(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ヒト広域交差反応性インフルエンザモノクローナル抗体及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/10 20060101AFI20241106BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241106BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241106BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241106BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241106BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241106BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20241106BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241106BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241106BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C07K16/10 ZNA
C12N15/13
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/46
C12N15/63 Z
A61K39/395 S
A61P31/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527075
(86)(22)【出願日】2022-11-07
(85)【翻訳文提出日】2024-06-11
(86)【国際出願番号】 US2022049142
(87)【国際公開番号】W WO2023081471
(87)【国際公開日】2023-05-11
(32)【優先日】2021-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】399052796
【氏名又は名称】デイナ ファーバー キャンサー インスティチュート,インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】524168699
【氏名又は名称】アビロ リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】マラスコ ウェイン エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ラムステット ハンス アーバン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C085AA14
4C085AA16
4C085AA21
4C085BB11
4C085BB36
4C085EE01
4C085GG02
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA29
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、インフルエンザウイルスのHAタンパク質のステムドメインへの結合に重要な構造的決定因子、及びこれらの決定因子に基づく高親和性中和インフルエンザウイルス抗体の産生のためのその使用の方法を提供する。本発明は更に、インフルエンザウイルスワクチンの有効性を決定するためのツールを提供する。本発明は更に、対象におけるインフルエンザウイルスワクチンの有効性を決定するのに有用な、又はワクチン若しくはインフルエンザウイルス感染に対する以前の免疫学的曝露若しくは抗原応答性を予測するのに有用な分子シグネチャーを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザウイルスを中和する、単離されたモノクローナル抗体であって、
a.GFTFSNYG(配列番号7)のアミノ酸配列を含むCDR1、ISFDGSKK(配列番号8)のアミノ酸配列を含むCDR2、及びCAKLPSPYYFDSRFVWVAASAFHFW(配列番号9)のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖、並びに
SSNIGGNT(配列番号10)のアミノ酸配列を含むCDR1、TNS(配列番号11)のアミノ酸配列を含むCDR2、及びCAAWDDSLNGQVF(配列番号12)のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖;
b.GFTFSNYG(配列番号7)のアミノ酸配列を含むCDR1、ISFDGSKK(配列番号8)のアミノ酸配列を含むCDR2、及びCAKLPSPYYFDSRFVWVAASAFHFW(配列番号9)のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖、並びに
SSNIGGNT(配列番号10)のアミノ酸配列を含むCDR1、TNS(配列番号11)のアミノ酸配列を含むCDR2、及びCAAWDNSLNGQVF(配列番号13)のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖;又は
c.GFTFSNYG(配列番号7)のアミノ酸配列を含むCDR1、ISFDGSKK(配列番号8)のアミノ酸配列を含むCDR2、及びCAKLPSPYYFDSRFVWVAASAFHFW(配列番号9)のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖、並びに
SSNIGXNT(配列番号14)のアミノ酸配列を含むCDR1、TNS(配列番号11)のアミノ酸配列を含むCDR2、及びCAAWDDSLNGQVF(配列番号12)のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖
を含み、
Fc領域における少なくとも1つの変異を更に含む、
前記単離されたモノクローナル抗体。
【請求項2】
a.配列番号2のV
Hアミノ酸配列及び配列番号4のV
Lアミノ酸配列;又は
b.配列番号2のV
Hアミノ酸配列及び配列番号6のV
Lアミノ酸配列
を含み、
Fc領域における少なくとも1つの変異を更に含む、
前記単離されたモノクローナル抗体。
【請求項3】
前記Fc領域における前記少なくとも1つの変異が、L234A、L235A、K322A、L234F、L235E、P329G、P331S、N297A、N297D、及びN297Qアミノ酸置換を含む、請求項1又は2に記載の単離されたモノクローナル抗体。
【請求項4】
変異した前記Fc領域が、L234A及びL235Aアミノ酸置換を含む、請求項1又は2に記載の単離されたモノクローナル抗体。
【請求項5】
Xがグリシンではない、請求項1に記載の単離されたモノクローナル抗体。
【請求項6】
Xがセリンである、請求項1に記載の単離されたモノクローナル抗体。
【請求項7】
脱グリコシル化されている、請求項1又は2に記載の単離されたモノクローナル抗体。
【請求項8】
前記インフルエンザウイルスのHAのステム領域に結合する、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項9】
前記インフルエンザウイルスが、A型インフルエンザウイルスである、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項10】
A型インフルエンザウイルスのグループI及びグループII株を中和する、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項11】
IgG1又はIgG4である、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項12】
前記IgG4が、安定化されたIgG4を含む、請求項11に記載の抗体。
【請求項13】
治療剤又は診断剤に結合されている、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項14】
前記治療剤が、毒素、放射性標識、siRNA、小分子、又はサイトカインである、請求項13に記載の抗体。
【請求項15】
ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、又はモザイク抗体を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項16】
請求項1に記載の抗体と、第2の抗原に免疫特異的に結合する抗体とを含む、二重特異性抗体。
【請求項17】
第2の抗原に免疫特異的に結合する前記抗体が、抗B型インフルエンザHA又は抗A型インフルエンザNAを含む、請求項16に記載の二重特異性抗体。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の抗体を産生する、細胞。
【請求項19】
請求項1~17のいずれか一項に記載の抗体と、薬学的に許容される担体、賦形剤、又は希釈剤とを含む、組成物。
【請求項20】
請求項1又は2に記載の単離されたモノクローナル抗体をコードする、核酸配列。
【請求項21】
請求項20に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項22】
請求項21に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項23】
請求項1~17のいずれか一項に記載の抗体を含む、ナノ粒子。
【請求項24】
インフルエンザウイルスによって引き起こされる疾患又は障害を予防又は治療する方法であって、前記疾患又は障害に罹患するリスクがある対象に、治療有効量の請求項1若しくは2に記載の抗体、又は請求項19に記載の組成物を投与する工程を含む、前記方法。
【請求項25】
前記対象に抗ウイルス剤を投与する工程を更に含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記抗体又は組成物が、前記対象に静脈内投与される、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年11月5日に出願された米国仮特許出願第63/276,374号からの優先権の利益を主張する国際出願であり、その内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書に引用される全ての特許、特許出願、及び刊行物は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。本明細書に記載され特許請求される本発明の日付時点での当業者に既知の最新技術をより完全に記載するために、これらの刊行物の開示は、参照により本出願に組み込まれる。
【0003】
本特許開示は、著作権保護の対象となる、材料を含む。著作権所有者は、米国特許商標局の特許ファイル又は記録に表れているような特許文書又は特許開示をいかなる者がファクシミリ複製することにも異議はないが、それ以外では、あらゆる全ての著作権を留保する。
【0004】
発明の分野
本発明は、インフルエンザ中和抗体及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0005】
発明の背景
インフルエンザパンデミックは、ヒトの健康に対する最大の急性感染脅威の1つである。ワクチン接種は、依然として季節性及びパンデミックインフルエンザ、並びにその合併症を予防する主要な手段のままである。インフルエンザウイルスの複数のサブタイプに対する広域の免疫を誘導する「ユニバーサル」インフルエンザワクチンは、医学研究において長い間求められてきた目標である。HAのステム上の高度に保存された疎水性ポケットに結合するヒト広域中和「ヘテロサブタイプ」抗体(sBnAb)の最近の発見は、そのようなワクチンを開発するための努力を再燃させた。しかしながら、季節性インフルエンザ若しくはH5N1ワクチンの血清中、又は市販の静脈内免疫グロブリン(intravenous immunoglobulin、IVIG)調製物中には、非常に低濃度のsBnAbしか検出されない。
【0006】
インフルエンザウイルスに対する免疫療法のためのモノクローナル抗体(monoclonal antibody、mAb)及び薬物を産生するための継続的な努力が存在する。具体的には、様々なインフルエンザ株の全てを中和する治療化合物の開発に努力が向けられる。現在、この目標を達成することができる少数のmAbのみが報告されている。これらのmAbは、ファージ抗体ライブラリをパニングすることによって、及びワクチン接種されたボランティアからのB細胞をスクリーニングすることによって単離された。しかしながら、広域中和インフルエンザ抗体の特徴の理解の増加は、中和インフルエンザ抗体の広域パネルの発見及び産生のためのより合理的な設計アプローチにおいてある特定の構造的決定因子を組み込むのに有用であり得る。
【0007】
したがって、インフルエンザウイルスを広域に中和し得る更なるモノクローナル抗体、及び合理的な設計アプローチを介してそのような抗体の親和性又は有効性を増加させるための方法に対する大きな必要性が存在する。
【発明の概要】
【0008】
本発明の態様は、インフルエンザウイルスを中和する単離されたモノクローナル抗体に向けられる。例えば、インフルエンザウイルスは、A型インフルエンザウイルスである。例えば、本発明の単離されたモノクローナル抗体は、A型インフルエンザウイルスのグループI及びグループII株を中和する。
【0009】
実施形態では、単離されたモノクローナル抗体は、GFTFSNYG(配列番号7)のアミノ酸配列を含むCDR1、ISFDGSKK(配列番号8)のアミノ酸配列を含むCDR2、及びCAKLPSPYYFDSRFVWVAASAFHFW(配列番号9)のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖、並びにSSNIGGNT(配列番号10)のアミノ酸配列を含むCDR1、TNS(配列番号11)のアミノ酸配列を含むCDR2、及びCAAWDDSLNGQVF(配列番号12)のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖;GFTFSNYG(配列番号7)のアミノ酸配列を含むCDR1、ISFDGSKK(配列番号8)のアミノ酸配列を含むCDR2、及びCAKLPSPYYFDSRFVWVAASAFHFW(配列番号9)のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖、並びにSSNIGGNT(配列番号10)のアミノ酸配列を含むCDR1、TNS(配列番号11)のアミノ酸配列を含むCDR2、及びCAAWDNSLNGQVF(配列番号13)のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖;又はGFTFSNYG(配列番号7)のアミノ酸配列を含むCDR1、ISFDGSKK(配列番号8)のアミノ酸配列を含むCDR2、及びCAKLPSPYYFDSRFVWVAASAFHFW(配列番号9)のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖、並びにSSNIGXNT(配列番号14)のアミノ酸配列を含むCDR1、TNS(配列番号11)のアミノ酸配列を含むCDR2、及びCAAWDDSLNGQVF(配列番号12)のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖、を含み、単離されたモノクローナル抗体は、Fc領域における少なくとも1つの変異を更に含む。実施形態では、Xはグリシンではない。実施形態では、Xはセリンである。
【0010】
本発明の態様はまた、単離されたモノクローナル抗体であって、当該抗体が、配列番号2のVHアミノ酸配列及び配列番号4のVLアミノ酸配列を含むか、又は配列番号2のVHアミノ酸配列及び配列番号6のVLアミノ酸配列を含み、単離されたモノクローナル抗体が、Fc領域における少なくとも1つの変異を更に含む、単離されたモノクローナル抗体にも向けられる。例えば、Fc領域における少なくとも1つの変異は、L234A、L235A、K322A、L234F、L235E、P329G、P331S、N297A、N297D、及びN297Qアミノ酸置換を含む。例えば、変異したFc領域は、L234A及びL235Aアミノ酸置換を含む。
【0011】
実施形態では、抗体は、脱グリコシル化されている。
【0012】
実施形態では、抗体は、インフルエンザウイルスのHAのステム領域に結合する。
【0013】
実施形態では、抗体は、IgG1又はIgG4である。例えば、IgG4は、安定化されたIgG4を含む。
【0014】
実施形態では、抗体は、治療剤又は診断剤に連結される。例えば、治療剤は、毒素、放射性標識、siRNA、小分子、又はサイトカインである。
【0015】
実施形態では、抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、又はモザイク抗体を含む。
【0016】
本発明の態様は、多重特異性抗体にも向けられる。例えば、多重特異性抗体は、二重特異性抗体又は三重特異性抗体である。例えば、二重特異性抗体は、第1の抗原に結合する本明細書に記載の抗体と、第2の抗原に免疫特異的に結合する抗体とを含む。例えば、第2の抗原に免疫特異的に結合する抗体は、抗B型インフルエンザHA又は抗A型インフルエンザNAを含む。
【0017】
本発明の態様は、本明細書に記載の抗体を産生する細胞にも向けられる。
【0018】
より更に、本発明の態様は、本明細書に記載の抗体、及び薬学的に許容される担体、賦形剤、又は希釈剤を含む組成物に向けられる。
【0019】
更なる態様は、本明細書に記載の単離されたモノクローナル抗体をコードする核酸配列、その核酸配列を含むベクター、及び/又はそのベクターを含む細胞に向けられる。
【0020】
また、本発明の態様は、本明細書に記載の抗体を含むナノ粒子にも向けられる。
【0021】
本発明の態様は、インフルエンザウイルスによって引き起こされる疾患又は障害を予防又は治療する方法に向けられる。実施形態では、本方法は、当該疾患又は障害に罹患するリスクがある対象に、治療有効量の本明細書に記載の抗体又はそれを含む組成物を投与する工程を含む。実施形態は、対象に抗ウイルス剤を投与する工程を更に含むことができる。実施形態では、抗体又は組成物は、対象に静脈内投与される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】ヒト記憶B細胞レパートリーからのインフルエンザウイルスに対する広域中和Abの単離を示す概略図である。代表的な蛍光標識細胞選別(fluorescence-labeled cell sorting、FACS)データも提示する。FACSデータは、全PBMCから単離されたH3反応性記憶B細胞の頻度を示す。
【
図1B】アミノ酸配列に基づくA型インフルエンザウイルスの18個のHAサブタイプの系統発生ツリーを示す。グループ1のサブタイプ及びグループ2のサブタイプを概略図に示す。アミノ酸距離スケールバーは、0.1の距離を示す。
【
図2-1】
図2は、広範囲のグループ1及びグループ2のHAへの3I14結合を示す一連のFACSグラフである。293T細胞を異なるHA発現プラスミドで一過的にトランスフェクトし、続いて精製scFvFc抗体及びAPC標識マウス抗ヒトFc抗体で染色した。3I14(赤色の線)、F10(グループ1に特異的、緑色の線)、CR8020(グループ2に特異的、青色の線)、FI6v3(グループ1及び2に特異的、紫色の線)、CR9114(グループ1及び2に特異的、オレンジ色の線)、及び無関係なmAb Fm-6(抗SARSウイルス、灰色で塗られたヒストグラム)の結合をフローサイトメトリーによって分析した。
【
図3】
図3A及び
図3Bは、グループ1(赤色)又はグループ2(青色)のサブタイプの代表である組換えHAへの3I14 IgG1(A)結合(K
d値)又はscFvFc Ab(B)結合(K
d値)を示す一連のグラフである。
【
図4】
図4A及び
図4Bは、グループ1(赤色)又はグループ2(青色)のサブタイプの感染性ウイルスの3I14 IgG1中和(A)(IC
50値)又は3I14 scFvFc Ab中和(IC
50値)を示す一連のグラフである。3I14は、四角で表し、抗グループ1のmAb F10は、三角形で表した。IC50値に使用されるグラフは、2~3回の独立した実験の中和力価を平均することによって決定した。
【
図5】
図5A及び
図5Bは、グループ1又はグループ2のサブタイプを代表する偽ウイルスの3I14 IgG1中和(A)(IC
50値)又は3I14 scFvFc中和(B)(IC
50値)を示すグラフである。これらのデータは、2~3回の独立した実験の平均中和力価を表す。
図5Bでは、抗グループ1のmAb F10 scFvFcを参照のために使用した。
【
図6A-1】
図6Aは、インフルエンザウイルスに曝露され、精製IgGを5、20、又は25mgの濃度のうちの1つで腹腔内投与されたマウスの生存率(A)を示す一連のグラフである。
図6Bは、インフルエンザウイルスに曝露され、示される特定の抗体濃度を投与されたマウスにおける体重組成の変化を示す一連のグラフである。これらのアッセイのために、5匹のマウスのグループを、H7N7-NL219、H7N9-AH13、H3N2-BR07、又はH5N1-VN04インフルエンザウイルス(約10LD50)のi.n.接種による致死チャレンジの24時間前に腹腔内に与えられた20/25又は5mg/kg用量の精製IgGで処置した。bnAb 3I14(赤色)及びグループ1の対照mAb F10(黒色)で処置したマウスの(a)生存(%)及び(b)体重変化(%)。
【
図7】抗体なし、3I14、又はFm-6(IgG1対照)を使用したトリプシン切断阻害アッセイからの結果を示すゲルである。このアッセイのために、0.4μgの組換えH3-ヒスチジン(H3-BR07)を、2.5μgの3I14若しくはFm-6 IgG1の存在下、又は抗体の非存在下で、100μg/mLのTrypsin-ultra(New England Biolabs、USA)を含有するpH8.0のTris-HCl緩衝液中、37℃でインキュベートした。トリプシン消化は、1%BSAの添加によっていくつかの時点で阻害された。試料を12%還元SDS-PAGEにかけ、HisProbe-HRP抗体を使用してブロットした。
【
図8】3I14 IgG1が、表面発現されたH3-A268及びH3-BR07上での低pH誘発性立体構造再配置を防止したことを示す一連の概略図及びグラフである。表面発現されたH3の立体構造再配置を、3I14(黒棒)及びヘッド結合対照mAb E730(白棒)のFACS染色によって検出した。結合は、未処置HA(HA0)への結合のパーセンテージとして表される。この抗体阻害アッセイのために、切断されたHAをpH4.9に曝露する前に、mAbなしで、3I14で、又は対照Ab、Fm-6 IgG1でH3を事前処置した。データは、3つの独立した実験の平均+SDを表す。
【
図9A】
図9A及び
図9Bは、3I14が抗体依存性細胞傷害(Antibody-Dependent Cellular Cytotoxicity、ADCC)を媒介することを実証する。
図9Aは、ADCCベースのアッセイの結果を示すグラフである。3I14並びに他の抗ステムbnAb、FI6v3、CR9114、39.29、F10、及びCR8020は、H3及びH5発現された293T細胞においてADCCを誘導した。これらのアッセイのために、1×10
4個/ウェルのH3又はH5発現された293T細胞をアッセイ前にプレートに付着させ、次いで培地を低IgG血清アッセイ緩衝液(0.5%低IgG FBSを含むRPMI 1640)と交換した。異なるbnAbを5、1、0.2、及び0.04μg ml-1の濃度で各ウェルに添加した。1時間後、Jurkatエフェクター細胞を6.0×10
4個の細胞/ウェルで低IgG血清アッセイ緩衝液中のアッセイプレートに添加し、6時間インキュベートした。上清を回収し、ルシフェラーゼアッセイキット(Promega)を使用してルシフェラーゼ活性を測定した。
図9Bは、3I14並びに他の抗ステムbnAb、FI6v3、CR9114、39.29、F10、及びCR8020がH3及びH5発現された293T細胞においてADCCを誘導したことを示す一連のグラフである。2×10
4個/ウェルのH3又はH5発現された293T細胞をアッセイ前にプレートに付着させ、次いで培地を低IgG血清アッセイ緩衝液(0.5%低IgG FBSを含むRPMI 1640)と交換した。異なるbnAbを10、5、2.5、及び1.25μg ml
-1の濃度で各ウェルに添加した。1時間後、PBMCを1.2×10
5細胞/ウェルで低IgG血清アッセイ緩衝液中のアッセイプレートに添加し、6時間インキュベートした。上清を回収し、LDH細胞傷害性分析キット(Pierce)を使用してルシフェラーゼ活性を測定した。データは、平均±S.E.M.を表す。実験を3回行い、同様の結果が得られた。データは、1つの独立した実験の代表であり、1つのグループ当たり3回反復した。
【
図10】
図10A~
図10Fは、H3又はH5への他の抗ステムbnAb、FI6v3、CR9114、39.29、F10、及びCR8020の結合のために3I14が交差競合することを示す一連のグラフである。これらのアッセイのために、5μg/mlのH3-BR07又はH5-VN04タンパク質をELISAプレート上に固定化し、80nM~0.3nMの濃度範囲の3I14 Fabの2倍連続希釈物とともにインキュベートし、これらを5nMの他のscFvFc Abと更に混合した。scFvFc Abの結合を、HRPコンジュゲートされた抗ヒトCH2抗体を使用して検出した。
【
図11-1】
図11は、3I14及び他の生殖系列重鎖(A、C)又は軽鎖領域(B、D)のアミノ酸配列アラインメントを示す。対応するV、D、及びJ配列を、IMGTデータベースを使用して決定し、比較のために示す。
【
図12A】
図12A及び
図12Bは、3つのVH3-30 BnAb、39.29(4KVNから)、FI6(3ZTJから)、及びMab3.1(4PY8)との3I14モデルの重ね合わせを示す一連の概略図である。重鎖及び軽鎖、並びに3I14抗体の重鎖CDRの相対的な配置を示すタンパク質モデルの概略図を示す。重鎖は、緑色で示され、軽鎖は、灰色で示される。
図12の重鎖CDRは、以下のように色分けされている:3I14 HCDRは青色であり、他のBnAbのHCDR1は赤色であり、HCDR2はマゼンタであり、HCDR3はシアンである。bnAbは、リボン描写で表示される。
図12Bにおいて、重鎖は青色であり、軽鎖はシアンである。HCDR3は、赤色の3I14、マゼンタのFI6v3、黄色の39.29、及び緑色のMAb 3.1で強調されている。
【
図13A】
図13A~
図13Dは、3I14のモデリング及びH3/H5とのドッキングを示す一連の概略図である。H3三量体モデルのストーク上の3I14エピトープ構造を
図13Aに示す。
図13Bは、HAを有するIGVH3-30由来のbnAbの複合体構造を示す。HA上のエピトープ残基は、表面描写で示され、bnAbのCDRループは、リボンとして示される。HAモノマーのHA1はウィートで、HA2はサーモンで、エピトープ残基は赤色でラベル付けされている。重要な残基L38及びK39は、黄色に色付けされている。bnAbの重鎖CDRは青色であり、軽鎖CDRはシアンである。3I14を、BioLuminateにおいて抗体モデリングモジュールを使用して相同性モデリングし、モデルを、RosettaDockとドッキングする前にH3/FI6v3複合体構造に重ね合わせた。他の3つのIGHV3-30 bnAb、FI6v3、39.29、及びMAb 3.1は、Protein Data Bankからダウンロードした。
図13Cは、3I14中のD94とH3/H5との相互作用を示す。H3はシアンで示され、K39はスティックとして示され、H5は緑色で示され、E39はスティックで示され、3I14は、H3/3I14モデルにおいてオレンジ色で示され、H5/3I14モデルにおいて黄色で示され、D94はスティックとして示される。
図13Dは、H3/3I14複合体モデルにおけるH3と3I14軽鎖のG31との相互作用を示す。H3のHA2ドメインのヘリックスAは、シアンのリボンとして示され、3I14の軽鎖は、オレンジ色のリボンとして示され、G31の主鎖原子は、スティックで示され、H3 HA2のQ42及びD46の側鎖原子は、スティックで示され、G31とH3との間の距離は、緑色の破線によって示され、黒色でラベル付けされている。(The PyMOL Molecular Graphics System、Version 0.99 rc6 Schrodinger、LLC)。
【
図14】
図14A及び
図14Bは、配列アラインメント(A)、並びにH3/3I14及びH5/3I14モデルの構造の重ね合わせ(B)を示す。
【
図15A】
図15A~
図15Fは、組換えH5-VN04(A)及びH3-PE09(B)に結合する3I14 WT及びVLD94N IgG1バリアントのK
d結合値を示すグラフ及び表である。緑色又は青色の曲線は、バイオレイヤー干渉法実験から得られた実験トレースであり、赤色の曲線は、K
d値を計算するために使用されるデータに対する最良の全体的適合である。結合曲線についての親和性測定値(Kd値)を表4に報告する。3I14 WTは、1.15nMのK
d値で精製H5-VN04に結合したが、3I14 VLD94N変異体は、0.19nMで、10倍高い親和性でH5-VN04に結合した。
図15C~
図15Fは、組換えHaへの3I14 scFvFc結合を示す一連のグラフである。
【
図16-1】
図16A~
図16Dは、偽型ウイルスH5N1-VN04及び感染性ウイルスH3N2-BR07とのインキュベーション後の3I14 WT及びVLD94N変異体IgG1の中和値を示す一連のグラフである。
図16C及び
図16Dに示されるように、3I14(黒色)及びVLD94Nバリアント(赤色)は、偽型ウイルスH5N1-VN04(C)及びH3N2-BR07ウイルス(D)を中和した。このデータは、2~3回の独立した実験の平均中和力価を表す。
【
図17-1】
図17は、3I14 scFvFc Abがインフルエンザウイルス感染及びHA偽型ルシフェラーゼレポーターウイルスを中和したことを示す一連のグラフである。mAb 3I14(黒色)及び抗グループ1のmAb F10(赤色)は、感染性ウイルス及び偽型ウイルスの異なる株を中和した。データは、2~3回の独立した実験からの平均中和力価を表す。
【
図18】H5への操作された3I14酵母-CDRライブラリの結合と比較した3I14-WT酵母の結合を示す一連のフローサイトメトリーグラフである。3I14酵母-CDRライブラリを、H5への結合を増加させるバリアントについて酵母ディスプレイを使用して操作した。
【
図19】組換えH3-PE09の全長又はHA1への3I14 scFvFc Ab結合を示すグラフである。
【
図20-1】
図20は、組換えH1、H3、及びH5への3I14 IgG1バリアントの結合を示す一連のグラフである。青色の曲線は、バイオレイヤー干渉法実験から得られた実験トレースであり、赤色の曲線は、表7に示されるK
dを計算するために使用されるデータに対する最良の全体的適合である。
【
図21】3I14 LALAと3I14とのインビトロでの比較を示す。3I14 LALA、3I14、及び対照についてのウイルス力価(Log
10)のグラフ。3I14 LALA及び3I14 mAbによるA型インフルエンザ/PR8/8/1934(H1N1)の中和を示す。3I14 LALA又は3I14(0.1μg mAb)を、MDCK-SIAT1細胞を使用する中和アッセイにおいて比較した。
【
図22】BALB/c H1N1マウスモデルにおける3I14 LALA及び3I14有効性のグラフを示す。A型インフルエンザ/Texas/36/1991(H1N1)での鼻腔内チャレンジの1時間前に腹腔内注射を介した3I14 LALA又は3I14を有するBALB/cマウスについての用量反応曲線を示す。
【
図23】マウスにおけるインフルエンザADE研究を示す。マウスにおけるインフルエンザ抗体依存性感染増強研究における3I14(左)及び3I14 LALA(右)における肺ウイルス負荷対用量のグラフ。BALB/cマウスを、A型インフルエンザ/Texas/36/1991(H1N1)での鼻腔内チャレンジの1時間前に、腹腔内注射を介して3I14 LALA又は3I14で処置した。チャレンジ後4日目に、肺を収集し、均質化し、ウイルスレベルを2つの独立した研究におけるプラークアッセイによって定量し、3I14(左)又は3I14 LALA(LALAを有する、右)を対照と比較した。
【
図24】マウスにおけるインフルエンザH1N1に対する3I14 LALAの予防的(左)及び治療的(右)防御についての、生存(%)対曝露後日数のグラフを示す。BALB/cマウスを、A型インフルエンザ/Texas/36/1991での鼻腔内チャレンジの1時間前(左)又は24時間後(右)のいずれかに、腹腔内注射を介して3I14 LALA又は対照で処置し、14日間観察した。14日間の観察後の生存結果を示す。
【
図25】マウスにおけるインフルエンザH3N2に対する3I14 LALA予防的(左)及び治療的(右)防御についての、生存(%)対曝露後日数のグラフを示す。BALB/cマウスを、A型インフルエンザ/Hong Kong/1/1968での鼻腔内チャレンジの1時間前(左)又は24時間後(右)のいずれかに、腹腔内注射を介して3I14 LALA又はPBS対照で処置した。14日間の観察後の生存結果を示す。
【
図26】3I14 LALAによるINFV-A H5N1に対する予防的防御を示す。BALB/cマウスを、H5N1 A/VN/1203/04でチャレンジする前に、10、25、40mg kg-1の3I14 LALA用量で処置した。生存曲線を示す。カプラン・マイヤー生存曲線を、GraphPad Prismを使用して分析した。
【
図27】3I14 LALAによるINFV-A H5N1に対する治療的防御を示す。BALB/cマウスを、H5N1 A/VN/1203/04でのチャレンジの24時間後に、10、25、40mg kg-1の3I14 LALA用量で処置した。生存曲線を示す。カプラン・マイヤー生存曲線を、GraphPad Prismを使用して分析した。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
本発明は、修飾されたFc領域を含む改良されたヒトインフルエンザモノクローナル抗体を発見し、その結果、改良された抗体は、Fcガンマ受容体に結合しない(したがって、エフェクター機能を排除する)が、依然としてインフルエンザに対する有効性を保持する一方で、抗体依存性感染増強を防止する。例えば、mAb 3I14 LALAは、インフルエンザに対する有効性を保持する一方で、抗体依存性感染増強を防止する。Fcを修飾することがインフルエンザに対する有効性の喪失をもたらすということが一般に予想されたので、この知見は予想外であった。DiLillo,David J.,et al.「Broadly neutralizing hemagglutinin stalk-specific antibodies require FcγR interactions for protection against influenza virus in vivo.」Nature medicine 20.2(2014):143-151、Vanderven,Hillary A.,and Stephen J.Kent.「The protective potential of Fc-mediated antibody functions against influenza virus and other viral pathogens.」Immunology and cell biology 98.4(2020):253-263を参照されたい。)
【0024】
A型インフルエンザは、一本鎖マイナス鎖RNAウイルスであり、10個のタンパク質をコードする8セグメントゲノムを有する。それは、ヌクレオカプシド及びマトリックスタンパク質の抗原性によって定義されるようなインフルエンザウイルスA型、B型、及びC型の属を含むオルトミクソウイルス科に属する。一般に、A型インフルエンザウイルスは、ヒトにおけるより重篤な疾患に関連する。A型インフルエンザウイルスは更に、2つの表面タンパク質、細胞侵入のためにビリオンを宿主細胞に付着させる赤血球凝集素(hemagglutinin、HA)、及び子孫ウイルス又は細胞表面に付着した宿主シアル酸を切断することによって子孫ウイルスの拡散を促進するノイラミニダーゼ(neuraminidase、NA)によってサブタイプ化される。
【0025】
16個のHAサブタイプ及び9個のNAサブタイプが存在し、これらは、HA及びNAの様々な組合せによってA型インフルエンザウイルスの全てのサブタイプを構成する。16個のHA及び9個のNAウイルスサブタイプの全ての組み合わせは、水鳥において見られる。トリA型インフルエンザウイルスの数百の株のうち、4つのみがヒト感染を引き起こしたことが知られている(H5N1、H7N3、H7N7及びH9N2)。一般に、これらのウイルスによるヒト感染は、症状軽快及び非常にわずかな重症疾患をもたらし、H7N7によって引き起こされた肺炎の1つの致死的症例のみが存在した。しかしながら、例外は非常に病原性の高いH5N1ウイルスであり、これに対して、ヒトにおいて自然免疫は存在しない。RNAポリメラーゼの非忠実度(infidelity)及び宿主免疫の選択圧は、これらのタンパク質の変異の蓄積及び表面抗原性の変化をもたらし得る。この抗原性変化は、抗原ドリフトと呼ばれる。加えて、そのセグメント化されたゲノムの結果として、A型インフルエンザウイルスの2つの異なるサブタイプが同じ細胞に感染する場合、遺伝子セグメントのシャッフリングが起こり得る。例えば、ヒトH3N2ウイルス及びトリH5N1ウイルスがヒト又は哺乳動物種の他のメンバーに同時感染する場合、そのような事象は、新規H5N2を産生し得る。ほとんどの遺伝子セグメントの全てがヒトウイルスに由来するので、この新規ウイルスは、次いでヒトからヒトへ効率的に伝達され得る。そのような遺伝子再集合は、大きな抗原変化、いわゆる抗原シフトをもたらし、これは、世界人口の大部分が再集合体ウイルスに対する中和抗体を全く有していないことを意味するであろう。そのような状況は、インフルエンザH5N1肺炎の高い死亡率と相まって、公衆衛生の分野で最も恐れられているシナリオのうちの1つである。
【0026】
インフルエンザウイルス赤血球凝集素(HA)は、インフルエンザウイルスの最も可変的な抗原であり、細胞へのウイルス侵入に関与する。これは、三量体前駆体ポリペプチドHA0として合成され、これは、翻訳後に切断されて、単一のジスルフィド結合によって連結された2つのポリペプチドHA1及びHA2になる。HAのHA1鎖は、細胞表面へのウイルスの付着に関与する。HA2は、エンドソームにおけるウイルス及び細胞膜の融合を媒介し、リボヌクレオタンパク質複合体の細胞質への放出を可能にする。HA1とは対照的に、HA2分子は、HAの比較的保存された部分を表す。第2の免疫原性インフルエンザタンパク質は、ノイラミニダーゼ(NA)である。この四量体糖タンパク質は、プロデューサー細胞上の表面シアル酸からのビリオンの放出に関与し、気道における標的細胞への接近を促進する役割も有し得る。NAに対する中和抗体は動物及びヒトにおいて防御的であるが、それらの作用メカニズムに関するデータは不足している。N1ノイラミニダーゼの結晶構造に関する最近の報告は、抗体を含む新しい抗インフルエンザ薬を開発するために利用され得る、その活性部位に隣接する空洞の存在を実証した。この知見は、H5N1ウイルスに対するオセルタミビル(タミフル)及びザナミビル(リレンザ)に対する薬物耐性の出現の報告を考慮すると、特に重要である。
【0027】
20年以上前に、H3サブタイプのHAは、抗原ドリフトバリアント及びエスケープ変異体のHAを配列決定することによって特徴付けられ、抗原エピトープは、HAの三次元構造上にマッピングされた。それ以来、トリ病原性ウイルスのH1、H2、及びH5上の抗原部位が、H3の三次元構造上にマッピングされた。1997年に香港でヒトにH5N1感染が発生し、1999年にヒト症例からH9N2ウイルスが単離された後、両方のタンパク質のX線構造が解明された。しかしながら、構造を解明するために使用された1997ブタ単離物(A/Duck/Singapore/3/97)、及びより最近単離された高病原性株の抗原ドリフトは、重要である。実際、ブタ単離物(A/Duck/Singapore/3/97)とHPAI H5N1株(A/Vietnam1203/04)との間には28個の小さな変化及び2つの潜在的に大きな変化がある。
【0028】
2004~2005年の大発生からのH5 HA遺伝子の系統発生分析は、クレード1及び2と呼ばれるHA遺伝子の2つの異なる系統を示した。HPAI H5N1株(A/Vietnam1203/04)は、クレード1のメンバーである。これらのクレードの各々におけるウイルスは、アジアの重複しない地理的領域に分布している。インドシナからのH5N1ウイルスは、クレード1内に密にクラスター化されているが、いくつかの周辺国から単離されたH5N1は、クレード1単離物とは異なり、より多様なクレード2に属する。クレード1ウイルスは、ベトナム、タイ、及びカンボジアのヒト及びトリから単離されたが、ラオス及びマレーシアのトリからのみ単離された。クレード2ウイルスは、中国、インドネシア、日本、及び韓国のトリから独占的に単離されたウイルスにおいて見られた。最近の疫学的研究では、インドネシア及びベトナム全体の家禽から単離された82個のH5N1ウイルス、並びに南部ベトナムからの11個のヒト単離物を、公的データベースで入手可能な配列データとともに分析して、ウイルス導入、内因性、及び進化に関連する問題に取り組んだ36。系統発生分析は、インドネシアからの全てのウイルスが、H5N1遺伝子型Zウイルスの別個のサブ系統を形成することを示し、この大発生が、過去2年間の国全体にわたる拡散を介した単一の導入から生じた可能性が高いことを示唆した。インドネシアにおける継続的なウイルス活動は、トリの移動による反復導入によるのではなく、国内での家禽の移動を介する伝染に起因した。インドネシア及びベトナム内で、H5N1ウイルスは、時間の経過とともに各国内の地理的に異なる群に進化してきた。
【0029】
最近、A/Vietnam1203/4からのHAの構造が解明された。そのアミノ酸配列と、クレード1及び2ウイルスからのHPAI 2004及び2005単離物からのHA遺伝子との比較により、主に受容体結合ドメインの周りにクラスター化され、残りは前庭エステラーゼドメイン内にある抗原変異の13個の位置が識別された。抗原変異の領域は、H1及びH3血清型において識別されている。H1については、これらの部位は、Sa、Sb、Ca、及びCbと称され、H3については、部位は、A、B、C、及びDと称される。H5 HAのエスケープ変異体は、以下の3つのエピトープにクラスター化することができる;部位1:H3の抗原部位A及びH2のCa2と重複する露出ループ(HA1 140~145)、部位2:H3血清型における抗原部位Bに対応するHA1残基156及び157、並びに3)H1 HA及びH9血清型におけるSa部位に制限されるHA1 129~133。Smithによる最近の研究において、アミノ酸レベルでのポジティブ選択の検出は、HAタンパク質中の8つの残基がポジティブ選択下にあったことを示した。これらの残基には、抗原部位A及びE(83、86、138、140、及び141位)における5つ、受容体結合に関与する2つ(129位及び175位)が含まれ、156位は、受容体結合部位の近くにある潜在的なN結合型グリコシル化のための部位である。結果は更に、HA中の3つの残基(Val 86、Ser 129、及びThr 156)がニワトリ又はアヒル単離物よりもヒト単離物においてより頻繁に観察され、おそらくヒトへのH5N1遺伝子型Zの初期適応を表すことを明らかにした。これらの研究からの別の重要な知見は、インドネシア亜系統とベトナム亜系統との間の系統発生的差異が、これらの2つのウイルス群の間の抗原交差反応性における著しい差異にも反映されたことである。具体的には、インドネシアからのウイルスは、A/Vietnam1203/04に対するフェレット抗血清と反応せず、ベトナムからの代表的なウイルスは、インドネシアウイルスIDN/5/06及びDk/IDN/MS/04に対するフェレット抗血清と反応しなかった。これらの知見は、これらの株が系統発生的に異なるだけでなく抗原的にも異なるという、免疫ヒト血清並びにヒト1997及び2003 H5N1ウイルスを用いた以前の研究と一致する。したがって、天然のバリエーション並びにエスケープ変異体は、ウイルスの継続した進化が、どの株が受動免疫及び能動免疫化のために使用されるべきかについての決定に影響を与えるはずであることを示唆する
【0030】
scFv及びモノクローナル抗体の識別及び特徴付け
高親和性、クロスサブタイプ、広域中和ヒト抗HA mAbが識別されている。抗原特異的記憶B細胞を、四量体化H3(A/Brisbane/10/2007)赤血球凝集素(HA)三量体を使用してヒトPBMCから単離した。H3反応性単一記憶B細胞をプレートに選別し、インビトロで刺激した。選別されたB細胞の40%以上が、14日後に、上清中に平均200ng/mlのIgGを産生した。拡大増殖させたB細胞からの上清を、それらのヘテロサブタイプ結合特異性及び中和活性について、MSD又は高感度中和アッセイによって測定した。選択的クローンからの抗体遺伝子を、単一細胞RT-PCRによって回収した。
【0031】
7人の個体からの2688個の記憶Bクローンのスクリーニングを通して、11%のクローン化可能な記憶B細胞がH3赤血球凝集素と反応性であった。それらの中で、H3/H7、H3/H7/H1、及びH3/H7/H1/B型インフルエンザヘテロサブタイプ結合集団は、それぞれ16%、6.9%、及び0.35%であった。新しい広域中和Ab、3I14が識別された。3I14は特徴付けられ、グループ1及びグループ2のA型インフルエンザウイルスの両方に対する交差反応性結合及び中和活性を有することが示された。これは、グループ1又はグループ2のA型インフルエンザウイルスのいずれかを中和するF10、CR6261、MAb 3.1、及びCR8020などの他の公知の抗インフルエンザ抗体とは対照的である。抗インフルエンザ抗体FI6v3、CR9114、39.39、MAb 1.12、及びCT149のみが、グループ1及びグループ2の両方からのヒトA型インフルエンザウイルスを中和することができる。ヒト形質細胞、形質芽細胞、及びCD138+HA特異的抗体分泌細胞の培養物から単離されたFI6v3、CR9114、39.39、MAb 1.12、及びCT149とは対照的に、本発明の抗体、例えば、3I14は、記憶B細胞から単離された。ウイルス再感染及びワクチン接種に応答して、長寿命の形質細胞は、中和抗体を産生し、特に元のウイルスをリコールするが、記憶B細胞は、胚中心に再び入ることによってバリアントウイルスに特異的な高親和性中和抗体を産生することによって寄与する。更に、記憶B細胞の体細胞変異は、抗体分岐及び選択のサイクルを繰り返すことによって、より高齢の個体において蓄積され得る。したがって、記憶B細胞は、長寿命の形質細胞よりも広い抗原特異性のレパートリーを有する。記憶B細胞の安定な集団を開発し、強力なbnAb応答を誘発することは、長く持続する広く有効なワクチンにとって必須であると考えられる。したがって、本発明の抗体は、他の公知の抗インフルエンザ抗体よりも大きな治療的有用性を有する。
【0032】
本発明の抗体は、グループ2(H3、H4、H7、H14、及びH15)及びグループ1(H1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H12、及びH16)のA型インフルエンザの両方の血清型にわたって表面発現HAに結合する。具体的には、本発明の抗体の結合親和性(Kd)は、約1pM~1μM、約1pM~1nM、又は約1nM~1μMである。例えば、抗体は、グループ1(H1、H5、及びH9)及びグループ2(H3、H4、H7、及びH17)に対して約1pM~1μMの結合親和性を有する。好ましくは、グループ1(H1、H5、及びH9)及びグループ2(H3、H4、H7、及びH17)に対する結合親和性Kdは、約0.01nM~10nMである。いくつかの実施形態では、抗体は、グループ2のA型インフルエンザウイルスに関して、グループ2のHA(H3、H4、H7、及びH14)に対して1pM~1μMの結合親和性を有する。好ましくは、グループ2のHA(H3、H4、H7、及びH14)に対する結合親和性Kdは、1nM未満である。
【0033】
具体的には、3I14は、グループ2(H3、H4、H7、及びH14)及びグループ1(H1、H5、及びH9)に属する異なるサブタイプの精製HAタンパク質に0.01nM~10nMの範囲の解離定数(Kd)で結合し、全ての試験したグループ2のHA(H3、H4、H7、及びH14)に高い親和性で結合した(平均Kd<0.1nM)。加えて、3I14は、グループ1のH1サブタイプ(H1-CA09、H1-SI06、及びH1-PR8)に高い親和性で結合したが、他のグループ1のサブタイプ(H5-VN04、H5-IN05、及びH9-HK99)に対するその親和性は、より低かった(それぞれ平均Kd=1.02、1.05、及び5.23nM)。H5インフルエンザウイルスサブタイプに対するこのより低い結合親和性は、FI6v3及び39.29などの以前に記載された他の広域中和抗体とは異なる。
【0034】
本発明の抗体は、A型インフルエンザウイルスを中和する。「中和する」又は「中和」とは、ウイルス粒子への抗体の結合によってウイルス感染性の低減を引き起こし、したがってウイルスにコードされた転写又は合成に先行するウイルスの複製サイクルにおける段階を遮断することを意味する。抗体は、様々なメカニズムによってウイルスを中和することができ、例えば、抗体は、受容体へのビリオン結合に干渉することによってウイルスを中和し、細胞への取り込みを遮断し、エンドソームにおけるゲノムの脱外被を防止することができるか、又はウイルス粒子を凝集させるか、若しくは溶解させることができる。
【0035】
本発明の抗体は、グループ2及びグループ1のA型インフルエンザウイルスの両方の血清型にわたって中和する。本発明の抗体は、約0.001~5μg/mL-1、約0.001~4μg/mL-1、又は約0.001~3μg/mL-1の最大半量阻害濃度(IC50)を有する。好ましくは、抗体は、約0.03~2μg/mL、約0.03~1.0μg/mL-1のIC50を有する。更により好ましくは、抗体は、約0.001~0.5μg/mL-1、約0.001~0.05μg/mL-1、又は約0.001~0.03μg/mL-1のIC50を有する。更により好ましくは、抗体は、約0.01~0.5μg/mL-1、約0.1~0.5μg/mL-1、及び約0.2~0.5μg/mL-1のIC50を有する。好ましくは、抗体は、約0.05~0.008μg/mL-1、約0.04~0.008μg/mL-1のIC50を有する。最も好ましくは、抗体は、約0.03~1.08μg/mL-1、約0.007~0.027μg ml-1、約0.225~0.413μg ml-1、又は約0.040~0.008μg ml-1のIC50を有する
【0036】
特に、本発明の抗体は、グループ2のウイルス(例えば、H3、H7、A/Wisconsin/67/05(HA、NA)×A/Puerto Rico/8/34、及びA/Aichi/2/68(HA、NA)×A/Puerto Rico/8/34、及びH7N9-AH13)を中和する。本発明の抗体はまた、偽ウイルスH7N1-FPN及びH7N1-NL219株を中和する。加えて、本発明の抗体は、グループ1のH1株(H1-CA09及びH1-PR8)並びに偽ウイルスH5-VN04及びH5-HK97を中和する
【0037】
本発明の抗体は、グループ1及びグループ2のA型インフルエンザウイルスの両方に対してインビボで予防的有効性を有する。本発明の抗体は、ウイルス感染に対して50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は100%の予防的防御を提供する。具体的には、本発明の抗体は、H7N7-NL219又はH7N9-AH13チャレンジから完全に防御し、H3N2-BR07チャレンジに対して80%防御し、H5N1-VN04チャレンジに対して60%防御する。
【0038】
本発明の抗体は、未成熟HA0の切断を防止する。HA1及びHA2を形成するためにHA0タンパク質が切断されない場合、ウイルス-宿主膜融合は起こり得ない。したがって、切断されていないHAを有するインフルエンザウイルスは、感染性ではない。したがって、本発明の抗体は、インフルエンザ感染を遮断するのに有用であり、例えば、タミフルなどの他の抗ウイルス剤と組み合わせて使用することができる。
【0039】
重要なことに、本発明の抗体は、切断されていないHA前駆体(HA0)タンパク質、並びに2つの成熟形態HA1タンパク質及びHA2タンパク質に結合する
【0040】
加えて、本発明の抗体は、低pHで誘発されるHA立体構造再配置を防止する。
【0041】
抗体は、Fc依存性ウイルスクリアランスを媒介する。いくつかの実施形態では、抗体は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を増強する。代替として、抗体は、インビボ防御のためのFc依存性免疫媒介性メカニズムに関与する。
【0042】
本発明の抗体の可変重鎖は、IGHV3-30生殖系列遺伝子によってコードされる。抗体の可変軽鎖は、IGLV1-44生殖系列遺伝子によってコードされる。IGHV3-30抗体は、HCDR3を使用して、HA結合に寄与する疎水性コアを形成する。抗体は、例えば、長い相補性決定領域3(complementarity determining region 3、HCDR3)を産生するように、再配置された重鎖を有する。長いHCDR3の長さは、約12~30個のアミノ酸(例えば、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30)であり得る。好ましい実施形態では、長いHCDR3は、約23個のアミノ酸長である。いくつかの実施形態では、長いHCDR3は、VH接合部及びIGHJ4*02接合部の両方で大きなN付加が隣接するIGHD3-22*01 DHセグメントを使用する。
【0043】
抗体は、可変重鎖及び/又は可変軽鎖において体細胞変異を有する。可変重鎖における体細胞変異の数は、約2~30(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30)であり得る。いくつかの実施形態では、可変重鎖における体細胞変異の数は、約15である。可変軽鎖における体細胞変異の数は、約2~15(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15)であり得る。いくつかの実施形態では、体細胞変異の数は、約7である。
【0044】
エピトープマッピング及び競合アッセイは、HAステムに位置する高度に保存されたエピトープを明らかにした。例えば、本発明の抗体は、配列番号18に従って番号付けされた場合、HA2のアミノ酸残基18、19、20、21、36、38、39、41、42、45、46、49、及び53によって定義される立体構造エピトープに結合する。代替として、本発明の抗体は、配列番号18に従って番号付けされた場合、HA2のアミノ酸残基18、19、20、21、38、39、41、42、45、46、47、48、49、及び50によって定義される立体構造エピトープに結合する。任意選択で、抗体は、HA1に結合する。
【0045】
保存されたエピトープ残基配列は、ペプチド残基によって定義される。
【0046】
3I14を最適化して、そうでなければ中程度のサブタイプHA株に対するその効力を改善するために、構造ベースの抗体操作が使用されている。3I14のこの高親和性バリアントは、本明細書において3I14VLD94Nと称され、アミノ酸9位での3I14 VHにおけるアスパラギン酸(D)からアスパラギン(N)へのアミノ酸置換によって産生された。
【0047】
VLD94L置換は、H5への抗体の結合を可能にするか、又は増加させる。H5に対する結合親和性の増加は、野生型3I14と比較して約5~15倍である。H5-VN04に対する3I14VLD94NのKdは、約0.2nM未満である。
【0048】
追加の構造ベースの操作は、H5に対する結合親和性を増加させることができ、具体的には、H5に対する結合親和性の増加は、LCDR1における残基31のグリシン(G)を別のアミノ酸で置換することによって達成される。例えば、残基31のグリシン(G)をセリン(S)で置換することができる。
【0049】
本発明による中和インフルエンザ抗体の核酸及びアミノ酸配列を以下に示す。
【0050】
【0051】
【0052】
(表1C)抗体3I14V
LD94N可変領域の核酸配列
【0053】
(表1D)抗体3I14V
LD94N可変領域のアミノ酸配列
【0054】
(表8)IGHV3-03
*18及びIGLV1-44
*01の核酸配列
【0055】
3I14及び3I14VLD94N中和インフルエンザ抗体の重鎖及び軽鎖の相補性決定領域のアミノ酸配列を以下の表2に示す。
【0056】
(表2)
1Xは、グリシン以外の任意のアミノ酸であり得る。好ましくは、Xは、セリンである。
【0057】
【0058】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン(immunoglobulin、Ig)分子の免疫学的に活性な部分、すなわち、抗原と特異的に結合する(免疫反応する)抗原結合部位を含有する分子を指すことができる。「特異的に結合する」又は「免疫反応する」とは、抗体が所望の抗原の1つ以上の抗原決定基と反応し、他のポリペプチドとは反応しないことを意味する。「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、ポリクローナル、モノクローナル(全長モノクローナル抗体を含む)、多重特異性(例えば、二重特異性抗体)、キメラ、dAb(ドメイン抗体)、抗体断片、単鎖、Fab、Fab’、及びF(ab’)2断片、scFvs、並びにFab発現ライブラリを含み得るが、これらに限定されない。抗体は、それらが生物学的活性を示す限り、抗体断片を含み得る。
【0059】
「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均質の抗体の集団から得られる抗体、すなわち、少量で存在し得る可能な天然に存在する変異を除いて同一である集団を含む個々の抗体を指すことができる。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して向けられる。更に、異なる決定基(エピトープ)に対して向けられる異なる抗体を典型的に含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して向けられる。修飾語「モノクローナル」は、抗体の実質的に均質な集団から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるものではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohler及びMilstein,Nature,256,495-497(1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製され得るか、又は組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)によって作製され得る。モノクローナル抗体はまた、例えば、Clackson et al.,Nature,352,624-628(1991)及びMarks et al.,J Mol Biol,222,581-597(1991)に記載される技術を使用してファージ抗体ライブラリから単離され得る。モノクローナル抗体は、トランスジェニック動物から単離することができる
【0060】
本明細書のモノクローナル抗体には、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)を含めることができ、それらが所望の生物学的活性を呈する限り、そのような抗体の断片と同様に、その重鎖及び/又は軽鎖の一部は、特定の種に由来するか、又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一又は相同であるが、鎖の残りは、別の種に由来するか、又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一又は相同である(例えば、米国特許第4,816,567号、Morrison et al.,Proc Natl Acad Sci USA,81,6851-6855(1984)、Neuberger et al.,Nature,312,604-608(1984)、Takeda et al.,Nature,314,452-454(1985)、国際出願第PCT/GB85/00392号を参照されたい)。
【0061】
「ヒト化抗体」は、ドナー抗体結合特異性、すなわち、ヒトフレームワーク配列上に移植されたドナー抗体のCDR領域を含む抗体を指すことができる。「ヒト化抗体」は、ドナー抗体と同じエピトープに結合することができる。実施形態では、ヒト化形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含有する。例えば、ヒト抗体の超可変領域からの残基は、所望の特異性、親和性、及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ、又は非ヒト霊長類などの非ヒト種の超可変領域からの残基によって置き換えられる。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(framework region、FR)残基が、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。更に、ヒト化抗体は、ヒト抗体又は非ヒト抗体には見られない残基を含み得る。これらの変更は、抗体の性能を更に向上させるために行われる。実施形態では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインのうちの実質的に全てを含み、超可変ループのうちの全て又は実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FR残基のうちの全て又は実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体はまた、任意選択で、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのそれを含むであろう。更なる詳細については、Jones et al.,Nature,321,522-525(1986)、Riechmann et al.,Nature,332,323-329(1988)、Presta,Curr Op Struct Biol,2,593-596(1992)、米国特許第5,225,539号を参照されたく、これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0062】
ヒト抗体は、ヒトハイブリドーマ、ヒトファージディスプレイライブラリ、又はヒト抗体配列を発現するトランスジェニックマウスから得ることができるような、完全ヒト配列を有する任意の抗体を指すことができる。
【0063】
本発明の抗体はまた、モザイク抗体を産生するように修飾され得る。モザイク抗体は、1つの種の抗体の外部アミノ酸残基が、第2の種の抗体の外部アミノ酸残基によって合理的に置き換えられるか、又は「モザイク化」され、その結果、第1の種の抗体が第2の種において免疫原性でなくなり、それによって抗体の免疫原性が低減する抗体である。タンパク質の抗原性は、主にその表面特性に依存するので、抗体の免疫原性は、別の哺乳動物種の抗体において典型的に見られるものとは異なる露出した残基を置換することによって低減され得る。この外部残基の妥当な置換は、内部ドメイン又はドメイン間接触にほとんど又は全く影響を及ぼさないはずである。したがって、変化は、可変領域フレームワーク残基に限定されるので、リガンド結合特性は、影響を受けないはずである。このプロセスは、抗体の外表面又はスキンのみが変更され、支持残基は影響を受けないままであるため、「モザイク現象」と呼ばれる。
【0064】
「モザイク化」プロセスは、利用可能なKabatら(1987年)のSequences of Proteins of Immunological interest,4th ed.,Bethesda,Md.,National Institutes of Health、このデータベースに対する更新、並びに他のアクセス可能な米国及び外国のデータベース(核酸及びタンパク質)がまとめたヒト抗体可変ドメインについての配列データを利用する。モザイク抗体を生成するための方法の非限定的な例としては、欧州特許第519596号、米国特許第6,797,492号が挙げられ、Padlan et al,1991に記載されている。
【0065】
「多重特異性抗体」という用語は、2つ以上の関連又は非関連標的又は抗原に結合することができる抗体若しくは抗体様分子又はその断片を指すことができる。抗体特異性は、抗原の特定のエピトープ又はアミノ酸配列に対する抗体の選択的認識を指すことができる。例えば、天然抗体は、単一特異性である。二重特異性抗体は、2つの異なる抗原結合特異性を有する抗体を指すことができる。したがって、三重特異性抗体は、3つの異なる抗原結合特異性を有する本開示の抗体である。本開示による四重特異性抗体は、4つの異なる抗原結合特異性を有する抗体である。例えば、二重特異性抗体は、A型インフルエンザウイルスのHAのステム領域に結合し、かつB型インフルエンザHA又はA型インフルエンザNAにも免疫特異的に結合する抗体を含むことができる。例えば、三重特異性抗体は、A型インフルエンザのHA、B型インフルエンザのHA、及びA型インフルエンザ又はB型インフルエンザのNAに結合する抗体を含むことができる。
【0066】
一本鎖Fv(single chain Fv、「scFv」)ポリペプチド分子は、共有結合的に連結されたVH:VLヘテロ二量体であり、これは、ペプチドをコードするリンカーによって連結されたVH及びVLをコードする遺伝子を含む遺伝子融合体から発現され得る。(Huston et al.(1988)Proc Nat Acad Sci USA 85(16):5879-5883を参照されたい)。抗体V領域からの自然に凝集されるが、化学的に分離された、軽及び重ポリペプチド鎖を、抗原結合部位の構造と実質的に類似する三次元構造に折り畳まれるであろう、scFv分子に変換するための化学構造を識別するための多くの方法が記載されている。例えば、米国特許第5,091,513号、5,132,405、及び4,946,778を参照されたい。
【0067】
非常に大きなナイーブヒトscFvライブラリは、多量の標的分子に対して再配置された抗体遺伝子の大きな供給源を提供するために作製されており、作製することができる。疾患特異的抗体を単離するために、感染性疾患を有する個体からより小さなライブラリを構築することができる。(Barbas et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:9339-43(1992)、Zebedee et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:3175-79(1992)を参照されたい)。
【0068】
ヒトから得られる抗体分子は、IgG、IgM、IgA、IgE、及びIgDのクラスのいずれかに関連することができ、これらは、分子中に存在する重鎖の性質が互いに異なる。ある特定のクラスは、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4などのサブクラスも有する。更に、ヒトでは、軽鎖はカッパ鎖又はラムダ鎖であり得る。実施形態では、抗体は、IgG1又はIgG4である。
【0069】
抗体は、キメラ抗体である。キメラ抗体は、成熟抗体重鎖を生殖系列軽鎖と対合させる(mHgL)ことによってか、又は生殖系列重鎖を成熟軽鎖と対合させる(gHmL)ことによって産生される。キメラ抗体は、野生型(wild type、WT)抗体と比較して増加した結合親和性(Kd)を有する。例えば、ある特定のウイルス(例えば、H1-CA09)に対するmHgL及びgHmLキメラバリアントの結合親和性は、約0.001nM未満の結合親和性を有し得る。代替として、mHgL及びgHmLキメラバリアントの結合親和性(Kd)は、WTで見られるよりも低い(例えば、ウイルスH5-VN04及びH3-PE09に対する)。任意選択で、mHgL及びgHmLキメラバリアントの結合親和性は、WTの結合親和性とほぼ同じである。
【0070】
「抗原結合部位」又は「結合部分」という用語は、抗原結合に関与する免疫グロブリン分子の部分を指す。抗原結合部位は、重(「H」)鎖及び軽(「L」)鎖のN末端可変(「V」)領域のアミノ酸残基によって形成される。「超可変領域」と呼ばれる、重鎖及び軽鎖のV領域内の3つの高度に異なる区間は、「フレームワーク領域」又は「FR」として知られるより保存された隣接区間の間に挿入される。したがって、「FR」という用語は、免疫グロブリンの超可変領域の間、及びそれに隣接して天然に見られるアミノ酸配列を指す。抗体分子において、軽鎖の3つの超可変領域及び重鎖の3つの超可変領域は、三次元空間で互いに対して配置されて、抗原結合表面を形成する。抗原結合表面は、結合した抗原の3次元表面に相補的であり、重鎖及び軽鎖の各々の3つの超可変領域は、「相補性決定領域」又は「complementarity-determining region、CDR」と呼ばれる。
【0071】
本明細書で使用される場合、「エピトープ」という用語は、免疫グロブリン、scFv、又はT細胞受容体に特異的に結合することができる任意のタンパク質決定基を含むことができる。エピトープ決定基は、通常、アミノ酸又は糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面基からなり、通常、特異的な三次元構造特性並びに特異的な電荷特性を有する。例えば、抗体は、ポリペプチドのN末端又はC末端ペプチドに対してもたらされ得る。
【0072】
本明細書で使用される場合、「免疫学的結合」及び「免疫学的結合特性」という用語は、免疫グロブリン分子と、免疫グロブリンが特異的である抗原との間で生じるタイプの非共有相互作用を指すことができる。免疫学的結合相互作用の強度、又は親和性は、相互作用の解離定数(Kd)に関して表すことができ、Kdが小さいほど、より大きな親和性を表す。選択されたポリペプチドの免疫学的結合特性は、当技術分野で周知の方法を使用して定量化することができる。1つのそのような方法は、抗原結合部位/抗原複合体形成及び解離の速度を測定することを伴い、それらの速度は、複合体パートナーの濃度、相互作用の親和性、及び両方向の速度に等しく影響する幾何学的パラメータに依存する。したがって、両方の「オン速度定数」(Kon)及び「オフ速度定数」(Koff)は、濃度並びに会合及び解離の実際の速度の計算によって決定することができる。(Nature 361:186-87(1993)を参照されたい)。Koff/Konの比は、親和性に関係のない全てのパラメータをキャンセルすることができ、解離定数Kdに等しい。(一般に、Davies et al.(1990)Annual Rev Biochem 59:439-473を参照されたい)。本発明の抗体は、放射性リガンド結合アッセイ又は当業者に公知の類似のアッセイなどのアッセイによって測定して、平衡結合定数(Kd)が1μM、好ましくは100nM、より好ましくは10nM、及び最も好ましくは100pM~約1pMである場合に、インフルエンザエピトープに特異的に結合すると言われている。
【0073】
本発明のインフルエンザタンパク質(例えば、HA又はノイラミニダーゼ)、又はその誘導体、断片、類似体、相同体、若しくはオルソログは、これらのタンパク質成分に免疫特異的に結合する抗体の生成における免疫原として利用することができる。
【0074】
当業者であれば、過度の実験をせずに、ヒトモノクローナル抗体が本発明のヒトモノクローナル抗体と同じ特異性を有するかどうかを、前者が後者のインフルエンザウイルスのHAタンパク質への結合を防止するかどうかを確認することによって決定することができることを認識するであろう。本発明のヒトモノクローナル抗体による結合の減少によって示されるように、試験されるヒトモノクローナル抗体が本発明のヒトモノクローナル抗体と競合する場合、2つのモノクローナル抗体が同じ、又は密接に関連するエピトープに結合する可能性が高い。
【0075】
ヒトモノクローナル抗体が本発明のヒトモノクローナル抗体の特異性を有するかどうかを決定する別の方法は、本発明のヒトモノクローナル抗体を、この抗体が通常反応性であるインフルエンザHAタンパク質とプレインキュベートし、次いで、試験されるヒトモノクローナル抗体を添加して、試験されるヒトモノクローナル抗体がHAタンパク質に結合するその能力を阻害されるかどうかを決定することである。試験されるヒトモノクローナル抗体が阻害される場合、おそらく、それは、本発明のモノクローナル抗体と同じ、又は機能的に同等のエピトープ特異性を有する。本発明のヒトモノクローナル抗体のスクリーニングもまた、インフルエンザウイルスを利用し、試験モノクローナル抗体がインフルエンザウイルスを中和することができるかどうかを決定することによって実施できる。
【0076】
当技術分野内で既知の様々な手順は、本発明のタンパク質に対して、又はその誘導体、断片、類似体、相同体、若しくはオルソログに対して向けられたポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の産生に使用することができる。(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Antibodies:A Laboratory Manual,Harlow E,and Lane D,1988,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NYを参照されたい)。
【0077】
抗体は、プロテインA又はプロテインGを使用するアフィニティークロマトグラフィーなどの周知の技法によって精製することができ、これらは主に免疫血清のIgG画分を提供する。その後、又は代替として、求められる免疫グロブリンの標的である特異的抗原、又はそのエピトープをカラムに固定化して、イムノアフィニティークロマトグラフィーによって免疫特異的抗体を精製することができる。免疫グロブリンの精製は、例えば、D.Wilkinson(The Scientist,published by The Scientist,Inc.,Philadelphia PA,Vol.14,No.8(April17,2000),pp.25-28)によって論じられている。
【0078】
本明細書で使用される、「モノクローナル抗体」又は「mAb」又は「モノクローナル抗体組成物」という用語は、特有の軽鎖遺伝子産物及び特有の重鎖遺伝子産物からなる抗体分子の1つの分子種のみを含有する抗体分子の集団を指すことができる。特に、モノクローナル抗体の相補性決定領域(CDR)は、集団の全ての分子で同一である。MAbは、それに対する特有の結合親和性を特徴とする抗原の特定のエピトープと免疫反応することができる抗原結合部位を含有する。
【0079】
モノクローナル抗体は、Kohler and Milstein,Nature,256:495(1975)によって記載されるものなどの、ハイブリドーマ法を使用して調製することができる。ハイブリドーマ法では、マウス、ハムスター、又は他の適切な宿主動物は、典型的には、免疫剤で免疫化して、免疫剤に特異的に結合するであろう抗体を産生するか、又は産生することができるリンパ球を誘導する。代替として、リンパ球はインビトロで免疫化され得る。
【0080】
免疫剤は、典型的には、タンパク質抗原、その断片、又はその融合タンパク質を含むであろう。一般に、ヒト起源の細胞が所望される場合は末梢血リンパ球が使用されるか、又は非ヒト哺乳動物源が所望される場合は脾臓細胞若しくはリンパ節細胞が使用されるかのいずれかである。次いで、ポリエチレングリコールなどの好適な融合剤を使用して、リンパ球を不死化細胞系と融合させて、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Academic Press,(1986)pp.59-103)。不死化細胞株は、通常、形質転換された哺乳動物細胞、特に齧歯類、ウシ、及びヒト起源の骨髄腫細胞である。通常、ラット又はマウス骨髄腫細胞株が使用される。ハイブリドーマ細胞は、好ましくは、非融合、不死化細胞の成長又は生存を阻害する1つ以上の物質を含有する、好適な培地において培養することができる。例えば、親細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(hypoxanthine guanine phosphoribosyl transferase、HGPRT又はHPRT)を欠く場合、ハイブリドーマの培養培地は、典型的には、ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジン(「HAT培地」)を含み、これらの物質は、HGPRT欠損細胞の成長を防止する。
【0081】
実施形態では、不死化細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定した高レベルの発現を支持し、HAT培地などの培地に感受性であるものである。より好ましい不死化細胞株は、例えば、Salk Institute Cell Distribution Center、San Diego、California及びAmerican Type Culture Collection、Manassas、Virginiaから入手することができるマウス骨髄腫株である。ヒト骨髄腫及びマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株もまた、ヒトモノクローナル抗体の産生について記載されている。(Kozbor,J.Immunol.,133:3001(1984)、Brodeur et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,Marcel Dekker,Inc.,New York,(1987)pp.51-63)を参照されたい)。
【0082】
次いで、ハイブリドーマ細胞が培養される培養培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の存在についてアッセイすることができる。好ましくは、ハイブリドーマ細胞によって産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降によってか、又はラジオイムノアッセイ(radioimmunoassay、RIA)若しくは酵素結合免疫吸収アッセイ(enzyme-linked immunoabsorbent assay、ELISA)などのインビトロ結合アッセイによって決定される。そのような技法及びアッセイは、当技術分野で既知である。モノクローナル抗体の結合親和性は、例えば、Munson and Pollard,Anal.Biochem.,107:220(1980)のScatchard分析によって決定することができる。更に、モノクローナル抗体の治療用途では、標的抗原に対して高度の特異性及び高い結合親和性を有する抗体を特定することが重要である。
【0083】
所望のハイブリドーマ細胞が特定された後、クローンは、限界希釈手順によってサブクローニングし、標準的な方法によって成長させることができる。(Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Academic Press,(1986)pp.59-103を参照されたい)。この目的のための好適な培養培地には、例えば、ダルベッコの改変イーグル培地及びRPMI-1640培地が含まれる。他の実施形態では、ハイブリドーマ細胞は、哺乳動物における腹水としてインビボで成長させることができる。
【0084】
サブクローンによって分泌されるモノクローナル抗体は、例えば、プロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順によって、培養培地又は腹水液から単離又は精製することができる。
【0085】
モノクローナル抗体はまた、米国特許第4,816,567号に記載されるものなどの組換えDNA法によって作製することができる。本発明のモノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を使用して(例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離し、配列決定することができる。本発明のハイブリドーマ細胞は、そのようなDNAの好ましい供給源として役立つ。単離されると、DNAは、発現ベクターに入れることができ、これは次いでサルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(Chinese hamster ovary、CHO)細胞、又はそうでなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しない骨髄腫細胞などの宿主細胞にトランスフェクトされて、組換え宿主細胞におけるモノクローナル抗体の合成を得る。DNAはまた、例えば、相同なマウス配列の代わりにヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード配列を置換することによって(米国特許第4,816,567号、Morrison,Nature 368,812-13(1994)を参照されたい)か、又は非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全て若しくは一部を免疫グロブリンコード配列に共有結合させることによって修飾され得る。そのような非免疫グロブリンポリペプチドは、本発明の抗体の定常ドメインの代わりに使用することができるか、又は本発明の抗体の1つの抗原結合部位の可変ドメインの代わりに使用して、キメラ二価抗体を作製することができる。
【0086】
完全ヒト抗体は、CDRを含む、軽鎖及び重鎖の両方の配列全体がヒト遺伝子から生じる抗体分子である。そのような抗体は、本明細書では「ヒト抗体」又は「完全ヒト抗体」と呼ばれる。ヒトモノクローナル抗体は、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor,et al.,1983 Immunol Today 4:72を参照されたい)、及びヒトモノクローナル抗体を産生するためのEBVハイブリドーマ技術(Cole,et al.,1985のMONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY,Alan R.Liss,Inc.,pp.77-96)を使用することによって調製することができる。ヒトモノクローナル抗体は、利用することができ、ヒトハイブリドーマを使用することによって(Cote,et al,1983.Proc Natl Acad Sci USA80:2026-2030を参照されたい)か、又はインビトロでエプスタインバーウイルスによりヒトB細胞を形質転換することによって(Cole,et al.,1985のMONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY,Alan R.Liss,Inc.,pp.77-96を参照されたい)産生することができる。
【0087】
加えて、ヒト抗体はまた、ファージディスプレイライブラリを含む、追加の技術を使用して産生することができる。(Hoogenboom and Winter,J.Mol.Biol.,227:381(1991)、Marks et al.,J.Mol.Biol.,222:581(1991)を参照されたい)。同様に、ヒト抗体は、トランスジェニック動物、例えば、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的又は完全に不活性化されているマウスに、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を導入することによって作製することができる。チャレンジ後、ヒト抗体産生が観察され、これは、遺伝子再配置、アセンブリ、及び抗体レパートリーを含む、全ての態様においてヒトに見られるものと非常によく似ている。このアプローチは、例えば、米国特許第5,545,807号、同第5,545,806号、同第5,569,825号、同第5,625,126号、同第5,633,425号、同第5,661,016号、並びにMarks et al.,Bio/Technology 10,779-783(1992)、Lonberg et al.,Nature 368 856-859(1994)、Morrison,Nature 368,812-13(1994)、Fishwild et al,Nature Biotechnology 14,845-51(1996)、Neuberger,Nature Biotechnology 14,826(1996)、及びLonberg and Huszar,Intern.Rev.Immunol.13 65-93(1995)に記載されている。
【0088】
ヒト抗体はまた、抗原によるチャレンジに応答して動物の内因性抗体ではなく完全ヒト抗体を産生するように修飾されるトランスジェニック非ヒト動物を使用して産生することができる。(国際公開第94/02602号を参照されたい)。非ヒト宿主における重鎖及び軽鎖免疫グロブリン鎖をコードする内因性遺伝子は、無力化されており、ヒト重鎖及び軽鎖免疫グロブリンをコードする活性遺伝子座は、宿主のゲノムに挿入される。ヒト遺伝子は、例えば、必要なヒトDNAセグメントを含有する酵母人工染色体を使用して、組み込まれる。次いで、全ての所望の改変を提供する動物は、改変の完全な相補体よりも少ない相補体を含有する中間トランスジェニック動物を交配することによって子孫として得られる。そのような非ヒト動物の好ましい実施形態は、マウスであり、国際公開第96/33735号及び同第96/34096号に開示されるように、Xenomouse(商標)と呼ばれる。この動物は、完全ヒト免疫グロブリンを分泌するB細胞を産生する。抗体は、例えば、ポリクローナル抗体の調製物として、目的の免疫原での免疫化後、直接動物から、又は代替として、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマなどの、動物に由来する不死化B細胞から得ることができる。加えて、ヒト可変領域を有する免疫グロブリンをコードする遺伝子は、回収及び発現されて、抗体を直接得ることができるか、又は更に修飾されて、例えば、一本鎖Fv(scFv)分子などの抗体の類似体を得ることができる。
【0089】
内因性免疫グロブリン重鎖の発現を欠く、マウスとして例示される非ヒト宿主を産生する方法の例は、米国特許第5,939,598号に開示されている。これは、遺伝子座の再配置を防止し、再配置された免疫グロブリン重鎖遺伝子座の転写物の形成を防止するために、胚性幹細胞における少なくとも1つの内因性重鎖遺伝子座からJセグメント遺伝子を欠失することであって、欠失が、選択可能なマーカーをコードする遺伝子を含有する標的化ベクターによって行われる、欠失することと、胚性幹細胞からトランスジェニックマウスを産生することであって、その体細胞及び生殖細胞が、選択可能なマーカーをコードする遺伝子を含有する、産生することと、を含む、方法によって得ることができる。
【0090】
ヒト抗体などの目的の抗体を産生するための1つの方法は、米国特許第5,916,771号に開示されている。この方法は、重鎖をコードするヌクレオチド配列を含有する発現ベクターを培養物中の1つの哺乳動物宿主細胞へ導入し、軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含有する発現ベクターを別の哺乳動物宿主細胞へ導入し、2つの細胞を融合してハイブリッド細胞を形成することを含む。ハイブリッド細胞は、重鎖及び軽鎖を含有する抗体を発現する。
【0091】
この手順の更なる改善において、免疫原上の臨床的に関連するエピトープを特定するための方法、及び関連するエピトープに高い親和性で免疫特異的に結合する抗体を選択するための相関方法は、国際公開第99/53049号に開示されている。
【0092】
抗体は、上記の一本鎖抗体をコードするDNAセグメントを含有するベクターによって発現させることができる。
【0093】
これらには、ベクター、リポソーム、裸のDNA、アジュバント支援DNA、遺伝子銃、カテーテルなどが含まれる。ベクターには、標的化部分(例えば、細胞表面受容体に対するリガンド)、及び核酸結合部分(例えば、ポリリジン)を有する、国際公開第93/64701号に記載されるものなどの化学的コンジュゲート、ウイルスベクター(例えば、DNA又はRNAウイルスベクター)、標的部分(例えば、標的細胞に特異的な抗体)及び核酸結合部分(例えば、プロタミン)を含有する融合タンパク質である、PCT/US95/02140(国際公開第95/22618号)に記載されるものなどの融合タンパク質、プラスミド、ファージなどが含まれる。ベクターは、染色体、非染色体、又は合成であり得る。
【0094】
実施形態では、ベクターには、ウイルスベクター、融合タンパク質、及び化学的コンジュゲートが含まれ得る。レトロウイルスベクターには、モロニーマウス白血病ウイルスが含まれる。DNAウイルスベクターが好ましい。これらのベクターには、オルソポックス又はアビポックスベクターなどのポックスベクター、単純ヘルペスIウイルス(herpes simplex I virus、HSV)ベクターなどのヘルペスウイルスベクター(Geller,A.I.et al.,J.Neurochem,64:487(1995)、Lim,F.,et al.,のDNA Cloning:Mammalian Systems,D.Glover,Ed.(Oxford Univ.Press,Oxford England)(1995)、Geller,A.I.et al.,Proc Natl.Acad.Sci.:U.S.A.90,7603(1993)、Geller,A.I.,et al.,Proc Natl.Acad.Sci USA 87:1149(1990)を参照されたい)、アデノウイルスベクター(LeGal LaSalle et al.,Science,259:988(1993)、Davidson,et al.,Nat.Genet 3:219(1993)、Yang,et al.,J.Virol.69:2004(1995)を参照されたい)、及びアデノ随伴ウイルスベクター(Kaplitt,M.G..et al.,Nat.Genet.8:148(1994)を参照されたい)が含まれる。
【0095】
ポックスウイルスベクターは、遺伝子を細胞の細胞質に導入する。アビポックスウイルスベクターは、核酸の短期間のみの発現をもたらす。核酸を神経細胞に導入するためには、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、及び単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターが好ましい。アデノウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(約4ヶ月)よりも短期間の発現(約2ヶ月)をもたらし、ひいてはHSVベクターよりも短い。選択される特定のベクターは、標的細胞及び治療される状態に依存するであろう。導入は、標準的な技術、例えば、感染、トランスフェクション、形質導入、又は形質転換によるものであり得る。遺伝子導入の様式の例としては、例えば、裸のDNA、CaPO4沈殿、DEAEデキストラン、エレクトロポレーション、プロトプラスト融合、リポフェクション、細胞マイクロインジェクション、及びウイルスベクターが挙げられる。
【0096】
ベクターは、本質的に任意の所望の標的細胞を標的化するために使用することができる。例えば、定位注入を使用して、ベクター(例えば、アデノウイルス、HSV)を所望の位置に方向付けることができる。加えて、粒子は、SynchroMed Infusion Systemなどのミニポンプ注入システムを使用した脳室内(icv)注入によって送達することができる。対流と呼ばれるバルク流に基づく方法は、脳の拡張領域に大きな分子を送達するのに効果的であることも証明されており、ベクターを標的細胞に送達するのに有用であり得る。(Bobo et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:2076-2080(1994)、Morrison et al.,Am.J.Physiol.266:292-305(1994)を参照されたい)。使用することができる他の方法には、カテーテル、静脈内、非経口、腹腔内、及び皮下注射、並びに経口又は他の既知の投与経路が含まれる。
【0097】
これらのベクターは、様々な方法で使用することができる多量の抗体を発現させるために使用することができる。例えば、試料におけるインフルエンザウイルスの存在を検出するため。インフルエンザウイルス細胞膜融合に結合させ、破壊させることを試みるために、抗体を使用することもできる。
【0098】
本発明の抗原タンパク質に特異的な単鎖抗体の産生のために技術を適合させることができる(例えば、米国特許第4,946,778号を参照されたい)。加えて、方法は、タンパク質、又はその誘導体、断片、類似体、若しくは相同体に対する所望の特異性を有するモノクローナルFab断片の迅速かつ効果的な識別を可能にするために、Fab発現ライブラリの構築に方法を適合させ得る(例えば、Huse,et al.,1989 Science 246:1275-1281を参照されたい)。タンパク質抗原に対するイディオタイプを含有する抗体断片は、当技術分野で公知の技術によって産生され得、以下が挙げられるが、これらに限定されない。(i)抗体分子のペプシン消化によって産生されるF(ab’)2断片、(ii)F(ab’)2断片のジスルフィド架橋を還元することによって生成されるFab断片、(iii)抗体分子をパパイン及び還元剤で処置することによって生成されるFab断片、並びに(iv)Fv断片。
【0099】
実施形態はまた、ヘテロコンジュゲート抗体を含み得る。ヘテロコンジュゲート抗体は、2つの共有結合した抗体で構成される。そのような抗体は、例えば、免疫系細胞を望ましくない細胞に標的化するために(例えば、米国特許第4,676,980号を参照されたい)、及びHIV感染症の治療のために(国際公開第91/00360号、同第92/200373号、欧州特許第03089号参照されたい)提案されている。抗体は、架橋剤を含むものを含む、合成タンパク質化学における既知の方法を使用してインビトロで調製することができることが企図される。例えば、免疫毒素は、ジスルフィド交換反応を使用して、又はチオエーテル結合を形成することによって構築することができる。この目的のための好適な試薬の例としては、イミノチオレート及びメチル-4-メルカプトブチルイミデート、並びに例えば、米国特許第4,676,980号に開示されるものが挙げられる。
【0100】
実施形態では、本発明の抗体は、エフェクター機能に関して修飾することができる。「エフェクター機能」という用語は、天然配列Fc領域の1つ以上の機能を指すことができる。例示的な「エフェクター機能」は、C1q結合、補体依存性細胞傷害、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity、ADCC)、食作用、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体、B cell receptor、BCR)の下方調節を含むことができる。そのようなエフェクター機能は、Fc領域が結合ドメイン(例えば、抗体可変ドメイン)と組み合わされることを必要とする場合があり、例えば、様々なアッセイを使用して評価することができる。抗体エフェクター機能は、体液性免疫応答の一部であり、タンパク質及びFc受容体と相互作用することができる抗体のFc定常領域を介して誘導することができる。本明細書で使用される場合、「体液性免疫応答」という用語は、抗原刺激に応答して抗体分子が産生される免疫の形態を指すことができる。受容体に応じて、Fc定常領域とFc受容体との間のこれらの相互作用は、活性化経路又は阻害経路を誘導することができる(van Erp,(2019)Front.Immunol,10:548)。これらのFc受容体は、例えば、B細胞及び自然免疫細胞上に見ることができる。本明細書で使用される場合、「エフェクター機能」という用語は、Fc受容体又はリガンドとのFcドメインの相互作用から生じる生化学的事象を指すことができる。例えば、エフェクター機能には、ADCC、ADCP、ADE、及びCDCが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0101】
例えば、本発明の抗体は、エフェクター機能を調節するように修飾され得る。「調節する」という用語は、エフェクター機能の変化又は変更、例えば、増加又は減少を指すことができる。例えば、エフェクター機能は、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、又は100%調節され得る。
【0102】
例えば、エフェクター機能は、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、100%、又は100%を超えて増加され得る。
【0103】
例えば、エフェクター機能は、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、又は100%減少され得る。
【0104】
実施形態では、エフェクター機能を調節する修飾は、抗体のFc領域へのアミノ酸変異などの少なくとも1つのアミノ酸変異を含むことができる。例えば、Fcγ受容体及びC1qとのFcドメイン上の相互作用部位を識別し、結合を減少させて排除するように変異させることができる。そのようなアミノ酸変異の非限定的な例は、L234A、L235A、K322A、L234F、L235E、P329G、P331S、N297D、N297Q、N297A、又はそれらの任意の組み合わせを含む。
【0105】
例えば、234位及び235位のロイシンをFc領域のアラニン(alanine、LALA)に変異させることによって、Fcガンマ受容体への結合が減少する/完全に排除されるが、インフルエンザに対する有効性は、抗体依存性感染増強(antibody-dependent enhancement、ADE)を防止しながら維持されることが見出された。Hessell,Ann J.,et al.「Fc receptor but not complement binding is important in antibody protection against HIV.」Nature 449.7158(2007):101-104、Hezareh,Marjan,et al.「Effector function activities of a panel of mutants of a broadly neutralizing antibody against human immunodeficiency virus type 1.」Journal of virology 75.24(2001):12161-12168、Schlothauer,Tilman,et al.「Novel human IgG1 and IgG4 Fc-engineered antibodies with completely abolished immune effector functions.」Protein Engineering,Design and Selection 29.10(2016):457-466。したがって、本明細書の実施形態は、インフルエンザに対する有効性を維持し、抗体依存性感染増強を防止しながら、Fcガンマ受容体への結合の低減及び/又は排除を実証する修飾されたFc領域を含む抗体を含む。
【0106】
例えば、K322A、L234A、及びL235Aの組合せは、FcγR及びC1q結合を低減又は排除する(Hezareh et al.,J.Virol.2001 75(24):12161-12168)。同様に、L234F/L235E/P331Sの組み合わせは、結合を低減又は排除する(Oganesyan et al.,Acta Crystallogr D Biol Crystallogr.2008 Jun 1:64(Pt 6):700-704)。加えて、Fcドメイン上のグリコシル化の修飾、例えば、N297Aは、結合を減少又は排除した(Shields et al.,Journal of Biological Chemistry,Vol.276,No.9,pgs.6591-6604)。
【0107】
表1:Fc領域のアミノ酸配列を示す。CH1ドメインは太字であり、ヒンジ領域は実線の下線によって示され、CH2ドメインはイタリック体であり、CH3ドメインは斜線の下線によって示され、影付きボックスは、エフェクター機能を減少又は排除するために置換され得るアミノ酸である。黄色で強調表示され、四角で囲まれたアミノ酸は、野生型配列に対して行われた変異を示す。
【0108】
【0109】
実施形態では、修飾はまた、翻訳後修飾を含み得る。本明細書で使用される場合、「翻訳後修飾」という用語は、タンパク質合成後のタンパク質の修飾を指すことができる。例えば、翻訳後修飾は、活性、安定性、局在化、及び/又は相互作用パートナー分子の変化をもたらし得る。翻訳後修飾の非限定的な例は、リン酸化、水酸化、SUMO化、メチル化、アセチル化、ユビキチン化、ニトロシル化、グリコシル化、脂質化、ジスルフィド結合の形成、及び/又は本明細書に列挙される任意の修飾の逆転を含む。例えば、Fc領域の修飾は、グリコシル化又は脱グリコシル化、例えばFc領域のアスパラギン297の脱グリコシル化を含むことができる。
【0110】
本発明はまた、毒素(例えば、細菌、真菌、植物、若しくは動物起源の酵素的に活性な毒素、又はそれらの断片)などの細胞傷害性剤にコンジュゲートされた抗体、又は放射性同位体(すなわち、ラジオコンジュゲート)を含むイムノコンジュゲートに関する。
【0111】
使用することができる酵素的に活性な毒素及びその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、エキソトキシンA鎖(Pseudomonas aeruginosa由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシンA鎖、アルファ-サルシン、Aleurites fordiiタンパク質、ジアンチンタンパク質、Phytolaca americanaタンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP-S)、ツルレイシ(momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、サボンソウ(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン、リストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、及びトリコテセンが含まれる。ラジオコンジュゲートされた抗体の産生には、様々な放射性核種が利用可能である。例には、212Bi、131I、131In、90Y、及び186Reが含まれる。
【0112】
抗体及び細胞傷害性剤のコンジュゲートは、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオール)プロピオネート(succinimidyl-3-(2-pyridyldithiol)propionate、SPDP)、イミノチオラン(iminothiolane、IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(ジメチルアジピミデートHCLなど)、活性エステル(スベリン酸ジスクシンイミジルなど)、アルデヒド(グルタレルアルデヒドなど)、ビス-アジド化合物(ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビス-ジアゾニウム誘導体(ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)など)、ジイソシアネート(トリエン2,6-ジイソシアネートなど)、及びビス活性フッ素化合物(1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼンなど)などの様々な二官能性タンパク質結合剤を使用して作製される。例えば、リシン免疫毒素は、Vitetta et al,Science 238:1098(1987)に記載されるように調製することができる。炭素-14標識された1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミン五酢酸(methyldiethylene triaminepentaacetic acid、MX-DTPA)は、抗体への放射性ヌクレオチドのコンジュゲーションのための例示的なキレート剤である。(国際公開第94/11026号を参照されたい)。
【0113】
当業者は、多種多様な可能な部分が、得られた抗体又は本発明の他の分子に結合され得ることを認識するであろう。(例えば、参照によりその内容全体が本明細書に組み込まれる、「Conjugate Vaccines」,Contributions to Microbiology and Immunology,J.M.Cruse and R.E.Lewis,Jr(eds),Carger Press,New York,(1989)を参照されたい。
【0114】
結合は、抗体及び他の部分がそれらのそれぞれの活性を保持する限り、2つの分子を結合するであろう任意の化学反応によって達成することができる。この結合は、多くの化学的メカニズム、例えば、共有結合、親和性結合、インターカレーション、配位結合、複合体形成を含むことができる。しかしながら、好ましい結合は、共有結合である。共有結合は、既存の側鎖の直接縮合によって、又は外部架橋分子の組み込みによって達成することができる。多くの二価又は多価結合剤は、本発明の抗体などのタンパク質分子を他の分子に結合するのに有用である。例えば、代表的な結合剤は、チオエステル、カルボジイミド、スクシンイミドエステル、ジイソシアネート、グルタルアルデヒド、ジアゾベンゼン、及びヘキサメチレンジアミンなどの有機化合物を含むことができる。このリストは、当技術分野で既知の様々なクラスの結合剤を網羅することを意図するものではなく、むしろ、より一般的な結合剤の例示である。(Killen and Lindstrom,Jour.Immun.133:1335-2549(1984)、Jansen et al.,Immunological Reviews 62:185-216(1982)、及びVitetta et al.,Science 238:1098(1987)を参照されたい)。好ましいリンカーは、文献に記載されている。(例えば、Ramakrishnan,S.et al.,Cancer Res.44:201-208(1984)は、MBS(M-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)の使用を記載している)。オリゴペプチドリンカーを介して抗体に結合されたハロゲン化アセチルヒドラジド誘導体の使用を記載する米国特許第5,030,719号も参照されたい。特に好ましいリンカーとしては、(i)EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノ-プロピル)カルボジイミド塩酸塩、(ii)SMPT(4-スクシンイミジルオキシカルボニル-アルファ-メチル-アルファ-(2-ピリジル-ジチオ)-トルエン(Pierce Chem.Co.、カタログ(21558G)、(iii)SPDP(スクシンイミジル-6[3-(2-ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエート(Pierce Chem.Co.、カタログ番号21651G)、(iv)スルホ-LC-SPDP(スルホスクシンイミジル6[3-(2-ピリジルジチオ)-プロピアンアミド(propianamide)]ヘキサノエート(Pierce Chem.Co.、カタログ番号2165-G)、及び(v)EDCにコンジュゲートされたスルホ-NHS(N-ヒドロキシスルホ-スクシンイミド:Pierce Chem.Co.、カタログ番号24510)が挙げられる。
【0115】
上記のリンカーは、異なる属性を有する成分を含有し、よって異なる物理化学的特性を有するコンジュゲートをもたらす。例えば、カルボン酸アルキルのスルホ-NHSエステルは、芳香族カルボン酸塩のスルホ-NHSエステルよりも安定である。NHS-エステル含有リンカーは、スルホ-NHSエステルよりも溶解性が低い。更に、リンカーSMPTは、立体障害ジスルフィド結合を含有し、向上した安定性を有するコンジュゲートを形成することができる。ジスルフィド結合は、一般に、他の結合よりも安定性が低く、これはジスルフィド結合がインビトロで切断され、利用可能なコンジュゲートが少なくなるためである。特に、スルホ-NHSは、カルボジミド結合の安定性を増強することができる。カルボジミド結合(EDCなど)は、スルホ-NHSと組み合わせて使用されると、カルボジミド結合反応単独よりも加水分解に対してより耐性のあるエステルを形成する。
【0116】
本明細書に開示される抗体はまた、免疫リポソームとして製剤化することができる。抗体を含有するリポソームは、Epstein et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82:3688(1985)、Hwang et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA,77:4030(1980)、及び米国特許第4,485,045号及び同第4,544,545号に記載されるものなど、当技術分野で公知の方法によって調製される。増強された循環時間を有するリポソームは、米国特許第5,013,556号に開示されている。
【0117】
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール、及びPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-derivatized phosphatidylethanolamine、PEG-PE)を含む脂質組成物での逆相蒸発法によって生成することができる。リポソームは、定義された孔径のフィルターを通して押し出され、所望の直径を有するリポソームを生成する。本発明の抗体のFab’断片は、Martin et al.,J.Biol.Chem.,257:286-288(1982)に記載されるように、ジスルフィド交換反応を介してリポソームにコンジュゲートされ得る。
【0118】
インフルエンザウイルスに対する抗体の使用
所望の特異性を有する抗体のスクリーニングのための方法としては、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)及び当該分野で公知の他の免疫学的に媒介される技術が挙げられるが、これらに限定されない。
【0119】
HA(又はその断片)などのインフルエンザウイルスタンパク質に対する抗体は、インフルエンザウイルスタンパク質の局在化及び/又は定量化に関連する当技術分野で公知の方法で使用することができる(例えば、適切な生理学的試料内のインフルエンザウイルスタンパク質のレベルの測定における使用、診断法における使用、タンパク質の画像化における使用のために)。所与の実施形態では、抗体由来の抗原結合ドメインを含有する、インフルエンザウイルスタンパク質、又はその誘導体、断片、類似体、若しくは相同体に特異的な抗体は、薬理学的に活性な化合物(以下、「治療薬」と呼ばれる)として利用される。
【0120】
本発明のインフルエンザウイルスタンパク質に特異的な抗体を使用して、免疫親和性、クロマトグラフィー、又は免疫沈降などの標準的な技術によってインフルエンザウイルスポリペプチドを単離することができる。インフルエンザウイルスタンパク質(又はその断片)に対する抗体は、診断的に使用して、臨床試験手順の一部として組織中のタンパク質レベルをモニターし、例えば、所定の治療レジメンの有効性を決定することができる。検出は、抗体を検出可能物質に結合(すなわち、物理的に連結)することによって促進することができる。検出可能物質の例には、様々な酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、生物発光材料、及び放射性材料が含まれる。好適な酵素の例としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、又はアセチルコリンエステラーゼが挙げられ、好適な補欠分子族複合体の例としては、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンが挙げられ、好適な蛍光材料の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル、又はフィコエリトリンが挙げられ、発光材料の例としては、ルミノールが挙げられ、生物発光材料の例としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、及びエクオリンが挙げられ、好適な放射性材料の例としては、125I、131I、35S、又は3Hが挙げられる。
【0121】
ポリクローナル、モノクローナル、ヒト化及び完全ヒト抗体を含む、本発明の抗体は、治療剤として使用することができる。そのような薬剤は一般に、対象におけるインフルエンザウイルス関連疾患又は病態(例えば、鳥インフルエンザ)を治療又は予防するために使用される。抗体調製物、好ましくはその標的抗原について高い特異性及び高い親和性を有するものが対象に投与され、一般に、標的との結合による効果を有するであろう。抗体の投与は、細胞内へのウイルスの内在化を抑止又は阻害又は干渉し得る。この場合、抗体は標的に結合し、天然に存在するリガンドの結合部位をマスクし、それによって細胞膜へのウイルスの融合をブロックし、ウイルスの内在化を遮断する。
【0122】
本発明の抗体の治療有効量は、一般に、治療目的を達成するために必要な量に関する。上記のように、これは、ある特定の場合には、標的の機能を干渉する、抗体とその標的抗原との間の結合相互作用であり得る。投与する必要のある量は更に、その特異的な抗原についての抗体の結合親和性に依存し、また、投与された抗体が、それが投与される他の対象の自由体積から枯渇する速度にも依存する。本発明の抗体又は抗体断片の治療上有効な投与のための一般的な範囲は、非限定的な例として、約0.1mg/kg体重~約50mg/kg体重であり得る。一般的な投与頻度は、例えば、1日2回~1週間に1回の範囲であり得る。
【0123】
本発明の、インフルエンザウイルスタンパク質又はその断片に特異的に結合する抗体、並びに本明細書に開示されるスクリーニングアッセイによって識別される他の分子は、インフルエンザウイルス関連障害の治療のために、薬学的組成物の形態で投与され得る。そのような組成物を調製することに関与する原理及び考慮事項、並びに成分の選択におけるガイダンスは、例えば、Remington:The Science And Practice Of Pharmacy 19th ed.(Alfonso R.Gennaro,et al.,editors)Mack Pub.Co.,Easton,Pa.,1995、Drug Absorption Enhancement:Concepts,Possibilities,Limitations,And Trends,Harwood Academic Publishers,Langhorne,Pa.,1994、及びPeptide And Protein Drug Delivery(Advances In Parenteral Sciences,Vol.4),1991,M.Dekker,New Yorkに提供される。
【0124】
抗体断片が使用される場合、標的タンパク質の結合ドメインに特異的に結合する最小の阻害性断片が好ましい。例えば、抗体の可変領域配列に基づいて、標的タンパク質配列に結合する能力を保持するペプチド分子を設計することができる。そのようなペプチドは、化学的に合成することができ、かつ/又は組換えDNA技術によって産生することができる。(例えば、Marasco et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:7889-7893(1993)を参照されたい)。製剤はまた、治療される特定の適応症に必要な2つ以上の活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を有するものを含有することができる。代替として、又は加えて、組成物は、例えば、細胞傷害性剤、サイトカイン、化学療法剤、又は成長阻害剤などの、その機能を増強する薬剤を含むことができる。そのような分子は、意図された目的に有効な量で組み合わせて好適に存在する。
【0125】
活性成分はまた、例えば、コアセルベーション技法によって、又は界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えば、それぞれ、コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、及びナノカプセル)における、又はマクロエマルジョンにおける、ヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに封入することができる。
【0126】
インビボ投与に使用される製剤は、無菌でなければならない。これは、無菌濾過膜を通した濾過によって容易に達成される。
【0127】
徐放性調製物を調製することができる。徐放性調製物の好適な例には、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが含まれ、このマトリックスは、成形品、例えば、フィルム又はマイクロカプセルの形態である。持続放出マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸及びγエチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、例えば、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸-グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドから構成される注射可能なミクロスフェア)、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が挙げられる。エチレン-酢酸ビニル及び乳酸-グリコール酸などのポリマーは、100日超にわたる分子の放出を可能にするが、ある特定のヒドロゲルは、より短い時間にわたってタンパク質を放出する。
【0128】
本明細書の実施形態はまた、本発明の抗体を送達するためのナノ粒子の使用を含む。抗体にコンジュゲートされたナノ粒子は、治療用途及び診断用途の両方に使用することができる。抗体にコンジュゲートされたナノ粒子、並びに調製及び使用の方法は、Arruebo,M.,et al.2009(「Antibody-conjugated nanoparticles for biomedical applications」in J.Nanomat.Volume 2009)に詳述されている。ナノ粒子を開発し、薬学的組成物に含有される抗体にコンジュゲートさせて、細胞を標的化することができる。薬物送達のためのナノ粒子はまた、例えば、米国特許第8,257,740号又は同第8,246,995号に記載されている。
【0129】
本明細書の実施形態は、本発明の抗体を送達するためのゲノム修飾B細胞の使用を更に含む。B細胞は、大量のタンパク質を抗体の形態で分泌する能力のために、遺伝子治療の機会を提供し、形質細胞として生物の生涯にわたって存続する。例えば、本明細書における実施形態は、CRISPR/Cas9に基づく系を利用して、本発明の抗体を分泌させるように、初代ヒトB細胞を操作することができる。例えば、Fusil,F.et al.A Lentiviral Vector Allowing Physiologically Regulated Membrane-anchored and Secreted Antibody Expression Depending on B-cell Maturation Status.Mol.Ther.23,1734-1747(2015)、Luo,X.M.et al.Engineering human hematopoietic stem/progenitor cells to produce a broadly neutralizing anti-HIV antibody after in vitro maturation to human B lymphocytes.Blood 113,1422-1431(2009)を参照されたい。
【0130】
本発明による抗体は、試料中のインフルエンザウイルス(又はそのタンパク質若しくはそのタンパク質断片)の存在を検出するための薬剤として使用することができる。好ましくは、抗体は、検出可能標識を含有する。抗体は、ポリクローナル、又はより好ましくはモノクローナルであり得る。無傷抗体、又はその断片(例えば、Fab、scFv、又はF(ab)2)を使用することができる。プローブ又は抗体に関して、「標識された」という用語は、検出可能物質をプローブ又は抗体に結合(すなわち、物理的に結合)することによるプローブ又は抗体の直接標識、並びに直接標識される別の試薬との反応性によるプローブ又は抗体の間接標識を包含することを意図する。間接標識の例には、蛍光標識された二次抗体を使用した一次抗体の検出、及び蛍光標識されたストレプトアビジンで検出することができるようにビオチンでDNAプローブを末端標識することが含まれる。「生物学的試料」という用語は、対象から単離された組織、細胞、及び生体液、並びに対象内に存在する組織、細胞、及び生体液を含むことを意図する。したがって、「生物学的試料」という用語の使用には、血液、及び血清、血漿、又はリンパ液を含む、血液の画分又は成分が含まれる。すなわち、本発明の検出方法は、インビトロ及びインビボで生物学的試料中の被検体mRNA、タンパク質又はゲノムDNAを検出するために使用され得る。例えば、被検体mRNAの検出のためのインビトロ技術としては、ノーザンハイブリダイゼーション及びインサイチュハイブリダイゼーションが挙げられる。被検体タンパク質の検出のためのインビトロ技術としては、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウェスタンブロット、免疫沈降、及び免疫蛍光が挙げられる。被検体ゲノムDNAの検出のためのインビトロ技術としては、サザンハイブリダイゼーションが挙げられる。イムノアッセイを行うための手順は、例えば、「ELISA:Theory and Practice:Methods in Molecular Biology」,Vol.42,J.R.Crowther(Ed.)Human Press,Totowa,NJ,1995、「Immunoassay」,E.Diamandis and T.Christopoulus,Academic Press,Inc.,San Diego,CA,1996、及び「Practice and Theory of Enzyme Immunoassays」,P.Tijssen,Elsevier Science Publishers,Amsterdam,1985に記載されている。更に、被検体タンパク質を検出するためのインビボ技術は、標識された抗被検体タンパク質抗体を対象に導入することを含む。例えば、抗体は、対象におけるその存在及び位置が標準的な画像化技法によって検出され得る放射性マーカーで標識され得る。
【0131】
薬学的組成物
本発明の抗体又は薬剤(本明細書では「活性化合物」とも呼ばれる)、並びにそれらの誘導体、断片、類似体、及び相同体は、投与に好適な薬学的組成物に組み込むことができる。そのような組成物は、典型的には、抗体又は薬剤及び薬学的に許容される担体を含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、薬学的投与に適合する、任意及び全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを含むことを意図する。好適な担体は、当該分野の標準的な参照テキストであり、参照により本明細書に組み込まれる、Remington’s Pharmaceutical Sciencesの最新版に記載されている。そのような担体又は希釈剤の好ましい例としては、水、食塩水、リンガー溶液、デキストロース溶液、及び5%ヒト血清アルブミンが含まれるが、これらに限定されない。リポソーム、及び固定油などの非水性ビヒクルも使用され得る。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体及び薬剤の使用は、当技術分野で周知である。いずれかの従来の媒体又は薬剤が活性化合物と不適合性である限りを除いて、組成物におけるその使用が企図される。補助的な活性化合物も、組成物中に組み込むことができる。
【0132】
本発明の薬学的組成物は、その意図された投与経路と適合性であるように製剤化される。投与経路の例としては、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、経皮(すなわち、局所)、経粘膜、及び直腸投与が挙げられる。非経口、皮内、又は皮下適用に使用される溶液又は懸濁液は、以下の、無菌希釈剤、例えば注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、又は他の合成溶媒、ベンジルアルコール又はメチルパラベンなどの抗菌剤、アスコルビン酸又は重亜硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤、エチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid、EDTA)などのキレート剤、酢酸塩、クエン酸塩、又はリン酸塩などの緩衝液、及び塩化ナトリウム又はデキストロースなどの張度を調整するための薬剤、の成分を含むことができる。pHは、塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調整することができる。非経口調製物は、アンプル、使い捨て注射器、又はガラス若しくはプラスチック製の複数用量バイアルに封入することができる。
【0133】
注射可能な使用に好適な薬学的組成物としては、無菌水溶液(水溶性の場合)又は分散液、及び無菌注射液又は分散液の即時調製のための無菌粉末が挙げられる。静脈内投与について、好適な担体としては、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF、Parsippany、N.J.)、又はリン酸緩衝食塩水(phosphate buffered saline、PBS)を含む。全ての場合において、組成物は、無菌でなければならず、容易な注射針通過性が存在する程度に流動性であるべきである。製造及び貯蔵の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及びそれらの好適な混合物を含有する、溶媒又は分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合における必要な粒子サイズの維持によって、及び界面活性剤の使用によって、維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗細菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成することができる。多くの場合、組成物において等張剤、例えば、糖、多価アルコール、例えば、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射可能な組成物の持続的吸収は、組成物において、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを含めることによって達成することができる。
【0134】
無菌注射可能溶液は、必要量の活性化合物を、必要に応じて、上記に列挙される成分の1つ又は組み合わせを有する適切な溶媒に組み込み、続いて濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散液は、活性化合物を、基本的な分散媒及び上記に列挙されるものからの必要な他の成分を含有する無菌ビヒクル中に組み込むことによって調製される。無菌注射可能溶液の調製のための無菌粉末の場合、調製方法は、活性成分及びその以前に無菌濾過した溶液からの任意の追加の所望の成分の粉末を生じる真空乾燥及び凍結乾燥である。
【0135】
経口組成物は一般に、不活性希釈剤又は可食性担体を含む。それらはゼラチンカプセルに封入するか、又は錠剤に圧縮することができる。経口治療投与の目的のために、活性化合物は、賦形剤とともに組み込まれ、錠剤、トローチ、又はカプセルの形態で使用され得る。経口組成物はまた、洗口剤としての使用のための流体担体を使用して調製することができ、流体担体中の化合物は、経口的に適用され、口の中で回され、吐き出されるか、又は飲み込まれる。薬学的に適合性の結合剤、及び/又はアジュバント材料を組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤などは、以下の、微結晶セルロース、トラガカントゴム又はゼラチンなどの結合剤;デンプン又はラクトースなどの賦形剤、アルギン酸、Primogel、又はコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム又はステロテスなどの潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;スクロース又はサッカリンなどの甘味剤;又はペパーミント、サリチル酸メチル、又はオレンジ香味料などの香味剤の成分、又は同様の性質の化合物のいずれかを含有することができる。
【0136】
吸入による投与について、化合物は、好適な推進剤、例えば、二酸化炭素などのガス、又はネブライザーを含有する加圧容器又はディスペンサーからエアロゾルスプレーの形態で送達される。
【0137】
全身投与はまた、経粘膜的又は経皮的手段によるものであり得る。経粘膜又は経皮投与について、浸透させる障壁に適した浸透剤が製剤に使用される。そのような浸透剤は、当技術分野で一般に既知であり、例えば、経粘膜投与について、洗浄剤、胆汁塩、及びフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は、鼻腔スプレー又は坐剤の使用を通して達成することができる。経皮投与について、活性化合物は、当技術分野で一般に既知の軟膏、膏薬、ゲル、又はクリームに製剤化される。
【0138】
化合物はまた、直腸送達のための、坐剤(例えば、カカオバター及び他のグリセリドなどの従来の坐剤ベースを有する)又は停留浣腸の形態で調製することができる。
【0139】
一実施形態では、活性化合物は、インプラント及びマイクロカプセル化送達システムを含む、制御放出製剤などの、体からの急速な排除に対して化合物を保護するであろう担体で調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができる。そのような製剤の調製方法は、当業者には明らかであろう。材料はまた、Alza Corporation及びNova Pharmaceuticals,Inc.から市販されている。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体で感染細胞に標的化されたリポソームを含む)もまた、薬学的に許容される担体として使用することができる。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号に記載されているように、当業者に既知の方法に従って調製することができる。
【0140】
投与の容易さ及び投与量の均一性のために、投与量単位形態で経口又は非経口組成物を製剤化することが特に有利である。本明細書で使用される単位剤形は、治療される対象のための単位用量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位は、必要な薬学的担体と共同して所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を含有する。本発明の投与量単位形態の仕様は、活性化合物の特有の特徴及び達成されるべき特定の治療効果、並びに個体の治療のためにそのような活性化合物を配合する技術に固有の制限によって決定付けられ、これらに直接依存する。
【0141】
薬学的組成物は、投与の指示とともに、容器、パック、又はディスペンサーに含めることができる。
【0142】
スクリーニング方法
本発明は、細胞膜へのインフルエンザウイルスの融合を調節するか、又はそうでなければ干渉するモジュレーター、すなわち、候補又は試験化合物又は薬剤(例えば、ペプチド、ペプチド模倣物、小分子、又は他の薬物)を識別するための方法(本明細書において「スクリーニングアッセイ」とも呼ばれる)を提供する。インフルエンザ感染を治療するのに有用な化合物を識別する方法も提供される。本発明はまた、本明細書に記載のスクリーニングアッセイを使用した識別される化合物を包含する。
【0143】
例えば、本発明は、インフルエンザウイルスと細胞膜との間の相互作用を調節する候補又は試験化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。本発明の試験化合物は、当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリ法における多数のアプローチのうちのいずれかを使用して得ることができ、以下が含まれる:生物学的ライブラリ、空間的にアドレス可能な平行固相又は液相ライブラリ、デコンボリューションを必要とする合成ライブラリ法、「1ビーズ1化合物」ライブラリ法、及びアフィニティークロマトグラフィー選択を使用する合成ライブラリ法。生物学的ライブラリアプローチは、ペプチドライブラリに限定されるが、他の4つのアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマー、又は化合物の小分子ライブラリに適用可能である。(例えば、Lam,1997.Anticancer Drug Design 12:145を参照されたい)。
【0144】
本明細書で使用される「小分子」は、約5kD未満、最も好ましくは約4kD未満の分子量を有する組成物を指すことを意味する。小分子は、例えば、核酸、ペプチド、ポリペプチド、ペプチド模倣体、炭水化物、脂質、又は他の有機若しくは無機分子であり得る。真菌、細菌、又は藻類抽出物などの化学的及び/又は生物学的混合物のライブラリは、当技術分野で公知であり、本発明のアッセイのうちのいずれかを用いてスクリーニングすることができる。
【0145】
分子ライブラリの合成のための方法の例は、当技術分野で、例えば、DeWitt,et al.,1993.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:6909、Erb,et al.,1994.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91:11422、Zuckermann,et al.,1994.J.Med.Chem.37:2678、Cho,et al.,1993.Science 261:1303、Carrell,et al.,1994.Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2059、Carell,et al.,1994.Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2061、及びGallop,et al.,1994.J.Med.Chem.37/1233に見ることができる。
【0146】
化合物のライブラリは、溶液中(例えば、Houghten,1992.Biotechniques 13:412-421を参照されたい)、又はビーズ上(Lam,1991.Nature 354:82-84を参照されたい)、チップ(Fodor,1993.Nature 364:555-556を参照されたい)、細菌(米国特許第5,223,409号を参照されたい)、胞子(米国特許第5,233,409号を参照されたい)、プラスミド上(Cull,et al.,1992.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1865-1869を参照されたい)、又はファージ上(Scott and Smith,1990.Science 249:386-390、Devlin,1990.Science 249:404-406、Cwirla,et al.,1990.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:6378-6382、Felici,1991.J.Mol.Biol.222:301-310、及び米国特許第5,233,409号を参照されたい)に存在し得る。
【0147】
一実施形態では、候補化合物は、抗体-抗原複合体に導入され、候補化合物が抗体-抗原複合体を破壊するかどうかを決定し、この複合体の破壊は、候補化合物がインフルエンザウイルスと細胞膜との間の相互作用を調節することを示す。
【0148】
別の実施形態では、少なくとも1つのHAタンパク質が提供され、これは、少なくとも1つの中和モノクローナル抗体に曝露される。抗体-抗原複合体の形成が検出され、1つ以上の候補化合物が複合体に導入される。1つ以上の候補化合物の導入後に抗体-抗原複合体が破壊される場合、候補化合物は、インフルエンザウイルス関連疾患又は障害、例えば、鳥インフルエンザを治療するのに有用である。例えば、少なくとも1つのインフルエンザウイルスタンパク質は、インフルエンザウイルス分子として提供され得る。
【0149】
試験化合物の抗体-抗原複合体を干渉又は破壊する能力を決定することは、例えば、試験化合物を放射性同位体又は酵素標識と結合させることによって達成され得、その結果、抗原又はその生物学的に活性な部分への試験化合物の結合は、複合体中の標識された化合物を検出することによって決定され得る。例えば、試験化合物は、125I、35S、14C、又は3Hで直接又は間接的に標識され得、放射性同位体が放射線放出の直接計数又はシンチレーション計数によって検出される。代替として、試験化合物は、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、又はルシフェラーゼで酵素的に標識され得、酵素標識が、生成物への適切な基質の変換の決定によって検出される。
【0150】
一実施形態では、アッセイは、抗体-抗原複合体を試験化合物と接触させることと、試験化合物が抗原と相互作用するか、又はそうでなければ既存の抗体-抗原複合体を破壊する能力を決定することと、を含む。この実施形態では、試験化合物が抗原と相互作用し、かつ/又は抗体-抗原複合体を破壊する能力を決定することは、抗体と比較して、試験化合物が抗原又はその生物学的に活性な部分に優先的に結合する能力を決定することを含む。
【0151】
別の実施形態では、アッセイは、抗体-抗原複合体を試験化合物と接触させることと、試験化合物が抗体-抗原複合体を調節する能力を決定することと、を含む。試験化合物が抗体-抗原複合体を調節する能力を決定することは、例えば、試験化合物の存在下で、抗原が抗体と結合又は相互作用する能力を決定することによって達成することができる。
【0152】
当業者は、本明細書に開示されるスクリーニング方法のうちのいずれかにおいて、抗体がインフルエンザウイルス中和抗体であり得ることを認識するであろう。加えて、抗原は、HAタンパク質又はその一部であってもよい。本明細書に記載のアッセイのうちのいずれかにおいて、候補化合物が本発明のモノクローナル抗体とHAタンパク質との間の結合を干渉する能力は、候補化合物がインフルエンザウイルスと細胞膜との融合を干渉又は調節することができるであろうということを示す。更に、細胞へのHAタンパク質の結合が、細胞へのインフルエンザウイルス侵入の原因であるので、そのような候補化合物はまた、インフルエンザウイルス関連疾患又は障害、例えば、鳥インフルエンザの治療において有用である。
【0153】
本明細書に開示されるスクリーニング方法は、細胞ベースのアッセイとして、又は無細胞アッセイとして実施され得る。本発明の無細胞アッセイは、HAタンパク質及びその断片の可溶性形態又は膜結合形態の両方の使用に適している。膜結合形態のHAタンパク質を含む無細胞アッセイの場合、膜結合形態のタンパク質が溶液中に維持されるように、可溶化剤を利用することが望ましい場合がある。そのような可溶化剤の例としては、非イオン性界面活性剤、例えば、n-オクチルグルコシド、n-ドデシルグルコシド、n-ドデシルマルトシド、オクタノイル-N-メチルグルカミド、デカノイル-N-メチルグルカミド、Triton(登録商標)X-100、Triton(登録商標)X-114、Thesit(登録商標)、イソトリデシポリ(エチレングリコールエーテル)n、N-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート、3-(3-コラミドプロピル)ジメチルアミノ-1-プロパンスルホネート(CHAPS)、又は3-(3-コラミドプロピル)ジメチルアミノ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホネート(CHAPSO)が挙げられる。
【0154】
2つ以上の実施形態では、抗体又は抗原のいずれかを固定化して、候補化合物の導入後の一方又は両方の複合体化されていない形態からの複合体化された形態の分離を容易にし、並びにアッセイの自動化に適応させることが所望され得る。候補化合物の存在下及び非存在下での抗体-抗原複合体の観察は、反応物を含有するのに好適な任意の容器中で達成することができる。そのような容器の例としては、マイクロタイタープレート、試験管、及び微量遠心管が挙げられる。一実施形態では、タンパク質の一方又は両方がマトリックスに結合することを可能にするドメインを付加する融合タンパク質が提供され得る。例えば、GST-抗体融合タンパク質又はGST-抗原融合タンパク質は、グルタチオンセファロースビーズ(Sigma Chemical、St.Louis、MO)又はグルタチオン誘導体化マイクロタイタープレート上に吸着させることができ、次いで、これを試験化合物と組み合わせ、混合物を、複合体形成につながる条件下(例えば、塩及びpHの生理学的条件で)でインキュベートする。インキュベーション後、ビーズ又はマイクロタイタープレートウェルを洗浄して、未結合成分を除去し、ビーズの場合にはマトリックスを固定化し、複合体を直接又は間接的に決定する。代替として、複合体は、マトリックスから解離され得、抗体-抗原複合体形成のレベルは、標準的な技術を使用して決定され得る。
【0155】
マトリックス上にタンパク質を固定化するための他の技術もまた、本発明のスクリーニングアッセイにおいて使用され得る。例えば、抗体又は抗原のいずれか(例えば、ビオチン及びストレプトアビジンのコンジュゲーションを利用して固定化することができる。ビオチン化された抗体又は抗原分子は、当該分野で周知の技術(例えば、ビオチン化キット、Pierce Chemicals、Rockford、Ill)を使用してビオチン-NHS(N-ヒドロキシ-スクシンイミド)から調製され得、ストレプトアビジンでコーティングされた96ウェルプレート(Pierce Chemical)のウェル中に固定化され得る。代替として、目的の抗体又は抗原と反応性であるが、目的の抗体-抗原複合体の形成を干渉しない他の抗体は、プレートのウェルに誘導体化され得、そして結合していない抗体又は抗原は、抗体コンジュゲーションによってウェルに捕捉され得る。そのような複合体を検出するための方法は、GST固定化複合体について上記された方法に加えて、抗体又は抗原と反応性のそのような他の抗体を使用する複合体の免疫検出を含む。
【0156】
本発明は更に、前述のスクリーニングアッセイのうちのいずれかによって識別される新規薬剤、及び本明細書に記載の治療のためのその使用に関する。
【0157】
診断アッセイ
本発明の抗体は、適切なアッセイ、例えば、従来型のイムノアッセイによって検出することができる。例えば、インフルエンザタンパク質(例えば、HA1、HA2、又はノイラミニダーゼ)又はその断片が固相に固定されるアッセイを行うことができる。インキュベーションは、試料中の抗体を、固相上の固定化ポリペプチドに結合させるのに十分な時間維持される。この最初のインキュベーションの後、固相を試料から分離する。固相を洗浄して、非結合物質、及び試料中に存在し得る非特異的タンパク質などの干渉物質を除去する。続いて、固定化されたポリペプチドに結合した目的の抗体を含有する固相を、ビオチン又はアビジンなどのカップリング剤に結合した第2の標識抗体又は抗体とともにインキュベートする。この第2の抗体は、別の抗インフルエンザ抗体又は別の抗体であってもよい。抗体のための標識としては、当技術分野で周知であり、放射性核種、酵素(例えば、マレエート(maleate)デヒドロゲナーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、カタラーゼ)、フッ素(フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコシアニン、フルオレスカミン)、ビオチンなどが挙げられる。標識抗体を固体とともにインキュベートし、固相に結合した標識を測定する。これら及び他のイムノアッセイは、当業者によって容易に実施され得る。
【0158】
インフルエンザウイルスの存在又は非存在(生物学的試料中の)を検出するための例示的な方法は、試験対象から生物学的試料を得ることと、インフルエンザウイルスの存在が生物学的試料中において検出されるように、生物学的試料を本発明による標識されたモノクローナル抗体又はscFv抗体と接触させることと、を含む。
【0159】
本明細書で使用される場合、プローブ又は抗体に関して、「標識された」という用語は、検出可能物質をプローブ又は抗体に結合(すなわち、物理的に結合)することによるプローブ又は抗体の直接標識、並びに直接標識される別の試薬との反応性によるプローブ又は抗体の間接標識を包含することを意図する。間接標識の例には、蛍光標識された二次抗体を使用した一次抗体の検出、及び蛍光標識されたストレプトアビジンで検出することができるようにビオチンでDNAプローブを末端標識することが含まれる。「生物学的試料」という用語は、対象から単離された組織、細胞、及び生体液、並びに対象内に存在する組織、細胞、及び生体液を含むことを意図する。すなわち、本発明の検出方法は、インビトロ及びインビボで、生物学的試料中のインフルエンザウイルス検出するために使用され得る。例えば、インフルエンザウイルスの検出のためのインビトロ技術としては、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウェスタンブロット、免疫沈降、及び免疫蛍光が挙げられる。更に、インフルエンザウイルスの検出のためのインビボ技術には、標識された抗インフルエンザウイルス抗体を対象に導入することが含まれる。例えば、抗体は、対象におけるその存在及び位置が標準的な画像化技法によって検出され得る放射性マーカーで標識され得る。
【0160】
一実施形態では、生物学的試料は、試験対象からのタンパク質分子を含有する。1つの好まれる生物学的試料は、従来の手段によって対象から単離された末梢血白血球試料である。
【0161】
本発明は、生物学的試料中のインフルエンザウイルスの存在を検出するためのキットも包含する。例えば、キットは、生物学的試料中のインフルエンザウイルスを検出することができる標識された化合物又は薬剤(例えば、抗インフルエンザscFv又はモノクローナル抗体)、試料中のインフルエンザウイルスの量を決定するための手段、及び試料中のインフルエンザウイルスの量を標準と比較するための手段、を含むことができる。化合物又は薬剤は、好適な容器に包装することができる。キットは、試料中のインフルエンザウイルスを検出するためにキットを使用するための使用説明書を更に含むことができる。
【0162】
受動免疫化
受動免疫化は、ウイルス性疾患の予防及び治療のための有効かつ安全な戦略であることが証明されている。(Keller et al.,Clin.Microbiol.Rev.13:602-14(2000)、Casadevall,Nat.Biotechnol.20:114(2002)、Shibata et al.,Nat.Med.5:204-10(1999)、及びIgarashi et al.,Nat.Med.5:211-16(1999)を参照されたく、これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる)。中和ヒトモノクローナル抗体を使用する受動免疫化は、鳥インフルエンザなどのインフルエンザの緊急予防及び治療のための即時治療戦略を提供することができ、一方で、ワクチン及び新薬の代替的かつより時間のかかる開発が進行中である。
【0163】
サブユニットワクチンは、従来の免疫原を超える著しい利点を潜在的に提供する。それらは、従来の死滅又は弱毒化された全病原体ワクチンの製造、流通、及び送達に固有の安全性の危険を回避する。更に、それらは、確認された防御エピトープのみを含むように合理的に設計することができ、それによって抑制性Tエピトープ(Steward et al.,J.Virol.69:7668(1995))、又は無益な非防御応答を誘導することによって免疫系を破壊する免疫優性Bエピトープ(例えば、「デコイ」エピトープ)を回避する。(Garrity et al.,J.Immunol.159:279(1997)を参照されたい)。
【0164】
更に、当業者は、多くの異なるウイルス、チャレンジ経路、及び動物モデルに関して、良好な相関が、インビトロでの抗体中和活性とインビボでの防御との間に存在することを認識する。(Burton,Natl.Rev.Immunol.2:706-13(2002)、Parren et al.,Adv.Immunol.77:195-262(2001)を参照されたい)。本明細書中に示されるデータは、D7、D8、F10、G17、H40、A66、D80、E88、E90、及びH98ヒトモノクローナル抗体が、更に開発され、インビボ動物研究において試験されて、インフルエンザの緊急予防及び治療のための強力なウイルス侵入阻害剤としてのその臨床的有用性を決定し得ることを示す。
【0165】
ワクチン接種における抗原-Igキメラ
最初の抗体が、免疫系に対する抗原決定基の効率的な提示のための足場として使用されて以来、10年以上経った。(Zanetti,Nature 355:476-77(1992)、Zaghouani et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:631-35(1995)を参照されたい)。ペプチドがIgG分子(例えば、本明細書に記載の11A又は256 IgG1モノクローナル抗体)の不可欠な部分として含まれる場合、ペプチドエピトープの抗原性及び免疫原性は、遊離ペプチドと比較して大幅に増強される。そのような増強は、おそらく、抗原-IgGキメラのより長い半減期、より良好な提示、及びそれらの自然構造を模倣する、拘束された立体構造に起因する。
【0166】
更に、抗原-Igキメラを使用することの更なる利点は、抗原-Igキメラの可変領域又はFc領域のいずれかが、プロフェッショナル抗原提示細胞(antigen-presenting cell、APC)を標的化するために使用され得ることである。今日まで、重鎖可変遺伝子(VH)の相補性決定領域(CDR)が、B細胞又はT細胞によって認識される様々な抗原性ペプチドで置き換えられた組換えIgが生成されている。そのような抗原-Igキメラは、体液性免疫応答及び細胞性免疫応答の両方を誘導するために使用されている。(Bona et al.,Immunol.Today 19:126-33(1998)を参照されたい)。
【0167】
CDR3ループに生着された特異的エピトープを有するキメラは、HIV-1 gp120 V3-ループ、又はヒトCD4受容体の第1の細胞外ドメイン(D1)のいずれかに対する体液性応答を誘導するために使用されている。(Lanza et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:11683-87(1993)、Zaghouani et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:631-35(1995)を参照されたい)。免疫血清は、HIV-1MN(抗gp120 V3C)によるCD4 SupT1細胞の感染を予防するか、又はシンシチウム形成(抗CD4-D1)を阻害することができた。CDR2及びCDR3は、ペプチドエピトープで同時に置き換えられ得、挿入されるペプチドの長さは、最大19個のアミノ酸長であり得る。
【0168】
代替として、1つのグループは、ペプチド抗原がIg定常(C)領域のループにおいて提示され、キメラの可変領域が、B細胞の表面上のIgD又はB細胞、樹状細胞(dendritic cell、DC)、及びマクロファージを含むプロフェッショナルAPC上のMHCクラスII分子を標的化するために使用され得る、「トロイ体(troybody)」戦略を開発した。(Lunde et al.,Biochem.Soc.Trans.30:500-6(2002)を参照されたい)。
【0169】
抗原-Igキメラは、抗原をIgG分子のFc部分と直接融合させることによって作製することもできる。You et al.,Cancer Res.61:3704-11(2001)は、この方法を使用して、B型肝炎ウイルスコア抗原に対する非常に高レベルの抗体を含む、特異的免疫応答の全てのアームを得ることができた。
【0170】
DNAワクチン接種
DNAワクチンは安定しており、抗原に自然に処理される機会を提供することができ、より長く持続する応答を誘導することができる。非常に魅力的な免疫化戦略であるが、DNAワクチンは、免疫応答を誘導する効力が非常に限られていることが多い。樹状細胞(DC)などのプロフェッショナルAPCによる注射されたDNAの不十分な取り込みが、そのような制限の主な原因であり得る。抗原-Igキメラワクチンと組み合わせて、APC抗原提示の増強に基づく有望な新しいDNAワクチン戦略が報告されており(Casares,et al.,Viral Immunol.10:129-36(1997)、Gerloni et al.,Nat.Biotech.15:876-81(1997)、Gerloni et al.,DNA Cell Biol.16:611-25(1997)、You et al.,Cancer Res.61:3704-11(2001)を参照されたい)、これは、DCの表面上のFc受容体(FcγRs)の存在を利用する。
【0171】
抗原(Ag)-IgキメラをコードするDNAワクチンを生成することが可能である。免疫すると、Ag-Ig融合タンパク質が発現され、DNA分子を取り込んだ細胞によって分泌されることになる。分泌されたAg-Ig融合タンパク質は、B細胞応答を誘導する一方で、DC表面上のFcγRとのFc断片の相互作用によって捕捉及び内在化され得、これは、効率的な抗原提示を促進し、抗原特異的免疫応答を大いに増強するであろう。同じ原理を適用して、機能的な抗MHC II特異的scFv領域遺伝子を担持する抗原-IgキメラをコードするDNAはまた、APCの3つ全ての型に対する免疫原を標的とし得る。免疫応答は、必要に応じて、インビトロで生成された同じタンパク質抗原の使用によって更にブーストされ得る(すなわち、「プライム及びブースト」)。この戦略を用いて、インフルエンザウイルスの感染に対する特異的細胞性及び体液性免疫応答を、DNAワクチンの筋肉内(i.m.)注射を介して達成した。(Casares et al.,Viral.Immunol.10:129-36(1997)を参照されたい)。
【0172】
ワクチン組成物
治療的又は予防的組成物が本明細書で提供され、これは一般に、1つ以上のモノクローナル抗体又はScFvの混合物、及びそれらの組み合わせを含む。予防的ワクチンは、インフルエンザウイルス感染を予防するために使用することができ、治療的ワクチンは、インフルエンザウイルス感染後の個体を治療するために使用することができる。予防的使用には、ワクチン接種対象におけるインフルエンザウイルスに対する増加した抗体力価の提供が含まれる。このようにして、インフルエンザに罹患するリスクが高い対象に、インフルエンザウイルスに対する受動免疫を提供することができる
【0173】
これらのワクチン組成物は、補助的な免疫調節剤とともに投与することができる。例えば、サイトカイン、リンホカイン、及びケモカインは、IL-2、修飾IL-2(Cys125→Ser125)、GM-CSF、IL-12、γ-インターフェロン、IP-10、MIP1β、及びRANTESを含むが、これらに限定されない。
【0174】
免疫化の方法
本発明のワクチンは、他の抗ウイルスワクチンよりも優れた免疫防御及び免疫治療特性を有する
【0175】
本発明は、対象の免疫化の方法、例えば、免疫応答を誘導する方法を提供する。対象は、病原性エンベロープウイルスの膜融合タンパク質を含有する組成物を対象に投与することによって免疫化される。融合タンパク質は、コーティングされるか、又は生物学的に適合性のマトリックス中に包埋される。
【0176】
融合タンパク質は、グリコシル化され、例えば、炭水化物部分を含有する。炭水化物部分は、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖、又はそれらの誘導体(例えば、スルホ又はリン置換された)の形態であってもよい。炭水化物は、直鎖状又は分枝状である。炭水化物部分は、ポリペプチドに対してN結合型又はO結合型である。N結合型グリコシル化は、アスパラギン側鎖のアミド窒素に対するものであり、O結合型グリコシル化は、セリン及びスレオニン側鎖のヒドロキシ酸素に対するものである。
【0177】
炭水化物部分は、ワクチン接種される対象に対して内因性である。代替として、炭水化物部分は、ワクチン接種される対象にとって外因性である。炭水化物部分は、典型的には、ワクチン接種される対象のポリペプチド上に発現されない炭水化物部分である。例えば、炭水化物部分は、植物特異的炭水化物である。植物特異的炭水化物部分としては、例えば、コア結合α1,3フコース又はコア結合β1,2キシロースを有するN結合型グリカンが挙げられる。代替として、炭水化物部分は、ワクチン接種される対象のポリペプチド又は脂質上に発現される炭水化物部分である。例えば、多くの宿主細胞は、ヒト様糖結合を有するヒトタンパク質を産生するように遺伝子操作されている。
【0178】
例えば、融合タンパク質は、三量体赤血球凝集素タンパク質である。任意選択で、赤血球凝集素タンパク質は、植物細胞などの非哺乳動物細胞において産生される。
【0179】
対象は、ウイルス感染を発症するリスクがあるか、又はウイルス感染に罹患している。エンベロープウイルスとしては、例えば、エプスタインバーウイルス、単純疱疹ウイルス1型及び2型、ヒトサイトメガロウイルス、ヒトヘルペスウイルス8型、水痘帯状疱疹ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、インフルエンザウイルス、はしかウイルス、ムンプスウイルス、パラインフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、狂犬病ウイルス、及び風疹ウイルスが挙げられる。
【0180】
本明細書に記載される方法は、ウイルス感染の重症度の低減又は1つ以上の症状の緩和をもたらす。感染は、典型的には医師によって標準的な方法論を使用して診断及び/又はモニタリングされる。免疫化を必要とする対象は、当技術分野で既知の方法によって識別される。例えば、対象は、CDCのGeneral Recommendation on Immunization(51(RR02)pp1-36)に概説されているように免疫化される。がんは、例えば、身体検査、生検、血液検査、又はX線によって診断される。
【0181】
対象は、例えば、任意の哺乳動物、例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、魚、又はトリである。治療は、感染の診断前に施される。代替として、治療は、診断後に施される。
【0182】
治療の有効性は、特定の障害又は感染を診断又は治療するための任意の既知の方法に関連して決定される。障害の1つ以上の症状の緩和は、化合物が臨床的利益を与えることを示す。
【0183】
ワクチンについての抗原タンパク質断片(Antigenic Protein Fragment、APF)の評価
体液性免疫を標的とするワクチン候補は、成功するために以下の少なくとも3つの基準を満たさなければならない:それは、強い抗体応答(「免疫原性」)を誘発しなければならない;それが誘発する抗体のかなりの割合が、病原体と交差反応しなければならない(「免疫原性適合性」);それが誘発する抗体は、防御的でなければならない。免疫原性は、しばしば、アジュバント又は担体を使用して増強され得るが、免疫原性適合性及び防御を誘導する能力(中和によって証明されるような)は、ワクチン成分としてのその抗原の成功を最終的に決定するであろう抗原の固有の特性である。
【0184】
免疫原性適合性の評価
「免疫原性適応度」は、病原体と交差反応する抗原によって誘導される抗体の割合として定義される。(Matthews et al.,J.Immunol.169:837(2002)を参照されたい)。これは、病原体と交差反応しない抗体を含む、抗原によって誘導される全ての抗体の力価によって測定される免疫原性とは異なる。不適切な免疫原性適合性は、おそらく、今日までのペプチドワクチンの期待外れの追跡記録に寄与してきた。高い親和性で抗体に結合し、高い抗体力価を誘発するペプチドは、頻繁に適切な免疫原性適合性を欠き、したがって、それらは潜在的なワクチン成分として失敗する。したがって、インフルエンザワクチン候補を選択するための基準の1つとして免疫原性適合性を含めることが重要である。
【0185】
乏しい免疫原性適合性についての一般的な説明は、ほとんどの短いペプチドの立体構造の柔軟性である。具体的には、柔軟なペプチドは、患者からの抗体によく結合し、投薬を受けていない対象においてかなりの抗体力価を誘発し得る。しかしながら、ペプチドが立体構造の大きなレパートリーを有する場合、投薬を受けていない対象においてそれが誘導する抗体の優勢は、インタクトな病原体上の対応する天然エピトープと交差反応できない可能性がある。
【0186】
短いペプチドと同様に、いくつかのAPFは、非常に柔軟である可能性があり、したがってワクチン成分として機能しない可能性がある。最も免疫原的に適合するAPFは、タンパク質全体の文脈外で本質的に拘束されている自己折り畳みタンパク質サブドメインからなる可能性が高い。
【0187】
免疫原性適合性は、主にAPF自体の特性であり、応答する免疫系の特性ではないので、最終的にAPFがヒトにおいて機能しなければならないとしても、免疫原性適合性を動物モデルにおいて(例えば、マウスにおいて)評価することができる。
【0188】
APFによって達成される免疫原性適合性は、Matthews et al.,J.Immunol.169:837(2002)に記載される手順と同様の手順で、精製されたスパイク又は膜タンパク質を有する抗APF血清の免疫吸着によって評価される。IgGは、免疫化されたマウスから収集した血清から精製される。精製されたビオチン化タンパク質(必要に応じて、マウスを免疫化した特定のAPFに依存する)をマウスIgGと混合し、インキュベートする。次いで、ストレプトアビジンでコーティングされたセファロースビーズを十分な量で添加して、任意の結合IgGとともにビオチン化タンパク質の全てを捕捉する。ストレプトアビジンでコーティングされたビーズを微量遠心機において13000rpmで遠心分離することによって除去し、それぞれタンパク質に対する抗体が枯渇したIgGを残す。モック免疫吸着は、ビオチン化BSAがモック吸着剤としてインフルエンザタンパク質の代わりに置換されることを除いて、同じ方法で並行して行われる。
【0189】
APFの免疫原性適合性を測定するために、吸収された抗体及びモック吸収された抗体を、免疫APFに対するELISAにおいて並行して力価測定する。ファージディスプレイNPLから選択されたAPF親和性について、これらのELISAのための抗原は、精製されたAPF-GST融合タンパク質であろう。NPLを提示する哺乳動物細胞からの潜在的にグリコシル化されたAPFについては、これらのELISAのための抗原は、哺乳動物細胞によって分泌され、プロテインAで精製されたAPF-Fc融合タンパク質であろう。モック吸着抗体と比較して、吸着抗体の抗APF力価の減少率は、APFの免疫原性適合性の尺度を提供する。
【0190】
治療方法
本発明は、インフルエンザウイルス関連疾患又は障害のリスクがある(又は感受性がある)対象を治療する予防的及び治療的方法の両方を提供する。そのような疾患又は障害としては、例えば、鳥インフルエンザが挙げられるが、これに限定されない。
【0191】
予防的方法
一態様では、本発明は、本発明のモノクローナル抗体若しくはscFv抗体又は本発明の方法に従って識別された薬剤を対象に投与することによって、対象におけるインフルエンザウイルス関連疾患又は障害を予防するための方法を提供する。例えば、scFv及び/又はモノクローナル抗体は、治療有効量で投与することができる。任意選択で、2つ以上の抗インフルエンザ抗体が同時投与される。
【0192】
インフルエンザウイルス関連疾患又は障害のリスクがある対象には、感染者と接触した患者、又は何らかの他の方法でインフルエンザウイルスに曝露された患者が含まれる。予防剤の投与は、疾患又は障害が予防されるか、代替としてその進行が遅延されるように、インフルエンザウイルス関連疾患又は障害に特徴的な症状が現れる前に行うことができる。
【0193】
適切な薬剤は、本明細書に記載のスクリーニングアッセイに基づいて決定され得る。代替として、又は加えて、投与される薬剤は、本発明の方法に従って識別されたインフルエンザウイルスを中和するscFv又はモノクローナル抗体である。
【0194】
治療的方法
本発明の別の態様は、患者におけるインフルエンザウイルス関連疾患又は障害を治療する方法に関する。一実施形態では、本方法は、インフルエンザを中和する薬剤(例えば、本明細書に記載のスクリーニングアッセイによって識別される薬剤及び/又は本発明の方法に従って識別されるscFv抗体若しくはモノクローナル抗体)又は薬剤の組合せを、疾患又は障害に罹患している患者に投与することを含む。例えば、本発明の抗体は、例えば、タミフルなどの他の抗ウイルス剤と組み合わせて使用することができる。
【0195】
本発明は、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定しない以下の例に更に記載される。
【実施例】
【0196】
実施例1:単一記憶B細胞の培養物からのインフルエンザウイルスに対するbnAbの単離
広域中和抗体(BnAb)単離手順の概略図を
図1に示す。ヒト記憶B細胞レパートリーからインフルエンザウイルスに対するbnAbを単離するために、本発明者らは、インビトロでのヒト記憶B細胞活性化及び分化を可能にする迅速かつ信頼性のある培養方法を確立した。抗原特異的ヒト記憶B細胞(CD19+CD27+)を、四量体化H3(A/Brisbane/10/07)三量体を使用して、7人の健常ドナーの末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell、PBMC)から単離し、記憶B細胞の0.19%~1.08%のみがH3と反応性であった(表3)。これらのB細胞を1つのウェル当たり1つの細胞の密度で384ウェルプレートに選別し、照射CD40Lトランスフェクト細胞の存在下で培養した。14日後、7人のドナーに由来する1051個(2688個の培養物中39.1%)の培養上清がIgG又はIgMを分泌することが見出され、B型インフルエンザのH3(A/Brisbane/10/07)、H7(A/Canada/RV444/04)、H1(A/California/04/09)、及びHA(B/Malaysia/2506/04)との反応性について順次試験した。このスクリーニングを通して、237個(22.55%)の拡大増殖された記憶B細胞が、H3に結合するIgを分泌することが見出された(表3)。このインビトロ拡大増殖工程は、選別及びRT-PCRのみによる0.61%の回収と比較して、H3反応性B細胞回収において37倍の増加をもたらした(データは示さず)。グループ2の株H3/H7内の交差反応性クローンの平均パーセンテージは、18.14%であった。注目すべきことに、H3結合クローンの13.08%及び8.44%が、それぞれグループ1のH1株及びH7/H1株へのヘテロサブタイプ結合を示した。3.38%のH3反応性(H3+)クローンのみが、B型インフルエンザにも結合することが見出された。次に、ヘテロサブタイプ結合を示した記憶B細胞クローンの上清を、H3N2(A/Brisbane/10/07)に対するマイクロ中和について試験した。H3/H7/H1交差反応性及び中和を示したドナー3に由来する1つのbnAb、3I14を更に特徴付けた。
【0197】
(表3)7人の健常ドナーにおける拡大増殖された記憶B細胞(mB)
*クローン化可能なmBのパーセントは、1051個のIg陽性培養物からのものである。**クローン化可能なmBのパーセントは、237個のH3陽性培養物からのものである
【0198】
3I14は、高度に変異したIGHV3-30コード抗体である
親和性成熟に対する体細胞変異の寄与を評価するために、本発明者らは、3I14 VH及びVL生殖系列バージョン(3I14-GL)、並びに生殖系列(g)軽鎖と対になった成熟(m)3I14重鎖(3I14-mHgL)及びその逆(3I14-gHmL)によって形成されるキメラ抗体を作製した(
図11)。3I14バリアント抗体をヒトIgG1として発現させ、H1、H5、及びH3に対するそれらの結合親和性を評価した(表4及び
図20)。注目すべきことに、3I14-GLバリアントは、nM及びサブnM範囲で依然としてH3及びH1に結合したが、それぞれ、H3に対する結合親和性の15倍超の減少及びH1に対する結合親和性の4.7倍の増加を示した(表4)。H3及びH1に対する3I14-GL結合親和性のこれらの変化は、主に、それぞれ13.9倍又は7.5倍のK
offの増加及び減少によって引き起こされた。興味深いことに、3I14-GLは、これらのアッセイ条件下でH5に結合しなかった。
【0199】
(表4)3I14生殖系列バリアントの結合親和性
(Δ)は、WTと比較した倍増加又は(-Δ)倍減少を示す。
*nは、結合が検出されないことを示す。**は、検出可能な解離がないことを示す。
【0200】
2つのキメラ形態を野生型(WT)3I14と比較すると、3I14のVH及びVLの両方に存在する体細胞変異は、H3結合に同等に寄与するようである(Kd:0.658nM対0.733nM)。加えて、重鎖キメラ及び軽鎖キメラの両方は、1.0E-7s-1未満のKoffでH1への本質的に不可逆的な結合をもたらした。しかしながら、H5の場合、VL変異は、Koffがそれぞれ5.2倍及び2.2倍減少するため、VH変異よりも親和性の増加に寄与する(7.5倍対1.9倍)。これらの研究から、本発明者らは、3I14-GLが、H1に対するより高い親和性結合及びH3に対する中程度の親和性を示し、Koffの変化が、3I14-WTと比較して、動力学的差異に大きく関与していると結論付ける。H5結合について、3I14における体細胞変異は、VH変化よりも結合に大きく寄与するVL変異との結合に絶対的に必要とされる。H1、H3、及びH5への結合親和性の全ての変化は、主に解離速度(Koff)定数の変化の結果である。
【0201】
RT-PCRを使用して、拡大増殖された単一細胞培養物から重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域の配列を回収した。3I14は、IGHV3-30
*18及びIGLV1-44
*01生殖系列遺伝子によってコードされる。再配置された重鎖は、長い相補性決定領域3(HCDR3)(23個のアミノ酸)を有し、VH接合部及びIGHJ4
*02接合部の両方で大きなN付加が隣接するIGHD3-22
*01 DHセグメントを使用する(
図11C及び11D)。3I14 mAbは、フレームワーク及びCDRの両方において観察されるプライマー隣接領域を除いて、15個の可変重鎖及び7個の可変軽鎖体細胞変異を有する。
【0202】
実施例2:3I14は、グループ1及びグループ2のインフルエンザウイルスの両方に結合及び中和を付与する
3I14は、フローサイトメトリーによって、グループ2(H3、H4、H7、H14、及びH15)及びグループ1(H1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H12、及びH16)のA型インフルエンザウイルスの両方の血清型にわたって細胞表面発現HAに結合した(
図2)。3I14はまた、グループ2(H3、H4、H7、及びH14)及びグループ1(H1、H5、及びH9)に属する異なるサブタイプの精製HAタンパク質に、0.01nM~10nMの範囲の解離定数(Kd)で結合した(
図3及び
図15C)。3I14は、全ての試験したグループ2のHA(H3、H4、H7、及びH14)に高い親和性(平均Kd<0.1nM)で結合した。加えて、3I14は、グループ1のH1サブタイプ(H1-CA09、H1-SI06、及びH1-PR8)に高い親和性で結合したが、他のグループ1のサブタイプ(H5-VN04、H5-IN05、及びH9-HK99)に対するその親和性は低かった(それぞれ平均Kd=1.02、1.05、及び5.23nM)。
【0203】
3I14は、2つの再集合体ウイルス株(A/Wisconsin/67/05(HA、NA)×A/Puerto Rico/8/34及びA/Aichi/2/68(HA、NA)×A/Puerto Rico/8/34)及び新規H7N9-AH13株を含む、多数のグループ2(H3及びH7)のウイルスを強力に中和し、50%阻害濃度(IC50)値は、0.032~1.074μg ml-1の範囲であった(
図4及び
図17)。それはまた、偽ウイルスH7N1-FPN及びH7N1-NL219株を中和し、IC50値は、0.007~0.027μg ml-1の範囲であった(
図5B及び
図17)。加えて、3I14は、それぞれ、0.225及び0.413μg ml-1のIC50値でグループ1のH1染色(H1-CA09及びH1-PR8)を(
図5B及び
図10)、0.040及び0.008μg ml-1のIC50値で偽ウイルスH5-VN04及びH5-HK97を中和した(
図5B及び
図17)。
【0204】
実施例3:3I14 IgG1結合(KD値)
組換えHA三量体へのbnAb結合の動態分析を、25℃でOctet(登録商標)RED96装置(ForteBio,Inc.)を使用する生体層干渉法で行った。5nMのbnAb IgG1を、Pierceタンパク質フリーブロッキング緩衝液(Tween-20を含むPBS)中の抗ヒトIgG Fcバイオセンサー上に180秒間捕捉した。組換え全長HAを、6.25~100nMの範囲の濃度で装填した。全ての実験は、HAと抗ヒトIgG Fcとの間の潜在的な非特異的相互作用について試験する追加の抗ヒトIgG Fc抗体バイオセンサーを含んだ。k-onの測定のために、センサーを最大20の濃度のHAに曝露することによって、3I14 IgG1の会合を600秒間測定した。k-offの測定のために、3I14 IgG1の解離を900秒間測定した。親和定数(Kd)を、ForteBio Data Analysis 7.0ソフトウェアを使用して計算した。
【0205】
3I14は、グループ1(H1及びH5)及びグループ2(H3、H4、H7、及びH14)に属する異なるサブタイプの精製HAタンパク質に結合し、Kd値は、0.01nM~10nMの範囲であった(
図3)。3I14は、グループ2のHA(H3、H4、H7、及びH14)のほとんどに高い親和性(平均Kd<0.1nM)で結合した。対照的に、3I14は、高い親和性でH1サブタイプ(H1-CA409、H1-SI06、及びH1-PR8)に結合したが、他のグループ1のサブタイプ(H5-VN04及びH5-IN05)に対するその親和性は、かなり低かった(平均Kd>1nM)。
【0206】
H1サブタイプ A/California/04/09(H1-CA409)、A/Solomon Island/3/06(H1-SI06)、及びA/Puerto Rico/8/34(H1-PR8);H3サブタイプ A/Perth/16/09(H3-PE09)、A/Uruguay/716/07(H3-UY07)、A/Wisconsin/67/05(H3-WI05)、A/Brisbane/10/07(H3-BR07)、A/New York/55/04(H3-NY04)、及びA/Victoria/341/11(H3-VIC11);H5 A/Vietnam/1203/04(H5-VN04)、A/Hong Kong/213/03(H5-HK03)、及びA/Indonesia/05/05(H5-ID05);H7 A/Netherlands/219/03(H7-NL219)、A/Canada/RV444/04(H7-CA444)、及びA/Anhui/1/13(H7-AH13)の組換え全長HAタンパク質(rHA)は、NIH BEIR Repository(NIAID,NIH)から入手した。組換え全長H3 A/Wisconsin/12/2010(H3-WI10)は、Influenza Reagent Resources(IRR、Manassas、USA)から入手した。サブタイプH3 A/Aichi/2/68(H3-A268)、H4 A/mallard/Netherlands/2/05(H4-NL05)、及びH14 A/mallard/Astrakhan/263/82(H14-AS82)の組換え全長HAは、Dr.R.C.Liddington(Burnham Institute for Medical Research、CA、USA)から快く贈与された。
【0207】
実施例4.3I14 IgG1中和(IC50値)
IC50グラフは、2~3回の独立した実験の平均中和力価を示す。3I14を四角で表し、抗グループ1のmAb F10 IgG1(三角で表す)を対照として使用した(
図4及び
図5)。
【0208】
MDCK細胞(1.5×104個の細胞/ウェル)を96ウェル組織培養プレートに播種し、PBSで2回洗浄した後、2μg/mLのトリプシン及び0.5%BSAを補充したDMEM中でインキュベートした。100 TCID50(50%組織培養感染量)のウイルスを、96ウェルプレート中で、Ab又は抗体含有上清の2倍連続希釈物と等体積で混合し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後、Ab-ウイルス混合物をコンフルエントなMDCK単層に二連で移し、続いて37℃で21時間インキュベートした。細胞をPBSで洗浄し、アセトン中で固定し、A型インフルエンザウイルス核タンパク質(Nucleoprotein、NP)に対するmAb(クローンA3、BEI)を用いた間接ELISAによってウイルス抗原を検出した。50%阻害濃度(half maximal inhibitory concentration)(IC50)は、バックグラウンドを差し引いた後にウイルス対照を含有するウェルと比較して、有効性が50%低下したAb濃度である。
【0209】
3I14は、グループ1(H1)及びグループ2(H3及びH7)のウイルスをインビトロで中和した。3I14は、異なるH1、H3、及びH7ウイルスを強力に中和し、IC50値は、0.032~1.336μg/mlの範囲であった(
図4及
図5)。
【0210】
実施例5.グループ1及びグループ2のサブタイプを代表する偽ウイルスの3I14 IgG1中和(IC50値)。
IC50グラフは、2~3回の独立した実験の平均中和力価を示す。3I14を四角で表し、抗グループ1のmAb F10 IgG1(三角で表す)を対照として使用した。
【0211】
3I14は、H7N1-FPN及びH7N1-NL219を強力に中和し、その両方がグループ2の偽ウイルスであり、IC50値は、0.032~1.336μg/mlの範囲であった。それはまた、グループ1の偽ウイルスH5-VN04及びH5-HK97を、それぞれ2.137及び4.601μg/mlの範囲のIC50値で中和した(
図5)。
【0212】
実施例6.マウスにおけるグループ2及びグループ1のインフルエンザウイルスに対する3I14の予防的有効性
本発明者らは、3I14を全長ヒトIgG1に変換して、BALB/cマウスモデルにおけるH5N1、H3N2、H7N7、及びH7N9感染に対する防御的有効性を評価した(
図6)。抗グループ1のAb、F1012を染色特異的対照として使用した。致死用量のH7N7-NL219、H7N9-AH13、H3N2-BR07-ma、及びH5N1-VN04ウイルスでチャレンジする1日前に、マウスを様々な用量の3I14及びF10 IgG1で処置した。5mg kg-1の3I14 IgG1を使用する予防は、H7N7-NL219又はH7N9-AH13チャレンジ後にマウスを死亡から完全に防御し、14~18日目に最小限の体重減少を伴った(
図6A)。25mg kg-1の用量で、3I14 IgG1は、H3N2-BR07に対して80%の防御及びH5N1-VN04に対して60%の防御を示した。全ての生存マウスは、観察期間の終わりまでに体重減少の逆転を示した(
図6b)。5匹のマウスのグループを、H3N2 BR07、H5N1 VN04、H7N9 AU13、又はH7N7 NL219インフルエンザウイルスのi.n.接種によって致死チャレンジする24時間前に、25又は5mg/kgの精製IgGで腹腔内処置した。(A)マウスの生存率(%)、並びに(B)bnAb 3I14(赤色)、グループ1の対照mAb F10(黒色)、及びグループ2の対照mAb A533(青色)で処置した体重変化(%)。
【0213】
実験の1日前に、5匹の雌8~10週齢BALB/cマウスのグループに、3I14、F10、及びA533-IgG1を5mg/kgの低濃度及び20又は25mg/kgの高濃度で、それぞれ0.5mL容量で腹腔内(i.p.)経路により注射した。6つのグループのマウスを、10 LD50のマウス適合A/Vietnam/1203/04(H5N1)、A/Brisbane/10/07(H3N2)、A/Netherlands/219/03(H7N7)、又はA/Anhui/1/13(H7N9)のいずれかで鼻腔内感染させた。ウイルスチャレンジの日にマウスの体重を測定し、次いで生存についてモニターし、14日間又は18日間毎日体重を測定した。承認されたInstitutional Animal Care and Use Committeeプロトコルに従って動物研究を行った。
【0214】
致死量のH5N1-VN04、H3N2-BR07、H7N7-NL219、及びH7N9-AU13ウイルスでチャレンジする1日前に、マウスを様々な用量の3I14、F10(グループ1の対照Ab)及びA533(グループ2の対照Ab)IgG1で処置した。5mg/kg以上の3I14 IgG1を使用する予防は、H7N7-NL219又はH7N9-AU13チャレンジ後にマウスを死亡から完全に防御し、観察期間中の体重減少は最小限であった。これらの結果は、3I14 IgG1が、致死用量のH3N2-BR07でチャレンジした場合にマウスを効果的に防御し(60~80%)、致死用量のH5N1-VN04を受けたマウスを部分的に防御した(20~60%)ことを示す(
図6A)。5mg/kgの3I14 IgG1の用量は、H3N2及びH5N1によって引き起こされる病的状態を予防するために部分的にのみ防御的であったが、全ての生存マウスは、5又は25mg/kgの用量では、観察期間の終わりに体重減少の逆転を示した(
図6B)。
【0215】
実施例7:3I14は、トリプシン媒介性HA成熟及びpH依存性立体構造変化を遮断する
ステム指向性bnAbは、HAのpH依存性立体構造変化及び膜融合に干渉することが知られている
12、14、16。前駆体HA0の切断は、酸性エンドソーム環境における膜融合のその後の活性化のためにHAをプライミングする。未成熟HA0は、通常、呼吸器上皮細胞上の表面プロテアーゼによってHA1及びHA2に処置され
28、29、これは、トリプシンによるHA0の処置によって実験的に模倣される
30。3I14は、HA0切断部位及びHA2 N末端融合ペプチドを含むHAのステムドメインを標的とするので、本発明者らは、3I14がHA0のトリプシン切断活性化を遮断するか、又はHA媒介性ウイルス-宿主膜融合を干渉妨害することもできるかどうかを試験した。
図7は、3I14 IgG1は未成熟HA0の切断を防止したが、対照抗SARS IgG1(Fm-6)は防止しなかったことを示す。本発明者らはまた、表面発現されたH3-A2/68及びH3-BR07を使用して、低pHで誘発される立体構造再配置の3I14による防止を分析した。
図8(上)は、3I14が、トリプシン活性化単独の後(左中央)又は低pHトリガーが続く場合(右中央)のいずれかで、未切断HA前駆体(HA0)(左)及び2つの成熟形態(HA)の両方に結合することを示す。対照的に、それは、DTT還元によって媒介された解離HA2に結合しなかった(右)。3I14が、低pHトリガーの前に成熟HAに事前に結合される場合、抗体は、DTT処置後に結合を維持し(
図8、4番目のパネル)、3I14がpH依存性HA再配置を阻害することを示す(
図8、下)。加えて、E730 Ab(抗HA1)の結合がDTT処置後に保存されたので、3I14の事前結合は、HA1-HA2解離を防止した(
図8、下)。これらのデータから、本発明者らは、HAステムエピトープへの3I14結合が、HA0切断及びpH依存性立体構造変化の阻害をもたらすと結論付ける。
【0216】
実施例8:3I14 IgG1は、表面発現されたH3-A268及びH3-BR07上の低pHで誘発される立体構造再配置を防止した。
表面発現されたH3の立体構造再配置を、3I14(黒棒)及びヘッド結合対照mAb E730(白棒)のFACS染色によって検出した(
図8)。様々な立体配座が対応するグラフの上に示され、以下のとおりであった。未切断前駆体(HA0);トリプシン活性化、切断(HA);低pHトリガー、切断(pH4.9);及びDTT還元三量体HA2(tHA2)。結合は、未処置HA(HA0)への結合のパーセンテージとして表される。抗体阻害アッセイのために、H3を、切断されたHAをpH4.9に曝露する前にmAbなしで、3I14で、又は対照Ab、Fm-6で前処理した。データは、3つの独立した実験の平均+SDを表す。
【0217】
図8に示すように、3I14は、トリプシン活性化及び低pHトリガー後に未切断HA前駆体(HA0)及び成熟形態(HA)の両方に結合したが、DTT還元によって媒介された解離HA2には結合しなかった。3I14は、低pHトリガー前に成熟HAに事前結合していたが、抗体は、DTT処置後も結合したままであり、3I14がpH依存性HA再配置及びその後の膜融合を阻害することが示された。加えて、E730 Ab(抗HA1)の結合がDTT処置後に保存されたので、3I14の事前結合は、HA2からのHA1の解離を防止した。
【0218】
MDCK細胞を、全長組換えA型インフルエンザpcDNA3.1-H3-A268及びH3-BR07プラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクションの約30時間後、0.2%EDTA/PBSを使用して細胞をプラスチック支持体から剥離した。異なるHA構造形態及び立体構造へのmAb結合を測定するために、細胞試料を分割し、各処理ステップ後に3I14又はE730 IgG1(抗H3ヘッド)で染色した。細胞を剥離し、続いてトリプシン(TrypLETM Select Enzyme、Gibco)で、室温で5分間処置し、1%BSA/PBSで洗浄し、クエン酸-リン酸ナトリウム緩衝液pH4.9中で15分間インキュベートし、洗浄し、次いで、PBS中の50mMのジチオスレイトール(dithiothreitol、DTT)とともに室温で20分間インキュベートした。代替として、5μgの3I14又はFm-6 IgG1を低pH工程の前に添加した。その後の処置の試料をAPCコンジュゲート抗ヒトFc(BioLegend,Inc.)で染色した。染色した細胞を、FACS Divaソフトウェア(Becton Dickinson)を備えたBD FACSAriaTM IIを使用して分析した。
【0219】
実施例9:3I14は、Fc依存性ウイルスクリアランスを媒介する
抗ステムbnAbは、インフルエンザウイルス感染細胞のFcγR-依存性細胞傷害を効率的に媒介することが報告されており
31、これは、mAb媒介抗ウイルスクリアランスの主要なメカニズムであると考えられる。3I14及び他の抗ステムbnAbによる抗体依存性細胞傷害(ADCC)の特性を調査するために、本発明者らは、ヒトFcγIIIaを安定に発現する操作されたJurkatエフェクター細胞、及び活性化T細胞の核因子(nuclear factor of activated T-cells、NFAT)誘導性ルシフェラーゼ
32を、標的としてのHA発現293T細胞と一緒に使用して、サロゲートレポーターベースのADCCアッセイをインビトロで行った。H3発現293T標的細胞とのインキュベーション後、3I14は、Jurkatレポーター細胞において、FI6v3、CR9114、39.29、及びグループ2のmAb CR8020を含む他の抗ステムbnAbに用量依存的な様式で、かつ匹敵するレベルで著しいルシフェラーゼ応答を誘導した(
図9)。このアッセイの特異性は、抗グループ1のmAb、F10からの応答の欠如によって実証された。3I14はまた、H5発現293T細胞に対するルシフェラーゼ応答を特異的に誘導したが、FI6v3、CR9114、39.29、及びF10よりも低いレベルであった。本発明者らは、H5発現293T標的細胞に対するCR8020の低い反応性を観察した(
図9)。これらのデータは、3I14がインビボ防御のためのFc依存性免疫媒介メカニズムに関与する可能性も高いことを支持する。
【0220】
実施例10.3I14は、H3又はH5への結合について、他の抗ストークbnAb、FI6、CR9114、39.29、F10、及びCR8020と交差競合する。
ELISAプレート上に固定された5μg/mlのH3-BR07又はH5-VN04タンパク質を、80nM~0.3nMの範囲の3I14 Fabの2倍連続希釈物とともにインキュベートし、5nMの他のscFvFc Abと混合した。1時間の共インキュベーション後、scFvFc Abの結合を、HRP結合抗ヒトCH2抗体を使用して検出した。3I14 Fabは、H3-BR07への結合について、CR8020、CR9114、FI6、及び39.29を含む他の抗ストークAbと交差競合したが、抗HA1抗体であるE730とは競合しなかった(
図10A~
図10D)。3I14はまた、H5-VN04への39.29及びF10の結合を阻害したが、抗ヘッド抗体2Aの結合を阻害しなかった(
図10E~
図10F)。これらの結果は、3I14が、他の抗ストークbnAbの既知のエピトープと重複するか、又はそれに非常に近いHAステム領域中のエピトープを標的とすることを示唆する。
【0221】
実施例11.インビトロでの構造に基づく親和性成熟
H3及びH5への等しくない結合強度についての分子的基礎を特徴付け、並びにH5N1株に対する改善された親和性を有する3I14を操作するために、本発明者らは、最初に、3I14構造のインシリコシミュレーションのための抗体構造予測プログラムBioLuminate
33を使用した。他の3つのIGHV3-30bnAb、FI6v3、39.29、及びMAb 3.1との3I14モデルの重ね合わせを
図12Bに示す。これらの抗体間の主な違いは、HAと接触するループ構造を形成するFI6v3のより長いLCDR1を除いて、HCDR3の立体構造であることが明らかである。
【0222】
次に、3I14モデルを、RosettaDockサーバーを用いてH3三量体構造にドッキングした34。3I14は、H3及びH5への結合についてFI6v3及び39.29と競合し、MAb3.1は、FI6v3及び39.29と同じ保存されたエピトープを占有するので18、本発明者らは、3I14が、H3/H5と相互作用するために、FI6v3、39.29、及びMAb3.1と同様のスキームを採用すると仮定した。これらの3つのAb-HA共結晶構造について、HCDR3は、融合ペプチド及びヘリックスAとの疎水性コアの形成において主要な役割を果たす15、17、18。HAと著しい相互作用をするのではなく、HCDR1及びHCDR2は、結合を促進するためにHCDR3ループを安定化するようである。親水性軽鎖CDR残基はまた、HAと相互作用し、疎水性コアを取り囲むが、軽鎖の配向は、保存されず、残基も結合に関与しない。これらの観察は、軽鎖が、エピトープと相互作用するのに最適な位置にHCDR3を配向させることによって結合に主に寄与することを示唆する。
【0223】
(表5)H3/3I14及びH5/3I14界面での接触残基
【0224】
これらの解明された共結晶構造に基づいて、本発明者らは、1000個のデコイから、3I14/H3(
図13B)及び3I14/H5複合体(図示せず)の最も類似した結合モデルを選択した。なぜ3I14がH5よりも強くH3/H1に結合するかを理解するために、2つの複合体の界面の徹底的な分析を行った(表5)。エネルギー計算
35は、H3モデルにおける3I14軽鎖のD94とK39との間の非常に好ましい結合寄与を示し、これは、電気的反発に起因してH5/3I14モデルにおいてE39がD94から離れて回転している間に塩橋を形成し得、H5結合に好ましくない可能性がある(
図13C)。H5に加えて、E39アミノ酸変化は、グループ1のH2、H6、H11、及びH13染色においても見出される(表6)。別の顕著な変異は、H3位置L38であり、この残基は、いくつかのグループ1の株のためにK/R38に変化している(表6)。しかしながら、結合寄与は、L/K38が、両方のモデルにおいて、HCDR3残基Y104、F105、及びF109と、好ましい~非常に好ましい結合(全好ましい自由エネルギーの約70%)で接触することを示しており、したがって、本発明者らは、これらの残基が、両方のHAへの結合に対して正の効果を有すると考えた。
【0225】
(表6)16個のHAサブタイプ間の3I14エピトープの配列比較
*表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance、SPR)バイオセンサーによって決定されたKd(
図1B)。**フローサイトメトリー(
図2)及び参照16によって決定された相対Kd。
正に荷電した側鎖を有する残基はオレンジ色でラベル付けされ、負に荷電した側鎖残基は青色でラベル付けされている。
【0226】
実施例12:H3三量体モデルのストーク上の3I14エピトープの構造。
図13は、H3のストーク上の3I14エピトープの模式図である。模式図において、3I14の重鎖は、青色で示され、軽鎖は、マゼンタで示される。H3三量体のストークは、サーモン、緑色、及びシアンのような色である。残基の番号付けは、完全にH3又はAb配列に基づく。
【0227】
3I14/H3ドッキング
3I14モデルを、本発明者らのLinuxマシンにインストールされたスタンドアローンソフトウェアとしてのRosettaDockを用いて、H3三量体構造にドッキングした。RosettaDockは、局所高分解能ドッキングを処理し、追加の回転異性体及びループ再配置を可能にするその能力のために選択される。ドッキング前に、3I14モデルをH3/39.29複合体構造内の39.29に重ね合わせた。追加の側鎖回転異性体を加え、高分解能のみのプロトコルを実行した。1000個のデコイを生成し、最良スコアを有するクラスター化モデルを、PyMolを用いて徹底的に分析した。3I14がH3への結合についてFI6と競合することを考慮して、本発明者らは、3I14が、H3と相互作用するために、39.29、FI6及びMab3.1と同じスキームを採用すると仮定した。したがって、最終モデルを選択する際に、以下の基準を適用した:HCDR3、並びに融合ペプチド及びH3のHA2のヘリックスA上の疎水性残基は、密接に接触して、界面に疎水性コアを形成しなければならない;HCDR2及びHCDR1残基は、他の複合体と同様にHCDR3と相互作用する;軽鎖CDRは、主にH3と親水性相互作用する。1000個のデコイからの上位10個のモデルのうち、6つのモデルがこれらの基準に適合し、それらは互いに非常に類似している。したがって、6の中で最良のスコアを有するものを更なる分析のために選択した。
【0228】
実施例13 H3/3I14及びH5/3I14モデルの配列アラインメント及び構造重ね合わせ。
図14Aは、H3、H5、及びB型インフルエンザのステムエピトープの配列アラインメントを示す。
図14Bは、残基38及び39でのH3/3I14及びH5/3I14モデルの構造重ね合わせを示す。H3はシアンとして示され、H5は黄色として示され、H3/3I14モデルからの3I14は青色(重鎖)及び黄色(軽鎖)として示され、H5/3I14モデルからの3I14はオレンジ色として示される。H3残基Leu38及びLys39は、ラベル付けされている。重鎖からの残基F100F及び軽鎖からのD93は、それぞれ38及び39と相互作用し、同様にラベル付けされている。
【0229】
3I14/H5ドッキング
H5/3I14及びB型インフルエンザ/3I14複合体を、3I14/H3複合体と同じ方法でモデリングした。3I14モデル及びH5三量体又はH3三量体の両方をH3/39.29複合体構造に重ね合わせ、2つの構造ファイルをドッキングのための初期モデルとして1つの3I14/H5複合体又は3I14/B型インフルエンザ複合体にマージした。興味深いことに、H3/3I14複合体モデルについて選択されたものと類似のモデルは、H5/3I14及びB型インフルエンザ/3I14複合体の両方についての最良のモデルの中にある。したがって、これらの類似モデルを、更なる分析のための最終モデルとして選択した。
【0230】
より良好なH5結合のための3I14操作
なぜ3I14がH5よりも強くH3に結合するかを理解するために、H3/3I14及びH5/3I14界面の徹底的な分析を行った。全てのエピトープ残基の配列アラインメントにより、最も顕著な変異は、H3におけるL38-K39がH5においてK38-39Eになることであることが示された(
図14A)。L38は、H3/3I14モデルにおける疎水性コアの一部であり、3I14のHCDR3からのF100Fと相互作用する(
図14B)。驚くべきことに、H5/3I14モデルにおけるK38は、帯電したアミン基を溶媒中に向け、脂肪族鎖をF100Fに向けて残すことによって同じ接触を行うことができる。モデルによれば、この変異は、結合親和性に影響を及ぼすことができないようである。対照的に、K39は、H3/3I14モデルにおいて3I14の軽鎖からのD94と接触するが、E39は、電気的反発に起因してH5/3I14モデルにおいてD94から離れて回転している(
図14B)。明らかに、K39E変異はH5結合に好ましくなく、おそらくこれが、3I14がH3と比較して弱いH5への弱い結合を有する理由である。この仮説を試験するために、異なるサブタイプからのHAの38~39位の残基を、3I14に結合するそれらの能力と比較して調べた。L38及びK39を有するHAは、3I14に強く結合し、K38及びE39を有するHAは、より弱い結合を有するという強い相関を明らかにすることができる。まとめると、本発明者らは、3I14の軽鎖におけるD94K変異が、H5に対する3I14の結合優先性を逆転させ、H3に対する結合親和性を低下させるであろうと仮定する。加えて本発明者らは、D94N 3I14バリアントがH3及びH5の両方に等しく十分に結合するであろうと仮定する。相互作用の主要な駆動力がHCDR3からの疎水性相互作用であるため、本発明者らは、D94N変異がH3結合の弱化をもたらすであろうとは予想していない。この位置での相互作用が反発的でない限り、それは、親和性に著しく影響しないはずである。
【0231】
実施例14:3I14 WT及びVLD94N変異 組換えH5-VN04(A)及びH3-PE09(B)へのIgG1結合(KD値)。
3I14 VLD94Nバリアントは、H5に対する結合及び中和活性を改善する
E39及びD94の提唱された反発効果を排除するために、本発明者らは、部位における負電荷の喪失をもたらす単一のAspからAsn(DからN)への変異が、H3及びH5の両方に等しく十分に結合するであろうと仮定した。この構造に基づく修飾を調べるために、本発明者らはまず、WT 3I14及びVLD94NバリアントIgG1の両方の結合親和性を評価した。表3に示されるように、VLD94Nバリアントは、H5への結合親和性をほぼ10倍増加させたが、H3への結合の任意の著しい変化を引き起こさなかった。興味深いことに、H5へのより高い親和性はまた、解離速度の減少によるものであったが、会合速度は等しかった(表7及び
図15)。
【0232】
(表7)3I14 VLD94Nバリアントの結合親和性
【0233】
本発明者らはまた、中和アッセイを実施して、H5偽型ウイルス又はH3感染性ウイルスに対する3I14 VLD94Nバリアントの活性を評価した(
図16C及び
図16D)。3I14と比較して、VLD94Nバリアントは、10倍高い効力でH5-VN04偽ウイルスを中和した(IC
50:8.65ng ml
-1対81.58ng ml
-1)(
図16C)。一方、H3-BR07に対する中和活性は、無傷のVLD94Nバリアントのままであった(IC
50:336.6ng ml
-1対305.4ng ml
-1)(
図16D)。これらの結果は、最適化された3I14 VLD94Nバリアントが、H3に対するその有効性を維持しながら、H5に対する結合及び中和能力の増加をもたらすことを実証する。
【0234】
更なる実験は、3I14が1.96nMのK
d値でH3-PE09に結合する一方で、H3-PE09への3I14 VLD94N変異体の親和性は同様であることを実証した(平均K
d=2.34nM)。D94N変異は、H3結合の弱化をもたらさないが、H5への結合親和性の増加をもたらす(
図15A及び
図15B)。
【0235】
実施例15:3I14 WT及びVLD94N変異体IgG1は、偽型化するウイルスH5N1-VN04及び感染性ウイルスH3N2-BR07を中和する。
図16は、H5N1-VN04及びH3N2-BR07感染ウイルスの中和を示す一連のグラフである。3I14 WT(黒色)及びVLD94N変異体(赤色)は、偽型化するウイルスH5N1-VN04(A)及びH3N2 BR07ウイルス(B)を中和した。抗グループ1のmAb F10(青色)を対照として使用した。これらのデータは、2~3回の独立した実験の平均中和力価を表す。
【0236】
3I14 VLD94N変異体IgG1は、偽ウイルスH5N1-VN04を、3I14 WTよりも高いIC50値で中和したが、それはまた、H3N2ウイルスを同様のIC50値で中和した。
【0237】
実施例16:H5への増加した結合を有する3I14バリアントの単離のための操作された酵母ディスプレイ。
7つの酵母ディスプレイライブラリを、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3、及びLCDR4の残基を無作為化することによって作成した。これらの酵母ディスプレイライブラリを使用して、単鎖3I14バリアントのプールを作製し、これは、選択され、酵母ディスプレイベクターpCTCON2にクローニングされるであろう。単離された構築物は、提示のためのマーカーとして役立つように、抗体のC末端にc-Mycタグを結合するであろう。抗体発現及び表面ディスプレイは、ライブラリをSGCAA培地中で、20℃で24~48時間成長させることによって誘導されるであろう。3I14バリアントの首尾よい提示は、抗c-Myc FITC標識によって検出されるであろう。H5 HAは、蛍光標識で標識され、染色に1時間添されるであろう。未結合の試薬は、洗い流され、標識されたライブラリは、H5 HA陽性クローンについて選別されるであろう。
【0238】
図18に示されるように、3I14 WT-酵母及びCDR-ライブラリの両方は、FACS分析によって実証されるように、C-myc及びH5について陽性であった。二重陽性H5及びc-myc陽性集団は、3I14-WT-酵母ライブラリと比較して、3I14酵母CDRライブラリにおいて0.039%から0.090%に増加した。
【0239】
将来の研究では、陽性クローンを成長させ、再度3回選別して、陽性集団を濃縮するであろう。陽性クローンは、FACS分析によって検証され、配列決定によって識別されるであろう。FACS選別と組み合わせた酵母ディスプレイは、抗体操作に成功することが証明されており、B型インフルエンザHAに結合することができる3I14バリアントクローンを単離するために使用されるであろう。B型インフルエンザHAへの最初の結合剤が識別されると、その後の回のスクリーニングが、多色選別を用いて実施され、すなわち、H3、H5、及びB型インフルエンザHAは、異なる蛍光標識で標識され、三重陽性3I14バリアントが選別されるであろう。
【0240】
実施例17:エピトープマッピング及び結合競合
3I14認識のためのHAのエピトープを調査するために、本発明者らは、Octet(登録商標)RED96装置において全長HA又はHA1サブユニットのいずれかへのその結合活性を評価した。3I14は、三量体全長H3株、A/Perth/16/09(PE-09)に結合したが、そのHA1サブユニットには結合しなかった(
図19)。本発明者らは更に、3I14と他のステム指向性bnAb、FI6v3、CR9114、39.29、F10、及びCR8020との間の結合競合アッセイを行った(
図2)。3I14 Fabは、H3-BR07への他の抗ステムAb CR9114、FI6v3、及び39.29の結合を強く阻害するが、ヘッド指向性抗H3 mAb E730(未発表の抗体配列)では阻害しない(
図10)。3I14はまた、より膜近位のエピトープ14に対して指向されるCR8020と競合する。3I14は、H5-VN04への39.29及びF10の結合を部分的に阻害するが、抗H5ヘッド抗体2A12の結合を阻害しない(
図2e、f)。これらの結果は、3I14が、他のbnAbの既知のステムエピトープと重複しているか、又は非常に近接していることを実証する。加えて、3I14は、H3の強力な阻害剤であり、H5の中程度の阻害剤である。これらの結果は、H3及びH5への3I14結合の親和性測定と一致する。
【0241】
実施例18:材料及び方法
細胞
最近の季節性インフルエンザ予防接種がないと報告された7人の健常な成人の新鮮なPBMCを、IRB承認ヒトプロトコルの下で2012年12月にDFCI Kraft Family Blood Donor Centerで白血球除去輸血中に収集された廃棄「首輪」を使用して得た。メイディン・ダービー・イヌ腎臓細胞(Madin-Darby cainine kidney、MDCK)細胞、293T細胞、及び293F細胞は、American Type Culture collection(Manassas、VA、USA)から入手した
【0242】
組換え赤血球凝集素の調製
H3(A/Brisbane/10/2007)の細胞外ドメイン、残基17~531は、Avitag(アミノ酸配列:GGGLNDIFEAQKIEWHE)、トロンビン切断部位、三量体化T4フィブリチンfoldonドメイン、及び6つのヒスチジン残基を含有するC末端ペプチドを含む融合タンパク質として発現された。融合タンパク質H3-ATTHを293F細胞において発現させ、Ni-NTAアフィニティークロマトグラフィーによって上清から精製した。精製した組換えHAタンパク質を、トロンビン酵素(Novagen、Darmstadt、Germany)によって切断し、次いで、BirA酵素(Avidity、Aurora、CO)を用いて製造業者の説明書に従ってビオチン化した。
【0243】
A/New York/18/09(H1-NY09)、A/Texas/05/09(H1-TX09)、A/Japan/305/57(H2-JP57)、A/Aichi/2/68(H3-A2/68)、A/Brisbane/10/07(H3-BR07)、A/Netherlands/2/2005(H4-NL05)、A/Vietnam/1203/04(H5-VN04)、A/Hongkong/1073/99(H5-HK99)、A/chicken/New York/14677-13/98(H6-NY98)、A/Netherlands/219/03(H7-NL219)、A/turkey/Ontario/6118/68(H8-ON68)、A/HongKong/1073/99(H9-HK99)、A/duck/Memphis/546/74(H11-MEM74)、A/duck/Alberta/60/76(H12-AB76)、A/mallard/Astrakhan/263/1982(H14-AS82)、A/shearwater/West Australia/2576/79(H15-WA79)及びA/black-headed gull/Sweden/2/99(H16-SE06)の全長HA遺伝子をpcDNA3.1ベクターにクローニングし、293T/17細胞にトランスフェクトして、細胞表面発現HAを産生した。
【0244】
H1サブタイプA/California/04/09(H1-CA09)、A/Solomon Islands/3/06(H1-SI06)、及びA/Puerto Rico/8/34(H1-PR8)の組換え全長HAタンパク質;H3 A/Perth/16/09(H3-PE09)、A/Uruguay/716/07(H3-UY07)、及びA/Victoria/341/11(H3-VIC11);H5 A/Vietnam/1203/04(H5-VN04)及びA/Indonesia/05/05(H5-ID05);H7 A/Netherlands/219/03(H7-NL219)、A/Canada/RV444/04(H7-CA444)、及びA/Anhui/1/13(H7-AH13);H9 A/Hong Kong/1073/99(H9-HK99)は、NIH BEIR Repository(NIH、Manassas、VA)から入手した。サブタイプH4 A/mallard/Netherlands/2/05(H4-NL05)及びH14 A/mallard/Astrakhan/263/82(H14-AS82)の組換え全長HAは、Dr.R.C.Liddington(Burnham Institute for Medical Research、CA、USA)から快く贈与された。
【0245】
インフルエンザウイルス及びHA偽型ウイルスの調製
野生型インフルエンザウイルスA/California/4/09(H1N1-CA09)、A/Puerto Rico/8/34(H1N1-PR8)、A/Perth/16/09(H3N2-PE09)、A/Aichi/2/68(H3N2-A2/68)、A/Hong kong/8/68(H3N2-HK68)、A/Sydney/5/97(H3N2-SY97)、A/Brisbane/10/07(H3N2-BR07)、A/Wisconsin/67/05(HA,NA)x A/Puerto Rico/8/34(H3N2)、A/Aichi/2/68(HA,NA)×A/Puerto Rico/8/34(H3N2)、及びA/Nanchang/993/95(H3N2-NC95)をNIH BEIR Repository(NIH、Manassas、VA)から入手し、標準的なウイルス培養技術によってメイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞中で成長させた。動物チャレンジ研究において使用されるA/Brisbane/10/2007-ma(H3N2)は、PR8再集合体ウイルスx-171に由来するマウス適合ウイルスである46。
【0246】
A/Vietnam/1203/04(H5-VN04)、A/Hong Kong/156/97(H5-HK97)、A/Netherlands/219/07(H7-NL219)、A/FPV/Rostock/1934(H7-FPV)の全長HA遺伝子及びH5-VN04のノイラミニダーゼ遺伝子N1(Genbank受託番号AAW80723)を、別々にpcDNA3.1プラスミドにクローニングした。Env偽型ルシフェラーゼレポーターウイルスを、以前に記載されたように12、293T/17細胞中で産生した。簡単に述べると、pcDNA3.1-H5-VN04、H5-HK97、H7-NL219、又はH7-FPVプラスミドを、N1発現プラスミド、pcDNA3.1-N1-VN04、HIVパッケージングベクターpCMVR8.2、及びレポーターベクターpHIV-Lucとともに293T/17細胞に別々に同時トランスフェクトした。ウイルス上清をトランスフェクションの48時間後に採取した。ウイルス力価測定は、POLARstar Omega Microplate Reader(BMG LABTECH、Ortenberg、Germany)を使用してルシフェラーゼ活性を測定することによって評価した。
【0247】
H3結合記憶細胞のFACS選別
新鮮なPBMCを、Ficoll-Paque勾配(GE HealthCare)の使用によって、収集した血液から単離した。CD19+/CD27+B細胞を、ビオチン化H3-ATTH及びアロフィコシアニン(APC)標識ストレプトアビジンで染色した。単一のH3反応性記憶B細胞を384ウェルプレートに選別した。14日間の拡大増殖後、上清を、組換えH1(H1-CA09)、H3(H3-BR07)、及びH7(H7-CA444)HAタンパク質に対する反応性について試験し、Meso Scale Discovery multiplex(MSD、Rockville、Maryland)によって分析した。続いて、反応上清のH3N2-BR07に対する中和活性をインビトロで測定した。全てのH3N2中和抗体を、以前に記載されたように47プライマーを使用して単一細胞RT-PCRによってレスキューした。
【0248】
3I14 scFV及びIgG抗体の発現及び精製
本発明者らは、迅速な単一段階のクローニング手順を使用して、最初に3I14 AbをpcDNA3.1-ヒンジscFvFcミニボディ発現ベクターに移動させ、ヒトIgG1のヒンジ、CH
2、及びCH
3ドメインを有する融合産物としてscFvを生成する
12。精製した3I14 scFvFcを使用して、複数のHA及び異なるサブタイプのウイルスに対する結合及び中和活性を評価した(
図1A~
図1B及び
図2)。全ヒトIgG1については、scFvの遺伝子断片をヒトIgG1発現ベクターTCAE6に別々にサブクローニングした
48。scFvFc又はIgG1を、一過性トランスフェクションによって293F細胞において発現させ、プロテインAセファロースアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。
【0249】
速度論的及びK
d決定
本発明者らは、迅速な単一段階のクローニング手順を使用して、最初に3I14 AbをpcDNA3.1-ヒンジscFvFcミニボディ発現ベクターに移動させ、ヒトIgG1のヒンジ、CH
2、及びCH
3ドメインを有する融合産物としてscFvを生成する
12。精製した3I14 scFvFcを使用して、複数のHA及び異なるサブタイプのウイルスに対する結合及び中和活性を評価した(
図1A~
図1B及び
図2)。全ヒトIgG1については、scFvの遺伝子断片をヒトIgG1発現ベクターTCAE6に別々にサブクローニングした
48。scFvFc又はIgG1を、一過性トランスフェクションによって293F細胞において発現させ、プロテインAセファロースアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。
【0250】
マイクロ中和アッセイ
実験の前に、MDCK細胞(1つのウェル当たり1.5×104個の細胞)を96ウェル組織培養プレートに播種し、PBSで2回洗浄し、次いで2μg/mLのトリプシン及び0.5%BSAを補充したDMEM培地中でインキュベートした。100 TCID50(50%組織培養感染量)のウイルスを、96ウェルプレート中でAb又は抗体含有上清の2倍連続希釈物と等体積で混合し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後、Ab-ウイルス混合物をコンフルエントなMDCK単層に二連で移し、続いて37℃で21時間インキュベートした。細胞をPBSで洗浄し、80%アセトン中で固定し、A型インフルエンザウイルス核タンパク質(NP)に対するmAb(クローンA3、BEI)を用いた間接ELISAによってウイルス抗原を検出した。
【0251】
マウスにおける予防的研究
ウイルスチャレンジ接種の24時間前に、5匹の雌8~10週齢BALB/cマウスの接種グループに、3I14及びF10 IgG1を低用量(5mg kg-1)又は高用量(20又は25mg kg-1)で、それぞれ0.5mL容量で腹腔内(i.p.)経路により注射した。マウスの全てのグループ(n=6)を、A/Vietnam/1203/04(H5N1)、A/Brisbane/10/07-ma(H3N2)、A/Netherlands/219/03(H7N7)、又はA/Anhui/1/13(H7N9)の10 LD50(50%致死量)で鼻腔内感染させた。ウイルスチャレンジの日にマウスの体重を測定し、次いで、臨床徴候についてモニターし、体重を14日間又は18日間毎日記録した。初期体重に対して25%以上の体重減少、又は臨床徴候(無反応性、又は後麻痺肢、運動失調などの重度の神経学的症状)指数に対する4のスコアを生存エンドポイントとして使用した。承認されたInstitutional Animal Care and Use Committeeプロトコルに従って動物研究を行った。
【0252】
抗体結合競合
ELISAプレート上に固定された5μg/mlのH3-BR07又はH5-VN04タンパク質を、80nM~0.3nMの範囲の3I14 Fabの2倍連続希釈物とともにインキュベートし、5nMの他のscFvFc Abと混合した。1時間の共インキュベーション後、scFvFc Abの結合を、HRPコンジュゲート抗ヒトCH2抗体(Life Technologies、Grand Island、NY)を使用して検出し、POLARstar Omega Microplate Reader(BMG LABTECH、Ortenberg、Germany)上でSuper AquaBlue ELISA基質(ebioscience、San Diego、CA)を使用して測定した。
【0253】
トリプシン切断阻害アッセイ
0.4μgの組換えH3-ヒスチジン(H3-ATTH)タンパク質を、2.5μgの3I14若しくは抗SARS Fm-6 IgG1の存在下、又は抗体の非存在下で、100μg ml-1のTrypsin-ultra(New England Biolabs、Ipswich、MA)を含有するpH8.0のTris-HCl緩衝液中、37℃でインキュベートした。トリプシン消化は、1%BSAの添加によっていくつかの時点で阻害された。試料を還元条件下で12%還元SDS-PAGEゲル上で泳動させ、HisProbe-HRP及びSuperSignal West HisProbeキット(Pierce Biotechnology、Rockford、IL)を使用してブロットした。
【0254】
立体構造変化FACSアッセイ
293T/17細胞を、全長組換えA型インフルエンザpcDNA3.1-H3-A2/68及びH3-BR07プラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクションの約30時間後に、0.2%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を使用して細胞を培養容器から剥離した。異なるHA構造的立体構造へのmAb結合を測定するために、細胞試料を異なる処置に曝露し、アリコートに分け、3I14又はE730 scFvFc Abで染色した。剥離した細胞を、室温で5分間トリプシン(Gibco、Grand Island、NY)で連続的に処置し、1%BSA/PBSで洗浄し、クエン酸-リン酸ナトリウム緩衝液pH4.9中で15分間インキュベートし、洗浄し、次いでPBS中の50mMのジチオスレイトール(DTT)とともに室温で20分間インキュベートした。代替として、5μgの3I14又は抗SARS Ab Fm-6 IgG1を、低pH工程の前に添加した。連続処置の試料をAPCコンジュゲート抗ヒトFc(BioLegend、San Diego、CA)で染色した。染色された細胞を、FACS Divaソフトウェア(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NY)を備えたBD FACSAria(商標)IIを使用して分析した。
【0255】
抗体依存性細胞傷害アッセイ
ADCCレポーターバイオアッセイは、エフェクター細胞として、FcγRIIIa受容体を安定に発現する操作されたJurkat細胞、V158(高親和性)バリアント、及びホタルルシフェラーゼの発現を駆動するNFAT応答エレメントを使用する(Promega)。ADCCにおける抗体生物学的活性は、NFAT経路活性化の結果として産生されるルシフェラーゼを介して定量化され、エフェクター細胞におけるルシフェラーゼ活性を発光読み出しで定量化する。標的細胞として、1×104個/ウェルのH3又はH5発現293T細胞をアッセイ前に平底96ウェルプレートに付着させ、次いで、培地を低IgG血清アッセイ緩衝液(0.5%低IgG FBSを含むRPMI 1640)と交換した。scFvFc抗体を、1、0.2、及び0.04μg ml-1の最終濃度で各ウェルに添加した。1時間後、Jurkatエフェクター細胞を、低IgG血清アッセイ緩衝液中のアッセイプレートに6.0×104個/ウェルで添加し、6時間インキュベートした。上清を300×gでの遠心分離によって回収し、POLARstar Omega Microplate Reader(BMG LABTECH、Ortenberg、Germany)によって490nmでBio-Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイキット(Promega、Madison、WI)を使用して測定した。
【0256】
図9Bについての追加のADCC方法を以下に記載する。ADCCアッセイを、健常なヒトドナー由来の新鮮なPBMCを用いて、HA発現293T細胞に対して行った。ADCC活性を、ラクトースデヒドロゲナーゼ(lactose dehydrogenase、LDH)放出アッセイ(Pierce Biotechnology、Rockford、IL)によって決定した。収集した血液から、Ficoll-Paque勾配(GE HealthCare)の使用によって、エフェクター細胞としての新鮮なPBMCを単離した。標的細胞として、2×10
4個/ウェルのH3又はH5発現293T細胞をアッセイ前に固体丸底96ウェルプレートに付着させ、次いで、培地を低IgG血清アッセイ緩衝液(0.5%低IgG FBSを含むRPMI 1640)と交換した。scFvFc抗体を10、5、2.5、及び1.25μg ml
-1の最終濃度で各ウェルに添加した。1時間後、PBMCを、低IgG血清アッセイ緩衝液中のアッセイプレートに1.2×10
5個/ウェルで添加し、6時間インキュベートした。上清を300×gでの遠心分離によって回収し、Benchmark Plus Reader(Bio-Rad、Hercules、CA)によって490nm及び680nmでLDH細胞傷害アッセイキット(Pierce Biotechnology、Rockford、IL)を使用して測定した。LDH活性を、490nmの吸光度読み取り値から680nmの吸光度値(バックグラウンド)を差し引くことによって決定した。細胞傷害性のパーセントを、%細胞傷害性=100×(E-SE-ST)/(M-ST)として計算した。E、抗体を含むE/T培養物から放出されたLDH;SE、エフェクターから自発的に放出されたLDH;ST、標的から自発的に放出されたLDH;M、溶解した標的から放出された最大LDH。データは、3回の独立した実験からの代表的な実験を表し、全ての試験を3回実施した。データは、3回の独立した実験からの代表的な実験を表し、全ての試験を3回実施した。
【0257】
配列分析
全長A型インフルエンザHA配列は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)データベースのインフルエンザウイルスリソースからダウンロードした。系統発生(Phylogenetic、PHYML)ツリーは、Geneiousソフトウェアを使用するそれらのアミノ酸配列比較に基づく。新しいbnAbである3I14を、IMGTデータベース(http://imgt.cines.fr)を使用して、生殖系列遺伝子使用、体細胞変異、Nヌクレオチド挿入、並びに同族可変重鎖(VH)及び軽鎖(VL)遺伝子対について分析した。単一又は複数の生殖系列変異が生殖系列に復帰した抗体バリアントを合成(Genewiz、South Plainfield、NJ)によって産生し、配列決定によって確認した。F10、FI6v3、CR9114、CR8020、及び39.29のVH及びVK配列は、Protein Data Bank(PDBアクセッションコード)を通じて入手し、対応する遺伝子を合成し、一過性トランスフェクションによって発現させた。
【0258】
インシリコ構造モデリング
3I14を、BioLuminate中の抗体モデリングモジュールを使用して相同性モデリングした。RosettaDockとドッキングする前に、モデルをH3/FI6複合体構造に重ね合わせた。側鎖及びループ再配置を可能にして、高分解能ドッキングのみを行う。1000個のデコイを各ドッキングについて生成し、RMSD値に基づいてクラスター化した。最終モデルを、クラスターサイズ及び結果セッションに記載された基準に基づいて選択した。
【0259】
実施例19:改善された安全性のためのインフルエンザモノクローナル抗体の抗体操作
インフルエンザに対する有効性を保持しながら、Fc操作を使用して安全性を改善するための抗体修飾が、本明細書において報告される。
【0260】
例えば、
図21は、INFV A/PR8(H1N1)(2018)のインビトロ中和を示す。
図22は、BALB/c H1N1モデル(2018)におけるマウスのインビボ防御を示す。
図23は、マウスにおける抗体依存性感染増強研究を示す(ウイルス負荷)(2019)。
図24は、マウス対H1N1(予防的-2019、治療的-2020)の予防的及び治療的防御を示す。
図25は、マウス対H3N2(2020)の予防的及び治療的防御を示す。
【0261】
mAb 3I14などの抗体は、インフルエンザを中和し、インフルエンザに対する防御を提供する(例えば、国際公開第2016/164835号を参照されたい)。本明細書において、本発明者らは、mAb 3I14が、Fcガンマ受容体に結合しない変異したFc領域を有することによって、例えば、234位及び235位におけるロイシンのアラニンへの修飾(LALA修飾)によって修飾され得ることを記載する。mAb 3I14の修飾バージョンは、インフルエンザに対する有効性を保持する一方で、抗体依存性感染増強を防止する。これらは驚くべき結果であり、なぜなら、Fcを修飾することがインフルエンザに対する有効性の喪失をもたらすであろうということが一般に予想されていたからである。3I14の修飾バージョンは、インフルエンザに対するmAb治療薬及び予防薬を開発するための新規の改善されたアプローチを表す。
【0262】
3I14のFc修飾バージョンは、A型インフルエンザ感染を治療(療法)及び防止(予防)するための対策として開発することができる。
【0263】
実施例20:mAb 3I14 LALA抗体
理論に束縛されることを望むものではないが、3I14から開発される実用的かつ安全な生成物は、234~235位のロイシンからアラニンへの置換(LALA置換)で操作されたバージョンであり得る。LALA置換は、Fcγ受容体への抗体の結合を防止し、それによってインフルエンザの抗体依存性感染増強(ADE)を防止する。ADEは、抗体のサブ中和レベルがFc媒介性エンドサイトーシスを介して感染を増強する効果である。ADEは、インフルエンザを含む多数のウイルスについて観察されており、インフルエンザ抗体生成物に関する安全上の懸念である。LALA操作バージョンは、この安全性リスクを回避する。
【0264】
以前に、LALA修飾を有する広域結合HA抗体が、A型インフルエンザのグループ1及びグループ2の両方からのインフルエンザウイルスに対する防御を達成することができることは、以前に示されていなかった。
【0265】
実施例21
追加の抗体Fc操作。3I14は、Fcγ受容体への結合を防止し、INFVの中和又は有効性を低下させることなくINFVの抗体依存性感染増強(ADE)を回避するために、Fc領域中の234位及び235位における2つのロイシン-アラニン置換(LALA置換)で操作した[1][2][3][4][5][6][7]。この操作された抗体を3I14 LALAと命名する。野生型3I14抗体を3I14と命名する。
【0266】
3I14 LALAは、前臨床スクリーニングにおいて安全である。3I14 LALA薬物動態(pharmacokinetics、PK)及び生物学的利用能を、IV及びIP経路の両方について評価した。IV及びIP経路による3I14 LALAのt1/2は、それぞれ98時間及び232時間であった。IV及びIP経路による3I14 LALAのTmaxは、それぞれ0.083時間及び24時間であった。3I14 LALA IV及びIPのCmaxは、18.4μg/mL及び8.4μg/mLであった。生物学的利用能IV及びIP経路は、1,376μg/mL*時間及び1,804μg/mL*時間であった。
【0267】
ADEの回避。抗体依存性感染増強(ADE)は、抗体のサブ中和レベルがFc媒介性エンドサイトーシスを介して感染を増強する、十分に研究された現象である[3][4][8][9][10][11][12][13][6][14][15]。いくつかのmAbの第2相臨床INFVチャレンジ研究は、ADEの可能性を示し、したがって、新しい候補の必要性を示す[16][17]。モノクローナル抗体は、抗体用量及びウイルスチャレンジ株に依存してADEを媒介することができ、これは、疾患を悪化させ、重篤なインフルエンザで入院している患者を治療する場合に安全性リスクをもたらし得る。
【0268】
ADEの現象は、インフルエンザ、コロナウイルスなどを含む多数のウイルスにとってより大きな関心事であり得る。SARS-CoV大発生及びSARS-CoV-2パンデミックが起こった今、研究は、抗体が疾患を悪化させる可能性を支持する[18][19][20][21]。したがって、ADEを回避するためのアプローチは、パンデミック対策としての受動免疫療法及びワクチンの開発及び展開中に強く考慮されるべきである[22]。3I14 LALAは、任意の潜在的なインビボADE活性の回避を可能にするためにFc領域に導入されたLALA置換を有する安全設計を有する。これは、他の臨床候補とは対照的である。
【0269】
本発明者らの3I14 LALA抗体は、Fcγ受容体への結合を防止するためにFc領域にLALA置換を作製することによって3I14から操作されたており、これによって、効力を低下させることなくADEを回避する。インビトロ及び動物研究からのデータは、3I14 LALAが3I14と同様の効力を有することを示す。インビボデータは更に、3I14 LALAによるADEの回避を示す。マウスにおける本発明者らの研究において、肺組織における約2倍増加したウイルス力価を、3I14 LALAと比較して、中程度の低用量レベルの3I14で処置された動物において測定した。
【0270】
3I14 LALAは、抗体依存性感染増強(ADE)を回避する。H1N1感染マウスのウイルス負荷研究において、3I14 LALAでの処置は、対照と比較して肺におけるウイルスレベルの増加を示さなかった。しかしながら、3I14で処置したマウスは、ウイルスレベルが、ADEに典型的なパターンで、中程度の低用量レベルで約2倍増加したことを示した。3I14 LALA及び3I14は両方とも、予想通り、5mg/kg以上の高用量でウイルスレベルの低下を示した。
【0271】
3I14 LALAの効力、広範囲の活性、並びにADE及びウイルス耐性の回避は、他のINFV抗体候補と比較して有利である。例えば、VisterraのVIS410は、H7N9に対する有効性が限定されている[23][24][25]。加えて、MedImmune及びGenentechによるヒトIgGモノクローナル抗体を評価する最近のヒト臨床研究は、いくつかの場合において、3.6又は8.4gまでの非常に高用量の試験抗体を用いて、ADEがインビボで役割を果たし得ることを示した。MedImmuneのMEDI8852は、750mg用量で投与された場合にウイルス排出の増加を示し[16]、ADEに対する潜在的な感受性を示した。MedImmuneは、2019年後半に、インフルエンザ感染に対する単剤療法及びオセルタミビル併用療法第2相試験を中止した。
【0272】
臨床試験におけるGenentech mAb 81.39a MHAA4549A/Gedivumabは、400及び3600mgでウイルス量の低減を示したが、1200mgでウイルス量の増加を示した[17]。この研究の著者らは、これが患者応答における不均一性及び研究された小集団に関連し得ると主張するが、別の仮説は、中間用量レベルでのADEとの抗ウイルス効果の競合であり得る。MHAA4549A(Gedivumab)は、168人の参加者による最近の第2相試験[26]において、最大8400mgのMHAA4549Aと組み合わせたオセルタミビルを評価し、抗体グループが、O2又は人工呼吸支援の増加、任意の原因によるより高い死亡率、抗体を伴う又は伴わない同様のウイルス負荷、及び抗グループにおけるウイルス排出期間の増加を必要としたことを示した。抗体は、会社のパイプラインに列挙されておらず、Q1 2020で中止されている可能性がある。グループからの他のINFV mAbもまた、以前に臨床試験において好ましくない結果に遭遇した[26]。Functional GeneticsのFGI-101-1A6及びTheracloneの(Altimmuneより入手)TCN-032は、保留状態であることが示されている。Celltrion(韓国)のCT-27抗HA幹抗体候補は、60kgの個体において5,000mgを超える非常に高い用量(90mg/kg)で使用されたが、症状及び熱緩和の時間が約2日短縮されたと発表された第2b相に達している。
【0273】
Visterra/Takeda Pharmaceuticalsは、A型インフルエンザ赤血球凝集素のステム領域に結合するように操作されたヒトIgG1 mAbである抗体VIS410についての共同研究を発表した。最近の第2a相臨床チャレンジ研究では、2300mg又は4600mgのVIS410の安全性、忍容性、薬物動態、及び抗ウイルス活性が、A/California/07/2009(H1N1)インフルエンザウイルスに感染した他の点では健常な成人ボランティアにおいて評価された[27]。全症状の消散までの時間は、VIS410処置対象とプラセボ処置対象との間で同様であり、VIS410処置では消散までの時間がより速くなる傾向があった。更に、インフルエンザ様症状は、抗体とプラセボとの間で等しく起こり、何人かのレシピエントは、重度の痙攣、下痢、又はその両方を経験し、経口ラニチジン(150mg)、モンテルカスト(10mg)、又はイブプロフェン(600mg)のいずれかの単回用量と組み合わせた抗ヒスタミンベースのレジメンによる前処置予防の組み込みをもたらした。急性炎症応答は、VIS410処置がIL-8及びTNFαのより高い血清濃度と関連していることを示した。半減期は、比較的短かった(11.5日)。Visterraは、A型インフルエンザと診断された入院患者において2018年11月に第2相試験を完了し、オセルタミビル単独と比較したVIS410+オセルタミビルの2つの用量レベルを評価した[28]。
【0274】
これらの他の抗体はいずれも、3I14 LALAのFcバリアントを有さない。3I14 LALAはまた、HAステム上の疎水性溝内の5つ全てのサブポケットを認識する際に特有の結合パターンを有する。3I14 LALAは、第2のHAプロトマーの大きな表面積に及ぶ軽鎖フレームワーク領域(light chain framework region、LFR)3領域を含み、グループ1及びグループ2のHAの両方を同様に認識する。3I14 LALAは、約1000Å2の総界面面積を埋め込み、3I14 LALA重鎖と軽鎖との間に均一に広がり、隣接するプロトマーにも結合するLFR3によって独自に寄与される。
【0275】
ADEの回避の必要性。抗体依存性感染増強(ADE)は、抗体のサブ中和レベルがFc媒介性エンドサイトーシスを介して感染を増強する、十分に研究された現象である[3][4][8][9][10][11]。様々なウイルスが、宿主細胞を感染させるための代替的な方法として、免疫媒介性感染、特にADEを利用することが知られている。例としては、デング熱、MERS、SARS、サイトメガロウイルス、HIV、FCoV、及びインフルエンザが挙げられる[29][30][31][32][33][34][35][36]。FDA/Scrippsによるインフルエンザチャレンジ研究において、異なる用量のモノクローナル抗体で前処置され、続いてH3N2インフルエンザウイルスでチャレンジされたマウスは、抗体用量依存的様式で、増強された肺病理の形態でADEを示した[37]。
【0276】
ワクチン接種のレシピエントに関連する2009年のH1N1インフルエンザパンデミック発生の間に、及び歴史的なH3N2発生から保持された肺組織試料において、他の点では健常な成人における重度の疾患の証拠が観察され、その結果は、致死的症例の肺における交差反応性低アビディティ非防御抗体及び補体活性化を示唆している[3]。INFV ADEの証拠は、ワクチン接種されたブタにおける抗HA2抗体の誘導がウイルス融合及び疾患の増強をもたらすことを示す研究によって更に支持された[4]。
【0277】
新規の2009 H1N1ブタA型インフルエンザウイルスは、San Diego Countyにおける軍事受益者の間で重大な大発生を引き起こし、これには、過去12ヶ月間に一致しないインフルエンザ予防接種を受けた海軍船上の重大な症例群が含まれる。H1N1ウイルス感染を有するメンバーは、H1N1ウイルス感染を有さないメンバーよりもインフルエンザ予防接種を受けた可能性が高かった[12]。同様に、別の研究において、2008-09のミスマッチTIV(Trivalent inactivated influenza vaccine、三価不活化インフルエンザワクチン)の以前の受容が、カナダにおける2009年の春から夏の間に受診要するpH1N1疾患のリスクの増加と関連していたことが報告された[13]。
【0278】
いくつかのmAbの第2相臨床INFVチャレンジ研究の公開された結果は、ADEの可能性を示唆し得、したがって、新しい候補の必要性を例示する[16][17]。Medimmune(AstraZeneca)mAb MEDI8852は、750mg用量で投与された場合、ウイルス排出のわずかな増加を示した[16]。Genentech mAb MHAA4549A/Gedivumabは、400及び3600mgでウイルス量の低減を示し、ウイルス量は1200mgで増加した[17]。
【0279】
0.01MOIのINFV A/PortChambers/1/73(A/PC、H3N2)を中和濃度未満のマウス抗A/PC免疫血清と混合した後、Fc-rec陽性マウスP388D細胞のインフルエンザ感染の25倍増加が実証された。Fcドメインを欠く抗体F(ab’)2断片は、ウイルス感染のFcγ受容体媒介性ADEと一致して、用量依存的な感染の増加なしに細胞防御をもたらした[6]。健常な成体マウスへのH1N2抗Envエピトープ[14]マウス血清の受動移入を含む研究は、ウイルスチャレンジ後のレシピエントの生存の減少をもたらし、H1N1(H1N1 A/California/04/2009)ウイルスチャレンジ後の防御効果よりもむしろ死亡促進効果を示唆した[15]。
【0280】
コロナウイルス(CoV)を含む他のウイルスによるADEに注目した同様の報告が公開されている。SARS-CoV処理されたマクロファージを有する死亡したSARS患者からの血清は、サイトカインの産生の増加を引き起こしたが、血清単独で処置した細胞では増加を引き起こさなかった。この産生は、FcγR遮断抗体の存在下で著しく低減した[18]。抗S-IgGは、中国マカクのSARS-CoV感染中の急性肺損傷において有害であることが示され、SARSワクチンを与えられたマウスは、SARS-CoVによるその後のチャレンジ後に病的肺損傷をもたらした[19][20]。
【0281】
いくつかのエピトープに対するモノクローナル抗体は、防御的であることが報告されているが、他のエピトープを標的とするmAbは、ADEをもたらし得る[38][34][39][40][37]。したがって、抗ウイルス治療剤としてmAbを開発する間、注意が払われるべきである。モノクローナル抗体は、抗体用量及びウイルスチャレンジ株に依存してADEを媒介し得、これは、重篤なインフルエンザで入院している患者を治療する場合、潜在的に疾患増悪及び安全性リスクをもたらし得る[37]。
【0282】
データ:
H5N1株A/VN/1203/04でチャレンジされたマウスは、10~40mg/kgの3I14 LALA予防的(チャレンジ前)用量で70~90%の生存率を有した。ウイルスチャレンジの24時間後に3I14 LALAで治療的に処置されたマウスは、10~40mg/kgの用量で70~100%の生存率を示した。
【0283】
INFV単離物の3I14 LALA中和
A)3I14 LALA及び3I14を、MDCK-SIAT1細胞におけるインフルエンザA/PR8/8/1934(H1N1)のインビトロ中和について比較した。このアッセイにおいて、0.1μgの3I14 LALA又は3I14は、8.6(Log10)PFUのウイルスの99%超を中和することができた。
【0284】
B)INFV-Aのグループ1及びグループ2のウイルス株に対する3I14 LALA中和の幅及び効力を、プラーク低減中和アッセイを使用して追加のインビトロ研究において試験した。これらの最近の研究において評価された株は、H1N1、グループ1のウイルス:A/Mississipp1/03/2001、A/Perth/261/2009、A/Texas/36/1991、及びH3N2、グループ2のウイルス:A/Hong Kong/01/1968、A/Philippines/02/1982、A/Victoria/03/1975であった。結果:より最近の単離物を含む、評価したINFV-Aの株は、インビトロでのAV-1中和に対して感受性である。AV-1は、これらの研究において、0.195~0.991μg/mLの範囲の濃度で、試験した全てのウイルスの50%中和を示した(それぞれ、H1N1 0.231、0.419、0.336、及びH3N1 0.005、0.991、0.196μg/mL)
【0285】
C)3I14 LALAを、オセルタミビル感受性wtウイルス、及びノイラミニダーゼ糖タンパク質の274位(274Y)にチロシンを担持する-すなわち、H274Y置換を担持する耐性バリアントウイルス(以前の季節性H1N1;A/New Caledonia/20/99様)として入手可能な、INFV株A/Mississipi/3/2001を中和する能力について試験した[92]。3I14 LALAは、以下の表に示すように、感受性株及び耐性株の両方を等しいレベルで中和する。
【0286】
【0287】
ADEの回避
本発明者らは、3I14 LALAがADEを回避することを示した。H1N1のマウスウイルス血症研究において、3I14 LALAで処置したマウスは、対照と比較して、肺におけるウイルスレベルの増加を示さなかった。しかしながら、3I14で処置したマウスは、ウイルスレベルが、ADEに典型的なパターンで、中程度の低用量レベルで約2倍増加したことを示した。3I14 LALA及び3I14は両方とも、予想通り、5mg/kg以上の用量でウイルスレベルの低下を示した。データを以下の図に示す。
【0288】
高病原性INFV Aに対する3I14 LALAの治療有効性
H5N1:予防的処置を、高病原性INFV H5N1 A/VN/1203/04の鼻腔内(IN)チャレンジの1時間前に腹腔内(IP)注射を介して施した。研究は、6~8週齢の雌BALB/Cマウスの4つのグループ(n=10)からなった。0日目に、全てのマウスを、鼻腔内(IN)経路を介してH5N1 A/VN/1203/04でチャレンジして、平均生存によって測定される予防的用量反応を決定した。3I14 LALAで処置したマウスは、10、25、又は40mg/kgの用量で70~90%の生存率を示した。
【0289】
H5N1:治療的処置を、高病原性INFV H5N1 A/VN/1203/04の鼻腔内(IN)チャレンジの24時間後に腹腔内(IP)注射を介して施した。研究は、6~8週齢の雌BALB/Cマウスの4つのグループ(n=10)からなった。3I14 LALAで処置したマウスは、10、25、又は40mg/kgの用量で70~100%の生存率を示した。
【0290】
これらの研究は、INFN-A H5N1からの防御のために予防的又は治療的に投与された3I14 LALA後の好ましい有効性を示す。
【0291】
本発明者らは、3I14 LALA対INFV H7N9のマウス研究を、INFV-A H5N1と同じ研究設計を用いて完了するであろう。
【0292】
【0293】
他の実施形態
本発明は、その詳細な説明とともに記載されたが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を例示することを意図しており、限定することを意図していない。他の態様、利点、及び変更は、以下の特許請求の範囲内である。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】