(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】抗ILT4かつ抗PD-1である二重特異性構築物
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20241106BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20241106BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20241106BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241106BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20241106BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20241106BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20241106BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20241106BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20241106BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20241106BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20241106BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20241106BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20241106BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241106BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20241106BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12Q1/02
A61K39/395 N
A61P37/04
A61P43/00 107
A61P35/00
A61P17/00
A61P1/04
A61P15/00
A61P13/12
A61P43/00 105
A61P1/02
A61P11/02
A61P11/04
A61P11/00
A61P13/10
A61P13/08
A61P21/00
A61K39/395 D
A61K45/00
A61P25/00
C12N15/13
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527129
(86)(22)【出願日】2022-11-08
(85)【翻訳文提出日】2024-06-24
(86)【国際出願番号】 US2022079442
(87)【国際公開番号】W WO2023091865
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/129380
(32)【優先日】2021-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】515268102
【氏名又は名称】セルデックス セラピューティクス インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】524170234
【氏名又は名称】バイオシオン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ケラー ティボル
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドスタイン ジョエル
(72)【発明者】
【氏名】マーフィー マイケル
(72)【発明者】
【氏名】オニール トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィターレ ローラ エー.
(72)【発明者】
【氏名】チェン ミンジウ
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QR48
4B063QR77
4B063QS33
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZA011
4C084ZA341
4C084ZA591
4C084ZA661
4C084ZA671
4C084ZA811
4C084ZA891
4C084ZA941
4C084ZB091
4C084ZB211
4C084ZB221
4C084ZB261
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB36
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045CA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
抗ILT4かつ抗PD-1である新規の二重特異性構築物、ならびに対応する組成物が、本明細書において提供される。構築物または組成物を投与することによる、免疫応答を誘導または増強する方法およびがんを処置する方法もまた、説明される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)抗ILT4結合ドメインが、以下:
(i)コンセンサス配列:
またはその保存的配列改変種より選択される、重鎖可変領域CDR1アミノ酸配列;
(ii)SEQ ID NO: 3に示される重鎖可変領域CDR2アミノ酸配列またはその保存的配列改変種;
(iii)コンセンサス配列:
またはその保存的配列改変種より選択される、重鎖可変領域CDR3アミノ酸配列;
(iv)コンセンサス配列:
またはその保存的配列改変種より選択される、軽鎖可変領域CDR1アミノ酸配列;
(v)コンセンサス配列:
またはその保存的配列改変種より選択される、軽鎖可変領域CDR2アミノ酸配列;および
(vi)SEQ ID NO: 8に示される軽鎖可変領域CDR3アミノ酸配列またはその保存的配列改変種
を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインが、以下:
(i)SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 36、およびSEQ ID NO: 41にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、もしくはその保存的配列改変種、ならびにSEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 51、およびSEQ ID NO: 56にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、もしくはその保存的配列改変種;または
(ii)SEQ ID NO: 69、SEQ ID NO: 74、およびSEQ ID NO: 79にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、もしくはその保存的配列改変種、ならびにSEQ ID NO: 84、SEQ ID NO: 89、およびSEQ ID NO: 94にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、もしくはその保存的配列改変種
を含む、
抗PD-1結合ドメインに連結された抗ILT4結合ドメインを含む、二重特異性構築物。
【請求項2】
(a)抗ILT4結合ドメインが、以下:
(i)SEQ ID NO: 11、SEQ ID NO: 13、およびSEQ ID NO: 15にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、もしくはその保存的配列改変種、ならびにSEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、およびSEQ ID NO: 18にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、もしくはその保存的配列改変種;または
(ii)SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 3、およびSEQ ID NO: 5にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、もしくはその保存的配列改変種、ならびにSEQ ID NO: 10、SEQ ID NO: 11、およびSEQ ID NO: 12にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、もしくはその保存的配列改変種;ならびにSEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、およびSEQ ID NO: 8にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、もしくはその保存的配列改変種
を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインが、以下:
(i)SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 36、およびSEQ ID NO: 41にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、もしくはその保存的配列改変種、ならびにSEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 51、およびSEQ ID NO: 56にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、もしくはその保存的配列改変種;または
(ii)SEQ ID NO: 69、SEQ ID NO: 74、およびSEQ ID NO: 79にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、もしくはその保存的配列改変種、ならびにSEQ ID NO: 84、SEQ ID NO: 89、およびSEQ ID NO: 94にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、もしくはその保存的配列改変種
を含む、
請求項1記載の二重特異性構築物。
【請求項3】
(a)抗ILT4結合ドメインが、SEQ ID NO: 11、SEQ ID NO: 13、およびSEQ ID NO: 15にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにSEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、およびSEQ ID NO: 18にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインが、SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 36、およびSEQ ID NO: 41にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにSEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 51、およびSEQ ID NO: 56にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む、
請求項1または2記載の二重特異性構築物。
【請求項4】
(a)抗ILT4結合ドメインが、以下:
(i)SEQ ID NO: 19に示される重鎖可変領域アミノ酸配列もしくはそれと少なくとも95%同一である配列、およびSEQ ID NO: 20に示される軽鎖可変領域アミノ酸配列もしくはそれと少なくとも95%同一である配列;または
(ii)SEQ ID NO: 9に示される重鎖可変領域アミノ酸配列もしくはそれと少なくとも95%同一である配列、およびSEQ ID NO: 10に示される軽鎖可変領域アミノ酸配列もしくはそれと少なくとも95%同一である配列
を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインが、以下:
(i)SEQ ID NO: 59に示される重鎖可変領域アミノ酸配列もしくはそれと少なくとも95%同一である配列、およびSEQ ID NO: 60に示される軽鎖可変領域アミノ酸配列もしくはそれと少なくとも95%同一である配列;または
(ii)SEQ ID NO: 61に示される重鎖可変領域アミノ酸配列もしくはそれと少なくとも95%同一である配列、およびSEQ ID NO: 62に示される軽鎖可変領域アミノ酸配列もしくはそれと少なくとも95%同一である配列
を含む、
請求項1~3のいずれか一項記載の二重特異性構築物。
【請求項5】
抗ILT4結合ドメインが、SEQ ID NO: 19を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 20を含む軽鎖可変領域を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の二重特異性構築物。
【請求項6】
抗ILT4結合ドメインが、SEQ ID NO: 9を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 10を含む軽鎖可変領域を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の二重特異性構築物。
【請求項7】
抗PD-1結合ドメインが、SEQ ID NO: 59を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 60を含む軽鎖可変領域を含む、請求項1~6のいずれか一項記載の二重特異性構築物。
【請求項8】
(a)抗ILT4結合ドメインが、SEQ ID NO: 19を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 20を含む軽鎖可変領域を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインが、SEQ ID NO: 59を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 60を含む軽鎖可変領域を含む、
抗PD-1結合ドメインに連結された抗ILT4結合ドメインを含む、二重特異性構築物。
【請求項9】
(a)抗ILT4結合ドメインが、SEQ ID NO: 9を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 10を含む軽鎖可変領域を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインが、SEQ ID NO: 59を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 60を含む軽鎖可変領域を含む、
抗PD-1結合ドメインに連結された抗ILT4結合ドメインを含む、二重特異性構築物。
【請求項10】
(a)抗ILT4結合ドメインが、SEQ ID NO: 19を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 20を含む軽鎖可変領域を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインが、SEQ ID NO: 61を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 62を含む軽鎖可変領域を含む、
抗PD-1結合ドメインに連結された抗ILT4結合ドメインを含む、二重特異性構築物。
【請求項11】
(a)抗ILT4結合ドメインが、SEQ ID NO: 9を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 10を含む軽鎖可変領域を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインが、SEQ ID NO: 61を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 62を含む軽鎖可変領域を含む、
抗PD-1結合ドメインに連結された抗ILT4結合ドメインを含む、二重特異性構築物。
【請求項12】
抗PD-1結合ドメインが、ヒトIgG1定常ドメインをさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の二重特異性構築物。
【請求項13】
抗ILT4結合ドメインが、抗PD-1結合ドメインの重鎖のC末端に連結されている、前記請求項のいずれか一項記載の二重特異性構築物。
【請求項14】
抗ILT4結合ドメインがscFvである、前記請求項のいずれか一項記載の二重特異性構築物。
【請求項15】
抗ILT4結合ドメインと抗PD-1結合ドメインとが、遺伝学的に融合されている、前記請求項のいずれか一項記載の二重特異性構築物。
【請求項16】
抗ILT4結合ドメインと抗PD-1結合ドメインとが、化学的にコンジュゲートされている、請求項1~14のいずれか一項記載の二重特異性構築物。
【請求項17】
(a)抗ILT4 scFvが、SEQ ID NO: 11、SEQ ID NO: 13、およびSEQ ID NO: 15にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにSEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、およびSEQ ID NO: 18にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインが、SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 36、およびSEQ ID NO: 41にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにSEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 51、およびSEQ ID NO: 56にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにヒトIgG1定常ドメインを含む、
抗ILT4 scFvに連結された抗PD-1結合ドメインを含む、二重特異性構築物。
【請求項18】
(a)抗ILT4 scFvが、SEQ ID NO: 19を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 20を含む軽鎖可変領域を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインが、SEQ ID NO: 59を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 60を含む軽鎖可変領域を含む、請求項17記載の二重特異性構築物。
【請求項19】
(a)抗ILT4 scFvが、SEQ ID NO: 11、SEQ ID NO: 13、およびSEQ ID NO: 15にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにSEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、およびSEQ ID NO: 18にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインが、SEQ ID NO: 69、SEQ ID NO: 74、およびSEQ ID NO: 79にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにSEQ ID NO: 84、SEQ ID NO: 89、およびSEQ ID NO: 94にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにヒトIgG1定常ドメインを含む、
抗ILT4 scFvに連結された抗PD-1結合ドメインを含む、二重特異性構築物。
【請求項20】
(a)抗ILT4 scFvが、SEQ ID NO: 19を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 20を含む軽鎖可変領域を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインが、SEQ ID NO: 61を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 62を含む軽鎖可変領域を含む、
請求項17記載の二重特異性構築物。
【請求項21】
(a)抗ILT4 scFvが、SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 3、およびSEQ ID NO: 5にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにSEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、およびSEQ ID NO: 8にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインが、SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 36、およびSEQ ID NO: 41にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにSEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 51、およびSEQ ID NO: 56にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにヒトIgG1定常ドメインを含む、
抗ILT4 scFvに連結された抗PD-1結合ドメインを含む、二重特異性構築物。
【請求項22】
(a)抗ILT4 scFvが、SEQ ID NO: 9を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 10を含む軽鎖可変領域を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインが、SEQ ID NO: 59を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 60を含む軽鎖可変領域を含む、請求項21記載の二重特異性構築物。
【請求項23】
(a)抗ILT4 scFvが、SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 3、およびSEQ ID NO: 5にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにSEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、およびSEQ ID NO: 8にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインが、SEQ ID NO: 69、SEQ ID NO: 74、およびSEQ ID NO: 79にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにSEQ ID NO: 84、SEQ ID NO: 89、およびSEQ ID NO: 94にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにヒトIgG1定常ドメインを含む、
抗ILT4 scFvに連結された抗PD-1結合ドメインを含む、二重特異性構築物。
【請求項24】
(a)抗ILT4 scFvが、SEQ ID NO: 9を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 10を含む軽鎖可変領域を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインが、SEQ ID NO: 61を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 62を含む軽鎖可変領域を含む、請求項23記載の二重特異性構築物。
【請求項25】
抗PD-1結合ドメインおよび抗ILT4 scFvが、SEQ ID NO: 64およびSEQ ID NO: 63にそれぞれ示される、重鎖配列および軽鎖配列を含む、請求項19記載の二重特異性構築物。
【請求項26】
抗PD-1結合ドメインおよび抗ILT4 scFvの、重鎖および軽鎖が、SEQ ID NO: 66およびSEQ ID NO: 65にそれぞれ示されるヌクレオチド配列によってコードされる、請求項19記載の二重特異性構築物。
【請求項27】
請求項1~26のいずれか一項記載の二重特異性構築物と、薬学的に許容される担体とを含む、組成物。
【請求項28】
1種または複数種の治療物質をさらに含む、請求項27記載の組成物。
【請求項29】
治療物質が別の抗体である、請求項27または28記載の組成物。
【請求項30】
抗体が、抗PD-L1抗体および/または抗CTLA-4抗体である、請求項27~29のいずれか一項記載の組成物。
【請求項31】
請求項1~26のいずれか一項記載の二重特異性構築物または請求項27~30のいずれか一項記載の組成物と、使用説明書とを含む、キット。
【請求項32】
マクロファージを、請求項1~26のいずれか一項記載の二重特異性構築物または請求項27~30のいずれか一項記載の組成物と接触させる段階を含む、マクロファージを活性化する方法。
【請求項33】
対象において免疫応答を誘導または増強するための方法であって、請求項1~26のいずれか一項記載の二重特異性構築物または請求項27~30のいずれか一項記載の組成物を、対象において免疫応答を誘導または増強するのに有効な量で、該対象に投与する段階を含む、該方法。
【請求項34】
対象において病態または疾患を処置するための方法であって、請求項1~26のいずれか一項記載の二重特異性構築物または請求項27~30のいずれか一項記載の組成物を、病態または疾患を処置するのに有効な量で、対象に投与する段階を含む、該方法。
【請求項35】
対象が、免疫応答の刺激が望ましい病態または疾患に罹患している、請求項34記載の方法。
【請求項36】
病態または疾患ががんである、請求項34または35記載の方法。
【請求項37】
がんが、皮膚がん、結腸直腸がん、卵巣がん、腎細胞癌、頭頸部扁平上皮癌、乳がん、肺がん、膀胱がん、前立腺がん、黒色腫、婦人科のがん、肉腫、リンパ腫、または膠芽腫である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
対象において腫瘍を処置する方法であって、請求項1~26のいずれか一項記載の二重特異性構築物または請求項27~30のいずれか一項記載の組成物を、腫瘍を処置するのに有効な量で、対象に投与する段階を含む、該方法。
【請求項39】
腫瘍が、ILT4、HLA-G、HLAクラスI、アンギオポエチン様2、Nogo、ILT4リガンド、PD-L1、またはPD-L2を発現している、請求項38記載の方法。
【請求項40】
1種または複数種の治療物質を対象に投与する段階をさらに含む、請求項33~39のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
治療物質が別の抗体である、請求項40記載の方法。
【請求項42】
抗体が、抗PD-L1抗体および/または抗CTLA-4抗体である、請求項41記載の方法。
【請求項43】
二重特異性構築物および1種または複数種の治療物質が、同時に投与される、請求項40~42のいずれか一項記載の方法。
【請求項44】
二重特異性構築物および1種または複数種の治療物質が、逐次的に投与される、請求項40~42のいずれか一項記載の方法。
【請求項45】
がんを処置するための医薬の製造における、請求項1~26のいずれか一項記載の二重特異性構築物または請求項27~30のいずれか一項記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条のもとで、2021年11月8日に出願された国際出願PCT/CN2021/129380号に基づく優先権を主張する。前述の出願の内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
I 発明の背景
抑制性免疫チェックポイント受容体「免疫グロブリン様転写物4」(ILT4)は、免疫細胞(例えば、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、マクロファージ、および肥満細胞)上で発現される非触媒チロシンリン酸化受容体ファミリーのメンバーである。このファミリーの他の受容体と同様に、ILT4は、免疫受容体チロシンベース抑制モチーフ(ITIM)と呼ばれるアミノ酸保存配列を細胞質ドメイン中に含む。(Veillette et al. (2002) Annual Review of Immunology 20(1):669-707(非特許文献1))。同族リガンド(骨髄系細胞におけるHLA-GおよびHLAクラスI)によるILT4への結合およびその活性化は、複数のメカニズムを介した免疫抑制効果を有する。ILT4はまた、様々ながんの腫瘍微小環境中の腫瘍細胞およびストローマ細胞においても見出され、腫瘍細胞の生物学的挙動を調節し、したがってそれらの免疫逃避を促進することが示されている。(Gao et al. (2018) Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-Reviews on Cancer 1869(2):278-285(非特許文献2))。したがって、いくつかの腫瘍型におけるILT4の発現は、不良転帰に関連している。
【0003】
プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、T細胞およびプロB細胞において発現される、細胞表面受容体である。PD-1は、2種のリガンド、すなわちPD-L1およびPD-L2に、結合する。PD-1は、T細胞の炎症性活性を抑制することによって免疫系を下方制御し自己寛容を促進することにより、人体の細胞に対する免疫系の応答を制御する。これは、自己免疫疾患を予防するが、免疫系ががん細胞を死滅させることを妨げることもできる。PD-1は免疫チェックポイントであり、次の2つのメカニズムを介して自己免疫が起こらないよう警戒する;(a)リンパ節における抗原特異的T細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)を促進する、および(b)制御性T細胞(抗炎症性抑制性T細胞)のアポトーシスを低減する。免疫抑制は、PD-1を阻害することによって解除することができる。
【0004】
抗体療法に関連する進歩にもかかわらず、例えば、免疫応答の刺激が望まれる病態または疾患を処置するための新しい治療物質および改善された治療物質が、当技術分野で必要とされている。したがって、そのような病態または疾患、例えばがんを有する対象を処置するための改善された方法を提供することが、本発明の目的である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Veillette et al. (2002) Annual Review of Immunology 20(1):669-707
【非特許文献2】Gao et al. (2018) Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-Reviews on Cancer 1869(2):278-285
【発明の概要】
【0006】
II 発明の概要
抗PD-1結合ドメインに連結された抗ILT4結合ドメインを含む新規な二重特異性構築物が、本明細書において提供される。本明細書においてさらに説明されるように、本発明の二重特異性構築物は、免疫応答を誘導または増強する方法および疾患または病態(例えばがん)を処置する方法において、使用することができる。
【0007】
1つの態様において、二重特異性構築物は、抗PD-1結合ドメインに連結された抗ILT4結合ドメインを含み、ここで、
(a)ILT4結合ドメインは、以下の配列:
(i)コンセンサス配列:
またはその保存的配列改変種より選択される、重鎖可変領域CDR1アミノ酸配列;
(ii)SEQ ID NO: 3に示される重鎖可変領域CDR2アミノ酸配列またはその保存的配列改変種;
(iii)コンセンサス配列:
またはその保存的配列改変種より選択される、重鎖可変領域CDR3アミノ酸配列;
(iv)コンセンサス配列:
またはその保存的配列改変種より選択される、軽鎖可変領域CDR1アミノ酸配列;
(v)コンセンサス配列:
またはその保存的配列改変種より選択される、軽鎖可変領域CDR2アミノ酸配列;
(vi)SEQ ID NO: 8に示される軽鎖可変領域CDR3アミノ酸配列またはその保存的配列改変種
を有する、重鎖および軽鎖のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン
を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインは、以下:
(i)SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 36、およびSEQ ID NO: 41にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列、もしくはその保存的配列改変種、ならびにSEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 51、およびSEQ ID NO: 56にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列、もしくはその保存的配列改変種;または
(ii)抗PD-1結合ドメインが、以下を含む:SEQ ID NO: 69、SEQ ID NO: 74、およびSEQ ID NO: 79にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、もしくはその保存的配列改変種、ならびにSEQ ID NO: 84、SEQ ID NO: 89、およびSEQ ID NO: 94にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、もしくはその保存的配列改変種、ならびにヒトIgG1定常ドメイン
を含む。
【0008】
別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、以下:
(a)SEQ ID NO: 11、SEQ ID NO: 13、およびSEQ ID NO: 15にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列、もしくはその保存的配列改変種、ならびにSEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、およびSEQ ID NO: 18にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列、もしくはその保存的配列改変種、または
(b)SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 3、およびSEQ ID NO: 5にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列、もしくはその保存的配列改変種、ならびにSEQ ID NO: 10、SEQ ID NO: 11、およびSEQ ID NO: 12にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列、もしくはその保存的配列改変種;ならびにSEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、およびSEQ ID NO: 8にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列、もしくはその保存的配列改変種
を含む。
【0009】
別の態様において、二重特異性構築物は、抗PD-1結合ドメインに連結された抗ILT4結合ドメインを含み、ここで、
(a)抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 11、SEQ ID NO: 13、およびSEQ ID NO: 15にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列、ならびにSEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、およびSEQ ID NO: 18にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列を含み;かつ
(b)抗PD-1結合ドメインは、SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 36、およびSEQ ID NO: 41にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列、ならびにSEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 51、およびSEQ ID NO: 56にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列を含む。
【0010】
さらに別の態様において、二重特異性構築物の抗ILT4結合ドメインは、以下:
(a)SEQ ID NO: 19に示される重鎖可変領域アミノ酸配列もしくはそれと少なくとも95%同一である配列、およびSEQ ID NO: 20に示される軽鎖可変領域アミノ酸配列もしくはそれと少なくとも95%同一である配列;または
(b)SEQ ID NO: 9に示される重鎖可変領域アミノ酸配列もしくはそれと少なくとも95%同一である配列、およびSEQ ID NO: 10に示される軽鎖可変領域アミノ酸配列もしくはそれと少なくとも95%同一である配列
を含む。
【0011】
さらに別の態様において、二重特異性構築物の抗PD-1結合ドメインは、以下:
(a)SEQ ID NO: 59に示される重鎖可変領域アミノ酸配列もしくはそれと少なくとも95%同一である配列、およびSEQ ID NO: 60に示される軽鎖可変領域アミノ酸配列もしくはそれと少なくとも95%同一である配列;または
(b)SEQ ID NO: 61に示される重鎖可変領域アミノ酸配列もしくはそれと少なくとも95%同一である配列、およびSEQ ID NO: 62に示される軽鎖可変領域アミノ酸配列もしくはそれと少なくとも95%同一である配列
を含む。
【0012】
別の態様において、二重特異性構築物の抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 19に示される重鎖可変領域アミノ酸配列およびSEQ ID NO: 20に示される軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む。あるいは、二重特異性構築物の抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 9に示される重鎖可変領域アミノ酸配列およびSEQ ID NO: 10に示される軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む。
【0013】
別の態様において、二重特異性構築物の抗PD-1結合ドメインは、SEQ ID NO: 59に示される重鎖可変領域アミノ酸配列およびSEQ ID NO: 60に示される軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む。あるいは、二重特異性構築物の抗PD-1結合ドメインは、SEQ ID NO: 61に示される重鎖可変領域アミノ酸配列およびSEQ ID NO: 62に示される軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む。
【0014】
別の態様において、二重特異性構築物の抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 19に示される重鎖可変領域アミノ酸配列およびSEQ ID NO: 20に示される軽鎖可変領域アミノ酸配列を含み、抗PD-1結合ドメインは、SEQ ID NO: 59に示される重鎖可変領域アミノ酸配列およびSEQ ID NO: 60に示される軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む。
【0015】
二重特異性構築物は、抗ILT4結合ドメインと抗PD-1結合ドメインとの化学的コンジュゲーションによって作製され得る、化学的コンジュゲートであることができる。1つの態様において、抗PD-1結合ドメインは、ヒトIgG1定常ドメインをさらに含む。別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、抗PD-1結合ドメインの重鎖のC末端に連結される。別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、scFvである。
【0016】
特定の態様において、二重特異性構築物は、抗ILT4 scFvに連結された抗PD-1結合ドメインを含み、ここで、
(a)抗PD-1結合ドメインは、SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 36、およびSEQ ID NO: 41にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列、ならびにSEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 51、およびSEQ ID NO: 56にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列、ならびにIgG1定常ドメインを含み;かつ
(b)抗ILT4 scFvは、SEQ ID NO: 11、SEQ ID NO: 13、およびSEQ ID NO: 15にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列、ならびにSEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、およびSEQ ID NO: 18にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列を含む。
【0017】
例えば、二重特異性構築物は、SEQ ID NO: 64およびSEQ ID NO: 63にそれぞれ示されるか、またはSEQ ID NO: 66およびSEQ ID NO: 65にそれぞれ示されるヌクレオチド配列によってコードされる、重鎖配列および軽鎖配列を含む。
【0018】
本発明はまた、本明細書において説明される二重特異性構築物のいずれかと、薬学的に許容される担体と、を含む組成物、ならびに本明細書において説明される二重特異性構築物のいずれかと、使用説明書と、を含むキットも、提供する。
【0019】
さらなる局面において、本明細書において説明される二重特異性構築物(またはその一部分)をコードする単離された核酸分子、ならびにそのような核酸を含む発現ベクターおよびそのような発現ベクターを含む宿主細胞もまた、提供される。別の態様において、本明細書において説明される二重特異性構築物のいずれかをコードする核酸分子が、提供される。別の態様において、核酸分子は、発現ベクターの形態である。別の態様において、核酸分子は、インビボで対象に投与された場合に、抗ILT4結合ドメイン、抗PD-1結合ドメイン、または両方の結合ドメインを発現する、発現ベクターの形態である。別の態様において、核酸分子は、インビボで対象に投与された場合に、二重特異性構築物の重鎖、軽鎖、または重鎖と軽鎖の両方を発現する、発現ベクターの形態である。
【0020】
例えば、核酸分子は、SEQ ID NO: 64に示されるアミノ酸配列を含む重鎖、SEQ ID NO: 63に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖、SEQ ID NO: 64およびSEQ ID NO: 63に示される重鎖および軽鎖の両方、またはそれらと少なくとも90%同一である(例えば、前述の配列のうちの1つもしくは複数と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一である)アミノ酸配列、をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0021】
別の態様において、核酸分子は、重鎖をコードするSEQ ID NO: 66に示されるヌクレオチド配列、軽鎖をコードするSEQ ID NO: 65に示されるヌクレオチド配列、重鎖および軽鎖の両方をコードするヌクレオチド配列、またはそれらと少なくとも90%同一である(例えば、前述の配列のうちの1つもしくは複数と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一である)ヌクレオチド配列、を含む。
【0022】
別の態様において、対象において(例えば、抗原に対する)免疫応答を誘導または増強するための方法は、本明細書において説明される二重特異性構築物または組成物のいずれか1つを、対象において(例えば、抗原に対する)免疫応答を誘導または増強するために有効な量で、該対象に投与する段階を含む。
【0023】
さらなる態様において、対象において病態または疾患(例えばがん)を処置するための方法が提供され、該方法は、本明細書において説明される二重特異性構築物または組成物のうちのいずれか1つを、病態または疾患を処置するのに有効な量で、対象に投与する段階を含む。
【0024】
別の態様において、対象において腫瘍(例えば、ILT4、HLA-G、HLAクラスI、アンギオポエチン様2、Nogo、またはILT4リガンドを発現する腫瘍)を処置するための方法が提供され、該方法は、本明細書において説明される二重特異性構築物または組成物のうちのいずれか1つを、腫瘍を処置するのに有効な量で、対象に投与する段階を含む。
【0025】
対象は、例えば、免疫応答の刺激が望ましい病態または疾患に罹患している人であることができる。1つの態様において、免疫応答の刺激が望ましい病態または疾患は、がんである。このような方法は、対象への1種または複数種の治療物質の投与を含み、例えば、治療物質は、別の抗体、例えば、抗CD40抗体、抗PD-L1抗体、および/または抗CTLA-4抗体である。二重特異性構築物(またはその組成物)および1種または複数種の治療物質は、同時に、逐次的に、投与され得る。
【0026】
対象において(例えば、抗原に対する)免疫応答を誘導または増強する方法は、該対象に抗原を投与する段階を、さらに含むことができる。本明細書において説明される二重特異性構築物または組成物と併用投与される好ましい抗原は、腫瘍抗原である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】IgG1と比べた、二重特異性構築物CDX-585のSDSゲル電気泳動ゲルの画像を示す。
【
図2】IgG1と比べた、二重特異性構築物CDX-585のHPLCトレースを示す。
【
図3】本発明による二重特異性構築物の概略図を示す。
【
図4】ELISAを用いた、ヒトPD-1に対する二重特異性構築物CDX-585の代表的な結合曲線を示すグラフである。
【
図5】
図5Aおよび5Bは、ヒトPD-1を発現する細胞(
図2A)およびヒトILT4を発現する細胞(
図2B)に対する二重特異性構築物CDX-585の代表的な結合曲線を示すグラフである。
【
図6】
図6Aおよび6Bは、ヒトILT4を発現する細胞(
図3A)およびヒトPD-1を発現する細胞(
図3B)に対する二重特異性構築物CDX-585の結合曲線を示すグラフである。
【
図7】バイオレイヤー干渉法(BLI)による二重特異性構築物CDX-585の親和性および速度定数を示す表である。
【
図8】二重特異性構築物CDX-585によるPD1/PD-L1相互作用の遮断を示すグラフである。
【
図9】
図9Aおよび9Bは、樹状細胞(
図6A)およびマクロファージ(
図6B)における、二重特異性構築物CDX-585を用いてのTNF-α産生の誘発を示すグラフである。
【
図10】二重特異性構築物CDX-585による、ILT4へのHLA-G結合の代表的な妨害曲線を示すグラフである。
【
図11】二重特異性構築物CDX-585によるPD-L1発現の下方制御を示すグラフである。
【
図12】
図12Aおよび12Bは、二重特異性構築物CDX-585による、TNF-a産生の増加(
図9A)およびIL-10分泌の下方制御(
図9B)、を示すグラフである。
【
図13】
図13Aおよび13Bは、二重特異性構築物CDX-585が、IFN-γ(
図10A)産生によって程度が示される混合リンパ球応答およびIL-2(
図10B)産生によって程度が示される混合リンパ球応答を誘導したことを示す、グラフである。
【
図14】二重特異性構築物CDX-585によるIFN-γ産生の増加を示すグラフであり、抗ILT4結合ドメインと抗PD-1結合ドメインの組合せの相乗効果を示している。
【
図15】マウス腫瘍モデルにおけるインビボ抗腫瘍活性を示すグラフである。
【
図16】
図16A~16Dは、(A)ヒトIgG1 AQQ(0.5mg/マウス)、(B)7B1(0.375mg/マウス)、(C)E1A9(0.375mg/マウス)および7B1(0.375mg/マウス)、ならびに(D)CDX-585(0.5mg/マウス)を用いた、マウス腫瘍モデルにおけるインビボ抗腫瘍活性を示すグラフである。
【
図17】
図17A~17Cは、CDX-585(A)MCP-1(CCL2)、(B)MIP-1β(CCL4)、および(C)MDC(CCL22)を1回静脈内投与(10mg/kg)されたカニクイザルにおけるサイトカイン/ケモカインの血清濃度を示すグラフである。
【
図18】CDX-585を1回静脈内投与(10mg/kg)されたカニクイザルにおけるCDX-585の血清濃度を示すグラフである。
【
図19】LPSまたは抗CD40抗体(CDX-1140)と共にインキュベートされた樹状細胞(DC)における、抗体7B1、E1A9、7B1とE1A9の組合せ、およびCDX-585についてのIFN-γ産生を示すグラフである。
【
図20】マウス腫瘍モデルにおけるインビボ抗腫瘍活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
IV 発明の詳細な説明
本発明をより容易に理解できるようにするために、いくつかの用語を最初に定義する。その他の定義は、詳細な説明を通して説明する。
【0029】
定義
本明細書において使用される「免疫グロブリン様転写物4」または「ILT4」という用語は、抑制性免疫チェックポイント受容体および非触媒性チロシンリン酸化受容体ファミリーのメンバーを意味する。ILT4はまた、白血球免疫グロブリン様受容体B2(LILRB2)、LIR2、MIR10、およびCD85dとも呼ばれる。ILT4は免疫細胞上で発現され、そこで抗原提示細胞上のMHCクラスI分子に結合し、例えば、炎症反応および細胞障害性をコントロールして免疫応答を集中させ自己反応性を制限することによって、免疫応答の刺激を阻害する、負のシグナルを伝達する。ヒトILT4の複数のアイソフォームが同定されている。アイソフォーム1(アクセッション番号Q8N423-1)は、598個のアミノ酸残基からなる標準配列を表す。本発明の抗ILT4結合ドメイン(またはその部分)は、ヒト以外の種に由来するILT4と交差反応してよい。あるいは、抗ILT4結合ドメインまたはその抗原結合断片は、ヒトILT4に特異的であってもよく、他の種とのいかなる交差反応性も示さなくてもよい。ILT4またはその任意のバリアントおよびアイソフォームは、それらを天然に発現する細胞もしくは組織から単離されてもよく、または当技術分野において周知の技術および/もしくは本明細書において説明される技術を用いて組換えによって作製されてもよい。
【0030】
ILT4に結合するリガンドは、当技術分野において公知であり、これには、とりわけ、HLA-G、HLAクラスI、アンギオポエチン様2、b-アミロイド、SEMA4A、CD1c/d、CSP、およびミエリン阻害剤、例えば、Nogo66、MAG、OMgpが含まれる。
【0031】
「ヒト白血球抗原G」または「HLA-G」(「組織適合性抗原、クラスI、G」としても公知)という用語は、ILT4に対するリガンドを意味する。HLA-Gは、HLAの非古典的クラスI重鎖のパラログに属する。このクラスI分子は、重鎖および軽鎖からなるヘテロ二量体(β-2ミクログロブリン)である。重鎖は、膜に固定されている。HLA-Gは、胎児由来の胎盤細胞上で発現される。重鎖は約45kDaであり、その遺伝子は8個のエキソンを含む。
【0032】
本明細書において使用される場合、「プログラム死1」、「プログラム細胞死1」、「タンパク質PD-1」、「PD-1」、「PD1」、「PDCD1」、「hPD-1」、および「hPD-I」という用語は、同義的に使用され、ヒトPD-1のバリアント、アイソフォーム、種ホモログ、およびPD-1と少なくとも1つの共通のエピトープを有するアナログを含む。完全なPD-1配列は、GenBankアクセッション番号NP_005009のもとに見出すことができる。
【0033】
本明細書において使用される場合、「プログラム細胞死1リガンド1」、「PD-L1」、「PDCD1リガンド1」、「プログラム細胞死リガンド1」、「B7ホモログ1」、「B7-H1」、および「ILT44」という用語は、同義的に使用され、ヒトPD-L1のバリアント、アイソフォーム、種ホモログ、およびPD-L1と少なくとも1つの共通のエピトープを有するアナログを含む。完全なPD-L1配列は、GenBankアクセッション番号NP_001254635のもとに見出すことができる。PD-1がPD-L1に結合すると、これらのT細胞の増殖を減少させる抑制シグナルが伝達され、かつアポトーシスもまた誘導され得、これは、遺伝子Bcl-2の下方制御によってさらに媒介される。
【0034】
本明細書において使用される場合、「対象」という用語は、任意のヒトまたは非ヒト動物を含む。例えば、本発明の方法および組成物は、免疫障害を有する対象を処置するために使用され得る。「非ヒト動物」という用語は、すべての脊椎動物、例えば哺乳動物および非哺乳動物、例えば、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、雌ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類などを含む。
【0035】
本明細書において言及される「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互に連結されている少なくとも2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含むタンパク質、またはその抗原結合断片を意味する。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてVHと略される)および重鎖定常領域から構成され得る。重鎖定常領域は、3種類のドメイン、すなわちCH1、CH2、およびCH3から構成され得る。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてVLと略される)および軽鎖定常領域から構成され得る。軽鎖定常領域は、1種類のドメイン、すなわちCLから構成され得る。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる相対的に保存度が高い領域がところどころに存在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRから構成され得、アミノ末端からカルボキシ末端まで次の順序で配列されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的な補体系の第1成分(C1q)を含む、宿主組織または因子への、免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0036】
抗体の「抗原結合断片」(または単に「抗体断片」)という用語は、本明細書において使用される場合、ある抗原(例えばヒトILT4)に特異的に結合する能力を保持している、抗体の1つまたは複数の断片または部分を意味する。このような「断片」は、例えば、約8~約1500アミノ酸長、適切には約8~約745アミノ酸長、適切には約8~約300、例えば約8~約200アミノ酸長、または約10~約50もしくは100アミノ酸長である。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体の断片によって果たされ得ることが示されている。抗体の「抗原結合断片」という用語に包含される結合断片の例には、(i)Fab断片、すなわち、VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン、およびCH1ドメインからなる一価の断片;(ii)F(ab′)2断片、すなわち、ヒンジ領域のジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価の断片;(iii)VHドメインおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の1本のアームのVLドメインおよびVHドメインからなるFv断片;(v)VHドメインからなる、dAb断片(Ward et al., (1989) Nature 341:544-546);ならびに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)または(vii)合成リンカーによって結合されていてもよい、2つもしくはそれより多い単離されたCDRの組合せ、が含まれる。さらに、Fv断片の2つのドメインであるVLおよびVHは別々の遺伝子によってコードされているが、組換え法を用いて、単一のタンパク質鎖としてそれらが作製されることを可能にする合成リンカーによってこれらを結合することができ、該単一のタンパク質鎖中で、VL領域およびVH領域は対になって一価の分子を形成する(単鎖Fv(sFv)として公知;例えば、Bird et al. (1988) Science 242:423-426;およびHuston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883を参照されたい)。このような単鎖抗体もまた、抗体の「抗原結合断片」という用語に包含されることが意図される。これらの抗体断片は、当業者に公知である従来の技術を用いて得られ、これらの断片は、完全な抗体と同じ様式で、有用性についてスクリーニングされる。抗原結合断片は、組換えDNA技術によって、または完全な免疫グロブリンの酵素的切断もしくは化学的切断によって作製することができる。
【0037】
本明細書において使用される場合、「結合ドメイン」という用語は、抗原と相互作用するアミノ酸残基を含む、タンパク質または抗体の一部分を意味する。結合ドメインには、抗体(例えば完全長抗体)およびその抗原結合部分が含まれるが、それらに限定されるわけではない。結合ドメインは、抗原に対する特異性および親和性を結合物質に付与する。この用語はまた、免疫グロブリン結合ドメインに対して相同であるかまたはほとんど相同である結合ドメインを有する任意のタンパク質も包含する。このようなタンパク質は、天然供給源に由来してよく、または部分的もしくは全面的に合成によって作製されてよい。
【0038】
本明細書において使用される場合、「二重特異性構築物」、「二重特異性抗体」、および「bsAb」という用語は、2つの異なる抗原に同時に結合することができる、連結された結合ドメインを有する構築物および抗体を指す。2つの異なるエピトープに対する親和性を有する二重特異性構築物は、構築物次第で、一価または二価のいずれかで2つの標的に結合する。二重特異性構築物は、様々な方法によって、例えば、2つの既存の結合ドメインをコンジュゲートすること、2つのハイブリドーマ細胞株を融合してクアドローマを形成させること(Jain et al. (2007) Trends in Biotechnology 25(7), 307-316)、または遺伝子操作された組換えタンパク質を使用すること(Kontermann (2012) Dual targeting strategies with bispecific antibodies. mAbs 4(2), 182-197)、によって、生産することができる。
【0039】
本明細書において使用される場合、「連結された」という用語は、2つまたはそれより多い分子の結合を意味する。連結は、共有結合性または非共有結合性であることができる。連結はまた、遺伝学的である(すなわち、組換えによって融合される)こともできる。このような連結は、化学的コンジュゲーションおよび組換えタンパク質作製などの、当技術分野において認識されている多種多様の技術を用いて、実現することができる。
【0040】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、特定のエピトープに対する単一の結合特異性および親和性を示す抗体を意味する。したがって、「ヒトモノクローナル抗体」という用語は、単一の結合特異性を示し、かつヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および任意の定常領域を有する、抗体を意味する。1つの態様において、ヒトモノクローナル抗体は、ヒト重鎖導入遺伝子およびヒト軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有する遺伝子導入非ヒト動物、例えば遺伝子導入マウスから得られるB細胞であって、不死化細胞に融合された該B細胞を含む、ハイブリドーマによって産生される。
【0041】
「組換えヒト抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、組換え手段によって調製、発現、作製、または単離されるあらゆるヒト抗体、例えば、(a)ヒト免疫グロブリン遺伝子に関して遺伝子導入もしくは染色体導入されている動物(例えばマウス)またはそれから調製されるハイブリドーマから単離される抗体、(b)抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から、例えばトランスフェクトーマから、単離される抗体、(c)組換えヒト抗体コンビナトリアルライブラリーから単離される抗体、および(d)他のDNA配列へのヒト免疫グロブリン遺伝子配列の接合を含む他の任意の手段によって調製、発現、作製、または単離される抗体、を含む。このような組換えヒト抗体は、生殖系列遺伝子によってコードされる特定のヒト生殖系列免疫グロブリン配列を利用する可変領域および定常領域を含むが、例えば、抗体成熟の期間中に起こる後続の再配列および変異を含む。当技術分野において公知であるように(例えば、Lonberg (2005) Nature Biotech. 23(9):1117-1125を参照されたい)、可変領域は、外来抗原に特異的な抗体を形成するように再配列する様々な遺伝子によってコードされる、抗原結合ドメインを含む。再配列に加えて、可変領域を、外来抗原に対する抗体の親和性を高めるために、複数の単一アミノ酸変更(体細胞変異または超変異と呼ばれる)によってさらに改変することもできる。定常領域は、抗原に対してさらに応答して、変化する(すなわち、アイソタイプスイッチ)。したがって、軽鎖免疫グロブリンポリペプチドおよび重鎖免疫グロブリンポリペプチドをコードする、抗原に応答して再配列された核酸分子および体細胞変異を起こした核酸分子は、元の核酸分子との配列同一性を有していない場合があるが、その代わりに、実質的に同一または類似である(すなわち、少なくとも80%の同一性を有する)。
【0042】
「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列の可変領域および定常領域(存在する場合には)を有する抗体を含む。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的な変異誘発によって、またはインビボでの体細胞変異によって導入される変異)を含むことができる(Lonberg, N. et al. (1994) Nature 368(6474): 856-859); Lonberg, N. (1994) Handbook of Experimental Pharmacology 113:49-101; Lonberg, N. and Huszar, D. (1995) Intern. Rev. Immunol. Vol. 13: 65-93、およびHarding, F. and Lonberg, N. (1995) Ann. N.Y. Acad. Sci 764:536-546を参照されたい)。しかし、「ヒト抗体」という用語は、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に接ぎ合わされている抗体(すなわち、キメラ抗体およびヒト化抗体)を含まない。
【0043】
「ヒト化」抗体とは、非ヒト抗体のCDRドメイン以外のアミノ酸の一部、大半、または全部が、ヒト免疫グロブリンに由来する対応するアミノ酸によって置換されている、抗体を意味する。ヒト化型の抗体の1つの態様において、CDRドメイン以外のアミノ酸の一部、大半、または全部が、ヒト免疫グロブリンに由来するアミノ酸によって置換されたのに対し、1つまたは複数のCDR領域内の一部、大半、または全部のアミノ酸は、不変である。アミノ酸の小規模な付加、欠失、挿入、置換、または改変は、特定の抗原に結合する抗体の能力をそれらが無効にしない限り、許容される。「ヒト化」抗体は、元の抗体の抗原特異性と同様の抗原特異性を保持する。
【0044】
「単離された抗体」とは、本明細書において使用される場合、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を意味すると意図される(例えば、ヒトILT4に特異的に結合する単離された抗体は、ヒトILT4以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まず;ヒトPD-1に特異的に結合する単離された抗体は、ヒトPD-1以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかし、あるエピトープに特異的に結合する単離された抗体は、異なる種に由来する同じ抗原に対する交差反応性を有する場合がある。さらに、単離された抗体は、典型的には、他の細胞材料および/または化学物質を実質的に含まない。
【0045】
「エピトープ」または「抗原決定基」という用語は、免疫グロブリンまたは抗体が特異的に結合する、抗原上の部位を意味する。エピトープは、連続したアミノ酸またはタンパク質の三次フォールディングによって並置された非連続的なアミノ酸の両方から形成され得る。連続したアミノ酸から形成されたエピトープは、変性溶媒に曝露された際に典型的には保持されるのに対し、三次フォールディングによって形成されたエピトープは、変性溶媒を用いて処理すると、典型的には失われる。エピトープは、典型的には、独特の空間的立体構造において少なくとも3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、または15個のアミノ酸を含む。どのようなエピトープが所与の抗体によって結合されるかを決定するための方法(すなわち、エピトープマッピング)は、当技術分野において周知であり、例えば、抗原(例えば、ILT4またはPD-1)に由来する重複または連続したペプチドが所与の抗体(例えば、ILT4抗体またはPD-1抗体)との反応性について試験される、イムノブロッティングアッセイ法および免疫沈降アッセイ法が含まれる。エピトープの空間的立体構造を明らかにする方法には、当技術分野における技術および本明細書において説明される技術、例えば、X線結晶解析および2次元核磁気共鳴が含まれる(例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, G. E. Morris, Ed. (1996)を参照されたい)。
【0046】
別の抗体と「同じエピトープに結合する抗体」という用語は、参照ILT4抗体の場合と同じ、ヒトILT4上の構造領域と相互作用する、すなわち結合する、抗体を包含することが意図される。抗体が結合する「同じエピトープ」は、直線状エピトープまたは抗原の三次フォールディングによって形成される立体構造エピトープであり得る。
【0047】
「競合抗体」という用語は、ヒトILT4への結合について参照ILT4抗体と競合する、すなわちILT4への参照ILT4抗体の結合を競合的に阻害する、抗体を意味する。「競合抗体」は、参照ILT4抗体の場合と同じ、ILT4上のエピトープに結合し得るか、重複するエピトープに結合し得るか、またはILT4への参照ILT4抗体の結合を立体的に妨げ得る。
【0048】
同じエピトープを認識するかまたは結合について競合する抗体は、慣用技術を用いて同定することができる。このような技術には、例えば、ある抗体が標的抗原への別の抗体の結合を妨害する能力を示すイムノアッセイ法、すなわち競合的結合アッセイ法が含まれる。競合的結合は、試験下の免疫グロブリンがILT4などの共通抗原への参照抗体の特異的結合を阻害するアッセイ法において、測定される。多数のタイプの競合的結合アッセイ法が公知であり、例えば、以下のものである:固相直接または間接ラジオイムノアッセイ法(RIA)、固相直接または間接酵素免疫測定法(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ法(Stahli et al., Methods in Enzymology 9:242 (1983)を参照されたい);固相直接ビオチン-アビジンEIA(Kirkland et al., J. Immunol. 137:3614 (1986)を参照されたい);固相直接標識アッセイ法、固相直接標識サンドイッチアッセイ法(Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press (1988)を参照されたい);I-125標識を用いる固相直接標識RIA(Morel et al., Mol. Immunol. 25(1):7 (1988)を参照されたい);固相直接ビオチン-アビジンEIA(Cheung et al., Virology 176:546 (1990));および直接標識化RIA(Moldenhauer et al., Scand. J. Immunol. 32:77 (1990))。典型的には、このようなアッセイ法は、これら、すなわち未標識の試験免疫グロブリンおよび標識された参照免疫グロブリンのいずれかを有する固体表面または細胞に結合された精製抗原の使用を伴う。競合的阻害は、試験免疫グロブリンの存在下で固体表面または細胞に結合される標識の量を計測することによって測定される。通常、試験免疫グロブリンは過剰に存在している。通常、競合抗体が過剰に存在している場合、該抗体は、共通の抗原に対する参照抗体の特異的結合を少なくとも50~55%、55~60%、60~65%、65~70%、70~75%またはそれより多く阻害すると考えられる。
【0049】
他の技術には、例えばエピトープマッピング方法、例えば、エピトープの原子分解を提供する、抗原:抗体複合体の結晶のX線解析が含まれる。他の方法は、抗原断片または抗原の変異した変種への抗体の結合をモニターし、その際、抗原配列内のアミノ酸残基の改変に起因する結合の減少が、しばしば、エピトープ構成要素の指標とみなされる。さらに、エピトープマッピングのためのコンピューターによるコンビナトリアル方法もまた、使用され得る。これらの方法は、コンビナトリアルファージディスプレイペプチドライブラリーから特異的な短いペプチドを親和性単離する、関心対象の抗体の能力に、依拠する。次いで、これらのペプチドは、ペプチドライブラリーをスクリーニングするために使用される抗体に対応するエピトープを決定するためのリードとみなされる。エピトープマッピングのために、立体構造的な不連続エピトープをマッピングすることが示されている計算アルゴリズムもまた、開発されている。
【0050】
本明細書において使用される場合、「特異的結合」、「選択的結合」、「選択的に結合する」、および「特異的に結合する」という用語は、所定の抗原上のエピトープへの抗原結合を意味する。典型的には、抗体は、(例えば、分析物として組換えヒトILT4およびリガンドとして抗体を用いて)BIACORE 2000機器において表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって測定された場合に約10-7M未満、例えば約10-8M、10-9M、もしくは10-10M、またはそれよりさらに小さい平衡解離定数(KD)で結合し、かつ所定の抗原または近縁の抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)に対する結合の親和性よりも少なくとも2倍大きい親和性で、該所定の抗原に結合する。「ある抗原を認識する抗体」および「ある抗原に特異的な抗体」という表現は、「ある抗原に特異的に結合する抗体」という用語と同義的に本明細書において使用される。
【0051】
「KD」という用語は、本明細書において使用される場合、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を意味することが意図される。典型的には、本発明のヒト抗体は、(例えば、分析物として組換えヒトILT4およびリガンドとして抗体を用いて)BIACORE2000機器において表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって測定された場合に約10-8M未満またはそれより小さい、例えば10-9Mもしくは10-10Mまたはそれよりさらに小さい平衡解離定数(KD)でILT4に結合する。
【0052】
本明細書において使用される「kd」という用語は、抗体/抗原複合体からの抗体の解離についての解離速度定数を意味することが意図される。
【0053】
本明細書において使用される「ka」という用語は、抗体と抗原の結合についての結合速度定数を意味することが意図される。
【0054】
「EC50」という用語は、本明細書において使用される場合、インビトロアッセイ法またはインビボアッセイ法のいずれかにおいて、最大応答の50%、すなわち、最大応答とベースラインの中間である応答を誘導する、抗体またはその抗原結合断片の濃度を意味する。
【0055】
本明細書において使用される場合、「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子にコードされる抗体クラス(例えば、IgMまたはIgG1)を意味する。1つの態様において、本発明のヒトモノクローナル抗体は、IgG1アイソタイプのものである。別の態様において、本発明のヒトモノクローナル抗体は、IgG2アイソタイプのものである。
【0056】
本明細書において使用される場合、(例えば、ILT4へのHLA-Gリガンドの結合および/またはPD-L1リガンドへのPD1の結合の阻害/妨害に関する)「阻害する」または「妨害する」という用語は、同義的に使用され、部分的な阻害/妨害および全面的な阻害/妨害の両方を包含する。好ましくは、阻害/妨害は、阻害も妨害もされずに結合が起こる場合に生じる正常なレベルまたはタイプの活性を、低下させるかまたは変化させる。阻害および妨害はまた、抗ILT4結合ドメイン、抗体、またはその部分と接触していないHLA-Gと比較しての、抗ILT4結合ドメイン、抗体、またはその部分と接触している場合のHLA-Gの結合親和性の任意の測定可能な低下を含むことも意図され、例えば、HLA-Gの結合を少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%阻害する。1つの態様において、抗ILT4結合ドメインは、HLA-Gの結合を少なくとも約70%阻害する。別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、HLA-Gの結合を少なくとも80%阻害する。阻害および妨害はまた、PD-L1結合ドメイン、抗体、またはその部分と接触していないPD-1と比較しての、PD-L1結合ドメイン、抗体、またはその部分と接触している場合のPD-1の結合親和性の任意の測定可能な低下を含むことも意図され、例えば、PD-1の結合を少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%阻害する。1つの態様において、PD-1結合ドメインは、PD1の結合を少なくとも約70%阻害する。別の態様において、PD-1結合ドメインは、PD1の結合を少なくとも80%阻害する。
【0057】
「交差反応する」という用語は、本明細書において使用される場合、本発明の抗ILT4結合ドメイン、抗体、もしくはその部分または抗PD-1結合ドメイン、抗体、もしくはその部分が、異なる種に由来するILT4またはPD-1にそれぞれ結合する能力を意味する。例えば、ヒトILT4に結合する本発明の抗ILT4結合ドメインは、別の種のILT4にも結合し得る。同様に、ヒトPD-1に結合する本発明の抗PD-1結合ドメインまたはその抗原結合断片は、別の種のPD-1にも結合し得る。本明細書において使用される場合、交差反応性は、結合アッセイ法(例えば、SPR、ELISA)において精製抗原との特異的反応性を検出すること、またはILT4を生理学的に発現する細胞に結合することもしくはそうでなければ機能的に相互作用することに基づいて、評価される。交差反応性を測定するための方法には、例えば、Biacore(商標)2000 SPR機器(Biacore AB, Uppsala, Sweden)を用いるBiacore(商標)表面プラズモン共鳴(SPR)解析またはフローサイトメトリー技術による、本明細書において説明される標準的な結合アッセイ法が含まれる。
【0058】
物体に対して使用される場合の、本明細書において使用される「天然の」という用語は、ある物体が天然に見出され得るということを意味する。例えば、天然の供給源から単離することができる生物(ウイルスを含む)中に存在し、かつ実験室において人間によって意図的に改変されていないポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列は、天然である。
【0059】
「核酸分子」という用語は、本明細書において使用される場合、DNA分子およびRNA分子を含むと意図される。核酸分子は一本鎖または二本鎖であってよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0060】
ILT4および/またはPD-1に結合する結合ドメイン、抗体、またはその部分(例えば、VH、VL、CDR3)をコードする核酸に関連して本明細書において使用される場合、「単離された核酸分子」という用語は、該結合ドメイン、抗体、または部分をコードするヌクレオチド配列が、ILT4および/またはPD-1以外の抗原に結合する結合ドメイン、抗体、または部分をコードする他のヌクレオチド配列(他の配列は、ヒトゲノムDNAにおいて天然に該核酸に隣接している場合がある)を含まない核酸分子を意味することが意図される。
【0061】
核酸は、全細胞中に、細胞溶解物中に、または部分的に精製された形態もしくは実質的に純粋な形態で、存在してよい。核酸は、アルカリ/SDS処理、CsClバンディング、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、および当技術分野において周知の他の技術を含む標準的技術によって、他の細胞構成要素または他の混在物、例えば細胞由来の他の核酸またはタンパク質から離れるように精製される場合、「単離」されているか、または「実質的に純粋にされて」いる。F. Ausubel, et al., ed. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York (1987)を参照されたい。
【0062】
cDNA、ゲノム、またはそれらの混合物のいずれかに由来する、本発明の核酸分子は、ネイティブ配列(改変された制限部位などを除く)中に存在することが多いが、遺伝子配列を提供するための標準的技術によって変異させてもよい。コード配列の場合、これらの変異は、所望に応じてアミノ酸配列に影響を及ぼし得る。特に、ネイティブのV、D、J、定常、スイッチ、および本明細書において説明される他のこのような配列と実質的に同一であるかまたはこれらに由来するDNA配列が、企図される(ここで、「由来する」とは、ある配列が別の配列と同一であるかまたは別の配列から改変されていることを示す)。
【0063】
核酸は、別の核酸配列と機能的な関係になるように配置される場合、「機能的に(operably)連結されて」または「機能的に(operatively)連結されて」いる。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に機能的に連結されている。転写制御配列に関して、「機能的に連結される」とは、連結されているDNA配列が隣接しており、2つのタンパク質コード領域を結合する必要がある場合は、隣接し、かつリーディングフレーム内にあることを意味する。スイッチ配列の場合、「機能的に連結される」とは、これらの配列がスイッチ組換えをもたらす能力を有することを示す。
【0064】
本発明はまた、本明細書において説明される配列のいずれかの「保存的配列改変」、すなわち、ヌクレオチド配列によってコードされるかまたはアミノ酸配列を含むVH配列およびVL配列の抗原への結合を無効にしないヌクレオチド配列改変およびアミノ酸配列改変、を包含する。このような保存的配列改変には、ヌクレオチドおよびアミノ酸の保存的置換、ならびにヌクレオチドおよびアミノ酸の付加および欠失が含まれる。例えば、改変は、部位特異的変異誘発およびPCR法による変異誘発など当技術分野において公知の標準的技術によって、配列に導入することができる。保存的アミノ酸置換には、アミノ酸残基が、類似した側鎖を有するアミノ酸残基で置換されるものが含まれる。類似した側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β-分岐側鎖を有するアミノ酸(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。したがって、ILT4抗体中の予測される非必須アミノ酸残基は、好ましくは、同じ側鎖ファミリーの別のアミノ酸残基で置換される。抗原結合を消失させないヌクレオチド保存的置換およびアミノ酸保存的置換を同定する方法は、当技術分野において周知である(例えば、Brummell et al., Biochem. 32:1180-1187 (1993); Kobayashi et al. Protein Eng. 12(10):879-884 (1999);およびBurks et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:412-417 (1997)を参照されたい)。
【0065】
特定の態様において、保存的アミノ酸配列改変とは、本明細書において説明されるCDR配列に対して多くても1個、2個、3個、4個、または5個の保存的アミノ酸置換を意味する。例えば、このような各CDRは、最大5個の保存的アミノ酸置換、例えば、最大4個(すなわち、4個以下)の保存的アミノ酸置換、例えば、最大3個(すなわち、3個以下)の保存的アミノ酸置換、例えば、最大2個(すなわち、2個以下)の保存的アミノ酸置換、または1個以下の保存的アミノ酸置換を含み得る。
【0066】
あるいは、別の態様において、飽和変異誘発などによって、抗ILT4結合ドメイン、抗体、もしくはその部分または抗PD-1結合ドメイン、抗体、もしくはその部分に関するコード配列の全体または部分にランダムに変異を導入することができ、結果として生じる改変された抗ILT4結合ドメイン、抗体、もしくはその部分または抗PD-1結合ドメイン、抗体、もしくはその部分を、結合活性についてスクリーニングすることができる。
【0067】
核酸の場合、「実質的な相同性」という用語は、2つの核酸またはその指定された配列が、最適にアライメントされ比較された場合に、該ヌクレオチドの少なくとも約80%、通常、少なくとも約90%~95%、およびより好ましくは該ヌクレオチドの少なくとも約98%~99.5%において同一であり、適切なヌクレオチド挿入またはヌクレオチド欠失を有することを示す。あるいは、セグメントが、選択的なハイブリダイゼーション条件下で、鎖の相補物にハイブリダイズする場合、実質的相同性が存在する。
【0068】
アミノ酸の場合、「実質的な相同性」という用語は、2つのアミノ酸配列またはその指定された配列が、最適にアライメントされ比較された場合に、該アミノ酸の少なくとも約80%、通常、少なくとも約90%~95%、およびより好ましくは該アミノ酸の少なくとも約98%~99%または99.5%において同一であり、適切なアミノ酸挿入またはアミノ酸欠失を有することを示す。
【0069】
2つの配列間の同一性パーセントは、該2つの配列の最適アライメントのために導入される必要があるギャップ数および各ギャップの長さを考慮に入れた、これらの配列に共通である同一位置の数の関数である(すなわち、相同率(%)=同一位置の数/位置の総数×100)。配列の比較および2つの配列間の同一性パーセントの決定は、下記の非限定的な実施例において説明するように、数学アルゴリズムを用いて遂行することができる。
【0070】
2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、NWSgapdna.CMP行列ならびにギャップウェイト40、50、60、70、または80および長さウェイト1、2、3、4、5、または6を用いてGCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで入手可能)中のGAPプログラムを使用して、決定することができる。2つのヌクレオチド配列間またはアミノ酸配列間の同一性パーセントはまた、PAM120重み付け残基表、ギャップ長ペナルティ12、およびギャップペナルティ4を用いて、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み入れられたE. Meyers and W. Miller(CABIOS, 4:11-17 (1989))のアルゴリズムを使用して、決定することもできる。さらに、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、Blossum 62行列またはPAM250行列のいずれかならびにギャップウェイト16、14、12、10、8、6、または4および長さウェイト1、2、3、4、5、または6を用いてGCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラムに組み入れられたNeedlemanおよびWunsch(J. Mol. Biol. (48):444-453 (1970))のアルゴリズムを使用して、決定することもできる。
【0071】
本発明の核酸配列およびタンパク質配列は、例えば、関連配列を同定するために公的データーベースに対する検索を実施するための「クエリ配列」としてさらに使用することもできる。このような検索は、Altschul, et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)を用いて実施することができる。NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12を用いてBLASTヌクレオチド検索を実施して、本発明の核酸分子と同一のヌクレオチド配列を得ることができる。XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いてBLASTタンパク質検索を実施して、本発明のタンパク質分子と同一のアミノ酸配列を得ることができる。比較目的のためのギャップありアライメントを得るには、Altschul et al., (1997) Nucleic Acids Res. 25(17):3389-3402に記載されているようにGapped BLASTを使用することができる。BLASTプログラムおよびGapped BLASTプログラムを使用する場合、各プログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)の初期設定パラメーターを使用することができる。http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。
【0072】
ILT4結合ドメイン
特定の機能的特徴または特性によって特徴付けられる、抗ILT4結合ドメイン、例えば抗体(例えばヒト化抗体)に由来する結合ドメイン、を含む新規な二重特異性構築物が、本明細書において提供される。例えば、本発明のそのような結合ドメインは、以下の特性:
a ヒトILT4に結合するILT4リガンド(例えばHLA-Gリガンド)を妨害すること;
b ヒトマクロファージによるサイトカインもしくはケモカインの放出を増強するかもしくは増加させること;
c マクロファージに対するLPSおよびIFNγの活性化効果を強化すること;
d M1マクロファージの極性化を促進すること;
e 10-9Mもしくはそれ未満の平衡解離定数Kdで、またはその代わりに、10+9M-1もしくはそれより大きい平衡結合定数Kaで、ヒトILT4に結合すること;
f 他のILTファミリーメンバーとの交差反応性の欠如;
g カニクイザルILT4との交差反応性;ならびに/あるいは
h ILT4を発現する腫瘍細胞を阻害すること
のうちの1つまたは複数を示す。
【0073】
1つの態様において、抗ILT4結合ドメインは、本明細書において説明される抗体7A3に由来する。例えば、抗ILT4結合ドメインは、抗体7A3の重鎖および軽鎖のCDRまたは可変領域を含む。別の態様において、結合ドメインは、SEQ ID NO: 9に示される配列を有する抗体7A3の重鎖可変領域のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン、ならびにSEQ ID NO: 10に示される配列を有する抗体7A3の軽鎖可変領域のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメインを含む。別の態様において、結合ドメインは、SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 3、およびSEQ ID NO: 5にそれぞれ示される配列を有する、重鎖のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン、またはそれらの保存的配列改変種、ならびにSEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、およびSEQ ID NO: 8にそれぞれ示される配列を有する、軽鎖のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン、またはそれらの保存的配列改変種を含む。あるいは、結合ドメインは、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 4、およびSEQ ID NO: 5にそれぞれ示される配列を有する、重鎖のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン、またはそれらの保存的配列改変種、ならびにSEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、およびSEQ ID NO: 8にそれぞれ示される配列を有する、軽鎖のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン、またはそれらの保存的配列改変種を含む。別の態様において、結合ドメインは、SEQ ID NO: 9に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む。別の態様において、結合ドメインは、SEQ ID NO: 10に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む。例えば、抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 9およびSEQ ID NO: 10に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む。
【0074】
別の例示的な抗ILT4結合ドメインは、本明細書において説明される抗体7B1に由来する。1つの態様において、抗ILT4結合ドメインは、抗体7B1の重鎖および軽鎖のCDRまたは可変領域を含む。別の態様において、結合ドメインは、SEQ ID NO: 19に示される配列を有する抗体7B1の重鎖可変領域のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン、ならびにSEQ ID NO: 20に示される配列を有する抗体7B1の軽鎖可変領域のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメインを含む。別の態様において、結合ドメインは、SEQ ID NO: 11、SEQ ID NO: 13、およびSEQ ID NO: 15にそれぞれ示される配列を有する、重鎖のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン、またはそれらの保存的配列改変種、ならびにSEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、およびSEQ ID NO: 18にそれぞれ示される配列を有する、軽鎖のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン、またはそれらの保存的配列改変種を含む。あるいは、結合ドメインは、SEQ ID NO: 12、SEQ ID NO: 14、およびSEQ ID NO: 15にそれぞれ示される配列を有する、重鎖のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン、またはそれらの保存的配列改変種、ならびにSEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、およびSEQ ID NO: 18にそれぞれ示される配列を有する、軽鎖のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン、またはそれらの保存的配列改変種を含む。別の態様において、結合ドメインは、SEQ ID NO: 19に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む。別の態様において、結合ドメインは、SEQ ID NO: 20に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む。例えば、結合ドメインは、SEQ ID NO: 19およびSEQ ID NO: 20に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む。
【0075】
抗ILT4結合ドメインはまた、抗体7B1および抗体7A3のコンセンサス配列であることもできる。例えば、1つの態様において、抗ILT4結合ドメインは、コンセンサス配列:
より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR1を含む。別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 3を含む重鎖可変領域CDR2を含む。別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、コンセンサス配列:
より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR3を含む。別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、コンセンサス配列:
より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR1を含む。別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、コンセンサス配列:
より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR2を含む。別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 8を含む軽鎖可変領域CDR3を含む。
【0076】
説明される各抗体がヒトILT4に結合できることを考えれば、本明細書において説明されるVH配列およびVL配列を「混合およびマッチさせ」、様々な抗ILT4結合ドメインを作製することができる。このような「混合およびマッチさせた」結合ドメインのヒトILT4への結合は、当技術分野において公知であり実施例で説明される結合アッセイ法(例えばELISA)を用いて試験することができる。例えば、本発明の抗ILT4結合ドメインは、本明細書において説明される7B1抗体および7A3抗体の重鎖可変領域配列および軽鎖可変領域配列の組合せを含む。
【0077】
本明細書において説明される抗ILT4結合ドメインと実質的に同一である配列(例えば、前述の配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である配列)もまた、提供される。例えば、1つの態様において、抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 19、またはそれと少なくとも80%同一(例えば、前述の配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一)である配列を含む重鎖可変領域を含む。別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 10、SEQ ID NO: 20、またはそれと少なくとも80%同一(例えば、前述の配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一)である配列を含む軽鎖可変領域を含む。別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、(a)SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 19、またはそれと少なくとも80%同一(例えば、前述の配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一)である配列を含む重鎖可変領域、および(b)SEQ ID NO: 10、SEQ ID NO: 20、またはそれと少なくとも80%同一(例えば、前述の配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一)である配列を含む軽鎖可変領域、を含む。例えば、抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 9またはそれと少なくとも80%同一(例えば、それと少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一)である配列、およびSEQ ID NO: 19またはそれと少なくとも80%同一(例えば、それと少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一)である配列、を含む。あるいは、抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 10またはそれと少なくとも80%同一(例えば、それと少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一)である配列、およびSEQ ID NO: 20またはそれと少なくとも80%同一(例えば、それと少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一)である配列、を含む。
【0078】
1つの態様において、抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 3、およびSEQ ID NO: 5にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにSEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、およびSEQ ID NO: 8にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。あるいは、抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 4、およびSEQ ID NO: 5にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにSEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、およびSEQ ID NO: 8にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 9を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 19を含む軽鎖可変領域、または前述の配列と少なくとも80%同一(例えば、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一)である配列、を含む。
【0079】
別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 11、SEQ ID NO: 13、およびSEQ ID NO: 15にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにSEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、およびSEQ ID NO: 18にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。あるいは、抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 12、SEQ ID NO: 14、およびSEQ ID NO: 15にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにSEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、およびSEQ ID NO: 18にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、SEQ ID NO: 10を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 20を含む軽鎖可変領域、または前述の配列と少なくとも80%同一(例えば、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一)である配列を含む。
【0080】
PD-1結合ドメイン
例えば、二重特異性構築物ならびに処置の方法において、本発明の抗ILT4結合ドメインと共に使用するための、その抗PD-1結合ドメインが、本明細書において提供される。このような抗PD-1結合ドメインは、抗体、例えばヒト化抗体に由来する。例示的なPD-1抗体には、本明細書において説明される、抗体E1A9C8A7-V8-3(本明細書において抗体「E1A9」とも呼ばれる)および抗体E1A9C8A7-V8が含まれる。
【0081】
1つの態様において、抗PD-1結合ドメインは、抗体E1A9の重鎖および軽鎖のCDRまたは可変領域を含む。別の態様において、結合ドメインは、SEQ ID NO: 59またはSEQ ID NO: 61に示される配列を有する抗体E1A9の重鎖可変領域のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン、ならびにSEQ ID NO: 60またはSEQ ID NO: 62に示される配列を有する抗体E1A9の軽鎖可変領域のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメインを含む。別の態様において、結合ドメインは、SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 36、およびSEQ ID NO: 41にそれぞれ示される配列を有する、重鎖のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン、またはそれらの保存的配列改変種、ならびにSEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 51、およびSEQ ID NO: 56にそれぞれ示される配列を有する、軽鎖のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン、またはそれらの保存的配列改変種を含む。
【0082】
あるいは、結合ドメインは、SEQ ID NO: 69、SEQ ID NO: 74、およびSEQ ID NO: 79にそれぞれ示される配列を有する、重鎖のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン、またはそれらの保存的配列改変種、ならびにSEQ ID NO: 84、SEQ ID NO: 89、およびSEQ ID NO: 94にそれぞれ示される配列を有する、軽鎖のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン、またはそれらの保存的配列改変種を含む。
【0083】
別の態様において、結合ドメインは、SEQ ID NO: 59またはSEQ ID NO: 61に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む。別の態様において、結合ドメインは、SEQ ID NO: 60またはSEQ ID NO: 62に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む。別の態様において、結合ドメインは、SEQ ID NO: 59およびSEQ ID NO: 60にそれぞれ示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む。あるいは、結合ドメインは、SEQ ID NO: 61およびSEQ ID NO: 62にそれぞれ示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む。
【0084】
本明細書において説明される抗PD-1結合ドメインと実質的に同一(例えば、前述の配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一)である配列もまた、本発明に包含される。1つの態様において、抗PD-1結合ドメインは、SEQ ID NO: 59、SEQ ID NO: 61、またはそれと少なくとも90%同一(例えば、前述の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一)である配列を含む重鎖可変領域を含む。別の態様において、抗PD-1結合ドメインは、SEQ ID NO: 60、SEQ ID NO: 62、またはそれと少なくとも90%同一(例えば、前述の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一)である配列を含む軽鎖可変領域を含む。別の態様において、抗PD-1結合ドメインは、SEQ ID NO: 59を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 60を含む軽鎖可変領域、またはそれらと少なくとも90%同一(例えば、前述の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一)である配列を含む。
【0085】
別の態様において、抗PD-1結合ドメインは、SEQ ID NO: 31、SEQ ID NO: 36、およびSEQ ID NO: 41にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにSEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 51、およびSEQ ID NO: 56にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。別の態様において、抗PD-1結合ドメインは、SEQ ID NO: 59を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 60を含む軽鎖可変領域、またはそれらと少なくとも90%同一(例えば、前述の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一)である配列を含む。
【0086】
別の態様において、抗PD-1結合ドメインは、SEQ ID NO: 69、SEQ ID NO: 74、およびSEQ ID NO: 79にそれぞれ示される、重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにSEQ ID NO: 84、SEQ ID NO: 89、およびSEQ ID NO: 94にそれぞれ示される、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。別の態様において、抗PD-1結合ドメインは、SEQ ID NO: 61を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO: 62を含む軽鎖可変領域、またはそれらと少なくとも90%同一(例えば、前述の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一)である配列を含む。
【0087】
別の態様において、抗PD-1結合ドメインは、以下の機能的特徴:(a)PD-L1へのPD-1の結合を(例えば、部分的にもしくは全面的に)妨害する、(b)NFAT経路活性化を誘導する、および/または(c)混合リンパ球反応を誘導する、のうちの1つまたは複数を有する。
【0088】
二重特異性構築物
二重特異性構築物は、様々な方法によって、例えば、2つの既存の結合ドメインをコンジュゲートすること、2つのハイブリドーマ細胞株を融合してクアドローマを形成させること(Jain et al. (2007) Trends in Biotechnology 25(7), 307-316)、または遺伝子操作された組換えタンパク質を使用すること (Kontermann (2012) Dual targeting strategies with bispecific antibodies. mAbs 4(2), 182-197)、によって、生産することができる。
【0089】
化学的コンジュゲーションの場合、2つまたはそれより多い結合ドメイン(例えば、2つまたはそれより多い抗体またはそれらの断片)を合わせてカップリングするための適切な試薬および方法は、当技術分野において公知である。様々なカップリング剤または架橋剤が市販されており、抗ILT4結合ドメインと抗PD-1結合ドメインとをコンジュゲートするために使用することができる。非限定的な例には、スルホ-SMCC、プロテインA、カルボイイミド、ジマレイミド、ジチオ-ビス-ニトロ安息香酸(DTNB)、およびN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)が含まれる。スルホ-SMCC、SPDP、およびDTNBが、好ましい剤であり、スルホ-SMCCが特に好ましい。架橋剤を用いて構成要素(例えば、抗体またはその抗原結合断片)を架橋するための他の適切な手順は、当技術分野において公知である。例えば、Karpovsky, B. et al., (1984) J. Exp. Med. 160:1686; Liu, M. A. et al., (1985) Proc. Natl. Acad. Sci USA 82:8648; Segal, D. M. and Perez, P., 米国特許第4,676,980号;およびBrennan, M. (1986) Biotechniques 4:424を参照されたい。
【0090】
遺伝子操作の場合、標準的な組換えDNA技術を用いて、その抗ILT4結合ドメインをコードする核酸分子を、適切な発現ベクター中に挿入することができる。その抗PD-1結合ドメインをコードする核酸分子もまた、抗ILT4結合ドメインに機能的に連結(例えば、インフレームクローニング)されるように、同じ発現ベクターに挿入し、それによって、二重特異性構築物である融合タンパク質をコードする発現ベクターを生じさせることができる。好ましくは、抗ILT4結合ドメインは、抗PD-1結合ドメインの重鎖のC末端領域に機能的に連結される。別の態様において、抗PD-1結合ドメインは、抗ILT4結合ドメインの重鎖のC末端領域に機能的に連結される。本明細書において説明される二重特異性構築物を調製するための他の適切な発現ベクターおよびクローニング戦略は、当技術分野において公知である。
【0091】
宿主細胞において二重特異性構築物を発現させる場合、結合ドメインのコード領域を、クローニングされたプロモーター配列、リーダー配列、翻訳開始配列、リーダー配列、定常領域配列、3'非翻訳配列、ポリアデニル化配列、および転写終結配列と組み合わせて、発現ベクター構築物を形成させる。これらの構築物を使用して、例えば、完全長ヒトIgG1κ抗体または完全長ヒトIgG4κ抗体を発現させることができる。本明細書において説明される二重特異性構築物において使用される完全ヒト抗体、ヒト化抗体、およびキメラ抗体にはまた、IgG2抗体、IgG3抗体、IgE抗体、IgA抗体、IgM抗体、およびIgD抗体も含まれる。他の重鎖アイソタイプを発現させるために、またはλ軽鎖を含む抗体を発現させるために、同様のプラスミドを構築することができる。
【0092】
二重特異性構築物をコードする発現ベクターの調製後、二重特異性構築物を、標準的なトランスフェクション方法を用いて宿主細胞において組換え発現させることができる。例えば、1つの態様において、二重特異性構築物をコードする核酸は、真核生物発現プラスミドなどの発現ベクター、例えば、WO 87/04462、WO 89/01036、およびEP 338 841で開示されているGS遺伝子発現系または当技術分野において周知の他の発現系によって使用されるものに、ライゲーションすることができる。クローニングされた二重特異性構築物遺伝子を有する精製プラスミドを、真核宿主細胞、例えば、CHO細胞またはNSO細胞、あるいは、植物由来細胞、真菌細胞、または酵母細胞のような他の真核細胞に、導入することができる。これらの遺伝子を導入するために使用される方法は、当技術分野において説明される方法、例えば、エレクトロポレーション、リポフェクチン、またはリポフェクタミンなどであり得る。宿主細胞に発現ベクターを導入した後、二重特異性構築物を発現する細胞を同定および選択することができる。これらの細胞はトランスフェクトーマに相当し、該トランスフェクトーマを、次いで、発現レベルについて増幅しスケールアップして、二重特異性構築物を生産することができる。あるいは、これらのクローニングされた二重特異性構築物を、他の発現系、例えば大腸菌(E.coli)もしくは完全な生物において発現させることもでき、または合成によって発現させることもできる。組換え二重特異性構築物は、これらの培養上清および/または培養細胞から単離および精製することができる。
【0093】
化学的コンジュゲーションによって調製されたか遺伝子操作によって調製されたかを問わず、本発明の二重特異性構築物は、当技術分野において十分に確立されているタンパク質精製のための1つまたは複数の方法を用いて単離および精製することができる。単離および精製のための好ましい方法には、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、および陰イオン交換クロマトグラフィーなどが含まれるが、それらに限定されるわけではない。特に好ましい方法は、例えばSuperdex 200カラムを用いるゲルろ過クロマトグラフィーである。単離および精製された二重特異性構築物は、SDS-PAGE解析などの標準的方法を用いて評価することができる。
【0094】
したがって、1つの態様において、抗ILT4結合ドメインは、抗PD-1結合ドメインに遺伝子融合される。別の態様において、抗ILT4結合ドメインと抗PD-1結合ドメインとは、化学的にコンジュゲートされる。1つの態様において、抗PD-1結合ドメインは、ヒトIgG1定常ドメインをさらに含む。別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、抗PD-1結合ドメインの重鎖のC末端に連結される。別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、scFvである。別の態様において、抗ILT4結合ドメインは、ヒトIgG1定常ドメインをさらに含む。別の態様において、抗PD-1結合ドメインは、抗ILT4結合ドメインの重鎖のC末端に連結される。別の態様において、抗PD-1結合ドメインは、scFvである。
【0095】
前述の抗ILT4結合ドメイン配列および抗PD-1結合ドメイン配列(すなわち、CDR配列および可変領域配列)と実質的に同一の配列を含む二重特異性構築物もまた、本明細書において提供される(例えば、保存的配列改変を有する配列および/または前述の配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一である配列)。例えば、1つの態様において、抗PD-1結合ドメインおよび抗ILT4 scFvは、SEQ ID NO: 64およびSEQ ID NO: 63にそれぞれ示される、重鎖配列および軽鎖配列を含む。別の態様において、抗PD-1結合ドメインおよび抗ILT4 scFvの、重鎖および軽鎖は、SEQ ID NO: 66およびSEQ ID NO: 65にそれぞれ示されるヌクレオチド配列によってコードされる。
【0096】
別の態様において、二重特異性構築物および多重特異性構築物は、以下の特性:
a ヒトILT4に結合するILT4リガンド(例えばHLA-Gリガンド)を妨害すること;
b ヒトマクロファージによるサイトカインもしくはケモカインの放出を増強するかもしくは増加させること;
c マクロファージに対するLPSおよびIFNγの活性化効果を強化すること;
d M1マクロファージの極性化を促進すること;
e 10-9Mもしくはそれ未満の平衡解離定数Kdで、またはその代わりに、10+9M-1もしくはそれより大きい平衡結合定数Kaで、ヒトILT4に結合すること;
f 他のILTファミリーメンバーとの交差反応性の欠如;
g カニクイザルILT4との交差反応性;
h ILT4を発現する腫瘍細胞を阻害すること;ならびに/または
i 別個の抗体の組合わせと比較して増強されたMLR活性
のうちの1つまたは複数を示す。
【0097】
組成物
組成物、例えば、担体(例えば、薬学的に許容される担体)と共に製剤化された、本明細書において説明される二重特異性構築物を含む組成物もまた、本明細書において提供される。
【0098】
本明細書において使用される場合、「担体」および「薬学的に許容される担体」という用語は、生理学的に適合性である任意およびすべての溶媒、塩、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、ならびに等張化剤および吸収遅延剤などを含む。好ましくは、担体は、(例えば、注射または注入による)静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、非経口投与、脊髄投与、または表皮投与に適している。投与経路に応じて、活性化合物(すなわち、本明細書において説明される二重特異性構築物および組成物のいずれか)は、酸の作用および該化合物を不活性化し得る他の自然条件から該化合物を保護するための材料でコーティングされてよい。
【0099】
本明細書において説明される二重特異性構築物および組成物と共に使用され得るアジュバントの例には、以下が含まれるが、それらに限定されるわけではない:フロイントの不完全アジュバントおよび完全アジュバント(Difco Laboratories, Detroit, Mich.);メルクアジュバント65(Merck and Company, Inc., Rahway, N.J.);AS-2(SmithKline Beecham, Philadelphia, Pa.);水酸化アルミニウムゲル(ミョウバン)またはリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩;カルシウム、鉄、または亜鉛の塩;アシル化チロシンの不溶性懸濁液;アシル化糖;陽イオン性または陰イオン性に誘導体化された多糖;ポリホスファゼン;生分解性マイクロスフェア;GM-CSF、インターロイキン-2、インターロイキン-7、インターロイキン-12、および他の同様の因子などのサイトカイン;3D-MPL;CpGオリゴヌクレオチド;ならびにモノホスホリルリピドA、例えば3-de-O-アシル化モノホスホリルリピドA。
【0100】
MPLアジュバントは、Corixa Corporation(Seattle, Wash;例えば、米国特許第4,436,727号;同第4,877,611号;同第4,866,034号、および同第4,912,094号を参照されたい)から入手可能である。CpG含有オリゴヌクレオチド(CpGジヌクレオチドはメチル化されていない)は周知であり、例えば、WO96/02555、WO99/33488、ならびに米国特許第6,008,200号および同第5,856,462号に記載されている。免疫刺激性DNA配列はまた、例えばSato et al., Science 273:352, 1996によっても記載されている。
【0101】
その他の代替アジュバントには、例えば、以下のものが含まれる:サポニン、例えばQuil Aもしくはその誘導体(QS21およびQS7(Aquila Biopharmaceuticals Inc., Framingham、Mass.)を含む);エスチン;ジギトニン;またはカスミソウ属(Gypsophila)もしくはキノア(Chenopodium quinoa)由来のサポニン;モンタニドISA 720(Seppic, France);SAF(Chiron, California, United States);ISCOMS(CSL)、MF-59(Chiron);SBASシリーズのアジュバント(例えば、SmithKline Beecham, Rixensart, Belgiumから入手可能なSBAS-2またはSBAS-4);Detox(Enhanzyn(商標))(Corixa, Hamilton, Mont.);RC-529(Corixa, Hamilton, Mont.)および他のアミノアルキルグルコサミニド4-ホスフェート(AGP);WO 99/52549A1に記載されているものなどのポリオキシエチレンエーテルアジュバント;合成イミダゾキノリン、例えばイミキモド[S-26308、R-837](Harrison, et al., Vaccine 19: 1820-1826, 2001);およびレシキモド[S-28463、R-848](Vasilakos, et al., Cellular immunology 204: 64-74, 2000);抗原提示細胞およびT細胞の表面で構成的に発現されるカルボニルおよびアミンのシッフ塩基、例えばツカレソール(Rhodes, J. et al., Nature 377: 71-75, 1995);タンパク質またはペプチドのいずれかとしてのサイトカイン、ケモカイン、および共刺激分子(例えば、以下を含む:炎症誘発性サイトカイン、例えば、インターフェロン、GM-CSF、IL-1α、IL-1β、TGF-α、およびTGF-β、Th1誘導物質(例えば、インターフェロンγ、IL-2、IL-12、IL-15、IL-18、およびIL-21)、Th2誘導物質(例えば、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10、およびIL-13)、ならびに他のケモカインおよび共刺激遺伝子、例えば、MCP-1、MIP-1α、MIP-1β、RANTES、TCA-3、CD80、CD86、およびCD40L);リガンドを標的とする免疫刺激物質(例えば、CTLA-4およびL-セレクチン)、アポトーシスを刺激するタンパク質およびペプチド(例えばFas);合成脂質ベースのアジュバント、例えばバクスフェクチン(Reyes et al., Vaccine 19: 3778-3786, 2001)、スクアレン、α-トコフェロール、ポリソルベート80、DOPC、およびコレステロール;エンドトキシン、[LPS](Beutler, B., Current Opinion in Microbiology 3: 23-30, 2000);Th1誘導性サイトカインを産生するようにToll受容体を誘発するリガンド、例えば合成マイコバクテリアリポタンパク質、マイコバクテリアタンパク質p19、ペプチドグリカン、テイコ酸、およびリピドA;ならびにCT(コレラ毒素、サブユニットAおよびB)およびLT(大腸菌由来の易熱性エンテロトキシン、サブユニットAおよびB)、熱ショックタンパク質ファミリー(HSP)、およびLLO(リステリオリシンO;WO 01/72329)。これらおよびその他の様々なToll様受容体(TLR)アゴニストは、例えば、Kanzler et al, Nature Medicine, May 2007, Vol 13, No 5に記載されている。
【0102】
「薬学的に許容される塩」とは、親化合物の望ましい生物活性を保持しており、かついかなる望まれない毒物学的作用も与えない塩を意味する(例えば、Berge, S.M., et al. (1977) J. Pharm. Sci. 66:1-19を参照されたい)。このような塩の例には、酸付加塩および塩基付加塩が含まれる。酸付加塩には、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、および亜リン酸などの非毒性無機酸に由来するもの、ならびに、脂肪族のモノカルボン酸およびジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、ならびに脂肪族スルホン酸および芳香族スルホン酸などの非毒性有機酸に由来するものが含まれる。塩基付加塩には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、およびカルシウムなどのアルカリ土類金属に由来するもの、ならびに、N、N'-ジベンジルエチレンジアミン、N-メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、およびプロカインなどの非毒性有機アミンに由来するものが含まれる。
【0103】
本発明の組成物は、当技術分野において公知の様々な方法によって投与することができる。当業者には理解されるように、投与の経路および/または様式は、所望の結果に応じて変わる。活性化合物は、埋め込み剤、経皮パッチ、およびマイクロカプセル化送達系を含む制御放出製剤のように、急速な放出から化合物を保護する担体と共に、調製することができる。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸など、生分解性かつ生体適合性のポリマーを使用することができる。このような製剤を調製するための多くの方法は、特許権を与えられているか、または一般に当業者に公知である。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems, J.R. Robinson, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, 1978を参照されたい。
【0104】
ある種の投与経路によって本発明の化合物を投与するために、その不活性化を防止するための材料で化合物をコーティングすること、または該材料と共に化合物を併用投与することが必要な場合がある。例えば、適切な担体、例えば、リポソーム、または希釈剤に混合して、化合物を対象に投与してもよい。許容される希釈剤には、生理食塩水および水性緩衝溶液が含まれる。リポソームには、水中油中水型CGFエマルジョンおよび従来のリポソームが含まれる(Strejan et al. (1984) J. Neuroimmunol. 7:27)。
【0105】
担体には、無菌の水溶液または分散液、および無菌の注射液剤または分散剤を用時調製するための無菌粉末が含まれる。薬学的に活性な物質に対してこのような媒体および作用物質を使用することは、当技術分野において公知である。任意の従来の媒体または作用物質が活性化合物と適合しない場合を除いて、本発明の薬学的組成物におけるそれらの使用が企図される。補助的な活性化合物もまた、組成物中に混合することができる。
【0106】
治療的組成物は、典型的には、製造および貯蔵の条件下で無菌かつ安定でなければならない。組成物は、液剤、マイクロエマルジョン、リポソーム、または高い薬物濃度に適した他の規則構造として製剤化することができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液状ポリエチレングリコールなど)、ならびにそれらの適切な混合物を含む、溶媒または分散媒であることができる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散系の場合には必要とされる粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって、維持することができる。多くの場合において、等張化剤、例えば、糖、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを組成物中に含むことが好ましいと考えられる。注射用組成物の持続吸収は、吸収を遅延させる作用物質、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物中に含めることによって実現することができる。
【0107】
無菌注射液剤は、必要に応じて、上に列挙した成分のうちの1つまたは組合せと共に、適切な溶媒中で必要な量の活性化合物を混合し、続いて滅菌精密ろ過することによって、調製することができる。一般に、分散剤は、基本となる分散媒体および上に列挙したもののうち必要な他の成分を含む無菌ビヒクル中に活性化合物を混合することによって調製される。無菌注射液剤を調製するための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、予め滅菌ろ過したその溶液から、活性成分および任意の付加的な所望の成分の粉末を生じる、真空乾燥およびフリーズドライ法(凍結乾燥)である。
【0108】
投与計画は、最適な所望の応答(例えば治療応答)を提供するように調整される。例えば、単回ボーラスを投与してよく、いくつかに分割した用量を、ある期間にわたって投与してよく、または治療状況の緊急性に応じて用量を比例的に減少もしくは増加させてよい。例えば、本発明の二重特異性構築物(および組成物)は、皮下注射もしくは筋肉内注射によって毎週1回もしくは2回、または皮下注射もしくは筋肉内注射によって毎月1回もしくは2回、投与されてよい。
【0109】
投与を容易にし、かつ投与量を均一にするために、非経口組成物を単位剤形で製剤化することが特に有利である。本明細書において使用される単位剤形とは、治療される対象に対する単位投与量として適した物理的に個別の単位を意味し;各単位は、必要な薬学的担体と共同して所望の治療的効果を生じるように算出された所定の量の活性化合物を含む。本発明の単位剤形の仕様は、(a)活性化合物の独特な特徴および達成すべき個々の治療的効果、ならびに(b)個体の感受性の処置のためにこのような活性化合物を配合する技術に固有の制約によって決められ、かつ直接的に依存している。
【0110】
薬学的に許容される抗酸化剤の例には以下が含まれる:(1)アスコルビン酸、システイン塩酸塩、ナトリウム重硫酸塩、メタ重亜硫酸ナトリウム、および亜硫酸ナトリウムなどの水溶性抗酸化剤;(2)パルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、およびα-トコフェロールなどの油溶性抗酸化剤;ならびに(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、およびリン酸などの金属キレート剤。
【0111】
治療的組成物の場合、本発明の製剤には、経口投与、経鼻投与、局所(口腔および舌下を含む)投与、直腸投与、膣内投与、および/または非経口投与に適したものが含まれる。製剤は、便宜的には、単位剤形で提供されてよく、かつ製薬分野において公知である任意の方法によって調製されてよい。単一の剤形を作製するために担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は、治療される対象および個々の投与様式に応じて変わると考えられる。単一の剤形を作製するために担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は、一般に、治療的効果をもたらす組成物の量であると考えられる。一般に、この量は、100パーセントのうち、約0.001パーセント~約90パーセントの活性成分、好ましくは約0.005パーセント~約70パーセント、最も好ましくは約0.01パーセント~約30パーセントの範囲であると考えられる。
【0112】
膣内投与に適している本発明の製剤にはまた、適切であることが当技術分野において公知であるような担体を含む、ペッサリー、タンポン、クリーム剤、ゲル剤、パスタ剤、フォーム剤、またはスプレー製剤も含まれる。本発明の組成物を局所投与または経皮投与するための剤形には、散剤、スプレー剤、軟膏剤、パスタ剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、液剤、パッチ、および吸入剤が含まれる。活性化合物は、薬学的に許容される担体と、および必要とされる場合がある任意の保存剤、緩衝剤、または噴射剤と、無菌条件下で混合されてよい。
【0113】
本明細書において使用される「非経口投与」および「非経口的に投与される」という語句は、経腸投与および局所投与以外の、通常は注射による投与様式を意味し、非限定的に、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外、および胸骨内の注射および注入を含む。
【0114】
本発明の薬学的組成物中で使用され得る適切な水性担体および非水性担体の例には、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適切な混合物、オリーブ油などの植物油、ならびにオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが含まれる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材料の使用によって、分散系の場合には必要とされる粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって、維持することができる。
【0115】
これらの組成物はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などの補助剤も含んでよい。微生物の存在の防止は、前記の滅菌手順、ならびに様々な抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、およびフェノールソルビン酸などを含めることの両方によって徹底してよい。また、糖および塩化ナトリウムなどの等張化剤を組成物中に含めることが望ましい場合もある。さらに、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの、吸収を遅延させる作用物質を含めることによって、注射可能な薬学的形態の持続吸収を実現することもできる。
【0116】
本発明の化合物を医薬品としてヒトおよび動物に投与する場合、単独で、または薬学的に許容される担体と組み合わせられた例えば0.001~90%(より好ましくは、0.005~70%、例えば0.01~30%)の活性成分を含有する薬学的組成物として、それらを与えることができる。
【0117】
選択された投与経路に関わらず、適切な水和型で使用され得る本発明の化合物、および/または本発明の薬学的組成物は、当業者に公知である従来の方法によって、薬学的に許容される剤形に製剤化される。
【0118】
本発明の薬学的組成物中の活性成分の実際の投与量レベルは、患者に毒性とならずに、個々の患者、組成物、および投与様式にとって望ましい治療応答を達成するのに有効である量の活性成分を得られるように変更することができる。選択される投与量レベルは、使用される本発明の個々の組成物またはそれらのエステル、塩、もしくはアミドの活性、投与経路、投与時間、使用される個々の化合物の排泄速度、治療期間、使用される個々の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物、および/または材料、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、全体的健康状態、および以前の病歴、ならびに医薬分野において周知である同様の因子を含む、様々な薬物動態学的因子に依存すると考えられる。当技術分野において通常の技能を有する医師または獣医は、必要とされる薬学的組成物の有効量を容易に決定し、処方することができる。例えば、医師または獣医は、薬学的組成物中で使用される本発明の化合物の用量を、所望の治療的効果を実現するために必要とされるよりも低いレベルで開始し、所望の効果が実現されるまで投与量を徐々に増加させることができるであろう。一般に、本発明の組成物の適切な1日量は、治療的効果を生じるのに有効な最小用量である化合物の量であると考えられる。このような有効用量は、一般に、前述の因子に応じて変わる。投与が静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下であることが好ましく、好ましくは標的部位の近位に投与される。所望の場合は、治療的組成物の有効な1日量は、任意で単位剤形で、その日を通して適切な間隔で別々に投与される2回、3回、4回、5回、6回、またはそれより多い分割用量として、投与されてよい。本発明の化合物を単独で投与することは可能であるものの、薬学的製剤(組成物)として該化合物を投与することが好ましい。
【0119】
治療的組成物は、当技術分野において公知の医療器具を用いて投与することができる。例えば、好ましい態様において、本発明の治療的組成物は、米国特許第5,399,163号、同第5,383,851号、同第5,312,335号、同第5,064,413号、同第4,941,880号、同第4,790,824号、または同第4,596,556号に開示されている器具などの、針無しの皮下注射器具を用いて投与することができる。本発明において有用な周知の埋め込み物およびモジュールの例には、以下が含まれる:制御された速度で医用薬剤を投与するための埋め込み可能なマイクロインフュージョンポンプを開示している米国特許第4,487,603号;皮膚を介して医薬品を投与するための治療用器具を開示している米国特許第4,486,194号;正確な注入速度で医用薬剤を送達するための医用薬剤注入ポンプを開示している米国特許第4,447,233号;持続的な薬物送達用の流量可変な埋め込み可能注入装置を開示している米国特許第4,447,224号;複数のチャンバー区画を有する浸透圧薬物送達系を開示している米国特許第4,439,196号;および浸透圧薬物送達系を開示している米国特許第4,475,196号。多数の他のこのような埋め込み物、送達系、およびモジュールが、当業者に公知である。
【0120】
特定の態様において、本発明の二重特異性構築物を、インビボでの適切な分布を確実にするように製剤化することができる。例えば、血液脳関門(BBB)は、多くの親水性の高い化合物を排除する。(所望の場合は)本発明の治療的化合物がBBBを通過するよう徹底するために、それらを例えばリポソームの形態で製剤化することができる。リポソームを製造する方法に関しては、例えば、米国特許第4,522,811号、同第5,374,548号、および同第5,399,331号を参照されたい。リポソームは、特定の細胞または器官中に選択的に輸送され、それによって、標的化された薬物送達を促進する、1つまたは複数の部分を含んでよい(例えば、V.V. Ranade (1989) J. Clin. Pharmacol. 29:685を参照されたい)。例示的なターゲティング部分には、葉酸またはビオチン(例えば、Lowらによる米国特許第5,416,016号を参照されたい);マンノシド(Umezawa et al., (1988) Biochem. Biophys. Res. Commun. 153:1038);抗体(P.G. Bloeman et al. (1995) FEBS Lett. 357:140; M. Owais et al. (1995) Antimicrob. Agents Chemother. 39:180)、サーファクタントタンパク質A受容体(Briscoe et al. (1995) Am. J. Physiol. 1233:134)(その異なる種が、本発明の製剤および本発明の分子の構成要素を構成してもよい);p120(Schreier et al. (1994) J. Biol. Chem. 269:9090)が含まれる; K. Keinanen; M.L. Laukkanen (1994) FEBS Lett. 346:123; J.J. Killion; I.J. Fidler (1994) Immunomethods 4:273もまた、参照されたい。本発明の1つの態様において、本発明の治療的化合物は、リポソームの形態で製剤化され;より好ましい態様において、リポソームはターゲティング部分を含む。最も好ましい態様において、リポソーム中の治療的化合物は、腫瘍または感染に近位の部位へのボーラス注射によって送達される。組成物は、容易な注入可能性が存在する程度に、流動性でなければならない。これは製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、かつ細菌および真菌などの微生物の汚染活動から保護されなければならない。
【0121】
ある化合物ががんを阻害する能力は、ヒト腫瘍における有効性の予測に役立つ動物モデル系において評価することができる。あるいは、ある組成物のこの特性は、その化合物の阻害能力、インビトロでのそのような阻害を、当業者に公知のアッセイ法によって調査することによって評価することができる。治療的有効量の治療的化合物は、腫瘍サイズを縮小することができるか、またはそうでなければ、対象において症状を改善することができる。当業者は、対象の大きさ、対象の症状の重症度、および選択される個々の組成物または投与経路などの因子に基づいてそのような量を決定できると思われる。
【0122】
これらの組成物は、無菌であり、かつ注射器によって該組成物を送達可能である程度に流動性でなければならない。水のほかに、担体は、等張性の緩衝生理食塩水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液状ポリエチレングリコールなど)、ならびにそれらの適切な混合物であることができる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用、分散系の場合には必要とされる粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって、維持することができる。多くの場合において、等張化剤、例えば、糖、マンニトールまたはソルビトールなどのポリアルコール、および塩化ナトリウムを組成物中に含むことが好ましい。注射用組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる作用物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンを組成物中に含めることによって実現することができる。
【0123】
活性化合物が前述のように適切に保護される場合、該化合物は、例えば、不活性な希釈剤または消化吸収可能な可食担体と共に、経口投与され得る。
【0124】
核酸
二重特異性構築物またはその結合ドメインをコードする単離された核酸分子、ならびにそのような核酸を含む発現ベクターおよびそのような発現ベクターを含む宿主細胞もまた、本明細書において提供される。1つの態様において、本明細書において説明される二重特異性構築物のいずれかをコードする核酸分子が、提供される。別の態様において、核酸分子は、発現ベクターの形態である。別の態様において、核酸分子は、インビボで対象に投与された場合に二重特異性構築物(またはその一部分)を発現する、発現ベクターの形態である。
【0125】
1つの態様において、核酸分子は、本明細書において説明される二重特異性構築物の抗ILT4結合ドメイン(もしくはその一部分)、抗PD-1結合ドメイン(もしくはその一部分)、または両方の結合ドメインをコードするヌクレオチド配列を含む。別の態様において、核酸分子は、SEQ ID NO: 64およびSEQ ID NO: 63にそれぞれ示される、二重特異性構築物の重鎖配列および軽鎖配列、またはそれらと少なくとも90%同一である(例えば、前述の配列のうちの1つもしくは複数と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一である)アミノ酸配列、をコードするヌクレオチド配列を含む。別の態様において、重鎖および軽鎖は、SEQ ID NO: 66およびSEQ ID NO: 65にそれぞれ示されるヌクレオチド配列、またはそれらと少なくとも90%同一である(例えば、前述の配列のうちの1つもしくは複数と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一である)ヌクレオチド配列によってコードされる。
【0126】
「ベクター」という用語は、本明細書において使用される場合、連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を意味すると意図される。ベクターの1つのタイプは「プラスミド」であり、これは、その中に付加的なDNAセグメントがライゲーションされ得る環状二本鎖DNAループを意味する。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、該ベクターでは、付加的なDNAセグメントがウイルスゲノム中にライゲーションされ得る。ある種のベクターは、それらが導入される宿主細胞において自律複製する能力を有する(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノム中に組み込まれることが可能であり、それによって、宿主ゲノムと共に複製される。さらに、ある種のベクターは、ベクターが機能的に連結された遺伝子の発現を指示する能力を有する。このようなベクターは、本明細書において「組換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」)と呼ばれる。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、プラスミドの形態であることが多い。プラスミドはベクターの最も一般に使用される形態であるため、本明細書において、「プラスミド」および「ベクター」は、同義的に使用されてよい。しかし、本発明は、等価な機能を果たすこのような他の形態の発現ベクター、例えばウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)を含むと意図される。
【0127】
「組換え宿主細胞」(または単に「宿主細胞」)という用語は、本明細書において使用される場合、組換え発現ベクターが導入された細胞を意味すると意図される。このような用語は、特定の対象細胞だけではなく、そのような細胞の子孫も意味すると意図されることを理解すべきである。変異または環境の影響のいずれかの理由で、いくつかの改変が後続の世代において生じる場合があるため、このような子孫は、実際は、親細胞と同一でない場合があるが、それでもなお、本明細書において使用される「宿主細胞」という用語の範囲内に含まれる。
【0128】
併用療法
本明細書において説明される二重特異性構築物を、別の治療薬と組み合わせて、すなわち他の作用物質と組み合わせて、投与することができる。本明細書において使用される「併用投与される」という用語は、投薬計画の一環としての投与を含む、本明細書において説明される二重特異性構築物とアジュバントおよび他の作用物質との同時投与、別々投与、または逐次投与のいずれかまたはすべてを含む。例えば、併用療法は、少なくとも1種または複数種の付加的な治療物質、例えば、抗炎症物質、DMARD(疾患修飾性抗リウマチ薬)、免疫抑制物質、化学療法剤、放射線療法、他の抗体、サイトトキシン、および/または薬物、ならびにアジュバント、免疫刺激物質、および/または免疫抑制物質と共に、本明細書において説明される二重特異性構築物を投与することを含むことができる。
【0129】
腫瘍の治療において、本明細書において説明される二重特異性構築物との併用投与に適した化学療法剤には、例えば、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、糖質コルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、およびピューロマイシン、ならびにそれらのアナログまたはホモログが含まれる。その他の作用物質には、例えば、代謝拮抗剤(例えば、メトトレキサート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、5-フルオロウラシル デカルバジン)、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオエパクロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)およびロムスチン(CCNU)、シクロトスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、およびcis-ジクロロジアミン白金(II)(DDP)シスプラチン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(以前はダウノマイシン)およびドキソルビシン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(以前はアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、およびアントラマイシン(AMC))、ならびに有糸分裂阻害剤(例えば、ビンクリスチンおよびビンブラスチン)、ならびにテモゾロマイドが含まれる。
【0130】
例えば、免疫細胞(例えば、制御性T細胞、NKT細胞、マクロファージ、骨髄系由来サプレッサー細胞、未成熟樹状細胞もしくは抑制性樹状細胞)または腫瘍の局所的微小環境において腫瘍細胞もしくは宿主細胞によって産生される抑制因子(例えば、TGFβ、インドールアミン2,3ジオキシゲナーゼ(IDO))による免疫抑制活性を消去または阻害する作用物質もまた、本明細書において説明される二重特異性構築物と共に投与されてよい。このような作用物質には、抗体および低分子薬物、例えば、1メチルトリプトファンまたは誘導体などのIDO阻害剤が含まれる。
【0131】
このような免疫障害の処置を目的として、本明細書において説明される二重特異性構築物と併用投与するために適した作用物質には、例えば、ラパマイシン、シクロスポリン、およびFK506などの免疫抑制物質;エタナーセプト、アダリムマブ、およびインフリキシマブなどの抗TNF剤;ならびにステロイドが含まれる。具体的な天然ステロイドおよび合成ステロイドの例には、例えば、アルドステロン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、クロプレドノール、コルチゾン、コルチバゾール、デオキシコルトン、デソニド、デスオキシメタゾン、デキサメタゾン、ジフルオロコルトロン、フルクロロロン、フルメタゾン、フルニソリド、フルオシノロン、フルオシノニド、フルオコルチンブチル、フルオロコルチゾン、フルオロコルトロン、フルオロメトロン、フルランドレノロン、フルチカゾン、ハルシノニド、ヒドロコルチゾン、イコメタゾン、メプレドニゾン、メチルプレドニゾロン、パラメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、チキソコルトール、およびトリアムシノロンが含まれる。
【0132】
免疫応答の誘導または増強を目的として、本明細書において説明される二重特異性構築物と併用投与するために適した作用物質には、例えば、アジュバントおよび/または免疫刺激物質が含まれ、これらの非限定的な例は、上記に開示された。1つの態様において、免疫刺激物質は、ポリICなどのTLR3アゴニストである。
【0133】
本明細書において使用される場合、「免疫刺激物質」という用語は、樹状細胞(DC)およびマクロファージなどの抗原提示細胞(APC)を刺激することができる化合物を含むが、それに限定されるわけではない。例えば、本発明において使用するために適した免疫刺激物質は、APCの成熟プロセスが速められ、APCの増殖が増大され、かつ/または共刺激分子(例えば、CD80、CD86、ICAM-1、MHC分子、およびCCR7)ならびに炎症誘発性サイトカイン(例えば、IL-1β、IL-6、IL-12、IL-15、およびIFN-γ)の動員または放出が上方制御されるように、APCを刺激することができる。適切な免疫刺激物質はまた、T細胞増殖を増大させることもできる。このような免疫刺激物質には、CD40リガンド;FLT3リガンド;IFN-α、IFN-β、IFN-γ、およびIL-2などのサイトカイン;G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)およびGM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)などのコロニー刺激因子;アゴニストとして作用するCD40抗体、CTLA-4抗体、PD-1抗体(すなわち、第2の抗PD-1抗体)、41BB抗体、またはOX-40抗体;LPS(エンドトキシン);ssRNA;dsRNA;カルメット・ゲラン杆菌(Bacille Calmette-Guerin)(BCG);レバミゾール塩酸塩;および静脈内免疫グロブリンが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0134】
1つの態様において、免疫刺激物質は、アゴニスト特徴を有するCD40抗体であってよい。このような特徴には、例えば、HLA-DR V450、CD54 PE、CD86 APC、CD83 BV510、CD19 V500、CD54 PE、HLA-DR V450、CD23 PerCP-Cy5.5、CD69 APC、CD86 APC、CD38、およびCD71 PEからなる群より選択される細胞表面マーカーの発現の増大によって程度が示される、T細胞活性の増大および/またはB細胞活性化の増大が、例えば含まれる。別の態様において、CD40抗体は、例えばCD95の発現の増大によって程度が示されるように、CD40発現細胞におけるCD40L(CD154)へのCD40の結合を妨害し、かつ/または細胞のアポトーシスを誘導する。本発明の具体的なアゴニストCD40抗体には、WO2017/184619に記載されている抗体、例えばアゴニストCD40抗体3C3(CDX-1140)が含まれる。
【0135】
別の態様において、免疫刺激物質は、Toll様受容体(TLR)アゴニストであってよい。例えば、免疫刺激物質は、TLR3アゴニスト、例えば、二重鎖イノシン:シトシンポリヌクレオチド(ポリI:C、例えば、Hemispherx Bipharma(PA,US)からAmpligen(商標)として、もしくはOncovirからポリIC:LCとして入手可能)またはポリA:U;TLR4アゴニスト、例えば、モノホスホリルリピドA(MPL)もしくはRC-529(例えばGSK(UK)から入手可能);TLR5アゴニスト、例えばフラゲリン;TLR7アゴニストもしくはTLR8アゴニスト、例えば、イミダゾキノリン系のTLR7アゴニストもしくはTLR8アゴニスト、例えば、イミキモド(例えばAldara(商標))もしくはレシキモドおよび関連するイミダゾキノリン系物質(例えば3M Corporationから入手可能);またはTLR9アゴニスト、例えば、非メチル化CpGモチーフを含むデオキシヌクレオチド(いわゆる「CpG」、例えばColey Pharmaceuticalから入手可能)であってよい。このような免疫刺激物質は、本明細書において説明される二重特異性構築物と同時に、別々に、または逐次的に投与されてよい。
【0136】
本発明の使用および方法
本明細書において説明される二重特異性構築物または組成物を、それを必要とする患者に投与することによって、免疫応答を誘導または増強する方法、およびがんを処置する方法もまた、本明細書において提供される。
【0137】
「免疫応答を誘導すること」および「免疫応答を増強すること」という用語は、同義的に使用され、特定の抗原に対する免疫応答(すなわち、受動または適応のいずれか)の刺激を意味する。
【0138】
「処置する」、「処置すること」、および「処置」という用語は、本明細書において使用される場合、本明細書において説明される治療的手段を意味する。「処置」の方法は、本明細書において説明される二重特異性構築物または組成物の、そのような処置を必要とする対象への投与であって、例えば、特定の抗原に対する免疫応答の増強を必要とする対象または最終的にそのような障害を起こす可能性がある対象への、該障害もしくは再発性障害の1つもしくは複数の症状を治癒する、遅延させる、その重症度を低下させる、もしくは改善するための、またはそのような処置の非存在下で予想されるよりも長くに対象の生存期間を延長するための、投与を使用する。
【0139】
「有効用量」または「有効投与量」という用語は、所望の効果を実現するか、または少なくとも部分的に実現するのに十分な量と定義される。「治療的有効用量」という用語は、既に疾患に罹患している患者において、該疾患およびその合併症を治癒するかまたは少なくとも部分的に進行を止めるのに十分な量と定義される。この用途に有効な量は、処置される障害の重症度および患者自身の免疫系の全般的状態に応じて変わると考えられる。
【0140】
「患者」という用語は、予防的処置または治療的処置のいずれかを受けるヒト対象および他の哺乳動物対象を含む。
【0141】
本明細書において使用される場合、(例えば細胞に関係する)「増殖を阻害する」という用語は、細胞増殖の任意の測定可能な減少、例えば、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、99%、または100%の、細胞増殖の阻害を含むことが意図される。
【0142】
別の局面において、対象において(例えば、抗原に対する)免疫応答を誘導または増強するための方法は、本明細書において説明される二重特異性構築物または組成物のいずれか1つを、該対象において(例えば、抗原に対する)免疫応答を誘導または増強するために有効な量で、該対象に投与する段階を含む。
【0143】
別の局面において、対象においてがんを処置するための方法が提供され、該方法は、本明細書において説明される二重特異性構築物または組成物を、病態または疾患を処置するために有効な量で、該対象に投与する段階を含む。
【0144】
対象は、例えば、免疫応答の刺激が望ましい病態または疾患に罹患している対象であることができる。1つの態様において、該病態または該疾患は、がんである。がんのタイプには、以下が含まれるが、それらに限定されるわけではない:白血病、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病(骨髄芽球、前骨髄球、骨髄単球性、単球性、赤白血病)、慢性白血病、慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病、慢性リンパ性白血病、マントル細胞リンパ腫、原発性中枢神経系リンパ腫、バーキットリンパ腫および辺縁帯B細胞リンパ腫、真性赤血球増加症リンパ腫、ホジキン病、非ホジキン病、多発性骨髄腫、ワルデンストレームマクログロブリン血症、重鎖病、固形腫瘍、肉腫、および癌腫、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸肉腫、結腸直腸の癌腫、膵がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮がん、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭状癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、ヘパトーマ、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎児性癌、胎生癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、子宮がん、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、上咽頭癌、食道癌、基底細胞癌、胆道がん、膀胱がん、骨がん、脳および中枢神経系(CNS)のがん、子宮頸がん、絨毛癌、結腸直腸がん、結合組織がん、消化器系のがん、子宮内膜がん、食道がん、眼がん、頭頸部がん、胃のがん、上皮内新生物、腎臓がん、喉頭がん、肝臓がん、肺がん(小細胞、大細胞)、黒色腫、神経芽細胞腫;口腔がん(例えば、唇、舌、口、および咽頭)、卵巣がん、膵がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、直腸がん、呼吸器系のがん、肉腫、皮膚がん、胃がん、精巣がん、甲状腺がん、子宮がん、および泌尿器系のがん。具体的ながんには、慢性リンパ性白血病、マントル細胞リンパ腫、原発性中枢神経系リンパ腫、バーキットリンパ腫、および辺縁帯B細胞リンパ腫からなる群より選択される、ILT4を発現する腫瘍が含まれる。他の適応症には、細菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症、および寄生虫感染症が含まれる。
【0145】
本明細書において説明される対象において(例えば、抗原に対する)免疫応答を誘導または増強する方法は、該対象に該抗原を投与する段階をさらに含むことができる。本明細書において使用される場合、「抗原」という用語は、任意の天然または合成の免疫原性物質、例えば、タンパク質、ペプチド、ハプテン、多糖、および/または脂質を意味する。本明細書において説明される二重特異性構築物または組成物と抗原とを、同時に投与することができ、あるいは二重特異性構築物または組成物を、抗原が投与される前または後に投与することもできる。
【0146】
1つの態様において、本明細書において説明される二重特異性構築物または組成物を、ワクチンと組み合わせて投与して、ワクチン抗原、例えば腫瘍抗原(それによって、腫瘍に対する免疫応答を増強するため)または感染症病原体に由来する抗原(それによって、感染症病原体に対する免疫応答を増強するため)に対する免疫応答を増強する。したがって、1つの態様において、ワクチン抗原は、例えば、腫瘍に対するかまたはウイルス、細菌、寄生虫、もしくは真菌などの感染症病原体に対する免疫応答を誘発する能力を有する抗原または抗原性組成物を含むことができる。1種または複数種の抗原は、腫瘍に由来し、例えば、本明細書において先に開示した様々な腫瘍抗原である。あるいは、該1種または複数種の抗原は、ウイルス、細菌、寄生虫、および/または真菌などの病原体に由来することもできる。
【0147】
本明細書において説明される二重特異性構築物または組成物と併用投与される好ましい抗原には、腫瘍抗原およびワクチン抗原(例えば、細菌、ウイルス、または他の病原体の抗原であり、ワクチン接種の目的で、対象においてこれらに対する防御免疫が生じることが望ましい)が含まれる。適切な病原体抗原のその他の例には、腫瘍関連抗原(TAA)が含まれ、これには、非限定的に、EGFR、EGFRvIII、gp100またはPmel17、HER2/neu、メソテリン、CEA、MART1、MAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MUC-1、GPNMB、HMW-MAA、TIM1、ROR1、CD19、および生殖細胞由来の腫瘍抗原の配列の全部または一部を含む配列が含まれる。
【0148】
他の適切な抗原には、ウイルス性疾患を予防または処置するためのウイルス抗原が含まれる。ウイルス抗原の例には、HIV-1env抗原、HBsAg抗原、HPV抗原、FAS抗原、HSV-1抗原、HSV-2抗原、p17抗原、ORF2抗原、およびORF3抗原が含まれるが、それらに限定されるわけではない。さらに、ウイルス抗原またはウイルス抗原決定基は、例えば、以下に由来することができる:サイトメガロウイルス(特にヒト、例えばgBまたはその誘導体);エプスタイン・バーウイルス(例えばgp350);フラビウイルス(例えば、黄熱病ウイルス、デングウイルス、ダニ媒介脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス);肝炎ウイルス、例えばB型肝炎ウイルス(例えば、EP-A-414374;EP-A-0304578、およびEP-A-198474に記載されているPreSl抗原、PreS2抗原、およびS抗原などのB型肝炎表面抗原)、A型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、およびE型肝炎ウイルス;HIV-1(例えば、tat、nef、gpl20、またはgpl60);ヒトヘルペスウイルス、例えば、gDもしくはその誘導体、または最初期タンパク質(例えば、HSV1もしくはHSV2に由来するICP27);ヒトパピローマウイルス(例えば、HPV6、HPV11、HPV16、HPV18);インフルエンザウイルス(卵もしくはMDCK細胞、またはVero細胞もしくは全粒子インフルエンザビロソーム(Gluck, Vaccine, 1992, 10, 915-920によって説明されている)において増殖させた、全粒子の生ウイルスもしくは不活化ウイルス、スプリットインフルエンザウイルス、またはその精製タンパク質もしくは組換えタンパク質、例えば、NPタンパク質、NAタンパク質、HAタンパク質、もしくはMタンパク質);麻疹ウイルス;ムンプスウイルス;パラインフルエンザウイルス;狂犬病ウイルス;呼吸器合胞体ウイルス(例えば、Fタンパク質およびGタンパク質);ロタウイルス(弱毒化生ウイルスを含む);天然痘ウイルス;水痘帯状疱疹ウイルス(例えば、gpI、gpII、およびIE63);ならびに子宮頸がんに関与するHPVウイルス(例えば、プロテインD担体と融合して、HPV16からタンパク質D-E6融合物もしくはタンパク質D-E7融合物またはそれらの組合せを形成する、初期タンパク質E6またはE7;またはE6もしくはE7とL2との組合せ(例えばWO96/26277を参照されたい)。
【0149】
細菌抗原の例には、トキソプラズマ・ゴンディ(Toxoplasma gondii)またはトレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。細菌抗原は、炭疽病、ボツリヌス中毒、破傷風、クラミジア感染症、コレラ、ジフテリア、ライム病、梅毒、および結核などの様々な細菌性疾患の処置または予防において存在することができる。細菌抗原または細菌抗原決定基は、例えば、以下に由来することができる:バチルス属(Bacillus)の種であって、B.アンスラシス(B. anthracis)(例えばボツリヌス毒素)を含む、該バチルス属の種;ボルデテラ属(Bordetella)の種であって、B.パーツシス(B. pertussis)(例えば、パータクチン、百日咳毒素、線維状赤血球凝集素、アデニル酸シクラーゼ、線毛)を含む、該ボルデテラ属の種;ボレリア属(Borrelia)の種であって、B.ブルグドルフェリ(B. burgdorferi)(例えば、OspA、OspC、DbpA、DbpB)、B.ガリニ(B. garinii)(例えば、OspA、OspC、DbpA、DbpB)、B.アフゼリ(B. afzelii) (例えば、OspA、OspC、DbpA、DbpB)、B.アンデルソニイ(B. andersonii)(例えば、OspA、OspC、DbpA、DbpB)、B.ハームシイ(B. hermsii)を含む、該ボレリア属の種;カンピロバクター属(Campylobacter)の種であって、C.ジェジュニ(C. jejuni)(例えば、毒素、アドヘシン、およびインベーシン)ならびにC.コリ(C.coli)を含む、該カンピロバクター属の種;クラミジア属(Chlamydia)の種であって、C.トラコマチス(C. trachomatis)(例えば、MOMP、ヘパリン結合タンパク質)、C.ニューモニエ(C. pneumonie)(例えば、MOMP、ヘパリン結合タンパク質)、C.シッタシ(C. psittaci)を含む、該クラミジア属の種;クロストリジウム属(Clostridium)の種であって、C.テタニ(C. tetani)(例えば破傷風毒素)、C.ボツリヌス(C. botulinum)(例えばボツリヌス毒素)、C.ディフィシル(C. difficile)(例えば、クロストリジウム毒素AまたはB)を含む、該クロストリジウム属の種;コリネバクテリウム属(Corynebacterium)の種であって、C.ジフテリエ(C. diphtheriae)(例えば、ジフテリア毒素)を含む、該コリネバクテリウム属の種;エーリキア属(Ehrlichia属)の種であって、E.エクイ(E. equi)およびヒト顆粒球エーリキア症の病原体を含む、該エーリキア属の種;リケッチア属(Rickettsia)の種であって、R.リケッチイ(R. rickettsii)を含む、該リケッチア属の種;エンテロコッカス属(Enterococcus)の種であって、E.フェカリス(E. faecalis)、E.フェシウム(E. faecium)を含む、該エンテロコッカス属の種;エシェリキア属(Escherichia)の種であって、腸毒素性大腸菌(例えば、定着因子、易熱性毒素もしくはその誘導体、または熱安定性毒素)、腸管出血性大腸菌、腸管病原性大腸菌(例えば志賀毒素様毒素)を含む、該エシェリキア属の種;ヘモフィルス属(Haemophilus)の種であって、H.インフルエンザ(H. influenzae)B型(例えばPRP)、無莢膜型H.インフルエンザ、例えば、OMP26、高分子量アドヘシン、P5、P6、プロテインDおよびリポタンパク質D、ならびにフィンブリンおよびフィンブリン由来ペプチド(例えばUS5,843,464を参照されたい)を含む、該ヘモフィルス属の種;ヘリコバクター属(Helicobacter)の種であって、H.ピロリ(H. pylori)(例えば、ウレアーゼ、カタラーゼ、空胞化毒素)を含む、該ヘリコバクター属の種;シュードモナス属(Pseudomonas)の種であって、P.エルギノーサ(P. aeruginosa)を含む、該シュードモナス属の種;レジオネラ属(Legionella)の種であって、L.ニューモフィラ(L. pneumophila)を含む、該レジオネラ属の種;レプトスピラ属(Leptospira)の種であって、L.インテロガンス(L. interrogans)を含む、該レプトスピラ属の種;リステリア属(Listeria)の種であって、L.モノサイトゲネス(L. monocytogenes)を含む、該リステリア属の種;モラクセラ属(Moraxella)の種であって、ブランハメラ・カタラーリス(Branhamella catarrhalis)としても公知のM.カタラーリス(M. catarrhalis)(例えば、高分子量および低分子量のアドヘシンおよびインベーシン)を含む、該モラクセラ属の種;モレクセラ・カタラーリス(Morexella Catarrhalis)(その外膜小胞およびOMP106(例えばWO97/41731を参照されたい)を含む);マイコバクテリウム属(Mycobacterium)の種であって、M.ツベルクローシス(M. tuberculosis)(例えば、ESAT6、抗原85A、抗原85B、または抗原85C)、M.ボビス(M. bovis)、M.レプレ(M. leprae)、M.アビウム(M. avium)、M.パラツベルクローシス(M. paratuberculosis)、M.スメグマチス(M. smegmatis)を含む、該マイコバクテリウム属の種;ナイセリア属(Neisseria)の種であって、淋菌(N. gonorrhea)および髄膜炎菌(N. meningitidis)(例えば、莢膜多糖およびその複合物、トランスフェリン結合タンパク質、ラクトフェリン結合タンパク質、PilC、アドヘシン)を含む、該ナイセリア属の種;髄膜炎菌(Neisseria mengitidis)B(その外膜小胞およびNspA(例えばWO 96/29412を参照されたい)を含む、該髄膜炎菌B;サルモネラ属(Salmonella)の種であって、チフス菌(S. typhi)、パラチフス菌(S. paratyphi)、豚コレラ菌(S. choleraesuis)、腸炎菌(S. enteritidis)を含む、該サルモネラ属の種;シゲラ属(Shigella)の種であって、S.ソネイ(S. sonnei)、S.ディゼンテリエ(S. dysenteriae)、S.フレキシネリ(S. flexnerii)を含む、該シゲラ属の種;スタフィロコッカス属(Staphylococcus)の種であって、S.アウレウス(S. aureus)、S.エピデルミデス(S. epidermidis)を含む、該スタフィロコッカス属の種;ストレプトコッカス属(Streptococcus)の種であって、肺炎球菌(S. pneumonie)(例えば、莢膜多糖およびその複合物、PsaA、PspA、ストレプトリシン、コリン結合タンパク質)、ならびにタンパク質抗原ニューモリシン(Biochem Biophys Acta, 1989,67,1007; Rubins et al., Microbial Pathogenesis, 25,337-342)および解毒されたその変異誘導体(例えば、WO 90/06951;WO 99/03884を参照されたい)を含む、該ストレプトコッカス属の種;トレポネーマ属(Treponema)の種であって、T.パリダム(T. pallidum)(例えば外膜タンパク質)、T.デンティコラ(T. denticola)、T.ヒオディセンテリア(T. hyodysenteriae)を含む、該トレポネーマ属の種;ビブリオ属(Vibrio)の種であって、コレラ菌(V. cholera)(例えばコレラ毒素)を含む、該ビブリオ属の種;ならびにエルシニア属(Yersinia)の種であって、エンテロコリチカ菌(Y. enterocolitica)(例えばYopタンパク質)、ペスト菌(Y. pestis)、仮性結核菌(Y. pseudotuberculosis)を含む、該エルシニア属の種。
【0150】
寄生虫/真菌の抗原または抗原決定基は、例えば、以下に由来することができる:B.ミクロチ(B.microti)を含む、バベシア属(Babesia)の種;C.アルビカンス(C.albicans)を含む、カンジダ属(Candida)の種;C.ネオフォルマンス(C. neoformans)を含む、クリプトコッカス属(Cryptococcus)の種;赤痢アメーバ(E. histolytica)を含む、エントアメーバ属(Entamoeba)の種;ランブル鞭毛虫(G. lamblia)を含む、ジアルジア属(Giardia)の種;L.メジャー(L. major)を含む、レシュマニア属(Leshmania)の種;熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium faciparum)(プラスモジウム属(Plasmodium)の種における、MSP1、AMA1、MSP3、EBA、GLURP、RAP1、RAP2、セクエストリン、PfEMP1、Pf332、LSA1、LSA3、STARP、SALSA、PfEXP1、Pfs25、Pfs28、PFS27/25、Pfs16、Pfs48/45、Pfs230、およびそれらのアナログ);P.カリニ(P.carinii)を含むニューモシスチス属(Pneumocystis)の種;マンソン住血吸虫(S. mansoni)を含む、住血吸虫属(Schisostoma)の種;T.バギナリス(T. vaginalis)を含む、トリコモナス属(Trichomonas)の種;T.ゴンディ(T. gondii)(例えば、SAG2、SAG3、Tg34)を含む、トキソプラズマ属(Toxoplasma)の種;T.クルーズ(T. cruzi)を含む、トリパノソーマ属(Trypanosoma)の種。
【0151】
本発明のこの局面に従って、抗原および抗原決定基を様々な多くの形態で使用できることが認識されるであろう。例えば、抗原または抗原決定基は、(例えば、いわゆる「サブユニットワクチン」における)単離されたタンパク質もしくはペプチドとして、または例えば、(例えば、生きた病原体株もしくは死滅させた病原体株のいずれかにおける)細胞関連もしくはウイルス関連の抗原もしくは抗原決定基として、存在することができる。生きた病原体は、好ましくは、公知の様式で弱毒化される。あるいは、抗原または抗原決定基は、(いわゆる「DNAワクチン接種」の場合のように)抗原または抗原決定基をコードするポリヌクレオチドの使用によって、対象においてインサイチューで生成させてもよいが、このアプローチと共に使用され得るポリヌクレオチドは、DNAに限定されず、RNAおよび上記の改変されたポリヌクレオチドもまた含み得ることが認識されるであろう。
【0152】
1つの態様において、ワクチン抗原はまた、例えば特定の細胞型または特定の組織を、標的にすることもできる。例えば、ワクチン抗原は、例えばWO 2009/061996(Celldex Therapeutics, Inc)において論じられているDEC-205などのAPC表面受容体または例えばWO 03040169(Medarex, Inc.)において論じられているマンノース受容体(CD206)を標的とする抗体などの作用物質を使用することなどによって、抗原提示細胞(APC)を標的にすることができる。
【0153】
キット
本明細書において説明される、1つまたは複数の、二重特異性構築物または組成物を、任意で使用説明書と共に含むキット(例えば診断キット)もまた、提供される。キットはまた、情報を与えるパンフレット、例えば、本明細書において開示される方法を実施するための試薬の使用方法を知らせるパンフレットも、含んでよい。「パンフレット」という用語は、キット上にもしくはキットと共に与えられる、またはそうでなければキットに付属する、任意の文書、マーケティング資料、または記録された資料を含む。
【0154】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、該実施例は、さらなる限定として解釈されるべきではない。本出願の全体を通して引用される図ならびにすべての参照文献、特許および公開された特許出願の内容は、参照により本明細書に明示的に組み入れられる。
【実施例】
【0155】
V.実施例
実施例1:二重特異性構築物の作製
ILT4およびPD-1を標的とする抗体(例えば結合ドメイン)を用いて二重特異性構築物CDX-585を形成させて、二重特異性構築物を作製した。抗PD1抗体と抗PD1抗体重鎖のC末端に対してVL-VHの向きで遺伝学的に連結された抗ILT4抗体の単鎖Fv断片(scFv)とに対して完全ヒトIgG1 AQQYTEκバックボーンを用いて、四価型(各標的に対して二価)を開発した。重鎖(HC)のFc領域は、6個の付加的なアミノ酸改変、すなわち、FcとFc受容体との相互作用をすべて無くすためのL234A、L235Q、K322Q(AQQ)、および血清半減期を延長するためのM252Y、S254T、T256(YTE)を含んだ。CDX-585のscFv部分を安定化するために、成熟重鎖の558位(Kabat番号方式によるVL100位)のGlyをCysに変異させ、かつ成熟重鎖の629位(Kabat番号方式によるVH44位)のGlyをCysに変異させることによって、VLとVHとの間にジスルフィド結合を導入した。
【0156】
CDX-585の軽鎖および重鎖をコードするDNA配列を、pH2535-HDPグルタミン合成酵素(GS)を含む発現ベクター(Horizon Discovery)に挿入して、CDX-585を発現させるためのプラスミドを構築した。次いで、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)技術を用いて、内因性グルタミン合成酵素(GS)遺伝子がノックアウトされているHorizon Discovery HD-BIOP3細胞株に、線状化プラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクションプールを、グルタミンを含まず動物成分を含まない培地中で増殖させることによって選択し、二重特異性構築物生産物を、プロテインAカラムクロマトグラフィーによってプールから精製した。
【0157】
最も高発現しているプールはまた、VIPS(検証インサイチュープレート播種)機器を用いて、単一細胞クローニング(SCC)した。最も生産性の高いクローンについて研究用細胞バンク(RCB)を作製し、得られた二重特異性構築物生産物を再びプロテインAカラムクロマトグラフィーによって精製した。
【0158】
二重特異性構築物(CDX-585)の模式図を
図3に示している。精製した構築物を、4~15%Tris-HCLゲルを用いる還元SDS-PAGEによって解析した。得られたゲルの画像を、IgG1比較物と共に
図1に示している。この構築物はまた、TSK3000カラムと、PBSに混合した20μgの注入物とを用いて実施したSEC-HPLCによっても解析した。得られたトレースを、IgG1比較物と共に
図2に示している。
【0159】
実施例2:ELISAを用いる、ヒトPD-1へのCDX-585の結合
マイクロタイタープレートをPBS中組換えヒトPD-1-msFcでコーティングし、次いでPBS中5%ウシ血清アルブミンでブロックした。プロテインAで精製した抗PD-1モノクローナル抗体E1A9、(実施例1に由来する)二重特異性構築物CDX-585、およびアイソタイプ対照を様々な濃度で添加し、37℃でインキュベートした。これらのプレートをPBS/Tweenで洗浄し、次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートさせたヤギ抗ヒトIgG Fc特異的ポリクローナル試薬と共に、37℃でインキュベートした。洗浄後、これらのプレートをHRP基質で発色させ、マイクロタイタープレートリーダーを用いてOD450で解析した。代表的な結合曲線を
図4に示している。
【0160】
実施例3:ヒトPD-1を発現する細胞へのCDX-585の結合
プロテインAで精製したモノクローナル抗体7B1およびE1A9、(実施例1に由来する)二重特異性構築物CDX-585、およびアイソタイプ対照を、ヒトPD-1を発現するHEK293細胞と共に、プレート振盪機において室温でインキュベートした。20分後、0.1%BSAおよび0.05%NaN
3を含むPBS(PBA)で、これらの細胞を洗浄し、PE標識されたヤギ抗ヒトIgG Fc特異的プローブと共に該細胞をインキュベートすることによって、結合した抗体を検出した。過剰なプローブをPBAで細胞から洗い流し、製造業者の指示に従ってFACSCanto II(商標)機器(BD Biosciences, NJ, USA)を用いる解析によって、細胞に結合した蛍光を測定した。代表的な結合曲線を
図5Aに示している。
【0161】
実施例4:ヒトILT4を発現する細胞へのCDX-585の結合
プロテインAで精製したモノクローナル抗体7B1およびE1A9、(実施例1に由来する)二重特異性構築物CDX-585、およびアイソタイプ対照を、ヒトILT4を発現するHEK293細胞と共に、プレート振盪機において室温でインキュベートした。20分後、0.1%BSAおよび0.05%NaN
3を含むPBS(PBA)で、これらの細胞を洗浄し、PE標識されたヤギ抗ヒトIgG Fc特異的プローブと共に該細胞をインキュベートすることによって、結合した抗体を検出した。過剰なプローブをPBAで細胞から洗い流し、製造業者の指示に従ってFACSCanto II(商標)機器(BD Biosciences, NJ, USA)を用いる解析によって、細胞に結合した蛍光を測定した。代表的な結合曲線を
図5Bに示している。
【0162】
実施例5:細胞で発現されたヒトILT4およびヒトPD-1へのCDX-585の二機能性結合
ILT4およびPD-1へのCDX-585の結合を、ヒトILT4を発現するHEK293細胞を用いて評価した。手短に言えば、CDX-585の希釈物をILT4発現細胞に結合させた後に、ヒトPD-1-msFcを添加し、これを、PE標識されたヤギ抗マウスIgG Fc特異的プローブを用いて検出した。ILT4およびPD-1への有意な結合を示す、CDX-585の代表的な結合曲線を
図6Aに示している。
【0163】
実施例6:ヒト単球へのCDX-585の二機能性結合
ILT4およびPD-1へのCDX-585の結合を、ヒト単球を用いて評価した。簡単に説明すると、CDX-585の希釈物をヒトPBMCと共にインキュベートした後、単球を抗CD14 APC標識抗体で染色した。ヒトPD-1-msFcを添加し、PE標識されたヤギ抗マウスIgG Fc特異的プローブを用いて検出した。ILT4およびPD-1への有意な結合を示す、CDX-585の代表的な結合曲線を
図6Bに示している。
【0164】
実施例7:バイオレイヤー干渉法(BLI)による、ヒトbsAbの親和性定数および速度定数の測定
CDX-585の結合親和性および結合動態を、Octet(商標)QKe機器(Sartorius BioAnalytical Instruments)を製造者のガイドラインに従って用いてバイオレイヤー干渉法(BLI)によって解析した。抗ヒトFc捕捉(AHC)バイオセンサー(Sartorius)を用いてCDX-585を捕捉した。各抗体をpH7.2の動態アッセイ法用希釈緩衝液に混合して調製し、新たに水和しプレコンディショニングしたAHCバイオセンサーに0.5ug/mL、30℃、およびプレート振盪速度1000rpmで300秒間、添加した。1回のアッセイ法において、8つのバイオセンサーに同じ抗体を添加した。抗体を添加したバイオセンサーのうちの7つを分析物、すなわち可溶性ヒトILT4-HIS(Celldex施設内試薬)またはヒトPD-1-HIS(R&D Systems)に曝露することによって、結合を測定した。30℃および1000rpmのプレート振盪速度で、分析物を希釈緩衝液に加えて作った50nM~0.4nMの範囲の2倍段階希釈物を用いて、親和性測定値を測った。各抗体-抗原アッセイ法についての適切な希釈範囲は、実験によって決定した。分析物ウェルにおける、抗体を添加したバイオセンサーの結合を300秒間実施し、次いでバイオセンサーを、解離測定のために1500秒間、希釈緩衝液ウェルに移動した。捕捉された抗体を有する残りのバイオセンサーを、結合段階および解離段階のために希釈緩衝液ウェル中で維持することによって、それぞれの場合において、対応する対照を実施した。対照バイオセンサーの場合のデータは、バックグラウンドを差し引き、かつバイオセンサーのドリフトおよびバイオセンサーからの抗体解離を説明するために、使用した。Octet BLI解析ソフトウェアのバージョン12.2.0.2(Sartorius BioAnalytical Instruments)を各場合において使用して、捕捉された抗体に結合する希釈緩衝液中の分析物の濃度系列から、動態パラメーターを導き出した。製造業者のガイドラインに従ってデータ解析ソフトウェアを用いて、結合曲線および解離曲線を1:1結合モデルにフィッティングした。
【0165】
測定された親和性パラメーターおよび動態パラメーター(バックグラウンドを差し引いたもの)を、
図7に示しており、ここで、k
on=結合速度、k
dis=解離速度、およびK
D=親和性定数(比k
dis/k
onによって定められる)である。
【0166】
実施例8:ヒトFcγおよびFcRn受容体に対するCDX-585結合の動態解析
親和性測定を、Octet(商標)QKe機器(Sartorius BioAnalytical Instruments)を製造者のガイドラインに従って用いて実施した。ビオチン標識されたヒトFcγRsおよびFcRn(Acro Biosystems)を、ストレプトアビジン(SA)バイオセンサー(Sartorius)を用いて捕捉した。各huFcγ受容体を、pH7.2の動態アッセイ法用希釈緩衝液に混合して0.2ug/mlに調製し、4つのSAバイオセンサーに300秒間、添加した。huFcγ受容体を添加したバイオセンサーのうちの2つをCDX-585に曝露することによって、結合を測定した。親和性測定値は、pH7.2の動態アッセイ法用希釈緩衝液で希釈した800nMおよび400nMの希釈物を用いて測定した。各抗体-huFcγRアッセイ法についての適切な希釈範囲は、実験によって決定した。試験される各huFcγRについて、100nMの未改変HuIgG1を含む陽性対照ウェルを、huFcγRを添加した1つのセンサーに曝露した。結合段階および解離段階のために、捕捉されたhuFcγを有する残りのバイオセンサーを希釈緩衝液中に入れた状態で、それぞれの場合において、対応する対照を実施した。huFcRnへの結合は、pH 6.0およびpH7.2の両方の動態アッセイ法用希釈緩衝液に混合した抗体について、測定した。1回のアッセイ法のために、8つのバイオセンサーに、pH7.2の動態アッセイ法用希釈緩衝液で0.3ug/mlに希釈したビオチン化huFcRn(Acro Biosystems)を添加した。huFcRnを添加したバイオセンサーのうちの7つをCDX-585に曝露することによって、結合を測定した。30℃およびプレート振盪速度1000rpmで、適切なpHの希釈緩衝液で分析物を希釈した200nM~0.8nMの範囲の2倍段階希釈物を用いて、親和性測定値を測った。各緩衝液pHの場合の適切な希釈範囲は、実験によって決定した。分析物ウェルにおける、抗体を添加したバイオセンサーの結合を120秒間実施し、次いでバイオセンサーを、解離測定のために180秒間、対応するpHの希釈緩衝液ウェルに移動した。結合段階および解離段階のために、捕捉されたhuFcRnを有する残りのバイオセンサーを、対応するpHの希釈緩衝液ウェル中で維持することによって、それぞれの場合において、対応する対照を実施した。緩衝液対照バイオセンサーの場合のデータは、huFcγRアッセイ法およびhuFcRnアッセイ法の両方において、バックグラウンドを差し引き、かつバイオセンサーのドリフトおよびバイオセンサーからの抗体解離を説明するために、使用した。Octet BLI解析ソフトウェアのバージョン12.2.0.2(Sartorius BioAnalytical Instruments)を各場合において使用して、捕捉されたhuFcγRまたはFcRnに結合する希釈緩衝液中の分析物の濃度系列から、動態パラメーターを導き出した。製造業者のガイドラインに従ってデータ解析ソフトウェアを用いて、結合曲線および解離曲線を1:1結合モデルにフィッティングした。
【0167】
測定された親和性パラメーターおよび動態パラメーター(バックグラウンドを差し引いたもの)を、
図7に示しており、ここで、k
on=結合速度、k
dis=解離速度、およびK
D=親和性定数(比k
dis/k
onによって定められる)である。
【0168】
実施例9:T細胞PD1/PD-L1遮断バイオアッセイ法
PD1/PD-L1相互作用の遮断に対するCDX-585の効果を、Promegaから市販されているPD-1/PD-L1遮断アッセイ法を用いて測定した。2つの操作された細胞株(PD1エフェクター細胞およびPD-L1 aAPC/CHO-K1細胞)を、抗体の存在下で6時間、共培養した。PD1/PD-L1相互作用が妨害されると、TCR活性化が起こり、NFAT経路を介して発光が誘導される。発光は、Bio-Glo試薬の添加によって検出し、Perkin Elmer Victor X4ルミノメーターを用いて定量した。
図8に示されるように、抗PD-1抗体であるE1A9およびCDX-585は、細胞間のPD1/PD-L1相互作用を効果的に妨害して、NFAT経路の活性化をもたらした。
【0169】
実施例10:CDX-585を用いる、TNF-α産生の誘導
マクロファージおよび樹状細胞を、以下のようにしてヒト単球から導き出した:PBMCをT175cm2フラスコに加え、37℃、6%CO2で約2時間、単球を接着させた。非接着細胞を除去し、単球を、10%FBSおよび50ng/mL M-CSF(R&D Systems)を含むRPMI中で7日間培養して、マクロファージを調製した。10%FBS、100ng/mL GM-CSF、および10ng/mL IL-4(R&D Systems)を含むRPMI中で7日間単球を培養することによって、樹状細胞を調製した。
【0170】
次いで、これらの細胞を、CDX-585および適切な抗体対照の存在下で、50ng/mL LPS(Invivogen)と共に、37℃、6%CO
2でインキュベートした。24時間後、これらの細胞を回収し、上清を採取し、サイトカイン解析のために保存した。採取した上清におけるTNF-αの誘導をELISA(R&D Systems)によって評価した。TNF-α産生の増加を
図9Aおよび
図9Bに示している。
【0171】
実施例11:CDX-585による、ILT4へのHLA-G結合の阻害
CDX-585および抗体対照の希釈物を、ヒトILT4を発現するHEK293細胞と共に、プレート振盪機において室温でインキュベートした。30分後、細胞を洗浄し、PE標識されたHLA-G四量体(FredHutch)を添加した。さらに30分経過後、PBAで細胞を洗浄し、製造業者の指示に従ってFACSCanto II(商標)機器(BD Biosciences, NJ, USA)を用いる解析によって、細胞に結合した蛍光を測定した。代表的な妨害曲線を
図10に示している。
【0172】
実施例12:CDX-585による、M1マクロファージの極性化
実施例10で説明したようにしてマクロファージを調製した。マクロファージを、M-CSFの存在下で、6.7nM CDX-585および抗体対照と共に6日間培養した。50ng/mLのLPS(Invitrogen)を一晩添加し、解析のために細胞を回収した。上清もまた、サイトカイン解析のために回収した。
【0173】
PE標識された抗PD-L1抗体で細胞を染色し、次いで、PBAで洗浄し、製造業者の指示に従ってFACSCanto II(商標)機器(BD Biosciences, NJ, USA)を用いる解析によって、細胞に結合した蛍光を測定した。PD-L1発現の下方制御を
図11に示している。さらに、採取した上清を、TNF-αおよびIL-10の誘導についてELISA(R&D Systems)によって評価した。
図12Aは、CDX-585によるTNF-a産生の増加を示し、
図12Bは、IL-10分泌の下方制御を実証する。
【0174】
実施例13:混合リンパ球応答によるT細胞活性化
ヒト末梢血単核細胞を、Ficoll分離を用いてバフィーコートから単離し、CD4
+細胞を、Miltenyi Biotecの磁気ビーズ分離技術を用いてPBMCからさらに単離した。同種異系樹状細胞を、以下のようにして作製した:PMBCをT175cm
2フラスコに加え、37℃、6%CO
2で約2時間、単球を接着させた。非接着細胞を除去し、単球を、10%FBS、10ng/mL IL-4(R&D Systems)、および100ng/mL GM-CSF(R&D Systems)を含むRPMI中で7日間培養した。CD4
+細胞およびDCを、抗体希釈物の存在下で4日間、10: 1の比で共インキュベートした。上清を回収し、IFN-γおよびIL-2の産生について、ELISA(R&D Systems)によって解析した。
図13Aおよび13Bに示されるように、CDX-585は、顕著な混合リンパ球応答を誘導することができた。
【0175】
実施例14:ILT4およびPD-1を二重阻害するCDX-585による、T細胞活性化
ヒトPBMCを、33nM CDX-585および抗体対照と共に一晩インキュベートした。最適以下である用量の抗CD3抗体(OKT3、eBioscience)を添加し、細胞を、さらに3日間インキュベートした。上清を回収し、IFN-g誘導について評価した。
図14に示されるように、CDX-585二重特異性抗体も、個々の抗体の組合せも、どちらもIFN-gを増加させたことから、ILT4抗体とPD-1抗体の組合せの相乗効果が示唆された。
【0176】
実施例15:マウス腫瘍モデルにおけるインビボの抗腫瘍活性
2名のドナーに由来する、20匹のHuCD34-NCGマウス(Charles River Laboratories)を、それぞれ5匹のマウスからなる4つのグループに分けた。マウスに、2×10
7個のSKMEL-5細胞を皮下移植した。移植後の日に始めて、マウスを以下のように処置した。グループ1:ヒトIgG1 AQQ(0.5mg/マウス)、グループ2:CDX-585(0.5mg/マウス)、グループ3:7B1(0.375mg/マウス)、ならびにグループ4:E1A9(0.375mg/マウス)および7B1(0.375mg/マウス)。マウスに、週に1回、5週間投与した。腫瘍体積を定期的に測定した。huIgG1対照に対する統計学的有意性を、スチューデントのt検定によって測定した。結果を
図15および
図16に示している。図中、*=p<0.05、**=p<0.01。
【0177】
実施例16:カニクイザルにおけるパイロット研究
カニクイザルに、CDX-585を1回静脈内投与(10mg/kg)した。CDX-585の血清濃度をELISAによって測定し、サイトカイン/ケモカインの血清濃度をMesoScale Discovery(MSD)によって解析した。顕著な悪い検査所見も臨床所見もなかった。結果を
図17および
図18に示している。
【0178】
実施例17:混合リンパ球応答によるT細胞活性化
ヒト末梢血単核細胞を、Ficoll分離を用いてバフィーコートから単離し、CD4
+細胞を、Miltenyi Biotecの磁気ビーズ分離技術を用いてPBMCからさらに単離した。同種異系樹状細胞(DC)を、以下のようにして作製した:PMBCをT175cm
2フラスコに加え、37℃、6%CO
2で約2時間、単球を接着させた。非接着細胞を除去し、単球を、10%FBS、10ng/mL IL-4(R&D Systems)、および100ng/mL GM-CSF(R&D Systems)を含むRPMI中で7日間培養した。DCを、50ng/mLのLPSまたはWO2017/184619に記載されている0.5mg/mLの抗CD40抗体(CDX-1140)のいずれかと共に、一晩インキュベートした。前処理したDCを洗浄し、5mg/mLの抗体の存在下、CD4
+細胞と10:1の比で、4日間、共インキュベートした。上清を回収し、IFN-gの産生について、ELISA(R&D Systems)によって解析した。結果を
図19に示している。
【0179】
実施例18:マウス腫瘍モデルにおけるインビボの抗腫瘍活性
実施例15のマウス腫瘍モデルを、追加の対照を用いて繰り返した。結果を
図20に示している。
【0180】
配列表の概要
【0181】
【0182】
PD-1抗体配列
【0183】
(表2A)VH CDR PD1-HuAb-E1A9C8A7-V8-3
【0184】
(表2B)VL CDR PD1-HuAb-E1A9C8A7-V8-3
【0185】
(表2C)VH CDR PD1-HuAb-E1A9C8A7-V8
【0186】
(表2D)VL CDR PD1-HuAb-E1A9C8A7-V8
【0187】
【0188】
【0189】
等価物
当業者は、本明細書において説明される本発明の具体的態様の多くの等価物を認識するか、またはルーチンに過ぎない実験を用いて確認することができるであろう。このような等価物は、以下の特許請求の範囲によって包含されると意図される。
【配列表】
【国際調査報告】