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特表2024-542061ネクロトーシス関連疾患の治療剤としてのアポモルヒネの用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ネクロトーシス関連疾患の治療剤としてのアポモルヒネの用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/473 20060101AFI20241106BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241106BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20241106BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
A61K31/473
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/10
A61P43/00 105
A61P9/10
A61P37/06
A61P1/04
A61P31/04
A61P11/00
A61P1/00
A61P13/12
A61P1/16
A61P1/18
A61P7/00
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/20
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525975
(86)(22)【出願日】2022-11-02
(85)【翻訳文提出日】2024-05-01
(86)【国際出願番号】 KR2022017018
(87)【国際公開番号】W WO2023080628
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】10-2021-0148543
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】524047534
【氏名又は名称】ヨンセイ・ユニバーシティ,インダストリー-アカデミック・コーオペレイション・ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRY-ACADEMIC COOPERATION FOUNDATION, YONSEI UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】シン,ジョンス
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ミョンギル
(72)【発明者】
【氏名】パク,インホ
(72)【発明者】
【氏名】クァク,マンソプ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076CC07
4C076CC11
4C076CC14
4C076CC15
4C076CC16
4C076CC17
4C076CC32
4C076DD22Z
4C076DD31
4C076DD37
4C076DD41
4C076DD51
4C076DD57
4C076FF12
4C076FF61
4C086BC27
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZA45
4C086ZA51
4C086ZA59
4C086ZA60
4C086ZA66
4C086ZA68
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZB08
4C086ZB22
4C086ZB35
(57)【要約】
本発明は、ネクロトーシス関連疾患の予防または治療のためのアポモルヒネの新規用途を提供する。本発明は、アポモルヒネまたはその薬学的に許容される塩、及び薬学的に許容される担体を含むネクロトーシス関連疾患の予防または治療用薬学的組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポモルヒネまたはその薬学的に許容される塩、及び薬学的に許容される担体を含む、ネクロトーシス関連疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項2】
アポモルヒネがMLKL(mixed lineage kinase domain like pseudokinase)と結合してオリゴマー化を阻害することを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記ネクロトーシス関連疾患は、脳卒中(stroke)、自己免疫疾患(autoimmune disease)、炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease、IBD)、敗血症(sepsis)、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)、急性呼吸困難障害(acute respiratory distress disorder)、輸血関連急性肺障害(transfusion-related acute lung injury)、移植拒絶反応(transplant rejection)、アテローム性動脈硬化症(atherosclerosis)、大動脈瘤(aortic aneurysm)、心筋梗塞(myocardial infarction)、回腸末端炎(terminal ileitis)、急性腎不全(acute kidney injury)、腎臓虚血-再灌流損傷(renal ischemia reperfusion injury)、肝損傷(liver injury)、脂肪肝炎(steatohepatitis)、膵炎(pancreatitis)または骨髄不全(bone marrow failure)である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記ネクロトーシス関連疾患は炎症性腸疾患である、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記炎症性腸疾患は、クローン病(Crohn’s disease)または潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)である、請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記薬学的に許容される塩は、無機酸塩、有機酸塩、アミノ酸塩、スルホン酸塩、金属塩及びアンモニウムイオン塩からなる群から選ばれるものである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記薬学的組成物は、アポモルヒネ塩酸塩を含むものである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記薬学的組成物は、注射剤である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記注射剤は、メタ重亜硫酸ナトリウム、ベンジルアルコール、塩酸及び水酸化ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項7に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネクロトーシス(necroptosis)関連疾患を治療するためのアポモルヒネ(Apomorphine)及びその用途に関し、具体的には、アポモルヒネまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含むネクロトーシス関連疾患の予防または治療用薬学的組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の適切な死滅は、生命体の生活において非常に重要な細胞作用中の一つの現象であり、不適切な細胞死滅は、がん、退行性疾患、免疫疾患、不適切な発生現象などのヒト疾患に非常に密接な関係がある。このような理由から、細胞死滅現象と細胞死滅を調節する現象、及び不適切な調節によって生じるヒト疾患とそれを克服する治療法の開発などは、生命科学分野で最も多く研究されている分野としてよく知られている。
【0003】
一般に、細胞死滅は、ネクローシス(necrosis)とアポトーシス(apoptosis)の2つがある。細胞の自然死は、発達及び生理細胞回転率で調節されるプログラミングされた細胞死である。ネクローシスは、外部由来の物理的、化学的ストレス(熱、浸透圧、圧力、温度差による衝撃など)によって現れる直接的かつ高速な細胞死滅であり、このようなネクローシスは調節されず、プログラム化されていない偶然の原因に起因し、細胞膜の流失、細胞の崩壊などが起こるのが特徴である。また、細胞膜が流失されると、細胞内の物質が炎症を引き起こす。しかし、最近、多くの研究結果から、ネクローシスも偶然の事故による細胞死滅ではなく、アポトーシスと同様にプログラムされている細胞死滅メカニズムであることが明らかになっており、これを説明するために、ネクロトーシス(necroptosisまたはprogrammed necrosis)という言葉が生まれた。
【0004】
ネクロトーシス(necrptosis)は、細胞のプログラム化された細胞死滅(programmed cell death mode)である。細胞死滅に関する研究の大半は、プログラム化された細胞死滅であるアポトーシスに集中しており、カスパーゼ(caspase)という酵素が発見されたことで、多くの製薬会社は、カスパーゼ阻害剤を用いた薬物開発を過去10年間進めてきた。しかし、未だにFDAの承認を受けた薬物はほとんどないのが実状であり、これはアポトーシスが生理的状況で起こる細胞死滅であって、体内の恒常性を維持させる防御機序に起因する可能性が大きいからである。
【0005】
これとは対照的に、ネクロトーシスは、主に病的な状況で起こる細胞死滅であり、ほとんどの場合、炎症反応を伴う特徴を有している。ネクロトーシスによって誘発される疾患は、虚血性(ischemic)、神経変性(neurodegenerative)、及び炎症性(inflammatory)疾患が代表的である。
【0006】
前記ネクロトーシスは、病的な状況における非調節的事故死であり、その作用機序、分子ターゲット及びシグナル伝達体系などがほとんど研究されていないため、ネクロトーシスが原因となる疾患を治療し、ネクロトーシスの生物学的、病理的原因を明らかにするために、このようなネクロトーシス阻害物質を発見して開発することは非常に緊急事項であるにもかかわらず、未だにこのようなネクロトーシス性疾患の適切な治療剤は報告されていない。
【0007】
一方、アポモルヒネ(APO)は、化学式C1717NOの化合物であり、モルヒネをミネラル強酸と反応させて合成される麻薬性製剤の誘導体で、ドーパミンD2様受容体の活性を通じてパーキンソン病の治療に日常的に使用されるFDA承認薬物である。構造的にドーパミンと類似しており、ドーパミン性神経細胞に位置するドーパミン自己受容体を興奮させて作用する。具体的に、アポモルヒネは、黒質線条体路、辺縁系、視床下部及び脳下垂体でドーパミン受容体を活性化し、運動機能向上などの効果を誘発する。
【0008】
従来技術は、アポモルヒネを嘔吐誘発、勃起不全、パーキンソン病の治療に使用してきた。また、アポモルヒネが心筋梗塞(myocardial infarction)治療剤(特許文献0001参照)、神経変性疾患のうち運動ニューロン疾患(motor neuron disease)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis、ALS、ルーゲーリック病)、原発性側索硬化症(Primary Lateral Sclerosis、PLS)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、パーキンソン病(Parkinson’s disease)、加齢黄斑変性(age-related macular degeneration)の治療剤(特許文献0002参照)、虚血性疾患のうち、虚血性脳卒中(ischemic cerebral apoplexy)、虚血性脳血栓症(ischemic cerebral thrombosis)、虚血性脳塞栓症(ischemic cerebral embolism)、低酸素-虚血性脳症(hypoxic-ischemic encephalopathy)、虚血性心臓疾患(ischemic cardiac disease)、虚血性腸疾患(ischemic enteropathy)、末梢虚血疾患(peripheral ischemia disease)、虚血性再灌流誘発不整脈(ischemic reperfusion induced arrhythmias)の治療剤(特許文献0003参照)として使用できることが開示された先行文献は存在するが、これらの文献はいずれもアポモルヒネのネクロトーシス死阻害作用については明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】CN公開特許第105753879 A号
【特許文献2】US公開特許第2021-0214310 A1号
【特許文献3】US公開特許第7294715 B2号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ネクロトーシスを阻害する機能を有する薬物の提供を目的とする。
【0011】
また、本発明は、ネクロトーシス関連疾患の治療効能を有する薬物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明者らは、ネクロトーシスを阻害する機能を有する物質を明らかにするための薬物スクリーニングを行い、その結果、アポモルヒネのネクロトーシス阻害機能及びネクロトーシス関連疾患の治療効能を明らかにした。
【0013】
したがって、本発明は、アポモルヒネまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含むネクロトーシス関連疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、アポモルヒネを有効成分として含む薬学的組成物を提供し、ネクロトーシス関連疾患の予防及び治療に有用に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1a図1aは、ヒト単核球細胞株THP-1細胞にTBZ+アポモルヒネ(APO)を処理した場合、PI(propidium iodide)吸収量を確認したグラフである。データは、2つの実験の平均値で表示される。(TBZ:TNF-α(ATGen、TNF0501)+BV6(Biovision、B1332-5)+Z-VAD(invivoGen、tlrl-vad))
図1b図1bは、THP-1細胞にTBZ+APOを処理した場合、MLKLのリン酸化変化をウェスタンブロットを通じて確認した写真及びグラフである。データは、2つの独立した実験の平均値で表示される。
図1c図1cは、TBZ、ネクロスタチン-1(NEC-1)、APO処理された細胞を細胞質及び粗膜画分に分別した後、サンプルを表示された抗体でウエスタンブロットした写真である。LDHは細胞質マーカーであり、LAMP1は膜マーカーであり、データは、2つの独立した実験の平均として提示される。
図1d図1dは、アポモルヒネ処理に対するIC50グラフ曲線である。
図2a図2aは、指示された時間の間に各分子を処理した細胞を細胞質画分と膜画分に分離し、非還元または還元SDS-PAGEで分析した後、特定の抗体で調査した写真である。LDHは細胞質マーカーであり、LAMP1は膜マーカーである。
図2b図2bは、壊死誘導後のMLKLのオリゴマー化を経時的に非還元または還元SDS-PAGEで分析した写真である。
図3a図3aは、形質移入したTHP-1細胞をTBZまたはNEC-1、APOで処理し、DAPI及びAlexa 488で染色した後、共焦点顕微鏡を用いて観察した写真である。
図3b図3bは、Flag-MLKLの膜/細胞質信号強度の倍数増加に対するグラフである。(Scale bar、5μm、平均±SEM、**p<0.01、***p<0.001 TBZ単独群対比、One-way ANOVA.)
図4図4は、TBZを処理したTHP-1細胞にAPOを濃度依存的処理(1、5、20、80、320μM)した後、上澄み液を濃縮してHMGB1抗体でウエスタンブロッティングを通じて確認した写真及びグラフである。データは、3つの独立した実験の平均値で表示される。(平均±SEM、***p<0.001 TBZ単独群対比、One-way ANOVA.)
図5図5は、MLKL、MLKL N-termドメインに結合するAPO(200、100、50、25、12.56.25、0μg/ml)の表面プラズモンを分析したグラフである。
図6a図6aは、TBZを処理したTHP-1細胞にAPO(酸化、還元形態)の処理によるMLKLのオリゴマー化を非還元または還元SDS-PAGEで分析した写真である。
図6b図6bは、MLKLタンパク質に結合する酸化、還元形態のAPO(200、100、50、25、12.5、6.25、0μg/ml)の表面プラズモンを分析したグラフである。
図6c図6cは、MLKL N-termドメインに結合する酸化、還元形態のAPO(250、125、62.5、31.12、15.56、7.88、3.44、1.72、0.86、0μg/ml)の表面プラズモンを分析したグラフである。
図7a図7aは、APO注射(0.15、1.5、15mg/kg)が組織病理学及びマウス結腸の粘膜物質変化に及ぼす影響及びHIスコアを示す写真及びグラフである。(Scale bar、100μm、平均±SD(n=5).*p<0.05、***p<0.001、One-way ANOVA.)
図7b図7bは、各グループの結腸の長さを示す写真及びグラフである。(平均±SD(n=5).*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、One-way ANOVA.)
図7c図7cは、大腸炎の疾患活性指数(DAI)を評価したグラフである。NEC-1を阻害剤対照群として使用した。(平均±SD(n=5).*p<0.05、***p<0.001、t-test.)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、アポモルヒネを有効成分として含むネクロトーシス関連疾患の予防または治療用薬学的組成物に関する。
【0017】
本明細書で使用される用語の「ネクロトーシス(Necroptosis)」とは、プログラム化された細胞死滅、ネクロトーシス、細胞壊死、壊死の意味として使用される。前記ネクロトーシスは、ダメージ関連分子パターン(DAMP)の放出につながり、細胞外環境のDAMP(damage-associated molecular pattern)は、代表的にHMGB1があり、これは免疫系の活性化を誘発し、炎症を誘発する。細胞のプログラム化された細胞死滅であるネクロトーシスは、細胞質内のRIP1、RIP3、MLKLの順次的なシグナル伝達を通じて行われ、そのうち最後の段階であるMLKL分子は、リン酸化時に細胞膜でオリゴマー化され、細胞膜に気孔を形成する。具体的には、リン酸化されたMLKL(p-MLKL)は、オリゴマー化を通じて4量体を形成する。2つの4量体は相互作用して8量体を形成し、細胞膜に気孔が形成される。これに関して、より詳細な情報は、Sun L,et al.Trends Biochem Sci.2014 Dec;39(12):587-93.doi:10.1016/j.tibs.2014.10.003.PMID:25455759をさらに参照してもよい。
【0018】
これに関連して、本発明では、アポモルヒネがネクロトーシスの最終媒介物質(terminal mediator)であるMLKL(mixed lineage kinase domain like pseudokinase)の細胞膜気孔(pore)の形成を特異的に阻害する特異性があることを確認した。
【0019】
本発明のアポモルヒネは、酸化反応が起こってMLKLと直接的な結合が増加することにより、MLKLオリゴマー化が阻害され、これにより、最終的にネクロトーシスが阻害される。
【0020】
そこで、本発明は、ネクロトーシス関連疾患の予防または治療のためのアポモルヒネの新規用途を提供する。
【0021】
本発明のネクロトーシスに関連した疾患には、虚血性(ischemic)、神経変性(neurodegenerative)、及び炎症性(inflammatory)疾患を含む。具体的には、前記ネクロトーシス関連疾患は、脳卒中(stroke)、自己免疫疾患(autoimmune disease)、炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease、IBD)、敗血症(sepsis)、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)、急性呼吸困難障害(acute respiratory distress disorder)、輸血関連急性肺障害(transfusion-related acute lung injury)、移植拒絶反応(transplant rejection)、アテローム性動脈硬化症(atherosclerosis)、大動脈瘤(aortic aneurysm)、心筋梗塞(myocardial infarction)、回腸末端炎(terminal ileitis)、急性腎不全(acute kidney injury)、腎臓虚血-再灌流損傷(renal ischemia reperfusion injury)、肝損傷(liver injury)、脂肪肝炎(steatohepatitis)、膵炎(pancreatitis)、骨髄不全(bone marrow failure)などを含む。関連内容は、Khoury MK、Gupta K、Franco SR、Liu B.Necroptosis in the Pathophysiology of Disease.Am J Pathol.2020 Feb;190(2):272-285.doi:10.1016/j.ajpath.2019.10.012.Epub 2019 Nov 26.PMID:31783008;PMCID:PMC6983729;Ware LB.Transfusion-induced lung endothelial injury:a DAMP death? Am J Respir Crit Care Med.2014 Dec 15;190(12):1331-2.doi:10.1164/rccm.201411-2047ED.PMID:25496097.;Leeper NJ.The role of necroptosis in atherosclerotic disease.JACC Basic Transl Sci.2016 Oct;1(6):548-550.doi:10.1016/j.jacbts.2016.08.002.PMID:28480338;PMCID:PMC5419689.;Gunther C,Martini E,Wittkopf N,Amann K,Weigmann B,Neumann H,Waldner MJ,Hedrick SM,Tenzer S,Neurath MF,Becker C.Caspase-8 regulates TNF-α-induced pithelial necroptosis and terminal ileitis.Nature.2011 Sep 14;477(7364):335-9.doi:10.1038/nature10400.PMID:21921917;PMCID:PMC3373730.;Jun W,Benjanuwattra J,Chattipakorn SC,Chattipakorn N.Necroptosis in renal ischemia/reperfusion injury:A major mode of cell death?Arch Biochem Biophys.2020 Aug 15;689:108433.doi:10.1016/j.abb.2020.108433.Epub 2020 May 26.PMID:32470461.;Gautheron J,Vucur M,Luedde T.Necroptosis in Nonalcoholic Steatohepatitis.Cell Mol Gastroenterol Hepatol.2015 Mar 12;1(3):264-265.doi:10.1016/j.jcmgh.2015.02.001.PMID:28210679;PMCID:PMC5301189.;Roderick JE,Hermance N,Zelic M,Simmons MJ,Polykratis A,Pasparakis M,Kelliher MA.Hematopoietic RIPK1 deficiency results in bone marrow failure caused by apoptosis and RIPK3-mediated necroptosis.Proc Natl Acad Sci U S A.2014 Oct 7;111(40):14436-41.doi:10.1073/pnas.1409389111.Epub 2014 Sep 22.PMID:25246544;PMCID:PMC4209989.をさらに参考してもよい。
【0022】
前記炎症性腸疾患には、クローン病(Crohn’s disease)または潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)が含まれてもよい。前記自己免疫疾患には、乾癬(psoriasis)または関節リウマチ(rheumatoid arthritis)が含まれてもよい。
【0023】
本発明者らは、下記の実施例のDSS誘発大腸炎実験を通じて、アポモルヒネが炎症性腸疾患の症状の改善に効果があることを明らかにした。
【0024】
したがって、本発明は、アポモルヒネまたはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含むネクロトーシス関連疾患の予防または治療用薬学的組成物、ネクロトーシス関連疾患の予防または治療用薬学的組成物の製造のためのアポモルヒネまたはその薬学的に許容可能な塩の用途及び治療上有効量のアポモルヒネまたはその薬学的に許容可能な塩を対象体に投与することを含むアポトーシス壊死関連疾患の予防または治療方法を提供する。
【0025】
本発明において薬学的に許容可能な塩は、当技術分野で通常の方法によって製造できるもので、例えば、塩酸、臭素酸、硫酸、硫酸水素ナトリウム、リン酸、硝酸、炭酸などの無機酸塩、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、安息香酸、クエン酸、マレイン酸、マロン酸、酒石酸、グルコン酸、乳酸、ゲンチシン酸、フマル酸、ラクトビオン酸、サリチル酸、トリフルオロ酢酸、またはアセチルサリチル酸(アスピリン)などの有機酸塩、グリシン、アラニン、バニリン、イソロイシン、セリン、システイン、シスチン、アスパラジン酸、グルタミン、リジン、アルギニン、チロシン、プロリンなどのアミノ酸塩、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸などのスルホン酸塩、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との反応による金属塩、またはアンモニウムイオンとの塩などを含む。薬学的に許容可能な塩は、薬剤に使用できる限り、特に制限されるものではない。
【0026】
本発明の一具体例において、アポモルヒネは、塩の形態であってもよい。これに制限されるものではないが、本発明の薬学的組成物は、有効成分としてアポモルヒネ塩酸塩を含んでもよい。より具体的には、本発明において、アポモルヒネは、アポモルヒネ塩酸塩半水和物(apomorphine hydrochloride hemihydrate)であってもよい。
【0027】
本発明の薬学的組成物は、有効成分に加えて薬学的に許容可能な担体を少なくとも1種含む。本明細書において、「薬学的に許容可能な担体」とは、投与用薬学的活性化合物を剤形化する場合に有用であり、使用条件下で事実上、非毒性及び非敏感性である公知の薬学的添加剤を意味する。このような賦形剤の正確な比率は、活性化合物の溶解度と化学的特性、選ばれた投与経路だけでなく、標準薬剤学的慣行によって決定される。
【0028】
本発明の薬学的組成物は、適切で生理学的に許容される賦形剤、崩壊剤、甘味剤、結合剤、被覆剤、膨張剤、潤滑剤、滑沢剤、香味剤などの添加剤を使用して所望の投与方法に適した形態で製剤化されてもよい。
【0029】
前記薬学的組成物は、これに制限されるものではないが、錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、散剤、注射剤、フィルム剤または液剤の形態で製剤化されてもよい。
【0030】
薬学組成物の剤形及び薬剤学的に許容される担体は、当業界で公知の技術によって適切に選ばれてもよく、例えば、下記の文献を参照してもよい[Urquhart et al.,Lancet,16:367,1980];[Lieberman et al.,PHARMACEUTICAL DOSAGE FORMS-DISPERSE SYSTEMS,2nd ed.,vol.3,1998];[Ansel et al.,PHARMACEUTICAL DOSAGE FORMS&DRUG DELIVERY SYSTEMS,7th ed.,2000];[Martindale,THE EXTRA PHARMACOPEIA,31st ed.];[Remington’s PHARMACEUTICAL SCIENCES,16th-20th editions];[THE PHARMACOLOGICAL BASIS OF THERAPEUTICS,Goodman and Gilman,eds.,9th ed.,1996];[Wilson and Gisvolds’ TEXTBOOK OF ORGANIC MEDICINAL AND PHARMACEUTICAL CHEMISTRY,Delgado and Remers,eds.,10th ed.,1998]。また、薬学組成物を製剤化する原理は、例えば、下記文献[Platt,Clin Lab Med,7:289-99,1987];[Aulton,PHARMACEUTICS:THE SCIENCE OF DOSAGE FORM DESIGN,Churchill Livingstone,NY,1988];[EXTEMPORANEOUS ORAL LIQUID DOSAGE PREPARATIONS,CSHP,1998],[「Drug Dosage,」J Kans Med Soc,70(1):30-32,1969]などを参照してもよい。
【0031】
これに制限されるものではないが、一具体例において、本発明の薬学的組成物は注射剤として製剤化されてもよい。注射剤は、静脈注射剤または皮下注射剤として製剤化されてもよい。非経口用注射剤の場合、一般的な注射剤組成物に含まれる成分を含んでもよい。例えば、注射剤組成物は、滅菌水、注射用水、生理食塩水などの液状担体を含む。さらに、アミノ酸、糖、脂質、ビタミン、電解質、pH調整剤、安定化剤、浸透圧調整剤及び溶解補助剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの成分をさらに含んでもよい。
【0032】
現在、アポモルヒネは皮下注射剤として開発され、商品名「アポキン(Apokyn)」として市販されている。アポキンは、1日3回~5回皮下注射されるように開発されているが、本発明の薬学的組成物も必要に応じてアポキンなどの剤形として製剤化されてもよい。例えば、本発明の薬学的組成物は、皮下注射剤であってもよく、この場合、アポモルヒネの他に添加剤としてメタ重亜硫酸ナトリウム、ベンジルアルコール、塩酸、水酸化ナトリウムなどを含んでもよい。
【0033】
一具体例において、本発明の薬学的組成物は、舌下錠またはフィルム剤として製剤化してもよい。前記組成物が錠剤として製剤化された場合、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶剤、抗酸化剤、乳化剤、増粘剤、固結防止剤、着香剤、着色剤、甘味剤、pH調整剤、徐放化剤、安定化剤及びコーティング剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの成分をさらに含んでもよい。本発明の一実施例において、前記添加剤は、エデト酸ナトリウム、アスコルビン酸、ステアリン酸マグネシウム、ヒプロメロース、クエン酸、微結晶セルロース、コロイド状二酸化ケイ素、クールミントオレンジ(WONF WL-28499)、赤色30酸化鉄(E172)、アセスルファムカリウム及びマンニトールを含んでもよいが、これに制限されるものではない。
【0034】
前記組成物がフィルム剤として製剤化された場合、結合剤、安定化剤、抗酸化剤、キレート剤、増粘剤、コーティング剤、着香剤、甘味剤及びpH調整剤をさらに含んでもよい。前記添加剤は、メタ重亜硫酸ナトリウム、二ナトリウムEDTA、二水和物、グリセロール、グリセリルモノステアレート、ヒドロキシエチルセルロース、ヒプロメロース、マルトデキストリン、(-)-メントール、ピリドキシン塩酸塩、ナトリウム水酸化物、スクラロース及び白色インキを含んでもよいが、これに制限されるものではない。
【0035】
本発明の組成物の好ましい投与量は、患者の状態及び体重、疾患の程度、薬物形態、投与経路及び期間によって異なるが、当業者によって適切に選ばれてもよい。しかし、好ましい効果のために、本発明の組成物は、1回100μg~200mg、例えば、200μg~100mg、例えば、2mg~6mg投与可能である。投与は1日に1回投与してもよく、数回に分けて投与してもよい。したがって、前記投与量は、いかなる面においても本発明の範囲を限定するものではない。
【0036】
本発明において「対象体」とは、疾患の予防または治療を必要とする対象を意味し、より具体的には、ネクロトーシス関連疾患の予防または治療を必要とするヒトまたは非ヒト霊長類、マウス(mouse)、イヌ、ネコ、ウマ、ウシなどの哺乳類を意味する。
【0037】
本発明の組成物は、様々な経路で投与されてもよい。投与のすべての方式は予想できるが、例えば、経口、経皮、舌下、直腸または静脈、筋肉、皮下、鼻腔内、子宮内硬膜または脳血管(intracerebroventricular)内で投与されてもよい。
【0038】
本発明の好ましい実施形態において、前記薬学的組成物は、皮下注射によって投与されてもよい。
【0039】
本発明の利点と特徴、及びそれらを達成する方法は、詳細に後述する実施例を参照すれば明らかになるだろう。しかし、本発明は、以下に開示する実施例に限定されるものではなく、互いに異なる様々な形態で具現されてもよく、ただ、本実施例は、本発明の開示が完全に行われるようにし、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に発明のカテゴリを完全に知らせるために提供されるものであり、本発明は、請求項のカテゴリによって定義されるのみである。
【実施例
【0040】
実験方法
1-1.細胞株、培養及び形質移入(transfection)
ヒト単球細胞株THP-1及びヒト結腸癌細胞株HT-29を2mM L-グルタミン、100U/mlペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシンが添加された10%FBS-Roswell park Memorial Institute(RPMI)1640培地で37℃、5%CO条件下で維持させた。THP-1細胞を3時間500nM phorbol 12-myristate 13-acetate(PMA)を含むRPMI 1640培地でマクロファージに分化させた。ヒト Mixed lineage kinase domain-like protein(MLKL)-Flagプラスミド(Sino biological、HG12810-CF)形質移入は、MicroPorator-mini(Digital Bio)のエレクトロポレーションシステム(Invitrogen)を使用して行った。
【0041】
1-2.動物実験
動物実験は、6~8週齢の雄C57BL/6マウスを対象に延世医科大学動物実験室動物研究所動物管理委員会(YLARC、2018-0024)により承認された手順に従って行った。マウスは一定温度及び湿度の下で、ケージ当たり最大4匹のポリプロピレンケージに収容され、明暗周期は12時間毎に変わった。すべてのマウスは参加前に少なくとも7日間の適応期間を与えられた。
【0042】
1-3.DSS誘発大腸炎のマウスモデル
デキストラン硫酸ナトリウム塩(Dextran sulfate sodium、DSS、36-50kDa、MP Biomedicals)誘発大腸炎のために、マウスに7日間飲料水に2.5%DSSを投与した。マウスをランダムに次の8つのグループに分けた。
【0043】
1)対照群
2)アポモルヒネ処理(=APO;STK088477、Vitas-M、1.5mg/kg、毎日腹腔内注射)
3)APO処理(15mg/kg、毎日腹腔内注射)
4)DSS処理
5)DSS及びネクロスタチン-1(NEC-1;Biovision、1864-5、1.5mg/kg、毎日腹腔内注射)
6)DSS及びAPO(0.15mg/kg、毎日腹腔内注射)
7)DSS及びAPO(1.5mg/kg、毎日腹腔内注射)
8)DSS及びAPO(15mg/kg、毎日腹腔内注射)
【0044】
マウスの体重及び疾患活性指数(DAI)スコアを毎日記録した。DAIは体重減少(0点=なし、1点=1%-5%体重減少、2点=5%-10%体重減少、3点=10%-15%体重減少、4点=15%以上の体重減少)、大便の粘稠度/下痢(0点=正常、2点=水っぽい便、4点=水下痢)及び出血(0点=出血なし、2点=若干の出血、4点=総出血)のスコアを足して計算した。実験が終了すると、マウスを犠牲にした後に大腸を摘出し、大腸の長さの変化を確認し、体重減少を測定した。
【0045】
本実験において、NEC-1はRIP1リン酸化を阻害する物質として使用され、アポモルヒネの効果を確認するための対照群として使用された。
【0046】
1-4.組織サンプルの準備
実験終了後、マウスを犠牲にして、(盲腸のない)結腸を除去した。除去された結腸は、長さの測定前に、冷たいリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS;Wellgene、LB001-02)で洗浄した。測定された結腸は、腸間膜ラインに沿って腸分節を切断し、PBSで洗浄してさらなる分析のために準備した。その後、腸分節をペトリ皿に入れ、Modified Bouin’s fixative(50% ethanol/5% acetic acid in dHO)で固定した。内腔(Lumen)側は片手にはフォーセップ(forceps)で、もう片方の手にはつまようじで筋胃の端をつかみ、上に向けて維持し、結腸の平らな開いた端をトングで引っ張った後、筋胃の端をつまようじに巻いた。大腸の全体を包み、カセット(cassette)に入れて4%パラホルムアルデヒド(Biosesang、PC2031-100-00)に4℃で一晩浸した。
【0047】
1-5.ネクロトーシス誘導
細胞をZ-VAD(invivoGen、tlrl-vad)及び化合物で1時間前処理した後、TNF-α(ATGen、TNF0501)及びBV6(Biovision、B1332-5)で指示された時間の間壊死を誘導した。準備された細胞は、分析に従って適切に処理された(Z-VAD:carbobenzoxy-valyl-alanyl-aspartyl、TNF-α:tumor necrosis factor-α、BV6:4,4’-(1,6-hexanediyl)bis[N-methyl-L-alanyl-(2S)-2-cyclohexylglycyl-L-prolyl-β-phenyl-L-phenylalaninamide)
【0048】
1-6.ウェスタンブロット解析
細胞を薬物候補で処理し、4℃、1500xgで5分間遠心分離を使用して得た。上澄み液を再び4℃、1,500xgで5分間遠心分離して残った破片を除去し、Amicon ultra-0.5 centrifugal filter unit 10k(Millipore、UFC501096)を使用して4℃、14,000xgで30分間濃縮させて保管した。得られた細胞は、1Xプロテアーゼ(protease)阻害剤(GenDEPOT、P3100-001)及びホスファターゼ(phosphatase)阻害剤(Thermo Fisher Scientific、1862495)を含む1x放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)緩衝液(GenDEPOT、R4100-010)を使用して溶解した。次に、細胞溶解物を4℃、20,000xgで30分間遠心分離して破片を除去した。抽出されたタンパク質の濃度は、ビシンコニン酸(BCA)protein assay kit(Thermo Fisher Scientific,23225)を用いて測定した。濃縮して保管していた上澄み液と抽出したタンパク質は、非還元性または還元性SDS-PAGE(8%~12%)で処理し、SDS-PAGEゲルは、ニトロセルロース膜に移した。トリス緩衝生理食塩水-1%ツイン20(TBS-T)で5% nonfat milkで膜を遮断し、MLKL(Cell Signaling Technology、14993S)、phospho-MLKL(S358)(Cell Signaling Technology、91689S)、GAPDH(Abfrontier、LF-PA0018)、phspho-RIP1(S166)(Cell Signaling Technology、65746S)、RIP1(Abcam、ab72139)、LDH(Cell Signaling Technology、2012S)、LAMP1(Abcam,ab24170)、HMGB1(Abcam、ab92310)に特異的な抗体で調査した。
【0049】
1-7.細胞下の画分
得られた細胞を10mM KCl、1mM MgCl及び1Xプロテアーゼ阻害剤、ホスファターゼ阻害剤が補充された20mM Tris(pH7.4)緩衝液に再懸濁し、30分間氷で培養した。細胞を22ゲージ針に30回通し、500xgで15分間遠心分離した。上澄み液を再び20,000xgで15分間遠心分離し、細胞質画分として保管した。残ったペレットを溶解緩衝液で再懸濁し、20,000xgで15分間遠心分離した後、粗膜画分(crude membrane)として保存した。
【0050】
1-8.気孔形成細胞のPI(propidium iodide)吸収測定のためのマイクロプレートリーダー
細胞を平らで底が透明な、黒い壁の96well plateにプレーティングした後、7時間の化学処理及び壊死誘導の後、PI(BDbiosciences、556463)を最終濃度50μg/mlで添加した。元の培養条件下で10分間培養した後、細胞を400xgで5分間遠心分離した。Varioskan Flash 3001プレートリーダーでリアルタイム蛍光モニタリングし、530nmで励起(excitation)後、617nmの放出波長を測定した。データ収集は、37℃で行った。(図1a)
【0051】
1-9.免疫蛍光染色(Immunofluorescent staining)
細胞を細胞培養処理されたガラスチャンバースライドに接種した。これらの細胞をZ-VAD、BV6及び指示された化合物で1時間前処理した後、一晩TNF-α及びBV6で処理した。次に、細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄した後、4%パラホルムアルデヒドで10分間固定した。細胞をPBSの0.25%Triton X-100で10分間培養する前に、PBSでさらに3回洗浄した。細胞をPBSの5%ウシ血清アルブミン(BSA)で30分間遮断し、抗-Flag(Sigma、F7425-2MG)抗体を使用して染色した。核はDAPI(Invitrogen、00-4959-52)で染色した。イメージは共焦点顕微鏡(Olympus、FV1000)を使用してキャプチャした。
【0052】
1-10.表面プラズモン共鳴(SPR)分析
MLKLとアポモルヒネ(=APO)の相互作用は、GEヘルスケアのBiacore T200を使用したSPR(Surface Plasmon Resonance)分析を通じて感知された。pHスカウティングのために、pH4.0~6.0 10mM酢酸ナトリウムからなる緩衝液を使用した。スカウトされたバッファ条件としてMLKLタンパク質(Abcam、ab241453)、及び実験室で精製したMLKL N-term(1-154アミノ酸)タンパク質をセンサーチップCM5(GE Healthcare)の表面に固定化した。Rligand値を導出するために、MLKL、MLKL N-termドメイン(MWリガンド)とAPO(MW分析物質)の分子量を基準としてカップリング過程を行った。酸化(24hr、RT incubation)、還元(+DTT(DL-Dithiothreitol))形態のAPOを25℃でpH 7.410mM HEPESからなる実行緩衝液(10μl/min流速)に注入した。センサーグラムはBiacore T200システムで提供される制御ソフトウェアを使用してリアルタイムで記録及び分析された。6つ以上の濃度のAPOを結合に使用し、それぞれのKD値を導出した。すべての実行データは、BIAevaluation Software(GE Healthcare)を使用して計算された。
【0053】
1-11.組織学的評価
実験後、犠牲になったマウスから収集した結腸組織を一晩4%パラホルムアルデヒドに固定した。スイス-圧延及び固定結腸標本をパラフィンに包埋した。5μmのセクションを切断し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。全体の結腸の長さによる大腸炎病変の組織学的評価は、陰窩構造(crypt structure)損傷の程度(0~3)、炎症細胞の浸潤の程度(0~3)、及び粘膜下浮腫(0~3)のスコアシステムを参照して行った。
【0054】
1-12.免疫組織化学染色法(immunohistochemistry:IHC)及び過ヨウ素酸-シッフ(periodic acid-Schiff;pAS)
5μmの切断パラフィンセクションは、5%BSAが補充されたTBS-Tで遮断し、その後、セクションと1次抗体を4℃で一晩共同培養を行った。2次抗体を添加し、1時間培養した。生成されたセクションをDAB(3,3'-diaminobenzidine)キットとともに10分間培養した。PAS(Periodic Acid Staining)染色は、標準プロトコルに従って行われた。
【0055】
1-13.統計分析
実験データの分析は、GraphPad Prismを使用して行った。データは、個別図面の凡例に示すように、平均値とSD、SEMを示す。差は、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001のときに統計的に有意であるとみなされた。
【0056】
実験例1:アポモルヒネ処理時の細胞膜気孔形成能力の確認
最初のスクリーニング過程としてPI吸収を測定(実験方法1-8)し、細胞膜インテグリティの変化を調べるために、PI吸収をTBZで処理されたシグナル強度の30%未満に減少させた化合物を選択した。
【0057】
TBZ+APOを処理したTHP-1細胞にPIを10分間処理した後、細胞に吸収されたPIをマイクロプレートリーダーで測定した。阻害剤対照群としてネクロスタチン-1(NEC-1)を使用した。データは、2つの実験の平均値で表示される。(TBZ:TNF-α+BV6+Z-VAD)
【0058】
その結果、アポモルヒネ(=APO)は、PI吸収量を効果的に減少させ、選択された化合物が細胞膜気孔の形成を減少させる能力を減少させた(図1a)。
【0059】
実験例2:アポモルヒネのMLKLリン酸化阻害の有無の確認
2次スクリーニングプロセスとしてMLKLのリン酸化の程度を機能的分析のためにウェスタンブロット(Western-blot)で測定して行った(実験方法1-6、図1b)。表示された抗体を使用したウェスタンブロッティングは、TBZ+APOで処理された細胞においてMLKLのリン酸化の変化を示す。データは、2つの独立した実験の平均値で表示される。
【0060】
その結果、APOは、MLKLのリン酸化を阻害しなかった。すなわち、前記実験例1から確認したように、APOは、細胞膜気孔の形成を減少させるが、これはAPOがMLKLのリン酸化から細胞膜気孔形成までの過程に影響を与えて壊死を阻害したことが分かる。
【0061】
実験例3:アポモルヒネに関連した壊死経路の確認
アポモルヒネが壊死経路のどの段階に影響を及ぼすかを確認するために、TBZ、NEC-1、APO処理された細胞を細胞質及び粗膜画分に分別した後、サンプルを表示された抗体でウエスタンブロットを行った。
【0062】
その結果、細胞の細胞質及び膜の画分化により、壊死経路の媒介体であるRIP1及びMLKLのリン酸化、及び細胞質から膜画分への前記分子の電位が確認された(図1c)。また、最大阻害の50%を誘発する薬物の阻害濃度(IC 50)は、APO(IC 50=5.7μm)の濃度依存的方式で細胞膜完全性の変化を測定して確認した(図1d)。
【0063】
実験例4:アポモルヒネのMLKLオリゴマー化阻害の確認
細胞膜の気孔形成のためのp-MLKLの4量体及び8量体の形成がアポモルヒネ(=APO)によって阻害されるかどうかをテストするために、指示された時間にわたって各分子を処理した細胞を細胞質画分と膜画分に分離し、非還元または還元ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)で分析した後、特定の抗体で調査した(実験方法1-6)。ここで、LDH(lactate dehydrogenase)は細胞質マーカーであり、LAMP1(Lysosomal-associated membrane protein 1)は膜マーカーである。
【0064】
その結果、APOを処理した場合にMLKLの4量体及び8量体のバンド強度が減少したことが確認できた(図2)。すなわち、APOは、MLKLのオリゴマー化を阻害する。特に、図2bにおいて、壊死誘導後にMLKLのオリゴマー化が経時的に確認された。
【0065】
実験例5:アポモルヒネの細胞膜へのMLKL電位遮断の確認
形質移入したTHP-1細胞をTBZまたはNEC-1、APOで処理し、DAPI及びAlexa 488で染色した。共焦点顕微鏡を使用してMLKL-flagタンパク質の発現を通じて、形質移入したTHP-1細胞においてMLKLの細胞内位置を追跡した(実験方法1-9)。
【0066】
壊死を誘導するためにTBZで処理した細胞は、MLKLのリン酸化及び原形質膜へのp-MLKLの転位を示した。Flag-MLKLシグナルは、生理学的条件下で細胞の全体に分布し、一方、TBZを処理した細胞は、細胞膜においてdot like Flag-MLKLシグナルの分布を示した。
【0067】
Flag-MLKLシグナルは、RIP1リン酸化阻害剤であるNEC-1及びTBZ刺激を受けたものと同様に、APO及びTBZ刺激を受けた細胞の細胞質内に大部分分布した。
【0068】
これにより、細胞質において、APOが、MLKLが細胞膜に集中分布されるのを阻害することが確認できる。
【0069】
実験例6:アポモルヒネの濃度依存的処理によるHMGB1分泌阻害の確認
TBZ処理で壊死を誘導したTHP-1細胞にAPOを処理して壊死の特徴の一つであるDamage-associated molecular patternの中で代表的なHMGB1の分泌が阻害されるかどうかをテストするために、8時間APOを濃度依存的処理(1、5、20、80、320μM)した後、上澄み液をすべて濃縮させて、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)で分析した後、HMGB1抗体で調査した(実験方法1-6)。阻害剤対照群としてネクロスタチン-1(NEC-1)を使用し、データは、3つの独立した実験の平均値で表示される。
【0070】
その結果、TBZのみを処理したグループを基準としてAPOを濃度依存的処理することにより、上澄み液として分泌されるHMGB1の量が減少することを確認した(図4)。これにより、APO処理により壊死過程を通じて分泌されるHMGB1を減少させて壊死が阻害されることが確認できる。
【0071】
実験例7:アポモルヒネのMLKL結合による壊死経路阻害の確認
前記実験例を通じて、APOがp-MLKLのオリゴマー化を阻害し、細胞膜poreの形成が阻害されることを確認した。本実施例では、APOがMLKL、その中でもMLKL N-termドメインへの直接的な結合を通じて阻害が達成されるかを確認した。
【0072】
APOとMLKLタンパク質との間の相互作用パターンを分析するために、SPR分析を用いた(実験方法1~10)。MLKLとAPOの結合において、1.272E-8MのKD値が得られ、MLKL N-termとAPOの結合では6.254E-8MのKD値が得られた。ここで、CM5チップに固定されたMLKL、MLKL N-termドメインタンパク質と6つの濃度のAPOを結合させて分析した。
【0073】
すなわち、APOを処理する場合、MLKLのN-termドメインに高い親和力で直接結合してMLKLオリゴマー化が阻害されることが確認できる。
【0074】
実験例8:アポモルヒネの酸化反応によるMLKLのオリゴマー化阻害の確認
APOは、光と空気の存在下で時間が経つにつれて自発的に酸化反応が起こることは、すでによく知られている事実である。本実施例では、APOの酸化度によって細胞内のMLKLとの結合が増加することにより、MLKLのオリゴマー化が減少するかどうかをテストするために、APOを常温で24時間保管することにより酸化形態を準備し、実験直前に溶かしたAPOにDTT処理して還元された形態を準備し、指示された時間の間、各分子を処理した細胞を溶解し、非還元または還元ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)で分析した後、特定の抗体で調査した(実験方法1-6)。
【0075】
その結果、酸化されたAPOを処理した場合にMLKLの4量体と8量体バンドの強度が減少し、還元されたAPOを処理した場合には変化がないことが確認できた(図6a)。これにより、APOの酸化反応によってMLKLのオリゴマー化が阻害されることを確認し、これはAPOの酸化程度によってMLKLとの結合が増加することによって起こることを確認するために、MLKLとAPOの酸化反応による相互作用パターンをSPRで分析した(実験方法1-10)。
【0076】
その結果、MLKLタンパク質と酸化されたAPOの結合が4.998E-9M、還元されたAPOの結合が2.442E-7M(図6b)、及びMLKL N-termドメインと酸化されたAPOの結合が1.312E-6M、還元されたAPOの結合は1.14E-3MのKD値が得られた(図6c)。ここで、CM5チップに固定されたMLKL、MLKL N-termドメインタンパク質と6つ以上の濃度のサンプルを結合させて分析した。
【0077】
すなわち、APOの酸化反応が起こることにより、MLKLとの直接的な結合が増加し、MLKLのオリゴマー化が阻害されることを確認した。
【0078】
実験例9:アポモルヒネのDSS誘発大腸炎改善の確認
生体内のAPOの効果を確認するために、ヒト大腸炎の症状を模倣したDSS誘導大腸炎マウスモデルを行った。マウスにおいて大腸炎の症状の緩和は、体重とDAIスコアで毎日測定し、結腸の長さ、H&E、PAS染色、免疫反応及び完了後のマウスの粘膜障壁の損傷を測定して比較した。
【0079】
図7aに示すように、DSSグループのマウスは、大腸炎による陰窩構造(crypt structure)の損傷、炎症細胞の浸潤及び粘膜下浮腫を示した。粘液物質もPAS染色において有意に減少し、これはIBD患者において一般的に観察される結腸粘液の分泌が有意に減少したことを示す。APOを0.15、1.5、15mg/kg注入した群では、H&E染色とPAS染色において観察できる大腸炎の特徴的な症状が濃度依存的に緩和された。APO処理は、さらにHIスコア(図7a)、結腸短縮の量(図7b)及びDAIスコア(図7c)を減少させることが示された。
【0080】
要約すると、APO単独処理による差異はなく、DSS処理の有害な効果は、APOの濃度依存的処理によって改善された。すなわち、これらの結果は、APOがDSS誘発大腸炎に対する保護効果があることを示す。
図1a
図1b
図1c
図1d
図2a
図2b
図3a
図3b
図4
図5
図6a
図6b
図6c
図7a
図7b
図7c
【国際調査報告】