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特表2024-542023ファブリー病の治療のためのウイルスベクター構築物の使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ファブリー病の治療のためのウイルスベクター構築物の使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/76 20150101AFI20241106BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 38/47 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241106BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 31/439 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20241106BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20241106BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
A61K35/76 ZNA
A61P3/00
A61P17/00
A61P27/02
A61P25/04
A61P9/04
A61P13/12
A61P9/10
A61K38/17
A61K38/47
A61P35/00
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/10
A61K31/573
A61P27/16
A61K48/00
A61K9/127
A61K9/12
A61K31/445
A61K31/439
A61K31/517
C12N15/864 100Z
C12N15/12
C12N15/56
G01N33/53 D
G01N33/543 545A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525636
(86)(22)【出願日】2022-11-03
(85)【翻訳文提出日】2024-05-14
(86)【国際出願番号】 US2022079249
(87)【国際公開番号】W WO2023081781
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】63/275,390
(32)【優先日】2021-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/373,826
(32)【優先日】2022-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523443180
【氏名又は名称】サンガモ セラピューティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】パッサラクア,クリストバル
(72)【発明者】
【氏名】ヒューストン,マーシャル
(72)【発明者】
【氏名】スベルビエール,ベルナード
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA19
4C076BB13
4C076CC10
4C076CC11
4C076CC21
4C076CC27
4C076DD23
4C076DD26Z
4C076DD67
4C076EE23
4C076EE49
4C084AA02
4C084AA13
4C084DC22
4C084MA17
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA08
4C084ZA33
4C084ZA34
4C084ZA36
4C084ZA81
4C084ZA89
4C084ZB26
4C084ZC21
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086BC46
4C086CB09
4C086DA10
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA08
4C086ZA33
4C086ZA34
4C086ZA36
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZB26
4C086ZC21
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087MA17
4C087MA55
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA08
4C087ZA33
4C087ZA34
4C087ZA36
4C087ZA81
4C087ZA89
4C087ZB26
4C087ZC21
(57)【要約】
本開示は、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子を含む、α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む発現ベクター(例えば、AAV発現ベクター)を投与することにより、ファブリー病の1つ以上の症状を治療または改善すること、スフィンゴ糖脂質の量を減少させること、及び/または、α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)タンパク質の活性を増加させることを、それを必要とする対象において行うための方法に関する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファブリー病を治療すること、またはファブリー病に関連する1つ以上の症状を改善することを、それを必要とするヒト対象において行う方法であって、前記方法は、アルファ1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターに作動可能に連結されたアポリポタンパク質E(APOE)エンハンサー、ヒトヘモグロビンベータ(HBB)-IGGイントロン、シグナルペプチドをコードする配列、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子、及び、ウシ成長ホルモンポリAシグナル配列を含む、αガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを前記対象に投与することを含み、前記AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与される、前記方法。
【請求項2】
ファブリー病を治療すること、またはファブリー病に関連する1つ以上の症状を改善することを、それを必要とするヒト対象において行う方法であって、前記方法は、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子を含む、α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを前記対象に投与することを含み、前記α-Gal A導入遺伝子は、配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含み、前記AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与される、前記方法。
【請求項3】
スフィンゴ糖脂質の量を減少させることを、それを必要とするヒト対象において行う方法であって、前記方法は、アルファ1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターに作動可能に連結されたアポリポタンパク質E(APOE)エンハンサー、ヒトヘモグロビンベータ(HBB)-IGGイントロン、シグナルペプチドをコードする配列、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子、及び、ウシ成長ホルモンポリAシグナル配列を含む、αガラクトシダーゼA(α-GalA)発現カセットを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを前記対象に投与することを含み、前記AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与され、前記減少したスフィンゴ糖脂質の量は、前記投与前の前記対象における前記スフィンゴ糖脂質の量に対する、前記方法。
【請求項4】
スフィンゴ糖脂質の量を減少させることを、それを必要とするヒト対象において行う方法であって、前記方法は、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子を含むα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含むアデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを前記対象に投与することを含み、前記α-Gal A導入遺伝子は、配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含み、前記AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与され、前記減少したスフィンゴ糖脂質の量は、前記投与前の前記対象における前記スフィンゴ糖脂質の量に対する、前記方法。
【請求項5】
α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)タンパク質の活性を増加させることを、それを必要とするヒト対象において行う方法であって、前記方法は、アルファ1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターに作動可能に連結されたアポリポタンパク質E(APOE)エンハンサー、ヒトヘモグロビンベータ(HBB)-IGGイントロン、シグナルペプチドをコードする配列、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードする前記α-Gal A導入遺伝子、及びウシ成長ホルモンポリAシグナル配列を含む、αガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを前記対象に投与することを含み、前記AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与され、前記増加したα-Gal Aタンパク質の活性は、前記投与前の前記対象におけるα-Gal Aタンパク質の活性に対する、前記方法。
【請求項6】
α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)タンパク質の活性を増加させることを、それを必要とするヒト対象において行う方法であって、前記方法は、前記少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-Gal A導入遺伝子を含むα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを前記対象に投与することを含み、前記α-Gal A導入遺伝子は、配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含み、前記AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与され、前記増加したα-Gal Aタンパク質の活性は、前記投与前の前記対象におけるα-Gal Aタンパク質の活性に対する、前記方法。
【請求項7】
前記対象が、ファブリー病に罹患している、請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記α-Gal A発現カセットが、変異したウッドチャック肝炎ウイルス(WHV)転写後調節要素(WPRE)配列をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記変異WPRE配列が、mut6変異WPRE配列を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記α-Gal A発現カセットが、アルファ1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターに作動可能に連結されたアポリポタンパク質E(APOE)エンハンサー、ヒトヘモグロビンベータ(HBB)-IGGイントロン、シグナルペプチドをコードする配列、及びウシ成長ホルモンポリAシグナル配列をさらに含む、請求項2、4、及び6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記導入遺伝子が、野生型α-Gal A配列またはコドン最適化α-Gal A配列を含む、請求項1、3、及び5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記シグナルペプチドが、α-Gal Aシグナルペプチドである、請求項1、3、5、10、及び11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記エンハンサーが、配列番号2に記載の前記ヌクレオチド配列を含み、前記プロモーターが、配列番号3に記載の前記ヌクレオチド配列を含み、前記イントロンが配列番号4に記載の前記ヌクレオチド配列を含み、前記α-Gal A導入遺伝子が配列番号5に記載の前記ヌクレオチド配列を含み、前記変異WPRE配列が、配列番号6に記載の前記ヌクレオチド配列を含み、前記ポリAシグナル配列が、配列番号7に記載の前記ヌクレオチド配列を含む、請求項8または9に記載の方法。
【請求項14】
前記エンハンサーが、配列番号2に記載の前記ヌクレオチド配列を含み、前記プロモーターが、配列番号3に記載の前記ヌクレオチド配列を含み、前記イントロンが、配列番号4に記載の前記ヌクレオチド配列を含み、前記変異WPRE配列が、配列番号6に記載の前記ヌクレオチド配列を含み、前記ポリAシグナル配列が、配列番号7に記載の前記ヌクレオチド配列を含む、請求項8または9に記載の方法。
【請求項15】
前記α-Gal A発現カセットが、配列番号9に記載の前記ヌクレオチド配列を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記AAV発現ベクター血清型が、AAV2/6である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記対象が、正常値を超えるグロボトリアオシルセラミド(Gb3)レベル、正常値を超えるグロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)レベル、腎疾患、心臓病、無汗症、肢端感覚異常、被角血管腫、胃腸(GI)管の痛み、角膜及び水晶体の混濁、または脳血管疾患のうちの1つ以上の症状を有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記被角血管腫が、臍周囲被角血管腫である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記対象が、約5%未満のα-Gal Aタンパク質活性を有する、請求項5~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記α-Gal Aタンパク質活性が、前記対象の血漿及び/または白血球において測定される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記対象が、男性対象である、請求項1~20のいずれかに一項に記載の方法。
【請求項22】
前記対象が、女性対象である、請求項1~20のいずれかに一項に記載の方法。
【請求項23】
前記対象が、ファブリー病を示すα-Gal A遺伝子変異を有する、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記対象が、酵素補充療法(ERT)ナイーブ対象である、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記対象が、投与前に、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって決定される、既存の抗α-Gal A抗体を有する、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記対象の生物学的サンプルを分析すると、前記対象が、抗α-Gal A中和抗体陽性対象であり、前記抗α-Gal A中和抗体陽性対象は、抗α-Gal A中和抗体アッセイによって測定されるα-ガラクトシダーゼA活性の阻害が約9.6%を超える生物学的サンプルを有する、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記導入遺伝子から発現された前記α-Gal Aタンパク質が、前記投与前の前記対象におけるスフィンゴ糖脂質の量と比較して、前記対象における前記スフィンゴ糖脂質の量を少なくとも約2倍減少させる、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記導入遺伝子から発現された前記α-Gal Aタンパク質が、前記投与前の前記対象におけるスフィンゴ糖脂質の量と比較して、前記対象における前記スフィンゴ糖脂質の量を、約10パーセント(%)、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%、約31%、約32%、約33%、約34%、約35%、約36%、約37%、約38%、約39%、約40%、約41%、約42%、約43%、約44%、約45%、約46%、約47%、約48%、約49%、約50%、約51%、約52%、約53%、約54%、約55%、約56%、約57%、約58%、約59%、約60%、約61%、約62%、約63%、約64%、約65%、約66%、約67%、約68%、約69%、約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約78%、約79%、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または約100%減少させる、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記導入遺伝子から発現された前記α-Gal Aタンパク質が、前記対象におけるスフィンゴ糖脂質の量を前記投与前と同じレベルに維持する、請求項1、2、及び5~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記スフィンゴ糖脂質が、グロボトリアオシルセラミド(Gb3)、グロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)、ガラビオシルセラミド、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項3、4、及び7~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
Gb3及び/またはlyso-Gb3レベルが、前記対象の血漿、組織、及び/または尿中で測定される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記導入遺伝子から発現される前記α-Gal Aタンパク質が、血漿、肝臓、心臓、腎臓、尿、皮膚、または脾臓のうちの1つ以上中の前記スフィンゴ糖脂質の量を減少させる、請求項1~28及び30~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記対象における前記α-Gal Aタンパク質活性が、前記投与前の前記対象の前記α-Gal Aタンパク質活性と比較して、平均正常α-Gal Aタンパク質活性よりも約0倍高い~約2倍高い、約2倍高い~約5倍高い、約5倍高い~約10倍高い、約10倍高い~約20倍高い、約20倍高い~約30倍高い、約30倍高い~約40倍高い、約30倍高い~約40倍高い、約40倍高い~約50倍高い、約50倍高い~約60倍高い、約60倍高い~約70倍高い、約70倍高い~約80倍高い、約80倍高い~約90倍高い、約90倍高い~約100倍高い、約100倍高い~約200倍高い、約200倍高い~約300倍高い、約300倍高い~約400倍高い、約400倍高い~約500倍高い、請求項5~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記対象における前記α-Gal Aタンパク質活性が、前記投与前の前記対象の前記α-Gal Aタンパク質活性と比較して、前記平均正常α-Gal Aタンパク質活性よりも約0倍高い~約2倍高い、約2倍高い、約3倍高い、約4倍高い、約5倍高い、約6倍高い、約7倍高い、約8倍高い、約9倍高い、約10倍高い、約11倍高い、約12倍高い、約13倍高い、約14倍高い、約15倍高い、約16倍高い、約17倍高い、約18倍高い、約19倍高い、約20倍高い、約21倍高い、約22倍高い、約23倍高い、約24倍高い、約25倍高い、約26倍高い、約27倍高い、約28倍高い、約29倍高い、約30倍高い、約31倍高い、約32倍高い、約33倍高い、約34倍高い、約35倍高い、約36倍高い、約37倍高い、約38倍高い、約39倍高い、約40倍高い、約41倍高い、約42倍高い、約43倍高い、約44倍高い、約45倍高い、約46倍高い、約47倍高い、約48倍高い、約49倍高い、約50倍高い、約51倍高い、約52倍高い、約53倍高い、約54倍高い、約55倍高い、約56倍高い、約57倍高い、約58倍高い、約59倍高い、約60倍高い、約61倍高い、約62倍高い、約63倍高い、約64倍高い、約65倍高い、約66倍高い、約67倍高い、約68倍高い、約69倍高い、約70倍高い、約71倍高い、約72倍高い、約73倍高い、約74倍高い、約75倍高い、約76倍高い、約77倍高い、約78倍高い、約79倍高い、約80倍高い、約81倍高い、約82倍高い、約83倍高い、約84倍高い、約85倍高い、約86倍高い、約87倍高い、約88倍高い、約89倍高い、約90倍高い、約91倍高い、約92倍高い、約93倍高い、約94倍高い、約95倍高い、約96倍高い、約97倍高い、約98倍高い、約99倍高い、または約100倍高い、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記導入遺伝子から発現される前記α-Gal Aタンパク質のレベルが、前記対象の血漿、血清、全血、乾燥血液スポット、白血球、またはその他の血液成分の1つ以上で測定される、請求項1~34にいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記導入遺伝子から発現される前記α-Gal Aタンパク質が、前記対象の腎臓、肝臓、皮膚、及び心臓で活性である、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記AAV発現ベクターが、非経口投与される、請求項1~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記AAV発現ベクターが、静脈内投与される、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記AAV発現ベクターが、薬学的に許容される担体で投与される、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記薬学的に許容される担体が、CaCl、MgCl、NaCl、スクロース、及びKolliphor(ポロキサマー)P188を含有するリン酸緩衝食塩水を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記AAV発現ベクターが、1用量のみ前記対象に投与される、請求項1~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記AAV発現ベクターが、約5×1012vg/kgの用量で投与される、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記AAV発現ベクターが、約1×1013vg/kgの用量で投与される、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記AAV発現ベクターが、約3×1013vg/kgの用量で投与される、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記AAV発現ベクターが、約5×1013vg/kgの用量で投与される、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記対象が、前記AAV発現ベクターの投与前及び/または投与中に免疫抑制剤を投与される、請求項1~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記免疫抑制剤が、プレドニゾンを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記対象が、前記AAV発現ベクターの投与前及び/または投与中に免疫抑制剤を投与されない、請求項1~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記対象が、前記AAV発現ベクターの投与前にプレコンディショニング療法を施行されない、請求項1~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質の発現が、少なくとも3か月、少なくとも4か月、少なくとも5か月、少なくとも6か月、少なくとも7か月、少なくとも8か月、少なくとも9か月、少なくとも10か月、少なくとも11か月、少なくとも12か月、少なくとも13か月、少なくとも14か月、少なくとも15か月、少なくとも16か月、少なくとも17か月、少なくとも18か月、少なくとも19か月、少なくとも20か月、少なくとも21か月、少なくとも22か月、少なくとも23か月、または少なくとも24か月持続される、請求項1~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記投与後、前記対象において、慢性腎臓病疫学協力(CKD-EPI)方程式を使用して推算糸球体濾過量(eGFR)(ml/分/1.73m単位)が測定される、請求項1~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
年間eGFR低下率が、同等のファブリー病に罹患した未治療の対象よりも低い、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記投与後、前記対象において、一回拍出量(SV)/左室拡張末期容積(LVEDV)として駆出率(EF)が測定される、請求項1~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
年間EF低下率が、同等のファブリー病に罹患した未治療の対象よりも低い、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記投与後、前記対象において、2次元(2D)ひずみ心エコー検査または心臓磁気共鳴画像法(心臓MRIまたはCMR)によって全体縦方向ひずみ(GLS)が測定される、請求項1~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
心臓の筋肉の収縮性の年間短縮化進行が、同等のファブリー病に罹患した未治療の対象よりも低い、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記投与後、前記対象において、左室質量(LVM)/体表面積としての左室質量指数(LVMI)が測定される、請求項1~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
年間LVMI増加が、同等のファブリー病に罹患した未治療の対象における増加よりも低い、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記投与後、前記対象における1つ以上の聴覚症状が改善される、請求項1~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記1つ以上の聴覚症状が、耳鳴り、めまい、または進行性の難聴である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記対象の発汗レベルが、無汗症から低汗症または正常発汗へと好転した、請求項1~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記対象は、前記投与前にファブリー病に対する酵素補充療法(ERT)が施行されている(「前治療」)、請求項1~61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記前治療のための前記酵素補充療法が、組み換えα-ガラクトシダーゼA(GLA)タンパク質またはGALを発現する遺伝子を含む、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記前治療のための前記酵素補充療法が、ガラフォールド、AVR-RD-01、FLT-190、ペグニガルシダーゼアルファ、4D-310、またはそれらの任意の組み合わせを投与することを含む、請求項62または63に記載の方法。
【請求項65】
前記前治療のための前記酵素補充療法が、GLAの活性部位特異的シャペロン(ASSC)と組み合わせた組み換えα-ガラクトシダーゼA(GLA)タンパク質を含む、請求項62~64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
前記ASSCが、1-デオキシガラクトノジリマイシンである、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記前治療のための前記酵素補充療法が、アガルシダーゼアルファ及び/またはベータ、あるいはアガルシダーゼアルファ及び/またはベータを発現する遺伝子を含む、請求項62または63に記載の方法。
【請求項68】
前記前治療のための前記酵素補充療法が、ファブラザイム、リプレガル、PRX-102、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記前治療のための前記酵素補充療法が、遺伝子療法を含む、請求項63または68に記載の方法。
【請求項70】
前記遺伝子療法が、前記酵素をコードするベクターを含む、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記遺伝子療法が、AVR-RD-01、FLT-190、ペグニガルシダーゼアルファ、4D-310、またはそれらの任意の組み合わせを投与することを含む、請求項69に記載の方法。
【請求項72】
前記ベクターが、ヒトGLAタンパク質あるいはアガルシダーゼアルファ及び/またはベータをコードするmRNAを含む、請求項70に記載の方法。
【請求項73】
前記ベクターが、ウイルスベクターである、請求項70に記載の方法。
【請求項74】
前記ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレンチウイルスベクターを含む、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記遺伝子療法が、脂質ナノ粒子によって送達される、請求項69に記載の方法。
【請求項76】
前記対象が、前記投与前にファブリー病に対する非酵素補充療法が施行されている(「前治療」)、請求項1~61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
前記ファブリー病のための前記前治療療法が、ルセラスタット、ベングルスタット、アパベタロン、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
ファブリー病が、1型の古典型表現型または2型の遅発型表現型である方法、請求項1、2、及び7~77のいずれか一項に記載の方法。
【請求項79】
前記α-Gal A発現カセットが、逆位末端反復配列(ITR)と両端で隣接している、請求項1~78のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
前記ITRが、アデノ随伴ウイルス2型(AAV2)に由来する、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
前記AAV発現ベクターが、アデノ随伴ウイルス由来のカプシドとともにパッケージングされた前記α-Gal A発現カセットをさらに含む、請求項1~80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項82】
前記α-Gal A発現カセットが、アデノ随伴ウイルス6型(AAV6)由来のカプシドとともにパッケージングされている、請求項81に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月3日に出願された米国仮特許出願第63/275,390号、及び2022年8月29日に出願された米国仮特許出願第63/373,826号の出願日の利益を主張し、それら両方の全体内容は、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子的に提出された配列リストの参照
出願時に提出されたASCIIテキストファイル形式の電子提出配列リスト(名称:4341_024PC02_Seqlisting_ST26、サイズ:16,280バイト、作成日:2022年11月2日)の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本開示は、治療有効量の少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子を含む発現ベクター(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクター)を投与することにより、ファブリー病の1つ以上の症状を治療または改善すること、スフィンゴ糖脂質の量を減少させること、及び/または、α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)タンパク質の活性を増加させることを、それを必要とする対象において行うための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ファブリー病は、α-ガラクトシダーゼA(GLA)酵素の欠乏によって起こるX連鎖性リソソーム蓄積疾患である。その結果、グロボトリアオシルセラミド(Gb3)の末端α-ガラクトシル部分が加水分解されず、リソソームや細胞内の他の場所にGb3が蓄積される。初期の特徴的な臨床症状には、重度の神経障害性疼痛(肢端感覚異常)、皮膚病変(被角血管腫)、眼症状(渦巻状角膜混濁)が含まれる。高齢になると、心臓、腎臓、脳血管の合併症が重篤な病状を引き起こし、寿命を縮める原因となる。Desnick et al., α-Galactosidase A Deficiency: Fabry Disease, in: Beaudet et al. (Ed.), The Online Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, The McGraw-Hill Companies, Inc., New York, NY (2014);Van der Veen SJ et al., Mol Genet Metab. 126(2):162-168 (2019)。
【0005】
2001年以来、ファブリー病患者は、組み換え酵素(アガルシダーゼα及びアガルシダーゼβ)の注入に基づく2つの異なる酵素補充療法(ERT)で治療されてきた。Eng et al.,N Engl J Med 345:9-16(2001);Schiffmann et al.,JAMA285:2743-2749(2001);Lenders et al.,J Am Soc Nephrol.27(1):256-64(2016)。このような治療は症状を治療するだけで治癒させるものではないため、患者は生涯にわたってこれらのタンパク質を繰り返し投与されなければならない。
【0006】
試験によると、組み換え酵素の注入により抗GLA中和抗体が形成され、短期的な急性合併症が発生するだけでなく、治療阻害による長期的な悪影響も発生し、Gb3とlyso-Gb3の著しい減少につながる可能性があることを示唆している。Lenders et al.,J Am Soc Nephrol.27(1):256-64(2016)。典型的なファブリー病の男性患者の場合、ERTによる治療は、特に不可逆的な臓器障害の発症前に治療を開始すると、合併症の発生を遅らせる。しかし、ERT治療を受けた典型的な罹患男性患者の半数超が抗GLA中和抗体を発現する。女性患者及び非典型的な疾患表現型の患者では、投与された組み換え酵素に対する抗体形成が観察されるのはまれである。Van der Veen SJ et al.,Mol Genet Metab. 126(2):162-168 (2019)。
【0007】
したがって、例えば、発現した導入遺伝子でコードされた遺伝子産物を治療上適切なレベルで送達するためのゲノム編集による治療を含め、ファブリー病の治療に使用できる非ERT方法及び組成物の必要性が、依然として残されている。
【本開示の概要】
【0008】
いくつかの態様において、本明細書では、ファブリー病を治療すること、またはファブリー病に関連する1つ以上の症状を改善することを、それを必要とするヒト対象において行う方法が提供され、本方法は、アルファ1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターに作動可能に連結されたアポリポタンパク質E(APOE)エンハンサー、ヒトヘモグロビンベータ(HBB)-IGGイントロン、シグナルペプチドをコードする配列、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子、及び、ウシ成長ホルモンポリAシグナル配列を含む、αガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを対象に投与することを含み、AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与される。
【0009】
いくつかの態様において、本明細書では、ファブリー病を治療すること、またはファブリー病に関連する1つ以上の症状を改善することを、それを必要とするヒト対象において行う方法が提供され、本方法は、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子を含む、α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを対象に投与することを含み、α-Gal A導入遺伝子は、配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含み、AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与される。
【0010】
いくつかの態様において、本明細書では、スフィンゴ糖脂質の量を減少させることを、それを必要とするヒト対象において行う方法が提供され、本方法は、アルファ1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターに作動可能に連結されたアポリポタンパク質E(APOE)エンハンサー、ヒトヘモグロビンベータ(HBB)-IGGイントロン、シグナルペプチドをコードする配列、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子、及び、ウシ成長ホルモンポリAシグナル配列を含む、αガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを対象に投与することを含み、AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与され、減少したスフィンゴ糖脂質の量は、投与前の対象におけるスフィンゴ糖脂質の量に対する。
【0011】
いくつかの態様において、本明細書では、スフィンゴ糖脂質の量を減少させることを、それを必要とするヒト対象において行う方法が提供され、本方法は、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子を含むα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含むアデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを対象に投与することを含み、α-Gal A導入遺伝子は、配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含み、AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与され、減少したスフィンゴ糖脂質の量は、投与前の対象におけるスフィンゴ糖脂質の量に対する。
【0012】
いくつかの態様において、本明細書では、α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)タンパク質の活性を増加させることを、それを必要とするヒト対象において行う方法が提供され、本方法は、アルファ1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターに作動可能に連結されたアポリポタンパク質E(APOE)エンハンサー、ヒトヘモグロビンベータ(HBB)-IGGイントロン、シグナルペプチドをコードする配列、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-Gal A導入遺伝子、及びウシ成長ホルモンポリAシグナル配列を含む、αガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを対象に投与することを含み、AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与され、増加したα-Gal Aタンパク質の活性は、投与前の対象におけるα-Gal Aタンパク質の活性に対する。
【0013】
いくつかの態様において、本明細書では、α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)タンパク質の活性を増加させることを、それを必要とするヒト対象において行う方法が提供され、本方法は、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-Gal A導入遺伝子を含むα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを対象に投与することを含み、α-Gal A導入遺伝子は、配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含み、AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与され、増加したα-Gal Aタンパク質の活性は、投与前の対象におけるα-Gal Aタンパク質の活性に対する。
【0014】
いくつかの態様において、対象は、ファブリー病に罹患している。
【0015】
いくつかの態様において、α-Gal A発現カセットは、変異したウッドチャック肝炎ウイルス(WHV)転写後調節要素(WPRE)配列をさらに含む。
【0016】
いくつかの態様において、変異WPRE配列は、mut6変異WPRE配列を含む。
【0017】
いくつかの態様において、α-Gal A発現カセットは、アルファ1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターに作動可能に連結されたアポリポタンパク質E(APOE)エンハンサー、ヒトヘモグロビンベータ(HBB)-IGGイントロン、シグナルペプチドをコードする配列、及びウシ成長ホルモンポリAシグナル配列をさらに含む。
【0018】
いくつかの態様において、導入遺伝子は、野生型α-Gal A配列またはコドン最適化α-Gal A配列を含む。
【0019】
いくつかの態様において、シグナルペプチドは、α-Gal Aシグナルペプチドである。
【0020】
いくつかの態様において、エンハンサーは配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含み、プロモーターは配列番号3に記載のヌクレオチド配列を含み、イントロンは配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含み、α-Gal A導入遺伝子は配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含み、変異WPRE配列は配列番号6に記載のヌクレオチド配列を含み、ポリAシグナル配列は配列番号7に記載のヌクレオチド配列を含む。
【0021】
いくつかの態様において、エンハンサーは配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含み、プロモーターは配列番号3に記載のヌクレオチド配列を含み、イントロンは配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含み、変異WPRE配列は配列番号6に記載のヌクレオチド配列を含み、ポリAシグナル配列は配列番号7に記載のヌクレオチド配列を含む。
【0022】
いくつかの態様において、α-Gal A発現カセットは、配列番号9に記載のヌクレオチド配列を含む。
【0023】
いくつかの態様において、AAV発現ベクター血清型は、AAV2/6である。
【0024】
いくつかの態様において、α-Gal A発現カセットは、逆位末端反復配列(ITR)と両端で隣接している。いくつかの態様において、ITRは、アデノ随伴ウイルス2型(AAV2)に由来する。いくつかの態様において、AAV発現ベクターは、AAV2由来のITRと両端で隣接するα-Gal A発現カセットをさらに含み、α-Gal A発現カセットは、アデノ随伴ウイルス6型(AAV6)由来のカプシドとともにパッケージ化されている。
【0025】
いくつかの態様において、対象は、正常値を超えるグロボトリアオシルセラミド(Gb3)レベル、正常値を超えるグロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)レベル、腎疾患、心臓病、無汗症、肢端感覚異常、被角血管腫、胃腸(GI)管の痛み、角膜及び水晶体の混濁、または脳血管疾患のうちの1つ以上の症状を有する。いくつかの態様において、被角血管腫は、臍周囲被角血管腫である。
【0026】
いくつかの態様において、対象は、約5%未満のα-Gal Aタンパク質活性を有する。
【0027】
いくつかの態様において、α-Gal Aタンパク質活性は、対象の血漿及び/または白血球において測定される。
【0028】
いくつかの態様において、対象は、男性対象である。いくつかの態様において、対象は、女性対象である。
【0029】
いくつかの態様において、対象は、ファブリー病を示すα-Gal A遺伝子変異を有する。いくつかの態様において、α-Gal A遺伝子変異は、アミノ酸変異G261D、C422T、W340R、S297Y、Q283X、D215S、IVS5/c.801+3A>G、P362L、C422T、またはN34Sをもたらす。
【0030】
いくつかの態様において、対象は、投与前に、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって決定される、既存の抗α-Gal A抗体を有する。
【0031】
いくつかの態様において、対象の生物学的サンプルを分析すると、対象は、抗α-Gal A中和抗体陽性対象であり、抗α-Gal A中和抗体陽性対象は、抗α-Gal A中和抗体アッセイによって測定されるα-ガラクトシダーゼA活性の阻害が約9.6%を超える生物学的サンプルを有する。
【0032】
いくつかの態様において、導入遺伝子から発現されたα-Gal Aタンパク質は、投与前の対象におけるスフィンゴ糖脂質の量と比較して、対象におけるスフィンゴ糖脂質の量を少なくとも約2倍減少させる。
【0033】
いくつかの態様において、導入遺伝子から発現されたα-Gal Aタンパク質は、投与前の対象におけるスフィンゴ糖脂質の量と比較して、対象におけるスフィンゴ糖脂質の量を、約10パーセント(%)、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%、約31%、約32%、約33%、約34%、約35%、約36%、約37%、約38%、約39%、約40%、約41%、約42%、約43%、約44%、約45%、約46%、約47%、約48%、約49%、約50%、約51%、約52%、約53%、約54%、約55%、約56%、約57%、約58%、約59%、約60%、約61%、約62%、約63%、約64%、約65%、約66%、約67%、約68%、約69%、約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約78%、約79%、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または約100%減少させる。
【0034】
いくつかの態様において、導入遺伝子から発現されたα-Gal Aタンパク質は、対象におけるスフィンゴ糖脂質の量を投与前と同じレベルに維持する。
【0035】
いくつかの態様において、スフィンゴ糖脂質は、グロボトリアオシルセラミド(Gb3)、グロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)、ガラビオシルセラミド、またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0036】
いくつかの態様において、Gb3及び/またはlyso-Gb3レベルは、対象の血漿及び/または尿中で測定される。
【0037】
いくつかの態様において、Gb3及び/またはlyso-Gb3レベルは、対象の組織中で測定される。
【0038】
いくつかの態様において、導入遺伝子から発現されるα-Gal Aタンパク質は、血漿、肝臓、心臓、腎臓、尿、皮膚、または脾臓のうちの1つ以上中のスフィンゴ糖脂質の量を減少させる。
【0039】
いくつかの態様において、対象におけるα-Gal Aタンパク質活性は、投与前の対象のα-Gal Aタンパク質活性と比較して、平均正常α-Gal Aタンパク質活性よりも約0倍高い~約2倍高い、約2倍高い~約5倍高い、約5倍高い~約10倍高い、約10倍高い~約20倍高い、約20倍高い~約30倍高い、約30倍高い~約40倍高い、約30倍高い~約40倍高い、約40倍高い~約50倍高い、約50倍高い~約60倍高い、約60倍高い~約70倍高い、約70倍高い~約80倍高い、約80倍高い~約90倍高い、約90倍高い~約100倍高い、約100倍高い~約200倍高い、約200倍高い~約300倍高い、約300倍高い~約400倍高い、約400倍高い~約500倍高い。
【0040】
いくつかの態様において、対象におけるα-Gal Aタンパク質活性は、投与前の対象のα-Gal Aタンパク質活性と比較して、平均正常α-Gal Aタンパク質活性よりも約0倍高い~約2倍高い、約2倍高い、約3倍高い、約4倍高い、約5倍高い、約6倍高い、約7倍高い、約8倍高い、約9倍高い、約10倍高い、約11倍高い、約12倍高い、約13倍高い、約14倍高い、約15倍高い、約16倍高い、約17倍高い、約18倍高い、約19倍高い、約20倍高い、約21倍高い、約22倍高い、約23倍高い、約24倍高い、約25倍高い、約26倍高い、約27倍高い、約28倍高い、約29倍高い、約30倍高い、約31倍高い、約32倍高い、約33倍高い、約34倍高い、約35倍高い、約36倍高い、約37倍高い、約38倍高い、約39倍高い、約40倍高い、約41倍高い、約42倍高い、約43倍高い、約44倍高い、約45倍高い、約46倍高い、約47倍高い、約48倍高い、約49倍高い、約50倍高い、約51倍高い、約52倍高い、約53倍高い、約54倍高い、約55倍高い、約56倍高い、約57倍高い、約58倍高い、約59倍高い、約60倍高い、約61倍高い、約62倍高い、約63倍高い、約64倍高い、約65倍高い、約66倍高い、約67倍高い、約68倍高い、約69倍高い、約70倍高い、約71倍高い、約72倍高い、約73倍高い、約74倍高い、約75倍高い、約76倍高い、約77倍高い、約78倍高い、約79倍高い、約80倍高い、約81倍高い、約82倍高い、約83倍高い、約84倍高い、約85倍高い、約86倍高い、約87倍高い、約88倍高い、約89倍高い、約90倍高い、約91倍高い、約92倍高い、約93倍高い、約94倍高い、約95倍高い、約96倍高い、約97倍高い、約98倍高い、約99倍高い、または約100倍高い。
【0041】
いくつかの態様において、導入遺伝子から発現されるα-Gal Aタンパク質のレベルは、対象の血漿、血清、全血、乾燥血液スポット、白血球、またはその他の血液成分の1つ以上で測定される。
【0042】
いくつかの態様において、導入遺伝子から発現されるα-Gal Aタンパク質は、対象の腎臓、肝臓、皮膚、及び心臓で活性である。
【0043】
いくつかの態様において、AAV発現ベクターは、非経口的に投与される。いくつかの態様において、AAV発現ベクターは、静脈内投与される。
【0044】
いくつかの態様において、AAV発現ベクターは、薬学的に許容される担体で投与される。いくつかの態様において、薬学的に許容される担体は、CaCl、MgCl、NaCl、スクロース、及びKolliphor(ポロキサマー)P188を含有するリン酸緩衝食塩水を含む。
【0045】
いくつかの態様において、AAV発現ベクターが、1用量のみ対象に投与される。いくつかの態様において、AAV発現ベクターは、約5×1012vg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、AAV発現ベクターは、約1×1013vg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、AAV発現ベクターは、約3×1013vg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、AAV発現ベクターは、約5×1013vg/kgの用量で投与される。
【0046】
いくつかの態様において、対象には、AAV発現ベクターの投与前及び/または投与中に免疫抑制剤が投与される。いくつかの態様において、免疫抑制剤は、プレドニゾンを含む。
【0047】
いくつかの態様において、対象には、AAV発現ベクターの投与前及び/または投与中に免疫抑制剤が投与されない。
【0048】
いくつかの態様において、対象には、AAV発現ベクターの投与前にプレコンディショニング療法が施行されない。
【0049】
いくつかの態様において、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質の発現は、少なくとも3か月、少なくとも4か月、少なくとも5か月、少なくとも6か月、少なくとも7か月、少なくとも8か月、少なくとも9か月、少なくとも10か月、少なくとも11か月、少なくとも12か月、少なくとも13か月、少なくとも14か月、少なくとも15か月、少なくとも16か月、少なくとも17か月、少なくとも18か月、少なくとも19か月、少なくとも20か月、少なくとも21か月、少なくとも22か月、少なくとも23か月、または少なくとも24か月持続される。
【0050】
いくつかの態様において、投与後、対象において、慢性腎臓病疫学協力(CKD-EPI)方程式を使用して推算糸球体濾過量(eGFR)(ml/分/1.73m単位)が測定される。いくつかの態様において、年間eGFR低下率は、同等のファブリー病に罹患した未治療の対象よりも低い。
【0051】
いくつかの態様において、投与後、対象において、一回拍出量(SV)/左室拡張末期容積(LVEDV)として駆出率(EF)が測定される。いくつかの態様において、年間EF低下率は、同等のファブリー病に罹患した未治療の対象よりも低い。
【0052】
いくつかの態様において、投与後、対象において、2次元(2D)ひずみ心エコー検査または心臓磁気共鳴画像法(心臓MRIまたはCMR)によって全体縦方向ひずみ(GLS)が測定される。いくつかの態様において、心臓の筋肉の収縮性の年間短縮化進行は、同等のファブリー病に罹患した未治療の対象よりも低い。
【0053】
いくつかの態様において、投与後、対象において、心臓磁気共鳴画像法(心臓MRIまたはCMR)上のネイティブT1マッピングによって心筋の緩和時間が測定される。いくつかの態様において、緩和時間の年間減少は、同等のファブリー病に罹患した未治療の対象よりも低い。
【0054】
いくつかの態様において、投与後、対象において、心臓磁気共鳴画像法(心臓MRIまたはCMR)のT2マッピングによって心筋内の水分含有量の増加としての浮腫が測定される。いくつかの態様において、水分量の年間増加は、同等のファブリー病に罹患した未治療の対象よりも低い。
【0055】
いくつかの態様において、投与後、対象において、左室質量(LVM)/体表面積としての左室質量指数(LVMI)が測定される。いくつかの態様において、年間LVMI増加は、同等のファブリー病に罹患した未治療の対象よりも低い。
【0056】
いくつかの態様において、投与後、対象における1つ以上の聴覚症状が改善される。いくつかの態様において、1つ以上の聴覚症状は、耳鳴り、めまい、または進行性の難聴である。
【0057】
いくつかの態様において、対象の発汗レベルは、無汗症から低汗症または正常発汗へと好転した。
【0058】
いくつかの態様において、対象は、投与前にファブリー病に対する酵素補充療法(ERT)が施行されている(「前治療」)。いくつかの態様において、酵素補充療法は、組み換えα-ガラクトシダーゼA(GLA)タンパク質またはGALを発現する遺伝子を含む。いくつかの態様において、前治療のための酵素補充療法は、ガラフォールド、AVR-RD-01、FLT-190、ペグニガルシダーゼアルファ、4D-310、またはそれらの任意の組み合わせを投与することを含む。
【0059】
いくつかの態様において、前治療のための酵素補充療法は、GLAの活性部位特異的シャペロン(ASSC)と組み合わせた組み換えα-ガラクトシダーゼA(GLA)タンパク質を含む。いくつかの態様において、ASSCは、1-デオキシガラクトノジリマイシンである。
【0060】
いくつかの態様において、前治療のための酵素補充療法は、アガルシダーゼアルファ及び/またはベータ、あるいはアガルシダーゼアルファ及び/またはベータを発現する遺伝子を含む。いくつかの態様において、前治療のための酵素補充療法は、ファブラザイム、リプレガル、PRX-102、またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0061】
いくつかの態様において、前治療のための酵素補充療法は、遺伝子療法を含む。いくつかの態様において、遺伝子療法は、酵素をコードするベクターを含む。いくつかの態様において、遺伝子療法は、AVR-RD-01、FLT-190、ペグニガルシダーゼアルファ、4D-310、またはそれらの任意の組み合わせを投与することを含む。
【0062】
いくつかの態様において、ベクターは、ヒトGLAタンパク質あるいはアガルシダーゼアルファ及び/またはベータをコードするmRNAを含む。いくつかの態様において、ベクターは、ウイルスベクターである。いくつかの態様において、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレンチウイルスベクターを含む。いくつかの態様において、遺伝子療法は、脂質ナノ粒子によって送達される。
【0063】
いくつかの態様において、対象は、投与前にファブリー病に対する非酵素補充療法が施行されている(「前治療」)。いくつかの態様において、ファブリー病のための前治療療法は、ルセラスタット、ベングルスタット、アパベタロン、またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0064】
いくつかの態様において、ファブリー病は、1型の古典型表現型、または2型の遅発型表現型である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1】肝臓特異的調節エレメント(例えば、エンハンサー、プロモーター、イントロン)、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質(ヒトアルファガラクトシダーゼA)をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子、ウッドチャック肝炎ウイルス(WHV)転写後調節要素(WPREmut6)の変異型、ITR配列と隣接するポリアデニル化(ポリA)シグナル配列を含む、AAV-001ヒトαガラクトシダーゼA(hGLA)AAVカセットの概略図を示している。SPは、内因性hGLAシグナルペプチドを指す。カセット全体のサイズ(3321bp)でのさまざまな要素のサイズが示される。
図2】実施例1に記載されたファブリー病患者におけるAAV-001(AAV2/6ヒトα-Gal A遺伝子療法)の安全性及び寛容性を評価するための第1/2相、グローバル、非盲検、単回投与、用量範囲設定多施設試験の概略図である。
図3】患者1~9、コホート1~4、及び拡大コホートの患者10についての、ベースライン患者特性(年齢(年)、ERT状況、血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)、血漿lyso-Gb3(ng/ml)、主な疾患の兆候と症状、腎機能(eGFR)、既存のα-Gal A抗体、及びα-Gal Aアミノ酸変異)を示している。Ab=抗体、CKD-EPI=慢性腎臓病疫学協力、eGFR=推算糸球体濾過量、LOD=検出限界。*ベースライン値は、AAV-001投与直前の時点とみなされた。†eGFRはCKD-EPI(mL/分/1.73m)として測定した。
図4A】AAV-001治療に関連する安全性及び寛容性のデータを示している。すべての安全性データは、カットオフ日(最後の測定ポイントの日付など)時点で最初の2つの用量コホート(0.5e13vg/kg及び1e13vg/kg)の4人の患者から評価した。
図4B】AAV-001治療に関連する安全性及び寛容性のデータを示している。すべての安全性データは、カットオフ日時点で用量コホート1~3(0.5e13vg/kg、1.0e13vg/kg、及び3.0e13vg/kg)の5人の患者から評価した。追跡期間は4~52週間(対象1及び2は、52週間、対象3は、40週間、対象4は、25週間、対象5は、3週間)。MedDRA=医療規制用語集;vg/kg=体重1キログラムあたりのベクターゲノム数。
図4C】AAV-001治療に関連する安全性及び寛容性のデータを示している。すべての安全性データは、カットオフ日時点で用量コホート1~4(それぞれ0.5e13vg/kg、1.0e13vg/kg、3.0e13vg/kg、5.0e13vg/kg)の9人の患者から評価した。追跡期間は4週間~15か月。MedDRA=医療規制用語集;vg/kg=体重1キログラムあたりのベクターゲノム数。
図5A】実施例2に記載のように、患者1~4で測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)を示している。ERT=酵素補充療法、vg/kg=体重1キログラムあたりのベクターゲノム。
図5B】実施例2に記載のように、患者1~5で測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)を示している。ERT=酵素補充療法、vg/kg=体重1キログラムあたりのベクターゲノム。
図5C】実施例2に記載のように、患者1~8で測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)を示している。ERT=酵素補充療法、vg/kg=体重1キログラムあたりのベクターゲノム。
図6A】実施例2に記載のように、患者1におけるAAV-001投与後12週目及び48週目に測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)及びLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
図6B】実施例2に記載のように、患者1におけるAAV-001投与後52週目に測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)及びLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
図6C】実施例2に記載のように、患者1におけるAAV-001投与後経時的に測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)及びLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
図6D】実施例2に記載のように、患者2におけるAAV-001投与後12週目及び48週目に測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)及びLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
図6E】実施例2に記載のように、患者2におけるAAV-001投与後52週目に測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)及びLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
図6F】実施例2に記載のように、患者2におけるAAV-001投与後経時的に測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)及びLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
図6G】実施例2に記載のように、患者3におけるAAV-001投与後12週目及び28週目に測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)及びLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
図6H】実施例2に記載のように、患者3におけるAAV-001投与後40週目に測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)及び36週目に測定されたLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
図6I】実施例2に記載のように、患者3におけるAAV-001投与後経時的に測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)及びLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
図6J】実施例2に記載のように、患者4におけるAAV-001投与後12週目に測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)及びLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
図6K】実施例2に記載のように、患者4におけるAAV-001投与後経時的に測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)及びLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
図6L】実施例2に記載のように、患者4におけるAAV-001投与後25週目に測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)及び20週目に測定されたLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
図6M】実施例2に記載のように、患者5におけるAAV-001投与後経時的に測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)及びLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
図6N】実施例2に記載のように、患者6におけるAAV-001投与後経時的に測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)及びLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
図6O】実施例2に記載のように、患者7におけるAAV-001投与後経時的に測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)及びLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
図6P】実施例2に記載のように、患者8におけるAAV-001投与後経時的に測定された血漿α-Gal Aタンパク質活性(nmol/h/ml)及びLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
図6Q】実施例2に記載のように、患者9におけるAAV-001投与後経時的に測定されたLyso-Gb3濃度(ng/ml)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0066】
本開示は、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子を含む、α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む発現ベクター(例えば、AAV発現ベクター)を投与することにより、ファブリー病の1つ以上の症状を治療または改善すること、スフィンゴ糖脂質の量を減少させること、及び/または、α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)タンパク質の活性を増加させることを、それを必要とする対象において行うための方法に関する。
【0067】
I.定義
本開示が、より容易に理解されるために、いくつかの用語を最初に定義する。本出願で使用される場合、本書に明示的に別段の定めがある場合を除き、以下の各用語は以下に定める意味を持つ。さらなる定義は、本出願の全体を通して記載されている。
【0068】
「a」または「an」という語は、その実体の1つ以上を指すことに注意されたく、例えば、「核酸配列」は、特に明記しない限り、1つ以上の核酸配列を表すものと理解される。したがって、「a」(または「an」)、「1つ以上」、及び「少なくとも1つ」という用語は、本明細書では同義に使用され得る。
【0069】
さらに、本明細書で使用される「及び/または」は、指定された2つの機能またはコンポーネントのそれぞれが、他方の有無にかかわらず、具体的に開示されているものと解釈される。したがって、本明細書における「A及び/またはB」などの語句で使用される「及び/または」という用語は、「A及びB」、「AまたはB」、「A」(単独)、及び「B」(単独)を含むことを意図している。同様に、「A、B、及び/またはC」などの語句で使用される「及び/または」という用語は、次の各態様を包含することを意図している:A、B、及びC;A、B、またはC;AまたはC;AまたはB;BまたはC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);及びC(単独)。
【0070】
本明細書において「含む」という語で態様が説明されている場合には、「からなる」及び/または「本質的に~からなる」という用語で説明されている類似の態様も提供されていることが理解される。
【0071】
本明細書で使用される場合、「約」は、当業者が理解するとおりであり、その言葉が使用される文脈に応じてある程度変化するであろう。当業者にとって明白ではない用語の使用がある場合、その用語が使用される文脈を考慮して、「約」は、特定の値のプラスマイナス10%までを意味するであろう。
【0072】
数字または数字の列の前の「少なくとも」という用語は、「少なくとも」という用語に隣接する数字、及び文脈から明らかなように論理的に含まれる可能性がある後続の数字または整数すべてを含むものと理解される。例えば、核酸分子内のヌクレオチドの数は整数でなければならない。例えば、「21ヌクレオチドの核酸分子の少なくとも18ヌクレオチド」とは、18、19、20、または21ヌクレオチドが指定された特性を持つことを意味する。一連の数字または範囲の前に「少なくとも」がある場合、「少なくとも」は一連の数字または範囲の各数字を修飾できることが理解される。「少なくとも」もまた整数に限定されない(例えば、「少なくとも5%」には、有効数字の数を考慮せずに5.0%、5.1%、5.18%が含まれる)。
【0073】
本明細書で使用される場合、「以下」または「未満」は、フレーズに隣接する値、及び文脈から論理的にゼロより低い論理値または整数として理解される。一連の数字または範囲の前に「以下」がある場合、「以下」は一連の数字または範囲の各数字を修飾できることが理解される。
【0074】
本明細書で使用される場合、「免疫応答」という用語は、外来因子または異常細胞(例えば、ファブリー病細胞)に対する生物体内の生物学的応答を指し、この応答は、そのような因子/細胞及びそれらによって引き起こされる疾患から生物を保護する。免疫応答は、免疫系の細胞(例えば、Tリンパ球(T細胞)、Bリンパ球(B細胞)、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、好酸球、肥満細胞、樹状細胞、または好中球)及びこれらの細胞または肝臓によって生成される可溶性高分子(抗体、サイトカイン、及び補体を含む)の作用によって媒介され、侵入する病原体、病原体に感染した細胞もしくは組織、ファブリー病細胞、もしくはその他の異常な細胞、または自己免疫もしくは病理学的炎症の場合には正常なヒト細胞または組織を、選択的に標的とする、それに結合する、それを損傷する、それを破壊する、及び/またはそれを生物の体から排除する。いくつかの態様において、免疫反応には、例えば、エフェクターT細胞もしくはTh細胞(例えば、CD4+T細胞またはCD8+T細胞)などのT細胞の活性化もしくは阻害、または制御性T細胞(Treg細胞)の阻害が挙げられる。
【0075】
本明細書で使用される「ベクター」または「送達ベクター」という用語は、核酸分子であって、それが連結した別の核酸を輸送することができる核酸分子を指すよう意図される。「ベクター」または「送達ベクター」という用語には、in vitro、ex vivo、またはin vivoで細胞に核酸を導入するためのウイルス性及び非ウイルス性の両方のビヒクルが含まれる。例えば、プラスミド、改変された真核生物ウイルス、または改変された細菌ウイルスを含む多数のベクターが公知であり、当該技術分野で使用されている。1つの種類のベクターは「プラスミド」であり、これは、追加のDNAセグメントがライゲートされ得る環状二本鎖DNAループを指す。別の種類のベクターは、ウイルスベクターであり、追加のDNAセグメントがウイルスゲノムにライゲートされ得る。いくつかのベクターは、それらが導入される宿主細胞における自己複製が可能である(例えば、細菌起源の複製を有する細菌ベクター及びエピソーム性哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳類ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ得、それにより、宿主ゲノムとともに複製される。さらに、いくつかのベクターは、それらが操作的に連結された遺伝子の発現を司ることができる。そのようなベクターは、本明細書において、「組み換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」、他には「発現構築物」として知られる)と称される。一般に、組み換えDNA技法における利用される発現ベクターは、プラスミドの形態である場合が多い。本開示では、「プラスミド」及び「ベクター」は、プラスミドがベクターの最も一般的に使用される形態であるため、同義に使用され得る。ただし、同等の機能を果たす、ウイルスベクター(例えば、複製欠陥レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(「AAV」)、及びレンチウイルス)などの他の形式の発現ベクターも含まれる。
【0076】
「発現ベクター」または「発現構築物」という用語は、核酸をコードする配列の一部または全部が転写可能な核酸を含むあらゆる種類の遺伝子構築物を意味する。
【0077】
「ウイルスベクター」とは、例えば、タンパク質、ペプチド、及びオリゴヌクレオチド、またはそれらの複数など、目的の分子をコードするか、または含む1つ以上のポリヌクレオチド領域を含む配列を指す。ウイルスベクターは、遺伝物質を細胞に送達するために使用することができる。ウイルスベクターは、特定の用途に合わせて改変することができる。いくつかの態様において、本開示の送達ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、またはレトロウイルスベクターからなる群から選択されるウイルスベクターである。
【0078】
本明細書で使用される「アデノ随伴ウイルスベクター」または「AAVベクター」という用語は、アデノ随伴ウイルスの成分を含むか、またはそれに由来し、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞に感染するのに好適ないずれかのベクターを指す。AAVベクターという用語は、通常、ペイロードを含むAAV型ウイルス粒子またはビリオンを指す。AAVベクターは、血清型の組み合わせ(つまり、「擬型」AAV)を含むさまざまな血清型から、またはさまざまなゲノム(例えば、一本鎖または自己相補的)に由来することができる。
【0079】
本明細書で使用される用語「AAV2/6」、「rAAV2/6」、または「擬型AAV2/6」ベクターは、AAV2由来のITRと両端で隣接するα-Gal A発現カセットを含む本開示のAAV発現ベクター(例えば、AAV-001rAAVベクター)を指し、α-Gal A発現カセットはアデノ随伴ウイルス6型(AAV6)由来のカプシドでパッケージ化されている。
【0080】
さらに、AAVベクターは、複製欠陥及び/または標的化であり得る。本明細書で使用される場合、用語「アデノ随伴ウイルス」(AAV)には、AAV1型、AAV2型、AAV3型(3A型及び3B型を含む)、AAV4型、AAV5型、AAV6型、AAV7型、AAV8型、AAV9型、AAV10型、AAV11型、AAV12型、AAV13型、AAVrh8、AAVrh10、AAVrh.74、ヘビAAV、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、ヤギAAV、エビAAV、Gao et al.(J.Virol.78:6381(2004))及びMoris et al.(Virol.33:375(2004))で開示されるAAV血清型及び系統群、及び現在知られている、または今後発見されるその他のAAVが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、FIELDS et al.VIROLOGY,volume 2,chapter 69(4th ed.,Lippincott-Raven Publishers)を参照のこと。いくつかの態様において、「AAVベクター」には、既知のAAVベクターの誘導体が含まれる。いくつかの態様において、「AAVベクター」には、改変AAVベクターまたは人工AAVベクターが含まれる。いくつかの態様において、「AAVベクター」には、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)が含まれる。いくつかの態様において、AAV発現ベクター血清型は、AAV2/6である。
【0081】
いくつかの態様において、AAVベクターは、野生型AAV血清型配列に対して改変または変異される。
【0082】
好適なベクターへのポリヌクレオチドの挿入は、相補的な接着末端を有する選択されたベクターに適切なポリヌクレオチド断片を連結することによって達成することができる。ベクターは、ベクターを組み込んだ細胞の選択または識別を可能にする選択マーカーまたはレポーターをコードするように設計することができる。選択マーカーまたはレポーターの発現により、ベクターに含まれる他のコーディング領域を組み込み、発現する宿主細胞の識別及び/または選択が可能になる。当該技術分野で知られ、使用されている選択マーカー遺伝子の例としては、アンピシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ビアラホス除草剤、スルホンアミドなどに対する耐性を付与する遺伝子、及び表現型マーカーとして使用される遺伝子、すなわち、アントシアニン調節遺伝子、イソペンタニルトランスフェラーゼ遺伝子などが挙げられる。当技術分野で知られ、使用されているレポーターの例としては、ルシフェラーゼ(Luc)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β-ガラクトシダーゼ(LacZ)、β-グルクロニダーゼ(Gus)などが挙げられる。選択マーカーもレポーターとみなすことができる。いくつかの態様において、送達ベクターは、ウイルスベクター(例えば、AAVベクター)、プラスミド、脂質、タンパク質粒子、細菌ベクター、リソソーム、ウイルス様粒子、ポリマー粒子、エキソソーム、またはボールト粒子からなる群から選択される。
【0083】
本開示のいくつかの態様は、生物学的ベクターを対象としており、これには、ウイルス、特に弱毒化ウイルス及び/または複製欠損ウイルスが含まれ得る。
【0084】
本明細書で使用される場合、「プロモーター」という用語は、遺伝子の転写を開始するために必要な、細胞の機構によって認識されるDNA配列、または導入された合成機構を指す。「プロモーター」という用語は、細胞型特異的、組織特異的に制御可能、または外部シグナルまたは因子によって誘導可能なプロモーター依存性遺伝子発現に十分な核酸要素も包含することを意味し、このような要素は、ネイティブ遺伝子の5’領域または3’領域に配置され得る。いくつかの態様において、プロモーターは、恒常的に活性なプロモーター、細胞型特異的プロモーター、または誘導性プロモーターである。いくつかの態様において、プロモーターは、アルファ1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターである。
【0085】
いくつかの態様において、ベクター媒介導入遺伝子発現の特異性を高めるために、マイクロRNA標的配列が含まれる。例えば、Anja Geisler and Henry Fechner,World J Exp Med.,20;6(2):37-54(2016)を参照のこと。
【0086】
本明細書で使用される場合、「エンハンサー」という用語は、隣接する遺伝子の転写を刺激または阻害するシス作用要素である。転写を阻害するエンハンサーは「サイレンサー」とも称される。エンハンサーは、コード配列から最大数キロベースペア(kb)の距離にわたって、また転写領域の下流の位置から、どちらの方向でも機能することができる(例えば、コード配列に関連付けることができる)。いくつかの態様において、エンハンサーは、アポリポタンパク質E(APOE)エンハンサーである。いくつかの態様において、APOEエンハンサーは、hAATプロモーターに操作可能に連結されている。
【0087】
本明細書で使用される場合、「調節可能なプロモーター」という用語は、その活性がシスまたはトランス作用因子(例えば、外部シグナルまたはエージェントなどの誘導性プロモーター)によって影響を受ける任意のプロモーターである。
【0088】
本明細書で使用される場合、「構成的プロモーター」という用語は、ほとんどの場合、多くのまたはすべての組織/細胞型でRNA生成を指示する任意のプロモーターであり、例えば、哺乳動物細胞でクローン化されたDNAインサートの構成的発現をプロモートするヒトCMV前初期エンハンサー/プロモーター領域である。
【0089】
「転写調節タンパク質」、「転写調節因子」、及び「転写因子」という用語は、本明細書では同義に使用され、DNA応答要素に結合し、それによって関連する遺伝子の発現を転写的に調節する核タンパク質を指す。転写調節タンパク質は、通常、DNA応答要素に直接結合するが、場合によっては、DNA応答要素に結合する、またはDNA応答要素に結合される別のタンパク質に結合することによって、DNAへの結合が間接的になることもある。
【0090】
本明細書で使用される場合、「終結シグナル配列」という用語は、例えば、ポリアデニル化(ポリAまたはpA)シグナル配列など、RNAポリメラーゼに転写を終結させる任意の遺伝要素であり得る。ポリアデニル化シグナル配列は、RNA転写物のエンドヌクレアーゼ切断に必要な認識領域であり、その後にポリアデニル化コンセンサス配列AATAAAが続く。ポリアデニル化シグナル配列は、「ポリAサイト」、つまり、転写後ポリアデニル化によってアデニン残基が追加されるRNA転写物上のサイトを提供する。
【0091】
「操作的に連結された」、「操作的に挿入された」、「操作的に配置された」、「制御下にある」または「転写制御下にある」という用語は、プロモーターが核酸に対して正しい位置と方向にあり、RNAポリメラーゼの開始と遺伝子の発現を制御することを意味する。いくつかの態様において、「操作可能に連結された」という用語は、適切な分子(例えば、転写活性化タンパク質)が調節配列に結合したときに遺伝子発現を可能にするような方法でDNA配列と調節配列が連結されていることを意味する。いくつかの態様において、「操作可能に挿入された」という用語は、細胞に導入された目的のDNAが、導入されたDNAの転写及び翻訳を指示する(つまり、目的のDNAによってコードされるポリペプチドなどの生成を促進する)DNA配列に隣接して配置されていることを意味する。
【0092】
「コード配列」または特定の分子(例えば、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質)を「コードする」配列は、プロモーターなどの適切な調節配列に操作可能に連結されている場合、in vitroまたはin vivoでポリペプチドに転写される(DNAの場合)か、または翻訳される(mRNAの場合)核酸である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドン及び3’(カルボキシ)末端の翻訳終止コドンによって決定される。コード配列には、原核生物または真核生物のmRNA由来のcDNA、原核生物または真核生物のDNA由来のゲノムDNA配列、及び合成DNA配列が挙げられるが、これらに限定されない。転写終結配列は通常、コード配列の3’に位置する。
【0093】
本明細書で使用される「由来する」という用語は、特定の分子または生物から単離された、または特定の分子または生物を使用して作成された成分、または特定の分子または生物からの情報(例:アミノ酸または核酸配列)を指す。例えば、第2の核酸配列(例えば、別のAAVベクター)由来の酸配列(例えば、AAVベクター)には、第2の核酸配列のヌクレオチド配列と同一または実質的に類似するヌクレオチド配列が含まれ得る。
【0094】
本明細書に開示されるポリヌクレオチドの場合、由来種は、例えば、天然突然変異誘発、人工的誘導突然変異誘発、または人工的ランダム突然変異誘発によって得ることができる。ポリヌクレオチドを誘導するために使用される突然変異誘発は、意図的に方向付けられたもの、意図的にランダムなもの、またはそれらの混合であり得る。第1のポリヌクレオチドに由来する異なるポリヌクレオチドを生成されるためのポリヌクレオチドの変異誘発は、ランダムなイベント(例えば、ポリメラーゼの不一致によって引き起こされる)であり得、誘発されたポリヌクレオチドの識別は適切なスクリーニング方法によって行うことができる。
【0095】
本明細書で使用される場合、「変異」という用語は、遺伝子の構造が変化し、その結果、次の世代に伝達される可能性のある変種(「変異体」とも呼ばれる)が生じることを指す。遺伝子の変異は、DNA内の単一の塩基の置換、または遺伝子や染色体のより大きな部分の欠失、挿入、または再配置によって引き起こされ得る。
【0096】
「核酸」、「ポリヌクレオチド」、及び「オリゴヌクレオチド」という用語は、同義に使用され、線状または環状構造であり、かつ一本鎖または二本鎖形態のいずれかである、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを指す。本開示の目的のために、これらの用語は、ポリマーの長さに関して限定的であると解釈されるべきではない。これらの用語は、天然ヌクレオチドの既知の類似体、並びに塩基、糖、及び/またはリン酸塩部分(例えば、ホスホロチオエート骨格)で修飾されるヌクレオチドを包含し得る。概して、特定のヌクレオチドの類似体は、同一の塩基対合特異性を有し、すなわち、Aの類似体は、Tと塩基対合する。いくつかの態様において、核酸分子は相補的DNA(cDNA)であり得る。ポリヌクレオチドは、組み換え、酵素、または合成、例えば、固相化学合成とそれに続く精製によって製造することができる。ポリヌクレオチドまたは核酸の配列について言及する場合、共有結合したヌクレオチドまたはヌクレオシドの核酸塩基部分またはその修飾の配列または順序について言及している。
【0097】
本明細書で使用される「cDNA」という用語は、DNAまたはRNAのいずれかをテンプレートとして使用できるDNAポリメラーゼである逆転写酵素によって生成されるメッセンジャーRNA(mRNA)分子のDNAコピーである。
【0098】
本明細書で使用される「mRNA」という用語は、1つ以上のポリペプチド鎖のアミノ酸配列をコードする一本鎖RNAを指す。
【0099】
核酸は、細胞全体、細胞溶解物、または部分的に精製された形態もしくは実質的に純粋な形態で存在することができる。核酸は、アルカリ/SDS処理、CsClバンド法、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動法、その他当該分野で周知の標準技術によって、他の細胞成分または他の汚染物質、例えば、他の細胞核酸(例えば、染色体の他の部分)またはタンパク質から精製された場合、「単離」または「実質的に純粋」となる。F.Ausubel,et al.,ed.Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing and Wiley Interscience,New York(1987)を参照のこと。
【0100】
核酸、例えば、cDNAは、遺伝子配列を提供するための標準的な技術に従って変異させることができる。コード配列の場合、これらの変異は、必要に応じてアミノ酸配列に影響を与えることができる。特に、本明細書に記載の天然のV、D、J、定常、スイッチ、及びその他の本明細書に記載の配列と実質的に相同であるか、またはそれら由来のDNA配列が企図される(「由来」は、配列が別の配列と同一であるか、または別の配列から修飾されていることを示す)。
【0101】
本明細書で使用される「アンチセンス」という用語は、遺伝子、一次転写産物、または処理されたmRNAの全部または一部と十分に相補的であり、内因性遺伝子の発現を妨げる核酸を指す。「相補的」ポリヌクレオチドは、標準的なワトソン-クリック相補性規則に従って塩基対を形成できるポリヌクレオチドである。具体的には、プリンはピリミジンと塩基対を形成し、シトシンと対形成するグアニン(G:C)、及び、DNAの場合はチミンと対形成するアデニン(A:T)、またはRNAの場合はウラシルと対形成するアデニン(A:U)の組み合わせを形成する。2つのポリヌクレオチドは、それぞれが他方に実質的に相補的な領域を少なくとも1つ持っている限り、完全に相補的でなくても、互いにハイブリダイズできることが理解される。
【0102】
「アンチセンス鎖」及び「ガイド鎖」という用語は、標的配列、例えば、mRNAと実質的に相補的な領域を含むdsRNA、例えば、shRNAの鎖を指す。アンチセンス鎖は、標的特異的サイレンシングを誘導するために所望の標的mRNA配列と十分に相補的な配列、例えば、RNAi機構またはプロセスによる所望の標的mRNAの破壊を誘発するのに十分な相補性を有する。
【0103】
本明細書で使用される「センス鎖」及び「パッセンジャー鎖」という用語は、用語が本明細書で定義されているアンチセンス鎖の領域と実質的に相補的な領域を含むdsRNA、例えばshRNAの鎖を指す。例えば、dsRNAのアンチセンス鎖及びセンス鎖、例えば、shRNAは、ハイブリダイズして二重鎖構造を形成する。
【0104】
本明細書で使用される「遺伝子」という用語は、遺伝子産物をコードするDNA領域、並びに遺伝子産物の産生を調節するすべてのDNA領域(そのような調節配列がコード配列及び/または転写配列に隣接するか否かにかかわらず)を含む。したがって、遺伝子は、プロモーター配列、ターミネーター、翻訳調節配列(リボソーム結合部位及び内部リボソーム進入部位等)、エンハンサー、サイレンサー、インシュレーター、境界要素、複製起点、マトリックス付着部位、及び遺伝子座制御領域を含むが、必ずしもこれらに限定されない。
【0105】
本明細書で使用される「導入遺伝子」という用語は、ある生物に由来するDNAのセグメントが別の生物のゲノムに導入されたものを指す。導入遺伝子は、さまざまな方法で細胞に送達されてもよく、それにより導入遺伝子細胞自身のゲノムに組み込まれてそこで維持される。近年、部位特異的ヌクレアーゼでの切断を用いて選択されたゲノム遺伝子座へ標的挿入する導入遺伝子組込みの戦略が開発されている(例えば、米国特許第7,888,121号を参照のこと)。ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、またはRNA誘導CRISPR/Cas系(設計されたガイドRNAを使用)などのヌクレアーゼ系は、標的遺伝子に特異的であり、相同組み換え修復(HDR)または非相同末端結合(NHEJ)駆動プロセス中の末端捕捉のいずれかによって導入遺伝子構築物が挿入されるように利用することができる。例えば、米国特許第9,394,545号、同第9,255,250号、同第9,200,266号、同第9,045,763号、同第9,005,973号、同第9,150,847号、同第8,956,828号、同第8,945,868号、同第8,703,489号、同第8,586,526号、同第6,534,261号、同第6,599,692号、同第6,503,717号、同第6,689,558号、同第7,067,317号、同第7,262,054号、同第7,888,121号、同第7,972,854号、同第7,914,796号、同第7,951,925号、同第8,110,379号、同第8,409,861号、米国特許公開第20030232410号、同第20050208489号、同第20050026157号、同第20050064474号、同第20060063231号、同第20080159996号、同第201000218264号、同第20120017290号、同第20110265198号、同第20130137104号、同第20130122591号、同第20130177983号、同第20130196373号、同第20140120622号、同第20150056705号、同第20150335708号、同第20160030477号、及び同第20160024474を参照されたく、その開示内容は全体として参照により組み込まれる。
【0106】
導入遺伝子は、さまざまな方法で細胞に導入され、維持され得る。「cDNA」アプローチに従って、導入遺伝子は、細胞のクロマチンへの統合ではなく、染色体外で維持されるように細胞に導入される。導入遺伝子は、環状ベクター(例えば、プラスミド、またはAAVもしくはレンチウイルスなどの非組込み型ウイルスベクター)上で維持することができ、ベクターには、プロモーター、エンハンサー、ポリAシグナル配列、イントロン、及びスプライシングシグナルなどの転写調節配列を含めることができる(米国特許出願公開第20170119906号)。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子を含む。いくつかの態様において、本開示の導入遺伝子は、野生型α-Gal A配列またはコドン最適化α-Gal A配列を含む。いくつかの態様において、本開示のα-Gal A導入遺伝子は、配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含む。
【0107】
本明細書で使用される「遺伝子発現」という用語は、遺伝子に含まれる情報の遺伝子産物への変換を指す。遺伝子産物は、遺伝子の直接転写産物(例えば、mRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、構造RNA、もしくは任意の他の種類のRNA)、またはmRNAの翻訳によって産生されるタンパク質であり得る。遺伝子産物は、キャッピング、ポリアデニル化、メチル化、及び編集等のプロセスによって修飾されるRNA、並びに例えば、メチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、ADPリボシル化、ミリスチリル化、及びグリコシル化によって修飾されるタンパク質も含む。
【0108】
本明細書で使用される「GLA遺伝子」という用語は、本明細書で説明するように、少なくとも1つのα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)タンパク質をコードする。
【0109】
本明細書で使用される、遺伝子発現の「調節」という用語は、遺伝子の活性の変化を指す。発現の調節には、遺伝子活性及び遺伝子抑制が挙げられるが、これらに限定されない。ゲノム編集(例えば、切断、変更、不活性化、ランダム変異)は、発現を調節するために使用され得る。遺伝子不活性化とは、例えば、ZFP、TALE、またはCRISPR/Cas系を含まない細胞と比較して遺伝子発現が減少することを指す。したがって、遺伝子の不活性化は、部分的または完全なものであり得る。
【0110】
「目的とする領域」という用語は、例えば、遺伝子、または遺伝子内の非コード配列もしくは遺伝子に隣接した非コード配列等の細胞クロマチンの任意の領域であり、その中で外因性分子に結合することが望ましい。結合は、標的DNA切断及び/または標的組み換えを目的として行われ得る。目的とする領域は、例えば、染色体、エピソーム、小器官ゲノム(例えば、ミトコンドリア、葉緑体)、または感染ウイルスゲノムに存在し得る。目的とする領域は、遺伝子のコード領域内、転写された非コード領域(例えば、リーダー配列、トレーラー配列、もしくはイントロン等)内、またはコード領域の上流もしくは下流のいずれかの非転写領域内に存在し得る。目的とする領域は、単一のヌクレオチド対と同程度に小さいか、または最大2,000ヌクレオチド対長であり得るか、または任意の整数値のヌクレオチド対長であり得る。
【0111】
本明細書で使用される「真核細胞」という用語には、真菌細胞(酵母細胞など)、植物細胞、動物細胞、哺乳動物細胞、及びヒト細胞(例えば、肝細胞、筋細胞、赤血球など)(幹細胞(多能性及び多分化能)を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0112】
本明細書で使用される「分泌組織」という用語は、個々の細胞からの産物を、通常は上皮に由来するいくつかの種類の管腔に分泌する、動物における組織である。消化管に限局される分泌組織の例として、腸管、膵臓、及び胆嚢を裏打ちする細胞が挙げられる。他の分泌組織には、肝臓、目及び粘膜に関連する組織、例えば、唾液腺、乳腺、前立腺、下垂体、及び他の内分泌系のメンバーが含まれる。さらに、分泌組織は、分泌することができる組織型の個々の細胞を含む。
【0113】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」という用語は、単数の「ポリペプチド」及び複数の「ポリペプチド」を包含することを意図しており、アミノ酸の任意の鎖または2つ以上のアミノ酸の鎖を含む。したがって、本明細書で使用される場合、「ペプチド」、「ペプチドサブユニット」、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、「アミノ酸配列」、または2つ以上のアミノ酸の鎖を指すために使用されるその他の用語は、それぞれがより具体的な意味を持つ可能性がある場合でも、「ポリペプチド」の定義に含まれる。「ポリペプチド」という用語は、これらの用語のうちいずれかの代わりに、またはこれらの用語のうちいずれかと同義に使用され得る。この用語にはさらに、翻訳後または合成後の修飾、例えば、パルミトイル基の共役、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護基/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質分解による切断、または非天然アミノ酸による修飾を受けたポリペプチドも含まれる。本明細書で使用される「ペプチド」という用語は、全長ペプチド及びその断片、変種または誘導体を包含する。本明細書に開示される「ペプチド」は、半減期を延長するために、例えば、Fcドメインまたはアルブミンドメインなどの追加の成分を含む融合ポリペプチドの一部であり得る。本明細書に記載のペプチドは、さまざまな方法で誘導体化することもできる。本明細書に記載のペプチドは、例えば、パルミトイル基の結合を含む修飾を含み得る。
【0114】
本明細書で使用される場合、「その機能的断片」という用語は、完全なタンパク質に関連する1つ以上の機能(例えば、免疫応答の刺激、調節、制御、または修正)を依然として実行可能な、α-ガラクトシダーゼAタンパク質などのタンパク質の断片または部分を指す。
【0115】
「α-ガラクトシダーゼA」、「α-Gal A」、及び「GAL」という用語は同義に使用され、ガラクトースオリゴ糖、ガラクトマンナン、及びガラクトリピドを含む、α-D-ガラクトシドの末端の非還元α-D-ガラクトース残基の加水分解を含む、酵素活性を持つタンパク質を指す。いくつかの態様において、α-Gal Aは、IUBMB酵素命名法EC3.2.1.22に記載されている酵素を含む(例えば、Suzuki et al.,J.Biol.Chem.245:781-786(1970);Wiederschain,G.and Beyer,E.Dokl. Akad. Nauk S.S.S.R.231:486-488(1976)に記載されている)。いくつかの態様において、α-Gal Aは、ヒトGLA遺伝子、例えば、GenBank Accession No.NM_000169で定義されるヒトα-Gal A遺伝子を含む核酸によってコードされるタンパク質を含む。いくつかの態様において、α-Gal Aは、GenBank Accession No.NP_000160によって定義されるアミノ酸配列を含むタンパク質を含む。
【0116】
いくつかの態様において、GALは、α-Gal Aを内因的に発現する細胞から得ることができ、またはα-Gal Aは、組み換えヒトα-Gal A(rhα-Gal A)であり得る。いくつかの態様において、rhα-Gal Aは全長の野生型α-Gal Aである。いくつかの態様において、rhα-Gal Aは、野生型α-Gal Aに存在するアミノ酸残基のサブセットを含み、このサブセットには、基質結合及び/または基質還元のための活性部位を形成する野生型α-Gal Aのアミノ酸残基が含まれる。いくつかの態様において、rhα-Gal Aは、基質結合及び/または基質還元のための野生型α-Gal A活性部位、並びに野生型α-Gal Aに存在するか存在しない可能性のある他のアミノ酸残基を含む融合タンパク質である。
【0117】
α-Gal Aは、市販の供給元から入手することも、当業者に周知の合成技術によって得ることもできる。野生型酵素は、組み換え細胞発現系(例えば、CHO細胞などの哺乳動物細胞、または昆虫細胞、例えば、米国特許第5,580,757号、同第6,395,884号、同第6,458,574号、同第6,461,609号、同第6,210,666号、同第6,083,725号を参照のこと)、ヒト胎盤、または動物乳から精製することができる。
【0118】
医薬用途に好適なα-Gal Aを得るための他の合成技術は、例えば、米国特許第7,560,424号、同第7,396,811号、同第423,135号、同第6,534,300号、及び同第6,537,785号;米国公開出願第2009/0203575号、同第2009/0029467号、同第2008/0299640号、同第2008/0241118号、同第2006/0121018号、同第2005/0244400号、同第2007/0280925号、及び同第2004/0029779号、並びに、国際公開出願第2005/077093号に記載されている。
【0119】
いくつかの態様において、α-Gal Aは、ヒト細胞株で遺伝子工学技術によって生成されたアガルシダーゼアルファである。アガルシダーゼアルファは、Shire Plc(Dublin,Ireland)からReplagal(登録商標)として入手可能である。いくつかの態様において、α-Gal Aは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株で組み換えDNA技術によって生成されたアガルシダーゼベータである。アガルシダーゼベータは、Sanofi Genzyme(Cambridge,Mass.)からFabrazyme(商標登録)として入手可能である。いくつかの態様において、α-Gal Aは、ヒトα-Gal A遺伝子をコードする発現ベクターで形質転換されたCHO細胞で生成された組み換えヒトα-Gal Aである(JCR Pharmaceuticals Co.Ltd,(Japan))、JR-051として識別される。
【0120】
本明細書に記載のヒトα-Gal Aタンパク質と同一のアミノ酸配列を含むタンパク質に加えて、本開示は、それと「実質的に類似する」α-Gal Aタンパク質も包含する。ここで参照タンパク質と「実質的に類似」であると本明細書において説明されるタンパク質には、天然タンパク質の構造的及び機能的特徴の一部を保持しながらも、1つ以上のアミノ酸位置で天然アミノ酸配列と異なる(つまり、アミノ酸置換による)タンパク質が含まれる。
【0121】
天然の配列から変更されたタンパク質は、天然のタンパク質内のアミノ酸残基を置換し、所望の活性を有するタンパク質を選択することによって調製することができる。例えば、α-Gal Aタンパク質のアミノ酸残基を、他の残基で体系的に置換し、置換されたタンパク質を標準的なアッセイで試験して、ガラクトースオリゴ糖、ガラクトマンナン、及びガラクトリピドを含むα-D-ガラクトシド中の末端の非還元性α-D-ガラクトース残基を加水分解するタンパク質の能力、及び/またはファブリー病を治療または予防する能力に対するそのような置換の影響を評価することができる。
【0122】
いくつかの態様において、機能活性を保持するために、保存的アミノ酸置換が行われる。本明細書で使用される場合、「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基による置換を指す。類似の側鎖を有するアミノ酸残基ファミリーは、当該技術分野において定義されている。これらのファミリーとしては、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、ベータ分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が挙げられる。いくつかの態様において、α-Gal Aタンパク質内の予測される非必須アミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリーからの別のアミノ酸残基に置き換えられる。抗原結合を排除しないヌクレオチド及びアミノ酸の保存的置換を同定する方法は、当該技術分野で周知である(例えば、Brummell et al.,Biochem.32:1180-1187(1993);Kobayashi et al.Protein Eng.12(10):879-884(1999);及びBurks et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA94:412-417(1997)を参照のこと)。
【0123】
いくつかの態様において、本開示のα-Gal Aタンパク質は、本明細書に記載されるかまたは当該技術分野で周知のα-Gal Aタンパク質のアミノ酸配列と約70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である。
【0124】
2つの配列間の同一性パーセントは、ギャップの数、及び2つの配列の最適な整列のために導入する必要がある各ギャップの長さを考慮した配列によって共有される同一の位置の数の関数である(すなわち、相同%=同一の位置の数/位置の総数×100)。配列の比較及び2つの配列間の同一性パーセントの決定は、以下の非限定的な例に記載されるように、数学的アルゴリズムを使用して達成され得る。
【0125】
2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、GCGソフトウェアパッケージ(worldwideweb.gcg.comで入手可能)のGAPプログラムを使用して、NWSgapdna.CMPマトリックス及びギャップ重み40、50、60、70、または80、長さ重み1、2、3、4、5、または6を使用して決定することができる。2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の同一性パーセントは、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれているE.Meyers and W.Miller(CABIOS,4:11-17(1989))のアルゴリズムを使用して、PAM120重み残基テーブル、ギャップ長さペナルティ12、ギャップペナルティ4を使用して決定することもできる。さらに、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、GCGソフトウェアパッケージ(www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラムに組み込まれているNeedleman and Wunsch(J.Mol.Biol.(48):444-453(1970))のアルゴリズムを使用して、Blossum62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、ギャップ重み16、14、12、10、8、6、または4、長さ重みを1、2、3、4、5、または6を使用して決定することができる。
【0126】
本明細書に記載の核酸配列及びタンパク質配列は、例えば他のファミリーメンバーまたは関連配列を特定するために公共のデータベースに対して検索を行うための「クエリー配列」としてさらに使用してもよい。そのような検索は、Altschul,et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-10のNBLAST及びXBLASTプログラム(バージョン2.0)を用いて実施することができる。BLASTヌクレオチド検索を、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12を用いて実施して、本明細書に記載の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得ることができる。BLASTタンパク質検索を、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて実施して、本明細書に記載のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得ることができる。比較目的のためのギャップアライメントを得るために、Altschul et al.,(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402に記載のように利用することができる。BLAST及びGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメータ(例えば、XBLAST及びNBLAST)を使用してもよい。worldwideweb.ncbi.nlm.nih.govを参照のこと。
【0127】
「抗体」(Ab)には、抗原に特異的に結合し、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2つの重(H)鎖と2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質免疫グロブリン、またはその抗原結合部分が含まれるが、これらに限定されない。各H鎖は、重鎖可変領域(本明細書でVと略記される)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つの定常ドメインCH1、CH2、及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書でVと略記される)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つの定常ドメインCを含む。V及びV領域は、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域と共に散在する、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域に、さらに細分することができる。各V及びVは、3つのCDR及び4つのFRを含み、アミノ末端からカルボキシ末端へと、次の順序で配列される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4。重鎖と軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系のさまざまな細胞(例えば、エフェクター細胞)及び古典的な補体系の第1の成分(C1q)などの宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。例えば、「抗GAL抗体」という用語には、α-Gal Aに特異的に結合する2つの重鎖と2つの軽鎖を持つ完全な抗体と、完全な抗体の抗原結合部分が含まれる。
【0128】
免疫グロブリンは、IgA、分泌型IgA、IgG、IgMを含むがこれらに限定されない、一般に知られているアイソタイプのいずれかに由来し得る。IgGサブクラスも当業者には周知であり、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を含むがこれらに限定されない。「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子によってコード化される抗体のクラスまたはサブクラス(例えば、IgMまたはIgG1)を指す。「抗体」という用語には、例として、天然に存在する抗体と非天然に存在する抗体の両方、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体、キメラ抗体及びヒト化抗体、ヒトまたは非ヒト抗体、完全に合成された抗体、並びに、一本鎖抗体が挙げられる。非ヒト抗体は、組み換え方法によってヒト化され、ヒトにおける免疫原性を低減することができる。明示的に記載されていない場合、及び文脈上別段の記載がない限り、「抗体」という用語には、前述の免疫グロブリンのいずれかの抗原結合断片または抗原結合部分も含まれ、一価及び二価の断片または部分、及び一本鎖抗体も含まれる。
【0129】
「単離抗体」とは、異なる抗原特異性を有する他の抗体が実質的に含まれない抗体を指す(例えば、α-Gal Aに特異的に結合する単離抗体は、α-Gal A以外の抗原に特異的に結合する抗体が実質的に含まれない)。しかし、α-Gal Aに特異的に結合する単離抗体は、異なる種のα-Gal A分子など、他の抗原に対して交差反応性を示す可能性がある。さらに、単離された抗体には、他の細胞物質及び/または化学物質が実質的に含まれない可能性がある。
【0130】
「抗抗原抗体」とは、抗原に特異的に結合する抗体を指す。例えば、抗GAL抗体はGALに特異的に結合する。
【0131】
「抗GLA中和抗体」、「抗GLA NAb」、「抗薬物抗体」、「ADA」、「中和抗薬物抗体」、または「中和ADA」という用語は、α-Gal A酵素に結合して不活性化(中和)する抗体を指す。いくつかの態様において、抗GLA中和抗体が存在する場合、酵素補充療法は、血漿中の抗GLA中和抗体によって直接不活性化(中和)される(Linthorst et al.,Kidny Int 66:1589-1595(2004);Lenders et al.,J Allergy Clin Immunol 141:2289-2292.e7(2018))。
【0132】
抗体の「抗原結合部分」(「抗原結合断片」とも呼ばれる)は、抗体全体が結合する抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を指す。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体の断片によって行われ得ることが示されてきた。抗体、例えば、本明細書に記載の抗GLA3抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合断片の例としては、(i)Fab断片(パパイン切断からの断片)、または、V、V、LC、及びCH1ドメインからなる同様の一価の断片、(ii)F(ab’)2断片(パパイン切断からの断片)、または、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって連結される2つのFab断片を含む同様の二価の断片、(iii)V及びCH1ドメインからなるFd断片、(iv)抗体の単一アームのV及びVドメインからなるFv断片、(v)VドメインからなるdAb断片(Ward et al.,(1989)Nature341:544-546)、(vi)単離された相補性決定領域(CDR)、及び、(vii)合成リンカーによって任意に接合され得る2つ以上の単離されたCDRの組み合わせが挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメインV及びVは、別個の遺伝子によってコードされるが、それらは、組み換え法を使用して、それらが単一のタンパク質鎖として作製されることを可能にする合成リンカーによって、接合することができ、そのV及びV領域は対となって、一価の分子(一本鎖Fv(scFv)として知られる)を形成する;例えば、Bird et al.(1988)Science242:423-426;及びHuston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA85:5879-5883を参照のこと。かかる一本鎖抗体もまた、抗体の「抗原結合部分」という用語に包含されることが意図される。これらの抗体断片は、当業者に周知の従来の技術を使用して得られ、そしてこの断片は、インタクトな抗体と同じ様式で有用性についてスクリーニングされる。抗原結合部分は、組み換えDNA技術、または完全な免疫グロブリンの酵素的または化学的切断によって生成することができる。
【0133】
「結合親和性」は、概して、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位と、その結合パートナー(例えば、抗原)との間の非共有相互作用の合計の強度を指す。別段の指示がない限り、本明細書で使用される「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)の間の1:1の相互作用を反映する、固有結合親和性を指す。分子Xの、そのパートナーYに対する親和性は一般に、解離定数(K)によって表すことができる。親和性は、平衡解離定数(K)、平衡結合定数(K)を含むがこれらに限定されない、当該技術分野で周知のさまざまな方法で測定及び/または表現することができる。Kは、koff/konの商から計算され、モル濃度(M)として表され、一方、Kは、kon/koffの商から計算される。konは、例えば、抗体と抗原の結合速度定数を指し、koffは、例えば、抗体と抗原の解離を指す。kon及びkoffは、免疫アッセイ(例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA))、BIAcore(登録商標)、BLI(バイオレイヤー干渉法)、または速度論的排除アッセイ(KinExA(登録商標))などの当業者に周知の技術によって決定することができる。
【0134】
本明細書で使用される場合、「特異的に結合する」、「特異的に認識する」、「特異的結合」、「選択的結合」及び「選択的に結合する」という用語は、は、抗体の文脈における類似の用語であり、当業者が理解する結合に従って抗原(例えば、エピトープまたは免疫複合体)に結合する分子(例えば、抗体)を指す。例えば、抗原に特異的に結合する分子は、例えば、免疫アッセイ、BIAcore(登録商標)、KinExA(登録商標)3000機器(Sapidyne Instruments、Boise、ID)、または当該技術分野で周知の他のアッセイによって決定されるように、一般に低い親和性で、他のペプチドまたはポリペプチドに結合することができる。特定の態様において、抗原に特異的に結合する分子は、分子が別の抗原に結合するときのKよりも少なくとも2ログ、2.5ログ、3ログ、4ログまたはK超で抗原に結合する。
【0135】
抗体は通常、10-5~10-11M以下の解離定数(KD)に反映されるように、高い親和性で同族抗原に特異的に結合する。約10-4M超のKDは、通常、非特異的結合を示していると考えられる。本明細書で使用される場合、抗原に「特異的に結合する」抗体とは、抗原及び実質的に同一の抗原に高い親和性で結合する抗体を指し、これは、例えば、所定の抗原を使用するBIACORE(商標)2000機器における免疫アッセイ(例えば、ELISA)表面プラズモン共鳴(SPR)技術、またはBLI(バイオレイヤー干渉法)によって測定した場合に、10-7M以下、好ましくは10-8M以下、さらにより好ましくは10-9M以下、最も好ましくは10-8Mから10-10M以下のKDを有するが、無関係の抗原には高い親和性で結合しないことを意味する。
【0136】
本明細書で使用される「組み換え宿主細胞」(または単に「宿主細胞」)という用語は、細胞内に自然に存在しない核酸を含む細胞を指すことを意図しており、組み換え発現ベクターが導入された細胞であってもよい。このような用語は、特定の対象細胞だけではなく、そのような細胞の子孫も指すことを意図することを理解されたい。変異または環境的影響のいずれかに起因して、後続の世代においていくつかの修飾が起こる場合があるため、かかる子孫は、実際には、親細胞と同一でない場合があるが、本明細書で使用される用語「宿主細胞」の範囲内に依然として含まれる。
【0137】
本明細書で使用される場合、「結合」という用語は、2つ以上の分子の結合を指す。この結合は、共有結合性または非共有結合性であり得る。結合は、遺伝的なもの(すなわち、組み換え融合)でもあり得る。このような結合は、化学結合や組み換えタンパク質の生成など、当技術分野で認められたさまざまな技術を使用して実現することができる。
【0138】
「ファブリー病」という用語は、古典型ファブリー病、遅発性ファブリー病、及びα-Gal Aをコードする遺伝子に変異を有するヘミ接合体女性を指す。本明細書において使用される「ファブリー病」という用語には、対象が正常よりも低い内因性α-Gal A活性を示す任意の状況もさらに含む。ファブリー病は、アルファガラクトシダーゼA欠乏症、アンダーソン・ファブリー病、びまん性体部被角血管腫、びまん性被角血管腫、セラミドトリヘキソシダーゼ欠乏症、ファブリー病、GLA欠乏症、遺伝性異所性リピドーシスなど、多くの他の名前で呼ばれている。いくつかの態様において、ファブリー病は、1型の古典型表現型、または2型の遅発型表現型である。
【0139】
「酵素補充療法」または「ERT」という用語は、非天然の精製酵素を、そのような酵素(例えば、α-Gal A)が欠乏している個体に導入することを指す。投与される酵素は、天然源から、または組み換え発現によって得ることができる。この用語は、例えば、タンパク質不足を患っているなど、精製酵素の投与を必要とする、または精製酵素の投与から利益を受ける個人に精製酵素を導入することも指す。導入される酵素は、in vitroで生成された精製された組み換え酵素、または、例えば、胎盤または動物乳、または植物など、単離された組織もしくは液体から精製された酵素であり得る。
【0140】
「共製剤」という用語は、ERTに使用される酵素(例えば、ヒト組み換えα-Gal A酵素(rhα-Gal A))などの酵素を含む組成物を指し、それは、α-Gal A酵素の活性部位特異的シャペロン(ASSC)(例えば、1-デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ))と一緒に配合される。いくつかの態様において、ASSCは、1-デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)、または1-デオキシガラクトノジリマイシンの薬学的に許容される塩、エステル、もしくはプロドラッグである。いくつかの態様において、塩は、塩酸塩(すなわち、1-デオキシガラクトノジリマイシン-HCl)である。いくつかの態様において、対象を共製剤で治療することは、α-Gal A酵素及びASSCが共製剤の一部として同時に投与されるように、対象に共製剤を投与することを含む。
【0141】
「併用療法」という用語は、各療法を個別に実施した場合の効果と比較して結果が向上する療法を指す。併用療法における個々の療法は、同時にまたは連続して実施することができる。
【0142】
向上には、単独で実施した場合の療法によって達成された結果と比較して有利な結果をもたらし得る、さまざまな療法の効果の改善が含まれる。向上した効果及び向上した効果の判定は、時間的パラメータ(例えば、治療期間、回復時間、治療の長期的効果、または治療の可逆性);生物学的パラメータ(例えば、細胞数、細胞体積、細胞組成、組織体積、組織サイズ、組織組成);空間的パラメータ(例えば、組織強度、組織サイズ、または組織アクセシビリティ);及び生理学的パラメータ(例えば、身体の輪郭、痛み、不快感、回復時間、または目に見える痕跡)などのさまざまなパラメータによって測定できるが、これらに限定されない。向上した効果は、相乗的向上を含み得、向上した効果は、各療法を単独で実施した場合の相加効果を超えるものである。向上した効果はまた、相加的向上も含み得、向上した効果は、各療法を単独で実施した場合の相加効果と実質的に同等のものである。向上した効果は、相乗効果未満の効果も含み得、向上した効果は、各療法を単独で実行した場合の相加効果よりも低いが、それでも各療法を単独で実行した場合の効果よりは優れている。
【0143】
「適切な構造を安定化する」という用語は、化合物、ペプチド、またはその他の分子が、野生型タンパク質、またはin vitro及びin vivoで野生型の機能を発揮できる変異タンパク質と結合して、野生型または変異タンパク質の構造をその本来のまたは適切な形態として維持できる能力を指す。この効果は、(i)タンパク質の保存期間の延長、(ii)タンパク質単位/量あたりのより高い活性、(iii)より大きいin vivo有効性のうちの1つ以上を通じて実際に顕著となり得る。これは、発現中のERからの収量の増加、温度上昇による展開に対する抵抗の増加(例えば、熱安定性アッセイで決定される)、またはカオトロピック剤の存在など、同様の手段によって実験的に観察することができる。
【0144】
本明細書で使用される場合、「活性部位」という用語は、特定の生物学的活性を有するタンパク質の領域を指す。例えば、基質または他の結合パートナーに結合し、化学結合の形成と切断に直接関与するアミノ酸残基を提供する部位であり得る。本出願における活性部位は、酵素の触媒部位、抗体の抗原結合部位、受容体のリガンド結合ドメイン、調節因子の結合ドメイン、または分泌タンパク質の受容体結合ドメインを包含し得る。活性部位には、転写活性化、タンパク質間相互作用、または転写因子及び調節因子のDNA結合ドメインも含まれ得る。
【0145】
本明細書で使用される場合、「活性部位特異的シャペロン」という用語は、タンパク質の活性部位と特異的に可逆的に相互作用し、安定した分子構造の形成を促進するタンパク質、ペプチド、核酸、炭水化物などを含むあらゆる分子を指す。本明細書で使用される場合、「活性部位特異的シャペロン」には、Bip、カルネキシン、カルレティキュリンなどの細胞のERに存在する内因性の一般的なシャペロン、または重水素化水、DMSO、TMAOなどの一般的な非特異的化学シャペロンは含まれない。
【0146】
「非酵素補充療法」という用語は、酵素補充療法ではない療法(例えば、ファブリー病療法)を指す。非酵素補充療法には、小分子療法が含まれ得る。ファブリー病の小分子療法のためのいくつかの新たな医薬品開発戦略には、基質還元療法(SRT)、残留酵素活性化、GLAプロモーター活性化、タンパク質恒常性調節(プロテオスタシス)、及び化学シャペロン療法(CCT)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0147】
「免疫療法」という用語は、免疫応答を誘導、増強、抑制、または修正することを含む方法によって、疾患を患っているか、または疾患を罹患もしくは再発するリスクがある対象を治療することを指す。対象の「治療」または「療法」とは、疾患(ファブリー病など)に関連する症状、合併症、状態、または生化学的徴候の発症、進行、発達、重症度または再発を逆転、緩和、改善、阻害、遅延または予防することを目的として、対象に対して行われるあらゆる種類の介入またはプロセス、あるいは対象への活性剤の投与を指す。「免疫抑制療法」とは、対象の免疫応答を減少(軽減)させる治療法を指す。
【0148】
本明細書で使用される「細胞と接触させる」(例えば、細胞と本開示のAAV発現ベクターまたは組成物とを接触させる)という語句には、細胞と直接的または間接的に接触させることが含まれる。いくつかの態様において、細胞を本開示のAAV発現ベクターまたは組成物と接触させることは、細胞をin vitroで組成物またはAAVベクターと接触させること、または細胞をin vivoで本開示のAAVベクターまたは組成物と接触させることを含む。したがって、例えば、本開示のAAVベクターまたは組成物は、本方法を実行する個人によって細胞と物理的に接触させることができるか、または、代替的に、本開示のAAVベクターまたは組成物は、その後細胞と接触することを可能にするかまたは接触させる状況に置くことができる。
【0149】
いくつかの態様において、細胞をin vitroで接触させることは、例えば、細胞をAAVベクターとともにインキュベートすることによって行うことができる。いくつかの態様において、in vivoでの細胞との接触は、例えば、本開示のAAVベクターまたは組成物を細胞が存在する組織内またはその近くに注入することによって、または本開示のAAVベクターまたは組成物を別の領域、例えば、血流または皮下空間に注入することによって行われてもよく、それにより、薬剤はその後、接触する細胞が存在する組織に到達する。例えば、AAVベクターは、AAVベクターを目的の部位に誘導するリガンドにカプセル化及び/または結合することができる。としてin vitroとin vivoの組み合わせの接触方法も可能である。例えば、細胞を本開示のAAVベクターまたは組成物とin vitroで接触させ、その後、対象に移植することができる。
【0150】
いくつかの態様において、細胞を本開示のAAVベクターまたは組成物と接触させることには、細胞への取り込みまたは吸収を促進または実行することによって、本開示のAAVベクターまたは組成物を細胞に「導入する」または「送達する」(直接的または間接的に)ことが含まれる。本開示のAAVベクターまたは組成物を細胞に導入することは、in vitro及び/またはin vivoであり得る。例えば、in vivo導入の場合、本開示のAAVベクターまたは組成物は、特定の組織部位(例えば、治療効果が望まれる部位)に注入するか、または全身投与(例えば、治療効果が望まれる部位を標的としたAAVベクターの投与)することができる。細胞へのin vitro導入法としては、電気穿孔法及びリポフェクション法などの当該技術分野で周知の方法が挙げられる。
【0151】
本明細書で使用する場合、例えば、本明細書に開示されるAAVベクターまたは組成物の「有効量」、「治療有効量」、及び「十分な量」という用語は、ヒトを含む対象に投与された場合に、臨床結果を含む有益な結果または望ましい結果をもたらすのに十分な量を指し、したがって、「有効量」またはその同義語は、それが適用される文脈によって異なる。いくつかの態様において、薬剤(例えば、本明細書に開示されるAAVベクターまたは組成物)の治療有効量とは、対照と比較して対象において有益な結果または望ましい結果をもたらす量である。
【0152】
所与の薬剤(例えば、本明細書に開示されるAAVベクターまたは組成物)の量は、所与の薬剤、医薬製剤、投与経路、疾患もしくは障害の種類、対象の身元(例えば、年齢、性別、及び/または体重)または治療される宿主などのさまざまな要因に応じる量に対応する。
【0153】
本明細書で使用される場合、「遺伝子療法」という用語は、疾患を治療し、疾患の症状を軽減し、または疾患の可能性を軽減するために、核酸配列(例えば、本明細書に開示される免疫調節タンパク質(例えば、サイトカインまたはそのサブユニット)またはその機能的断片をコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含むポリヌクレオチド)を個体の細胞及び/または組織に挿入することである。遺伝子療法には、本質的に阻害性の、すなわち、望ましくないまたは異常な(例えば、病原性の)遺伝子またはタンパク質などの内因性遺伝子またはタンパク質の発現、活性または機能を阻害、減少または低減する導入遺伝子の挿入も含まれる。このような導入遺伝子は外因性であり得る。外因性分子または配列とは、治療対象となる細胞、組織、及び/または個体に通常は存在しない分子または配列であると理解される。後天性疾患と先天性疾患の両方が、遺伝子療法の対象である。
【0154】
本明細書で使用される、「予防有効量」という用語には、疾患または障害(例えば、ファブリー病)に罹患しているか、またはその素因がある対象に投与された場合、疾患または障害、または疾患または障害の1つ以上の症状を予防、軽減、または改善するのに十分な薬剤(例えば、本明細書に開示されるAAVベクターまたは組成物)の量を含む。病気または障害を改善することには、病気や障害の進行を遅らせたり、後に発症する病気や障害の重症度を軽減したりすることが含まれる。「予防有効量」は、薬剤(例えば、本開示のAAV発現ベクターまたは組成物)の特性、薬剤の投与方法、疾患のリスクの程度、及び治療対象となる患者の病歴、年齢、体重、家族歴、遺伝子構成、先行治療または同時治療の種類(ある場合)、及びその他の個人特性に応じて変化し得る。
【0155】
本明細書で使用される場合、「オフターゲット」とは、1つ以上の標的、遺伝子、または細胞転写物に対する意図しない影響を指す。
【0156】
本明細書において使用される場合、「in vitro」という用語は、生物(例えば、動物、植物、または微生物)の中ではなく、人工環境において、例えば、試験管もしくは反応容器中、細胞培養中、ペトリ皿中等で起こる事象を指す。
【0157】
本明細書において使用される場合、「in vivo」という用語は、生物(例えば、動物、植物、または微生物、またはその細胞及び組織)の中で起こる事象を指す。
【0158】
本明細書で使用される場合、「トランスフェクション」という用語は、外因性の核酸を細胞に導入する方法を指す。トランスフェクションの方法には、化学的方法、物理的処理、カチオン性脂質またはその混合物が挙げられるが、これらに限定されない。細胞にトランスフェクトできる物質のリストは膨大であり、例えば、siRNA、shRNA、センス配列及び/またはアンチセンス配列、1つ以上の遺伝子をコードし、ベクターなどの発現プラスミドに編成されたDNAなどが挙げられる。
【0159】
「タンパク質のレベルを決定する」とは、当該技術分野で周知の方法によって、直接的または間接的に、タンパク質、またはタンパク質をコードするmRNAを検出することを意味する。「直接決定する」とは、物理的実体または値を取得するためのプロセス(例えば、サンプルに対してアッセイまたはテストを実行する、または本明細書で定義されている用語としての「サンプルを分析する」)を実行することを意味する。「間接的に決定すること」は、別の団体または供給源(例えば、物理的実体または値を直接的に取得した第3者の研究室)から物理的実体または値を受領することを指す。タンパク質レベルを測定する方法には、概して、ウェスタンブロット法、免疫ブロット法、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、放射免疫測定法(RIA)、免疫沈降、免疫蛍光、表面プラズモン共鳴、化学発光、蛍光偏光、リン光、免疫組織化学分析、マトリクス支援レーザ脱離/イオン化飛行時間(MALDI-TOF)質量分析法、液体クロマトグラフィー(LC)質量分析法、マイクロサイトメトリ、顕微鏡法、蛍光活性化細胞分類(FACS)、及びフローサイトメトリ、並びに限定されないが、酵素活性または他のタンパク質パートナーとの相互作用を含む、タンパク質の性質に基づくアッセイが挙げられるが、それらに限定されない。mRNAレベルを測定する方法は、当該技術分野で周知である。
【0160】
本明細書で使用される「レベル」という用語は、任意に基準と比較した、タンパク質またはタンパク質をコードするmRNAのレベル/量または活性を指す。基準は、本明細書で定義されているように、任意の有用な基準であり得る。タンパク質のレベルは、質量/体積(例えば、g/dL、mg/mL、μg/mL、ng/mL)またはサンプル中の総タンパク質またはmRNAに対する割合で表すことができる。
【0161】
本明細書で使用される、タンパク質の「減少したレベル」または「低減されたレベル」という用語は、基準と比較したタンパク質レベルの減少/低減を意味する。本明細書において使用される、対象における「スフィンゴ糖脂質の量を減らす」という用語は、投与前の同じ対象におけるスフィンゴ糖脂質の量(ng/ml)と比較して、スフィンゴ糖脂質(例えば、グロボトリアオシルセラミド(Gb3)、グロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)、ガラビオシルセラミド、またはそれらの任意の組み合わせ)の量(ng/ml)が減少/低減することを意味する。スフィンゴ糖脂質の量(ng/ml)の減少/低減は、本明細書の以下の実施例2に記載されているように、ベースラインポイントから最後の測定ポイントまで測定される。いくつかの態様において、スフィンゴ糖脂質の量(例えば、lyso-Gb3濃度(ng/ml))は、本明細書の以下の実施例2に記載されているように、ベースラインポイントから最後の測定ポイントまで測定される。いくつかの態様において、スフィンゴ糖脂質の量(例えば、Gb3濃度(ng/ml))は、本明細書の以下の実施例2に記載されているように、ベースラインポイントから最後の測定ポイントまで測定される。本明細書で使用される「ベースラインポイント」という用語は、本開示のAAV発現ベクターまたは医薬組成物の投与直前の時点を指す。
【0162】
本明細書で使用される、タンパク質の「増加したレベル」という用語は、基準と比較したタンパク質レベルの増加を意味する。本明細書で使用される場合、対象における「α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)タンパク質活性の増加」という用語は、投与前の対象におけるα-Gal Aタンパク質活性に対するα-Gal Aタンパク質(酵素)活性(nmol/h/ml)の増加を意味し、α-Gal Aタンパク質活性の増加は、本明細書の以下の実施例2に記載されているように測定される。
【0163】
本明細書で使用される、タンパク質の「維持したレベル」という用語は、基準と比較したタンパク質レベルに有意な減少/低減または増加がなかったことを意味する。本明細書において使用される、対象における「スフィンゴ糖脂質の量を維持する」という用語は、投与前の同じ対象におけるスフィンゴ糖脂質の量と比較して、スフィンゴ糖脂質(例えば、グロボトリアオシルセラミド(Gb3)、グロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)、ガラビオシルセラミド、またはそれらの任意の組み合わせ)の量に統計的に有意な減少/低減または増加がなかったことを意味する。いくつかの態様において、対象は、酵素補充療法(ERT)前治療を受けた対象である。ERTは、安定用量(同意前の6か月間にERTの投与を4回以上欠かしていないと定義)及びレジメン(登録前の少なくとも3か月間は14日±1日)で投与されている必要がある。ある部分が統計的に有意であるかどうかは、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニー検定など、さまざまなよく知られた統計評価ツールを使用することにより、当業者によって簡単な方法で決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden,Statistics for Research,John Wiley and Sons,New York 1983に記載されている。好ましい信頼区間は、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は、好ましくは0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。
【0164】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、本明細書に記載される化合物または分子、例えば本明細書に開示されるAAVベクターを含み、薬学的に許容される賦形剤とともに配合され、哺乳動物の疾患の治療のための治療計画の一部として政府規制機関の承認を得て製造または販売することができる組成物を表す。
【0165】
本明細書で使用される「薬学的に許容される賦形剤」とは、患者において実質的に非毒性かつ非炎症性であるという性質を有する、本明細書で説明される化合物以外の任意の成分(例えば、活性化合物を懸濁または溶解させることが可能な媒介物)を意味する。
【0166】
「基準」とは、タンパク質またはmRNAのレベルまたは活性を比較するために使用される有用な基準を意味する。基準は、比較目的で使用される任意のサンプル、標準、標準曲線、またはレベルであり得る。基準は、通常の基準サンプル、または基準標準またはレベルであり得る。「基準サンプル」は、例えば、対照、例えば「正常対照」などの所定の陰性対照値、または同じ対象から採取された以前のサンプル、正常細胞または正常組織などの正常で健康な対象からのサンプル、疾患のない対象からのサンプル(例えば、細胞または組織)、疾患と診断されたが本明細書に記載の化合物でまだ治療されていない対象からのサンプル、本明細書に記載の化合物で治療された対象からのサンプル、または既知の正常濃度の精製タンパク質(例えば、本明細書に記載のもの)のサンプルであり得る。
【0167】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、本明細書に開示される組成物、例えば、本開示のAAV発現ベクターまたは組成物を、例えば、実験、診断、予防、及び/または治療の目的で投与することができる任意の生物を指す。典型的な対象には、任意の動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類、及びヒトなどの哺乳類)が挙げられる。対象は、治療を求めている、治療を必要としている、治療を要求している、治療を受けている、将来治療を受ける、または特定の病気や症状について訓練を受けた専門家によるケアを受けているヒトまたは動物であり得る。いくつかの態様において、対象はヒトである。「対象」及び「患者」という用語は、本明細書では同義に使用される。
【0168】
本明細書で使用される場合、「同等のファブリー病に罹患した未治療の対象」という用語は、例えば、年齢、性別、人種、及び/または疾患の発現によって治療対象と一致するヒト対象を指す。(例えば、Giugliani et al.,Journal of Inborn Errors of Metabolism&Screening Volume 4:1-12(2016)を参照のこと)。
【0169】
本明細書で使用される「体重1キログラムあたりのベクターゲノム(vg/kg)」という用語は、対象に投与される発現カセット(例えば、本開示のα-Gal A発現カセット)のコピーを指す。体重1キログラムあたりのベクターゲノムのコピー数は、定量PCR及び/またはドロップレットデジタルPCRによって測定することができる。
【0170】
本開示の方法及び投与量に関して「一定用量」という用語を使用する場合、患者の体重または体表面積(BSA)に関係なく患者に投与される投与量を意味する。したがって、一定用量は、mg/kg用量としてではなく、むしろ薬剤(例えば、組み換えα-Gal Aタンパク質)の絶対量として提供される。例えば、体重60kgの人と100kgの人が、同量の抗体(例えば、12mgの組み換えα-Gal Aタンパク質)を投与されるであろう。
【0171】
本明細書で指す「体重に基づく用量」という用語は、患者に投与される用量が、患者の体重に基づいて計算されることを意味する。例えば、体重60kgの患者に0.2mg/kgの組み換えα-Gal Aタンパク質が必要な場合、投与に適した量の組み換えα-Gal Aタンパク質(つまり12mg)を計算して使用することができる。
【0172】
薬物または治療薬の「治療有効量」または「治療有効投与量」は、単独で、または別の治療薬と組み合わせて使用した場合、疾患の発症から対象を保護するか、疾患症状の重症度の軽減、疾患症状のない期間の頻度及び期間の増加、または疾患による障害または身体障害の予防によって証明される疾患の退縮を促進する任意の薬物の量である。治療薬が疾患の退縮を促進する能力は、臨床試験中のヒト対象、ヒトでの有効性を予測する動物モデルシステム、またはin vitroアッセイで治療薬の活性をアッセイするなど、熟練した専門家に知られているさまざまな方法を使用して評価することができる。
【0173】
本明細書で使用される「治療する」、「治療すること」及び「治療」という用語は、疾患に関連する症状、合併症、状態または生化学的徴候の進行、発症、重症度または再発を逆転、緩和、改善、阻害、または遅延または防止すること、あるいは全生存率を向上させることを目的として、対象に対して実行される、または対象に活性剤を投与する、あらゆる種類の介入またはプロセスを指す。治療は、疾患のある対象または疾患のない対象(予防など)に対して行われ得る。
【0174】
本明細書で使用される場合、ある状態に関連して使用される「予防」という用語は、組成物を投与されない対象と比較して、対象の病状の症状の頻度を減らす、または症状の発現を遅らせる組成物の投与を指す。
【0175】
「改善」という用語は、例えば、ファブリー病の疾患状態の治療における治療上有益な結果を指し、予防、重症度または進行の軽減、寛解、または治癒が含まれる。いくつかの態様において、本開示の方法は、ファブリー病に関連する1つ以上の症状を改善することを、それを必要とするヒト対象に行うことである。
【0176】
用語「有効量」または「有効投与量」は、所望の効果を達成する、または少なくとも部分的に達成するのに十分な量として定義される。薬物または治療薬の「治療有効量」または「治療有効投与量」は、単独で、または別の治療薬と組み合わせて使用した場合、疾患症状の重症度の軽減、疾患症状のない期間の頻度及び期間の増加、全生存期間(ファブリー病などの疾患の診断日または治療開始日から、その疾患と診断された患者がまだ生存している期間)の延長、または疾患の苦痛による障害または身体障害の予防によって証明される疾患の退縮を促進する薬物の量である。薬物の治療有効量または投与量には、「予防有効量」または「予防有効投与量」が含まれ、これは、疾患を発症するリスクがある、または疾患が再発するリスクがある対象に、単独で、または別の治療薬と組み合わせて投与された場合に、疾患の発症または再発を抑制する薬物の量である。治療薬が疾患の退縮を促進する、または疾患の発症または再発を抑制する能力は、臨床試験中のヒト対象、ヒトでの有効性を予測する動物モデルシステム、またはin vitroアッセイで治療薬の活性をアッセイするなど、熟練した専門家に知られているさまざまな方法を使用して評価することができる。
【0177】
本開示の「サンプル」または「生物学的サンプル」は、いくつかの態様において、真核生物由来などの生物学的起源のものである。いくつかの態様において、サンプルはヒトのサンプルであるが、動物のサンプルも使用することができる。本開示で使用するサンプルの非限定的な供給源としては、例えば、固形組織、生検吸引物、腹水、流体抽出物、血液、血漿、血清、脊髄液、リンパ液、皮膚の外部部分、呼吸器、腸管、泌尿生殖器管、涙、唾液、乳汁、腫瘍、臓器、細胞培養物、及び/または細胞培養成分などが挙げられる。
【0178】
「投与すること」とは、当業者に知られているさまざまな方法と送達系のいずれかを用いて、治療薬を含む組成物を対象に物理的に導入することを指す。組み換えα-Gal Aタンパク質、または遺伝子発現α-Gal Aの好ましい投与経路としては、例えば、注射または注入による静脈内投与経路、またはその他の非経口投与経路が挙げられる。「非経口投与」という語句は、本明細書で使用する場合、経腸投与と局所投与以外の、通常は注射による投与方法を意味し、静脈内注射及び注入、筋肉内注射及び注入、動脈内注射及び注入、髄腔内注射及び注入、リンパ内注射及び注入、病巣内注射及び注入、嚢内注射及び注入、眼窩内注射及び注入、心腔内注射及び注入、皮内注射及び注入、腹腔内注射及び注入、経気管注射及び注入、皮下注射及び注入、表皮下注射及び注入、関節内注射及び注入、被膜下注射及び注入、くも膜下注射及び注入、髄腔内注射及び注入、硬膜外注射及び注入、胸骨内注射及び注入、並びにin vivoエレクトロポレーションが挙げられるが、これらに限定されない。その他の非経口経路には、経口投与経路、局所投与経路、表皮投与経路または粘膜投与経路を含み、例えば、鼻腔内、膣内、直腸内、舌下または局所。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、静脈内投与される。
【0179】
また、投与は、例えば1回、複数回及び/または1つ以上の長い期間にわたって行うことができる。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、1用量のみ投与される。
【0180】
本明細書で使用される「約1週間に1回」、「約2週間に1回」またはその他の同様の投与間隔に関する用語は、おおよその数を意味する。「約1週間に1回」には、7日±1日ごと、つまり6日~8日ごとが含まれ得る。「約2週間に1回」には、14日±3日ごと、つまり11日~17日ごとが含まれ得る。同様の近似値は、例えば、約3週間に1回、約4週間に1回、約5週間に1回、約6週間に1回、約12週間に1回に適用される。いくつかの態様において、約6週間に1回または約12週間に1回の投与間隔は、最初の投与を第1週の任意の日に投与することができ、次の投与をそれぞれ第6週または第12週の任意の日に投与することができることを意味する。他の態様において、約6週間に1回または約12週間に1回の投与間隔は、最初の投与が第1週の特定の曜日(例えば、月曜日)に投与され、次の投与がそれぞれ6週目または12週目の同じ曜日(つまり、月曜日)に投与されることを意味する。
【0181】
「本質的に含む」という用語は、当業者によって決定される特定の値または組成物についての許容可能な誤差範囲内である値または組成物を指し、値または組成物を測定する、または決定する方法、すなわち、測定システムの限界に部分的に依存する。例えば、「本質的に含む」は、当該技術分野の慣例に従って、1標準偏差以内または1標準偏差を超えることを意味し得る。あるいは、「本質的に含む」は、最大10%の範囲を意味し得る。さらには、特に生物学的システムまたはプロセスに関して、用語は、値の最大桁または最大5倍を意味し得る。本出願及び特許請求の範囲に特定の値または組成物が提供される場合、別段に記載されない限り、「本質的に含む」の意味は、特定の値または組成物について許容可能な誤差範囲内にあるとみなされるべきである。
【0182】
他に定義されない限り、本明細書中で使用するすべての技術用語及び科学用語は、本開示が関連する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。例えば、the Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology,Juo,Pei-Show,2nd ed.,2002,CRC Press;The Dictionary of Cell and Molecular Biology,3rd ed.,1999,Academic Press;及びthe Oxford Dictionary of Biochemistry And Molecular Biology,Revised,2000,Oxford University Pressは、本開示で使用される多くの用語の一般的な辞書を当業者に提供する。
【0183】
単位、接頭辞、記号は、国際単位系(SI)で認められた形式で示される。数値範囲は、その範囲を定義する数を含むものとする。特に明記しない限り、ヌクレオチド配列は5’から3’の方向で左から右に記述される。アミノ酸配列は、アミノ基からカルボキシ基の方向で左から右に記述される。本明細書において提供される見出しは、明細書全体を参照することによって得られる開示のさまざまな態様を制限するものではない。したがって、直下に定義される用語は、本明細書全体を参照することによってより完全に定義される。
【0184】
本明細書に記載されているように、任意の濃度範囲、パーセンテージ範囲、比率範囲または整数範囲は、特に指定のしない限り、列挙される範囲内の任意の整数の値を含み、必要に応じて、その分数(整数の1/10及び1/100など)を含むものと理解される。
【0185】
本開示のさまざまな態様は、以下のサブセクションでさらに詳細に説明される。
【0186】
II. 本開示の方法
本明細書では、治療有効量の少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子を含む、α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む、発現ベクター(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクター)を投与することにより、ファブリー病の1つ以上の症状を治療または改善すること、スフィンゴ糖脂質の量を減少させること、及び/または、α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)タンパク質の活性を増加させることを、それを必要とする対象において行うための方法が提供される。
【0187】
いくつかの態様において、本開示は、ファブリー病を治療すること、またはファブリー病に関連する1つ以上の症状を改善することを、それを必要とするヒト対象において行う方法を対象としており、本方法は、アルファ1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターに作動可能に連結されたアポリポタンパク質E(APOE)エンハンサー、ヒトヘモグロビンベータ(HBB)-IGGイントロン、シグナルペプチドをコードする配列、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子、及びウシ成長ホルモンポリAシグナル配列を含む、αガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを対象に投与することを含み、AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与される。
【0188】
いくつかの態様において、本開示は、ファブリー病を治療すること、またはファブリー病に関連する1つ以上の症状を改善することを、それを必要とするヒト対象において行う方法を対象としており、本方法は、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子を含む、α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを対象に投与することを含み、α-Gal A導入遺伝子は、配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含み、AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与される。
【0189】
いくつかの態様において、本開示は、スフィンゴ糖脂質の量を減少させることを、それを必要とするヒト対象において行う方法に関し、本方法は、アルファ1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターに作動可能に連結されたアポリポタンパク質E(APOE)エンハンサー、ヒトヘモグロビンベータ(HBB)-IGGイントロン、シグナルペプチドをコードする配列、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子、及び、ウシ成長ホルモンポリAシグナル配列を含む、αガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを対象に投与することを含み、AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与され、減少したスフィンゴ糖脂質の量は、投与前の対象におけるスフィンゴ糖脂質の量に対する。
【0190】
いくつかの態様において、本開示は、スフィンゴ糖脂質の量を減少させることを、それを必要とするヒト対象において行う方法を対象としており、本方法は、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子を含むα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含むアデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを対象に投与することを含み、α-Gal A導入遺伝子は、配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含み、AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与され、減少したスフィンゴ糖脂質の量は、投与前の対象におけるスフィンゴ糖脂質の量に対する。
【0191】
いくつかの態様において、本開示は、α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)タンパク質の活性を増加させることを、それを必要とするヒト対象において行う方法を対象としており、本方法は、アルファ1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターに作動可能に連結されたアポリポタンパク質E(APOE)エンハンサー、ヒトヘモグロビンベータ(HBB)-IGGイントロン、シグナルペプチドをコードする配列、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-Gal A導入遺伝子、及びウシ成長ホルモンポリAシグナル配列を含む、αガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを対象に投与することを含み、AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与され、増加したα-Gal Aタンパク質の活性は、投与前の対象におけるα-Gal Aタンパク質の活性に対する。
【0192】
いくつかの態様において、本開示は、α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)タンパク質の活性を増加させることを、それを必要とするヒト対象において行う方法を対象としており、本方法は、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-Gal A導入遺伝子を含むα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクターを対象に投与することを含み、α-Gal A導入遺伝子は、配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含み、AAV発現ベクターは、体重1キログラムあたり約5×1012ベクターゲノム(vg/kg)~約5×1013vg/kgの用量で投与され、増加したα-Gal Aタンパク質の活性は、投与前の対象におけるα-Gal Aタンパク質の活性に対する。
【0193】
いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約1×1011vg/kg、約2×1011vg/kg、約3×1011vg/kg、約4×1011vg/kg、約5×1011vg/kg、約6×1011vg/kg、約7×1011vg/kg、約8×1011vg/kg、約9×1011vg/kg、約1×1012vg/kg、約2×1012vg/kg、約3×1012vg/kg、約4×1012vg/kg、約5×1012vg/kg、約6×1012vg/kg、約7×1012vg/kg、約8×1012vg/kg、約9×1012vg/kg、約1×1013vg/kg、約2×1013vg/kg、約3×1013vg/kg、約4×1013vg/kg、約5×1013vg/kg、約6×1013vg/kg、約7×1013vg/kg、約8×1013vg/kg、約9×1013vg/kg、約1×1014vg/kg、約2×1014vg/kg、約3×1014vg/kg、約4×1014vg/kg、約5×1014vg/kg、約6×1014vg/kg、約7×1014vg/kg、約8×1014vg/kg、または約9×1014vg/kgの用量で投与される。
【0194】
いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約5×1012vg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約1×1013vg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約3×1013vg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約5×1013vg/kgの用量で投与される。
【0195】
いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約1×1011vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約2×1011vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約3×1011vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約4×1011vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約5×1011vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約6×1011vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約7×1011vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約8×1011vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約9×1011vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約1×1012vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約2×1012vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約3×1012vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約4×1012vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約5×1012vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約6×1012vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約7×1012vg/kg、約8×1012vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約9×1012vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約1×1013vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約2×1013vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約3×1013vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約4×1013vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約5×1013vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約6×1013vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約7×1013vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約8×1013vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約9×1013vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約1×1014vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約2×1014vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約3×1014vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約4×1014vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約5×1014vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約6×1014vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約7×1014vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約8×1014vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約9×1014vg/kgの1用量のみで投与される。
【0196】
いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約5×1012vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約1×1013vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約3×1013vg/kgの1用量のみで投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、約5×1013vg/kgの1用量のみで投与される。
【0197】
いくつかの態様において、本明細書に開示されるAAV発現ベクターは、投与経路に部分的に依存するさまざまな方法を使用して、対象、例えば、ヒト対象に投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、非経口的に投与される。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、静脈内投与される。いくつかの態様において、本明細書に開示されるAAV発現ベクターは、静脈内注入によって対象に投与される。
【0198】
いくつかの態様において、対象は、ファブリー病に罹患している。いくつかの態様において、対象は、正常値を超えるグロボトリアオシルセラミド(Gb3)レベル、正常値を超えるグロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)レベル、腎疾患、心臓病、無汗症、肢端感覚異常、被角血管腫、胃腸(GI)管の痛み、角膜及び水晶体の混濁、または脳血管疾患のうちの1つ以上のファブリー病に関連した症状を有する。いくつかの態様において、被角血管腫は、臍周囲被角血管腫である。いくつかの態様において、ファブリー病は、1型の古典型表現型、または2型の遅発型表現型である。
【0199】
いくつかの態様において、対象は、約5%未満のα-Gal Aタンパク質活性を有する。いくつかの態様において、対象は、酵素補充療法(ERT)ナイーブ対象である。いくつかの態様において、ERTナイーブ対象は、ERTナイーブの古典型ファブリー病男性である。
【0200】
いくつかの態様において、α-Gal Aタンパク質活性は、以下の実施例2に記載されているように、対象の血漿スキン及び/または白血球において測定される。
【0201】
いくつかの態様において、対象は、男性対象である。いくつかの態様において、対象は、女性対象である。
【0202】
いくつかの態様において、対象は、例えば、国際ファブリー病遺伝子型表現型データベース(dbFGP)などのデータベースにリストされているような、ファブリー病(例えば、古典型ファブリー病)を示すα-Gal A遺伝子変異を有する。いくつかの態様において、α-Gal A遺伝子変異は、限定されないがアミノ酸変異G261D、C422T、W340R、S297Y、Q283X、D215S、IVS5/c.801+3A>G、P362L、C422T、またはN34Sをもたらし得る。
【0203】
いくつかの態様において、対象は、投与前に、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって決定される、既存の抗α-Gal A抗体を有する。
【0204】
本明細書において使用される「既存の抗α-Gal A抗体」という用語は、例えば、ヒト血清中のα-Gal Aに対する総抗薬物抗体(ADA)を指し、ADA抗体は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を使用して検出される。阻害%≧46.1のサンプルは、α-Gal Aに対する抗体の存在が陽性であると報告される(「抗α-Gal A抗体陽性」)。
【0205】
抗GLA中和抗体
ヒト血清中のα-Gal Aに対する総抗薬物抗体(ADA)は、蛍光酵素阻害アッセイにおいてヒト血清中で検出し、滴定する。このアッセイは、α-Gal A活性に対するヒト血清の中和能力を評価することにより、抗α-Gal A中和抗体(NAb)の存在を決定する。9.6%のカットオフポイント以上の阻害%を持つサンプルはNAb陽性と識別され、カットオフポイントを下回るサンプルは陰性とみなされる。
【0206】
いくつかの態様において、対象の生物学的サンプルを分析すると、対象は、抗α-Gal A中和抗体陽性対象であり、抗α-Gal A中和抗体陽性対象は、上記の抗α-Gal A中和抗体アッセイによって測定されるα-ガラクトシダーゼA活性の阻害が約9.6%を超える生物学的サンプルを有する。
【0207】
いくつかの態様において、抗GLA中和抗体は、α-Gal A酵素に結合して不活性化(中和)する。いくつかの態様において、抗GLA中和抗体が存在する場合、酵素補充療法は、血漿中の抗GLA中和抗体によって直接不活性化(中和)される。いくつかの態様において、抗GLA中和抗体が存在しない場合、酵素補充療法(例えば、組み換えα-Gal A酵素)は、M6P受容体を介して細胞(例えば、内皮細胞)に入り、リソソームからのGb3クリアランスをもたらす。いくつかの態様において、抗GLA中和抗体が存在する場合、それらは酵素(例えば、組み換えα-Gal A)に結合することによってERT活性を中和することができる。
【0208】
いくつかの態様において、抗GLA中和IgG抗体タグ付きERT分子は、マクロファージによって内在化され、消化される。ERTよりも多くの抗GLA中和抗体が存在する場合、これは減少した細胞のGb3クリアランスをもたらし得る。ERT用量が抗GLA中和抗体価を超える場合、より多くのERTが標的細胞のリソソームに入り込み、増加したGb3クリアランスをもたらし得る。(Lenders et al.,J Am Soc Nephrol29:2265-2278(2018)。
【0209】
抗GLA抗体の中和活性については、例えば、Rombach et al.,PLoS One7:e47805(2012);Lenders et al.,J Am Soc Nephrol27:256-264(2016);Smid et al.,Mol Genet Metab108:132-137(2013)に記載されている。
【0210】
いくつかの態様において、抗GLA中和抗体は、IgG抗体である。いくつかの態様において、抗GLA中和抗体は、IgG4抗体である。いくつかの態様において、抗GLA中和抗体は、IgG2抗体である。いくつかの態様において、抗GLA中和抗体は、IgG1抗体である。
【0211】
いくつかの態様において、抗GLA中和抗体は、酵素補充療法の開始後、約1か月以内、約2か月以内、約3か月以内、約4か月以内、約5か月以内、約6か月以内、約7か月以内、約8か月以内、約9か月以内、約10か月以内、約11か月以内、または約12か月以内に発現し得る。
【0212】
いくつかの態様において、抗GLA中和抗体を発現し得るヒト対象は、例えば、Van der Veen et al.,Mol Genet Metab.126(2):162-168(2019);Wilcox et al.,Mol Genet Metab.105(3):443-449(2012)に記載されているように、例えば、古典型ファブリー病に罹患した男性患者である。
【0213】
いくつかの態様において、導入遺伝子から発現されたα-Gal Aタンパク質は、投与前の対象におけるスフィンゴ糖脂質の量と比較して、対象におけるスフィンゴ糖脂質の量を少なくとも約2倍減少させる。
【0214】
いくつかの態様において、導入遺伝子から発現されたα-Gal Aタンパク質は、投与前の対象におけるスフィンゴ糖脂質の量と比較して、対象におけるスフィンゴ糖脂質の量を、約10パーセント(%)、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%、約31%、約32%、約33%、約34%、約35%、約36%、約37%、約38%、約39%、約40%、約41%、約42%、約43%、約44%、約45%、約46%、約47%、約48%、約49%、約50%、約51%、約52%、約53%、約54%、約55%、約56%、約57%、約58%、約59%、約60%、約61%、約62%、約63%、約64%、約65%、約66%、約67%、約68%、約69%、約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約78%、約79%、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または約100%減少させる。
【0215】
いくつかの態様において、導入遺伝子から発現されたα-Gal Aタンパク質は、対象におけるスフィンゴ糖脂質の量を投与前と同じレベルに維持する。いくつかの態様において、本明細書に記載の酵素補充療法(ERT)前治療の安定用量を受けている対象では、スフィンゴ糖脂質の量は投与前と同じレベルに維持される。「酵素補充療法の安定用量」または「ERTの安定用量」という用語は、同意前の6か月間、及びレジメン(登録前の少なくとも3か月間は14日±1日)にERTの投与を4回以上欠かしていないこととして定義される。いくつかの態様において、lyso-Gb3のベースラインレベルが低い対象(例えば、ERT治療を受けた対象)は、観察期間中、同じlyso-Gb3レベルを維持することができる(例えば、lyso-Gb3レベルは安定したまま、または統計的に有意ではないわずかな低下を示す)。
【0216】
「ERT-ナイーブ対象」、「ERTナイーブ対象」、または「酵素補充療法(ERT)ナイーブ対象」という用語は、酵素補充療法(ERT)を受けたことがない対象(例えば、ヒト対象)を指す。
【0217】
「ERT-疑似ナイーブ対象」、「ERT疑似-ナイーブ対象」、または「ERT疑似ナイーブ対象」という用語は、以前にERTを受けたことがあるが、本明細書に記載の臨床試験の開始前の過去6か月間にERT治療を受けていない対象(例えば、ヒト対象)を指す。
【0218】
いくつかの態様において、スフィンゴ糖脂質は、グロボトリアオシルセラミド(Gb3)、グロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)、ガラビオシルセラミド、またはそれらの任意の組み合わせを含む。いくつかの態様において、Gb3及び/またはlyso-Gb3レベルは、以下の実施例2で説明するように、対象の血漿及び/または尿中で測定される。いくつかの態様において、Gb3及び/またはlyso-Gb3レベルは、対象の組織中で測定される。
【0219】
いくつかの態様において、導入遺伝子から発現されるα-Gal Aタンパク質は、血漿、肝臓、心臓、腎臓、尿、皮膚、または脾臓のうちの1つ以上中のスフィンゴ糖脂質の量を減少させる。
【0220】
いくつかの態様において、対象におけるα-Gal Aタンパク質活性は、投与前の対象のα-Gal Aタンパク質活性と比較して、平均正常α-Gal Aタンパク質活性よりも約0倍高い~約2倍高い、約2倍高い~約5倍高い、約5倍高い~約10倍高い、約10倍高い~約20倍高い、約20倍高い~約30倍高い、約30倍高い~約40倍高い、約30倍高い~約40倍高い、約40倍高い~約50倍高い、約50倍高い~約60倍高い、約60倍高い~約70倍高い、約70倍高い~約80倍高い、約80倍高い~約90倍高い、約90倍高い~約100倍高い、約100倍高い~約200倍高い、約200倍高い~約300倍高い、約300倍高い~約400倍高い、約400倍高い~約500倍高い。
【0221】
いくつかの態様において、対象におけるα-Gal Aタンパク質活性は、投与前の対象のα-Gal Aタンパク質活性と比較して、平均正常α-Gal Aタンパク質活性よりも約0倍高い~約2倍高い、約2倍高い、約3倍高い、約4倍高い、約5倍高い、約6倍高い、約7倍高い、約8倍高い、約9倍高い、約10倍高い、約11倍高い、約12倍高い、約13倍高い、約14倍高い、約15倍高い、約16倍高い、約17倍高い、約18倍高い、約19倍高い、約20倍高い、約21倍高い、約22倍高い、約23倍高い、約24倍高い、約25倍高い、約26倍高い、約27倍高い、約28倍高い、約29倍高い、約30倍高い、約31倍高い、約32倍高い、約33倍高い、約34倍高い、約35倍高い、約36倍高い、約37倍高い、約38倍高い、約39倍高い、約40倍高い、約41倍高い、約42倍高い、約43倍高い、約44倍高い、約45倍高い、約46倍高い、約47倍高い、約48倍高い、約49倍高い、約50倍高い、約51倍高い、約52倍高い、約53倍高い、約54倍高い、約55倍高い、約56倍高い、約57倍高い、約58倍高い、約59倍高い、約60倍高い、約61倍高い、約62倍高い、約63倍高い、約64倍高い、約65倍高い、約66倍高い、約67倍高い、約68倍高い、約69倍高い、約70倍高い、約71倍高い、約72倍高い、約73倍高い、約74倍高い、約75倍高い、約76倍高い、約77倍高い、約78倍高い、約79倍高い、約80倍高い、約81倍高い、約82倍高い、約83倍高い、約84倍高い、約85倍高い、約86倍高い、約87倍高い、約88倍高い、約89倍高い、約90倍高い、約91倍高い、約92倍高い、約93倍高い、約94倍高い、約95倍高い、約96倍高い、約97倍高い、約98倍高い、約99倍高い、または約100倍高い。
【0222】
いくつかの態様において、導入遺伝子から発現されるα-Gal Aタンパク質のレベルは、対象の血漿、血清、全血、乾燥血液スポット、白血球、またはその他の血液成分の1つ以上で測定される。いくつかの態様において、導入遺伝子から発現されるα-Gal Aタンパク質は、対象の腎臓、肝臓、皮膚、及び心臓で活性である。
【0223】
いくつかの態様において、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質の発現は、少なくとも3か月、少なくとも4か月、少なくとも5か月、少なくとも6か月、少なくとも7か月、少なくとも8か月、少なくとも9か月、少なくとも10か月、少なくとも11か月、少なくとも12か月、少なくとも13か月、少なくとも14か月、少なくとも15か月、少なくとも16か月、少なくとも17か月、少なくとも18か月、少なくとも19か月、少なくとも20か月、少なくとも21か月、少なくとも22か月、少なくとも23か月、または少なくとも24か月持続される。
【0224】
いくつかの態様において、対象には、AAV発現ベクターの投与前及び/または投与中に免疫抑制剤(例えば、予防ステロイド治療)が投与される。いくつかの態様において、免疫抑制剤は、プレドニゾンを含む。
【0225】
いくつかの態様において、対象には、AAV発現ベクターの投与前及び/または投与中に免疫抑制剤が投与されない。
【0226】
いくつかの態様において、対象には、AAV発現ベクターの投与前にプレコンディショニング療法(例えばコンディショニング剤)が施行されない。本明細書で使用される「プレコンディション」または「プレコンディショニング」という用語は、例えば、ブスルファン(Myleran(登録商標)、GlaxoSmithKline,Busulfex(登録商標)、Otsuka America Pharmaceutical,Inc.)などの化学療法コンディショニング剤を使用することを指す。コンディショニング剤は、例えば、患者の骨髄内にスペースを作るために骨髄細胞を枯渇/死滅させるex vivoレンチウイルス遺伝子療法に使用することができる。患者が遺伝子療法を受けると、治療用幹細胞が骨髄に生着し、治療遺伝子を含む細胞を生成することが期待される。コンディショニング剤は化学療法に伴う副作用(例えば、生殖能力への深刻な影響)を引き起こす可能性がある。
【0227】
いくつかの態様において、対象には、AAV発現ベクターの投与前及び/または投与中にコンディショニング剤または免疫抑制剤(例えば、予防ステロイド治療)が投与されない。
【0228】
いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクター及び医薬組成物は、隔週の酵素補充療法(ERT)注入の必要性を排除する。
【0229】
いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクター及び医薬組成物は、ファブリー病に罹患した対象における腎機能を維持することができる。いくつかの態様において、投与後、対象において、慢性腎臓病疫学協力(CKD-EPI)方程式を使用して推算糸球体濾過量(eGFR)(ml/分/1.73m単位)が測定される。(例えば、Rombach SM et al.,Nephrol Dial Transplant.25(8):2549-2556(2010)を参照のこと)。いくつかの態様において、年間eGFR低下率は、同等のファブリー病に罹患した未治療の対象よりも低い。
【0230】
いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクター及び医薬組成物は、ファブリー病に罹患した対象における心疾患を減少することができる。いくつかの態様において、投与後、対象において、一回拍出量(SV)/左室拡張末期容積(LVEDV)として駆出率(EF)が測定される。(例えば、Pieroni et al.,Journal of the American College of Cardiology,77(7):922-936(2021);Linhart A.The heart in Fabry disease. In:Mehta A,Beck M,Sunder-Plassmann G,editors.Fabry Disease:Perspectives from 5 Years of FOS.Oxford:Oxford PharmaGenesis;2006.Chapter20を参照のこと)。いくつかの態様において、年間EF低下率は、同等のファブリー病に罹患した未治療の対象よりも低い。
【0231】
いくつかの態様において、投与後、対象において、2Dひずみ心エコー検査または心臓磁気共鳴画像法(心臓MRIまたはCMR)によって全体縦方向ひずみ(GLS)が測定される。(例えば、Pieroni et al.,Journal of the American College of Cardiology,77(7):922-936(2021)を参照のこと)。いくつかの態様において、心臓の筋肉の収縮性の年間短縮化進行は、同等のファブリー病に罹患した未治療の対象よりも低い。
【0232】
いくつかの態様において、投与後、対象において、左室質量(LVM)/体表面積としての左室質量指数(LVMI)が測定される。(例えば、Pieroni et al.,Journal of the American College of Cardiology,77(7):922-936(2021)を参照のこと)。いくつかの態様において、年間LVMI増加は、同等のファブリー病に罹患した未治療の対象よりも低い。
【0233】
いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクター及び医薬組成物は、ファブリー病に罹患した対象における1つ以上の聴覚症状を改善することができる。いくつかの態様において、投与後、対象における1つ以上の聴覚症状が改善される。いくつかの態様において、1つ以上の聴覚症状は、耳鳴り、めまい、または進行性の難聴である。
【0234】
いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクター及び医薬組成物は、ファブリー病に罹患した対象における発汗を改善することができる。いくつかの態様において、対象の発汗レベルは、無汗症から低汗症または正常発汗へと好転し得る。
【0235】
III.アデノ随伴ウイルス(AAV)発現ベクター
ディペンドウイルス属に属するパルボウイルスであるAAVは、他のウイルスには見られない魅力的な特徴をいくつか有する。例えば、AAVは、分裂していない細胞を含む広範囲の宿主細胞に感染することができる。さらに、AAVは、さまざまな種からの細胞に感染することができる。重要なのは、AAVはヒトまたは動物のいかなる病気とも関連付けられておらず、組み込まれた際に宿主細胞の生理学的特性を変化させるとは思われていない。最後に、AAVは広範囲の物理的及び化学的条件で安定であり、製造、保管、輸送の要件に適している。
【0236】
AAVゲノムは、約4700ヌクレオチド(AAV-2ゲノムは4681ヌクレオチドからなる)を含む線状の一本鎖DNA分子であり、通常、逆位末端反復配列(ITR)と各末端で隣接する内部非反復セグメントを含む。ITRの長さは約145ヌクレオチド(AAV-1は143ヌクレオチドのITRを有する)で、複製起点として、またウイルスゲノムのパッケージングシグナルとして機能するなど、複数の機能を有する。
【0237】
ゲノムの内部の非反復部分は、AAV複製(rep)領域とカプシド(cap)領域で知られる2つの大きなオープンリーディングフレーム(ORF)を含む。これらのORFは複製及びカプシド遺伝子産物をそれぞれコード、複製及びカプシド遺伝子産物(つまり、タンパク質)により、完全なAAVビリオンの複製、組み立て、及びパッケージングが可能になる。より具体的には、AAVrep領域から少なくとも4つのウイルスタンパク質ファミリー:Rep78、Rep68、Rep52、及びRep40が発現され、これらはすべて見かけの分子量に基づいて名前が付けられている。AAVキャップ領域は、少なくとも3つのタンパク質:VP1、VP2、及びVP3をコードする。
【0238】
AAVはヘルパー依存性ウイルスであり、機能的に完全なAAVビリオンを形成するためには、ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、またはワクシニアウイルス)との共感染を必要とする。ヘルパーウイルスとの共感染がない場合、AAVは潜伏状態を確立し、ウイルスゲノムは宿主細胞の染色体に挿入されるか、エピソームの形で存在するが、感染性ビリオンは生成されない。その後のヘルパーウイルスによる感染により、組み込まれたゲノムが「救出」され、複製されてウイルスカプシドにパッケージ化され、感染性ウイルス粒子が再構成されることを可能にする。AAVは異なる種からの細胞に感染することができるが、ヘルパーウイルスは宿主細胞と同じ種である必要がある。したがって、例えば、ヒトAAVは、イヌアデノウイルスに共感染したイヌ細胞内で複製される。
【0239】
HNAを含む組み換えAAV(rAAV)ビリオンを生成するために、好適な宿主細胞株に、HNAを含むが、rep及びcapを欠くAAVベクターをトランスフェクトする。次に、宿主細胞に野生型(wt)AAV及び好適なヘルパーウイルスを感染させてrAAVビリオンを形成する。あるいは、wtAAV遺伝子(ヘルパー機能遺伝子として知られ、rep及びcapを含む)とヘルパーウイルス機能遺伝子(アクセサリ機能遺伝子として知られる)を、1つ以上のプラスミドで提供することができ、それによってrAAVビリオンの生成においてwtAAV及びヘルパーウイルスの必要性がなくなる。ヘルパー機能遺伝子産物及び補助機能遺伝子産物は、宿主細胞内で発現され、異種遺伝子を含むrAAVベクター上でトランスに作用する。その後、異種遺伝子は、wtAAVゲノムであるかのように複製され、パッケージングされ、組み換えAAVビリオンが形成される。患者の細胞が得られたrAAVビリオンで形質導入されると、HNAが患者の細胞内に入り、発現する。患者の細胞にはrep遺伝子及びcap遺伝子の他に、補助機能遺伝子も欠如しているため、rAAVビリオンはそのゲノムをさらに複製してパッケージングすることができない。さらに、rep遺伝子及びcap遺伝子の供給源がなければ、wtAAVビリオン、患者の細胞内で形成することができない。例えば米国特許出願公開第2003/0147853号を参照のこと。
【0240】
いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、任意の天然または組み換えAAV血清型を含むか、またはそれらに由来し得る。本開示によれば、AAV血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh8、AAV9、AAV10、AAVrh10、AAV11、AAV12、及びAAV2/6であり得るが、これらに限定されない。いくつかの態様において、AAV血清型は、AAV2/6である。いくつかの態様において、AAV血清型は、AAV2である。いくつかの態様において、AAV血清型は、AAV6である。
【0241】
本開示のAAV発現ベクターは、任意のプロモーター、エンハンサー、イントロン、シグナルペプチド、GLAコード、ポリA配列、またはウッドチャック肝炎ウイルス(WHV)転写後調節要素(WPRE)配列を含み得る、発現カセットを含み得る。いくつかの態様において、エンハンサー及び/またはプロモーターは肝臓特異的であり、例えば、ヒトアポリポタンパク質E(APOE)エンハンサー及びヒトアルファ1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターから構成される(Miao CH et al.,Mol.Ther.1(6):522-532(2000))。いくつかの態様において、肝臓特異的プロモーターは、1つ以上のApoEエンハンサー配列を含む(例えば、1、2、3及び/または4;Okuyama et al.,Hum Gen Ther7(5):637-645(1996)を参照のこと)。いくつか態様において、プロモーターは、イントロンに連結している。いくつかの態様において、イントロンは、ヒトβグロビン遺伝子の第1のイントロンからの5’ドナー部位と、免疫グロブリン遺伝子重鎖可変領域のイントロンからの分岐及び3’アクセプター部位とを含むヒトヘモグロビンベータ(HBB)-IGGキメライントロンである。いくつかの態様において、ApoE/hAATプロモーターは、意図された標的組織である肝細胞において特異的かつ高度に活性であるが、非肝臓細胞及び組織型においては不活性であり、これにより、非標的組織における発現及び活性が低減または防止される。いくつかの態様において、シグナルペプチドは、α-Gal Aシグナルペプチド(例えば、ヒトα-Gal Aシグナルペプチド)を含み、ポリアデニル化シグナルは、ウシ成長ホルモン(bGH)ポリAシグナル配列を含む。WPRE配列は、任意の野生型または変異WPRE配列であり得る。例えば、米国特許第10,179,918号を参照のこと。いくつかの態様において、WPRE配列は、mut6WPRE配列などの変異したWPREを含む。
【0242】
いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、2つのITRと隣接するα-Gal A発現カセットを含む。これら2つのITRは、α-Gal A発現カセットの5’末端と3’末端にある。
【0243】
いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子を含む、α-Gal A発現カセットを含む。いくつかの態様において、α-Gal A導入遺伝子は、機能するα-Gal A遺伝子の野生型配列を含む。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクターは、修正α-Gal A導入遺伝子を含む。修正α-Gal A導入遺伝子の配列は、生物学的活性を高めるために何らかの方法で変更される(例えば、生物学的活性を高めるために最適化されたコドン、及び/または遺伝子発現を改善するための転写及び翻訳調節配列の変更)。いくつかの態様において、α-Gal A遺伝子は、発現特性を改善するために改変される。このような改変には、翻訳開始部位(例えば、メチオニン)の挿入、最適化されたコザック配列の追加、シグナルペプチドの挿入、及び/またはコドンの最適化が挙げられるが、これらに限定されない。
【0244】
いくつかの態様において、本明細書に記載のAAV発現ベクターは、AAV-001であり、これは国際公開第WO/2020/142752号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)では変種#21とも称される。
【0245】
本開示のrAAVベクター(例えば、AAV-001rAAVベクター)は、hGLA導入遺伝子の発現を促進する肝臓特異的調節要素を含むヒトα-Gal A(hGLA)発現カセット(3321bp)を含む(図1を参照)。hGLA導入遺伝子は、ヒトアポリポタンパク質E(ApoE)遺伝子のエンハンサー及び肝臓制御領域、ならびにヒトα-1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターによって制御されている。改変キメライントロン(HBB-IghGLA導入遺伝子)は、天然hGLAタンパク質と同じアミノ酸配列を持つコドン最適化hGLAα-Gal A酵素と、承認された組み換えα-Gal A(Fabrazyme(登録商法))を含む。
【0246】
本開示のα-Gal A発現カセットには、ウッドチャック肝炎ウイルス(WHV)転写後調節要素(WPREmut6)の変異型が含まれている。WPREmut6は、WHVXタンパク質のプロモーター領域とそれに続くXタンパク質自体の短縮形(WPRE,Zufferey et al.,J Virol.73(4):2886-2892(1999))を含む592-bpのDNA配列であり、推定プロモーター領域とXタンパク質オープンリーディングフレームの開始コドンに点変異があり、Xタンパク質の発現を防止する(mut6,Zanta-Boussif et al.,Gene Therapy 16(5):605-619(2009))。ポリA配列は、ウシ成長ホルモンのポリアデニル化シグナルの誘導体である。WPREmut6要素の追加により、α-Gal Aタンパク質の生産が増加した。実際、AAV-001PC(WPREmut6要素を欠く)と比較して、AAV-001の効力はより高い。AAV-001rAAVベクターは、AAV2由来のITRと両端で隣接するα-Gal A発現カセットを含み、α-Gal A発現カセットは、Sf9昆虫細胞/組み換えバキュロウイルス(Sf9/rBV)発現系を使用して、アデノ随伴ウイルス6型(AAV6)由来のカプシドとともにパッケージングされている。
【0247】
いくつかの態様において、AAV発現ベクター(例えば、AAV-001rAAVベクター)配列は、以下の表1に示すように、α-Gal A発現カセットの要素及び配列を含む。
表1:α-Gal AcDNA要素及び完全な配列
【表1】
配列番号9(完全な導入遺伝子配列)
【表2】
【0248】
いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクター(例えば、AAV-001rAAVベクター)は、αガラクトシダーゼA(α-Gal A)発現カセットを含み、このカセットは、アルファ1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーターに作動可能に連結されたアポリポタンパク質E(APOE)エンハンサー、ヒトヘモグロビンベータ(HBB)-IGGイントロン、シグナルペプチドをコードする配列、少なくとも1つのα-Gal Aタンパク質をコードするα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)導入遺伝子、及びウシ成長ホルモンポリAシグナル配列を含む。いくつかの態様において、エンハンサーは配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含み、プロモーターは配列番号3に記載のヌクレオチド配列を含み、イントロンは配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含み、α-Gal A導入遺伝子は配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含み、変異WPRE配列は配列番号6に記載のヌクレオチド配列を含み、ポリAシグナル配列は配列番号7に記載のヌクレオチド配列を含む。
【0249】
いくつかの態様において、本開示のα-Gal A発現カセットは、配列番号9に記載のヌクレオチド配列を含む。
【0250】
いくつかの態様において、ヒトα-ガラクトシダーゼAのシグナルペプチドは、配列番号10に記載のアミノ酸配列を含む。
【0251】
ヒトα-ガラクトシダーゼAシグナルペプチド(配列番号10)
MQLRNPELHLGCALALRFLALVSWDIPGARA
【0252】
IV.医薬組成物及び製剤
いくつかの態様において、本明細書に開示される方法及び組成物に有用なAAV発現ベクターは、医薬組成物中に存在する。したがって、本開示のいくつかの態様は、本開示のAAV発現ベクターを、薬学的に許容される担体、希釈剤、可溶化剤、乳化剤、防腐剤、及び/または補助剤と一緒に含む、医薬組成物を対象とする。
【0253】
いくつかの態様において、薬学的に許容される担体は、CaCl、MgCl、NaCl、スクロース、及びKolliphor(ポロキサマー)P188を含有するリン酸緩衝食塩水を含む。
【0254】
いくつかの態様において、許容される製剤材料は、使用される投与量及び濃度において受容者に対して無毒であることが好ましい。いくつかの態様において、製剤材料(複数可)は、皮下投与及び/または静脈内投与用である。いくつかの態様において、医薬組成物は、組成物の、例えば、pH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、臭気、無菌性、安定性、溶解または放出速度、吸着または浸透を、変更、維持または保存するための製剤材料を含む。いくつかの態様において、好適な製剤材料としては、アミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、またはリジンなど);抗菌剤、抗酸化剤(アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、または亜硫酸水素ナトリウムなど);緩衝液(ホウ酸塩、重炭酸塩、トリス-HCl、クエン酸塩、リン酸塩、またはその他の有機酸など);増量剤(マンニトールまたはグリシンなど);キレート剤(エチレンジアミン四酢酸(EDTA)など);錯化剤(カフェイン、ポリビニルピロリドン、β-シクロデキストリン、またはヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンなど);充填剤;単糖類;二糖類;及びその他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンなど);タンパク質(血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなど);着色剤、香味剤、及び希釈剤;乳化剤;親水性ポリマー(ポリビニルピロリドンなど);低分子量ポリペプチド;塩形成対イオン(ナトリウムなど);防腐剤(塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸、または過酸化水素など);溶剤(グリセリン、プロピレングリコール、またはポリエチレングリコールなど);糖アルコール(マンニトールまたはソルビトールなど);懸濁剤;界面活性剤または湿潤剤(プルロニック(登録商標)、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルベート(ポリソルベート20、ポリソルベート80など)、トリトン、トロメタミン、レシチン、コレステロール、チロキサパルなど);安定性増強剤(スクロースまたはソルビトールなど);張性増強剤(アルカリ金属ハロゲン化物、好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、マンニトール、ソルビトールなど);送達ビヒクル;希釈剤、賦形剤及び/または医薬補助剤が挙げられるが、これらに限定されない。(Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company(1995)。
【0255】
いくつかの態様において、最適な医薬組成物は、例えば、意図される投与経路、送達形式、及び所望の投与量に応じて、当業者によって決定されるであろう。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(前掲)を参照。いくつかの態様において、このような組成物は、AAV発現ベクターの物理的状態、安定性、in vivo放出速度、及び/またはin vivoクリアランス速度に影響を及ぼす。
【0256】
いくつかの態様において、医薬組成物中の主なビヒクルまたは担体は、本質的に水性または非水性のいずれかである。例えば、いくつかの態様において、好適なビヒクルまたは担体は、注射用水、生理食塩水、または人工脳脊髄液であり、非経口投与用の組成物に一般的な他の材料が補充される場合もある。いくつかの態様において、生理食塩水は、等張リン酸緩衝生理食塩水を含む。いくつかの態様において、中性緩衝生理食塩水または血清アルブミンと混合した生理食塩水は、さらなる例示的なビヒクルである。いくつかの態様において、医薬組成物は、約pH7.0~8.5のトリス緩衝液、または約pH4.0~5.5の酢酸緩衝液を含む。いくつかの態様において、医薬組成物は、ソルビトールまたはその好適な代替物をさらに含む。いくつかの態様において、AAV発現ベクターを含む組成物は、所望の純度を有する選択された組成物を、凍結乾燥ケーキまたは水溶液の形態の任意の製剤薬(Remington’s Pharmaceutical Sciences(前掲))と混合することによって、保存用に調製される。さらに、いくつかの態様において、AAV発現ベクターを含む組成物は、スクロースなどの適切な賦形剤を使用して凍結乾燥物として製剤化される。
【0257】
いくつかの態様において、医薬組成物は、非経口送達用に選択される。
【0258】
いくつかの態様において、製剤成分は、投与部位に許容される濃度で存在する。いくつかの態様において、緩衝液は、組成物を生理学的pHまたはわずかに低いpH、通常は約5~約8の範囲内のpHに維持するために使用される。
【0259】
いくつかの態様において、非経口投与が企図される場合、治療組成物は、本開示のAAV発現ベクターを薬学的に許容されるビヒクル中に含む、発熱物質を含まない非経口的に許容される水溶液の形態である。いくつかの態様において、非経口注射用のビヒクルは、AAV発現ベクターが滅菌等張液として製剤化され、適切に保存された滅菌蒸留水である。いくつかの態様において、調製には、所望の分子を、注射可能なマイクロスフェア、生体内分解性粒子、ポリマー化合物(ポリ乳酸またはポリグリコール酸など)、ビーズまたはリポソームなどの薬剤と製剤化することを含み、これにより、製品の制御放出または持続放出が提供され、その後、デポ注射によって送達することができる。いくつかの態様において、ヒアルロン酸も使用される。ヒアルロン酸が存在すると、循環内での持続期間を促進する効果が得られる。いくつかの態様において、所望の分子を導入するために、埋め込み型薬物送達デバイスが使用される。
【0260】
いくつかの態様において、医薬組成物は、錠剤の製造に適した非毒性の賦形剤との混合物中に有効量のAAV発現ベクターを含む。いくつかの態様において、錠剤を滅菌水または別の適切な媒体に溶解することにより、単位用量形態の溶液が調製される。いくつかの態様において、適切な賦形剤には、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムもしくは重炭酸ナトリウム、ラクトース、またはリン酸カルシウムなどの不活性希釈剤;デンプン、ゼラチン、またはアカシアなどの結合剤;または、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、またはタルクなどの潤滑剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0261】
持続送達または制御送達製剤中のAAV発現ベクターが関与する製剤を含む、追加の医薬組成物は、当業者には明らかであろう。いくつかの態様において、リポソームキャリア、生体内分解性微粒子または多孔質ビーズ、デポ注射剤など、さまざまな他の持続送達または制御送達手段を製剤化する技術も、当業者に周知である。例えば、医薬組成物の送達のための多孔質ポリマー微粒子の制御された放出について記載しているPCT出願第PCT/US93/00829号を参照のこと。いくつかの態様において、徐放性製剤には、例えば、フィルムまたはマイクロカプセルの成形された物品の形態の半透性ポリマーマトリックスが含まれ得る。持続放出マトリクスには、ポリエステル、ヒドロゲル、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号及びEP058,481)、L-グルタミン酸とガンマ-エチル-L-グルタメートとのコポリマー(Sidman et al.,Biopolymers,22:547-556(1983))、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)(Langer et al.,J.Biomed.Mater.Res.,15:167-277(1981)及びLanger,Chem.Tech.,12:98-105(1982))、エチレン酢酸ビニル(Langer et al.,(前掲))またはポリ-D(-)-3-ヒドロキシ酪酸(EP133,988)が含まれ得る。いくつかの態様において、持続放出組成物には、当該技術分野で周知のいくつかの方法のいずれかによって調製できるリポソームも含まれる。例えば、Eppstein et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82:3688-3692(1985);EP036,676;EP088,046及びEP143,949を参照のこと。
【0262】
in vivo投与で使用するための医薬組成物は、通常は、無菌である。いくつかの態様において、これは除菌濾過膜を通す濾過によって達成される。いくつかの態様において、組成物が凍結乾燥される場合、この方法を使用する滅菌は、凍結乾燥及び再構成の前または後に実施される。いくつかの態様において、非経口投与用の組成物は、凍結乾燥形態または溶液の状態で保存される。いくつかの態様において、非経口組成物は、一般に、無菌アクセスポートを有する容器、例えば、皮下注射針によって穿刺可能なストッパーを有する静脈用溶液袋またはバイアルに入れられる。
【0263】
いくつかの態様において、医薬組成物が製剤化されると、溶液、懸濁液、ゲル、乳剤、固体、または脱水粉末もしくは凍結乾燥粉末として無菌バイアルに保存される。いくつかの態様において、このような製剤は、すぐに使用できる形態、または投与前に再構成される形態(例えば、凍結乾燥)のいずれかで保存される。
【0264】
V.ファブリー病療法
いくつかの態様において、本開示は、本開示のAAV発現ベクターを用いてヒト対象におけるファブリー病を治療する方法を対象としており、対象は、投与前(「前治療」)にファブリー病の酵素補充療法(ERT)を投与されているか、または投与前(「前治療」)にファブリー病の非酵素補充療法を施行されている。
【0265】
V.A 酵素補充療法
いくつかの態様において、前治療ERTは、酵素補充療法を含む。
【0266】
いくつかの態様において、前治療ERTは、組み換えαガラクトシダーゼA(GLA)タンパク質またはGALを発現する遺伝子を含む。いくつかの態様において、前治療ERTは、アガルシダーゼアルファ及び/またはベータ、あるいはアガルシダーゼアルファ及び/またはベータを発現する遺伝子を含む。いくつかの態様において、酵素補充療法は、アガルシダーゼアルファ(Replagal(登録商標)、Shire Human Genetic Therapies)、アガルシダーゼベータ(Fabrazyme(登録商標)、Sanofi Genzyme)、ペグニガルシダーゼアルファ(PRX-102、Protalix BioTherapeutics)、またはそれらの任意の組み合わせを投与することを含む。これらの形態のERTは、静脈内投与される酵素の組み換え形態によって患者の不十分なα-Gal A活性を補うことを目的としている。ERTは、腎臓の毛細血管内皮及び他のいくつかの細胞型におけるGb3沈着を減少させることが実証されている。ERTは多くの状況で効果的であるが、治療には制限もある。ERTが脳卒中のリスクを低下させることは実証されておらず、心筋の反応は遅く、腎臓のいくつかの細胞型からのGb3の除去は限られている。一部の患者は、ERTに対する免疫反応を発生する。例えば、米国特許第10,155,027号を参照のこと。
【0267】
いくつかの態様において、約0.2mg/kg体重のアガルシダーゼアルファが、静脈内注入として2週間ごとに注入される。
【0268】
いくつかの態様において、約0.3mg/kg体重のアガルシダーゼベータが、静脈内注入として2週間ごとに注入される。いくつかの態様において、約1mg/kg体重のアガルシダーゼベータが、静脈内注入として2週間ごとに注入される。
【0269】
いくつかの態様において、より高い量のERT投与を介して対象におけるより高い抗GLA中和抗体レベルを飽和させることにより、臨床的利益(例えば、血漿lyso-Gb3レベルの低下)が提供され得る。例えば、Lenders et al.,Orphanet Journal of Rare Diseases,13(171)(2018)を参照のこと。
【0270】
いくつかの態様において、前治療ERTは、遺伝子療法を含む。いくつかの態様において、遺伝子療法は、酵素をコードするベクターを含む。いくつかの態様において、ベクターは、ウイルスベクターである。いくつかの態様において、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレンチウイルスベクターを含む。いくつかの態様において、遺伝子療法は、AVR-RD-01(AvroBio)、FLT-190(Freeline Therapeutics)、ペグニガルシダーゼアルファ(PRX-102、Protalix BioTherapeutics)、及び4D-310(4D Molecular Therapeutics)、またはそれらの任意の組み合わせを投与することを含む。
【0271】
AVR-RD-01医薬品は、ヒトAGA相補デオキシリボ核酸(cDNA)配列をコードするレンチウイルスベクター/アルファガラクトシダーゼA(AGA)を導入した細胞を含む自己CD34+細胞濃縮画分を含む。(ClinicalTrials.gov;Identifier:NCT03454893)。
【0272】
FLT190は、肝臓特異的プロモーター(FRE1)によって駆動され、AAV8カプシドで擬型化された(ssAAV8-FRE1-GLAco)、コドンが最適化されたヒトGLAcDNAを含む一本鎖(ss)AAV遺伝子療法構築物である。(Nephron Clinical Practice,Abstracts:6th Update on Fabry Disease:Biomarkers,Progression and Treatment Opportunities,May 26-28,2019,Prague,Czech Republic)。
【0273】
ペグニガルシダーゼアルファ(PRX-102)は、治験の、植物細胞培養で発現され、化学的に修飾された組み換えα-ガラクトシダーゼ-A酵素の安定化バージョンである。タンパク質サブユニットは、短いPEG部分を使用した化学架橋を介して共有結合され、独自の薬物動態パラメータを持つ分子をもたらす。臨床試験では、PRX-102は、約80時間の循環半減期を有することが観察されている。
【0274】
4D-310は、カプシド(4D-C102)と、CAGプロモーターによって駆動されるコドン最適化された全長ヒトGLA導入遺伝子をコードする導入遺伝子カセットとの、2つの有効成分から構成されるアデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子療法である。4D-310は、複製できないように(複製不能)設計されている。(ClinicalTrials.gov;Identifier:NCT04519749)。
【0275】
いくつかの態様において、遺伝子療法は、酵素をコードするベクターを含む。いくつかの態様において、例えば米国特許第9,308,281号に記載されるように、ベクターは、ヒトGLAタンパク質あるいはアガルシダーゼアルファ及び/またはベータをコードするmRNAを含む。いくつかの態様において、mRNAは、mRNAに安定性を与える1つ以上の改変(例えば、mRNAの野生型またはネイティブバージョンと比較して)を含むことができ、また、タンパク質の関連する異常な発現に関与する欠陥を修正する、野生型に対する1つ以上の改変を含むこともできる。例えば、本開示の核酸は、5’及び3’非翻訳領域の一方または両方に対する改変を含み得る。このような改変には、サイトメガロウイルス(CMV)前初期1(IE1)遺伝子の部分配列、ポリAテール、Cap1構造、またはヒト成長ホルモン(hGH)をコードする配列の組込みが含まれ得るが、これらに限定されない。いくつかの態様において、mRNAは、mRNA免疫原性を低下させるように改変される。
【0276】
いくつかの態様において、遺伝子療法は、導入ビヒクルによって送達される。いくつかの態様において、導入ビヒクルは、米国特許第9,308,281号に記載される、リポソーム導入ビヒクル、例えば、脂質ナノ粒子である。いくつかの態様において、ヒトGLAタンパク質またはアガルシダーゼアルファ及び/またはベータをコードするmRNAは、標的細胞への送達を容易にするためにリポソームリポソーム導入ビヒクルに製剤化される。企図される導入ビヒクルは、1つ以上のカチオン性脂質、非カチオン性脂質、及び/またはPEG修飾脂質を含み得る。例えば、導入ビヒクルは、以下のカチオン性脂質のうち少なくとも1つを含み得る:C12-200、DLin-KC2-DMA、DODAP、HGT4003、ICE、HGT5000、及びHGT5001。いくつかの態様において、導入ビヒクルは、コレステロール(chol)及び/またはPEG修飾脂質を含む。いくつかの態様において、導入ビヒクルは、DMG-PEG2Kを含む。いくつかの態様において、導入ビヒクルは、以下の脂質製剤のうちの1つを含む:C12-200、DOPE、chol、DMG-PEG2K、DODAP、DOPE、コレステロール、DMG-PEG2K、HGT5000、DOPE、chol、DMG-PEG2K、HGT5001、DOPE、chol、及びDMG-PEG2K。
【0277】
いくつかの態様において、前治療ERTは、Galafold(登録商標)(migalastat;Amicus Therapeutics)を投与することを含む。Galafold(登録商標)は、アルファ-ガラクトシダーゼA(アルファ-Gal A)薬理学的シャペロンである。いくつかの態様において、例えば、Lenders et al.,J Am Soc Nephrol,29:2265-2278(2018)に記載されているように、123mgのGalafold(登録商標)を1日おきに同じ時間に経口投与する。
【0278】
V.B 酵素補充療法及び活性部位特異的シャペロン
いくつかの態様において、本開示の前治療ERTは、例えば米国特許第10,155,027号に記載されているように、α-ガラクトシダーゼAタンパク質(例えば、組み換えα-Gal A(rhα-Gal A))と、α-Gal Aの活性部位特異的シャペロン(ASSC)、例えばミガラスタット(1-デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ))との組み合わせを含む。
【0279】
いくつかの態様において、本開示は、α-Gal A(例えば、rhα-Gal AERT)とα-Gal A酵素(例えば、(DGJ))のためのASSCとの併用療法を提供する。いくつかの態様において、α-Gal A及びASSCは一緒に共製剤化され、共製剤として同時に対象に投与される。いくつかの態様において、ASSC1-デオキシガラクトノジリマイシンは、医薬組成物としてα-Gal Aと共製剤化される。このような組成物は、保管中(すなわち、in vitro)及び対象への投与後のin vivoの両方でα-Gal Aの安定性を高めることができ、それによって循環半減期、組織取り込みが増加し、α-Gal Aの治療効果が増加する(例えば、組織GL-3レベルの減少を増加させる)。いくつかの態様において、投与経路は静脈内である。投与は、製剤を定期的にボーラス注射することによって行うことができ、または、例えば、外部のリザーバー(例えば、IVバッグ)からの静脈内投与など、長期間にわたる徐放性投与形態として行うこともできる。
【0280】
静脈内投与用途に好適な共製剤には、注入可能な無菌溶液または滅菌分散液を即時調製するための無菌水溶液または無菌分散液及び滅菌粉末が含まれる。いくつかの態様において、形態は、無菌であり、通針性が存在する程度に流体である。いくつかの態様において、製造及び保管の条件下で安定であり、細菌及び真菌などの微生物の混入作用から保護される。いくつかの態様において、共製剤は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液状ポリエチレングリコールなど)、その好適な混合物、及び植物油を含有する、溶媒または分散媒などの担体を含む。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングの使用によって、分散の場合には必要とされる粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって、維持することができる。微生物の作用の抑制は、種々の抗細菌剤及び抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ベンジルアルコール、ソルビン酸等)によってもたらされ得る。
【0281】
いくつかの態様において、等張剤、例えば、糖類または塩化ナトリウムが添加される。注射可能組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを、組成物中に使用することによってもたらされ得る。無菌注射用溶液は、上述のさまざまな他の成分とともに、α-Gal A及びASSC(例えば、DGJ)を必要な量で適切な溶媒中に組込み、必要に応じて、その後濾過または最終滅菌することにより調製することができる。一般に、分散液は、滅菌されたさまざまな有効成分を、基本的な分散媒と、上記の成分のうち必要とされる他の成分とを含有する無菌ビヒクル中に組み込むことにより調製することができる。無菌注射用溶液の調製のための無菌粉末の場合、その調製の好ましい方法は、予め無菌濾過した溶液から有効成分と任意の所望の追加成分とを合わせた粉末が得られる、真空乾燥及び凍結乾燥技術である。
【0282】
いくつかの態様において、共製剤は、賦形剤を含み得る。共製剤に含めることができる薬学的に許容される賦形剤は、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、及び重炭酸緩衝液などの緩衝液、アミノ酸、尿素、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質;血清アルブミン、コラーゲン、及びゼラチンなどのタンパク質、塩(EDTA、EGTA、及び塩化ナトリウムなど)、リポソーム、ポリビニルピロリドン、糖(デキストラン、マンニトール、ソルビトール、及びグリセロールなど)、プロピレングリコール、及びポリエチレングリコール(例えば、PEG-4000、PEG-6000)、グリセロール、グリシン(またはその他のアミノ酸)、ならびに脂質である。共製剤とともに使用される緩衝液系には、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、重炭酸緩衝液、及びリン酸緩衝液が含まれ得る。
【0283】
共製剤には非イオン性洗剤も含まれ得る。非イオン性洗剤には、ポリソルベート20、ポリソルベート80、トリトンX-100、トリトンX-114、ノニデット(登録商標)P-40、オクチルα-グルコシド、オクチルβ-グルコシド、ブリッジ35、プルロニック(登録商標)、Tween20が挙げられるが、これらに限定されない。
【0284】
タンパク質及びシャペロン製剤の凍結乾燥の場合、タンパク質濃度は、約0.1mg/mL~約10mg/mLであり得る。グリシン、マンニトール、アルブミン、及びデキストランなどの増量剤が、凍結乾燥混合物に添加され得る。さらに、二糖類、アミノ酸、及びPEGなどの凍結保護剤を、凍結乾燥混合物に添加することも可能である。上記の緩衝液、賦形剤、洗剤のいずれかを添加することもできる。
【0285】
いくつかの態様において、共製剤は、約0.05~約100μM、約0.1~約75μM、約0.2~約50μM、約0.3~約40μM、約0.4~約30μM、約0.5~約20μM、約0.6~約15μM、約0.7~約10μM、約0.8~約9μM、約0.9~約8μM、約1~約7μM、約2~約6μM、または約3~約5μMの濃度のα-Gal Aを含む。
【0286】
いくつかの態様において、共製剤は、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、または15μMの濃度のα-Gal Aを含む。
【0287】
いくつかの態様において、共製剤は、約0.0025~約5mg/ml、約0.005~約4.5mg/ml、約0.025~約4mg/ml、約0.05~約3.5mg/ml、約0.25~約3mg/ml、約0.5~約2.5mg/ml、約0.75~約2mg/ml、または約1~約1.5mg/mlの濃度のα-Gal Aを含む。
【0288】
いくつかの態様において、共製剤は、約10~約25,000μM、約50~約20,000μM、約100~約15,000μM、約150~約10,000μM、約200~約5,000μM、約250~約1,500μM、約300~約1,000μM、約350~約550μM、または約400~約500μMの濃度のDGJを含む。
【0289】
いくつかの態様において、共製剤は、約0.002~約5mg/ml、約0.005~約4.5mg/ml、約0.02~約4mg/ml、約0.05~約3.5mg/ml、約0.2~約3mg/ml、約0.5~約2.5mg/ml、または約1~約2mg/mlの濃度のDGJを含む。
【0290】
いくつかの態様において、共製剤は、約50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000、10000、11000、12000、13000、14000、15000、16000、17000、18000、19000、または20000μMの濃度のDGJを含む。
【0291】
いくつかの態様において、α-Gal A酵素及びDGJを組み合わせて、対象に投与するための共製剤を作成し、対象に投与される共製剤のα-Gal A酵素の投与量は、約0.05~約10mg/kg、約0.1~約5mg/kg、約0.2~約4mg/kg、約0.3~約3mg/kg、約0.4~約2mg/kg、約0.5~約1.5mg/kg、または約0.5~約1mg/kgである。
【0292】
いくつかの態様において、対象に投与される共製剤のα-Gal A酵素の投与量は、約0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、または5mg/kgである。
【0293】
いくつかの態様において、α-Gal A酵素及びDGJを組み合わせて、対象に投与するための共製剤を作成し、対象に投与される共製剤のDGJの投与量は、約0.05~20mg/kg、約0.1~15mg/kg、約0.2~10mg/kg、約0.3~10mg/kg、約0.4~9mg/kg、約0.5~8mg/kg、約0.6~7mg/kg、約0.7~6mg/kg、約0.8~5mg/kg、約0.9~4mg/kg、約1~3mg/kg、または約1.5~2mg/kgである。
【0294】
いくつかの態様において、対象に投与される共製剤のDGJの投与量は、約0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10mg/kgである。
【0295】
いくつかの態様において、α-Gal AとDGJの共製剤は、α-Gal Aは共製剤と同じ投与量であるが、ただしDGJなしで対象に投与された場合に達成される血漿AUC濃度の約0.5~10倍、約1~約8倍、約1.5~約6倍、約2~約5.5倍、約2.5~約5倍、または約3~約4.5倍の血漿AUC濃度を達成するのに有効な量で対象に静脈内投与することができる。
【0296】
本明細書で使用される場合、「AUC」という用語は、所与の薬物に対する経時的な身体の総曝露量を評価するための数学的計算を表す。投与後の血中濃度をプロットしたグラフでは、薬物濃度変数がy軸にあり、時間がx軸にある。指定された時間間隔における薬物濃度曲線とx軸の間の面積がAUCである。AUCは、投与スケジュールのガイドとして、また体内での異なる薬剤の利用可能性を比較するために使用される。
【0297】
いくつかの態様において、α-Gal AとDGJの共製剤は、α-Gal Aは共製剤と同じ投与量であるが、ただしDGJなしで対象に投与された場合に達成されるα-Gal A組織取り込みレベルの約0.5~10倍、約1~約8倍、約1.5~約6倍、約2~約5.5倍、約2.5~約5倍、または約3~約4.5倍のα-Gal A組織取り込みレベルを達成するのに有効な量で対象に静脈内投与することができる。
【0298】
共製剤の送達は、数時間、1~数週間、1~数か月、または最長1年以上の範囲の、事前に選択された投与期間にわたって継続することができる。いくつかの態様において、投与形態は、長期間にわたってα-Gal Aを送達するのに適したものである。そのような送達デバイスは、α-Gal Aを、数時間(例えば、2時間、12時間、または24時間~48時間以上)、数日間(例えば、2日~5日間以上、約100日間以上)、数か月または数年間投与するように適合させることができる。いくつかの態様において、デバイスは、約1か月~約12か月以上の範囲期間にわたる送達に適している。α-Gal A送達デバイスは、例えば、約2時間~約72時間、約4時間~約36時間、約12時間~約24時間、約2日~約30日、約5日~約20日、約7日~約100日以上、約10日~約50日;約1週間~約4週間、約1か月~約24か月以上、約2か月~約12か月、約3か月~約9か月、または必要に応じてこれらの範囲内での増分範囲を含むその他の時間範囲の期間にわたって、α-Gal Aを個体に投与するように適合されたものであり得る。
【0299】
いくつかの態様において、DGJとの共製剤中に存在するα-Gal Aの用量は、1日1回、2日ごとに1回、3日ごとに1回、4日ごとに1回、5日ごとに1回、または6日ごとに1回静脈内投与される。いくつかの態様において、用量は、個体の肝臓におけるα-Gal Aの毒性レベルをもたらさない。いくつかの態様において、α-Gal AとDGJの共製剤組成物は、投与後約24時間以内に、対象の組織におけるα-Gal Aのピーク濃度をもたらすのに十分な投与量で投与される。いくつかの態様において、共製剤組成物は、用量の投与後約0.2~約50時間、約0.2~約24時間、約0.2~約5時間、約0.2~約1時間、約0.2~約0.5時間、または約40、30、20、10、5、1、0.5以下の時間内に対象の組織中のα-Gal Aのピーク濃度をもたらすのに十分な用量で投与される。いくつかの態様において、共製剤は、単回投与として投与される。いくつかの態様において、共製剤は、複数投与として投与される。
【0300】
V.C 非酵素補充療法
いくつかの態様において、ファブリー病のための療法は、酵素補充療法である。
【0301】
いくつかの態様において、非酵素補充療法は、小分子療法を含む。ファブリー病の小分子療法のためのいくつかの新たな医薬品開発戦略には、基質還元療法(SRT)、残留酵素活性化、GLAプロモーター活性化、タンパク質恒常性調節(プロテオスタシス)、及び化学シャペロン療法(CCT)が挙げられるが、これらに限定されず、例えば、Motabar et al.,Curr Chem Genomics4:50-56(2010)に記載されている。
【0302】
いくつかの態様において、小分子療法は、ルセラスタット(Idorsia Pharmaceuticals Ltd)、ベングルスタット(Sanofi Genzyme)、またはアパベタロン(開発コードRVX208、RVX-208、及びRVX000222、Resverlogix Corp.)、またはそれらの任意の組み合わせを投与することを含む。
【0303】
VI.AAV発現ベクターの製造方法
また、本開示の範囲内には、ウイルス複製細胞をAAVポリヌクレオチドまたはAAVゲノム(例えば、本開示のAAVベクター)と接触させることを含む、ウイルス複製細胞内でのウイルスゲノム複製によるAAV粒子の生成方法も含まれる。本開示の文脈において、本明細書に開示されるAAV発現ベクターは、AAVペイロード構築物ベクターとみなされる。
【0304】
いくつかの態様において、AAV粒子は、以下のステップを含む方法によって生成される:(1)バクミドベクターと、ウイルス構築ベクター及び/またはAAVペイロード構築物ベクターのいずれかとを、コンピテント細菌細胞に共トランスフェクトするステップ、(2)得られたウイルス構築物発現ベクター及びAAVペイロード構築物発現ベクターを単離し、ウイルス複製細胞を別々にトランスフェクトするステップ、(3)得られたペイロードと、ウイルス構築物発現ベクターまたはAAVペイロード構築物発現ベクターを含むウイルス構築物粒子とを、単離及び精製するステップ、(4)AAVペイロードと、ウイルス構築物発現ベクターまたはAAVペイロード構築物発現ベクターを含むウイルス構築物粒子との両方を、ウイルス複製細胞に共感染させるステップ、及び(5)パルボウイルスゲノムを含むウイルス粒子を収集及び精製するステップ。
【0305】
一態様において、本開示は、AAV粒子を生成するための方法を提供し、この方法は、(1)ペイロード領域(例えば、本開示の治療分子をコードするポリヌクレオチド)、rep遺伝子及びcap遺伝子を発現する構築物、及びヘルパー構築物を、HEK293細胞など(ただし、これに限定されない)の哺乳動物細胞に同時に共トランスフェクトするステップと、(2)ウイルスゲノムを含むAAV粒子を採取して精製するステップとを含む。
【0306】
いくつかの態様において、AAV粒子は、昆虫細胞を含むウイルス複製細胞内で生成され得る。培養される昆虫細胞の生育条件、及び培養される昆虫細胞における異種産物の生産は、当該技術分野で周知であり、例えば、米国特許第6,204,059号を参照のこと。
【0307】
ウイルス複製細胞は、原核生物(例えば、細菌)細胞、及び昆虫細胞、酵母細胞、及び哺乳動物細胞を含む真核生物細胞を含む任意の生物有機体から選択することができる。ウイルス複製細胞には、A549、WEH1、3T3、10T1/2、BHK、MDCK、COS1、COS7、BSC1、BSC40、BMT10、VEROなどの哺乳動物細胞が含まれ得る。
【0308】
W138、HeLa、HEK293、Saos、C2C12、L細胞、HT1080、HepG2、及び哺乳類由来の一次線維芽細胞、肝細胞、筋芽細胞。ウイルス複製細胞は、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、及びハムスターを含む(ただし、これに限定されない)哺乳類種に由来する細胞、または線維芽細胞、肝細胞、腫瘍細胞、細胞株形質転換細胞を含む(ただし、これに限定されない)細胞型を含む。
【0309】
本明細書に開示されるウイルス産生は、標的細胞に接触して、ペイロード(例えば、α-Gal Aタンパク質などのペイロードをコードするポリヌクレオチド配列を含む組み換えウイルス構築物)を送達するAAV粒子を生成するためのプロセス及び方法を記載する。
【0310】
いくつかの態様において、AAV粒子は、哺乳動物細胞を含むウイルス複製細胞内で生成され得る。組み換えAAV粒子の生成に一般的に使用されるウイルス複製細胞には、293細胞、COS細胞、HeLa細胞、KB細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0311】
いくつかの態様において、AAV粒子は哺乳動物細胞で生成され、3つのVPタンパク質すべてが1:1:10(VP1:VP2:VP3)に近い化学量論で発現する。この制御されたレベルの発現を可能にする調節機構には、差動スプライシングによって生成される2つのmRNA(1つはVP1用、もう1つはVP2とVP3用)の生成が含まれる。
【0312】
いくつかの態様において、AAV粒子は、トリプルトランスフェクション法を使用して哺乳動物細胞内で生成され、ペイロード構築物、パルボウイルスRep及びパルボウイルスCap並びにヘルパー構築物が3つの異なる構築物内に含まれる。AAV粒子生成の3つの構成要素のトリプルトランスフェクション法を、形質導入効率、標的組織(向性)評価、安定性などのアッセイ用の小ロットのウイルスを産生するために利用することができる。
【0313】
いくつかの態様において、ウイルス構築物ベクター及びAAVペイロード構築物ベクターは、それぞれ、当業者に周知であり、実施される標準的な分子生物学技術によって、トランスポゾン供与体/受容体システムによってバクミド(バキュロウイルスプラスミドとも知られる)に組み込むことができる。別々のウイルス複製細胞集団のトランスフェクションによって、2つのバキュロウイルスが生成され、1つはウイルス構築物発現ベクターを含み、もう1つはAAVペイロード構築物発現ベクターを含む。2つのバキュロウイルスは、AAV粒子を生成するための単一のウイルス複製細胞集団を感染するために使用され得る。
【0314】
昆虫細胞(Spodoptera frugiperda(Sf9)細胞を含むがこれに限定されない)内でウイルス粒子生成物を提供するためのバキュロウイルス発現ベクターは、高力価のウイルス粒子生成を提供する。ウイルス構築物発現ベクター及びAAVペイロード構築物発現ベクターをコードする組み換えバキュロウイルスは、ウイルス複製細胞の生産的な感染を開始する。一次感染から放出された感染性バキュロウイルス粒子は、培養中の追加の細胞に二次感染し、初期の感染多重度の関数である感染サイクル数で細胞培養集団全体を指数関数的に感染させる、例えば、Urabe,M.et al.,J Virol.2006 Feb;80(4):1874-85を参照されたく、この内容は、全体として参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクター(例えば、AAV-001rAAVベクター)は、AAV2由来のITRと両端で隣接するα-Gal A発現カセットを含み、α-Gal A発現カセットは、Sf9昆虫細胞/組み換えバキュロウイルス(Sf9/rBV)発現系を使用して、アデノ随伴ウイルス6型(AAV6)由来のカプシドとともにパッケージングされている。いくつかの態様において、本開示のAAV発現ベクター(例えば、AAV-001rAAVベクター)は、AAV2由来のITRと両端で隣接するα-Gal A発現カセットを含み、α-Gal A発現カセットは、哺乳動物発現系、例えばHEK293を使用して、AAV6由来のカプシドとともにパッケージングされている。
【0315】
昆虫細胞系内でバキュロウイルスを使用してAAV粒子を生成すると、周知であるバキュロウイルスの遺伝的及び物理的不安定性に対処することができる。バキュロウイルスに感染したウイルス産生細胞は、液体窒素中で凍結保存できるアリコートで採取される。アリコートは、大規模なウイルス産生細胞培養の感染のために生存能力と感染力を保持している(Wasilko DJ et al.,Protein Expr Purif.2009 Jun;65(2):122-32)。
【0316】
いくつかの態様において、バキュロウイルス感染を許容する安定したウイルス複製細胞は、AAVゲノム全体、Rep遺伝子及びCap遺伝子、Rep遺伝子、Cap遺伝子、個別の転写カセットとしての各Repタンパク質、個別の転写カセットとしての各VPタンパク質、AAP(アセンブリ活性化タンパク質)、またはネイティブまたは非ネイティブのプロモーターを持つバキュロウイルスヘルパー遺伝子の少なくとも1つを含むがこれらに限定されない、AAV複製及びウイルス粒子生成に必要な要素のいずれかの少なくとも1つの安定した統合コピーを使用して設計される。
【0317】
いくつかの態様において、AAV粒子生成は、生産の規模を拡大するために改変され得る。大規模培養形式での複製細胞のトランスフェクションは、当技術分野で周知の任意の方法に従って行うことができる。
【0318】
いくつかの態様において、細胞培養バイオリアクターを、大規模なウイルス産生に使用することができる。場合によっては、バイオリアクターは、撹拌タンクリアクターを含む。
【0319】
細胞溶解
本開示の細胞(ウイルス産生細胞を含むがこれに限定されない)は、当該技術分野で周知の任意の方法に従って細胞溶解に供され得る。細胞溶解は、本開示の任意の細胞内に存在する1つ以上の因子(例えば、ウイルス粒子)を得るために実行され得る。
【0320】
細胞溶解方法は、化学的または機械的であり得る。化学的細胞溶解法は、通常は、1つ以上の細胞を1つ以上の溶解剤と接触させることを含む。機械的溶解は、通常は、1つ以上の細胞を1つ以上の溶解条件及び/または1つ以上の溶解力に供すること含む。いくつかの態様において、化学溶解を使用して細胞を溶解することができる。本明細書で使用される場合、「溶解剤」という用語は、細胞の破壊を助けることができる任意の薬剤を指す。場合によっては、溶解剤は、溶解溶液または溶解緩衝液と呼ばれる溶液に導入される。本明細書で使用される場合、「溶解溶液」という用語は、1つ以上の溶解剤を含む溶液(通常は水性)を指す。溶解剤に加えて、溶解溶液は、1つ以上の緩衝剤、可溶化剤、界面活性剤、防腐剤、凍結保護剤、酵素、酵素阻害剤、及び/またはキレート剤を含み得る。
【0321】
細胞膜を破壊するのに有効な濃度を得るために、塩の濃度を増加または減少させることができる。洗剤を含む溶解剤には、イオン性洗剤または非イオン性洗剤が含まれ得る。洗剤は、細胞膜、細胞壁、脂質、炭水化物、リポタンパク質、及び糖タンパク質を含むがこれらに限定されない細胞構造を、破壊または溶解させるために機能し得る。
【0322】
いくつかの態様において、機械的細胞溶解が実行される。機械的細胞溶解方法には、1つ以上の溶解条件及び/または1つ以上の溶解力の使用が含まれ得る。本明細書で使用される場合、「溶解条件」という用語は、細胞破壊を促進する状態または状況を指す。溶解条件には、特定の温度、圧力、浸透純度、塩分濃度等が含まれ得る。いくつかの態様において、溶解条件は、温度の上昇または低下を含む。いくつかの態様において、溶解条件は、細胞破壊を促進するための温度変化を含む。このような態様に従って実行される細胞溶解には、凍結融解溶解が含まれ得る。
【0323】
本明細書で使用される場合、「溶解力」という用語は、細胞を破壊するために使用される物理的活動を指す。溶解力には、機械力、音力、重力、光学力、電気力等が含まれ得るが、これらに限定されない。機械力によって行われる細胞溶解を、本明細書では「機械的溶解」と称する。機械的溶解に従って使用できる機械力には、高せん断流体力が含まれ得る。
【0324】
いくつかの態様において、溶解せずにAAV粒子を収穫する方法が、効率的かつスケーラブルなAAV粒子の生成に使用され得る。非限定的な例として、AAV粒子は、米国特許出願20090275107号に記載されるように、ヘパリン結合部位を欠くAAV粒子を培養し、それによってAAV粒子を細胞培養物の上清に通過させ、培養物から上清を収集し、上清からAAV粒子を分離することによって生成することができる。
【0325】
AAV精製
ウイルス粒子を含む細胞溶解物は、清澄化に供され得る。清澄化とは、細胞溶解物からウイルス粒子を精製する際に行われる最初の手順を指す。清澄化は、より大きな不溶性の破片を除去して、溶解物をさらなる精製のために準備するのに役立つ。清澄化ステップには、遠心分離及び濾過が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0326】
いくつかの態様において、AAV粒子は、1つまたは複数のクロマトグラフィー方法によって、清澄化された細胞溶解物から精製され得る。クロマトグラフィーとは、混合物から1つ以上の要素を分離するための、当該技術分野で周知のさまざまな方法を指す。このような方法には、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、カチオン交換クロマトグラフィー及びアニオン交換クロマトグラフィー)、免疫親和性クロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーが含まれるが、これらに限定されない。
【0327】
上記で引用したすべての参考文献、及び本明細書で引用したすべての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0328】
下記の実施例は、例示として示されており、限定するために示されているものではない。
【0329】
実施例
本開示を、その特定の態様を参照して説明してきたが、当業者は、本開示の真の主旨及び範囲から逸脱することなく、さまざまな変更が行われてもよく、均等物が置き換えられてもよいことを理解されたい。また、特定の状態、材料、物質の組成、プロセス、単数または複数のプロセスステップを、本開示の目的、主旨、及び範囲に適応させるために、多くの修正が行われてもよい。すべてのそのような修正は、本開示の範囲内であることが意図される。
【0330】
実施例1
ファブリー病に罹患した成人におけるAAV-001の臨床評価
AAV-001を、ファブリー病に罹患した対象におけるrAAV2/6ヒトα-Gal A遺伝子療法であるAAV-001の安全性及び寛容性を評価するために、第1/2相、多施設、非盲検、単回投与、用量範囲試験で評価した。試験デザインを、図2に提示する。
【0331】
この試験の主な目的は、AAV-001の安全性及び寛容性を評価することである。この試験の二次目的は、α-Gal Aの薬力学及び血漿中のその基質の存在を経時的に評価すること、ERTを受けている対象に必要なERT投与に対するAAV-001の影響を評価すること、腎機能と心臓機能に与えるAAV-001の影響を評価すること、ファブリー病に及ぼすAAV-001の臨床的影響(生活の質(QoL)を含む)を評価すること、及びrAAV2/6ベクターDNAの排出を経時的に評価することである。この試験のさらなる目的は、α-Gal Aの薬力学及び尿及び組織中のその基質の存在を経時的に評価すること、α-Gal Aの薬物動態を経時的に評価すること、及びrAAV2/6及びα-Gal Aに対する免疫応答を評価することである。
【0332】
試験評価
評価には、治療関連有害事象(TEAE)の発生、定期的な血液学、化学、肝機能、バイタルサイン、ECO及びECHO、連続アルファフェトプロテイン(AFP)検査、及び肝臓腫瘤の形成を監視するための肝臓のMRI(または同等の画像)が含まれる。さらに、1年間の特定の時点での、血漿中のα-Gal A活性、血漿中のGb3レベル、血漿中のLyso-Gb3レベル、FABRAZYME(登録商標)(または同等のERT)注入の頻度、血中クレアチニンレベルから計算した推算糸球体濾過量(eGFR)、心臓磁気共鳴画像法(MRI)で測定した左室質量、尿中の総タンパク質及びアルブミンとクレアチニンとの比、組織で測定したα-Gal A及びGb3レベル、組織及び尿で測定した基質レベル、尿中の腎機能のバイオマーカー、Brief Pain Inventory(BPI)で測定した神経障害性疼痛、鎮痛剤の使用頻度、GI症状評価スケールで測定した胃腸(GI)症状、Mainz Severity Score Index(MSSI)、SF-36質問票で測定した患者報告による生活の質(QOL)結果、rAAV2/6及びα-Gal Aに対する免疫応答についてベースラインからの変化が測定され得、rAAVベクターのクリアランスは、血液、血漿、唾液、尿、便、精液中のベクターゲノムのレベルによって測定することができる。
【0333】
標的対象集団及び適格基準
古典型ファブリー病に罹患した18歳以上の男性及び女性対象。対象は、本明細書に記載されるように、酵素補充療法(ERT)レジメンを受けているか、またはERTナイーブであるか、またはERT疑似ナイーブであり、過去6か月間にERT治療を受けていないかであり得る。
【0334】
対象の包含基準は以下を含む、(1)血漿または白血球のいずれかのα-Gal A活性が5%未満と定義される古典型ファブリー病の診断が記録されており、古典型ファブリー病の以下の症状特性の1つ以上を有する対象:i)渦巻状角膜混濁、ii)肢端感覚異常、iii)無汗症、iv)被角血管腫(臍周囲被角血管腫のクラスター化が記録されている場合、これは古典型ファブリー病の特徴的な徴候であるため、この症状だけで十分である)、(2)ERT(14日間[±1日]レジメン)を受けている対象、またはERTを受けているがα-Gal A活性が5%超であるか、ERT-ナイーブであるか、またはERT-疑似-ナイーブであり、同意前の過去6か月間にERT治療を受けていない対象、(3)ERTを受ける対象の場合、ERTは、安定用量(同意前の6か月間にERTの投与を4回以上欠かしていないと定義)及びレジメン(登録前の少なくとも3か月間は14日±1日)で投与されている必要がある、(4)古典型ファブリー病を示す変異(すなわち、国際ファブリー病遺伝子型表現型データベース(dbFGP)などのデータベースにリストされている)を有する対象、(5)トラフ時のα-Gal A活性がアッセイの正常範囲の下限を下回る対象、(6)>約18歳の対象、(7)性的に成熟した対象は、発現構築物の投与時から、治験治療の施行後に少なくとも3回連続して精液サンプルがAAV陰性となり、かつ治験治療施行後少なくとも90日間までは、コンドームを使用し、精子提供を控えることに同意する必要がある、(8)対象の署名入りの書面によるインフォームドコンセント。
【0335】
診断用α-Gal A活性レベルが記録されていない対象については、血液サンプルを採取してα-Gal A活性レベル(血漿及び/または白血球中)を測定する。ERTを受けている対象の場合、この採血は最後のERT注入(トラフ)、iから少なくとも13日後に行われる。対象のα-Gal A活性レベルが5%超であり、対象がERTを受けている場合、この酵素活性レベルは、最後のERT注入からの残留α-Gal A活性によるものである可能性がある。この場合、以下の3つの基準が満たされた場合に、古典型ファブリー病の診断が確定する。
【0336】
a.古典型ファブリー病の以下の兆候 的特徴のうち2つ以上が記録されている:渦巻状角膜混濁、肢端感覚異常、無汗症、被角血管腫。臍周囲被角血管腫のクラスター化が記録されている場合、これは古典型ファブリー病の特徴的な徴候であるため、この症状だけで十分である。
b.古典型ファブリー病を示す変異(すなわち、www.dbfgp.orgなどのデータベースに記載されているもの);及び
c.トラフ時のα-Gal A活性が、検査の正常範囲の下限値を下回っている。
【0337】
ファブリー病の遺伝子配列決定は、対象のα-Gal A遺伝子に変異があるかどうかを確認するためにスクリーニング時に実施した。アッセイは、血液または唾液サンプルで実施した。利用可能な場合は、試験前に得られた遺伝子配列決定結果を使用することができる。スクリーニングでは、HIV、HAV、HBV、HCV、及びTBの検査を行った。HIVと診断された対象、または活動性HAV、HBV、HCV、またはTB感染の証拠がある対象は、この試験への参加資格を有し得ない。
【0338】
AAV6に対する中和抗体のレベルは、対象のAAV6に対する既存の免疫応答を評価するためにスクリーニング時に測定した。AAV6に対する既存の中和抗体が高い対象は、この試験への参加資格を有し得ない。スクリーニングから3か月以内に投与が完了しない場合は、AAV6に対する血清中和アッセイを繰り返す。
【0339】
利用可能な場合は、試験前に採取された血漿または白血球中の診断用α-Gal A活性レベルの結果が使用される。診断用α-Gal A活性レベルが記録されていない対象については、血液サンプルを採取してα-Gal A活性レベル(血漿及び/または白血球中)を測定する。ERTを受けている対象の場合、この採血は最後のERT注入から少なくとも13日後に行われる。
【0340】
対象の全般的な健康状態と試験の適格性を評価するために、胸部X線写真(胸部PAレントゲン写真としても知られる)を得ることができる。医学的に指示がない限り、試験への登録から6か月以内に撮影された胸部X線写真を使用して対象の適格性が判断される。各対象に対して身体検査が行われ、最低限、一般的な外観、頭部、眼、耳、鼻、喉(HEENT)のほか、心臓血管系、皮膚科、呼吸器系、消化器系、筋骨格系、神経系の検査が含まれる。
【0341】
対象除外基準には、次の対象が含まれ得る:(1)治験責任医師及びメディカルモニターの判断によるERTに応答しないことが判明している(例えば、ERTで基質レベルが低下した記録がない)、(2)現在ミガラスタット(Galafold(商標))による治療を受けている、またはインフォームドコンセントの3か月以内に事前に治療を受けている、(3)AAV(例えば、AAV6)に対する中和抗体反応が陽性である、(4)治験責任医師またはメディカルモニターの判断による、治験の観察期間中に安全性または有効性の評価を損なうと予想される併発疾患がある、(5)eGFRが60ml/分/1.73m未満である、(6)ニューヨーク心臓協会クラスPI以上である、(7)定量的ポリメラーゼ排出反応(qPCR)によって測定されたA型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)(HCV-DNA陰性)、もしくはヒト免疫不全ウイルス(HIV)の活動性感染症、または結核(TB)の活動性感染症に罹患している、(8)インフォームドコンセントの6か月以内に、二次性脂肪肝、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、肝硬変、胆管炎、胆道疾患などの肝疾患の病歴がある(ジルベール症候群;循環血中AFPの異常を除く)、(9)ERTを受けている対象の場合、同意前6か月以内に、治験責任医師及びメディカルモニターの判断によるERTに対する有意な注入反応として現れる、ERT治療に対する最近または継続的な過敏症反応がある、(10)次の1つ以上によって確認される肝炎マーカーまたは明白または潜在的な肝機能障害の原因:(i)アルブミン<3.5g/dL、(ii)総ビリルビン>正常上限(ULN)かつ直接ビリルビン>0.5mg/dL、(iii)アルカリホスファターゼ(ALP)>2.0xULN。(iv)アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)>1.5xULN、(11)全身性(IVまたは経口)免疫調節剤またはステロイドを現在または過去6か月以内に使用したことがある(喘息や湿疹などの局所治療は許可される)(全身性ステロイドの随時使用は、医療モニターとの協議後に許可される場合がある)、(12)免疫抑制のためのコルチコステロイドの使用が禁忌である、(13)非黒色腫皮膚がん以外の悪性腫瘍の病歴がある、(14)アルコールまたは薬物乱用の病歴がある、(15)同意前の過去3か月以内に、以前の介入薬または医療機器試験に参加したことがある(RalLRoAD試験のような埋め込み型ループレコーダーを除く)、(16)以前に遺伝子療法製品による治療を受けたことがある、(17)AAV-001製剤の成分に対する過敏症を認識している、(18)治験責任医師またはメディカルモニターの判断による、対象が試験への参加に不適切となるその他の理由。
【0342】
ベースライン期間
ベースライン評価及び手順を、AAV-001注入前の12週間以内に実施した。ERTを受けている対象では、前回のERT投与後14日(±1日)と定義されるERTトラフレベルで、α-Gal Aレベル、Gb3、lyso-Gb3を含む評価が行われる。2つの異なる日の午前中に、ベースラインで2つのサンプルを採取する。ERTを受けていない対象の場合、ベースラインで2回、14日(±1日)間隔を空けて2つのサンプルを採取する。
【0343】
併用薬
肝毒性の可能性があるものを除き、すべての薬剤が許可され得る。ジクロフェナク、アミオダロン、クロイプロマジン、フルコナゾール、イソニアジド、リファンピシン、バルプロ酸、高用量アセトアミノフェン(4~8グラム/日)などの肝毒性薬剤、及びセネシオ/クロタルアリア、茶に含まれるジャーマンダー、チャパラル、Jin bu huan、Ma-huang(中国ハーブ)等の肝毒性ハーブサプリメントは、試験期間中は摂取するべきではない。ERTを受けている対象について、ERTは、安定用量(同意前の6か月間にERTの投与を4回以上欠かしていないと定義)及びレジメン(登録前の少なくとも3か月間は14日±1日)で投与されている必要がある。対象は、ERTの投与を中止しない限り、標準治療に従って、試験期間中、安定用量とレジメン(14日間±1日)でERTを継続して受ける必要がある。
【0344】
用量コホート
寛容かつ安全であると考えられる用量が、用量拡大コホートで利用されるであろう。用量漸増が完了した後、用量拡大を開始し、用量拡大コホートごとに最大6人の対象が登録され、対象には、α-Gal A抗体陽性の古典型ファブリー病患者、α-Gal A抗体陰性の古典型ファブリー病患者、女性患者(女性コホート)、及び腎臓(腎臓コホート)と心臓(心臓コホート)の包含基準と除外基準を満たす患者を含む。安全性に関する新たな考慮事項が生じた場合、拡大コホートの用量は再評価され得る。
【0345】
抗α-Gal AAb陽性コホート:α-Gal A抗体陽性の古典型ファブリー病に罹患した男性対象が最大6名登録される。
【0346】
抗α-Gal AAb陰性コホート:α-Gal A抗体陰性の古典型ファブリー病に罹患した男性対象が最大6名登録される。
【0347】
女性コホート:古典型ファブリー病に罹患した女性対象が最大6名登録される。
【0348】
腎臓コホート:線形負のeGFR勾配(スクリーニング訪問時に取得した値を含む、18か月以内の少なくとも3回の過去の血清クレアチニン値から推定)が≧2mL/分/1.73m/年の症状のあるファブリー病に罹患した男性または女性の対象が最大6名登録される。
【0349】
心臓コホート:2D心エコー検査またはCMR(拡張期終末期中隔及び後壁の厚さが12mm以上)で左室肥大(LVH)がみられ、LVHの他の説明がないか、2Dひずみ心エコー検査での全体縦方向ひずみの減少、またはCMRでのネイティブT1マッピングの低下など、病気の進行を示す心臓の変化がみられない、心臓障害を伴う症状のあるファブリー病の男性または女性の対象が最大6名登録される。
【0350】
スクリーニング前の6か月間に心血管事象を経験した対象は、治験責任医師の裁量により除外される場合がある。
【0351】
開始用量は5.0E+12vg/kgであり、次の用量レベルへの用量漸増は、以前のコホート及び/またはin vivo rAAV2/6ベースの療法を使用する他の臨床試験のデータを確認し、必要に応じて外部の専門家、試験メディカルモニター、及び治験責任医師で構成される安全性モニタリング委員会(SMC)の推奨に基づいて行われる。本明細書で使用される場合、SMCメンバーは、適切な医学的及び科学的専門知識を有しており、試験の安全性監視を提供する。さらに、投与された対象の観察された酵素活性レベル及び安全性プロファイルに応じて、SMCは、コホート3の用量を5倍に増やす代わりに、コホート3で中間用量レベル3.0E+13vg/kg(コホート2の用量の3倍の増加)に用量漸増することを推奨することができる。プロトコールでは、コホート4の追加用量として5.0E+13vg/kgの追加用量レベルを含めることも許可される。ただし、対象に投与される用量は、大幅な修正なしに5.0E+13を超えることはない。用量コホートを表2に示す。(図3も参照のこと)
表2.コホート別の用量
【表3】
*rAAV-組み換えアデノ随伴ウイルス
【0352】
治療計画
すべての包含/除外基準を満たす>18歳の対象が登録される。用量コホートのそれぞれに少なくとも2人の対象が割り当てられ、SMCのレビュー後に、いずれのコホートもさらに4人の成人対象を増やし、合計最大18人の対象にする可能性がある。発現ベクターを、静脈内注入により投与した。各コホート内では、治療は段階的に行われるため、後続の対象は、前の対象に投与されてから少なくとも約2週間経過するまでは注入はされない。次の用量レベルへの用量漸増は、前のコホートの最後の対象に投与されてから少なくとも約4週間経過し、前のコホート全体の安全性データがSMCによって審査されるまでは実行できない。
【0353】
試験登録前にERTを受けた対象は、試験期間中もERTを受け続け、ERTを中止しない限り、標準治療に従って現在の用量とレジメン(14日±1日)を維持する必要がある。ERTを受けている対象の場合、酵素及び基質レベルのベースライン試験は、前回のERT注入から14日(+/-1日)後と定義されるトラフの朝に2回別々にサンプルを採取できるように調整される。スクリーニング期間中に事前に追加の時点が取られているため、遺伝子療法施行前のトラフにおけるα-Gal Aの残留レベルを評価するための時点が3つある。これら3つのサンプルを、酵素のレベルに影響を与える可能性のある非特異的な要因を最小限に抑えるために、トラフ時に採取され、好ましくは1日の同じ時間(例えば、朝)に採取する。
【0354】
rAAVカプシドタンパク質に対する潜在的な免疫応答を最小限に抑え、肝臓損傷の場合に導入遺伝子発現の喪失を回避し、肝機能を維持するために、発現ベクター注入の約2日前から予防的にプレドニゾンまたは同等のコルチコステロイドを投与し、最大約20週間かけて漸減させることができる。
【0355】
発現ベクターは、シリンジポンプまたはIV輸液ポンプを使用して注入することができる(Study Pharmacy Manualを参照)。総量は、対象のコホート割り当てとベースライン時の体重(kg)によって異なるであろう。発現ベクターは、対象が病院または急性期治療施設にいる間に、対象のバイタルサイン(体温、心拍数、呼吸数、血圧)をモニタリングしながら、制御された速度でIVカテーテルを介して投与することができ、対象は、発現ベクターの注入が完了した後、少なくとも24時間は観察のために留まることができる。すべてのバイタルサインが安定し、有害事象(AE)が解消された場合、または治験責任医師の判断により対象が安定していると判断された場合、対象は退院することができる。
【0356】
図4Aは、カットオフ日時点での最初の2つの用量コホート(0.5e13vg/kg及び1e13vg/kg)の4人の患者から評価された安全性データを示す。ステロイド治療を必要とする肝酵素の上昇はなかった。試験中止、入院、または死亡につながる有害事象(AE)はなかった。
【0357】
図4Bは、カットオフ日時点での用量コホート1~3(0.5e13vg/kg、1.0e13vg/kg、及び3.0e13vg/kg)の5人の患者から評価した安全性データを示す。ステロイド治療を必要とする肝酵素の上昇はなかった。試験中止、入院、または死亡につながる有害事象(AE)はなかった。
【0358】
図4Cは、カットオフ日時点での用量コホート1~4(0.5e13vg/kg、1.0e13vg/kg、3.0e13vg/kg及び5.0e13vg/kg)の5人の患者から評価した安全性データを示す。ステロイド治療を必要とする肝酵素の上昇はなかった。試験中止、入院、または死亡につながる有害事象(AE)はなかった。
【0359】
AAV-001の注入後、8日目、2週目、4週目、6週目、8週目、12週目、16週目、20週目、24週目、28週目、32週目、36週目、40週目、44週目、48週目、52週目に治験来院が実施され得る。28週目、32週目、40週目、44週目、48週目の治験来院は、臨床現場での評価を必要としない評価があるため、リモートで実施することができる。AE及び併用薬の評価は、電話によりリモートで実施することができる。
【0360】
対象がプレドニゾンまたは同等のコルチコステロイドを服用している間、発現ベクター注入後の最初の約20週間、AAV媒介免疫原性をモニタリングするために肝臓検査(AST、ALT、GOT、総ビリルビン及び直接ビリルビン、ALP、LDH、アルブミン、総タンパク質レベル)が週2回実施され、これは遠隔で実施され得る。肝臓検査用の血液サンプルを、2日目及び8日目の来院時に採取できる最初の1週間を除いて、可能な場合は2~4日間隔で採取する。肝臓検査は、免疫抑制剤の投与を中止してから4週間は毎週(21週目~24週目)実施し、その後は治験来院に合わせて毎月(28週目~52週目)実施され得る。
【0361】
プレドニゾンまたは同等のコルチコステロイドによる前治療にもかかわらず、ALT上昇の証拠がある場合は、プレドニゾンまたは同等のコルチコステロイドの投与を継続することができる(プレドニゾン1mg/kg[最大60mg]または同等の量を経口または静脈内投与し、及び/またはケースバイケースで増量し、肝酵素が正常化するまで週2回肝酵素を評価し、その後はプロトコールに従う)。
【0362】
用量漸増
各コホートの最初の2人の対象については、前の対象が少なくとも2週間観察されるまで各後続の対象に注入が行われないよう、治療が段階的に行われる。次の用量レベルへの用量漸増は、前のコホートの最後の2人の対象に投与されてから少なくとも4週間経過し、前のコホートの2人の安全性データがSMCによって審査されるまでは実行できない。いずれかの停止規則が満たされた場合、投与及び用量漸増を一時停止することができる。
【0363】
ERT中止
AAV-001での治療により、ヒトα-Gal AのcDNAをコードするrAAVベクターを使用することにより、ファブリー病対象の長期的、肝臓特異的なa-Gal A発現がもたらされ、ERTの必要性がなくなる可能性がある。ERTの中止を受ける対象は、AE、バイタルサイン、安全性検査値の変化、及びベースラインと比較したα-Gal A及び基質のレベルについて厳重に監視される。標的肝細胞の形質導入に十分な時間を確保するため、ERTの中止は4週間後に検討すべきである。ERTを中止する対象は、疲労、神経障害性疼痛などの臨床症状、AE、バイタルサイン、安全性検査(肝機能検査、α-Gal A及び基質(Gb3及びLyso-Gb3)のレベルなど)のベースラインとの比較における変化について厳重に監視される。ERTの中止は、スポンサーと協議した後、治験責任医師の裁量で決定されてもよく、以下の基準を満たす意思のある対象に対して検討される:
(1)AAV-001の投与後>4週間経過していること、
(2)医学的に安定しており、治験責任医師の判断によりERTの一時的な中止に耐えられること、
(3)ERT中止フォローアップ来院までの安全性監視の強化と追加の臨床検査に同意すること、
(4)ERT中止フォローアップ来院後にERTを再開する必要がないこと。
ただし、ERTは臨床状況または治験責任医師の判断に基づいていつでも再開され得る。
【0364】
ERTの中止は、以前に成功しなかった場合、対象が同意し、前回の試行から少なくとも12週間経過した場合に限り、治験責任医師の裁量でスポンサーと協議した上で、繰り返すことができる。
【0365】
ERT中止モニタリング(±2日間)
ERT中止モニタリング来院は、ERT中止来院後の最初の4週間は毎週行われ、その後、ERT中止来院後の最後の8週間はERT中止フォローアップ来院まで隔週で行われる。研究負担を軽減するために、可能な限り、ERT中止モニタリング来院は、定期的に予定された来院と組み合わせるべきである。ERT中止モニタリング来院は、リモートで実施することができる。
【0366】
ERT中止フォローアップ(ERT中止後最大12週間)
ERT中止フォローアップ来院はERT中止来院後12週目に行われるが、臨床的に必要な場合は、治験責任医師の裁量でより早く行われる可能性がある。臨床的に必要な場合、ERTは臨床状況または治験責任医師の判断に基づいていつでも再開され得る。
【0367】
試験終了の来院及び長期フォローアップ調査
最終評価のために、試験終了(EOS)来院を52週目に実施する。EOS来院時に、対象は別の長期フォローアップ調査に参加するよう奨励され、最大4年間さらにフォローアップ調査が行われる。
【0368】
試験期間
試験参加期間は、対象ごとに最大76週間であってもよく、スクリーニングに最大8週間、ベースラインに最大12週間、投与後のフォローアップ調査に52週間と分けられる。集積期間は9~12か月を予定している。
【0369】
安全性モニタリング委員会及び停止規則
以下の基準のいずれかが満たされる場合、試験への登録を一時停止し、SMCが適切な処置方針について勧告を行うために招集され得る:(1)発現ベクター製剤との因果関係が少なくとも合理的に考えられるグレード3以上の有害事象が1件発生。(2)発現ベクター製剤との因果関係が少なくとも合理的に考えられる重篤な有害事象(SAE)の発生、(3)ヒト対象の死亡、(4)悪性腫瘍の発生。
【0370】
試験は、以下のいずれかの理由によっても中止され得る:(1)スポンサーがSMCまたは規制当局と協議の上、試験の継続により何らかの理由で対象の安全性が損なわれる可能性があると判断した場合、(2)スポンサーがAAV-001の開発の中止を決定した場合。
【0371】
すべてのデータを評価し、試験に変更を加える必要があるかどうか、あるいはデータ収集を継続するか停止するかが決定される。中止基準が満たされた場合、大幅な修正が規制当局に審査のために提出され、その修正が施設の治験審査委員会(IRB)/独立倫理委員会(IEC)または同等の機関によって承認されるまで、その用量レベルまたはそれ以上の用量で対象への投与は行われない。
【0372】
実施例2
血漿α-Gal A活性及びLyso-Gb3
ファブリー病に罹患した成人におけるAAV-001治療の効果を試験するために、4つの用量コホート(コホート1(n=2;患者1及び2);0.5e13vg/kg、コホート2(n=2;患者3及び4);1e13vg/kg、コホート3(n=3;患者5、6、及び7);3.0e13vg/kg、コホート4(n=2;患者8及び9);5.0e13vg/kg)にわたって9人の患者(患者1、患者2、患者3、患者4、患者5、患者6、患者7、患者8、及び9)の血漿α-Gal A活性及びlyso-Gb3を評価した。患者1~9のベースライン特性を図3に示す。
【0373】
血漿α-Gal A活性
K2-EDTA血漿中のα-Gal A活性は、人工基質である4-メチルウンベリフェリルα-Dガラクトピラノシド(4-MU-α-Gal)の分解によって生じる4-メチルウンベリフェロン(4-MU)生成物を37℃で測定することによって決定し、以下に示す:
4-MU-α-Gal(基質、非蛍光)+α-Gal A→4-MU(蛍光)
活性は、3時間の反応時間中に生成された4-MU(nmol/mL)の量で表され、nmol/hr/mLで示される。
【0374】
α-Gal A血漿活性と倍数変化の正常男性範囲
α-Gal Aの正常男性範囲は、検証済みの血漿α-Gal A活性アッセイを使用して3時間のインキュベーション時間で40人の健康な男性ドナーから決定され、nmol/hr/mLで表される。男性の正常範囲:2.45~11.37nmol/h/mL、平均5.70nmol/h/mL。平均に対する倍数変化は、5.70nmol/h/mLで決定された平均正常範囲を基準として計算した。
【0375】
lyso-Gb3の正常男性範囲:
検証済みLC-MS/MS及びlyso-Gb3-d7を内部標準として使用し、K2-EDTA血漿中のlyso-Gb3の正常男性範囲を40人の健康な男性ドナーから決定した。この方法では、LC-MS/MS分析の前にタンパク質沈殿抽出手順を利用した。男性の正常範囲:0.323~0.625ng/mL、平均濃度0.473ng/mL。
【0376】
図5Cは、データカットオフまでに利用可能なデータを持つすべての対象が、正常レベルを超えるα-Gal活性を呈したことを示している。
【0377】
バイオマーカーの結果は、カットオフ日時点で4つの用量コホート(0.5e13vg/kg、1.0e13vg/kg、3.0e13vg/kg、及び5.0e13vg/kg)にわたる8人の対象から評価した。最後の測定ポイントでの倍率変化を計算した。α-Gal A活性は、3時間の反応時間を使用して測定され、nmol/hr/mLで表される。患者1、4、5、6、及び7については、これはERTトラフでサンプルを採取した。正常範囲及び平均は、健康な男性個人に基づいて決定した。図5Cは、対象1~8のデータカットオフを通じて、治療された最初の2人の対象については最大18か月にわたってα-Gal A活性の上昇が観察されたことを示している。対象7と8については、2週目にα-Gal A活性が正常範囲内である。対象1と4はERTを中止した。
【0378】
平均正常値の最大21倍の活性レベルが観察された。
【0379】
図6Aは、患者1が正常レベルを超えるα-Gal活性を呈し、それが試験終了までの1年間にわたって持続したことを示している。Lyso-Gb3は、試験終了時までベースラインの10%以内に留まった。図6Bは、患者1が正常レベルを超えるα-Gal活性を呈し、それが48週間にわたって持続したことを示している。図6Cは、患者1が正常レベルを超えるα-Gal活性を呈し、それが18か月間にわたって持続したことを示している。左室肥大(下垂性心室肥大)は観察期間では増加し、1年間の治療後のMRIでは安定した。血漿lyso-Gb3の低いベースラインレベルは経時的に安定を維持した。患者1は、下肢浮腫及び発汗能力の改善を報告した。患者1は、長期フォローアップ調査(さらに4年間、3か月ごとのフォローアップ調査)に移行した。
【0380】
図6Dは、患者2が正常レベルを超えるα-Gal活性を呈し、それが48週間にわたって持続したことを示している。図6Eは、患者2が正常レベル以上のα-Gal活性を呈し、それが1年間にわたり持続したことを示している。図6Fは、患者2が正常レベル以上のα-Gal活性を呈し、それが18か月間にわたって持続したことを示している。患者のベースラインの軽度の両室拡張は、1年後のMRIで改善した。血漿lyso-Gb3の低いベースラインレベルは経時的に安定を維持した。患者2は、発汗能力の改善を報告した。患者2は、長期フォローアップ調査(さらに4年間、3か月ごとのフォローアップ調査)に移行した。
【0381】
図6Gは、患者3が正常レベルを超えるα-Gal活性を呈し、それが28週目の最後の測定ポイントまで持続したことを示している。患者2も、ベースラインから28週目までにlyso-Gb3の約40%の減少を示した。AAV-001投与後12週間にわたりlyso-Gb3の減少が観察された。図6Hは、患者3が正常レベルを超えるα-Gal活性を呈し、それが40週目の最後の測定ポイントまで持続したことを示している。図6Iは、患者3が正常レベルを超えるα-Gal活性を呈し、それが52週目の最後の測定ポイントまで持続したことを示している。患者の心臓MRIは、ベースライン及び24週で正常であった。患者の血漿lyso-Gb3レベルは、ベースラインで上昇していた。患者3は、投与後ベースラインから10週間以内に血漿lyso-Gb3の約40%の減少を示し、それが52週目まで持続した。患者3は、発汗能力の改善を報告した。
【0382】
図6Jは、患者4が正常レベルを超えるα-Gal活性を呈し、それが12週間にわたって持続したことを示している。図6Kは、患者4が正常レベルを超えるα-Gal活性を呈し、それが25週間にわたって持続したことを示している。図6Lは、患者4が正常レベルを超えるα-Gal活性を呈し、それが40週間にわたって持続したことを示している。患者4は、ベースラインで軽度のLVHを示した。患者4は、24週目にERTを中止した(2週間ごとの投与頻度に基づく)。
【0383】
図6Mは、患者5が正常レベルを超えるα-Gal活性を呈し、それが24週間にわたって持続したことを示している。患者5はベースラインで軽度のLVHを示した。図6Nは、患者6が正常レベルを超えるα-Gal活性を呈し、それが12週間にわたって持続したことを示している。患者6は、ベースラインで軽度のLVHを呈した。図6Oは、患者7のベースライン及びα-Galの投与データを示している。患者7は、ベースラインで軽度から中等度のLVHを呈した。図6Pは、患者8のベースライン及びα-Galの投与データを示している。患者8は、ベースラインで正常な心臓MRIを呈した。図6Qは、患者9に、このデータカットの時点でα-Galデータがないことを示す。患者9はベースラインで中等度のLVHを呈していた。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図6I
図6J
図6K
図6L
図6M
図6N
図6O
図6P
図6Q
【配列表】
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【国際調査報告】