限らず、サイトカイン環境の過剰な操作は逆効果となり得ることが示唆された。BALB/cマウスにおけるカクテルDの中間用量(1.8倍)モデルにおいて、抗IL-4、抗IL-6、TNF-α及びいくつかの抗TNFα抗体ベースの組合せは、アルブミン尿(
図3b)、cTPI3(抗IL-4を除く、
図3c)、血清ALTレベル(
図3d)の減少及び血清クレアチニンの正常化(
図3e)に効果的であった。これらの試験の形態計測分析により、上述の最も効果的なレジメンにおいて組織学的変化に有意な改善が示された。(
図3f~h;
図8a~e)。
【0102】
[実施例4]
重度のサイトカインストームにおいて相乗作用を阻害し、死亡を防ぎ、多臓器毒性を軽減する治療的サイトカイン枯渇
BALB/cマウスにカクテルD3倍を注射すると、24時間に高い死亡率が生じ(
図4a)、集中治療を必要とするCOVID-19罹患患者のモデルとして使用された。
図4a~gは、BALB/cマウスの全身性疾患に対する重度のサイトカインストームの影響に対する可能な治療戦略を示している。1群あたりの注射されたマウスの数をパネルaに示す。すべての枯渇抗体又はコントロールIgGは、モデル誘導後の1時間に静脈内注射された。大きな赤色アスタリスクは普遍的な死亡率を示す。(
図4a)カクテルD3倍をコントロールIgG抗体又は枯渇抗体とともに注射したBALB/cマウスの死亡率表。コントロールIgG群において代謝ケージ使用の場合(5/6)の死亡率が使用しない場合(2/6)よりも高かったため、これらの試験においてアルブミン尿の定時採尿は実施されなかった。(
図4b)カクテルD3倍用量を注射したマウス、続いてコントロールIgG抗体又は枯渇抗体を注射したマウスの生存マウスにおける1日目の血清心筋トロポニンI(cTPI3)レベル。(
図4c)カクテルD3倍用量を注射したマウス、続いてコントロールIgG抗体又は枯渇抗体を注射したマウスの生存マウスにおける1日目の血清ALT活性レベル。(
図4d)カクテルD3倍用量を注射したマウス、続いてコントロールIgG抗体又は枯渇抗体を注射したマウスの生存マウスにおける1日目の血清クレアチニンレベル。(
図4e)コントロール群とサイトカイン枯渇群との間の心臓組織学の形態計測比較。(
図4f)コントロール群とサイトカイン枯渇群との間の肝臓組織学の形態計測比較。(
図4g)コントロール群とサイトカイン枯渇群との間の腎臓組織学の形態計測比較。形態計測分析 1群あたりn=3匹のマウス。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001、すべての値は両側検定に基づいている。
【0103】
図9a~dは、重度損傷モデルの組織学を示す。カクテルD3倍用量を注射し、モデル誘導後1時間で追加の抗体又はコントロールIgGを注射した後24時間で安楽死させたBALB/cマウス(1群あたりn=3匹のマウス)の試験からの組織学的切片(
図4を参照)。各群の番号コードは以下のとおりである:「1」=コントロールIgG;「2」=抗IL-2抗体;「3」=抗TNFα+抗IL-2抗体;「4」=抗TNFα+抗IL-13抗体;「5」=抗TNFα+抗IL-4抗体;「6」=抗TNFα抗体;「7」=抗IL-13;「8」=抗IL-4抗体;「9」=抗TNFα+抗IFNγ抗体;「10」=抗TNFα+抗IL-6抗体;「11」=抗IFNγ抗体;「12」=抗TNFα+抗ACE2抗体;「13」=抗TNFα+抗IL-10抗体;「14」=抗IL-6抗体。(
図9a)心臓及び心膜のH&E染色切片の2列。心筋溶解(赤色矢印)、炎症(黒色矢印)、好酸球増多(緑色矢印)及び心膜炎(橙色矢印)が認められた。(
図9b)肝臓のH&E染色切片の2列。肝細胞損傷(赤色矢印)、炎症(黒色矢印)、変性変化(緑色矢印)及び再生変化(黄色矢印)が認められた。(
図9c)肉眼的な尿細管形態を示すトルイジンブルーで染色した腎臓の切片2列。尿細管空胞化(赤色矢印)及び尿細管変性(黒色矢印)が近位尿細管において認められた。(
図9d)糸球体の画像を示す腎臓の電子顕微鏡写真2列。ポドサイト足突起消失領域(黒色矢印)が認められた。スケールバー(a)20μm(b)20μm(c)20μm(d)0.5μm。
【0104】
コントロールIgG群におけるほぼ全例死亡(5/6が死亡)を回避するため、この試験では、採尿用の代謝ケージは使用しなかった。TNF-αの枯渇とIL-2、IL-13若しくはIL-4の組合せ、又はTNF-α、IL-13若しくはIL-4の枯渇の単独療法は、カクテル成分の相乗作用の阻害において最も効果的であり、24時間でのマウスの死亡をなくし、全体的な活性を正常化した(
図4a)。これらの介入、特に特異的な抗TNF-α抗体をベースとした組合せは、cTPI3、ALT及びクレアチニンの血清レベルを低下させるのに最も効果的であった(
図4b、c、d)。IL-2枯渇の単独療法は臓器損傷を効果的に軽減したが、まだマウスは24時間でも一部立毛があり、軽度の苦痛を示した。IL-6、IL-10及びIFN-γの枯渇に関する単独療法はすべて逆効果であった。心臓、肝臓、腎臓の形態計測分析により、最も効果的なレジメンにおいて有意な改善が示された(
図4e、f、g;
図9a~d)。
【0105】
図5a~eは、COVIDカクテルによるシグナル伝達経路の活性化及び疾患メカニズムを示している。(
図5a)カクテルD3倍又はコントロールの生理食塩水を注射したマウス(1群あたりn=3匹のマウス)の全臓器タンパク質抽出物のウェスタンブロットによるNFκB/p-p65(肝臓、30分、定性試験)、pSTAT6(腎臓、60分)及びpSTAT5(心臓、15分)活性化についての例。(
図5b)カクテルCのヒト対応物(最終濃度X/100,000、条件あたりn=3プレート)とインキュベートした野生型及びZHX2ハイポモルフ(CRISPR B)培養ヒトポドサイトにおけるpSTAT6シグナル伝達の活性化を評価する定量試験のウェスタンブロット。(
図5c)カクテルCとインキュベートしたパネルbからの野生型及びCRISPR Bポドサイトのウェスタンブロットの密度測定。(
図5d)カクテルC用量X/2を注射した後のIl4a
-/-マウス及びコントロールBALB/cJマウスのアルブミン尿(左パネル)、及び1日目のアルブミン尿のベースラインからのパーセンテージ増加(右パネル)(1群あたりn=5~8匹のマウス)。(
図5e)糸球体内皮細胞、メサンギウム細胞、及びポドサイトにおいて既に記載されている特異的受容体へのCOVIDカクテル成分の結合可能性、並びにこれらの細胞間のフィードバックループ(赤色)の概略図。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001、
図5dの右側のパネルが片側検定であることを除き、すべての値は両側検定に基づいている。
【0106】
図10a~c。(
図10a)BALB/cマウス糸球体におけるサイトカイン受容体の共焦点発現。白色矢印は、ポドサイト(P)、内皮細胞(E)、及びメサンギウム細胞(M)における受容体の発現を示す。TNFR1はポドサイトと内皮細胞とにおいて発現しているので、ポドサイトタンパク質であるネフリン(青色)との部分的な共局在のみが認められる。緑色は核染色である。(
図10b)BALB/cマウスの腎尿細管におけるACE-2及びサイトカイン受容体の共焦点発現(赤色)。IL-10Rβの画像が集合管であることを除き、ほとんどの画像は近位尿細管を示す。(
図10c)サイトカインカクテルを構成する組換えタンパク質を使用した枯渇試験に使用した抗体のウェスタンブロット特性決定。スケールバー(a)20μm(b)20μm。
【0107】
考察
SARS-CoV-2感染は呼吸器において始まり、顕著な免疫反応を引き起こし、場合によっては直接感染により他の臓器も巻き込まれる。肺外病変の規模は直接感染とは比例しないことが多く、一次感染に対する自然免疫反応及び適応免疫反応が病原性に重要な役割を果たしている可能性を示唆している。この研究は、パンデミックにおいて初期に記録された広範なサイトカインストームの多系統病原作用に焦点を当てている。
【0108】
2つのウイルス性サイトカインストームモデル(SARS-CoV-2/COVID-19)を新たに構築することにより、構成要素の個々の作用よりむしろ相乗作用に焦点が当てられる。糸球体疾患は、軽度のサイトカインストームの選択モデルとして使用されたが、これは、他の末端臓器損傷が存在しない場合に、稀な臨床シナリオ(例えば、風邪によるMCDの再発)及び一般的な臨床シナリオ(COVID-19誘発性タンパク尿)に対する2つの一般的なウイルス感染の影響を比較することができたからである。
【0109】
カクテルDの1.8倍又は3倍用量を使用してBALB/cマウスにおいて重度のCOVID-19サイトカインストームを再現したところ、3倍用量を注射したマウスにおいて、急性心筋炎、心膜炎、肝臓損傷及び腎臓損傷、並びに有意な急性全死亡を含む、糸球体損傷以外の影響が認められた。サイトカインストームの起源はこれらの臓器の外因性であったため、SARS-CoV-2感染患者において認められることが多い軽度から中等度の炎症しか存在しなかった。BALB/cマウスと比較して、Zhx2hypo/hypo BALB/cJマウスは、心臓、肝臓及び腎臓の損傷の重症度がより低く、死亡率がより低い一方で、糸球体損傷の程度も同様であった。文献が示唆するように、糸球体の損傷と他の形態の損傷との間の相違は、ポドサイトにおけるZHXタンパク質の主たる細胞膜局在と、心臓、肝臓及び腎臓尿細管の細胞における大規模な核発現とに関係している可能性が高い。
【0110】
枯渇抗体はサイトカインカクテルの注射後の1時間に投与されたが、これは多経路損傷を開始するのに十分な時間であり、高用量のカクテルDを注射したすべてのマウスが6時間時点で同様に発病していたからである。24時間時点での改善、又はその消失は、枯渇レジメンの治療効果を反映していた。
【0111】
ほとんどのICU入院患者に相当する、BALB/cマウスの重度のサイトカインストームに対する最も効果的なレジメンは、TNFαとIL-2、IL-4又はIL-13の枯渇組合せであった。これらの組合せを使用することにより、死亡はなくなり、マウスの全体的な活動性は正常化し、血清のcTPI3、ALT及びクレアチニンのレベルは正常に最も近くなった。IL-2、TNFα、IL-4及びIL-13枯渇の単独療法でも死亡はなくなり、全体的な活動性も改善されたが、バイオマーカーレベルは組合せ群よりも高くなる傾向がある又は軽度の苦痛、例えば、毛の逆立ちなどが持続した。IL-6枯渇又はIL-10枯渇の単独療法は、他の群よりも結果は悪かった。カクテルD1.8倍の中間用量もまた、死亡がなく多臓器損傷が少なかったことから、入院患者の非集中治療環境を模倣するためBALB/cマウスにおいて試験した。これらのマウスは、選択した単一サイトカイン枯渇に十分に応答した。軽度のカクテルCモデル(用量X/2)において、抗TNF-α抗体、抗IL-10抗体、抗IFN-γ抗体及び選択した抗TNFα抗体ベースの組合せがアルブミン尿の減少に効果的であった。
【0112】
サイトカインカクテル内の異なるサイトカイン間の相乗作用の概念は、個々のサイトカインの同等用量又は高用量によるものではなく、明確に示されている。この試験において説明されているサイトカイン枯渇レジメンは、この相乗作用を低下させることによって効果を発揮し得る。
【0113】
サイトカインストーム中にポドサイトにおいて活性化する可能性のある多数の経路のうち、少なくとも2つが規定された。ZHXタンパク質の細胞膜からの移動及びpSTAT6シグナル伝達は、COVID-19カクテルによってIL-4Rαの下流で活性化された。さらに、COVID-19カクテルにおける循環sACE-2の病原性作用は、インテグリン41との相互作用により媒介され得る。タンパク尿を伴うCOVID-19患者における血漿sIL-4Rαレベルの上昇は、この経路がこの患者サブセットにおいて活性化している可能性が高いことを示唆している。
【0114】
本明細書の記載から理解されるように、多種多様な態様及び実施形態が本開示によって検討されており、その例には、限定するものではないが、以下に列挙されている態様及び実施形態が含まれる:
患者から1種以上のサイトカインを阻害する、中和する又は枯渇させることを含む、患者におけるウイルス感染の結果としてのサイトカインストームの影響を阻害する、治療する又は予防するための方法;
重度のサイトカインストームによって引き起こされる死亡を低減するために2種以上のサイトカインを枯渇させる方法;
サイトカインストームによって引き起こされる急性心臓損傷、急性肝臓損傷及び急性腎臓損傷の影響を治療する方法;本発明者らは、一部の実施形態において、サイトカインストームがウイルス感染によって引き起こされ得ると考えている;
サイトカインストームによって引き起こされる死亡を低減する方法;本発明者らは、一部の実施形態において、サイトカインストームがウイルス感染によって引き起こされ得ると考えている;
1種以上のサイトカインの阻害、中和又は枯渇を含む、サイトカインストームによって誘発される多臓器損傷を予防する方法;
1種以上のサイトカインの阻害、中和又は枯渇を含む、SARS-Cov-2感染後の急性期後後遺症の影響を治療する又は予防するための方法;
1種以上のサイトカインを阻害する、中和する又は枯渇させる治療を提供することを含む、ウイルス感染の再発を防止する方法;
1種以上のサイトカインの阻害、中和又は枯渇を含む、SARS-CoV-2ウイルスmRNAワクチンの影響を治療する又は予防するための方法;
サイトカインストームの影響を治療する又は予防する方法を試験するための、ウイルス感染及び他の疾患状態によって誘発されるサイトカインストームの動物モデル;及び
本方法はウイルス感染を治療するためのものである。
【0115】
細菌感染症、真菌感染症若しくは寄生虫感染症、がん、臓器移植を含むウイルス起源ではない、又は糖尿病若しくはメタボリックシンドロームなどの多臓器疾患の全身性サイトカイン環境の変化に起因するサイトカインストームを治療する方法。
【0116】
1種以上のサイトカインに対するショートヘアピンRNA(shRNA)を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)又はレンチウイルスを含む薬剤を患者に投与することにより1種以上のサイトカインを阻害する、中和する又は枯渇させる方法。shRNAは作製する又は購入することも可能であり、それはプラスミド、ウイルスベクター、バクテリオファージ、コスミド、及び人工染色体を含む当技術分野で公知の任意のベクターに結合され得る又はその一部となり得る。
【0117】
1種以上のサイトカインを枯渇させる方法は、1種以上のサイトカインに対するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体の投与による。さらに他の実施形態において、薬剤は、1種以上のサイトカインに対するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を含む。
【0118】
1種以上のサイトカインを枯渇させる方法は、1種以上のサイトカインを標的とするsiRNA又はアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与による。
【0119】
1種以上のサイトカインを枯渇させる方法は、サイトカイン媒介受容体に結合し、1種以上のサイトカインの結合を防止するアンタゴニストの投与による。
【0120】
いずれかの本開示の方法において、阻害される、中和される又は枯渇される1種以上のサイトカインは、TNFα、IL-2、IL-4、IL-13、IFN-γ又はIL-6を含む。本明細書の開示において、処置されるウイルス感染の重症度又は他の症状に応じて、2つ以上のサイトカインの阻害、中和、又は枯渇が、単一のサイトカインの枯渇よりも効果的であり得ることが理解されよう。
【0121】
本開示の実施形態が本明細書に記載されているが、そのような実施形態は単なる例として提供されていることを当業者には理解されたい。当業者であれば、本発明を逸脱することなく、数多くの変形、変更及び代替を思いつく。本明細書に記載の本発明の実施形態に対する様々な代替が、本発明を実施する際に用いられ得ることを理解されたい。以下の特許請求の範囲は、本発明の範囲を定義しており、これらの特許請求の範囲内の方法及び構造とそれらの均等物がそれにより網羅されることが意図されている。
【国際調査報告】