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特表2024-542192TIGITおよびPD-L1に対する二重特異性抗体、ならびにその医薬組成物およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】TIGITおよびPD-L1に対する二重特異性抗体、ならびにその医薬組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20241106BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241106BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 51/10 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20241106BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61K48/00
A61P43/00 121
A61P35/00
A61K51/10
A61K47/68
C07K16/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529415
(86)(22)【出願日】2022-11-17
(85)【翻訳文提出日】2024-07-04
(86)【国際出願番号】 CN2022132422
(87)【国際公開番号】W WO2023088337
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】202111359665.8
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521530738
【氏名又は名称】普米斯生物技術(珠海)有限公司
【氏名又は名称原語表記】BIOTHEUS INC.
【住所又は居所原語表記】10B, BUILDING 4, NO 1 KEJI 7TH ROAD, TANGJIAWAN TOWN, XIANGZHOU DISTRICT, ZHUHAI, GUANGDONG 519080, PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戴 爽
(72)【発明者】
【氏名】▲ジャイ▼ 天 航
(72)【発明者】
【氏名】黄 威 鋒
(72)【発明者】
【氏名】彭 紹 崗
(72)【発明者】
【氏名】孫 左 宇
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA91X
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA13
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C084ZC752
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA19
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4C085KA04
4C085KA26
4C085KA27
4C085KA29
4C085KB82
4C085LL18
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA70
4H045BA71
4H045BA72
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、生物医薬の分野に属し、TIGITおよびPD-L1に対する二重特異性抗体、ならびにその医薬組成物およびその使用に関する。本発明の二重特異性抗体は、TIGITを標的とする第1のタンパク質機能性領域およびPD-L1を標的とする第2のタンパク質機能性領域を含み、ここで、第1のタンパク質機能性領域は、抗TIGIT抗体またはその抗原結合断片であり、抗TIGIT抗体の重鎖可変領域は、配列番号10に示すアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号11に示すアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号12に示すアミノ酸配列を有するHCDR3を含み、抗TIGIT抗体の軽鎖可変領域は、配列番号13に示すアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号14に示すアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号15に示すアミノ酸配列を有するLCDR3を含む。本発明の二重特異性抗体は、二重の標的、すなわち、TIGITおよびPD-L1に対する高い親和性を有し、良好な応用可能性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TIGITを標的とする第1のタンパク質機能性領域、および
TIGITとは異なる標的(例えば、PD-L1)を標的とする第2のタンパク質機能性領域
を含む、二重特異性抗体であって、
前記第1のタンパク質機能性領域が、抗TIGIT免疫グロブリンまたはその抗原結合断片であり、
前記抗TIGIT免疫グロブリンの重鎖可変領域が、配列番号10に示すアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号11に示すアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号12に示すアミノ酸配列を有するHCDR3を含み、
前記抗TIGIT免疫グロブリンの軽鎖可変領域が、配列番号13に示すアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号14に示すアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号15に示すアミノ酸配列を有するLCDR3を含む、二重特異性抗体。
【請求項2】
前記第1のタンパク質機能性領域および前記第2のタンパク質機能性領域が、直接的に結合するか、またはリンカーを介して結合し、
好ましくは、前記リンカーが、(GGGGS)であり、mが、正の整数、例えば、1、2、3、4、5または6であり、
好ましくは、前記リンカーが、(GGGGS)Gであり、nが、正の整数、例えば、1、2、3、4、5または6であり、
好ましくは、前記リンカーのアミノ酸配列は、配列番号2に示す、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
前記第1のタンパク質機能性領域および前記第2のタンパク質機能性領域の数が、独立的に1、2または2より大きい数である、請求項1または2に記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
前記第1のタンパク質機能性領域が、抗TIGIT免疫グロブリンまたはその抗原結合断片であり、前記第2のタンパク質機能性領域が、TIGITとは異なる標的を標的とする単一ドメイン抗体または一本鎖抗体であり、
好ましくは、前記単一ドメイン抗体が、抗PD-L1単一ドメイン抗体であり、
好ましくは、前記一本鎖抗体が、抗PD-L1一本鎖抗体である、請求項1から3のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
前記第1のタンパク質機能性領域が、抗TIGIT一本鎖抗体であり、前記第2のタンパク質機能性領域が、TIGITとは異なる標的を標的とする免疫グロブリンまたはその抗原結合断片であり、
好ましくは、TIGITとは異なる標的を標的とする前記免疫グロブリンが、抗PD-L1免疫グロブリンである、請求項1から4のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
前記抗PD-L1単一ドメイン抗体が、1つの重鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域が、配列番号16に示すアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号17に示すアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号18に示すアミノ酸配列を有するHCDR3を含み、
好ましくは、前記抗PD-L1単一ドメイン抗体のアミノ酸配列が、配列番号3に示される、請求項5に記載の二重特異性抗体。
【請求項7】
前記抗TIGIT免疫グロブリンの重鎖可変領域が、配列番号19に示すアミノ酸配列を有し、前記抗TIGIT免疫グロブリンの軽鎖可変領域が、配列番号20に示すアミノ酸配列を有し、
好ましくは、
前記抗TIGIT免疫グロブリンの重鎖が、配列番号1に示すアミノ酸配列を有し、前記抗TIGIT免疫グロブリンの軽鎖が、配列番号5に示すアミノ酸配列を有する、請求項1から6のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項8】
前記抗TIGIT免疫グロブリンの定常領域、またはTIGITとは異なる標的を標的とする前記免疫グロブリンの定常領域が、ヒト抗体に由来し、
好ましくは、前記定常領域が、ヒトIgGl、IgG2、IgG3またはIgG4の定常領域からなる群から選択される、請求項1から7のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項9】
前記抗TIGIT免疫グロブリンの重鎖定常領域、またはTIGITとは異なる標的を標的とする前記免疫グロブリンの重鎖定常領域が、ヒトIgガンマ1鎖C領域(例えば、NCBI ACCESSION:P01857)またはヒトIgガンマ4鎖C領域(例えば、NCBI ACCESSION:P01861.1)であり、軽鎖定常領域が、ヒトIgカッパ鎖C領域(例えば、NCBI ACCESSION:P01834)であり、
好ましくは、前記抗TIGIT免疫グロブリンの重鎖定常領域が、EU付番方式によるL234A変異およびL235A変異をさらに含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
前記単一ドメイン抗体または前記一本鎖抗体が、前記抗TIGIT免疫グロブリンのC末端またはN末端に結合し、例えば、前記単一ドメイン抗体または前記一本鎖抗体の数が、2であり、各単一ドメイン抗体または一本鎖抗体の一端が、前記抗TIGIT免疫グロブリンの2つの重鎖のC末端またはN末端にそれぞれ結合する、請求項4および6から9のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項11】
前記単一ドメイン抗体が、抗PD-L1単一ドメイン抗体であり、前記単一ドメイン抗体を前記抗TIGIT免疫グロブリンに結合させることにより得られるペプチド鎖が、配列番号4に示すアミノ酸配列を有する、請求項4および6から10のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項12】
2つの同一の第1のペプチド鎖および2つの同一の第2のペプチド鎖により形成される四量体であり、
前記第1のペプチド鎖のアミノ酸配列が、配列番号4に示され、前記第2のペプチド鎖のアミノ酸配列が、配列番号5に示される、請求項4および6から11のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体をコードする、単離核酸分子。
【請求項14】
請求項13に記載の単離核酸分子を含む、ベクター。
【請求項15】
請求項13に記載の単離核酸分子または請求項14に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項16】
請求項15に記載の宿主細胞を適する条件下で培養するステップと、細胞培養物から前記二重特異性抗体を回収するステップとを含む、請求項1から12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を調製する方法。
【請求項17】
二重特異性抗体およびカップリング部分を含む、コンジュゲートであって、前記二重特異性抗体が、請求項1から12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体であり、前記カップリング部分が、検出可能な標識であり、好ましくは、前記カップリング部分が、放射性同位元素、蛍光物質、発光物質、発色物質または酵素である、コンジュゲート。
【請求項18】
請求項1から12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または請求項17に記載のコンジュゲートを含む、キットであって、
好ましくは、前記キットが、前記二重特異性抗体に特異的に結合可能な第2の抗体をさらに含み、任意選択で、前記第2の抗体が、検出可能な標識、例えば、放射性同位元素、蛍光物質、発光物質、発色物質または酵素をさらに含む、キット。
【請求項19】
請求項1から12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または請求項17に記載のコンジュゲートを含む、医薬組成物であって、任意選択で、薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、医薬組成物。
【請求項20】
悪性腫瘍の治療または予防のための医薬の製造における、請求項1から12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または請求項17に記載のコンジュゲートの使用であって、好ましくは、前記悪性腫瘍が、メラノーマ、肝臓がん、胃がん、腎細胞がん、卵巣がん、結腸がん、乳がん、食道がん、および頭頸部がんからなる群から選択される、使用。
【請求項21】
悪性腫瘍の治療または予防における使用のための、請求項1から12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または請求項17に記載のコンジュゲートであって、好ましくは、前記悪性腫瘍が、メラノーマ、肝臓がん、胃がん、腎細胞癌、卵巣がん、結腸がん、乳がん、食道がん、および頭頸部がんからなる群から選択される、二重特異性抗体またはコンジュゲート。
【請求項22】
有効量の請求項1から12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または請求項17に記載のカップリング剤を、それを必要とする対象に投与するステップを含む、悪性腫瘍を治療または予防するための方法であって、好ましくは、前記悪性腫瘍が、メラノーマ、肝臓がん、胃がん、腎細胞癌、卵巣がん、結腸がん、乳がん、食道がん、および頭頸部がんからなる群から選択される、方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明は、医薬の分野に属し、抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体、その医薬組成物、およびその使用に関する。
【0002】
背景技術
IgドメインおよびITIMドメインを有するT細胞免疫受容体(TIGIT;WUCAM、Vstm3、VSIG9としても公知)は、活性化CD8T細胞およびCD4T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、制御性T細胞(Treg)、ならびに濾胞性ヘルパーT細胞により発現する新型の免疫抑制受容体である。
【0003】
TIGITは、複数の免疫抑制受容体(例えば、CD96/TACTILE、CD112R/PVRIG)、競合的同時刺激受容体(DNAM-1/CD226)および複数のリガンド(例えば、CD155(PVR/NECL-5)、CD112(Nectin-2/PVRL2))を含む、腫瘍免疫における複雑な制御ネットワークに関与する。DNAM-1、TIGIT、およびCD96は、T細胞およびNK細胞上に発現し、CD155をリガンドの形態で共有する。
【0004】
腫瘍免疫抑制におけるTIGITの役割は、PD-1/PD-L1の役割に類似している。現在の研究では、エフェクターT細胞およびNK細胞がTIGITを媒介して阻害されるいくつかの機構が提唱されている。(1)T/NK細胞表面上でTIGITがCD155に結合することにより、TIGIT細胞において免疫受容体チロシン阻害モチーフ(ITIM)がリン酸化され、阻害シグナルが直接的に伝達される。(2)TIGITがDC上でCD155に結合することにより、免疫寛容性DCの産生が促進され、インターロイキン(IL)12の産生が減少し、IL-10が増加して、T細胞応答が間接的に阻害される。(3)阻害作用を有するTIGITが、同時刺激受容体CD226の親和性よりも高い親和性でCD155に競合的に結合し、これによりCD226を媒介する活性化が制限され、加えて、TIGITがCD226にも細胞上でシス様式で直接的に結合し、これによりTIGITがCD155のホモ二量体に結合する能力が破壊される。(4)TIGITを発現するTregが高度に阻害性であるため、TIGIT+Tregが活性化されるとIL-10およびフィブリノゲン様タンパク質2(Fgl2)を産生し、これによりT細胞の阻害が媒介される。(5)フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum、結腸直腸がんと関連づけられる嫌気性グラム共生細菌)由来のFap2タンパク質は、TIGITに直接的に結合可能であるが、CD226には結合しないため、NK細胞およびT細胞によって媒介される腫瘍免疫が阻害され、自然免疫応答が調節される。
【0005】
CD274としても公知である、プログラム細胞死1リガンド1(PD-L1)は、B7ファミリーのメンバーであり、PD-1のリガンドである。PD-L1は、計290個のアミノ酸を有するI型膜貫通タンパク質であり、1つのIgV様領域、1つのIgC様領域、1つの疎水性膜貫通領域、および30個のアミノ酸からなる1つの細胞内領域を含む。他のB7ファミリー分子とは異なり、PD-L1は、免疫応答を負に調節する作用を有する。研究により、PD-L1が、活性化されたT細胞、B細胞、マクロファージ、および樹状細胞において主に発現することが見出された。リンパ球に加えて、PD-L1は、他の種々の組織、例えば、胸腺、心臓、胎盤等の皮内細胞、および種々の型の非リンパ球系細胞、例えば、メラノーマ、肝臓がん、胃がん、腎細胞がん、卵巣がん、結腸がん、乳がん、食道がん、頭頸部がん等の細胞においても発現する(Akintunde Akinleye & Zoaib Rasool, Journal of Hematology & Oncology 12巻, Article number: 92 (2019))。PD-L1は、自己反応性T細胞および自己反応性B細胞の調節ならびに免疫寛容において幅広い作用を有し、末梢組織のT細胞応答およびB細胞応答における役割を果たす。腫瘍細胞上でのPD-L1の高発現は、がん患者における予後不良と関連している。
【0006】
二重特異性抗体は抗体医薬開発の方向性であるが、前臨床評価モデル、低い発現レベル、低い安定性、複雑なプロセス、および品質管理における大きな差など、多くの課題に直面している。したがって、二重特異性抗体の研究開発は、常に困難を伴っている。
【0007】
したがって、良好な特異性、良好な有効性を有し、調製が容易な、TIGITおよびPD-L1を標的とする二重特異性抗体を開発する必要性が存在する。
【0008】
本発明の内容
徹底的な研究および創造的作業の後、発明者らは抗TIGIT抗体を得、この抗体に基づいて抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体を構築した。発明者らは、驚くべきことに、PD-L1およびTIGITに対する高い結合親和性を有する(二重特異性抗体は、1つまたは複数の態様の陽性対照抗体よりもさらに良好である)、本発明の抗TIGIT抗体(抗体または本発明の抗体とも呼ぶ)および本発明の抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体(二重特異性抗体または本発明の二重特異性抗体とも呼ぶ)が、そのリガンドPD-1に対するPD-L1の結合およびそのリガンドCD155/CD112に対するTIGITの結合をそれぞれ遮断し、これにより阻害性シグナルの細胞への伝達を減少または除去することが可能であるとともに、本発明の抗体の投与により、動物モデルにおいて腫瘍の増殖を著しく阻害することが可能であることを見出した。これによって、以下の発明を提供する。
【0009】
本発明の一態様では、
TIGITを標的とする第1のタンパク質機能性領域、および
TIGITとは異なる標的(例えば、PD-L1)を標的とする第2のタンパク質機能性領域
を含む、二重特異性抗体であって、
第1のタンパク質機能性領域が、抗TIGIT免疫グロブリンまたはその抗原結合断片であり、
抗TIGIT免疫グロブリンの重鎖可変領域が、配列番号10に示すアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号11に示すアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号12に示すアミノ酸配列を有するHCDR3を含み、
抗TIGIT免疫グロブリンの軽鎖可変領域が、配列番号13に示すアミノ酸配列を有するLCDR1、配列番号14に示すアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号15に示すアミノ酸配列を有するLCDR3を含む、二重特異性抗体を設計する。
【0010】
軽鎖および重鎖の可変領域は、抗原に対する結合を決定し、各鎖の可変領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの超可変領域を含み、このうち重鎖(H)のCDRは、HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含み、軽鎖(L)のCDRは、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含む。本発明の抗体またはその抗原結合断片に含まれるCDRは、当技術分野において公知の種々の付番方式に従って決定することができる。特定の実施形態では、本発明の抗体またはその抗原結合断片に含まれるCDRは、好ましくは、Kabat、Chothia、AbM HVRまたはIMGT付番方式により決定する。他に述べない限り、本発明の抗体またはその抗原結合断片に含まれるCDRは、好ましくは、Kabat付番方式により決定する(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institute of Health, Bethesda, Md.(1991))。
【0011】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体において、第1のタンパク質機能性領域および第2のタンパク質機能性領域は、直接的に結合するか、またはリンカー(リンカーペプチドとも呼ぶ)を介して結合し、
好ましくは、リンカーは、(GGGGS)であり、mは、正の整数、例えば、1、2、3、4、5または6であり、
好ましくは、リンカーは、(GGGGS)Gであり、nは、正の整数、例えば、1、2、3、4、5または6であり、
好ましくは、リンカーのアミノ酸配列は、配列番号2に示し、
ここで、括弧内のGGGGSは、配列番号22により表す。
【0012】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体において、第1のタンパク質機能性領域および第2のタンパク質機能性領域の数は、独立的に1、2または2より大きい数である。
【0013】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体において、第1のタンパク質機能性領域の数は、1であり、第2のタンパク質機能性領域の数は、2である。
【0014】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体において、第1のタンパク質機能性領域の数は、2であり、第2のタンパク質機能性領域の数は、1である。
【0015】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体において、
第1のタンパク質機能性領域は、抗TIGIT免疫グロブリンまたはその抗原結合断片であり、第2のタンパク質機能性領域は、TIGITとは異なる標的を標的とする単一ドメイン抗体または一本鎖抗体であり、
好ましくは、単一ドメイン抗体は、抗PD-L1単一ドメイン抗体であり、
好ましくは、一本鎖抗体は、抗PD-L1一本鎖抗体である。
【0016】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体において、
第1のタンパク質機能性領域は、抗TIGIT免疫グロブリンまたはその抗原結合断片であり、第2のタンパク質機能性領域は、抗PD-L1単一ドメイン抗体または抗PD-L1一本鎖抗体である。
【0017】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体において、
第1のタンパク質機能性領域は、抗TIGIT一本鎖抗体であり、第2のタンパク質機能性領域は、標的がTIGITとは異なる、免疫グロブリンまたはその抗原結合断片であり、
好ましくは、TIGITとは異なる標的を標的とする免疫グロブリンは、抗PD-L1免疫グロブリンである。
【0018】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体において、
第1のタンパク質機能性領域は、抗TIGIT一本鎖抗体であり、第2のタンパク質機能性領域は、抗PD-L1免疫グロブリンまたはその抗原結合断片である。
【0019】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体において、
抗PD-L1単一ドメイン抗体は、1つの重鎖可変領域を含み、重鎖可変領域は、配列番号16に示すアミノ酸配列を有するHCDR1、配列番号17に示すアミノ酸配列を有するHCDR2、および配列番号18に示すアミノ酸配列を有するHCDR3を含み、
好ましくは、抗PD-L1単一ドメイン抗体のアミノ酸配列は、配列番号3に示す。
【0020】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体において、
抗TIGIT免疫グロブリンでは、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号19に示し、軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号20に示し、
好ましくは、
抗TIGIT免疫グロブリンでは、重鎖のアミノ酸配列は、配列番号1に示し、軽鎖のアミノ酸配列は、配列番号5に示す。
【0021】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体において、抗原結合断片は、Fab、Fab’、F(ab’)、Fd、Fv、dAb、および相補性決定領域断片からなる群から選択される。
【0022】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体において、
抗TIGIT免疫グロブリンの、またはTIGITとは異なる標的を標的とする免疫グロブリンの定常領域は、ヒト抗体に由来し、
好ましくは、定常領域は、ヒトIgGl、IgG2、IgG3またはIgG4の定常領域から選択される。
【0023】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体において、
抗TIGIT免疫グロブリンまたはTIGITとは異なる標的を標的とする免疫グロブリンでは、重鎖定常領域は、ヒトIgガンマ1鎖C領域(例えば、NCBI ACCESSION:P01857)またはヒトIgガンマ4鎖C領域(例えば、NCBI ACCESSION:P01861.1)であり、軽鎖定常領域は、ヒトIgカッパ鎖C領域(例えば、NCBI ACCESSION:P01834)であり、好ましくは、抗TIGIT免疫グロブリンの重鎖定常領域は、EU付番方式によるL234A変異およびL235A変異も含む。
【0024】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体において、単一ドメイン抗体または一本鎖抗体は、抗TIGIT免疫グロブリンのC末端またはN末端に結合し、例えば、単一ドメイン抗体または一本鎖抗体の数は、2であり、各単一ドメイン抗体または一本鎖抗体の一端は、抗TIGIT免疫グロブリンの2つの重鎖のC末端またはN末端にそれぞれ結合する。
【0025】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体において、抗PD-L1単一ドメイン抗体または抗PD-L1一本鎖抗体は、抗TIGIT免疫グロブリンのC末端またはN末端に結合し、例えば、抗PD-L1単一ドメイン抗体または抗PD-L1一本鎖抗体の数は、2であり、各抗PD-L1単一ドメイン抗体または抗PD-L1一本鎖抗体の一端は、抗TIGIT免疫グロブリンの2つの重鎖のC末端またはN末端にそれぞれ結合する。
【0026】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体において、単一ドメイン抗体は、抗PD-L1単一ドメイン抗体であり、単一ドメイン抗体を抗TIGIT免疫グロブリンに結合させることにより得られるペプチド鎖は、配列番号4に示すアミノ酸配列を有する。
【0027】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体は、2つの同一の第1のペプチド鎖および2つの同一の第2のペプチド鎖により形成される四量体であり、ここで、
第1のペプチド鎖のアミノ酸配列は、配列番号4に示し、第2のペプチド鎖のアミノ酸配列は、配列番号5に示す。
【0028】
本発明の一部の実施形態では、二重特異性抗体は、
TIGITを標的とする第1のタンパク質機能性領域、および
PD-L1を標的とする第2のタンパク質機能性領域を含み、
第1のタンパク質機能性領域の数は、1であり、第2のタンパク質機能性領域の数は、2であり、
ここで、第1のタンパク質機能性領域は、抗TIGIT免疫グロブリンであり、第2のタンパク質機能性領域は、抗PD-L1単一ドメイン抗体であり、
抗TIGIT免疫グロブリンでは、重鎖のアミノ酸配列は、配列番号1に示し、軽鎖のアミノ酸配列は、配列番号5に示し、
抗PD-L1単一ドメイン抗体のアミノ酸配列は、配列番号3に示し、
2つの抗PD-L1単一ドメイン抗体は、抗TIGIT免疫グロブリンの各重鎖のC末端に同一または異なるリンカーによりそれぞれ結合し、
好ましくは、リンカーは、(GGGGS)であり、mは、正の整数、例えば、1、2、3、4、5または6であり、
好ましくは、リンカーは、(GGGGS)Gであり、nは、正の整数、例えば、1、2、3、4、5または6であり、
好ましくは、リンカーのアミノ酸配列は、配列番号2に示し、
ここで、括弧内のGGGGSは、配列番号22により表す。
【0029】
本発明の1つまたは複数の実施形態では、二重特異性抗体は、IgG-VHH型である。
【0030】
本発明の1つまたは複数の実施形態では、二重特異性抗体は、IgG-scFv型、すなわち、モリソンパターンである。
【0031】
本発明の1つまたは複数の実施形態では、二重特異性抗体では、単一ドメイン抗体または一本鎖抗体は、免疫グロブリンの重鎖のC末端に結合する。免疫グロブリンは2つの重鎖からなるため、1つの免疫グロブリン分子は、2つの単一ドメイン抗体分子または2つの一本鎖抗体分子に結合する。好ましくは、2つの単一ドメイン抗体分子は、同一である。好ましくは、2つの一本鎖抗体分子は、同一である。好ましくは、単一ドメイン抗体または一本鎖抗体は、免疫グロブリンの重鎖のC末端に、前述のリンカーにより形成されるアミド結合を介して結合する。
【0032】
本発明の1つまたは複数の実施形態では、二重特異性抗体について、ヒトPD-L1抗原、カニクイザルPD-L1抗原、ヒトTIGIT抗原、および/またはカニクイザルTIGIT抗原への結合に対するその一価性親和性は、それぞれこの単一末端抗体分子の、抗ヒトPD-L1抗原、抗カニクイザルPD-L1抗原、抗ヒトTIGIT抗原、および/または抗カニクイザルTIGIT抗原への結合に対する一価性親和性と等価かこれよりも良好である。
【0033】
本発明の別の態様は、本発明の項目のいずれか1項に記載の二重特異性抗体をコードする、単離核酸分子に関する。
【0034】
本発明のさらなる態様は、本発明の単離核酸分子を含む、ベクターに関する。
【0035】
本発明のさらなる態様は、本発明の単離核酸分子または本発明のベクターを含む、宿主細胞に関する。
【0036】
本発明のさらなる態様は、本発明の宿主細胞を適する条件下で培養するステップと、細胞培養物から二重特異性抗体を回収するステップとを含む、本発明の項目のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を調製するための方法に関する。
【0037】
本発明の別の態様は、二重特異性抗体およびコンジュゲーション部分を含む、コンジュゲートであって、二重特異性抗体が、本発明の項目のいずれか1項に記載の二重特異性抗体であり、コンジュゲーション部分が、検出可能な標識であり、好ましくは、コンジュゲーション部分が、放射性同位元素、蛍光物質、発光物質、発色物質または酵素である、コンジュゲートに関する。
【0038】
本発明の別の態様は、本発明の項目のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または本発明のコンジュゲートを含む、キットであって、
好ましくは、キットが、二重特異性抗体に特異的に結合可能な第2の抗体をさらに含み、任意選択で、第2の抗体が、検出可能な標識、例えば、放射性同位元素、蛍光物質、発光物質、発色物質または酵素をさらに含む、キットに関する。
【0039】
本発明の別の態様は、本発明の項目のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または本発明のコンジュゲートを含む、医薬組成物であって、任意選択で、薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、医薬組成物に関する。
【0040】
本発明の別の態様は、悪性腫瘍を予防および/または治療するための医薬の製造における、本発明の項目のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または本発明のコンジュゲートの使用であって、好ましくは、悪性腫瘍が、メラノーマ、肝臓がん、胃がん、腎細胞がん、卵巣がん、結腸がん、乳がん、食道がん、および頭頸部がんからなる群から選択される、使用に関する。
【0041】
本発明のまた別の態様は、有効量の本発明の項目のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または本発明のコンジュゲートを、それを必要とする対象に投与するステップを含む、悪性腫瘍を治療および/または予防するための方法であって、好ましくは、悪性腫瘍が、メラノーマ、肝臓がん、胃がん、腎細胞癌、卵巣がん、結腸がん、乳がん、食道がん、および頭頸部がんからなる群から選択される、方法に関する。
【0042】
本発明の一部の実施形態では、悪性腫瘍を治療および/または予防するための方法において、有効量の本発明の項目のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を、それを必要とする対象に投与するステップは、外科的治療前後および/または放射線療法前後に実施する。
【0043】
本発明の一部の実施形態では、悪性腫瘍を治療および/または予防する方法において、
本発明の二重特異性抗体の単回投与量は、体重1キログラム当たり0.1~100mg、好ましくは、4.8~24mgまたは1~10mgであり、あるいは、本発明の二重特異性抗体の単回投与量は、体重1キログラム当たり10~1000mg、好ましくは、50~500mg、100~400mg、150~300mg、150~250mgまたは200mgであり、
好ましくは、投与は、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎、10日毎、1週間毎、2週間毎または3週間毎に実施し、
好ましくは、投与は、点滴静注または静脈内注射の方法により実施する。
【0044】
本発明の項目のいずれか1項に記載の二重特異性抗体または本発明のコンジュゲートは、悪性腫瘍の治療および/または予防に使用し、好ましくは、悪性腫瘍は、メラノーマ、肝臓がん、胃がん、腎細胞がん、卵巣がん、結腸がん、乳がん、食道がん、および頭頸部がんからなる群から選択される。
【0045】
本発明では、他に述べない限り、本明細書において使用する科学的および技術的用語は、当業者により一般に理解される意味を有する。その上、本明細書において使用する細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、および免疫実験の手順は、対応する分野において広く使用される常用手順である。一方、本発明をより良く理解するために、関連用語の定義および説明を下記に提供する。
【0046】
「EC50」という用語は、最大作用の50%の濃度を指し、最大作用の50%をもたらす濃度を指す。
【0047】
「抗体」という用語は、通常、2対のポリペプチド鎖で構成され、各対が、「軽」(L)鎖および「重」(H)鎖を有する、免疫グロブリン分子を指す。抗体軽鎖は、κ軽鎖およびλ軽鎖に分類することができる。重鎖は、μ、δ、γ、αまたはεに分類し、抗体のアイソタイプをIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEとしてそれぞれ定義することができる。軽鎖および重鎖では、可変領域および定常領域は、およそ12個以上のアミノ酸の「J」領域が結合し、重鎖は、およそ3個以上のアミノ酸の「D」領域も含む。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH)からなる。重鎖定常領域は、3つのドメイン(CH1、CH2、およびCH3)からなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)からなる。軽鎖定常領域は、1つのドメイン、CLからなる。抗体の定常領域は、免疫系の種々の細胞(例えば、エフェクター細胞)を含む、宿主の組織または因子および古典的補体系の第1の成分(Clq)に対する免疫グロブリンの結合を媒介し得る。VH領域およびVL領域はまた、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる高度に可変の領域と、それとともに散在性の、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存的な領域とに細分することができる。VHおよびVLは、それぞれアミノ末端からカルボキシル末端に次の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4で配置される3つのCDRおよび4つのFRからなる。各重鎖/軽鎖対の可変領域(VHおよびVL)は、抗体結合部位をそれぞれ形成する。領域またはドメインに対するアミノ酸の割当ては、Bethesda M.d., Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, (1987および1991))、もしくはChothia & Lesk J. Mol. Biol. 1987; 196: 901-917;Chothiaら、Nature, 1989; 342: 878-883の定義;またはIMGT付番方式に従い、Ehrenmann F, Kaas Q, Lefranc M P. IMGT/3Dstructure-DB and IMGT/DomainGapAlign: a database and a tool for immunoglobulins or antibodies, T cell receptors, MHC, IgSF and MhcSF [J]. Nucleic acids research, 2009; 38(suppl_1): of D301-D307の定義を参照されたい。
【0048】
「抗体」という用語は、例えば、組換え抗体、モノクローナル抗体、およびポリクローナル抗体を含む、抗体を生成する特定のいかなる方法にも制限されない。抗体は、種々のアイソタイプ、例えば、IgG(例えば、IgGl、IgG2、IgG3もしくはIgG4亜型)、IgA1、IgA2、IgD、IgEまたはIgMの抗体であり得る。
【0049】
「mcAb」および「モノクローナル抗体」という用語は、高度に相同な抗体分子の群、すなわち、自然発生的に生じ得る天然変異を除いて同一の抗体分子の群由来の抗体または抗体の断片を指す。モノクローナル抗体は、抗原上の単一のエピトープに対して高度に特異的である。ポリクローナル抗体は、モノクローナル抗体と相対的であり、通常、少なくとも2つ以上の異なる抗体を含み、このような異なる抗体は、通常、抗原上の異なるエピトープを認識する。モノクローナル抗体は、通常、Kohlerらにより最初に報告されたハイブリドーマ技術を使用して得ることができるが(Kohler G, Milstein C. Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity[J]. nature, 1975; 256巻(5517号): 495)、組換えDNA技術を使用して得ることもできる(例えば、米国特許第4,816,567号を参照)。
【0050】
「一本鎖抗体(一本鎖可変断片、ScFv)」という用語は、リンカーにより結合する抗体重鎖可変領域(V)および抗体軽鎖可変領域(V)を含む分子を指し、ここで、VドメインおよびVドメインは、対形成し、リンカーを介して一価の分子を形成し、これにより単一ポリペプチド鎖が生成可能となる(例えば、Birdら、Science 1988; 242: 423 426およびHustonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1988; 85: 5879 5883を参照)。このようなscFv分子は、NH-V-リンカー-V-COOHまたはNH-V-リンカー-V-COOHの一般構造を有し得る。適する従来のリンカーは、反復するGGGGSアミノ酸配列またはそのバリアントからなり得る。例えば、アミノ酸配列(GGGGS)(配列番号23)を有するリンカーを使用することができるが、そのバリアントも使用することができる(Holligerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1993; 90: 6444-6448)。本発明に有用な他のリンカーは、Alfthanら、Protein Eng. 1995; 8: 725-731、Choiら、Eur. J. Immunol. 2001; 31: 94-106、Huら、Cancer Res. 1996; 56: 3055-3061、Kipriyanovら、J. Mol. Biol. 1999; 293: 41-56、およびRooversら、Cancer Immunology, Immunotherapy, 2001, 50(1): 51-59により記載されている。説明。
【0051】
本明細書において使用する場合、「単離した」または「単離する」という用語は、天然状態から人工的手段により得ることを指す。「単離した」物質または成分が天然に存在するものである場合、この天然環境の変化によるものであり得るか、またはこの物質がこの天然環境から分離されたものであるか、またはこの両方である。例えば、特定の非単離のポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、生きている動物に天然に存在し、この天然状態から単離した高純度の同一のポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、「単離した」ポリヌクレオチドまたはポリペプチドと呼ぶ。「単離した」または「単離する」という用語は、人工の混合物も合成物質の混合物も除外せず、物質の活性に影響しない他の不純物質の存在も除外しない。
【0052】
本明細書において使用する場合、「ベクター」という用語は、ポリヌクレオチドを挿入可能な核酸送達媒体を指す。挿入したポリヌクレオチドがコードするタンパク質を、ベクターが発現可能であるとき、ベクターは、発現ベクターと呼ぶ。ベクターは、形質転換、形質導入またはトランスフェクションにより宿主細胞に導入することができ、それによって保有する遺伝子材料エレメントを宿主細胞において発現させることができる。ベクターは、当業者に周知であり、プラスミド;ファージミド;コスミド;人工染色体、例えば、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)またはP1由来人工染色体(PAC);ファージ、例えば、λファージまたはM13ファージ、および動物ウイルス等が挙げられるが、これらに制限されない。ベクターとして使用可能な動物ウイルスとしては、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、パポバウイルス(例えば、SV40)が挙げられるが、これらに制限されない。ベクターは、制限されないが、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択エレメント、およびレポーター遺伝子を含む、多様な発現制御エレメントを含み得る。加えて、ベクターは、複製開始部位も含み得る。
【0053】
本明細書において使用する場合、「宿主細胞」という用語は、ベクターの導入に使用可能な細胞を指し、原核細胞、例えば、大腸菌(Escherichia coli)もしくは枯草菌(Bacillus subtilis)、真菌細胞、例えば、酵母細胞もしくはアスペルギルス(Aspergillus)等、昆虫細胞、例えば、S2ショウジョウバエ(Drosophila)細胞もしくはSf9、または動物細胞、例えば、線維芽細胞、CHO細胞、GS細胞、COS細胞、NSO細胞、HeLa細胞、BHK細胞、HEK293細胞もしくはヒト細胞を含むが、これらに制限されない。
【0054】
本明細書において使用する場合、「特異的結合」という用語は、2分子間の非ランダム結合反応、例えば、抗体と標的とする抗原との間の反応を指す。特定の実施形態では、抗原に対して特異的に結合する抗体(または抗原に対して特異的な抗体)は、約10-5M未満、例えば、約10-6M、10-7M、10-8M、10-9M、または10-10M以下未満の親和性(K)で抗原に結合する抗体を指す。
【0055】
本明細書において使用する場合、「K」という用語は、特異的な抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を指し、抗体と抗原との間の結合親和性を記載するために使用する。平衡解離定数が小さいほど、抗体-抗原結合がより堅固であり、抗体と抗原との間の親和性がより高い。典型的には、抗体は、約10-5M未満、例えば、約10-6M、10-7M、10-8M、10-9M、または10-10M以下未満の解離平衡定数(K)で抗原(例えば、TIGITタンパク質またはPD-L1タンパク質)に結合する。Kは、当業者に公知の方法を使用して、例えば、Fortebio分子間相互作用解析装置を使用して決定することができる。
【0056】
本明細書において使用する場合、「モノクローナル抗体」および「McAb」という用語は、同一の意味を有し、互換的に使用する。「ポリクローナル抗体」および「PcAb」も、同一の意味を有し、互換的に使用する。また、本発明では、アミノ酸は一般に、当技術分野において周知の1文字および3文字の略称により表す。例えば、アラニンは、AまたはAlaにより表すことができる。
【0057】
本明細書において使用する場合、「薬学的に許容される賦形剤」という用語は、対象および活性成分と薬理学的および/または生理学的に適合する、担体および/または賦形剤を指す。これは、当技術分野において周知であり(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences. Edited by Gennaro AR, 19th ed. Pennsylvania: Mack Publishing Company, 1995を参照)、pH調整物質、界面活性物質、アジュバント、イオン強度増強物質を含むが、これらに制限されない。例えば、pH調整物質としては、リン酸緩衝液が挙げられるが、これに制限されない。界面活性物質としては、カチオン性、アニオン性または非イオン性界面活性物質、例えば、Tween-80が挙げられるが、これに制限されない。イオン強度増強物質としては、塩化ナトリウムが挙げられるが、これに制限されない。
【0058】
本明細書において使用する場合、「有効量」という用語は、所望の作用を少なくとも部分的に得るのに十分な量を指す。例えば、予防的に有効な量は、疾患(例えば、腫瘍)の発症を予防、抑止または遅延させるのに十分な量であり、治療的に有効な量は、既に疾患を有する患者において疾患およびこの合併症を治癒または少なくとも部分的に予防するのに十分な量である。このような有効量の決定は、十分当業者の能力の範囲内である。例えば、治療的使用に有効な量は、治療する疾患の重症度、患者自身の免疫系の全体的状態、患者の全身状態、例えば、年齢、体重、および性、薬物を投与する方法、ならびに併用する他の治療等に依存する。
【0059】
本明細書において使用する場合、PD-L1タンパク質(プログラム細胞死リガンド1、NCBI GenBankID:NP_054862.1)のアミノ酸配列に言及するとき、完全長のヒトPD-L1タンパク質、またはヒトPD-L1細胞外断片PD-L1 ECD(例えば、配列番号6に示すアミノ酸配列)もしくはPD-L1 ECDを含む断片を含み、PD-L1 ECDの融合タンパク質、例えば、マウスまたはヒトIgG Fcタンパク質断片(mFcまたはhFc)に融合した断片も含む。しかし、当業者は、PD-L1タンパク質のアミノ酸配列では、変異または変化(置換、欠失、および/または付加を含むが、これらに制限されない)が、生物学的機能に影響せずに、天然に生じるか、または人工的に導入可能であることを理解している。したがって、本発明では、「PD-L1タンパク質」という用語は、示す配列およびその天然または人工バリアントを含む、あらゆるそのような配列を含むものとする。その上、PD-L1タンパク質の配列断片を記載するとき、配列断片だけでなく、この天然または人工バリアントに対応する配列断片も含む。
【0060】
本明細書において使用する場合、TIGITタンパク質(IgドメインおよびITIMドメインを有するT細胞免疫受容体、NCBI GenBankID:NP_776160.2)のアミノ酸配列に言及するとき、完全長のヒトTIGITタンパク質、またはヒトTIGITの細胞外断片TIGIT ECD(例えば、配列番号8に示すアミノ酸配列)もしくはTIGIT ECDを含む断片を含み、TIGITタンパク質の完全長融合タンパク質またはTIGIT ECDの融合タンパク質、例えば、マウスまたはヒトIgGのFcタンパク質断片(mFcまたはhFc)に融合した断片も含む。しかし、当業者は、TIGITタンパク質のアミノ酸配列では、変異または変化(置換、欠失、および/または付加を含むが、これらに制限されない)が、この生物学的機能に影響せずに、天然に生じるか、または人工的に導入可能であることを理解している。したがって、本発明では、「TIGITタンパク質」という用語は、その天然または人工バリアントを含む、あらゆるそのような配列を含むものとする。その上、TIGITタンパク質の配列断片を記載するとき、この天然または人工バリアントに対応する配列断片も含む。
【0061】
本明細書において使用する場合、PD-1タンパク質(NCBI GenBank:NP_005009.2)のアミノ酸配列に言及するとき、完全長のヒトPD-1タンパク質、またはヒトPD-1の細胞外断片PD-1 ECDもしくはPD-1 ECDを含む断片を含み、PD-1タンパク質の完全長の融合タンパク質またはPD-1 ECDの融合タンパク質、例えば、マウスまたはヒトIgGのFcタンパク質断片(mFcまたはhFc)に融合した断片も含む。しかし、当業者は、PD-1タンパク質のアミノ酸配列では、変異または変化(置換、欠失、および/または付加を含むが、これらに制限されない)が、この生物学的機能に影響せずに、天然に生じるか、または人工的に導入可能であることを理解している。したがって、本発明では、「PD-1タンパク質」という用語は、その天然または人工バリアントを含む、あらゆるそのような配列を含むものとする。また、PD-1タンパク質の配列断片を記載するとき、この天然または人工バリアントに対応する配列断片も含む。
【0062】
本発明では、「単一ドメイン抗体」、「VHH」、および「ナノボディ」という用語は、同一の意味を有しており、抗体の重鎖の可変領域をクローニングして、最小の完全機能性抗原結合断片である、唯一の重鎖可変領域からなるナノボディ(VHH)を構築することを指す。通常、軽鎖および重鎖定常領域1(CH1)を天然に欠く抗体の入手後、抗体重鎖の可変領域をクローニングして、唯一の重鎖可変領域からなるナノボディ(VHH)を構築する。
【0063】
本発明では、他に述べない限り、「第1」(例えば、第1のタンパク質機能性領域、第1のペプチド鎖)および「第2」(例えば、第2のタンパク質機能性領域、第2のペプチド鎖)という用語は、参照物を区別するかまたは明確とするために使用し、典型的な連続的意味を有しない。
【0064】
本発明では、単一末端抗体分子は、他に特定しない限り、二重特異性抗体の第1のタンパク質機能性領域分子もしくは第2のタンパク質機能性領域分子と同一であるかもしくは類似している抗体分子、例えば、抗TIGITモノクローナル抗体、抗PD-L1モノクローナル抗体、または二重特異性抗体の第1のタンパク質機能性領域分子もしくは第2のタンパク質機能性領域分子と同一であるかもしくは類似している抗PD-L1単一ドメイン抗体を指す。
【0065】
本発明の有利な作用
本発明では、以下の作用の1つまたは複数を達成する。
(1)本発明の抗TIGIT抗体は、優れた親和性および特異性を有する。
(2)本発明の二重特異性抗体は、TIGITに非常に良好に特異的に結合することができる。
(3)本発明の二重特異性抗体は、PD-L1に非常に良好に特異的に結合することができる。
(4)本発明の二重特異性抗体は、ヒトTIGITタンパク質およびヒトPD-L1タンパク質に同時に結合することができる。
(5)本発明の二重特異性抗体の第1のタンパク質機能性領域と第2のタンパク質機能性領域との間に相乗作用が存在する。例えば、本発明の抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体は、CD155/CD112媒介TIGIT下流阻害性シグナル伝達経路およびPD-L1媒介PD-1下流阻害性シグナル伝達経路をそれぞれ軽減することができ、この活性は、2つの単一末端抗体分子の併用による活性よりも良好であり、および/またはin vivoでのこの抗腫瘍活性は、2つの単一末端抗体分子の併用による抗腫瘍活性よりも良好である。
(6)本発明の二重特異性抗体は、生成が容易である。
(7)本発明の二重特異性抗体は、安定性が良好であり、半減期が長い。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1】本発明の二重特異性抗体の模式的構造図を示す。
図2A】CHO細胞上で過剰発現したヒトPD-L1に対する本発明の二重特異性抗体の結合曲線を示す。
図2B】CHO細胞上で過剰発現したカニクイザルPD-L1に対する本発明の二重特異性抗体の結合曲線を示す。
図2C】本発明の二重特異性抗体がCHO細胞上で過剰発現したヒトPD-1に対するヒトPD-L1の結合を遮断する曲線を示す。
図3A】CHO細胞上で過剰発現したヒトTIGITに対する本発明の二重特異性抗体の結合曲線を示す。
図3B】CHO細胞上で過剰発現したカニクイザルTIGITに対する本発明の二重特異性抗体の結合曲線を示す。
図3C】CHO細胞上で過剰発現したマウスTIGITに対する本発明の二重特異性抗体の結合曲線を示す。
図3D】本発明の二重特異性抗体がCHO細胞上で過剰発現したヒトTIGITに対するヒトCD155の結合を遮断する曲線を示す。
図3E】本発明の二重特異性抗体がCHO細胞上で過剰発現したマウスTIGITに対するマウスCD155の結合を遮断する曲線を示す。
図4】本発明の二重特異性抗体がヒトPD-L1タンパク質およびヒトTIGITタンパク質に同時に結合する曲線を示す。
図5】本発明の二重特異性抗体がPD-1/PD-L1シグナル伝達経路およびTIGIT/CD155/CD112シグナル伝達経路を遮断する曲線を示す。
図6A】本発明の二重特異性抗体を使用する混合リンパ球アッセイにおけるサイトカイン放出量の統計グラフを示す。ここで、図6Aおよび図6Bに使用したPBMC細胞試料は、種々のドナーから入手した。
図6B】本発明の二重特異性抗体を使用する混合リンパ球アッセイにおけるサイトカイン放出量の統計グラフを示す。ここで、図6Aおよび図6Bに使用したPBMC細胞試料は、種々のドナーから入手した。
図7】A375およびヒトPBMCを同時接種したB-NDGマウスモデルにおける本発明の二重特異性抗体の薬力学曲線を示す。
図8】A375およびヒトPBMCを同時接種したB-NDGマウスモデルにおける本発明の二重特異性抗体の用量依存性薬力学曲線を示す。
図9】ヒトPD-L1/PD-1/TIGIT遺伝子導入マウスCT26腫瘍モデルにおける本発明の二重特異性抗体の薬力学曲線を示す。
図10】マウスにおける本発明の二重特異性抗体の半減期曲線を示す。
図11】CHO細胞上で過剰発現したヒトTIGITに対する本発明の抗TIGIT抗体の結合曲線を示す。
図12】CHO細胞上で過剰発現したカニクイザルTIGITに対する本発明の抗TIGIT抗体の結合曲線を示す。
図13】CHO細胞上で過剰発現したマウスTIGITに対する本発明の抗TIGIT抗体の結合曲線を示す。
図14】本発明の抗TIGIT抗体がCHO細胞上で過剰発現したヒトTIGITに対するヒトCD155の結合を遮断する曲線を示す。
図15】本発明の抗TIGIT抗体がCHO細胞上で過剰発現したマウスTIGITに対するマウスCD155の結合を遮断する曲線を示す。
図16】活性化ヒト初代T細胞上のTIGITに対する本発明の抗TIGIT抗体の結合曲線を示す。
【0067】
本発明に含まれる配列を下記の表Aに示し、このCDRは、それぞれKabatの付番方式に従って決定する。
【表A-1】

【表A-2】

【表A-3】
【実施例
【0068】
本発明を実行するための特定のモデル
本発明は、特定の実施例と組み合わせて下記にさらに記載する。このような実施例は、単に本発明を例示するために使用し、本発明の範囲を制限することは意図しないことが理解されるべきである。次の実施例において特定の条件を明示しない実験方法は、通常、従来の条件、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning: Laboratory Manual (New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)に記載の条件、または製造者により推奨される条件に従う。他に述べない限り、パーセンテージおよび分率は、重量による。
【0069】
対照抗体アテゾリズマブ:抗PD-L1モノクローナル抗体、商標:テセントリク(Tecentriq)、Roche。
【0070】
対照抗体チラゴルマブ(Tiragolumab):抗TIGITモノクローナル抗体、Roche。
【0071】
実施例1:抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の発現および精製
この実施例では、抗TIGIT抗体重鎖可変領域(VH)配列(配列番号19)を、完全遺伝子合成を使用して合成し、野生型hIgG1抗体重鎖に組み換えて完全な「VH-CH1-CH2-CH3」抗体重鎖(配列番号1)を形成し、抗PD-L1 VHH(配列番号3)を重鎖C末端において2つのリンカーGS(配列番号2)により結合させて配列番号4に示すペプチド鎖#1の完全長アミノ酸配列を得た。加えて、抗TIGIT軽鎖可変領域(VL)配列(配列番号20)を、完全遺伝子合成を使用して合成し、カッパ軽鎖に組み換えて完全「VL-CL」抗体軽鎖構造を形成した。得られたペプチド鎖#2の完全長アミノ酸配列は、配列番号5に示した。
【0072】
分子クローニング技術を使用してpcDNA3.1発現フレームに重鎖配列および軽鎖配列をそれぞれ構築し、従来の発現をExpi-293発現系により行った。トランスフェクション方法は、製品指示書に従って実施し、ここでは、細胞培養から5日後に上清を採取し、標的タンパク質を、プロテインA磁気ビーズ(GenScriptから購入)を使用して精製した。磁気ビーズは、適切な容量の結合緩衝液(PBS+0.1%のTween20、pH7.4)(磁気ビーズの1~4倍量)に再懸濁し、次いで、精製する試料に加え、その期間中穏やかに振盪しながら室温で1時間インキュベートした。試料を磁気スタンド(Beaverから購入)上に静置し、上清を廃棄し、磁気ビーズを結合緩衝液で3回洗浄した。溶出緩衝液(0.1Mのクエン酸ナトリウム、pH3.2)を磁気ビーズの3~5倍量で加え、室温で5~10分間振盪し、磁気スタンド上に戻し、溶出緩衝液を採取し、中和緩衝液(1Mのトリス、pH8.54)を加えた採取チューブに移し、十分に混合した。
【0073】
抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体(本発明では、抗TIGIT/PD-L1二重特異性抗体とも呼ぶ)を得、この模式的構造を図1に示した。
【0074】
実施例2:抗体親和性の検出
バイオフィルム層光干渉技術(ForteBio)を使用して、実施例1で得た二重特異性抗体およびそれに対応する単一末端抗体分子がヒトおよびカニクイザルのPD-L1およびTIGITに結合する結合解離定数(K)を決定した。Fortebio親和性測定は、既存の方法に従って実行し(Este, Pら、High throughput solution-based measurement of antibody-antigen affinity and epitope binning. Mabs, 2013.5巻(2号): p.270-8)、ここで、このヒトPD-L1細胞外断片アミノ酸配列、カニクイザルPD-L1細胞外断片アミノ酸配列、ヒトTIGIT細胞外断片アミノ酸配列、およびカニクイザルTIGIT細胞外断片アミノ酸配列を、配列番号6~9にそれぞれ示した。
【0075】
詳細な手順は、次のとおりであった。センサーをオフラインで解析緩衝液により30分間平衡し、次いで、オンラインで60秒間検出してベースラインを確立し、精製したインタクトな抗体をAHQセンサー上に1nmの厚さに添加して親和性検出を行った。抗体を添加したセンサーを100nMのヒトまたはカニクイザルPD-L1、TIGIT-his抗原にプラトー相まで曝露し、次いで、センサーを少なくとも2分間解析緩衝液に移して解離速度を測定した。動態解析を1:1の結合モデルを使用して実施した。
【0076】
ヒト、カニクイザルのPD-L1およびTIGITに対する結合における二重特異性抗体およびそれに対応する単一末端抗体分子のK値は、下記の表1に示した。
【表1】
【0077】
結果は、ヒトPD-L1抗原、カニクイザルPD-L1抗原、ヒトTIGIT抗原、およびカニクイザルTIGIT抗原に対する抗TIGIT/PD-L1二重特異性抗体の一価性親和性値が、ヒトPD-L1抗原、カニクイザルPD-L1抗原、ヒトTIGIT抗原、およびカニクイザルTIGIT抗原に対する単一末端抗体分子の一価性親和性値にそれぞれ匹敵するか、またはさらに良好であったことを示した。
【0078】
実施例3:ヒト/カニクイザルPD-L1を過剰発現するCHO細胞に対する抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の結合活性および遮断活性
3.1 フローサイトメトリー検出方法に基づくCHO細胞上で過剰発現したヒト/カニクイザルPD-L1に対する抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の結合活性の検出
詳細には、ヒトPD-L1を過剰発現するCHO-S細胞(CHO-huPD-L1細胞)およびカニクイザルPD-L1を過剰発現するCHO-S細胞(CHO-cynoPD-L1細胞)を、圧力スクリーニングにより、ヒトPD-L1およびカニクイザルPD-L1をMCSにクローニングしたpCHO1.0ベクター(Invitrogenから購入)をトランスフェクトすることによって生成した。増殖培養後の過剰発現した細胞を適切な細胞密度に調整し、96ウェルのフローサイトメトリープレートに加え、次いで、遠心分離し、段階希釈した検査試料を加え、4℃で30分間インキュベートした。次いで、PBSで2回洗浄し、適切な濃度に同様に希釈した蛍光二次抗体を加え、4℃で30分間インキュベートした。次いで、PBSで2回洗浄し、PBSに再懸濁した細胞を加え、CytoFlexフローサイトメーター上で検出し、対応するMFIを算出した。Graphpadソフトウェアを使用してグラフ解析を行い、EC50値を得た。
【0079】
結果を表2、図2A、および図2Bに示した。
【表2】
【0080】
結果は、本発明の抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体が、CHO細胞上で過剰発現したヒト/カニクイザルPD-L1に対する結合活性を有し、この結合活性が、PD-L1末端モノクローナル抗体分子(抗PD-L1 VHH)の結合活性に匹敵することを示した。
【0081】
3.2 フローサイトメトリー検出に基づくCHO細胞上で過剰発現したヒトPD-1に対するヒトPD-L1の結合についての抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の遮断活性の検出
詳細には、ヒトPD-1を過剰発現するCHO-S細胞(CHO-huPD-1細胞)を、圧力スクリーニングにより、ヒトPD-1をMCSにクローニングしたpCHO1.0ベクター(Invitrogenから購入)をトランスフェクトすることによって生成した。精製した検査抗体をPBSで希釈し、希釈した試料を60μL/ウェルで96ウェルのフローサイトメトリープレートに加えた。次いで、ビオチン化ヒトPD-L1タンパク質を60μL/ウェルで最終濃度0.5μg/mLに達するまで加え、混合し、4℃で30分間インキュベートした。増殖培養後のCHO-huPD-1細胞を細胞密度2×10細胞/mLに達するように調整し、100μL/ウェルで96ウェルのフローサイトメトリープレートに加えて遠心分離し、上清を廃棄した。上記の同時インキュベートした抗体-抗原混合物を100μL/ウェルで加え、4℃で30分間インキュベートした。PBSで2回洗浄後、PBSで100倍希釈したストレプトマイシン アビジン-R-フィコエリトリンコンジュゲート(SAPE)を100μL/ウェルで加え、4℃で30分間インキュベートした。PBSで2回洗浄後、PBSに再懸濁した細胞を100μL/ウェルで加え、CytoFlexフローサイトメーター上で検出し、対応するMFIを算出した。Graphpadソフトウェアを使用してグラフ解析を行い、IC50値を得た。
【0082】
結果を表2および図2Cに示した。結果は、CHO細胞上に過剰発現したヒトPD-1に対するヒトPD-L1の結合についての本発明の抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の遮断活性が、このPD-L1末端モノクローナル抗体分子(抗PD-L1 VHH)の遮断活性に匹敵するか、またはさらに良好であったことを示した。
【0083】
実施例4:ヒト/カニクイザル/マウスTIGITを過剰発現するCHO細胞に対する抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の結合活性および遮断活性
4.1 フローサイトメトリー検出方法に基づくCHO細胞上で過剰発現したヒト/カニクイザル/マウスTIGITに対する抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の結合活性の検出
詳細には、ヒトTIGITを過剰発現するCHO-S細胞(CHO-huTIGIT細胞)、カニクイザルTIGITを過剰発現するCHO-S細胞(CHO-cynoTIGIT細胞)、およびマウスTIGITを過剰発現するCHO-S細胞(CHO-muTIGIT細胞)を、圧力スクリーニングにより、ヒトTIGITcDNA、カニクイザルTIGITcDNA、およびマウスTIGITcDNAをMCSにクローニングしたpCHO1.0ベクター(Invitrogenから購入)をトランスフェクトすることによって生成した。増殖培養後の過剰発現細胞を適する細胞密度に調整し、96ウェルのフローサイトメトリープレートに加え、遠心分離し、次いで、段階希釈した検査試料を加え、4℃で30分間インキュベートした。PBSで2回洗浄後、適切な濃度に同様に希釈した蛍光二次抗体を加え、4℃で30分間インキュベートした。PBSで2回洗浄後、PBSに再懸濁した細胞を加え、CytoFlexフローサイトメーター上で検出し、対応するMFIを算出した。Graphpadソフトウェアを使用してグラフ解析を行い、EC50値を得た。
【0084】
結果を表3、および図3A図3Cに示した。
【表3】
【0085】
結果は、CHO細胞上で過剰発現したヒト/カニクイザル/マウスTIGITに対する本発明の抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の結合活性は、このTIGIT末端モノクローナル抗体分子(抗TIGITmAb)の結合活性に匹敵するか、またはさらに良好であることを示した。
【0086】
4.2 CHO細胞上で過剰発現したヒトTIGITに対するヒトCD155の結合およびCHO細胞上で過剰発現したマウスTIGITに対するマウスCD155の結合についてのフローサイトメトリーに基づく抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の遮断活性の検出
詳細には、増殖培養後のCHO-huTIGIT細胞を細胞密度2×10細胞/mLに調整し、100μL/ウェルで96ウェルのフローサイトメトリープレートに加え、後の使用のために遠心分離した。精製したモノクローナル抗体は、400nMから開始して3倍希釈により計12のポイントについてPBSで希釈した。希釈した試料を60μL/ウェルで上記の96ウェルのフローサイトメトリープレートに細胞とともに加え、4℃で30分間インキュベートした。次いで、マウスIgG2aFcタグを有するヒトCD155タンパク質を60μL/ウェルで最終濃度2μg/mLに達するまで加え、4℃で30分間インキュベートした。PBSで2回洗浄後、PBSで100倍希釈したAPCヤギ抗マウスIgG抗体を100μL/ウェルで加え、4℃で30分間インキュベートした。PBSで2回洗浄後、PBSに再懸濁した細胞を100μL/ウェルで加え、CytoFlexフローサイトメーター上で検出し、対応するMFIを算出した。
【0087】
増殖培養後のCHO-muTIGIT細胞を細胞密度2×10細胞/mLに達するように調整し、100μL/ウェルで96ウェルのフローサイトメトリープレートに加え、後の使用のために遠心分離した。精製したモノクローナル抗体は、400nMから開始して3倍希釈により計12のポイントについてPBSで希釈した。希釈した試料を60μL/ウェルで上記の96ウェルのフローサイトメトリープレートに細胞とともに加え、4℃で30分間インキュベートした。次いで、マウスIgG2aFcタグを有するマウスCD155タンパク質を60μL/ウェルで最終濃度2μg/mLに達するまで加え、4℃で30分間インキュベートした。PBSで2回洗浄後、PBSで100倍希釈したAPCヤギ抗マウスIgG抗体を100μL/ウェルで加え、4℃で30分間インキュベートした。PBSで2回洗浄後、PBSに再懸濁した細胞を100μL/ウェルで加え、CytoFlexフローサイトメーター上で検出し、対応するMFIを算出した。Graphpadソフトウェアを使用してグラフ解析を行い、IC50値を得た。
【0088】
結果を表3、および図3D図3Eに示した。結果は、CHO細胞上で過剰発現したヒトTIGITに対するヒトCD155の結合およびCHO細胞上で過剰発現したマウスTIGITに対するマウスCD155の結合についての本発明の抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の遮断活性が、このTIGIT末端モノクローナル抗体分子(抗TIGITmAb)の遮断活性に匹敵することを示した。
【0089】
実施例5:ヒトTIGITおよびヒトPD-L1に対する抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の同時結合活性
ヒトTIGITタンパク質およびヒトPD-L1タンパク質に対する本発明の抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の同時結合活性を酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)に基づいて検出した。
【0090】
詳細には、ヒトTIGITタンパク質を指示書に従って溶解し、1×ELISAコーティング溶液で1μg/mLに希釈し、100μL/ウェルで96ウェルのELISAプレートにコーティングし、フィルムで覆い、4℃で一晩静置した。コーティング溶液を廃棄し、1×PBSTによる洗浄を3回実施し、5%BSA/PBSを200μL/ウェルで加えて室温で2時間ブロッキングした。ブロッキング溶液を廃棄し、1%BSA/PBSにより段階希釈した検査抗体を100μL/ウェルで加え、室温で2時間インキュベートした。抗体希釈液を廃棄し、1×PBSTによる洗浄を3回実施し、1%BSA/PBSで希釈したビオチン標識PD-L1タンパク質を100μL/ウェルで最終濃度1μg/mLに達するまで加え、室温で1時間インキュベートした。抗原希釈液を廃棄し、1×PBSTによる洗浄を3回実施し、1%BSA/PBSで希釈したSA-HRPを100μL/ウェルで加え、室温で1時間インキュベートした。SA-HRP希釈液を廃棄し、1×PBSTによる洗浄を3回実施し、ELISA発色溶液を100μL/ウェルで加え、室温で1~3分間反応させ、次いで、ELISA停止溶液を50μL/ウェルで加え、吸光度値を450nmで読み取った。Graphpadソフトウェアを使用して濃度-吸光度値結合曲線をプロットした。
【0091】
結果を図4に示した。本発明の抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体は、ヒトTIGITタンパク質およびヒトPD-L1タンパク質に同時結合可能であった。
【0092】
実施例6:ルシフェラーゼレポーター遺伝子系におけるPD-1/PD-L1シグナル伝達経路およびTIGIT/CD155/CD112シグナル伝達経路についての抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の遮断活性
PD-1/PD-L1シグナル伝達経路およびTIGIT/CD155/CD112シグナル伝達経路の同時遮断についての抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の活性を細胞レベルでさらに検出するために、この実施例では、次のルシフェラーゼレポーター遺伝子系を構築した。簡潔には、レンチウイルスを使用して細胞をトランスフェクトし、ヒトCD155、ヒトCD112、ヒトPD-L1、およびOKT-3scFvを過剰発現するCHO-K1細胞株(CHO-K1-CD155-CD112-PD-L1)ならびにヒトTIGIT、ヒトPD-1、およびNF-ATルシフェラーゼレポーター遺伝子(Promegaから購入)を過剰発現するジャーカット細胞株(Jurkat-TIGIT-PD-1-luc)を構築し、その後、このレポーター遺伝子系を使用して関連する実験を行った。
【0093】
詳細には、CHO-K1-CD155-CD112-PD-L1機能性細胞を分解により得、所望の細胞密度に達するように調整し、100μL/ウェルで96ウェルの白色底プレートに加え、一晩培養して接着させた。翌日、Jurkat-TIGIT-PD-1-lucエフェクター細胞の懸濁液を調製し、検査試料を反応培地で段階希釈した。白色底プレートを取り出し、培養上清をピペット操作により除去し、希釈した上記の試料を40μL/ウェルで白色底プレートに加え、Jurkat-TIGIT-PD-1-lucエフェクター細胞の懸濁液を40μL/ウェルで加え、37℃で、5%COのインキュベーター内で6時間のインキュベーションを実施した。この時間内にBio-Glo(商標)試薬を室温に戻した。培養完了後、細胞を取り出し、室温で5分間平衡した。Bio-Glo(商標)試薬を80μL/ウェルで加え、多機能性マイクロプレートリーダーを使用して蛍光シグナル値を読み取った。
【0094】
結果を図5に示した。結果は、本発明の抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体が、レポーター遺伝子ルシフェラーゼ発現を上方制御可能な、CD155/CD112媒介TIGIT下流阻害性シグナル伝達経路およびPD-L1媒介PD-1下流阻害性シグナル伝達経路をそれぞれ解放可能であり、この活性が、2つの単一末端抗体分子の併用による活性よりも良好であることを示した。
【0095】
実施例7:混合リンパ球アッセイにおけるT細胞活性化についての抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の活性
この実施例では、混合リンパ球反応(MLR)アッセイを使用して、T細胞活性化における抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の活性を検出した。詳細な実験方法は、以下のとおりであった。
【0096】
PBMC細胞(SAILYBIOから購入、XFB-HP100B)を蘇生させ、遠心分離した。このPBMC細胞をX-VIVO-15培地(LONZAから購入)10mLに再懸濁し、細胞培養インキュベーター内で37℃で2時間培養し、非接着細胞を除去した。DC培地(X-VIVO-15培地に10ng/mLのGM-CSF(R&Dから購入)、および20ng/mLのIL-4(R&Dから購入)を補充)10mLを加え、3日間培養し、次いで、DC培地5mLを補充し、6日目まで培養を継続した。次いで、DC成熟培地(X-VIVO-15培地に1000U/mLのTNF-α(R&Dから購入)、10ng/mLのIL-6(R&Dから購入)、5ng/mLのIL-1β(R&Dから購入)、および1μMのPGE2(Tocrisから購入)を添加)を加え、2日間培養し、次いで、成熟DC細胞を採取し、X-VIVO-15培地を使用して細胞密度を2×10細胞/mLに調整した。
【0097】
別のドナー由来のPBMC細胞(SAILY BIOから購入、XFB-HP100B)を蘇生させ、遠心分離した。このPBMC細胞をX-VIVO-15培地10mLに再懸濁した。T細胞単離キット(Stemcellから購入)を使用してT細胞を濃縮し、X-VIVO-15を使用してT細胞を再懸濁し、細胞密度を2×10細胞/mLに調整した。T細胞懸濁液を上記で採取した成熟DC細胞と容量比1:1で混合し、100μL/ウェルで96ウェルのU底プレートに加えた。
【0098】
検査する抗体試料は、200nMから開始して10倍希釈により計5のポイントについて、X-VIVO-15培養培地で希釈し、100μL/ウェルで上記の混合細胞ウェルに加え、5日間培養した。次いで、上清を採取し、ELISA(eBioscienceより購入)方法を使用してIFN-γ発現レベルを検出した。
【0099】
結果を図6Aおよび6Bに示した。結果は、抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体が、MLR実験において良好な生物学的活性を示し、T細胞活性化レベルが、2つの単一末端抗体分子の併用による活性に匹敵することを示した。
【0100】
実施例8:A375およびヒトPBMCの混合物を接種したB-NDGマウスにおける抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体のin vivoでの薬力学的試験
この実験では、本発明の抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の抗腫瘍作用をA375(Addexbioから購入、C0020004、ヒト悪性メラノーマ細胞)およびヒトPBMC細胞(Shanghai Miles-bio、A10S033014/PB100C)の混合物を接種したB-NDGマウスのモデル(A375 huPBMCモデル)において決定した。ここでは、ヒト免疫系を局所的に再構成したヒト化腫瘍マウスモデルを、ヒト免疫細胞(PBMC)を免疫不全マウスに接種することにより生成した。
【0101】
詳細には、A375細胞およびヒトPBMCを、最初に、1:1の等しい体積比で混合して細胞懸濁液0.1mLを得、マウス腹部の右鼠径部に皮下注射して、A375 huPBMCモデルを確立した。平均腫瘍体積が約200mmに達したとき、群化を実施した。種々の用量および同一の投与容量のPBSまたは抗体を各群のマウス6匹に腹腔内投与して処置した。各群のマウスの腫瘍体積および体重の変化を2~3日に1回のモニタリング頻度でモニターし、モニタリングを2~3週間継続的に実施した。用量および投与方法を表4に示した。
【0102】
【表4】
【0103】
結果を図7に示した。結果は、本発明の抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体が、有意な抗腫瘍作用を有し、この作用が、2つの単一末端抗体分子の併用による作用よりも良好であることを示した。
【0104】
実施例9:A375およびヒトPBMCの混合物を接種したB-NDGマウスにおける抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体のin vivoでの用量依存性薬力学的試験
この実験では、A375 huPBMCモデルを皮下混合接種により確立した(モデルを確立するためのステップは実施例8と同一であった)。平均腫瘍体積が約300mmに達したとき、マウスを複数の群に分けた。種々の用量および同一の容量のPBSまたは二重特異性抗体を各群のマウス6匹に腹腔内投与して処置した。各群のマウスの腫瘍体積および体重の変化を2~3日に1回のモニタリング頻度でモニターし、モニタリングを2~3週間継続的に実施した。用量および投与方法を表5に示した。
【0105】
【表5】
【0106】
結果を図8に示した。本発明の抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体は、マウスの腫瘍の増殖を用量依存的に有意に阻害可能であった。
【0107】
実施例10:huPD-L1/PD-1/TIGIT KIマウスにおける抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体のin vivoでの薬力学的試験
この実験では、本発明の抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の抗腫瘍作用を、ヒトPD-L1/PD-1/TIGIT遺伝子導入マウス(huPD-L1/PD-1/TIGIT KIマウス)へのCT-26-huPD-L1腫瘍細胞(ヒトPD-L1をCT26マウス結腸がん細胞にノックインした、Jiangsu Gempharmatechから購入)の移植により決定した。
【0108】
詳細には、CT-26-huPD-L1細胞懸濁液を最初に調製し、およそ5×10細胞を含む0.1mLをマウス腹部の右鼠径部に皮下注射して、CT-26-huPD-L1腫瘍担持マウスモデルを確立した。平均腫瘍体積が80~120mmに達したとき、マウスを複数の群に分けた。種々の用量および同一の容量のPBSまたは抗体を各群のマウス6匹に腹腔内注射により投与して処置した。各群のマウスの腫瘍体積および体重の変化を2~3日に1回のモニタリング頻度でモニターし、モニタリングを2~3週間継続的に実施した。用量および投与方法を表6に示した。
【0109】
【表6】
【0110】
結果を図9に示した。本発明の抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の有効性は、臨床薬物の併用(アテゾリズマブ+チラゴルマブ)による有効性に匹敵し、抗腫瘍活性は、2つのモノクローナル抗体群の活性よりも優れていた。
【0111】
実施例11:マウスにおける抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体のin vivoでの半減期試験
尾静脈単回注射方法を使用してマウスにおける本発明の抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の半減期を検出した。
【0112】
詳細には、Balb/c実験マウスの雄3匹および雌3匹を、12/12時間の明/暗調節環境において温度24℃±2℃および湿度40%~70%で飼育し、水および食物を自由に摂取可能とした。実験当日に、Balb/cマウスに用量10mg/kgのモノクローナル抗体分子の単回尾静脈注射を投与した。血液採取時点:投与後5分、0.5時間、2時間、6時間、24時間、48時間、96時間、168時間、336時間、および504時間にマウスの眼窩から血液を採取した。全血試料は、2℃~8℃で30分間静置し、12,000rpmで5分間遠心分離して血清を採取した。生じた血清を2℃~8℃、12,000rpmで5分間遠心分離し、-80℃で保存した。血清中の二重特異性抗体分子の量をELISAにより検出した。
【0113】
結果を図10に示した。結果は、マウスにおける単回注射後の本発明の抗TIGIT/抗PD-L1二重特異性抗体の半減期が189時間であったことを示した。
【0114】
調製実施例1:抗TIGITモノクローナル抗体の調製
抗TIGITモノクローナル抗体の重鎖可変領域(アミノ酸配列は配列番号19に示した)をヒトIgG1重鎖定常領域ならびにL234A修飾およびL235A修飾を有するヒトIgG1重鎖定常領域に組み換えた。加えて、軽鎖可変領域(アミノ酸配列は配列番号20に示した)をヒトカッパ軽鎖定常領域に組み換え、抗TIGITモノクローナル抗体を55796-G1および55796-G1LALAとそれぞれ名付けた。一過性発現および精製は、HEK293発現系を介して実施した。特定の操作は、次のとおりであった。化学的トランスフェクション方法を使用して抗体重鎖および抗体軽鎖を有するpcDNA3.1ベクターをHEK293細胞に移入し、37℃および8%COで7日間培養した。細胞透明質を採取し、13,000rpmで20分間遠心分離した。上清を採り出し、プロテインAで精製し、SECを使用して抗体純度を検出し、エンドトキシン含量を同時に調節した。
【0115】
調製した抗TIGITモノクローナル抗体55796-G1および55796-G1LALAを次の検査実施例1~3に使用した。
検査実施例1:抗TIGITモノクローナル抗体の親和性検出
バイオフィルム層光干渉技術(ForteBio)を使用して、ヒト、カニクイザル、およびマウスのTIGITに対する結合における、調製実施例1で調製した抗TIGITモノクローナル抗体の結合解離定数(K)を決定した。Fortebio親和性測定は、既存の方法に従って実施した(Este, Pら、High throughput solution-based measurement of antibody-antigen affinity and epitope binning. Mabs, 2013.5巻(2号): p.270-8)。このヒトTIGITの細胞外アミノ酸配列、カニクイザルTIGITの細胞外アミノ酸配列、およびマウスTIGITの細胞外アミノ酸配列を、配列番号8、9、および21にそれぞれ示した。
【0116】
ヒト、カニクイザル、およびマウスのTIGIT-hisタンパク質に対するインタクトな抗体(すなわち、Adimabより最初に入手した完全長IgG)の一価性親和性を測定した。センサーをオフラインでアッセイ緩衝液により20分間平衡し、次いで、オンラインで120秒間検出を実施してベースラインを確立し、インタクトなTIGIT抗体をAHQセンサー上に1nmの厚さに達するように添加して親和性検出を行った。抗体を添加したセンサーを100nMのTIGIT-his抗原にプラトー相までインキュベートし、次いで、センサーを少なくとも2分間アッセイ緩衝液に移して解離速度を測定した。動態解析を1:1の結合モデルを使用して実施した。
【0117】
上記の決定方法では、測定したK値を下記の表7に示した。
【表7】
【0118】
表7の結果から次が認められた。(1)ヒトTIGIT-hisタンパク質に対する抗TIGITモノクローナル抗体の一価性親和性は、対照分子チラゴルマブの親和性よりも高かった。(2)カニクイザルTIGIT-hisタンパク質に対する抗TIGITモノクローナル抗体の一価性親和性は、対照分子チラゴルマブの親和性に匹敵した。(3)抗TIGITモノクローナル抗体は、マウスTIGITとの交差結合活性を有した。
【0119】
検査実施例2:ヒト/カニクイザル/マウスTIGITを過剰発現するCHO細胞に対する抗TIGITモノクローナル抗体の結合活性および遮断活性
2.1 フローサイトメトリーに基づくCHO細胞上で過剰発現したヒト/カニクイザル/マウスTIGITに対する抗TIGITモノクローナル抗体の結合活性の検出
詳細には、ヒトTIGITを過剰発現するCHO-S細胞(CHO-huTIGIT細胞)、カニクイザルTIGITを過剰発現するCHO-S細胞(CHO-cynoTIGIT細胞)、およびマウスTIGITを過剰発現するCHO-S細胞(CHO-muTIGIT細胞)を、圧力スクリーニングにより、ヒトTIGITcDNA、カニクイザルTIGITcDNA、およびマウスTIGITcDNAをMCSにクローニングしたpCHO1.0ベクター(Invitrogenから購入)をトランスフェクトすることによって生成した。増殖培養後、過剰発現細胞を適切な細胞密度に調整し、96ウェルのフローサイトメトリープレートに加えた。遠心分離後、段階希釈した検査試料を加え、4℃で30分間インキュベートした。PBSで2回洗浄後、適切な濃度に同様に希釈した蛍光二次抗体を加え、4℃で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した。PBSに再懸濁した細胞を加え、CytoFlexフローサイトメーター上で検出し、対応するMFIを算出した。Graphpadソフトウェアを使用してグラフ解析を行い、EC50値を得た。結果を表8および図11~13に示した。
【0120】
2.2 CHO細胞上で過剰発現したヒトTIGITに対するヒトCD155の結合遮断における、およびCHO細胞上で過剰発現したマウスTIGITに対するマウスCD155の結合遮断におけるフローサイトメトリーに基づく抗TIGITモノクローナル抗体の遮断活性の検出
詳細には、増殖培養後のCHO-huTIGIT細胞を細胞密度2×10細胞/mLに調整し、100μL/ウェルで96ウェルのフローサイトメトリープレートに加え、後の使用のために遠心分離した。精製したモノクローナル抗体は、400nMから開始して3倍希釈により計12のポイントについてPBSで希釈した。希釈した試料を60μL/ウェルで上記の96ウェルのフローサイトメトリープレートに細胞とともに加え、4℃で30分間インキュベートした。次いで、マウスIgG2aFcタグを有するヒトCD155タンパク質を60μL/ウェルで最終濃度2μg/mLに達するまで加え、4℃で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した。PBSで100倍希釈したAPCヤギ抗マウスIgG抗体を100μL/ウェルで加え、4℃で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した。PBSに再懸濁した細胞を100μL/ウェルで加え、CytoFlexフローサイトメーター上で検出し、対応するMFIを算出した。
【0121】
増殖培養後のCHO-muTIGIT細胞を細胞密度2×10細胞/mLに調整し、100μL/ウェルで96ウェルのフローサイトメトリープレートに加え、後の使用のために遠心分離した。精製したモノクローナル抗体は、400nMから開始して3倍希釈により計12のポイントについてPBSで希釈した。希釈した試料を60μL/ウェルで上記の96ウェルのフローサイトメトリープレートに細胞とともに加え、4℃で30分間インキュベートした。次いで、マウスIgG2aFcタグを有するマウスCD155タンパク質を60μL/ウェルで最終濃度2μg/mLに達するまで加え、4℃で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した。PBSで100倍希釈したAPCヤギ抗マウスIgG抗体を100μL/ウェルで加え、4℃で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した。PBSに再懸濁した細胞を100μL/ウェルで加え、CytoFlexフローサイトメーター上で検出し、対応するMFIを算出した。Graphpadソフトウェアを使用してグラフ解析を行い、IC50値を得た。結果を表8および図14~15に示した。
【0122】
【表8】
【0123】
本発明の抗TIGITモノクローナル抗体について、表8および図11~13から次が認められた。(1)CHO細胞の表面上で過剰発現したヒトTIGITタンパク質に対するその結合活性は、対照分子チラゴルマブの活性よりも良好であった。(2)CHO細胞の表面上で過剰発現したカニクイザルTIGITタンパク質に対するその結合活性は、対照分子チラゴルマブの活性よりも良好であった。(3)CHO細胞の表面上で過剰発現したマウスTIGITタンパク質に対して有意な結合を示した。
【0124】
本発明の抗TIGITモノクローナル抗体について、表8および図14~15から次が認められた。(1)CHO細胞の表面上で過剰発現したヒトTIGITタンパク質に対するヒトCD155の結合を遮断するその能力は、対照分子チラゴルマブの能力よりも良好であった。(2)CHO細胞の細胞表面上で過剰発現したマウスTIGITタンパク質に結合する抗TIGIT抗体分子は、CHO細胞の表面上で過剰発現したマウスTIGITタンパク質に対するマウスCD155の結合を有意に遮断可能であった。
【0125】
検査実施例3:初代T細胞の表面上のTIGITに対する抗TIGITモノクローナル抗体の結合
活性化T細胞の表面上のTIGITに対する本発明の抗TIGIT抗体の結合活性を、フローサイトメトリー検出方法に基づいて検出した。
【0126】
詳細には、STEMCELLにより提供された実験プロトコル(stemcell、Cat.No.:#17951C)に従ってヒトPBMCを選別して、ヒト全T細胞を得た。T細胞の濃度を、X-VIVO15培地(lonzaから購入、Cat.No.04-418Q)を使用して1.0×10細胞/mLに調整し、次いで、IL-2保存液(100万IU)1μLを加え、一方、CD3/CD28ダイナビーズ(gibcoから購入、No.:11132D)を1:1(ビーズ対細胞)で加え、5%COのインキュベーター内で37℃で48時間培養した。活性化T細胞を適切な細胞密度に調整し、96ウェルのフローサイトメトリープレートに加えた。遠心分離後、段階希釈した検査試料を加え、4℃で30分間インキュベートした。PBSで2回洗浄後、適切な濃度に同様に希釈した蛍光二次抗体を加え、4℃で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した。PBSに再懸濁した細胞を加え、CytoFlexフローサイトメーター上で検出し、対応するMFIを算出した。
【0127】
結果を図16に示した。結果は、本発明の抗TIGIT抗体55796-G1および55796-G1LALAが、T細胞表面上のTIGIT分子に結合可能であり、これらの結合活性が、対照分子チラゴルマブの活性よりも良好であることを示した。
【0128】
本発明の特定の実施形態を詳細に記載しているが、当業者は、開示するすべての教示によれば、種々の修飾および置換をこのような詳細に対して為すことができ、このような変更が、本発明の保護範囲内であることを理解するであろう。本発明の全範囲は、添付の特許請求の範囲およびそのすべての等価物によって与えられる。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
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【国際調査報告】