(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】一体型微小液滴チップ
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20241106BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526652
(86)(22)【出願日】2022-11-09
(85)【翻訳文提出日】2024-04-30
(86)【国際出願番号】 CN2022130910
(87)【国際公開番号】W WO2023088148
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】202111381092.9
(32)【優先日】2021-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524157589
【氏名又は名称】新▲い▼制造科技(北京)有限公司
【氏名又は名称原語表記】TARGETINGONE TECHNOLOGY (BEIJING) CORPORATION
【住所又は居所原語表記】YANG, Wenjun Building 8, No. 1, Chaoqian Road., Science And Technology Park Zone, Changping District Beijing, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】蘇 世聖
(72)【発明者】
【氏名】王 博
(72)【発明者】
【氏名】夏 雷
(72)【発明者】
【氏名】劉 金偉
(72)【発明者】
【氏名】楊 文軍
(72)【発明者】
【氏名】王 勇斗
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA23
4B029BB20
4B029FA12
4B029FA15
(57)【要約】
本発明は一体型微小液滴チップを提供する。この一体型微小液滴チップはチップ本体を含む。チップ本体には反応チャンバー、試料添加チャンバー、微小液滴生成構造、油液ポート、気液ポート及び蛍光検出領域がある。液滴生成時、試料添加チャンバーと気液ポートとの間に圧力差が形成され、油液ポートと気液ポートとの間に圧力差が形成される。圧力差は、試料添加チャンバー内の試料と油液ポートの生成油をそれぞれ駆動して微小液滴生成構造に進入させて、微小液滴が生成されて反応チャンバーに進入する。液滴検出時、外部圧力は、検出押し油を駆動して反応チャンバーに進入させて、微小液滴を反応チャンバーから微小液滴生成構造に流出させ、外部圧力は、検出分離油を駆動して微小液滴生成構造に流出させ、検出分離油は、反応チャンバーから微小液滴生成構造内に流出した微小液滴を分離して列を形成し、蛍光検出領域に進入させる。本発明は、微小液滴生成構造の時分割多重化により、液滴の生成、増幅及び検出をすべて1枚のチップに統合して、完全に統合され、完全に密閉されたデジタルPCRプロセスを実現する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体型微小液滴チップであって、チップ本体(1)を含み、前記チップ本体(1)には反応チャンバー(11)と試料添加チャンバー(12)があり、前記チップ本体(1)内には微小液滴生成構造と、油液ポート(31)と、気液ポート(32)と、蛍光検出領域(33)とが構成され、前記気液ポート(32)は前記反応チャンバー(11)と連通し、前記試料添加チャンバー(12)は前記微小液滴生成構造と連通し、前記油液ポート(31)は前記微小液滴生成構造と連通し、
液滴生成時、前記試料添加チャンバー(12)と前記気液ポート(32)との間に第1圧力差が形成され、前記油液ポート(31)と前記気液ポート(32)との間に第2圧力差が形成され、前記第1圧力差と前記第2圧力差は、前記試料添加チャンバー(12)内の試料と前記油液ポート(31)の生成油をそれぞれ駆動して前記微小液滴生成構造に進入させ、生成した微小液滴(4)は前記反応チャンバー(11)内に進入し、貯蔵され、
液滴検出時、外部圧力は、検出押し油(5)を駆動して前記気液ポート(32)から前記反応チャンバー(11)に進入させて、前記反応チャンバー(11)内の微小液滴(4)を前記反応チャンバー(11)から前記微小液滴生成構造に流出させ、外部圧力は、検出分離油を駆動して前記油液ポート(31)から前記微小液滴生成構造に進入させ、前記検出分離油は、前記反応チャンバー(11)から前記微小液滴生成構造内に流出した微小液滴(4)を分離して列を形成し、前記蛍光検出領域(33)に進入させる、ことを特徴とする一体型微小液滴チップ。
【請求項2】
前記微小液滴生成構造は、油液管路(21)と連通管路を含み、前記油液管路(21)と前記連通管路は十字形に交差し、前記連通管路は、十字交差点の第1側に位置し前記反応チャンバー(11)と連通する第1管路(22)と、前記十字交差点の第2側に位置し前記試料添加チャンバー(12)と連通する第2管路(23)とを含み、前記油液ポート(31)は油液管路(21)と連通する、ことを特徴とする請求項1に記載の一体型微小液滴チップ。
【請求項3】
前記チップ本体(1)の第1側面が水平方位に位置することを参照として、前記反応チャンバー(11)と前記試料添加チャンバー(12)は前記第1側面に位置し、前記反応チャンバー(11)と前記チップ本体(1)の前記第1側面との接続ポート(111)は上向きに延び、且つ下部が小さく上部が大きいラッパ口を形成する、ことを特徴とする請求項2に記載の一体型微小液滴チップ。
【請求項4】
前記反応チャンバー(11)内には、下から上へ延びる気液管路(112)が構成され、前記気液管路(112)の下部口は前記気液ポート(32)と連通し、前記気液管路(112)の上部口は前記接続ポート(111)の上部口よりも高い、ことを特徴とする請求項3に記載の一体型微小液滴チップ。
【請求項5】
前記第1管路(22)と前記接続ポート(111)との間には微小液滴観測領域(34)がある、ことを特徴とする請求項4に記載の一体型微小液滴チップ。
【請求項6】
前記試料添加チャンバー(12)は、開口チャンバー(121)と、前記開口チャンバー(121)の開口に密封接続された密封カバー(122)とを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の一体型微小液滴チップ。
【請求項7】
前記試料添加チャンバー(12)には、濾過膜又は排気孔が設けられる、ことを特徴とする請求項1に記載の一体型微小液滴チップ。
【請求項8】
前記蛍光検出領域(33)は、前記第2管路(23)に位置する、ことを特徴とする請求項2に記載の一体型微小液滴チップ。
【請求項9】
前記試料添加チャンバー(12)は第1側面に位置し、前記反応チャンバー(11)は第2側面に位置し、前記第2側面と前記第1側面は、前記チップ本体(1)の対向する両側である、ことを特徴とする請求項2に記載の一体型微小液滴チップ。
【請求項10】
前記微小液滴(4)が前記反応チャンバー(11)内に進入する前に、前記反応チャンバー(11)内に軽油が予め配置される、ことを特徴とする請求項1に記載の一体型微小液滴チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルPCR分析装置の技術分野に属し、具体的には、一体型微小液滴チップに関する。
【背景技術】
【0002】
液滴マイクロフルイディクス(droplet-based microfluidics)は、マイクロフルイディクスチップ上で近年開発された、微小体積の液体を制御する技術プラットフォームであり、その原理は次のとおりである。互いに相溶しない2つの液体、例えば、一方が油相であり、他方が水相である場合、油相と水相が同時にマイクロチャネルに入った後、マイクロチャネルの作用下で、水相は微小体積ユニットの形で油相に分布し、一連の離散的な微小液滴を形成する。それぞれの液滴は微小反応器として、化学又は生物反応のセットを完成する。
【0003】
デジタルPCR技術は、第3世代PCR技術と称され、絶対定量と単分子検出感度の利点を有し、分子診断分野での重要な応用が期待されている。デジタルPCR技術は、主流の技術ルートであり、液滴マイクロフルイディクスチップを採用して、反応系を数万ないし数百万のサイズの均一な液滴に分割し、且つ生成、増幅及び蛍光検出を完了し、蛍光検出結果によって数学モデルを用いて試料中の目標分子の正確なコピー数を計算する。
【0004】
液滴デジタルPCR技術において、液滴を利用してチップ内の構造を生成して液滴生成を完了し、その後液滴を反応管に移して増幅させ、最後に液滴検出チップ内の構造を利用して、液滴を一定の間隔で液滴の列として形成する。各液滴は、蛍光検出領域を順番に通過し、液滴内の蛍光信号を励起して検出する。液滴マイクロフルイディクスを利用してデジタルPCRを実現するこの方法は、液滴サイズが均一で、液滴数が制限されにくく、蛍光検出の信号対ノイズ比が高いなどの利点があるが、同時に、チップ構造が複雑で、生成と検出が異なるチップで完了し、統合度が低く、自動化が困難であるなどの欠点も存在する。
【発明の概要】
【0005】
従って、本発明が解決しようとする技術的問題は、液滴生成と検出が異なる液滴チップで完了し、統合度及び自動化の程度が低いという従来技術における欠点を克服するために、一体型微小液滴チップを提供することである。
【0006】
上記の問題を解決するために、本発明は一体型微小液滴チップを提供する。この一体型微小液滴チップはチップ本体を含み、前記チップ本体には反応チャンバーと試料添加チャンバーがあり、前記チップ本体内には、微小液滴生成構造、油液ポート、気液ポート及び蛍光検出領域が構成され、前記気液ポートは前記反応チャンバーと連通し、前記試料添加チャンバーは前記微小液滴生成構造と連通し、前記油液ポートは前記微小液滴生成構造と連通する。
【0007】
液滴生成時、前記試料添加チャンバーと前記気液ポートとの間に第1圧力差が形成され、前記油液ポートと前記気液ポートとの間に第2圧力差が形成され、前記第1圧力差と前記第2圧力差は、前記試料添加チャンバー内の試料と前記油液ポートの生成油をそれぞれ駆動して前記微小液滴生成構造に進入させ、生成した微小液滴は前記反応チャンバー内に進入し、貯蔵される。
【0008】
液滴検出時、外部圧力は、検出押し油を駆動して前記気液ポートから前記反応チャンバーに進入させて、前記反応チャンバー内の微小液滴を前記反応チャンバーから前記微小液滴生成構造に流出させ、外部圧力は、検出分離油を駆動して前記油液ポートから前記微小液滴生成構造に進入させ、前記検出分離油は、反応チャンバーから前記微小液滴生成構造内に流出した前記微小液滴を分離して列を形成し、前記蛍光検出領域に進入させる。
【0009】
好ましくは、前記微小液滴生成構造は、油液管路と連通管路を含み、前記油液管路と前記連通管路は十字形に交差し、前記連通管路は、十字交差点の第1側に位置し前記反応チャンバーと連通する第1管路と、前記十字交差点の第2側に位置し前記試料添加チャンバーと連通する第2管路とを含み、前記油液ポートは油液管路と連通する。
【0010】
好ましくは、前記チップ本体の第1側面が水平方位に位置することを参照として、前記反応チャンバーと前記試料添加チャンバーは前記第1側面に位置し、前記反応チャンバーと前記チップ本体の前記第1側面との接続ポートは上向きに延び、且つ下部が小さく上部が大きいラッパ口を形成する。
【0011】
好ましくは、前記反応チャンバー内には、下から上へ延びる気液管路が構成され、前記気液管路の下部口は前記気液ポートと連通し、前記気液管路の上部口は前記接続ポートの上部口よりも高い。
【0012】
好ましくは、前記第1管路と前記接続ポートとの間には微小液滴観測領域がある。
【0013】
好ましくは、前記試料添加チャンバーは、開口チャンバーと、前記開口チャンバーの開口に密封接続された密封カバーとを含む。
【0014】
好ましくは、前記試料添加チャンバーには濾過膜又は排気孔が設けられる。
【0015】
好ましくは、前記蛍光検出領域は前記第2管路に位置する。
【0016】
好ましくは、前記試料添加チャンバーは第1側面に位置し、前記反応チャンバーは第2側面に位置し、前記第2側面と前記第1側面は、前記チップ本体の対向する両側である。
【0017】
好ましくは、前記微小液滴が前記反応チャンバー内に進入する前に、前記反応チャンバー内に軽油が予め配置される。
【0018】
本発明によって提供される一体型微小液滴チップは、前記チップ本体には、試料添加チャンバー、反応チャンバー、微小液滴生成構造及び蛍光検出領域が統合され、微小液滴生成構造の時分割多重化により、液滴の生成、増幅及び検出がすべて1枚のチップに統合されて、完全に統合され、完全に密閉されたデジタルPCRプロセスが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施例に係る一体型微小液滴チップの立体構造模式図である。
【
図2】本発明の実施例に係る一体型微小液滴チップ内の微小液滴生成構造の構造模式図である。
【
図3】本発明の実施例に係る一体型微小液滴チップ内の反応チャンバーの内部構造模式図である。
【
図5】生成された後に反応チャンバー内に貯蔵される微小液滴の模式図である。
【
図6】一体型微小液滴チップを180°反転した後の反応チャンバー内の状態の模式図である。
【
図7】
図6の状態で反応チャンバー内に油液を導入した後の状態の模式図である。
【
図8】微小液滴が反応チャンバーから押し出された後の状態の模式図である(図中の矢印は微小液滴及び油液の流れ方向を示す)。
【
図9】本発明の別の実施例に係る一体型微小液滴チップの立体構造模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1~
図9を併せて参照すると、本発明の実施例によれば、一体型微小液滴チップが提供される。この一体型微小液滴チップはチップ本体1を含み、前記チップ本体1には反応チャンバー11と試料添加チャンバー12があり、前記チップ本体1内には微小液滴生成構造と、油液ポート31と、気液ポート32と、蛍光検出領域33とが構成され、前記気液ポート32は前記反応チャンバー11と連通し、前記試料添加チャンバー12は前記微小液滴生成構造と連通し、前記油液ポート31は前記微小液滴生成構造と連通する。
【0021】
液滴生成時、前記試料添加チャンバー12と前記気液ポート32との間に第1圧力差が形成され、前記油液ポート31と前記気液ポート32との間に第2圧力差が形成され、前記第1圧力差と前記第2圧力差は、前記試料添加チャンバー12内の試料と前記油液ポート31の生成油をそれぞれ駆動して前記微小液滴生成構造に進入させ、生成した微小液滴4は前記反応チャンバー11内に進入し、貯蔵される。
【0022】
液滴検出時、外部圧力は、検出押し油5を駆動して前記気液ポート32から前記反応チャンバー11に進入させて、前記反応チャンバー11内の微小液滴4を前記反応チャンバー11から前記微小液滴生成構造に流出させ、外部圧力は、検出分離油を駆動して前記油液ポート31から前記微小液滴生成構造に進入させ、前記検出分離油は、反応チャンバー11から前記微小液滴生成構造内に流出した前記微小液滴4を分離して列を形成し、前記蛍光検出領域33に進入させる。
【0023】
この技術的解決策では、前記チップ本体1に試料添加チャンバー12、反応チャンバー11、微小液滴生成構造及び蛍光検出領域33が統合されるので、前記微小液滴の生成、検出を同一のチップで統合して完了させることができ、統合度及び自動化の程度を向上させることができる。さらに重要なことは、前記微小液滴生成構造に対する時分割多重化(前記一体型微小液滴チップの反転前後を時分割境界とする)により、液滴の生成、増幅及び検出がすべて1枚のチップに統合されて、完全に統合され完全に密閉されたデジタルPCRプロセスが実現される。液滴サイズが均一で、液滴数が制限されにくく、蛍光検出信号対ノイズ比が高いなどの利点を継承するだけでなく、チップ構造が複雑で、生成と検出が異なるチップで完了し、統合度が低く、自動化が難しいなどの元の困難も克服する。これは、デジタルPCR分野における重要な技術的進歩である。
【0024】
前記微小液滴生成構造の1つの具体的な実現形式として、前記微小液滴生成構造は、油液管路21と連通管路を含み、前記油液管路21と前記連通管路は十字形に交差し、前記連通管路は、十字交差点の第1側に位置し前記反応チャンバー11と連通する第1管路22と、前記十字交差点の第2側に位置し前記試料添加チャンバー12と連通する第2管路23とを含み、前記油液ポート31は油液管路21と連通する。
【0025】
幾つかの実施形態では、
図1に示すように、一体型微小液滴チップは、前記チップ本体1の前記第1側面が水平方位に位置することを参照として、前記反応チャンバー11と前記試料添加チャンバー12は前記第1側面に位置し、前記反応チャンバー11と前記チップ本体1の前記第1側面との接続ポート111は上向きに延び、且つ下部が小さく上部が大きいラッパ口を形成する。ラッパ口状の接続ポート111は、微小液滴4が第1管路22から前記反応チャンバー11に進入することを容易にすることができ、前記微小液滴4が前記反応チャンバー11から前記第1管路22に進入して、微小液滴4の滞留が防止されることを容易にすることもできる。なお、このときの前記反応チャンバー11と試料添加チャンバー12はいずれも前記チップ本体1の第1側面(具体的には頂面)に位置し、前記反応チャンバー11内に進入した微小液滴4はすべて前記接続ポート111に集められ、PCR増幅時に、前記チップ本体1全体を逆さにして即ち180°反転させて、微小液滴4を前記反応チャンバー11の反応領域に位置させる必要がある。
【0026】
幾つかの実施形態では、前記反応チャンバー11内には、下から上へ延びる気液管路112がさらに構成され、前記気液管路112の下部口は前記気液ポート32と連通し、前記気液管路112の上部口は前記接続ポート111の上部口よりも高い。これにより、前記反応チャンバー11内が負圧である場合、前記微小液滴生成構造によって生成された微小液滴4は、前記反応チャンバー11に進入した後にさらに前記気液管路112から流出することを防止することができる。
【0027】
幾つかの実施形態では、前記第1管路22と前記接続ポート111との間には微小液滴観測領域34がある。前記微小液滴観測領域34の流通面積は、前記第1管路22の流通面積よりもはるかに大きい。即ち、前記微小液滴観測領域34は、前記第1管路22上の拡大領域(幅広)であり、この領域に進入する微小液滴4の流速を低下させ、外部カメラによる画像化を容易にし、液滴の形態を記録し、液滴生成プロセスの状態が正常であるか否かを判断することができる。
【0028】
具体的な実施形態として、前記試料添加チャンバー12は、開口チャンバー121と、前記開口チャンバー121の開口に密封接続された密封カバー122とを含み、オペレータが前記試料添加チャンバー12に追加するのを容易にする。さらに、前記試料添加チャンバー12には濾過膜又は排気孔が設けられる。試料添加チャンバー12が廃液溜まりとなった場合(即ち、液滴チップが逆さまに反転された場合)、一定の空気が排出されて、前記試料添加チャンバー12内の圧力の蓄積が防止される。
【0029】
一実施形態では、前記蛍光検出領域33は前記第2管路23に位置し、前記第2管路23において、前記反応チャンバー11内から流出した微小液滴4は、十字交差点を通過するときに、前記油液管路21内の検出油の作用下で、適切な間隔を持った液滴列に分離することができ、それにより外部システムの作用下で蛍光検出が完了する。
【0030】
図9に示すように、前記一体型微小液滴チップの別の実施形態が提案され、それは、
図1に示す一体型微小液滴チップとの相違点が次のとおりである。前記反応チャンバー11と前記試料添加チャンバー12は、それぞれ、前記チップ本体1の2つの対向する側面に位置する。具体的には、前記試料添加チャンバー12は前記第1側面に位置し、前記反応チャンバー11は第2側面に位置し、前記第2側面と前記第1側面は、前記チップ本体1の対向する両側である。この場合、一体型微小液滴チップの動作原理及びプロセスは、前述の一体型微小液滴チップと基本的に一致し、相違点が次のとおりである。液滴生成プロセス中、前記の反応チャンバー11が前記チップ本体1の底側に位置し(試料添加チャンバー12が頂側に位置し)、前記微小液滴4が前記反応チャンバー11に進入すると反応チャンバー11の底部の反応領域に直接落下し、反応領域内で収集されるため、一体型微小液滴チップは、液滴生成が完了した後、180°反転する必要がなく、後続の増幅工程に直接入ることができる。
【0031】
幾つかの実施形態では、前記微小液滴4が前記反応チャンバー11内に進入する前に、前記反応チャンバー11内に軽油(即ち、密度が比較的小さい油液)が予め配置され、前記軽油が常に前記反応チャンバー11内の微小液滴4の頂部に位置することが保証され、それによって増幅時の微小液滴の蒸発の問題が解決され、無熱蓋PCRが実現される。
【0032】
本発明による実施例は、一体型微小液滴チップのデジタルPCR方法をさらに提供する。上述したように、前記一体型微小液滴チップはチップ本体1を含む。前記チップ本体1には反応チャンバー11と試料添加チャンバー12がある。前記チップ本体1内には、微小液滴生成構造と、油液ポート31と、気液ポート32と、蛍光検出領域33とが構成される。前記気液ポート32は前記反応チャンバー11と連通し、前記試料添加チャンバー12は前記微小液滴生成構造と連通し、前記油液ポート31は前記微小液滴生成構造と連通する。
【0033】
前記デジタルPCR方法は、以下の微小液滴分割生成ステップと、増幅反応ステップと、微小液滴検出ステップとを含む。
微小液滴分割生成ステップでは、前記試料添加チャンバー12と前記気液ポート32との間に第1圧力差を形成し、前記油液ポート31と前記気液ポート32との間に第2圧力差を形成するように制御して、前記第1圧力差と前記第2圧力差は、それぞれ、前記試料添加チャンバー12内の試料と前記油液ポート31の生成油を駆動して前記微小液滴生成構造に進入させ、生成した微小液滴4は前記反応チャンバー11内に進入し、保存される。具体的には、前記油液ポート31に油液を供給し、前記気液ポート32に負圧を供給し、前記負圧の作用下で、前記試料添加チャンバー12内の試料及び前記油液ポート31での油液は駆動されて、それぞれ前記第2管路23、油液管路21に沿って前記微小液滴生成構造の十字交差口に集まる。前記試料は、油液の流体せん断力と表面張力の作用により、サイズが均一な微小液滴4(油中水液滴)を形成し、最終的に前記負圧の作用により、前記微小液滴4は、前記第1管路22を経由して前記反応チャンバー11内に進入し、貯蔵される。なお、微小液滴が前記微小液滴観測領域34に進入するとき、微小液滴4の流速で、密な液滴コミュニティを形成し、カメラによる画像化および記録が容易になる。
増幅反応ステップでは、前記反応チャンバー11を加熱モジュール(図示せず)に置いて、予め設定されたサイクルに従って加熱し増幅する。前記加熱モジュールは、既存の加熱モジュールを採用すればよい。
微小液滴検出ステップでは、外部圧力が検出押し油5を駆動して前記気液ポート32から前記反応チャンバー11に進入させるように制御することによって、前記反応チャンバー11内の微小液滴4を前記反応チャンバー11から前記微小液滴生成構造に流出させ、外部圧力は、検出分離油を駆動して前記油液ポート31から前記微小液滴生成構造に進入させ、前記検出分離油は、反応チャンバー11から前記微小液滴生成構造内に流出した前記微小液滴4を分離して列を形成し、前記蛍光検出領域33に進入させて、蛍光検出を完了させる。具体的には、前記気液ポート32に油液(即ち検出押し油5、浮上油とも呼ばれる)を供給し、前記油液の浮力により前記反応チャンバー11内の増幅反応後の微小液滴4を浮上させ、且つ、前記油液の浮力の作用により、前記微小液滴4は、前記接続ポート111を通って前記反応チャンバー11から流出して前記第1管路22に進入し、前記微小液滴観測領域34を経由して前記十字交差口に進入して、前記第2管路23に進入し、蛍光検出領域33で検出された後、最終的に前記試料添加チャンバー12内に進入する。このとき、前記試料添加チャンバー12は廃液溜まりとなる。
【0034】
この技術的解決策では、前記微小液滴生成構造に対する時分割多重化(前記一体型微小液滴チップの反転前後を時分割境界とする)により、液滴の生成、増幅及び検出がすべて1枚のチップに統合されて、完全に統合され完全に密閉されたデジタルPCRプロセスが実現される。液滴サイズが均一で、液滴数が制限されにくく、蛍光検出信号対ノイズ比が高いなどの利点を継承するだけでなく、チップ構造が複雑で、生成と検出が異なるチップで完了し、統合度が低く、自動化が難しいなどの元の困難も克服する。これは、デジタルPCR分野における重要な技術的進歩である。
【0035】
幾つかの実施形態では、前記チップ本体1の第1側面が水平方位に位置することを参照として、前記反応チャンバー11と前記試料添加チャンバー12は前記第1側面に位置する。前記増幅反応ステップの前、微小液滴分割生成ステップの後に、チップ反転ステップがさらに含まれる。チップ反転ステップでは、前記チップ本体1を上下に180°反転するように制御する。このとき、前記反応チャンバー11内の微小液滴4は、前記接続ポート111に近い側から、前記接続ポート111から離れる側に反転する。このとき、前記微小液滴4に対応する反応チャンバー11の位置は、反応チャンバー11の反応領域である。前記反応領域は前記加熱モジュールと接触して温度を調節して、温度調節反応を実現する。
【0036】
以下では、
図1~
図8を参照して、本発明の前記一体型微小液滴チップを採用する動作プロセスをさらに説明する。
まず、30マイクロリットルのシステム(即ち、前述の試料)を試料添加チャンバー12に加え、30マイクロリットルのPCRシステムは、10マイクロリットルのBio-Rad社のddPCR Supermix for Probes、5マイクロリットルのGJB2遺伝子上流と下流プライマー試薬、及び1ngのゲノムDNAを含有する5マイクロリットルのテンプレートを含む。チップ全体は
図1に示される。1枚のチップは、8つの平行し独立した液滴チップ構造を含み、それぞれの構造は、試料添加チャンバー12、油液ポート31、気液ポート32、微小液滴生成構造、反応チャンバー11を含む。
【0037】
次に、密封カバー122を密閉又は接着して、試料添加チャンバー12を密封する。試料添加チャンバー12には、濾過膜又は小径の排気孔を有することが好ましい。
【0038】
その後、液滴生成に必要な生成油Bio-Rad Generation Oilを油液ポート31に供給する。生成油液には、液滴を安定化できる界面活性剤が含まれている。気液ポート32に負圧を供給する。圧力の大きさは-200mBarである。その結果、それと試料添加チャンバー12及び油液ポート31との間に圧力差が形成される。試料添加チャンバー12は、微小液滴生成構造内の第2管路23に接続され、油液ポート31は、微小液滴生成構造内の油液管路21に接続され、第1管路22及び気液ポート32はいずれも反応チャンバー11に接続され、ここで、第1管路22は接続ポート111に接続され、気液ポート32は気液管路112に接続される。微小液滴生成構造の各部分は
図2に示される。油液管路21は2つの分岐を有する。2つの分岐は、それぞれ第2管路23と第1管路22の両側に位置し、いずれも油液ポート31に接続される。第1管路22は、微小液滴観測領域34を含んでもよい。観測領域管路は広くなり、液滴の進入後の流速が遅くなり、外部カメラによる画像化が容易になり、液滴の形態を記録し、液滴生成プロセスの状態が正常であるか否かを判断することができる。
【0039】
圧力差の駆動により、反応系は第2管路23に進入し、生成油は油液管路21に進入し、十字構造(即ち、前述の十字交差口)で合流し、流体せん断力と表面張力の作用により、サイズが均一な油中水型微小液滴4を形成する。十字での管路は、深さが約70マイクロメートル、幅が80マイクロメートル、液滴のサイズが約100マイクロメートルである。微小液滴4は第1管路22に進入し、且つ微小液滴観測領域34に進入した後に流速が遅くなり、密な液滴コミュニティを形成し、カメラによる画像化および記録が容易になる。液滴生成プロセスの原理図は
図4に示される。
【0040】
生成した液滴は、第1管路22を流れた後、反応チャンバー11の接続ポート111に達する。接続ポート111の底部にはスロープ構造(即ち、前述のラッパ口)があり、スロープの底部は第1管路22と連通する。液滴生成プロセスが終了するとき、チップポートに加えられた圧力差が除去される。このとき、液滴は依然として気液管路112の下方に位置しているはずである。
【0041】
その後、
図5に示すように、チップを上下に反転して、液滴を接続ポート111から反応領域に(即ち、前記接続ポート111から遠ざけて)移送する。反応領域の構造は、外部システム(即ち、加熱モジュール)が左右両側から反応領域を加熱及び冷却するように、例えば奥行きが深く、厚みが薄いフラットな設計など、熱伝達効率が高い設計を採用する必要がある。これにより、温度伝導距離が短いだけでなく、接触面積が広いことを保証することで、効率的な熱伝達を実現する。本実施例では、温度サイクルプロセスは、95℃で10分間の予変性、次いで40回の温度サイクルを行い、各サイクルは、95℃で5秒間、60℃で15秒間、最後に4℃で保温する。蒸発を低減するために、反応チャンバー11内に30マイクロリットルの低密度揮発防止剤を事前に置くことができる。
【0042】
温度サイクルが終了した後、それに応じて、テンプレートを含む液滴内の増幅反応も完了し、液滴蛍光検出工程に進む必要がある。気液ポート32に検出油(即ち、上記の検出押し油5)を注入し、反応チャンバー11を連続的に満たす。この過程において、液滴の液面は上昇を続け、そして接続ポート111のスロープによりガイドされて、第1管路22に進入する。この過程は
図7に示される。
【0043】
液滴が第1管路22内の観測領域を通過するとき、増幅反応後の液滴の状態を評価するために、カメラを利用して液滴の明視野イメージングを実行することもできる。同時に、油液ポート31に検出油を注入する。検出油は、油液管路21を経由して、十字管路で液滴列と合流し、緊密に配列された液滴を、適切な間隔を持った液滴列に分離する。液滴列は、
図8に示すように、第2管路23に位置する蛍光検出領域33を順に通過する。蛍光検出領域33に対応する位置は、外部システムの蛍光検出焦点である。外部システムは、波長488nm及び532nmのレーザーやLED狭帯域光などの励起光を検出焦点に集束させる。液滴が検出焦点を順に通過すると、液滴内で励起された蛍光も外部システムの収集光路によって受信され、それによって各液滴の蛍光情報が取得される。液滴の蛍光情報を用いて信号閾値を定め、液滴の陰性と陽性を区別し、ポアソン分布モデルを用いて、試料中の目標分子のコピー数を計算する。
【0044】
最終的に蛍光検出が完了した液滴は試料添加チャンバー12に進入する。試料添加チャンバー12は密封カバー122によって密封されたため、チップ外部の環境と接触することがなく、アエロゾール汚染の可能性が排除され、完全に密閉されたデジタルPCRプロセスが実現される。
【0045】
この実施例では、微小液滴生成構造に対して時分割多重化を実行する方法が画期的に採用される。液滴生成時、微小液滴生成構造を利用して液滴生成を実現する。液滴蛍光検出時、微小液滴生成構造は液滴列の分離を完了し、液滴蛍光信号の検出を保証する。この時分割多重化を採用する方法は、類流式のデジタルPCR技術ルートで初めて、1枚のチップで液滴の生成、増幅、検出を完了する、完全に統合され完全に密閉されたデジタルPCRプロセスを実現し、デジタルPCR分野の重要な技術的進歩である。
【0046】
別の実施例では、液滴が第1管路22内の観測領域を通過するとき、カメラを利用して液滴の蛍光イメージングを実行し、イメージング写真を分析して写真内の各液滴の蛍光強度情報を取得し、液滴蛍光信号の検出を完了する。
【0047】
当業者であれば、矛盾がない限り、上述の有利な方式を自由に組み合わせたり、重ね合わせたりできることを容易に理解することができる。
【0048】
上述は本発明の好適な実施形態に過ぎず、本発明はこれに限定されるものでなく、本発明の精神及び原則内に属する限り、行われる全ての修正、同等の置き換え、改善などは、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである。以上は本発明の好ましい実施形態にすぎず、本発明の技術原理から逸脱することなく、幾つかの改良及び修飾を行うことができ、これらの改良及び変形も発明の保護範囲に含まれることは、当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0049】
1、チップ本体;11、反応チャンバー;111、接続ポート;112、気液管路;12、試料添加チャンバー;121、開口チャンバー;122、密封カバー;21、油液管路;22、第1管路;23、第2管路;31、油液ポート;32、気液ポート;33、蛍光検出領域;34、微小液滴観測領域;4、微小液滴;5、検出押し油。
【国際調査報告】