(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】レジスチン特異的抗体及びその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 16/24 20060101AFI20241106BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241106BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241106BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241106BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241106BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241106BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241106BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20241106BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20241106BHJP
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A61P 9/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20241106BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20241106BHJP
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A61P 3/04 20060101ALI20241106BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20241106BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20241106BHJP
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A61P 17/06 20060101ALI20241106BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241106BHJP
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A61P 11/06 20060101ALI20241106BHJP
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A61P 17/04 20060101ALI20241106BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20241106BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20241106BHJP
A61P 17/08 20060101ALI20241106BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241106BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241106BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241106BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20241106BHJP
【FI】
C07K16/24 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
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C07K16/46
C07K19/00
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P9/00
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A61P29/00
A61P35/04
A61P3/00
A61P3/04
A61P3/06
A61P9/12
A61P9/10 101
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A61P17/00
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A61P17/04
A61P17/10
A61P11/02
A61P17/08
A61P31/04
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K45/00
A61K47/68
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526979
(86)(22)【出願日】2022-11-04
(85)【翻訳文提出日】2024-05-23
(86)【国際出願番号】 KR2022017192
(87)【国際公開番号】W WO2023080695
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】10-2021-0151465
(32)【優先日】2021-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】516011833
【氏名又は名称】ソウル ナショナル ユニバーシティ ホスピタル
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY HOSPITAL
(71)【出願人】
【識別番号】519302279
【氏名又は名称】ワイ-バイオロジクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Y-BIOLOGICS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒョス
(72)【発明者】
【氏名】チャン ヒョンドク
(72)【発明者】
【氏名】パク ブンチャン
(72)【発明者】
【氏名】ユン ジェボン
(72)【発明者】
【氏名】パク ジェウン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ソヨン
(72)【発明者】
【氏名】チョン ウニョン
(72)【発明者】
【氏名】キム スヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジス
(72)【発明者】
【氏名】イ ジェミン
(72)【発明者】
【氏名】イ ドンジュン
(72)【発明者】
【氏名】ソン ジアン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
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4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、レジスチン(resistin)に対する抗体及びその用途に関し、より詳細には、レジスチン/CAP1結合を遮断することによりレジスチンの活性を阻害するレジスチン抗体又はその抗原結合断片、それをコードする核酸、前記核酸を含むベクター、前記ベクターで形質転換された細胞、前記抗体またはその抗原結合断片の製造方法、前記抗体またはその抗原結合断片を含む抗体薬物コンジュゲート、二重または多重特異的抗体、キメラ抗原受容体、それを含む免疫細胞、およびそれを含むレジスチンの活性阻害により治療可能な疾患の予防または治療用組成物に関する。本発明のレジスチンに結合する新規な抗体またはその抗原結合断片は、レジスチンに結合し、レジスチン/CAP1結合遮断を通じてその活性を阻害することができるので、レジスチンに関連する様々な疾患の治療剤開発に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変領域;および
配列番号4~11からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号12~19からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR2、及び配列番号20~27からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、レジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
前記軽鎖可変領域は、
配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号12で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号20で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;
配列番号5で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号13で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号21で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;
配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号14で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;
配列番号7で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号15で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号23で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;
配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号24で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;
配列番号9で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号17で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号25で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;
配列番号10で表されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号18で表されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号26で表されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;または
配列番号11で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号19で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号27で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域を含むことを特徴とする、請求項1に記載のレジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記重鎖可変領域は、配列番号28で示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項1に記載のレジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
前記軽鎖可変領域は、配列番号32、34、36、38、40、42、44および46からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項2に記載のレジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
配列番号28で示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;および
配列番号32、34、36、38、40、42、44および46からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;を含むことを特徴とする、請求項1に記載のレジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片の重鎖可変領域をコードする核酸。
【請求項7】
前記核酸は、配列番号30で示される塩基配列を含むことを特徴とする、請求項6に記載の核酸。
【請求項8】
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片の軽鎖可変領域をコードする核酸。
【請求項9】
前記核酸は、配列番号48、50、52、54、56、58、60および62からなる群より選択される塩基配列を含むことを特徴とする、請求項8に記載の核酸。
【請求項10】
請求項6に記載の抗体またはその抗原結合断片の重鎖可変領域をコードする核酸、および請求項8に記載の抗体またはその抗原結合断片の軽鎖可変領域をコードする核酸を含む発現ベクター。
【請求項11】
請求項10に記載の発現ベクターで形質転換された細胞。
【請求項12】
動物細胞、植物細胞、酵母、大腸菌および昆虫細胞からなる群より選択されることを特徴とする、請求項11に記載の細胞。
【請求項13】
下記ステップを含むレジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片の製造方法:
(a) 請求項11に記載の細胞を培養するステップ;および
(b) 前記培養された細胞から抗体またはその抗原結合断片を回収するステップ。
【請求項14】
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片に薬物が結合した抗体薬物コンジュゲート(antibody-drug conjugate;ADC)。
【請求項15】
前記抗体またはその抗原結合断片は、リンカーを介して薬物と結合することを特徴とする、請求項14に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項16】
前記リンカーは、切断性リンカーまたは非切断性リンカーであることを特徴とする、請求項15に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項17】
前記薬物は、化学療法剤、毒素、マイクロRNA(miRNA)、siRNA、shRNAまたは放射性同位体であることを特徴とする、請求項14に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項18】
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片を含む二重特異的(bispecific)または多重特異的(multi-specific)抗体。
【請求項19】
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片を含むキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor;CAR)。
【請求項20】
請求項19に記載のキメラ抗原受容体を含む免疫細胞。
【請求項21】
前記免疫細胞は、T細胞又はNK細胞であることを特徴とする、請求項20に記載の免疫細胞。
【請求項22】
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片、請求項14に記載の抗体薬物コンジュゲート、請求項18に記載の二重特異的または多重特異的抗体、または請求項19に記載のキメラ抗原受容体を含む、レジスチンの活性阻害により治療可能な疾患の予防または治療用医薬組成物。
【請求項23】
前記レジスチンの活性は、レジスチン抗体によりレジスチン/CAP1結合が遮断されることにより阻害されることを特徴とする、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記レジスチンの活性阻害により治療可能な疾患は、癌、心血管代謝疾患、自己免疫疾患又は炎症性疾患であることを特徴とする、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記癌は、乳癌、転移癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、黒色腫、肺癌、肝癌、神経膠腫、大腸癌、頭頸部癌、膀胱癌、腎細胞癌、胃癌、膵臓癌及び再発癌からなる群より選択されることを特徴とする、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記心血管代謝疾患は、肥満、高脂血症、高血圧、動脈硬化、高インスリン血症、インスリン抵抗性糖尿病、第2型糖尿病、肝疾患、非アルコール性脂肪肝疾患及び非アルコール性脂肪肝炎からなる群より選択されることを特徴とする、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記自己免疫疾患は、慢性心疾患、リウマチ性関節炎、全身性紅斑性嚢胞、消化器系糖尿病、アトピー性皮膚炎、自己免疫性脳脊髄炎、喘息及びクローン病からなる群より選択されることを特徴とする、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記炎症性疾患は、喘息、湿疹、乾癬、ニキビ、アレルギー、リウマチ性関節炎、乾癬性関節炎(psoriatic arthritis)、アトピー性皮膚炎、アトピー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎、慢性副鼻腔炎または脂漏性皮膚炎(seborrheic dermatitis)を含む炎症性皮膚疾患;クローン病または潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis)、敗血症、敗血症性ショック、脈管炎および滑液包炎を含む急性または慢性炎症性疾患からなる群より選択されることを特徴とする、請求項24に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、レジスチン(resistin)に対する抗体及びその用途に関し、より詳細には、レジスチン/CAP1結合を遮断することによりレジスチンの活性を阻害する抗レジスチン抗体又はその抗原結合断片、それをコードする核酸、前記核酸を含むベクター、前記ベクターで形質転換された細胞、前記抗体またはその抗原結合断片の製造方法、前記抗体またはその抗原結合断片を含む抗体薬物コンジュゲート、二重または多重特異的抗体、キメラ抗原受容体、それを含む免疫細胞、およびそれを含むレジスチンの活性阻害により治療可能な疾患の予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
レジスチン(resistin)は、肥満マウス(mouse)においてインスリン抵抗性を誘導するメディエーターとして初めて確認されたサイトカインである。これはシステイン富化タンパク質に属し、レジスチン様分子(RELMs, resistin-like molecules)としても知られており、炎症過程の調節に関与している。また、ラットのレジスチン(murine resistin)は、肥満を介したインスリン抵抗性および第2型糖尿病の発生に関与していることが知られている(Li et al, Endocrine 35:243-251, 2009; Nakata et al, Biochem Biophys Res Commun. 353:1046-1051, 2007; Steppan et al, Nature 409:307-312, 2001)。
【0003】
実際に、ラットとヒトレジスチンのタンパク質塩基配列は60%程度だけ同一であり、齧歯類(rodents)レジスチンは主に成熟した脂肪細胞(adipocytes)で最初に発現及び分泌されるのに対し、ヒトレジスチンは主に白血球(leukocytes)に代表される末梢血単核細胞(PBMC, peripheral blood mononuclear cell)とマクロファージから分泌される。ヒトと齧歯類でレジスチンの役割が異なることは、多くの研究を通じて明らかになっている。
【0004】
ヒトレジスチンの作用は、免疫細胞の流入を促進し、炎症誘発物質(pro-inflammatory factor)の分泌を誘導することが報告されており、インスリン抵抗性の促進とは別に、炎症性疾患と動脈硬化症を誘導するという証拠が報告されている(Bokarewa et al, J Immunol. 174:5789-5795, 2005; Silswal et al, Biochem Biophys Res Commun. 334:1092-1101, 2005; Burnett et al, Atherosclerosis 182:241-248, 2005; Jung et al, Cardiovasc. Res 69:76-85, 2006; Reilly et al, Circulation 111:932-939, 2005)。また、ラットとヒトの動脈硬化症病変にいずれも存在するレジスチンは、ヒトにおいて動脈硬化症の炎症性マーカーとして知られており、単球(monocyte)を活性化させることで動脈硬化症を促進することが知られている(Cho et al、J Am Coll Cardiol 57:99-109, 2011)。したがって、ヒトレジスチンは動脈硬化症をもたらす単球を刺激する核心要素であると考えられる。
【0005】
ヒトレジスチンが炎症を誘発するメカニズムは、NF-κB(nuclear factor kappa B)転写因子を活性化させるようだが、まだレジスチンの炎症誘発効果を示すシグナル伝達経路は明らかでないだけでなく、癌におけるレジスチンの役割は不明である。
【0006】
本発明者らは、ヒトレジスチンと直接相互作用する受容体であるCAP1(adenylyl cyclaseassociated protein 1)を世界で初めて発見した(Lee S et al, Cell Metabolism, 19(3), 2014):484-97, 2014)。したがって、ヒトレジスチンの作用を媒介する受容体であるCAP1を用いて、レジスチンによって引き起こされる疾患の治療剤を開発することが可能になった。
【0007】
そこで、本発明者らは、レジスチン/CAP1結合の遮断を通じて癌のようなレジスチンに起因する疾患を治療しようと鋭意努力した結果、レジスチンに高い親和性で結合するレジスチン特異的抗体を製造し、このような抗レジスチン抗体がレジスチン/CAP1結合阻害活性及びレジスチンの活性阻害を通じて治療可能な疾患に高い治療効果を示すことを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本背景技術部分に記載された前記情報は、あくまでも本発明の背景に対する理解を深めるためのものであり、そのため、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者にとって既に知られている先行技術を形成する情報を含まない場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、レジスチン(resistin)に対する新規抗体またはその抗原結合断片を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、前記核酸を含むベクター、前記ベクターで形質転換された細胞、及びこれを用いた前記抗体又はその抗原結合断片の製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記抗体またはその抗原結合断片を含む抗体薬物コンジュゲートまたは二重または多重特異的抗体を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記抗体またはその抗原結合断片を含むキメラ抗原受容体、前記キメラ抗原受容体を含む免疫細胞を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、前記抗体またはその抗原結合断片、前記抗体薬物コンジュゲート、前記二重または多重特異的抗体または前記キメラ抗原受容体を含む、レジスチンの活性阻害により治療可能な疾患の予防または治療用医薬組成物、レジスチンの活性阻害により治療可能な疾患の予防または治療方法;レジスチンの活性阻害により治療可能な疾患の予防または治療のための前記抗体またはその抗原結合断片、抗体薬物コンジュゲート、二重または多重特異的抗体またはキメラ抗原受容体の用途;およびレジスチンの活性阻害により治療可能な疾患の予防または治療用薬剤の製造のための前記抗体またはその抗原結合断片、抗体薬物コンジュゲート、二重または多重特異的抗体またはキメラ抗原受容体の使用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変領域;および
【0013】
配列番号4~11からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号12~19からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR2、及び配列番号20~27からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、レジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0014】
本発明はまた、前記抗体またはその抗原結合断片の重鎖可変領域をコードする核酸を提供する。
本発明はまた、前記抗体またはその抗原結合断片の軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。
本発明はまた、前記核酸を含むベクターを提供する。
本発明はまた、前記ベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0015】
本発明はまた、(a)前記細胞を培養するステップ;および(b)前記培養された細胞から抗体またはその抗原結合断片を回収するステップを含む、前記抗体またはその抗原結合断片の製造方法を提供する。
【0016】
本発明はまた、前記抗体またはその抗原結合断片を含む抗体薬物コンジュゲートまたは二重または多重特異的抗体を提供する。
本発明はまた、前記抗体またはその抗原結合断片を含むキメラ抗原受容体、または前記キメラ抗原受容体を含む免疫細胞を提供する。
【0017】
本発明はまた、前記抗体またはその抗原結合断片、抗体薬物コンジュゲート、二重または多重特異的抗体またはキメラ抗原受容体を含む、レジスチンの活性阻害により治療可能な疾患の予防または治療用医薬組成物を提供する。
【0018】
本発明はまた、前記抗体またはその抗原結合断片、抗体薬物コンジュゲート、二重または多重特異的抗体またはキメラ抗原受容体を用いたレジスチンの活性阻害により治療可能な疾患の予防または治療方法;レジスチンの活性阻害により治療可能な疾患の予防または治療のための前記抗体またはその抗原結合断片、抗体薬物コンジュゲート、二重または多重特異的抗体またはキメラ抗原受容体の用途;およびレジスチンの活性阻害により治療可能な疾患の予防または治療用薬剤の製造のための前記抗体またはその抗原結合断片、抗体薬物コンジュゲート、二重または多重特異的抗体またはキメラ抗原受容体の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】RETN-C-Fc抗原とRETN-flag-His抗原を1次精製後、SDS-PAGEで分析して純度を確認したものである。
【
図2a】バイオパニング第1ラウンドでRETN-flag-Hisを抗原として使用したscFvファージプールのポリファージELISA結果である。
【
図2b】バイオパニング第1ラウンドでRETN-C-Fcを抗原として使用したscFvファージプールのポリファージELISA結果である。
【
図3a】バイオパニング第1ラウンドでRETN-flag-Hisを抗原として得られたモノクローナルの抗原特異的結合の分析結果である。
【
図3b】バイオパニング第1ラウンドでRETN-C-Fcを抗原として得られたモノクローナルの抗原特異的結合の分析結果である。
【
図4】1次スクリーニングで得られた16種のタンパク質の抗原受容体結合阻害能の分析結果である。
【
図5】OCTETを用いて4種のクローンの抗原親和性を分析した結果である。
【
図6】2次スクリーニングから得られた11種のモノクローナルの抗原特異的結合の分析結果である。
【
図7a】3次スクリーニングの1次バイオパニングから得られた10種のモノクローナルの抗原特異的結合の分析結果である。
【
図7b】3次スクリーニングの2次バイオパニングから得られた9種のモノクローナルの抗原特異的結合の分析結果である。
【
図8】抗原受容体結合阻害能効果に優れた抗体5種(11G01、27A04、32B05、32E06、32G09)を示したものである。
【
図9a】20種のクローンのRETN-flag-His抗原に対する特異的結合のELISA分析結果である。
【
図9b】20種のクローンの非特異的結合のELISA分析結果である。
【
図10】OCTETを用いて6種のクローンの抗原親和性を分析した結果である。
【
図11】軽鎖シャッフリングライブラリ(LC shuffling library)の作成に対する模式図である。
【
図12】軽鎖シャッフリングライブラリでバイオパニングして得られたscFvファージプールのポリファージELISA結果である。
【
図13】抗体最適化クローン18種の親抗体RETN-5A2クローンに対する生産性の変化を示したものである。
【
図14】抗体最適化クローン18種のSDS-PAGE分析結果である。
【
図15a】最適化抗体18種のRETN-flag-His抗原に対する結合力をELISAで分析したものである。
【
図15b】最適化抗体18種の非特異的結合をELISAで分析したものである。
【
図15c】最適化抗体13種のintact form resistin抗原に対する結合力をELISAで分析したものである。
【
図16】最適化抗体8種のマウスレジスチン抗原に対する種間交差結合反応をELISAで調べたものである。
【
図17a】抗原受容体競合酵素免疫測定法の模式図である。
【
図17b】抗原受容体競合酵素免疫測定法により、最適化抗体18種の抗原受容体結合阻害能を評価したものである。
【
図18】抗原受容体結合阻害能をプルダウンアッセイ(pull down assay)で分析したものである。
【
図19】OCTETを用いて最適化抗体7種のクローンの抗原親和性を分析した結果である。
【
図20】乳癌細胞にレジスチン処理後、レジスチンによるNF-κBの活性化をp65のリン酸化で測定したものである。
【
図21】マウスに5A2抗体とhIgG controlを投与して薬物動態を測定した結果である。
【
図22】5A2抗体による試験管内における乳癌細胞の移動阻害を示す図である。
【
図23】5A2抗体による生体内における乳癌細胞の転移抑制を示す図である。
【
図24】5A2抗体効果を確認するためのマウスNASHモデル実験模式図である。
【
図25】マウスに5A2抗体を投与した場合、脂肪肝の抑制をH&E分析により確認した結果である。
【
図26】マウスに5A2抗体を投与した場合、脂肪肝の抑制をoil-red-o分析により確認した結果である。
【
図27】マウスに5A2抗体を投与した場合のインスリン感受性を示すグラフである。
【
図28】マウスに5A2抗体を投与した場合の空腹時血糖値の低下を確認したグラフである。
【
図29】マウスに5A2抗体を投与した場合、LDLコレステロールの減少を確認したグラフである。
【
図30】マウスに5A2抗体を投与した場合の肝のトリグリセリドの減少を確認したグラフである。
【
図31】RETN-5A2_LS_2F11抗体効果を確認するためのマウスIBDモデル実験模式図である。
【
図32】IBDマウスモデルにおけるRETN-5A2_LS_2F11抗体投与によるマウスの体重減少抑制効果を示す図である。
【
図33】IBDマウスモデルにおけるRETN-5A2_LS_2F11抗体投与による疾患活動性スコア(Disease Activity Score)の増加抑制効果を示す図である。
【
図34】IBDマウスモデルにおけるRETN-5A2_LS_2F11抗体投与による腸長保護効果を示す図である。
【
図35】IBDマウスモデルでRETN-5A2_LS_2F11抗体を投与した場合の組織学的活動性スコア(histological score)の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
他に定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的な用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使用される命名法は、当該技術分野でよく知られており、通常使用されるものである。
【0021】
本出願の発明者らは、バイオパニング方法を用いて、ヒトレジスチン(resistin)に高い親和性を有し、レジスチン抗原受容体間の結合阻害能に優れた新規レジスチンヒト抗体をスクリーニングし、前記スクリーニングされたレジスチンヒト抗体が癌細胞の移動及び転移を抑制する抗癌効果を示すことを確認した。
【0022】
したがって、本発明は、一観点から、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変領域;および
配列番号4~11からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号12~19からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR2、及び配列番号20~27からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、レジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0023】
本発明において、前記軽鎖可変領域は、
配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号12で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号20で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;
配列番号5で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号13で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号21で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;
配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号14で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;
配列番号7で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号15で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号23で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;
配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号24で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;
配列番号9で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号17で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号25で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;
配列番号10で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号18で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号26で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;または
配列番号11で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号19で示されるアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号27で示されるアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域であることを特徴としてもよい。
【0024】
また、本発明において、前記重鎖可変領域は、配列番号28で示されるアミノ酸配列を含むことが好ましく、前記軽鎖可変領域は、配列番号32、34、36、38、40、42、44及び46からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むことが好ましい。より好ましくは、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、配列番号28で示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び配列番号32、34、36、38、40、42、44及び46からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むが、これらに限定されない。
【0025】
本発明のレジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体の重鎖可変領域CDR配列(配列番号1、2および3)を下記表1に示した。
【0026】
本発明のレジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体の軽鎖可変領域CDR配列(配列番号4~27)を下記表2に示した。配列番号11、19および27は、レジスチン5A2親抗体の軽鎖可変領域CDR1、2および3の配列を示す。
【0027】
本発明のレジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号28)及び重鎖不変領域のアミノ酸配列(配列番号29)を下記表3に示した。
【0028】
また、本発明のレジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号32、34、36、38、40、42、44及び46)及び軽鎖不変領域のアミノ酸配列(配列番号33、35、37、39、41、43、45及び47)は、下記表5に示した。配列番号46はレジスチン5A2親抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列であり、配列番号47はレジスチン5A2親抗体の軽鎖不変領域のアミノ酸配列を示す。
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
本明細書で使用される「抗体(antibody)」という用語は、レジスチン(resistin)、特にヒトレジスチンに特異的に結合する抗レジスチン抗体を意味する。本発明の範囲には、レジスチンに特異的に結合する完全な抗体形態だけでなく、前記抗体分子の抗原結合断片も含まれる。
【0036】
完全な抗体は2つの全長の軽鎖および2つの全長の重鎖を持つ構造であり、それぞれの軽鎖は、重鎖とジスルフィド結合で連結されている。重鎖不変領域はガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)およびエプシロン(ε)タイプを持ち、サブクラスとしてガンマ1(γ1)、ガンマ2(γ2)、ガンマ3(γ3)、ガンマ4(γ4)、アルファ1(α1)およびアルファ2(α2)を持つ。軽鎖の不変領域は、カッパ(κ)およびラムダ(λ)タイプを持つ。
【0037】
抗体の抗原結合断片又は抗体断片とは、抗原結合機能を保有している断片を意味し、Fab、F(ab')、F(ab')2及びFv等を含む。抗体断片のうち、Fabは軽鎖及び重鎖の可変領域と軽鎖の不変領域及び重鎖の最初の不変領域(CH1)を有する構造であり、1つの抗原結合部位を有する。Fab'は重鎖CH1ドメインのC末端に1つ以上のシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge region)を持つという点で、Fabと相違する。F(ab')2抗体は、Fab'のヒンジ領域のシステイン残基がジスルフィド結合を形成することで生成される。Fvは重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のみを有する最小の抗体片でFv断片を生成する組換え技術は、PCT国際公開特許出願WO88/10649、WO88/106630、WO88/07085、WO88/07086及びWO88/09344に開示されている。二鎖Fv(two-chain Fv)は非共有結合で重鎖可変領域と軽鎖可変領域が連結されており、単鎖Fv(single-chain Fv、scFv)は一般にペプチドリンカーを介して重鎖の可変領域と軽鎖の可変領域が共有結合で連結されているか、またはC末端で直接連結されており、二鎖Fvのようにダイマー構造を形成することができる。このような抗体断片は、タンパク質加水分解酵素を用いて得ることができ(例えば、抗体全体をパパインで制限切断するとFabを得ることができ、ペプシンで切断するとF(ab')2断片を得ることができる)、遺伝子組換え技術を通じて作製することもできる。
【0038】
一実施態様では、本発明による抗体は、Fv形態(例えば、scFv)であるか、または完全な抗体形態である。また、重鎖不変領域は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)またはエプシロン(ε)のいずれかのアイソタイプから選択してもよい。例えば、不変領域は、ガンマ1(IgG1)、ガンマ3(IgG3)またはガンマ4(IgG4)である。軽鎖不変領域は、カッパ型またはラムダ型であってもよい。
【0039】
本明細書で使用される「重鎖」という用語は、抗原に特異性を付与するのに十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む可変領域ドメインVHおよび3つの不変領域ドメインCH1、CH2およびCH3を含む全長重鎖およびその断片の両方を意味する。さらに、本明細書で使用される「軽鎖」という用語は、抗原に特異性を付与するのに十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む可変領域ドメインVLおよび不変領域ドメインCLを含む全長軽鎖およびその断片の両方を意味する。
【0040】
本発明の抗体としては、モノクローナル抗体、多重特異的抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、短鎖Fvs(scFV)、短鎖抗体、Fab断片、F(ab')断片、ジスルフィド結合Fvs(sdFV)および抗イディオタイプ(抗Id)抗体、または前記抗体のエピトープ結合断片等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
前記モノクローナル抗体は、実質的に均質な抗体集団から得られた抗体、すなわち、集団を構成する個々の抗体が微量に存在する可能性のある自然発生的変異を除いて同一のものを指す。モノクローナル抗体は非常に特異的であり、単一の抗原部位に対して誘導される。通常、異なる決定因子(エピトープ)に対して指示された異なる抗体を含む通常の(ポリクローナル)抗体製剤とは対照的に、それぞれのモノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定因子に対して指示される。
【0042】
例えば、本発明で有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法によって調製してもよく、または細菌、真核生物または植物細胞からの組換えDNA法を使用して調製してもよい(米国特許 第4,816,567号参照)。また、モノクローナル抗体は、ファージ抗体ライブラリから単離してもよい。
【0043】
「エピトープ」とは、抗体が特異的に結合できるタンパク質の決定部位(determinant)を意味する。エピトープは、通常、化学的に活性な表面分子群、例えば、アミノ酸や糖側鎖で構成され、一般に特定の3次元の構造的特徴だけでなく、特定の電荷特性も有する。立体的エピトープと非立体的エピトープは、変性溶媒の存在下で前者に対する結合は消失するが、後者に対する結合は消失しないという点で区別される。
【0044】
前記「ヒト化」形態の非ヒト(例えば、ミューリン)抗体は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レセプターの超可変領域からの残基を目的とする特異性、親和性、および能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)、例えば、マウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類などの超可変領域からの残基で置換したヒト免疫グロブリン(レセプター抗体)である。
【0045】
前記「ヒト抗体」とは、ヒト免疫グロブリンに由来する分子であり、相補性決定領域、構造領域を含む抗体を構成するすべてのアミノ酸配列全体がヒト免疫グロブリンで構成されているものを意味する。
【0046】
重鎖及び/又は、軽鎖の一部が特定の種に由来するか、または特定の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体内の対応する配列と同一または相同であることに対し、残りの鎖(ら)は、別の種に由来するか、または別の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体内の対応する配列と同一または相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)だけでなく、目的とする生物学的活性を示す前記抗体の断片を含む。
【0047】
本明細書で使用される「抗体可変ドメイン」とは、相補性決定領域(CDR;すなわち、CDR1、CDR2、およびCDR3)、および骨格領域(FR)のアミノ酸配列を含む抗体分子の軽鎖および重鎖部分を指す。VHは重鎖の可変ドメインを指す。VLは軽鎖の可変ドメインを指す。
【0048】
「相補性決定領域」(CDR;すなわち、CDR1、CDR2、およびCDR3)は、抗原結合に必要な存在である抗体可変ドメインのアミノ酸残基を指す。各可変ドメインは、通常、CDR1、CDR2、およびCDR3として特定される3つのCDR領域を有する。
【0049】
「Fv」断片は、完全な抗体認識および結合部位を含む抗体断片である。これらの領域は、1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインが、例えばscFvとして実質的に強固に共有結合した二量体で構成される。
【0050】
「Fab」断片は、軽鎖の可変ドメインおよび不変ドメインと、重鎖の可変ドメインと第1不変ドメイン(CH1)を含む。F(ab')2抗体断片は、通常、それらの間にヒンジシステインによってそれらのカルボキシ末端付近に共有結合する一対のFab断片を含む。
【0051】
「単鎖Fv」または「scFv」抗体断片は、抗体のVHおよびVLドメインを含み、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖内に存在する。Fvポリペプチドは、scFvが抗原結合のために目的とする構造を形成できるようにするVHドメインとVLドメインの間にポリペプチドリンカーをさらに含んでもよい。
【0052】
本発明による抗体は、抗原に対する親和性(affinity)が増加した抗体である。 「親和性」という用語は、抗原の特定の部位を特異的に認識して結合する能力であり、抗体の抗原に対する特異性とともに、高い親和性は免疫反応において重要な要素である。親和性は、当業界で知られている任意の様々な分析、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)およびELISAを使用して決定することができ、様々な定量的値で表すことができる。抗体の抗原に対する親和性は、一般に、特定の抗体抗原相互作用の解離定数(dissociation constant, Kd)によって表すことができる。Kd値が低いほど、抗体の抗原に対する親和性が高いことを意味する。
【0053】
本発明の抗体または抗体断片は、レジスチンを特異的に認識できる範囲内で、本明細書に記載されている本発明の抗レジスチン抗体の配列だけでなく、その生物学的同等物も含んでもよい。例えば、抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的特性をさらに改善するために、抗体のアミノ酸配列に追加の改変を加えてもよい。このような改変は、例えば、抗体のアミノ酸配列残基の欠失、挿入及び/又は置換を含む。このようなアミノ酸修飾は、アミノ酸側鎖置換体の相対的な類似性、例えば、疎水性、親水性、電荷、サイズなどに基づいて行われる。アミノ酸側鎖置換体のサイズ、形状および種類の分析により、アルギニン、リジンおよびヒスチジンはすべて正電荷を有する残基であり;アラニン、グリシンおよびセリンは同様のサイズを有し;フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは同様の形状を有することが分かる。したがって、これらの考察に基づいて、アルギニン、リジン、ヒスチジン;アラニン、グリシンとセリン;そして、フェニルアラニン、トリプトファンとチロシンは生物学的に機能的に等価であると言える。
【0054】
前述した生物学的均等活性を有する変異を考慮すれば、本発明の抗体またはそれをコードする核酸分子は、配列番号に記載された配列と実質的同一性(substantial identity)を示す配列も含むものと解釈される。前記実質的同一性とは、前述した本発明の配列と任意の他の配列をできるだけ対応するようにアラインし、当業界において通常利用されるアルゴリズムを用いてアラインされた配列を分析した場合に、少なくとも90%の相同性、最も好ましくは少なくとも95%の相同性、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の相同性を示す配列を意味する。配列比較のためのアラインメント方法は当業界に公知である。NCBI Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)はNBCIなどでアクセス可能であり、インターネット上でblastp、blasm、blastx、tblastnおよびtblastxなどの配列分析プログラムと連動して用いることができる。BLSATはhttps://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiでアクセス可能である。このプログラムを用いた配列相同性比較方法はhttps://blast.ncbi.nlm.nih.gov/doc/blast-helpで確認することができる。
【0055】
これに基づいて、本発明の抗体またはその抗原結合断片は、明細書に記載された配列または全体と比較して、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上の相同性を有してもよい。このような相同性は、当業者に公知の方法による配列比較及び/又はアライメントによって決定してもよい。例えば、配列比較アルゴリズム(すなわち、BLASTまたはBLAST 2.0)、手動アライメント、および目視検査を用いて本発明の核酸またはタンパク質のパーセント配列相同性を決定してもよい。
【0056】
本発明は、他の観点から、前記抗体またはその抗原結合断片の重鎖可変領域をコードする核酸に関する。
【0057】
本発明において、配列番号28で示されるアミノ酸配列を含むレジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体の重鎖可変領域をコードする核酸であることが好ましく、より好ましくは、配列番号30で示される塩基配列であることを特徴としてもよく、配列は前記表4に示した。
【0058】
本発明は、他の観点から、前記抗体またはその抗原結合断片の軽鎖可変領域をコードする核酸に関する。
【0059】
本発明において、配列番号32、34、36、38、40、42、44及び46からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むレジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体の軽鎖可変領域をコードする核酸であることが好ましく、より好ましくは、配列番号48、50、52、54、56、58、60及び62からなる群より選択される塩基配列であることを特徴としてもよく、配列は前記表6に示した。
【0060】
「核酸」は、DNA(gDNA及びcDNA)及びRNA分子を包括的に含む意味を有し、核酸の基本構成単位であるヌクレオチドは、天然のヌクレオチドだけでなく、糖又は塩基部位が修飾された類似体(analogue)も含む。本発明の重鎖及び軽鎖可変領域をコードする核酸の配列は、修飾されてもよい。前記修飾は、ヌクレオチドの付加、欠失、または非保存的置換または保存的置換を含む。
【0061】
前記抗体をコードするDNAは、通常のプロセスを使用して(例えば、抗体の重鎖と軽鎖をコードするDNAと特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)容易に分離または合成する。多くのベクターが入手可能である。ベクター成分は、一般に、以下のうちの1つ以上を含むが、これらに限定されない:シグナル配列、複製開始点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーター、および転写終結配列。
【0062】
本発明の抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸を分離して抗体またはその抗原結合断片を組換え的に製造してもよい。核酸を分離し、これを複製可能なベクター内に挿入してさらにクローニング(DNAの増幅)するか、またはさらに発現させる。
【0063】
これに基づき、本発明は、他の観点から、前記核酸を含むベクターに関する。
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、宿主細胞で目的遺伝子を発現させるための手段として、プラスミドベクター;コズミドベクター;バクテリオファージベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターなどを含む。前記ベクターにおいて、抗体をコードする核酸は、プロモーターと機能的に連結されている。
【0064】
「機能的に連結」とは、核酸発現調節配列(例えば、プロモーター、シグナル配列、または転写調節因子結合位置のアレイ)と他の核酸配列との間の機能的な結合を意味し、これにより、前記調節配列は前記他の核酸配列の転写及び/又は解毒を調節する。
【0065】
原核細胞を宿主とする場合には、転写を進行させることができる強力なプロモーター(例えば、tacプロモーター、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、lppプロモーター、pLλプロモーター、pRλプロモーター、rac5プロモーター、ampプロモーター、recAプロモーター、SP6プロモーター、trpプロモーターおよびT7プロモーターなど)、解毒の開始のためのライボソーム結合部位および転写/解毒終結配列を含むことが一般的である。また、例えば、真核細胞を宿主とする場合には、哺乳動物細胞のジノム由来のプロモーター(例えば、メタロチオニンプロモーター、β-アクチンプロモーター、ヒトヘログロビンプロモーターおよびヒト筋肉クレアチンプロモーター)または哺乳動物ウイルス由来のプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、HSVのtkプロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、HIVのLTRプロモーター、モロニーウイルスのプロモーター、エプスタインバールウイルス(EBV)のプロモーター、およびラウスサルコーマウィルス(RSV)のプロモーター)を用いてもよく、通常、転写終結配列としてポリアデニル化配列を有する。
【0066】
場合によっては、ベクターは、そこから発現される抗体の精製を容易にするために、他の配列と融合してもよい。融合する配列としては、例えば、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(Pharmacia, USA)、マルトース結合タンパク質(NEB, USA)、FLAG(IBI, USA)および6x His(hexahistidine; Quiagen, USA)などが挙げられる。
【0067】
前記ベクターは、選択マーカーとして、当業界において通常用いられる抗生物質耐性遺伝子を含み、例えば、アンピシリン、ゲンタマイシン、カルベニシリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲネチシン、ネオマイシンおよびテトラサイクリンに対する耐性遺伝子がある。
【0068】
一方、前記レジスチン特異的抗体またはその抗原結合断片を発現するベクターは、重鎖可変領域をコードする核酸および軽鎖可変領域をコードする核酸が1つのベクターで同時に発現されるベクターシステム、または軽鎖と重鎖をそれぞれ別々のベクターで発現させるシステムの両方が可能である。後者の場合、2つのベクターは、同時形質転換(co-transfomation)および標的形質転換(targeted transformation)を通じて宿主細胞に導入してもよい。また、軽鎖(または重鎖)を含むベクターで形質転換された細胞をスクリーニングし、スクリーニングされた細胞を、重鎖(または軽鎖)を含むベクターで再度形質転換して軽鎖と重鎖の両方を発現する細胞を最終的にスクリーニングすることができる。
【0069】
これに限定されないが、レジスチン特異的抗体またはその抗原結合断片の重鎖可変領域をコードする核酸および軽鎖可変領域をコードする核酸が1つのベクターで同時に発現されるベクターシステムであることが好ましい。
【0070】
本発明は、他の観点から、前記ベクターで形質転換された細胞に関する。
本発明において、前記細胞は、動物細胞、植物細胞、酵母、大腸菌及び昆虫細胞からなる群より選択されることを特徴としてもよいが、これらに限定されない。
本発明の抗体を生成するために使用される細胞は、原核生物、酵母または高等真核生物細胞であってもよく、これらに限定されない。
【0071】
エシェリヒアコリ(Escherichia coli)、バチルスズブチリス及びバチルスチュリンゲンシスなどのバチルス属の菌株、ストレプトマイセス(Streptomyces)、シュードモナス(Pseudomonas)(例えば、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida))、プロテウスミラビリス(Proteus mirabilis)およびブドウ球菌(Staphylococcus)(例えば、スタフィロコッカスカルノサス(Staphylococcus carnosus))などの原核宿主細胞を用いてもよい。
【0072】
ただし、動物細胞に最も関心があり、有用な宿主細胞株の例としては、COS-7、BHK、CHO、CHOK1、DXB-11、DG-44、CHO/-DHFR、CV1、COS-7、HEK293、TM4、VERO、HELA、MDCK、BRL 3A、W138、Hep G2、SK-Hep、MMT、TRI、MRC5、FS4、3T3、RIN、A549、PC12、K562、PER.C6、SP2/0、NS-0、U20S、またはHT1080であってもよいが、これらに限定されない。
【0073】
本発明は、他の観点から、(a)前記細胞を培養するステップ;および(b)前記培養された細胞から抗体またはその抗原結合断片を回収するステップを含む、前記抗体またはその抗原結合断片の製造方法に関する。
【0074】
前記細胞は各種培地で培養してもよい。培養培地として市販の培地から制限なく使用してもよい。当業者に知られている他のすべての必須サプリメントを適切な濃度で含んでもよい。培養条件、例えば温度、pHなどは、発現のために選択された宿主細胞と共に既に使用されており、これは当業者にとって明らかであると言える。
【0075】
前記抗体またはその抗原結合断片の回収は、例えば遠心分離または限外濾過により不純物を除去し、その結果得られたものを、例えば、アフィニティークロマトグラフィーなどを用いて精製してもよい。追加の他の精製技術、例えば、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーなどを使用してもよい。
【0076】
本発明は、他の観点から、前記レジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片に薬物が結合された抗体薬物コンジュゲート(Antibody-drug conjugate;ADC)に関する。
【0077】
抗体薬物コンジュゲートは、ターゲット細胞に薬物を送達するまで、薬物が抗体に安定的に結合していなければならない。ターゲットに送達された薬物、例えば、抗癌剤は抗体から遊離してターゲット細胞の死滅を誘導する必要がある。そのためには、薬物が抗体に安定的に結合すると同時に、ターゲット細胞で遊離する際にはターゲット細胞の死滅を誘導する十分な細胞毒性を持たなければならない。
【0078】
本発明において、前記抗体またはその抗原結合断片と抗癌剤などの薬物を含む細胞毒性物質は、互いに結合(例えば、共有結合、ペプチド結合などによる)され、コンジュゲート(conjugate)または融合タンパク質(細胞毒性物質及び/又はマーカー物質がタンパク質である場合)の形で使用してもよい。前記細胞毒性物質は、癌細胞、特に固形癌細胞に対して毒性を有する全ての物質であってもよく、放射線同位体、細胞毒素化合物(small molecule)、細胞毒性タンパク質、抗癌剤などからなる群より選択される1種以上であってもよいが、これに限定されない。前記細胞毒素タンパク質は、リシン(ricin)、サポリン(saporin)、ジェロニン(gelonin)、モモルディン(momordin)、デボガニン(debouganin)、ジフテリア毒素、緑膿菌毒素(pseudomonas toxin)などからなる群より選択される1種以上であってもよいが、これらに限定されない。前記放射線同位体としては、131I、188Rh、90Yなどからなる群より選択される1種以上であってもよいが、これらに限定されない。前記細胞毒素化合物は、デュオカルマイシン(duocarmycin)、モノメチルアウリスタチンE(monomethyl auristatin E;MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(monomethyl auristatin F. MMAF)、N2'-ジアセチル-N2'-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)メイタンシン(N2'-deacetyl-N2'-(3-mercapto-1-oxopropyl)maytansine;DM1)、PBD(Pyrrolobenzodiazepine)ダイマーなどからなる群より選択される1種以上であってもよいが、これらに限定されない。
【0079】
本発明において、前記抗体薬物コンジュゲートは、本発明が属する技術分野において周知の技術によるものであってもよい。
本発明において、前記抗体薬物コンジュゲートは、前記抗体またはその抗原結合断片がリンカーを介して薬物と結合することを特徴としてもよい。
本発明において、前記リンカーは、切断性リンカーまたは非切断性リンカーであることを特徴としてもよい。
【0080】
前記リンカーは、抗レジスチン抗体と薬物の間を接続する部位であり、例えば、前記リンカーは、細胞内条件下で切断可能な形態、すなわち、細胞内環境で薬物がリンカーの切断によって抗体から放出されることを可能にする。
【0081】
前記リンカーは、細胞内環境、例えばリソソームまたはエンドソームに存在する切断剤によって切断してもよく、細胞内ペプチダーゼまたはプロテアーゼ酵素、例えばリソソームまたはエンドソームプロテアーゼによって切断してもよいペプチドリンカーであってもよい。一般に、ペプチドリンカーは、少なくとも2つ以上のアミノ酸の長さを有する。前記切断剤は、カテプシンBおよびカテプシンD、プラスミンを含んでもよく、ペプチドを加水分解し、薬物をターゲット細胞内に放出できるようにする。前記ペプチドリンカーは、癌組織に高発現するチオール依存性プロテアーゼカテプシンBによって切断してもよく、例えば、Phe-LeuまたはGly-Phe-Leu-Glyリンカーを使用してもよい。また、前記ペプチドリンカーは、例えば、細胞内プロテアーゼによって切断してもよいものであり、Val-Citリンカーであってもよく、Phe-Lysリンカーであってもよい。
【0082】
本発明において、前記切断性リンカーは、pH感受性であり、特定のpH値で加水分解に敏感であることもある。一般に、pH感受性リンカーは、酸性条件下で加水分解できることを示す。例えば、リソソームで加水分解することができる酸性不安定リンカーは、例えば、ヒドラゾン、セミカルバゾン、チオセミカルバゾン、cis-アコニットアミド(cis-aconitic amide)、オルトエステル、アセタール、ケタールなどであってもよい。
【0083】
前記リンカーは、還元条件下で切断してもよく、例えば、ジスルフィドリンカーがこれに該当する可能性がある。SATA(N-スクシンイミジル-S-アセチルチオアセテート;N-succinimidyl-S-acetylthioacetate)、SPDP(N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸;N-succinimidyl-3-(2-pyridyldithio)propionate)、SPDB(N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)ブチレート;N-succinimidyl-3-(2-pyridyldithio)butyrate)およびSMPT(N-スクシンイミジル-オキシカルボニル-α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルエン;N-succinimidyl-oxycarbonyl-alpha-methyl-alpha-(2-pyridyl-dithio)toluene)を使用して、様々なジスルフィド結合を形成してもよい。
【0084】
本発明において、前記薬物及び/又は薬物リンカーは、抗体のリジンを介してランダムに結合するか、またはジスルフィド結合鎖を還元したときに露出するシステインを介して結合してもよい。場合によっては、遺伝工学的に作製されたタグ、例えば、ペプチドまたはタンパク質に存在するシステインを介してリンカー薬物を結合してもよい。前記遺伝工学的に作製されたタグは、例えば、ペプチドまたはタンパク質は、例えば、イソプレノイドトランスフェラーゼによって認識されることができるアミノ酸モチーフを含んでもよい。前記ペプチドまたはタンパク質は、ペプチドまたはタンパク質のカルボキシ末端で欠失(deletion)を有するか、またはペプチドまたはタンパク質のカルボキシ(C)末端にスペーサーユニットの共有結合による付加を有する。前記ペプチドまたはタンパク質は、アミノ酸モチーフと直接共有結合するか、またはスペーサーユニットと共有結合してアミノ酸モチーフと連結してもよい。前記アミノ酸スペーサーユニットは1~20個のアミノ酸で構成され、その中でグリシン(glycine)ユニットが好ましい。
【0085】
前記リンカーは、リソソームに多数存在するか、またはいくつかの腫瘍細胞で過発現されるβ-グルクロニダーゼ(β-glucuronidase)によって認識され、加水分解されるβ-グルクロニドリンカーを含んでもよい。ペプチドリンカーとは異なり、親水性(hydrophilicity)が大きいため、疎水性の高い薬物との結合時に抗体薬物コンジュゲートの溶解度を増加させることができるという利点がある。
【0086】
これに関連して、本発明では、韓国特許公開公報第2015-0137015号に開示されたβ-グルクロニドリンカー、例えば、自己犠牲基(self-immolative group)を含むβ-グルクロニドリンカーを使用してもよい。
【0087】
また、前記リンカーは、例えば非切断性リンカーであってもよく、抗体の加水分解の一ステップのみで薬物が放出され、例えばアミノ酸リンカー薬物複合体を生成する。このタイプのリンカーは、チオエーテル基またはマレイミドカプロイル基(maleimidocaproyl)であってもよく、血中安定性を維持することができる。
【0088】
本発明において、前記薬物は、化学療法剤、毒素、マイクロRNA(miRNA)、siRNA、shRNAまたは放射性同位体であることを特徴としてもよい。前記薬物は、薬理学的効果を示す製剤として、抗体に結合してもよい。
【0089】
前記化学療法剤は、細胞毒性剤または免疫抑制剤であってもよい。具体的には、マイクロチューブリン阻害剤、有糸分裂阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、またはDNAインターカレーターとして機能することができる化学療法剤を含んでもよい。さらに、免疫調節化合物、抗癌剤、抗ウイルス剤、抗細菌剤、抗真菌剤、駆虫剤、またはそれらの組み合わせを含んでもよい。
【0090】
前記薬物には、例えば、メイタンシノイド、オリスタチン、アミノプテリン、アクチノマイシン、ブレオマイシン、タリドマイド、カンプトテシン、N8-アセチルスペルミジン、1-(2-クロロエチル)-1,2-ジメチルスルホニルヒドラジド、エスペラマイシン(esperamicin)、エトポシド、6-メルカプトプリン、ドロスタチン、トリコテセン、カリケアミシン、タキソール(taxol)、タキサン、パクリタキセル(paclitaxel)、ドセタキセル(docetaxel)、メトトレキサート、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ドキソルビシン、メルファラン、クロラムブシル、デュオカルマイシン、L-アスパラギナーゼ(L-asparaginase)、メルカプトプリン(mercaptopurine)、チオグアニン(thioguanine)、ヒドロキシ尿素(hydroxyurea)、シタラビン(cytarabine)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、イホスファミド(ifosfamide)、ニトロソ尿素(nitrosourea)、シスプラチン(cisplatin)、カルボプラチン(carboplatin)、ミトマイシン(mitomycin;ミトマイシンA、ミトマイシンC)、ダカルバジン(dacarbazine)、プロカルバジン(procarbazine)、トポテカン(topotecan)、窒素マスタード(nitrogen mustard)、シトキサン(cytoxan)、5-フルオロウラシル(5-fluorouracil)、CNU(bischloroethylnitrosourea)、イリノテカン(irinotecan)、カンプトテシン(camptothecin)、イダルビシン(idarubicin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、プリカマイシン(plicamycin)、アスパラギナーゼ(asparaginase)、ビノレルビン(vinorelbine)、クロラムブシル(chlorambucil)、メルファラン(melphalan)、カルムスチン(carmustine)、ロムスチン(lomustine)、ブスルファン(busuLfan)、トレオスルファン(treosulfan)、ダカルバジン(decarbazine)、テニポシド(teniposide)、トポテカン(topotecan)、9-アミノカンプトテシン(9-aminocamptothecin)、クリスナトール(crisnatol)、トリメトレキセート(trimetrexate)、ミコフェノール酸(mycophenolic acid)、チアゾフリン(tiazofurin)、リバビリン(ribavirin)、EICAR(5-ethynyl-1-beta-Dribofuranosylimidazole-4-carboxamide)、ヒドロキシ尿素(hydroxyurea)、デフェロキサミン(deferoxamine)、フロクスウリジン(floxuridine)、ドキシフルリジン(doxifluridine)、ラルチトレキセド(raltitrexed)、シタラビン(cytarabine(ara C))、シトシンアラビノシド(cytosine arabinoside)、フルダラビン(fludarabine)、タモキシフェン(tamoxifen)、ラロキシフェン(raloxifene)、メゲストロール(megestrol)、ゴセレリン(goserelin)、リュープロレリン酢酸塩(leuprolide acetate)、フルタミド(flutamide)、ビカルタミド(bicalutamide)、EB1089、CB1093、KH1060、ベルテポルフィン(verteporfin)、フタロシアニン(phthalocyanine)、光増感剤Pe4(photosensitizer Pe4)、デメトキシ-ハイポクレリンA(demethoxy-hypocrellin A)、インターフェロン-α(Interferon-α)、インターフェロン-γ(Interferon-γ)、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor)、ゲムシタビン(Gemcitabine)、ベルケイド(velcade)、レブリミド(Revlimid)、ロバスタチン(lovastatin)、1-メチル-4-フェニルピリジニウムイオン(1-methyl-4-phenylpyridiniumion)、スタウロスポリン(staurosporine)、アクチノマイシンD(actinomycin D)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ブレオマイシンA2(bleomycin A2)、ブレオマイシンB2(bleomycin B2)、ペプロマイシン(peplomycin)、エピルビシン(epirubicin)、ピラルビシン(pirarubicin)、ゾルビシン(zorubicin)、ミトキサントロン(mitoxantrone)、ベラパミル(verapamil)およびタプシガルギン(thapsigargin)、核酸分解酵素および細菌または動植物由来の毒素からなる群より選択される1種以上であってもよいが、これらに限定されない。
【0091】
本発明において、前記薬物は、リンカーおよびリンカー試薬上の親電子性基と共有結合を形成するために反応できるアミン、チオール、ヒドロキシル、ヒドラジド、オキシム、ヒドラジン、チオセミカルバゾン、ヒドラジンカルボキシレート、およびアリールヒドラジド基からなる群より選択される1つ以上の求核性基を含んでもよい。
【0092】
本発明は、他の観点から、前記レジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含む二重特異的(bisspecific)または多重特異的(multi-specific)抗体に関する。
【0093】
二重特異的抗体とは、1つ以上のターゲットに結合能または拮抗能を持つ抗体を意味し、2つの互いに異なるターゲットに対する結合能または拮抗能を持つ抗体が結合した形態、または1つのターゲットに対する結合能を持つ抗体と他のターゲットに対する拮抗能を持つ物質が結合している抗体を意味する。
【0094】
多重特異的抗体とは、少なくとも3つ以上の異なる抗原に対して結合特異性を有する抗体を意味する。多重特異的(multi-specific)抗体は、三重特異的(Tri-specific)以上の抗体、例えば、三重特異的(Tri-specific)抗体、四重特異的(Tetra-specific)抗体またはそれ以上のターゲットを標的とする抗体を含んでもよい。
【0095】
二重特異的または多重特異的抗体の製造方法は広く公知されている。伝統的に、二重特異的抗体の組換え生産は、2つ以上の重鎖が異なる特異性を有する条件下で、2つ以上の免疫グロブリンの重鎖/軽鎖ペアの共発現に基づく。
【0096】
前記二重特異的または多重特異的抗体に含まれる抗レジスチン抗体以外の抗体が結合する抗原は、好ましくは、癌関連抗原または免疫チェックポイントタンパク質抗原として、HGF、EGFR、EGFRvIII、Her2、Her3、IGF-1R、VEGF、VEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3、Ang2、Dll4、NRP1、FGFR、FGFR2、FGFR3、c-Kit、MUC1、MUC16、CD20、CD22、CD27、CD30、CD33、CD40、CD52、CD70、CD79、DDL3、Folate R1、Nectin 4、Trop2、gpNMB、Axl、BCMA、PD-1、PD-L1、PD-L2、CTLA4、BTLA、4-1BB、ICOS、GITR、OX40、VISTA、TIM-3、LAG-3、KIR、B7.1、B7.2、B7-H2、B7-H3、B7-H4、B7-H6、B7-H7、EphA2、EphA4、EphB2、E-セレクチン(selectin)、EpCam、CEA、PSMA、PSA、c-METなどから選択してもよく、免疫効能細胞関連抗原としては、TCR/CD3、CD16(FcγRIIIa)、CD44、CD56、CD69、CD64(FcγRI)、CD89、CD11b/CD18(CR3)などを選択してもよいが、これらに限定されない。
【0097】
本発明は、他の観点から、前記レジスチン(resistin)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含むキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor;CAR)に関するものである。
【0098】
CARは、抗原結合ドメイン(antigen binding domain)、膜貫通ドメイン(transmembrane domain)および細胞内シグナル伝達ドメイン(intracellular signaling domain)を含んでもよく、抗原結合ドメインはリンカーによって膜貫通ドメインに結合してもよい。抗原結合ドメインを含む細胞外ドメインは、シグナルペプチドを含んでもよい。
【0099】
本発明は、他の観点から、前記キメラ抗原受容体を含有する免疫細胞に関する。
前記免疫細胞は、前記キメラ抗原受容体を発現するように遺伝的に改変された細胞を含み、好ましくはT細胞またはNK細胞であることを特徴としてもよい。
【0100】
本発明は、他の観点から、前記抗体またはその抗原結合断片、前記抗体薬物コンジュゲート、前記二重特異的または多重特異的抗体、または前記キメラ抗原受容体を含む、レジスチンの活性阻害により治療可能な疾患の予防または治療用医薬組成物に関する。
【0101】
本発明において、前記レジスチンの活性は、レジスチン抗体によってレジスチン/CAP1結合が遮断され、活性が阻害されることを特徴としてもよい。
本発明において、前記レジスチンの活性阻害により治療可能な疾患は、癌、心血管代謝疾患、自己免疫疾患または炎症性疾患が好ましいが、これらに限定されない。
【0102】
本発明は、例えば、(a)本発明によるレジスチンに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片の医薬上有効な量;および(b)医薬上許容される担体を含む、癌、心血管代謝疾患、自己免疫疾患または炎症性疾患の予防または治療用医薬組成物であってもよい。本発明はまた、患者に必要な有効量で本発明によるレジスチンに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を投与するステップを含む、癌、心血管代謝疾患、自己免疫疾患または炎症性疾患の予防または治療方法に関する。
【0103】
したがって、本発明は、他の観点から、前記抗体またはその抗原結合断片、前記抗体薬物コンジュゲート、前記二重特異的または多重特異的抗体、または前記キメラ抗原受容体を含む組成物を対象に投与するステップを含む、レジスチンの活性阻害により治療可能な疾患の予防または治療方法に関する。
【0104】
本発明は、他の観点から、レジスチンの活性阻害により治療可能な疾患の予防または治療のための前記抗体またはその抗原結合断片、前記抗体薬物コンジュゲート、前記二重または多重特異的抗体または前記キメラ抗原受容体、またはそれらを含む組成物の用途に関する。
【0105】
本発明は、他の観点から、レジスチンの活性阻害により治療可能な疾患の予防または治療用薬剤の製造のための前記抗体またはその抗原結合断片、前記抗体薬物コンジュゲート、前記二重特異的または多重特異的抗体または前記キメラ抗原受容体、またはそれらを含む組成物の使用に関する。
【0106】
前記組成物、方法、用途および使用は、前述した本発明の抗レジスチン抗体またはその抗原結合断片を有効成分として用いるため、重複する内容はその記載を省略する。
【0107】
「予防」とは、本発明による組成物の投与により、前記レジスチンの活性阻害により治療可能な疾患を抑制するか、または進行を遅延させるあらゆる行為を意味し、「治療」とは、前記レジスチンの活性阻害により治療可能な疾患の進行の抑制、疾患の軽減または除去を意味する。
【0108】
「癌」および「癌性(cancerous)」という用語は、哺乳類において、細胞の集団が制御されていない細胞成長を特徴とする生理学的条件を指すか、または記述する。
【0109】
「腫瘍」とは、前癌性(pre-cancerous)病変を含め、良性(非癌性)または悪性(癌性)である過剰な細胞成長または増殖によって引き起こされる任意の組織塊を指す。
【0110】
「癌細胞」、「腫瘍細胞」および文法的に同等の用語は、腫瘍細胞集団の大部分(bulk)を含む非腫瘍原性細胞、および腫瘍原性幹細胞(癌幹細胞)の両方を含む、腫瘍または前癌病変に由来する細胞の総集団を指す。
【0111】
本発明における「癌」は、レジスチンが発現する癌であれば、その種類に制限なく含まれる。前記レジスチンが発現する癌は、乳癌、転移癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、黒色腫、肺癌、肝癌、神経膠腫、大腸癌、頭頸部癌、膀胱癌、腎細胞癌、胃癌、膵臓癌及び再発癌からなる群より選択されることが好ましいが、これらに限定されない。
【0112】
特に、本発明の前記抗体またはその抗原結合断片またはそれを含む医薬組成物は、癌の転移を抑制することを特徴としてもよい。
本発明における「心血管代謝疾患、自己免疫疾患または炎症性疾患」は、レジスチンが発現する疾患であれば、その種類に制限なく含まれる。
【0113】
本発明において、前記心血管代謝疾患は、肥満、高脂血症、高血圧、動脈硬化、高インスリン血症、インスリン抵抗性糖尿病、第2型糖尿病、肝疾患、非アルコール性脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease, NAFLD)及び非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis, NASH)からなる群より選択されることが好ましいが、これらに限定されない。
【0114】
本発明において、前記自己免疫疾患は、慢性心疾患、リウマチ性関節炎、全身性紅斑性嚢胞、消化器系糖尿病、アトピー性皮膚炎、自己免疫性脳脊髄炎、喘息及びクローン病からなる群より選択されることが好ましいが、これらに限定されない。
【0115】
本発明において、前記炎症性疾患は、喘息、湿疹、乾癬、ニキビ、アレルギー、リウマチ性関節炎、乾癬性関節炎(psoriatic arthritis)、アトピー性皮膚炎、アトピー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎、慢性副鼻腔炎または脂漏性皮膚炎(seborrheic dermatitis)を含む炎症性皮膚疾患;クローン病(Crohn's disease)または潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease, IBD)、強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis)、敗血症、敗血症性ショック、脈管炎および滑液包炎を含む急性または慢性炎症性疾患からなる群より選択されることが好ましいが、これらに限定されない。
【0116】
本発明の医薬組成物は、前記レジスチンに特異的な抗体またはその切片を含有してもよく、前記成分に、本発明の医薬組成物を投与するための薬学的に許容可能な担体をさらに含んでもよい。
【0117】
本発明において、「薬学的に許容可能な担体」という用語は、生体を刺激せず、投与化合物の生物学的活性及び特性を阻害しない担体又は希釈剤をいう。液状溶液に製剤化される組成物において、薬学的に許容可能な担体としては、滅菌及び生体に適したもので、生理食塩水、滅菌水、緩衝生理食塩水、アルブミン注射液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール及びこれらの成分のうち1成分以上を混合して使用してもよく、必要に応じて、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加してもよい。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤および潤滑剤をさらに添加して、水溶液、懸濁液、乳濁液などの注射用製剤、丸剤、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化してもよい。
【0118】
本発明の前記医薬組成物は、経口または非経口の様々な剤形であってもよい。製剤化する場合には、通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調剤される。経口投与のための固体製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、これらの固体製剤は、1つ以上の化合物に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、デンプン、炭酸カルシウム、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混合して調剤される。また、単純な賦形剤に加えて、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの潤滑剤も使用される。経口投与のための液状製剤には、懸濁剤、内容液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、一般に使用される単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味料、香料、保存剤などを含んでもよい。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶媒、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥剤、坐剤が含まれる。非水性溶媒、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物性油、エチルオレイン酸のような注射可能なエステルなどを使用してもよい。座剤の基剤としては、ウイテプゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゲラチンなどを使用してもよい。
【0119】
本発明は、他の観点から、前記抗体またはその抗原結合断片を接触させることを含む、レジスチン発現腫瘍細胞の成長、移動または転移を阻害する方法を提供する。
【0120】
前記腫瘍細胞は、レジスチンを発現する腫瘍細胞であれば、その種類に制限なく含まれる。好ましくは、前記レジスチンが発現する腫瘍細胞は、乳癌、転移癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、黒色腫、肺癌、肝癌、神経膠腫、大腸癌、頭頸部癌、膀胱癌、腎細胞癌、胃癌、膵臓癌及び再発癌細胞であってもよいが、これらに限定されない。
【0121】
本発明は、医薬上有効な量の抗体またはその抗原結合断片を個体に投与するステップを含む癌、心血管代謝疾患、自己免疫疾患または炎症性疾患の治療方法に関する。
【0122】
本発明の抗体またはその抗原結合断片を用いた治療方法は、前記抗体またはその抗原結合断片を医薬上有効量で投与することを含む。適切な1日の総使用量は、適切な医学的判断の範囲内で治療医によって決定できることは当業者にとっては自明である。また、1回または複数回に分けて投与してもよい。しかしながら、本発明の目的上、特定の患者に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類および程度、場合によっては他の製剤が使用されるかどうかを含む具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別および食事、投与時間、投与経路および治療期間、具体的な組成物と一緒に使用されるかまたは同時に使用される薬物を含む様々な因子および医薬分野でよく知られている類似因子によって異に適用することが好ましい。
【0123】
本発明の前記組成物を投与する対象は、ヒトを含む哺乳類を制限なく含む。
本発明の「投与」という用語は、任意の適切な方法で患者に本発明の医薬組成物を導入することを意味し、本発明の組成物の投与経路は、目的組織に到達できる限り、経口または非経口の様々な経路を介して投与してもよい。
【実施例】
【0124】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、あくまでも本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されるものと解釈されないことは、当業者にとって自明であろう。
【0125】
実施例1:レジスチン抗原の発現と精製
レジスチン配列のC末端にヒト抗体Fc配列を融合させたRETN-C-Fcタンパク質と、レジスチン配列のC末端にフラグ配列とヒスチジン(histidine)配列を融合させたRETN-flag-Hisタンパク質を動物細胞で発現させるために、HEK-293F細胞にRETN-flag-His DNAをトランスフェクション(transfection)させ、一定時間培養した後、培養液を回収した。トランスフェクションさせるために、フリースタイル293発現培養液にDNAを入れ、PEI(polyethylenimine)200μgを加えてポリフレックス(polyplex)反応液を作製した。ポリプレックス反応液は常温で20分間静置して反応させ、HEK293培養液で培養した1X106 cell/80mlのHEK293F細胞培養フラスコに入れ、37℃、CO2 8%、85rpmの条件で7日間培養した。
【0126】
7日後に培養液を回収した後、5000rpmで10分間遠心分離し、培養液中の細胞および細胞残渣を沈殿させて除去した。得られた上層液中の抗原タンパク質を精製して得るために、RETN-C-Fc抗原DNAトランスフェクション培養液の上層液を組換えタンパク質Aアガロースレジンを充填したカラムに4℃で16時間反応させて抗原タンパク質を樹脂に吸着させた後、0.1M pH3.3グリシン(glycine)溶液で溶出させた。溶出されたタンパク質は1M Tris-HCl溶液でpH 7~7.4になるように中和し、Maxi GeBAflex-tube(12000-14000MWCO、D050-100)を使用してDPBSで溶媒を交換した。RETN-flag-His抗原を精製するために、培養上層液をNi Sepharose 6Fast Flow(GE healthcare, 17531803)樹脂を充填したカラムに4℃で16時間反応させて抗原タンパク質を樹脂に吸着させた後、500mMイミダゾール(imidazole)溶液で溶出させた。溶出されたタンパク質はMaxi GeBAflex-tube(12000-14000MWCO、D050-100)を使用してDPBSで溶媒交換及び濃縮した。
精製されたタンパク質は、SDS-PAGE gelを用いて純度を確認した(
図1)。
【0127】
実施例2:レジスチンヒト抗体の一次スクリーニング
実施例2-1:バイオパニング
レジスチン抗原に結合するファージプールを取得するために、バイオパニングを行った。実施例1で作製したRETN-C-FcまたはRETN-flag-His抗原を免疫吸着チューブ(immunosorb tube)にコーティングした後、ブロック(blocking)した。ヒト抗体ライブラリファージは、ヒトscFvライブラリを大腸菌に感染させて培養した後、培養液を回収及び濃縮して作製した。ヒト抗体ライブラリファージを抗原コーティングした免疫チューブに入れて反応させた後、抗原に結合したscFvファージを溶出した。前記第1ラウンドのパニングで取得したファージを回収し、再び大腸菌に感染させて増幅した後、RETN-C-FcまたはRETN-flag-His抗原を使用して第2ラウンド、第3ラウンドのバイオパニングを行った。各ラウンドで抗原に結合するポリファージプールを取得した。
【0128】
実施例2-2:ポリファージELISA
各ラウンドで取得したscFvファージプールの抗原に対する特異的結合度を確認するために、ポリファージELISAを実施した。特異的抗原としてRETN-flag-His抗原とRETN-C-Fc抗原を96ウェル免疫プレート(immune plate, NUNC, 439454)に100ng/wellずつコーティングし、脱脂乳(skim milk)でブロック(blocking)した。各ラウンドで取得したscFvファージを各ウェルに処理して反応させた後、PBS-Tを使用して洗浄し、二次抗体として抗M13-HRP(Amersham, 27-9421-01)を1:2000で処理して反応させた。PBS-T洗浄後、OPD(sigma, 8787-TAB)溶液を各ウェルに100μlずつ処理し、10分間基質反応させた。10分後、各ウェルに50μlの1N H2SO4を処理して基質反応を停止した後、分光光度計(spectrophotometer, thermo fisher scientific, 51119200)を用いて490nmで測定した。
【0129】
その結果、各ラウンドで取得したポリファージプールの抗原結合力がラウンドが進むにつれて増加(enrichment)することが確認できた(
図2a及び
図2b)。
【0130】
実施例2-3:陽性ファージのスクリーニング(モノファージELISA)
抗原に対する結合能が大きい第3ラウンドのポリファージプールから得られたコロニーを2xYTCM(2%グルコース、5mM MgCl2)培地1mlに接種し、96ウェルのディープウェルプレート(Bionia, 90030)に入れ、37℃の培養器で16時間培養した。培養した細胞培養液をOD600で0.1値になるように100~200μlを取り、2xYTCM(2%グルコース、5mM MgCl2)培地1mlに接種し、37℃の培養器で2~3時間培養した。培養後、M1ヘルパーファージをM値が1:20になるように入れ、2xYTCMK(5mM MgCl2, 1mM IPTG)に接種し、30℃で16時間反応させた。
【0131】
96ウェル免疫プレート(immune plate, NUNC, 439454)にレジスチン抗原を100ng/wellずつコーティングし、脱脂乳(skim milk)でブロック(blocking)した。16時間培養したモノクローナルscFvファージを各ウェルに100μlずつ処理して2時間反応させた後、PBS-Tを使用して洗浄し、二次抗体として抗M13-HRP(Amersham, 27-9421-01)を1:2000で処理して反応させた。PBS-T洗浄後、OPD(sigma, 8787-TAB)溶液を各ウェルに100μlずつ処理し、10分間基質反応させた。10分後、各ウェルに50μlの1N H
2SO
4を処理して基質反応を停止した後、分光光度計(spectrophotometer, thermo fisher scientific, 51119200)を用いて490nmで測定した。
合計20個の抗原特異的なクローンを確保した(
図3a及び
図3b)。
【0132】
実施例3:一次スクリーニングレジスチンヒト抗体の生産
実施例3-1:IgG型への変換
実施例2-3で選択した20種類の抗レジスチンモノクローナルファージ抗体をscFv構造からIgG構造に変換した。各クローンのDNAを全体ベクターに挿入するために、制限酵素配列を各重鎖および軽鎖の前後に追加するPCRを行った。これにより得られた各重鎖と軽鎖DNAとベクター全体を制限酵素処理した後、リガーゼ(T4 DNA ligase, thermofisher scientific, #EL0011)を処理し、22℃で10分間ライゲーション(ligation)反応をさせてベクターに重鎖と軽鎖配列を挿入した。作製したベクターは、形質転換細胞(competent cell, XLI-blue)に42℃で熱衝撃形質転換した後、LBアンピシリン(ampicillin)平板培地に塗抹(spreading)し、37℃で16時間以上培養してコロニー(colony)を取得した。取得したコロニーはLBアンピシリン(ampicillin)培地に接種し。37℃で16時間培養した。培養終了後、コロニー培養液を回収し、3000rpmで遠心分離して上層液を取得した。DNA prep kit(Nuclogen)を使用して上層液からDNAを抽出した。DNA配列を分析し、クローニングが正常に行われたことを確認した。
【0133】
実施例3-2:ヒト抗体タンパク質の生産
クローニングして取得した重鎖ベクターと軽鎖ベクターDNAは、6:4(軽鎖、重鎖)の比率でHEK293F細胞に同時トランスフェクションさせた。PEI(polyethylenimine)とベクターDNAを混合してポリプレックス(polyplex)反応液を作り、細胞にトランスフェクションさせた。トランスフェクション7日目に培養液を回収し、上層液中のタンパク質を組換えタンパク質Aアガロース樹脂で精製した。
【0134】
実施例4:一次スクリーニングレジスチンヒトモノクローナル抗体の特性
実施例4-1抗原受容体結合阻害能の分析
In vitro pull-down assay法で、抗体のCAP1とレジスチンの結合阻害効果により抗体候補群から選定した。THP-1細胞溶解液にFc融合された組換えレジスチンタンパク質と各抗体を混合した後、Fcビーズで沈殿させて結合するCAP1をウェスタンブロッティングにより測定し、レジスチンとCAP1の結合と各抗体の結合阻害効果を比較した。
【0135】
具体的には、THP-1(ATCC TIP-202, Homo sapiens, Human)細胞は、分譲機関であるATCC(American Type Culture Collection)社の細胞株培養方法を利用した。100units/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを含むpH 7.4のRPMI-1640培養液で温度37℃、CO2 分圧5%が維持される培養器で培養した。THP-1細胞をlysis buffer(20mM Tris pH 7.5, 150mM NaCl, 1% Triton X-100, 0.25% sodium deoxycholate, 1mM EDTA, 1mM NaF, 1mM Na3VO4, and protease inhibitor cocktail)で溶解してタンパク質を抽出し、抽出したTHP-1タンパク質(500μg)にmFc-hResistin(0.5μg)タンパク質と抗体を100ng添加して4℃でovernight培養した。mFcビーズ(20μl)を加えて4℃で3時間引き下げた(pull down)後、lysis bufferで3回洗浄した後、β-メルカプトエタノールが入ったSDS-PAGE sample bufferを加えて100℃で5分間煮沸し、遠心分離して上澄み(supernatant)を得た。ウェスタンブロッティングでVSペプチドによるhCAP1とmFc-hResistinの結合が阻害されているかどうかをhCAP1抗体とmFc-HRP抗体を用いて確認した。
【0136】
1次スクリーニングで取得した16種のタンパク質の抗原受容体結合阻害能分析の結果、優れた効果を示した5種(1A2、2E12、5A2、3B5、4D12)を確保した(
図4)。
【0137】
実施例4-2:抗原親和性の分析
抗体とレジスチン抗原間の親和性を調査するために、バイオセンサーを使用してリガンド受容体結合をリアルタイムで調査できるOctet(Forte bio)システムを使用した。このシステムは、レジスチン抗原タンパク質をバイオセンサーに結合させ、抗体を流してセンサーに結合した抗原に結合する抗体の程度を光学的に分析する装置であり、抗原に結合する抗体レベルを光波長レベルで高感度で測定する。レジスチン抗原に対する親和性は、受容体リガンド間のKon(association constants、結合速度)とKdis(dissociation constants、解離速度)、結合と解離の反応に対するKD(Equilibrium dissociation constant、平衡解離定数)で表した。
【0138】
その結果、抗原受容体結合阻害能分析で優れた効果を示した1A2、2E12、5A2、3B5、4D12の5種の候補抗体のうち、2E12を除く4つのクローンが抗原親和性を示し、KD 1nMレベルの抗原親和性を示した(
図5)。
【0139】
実施例5:レジスチンヒト抗体の2次スクリーニング
実施例5-1:バイオパニング
1次スクリーニングに加え、抗原に対する高親和性を有する候補抗体を取得するために2次スクリーニングを行った。実施例1で作製したRETN-C-FcまたはRETN-flag-His抗原を使用し、実施例2と同様に、免疫吸着チューブ(immunosorb tube)に抗原をコーティングしてヒト抗体ライブラリファージを反応させた後、抗原に結合したscFVファージを溶出した。合計3ラウンドのバイオパニングを行い、各ラウンドで抗原に結合するポリファージプールを取得した。
【0140】
実施例5-2:scFvファージ抗体の抗原特異的結合能の分析
バイオパニングから取得したscFvポリファージプールをモノファージELISAによりクローニングし、84種のscFvモノクローナルを確保した。これらの抗原特異的結合能を分析するために、96ウェル免疫プレート(immune plate, NUNC, 439454)にレジスチン抗原及び非特異的抗原を100ng/wellずつコーティングし、モノクローナルscFvファージを反応させた。二次抗体抗M13-HRP(Amersham, 27-9421-01)を反応させた後、OPD(sigma, 8787-TAB)溶液を各ウェルに100μlずつ処理して10分間基質反応させた。1N H
2SO
4で基質反応を停止した後、分光光度計(spectrophotometer, thermo fisher scientific, 51119200)を用いて490nmで測定した。
その結果、新規配列を持ち、抗原特異的結合を持つ11種の新規クローンをさらに確保した(
図6)。
【0141】
実施例6:レジスチンヒト抗体の3次スクリーニング
実施例6-1:バイオパニング
1次及び2次スクリーニングに加え、抗原に対する高親和性を有する候補抗体を取得するために3次スクリーニングを行った。実施例1で作製したRETN-C-FcまたはRETN-flag-His抗原を使用し、実施例2と同様に、免疫吸着チューブ(immunosorb tube)に抗原をコーティングしてヒト抗体ライブラリファージを反応させた後、抗原に結合したscFVファージを溶出した。合計3ラウンドのバイオパニングを行い、各ラウンドで抗原に結合するポリファージプールを取得した。
【0142】
実施例6-2:scFvファージ抗体の抗原特異的結合能の分析
バイオパニングから取得したscFvポリファージプールをモノファージELISAによりクローニングし、88種のscFvモノクローナルを確保した。これらの抗原特異的結合力を酵素免疫分析法で分析した結果、新規配列を持ち、抗原特異的結合を持つ10種の新規クローンをさらに確保した(
図7a及び
図7b)。
【0143】
実施例7:2次および3次スクリーニングレジスチンヒト抗体の生産
実施例7-1:IgG型への変換
2次及び3次スクリーニングで確保した合計20種のモノクローナルファージ抗体をscFv構造からIgG構造に変換した。実施例3と同様に、各クローンのDNAを生産ベクターにライゲーション(ligation)して挿入した後、形質転換細胞(competent cell, XLI-blue)に形質転換した。形質転換した細胞を選択培地で培養した後、そこからDNAを抽出し、配列分析して確認した。
【0144】
実施例7-2:ヒト抗体タンパク質の生産
クローニングして取得した重鎖ベクターと軽鎖ベクターDNAは、6:4(軽鎖、重鎖)の比率でHEK293F細胞に同時トランスフェクションさせた。PEI(polyethylenimine)とベクターDNAを混合してポリプレックス(polyplex)反応液を作り、細胞にトランスフェクションさせ、エンハンサーとしてsoytone(BD, USA)を使用した。トランスフェクション7日目に培養液を回収し、上層液中のタンパク質を組換えタンパク質Aアガロース樹脂で精製した。
【0145】
実施例8:2次および3次スクリーニングレジスチンヒトモノクローナル抗体の特性
実施例8-1:抗原受容体結合阻害能の分析
In vitro pull-down assay法で、抗体のCAP1とレジスチンの結合阻害効果により抗体候補群から選定した。THP-1細胞溶解液にFc融合された組換えレジスチンタンパク質と各抗体を混合した後、Fcビーズで沈殿させて結合するCAP1をウェスタンブロッティングにより測定し、レジスチンとCAP1の結合と各抗体の結合阻害効果を比較した。
【0146】
具体的には、THP-1(ATCC TIP-202, Homo sapiens, Human)細胞は、分譲機関であるATCC(American Type Culture Collection)社の細胞株培養方法を利用した。100units/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを含むpH 7.4のRPMI-1640培養液で温度37℃、CO
2 分圧5%が維持される培養器で培養した。THP-1細胞をlysis buffer(20mM Tris pH 7.5, 150mM NaCl, 1% Triton X-100, 0.25%sodium deoxycholate, 1mM EDTA, 1mM NaF, 1mM Na
3VO
4, and protease inhibitor cocktail)で溶解してタンパク質を抽出し、抽出したTHP-1タンパク質(500μg)にmFc-hResistin(0.5μg)タンパク質と抗体を100ng添加して4℃でovernight培養した。mFcビーズ(20μl)を加えて4℃で3時間引き下げた(pull down)後、lysis bufferで3回洗浄した後、β-メルカプトエタノールが入ったSDS-PAGE sample bufferを加えて100℃で5分間煮沸し、遠心分離して上澄み(supernatant)を得た。ウェスタンブロッティングによりVSペプチドによるhCAP1とmFc-hResistinの結合が阻害されているかどうかをhCAP1抗体とmFc-HRP抗体を用いて確認した。
その結果、優れた効果を示す5種(11G01、27A04、32B05、32E06、32G09)を確保した(
図8)。
【0147】
実施例8-2:抗原特異的結合能の分析
ヒトレジスチンタンパク質に対するスクリーニングクローンの特異的結合力を調査し、他の抗原タンパク質に対する非特異的結合の有無を確認するために酵素免疫分析法(ELISA)を実施した。96ウェル免疫プレート(immune plate, NUNC, 439454)に実施例1で作製したRETN-flag-His抗原と非特異的抗原を10nMでDPBSに希釈してウェル当たり100μlずつ入れた後、4℃で16時間コーティングした。その後、PBSに4%で希釈した脱脂乳(skim milk)で37℃で1時間ブロック(blocking)した。抗体タンパク質はそれぞれ1、10、100nMになるようにPBSに希釈した1%の脱脂乳(skim milk)に希釈してウェル当たり100μlずつ入れて37℃で2時間反応させ、PBS-Tで洗浄した後、二次抗体としてanti-human Fc-HRP(Pierce(R) Peroxidase Conjugated Goat Anti-Human IgG FC(thermo fisher scientific, 31413)を1:10000で希釈して37℃で1時間反応させた。PBS-T洗浄後、TMB(sigma, T0440)溶液を各ウェルに100μlずつ処理し、10分間基質反応させた。10分後、各ウェルに50μlの1N H2SO4を処理して基質反応を停止した後、分光光度計(spectrophotometer, thermo fisher scientific, 51119200)を用いて490nmで測定した。
【0148】
その結果、抗原受容体結合阻害能分析で優れた効果を示した11G01、27A04、32B05、32E06、32G09の5種の抗体全てがRETN-flag-His抗原タンパク質に対する高い特異的結合力を示した(
図9a)。また、非特異的抗原5種に対して抗原受容体結合阻害能分析で優れた効果を示した5種の抗体全てが非特異的結合をしなかった(
図9b)。
【0149】
実施例8-3:抗原親和性の分析
抗体とレジスチン抗原間の親和性を調べるために、Octet(Forte bio)システムバイオセンサーを使用してリガンド受容体分析を行った。
その結果、抗原受容体結合阻害能分析で効果を示した5種の候補抗体のうち4種でKD 1nMレベルの抗原親和性を示した(
図10)。
【0150】
実施例8-4:抗レジスチン主要抗体スクリーニング
【0151】
1次~3次スクリーニングで取得したモノクロナール抗体40種の配列分析結果から、各クローンのVHおよびVLのCDR部位を調査し、生殖細胞株(germ line)抗体群との類似度を分析するために、NCBIウェブページhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/のIg BLASTプログラムを利用して調査した。
その結果を下記表7に示す。
【0152】
【0153】
実施例9:レジスチン抗体RETN-5A2クローンに対する抗体の最適化
抗体最適化のために、RETN-5A2クローンの重鎖は固定し、Ybiologicsの1x10
6の多様性を保有している軽鎖(LC)プール(pool)を入れて、既存の重鎖に新しい軽鎖の組み合わせを持つ軽鎖シャッフリングライブラリ(LC shuffling library)を作成した。軽鎖シャッフリングライブラリは、RETN-5A2遺伝子の軽鎖部位を制限酵素で切断して除去した後、1x10
6 多様性軽鎖プールを同じ制限酵素で切断して軽鎖が除去されたRETN-5A2 DNAにライゲーション(ligation)した。クローニングされたDNAは、形質転換細胞(competent cell, XLI-blue)に形質転換させた後、細胞を全て集めてライブラリを作成した(
図11)。
【0154】
実施例10:レジスチンヒト抗体のスクリーニング
実施例10-1:バイオパニング
レジスチン抗原に結合する5A2抗体を親抗体とし、最適化されたファージプールを取得するために、バイオパニングを行った。実施例1で作製したRETN-C-FcまたはRETN-flag-His抗原を免疫吸着チューブ(immunosorb tube)にコーティングした後、ブロック(blocking)した。5A2抗体最適化ライブラリファージを抗原をコーティングした免疫チューブに入れ反応させた後、抗原に結合したscFvファージを溶出した。取得したファージは回収し、再び大腸菌に感染させて増幅させた。
【0155】
実施例10-2:陽性ファージのスクリーニング及びモノクロナール抗体配列の取得
取得したscFvファージプールから抗原に対する特異的結合scFvプールを確保するためにファージELISAを実施した。RETN-flag-His抗原を96ウェル免疫プレート(immune plate, NUNC, 439454)に100ng/wellずつコーティングし、脱脂乳(skim milk)でブロック(blocking)した。各ラウンドで取得したscFvファージを各ウェルに処理して反応させた後、PBS-Tを使用して洗浄し、二次抗体として抗M13-HRP(Amersham, 27-9421-01)を1:2000で処理して反応させた。PBS-T洗浄後、OPD(sigma, 8787-TAB)溶液を各ウェルに100μlずつ処理し、10分間基質反応させた。10分後、各ウェルに50μlの1N H
2SO
4を処理して基質反応を停止した後、分光光度計(spectrophotometer, thermo fisher scientific, 51119200)を用いて490nmで測定した。その結果、バイオパニング後、ファージプールの抗原結合力が多少増加(enrichment)することを確認できた(
図12)。
【0156】
抗原に対する結合能が確認された第1ラウンドのポリファージプールから得られたコロニーを2xYTCM(2%グルコース、5mM MgCl2)培地1mlに接種し、96ウェルのディープウェルプレート(Bionia, 90030)に入れて37℃の培養器で16時間培養した。培養した細胞培養液をOD600で0.1の値になるように10~200を取り、2xYTCM(2%グルコース、5mM MgCl2)培地1mlに接種し、37℃の培養器で2~3時間培養した。培養後、M1ヘルパーファージをM値が1:20になるように入れ、2xYTCMK(5mM MgCl2, 1mM IPTG)に接種し、30℃で16時間反応させた。
【0157】
96ウェル免疫プレート(immune plate, NUNC, 439454)にレジスチン抗原を100ng/wellずつコーティングし、脱脂乳(skim milk)でブロック(blocking)した。16時間培養したモノクローナルscFvファージを各ウェルに100μlずつ処理して2時間反応させた後、PBS-Tを使用して洗浄し、二次抗体として抗M13-HRP(Amersham, 27-9421-01)を1:2000で処理して反応させた。PBS-T洗浄後、OPD(sigma, 8787-TAB)溶液を各ウェルに100μlずつ処理し、10分間基質反応させた。10分後、各ウェルに50μlの1N H2SO4を処理して基質反応を停止した後、分光光度計(spectrophotometer, thermo fisher scientific, 51119200)を用いて490nmで測定した。
【0158】
その結果、合計36個の抗原特異的クローンを確保し、確保した36種のクローンの配列を分析して既存の配列と異なるユニークな配列を持つ18種のクローンを確保した(表8)。
【0159】
【0160】
実施例11:レジスチンヒト抗体の生産
実施例11-1:IgG型への変換
選択された18種の抗レジスチンモノクローナルファージ抗体をscFv構造からIgG構造に変換した。各クローンのDNAを全体ベクターに挿入するために、制限酵素配列を各重鎖および軽鎖の前後に追加するPCRを行った。これにより得られた各重鎖と軽鎖DNAとベクター全体を制限酵素処理した後、リガーゼ(T4 DNA ligase, thermofisher scientific, #EL0011)を処理し、室温で10分間ライゲーション(ligation)反応させ、ベクターに重鎖と軽鎖配列を挿入した。作製したベクターは、形質転換細胞(competent cell, XLI-blue)に42℃で熱衝撃形質転換した後、LBアンピシリン(ampicillin)平板培地に塗抹(spreading)し、37℃で16時間以上培養してコロニー(colony)を取得した。取得したコロニーはLBアンピシリン(ampicillin)培地に接種して37℃で16時間培養した。培養終了後、コロニー培養液を回収し、3000rpmで遠心分離して上層液を取得した。DNA prep kit(Nuclogen)を使用して上層液からDNAを抽出した。
【0161】
実施例11-2:ヒト抗体タンパク質の生産
クローニングして得られた重鎖ベクターと軽鎖ベクターDNAを6:4(軽鎖、重鎖)の比率でHEK293F細胞に同時トランスフェクションさせた。PEI(polyethylenimine)とベクターDNAを混合してポリプレックス(polyplex)反応液を作り、細胞にトランスフェクションさせた。トランスフェクション7日目に培養液を回収し、上層液中のタンパク質を組換えタンパク質Aアガロース樹脂で精製した。精製されたタンパク質の濃度は、nano-dropを利用して280nmでの吸光度(absorbance)を測定して定量し、これに基づいて各クローンの生産性を評価した(表9)。
その結果、親抗体5A2クローンと比較して平均92%の生産性が向上した(
図13)。
【0162】
【0163】
また、タンパク質の発現評価は、SDS-PAGEに還元および非還元反応したタンパク質を注入してバンドのパターンを分析し、それによって生産されたタンパク質の純度とサイズを分析した。
【0164】
その結果、スクリーニングされた18種の抗体はすべて非還元条件下で150kDaのサイズを示し、還元条件下では~50kDaの重鎖と~25kDaの軽鎖タンパク質と予想される2つのサイズのタンパク質が検出された(
図14)。
【0165】
実施例12:レジスチンヒトモノクローナル抗体の特性評価
実施例12-1:抗原特異的結合および非特異的結合(Human intact結合能を含む)
レジスチン最適化抗体タンパク質のレジスチン抗原特異的結合力を確認するために酵素免疫分析法(ELISA)を実施した。96ウェル免疫プレート(immune plate, NUNC, 439454)に実施例1で作製したRETN-flag-His抗原と非特異的抗原を10nMでDPBSに希釈してウェル当たり100μlずつ入れた後、4℃で16時間コーティングした。その後、PBSに4%で希釈した脱脂乳(skim milk)で37℃で1時間ブロック(blocking)した。抗体タンパク質はそれぞれ1、10、100nMになるようにPBSに希釈した1%の脱脂乳(skim milk)に希釈してウェル当たり100μlずつ入れて37℃で2時間反応させ、PBS-Tで洗浄した後、二次抗体としてanti-human Fc-HRP(Pierce(R) Peroxidase Conjugated Goat Anti-Human IgG FC(thermo fisher scientific, 31413)を1:10000で希釈して37℃で1時間反応させた。PBS-T洗浄後、TMB(sigma, T0440)溶液を各ウェルに100μlずつ処理し、10分間基質反応させた。10分後、各ウェルに50μlの1N H2SO4を処理して基質反応を停止した後、分光光度計(spectrophotometer, thermo fisher scientific, 51119200)を用いて490nmで測定した。
【0166】
その結果、一部のクローン(LS_1F09, LS_1G11)を除くほとんどのクローンが5A2と同様の抗原結合反応を示した(
図15a)。また、非特異的抗原5種に対して18種の最適化抗体全てが非特異的に結合しなかった(
図15b)。
【0167】
実施例1で作製した抗原は、精製と分析を容易にするために、人工的にヒト抗体Fc配列またはヒスチジン(histidine)配列が抗原c末端に追加されている。自然状態の抗原に対する効果が人工構造抗原で確認された抗体の効果と同じであることを確認するために、自然構造と同じ組換えヒト抗原(Recombinant Human Resistin, peprotech, #450-19)を使用して酵素免疫分析法(ELISA)を実施した。抗体サンプルは、親抗体5A2クローンより生産量及びレジスチン抗原結合力が著しく低い5種であるLS_1E09、LS_2B10、LS_2B12、LS_2E11、LS_2D09を除く最適化抗体13種を評価した。96ウェル免疫プレート(immune plate, NUNC, 439454)に組換えヒト抗原(peprotech, #450-19)を10nMの濃度でDPBSに希釈してウェル当たり100μlずつ入れた後、4℃で16時間コーティングした。その後、PBSに4%で希釈した脱脂乳(skim milk)で37℃で1時間ブロック(blocking)した。抗体タンパク質はそれぞれ1、10、100nMになるようにPBSに希釈した1%の脱脂乳(skim milk)に希釈してウェル当たり100μlずつ入れて37℃で2時間反応させ、PBS-Tで洗浄した後、二次抗体としてanti-human Fc-HRP(Pierce(R) Peroxidase Conjugated Goat Anti-Human IgG FC(thermo fisher scientific, 31413)を1:10000で希釈して37℃で1時間反応させた。PBS-T洗浄後、TMB(sigma, T0440)溶液を各ウェルに100μlずつ処理し、10分間基質反応させた。10分後、各ウェルに50μlの1N H2SO4を処理して基質反応を停止した後、分光光度計(spectrophotometer, thermo fisher scientific, 51119200)を用いて490nmで測定した。
【0168】
その結果、親抗体である5A2を含む全てのクローンにおいて、intact form resistinに対する結合能が既存のhis tag resistinでの結合様相と非常に類似した様相を示した。これにより、候補クローンのナチュラル抗原に対する効能を推測することができると期待される(
図15c)。
【0169】
実施例12-2:マウス抗原に対する種間交差結合反応
親抗体5A2クローンより生産量及びレジスチン抗原結合力が著しく低い5種であるLS_1E09、LS_2B10、LS_2B12、LS_2E11、LS_2D09を除く最適化抗体8種のマウスレジスチン抗原に対する種間交差結合反応を調べるために酵素免疫測定法(ELISA)を実施した。マウス抗原はpeprotech社のmurine resistin(#450-28)を使用した。96ウェル免疫プレート(immune plate, NUNC, 439454)にマウス抗原を10nMでDPBSに希釈してウェル当たり100μlずつ入れた後、4℃で16時間コーティングした。その後、PBSに4%で希釈した脱脂乳(skim milk)で37℃で1時間ブロック(blocking)した。抗体タンパク質はそれぞれ1、10、100nMになるようにPBSに希釈した1%の脱脂乳(skim milk)に希釈してウェル当たり100μlずつ入れて37℃で2時間反応させ、PBS-Tで洗浄した後、二次抗体として抗human Fc-HRP(Pierce(R) Peroxidase Conjugated Goat Anti-Human IgG FC(thermo fisher scientific, 31413)を1:10000で希釈して37℃で1時間反応させた。PBS-T洗浄後、TMB(sigma, T0440)溶液を各ウェルに100μlずつ処理し、10分間基質反応させた。10分後、各ウェルに50μlの1N H2 SO4 を処理して基質反応を停止した後、分光光度計(spectrophotometer, thermo fisher scientific, 51119200)を用いて490nmで測定した。
【0170】
その結果、RETN-flag-His抗原に対する結合能とは対照的に、親抗体5A2クローンと最適化抗体8種はマウス抗原に対して結合しなかった。これにより、マウスレジスチンに対する種間交差結合反応が起こらないことが確認された(
図16)。
【0171】
実施例12-3抗原受容体競合酵素免疫測定法(resistin-CAP1 competitive ELISA)を用いた抗原受容体結合阻害能の分析
レジスチンに結合して抗原受容体結合を阻害する抗体効能を評価するために、抗原受容体競合酵素免疫測定法(ELISA)を実施した。96ウェルプレートに抗原タンパク質をコーティングし、抗体を濃度別に処理した後、受容体を処理して抗原に結合した受容体タンパク質を検出した。分析法の模式図を
図17aに示した。コーティングした抗原タンパク質は実施例1で作製したRETN-C-Fcタンパク質を使用し、受容体タンパク質はヒスチジンが結合しているCAP1-His(LSbio, LS-G13682-100)を購入して使用した。
【0172】
96ウェル免疫プレート(immune plate, NUNC, 439454)にRETN-C-Fcタンパク質を100nMでDPBSに希釈してウェル当たり100μlずつ入れ、室温で16時間コーティングした。その後、PBSに4%で希釈した脱脂乳(skim milk)で37℃で1時間ブロック(blocking)した。抗体タンパク質は最高濃度500nMから0.0064nMまで5倍ずつ段階的に希釈してウェル当たり100μlずつ入れ、室温で2時間反応させた。その後、PBS-Tで洗浄した後、CAP1-HisをPBSで希釈した1%の脱脂乳(skim milk)に100nMで希釈してウェル当たり100μlずつ入れ、室温で2時間反応させた。PBS-Tで洗浄後、抗Histidine-biotin(Invitrogen, MA1-21315-BTIN)を1%の脱脂乳(skim milk)に1:2000で希釈してウェル当たり100μlずつ入れ、室温で1時間反応させた後、streptavidin-HRP(thermo fisher scientific, 21140)を1:1000で希釈して1時間反応させた。PBS-T洗浄後、TMB(sigma, T0440)溶液を各ウェルに100μlずつ処理し、10分間基質反応させた。10分後、各ウェルに50μlの1N H2SO4を処理して基質反応を停止した後、分光光度計(spectrophotometer, thermo fisher scientific, 51119200)を用いて490nmで測定した。
【0173】
その結果、実施例11及び実施例12において、生産性と抗原結合力が親抗体5A2より優れたクローンのうち、5A2より抗原受容体結合阻害能に優れる上位クローン7種(5A2_LS_1F11、5A2_LS_2B02、5A2_LS_2D07、5A2_LS_2F11、5A2_LS_2G03、5A2_LS_2E10及び5A2_LS_2H10)を選定した(
図17b)。
【0174】
実施例12-4:抗原受容体結合阻害能の分析
In vitro pull-down assay法で、抗体のCAP1とレジスチンの結合阻害効果により抗体候補群から選定した。THP-1細胞溶解液にFc融合された組換えレジスチンタンパク質と各抗体を混合した後、Fcビーズで沈殿させて結合するCAP1をウェスタンブロッティングにより測定し、レジスチンとCAP1の結合と各抗体の結合阻害効果を比較した。
【0175】
具体的には、THP-1(ATCC TIP-202, Homo sapiens, Human)細胞は、分譲機関であるATCC(American Type Culture Collection)社の細胞株培養方法を利用した。100units/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを含むpH 7.4のRPMI-1640培養液で温度37℃、CO
2 分圧5%が維持される培養器で培養した。THP-1細胞をlysis buffer(20mM Tris pH 7.5, 150mM NaCl, 1% Triton X-100, 0.25% sodium deoxycholate, 1mM EDTA, 1mM NaF, 1mM Na
3VO
4, and protease inhibitor cocktail)で溶解してタンパク質を抽出し、抽出したTHP-1タンパク質(500μg)にmFc-hResistin(0.5μg)タンパク質と抗体を100ng添加して4℃でovernight培養した。mFcビーズ(20μl)を加えて4℃で3時間引き下げた(pull down)後、lysis bufferで3回洗浄した後、β-メルカプトエタノールが入ったSDS-PAGE sample bufferを加えて100℃で5分間煮沸し、遠心分離して澄み(supernatant)を得た。ウェスタンブロッティングでVSペプチドによるhCAP1とmFc-hResistinの結合が阻害されているかどうかをhCAP1抗体とmFc-HRP抗体を用いて確認した。
その結果、親抗体5A2より優れた効果を示した抗体を確保した(
図18)。
【0176】
実施例12-5:Octet(Forte bio)システムを用いた抗体とレジスチン抗原間の親和性調査
抗体とレジスチン抗原間の親和性を調査するために、バイオセンサーを使用してリガンド受容体結合をリアルタイムで調査できるOctet(Forte bio)システムを使用した。このシステムは、レジスチン抗原タンパク質をバイオセンサーに結合させ、抗体を流してセンサーに結合した抗原に結合する抗体の程度を光学的に分析する装置であり、抗原に結合する抗体レベルを光波長レベルで高感度で測定する。レジスチン抗原に対する親和性は、受容体リガンド間のKon(association constants、結合速度)とKdis(dissociation constants、解離速度)、結合と解離の反応に対するKD(Equilibrium dissociation constant、平衡解離定数)で表した。
【0177】
その結果、抗原受容体競合酵素免疫測定法の結果で親抗体より優れた効果を示した7種の抗体は、親抗体5A2と同等またはそれ以上のレベルであるKD 1nM以下の抗原親和性を示した(
図19)。
【0178】
実施例13:レジスチン抗体の抗癌効果の分析
実施例13-1:レジスチンによるNF-κB活性化
抗体がNF-κBの活性に及ぼす影響を確認するために、MB231細胞にレジチンでNF-κBを活性化し、5A2とIgGを添加したときのNF-κBの活性をp65のリン酸化で測定したことを示した(
図20)。
【0179】
具体的には、MDA-MB-231(ATCC HTB-26, Homo sapiens, Human) 293F細胞株は、分譲機関であるATCC(American Type Culture Collection)社の細胞株培養方法を用いて、100units/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを含むpH7.4のDMEM培養液で温度37℃、CO2分圧5%が維持される培養器で培養した。ウェル当たり5.0x105MB-231細胞を4つの6ウェルプレートに接種し、1% FBS含有DMEM(Invitrogen Life Technologies)培地で100ng/mlの抗レジチン5A2(Y-BIOLOGICS/ANRT)で6時間処理した後、50ng/mlの組換えヒトレジチン(Y-BIOLOGICS/ANRT、韓国)で10、30、60分間順次処理した。
【0180】
ウェスタンブロッティング分析のために、同量の細胞溶解物を採取し、プロテアーゼ阻害剤(Roche, Cat.11836153001)を含む溶解緩衝液で溶解した。総タンパク質(10~30μg)を特定の一次抗体;Phospho-Src(Tyr416)(Cell signaling Technology, #6943)、p-p65(Ser276)(Cell signaling Technology, #3037)、総p65(Santa Cruz Biotechnology, sc-372)、p-CREB(Ser133)(Santa Cruz Biotechnology, sc-101663)、総CREB(Cell signaling technology, #9197)及びα-Tubulin(Calbiochem, Cat.CP06)で免疫ブロットした。抗マウスIgG HRPおよび抗ウサギIgG HRPは2次抗体としてPromegaから購入し、ECLおよびECL-PLUS(Amersham)で検出した。
【0181】
実施例13-2:生体外での癌細胞移動の分析
抗体がレジスチンによって誘導された癌細胞の移動に及ぼす影響を確認するために、MB231乳癌細胞株に5A2抗体とIgGを処理して細胞移動実験を行った。
【0182】
5x105 MDA-MB-231 乳癌細胞を6ウェルプレートで培養した。90%の密度を示す時点で、1%のセラム(serum)が添加されたRPMI1640培地を利用して24時間スタベーション(starvation)させた。その後、200p tipを利用してスクラッチを誘導した後、100ng/ml組換えレジスチン、100ng/ml human normal IgG、100ng/ml 5A2抗体を添加した。6時間後、Leica顕微鏡(DMI3000 B)を用いて移動した細胞を観察し、細胞の移動面積にを基準としてImage Jソフトウェアを用いて定量化した。
【0183】
その結果、100ng/mlレジスチンはMDA-MB-231乳癌細胞の移動を約137%増加させた。陰性対照群として使用されたhuman normal IgGは、レジスチン単独処理群とほぼ同程度のレベルで乳癌細胞を移動させたが、アンチレジスチン抗体である5A2を一緒に処理した群では、レジスチン単独処理群に比べて55%で細胞の移動が抑制され、ビークル(vehicle)群に対しては76%で細胞の移動がまた抑制された(
図22)。
【0184】
実施例13-3:生体内での癌細胞の転移
薬物動態を測定するために、マウスに5A2抗体とhIgG対照群を投与して薬物動態学的実験を行った(
図21)。
【0185】
また、生体内で乳癌細胞に対する5A2抗体の転移抑制能を確認するために、まずアデノウイルスを用いてNOD/SCIDマウスにHyper-resistinemiaを誘導した。Hyper-resistinemiaによって乳癌細胞は、肝、肺への転移が促進されることをルミネセンス(luminescence)画像と組織摘出を通じて確認した。具体的には、1x107pfuのAdv.GFPおよびAdv.hResistinをNOD/SCIDマウスに腹腔内注射(intraperitoneal injection)(I.P)し、1週間後、ルシフェラーゼ(Luciferase)が過発現しているMDA-MB-231細胞6x105個を静脈内注射(intravenous injection)(I.V)し、各臓器への転移を誘導した。その後、同時に10mg/kg human normal IgG、10mg/kg 5A2抗体も注入し、その後、週3回の頻度で継続的に投与した。4週目の時点で150mg/kg Luciferinの投与により、各実験群にルミネセンス画像を得た。画像確保はKODAK FX-PRO機器を用いた
【0186】
10mg/kg 5A2抗体を4週間(週3回)投与した結果、当該臓器への転移が著しく減少することを確認した。また、当該組織を摘出し、肉眼で確認可能な転移性大腸(metastatic colon)の数を比較した場合にも(
図23の矢印表示)、ルミネセンス画像の結果と同様に5A2抗体投与群で転移性大腸の数が著しく減少したことが分かった(
図23)。
【0187】
実施例14:レジスチン抗体のNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)に対する効果の分析
実施例14-1:レジスチン抗体の高脂肪食餌誘発NASH改善効果の確認
抗体が高脂肪食によって誘導されたNASHを改善する効果を示すかどうかを確認するために、2ヶ月間高脂肪食で脂肪肝を誘導し、1ヶ月間高脂肪食を行い、5A2を静脈内注射(I.V)で投与した(
図24)。
【0188】
マウス肝組織を4%PFAに5日間固定した後、パラフィンブロックにしてH&Eで染色し、その結果をNonalcoholic fatty liver disease Activity Score(NAS)で測定した。5A2抗体投与群でNAS スコアが有意に減少した(
図25)。
【0189】
マウス肝組織をOCTブロックにしてOil-Red-O染色した結果、5A2抗体投与群で中性トリグリセリドと脂質が著しく減少したことを確認した(
図26)。
実施例14-2:レジスチン抗体のインスリン感受性向上効果の確認
【0190】
5A2投与4週後にインスリン抵抗性検査を実施した。マウスは検査12時間前から空腹状態を維持し、水は供給した。インスリン投与前にマウスの尾の先端を切断し、空腹時血糖値をロシュアキュチェック血糖計により測定した。その後、インスリン0.75 IUを腹腔内注射(I.P)で投与し、15、30、60、120分後の血糖測定を行った。
【0191】
その結果、5A2抗体投与群でインスリン感受性がより大きいことがわかった。 特に、インスリン投与後30分後の5A2抗体投与群の空腹時血糖値低減率は56%であって、対照群より20%以上低減した(
図27)。
【0192】
実施例14-3:レジスチン抗体の空腹時グルコース値低下効果の確認
5A2投与4週後に空腹時血糖検査を行った。マウスは12時間空腹状態を維持し、水は供給した。血糖測定に使用する血液は、マウスの尾の先端をハサミで切って確保し、ロシュアキュテック血糖計を使用した。
【0193】
その結果、ヒトレジスチンが過発現するhumanized resistin mouseで空腹時血糖が105.2mg/dLであって、対照群(125.5mg/dL)よりもさらに低下したことがわかった(
図28)。
【0194】
実施例14-4:レジスチン抗体のLDLコレステロール低下効果の確認
マウスの血液を採取し、毛細管採血チューブを使用してセラムに分離した。Cholesterol assay kit(ab65390)で提供されたprecipitation bufferを同量のセラムと混合した後、13000rpmでスピンダウン(spin down)し、上層液(high-density lipoprotein)とペレット(Pellet)(low-density lipoprotein)に分離した。ペレットはPBSで溶解してLDLを確保した。2回の独立した実験の結果、5A2抗体投与群でLDLが対照群より有意に減少したことが分かった(
図29)。
【0195】
実施例14-5:レジスチン抗体のトリグリセリド蓄積低減効果の確認
50mgのマウス肝を冷たいPBSで数回洗浄した後、5%NP-40/ddH20 1mlで均質化(homogenize)した。その後、100℃に加熱してトリグリセリドを溶解させた。Triglyceride assay kit(ab65336)を使用してトリグリセリドを測定し、5A2抗体投与群で対照群より30%以上の低減効果を確認した(
図30)。
【0196】
実施例15:レジスチン抗体のIBD(炎症性腸疾患)に対する効果の分析
抗体が急性腸疾患を改善する効果を示すかどうかを確認するために、飲料水にDextran Sodium Sulphate(DSS)を5%の濃度に混合して5日間給水して腸疾患を誘導し、1~3日目にSaline、Remsima(1mg/kg)、RETN-5A2_LS_2F11抗体(10mg/kg)を静脈内注射(I.V)で投与した(
図31)。
【0197】
マウスの体重はDSS投与開始日から毎日測定し、3日目から体重が減少し始めた。RemsimaとRETN-5A2_LS_2F11ともにSaline群に比べて体重の減少が少なく、RETN-5A2_LS_2F11がRemsimaより3.6%ほど効果的であった(
図32)。
【0198】
Disease Activity Score(DAI)は、体重減少量(%)、便の状態、血便を観察して0から4点までのスコアを算出し、この値を合計した値である。DAIはDSS投与開始日から毎日測定し、3日目から増加し始めた。RemsimaとRETN-5A2_LS_2F11ともにSaline群に比べてDAIの増加が少なく、RETN-5A2_LS_2F11がRemsimaより1.4ほど効果的であった(
図33)。
【0199】
マウス大腸の長さは、盲腸から肛門までの長さを測定した値である。Normal群の場合、腸の長さは7.1cmであり、DSSにより4.9cmに減少した。RemsimaとRETN-5A2_LS_2F11ともにSaline群に比べてマウスの腸の長さの減少が少なく、RETN-5A2_LS_2F11でRemsimaより0.5cmほど腸の長さ保護効果がより増加した(
図34)。
【0200】
マウス大腸組織は4%PFAに5日間固定した後、パラフィンブロックにしてH&Eで染色し、その結果を組織学的活動性スコアで測定した。RemsimaとRETN-5A2_LS_2F11ともにSaline群に比べて組織学的活動性スコアの増加が少なく、RETN-5A2_LS_2F11でRemsimaより0.8ほど効果的であった(
図35)。
【産業上の利用可能性】
【0201】
本発明のレジスチンに結合する新規な抗体またはその抗原結合断片は、レジスチンに結合してレジスチン/CAP1結合遮断によりその活性を阻害することができるので、レジスチンに関連する様々な疾患の治療法開発に有用である。
【0202】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳細に説明したが、当業者にとって、このような具体的な技術は単なる好ましい実施態様であり、これによって本発明の範囲が限定されないことは明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とそれらの等価物によって定義されるといえる。
【配列表】
【国際調査報告】