(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】レーザ手術中の網膜放射曝露の低減
(51)【国際特許分類】
A61F 9/008 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
A61F9/008 120
A61F9/008 130
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525507
(86)(22)【出願日】2022-10-25
(85)【翻訳文提出日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 IB2022060256
(87)【国際公開番号】W WO2023089417
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319008904
【氏名又は名称】アルコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【氏名又は名称】赤木 啓二
(74)【代理人】
【識別番号】100227835
【氏名又は名称】小川 剛孝
(72)【発明者】
【氏名】ゾルト ボル
(57)【要約】
特定の実施形態では、眼の硝子体内の浮遊物を治療するための眼科レーザ手術システムは、浮遊物検出システム、レーザデバイス、及びコンピュータを含む。浮遊物検出システムは、眼の硝子体内の浮遊物の位置を判定する。レーザデバイスは、レーザビーム経路に沿って浮遊物に向けてレーザビームを方向付ける。コンピュータは、レーザパルスの3次元パルスパターンを生じる、レーザビームの3次元走査パターンにアクセスする。3次元パルスパターンは、3次元パルスパターンの後方側にバブルシールドパルスパターンを有する。バブルシールドパルスパターンは、眼の網膜におけるレーザ放射曝露を低減するバブルシールドを形成する。コンピュータは、3次元走査パターンに従って浮遊物に向けてレーザビームを方向付けるようにレーザデバイスに指示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼の硝子体内の浮遊物を治療するための眼科レーザ手術システムであって、
前記眼の前記硝子体内の前記浮遊物の位置を判定するように構成された浮遊物検出システムと、
レーザビーム経路に沿って前記浮遊物に向けてレーザビームを方向付けるように構成されたレーザデバイスと、
コンピュータであって、
レーザパルスの3次元パルスパターンを生じる、前記レーザビームの3次元走査パターンにアクセスし、前記3次元パルスパターンが、前記3次元パルスパターンの後方側にバブルシールドパルスパターンを含み、前記バブルシールドパルスパターンが、前記眼の網膜におけるレーザ放射曝露を低減するバブルシールドを形成し、
前記3次元走査パターンに従って前記浮遊物に向けて前記レーザビームを方向付けるように前記レーザデバイスに指示する、ように構成された、
コンピュータと、
を備える、眼科レーザ手術システム。
【請求項2】
前記コンピュータが、
前記3次元走査パターンの前方領域を走査する前に、前記3次元走査パターンの後方部分を走査するように前記レーザデバイスに指示することによって、
前記3次元走査パターンに従って前記浮遊物に向けて前記レーザビームを方向付けるように前記レーザデバイスに指示する、ように構成されている、請求項1に記載の眼科レーザシステム。
【請求項3】
前記浮遊物検出システムから検出ビームを受光し、検出ビーム経路に沿って前記浮遊物のxy位置に向けて前記検出ビームを方向付け、且つ
前記レーザデバイスから前記レーザビームを受光し、前記検出ビーム経路に沿って前記浮遊物の前記xy位置に向けて前記レーザビームを方向付ける、ように構成された、xyスキャナを更に備える、請求項1に記載の眼科レーザシステム。
【請求項4】
眼の硝子体内の浮遊物を治療するための方法であって、
浮遊物検出システムによって、前記眼の前記硝子体内の前記浮遊物の位置を判定することと、
コンピュータによって、レーザパルスの3次元パルスパターンを生じる、レーザビームの3次元走査パターンにアクセスすることであって、前記3次元パルスパターンが、前記3次元パルスパターンの後方側にバブルシールドパルスパターンを含み、前記バブルシールドパルスパターンが、前記眼の網膜におけるレーザ放射曝露を低減するバブルシールドを形成する、ことと、
前記コンピュータによって、前記3次元走査パターンに従って前記浮遊物に向けて前記レーザビームを方向付けるようにレーザデバイスに指示することと、
前記レーザデバイスによって、レーザビーム経路に沿って前記浮遊物に向けて前記レーザビームを方向付けることと、
を含む、方法。
【請求項5】
前記3次元走査パターンに従って前記浮遊物に向けて前記レーザビームを方向付けるように前記レーザデバイスに指示することが、
前記3次元走査パターンの前方領域を走査する前に、前記3次元走査パターンの後方部分を走査するように前記レーザデバイスに指示することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
xyスキャナによって、前記浮遊物検出システムから検出ビームを受光し、検出ビーム経路に沿って前記浮遊物のxy位置に向けて前記検出ビームを方向付けることと、
前記xyスキャナによって、前記レーザデバイスから前記レーザビームを受光し、前記検出ビーム経路に沿って前記浮遊物の前記xy位置に向けて前記レーザビームを方向付けることと、を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
眼内の浮遊物を治療するための眼科レーザ手術システムであって、
前記眼内の前記浮遊物の位置を判定するように構成された浮遊物検出システムと、
レーザビーム経路に沿って前記浮遊物に向けてレーザビームを方向付けるように構成されたレーザデバイスと、
コンピュータであって、
前記浮遊物のz位置と構成要素との間の浮遊物から構成要素までの距離に従って、前記眼の構成要素における放射曝露を計算し、
前記放射曝露から安全係数を計算し、前記安全係数が前記放射曝露と最大曝露との間の数学的関係を記述し、
前記安全係数の所定の境界に従って、前記レーザビーム経路に沿って前記浮遊物に向けて前記レーザビームを方向付けることが許容可能であるかどうかを判定し、
それが許容可能である場合、前記レーザビーム経路に沿って前記浮遊物に向けて前記レーザビームを方向付けるように前記レーザデバイスに指示する、ように構成された、
コンピュータと、
を備える、眼科レーザ手術システム。
【請求項8】
前記安全係数が、前記最大曝露と前記放射曝露との比に等しい、請求項7に記載の眼科レーザシステム。
【請求項9】
前記放射曝露が、前記眼の網膜における放射曝露を記述し、
前記最大放射曝露が、前記網膜における単一パルスの最大放射曝露を記述する、請求項7に記載の眼科レーザシステム。
【請求項10】
前記放射曝露が、前記眼の網膜における放射曝露を記述し、
前記最大放射曝露が、前記網膜における最大平均出力を記述する、請求項7に記載の眼科レーザシステム。
【請求項11】
前記放射曝露が、前記眼の水晶体における放射曝露を記述し、
前記最大曝露が、前記水晶体における最大放射曝露を記述する、請求項7に記載の眼科レーザシステム。
【請求項12】
前記コンピュータが、
前記構成要素上の前記レーザビームのレーザスポットサイズを判定し、
前記レーザビームの前記レーザスポットサイズ及び前記浮遊物から構成要素までの距離に従って前記放射曝露を計算する、ことによって、
前記浮遊物のz位置に従って前記眼の前記構成要素における前記放射曝露を計算する、ように構成されている、請求項7に記載の眼科レーザシステム。
【請求項13】
前記コンピュータが、
前記レーザビームのレーザパルスエネルギーを考慮して、前記眼が治療され得る、最も近い浮遊物から構成要素までの距離を計算する、ように構成されている、請求項7に記載の眼科レーザシステム。
【請求項14】
前記コンピュータが、
前記浮遊物から構成要素までの距離を考慮して、前記眼が治療され得る、最大レーザパルスエネルギーを計算する、ように構成されている、請求項7に記載の眼科レーザシステム。
【請求項15】
前記コンピュータが、
前記レーザビーム経路に沿って前記浮遊物に向けて前記レーザビームを方向付けることが許容可能でない場合、前記レーザデバイスが前記浮遊物に向けて前記レーザビームを方向付けることを防止する、ように構成されている、請求項7に記載の眼科レーザシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、レーザ硝子体手術システムに関し、より具体的には、レーザ手術中の網膜放射曝露の低減に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ硝子体手術では、硝子体内にレーザビームを方向付けて眼の硝子体浮遊物を治療する。眼の浮遊物は、塊になりやすくて網膜上に影を投影する微細なコラーゲン繊維であり、患者の視力を妨げる。レーザビームは、浮遊物を分解して視力を改善する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
特定の実施形態では、眼の硝子体内の浮遊物を治療するための眼科レーザ手術システムは、浮遊物検出システム、レーザデバイス、及びコンピュータを含む。浮遊物検出システムは、眼の硝子体内の浮遊物の位置を判定する。レーザデバイスは、レーザビーム経路に沿って浮遊物に向けてレーザビームを方向付ける。コンピュータは、レーザパルスの3次元パルスパターンを生じる、レーザビームの3次元走査パターンにアクセスする。3次元パルスパターンは、3次元パルスパターンの後方側にバブルシールドパルスパターンを有する。バブルシールドパルスパターンは、眼の網膜におけるレーザ放射曝露を低減するバブルシールドを形成する。コンピュータは、3次元走査パターンに従って浮遊物に向けてレーザビームを方向付けるようにレーザデバイスに指示する。
【0004】
実施形態は、以下の特徴のいずれも含まなくてもよく、1つ、いくつか、又は全てを含んでもよい。
【0005】
*コンピュータは、3次元走査パターンの前方領域を走査する前に、3次元走査パターンの後方部分を走査するようにレーザデバイスに指示する。
【0006】
*眼科レーザシステムは、浮遊物検出システムから検出ビームを受光し、検出ビーム経路に沿って浮遊物のxy位置に向けて検出ビームを方向付け、且つレーザデバイスからレーザビームを受光し、検出ビーム経路に沿って浮遊物のxy位置に向けてレーザビームを方向付ける、XYスキャナを含む。
【0007】
特定の実施形態では、眼の硝子体内の浮遊物を治療するための方法は、浮遊物検出システムによって、眼の硝子体内の浮遊物の位置を判定することを含む。レーザパルスの3次元パルスパターンを生じるレーザビームの3次元走査パターンは、コンピュータによってアクセスされる。3次元パルスパターンは、パターンの後方側にバブルシールドパルスパターンを含む。バブルシールドパルスパターンは、眼の網膜におけるレーザ放射曝露を低減するバブルシールドを形成する。レーザデバイスは、コンピュータによって、3次元走査パターンに従って浮遊物に向けてレーザビームを方向付けるように指示される。レーザビームは、レーザデバイスによって、レーザビーム経路に沿って浮遊物に向けて方向付けられる。
【0008】
実施形態は、以下の特徴のいずれも含まなくてもよく、1つ、いくつか、又は全てを含んでもよい。
【0009】
*3次元走査パターンに従って浮遊物に向けてレーザビームを方向付けるようにレーザデバイスに指示することは、3次元走査パターンの前方領域を走査する前に、3次元走査パターンの後方部分を走査するようにレーザデバイスに指示することを含む。
【0010】
*浮遊物検出システムからの検出ビームは、xyスキャナによって受光され、検出ビーム経路に沿って浮遊物のxy位置に向けて方向付けられる。レーザデバイスからのレーザビームは、xyスキャナによって受光され、検出ビーム経路に沿って浮遊物のxy位置に向けて方向付けられる。
【0011】
特定の実施形態では、眼の硝子体内の浮遊物を治療するための眼科レーザ手術システムは、浮遊物検出システム、レーザデバイス、及びコンピュータを含む。浮遊物検出システムは、眼内の浮遊物の位置を判定する。レーザデバイスは、レーザビーム経路に沿って浮遊物に向けてレーザビームを方向付ける。コンピュータは、浮遊物のz位置と構成要素との間の浮遊物から構成要素までの距離に従って、眼の構成要素における放射曝露を計算し、放射曝露から安全係数を計算し、安全係数が放射曝露と最大曝露との間の数学的関係を記述し、安全係数の所定の境界に従って、レーザビーム経路に沿って浮遊物に向けてレーザビームを方向付けることが許容可能であるかどうかを判定し、それが許容可能である場合、レーザビーム経路に沿って浮遊物に向けてレーザビームを方向付けるようにレーザデバイスに指示する。
【0012】
実施形態は、以下の特徴のいずれも含まなくてもよく、1つ、いくつか、又は全てを含んでもよい。
【0013】
*安全係数は、最大曝露と放射曝露との比に等しい。
【0014】
*放射曝露は、眼の網膜における放射曝露を記述し、最大放射曝露は、網膜における単一パルスの最大放射曝露を記述する。
【0015】
*放射曝露は、眼の網膜における放射曝露を記述し、最大放射曝露は、網膜における最大平均出力を記述する。
【0016】
*放射曝露は、眼の水晶体における放射曝露を記述し、最大曝露は、水晶体における最大放射曝露を記述する。
【0017】
*コンピュータは、浮遊物のZ位置に従って、構成要素上のレーザビームのレーザスポットサイズを判定し、レーザビームのレーザスポットサイズ及び浮遊物から構成要素までの距離に従って放射曝露を計算する、ことによって、眼の構成要素における放射曝露を計算する。
【0018】
*コンピュータは、レーザビームのレーザパルスエネルギーを考慮して、眼が治療され得る、最も近い浮遊物から構成要素までの距離を計算する。
【0019】
*コンピュータは、浮遊物から構成要素までの距離を考慮して、眼が治療され得る、最大レーザパルスエネルギーを計算する。
【0020】
*レーザビーム経路に沿って浮遊物に向けてレーザビームを方向付けることが許容可能でない場合、コンピュータは、レーザデバイスが浮遊物に向けてレーザビームを方向付けることを防止する。
【0021】
特定の実施形態では、眼内の浮遊物を治療するための方法は、浮遊物検出システムによって、眼内の浮遊物の位置を判定することを含む。眼の構成要素における放射曝露は、コンピュータによって、浮遊物のz位置と構成要素との間の浮遊物から構成要素までの距離に従って計算される。安全係数は、コンピュータによって、放射曝露から計算される。安全係数は、放射曝露と最大曝露との間の数学的関係を記述する。安全係数の所定の境界に従って、レーザビーム経路に沿って浮遊物に向けてレーザビームを方向付けることが許容可能であるかどうかは、コンピュータによって判定される。それが許容可能である場合、レーザデバイスは、コンピュータによって、レーザビーム経路に沿って浮遊物に向けてレーザビームを方向付けるように指示される。レーザビームは、レーザデバイスによって、レーザビーム経路に沿って浮遊物に向けて方向付けられる。
【0022】
実施形態は、以下の特徴のいずれも含まなくてもよく、1つ、いくつか、又は全てを含んでもよい。
【0023】
*安全係数は、最大曝露と放射曝露の比に等しい。
【0024】
*放射曝露は、眼の網膜における放射曝露を記述し、最大放射曝露は、網膜における単一パルスの最大放射曝露を記述する。
【0025】
*放射曝露は、眼の網膜における放射曝露を記述し、最大放射曝露は、網膜における最大平均出力を記述する。
【0026】
*放射曝露は、眼の水晶体における放射曝露を記述し、最大曝露は、水晶体における最大放射曝露を記述する。
【0027】
*浮遊物のz位置に従って、眼の構成要素における放射曝露を計算することは、構成要素上のレーザビームのレーザスポットサイズを判定することと、レーザビームのレーザスポットサイズ及び浮遊物から構成要素までの距離に従って、放射曝露を計算することと、を含む。
【0028】
*眼が治療され得る、最も近い浮遊物から構成要素までの距離は、レーザビームのレーザパルスエネルギーを考慮して、コンピュータによって計算される。
【0029】
*眼が治療され得る、最大レーザパルスエネルギーは、浮遊物から構成要素までの距離を考慮して、コンピュータによって計算される。
【0030】
*レーザビーム経路に沿って浮遊物に向けてレーザビームを方向付けることが許容可能でない場合、レーザデバイスは、コンピュータによって、浮遊物に向けてレーザビームを方向付けることを防止される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、特定の実施形態による、眼内の浮遊物を治療するために使用され得る、眼科レーザ手術システムの一例を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1のシステムによって生成され得る、網膜画像の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、特定の実施形態による、
図1のシステムによって生成され得る、3次元(3D)パルスパターンの一例を示す図である。
【
図4A-4B】
図4A-
図4Bは、特定の実施形態による、
図1のシステムによって生成され得る、3次元(3D)パルスパターンの一例を示す図である。
【
図5】
図5は、特定の実施形態による、
図1のシステムによって実行され得る、3次元(3D)走査パターンで浮遊物を断片化するための方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
ここで、説明及び図面を参照して、開示される装置、システム、及び方法の例示的な実施形態を詳細に示す。説明及び図面は、網羅的であることも、或いは、特許請求の範囲を、図面において示され、説明において開示される特定の実施形態に限定することも意図するものではない。図面は可能な実施形態を表すが、図面は必ずしも縮尺通りではなく、実施形態をよりよく示すために特定の特徴部を簡略化、誇張、削除、又は部分的に分割している場合がある。
【0033】
レーザ硝子体手術は、眼の浮遊物を除去するために実施される。しかしながら、網膜がレーザ放射に過度に曝露されないように注意しなればならない。従って、眼科レーザ手術システムは、網膜を過度の曝露から保護するガスバブルシールドを形成することによって、網膜の曝露を低減する。加えて、システムは、複数のレーザパルスを使用して浮遊物をより効率的に断片化し、予測できない浮遊物の移動の可能性を低減する。更に、システムは、処置が網膜への過剰な曝露を引き起こすことになるかどうかを評価するために使用され得る、安全係数を計算する。
【0034】
図1は、特定の実施形態による、眼内の浮遊物を治療するために使用され得る、眼科レーザ手術システム10の一例を示している。実施形態では、浮遊物検出システムは、眼内の浮遊物の位置を判定する。コンピュータは、浮遊物に向けてレーザパルスの3次元(3D)パターンを方向付けるようレーザデバイスに指示する。このパターンは、眼の網膜における放射曝露を低減するバブルシールドを含む。レーザデバイスは、パターンに従って浮遊物に向けてレーザビームを方向付ける。
【0035】
概要として、システム10は、図示のように結合された、浮遊物検出システム19、レーザデバイス22、1つ以上の共有構成要素24、及びコンピュータ26を含む。浮遊物検出システム19は、走査型レーザ検眼鏡(SLO)デバイス20、及び干渉計デバイス21を含む。レーザデバイス22は、図示のように結合された、超短パルスレーザ30、及びz集光構成要素32を含む。共有構成要素24は、図示のように結合された、xyスキャナ40、xyエンコーダ41、並びに光学要素(ミラー42、並びにレンズ44及び46など)を含む。コンピュータ26は、図示のように結合された、ロジック50、(コンピュータプログラム54を記憶する)メモリ52、及びディスプレイ56を含む。
【0036】
システム10の動作の概要として、xyスキャナ40は、SLOデバイス20からSLOビームを受光し、SLOビーム経路に沿って眼に向けてSLOビームを方向付ける。SLOデバイス20は、浮遊物によって網膜上に投影された浮遊物の影のSLO画像を生成する。SLOデバイス20はまた、浮遊物の影のxy位置を提供し、xy位置はxyスキャナ40に関連している。干渉計デバイス21は、網膜からの浮遊物のz距離(z位置と呼ばれることがある)を提供する。レーザデバイス22のz集光構成要素32は、干渉計デバイス21から浮遊物のz位置を受け取り、浮遊物のz位置上にレーザビームの焦点を集光する。コンピュータ26は、浮遊物に向けてレーザパルスの3次元(3D)パターンを方向付けるようレーザデバイス22に指示する。このパターンは、眼の網膜における放射曝露を低減するバブルシールドを含む。xyスキャナ40は、レーザデバイスからレーザビームを受光し、3Dパターンに従って、SLOビーム経路に沿って浮遊物の影のxy位置に向けてレーザビームを方向付ける。
【0037】
システムの部分に目を向けると、浮遊物検出システム19は、浮遊物によって網膜上に投影された浮遊物及び/又は浮遊物の影を検出し、位置特定し、及び/又は撮像する1つ以上の検出デバイスを含む。浮遊物及び/又は浮遊物の影を検出し、位置特定し、及び/又は撮像するために、検出デバイスは、検出ビーム経路に沿って眼の内部に向けて検出ビームを方向付ける。内部は、検出ビームを反射し、デバイスは、反射光を検出して、浮遊物及び/又は浮遊物の影を検出し、位置特定し、及び/又は撮像する。
【0038】
特定の実施形態では、浮遊物検出システム19は、SLOデバイス20、及び干渉計デバイス21を含む。SLOデバイス20は、共焦点レーザ走査を利用して、眼の内部の画像を生成する。特定の実施形態では、SLOデバイス20は、網膜上に浮遊物が投影する浮遊物の影の画像を生成し、浮遊物の影のxy位置をエンコーダ単位で提供する。干渉計デバイス21は、網膜に対する浮遊物のz位置を提供する。干渉計デバイス21は、任意の適切な干渉計、例えば、高速フーリエ変換(FFT)を利用するフーリエドメインタイプ(掃引光源又はスペクトルドメインタイプなど)を有する。干渉計デバイス21の例には、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)デバイス(掃引光源OCTデバイスなど)、及び掃引光源A走査干渉計(SSASI)デバイス(SASSIデバイスはA走査のみを実行する)が含まれる。掃引光源OCT及びSSASIデバイスは、角膜から網膜までの眼の全長内の深度(すなわち、網膜に対するz位置)を測定し得る、最大約30ミリメートル(mm)の測定範囲を有する。
【0039】
レーザデバイス22に目を向けると、レーザ30は、超短パルスレーザを生成することができる。レーザ硝子体手術に現在使用されているYAGレーザとは異なり、超短パルスレーザは、網膜を傷つけることなく使用することができる。一方、YAGレーザは、より高いパルスエネルギー(例えば、5ミリジュール(mJ))でより長いパルスを放出する。しかしながら、より高いパルスエネルギーは、臨床的に重要な浮遊物が通常位置する浮遊物から網膜までの距離(網膜に対して3mm程度又はそれ以上近い距離)において、ANSI網膜最大許容曝露(MPE)を超える網膜曝露を生じる。例えば、パルスエネルギーPE=5mJ、レーザビーム開口数NA=0.1、及び浮遊物から網膜までの距離D=3ミリメートル(mm)=0.3センチメートル(cm)とすると、網膜上のエネルギー密度EDは、およそED=PE/(D*2NA)2=5mJ/(0.3cm*0.2)2=1.39J/cm2となる。ナノ秒パルスに対するANSI網膜最大許容曝露MPEは、MPE=0.020J/cm2である。従って、距離D=3mmにおけるYAGレーザでの曝露は、ED/MPE=1.39/0.02≒70倍においてMPEを超える。
【0040】
一方、超短パルスレーザは、より低いパルスエネルギーを使用して浮遊物を治療する。レーザの破壊エネルギーの閾値は、パルス持続時間の平方根に比例する。例えば、300フェムト秒レーザは、3ナノ秒レーザよりも10000×0.5=100倍エネルギー閾値が低い。従って、フェムト秒レーザは、15~20μJなどの、10~30マイクロジュール(μJ)のパルスエネルギーで浮遊物を治療することができ、これはYAGレーザの約100分の1である。パルスエネルギーが低いほど、ANSI網膜最大許容曝露(MPE)を満たし得る網膜曝露をもたらし、これは、フェムト秒パルスに対してMPE=0.008J/cm2である。パルスエネルギーPE=20μJ、レーザビーム開口数NA=0.1とすると、MPEを満たす浮遊物から網膜までの距離Dは、D>(20μJ/(0.008J/cm2*0.22))0.5=2.5mmとなる。すなわち、20μJのフェムト秒パルスは、網膜から最大2.5mmまではMPEを満たす一方で、網膜から3mmにおいては、5mJのナノ秒YAGパルスがMPEの70倍を超える。MPEを満たす治療を提供できることに加えて、低パルスエネルギーはまた、マルチパルス治療を可能にして、より効果的に浮遊物を断片化し、低パルスエネルギーでは、浮遊物が予想外にジャンプを引き起こす可能性が低い。
【0041】
特定の実施形態では、レーザデバイス22又は光送出システムは、適応光学系を含む。適応光学系は、レーザビームの位相フロントエラーを補正してレーザビームのスポットサイズを最小化し、それにより、必要なパルスエネルギー(例えば、数マイクロジュール(μJ)~ナノジュール(nJ)の範囲)及び網膜における放射曝露を最小化する。特定の実施形態では、適応光学系は、治療の前にレーザビームを最適化するために使用される。実施形態では、レーザビームは、閾値以下のエネルギーレベルを使用して浮遊物の近くに方向付けられる。硝子体からのフィードバック信号(例えば、2光子蛍光又は第2高調波フィードバック信号)が検出される。レーザビーム経路内の適応光学系(例えば、適応ミラー)は、眼と光学システムとの収差を最小化するためにフィードバック信号の強度を最大化するように使用される。
【0042】
特定の実施形態では、レーザデバイス22は、ベッセル又はベッセル状の長焦点距離ビームを形成する光学要素を含み、これが浮遊物破壊の効率を増加し得る。一般に、ガウシアンビームと比較して、ベッセルビームは、1.6倍小さいスポットサイズ、より長い焦点距離(より短い治療時間をもたらす)、及びより大きい発散(網膜上により大きいスポットサイズを生じ、網膜損傷のリスクを低減する)を有する。ベッセル又はベッセル状の長焦点ビームを形成する光学要素の例には、アキシコン、円形回折格子、適正位相板、空間光変調器(SLM)、及びファブリペロー干渉計が含まれる。
【0043】
z集光構成要素32は、浮遊物の影の方向における特定の位置に、レーザビームの焦点位置を長手方向に方向付ける。特定の実施形態では、z集光構成要素32は、干渉計デバイス21から浮遊物のz位置を受け取り(コンピュータ26を介して受信してもよい)、浮遊物のz位置に向けてレーザビームを方向付ける。z集光構成要素32には、可変屈折力のレンズ、機械的に調整可能なレンズ、電気的に調整可能なレンズ(例えば、オプトチューンレンズ)、電気的又は機械的に調整可能な望遠鏡が含まれ得る。特定の実施形態では、レーザデバイス22又は光送出システムはまた、例えば、3D焦点パターンを生成するために、z集光構成要素32とタンデムで使用される高速xyスキャナを含む。そのようなスキャナの例には、ガルボスキャナ、MEMSスキャナ、共振スキャナ、音響光学スキャナが含まれる。
【0044】
共有構成要素24は、SLOデバイス20、干渉計デバイス21、及びレーザデバイス22からのビームを、眼に向けて方向付ける。SLO、干渉計、及び/又はレーザビームが構成要素24を共有するため、ビームは、同じ光学的歪み(例えば、スキャナの扇形歪み、スキャナレンズの樽型又は枕型歪み、眼の内面からの屈折歪み、及び他の歪み)の影響を受ける。歪みはビームに同じように影響を与えるため、ビームは、同じ経路に沿って伝搬する。これにより、浮遊物にレーザビームを正確に照準することを可能にする。
【0045】
共有構成要素24の動作の概要として、ミラー42は、xyスキャナ40に向けてビーム(SLO、干渉計、及び/又はレーザビーム)を方向付け、xyスキャナ40は、レンズ44に向けてビームを横断方向に方向付ける。レンズ44及び46は、眼に向けてビームを方向付ける。共有構成要素24はまた、SLO、干渉計、及びレーザビームのスペクトル並びに偏光結合及び非結合を提供し、ビームが同じ経路を共有することを可能にする。
【0046】
共有構成要素24の詳細に目を向けると、特定の実施形態では、xyスキャナ40は、SLOデバイス20から浮遊物の影のxy位置を受け取り、xy位置に向けてSLO、干渉計、及び/又はレーザビームを方向付ける。xyスキャナ40は、x方向及びy方向においてビームの焦点位置を横断方向に方向付け、瞳孔へのビームの入射角を変更する、任意の適切なxyスキャナであってもよい。例えば、xyスキャナ40は、相互に垂直な軸を中心にチルトすることができる、ガルバノメトリック作動型スキャナミラーの対を含む。別の例として、xyスキャナ40は、ビームを音響光学的に操作することができる音響光学結晶を含む。別の例として、xyスキャナ40は、例えばレーザスポットの2Dマトリックスを生成することができる高速スキャナ(例えば、ガルボスキャナ、共振スキャナ、又は音響光学スキャナ)を含む。
【0047】
xyエンコーダ41は、xyスキャナ40の角度位置を検出し、その位置を角度単位で測定されたxy位置として報告する。例えば、xyエンコーダ41は、xyスキャナ40のガルバノミラーの角度配向を、エンコーダ単位で検出する。xyエンコーダ41は、SLOデバイス20、干渉計デバイス21、レーザデバイス22、及び/又はコンピュータ26に位置をエンコーダ単位で報告することができる。SLOデバイス20、干渉計デバイス21、及びレーザデバイス22がxyスキャナ40を共有するため、コンピュータ26は、エンコーダ単位を使用して、システム20及びデバイス22にビームの照準を指示することができ、エンコーダ単位からミリメートルなどの長さ単位へのコンピュータ集約的な変換を実行する必要性をなくする。xyエンコーダ41は、任意の適切なレート、例えば、5~50ミリ秒(ms)毎、例えば、10~30ms毎又は約20ms毎に1回、その位置を報告する。
【0048】
共有構成要素24はまた、光学要素を含む。一般に、光学要素は、レーザビームに作用(例えば、透過、反射、屈折、回折、コリメート、調整、整形、集光、変調、及び/又は他の方法で作用)することができる。光学要素の例としては、レンズ、プリズム、ミラー、回折光学要素(DOE)、ホログラフィック光学要素(HOE)、及び空間光変調器(SLM)が挙げられる。この例では、光学要素は、ミラー42、並びにレンズ44及び46を含む。ミラー42は、トリクロイックミラーであってもよい。レンズ44及び46は、SLOデバイスの走査光学系であってもよい。
【0049】
コンピュータ26は、コンピュータプログラム54に従ってシステム10の構成要素を制御する。コンピュータプログラム54の例には、浮遊物の影の撮像、浮遊物の影の追跡、画像処理、浮遊物の評価、網膜曝露計算、患者教育、及び保険承認プログラムが含まれる。例えば、コンピュータ26は、浮遊物を撮像し、且つ浮遊物にレーザビームを集光するように、構成要素(例えば、浮遊物検出システム19、レーザデバイス24、及び共有構成要素24)を制御する。コンピュータプログラム54は、走査パターンに従ってレーザパルスのパターンを生成する命令を含み得る。コンピュータ26は、構成要素から分離されてもよく、又は任意の適切な方法で、例えば、浮遊物検出システム19、レーザデバイス24、及び/又は共有構成要素24内で、システム10の間で分散されてもよい。特定の実施形態では、浮遊物検出システム19、レーザデバイス24、及び/又は共有構成要素24を制御するコンピュータ26の一部は、それぞれ、浮遊物検出システム19、レーザデバイス24、及び/又は共有構成要素24の一部であってもよい。
【0050】
特定の実施形態では、コンピュータ26は、画像処理プログラム54を使用して画像のデジタル情報を分析し、画像から情報を抽出する。特定の実施形態では、画像処理プログラム54は、浮遊物の影の画像を分析して、浮遊物の影に関する情報を取得する。例えば、プログラム54は、浮遊物の影であり得る画像内のより暗い形状を(例えば、エッジ検出又は画素分析を使用して)検出することによって、浮遊物を検出する。別の例として、プログラム54は、浮遊物のサイズ及び形状を示す、浮遊物の影の形状及びサイズを検出する。別の例として、プログラム54は、浮遊物の濃度を示す、浮遊物の影の階調又は輝度を検出する。特定の実施形態では、コンピュータ26は、追跡プログラム54を使用して浮遊物の影を追跡する。
【0051】
特定の実施形態では、コンピュータ26は、特定のz位置に方向付けられたレーザパルスから、網膜における放射曝露を判定する。この判定では、例えば、レーザパルスエネルギー、レーザ放射波長、レーザパルスの数、レーザパルスの持続時間、集光されたレーザビームの錐体角、及び網膜への集光などの、任意の適切な要因を考慮することができる。例えば、レーザビームのスポットサイズ、及び浮遊物と網膜との間の距離を使用して、曝露を計算することができる。放射曝露は、許容される基準に従って判定され得る、最大放射曝露未満であるべきである。例えば、最大放射曝露は、ANSI z80.36-2016に従って設定され得る。放射曝露が網膜、水晶体、及び/又はIOLの最大放射曝露を超える場合、コンピュータ26は、重要な安全機能として、任意の適切な要因を修正し(例えば、パルスエネルギーを下げる)、ユーザに通知を提供し、及び/又はレーザビームの発射を防止することができる。
【0052】
特定の実施形態では、コンピュータ26は、最大曝露標準に対する放射曝露を示す安全係数を計算する。例えば、安全係数SFは、SF=E/MEの形式をとることができ、ここで、Eは、眼球組織(例えば、網膜又は水晶体)における曝露を表し、MEは、最大曝露を表し、これは標準によって定義され得る。特定の状況では、標準は、最大曝露を超えることを許容する。例えば、ANSI Z80.36-2016は、眼球組織の治療のための放射には適用されず、記載されているMPE限度は、実験的に判定された網膜損傷閾値の約10倍未満である。治療上の利点が網膜曝露のリスクを正当化できる場合、外科医は、ANSI限度を超えることができる。安全係数は、利点がリスクを正当化するか否かを決定する際の、外科医の指針となる。
【0053】
コンピュータ26は、コンピュータ26に記憶された値、例えば、パルスエネルギー、パルス持続時間、パルス列内のパルスの数、レーザビーム開口数、レーザビーム波長、繰り返しレート、レーザ焦点の(例えば、網膜、水晶体、及び/又はIOLに対する)位置、及び他のパラメータから安全係数を計算する。コンピュータ26は、手術中に、外科医に対して安全係数を出力することができる。安全係数が所定の量(例えば、10)を超えた場合、コンピュータ26は、外科医に通知し、及び/又は手術を防止することができる。
【0054】
安全係数の例には、以下が含まれる。
【0055】
(1)単一パルスに対する網膜安全係数RSFSP=RE/MPESP、ここで、REは、網膜曝露を表し、MPEは、単一パルスに対する最大曝露限度、例えば、ANSI Z80.36-2016によって設定された限度を表す。
【0056】
(2)網膜平均曝露に対する安全係数SFARE=RE/ARE、ここで、REは、網膜曝露を表し、AREは、単位面積あたりの網膜における最大平均出力を表す。最大平均出力は、例えば、ANSI Z80.36-2016によって設定された限度、又はデータから判定された値であり得る。例えば、100万件のフェムト秒レーザ支援白内障手術(FLACS)手術例からのデータを考慮して、11.0W/cm2の出力密度が安全とみなされる。
【0057】
(3)水晶体に対する安全係数SFL=LE/LMPE、ここで、LEは、水晶体曝露を表し、LMPEは、最大曝露を表す。ANSIは、レンズ(天然水晶体及びIOL)に対する安全限度を設定していないが、レンズは網膜よりもレーザ放射に対する感度が低いため、網膜に対して安全な値はまた、レンズに対して安全であるはずである。
【0058】
不随意的及び随意的な眼の動作(例えば、サッカード及びマイクロサッカード運動、ドリフト、及び震え)は、レーザ治療を困難にする可能性がある。眼の動作を低減するため、治療中に、眼の動作を低減するための適切な方法で眼を安定させることができる。例えば、治療されている眼及び/又は他方の眼を、固視灯を使用して安定させることができる。別の例として、患者インターフェース又はハンドヘルド手術コンタクトレンズを使用して、眼を機械的に安定させることができる。加えて、治療されている眼及び/又は他方の眼の動作を、任意の適切な方法で追跡することができる。眼の任意の適切な部分(例えば、瞳孔、瞳孔縁、虹彩、血管)、及び/又は眼からの反射(例えば、プルキンエ反射)を追跡することができる。
【0059】
図2は、
図1のシステム10によって生成され得る、網膜画像60の一例を示している。画像60は、窩領域(又は窩)64及び傍窩領域(又は傍窩)66を有する、眼の網膜62を示している。一般に、窩64は、約±1度の視角を有し、傍窩66は、約±7度の視角を有する。画像60はまた、網膜62上に浮動物が投影する浮動物の影68(68a、68b、68c)を示している。一般に、動かない影は浮遊物によって引き起こされるものではなく、例えば角膜若しくは水晶体の混濁、又は網膜の解剖学的変化によって引き起こされ得るため、浮遊物の治療は動かない影には関係しない。
【0060】
浮遊物は、それが視覚障害を引き起こし得る場合、臨床的に重要であるとみなすことができ、これは、浮遊物の影の任意の適切な特徴、例えば、影のサイズ及び/若しくは密度、窩及び/若しくは傍窩への影の近接度、並びに/又は窩及び/若しくは傍窩に対する影の軌跡から判定することができる。一例として、浮遊物は、それが恒久的若しくは一時的に窩64に影68を投影する場合に視覚障害を引き起こす可能性があり、又はそれが恒久的若しくは一時的に傍窩66に影68を投影する場合に注意散漫若しくは不快さを引き起こす可能性がある。従って、浮遊物の影が窩64及び/又は傍窩66内に入るか、又は窩64及び/又は傍窩66内を動くと予測される場合、浮遊物は、臨床的に重要であると指定され得る。別の例として、浮遊物の影68は、浮遊物のサイズ及び密度を推定するために使用され得る。より大きく、より密度の高い浮動物は、視覚障害を引き起こす可能性がより高い。従って、臨界影サイズより大きい影68は、臨床的に重要な浮遊物を示すことができる。背景に対してコントラストがより高い影68は、臨床的に重要な浮遊物を示す場合がある。
【0061】
図3、
図4A、及び
図4Bは、特定の実施形態による、
図1のシステム10によって生成され得る、3次元(3D)パルスパターン134の一例を示している。
図3は、眼内のパルスパターン134を示している。
図4Aは、エンフェース視におけるパルスパターン134を示し、
図4Bは、網膜138に対するパルスパターン134を示している。特定の実施形態では、浮遊物110をより効果的に断片化し得、且つ眼の網膜における網膜放射曝露を低減するバブルシールドを含み得る、3次元(3D)パルスパターンが使用される。
【0062】
3Dパルスパターン134のレーザパルスは、浮遊物110を分解する、急速に膨張するキャビテーションバブルを生成する。例えば、20マイクロジュール(μJ)のフェムト秒レーザパルスは、約400マイクロメートル(μm)の最大過渡直径を有するキャビテーションバブルを生成し、このキャビテーションバブルは、約38ミリ秒(ms)以内に膨張して崩壊する。バブル壁から組織界面までの加速度は、約107メートル/秒2(m/秒2)、すなわち約1,000,000Gであり、これが、浮遊物のコラーゲン線維を分解する激しい爆発のように機能する。キャビテーションバブルは、数回、膨張して収縮し、繰り返すたびに小さくなっていく。数回の繰り返し後、バブル内の水蒸気は、凝縮して水になり、一部のガス(例えば、水素、酸素、CO2、NOX)はバブルの内部に残る。30秒~数分後、バブルは、硝子体内で溶解し、上向きの力がバブルを視野から遠ざける。存在している間、後方のバブルは、後続の前方パルスによる曝露から網膜を遮蔽する不透明な層である、バブルシールドを形成する。
【0063】
3Dパルスパターン134は、任意の適切なサイズ及び形状を有し得る。特定の実施形態では、パターン134は、パルスの矩形立方体(例えば、立方体)であり得る。側面は、任意の適切なパルス分離(例えば、100~500μmなどの、10~1000μm)を有する任意の適切な寸法(例えば、100~1500μmなどの、10~2000μm)を有し得る。パルスの後方層(例えば、エンフェース層)は、網膜138を保護するバブルシールド136として動作する。パターン134は、任意の適切な方法で、例えば、後方層から開始して前方層まで形成され得る。いくつかの実施形態では、後方層、例えばバブルシールドは、網膜を保護するために、より低い繰り返しレート(例えば、1080Hzなどの、1000~2000ヘルツ(Hz))及び/又はより低いパルスエネルギー(例えば、10~15μJ)で形成され、次いで、前方層は、より高い繰り返しレート(例えば、15,000~50,000Hzなどの、2000~100,000Hz)及び/又はより高いパルスエネルギー(例えば、20~30μJなどの、15~35μJ)で形成される。
【0064】
パルスパターン134の例には、以下が含まれる。
【0065】
(1)パルスパターン134は、400マイクロメートル(μm)だけ分離されたパルスの3×3×3のマトリックスである。9個のパルスの第1の平面は、より低い繰り返しレート(例えば、1080ヘルツ(Hz))で浮遊物の後方部分にバブルシールドを形成する。バブルシールドは残りの18個のパルスから網膜を遮蔽するため、それらは、より高い繰り返しレート(例えば、5000Hz)で送出され得る。合計治療時間は、約12ミリ秒(ms)である。
【0066】
(2)パルスパターン134は、100μmだけ分離されたパルスの10×10×10のマトリックスである。このパターンは、1mmの浮遊物を治療することができる。第1の平面100のレーザパルスは、より低い繰り返しレート(例えば、541Hz)及びより低いパルスエネルギー(例えば、10マイクロジュール(μJ))で、浮遊物の後方に約300μmのバブルシールドを形成する。バブルシールドは残りの900個のパルスから網膜を遮蔽するため、それらは、より高い繰り返しレート(例えば、5000Hz)及び/又はパルスエネルギー(例えば20μJ)で送出され得る。合計治療時間は、約0.365秒である。
【0067】
(3)パルスパターン134は、x方向及びy方向において100μm、且つz方向において200μmだけ分離された、1800個のパルスの15×15×8マトリックスである。このパターンは、1.5mmの浮遊物を治療することができる。繰り返しレートは、50,000Hzであり、レーザパルスエネルギーは、10μJである。治療時間は、約0.036秒である。
【0068】
(4)パルスパターン134は、100μmだけ分離されたパルスの15×15×15=3375の3Dマトリックスである。このパターンは、1.5mmの浮遊物を治療することができる。50,000Hzの繰り返しレートにおいて、治療時間は、3375/50,000=0.0675秒である。
【0069】
特定の実施形態では、3Dパルスパターン134は、網膜の面積(APD)あたりの安全な平均レーザ出力を提供する。数百万件のFLACS手術例のデータから、面積あたりの平均レーザ出力APD=11.0W/cm2が安全であると考えられる。3Dパルスパターン134は、この値を満たすことができる。例えば、パルスエネルギーが20マイクロジュール(μJ)、繰り返しレートが1080ヘルツ(Hz)、浮遊物から網膜までの距離が2.5ミリメートル(mm)、及び全角開口数が0.2であるとすると、APD=1080Hz*20μJ/[(2.5mm*0.2)2*π/4]=約11.0W/cm2となる。別の例として、パルスエネルギーが30μJ、繰り返しレートが15000Hz、浮遊物から網膜までの距離が12mm、及び全角開口数が0.2であるとすると、APD=15000Hz*30μJ/[(12mm*0.2)2*π/4]=約10W/cm2となる。
【0070】
図5は、特定の実施形態による、
図1のシステム10によって実行され得る、3次元(3D)走査パターンで浮遊物を断片化するための方法の一例を示している。外科医などのユーザは、3Dパルスパターンを使用して、患者の眼の硝子体内の浮遊物を断片化することができる。3Dパルスパターンは、眼の網膜における網膜放射曝露を低減するバブルシールドを含む。
【0071】
方法は、ステップ210において開始し、そこで、コンピュータ26は、レーザパルスの3D走査パターンにアクセスする。走査パターンは、メモリ52に記憶され得る。浮遊物検出システム19は、ステップ212において、ユーザに浮遊物の画像を提供する。この画像により、ユーザは浮遊物を位置特定することができる。コンピュータ26は、ステップ214において、安全係数を計算して出力する。安全係数は、最大曝露限度に対する眼内の放射曝露を示す。安全係数は、手術の利点が網膜放射曝露のリスクを正当化するか否かを決定する際の、ユーザの指針となる。ステップ215において、治療が許可可能である場合がある。治療が許容可能である場合、方法は、ステップ216に進む。許容可能でない場合、方法は、終了する。
【0072】
コンピュータ26は、ステップ216において、走査パターンに従って眼に向けてパルスを方向付けるようにレーザデバイス22に指示を送信する。任意の適切な3D走査パターン、例えば、本明細書に記載されるようなパターンが使用されてもよい。レーザデバイス22は、ステップ218において、眼に向けてレーザパルスを方向付けて、硝子体内にバブルシールドを形成する。バブルシールドは、眼の網膜における網膜放射曝露を低減する。浮遊物検出システム19は、ステップ220において、ユーザにバブルシールドの画像を提供する。この画像により、バブルシールドが網膜を保護するために十分に不透明であることをユーザがチェックすることを可能にする。レーザデバイス22は、ステップ222において浮遊物を断片化するために、後方層から前方層に、レーザパルスを方向付けて層を形成する。
【0073】
本明細書に開示のシステム及び装置の(制御コンピュータ等の)構成要素は、インターフェース、ロジック、及び/又はメモリを含んでいてもよく、これらのうちの任意のものは、コンピュータハードウェア及び/又はソフトウェアを含み得る。インターフェースは、構成要素への入力を受信し、且つ/又は構成要素から出力を送信することができ、通常、例えばソフトウェア、ハードウェア、周辺機器、ユーザ及びこれらの組み合わせ間で情報を交換するために使用される。ユーザインターフェースは、コンピュータと通信する(例えば、コンピュータに入力を送信する及び/又はコンピュータから出力を受信する)ためにユーザが利用できるインターフェースの一種である。ユーザインターフェースの例としては、ディスプレイ、グラフィカルユーザインターフェース(GUI)、タッチスクリーン、キーボード、マウス、ジェスチャセンサ、マイク、及びスピーカが挙げられる。
【0074】
ロジックは、構成要素の操作を行うことができる。ロジックは、データを処理する、例えば命令を実行して入力から出力を生成する1つ以上の電子デバイスを含み得る。かかる電子デバイスの例としては、コンピュータ、プロセッサ、マイクロプロセッサ(例えば中央処理ユニット(CPU))、及びコンピュータチップが挙げられる。ロジックは、操作を行うために電子デバイスにより実行されることができる命令を符号化するコンピュータソフトウェアを含み得る。コンピュータソフトウェアの例としては、コンピュータプログラム、アプリケーション、及びオペレーティングシステムが挙げられる。
【0075】
メモリは、情報を記憶することができ、有形のコンピュータ可読及び/又はコンピュータ実行可能なストレージ媒体を含み得る。メモリの例としては、コンピュータメモリ(例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)又は読み出し専用メモリ(ROM))、マスストレージメディア(例えば、ハードディスク)、リムーバブルストレージメディア(例えば、コンパクトディスク(CD)又はデジタルビデオ若しくは多用途ディスク(DVD))、データベース、ネットワークストレージ(例えば、サーバ)、及び/又は他のコンピュータ可読媒体が挙げられる。特定の実施形態は、コンピュータソフトウェアを用いて符号化されたメモリを対象とし得る。
【0076】
特定の実施形態に関して本開示を説明してきたが、実施形態の修正形態(例えば、変更形態、置換形態、追加形態、省略形態及び/又は他の修正形態)が、当業者には明らかになろう。従って、本発明の範囲から逸脱することなく、実施形態に対する修正がなされ得る。例えば、本明細書で開示されたシステム及び装置に対する修正がなされ得る。当業者に明らかであるように、システム及び装置の構成要素は、統合若しくは分離され得る、又はシステム及び装置の動作は、より多い、より少ない、若しくは他の構成要素によって実行され得る。別の例として、本明細書で開示された方法に対する修正がなされ得る。当業者に明らかであるように、方法は、より多い、より少ない、又は他のステップを含み得、ステップは、任意の適当な順序で実行され得る。
【0077】
請求項を解釈する際に特許庁及び読者を助けるために、本出願人らは、用語「のための手段(means for)」又は「のためのステップ(step for)」が特定請求項において明示的に使用されない限り、請求項又は請求要素のいかなるものも合衆国法典第35巻§112条(f)を想起させるように意図されてはいないということを注記する。請求項内の任意の他の用語(例えば、「機構」、「モジュール」、「デバイス」、「ユニット」、「構成要素」、「要素」、「部材」、「装置」、「機械」、「システム」、「プロセッサ」、又は「コントローラ」)の使用は、当業者にとって既知の構造を指すものと本出願人らにより理解され、従って合衆国法典第35巻§112条(f)を想起させるように意図されていない。
【国際調査報告】