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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】骨形成不全症の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20241106BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 31/663 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 38/29 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 38/23 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20241106BHJP
   C07K 16/24 20060101ALN20241106BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20241106BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20241106BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P19/08 ZNA
A61K39/395 D
A61K45/00
A61K31/663
A61K38/29
A61K38/23
A61K31/675
C07K16/24
C07K7/06
C07K19/00
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525649
(86)(22)【出願日】2022-10-31
(85)【翻訳文提出日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 US2022078999
(87)【国際公開番号】W WO2023077131
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】63/274,503
(32)【優先日】2021-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】22315238.0
(32)【優先日】2022-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
3.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】500034653
【氏名又は名称】ジェンザイム・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】パンテライモン・ディー・マヴルーディス
(72)【発明者】
【氏名】ニキル・ピライ
(72)【発明者】
【氏名】チンピン・ワン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA44
4C084DB31
4C084DB32
4C084NA05
4C084ZA961
4C084ZA962
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB17
4C085EE01
4C085GG02
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA34
4C086DA38
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA96
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA15
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF-β)に結合し、且つそれを中和する、治療有効量の薬剤を対象に投与することにより、対象における骨形成不全症(OI)を治療及び改善する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨形成不全症(OI)の治療を、それを必要とするヒト対象において行う方法であって、治療有効量の抗TGF-β抗体を前記対象に投与することを含み、
前記抗体は、それぞれ配列番号4~6を含む重鎖相補性決定領域(CDR)1~3、それぞれ配列番号7~9を含む軽鎖CDR1~3を含み、前記抗体は、228位(Eu番号付け)にプロリンを有するヒトIgG定常領域を含み、
前記治療有効量は、
年2回投与される1~8mg/kg、任意選択的に2、2.5若しくは5mg/kg、又は
3ヶ月ごと(Q3M)に投与される0.1~1mg/kg、任意選択的に0.35、0.4若しくは0.5mg/kg
である、方法。
【請求項2】
前記抗体は、配列番号10を含む重鎖可変ドメインと、配列番号11を含む軽鎖可変ドメインとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗体は、ヒトIgG定常領域及び/又はヒトκ軽鎖定常領域を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体は、配列番号3を含む重鎖と、配列番号2を含む軽鎖とを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体は、骨標的化部分を含み、任意選択的に、前記骨標的化部分は、ポリアルギニンペプチドである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記抗体は、1つ以上のポリアルギニンペプチドを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体は、前記抗体の前記重鎖のN末端若しくはC末端又は両方の末端及び/或いは前記抗体の前記軽鎖のC末端でポリアルギニンペプチドに融合される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリアルギニンペプチドは、D10(配列番号14)である、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記OIは、中等度~重度のOI又はIV型OIである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記OIは、I型、II型又はIII型OIである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒト対象は、成人患者(18歳以上)又は小児患者(18歳未満)である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒト対象は、COL1A1遺伝子又はCOL1A2遺伝子に変異を有し、任意選択的に、前記変異は、前記COL1A1遺伝子若しくはCOL1A2遺伝子のグリシン置換変異又は前記COL1A2遺伝子のバリン欠失である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記投与は、骨塩密度(BMD)、骨体積密度(BV/TV)、全骨表面(BS)、骨表面密度(BS/BV)、小柱数(Tb.N)、小柱厚さ(Tb.Th)、小柱間隔(Tb.Sp)及び総体積(Dens TV)からなる群から選択される骨パラメータを改善する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記投与は、骨代謝回転及び/又は骨細胞密度を減少させ、任意選択的に、前記減少した骨代謝回転は、血清CTXの減少又は血清オステオカルシン(OCN)の増加によって示される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記抗体は、2mg/kgの年2回又は0.4mg/kgのQ3Mで投与され、任意選択的に、前記投与は、前記対象におけるBMDの約5%の増加をもたらす、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体は、5mg/kgの年2回又は0.5mg/kgのQ3Mで投与され、任意選択的に、前記投与は、前記対象におけるBVの約5%の増加をもたらす、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体は、2.5mg/kgの年2回又は0.35mg/kgのQ3Mで投与され、任意選択的に、前記投与は、前記対象におけるTGF-βレベルの恒常性値までの低下をもたらす、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体は、静脈内注入によって投与される、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ビスホスホネート、副甲状腺ホルモン、カルシトニン、テリパラチド又は抗スクレロスチン剤を前記対象に投与することをさらに含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記ビスホスホネートは、アレンドロネート、パミドロネート、ゾレドロネート及びリセドロネートから選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の方法における骨形成不全症の治療で使用するための抗TGF-β抗体。
【請求項22】
請求項1~20のいずれか一項に記載の方法における骨形成不全症の治療のための医薬の製造における抗TGF-β抗体の使用。
【請求項23】
請求項1~20のいずれか一項に記載の方法における骨形成不全症の治療で使用するための抗TGF-β抗体を含む製品又はキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月1日に出願された米国仮特許出願第63/274,503号明細書及び2022年10月13日に出願された欧州特許出願公開第22315238.0号からの優先権を主張する。2つの優先権出願の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。2022年10月26日に作成された前記ASCIIコピーは、022548WO028.XMLという名称であり、サイズが20,163バイトである。
【背景技術】
【0003】
骨形成不全症(OI)は、遺伝的及び表現型的に不均一であり、10,000~20,000出生に1人の推定有病率を有する結合障害のメンデル障害である。OIの骨格症状としては、低骨量、骨脆弱性、再発性骨折、脊柱側弯症及び骨変形が挙げられる。骨格外症状としては、筋肉量の減少、筋力低下、象牙質形成不全、難聴及び肺疾患が挙げられる(Marini,Nat Rev Dis Primers(2017)3:17052;Marom et al.,Am J Med Genet C Semin Med Genet.(2016)172(4):367-83;Patel et al.,Clin Gen.(2015)87(2):133-40;Rossi et al.,Curr Opin Pediatr.(2019)31(6):708-15;Tam et al.,Clin Gen.(2018)94(6):502-11;DiMeglio et al.J Bone Miner Res.(2006)21:132-40;Gatti et al.,J Bone Miner Res.(2005)20(5):758-63);Gatti et al.,Calcified Tissue Int.(2013)93(5):448-52)。OIを有する個人の管理は、通常、学際的アプローチを伴う。OI骨脆弱性のための主流の治療は、骨粗鬆症を治療するために使用される薬物の再利用を含む(Adami et al.,J Bone Miner Res.(2003)18(1):126-30;Bishop et al.,Ear Hum Dev.(2010)86(11):743-6;Chevrel et al.,J Bone Miner Res.(2006)21(2):300-6;Glorieux et al.,NEJM(1998)339(14):947-52;Rauch et al.,J Bone Miner Res.(2009)24(7):1282-9;Rauch et al.,J Bone Miner Res.(2003)18(4):610-4;Orwoll et al.,J Clin Invest(2014)124(2):491-8;Hoyer-Kuhn et al.,J Musculoskelet Neuronal Interact.(2016)16(1):24-32;Anissipour et al.,J Bone Joint Surg Am.(2014)96(3):237-43)。
【0004】
著しい進歩にもかかわらず、OIにおけるほとんどの薬理学的介入は、骨粗鬆症などの他の骨疾患で観察される疾患修飾効果を提供しておらず、特定のタイプのOIでは効果が低い。OI及び骨リモデリングに関与する基礎となる生化学プロセスの複雑さのため、臨床における薬物動態/薬力学(PK/PD)関係の変換は、困難である。骨吸収を減少させる再吸収防止薬のクラスであるビスホスホネート(BPN)は、現在、特に小児OIでの標準治療である。小児では、BPNは、面積及び体積骨塩密度(aBMD及びvBMD)、脊柱側弯症の進行、生活の質及びいくつかの研究では骨折発生率に有益な効果を有することが示されている(Bishop et al.,Lancet(2013)382(9902):1424-32;Rauch et al.,2003,上掲;Bains et al.,JBMR Plus(2019)3(5):e10118;Rauch et al.,Bone(2007)40(2):274-80)。しかしながら、OIの不均一性及び臨床研究設計における変動性を考慮すると、BPNの効果は、一貫していない。成人では、ビスホスホネートによる長期治療の利益及び結果は、それほど確かではない(Adami et al.,同上;Shi et al.,Am J Ther.(2016)23(3):e894-904)。さらに、OIを有する成人を含むランダム化試験では、同化剤テリパラチドによる治療は、軽度の形態(OI I型)を有する個体のaBMD及びvBMDの増加をもたらしたが、中等度~重度の形態の障害(OI型III及びIV)では増加をもたらさなかった。さらに、これらの目的を変えた治療法のいずれも、OIにおける特定の病原性機構に対処せず、したがって骨外症状発現に影響を及ぼさない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、様々な形態のOIを標的とする効果的な治療に対する大きい満たされていない必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、骨形成不全症(OI)の治療を、それを必要とするヒト対象において行う方法であって、治療有効量の抗TGF-β抗体を対象に投与することを含み、抗体は、それぞれ配列番号4~6を含む重鎖相補性決定領域(CDR)1~3、それぞれ配列番号7~9を含む軽鎖CDR1~3を含み、抗体は、228位(Eu番号付け)にプロリンを有するヒトIgG定常領域を含み、治療有効量は、年2回(例えば、6ヶ月ごと又はQ6M)投与される1~8mg/kg、任意選択的に2、2.5若しくは5mg/kg又は3ヶ月(Q3M)ごとに投与される0.1~1mg/kg、任意選択的に0.35、0.4若しくは0.5mg/kgである、方法を提供する。
【0007】
いくつかの実施形態では、本明細書における抗体は、配列番号10を含む重鎖可変ドメインと、配列番号11を含む軽鎖可変ドメインとを含む。さらなる態様では、抗体は、ヒトIgG定常領域及び/又はヒトκ軽鎖定常領域を含む。特定の実施形態では、抗体は、配列番号3を含む重鎖と、配列番号2を含む軽鎖とを含むか又はそれらからなる。
【0008】
いくつかの実施形態では、抗体は、骨標的化部分を含み、任意選択的に、骨標的化部分は、ポリアルギニンペプチド(例えば、配列番号14)である。さらなる実施形態では、抗体は、1つ以上のポリアルギニンペプチドを含む。特定の実施形態では、抗体は、抗体の重鎖のN末端若しくはC末端又は両方の末端及び/或いは抗体の軽鎖のC末端でポリアルギニンペプチドに融合される。
【0009】
いくつかの実施形態では、本明細書で治療されるOIは、中等度~重度のOI又はIV型OIである。いくつかの実施形態では、OIは、I型、II型又はIII型である。
【0010】
いくつかの実施形態では、ヒト対象は、成人患者(18歳以上)又は小児患者(18歳未満)である。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、COL1A1遺伝子又はCOL1A2遺伝子に変異を有し、任意選択的に、変異は、COL1A1遺伝子若しくはCOL1A2遺伝子のグリシン置換変異又はCOL1A2遺伝子のバリン欠失である。
【0011】
いくつかの実施形態では、本明細書の治療は、骨塩密度(BMD)、骨体積密度(BV/TV)、全骨表面(BS)、骨表面密度(BS/BV)、小柱数(Tb.N)、小柱厚さ(Tb.Th)、小柱間隔(Tb.Sp)及び総体積(Dens TV)からなる群から選択される骨パラメータを改善する。
【0012】
いくつかの実施形態では、本明細書の治療は、骨代謝回転及び/又は骨細胞密度を減少させ、任意選択的に、減少した骨代謝回転は、血清CTXの減少又は血清オステオカルシン(OCN)の増加によって示される。
【0013】
いくつかの実施形態では、抗体は、2mg/kgの年2回又は0.4mg/kgのQ3Mで投与され、任意選択的に、投与は、対象におけるBMDの約5%の増加をもたらす。いくつかの実施形態では、抗体は、5mg/kgの年2回又は0.5mg/kgのQ3Mで投与され、任意選択的に、投与は、対象におけるBVの約5%の増加をもたらす。いくつかの実施形態では、抗体は、2.5mg/kgの年2回又は0.35mg/kgのQ3Mで投与され、任意選択的に、投与は、対象におけるTGF-βレベルの恒常性値までの低下をもたらす。
【0014】
いくつかの実施形態では、抗体は、静脈内注入によって投与される。いくつかの実施形態では、本明細書の治療は、ビスホスホネート、副甲状腺ホルモン、カルシトニン、テリパラチド又は抗スクレロスチン剤などの別の治療剤を含む。さらなる実施形態では、ビスホスホネートは、アレンドロネート、パミドロネート、ゾレドロネート及びリセドロネートから選択される。
【0015】
本治療方法における骨形成不全症の治療で使用するための抗TGF-β抗体;本方法における骨形成不全症の治療のための医薬品の製造における抗TGF-β抗体の使用;本方法における骨形成不全症の治療で使用するための抗TGF-β抗体を含む製品又はキットも本明細書で提供される。
【0016】
本明細書の治療方法における骨形成不全症の治療で使用するための抗TGF-β抗体又はその抗原結合断片及び本明細書の治療方法における骨形成不全症の治療のための医薬品の製造における抗TGF-β抗体又はその抗原結合断片の使用も本明細書で提供される。
【0017】
本明細書の治療方法における骨形成不全症の治療で使用するための抗TGF-β抗体又はその抗原結合断片を含む製品(例えば、キット)も提供される。
【0018】
本発明の他の特徴、目的及び利点は、下記の詳細な説明で明らかである。しかしながら、この詳細な説明は、本発明の実施形態及び態様を示すものではあるが、限定ではなく、例示のためにのみ与えられるものであることを理解されたい。この詳細な説明から、本発明の範囲内で様々な変更形態及び改変形態が当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】OI患者の骨における骨質量密度(BMD)、骨強度及びTGF-β動態に対するAb1(GC2008)の濃度応答関係を評価するためのマルチモデルアプローチを示すグラフである。図1Aは、完全ヒト抗TGF-β抗体であるフレソリムマブ(GC1008)を用いた臨床データに基づくPK/PDモデリングを示す。図1Bは、マウス抗TGF-β抗体である1D11を使用した前臨床データに基づくPK/PDモデリングを示す(米国特許第5,571,714号明細書;ATCC寄託番号HB9849;例えば、Thermo Fisherカタログ番号MA5-23795で入手可能)。図1Cは、別の完全ヒト抗TGF-β抗体であるAb1の物理化学的(PC)特性に基づく生理学的ベースの薬物動態学的モデリング(PBPK)を示す。
図2】OI患者におけるフレソリムマブのPK/BMD応答を通知する際の、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)患者の血清中のフレソリムマブ(1mg/kg又は4mg/kg静脈内(「IV」)投与)のPKデータの使用を示すグラフの対である。
図3】OI患者におけるAb1のPK/BMD応答を予測する際のAb1 PKデータの使用を示すグラフの対である。
図4】OI患者におけるAb1のPK/BV応答を予測する際のマウス1D11PKデータの使用を示すグラフのパネルである。グラフAは、マウスにおける週に3回の5mg/kg投与についての濃度対時間(左軸)及び骨体積分率(右軸)を示す。グラフBは、マウスにおける毎週の5mg/kg投与についての濃度対時間(左軸)及び骨体積分率(右軸)を示す。グラフCは、マウスにおける2週間ごとの5mg/kg投与についての濃度対時間(左軸)及び骨体積分率(右軸)を示す。グラフDは、マウスにおける4週間ごとの5mg/kg投与についての濃度対時間(左軸)及び骨体積分率(右軸)を示す。グラフEは、ヒトにおける3ヶ月ごとの0.5mg/kg投与についての濃度対時間(左軸)及び骨体積分率(右軸)を示す。グラフFは、ヒトにおける6ヶ月ごとの5mg/kg投与についての濃度対時間(左軸)及び骨体積分率(右軸)を示す。記号は、平均骨体積分率データであり、エラーバーは、それらの標準偏差を示す。
図5】OI患者におけるAb1の生理学的に基づくPK(PBPK)応答のモデル化におけるAb1の物理化学的特性の使用を示すグラフのパネルである。グラフAは、0.05、0.25、1及び3mg/kgの単回IV投与についてのAb1の濃度を示す。記号は、個々の被験体データであり、線は、PBPKモデルの予測を示す。グラフBは、0.05mg/kg Ab1の単回IV投与についての血漿(実線)及び骨(点線)PKの比較を示す。グラフCは、3ヶ月ごとの0.35mg/kg投与及び6ヶ月ごとの2.5mg/kg投与の血漿PK予測を示す。グラフDは、Ab1の3ヶ月ごとの0.35mg/kg投与後又は6ヶ月ごとの2.5mg/kg投与後の骨におけるTGFβ標的動態を示す。
図6】Ab1集団PK評価プロットを示すグラフのパネルである。グラフAは、観察されたAb1濃度対個々の予測を示す。グラフBは、観察されたAb1濃度対集団予測を示す。グラフCは、正規化された予測分布誤差対Ab1集団予測を示す。グラフDは、正規化予測分布誤差対時間を示す。直線は、同一性(y=x)線を示し、曲線は、スプライン補間である。
図7】OIマウスにおける5mg/kg IP投与後の1D11PK応答を示すグラフである。円は、OIマウスデータ及び実線の1コンパートメントモデルシミュレーションを表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、ヒトTGF-βの全てのアイソフォームに結合し、且つそれを中和するモノクローナル抗体を投与することにより、ヒト患者におけるOIを治療する方法を提供する。この方法は、抗TGF-β抗体Ab1の濃度応答関係並びにOI患者の骨塩密度(BMD)、骨強度及びTGF-β発現レベルに対するその影響を通知するために、前臨床及び臨床PK及びPDデータに依存する多重モデルベースのアプローチに基づいて開発される。
【0021】
I.骨形成不全症
OIは、骨基質沈着又は恒常性に関与する1つ以上のタンパク質の欠損を特徴とする先天性骨障害の群を包含する。それらの特異的遺伝子変異、結果として生じるタンパク質欠損及び罹患個体の表現型によって定義される19を超える種類のOIがある。分類には、X線及び他の画像検査の所見が含まれる。主なOIタイプは、以下の通りである(John Hopkins Universityのウェブサイトからの情報)。
【0022】
I型は、最も軽度で最も一般的なタイプである。全罹患小児の約50%がこのタイプを有する。骨折及び変形が少ない。
【0023】
II型は、最も重度のタイプである。乳児は、腕と脚が非常に短く、胸部が小さく、頭蓋骨が柔らかい。乳児は、骨折した骨を有して生まれている可能性があり、低い出生時体重及び十分に発達していない肺を有する可能性もある。II型OIを有する乳児は、通常、生後数週間以内に死亡する。
【0024】
III型は、新生児として死亡しない乳児で最も重度のタイプである。出生時、乳児は、正常よりもわずかに短い腕及び脚並びに腕、脚及び肋骨の骨折を有することがある。乳児は、正常な頭部よりも大きい三角形の顔、変形した胸及び脊椎並びに呼吸及び嚥下の問題も有し得る。
【0025】
IV型は、症状が軽度~重度であるOIタイプである。IV型の乳児は、出生時に診断され得る。乳児は、這ったり歩いたりするまで骨折しない可能性がある。腕及び脚の骨が直線状でない可能性がある。乳児は、正常に成長しない場合がある。
【0026】
V型は、IV型と類似している。症状は、中等度~重度であり得る。大きい骨が骨折している領域では、肥厚した領域(肥厚性カルス)が拡大していることが一般的である。
【0027】
VI型は、非常に稀である。症状は、中等度であり、IV型に類似している。
【0028】
VII型は、IV型又はII型と同様であり得る。それは、通常の高さよりも短いことが一般的である。通常の上腕及び大腿骨よりも短いことも一般的である。
【0029】
VIII型は、II型及びIII型と同様である。患者は、非常に柔らかい骨及び重度の成長障害を有する。
【0030】
表現型は、OIのタイプによって異なるが、一般的な症状には、骨及び歯の不完全骨化、骨量の減少、脆性骨及び病的骨折が含まれる。具体的な症状としては、骨折しやすい、骨の変形(脚のボーイングなど)、白目(強膜)の変色、樽状の胸部、湾曲した脊椎、三角形の顔、緩い関節、筋力低下、容易に打ち傷する皮膚、早期成人期の難聴及び/又は柔らかい変色した歯が挙げられる。OIの合併症としては、呼吸器感染症(例えば、肺炎)、心臓の問題(例えば、心臓弁機能の低下)、腎臓結石、関節の問題、難聴及び異常な眼の状態(視力喪失を含む)が挙げられる。OIは、X線、臨床検査(例えば、血液検査及び遺伝子検査)、二重エネルギーX線吸収測定スキャン(DXA又はDEXAスキャン)及び骨生検によって診断又は監視することができる。
【0031】
複数の病原性遺伝子変異がOIの様々なサブタイプを引き起こし得るが、90%超が、COL1A1遺伝子(I型コラーゲンα1鎖をコードする)若しくはCOL2A1遺伝子(II型コラーゲンα1鎖をコードする)における病原性変異体又は翻訳後にI型コラーゲンを修飾するタンパク質(CRTAP、PPIB及びLEPRE1)をコードする遺伝子によって引き起こされる(Patel et al.,同上;Lim et al.,Bone(2017)102:40-49)。
【0032】
いくつかの実施形態では、患者のOIは、COL1A1若しくはCOL1A2の突然変異(例えば、グリシン置換)又はCRTAP、PPIB若しくはLEPRE1の両対立遺伝子病原性変異体によって引き起こされる。
【0033】
II.抗TGF-β抗体
TGF-βは、細胞増殖及び分化、胚発生、細胞外マトリックス形成、骨発生、創傷治癒、造血並びに免疫応答及び炎症応答に関与する多機能性サイトカインである。分泌されたTGF-βタンパク質は、潜時関連ペプチド(LAP)と成熟型TGF-βペプチドに切断され、潜在型及び活性型で見出される。成熟TGF-βペプチドは、他のTGF-βファミリーメンバーとホモ二量体及びヘテロ二量体の両方を形成する。
【0034】
3つのヒト(h)TGF-βアイソフォーム:TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3が存在する(それぞれUniProt受託番号P01137、P08112及びP10600)。TGF-β1は、TGF-β2と27、TGF-β3と22の主に保存的なアミノ酸が異なる。ヒトTGF-βは、マウスTGF-βと非常に類似している。ヒトTGF-β1は、マウスTGF-β1とアミノ酸の違いが1つのみあり;ヒトTGF-β2は、マウスTGF-β2とアミノ酸の違いが3つのみあり;ヒトTGF-β3は、マウスTGF-β3と同一である。
【0035】
ホモ二量体又はヘテロ二量体のTGF-β膜貫通受容体複合体へのTGF-βタンパク質の結合は、細胞内SMADタンパク質によって媒介される標準的なTGF-βシグナル伝達経路を活性化する。TGF-βの脱調節は、ヒトにおいて、出生時欠損、癌、慢性炎症性疾患、自己免疫疾患及び線維性疾患などの多くの状態に関与している病理学的過程をもたらす(例えば、Border et al.,Curr Opin Nephrol Hypertens.(1994)3(4):446-52;Border et al.,Kidney Int Suppl.(1995)49:S59-61を参照されたい)。
【0036】
本発明のOI治療方法の場合、抗TGF-β抗体は、汎特異的抗体、すなわちTGF-βの3つのアイソフォーム全てに高親和性で結合し、中和する抗体であり得る。いくつかの態様では、抗体は、フレソリムマブである。フレソリムマブは、組換えヒト抗体である。その重鎖を以下に示す。
【化1】

上記の配列では、1~120位は、重鎖可変ドメイン(V)であり、重鎖CDR(「HCDR」;Kabatの定義による)は、枠付けされている。この重鎖は、ヒトIgG定常領域を含む。
【0037】
フレソリムマブの軽鎖を以下に示す。
【化2】

上記の配列では、1~108位は、軽鎖可変ドメイン(V)であり、軽鎖CDR(「LCDR」;Kabatの定義による)に下線が引かれている。この軽鎖は、ヒトCκ定常領域を含む。
【0038】
いくつかの実施形態では、本明細書における抗TGF-β抗体は、フレソリムマブのバリアントであるAb1である。Ab1の重鎖は、IgGヒンジ領域内の残基のみがフレソリムマブの重鎖と異なる。残基はS228(Eu番号付け)であり、Ab1は、その位置にプロリンを有し、すなわちフレソリムマブに対してS228P置換を有する。Ab1及びフレソリムマブは、同じ軽鎖を有する。Ab1の重鎖を以下に示す。
【化3】

上記の配列では、HCDRは、四角で枠付けされており、S228P置換は、太字にされている。
【0039】
いくつかの実施形態では、抗TGF-β抗体は、フレソリムマブのHCDR1-3及びLCDR1-3の1つ以上(例えば、6つ全て)を含む。換言すれば、抗体は、以下のHCDR及びLCDRの1つ以上(例えば、6つ全て)を含む。
HCDR1 SNVIS(配列番号4)
HCDR2 GVIPIVDIANYAQRFKG(配列番号5)
HCDR3 TLGLVLDAMDY(配列番号6)
LCDR1 RASQSLGSSYLA(配列番号7)
LCDR2 GASSRAP(配列番号8)
LCDR3 QQYADSPIT(配列番号9)
【0040】
いくつかの実施形態では、抗TGF-β抗体は、フレソリムマブ又はAb1のV及び/又はVを含む。換言すれば、抗体は、以下の配列:

【化4】


【化5】

の1つ又は両方を含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、抗TGF-β抗体は、ヒトIgGアイソタイプ、例えばヒトIgGアイソタイプのものである。特定の実施形態では、ヒトIgG定常領域は、以下のアミノ酸配列:
【化6】

を含む。さらなる実施形態では、ヒトIgG定常領域は、228位(Eu番号付け)に突然変異を有する。いくつかの実施形態(例えば、Ab1)では、突然変異は、セリンからプロリンへの突然変異(S228P)である。上記の配列では、S228セリンは、枠付けされている。
【0042】
いくつかの実施形態では、抗TGF-β抗体(例えば、Ab1及びフレソリムマブ)は、ヒトκ軽鎖定常領域(Cκ)を含む。特定の実施形態では、ヒトCκは、アミノ酸配列:
【化7】

を含む。
【0043】
いくつかの実施形態では、完全抗TGF-β抗体の抗原結合フラグメントも使用され得る。「抗原結合フラグメント」という用語又は同様の用語は、抗原と相互作用し、抗原に対するその特異性及び親和性を結合剤に付与するアミノ酸残基を含む抗体の部分を指す。抗原結合断片の非限定的な例としては、以下のものが挙げられる:Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fdフラグメント、Fvフラグメント、一本鎖Fv(scFv)、dAbフラグメント及び抗体の超可変ドメインを模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位。
【0044】
いくつかの実施形態では、本明細書の抗体又は抗原結合フラグメントは、骨標的化部分に連結される。さらなる実施形態では、骨標的化部分は、ポリアルギニン(ポリD)ペプチドである。本明細書で使用される場合、「ポリDペプチド」という用語は、複数のアスパラギン酸若しくはアスパラギン酸又は「D」アミノ酸、例えば約2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30個又はそれを超えるアスパラギン酸アミノ酸(残基)を有するペプチド配列を指す。例えば、ポリDペプチドは、約2~約30個、又は約3~約15個、又は約4~約12個、又は約5~約10個、又は約6~約8個、又は約7~約9個、又は約8~約10個、又は約9~約11個、又は約12~約14個のアスパラギン酸残基を含み得る。ポリDペプチドは、アスパラギン酸残基のみを含み得るか、又は1つ以上の他のアミノ酸若しくは類似の化合物を含み得る。本明細書中で使用されるとき、用語「D10」とは、配列番号14に見られるような10個のアスパラギン酸アミノ酸の連続した配列を指す。いくつかの実施形態では、本発明の抗体又は抗体フラグメントは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12個又は12個を超えるポリDペプチドを含み得る。
【0045】
ポリDペプチドは、ポリDがペプチジル結合(すなわち抗体又は断片は融合タンパク質である)を介して抗体又はフラグメントに連結されるように、組換え技術を介した融合によって抗TGF-β抗体又は抗原結合フラグメントに連結され得る。例えば、ポリDペプチドは、重鎖のN末端若しくはC末端又はその両方及び/或いは軽鎖のN末端若しくはC末端又はその両方に融合され得る。ポリDペプチドは、化学的コンジュゲーション、例えばリンカー部分(例えば、マレイミド官能基及びポリエチレングリコール(PEG))を伴う又は伴わない抗体又は抗体結合フラグメント上のシステイン又はリジン残基との化学反応によっても抗TGF-β抗体又は抗原結合フラグメントに連結され得る。例えば、国際公開第2018/136698号パンフレットを参照されたい。
【0046】
特定の実施形態では、抗体は、重鎖のN末端、C末端又は両方の末端でD10ペプチドに融合したフレソリムマブである。いくつかの態様では、抗体は、軽鎖のC末端でD10ペプチドに融合したフレソリムマブである。特定の実施形態では、抗体は、重鎖の両方の末端及び軽鎖のC末端でD10ペプチドに融合したフレソリムマブである。
【0047】
特定の実施形態では、抗体は、重鎖のN末端、C末端又は両方の末端でD10ペプチドに融合したAb1である。いくつかの実施形態では、抗体は、軽鎖のC末端でD10ペプチドに融合したAb1である。特定の実施形態では、抗体は、重鎖の両方の末端及び軽鎖のC末端でD10ペプチドに融合したAb1である。
【0048】
本開示の抗TGF-β抗体又はその抗原結合フラグメントは、当技術分野で十分に確立された方法によって作製することができる。抗体の重鎖及び軽鎖をコードするDNA配列は、遺伝子が転写制御配列及び翻訳制御配列などの必要な発現制御配列に作動可能に連結されるように、発現ベクターに挿入することができる。発現ベクターとしては、プラスミド、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、植物ウイルス、例えばカリフラワーモザイクウイルス、タバコモザイクウイルス、コスミド、YAC、EBV由来エピソームなどが挙げられる。抗体軽鎖コード配列及び抗体重鎖コード配列は、別々のベクターに挿入することができ、同じ又は異なる発現制御配列(例えば、プロモーター)に作動可能に連結することができる。本開示の抗体をコードする発現ベクターは、発現のために宿主細胞に導入される。宿主細胞を、抗体の発現に適した条件下で培養し、次いで、抗体を回収し、単離する。宿主細胞には、哺乳動物、植物、細菌又は酵母宿主細胞が含まれる。発現のための宿主として利用可能な哺乳動物細胞株は、当技術分野で周知であり、American Type Culture Collection(ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞株を含む。これらには、とりわけ、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、NS0細胞、SP2細胞、HEK-293T細胞、293Freestyle細胞(Invitrogen)、NIH-3T3細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞癌腫細胞(例えば、Hep G2)、A549細胞及びいくつかの他の細胞株が含まれる。細胞株は、それらの発現レベルに基づいて選択され得る。使用され得る他の細胞株は、Sf9又はSf21細胞などの昆虫細胞株である。宿主細胞の組織培養培地は、ウシ血清アルブミンなどの動物由来成分(ADC)を含んでも又は含まなくてもよい。いくつかの実施形態では、ADCを含まない培養培地がヒトの安全のために好ましい。組織培養は、流加法、連続灌流法又は宿主細胞に適した任意の他の方法及び所望の収率を用いて行うことができる。
【0049】
III.医薬組成物及び使用
本明細書に記載の方法は、治療有効量の抗TGF-β抗体又はその抗原結合断片をOI患者に投与することを含む。本明細書で使用される場合、「治療有効量」という語句は、OIに関連する1つ以上の症状(例えば、I型、II型、III型又はIV型OI;又は軽度、中等度、中等度~重度又は重度のOI型)の検出可能な改善をもたらすTGF-βに結合するか、又はOIの状態若しくは症状を引き起こす根本的な病理学的機構と相関する生物学的効果(例えば、特定のバイオマーカーのレベルの低下)を引き起こす抗体の用量を意味する。
【0050】
OIの改善は、骨代謝回転の低下、骨再構築の速度の低下及び/又は骨細胞密度の低下に現れ得る。いくつかの実施形態では、OIの改善は、骨塩密度(BMD)、骨体積密度(BV/TV)、全骨表面(BS)、骨表面密度(BS/BV)、骨梁数(Tb.N)、小柱厚さ(Tb.Th)、小柱間隔(Tb.Sp)及び総体積(Dens TV))からなる群から選択される骨パラメータの改善によって示される。
【0051】
特定の実施形態では、改善された骨パラメータは、二重エネルギーX線吸収測定法によって決定されるように腰椎面積BMD(LS aBMD)である。治療前のベースラインレベルと比較して、LS aBMD値は、少なくとも1%、例えば少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20%又はそれを超えて増加し得る。
【0052】
いくつかの実施形態では、BMD、骨量及び/又は骨強度は、治療有効量の抗TGF-β抗体又は抗TGF-βフラグメントによる治療後に約5%~約200%増加する。特定の実施形態では、BMD、骨量及び/又は骨強度は、治療後、約2%、約2.1%、約2.2%、約2.3%、約2.4%、約2.5%、約2.6%、約2.7%、約2.8%、約2.9%、約3%、約4%、約5%~約10%、10%~約15%、15%~約20%、20%~約25%、25%~約30%、30%~約35%、35%~約40%、40%~約45%、45%~約50%、50%~約55%、55%~約60%、60%~約65%、65%~約70%、70%~約75%、75%~約80%、80%~約85%、85%~約90%、90%~約95%、95%~約100%、100%~約105%、105%~約110%、110%~約115%、115%~約120%、120%~約125%、125%~約130%、130%~約135%、135%~約140%、140%~約145%、145%~約150%、150%~約155%、155%~約160%、160%~約165%、165%~約170%、170%~約175%、175%~約180%、180%~約185%、185%~約190%、190%~約195%又は195%~約200%増加する。
【0053】
いくつかの実施形態では、治療有効量は、例えば、尿中ヒドロキシプロリン、尿中総ピリジノリン(PYD)、尿中遊離デオキシピリジノリン(DPD)、尿中I型コラーゲン架橋N-テロペプチド(NTX)、尿中又は血清I型コラーゲン架橋C末端テロペプチド(CTX)、骨シアロタンパク質(BSP)、オステオポンチン(OPN)及び酒石酸耐性酸性ホスファターゼ5b(TRAP)などの血清又は尿中バイオマーカーの減少によって示されるように、減少した骨代謝回転をもたらし得る。特定の実施形態では、ベースラインレベル(例えば、治療前)と比較した場合の低下は、TGF-βに結合する抗体での治療後に約5%~約200%である。例えば、減少は、治療後に約5%~約10%、10%~約15%、15%~約20%、20%~約25%、25%~約30%、30%~約35%、35%~約40%、40%~約45%、45%~約50%、50%~約55%、55%~約60%、60%~約65%、65%~約70%、70%~約75%、75%~約80%、80%~約85%、85%~約90%、90%~約95%、95%~約100%、100%~約105%、105%~約110%、110%~約115%、115%~約120%、120%~約125%、125%~約130%、130%~約135%、135%~約140%、140%~約145%、145%~約150%、150%~約155%、155%~約160%、160%~約165%、165%~約170%、170%~約175%、175%~約180%、180%~約185%、185%~約190%、190%~約195%又は195%~約200%であり得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、治療有効量は、総アルカリホスファターゼ、骨特異的アルカリホスファターゼ、オステオカルシン(OCN)及びI型プロコラーゲン(C末端/N末端)などの骨沈着の血清又は尿バイオマーカーのレベルの上昇をもたらし得る。特定の実施形態では、ベースラインレベル(例えば、処置前)と比較した増加は、治療後に約5%~約200%である。例えば、低下は、治療後に約5%~約10%、10%~約15%、15%~約20%、20%~約25%、25%~約30%、30%~約35%、35%~約40%、40%~約45%、45%~約50%、50%~約55%、55%~約60%、60%~約65%、65%~約70%、70%~約75%、75%~約80%、80%~約85%、85%~約90%、90%~約95%、95%~約100%、100%~約105%、105%~約110%、110%~約115%、115%~約120%、120%~約125%、125%~約130%、130%~約135%、135%~約140%、140%~約145%、145%~約150%、150%~約155%、155%~約160%、160%~約165%、165%~約170%、170%~約175%、175%~約180%、180%~約185%、185%~約190%、190%~約195%又は195%~約200%であり得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、治療有効量は、骨沈着を促進する。いくつかの実施形態では、治療有効量は、聴覚、視覚、肺機能及び腎機能など、OIに影響される非骨格器官の機能を改善する。
【0056】
いくつかの実施形態では、抗TGF-β抗体による治療は、毎月、2ヶ月ごと、3ヶ月ごと、4ヶ月ごと、5ヶ月ごと、6ヶ月ごと、9ヶ月ごと、12ヶ月ごと又は18ヶ月ごとに繰り返され得る。いくつかの実施形態では、Ab1の治療有効量は、1~10mg/kg、例えば1、2、2.5、3、4、5、6、7、8、9又は10mg/kgであり得、任意選択的に年間2回投与される(隔年、任意選択的に6ヶ月ごと又はQ6M)。他の実施形態では、Ab1の治療有効量は、0.1~1mg/kg、例えば0.35、0.4又は0.5mg/kgであり得、任意選択的にQ3Mで投与され得る。いくつかの実施形態では、OI患者は、静脈内注射によってこの量のAb1で治療される。治療は、医師が患者にとって適切と考える間隔で繰り返され得る。
【0057】
患者は、成人(例えば、18歳以上の患者)であり得る。患者は、小児患者(18歳未満の患者、例えば新生児~6歳の患者、6歳~12歳の患者又は12歳~18歳の患者)であり得る。
【0058】
IV.併用療法
いくつかの実施形態では、本抗TGF-β抗体療法は、他のOI治療と併用され得る。さらなる治療剤の例としては、ビスホスホネート、カルシトニン、テリパラチド及びOIを治療、予防又は改善することが公知の任意の他の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。さらなる治療剤は、TGF-βに結合する抗体と同時に又は連続的に投与することができる。ビスホスホネートの例は、エチドロネート、クロドロネート、チルドロネート、パミドロネート、ネリドロネート、オルパドロネート、アレンドロネート、イバンドロネート、ゾレドロネート及びリセドロネートである。いくつかの実施形態では、さらなる治療剤は、副甲状腺ホルモン類似体及びカルシトニンなどの骨形成を刺激する薬物である。
【0059】
別途本明細書で定義されない限り、本開示に関連して使用される科学用語及び技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。例示的な方法及び材料を下記で説明するが、本明細書で説明されるものと類似の又は均等な方法及び材料も本開示の実施又は試験で使用し得る。矛盾が生じた場合、定義を含めて本明細書が優先する。一般に、本明細書に記載の細胞及び組織培養、分子生物学、免疫学並びにタンパク質及び核酸の化学及びハイブリダイゼーションに関連して使用される命名法及びそれらの技術は、当技術分野で周知であり、一般的に使用されるものである。酵素反応及び精製技術は、当技術分野で一般的に遂行されるように又は本明細書で説明されているように、製造者の仕様に従って実施される。さらに、別途文脈上必要でない限り、単数形の用語は、複数を含むものとし、複数形の用語は、単数を含むものとする。本明細書及び実施形態の全体を通して、「有する(have)」及び「含む(comprise)」という用語又は「有する(has)」、「有している」、「含む(comprises)」若しくは「含んでいる」等の変形は、記載されている整数又は整数群を含むこと意味するが、あらゆる他の整数又は整数群を排除することを意味するものでないと理解される。本明細書で言及される全ての刊行物及び他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。多くの文献が本明細書に引用されているが、この引用は、これらの文献のいずれも当技術分野における共通の一般知識の部分を形成することの承認を構成しない。
【0060】
本発明をよりよく理解するために、以下の実施例を記載する。これらの実施例は、例示のみを目的とし、決して本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例
【0061】
実施例1:骨形成不全症の治療のための抗TGF-β抗体を評価するためのマルチモデルアプローチ
本実施例は、抗TGF-β抗体Ab1の濃度応答関係並びにOI患者の骨塩密度(BMD)及び骨強度に対するその影響を特徴付けた研究を記載する。本試験では、前臨床及び臨床薬物動態(PK)及び薬物動態(PD)データから通知されたモデルベースのアプローチを利用した。具体的には、1D11を用いて非臨床PK/PDモデリングを行い、臨床PK/PDモデリングを、ファーストインヒューマン試験中にフレソリムマブ(GC1008)又はAb1で処置された癌及びOI患者から得られたデータを用いて行った。1D11は代理齧歯動物として使用され、高い親和性で結合し、TGF-βの3つ全てのアイソフォームの生物学的活性を中和する汎中和TGF-βマウスモノクローナル抗体である。フレソリムマブ(GC1008)は、TGF-βの全てのアイソフォームを中和するヒト抗TGF-βモノクローナル抗体である。Ab1(GC2008)は、フレソリムマブ(GC1008)と高い配列類似性を有する第2世代のヒト抗TGF-βであり、重鎖中の単一アミノ酸のみが異なる(S228P;Eu番号付け)。1D11、フレソリムマブ(GC1008)及びAb1は、それらのPK特性のみが異なる同一の作用様式を有する分子を表す。
【0062】
方法
用量反応関係を理解するために、3つのモデリングアプローチを開発した:1)OI患者からのPK及びBMD臨床データに基づくPK/PDアプローチ(図1A);2)OIマウス薬理試験に基づくPK/PDアプローチ(図1B);3)骨内のOI TGF-βレベルを恒常性レベルまで減少させる用量を予測するための生理学に基づく薬物動態(PBPK)モデルアプローチ(図1C)。
【0063】
第1のモデリングアプローチでは、GC1008からPK/PD(BMD)関係が確立され;次に、Ab1(GC2008)からのPKデータをGC1008 PD関連パラメータと共に使用して、用量予測を提供した。第2のモデリングアプローチでは、マウスの1D11データからPK/PD(BV/TV、maxF)関係を確立した。PKをスケーリングした後、ヒト骨代謝回転速度に基づいてPDパラメータを通知し、モデルを使用して用量予測を提供した。第3のモデリングアプローチでは、薬物の物理化学的(PC)特性及びヒト生理学に基づいてPBPKモデルを通知した。Ab1 PKデータと比較することによってPBPKモデルの予測の妥当性を検証した後、PBPKモデルを使用して骨PK及び関連する標的(TGF-β)プロファイルを評価した。マルチモデル手法については、以下でさらに詳細に説明する。
【0064】
ヒトにおけるフレソリムマブ(GC1008)の曝露及びPK評価
生検で確認された治療抵抗性の原発性巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)患者で行われた非盲検用量範囲のファーストインヒューマン試験中、フレソリムマブの単回用量注入のPKを評価した。16人の患者が4つの単回用量レベルのフレソリムマブ(0.3、1、2、4mg/kg)の1つを受け、豊富なサンプリングPKで112日間追跡された。患者の平均年齢は37±12歳であり、平均FSGS持続期間は3.0±2.1歳であり、半数が男性であり、13人が白人であり、3人が黒人であった(Trachtman et al.,Kidney Intern.(2011)79(11):1236-43)。フレソリムマブの血清PKは、線形クリアランスを有する2コンパートメントモデルによって最もよく説明された(Trachtman et al.,同上)。患者の体重は、薬物動態学的変動性を予測するものとして同定された唯一の有意な共変量であった。半減期は14日と推定され、平均用量はCmaxを正規化し、曝露量(AUC)は用量と共に変化しなかった。PKモデルパラメータを表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
OI患者におけるフレソリムマブの第1相試験
フレソリムマブの単回投与による第1相試験を、OIを有する成人8名で行った。試験には、フレソリムマブ(GC1008)の単回注入が含まれた(1mg/kg体重及び4mg/kg体重;各用量コホートでn=4)。試験の主要な結果は、フレソリムマブ(GC1008)単回投与の安全性であったが、骨リモデリングバイオマーカー及び腰椎面積骨塩密度(LS aBMD)に対するフレソリムマブの効果を、6ヶ月の時間枠で副次的な結果として分析した(Song et al.,J Clin Invest.(2022)Feb 3:e152571.doi:10.1172/JCI152571.
【0067】
Ab1の第I相試験及びPK評価
Ab1のPKを、Ab1単独で処置した癌患者(パートA)又はセミプリマブと組み合わせてAb1で処置した癌患者(パートB)における非盲検、用量漸増及び拡大ファーストインヒューマン試験(NCT03192345)の期間中に評価した。合計52名の患者が、2週間ごとに0.05~15mg/kgまで(Q2W)又は3週間ごとに22.5mg/kgで(Q3W)、Ab1の30分間のIV注入を受けた。血清中のAb1測定のための血液試料を、薬物注入の開始時及び終了時、1日目の2.5、4.5、8.5時間、サイクル1(すなわち1サイクル=1回の投与)の2日目、3日目、4日目、5日目、8日目及び15日目(Q2Wの場合)又は22日目(Q3Wの場合)、サイクル2の1日目及び8日目並びにその後のサイクルの1日目に全ての処置患者で採取した(Williamson et al.,Developmental Therapeutics-Immunotherapy(2021)39(15_suppl):2510)。Ab1のPKは、フレソリムマブと類似しており、線形クリアランスを有する2コンパートメントモデルによって記述された(図6)。PKモデルパラメータを表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
OIマウスモデルにおける1D11PK試験
5mg/kgの1D11の単回用量をG610C OIマウス(雌/6及び雄/6、8週齢)に腹腔内投与し、投与の4、48、168、360、528及び1032時間後に血液を採取した。全ての試料を血清用に処理し、ドライアイス上に置き、分析前に-60℃以下に移した。
【0070】
血清中の循環薬物レベルは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)ベースの生物分析法を使用して決定した。簡単に説明すると、1D11を含有するG610Cマウス血清試料を、最後の時点(1032時間)からの試料を除いて全ての試料について10,000倍希釈で緩衝液(PBS、0.05% Tween-20、0.05% Triton X-100、0.01% BSA)に希釈し、これを1,000倍希釈した。96ウェルプレートをTGF-β2でコーティングし、マウス血清試料とインキュベートした後、ヤギ抗マウスホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート(シグマ、A0168/095M4759V)の検出抗体を用いて1D11を捕捉し、Spectramax(登録商標)plus(Molecular Devices)で450nm及び570nmの光学密度を読み取った。570nmで測定した吸光度(バックグラウンド)を450nmで測定した吸光度から差し引いた。標準曲線を作成し、血清1D11濃度を得た。アッセイの検出下限は1.0μg/mlであった。1D11のPK応答を図7に示す。PKパラメータを表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
OIマウスにおける1D11を用いたインビボ薬理試験
動物には、12時間の明暗サイクルを有する病原体のない気候制御施設に収容された食物(Auto KF 5 K 52;Lab Diet)及び水を自由に与えた。G610C OI(在庫番号007248;Jackson Labs(以下、OIマウスと呼ぶ))マウスは、Col1a2遺伝子(Col1a2tm1.1Mcbr)に変異を有し、これは、低い骨量及び脆い骨表現型をもたらし、したがって常染色体優性OIについての良好な前臨床モデルを表す。用量依存試験を以下のように行った:1D11を、雄及び雌のG610C OIマウスに0.3、1又は5mg/kgのIPで8週間にわたってTIWの投与頻度において投与した(n=雄4~8匹、雌5~8匹/群)。様々な用量にわたる1D11の薬力学的効果を評価した。週に3回、週に1回、2週間に1回又は4週間に1回のIP投与を行い、合計12週間にわたる5mg/kgの1D11の用量での用量頻度研究を評価した(uCT及び生体力学の両方についてn=5~8)(Greene,B.,et al.,JBMR Plus,(2021)5(9):e10530)。
【0073】
フレソリムマブ及び1D11のPK/PDモデルの開発
この作業に続く段階的なアプローチを図1A~1Cに示す。最初に、以前の研究(Trachtman et al、同上)で行われたフレソリムマブの集団PKモデルを使用して、フレソリムマブ(GC1008)のPK/BMD関係を評価するためにPK/PDモデルを開発した(図1A)。BMD動態は、効果コンパートメントの投入速度の誘導によるBMDのPK関連増加をシミュレートするIII型間接応答モデルによって記載された(Dayneka et al.,J Pharmacokinet Biopharm.(1993)21(4):457-78)。PD関連パラメータを入手可能なデータ(Song et al.,同上)で知らせた後、フレソリムマブPKをGC2008の2コンパートメントPKモデル(Williamson et al.,同上)に置き換え、フレソリムマブによって通知されたPK/PD関係に基づいて、このモデルを使用してAb1用量/応答(BMD)関係の予測を提供した。フレソリムマブ及びAb1の集団PK分析を、NONMEM及びMonolixをそれぞれ使用して行った(Bauer et al.,CPT:Pharmacometrics&Systems Pharmacology(2019)8(8):525-537)。PK/PDモデリングを、常微分方程式のためのode45ソルバーを使用してMatlab R2019aで行った。
【0074】
第2のモデリングアプローチでは、PK/PD関係がマウスで1D11について確立された(図1B)。測定されたPDエンドポイントは、骨体積分率(骨体積/総体積-BV/TV)及び最大破壊力(maxF)であり、両方とも骨生理学の改善を表していた。1D11PKを1コンパートメントモデル((図7)、表3)によって記述し、BV/TV及びmaxFの動態をタイプIII間接応答モデルによって記述した。PK/PD関係をヒトに変換するために、Ab1 pop-PKモデルを使用し、PD関連パラメータを一定に保ちながら、マウス骨代謝回転速度(約3週間)をヒト骨代謝回転速度(約3ヶ月)に置き換えた。次いで、モデルを使用してAb1用量/応答(BV/TV)関係を予測した。1D11のPK/PDモデリング及びヒトへのその順変換を、常微分方程式のためのode45ソルバーを使用してMatlab R2019aで行った。
【0075】
Ab1のPBPKモデル
最後に、PBPKモデリングアプローチを使用して、骨におけるAb1 PK及びヒトにおける対応するTGF-β応答を評価した。Ab1の物理化学的特性、血漿及び骨中のTGF-βレベル並びにヒト生理学に基づいて、PK-Sim(登録商標)ソフトウェアプラットフォーム(Willmann et al.,BIOSILICO(2003)1(4):121-1240)を使用してPBPKモデルを開発した。PBPK予測を検証するために、Ab1臨床PKデータを、従うシナリオについてのPBPKシミュレーションと比較した。検証後、PBPKモデルを使用して、ヒト血漿及び骨組織におけるPBPK/TGF-β応答を評価した。PKパラメータを表4に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
結果
第1のモデリング手法
巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)の血清中のフレソリムマブのPKを以前の研究で評価した(Trachtman et al.,同上)。OI患者におけるフレソリムマブのPK/BMD応答を、BMDに対するIII型間接応答モデルを使用することによって調査した(図2)。第1のモデリングアプローチでは、PK/PDモデルを最初にフレソリムマブ(GC1008)PK/BMDデータによって通知した。図2は、OI患者(Song et al.,同上)における1及び4mg/kgのフレソリムマブ(GC1008)の単回投与についてのそれぞれのBMDデータと共にPK/BMD動態を示す。PDモデルのパラメータを、1mg/kg(図2、グラフA)及び4mg/kg(図2、グラフB)のフレソリムマブ(GC1008)の投与後のBMDデータに適合させた。BMDの場合、1mg/kgの投与は、図2のグラフAに示すように、動態に最小限の影響のみを及ぼした。シミュレーションは、4mg/kgのIV投与後の初期期間のより顕著な増加を示唆している。両方の用量群において、患者の数は、少なく、そのBMD値は、有意な変動性を維持した。このモデルは、利用可能なデータを問題なく説明することができた。
【0078】
この初期モデリングアプローチの第2の工程では、PDパラメータを一定に維持しながら、PK/PDモデルのPK部分をAb1 PKデータからさらに通知した。Ab1のPKを、以前のpop-PK分析に基づいてモデルにさらに組み込んだ。BMD関連パラメータを、フレソリムマブのパラメータに対して一定に保った。図3は、6ヶ月ごとに2mg/kgとしてIV投与した場合(図3、グラフA)及び3ヶ月ごとに0.4mg/kgをIV投与した場合(図3、グラフB)のAb1のPK/BMDシミュレート応答を示す。図3に示す用量は、BMDの5%の増加をもたらす用量である。したがって、Ab1のPK/BMDモデルは、BMDを5%増加させるために3ヶ月ごとに2mg/kgの年2回投与(図3、グラフA)又は0.4mg/kgの投与を予測する(図3、グラフB)。
【0079】
FSGSにおけるフレソリムマブのPK挙動は、2つの他の疾患集団、すなわち特発性肺線維症及び進行性悪性腫瘍で同様であった(Morris et al.,PLoS One(2014)9(3):e90353)。本試験における基礎となる仮説は、フレソリムマブがOI患者で同様の薬物動態プロファイルを有すると予想されることであり、したがって癌患者におけるフレソリムマブのpop-PK分析から得られたPKパラメータを使用して、OI患者におけるフレソリムマブ(GC1008)のPKを記載することができる。本明細書の実施例に示すように、フレソリムマブ(GC1008)投与後のPD動態をモデル化するために、III型PDモデルを使用した。このモデルは、応答変数の産生を制御する因子(Dayneka et al.,同上)の刺激から生じる薬物応答を表す。応答の消散の阻害から生じる薬物応答を表すII型モデルを使用してBMDデータをモデル化することもできるが、いくつかの実施形態では、抗TGF-β処置が最終的にBMDを誘導する機構を遮断する基礎生理学に基づいて、III型モデルが好ましい(Bonewald et al.,Clin Orthop Relat Res.(1990)(250):261-76)。BMDデータの数が少ないこと(4人の対象)、それらのスパース性及びそれらの高い変動性(図2、グラフA及びB)のため、PDモデルのEmax/EC50パラメータは、各時点の平均BMD値に従って最適化された一方、kin/koutは、ヒトにおける骨代謝回転及びBMDベースラインに基づいて設定された。このモデルは、1mg/kgのフレソリムマブ(GC1008)の単回投与後のBMDに対する最小効果を予測するが、4mg/kgの投与は、最初の100日間でBMDのより顕著な増加を伴ってより強い効果を誘導する。本明細書の実施例に示すように、Ab1投与後のBMD応答は、フレソリムマブのPK/BMDの適合から通知されたものと同じ動態(同じPDモデル及び関連パラメータ)に従うと仮定された。したがって、いくつかの実施形態では、Ab1の集団-PK由来パラメータ及びこのモデリングアプローチの第1の工程で同定されたBMD関連パラメータを使用して、本発明者らのモデルは、Ab1のPK/PD応答に関する予測を提供する(図3、グラフA及びB)。
【0080】
現在まで、OI患者のBMDに対する様々な治療の効果を調査するいくつかの研究がある。OIを有する23人の男性及び23人の閉経前の女性を含む臨床試験において、Adamiらは、3ヶ月ごとに投与した場合のアミノ-ビスホスホネートであるネリドロネートの効果を試験した(Adami et al.,同上)。治療の最初の12ヶ月以内に、脊椎及び股関節の骨塩密度はそれぞれ3%及び4.3%上昇し、2年目の追跡調査中にさらに3.91%及び1.49%の増加が観察された。これらの変化の大きさは、BMD変化と骨折リスク減少との間の関係に基づいて臨床的に重要であると考えられた(Hochberg et al.,J Clin Endocrinol Metab.(2002)87(4):1586-92)。Orwollらの臨床試験では、OIを有する79人の成人を1:1の比で無作為化して、20μg/日のテリパラチド又はプラセボを皮下投与した。プラセボ群と比較して、治療群は、腰椎(LS)面積BMD(aBMD)が2.8%に対して6.1%増加し、総股関節aBMDが-2.4%に対して2.6%増加したことを示した。さらに、椎骨BMD(vBMD)及び強度は、治療により改善したが、プラセボでは低下した。全体として、結果は、OIを有する成人が股関節及び脊椎のaBMD、vBMD及び推定強度の増加を示したことを示した。(Kuhn et al.,J Musculoskelet Neuronal Interact.(2014)14(4):445-53))のレトロスペクティブ解析では、運動機能に対する側面交互全身振動を含む新しい理学療法アプローチの効果をOIの小児53人で分析した。12ヶ月後、小児は、運動機能及び歩行距離の有意な増加を示し、これは、aBMDの0.4357から0.48への増加(約10%)及び頭部のない全身のBMDの0.5382から0.5529への増加(約3%)を伴った。最後に、後の研究において、Kuhnらは、破骨細胞成熟を阻害するRANKリガンド抗体であるデノスマブが、OIを有する10人の小児で腰椎aBMDの19%の増加をもたらしたことを示した(Kuhn et al.,同上)。結論として、現在のデータは、臨床転帰の有意な改善がBMDの5%の増加に対して予想されることを示している。Ab1 PK/PDのモデルベースの予測に基づいて、0.4mg/kg Ab1を3ヶ月に1回(図3、グラフA)又は6ヶ月ごとに2mg/kg(図3、グラフB)で投与すると、5%のBMD増加が達成される。
【0081】
第2のモデリングアプローチ
第2のモデリングアプローチでは、1D11のPKをマウスで評価した(図7)。マウス1D11PKを、1CMを使用してモデル化した。PK/PDモデルを骨体積の変化に基づいてさらに開発した。骨体積分率変化をIII型IDRモデル(Benjamin et al.,JMBR Plus 5.9(2021):e10530)によってさらに評価した。ヒト予測のための前臨床モデルを使用するために、骨代謝回転速度及び骨体積分率ベースラインをヒト値(図4)で調整した。PDパラメータをマウスPDに適合させた。図4は、様々なレジメン後の5mg/kg 1D11の静脈内投与後のPK/PD応答を示す。シミュレーション(実線)を実験的観察(記号)と比較すると、モデルは観察されたデータを十分に記述することができた。このモデルはさらに、同じ用量のより頻繁な投与がPD応答の定常状態に達するより速い時間をもたらすと予測する。ヒトにおけるPD応答を予測するために、Ab1のPKを使用し、PDモデルの代謝回転速度パラメータと共にベースラインを変更して、それに応じて骨体積分率及び骨代謝回転のヒト値を表した。図4、グラフE及びグラフFは、それぞれヒトにおける3ヶ月に1回の0.5mg/kg IV投与及び6ヶ月ごとの2.5mg/kg IV投与についてのモデルベースのPK/PD予測を示す。これらの用量は、骨体積分率の5%の増加をもたらす。Ab1のPK/BVモデルは、BVを5%増加させるために、2.5mg/kgの年2回投与(図4、グラフF)又は3ヶ月ごとの0.5mg/kg投与を予測する(図4、グラフE)。
【0082】
第2のモデリングアプローチ(図1B)では、1D11の利用可能な前臨床データが考慮される。1D11のPKは、線形クリアランスを有する1コンパートメントモデルを用いて記載した。2コンパートメントモデルはPKデータを等しく良好に説明したが、第2のコンパートメントのパラメータの信頼区間は低く、したがって1コンパートメントモデルを選択した。先に記載された第1のモデリングアプローチに従って、III型間接応答モデルを使用して、マウスにおける骨体積分率変化を記載した(図4、グラフA~D)。マウスの骨代謝回転及び骨体積分率に従ってkin/koutを設定し、利用可能な骨体積分率データに基づいてEmax/EC50を最適化した。図4に見られるように、1D11マウスのPK/PDモデルは、利用可能なデータを十分に記載することができた。注目すべきことに、骨体積分率測定値は、特に中間時点についてモデルの予測能力を制限する1つの時点について利用可能であった。マウス1D11PK/PDモデルをヒトにおいてGC2008 PK/PDに変換するために、3つの工程を行った。最初に、1D11PKモデルを以前に評価したGC2008 PKモデルに置き換えた。さらに、マウスの骨体積分率ベースラインを、OI患者における骨体積分率の文献ベースの値で置き換えた(Glorieux et al.,J Bone Miner Res.(2000)15(9):1650-8;及びGlorieux et al.,J Bone Miner Res.(2002)17(1):30-8)、ほぼ3週間であるマウスの骨代謝回転は、ほぼ3ヶ月のヒト骨代謝回転の値に置き換えられた(Jilka、同上)。これらの変化に基づいて、モデルを使用して、(図4、グラフE及びグラフF)に示されるようにGC2008のPK/PD応答を評価した。骨体積分率の5%の増加を達成するために、PK/PDモデルは、3ヶ月ごとの0.5mg/kg又は年2回の2.5mg/kgの投与を予測する。
【0083】
第3の(最後の)モデリングアプローチ
最後のモデリングアプローチでは、Ab1のPBPKモデルを開発し、骨中のTGF-βをその生理学的レベルまで減少させるのに必要な用量を予測するために使用した。開発されたPBPKモデルは、Ab1の物理化学的特性を、健康な患者及びOI患者の血漿及び骨におけるTGF-β発現に関する情報と共に組み込んでいる。複数回投与に対するAb1 PKのPBPKモデルに基づく予測は、入手可能なデータとほぼ一致した。図5は、PBPKモデル及びそのフォワード予測の検証を示す。図5、グラフAは、異なる用量のAb1に対するPBPKモデルの応答を示す。実線は、モデルに基づく予測を示し、白丸は、異なる用量についての個々の臨床PKデータを示す。シミュレーションとPKデータとの比較は、PBPKモデルが、モデルを訓練するために使用されなかったシナリオについて、ヒトにおける薬物曝露を十分に予測することを示す。図5のグラフBは、Ab1の0.05mg/kg IV投与についての血漿(実線)及び骨(点線)におけるAb1の分布を示す。PBPKモデルは、骨中の濃度が血漿中の濃度のほぼ5%であると予測する。OIシナリオをシミュレートするために、OI患者で3倍高い濃度のTGF-βを表すようにTGF-β発現を増加させた。図5、グラフCは、OI患者のPBPKモデルに基づくPK予測をさらに示し、Ab1の0.35mg/kg及び2.5mg/kg IV投与をそれぞれ3ヶ月及び6ヶ月ごとに投与した。これらの用量は、TGF-βレベルを、従った投与スキームの生理学的値まで低下させることが見出された。図5のグラフDは、3ヶ月及び6ヶ月ごとのAb1の0.35mg/kg及び2.5mg/kgのIV投与後の対応するTGF-β標的レベルをさらに示す。PBPKモデルは、TGF-βレベルをその恒常性値(図5)まで低下させるために、3ヶ月ごとに0.35mg/kg及び6ヶ月ごとに2.5mg/kgの用量を予測する。
【0084】
最後のモデリングの取り組みでは、骨におけるTGF-βのレベルに対するAb1の効果を予測するためにPBPKアプローチを実施した。PBPKモデルは、生理学に基づく質量バランス及び輸送現象に応じて異なる組織における薬物の分布が予測される最適な数学的フレームワークを有することがよく知られている(Jones and Rowland-Yeo.,CPT Pharmacometrics Syst Pharmacol.(2013)2:e63)。PBPKへの入力は、一般的に、薬物特異的及び生物特異的パラメータに分けることができる。薬物特異的パラメータは、分子量、FcRnに対する親和性、目的の標的に対する親和性などの化合物の物理化学的特性に関連する。器官特異的パラメータは、組織体積及び組織血流などの身体の生理学的特性に関連しており、これらは主に文献に基づいており、一般的に使用されるモデルプラットフォームに組み込まれている。モデルベースの薬物開発におけるそれらの重要性を考えると、Simcyp(certaraウェブサイト)、GastroPlus(simulations-plusウェブサイト)、SimBiology(mathworksウェブサイト)及びPK-Sim(オープンシステム-薬理学ウェブサイト)などの生理学ベースの方法論を統合するいくつかの市販のプラットフォームがある。目的の組織に標的結合を組み込むことが比較的容易であるため、PK-Simプラットフォームを使用した。Ab1の動態を記載するために使用された分布モデルは、2細孔形式に基づいており、以前に記載された(Niederalt et al.,J Pharmacokinet Pharmacodyn.(2018)45(2):235-57)。必要な入力パラメータは、血漿及び骨中のTGF-βのベースライン濃度、TGF-β及びFcRnに対する結合親和性及びAb1の分子量であった。モデルの予測能力を評価するために、シミュレーションをAb1の利用可能なPKデータ(図5、グラフA)と比較した。特にモデルがAb1 PKデータについて事前に訓練されていないため、モデルベースの予測は、利用可能なデータを十分に記述することができ、モデル予測の信頼性を高めることができた。予測された分布を比較するために利用可能な骨Ab1 PKは、なかったが、本発明者らのPBPK予測は、骨に対する大きい分子の平均7%の分布を示す文献(図5、グラフB)と十分に整合している(Shah and Betts,MAbs.(2013)5(2):297-305)。PBPKモデル予測の信頼性を確立した後、TGF-β濃度の増加のシナリオを実施した。入手可能な文献証拠に基づいて、OI患者は、健常個体と比較して血漿及び骨中のTGF-βの濃度がほぼ3倍高いことを示した(Grafe et al.,Nat Med.(2014)20(6):670-5;Gebken et al.,Pathobiology(2000)68(3):106-12;及びPfeilschifter et al.,同上)。この証拠に基づいて、OIシナリオをシミュレートするために、血漿及び骨におけるTGF-β発現が増加した。したがって、本発明者らは、OI関連遊離TGF-βレベルをそれらの健康値に戻すAb1の用量を評価しようとした。根底にある仮定は、OIに関連する身体生理学の変化(すなわち骨体積の減少)はAb1 PKに影響せず、一定のままであり得るということである。PBPK分析に基づいて、3ヶ月ごとに0.35mg/kg又は6ヶ月ごとに2.5mg/kgの投与(図5、グラフC)は、骨内の遊離TGF-βレベルをそれらの生理学的値に戻す(図5、グラフD)。興味深いことに、PBPK分析は、Ab1濃度がそのピークに達すると、2.5mg/kgの年2回の投与が骨中の遊離TGF-βのほぼ総量を排除することを示した。これは、この含意を説明するために投与を最適化すべき可能な投与設計の制約をさらに明らかにする。
【0085】
要約すると、OI患者の骨における抗TGF-β抗体及びBMD及び骨強度の濃度応答関係並びにTGF-β動態を評価するために、マルチモデルアプローチを実施した。3つのモデリングアプローチは、臨床的に関連するPD効果のための同様の用量予測を提供した。本試験で実施された3つのモデリングアプローチは、臨床的に関連するPD効果について同様の用量推定値を提供した。特に、フレソリムマブを使用した第1のアプローチであるAb1臨床PK/PDデータは、BMDを5%増加させるために、3ヶ月ごとに0.4mg/kg投与又は年2回、2mg/kg投与を予測した。1D11の前臨床データをさらに使用した第2のアプローチは、骨体積分率を5%増加させるために、3ヶ月ごとの0.5mg/kg投与及び年2回の2.5mg/kg投与を予測した。最後に、PBPKモデリングは、OI関連TGF-βレベルを低下させてそれらの生理学的値に戻すために、3ヶ月ごとの0.35mg/kg投与又は年2回の2.5mg/kg投与を予測する。3つのアプローチの対応は、Ab1のPK/PD関係の翻訳に対する信頼性を高め、臨床的有効性を予測するためのロバストなモデルベースの評価を提供した。
【0086】
上記の非限定的な例は、開示された主題のより詳細な理解を容易にするためにのみ例示目的で提供される。これらの実施例は、抗体、医薬組成物又は癌、神経変性若しくは感染性疾患を治療する方法及び使用に関するものを含む、本明細書に記載される実施形態のいずれかを限定すると解釈されるべきではない。
【0087】
配列
以下の表は、本開示で言及されるアミノ酸配列を示す。
【0088】
【表5】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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【国際調査報告】