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特表2024-542125アミロイド病変に対する治療アプローチとしてのAPP発現のCRISPR媒介性操作
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】アミロイド病変に対する治療アプローチとしてのAPP発現のCRISPR媒介性操作
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20241106BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20241106BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20241106BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
A61K45/00
C12N15/09 110
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/113 Z
A61K48/00
A61P25/28
A61P43/00 111
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K35/76
A61P25/00
A61P9/00
C12N15/864 100Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526778
(86)(22)【出願日】2022-10-28
(85)【翻訳文提出日】2024-06-25
(86)【国際出願番号】 CN2022128123
(87)【国際公開番号】W WO2023072225
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】63/272,689
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/334,650
(32)【優先日】2022-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】598082547
【氏名又は名称】ザ・ホンコン・ユニバーシティー・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】The Hong Kong University of Science & Technology
(71)【出願人】
【識別番号】524163579
【氏名又は名称】ホンコン センター フォー ニュロウディジェナラティヴ ディジージズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イップ、ナンシー ユク ユイ
(72)【発明者】
【氏名】フー、キット ユイ
(72)【発明者】
【氏名】トアン、ヤンヤン
(72)【発明者】
【氏名】イェー、タオ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA52
4C084MA59
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA021
4C084ZA161
4C084ZA361
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA17
4C086MA23
4C086MA28
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA59
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA16
4C086ZC41
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA52
4C087MA59
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA16
4C087ZC41
(57)【要約】
アルツハイマー病などのアミロイド病変の治療又は予防のための組成物及び方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロイド病変の治療又はアミロイド病変のリスク低減を必要とする個人においてアミロイド病変を治療する又はアミロイド病変のリスクを低減させるための方法であって、
前記個人に、アミロイド前駆体タンパク質(APP)ゲノム配列を破壊する組成物の有効量を投与するステップを含む、
前記方法。
【請求項2】
前記投与するステップの前に、前記個人のゲノムの少なくとも一部分のシーケンシングを行うことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記個人のAPPゲノム配列が少なくとも1つの変異を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの変異が、スウェーデン型変異(K670N/M671L)、フロリダ型変異(I716V)、ロンドン型変異(V717I)、又はこれらの任意の組合せを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの変異がスウェーデン型変異(K670N/M671L)を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アミロイド病変が、アルツハイマー病(AD)、脳アミロイド血管症、又はダウン症である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ADが、家族性AD又は弧発性ADである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記個人がADと診断されているか、又は前記個人がまだADと診断されていないがADの既知のリスク因子を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が、前記APPゲノム配列を標的とする、siRNA、マイクロRNA、miniRNA、lncRNA、又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、
(1)前記APPゲノム配列内の位置を標的とするスモールガイドRNA(sgRNA)によってガイドされるエンドヌクレアーゼ;及び
(2)前記sgRNA
をコードする1つ又は複数のベクターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記sgRNAが、前記APPゲノム配列内の、前記少なくとも1つの変異を含む領域又はβ-セクレターゼ切断部位若しくはγ-セクレターゼ切断部位を含む領域を標的とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が、Cas9ヌクレアーゼ(好ましくは化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来Cas9ヌクレアーゼ(SpCas9))と1つのsgRNAとをコードする1つのベクターを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記1つ又は複数のベクターが、1つのウイルスベクター、好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項10又は請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、若しくは頭蓋内注射によって、又は経口投与若しくは経鼻投与によって投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が、溶液、懸濁液、粉末、ペースト、錠剤、又はカプセル剤の形態で投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
アミロイド病変の治療又はアミロイド病変のリスク低減を必要とする個人においてアミロイド病変を治療する又はアミロイド病変のリスクを低減させるためのキットであって、
APPゲノム配列を破壊する組成物を収容する容器を含む、
前記キット。
【請求項17】
前記組成物が、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、若しくは頭蓋内注射のため、又は経口投与若しくは経鼻投与のために製剤化されている、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記組成物が、前記APPゲノム配列を標的とする、siRNA、マイクロRNA、miniRNA、lncRNA、又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、請求項16に記載のキット。
【請求項19】
前記組成物が、
(1)前記APPゲノム配列内の1つの位置を標的とするスモールガイドRNA(sgRNA)によってガイドされるエンドヌクレアーゼ;及び
(2)前記sgRNA
をコードする1つ又は複数のベクターを含む、請求項16に記載のキット。
【請求項20】
前記sgRNAが、前記APPゲノム配列内の、前記少なくとも1つの変異を含む領域又はβ-セクレターゼ切断部位若しくはγ-セクレターゼ切断部位を含む領域を標的とする、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記組成物が、Cas9ヌクレアーゼ(好ましくは、化膿レンサ球菌由来Cas9ヌクレアーゼ(SpCas9))と1つのsgRNAとをコードする1つのベクターを含む、請求項16に記載のキット。
【請求項22】
前記1つ又は複数のベクターが、1つ又は複数のウイルスベクター、好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項19~請求項21のいずれか一項に記載のキット。
【請求項23】
前記組成物が、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、若しくは頭蓋内注射によって、又は経口投与若しくは経鼻投与によって投与される、請求項16に記載のキット。
【請求項24】
前記個人のゲノムの少なくとも一部分のシーケンシングを行うための薬剤を収容する第2の容器をさらに含む、請求項16に記載のキット。
【請求項25】
前記組成物の投与のための取扱説明をさらに含む、請求項16に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年10月28日に出願された米国特許仮出願第63/272,689号及び2022年4月25日に出願された米国特許仮出願第63/334,650号の優先権を主張するものであり、これらの内容は、その全体が参照によりあらゆる目的のために本明細書に取り込まれる。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患及び神経炎症性障害などの脳疾患は、人口の多くが罹患する破壊的な病状である。そのような疾患の多くは不治で、高度に衰弱性であり、多くの場合、脳の構造及び機能の経時的な進行性の低下をもたらす。また、高齢者はこれらの病状を発症するリスクが高いため、世界的な高齢化人口の増大により疾患有病率も急速に高まっている。現在、多くの神経変性疾患及び神経炎症性障害は、そのような疾患の病理生理学の理解が限られているため診断するのが困難である。一方、現在行なわれている治療は有効でなく、市場の需要、すなわち、ますます増大する高齢化人口により年々有意に高まっている需要は満たされていない。例えば、アルツハイマー病(AD)は、学習及び記憶の緩徐だが進行性の低下が顕著であり、高齢者の死亡の主な原因である。ADの有病率の高まりが、より良好でより早期の診断のための必要性及び需要を後押ししている。国際アルツハイマー病協会によると、この疾患は現在、全世界で4680万人が罹患しているが、症例数は次の30年間で3倍になると予想されている。高齢人口の増加が最も速い国の1つは中国である。人口予測に基づくと、2030年までに4人に1人が60歳を超え、ADを発症するリスクがある人がかなりの割合となる。実際、中国のAD症例数は、1990年から2010年までで370万人から920万人に倍増し、この国では2050年までに2250万例になると予想されている。香港の人口も急速に高齢化している。65歳以上の高齢者が2025年までに人口の24%を、2050年までに人口の39.3%を構成すると推計されている。AD症例数は、2039年までに332,688例まで上昇すると予想されている。そのため、この壊滅的な病状に苦しんでいるAD患者を有効に治療するための新たな方法を開発する早急な必要性が存在している。本発明は、この疾患の有効な治療に有用であり潜在的に治癒をもたらす新規な組成物及び方法を開示することにより、この必要性及び他の関連する必要性を満たすものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
第1の態様において、本発明により、個人のアミロイド病変(アルツハイマー病など)を治療するため、又は個人において後に病変が発症するリスクを低減させるための方法を提供する。本願方法は、個人に、APP遺伝子コード配列を含むゲノム配列又は転写物を破壊する組成物の有効量を投与するステップを含む。
【0004】
いくつかの実施形態では、本願方法は、投与するステップの前に、個人のゲノムの少なくとも一部分のシーケンシングを行うことを含む。いくつかの実施形態では、個人のAPPゲノム配列は、少なくとも1つの変異、例えば、スウェーデン型変異(K670N/M671L)、フロリダ型変異(I716V)、ロンドン型変異(V717I)、又はこれらの任意の組合せ、並びにアミロイドプラークの形成に関連する変異又は対立遺伝子バリアントを有する他の遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、変異はスウェーデン型変異(K670N/M671L)を含む。いくつかの実施形態では、アミロイド病変は、アルツハイマー病(AD、家族性AD及び弧発性ADの両方を含む)、脳アミロイド血管症、又はダウン症である。いくつかの実施形態では、個人はADと診断されているが、他の実施形態では、個人はまだADと診断されていないがADの既知のリスク因子を有する、例えば、ADのリスクを高めることがわかっているある特定の遺伝子変異を有するか、又はAD、特に早期発症型AD(例えば、60歳若しくは70歳より前)の家族歴を有する。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、APPゲノム配列を標的とする、siRNA、マイクロRNA、miniRNA、lncRNA、又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む組成物を用いて実施される。いくつかの実施形態において、前記方法では、(1)APPゲノム配列内の位置を標的とするスモールガイドRNA(sgRNA)によってガイドされるエンドヌクレアーゼ;及び(2)前記sgRNA、をコードする1つ又は複数のベクターを含むCRISPR組成物が利用される。いくつかの実施形態では、sgRNAは、APPゲノム配列内の、既知の変異(例えば、スウェーデン型変異)を含む領域又はβ-セクレターゼ切断部位若しくはγ-セクレターゼ切断部位を含む領域を標的とし、例えば、標的とされるエンドヌクレアーゼ切断部位は、前記変異又はセクレターゼ切断部位から上流又は下流の2ヌクレオチド以内、3ヌクレオチド以内、5ヌクレオチド以内、7ヌクレオチド以内、8ヌクレオチド以内、9ヌクレオチド以内、10ヌクレオチド以内、11ヌクレオチド以内、12ヌクレオチド以内、15ヌクレオチド以内に存在する。いくつかの実施形態では、組成物は、Cas9ヌクレアーゼ(例えば、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来Cas9ヌクレアーゼ(SpCas9))と1つのsgRNAとをコードする1つのベクターを含む。いくつかの実施形態では、Cas9とsgRNAは、当技術分野で知られているか又は本明細書において開示される神経細胞特異的プロモーターなどの組織特異的プロモーターに作動可能に連結されており、前記組織特異的プロモーターの転写制御下にある。いくつかの実施形態では、1つ又は複数のベクターの各々は、1つのウイルスベクター、好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。いくつかの実施形態では、組成物は、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、若しくは頭蓋内注射によって、又は経口投与若しくは経鼻投与によって投与される。いくつかの実施形態では、組成物は、溶液、懸濁液、粉末、ペースト、錠剤、又はカプセル剤の形態で投与される。
【0005】
第2の態様において、本発明は、APPPゲノム配列を破壊する有効量の1種又は複数種の薬剤、及び1種又は複数種の生理学的に許容可能な非薬効成分(excipient)を含む組成物を提供する。
【0006】
いくつかの実施形態では、組成物は、APPゲノム配列を標的とする、siRNA、マイクロRNA、miniRNA、lncRNA、又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態において、前記方法では、(1)APPゲノム配列内の位置を標的とするスモールガイドRNA(sgRNA)によってガイドされるエンドヌクレアーゼ;及び(2)前記sgRNA、をコードする1つ又は複数のベクターを含むCRISPR組成物が利用される。いくつかの実施形態では、sgRNAは、APPゲノム配列内の、既知の変異(例えば、スウェーデン型変異)を含む領域又はβ-セクレターゼ切断部位若しくはγ-セクレターゼ切断部位を含む領域を標的とし、例えば、標的とされるエンドヌクレアーゼ切断部位は、前記変異又はセクレターゼ切断部位から上流又は下流の2ヌクレオチド以内、3ヌクレオチド以内、5ヌクレオチド以内、7ヌクレオチド以内、8ヌクレオチド以内、9ヌクレオチド以内、10ヌクレオチド以内、11ヌクレオチド以内、12ヌクレオチド以内、15ヌクレオチド以内に存在する。いくつかの実施形態では、組成物は、Cas9ヌクレアーゼ(例えば、化膿レンサ球菌由来Cas9ヌクレアーゼ(SpCas9))と1つのsgRNAとをコードする1つのベクターを含む。いくつかの実施形態では、Cas9とsgRNAは、当技術分野で知られているか又は本明細書において開示される神経細胞特異的プロモーターなどの組織特異的プロモーターに作動可能に連結されており、前記組織特異的プロモーターの転写制御下にある。いくつかの実施形態では、1つ又は複数のベクターの各々は、1つのウイルスベクター、好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。いくつかの実施形態では、組成物は、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、若しくは頭蓋内注射によって、又は経口投与若しくは経鼻投与によって投与される。いくつかの実施形態では、組成物は、溶液、懸濁液、粉末、ペースト、錠剤、又はカプセル剤の形態で投与される。
【0007】
第3の態様において、本発明は、個人のアミロイド病変(アルツハイマー病など)を治療する又は個人において後に前記疾患/病状が発症するリスクを低減させるためのキットを提供する。前記キットは、APPゲノム配列を破壊する組成物を収容する第1の容器を含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、組成物は、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、若しくは頭蓋内注射のため、又は経口投与若しくは経鼻投与のために製剤化されている。いくつかの実施形態では、組成物は、APPゲノム配列を標的とする、siRNA、マイクロRNA、miniRNA、lncRNA、又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、組成物は、(1)スモールガイドRNA(sgRNA)によってガイドされるエンドヌクレアーゼをコードする1つ又は複数のベクター、及び(2)APPゲノム配列内の1つ(又は2つの位置)、例えば、APPゲノム配列内の、事前に選択された変異(例えば、スウェーデン型変異)又はβ-セクレターゼ切断部位若しくはγ-セクレターゼ切断部位に極めて近接しており、対象のエンドヌクレアーゼ切断部位が前記変異又はセクレターゼ切断部位から上流又は下流の2ヌクレオチド以内、3ヌクレオチド以内、5ヌクレオチド以内、7ヌクレオチド以内、8ヌクレオチド以内、9ヌクレオチド以内、10ヌクレオチド以内、11ヌクレオチド以内、12ヌクレオチド以内、15ヌクレオチド以内に存在するような、小領域内の1つ(又は2つの位置)を標的とする1つのsgRNA(又は2つのsgRNA)を含む。いくつかの実施形態では、キットは、Cas9ヌクレアーゼ(例えば、化膿レンサ球菌由来Cas9ヌクレアーゼ(SpCas9))と1つ又は複数のsgRNAとをコードする1つの単独のベクターを含む組成物を含む。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼとsgRNA(群)は2つの別々のベクターにコードされ得る。いくつかの実施形態では、ベクターは、アデノウイルス又はアデノ随伴ウイルス(AAV)をベースにして構築されたものなどのウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、組成物は、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、若しくは頭蓋内注射によって、又は経口投与若しくは経鼻投与によって投与される。いくつかの実施形態では、キットは、個人のゲノムの少なくとも一部分(例えば、APP遺伝子、並びにプレセニリン1(PS1)及びプレセニリン2(PS2)、及びAPOE-ε4などの、アミロイド病原性の一因であることが知られている変異又はバリアントを有し得る他の遺伝子)のシーケンシングを行うための薬剤を収容する第2の容器をさらに含む。所望により、キットはまた、組成物の投与のための取扱説明も含む。
【0009】
本発明のこの態様に関して、(1)アミロイド病変(例えば、アルツハイマー病)を治療するための医薬の製造のための;及び/又は(2)アミロイド病変(例えば、アルツハイマー病)を治療するための医薬が含まれているキットの製造のための、APPゲノム配列を破壊する1種又は複数種の薬剤の使用が、本明細書における開示によりさらに提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】変異APPswe対立遺伝子を破壊するためのCRISPR/Cas9媒介性ゲノム編集のデザイン及び検証を示す図である。a,APPスウェーデン型(APPswe)二塩基変異(KM670/671NL)はβ-セクレターゼ部位に近接して存在している。APPswe変異を標的とするための2つのシングルガイドRNA(sgRNA)であるSW1及びSW2を、黄色ブドウ球菌Cas9(SaCas9)を用いてデザインした。PAM,プロトスペーサー隣接モチーフ。矢頭はSaCas9切断部位を示す。b,インビトロでのCRISPR/Cas9システムの編集効率を解析するために使用したEGxxFPシステムの模式図。APPWT配列及びAPPswe配列を別々にEGFP断片間にオーバーラップアームとともに挿入した。SaCas9(青)編集により相同組換え修復(HDR)媒介性DNA修復及びEGFP発現カセットの再構成がもたらされ、GFPシグナルが生成された。c,EGxxFPシステムを用いた対立遺伝子特異的編集のインビトロ検証。Cas9-SW1及びCas9-SW2を、それぞれAPPWT又はAPPsweを含むEGxxFPレポータープラスミド(EGxxFP-APPWT又はEGxxFP-APPswe)を用いて、HEK293T細胞に同時遺伝子導入した。スケールバー:100μm。d,海馬内注射のための単一のアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターEFS::Cas9-SW1を構築し、HAタグ付きSaCas9及びsgRNA SW1を発現させた。EFS,伸長因子1-アルファショートプロモーター;pA,ポリ(A)テール;U6,ヒトU6プロモーター;ITR,末端逆位反復配列。e,5XFADマウスのウイルス形質導入海馬におけるAAV媒介性Cas9-SW1編集のT7エンドヌクレアーゼIアッセイ。矢頭はCRISPR/Cas9編集DNA断片を示す。Con,5XFADマウスの非形質導入海馬領域。f,挿入/欠失(indel)変異の割合。CRISPR/Cas9編集によりindel変異の形成がもたらされた。indelの割合は編集効率を示す。値は平均±SEMである(n=3匹のマウス/群;***P<0.001;独立両側t検定)。
【0011】
図2】海馬内AAV媒介性Cas9-SW1編集により5XFADマウスにおいてアミロイドプラーク負荷が減少することを示す図である。3か月齢の5XFADマウスにおけるAAV媒介性Cas9-SW1の海馬内注射によりアミロイドベータ(Aβ)のレベル及び沈着が低減された。a~c,Cas9-SW1の海馬内注射後の6か月齢の5XFADマウスの背側海馬ホモジネート中の可溶性Aβ及び不溶性Aβの含有量。a,ローディングコントロールとしてGAPDHを用いた可溶性Aβ及び不溶性Aβの代表的なウエスタンブロット(n=3匹のマウス/群)。b,c,ELISAによる可溶性及び不溶性のAβx-40及びAβx-42の定量分析。値は平均±SEMである(n=5匹のマウス/群;P<0.05、**P<0.01、***P<0.001;独立両側t検定)。d~k,アミロイドプラーク沈着は、AAV媒介性Cas9-SW1を発現する5XFADマウスの海馬領域において減少した。Aβ(4G8;緑)、HA(赤)、及び核(青)の免疫組織化学。6か月(d,e)及び9か月(h,i)の5XFADマウスの別個の海馬領域(すなわち、アンモン角及び海馬台)の代表的な画像。HAタグの発現はCas9発現を示す。スケールバー:50μm。アンモン角(f,j)及び海馬台(g,k)におけるAβ陽性領域の定量。値は平均±SEMである(n=4匹のマウス/群;P<0.05、**P<0.01;対応両側t検定)。
【0012】
図3】海馬内AAV媒介性Cas9-SW1編集により5XFADマウスにおいてグリオーシスが減少することを示す図である。a,b,AAV媒介性Cas9-SW1編集により5XFADマウスの海馬におけるミクログリオーシスが減少した。6か月齢の5XFADマウスにおけるIba1(赤)、アミロイドベータ(Aβ、4G8;緑)、及び核(青)の免疫組織化学。a,海馬台の代表的な画像。スケールバー:50μm(左)、10μm(右)。b,Iba1陽性細胞の定量。値は平均±SEMである(n=3匹のマウス/群;P<0.05;対応両側t検定)。c~e,AAV媒介性Cas9-SW1編集により5XFADマウスの海馬における星状細胞の活性化が低減された。6か月齢の5XFADマウスのGFAP(赤)、Aβ(4G8;緑)、及び核(青)の免疫組織化学。c,海馬台の代表的な画像。スケールバー:50μm(左)、10μm(右)。d,e,5XFADマウスにおけるAAV媒介性Cas9-SW1編集により星状細胞の数は変化しなかったが星状細胞の活性化は低減された。d,GFAP陽性細胞の定量。値は平均±SEMである(n=4匹のマウス/群;対応両側t検定)。e,GFAP陽性領域の割合。値は平均±SEMである(n=4匹のマウス/群;P<0.05;対応両側t検定)。
【0013】
図4】海馬内AAV媒介性Cas9-SW1編集により5XFADマウスにおいて神経機能が改善することを示す図である。a,b,AAV媒介性Cas9-SW1編集により、6か月齢の5XFADマウスにおいて長期増強(LTP)の低減が逆転された。海馬CA1領域におけるLTPを4連発のシータバースト刺激によって誘発した。WT,野生型。a,ベースラインに対して正規化された野の興奮性シナプス後電位(fEPSP;平均±SEM)の傾きの平均。(挿入図)LTP誘導前の5分間(1,灰色)及びLTP誘導後の55分間(2,黒)に記録されたfEPSPの例。b,LTP誘導後、最後の10分間の記録時のfEPSPの平均の傾きの定量。値は平均±SEMである(WT Con n=6匹のマウスからの9つの切片;5XFAD Con n=4匹のマウスからの9つの切片;5XFAD SW1 n=5匹のマウスからの9つの切片;**P<0.01、***P<0.001;独立両側t検定)。c~e,AAV媒介性Cas9-SW1注射により、9か月齢の5XFADマウスの海馬台における興奮性シナプス(PSD-95[緑]及びシナプトフィジン[赤]の染色)の減少が低減された。c,代表的な画像。スケールバー:5μm。d,e,海馬台におけるPSD-95の斑点(puncta)、シナプトフィジンの斑点、及びシナプトフィジン-PSD-95共局在斑点の定量。値は平均±SEMである(n=4匹のマウス/群;P<0.05;対応両側t検定)。f~i,AAV媒介性Cas9-SW1編集により5XFADマウスの海馬台において神経突起変性及びニューロン脱落が減少した。アミロイドベータ(Aβ、4G8;緑)、核(青)、及び6か月齢の5XFADマウスではLAMP1(神経突起変性のマーカー;赤)(f)又は9か月齢の5XFADマウスではNeuN(赤)(g)の共染色。スケールバー:50μm(f)、200μm(g)。h,LAMP1陽性変性神経突起の定量。値は平均±SEMである(n=3匹のマウス/群;対応両側t検定)。i,NeuN陽性細胞密度の定量。値は平均±SEMである(n=4匹のマウス/群;P<0.05;対応両側t検定)。
【0014】
図5】Cas9-SW1の海馬内AAV媒介性送達によりAPP/PS1マウスにおいてアルツハイマー病関連病変が減少することを示す図である。9か月齢のAPP/PS1マウスにおけるAAV媒介性Cas9-SW1の海馬内注射によりアミロイドベータ(Aβ)沈着及びグリオーシスが減少した。a~d,アミロイドプラーク沈着は、AAV媒介性Cas9-SW1を発現するAPP/PS1マウスの海馬領域において減少した。a,b,15か月齢のAPP/PS1マウスにおけるAβ(4G8;緑)、HA(赤)、及び核(青)の免疫組織化学。スケールバー:50μm。アンモン角(c)及び海馬台(d)におけるAβ陽性プラーク領域の定量。値は平均±SEMである(n=4匹のマウス/群;P<0.05、**P<0.01;対応両側t検定)。e~h,AAV媒介性Cas9-SW1編集によりAPP/PS1マウスの海馬台においてグリオーシスが減少した。e,ミクログリアマーカーIba1(赤)、Aβ(4G8;緑)、及び核(青)の免疫組織化学。スケールバー:50μm(左)、10μm(右)。f,Iba1陽性細胞の定量。値は平均±SEMである(n=4匹のマウス/群;P<0.05;対応両側t検定)。g,APP/PS1マウスにおける星状細胞マーカーGFAP(赤)、Aβ(4G8;緑)、及び核(青)の免疫組織化学。スケールバー:50μm(左)、10μm(右)。h,GFAP陽性細胞の定量。値は平均±SEMである(n=4匹のマウス/群;P<0.05;対応両側t検定)。i,GFAP陽性領域の割合。値は平均±SEMである(n=4匹のマウス/群;P<0.05;対応両側t検定)。
【0015】
図6】AAV-PHP.eB媒介性Cas9-SW1の全身送達により5XFADマウスにおいてアミロイドプラーク負荷が全域的に減少することを示す図である。a,脳全域での(brain-wide)APPswe編集の図。SW1-Syn::HAタグ付きSaCas9及びsgRNA SW1を発現させるためのCas9-mWPREと表示する全身投与のための単一のAAVベクターを、AAV-PHP.eBカプシドを用いてデザインした。ITR,末端逆位反復配列;U6,ヒトU6プロモーター;Syn,ヒトシナプシン1プロモーター;mWPRE,切断型ウッドチャック肝炎ウイルス(WHP)転写後調節エレメント(WPRE);pA,ポリ(A)テール。b~d,3か月齢の5XFADマウスへのAAV-PHP.eB媒介性Cas9-SW1の全身注射により脳のアミロイドベータ(Aβ)陽性プラーク領域が全域的に減少した。b,AAV-PHP.eB:SW1-Syn::Cas9-mWPREを注射後の6か月齢の5XFADマウスにおけるアミロイドプラーク(すなわち、4G8)の染色の代表的な画像。皮質(c)及び海馬(d)におけるアミロイドプラーク領域の定量。値は平均±SEMである(n=4匹のマウス/群;P<0.05、**P<0.01;独立両側t検定)。e~l,X34標識アミロイドプラーク負荷の減少は脳内のCas9発現と関連していた。e,f,i,j,6か月齢の5XFADマウスのアンモン角(e)、海馬台(f)、皮質(i)、及び延髄(j)におけるX34(緑)、HA(赤)、及び核(青)の免疫組織化学。HAタグの発現はCas9発現を示す。スケールバー:50μm。g,h,k,l,X34標識されたプラーク領域の定量。値は平均±SEMである(n=4匹のマウス/群;P<0.05、**P<0.01;独立両側t検定)。
【0016】
図7】AAV-PHP.eB媒介性Cas9-SW1の全身送達により5XFADマウスにおいてミクログリオーシス及び神経突起変性が減少し、認知能力が改善することを示す図である。a,b,3か月齢の5XFADマウスにおけるAAV-PHP.eB媒介性Cas9-SW1の全身送達により海馬台におけるミクログリオーシスが減少した。a,6か月齢の5XFADマウスにおけるIba1(赤)、アミロイドベータ(Aβ、4G8;緑)、及び核(青)の免疫組織化学。スケールバー:50μm(左)、10μm(右)。b,Iba1陽性ミクログリアの定量。値は平均±SEMである(n=4匹のマウス/群;P<0.05;独立両側t検定)。c,d,AAV-PHP.eB媒介性Cas9-SW1編集により5XFADマウスにおいて神経突起変性が減少した。c,6か月齢の5XFADマウスの海馬台におけるLAMP1(神経突起変性のマーカー;赤)、Aβ(4G8;緑)、及び核(青)の染色を示す代表的な画像。スケールバー:10μm。d,LAMP1陽性変性神経突起の定量。値は平均±SEMである(n=4匹のマウス/群;**P<0.01;独立両側t検定)。e~g,AAV-PHP.eB媒介性Cas9-SW1の全身送達により5XFADマウスの認知能力が改善された。e,AAV-PHP.eB媒介性Cas9-SW1の全身送達によりオープンフィールド(OF)探索試験での馴化が改善された。訓練初日の移動距離に対する移動距離の変化の割合。値は平均±SEMである(n=12匹のマウス/群;P<0.05、**P<0.01;二元配置反復測定ANOVA)。f,AAV-PHP.eB媒介性Cas9-SW1の全身送達により自発的交替Y迷路試験において空間作業記憶が改善された。値は平均±SEMである(n=12匹のマウス/群;P<0.05、**P<0.01;独立両側t検定)。g,AAV-PHP.eB-Cas9-SW1を全身送達すると、5XFADマウスはオープンアームで有意に少ない時間を過ごした。値は平均±SEMである(n=12匹のマウス/群;P<0.05;独立両側t検定)。
【0017】
図8】HEK293T細胞及び5XFADマウスにおける対立遺伝子特異的編集の検証を示す図である。a,b,Cas9-SW1及びCas9-SW2はAPPWTを標的としなかった。a,APPWT対立遺伝子を有するHEK293T細胞におけるCRISPR/Cas9媒介性ゲノム編集のT7エンドヌクレアーゼIミスマッチアッセイ。WT1及びWT2は、それぞれSW1及びSW2のものと同じ遺伝子座のAPPWT対立遺伝子を標的とするシングルガイドRNA(sgRNA)である。b,挿入/欠失(indel)率を標的ディープシーケンシングによって調べた。値は平均±SEMである(n=5連/群;***P<0.001;独立スチューデントt検定)。c,d,Cas9-SW1のオフターゲット解析。c,ヒトゲノムにおける上位5つの予測されたオフターゲット部位の配列。d,HEK293T細胞における上位5つの予測されたオフターゲット部位のT7EIアッセイ。T7EIによる切断バンドがないことは、Cas9-SW1のオフターゲット活性が1%未満であったことを示す。e~g,インビボでのAAV媒介性Cas9-SW1編集の検証。e,標的ディープシーケンシングによって測定されたCas9-SW1注射5XFADマウス脳からの最も豊富に存在する10個のAPPswe配列。変異部位を青色の文字で示す。割合は改変APPswe配列の頻度である。編集事象は“#”で表示される。f,全ゲノムシーケンシングによって検出された体細胞変異の数。同じマウスのウイルス形質導入海馬領域(SW1)及び非形質導入脳領域(Con)を全ゲノムシーケンシングに供し、体細胞変異を検出した。値は平均±SEMである(n=2匹のマウス)。g,潜在的オフターゲット変異の同定のためのワークフロー。
【0018】
図9】5XFADトランスジェニックマウスにおける海馬内AAV媒介性Cas9-SW1編集によりCas9発現脳領域内のアミロイドプラーク沈着が減少することを示す図である。a,b,3か月齢時においてAAV媒介性Cas9-SW1(EFS::SaCas9-SW1)を海馬内注射後の6か月齢又は9か月齢の5XFADマウスにおけるAβ(4G8;緑)、HA(赤)、及び核(青)の免疫組織化学。HA染色はCas9発現を示す。a,対照(Con)及びウイルス注射(SW1)5XFADマウス脳の矢状断切片の代表的な画像。スケールバー:1mm。b,それぞれ6か月齢のマウス及び9か月齢のマウスの海馬、アンモン角(CA)、及び海馬台の代表的な画像。スケールバー:200μm。
【0019】
図10】海馬内AAV媒介性Cas9-SW1編集により5XFADマウスの海馬台においてグリオーシスが減少することを示す図である。a,b,ミクログリア(a)及び星状細胞(b)におけるアミロイドプラーク沈着の免疫組織化学的解析。6か月齢のマウス(ウイルス注入後3か月目)において、それぞれIba1(赤;a)又はGFAP(赤;b)と共にAβ(4G8;緑)及び核(青)を染色。スケールバー:100μm。WT,野生型。
【0020】
図11】海馬内AAV媒介性Cas9-SW1編集により5XFADマウスにおいて神経突起変性が減少することを示す図である。a,b,6か月目(a)及び9か月目(b)の5XFADマウスの海馬台におけるLAMP1(赤)、Aβ(4G8;緑)、及び核(青)の免疫組織化学。スケールバー:200μm。
【0021】
図12】海馬内AAV媒介性Cas9-SW1編集によりAPP/PS1トランスジェニックマウスのCas9発現脳領域内のアミロイドプラーク沈着が減少することを示す図である。a,APP/PS1マウスのウイルス形質導入海馬におけるAAV媒介性Cas9-SW1編集のT7エンドヌクレアーゼIアッセイ。矢頭はCRISPR/Cas9編集されたDNA断片を示す。Con,APP/PS1マウスの非形質導入海馬領域。b,挿入/欠失(indel)変異の割合。値は平均±SEMである(n=4匹のマウス/群;***P<0.001;独立両側t検定)。c,d,15か月齢のAPP/PS1マウス(ウイルス注入後6か月目)におけるAβ(4G8;緑)、HA(赤)、及び核(青)の免疫組織化学。HA染色はCas9発現を示す。c,APP/PS1マウス脳の矢状断切片の代表的な画像。スケールバー:1mm。d,APP/PS1マウス脳の海馬、アンモン角(CA)、及び海馬台の代表的な画像。スケールバー:200μm。
【0022】
図13】中枢神経系における遺伝子導入の向上及びロバストな発現のためのAAVコンストラクトの最適化を示す図である。a,全身送達用の2つのAAVベクターの図解的比較(mWPREエレメントの挿入あり、又はなし)。ITR,末端逆位反復配列;U6,ヒトU6プロモーター;Syn,ヒトシナプシン1プロモーター;mWPRE,切断型ウッドチャック肝炎ウイルス(WHP)転写後調節エレメント(WPRE);pA,ポリ(A)テール。b,HA(緑)の免疫組織化学は、SW1-Syn::SaCas9(-mWPRE)又はSW1-Syn::SaCas9-mWPRE(+mWPRE)を1×1012vg/マウスの用量で注射されたC57マウスにおけるCas9発現を示す。スケールバー:300μm。
【0023】
図14】AAV-PHP.eB媒介性Cas9-SW1の全身送達により5XFADマウスにおいてアミロイドプラーク負荷が全域的に減少することを示す図である。a,5XFADマウスの複数の脳領域におけるAAV-PHP.eB媒介性Cas9-SW1編集のT7エンドヌクレアーゼIアッセイ。矢頭はCRISPR/Cas9編集されたDNA断片を示す。HP,海馬;Sub,海馬台;CA,アンモン角;DG,歯状回;CX、皮質。b,挿入/欠失(indel)変異の割合。CRISPR/Cas9編集によりindel変異の形成がもたらされた。indelの割合は編集効率を示す。値は平均±SEMである(n=3匹のマウス/群)。c,d,Cas9-SW1(SW1-Syn::SaCas9-mWPRE)の全身投与後の6か月齢の5XFADマウスにおけるX34(緑)、HA(赤)、及び核(青)の免疫組織化学。HA染色はCas9発現を示す。c,ウイルス注入後3か月目の5XFADマウス脳の矢状断切片の代表的な画像。スケールバー:1mm。d,5XFADマウス脳の海馬、アンモン角(CA)、海馬台、及び歯状回(DG)の代表的な画像。スケールバー:200μm。
【0024】
図15】AAV-PHP.eB媒介性Cas9-Conの全身送達はWTマウス又は5XFADマウスにおいて有害効果を誘発しないことを示す図である。a~c,AAV-PHP.eB媒介性Cas9-Conの全身送達は野生型(WT)マウスにおいて行動上の有害効果を誘発しなかった。Uninject,未注射。a,AAV-PHP.eB媒介性Cas9-Conの全身送達時、オープンフィールド探索試験においてマウスの歩行運動活動に変化はなかった。値は平均±SEMである(n=12匹のマウス/群;独立両側t検定)。b,AAV-PHP.eB媒介性Cas9-Conの全身送達でオープンフィールド(OF)探索試験において馴化に変化はなかった。訓練初日の移動距離に対する移動距離の変化の割合。値は平均±SEMである(n=12匹のマウス/群;独立両側t検定)。c,AAV-PHP.eB媒介性Cas9-Conの全身送達は自発的交替Y迷路試験において空間作業記憶に影響を及ぼさなかった。値は平均±SEMである(n=12匹のマウス/群;独立両側t検定)。d~f,AAV-PHP.eB媒介性Cas9-Conの全身送達はWTマウスにおいてグリオーシスを誘発しなかった。d,6か月齢のWTマウスにおけるHA(赤、左パネル)、Iba1(赤、中央パネル)、GFAP(赤、右パネル)、及び核(青)の免疫組織化学スケールバー:50μm。e,Iba1陽性細胞の定量。値は平均±SEMである(n=4匹のマウス/群;独立両側t検定)。f,GFAP陽性細胞の定量。値は平均±SEMである(n=4匹のマウス/群)。g,h,Cas9-Con(Con-Syn::SaCas9-mWPRE)の全身投与後の6か月齢の5XFADマウスにおけるX34(緑)、HA(赤)、及び核(青)の免疫組織化学。HAタグの発現はCas9発現を示す。スケールバー:1mm(g)、200μm(h)。i,6か月齢の5XFADマウスの海馬におけるX34標識プラーク領域の定量。値は平均±SEMである(n=3匹のマウス/群;独立両側t検定)。
【0025】
図16】APPのCRISPR標的範囲を示す図である。Cas9-sgRNA複合体はAPPのエクソン14~17における切断部位を特異的に破壊する。図はAlzforumから採用した。3’UTR、3’非翻訳領域;AD,アルツハイマー病;APP,アミロイド前駆体タンパク質;Ex,エクソン。
【0026】
図17】HEK293T細胞におけるAPPの効率的な欠失を示す図である。a,APPWT対立遺伝子を有するHEK293T細胞におけるCRISPR/Cas9媒介性ゲノム編集のT7エンドヌクレアーゼIミスマッチアッセイ。WT1及びWT2は、APPWT対立遺伝子を標的とするシングルガイドRNA(sgRNA)である。SW1及びSW2は、APPスウェーデン型変異を標的とするsgRNAである(sgRNA対照としての役割を果たす;本発明に無関係)。b,挿入/欠失(indel)率を標的ディープシーケンシングによって調べた。値は平均±SEMである(n=5連/群;***P<0.001;独立スチューデントt検定)。APP、アミロイド前駆体タンパク質;Con,対照。
【0027】
図18】β-セクレターゼ部位のCRISPR/Cas9媒介性欠失によりHEK293T細胞においてAPP発現及びAβ産生が低減されることを示す図である。ローディングコントロールとしてβ-アクチンを用いたAPPの代表的なウエスタンブロット。HEK293T細胞に、APP発現コンストラクト及びCas9/gRNAコンストラクトを用いて同時遺伝子導入した。L,分子サイズラダー;con,対照;unt,非形質導入。
【発明を実施するための形態】
【0028】
定義
用語「APP」は、アミロイド前駆体タンパク質又はこのタンパク質をコードする遺伝子を示す。ヒトAPP遺伝子はヒト染色体21q11.2-q21に存在し、本明細書において配列番号:2として示す例示的なアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする。
【0029】
本明細書において使用する場合、用語「アミロイド病変」は、個人の関連組織及び解剖学的部位、例えば、神経系(脳など)、血管壁、及び種々の器官における過剰な量のアミロイドプラークの蓄積によって引き起こされるか、又は悪化する疾患又は病状を示す。「アミロイド病変」の例としては、限定されないが、家族性及び弧発性のアルツハイマー病(AD)、脳アミロイド血管症、ダウン症、並びに種々のアミロイドーシスが挙げられる。
【0030】
用語「核酸」又は「ポリヌクレオチド」は、デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)及びその一本鎖又は二本鎖のいずれかの形態のポリマーを示す。具体的に限定されない限り、この用語は、参照核酸と同様の結合特性を有し、天然に存在するヌクレオチドと同様に代謝される、天然のヌクレオチドの既知の類似体を含む核酸を包含する。特に記載のない限り、具体的な核酸配列は、明示された配列のみならず、保存的に改変されたそのバリアント(例えば、縮重コドン置換体)、対立遺伝子、オーソログ、SNP、及び相補配列もまた黙示的に包含する。具体的には、縮重コドン置換体は、1つ又は複数の選択された(又はすべての)コドンの3番目の位置が混合塩基及び/又はデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することによって得られ得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991);Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985);及びRossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。核酸という用語は、遺伝子、cDNA、及び遺伝子にコードされたmRNAと互換的に使用される。
【0031】
用語「遺伝子」は、ポリペプチド鎖の生成に関与するDNAセグメントを意味する。これには、コード領域の前後の領域(リーダー及びトレーラー)、並びに個々のコードセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)が含まれ得る。
【0032】
用語「アミノ酸」は、天然に存在するアミノ酸及び合成アミノ酸、並びに天然に存在するアミノ酸と同様の機能を果たすアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣物を示す。天然に存在するアミノ酸は、遺伝コードにコードされたもの、並びに後で修飾されたアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、及びO-ホスホセリンである。アミノ酸類似体は、天然に存在するアミノ酸と同じ基本的化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、及びR基に結合しているα炭素を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを示す。そのような類似体は、修飾されたR基を有する(例えば、ノルロイシン)か、又は修飾されたペプチド主鎖を有するが、天然に存在するアミノ酸と同じ基本的化学構造を保持する。「アミノ酸模倣物」は、アミノ酸の一般的な化学構造と異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様の機能を果たす化学物質化合物を示す。
【0033】
非天然のアミノ酸誘導体又は類似体のポリペプチド鎖への部位特異的な組み込みを可能にする種々の方法が当該技術分野において知られており、例えば、WO02/086075を参照のこと。
【0034】
アミノ酸は、本明細書において、一般的に知られた3文字表記、又はIUPAC-IUB生化学命名委員会によって推奨された1文字表記のいずれかで示され得る。ヌクレオチドも同様に、一般的に認知された1文字コードで示され得る。
【0035】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」は、本明細書において、アミノ酸残基のポリマーを示すために互換的に使用される。この3つの用語はすべて、1個又は複数のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工の化学的模倣物であるアミノ酸ポリマー、並びに天然に存在するアミノ酸ポリマー及び天然に存在しないアミノ酸ポリマーに適用される。本明細書において使用する場合、これらの用語は、完全長のタンパク質を含む任意の長さのアミノ酸鎖を包含しており、ここで、アミノ酸残基は共有結合性ペプチド結合によって連結されている。
【0036】
本明細書において使用する場合、「APPゲノム配列を破壊する組成物」は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)をコードするゲノム配列の転写又は翻訳抑制又は消失させることができる1種又は複数種の薬剤を含む任意の組成物を示し、前記抑制又は消失は、APPゲノム配列の少なくとも一部分の直接的な欠失若しくは交換によって(例えば、規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列(CRISPR)システムなどのゲノム編集手法によって)行なわれ得るか、又はAPP発現の低減からそのタンパク質発現の消失に至るまでの結果が最終的に得られるような、低分子の阻害性のDNA若しくはRNA分子又は他の酵素(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA若しくはshRNAなどの低分子の阻害性RNA、及びリボザイムなど)の作用による、前記ゲノム配列から転写されたmRNAの低減若しくは消失によって行なわれ得る。
【0037】
用語「標的とする」とは、阻害性オリゴヌクレオチド又は遺伝子編集システムを用いて負に調節されるゲノム配列との関連において阻害性オリゴヌクレオチド(低分子の阻害性RNA若しくはアンチセンスオリゴヌクレオチドなど)又はsgRNAを説明する状況で使用されている場合、オリゴヌクレオチド又はsgRNAの少なくとも一部分とゲノム配列間に、前記sgRNA又はオリゴヌクレオチドと前記ゲノム配列又はそのmRNA転写物間の特異的ハイブリダイゼーションが可能となり、それにより続いて、所定の位置での(例えば、前記APPゲノム配列内の事前に選択された変異又はβ-セクレターゼ切断部位若しくはγ-セクレターゼ切断部位付近の位置、例えば、前記変異又はβ-セクレターゼ切断部位若しくはγ-セクレターゼ切断部位から上流又は下流の3ヌクレオチド以内、5ヌクレオチド以内、7ヌクレオチド以内、8ヌクレオチド以内、10ヌクレオチド以内、12ヌクレオチド以内、15ヌクレオチド以内、又は20ヌクレオチド以内の位置での)前記ゲノム配列の切断、或いはそのmRNA転写物の破壊がもたらされるような、ワトソン・クリック塩基対合原理に基づいた十分な配列相補性、例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、又はそれより高い割合のヌクレオチド配列相補性があることを示す。
【0038】
用語「組換え」とは、例えば、細胞、又は核酸、タンパク質、又はベクターに関して使用する場合、細胞、核酸、タンパク質、又はベクターが、異種核酸若しくは異種タンパク質の導入又は天然状態の核酸若しくはタンパク質の変化によって改変されていること、或いは細胞が、そのように改変された細胞に由来することを示す。したがって、例えば、組換え細胞は、この細胞の天然状態の(非組換え)形態にはみられない遺伝子を発現するか、又は本来は異常発現されるか、低発現であるか、若しくは全く発現されない天然状態の遺伝子を発現する。
【0039】
「プロモーター」は、ポリヌクレオチド配列の転写を指示する一連の核酸制御配列と定義される。本明細書において使用する場合、プロモーターは、ポリメラーゼII型のプロモーターの場合のTATAエレメントなどの、転写開始部位付近に必要なポリヌクレオチド配列を含む。プロモーターはまた、所望により、転写開始部位から数千塩基対もの位置に存在する場合もあり得る遠位エンハンサー又はリプレッサーエレメントも含む。「構成的」プロモーターは、ほとんどの環境条件及び発生条件下で活性であるプロモーターである。「誘導性」プロモーターは、環境的制御又は発生的制御下で活性であるプロモーターである。用語「作動可能に連結される」とは、ポリヌクレオチド発現制御配列(プロモーター、又は一連の転写因子結合部位など)と第2のポリヌクレオチド配列間の機能的連結を示し、ここで、発現制御配列は、第2の配列に相当するポリヌクレオチド配列の転写を指示するものである。
【0040】
「発現カセット」は、宿主細胞内での特定のポリヌクレオチド配列の転写を可能にする指定された一連のポリヌクレオチドエレメントを用いて、組換え又は合成により産生される核酸コンストラクトである。発現カセットは、プラスミド、ウイルスゲノム、又は核酸断片の一部であり得る。通常は、発現カセットは、プロモーターに作動可能に連結された、転写されるポリヌクレオチドを含む。
【0041】
用語「異種の」とは、2つのエレメントの対応する位置を説明する状況で使用されている場合、ポリヌクレオチド配列(例えば、プロモーターとmRNAコード配列若しくはタンパク質/ポリペプチドコード配列)又はポリペプチド配列(例えば、融合タンパク質内の融合パートナーとしての2つのペプチド)などの2つのエレメントが、天然状態では対応する同じ位置にみられないことを示す。したがって、コード配列の「異種プロモーター」は、天然状態ではコード配列に作動可能に連結されていないプロモーターを示す。同様に、特定のタンパク質又はそのコード配列の「異種ポリペプチド」又は「異種ポリヌクレオチド」は、特定のタンパク質とは異なる起源に由来するもの、又は同じ起源に由来するが天然状態では特定のタンパク質又はそのコード配列に同様に連結されていない場合である。あるポリペプチド(又はそのコード配列)と異種ポリペプチド(又はポリヌクレオチド配列)との融合では、自然界にみられ得る長鎖のポリペプチド又はポリヌクレオチドの配列はもたらされない。
【0042】
語句「~に特異的にハイブリダイズする」とは、あるポリヌクレオチド配列と別のポリヌクレオチド配列が複合混合物(例えば、全細胞内又はライブラリーのDNA又はRNA)中に存在する場合の、ワトソン・クリックヌクレオチド塩基対合に基づいたストリンジェントハイブリダイゼーション条件下での前記配列同士の結合、二重鎖形成、又はハイブリダイゼーションを示す。語句「ストリンジェントハイブリダイゼーション条件」は、核酸(例えば、ポリヌクレオチドプローブ)が、通常は核酸複合混合物中において、標的ヌクレオチド配列にハイブリダイズするが他の配列にはハイブリダイズしない条件を示す。ストリンジェント条件は配列依存性であり、環境が異なると異なることになる。配列が長いほどより高温で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションの広範囲にわたる手引きは、Tijssen, Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Probes, “Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays” (1993)を参照のこと。一般に、ストリンジェント条件は、規定のイオン強度pHで特定の配列に対して、熱融解温度(T)より約5~10℃低くなるように選択される。Tは、(規定のイオン強度、pH、及び核酸濃度下で)標的に相補的なプローブの50%が前記標的の配列にハイブリダイズして平衡状態である温度である(標的配列は過剰に存在するため、Tでは、50%のプローブが占有されていて平衡状態である)。ストリンジェント条件は、塩濃度が約1.0M未満のナトリウムイオン、通常は、pH7.0~8.3において約0.01~1.0Mのナトリウムイオン濃度(又は他の塩類)であり、温度が短鎖プローブ(例えば、10~50ヌクレオチド)では少なくとも約30℃、長鎖プローブ(例えば、50ヌクレオチド超)では少なくとも約60℃であるものである。ストリンジェント条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加によっても得られ得る。高ストリンジェンシーハイブリダイゼーションの場合、陽性シグナルはバックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。例示的な高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件としては:50%ホルムアミド、5×SSC及び1%SDSで42℃でインキュベーション又は5×SSC及び1%SDSで65℃でインキュベーションし、0.2×SSC及び0.1%SDS中で65℃での洗浄を伴う条件が挙げられる。
【0043】
「宿主細胞」により、発現ベクターを内包し、前記発現ベクターの複製又は発現を支持する細胞を意図する。宿主細胞は、大腸菌などの原核生物細胞、又は酵母、昆虫、両生類などの真核生物細胞、又はCHO及びHeLaなどの哺乳動物細胞、例えば、培養細胞、外植片、並びにインビボの細胞であり得る。
【0044】
用語「阻害する」又は「阻害」は、本明細書において使用する場合、阻害剤が対象の生物学的プロセス、例えば、APPタンパク質の発現、AD患者の脳内におけるアミロイドβ(Aβ)プラークの形成、AD患者の認知力低下、タンパク質のリン酸化、細胞シグナル伝達、タンパク質合成、細胞増殖、腫瘍形成性、及び転移潜在能などに対して有する任意の検出可能なマイナスの効果を示す。通常は、阻害は、阻害剤に曝露されていない対照と比較した場合、対象のプロセス(例えば、APPタンパク質の発現若しくはAβプラークの蓄積)、又は上記の下流パラメータのいずれか1つの10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、又は50%以上の減少に反映される。同様に、用語「増大する」又は「増大」は、促進剤が、前記促進剤なしの対照と比較した場合、対象の生物学的プロセスに対して有する、25%以上、50%以上、75%以上、100%以上、又は2倍高い、3倍高い、4倍高い、5倍高い、或いは最大10倍高い若しくは最大20倍高い、正の変化などの任意の検出可能な正の効果を示すため使用する。逆に、用語「実質的に変わらない」とは、正の変化又は負の変化が10%未満、5%未満、2%未満、1%未満、又はそれより低い状態を示す。
【0045】
用語「有効量」は、本明細書において使用する場合、物質を投与することに対して意図される効果がもたらされるのに十分な量を示す。効果としては、生物学的プロセスにおける望ましい変化(例えば、AD患者における、APP発現の検出可能な減少、Aβプラークの形成の低減、又は認知力低下の減速)、並びに疾患/病状及び関連合併症の症状の任意の検出可能な程度までの予防、回復、又は進行の阻止が挙げられ得る。所望の効果が得られるのに「有効な」厳密な量は、治療用薬剤の性質、投与様式、及び治療目的に依存し、当業者が既知の手法を用いて確認することができる(例えば、Lieberman, Pharmaceutical Dosage Forms (vols. 1-3, 1992);Lloyd, The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compounding (1999);及びPickar, Dosage Calculations (1999)を参照のこと)。
【0046】
本明細書において使用する場合、用語「治療」又は「治療する」は、疾患若しくは病状の存在、又はそのような疾患若しくは病状が後の時点で発症するリスクに対処するために取られる治療的措置及び予防的措置の両方を含む。前記用語は、現在起こっている症状を緩和させるための治療的措置若しくは予防的措置、疾患進行の抑制若しくは遅滞、症状の発現の遅延、又はそのような疾患若しくは病状によって引き起こされる副作用の消失若しくは低減を包含する。本文脈における予防的措置及びその変化形は、事象の発生の100%消失を必要とするものではなく、むしろ、これは、そのような発生の尤度若しくは重症度の抑制若しくは低減又はそのような発生の遅延を示す。
【0047】
「薬学的に許容可能な」又は「薬理的に許容可能な」非薬効成分(excipient)は、生物学的に有害でない物質であるか又は望ましくないものでない物質であり、すなわち、非薬効成分は、望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく生物活性剤とともに個体に投与され得るものである。非薬効成分はいずれも、その非薬効成分が含まれている組成物のいずれの成分とも有害に相互作用しないと思われるものである。
【0048】
用語「非薬効成分」は、本発明の組成物の最終の投薬形態中に存在し得る、本質的に補助的な任意の物質を示す。例えば、用語「非薬効成分」には、ビヒクル、結合剤、崩壊剤、充填剤(希釈剤)、滑沢剤、流動促進剤(流動性向上剤)、圧縮助剤、着色剤、甘味剤、保存剤、懸濁剤/分散剤、皮膜形成剤/コーティング、着香剤、及び印刷用インクが含まれる。
【0049】
用語「本質的に~からなる」は、1種類の活性成分又は複数種の活性成分を含む組成物を説明する状況で使用されている場合、前記組成物には、前記活性成分(群)の生物学的活性と同様の若しくは関連する任意の生物学的活性を有するか、又は前記活性を向上若しくは抑制することができる、他の成分は含まれていないが、一方で、生理学的に許容可能な非薬効成分又は薬学的に許容可能な非薬効成分などの1種又は複数種の不活性な成分は前記組成物中に存在していてもよいという事実を示す。例えば、本質的に、APPゲノム配列を破壊するのに有効な、又は対象のゲノム配列から転写されたmRNAを抑制するのに有効な活性薬剤(群)から本質的になる組成物は、同じ標的プロセスに対して任意の検出可能な正の効果若しくは負の効果を有し得る、又は前記組成物投与されている対象中の疾患の発生若しくは症状を測定可能な任意の程度に増大若しくは低減させ得る、任意の他の薬剤が含まれていない組成物である。
【0050】
用語「約」は、所定の値の+/-10%の範囲を表す。例えば、「約10」は、10の90%~110%の範囲、すなわち9~11と設定される。
【0051】
発明の詳細な説明
I.序論
異常なアミロイドプラーク蓄積とアルツハイマー病(AD)などの種々の病変間の相関性は長い間、観察され、理解されてきている。本発明者らは、CRISPRベースのゲノム編集を使用して、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のゲノム配列内の(例えば、事前に選択された変異部位又はβ-セクレターゼ切断部位若しくはγ-セクレターゼ切断部位に極めて近接している範囲内の)1つ又は複数の特定の部分領域を標的とすることにより、これまでで初めてアミロイドプラーク蓄積の抑制の達成に成功したが、オフターゲット編集はほとんど検出されなかった。したがって、APPゲノム配列のそのような破壊は、疾患の発症及び進行にアミロイドプラークが重要な役割を果たすさまざまな病変(ADなど)における脳内及び他の器官内のアミロイドプラークの過剰な蓄積に苦しむ患者の治療における治療上の有益性、並びにまだそのような疾患と診断されていないがADの家族歴などの既知のリスクを有し得る個体のこの疾患の予防又はリスク低減における予防上の有益性をもたらすことが実証された。
【0052】
II.一般的な組換え技術
組換え遺伝学の分野における一般的な方法及び手法を開示する基本テキストとしては、Sambrook and Russell, Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3rd ed. 2001);Kriegler, Gene Transfer and Expression:A Laboratory Manual (1990);及びAusubel et al., eds., Current Protocols in Molecular Biology (1994)が挙げられる。
【0053】
核酸について、サイズはキロベース(kb)又は塩基対(bp)のいずれかで示す。これらは、アガロースゲル電気泳動若しくはアクリルアミドゲル電気泳動から、配列決定された核酸から、又は公開されているDNA配列から算出される推定値である。タンパク質について、サイズはキロダルトン(kDa)又はアミノ酸残基数で示す。タンパク質のサイズは、ゲル電気泳動から、配列決定されたタンパク質から、由来するアミノ酸配列から、又は公開されているタンパク質配列から推定される。
【0054】
市販されていないオリゴヌクレオチドは、例えば、最初にBeaucage&Caruthers, Tetrahedron Lett. 22:1859-1862 (1981)に報告された固相ホスホロアミダイトトリエステル法により、Van Devanter et. al., Nucleic Acids Res. 12:6159-6168 (1984)に記載のような自動合成装置を用いて化学合成され得る。オリゴヌクレオチドの精製は、当該技術分野で広く認められている任意の手段、例えば、ネイティブアクリルアミドゲル電気泳動、又はPearson&Reanier, J. Chrom. 255:137-149 (1983)に記載のようなアニオン交換HPLCを用いて行なわれる。
【0055】
目的の遺伝子の配列、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列、及び合成のオリゴヌクレオチドの配列は、クローニング又はサブクローニング後、例えば、二本鎖鋳型のシーケンシングのためのWallace et al., Gene 16:21-26 (1981)の鎖伸長停止法を用いて検証され得る。
【0056】
II.ゲノム配列を破壊する組成物
本発明者らなどによる先の研究により、アルツハイマー病の発症におけるAPP及びその変異の関与が説明された。最新の発見により、特に、事前に選択された変異(例えば、スウェーデン型変異)又はβ-セクレターゼ切断部位若しくはγ-セクレターゼ切断部位に近接したAPPゲノム配列を破壊することにより、脳内におけるAPP発現及びAβプラーク蓄積が有効かつ有意に低減され得ることが明らかになっている。これが明らかになったことにより、このゲノム配列を破壊する組成物が、アルツハイマー病と既に診断されている患者において前記疾患を治療するため、並びにまだ診断を受けていないが例えば家族歴又は既知の遺伝的背景のため高度のアルツハイマー病リスク状態にある個体(例えば、1つ又は2つのAPOE ε4対立遺伝子、21番染色体上のアミロイド前駆体タンパク質(APP)をコードするゲノム配列における点変異、14番染色体上のプレセニリン1(PSEN1)をコードするゲノム配列における点変異、及び1番染色体上のプレセニリン2(PSEN2)をコードするゲノム配列における点変異の保有者)において前記疾患が後に発症するのを予防するため/そのリスクを低減させるために治療的及び予防的に使用されることにつながり、前記組成物は、特定の変異又はβ-セクレターゼ切断部位若しくはγ-セクレターゼ切断部位の事前に選択されたゲノム遺伝子座、或いは前記ゲノム遺伝子座に近接する周囲において完全ゲノム配列のレベルで作用するものであってもよく、又は前記ゲノム配列から転写されるmRNAのレベルで作用するものであってもよい。異なる機序によって(例えば、ゲノム編集又はmRNA抑制によって)作用する種々のカテゴリーの考えられ得る薬剤が、APPゲノム配列の破壊のためのそのような組成物を製剤化するのに有用であり、以下に論考する。
【0057】
A.アンチセンスオリゴヌクレオチド
いくつかの実施形態において、APPゲノム配列を破壊するのに有用な薬剤はアンチセンスオリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、APP遺伝子を含むゲノム配列から転写されるRNAのコード鎖(センス鎖)に相補的(又はアンチセンス)である比較的短い核酸である。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、通常はRNAベースであるが、DNAベースであってもよい。また、アンチセンスオリゴヌクレオチドは多くの場合、その安定性が高まるように改変される。
【0058】
理論に拘束されないが、これらの比較的短いオリゴヌクレオチドがmRNAに結合すると、内因性RNA分解酵素によるこのメッセンジャーの分解を誘発する二本鎖のRNA鎖が誘導されると考えられる。さらに、場合によっては、このオリゴヌクレオチドは、コード配列のプロモーター付近に結合するように特異的にデザインされ、そのような環境下では、アンチセンスオリゴヌクレオチドはさらに、mRNAの翻訳も干渉し得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドが機能を果たす具体的な機構に関係なく、これを細胞又は組織に投与することにより、APP遺伝子を含むゲノム配列から転写されるRNAの分解が可能になる。したがって、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ゲノム配列からのコードされた産物の発現及び/又は活性を低下させる。
【0059】
オリゴヌクレオチドは、本鎖若しくは二本鎖の、DNA若しくはRNA、又はそのキメラ混合物、誘導体、若しくは修飾型であり得る。オリゴヌクレオチドは、例えば、分子の安定性、ハイブリダイゼーションなどを改善するために、塩基部分、糖鎖部分、又はリン酸基主鎖が修飾されていてもよい。オリゴヌクレオチドは、ペプチド(例えば、宿主細胞受容体を標的とするための)、或いは細胞膜を通過する輸送を容易にする薬剤(例えば、Letsinger et al., 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:6553-6556;Lemaitre et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. 84:648-652;WO88/09810参照)若しくは血液脳関門を通過する輸送を容易にする薬剤(例えば、WO89/10134参照)、ハイブリダイゼーション誘発性切断剤(例えば、Krol et al., 1988, BioTechniques 6:958-976参照)、又はインターカレート剤(例えば、Zon, 1988, Pharm. Res. 5:539-549参照)などの他の付属基を含んでいてもよい。この目的のため、オリゴヌクレオチドは別の分子に複合体化されてもよい。
【0060】
本発明のオリゴヌクレオチドは、当該技術分野において知られた標準的な方法によって、例えば、自動DNA合成装置(Biosearch, Applied Biosystemsなど市販されているものなど)の使用によって合成され得る。一例として、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドは、Stein et al.(1988, Nucl. Acids Res. 16:3209)の方法によって合成され得、メチルホスホネートオリゴヌクレオチドは、孔径制御型多孔性ガラスポリマー支持体(Sarin et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:7448-7451)の使用によって調製され得る。
【0061】
アンチセンスDNA又はアンチセンスRNAを細胞に送達するためのいくつかの方法が開発されており、例えば、アンチセンス分子は直接、標的の解剖学的部位内に注射され得るか、又は所望の細胞を標的とするようにデザインされた修飾アンチセンス分子(例えば、標的細胞表面上に発現された受容体若しくは抗原に特異的に結合するペプチド若しくは抗体に連結されたアンチセンス)が体系的に投与され得る。
【0062】
内因性mRNAの翻訳を抑制するのに十分な細胞内アンチセンス濃度を達成することは、一部の例では困難であり得る。したがって、別のアプローチは、アンチセンスオリゴヌクレオチドを強力なpol III又はpol IIプロモーターの制御下に配置した組換えDNAコンストラクトを利用するものである。例えば、ベクターが、細胞に取り込まれてアンチセンスRNAの転写を指示するようにインビボで導入され得る。そのようなベクターは、転写されて所望のアンチセンスRNAが生成し得る限り、エピソーム性のままであってもよく、染色体に組み込まれた状態であってもよい。そのようなベクターは、当該技術分野において標準的な組換えDNA技術の方法によって構築することができる。ベクターは、哺乳動物細胞内での複製及び発現のために使用されるプラスミド、ウイルス系、又は当該技術分野において知られた他のものであり得る。アンチセンスRNAをコードする配列の発現は、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞において作用する当該技術分野において知られた任意のプロモーターによるものであり得る。そのようなプロモーターは誘導性であっても構成的であってもよい。そのようなプロモーターとしては、限定されないが:SV40初期プロモーター領域(Bernoist and Chambon, 1981, Nature 290:304-310)、ラウス肉腫ウイルスの3’長鎖末端反復配列内に含まれているプロモーター(Yamamoto et al., 1980, Cell 22:787-797)、ヘルペスウイルスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al., 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78:1441-1445)、メタロチオネイン遺伝子の調節配列(Brinster et al., 1982, Nature 296:39-42)などが挙げられる。任意の型のプラスミド、コスミド、YAC、又はウイルスベクターが、標的組織部位内に直接導入され得る組換えDNAコンストラクトを調製するために使用され得る。あるいはまた、所望の組織に選択的に感染するウイルスベクターが使用され得、この場合、投与は別の経路によって(例えば、体系的に)行なわれ得る。
【0063】
B.低分子干渉RNA
いくつかの実施形態において、前記薬剤は低分子干渉RNA(siRNA又はRNAi)分子である。RNAiコンストラクトは、標的遺伝子の発現を特異的にブロックし得る二本鎖RNAを含む。「RNA干渉」又は「RNAi」は、当初は、二本鎖RNA(dsRNA)が遺伝子発現を特異的に、かつ転写後にブロックする現象に適用された用語である。RNAiにより、遺伝子発現をインビトロ又はインビボで阻害する有用な方法が提供される。RNAiコンストラクトとしては、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、及びインビボで切断されてsiRNAを形成し得る他のRNA種が挙げられ得る。本明細書におけるRNAiコンストラクトにはまた、細胞内でdsRNA若しくはヘアピンRNAを形成する転写物をもたらすことができる発現ベクター(「RNAi発現ベクター」)、及び/又はインビボでsiRNAを生成し得る転写物も包含される。
【0064】
RNAi発現ベクターは、このコンストラクトが発現される細胞内でsiRNA部分を生成するRNAを発現する(転写する)。そのようなベクターは、(1)遺伝子発現の調節的役割を有する遺伝因子(群)(例えば、プロモーター、オペレーター、又はエンハンサー)、(2)(1)に作動可能に連結されており、転写されて二本鎖RNA(細胞内でアニーリングしてsiRNAを形成する2つのRNA部分、又はプロセシングされてsiRNAになり得る単一のヘアピンRNA)を生成する「コード」配列、及び(3)適切な転写開始配列及び転写終結配列とのアセンブリを含む転写単位を含む。プロモーター及び他の調節エレメントの選択は一般的に、対象の宿主細胞に応じて異なる。
【0065】
RNAiコンストラクトは、阻害対象の遺伝子のmRNA転写物(すなわち、APP遺伝子を含むゲノム配列から転写されるRNA)の少なくとも一部分のヌクレオチド配列に細胞の生理的条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む。二本鎖RNAに必要とされることは、RNAiを媒介する能力を有する天然のRNAと十分に類似していることだけである。したがって、本発明は、遺伝子変異、系統多型性、又は進化的分岐により予測され得る配列多様性を許容できるという利点を有する。標的配列とRNAiコンストラクトの配列との間で許容されるヌクレオチドミスマッチの数は、5塩基対に1つ以下、10塩基対に1つ以下、20塩基対に1つ以下、又は50塩基対に1つ以下である。siRNA二本鎖の中心部のミスマッチが最も重要であり、標的RNAの切断が本質的に無効となる場合があり得る。対照的に、標的RNAに相補的なsiRNA鎖の3’末端のヌクレオチドは標的認識の特異性に有意に寄与しない。
【0066】
RNAiコンストラクトの作製は、化学合成方法によって、又は組換え核酸手法によって行なわれ得る。処理された細胞の内因性RNAポリメラーゼがインビボで転写を媒介する場合もあり得、又はクローニングしたRNAポリメラーゼをインビトロで転写に使用してもよい。RNAiコンストラクトはリン酸基-糖鎖主鎖又はヌクレオシドのいずれかに対して、例えば、細胞内ヌクレアーゼに対する感受性を低減させるため、バイオアベイラビリティを改善するため、製剤化特性を改善するため、及び/又は他の薬物動態学的特性を変化させるための修飾を含んでいてもよい。例えば、天然のRNAのホスホジエステル結合が、窒素ヘテロ原子又はイオウヘテロ原子のうちの少なくとも1個を含むように修飾され得る。RNA構造の修飾は、dsRNAに対する一般的な応答は回避されるが特異的遺伝子阻害は可能となるように個別調整され得る。同様に、塩基を、アデノシンデアミナーゼの活性が阻害されるように修飾してもよい。RNAiコンストラクトは酵素的に、又は部分的/完全に有機合成によって作製され得、任意の修飾リボヌクレオチドはインビトロで酵素的合成又は有機合成によって導入され得る。
【0067】
特定の実施形態では、対象RNAiコンストラクトは「低分子干渉RNA」又は「siRNA」である。そのような核酸は、19~30ヌクレオチド長程度、さらにより好ましくは21~23ヌクレオチド長、例えば、長鎖二本鎖RNAのヌクレアーゼ「ダイシング(dicing)」によって生じる断片に対応する長さである。siRNAは、ヌクレアーゼ複合体を標的mRNAに、特異的配列と対合することによって動員して前記複合体をガイドすると理解されている。その結果、標的mRNAはタンパク質複合体内のヌクレアーゼによって分解される。特定の実施形態では、21~23ヌクレオチドのsiRNA分子は3’ヒドロキシル基を含む。
【0068】
特定の実施形態では、RNAiコンストラクトは低分子ヘアピン構造の形態(shRNAと称する)である。shRNAは外生的に合成してもよく、又はインビボでRNAポリメラーゼIIIプロモーターにより転写することによって形成してもよい。哺乳動物細胞における遺伝子サイレンシングのためのそのようなヘアピンRNAの作製及び使用の例は、例えば、Paddison et al., Genes Dev, 2002, 16:948-58;McCaffrey et al., Nature, 2002, 418:38-9;Yu et al., Proc Natl Acad Sci USA, 2002, 99:6047-52)に記載されている。多くの場合、そのようなshRNAは細胞内又は動物において所望の遺伝子の連続的かつ安定な抑制が確実になるように設計される。siRNAが細胞内でのヘアピンRNAのプロセシングによって産生され得ることは当該技術分野において知られている。
【0069】
プラスミドは、例えば転写産物としての二本鎖RNAを送達するために使用され得る。そのような実施形態において、プラスミドは、RNAiコンストラクトのセンス鎖及びアンチセンス鎖の各々の「コード配列」を含むようにデザインされる。コード配列は、例えば逆向きのプロモーターによって挟まれた、同じ配列であってもよく、各々が別々のプロモーターの転写制御下にある2つの別々の配列であってもよい。コード配列が転写された後、相補的なRNA転写物が塩基対合して二本鎖RNAを形成する。
【0070】
C.リボザイム
いくつかの実施形態において、薬剤はリボザイムである。mRNA転写物を触媒的に切断するようにデザインされたリボザイム分子もまた、mRNAを破壊し、その下流効果を抑制するために使用される(例えば、WO90/11364;Sarver et al., 1990, Science 247:1222-1225及び米国特許第5,093,246号参照)。特定のmRNAを破壊するためにmRNAを部位特異的認識配列で切断するリボザイムが使用され得るが、ハンマーヘッド型リボザイムの使用が好ましい。ハンマーヘッド型リボザイムはmRNAを、標的mRNAと相補的な塩基対を形成する隣接領域によって指示される位置で切断する。唯一の要件は、標的mRNAが5’-UG-3’の2個塩基配列を有することである。ハンマーヘッド型リボザイムの構築及び産生は当該技術分野においてよく知られており、Haseloff and Gerlach, 1988, Nature, 334:585-591にさらに十分に記載されている。
【0071】
本発明における使用のためのリボザイムは、天然状態で繊毛虫テトラヒメナに存在するもの(IVS、又はL-19 IVS RNAとして知られる)などのRNAエンドリボヌクレアーゼもまた含んでいてもよく(以下、本明細書において、「Cech型リボザイム」)、Thomas Cech及び共同研究者らにより多岐にわたって報告されている(Zaug, et al., 1984, Science, 224:574-578;Zaug and Cech, 1986, Science, 231:470-475;Zaug, et al., 1986, Nature, 324:429-433;WO88/04300;Been and Cech, 1986, Cell, 47:207-216)。Cech型リボザイムは、標的RNA配列にハイブリダイズし、その後、標的RNAの切断が起こる8塩基対の活性部位を有する。本発明は、8塩基対の活性部位配列を標的とするCech型リボザイムを包含する。
【0072】
アンチセンスアプローチの場合のように、リボザイムは修飾オリゴヌクレオチドで構成されていてもよく(例えば、改善された安定性、標的化などのため)、細胞にインビトロ又はインビボ送達され得る。好ましい送達方法の一例は、遺伝子導入された細胞が、標的とされるmRNAを破壊してその効果が阻害されるのに十分な量のリボザイムを産生するように、強力な構成的pol IIIプロモーター又はpol IIプロモーターの制御下のリボザイム「をコードする」DNAコンストラクトの使用を含む。リボザイムは、アンチセンス分子と異なり触媒的であるため、効率性に必要とされる細胞内濃度はより低い。
【0073】
現在、DNA酵素には2つの基本型があり、これらはどちらもSantoro及びJoyceによって同定された(例えば、米国特許第6,110,462号参照)。10-23 DNA酵素は、2つのアームを連結するループ構造を含む。この2つのアームは特定の標的核酸配列を認識することによって特異性をもたらし、一方、ループ構造は生理学的条件下で触媒機能をもたらす。
【0074】
簡潔には、標的核酸を特異的に認識して切断する理想的なDNA酵素をデザインするため、当業者はまず、標的ユニーク配列を特定しなければならない。これは、アンチセンスオリゴヌクレオチドについて概略を示したものと同じアプローチを用いて行なわれ得る。好ましくは、この固有の又は実質的な配列はおよそ18~22ヌクレオチドのG/Cリッチなものである。高G/C含有量は、DNA酵素と標的配列間のより強力な相互作用を確実にするのを補助する。
【0075】
DNA酵素を合成する場合、この酵素をメッセンジャーに標的化し得る特異的アンチセンス認識配列は、このDNA酵素の2つのアームを含むように分割され、この2つの特異的アーム間にDNA酵素ループが配置される。
【0076】
DNA酵素を作製及び投与する方法は、例えば、米国特許第6,110,462号を参照のこと。同様に、インビトロ又はインビボでのDNAリボザイムの送達方法としては、上記に詳細に概略を示したようなRNAリボザイムの送達方法が挙げられる。さらに、当業者には、アンチセンスオリゴヌクレオチドと同様、DNA酵素は、所望により、安定性を改善するため、及び分解に対する抵抗性を改善するために修飾され得ることが認識されよう。
【0077】
D.ゲノム編集
APP発現の阻害は、このタンパク質のコード配列を含む遺伝子配列の破壊によって行なわれ得る。標的化された遺伝子切断の有効な手段の一例はCRISPRシステムである。
【0078】
CRISPRという用語は、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeatの略語であり、当初は、細菌及び古細菌に最初に見出された短い反復塩基配列を含む原核生物DNAセグメントに関して創られた用語である。回文リピートにおいて、ヌクレオチドの配列は両方向で同じである。各リピート部の後に、外来DNA(例えば、ウイルスのDNA)への以前の曝露に由来するスペーサーDNAの短いセグメントが続く。Cas(CRISPR関連)遺伝子の小さいクラスターがCRISPR配列の隣に存在する。CRISPR/Casシステムは、外来遺伝因子、特にウイルス起源のものに対する抵抗性を付与し、それにより獲得型の免疫をもたらす原核生物の免疫システムであることが後に認識された。スペーサー配列を有するRNAは、Cas(CRISPR関連)タンパク質が外来性DNAを認識して切断するのを補助する。他のRNA誘導型Casタンパク質は外来RNAを切断する。CRISPRは、配列決定された細菌ゲノムのおよそ50%、及び配列決定された古細菌のほぼ90%にみられ、最近、CRISPR/Casシステムは、真核生物細胞における標的化された遺伝子編集における使用のために適合されている。例えば、Ledford (2016), Nature 531 (7593):156-9を参照のこと。
【0079】
シンプルな型のCRISPR/CasシステムであるCRISPR/Cas9は、ゲノム編集のために改変されてきた。1つ又は複数の合成ガイドRNA(gRNA)と複合体形成されたCas9ヌクレアーゼを細胞内に、通常は、Cas9ヌクレアーゼ及びgRNA(群)をコードする1つ又は複数の発現ベクターを用いて細胞に遺伝子導入することによって送達することにより、細胞のゲノムが、事前に選択された1つ又は複数の位置で切断され、標的遺伝子(例えば、rs1921622を有するゲノム配列)が除去されること、及び/又は新しい配列で置換されることが可能となり得る。
【0080】
この場合、APPゲノム配列の標的対象の部分領域に特異的な1つ又は複数のgRNAのコード配列を担持する発現ベクター(例えば、アデノ随伴ウイルス又はAAVベクターなどのウイルスベクター)が、内因性のAPPゲノム配列をノックアウトすべき細胞内(例えば、神経細胞内)に導入され得る。同じ発現ベクターに、任意に、CRISPR/Cas9ヌクレアーゼ又は同等物のコード配列もまた担持させてもよい。別の場合では、別個の発現ベクターを使用して、標的細胞内で発現させるためのCRISPR/Cas9ヌクレアーゼコード配列を導入してもよい。いくつかの場合では、標的のゲノム配列(例えば、APPコード配列を含むもの)の除去及び/又は置き換えを確実にするために1つより多くの(例えば、2つの)相違するgRNAが使用される。
【0081】
本発明の実施に使用され得るさらなる遺伝子編集システムとしては、TALEN(転写活性因子様エフェクターヌクレアーゼ)、ZFN(ジンクフィンガーヌクレアーゼ)、及び塩基編集、並びにホーミングエンドヌクレアーゼ及びメガヌクレアーゼ(MegN)(DNA配列を標的として切断する)及びプライム編集(遺伝子改変のためのRNA鋳型を生成させる)などの新しく開発された手法が挙げられる。
【0082】
III.医薬組成物及び投与
本発明により、予防的適用及び治療的適用の両方において、本発明の方法に有用な1種又は複数種の薬剤を有効量で含む医薬組成物又は生理学的組成物もまた提供する。そのような医薬組成物又は生理学的組成物としては、1種又は複数種の薬学的又は生理学的に許容可能な非薬効成分又は担体もまた挙げられる。例えば、本発明の一例の例示的な組成物は、CRISPRシステム(例えば、Cas9ヌクレアーゼ又は同等物及び1種類又は2種類のsgRNA)をコードする1つ又は複数の発現ベクターに加えて、1種又は複数種の生理学的に許容可能な非薬効成分又は担体を含むか、又は本質的にこれらからなる。本発明の別の例示的な組成物は、1つ又は複数の阻害性オリゴヌクレオチド(例えば、低分子阻害性RNA分子、アンチセンスDNAオリゴヌクレオチド、又はアンチセンスRNAオリゴヌクレオチド)をコードする1つ又は複数の発現ベクターに加えて、1種又は複数種の生理学的に許容可能な非薬効成分又は担体を含むか、又は本質的にこれらからなる。本発明の医薬組成物は、さまざまな薬物送達システムにおける使用に適している。本発明における使用のための好適な製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Philadelphia, PA, 17th ed. (1985)を参照のこと。薬物送達のための方法の簡単な概説については、Langer, Science 249:1527-1533 (1990)を参照のこと。
【0083】
本発明の医薬組成物は種々の経路によって、例えば、経口、皮下、経皮、筋肉内、静脈内、又は頭蓋内に投与され得る。医薬組成物の投与の好ましい経路は、レシピエントの標的疾患と関連する器官又は組織への所定の1日用量での局所送達である。適切な用量は単回の1日用量で、又は適切な間隔で、例えば1日あたり2回、3回、4回若しくはそれより多くの細分用量として提示される分割用量として投与され得る。
【0084】
本発明の1種又は複数種の活性薬剤を含む医薬組成物の調製には、不活性な薬学的に許容可能な担体もまた使用される。通常は、医薬用担体は固形又は液状のいずれかであり得る。固形形態の調製物としては、例えば、散剤、錠剤、分散性顆粒剤、カプセル剤、カシェ剤、及び坐剤が挙げられる。固形担体は、希釈剤、香味剤、可溶化剤、滑沢剤、懸濁化剤、結合剤、又は錠剤崩壊剤としての機能も果たし得る1種又は複数種の物質であり得;また、カプセル封入材であってもよい。
【0085】
散剤では、担体は一般的に、微粉化された活性成分との混合物の状態である微粉化固形物である。錠剤では、活性成分は、必要な結合特性を有する担体と適当な割合で混合され、所望の形状及びサイズに圧縮成形される。
【0086】
坐剤の形態の医薬組成物の調製では、脂肪酸グリセリドとココアバターの混合物などの低融点ワックスをまず溶融させ、これに活性成分を、例えば撹拌することによって分散させる。次いで、均一な溶融混合物を簡便な大きさの鋳型内に注入し、冷却して固化させる。
【0087】
散剤及び錠剤は、好ましくは約5重量%~約70重量%の活性成分を含む。好適な担体としては、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ラクトース、糖、ペクチン、デキストリン、デンプン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ワックス、及びココアバターなどが挙げられる。
【0088】
医薬組成物は、活性薬剤(群)と、カプセル剤をもたらす担体としてのカプセル封入材との製剤を含み得、カプセル剤は、担体が薬剤(群)に結合するように、(他の担体を伴う又は伴わない)薬剤(群)が担体に囲まれている。同様に、カシェ剤も含まれ得る。錠剤、散剤、カシェ剤、及びカプセル剤は、経口投与に適した固形投薬形態として使用され得る。
【0089】
液状医薬組成物としては、例えば、経口投与又は非経口投与に適した液剤、懸濁剤、及び経口投与に適したエマルジョン剤が挙げられる。活性成分(群)の滅菌水の液剤又は水、緩衝水、生理食塩水、PBS、エタノール、又はプロピレングリコールを含む溶媒中の活性成分(群)の滅菌された液剤は、非経口投与に適した液状組成物の例である。組成物は、必要に応じて、例えば、pH調整剤及び緩衝剤、張度調整剤、湿潤剤、及び界面活性剤など、生理学的条件に近づけるための薬学的に許容可能な補助物質を含んでいてもよい。
【0090】
滅菌された液剤は、活性成分(群)を所望の溶媒系に溶解させ、次いで、得られた溶液を、これを滅菌するための膜フィルターに通すことによって、或いはまた、滅菌された成分(群)を、事前に滅菌した溶媒中に滅菌条件下で溶解させることによって調製され得る。得られた水性液剤は、そのままでの使用のためにパッケージングされ得るか、又は凍結乾燥され得、凍結乾燥された調製物は投与前に、滅菌水性担体と合わされる。調製物のpHは、通常は3~11、より好ましくは5~9、最も好ましくは7~8である。
【0091】
1種又は複数種の活性薬剤を含む医薬組成物は予防的治療及び/又は治療的治療のために投与され得る。治療的適用では、組成物は、既にアルツハイマー病に苦しんでいる患者に、疾患の発症、進行、持続期間、及び重症度などの、疾患及びその合併症の症状を予防、治癒、逆転、又は少なくとも一部において遅滞若しくは停止させるのに十分な量で投与される。これが達成されるのに十分な量を「治療有効用量」と定義する。この使用のために有効な量は、疾患の重症度、患者の体重及び全身状態、並びに活性薬剤(群)の性質に依存する。
【0092】
予防的適用では、1種又は複数種の活性薬剤を含む医薬組成物は、アルツハイマー病に罹患しやすいか、或いはアルツハイマー病を発症するリスクがある患者に、症状の発現が遅延又は抑制されるのに十分な量で投与される。そのような量が「予防的有効用量」であると定義する。この使用において、活性薬剤(群)の厳密な量は、この場合も患者の健康状態及び体重、並びに活性薬剤(群)の性質に依存する。
【0093】
前記組成物の単回投与又は反復投与は、治療担当医によって選択される用量レベル及びパターンを用いて行なわれ得る。任意の事象において、この医薬用製剤により、患者においてAPP発現及びAβプラークの形成が有効に抑制されるのに十分な量の薬剤(群)が治療的又は予防的のいずれかでもたらされるはずである。
【0094】
IV.核酸を用いた治療的適用
コード配列が転写されて、ポリペプチド薬剤若しくはオリゴヌクレオチド薬剤が細胞内で産生されるように、APPゲノム配列を破壊する1種若しくは複数種の薬剤をコードする核酸、又はAPPゲノム配列にコードされたmRNAを阻害する核酸(アンチセンス若しくはmiRNA、又はCas9ヌクレアーゼ及びsgRNAなど)を細胞内に導入することを含む治療アプローチにより、さまざまな病状が治療され得る。遺伝性疾患及び後天的疾患の治療に対する遺伝子治療の適用に関する論考については、Miller Nature 357:455-460 (1992);及びMulligan Science 260:926-932 (1993)を参照のこと。
【0095】
A.遺伝子送達のためのベクター
細胞又は生物体への送達のため、1種又は複数種の活性薬剤をコードするポリヌクレオチドがベクター内に組み込まれ得る。そのような目的に使用されるベクターの例としては、標的細胞内での核酸の発現を指示することができる発現プラスミドが挙げられる。他の場合では、ベクターが、ポリヌクレオチドがウイルスゲノム内に組み込まれた、標的細胞に遺伝子導入することができるウイルスベクター系である。ある実施形態では、コードポリヌクレオチドは、所望の標的宿主細胞内でのポリペプチド又はオリゴヌクレオチドの発現を指示することができる発現制御配列に作動可能に連結され得る。多くの場合、コード配列は、プロモーター及び所望により少なくとも1つの転写エンハンサーエレメントの制御下で転写される。そのようなプロモーターは、本質的に構成的(すなわち、コード配列の転写の指示に対して常に活性である)であってもよく、また本質的に誘導性(すなわち、特異的シグナルがあるとコード配列の転写の指示に対して活性となる)であってもよく、これは好ましくは、送達標的の特定の組織型又は細胞型における転写を特異的に指示するプロモーターである。例えば、神経細胞特異的プロモーターは好ましくは、中枢神経系内、例えば脳内の解剖学的部位への送達が意図されるベクターに使用される。したがって、ポリペプチド系阻害剤又はオリゴヌクレオチド系阻害剤の発現は標的細胞内において適切な条件下で行なわれ得る。
【0096】
B.遺伝子送達システム
APPコード配列を含むゲノム配列を破壊するポリペプチド又はオリゴヌクレオチドの発現に有用なウイルスベクター系としては、例えば、天然に存在するウイルスベクター系又は組換えウイルスベクター系が挙げられる。具体的な適用にもよるが、好適なウイルスベクターとしては、複製可能なウイルスベクター、複製欠陥ウイルスベクター、及び条件複製型ウイルスベクターが挙げられる。例えば、ウイルスベクターは、ヒトアデノウイルス又はウシアデノウイルス、ワクシニアウイルス、ヘルペスウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、マウス微小ウイルス(MVM)、HIV、シンドビスウイルス、並びにレトロウイルス(限定されないが、ラウス肉腫ウイルス及びレンチウイルスが挙げられる)、並びにMoMLVのゲノムに由来するものであり得る。通常は、目的のコード配列(例えば、本発明のポリペプチド系活性薬剤又はオリゴヌクレオチド系活性薬剤をコードするもの)は、そのようなベクター内に、通常はウイルスDNAの付随を伴う、遺伝子コンストラクトのパッケージング、続いて感受性の宿主細胞の感染及び目的のコード配列の発現が可能となるように挿入される。
【0097】
本明細書において使用する場合、「遺伝子送達システム」は、標的細胞への目的のポリヌクレオチド配列の送達のための任意の手段を示す。本発明のいくつかの実施形態では、核酸を、取込み(例えば、コーテッドピットの陥入及びエンドソームのインターナリゼーション)促進のための細胞受容体リガンドに、DNA連結部分などの適切な連結部分を介して(Wu et al., J. Biol. Chem. 263:14621-14624 (1988);WO92/06180)、又は超音波-マイクロバブル送達システムによって(Lan HY et al., J. Am Soc. Nephrol. 14:1535-1548)複合体化させる。例えば、核酸は、肝細胞のアシアロ糖タンパク質受容体リガンドであるアシアロ-オロオロソムコイドにポリリシン部分を介して連結され得る。
【0098】
同様に、目的の核酸を含む遺伝子コンストラクトをパッケージングするために使用されるウイルス外被を、特定の細胞内での受容体媒介性エンドサイトーシスが可能になるように、受容体リガンド又は受容体に特異的な抗体の付加によって修飾してもよい(例えば、WO93/20221、WO93/14188、及びWO94/06923参照)。本発明のいくつかの実施形態では、本発明のDNAコンストラクトは、エンドサイトーシスを促進するために、アデノウイルス粒子などのウイルスタンパク質に連結される(Curiel et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 88:8850-8854 (1991))。他の実施形態において、本発明の活性薬剤は、微小管阻害剤(WO/9406922)、インフルエンザウイルスヘマグルチニンを模倣する合成ペプチド(Plank et al., J. Biol. Chem. 269:12918-12924 (1994))、及びSV40 T抗原(WO93/19768)などの核局在化シグナルを含み得る。
【0099】
レトロウイルスベクターもまた、本発明のポリペプチド系活性薬剤又はオリゴヌクレオチド系活性薬剤のコード配列を標的細胞又は標的組織内に導入するのに有用であり得る。レトロウイルスベクターは、レトロウイルスを遺伝子操作することによって産生される。レトロウイルスのウイルスゲノムはRNAである。感染すると、このゲノムRNAはDNAコピーに逆転写され、DNAのコピーが形質導入細胞の染色体DNA内に高度に安定的かつ効率的に組み込まれる。組み込まれたDNAコピーはプロウイルスと称され、任意の他の遺伝子の場合と同様に娘細胞に受け継がれる。野生型レトロウイルスゲノム及びプロウイルスDNAは3つの遺伝子であるgag遺伝子、pol遺伝子、及びenv遺伝子を有し、これらは2つの長鎖末端反復配列(LTR)配列に挟まれている。gag遺伝子は、内部の構造(ヌクレオカプシド)タンパク質をコードしており;pol遺伝子は、RNA指向性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)をコードしており;env遺伝子は、ウイルス外被糖タンパク質をコードする。5’LTR及び3’LTRは、ビリオンRNAの転写及びポリアデニル化を促進させる機能を果たす。5’LTRに隣接して、ゲノムの逆転写に必要な配列(tRNAプライマー結合部位)及びウイルスRNAの粒子内への効率的な封入に必要な配列(Psi部位)が存在する(Mulligan, In:Experimental Manipulation of Gene Expression, Inouye (ed), 155-173 (1983);Mann et al., Cell 33:153-159 (1983);Cone and Mulligan, Proceedings of the National Academy of Sciences, U.S.A., 81:6349-6353 (1984)参照)。
【0100】
レトロウイルスベクターのデザインは当業者によく知られている。簡単には、カプシド形成(又はレトロウイルスRNAの感染性ビリオン内へのパッケージング)に必要な配列がウイルスゲノムにない場合、結果は、ゲノムRNAのカプシド形成を妨げるシス作用性欠陥となる。しかしながら、得られる変異は依然としてすべてのビリオンタンパク質の合成を指示することができる。これらの配列が欠失されたレトロウイルスゲノム、並びに染色体に安定的に組み込まれた変異ゲノムを含む細胞株は当該技術分野においてよく知られており、レトロウイルスベクターを構築するために使用される。レトロウイルスベクターの調製及びその使用は、例えば、欧州特許出願公開EPA 0 178 220;米国特許第4,405,712号;Gilboa Biotechniques 4:504-512 (1986);Mann et al., Cell 33:153-159 (1983);Cone and Mulligan Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6349-6353 (1984);Eglitis et al. Biotechniques 6:608-614 (1988);Miller et al. Biotechniques 7:981-990 (1989);Miller (1992)上掲;Mulligan (1993)、上掲;及びWO92/07943を含む多くの刊行物に記載されている。
【0101】
レトロウイルスベクター粒子は、所望のヌクレオチド配列を組換えによりレトロウイルスベクター内に挿入し、パッケージング細胞株の使用によってベクターを、レトロウイルスカプシドタンパク質を用いてパッケージングすることにより調製される。得られるレトロウイルスベクター粒子は、宿主細胞内で複製することができないが、宿主細胞のゲノム内に、所望のヌクレオチド配列を含むプロウイルス配列として組み込まれることが可能である。その結果、患者は、例えば、本発明の方法において有用なポリペプチド系活性薬剤又はポリヌクレオチド系活性薬剤の生成が可能となり、したがって標的細胞(例えば、脳の内皮細胞)が正常な表現型に回復する。
【0102】
レトロウイルスベクター粒子を調製するために使用されるパッケージング細胞株は、通常は、パッケージングに必要とされる必要なウイルス構造タンパク質を産生するが感染性ビリオンを産生させることはできない組換え哺乳動物組織培養細胞株である。一方、使用される欠陥レトロウイルスベクターは、これらの構造遺伝子を欠くがパッケージングに必要な残りのタンパク質をコードするものである。パッケージング細胞株を調製するため、パッケージング部位を欠失させた所望のレトロウイルスの感染性クローンが構築され得る。このコンストラクトを含む細胞はすべてのウイルス構造タンパク質を発現するが、導入されるDNAがパッケージングされることはない。あるいはまた、パッケージング細胞株は、細胞株を、適切なコアタンパク質及び外被タンパク質をコードする1つ又は複数の発現プラスミドを用いて形質転換することによって産生され得る。これらの細胞において、gag遺伝子、pol遺伝子、及びenv遺伝子は同じレトロウイルスに由来するものであっても異なるレトロウイルスに由来するものであってもよい。
【0103】
本発明に適したいくつかのパッケージング細胞株が先行技術においても入手可能である。これらの細胞株の例としては、Crip、GPE86、PA317、及びPG13が挙げられる(Miller et al., J. Virol. 65:2220-2224 (1991)参照)。他のパッケージング細胞株の例は、Cone and Mulligan Proceedings of the National Academy of Sciences, USA, 81:6349-6353 (1984);Danos and Mulligan Proceedings of the National Academy of Sciences, USA, 85:6460-6464 (1988);Eglitis et al. (1988)、上掲;及びMiller (1990)、上掲に記載されている。
【0104】
キメラ外被タンパク質を有するレトロウイルスベクター粒子を産生することができるパッケージング細胞株を使用してもよい。あるいはまた、PA317パッケージング細胞株及びGPXパッケージング細胞株によって産生されるものなどの両種指向性又は異種指向性の外被タンパク質を、レトロウイルスベクターをパッケージングするために使用してもよい。
【0105】
C.医薬用製剤
製薬目的に使用される場合、ポリペプチド系活性薬剤又はオリゴヌクレオチド系活性薬剤をコードする核酸は一般的に、適切な緩衝液中にて製剤化され、緩衝液は、リン酸緩衝生理食塩水又はリン酸ナトリウム/硫酸ナトリウム、Tris緩衝液、グリシン緩衝液、滅菌水、及びGood et al. Biochemistry 5:467 (1966)に記載された緩衝液などの当業者に知られた他の緩衝液など、任意の薬学的に許容可能な緩衝液であり得る。
【0106】
組成物は、安定剤、エンハンサー、又は他の薬学的に許容可能な担体若しくはビヒクルをさらに含んでいてもよい。薬学的に許容可能な担体は、例えば、本発明の核酸及び任意の関連ベクターを安定化させる機能を果たす生理学的に許容可能な化合物を含み得る。生理学的に許容可能な化合物としては、例えば、グルコース、スクロース、若しくはデキストランなどの糖質、アスコルビン酸若しくはグルタチオンなどの酸化防止剤、キレート剤、低分子量タンパク質、又は他の安定剤若しくは非薬効成分が挙げられ得る。他の生理学的に許容可能な化合物としては、湿潤剤、乳化剤、分散剤、又は微生物の増殖若しくは作用を抑制するのに特に有用な保存剤が挙げられる。種々の保存剤がよく知られており、例えば、フェノール及びアスコルビン酸が挙げられる。担体、安定剤、又は補助剤の例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Philadelphia, PA, 17th ed. (1985)を参照のこと。
【0107】
D.製剤の投与
ポリペプチド系活性薬剤又はオリゴヌクレオチド系活性薬剤をコードするポリヌクレオチド配列を含む製剤は、当業者に知られた任意の送達方法を用いて標的組織又は標的器官に送達され得る。本発明のいくつかの実施形態において、コードポリヌクレオチド配列は、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、若しくは腹腔内注射のため、経口摂取/鼻吸入のため、又は局所適用のために製剤化される。
【0108】
目的の核酸を含む製剤は、通常、細胞に直接投与される。細胞は、循環系の一部としての赤血球など、組織の一部として、又は組織培養中など、単離された細胞として提供され得る。細胞は、インビボ、エクスビボ、又はインビトロで提供され得る。
【0109】
製剤は目的の組織内にインビボ又はエクスビボで、さまざまな方法によって導入され得る。本発明のいくつかの実施形態において、目的の核酸は細胞内に、マイクロインジェクション、リン酸カルシウム沈殿、リポソーム融合、超音波、エレクトロポレーション、又はバイオリスティックなどの方法によって導入される。さらなる実施形態では、核酸は、治療されている疾患又は病状と関連する標的組織又は標的器官によって直接取り込まれ、例えば、標的細胞が脳の内皮細胞である場合、頭蓋内注射が適切である。
【0110】
本発明のいくつかの実施形態では、目的の核酸は、患者から外植された細胞又は組織にエクスビボで投与され、次いで、その患者に戻される。治療用遺伝子コンストラクトのエクスビボ投与の例としては、Nolta et al., Proc Natl. Acad. Sci. USA 93(6):2414-9 (1996);Koc et al., Seminars in Oncology 23(1):46-65 (1996);Raper et al., Annals of Surgery 223(2):116-26 (1996);Dalesandro et al., J. Thorac. Cardi. Surg., 11(2):416-22 (1996);及びMakarov et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93(1):402-6 (1996)が挙げられる。
【0111】
製剤の有効投薬量は、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態、及び投与されている他の薬を含む多くの異なる要素に応じて異なる。したがって、治療投薬量は、安全性及び有効性を最適化するために用量設定される必要がある。投与されるベクターの有効量の決定において、医師は、使用される具体的な核酸、診断されている疾患状態;患者の年齢、体重、及び全身状態、循環血漿レベル、ベクターの毒性、疾患の進行、並びに抗ベクター抗体の産生を評価するべきである。用量サイズはまた、具体的なベクターの投与に伴う任意の有害な副作用の存在、性質、及び程度によっても決定される。例えば、1~1000mg、10~200mg、又は20~100mgの量のアンチセンスオリゴヌクレオチドが患者に、静脈内注射によって毎週、隔週、又は毎月の頻度の投与で少なくとも1か月間~3か月間、又はより長い期間にわたって送達され得る。APPゲノム領域を標的とするCRISPR編集では、別の例として、それぞれ5×10個の細胞(例えば、HEK293T細胞又はニューロン起源の細胞)に、1対のsgRNAと共にCas9をコードする遺伝子を担持する0.5~50μg;1~20μg;又は2~10μgのベクターを用いて遺伝子導入される。ヒト患者のAPPゲノム領域を標的とするCRISPR編集では、sgRNAとCas9をコードするmRNAとを担持する脂質ナノ粒子の用量は、i.v.注射により1~4週間の期間にわたって1~3回送達される、体重1kg当たり0.01~2mg;0.02~1.0mg;0.05~0.5mg;又は0.10~0.30mgの範囲内である。
【0112】
V.キット
本発明はまた、アミロイド病変(アルツハイマー病など)の治療、又はアミロイド病変(アルツハイマー病など)のリスクの低減を、それを必要とする個人において、本発明の方法により行うためのキットを提供する。キットは、通常、(1)APPコード配列を含むゲノム配列を破壊すること、及び/又は前記ゲノム配列から転写されたmRNAを抑制することができる1種又は複数種の活性薬剤を有効量で有する医薬組成物;並びに(2)治療され得る患者のタイプ(例えば、アルツハイマー病を患っているか、又は前記疾患のリスクが高いヒト患者)、スケジュール(例えば、用量及び頻度)、及び投与経路などの記載を含む、医薬組成物の調剤方法に関する使用説明を含む情報資料を収容する容器を含む。いくつかの場合では、キットは、各々が、CRISPRシステムの構成要素(例えば、Cas9ヌクレアーゼ若しくは同等物及び1つ若しくは複数のsgRNA)をコードするか、又はAPPコード配列を含むゲノム配列を標的とするsiRNA、マイクロRNA、miniRNA、lncRNA、若しくはアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードするベクター又はベクター群などの少なくとも1種の活性薬剤を有効量で含む、複数の医薬組成物を提供するための2つ以上の容器を含む。所望により、キットは、各々に、個人のゲノムの少なくとも一部分、特に、目的の部分領域(群)を含むAPPゲノム配列、例えば、スウェーデン型変異などの既知の変異の1つ又は複数の部位を含むAPPゲノム配列のシーケンシングを行うのに有用である少なくとも1種の薬剤が収容される、1つ又は複数の追加の容器をさらに含む。
【実施例
【0113】
以下の実施例は例示として示しているにすぎず、限定として示しているのではない。当業者には、変更又は修正されて本質的に同様の結果をもたらし得る、重要でないさまざまなパラメータが容易に認識されよう。
【0114】
実施例1:スウェーデン型変異を標的とするAPPのCRISPR媒介性破壊
家族性アルツハイマー病は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、プレセニリン1、及びプレセニリン2をコードする遺伝子内の優性変異によって引き起こされる。細胞外アミロイドプラーク及び細胞内神経原線維変化を含む病変学特徴が複数の脳領域に存在する。CRISPR/Cas9媒介性ゲノム編集を用いた変異を標的とすることは有望な疾患修飾治療方法であるが、このアプローチを用いたアルツハイマー病表現型の脳全域での軽快は実証されていない。ここに、アデノ随伴ウイルス(AAV)の単回投与によるCRISPR/Cas9媒介性ゲノム編集により、ヒトAPPスウェーデン型変異を担持するトランスジェニックマウスモデルにおいて変異APPが効率的かつ選択的に破壊され、注射後の少なくとも6か月間、アミロイドベータ関連病変の緩和がもたらされることを示す。重要なことに、血液脳関門を通過することができる改変AAV-Cas9の静脈内送達により、アミロイドベータ関連の脳病変及び認知能力の障害が低減される。したがって、脳全域での遺伝子編集に関する本発明者らの研究により、家族性アルツハイマー病、及び複数の脳領域を冒す他の単一遺伝子疾患のための、非侵襲性の単回投与による疾患修飾治療の開発に対する新規なアプローチが提供される。
【0115】
序論
アルツハイマー病(AD)は、最も広く一般にみられる神経変性疾患のうちの1つであり、アミロイドベータ(Aβ)ペプチドの沈着及び過剰にリン酸化されたタウタンパク質で構成される神経原線維変化の存在を特徴とする。家族性ADと称される遺伝性形態のADはAD症例の3~5%を占めているが1,2,3、その有病率はハンチントン病及び筋萎縮性側索硬化症などの他の神経系の疾患に匹敵する。家族性ADは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、並びにγ-セクレターゼ複合体の触媒構成要素であるプレセニリン1(PS1)及びプレセニリン2(PS2)をコードする遺伝子における完全浸透性の常染色体優性変異によって引き起こされる。γ-セクレターゼによるAPPプロセシングの調節異常によってAβペプチドの蓄積が引き起こされ、これがこの疾患の病因の主要因である。家族性ADの遺伝子的原因の我々の理解が大きく進展したにもかかわらず、現在、有効な疾患修飾治療は存在しない。
【0116】
クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)/Cas9媒介性ゲノム編集は潜在的に特定の変異を標的とすることができる強力なツールである.しかしながら、疾患修飾性の家族性AD療法のための標的ゲノム編集アプローチとしてのCRISPR/Cas9の開発は、脳における広範なゲノム編集の必要性に対処することを必要とする。ほとんどの脳障害と同様、ADは、皮質及び海馬を含む複数の脳領域を冒す8,9。脳障害に対する現在使用されているゲノム編集手段は脳実質内注射によって送達されるが10、限られた脳領域に作用し、有益な結果は限定的である。したがって、成体脳において使用することができる効率的で網羅的なゲノム編集方法が早急に必要である。静脈内送達後の広範な中枢神経系への形質導入が可能にする、血液脳関門(BBB)を通過することができる改変アデノ随伴ウイルス(AAV)バリアントが最近開発された11、12、13、14。それに伴い、BBB通過ウイルスによって送達されるタンパク質の脳全域での過剰発現により虚血性脳卒中後の回復が促進されることが老齢マウスにおいて示されている14。したがって、BBB通過ウイルスの投与によって中枢神経系の疾患変更遺伝子(群)(disease-modifier gene(s))の発現を改変することは、家族性ADなどの疾患に対する治療方法としての開発の潜在的可能性を有する。しかしながら、そのようなウイルスがCRISPR/Cas9ゲノム編集構成要素を送達して疾患表現型を軽快させる能力はまだインビボで試験されたことがない。
【0117】
家族性ADのほとんどの症例が単一遺伝子変異によって引き起こされることを考慮し、CRISPR/Cas9媒介性ゲノム編集は、家族性AD変異を破壊又は修正してインビトロでのAβ産生を減少させる能力が実証されている15,16。家族性ADのほとんどの患者はヘテロ接合性の疾患原因変異を有し、1コピーのAPP、PSEN1、又はPSEN2を生来有するヒトは明白な神経学的症状を示さない17,18。したがって、成体段階の家族性AD患者における疾患原因対立遺伝子の破壊は、家族性ADに対する合理的で実現可能な疾患修飾治療法である。家族性APP変異の中でも、APPスウェーデン型(APPswe)変異(KM670/671)は、APPのβ-セクレターゼ切断部位をコードする配列に存在し、変異APPを酵素的切断に対してより利用可能にし、より高いAβ産生をもたらす19,20,21。最近の研究により、APP変異担持トランスジェニックマウスのAPPswe変異をゲノム編集によって破壊することの実現可能性が報告されているが、3%未満という低いゲノム編集効率が、この変異を破壊する潜在的な疾患修飾効果の評価を妨げている16
【0118】
本研究において、APPswe変異を特異的に標的とするCas9及びsgRNAの成体海馬内へのAAV媒介性送達によって効率的なゲノム編集がもたらされ、Aβ沈着トランスジェニックマウスモデルにおいて複数のAβ関連病変が緩和されることを示す。注目すべきことに、このCRISPR媒介性の有益効果はトランスジェニックマウスにおいて少なくとも6か月間持続する。さらに、APPswe変異を標的とするBBB通過AAV-Cas9ベクターの単回全身投与により脳全体におけるAβ病変が軽快する。したがって、本発明者らの結果は、単回用量で投与される全身性AAVが、家族性ADに対する疾患修飾治療介入の開発のための有望なアプローチであることを実証している。さらに、そのような方法は、常染色体優性変異によって引き起こされる、複数の脳領域を冒す他の中枢神経系の障害にも適用可能となり得る。
【0119】
結果
CRISPR/Cas9媒介性ゲノム編集によりAPPswe対立遺伝子が特異的に破壊される
まずAPPswe二塩基変異(KM670/671NL)を、黄色ブドウ球菌のCas9(SaCas9)のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列(5’-NNGRRT-3’)と直接隣接する最初の8個のヌクレオチドの範囲内にこの変異部位が位置する2種類のsgRNAであるSW1及びSW2をデザインすることにより標的とした(図1a)。この領域は、Cas9-sgRNAの認識及びCas9ヌクレアーゼの活性に重要な「シード配列」領域であると考えられる22。sgRNAとシード配列内に存在する野生型(WT)配列との間のミスマッチはCas9による許容性が低いため23、SW1及びSW2が変異APP配列をWT配列から区別すると予測した。sgRNAの標的特異性を、HEK293T細胞においてEGxxFPレポーターシステム24を使用することによって検証した(図1b)。蛍光強化型緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現により、SW1及びSW2はいずれも、EGxxFP-APPsweレポーター内のAPPswe配列を切断し、EGxxFP-APPWTレポーター内のAPPWT配列は切断しないことが示された(図1c)。これは、SW1及びSW2のいずれにもAPPswe変異に対する高い対立遺伝子特異性があったことを示す。EGxxFP-APPsweレポーターにおいてSW1の方が高いゲノム編集効率を示すこと、及びSW1媒介性ゲノム編集によってAPPのβ-セクレターゼ切断部位が破壊されるであろうということを考慮し、SW1を後続のゲノム編集実験に選択した。SW1及びSW2の対立遺伝子特異性が、これらがAPPWT対立遺伝子を編集できないことによるものでないことを確認するため、それぞれSW1及びSW2に対応する同じ遺伝子座のAPPWT対立遺伝子を標的とする、別の2種類のsgRNAであるWT1及びWT2を作成した。WT1及びWT2のゲノム編集効率は50%を超えたが、SW1もSW2も、APPWT対立遺伝子を担持するHEK293T細胞において観察可能なゲノム編集を誘導せず(図8a、b)、SW1及びSW2はAPPswe変異を特異的に標的とすることが示された。さらに、コンピュータ予測による上位5つのオフターゲット部位におけるT7エンドヌクレアーゼIミスマッチアッセイによる潜在的オフターゲット効果の試験では、HEK293T細胞においてオフターゲット活性は検出されなかった(図8c、d)。
【0120】
CRISPR/Cas9システムがインビボでAPPswe変異を破壊する能力を調べるため、sgRNA SW1を、伸長因子1-アルファショート(EFS)プロモーターによって駆動されるCas9と共に単一のAAV9ベクターであるEFS::Cas9-SW1内にパッケージングし、このウイルスを3か月齢の5XFADマウスの海馬内に注射した(図1d)。この5XFADマウスは、K670N/M671L[スウェーデン型]変異、I716V[フロリダ型]変異、及びV717I[ロンドン型]変異を有するヒトAPP cDNAを有する。APPスウェーデン型変異のCRISPR媒介性ゲノム編集では完全長の変異APPの発現が無効になり、APP変異の効果を破壊することができる。注射後4週目、ゲノム解析のためにマウス脳を採取した。Cas9-SW1のAAV媒介性インビボ送達によりウイルス形質導入脳領域のAPPswe変異が効率的に編集された(27%のゲノム編集効率;図1e、f、及び図8e)。これは、Cas9-SW1のAAV媒介性投与によってAPPswe変異がインビボで効率的に破壊されたことを示唆する。
【0121】
次いで、Cas9-SW1ゲノム編集によって誘発される潜在的オフターゲット事象を、全ゲノムシーケンシングを行うことによって調べた。個々のマウス脳のウイルス形質導入領域及び非形質導入領域の両方において同様の数の変異(約35,000)が検出され(n=2;図8f及び表1)、Cas9-SW1編集によって誘発されるオフターゲット事象は稀であることが示唆された。続いて、46個の遺伝子に存在する257個の体細胞変異を潜在的オフターゲット事象と同定した(図8g)。特に、エクソン又は非翻訳領域内に、遺伝子の発現、したがって機能の調節に影響を及ぼすかもしれない23個の体細胞変異によって特徴付けられる17個の遺伝子を同定した(表2)。注目すべきことには、細胞型特異的トランスクリプトーム解析により、3つの遺伝子、すなわち、Sp110、Sp140、及びAbcg2のみが、マウス脳において発現されることが示唆された25。とはいえ、これらの3個の遺伝子はニューロンにおいて著明に発現されなかったため25、同定された変異がマウス脳において生物学的機能に影響を及ぼす可能性は低い。
【0122】
Cas9-SW1編集により5XFADマウスにおいてアミロイドプラーク負荷が減少する
5XFADマウスにおけるAPPswe変異の破壊によってAβ関連病変が低減され得るかどうかを調べるため、EFS::Cas9-SW1をAAV注入により、Aβプラークが蓄積し始めているが明らかな機能欠損が引き起こされていない時期である263か月齢の5XFADマウスの海馬内に送達した。6か月までに、5XFADマウスは、Aβレベルの上昇、Aβプラーク沈着、グリオーシス、及び神経機能障害を特徴とする重度のAβ関連病変を発症する(図2~4)26,27,28,29。Cas9-SW1媒介性遺伝子編集の3か月後、背側海馬領域内のジエチルアミン抽出可溶性Aβ及びギ酸抽出不溶性Aβの両方の含有量が減少し(図2a)、Aβx-40種及びAβx-42種の両方のレベルが60%超低下した(図2b、c)。
【0123】
続いて、Cas9-SW1のAAV媒介性発現がアミロイドプラーク沈着に影響を及ぼすかどうかを調べた。Cas9-SW1の注射の3か月間後、6か月齢の5XFADマウスはウイルス形質導入海馬の部分領域において、未注射側の対応する部分領域と比較した場合、有意に低いAβプラーク負荷を示した。ゲノム編集されると、Aβ陽性領域は、アンモン角(CA)領域において72.9%減少し(図2d、f、及び図9)、海馬台において77.9%減少した(図2e、g、及び図9)。アミロイドプラーク負荷は9か月齢の5XFADマウス(すなわち、注射後6か月目)において低いままであり;Aβ陽性領域は、CA領域において74.3%減少し(図2h、j、及び図9)、海馬台において83.6%減少した(図2i、k、及び図9)。これらの結果は、アミロイド病変に対するCas9-SW1媒介性編集の効果が単回投与後、少なくとも6か月間持続したことを実証する(図2h~k及び図9)。
【0124】
Cas9-SW1編集により5XFADマウスにおいてグリオーシスが減少する
5XFADマウスにおいて、Aβ病変は、アミロイドプラーク周囲の活性化されたミクログリア及び星状細胞の数の増大を特徴とするグリオーシスを伴う26。したがって、5XFADマウスにおいてゲノム編集後に観察される低アミロイドプラーク負荷がグリオーシスの減少と関連しているかどうかを調べた。最も重度のアミロイドプラーク沈着を示す5XFADマウスの海馬台において(図9)、AAV媒介性Cas9-SW1編集によりミクログリオーシス及びアストログリオーシスの減少がもたらされた。具体的には、5XFADマウスにおいて、APPswe対立遺伝子の破壊により、イオン化カルシウム結合アダプター分子1(Iba1)によって標識されたミクログリアの割合が64.9%まで減少した(図3a、b、及び図10a)。AAV媒介性Cas9-SW1編集によりグリア線維酸性タンパク質(GFAP)に陽性の星状細胞の数は変化しなかった(図3c、d、及び図10b)が、GFAP陽性領域の減少が観察された(図3c、e、及び図10b)。ミクログリアの低減及び星状細胞の活性化の低減によって示されるように、これらの所見は総合的に、Aβのレベル及び沈着の低減とともに、家族性AD変異のCRISPR/Cas9媒介性ゲノム編集により、グリオーシスの減少がもたらされたことを示唆する。
【0125】
Cas9-SW1編集により5XFADマウスにおいて神経機能が改善する
AAV媒介性Cas9-SW1の単回注射によって5XFADマウスにおいて海馬シナプスの可塑性障害が逆転し得るかどうかを判断するため、長期増強(LTP)の形成を測定した。WTマウスと比べて、6か月齢の5XFADマウスではシェファー側枝-CA1シナプスのLTPは有意に障害されており;AAV媒介性Cas9-SW1編集によりLTPの低減が90%逆転された(図4a、b)。さらに、シナプス前マーカーであるシナプトフィジンとシナプス後マーカーであるシナプス後肥厚95(PSD-95)を共染色することによって明示されるように、AAV媒介性Cas9-SW1編集により、5XFADマウスの海馬台における興奮性シナプスの数が43.9%増加することを実証した(図4c~e)。これらの結果は、ゲノム編集によってトランスジェニックマウスにおけるシナプス損失が低減されたことを示す。
【0126】
アミロイドプラークの周囲に存在する膨張した神経突起の突起(neuritic process)である変性神経突起もまた、ADにおけるシナプス障害の一因である。具体的には、リソソームタンパク質LAMP1によって標識され得るこのような神経突起におけるリソソームの凝集が軸索輸送及びシナプス放出特性を改変させ、結果としてシナプス連絡が破壊される30,31,32。したがって、5XFADマウスにおけるAAV媒介性Cas9-SW1編集により、海馬台において、LAMP1陽性変性神経突起がおよそ50%減少し(図4f、h、及び図11)、NeuN陽性ニューロンの数が増加し(図4g、i)、ゲノム編集によりニューロン脱落が減少することが示唆された。
【0127】
Cas9-SW1編集によりAPP/PS1マウスにおいてAβ病変が減少する
進行した疾患状態のトランスジェニックマウスにおけるAPPswe変異のCRISPR媒介性破壊の有効性を調べるため、AAV-EFS::Cas9-SW1を、5XFADマウスと比べて疾患表現型の発症時間が異なるAβ病変のトランスジェニックマウスモデルであるAPP/PS1マウスの海馬内に注射した。APP/PS1マウスモデルでは、Aβプラーク沈着及びグリオーシスはおよそ4か月目に現れ始め33,34;LTP障害及び認知障害はそれぞれ、6か月目及び12か月目に観察される35,36。したがって、AAV-EFS::Cas9-SW1を9か月齢で(Aβ関連病変及び海馬シナプス機能障害が十分に表れているときに)注射し、脳を6か月後に採取した。ゲノム編集効率はAPP/PS1マウスにおいて24%であり(図12a、b)、これは5XFADマウスにおいて観察された27%と同等である。さらに、Cas9-SW1投与後、アミロイドプラーク負荷は、APP/PS1マウスのウイルス形質導入海馬領域において非形質導入領域より低かった。具体的には、APP/PS1マウスのCA及び海馬台におけるアミロイドプラーク負荷がそれぞれ31.7%及び49.2%減少した(図5a~d及び図12c、d)。Aβ沈着の減少とともに、Cas9-SW1編集によってIba1標識ミクログリアの数がほぼ半減した(図5e、f)。また、GFAP標識星状細胞が少ないこと(図5g、h)及びGFAP陽性領域が小さいことを観察した(図5g、i)。これらの結果は総合的に、CRIPSR/Cas9媒介性ゲノム編集により、十分に進展した疾患関連表現型を有するトランスジェニックマウスにおいてアミロイド沈着及びグリオーシスが減少したことを示唆する。
【0128】
Cas9-SW1の全身送達により5XFADマウスにおいてAβ病変が全域的に減少する
AAV-EFS::Cas9-SW1の海馬内注射によりウイルス形質導入領域におけるAβ関連病変が減少したことを考慮し(図2~4)、脳全体におけるCas9-SW1媒介性ゲノム編集が実現する可能性を検討した。最近のBBB通過AAV9バリアントAAV-PHP.eB11の開発により、Cas9-SW1を成体脳に全身投与によって効率的に送達ことが可能になった。したがって、ニューロン特異的ヒトシナプシン1(Syn)プロモーターSW1-Syn::Cas9によって駆動されるBBB通過AAV-Cas9ベクターを作成した(図13a)。このAAVベクターの全身投与ではマウス脳においてCas9の限定的な発現しかもたらされなかったことを考慮し(図13b)、インビボでCas9の発現の増強をもたらすであろうウイルスコンストラクトを作成した。具体的には、切断型ウッドチャック肝炎ウイルス(WHP)転写後調節エレメント(WPRE)37をAAVコンストラクト内に挿入すると(SW1-Syn::Cas9-mWPRE;図6a)、海馬及び皮質におけるCas9発現が劇的に増大し;このコンストラクトのサイズはAAVの約5kbのパッケージング容量の範囲内に維持された38図13a)。このような最適化により、この新たなBBB通過ニューロン特異的ゲノム編集システムによって海馬内注射によるものと同等の脳内ゲノム編集効率が実現された(図14a、b)。
【0129】
AAV-PHP.eBによる5XFADマウスへのCas9-SW1の全身送達により脳全体におけるHAタグ付きCas9の広範な発現(図14c)及び種々の脳領域におけるアミロイドプラーク沈着の減少(図6b~d)がもたらされた。特に、アミロイドプラーク負荷は、海馬のCA及び海馬台においてだけでなく(図6e~h及び図14d)、皮質(図6i、k)及び脳幹の延髄を含む他の脳領域においても(図6j、l及び図14c)減少した。一方、対照としてスクランブルsgRNA(すなわち、AAV-PHP.eB:Con-Syn::Cas9-mWPRE)を用いたCas9の全身注射では、WTマウス又は5XFADマウスのいずれにおいても明らかな有害効果は引き起こされなかった。具体的には、対照ウイルスでは、WTマウスにおいてグリオーシスも行動欠損も誘発されなかった(図15a~f)。さらに、対照ウイルスは5XFADマウスにおいてアミロイドプラーク負荷に影響を及ぼさなかった(図15g~i)。したがって、本発明者らの結果は総合的に、Cas9-SW1の全身投与によって5XFADマウスの複数の脳領域においてAβ病変が減少したことを実証している。
【0130】
Cas9-SW1の全身送達により5XFADマウスにおいてミクログリオーシス及び神経突起変性が減少し、認知能力が改善する
全身性Cas9-SW1編集の後、5XFADマウスは、海馬台においてIba1標識ミクログリア(図7a、b)及びLAMP1陽性変性神経突起(図7d、e)の低減を示し、Cas9-SW1の全身送達により、5XFADマウスにおいてミクログリオーシス及び神経突起変性を含むAβ関連表現型が全域的に減少することが示唆された。
【0131】
これまでの研究で、Aβ沈着トランスジェニックマウスモデルは馴化及び作業記憶の障害、並びにリスクテイキング行動の増加を示すことが報告されている26,35,39,40。Cas9-SW1の全身送達によってアミロイド関連病変が全域的に減少したことを考慮し、5XFADマウスの馴化能力、作業記憶、及びリスクテイキング行動に対するその有益効果を、それぞれオープンフィールド探索試験、Y迷路自発的交替行動試験、及び高架式十字迷路試験を使用することによって評価した。
オープンフィールド試験において、5XFADマウスは、3日間の訓練課程中、新規な試験環境に対してWTマウスより有意に遅い馴化を示した。未注射5XFADマウスとは対照的に、Cas9-SW1を投与されたマウスは試験環境に対して有意に改善された馴化を示した(図7e)。
【0132】
Y迷路試験では、マウスに迷路の3つのアームを探索させることによってマウスの作業記憶を測定する。マウスが自身の進入するアームを交替することができるには、(前にどのアームに行ったかを覚えておくための)完全な作業記憶が必要とされる。WTマウスと比べて、5XFADマウスは、全進入において有意に低い割合の自発的交替行動を示した(図7f)。一方、Cas9-SW1を投与された5XFADマウスは、Cas9-SW1を投与されなかったマウスより有意に高い割合の自発的交替行動を示した(図7f)。
【0133】
一方、高架式十字迷路試験では、マウスのリスクテイキング行動及び探索意欲を、不安を惹起するオープンエリアの探索を評価することによって調べる39,40。5XFADマウスはWTマウスより長い時間をオープンアームで過ごしたが、Cas9-SW1を投与された5XFADマウスは未注射5XFADマウスと比べて有意に少ない時間をオープンアームで過ごした(図7g)。これらの結果は総合的に、Cas9-SW1の全身送達によって5XFADマウスの認知能力が改善されたことを示唆する。
【0134】
考察
本研究では、AAV-Cas9ベクターの単回注射によってヒトAPPswe対立遺伝子がインビボで選択的かつ効率的に編集され、Aβ沈着トランスジェニックマウスモデルにおいてAβ関連病変が緩和されたことを示す。改善されたBBB通過AAVベクターであるAAV-PHP.eB11を利用することにより、トランスジェニックマウスにおけるこのCRISPR/Cas9システムの全身投与によって複数の脳領域で効率的なゲノム編集が実現され、全域的な有益効果が奏され、Aβ沈着、ミクログリオーシス、及び神経突起変性が軽快するとともに、認知機能が改善する。本発明者らが知る限り、これは、効率的な脳全域でのゲノム編集をもたらし、結果として脳全体における疾患表現型が緩和された、成体段階において疾患原因変異を標的とする全身性AAV送達の最初の実証である。
【0135】
家族性AD変異の中でも、APPswe変異は、選択的な標的認識を可能にするSaCas9の「シード配列」内に存在する二重点変異であり;また、これにより、sgRNAと「シード配列」領域内のゲノムDNAとの間のミスマッチはCas9ヌクレアーゼによってあまり許容されないため22、対立遺伝子特異的編集の理想的な候補となる。APPsweの変異対立遺伝子の選択的破壊はAβ沈着トランスジェニックマウスモデルの海馬において、それぞれAPPswe特異的sgRNA及び化膿レンサ球菌のCas9ヌクレアーゼ(SpCas9、1,368アミノ酸)を発現する2つのAAVを利用することによって実現されているが、家族性AD変異対立遺伝子に対するこのCRISPR/Cas9システムのゲノム編集率は3%未満であった16。したがって、Cas9編集効率を高めるため、SpCas9の場合の2つのベクター41の代わりに、より小型のSaCas9(1,053アミノ酸)とそのsgRNAを有するオールインワンAAVベクターにパッケージングされ得るCRISPR/Cas9システムを利用した。したがって、本発明者らは、CRISPR/Cas9システムのインビボ編集効率を30%程度まで改善することに成功した。家族性AD症例に占めるAPPswe変異は少数割合にすぎないが、PSEN1 L166Pなどの他の家族性AD変異もまた、対立遺伝子特異的遺伝子破壊に適している。APP、PSEN1、及びPSEN2において200を超える疾患原因優性変異がこれまでに同定されている42。さらに、択一的PAM適合性を有するSaCas9バリアントの開発により43、CRISPR/Cas9システムの標的範囲が拡大され、それにより対立遺伝子特異的破壊の対象となる家族性AD変異の候補ヌクレオチド配列の範囲が広がる。家族性ADは全AD症例のおよそ3~5%を占めているにすぎないが1,2,3、このCRISPR/Cas9媒介性遺伝子アプローチは、依然として、家族性ADの治療薬開発に対する計り知れない潜在的可能性を有する。
【0136】
最近の2つの研究により、CRISPR/Cas9に基づいた手段によってトランスジェニックマウスモデルにおいてAβ関連表現型が軽快し得ることが実証されているが、これらを臨床に変換できるかは難題を伴い得る。ある研究では、CRISPR/Cas9システムを用いてAPPノックインマウスの生殖細胞系列におけるAPP発現を減少させるとアミロイドプラーク負荷が緩和された44。しかしながら、生殖細胞系列の編集をADに対する介入手段に変換することは可能であるとはいえない。他の研究では、Aβ関連病変を緩和させるために、CRISPR/Cas9媒介性ゲノム編集を用いて成体トランスジェニックマウスの海馬においてβ-セクレターゼ1(BACE1)をノックアウトした45。しかしながら、BACE1は、その阻害によってシナプス機能及び認知行動の障害などの有害な効果が引き起こされ得るため、臨床適用の良好な標的ではない46,47,48。本研究では、APPswe対立遺伝子のCRISPR/Cas9媒介性破壊によりAβ沈着トランスジェニックマウスモデルにおいてアミロイドプラーク沈着だけでなくグリオーシス、シナプス機能障害、及び認知機能障害も軽快させることを示す。したがって、成体段階の家族性AD患者における疾患原因対立遺伝子の破壊は家族性ADに対する有望な疾患修飾手段である。
【0137】
また、本発明者らの研究は、ADの治療のためのCRISPR/Cas9システムを開発するという大きな課題の1つである、脳全域でのゲノム編集の必要性に有効に対処する。ADは複数の脳領域に影響を及ぼすが、現在使用されている成体脳内への送達方法(ウイルス系及び非ウイルス系の両方)は脳実質内注射を必要とし10、これによりCas9編集領域が限定される。AAV9の単一部位への海馬内注射では海馬の一部にしか感染しない。したがって、CRISPR/Cas9システムの不十分な送達によりその潜在的な有益効果が無効となり得る。したがって、ゲノム編集構成要素の効率的な脳全域での送達が、家族性ADのためのCRISPR/Cas9システムの治療薬開発のために早急に必要である。AAV-PHP.eB11 BBB通過ウイルスをCRISPR/Cas9システムを有するように改変し、APP遺伝子をインビボで編集した。重要なことに、Aβが主にAPP発現ニューロンによって産生されるため、ニューロン特異的プロモーターを用いてCas9の発現を駆動させてニューロン特異的ゲノム編集を行なった。このシステムはニューロンにおける変異APPのみを破壊し、これにより、有糸分裂後のニューロンは分裂できないためCas9編集によって引き起こされる潜在的な安全性への懸念が軽減される。Cas9発現コンストラクトの最適化(すなわち、Cas9発現を増強するためのAAVベクターコンストラクト内への切断型WPREエレメントの挿入)により、本発明者らのPHP.eB媒介性CRISPR/Cas9システムで、海馬内局所注射によるものと同等の脳内全域的編集率が実現された。AAV-PHP.eBは特定の系統のマウスに限定的であるが、BALB/cなどのこれまでは抵抗性の系統、及びマーモセットなどの他の種に形質導入することができる新たな改変操作ベクターが開発されている49,50。このような進行中の開発を考慮し、本発明者らの研究は、全身送達ベクターを用いたゲノム編集治療に対する概念実証である。
【0138】
CRISPR媒介性ゲノム編集の治療薬開発を強化するためには、ゲノム編集によって誘発される潜在的オフターゲット事象を評価することが重要である。本明細書において、動物個体におけるウイルス形質導入脳領域と非形質導入脳領域の全ゲノムシーケンシングデータの比較により、ウイルス形質導入領域の変異の数が非形質導入領域における基底数に近かったため、Cas9-SW1編集によって誘発されるオフターゲット事象は稀であることが示唆された。ゲノムの位置及び対応する遺伝子の脳内発現に従って変異に優先順位をつけた後、Cas9-SW1の潜在的オフターゲット事象を、脳内で発現され、発現レベルが影響を受けるであろう3つの遺伝子であるSp110、Sp140、及びAbcg2に絞った。特に、Sp110及びSp140は核小体タンパク質ファミリーに属し、潜在的に遺伝子転写を調節し51、一方、Abcg2はATP結合カセット(ABC)トランスポータースーパーファミリーに属し、生体異物排出トランスポーターとしての機能を果たす52。注目すべきことに、これらの遺伝子はニューロンにおいて著明に発現されない25。シナプシン駆動型Cas9システムはニューロンのみを標的とすることができるため、これらの変異がニューロンにおいてこれらの遺伝子の発現、したがって機能に影響を及ぼす可能性は低い。したがって、これらの潜在的オフターゲット変異の生物学的効果は最小限である可能性が高い。さらに、本発明者らの所見により、全ゲノムシーケンシングなどの、CRIPSR/Cas9媒介性遺伝子治療の開発のための潜在的オフターゲット事象の公平で包括的な解析の重要性が強調される。
【0139】
要約すると、本発明者らは、BBB通過AAV媒介性CRISPR/Cas9に基づいた手段を、疾患原因対立遺伝子をインビボで選択的かつ効率的に編集するために適用した。本発明者らの概念実証の研究は、変異APPswe対立遺伝子の脳全域での編集がAβ関連病変の緩和を含む持続性の有益効果をインビボでもたらしたことで、さらなる開発のための有望な手段となることを実証している。したがって、本発明者らのAAV媒介性の単回用量での非侵襲性CRISPR/Cas9システムは、家族性AD、並びに複数の脳領域を冒す優性変異によって引き起こされる他の形態の脳疾患に対する治療選択肢の欠如に対処するための有望なアプローチである。
【0140】
方法
分子クローニング及びGFPレポーターアッセイ
pX601-AAV-CMV::NLS-SaCas9-NLS-3xHA-bGHpA;U6::BsaI-sgRNA(Zhang Lab;Addgeneプラスミド#61591)41由来のAAVパッケージングコンストラクトを適合させた。海馬内注射のため、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターをEFSのプロモーターに置き換えた。全身注射のため、プロモーターをヒトシナプシン1(hSyn)遺伝子プロモーターに置き換え、Cas9発現を増強するために切断型WPREカセット(Addgeneプラスミド#61463)を付加した37修飾pX601コンストラクトを使用した。さらに、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリAを合成ポリ(A)(spA)に置き換えた。sgRNAをコンストラクト内にBsaI部位によって挿入した。sgRNAの配列を表3に示す。
【0141】
GFPレポーターコンストラクトpCAG-EGxxFP(Addgeneプラスミド#50716)24はイカワマサヒト氏の厚意により提供され、Cas9-sgRNAのゲノム編集効率を評価した。APPswe対立遺伝子及びAPPWT対立遺伝子をオリゴのライゲーションによりBamHI部位及びEcoRI部位内に挿入した。1μgのCas9-sgRNAを1μgのpCAG-EGxFP-APPと混合し、この混合物でHEK293T細胞に、リポフェクタミン3000(Thermo Fisher Scientific)を用いて遺伝子導入した。遺伝子導入後12時間に、得られたGFP発現を蛍光顕微鏡検査によって調べた。
【0142】
マウス
5つの家族性AD変異(APP K670N/M671L[スウェーデン型]、I716V[フロリダ型]、V717I[ロンドン型]、並びにPSEN1 M146L及びL286V)を有する5XFADトランスジェニックマウス26、並びにAPP K670N/M671L(スウェーデン型)変異及びPSEN1エクソン9欠失を有するAPP/PS1トランスジェニックマウス33をJackson Laboratory(それぞれ、ストック番号008730及び004462)から入手した。実験はすべて、雄の5XFADマウス又は雌のAPP/PS1マウスを用いて実施した。マウスはすべて、香港科技大学の動植物ケア施設(Animal and Plant Care Facility)に収容した。動物実験はすべて、香港科技大学の動物倫理委員会により承認を受けた。
【0143】
AAVの海馬内注射及び全身注射
海馬内注射に使用するAAVのため、AAV9-Cas9-SW1を、ノースカロライナ大学チャペルヒル校のベクターコアによって作成し、ドットブロットによって力価測定した。3か月齢のマウスにイソフルランを用いて麻酔し、動物1匹あたり6×1010個のベクターゲノム(vg)ウイルス(2μLの3×1013vg/mL)を注射した。以下の座標(ブレグマを基準にして):前後(AP)、-2.0mm;内外(ML)、-1.7mm;背腹(DV)、-1.4mmを用いて海馬のCA1領域を標的とした53。空AAV9ベクターの海馬内注射ではマウスにおいて有害効果は生じない54,55,56ことを考慮し、同じマウスの未注射側を対照として使用する。マウスをウイルス注入後3か月目又は6か月目に屠殺した。
【0144】
全身送達に使用するAAVに関し、AAV-PHP.eB:Cas9-Con及びAAV-PHP.eB:Cas9-SW1を既報57のとおりにして作成し、定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)によって力価測定した。3か月齢のマウスに麻酔し、ウイルスを1×1013vg/動物(100μLの1×1014vg/mL)の用量で眼窩後静脈注射した。マウスを6か月齢又は9か月齢時に屠殺し、Aβ関連病変を解析した。
【0145】
T7エンドヌクレアーゼIアッセイ
T7エンドヌクレアーゼIミスマッチアッセイを行ない、編集効率を解析した。簡単には、300μm厚の海馬切片から海馬台領域及びアンモン角領域を解剖し、QuickExtract DNA Extraction Solution(Epicentre Biotechnologies、QE09050)を用いてゲノムDNAを抽出した。増幅されたDNAを変性させて95℃から室温まで再アニーリングさせた。続いて、T7エンドヌクレアーゼI(New England Biolabs、M0302)を添加し、混合物を37℃で15分間インキュベートした。産物を、2.5%アガロースゲル電気泳動で可視化することによって解析した。次に、酵素切断バンド及び酵素未切断バンドの強度を、ImageJ(NIH)ソフトウェアを用いて定量した。最後に、編集効率を以下のとおりに計算した。
【数1】
【0146】
ゲノムシーケンシング及びバイオインフォマティクス解析
ゲノムDNAを、E.Z.N.A. Tissue DNA Kit(Omega Bio-tek)を用いて抽出し、これを全ゲノムシーケンシング(50×)のためにIllumina NovaSeq(Novogene)に供した。raw read(150bpのペアエンド)を、低品質リードのトリミング及びフィルタリングのためにTrimmomatic(バージョン0.32)に供した。品質管理に合格したリードを、ヒトAPP及びPSEN1の配列をさらに含む修正バージョンのマウス参照ゲノム(UCSC mm10)に、BWA mem(バージョン0.7.12-r1039)を用いてマッピングした。生殖細胞系列変異及び体細胞変異を、Genome Analysis Toolkit(GATK)Best Practices(バージョン4.1.2.0)に従ってデフォルト設定を用いて遺伝子型判定した。具体的には、BAMファイル処理の際にPCR重複リードをマークし、Base Quality Score Recalibration(BQSR)を行なった。複数のレーンからのリードを統合(merge)することによって得られた最終のBAMファイルをバリアントコールに供した。生殖細胞系列変異及び体細胞変異を、それぞれHaplotypeCaller(バージョン4.1.2.0)及びMuTect2(バージョン4.1.2.0)を用いて検出した。
【0147】
本発明者らは、どちらのマウスの非形質導入領域内にも検出されない両方のマウスのウイルス形質導入領域内の変異がゲノム編集によって誘発されている潜在的可能性が大きいと考えた。生殖細胞系列変異を検出するため、18のマウス系統から検出されたゲノムバリアントを含む58バージョン3のMouse Genome Projectの単一ヌクレオチド多型(SNP)コール及び挿入/欠失(INDEL)コールを用いてBase Quality Score Recalibration(BQSR)を適用した。各ゲノムDNA試料の対応する部位における編集事象の頻度を、VCFファイルに保存された修飾対立遺伝子及び非修飾対立遺伝子のリード数に基づいて推定した。Rプログラミング(R studio;バージョン1.3.1056)を使用し、反復エレメント内に存在する変異(UCSC repeatmasker mm10)、及び生殖細胞系列変異と重複する変異をフィルタリングした。BioMartデータベース(http://asia.ensembl.org/biomart)から得られるEnsembleデータベースの遺伝子本体における遺伝子バリアントの存在をアノテーションした。さらに、エクソン及び非翻訳領域に存在する体細胞変異をデザインした。続いて、脳細胞における関連遺伝子の発現レベルを、細胞型特異的トランスクリプトームデータセット(Brain RNA-Seq)25を検索することによって調べた。遺伝子は少なくとも1つの脳細胞型においてFPKMが1より大きい場合、脳内で発現されるとみなした。
【0148】
Aβ抽出、ウエスタンブロット解析、及びELISA
背側海馬の可溶性画分及び不溶性画分からAβペプチドを順次抽出した35。まず凍結海馬組織を、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma-Aldrich)を含む組織ホモジネーションバッファー(20mM Tris・HCl[pH7.4]、250mMスクロース、1mM EDTA、及び1mM EGTA)中でホモジナイズした。順次、可溶性Aβ及び不溶性Aβを、それぞれジエチルアミン及びギ酸を使用することによって抽出した。可溶性Aβ及び不溶性Aβのレベルをウエスタンブロット解析によって解析した。さらに、可溶性のAβx-40及びAβx-42を、V-PLEX Aβ Peptide Panel 1 (6E10) Kit(Meso Scale Discovery)を使用することによって解析した。
【0149】
免疫組織化学
マウスにペントバルビタールを用いて麻酔し、ダルベッコPBS(DPBS)を用いて経心腔的灌流を行なった。マウス脳を解剖し、4%パラホルムアルデヒド中で後固定し、フリーフローティングビブラトーム(VT1000S、Leica)を使用して免疫組織化学のための30μmの矢状断脳スライドに切片化した。4G8免疫染色のため、70%ギ酸を用いて抗原賦活化を行なった。次いで脳切片をDPBSで3回洗浄し、2%ヤギ血清及び0.3%Triton X-100含有DPBSを用いて59室温で60分間ブロックし、次いで一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。
【0150】
以下の一次抗体、すなわち、抗HAタグ抗体(1:50;#3724、Cell Signaling Technology);抗Aβ、17-24抗体(1:1,000、クローン4G8、800701、BioLegend);抗Iba1抗体(1:500、019-19741、Wako);抗GFAP抗体(1:5,000、#3670、Cell Signaling Technology);抗PSD-95抗体(1:500、ab2723、Abcam);抗シナプトフィジン1抗体(1:500、101011、Synaptic Systems);抗LAMP-1抗体(1:500、1D4B、Developmental Studies Hybridoma Bank);及び抗NeuN抗体(1:100、MAB377、Millipore)を使用した。
【0151】
切片を一次抗体とともにインキュベートした後、これをDPBS及び0.3%Triton X-100(DPBST)で3回洗浄した。次いで、切片を二次抗体(すなわち、抗ウサギ、抗マウス、又は抗ラットAlexa Fluor 488、546、568、又は647;Thermo Fisher Scientific)と共にブロックバッファー中で室温にて120分間インキュベートした。対応する二次抗体を適用した後、脳切片を核染色色素(4’,6-ジアミジン-2-フェニルインドール[DAPI、5μg/mL]又はSYTOX Green[1:30,000、S7020、Thermo Fisher Scientific])で染色した後、スライド上にマウントした。
【0152】
X34でのアミロイドプラーク染色のため、脳切片を1μMのX34含有X34染色バッファー(40%エタノール/60%DPBSミックス[pHを10に調整])中で室温にて10分間インキュベートした。次いでX34染色バッファーで3回洗浄した60
【0153】
Leica DM6000 B複合顕微鏡システム及びLeica TCS SP8共焦点システムを用いてイメージングを行なった。
【0154】
電気生理学
マウスを屠殺し、脳を解剖し、脳を即座に氷冷酸素添加(95%O/5%CO)人工脳脊髄液バッファーに移した。続いて、ビブラトーム(HM650V;Thermo Fisher Scientific)を使用して300μmの脳切片を調製し、人工脳脊髄液中に32℃で少なくとも1時間回復させた。CA1野興奮性シナプス後電位(fEPSP)を、MED-P210Aプローブ(Panasonic International)を100μmの電極間距離で使用することによって記録した。ベースラインを30分間記録した後、4連発のシータバースト刺激(100Hzの4つのパルスからなる10発の短いバースト)によってLTPを誘発した61,62。fEPSPを60分間記録し続けた。最後に、LTPの大きさをLTP誘導後50分から60分までのfEPSPの傾きの平均の変化の割合として定量した。
【0155】
行動試験
動物の行動試験のため、マウスに対してオープンフィールド試験及びY迷路自発的交替行動試験を行ない、次いで2か月間休息させ、最後に高架式十字迷路試験を行なった。
【0156】
オープンフィールド試験では、フォトビーム活動システム及びソフトウェア(San Diego Instruments)を用いてマウスの歩行運動活動を記録した35。各マウスをオープントップチャンバー(41×41×38cm)の中心に置き、マウスにチャンバを毎日15分間、3日間連続で探索させた。移動距離をフォトビームによって記録した。
【0157】
自発的交替行動Y迷路試験では、マウスの自発的交替行動能力を、対称的なY迷路(長さ30cm×高さ20cm×幅8cm)を用いて調べる63。試験の1日前、各マウスをY迷路環境に馴化させた。試験日、各マウスをY迷路の中心に入れ、8分間探索させた。進入したアームの順番及び総アーム進入回数を、EthoVision XT7(Noldus)を用いて記録した。交替行動の割合を、3つのアームすべてに連続して進入した回数を総アーム進入回数-2で除算することによって計算した。解析で、同じアームへの再進入はカウントしなかった。
【0158】
最後に、高架式十字迷路試験では、リスクテイキング行動を、床から60cmの高さにある十字型の迷路を用いて測定する。2つのオープンアームと15cmの高さの壁を有する2つのクローズアームとを含む4つのアーム(長さ30cm×幅5cm)が中央プラットフォームから延びている。各マウスをオープンアームに向けて中央プラットフォームに置き、迷路を5分間、自由に探索させた39。マウスが各ゾーン(すなわち、クローズアーム、オープンアーム、又はセンターエリア)で過ごした時間を、EthoVision XT7(Noldus)を用いて記録した。
【0159】
統計解析
データはすべて、平均±SEMとして示し、nの値は個々の実験又はマウスの数を示す。統計解析はすべて、GraphPad Prism(バージョン6.01)を用いて行なった。差の有意性は、図の説明文に示したとおりの対応両側スチューデントt検定又は独立両側スチューデントt検定及び二元配置反復測定ANOVAによって評価した。比較が単一のマウスの海馬の未注射側と注射側間におけるものであったため、対応両側t検定を用いて海馬内注射を解析した。二元配置反復測定ANOVAは、群比較としてオープンフィールド試験における馴化を解析するために行ない;他の場合は独立両側t検定を行なった。群間の差は、P<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001の場合に統計学的に有意とみなした。サンプルサイズの事前決定には統計学的方法は使用しなかった。マウスを異なる実験群に無作為に割り付けた。免疫組織化学試験、電気生理学試験、及び行動試験を実施する試験担当者にマウスの遺伝子型及び注射条件は知らされなかった。
【表1】

【表2】

【表3】
【0160】
実施例2:β-セクレターゼ切断部位及びγ-セクレターゼ切断部位を標的とするAPPの破壊
序論
アルツハイマー病(AD)は、最も広く一般にみられる神経変性疾患のうちの1つであり、アミロイドベータ(Aβ)ペプチドの沈着及び過剰にリン酸化されたTauタンパク質で構成される神経原線維変化の存在を特徴とする。APP(アミロイド前駆体タンパク質)は、ADの特徴の1つであるAβの前駆体タンパク質である。APP遺伝子におけるミスセンス変異又はコピー数重複は、早期発症型ADが引き起こされるのに十分である。Aβは主に、ニューロン内でAPPが切断されると産生する。したがって、APP遺伝子を減少させることは、Aβの産生が低減され得、ADの治療に対する潜在的治療法となり得よう。APPは、ニューロン移動及びシナプス可塑性を含む神経の発達において生理学的役割を有する。したがって、成体段階におけるAPPのニューロン特異的モジュレーションは、ADを最小限の有害効果で治療するための有益なアプローチとなり得る。
【0161】
APPは、アミロイドプラークの主要構成成分であるAβの前駆体タンパク質である。APPは、アミロイド形成性及び非アミロイド形成性のタンパク質分解経路を受け得る。アミロイド形成経路では、APPはまずβ-セクレターゼによって切断され、可溶性の分泌型形態のAPP(sAPPβ)及びC末端断片(βAPP-CTF)を形成する。βAPP-CTFは、γ-セクレターゼによって順次切断され、APP細胞内ドメイン(AICD)、並びにシナプス毒性の40残基のペプチド(Aβ1-40)及び42残基のペプチド(Aβ1-42)を含むさまざまな長さのAβペプチドの産生がもたらされる。非アミロイド形成経路、すなわちα-セクレターゼ媒介性切断経路はAβの産生を阻害する。この経路において、α-セクレターゼによるAPPの切断はAβ配列内であり、これによりAβ形成が抑制される。
【0162】
ほとんどの家族性AD原因変異は、α-セクレターゼ切断部位、β-セクレターゼ切断部位、及びγ-セクレターゼ切断部位において、又は前記切断部位付近でクラスター形成し、β-セクレターゼ及びγ-セクレターゼによるAPPのタンパク質分解性プロセシングが有利になることによってAβ形成が促進される。これにより全Aβレベル又はAβ42レベルの増大がもたらされ、Aβのアミロイドプラークへの自己凝集が促進される。したがって、APPのβ-セクレターゼ切断部位及びγ-セクレターゼ切断部位を破壊することによってAPPのアミロイド形成タンパク質分解経路が阻害され、毒性Aβの産生が抑制され得る。微生物のクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)/Cas9媒介性ゲノム編集は、β-セクレターゼ及びγ-セクレターゼの両方をコードするゲノム配列を破壊する強力なツールであり、AD治療のための大きな潜在的可能性を有する。
【0163】
本発明において、APP遺伝子のエクソン14~17を特異的に標的とするためのシングルガイドRNA(sgRNA)を、ニューロン特異的プロモーター(表C)を用いてデザインし(図16及び表A、B)、編集効果をインビトロで解析した(図17)。特定の変異部位(すなわち、APPスウェーデン型変異)を標的とするものと比べて、APPのβ-セクレターゼ切断部位のCRSIPR/Cas9媒介性欠失は、野生型APP、並びにほとんどの家族性APP変異を有するAPPにおけるAPP発現を減少させるために使用され得る(図18、表D)。したがって、このアプローチは、ほとんどの家族性AD症例の治療に対して開発することができる。APPのβ-セクレターゼ切断部位のCRSIPR/Cas9媒介性欠失によってAβ分泌が有意に低減されることを実証した(図18)。そのようなデータは総合的に、APPのβ-セクレターゼ切断部位及びγ-セクレターゼ切断部位を標的とすることは、Aβ産生を低減させるための実現可能なアプローチであり、家族性AD変異を有するほとんどの患者の治療に適用することが可能であり得ることを示す。
【0164】
方法
プラスミド
AAV-EFS::NLS-SaCas9-NLS-3xHA-bGHpA;U6::sgRNA内にBsaI部位(New England Biolabs)を介してsgRNAを挿入した。次いで、分子クローニングのために、このライゲーション生成物でNEB Stable Competent E. coli(New England Biolabs)を形質転換した。E.Z.N.A. Plasmid DNA Mini Kit I(Omega Bio-tek)を製造業者の使用説明に従って用いてプラスミドDNAを調製し、ラージスケールプラスミドを、エンドトキシンフリー条件でQiagen Plasmid Maxi Kit(Qiagen)を用いて調製した。
【0165】
細胞培養
HEK293T細胞を、10%の熱非働化処理済みウシ胎児血清(v/v、GIBCO)+1%のペニシリン/ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Invitrogen)中でインキュベートした。HEK293T細胞に、リポフェクタミン3000試薬(Thermo Fisher Scientific)を製造業者の使用説明に従って用いて遺伝子導入した。遺伝子導入後48時間目に細胞を回収し、培地及び細胞ペレットを収集した。
【0166】
ゲノムDNA抽出及びPCR増幅
ゲノムDNAを細胞ペレットから、製造業者の使用説明に従ってQuickExtract(登録商標) DNA Extraction Solution(Lucigen)を用いて抽出した。KAPA HiFi HotStart ReadyMix(Roche)を使用し、gRNA/Cas9プラスミド及びpcDNA3-APPプラスミドを用いて同時遺伝子導入した293T細胞のゲノムDNAを増幅した。PCR増幅は、98℃で30秒間の変性後、(98℃で20秒、65℃で20秒、及び72℃で30秒)を30サイクル;並びに最終伸長サイクルとして72℃で2分間であった。
【0167】
T7エンドヌクレアーゼIアッセイ
編集効率を解析するためにT7エンドヌクレアーゼIミスマッチアッセイを行なった。T7エンドヌクレアーゼI(New England Biolabs、M0302)をPCR産物に添加し、混合物を37℃で15分間インキュベートした。産物を、2.5%アガロースゲル電気泳動で可視化することによって解析した。次に、酵素切断バンド及び酵素未切断バンドの強度を、ImageJ(NIH)ソフトウェアを用いて定量した。最後に、編集効率を以下のとおりに計算した。
【数2】
【0168】
分泌されたAβの定量
分泌されたAβを、MSD Human (6E10) Abeta3-Plex Kits(Meso Scale Discovery)を製造業者の使用説明に従って用いることによって定量した。分泌されたAβレベルを、BCAアッセイ(Thermo Fisher Scientific)によって測定された全タンパク質レベルに対して正規化した。
【表4】


【表5-1】


【表5-2】

【表6】


【表7-1】


【表7-2】
【0169】
考察
本研究において、まずアミロイドベータの産生を、APP内のアミロイド形成タンパク質分解経路に関与する切断部位を破壊することによって減少させる。APP(アミロイド前駆体タンパク質)中のβ-セクレターゼ切断部位及びγ-セクレターゼ切断部位を無効にすることにより、アルツハイマー病(AD)の特徴の1つであるアミロイドベータ(Aβ)の産生の低減がもたらされる。このアプローチはAPP、PSEN1、及びPSEN2に変異を有するあらゆる家族性AD症例に、並びにAβの産生の増大と関連する弧発性ADを有する人に一般的に適用することができる。
【0170】
APP発現は成体段階で操作される。APPは、動物の発達において;例えば、ニューロン移動及びシナプス可塑性において生理学的役割を有する。したがって、成体段階での脳におけるAPP発現の特異的操作によって有益な転帰が示され、(ゲノム編集ツールのオフターゲット効果による)潜在的副作用が低減される。
【0171】
APPのニューロン特異的又はニューロンサブタイプ特異的な操作を行う。Aβはニューロン内でのAPPの切断より産生される。したがって、プロモーター特異的駆動型ゲノム編集によるニューロンにおけるAPP発現の特異的操作により、他の細胞型において生じる潜在的オフターゲット効果を回避することができよう。さらに、ゲノム編集は、特定のニューロン亜集団(すなわち、抑制性ニューロン、興奮性ニューロン)における任意の潜在的副作用を低減又は消失させるために実施することができる。
【0172】
脳全域でのゲノム編集の効果が検討される。ゲノム編集構成要素の非侵襲的送達は静脈内投与によって行なわれる。全ゲノムシーケンシングを行ない、Cas9-sgRNAによってオフターゲット事象は導入されないことが示される。
【0173】
本出願において挙げた全ての特許、特許出願、及びGenBankアクセッション番号を含む他の刊行物は、その全体が参照によりあらゆる目的のために本明細書に取り込まれる。
【0174】
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【0175】
配列表
配列番号:1 sgRNA-Syn::Cas9-mWPREコンストラクトであるITR-U6-SW1-Syn-SaCas9-HA-mWPRE-pA-ITRのヌクレオチド配列
CCTGCAGGCAGCTGCGCGCTCGCTCGCTCACTGAGGCCGCCCGGGCGTCGGGCGACCTTTGGTCGCCCGGCCTCAGTGAGCGAGCGAGCGCGCAGAGAGGGAGTGGCCAACTCCATCACTAGGGGTTCCTGCGGCCTCTAGAGAGGGCCTATTTCCCATGATTCCTTCATATTTGCATATACGATACAAGGCTGTTAGAGAGATAATTGGAATTAATTTGACTGTAAACACAAAGATATTAGTACAAAATACGTGACGTAGAAAGTAATAATTTCTTGGGTAGTTTGCAGTTTTAAAATTATGTTTTAAAATGGACTATCATATGCTTACCGTAACTTGAAAGTATTTCGATTTCTTGGCTTTATATATCTTGTGGAAAGGACGAAACACCgTCTCTGAAGTGAATCTGGATGGTTTTAGTACTCTGGAAACAGAATCTACTAAAACAAGGCAAAATGCCGTGTTTATCTCGTCAACTTGTTGGCGAGATTTTTTCTAGAAGTGCAAGTGGGTTTTAGGACCAGGATGAGGCGGGGTGGGGGTGCCTACCTGACGACCGACCCCGACCCACTGGACAAGCACCCAACCCCCATTCCCCAAATTGCGCATCCCCTATCAGAGAGGGGGAGGGGAAACAGGATGCGGCGAGGCGCGTGCGCACTGCCAGCTTCAGCACCGCGGACAGTGCCTTCGCCCCCGCCTGGCGGCGCGCGCCACCGCCGCCTCAGCACTGAAGGCGCGCTGACGTCACTCGCCGGTCCCCCGCAAACTCCCCTTCCCGGCCACCTTGGTCGCGTCCGCGCCGCCGCCGGCCCAGCCGGACCGCACCACGCGAGGCGCGAGATAGGGGGGCACGGGCGCGACCATCTGCGCTGCGGCGCCGGCGACTCAGCGCTGCCTCAGTCTGCGGTGGGCAGCGGAGGAGTCGTGTCGTGCCTGAGAGCGCAGgccaccATGGCCCCAAAGAAGAAGCGGAAGGTCGGTATCCACGGAGTCCCAGCAGCCAAGCGGAACTACATCCTGGGCCTGGACATCGGCATCACCAGCGTGGGCTACGGCATCATCGACTACGAGACACGGGACGTGATCGATGCCGGCGTGCGGCTGTTCAAAGAGGCCAACGTGGAAAACAACGAGGGCAGGCGGAGCAAGAGAGGCGCCAGAAGGCTGAAGCGGCGGAGGCGGCATAGAATCCAGAGAGTGAAGAAGCTGCTGTTCGACTACAACCTGCTGACCGACCACAGCGAGCTGAGCGGCATCAACCCCTACGAGGCCAGAGTGAAGGGCCTGAGCCAGAAGCTGAGCGAGGAAGAGTTCTCTGCCGCCCTGCTGCACCTGGCCAAGAGAAGAGGCGTGCACAACGTGAACGAGGTGGAAGAGGACACCGGCAACGAGCTGTCCACCAAAGAGCAGATCAGCCGGAACAGCAAGGCCCTGGAAGAGAAATACGTGGCCGAACTGCAGCTGGAACGGCTGAAGAAAGACGGCGAAGTGCGGGGCAGCATCAACAGATTCAAGACCAGCGACTACGTGAAAGAAGCCAAACAGCTGCTGAAGGTGCAGAAGGCCTACCACCAGCTGGACCAGAGCTTCATCGACACCTACATCGACCTGCTGGAAACCCGGCGGACCTACTATGAGGGACCTGGCGAGGGCAGCCCCTTCGGCTGGAAGGACATCAAAGAATGGTACGAGATGCTGATGGGCCACTGCACCTACTTCCCCGAGGAACTGCGGAGCGTGAAGTACGCCTACAACGCCGACCTGTACAACGCCCTGAACGACCTGAACAATCTCGTGATCACCAGGGACGAGAACGAGAAGCTGGAATATTACGAGAAGTTCCAGATCATCGAGAACGTGTTCAAGCAGAAGAAGAAGCCCACCCTGAAGCAGATCGCCAAAGAAATCCTCGTGAACGAAGAGGATATTAAGGGCTACAGAGTGACCAGCACCGGCAAGCCCGAGTTCACCAACCTGAAGGTGTACCACGACATCAAGGACATTACCGCCCGGAAAGAGATTATTGAGAACGCCGAGCTGCTGGATCAGATTGCCAAGATCCTGACCATCTACCAGAGCAGCGAGGACATCCAGGAAGAACTGACCAATCTGAACTCCGAGCTGACCCAGGAAGAGATCGAGCAGATCTCTAATCTGAAGGGCTATACCGGCACCCACAACCTGAGCCTGAAGGCCATCAACCTGATCCTGGACGAGCTGTGGCACACCAACGACAACCAGATCGCTATCTTCAACCGGCTGAAGCTGGTGCCCAAGAAGGTGGACCTGTCCCAGCAGAAAGAGATCCCCACCACCCTGGTGGACGACTTCATCCTGAGCCCCGTCGTGAAGAGAAGCTTCATCCAGAGCATCAAAGTGATCAACGCCATCATCAAGAAGTACGGCCTGCCCAACGACATCATTATCGAGCTGGCCCGCGAGAAGAACTCCAAGGACGCCCAGAAAATGATCAACGAGATGCAGAAGCGGAACCGGCAGACCAACGAGCGGATCGAGGAAATCATCCGGACCACCGGCAAAGAGAACGCCAAGTACCTGATCGAGAAGATCAAGCTGCACGACATGCAGGAAGGCAAGTGCCTGTACAGCCTGGAAGCCATCCCTCTGGAAGATCTGCTGAACAACCCCTTCAACTATGAGGTGGACCACATCATCCCCAGAAGCGTGTCCTTCGACAACAGCTTCAACAACAAGGTGCTCGTGAAGCAGGAAGAAAACAGCAAGAAGGGCAACCGGACCCCATTCCAGTACCTGAGCAGCAGCGACAGCAAGATCAGCTACGAAACCTTCAAGAAGCACATCCTGAATCTGGCCAAGGGCAAGGGCAGAATCAGCAAGACCAAGAAAGAGTATCTGCTGGAAGAACGGGACATCAACAGGTTCTCCGTGCAGAAAGACTTCATCAACCGGAACCTGGTGGATACCAGATACGCCACCAGAGGCCTGATGAACCTGCTGCGGAGCTACTTCAGAGTGAACAACCTGGACGTGAAAGTGAAGTCCATCAATGGCGGCTTCACCAGCTTTCTGCGGCGGAAGTGGAAGTTTAAGAAAGAGCGGAACAAGGGGTACAAGCACCACGCCGAGGACGCCCTGATCATTGCCAACGCCGATTTCATCTTCAAAGAGTGGAAGAAACTGGACAAGGCCAAAAAAGTGATGGAAAACCAGATGTTCGAGGAAAAGCAGGCCGAGAGCATGCCCGAGATCGAAACCGAGCAGGAGTACAAAGAGATCTTCATCACCCCCCACCAGATCAAGCACATTAAGGACTTCAAGGACTACAAGTACAGCCACCGGGTGGACAAGAAGCCTAATAGAGAGCTGATTAACGACACCCTGTACTCCACCCGGAAGGACGACAAGGGCAACACCCTGATCGTGAACAATCTGAACGGCCTGTACGACAAGGACAATGACAAGCTGAAAAAGCTGATCAACAAGAGCCCCGAAAAGCTGCTGATGTACCACCACGACCCCCAGACCTACCAGAAACTGAAGCTGATTATGGAACAGTACGGCGACGAGAAGAATCCCCTGTACAAGTACTACGAGGAAACCGGGAACTACCTGACCAAGTACTCCAAAAAGGACAACGGCCCCGTGATCAAGAAGATTAAGTATTACGGCAACAAACTGAACGCCCATCTGGACATCACCGACGACTACCCCAACAGCAGAAACAAGGTCGTGAAGCTGTCCCTGAAGCCCTACAGATTCGACGTGTACCTGGACAATGGCGTGTACAAGTTCGTGACCGTGAAGAATCTGGATGTGATCAAAAAAGAAAACTACTACGAAGTGAATAGCAAGTGCTATGAGGAAGCTAAGAAGCTGAAGAAGATCAGCAACCAGGCCGAGTTTATCGCCTCCTTCTACAACAACGATCTGATCAAGATCAACGGCGAGCTGTATAGAGTGATCGGCGTGAACAACGACCTGCTGAACCGGATCGAAGTGAACATGATCGACATCACCTACCGCGAGTACCTGGAAAACATGAACGACAAGAGGCCCCCCAGGATCATTAAGACAATCGCCTCCAAGACCCAGAGCATTAAGAAGTACAGCACAGACATTCTGGGCAACCTGTATGAAGTGAAATCTAAGAAGCACCCTCAGATCATCAAAAAGGGCAAAAGGCCGGCGGCCACGAAAAAGGCCGGCCAGGCAAAAAAGAAAAAGGGATCCTACCCATACGATGTTCCAGATTACGCTTACCCATACGATGTTCCAGATTACGCTTACCCATACGATGTTCCAGATTACGCTTAAGAATTCCGCTCGAGATAATCAACCTCTGGATTACAAAATTTGTGAAAGATTGACTGGTATTCTTAACTATGTTGCTCCTTTTACGCTATGTGGATACGCTGCTTTAATGCCTTTGTATCATGCTATTGCTTCCCGTATGGCTTTCATTTTCTCCTCCTTGTATAAATCCTGGTTAGTTCTTGCCACGGCGGAACTCATCGCCGCCTGCCTTGCCCGCTGCTGGACAGGGGCTCGGCTGTTGGGCACTGACAATTCCGTGGTGTTTATTTGTGAAATTTGTGATGCTATTGCTTTATTTGTAACCATCTAGCTTTATTTGTGAAATTTGTGATGCTATTGCTTTATTTGTAACCATTATAAGCTGCAATAAACAAGTTAACAACAACAATTGCATTCATTTTATGTTTCAGGTTCAGGGGGAGATGTGGGAGGTTTTTTAAAGCGGCCGCAGGAACCCCTAGTGATGGAGTTGGCCACTCCCTCTCTGCGCGCTCGCTCGCTCACTGAGGCCGGGCGACCAAAGGTCGCCCGACGCCCGGGCTTTGCCCGGGCGGCCTCAGTGAGCGAGCGAGCGCGCAGCTGCCTGCAGG
【0176】
配列番号:2 APPアミノ酸配列(αセクレターゼ部位を太字、βセクレターゼ部位を下線、及びγセクレターゼ部位を二重下線で示す)
【化1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
2024542125000001.xml
【国際調査報告】