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特表2024-542239凝縮プラズモイドを生成するための装置及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】凝縮プラズモイドを生成するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G21B 3/00 20060101AFI20241106BHJP
   G21H 1/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G21B3/00 Z
G21H1/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529908
(86)(22)【出願日】2022-11-22
(85)【翻訳文提出日】2024-07-18
(86)【国際出願番号】 NZ2022050148
(87)【国際公開番号】W WO2023091031
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】2021903765
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】790599
(32)【優先日】2022-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NZ
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524190209
【氏名又は名称】ガイア セキュリティーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エゲリー、ジェルジ
(57)【要約】
凝縮プラズモイドを生成するための装置1。装置1は、反応ガスを収容するためのチャンバ15を有する反応器4を含む。カソード17及びアノード18が、チャンバ15内へ延び、電極17、18間に電極間ギャップが形成される。電極17、18は、電極17、18間に電位差を印加して電極間ギャップ19内に反応ガスのプラズマを形成するための電源12を有する電気回路13に接続可能である。電極間放電21が、電極間ギャップ19を横断する。カソード17は電子放出材料22を有し、電子放出材料22から電子のクラスタ63が放出され、それによって電極間放電21内に凝縮プラズモイド62を生成する。電子放出材料22は半導体材料を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝縮プラズモイドの生成に使用するための装置であって、反応器を含み、前記反応器が、
- 反応ガスを収容するためのチャンバと、
- 前記チャンバ内へ少なくとも部分的に延び、少なくとも1つのカソード及び少なくとも1つのアノードを含む1対の電極と、
- 前記電極間に形成された電極間ギャップと、
を含み、
前記電極が、電気回路に接続するための接続を含み、前記電気回路が、前記電極間に電位差を加えて電極間放電が横断する前記電極間ギャップ内に前記反応ガスのプラズマを形成するための電源を含む装置において、
前記カソードが電子放出材料を有し、前記電子放出材料が半導体材料を含み、前記半導体材料から電子のクラスタが放出され、それによって前記電極間放電内に凝縮プラズモイドを形成することを特徴とする装置。
【請求項2】
前記半導体材料がカルコゲナイド材料を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記半導体材料が、
- ガラス質、
- 無秩序、
- 化学的に均質、
- 多孔質、
という特性のうちの少なくとも1つを有するカルコゲナイド材料を含む、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記半導体材料が金属カルコゲナイドである、請求項2又は3に記載の装置。
【請求項5】
前記半導体材料が、5/2以上の核スピンの金属のカルコゲナイドである、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記半導体材料が、金属基材上にカルコゲナイド表層を形成するための金属の陽極酸化又は酸化によって形成されている、請求項2から5までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記金属の前記陽極酸化又は酸化が、前記陽極酸化又は酸化中に電流密度を増大させることを含む、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記カソードの少なくとも一部の外面が、前記半導体材料から形成されている、請求項1から7までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記外面が不均質である、請求項1から8までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記電極間ギャップの近位に位置する前記外面の少なくとも一部分が、前記電極間ギャップの直接横断線を通って延びる軸に実質的に一致又は平行して位置合わせされている、請求項9又は10に記載の装置。
【請求項11】
前記半導体材料が、
- 前記電子放出材料から構築されたカソードの外面、
- 前記カソードの導電性基材上の層若しくは被覆、及び/又は
- 前記カソードの導電性基材の表面処理
のうちの少なくとも1つを形成している、請求項1から10までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記半導体材料が、
- 前記カソードの導電性基材上の層若しくは被覆、及び/又は
- 前記カソードの導電性基材の表面処理
を形成している、請求項1から10までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記反応器チャンバ内の前記カソード基材が、前記カソード基材が前記反応ガスに直接露出されないように、前記半導体材料によって完全に覆われている、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記反応ガスが、水素、又は重水素及び三重水素などの水素同位体を含む、請求項1から13までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記反応ガスが、大部分の水素、又は水素同位体を含み、ヘリウム、キセノン、アルゴン、アセチレン、水銀を含む群から選択された添加ガスを有するペニング型混合物である、請求項1から14までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記凝縮プラズモイドが、スピン偏極電子クラスタを含む、請求項1から15までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記カソードが、前記電位が加えられたとき、前記電極間ギャップの直接横断線を通って延びる軸に実質的に一致又は平行して位置合わせされた前記カソードを通って内部電流が生成されるように形作られ構成される、請求項1から16までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記アノードが、前記電位が加えられたとき、前記電極間ギャップの直接横断線を通って延びる軸に実質的に一致又は平行して位置合わせされた前記アノード内に内部電流が生成されるように形作られ構成される、請求項1から17までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記カソード及び/又は前記アノードが、前記電位が加えられたとき、前記半導体材料内に内部電流が生成されるように形作られ構成され、前記電流が、前記電極間ギャップの直接横断線を通って延びる軸に実質的に一致又は平行して位置合わせされている、請求項1から18までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記半導体材料が、前記電位が加えられたとき、スピン偏極電子クラスタが前記半導体材料上の分布として形成されるようになっており、前記電子スピン分布が、同じ又は少なくとも大部分は同じスピン状態を有するクラスタ内の電子のクラスタ化を含む、請求項1から19までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
使用の際、複数の凝縮プラズモイドが前記カソードから放出され、前記凝縮プラズモイドが少なくとも1つの集合体を形成し、前記集合体が、前記構成電子の合計に等しい質量及び電荷を有する負に帯電した擬似粒子を形成し、それによって前記凝縮プラズモイドの電子と融合するのに十分なエネルギーで、前記反応ガスの陽子を前記凝縮プラズモイドの方へ加速させ、前記集合体がそれによって、そのような融合反応に触媒作用を及ぼす、請求項1から20までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
前記チャンバに露出された前記カソードの前記外面の全体又は少なくとも大部分が、前記半導体材料から形成されている、請求項1から21までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項23】
前記半導体材料が、1~100μmの範囲内の厚さを有する層から形成されている、請求項1から22までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項24】
前記電極間ギャップが、前記電極の直接的に対向しているすべての部分間に同じ分離距離を有する、請求項1から23までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項25】
前記電極が各々、前記電極間ギャップの近位に端子周辺部を含み、前記電極間ギャップが、前記端子周辺部間に形成されている、請求項1から24までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項26】
前記電極間ギャップが、前記端子周辺部の直接的に対向しているすべての部分間に同じ分離距離を有する、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記カソードの前記端子周辺部が、前記半導体材料から形成されている、請求項25又は26に記載の装置。
【請求項28】
前記アノードの前記端子周辺部が、前記半導体材料から形成されている、請求項25から27までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項29】
前記カソード端子周辺部が、先が尖っている、請求項25から28までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項30】
前記カソード端子周辺部が、前記電極間ギャップの範囲に直交する少なくとも1つの軸の周りで横方向に先が尖っている、請求項29に記載の装置。
【請求項31】
前記端子周辺部が細長く、少なくとも10mmの長さを有する、請求項25から30までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項32】
前記電極が、前記電極間ギャップの近位で前記電極間ギャップに直交して、実質的に類似の端子周辺部の形状、配向、及び寸法で形作られている、請求項25から31までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項33】
前記電極が前記電極間ギャップの近位に円形の末端を有する円筒形であり、前記端子周辺部が前記円形の末端上に形成されており、前記端子周辺部の長さが前記末端の円周にほぼ等しい、請求項25から32までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項34】
前記電極が、ほぼ同じ直径を有し、同軸方向に位置合わせされている、請求項33に記載の装置。
【請求項35】
前記円筒形電極が、略円形の端子周辺部間の空間によって形成された電極間ギャップを提供するように、軸方向に分離されている、請求項33又は34に記載の装置。
【請求項36】
前記円筒が軸方向に細長い、請求項33から35までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項37】
前記カソードの前記半導体材料が、径方向外側の半導体表面として前記カソード上に形成されている、請求項33から36までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項38】
前記アノードの半導体材料が、径方向外側の半導体表面として前記アノード上に形成されている、請求項33から37までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項39】
前記カソードの前記半導体材料が、径方向内側の半導体表面として前記カソード上に形成されている、請求項33から38までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項40】
前記アノードの半導体材料が、径方向内側の半導体表面として前記アノード上に形成されている、請求項33から39までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項41】
前記電極の直径が、5~50mmの範囲内である、請求項33から40までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項42】
前記電極が、0.5~2mmの範囲内の壁厚さを有する、請求項33から42までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項43】
前記アノードもまた、半導体材料を含む、請求項1から42までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項44】
前記アノード半導体材料が、導電性基材上に位置する半導体材料層から形成されている、請求項43に記載の装置。
【請求項45】
前記反応器チャンバ内の前記アノード基材が、前記半導体材料によって少なくとも部分的に覆われている、請求項44に記載の装置。
【請求項46】
前記電極間ギャップが0.5~5mmである、請求項1から45までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項47】
前記チャンバが、管の中に形成されている、請求項1から46までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項48】
前記チャンバが気密封止されている、請求項1から47までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項49】
使用の際、前記チャンバは、動作中の内部チャンバ圧力を1バール未満まで低減させるために真空が適用される、請求項1から48までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項50】
前記電極間ギャップ、電位、反応ガス、及び反応ガス圧力が、前記電位を加えることによってもたらされる前記電極間放電がアーク又は火花放電になるようになっている、請求項1から49までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項51】
前記電子放出材料が反転非対称性を有する、請求項1から50までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項52】
前記電子放出材料がキラリティを有する、請求項1から51までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項53】
前記半導体材料の少なくとも一部が非晶質半導体を含む、請求項1から52までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項54】
静止した前記半導体材料の原子の大部分が、同じスピン配向を有する、請求項1から53までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項55】
電源を含む電気回路を含み、前記電極が前記電気回路に接続されており、前記電気回路が、前記電源に接続された電気パルス生成ユニットを含み、前記電気パルス生成ユニットが、前記カソードと前記アノードとの間にパルス電位差を加えることが可能である、請求項1から54までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項56】
前記電気パルス生成ユニットが、10マイクロ秒未満の期間を有するパルスとして前記電極に電位を加えるように構成されている、請求項55に記載の装置。
【請求項57】
前記電気パルス生成ユニットが弛張発振器を含む、請求項55又は56に記載の装置。
【請求項58】
前記電気回路が、前記カソードにわたって100Vcm-1より大きい電圧勾配を供給するように構成されている、請求項55から57までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項59】
前記電気回路が、電気出力を利用する目的で前記アノードに接続された出力電気回路を含み、前記出力電気回路が、
- ローパス・フィルタ、
- キャパシタ平滑化回路、
- 減結合キャパシタ、
- 過渡減衰器、
- 電圧クランプ、又は
- 前記電気出力を安定したDC若しくはAC出力に調節するための他の平滑化回路
のうちの少なくとも1つを含む、請求項55から58までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項60】
前記電気回路が、入力回路及び出力回路を含み、前記入力回路が、前記電源及び電気パルス生成ユニットを含み、前記出力回路が、前記出力電気回路を含み、前記出力回路が、前記入力回路又は反応器のものと同じインピーダンスを有する、請求項55から59までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項61】
前記出力回路が、前記反応器と組み合わされた前記入力回路のインピーダンスと同じ又は類似のインピーダンスを有する、請求項60に記載の装置。
【請求項62】
前記反応器チャンバへ前記反応ガスを供給するための反応ガス源を含む、請求項1から61までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項63】
前記反応ガス源が、水素又は水素同位体のガス源である、請求項62に記載の装置。
【請求項64】
電極間放電前の前記チャンバ内の前記反応ガスが、摂氏100度未満のガス温度を有する、請求項62又は63に記載の装置。
【請求項65】
請求項1から64までのいずれか一項に記載の装置を使用して凝縮プラズモイドを生成する方法であって、
- 前記チャンバを排気することと、
- 前記チャンバへ反応ガスを供給することと、
- 前記電極間に電位差を加えることと、
を含む方法。
【請求項66】
請求項1から64までのいずれか一項に記載の装置を使用して核融合反応に触媒作用を及ぼす方法であって、
- 前記チャンバを排気することと、
- 前記チャンバへ反応ガスを供給することと、
- 前記電極間に電位差を加えることと、
を含み、
前記電極間放電によって少なくとも1つの凝縮プラズモイドが形成され、前記凝縮プラズモイドが、負の電荷及び陽子より大きい質量を有し、それによって前記反応ガスから前記凝縮プラズモイドの電子の方へ陽子を加速させ、前記凝縮プラズモイドの電子が、前記反応ガスからの前記陽子と融合して中性子を生じさせる、方法。
【請求項67】
請求項1から64までのいずれか一項に記載の装置を使用した発電方法であって、
- 前記チャンバを排気することと、
- 前記チャンバへ反応ガスを供給することと、
- 前記電極間に電位差を加えることと、
を含み、
前記電極間放電によって少なくとも1つの凝縮プラズモイドが形成され、前記凝縮プラズモイドの電子が、前記反応ガスからの陽子と融合して中性子を生成し、前記中性子が、さらなる陽子と融合して重陽子及びエネルギーを形成し、前記エネルギーが、前記凝縮プラズモイド内の少なくとも1つのさらなる電子へ渡され、それによって前記少なくとも1つのさらなる電子のエネルギー状態を上昇させ、前記少なくとも1つのさらなる電子が、前記アノードへ放出され、それによって前記アノードでより高い負の電位を提供する、方法。
【請求項68】
請求項1から64までのいずれか一項に記載の装置で使用するための反応器であって、
- 前記反応ガスを収容するための前記チャンバと、
- 前記チャンバ内へ少なくとも部分的に延び、前記少なくとも1つのカソード及び前記少なくとも1つのアノードを含む前記1対の電極と、
- 前記電極間に形成された前記電極間ギャップと、
を含み、
前記電極が、電気回路に接続するための接続を含み、前記電気回路が、前記電極間に電位差を加えて電極間放電が横断する前記電極間ギャップ内に前記反応ガスのプラズマを形成するための電源を含む反応器において、
前記カソードが前記電子放出材料を有し、前記電子放出材料から電子のクラスタが放出され、それによって前記電極間放電内に凝縮プラズモイドを生成し、前記電子放出材料が前記半導体材料を含むことを特徴とする反応器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを介して電極間放電を生成するための装置及び方法に関する。詳細には、本発明は、電極間ギャップ内に位置するプラズマ中に凝縮プラズモイドを生成するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の物理学において、物質の自己組織化集合体は、「本物」の粒子と類似の特性を有する「擬似粒子」として挙動することがある。例には、煙の輪、渦輪、及び乱流の渦が含まれる。そのような擬似粒子は、エネルギー、運動量、及び「擬似質量」を有する。そのような擬似粒子は、「本物」の粒子のように衝突し、エネルギー、運動量、及び角運動量を交換する。
【0003】
プラズモイドは、擬似粒子の一形態であり、プラズマ及び磁界のコヒーレント構造であると定義される。プラズモイドは、球電、磁気圏内の磁気バブル、並びにコメットテール、太陽風、太陽大気、及び太陽圏電流シート内の物体などの自然現象を説明するために提案されてきた。研究室内で作られるプラズモイドは、逆転磁界配位、スフェロマック、及び高密度プラズマ・フォーカスを含む。
【0004】
ソリトン波は、擬似粒子の知られている一形態であり、非線形の媒体内に形成することが可能である。ソリトン波は、散逸が少なく、したがって空間及び時間寿命が比較的長いという特徴のある表面波として見られる。これらの同じソリトン波の特徴によって、非線形金属上の表面電荷波が特徴付けられる。金属上のソリトン電荷波は、高レベルの電位を急激に金属に加えることによって形成されることができる。
【0005】
金属の表面付近にプラズマが位置するとき、ソリトン表面電荷波は「表面プラズモン」又は「表面プラズモン・ポラリトン」と呼ばれる。これらのプラズモイド現象は、過去数十年にわたって、増え続ける実験的研究の対象になってきた。
【0006】
表面プラズモンは、金属の表面の上に形成されるプラズモイドの一形態である。表面プラズモンに関する関連文献には以下が含まれる。
【0007】
B.M.Schasfoort及びA.J.Tudas、2008年、「The Handbook of Surface Plasmon Resonance」
【0008】
Raether、1988年、「Surface Plasmons on Smooth and Rough Surface and on Gratings」
【0009】
Maier、2007年、「Plasmonics:Fundamentals and applications」
【0010】
別の知られている擬似粒子は、本明細書で「凝縮プラズモイド」と呼ばれており、特にプラズマにおける電荷の高密度形成によって特徴付けられるプラズモイドの一種である。
【0011】
この分野の研究者らは、凝縮プラズモイドを生成するための様々な装置及び方法を試行してきた。
【0012】
Shouldersによる米国特許第5148461号(1992)は、凝縮プラズモイド及び凝縮プラズモイドを生成するための装置について記載している。Shouldersは、凝縮プラズモイドを次のように定義した。
【0013】
「...高電荷密度の実体で、比較的離散的で独立しており、負に帯電した高密度状態の物質であり、カソードとアノードとの間に強い電界を加えることによって作り出すことができる。本発明者は、電子電荷を表すギリシャ語の「elektron」、並びに力を有すること、強力であること、及び一体化する能力を有することを意味するラテン語の「valere」から、この実体を「ELECTRUM VALIDUM(エレクトラム・ヴァリディウム)」、略して「EV」と命名した。」
【0014】
Jaitner(2019)は、次のように凝縮プラズモイド(CP:condensed plasmoid)を定義するための基準を提供した。
・「プラズモイドは、強いZピンチ条件によって圧縮される。この点で『強い』とは、内部電流が200Aより大きく、プラズマ・チャネルの半径が200pmより小さく、プラズマ・チャネルの長さが少なくとも数マイクロメートルであることを意味する。これらの数字は、現在のモデリングの計算結果に基づいている。まだ知られていない理由により、より低い固有電流を有するCPが存在することもある。
・含有原子のすべての電子(外側電子殻だけではない)が非局在化されており、すなわち電子はすべて電流に寄与し、原子核間を自由に動くことができる。非局在化は、小さい核間距離(すなわち、水素の場合は10pm未満)によって引き起こされる。
・電子はCPの量子力学的基底状態(又は付近)にある軌道内に存在する。これを実現するためには、プラズマの熱圧力がローレンツ力によって動いている電子ガスに加えられる磁気圧力より小さくなるように、CPの温度を十分に低くしなければならない。」
電流がプラズマを通過するとき、プラズマ内の粒子はローレンツ力によって互いの方へ引き寄せられ、したがってプラズマが収縮する。この収縮は、プラズマのガス圧力の増大によって打ち消される。この収縮をZピンチ(ゼータ・ピンチ)と呼ぶ。Zピンチは、プラズマ閉じ込めシステムの一種であり、プラズマ内で電流を使用して磁界を生成し、それによりプラズマを圧縮し、すなわち電極間に延びるプラズマ・フィラメント方向に直交するz軸にプラズマを「ピンチ」する。プラズマ・フィラメント又は「ワイヤ」は、電極間に生じる電極間放電であり、電極間の火花として見ることができる。フィラメントは、典型的には直線でなく、むしろ稲光に似た、プラズマを通る不規則な経路である。
Jaitnerはまた、凝縮プラズモイドが放電内に形成されるには、次を含むいくつかの条件が不可欠であると考えられると記載している。
・「電流パルスは非常に短くするべきであり、すなわち持続時間は1マイクロ秒未満とするべきである。
・電流は十分に強い必要があり、すなわち100アンペアより大きくする必要がある。
・プラズモイドは冷却されるべきであり、すなわち誘電体表面に沿って又は水中に放電を走らせることによって冷却されるべきである。
・高密度の物質が利用可能であるべきであり、これは形成されつつあるプラズモイドに急速に供給される可能性がある。典型的には、カソード又は周辺ガス若しくは誘電体表面が、プラズモイドを形成する物質を供給する。
・電界に平行な磁界は、正しい方向に電子を誘導する。上記の条件が満たされた場合、プラズモイドは凝縮する。凝縮は、磁界の径方向圧力によって促進される。」
【0015】
凝縮プラズモイドの寿命は表面プラズモンの寿命よりはるかに長く、表面プラズモンとして電極の表面に拘束されるのではなく、電極間空間内を動く能力がある。
【0016】
従来技術における様々なタイプの凝縮プラズモイドの説明には、「フィラメント放電」、「重い電子系」、「エレクトラム・ヴァリディウム」、「マイクロプラズモイド」、「ブラシ放電」、又は「コロナ放電」などの異なる術語が使用される。
【0017】
Nasser(1971)は、プラズモイドについて研究しており、高圧で自立していないコロナ放電(約10トルを上回る圧力)中、観察された「フィラメント」(プラズマ「ワイヤ」)が電気的に中性ではなく、負に帯電した「ヘッド」と、それに続く陽イオン雲から作られた「テール」とを有したことに言及している。この高密度に帯電した「ヘッド」を「凝縮プラズモイド」と見なすことができる。
【0018】
凝縮プラズモイドは、電極間空間内を非常に速く動くため、実験的に研究することが難しい。それにもかかわらず、様々な研究者らは、高速写真及びX線プレートを使用して凝縮プラズモイドを観察してきた。
【0019】
U.D.Kordjev及びG.A.Mesyats(1982)は、凝縮プラズモイドに関するモノグラフを書いている。彼らはこれらの擬似粒子のこの形態を「爆発性カソード・プロセス」と呼んでいる。半球形カソードから延びる凝縮プラズモイドの時間的及び空間的形成を示す一連の詳細な写真が撮影された。
【0020】
Raizer(1987)はまた、半径0.1μmの微小先端から形成されたカソードによって作られた凝縮プラズモイドについて記載している。Raizierは、凝縮プラズモイドの顕著な特性についても言及している。バースト中に運ばれる電流は、5ナノ秒のパルス中に約4×10Acm-2であった。Raizierは、この擬似粒子の主な特性が、凝縮プラズモイド内で輸送される電子の数がプラズマ「ブロブ」内の原子の数より10~1,000倍大きいことであることに言及している。
【0021】
したがって、凝縮プラズモイドは高電荷の擬似粒子として挙動し、カソード表面を離れることがある。Jaitnerが言及したように、凝縮プラズモイドは、プラズマ内の陽イオンの電荷を「遮蔽」することがある。プラズマ又は標的原子電子による反発クーロン電位の遮蔽は、イオンがクーロン障壁を通過する確率を上昇させるため、気体、固体、及び高密度プラズマにおける遮蔽効果は、低反応エネルギーにおける融合速度を数桁上昇させる可能性がある(Rodney、1988)。
【0022】
Kordjev及びMesyatsの実験は、高パワーの電荷パルスのみを生成することを目的として、窒素中で実行された。
【0023】
凝縮プラズモイドを利用する様々なシステムが、Shouldersによって、米国特許第5018180号(1991)、米国特許第5123039号(1991)、米国特許第5153901号(1991)、米国特許第5054046号(1990)、及び米国特許第5148461号(1992)に記載されている。Shouldersによる‘461特許は、「Circuits Responsive to and Controlling Charged Particles」という名称であり、真空及び空気中の実験について記載している。Shouldersは、凝縮プラズモイドを「重い電子系」又は「エレクトラム・ヴァリディウム」と呼んでいる。Shouldersはまた、これらの粒子が通常、「環状」又は「真珠のネックレス状」の鎖を形成することに気付いた。
【0024】
Matsumoto(1993)はまた、Shoulders及びMesyatsとは無関係に、凝縮プラズモイド効果を発見した。Matsumotoは、約70ボルトの水中火花を使用した。Matsumotoは、Shouldersと同じネックレス状の痕跡の存在、並びに元素変換及び過度のエネルギー出力を観察した。変換は水中火花実験中にも観察された。
【0025】
しかし、この火花に関連する水素ガスの変換は、30.48cm(12インチ)の電極間放電を用いて水素中で実験を実施したThomson(1913)及びCollie(1914)によってもっと早くに発見されていた。発光スペクトル分析を使用して、水素の変換から生じたヘリウム及びネオンを識別した。
【0026】
前述の参照文献により、次のような因果関係が確立されている。
【0027】
プラズマ内の電極間放電(火花)は、本明細書で「凝縮プラズモイド」と呼ばれる高密度の負に帯電した擬似粒子を生成する。
【0028】
凝縮プラズモイドは、高質量で高電荷(負)の擬似粒子である。
【0029】
さらなる従来技術には、以下の特許及び公報に記載されている発明が含まれる。
【0030】
Horvathによる米国特許第4454850号(1979)は、燃料として水素及び圧縮水素の使用並びに40kVの火花について記載している。
【0031】
Correaらの国際特許出願第1994/009560号(1994)は、パルス・アーク放電を伴う放電管内で平行な板を使用した。しかしカソードの激しい浸食が発生し、これはシステムが持続可能でないことを意味した。
【0032】
Grayによる米国特許第4661747号(1985)は、誘導「キック」によって生成された火花を使用する方法について記載している。Grayのカソードは金属ワイヤ・メッシュであったが、プラズマ組成物は開示されていない。出力もまた、誘導負荷によって取り入れられた短い電気パルスであった。誘導負荷(電気ACモータ)はパルスによって駆動された。
【0033】
Pappによる米国特許第3670494号(1968)は、円錐形の電極間で高電圧の火花を使用した。プラズマは水蒸気及び不活性ガスを含有した。火花/爆発中に解放されたエネルギーは、内燃機関と同様に使用された。
【0034】
前述の発明者らは、彼らの発明の背後に物理学に関して実際的で現象学的な見識を有していたが、これらの発明はいずれも、凝縮プラズモイドの持続的で確実な生成を提供することができないと考えられた。共通の課題には、不規則若しくは不確実な生成、電極の損傷若しくは劣化、又は電極への炭素の蓄積が含まれた。電極が損傷し、EM放射及び熱で大きなエネルギーが失われたとき、凝縮プラズモイドの生成効率は大きく低下する。
【0035】
それにもかかわらず、従来技術では、これらの凝縮プラズモイドを使用して、核融合及び元素変換を誘起することができることが見出された。これらの理論の基礎は、凝縮プラズモイドがクーロン障壁を遮蔽することができ、したがって様々な粒子の融合が発生しうるということにある。
【0036】
Jaitnerは自身の文献において、「新しいCPの生成はより多くの望ましくないX線をもたらし、より多くの入力エネルギーを消費するはずであるため、適切に設計されたLENR反応器は、自立したCPの存在(又は成長)を促進しようとするはずである。LENR反応器を停止するには、新しいCPの生成を停止しなければならず、自立した成長に必要とされる条件を除去しなければならない。電気エネルギーをLENRから直接生成しようとすることもあるかもしれず、これは熱を電気に変換することに伴う複雑さ及び費用の一部を除去するはずである」と述べている。
【0037】
したがって、凝縮プラズモイドの生成は、プラズマ中の量子現象及び核反応の研究における重要なツールである。
【0038】
そのような従来技術の低エネルギー核反応(LENR:Low Energy Nuclear Reaction)システムは、概して、気体又は液体を収容する放電チャンバにまたがる電極間ギャップによって位置決めされた1対の電極の使用を伴う。多くの例におけるカソードは、典型的には、パラジウム又は他の金属の重水素飽和格子から形成される。
【0039】
放電管を伴う従来技術のLENR実験は、様々な研究者によって実施されてきたが、概して、熱の形態では最小の正味エネルギー出力しか実現できず、多くの場合、カソードの破壊をもたらした。熱出力は必然的に、エネルギー損失を伴う従来の熱電気変換方法を必要とする。熱電気変換における効率損失及び既存のLENRシステムの低い正味エネルギー出力は、そのような反応器からの正味エネルギー出力の使用が有用なエネルギー源として実行可能でないことを意味する。
【0040】
カソードの破壊については、Godesによる米国特許出願公開第20190122774号(2018)の背景技術の章に記載されている。Godesのシステムは、水素同位体で飽和させ、次いでフォノンを衝突させたパラジウム格子コアを使用した。その結果生じた融合反応は大量の熱を生じさせ、その熱をエネルギーとして取り入れることができる。Godesはこのプロセスを制御式電子捕捉反応(CECR:Controlled Electron Capture Reaction)と呼んでいる。
【0041】
この変換現象について説明する根本的な物理学は、過去40年にわたって行われたLENR融合実験の多くによってもたらされた過度のエネルギーについて潜在的に説明するWidom-Larson理論に包含される。概要及び説明は、https://spectrum.ieee.org/scientists-in-the-us-and-japan-get-serious-about-lowenergy-nuclear-reactionsに見ることができる。
【0042】
要約すると、この理論によれば、金属(たとえば、パラジウム)が水素で飽和させられる(たとえば、電気分解を受ける水槽内で)。金属が飽和すると、金属の表面上の電子の上に水素の陽子が塊になって集まる。
【0043】
陽子が互いに量子力学的に絡まって、「重い」陽子を形成する。表面の電子も「重い」電子として同様に挙動する。エネルギー源、たとえばレーザは、少数の絡まった電子及び陽子がまとまって中性子になるのに十分なエネルギーを重い陽子及び重い電子に与える。
【0044】
それらの中性子は次いで、中性子-陽子融合によって、金属中の付近の原子に捕捉され、プロセス中にガンマ線の形態でエネルギーを放出する。重い電子は、それらのガンマ線を捕捉し、赤外線として再放射する。この融合が発生し、過度のエネルギーが生じている間に、反応は金属でその融合が生じた場所を破壊し、金属内に小さなクレータを形成する。
【0045】
別の従来技術の例は、1980年代に議論を呼んだMartin Fleischmann及びStanley Ponsの研究であり、それ以来「常温」融合と呼ばれるものを可能にするためにクーロン障壁を「低減」させる方法を伴う。
【0046】
Fleishmann及びPonsは、パラジウム電極の表面上での重水の電気分解を伴う小規模の机上実験によって、核反応の副産物を観察し、著しい量の熱が生成されたと考えた。提示された説明は、水素及びその同位体がパラジウムなどの特定の固体に高い密度で吸収されうるというものであった。水素の吸収は高い分圧をもたらし、水素同位体の平均分離を低減させ、したがってクーロン障壁を下げる。別の説明は、パラジウム格子内の正の水素原子核の電子遮蔽が、クーロン障壁を下げるのに十分であるというものであった。
【0047】
Fleischmann-Ponsの発見は当初、著しい注目を受けた。しかし、後の研究及び再調査の結果、彼らの実験は、融合を介して過度のエネルギーをもたらしていないと見なされた。Fleischmann-Ponsの実験で何が起こっていたのかに関して、科学界では依然として議論がなされている。上記のWidom-Larson理論は、Fleischmann-Ponsの発見に関する最善の説明であると考えられ、結果を再現することが難しかった理由について説明している。
【0048】
クーロン障壁を低減させるための別の方法は、固体マトリックス内で電子遮蔽を用いるものであり、その一例が、Indechによる米国特許出願公開第2005-0129160号(2003)に記載されている。Indechは、電子が加えられた電位により円錐構造の頂上に集中するときに電極の微小円錐構造(「原子的に先鋭」と呼ばれる)の先端付近に位置する2つの重陽子間の正に帯電した反発力の電子遮蔽を介したクーロン障壁の遮蔽について記載していると考えられる。
【0049】
Chen(Vol.10、No.1、2020年1月)は、中性子源を使用することによって低温融合を実現する中性子「ビーム」理論の使用について記載しており、単一エネルギー電子ビームが重陽子などの単一エネルギー裸核ビームに衝突して単一エネルギー中性子を作り出す。これらの中性子は、標的核に照射し、標的核によって吸収され、したがって核エネルギーが解放される。しかし、Chenのシステムは、中性子を構成原子から分離するために、大きな入力エネルギーを必要とする。
【0050】
知られている「常温」融合の別の形態は、ミューオン触媒融合(μCFと略す)であり、熱核融合に必要とされる温度より大幅に低い温度で、さらには室温以下で、核融合が発生することを可能にするプロセスを示す。これは、核融合反応に触媒作用を及ぼすいくつかの知られている方法のうちの1つである。
【0051】
ミューオンは、電子に類似している不安定な負に帯電した素粒子であるが、207倍の質量を有する。ミューオン(‐μ)は、重水素及び三重水素の混合物に注入されることができ、混合物中のこれら2つの水素同位体のうちの1つによって捕捉されて、原子D+-μ又はT+-μを形成し、このとき原子は励起状態になる。励起原子は、カスケード衝突プロセスによって緩和して基底状態になり、ミューオンを重陽子から三重陽子へ移転することができ、又は逆も同様である。ミューオン分子(D+-μ-T+)を形成することも可能である。ミューオン分子が形成されるとほぼ直後に融合が発生して、混合物内のミューオンを解放し、ミューオンは重水素又は三重水素核によって再び捕捉され、プロセスが継続することが可能になる。
【0052】
ミューオンは実質的に、クーロン障壁を「遮蔽」するための触媒の一形態として作用し、すなわち2つの核同士の間の静電反発力を低減させる。それによって、核はともに引き寄せられる。核が非常に近いため、強い核力がクーロン反発力に打ち勝つことが可能になり、両方の核がともに融合する。触媒のミューオンは通常、この反応後に解放され、両方の核の元の質量の一部が高エネルギー粒子として解放される。
【0053】
重水素(d)、三重水素(t)の混合物を使用したμCFの発生は、次の段階で進む。dμ又はtμ形成(10-11秒)→ミューオン移転(10-8秒未満)→dtμ分子形成(10-8秒未満)→分子内核融合(10-12秒)→10keVのエネルギーでミューオンを解放。プロセスは、ミューオンの寿命中に継続する(2.2×10-6秒)。1サイクルの期間は約2×10-8秒である。ミューオンは、その不安定な性質により急速に崩壊し(約2×10-6秒で)、したがってそれほど多くの融合反応は発生しない。
【0054】
各触媒融合反応は、重水素及び三重水素核間に17.6MeVをもたらし、いくつかの触媒の事象中の総エネルギー解放量は約2000MeVである。ミューオンの静止質量は106MeVであり、したがってエネルギー・バランスは正であると考えられる。しかし、ミューオンを作る加速器は100%効率的ではなく、したがってミューオンを作るのに約8000MeVを要する。したがって、少数の反応、したがって解放されるエネルギーは、μCFを実行可能にするためのエネルギー要件に対して小さすぎる。
【0055】
三重水素はまた非常に高価であり、自立したプロセスを得るためにμCFを介して三重水素を生成することは、現時点で商業的に可能ではないと考えられる。したがって、ミューオン「製造」効率をこれ以上改善することはできないと考えられる。さらに、液体の重水素‐三重水素の混合物中に結果として生成される熱は、熱機関において有用ではなく、機能するためにより大きな温度勾配を必要とする。したがって、μCFは、現時点で正味プラスのエネルギー生成として技術的に実行可能でない。
【0056】
したがって、従来技術から、様々な成功度を有する低エネルギー核(LENR)融合のための多くの手法が存在するが、さらなる研究が望ましいことが示されたことが明らかである。この研究の一部として、凝縮プラズモイドの形成及び使用は、非常に有望な技法であると考えられる。
【0057】
さらに、ミューオンよりはるかに経済的な融合触媒として作用することができる凝縮プラズモイドを使用して融合反応に触媒作用を及ぼすための方法及び装置を開発することは、非常に有利になるはずである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0058】
【特許文献1】米国特許第5148461号
【特許文献2】米国特許第5018180号
【特許文献3】米国特許第5123039号
【特許文献4】米国特許第5153901号
【特許文献5】米国特許第5054046号
【特許文献6】米国特許第4454850号
【特許文献7】国際特許出願第1994/009560号
【特許文献8】米国特許第4661747号
【特許文献9】米国特許第3670494号
【特許文献10】米国特許出願公開第20190122774号
【特許文献11】米国特許出願公開第2005-0129160号
【特許文献12】米国特許第3,271,591号
【非特許文献】
【0059】
【非特許文献1】B.M.Schasfoort及びA.J.Tudas、2008年、「The Handbook of Surface Plasmon Resonance」、Royal Soc.of Chem、RSC Publishing
【非特許文献2】Raether,H.、1988年、「Surface Plasmons on Smooth and Rough Surface and on Gratings」、Springer
【非特許文献3】Maier,S.A.、2007年、「Plasmonics:Fundamentals and applications」、Springer
【非特許文献4】Jaitner,L.、2019年、「The Physics of Condensed Plasmoids (CPs)」、ICCF-22 Presentation
【非特許文献5】Nasser,E.、1971年、「Fundamentals of Gaseous Ionization and Plasma Electronics」、John Wiley、266頁、図9.2a~図9.2g
【非特許文献6】U.D.Kordjev及びG.A.Mesyats、1982年、Nauka Publishers、213頁、図8.8/1~図8.8/4
【非特許文献7】Raizer,R.、1987年、「Gas Discharge Physics」、Springer、264、265頁
【非特許文献8】Rodney,C.E.、1988年、「Cauldrons of the Cosmos」、University of Chicago Press
【非特許文献9】Matsumoto,T.、1993年、「Cold Fusion Experiments with Ordinary Water and thin Nickel Foil」、Fusion Technology、Vol.24、No.3、296~306頁
【非特許文献10】Thomson,J.、1913年、「Appearance of Helium and Neon in Vacuum Tubes」、Science、Vol.37、No.949、360~364頁
【非特許文献11】Collie,J.N.、1914年、「The Production of Neon and Helium by Electrical Discharge」、Proceedings of Royal Society London、Vol.91-A、No.623、30~45頁
【非特許文献12】Chen,S.a.、Vol.10 No.1、2020年1月、「A Possible Way to Realize Controlled Nuclear Fusion at Low Temperatures」、World Journal of Nuclear Science and Technology
【非特許文献13】Mesyats,G.A.、2000年、「Cathode Phenomena in a vacuum discharge:The brakdown,the spark,and the arc」
【非特許文献14】Perel,M.D.、1971年7月12日、「Current induced spin orientation of electrons in semiconductors」、Physics Letters、Vol 35A、number 6、459~460頁
【非特許文献15】Hirohata、2020年、「Review of Spintronics,Principles and Device Applications」、Journal of Magnetism and Magnetic materials、Vol 509、166頁
【非特許文献16】Defour,J.、1993年、Fusion Technology、Vol.24、No.2、205~228頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0060】
したがって、本発明の一目的は、凝縮プラズモイドを生成するための装置及び方法を作り出すことである。
【0061】
本発明の別の目的は、装置パラメータの修正によって凝縮プラズモイドの特性を制御することを可能にすることである。
【0062】
本発明の一目的は、上記の問題に対処すること、又は少なくとも有用な選択肢を公衆に提供することである。
【0063】
本明細書に引用するあらゆる特許又は特許出願を含むすべての参照文献は、参照により本明細書に組み込まれている。いずれの参照文献も従来技術の構成要素となることは認められない。参照文献に関する議論は、その著者が主張する内容について記載しており、本出願者らは、引用文献の正確さ及び適切さに異議を申し立てる権利を保有する。複数の従来技術公報を本明細書で参照するが、この参照は、ニュージーランド又は他のいずれの国においても、これらの文献のいずれかが当技術分野における共通の一般知識の一部を形成するための許可を構成するものではないことが明らかに理解されよう。
【0064】
「備える、含む(comprise)」という用語は、様々な管轄下で、排他的又は包括的な意味に帰すると了承されている。本明細書の目的で、別途記載されない限り、「備える、含む(comprise)」という用語は包括的な意味を有するものとし、すなわち本明細書が直接参照する列挙された構成要素だけでなく、他の指定されていない構成要素又は要素も包含することを意味すると見なされる。この根拠は、方法又はプロセスにおける1つ又は複数のステップに関連して「備える、含む(comprised)」又は「備える、含む(comprising)」という用語が使用されるときにも使用される。本発明のさらなる態様及び利点は、例としてのみ与えられる次の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0065】
本明細書で使用される用語
【0066】
本明細書において、電荷「クラスタ」とは、ともに束縛された電荷の個別のグループを指す。
【0067】
本明細書において、「プラズモイド」とは、プラズマ及び磁界のコヒーレント構造を指す。
【0068】
本明細書において、「凝縮プラズモイド」とは、電子のクラスタから形成されたプラズモイドを指す。
【0069】
本明細書において、「反応器」とは、反応ガスを収容してプラズモイドを生じさせるためのデバイス又は装置を指す。
【0070】
クラスタ又は凝縮プラズモイドの「集合体」とは、ともに束縛された複数のクラスタ又は凝縮プラズモイドのグループを指す。
【0071】
「カソード」とは、負に帯電した電極を指す。「アノード」とは、カソードとアノードとの間の放電に先行して、カソードより正の電荷を有する電極を指す。
【0072】
本明細書において、核融合に関する「触媒」という用語は、そのような触媒がなければ普通なら可能なはずの条件とは異なる条件下で、核反応を発生させるもの、又は核反応が発生することを可能にするものを指す。同様に、「触媒作用を及ぼす(catalyze)」及び「触媒作用を及ぼす(catalyzing)」という用語は、触媒として作用することによって反応が発生することを可能にする作用を指す。
【0073】
本発明の一態様によれば、電極間放電を生成するための装置であって、反応器を含み、反応器は、
- 反応ガスを収容するためのチャンバと、
- チャンバ内へ少なくとも部分的に延び、少なくとも1つのカソード及び少なくとも1つのアノードを含む1対の電極と、
- 電極間に形成された電極間ギャップと、
を含み、
電極が、電気回路に接続可能であり、電気回路が、電極間放電が電極間ギャップを横断する電極間に電位差を加えてプラズマを形成するための電源を含む装置において、
カソードが電子放出材料を有することを特徴とする装置が提供される。
【0074】
好ましくは、装置は、凝縮プラズモイドを生成するためのものであり、使用の際、電子放出材料は、凝縮プラズモイドを形成する電子のクラスタを放出する。
【0075】
本発明の第2の態様によれば、凝縮プラズモイドを生成するための反応器であって、
- 反応ガスを収容するためのチャンバと、
- チャンバ内へ少なくとも部分的に延び、少なくとも1つのカソード及び少なくとも1つのアノードを含む1対の電極と、
- 電極間に形成された電極間ギャップと、
を含み、
電極が、電気回路に接続可能であり、電気回路が、電極間放電が電極間ギャップを横断する電極間に電位差を加えてプラズマを形成するための電源を含む反応器において、
カソードが電子放出材料を有し、電子放出材料から電子のクラスタを放出して凝縮プラズモイドを形成することができることを特徴とする反応器が提供される。
【0076】
好ましくは、反応ガスは、電極間の電位差によってイオン化され、それによってプラズマを形成することが可能である。
【0077】
好ましくは、電子放出材料は、電子放出材料を通過した電流からスピン偏極電子クラスタを生成することが可能な材料である。
【0078】
好ましくは、電子放出材料は半導体材料を含む。
【0079】
好ましくは、カソードの少なくとも一部の外面は、半導体材料から形成される。
【0080】
電子放出材料は、
・電子放出材料から構築されたカソードの外面、
・カソードの導電性基材上の層若しくは被覆、及び/又は
・カソードの導電性基材の表面処理
のうちの少なくとも1つとして形成されることができる。
【0081】
好ましくは、反応器チャンバ内のカソード基材は、基材が反応ガスに直接露出されないように、半導体材料によって少なくとも部分的に覆われており、より好ましくは半導体材料によって完全に覆われている。
【0082】
一実施の形態では、電極間ギャップ付近のカソード基材が半導体材料によって完全に覆われていれば十分であり、カソードの遠位部分が覆われる必要はない。
【0083】
前記半導体材料は、好ましくは、1~100μmの範囲内の厚さを有する。
【0084】
一実施の形態では、半導体材料は、導電率を変えるようにドープされる。
【0085】
好ましくは、装置は、電極間放電によって少なくとも1つの凝縮プラズモイドを生成する。
【0086】
好ましくは、電子のクラスタはスピン偏極される。
【0087】
好ましくは、凝縮プラズモイドは、同じ電子スピン状態を有する電子のクラスタを含む。
【0088】
好ましくは、電子放出材料は反転非対称性を有する。
【0089】
好ましくは、電子放出材料はキラリティを有する。
【0090】
好ましくは、装置は電気回路を含む。
【0091】
好ましくは、半導体材料の少なくとも一部は非晶質半導体を含む。
【0092】
さらなる実施の形態では、半導体材料は、カルコゲナイドガラス半導体材料を含む。
【0093】
好ましくは、カソードは、電位が加えられたとき、カソード内に生成される電界が、電極間ギャップの直接横断線を通って延びる軸に実質的に一致又は平行して位置合わせされるように形作られ構成される。
【0094】
好ましくは、カソードは、電位が加えられたとき、電極間ギャップの直接横断線を通って延びる軸に実質的に一致又は平行して位置合わせされたカソード内に内部電流が生成されるように形作られ構成される。
【0095】
好ましくは、アノードは、電位が加えられたとき、アノード内に生成される電界が、電極間ギャップの直接横断線を通って延びる軸に実質的に一致又は平行して位置合わせされるように形作られ構成される。
【0096】
好ましくは、アノードは、電位が加えられたとき、電極間ギャップの直接横断線を通って延びる軸に実質的に一致又は平行して位置合わせされたアノード内に内部電流が生成されるように形作られ構成される。
【0097】
好ましくは、カソード及び/又はアノードは、電位が加えられたとき、電子放出材料内に内部電流が生成されるように形作られ構成され、電流は、電極間ギャップの直接横断線を通って延びる軸に実質的に一致又は平行して位置合わせされる。
【0098】
好ましくは、電極間ギャップの近位に位置する電子放出材料表面の少なくとも一部分が、電極間ギャップの直接横断線を通って延びる軸に実質的に一致又は平行して位置合わせされる。
【0099】
半導体材料、電極の形状及び材料、電極間距離、チャンバの圧力、並びに加えられた電位の特性を含む複数の装置パラメータが、凝縮プラズモイドの形成に影響を及ぼす。これらのパラメータの各々については、個別に詳細に説明する。
【0100】
本明細書において、凝縮プラズモイドは、電子のクラスタから形成されたプラズモイドであると見なされる。好ましくは、凝縮プラズモイドは、電子のスピン偏極クラスタから形成され、すなわちクラスタ内の構成電子のスピンの合計は0以外である。
【0101】
プラズモイドを生成するために、カソードからの電子放出に十分な電極間の電位を提供し、電子がともにクラスタ化するのに必要な条件を作り出す必要がある。
【0102】
凝縮プラズモイドは、電子がカソードからクラスタで放出されるときに生成される。これらのクラスタは、カソードの表面に形成され、放出されると凝縮プラズモイドになる。
【0103】
したがって、カソード構造は、カソード表面における電荷クラスタの伝播を画定するため、凝縮プラズモイドの形成にとって特に重要である。本明細書では、カソードからプラズマ内へ電荷クラスタが放出されたときのみ、これを「凝縮プラズモイド」と呼ぶが、クラスタ及び凝縮プラズモイドはどちらも電子のクラスタから形成される。
【0104】
多くの凝縮プラズモイドをともに結合して「集合体」を形成することが望ましく、そのような集合体の電荷及び質量は、構成凝縮プラズモイドの合計に等しく、したがって単一の凝縮プラズモイドよりはるかに大きい。したがって、この比較的大きい電荷及び質量を使用して、反応ガス内の陽イオン(たとえば、重陽子又は三重陽子)を、高密度に帯電した集合体の方へ加速させることができる。この加速が、正の粒子を凝縮プラズモイドの電子に十分に近付けるのに十分である場合、融合が発生し、結果として中性子及びニュートリノが生じる。
【0105】
同じ電荷極性の電荷クラスタは自然に静電反発し、それによってクラスタが離れる。この作用により、従来技術では、クラスタを結合することは不可能であると考えられてきた。しかし、各電荷クラスタはまた、クラスタのスピン偏極に応じた磁気モーメント及び双極子を有し、クラスタのスピン偏極は、構成電子のスピン状態に依存する。したがって、同じスピン偏極を有するクラスタは相互に磁気的に反発し、反対のスピン状態のクラスタは磁気的に引き付け合う。したがって、磁気的に引き付け合って対応する静電反発力に打ち勝つのに十分なほど互いに近くでスピンアップ及びスピンダウン偏極の両方を伴うクラスタが存在する場合、凝縮プラズモイドの安定した集合体を形成することができる。
【0106】
したがって、異なるスピン偏極のクラスタを作り出すことが望ましい。好ましくは、スピンアップ偏極クラスタ及びスピンダウン偏極クラスタの数が等しければ、作り出されたクラスタの利用が最大になる。
【0107】
電荷クラスタは、クラスタ内の電子の全スピンが0以外であるとき、「スピン偏極」していると見なされる。好ましくは、クラスタ内のすべての電子が、同じスピン状態を有する。しかし、各スピン状態における電子の数に何らかの差がある場合、クラスタは依然としてスピン偏極していることがある。
【0108】
従来技術で明らかなように、金属又は導電性電極は、いくつかの電子クラスタ及び凝縮プラズモイドを作り出すことができる。しかし、従来技術の発明者らには、観察された安定した環状構造を凝縮プラズモイドが形成する方法が分からなかった。従来技術は、放電を小さい点に集中させて集中したクラスタ形成を実現するための装置及び方法を開発しようとした。この方法により、放電及びプラズマ形成に必要とされる電位は低減されるが、結果として形成される凝縮プラズモイド集合体が少なくなり、多くの場合はカソードの破壊を招く。したがって、従来技術では、クラスタのスピン偏極を改善するための方法を見つけようとしなかった。
【0109】
スピン偏極は、データ記憶などのスピントロニクスの応用で使用するために広範に研究されてきた現象である。スピン・ホール効果(SHE:Spin Hall Effect)を利用することによって、スピン偏極電子クラスタが表面に形成される。スピン・ホール効果は、1971年にロシアの物理学者Mikhail I.Dyakonov及びVladimir I.Perelによって特定された輸送現象である。SHEは、通電サンプルの側面におけるスピン偏極電子の出現からなり、スピン偏極(「スピン状態」又は「スピン配向」)は、対向する境界において逆になる。
【0110】
本発明は、これらの同じスピン偏極特性を利用することができるが、半導体材料を電子放出材料として使用する。半導体は、スピン偏極電荷クラスタを導体より良好に生成することが可能である。
【0111】
したがって、半導体材料の表面を有するカソードを利用することによって、カソード内の電子クラスタはスピン偏極され、隣り合うクラスタは逆に偏極される。「凝縮プラズモイド」として放出されるとき、クラスタは、そのスピン偏極を保持し、ともに結合して凝縮プラズモイドの集合体を形成する。静電反発力は、これらの集合体内の磁気引力によって平衡化され、したがって結合していないクラスタと比べて、比較的「安定した」構造を形成することができる。したがって、同じスピン偏極を有するクラスタ又は偏極がまったくないクラスタを主に形成する金属又は導電性電極は、クラスタの集合体をまれにしか形成しないため、凝縮プラズモイド集合体の生成にとって非効率的である。
【0112】
次に、電極間放電について論じる。電極間放電は、電位が次のパラメータによって決定される閾値に到達したとき、カソードからアノードへ発生する。
・電極間ギャップ、すなわち電極間放電が横断しなければならない距離、
・電極間ギャップに近位の電極表面材料、
・反応ガスのタイプ、
・電極間ギャップに近位の電極形状。
【0113】
電極間放電は、カソードとアノードとの間の電極間ギャップにまたがるように向けられた「長手」方向を有すると見なすことができる。放電は、軸に沿った直線(すなわち、電極の直接的に対向する部分間の直線)を形成するのではなく、放電経路を形成するイオン化ガスの変動のため、電極間ギャップにまたがる直線軸から変動及び逸脱することがあることが理解されよう。この変動は、反応ガスの濃度及び圧力の自然の変動性によるものであり、不規則なイオン化経路を引き起こす。
【0114】
半導体は、好ましくは、電極間に電位が加えられたとき、スピン偏極電子クラスタが半導体上の分布として形成されるように選択される。電子スピン分布は、好ましくは、同じ又は少なくとも大部分は同じスピン状態を有するクラスタ内の電子のクラスタ化を含み、すなわちスピン偏極クラスタが存在する。
【0115】
好ましくは、カソード内の内部電流は、それぞれ「アップ」及び「ダウン」スピン状態を伴う逆の極性のスピン偏極クラスタを有する電流の隣り合う区域を含む。
【0116】
好ましくは、内部電流が「長手」方向に位置合わせされたカソードの場合、内部電流は、逆にスピン偏極した電流を有する横方向に隣り合う電流内へ分散させられる。
【0117】
本発明で半導体材料として使用するための半導体特性は、装置がそのような所望の特性を有する凝縮プラズモイドを生成するのにどれだけ効果的及び効率的であるかを画定するように選択される。
【0118】
好ましくは、半導体材料は、カルコゲナイド材料、より好ましくはガラス質で無秩序の均質な等方性のカルコゲナイド材料を含む。したがって、そのような半導体材料は、スピン偏極した凝縮プラズモイドの形成に理想的なスピン偏極電流をもたらすことができる。
【0119】
カソードにおけるスピン偏極電流の生成の効率は、装置が凝縮プラズモイドを生成するのにどれだけ効果的であるかを画定する。高い効率は、そのようなカルコゲナイド半導体材料から形成された半導体材料を使用して実現されることができる。
【0120】
半導体材料は、好ましくは、反転対称性を有しておらず、すなわち反転非対称性を有する。たとえば酸化アルミニウム又は亜硫酸鉛などのガラス半導体は、この基準を満たすことができる。
【0121】
好ましくは、静止した半導体材料の原子の大部分は、同じスピン配向を有し、より好ましくは、原子のすべてが同じスピン配向を有する。このスピン整列により、完全なスピン・コヒーレンス及びスピン整列が可能になる。
【0122】
好ましくは、半導体材料は、高いキャリア移動度を有し、すなわち可能な限り多くの自由電子を有する。
【0123】
好ましくは、半導体材料は、表面-プラズマ境界面で低いスピン散乱を有する。この特性は、散乱が大きくなるとスピン偏極電子クラスタが破壊され又は乱されることから重要である。電子は、非常に短い持続時間で、すなわち1フェムト秒未満で、表面-プラズマ境界面を越える。半導体材料の品質、準備、及び劣化はすべて、スピン散乱度に、したがって凝縮プラズモイド形成の効率に影響する。
【0124】
半導体材料の誘電率もまた、スピン偏極電子クラスタの形成に影響する。誘電率が高ければ高いほど、スピン偏極電子クラスタが形成される可能性も高くなる。対照的に、無限の誘電率を有する純金属カソードの場合、電流のほとんどが散逸プラズマを形成し、最小のスピン偏極電子クラスタが形成される。したがって、純金属カソードは本発明にとって望ましくない。
【0125】
したがって、半導体材料は、好ましくはカルコゲナイド材料である。カルコゲナイド材料は、開放閾値(opening threshold)までは非常に不十分な導体であり、したがってスピン偏極の蓄積が発生する可能性がある。開放閾値を上回ると、抵抗は急に低減され、電極間放電によって生成されたプラズマを通ってスピン偏極クラスタがカソードを離れることが可能になる。
【0126】
半導体材料は、好ましくは、高核スピンの金属、たとえばビスマス、インジウム、及びニオブを含有する。別法として、アルミニウム、バナジウム、タンタルなどの最適ではない他の金属が使用されてもよいが、これらはそれでもなお、0以外の核スピンを有する。
【0127】
下表は、可能性がある元素及びその核スピンを示す。スピンは特有の同位体にも依存することに留意されたい。
【表1】
【0128】
したがって、半導体材料は、好ましくは、前述の金属のうちの1つのカルコゲナイドである。好ましくは、半導体材料は、少なくとも5/2の核スピンの金属のカルコゲナイドである。
【0129】
様々な半導体材料を利用することができるが、材料のなかには、その材料をあまり望ましくないものにする特性を有するものがあることが理解されよう。例として、酸化ニオブ又は硫酸ニオブ材料が、効率的で安全であり、耐久性があり、高温に耐えることができる。しかし、これらの材料は製造するのが高価である。対照的に、酸化ビスマスは比較的安価な半導体材料であるが、比較的低い融点を有し、したがってそれほど耐久性がないはずである。他の材料も多かれ少なかれ高価であり、安全性、放射性、若しくは有毒の問題を有し、又は希少なことがある。
【0130】
これらの問題、又はコスト、耐久性、利用可能性、及び効率を平衡化するとき、半導体材料は、好ましくは、金属酸化物又は金属硫化物を含む。1つの好ましい実施の形態では、半導体材料は、ニオブ基材上に銀の酸化物を含む。電気分解を介してニオブ上に薄い被覆として銀を堆積させ、次いで銀を酸化(又は別法として硫化)し、それによって半導体材料を形成することができる。
【0131】
基材金属は、好ましくは、上表のように、高い核スピンを有する。しかし一実施の形態では、基材金属は合金とすることができ、他の元素を含んでもよい。1つのそのような合金は、ニオブ及びチタン酸バリウム(BaTi)合金とすることができる。半導体材料は、好ましくは、前述の酸化又は硫化銀被覆である。
【0132】
BaTiは、強誘電性、焦電気性、及び圧電性のセラミック材料であり、多くの場合、キャパシタ、電気機械トランスデューサ、及び非線形光学系で使用される。基材でBaTiを使用すると、カソードで必要とされる入力電圧を低減させることができ、それによって必要とされる電源の容量を低減させることができる。合金は、様々な技法を使用して作り出すことができるが、BaTiOはセラミック粉末であるため、好適な1つの技法は、3D印刷の一形態である熱溶解積層法(FDM:fuse deposition modelling)である。
【0133】
別の実施の形態では、半導体材料は酸化アルミニウムを含む。酸化アルミニウムは、
- 製造するのが比較的安価であり、
- 比較的安全であり、
- 比較的耐久性があり、
- 比較的高い融解温度を有する
ことから、有用である(上述した材料の多くに比べて)。
【0134】
酸化アルミニウムは、アルミニウム基材を酸化させることによって、アルミニウム基材の被覆として形成されることができ、それによって導電性基材及び半導体外部を有する電極を生成するための安価なプロセスを提供することができる。
【0135】
半導体材料は、好ましくは、急速な電位ローディング及びアンローディング下での半導体材料の変形を防止するために、低い熱膨張勾配を有する。
【0136】
半導体材料は、好ましくは、熱が増大するときの融解を回避するために、高い熱伝導係数を有する。
【0137】
半導体材料は、好ましくは、半導体材料といずれかのコア・カソード材料との間に熱膨張が生じた場合に局所的な亀裂を回避するために、高い引っ張り強度を有する。
【0138】
半導体材料は、好ましくは、熱を蓄積し、それによって融解及び表面浸食を回避するために、高い熱容量を有する。
【0139】
半導体材料は、好ましくは、融解及び表面浸食を回避するために、高い融解/軟化温度を有する。
【0140】
半導体材料は、金属又は他の導電性基材上に層、被覆、又は表面処理として形成されることができる。好ましくは、半導体材料は、100マイクロメートル未満の表層として形成される。代替の実施の形態では、カソードは、大部分は、又は全体的に、半導体材料から形成されることができる。しかし、全体的に半導体から構築されたカソードは、同じサイズ及び形状の導電性電極に対して電極間放電に必要とされる電位閾値を上昇させ、したがってあまり効率的でない可能性が高い。
【0141】
半導体材料は、好ましくは0.05~0.5mm、より好ましくは約0.1mmの厚さを有する。
【0142】
好ましくは、チャンバに露出されたカソードの外面の全体又は少なくとも大部分が、半導体材料から形成される。
【0143】
本開示における電極は、好ましくは、各電極が電極間ギャップの近位に端子周辺部を備えるように形成される。好ましくは、両電極の端子周辺部は互いに鏡面対称であり、電極間ギャップはこれらの端子周辺部間に形成される。
【0144】
好ましくは、カソードの端子周辺部は、半導体材料から形成される。
【0145】
好ましくは、アノードの端子周辺部は、半導体材料から形成される。
【0146】
半導体表面上で形成するためのスピン偏極電子クラスタの数を最大にすることが望ましい。なぜならその作用により、高効率の凝縮プラズモイド形成が確実になるからである。このため、電子を放出する表面の性質もまた、効率的なスピン偏極電子クラスタの形成にとって重要である。
【0147】
電子放出材料は、好ましくは、不均質な表面であり、電子クラスタが通過するための少なくともいくつかの経路を提供する。本明細書において、表面に関する「不均質」という用語は、表面がその範囲にわたって各点で同じではないことを意味し、たとえば多孔質の表面は、孔が孔周辺の区域とは異なるため、不均質である。対照的に、連続する平滑な表面は、「均質」であると見なされる。
【0148】
好ましくは、電子放出材料は多孔質の表面であり、電子クラスタが通過するための経路(「孔」)を提供する。
【0149】
導電性基材を被覆する電子放出材料を使用して凝縮プラズモイドを生成することが可能なはずであり、電子放出材料は、最適の電子クラスタのサイズに等しい直径の小さい管状の経路、たとえば「孔」を有するように形成される。したがって、これにより電子クラスタにとって実質的に「多孔質」の表面が提供され、スピン偏極の秩序のある状態を維持しながら、効率的な放出が可能になるはずである。しかし、そのような表面を製造することは、現在の製造技法を超えていると考えられる。
【0150】
したがって、材料が容易に利用可能であることを前提として、凝縮プラズモイド生成の効率を改善するために、半導体材料は、好ましくはカルコゲナイドを含む。前述のように、そのようなカルコゲナイド電子放出材料は必然的に、空洞、亀裂、溝、及び他の凹凸といった微細構造を表面に提供する。したがって、電子放出材料は、「巨視的」スケールでは電極を覆うことができるが、半導体材料は原子的スケールでは実質的に「多孔質」であり、したがって下にある基材からのスピン偏極電子の通過を許容する。この作用により、スピン偏極電子クラスタを半導体表面上に形成することが可能になる。したがって、この「多孔質」作用を最大にすることで、高効率の凝縮プラズモイド形成が確実になる。
【0151】
一態様によれば、前記電極上に半導体材料を形成する方法であって、金属基材上にカルコゲナイド表層を形成するための金属の陽極酸化又は酸化を含む方法が提供される。
【0152】
陽極酸化又は酸化は、電極上に半導体材料を形成するための安価な技法であり、耐久性のある半導電層を提供する。堆積時間、電解液のpH、電解液の化学的性質(酸性又はアルカリ性)、槽温度、及び電流密度はすべて、半導体材料のトポロジに影響を及ぼす。
【0153】
ほとんどの他の応用例では、陽極酸化又は酸化層は可能な限り平滑であることが望ましく、したがって平滑化処理が適用される。しかし、表面の平滑化は表面の微小構造不規則性を低減させ、したがってより「均質」な表面をもたらす。この均質性は、電子クラスタを放出するための経路がなくなるため、スピン偏極電子クラスタ形成の効率を低減させる。したがって、容易に利用可能な市販の陽極酸化された表面は、硬い耐久性のある表面を提供するが、所望の不均質な構造を提供しないことから望ましくない。
【0154】
不均質性を強化するために、「凹凸」又は「表面粗さ」の数を増大させることが可能である。一実施の形態では、前述の陽極酸化方法は、陽極酸化又は酸化中に電流密度を変動させることを含む。
【0155】
好ましくは、電流密度は、薄い層が形成されてから所定の期間後に増大される。電流密度が増大するにつれて、陽極酸化された表面に小さい酸素バブルが現れ、酸化物層の形成を抑制し、したがってバブルの場所に「クレータ」又は「孔」を形成する。
【0156】
したがってここでは、表面を「平滑化」するあらゆる被覆(オイル又は他の堆積物など)が、装置の効率にとって好ましくないことが明らかである。したがって、半導体材料は、好ましくは、オイル又は他の平滑化する堆積物のない状態で清浄に維持される。
【0157】
多くの固体及び液体材料は、十分に高い電界、すなわち「放電閾値」を上回る電界が加えられた場合、CFE領域で電子を放出することができる。したがって、電界放出がカソードから生じるために、放出部分の形状に応じて、十分な電圧を加えなければならない。先の尖った(すなわち、「より先鋭な」)放出部分は、電子がより小さい区域に集中するため、放出が生じるためにそれほど電圧を必要とせず、したがってより高い「有効」電位を生成する。したがって、全体的な電極サイズに比べて、電極の小さい対向区域を電極間ギャップの近位に有することが好ましい。
【0158】
したがって、カソードは、好ましくは、先の尖った端子周辺部を含む。
【0159】
好ましくは、カソード及び/又はアノード端子周辺部は、電極間ギャップの範囲に直交する少なくとも1つの軸の周りで、横方向に先が尖っている。
【0160】
先鋭な単一の点を有するカソードは、放出が生じるために必要とする電圧が最も低いはずである。しかし、そのような先鋭な点では、同じ点から繰り返し放電が生じることが確実になり、これによりその点の過熱及び損傷が生じる可能性がある。
【0161】
したがって、本開示の端子周辺部は、好ましくは細長い。好ましくは、端子周辺部は、少なくとも10mmの長さを有する。
【0162】
一実施の形態では、電極を円筒形とすることができ、電極間ギャップの近位に円形の末端を有し、端子周辺部は円形の末端に形成され、端子周辺部の長さは前記末端の円周にほぼ等しい。
【0163】
電極が端子周辺部間で実質的に一定の電極間ギャップ分離を維持し、且つ電極間ギャップの近位で電極間ギャップに直交して、実質的に同一の端子周辺部の形状、配向、及び寸法を有するように構成されることを条件として、電極の端子周辺部の形状は、特定の形状又はサイズに拘束される必要はないことが理解されよう。
【0164】
本明細書では、電極及び構成要素の潜在的な形状及びサイズを参照する。理論上、電極は記載の形状又はサイズを有するが、装置は、軽微な変動又は変化があってもなお機能する可能性が高く、たとえば円形の断面への言及は、完全に円形の断面に限定されると見なされるべきではなく、製造能力及び公差による変動が予期されることを理解されたい。
【0165】
電極間ギャップは、好ましくは電極の直接的に対向しているすべての部分間で同じ分離距離を有し、好ましくは端子周辺部間で同じ分離距離を有する。
【0166】
同じ場所での電極間放電「アンカリング」を防止するために、電極間ギャップが一定であることが重要である。なぜならこのアンカリングは、アンカリング点で過熱を招き、電極の劣化を引き起こす可能性があるからである。
【0167】
電極間ギャップ距離は、用途、入力電圧、及び装置特性に応じて変動させることができる。しかし、1-3kV入力電位及び600ミリバールを下回るチャンバ圧力下での凝縮プラズモイドの生成には、1~2mmの電極間ギャップで十分であることが分かっている。
【0168】
非常に小さいギャップ又はより高い電圧を利用することが可能であるが、これは必然的に、均一性に関する許容可能な公差を低減させ、電極間ギャップ距離が非常に小さい場合、より高価な構成要素を必要とする可能性があり、すなわち一定の分離電極間ギャップを有する装置を製造することは高価であり、又はそのようなより高い電圧の場合、より頑強なキャパシタ及び他の電気回路が必要とされる。
【0169】
好ましくは、カソードの端子周辺部は、カソード半導体材料によって形成される。
【0170】
好ましくは、アノードの端子周辺部は、アノード半導体材料によって形成される。
【0171】
一実施の形態では、電極は、中空の円筒として形成された部分を含み、これらの部分は、対向する円筒の円形の端子周辺部間の空間によって形成された電極間ギャップを提供するように軸方向に分離される。長円形の断面を有する電極を利用することもできる。しかし、円筒は、長円形の断面を有する電極より容易に製造し、位置合わせすることができる。
【0172】
好ましくは、円筒は、同じ直径を有し、且つ/又は同軸方向に位置合わせされる。
【0173】
所与の加えられる電位差に対して、半導体材料の表面積が大きければ大きいほど、より多数のスピン偏極クラスタが生成される。したがって、所与のサイズの反応器に対して、半導体材料の面積を最大にすることが好ましい。
【0174】
好ましくは、したがって円筒は軸方向に細長い。
【0175】
好ましくは、カソードの半導体材料は、径方向外側の半導体表面としてカソード上に形成される。
【0176】
同様に、アノードの半導体材料は、径方向外側の半導体表面としてアノード上に形成されることができる。
【0177】
電極は、好ましくは、中空の円筒形電極として形成される。
【0178】
スピン偏極電荷クラスタは、導電性材料に接触すると散逸するため、導電性の構成要素がプラズマに露出されていないことが好ましい。
【0179】
したがって、好ましくは、中空の電極の径方向内面が、半導体材料から形成される。
【0180】
カソードの内側半導体材料表面はまた、外側半導体表面と同様に電子のスピン偏極クラスタを形成するように作用することができる。
【0181】
好ましくは、両方の電極が電気回路に接続される。
【0182】
好ましくは、少なくとも1つの電極が、電極間ギャップの遠位で、電気コネクタ端部で電気回路に接続される。
【0183】
従来技術のプラズマ放電装置では、電極は通常、板などとして形成され、平行な平面内に位置合わせされる。したがって、電極間ギャップを通る電流は、電極表面に対して非平行に向けられる。対照的に、前述の円筒形電極は、半導体材料表面に平行に、且つ電極間の電極間放電の主方向にほぼ平行に位置合わせされた、カソードを通る電流を提供する。この位置合わせは、電流方向に直交して電子を材料の表面に押し付ける前述の表皮効果によって、スピン偏極クラスタの最も効率的な生成をもたらすため、凝縮プラズモイドの効率的な生成にとって重要である。
【0184】
前記半導体材料は、好ましくは、対応する電極の半径の2分の1未満の厚さを有する層から形成される。
【0185】
電極の直径は、装置のサイズ及び他のパラメータに応じて変動させることができるが、1つの好ましい実施の形態では5~50mm程度である。電極は、好ましくは0.5~2mmの範囲内の壁厚さを有する。
【0186】
電極の軸方向長さは、用途及び製造能力に応じて変動させることができる。電極構造の変動は、より大きい凝縮プラズモイド生成効率をもたらすことができる。
【0187】
アノードの目的はカソードとはやや異なり、したがってカソードと厳密に同じ要件でなくても、効果的なアノードを構築することが可能である。
【0188】
アノードもまた、好ましくは、半導体材料を含む。
【0189】
アノード半導体材料は、好ましくは、基材上に位置する半導体材料層から形成される。
【0190】
アノード基材は、好ましくは、導電性を有する。アノード基材は、好ましくは、電気回路に電気的に接続可能である。
【0191】
好ましくは、反応器チャンバ内のアノード基材は、基材が反応ガスに直接露出されないように、半導体材料によって少なくとも部分的に覆われており、より好ましくは半導体材料によって完全に覆われている。
【0192】
一実施の形態では、電極間ギャップ付近のアノード基材が半導体材料によって完全に覆われていれば十分であり、アノード基材の遠位部分が覆われる必要はない。
【0193】
アノード半導体材料は、好ましくは、アノード基材と電極間ギャップとの間に位置する部分を含む。アノード半導体材料は、電極間ギャップ内の凝縮プラズモイドがそれ以外の金属(導電性)アノードに直接接触して散逸しないことを確実にする。凝縮プラズモイドは、接地された金属表面に触れると散逸する。
【0194】
アノード半導体材料はまた、電極間放電の電流を制限する抵抗障壁として作用する。
【0195】
アノード半導体材料の抵抗率は、アノードの放電に影響を及ぼすパラメータであり、たとえばアノード半導体材料の抵抗率が低ければ低いほど、放電される電流は大きくなる。したがって、アノード及びアノード半導体材料は、特定の電圧又は電流出力要件を有しうる用途に合うように変動させることができる。
【0196】
電気回路は、好ましくは、電源に接続された、カソードとアノードとの間にパルス電位差を加えるための電気パルス生成ユニットを含む。
【0197】
電気パルス生成ユニットは、好ましくは、カソードのスピン「緩和時間」より小さい期間を有するパルスとして電極に電位を加える。いくつかの実施の形態(たとえば、酸化アルミニウム電子放出材料を用いる)では、電気パルスは、好ましくは10マイクロ秒未満、より好ましくは約2マイクロ秒である。
【0198】
スピン「緩和時間」とは、半導体材料内のスピン偏極電荷クラスタが散逸して非偏極状態になるまでに要する時間を指す。電気パルス生成ユニットは、好ましくは、持続時間が約1マイクロ秒のパルスを加える。
【0199】
電気パルス生成ユニットの短いパルス持続時間は、カソードがスピン偏極状態の電荷クラスタを有するときのみ電極間放電が生じることを確実にするために重要である。
【0200】
短い「スピン蓄積」期間内でのみ、秩序のあるスピン状態が半導体材料内に蓄積される。これは複数の作用の結果であり、様々なパラメータの影響を受ける。たとえば、室温以上での熱雑音は、電位「コヒーレンス」又は「スピン蓄積」期間を低減させる。
【0201】
短い電気パルスは、通電カソードに「表皮効果」を生じさせ、その結果、スピン偏極電子をカソードの外面へ押しやる。当技術分野では知られているように、「表皮効果」とは、交流電流の通電材料内の分布が、電流密度が表面付近で最も大きくなり、深さが大きくなるにつれて指数的に減少する傾向である。したがって、電流は主に通電材料の「表皮」を流れ、この場合それは半導体材料である。
【0202】
したがって、好適な半導体材料によって、半導体材料を通るスピン整列電流は、半導体材料上の2つの空間次元内を動かされる。電流は、半導体材料内の量子スピン・ホール効果に似た、半導体材料上のスピン整列電子電流の流れの2次元分布として現れる。
【0203】
半導体材料内の隣り合うが逆にスピン偏極した電子クラスタ間の距離は、数マイクロメートル程度とすることができる。逆にスピン偏極した電子クラスタは、放出されたとき、その逆の磁極が互いに引き付け合って凝縮プラズモイドの集合体を形成することができるように、ともに十分に近いことが好ましい。集合体は最初、互いに引き付けられた逆にスピン偏極したクラスタの対を形成することができ、これらは次いで他の対とつながって、「鎖」又は「環」などのより複雑な集合体を形成する。
【0204】
したがって、スピン偏極電子クラスタ及び後の凝縮プラズモイドの形成を引き起こすために、短い持続時間の電位パルスをカソードに加えることが重要である。
【0205】
したがって、この非常に短いパルスを実現するために、電気パルス生成ユニットは、弛張発振器を含むことができ、弛張発振器は、電源を有するオーム抵抗器によって充電されたキャパシタを含み、使用の際は、キャパシタをカソードへ周期的に放電して、電気パルスを提供する。電源は、1次及び2次コイル、整流器、並びにバッファ・コンデンサを有する高圧変圧器を含むことができる。
【0206】
当然ながら、短い持続時間のパルスを提供することが可能な当技術分野では知られている他の発振器を利用することもできることが理解されよう。
【0207】
好ましくは、電気回路は、カソードにわたって100Vcm-1より大きい電圧勾配を供給することが可能である。
【0208】
プラズマ放電(本明細書に記載する電極間放電など)は、その特性に従って分類されることができる。これらの特性は、「暗」、「グロー」、及び「アーク」(又は「火花」)として知られている3つの主なグループにグループ化されている。暗放電では、反応ガスのイオン化が生じるが、電流は低く(10μA未満)、放出は見られず、したがって「暗」という用語が使われる。グロー放電では、電流ははるかに高く、プラズマがほのかな白熱光を放出し、アーク又は火花放電では、大量の放射が作られ、電極間の目に見える火花が観察される。
【0209】
凝縮プラズモイドは、「Trichelパルス」として知られている暗放電で形成されることが分かっているが、電流は非常に低く、したがって多くの用途にとって有用でない。凝縮プラズモイドは、グロー放電を形成する傾向がなく、したがって電極間でグロー放電を作り出すための装置設定は、凝縮プラズモイドを生成するのに有用でない。
【0210】
したがって、好ましくは、装置は電極間ギャップ、電位、反応ガス、及び反応ガス圧力を含み、したがって電位を加えることによって作られた電極間放電は、アーク又は火花放電である。火花放電を実現するために必要なパラメータは知られており、電圧、反応ガス組成、反応ガス圧力、及び電極間の電極間ギャップ距離を含む。そのようなパラメータの様々な組合せにより、火花放電がもたらされる。
【0211】
チャンバは、好ましくは、ガラス管などの管の中に形成される。
【0212】
チャンバは、好ましくは、内部チャンバ圧力を低減させるために真空が適用される。動作中の内部チャンバ圧力は、好ましくは1バール未満である。
【0213】
次いで、所望の圧力及びガス濃度に到達するように、反応ガスがチャンバへ供給される。
【0214】
好ましくは、装置は、反応器チャンバへ反応ガスを供給するための反応ガス源を含む。反応ガス源は、好ましくは、水素ガス源である。反応ガス源は、加熱要素と、水素化チタン結晶を収容するための容器とを含むことができ、要素が加熱されると、結晶を加熱し、したがって水素ガスを解放する。容器は、反応器チャンバ内に位置することができ、又は反応器チャンバから別個にし、反応器チャンバと流体連通することができる。
【0215】
別法として、反応ガスは、チャンバ上の入口ポートを介して提供することができ、又は封止される前に、チャンバに反応ガスを「事前充填」することができる。
【0216】
反応ガスは、好ましくは、イオン化して陽イオンを生じさせることが可能なガスである。
【0217】
反応ガスは、好ましくは、水素、又は重水素及び三重水素などの水素同位体を含む。さらなる実施の形態では、ガスは、ペニング型混合物とすることができる。ペニング型混合物とは、不活性ガスと、不活性ガスより低いイオン化電圧を有する少量の別の「添加」ガスとの混合物である。ペニング型ガスの一例は、98~99.5%の水素と0.5~2%アルゴンである。そのようなペニング型ガスは、添加ガス元素内に不安定な電子軌道を有し、したがって長時間にわたって水素をイオン化し、電極間放電が終了した後でも水素をイオン化することができる。
【0218】
一実施の形態では、ペニング型ガス混合物は、大部分の水素と、ヘリウム、キセノン、アルゴン、アセチレン、水銀を含む群から選択された添加ガスとを含むことができる。
【0219】
ガスは、ガス源を介してチャンバ内へ直接提供することができ、又はチャンバ内の水素化チタン元素を加熱して水素ガスを解放することによって、その場で生成することができる。
【0220】
好ましくは、装置は、摂氏200度未満、より好ましくは摂氏100度未満のガス温度で動作可能である。
【0221】
電極間放電が生じ、凝縮プラズモイドが形成されると、十分なエネルギーを有する電子が放電電流からアノードへ放出され、それによってアノード側の電気回路内へ進む。この放出は、アノードで高圧パルスの電気出力として現れる。
【0222】
好ましくは、電気回路は、電気出力を利用する目的でアノードに接続された出力電気回路を含む。出力電気回路は、負荷、用途、又は測定装置に応じて、異なる構成要素を含むことができる。
【0223】
出力パルスは、短い持続時間の高い(多kVの)電圧スパイクを含むことがあり、これは多くの用途にとって有用でないことがある。したがって、好ましくは、出力電気回路は、ローパス・フィルタ、キャパシタ平滑化回路、減結合キャパシタ、過渡減衰器、電圧クランプ、又は電気出力を安定したDC若しくはAC出力に調節するための他の平滑化回路の何らかの形態を含むことができる。
【0224】
したがって、電気回路は、電源及び電気パルス生成ユニットを含む「入力回路」と、出力電気回路を含む「出力回路」とを含むことができる。
【0225】
好ましくは、出力回路は、入力回路と同じ又は類似のインピーダンスを有する。
【0226】
好ましくは、出力回路は、反応器と組み合わされた入力回路と同じ又は類似のインピーダンスを有する。
【0227】
一実施の形態では、入力回路のための電源は、エネルギー貯蔵部、たとえばキャパシタ、電池、又は他のエネルギー貯蔵部によって提供されることができる。さらなる実施の形態では、出力回路は、エネルギー貯蔵部に接続され、エネルギー貯蔵部に電力を提供する。
【0228】
本発明の第2の態様によれば、凝縮プラズモイドを生成する方法であって、
- 電極間に電位差を加えることを含み、電極が、カソード及びアノードを含み、電極が、反応ガスを収容するチャンバ内へ少なくとも部分的に延び、カソードとアノードとの間に電極間ギャップが形成され、電位差及び電極間ギャップが、電極間ギャップを横断するプラズマが形成され、前記プラズマを通って電極間放電が生じるように構成され、
カソードが、電極間放電が放出される半導体材料を含み、それによって少なくとも1つの凝縮プラズモイドが電極間放電によって放出されることを特徴とする方法が提供される。
【0229】
前述のように、凝縮プラズモイドとは、スピン偏極電子の非常に高密度のクラスタであり、他の凝縮プラズモイドと結合して、凝縮プラズモイドの「集合体」を形成する。したがって、凝縮プラズモイド集合体は、非常に高い局所化された負の電位を生じさせる。この電位は、チャンバ内のガス中で、イオン化された反応ガス核(すなわち、正の電荷を有する陽子)を加速させることができる。陽子速度が臨界閾値(約0.78MeVのエネルギー)に到達し、陽子が凝縮プラズモイドの電子に十分に近付いた場合、陽子-電子の融合反応が生じる。
【0230】
電子及び陽子の静止質量は、中性子のものより小さく、したがって中性子を形成するには、追加のエネルギーを供給しなければならない。このエネルギーは、陽子の0.78MeVの加速によって提供され、エネルギーを保存するために供給されるべき質量欠損を表す。
【0231】
したがって、電子-陽子の融合が生じる結果、中性子及びニュートリノをもたらすことができる。この中性子の生成により、さらなる融合反応のための触媒が提供される。
【0232】
作り出された中性子は、従来の分裂反応から形成された「熱」中性子とは対照的に、低エネルギー又は「冷」中性子であると見なされる。そのような低エネルギーの中性子は、比較的大きい反応断面積を有し、したがって他の粒子とより容易に反応する。
【0233】
中性子は、電気的に中性であり、したがって陽子との融合反応において打ち勝つべきクーロン障壁は存在しない。したがって、中性子-陽子、中性子-重陽子、及び中性子-三重陽子の融合反応は、磁気トカマク反応器内などの「熱」融合である重水素-重水素又は重水素-三重水素の反応と比べて、比較的低い温度で生じることができる。
【0234】
したがって、中性子-陽子の融合反応は、前述の電子-陽子の融合ステップによって放出された中性子と、凝縮プラズモイドの方へ加速させられたさらなる陽子との間で生じることができる。中性子-陽子の反応は、重陽子を形成し、約2.224MeVの過度のエネルギーをもたらし、すなわち反応はp+n→d+約2.224MeVである。解放される2.224MeVのエネルギーは、重陽子の質量が陽子及び中性子の合計質量より小さいことによる質量の損失に対応する。これは重水素の結合エネルギーでもあり、すなわち2.224MeVである。
【0235】
重陽子-中性子の融合反応は、放出された重陽子と中性子との間で生じ、それによって三重水素を形成することができる。この反応は、d+n→t+6.258MeVである。
【0236】
これらの融合反応は、凝縮プラズモイドが存在し、反応ガス中に陽子の供給源が存在する、すなわち反応ガスが正にイオン化されている限り、生じることができる。
【0237】
それによって、反応器のための「燃料」は、反応ガス中の陽イオンによって提供され、凝縮プラズモイドは触媒として挙動する。時間とともに、より多くの反応及び変換が生じるにつれて、陽子「燃料」は散逸し、さらなる反応は可能ではなくなる。しかし、核融合反応から利用可能なエネルギー密度は非常に高く、したがって比較的少量の反応ガスでも、多くの用途にとって十分なエネルギーを提供することができる。
【0238】
生成された中性子は、これらの中性子と凝縮プラズモイド上の電子との間の磁気引力のため、凝縮プラズモイドの表面付近に結合されることがある。したがって、融合反応から解放されたエネルギーは、凝縮プラズモイドの「表面」上で解放される。
【0239】
そのような「結合」中性子と入ってくる陽子又は重陽子との間で融合反応が生じたとき、解放されたエネルギーは、「爆発」において対応する凝縮プラズモイドを破壊する。
【0240】
十分に高いエネルギー状態を有する電子はまた、その「親」凝縮プラズモイドの結合から逃げて、アノードに入る。凝縮プラズモイドは、融合反応が生じなくても、そのような電子をアノードへ「漏らす」傾向があり、したがって時間とともに自然に散逸することが分かっている。
【0241】
しかし、融合反応が起こったとき、解放されたエネルギーは、凝縮プラズモイドの電子へ渡され、アノードへ自由に進むことができる高エネルギー電子の数を大きく増大させる。
【0242】
したがって、融合反応によって解放されたエネルギーは、凝縮プラズモイド内の電子へ渡される。エネルギー解放によって凝縮プラズモイドが破壊されたとき、励起された電子は凝縮プラズモイドから「排出」され、凝縮プラズモイドをともに保持する磁界及び電界を乱す。このとき自由な電子は、より低い電位の最も近い場所、すなわちアノードへ移動する。
【0243】
この結果、いわゆる電子「クラウド」が、高速バーストで凝縮プラズモイドからアノードへ排出される。この電子クラウド排出は、数フェムト秒程度のパルスにおいて、非常に急速に起こる。したがって、融合反応によって解放されたエネルギーの一部は、今まで融合反応器の目標であった熱生成とは対照的に、電子へ移転されて、電気パルスの形態で現れる。したがって、本発明は、エネルギー損失を伴う熱から電気への変換を必要とする熱出力融合反応器より、潜在的にはるかに効率的な融合システムを提供する。
【0244】
上述した凝縮プラズモイド触媒融合反応は、ミューオン触媒融合に類似しており、すなわち凝縮プラズモイドはミューオンに類似している。凝縮プラズモイド集合体は、融合が生じるのに十分に粒子をともに引き寄せるために使用される高質量ミューオンと同様に、高電荷の擬似粒子を形成する。
【0245】
しかし、凝縮プラズモイドは、ミューオンよりはるかに長い寿命、非常に高い負の電荷、及びより大きい総エネルギーを有することから、ミューオンに比べて利点がある。前述の装置を使用して凝縮プラズモイドを生成することは、ミューオンを生成するよりエネルギー的に安価でもある。したがって、凝縮プラズモイドは、ミューオンより生成のためにより低い入力エネルギー要件ではるかに長い時間にわたって触媒として動作することができる。
【0246】
したがって、前述の装置は、反応ガス中の陽イオンと凝縮プラズモイド中の電子との間の融合、好ましくは後に生成される中性子と反応ガス中の陽イオンとの間の融合を含む融合反応に触媒作用を及ぼすための装置として使用されることができる。
【0247】
本発明の一態様によれば、核融合反応に触媒作用を及ぼす方法であって、電極間に電位差を加えることを含み、電極が、カソード及びアノードを含み、
電極が、反応ガスを収容するチャンバ内へ少なくとも部分的に延び、カソードとアノードとの間に電極間ギャップが形成され、電位差及び電極間ギャップが、電極間ギャップを横断する反応ガスのプラズマが電極間放電で形成されるように構成される方法において、
カソードが、電極間放電が放出される半導体材料を含み、少なくとも1つの凝縮プラズモイドが電極間放電によって形成され、凝縮プラズモイドが、負の電荷、及び陽子より大きい質量を有し、それによって反応ガスからの陽子を凝縮プラズモイドの電子の方へ加速させることを特徴とする方法が提供される。
【0248】
さらなる態様では、中性子は、凝縮プラズモイドの方へ加速させられたさらなる陽子と融合し、凝縮プラズモイドは、反応ガス中の陽子及び陽イオンを凝縮プラズモイドの方へ加速させ、反応ガス中の陽子と凝縮プラズモイドの電子との間に融合が生じ、それによって中性子を形成し、
中性子が、さらなる陽子と融合して重陽子を形成し、それによってエネルギーを解放し、エネルギーの一部が、凝縮プラズモイドの電子へ伝送され、電子がアノードへ放出され、それによってアノードでより高い負の電位を提供する。
【0249】
本発明の別の態様によれば、前述の装置を使用した発電方法であって、電極間にパルス電位差を加えて、これらの電極間の電極間ギャップ内にパルス・プラズマを形成することを含み、凝縮プラズモイドが、プラズマによって、高質量及び高電荷の擬似粒子を提供するように形成され、
凝縮プラズモイドが、反応ガス中の陽子及び陽イオンを凝縮プラズモイドの方へ加速させ、反応ガス中の陽子と凝縮プラズモイドの電子との間に融合が生じ、それによって中性子を形成し、
中性子が、さらなる陽子と融合して重陽子を形成し、それによってエネルギーを解放し、エネルギーの一部が、凝縮プラズモイドの電子へ伝送され、
電子が、アノードへ放出され、それによってアノードでより高い負の電位を提供する、方法が提供される。
【0250】
一実施の形態では、前述の装置は、発電に使用されることができ、装置は、
- カソード及びアノードを有する反応器管であり、
- アノードが、粗い表面を有する薄い半導体層によって覆われている、反応器管と、
- カソードの電気的励起のためのパルス電源、及びアノードからの電気のための出力と、
- 反応器管内の水素同位体又は水蒸気源と、
- 水素同位体源を活性化するソース・コントローラと、
を含み、
電源及びソース・コントローラが、
a)カソードとアノードとの間の反応器管内に表面プラズモン及び凝縮プラズモイドを形成するパルス・プラズマと、
b)カソードの表面上の電荷密度波がプラズマ中の水素核をより重い元素及び同位体に変え、
c)カソードからアノードへの電子の放出と、
d)アノードからの出力の電気と、
を生じさせるように調整される。
【0251】
別の実施の形態では、発電のための装置は、
- チャンバを形成する管を有し、チャンバが、カソード及びアノードを含む電極を有し、カソード及びアノードが、不均質な表面を有する半導体材料層によって覆われている、反応器と、
- 電極間に形成された電極間ギャップに電位を加えるためのパルス電源と、
- 反応ガス及び反応ガスをチャンバに導入するための手段と、
を含み、
電源が、電極に電位を加えて、
a)電極間ギャップ内のパルス・プラズマと、
b)電極間ギャップ内の凝縮プラズモイドと、
c)カソードの表面上の電荷密度波と、
d)カソードからアノードへの電子の放出と、
e)アノードにおけるより高い負の電位と、
を生じさせるように構成されている。
【0252】
前述のように、凝縮プラズモイドは、様々な粒子の核融合を含む様々な作用について研究するために使用されることができる。他のプラズマ及び放電作用もまた、凝縮プラズモイドの使用によって操作及び研究されることができる。さらに、装置は、カソード上でスピン偏極電子クラスタを作り出すことが可能であるため、スピントロニクス応用で利用されることができる。
【0253】
凝縮プラズモイドの形成において、陽子の供給は、好適なガスを提供することによって比較的容易に実現される。しかし、効率的な凝縮プラズモイドの生成は実現しにくいことが分かっている。従来技術において、凝縮プラズモイドを作り出すことはできたかもしれないが、生成効率は低く、カソードの劣化などの副作用の結果、装置は実行不可能であった。対照的に、前述の装置及び方法は、凝縮プラズモイドを確実に作り出すことが分かっている。
【0254】
したがって、本発明は、従来技術に比べて、凝縮プラズモイドを生成するためのより良好な装置及び方法を含む顕著な利点を提供することが理解されよう。
【0255】
本明細書では、本発明の様々な態様及び実施の形態を参照する。見やすいように、また冗長さを避けるために、特徴、態様、及び実施の形態のすべての可能な組合せ、反復、又は順列が明示されるわけではない。したがって、本明細書の開示は、明示的且つ具体的に除外されない限り、あらゆる組合せ、反復、複数、又は順列を含むことを理解されたい。
【0256】
本説明において態様、実施の形態、特徴、又は説明が記載される順序は、必ずしも先行する態様、実施の形態、特徴、又は説明を必要とすると解釈されるべきではない。
【0257】
本発明のさらなる態様及び利点は、添付の図面を参照して例としてのみ与えられる以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0258】
図1】凝縮プラズモイドを生成するための従来技術の装置を示す図である。
図2a】凝縮プラズモイドの従来技術の概念図である。
図2b図2aの凝縮プラズモイドの集合体を示す図である。
図3】凝縮プラズモイドの環状集合体の従来技術のX線フィルムを示す図である。
図4a】電極間ギャップを横断する凝縮プラズモイドの従来技術の写真シーケンスを示す図である。
図4b】電極間ギャップを横断する凝縮プラズモイドの従来技術の写真シーケンスを示す図である。
図4c】電極間ギャップを横断する凝縮プラズモイドの従来技術の写真シーケンスを示す図である。
図5】凝縮プラズモイドの従来技術の写真を示す図である。
図6a】凝縮プラズモイドの集合体の概念図である。
図6b】凝縮プラズモイドの集合体の別の概念図である。
図6c】凝縮プラズモイドによる触媒作用を受けた融合反応の概念図である。
図7】凝縮プラズモイドの集合体の3D概念図である。
図8】第1の実施の形態による凝縮プラズモイドを生成するための装置を示す図である。
図9図8の装置のための反応器を示す図である。
図10a図8のA-Aにおける反応器の横方向断面図である。
図11a図8のB-Bにおける反応器の長手方向断面図である。
図11b】反応器の第2の実施の形態の長手方向断面図である。
図11c】反応器の第3の実施の形態の長手方向断面図である。
図11d】反応器の第4の実施の形態の長手方向断面図である。
図11e】反応器の第5の実施の形態の横方向断面図及び長手方向断面図である。
図11f】反応器の第6の実施の形態の側面図及び長手方向断面図である。
図11g】反応器の第7の実施の形態の側面図及び長手方向断面図である。
図11h】反応器の第8の実施の形態の横方向断面図及び長手方向断面図である。
図11i】反応器の第9の実施の形態の横方向断面図及び長手方向断面図である。
図12】一実施の形態による電気回路の概略回路図である。
図13】スピン偏極電荷クラスタを有する電極の簡略概念図である。
図14】対向する電極端子エッジの拡大簡略概念長手方向断面図である。
図15】カソードに加えられた入力電圧のオシロスコープ図である。
図16】アノードにおける単一の出力電圧パルスのオシロスコープ図である。
図17】様々なガスに対するパッシェン曲線を示す図である。
図18】熱較正試験結果を示す図である。
図19】1つの好ましい実施の形態に対する電力出力試験結果を示す図である。
図20図12の発振入力回路内のキャパシタの電圧曲線を示す図である。
図21図22に示すアノードにおける電圧出力と比べた、カソードにおける入力電圧に対する別のオシロスコープ電圧トレースを示す図である。
図22図21に示すカソードにおける電圧入力と比べた、アノードにおける出力電圧に対するオシロスコープ電圧トレースを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0259】
具体的な利点について上記に列挙したが、様々な実施の形態は、列挙した利点のうちのいくつか、ゼロ、又はすべてを含むことができる。
【0260】
他の技術的な利点は、以下の図及び説明を検討すれば当業者には容易に明らかになるであろう。
【0261】
初めに、例示的な実施の形態が図及び以下に示されているが、本開示の原理は、現在知られているか否かにかかわらず、任意の数の技法を使用して実装されることができることを理解されたい。本開示は、図面及び以下に示されている例示的な実装及び技法に何ら限定されるものではない。
【0262】
別途具体的に言及しない限り、図面に示されている物品は、必ずしも原寸に比例して描かれているわけではない。これらの図は、例示及び本発明の原理を伝える目的で、特徴及び構成要素を拡大して、又は歪ませて示す。したがって、図面に示されている特徴の規模、寸法、及び比率は、必ずしも限定であると見なされるべきではなく、主に例示の目的であることを理解されたい。
【0263】
本開示の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載するシステム、装置、及び方法に修正、追加、又は省略を加えることができる。たとえば、システム及び装置の構成要素を一体化又は分離することができる。さらに、本明細書に開示するシステム及び装置の動作を、より多い、より少ない、又は他の構成要素によって実行することができ、記載する方法は、より多い、より少ない、又は他のステップを含むことができる。加えて、ステップは、任意の好適な順序で実行されることができる。
【0264】
本明細書に使用されるとき、「各」は、集合の各部材、又は集合の部分集合の各部材を指す。
【0265】
図1は、凝縮プラズモイドを生成するための装置p10の従来技術の実施の形態(Shouldersによる米国特許第5,148,461号)を示す。従来技術の装置は、十分に大きい負の電圧を加えることによって、カソードp12の端部で凝縮プラズモイドを生成する。カソードp12はネック部分p12aを有する細長いロッドを有し、ネック部分p12aは、一点で終了し、アノード板p14の方へ略下方に向けられており、アノード板p14は、介在する誘電体板p16によってカソードから分離されている。コレクタ電極p14は、比較的正の電圧値で維持されており、接地することができ、カソードp12の箇所で強力な電界を生成するために、10kV程度の負のパルスがカソードp12に加えられる。結果として生じるカソード先端での電界放出により、カソードp12箇所がAで誘電体に接近又は接触する場所の略近傍に、1つ又は複数の凝縮プラズモイド(図1には図示せず)が形成される。凝縮プラズモイドは、アノードp14に引き付けられ、破線Bによって概略的に示されている経路に沿って、誘電体p16の表面を横切ってアノードp14の方へ進む。絶縁誘電体板p16は、好ましくは、石英などの高品質の誘電体である。したがって、板p16は、カソードp12とアノードp14との間の直接放電を防止しており、凝縮プラズモイドの移動のための表面を提供するようにも働く。
【0266】
カソードp12からの凝縮プラズモイドを捕らえるように、アノードp14に隣り合って「ウィットネス」板p18を位置決めすることができる。ウィットネス板p18は、凝縮プラズモイドによる衝撃を受けると目に見える損傷を受ける導電性箔の形態とすることができる。したがって、ウィットネス板p18を利用して、凝縮プラズモイドの生成を検出し、アノードp14における衝撃点を特定することができる。加えて、凝縮プラズモイドが誘電体表面を横切って伝播することで、光学的に見える筋が表面に残る。
【0267】
図2aは、Shouldersによる米国特許第5,148,461号の図60のコピーであり、凝縮プラズモイド62の概念図を示す。凝縮プラズモイド62は、収容された電子の高密度の電荷クラスタ800を有し、これらの電子は、プラズモイドの周りに非常に強い電磁界801を作り出す。
【0268】
個々の凝縮プラズモイド62は、準安定構造を形成することができるが、分離した状態ではめったに観察されない。凝縮プラズモイド62は、鎖状のビーズに似て、つながって集合体になる傾向を呈する。一例が図2b(Shouldersの図61)に概略的に示されており、鎖の中の凝縮プラズモイド62は、外部又は内部の力の影響下で、互いに対してある程度自由に回転し又はねじれることができる。鎖は、直径20マイクロメートル規模の閉じた環状構造を形成することを観察することができる。複数の鎖が比較的秩序的に合体し、相互に整列することができる。図2bの鎖810の中に、10個のプラズモイド812、814、816、818、820、822、824、826、828、及び830が概して円形のパターンで示されている。典型的には、鎖の中の凝縮プラズモイドの間隔は、個々のプラズモイド62の直径にほぼ等しい。鎖の円環間の間隔は、1つの円環の直径程度である。約10個の凝縮プラズモイド62から構成される典型的な幅1マイクロメートルの鎖は、1012個の電子電荷を含むことができる。鎖の円環内で、個々の凝縮プラズモイド62を観察することができる。1つの凝縮プラズモイド62は、非中性電子プラズマの性質を有し、最も強く結合されており、鎖の中の凝縮プラズモイド62間の結合力はより弱く、プラズモイド62の鎖同士の間の結合は最も弱い。しかし、結合エネルギーのすべてが、材料の化学結合エネルギーより大きいと考えられる。
【0269】
従来技術では、図3図5に示されているように、様々な装置及び実験における凝縮プラズモイド62の観察を参照する。
【0270】
図3は、X線フィルムで観察された凝縮プラズモイド62の大きい環状の鎖を示す(Matsumoto、1993)。X線フィルムでは、凝縮プラズモイド62の外環は通常、X線フィルム上でより明るい円環を生じる結合区域より暗く見える。
【0271】
図4a~図4cは、Mesyatsの実験(2000)から得たものであり、50マイクロ秒間隔の写真の時間シーケンスを示す。電極から排出される凝縮プラズモイドが示されている。これらの凝縮プラズモイドは、大気圧の窒素中で、6cmの電極間距離及び5kVcm-1の電界により、尖っていない表面上に作られた。
【0272】
図5は、Raether(1988)の実験で撮影された凝縮プラズモイドの写真を示す。
【0273】
従来技術の様々な装置及び実験では、そのような凝縮プラズモイドを様々な程度及び効果で作り出すことが可能であった。しかし、いずれも現象を確実に再現するのに有効であることを証明することはできず、過熱、電極劣化、又は不安定な放電がよく見られた。
【0274】
図6aは、プラズマ(図示せず)内に位置する凝縮プラズモイド62の集合体65aの概念図を示す。凝縮プラズモイド62は、個々のプラズモイド62からなる環状構造を集合的に形成する。各プラズモイド62は、1つのスピン状態で大部分を占める1群の電子から形成されており、したがって電子の「スピン偏極」クラスタである。クラスタは、正味スピンが0以外の場合、「スピン偏極」していると考えられる。
【0275】
各凝縮プラズモイド62は、スピン場双極子を有する。したがって、対応する磁気双極子が、各凝縮プラズモイド62に対して存在する。それによって、隣り合う凝縮プラズモイド62の逆の磁極(N=北、S=南によって示す)により、互いに磁気的に引き付け、したがって鎖を形成することが可能である。加えて、静電反発力の存在もまた、凝縮プラズモイド62を離すように作用する。これらの逆の磁界及び静電界が平衡化されている場合、安定した構造がもたらされる。この構造は、十分に強い外部の電界又は磁界によって乱されるまで、安定した状態を維持する。構造はまた、接地した物体又は導電性の物体との接触によっても乱される。
【0276】
図6bは、円環65aを形成する凝縮プラズモイド62のより大きい集合体の別の概念図を示し、より小さい円環の集合体65が、より大きい円環65aの周辺部で凝縮プラズモイド62’に結合されている。
【0277】
同様に、図7は、凝縮プラズモイド集合体65の3次元概念図を示し、可能な集合体構造形状を示している。
【0278】
図8は、凝縮プラズモイドを含む電極間放電を生成するための装置1の形態で、本発明の第1の好ましい実施の形態を示す。図8は、内部構成要素を示すために、容器2の部分切欠図を示す。容器2は、内部構成要素を密閉しており、アルミニウム又はスチールの裏張り及び内部プラスチックの裏張りによって遮蔽されている。
【0279】
装置1は、円筒区画3を含む。区画3内には、6つの反応器4が存在し、ワイヤ5によって入力回路6に電気的に接続されている。図8では、各反応器4の一端のみを見ることができる。区画3は、反応器4を定位置に固定して電気的に絶縁するためのブラケット及びスペーサ7を含む。
【0280】
出力回路8が、反応器4の出力を管理する。反応器4の出力は、キャパシタ・バンク9内に貯蔵され、出力回路8によって管理される。キャパシタ・バンク9はまた、反応器4の電圧出力を平滑化するための平滑化回路として作用することができる。
【0281】
出力回路8に電力出口10が接続される。電源12(図12に示す)のために電力入口11が設けられ、電源12に接続される。入力回路6は、電源12からの入力電力を管理する。
【0282】
反応器4、入力回路6、出力回路8、及びキャパシタ・バンク9によって、電気回路13が形成される。キャパシタ・バンク9は、電池又は他の電荷貯蔵手段によって交換又は補足することができる。
【0283】
いくつかの実施の形態では、電源12は、入力回路6の一体部分として含まれてもよい。
【0284】
例示的な反応器4が図9に示されている。反応器4は、入力回路6に接続されたワイヤ5又は他の電気端子コネクタを含む。別のワイヤ14(又は他の電気端子コネクタ)が、反応器を出力回路8に接続する。
【0285】
反応器4は、ガラス、石英、又は光沢セラミックなどの絶縁材料から構築されたハウジング26を含む。ハウジング26は、典型的にはガラス管である。
【0286】
ハウジング26は、水素、水素同位体、又は理論上はペニング型混合物を含む反応ガスを収容するための真空チャンバ15の境界を画定する。反応ガスは、ポート16を介して注入されることができる。ポート16は、反応ガス源(図示せず)及び真空ポンプ(図示せず)にT字形接合で接続される(図示せず)。1対の電極17、18が、チャンバ15内へ延びており、カソード17及びアノード18を含む。
【0287】
真空ポンプ(図示せず)が、チャンバ15を排気して空気、湿気、又は他の不純物を除去する。次いで、反応ガスがチャンバ15内へ注入されて、チャンバ内に濃縮ガスを提供する。挿入するガスが多ければ多いほど、チャンバ15内の圧力が増大する。
【0288】
電極17、18間に電極間ギャップ19が形成される。
【0289】
カソード17は、ワイヤ5を介して入力回路6に接続される。アノード18は、ワイヤ14を介して出力回路8に接続される。
【0290】
入力回路6及び出力回路8はまた、入力回路6、反応器4、出力回路8、及びキャパシタ・バンク9を組み合わせた全体的な電気回路13を完成させるように電気的に接続される。
【0291】
使用の際、入力回路6は、電極17、18間に高速パルス電位差を加えて、電極間ギャップ19に電極間放電を引き起こす。放電によりガスがイオン化され、プラズマが生じる。
【0292】
カソード17は、材料を通過した電流からスピン偏極電子クラスタを生成することが可能な電子放出材料を有する。好ましい実施の形態では、この材料は、半導体材料から形成された半導体表面22として提供される。半導体表面22は、導電性金属基材23の表面処理であり、たとえば半導体表面22は、アルミニウム基材を陽極酸化して導電性基材23を被覆するカルコゲナイド(酸化アルミニウム)半導体表面22を作ることによって形成されることができる。
【0293】
この陽極酸化により、多くの小さい微小空洞又は「孔」を有する不均質な半導体表面22が生じ、電子クラスタを放出するための経路を形成する。
【0294】
代替実施の形態では、半導体表面22は、施された表面被覆又は層から形成されることができる。
【0295】
カソード17と同様に、アノード18もまた、導電性基材25上に形成された半導体表面23を有する。
【0296】
基材23、25は、主に剛性及び強度のために、位置合わせ及び形状を維持するように提供される。基材23、25はまた、導電性を有しており、電極17、18間に電位が加えられると電流を伝える。
【0297】
図9は、部分切欠図であり、したがって半導体材料22、24は、下にある基材23、25を見せるために部分的に切り取られた状態で示されている。導電性基材23、25の径方向内面を被覆する半導体表面の内側は図9に示されていないが、好ましい実施の形態に存在する。
【0298】
電極17、18はどちらも、押出アルミニウム管から形成される。アルミニウム管17、18は、塩素などの酸化剤に浸漬されて酸化アルミニウム半導体材料被覆を生じ、これが半導体表面22を形成する。被覆22、24は、チャンバ15内で基材23、25の全体を覆い、したがって導電性基材は反応ガスに露出される。酸化アルミニウムは、それぞれ電極17、18上に半導体材料22、24を形成する。しかし、巨視的スケールでは、電極が半導体材料22、24によって覆われているが、マイクロ又はナノ・スケールでは、陽極酸化プロセスにより、多くの不連続性、厚さの変動、及び空洞又は「孔」を有する不均質な半導体表面22が生じ、これが電子クラスタを放出するための経路を形成することに留意されたい。
【0299】
図11a~図11iに示す実施の形態では、半導体表面22、24は、1μm~100μmの厚さを有する。図11a~図11hの基材23、25は、厚さ0.5~2mmである。
【0300】
カソード17は、円形の断面を有する中空の円筒形電極として形成される。同様に、アノード18も、同じ直径の中空の円筒形電極として形成される。各電極17、18は、電極間ギャップ19の近位に先の尖った「エッジ」27、28を有するそれぞれの端子周辺部を有する。端子周辺部27、28は、その範囲の周りに一定の相互分離を有する。したがって、電極間ギャップ19は、端子周辺部27、28の範囲間に一定の距離を有する。
【0301】
電極17、18は、同じ長手方向の長さを有する必要がなく、凝縮プラズモイド生成の特性を変化させるために、たとえばカソード17を短く又は長くすることができることが理解されよう。必然的に、アノード18は、カソード17との電極間ギャップ19の距離を維持するように変更された長さ又は位置を有する必要があるはずである。
【0302】
同様に、カソード17及びアノード18の位置を入れ替えることもできる。
【0303】
ハウジング26は、石英ガラスから作られているが、光沢セラミック又は他の絶縁性及び/若しくは不活性材料とすることもできる。
【0304】
実験により、端子周辺部27、28間の電極間距離が最短になる箇所で放電を「アンカリング」するには、0.1mmほどの小さい電極間ギャップ内の不規則性で十分であることが示されている。この「アンカリング」は、その箇所でカソード17の過熱を引き起こし、劣化を招く。この劣化は、先鋭な尖ったカソードを使用して小さい区域に電界を集中させ、したがって放電を引き起こすために必要とされる電圧を低減させる従来技術の装置に伴う一般的な問題であった。対照的に、図9図11に示す電極構造は、カソード17の円周上の1つの箇所で繰り返し放電が生じることを防止しながら、放電を開始するために必要な電位を実現することができる。
【0305】
各電極間放電がパッシェンの法則によって画定される場所が、ガス中の2つの電極間で放電を開始するために必要な破壊電圧を与える。パッシェンの法則は、ガス圧力及び電極間ギャップ距離に応じて破壊電圧を画定する。図17は、平行板電極間の様々なガスに対する確立されたパッシェン曲線を示す。
【0306】
破壊電圧は、数式
【数1】

によって説明される。
【0307】
上式で、Vはボルト単位の破壊電圧であり、pはパスカル単位の圧力であり、dはメートル単位のギャップ距離であり、γseは2次電子放出係数(入射する1つの陽イオンにつき作られる2次電子の数)、Aは特定の電界/圧力におけるガス中の飽和イオン化であり、Bは励起及びイオン化エネルギーに関係する。
【0308】
したがって、カソード端子周辺部27上の特定の場所で電極間放電が生じるのに必要とされる破壊電圧は、
a)対向するアノード端子周辺部28までの最短距離、及び
b)電極間ギャップ19のうち、その最短距離を画定する経路上に位置する部分における反応ガスの特性(圧力及びガス組成)
に依存する。
【0309】
所与の距離及びガス特性に対して電位が閾値を超過した場合、放電が生じ、反応ガスがイオン化され、プラズマが形成される。放電の直後に、その経路内の反応ガスはそれほど多くの自由イオンをもたなくなり、その場所の有効電位が、カソード端子エッジ27上の他の場所に対して低くなる。したがって、後続の電極間放電は、カソード端子エッジ27上の異なる場所で生じる。この分布は、ランダムであっても規則的であってもよく、電極構造及び反応ガス圧力の精度に依存する。したがって、チャンバ内の圧力を制御することが、効率的な動作にとって重要である。
【0310】
端子周辺部27、28内の不完全性又は電極間ギャップ19の変動により、電極間ギャップ19の残り部分に対してより短い部分が生じた場合、電極間放電は場所で「アンカリング」される。
【0311】
放電アンカリングはまた、アノード18が電極間ギャップ19付近に、半導体材料24によって覆われていない露出された導電性基材部分を有する場合に行うことができる。このアンカリングは、露出された導電性基材部分とカソード17との間の有効電位差が、半導体材料24によって覆われている他のアノード部分に対して増大されることから行われる。
【0312】
したがって、端子周辺部27、28の範囲の周りに一定の電極間ギャップ19を有するように配向及び構成された円筒形電極17、18を利用することで、電極間放電61のアンカリングを防止し又は少なくとも最小にするための効果的な方法が提供される。
【0313】
カソード17及びアノード18は、それぞれコネクタ5及び14に電気的に接続された導電性基材23、24から形成された中空の円筒として形成される。電子放出材料は、端子周辺部27、28並びに電極17、18の径方向内面及び外面を覆う被覆として形成された半導体材料22、24から作られる。半導体材料22、24は、酸化アルミニウムなどのガラス質で非晶質のカルコゲナイド材料から形成される。
【0314】
カルコゲナイド材料は、酸素、硫黄、セレン、テルルを含む。別法として、バナジウム、窒素、リン、ヒ素、アンチモン、又はビスマスなど、第V族の材料を含むこともできる。
【0315】
炭化ケイ素、酸化亜鉛、又は硫化鉛などの他の半導体材料を使用することもできる。一例として、銅5%、アルミニウム10%、鉛55%、及び硫黄30%の合金から構成された電極が挙げられる。
【0316】
用途及び他の装置パラメータに応じて、広範囲のカソード及び半導体材料を使用することができるが、カルコゲナイド元素を有するように形成された材料は、ほとんどの用途に最適であることが示されている。
【0317】
図10は、図9に示す断面A-Aで切り取ったカソード17の横方向断面図を示す。アノード18も同様に構築され、したがって同じ断面を有する。
【0318】
同様に、図11aは、図9に示す断面B-Bで切り取ったカソード17の長手方向断面図を示す。
【0319】
図11a~図11iの実施の形態は、概して、同じ又は類似の構成要素を有しており、したがって全体を通して共通の参照番号が使用される。
【0320】
図11aの反応器4は、カソード基材23を完全に覆うカソード半導体表面22を有する。カソード半導体表面22は、カソード基材23の径方向内面を覆うように延びる。したがって、半導体表面22は、径方向内面及び径方向外面の両方、並びに端子周辺部27を覆う。
【0321】
同様に、アノードは、アノード基材25の径方向内面を覆うように延びる半導体表面24を有する。したがって、半導体表面24は、径方向内面及び径方向外面の両方、並びに端子周辺部28を覆う。
【0322】
半導体表面22、24は不均質であり、すなわち平滑で一貫した構造を有していない。表面の不均質な性質により、下にある基材23から電子が通過するための非常に小さい(マイクロ又はナノ・スケール)経路が存在することが確実になる。
【0323】
カソード17及びアノード18は、チャンバ内へ延びるそれぞれの電気コネクタ5、14を有しており、コネクタ5、14は、電極17、18を位置合わせするためのそれぞれの位置合わせ端子29、30を形成する。位置合わせ端子29、30はまた、コネクタ5、14を介して電極基材23、25を入力回路6及び出力回路8に電気的に接続する。端子29、30は、位置合わせ機構として作用し、電極17、18は、反応器4が組み立てられたとき、それぞれの端子29、30にスリーブ接続又はねじ接続される。
【0324】
ハウジング26の両端に、絶縁性のシリコン・チャンバ端シール35が設けられて、チャンバ15を気密封止し、電極17、18を位置合わせするための構造を提供する。
【0325】
凝縮プラズモイド62は、導電性の物体に接触した場合に破壊される。凝縮プラズモイド62はまた、付近の導電性の物体に引き付けられる傾向がある。したがって、凝縮プラズモイド62を破壊する可能性があるため、導電性構成要素がチャンバ15内に露出されることを防止し又は少なくとも最小にすることが重要である。したがって、導電性位置合わせ端子29、30の端部上に設けられた絶縁プラグ54が、普通なら半導体表面22から放出された凝縮プラズモイド62を破壊する可能性がある、チャンバ15からの導電性端子29、30の遮蔽を行う。プラグ54は、ゴム止め具又は非導電性接着剤層として設けることができる。
【0326】
図11bは、図9に示すB-Bに同等の長手方向断面図の代替の実施の形態を示す。
【0327】
図11bに示す実施の形態は、図9図10、及び図11aに示したものに概ね類似している反応器4bを示す。主な違いは、入力ワイヤ及び出力ワイヤが覆われていることである。入力ワイヤ5は、銅コア32を覆う絶縁シース31を有する。ワイヤ5は、剛性の導電性位置合わせ端子29に接続されており、位置合わせ端子29は、カソード基材23に電気的に接続される。
【0328】
出力ワイヤ14も同様に、銅コア34を覆うシース33を有する。
【0329】
図11cは、反応器4cの別の実施の形態を示し、反応器4cは、重複する同軸の電極17、18を有する。カソード17は、アノード18より小さい直径を有し、したがって電極間ギャップ19は、カソード(径方向外側)半導体表面22とアノード(径方向内側)半導体表面24との間の環形として形成される。したがって、電極間ギャップは、図11cに示すブラケット53及び19によって環状の区間境界として画定されると見なすことができる。
【0330】
図11cの同軸の実施の形態では、電極間放電は、ブラケット53によって示されている重複部分内の場所で、電極間ギャップ19にわたってカソード半導体表面22に直交して生じる。
【0331】
図11dには、反応器4dを有する別の実施の形態が示されており、反応器4dは、同軸の電極配置を提供されることができるが、図11cのように重複部分53を含まない。図11dの実施の形態では、半導体表面の大部分が、電流方向74と平行に位置合わせされている。端子周辺部27、28は、非常に先鋭な対向部分を提供し、したがって電荷を集中させ、図11cに示したものに対して、電極間放電が生じるのに必要とされる電位を低減させる。
【0332】
代替の実施の形態では、図11c及び図11dの電極配置を逆にすることができ、すなわちカソード17がより大きい直径の電極であることが理解されよう。
【0333】
図11eは、概略的な横方向断面図及び長手方向断面図によって、「4e」と表示する反応器の別の実施の形態を示す。
【0334】
反応器4eは、前述の実施の形態と同様に機能し、同様の部分は同様に参照される。反応器4eは、アノード18が中心の円筒形アノード18として設けられ、カソード17が、径方向に配置された1連の12枚の板66(見やすいように、横方向断面図では1つのみを表示する)によって形成されることから、構造が異なる。この概略図では、12枚の板66が使用されるが、アノード18のサイズに応じて、より多い又はより少ない板66を使用することができる。
【0335】
各板66は、不均質な半導体材料24によって覆われた導電性基材23を有する。基材23は、導電性取付け管67を介して互いに導電接続されており、取付け管67はまた、板66をアノード18の周りで定位置に保持する。導電性取付け管67は、プラスチック絶縁層68によってチャンバ15から絶縁される。絶縁された入力ワイヤ5が、導電性取付け管67に電気的に接続され、絶縁された出力ワイヤ14が、アノード25に電気的に接続されるように取り付けられる。
【0336】
11a及び11bの実施の形態に関して、カソード(板66)は、電極間ギャップ19と概ね一致又は少なくとも平行にするように位置合わせされた半導体表面22を有する。各板66とアノード18との間の電極間ギャップ19はすべて同じ分離を有し、放電が板66のうちの一方で「アンカリング」することを防止する。
【0337】
したがって、図11eの実施の形態は、凝縮プラズモイドを生成するための別の反応器構造を提供する。
【0338】
図11fは、概略的な側面図及び長手方向断面図によって、「4f」と表示する反応器の別の実施の形態を示す。
【0339】
反応器4fは、前述の実施の形態と同様に機能し、同様の部分は同様に参照される。反応器4fは、アノード18が中心の円筒形アノード18として設けられ、カソード17が、不均質な半導体材料22で被覆されたカソード導電性基材23から形成された剛性の螺旋形ワイヤによって形成されることから、構造が異なる。それによって、電極間ギャップは、カソード・ワイヤ69とアノード18の半導体外面24との間の螺旋形経路として形成される。カソード17は、その長さにわたって固定の分離を有し、したがって電極間ギャップ19もまた、カソード17の範囲にわたって一定である。
【0340】
反応器4fの相対寸法は、用途に合わせて反応器4fを調整するように変更されることができ、たとえばアノード18又は螺旋形カソード17は、必要に応じてより小さい又はより大きい直径を有するように作ることができる。螺旋形カソード17は、必要に応じてより多い又はより少ない巻き数を有するように作ることができる。
【0341】
図11fの実施の形態は機能することができるが、カソード半導体表面22が電極間ギャップ19に平行又は一致して位置合わせされていないため、11aの実施の形態ほど凝縮プラズモイドの生成に効率的である可能性は低い。アノード半導体表面24も同様である。
【0342】
絶縁された入力ワイヤ5が、カソード17に接続される。出力ワイヤ14も絶縁されており、位置合わせ端子30を介してアノード18の導電性基材25に接続される。図11c及び図11dの実施の形態と同様に、アノード18は、絶縁止め具54によって、アノード位置合わせ端子30を介して取り付けられる。アノード18が管の中心に位置するとき、導電性位置合わせ端子30がチャンバに露出されることを防止するために、位置合わせ端子30のうちアノード18の範囲を越える部分は、取付け絶縁体69によって絶縁される。
【0343】
図11gは、反応器4gのさらに別の実施の形態を示す。反応器4gは、螺旋形カソード17の代わりに、カソードが1連の6つの平行なリングとして形成されることから、反応器4fとは異なる。各カソード・リング17は、半導体材料22によって被覆された導電性基材23を有する。カソード・リング17は、プラスチックなどの絶縁材料から構築された円筒形の取付け具70を介して取り付けられる。反応器4gの相対寸法は、用途に合わせて反応器4gを調整するように変更されることができ、たとえばアノード18又はカソード・リングは、必要に応じてより小さい又はより大きい直径を有するように作ることができる。リング17の数も、必要に応じて変更することができる。
【0344】
各カソード・リング17は、カソード17の端子周辺部27を形成する狭い内径に向かって先細りする。したがって、半導体表面22は、電極間ギャップ19に平行になるように、図11fの実施の形態4fより密接に位置合わせされ、したがって凝縮プラズモイドを生成するのにより効率的である。
【0345】
図11hは、長手方向断面図及び横方向断面図によって、反応器4hの別の実施の形態を示す。反応器4hは、薄い金属リボン・カソード17を利用し、リボン・カソード17は、円筒形アノード18を取り囲むとき、支持具71a、71b間に延びて波状になる。ばね72が、支持具71bを下げるように取り付けられており、下部ばね取付け具73まで延びる。下部支持具71bは、上部支持具71aに対して動くことができ、したがってばね72は、位置合わせ及び一定の電極間ギャップ19を維持するようにリボン・カソード17の張力を調整するための張力調整システムとして作用することができる。
【0346】
リボン・カソード17は、アルミニウム又は他の導電性基材23から形成されており、表面を酸化させ、それによって半導体表面22を形成するための表面処理を伴う。入力ワイヤ5は、カソード17のうち下部支持具の1つに近い部分に導電接続される。
【0347】
アノード18は、前述の実施の形態4f~4gと同様に構築される。反応器4hは、電極間ギャップ19に平行に位置合わせされた半導体表面22をカソード17に提供し、リボン・カソードが薄いという性質により、導電性基材23に対して半導体表面22の面積を最大にする。加えて、端子周辺部27は比較的薄く、電位及びスピン偏極電荷クラスタ63が集中し、それによって電極間放電中に凝縮プラズモイド62をより効率的に作り出すことを可能にする。
【0348】
図11iは、長手方向断面図及び横方向断面図によって、反応器4iの別の実施の形態を示す。反応器4iは、中心に位置するカソード17を有し、カソード17は、12枚の径方向に向けられた板状アノード18によって取り囲まれる。
【0349】
他の実施の形態11a~11hと同様に、カソード17は、導電性基材23及び外部半導体層22によって形成される。反応器4i内のカソード17は、ねじ山に似て、螺旋形の隆起を有する外面を含む柱として形成される。螺旋形の隆起の頂点が、カソード17の端子周辺部27を形成する。したがって、端子周辺部27は、電荷を端子周辺部27に集中させるように比較的先鋭であり、そこから電極間放電が放出される。したがって、隣り合う半導体表面22は、電極間ギャップ19に平行になるように、図11fの実施の形態4fより密接に位置合わせされ、したがって凝縮プラズモイドを生成するのにより効率的である。
【0350】
一実施の形態による例示的な実験試験用電気回路20が図12に示されており、入力回路6、反応器4、出力回路8、及び電源12を含む。
【0351】
出力回路8の一部として、例示的な負荷回路36が含まれる。負荷は、ネオン管灯37及び負荷キャパシタ38の形態で設けられる。負荷回路36を反応器4及び出力回路8の残り部分に接続し、それによって負荷回路36を閉じるように、スイッチ39が設けられる。
【0352】
入力回路6は、キャパシタ41及び高オーム抵抗器42を含む容量弛張発振器の形態で設けられた電気パルス生成ユニット40を含む。キャパシタ41は、電源12によって充電され、キャパシタの電圧を上昇させる。キャパシタの電圧は、その閾値(トリガ)電圧に到達し、次いでそのコンダクタンスが急速に増大して、キャパシタを迅速に放電する。キャパシタの電圧が下降して閾値電圧を下回ると、キャパシタは伝導を停止し、再び充電する。
【0353】
パルス生成器56と組み合わせて、弛張発振器40を使用して、制御された高周波電圧パルスをカソード17に提供することができる。
【0354】
反応器4内の融合反応がカソード17に「キックバック」電位を生じさせたときに生じうる逆流を防止するための「弁」として作用するように、インダクタ46及びダイオード47が含まれる。弁46、47は、抵抗器42を通る電流を防止するように作用し、したがってエネルギーの追加の散逸は抵抗器からの熱を有する。
【0355】
図12に示す実施の形態は、実験試験向けに設計されており、したがってオイル・フラスコ43aを含み、オイル・フラスコ43aは、抵抗器42の熱出力を測定するための熱量測定ユニットとして作用する温度計44aを有する。同様に、出力回路8は、オイル・フラスコ43bを含み、オイル・フラスコ43bは、抵抗器45の熱出力を測定するための熱量測定ユニットとして作用する温度計44bを有する。商業生産では、これらの熱量測定ユニットは必要とされないはずである。
【0356】
チャンバ15内の圧力を測定するための圧力計48が設けられ、反応器チャンバ15を排気するように真空ポンプ(図示せず)が接続される。図9に示すポート16に接続されたニードル弁49を介して、水素ガス源が接続される。したがって、真空ポンプ48及びニードル弁49の動作によって、内部チャンバ圧力の制御を実現することができる。理論上、チャンバ内の反応ガスの圧力は、少なくとも0.2バールを上回る。
【0357】
反応器4を動作のために準備するプロセスは、真空ポンプがチャンバ15を排気するように動作し、圧力を約1トル(≒1ミリバール)まで低減させることを伴う。次いで、ニードル弁49を開いて、圧力が所望のレベル、たとえば0.8バールに到達するまで、反応ガス(たとえば、水素)をチャンバ15内へ解放する。このプロセスは、チャンバ15から空気をなくすように繰り返される。
【0358】
従来技術の電極放電システムは、典型的には、はるかに低い圧力、すなわち0.005バール未満の放電を実現しようとして、特定のガスに対して可能な最も低い破壊電圧を必要とした。図17を参照されたい。
【0359】
低い圧力で動作することに伴う問題の1つは、より高価な真空ポンプ及びシールが必要とされ、極めて低い圧力(0.001バール未満)のガスは、プラズマを形成するためにますます高い破壊電圧を必要とすることである。
【0360】
反応器4は、特に低い電圧要件に拘束されず、非常に高い電圧(たとえば、25kV超)を使用して、放電を開始することができる。これにより、チャンバ内ではるかに高い圧力を使用し、その結果、より高濃度の反応ガスを使用することが可能になる。
【0361】
アノード18の出力は、持続時間の短い一連の高電圧パルスを含み、これらのパルスは、多くの電気負荷によって利用されるために平滑化される必要があるため、この出力を直接取り入れることは困難である。
【0362】
したがって理論上、平滑化回路(図示せず)が出力に組み込まれる。平滑化回路は、低い等価直列抵抗(ESR:equivalent series resistance)及び低い等価直列インダクタンス(ESL:equivalent series inductance)を有するように構築された高電圧ポリプロピレン・フィルム・キャパシタなどの高速「パルス」キャパシタを含むことができる。したがって、平滑化回路は、持続時間が短い高電圧の出力電圧パルスを平滑化し、より有用な出力電源を提供することができる。
【0363】
理論上、出力回路8は、出力回路の総インピーダンスが入力回路6の総インピーダンスに整合するように構築される。このインピーダンス整合は、最大の電力移転にとって重要である。平衡化されていない回路は、信号反射及び電力損失を招く。同様に、反応器4のインピーダンスは、入力回路6及び出力回路8に整合されるべきである。
【0364】
それぞれカソード17及びアノード18で電位を測定するために、2つの電圧計50、51が設けられる。電圧計50で時間に対して測定された例示的な入力カソード電圧のグラフが、図15に示されており、6つの入力パルスを示す。このグラフは、電圧分割に関して10V、時間分割に関して2msの目盛りを有する。入力電圧パルスは、「鋸歯」パターンとして生じ、まっすぐな電圧スパイクに減衰が続く。
【0365】
電圧計51で測定された例示的な出力アノード電圧パルスのグラフが、図16に示されている。このグラフは、電圧分割に関して50V、時間分割に関して100nsの目盛りを有する。この図の時間の目盛りは、約1マイクロ秒で生じた出力パルスの全散逸を見るには短すぎる。
【0366】
電源12は、高速スイッチング高周波電源であり、たとえば電池55を含み、電池55は、必要な高電圧入力パルスを提供するために電池55からの電圧を上昇させる高電圧の高周波スイッチング変圧器56に接続される。
【0367】
装置の例示的な構成要素は、図8図12に関して上記で説明した。装置の動作及びパラメータについて、次に説明する。
【0368】
反応器内で使用される従来技術の電極は、導電性金属から構築され、これは必然的に、最小の熱損失で、電極を通る電流の流れを最大にする。しかし、本発明の好ましい実施の形態は、どちらもそれぞれ半導体表面22、24によって覆われたカソード17及びアノード18を利用する。
【0369】
半導体表面22、24は特に、凝縮プラズモイドの生成を支援するために含まれる。凝縮プラズモイドがカソード半導体表面22からより効率的に形成されることには、複数の理由が存在する。
【0370】
前述のように、凝縮プラズモイドは、電極間ギャップ19を横断するプラズマを通って進むことができる電子の高密度のクラスタから形成される。従来技術では、この高密度のクラスタは、電子をカソード上の非常に小さい区域に集中させることによって、たとえばアノードに対向する尖った又は他の形で「先鋭」なカソードを作ることによって形成された。
【0371】
本発明の好ましい実施の形態では、半導体表面上に電子のスピン偏極クラスタを形成するために、いくつかの半導体の特定の特性を利用する異なる機構が使用される。半導体表面22が電極間ギャップを通る放電電流に平行又は一致して位置合わせされた場所において、カソード17上で半導体材料22を使用すると、金属カソードより著しく多い凝縮プラズモイドがはるかに確実に生じることが、本発明者によって観察されている。これが当てはまる理由に関する理論について、次に概説する。
【0372】
凝縮プラズモイドが形成される理由を理解するには、とりわけスピン偏極、スピン・ホール効果、冷陰極電界放出、及び表皮効果を含む、いくつかの概念を理解する必要がある。これらの概念について、次に個々に詳述する。
【0373】
電子は、電荷に加えて「スピン」角運動量を保有する。電子スピンは+1/2又は-1/2であり、すなわち電子は、その軸の周りを一定の頻度で「時計回り」又は「反時計回り」に「スピン」することができる。これらのスピン状態を、スピン「アップ」及びスピン「ダウン」と呼ぶこともできる。2つの可能なスピン状態は、必然的に、論理演算の「0」及び「1」の状態を表し、したがってデータ記憶及び計算スピントロニクスの用途に使用されてきた。スピントロニクス・デバイスは、電荷の代わりに、又は電荷に加えて、このスピン特性を利用する。スピン状態はまた、異なるエネルギー状態を有し、スピン「ダウン」状態(-1/2)は、スピン「アップ」状態より高いエネルギー状態を有する。スピン状態は、正しい周波数のエネルギーを追加し、それによってスピン状態を「フリップ」させることによって変更されることができる。
【0374】
「スピントロニクス」デバイスで電子スピンをうまく用いるために、半導体内の電子電荷及び電子スピンの制御が、デバイス機能にとって重要である。スピントロニクス・デバイスは、半導体内で電子スピンを使用するために、主に3つの異なる主要なプロセスに依拠する。これら3つのプロセスは、「スピン注入」、「スピン操作」、及び「スピン検出」として知られている。「スピン注入」は、本発明の目的に最も適した方法であり、スピン偏極電子クラスタを半導体などの材料に「注入」することを指す。
【0375】
本発明では、スピン・ホール効果(SHE)を利用することによって、そのようなスピン偏極電子クラスタを半導体表面22内に生成することが可能である。スピン・ホール効果は、1971年にロシアの物理学者Mikhail I.Dyakonov及びVladimir I.Perelによって特定された輸送現象である。SHEは、通電サンプルの側面におけるスピン偏極電子の出現からなり、スピン偏極(「スピン状態」又は「スピン配向」)は、対向する境界において逆になる。円筒形の金属ワイヤ内で、電流に誘起された表面電子スピンが、ワイヤを取り囲むように自己配向する。電流方向が逆になると、スピン偏極の方向も逆になる。
【0376】
同様に、半導体内の電流が、半導体表面22内のスピン偏極を誘起することができる。これは、半導体表面-ガスの境界面付近の薄い層内で生じる。したがって、半導体によって被覆されたカソード17に電流を通すことによって、半導体材料22内に電子のスピン偏極クラスタが形成される。
【0377】
しかし、スピン偏極クラスタが形成されると、その安定性は、電子スピンがその平衡状態に戻るまでに要する時間を画定する「スピン緩和」時間の大きさによる影響を受ける。このスピン緩和時間は、複数の変数による影響を受けるが、大部分は、「スピン軌道結合」(SOC:spin-orbit coupling)として知られているものによって影響される。
【0378】
量子物理学において、スピン軌道結合(スピン軌道効果又はスピン軌道相互作用とも呼ばれる)は、粒子のスピンとその電位内の運動との相対論的相互作用である。この現象の主要な例は、電子の磁気双極子、その軌道運動、及び正に帯電した核の静電界間の電磁相互作用によって、電子の原子エネルギー・レベルの変化をもたらすスピン軌道相互作用である。
【0379】
この現象は、スペクトル線の分裂として検出可能であり、これは「ゼーマン効果」、すなわち静磁界の存在下でスペクトル線がいくつかの成分に分裂する効果であると見なすことができる。この現象は、電子の観点から見た明らかな磁界、及びその固有スピンに伴う電子の磁気モーメントという2つの相対論的効果の結果である。
【0380】
スピン偏極クラスタに対する減衰機構は、スピン・フリップ散乱(スピン緩和又はスピン格子緩和)及びスピン位相緩和(又はスピン・デコヒーレンス)として大きく分類されることができる。スピン緩和時間をもたらす異なる機構は、以下を含む。
・低温での元素金属及び半導体に対するElliot-Yafet機構
・反転対称性をもたない半導体に対するD’yakonov-Perel機構
・高濃度にpドープされた半導体に対するBir-Aronov-Pikus機構
・不純物サイト又は量子ドットに拘束された電子に対する超微細相互作用
【0381】
Bir-Aronov-Pikus機構及び超微細相互作用は、本出願に関連しないため詳述しない。
【0382】
Elliot-Yafet機構は、大きいスピン軌道分裂を伴う「小さい」ギャップの半導体にとって重要である。電子バンド構造において、スピン軌道相互作用によってアップ-スピン及びダウン-スピン状態が混ぜ合わされ、これはアップ(ダウン)スピン状態がそれぞれダウン(アップ)スピン状態を含むことを意味する。
【0383】
「D’yakonov-Perel」スピン散乱は、スピン軌道結合の一形態であり、半導体内の電流に対して電流に直交する「スピン流」が付随し、電流は材料の大部分から表面へ誘導されると述べる。これにより、スピン整列電子が蓄積して、半導体内の薄い層でスピン偏極クラスタになる。Perel(1971年7月12日)を参照されたい。したがって、半導体表面上で最適のスピン流が生じるには、材料を通る電流を半導体表面に平行に向けるべきである。
【0384】
D’yakonov-Perelのスピン散乱効果を増大させると、スピン整列電流が最大になるため、カソード構造及び電極の位置合わせは、この効果を最大にするように選択されるべきである。したがって、好ましい実施の形態は、電極間ギャップ19に平行に、したがって電極17、18を通って電流が流れる方向に平行に位置合わせされた電極半導体表面22、24を有する。
【0385】
スピン偏極クラスタは、上述したSHEによって半導体表面22内に形成される。スピン偏極クラスタが形成される程度は、半導体の形状、厚さ、及び材料特性だけでなく、いわゆる「表皮効果」による電流にも依存する。
【0386】
当技術分野では知られているように、「表皮効果」とは、通電材料内で交流電流の分布が、電流密度が表面付近で最も大きくなり、深さが大きくなればなるほど指数的に減少する傾向である。したがって、電流は主に、図14に矢印64によって示すように、通電材料の「表皮」を流れる。好ましい実施の形態では、この「表皮」は半導体表面22である。したがって、好適な半導体表面22によって、スピン整列電流は半導体表面22を通って進む。
【0387】
スピン整列電流は、半導体表面22の全体にわたって生じ、その結果、スピン整列電流は、半導体表面22上で2つの空間次元に分布する。したがって、電流は、半導体表面内の量子スピン・ホール効果に似て、半導体表面上にスピン整列電子電流の流れの2次元分布として現れる。
【0388】
電源12及び電気パルス生成ユニット40は、非常に短い持続時間の電位「パルス」を加えることによって、通電カソード17に「表皮効果」を生じさせる。その結果、スピン整列電子は、図14に矢印64によって示すように、カソード17の半導体表面22の方へ移動させられる。したがって、半導体表面22を有するカソード17は、表面内の電子をそのスピン配向に従って分布させることが可能な「スピントロニクス」デバイスとして作用することができる。
【0389】
この表皮効果及びD’yakonov-Perelスピン散乱が、図13及び図14に図示されている。図13は、簡略化された電極17、18、及び電位勾配に平行に位置合わせされた矢印74によって示されている電流を示す。これにより、電子は集まって共通のスピン状態を有するクラスタ63になり、すなわちスピンアップ・クラスタ63及びスピンダウン・クラスタ63’の隣り合うスピン偏極電流になる。
【0390】
クラスタ63、63’は、表皮効果によって半導体表面22の方へ押される。図14には、この力が、カソード17内の電流74の方向に直交して位置合わせされた矢印64によって示されている。
【0391】
図14は、電極17、18の端子周辺部27、28の長手方向断面の簡略概略図を示す。端子周辺部27、28は先が尖っており、電極間ギャップ19の近位に位置する。電極17、18はどちらも、それぞれの導電性基材23、25を覆う半導体表面22、24を有する。電極間ギャップ19の近位の半導体表面22、24は、電極間ギャップ19の直接横断線の軸52に平行に位置合わせされる。電流方向は、矢印74によって示されている。電極間放電が線21によって示されており、凝縮プラズモイド集合体が円65によって示されている。スピン偏極電子クラスタ63が、カソード半導体表面22内の円63によって示されている。
【0392】
半導体表面22内の隣り合うが逆にスピン偏極した電子クラスタ63間の距離は、数マイクロメートル程度である。この分離は、表面22から放出されたとき、逆にスピン偏極した電子クラスタ63が互いに磁気的に引き付け合ってともに鎖をなし、凝縮プラズモイド62の「集合体」65を形成するように、十分に近い。カソード17から放出されたときのクラスタ63を、「凝縮プラズモイド」と呼ぶ。
【0393】
集合体65は最初、互いに磁気的に引き付けられた、逆にスピン偏極したクラスタ62の「対」である。放出されると、凝縮プラズモイド対は、他の対とつながって、図6及び図7に示すようなより複雑な鎖を形成する傾向がある。
【0394】
図9図10図11a、及び図11bに示す反応器4、4bの実施の形態は、半導体表面22が表面22のほぼ全体に対してカソード17内の電流74の方向に平行に向けられたとき、表皮効果を最大にしようとする。
【0395】
対照的に、平行板電極配置(一部の従来技術の装置など)は、板の対向する平面間で電極間放電が生じるが、カソード内の電流がカソードの平面の表面に平行に位置合わせされておらず、代わりに直交して向けられるため、最小の効果しかもたらさない。さらに、従来技術の平行板電極配置は、熱損失を最小にし、放電を開始するために必要とされる電圧を最小にするために、必然的に導電性金属電極を使用する。従来技術では、最小の電圧及び熱で凝縮プラズモイドを作り出すことに集中しており、凝縮プラズモイドをより効率的に生成するために半導体表面を使用することもできることに気付いていなかった。
【0396】
図11cに示す実施の形態では、電極17、18の重複部分53間で電極間放電が生じる。したがって、重複部分の電界及び電極間電流は、カソード17内の電流74に平行ではない。したがって、この配置は依然としてカソード17内にある程度のスピン偏極電荷クラスタ63を作り出すが、重複部分で表皮効果が弱まるため、それほど効率的ではない。半導体表面の重複部分は、半導体表面22の残り部分ほど多くのスピン偏極電荷クラスタ63を作り出さない。
【0397】
図11dの実施の形態は、図11cの実施の形態のものに対する改善を提供するが、それでもなお、図11aに示す実施の形態ほど、凝縮プラズモイド62を作り出すのに効率的ではない。
【0398】
凝縮プラズモイド生成の別の重要な要因は、電極間ギャップ19における電子放出及びプラズマ形成である。半導体表面からの電子放出について、次に考察する。
【0399】
Fowler-Nordheimのトンネル効果とは、非常に高い電界を加えることによって電子導体の表面に作られる角丸三角形の障壁による電子の波動力学的トンネル効果を指す。個々の電子は、様々な状況で、Fowler-Nordheimのトンネル効果によって多くの材料から逃げることができる。
【0400】
1つのそのような例は、冷陰極電界電子放出(CFE:Cold Field electron Emission)として知られている。CFEは、特定の統計的放出領域に与えられた名称であり、エミッタ内の電子は最初、内部の熱力学的平衡状態にあり、ほとんどの放出された電子は、エミッタのフェルミ準位に近いFowler-Nordheimのトンネル効果によって電子状態から逃げる。対照的に、「ショットキー放出領域」では、ほとんどの電子が、フェルミ準位を大きく上回る状態から、電界低減障壁を越えて逃げる。
【0401】
CFEは、マルター効果として知られているプロセスを介して実現されることができる。イオン化放射への露出後、薄い絶縁層の表面からの2次電子放出の結果、表面に正の電荷が生じる。この正の電荷は、絶縁体内に高い電界を作り出し、その結果、表面を通って電子が放出される。これには、表面のさらに下からより多くの電子を引き寄せる傾向がある。最終的に、このプロセスは、接地ループによって、失われた電子を集合した電子から補充する。マルター効果によるこの電子の動きは、電子「なだれ」と呼ばれることが多い。
【0402】
したがって、マルター効果及びCFE効果は、本発明などのスピントロニクスの応用において重要な効果である。
【0403】
情報処理などの既存のスピントロニクスの応用では、データを記憶するために、スピン偏極を2値の「0」及び「1」として使用することができる。そのような情報処理の応用では、放電電流を生じることなくスピン電流の操作が実行されることが重要である。なぜなら放電電流は散逸し、熱を生成するからである。したがって、その結果生じる熱「雑音」は、スピンによって運ばれる情報を破壊するはずである。したがって、情報処理のスピントロニクス応用において、放電電流がゼロ又は最小であることが重要である。
【0404】
対照的に、凝縮プラズモイド62の形成では、スピン偏極クラスタ63を放出して凝縮プラズモイド62を形成し、電極間ギャップ19を横断するために、プラズマ内の放電電流が必要とされる。したがって、
a)CFEが生じ、したがって電子のスピン偏極クラスタ63が、破壊を生じることなくカソード表面22付近から放出され、それによって凝縮プラズモイド62を形成すること、及び
b)電極17、18間のプラズマを通る放電電流21が存在すること、
の両方が好ましい。
【0405】
半導体表面22は、スピン偏極を改善して位置合わせするように作用しながら、「閾値スイッチ」としても作用することができ、実質的には閾値電界値まで絶縁体として作用し、次いで電界が閾値を超えると導体として挙動することができるため、この応用にとって2重に有利である。したがって、半導体表面22は、「実質的に絶縁の状態」でCFEが生じる一方で、高い電界(閾値を上回る)で半導体表面22はより良好な電気導体になり、その結果、比較的少ない散逸及び最小の熱雑音生成をもたらすことを確実にすることができる。この組合せにより、電極間放電中に凝縮プラズモイド63のスピン偏極状態が維持されることが確実になる。
【0406】
対照的に、代わりに電極が金属などの良好な導体から作られた場合(従来技術と同様)、電極間の短い火花放電中に、入力電気エネルギーの約80~90%が熱、音、及び電磁雑音として失われる。したがって、Jaitner(2019)により記載されているような従来技術に見られるように、凝縮プラズモイドの形成は最小になり、カソード表面の劣化が生じる。
【0407】
電極間放電21は、パッシェン条件が満たされたとき、すなわちガス圧力及び電極間ギャップ距離を所与として、電界強度が十分になったとき、電極間ギャップ19にわたって生じる。電子又はTownsendイオン化なだれのトリガは、円筒形カソード17の先の尖った端子エッジ27で生じる。
【0408】
電子なだれ(Townsendイオン化)とは、ガス中の複数の自由電子が、電界による強い加速を受け、次にガスの他の原子に衝突し、それによってそれらの原子をイオン化するプロセスである(衝撃イオン化)。これにより、追加の電子が解放され、加速してさらなる原子に衝突し、より多くの電子を解放し、それによって連鎖反応を形成する。ガス中では、これにより影響された領域が導電性プラズマになる。これは、電極間ギャップ19にまたがる青みがかった火花として見ることができる。
【0409】
この青色の火花は、電流74の100%がスピン偏極クラスタ63に変換されることを確実にするほどSHE効果が十分に強くないことから生じる。したがって、カソード17内の電流の大部分(約80%)が、非偏極状態で端子エッジ27に到達する。この電流は、放出されると、電極間放電61によって提供される青みを帯びた火花を形成する。
【0410】
カソード17の端子エッジ27の曲率もまた、なだれに影響を及ぼす重要なパラメータである。なぜなら曲率が最も高い点が、なだれが生じるために必要とされる電界強度を画定するからである。したがって、端子エッジ27は、先の尖ったエッジとして設けられる。
【0411】
したがって、閾値を超過する電流が半導体表面22を流れた場合、電子のスピン偏極クラスタ63を半導体表面22から放出することができる。次いで、これらのクラスタ63は、凝縮プラズモイド62を形成し、凝縮プラズモイド62は、ともに集まって集合体65になり、電極間ギャップ19を横断する。
【0412】
従来技術では、凝縮プラズモイドが放出され、クラスタの「集合体」を形成することが、本発明者によって観察されており、集合体は、円環、鎖、又は類似の構造とされることが多い。この現象について説明するために、様々な仮説が提案されたが、本発明者は、凝縮プラズモイドが個々の凝縮プラズモイドのスピン偏極によりそのような集合体を形成することを指摘する。
【0413】
電子スピンは、電流及び対応する磁気モーメントを画定する。したがってこれにより、両極が位置合わせされた場合、スピン「アップ」電子がスピン「ダウン」電子に磁気的に引き付けられることになる。したがって、凝縮プラズモイドの電子クラスタは、小さい磁気双極子として挙動することができる。それによって、隣り合うクラスタは、静電反発力に打ち勝つのに十分にともに近い場合、互いに引き付けられる。クラスタはともに集まり、典型的には鎖になる。この集合体65は、多くの場合、比較的寿命の長い安定した構造であり、電位パルスを超える寿命を有する。
【0414】
半導体表面22に使用される半導体材料は、スピン偏極、電子放出、及び電極間放電61、並びにしたがって凝縮プラズモイドの形成に大きな影響を与える。理想的な半導体表面材料に対する複数の望ましい特性を次に定義する。
【0415】
半導体表面22の絶縁性が高ければ高いほど、電子移動度及び密度はより低くなり、したがって電子を動かして冷陰極電界放出を引き起こすには、より高い電界が必要になる。しかし、半導体表面22の絶縁性が高ければ高いほど、スピン偏極効率はより良好になる。したがって、高いキャリア移動度とスピン偏極効率との間で妥協が求められる。したがって、半導体表面22は、それらのパラメータを最適化するように選択される。
【0416】
半導体表面22において、構成するアップ-ダウン・スピン偏極クラスタは、好ましくは等しく生じ、すなわち正味アップ-スピン偏極クラスタの数と、正味ダウン-スピン偏極クラスタの数は同じである。したがって、カソード17全体に対する全体的な正味「スピン電流」は存在しないが、それでもなお内部スピン偏極分布を有することができる。
【0417】
したがって、最適な半導体表面22は、好ましくは、カソード半導体表面22の電流のうち、スピン偏極電子クラスタ63になる割合を最大にする。
【0418】
半導体表面22材料は、好ましくは反転非対称性を有し、すなわち反転対称性を有しない。前述のように、D’yakonov-Perelの散乱機構が優勢になることが、凝縮プラズモイドの形成にとって重要であり、したがって反転対称性のない材料が重要である。材料上のrにおけるすべての格子点に対して、対応する格子点(-r)が存在する場合、材料は「反転対称性」を有する。したがって、反転対称性のない材料は、スピンアップ状態及びスピンダウン状態の両方を伴う電子を有し、反転対称性のある材料とは対照的に、スピン状態を恒久的に「反転」させることは可能でない。
【0419】
半導体表面22は、好ましくは、高いキャリア移動度を有し、すなわち可能な限り多くの自由電子を有する。したがって、多くの電子を放出して、形成される凝縮プラズモイド62の数を最大にすることができる。
【0420】
半導体表面22は、好ましくは、表面-プラズマ境界面で低い電子散乱を有する。この特性は、電子散乱効果が高すぎる場合、凝縮プラズモイド62を形成することができないことから重要である。半導体表面/プラズマの境界面を交差する電子の放出プロセスは、非常に短時間の現象であり、1フェムト秒未満で生じる。しかし、この放出は、凝縮プラズモイド62の形成にとって不可欠である。半導体表面の品質、準備、及び劣化はすべて、電子散乱の程度、したがってこれらの作用を最小にするために取られる処理に影響する。
【0421】
半導体表面22は、好ましくは、高い誘電率を有する。半導体表面22の誘電率もまた、クラスタ形成に影響を及ぼし、それによって誘電率が高ければ高いほど、スピン偏極電子クラスタ63を形成する可能性も高くなる。対照的に、従来技術のような純金属カソードでは、電流の大部分が散逸プラズマを形成し、少しのスピン偏極電子クラスタ63しか形成されない。
【0422】
カルコゲナイド材料を含む半導体表面22は、これらの要件のうちの多くを満たす。ガラス質(非晶質)で無秩序の均質及び/又は等方性のカルコゲナイド材料が理想的である。
【0423】
カルコゲナイド材料は、開放閾値電圧までは非常に不十分な導体であり、スピン偏極の蓄積が発生する可能性がある。開放閾値を上回ると、抵抗は急に低減され、電極間放電21によってスピン偏極クラスタ63がカソード17を離れ、それによって凝縮プラズモイド62を形成することが可能になる。
【0424】
カルコゲナイド半導体材料の抵抗率は、10-5~10Ωmの範囲内であり、金属材料の場合、抵抗率は、10-7~10-8Ωmの範囲内である。金属は、良好な導体であり、低いスピン秩序及びスピン・コヒーレンス特性を有する。したがって、金属は、典型的には、20%を大きく下回るスピン偏極生成効率を有する。対照的に、カルコゲナイド半導体表面材料の効率は、ほぼ完全な秩序であり、すなわち100%に近いことが予期される。Hirohata(2020)を参照されたい。
【0425】
カルコゲナイドは、酸化物、硫化物、セレン化物、及び/又はテルル化物などの第VI族元素から選択されることができる。たとえば、酸化アルミニウム又は硫化銅は、半導体表面として使用するのに好適なガラス質のカルコゲナイドとなることができる。
【0426】
異なる用途(電気閾値スイッチ)に使用されるカルコゲナイド半導体のいくつかの例が、Ovshinskyによる米国特許第3,271,591号に記載されている。
【0427】
カルコゲナイド半導体を調査した他の研究には、次のものが含まれる。
・M.Popescu:Chalcogenides:Past,present and Future.Journal,of Non Crystalline Solids.Vol.352、2006、887~89頁
・S.Hudgens:Progress in Understanding the Ovshinsky effect.Phys.Status Solidi,Vol 249,No10、2012、1951~1955頁
【0428】
半導体表面22のスピン偏極及び放出特性に加えて、カソード17の物理的及び熱的動作に影響を及ぼす半導体表面22のいくつかの特性がある。したがって、理想的なカソード半導体表面22は、次のような特性を有する。
・カソードの急速な電位ローディング及びアンローディング下での半導体表面の変形を防止するための、低い熱膨張勾配
・熱が半導体表面に蓄積するときの融解を回避するための、高い熱伝導定数
・半導体表面とカソード基材との間に熱膨張が生じた場合に局所的な亀裂を回避するための、高い引っ張り強度
・熱を貯蔵し、それによって融解及び表面浸食を回避するための、高い熱容量
・融解及び表面浸食を回避するための、高い融解/軟化温度
【0429】
実質的に、電極17、18は、「スピン弁」又はJohnsonスピン・トランジスタと同様に挙動すると見なすことができる。完全に同等ではないが、トランジスタは、動作を視覚化するための有用な類例である。半導体表面22は、トランジスタのエミッタと同様であると見なすことができ、アノード半導体表面24は、トランジスタのコレクタと同様であると見なすことができる。閾値スイッチ特性を定義する半導体表面の仕事関数は、閾値電界強度を超過すると開くトランジスタのゲートに類似している。
【0430】
別の重要な半導体表面パラメータは、半導体表面22の仕事関数である。半導体表面22の仕事関数φは、表面からの電子を真空中へ除去するために必要とされるエネルギーである。仕事関数は、次のように与えられる。
W=-eφ-E
【0431】
上式で、-eは電子の電荷であり、φは表面付近の真空中の静電電位であり、Eはフェルミ・エネルギーであり、すなわち固体中の電子の電気化学的電位である。半導体表面の仕事関数は、元素組成だけでなく表面構造によっても変動する。したがって、半導体仕事関数は、電子が半導体表面22から放出されるために必要とされる閾値電位を定義する。したがって、半導体表面22は、電子の放出とスピン偏極との間のバランスを最適化する仕事関数を有するように選択される。
【0432】
カソード17は、電子放出なだれが維持されることを条件として、「開」状態のままである。しかし、目標は凝縮プラズモイドを生成することであるため、電子放出なだれは、スピン偏極散逸の可能性があることから、短い持続時間にわたってのみ維持されることができる。
【0433】
アノード18は、凝縮プラズモイド集合体65内に拘束されずにアノード基材に到達した電子を受け取り、それによってプラズマは電気回路を「閉」じ、電流の流れを可能にする。
【0434】
プラズマ放電のタイプもまた、効率的な凝縮プラズモイドの形成にとって重要である。
【0435】
当技術分野では知られているように、プラズマ放電特性は、反応ガス、電極間ギャップ距離、電極間の電位差、ガス圧力、及び電極材料に応じて変動する。
【0436】
プラズマ放電は、概して、「暗」放電、「グロー」放電、及び「火花/アーク」放電を含む3つ又は4つの知られている放電タイプに分類され、暗放電とグロー放電との間に「過渡」放電が定義される。この過渡領域が、コロナ放電が生じる場所である。「Trichelパルス」が、1つの知られているタイプのコロナ放電である。
【0437】
凝縮プラズモイドは、Trichelパルス又は「火花」放電の両方で形成することができる。しかし、Trichelパルスは、安定した凝縮プラズモイドを作り出すことができるが、Trichelパルスは低い電流を有する。対照的に、グロー放電は、より高い電流を有するが、凝縮プラズモイドを作らない。様々な従来技術の融合実験は、慣性静電閉じ込め核融合(IECF:Inertial-Electrostatic Confinement Fusion)などのグロー放電領域で試行されてきた。
【0438】
高い電流が所望される好ましい実施の形態では、反応器4は、火花放電を生じさせるように構成される。特定の組合せのパラメータのみが火花放電を生じさせるため、火花放電を実現するための要件は、異なる反応器パラメータを選ぶ柔軟性を制限する。所与の電極間ギャップに対して、これは、他の放電タイプより電圧が高いことを意味する。
【0439】
プラズマ放電を調査した既存の実験は、比較的大きい、すなわち5mmより大きい電極間ギャップを有する放電特性を調査する傾向があり、これにより放電を観察することがより容易になる。しかし、好ましい実施の形態は、5mm未満、図9図11の実施の形態の場合は2mmの電極間ギャップ距離を使用する。したがって、この領域内のプラズマ放電特性は比較的調査されておらず、特定するためには広範な実験が必要である。
【0440】
後に説明するように、好ましい実施の形態は、電極17、18にわたって高いパルス電圧を加える。これらの短期間パルスは、一時的な火花放電を生じさせ、これは一定の火花放電とは対照的に、凝縮プラズモイドの生成効率を改善する。
【0441】
凝縮プラズモイド62及び凝縮プラズモイド集合体65は、非常に高い電界を有する擬似粒子を提供するのに有益であり、これを使用して、触媒融合を含むいくつかの現象を研究されることができる。
【0442】
陽子-電子の融合は、「弱い力」を介して生じることが可能な知られている融合反応である。特有の量子反応は、電子とWボソンを交換する陽子内のアップ・クォークを伴うことができる。Wボソンは、1単位の正の電荷をクォークから電子へ運ぶ。そのプロセスにおいて、アップ・クォーク(電荷+2/3)はダウン・クォーク(-1/3の電荷)に変換され、したがって陽子(スピン=アップ・アップ・ダウン)は中性子(スピン=アップ・ダウン・ダウン)になる。負に帯電した電子は、電子ニュートリノに変換される。したがって、この反応はp+e-→n+νであり、ここでp=陽子、e=電子、n=中性子、及びν=ニュートリノである。
【0443】
陽子を多く含む原子内で生じる陽子-電子の融合は、「電子捕捉」として知られている。放射性崩壊において、陽子-電子の融合はベータ崩壊モードになり、電子(一般に、内側(低エネルギー)軌道から)が原子核によって「捕捉」される。電子は、核陽子のうちの1つと反応し、中性子を形成し、ニュートリノを生じさせる。
【0444】
凝縮プラズモイド62は、図6cを参照して次に説明するように、そのような陽子-電子の反応に触媒作用を及ぼすことができる。図6cは、生じる反応の理解を支援し、凝縮プラズモイド62の表面又はその付近で反応が生じることを示す概念図である。図6cは、位置、サイズ、比率、又は他の変数の正確な図であることを意図したものではなく、そのように解釈されるべきではない。
【0445】
凝縮プラズモイド62は、スピン偏極電子の非常に高密度のクラスタであり、クラスタは、他の凝縮プラズモイド62と結合して、凝縮プラズモイド62の鎖状の「集合体」65を形成する。したがって、凝縮プラズモイド集合体65は、非常に高い局所化された負の電位を生じさせ、構成電子の総質量に等しい大きい質量を有する。この電位及び大きい質量は、チャンバ内のガス中で、イオン化された反応ガス核(すなわち、正の電荷を有する陽子58)を加速させることができる。
【0446】
陽子速度が臨界閾値(約0.78MeVのエネルギー)に到達し、陽子57aが凝縮プラズモイド62の電子58に十分に近付いた場合、陽子-電子の融合反応が生じ、すなわち次のようになる。
p+e+0.78MeV→n+ν
【0447】
これは、図6cに陽子57a及び電子58によって表されている。
【0448】
電子及び陽子の静止質量は、中性子のものより小さく、したがって中性子を形成するには、追加のエネルギーを供給しなければならない。このエネルギーは、陽子の0.78MeVの加速によって提供され、エネルギーを保存するために供給されるべき質量欠損を表す。
【0449】
したがって、電子-陽子の融合が生じる結果、中性子59及びニュートリノ(図示せず)をもたらすことができる。この中性子の生成により、さらなる融合反応のための触媒が提供される。
【0450】
作り出された中性子59は、チャンバ15の外側では検出されず、従来の分裂反応から形成された「熱い」中性子とは対照的に、「熱的」、低エネルギー、又は「冷」中性子であると見なされる。そのような低エネルギーの中性子59は、比較的大きい反応断面積を有し、したがって他の粒子とより容易に反応する。
【0451】
中性子59は、電気的に中性であり、したがって陽子との融合反応において打ち勝つべきクーロン障壁は存在しない。したがって、中性子-陽子及び中性子-重陽子の融合反応は、磁気トカマク反応器内などの「熱」融合である重水素-重水素又は重水素-三重水素の反応と比べて、比較的低い温度で生じることができる。
【0452】
したがって、中性子-陽子の融合反応は、前述の電子-陽子の融合ステップによって放出された中性子59と、凝縮プラズモイド集合体65の方へ加速させられたさらなる陽子57bとの間で生じることができる。中性子-陽子の反応は、重陽子60を形成し、約2.224MeVの過度のエネルギーをもたらし、すなわち反応は次のようになる。
p+n→d+2.224MeV
【0453】
解放されるエネルギーは、重陽子60の質量が陽子57b及び中性子59の合計質量より小さいことによる質量の損失に対応する。これは重水素の結合エネルギーでもあり、すなわち約2.224MeVである。
【0454】
重陽子-中性子の融合反応は、放出された重陽子60と他の中性子59aとの間で生じ、それによって三重陽子61を形成することができる。この反応は次のようになる。
d+n→t+6.258MeV
【0455】
凝縮プラズモイド集合体65の重い質量及び大きい電荷のため、作り出された三重水素61とさらに入ってくる加速された陽子57cとのさらなる反応が生じることができ、すなわち次のようになる。
【数2】
【0456】
これらの融合反応は、凝縮プラズモイド62が存在し、反応ガス中に陽子57の供給源が存在する限り、生じることができる。使用の際、各放電中に数百万の凝縮プラズモイドが電極間ギャップを横断することに留意されたい。
【0457】
それによって、反応器のための「燃料」は、反応ガス中の陽子によって提供され、凝縮プラズモイドは触媒として挙動する。時間とともに、より多くの反応及び変換が生じるにつれて、陽子「燃料」は散逸し、さらなる反応は可能ではなくなる。しかし、核融合反応から利用可能なエネルギー密度は非常に高く、したがって比較的少量のガスでも、多くの用途にとって十分なエネルギーを提供することができる。
【0458】
生成された中性子は、これらの中性子と凝縮プラズモイド62上の電子との間の磁気引力のため、凝縮プラズモイドの表面付近に結合されることがある。したがって、融合反応から解放されたエネルギーは、凝縮プラズモイド62の「表面」上で解放される。
【0459】
そのような「結合」中性子と入ってくる陽子又は重陽子との間で融合反応が生じたとき、解放されたエネルギーは、対応する凝縮プラズモイドを破壊する。十分に高いエネルギー状態を有する電子は、「親」凝縮プラズモイドの結合から逃げて、アノード18に入る。凝縮プラズモイド62は、融合反応が生じなくても、電子をアノード18へ「漏らす」傾向があり、したがって時間とともに必然的に散逸することが分かっている。
【0460】
しかし、融合反応が起こったとき、解放されたエネルギーの一部は、凝縮プラズモイド62の電子へ渡され、アノード18へ自由に進むことができる高エネルギー電子の数を大きく増大させる。
【0461】
したがって、融合反応によって解放されたエネルギーは、凝縮プラズモイド62内の電子へ渡される。エネルギー解放によって凝縮プラズモイド62が破壊されたとき、励起された電子は凝縮プラズモイド62から「排出」され、凝縮プラズモイドをともに保持する磁界及び電界を乱す。このとき自由な電子は、より低い電位の最も近い場所、すなわちアノード18へ移動する。
【0462】
この結果、電子「クラウド」が、高速バーストで凝縮プラズモイド62からアノード18へ排出される。この電子クラウド排出は、数フェムト秒程度のパルスにおいて、非常に急速に起こる。電子「クラウド」がアノード18に到達すると、接地に対して電位の大きいスパイクを有する出力パルスとして、電圧計51によって測定される。
【0463】
したがって、融合反応によって解放されたエネルギーの一部は、今まで融合反応器の目標であった熱生成とは対照的に、電子へ移転されて、電気パルスの形態で現れる。したがって、本発明は、エネルギー損失を伴う熱から電気への変換を必要とする熱出力融合反応器より、潜在的にはるかに効率的な融合システムを提供する。
【0464】
上述した凝縮プラズモイド触媒融合反応は、ミューオン触媒融合にやや類似しており、すなわち凝縮プラズモイドは、ミューオンの代わりに触媒として作用する。凝縮プラズモイド集合体65は、融合が生じるのに十分に粒子をともに引き寄せるために使用される高質量ミューオンと同様に、高電荷の擬似粒子を形成する。
【0465】
しかし、凝縮プラズモイド62は、ミューオンよりはるかに長い寿命、非常に高い負の電荷、及びより大きい総エネルギーを有することから、ミューオンに比べて利点がある。前述の装置を使用して凝縮プラズモイド62を生成することは、ミューオンを生成するよりエネルギー的に安価でもある。したがって、凝縮プラズモイド62は、ミューオンより生成のためにより低い入力エネルギー要件ではるかに長い時間にわたって触媒として動作することができる。
【0466】
電子クラウドには、周辺のガス分子をイオン化するという副作用がある。この高速イオン化は、チャンバ15内に音圧波を開始する。そのような音波は、圧電マイクロフォンを使用して検出されることができ、反応器チャンバ15内で結合された音波/電波として現れる。対応する電界が形成され、これはチャンバ15の外側で検出されることができる。
【0467】
しかし、音波及び電荷波を結合する欠点は、プラズマ・ガス分子の非弾性散乱により、エネルギー損失が生じることである。したがって、チャンバの設計は、チャンバ15及び電極17、18を音波共振周波数に同調させることによって、音波を最適化するように修正することができる。たとえば、一実施の形態では、電極のうちの1つを絶縁性可動ピストンに取り付けることによって、チャンバ体積を可変とすることができ、ピストン面がチャンバの一端への閉鎖として作用する。ピストンは、チャンバ体積を変化させるように、チャンバに沿って軸方向に可動である。
【0468】
カソード17から放出される凝縮プラズモイドに加えて、
【0469】
実験結果について、図16図22に関して次に説明する。
【0470】
これらの実験で使用された装置は、図9図11aに示す実施の形態を含み、電極間ギャップ19は5mmであり、電極17、18は端子周辺部27、28に8mmの直径を有した。
【0471】
電圧計51で測定された例示的な出力アノード電圧パルスのグラフが、図16に示されている。このグラフは、電圧分割に関して50V、時間分割に関して100nsの目盛りを有する。出力電圧スパイクは、実質的に、反応器4内の反応に対応する一連の構成パルスと、アノード18に到達した対応する電子クラウド/波と、を含む。明らかなように、約25Vの所与の入力パルスに対して、はるかに大きい(50~200V)出力パルスが検出されるが、出力ははるかに短い持続時間に生じる。反応器内の融合反応が電極間ギャップ19を通って進む電子にエネルギーを追加したため、出力パルスの総エネルギーは、入力回路によって提供される入力パルスの総エネルギーより高い。
【0472】
図18は、以下の表Aに対応する熱較正試験のグラフを示す。熱較正試験は、較正された知られている電源が、図12に示すユニット43a、43bに対応する熱量測定ユニット内のオーム抵抗器に電力を加えることによって実行された。
【表2】
【0473】
この較正データは、熱量測定ユニット43a、43b内の散逸エネルギーを正確に測定することを可能にするために取得する必要があった。
【0474】
図19は、以下の表Bに対応する試験結果のグラフを示す。これらは、フラスコ43aで測定された散逸入力電力を、フラスコ43bで測定された散逸出力電力と比べて示す。
【表3】
【0475】
試験はすべて、200ミリバールで実行された最後の試験を除いて、同じチャンバ圧力(700ミリバール)で行われた。発振器回路40の緩和期間は、電源12の設定の電圧によって決定される。電源電圧が高ければ高いほど、キャパシタ41の充電時間は速くなり、緩和時間が低減される。
【0476】
入力電力は、キャパシタ・バンク41の入力を弛張発振の時間で割った値として計算される。
【0477】
電力測定の各々に対して、電源は、熱量計43bを加熱する出力電力が定常状態条件に到達するために、緩和期間を最大2分の1時間にわたって均一に維持することができるように同調された。より高い電力入力及び出力では、緩和期間が均一ではなく、したがってエネルギー・バランス試験は確実ではなかった。
【0478】
図20は、例示的なカソード電圧入力トレースを示す。入力電圧は、電圧が増大し、次いで放電するため、平滑な鋸歯形トレースを示す。
【0479】
制御試験は、反応ガス(水素)の代わりに乾燥空気を使用して実行された。空気は、シリカ・ゲル・パックによって乾燥させた。空気は、慎重に乾燥させなければならず、そうでなければ、少量の蒸気でも、その水素含量により散発的な結果をもたらす可能性がある。
【0480】
図21は、5kVの入力パルスによって、時間に対する電圧として、乾燥空気試験Tを表す代表的なオシロスコープ・トレースを示す。
【0481】
図22は、対照的に、5kVの入力パルスによって、時間に対する電圧として、水素試験Tを表す代表的なオシロスコープ・トレースを示す。
【0482】
図21及び図22を比較すると明らかなように、乾燥空気試験では、散逸システムに関して予期されるように、出力回路8内の電圧出力は入力電圧と同じ又はそれより低く、急速に0まで低下した。対照的に、水素試験は、電源12からの入力より著しく高いエネルギー出力をもたらした。
【0483】
当業者には容易に明らかになるように、本発明及びその様々な態様の他の変更形態及び修正形態の実装も存在し、本発明は、本明細書に記載する特定の実施の形態によって限定されないことを理解されたい。上述した特徴及び実施の形態は、互いの有無にかかわらず、組み合わせることができる。したがって、本明細書に開示及び特許請求される基本的で根本的な原理の範囲内に入るあらゆる修正形態、変更形態、組合せ、又は均等物を包含することが意図される。
【符号の説明】
【0484】
1 装置
2 容器
3 円筒区画
4 反応器
5 入力ワイヤ
6 入力回路
7 ブラケット及びスペーサ
8 出力回路
9 キャパシタ・バンク
10 電力出口
11 電力入口
12 電源
13 電気回路
14 出力ワイヤ
15 チャンバ
16 真空/ガス・ポート
17 カソード
18 アノード
19 電極間ギャップ
20 試験用電気回路
21 電極間放電
22 カソード半導体材料
23 カソード基材コア
24 アノード半導体材料
25 アノード基材コア
26 ハウジング
27 カソード端子周辺部
28 アノード端子周辺部
29 カソード位置合わせ端子
30 アノード位置合わせ端子
31 入口ワイヤ・シース
32 入口ワイヤ・コア
33 出口ワイヤ・シース
34 出口ワイヤ・コア
35 チャンバ端シール
36 電気負荷回路
37 ネオン管灯
38 負荷キャパシタ
39 光スイッチ
40 電気パルス生成ユニット
41 発振器キャパシタ
42 発振器抵抗器
43a 入力熱量測定フラスコ
43b 出力熱量測定フラスコ
44a 入力温度計
44b 出力温度計
45 抵抗器
46 インダクタ
47 ダイオード
48 圧力計
49 ガス入口ニードル弁
50 入力電圧計
51 出力電圧計
52 電極間ギャップ横断軸
53 重複部分
54 絶縁止め具
55 電池
56 変圧器
57 電子
58 陽子
59 中性子
60 重陽子
61 三重陽子
62 凝縮プラズモイド
63 スピン偏極電荷クラスタ
64 表皮効果方向
65 クラスタ/凝縮プラズモイドの集合体
66 カソード板
67 導電性取付け管
68 絶縁層
69 取付け絶縁体
70 カソード・リング取付け具
71 カソード・リボン支持具
72 ばね
73 ばね取付け具
74 電流方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図6c
図7
図8
図9
図10
図11a
図11b
図11c
図11d
図11e
図11f
図11g
図11h
図11i
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【国際調査報告】