(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】抗HSP90α抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20241106BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241106BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241106BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241106BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241106BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C07K16/18
C12N15/13 ZNA
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/00
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K31/7068
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529897
(86)(22)【出願日】2021-11-22
(85)【翻訳文提出日】2024-07-18
(86)【国際出願番号】 US2021060295
(87)【国際公開番号】W WO2023091148
(87)【国際公開日】2023-05-25
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】505020190
【氏名又は名称】ナショナル ヘルス リサーチ インスティテューツ
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL HEALTH RESEARCH INSTITUTES
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】ファン, ツェー・シン
(72)【発明者】
【氏名】シュー, チュ・アン
(72)【発明者】
【氏名】ファン, フイ・チェン
(72)【発明者】
【氏名】クー, イー・ユー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA17
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC75
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
アミノ酸235~244及びアミノ酸251~260の領域に2個のEDK部位をそれぞれ含む、HSP90αエピトープに特異的に結合可能な新規の相補性決定領域を備える単離抗体が開示される。また、前記抗体に対応する核酸分子、前記抗体又は対応する核酸分子を含む薬学的組成物並びに前記抗体を用いて癌を処置及びモニタリングする方法も開示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離抗体であって、
アミノ酸235~244及びアミノ酸251~260の領域にアミノ酸配列EDKを含むHSP90αエピトープに特異的に結合可能な相補性決定領域(CDR)を備える単離抗体。
【請求項2】
配列番号2又は配列番号12の重鎖可変領域配列の重鎖相補性決定領域CDR1、CDR2及びCDR3と、
配列番号7又は配列番号17の軽鎖可変領域配列の軽鎖相補性決定領域CDR1、CDR2及びCDR3と、
を備える請求項1に記載の単離抗体。
【請求項3】
前記重鎖CDR1、CDR2及びCDR3は配列番号2によるものであり、前記軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3は配列番号7によるものである、請求項2に記載の単離抗体。
【請求項4】
配列番号2の配列と少なくとも80%同一である重鎖可変領域及び配列番号7の配列と少なくとも80%同一である軽鎖可変領域を含む請求項3に記載の単離抗体。
【請求項5】
前記重鎖CDR1は配列番号3の配列を有し、前記重鎖CDR2は配列番号4の配列を有し、前記重鎖CDR3は配列番号5の配列を有し、前記軽鎖CDR1は配列番号8の配列を有し、前記軽鎖CDR2は配列番号9の配列を有し、前記軽鎖CDR3は配列番号10の配列を有する、請求項3に記載の単離抗体。
【請求項6】
前記重鎖CDR1、CDR2及びCDR3は配列番号12によるものであり、前記軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3は配列番号17によるものである、請求項2に記載の単離抗体。
【請求項7】
配列番号12の配列と少なくとも80%同一である重鎖可変領域及び配列番号17の配列と少なくとも80%同一である軽鎖可変領域を含む請求項6に記載の単離抗体。
【請求項8】
前記重鎖CDR1は配列番号13の配列を有し、前記重鎖CDR2は配列番号14の配列を有し、前記重鎖CDR3は配列番号15の配列を有し、前記軽鎖CDR1は配列番号18の配列を有し、前記軽鎖CDR2は配列番号19の配列を有し、前記軽鎖CDR3は配列番号20の配列を有する、請求項6に記載の単離抗体。
【請求項9】
Fc領域、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、一本鎖抗体、scFV多量体、モノクローナル抗体、一価抗体、多重特異性抗体、ヒト化抗体又はキメラ抗体を含む抗体である請求項1に記載の単離抗体。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の単離抗体をコードする核酸配列を含む核酸分子。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載の単離抗体又は請求項10に記載の核酸分子及び薬学的に許容可能な担体を含む薬学的組成物。
【請求項12】
前記単離抗体は、配列番号13の配列を有する前記重鎖CDR1、配列番号14の配列を有する前記重鎖CDR2、配列番号15の配列を有する前記重鎖CDR3、配列番号18の配列を有する前記軽鎖CDR1、配列番号19の配列を有する前記軽鎖CDR2及び配列番号20の配列を有する前記軽鎖CDR3を備える、請求項11に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
被検体における癌を処置する方法であって、有効量の請求項1から9のいずれか一項に記載の単離抗体又は請求項10に記載の核酸分子を前記被検体に投与するステップを備える方法。
【請求項14】
前記単離抗体は、配列番号13の配列を有する前記重鎖CDR1、配列番号14の配列を有する前記重鎖CDR2、配列番号15の配列を有する前記重鎖CDR3、配列番号18の配列を有する前記軽鎖CDR1、配列番号19の配列を有する前記軽鎖CDR2及び配列番号20の配列を有する前記軽鎖CDR3を備える、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記癌は、線維形成の特徴を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記癌は、M2-マクロファージ増悪性の特徴を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記癌は、膵臓癌、結腸癌、乳癌、肝臓癌又は肺癌である、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記被検体に治療薬を投与するステップをさらに備える請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記治療薬は、ゲムシタビンである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記被検体における血液HSP90αレベルが、前記被検体における腫瘍の縮小をモニタリングするために請求項1から9のいずれか一項に記載の単離抗体を用いて検出される、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
被検体における線維形成を処置する方法であって、有効量の請求項1から9のいずれか一項に記載の単離抗体又は請求項10に記載の核酸分子を前記被検体に投与するステップを備える方法。
【請求項22】
前記単離抗体は、配列番号13の配列を有する前記重鎖CDR1、配列番号14の配列を有する前記重鎖CDR2、配列番号15の配列を有する前記重鎖CDR3、配列番号18の配列を有する前記軽鎖CDR1、配列番号19の配列を有する前記軽鎖CDR2及び配列番号20の配列を有する前記軽鎖CDR3を備える、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記被検体における血液HSP90αレベルが、前記被検体における腫瘍の縮小をモニタリングするために請求項1から9のいずれか一項に記載の単離抗体を用いて検出される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
被検体における癌の線維形成を処置する方法であって、eHSP90αを標的とする治療薬を前記被検体に投与するステップを備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、新規の抗HSP90α抗体及びその使用に関する。より具体的には、本開示は、新規の抗HSP90α単離抗体、それを含む薬学的組成物及びそれを用いて癌を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の発生及び進行は、上皮細胞の遺伝的及びエピジェネティックな変化だけでなく、細胞外マトリックス(ECM)並びに線維芽細胞及び免疫細胞のような間質細胞からなる上皮細胞の間質微小環境の重大な変化にも依存する。Pandol S、Edderkaoui M、Gukovsky I、Lugea A、Gukovskaya A、Desmoplasia of pancreatic ductal adenocarcinoma.Clin Gastroenterol Hepatol 2009年;7(11):S44-7参照。線維形成は、膵管腺癌(PDAC)及び大腸癌(CRC)などの多くの悪性腫瘍の共通の特性であり、大量のECM及び特徴的なマーカーとしてα-平滑筋アクチン(α-SMA)を発現する多数の筋線維芽細胞からもたらされる。活性化線維芽細胞又は癌関連線維芽細胞(CAF)とも呼ばれるそのような筋線維芽細胞は、腫瘍成長、免疫抑制及び悪性進行に寄与している。Orimo A、Gupta PB、Sgroi DC、Arenzana-Seisdedos F、Delaunay T、Naeem R他、Stromal fibroblasts present in invasive human breast carcinomas promote tumor growth and angiogenesis through elevated SDF-1/CXCL12 secretion.Cell 2005年;121(3):335-48、Lakins MA、Ghorani E、Munir H、Carla P.Martins CP、Shields JD、Cancer-associated fibroblasts induce antigen-specific deletion of CD8+T cells to protect tumour cells.Nat Commun 2018年;9(1):948、Turley SJ、Cremasco V、Astarita JL、Immunological hallmarks of stromal cells in the tumour microenvironment.Nat Rev Immunol 2015年;15(11):669-82及びBeacham DA、Cukierman E、Stromagenesis:the changing face of fibroblastic microenvironments during tumor progression.Semin Cancer Biol 2005年;15(5):329-41参照。それらは、腫瘍間質細胞の大部分を構成し、組織常在性線維芽細胞、星状細胞、間葉系幹細胞/前駆細胞及び浸潤性線維細胞などの多様な供給源に由来し得る。Sugimoto H、Mundel TM、Kieran MW、Kalluri R、Identification of fibroblast heterogeneity in the tumor microenvironment.Cancer Biol Ther 2006年;5(12):1640-6参照。さらに、CAFは、内皮細胞の内皮間葉転換(EndoMT)からも生じ得る。Zeisberg EM、Potenta S、Xie L、Zeisberg M、Kalluri R、Discovery of endothelial to mesenchymal transition as a source for carcinoma-associated fibroblasts.Cancer Res 2007年;67(21):10123-8参照。我々の以前の研究では、EndoMT由来CAF(すなわち、α-SMA+CD31+細胞)は、CRC組織検体におけるオステオポンチン(OPN)発現マクロファージの近傍に検出された。Fan CS、Chen WS、Chen LL、Chen CC、Hsu YT、Chua KV他、Osteopontin-integrin engagement induces HIF-1α-TCF12-mediated endothelial-mesenchymal transition to exacerbate colorectal cancer.Oncotarget 2018年;9(4):4998-5015参照。OPNは、内皮細胞のEndoMTを誘導し、得られたEndoMT由来CAFは、HSP90αを分泌してCRC細胞の幹細胞性を助長することによって強力な腫瘍促進効果を示した。Fan CS、Chen WS、Chen LL、Chen CC、Hsu YT、Chua KV他、Osteopontin-integrin engagement induces HIF-1α-TCF12-mediated endothelial-mesenchymal transition to exacerbate colorectal cancer.Oncotarget 2018年;9(4):4998-5015参照。近年、我々は、EndoMT由来CAFのPDAC細胞移植片との混合物が骨髄由来マクロファージを有意に動員し、免疫T細胞を防止し、腫瘍成長を促進することも見出した。Fan CS、Chen LL、Hsu TA他、Endothelial-mesenchymal transition harnesses HSP90α-secreting M2-macrophages to exacerbate pancreatic ductal adenocarcinoma.J Hematol Oncol 2019年;12:138参照。EndoMT由来CAFによって分泌されたHSP90αは、細胞表面受容体CD91及びTLR4並びに下流のMyD88-JAK2/TYK2-STAT-3経路を通じて、マクロファージのM2分極化及びより多くのHSP90α分泌をさらに誘導した。Fan CS、Chen LL、Hsu TA他、Endothelial-mesenchymal transition harnesses HSP90α-secreting M2-macrophages to exacerbate pancreatic ductal adenocarcinoma.J Hematol Oncol 2019年;12:138参照。
【0003】
HSP90αは、癌関連Bcr-Abl、ErbB2/Neu、Akt、HIF-1α、突然変異型p53及びRaf-1を含む多数のクライアントタンパク質の折りたたみ、成熟及び輸送を援助する公知の細胞シャペロンである。Trepel JB、Mollapour M、Giaccone G、Neckers L、Targeting the dynamic Hsp90 complex in cancer.Nat Rev Cancer 2010年;10(8):537-49参照。それはまた、傷ついた組織のケラチノサイト及び線維芽細胞から発現及び分泌され、好ましくない微小環境下にある癌細胞からも、癌細胞の上皮間葉転換(EMT)、遊走、浸潤及び転移を促進するように発現及び分泌される。Li W、Li Y、Guan S、Fan J、Cheng C-F、Bright AM他、Extracellular heat shock protein-90α:linking hypoxia to skin cell motility and wound healing.EMBO J 2007年;26(5):1221-33、Xu A、Tian T、Hao J、Liu J、Zhang Z、Hao J他、Elevation of serum HSP90α correlated with the clinical stage of non-small cell lung cancer.J Cancer Mol 2007年;3(4):107-12及びWang X、Song X、Zhuo W、Fu Y、Shi H、Liang Y他、The regulatory mechanism of HSP90α secretion and its function in tumor malignancy.Proc Natl Acad Sci USA 2009年;106(50):21288-93参照。臨床的には、血清/血漿HSP90αレベルの上昇は、CRC及びPDACを含むいくつかの悪性腫瘍から検出されている。Wang X、Song X、Zhuo W、Fu Y、Shi H、Liang Y他、The regulatory mechanism of HSP90α secretion and its function in tumor malignancy.Proc Natl Acad Sci USA 2009年;106(50):21288-9、Wang X、Song X、Zhuo W、Fu Y、Shi H、Liang Y他、The regulatory mechanism of HSP90α secretion and its function in tumor malignancy.Proc Natl Acad Sci USA 2009年;106(50):21288-93、Chen JS、Hsu YM、Chen CC、Chen LL、Lee CC、Huang TS、Secreted heat shock protein 90α induces colorectal cancer cell invasion through CD91/LRP-1 and NF-κB-mediated integrin αV expression.J Biol Chem 2010年;285(33):25458-66及びChen CC、Chen LL、Li CP、Hsu YT、Jiang SS、Fan CS他、Myeloid-derived macrophages and secreted HSP90α induce pancreatic ductal adenocarcinoma development.OncoImmunology 2018年;7(5):e1424612参照。そのような細胞外HSP90α(eHSP90α)の上昇レベルは、膵炎患者及びPDAC発症活性化K-Rasノックインマウスからも検出され得る。Chen CC、Chen LL、Li CP、Hsu YT、Jiang SS、Fan CS他、Myeloid-derived macrophages and secreted HSP90α induce pancreatic ductal adenocarcinoma development.OncoImmunology 2018年;7(5):e1424612参照。eHSP90αは、膵臓浸潤骨髄由来マクロファージ及び刺激された膵管上皮細胞から生成されてマクロファージ関連PDAC発生を促進し得る。Chen CC、Chen LL、Li CP、Hsu YT、Jiang SS、Fan CS他、Myeloid-derived macrophages and secreted HSP90α induce pancreatic ductal adenocarcinoma development.OncoImmunology 2018年;7(5):e1424612参照。さらに、EndoMT由来CAFによって分泌されるHSP90α又は組換えHSP90α(rHSP90α)は、M2マーカー発現及びHSP90α分泌のフィードフォワードループをマクロファージから誘導可能であり、それは、M2分極化マクロファージが免疫抑制的及び血管新生的なだけでなく、eHSP90αリッチでもある微小環境を引き起こしてPDAC腫瘍成長及び悪性進行を増強する理由を説明し得る。Fan CS、Chen LL、Hsu TA他、Endothelial-mesenchymal transition harnesses HSP90α-secreting M2-macrophages to exacerbate pancreatic ductal adenocarcinoma.J Hematol Oncol 2019年;12:138参照。全体として、eHSP90αは、腫瘍発生及び悪性進行の双方において重要な役割を果たしており、重要な治療標的として考えられ得る。
【0004】
我々の以前の研究では、我々は、eHSP90αを標的とする細胞不浸透性低分子HSP90α阻害剤を合成した。Chen CC、Chen LL、Li CP、Hsu YT、Jiang SS、Fan CS他、Myeloid-derived macrophages and secreted HSP90α induce pancreatic ductal adenocarcinoma development.OncoImmunology 2018年;7(5):e1424612参照。それはPDAC細胞の腫瘍化及び転移にいくつかの阻害レベルを示したが、それはマウス体外に排泄されやすく、頻回投与はマウスの脾臓肥大を引き起こした。一方、我々は、抗HSP90αマウスモノクローナル抗体を用いることから希望的な手がかりを得た。我々の最近の研究は、抗HSP90α抗体が、EndoMT促進性及びM2マクロファージ関与性のPDAC腫瘍成長に対して強力な治療的有効性を示すことを明らかにした。Fan CS、Chen LL、Hsu TA他、Endothelial-mesenchymal transition harnesses HSP90α-secreting M2-macrophages to exacerbate pancreatic ductal adenocarcinoma.J Hematol Oncol 2019年;12:138参照。抗HSP90α抗体は、eHSP90αのその細胞表面受容体CD91とのライゲーションをブロッキングすることができ、それにより、eHSP90αの発現及び分泌のeHSP90α誘導性フィードフォワードループを防止した。この発見は、我々の最近の他の研究によって支持されている。食品添加物及び化粧品に安全に使用される一般的な酸化防止剤及び防腐剤である没食子酸オクチル(OG)も、eHSP90α-TLR4ライゲーションのブロッキングを通じて、EndoMT由来CAF及びeHSP90α誘導性のマクロファージM2-分極化並びにより多くのHSP90α発現に対する阻害効果を示した。Chua KV、Fan CS、Chen LL、Chen CC、Hsieh SC、Huang TS、Octyl gallate induces pancreatic ductal adenocarcinoma cell apoptosis and suppresses endothelial-mesenchymal transition-promoted M2-macrophages,HSP90α secretion, and tumor growth.Cell 2020年;9(1):91参照。
【0005】
すべてまとめると、eHSP90αは線維形成性癌及びM2-マクロファージ増悪性癌に対する潜在的な治療標的であり、抗HSP90α抗体の開発はeHSP90αを標的とする有益及び希望的な戦略となり得る。
【発明の概要】
【0006】
一態様では、単離抗体がここに記載される。単離抗体は、アミノ酸235~244及びアミノ酸251~260の領域にアミノ酸配列EDKを含むHSP90αエピトープに特異的に結合可能な新規の相補性決定領域(CDR)を備える。
【0007】
いくつかの実施形態では、HSP90αは、eHSP90αであり得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、単離抗体は、配列番号(SEQ ID NO:)2又は配列番号12の重鎖可変領域配列の重鎖相補性決定領域CDR1、CDR2及びCDR3と、配列番号7又は配列番号17の軽鎖可変領域配列の軽鎖相補性決定領域CDR1、CDR2及びCDR3と、を備え得る。
【0009】
いくつかの実施形態では、重鎖CDR1、CDR2及びCDR3は配列番号2によるものであり、軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3は配列番号7によるものであり得る。
【0010】
いくつかの実施形態では、単離抗体は、配列番号2の配列と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)同一である重鎖可変領域及び配列番号7の配列と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)同一である軽鎖可変領域を含み得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、重鎖CDR1は配列番号3の配列を有し、重鎖CDR2は配列番号4の配列を有し、重鎖CDR3は配列番号5の配列を有し、軽鎖CDR1は配列番号8の配列を有し、軽鎖CDR2は配列番号9の配列を有し、軽鎖CDR3は配列番号10の配列を有し得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、重鎖CDR1、CDR2及びCDR3は配列番号12によるものであり、軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3は配列番号17によるものであり得る。
【0013】
いくつかの実施形態では、単離抗体は、配列番号12の配列と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)同一である重鎖可変領域及び配列番号17の配列と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)同一である軽鎖可変領域を含み得る。
【0014】
いくつかの実施形態では、重鎖CDR1は配列番号13の配列を有し、重鎖CDR2は配列番号14の配列を有し、重鎖CDR3は配列番号15の配列を有し、軽鎖CDR1は配列番号18の配列を有し、軽鎖CDR2は配列番号19の配列を有し、軽鎖CDR3は配列番号20の配列を有し得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、単離抗体は、Fc領域、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、一本鎖抗体、scFV多量体、モノクローナル抗体、一価抗体、多重特異性抗体、ヒト化抗体又はキメラ抗体を含む抗体であり得る。
【0016】
ここに開示される抗体をコードする核酸配列を含む核酸分子も、ここに記載される。
【0017】
いくつかの実施形態では、核酸分子を含む宿主細胞が、ここに提供される。
【0018】
ここに記載される抗体又はここに開示される抗体をコードする核酸配列を含む核酸分子を含む薬学的組成物も、ここに記載される。薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体及び/又は他の治療薬(例えば、他の抗癌剤、細胞毒性薬剤又は免疫調節剤)をさらに含み得る。治療薬の例は、ゲムシタビンを含むが、これに限定されない。
【0019】
eHSP90αは線維形成(特に、癌の線維形成)に対する治療戦略として使用されてもよく、したがって、被検体における癌の線維形成を処置する方法であって、eHSP90αを標的とする治療薬を、それを必要とする被検体に投与するステップを備える方法もここに記載される。
【0020】
いくつかの実施形態では、ここに記載される抗体は、癌細胞成長又は癌細胞転移を阻害するのにも使用され得る。したがって、被検体における癌を処置する方法であって、ここに記載される抗体又はここに開示される抗体をコードする核酸配列を含む核酸分子の有効量を、それを必要とする被検体に投与するステップを備える方法が、ここに記載される。
【0021】
いくつかの実施形態では、ここに記載される抗体は、線維形成を低減させ、又は線維形成の形成を防止するのにも使用され得る。したがって、被検体における線維形成を処置する方法であって、ここに記載される抗体又はここに開示される抗体をコードする核酸配列を含む核酸分子の有効量を、それを必要とする被検体に投与するステップを備える方法が、ここに記載される。ここで、線維形成は、癌の線維形成であり得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、本方法は、他の治療薬を被検体に投与するステップをさらに含み得る。治療薬を投与するための時間は、特に限定されない。いくつかの実施形態では、治療薬は、抗体又は核酸分子を投与する場合に投与され得る。いくつかの実施形態では、治療薬は、抗体又は核酸分子を投与した後に投与され得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、被検体における癌又は線維形成を処置する方法において、被検体における血液HSP90αレベルは、被検体における腫瘍の縮小をモニタリングするために、ここに記載される単離抗体を用いて検出され得る。いくつかの実施形態では、被検体における血液HSP90αレベルは、被検体の全血又は血清中の血液HSP90αレベルであり得る。
【0024】
いくつかの実施形態では、癌は、線維形成の特徴を有し得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、癌は、M2-マクロファージ増悪性の特徴を有し得る。
【0026】
癌の例は、膵臓癌、結腸癌、乳癌、肝臓癌又は肺癌を含み得るが、これらに限定されない。
【0027】
また、被検体における腫瘍の縮小を評価する方法であって、被検体の血液サンプルを得るステップと、血液サンプル中のHSP90αレベルを決定するステップと、を備える方法も、ここに提供される。いくつかの実施形態では、血液サンプルは、全血又は血清であり得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、被検体における腫瘍の縮小を評価する方法は、IgGを投与された被検体の血液サンプル及びここに記載される抗体又はここに開示される抗体をコードする核酸配列を含む核酸分子を投与された他の被検体の他の血液サンプルを得るステップと、ここに記載されるIgG、抗体又は核酸分子を投与された被検体の血液サンプル中のHSP90αレベルを決定するステップと、を備え得る。ここに開示される抗体又は核酸分子を投与された被検体の血液サンプル中のHSP90αレベルがIgGを投与された被検体の血液サンプル中のHSP90αレベルより低い場合、それは、ここに記載される抗体又は核酸分子が効果的に腫瘍の成長を阻害し、又は腫瘍体積を低減させ得ることを示す。
【0029】
本開示の1以上の実施形態の詳細を、以下の説明において述べる。本開示の他の特徴、目的及び有利な効果は、説明及び特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、マウス抗HSP90αモノクローナル抗体の特性評価を示すグラフのセットである。(a)rHSP90αで免疫したマウス由来の6個のハイブリドーマクローンの培養上清のHSP90α結合能力についてのウェスタンブロット分析である。(b)6個のハイブリドーマクローンの培養上清のHSP90α結合活性についてのELISAである。(c)クローン2及びクローン6の抗体の双方を、κ軽鎖を含むIgG2bアイソタイプの免疫グロブリンとして同定するためのサブタイプの特性評価である。(d)10μg/mlのコントロールIgG又はクローン2若しくはクローン6の抗HSP90α抗体の非存在下又は存在下で、15μg/mlのrHSP90αで刺激したPANC-1細胞における、CD91のHSP90α及びIKKαとのそれぞれの物理的結合のレベルについての近接ライゲーションアッセイ(PLA)である。(e)PBS又は15μg/mlのrHSP90αで16時間の前処置をしたSW620、LoVo及びBxPC-3細胞の細胞浸潤能力についてのトランスウェル浸潤アッセイである。(f)15μ/mlのrHSP90αと10μg/mlのコントロールIgG又はクローン2若しくはクローン6の抗HSP90α抗体とを加えたもので16時間の前刺激をしたSW620及びPANC-1細胞の細胞浸潤能力についてのトランスウェル浸潤アッセイである。(g)15μg/mlのrHSP90αと10μg/mlのコントロールIgG又はクローン2若しくはクローン6の抗HSP90α抗体とを加えたもので16時間の前処置をしたSW620、PANC-1及びPanc02細胞の細胞スフェロイド形成能力についてのアッセイである。
【
図2】
図2は、ヒト化抗HSP90α抗体の特性評価を示すグラフのセットである。(a)Biacore T200を用いたクローン2-キメラ、クローン2-hA、クローン2-hB及びクローン2-hC抗HSP90α抗体のHSP90α結合動態についてのアッセイである。(b)クローン2-キメラ、クローン2-hA、クローン2-hB及びクローン2-hC抗体の平衡解離定数(K
D)値である。結合センサーグラムをBiacore T200を用いて作成し、そして単純な1:1相互作用モデルにフィッティングした。(c)15μg/mlのrHSP90αと10μg/mlのコントロールIgG又はクローン2-キメラ、クローン2-hA、クローン2-hB若しくはクローン2-hC抗HSP90α抗体とを加えたもので16時間の前処置をしたPANC-1細胞の細胞浸潤能力についてのトランスウェル浸潤アッセイである。(d)15μg/mlのrHSP90αと10μg/mlのコントロールIgG又はクローン2-キメラ、クローン2-hA、クローン2-hB若しくはクローン2-hC抗HSP90α抗体とを加えたもので16時間の前処置をしたPANC-1細胞の細胞スフェロイド形成能力についてのアッセイである。(e)連続した濃度の17-AAG及びHH01(すなわち、クローン2-hA)抗体でそれぞれ72時間処置した際のARPE-19網膜色素上皮細胞の生存能力である。(f)10mg/kgの単回用量で静脈内(IV)注入した後の雄マウスにおけるHH01抗体の薬物動態である。
【
図3】
図3は、クローン2-キメラ及びHH01(すなわち、クローン2-hA)抗HSP90α抗体のエピトープの同定を示すグラフのセットである。(a)いずれのHSP90α領域がクローン2抗体との結合に関与したのかを明確にするドメインスキャニングアッセイである。(b)HSP90αにおけるいずれの部位がクローン2-キメラ抗体との結合に関与したのかを調べるペプチドスキャニングアッセイである。(c)HSP90αにおけるいずれの部位がHH01抗体との結合に関与したのかを調べるペプチドスキャニングアッセイである。(d)HSP90αのいずれのa.a.残基がクローン2-キメラ及びHH01抗体との結合に重要であったかを決定するアラニンスキャニングアッセイである。(e)15μg/mlのrHSP90αと15μg/mlのコントロールペプチド(P-ctrl)又はエピトープ含有ペプチド(P-46)とを加えたもので16時間の前処置をしたPANC-1細胞の細胞浸潤能力についてのトランスウェル浸潤アッセイである。(f)15μg/mlのrHSP90αと15μg/mlのコントロールペプチド(P-ctrl)又はエピトープ含有ペプチド(P-46)とを加えたもので16時間の前処置をしたPANC-1細胞の細胞スフェロイド形成能力についてのアッセイである。
【
図4】
図4は、線維形成性マウスPDACモデルにおけるHH01抗体の予防的有効性の評価を示すグラフのセットである。(a)Panc02細胞単独由来の腫瘍では観察されなかった、EndoMT細胞関与性Panc02腫瘍での腫瘍線維形成を明らかにするマッソントリクローム染色アッセイである。(b)我々の線維形成性マウスPDACモデルにおける予防的HH01投与スケジュールを示す概略図である。(c)コントロールIgG及びHH01抗体でそれぞれ処置したマウスからのEndoMT関与性Panc02細胞移植片の腫瘍成長曲線をプロットする表在腫瘍体積の測定である。(d)接種後30日目に屠殺したマウスから得られた腫瘍重量である。(e)コントロールIgG又はHH01抗体で処置したマウスからの腫瘍組織切片のマッソントリクローム染色である。(f)Panc02+EndoMT細胞移植片を皮下接種し、コントロールIgG又はHH01抗体で処置したマウスの血清HSP90αレベルである。
【
図5】
図5は、線維形成性マウスPDACモデルにおけるHH01抗体の治療的有効性の評価を示すグラフのセットである。(a)我々の線維形成性マウスPDACモデルにおける治療的HH01投与スケジュールを示す概略図である。(b)コントロールIgG及びHH01抗体でそれぞれ処置したマウスからのEndoMT関与性Panc02細胞移植片の腫瘍成長曲線をプロットする表在腫瘍体積の測定である。(c)接種後41日目に屠殺したマウスから得られた腫瘍重量である。(d)コントロールIgG又はHH01抗体で処置したマウスからの腫瘍切片のマッソントリクローム染色である。(e)Panc02+EndoMT細胞移植片を皮下接種し、コントロールIgG又はHH01抗体で処置したマウスの血清HSP90αレベルである。
【
図6】
図6は、線維形成性ヒト化マウスPDACモデルにおけるHH01抗体の治療的有効性の評価を示すグラフのセットである。(a)我々の線維形成性ヒト化マウスPDACモデルにおける治療的HH01投与スケジュールを示す概略図である。(b)コントロールIgG、コントロールIgGとゲムシタビンとを加えたもの及びHH01抗体とゲムシタビンとを加えたものでそれぞれ処置したマウスからのEndoMT関与性PANC-1細胞移植片の腫瘍成長曲線をプロットする表在腫瘍体積の測定である。(c)接種後39日目に屠殺したマウスから得られた腫瘍重量である。(d)異なる処置によるマウスからの腫瘍切片のマッソントリクローム染色である。(e)PANC-1+EndoMT細胞移植片を皮下接種し、コントロールIgG、コントロールIgGとゲムシタビンとを加えたもの又はHH01抗体とゲムシタビンとを加えたもので処置したマウスの血清HSP90αレベルである。
【
図7】
図7は、K-Ras
G12D誘導性線維形成性マウスPDACモデルにおけるHH01抗体の治療的有効性の評価を示すグラフのセットである。(a)K-Ras
G12D誘導性線維形成性マウスPDACモデルにおける治療的HH01投与スケジュールを示す概略図である。(b)コントロールIgG及びHH01抗体でそれぞれ処置したLSL-KrasG12D/Pdx1-Creマウスのカプランマイヤー生存曲線である。(c)コントロールIgG又はHH01抗体で処置したLSL-KrasG12D/Pdx1-Creマウスからの膵臓及び肝臓の例並びにそれらの線維形成レベルである。(d)コントロールIgG又はHH01抗体で処置したLSL-KrasG12D/Pdx1-Creマウスの血清HSP90αレベルである。
【
図8】
図8は、有意な腫瘍促進活性を示すeHSP90α誘導性M2型マクロファージを示すグラフのセットである。(a及びb)rHSP90α処置マクロファージによるPanc02細胞移植片の腫瘍成長の促進である。Panc02細胞を、単独又は100ng/mlのLPS若しくは15μg/mlのrHSP90αで24時間の前処置をしたBMDMとともに、C57BL/6マウスに皮下注入した(群あたりn=6)。発生する腫瘍のサイズを、バーニアキャリパーを用いて表面的に測定し、それらの体積を1/2×長さ×幅
2の式で計算した(a)。接種後28日目にマウスを屠殺し、腫瘍を除去した(b)。@は、「Panc02」又は「Panc02+BMDM」と比較した場合、P<0.01である。(c)(「Panc02」群として指定された)Panc02細胞単独又は(それぞれ「Panc02+BMDM」群、「Panc02+LPS処置BMDM」群及び「Panc02+rHSP90α処置BMDM」群として指定された)PBS処置、LPS処置若しくはrHSP90α処置BMDMと混合したPanc02細胞によって形成された腫瘍からのF4/80、CD163、CD4及びCD8の免疫組織化学染色分析である。H/Eは、ヘマトキシリン・エオジン染色である。(d)「Panc02」、「Panc02+BMDM」、「Panc02+LPS処置BMDM」及び「Panc02+rHSP90α処置BMDM」細胞移植片由来の腫瘍のDAPI染色組織切片である。
【
図9】
図9は、M2-マクロファージ増悪性マウスPDACモデルにおけるHH01抗体の治療的有効性の評価を示すグラフのセットである。(a)我々のM2-マクロファージ増悪性マウスPDACモデルにおける治療的HH01投与スケジュールを示す概略図である。(b)コントロールIgG及びHH01抗体でそれぞれ処置したマウスからのM2-マクロファージ関与性Panc02細胞移植片の腫瘍成長曲線をプロットする表在腫瘍体積の測定である。(c)接種後42日目に屠殺したマウスから得られた腫瘍重量である。(d)Panc02+M2-マクロファージ細胞移植片を皮下接種し、コントロールIgG又はHH01抗体で処置したマウスの血清HSP90αレベルである。(e)コントロールIgG及びHH01抗体で処置したマウスの腫瘍からのCD163、CD204、CD4及びCD8の免疫組織化学染色分析である。H/Eは、ヘマトキシリン・エオジン染色である。
【
図10】
図10は、コントロールIgG及びHH01抗体で処置したマウスの腫瘍からのF4/80、iNOS、アルギナーゼ1、CD4、CD8及びTNF-αの免疫組織蛍光染色分析を示すグラフのセットである。(a及びb)(矢印で示す)F4/80
+iNOS
+細胞の増加及び(矢印で示す)F4/80
+アルギナーゼ1
+細胞の低下は、HH01処置マウスの腫瘍組織から観察された。(c)(矢印で示す)CD4
+TNF-α
+細胞の増加は、HH01処置マウスの腫瘍組織から観察された。(d)(白色の矢印で示す)CD8
+TNF-α
+細胞の増加は、HH01処置マウスの腫瘍組織から観察された。
【発明を実施するための形態】
【0031】
eHSP90αなどのHSP90αに結合する新規の抗体が、ここに記載される。
【0032】
単離抗体は、235AEEKEDKEEE244及び251ESEDKPEIED260領域にアミノ酸配列EDKを含むHSP90αエピトープに特異的に結合可能な新規のCDRを含み得る。
【0033】
単離抗体は、配列番号2又は配列番号12の重鎖可変領域配列の重鎖相補性決定領域CDR1、CDR2及びCDR3並びに配列番号7又は配列番号17の軽鎖可変領域配列の軽鎖相補性決定領域CDR1、CDR2及びCDR3を備え得る。
【0034】
一態様では、重鎖CDR1、CDR2及びCDR3は配列番号2によるものであり、軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3は配列番号7によるものであり得る。いくつかの実施形態では、単離抗体は、配列番号2の配列と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)同一である重鎖可変領域及び配列番号7の配列と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)同一であり得る軽鎖可変領域を含み得る。いくつかの実施形態では、重鎖CDR1は配列番号3の配列を有し、重鎖CDR2は配列番号4の配列を有し、重鎖CDR3は配列番号5の配列を有し、軽鎖CDR1は配列番号8の配列を有し、軽鎖CDR2は配列番号9の配列を有し、軽鎖CDR3は配列番号10の配列を有し得る。いくつかの実施形態では、配列番号2の配列と少なくとも80%同一である重鎖可変領域及び配列番号7の配列と少なくとも80%同一である軽鎖可変領域を含む抗体をコードする核酸配列を含む核酸分子も提供され得る。いくつかの実施形態では、核酸分子は、重鎖可変領域をコードするための配列番号1の配列と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)同一である配列及び軽鎖可変領域をコードするための配列番号6の配列と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)同一である配列を含み得る。
【0035】
配列番号1~配列番号10の配列を以下の表1に列挙する。
表1:クローン2抗HSP90α抗体
【表1】
【0036】
一態様では、重鎖CDR1、CDR2及びCDR3は配列番号12によるものであり、軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3は配列番号17によるものであり得る。いくつかの実施形態では、単離抗体は、配列番号12の配列と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)同一である重鎖可変領域及び配列番号17の配列と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)同一であり得る軽鎖可変領域を含み得る。いくつかの実施形態では、重鎖CDR1は配列番号13の配列を有し、重鎖CDR2は配列番号14の配列を有し、重鎖CDR3は配列番号15の配列を有し、軽鎖CDR1は配列番号18の配列を有し、軽鎖CDR2は配列番号19の配列を有し、軽鎖CDR3は配列番号20の配列を有し得る。いくつかの実施形態では、配列番号12の配列と少なくとも80%同一である重鎖可変領域及び配列番号17の配列と少なくとも80%同一である軽鎖可変領域を含む抗体をコードする核酸配列を含む核酸分子も提供され得る。いくつかの実施形態では、核酸分子は、重鎖可変領域をコードするための配列番号11の配列と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)同一である配列及び軽鎖可変領域をコードするための配列番号16の配列と少なくとも80%(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)同一である配列を含み得る。
【0037】
配列番号11~配列番号20の配列を以下の表2に列挙する。
表2:HH01抗HSP90α抗体
【表2】
【0038】
本抗体は、HSP90αに特異的に結合し得る。より具体的には、本抗体は、他の非HSP90αタンパク質よりも高い親和性でHSP90αに結合し得る。さらに、重鎖又は軽鎖の可変領域のCDRは、当技術分野で公知の任意の方法によって決定され得る。
【0039】
ここに記載される抗体は、eHSP90αに対して高い結合親和性を示す。したがって、ここに記載される抗体は、腫瘍成長をさらに抑制し又は腫瘍サイズを低下させるように、腫瘍内の線維形成を阻害し得る。
【0040】
ここに開示される抗体の配列及びそれらのCDRに基づいて、当業者は、当技術分野で公知の任意の方法を用いて、種々の形態における抗HSP90α抗体を作製してもよく、作製された抗HSP90α抗体は、アミノ酸235~244及びアミノ酸251~260領域に2個のEDK部位を含むHSP90αエピトープに特異的に結合し得る。
【0041】
HSP90αエピトープの配列に基づいて、合成ペプチドは、eHSP90αの腫瘍促進機能を競合的に抑制し得る。
【0042】
ここに用いられる用語「抗体」は、抗原結合活性を有する種々の抗体構造物を含む。例えば、抗体は、Fc領域、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、一本鎖抗体、scFV多量体、モノクローナル抗体、一価抗体、多重特異性抗体、ヒト化抗体又はキメラ抗体を含む抗体を含み得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、抗体はヒト化抗体である。
【0043】
ここに記載される抗体を含む薬学的組成物も、ここに記載される。薬学的組成物は、ここに記載される単離抗体及び薬学的に許容可能な担体を含む。
【0044】
ここに記載される抗体をコードすることが可能な核酸分子を含む薬学的組成物も、ここに記載される。薬学的組成物は、ここに記載される抗体をコードすることが可能な核酸分子及び薬学的に許容可能な担体を含む。
【0045】
用語「薬学的に許容可能な担体」は、担体が有効成分と適合性がある(例えば、抗体を安定化させることが可能である)べきであり、処置される被検体に有害であってはならないことを意味する。担体は、活性剤、補助剤、分散剤、湿潤剤及び懸濁化剤からなる群から選択される少なくとも1個であり得る。担体の例は、微結晶セルロース、マンニトール、グルコース、脱脂粉乳、ポリエチレン、ポリビニルプロリドン、デンプン又はそれらの組合せであり得るが、これらに限定されない。
【0046】
抗体、核酸分子又はそれらの1以上を含む薬学的組成物は、被検体に経口的に、非経口的に、吸入スプレーによって、局所的に、経直腸的に、経鼻腔的に、経口腔的に又は埋込型リザーバーを介して投与され得る。ここに用いられるような用語「非経口的」は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、関節滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、病巣内及び頭蓋内注入又は点滴技術を含む。
【0047】
癌を処置するための医薬品の製造のための抗体又は核酸分子の使用も、ここに記載される。
【0048】
被検体における癌を処置する方法であって、有効量のここに記載される抗体又は核酸分子を被検体に投与するステップを備える方法も、ここに記載される。
【0049】
癌の例は、膀胱癌、骨癌、脳腫瘍、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、子宮内膜癌、食道癌、白血病、肝臓癌、リンパ腫、腎臓癌、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、基底細胞癌、扁平上皮癌及び黒色腫を含む皮膚癌、小腸癌、胃癌、胸腺癌並びに甲状腺癌を含み得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、癌は、線維形成の特徴を有し、特に、線維形成は、腫瘍細胞内又はその周囲に見られ得る。いくつかの実施形態では、癌は、膵臓癌、結腸癌、乳癌、肝臓癌又は肺癌であり得る。
【0050】
ここに記載される抗体は、癌の線維形成、免疫抑制、成長及び転移を阻害し得る。
【0051】
用語「被検体」は、ヒト又は非ヒト動物をいう。
【0052】
用語「処置している」、「処置する」又は「処置」は、疾患、症状又は素因を治癒し、軽減し、緩和し、改変し、修正し、改善し又はそれらに影響を与える目的で、抗体、核酸分子又は薬学的組成物を被検体に適用又は投与することをいう。「有効量」は、被検体に所望の効果を与えるのに必要な抗体又は核酸分子の量をいう。当業者によって認識されるように、有効量は、投与経路、賦形剤の使用及び他の活性剤の使用などの他の治療的な処置との併用の可能性に応じて変化する。
【0053】
本開示の1以上の実施形態の詳細を、以下の説明において述べる。本開示の他の特徴、目的及び有利な効果は、詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかとなる。
【実施例】
【0054】
さらなる詳述なしに、当業者であれば、上記説明に基づいて、本開示をその最大限に利用し得ると考えられる。したがって、以下の具体的な実施例は、単なる例示として解釈されるべきであり、いずれにしても開示の残りを限定するものではない。ここに引用されるすべての刊行物は、その全体において参照によって取り込まれる。
【0055】
材料及び方法
細胞培養
ヒトPDAC細胞株PANC-1を、10%のウシ胎児血清(FBS)並びに100単位/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン及び2mMのL-グルタミンの混合物(1×PSG)を補足したDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)で、37℃かつ5%のCO2の加湿インキュベーター内で培養した。ヒトPDAC細胞株BxPC-3、ヒトCRC細胞株SW620及びマウスPDAC細胞株Panc02を、RPMI-1640培地に10%のFBS及び1×PSGを加えたもので、5%のCO2及び95%の空気の雰囲気中で37℃でインキュベーションした。同じ成長条件下で、ヒトCRC細胞株LoVoを20%のFBS及び1×PSG含有Ham’s F-12培地中で維持し、ヒト網膜色素上皮細胞株ARPE-19(ATCC CRL-2302(商標);American Type Culture Collection、米国、バージニア州、マナッサス)を10%のFBS及び1×PSGを補足したATCC-formulated DMEM:F12培地(cat.#30-2006、ATCC)中で培養した。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を単離し、20%のFBS、100単位/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン及び30μg/mlの内皮細胞成長補足物(EMD Millipore社、米国、マサチューセッツ州、ビレリカ)を含むM199培地で、37℃かつ5%のCO2の加湿インキュベーター内で成長させた。Fan CS、Chen LL、Hsu TA他、Endothelial-mesenchymal transition harnesses HSP90α-secreting M2-macrophages to exacerbate pancreatic ductal adenocarcinoma.J Hematol Oncol 2019年;12:138参照。EndoMT誘導のために、HUVECを2%のFBS含有M199培地で16時間プレインキュベーションし、そして0.3μg/mlのOPNを添加し、さらに24時間インキュベーションした。マウス内皮細胞株3B-11(ATCC CRL-2160(商標))を10%のFBS及び1×PSGを補足したRPMI-1640培地中で成長させた。EndoMT誘導のために、3B-11細胞を、1%のFBS含有RPMI-1640培地を代わりに用いた以外はHUVECと同様に処置した。マウス骨髄由来マクロファージ(BMDM)を前述のように調製し、DMEMに10%のFBS及び1×PSGを加えたものにおいて培養した。Fan CS、Chen LL、Hsu TA他、Endothelial-mesenchymal transition harnesses HSP90α-secreting M2-macrophages to exacerbate pancreatic ductal adenocarcinoma.J Hematol Oncol 2019年;12:138参照。
【0056】
マウスモデル
マウス実験は、National Health Research InstitutesのInstitutional Animal Care and Use Committeeの許可により行った(NHRI-IACUC-106031-A、109022-M2-S02及び109196-A)。線維形成性腫瘍移植モデルを確立するため、12週齢のC57BL/6マウスに、Panc02細胞及びEndoMT由来CAF(すなわち、OPN処置3B-11細胞)の混合物を皮下接種した。Fan CS、Chen LL、Hsu TA他、Endothelial-mesenchymal transition harnesses HSP90α-secreting M2-macrophages to exacerbate pancreatic ductal adenocarcinoma.J Hematol Oncol 2019年;12:138及びChua KV、Fan CS、Chen LL、Chen CC、Hsieh SC、Huang TS、Octyl gallate induces pancreatic ductal adenocarcinoma cell apoptosis and suppresses endothelial-mesenchymal transition-promoted M2-macrophages,HSP90α secretion,and tumor growth.Cells 2020年;9(1):91参照。さらなるマウスの処置及びスケジュールは、図面及び関連テキストに示した通りであった。発生する腫瘍のサイズを、バーニアキャリパーで表面的に測定し、腫瘍体積を1/2×長さ×幅2の式で計算した。マウスを屠殺した場合、実際の腫瘍を重量測定した。ヒト化マウスにおける線維形成性腫瘍移植モデルを確立するために、ヒト造血幹細胞(hHSC)を移植したNOD-SCID IL2Rnull(ASID)マウスに、PANC-1細胞及びOPN処置HUVECの混合物を皮下接種した。採用されたhHSC移植ASIDマウスは、National Laboratory Animal Center(台湾、台北)で生産され、いずれも全リンパ球の38%超のヒトCD45+細胞レベルを含んでいた。M2-マクロファージ増悪性マウスPDACモデルを確立するため、C57BL/6マウスにPanc02細胞及びrHSP90α処置BMDMの混合物を皮下接種した。さらなるマウスの処置及びスケジュールは、図面及び関連テキストに示した通りであった。さらに、LSL-KrasG12D/Pdx1-Creトランスジェニックマウスを、自発的PDAC発症マウスモデルとして採用してHH01抗体の治療的有効性を評価した。LSL-KrasG12D及びPdx1-Creブリーダーマウスを、National Cancer InstituteのMouse Models of Human Cancers Consortium Repository(米国、メリーランド州、フレデリック)から得た。LSL-KrasG12DマウスをPdx1-Creマウスと交配させてLSL-KrasG12D/Pdx1-Creマウスを作製した。さらなるマウスの処置を、図面及び関連テキストに示すように行った。
【0057】
ウェスタンブロット分析
マウスハイブリドーマを、従来のプロトコルに従って732アミノ酸(a.a.)の組換え完全長ヒトHSP90α(rHSP90α;PeproTech社、米国、ニュージャージー州、クランベリー)で免疫したマウスから生成した。Yokoyama WM、Production of monoclonal antibody supernatant and ascites fluid.Curr Protoc Mol Biol 2008年;83:11.10.1-11.10.10参照。次に、ウェスタンブロット分析の一般的な手順を採用してハイブリドーマを予備的にスクリーニングした。Fan CS、Chen LL、Hsu TA他、Endothelial-mesenchymal transition harnesses HSP90α-secreting M2-macrophages to exacerbate pancreatic ductal adenocarcinoma.J Hematol Oncol 2019年;12:138参照。ハイブリドーマの培養培地を採取して電気泳動後のSDS-ポリアクリルアミドゲルからブロッティングしたHSP90α及び分子量マーカータンパク質を含む膜ストリップと反応させた。PBSに0.05%のTween-20(PBST)を加えたもので2回洗浄した後、膜ストリップをホースラディッシュペルオキシダーゼ標識2次抗体で1時間インキュベーションした。PBSTでの3回の洗浄に続いて、0.015%のH2O2中の0.3mg/mlの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(Sigma-Aldrich社、米国、ミズーリ州、セントルイス)との反応後、免疫反応性タンパク質のバンドが目視可能となった。
【0058】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)
調製した抗体のHSP90α結合活性をアッセイするために、96ウェルプレートを、捕捉緩衝液(BioLegend社、米国、カリフォルニア州、サンディエゴ)中の12.5ng/mlのrHSP90αで、4℃での一晩のインキュベーションによってコーティングした。コーティングしたプレートをPBSTで2回洗浄し、そして、PBSTに3%のウシ血清アルブミン(BSA)を加えたものでブロッキングした。調製した抗体を付加し、室温で2時間インキュベーションした。PBSTで3回洗浄した後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識2次抗体を添加し、37℃でさらに1時間インキュベーションした。3回の洗浄後、0.015%のH2O2中の0.3mg/mlの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンを各ウェルに添加し、暗所で室温で10分間インキュベーションした。反応を0.5MのH2SO4の添加によって停止させ、OD450値をInfinite M200マイクロプレートリーダー(TECAN社、スイス、メンネドルフ)によって測定した。さらに、抗HSP90α抗体の免疫グロブリン(IgG)アイソタイプの特性評価を、Mouse Ig Isotyping ELISA Ready-Set-Go!(商標)Kit(eBioscience(商標)、Thermo Fisher Scientific社、米国、マサチューセッツ州、ウォルサム)を用いることによって行った。ELISAのプロトコルを、以前に説明したように、マウス血清サンプルの分泌されたHSP90αレベルのアッセイにも用いた。Chen JS、Hsu YM、Chen CC、Chen LL、Lee CC、Huang TS、Secreted heat shock protein 90α induces colorectal cancer cell invasion through CD91/LRP-1 and NF-κB-mediated integrin αV expression.J Biol Chem 2010年;285(33):25458-66参照。
【0059】
近接ライゲーションアッセイ(PLA)
ガラスカバースリップに、22×22mmのカバースリップあたり2×105個の細胞の密度で播種したPANC-1細胞を、0.5%の血清含有培地で37℃でかつ5%のCO2の加湿雰囲気で16時間インキュベーションした。そして、細胞に、10μg/mlのコントロールIgG又は試験される抗HSP90α抗体の非存在下又は存在下で、PBS又は15μg/mlのrHSP90αを添加し、さらに24時間インキュベーションした。そして、処置した細胞を3%のパラホルムアルデヒドで固定し、Duolink in situ PLA kit(Olink Bioscience社、スウェーデン、ウプサラ)において提供されるブロッキング溶液でブロッキングした。さらに、細胞サンプルを、抗HSP90α抗体(1:80、cat.#AHP-1339、AbD Serotec社、米国、ノースカロライナ州、ローリー)又は抗IKKα抗体(1:80、cat.#3285、Epitomics社、米国、カリフォルニア州、バーリンゲーム)と混合した抗CD91抗体(1:80、cat.#550495、BD Biosciences社、米国、カリフォルニア州、サンノゼ)とともに、4℃で一晩インキュベーションした。トリス緩衝生理食塩水に0.05%のTween20を加えたもので2回洗浄した後、Duolink in situ PLA kitの製造業者の指示に従って、細胞サンプルを後続のライゲーション及び増幅の手順のためのPLAプローブとともにインキュベーションした。最後に、核を4’,6’-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI、Sigma-Aldrich社)で対比染色した。画像を、Leica TCS SP5II共焦点顕微鏡及びLAS AF Lite 4.0ソフトウェア(Leica社、ドイツ、ヴェッツラー)を用いて撮影及び分析した。
【0060】
トランスウェル浸潤アッセイ
37℃かつ5%のCO2の加湿インキュベーター内で、癌細胞を0.5%のFBS含有培地中で16時間の血清飢餓にさせ、そして、10μg/mlのコントロールIgG又は試験される抗HSP90α抗体の非存在下又は存在下で、PBS又は15μg/mlのrHSP90αを添加した。さらに24時間後、処置した細胞を0.5%のFBS含有培養培地におけるアリコートとして収穫し(1アリコートあたり1×105個の細胞)、そして、各アリコートを5倍希釈したMatrigel(BD Biosciences社)でプレコーティングしたトランスウェルのインサートの上部チャンバーに播種した。細胞を、Matrigelを通じて培養培地に10%のFBSを加えたものを含む底部チャンバーへと16時間浸潤させた。そして、トランスウェルのインサートのフィルターを固定し、ギムザで染色した。フィルター下側の浸潤細胞をAxiovert S100/AxioCam HR顕微鏡システム(Carl Zeiss社、ドイツ、オーバーコッヘン)を用いて撮影し、Image-Pro Plusソフトウェア(Media Cybernetics社、米国、メリーランド州、シルバースプリング)によってさらに定量化した。
【0061】
細胞スフェロイド形成アッセイ(細胞自己再生活性アッセイ)
厚さ4mmの0.5%のアガロース層でプレコーティングした24ウェルプレートの各ウェルに1000個の癌細胞を播種した。無血清培地で、37℃でかつ5%のCO2の加湿雰囲気で24時間のインキュベーション後、細胞に、10μg/mlのコントロールIgG又は試験される抗HSP90α抗体の非存在下又は存在下で、PBS又は15μg/mlのrHSP90αを添加した。インキュベーションを、3日ごとの新鮮な無血清培地の補足により10~14日間にわたって維持した。最後に、密着した、付着していない、かつ100μmより大きい直径によって特性付けられる細胞スフェロイドをOlympusIX71倒立顕微鏡(米国、ペンシルベニア州、センターバレー)で撮影及び計数した。スフェロイド形成%を、式:(細胞スフェロイド数/1000)×100%によって計算した。
【0062】
ハイブリドーマ細胞からのマウス抗体遺伝子のクローニング及び配列決定
トータルRNAを、抗HSP90α IgG産生マウスハイブリドーマ細胞から単離し、逆転写酵素とランダムヘキサマーとを加えたものによってcDNAに変換した。Mouse Ig-Primer Set(Sigma-Aldrich社)をIgG重鎖(H)及び軽鎖(L)の可変ドメイン(すなわち、VH及びVLドメイン)のPCR増幅のために用いた。PCR産物をCloneJET PCR cloning kit(Thermo Fisher Scientific社)において供給されるpJET1.2/bluntクローニングベクターにクローニングし、続けてクローン選択及びDNA配列分析を行った。
【0063】
組換え抗体の構築及び発現
IgG VH及びVLドメインのcDNA配列を、GeneDireX社(台湾、桃園)によって合成し、pFUSEss-CHIg-hG1e1及びpFUSE2ss-CLIg-hkプラスミド(InvivoGen社、米国、カリフォルニア州、サンディエゴ)に、H及びL鎖の定常ドメイン(すなわち、CH及びCLドメイン)をコードする領域の直前の部位にそれぞれ挿入した。pFUSEss-CHIg-hG1e1クローニングについて、VH cDNAをヒトIL-2シグナル配列の後のEcoRI-NheI部位に挿入し、Q250T、E356D、M358L及びL428M残基に突然変異を有するFcフラグメントを含む組換えタンパク質を発現させた。一方、VLドメインのcDNAを、EcoRI及びBsiWIによる消化後、pFUSE2ss-CLIg-hkプラスミドに挿入した。組換えIgG H及びL鎖をコードする組換えDNA配列を、hIgHG-F/hIgHG-R及びCLIg-F/CLIg-Rプライマーを用いてさらに増幅し、そして、それぞれpcDNA3.4-TOPOプラスミド(Thermo Fisher Scientific社)に挿入した。最後に、ExpiCHO細胞に、H鎖及びL鎖をコードする組換えpcDNA3.4-TOPOプラスミドを2:3の比によってコトランスフェクションした。トランスフェクションされたExpiCHO細胞の培地を、8~10日間の培養後に収穫した。組換え抗体をGibco(商標)ExpiCHO(商標)Expression System(Thermo Fisher Scientific社)のプロテインAカラムによって精製した。
【0064】
抗体のヒト化及び最適化
マウスモノクローナル抗体のF(ab’)2領域を、計算手法を活用してヒト化させ、すべての計算をDiscovery Studio 2018ソフトウェア(BIOVI社、米国、カリフォルニア州、サンディエゴ)によって行った。相補性決定領域(CDR)を、公表された方法によって同定した。Kabat EA、Wu TT、Perry HM、Gottesman KS、Foeller C、Sequences of proteins of immunological interest.U.S.Department of Health and Human Services、NIH、Bethesda、MD、1991年参照。VL及びVHドメインの3次元(3D)構造を、それぞれPdbID:4X0K及びPdbID:4Y5XのX線テンプレートによってモデリングした。Johnson JL、Entzminger KC、Hyun J、Kalyoncu S、Heaner DP、Morales Jr IA、Sheppard A、Gumbart JC、Maynard JA、Lieberman RL、Structural and biophysical characterization of an epitope-specific engineered Fab fragment and complexation with membrane proteins:implications for co-crystallization.Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 2015年;71:896-906及びMoraga I、Wernig G、Wilmes S、Gryshkova V、Richter CP、Hong WJ、Sinha R、Guo F、Fabionar H、Wehrman TS、Krutzik P、Demharter S、Plo I、Weissman IL、Minary Majeti PR、Constantinescu SN、Piehler J、Garcia KC、Tuning cytokine receptor signaling by re-orienting dimer geometry with surrogate ligands.Cell 2015年;160:1196-1208参照。さらなる3次元構造計算のために、マウス抗体のCDRをインハウスのヒトテンプレート内に移植した。組換え抗体を改善する突然変異の提案に関して、計算は、凝集、翻訳後修飾、プロテアーゼ切断、薬物動態及び安定性の側面を含んだ。
【0065】
HSP90α結合親和性アッセイ
抗HSP90α抗体のHSP90α結合特性を測定するために、Biacore T200(Cytiva社、米国、マサチューセッツ州、マールボロ)を用いて結合動態アッセイを行った。関心となる抗HSP90α抗体を、リガンドとしてプロテインAシリーズSセンサーチップに約3000~5000反応単位に達するように適用した。HBS-EP+緩衝液中の一連の濃度のrHSP90α(1.5625~100nM)をチップ表面にわたって注入した。結合を60秒間モニタリングし、最終的な解離時間は1500秒であった。
【0066】
網膜細胞毒性アッセイ
ARPE-19細胞をウェルあたり4000個の細胞の密度で96ウェルプレート上に播種し、そして、種々の濃度の17-AAG又は抗HSP90α抗体HH01でトリプリケートで72時間処置した。3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-5-(3-carboxymethoxyphenyl)-2-(4-sulfophenyl)-2H-tetrazolium)(MTS;Sigma-Aldrich社)アッセイを採用し、OD490を測定して各処置における細胞生存能力を評価した。
【0067】
薬物動態アッセイ
抗HSP90α抗体HH01の薬物動態プロファイルを、Bltw:CD1(ICR)雄マウス(BioLASCO Taiwan社、台湾、台北)において検討した。マウスあたり25~30gの体重を有するマウス(n=5)に、10mg/kgのHH01抗体を静脈内注入した。餌及び水は、常に自由に摂取可能とした。HH01抗体の血清曝露レベルの決定のために、血液サンプルを、投与後0.04、0.08、0.25、1、2、3、7、9、14、16、18、21、23、25、35、42、49、56及び63日目に採取した。これらのサンプルについて、ELISA kit(Cayman Chemical社、米国、ミシガン州)によってヒトIgG1レベルをさらに測定してマウス血清中に残存するHH01レベルを表した。
【0068】
完全長及び切断されたHSP90αのクローニング、発現及び精製
完全長HSP90α(a.a.1~732)並びにN末端とリンカードメインとを加えたもの(a.a.1~272)、N末端からミドルドメイン(a.a.1~629)及びC末端ドメイン(a.a.630~732)を含むその3個の切断されたフラグメントをクローニングし、発現させ、精製した。簡潔には、8×Hisタグを有する各cDNA配列を、XhoI及びBamHI部位を含むプライマーで、ヒトORFクローン(NM_005348)からPCRによって増幅した。PCR産物を精製し、制限酵素で消化し、そして、pET-23aプラスミド(Sigma-Aldrich社)に挿入した。そして、組換えプラスミドをEscherichia coli ClearColi(登録商標)コンピテント細胞(Lucigen社、米国、ウィスコンシン州、ミドルトン)にトランスフォーメーションし、組換え構築物の発現をイソプロピル-D-チオガラクト-ピラノシドの添加によって刺激した。発現したヒスチジンタグ付けされた完全長及び切断されたHSP90αを、製造業者の指示に従ってNi-NTAカラム(Qiagen社、米国、メリーランド州、ジャーマンタウン)を用いることによってさらに精製した。精製したタンパク質を、25mMのTris-HCl(pH、7.0)、50mMのNaCl、0.1%のTritonX-100、50%のグリセロール、1mMのEDTA及び1mMのDTTからなる保存緩衝液に対して最終的に透析し、タンパク質濃度をBradford protein assay(Bio-Rad Laboratories社、米国、ハーキュリーズ)によって決定した。
【0069】
エピトープの決定
最初に、ドメインスキャニング戦略を用いて、我々の調製した抗体との結合に関与するHSP90α領域をおおよそ明確にした。上記の完全長HSP90α及びその3個の切断されたフラグメントを採用して、試験されるマウスモノクローナル抗体の結合活性をアッセイするために96ウェルELISAプレートにコーティングした。結果は、試験されるマウスモノクローナル抗体がHSP90αのa.a.1~272領域に結合することを示唆した。したがって、ペプチドスキャニング戦略では、HSP90αのa.a.21~272領域の配列にまたがるように2個のa.a.ずつオフセットする一連の10-a.a.のペプチドからなる132個のペプチドのライブラリーをMimotopes Pty社(オーストラリア、ビクトリア州、メルボルン)によって合成した。この一連のペプチドを用いて、試験される抗体の結合活性をアッセイするために96ウェルELISAプレートをコーティングした。ペプチドスキャニングの結果によって示唆される配列に基づいて、アラニンスキャニング戦略をさらに採用していずれのa.a.残基が試験される抗体の結合に重要であるかを調べた。ペプチドスキャニングアッセイの結果は、試験される抗体と結合するエピトープとしてHSP90αの235AEEKEDKEEE244及び251ESEDKPEIED260を示唆し、したがって、19個のペプチドを、各a.a.をアラニンによって順次置換して合成した(Genozyme Biotech社、台湾、台北)。これらのペプチドに、上記のようにELISAを行った。
【0070】
マッソントリクローム染色
マウスパラフィン包埋組織切片をキシレンによって脱パラフィン化し、一連のエタノール希釈物によって再水和した。マッソントリクローム染色を、Trichrome Stain Kit(ScyTek Laboratories社、米国、ユタ州)を用いて、製造業者のプロトコルに従って行った。染色した切片を、段階的なエタノール溶液及びキシレン中で脱水し、最終的に封入溶液で、暗所で一晩、室温で封入した。切片を、Axiovert S100/AxioCam HR顕微鏡システムを用いて観察及び撮影した。
【0071】
免疫組織化学染色
4μmの厚さを有するマウス組織切片を、キシレンによって脱パラフィン化し、段階的なエタノール希釈物中で再水和した。抗原賦活化を、10mMのクエン酸緩衝液中でpH6.0において高圧下で切片を15分間加熱することによって行った。内因性ペルオキシダーゼ活性を0.3%のH2O2によってブロッキングした。染色前に、切片を、PBSに3%のBSAを加えたものによって加湿チャンバー内で室温で30分間ブロッキングした。次いで、抗F4/80抗体(1:100、cat.#MCA497R、AbD Serotec社)、抗CD163抗体(1:80、cat.#sc-33560、Santa Cruz Biotechnology社、米国、カリフォルニア州、サンタクルーズ)、抗CD204抗体(1:100、cat.#GTX51749、GeneTex社、台湾、新竹市)、抗CD4抗体(1:100、cat.#GTX44531、GeneTex社)又は抗CD8抗体(1:100、cat.#GTX16696、GeneTex社)を付加し、4℃で一晩インキュベーションした。洗浄した後、2次抗体を付加し、室温で30分間インキュベーションした。切片をDAKO REAL EnVision Detection System(デンマーク、グロストルプ、Produktionsvej 42、DK-2600)を用いてさらに検出し、ヘマトキシリンで対比染色した。染色した切片を脱水し、封入溶液で封入し、最終的にAxiovert S100/AxioCam HR顕微鏡システムを用いて観察及び撮影した。
【0072】
免疫組織蛍光染色
マウスの組織切片を、上記のように脱パラフィン化、再水和及び抗原賦活化した。切片をPBSに5%のBSAを加えたものによって加湿チャンバー内で室温で30分間ブロッキングした。次いで、3個の抗体セットを付加し、それぞれ4℃で一晩インキュベーションした。抗体セット1は、抗F4/80抗体(1:100、cat.#MCA497R、AbD Serotec社)、抗iNOS抗体(1:100、cat.#GTX15323、GeneTex社)及び抗アルギナーゼI抗体(1:50、cat.#sc-271430、Santa Cruz Biotechnology社)から構成された。抗体セット2は、抗CD4抗体(1:100、cat.#GTX44531、GeneTex社)及び抗TNF-α抗体(1:75、cat.#sc-52746、Santa Cruz Biotechnology社)を含んでいた。抗体セット3は、抗CD8抗体(1:100、cat.#GTX16696、GeneTex社)及び抗TNF-α抗体(1:75、cat.#sc-52746、Santa Cruz Biotechnology社)から構成されていた。洗浄した後、それぞれの蛍光標識2次抗体を付加し、室温でさらに1時間インキュベーションした。核をDAPIで染色した。最終的に、切片を、Leica TCS SP5 II共焦点顕微鏡及びLAS AF Lite4.0ソフトウェアを用いて観察、撮影及び分析した。
【0073】
結果
マウス抗HSP90αモノクローナル抗体の調製及び特性評価
6個のハイブリドーマクローンは、組換えヒトHSP90α(rHSP90α)で免疫したマウスに由来した。それらの培養上清を、標準的なウェスタンブロッティング及びELISAプロトコルを用いてHSP90αへの結合活性をアッセイするために採取した。クローン5を除くこれらのハイブリドーマによって産生された抗体は、抗原rHSP90αに結合することが示された(
図1(a))。結合活性をELISAによってさらに定量化し、クローン2及びクローン6が、上位2つのHSP90α結合レベルを示し、したがって、次のアッセイのために選択された(
図1(b))。2個のクローンの抗体を精製し、双方を、κ軽鎖を含むIgG2bアイソタイプの免疫グロブリンとして同定した(
図1(c))。それらは、eHSP90αの、その細胞表面受容体CD91との結合及びCD91の下流でのIKKαとの結合を効率的にブロッキングした(
図1(d))。所与のeHSP90αは、癌細胞EMTの誘導、遊走、浸潤及び幹細胞性獲得のような複数のメカニズムを通じてその癌促進効果を発揮する。以前の研究と一貫して、我々のトランスウェル浸潤アッセイはrHSP90αが癌細胞の浸潤性の強力な誘導物として作用し(
図1(e))、rHSP90α誘導性の癌細胞浸潤がクローン2及びクローン6の抗HSP90α抗体によって劇的に消失され得ることを明らかにした(
図1(f))。さらに、スフェロイド形成活性の増加によって反映されるrHSP90α誘導性癌細胞の幹細胞性獲得も、クローン2及びクローン6の抗体によって有意に阻害可能であった(
図1(g))。まとめると、我々のデータは、抗HSP90αモノクローナル抗体が潜在的にeHSP90α促進性の悪性腫瘍に対処するように開発され、使用され得ることを示唆した。
【0074】
クローン2抗HSP90α抗体のヒト化
次に、我々は、クローン2及びクローン6の抗HSP90α抗体のH及びL鎖のIgG可変ドメイン(すなわちV
H及びV
L)のcDNA配列をそれぞれクローニングし、分析した。cDNA配列及びコードするアミノ酸残基を、上記の表1及び表2に列挙した。クローン2を、ヒト化のためにさらに選択した。V
H及びV
LのDNA配列を合成し、プラスミドベクターに、H及びL鎖のヒトIgG定常ドメイン(すなわち、C
H及びC
L)を発現する領域の直前にそれぞれ挿入して「クローン2-キメラ」と呼ばれる組換えIgG1抗体を発現させた。さらに、我々は、コンピューター支援による構造モデリングの提案及び計算に従って、凝集、プロテアーゼ切断、翻訳後修飾、薬物動態及び安定性に関して抗体の特性を改善することを目的として、クローン2-hA、クローン2-hB及びクローン2-hCとして指定された3個のクローン2-キメラの突然変異体を構築した。突然変異部位を以下の表3に列挙した。これらの人工操作されたヒト化組換え抗体をExpiCHO細胞によって発現させ、精製後にHSP90α結合親和性について分析した。動態アッセイをBiacore T200を用いて行ってクローン2-キメラ、クローン2-hA、クローン2-hB及びクローン2-hC抗体のrHSP90αに対する結合特性を決定した(
図2(a))。クローン2-キメラ、クローン2-hA、クローン2-hB及びクローン2-hC抗体の平衡解離定数(K
D)値は、それぞれ0.94×10
-10、1.87×10
-10、1.48×10
-10及び1.47×10
-10Mとさらに計算され(
図2(b))、クローン2-hA、クローン2-hB及びクローン2-hC抗体における突然変異がクローン2-キメラのHSP90α結合親和性を有意には低減させないことを示唆した。
【表3】
【0075】
これらのヒト化抗HSP90α抗体の抗癌有効性を予備的に評価するため、我々は、rHSP90α誘導性のPDAC細胞浸潤及びスフェロイド形成に対するそれらの阻害活性をアッセイした。トランスウェル浸潤アッセイの結果は、ヒトPDAC PANC-1細胞のrHSP90α誘導性の浸潤性の抑制において、クローン2-キメラ及びクローン2-hAはクローン2-hB、クローン2-hC及びそれらの親クローン2よりも優れていることを示した(
図2(c))。スフェロイド形成アッセイでは、PANC-1細胞のrHSP90α誘導性スフェロイド形成の抑制において、クローン2-hAは、さらに最も優れた有効性を示した(
図2(d))。したがって、クローン2-hAを、さらなるin vitro及びin vivoアッセイのために、最終的に選択し、HH01抗体と名付けた。PBS中のHH01抗体の溶解度は10mg/mlよりも高く、Dynamic Light Scatteringアッセイは、HH01抗体が10~50nmの範囲による19.33nmの平均直径のサイズを有することを明らかにし(不図示)、HH01抗体が凝集体を形成しにくいことを示唆した。ゲルダナマイシン及びレゾルシノール誘導体を含む低分子のHSP90阻害剤の臨床使用が、それらがあるレベルまで網膜に蓄積した場合、網膜視細胞障害を引き起こすことを考慮して、我々は、HH01抗体が非癌性網膜細胞において毒性を示すか否かを、ARPE-19網膜色素上皮細胞の生存能力に対するHH01抗体の効果を調べることによってさらに評価した。
図2(e)に示すように、17-AAGは、ARPE-19細胞に対して64.7nMのIC
50で細胞毒性プロファイルを示し、一方で、HH01抗体は、その濃度が594.3nM(100μg/ml)に達した場合でも、ARPE-19細胞において明白な細胞毒性を引き起こさなかった。さらに、HH01抗体の薬物動態を雄マウスで調べ、それは、HH01抗体がマウス血液中では3×10
-3ml/min/kgでのクリアランス速度及び80ml/kgの定常状態における体積で18.4日の半減期(T
1/2)を有することを示した(
図2(f))。長い終末相T
1/2及び高い血清曝露レベルを示す結果並びに静脈内投薬をした後の結果は、HH01抗体がさらなる開発に適していることを明らかにした。
【0076】
HH01抗体のエピトープの同定
上記の表3に列挙するように、HH01抗体は、相補性決定領域(CDR)に新規アミノ酸(a.a.)配列を有して特異的にヒトHSP90αに結合可能であり、したがって、我々は、HSP90αのいずれの領域がHH01抗体によって結合されるかを同定することを意図した。予備的検討では、我々は、HSP90αドメインスキャニングの戦略を採用してクローン2抗体との結合に関与するHSP90α領域を明確にした。完全長HSP90α(a.a.1~732)並びにN末端とリンカードメインとを加えたもの(a.a.1~272)、N末端からミドルドメイン(a.a.1~629)及びC末端ドメイン(a.a.630~732)を含むその3個の切断されたフラグメントをクローニングし、発現させ、精製した。次いで、完全長及び切断されたHSP90αへのクローン2抗体の結合活性を、従来のELISA法によってアッセイした。結果は、クローン2抗体がa.a.1~272領域及び完全長タンパク質に結合することを示し(
図3(a))、クローン2抗体の結合エピトープがHSP90αのN末端及びリンカードメイン(a.a.1~272)内となり得ることを示唆した。さらに、ペプチドスキャニングの戦略を採用してクローン2-キメラ及びHH01抗体の結合エピトープを明確にした。ペプチドライブラリーを、任意の連続する2個のペプチド間に8-a.a.の重複を有する一連の10-a.a.ペプチドからなるように確立して、HSP90αのa.a.21~272領域の配列をスキャニングした。クローン2-キメラ及びHH01抗体の、この一連の10-a.a.ペプチドに対する結合活性をELISAによってアッセイした。結果は、クローン2-キメラ抗体の有力なエピトープ部位がHSP90αの
235AEEKEDKEEE
244及び
251ESEDKPEIED
260であることを明らかにした(
図3(b))。一貫して、これら2個の部位は、HH01抗体の結合エピトープとしても作用可能であった(
図3(c))。これら2個の部位の配列に基づいて、我々は、a.a.残基を順次アラニンで置換した10-a.a.ペプチドの2つのシリーズを合成した。アラニンスキャニングの戦略を採用してクローン2-キメラ及びHH01抗体のエピトープ部位への結合に重要なa.a.残基を調べた。結果は、E237、E239、K241、E253及びK255をアラニンで置換すると、クローン2-キメラ抗体のエピトープ部位への結合活性が劇的に低下することを示した(
図3(d))。さらに、もう1つのD240も、HH01抗体の結合に関与した(
図3(d))。上記のエピトープマッピングの結果により、我々は、HSP90αのa.a.227~272領域の配列を有するペプチドを合成した。このペプチドは、rHSP90α誘導性のPANC-1細胞浸潤(
図3(e))及びスフェロイド形成(
図3(f))を競合的に抑制し、エピトープ部位を含むHSP90α領域が新規抗癌戦略の標的となり得るということを裏付けた。
【0077】
線維形成性マウスPDAC移植モデルにおけるHH01抗体の予防的及び治療的有効性の評価
HH01抗体は、さらなるin vivo抗癌アッセイのものであった。我々の以前の研究では、EndoMT由来CAFは、膵臓腺癌Panc02細胞移植片の腫瘍成長を有意に助長した。マッソントリクローム染色の我々の結果は、EndoMT細胞関与性Panc02腫瘍がPanc02細胞単独由来の腫瘍では観察されなかった有意なレベルの線維形成を示すことをさらに明らかにした(
図4(a))。HH01抗体のin vivo抗癌活性を調べるため、我々は、マウス抗体を用いた以前のスケジュールに従い、EndoMT関与性マウスPDACモデルにおけるその癌防止活性をアッセイした。C57BL/6マウスに、Panc02細胞とEndoMT細胞とを加えたものを皮下接種した。接種後4日目に、マウスに1用量あたり5mg/kgのコントロールIgG又はHH01抗体を、3日間隔で8用量分さらに静脈内投与した(
図4(b))。
図4(c)に示すように、EndoMT関与性Panc02細胞移植片の腫瘍成長の動態は、HH01抗体によって強力に抑制された。すべてのマウスを接種後30日目に屠殺し、それらの腫瘍を重量測定するために取り出した。予想されたように、HH01処置は、Panc02+EndoMT細胞移植片の腫瘍サイズを有意に抑圧した(p<0.001、
図4(d))。腫瘍の線維形成も、HH01処置によって有意に防止された(
図4(e))。さらに、eHSP90αレベルの上昇が、我々の線維形成性マウスPDACモデルの血清中に検出され、マウスにおいて、血清HSP90αレベルが、HH01処置に対して有意に低減した(
図4(f))。これらのデータは、HH01抗体がPDAC細胞のEndoMT促進性腫瘍成長を防止する強力な薬剤であることを示唆する。
【0078】
線維形成性マウスPDACモデルにおけるHH01抗体の治療的有効性を評価するために、C57BL/6マウスにPanc02+EndoMT細胞移植片を皮下接種した。接種後20日目に、マウスは、75mm
3の平均サイズの腫瘍を担持し、1用量あたり5mg/kgのコントロールIgG又はHH01抗体を、7日間隔で3回分静脈内注入され始めた(
図5(a))。結果は、HH01処置がPanc02+EndoMT細胞移植片の腫瘍成長動態を完全に抑制することを示した(
図5(b))。腫瘍を重量測定するために41日目に取り出し、データは、腫瘍成長がHH01処置マウス群において確かに抑圧されることを明らかにした(
図5(c))。HH01処置はまた、腫瘍の線維形成(
図5(d))及び血清HSP90αレベル(
図5(e))の有意な低下をもたらした。まとめると、これらのデータは、HH01抗体が線維形成性PDACを効果的に処置する治療薬として開発され得ることを示唆する。
【0079】
線維形成性ヒト化マウスPDAC移植モデルにおけるHH01抗体の治療的有効性の評価
我々はまた、線維形成性ヒト化マウスPDACモデルにおけるHH01抗体の治療的有効性を評価した。hHSC移植ASIDマウスに、ヒト膵臓腺癌PANC-1細胞のEndoMT由来細胞との混合物を皮下接種した。接種後20日目に、マウスをさらなる処置のために3群に分けた(
図6(a))。A群マウス(n=3)に、1用量あたり5mg/kgのコントロールIgGを、7日間隔で3用量分静脈内注入した。HH01抗体の2回に加えてゲムシタビンを2回注入されたC群マウス(n=5)と比較して、B群マウス(n=5)には、コントロールIgGの2回に加えてゲムシタビンを2回注入した。マウスに、接種後の20日目に最初の5mg/kgのIgG(B群)又はHH01(C群)を投与し、4日後に、それらに最初の100mg/kgのゲムシタビンをさらに静脈内注入した。コントロールIgG又はHH01抗体のさらに2用量及びゲムシタビンのさらに1用量を、それぞれ7日間隔で投与した(
図6(a))。発生する腫瘍を、接種後39日目まで3日ごとに表面的に測定し、腫瘍成長曲線を
図6(b)のようにプロットした。IgG単独で処置したマウスと比較して、IgGとゲムシタビンとを加えたもので処置したマウスは、2回目のゲムシタビン投与後に、有意に抑圧された腫瘍を有した。一方で、HH01とゲムシタビンとを加えたもので処置したマウスでは、初回用量のHH01の注入後のわずか4日目で、腫瘍成長のより効果的な抑圧が観察された。腫瘍は、2回目の用量のゲムシタビン及び3回目の用量のHH01が投与された後、さらに縮小した(
図6(b))。すべてのマウスを39日目に屠殺し、HH01とゲムシタビンとを加えたもので処置したマウスからの腫瘍は、有意に抑圧された(
図6(c))。HH01抗体のゲムシタビンとの組合せも、腫瘍の線維形成(
図6(d))及び血清HSP90αレベル(
図6(e))の抑制において強力な有効性を示した。これらのデータは、HH01抗体が線維形成性PDACを標的とする効果的な治療薬となり得ることを裏付けた。
【0080】
K-Ras
G12D誘導性線維形成性マウスPDACモデルにおけるHH01抗体の治療的有効性の評価
次に、我々は、自発的PDAC発症マウスモデルにおけるHH01抗体の治療的有効性を評価した。臨床的に、90%を超えるPDAC患者は、彼らの腺癌細胞において活性化K-Ras突然変異体を保有している。トランスジェニックマウスモデルでは、膵管細胞における活性化突然変異体K-Ras
G12Dのノックイン発現が、腺管-管状形質転換(ADM)、膵上皮内新形成(PanIN)及び結果としてのPDACのプロセスを通じて、PDAC発症を引き起こす。これらの膵臓K-Ras
G12D発現マウス(LSL-KrasG12D/Pdx1-Cre)は、生後3ヵ月という早期にADMを発症し、さらに生後6ヵ月でPDAC病変を発症する。マッソントリクローム染色の結果は、3ヶ月齢のLSL-KrasG12D/Pdx1-Creマウスの膵臓組織からは小サイズの線維形成性領域がわずかに検出されることもあり、さらに6ヶ月齢以上のLSL-KrasG12D/Pdx1-Creマウスの膵臓組織から線維形成が広範囲に検出されるが、LSL-KrasG12Dコントロールマウスからは検出されないことを明らかにした。HH01抗体の治療的有効性を評価するために、LSL-KrasG12D/Pdx1-Creマウスは、それらが6ヵ月齢でPDACを発症するまで処置を受けなかった。それらに、1用量あたり5mg/kgのコントロールIgG又はHH01抗体を、毎週投与される4用量、続けて隔週ごとに投与される4用量及び最終的に毎月投与される2用量の、全部で10用量のスケジュールで静脈内注入した(
図7(a))。実験の全体は終点を450日目に設定し、IgG又はHH01処置マウスの生存曲線をカプランマイヤー法によりプロットした(
図7(b))。7匹中6匹のIgG処置マウスは450日未満で死亡したが、9匹中7匹のHH01処置マウスは450日目にまだ生存していた。IgG及びHH01処置マウスの生存時間の中央値は、それぞれ344日及び450日超であった(ログランク分析によってp=0.004)。正常なC57BL/6マウス又はLSL-KrasG12Dコントロールマウスの平滑な膵臓の形態とは異なり、すべてのLSL-KrasG12D/Pdx1-Creマウスは、マウスがHH01治療を受けたか否かに関わらず、結節性膵臓を有していた(
図7(c))。一方で、マッソントリクローム染色は、HH01で処置され、かつ450日目にまだ生存しているそれらのマウスでは、膵臓の線維形成が劇的に回復することを明らかにした(
図7(c))。1匹のIgG処置マウス及び1匹のHH01処置マウスは、肝臓の外観に腫瘍結節を有することが観察されたが、それにもかかわらず、HH01処置マウスは、IgG処置マウスよりも、明らかに少ない結節を有した(
図7(c))。マッソントリクローム染色は、HH01処置マウスが肝臓の線維形成の有意な改善を示すことも明らかにした(
図7(c))。さらに、マウス血清サンプルを、IgG又はHH01処置の開始の1日前から毎月採取した。マウスの死期の近傍で採取した最終の血清サンプルのHSP90αレベルを、IgG又はHH01処置前に採取したサンプルのものと比較した(すなわち、処置前対処置後)。我々のデータは、LSL-KrasG12D/Pdx1-Creマウスにおける血清HSP90αレベルの上昇がHH01治療によって効果的に消失され得ることを示した(
図7(d))。
【0081】
M2-マクロファージ増悪性マウスPDACモデルにおけるHH01抗体の治療的有効性の評価
M2-マクロファージ関与性マウスPDACモデルを確立するために、我々は、C57BL/6マウスへの皮下接種のために、rHSP90α処置BMDMをPanc02細胞と混合した。M1マクロファージとの比較のため、Panc02細胞とLPS処置BMDMとを加えたものを他のマウスの群に接種した。「Panc02+rHSP90α処置BMDM」の移植片の成長は、接種後の6日目から始まり、腫瘍の成長は、他の移植片の群よりも高速で継続した(
図8(a))。接種後の30日目にすべてのマウスを屠殺し、それらの腫瘍を重量測定するために取り出した。
図8(b)に示すように、rHSP90α処置BMDMはPanc02腫瘍成長を有意に促進させ、それは、LPS処置BMDMからもたらされる腫瘍抑制効果とは対照的であった。免疫組織化学分析の結果は、「Panc02+rHSP90α処置BMDM」の移植片由来の腫瘍組織が、他のマウスの群から取り出した腫瘍塊と比較した場合、CD163
+細胞をより多く含むが、有意に低減したレベルのCD4
-細胞及びCD8
+細胞を含むことを明らかにした(
図8(c))。LPS処置BMDMでのマウス群では、抑圧された腫瘍組織は、相対的に高いレベルのCD4
+及びCD8
+細胞を含んでいた。4’,6’-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)での核染色も、クロマチン凝縮及び核フラグメント化の上昇したレベルを示し(
図8(d))、LPS誘導性M1-マクロファージがCD4
+及びCD8
+免疫細胞を動員し、より多くの細胞アポトーシスを引き起こしてPanc02腫瘍成長を抑制することを示唆した。したがって、これらの結果は、eHSP90α誘導性M2型マクロファージが強力な免疫抑制活性及び腫瘍促進活性を示すことを結論付けた。さらに、我々は、このM2マクロファージ促進性PDACモデルにおけるHH01抗体の治療的有効性を評価した。C57BL/6マウスに、Panc02+rHSP90α処置BMDM細胞移植片を皮下接種した。接種後27日目に、各マウスは約0.1cm
3の腫瘍を担持し、5mg/kgのコントロールIgG又はHH01抗体で処置され始めた(
図9(a))。18.4日超のHH01のマウス血中の半減期を考慮して、HH01抗体の作用を、7日間隔の後の2回目の用量によって増強した。
図9(b)に示すように、HH01処置における劇的な腫瘍の縮小は、すぐに3日後に観察された。すべてのマウスを42日目に屠殺すると、結果は、コントロールマウス群において継続的に成長するそれらの腫瘍と比較した場合、HH01処置マウスでは腫瘍が有意に縮小することを示した(p=0.001、
図9(c))。一貫して、血清HSP90αレベルの上昇もHH01治療後に有意に抑制された(
図9(d))。腫瘍サンプルの免疫組織化学分析も、HH01治療に対するM2-マクロファージの減少に従って、M2-マクロファージ抑制性CD4
+及びCD8
+細胞レベルが効果的に回復されることを明らかにした(
図9(e))。これらの結果は、免疫組織蛍光染色の結果によって裏付けられた。F4/80
+iNOS
+(M1)細胞の増加及びF4/80
+アルギナーゼ1
+(M2)細胞の減少は、HH01処置マウスの組織から観察された(
図10(a)及び10(b))。一貫して、CD4
+TNF-α
+(効果的なT)細胞及びCD8
+TNF-α
+(細胞傷害性のT)細胞のレベルは、HH01抗体での治療に応じて双方とも増加した(
図10(c)及び10(d))。これらのデータは、HH01抗体がM2-マクロファージ増悪性PDACを抑制し、腫瘍微小環境の免疫を改善する有効な薬剤であることを示唆する。
【0082】
結論
線維形成は、急速な腫瘍成長、転移の発生及び難治性の治療成績と密接に関連する多数の悪性腫瘍の特質である。悪性進行を緩和し、治療的有効性を向上させる線維形成を標的とする薬剤及び戦略は、癌患者に対して未だ満たされていない医療ニーズである。癌関連線維芽細胞(CAF)の大量産生は、線維形成の主な原因の1つであり、内皮細胞の内皮間葉転換(EndoMT)は、CAFに対する豊富な供給源を提供する。EndoMT由来CAFは、大量の骨髄由来マクロファージを腫瘍中に動員し、これらのマクロファージのM2型への分極化を促進する。M2型マクロファージは、IL-10及びTGF-αを分泌し、効果的なT細胞及び細胞傷害性のT細胞を抑制するだけでなく、VEGF、bFGF及びPDGFを産生して腫瘍の血管新生を刺激する。さらに、これらのM2型マクロファージは、eHSP90αを大量に発現及び分泌し、癌細胞の拡散及び幹細胞性獲得の利点を有するeHSP90α豊富な腫瘍微小環境を形成する。したがって、eHSP90α及びeHSP90α豊富な腫瘍微小環境は、新規の癌治療標的として見なされ得る。マウス腫瘍モデルの我々の以前の発表結果では、EndoMT由来CAFは、膵臓腺癌細胞移植片の腫瘍成長を有意に促進した。一方で、このEndoMT促進性腫瘍化は、マウスが癌細胞接種後4日目以降にマウス抗HSP90αモノクローナル抗体での静脈内注入を投与される場合、劇的に抑制された。我々は、このマウス抗HSP90αモノクローナル抗体の遺伝子を配列決定した。コンピューター支援による分析及び提案の後、我々は、ヒト化及び改良された抗体遺伝子をさらに構築した。組換え遺伝子をExpiCHO細胞に導入してヒト化抗HSP90α抗体であるHH01を発現させた。一連の分析を通じて、我々は、HH01抗体がそのCDR中に新規のアミノ酸配列を有し、1.87×10-10MのKD値でeHSP90αに対する高い結合親和性を示すことがわかった。HH01抗体は、凝集体を形成しにくい。それは、極めて水溶性であるが、18.4日より長い血液中の半減期によりマウス体内から排泄されにくい。それは、網膜色素上皮細胞に対して細胞毒性ではなく、マウスの脾臓肥大を引き起こさない。HH01抗体は、抗癌機能においてもその優位性を示す。それは、膵臓腺癌及び大腸癌細胞株の浸潤活性及びスフェロイド形成活性を強力に抑制する。我々の3個のマウス癌モデルの結果は、単独のHH01抗体は皮下接種した膵臓腺癌細胞移植片のEndoMT促進性の線維形成性腫瘍成長活性を消失可能であり、ゲムシタビンと併用して相乗効果も示し得ることを明らかにするものである。PDAC発症トランスジェニックマウスモデルでは、それはK-Ras突然変異による膵臓の線維形成及び腺癌の発症並びに肝臓の転移を強力に抑制し、したがって実験マウスの生存期間を延長可能である。さらに、M2-マクロファージ増悪性マウスPDACモデルでは、HH01抗体は、腫瘍成長を抑制し、腫瘍免疫を改善するのにも有効である。
【他の実施形態】
【0083】
本明細書に開示された特徴のすべては、任意の組合せで組み合わせられ得る。本明細書で開示された各特徴は、同一、均等又は同様の目的を果たす代替的な特徴によって置換され得る。したがって、明示の断りがない限り、開示された各特徴は、一般的な一連の均等又は同様の特徴の例に過ぎない。
【0084】
さらに、以上の説明から、当業者であれば、本開示の本質的な特徴を容易に解明し、その主旨及び範囲から逸脱することなく、本開示の種々の変更及び変形を行ってそれを種々の用途及び条件に適合できるはずである。したがって、他の実施形態も、特許請求の範囲内となる。
【配列表】
【国際調査報告】