(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】肝がん療法での薬物送達システムとしての微小断片化脂肪組織
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20241106BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20241106BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241106BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20241106BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20241106BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241106BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20241106BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20241106BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20241106BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
A61K45/00 101
C12N5/077
A61P35/00
A61K47/44
A61K31/44
A61P43/00 121
A61K31/337
A61K31/675
A61K31/704
A61P35/04
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525836
(86)(22)【出願日】2022-10-21
(85)【翻訳文提出日】2024-06-24
(86)【国際出願番号】 EP2022079388
(87)【国際公開番号】W WO2023072755
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】102021000027437
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524160110
【氏名又は名称】リポジェムス・インターナショナル・エッセ・ピ・ア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カルロ・フェルディナンド・マリア・トレモラダ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリオ・アレッサンドリ
(72)【発明者】
【氏名】オフェル・ゼイラ
(72)【発明者】
【氏名】アウグスト・ペッシーナ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065CA44
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC27
4C076EE57
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4C084AA17
4C084AA19
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4C084ZB261
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4C084ZC751
4C086AA01
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4C086BA02
4C086BC17
4C086DA35
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4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086NA05
4C086NA10
4C086NA13
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、肝がんの処置での使用のための、好ましくは肝細胞癌(HCC)の処置での使用のための、適切な抗がん剤を装填したヒト微小断片化脂肪組織(MFAT)及びその失活したカウンターパート(DM-FAT)を指す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝がん、好ましくは肝細胞癌の処置及び/又は予防での使用のための組織ベースの薬物送達システムであって、
- 10~5000μm、好ましくは100~3000μm、より好ましくは200~2500μm、更により好ましくは30~1500μm、好ましくは200~900μm、より好ましくは400~900μmの範囲のサイズを有する脂肪組織のクラスタを好ましくは含む微小断片化脂肪組織(MFAT);及び
- 少なくとも1種の抗がん剤
を含む組織ベースの薬物送達システム。
【請求項2】
前記MFATは、非酵素的微小断片化脂肪組織である、請求項1に記載の使用のための組織ベースの薬物送達システム。
【請求項3】
前記MFATは、失活した微小断片化脂肪組織(DMFAT)である、請求項1又は2に記載の使用のための組織ベースの薬物送達システム。
【請求項4】
前記脂肪組織は、哺乳動物から単離されており、より好ましくは、ヒトから単離されており、前記ヒトは、生きているか、又は死体である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のための組織ベースの薬物送達システム。
【請求項5】
前記脂肪組織は、自家又は異種由来である、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための組織ベースの薬物送達システム。
【請求項6】
前記抗がん剤は、パクリタキセル、ドセタキセル、レンバテニブ、ゲムシタビン、マイトマイシンC、若しくはビノレルビン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ノコダゾール、エポチロン、及びナベルビン、テニポシド、アクチノマイシン、アムサクリン、アントラサイクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カルボプラチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、サイトキサン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ヘキサメチルメラミンオキサリプラチン、イホスファミド、メルファラン、メルクロレタミン、マイトマイシン、ミトキサントロン、ニトロソウレア、プリカマイシン、プロカルバジン、テニポシド、トリエチレンチオホスホルアミド及びエトポシド(VP16)、アドリアマイシン、アムサクリン、カンプトテシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、エニポシド、エピルビシン、エトポシド、イダルビシン、イリノテカン(CPT-11)及びミトキサントロン、ペメトレキセド、5-フルオロウラシル(5-FU)、メトトレキサート、シクロホスファミド、ボルテゾミブ、トモゾロミド、ソラフェニブ、又はこれらの任意の組み合わせから選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のための組織ベースの薬物送達システム。
【請求項7】
前記抗がん剤は、
- ソラフェニブ及びパクリタキセル;又は
- シクロホスファミド及びパクリタキセル;又は
- アドリアマイシン及びパクリタキセル
の組み合わせである、請求項6に記載の使用のための組織ベースの薬物送達システム。
【請求項8】
前記抗がん剤の量は、MFAT又はDMFAT 1ml当たり0.1~1mgの範囲である、請求項6又は7に記載の使用のための組織ベースの薬物送達システム。
【請求項9】
前記組織ベースの薬物送達システムを、腫瘍組織部位へと局所的に注射し、治療上有効な量の前記抗がん剤をin situで放出する、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のための組織ベースの薬物送達システム。
【請求項10】
前記抗がん剤は、パクリタキセルである、請求項9に記載の使用のための組織ベースの薬物送達システム。
【請求項11】
前記がんは、原発性肝がん又は転移性肝がんであり、好ましくは、原発性又は転移性の肝細胞癌である、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のための組織ベースの薬物送達システム。
【請求項12】
さらなる治療的処置との組み合わせでの請求項1から11のいずれか一項に記載の使用のための組織ベースの薬物送達システム。
【請求項13】
肝がん、好ましくは肝細胞癌の処置及び/又は予防での使用のための医薬製剤であって、請求項1から12のいずれか一項に記載の組織ベースの薬物送達システムと、薬学的に許容されるビヒクル又は賦形剤とを含む医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
肝がん、即ち、肝細胞癌(HCC)は、腫瘍部位での薬剤の利用が不十分であることから、静脈内化学療法による恩恵が乏しい。本発明は、肝がん、即ち、肝細胞癌(HCC)の処置での使用のための適切な抗がん剤を装填したヒト微小断片化脂肪組織(MFAT)及びその失活したカウンターパート(DMFAT)の有効性を実証する。
【背景技術】
【0002】
肝細胞癌(HCC)は、世界での主要ながんの1つであり、近年治療選択肢が改善されているにもかかわらず、予後は依然として不良である(1)。慢性肝疾患を併発しているために根治的処置に適した患者の割合が低いこと、及びどのような処置を行った後においても高い再発率が観察されること等多くの要因が、よく知られた悲惨な全生存期間に寄与している(2, 3, 4, 5)。現在までに、腫瘍再発を予防するために明確に定義されて受け入れられている計画的な処置は存在していない。可能な治療戦略の中では、全身療法が広く実施されて研究されているが、典型的には、全身毒性に起因して腫瘍部位において特異的に抗がん剤の有効濃度に到達させることが不可能であることから、有効性が低いという特徴がある。例えば、マルチキナーゼ阻害剤(即ち、ソラフェニブ)は、限られた患者グループにおいて厳しい制限付きでのみ使用され得る。このため、化学療法剤の送達、及び腫瘍部位への特異的な局在化を高める戦略の開発が歓迎されるだろう。腫瘍部位での化学療法の局在性を高め、全身毒性を軽減する治療アプローチが、詳細に研究されている。
【0003】
以前の研究において、本発明者らは、脂肪組織(AT)が、脂肪微小断片化(MFAT)のプロセスの後に、抗がん剤を送達可能な天然の足場になることを発見した(6)。より具体的には、装置「Lipogems(登録商標)」、及び驚くべきことに、更にその失活したMFAT(DMFAT)カウンターパートにより実行される特定のプロセスを介したMFAT検体の新鮮な調製物が、抗がん分子パクリタキセル(PTX)としての大量の化学療法剤の吸着及び放出に非常に効果的であることを発見した。PTXを装填したMFAT及びDMFAT(MFAT-PTX;DMFAT-PTX)の両方が、腫瘍細胞の近くに位置する場合にインビトロで多くの異なるヒトがん細胞株を死滅させ得、且つ長期持続する抗がん活性が印象付けられた。加えて、DMFAT-PTX活性に焦点を当てたインビボ実験において、神経芽細胞腫(NB)細胞が同所移植されており且つ腫瘍の外科的切除を受けているヌードマウスにおいて、DMFAT-PTXの局所適用により腫瘍再発が阻止されるか又は遅延されることが示された(6)。これらの結果から、DMFATが腫瘍部位に抗がん分子を局在化させて放出可能な非常に革新的な天然生体材料であり得ることが初めて実証された。腫瘍部位に治療薬を選択的に送達し得るそのような薬物送達アプローチは、従来の化学療法の限界を解決するツールとして、がん処置において大きな可能性を示している。数多くの前臨床研究が公開されているが、HCCに対する標的薬物送達システムは、また実際の臨床的使用のためには作られていない。
【0004】
そのような観察に基づいて、合理的な標的薬物送達システムはがん特異的特性を考慮すべきであることから、本発明者らは、MFAT及びDMFATシステムがHCC標的療法の開発にとって有意義なプラットフォームとなり得るかどうかを理解することを目的としてHCCの特性を研究した。従って、本発明においては、インビトロ及びインビボのモデルにおいて、十分に発達したHCC原発腫瘍に対するDMFAT-PTXの非常に高い抗がん活性が発見された。更に、本発明者らは、腫瘍塊の近くに位置するDMFAT-PTXの単回投与が腫瘍増殖の阻害又は遅延に十分であり得るかどうかを調査し、最終的な抗腫瘍効果の長さを定量して評価した。本発明は、新鮮なMFATと、その失活したカウンターパートであるDMFAT(PTXが装填されている)との両方が、HCC腫瘍細胞株Hep-3Bの増殖をインビトロで阻害するのに非常に有効であることを初めて実証する。インビボ実験から、HCC腫瘍部位の近くに位置するDMFAT-PTXの単回投与により、腫瘍細胞に対して強力な増殖阻害効果が生じることが明らかになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/193413号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2011/145075号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、新鮮なMFATと、PTXが装填されたDMFATとの両方が、肝がん細胞のインビトロでの増殖の阻害で非常に効果的であること、及びin situで配置されたインビボDMFAT-PTXが増殖の進行段階でHCCをブロックすることを初めて実証しており、このことから、非常に侵襲性の強いがんに対する新規の強力で実行可能な送達薬物システムとして機能することが示唆される。DMFATは、進行段階のHCCの局所化学療法に強力で有効な新規のツールとなり得、このことは、他のヒト肝がんにおいても潜在的に有効であることを示唆する。腫瘍部位での薬剤の利用が不十分であることから、HCCは静脈内化学療法による恩恵が乏しいことから、このことは、特に適している。ヒトMFAT及びその失活したカウンターパートであるDMFATが、インビトロ試験及びインビボ試験の両方において腫瘍にパクリタキセル(PTX)を送達してがん増殖に影響を及ぼす有効な天然足場であることを示す証拠から出発して、本発明は、ヌードマウスでの十分に確立されたHCCにおけるDMFAT-PTXの有効性を実証する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、パクリタキセルが装填されているヒト微小断片化脂肪組織(MFAT)及びその失活したカウンターパート(DMFAT)の調製物(MFAT-PTX及びDMFAT-PTX)を、Hep-3B腫瘍細胞による2D及び3Dアッセイにおいて、抗がん活性に関して評価した。マウスにおいて、Hep-3B増殖性腫瘍近傍への単回皮下注射後に、腫瘍体積、アポトーシス率、及び薬物動態を評価することにより、DMFAT-PTXの有効性を評価した。
【0008】
インビトロでの2D及び3D試験の両方において、強力な抗増殖活性が認められた。DMFAT-PTX(10mg/kg)で処置したマウスでは、強力なHep-3B増殖阻害が生じており、腫瘍が33%完全に退縮していた。処置した動物全てにおいて、DMFAT-PTX注射部位にて腫瘍潰瘍が形成されたが、自然に治癒した。より低い薬物濃度(5mg/kg)において、Hep-3B増殖に対して統計的に有意な有効性を維持しつつ潰瘍の形成が予防された。組織学的に、腫瘍内ではアポトーシスがん細胞の数がより多いことが明らかとなり、このことから、脂肪組織からがん細胞への薬物拡散の薬物動態解析により確認されたPTXの長期にわたる存在が示唆された。
【0009】
従って、本発明の目的は、肝がん、好ましくは肝細胞癌の処置及び/又は予防での使用のための組織ベースの薬物送達システム又は組成物であって、
- 10~5000μm、好ましくは100~3000μm、より好ましくは200~2500μm、更により好ましくは30~1500μm、より好ましくは400~900μmの範囲のサイズを有する脂肪組織のクラスタを好ましくは含む微小断片化脂肪組織(MFAT);及び
- 少なくとも1種の抗がん剤
を含む組織ベースの薬物送達システム又は組成物である。
【0010】
上記の組織ベースの薬物送達システムにおける好ましい実施形態では、MFATは、失活した微小断片化脂肪組織(DMFAT)である。
【0011】
好ましくは、脂肪組織は、哺乳動物から単離されており、より好ましくは、ヒトから単離されており、前記ヒトは、生きているか、又は死体であり; 更に好ましくは、前記脂肪組織は、自家又は異種由来である。
【0012】
本発明の好ましい実施形態では、組織ベースの薬物送達システムは、抗がん剤として、タキサン、好ましくは、パクリタキセル又はドセタキセル、レンバテニブ、ゲムシタビン、マイトマイシンC、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ノコダゾール、エポチロン、ナベルビン、エピジポドフィロトキシン(epidipodophyllotoxin)、好ましくは、テニポシド、アクチノマイシン、アムサクリン、アントラサイクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カルボプラチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、サイトキサン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ヘキサメチルメラミンオキサリプラチン、イホスファミド、メルファラン、メルクロレタミン、マイトマイシン、ミトキサントロン、ニトロソウレア、プリカマイシン、プロカルバジン、トリエチレンチオホスホルアミド、エトポシド(VP16)、アドリアマイシン、アムサクリン、カンプトテシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、エニポシド、エピルビシン、イダルビシン、イリノテカン(CPT-11)及びミトキサントロン、ペメトレキセド、5-フルオロウラシル(5-FU)、メトトレキサート、シクロホスファミド、ボルテゾミブ、トモゾロミド、ソラフェニブ、又はこれらの任意の組み合わせから選択される薬剤を含む。
【0013】
好ましくは、抗がん剤は、
- ソラフェニブ及びパクリタキセルの組み合わせ;又は
- シクロホスファミド及びパクリタキセルの組み合わせ;又は
- アドリアマイシン及びパクリタキセルの組み合わせ
である。
【0014】
更により好ましくは、抗がん剤は、パクリタキセル又はその誘導体である。
【0015】
更に好ましくは、本発明の組織ベースの薬物送達システムにおいて、抗がん剤の量は、MFAT若しくはDMFAT 1ml当たり0.1~1mg又はMFAT若しくはDMFAT 1ml当たり0.001~1mgの範囲である。
【0016】
更に好ましい実施形態によれば、抗がん効果/活性を得るためのパクリタキセル又はその誘導体(好ましくはドセタキセル)の量は、MFAT若しくはDMFAT 100μlで150ng以上であり、及び/又はMFAT若しくはDMFAT 100μlで300ng以上である。それにもかかわらず、最大に装填され得る抗がん剤の量は、前記薬剤の親油・親水性と、MFAT又はDMFATサンプルでの溶解性とに依存する。好ましくは、抗がん剤を、相対飽和点までMFAT又はDMFAT検体に装填させ得る。
【0017】
好ましい実施形態では、本発明の組織ベースの薬物送達システムを、腫瘍組織部位へと局所的に注射し、治療上有効な量の抗がん剤をin situで放出させる。
【0018】
上記で示したように、本発明の組織ベースの薬物送達システムは、肝がん、好ましくは肝細胞癌の処置及び/又は予防で使用されるためのものであり、好ましくは、前記がんは、原発性肝がん又は転移性肝がんであり、好ましくは、原発性又は転移性の肝細胞癌である。
【0019】
本発明のさらなる目的は、さらなる治療的処置との組み合わせでの本発明の組織ベースの薬物送達システムである。
【0020】
本発明のさらなる目的は、前記請求項のいずれか一項に記載の組織ベースの薬物送達システムと、薬学的に許容されるビヒクル又は賦形剤とを含む医薬製剤であり、好ましくは、前記医薬製剤は、肝がん(好ましくは肝細胞癌)の処置及び/又は予防で使用されるためのものである。
【0021】
本発明の組織ベースの薬物送達システムは、以下に詳述する微小断片化脂肪組織に基づいている。
【0022】
本明細書で使用される場合、「組織ベースの薬物送達システム」という用語は、本明細書で開示されている微小断片化脂肪組織と、少なくとも1種の抗がん剤とを含む組成物を示す。好ましくは、この組成物はまた、生理食塩水も含む。
【0023】
従って、本発明に関連して、微小断片化脂肪組織(MFAT)は、肝細胞癌の処置において、大量の抗がん剤(例えば、パクリタキセル(PTX)若しくはソラフェニブ、又は任意の関連誘導体)をがん細胞に送達するための足場(送達システム)として使用される。
【0024】
本発明は、更に、肝がんの処置に関連して、失活したMFAT(即ちDMFAT)が抗がん分子の吸収及び実現において非常に効果的であることを実証している。前記DMFATを、凍結/融解工程に基づく公開された手順(6)に従って得ることができる。
【0025】
本発明の組織ベースのシステムは、分子及び/又は薬物を、それを必要とする個体(任意の動物)に投与することを可能にし、分子/薬物は、腫瘍部位に送達される。
【0026】
本発明の争点において、脂肪組織(fat tissue)は、脂肪組織(adipose tissue)を意味する。好ましくは、前記脂肪組織は、任意の動物から単離されており、より好ましくは、ヒトから単離されており、前記ヒトは、生きているか、又は死体である。
【0027】
好ましくは、前記脂肪組織は、身体の任意の部分、好ましくは、下腹部領域及び/又は側腹部領域に由来する/から単離される(精製される)。好ましくは、前記脂肪組織は、脂肪吸引(lipoaspiration)/脂肪吸引(liposuction)(吸引脂肪組織)手順により、身体から単離されている。従って、好ましい実施形態によれば、脂肪組織は、吸引脂肪組織(LASP)又はその誘導体である。本発明に関連して、脂肪吸引(lipoaspiration)又は脂肪吸引(liposuction)又は単に脂肪吸引(lipo)は、一般的にカニューレを使用することによる、陰圧条件下での脂肪組織(脂肪)の除去を意味する。
【0028】
既に上述したように、脂肪組織(好ましくは、吸引脂肪組織)は、微小断片化されている(微小断片化脂肪組織の例として、実施例及び図面中のLPG)。好ましくは、脂肪組織は、非酵素的手順により微小断片化されており、従って、本発明の脂肪は、より好ましくは、非酵素的な微小断片化脂肪である。換言すると、送達システムとして本発明において使用される/投与される脂肪は、いかなる酵素的処理も行なうことなく微小断片化されている。
【0029】
本発明によれば、微小断片化脂肪組織は、Lipogems装置によっても実施される、国際公開第2018/193413号パンフレットで開示されている革新的なプロセスを使用することにより得られ、より好ましくは、国際公開第2011/145075号パンフレットで完全に開示されている手順に従って得られる。
【0030】
脂肪組織(好ましくは、吸引脂肪組織)は、Lipogems(登録商標)装置に導入され、この装置では、脂肪組織は、好ましくは、穏やかな機械力により、より好ましくは、溶液(好ましくは生理食塩水)の存在下で、脂肪組織の小さいクラスタに徐々に縮小される(断片化される)。
【0031】
好ましい実施形態によれば、本発明の微小断片化脂肪は、好ましくは10~5000μm、より好ましくは100~3000μm、更により好ましくは200~2500μm、より好ましくは300~1500μm、より好ましくは200~900μm、より好ましくは200~800μm、より好ましくは400~900μmの範囲のサイズを有する脂肪組織のクラスタを含む。
【0032】
更に好ましい実施形態によれば、脂肪、好ましくは、微小断片化脂肪、又は微小断片化脂肪のクラスタは、間葉系幹細胞(MSC)、及び/又は脂肪由来幹細胞(ASC)、及び/又は脂肪幹細胞、及び/又は周皮細胞、及び/又は脂肪細胞、及び/又は内皮細胞を含む。これに関して、特に有利なのは、微小断片化脂肪クラスタであり、なぜならば、このクラスタは、常在細胞の自然な/無傷の間質血管ニッチを維持しており、その結果、栄養学的及び/又はシグナル伝達の点で、自然な/生理学的な状況に類似した間質により支持されているからである。従って、間質は、細胞の移植中に、機械的、酸素等のあらゆる物理的及び/又は化学的損傷から保護された環境を提供する。装置内部での脂肪の断片化は、好ましくは、1つ又は複数の断片化/脱凝集/乳化手段を使用して制御される。好ましい実施形態によれば、前記手段は、金属手段であり、より好ましくは、金属ビーズ及び/又はフィルタ/ネットであり、このフィルタ/ネットは、好ましくは、組織サンプルの微小断片化を提供し、ビーズは、組織サンプルの固体部分と液体部分との間の分離を促進するために装置内で自由に移動し、(本質的には)洗浄液を含む液体部分のエマルションを提供する。好ましくは、ビーズは、好ましくは0.1~30ミリメートル、より好ましくは1~20mm、更により好ましくは5~10mm、更により好ましくは7.5~8.5mmの範囲のサイズ(平均直径)を有しており、及び/又は前記フィルタ/ネットは、2000μm~200μm、好ましくは1500μm~500μmの範囲の平均直径を有する。
【0033】
フィルタ/ネットのメッシュ平均直径(孔径)は、50μm~6000μm、好ましくは500μm~3000μmの範囲である。
【0034】
脂肪組織全体にわたって断片化/脱凝集/乳化手段の穏やかな動きを実施することが望ましく、より好ましくは、装置の制御された振盪を実施することにより、この動きを実施することが望ましい。
【0035】
好ましい実施形態によれば、断片化/脱凝集/乳化を、好ましくは装置を通る生理食塩水緩衝液の連続流により、浸漬中で実施し、その結果、組織サンプルの容易な洗浄(特に、効果的な油及び/又は血液残留物の除去)が可能になる。より好ましくは、断片化/脱凝集/乳化を、生理食塩水緩衝液の連続流を通して組織サンプルを洗浄することにより実施し、生理食塩水緩衝液の連続流はビーズの振盪と共に、固体材料が生理食塩水緩衝液の入口に向かって上昇することを可能にし、油及び/又は血液残留物を残して、生理食塩水と共に出口に向かって流れる。
【0036】
断片化/脱凝集/乳化手順は、好ましくは数秒間継続する。
【0037】
従って、本発明の微小断片化脂肪は、穏やかな、酵素フリーの、無菌、手術中での、且つ迅速な操作を使用することにより得られる。
【0038】
本発明の脂肪組織は、好ましくは任意の動物から単離されており、より好ましくはヒトから単離されている。好ましくは、前記動物/ヒトは、健康体であるか、又は死体である。好ましい実施形態によれば、脂肪は、動物脂肪組織であり、より好ましくは、ヒト脂肪組織であり、より好ましくは、個体の下腹部領域及び/又は側腹部領域から単離されている/吸引脂肪組織である。しかしながら、前記脂肪は、任意の有用な身体領域から単離され得る。好ましくは、微小断片化脂肪は、自家又は異種由来である。
【0039】
本発明の争点において、送達される分子は、肝がん又は肝細胞癌の処置で使用される任意の薬物及び/若しくはプロドラッグ、又は治療物質を意味する。好ましくは、前記分子は、親油性(低い水溶性、又は水不溶性)である。
【0040】
しかしながら、本発明の組織ベースのシステムはまた、親水性分子/薬物を送達するのにも適している。本発明の目的のために、送達される好ましい分子は、抗がん分子(化学療法剤)であり、好ましくは、天然産物、好ましくはビンカアルカロイドから選択され、より好ましくはビンブラスチン、ビンクリスチン、及びビノレルビン、タキサン、好ましくは、パクリタキセル又はドセタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ノコダゾール、エポチロン及びナベルビン、エピジポドフィロトキシン(テニポシド)、アクチノマイシン、アムサクリン、アントラサイクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カルボプラチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、サイトキサン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ヘキサメチルメラミンオキサリプラチン、イホスファミド、メルファラン、メルクロレタミン、マイトマイシン、ミトキサントロン、ニトロソウレア、プリカマイシン、プロカルバジン、テニポシド、トリエチレンチオホスホルアミド及びエトポシド(VP16)、アドリアマイシン、アムサクリン、カンプトテシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、エニポシド、エピルビシン、エトポシド、イダルビシン、イリノテカン(CPT-11)及びミトキサントロン、ペメトレキセド、5-FU、ラフェニブ、メトトレキサート、シクロホスファミド、ボルテゾミブ、トモゾロミド、ソラフェニブから選択される。上記で報告した分子の任意の組み合わせは、本開示の一部を形成するとみなされるべきである。
【0041】
より好ましくは、この分子は、パクリタキセル(PTX-タキソール若しくはオンキサル)又はその誘導体から選択され、好ましくは、アブラキサン及び/若しくはドセタキセル、ドキソルビシン、又はこれらの誘導体、好ましくは、アドリアマイシン及び/又はビンクリスチン、並びにこれらの任意の組み合わせから選択される。
【0042】
更に好ましくは、この分子は、ソラフェニブである。
【0043】
抗がん分子を、好ましくは、抗生物質、抗炎症物質、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体、免疫調節分子、生物学的薬物、及びこれらの組み合わせから選択されるさらなる分子との組み合わせでも送達し得る。
【0044】
分子及び/又は薬物/プロドラッグを、ペグ化等の任意の方法で改変し得るか、又は粒子(好ましくは、アルブミンナノ粒子等のナノ粒子)と会合させ得る。
【0045】
上記で開示されている分子及び/又は薬物が装填されている/予備刺激されている本発明の組織ベースの送達システムは、肝がんの標的処置、好ましくは、肝細胞癌の処置に使用される。治療薬を腫瘍部位に選択的に送達し得る標的薬物送達システムは、実際の臨床用途、特に肝細胞癌には利用できない。
【0046】
好ましい実施形態によれば、本発明の送達システムに装填され得る/予備刺激され得る前記分子/薬物の量は、0.5~10mg/脂肪組織1mlの範囲である。
【0047】
更に好ましい実施形態によれば、抗がん効果/活性を得るためのパクリタキセル(PTX)又はその誘導体、好ましくは、アブラキサン、ドセタキセルの量は、微小断片化脂肪組織/吸引脂肪組織(LPG)100ul当たり150ng以上である。
【0048】
それにもかかわらず、最大として装填され得る量は、薬物の親油・親水性に依存する。
【0049】
本発明の送達システムにより1日当たり放出される分子/薬物の量は、微小断片化脂肪組織/吸引脂肪組織(LPG)を充填するために使用される量である装填/予備刺激量と比較して10~15%の範囲である。
【0050】
本発明の好ましい実施形態によれば、組織ベースの送達システムは、局所、非経口、腹膜、粘膜、真皮、表皮、皮下、又は経皮投与用である。
【0051】
本発明の組織ベースの送達システムが対象に投与される場合には、投与量及び投与頻度は、通常、個々の患者の年齢、体重、性別、及び反応、並びに腫瘍塊の体積、及び患者の症状の重症度に従って、処方医師により決定される。好ましくは、活性薬物の濃度が100~1000μg/mlのMFAT又はDMFATで含まれる本発明の組織ベースの送達システムは、5~30ml、好ましくは7~20mlに含まれる量で患者に投与される。
【0052】
更に好ましい実施形態によれば、本発明の組織ベースの送達システムは、最終的には、上記で開示されている分子/薬剤が装填されており、放射線療法及び/又は手術の組み合わせ(前後)で投与される/適用される。好ましくは、本発明の組織ベースの送達システムは、最終的には、上記で開示されている分子/薬剤が装填されており、例えば、切除すべき腫瘍領域を縮小させ、従って、手術の外傷を軽減するために、手術前に関心のある領域に適用される。本発明の組織ベースの送達システムは、最終的には、上記で開示されている分子/薬剤が装填されており、好ましくは、手術前及び/又は後の投与/適用であり、好ましくは、好ましくはがん再発の予防のための、より好ましくは転移性腫瘍のための、局所、腹腔内、皮下投与/適用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】様々なPTX濃度が装填されたMFAT及びDMFAT検体は、インビトロでヒトHep-3Bがん細胞に対して用量依存的な抗がん活性を示した図である。この図では、馴化培地(CM)(A及びB)又はトランスウェルインサートによる脂肪検体との共培養(C及びD)のいずれかの存在下でのHep-3B細胞増殖活性(コントロールの%として表される)が報告されている。
図1Aは、様々な量のPTX(4~0.05μg/ml)が装填されたMFAT及びDMFATからのCM(24時間培養)の抗増殖活性を報告する。
図1Bは、2μg/mlのPTXが装填されたか又は装填されておらず、且つ様々な希釈で試験されたDMFAT及びMFATのCMを示す。実験を、遊離PTX添加と並行して実行して、PTX当量濃度(p-EC)を確立した。
図1Cは、様々な量のPTX(4~0.05μg/ml)が装填されたMFAT及びDMFAT検体(50μl)のトランスウェル共培養の結果を報告しており、
図1Dは、遊離PTX添加と並行して実行した、2μg/mlのPTXが装填された様々な用量のMFAT及びDMFAT検体の抗増殖活性を報告する。留意すべきことに、0.1μg/mlのPTXで予備刺激されたDMFATから回収されたCM及び検体は、MFATと比べてより効果的であった。図の列は、3回行なった2つの別個の実験の平均±SDである。t-検定: コントロール MFAT及びDMFAT由来のCM及び検体に対して、それぞれ*はp<0.05;**はp<0.01を示す。
【
図2】Hep-3B細胞とコントロール及びPTXが装填されたDMFATと混合した3D構築物の組織学的分析を示す図である。ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色により、典型的な脂肪組織構造を有するDMFATが示される(A~C)。DMFATは、コントロール(A)、及びPTX 0.5mg/mlが装填された群(B)では、より緩く且つより脱集合しているように見えたが、PTX 1mg/mlが装填された場合には、よりコンパクトなままであった(C)。Hep-3B細胞は、マトリックス足場として機能するDMFAT上にクラスタで均一に分布しており、より高倍率でよりよく見えた(D~F)。Hoechst 33342染色で検出されたHep-3B細胞に対するPTXが装填されたDMFATのアポトーシス効果を、G~Iに示す((G)コントロール群、(H)0.5mg/ml、及び(I)PTX 1mg/ml処理群)。クロマチン凝縮、核断片化、及びアポトーシス小体を、矢印で示す。細胞アポトーシスの定量を、アネキシンV発現により評価し、様々なPTX濃度が装填されるか(J)又は様々な量のHep-3Bの存在下で(K)DMFATと共にインキュベートされた構築物で回収された総細胞に対する陽性細胞の%として表す。スケールバー=400μm(A~C)、200μm(D~F)。G~Iのスケールバー 200mm。図の列は、3回行なった2つの別個の実験の平均±SDである。t-検定:**は、コントロール DMFATに対するp<0.01を示す。
【
図3】DMFAT-PTXの単回局所注射により、インビボでHep-3b増殖が阻害されたことを示す図である。約5×10
6個のHep-3Bを、ヌードマウスにsc注射した。10~12日後、腫瘍が触知可能であった場合に(直径0.5~0.7cm、体重約100~200mg)、マウスの腫瘍部位に、生理食塩水200μl (A)、PTX 200μg/200μl(10mg/kg)(B)、コントロールDMFAT 200μl(C)、DMFAT-PTX 200ul/200ug(D)、及びDMFAT-PTX 200ul/100ug(E)をそれぞれ注射した。腫瘍体積を、式1/6πd
3を使用してキャリバで2日毎に腫瘍直径を測定することにより算出した。グラフでは、それぞれ個々の動物の腫瘍の増殖を示されている。(F)では、コントロール群及び処置群の平均腫瘍増殖が示されている。高用量(200μg/200μl)でのDMFAT-PTXの単回注射により、腫瘍増殖が大幅に遅延したことに留意されたく;60日目には、33%のマウスに腫瘍がなくなった(D)。DMFAT中のPTX濃度を100μg/200μlまで低下させても、依然として有意な腫瘍増殖阻害が生じた(F)。屠殺時に、腫瘍を秤量し;**生理食塩水コントロール又はDMFAT及び遊離PTX処置マウスに対してp<0.01。
【
図4】HCCの典型的なバイオマーカーの免疫組織化学的染色を示す図である。DMFAT-コントロール及びPTXサンプルは、コントロール群と同様に、抗Epato、アルギナーゼ、及びck-panマーカーに対して顕著な拡散陽性反応性を示した。DMFAT-PTXでは、使用した両方の投与量(図に示される画像は、100μg/200μl投与量を指す)で、抗Epato及びアルギナーゼの陽性が低下し、且つCK-Pan発現が増加することが分かった。写真を、倍率10倍で撮影した。
【
図5】DMFAT-PTX処置は、Hep-3B腫瘍における増殖マーカー発現MIB-1/Ki67を阻害したことを示す図である。増殖マーカーKi67の核染色を、コントロール群(A)、DMFAT(B)、PTX 10mg/kg(C)、DMFAT-PTX 10mg/Kg(D)、及びDMFAT-PTX 5mg/kg(E)で処置したマウスで示す。コントロール群及びDMFAT群では、より高い割合のKi67発現陽性を観察した。DMFAT-PTX処置群では、この割合は、特にDMFAT-PTX 10mg/Kgで、大幅に減少した。遊離PTX処置群でも、いくつかの有意な阻害を観察した。
図5Fは、各群の陽性Ki67細胞の定量を報告する。数字は、計数された陽性細胞を表しており、且つ10個の異なる視野(倍率20倍)の平均±SDを表す。t検定:*は、コントロールに対するp<0.05;**は、コントロールに対するp<0.01を示す。
【
図6】正常なマウス及び腫瘍担持マウスにおいてDMFAT-PTXにより放出されるPTXのPKを示す図である。
図6A及びBは、正常なマウス及び腫瘍担持マウスにsc投与されたDMFAT-PTX(5mg/kg)により放出されたPTXの血中濃度を示しており、それぞれ、注射後2、24、72、及び168時間で検出した。予想されるように、sc処置後のPTXの血漿中濃度は急速に低下したが、正常なマウスでは7日目まで検出可能であり(A)、腫瘍担持マウスでは、PTXは24時間までしか検出されず、このことから、血流からの薬物のより迅速な除去が示唆される(B)。
図6Cは、正常なマウスでのsc注射部位における薬物値の残留量を示す。注目すべきことに、2時間で、in situで見つかったPTXの残留量は、注射したものの約40%であったが、168時間後も、残留DMFAT検体中には相当量の薬物が依然として検出され(最大1μg/g)、このことは、薬理学的に重要であると考えなければならない。(D)では、残留DMFAT及び腫瘍検体の両方でのPTX濃度が示されている。2時間後、in situのPTXは、注射された量のわずか17%であったが、腫瘍内では検出不能であった。腫瘍中でのPTXの検出は、24時間で始まり、48時間で、隣接するDMFATと等しい濃度に達し、168時間まで同様の濃度を維持した。しかしながら、この時点で、残留DMFAT及び腫瘍検体中に存在する薬物(DMFATでは0.2μg/g、腫瘍では0.3μg/g)は、正常なマウスで回収された薬物と比べて低かったが、PTXのIC
50と比べて依然としてより高かった。(E)では、DMFAT検体及び腫瘍検体の両方で検出されたPTXの動態が示されている。(F)では、DMFAT移植時の様々な時点でのPTX濃度の値(μg/g組織として表される)の概要を示す。図中の数字は、平均±(最大1μg/g)SDである。
【
図7】PTXが培養中のHep-3B細胞への抗増殖活性を示したことを示す図である。(A)では、0.1~1000ng/mlの様々な濃度のPTXを、培養したHep-3B細胞に添加した。72時間のインキュベーション後に、細胞を剥離して計数した。PTXは、15±3ng/mlのIC50及び25±8ng/mlのIC90を示した。(B)では、最大25ng/mlの濃度で強力な増殖阻害を示すPTXの存在下で培養したHep-3Bの写真(倍率10倍)が報告されている。図の列は、コントロール培地に対する増殖の%であり、且つ3回実施した3回の別々の実験の平均値±SDである。t検定:*及び**は、それぞれ、p<0.05及びp<0.01を示す。
【
図8】Hep-3B増殖へのDMFAT-PTX-CMの効果を示す図である。コントロールDMFAT(A)、DMFAT-PTX(0.25μ/ml)(B)、DMFAT-PTX(0.5μg/ml)(C)、DMFAT-PTX(1μg/ml)(D)それぞれからのCM(1:2希釈)での処置の72時間時での0.25%クリスタルバイオレットで染色されたHep-3Bがん細胞培養物の代表的な画像。写真(倍率10倍)は、DMFAT-PTXからのCMの強力な抗がん活性を示す。
【
図9】トランスウェルインサートの上部ウェル中に配置されたDMFAT-PTX検体(50μl)の効果を示す図である。トランスウェルインサートの下部ウェル中に播種され、72時間のインキュベーション後に0.25%クリスタルバイオレット溶液で染色されたHep-3Bが示されている。写真(倍率10倍)は、コントロールDMFAT(A)、DMFAT-PTX(0.25μ/ml)(B)、DMFAT-PTX(0.5μg/ml)(C)、及びDMFAT-PTX(1μg/ml)(D)検体それぞれのHep-3Bへの効果を示す。高倍率ボックス(40倍)では、アポトーシスの特徴を有する細胞の存在がブロック矢印で示されている。
【
図10】マウスでのHep-3B誘発性HCCの免疫組織化学キャラクタリゼーションを示す図である。H&E染色により、多形性細胞(A)、中心空胞核、及びいくつかの多形性及び多核巨細胞を含む顕著な核小体を含む血管新生腫瘍が明らかになり、より高倍率でより容易に視認可能である(B及びC)。免疫組織化学的染色により、腫瘍の起源が肝臓であることが確認された(倍率10倍)。細胞は、抗Epatoに対しては明確な顆粒状の細胞質染色を示し(D)、アルギナーゼ-1に対しては中程度から強度の拡散反応性を示した(E)。Pan-CKマーカーは、Hep-3B細胞の大部分に存在しており、膜の強調を伴う明確な細胞質染色反応を示した(F)。
【
図11】右脇腹にHep-3B細胞を注射し、PTXが装填されているか又は装填されていないDMFATで処置したマウスの代表的な写真である。(A)では、Hep-3B注射後10日目のコントール腫瘍結節を示し、(B)では、32日目(屠殺直前)に大きな腫瘍(直径>2cm)を有する生理食塩水で処置したコントロールマウスを示す。パネル(C)は、遊離PTXを局所注射した12日目での腫瘍を示す。(D)及び(E)は、腫瘍結節のすぐ隣に位置するDMFAT(200μl)による2匹の異なるマウスを示しており、(F)では、31日目にDMFAT-PTX(5mg/kg)で処置された腫瘍の症例を示す。腫瘍の寸法が比較的小さく、皮膚潰瘍が存在しないことに留意されたい。
【
図12】DMFAT-PTX(200μg/200ul)の局所注射により、Hep-3Bの退縮が誘発されたが、皮膚病変も誘発され、これは自然に治癒した。様々な時間間隔:処置後それぞれ5日(A)、9日(B)、13日(C)、17日(D)、21日(E)、及び25日(F)で撮影された、右脇腹にHep-3B細胞を注射し、次いでDMFAT-PTX(10mg/kg)で局所処置したマウスの写真。注目すべきことに、全ての病変は、任意の特定の薬理学的処置を必要とすることなく約2~3週間で自然に治癒した。ブロック矢印は、腫瘍及びDMFAT-PTX注射の領域を示す。
【
図13】治癒した場合での、HCC腫瘍に罹患したマウス(90日)の皮膚組織学。皮膚切片のH&E染色により、DMFAT-PTX 200で処置された検体の創傷治癒後のマウスの皮膚に観察可能な損傷が見られないことが分かった。角質層を含む表皮層(A)、腺及び血管を収容する真皮(B)、脂肪細胞及び骨格筋を含む皮下組織が目に見える(C)。(D)では、倍率4倍でリンパ球による間質領域浸潤を示す画像が表されており;より高い倍率(10倍(E)及び20倍(F))では、異物細胞(矢印)及び反応性リンパ球細胞(黒い矢印)が容易に認められる。
【
図14】DMFATで処理されたHep-3b細胞により誘発されたHCC腫瘍の組織病理学的分析。(A)では、HCC中の好酸球性細胞質及び濃縮核又は核破壊性核を有する細胞の病巣を特徴とする壊死領域が報告されている。DMFATで処理された腫瘍塊は、脂質滴が広範囲に分布していることから強い脂肪変性を特徴としていた(B)。より高い倍率では、炎症細胞、主に脂肪空胞周囲の好中球の浸潤を伴う脂肪壊死領域を検出し得た(C、D)。
【発明を実施するための形態】
【0054】
材料及び方法
サンプル採取、倫理声明、MFAT及びDMFAT調製
吸引脂肪組織(LP)のサンプルを、Lipogems(登録商標)キット付属の使い捨てカニューレを使用することにより、既に他の箇所で説明されているような皮下組織の脂肪吸引により得た(7, 8)。組織サンプルを、ヘルシンキ宣言(Declaration of Helsinki)に従って、患者による署名されたインフォームドコンセントの後に、形成外科手術より採取した。これらの使用の承認を、Institutional Ethical Committee of Milan University (n.59/15, C.E. UNIMI, 09.1115)から得た。この試験で実施した全てのインビトロ及びインビボでの実験に関して、形成手術を受けた5例の異なるヒトドナーから脂肪組織を得た。MFAT検体を、既に説明されているように得た(7, 9)。簡潔に説明すると、標準的な225ml Lipogems(登録商標)装置(Lipogems(登録商標)International社, Milan, Italyから提供される)を使用して、シリンジで採取したLPを、フィルタに通してLipogems(登録商標)装置に押し込んで最初のクラスタの縮小を行い、内部に5つのステンレス鋼ビー玉が入っている装置を振盪することにより、完全な脱凝集を得た。その後、微小断片化された脂肪組織を、装置に接続したシリンジで吸引し、実験の準備を整えた。失活MFAT(DMFAT)を、3回の凍結(-20℃)及び解凍(F/T)サイクルからなる既に公開された手順(6, 10)に従って調製した。簡潔に説明すると、MFATのアリコート(5ml)をコニカルチューブに移し、200g×10分で遠心分離することによりPBSで3回洗浄した。PBS洗浄溶液を廃棄した後、MFATに、間質血管画分(SVF)中の全細胞の死滅につながる凍結(-20℃)及び解凍(F/T)サイクル(通常はそれぞれ30分を3回)を行なった。DMFATのアリコート(1~2ml)を、実験に使用するまで-80℃で保存し、他を、最終細胞ペレットをトリパンブルーアッセイにより処理した後、コラゲナーゼ(SIGMA社 St. Louis, Mo, USA)によるSVF抽出によって細胞活力の欠如を確認するために分析した(0.2w/v%)。インビトロ及びインビボでの実験に使用する前のDMFAT検体を、全細胞破片並びに膜タンパク質及び遺伝物質内容物の残留存在を可能な限り除去するために、遠心分離によりPBSで数回洗浄し、次いで、既に説明されているように調べた(10)ことに留意されたい。
【0055】
化学物質及び試薬
メタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、及びギ酸(全て分析グレード)は、Merck社(Darmstadt, Germany)から供給された。ギ酸アンモニウムを、Sigma Aldrich社(St. Louis, MO, USA)から購入した。水は、MilliQグレードであった。パクリタキセル(PTX)及びPTX-D5を、Cabru社(Arcore, Italy)から購入した。脂肪サンプルを処理するために、PTXの臨床製剤(6mg/mlのストック溶液、Fresenius Kabi社, Italy)を使用した。
【0056】
腫瘍細胞株
MFAT及びDMFATに装填されたPTXのインビトロ及びインビボでの抗がん活性を、HCC細胞株であるHep-3Bで評価した。この細胞株は、Dr. Valentina Fonsato(Molecular Biotechnology Center (MBC), University of Turin, Turin Italy)の好意により提供されたものであり、ATCC社から購入した(ATCC(登録商標) HB-8064(商標))。Hep-3Bを、ATCCの指示に従って維持した。簡単に説明すると、細胞を、10%ウシ胎仔血清FCS(Gibco, Life Technologies社, Monza, Italy)が補充されたイーグル最小必須培地(MEM)(Euroclone社, UK)で培養し、1:5の比で毎週継代させた。
【0057】
インビトロ実験のためのMFAT及びDMFAT検体のPTX予備刺激の手順
MFAT及びDMFAT検体を、公開された手順(6)に従ってPTXで予備刺激した。簡潔に説明すると、遠心分離(200g×10分)によるリン酸緩衝生理食塩水(PBS)洗浄後、約1mlのMFAT及びDMFAT検体を、様々な濃度のPTX(0.05~4μg/mlの範囲)と混合し、6mg/mlのストック溶液から新たに調製し、MEM+0.2%ウシ血清アルブミン(BSA)で希釈した。次いで、サンプルを振盪し、約30分にわたりインキュベートした(37℃で、5%CO2)。インキュベーションの終了時に、MFAT-PTX及びDMFAT-PTX検体をPBSで2回洗浄して(200g×10分)、結合していないPTXを除去した。コントロールの未処理MFAT及びDMFAT検体も、同様に処理した。この時点で、予備刺激したMFAT及びDMFAT検体、並びに予備刺激していないMFAT及びDMFAT検体が両方とも、インビトロで生物学的活性を研究する準備が整ったと考えられた。
【0058】
2DアッセイにおけるHep-3B増殖に対するPTXが装填されたMFAT及びDMFATの活性の評価
MFAT-PTX及びDMFAT-PTX調製物を、Hep-3B細胞との共培養アッセイでトランスウェルインサートを使用するか、又は同様の量のMEM完全培地で培養したMFAT-PTX及びDMFAT-PTX検体(0.05~4ug/mlの様々なPTX濃度の装填)約1mlを24時間(37℃、5% CO2)インキュベートすることにより得られた馴化培地(CM)の抗増殖活性を評価することにより、抗がん活性に関して評価した。
【0059】
MFAT-PTX又はDMFAT-PTX検体の直接的な抗がん活性を、トランスウェルインサート(孔径0.4μm;BD Falcon社, NJ, USA)を使用して試験した。簡潔に説明すると、約2×104個のHep-3B細胞を、ウェル(24マルチウェルプレート)に播種し、次いで700μl/ウェルの完全MEM培地で覆い、3時間接着させた。次に、様々な量(50、25、及び12.5μl)のMFAT-PTX、DMFAT-PTX、又はコントロールの未処理検体を、トランスウェルインサートの上部コンパートメントに置き、200μlの培地で覆い、次いで、がん細胞と共にウェルに入れた。72時間のインキュベーション後、ウェル内のHep-3Bを剥離して計数するか、又はより限定された一連の実験では、付着したHep-3B細胞を0.25%クリスタルバイオレット(Sigma Aldrich社, USA)で染色して、細胞溶解により得られた溶出色素の光学密度を評価することにより(6)、腫瘍細胞増殖に対する脂肪検体の直接効果を評価した。
【0060】
MFAT-PTX又はDMFAT-PTX検体の両方に由来するCMの抗がん活性を、既に説明されている72時間増殖アッセイで評価した(6, 11)。簡潔に説明すると、約2×104個のHep-3B細胞を、ウェル(24マルチウェルプレート)に播種し、次いで500μl/ウェルの完全MEM培地で覆い、3時間接着させた。次いで、培養MFAT-PTX、DMFAT-PTX、及びコントロールの未処理検体に由来するCM(様々な希釈(1:2~1:10))をウェルに添加し、72時間にわたり更にインキュベートした。インキュベーションの終了時に、がん細胞をトリプシンで剥離し、既に説明されているように計数した(11)。MFAT-PTX及びDMFAT-PTX由来のCMの抗腫瘍活性を、純粋なPTXの抗腫瘍活性と比較し、下記のアルゴリズムに従ってPTX当量濃度(p-EC)として表した:p-EC(ng/ml)=IC50 PTX×100/V50(μl/ウェル)(式中、IC50 PTXは、50%増殖阻害を生じる純粋なPTXの濃度であり、V50は、同じ阻害を生じるCMのそれぞれの量である)。
【0061】
MFAT-PTX及びDMFAT-PTX由来のCMの抗腫瘍活性を、純粋なPTXの抗腫瘍活性と比較し、下記のアルゴリズムに従ってPTX当量濃度(p-EC)として表した:p-EC(ng/ml)=IC50 PTX×100/V50(μl/ウェル)(式中、IC50 PTXは、50%増殖阻害を生じる純粋なPTXの濃度であり、V50は、同じ阻害を生じるCMのそれぞれの量である)。
【0062】
3D構築物におけるDMFAT-Hep3B細胞の組織学的分析
Hep-3Bに対するMFAT-PTX又はDMFAT-PTX検体の有効性も、3Dアッセイで調べた。簡潔に説明すると、コントロール、又はPTXが装填されたMFAT検体(1mg/mlで0.5) 50μlを、Matrigel(BD Biosciences社, Franklin Lakes, NJ, USA) 100μlと4℃で混合し、Hep-3B(3及び5×106個)細胞を添加し、37℃で1時間にわたり放置してゼリーにした。次いで、完全に増殖したMEMをゲルに添加し、72時間にわたり更にインキュベートした。最後に、培地を除去し、ゲルを、サイトインクルージョン技術による免疫細胞化学分析により処理した(12)。サンプルを、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、30%(質量/体積)スクロース溶液に浸漬して4℃で一晩凍結保護した後、Tissue-Tek O.C.T. Compound(Tissue-Tek; Sakura Finetek社, Tor-rance, CA, www.sakuraus.com.)に包埋して凍結させた。-20℃での低温槽にて切片を5μm厚に切断し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E (Sigma-Aldrich社, St. Louis, MO, USA)又はHoechst 33342(Thermo Fisher Scientific社)で染色して、アポトーシス細胞を検出した。サンプルを、従来の光学顕微鏡又は蛍光顕微鏡を使用して視覚化した。他の一連の実験では、アネキシンV染色(Thermo Fisher Scientific社)を使用してアポトーシスを調べた。簡潔に説明すると、72時間のインキュベーション後、コラゲナーゼ(Sigma社)による消化により、3D構築物からHep-3B細胞を抽出した。遠心分離による細胞の洗浄後、蛍光アネキシンVコンジュゲートを、既に記載されているフローサイトメトリー(FC)で使用した(6)。
【0063】
インビボでのHep-3B腫瘍検体の組織構造
全ての腫瘍検体を、ホルマリン10%で包埋し、パラフィンに含有させ;切片のヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色を実施した。従来のH&E染色の評価後、次いで各サンプルから10個の白色切片が得られ、免疫組織化学(IHC)染色用に処理した。IHCを、Leica Bond Max(商標)技術(アルギナーゼ、CK-PAN、CK7、及びANTI-EPATO)、並びにVentana Bench Mark Ultra (Ki-67):ANTI-HEPATO:抗原賦活化30' EDTA,(dil.1:300クローンOCH1ES Dako-Agilent); ARGINASI:抗原賦活化30' EDTA,(dil. 1:100クローンSP156 Cell Marque Diapath)KI-67:T.Q.クローン30-9 Roche-Ventana);CK-PAN:抗原賦活化5' Enzyma,(dil.1:200クローンMNF116 Dako Agilent); CK-7:抗原賦活化15' EDTA,dil.1:100クローンOV-TL 12/20 Dako Agilentにより自動的に実行した。染色された全て切片を、OLYMPUS DP21カメラを備えたNIKON ECLIPSE E 600顕微鏡で評価した。
【0064】
DMFAT-PTXのインビボ抗腫瘍活性の評価
5週齢の胸腺欠損ヌードFoxn1nuマウスを、Envigo社(Envigo, Bresso, Italy)から購入し、病原体フリー条件下で飼育した。実験は、IZSLERのライセンス及び倫理委員会(Istituto Zooprofilattico Sperimentale della Lombardia e dell'Emilia Romagna, Brescia, Italy)並びにイタリア保健省(Italian Ministry of Health)により審査されて承認された。マウスで使用するまで凍結生体材料を保存し得るという利点のために、この実験では、DMFAT検体のみを使用したことに留意されたい。
【0065】
予備実験では、3匹のマウスの右側腹部に、MTG 100ul中の5×106個のHep-3B細胞を皮下(s.c.)注射した。マウスを毎日観察して腫瘍出現日を明確にし、小結節の直径が1cmであった場合にマウスを屠殺し、腫瘍を取り出し、組織学的検査により調べてHCCの特徴を確認した。マウスで使用するまで凍結生体材料を保存し得るという利点のために、この実験では、DMFAT検体のみを使用したことに留意されたい。第1の一連の実験では、マウス(n=6/群)の右側腹部に、5×106個のHep-3B細胞を注射した(0日目)。腫瘍を、式1/6πd3を使用して算出された65~179mm3(質量中央値120mg)の範囲の腫瘍体積に相当する平均0.5/0.7cmの直径まで増殖させた(13)。10~14日後、マウスを、無作為に4つの群に分け、それぞれ、腫瘍結節のすぐ隣で、生理食塩水 200μl(コントロール群CTRL)、DMFAT(200μl)、DMFAT-PTX 10mg/kg(200μg/200μl)、及び遊離PTX薬物(200μg/200μl生理食塩水)の単回注射により処置した。解凍直後のDMFAT検体へのPTXの装填を、上述した注射の20~30分前に実施し、PTX 1mg(6mg/mlのストックPTX溶液 約166μl)をDMFAT 1mlに添加して撹拌した。処置後、マウスを毎日観察し;2日毎の腫瘍直径を、キャリバで測定した。倫理的プロトコルに従って、腫瘍結節が直径2.0~2.5cm(体重2g以上)に達した場合に、又は直径にかかわらず移植後60日目に、全てのマウスを屠殺した。この時点で、腫瘍がないマウスのみを、90日間追跡した。動物を、二酸化炭素吸入、その後の頸椎脱臼により、安楽死させた。
【0066】
第2の一連の実験では、マウス(n=6/群)に、5×106個のHep-3Bを同様にs.c.注射し、5mg/kgに相当する半分の用量のPTX、DMFAT-PTX(100μg PTX/200μl)で局所的に処置した。
【0067】
DMFAT-PTXにより放出されて腫瘍結節に取り込まれたPTXの薬物動態(PK)
DMFAT-PTXが近くに位置する場合でのがん細胞におけるPTXのPKを、別の一連の試験で研究した。この目的のために、マウス(n=3群)にHep-3Bを皮下(sc)注射し、腫瘍塊が触知可能であった場合に、マウスの腫瘍の側方に、PTX 100μg(用量5mg/kg)を装填したDMFAT 200μlを投与した。次いで、処置の2時間、1、2、3、及び7日後にマウスを屠殺し、血液、腫瘍結節、及び残留する皮下DMFAT-PTX組織を回収し、チューブに入れ、質量分析によるPTX含有量の評価のために使用するまで急速に保存した(-80℃)。腫瘍がないマウスの別の群に、癌小結節の非存在下でのPTXの放出を調べるために、DMFAT-PTXの同じsc注射(同じ用量5mg/kg PTX)を行なった。
【0068】
全血(100μl)、腫瘍、及び脂肪組織のホモジネート(1~5mg)からなる生体サンプルに、IS(パクリタキセルD5、PTX-D5 10μg/ml) 25μlを添加し、メタノール/イソプロパノール(60:40、v/v)による単一工程液体抽出により抽出した。乾燥抽出物を、アセトニトリル/水(1:1、v/v) 150μlに再溶解させ、45μmフィルタで清澄し、5μl注入してLC-MS/MS分析した。全てのサンプルを2回抽出した。LC-MS/MSは、Turbo Spray IonDriveを備えたTriple TOF 6600 Sciex(Concord, ON, CA)と組み合わせたShimadzu UPLCから構成されていた。
【0069】
血漿抽出手順
血漿からの抽出及び精製を、SPEにより実施した。血漿50μLに、IS(PTX D5 0.1μg/mL) 100μl及び水 850μLを添加し、次いで40℃にて30分にわたり超音波処理した(Sonorex社, Bandelin electronic, Berlin)。サンプルを、10000rpmで5分にわたり遠心分離した(MiniSpin社, Eppendorf, Hamburg)。固相抽出を、Supelco社(Bellefonte, USA)のVisiprep Solid Phase Extraction Vacuum Manifoldsに接続されたPhenomenex(Anzola Emilia社, Italy)のStrata TM-X 33μm Polymeric Reversed Phase SPE 30mg/1mL抽出カートリッジで実施した。使用前に、このカートリッジを、メタノール1ml及び脱イオン水1mlで調整した。希釈したサンプルを、このカートリッジに通してろ過した。次いで、このカートリッジを、5% meOHを含む脱イオン水1mLですすぎ、5分にわたり真空乾燥して過剰な水を除去した。最後に、保持された化合物を、メタノール/イソプロパノール/ギ酸(60:39.2:0.8) 1mlで溶出させ、溶出液を試験管に回収した。この溶出液を、穏やかな窒素流により、乾燥するまで蒸発させた。最後に、残留物を、アセトニトリル150μlに再溶解させ、10μlを注入してLC-MS/MS分析した。
【0070】
組織抽出手順
様々な組織(s.c.注射領域、及び腫瘍サンプル)からの抽出及び精製を、単一工程抽出により実施した。秤量した組織(10~50mg)を、50振動/sにて3分にわたり、TissueLyser LT(Qiagen社, Hilden, Germany)によりメタノール100μl中でホモジナイズした。サンプルに、IS(パクリタキセル D5 0.1μg/mL) 100μl及びメタノール/イソプロパノール/ギ酸(60:39.2:0.8) 800μlを添加し、次いで40℃で30分にわたり超音波処理した。抽出物を、緩やかな窒素流により、乾燥するまで蒸発させた。組織残留物を、メタノール150μlに再溶解させ、10,000rpmで10分にわたり遠心分離し、NY 0.45μmフィルタ(LLG labware社, Meckenheim)でろ過し、バイアルに移し、10μlを注入してLC-MS/MS分析した。
【0071】
LC/MS-MS条件
この分析システムは、タンデム質量分析計に接続されたHPLCで構成されていた。液体クロマトグラフシステムは、オートサンプラ、バイナリーポンプ、及びカラムオーブンを備えたDionex 3000 UltiMate機器(Thermo Fisher Scientific社, USA)であった。分離を、溶離液A(水+5mMギ酸アンモニウム+0.1%ギ酸)と溶離液B(アセトニトリル+0.1%ギ酸)との間の直線勾配を備えたセキュリティガードカートリッジが先行する、逆相Luna C18(2) 50mm×2、粒径3μm(Phenomenex社, California, USA )分析カラムで行なった。カラムを、2分にわたり20%(B)で平衡化し、4分で95%(B)まで増加させ、0.5分にわたり保持し、0.5分で初期条件に戻し、20%(B)で2分にわたり保持した。流量は、0.4ml/分であり、オートサンプラ及びカラムオーブンを、それぞれ、15℃及び30℃で保持した。タンデム質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化TurboIonSpray(商標)源を備えたAB Sciex 3200 QTRAP機器(AB Sciex S.r.l.社, Milano, Italy)であった。機器を、専用の製造業者のソフトウェア、及び製造業者の指示に従って管理した。分析データを、Analystソフトウェア(バージョン1.6.2)を使用して処理した。イオンスプレーの電圧を5.5kVに設定し、源温度を400℃に設定した。窒素を、噴霧ガス(GS 1、40psi)、ターボスプレーガス(GS 2、45psi)、及びカーテンガス(30psi)として使用した。衝突活性化解離(CAD)を、中レベルに設定した。滞留時間を0.3秒に設定し、MSスキャンを陽イオンモード(ESI+)で実施した。生成物イオンスペクトル(MS-MS)を、最適化されたDPで生成して、衝突ガスとして窒素を使用して分析物の顕著な生成物イオンを同定した。生成物イオン遷移の衝突エネルギー(CE)を、直接注入によるCEランピングにより最適化した。多重反応モニタリング(MRM)モードを使用した。Table 1(表1)では、最適な化合物依存パラメータが報告されている。
【0072】
【0073】
方法の検証:直線性及びLOQ
直線性は、最小二乗法による回帰直線により証明され、相関係数(R2)で表される。6点マトリックス一致検量線を、ブランク血漿中の分析物の漸増量を添加することにより評価した。検量線を、0~100ng/バイアルの濃度範囲の分析物の対応する濃度に対して、分析物の定量イオンのピーク面積と内部標準の定量イオンのピーク面積との比をプロットすることにより得た。全範囲で直線性を観察した。検量線の相関係数R2の値は、0.99よりも高かった。得られたLOQ値は、80~120%の精度及びCV%<20%でMultiquantソフトウェア2.1により算出された0.5ng/バイアルであった。2つの抽出方法による様々な生物学的マトリックスからの回収は、63~70の範囲であった。
【0074】
統計解析
実験を、調査した合計5例のヒトドナーからのMFAT及びDMFATサンプルを使用して実施した。試験を、通常は3回実行し、報告されたデータは、平均±標準偏差(SD)として表されている。必要に応じて、GraphPadソフトウェア(GraphPad Inc.社, SanDiego, CA, USA)を使用して適切な統計的検定を実施した。統計解析を、Statistical Package for Social Science (SPSS version 13, IBM社, NY, USA)でも実施した。統計的差異を、分散分析、その後のTukey-Kramer多重比較検定、及び対応のない両側スチューデント検定より評価した。p≦0.5を、統計的に有意であるとみなした。
【0075】
結果
PTXは、インビトロでHep-3B細胞株に対して抗増殖活性を示した
初期実験を実施して、Hep-3B増殖を阻害するPTXの有効性を確立した
この目的のために、様々な濃度のPTX(0.1ng/ml~1000ng/ml)を、培養培地に添加した。Hep-3B増殖を50%(IC
50)及び90%(IC
90)減少させるのに必要なPTXの用量は、それぞれ、15±2及び25±8ng/mlであった(
図7)。そのため、Hep-3B細胞は、既に試験されている他のがん細胞株(6, 14)と比較した場合に、PTX抗増殖活性に対して顕著な耐性を示した。
【0076】
PTXを装填したMFAT及びDMFAT検体は、インビトロでHep-3Bに対して強力な抗腫瘍活性を発揮した
コントロール、及び様々な濃度のPTX(0.05~4μg/ml)を装填したMFAT又はDMFATに由来するCMの活性を調べた(
図1)。PTX 0.25~4.0μgで予備刺激した培養MFAT及びDMFATの両方に由来するCMは、同様の強力なHep-3B増殖阻害を示した。しかしながら、DMFATは、特に低用量のPTX(0.1μg)ではMFATと比べてより有効であるように見えた(
図1A)。この傾向を、培地中に放出されたPTX p-ECを評価することにより確認した。
図1Bに示すように、DMFAT-PTX-CM及びMFAT-PTX-CMは両方とも、用量依存性の有効性を示したが、p-ECは、MFAT及びDMFATそれぞれに関して12±2及び18±5ng/mlという結果であった。DMFAT-PTX-CMで処理したHep-3B細胞の形態学的外観を、
図8に示す。
【0077】
Hep-3Bに対するMFAT-PTX及びDMFAT-PTXの抗腫瘍活性も、トランスウェルインサートを使用して試験した。装填されたPTX量の増加と相関するHep-3B増殖の強力な阻害が得られた(
図1C)。有効性に関して、様々な調製物間でMFAT-PTX検体とDMFAT-PTX検体との間に有意差を観察しなかった。がん細胞数の大幅な減少に加えて、DMFAT-PTX検体との共培養により、多くのHep-3B細胞が、壊死及びアポトーシスの特徴を獲得した(
図9)。
【0078】
Hep-3B増殖の有意な阻害をまた、トランスウェルインサートに播種したMFAT-PTX及びDMFAT-PTX検体(薬剤2μgを装填)の量を1:4(12.5ul)まで減少させることによっても得られた(
図1D)。DMFAT-PTXは、約90%のHep-3B増殖阻害を引き起こすのに十分な有効であり、AT調製物間ではMFAT-PTXと比べて有効性がより高い傾向が認められた。
【0079】
Hep-3B細胞とPTXを装填したか又は装填していないDMFATとの相互作用を試験するための3Dマトリゲル構築物
インビボでの状況を模倣するために、コントロール及びDMFAT-PTXとHep-3B細胞とを混合して3D構築物を調製し、次いでH&E染色用に処理した(
図2)。DMFATは、典型的な脂肪組織構造を示したが、最大用量のPTX 1mg/mlで装填した検体(
図2C)と比較すると、コントロール群(
図2A)及びPTX 0.5mg/mlを装填した検体(
図2B)では、より緩く且つより脱集合しているように見えた。より高い倍率では、DMFAT検体の小柱/海綿状構造内のHep-3B細胞の均一な分布を観察し得たが、明らかにコントロール(
図2D)とPTX装填(
図2E、F)との間に差異は何ら見られなかった。
【0080】
しかしながら、Hoechst 33342染色で検出されたがん細胞アポトーシスの分析により、コントロールDMFAT切片では細胞が非常に少ないことが示された(
図2G)が、全てのDMFAT-PTX群では細胞が有意に増加していた(
図2H、I)。アポトーシスの数値(クロマチン凝縮、核断片化)は、コントロールDMFATに存在する数値と比べて約5~10倍高かった。Hep-3Bに対するDMFAT-PTXのアポトーシス効果もまた、アネキシンV発現により調べており、DMFAT及びコントロールとしての未処理細胞に対してDMFAT-PTXで有意により高く、PTX用量に依存していた(
図2J)が、3D構築物内に配置されたHep-3B細胞の数の増加には依存していなかった(
図2K)。同様の結果を、新鮮なMFAT-PTXでも得られた(データは示さない)。
【0081】
HCCが定着した皮下増殖腫瘍におけるDMFAT-PTXの抗腫瘍効果
Hep-3B細胞株のHCCの性質を検証するために、少数のマウスに5×10
6個のHep-3B細胞をsc注射し、腫瘍結節が触知可能であった場合にマウスを屠殺し、腫瘍を摘出し、HCCマーカーの発現についてIHCで分析した。分析された全ての腫瘍結節は、いくつかの非定型有糸分裂を伴う、大きなサイズの細胞で構成される強い細胞性を示した。細胞性の肝細胞性を、抗ヒト肝細胞-hepar.、アルギナーゼ、及びCK-PANに対する免疫染色の散在した強い陽性により確認した(
図10)。
【0082】
次いで、材料及び方法(
図11)で説明されている腫瘍部位で単回DMFAT-PTX投与の潜在的な抗がん活性を評価した。この処置スケジュールでは、コントロールマウスは、約30~40日で約2cm
3の腫瘍体積に達した(
図3A)。同様の腫瘍増殖挙動を、遊離薬物PTX(
図3B)及びDMFAT(
図3C)で局所的に処置されたマウスでも観察した。対照的に、DMFAT-PTX(10mg/kg)で処置したマウスは、腫瘍増殖の有意な遅延を示した。60日間という最大観察期間であっても、腫瘍体積が2cm
3に達したマウスはなかった。腫瘍は、コントロールの体積の約半分である0.904±0.312cm
3であり、33%のマウスには腫瘍もなかった(
図3D)。しかしながら、この高いPTX投与量を使用することにより、全ての処置マウスにおいて、壊死性の外観を伴う皮膚病変を観察した。いずれのマウスも死亡しておらず、そのような病変は、全ての場合において、約2~3週間にて、あらゆる特別な薬理学的処置を必要とすることなく自然に治癒した(
図12)。この観察により、マウスの別の群を、DMFAT-PTXの濃度を5mg/Kgまで低下させて処置した。この用量では、いずれのマウスもDMFAT-PTX注射部位で皮膚潰瘍を示さず、腫瘍増殖は依然として有意に遅延しており、58日後には約2cm
3の体積に達した。60日後に、15%のマウスには腫瘍がなかった(
図3E)。全ての群のマウスにおける腫瘍増殖の傾向を、
図3Fに示し;Table 1(表2)は、全ての結果の概要を示す。
【0083】
【0084】
注記:DMFAT-PTX 10mg/Kgを投与されたマウスでは、注射後60日で腫瘍質量が有意に減少し(**p<0.01)、加えて、約33%のマウスには腫瘍がなくなっており、90日後に屠殺し、治癒されたとみなした。PTXの用量の半分(5mg/Kg)を装填したDMFAT-PTXで処置されたマウスでは、より低い有効性を観察した。しかしながら、この群では、コントロールと比較して腫瘍質量が有意に減少しなかったが、増殖は、依然として有意に遅延した(**コントロールに対するp<0.01)。加えて、15%のマウスには腫瘍がなかった。コントロールと比較して、DMFAT又はPTXのいずれか単独で処置したマウスの群では有意な効果を観察しなかった。
【0085】
処置されたマウスに腫瘍がないことを確認するために、90日後に生き残っていた動物を屠殺し、腫瘍接種領域を調べた。皮膚組織の組織学により、任意の腫瘍性組織が残存していないことを確認しており、炎症の反応性領域が最小限に抑えられた正常な皮膚が明らかになった(
図13)。
【0086】
最後に、コントロールマウス及び処置されたマウスの腫瘍の組織学的調査を、マウスの屠殺時に実施した。IHCは、HCCマーカーの発現で有意な差異を示さなかった。CK-PAN、アルギナーゼ、及び抗肝臓陽性細胞が同様に存在しており、染色は、コントロール、並びにPTX及びDMFAT処置された腫瘍でも拡散していたが、DMFAT-PTX処置マウスを除き、アルギナーゼ染色がより局所的という結果であった(
図4)。興味深いことに、コントロールDMFATを注射したマウスの腫瘍では、マウスを屠殺した時点で、いくらかの残留脂肪組織が依然として存在していた。このことは、DMFAT-PTX(使用した両方の投与量)で処置されたマウスの腫瘍では見られず、このことは、PTXで予備刺激された異種移植脂肪組織の消化が促進されたことを示唆する(
図14)。
【0087】
Mib-1/Ki67増殖マーカーインデックスを調べて定量することにより、有意な差異が見られた。実際、両方の投与量にてDMFAT-PTXで処置したマウスの腫瘍におけるKi67発現の有意な減少が認められた。特に、より高いPTX投与量で処置された腫瘍では、Ki67陽性細胞/視野の数は、ほぼ5分の1であった(127±43対コントロール群の654±123)。遊離PTX薬剤で処置されたマウスでは、Ki67発現のいくらかの減少も認められた(
図5)。
【0088】
腫瘍結節の近くに位置する場合にDMFAT-PTXにより送達されるPTXのPK
遊離PTXのPKは、他の場所で広く研究されている(15, 16)。ここで、本発明者らは、がん細胞の近くに位置する場合にDMFATにより送達されるPTXのPKを調査することに焦点を当てた(
図6)。この目的のために、マウスの群にHep-3Bがん細胞を注射し、腫瘍結節が形成された場合には、(最終的な皮膚潰瘍形成を回避するために、100μg/200μlに対応する)投与量を減少させたPTX 5mg/kgが装填されたDMFATを局所的に注射した。コントロールの正常なマウス(腫瘍が注射されていない)の群も同様に処置した。これらの正常マウス群では、2時間でのPTX血中濃度は200±34ng/mlであり、24時間では22.4±5まで減少し、72時間では17.1±3まで減少し、168時間では6.8±2ng/mlまで減少した(
図6A)。sc注射された全てのDMFAT-PTXの回収は技術的に困難であったが、2時間後の注射部位での薬物残留量の分析では、207±14μg/g(注射量500μg/gの約41%)であった。この濃度は、101±11(24時間)、13.2±3(48時間)、及び72時間で5.2±0.3μg/grまで有意に減少した。7日目に、Hep-3Bがん細胞のIC
50よりも高いことから、1.14±0.1μg/grのPTXが、薬理学的に重要と考えられ得る局所薬物濃度であることが判明した(
図6B)。要約すると、これらのデータは、別の株のマウスを使用して既に報告されているデータと類似している(6)。
【0089】
腫瘍の存在下でのPTX放出動態は、正常なマウスと比較して有意な差異を示した。2時間後、血中のPTXは、約90ng/mlであり、24時間後には約7ng/mlまで低下しており、このことから、腫瘍を有するマウスの血液中ではPTXがより急速に減少することが示された。加えて、72時間では、血中のPTXは検出可能なレベルを下回っていた(
図6C)。注射の2時間後、腫瘍結節の近くに移植されたDMFAT-PTXは、完全に回収することは、やはり技術的に非常に困難であったが、残存するDMFAT-PTX中のPTXの濃度は、正常なマウスから得られたものと比較して有意に低下しており、86.58μg/gr(最初に注射したもののわずか17.3%)であり、近くの腫瘍結節は検出不能であった。腫瘍では、PTX検出は24時間後に始まった。この時点で、本発明者らは、残存するDMFAT及び腫瘍中では、PTXがそれぞれ3.35ug/gr及び0.41ug/grであることを見出した。48時間で、DMFAT中では、PTX濃度が約50%(1.81μg/gr)減少したが、腫瘍中では4倍(1.6μg/gr)増加し、そのため、隣接するDMFATのPTX濃度とほぼ同等のPTX濃度に達した。3日目及び7日目に実施したその後の分析では、腫瘍中及び隣接するDMFAT中のPTX濃度は、ほぼ同等のままであった(
図6D)。腫瘍及び脂肪組織中のPTX濃度の動態の概要を、
図6E及び
図6Fに示す。7日目のDMFAT及び腫瘍の両方に存在する局所的PTX濃度は、それぞれ0.2±0.08及び0.30±0.18μg/grであり、正常マウスで回収した値(1.14±0.1ug/gr)の約5分の1~3分の1であることに留意されたい。しかしながら、両方PTX濃度も、Hep-3B細胞上のPTXのIC
50(0.015μg/gr)と比べて依然としてより高かった。
【0090】
要約すると、これらのデータから、腫瘍結節は、DMFATが近くにある場合には、DMFATからのPTX放出を最初に促進したことが示されるように見える。DMFAT及び腫瘍中のPTX濃度の平衡は、約48時間でほぼ達しており、腫瘍中では、PTX濃度が少なくとも7日にわたり有意に検出可能であり;この濃度は薬理学的に重要であると考えなければならない。
【0091】
考察
全身化学療法の主な問題の1つは、その非特異性であり、がん細胞と正常な健康細胞との両方に影響を及ぼしており、そのため望ましくない副作用が引き起こされる(17, 18)。従って、腫瘍部位で優先的に作用し得る新規の化学療法アプローチの開発は、抗がん剤の有効性とがん患者の生活の質とを改善するのに非常に興味深い(19, 20)。この目的で、本発明の著者らは、間葉系間質細胞(MSC)が、PTX及びドキソルビシン等の抗がん剤を送達するための最適なツールであり得ることを、既に実証した(14, 21, 22)。
【0092】
MSCが足場細胞として機能する最適な能力、及び脂肪組織(AT)がMSCの天然の容器であることから、その組織学的な及び構造的な足場のような特徴を考慮して、脂肪吸引からの派生であるMFATが薬物送達に更に良好に機能するであろうという仮説が立てられた(9, 10)。この仮説の妥当性は、MFAT及びDMFATの両方がPTXを取り込んで放出する能力を示すことにより最近になって完全に実証されており、DMFAT-PTXが腫瘍切除領域中に位置した場合には、がんの再発を阻止し得たか、又は遅延させ得た(6)。
【0093】
これらの結果を拡張するために、本発明内で、腫瘍塊の近くに位置するDMFAT-PTXの単回処置が、マウスにおける十分に確立された原発性HCC増殖腫瘍の増殖の阻害で有効であるかどうかも調べた。HCCは、全身療法の効果が低いと考えられている腫瘍である(23, 24, 25)。ここで使用されたHep-3B細胞株のHCCの特徴は、ヌードマウスでのsc細胞注射後に形成された腫瘍結節の組織学的分析により初めて確認された。
【0094】
PTX阻害に対するHep-3B細胞の感受性を確立するための予備的なインビトロ実験から、既に調査された他の腫瘍細胞株と比較してIC50がより高いことが明らかになった(6, 14, 21)。しかしながら、Hep-3Bへの、様々な濃度のPTXを装填したMFAT及びDMFATのインビトロ活性から、PTXを装填したMFAT及びDMFATの両方が、Hep-3B増殖の阻害において同等に有効であることが分かり、共培養又はCMのいずれかは、非常に有効であり、且つPTX予備刺激用量依存的であった。これらの結果は、他のがん細胞株を使用して既に観察された結果と同様であった(6)。
【0095】
Hep-3B細胞と、インビボ状況を模倣するためにマトリゲルマトリックスに埋め込まれた、PTXを装填したか又は装填していないDMFAT検体との混合で構成される3Dアッセイを使用することにより、本発明者らは、DMFATにより放出されたPTXが、装填されたPTXの用量に正比例する強力ながん細胞アポトーシスを引き起こすことを実証した。このアポトーシス効果は、Hep-3B上のアネキシンV発現の分析によっても確認されており、PTXががん細胞アポトーシス誘導物質であることが実証された(26)。
【0096】
Hep-3B細胞は、HCC腫瘍を誘導するためにインビボで広く使用されているが(27)、本発明者らは、100%の腫瘍除去を得るのに必要なHep-3Bの用量、及び全てのマウスで直径0.5~0.7cmの触知可能な腫瘍(質量約100mg)を得るためのタイミングを確立するための予備実験を実施した。腫瘍が明らかに触知可能な塊として現れた場合に、PTXを装填したか又は装填していないDMFAT検体を、がん結節に可能な限り近づけて配置した。これに関して、最適な処置経路である腫瘍内タイプの注射は、より小さな腫瘍体積(100~150mm3)でDMFAT 200μl(200mm3体積)を注射することが不可能であることから、技術的に実現可能ではなかった。この研究で最初に使用された10mg/kgのPTX用量は、本発明者らの以前の研究に基づいており、これは、DMFAT 1mlで装填し得る最大薬物濃度に近く、ヒトでの臨床研究にも基づいていた(6, 28)。DMFAT-PTX処置は、強力な腫瘍増殖阻害をもたらしており;60日目の腫瘍質量は約1gであり、コントロール又は遊離PTX又はDMFATのいずれかで処置したマウスでは、同じ腫瘍質量は24~31日後にのみ到達し、約29~36日で最大2gであった。加えて、皮膚領域の組織学的検査により確認されたように、DMFAT-PTXで処置したマウスの33%には、移植後90日後に腫瘍も存在していなかった。
【0097】
特に、DMFATにより送達された高用量のPTXは、望ましくない影響を引き起こしており、全てのマウスにおいて、腫瘍部位に壊死領域の形成を伴う皮膚潰瘍が生じており、いずれの場合にも、薬物処置なしで自然に治癒した。そのような態様は、DMFAT-PTXを腫瘍切除領域に配置するか又は腹腔内注射した本発明者らの以前の研究では、観察されなかった(6)。本発明者らは、この望ましくない副作用が、送達された高用量のPTXと、特に皮下領域に位置する場合のDMFATの効率的な薬物濃度とにより引き起こされたと考えている。どのような理由であれ、この結果は、主に注射部位で薬物を抑制するDMFATの有効性を明確に示した。この結論は、下記の観察によっても裏付けられた:1)同様の高投与量での遊離PTX薬剤の局所注射は、皮膚潰瘍を誘発しなかった;2)DMFATが装填された薬物の用量の減少により、皮膚潰瘍は誘導されなかったが、抗腫瘍活性は維持された。
【0098】
最後に、本発明者らは、健康なマウス及び腫瘍担持マウスにおいて、5mg/kgのPTXを装填したDMFATにより放出されるPTXのPKを分析した。要約すると、正常なマウスでは、DMFATは、局所注射部位でPTXの大部分を保持しており、血中PTX濃度は急速に低下し、このことは、様々な健康な系統のマウスを使用して既に観察されたものと同様のPKを示した(6)。代わりに、腫瘍担持マウスにおいてDMFATにより送達されたPTXは、様々なPKを有するように見えた。本発明者らは、血中PTX濃度が非常に急速に低下したことに注意し;PTXは、皮下DMFAT-PTX注射後24時間まで(健康なマウスでは7日まで)のみで検出可能であった。特に腫瘍担持マウスにおいて注射された全てのDMFAT-PTXを回収することは技術的に困難であるが、残存する腫瘍周囲の脂肪組織では、特に早期(2時間)でPTX放出の加速が観察された。最初に注射された総PTXのわずか14%しか回収されなかった(対して正常なマウスでは40%)。隣接する腫瘍では、PTX検出は、48時間後に脂肪組織と腫瘍組織の間の薬物濃度平衡に達する動態で、24時間で始まり、7日間まで両方の組織で検出可能なままであった。この時点で、腫瘍中では、PTX濃度がIC50の最大10倍であり、従って、このことは、同じ5mg/kg用量でDMFAT-PTXによりインビボで誘発された効果と一致していた。
【0099】
結論として、本明細書で示される結果は、まとめると、最初の仮説を強く支持しており、MFAT及びその派生した失活したDMFATカウンターパートが、化学療法薬を吸収し、輸送し、及び局在化し得る天然生体材料であると提案する以前の結果を拡張した。
【0100】
このアプローチには、腫瘍学分野で使用可能な可能性がある他の足場(天然/合成)と比較して、大きな利点がある(29~32)。実際に、材料の容易な入手性(脂肪組織は、脂肪吸引により任意の患者から容易に入手可能である)だけでなく、MFATの調製は迅速であり、臨床使用のためのGMP条件を必要としない密閉された滅菌システム(Lipogems(登録商標)装置)を通じて実行される(8)。更に、薬剤の装填は、がん患者の手術中に同じ手術室で実行され得るか又は優先的な自家使用の前に事前に調製して-80(DMFAT)で保存され得る迅速な手順である。
【0101】
MFAT及びDMFATがPTXに結合する正確なメカニズム(具体的には、どの脂質/タンパク質成分が関与しているか)、並びに遊離薬物として又は細胞外小胞を介して薬物がどのように放出されるかをよりよく理解するには、他の研究が必要である(33)。
(参考文献)
【国際調査報告】