(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】低グリコシル化修飾カリクレイン1及びそのポリエチレングリコール修飾体とその薬物への応用
(51)【国際特許分類】
C12N 9/64 20060101AFI20241106BHJP
A61K 38/48 20060101ALI20241106BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20241106BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20241106BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20241106BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20241106BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241106BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20241106BHJP
C12N 15/57 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
C12N9/64 A ZNA
A61K38/48 100
A61P9/12
A61P9/10
A61P21/00
A61P13/12
A61P25/02
A61P27/02
A61K47/60
C12N15/57
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529618
(86)(22)【出願日】2022-11-16
(85)【翻訳文提出日】2024-05-29
(86)【国際出願番号】 CN2022132102
(87)【国際公開番号】W WO2023088272
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】202111353294.2
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】524159077
【氏名又は名称】江蘇衆紅生物工程創薬研究院有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZONHON BIOPHARMA INSTITUTE,INC
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼ 永
(72)【発明者】
【氏名】王 和
(72)【発明者】
【氏名】王 俊
(72)【発明者】
【氏名】葛 晨楠
(72)【発明者】
【氏名】江 辰▲陽▼
(72)【発明者】
【氏名】姚 翔
(72)【発明者】
【氏名】▲孫▼ 芳
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ ▲韜▼
(72)【発明者】
【氏名】庄 宇
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 梦寒
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA99
4C076CC11
4C076CC17
4C076CC41
4C076EE59
4C076FF63
4C076FF67
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA44
4C084CA18
4C084CA21
4C084CA32
4C084CA39
4C084CA53
4C084DC04
4C084NA14
4C084ZA20
4C084ZA33
4C084ZA36
4C084ZA42
4C084ZA81
(57)【要約】
一種の低グリコシル化修飾カリクレイン1とそのPEG修飾体の提供及びその薬物への応用。
本発明はNFS配列でグリコシル化修飾がないか又はごく少量のグリコシル化修飾があるKLK1を提供し、高い活性を実現した。また本発明はNMS、NHTのみにN‐グリコシル化修飾がある組換えKLK1突然変異体を提供し、糖修飾が一致で、産物分子量が均一で、産量が高く、精製が簡単になったとともに、高生物学的活性と品質管理可能という利点を持つ。本発明はまた長時間作用性、品質管理可能、低免疫原性及び高生物学的活性のPEG化KLK1を提供し、投与頻度を減らし、患者のコンプライアンスを高め、急性虚血性脳卒中、末梢神経障害、網膜症、眼底疾患、高血圧、糖尿病性腎症、IgA腎炎、慢性腎臓病などの疾患の予防、治療、予後回復、再発予防など疾患全過程に薬物の応用を実現した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低グリコシル化修飾カリクレイン1またはその誘導体であって、前記カリクレイン1は霊長類動物のカリクレイン1であり、天然カリクレイン1のNMS、NHT、NFS配列でのN‐グリコシル化修飾を含み、NFSのアスパラギンにグリコシル化修飾がないかまたはごく少量のグリコシル化修飾があることを特徴とする、低グリコシル化修飾カリクレイン1またはその誘導体であり、前記少量のグリコシル化修飾または低グリコシル化修飾は、NFSにあるアスパラギンがグリコシル化修飾された割合が≦10%、≦9%、≦8%、≦7%、≦6%、≦5%、≦4%、≦3%、≦2%、≦1%、≦0.5%、または≦0.1%である。
【請求項2】
組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、前記カリクレイン1は霊長類動物カリクレイン1であり、2つの部位のみにN‐グリコシル化修飾があることを特徴とする、低グリコシル化修飾カリクレイン1またはその誘導体である。
【請求項3】
請求項2に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、天然カリクレイン1アミノ酸配列中のNMS、NHTでのN‐グリコシル化修飾を保持しており、天然カリクレイン1のNFSでのN‐グリコシル化修飾を含まないことを特徴とする、組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体である。
【請求項4】
請求項2に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、前記カリクレイン1のアミノ酸配列中のNFSのアスパラギンがアスパラギン以外の任意のアミノ酸に突然変異され、NFSのF、Sの0個、1個、または2個のアミノ酸が他の任意のアミノ酸に突然変異されたことを特徴とする、組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体である。
【請求項5】
請求項2に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、前記カリクレイン1のアミノ酸配列中のNFSのフェニルアラニンがプロリンに突然変異され、NFSのN、Sの0個、1個、または2個のアミノ酸が他の任意のアミノ酸に突然変異されたことを特徴とする、組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体である。
【請求項6】
請求項2に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、前記カリクレイン1のアミノ酸配列中のNFSのセリンがセリン、トレオニン以外の任意のアミノ酸に突然変異され、NFSのN、Fの0個、1個、または2個のアミノ酸がほかの任意のアミノ酸に突然変異されたことを特徴とする、組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体である。
【請求項7】
請求項4に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、前記突然変異体はカリクレイン1のアミノ酸配列中のNFSのアスパラギンが極性中性アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、または脂肪族アミノ酸に突然変異されたことを特徴とする、組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体である。
【請求項8】
請求項7に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、前記突然変異体はカリクレイン1のアミノ酸配列中のNFSのアスパラギンがグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)、アルギニン(Arg)、またはアラニン(Ala)に突然変異されたことを特徴とする、組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体である。
【請求項9】
請求項2~8のいずれか一項に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、前記カリクレイン1はヒトカリクレイン1であり、NFSのアスパラギン、
フェニルアラニン、セリンはそれぞれヒトカリクレイン1の141位、142位、143位のアミノ酸であり、天然ヒトカリクレイン1のアミノ酸配列はGenBank登録番号AAA59455.1、NP002248.1、AAA36136.1、AAP35917、AAU12569で登録された配列であることを特徴とする、組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体である。
【請求項10】
請求項2~8のいずれか一項に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、前記突然変異体のアミノ酸配列は、SEQ ID No:3、SEQ ID
No:4、SEQ ID No:5、またはSEQ ID No:6に示した配列であることを特徴とする、組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体である。
【請求項11】
請求項1に記載のカリクレイン1またはその誘導体、または請求項2~10のいずれか一項に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体を含む組成物。
【請求項12】
急性虚血性脳卒中、末梢神経障害、網膜症、眼底疾患、高血圧、糖尿病性腎症、IgA腎炎、慢性腎臓病の治療、予防、予後回復、再発防止に用いられる薬物の製造において、請求項1に記載のカリクレイン1またはその誘導体、または請求項2~10のいずれか一項に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体の応用。
【請求項13】
ポリエチレングリコール化カリクレイン1であって、前記カリクレイン1はポリエチレングリコール修飾剤によって修飾された、請求項1に記載のカリクレイン1または請求項2~10のいずれか一項に記載の組換えカリクレイン1突然変異体であることを特徴とする、ポリエチレングリコール化カリクレイン1である。
【請求項14】
請求項13に記載のポリエチレングリコール化カリクレイン1であって、前記ポリエチレングリコール修飾剤は分子量5kDa~10kDaの直鎖型ポリエチレングリコール・スクシンイミドプロピオネートであり、一般構造式が式(1)に示される通りであり、式(1)中、nは105~225の整数であることを特徴とする、ポリエチレングリコール化カリクレイン1である。
【化1】
(1)
【請求項15】
請求項13に記載のポリエチレングリコール化カリクレイン1であって、前記ポリエチレングリコール修飾剤は分子量30kDa~40kDaの分岐型ポリエチレングリコール・プロピオンアルデヒドであり、一般構造式は式(2)に示される通りであり、式(2)中、nは335~455の整数であることを特徴とする、ポリエチレングリコール化カリクレイン1である。
【化2】
(2)
【請求項16】
請求項13~15のいずれか一項に記載のポリエチレングリコール化カリクレイン1を含む組成物。
【請求項17】
急性虚血性脳卒中、末梢神経障害、網膜症、眼底疾患、高血圧、糖尿病性腎症、IgA腎炎、慢性腎臓病の治療、予防、予後回復、再発防止に用いられる薬物の製造において、請求項13~15のいずれか一項に記載のポリエチレングリコール化カリクレイン1の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低グリコシル化修飾カリクレイン1(KLK1)およびそのポリエチレングリコール修飾体とその薬物への応用に関する。特に、NFS配列でグリコシル化修飾がないかまたはごく少量のグリコシル化修飾があるKLK1と、組換えKLK1のNFS配列が突然変異されたKLK1変異体、それらKLK1のポリエチレングリコール修飾体とその薬物への応用に関する。
【背景技術】
【0002】
カリクレインは、キニノゲナーゼ、あるいはカリジノゲナーゼとも称され、セリンプロテアーゼの一種であり、血漿カリクレイン(PK)と組織カリクレイン(TK)の2種に分けられ、どちらも非常に重要な生理作用を発揮している。現在、ヒト組織カリクレインは少なくとも15のメンバー(KLK1‐KLK15)で構成されていると考えられており、そのなかで組織カリクレイン1(KLK1)に関する研究が比較的に多く行われている。KLK1はキニノーゲンをキニンに変換させ、対応する受容体に作用して一連の生物学的作用を発揮する。KLK1は神経系、循環系、呼吸器系、糖尿病、癌、腎臓病などにおいて作用することが多くの研究で示されている。
【0003】
現在、国内外で販売されているKLK1製品は2種類ある。一種はブタ膵臓より抽出された膵臓カリクレイン1であり、例えば常州千紅製薬社の怡開がこの種類に属する。この種類のKLK1製品は動物由来の原材料から制約を受けている。もう一種は、ヒト尿より抽出されたKLK1であり、例えば広東天普社のUrinary Kallikrein注射剤がこの種類のKLK1である。ヒト尿は収集が困難で、収量が低く、ウイルス汚染のリスクがあり、また尿由来KLK1のアミノ酸の162位でGlu/Lysの多形性があるので、この種類のKLK1製品は薬物の品質管理において大きな課題がある。前述の天然抽出物のKLK1以外にも、組換えヒトカリクレイン1に関する研究報告が多数にある。その中で最も進んでいるのがDiaMedica社のDM199であり、現在は脳卒中治療を目的とした第2/3相臨床研究が実施されている。
【0004】
KLK1は豊富なグリコシル化修飾を有する酵素であり、グリコシル化修飾の程度は酵素活性に重要な影響を与える。N‐グリコシル化修飾は、糖タンパク質薬物の最も注目されるグリコシル化修飾のタイプであり、糖鎖が新生ペプチド鎖中の特定のアスパラギンの遊離基‐NH2を通して結合される。N‐グリコシル化修飾部位のトライアド配列モチーフは必ずNXSまたはNXTでなければならない。ここで、Nはアスパラギンを表し、Sはセリンを表し、Tはトレオニンを表し、Xはプロリン以外のアミノ酸を表す。上記の条件を満たさない場合、アスパラギンにはN‐グリコシル化修飾が発生しない。異なるN‐グリコシル化モチーフが糖タンパク質の三次構造の異なる位置に位置しており、糖タンパク質の構造によって、そのグリコシル化修飾部位がどんなグリコシルトランスフェラーゼと結合するかが決まって、異なったグリコシル化修飾が生じる。従来技術では、異なるグリコシル化程度がKLK1の薬効および安全性に如何に影響を及ぼすかについては定説がない。中国特許CN107058269A(特許文献1)では、ブタ膵臓カリクレイン1を精製して高グリコシル化、中グリコシル化、低グリコシル化と3つのグリコシル化程度のタンパク質産物を分離して作製した。そのなかで、低グリコシル化ブタ膵臓カリクレイン1の酵素活性安定性が低かった。精製プロセスを通してこの低グリコシル化カリクレイン1を除去することで、製品の生物活性を高め、副作用を減らすことができた。広東天普社の特許CN101134952A(特許文献2)は、尿由来カリクレイン1の中間体から高分子量カリクレイン1と低分子量カリクレイン1を分離して2種類の成分を取得して
おり、その中から高分子量成分を薬物成分として選択した。この単一成分の高分子量ヒト尿カリクレイン1は高・低分子量のカリクレイン1を含む混合物のヒト尿カリクレイン1と比較して、副作用の発生が明らかに少なかった。広東天普社はまたCHOによる組換えヒトカリクレイン1の発現を試みており、同社の特許CN101134953A(特許文献4)は、グリコシル化修飾部位を3つ含む高分子量KLK1を公開している。DiaMedica社の特許US20130323222A(特許文献3)は、CHOにより組換えヒトカリクレイン1を発現、精製し、高グリコシル化KLK1と低グリコシル化KLK1をそれぞれ得られたことを公開している。この高グリコシル化カリクレイン1と低グリコシル化カリクレイン1はin vivo活性において大きな差がないが、高グリコシル化カリクレイン1と低グリコシル化カリクレイン1を1:1の比で混合した混合物は、単一の高グリコシル化KLK1または単一の低グリコシル化KLK1と比較して活性が高かった。
【0005】
さらに、たとえ最も創薬可能性の高いグリコシル化修飾KLK1が決定されたとしても、いかに糖タンパク質のグリコシル化のレベルを制御するかは、現代医薬品工業生産において依然として重要な技術的課題である。通常、目的のグリコシル化産物を最大限に取得するために、組換え発現と精製条件に対して大量の最適化を行わなければならない。例えば、中国特許CN101134953A(特許文献4)はCHOにより組替えKLK1を発現しており、段落[0010]には「培養条件を最適化することによって、発現産物のグリコシル化程度を高めた」と記載している。中国特許CN101092598A(特許文献5)はピキア酵母を使用して組換えKLK1を発現しており、発現産物に、高グリコシル化KLK1は32871.16Dの分子量で、占める割合が低く、低グリコシル化KLK1は28975.79Dの分子量で、占める割合が比較的に高く、高グリコシル化KLK1と低グリコシル化KLK1の分子量が近いが、三段階の精製により両者を分離した。
【0006】
KLK1製品には、KLK1グリコシル化に関する課題のほかにも、生物学的安定性が低いこと、半減期が短いこと、反復投与が必要であること、組換えKLK1タンパク質はある程度の免疫原性があることなど解決すべき課題がある。例えば、DM199は、脳卒中発症から24時間以内にKLK1を点滴静脈内注射し、その後22日以内に3日ごとに皮下注射するという治療法で投与される。臨床試験の結果は、KLK1が高リスク群の脳卒中発生率を低下させ、脳卒中の再発を防ぐことができることを示している。KLK1は脳側副血行路の代償性を改善する薬剤として、治療効果を得るには長期かつ複数回の投与を必要とする。長期投薬がKLK1の重要な適用方法となる同時に、頻繁な投薬は患者のコンプライアンスを低下させかねないことも考えられるだろう。
【0007】
ポリエチレングリコール(polyethylene glycol、PEG)化技術は、ポリエチレングリコール修飾剤を用いてタンパク質やポリペプチドなどを化学修飾する技術である。現在、10種類以上のPEG修飾タンパク質医薬品が市販されている。PEG修飾タンパク質は、タンパク質溶解度の増加、タンパク質安定性の向上、in vivo半減期の延長、免疫原性の低減などが可能となる。国内外においてPEG化組換えカリクレイン1に関する報告はまだ少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】中国特許出願公開第107058269号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第101134952号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第20130323222号明細書
【特許文献4】中国特許出願公開第101134953号明細書
【特許文献5】中国特許出願公開第101092598号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする第一の技術的課題は、KLK1グリコシル化修飾の選択である。本発明が解決しようとする第二の技術的課題は、既存のKLK1製品が抱えている、生物学的安定性が低いこと、半減期が短いこと、反復投与が必要であること、組換えKLK1タンパク質はある程度の免疫原性があることといった課題の解決である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明が解決しようとする第一の技術的課題は、KLK1グリコシル化修飾の選択である。背景技術で述べたように、従来技術では異なるグリコシル化程度がKLK1の薬効および安全性に如何に影響を及ぼすかについては定説がない。また、たとえ最も創薬可能性の高いグリコシル化修飾KLK1が決定されたとしても、目的のグリコシル化産物を最大限に得るために、糖タンパク質のグリコシル化レベルを制御するには、組換え発現と精製条件に対して大量の最適化を行わなければならない。
【0011】
本願の出願人は特性解析を通じて、ヒトカリクレイン1(hKLK1)には3つのグリコシル化修飾部位があり、それぞれN78(NMS配列中のN)、N84(NHT配列中のN)、N141(NFS配列中のN)であることを発見した。このなかで、高グリコシル化KLK1は3つの部位にすべてグリコシル化修飾があり、低グリコシル化KLK1はN78とN84の2つの部位にグリコシル化修飾があり、N141にグリコシル化修飾がないか、またはごく少量のグリコシル化修飾がある。さらに、出願人は高グリコシル化KLK1と低グリコシル化KLK1の生物学的活性を比較したところ、予想外にも、低グリコシル化KLK1の活性が高グリコシル化KLK1の活性より遥かに高いことを発見した。さらに、出願人は低グリコシル化KLK1を取得するために、従来法のように組換え発現条件や精製条件の最適化に取り組むのではなく、高・低グリコシル化KLK1に対する研究に基づき、N‐グリコシル化モチーフを形成しないように、NFS配列モチーフのアミノ酸を1個または複数個突然変異させ、突然変異体を作製することにより、産物がより均一で、低グリコシル化hKLK1の生産量がより高いことを実現した。そして、出願人は前記の低グリコシル化KLK1の突然変異体と突然変異されていない未変異の低グリコシル化KLK1を比較して、突然変異体のほうは酵素学的性質、活性などの面においてより優れているという驚くべき発見をした。
【0012】
hKLK1には、多くの天然変異体(ホモログ)が存在する。例えばGenbank登録番号AAA59455.1、NP002248.1、AAA36136.1、AAP35917、AAU12569などで登録された天然変異体がある。その組成から見ると、hKLK1の天然変異体はアミノ酸の数が同じで、少数のアミノ酸が異なるのみで(下の表に示すように)、相同性が非常に高く、in vivoとin vitroでの活性が基本的に同様である。本発明者はまた、それらの天然変異体のグリコシル化修飾部位が同じで、いずれもN78、N84、N141に位置しており、またN‐グリコシル化修飾部位のトライアド配列モチーフも同じで、いずれもNMS、NHT、NFSであることを発見した。
【0013】
【0014】
本発明は、Genbank登録番号AAA59455.1で登録されたhKLK1を元に、NFS配列モチーフのアミノ酸を1個または複数個突然変異させて、N‐グリコシル化修飾部位を2つのみ含むKLK1(低グリコシル化KLK1)を得た。上記述べたように、hKLK1天然変異体のアミノ酸組成及びグリコシル化修飾部位は高度に一致しており、他のhKLK1天然変異体の相応する位置(即ち、NFS配列モチーフの1個または複数個のアミノ酸)を突然変異させても、同様な技術的効果が実現できる。即ち、産物がより均一で、低グリコシル化hKLK1の産量がより高くて、活性がより高い目的産物が得られる。
【0015】
さらに、本発明者は、ほかの霊長類動物、例えば、NCBI ReFerence Sequence:XP_004061305.1(ゴリラ)、XP_003916022.1(アヌビスヒヒ)、XP_003813685.1(ボノボ)、XP_002829668.3(スマトラオランウータン)、XP_032024960.1(フーロックテナガザル)などの霊長類動物のKLK1もhKLK1と同様に3つのN‐グリコシル化修飾部位を含み、N‐グリコシル化修飾部位のトライアド配列モチーフも同じで、いずれもNMS、NHT、NFSであることを発見した。ほかの霊長類動物のKLK1天然アミノ酸の相応部位(即ち、NFS配列モチーフの1個または複数個のアミノ酸)を突然変異させても、同様な技術的効果が実現できる。即ち、産物がより均一で、低グリコシル化hKLK1の産量がより高く、活性がより高い目的産物が得られる。
【0016】
本発明は上記の発見に基づいて、一種の低グリコシル化修飾KLK1またはその誘導体を提供する。前記KLK1は霊長類動物のKLK1であり、天然KLK1のNMS、NHT、NFS配列でのN‐グリコシル化修飾を含み、そのなかで、NFSのアスパラギンにグリコシル化修飾がないかまたはごく少量のグリコシル化修飾がある。前記少量のグリコシル化修飾または低グリコシル化修飾は、NFSにあるアスパラギンがグリコシル化修飾された割合が≦10%、≦9%、≦8%、≦7%、≦6%、≦5%、≦4%、≦3%、≦2%、≦1%、≦0.5%、または≦0.1%である。具体的な実施例では、該当の低グリコシル化KLK1は、NFSにあるアスパラギンの96.39%はグリコシル化修飾が発生しておらず、僅か4%未満はグリコシル化修飾が発生した。この低グリコシル化KLK1は、NFSに高グリコシル化修飾があるKLK1と比較して、より高い活性を有している。
【0017】
さらに、本発明は一種の組換えKLK1突然変異体またはその誘導体を提供する。前記KLK1は霊長類動物KLK1であり、前記組換えKLK1またはその誘導体は、2つの部位のみにN‐グリコシル化修飾が起こり、N‐グリコシル化修飾が3つの部位に起こるKLK1を含まない。前記霊長類動物は、ヒトであってもよいし、ゴリラ、アヌビスヒヒ、ボノボ、スマトラオランウータン、フーロックテナガザルなどの非ヒト霊長類動物であ
ってもよい。
【0018】
好ましくは、前記組換えKLK1突然変異体またはその誘導体は、天然KLK1のNMS、NHTでのN‐グリコシル化修飾を保持しており、天然KLK1のNFSでのN‐グリコシル化修飾を含まない。
【0019】
好ましくは、KLK1アミノ酸配列中のNFSのN(アスパラギン)がアスパラギン以外の任意のアミノ酸に突然変異された。すなわち、141番目のアスパラギンがほかの任意のアミノ酸に突然変異され、NFSのF、Sの0個、1個、または2個のアミノ酸が他の任意のアミノ酸に突然変異された。それにより、突然変異体は該当の位置でN‐グリコシル化モチーフを形成しないため、141位にグリコシル化修飾が起こらない。異なる突然変異体はいずれも未変異の低グリコシル化KLK1と比較して、産物がより均一で、低グリコシル化KLK1の産量がより高いことに加えて、産物の活性がより優れている。
好ましくは、KLK1アミノ酸配列中のNFSのF(フェニルアラニン)がプロリンに突然変異された。すなわち、142番目のフェニルアラニンがプロリンに突然変異され、NFSのN、Sの0個、1個、または2個のアミノ酸が他の任意のアミノ酸に突然変異された。それにより、突然変異体は該当の位置でN‐グリコシル化モチーフを形成しないため、141位にグリコシル化修飾が起こらない。同様に、突然変異体はいずれも未変異の低グリコシル化KLK1産物と比較して、産物がより均一で、低グリコシル化KLK1の産量がより高いことに加えて、産物の活性がより優れている。
【0020】
好ましくは、KLK1アミノ酸配列中のNFSのS(セリン)がセリン、トレオニン以外の任意のアミノ酸に突然変異された。すなわち、143番目のセリンがセリン、トレオニン以外の任意のアミノ酸に突然変異され、NFSのN、Fの0個、1個、または2個のアミノ酸がほかの任意のアミノ酸に突然変異された。それにより、突然変異体は該当の位置でN‐グリコシル化モチーフを形成しないため、141位にグリコシル化修飾が起こらない。同様に、突然変異体はいずれも未変異の低グリコシル化KLK1と比較して、産物がより均一で、低グリコシル化KLK1の産量がより高いことに加えて、産物の活性がより優れている。
【0021】
具体的な実施例では、例としてアスパラギンを極性中性アミノ酸(例えば、グルタミン(Gln))、酸性アミノ酸(例えば、アスパラギン酸(Asp))、塩基性アミノ酸(例えば、アルギニン(Arg))、脂肪族アミノ酸(例えば、アラニン(Ala))といった4種類の異なるアミノ酸に突然変異させた。それにより、突然変異体はNFSでN‐グリコシル化モチーフを形成しないため、そこにグリコシル化修飾が起こらない。異なる突然変異体はいずれも未変異の低グリコシル化KLK1と比較して、産物がより均一で、低グリコシル化KLK1の産量がより高いことに加えて、産物の活性がより優れている。
【0022】
好ましくは、前記KLK1はhKLK1であり、前記天然hKLK1のアミノ酸配列は例えばGenBank登録番号AAA59455.1、NP002248.1、AAA36136.1、AAP35917、AAU12569などで登録された配列である。
【0023】
好ましくは、KLK1突然変異体のアミノ酸配列は、SEQ ID No:3、SEQ
ID No:4、SEQ ID No:5、またはSEQ ID No:6で示される配列である。
【0024】
本発明はまた、前記低グリコシル化KLK1を含む組成物を提供する。
【0025】
KLK1は、キニノーゲンをキニンに変換させ、対応する受容体に作用して一連の生物学的作用を発揮する。KLK1は神経系、循環系、呼吸器系、糖尿病、癌、腎臓病などに
おいて作用することが多くの研究で示されている。現在市販されているKLK1は、承認を取得した適応症には微小循環障害性疾患、例えば糖尿病による腎症、末梢神経障害、網膜症、眼底疾患、高血圧に対する補助療法などがあり、また軽度から中等度の急性血栓性脳梗塞にも使用可能である。臨床試験中の適応症にはIgA腎炎、慢性腎臓病などがある。本発明のKLK1突然変異体は天然KLK1と比較して、少数のアミノ酸が突然変異されただけである。具体的な実施例では、それらの突然変異体はin vitroで同じ基質に作用する場合、いずれも活性を発揮することが確認されており、in vivoでもMCAO脳虚血・再灌流モデルにおいて脳梗塞症状の改善に活性を発現することが実証された。当業者は、本発明の組換えKLK1突然変異体およびその組成物は、天然KLK1と同様に、急性虚血性脳卒中、末梢神経障害、網膜症、眼底疾患、高血圧、糖尿病性腎症、IgA腎炎、慢性腎臓病の治療や予防、予後回復や再発防止において有効であると合理的に期待できる。
【0026】
本発明が解決しようとする第二の技術的課題は、既存のKLK1製品が抱えている、生物学的安定性が低いこと、半減期が短いこと、反復投与が必要であること、組換えKLK1タンパク質はある程度の免疫原性があることといった課題の解決である。本発明は、タンパク質の安定性を著しく高め、免疫原性を低減させ、タンパク質のin vivo薬物動態特性を改善し、且つタンパク質活性を最大限に保持する、ポリエチレングリコール修飾剤によって修飾されたKLK1を提供する。
【0027】
好ましくは、前記PEGによって修飾されたKLK1は、前記低グリコシル化KLK1である。
【0028】
好ましくは、前記KLK1は、2つの部位にN‐グリコシル化修飾が起こった組換えKLK1またはその誘導体であり、N‐グリコシル化修飾が3つの部位に起こったKLK1を含まない。
【0029】
好ましくは、前記ポリエチレングリコール修飾剤は、KLK1タンパク質のN末端またはリシンの遊離アミノ基に共有結合を形成しており、一般構造式が式(1‐1)または式(1‐2)に示される通りであり、式中でRはKLK1を表している。式(1‐1)中、nは335~455の整数であり、式(1‐2)中、nは105~225の整数であり、mは1~8の整数である。
【0030】
【0031】
【0032】
好ましくは、前記ポリエチレングリコール修飾剤は、分子量5kDa~10kDaの直
鎖型ポリエチレングリコール・スクシンイミドプロピオネートであり、一般構造式が式(2)に示される通りである。式(2)中、nは105~225の整数である。
【0033】
【0034】
好ましくは、ポリエチレングリコール修飾剤は、分子量30kDa~40kDaの分岐型ポリエチレングリコール・プロピオンアルデヒドであり、一般構造式は式(3)に示される通りである。式(3)中、nは335~455の整数である。
【0035】
【0036】
本発明は、前記ポリエチレングリコール化KLK1の製造方法を提供する。前記方法は以下のステップを含む。
ステップ1:緩衝液置換
クロマトグラフィー・カラムによる脱塩、透析、濃縮・希釈、クロスフロー限外ろ過などの方法により、修飾するKLK1を修飾緩衝液に置換する;
ステップ2:修飾反応および修飾産物の精製
ステップ1で収集したKLK1溶液にPEG修飾剤を加えて反応させ、反応が終わった後でイオン交換クロマトグラフィーにより精製する。
【0037】
本発明はまた、前記ポリエチレングリコール化KLK1を含む組成物を提供する。
【0038】
本発明はまた、急性虚血性脳卒中、末梢神経障害、網膜症、眼底疾患、高血圧、糖尿病性腎症、IgA腎炎、慢性腎臓病の治療、予防、予後回復、及び再発予防における前記ポリエチレングリコール化KLK1の応用を提供する。
【発明の効果】
【0039】
従来技術と比較して、本発明には以下の利点がある。
第一に、本発明の低グリコシル化KLK1は明らかな利点を有している。
まず、本発明の低グリコシル化KLK1は、NFSでグリコシル化修飾がないかまたはごく少量のグリコシル化修飾があり、高グリコシル化KLK1と比較してより高い活性を有している。
【0040】
次に、本発明の組換えKLK1突然変異体はさらなる利点を有している。
【0041】
本発明の組換えKLK1突然変異体は天然KLK1と比較して、N-グリコシル化修飾
が1箇所少なくなっている。製造工程の面では、本発明の組換えhKLK1突然変異体の
精製工程は主要ピークのみの収集が必要であり、精製工程がより簡単になる。品質の面では、本発明は高グリコシル化KLK1と低グリコシル化KLK1を分離することが不要なので、得られた目的産物がより均一で、品質管理がより容易で、産量がより高いのである。活性および薬効の面で、出願人は本発明の低グリコシル化KLK1の突然変異体と未変異の低グリコシル化KLK1を比較して、突然変異体のほうは酵素学的性質、活性などの面においてより優れているという驚くべき発見をした。
【0042】
第二に、本発明は、ポリエチレングリコール化技術により、長時間作用性を持ち、品質管理が可能で、低免疫原性及び高生物学的活性を有するポリエチレングリコール化組換えhKLK1を開発した。そして薬効および薬物動態研究により、ポリエチレングリコール化薬物が持つ安全性と長時間作用性の利点を十分に発掘し、投与頻度を減らし、患者のコンプライアンスを高め、急性虚血性脳卒中、末梢神経障害、網膜症、眼底疾患、高血圧、糖尿病性腎症、IgA腎炎、慢性腎臓病などの疾患に対して予防、治療、予後回復、再発予防などの段階をカバーする疾患全過程における本発明の薬物の応用を実現した。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】組換えhKLK1と突然変異体の分子設計を示す図である。
【
図3】CHOで発現した野生型組換えhKLK1の発酵液上清の疎水クロマトグラフィー溶出ピークのクロマトグラムを示す図である。矢印で示したのは分離された高グリコシル化産物(左)と低グリコシル化産物(右)である。
【
図4】CHOで発現した野生型hKLK1を精製、分離して得られた高・低グリコシル化タンパク質のSDS‐PAGE電気泳動図を示す図である。レーンMはタンパク質マーカーであり、レーン1は高グリコシル化hKLK1であり、レーン2は低グリコシル化hKLK1である。
【
図5】CHOで発現したhKLK1X1(組換えhKLK1突然変異体)の発酵液上清の疎水クロマトグラフィー溶出ピークのクロマトグラムを示す図である。矢印で示したのは分離された単一の低グリコシル化産物である。
【
図6】CHOで発現したhKLK1X1(組換えhKLK1突然変異体)を精製、分離して得られた低グリコシル化タンパク質のSDS‐PAGE電気泳動図を示す図である。レーンMはタンパク質マーカーであり、レーン1は低グリコシル化hKLK1突然変異体である。
【
図7】CHOで発現した野生型組換えhKLK1の高・低グリコシル化タンパク質が分離されていない時のSDS‐PAGE電気泳動図を示す図である。レーンMはタンパク質マーカーであり、レーン1は高・低グリコシル化タンパク質が混在する野生型組換えhKLK1である。
【
図8】高グリコシル化hKLK1サンプルのトリプシン酵素消化後のシーケンス・カバレッジを示す図である。
【
図9】低グリコシル化hKLK1サンプルのトリプシン酵素消化後のシーケンス・カバレッジを示す図である。
【
図10】3バッチの高グリコシル化hKLK1サンプルのトリプシン酵素消化後のTICクロマトグラムを示す図である。
【
図11】3バッチの低グリコシル化hKLK1サンプルのトリプシン酵素消化後のTICクロマトグラムを示す図である。
【
図12】hKLK1X1サンプルのトリプシン酵素消化後のシーケンス・カバレッジを示す図である。
【
図13】PEG‐hKLK1(低グリコシル化)を投与された動物における抗薬物抗体の測定結果を示す図である。
【
図14】PEG‐hKLK1(高グリコシル化)を投与された動物における抗薬物抗体の測定結果を示す図である。
【
図15】神経欠損症状に対する実施例10の被検物の影響を示すグラフである。
【
図16】脳梗塞面積に対する実施例10の被検物の影響を示すグラフである。
【
図17】実施例10の動物実験におけるモデル群と偽手術群の脳切片写真を示す図である。
【
図18】実施例10の動物実験におけるUrinary Kallikrein群と注射用膵臓カリクレイン1群の脳切片写真を示す図である。
【
図19】神経欠損症状に対する実施例11の被検物の影響を示すグラフである。
【
図20】脳梗塞面積に対する実施例11の被検物の影響を示すグラフである。
【
図21】実施例11の動物実験におけるモデル群と偽手術群の脳切片写真を示す図である。
【
図22】実施例11の動物実験における投与群の脳切片写真を示す図である。
【
図23】神経欠損症状に対する実施例12の被検物の影響を示すグラフである。
【
図24】脳梗塞面積に対する実施例12の被検物の影響を示すグラフである。
【
図25】実施例12の動物実験におけるモデル群、偽手術群及び陽性薬群の脳切片写真を示す図である。
【
図26】実施例12の動物実験における異なるPEGで修飾したhKLK1修飾体投与群の脳切片写真を示す図である。
【
図27】神経欠損症状に対する実施例13の被検物の影響を示すグラフである。
【
図28】脳梗塞面積に対する実施例13の被検物の影響を示すグラフである。
【
図29】実施例13の動物実験におけるモデル群、偽手術群の脳切片写真を示す図である。
【
図30】実施例13の動物実験における異なるPEGで修飾したhKLK1突然変異体投与群の脳切片写真を示す図である。
【
図31】神経欠損症状に対する実施例14の被検物の影響を示すグラフである。
【
図32】脳梗塞面積に対する実施例14の被検物の影響を示すグラフである。
【
図33】実施例14の動物実験におけるモデル群、偽手術群の脳切片写真を示す図である。
【
図34】実施例14の動物実験における投与群の脳切片写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
特に明記しない限り、本発明における技術用語または略語は次の意味を持つ。
カリクレイン1:特に組織カリクレイン1(KLK1)を指す。
【0045】
hKLK1:配列が天然ヒト組織カリクレイン1と同一である未変異のヒト組織カリクレイン1を指し、ヒトKLK1の種々のホモログを含み、Genbank登録番号AAA59455.1、NP002248.1、AAA36136.1、AAP35917、AAU12569などで登録されたKLK1を含むが、これらに限定されない。
【0046】
KLK1の3つのグリコシル化修飾部位N78、N84とN141:それぞれは、KLK1アミノ酸配列の78位、84位、141位のアスパラギンを指し、該当するN‐グリコシル化トライアド配列モチーフはそれぞれNMS、NHT、NFSである。Nはアスパラギンを表し、Mはメチオニンを表し、Sはセリンを表し、Hはヒスチジンを表し、Tはトレオニンを表し、Fはフェニルアラニンを表す。
【0047】
高グリコシル化hKLK1:未変異のhKLK1であり、高グリコシル化修飾されている。すなわち、グリコシル化修飾部位N78、N84、N141には、いずれも多くのグリコシル化修飾がある。
【0048】
低グリコシル化hKLK1:未変異のhKLK1であり、低グリコシル化修飾されている。すなわち、グリコシル化修飾部位N78、N84には、ともに多くのグリコシル化修
飾があるが、グリコシル化修飾部位N141には、グリコシル化修飾がないかまたはごく少量のグリコシル化修飾が起こった。
【0049】
PEG‐hKLK1(高グリコシル化):ポリエチレングリコールにより修飾された高グリコシル化hKLK1である。前記高グリコシル化hKLK1は前記未変異の高グリコシル化修飾を有するhKLK1を指す。
【0050】
PEG‐hKLK1(低グリコシル化):ポリエチレングリコールにより修飾された低グリコシル化hKLK1である。前記低グリコシル化hKLK1は前記未変異の低グリコシル化修飾を有するhKLK1を指す。
【0051】
hKLK1X:hKLK1の突然変異体である。hKLK1X1、hKLK1X2、hKLK1X3、hKLK1X4はそれぞれ異なる突然変異体を表す。
【0052】
PEG‐hKLK1X:ポリエチレングリコールにより修飾されたhKLK1突然変異体である。
【0053】
KLK1誘導体:本発明のKLK1突然変異体全長タンパク質を含めば、本発明のKLK1突然変異体タンパク質の一部、または本発明のKLK1突然変異体を元にさらに突然変異されて得られたタンパク質、融合タンパク質(アルブミン融合、Fc融合などを含むが、これらに限られない)、種々の方式で修飾された修飾体(ポリエチレングリコール化修飾体を除く)をも含む。
【0054】
ポリエチレングリコール:略称がPEGであり、通常、エチレンオキシドの重合により形成され、分岐型、直鎖型と多腕型がある。一般に、分子量が20,000以下のものをPEG、より大きい分子量のものをPEOと呼ぶ。通常のポリエチレングリコールは両末端にヒドロキシ基があり、片末端をメチル基でブロックするとメトキシ・ポリエチレングリコール(mPEG)が得られる。
【0055】
ポリエチレングリコール修飾剤:略称がPEG修飾剤であり、官能基を持つポリエチレングリコール誘導体のことを指し、タンパク質とポリペプチドの薬物の修飾に用いられる活性化されたポリエチレングリコールである。本発明で使用するポリエチレングリコール修飾剤は、江蘇衆紅生物工程創薬研究院有限公司または北京鍵凱科技股分有限公司から購入している。特定の分子量のPEG修飾剤の実際の分子量は、標示された値の90%~110%であってよい。例えばPEG5Kの分子量は4.5kDa~5.5kDaであってよい。
【0056】
実施例で使用するPEG5Kは、具体的にM‐SPA‐5Kのことを指し、それは分子量が約5kDaの直鎖型メトキシ・ポリエチレングリコール・スクシンイミジルプロピオネートであり、構造式は式(1)に示される通りである。式中、nは105~110の整数である。
【0057】
【0058】
実施例で使用するPEG10Kは、具体的にはM‐SPA‐10Kのことを指し、それは分子量が約10kDaの直鎖型メトキシ・ポリエチレングリコール・スクシンイミジルプロピオネートであり、構造式は式(1)に示される通りである。式中、nは220~225の整数である。
【0059】
実施例で使用するPEG30Kは、具体的にY‐PALD‐30Kのことを指し、それは分子量が約30kDaの分岐型ポリエチレングリコール・プロピオンアルデヒドであり、構造式は式(2)に示される通りである。式中、mは335~340の整数である。
【0060】
【0061】
実施例で使用するPEG40Kは、具体的にY‐PALD‐40Kのことを指し、それは分子量が約40kDaの分岐型ポリエチレングリコール・プロピオンアルデヒドであり、構造式は式(2)に示される通りである。式中、mは450~455の整数である。
【実施例】
【0062】
実施例1 組換えヒトカリクレイン1(hKLK1)の遺伝子設計、発現ベクター構築、発現、精製
(一)遺伝子設計と発現ベクター構築
GenBankで公開されているhKLK1配列(GenBank:AAA59455.1)の情報に基づき、コドン最適化を行なって、成熟した産物のアミノ酸配列(SEQ
ID No:1)およびシグナルペプチドとプロペプチドを含むhKLK1 cDNA配列(SEQ ID No:2)を決定した。組替えhKLK1遺伝子(SEQ ID No:2)の前にAvrII制限酵素サイト配列を付加し、配列末端にBstZ17I制限酵素サイト配列を付加して合成を行なった。合成した遺伝子をpUC57プラスミドに構築し、得られた長期保存プラスミドをpUC57‐hKLK1プラスミドと名付けた。プライマーを用いてpUC57‐hKLK1プラスミドからhKLK1遺伝子を増幅した。1%アガロース電気泳動でPCR産物を回収し、AvrIIとBstZ17Iにより目的遺伝子PCR回収産物(
図1)とpZHK2.0ベクター(
図2)を二重消化し、消化された目的遺伝子をT4リガーゼを用いてpZHK2.0ベクターに連結し、そしてTop10コンピテントセルに転換し、カナマイシン耐性を有するLBプレートに塗り、37℃で一晩培養した。翌日、陽性クローンをスクリーニングし、シーケンシングして比較したところ、予想された配列と完全に一致していた。これで、pZHK2.0‐hKLK1発現ベクターを作製した。
【0063】
(二)安定的発現
上記で構築したプラスミドを、NruI(R0192S、NEB社から購入)でのオーバーナイト酵素消化により線状化させて、エレクトロポレーションによりCHO‐S細胞に導入した後、選択圧を加えてスクリーニングを行なって安定した細胞株を得た。組換えhKLK1を高発現するCHO安定発現細胞株をDynamis培地(A2617501、Thermo Fisher社から購入)に接種し、37℃、8%CO2、130rpmでフェドバッチ流加培養し、2週間培養後に培養液を回収した。
【0064】
(三)精製
1、培養液の前処理
組換えhKLK1を含む上記の培養液を収集し、6000rpmで15分間遠心分離して細胞を除去し、限外ろ過によって濃縮させ、0.22μmの膜でろ過して細胞破片を除去した。1.5M(NH4)2SO4を加え、室温で3日間撹拌して活性化させた。活性化した培養液を0.45μm精密ろ過膜に通してろ過することによって清澄化させた。
【0065】
2、疎水クロマトグラフィー
まず、緩衝液(20mM Tris‐HCl、1.5M硫酸アンモニウム、pH=8.0)を用いて、ベースラインが平衡になるまでカラムを平衡化した。その後、前処理した上清をミディアムPOROS Benzyl(A32563、Thermo Fisher社から購入)に通して、培地から組換えhKLK1を捕捉した。その後、20mM Tris‐HCl、pH=8.0でグラディエント溶離を行って、疎水性により分離された2つのピークがはっきりと出現した。各溶出ピークを収集して、異なるグリコシル化修飾度の組換えhKLK1タンパク質がこれで分離された。溶出ピークのクロマトグラムが
図3に示す通りである。
【0066】
3、陰イオン交換
20mM Tris‐HCl、pH=8.0緩衝液を用いて、ステップ2で収集した組換えhKLK1タンパク質を含む溶出ピークを10kDaの限外ろ過膜で電気伝導が10‐15ms/cmになるまで限外濾過した。緩衝液(20mM Tris‐HCl、100mM NaCl、pH=8.0)を使用して、ベースラインが平衡になるまでカラムを平衡化した。その後、限外濾過で前処理した上清をミディアムQ FF(17515601、GE社から購入)に通して、最後に、溶出緩衝液(20mM Tris‐HCl、1M NaCl、pH=8.0)を用いてカラムをイソクラティック溶離して、主要な溶出ピークを収集した。
【0067】
4、陽イオン交換
ステップ3のサンプルに対して限外濾過を行ってサンプルを10mM NaAc‐HAc、50mM NaCl、pH=3.5‐3.7へ交換した。ミディアムSP FF(17072904、GE社から購入)を用いて、前のステップで収集した異なる分子量の組換えhKLK1に対して高度精製を行った。平衡緩衝液は10mM NaAc‐HAc、50mM NaCl、pH=3.7であり、溶出緩衝液は50mM Tris‐HCl、1M NaCl、pH=8.0であった。
【0068】
SDS‐PAGEゲル電気泳動により、精製したサンプルの純度を分析した。SDS‐PAGEゲル電気泳動図で示された結果、高グリコシル化hKLK1タンパク質の分子量は低グリコシル化hKLK1タンパク質の分子量より少し高かった。結果は
図4に示す通りである。
【0069】
実施例2 組換えヒトカリクレイン1(hKLK1)の3バッチ連続生産及び品質特性解析
7L撹拌型リアクターで野生型組換えhKLK1の高密度連続培養を3バッチ実施した。初期培養条件は以下の通りである:回転速度100rpm、溶存酸素40%、温度37℃、pH値7.0、基礎培地Dynamis AGT Medium(Thermo Fisher Scientificから購入)。種子懸濁液を採取して5×10e5 cell/mLの密度でバイオリアクターに接種した。3日目に温度を33℃に調整して、フィード培地(フィード培地はThermo Fisher Scientificから購入したEfficientFeed C+AGT supplementである)とグルコースを別々で補充し、培養液の糖含量を2g/L以下にならないように維持し、細胞生存率が90%以下になったら、培養液を収集し、実施例1で述べた精製工程により精製
を行って、高グリコシル化組換えhKLK1と低グリコシル化組換えhKLK1をそれぞれ3バッチ得られた。
【0070】
これらのサンプルに対してタンパク質の品質特性解析を実施した。解析内容は、産量、SEC‐HPLC純度、LC/MS(Thermo Q Exactive)によるN/C末端アミノ酸配列・ペプチドマッピング・グリコシル化修飾部位・グリコシル化修飾の解析などを含む。結果を以下のようにまとめた。
【0071】
【0072】
上記の表に示した分析結果は下記のことを表した。単離された高グリコシル化組換えhKLK1と低グリコシル化組換えhKLK1の純度はすべて97%以上に達しており、高グリコシル化タンパク質と低グリコシル化タンパク質の分子量には差がある。Trypsin酵素消化を基にした高グリコシル化hKLK1と低グリコシル化hKLK1のアミノ酸配列カバー率の測定によると、低グリコシル化hKLK1は100%のカバー率を達成しており、高グリコシル化hKLK1は一部で100%のカバー率を達成したが、一部の産物はN末端に配列の欠損があった(
図8、9)。低グリコシル化hKLK1のN/C末端の配列は理論的配列と一致しており(表6~8)、3バッチのペプチドマップの特性は一致している(
図11)。しかし、高グリコシル化タンパク質は3バッチ連続生産工程のバッチ2において、一部のタンパク質成分のN末端配列と理論的配列と一致しておらず、配列の欠損が発生した(表3~5)。そしてバッチ2のペプチドマップはバッチ1、バッチ3のペプチドマップと一致していなかった(
図10)。これは高グリコシル化組換えhKLK1の分子に安定性上の欠陥がある可能性を示唆している。これは大きなリスクを薬物生産プロセスに引き込むことに繋がると考えられる。また、高グリコシル化と低グリコシル化の分離・精製工程も比較的に複雑であり、工程の不安定性が原因で、異なるバッチでの精製産物のグリコシル化レベルを制御することも困難になると考えられる。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
さらに、組換えhKLK1のグリコシル化修飾部位の解析結果は下記のことを表した。組換え低グリコシル化hKLK1は、すべてN78、N84にグリコシル修飾があり、ほとんどN141にグリコシル化修飾が起こらなかった(96.39%)。N141にグリコシル化修飾があったのはごく少量のhKLK1のみであった(4%未満)(表9)。一方、高グリコシルhKLK1は3つのN‐グリコシル化修飾部位(N78、N84、N141)を含み、多種多様なグリコシル化修飾があり、グリコフォームの種類が複雑である。
【0081】
実施例1で行った疎水クロマトグラフィーによる高グリコシル化タンパク質と低グリコシル化タンパク質の溶出ピークを合併して、同様に続きの陰イオン交換精製、陽イオン交換精製を行って、高グリコシル化と低グリコシル化が混在する組換えhKLK1タンパク質を取得した。精製したサンプルの純度をSDS‐PAGEゲル電気泳動により分析し、結果を
図7に示している。結果によれば、高グリコシル化タンパク質と低グリコシル化タンパク質が拡散するようなバンドを形成し、高グリコシル化タンパク質の上にさらに分子量の大きい成分が存在することがわかった。
図3に示すように、疎水精製で未変異の組換えhKLK1から高グリコシル化hKLK1と低グリコシル化hKLK1を分離する際の分離度がよくなく、高グリコシル化hKLK1と低グリコシル化hKLK1を完全に分離することは困難である。要するに、未変異のhKLK1の原タンパク質は、分子量の異なる高グリコシル化hKLK1と低グリコシル化hKLK1が混在しており、N141に不均一で複雑なグリコシル化修飾度があり、これは組換えhKLK1の品質管理に大きな課題をもたらしている。
【0082】
さらに、高グリコシル化hKLK1と低グリコシル化hKLK1の生物学的活性を比較したら(実施例6)、驚くべきことに、低グリコシル化hKLK1の活性は高グリコシル化hKLK1の活性より、はるかに高いことが判明した。
【0083】
実施例3 組換えヒトカリクレイン1突然変異体(hKLK1X)の設計、発現ベクターの構築、発現、精製
さらに、本発明の出願人は低グリコシル化hKLK1を取得するために、従来法のように組換えhKLK1の発現と精製条件の最適化に多く取り組むのではなく、前記の高・低グリコシル化hKLK1に対する研究を基に、NFS配列モチーフのアミノ酸を1個、または複数個突然変異させ、該当位置でグリコシル化修飾が起らないようにした。これにより、産物がより均一で、低グリコシル化hKLK1の産量がより高い突然変異体を得た。さらに驚くことに、低グリコシル化突然変異体は未変異の低グリコシル化hKLK1と比較して、酵素学的性質や活性などの面においてさらなる利点があることがその後の実験で分かった。
【0084】
本実施例で挙げた突然変異体は、NFS配列モチーフ中のN(即ちN141)が突然変異され、NFS配列モチーフ中のF、Sが突然変異されなかった。ただし、これらの例は例示を目的とするものであり、本発明の適用範囲を限定するものではない。以下の方法はいずれも元のNFS配列を変更してN‐グリコシル化モチーフを形成させないことにより、N141にグリコシル化修飾が起こらないようにすることができる。たとえば、NFS中のアミノ酸N(即ちN141)を突然変異させ、F、S中の0個、1個、あるいは2個のアミノ酸をほかの任意のアミノ酸に突然変異させることや、NFS中のF(即ちF142)をプロリンに突然変異させ、N、S中の0個、1個、あるいは2個のアミノ酸をほかの任意のアミノ酸に突然変異させること、またはNFS中のS(即ちS143)をトレオニン以外の任意のアミノ酸に突然変異させ、N、F中の0個、1個、あるいは2個のアミノ酸をほかの任意のアミノ酸に突然変異させることなど。前述の方法は、産物がより均一で、低グリコシル化hKLK1の産量がより高いことを実現すると同時に、得られた突然変異体は変異前と比較して酵素学的性質や活性などの面で更なる利点がある。これは元のNFS配列でグリコシル化修飾が起こらないことと関係していると考えられる。
【0085】
また、本実施例はGenbankに登録番号AAA59455.1で登録されたhKLK1配列に基づいた突然変異体を挙げるが、これは例示するものであり、本発明の適用範囲を限定するものではない。ほかの既知のhKLK1天然変異体のアミノ酸組成及びグリコシル化修飾部位が高度に一致しているが、ほかのhKLK1の天然変異体の相応する位置で(即ち、NFS配列モチーフの1個または複数個のアミノ酸)突然変異を行なっても同様な技術的効果が実現できる。即ち、産物がより均一で、低グリコシル化hKLK1の産量がより高く、活性がより良い目的産物を得られる。ほかの霊長類動物のKLK1はすべてhKLK1と同様に3種類のN‐グリコシル化修飾部位を含み、トライアド配列モチーフも同じで、いずれもNMS、NHT、NFSである。ほかの霊長類動物KLK1の天然アミノ酸配列の相応する位置で(即ち、NFS配列モチーフの1個または複数個のアミノ酸)突然変異を行なっても同様な技術的効果が実現できる。即ち、産物がより均一で、低グリコシル化hKLK1の産量がより高く、活性がより良い目的産物を得られる。
【0086】
本実施例が例示する具体的な突然変異のパターンは以下の通りである。
グリコシル化修飾部位N141に対して部位特異的変異を行い、アスパラギンを極性中性アミノ酸グルタミン(Gln)、酸性アミノ酸アスパラギン酸(Asp)、塩基性アミノ酸アルギニン(Arg)、脂肪族アミノ酸アラニン(Ala)といった異なる4種類のアミノ酸にそれぞれ突然変異させて、得られたhKLK1突然変異体をそれぞれhKLK1X1(SEQ ID No:3)、hKLK1X2(SEQ ID No:4)、hKLK1X3(SEQ ID No:5)、hKLK1X4(SEQ ID No:6)と命名する。実施例1の作製方法で各突然変異体を作製した。
【0087】
上述の組換えhKLK1突然変異体は実施例1の三段階精製により精製された。突然変異体の疎水精製クロマトグラムに、疎水溶出による主要な溶出ピークがいずれも一つのみ出現した。hKLK1X1を例に取ると、
図5に示されているその疎水クロマトグラフィー溶出クロマトグラムより、突然変異後の産物がより均一であることが分かった。未変異の組換えhKLK1は、精製工程により高グリコシル化hKLK1と低グリコシル化hKLK1を分離する分離度が良くないので(
図3)、高グリコシル化hKLK1と低グリコシル化hKLK1を完全に分離することが困難である。突然変異後の組換えhKLk1は、疎水クロマトグラフィーによる精製では一つだけの主要ピークを収集してよいので、精製工程がより簡単になった。
【0088】
SDS‐PAGEゲル電気泳動により精製したサンプルの純度を分析した。各突然変異体の精製サンプルの分子量は未変異の低グリコシル化hKLK1と非常に近いことが確認
され、N141での糖修飾を多く含む高グリコシル化hKLK1が完全になくなり(
図6)、低グリコシル化hKLK1の割合がより高く、産量がより高く、産物がより均一であることが分かった。
【0089】
LC‐MSに基づいて組換えhKLK1のアミノ酸カバー率の測定と解析を行なった。理論的アミノ酸配列とのカバー率が100%であった(
図12)ことから、組換えhKLK1の一次配列の正確性が確認された。また、グリコシル化修飾部位の同定を行い、組換えhKLK1は2つのグリコシル化修飾部位(N78とN84)のみを含み、分子設計目標と一致している。ほかの突然変異体も同様な結果を示した。
【0090】
【0091】
実施例4 突然変異前と後のタンパク質サンプル脱グリコシル化処理後のMS分子量測定
LC‐MSにより、突然変異前と後の組換えタンパク質の脱グリコシル化された後の分子量を測定した。組換えタンパク質を塩酸グアニジンで変性させ、糖切断酵素PNGaseFで酵素消化した後、分子量測定を行った。高グリコシル化hKLK1の脱グリコシル化後の分子量が26380.338Daであり、理論的分子量26377.493Daとほぼ一致している(表11)。低グリコシル化hKLK1脱グリコシル化後の分子量が26379.346Daであり、理論的分子量26418.48Daとほぼ一致している(表11)。hKLK1X1脱グリコシル化後の分子量が26418.82Daであり、理論的分子量26418.48Daとほぼ一致している(表11)。hKLK1X2、hKLK1X3、hKLK1X4の脱グリコシル化後の分子量も理論的分子量とほぼ一致している。上記の結果よりこれらの組換えタンパク質の一次構造の正確性がさらに確認された。
【0092】
【0093】
実施例5 PEG修飾hKLK1/hKLK1Xサンプルの作製、精製及び純度分析
異なるPEGで修飾するhKLK1/hKLK1Xサンプルは通常な方法で作製・精製することができる。本実施例は以下に例示するように例を挙げる。
【0094】
一、PEG修飾サンプルの作製
(1)前処理
未変異の低グリコシル化組換えhKLK1の原タンパク質を取って、3kDaの限外ろ過膜(または同等の効果があるほかの緩衝液置換方法)を用いて処理し、緩衝液をリン酸二水素ナトリウム/リン酸水素二ナトリウム緩衝液に置換し、pH7.0、同時にタンパク質濃度を15mg/mLに濃縮した。
【0095】
(2)フィード・修飾
ランダム修飾PEG5K-hKLK1の作製:hKLK1タンパク質とM‐SAP‐PEG5Kの質量比が1:25であるように、前処理したhKLK1タンパク質溶液にM‐SAP‐PEG5Kを加え、ゆっくりと攪拌して均一に混合させ、その後4℃の条件下で、24時間反応させた。
【0096】
ランダム修飾PEG10K-hKLK1の作製:hKLK1タンパク質とM‐SAP‐PEG10Kの質量比が1:20であるように、前処理したhKLK1タンパク質溶液にM‐SAP‐PEG10Kを加え、ゆっくりと攪拌して均一に混合させ、その後4℃の条件下で、24時間反応させた。
【0097】
部位特異的修飾PEG30K-hKLK1の作製:hKLK1タンパク質とY‐PALD‐PEG30Kのモル比が1:6であるように、前処理したhKLK1タンパク質溶液にY‐PALD‐PEG30Kを加え、PEGと還元剤(シアノ水素化ホウ素ナトリウム)のモル比が1:50であるように、PEG30Kとタンパク質の混合溶液に還元剤を加え、ゆっくりと攪拌して均一に混合させ、その後4℃の条件下で、24時間反応させた。
【0098】
部位特異的修飾PEG40K-hKLK1の作製:hKLK1タンパク質とY‐PALD‐PEG40Kのモル比が1:6であるように、前処理したhKLK1タンパク質溶液にY‐PALD‐PEG40Kを加え、PEGと還元剤(シアノ水素化ホウ素ナトリウム)のモル比が1:50であるように、PEG40Kとタンパク質の混合溶液に還元剤を加え、ゆっくりと攪拌して均一に混合させ、その後4℃の条件下で、24時間反応させた。
【0099】
二、反応混合物の精製
クロマトグラフィーの条件は次の通りである。
精製用充填剤はGE社のQ SepharoseTM High Performanceミディアムを使用し、精製の移動相BufferAは50mM Tris‐HCl9
.0であり、BufferBは50mM Tris‐HCl+1M NaCl9.0である
。
サンプルローディング:反応終了後の上述のPEG‐hKLK1修飾反応混合物を取り、再蒸留水で約10倍に希釈し、さらに緩衝液BufferAで約5倍に希釈して、サンプルをロードして精製を行った。サンプルローディングが終わったら、緩衝液BufferAを使用して5カラムベッド体積以上でクロマトカラムを洗浄した。
【0100】
溶出:0‐50%のBufferBグラジエントを設定して10カラムベッド体積で溶出を行い、UV280のトレンドに基づいて溶出サンプルを段階的に収集した。
【0101】
PEG修飾hKLK1突然変異体(PEG‐hKLK1X)は上記の方法を参考して作製、精製した。
【0102】
三、PEG修飾サンプルの純度分析
(1)HPLCによる純度分析
2020年版『中国薬典』の通則0512高速液体クロマトグラフィー法を参考して測定を実施した。測定クロマトグラフィーのタイプはSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)で、流動相は5%イソプロパノールを含んだ20mM PB pH7.0緩衝液で、クロマトグラフィーカラムはBEH450 SEC 3.5μmで、収集条件は280nmで、収集時間は20~25分間であった。
【0103】
液相測定の結果によると、作製した一連のPEG‐hKLK1/hKLK1Xタンパク
質の純度はすべて≧95%であった。
【0104】
(2)SDS‐PAGEによる純度分析
2020年版『中国薬典』の0541電気泳動法第五法のSDS‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動法に基づきサンプルの純度測定を実施した。12.5%のSDS‐PAGE
を調製してサンプルを測定した。
【0105】
電気泳動の結果によると、作製した一連のPEG‐hKLK1/hKLK1Xタンパク質の分子バンドは均一であり、不純物バンドは見られず、純度が全て良好であった。
【0106】
(3)PEG結合数の測定
a)溶液の調製:1、2、4、6、8mg/mLのPEG標準品溶液を調製し、1mg/mLの組換えhKLK1及びそのPEG修飾溶液を調製した。
b)測定方法:
クロマトグラフィーカラム: XBridge BEH SEC 3.5μm 450A
;カラム温度: 25℃。
移動相:20mM PB pH7.0+10%IPA、流速0.4mL/min。
検出器:PDA検出器、検出波長280nm;RI検出器、検出波長280nm。
【0107】
c)データ分析:
供試品(PEG修飾)の濃度実測値=供試品(PEG修飾)のPDA検出器によるピーク面積/未修飾原タンパク質のPDA検出器によるピーク面積×1.0
サンプル中のPEGピーク面積=(供試品(PEG修飾)のRI検出器によるピーク面積/供試品(PEG修飾)の濃度実測値)-(未修飾原タンパク質のRI検出器によるピーク面積/未修飾原タンパク質の濃度)
【0108】
サンプル中のPEG濃度は、サンプル中のPEGピーク面積をPEG標準曲線に代入して計算される。
【0109】
サンプル中のPEG結合数 =(サンプル中のPEG濃度/PEG分子量)/(サンプル
タンパク質濃度/タンパク質分子量26kD)
【0110】
【0111】
実施例6 組換えヒトカリクレイン1(hKLK1)及びその突然変異体(hKLK1X)のin vitro活性測定
一、人工基質を用いたin vitro活性評価
KLK1は生体内で低分子量キニノーゲンLMWKの加水分解を触媒して、リシルブラジキニンを遊離させて生物学的機能を発揮する。その加水分解反応にはアルギニン(Arg)のカルボキシル基末端のペプチド結合の切断が含まれる。したがって、発色性人工合成基質S‐2266(H‐D‐Val‐Leu‐Arg‐PNA)内のArgとパラニトロアニリンの間のアミド結合を切断してパラニトロアニリン(PNA)を生成することに基づいて、405nmにおけるPNAの生成を検出することを通して、組換えhKLK1およびその突然変異体のin vitro生物学的活性を評価することが可能である。活性単位IUは、37℃、pH8.0の条件下で、一分間で1μmolのS‐2266が加水分解されてPNAを生成する場合の酵素量が1IUであると定義されている。反応系は、200μl 20mMのトリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液、10μlの供試品、20μl 20mMのS‐2266基質溶液で構成される。反応系を37℃の水浴中で10分間正確に反応させ、20μlの50%酢酸溶液を加えて反応を停止させる。異なる濃度のPNA標準品に基づいてフィッティングした標準曲線によって反応系中のPNA生成量を定量する。上記の方法を用いて、高グリコシル化hKLK1と低グリコシル化hKLK1、hKLK1突然変異体、およびhKLK1‐PEG修飾体サンプルのin vitro生物学活性を測定した。
【0112】
結果は以下の表に示される通りである。低グリコシル化hKLK1(未変異)サンプルの活性は高グリコシル化hKLK1(未変異)サンプルの活性より著しく高かった。未変異タンパク質の一連のPEG修飾産物は、ランダム修飾の産物は部位特異的修飾の産物と比較して、より高いin vitro活性を示し、その中でも特にPEG10K‐hKLK1(低グリコシル化)の活性が優れている。部位突然変異された突然変異体(hKLK1X1、hKLK1X2、hKLK1X3、hKLK1X4)サンプルの活性は、全て未変異の低グリコシル化hKLK1サンプルより高かった。また、PEG修飾体サンプルの活性は修飾前のhKLK1X1タンパク質より若干低くなり、PEG10K‐hKLK1X1の活性はPEG5K‐hKLK1X1より高く、PEG10K修飾後のタンパク質は原タンパク質の活性を大体保持している。
【0113】
【0114】
二、天然基質を用いたin vitro活性測定
1、酵素反応と液相測定
KLK1は生体内で低分子量キニノーゲンLMWKの加水分解を触媒して、リシルブラジキニンを遊離させて生物学的機能を発揮する。本実施例では、基質(低分子量キニノーゲンLMWK)と酵素(KLK1またはそのPEG修飾体)を異なる比で酵素反応させてエフェクター分子であるブラジキニンの生成状況を比較する。逆相クロマトグラフィーにより生成したエフェクター分子を分離し、産物のピーク面積を計算し、基質と酵素が異なる比で反応した場合のブラジキニンの生成状況の曲線を描き、異なる供試品が同じ反応条件下で生成したエフェクター分子の量を比較した。こうして、in vitroにおいて体内での作用様式を模擬して、異なる供試品サンプルの体内作用効果を間接的に比較した。
【0115】
供試品中のhKLK1X1は実施例3で述べた方法により作製され、PEG10K‐hKLK1X1は実施例5で述べた方法により作製され、Kbはブタ膵臓より抽出されたKLK1であり、PEG‐KbはPEG10K修飾Kbである注射用膵臓カリクレイン1であり、実施例5を参考して作製された。
【0116】
下記の表に従って、サンプルを混合反応させた(PEG修飾体サンプルの場合、修飾される活性物質のモル質量で換算する)。混合サンプルを37℃の恒温器内に置き、正確に計時して、15分間インキュベートし、体積比10:1で50%の酢酸溶液を加えて反応を停止させた。
【0117】
【0118】
反応停止後のサンプルを卓上遠心機に置き、12000rpmで5分間遠心分離し、上清を取った。Waters ACQUITY UPLC H‐Class測定を実施し、移動相Aは0.1% TFA‐H2Oであり、移動相Bは0.1% TFA‐ACNであり、測定波長は214nmで、カラム温度は30℃で、サンプルローディング量はすべて10μlであり、流速は0.2mL/minで、実行時間は35分間で、実行グラジエントは次の通りであった。
【0119】
【0120】
2、結果
酵素反応混合物のUPLCクロマトグラムの結果に基づいて、反応混合物のクロマトグラム上の保持時間が13±0.5min(ブラジキニンのピーク位置)のピークに対して積分して和を求め、単位質量あたり(1mg/mL、10μLのサンプルローディング量)のブラジキニンのピーク面積と比較して酵素反応で生成したブラジキニンの濃度を計算して、表14の総反応系に基づいてブラジキニンの生成量を計算し、最後に各モル比条件下での1mg酵素あたりのブラジキニン生成量(μg/mg)に換算した。結果は表16に示す通りである。
【0121】
【0122】
天然基質を用いた測定結果によると、全体的な傾向として、修飾後のタンパク質は酵素反応によって生成されたブラジキニンが修飾前のサンプルより低かった。これはPEG修飾タンパク質の一貫した特性に合致している。実施例9‐13のデータと合わせて見れば、PEG修飾後のタンパク質は、原タンパク質と比較して酵素反応をより穏やかに維持し、エフェクター分子を持続的に生成することが実現できると考えられる。また、KLK1
類の薬物の効果発現は体内のカリクレイン‐キニン系(KKS)の調節作用に基づいており、この調節にはエフェクター分子の生成と除去が含まれるので、穏やかで持続的な酵素反応プロセスは、KKSにおける除去メカニズムを効果的に減少し、本発明が提供する薬物がより安定して効果的に生物学的作用を発揮することを可能にした。
【0123】
さらに、KbとhKLK1X1およびその修飾後産物を比較したところ、本発明が提供するサンプルはエフェクター分子の生成量がより高かった。これは実施例10‐13で示された動物を用いたin vivo薬効実験の結果と一致している。動物由来KLK1に比べて、本発明が提供するhKLK1X1タンパク質は著しい優位性を持つことがこれらの実験により実証された。
【0124】
実施例7 PEG修飾hKLK1/hKLK1Xなどに対するin vitroでの酵素動力学的測定
一、測定方法
(1)標準品の希釈:S2266基質緩衝液(20mM Tris‐HCl 8.5)を用いて、標準品である膵臓カリクレイン1(常州千紅生化製薬より提供)を10IU/mLまで希釈した。希釈した標準品を以下の表に従ってそれぞれ1、2、3、4、5、6IU/mLに希釈し、標準曲線サンプルとして作製した。
【0125】
【0126】
(2)異なる濃度の基質の調製:S2266基質緩衝液を使用して、既に分注済みの基質S2266をそれぞれ400、200、100、50、25、10μMの基質溶液として希釈した。
【0127】
(3)サンプルの希釈:S2266基質緩衝液を使用して、サンプルを1‐6IU/mLに希釈した。
【0128】
(4)サンプルを加える:上述(1)で作製した標準曲線サンプルをマイクロプレートに、80μL/ウェルで、各サンプル1ウェルずつ加えた。上述(3)で希釈後のサンプルをマイクロプレートに、80μL/ウェルで、サンプル毎に並行して6ウェル加えた。
【0129】
(5)読取り:マイクロプレートリーダーを設定して37℃、405nmでの動力学的測定を行い、読取り間隔を1minに、測定時間を15minに設定した。機器のサンプルプールの温度が37℃に上昇したら基質を加え、その際、標準曲線サンプルには200μmの基質を80μL/ウェルで加え、測定するサンプルの6つの並行ウェルには、(2)で調製した異なる濃度の基質をそれぞれ80μL/ウェルで加えた。サンプルを迅速に加えてブローして均一に混ぜるように注意する必要がある。サンプルの添加が終わったら、すぐに読取りを開始し、その後1分間ごとに読取りを行った。
【0130】
(6)結果の処理:ソフトウェアGraphPad Prismを用いて結果を処理し、ミカエリス・メンテン式に基づいてデータをフィッティングし、酵素動力学的パラメータを計算した。ここで、Kmはミカエリス・メンテン定数であり、酵素反応最大速度(Vmax)の半分の速度を与える基質濃度を表す。一般的に、1/Kmをもって、酵素の基質に対する親和性の大きさを近似的に表し、1/Kmが大きいほど、酵素はその基質に対
して強い親和性を持ち、酵素反応が容易に進行するのである。
【0131】
二、実験の結果
各サンプルの酵素動力学的測定の結果は以下の表に示している。
【0132】
【0133】
酵素動力学的測定の結果から、hKLK1X1は、未変異の低グリコシル化hKLK1に比べてKm値が低くなり、突然変異後に基質との親和性が向上したことが分かった。また、突然変異体の2つのPEG修飾体は、未変異のPEG修飾体に比べてKm値が低くなり、突然変異体の2つの修飾体が酵素学的性質において未変異タンパク質の修飾体より優れた性能を有することが判明した。
【0134】
実施例8 PEGで修飾したhKLK1のラットにおけるin vivo薬物動態学的比較
一、群分け
実験初日に測定したSDラットの体重に基づき、体重でラットをランダムに6つの群に分け、それぞれPEG5K‐hKLK1(高グリコシル化)静脈注射群(0.5mg/kg)、PEG5K‐hKLK1(高グリコシル化)皮下注射群(0.5mg/kg)、PEG10K‐hKLK1(低グリコシル化)静脈注射群(0.5mg/kg)、PEG10K‐hKLK1(低グリコシル化)皮下注射群(0.5mg/kg)、PEG10K‐hKLK1X1筋肉注射群(0.1mg/kg)、PEG10K‐hKLK1X1筋肉注射群(0.02mg/kg)とした。一群6匹で、半分が雌性で半分が雄性であった。動物を染色して番号を付けた。単回投与で、実験初日に1回投与した。
【0135】
二、血液サンプルの採取及び測定用サンプルの調製
測定時間:0min(投与前)、30min、1h、2h、4h、8h、24h、2d、3d、5d、7dの時点でそれぞれ一回採血し、合計で11回の採血を行った。
【0136】
採血量:50‐100μLの血清を採取して、薬物動態学パラメーターの測定に使用された。
【0137】
サンプルの調製
1)薬物動態サンプル:10%のSDラット混合空白血清(SDラット混合空白血清:ブロッキング液(2%BSA in PBST)=1:9)を使用して、定量限界濃度2560ng/mL~80ng/mLの範囲内に希釈した。
【0138】
2)標準品:SDラット混合空白血清を使用して、高グリコシル化hKLK1と低グリコシル化hKLK1のPEG修飾産物を希釈して、濃度勾配範囲が5120ng/mL~
40ng/mLである2倍希釈系列の標準品を調製した。
【0139】
3)コントロール:SDラット混合空白血清を使用して、高グリコシル化hKLK1と低グリコシル化hKLK1のPEG修飾産物を希釈して、高濃度(1920ng/mL)、中濃度(480ng/mL)、低濃度(240ng/mL)のコントロールを調製した。
【0140】
三、薬物動態学的測定
血清中の薬物濃度はELISA法で測定される。分析プロセスは以下の通りである。
1)コーティング:20mMのリン酸塩緩衝液(PB、pH7.4)で抗hKLK1抗体を400ng/ウェルに希釈してコーティングした。前記希釈・コーティングした抗体を吸い取り、マイクロプレートのウェルに加えて(100uL/ウェル)、プレートをシールして、4℃で一晩コーティングした。コーティングプレートはThermo社のマイクロプレートである。
【0141】
2)ブロッキング:ウェル内の液体を捨て、マイクロプレートウォッシャーでプレートを1回洗浄して振って乾燥させた。ブロッキング液(2%BSAと0.05%Tween20を含んだ20mM PBS)を200uL/ウェルで加え、プレートをシールして、37℃で約2時間インキュベートした。
【0142】
3)サンプルを加える:ウェル内の液体を除去し、測定する薬物動態サンプル、標準品とコントロール溶液などをブロッキング液で10倍に希釈した後、100uL/ウェルでマイクロプレートに加え、プレートをシールして、37℃で約1.5時間インキュベート
した。
【0143】
4)検出用抗体を加える:ウェル内の液体を捨て、マイクロプレートウォッシャーでプレートを3回洗浄し、300uL/ウェルで、振って乾燥させた。検出用抗体作動液(ブロッキング液で検出用酵素標識抗hKLK1抗体を1ug/mLに希釈する)を100uL/ウェルで加え、プレートをシールして、37℃で約45分間インキュベートした。
【0144】
5)発色:ウェル内の液体を捨て、マイクロプレートウォッシャーでプレートを5回洗浄し、300uL/ウェルで、振って乾燥させた。TMB発色液1号を加え、37℃で15分間インキュベートした(発色状況に応じて決める)。
【0145】
6)プレートリーディング:停止液(2M H2SO4)を50uL/ウェルで加え、反応を停止させ、直ちに450nmでのOD値を測定した。標準曲線サンプルの濃度をX軸に、OD値をY軸にして標準曲線を描き、サンプル濃度を計算した。
【0146】
7)ソフトウェアOrigin8を使用して標準曲線を描き、サンプル濃度を計算した。Microsoft EXCELを使用して平均値、標準偏差、変動係数などを計算した。GraphPad Prism7.00を使用してAUC(曲線下面積)を計算した。
【0147】
四、測定結果
同等の投与量で、in vivoにおける薬物の暴露量(AUC)は以下の通りである。
【0148】
【0149】
上記の薬物動態学の結果から、PEG10K‐hKLK1(低グリコシル化)は静脈注射および皮下注射の両方で、PEG5K‐hKLK1(高グリコシル化)より著しい優れた薬物動態曲線を示し、より長い薬物半減期を示すことが分かった。PEG10K‐hKLK1X1は筋肉注射の場合、低用量でも良好な吸収を示している。
【0150】
実施例9 高グリコシル化hKLK1と低グリコシル化hKLK1のPEG修飾産物のラットにおけるin vivo免疫原性の比較
一、群分け
実験初日に測定したSDラットの体重に基づき、体重でラットをランダムに2つの群に分け、それぞれPEG5K‐hKLK1(高グリコシル化)群、PEG10K‐hKLK1(低グリコシル化)群とした。一群12匹で、半分が雌性で半分が雄性であった。動物を染色して番号を付けた。
【0151】
二、投与
投与経路:静脈注射である。
投与頻度:週一回投与で、8回投与する。
投与量:各群はすべて0.2mg/mLの投与濃度で、0.5mg/kgの投与量で投与する。
【0152】
三、血液サンプルの採取
測定時間:0min(投与前)、投与後3日目、7日目の時点でそれぞれ一回採血する。回復期には毎週一回採血する。回復期は2週間である。毎回約500μLの全血を採取し、2時間静置して、3000rpmで10分間遠心分離する。分離した血清は免疫原性の測定に使用された。
【0153】
四、免疫原性の測定
1)コーティング:コーティング用抗原(PEG修飾hKLK1)の作動液をマイクロウェルに100μL/ウェルで加え、2‐8℃で一晩インキュベートした。
2)ブロッキング:ウェル内の液体を捨て、プレートを3回洗浄し振って乾燥させた。ブロッキング液(2%BSAと0.05%Tween20を含んだ20mM PBS)を
200uL/ウェルで加え、37℃で約2時間インキュベートした。
3)サンプル処理:全ての動物血清サンプルをブロッキング液で10倍に希釈した。
4)サンプルを加える:マイクロプレートウェル内の液体を捨て、振って乾燥させた。ウェル毎に処理後のサンプルを100μL/ウェルで加え、37℃、200rpmで約2時間振とうインキュベートした。
【0154】
5)検出用抗原作動液を加える:マイクロプレートウェル内の液体を捨て、プレートを3回洗浄して振って乾燥させた。スクリーニング試験用のマイクロプレートの各ウェルには、100uL/ウェルで検出用抗原作動液(ブロッキング液でバイオチン標識のPEG修飾hKLK1を2.5μg/mLに希釈して検出用抗原作動液とする)を加え、確認試験用のマイクロプレートの各ウェルには、100uL/ウェルで確認アッセイ検出用抗原作動液(前記検出抗原作動液を希釈液として用いて、PEG修飾hKLK1を200μg/mLに希釈して確認アッセイ検出用抗原作動液とする)を加え、37℃、200rpmで約1時間振とうインキュベートした。
【0155】
6)シグナル増幅検出物作動液(ブロッキング液でストレプトアビジン‐ワサビペルオキシダーゼを0.05μg/mLに希釈する)を加える:マイクロプレートウェル内の液体を捨て、プレートを3回洗浄して振って乾燥させ、シグナル増幅検出物作動液を100μl/ウェルで加え、37℃、200rpmで約1時間振とうインキュベートした。
【0156】
7)発色:ウェル内の液体を捨て、プレートを3回洗浄して振って乾燥させた。ウェル毎に発色液を100uL加え、37℃で15分間遮光して放置した。
【0157】
8)停止:停止液(2M H2SO4)を100μl/ウェルで加えて反応を停止させて、直ちにマイクロプレートリーダーにて450nmでのOD値を測定した。
【0158】
五、測定結果
図13及び
図14の免疫原性評価の結果は、PEG‐hKLK1(低グリコシル化)群の12匹の動物において、いずれも血清中抗薬物抗体(ADA)が検出されなかったが、PEG‐hKLK1(高グリコシル化)群の12匹の動物において、2匹の動物で比較的に高いADA値が検出されたと示している。これにより、低グリコシル化タンパク質修飾体による免疫原性がより低いことが判明した。
【0159】
実施例10 注射用Urinary Kallikreinと注射用膵臓カリクレイン1のin vivo活性の比較
一、モデルの作製
SD系ラット、雄性、SPD級、体重270~300gの動物を使用した。中大脳動脈塞栓法を用いて中大脳動脈閉塞(Middle cerebral artery occlusion,MCAO)脳虚血再灌流モデルを作製した。動物はイソフルランで麻酔し,仰向けに固定し、皮膚を消毒し、頚部正中部を切開し、右側の総頸動脈、外頸動脈、内頸動脈を分離して、迷走神経を優しく剥離し、外頸動脈を結紮、切断した。頸動脈の近心端をクランプし、外頚動脈の結紮部の遠位に切開し、MCAO線栓(型番2438‐A5、北京西濃科技有限公司より購入)を挿入し、総頚動脈分岐部を通過して内頚動脈に入り、徐々に挿入し、わずかな抵抗が感じられるところまで(分岐部から約20mM)で止まり、中大脳動脈の血流を遮断した。頸部の皮膚を縫合し、消毒後、ケージに戻した。虚血90分間後、ラットを再度麻酔し、板に固定し、頸部の皮膚を切開し、線栓を見つけて優しく抜き取り、血流を回復させ再灌流を行った。頸部の皮膚を縫合し、消毒後、ケージに戻して飼育した。
【0160】
群分け:計4群、即ち偽手術群、モデル群、注射用膵臓カリクレイン1群(0.4IU
/kg、筋肉注射)、Urinary Kallikrein群(0.1IU/kg、静脈注射)を設定した。投与群は再灌流2時間後に投与を行った。動物実験で使用するサンプルの比活性は、すべて実施例6に示した方法で計算される。また、上記の注射用膵臓カリクレイン1はPEG10K修飾Kbであり、実施例5で述べた製造方法により作製された。Kbはブタの膵臓から抽出されたKLK1である。
【0161】
二、神経欠損症状の評価
改良Bederson 5点法によって神経欠損症状を評価する。
【0162】
【0163】
三、脳梗塞体積の測定
動物は10%の抱水クロラールで麻酔した後、頭部を切断し脳を摘出した。嗅球、小脳および低位脳幹を除去し、生理食塩水で大脳表面の血痕を洗い流した後、表面の残留水分を吸い取って、-80℃で7分間放置した。その後、取り出してすぐに視線の交差平面と垂直して下向きで冠状断面を切り、さらに2mmごとに後方に向かって切片を切った。脳切片を生理食塩水で新鮮に調製したTTC(20g/L)染色液に入れ、37℃で90分間温めて、正常な脳組織は濃い赤色に染まり、虚血が生じた脳組織は蒼白色になった。生理食塩水で洗い流した後、すぐに脳切片を前から後ろに向かって順番に並べ、表面の残留水分を吸い取り、写真を撮った。画像解析ソフトウェア(Image Tool)を使って写真に基づいて統計を取り、右側の虚血面積(白色区域)と右側面積を囲んで、次の計算式により脳梗塞面積の割合を算出した。計算式:脳梗塞面積%=虚血総面積÷右側総面積×100。
【0164】
四、結果
1、被験物の神経障害症状への影響
図15および表19に示されるように、Urinary Kallikrein群(F
7,87=20.80、P= 0.018)は、モデル群と比較して、神経障害症状に対
して著しい改善効果があった。また、注射用膵臓カリクレイン1群(F
7,87=20.80、P=0.021)はモデル群と比較して、神経障害症状に対して著しい改善効果があった。
【0165】
【0166】
2、被験物の脳梗塞面積(%)への影響
図16、17、18および表20に示されるように、Urinary Kallikrein群(F
7,87=12.72、P=0.042)、注射用膵臓カリクレイン1群(F
7,87=12.72、P=0.019)は、モデル群と比較して、脳梗塞面積に対して著しい改善効果があった。
【0167】
【0168】
3、被験物の累積死亡率(%)への影響
表21に示されるように、偽手術群以外のすべての群には動物の死亡があったが、死亡率において群間に差はなかった。Urinary Kallikrein群(F1,28=0.18、P=0.6746)、注射用カリクレイン1群(F1,28=0.18、P=0.6753)は、モデル群と比較して、統計学的に有意差はなかった。
【0169】
【0170】
4、結論
虚血再灌流後の治療で被験物を投与した場合、モデル群と比較して、被験物Urina
ry Kallikreinおよび注射用膵臓カリクレイン1はともに顕著な脳保護作用があった。
【0171】
実施例11 PEG10Kで修飾した未変異高グリコシル化hKLK1のin vivo活性評価
モデルの作製、神経欠損症状の評価、脳梗塞体積の測定方法は実施例10と同じである。
群分け及び投薬:計4群、即ち偽手術群、モデル群、陽性薬群(注射用膵臓カリクレイン1、0.4IU/kg、筋肉注射)、PEG10K‐hKLK1(高グリコシル化)群(0.1IU/kg、静脈注射)を設定した。投与群は再灌流2時間後に投薬を行った。
【0172】
二、結果
1、被験物の神経欠損症状への影響
図19および表22に示されるように、被験物PEG10K‐hKLK1(高グリコシル化)群(F
3,43=63.32、P=0.352)は、モデル群と比較して神経欠損症状に対して一定の改善効果があったが、統計学的に有意差はなかった。陽性薬群(F
3,44=56.34、P=0.006)は、モデル群と比較して神経欠損症状に顕著な改善効果があった。
【0173】
【0174】
2、被験物の脳梗塞面積(%)への影響
図20、21、22および表23に示されるように、PEG10K‐hKLK1(高グリコシル化)群(F
3,43=37.72、P=0.197)は、モデル群と比較して脳梗塞面積に対して一定の改善効果があったが、顕著な差はなかった。陽性薬群(F
3,44=34.58、P=0.007)は、モデル群と比較して脳梗塞面積に顕著な改善効果があった。
【0175】
【0176】
3、被験物の累積死亡率(%)への影響
表24に示されるように、偽手術群以外のすべての群には動物の死亡があったが、死亡率において群間差はなかった。陽性薬群(F1,6=0.00、P=1.0000)、PEG10K‐hKLK1(高グリコシル化)群(F1,6=0.00、P=1.0000)は、モデル群と比較して統計学的に有意差はなかった。
【0177】
【0178】
4、結論
虚血再灌流後の治療で被験物を投与した場合、モデル群と比較して、被験物PEG10K‐hKLK1(高グリコシル化)は症状を改善する傾向を示したものの、統計学的に有意差はなかった。
【0179】
実施例12 異なるPEGで修飾した未変異低グリコシル化hKLK1のin vivo活性評価
一、モデルの作製、神経欠損症状の評価、脳梗塞体積の測定方法は実施例10と同じである。
群分け及び投薬:計7群、即ち偽手術群、モデル群、陽性薬群(注射用膵臓カリクレイン1、0.4IU/kg、筋肉注射)、PEG40K‐hKLK1(低グリコシル化)群(0.1IU/kg)、PEG30K‐hKLK1(低グリコシル化)群(0.1IU/kg)、 PEG10K‐hKLK1(低グリコシル化)群(0.1IU /kg)、PEG5K‐hKLK1(低グリコシル化)群(0.1IU/kg)を設定した。投与群は再灌流2時間後に投与を実施した。各投与群の投与量は、サンプルの比活性に基づいて算出し、1キログラム体重あたりに同じ活性単位のPEG‐hKLK1修飾体を投与する。
【0180】
二、結果
1、被験物の神経欠損症状への影響
図23と表25に示されるように、PEG40K‐hKLK1(低グリコシル化)群(F
3,44=46.28、P=0.209)、PEG30K‐hKLK1(低グリコシル化)群(F
3,43=53.33、P=0.242)、PEG5K‐hKLK1(低グリコシル化)群(F
3,44=46.28、P=0.209)は、モデル群と比較して神経欠損症状に対して一定の改善効果があったが、統計学的に有意差はなかった。一方、PEG10K‐hKLK1(低グリコシル化)群(F
3,45=46.43、P=0.008)、陽性薬群(F
3,45=46.43、P=0.003)は、モデル群と比較して神経欠損症状に顕著な改善効果があった。
【0181】
【0182】
2、被験物の脳梗塞面積(%)への影響
図24、25、26および表26に示されるように、PEG40K‐hKLK1(低グリコシル化)群(F
3,44=37.73、P=0.446)、PEG30K‐hKLK1(低グリコシル化)群(F
3,43=36.56、P=0.502)、PEG5K‐hKLK1(低グリコシル化)群(F
3,44=39.05、P=0.218)は、モデル群と比較して脳梗塞面積に対して一定の改善効果があったが、有意な差はなかった。PEG10K‐hKLK1(低グリコシル化)群(F
3,45=39.30、P=0.001)、陽性薬群(F
3,45=39.30、P=0.001)は、モデル群と比較して脳梗塞面積に顕著な改善効果があった。
【0183】
【0184】
3、被験物の累積死亡率(%)への影響
表27に示されるように、偽手術群以外のすべての群には動物の死亡があったが、死亡率において群間差はなかった。陽性薬群(F1,3=0.15、P=0.7239)、PEG40K‐hKLK1(低グリコシル化)群(F1,3=0.17、P=0.7100)、PEG30K‐hKLK1(低グリコシル化)群(F1,3=0.17、P=0.7106)、PEG10K‐hKLK1(低グリコシル化)群(F1,3=0.15、P=0.7239)、PEG5K‐hKLK1(低グリコシル化)群(F1,3=0.00、P=0.9994)は、モデル群と比較して、統計学的に有意差はなかった。
【0185】
【0186】
4、結論
本実施例の結果によると、未変異低グリコシル化hKLK1の中で、PEG10K‐hKLK1(低グリコシル化)はin vivo動物モデルにおいて顕著な脳保護効果を示し、PEG5K‐hKLK1(低グリコシル化)、PEG40K‐hKLK1(低グリコシル化)、PEG30K‐hKLK1(低グリコシル化)も症状改善の傾向を見せている。さらに、in vivoとin vitroで行われた薬効実験の結果は一定の相関性を示しており、in vitroでの活性において、PEG10K修飾の低グリコシル化hKLK1は、PEG5K修飾の低グリコシル化hKLK1より高く、PEG30K/40K修飾の低グリコシル化hKLK1よりも高かったのである。
【0187】
実施例11及び12の結果を総じて見ればと、同一の投与量で評価する場合、PEG10K‐hKLK1(高グリコシル化)サンプルの薬効はPEG10K‐hKLK1(低グリコシル化)サンプルに劣る。このことから、同じPEG修飾を施した場合、未変異の低グリコシル化サンプルは高グリコシル化サンプルに比べて薬効が優れると考えられる。
【0188】
実施例13 異なるPEGで修飾したhKLK1突然変異体のin vivo活性評価
一、モデルの作製、神経欠損症状の評価、脳梗塞体積の測定方法は実施例10と同じである。
群分け:計4群、即ち偽手術群、モデル群、PEG5K‐hKLK1X1群(0.1IU/kg)、PEG10K‐hKLK1X1群(0.1IU/kg)を設定した。投与群は再灌流2時間後に静脈注射投与を実施した。
【0189】
二、結果
1、被験物の神経欠損症状への影響
図27および表28に示されるように、PEG5K‐hKLK1X1群(F
2,38=67.13、P=0.017)はモデル群と比較して神経欠損症状に対して顕著な改善効果あった。PEG10K‐hKLK1X1群(F
2,37=86.65、P=0.003)はモデル群と比較して神経欠損症状に対して非常に顕著な改善効果があった。
【0190】
【0191】
2、被験物の脳梗塞面積(%)への影響
図28、29、30および表29に示されるように、PEG5K‐hKLK1X1群(F
2,38=39.50、P=0.001)、PEG10K‐hKLK1群(F
2,37=90.5、P=0.000)はモデル群と比較して脳梗塞面積に顕著な改善効果があった。
【0192】
【0193】
3、被験物の累積死亡率(%)への影響
表30に示されるように、偽手術群以外のすべての群には動物の死亡があったが、死亡率において群間差はなかった。PEG5K‐hKLK1X1群(F1,5= 0.71、
P=0.4369)、PEG10K‐hKLK1X1群(F1,5=0.00、P=1.0000)はモデル群と比較して統計学的に差がなかった。
【0194】
【0195】
4、結論
虚血再灌流後の治療で被験物を投与した場合、モデル群と比較して、被験物PEG5K‐hKLK1X1、PEG10K‐hKLK1X1はともに顕著な脳保護作用があった。実施例12と実施例13を総じて、PEG‐hKLK1(未変異)/hKLK1X(突然変異体)のin vivo薬効については表31にまとめた。
【0196】
【0197】
即ち、同じPEG修飾剤で修飾された場合、N141部位で突然変異を受けたhKLK1タンパク質は、変異前に比べて薬物分子としての薬効が明らかに優れる。突然変異後のタンパク質は、性能の向上が確認され、より良いin vivo治療効果が得られる。
【0198】
実施例10~13においてin vivo薬効を示した薬物をまとめて表32に示している。
【0199】
【0200】
即ち、同一の修飾剤で修飾された場合、未変異の低グリコシル化hKLK1は未変異の高グリコシル化hKLK1と比較して、より優れた薬効がある。また、NFSで突然変異されたhKLK1タンパク質は、未変異の低グリコシル化hKLK1と比較して薬効が優れており、低投与量でも著しく優れた薬効がある。
【0201】
実施例14 異なる投与経路におけるPEG‐hKLK1の薬効研究
一、モデルの作製、神経欠損症状の評価、脳梗塞体積の測定方法は実施例10と同じである。
群分け:計3群、即ち偽手術群、モデル群、PEG10K‐hKLK1X1筋肉注射群(0.4IU/kg)を設定した。投与群は再灌流2時間後に投薬を行う。
【0202】
二、結果
1、被験物の神経欠損症状への影響
図31および表33に示すように、PEG10K‐hKLK1X1筋肉注射群(F
2,36=122.84、P=0.000)はモデル群と比較して神経欠損症状に対して非常に顕著な改善効果があった。
【0203】
【0204】
2、被験物質の脳梗塞面積(%)への影響
図32および表34に示すように、PEG10K‐hKLK1X1筋肉注射群(F
2,36=55.02、P=0.001)はモデル群と比較して脳梗塞面積に対して非常に顕著な改善効果があった。
【0205】
【0206】
4、結論
実施例13および実施例14を総じて見れば、PEG10K‐hKLK1X1は静脈注射(投与量0.1IU/kg)および筋肉注射(投与量0.4IU/kg)の2つの投与経路で投与する場合、ともに非常に顕著な脳保護作用がある。また、動物の脳卒中後の神経欠損症状を効果的に治療し、脳梗塞面積を有意に改善することが確認された。
【0207】
以上のことを要するに、高グリコシル化KLK1に比べて、本発明の低グリコシル化KLK1のほうはより高い活性を有しており、未変異のKLK1に比べて、組換えKLK1突然変異体のほうはN-グリコシル化修飾部位が一箇所少なく、精製工程がより簡単になり、製品の均一性が向上し、品質管理が容易になり、生産量も増加した。そして、本発明のKLK1突然変異体は未変異の低グリコシル化KLK1と比較して酵素学的性質、活性などの面において更なる利点を有している。さらに、本発明のポリエチレングリコール化組換えhKLK1は、さまざまな投与方法で投与されていずれも顕著な薬効を示した。そしてポリエチレングリコール薬が持つ安全性と長時間作用の利点を持っており、投与頻度の低減、患者のコンプライアンスの向上が実現でき、急性虚血性脳卒中、周辺神経病、網膜疾患、眼底疾患、高血圧、糖尿病腎疾患、IgA腎炎、慢性腎疾患などの疾患の予防、治療及び予後の回復、再発防止等の段階をカバーする疾患全過程における本発明の薬物の応用が実現した。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-07-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低グリコシル化修飾
のカリクレイン1またはその誘導体であって、前記カリクレイン1は霊長類動物のカリクレイン1であり、天然カリクレイン1のNMS、NH
TでのN‐グリコシル化修飾を含み、NFSのアスパラギンにグリコシル化修飾がないかまたはごく少量のグリコシル化修飾があることを特徴
とし、前記少量のグリコシル化修飾または低グリコシル化修飾
はNFSにあるアスパラギンがグリコシル化修飾された割合が≦10
%である
、カリクレイン1またはその誘導体。
【請求項2】
組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、前記カリクレイン1が霊長類動物カリクレイン1であり、2つの部位のみにN‐グリコシル化修飾があることを特徴とする
、組換えカリクレイン1
突然変異体またはその誘導
体。
【請求項3】
請求項2に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、天然カリクレイン1アミノ酸配列中のNMS、NHTでのN‐グリコシル化修飾を保持しており、天然カリクレイン1のNFSでのN‐グリコシル化修飾を含まないことを特徴とする、組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導
体。
【請求項4】
請求項2に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、前記カリクレイン1のアミノ酸配列中のNFSのアスパラギンがアスパラギン以外の任意のアミノ酸に突然変異され、NFSのF、Sの0個、1個、または2個のアミノ酸が他の任意のアミノ酸に突然変異されたことを特徴とする、組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導
体。
【請求項5】
請求項2に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、前記カリクレイン1のアミノ酸配列中のNFSのフェニルアラニンがプロリンに突然変異され、NFSのN、Sの0個、1個、または2個のアミノ酸が他の任意のアミノ酸に突然変異されたことを特徴とする、組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導
体。
【請求項6】
請求項2に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、前記カリクレイン1のアミノ酸配列中のNFSのセリンがセリン、トレオニン以外の任意のアミノ酸に突然変異され、NFSのN、Fの0個、1個、または2個のアミノ酸がほかの任意のアミノ酸に突然変異されたことを特徴とする、組換えカリクレイン1突然変異体または
その誘導
体。
【請求項7】
請求項4に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、前記突然変異体はカリクレイン1のアミノ酸配列中のNFSのアスパラギンが極性中性アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、または脂肪族アミノ酸に突然変異されたことを特徴とする、組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導
体。
【請求項8】
請求項7に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、前記突然変異体はカリクレイン1のアミノ酸配列中のNFSのアスパラギンがグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)、アルギニン(Arg)、またはアラニン(Ala)に突然変異されたことを特徴とする、組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導
体。
【請求項9】
請求項
2に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、前記カリクレイン1はヒトカリクレイン1であり、NFSのアスパラギン、フェニルアラニン、セリンはそれぞれヒトカリクレイン1の141位、142位、143位のアミノ酸であり、天然ヒトカリクレイン1のアミノ酸配列はGenBank登録番号AAA59455.1、NP002248.1、AAA36136.1、AAP35917、AAU12569で登録された配列であることを特徴とする、組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導
体。
【請求項10】
請求項
2に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体であって、前記突然変異体のアミノ酸配列は、SEQ ID No:3、SEQ ID No:4、SEQ
ID No:5、またはSEQ ID No:6に示した配列であることを特徴とする、組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導
体。
【請求項11】
請求項1に記載のカリクレイン1またはその誘導体、または請求項2~10のいずれか一項に記載の組換えカリクレイン1突然変異体またはその誘導体を含む組成物。
【請求項12】
急性虚血性脳卒中、末梢神経障害、網膜症、眼底疾患、高血圧、糖尿病性腎症、IgA腎炎、
および慢性腎臓病
からなる群から選択される疾患の治療、予防、予後回復、
または再発防
止のための請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
ポリエチレングリコール化カリクレイン1であって、前記カリクレイン1はポリエチレングリコール修飾剤によって修飾された、請求項1に記載のカリクレイン1または請求項2~10のいずれか一項に記載の組換えカリクレイン1突然変異体であることを特徴とする、ポリエチレングリコール化カリクレイン
1。
【請求項14】
請求項13に記載のポリエチレングリコール化カリクレイン1であって、前記ポリエチレングリコール修飾剤は分子量5kDa~10kDaの直鎖型ポリエチレングリコール・スクシンイミドプロピオネートであり、一般構造式が式(1)に示される通りであり、式(1)中、nは105~225の整数であることを特徴とする、ポリエチレングリコール化カリクレイン
1。
【化1】
(1)
【請求項15】
請求項13に記載のポリエチレングリコール化カリクレイン1であって、前記ポリエチ
レングリコール修飾剤は分子量30kDa~40kDaの分岐型ポリエチレングリコール・プロピオンアルデヒドであり、一般構造式は式(2)に示される通りであり、式(2)中、nは335~455の整数であることを特徴とする、ポリエチレングリコール化カリクレイン
1。
【化2】
(2)
【請求項16】
請求
項13に記載のポリエチレングリコール化カリクレイン1を含む組成物。
【請求項17】
急性虚血性脳卒中、末梢神経障害、網膜症、眼底疾患、高血圧、糖尿病性腎症、IgA腎炎、
および慢性腎臓病
からなる群から選択される疾患の治療、予防、予後回復、
または再発防
止のための請求項16に記載の組成物。
【国際調査報告】