(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】冷延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241106BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20241106BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20241106BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/38
C22C38/60
C21D9/46 G
C21D9/46 J
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529592
(86)(22)【出願日】2022-11-07
(85)【翻訳文提出日】2024-06-14
(86)【国際出願番号】 KR2022017337
(87)【国際公開番号】W WO2023090736
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】10-2021-0160095
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】コン、 ジョン-パン
(72)【発明者】
【氏名】イム、 ヤン-ロク
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA14
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4K037EB05
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4K037FC04
4K037FC07
4K037FE01
4K037FE02
4K037FG00
4K037FG01
4K037FH01
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FK01
4K037FK02
4K037FK03
4K037FK08
4K037FM04
4K037GA05
4K037JA06
(57)【要約】
本発明は、冷延鋼板及びその製造方法に関するものであって、より具体的には、車体のメンバー(member)、シートレール(seat rail)及びピラー(pillar)のような構造部材などに好適に適用可能な優れた強度及び成形性を有する冷延鋼板及びその製造方法に関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.10~0.20%、Si:0.05~0.495%、Al:0.01~0.18%、Mn:2.4~3.5%、Cr:0.05~0.8%、Mo:0.05~0.8%、B:0.0001~0.003%、Nb:0.005~0.07%、Ti:0.005~0.07%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
下記関係式1~3を満たし、
面積%で、フレッシュマルテンサイト:1~11%、テンパードマルテンサイト及びベイナイトのうち1種又は2種:80~97%、残留オーステナイト:1~9%及びフェライト:7%以下(0%を含む)である微細組織を有し、
平均大きさが20nm以下であるMC、M(C、N)及びこれらの複合析出物(M=Nb、Ti、Si、Cr、Mo、Fe)のうち1種以上を50個/μm
2以上含む冷延鋼板。
[関係式1]1120≦X=2301×C+287×Mn+1533×Nb+228×Cr-71×Si-84.1×Al≦1380
[関係式2]0.25≦Y=C+Si/30+Mn/20≦0.36
[関係式3]3420≦X/Y≦4360
(但し、前記関係式1~3において、それぞれの合金元素含有量は重量%である。)
【請求項2】
前記不純物は、トランプ元素としてP、S、Sb、N、Mg、Sn、Sb、Zn及びPbのうち1種以上を含み、その合計が0.1重量%以下である、請求項1に記載の冷延鋼板。
【請求項3】
前記冷延鋼板は、降伏強度(YS):800~1200MPa、引張強度(TS):1180~1400MPa、全伸び率(T-EL):5%以上、均一伸び率(U-EL):3%以上、降伏比(YS/TS):0.60以上、穴拡げ率(HER):20%以上である、請求項1に記載の冷延鋼板。
【請求項4】
前記冷延鋼板は、少なくとも一面にめっき層が形成された、請求項1に記載の冷延鋼板。
【請求項5】
前記冷延鋼板は、LMEクラックの平均長さが170μm以下である、請求項4に記載の冷延鋼板。
【請求項6】
前記冷延鋼板は、溶融部(Fusion Zone)の硬度(HvFZ)が400~650Hvである、請求項4に記載の冷延鋼板。
【請求項7】
重量%で、C:0.10~0.20%、Si:0.05~0.495%、Al:0.01~0.18%、Mn:2.4~3.5%、Cr:0.05~0.8%、Mo:0.05~0.8%、B:0.0001~0.003%、Nb:0.005~0.07%、Ti:0.005~0.07%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、下記関係式1~3を満たすスラブを加熱する段階;
前記加熱されたスラブを仕上げ圧延出側温度がA
3+50℃~A
3+160℃となるように仕上げ圧延して熱延鋼板を得る段階;
前記熱延鋼板をMs+100℃~Ms+300℃まで冷却した後、巻き取る段階;
前記巻き取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る段階;
前記冷延鋼板を800~860℃の連続焼鈍温度(SS)範囲で連続焼鈍する段階;
前記連続焼鈍された冷延鋼板を450~650℃の1次冷却終了温度(SCS)まで10℃/s未満の平均冷却速度で1次冷却する段階;
前記1次冷却された冷延鋼板を300~390℃の2次冷却終了温度(RCS)まで10℃/秒以上の平均冷却速度で2次冷却する段階;及び、
前記2次冷却された冷延鋼板を400~540℃の再加熱温度(RHS)範囲で再加熱する段階;を含み、
前記連続焼鈍、2次冷却及び再加熱時、下記関係式4~6を満たす冷延鋼板の製造方法。
[関係式1]1120≦X=2301×C+287×Mn+1533×Nb+228×Cr-71×Si-84.1×Al≦1380
[関係式2]0.25≦Y=C+Si/30+Mn/20≦0.36
[関係式3]3420≦X/Y≦4360
[関係式4]SS-A
3≧5℃
[関係式5]-30℃≧Ms-RCS≧110℃
[関係式6]-30℃≧RHS-RCS≧250℃
(但し、前記関係式1~3において、それぞれの合金元素含有量は重量%である。)
【請求項8】
前記スラブは、トランプ元素としてP、S、Sb、N、Mg、Sn、Sb、Zn及びPbのうち1種以上を含み、その合計が0.1重量%以下である、請求項7に記載の冷延鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記スラブは、加熱が1100~1300℃で行われる、請求項7に記載の冷延鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記冷間圧延は、30~70%の圧下率で行われる、請求項7に記載の冷延鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記連続焼鈍は、体積%で、窒素:95%以上及び残部水素からなる気体雰囲気で行われる、請求項7に記載の冷延鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記2次冷却は、体積%で、50~80%の水素、残部窒素からなるガス雰囲気の水素急冷設備で行われる、請求項7に記載の冷延鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記再加熱する段階後、前記冷延鋼板を430~490℃のめっき浴で溶融めっきする段階をさらに含む、請求項7に記載の冷延鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記溶融めっき後、前記冷延鋼板を2%未満の圧下率で調質圧延する段階をさらに含む、請求項13に記載の冷延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷延鋼板及びその製造方法に関するものであって、より具体的には、車体のメンバー(member)、シートレール(seat rail)及びピラー(pillar)のような構造部材などに好適に適用可能な優れた強度及び成形性を有する冷延鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車の乗客及び歩行者の安全規制の強化による安全装置の構築義務化に伴い、自動車の燃費向上のための軽量化とは反対となる状況として、車体の重量が増加するという問題がある。環境にやさしく、燃費の効率の高いハイブリッド(Hybrid)や電気自動車に対する消費者の関心が増大しているが、このような環境にやさしく且つ安全な車を生産するためには、車体構造の軽量化及び車体素材の安定性確保がなされなければならない。しかし、ハイブリッド自動車は既存のガソリンエンジンだけでなく、電気エンジン、電気バッテリー、そして2次燃料保管タンクなどの様々な装置が追加されている。また、運転者の便宜施設などが持続的に追加されるにつれて車体の重量は増加している。これによって、車体の軽量化を実現するためには、薄くて且つ強度、延性及び曲げ特性などに優れた素材の開発が必須的である。従って、このような問題を解決するためには、引張強度1180MPa以上の高強度及び高延性などを確保することができるギガ級の鋼板の開発が必要である。
【0003】
一方、近年、自動車の衝撃安定性の規制拡大に伴い、車体の耐衝撃性を向上するために、メンバー(member)、シートレール(seat rail)及びピラー(pillar)などの構造部材に降伏強度に優れた高強度鋼が採用されている。構造部材は引張強度に対する降伏強度、すなわち、降伏比(降伏強度/引張強度)が高いほど衝撃エネルギーの吸収に有利であるという特徴を有している。しかし、一般的に鋼板の強度が増加するほど伸び率が減少して成形加工性が低下するという問題点が生じるため、高降伏比、成形性、及び部品加工時の重要物性である曲げ特性が同時に向上した材料の開発が求められているのが実情である。
【0004】
降伏強度を高めるための代表的な製造方法としては、連続焼鈍時に水冷却を用いる方法がある。例えば、焼鈍工程で均熱処理した後、水に浸漬し、焼戻しをすることで微細組織をマルテンサイトからテンパードマルテンサイトに変態させた鋼板を製造することができる。このような方法の代表的な従来技術としては特許文献1がある。特許文献1は、炭素0.18~0.3%の鋼材を連続焼鈍後に常温まで水冷し、続いて、120~300℃の温度で1~15分間の過時効処理を施し、マルテンサイトの体積率が80~97%であり、残部がフェライトである鋼材を製造することに関する技術である。このように、水冷後焼戻し方式によって超高強度鋼を製造する場合、降伏比は極めて高いものの、幅方向、長さ方向の温度ばらつきによりコイルの形状品質が劣化するという問題が生じる。これにより、ロールフォーミング加工時に部位による材質不良及び作業性低下などの問題も生じる。
【0005】
上記高張力鋼板の加工性を向上させることに関する従来技術としては特許文献2がある。特許文献2は、テンパードマルテンサイトを主体とする複合組織からなる鋼板に関するものであって、加工性を向上させるために組織内部に粒径1~100nmの微細析出Cu粒子を分散させることを特徴としている。しかし、特許文献2は、良好な微細Cu粒子を析出させるためにCu含有量を2~5%と過多に添加することで、Cuに起因する赤熱脆性が発生する可能性があり、また、製造コストが過多に上昇するという問題点がある。
【0006】
特許文献3は、フェライト(ferrite)を基地組織として、パーライト(pearlite)2~10面積%を含む微細組織を有し、主にTiなどのような炭・窒化物形成元素の添加を通じた析出強化及び結晶粒微細化によって強度を向上させた鋼板を提示している。特許文献3は、低い製造原価に対して高い強度を容易に得ることができるという利点を有しているが、微細析出物により再結晶温度が急激に上昇するようになるため、十分な再結晶を引き起こして延性を確保するためには高温焼鈍を施さなければならないという欠点がある。また、フェライト基地に炭・窒化物を析出させて強化する既存の析出強化鋼では、600MPa級以上の高強度鋼を得るのが難しいという問題点がある。
【0007】
他の方法としては、熱処理過程において、オーステナイトをマルテンサイト変態開始温度であるMsと変態完了温度であるMfとの間の温度に急冷させてマルテンサイトを確保すると同時に、適正温度でC、Mnなどのオーステナイト安定化元素を残留オーステナイト相に拡散させることで強度及び伸び率を同時に確保することができるQuenching&Partitioning(Q&P)方法がある。上記Q&P方法において、鋼をA3以上の温度に加熱しMs温度以下に急冷させてMsとMf温度との間で維持する熱処理過程を1step Q&Pといい、急冷後に鋼をMs以上の温度に再加熱させて熱処理する過程を2step Q&Pという。例えば、特許文献4では、Q&P熱処理によってオーステナイトを残留させることができる方案について説明している。しかし、Q&P工程は焼鈍温度、冷却温度及び再加熱温度に対する精密な制御が重要であるが、特許文献4は単にQ&P熱処理に関する概念を説明しているだけで、具体的な制御方案についての詳細な説明が不十分であることから、実際の適用には限界がある。
【0008】
従って、上述した問題点を解決し、180°完全圧着曲げ試験でもクラックが発生せず、かつ、冷間成形が可能な高降伏比を有する引張強度1180MPa以上の超高強度を有する鋼材の開発が求められているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本登録特許公報第2528387号公報
【特許文献2】日本公開特許公報特開2005-264176号公報
【特許文献3】韓国公開特許公報第2015-0073844号公報
【特許文献4】米国特許公開公報第2006-0011274号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の一側面は、優れた強度及び成形性を有する冷延鋼板及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態は、重量%で、C:0.10~0.20%、Si:0.05~0.495%、Al:0.01~0.18%、Mn:2.4~3.5%、Cr:0.05~0.8%、Mo:0.05~0.8%、B:0.0001~0.003%、Nb:0.005~0.07%、Ti:0.005~0.07%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、下記関係式1~3を満たし、面積%で、フレッシュマルテンサイト:1~11%、テンパードマルテンサイト及びベイナイトのうち1種又は2種:80~97%、残留オーステナイト:1~9%及びフェライト:7%以下(0%を含む)である微細組織を有し、平均大きさが20nm以下であるMC、M(C、N)及びこれらの複合析出物(M=Nb、Ti、Si、Cr、Mo、Fe)のうち1種以上を50個/μm2以上含む冷延鋼板を提供する。
[関係式1]1120≦X=2301×C+287×Mn+1533×Nb+228×Cr-71×Si-84.1×Al≦1380
[関係式2]0.25≦Y=C+Si/30+Mn/20≦0.36
[関係式3]3420≦X/Y≦4360
(但し、上記関係式1~3において、それぞれの合金元素含有量は重量%である。)
【0012】
本発明の他の実施形態は、重量%で、C:0.10~0.20%、Si:0.05~0.495%、Al:0.01~0.18%、Mn:2.4~3.5%、Cr:0.05~0.8%、Mo:0.05~0.8%、B:0.0001~0.003%、Nb:0.005~0.07%、Ti:0.005~0.07%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、下記関係式1~3を満たすスラブを加熱する段階;上記加熱されたスラブを仕上げ圧延出側温度がA3+50℃~A3+160℃となるように仕上げ圧延して熱延鋼板を得る段階;上記熱延鋼板をMs+100℃~Ms+300℃まで冷却した後、巻き取る段階;上記巻き取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る段階;上記冷延鋼板を800~860℃の連続焼鈍温度(SS)範囲で連続焼鈍する段階;上記連続焼鈍された冷延鋼板を450~650℃の1次冷却終了温度(SCS)まで10℃/s未満の平均冷却速度で1次冷却する段階;上記1次冷却された冷延鋼板を300~390℃の2次冷却終了温度(RCS)まで10℃/秒以上の平均冷却速度で2次冷却する段階;及び、上記2次冷却された冷延鋼板を400~540℃の再加熱温度(RHS)範囲で再加熱する段階;を含み、上記連続焼鈍、2次冷却及び再加熱時、下記関係式4~6を満たす冷延鋼板の製造方法を提供する。
[関係式1]1120≦X=2301×C+287×Mn+1533×Nb+228×Cr-71×Si-84.1×Al≦1380
[関係式2]0.25≦Y=C+Si/30+Mn/20≦0.36
[関係式3]3420≦X/Y≦4360
[関係式4]SS-A3≧5℃
[関係式5]-30℃≧Ms-RCS≧110℃
[関係式6]-30℃≧RHS-RCS≧250℃
(但し、上記関係式1~3において、それぞれの合金元素含有量は重量%である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面によると、優れた強度及び成形性を有する冷延鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施例によってLMEクラックの平均長さを測定するために実施される溶接方法の模式図である。
【
図2】本発明の一実施例による発明例1をSEMで観察した写真である。
【
図3】本発明の一実施例による発明例1をTEMで観察した写真である。
【
図4】本発明の一実施例による発明例3についてLME評価後の溶接部断面を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態による冷延鋼板について説明する。まず、本発明の合金組成について説明する。下記説明される合金組成の含有量は重量%である。
【0016】
C:0.10~0.20%
炭素(C)は、固溶強化のために添加される極めて重要な元素である。また、Cは、析出強化元素と結合して微細炭化物を生成することで強度向上に寄与する。上記Cの含有量が0.10%未満の場合には、所望の強度を確保することが極めて困難である。一方、上記Cの含有量が0.20%を超えると、硬化能の増加により冷却中にマルテンサイトが過度に形成されるにつれて強度が急激に増加し、曲げ加工性が劣化する可能性がある。また、溶接性が劣化して、顧客会社で部品加工時に溶接欠陥が発生する可能性が高くなる。従って、上記Cの含有量は0.10~0.20%の範囲を有することが好ましい。上記C含有量の下限は0.11%であることがより好ましく、0.12%であることがさらに好ましい。上記C含有量の上限は0.19%であることがより好ましく、0.18%であることがさらに好ましい。
【0017】
Si:0.05~0.495%
ケイ素(Si)は、強度増加に寄与するだけでなく、炭化物生成を抑制して焼鈍均熱処理及び冷却中に炭素が炭化物として生成されずに分配されて残留オーステナイトに集積することで、残留オーステナイトが常温でオーステナイト相として存在するようにするため、伸び率確保に有利な元素である。上記Siの含有量が0.05%未満である場合には、上述した効果を十分に確保することが困難である可能性がある。一方、上記Siの含有量が0.495%を超える場合には、LMEクラックの形成による溶接部の物性悪化を防ぐことができなくなり、赤スケールなどの表面欠陥が誘発されて鋼材の表面特性及びめっき性が悪くなる。上記Si含有量の下限は0.10%であることがより好ましく、0.15%であることがさらに好ましい。上記Si含有量の上限は0.490%であることがより好ましく、0.485%であることがさらに好ましい。
【0018】
Al:0.01~0.18%
アルミニウム(Al)は、鋼材の脱酸のために含まれる元素であるだけでなく、セメンタイトの析出を抑制して残留オーステナイトの安定化に効果的な元素である。上記Alの含有量が0.01%未満であると、上述した効果を十分に確保することが困難である可能性がある。一方、上記Alの含有量が0.18%を超える場合、鋼材の鋳造性を損なうようになる。上記Al含有量の下限は0.02%であることがより好ましく、0.03%であることがさらに好ましい。上記Si含有量の上限は0.17%であることがより好ましく、0.16%であることがさらに好ましい。
【0019】
Mn:2.4~3.5%
マンガン(Mn)は、強度を確保するために添加される元素である。上記Mnの含有量が2.4%未満である場合、強度を確保することが困難になる。一方、その含有量が3.5%を超える場合、ベイナイト変態速度が遅くなり、過度に多いフレッシュマルテンサイトが形成されることによって、高い穴拡げ性を得ることが困難になる。また、Mnの偏析によるバンド組織が形成されて素材の材質均一性と成形性を損なうようになる。上記Mn含有量の下限は2.5%であることがより好ましく、2.6%であることがさらに好ましい。上記Mn含有量の上限は3.4%であることがより好ましく、3.2%であることがさらに好ましい。
【0020】
Cr:0.05~0.8%
クロム(Cr)は、強度と硬化能を確保するために添加される元素である。Mnが単独で添加される場合、強度と硬化能を確保するために本発明のMn含有量の範囲を超えて極めて多量のMnが添加されなければならないが、上記Crを0.05%以上添加することによってこのような問題点を解消することができる。一方、上記Crの含有量が0.8%を超える場合、局部腐食性が悪くなり、表面に酸化物を形成してリン酸塩処理性を損なうようになる。上記Cr含有量の下限は0.06%であることがより好ましく、0.07%であることがさらに好ましい。上記Cr含有量の上限は0.7%であることがより好ましく、0.6%であることがさらに好ましい。
【0021】
Mo:0.05~0.8%
モリブデン(Mo)は、強度と硬化能を確保するために添加される元素である。Mnが単独で添加される場合、本発明のMn含有量の範囲を超えて極めて多量のMnが添加されなければならないが、上記Moを0.05%以上添加することによってこのような問題点を解消することができる。一方、上記Moの含有量が0.8%を超える場合、相変態が抑制されてベイナイト組織を得ることが困難になり、高価な元素であることから鋼板の経済性が悪くなる。上記Mo含有量の下限は0.06%であることがより好ましく、0.07%であることがさらに好ましい。上記Mo含有量の上限は0.7%であることがより好ましく、0.6%であることがさらに好ましい。
【0022】
B:0.0001~0.003%
ボロン(B)は、硬化能を確保するために添加される元素である。Mnが単独で添加される場合、本発明のMn含有量の範囲を超えて極めて多量のMnが添加されなければならないが、上記Bを0.0001%以上添加することによってこのような問題点を解消することができる。一方、上記Bの含有量が0.0030%を超える場合、表面にBが過多に集積してめっき密着性を損なうようになる。上記B含有量の下限は0.0002%であることがより好ましく、0.0003%であることがさらに好ましい。上記B含有量の上限は0.0025%であることがより好ましく、0.0020%であることがさらに好ましい。
【0023】
Nb:0.005~0.07%
ニオブ(Nb)は、強度を確保し微細組織を微細化するために添加される元素である。上記Nbの含有量が0.005%未満である場合、強度向上及び微細組織の微細化効果を得ることが困難である。一方、上記Nbの含有量が0.07%を超える場合、局部的な結晶粒固定により再結晶が遅延し、微細組織の均一性を損なうようになる。上記Nb含有量の下限は0.010%であることがより好ましく、0.015%であることがさらに好ましい。上記Nb含有量の上限は0.06%であることがより好ましく、0.05%であることがさらに好ましい。
【0024】
Ti:0.005~0.07%
チタン(Ti)は、強度を確保し微細組織を微細化するために添加される元素である。上記Tiの含有量が0.005%未満である場合、強度向上及び微細組織の微細化効果を得ることが困難である。一方、上記Tiの含有量が0.07%を超える場合、TiNの過多形成により鋳造性を損なうようになり、局部的な結晶粒固定により再結晶が遅延し、微細組織の均一性を損なうようになる。上記Ti含有量の下限は0.010%であることがより好ましく、0.015%であることがさらに好ましい。上記Ti含有量の上限は0.06%であることがより好ましく、0.05%であることがさらに好ましい。
【0025】
一方、本発明の冷延鋼板は前述した合金組成を満たすと同時に、下記関係式1~3を満たすことが好ましい。このとき、下記関係式1~3において、それぞれの合金元素含有量は重量%である。
【0026】
[関係式1]1120≦X=2301×C+287×Mn+1533×Nb+228×Cr-71×Si-84.1×Al≦1380
上記関係式1は、本発明が目標とする優れた強度及び成形性を確保するための成分関係式である。上記Xの値が1120未満である場合には、硬化能不足により本発明が目標とする強度の確保が難しく、1380を超える場合には、引張強度が高くなりすぎて穴拡げ性及び曲げ特性などが劣化する可能性がある。従って、上記Xの値は1120~1380の範囲を有することが好ましい。上記Xの値の下限は1130であることがより好ましく、1140であることがさらに好ましい。上記Xの値の上限は1370であることがより好ましく、1360であることがさらに好ましい。
【0027】
[関係式2]0.25≦Y=C+Si/30+Mn/20≦0.36
上記関係式2は、溶接性及び溶融部硬度を確保するための成分関係式である。上記Yの値が0.25未満である場合には、溶接炭素当量が低くて目標とする溶融部硬度を確保することが難しく、0.36を超える場合には、溶融部硬度が高すぎて脆性破断が発生する可能性がある。従って、上記Yの値は0.25~0.36の範囲を有することが好ましい。上記関係式2の値の下限は0.26であることがより好ましく、0.27であることがさらに好ましい。上記関係式2の値の上限は0.35であることがより好ましく、0.34であることがさらに好ましい。
【0028】
[関係式3]3420≦X/Y≦4360
上記関係式3は、本発明が目標とする強度と溶接性及び溶融部硬度とを同時に安定して確保するための成分関係式である。上記X/Yの値が3420未満である場合には、硬化能不足により本発明が目標とする強度の確保が難しく、溶接炭素当量が高くて溶接部の脆性破断が発生する可能性がある。一方、4360を超える場合には、硬化能が過度に高く、急激な引張強度の上昇により穴拡げ性及び曲げ特性が劣化し、溶接炭素当量が低くて目標とする溶融部硬度の確保が困難になる可能性がある。従って、上記X/Yの値は3420~4360の範囲を有することが好ましい。上記X/Yの値の下限は3440であることがより好ましく、3460であることがさらに好ましい。上記X/Yの値の上限は4340であることがより好ましく、4320であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入される可能性があるため、これを排除することはできない。これらの不純物は通常の製造過程の技術者であれば誰でも分かるため、その全ての内容を特に本明細書では言及しない。
【0030】
一方、上記不純物はトランプ元素としてP、S、Sb、N、Mg、Sn、Sb、Zn及びPbのうち1種以上を含み、その合計が0.1重量%以下であることができる。上記トランプ元素は製鋼工程で原料として使用するスクラップなどに由来する不純物元素であって、その合計が0.1%を超える場合には、スラブの表面クラックを引き起こし、鋼板の表面品質を低下させる可能性がある。
【0031】
本発明の一実施形態による冷延鋼板は、面積%で、フレッシュマルテンサイト(Fresh Martensite、以下、「F.M」ともいう):1~11%、テンパードマルテンサイト(Tempered Martensite、以下、「T.M」ともいう)及びベイナイト(Bainite、以下、「B」ともいう)のうち1種又は2種:80~97%、残留オーステナイト(Retained Austenite、以下、「R.A」ともいう):1~9%及びフェライト(Ferrite、以下、「F」ともいう):7%以下(0%を含む)からなる微細組織を有することが好ましい。F.M分率が1%未満であるか、T.M及びBのうち1種又は2種の分率が80%未満である場合、本発明が目標とする強度の確保が難しい。一方、F.M分率が11%を超えるか、T.M及びBのうち1種又は2種の分率が97%を超える場合には、伸び率及び曲げ特性が劣化する可能性がある。R.Aは伸び率の確保の側面で有利であることから1.0%以上である必要があるが、9%未満である場合には、強度の確保が難しくなる可能性がある。F分率が7%を超える場合には、本発明が目標とする強度の確保が困難になる可能性がある。
【0032】
本発明の一実施形態による冷延鋼板は、平均大きさが20nm以下のMC、M(C、N)及びこれらの複合析出物(M=Nb、Ti、Si、Cr、Mo、Fe)のうち1種以上を50個/μm2以上含むことが好ましい。上記析出物は、平均大きさが20nmを超えるか、分率が50個/μm2未満である場合には、強度及び曲げ特性の確保に不利であるという欠点がある。上記析出物の大きさは15nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。上記析出物の分率は75個/μm2以上であることがより好ましく、100個/μm2以上であることがさらに好ましい。
【0033】
前述のように提供される本発明の一実施形態による冷延鋼板は、降伏強度(YS):800~1200MPa、引張強度(TS):1180~1400MPa、全伸び率(Total Elongation、T-EL):5% 以上、均一伸び率(Uniform Elongation、U-EL):3%以上、降伏比(YS/TS):0.60以上、穴拡げ率(HER):20%以上であって、優れた強度及び成形性を有することができる。上記降伏強度(YS)は850~1150MPaであることがより好ましく、850~950MPaであることがさらに好ましい。引張強度(TS)は1185~1380MPaであることがより好ましく、1190~1350MPaであることがさらに好ましい。全伸び率(T-EL)は6%以上であることがより好ましく、7%以上であることがさらに好ましい。均一伸び率(U-EL)は4%以上であることがより好ましく、5%以上であることがさらに好ましい。降伏比(YR、YS/TS)は0.65以上であることがより好ましく、0.70%以上であることがさらに好ましい。穴拡げ率(HER、Hole Expansion Ratio)は22%以上であることがより好ましく、25%以上であることがさらに好ましい。
【0034】
一方、本発明の冷延鋼板は、少なくとも一面にめっき層が形成されてもよい。本発明では、上記めっき層の種類について特に限定していないが、例えば、Zn系めっき層であってもよい。このようにめっき層が形成された冷延鋼板を自動車用部品として使用するためには、一般的にスポット溶接が行われる。このとき、GI鋼板に形成された合金化抑制層は、溶接熱により溶融しながら液体亜鉛を生じさせる。より詳しくは、上記スポット溶接時に溶接部は約1秒以内に約1500℃以上まで上昇し、これにより素地鉄とめっき層が溶融して溶接される。このとき、溶接熱影響部(HAZ)ではめっき層の温度が600~800℃まで上昇するが、これにより上記めっき層にFeが拡散し、上記めっき層の一部はFe-Zn合金層で合金化され、残りは液体亜鉛になる。上記液体亜鉛は素地鋼板表面の結晶粒界に浸透して入り、このとき、HAZに引張応力が作動すると、約数十~数百μmの大きさを有するクラックを生じさせて脆性破壊を引き起こす。これを液体金属脆化(Liquid Metal Embrittlement、以下、「LME」ともいう)という。本発明では、LMEクラックの平均長さが170μm以下と優れたLME抵抗性を有することができる。上記LMEクラックの平均長さは160μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましい。
【0035】
また、本発明の冷延鋼板は、溶融部(Fusion Zone)の硬度(HvFZ)が400~650Hvであってもよい。上記溶融部の硬度が400Hv未満である場合には、十分な溶融部硬度を確保できず、溶接部の強度が低くなる可能性がある。一方、650Hvを超える場合には、溶融部硬度が高すぎてクラック発生敏感性が高くなるため、溶接部強度と特に衝撃吸収エネルギーが低くなる可能性がある。上記溶融部の硬度は420~630Hvであることがより好ましく、450~600Hvであることがさらに好ましい。
【0036】
以下、本発明の一実施形態による冷延鋼板の製造方法について説明する。
【0037】
まず、前述した合金組成と関係式1~3とを満たすスラブを加熱する。本発明では、上記スラブ加熱温度について特に限定していないが、例えば、上記スラブの加熱は1100~1300℃で行うことができる。上記スラブ加熱温度が1100℃未満である場合には、粗圧延時に圧延負荷のような欠点があり、1300℃を超える場合には、微細組織が粗大化し、電力費上昇といった欠点がある。上記スラブ加熱温度の下限は1125℃であることがより好ましく、1150℃であることがさらに好ましい。上記スラブ加熱温度の上限は1275℃であることがより好ましく、1250℃であることがさらに好ましい。一方、上記スラブは230~270mmの厚さを有することができる。
【0038】
その後、上記加熱されたスラブを仕上げ圧延出側温度(以下、「FDT」ともいう)がA3+50℃~A3+160℃となるように仕上げ圧延して熱延鋼板を得る。上記仕上げ圧延出側温度がA3+50℃未満である場合には、熱間変形抵抗が急激に増加する可能性が高い。上記仕上げ圧延出側温度がA3+160℃を超える場合には、厚すぎる酸化スケールが発生するだけでなく、鋼板の微細組織が粗大化する可能性が高い。従って、上記仕上げ圧延出側温度はA3+50℃~A3+160℃の範囲を有することが好ましい。上記仕上げ圧延出側温度の下限はA3+60℃がより好ましく、A3+70℃がさらに好ましい。上記仕上げ圧延出側温度の上限はA3+150℃がより好ましく、A3+140℃がさらに好ましい。一方、上記A3温度は、下記式1により求めることができる。
【0039】
[式1]A3=910-203×C1/2+44.7×Si+31.5×Mo-30×Mn-11×Cr+400×Al+400×Ti
【0040】
その後、上記熱延鋼板をMs+100℃~Ms+300℃まで冷却したのち、巻き取る。上記巻取温度(以下、「CT」ともいう)がMs+100℃未満である場合、マルテンサイト又はベイナイトが過度に生成し熱延鋼板の過度な強度上昇を招くことで、冷間圧延時に負荷による形状不良などの問題が生じる可能性がある。一方、Ms+300℃を超えると表面スケールの増加により酸洗性が劣化する可能性がある。従って、上記巻取温度はMs+100℃~Ms+300℃の範囲を有することが好ましい。上記巻取温度の下限はMs+120℃であることがより好ましく、Ms+150℃であることがさらに好ましい。上記巻取温度の上限はMs+280℃であることがより好ましく、Ms+260℃であることがさらに好ましい。一方、本発明では、上記巻取後の冷却工程について特に限定していないが、例えば、上記巻き取られた熱延鋼板を0.1℃/s以下の冷却速度で常温まで冷却することができる。一方、上記Ms温度は、下記式2により求めることができる。
【0041】
[式2]Ms=539-423×C-30.4×Mn-7.5×Si+30×Al
【0042】
その後、上記巻き取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る。本発明では、上記冷間圧延時の圧下率について特に限定していないが、例えば、上記冷間圧延は30~70%の圧下率で行うことができる。上記冷間圧下率が30%未満である場合には、再結晶駆動力が弱くなり良好な再結晶粒を得るにあたり問題が生じる可能性が高く、形状矯正が極めて難しいという欠点がある。一方、70%を超える場合には、鋼板エッジ(edge)部にクラックが発生する可能性が高く、圧延荷重が急激に増加することがある。従って、上記冷間圧延は30~70%の圧下率で行うことが好ましい。一方、上記冷間圧延前には、表面に付着したスケールや不純物などを除去するために酸洗を行うこともできる。
【0043】
その後、上記冷延鋼板を800~860℃の連続焼鈍温度(以下、「SS」ともいう)の範囲で連続焼鈍する。上記連続焼鈍は、オーステナイト単相域まで鋼板を加熱することで100%に近いオーステナイトを形成し、以降の相変態に用いるために行われる。上記連続焼鈍温度が800℃未満であると、十分な再結晶及びオーステナイト変態が行われないことから、焼鈍後に本発明が得ようとするマルテンサイトとベイナイト分率を確保することができない。一方、上記連続焼鈍温度が860℃を超えると、生産性が低下し、粗大なオーステナイトが形成されて材質が劣化する可能性があり、また、めっき材の剥離など表面品質が悪くなる。上記連続焼鈍温度の下限は805℃であることがより好ましく、810℃であることがさらに好ましい。上記連続焼鈍温度の上限は855℃であることがより好ましく、850℃であることがさらに好ましい。
【0044】
一方、上記連続焼鈍温度は、本発明が目標とする強度を確保する上で極めて重要な要因であって、精密な制御が必要である。従って、本発明では下記関係式4を満たすことが好ましい。もし、SS-A3の値が5℃以下になると、過度なフェライト変態が起こり十分なオーステナイト変態を確保できず、最終微細組織で目標とするF.MとT.M+Bの分率の確保が難しいことから、目標とする強度を得られなくなる。下記SS-A3値は10℃以上であることがより好ましく、15℃以上であることがさらに好ましく、30℃以上であることが最も好ましい。
【0045】
[関係式4]SS-A3≧5℃
【0046】
本発明では、上記連続焼鈍時の雰囲気について特に限定していないが、例えば、上記連続焼鈍は、体積%で、窒素:95%以上及び残部水素からなる気体雰囲気で行うことができる。上記窒素の分率が95%未満である場合、これに合わせて水素の割合もともに高くならなければ、炉(furnace)内に酸化性雰囲気が形成され、鋼板表面に酸化物が形成されることにより表面品質が悪くなる可能性があり、また、水素の割合が高くなると、爆発防止のような工程上の困難が加重することがある。
【0047】
その後、上記連続焼鈍された冷延鋼板を450~650℃の1次冷却終了温度(SCS)まで10℃/s未満の平均冷却速度で1次冷却する。上記1次冷却終了温度は、1次冷却で適用されていない急冷設備がさらに適用されて、2次冷却(急冷)が開始される時点と定義することができる。本発明では、冷却工程を1次及び2次に分けて段階的に実行することにより、徐冷段階で鋼板の温度分布を均一にして最終的な温度及び材料のばらつきを減少させることができ、必要な相(phase)を得ることができる。上記1次冷却終了温度が650℃を超える場合には、2次冷却終了温度までの冷却量が大きくなって鋼板形状が不良となり、ベイナイト分率が目標水準に対して低くなる可能性がある。一方、実際の設備の長さを考慮すると、10℃/s未満の冷却速度では450℃未満に冷却することが困難であるため、上記1次冷却終了温度の下限は450℃であることが好ましい。上記10℃/s以上の場合には、2次冷却における冷却量が大きくなって、最終的な温度のばらつき及び材質のばらつきが増加するようになる。
【0048】
その後、上記1次冷却された冷延鋼板を300~390℃の2次冷却終了温度(RCS)まで10℃/秒以上の平均冷却速度で2次冷却する。上記2次冷却終了温度は、鋼板がMs温度以下になるようにして冷却中にマルテンサイト変態が発生するようにし、このマルテンサイトは、後工程である再加熱段階を経て最終的にテンパードマルテンサイトとベイナイト相になる。1180MPa級の超高強度鋼板のMs温度は殆ど400℃以下の水準であるため、本発明では上記2次冷却終了温度を300~390℃の範囲に制御する。上記2次冷却終了温度が300℃未満である場合には、マルテンサイト変態量が多すぎて強度が高くなり、伸び率は不十分となり、降伏強度が高くなりすぎて成形性が悪くなる。一方、390℃を超える場合には、十分なマルテンサイト変態が起こらず、目標とする強度を得ることが困難である。上記2次冷却速度が10℃/s未満である場合には、目標とする2次冷却終了温度に到達しても冷却中に高温相変態が発生し、目標とするマルテンサイト分率と高強度が得られなくなる。上記2次冷却終了温度の下限は305℃であることがより好ましく、310℃であることがさらに好ましい。上記2次冷却終了温度の上限は385℃であることがより好ましく、380℃であることがさらに好ましい。上記2次冷却速度は15℃/秒以上であることがより好ましく、20℃/秒以上であることがさらに好ましい。
【0049】
一方、上記2次冷却終了温度は、本発明が目標とする強度を確保する上で極めて重要な要因であって、精密な制御が必要である。従って、本発明では下記関係式5を満たすことが好ましい。Ms-RCSの値が-30℃未満であると、十分なマルテンサイト変態が起こらず、ベイナイト変態が多くなり目標とする強度の確保が困難である。一方、Ms-RCSの値が110℃を超える場合、マルテンサイトが過度に変態し、これにより再加熱時にT.M変態が多くなって目標とする降伏強度を得ることが困難である。下記Ms-RCS値の下限は-20℃であることがより好ましく、-10℃であることがさらに好ましい。下記Ms-RCS値の上限は105℃であることがより好ましく、100℃であることがさらに好ましい。
【0050】
[関係式5]-30℃≧Ms-RCS≧110℃
【0051】
上述したように、上記2次冷却は、上記1次冷却で適用されていない急冷設備をさらに適用することができ、本発明では、上記急冷設備の種類について特に限定していないが、好ましい一例として水素急冷設備を用いることができる。より具体的には、上記水素急冷設備は、体積%で、50~80%の水素、残部窒素からなるガス雰囲気であってもよい。上記水素の分率が80%を超える場合には、設備の爆発制御などの管理が難しくなるという欠点があり、50%未満である場合には、軽い元素である水素の効率的な熱伝達特性の活用が難しくなるという欠点がある。
【0052】
その後、上記2次冷却された冷延鋼板を400~540℃の再加熱温度(RHS)範囲で再加熱する。上記工程を通じて、残留オーステナイトの安定化に必要な相間炭素分配及び追加のベイナイト相変態が得られる。本発明では、上記加熱区間の終点温度を便宜上再加熱温度(以下、「RHS」ともいう)と指し示す。上記再加熱温度が400℃未満である場合には、1次冷却時に生成されたマルテンサイトが焼戻しされず、強度が高くなりすぎて伸び率が悪くなる。一方、上記再加熱温度が540℃を超える場合、再加熱の間に過度な焼戻し又はベイナイト変態が行われるため、目標とする強度の確保が困難になる可能性がある。上記再加熱温度の下限は410℃であることがより好ましく、420℃であることがさらに好ましい。上記冷却終了温度の上限は530℃であることがより好ましく、520℃であることがさらに好ましい。
【0053】
一方、上記再加熱温度は、本発明が目標とする強度を確保する上で極めて重要な要因であって、精密な制御が必要である。従って、本発明では下記関係式6を満たすことが好ましい。下記RHS-RCSの値が-30℃未満である場合には、過度なマルテンサイト変態が起こり、強度が極めて増加することによって穴拡げ性及び曲げ特性が劣化する。一方、RHS-RCSの値が250℃を超える場合、過度な焼戻しにより目標とする引張強度の確保が困難になる可能性がある。下記RHS-RCS値の下限は-25℃であることがより好ましく、-20℃であることがさらに好ましい。下記RHS-RCS値の上限は240℃であることがより好ましく、230℃であることがさらに好ましい。
【0054】
[関係式6]-30℃≧RHS-RCS≧250℃
【0055】
一方、本発明では、上記再加熱する段階後、上記冷延鋼板を430~490℃のめっき浴で溶融めっきする段階をさらに含むことができる。上記溶融めっき温度が430℃未満である場合、めっき温度が低くて均一なめっき品質を確保することが困難であり、490℃を超える場合、めっき量が過度になり抵抗点溶接時の溶接性が劣化し、特にLME(Liquid Metal Embrittlement)が発生する危険性が高くなる。上記溶融めっき温度の下限は435℃であることがより好ましく、440℃であることがさらに好ましい。上記溶融めっき温度の上限は485℃であることがより好ましく、470℃であることがさらに好ましい。本発明では、上記溶融めっきの種類について特に限定していないが、例えば、上記溶融めっきは溶融亜鉛めっきであってもよい。併せて、本発明では、上記再加熱後、冷延鋼板をそのまま溶融めっきするか、常温まで冷却した後に再度加熱して溶融めっきすることができる。
【0056】
また、本発明では、上記溶融めっき後、上記冷延鋼板を2%未満の圧下率で調質圧延する段階をさらに含むことができる。上記調質圧延は鋼板の形状を矯正し、降伏強度を調整するためのものである。上記調質圧延は、上記溶融めっき後、常温まで冷却した後に行うことができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は本発明を例示して具体化するためのものであって、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【0058】
(実施例1)
下記表1に記載の合金組成を有する溶鋼を準備した後、連続鋳造して厚さ250mmのスラブを製造した。このスラブを1200℃で12時間加熱した後、下記表2に記載の条件で熱間圧延及び巻取を行い、3.0mm厚の熱延鋼板を得た後、酸洗し、50%の冷間圧下率で冷間圧延を行うことで1.5mm厚の冷延鋼板を得た。その後、この冷延鋼板を下記表2及び3に記載の条件で連続焼鈍、1次冷却、2次冷却及び再加熱した。このとき、上記連続焼鈍時に用いた気体は95体積%N-5体積%Hであり、上記2次冷却時に用いた気体は75体積%H-25体積%Nである。このように製造された冷延鋼板について、微細組織、析出物及び機械的物性を測定した後、その結果を下記表4及び5に示した。併せて、上記冷延鋼板について、下記表3に記載の溶融亜鉛めっき浴温度で溶融亜鉛めっきしてめっき層を形成した後、溶接を行い、溶融部硬度及びLMEクラックの平均長さを測定したのち、その結果を下記表5に示した。このとき、上記溶接時の溶接方法としては、CO2レーザー溶接機を用いて6kW-3minの条件でBOP(Bead On Plate)溶接を行った。
【0059】
引張強度(TS)、降伏強度(YS)、降伏比(YR)、全伸び率(T-EL)及び均一伸び率(U-EL)は、圧延水平方向への引張試験を通じて測定し、標点距離(Gauge Length)は50mmであり、引張試験片の幅は15mmである試験片規格を使用した。穴拡げ率はISO 16330標準に従って測定し、ホールは直径10mmのパンチを使用して12%のClearanceで剪断加工した。
【0060】
微細組織の分率は、後方散乱電子回折(Electron BackScatter Diffraction、EBSD)とXRDを用いて測定した。析出物はレプリカ法でサンプルを作製し、透過電子顕微鏡(TEM)で観察した。一方、本発明では、T.MとBを区別することが困難であるため、その分率の合計で示した。
【0061】
溶融部硬度はビッカース硬度計を用いて500gfの荷重で1/4t(t=鋼板厚さ)で5回測定後の平均値として計算した。
【0062】
LMEクラックの平均長さは、
図1のように発明例又は比較例に該当する鋼材(該当材)、Mild鋼めっき材(厚さ:2mm)2枚を順次積層した後、5°tilting後にISO18278-2(2016)条件(Force:4.5KN、Welding time:380ms、Welding Current:Explulsion発生電流-0.2kA、Holding time:260ms)で抵抗点溶接を行った後、光学顕微鏡を活用して測定した。上記LMEクラックの長さは溶接試験片10個を測定し平均値として計算した。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
上記表1~5に示すように、本発明が提案する合金組成、関係式1~3及び製造条件を満たす発明例1~5の場合には、本発明が得ようとする微細組織、析出物、LMEクラックの平均長さ及び機械的物性などを確保していることが分かる。
【0069】
これに対し、本発明が提案する合金組成又は関係式1~3を満たしていない比較例1~5の場合には、本発明が得ようとする微細組織、析出物、LMEクラックの平均長さ及び機械的物性などを確保できていないことが分かる。
【0070】
図2は、発明例1をSEMで観察した写真であり、
図3は、発明例1をTEMで観察した写真である。
図2及び
図3に示すように、発明例1の場合、本発明が得ようとする複合組織を有しているだけでなく、数nmの平均大きさを有する微細析出物が均一に分布していることが分かる。
【0071】
図4は、発明例3について、LME評価後の溶接部断面を観察した写真である。
図4に示すように、発明例3の場合、LMEクラックの平均長さが約45μmであることが分かる。
【0072】
(実施例2)
実施例1で発明鋼1及び3の合金組成を有する溶鋼を準備した後、連続鋳造して厚さ250mmのスラブを製造した。このスラブを1200℃で12時間加熱した後、下記表2に記載の条件で熱間圧延及び巻取を行い、3.0mm厚の熱延鋼板を得た後、酸洗し、50%の冷間圧下率で冷間圧延を行うことで1.5mm厚の冷延鋼板を得た。その後、この冷延鋼板を下記表6及び7に記載の条件で連続焼鈍、1次冷却、2次冷却及び再加熱した。このとき、上記連続焼鈍時に用いた気体は95体積%N-5体積%Hであり、上記2次冷却時に用いた気体は75体積%H-25体積%Nである。このように製造された冷延鋼板について、微細組織、析出物及び機械的物性を測定した後、その結果を下記表8及び9に示した。併せて、上記冷延鋼板について、下記表3に記載の溶融亜鉛めっき浴温度で溶融亜鉛めっきしてめっき層を形成した後、溶接を行い、溶融部硬度及びLMEクラックの平均長さを測定した後、その結果を下記表9に示した。このとき、上記溶接時の溶接方法としては、CO2レーザー溶接機を用いて6kW-3minの条件でBOP(Bead On Plate)溶接を行った。
【0073】
微細組織、析出物、LMEクラックの平均長さ及び機械的物性は、実施例1に記載の条件で測定した。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
上記表6~9に示すように、本発明が提案する合金組成、関係式1~3及び製造条件を満たす発明例6~10の場合には、本発明が得ようとする微細組織、析出物、LMEクラックの平均長さ及び機械的物性などを確保していることが分かる。
【0079】
これに対し、本発明が提案する合金組成及び関係式1~3を満たしているものの製造条件を満たしていない比較例6~14の場合には、本発明が得ようとする微細組織及び機械的物性を確保できていないことが分かる。
【国際調査報告】