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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】熱延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241106BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20241106BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20241106BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/38
C22C38/58
C21D9/46 T
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024530023
(86)(22)【出願日】2022-11-07
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 KR2022017335
(87)【国際公開番号】W WO2023090735
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】10-2021-0161314
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】イ、 イル-チョル
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン-イル
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EB05
4K037EB08
4K037EB12
4K037FA03
4K037FB00
4K037FC03
4K037FC04
4K037FC05
4K037FE01
4K037JA06
4K037JA07
(57)【要約】
本発明の一実施形態は、重量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.004~0.4%、Mn:0.8~2.0%、Al:0.01~0.05%、Cr:0.05~1.0%、Mo:0.001~0.3%、P:0.001~0.05%、S:0.001~0.005%、N:0.001~0.01%、Nb:0.001~0.05%、Ti:0.001~0.05%、B:0.001~0.005%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、下記関係式1を満たし、面積%で、オーステナイト:5~15%、オートテンパードマルテンサイト:80%以上、残部ベイナイト及びフェライトのうち1種以上を含む微細組織を有する熱延鋼板を提供する。
[関係式1](10[C]+[Si]+2.5[Mn])/(1.5[Cr]+2.0[Mo]-3.2[Nb])≦20
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.004~0.4%、Mn:0.8~2.0%、Al:0.01~0.05%、Cr:0.05~1.0%、Mo:0.001~0.3%、P:0.001~0.05%、S:0.001~0.005%、N:0.001~0.01%、Nb:0.001~0.05%、Ti:0.001~0.05%、B:0.001~0.005%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
下記関係式1を満たし、
面積%で、オーステナイト:5~15%、オートテンパードマルテンサイト:80%以上、残部ベイナイト及びフェライトのうち1種以上を含む微細組織を有する熱延鋼板。
[関係式1](10[C]+[Si]+2.5[Mn])/(1.5[Cr]+2.0[Mo]-3.2[Nb])≦20
【請求項2】
重量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.004~0.4%、Mn:0.8~2.0%、Al:0.01~0.05%、Cr:0.05~1.0%、Mo:0.001~0.3%、P:0.001~0.05%、S:0.001~0.005%、N:0.001~0.01%、Nb:0.001~0.05%、Ti:0.001~0.05%、B:0.001~0.005%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
下記関係式1を満たし、
面積%で、オートテンパードマルテンサイト:80%以上、残部フレッシュマルテンサイト、ベイナイト及びフェライトのうち1種以上を含む微細組織を有し、
鋼板の長さ方向への波高が10mm以下である熱延鋼板。
[関係式1](10[C]+[Si]+2.5[Mn])/(1.5[Cr]+2.0[Mo]-3.2[Nb])≦20
【請求項3】
前記不可避不純物はNi:0.01%以下を含む、請求項1又は2に記載の熱延鋼板。
【請求項4】
前記熱延鋼板は旧オーステナイト平均結晶粒の大きさが10~30μmである、請求項1又は2に記載の熱延鋼板。
【請求項5】
前記熱延鋼板は降伏強度が900MPa以上である、請求項2に記載の熱延鋼板。
【請求項6】
重量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.004~0.4%、Mn:0.8~2.0%、Al:0.01~0.05%、Cr:0.05~1.0%、Mo:0.001~0.3%、P:0.001~0.05%、S:0.001~0.005%、N:0.001~0.01%、Nb:0.001~0.05%、Ti:0.001~0.05%、B:0.001~0.005%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、下記関係式1を満たすスラブを1200~1350℃で再加熱する段階;
前記再加熱されたスラブを800~1200℃で下記関係式2を満たすように熱間圧延して熱延鋼板を得る段階;及び
前記熱延鋼板を下記関係式3~6を満たすように1次冷却、2次冷却及び巻き取る段階;を含む熱延鋼板の製造方法。
[関係式1](10[C]+[Si]+2.5[Mn])/(1.5[Cr]+2.0[Mo]-3.2[Nb])≦20
[関係式2]FDT≧896-251[C]+37.5[Si]-31.6[Mn]-7.16[Cr]+29.5[Mo]+129[Ti]-107[Nb]
[関係式3]MTL≦MT≦MTU
[関係式4]CRL≦ICR
[関係式5]TCR≦80℃/秒
[関係式6]MTL-100≦CT
(但し、前記関係式2~6において、FDTは熱間圧延終了時の熱延鋼板の表面温度を意味し、MTは1次冷却終了及び2次冷却開始時点で熱延鋼板の表面温度を意味し、MTLは430-380[C]-13.4[Si]-47.3[Mn]-16.0[Cr]-24.2[Mo]を意味し、MTUは481-358[C]-16.6[Si]-45.6[Mn]-15.2[Cr]-24.1[Mo]を意味し、ICRはFDTからMTまでの熱延鋼板表面の1次冷却速度を意味し、CRLは10[2.9-(0.1[C]+0.9[Mn]+0.5[Cr]+1.2[Mo])]+10を意味し、TCRはFDTからCTまでの熱延鋼板表面の平均冷却速度を意味し、CTは巻取温度を意味する。)
【請求項7】
重量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.004~0.4%、Mn:0.8~2.0%、Al:0.01~0.05%、Cr:0.05~1.0%、Mo:0.001~0.3%、P:0.001~0.05%、S:0.001~0.005%、N:0.001~0.01%、Nb:0.001~0.05%、Ti:0.001~0.05%、B:0.001~0.005%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、下記関係式1を満たすスラブを1200~1350℃で再加熱する段階;
前記再加熱されたスラブを800~1200℃で下記関係式2を満たすように熱間圧延して熱延鋼板を得る段階;
前記熱延鋼板を下記関係式3~6を満たすように1次冷却、2次冷却及び巻き取る段階;及び
前記巻き取られた熱延鋼板をレベリングする段階;を含む熱延鋼板の製造方法。
[関係式1](10[C]+[Si]+2.5[Mn])/(1.5[Cr]+2.0[Mo]-3.2[Nb])≦20
[関係式2]FDT≧896-251[C]+37.5[Si]-31.6[Mn]-7.16[Cr]+29.5[Mo]+129[Ti]-107[Nb]
[関係式3]MTL≦MT≦MTU
[関係式4]CRL≦ICR
[関係式5]TCR≦80℃/秒
[関係式6]MTL-100≦CT
(但し、前記関係式2~6において、FDTは熱間圧延終了時の熱延鋼板の表面温度を意味し、MTは1次冷却終了及び2次冷却開始時点で熱延鋼板の表面温度を意味し、MTLは430-380[C]-13.4[Si]-47.3[Mn]-16.0[Cr]-24.2[Mo]を意味し、MTUは481-358[C]-16.6[Si]-45.6[Mn]-15.2[Cr]-24.1[Mo]を意味し、ICRはFDTからMTまでの熱延鋼板表面の1次冷却速度を意味し、CRLは10[2.9-(0.1[C]+0.9[Mn]+0.5[Cr]+1.2[Mo])]+10を意味し、TCRはFDTからCTまでの熱延鋼板表面の平均冷却速度を意味し、CTは巻取温度を意味する。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高強度熱延鋼板は、クレーン、コンクリートポンプトラックなど特装車のブームアーム類、トラック、トレーラーのフレームを始めとして、様々な用途に適用されている。このような用途に使用される鋼板の厚さは、大体3~10mm程度の水準であり、一般的な自動車用鋼板に比べて厚物である高強度熱延鋼板は、設計荷重を支えるための高い降伏強度だけでなく、部品加工と安定性のために優れた形状品質が求められる。特に、高強度熱延鋼板の形状品質に優れている場合、加工後も品質が健全で大型構造物の安定性を高めることができるという利点がある。
【0003】
特許文献1は、合金組成と焼鈍及び冷却条件を制御することにより、残留応力を最小化して品質形状を確保しようとする技術である。特許文献2は、合金組成と焼鈍及び冷却条件を制御すると同時に熱処理工程を追加して行うことで品質形状を確保しようとする技術である。
【0004】
しかし、上記特許文献1及び2は、冷延鋼板の製造方法として、様々な冷却条件を適用できる焼鈍工程を含むが、熱延鋼板の場合には冷延鋼板とは異なり、熱延以降の追加工程なしに製造されるため、冷却中の急激な相変態と高い降伏強度により、形状矯正をしても鋼板の形状品質がかなり悪くなる。さらに、一般的な高強度熱延鋼板の場合、実際に目標物性を得られるように製造することが可能であるものの、降伏強度が900MPa以上の高強度熱延鋼板の場合には、通常用いられる形状矯正を通じて形状品質を向上させることが事実上難しい。
【0005】
これにより、高い降伏強度を有する高強度熱延鋼板に対して形状矯正性を増加させることができる技術の開発が求められている実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国登録特許公報第10-1228753号公報
【特許文献2】韓国登録特許公報第10-1568495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一側面は、形状矯正性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、重量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.004~0.4%、Mn:0.8~2.0%、Al:0.01~0.05%、Cr:0.05~1.0%、Mo:0.001~0.3%、P:0.001~0.05%、S:0.001~0.005%、N:0.001~0.01%、Nb:0.001~0.05%、Ti:0.001~0.05%、B:0.001~0.005%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、下記関係式1を満たし、面積%で、オーステナイト:5~15%、オートテンパードマルテンサイト:80%以上、残部ベイナイト及びフェライトのうち1種以上を含む微細組織を有する熱延鋼板を提供する。
[関係式1](10[C]+[Si]+2.5[Mn])/(1.5[Cr]+2.0[Mo]-3.2[Nb])≦20
【0009】
本発明の他の実施形態は、重量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.004~0.4%、Mn:0.8~2.0%、Al:0.01~0.05%、Cr:0.05~1.0%、Mo:0.001~0.3%、P:0.001~0.05%、S:0.001~0.005%、N:0.001~0.01%、Nb:0.001~0.05%、Ti:0.001~0.05%、B:0.001~0.005%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、下記関係式1を満たし、面積%で、オートテンパードマルテンサイト:80%以上、残部フレッシュマルテンサイト、ベイナイト及びフェライトのうち1種以上を含む微細組織を有し、鋼板の長さ方向への波高が10mm以下である熱延鋼板を提供する。
[関係式1](10[C]+[Si]+2.5[Mn])/(1.5[Cr]+2.0[Mo]-3.2[Nb])≦20
【0010】
本発明の他の実施形態は、重量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.004~0.4%、Mn:0.8~2.0%、Al:0.01~0.05%、Cr:0.05~1.0%、Mo:0.001~0.3%、P:0.001~0.05%、S:0.001~0.005%、N:0.001~0.01%、Nb:0.001~0.05%、Ti:0.001~0.05%、B:0.001~0.005%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、下記関係式1を満たすスラブを1200~1350℃で再加熱する段階;上記再加熱されたスラブを800~1200℃で下記関係式2を満たすように熱間圧延して熱延鋼板を得る段階;及び上記熱延鋼板を下記関係式3~6を満たすように1次冷却、2次冷却及び巻き取る段階;を含む熱延鋼板の製造方法を提供する。
[関係式1](10[C]+[Si]+2.5[Mn])/(1.5[Cr]+2.0[Mo]-3.2[Nb])≦20
[関係式2]FDT≧896-251[C]+37.5[Si]-31.6[Mn]-7.16[Cr]+29.5[Mo]+129[Ti]-107[Nb]
[関係式3]MTL≦MT≦MTU
[関係式4]CRL≦ICR
[関係式5]TCR≦80℃/秒
[関係式6]MTL-100≦CT
(但し、上記関係式2~6において、FDTは熱間圧延終了時の熱延鋼板の表面温度を意味し、MTは1次冷却終了及び2次冷却開始時点で熱延鋼板の表面温度を意味し、MTLは430-380[C]-13.4[Si]-47.3[Mn]-16.0[Cr]-24.2[Mo]を意味し、MTUは481-358[C]-16.6[Si]-45.6[Mn]-15.2[Cr]-24.1[Mo]を意味し、ICRはFDTからMTまでの熱延鋼板表面の1次冷却速度を意味し、CRLは10[2.9-(0.1[C]+0.9[Mn]+0.5[Cr]+1.2[Mo])]+10を意味し、TCRはFDTからCTまでの熱延鋼板表面の平均冷却速度を意味し、CTは巻取温度を意味する。)
【0011】
本発明の他の実施形態は、重量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.004~0.4%、Mn:0.8~2.0%、Al:0.01~0.05%、Cr:0.05~1.0%、Mo:0.001~0.3%、P:0.001~0.05%、S:0.001~0.005%、N:0.001~0.01%、Nb:0.001~0.05%、Ti:0.001~0.05%、B:0.001~0.005%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、下記関係式1を満たすスラブを1200~1350℃で再加熱する段階;上記再加熱されたスラブを800~1200℃で下記関係式2を満たすように熱間圧延して熱延鋼板を得る段階;上記熱延鋼板を下記関係式3~6を満たすように1次冷却、2次冷却及び巻き取る段階;及び上記巻き取られた熱延鋼板をレベリングする段階;を含む熱延鋼板の製造方法を提供する。
[関係式1](10[C]+[Si]+2.5[Mn])/(1.5[Cr]+2.0[Mo]-3.2[Nb])≦20
[関係式2]FDT≧896-251[C]+37.5[Si]-31.6[Mn]-7.16[Cr]+29.5[Mo]+129[Ti]-107[Nb]
[関係式3]MTL≦MT≦MTU
[関係式4]CRL≦ICR
[関係式5]TCR≦80℃/秒
[関係式6]MTL-100≦CT
(但し、上記関係式2~6において、FDTは熱間圧延終了時の熱延鋼板の表面温度を意味し、MTは1次冷却終了及び2次冷却開始時点で熱延鋼板の表面温度を意味し、MTLは430-380[C]-13.4[Si]-47.3[Mn]-16.0[Cr]-24.2[Mo]を意味し、MTUは481-358[C]-16.6[Si]-45.6[Mn]-15.2[Cr]-24.1[Mo]を意味し、ICRはFDTからMTまでの熱延鋼板表面の1次冷却速度を意味し、CRLは10[2.9-(0.1[C]+0.9[Mn]+0.5[Cr]+1.2[Mo])]+10を意味し、TCRはFDTからCTまでの熱延鋼板表面の平均冷却速度を意味し、CTは巻取温度を意味する。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の一側面によると、形状矯正性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】発明例1~6と比較例1~10に対するレベリング後の降伏強度と波高との関係を示すグラフである。
図2】発明例16についてレベリング前(左)・後(右)の微細組織をそれぞれEBSDと電子顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
高強度を有しながらも優れた形状矯正性を有する熱延鋼板を製造するためには、更なる熱処理工程を経ずに熱延工程中で上記物性を同時に確保しなければならない。一般的に高い強度を有する鋼材の場合、強度確保のために必須としてマルテンサイト又はベイナイトのような低温変態相を含まなければならず、このような低温変態相を確保するためには、熱延工程上、冷却過程で高い冷却速度と低い冷却停止温度で冷却しなければならない。しかし、この場合、熱延鋼板の波高が極めて大きい状態で降伏強度の上昇も伴われるため、形状矯正が難しくなる。
【0015】
本発明者らは、合金組成及び製造条件を精密に制御することにより、降伏強度が高く且つ優れた形状矯正性を有する熱延鋼板を製造できるという知見下で、本発明を完成するに至った。
【0016】
以下、本発明について説明する。まず、本発明の合金組成について説明する。下記説明する合金組成の含有量は重量%を意味する。
【0017】
C:0.06~0.12%
Cは、鋼を強化させるのに最も経済的且つ効果的な元素であり、添加量が増加すると、マルテンサイトやベイナイト分率が増加し、引張強度と降伏強度が増加する。特に、テンパードマルテンサイト或いはマルテンサイトの強度は、上記Cの含有量に絶対的な影響を受ける。上記Cの含有量が0.06%未満であると、本発明で得ようとする降伏強度に比べて十分な強化効果を得難く、0.12%を超えると、マルテンサイトが硬くなりすぎるため脆性が増加するとともに形状矯正性が低下する問題点があり、他にも溶接性及び材質均一性が劣化するという欠点がある。従って、上記Cの含有量は0.06~0.12%の範囲を有することが好ましい。上記C含有量の下限は0.065%であることがより好ましく、0.07%であることがさらに好ましい。上記C含有量の上限は0.115%であることがより好ましく、0.110%であることがさらに好ましい。
【0018】
Si:0.004~0.4%
Siは、溶鋼を脱酸させ、基地(matrix)中で固溶強化効果を発揮し、粗大な炭化物の形成を遅延させてCが濃縮されるようにし、特定の冷却条件を満たすときに冷却以降もオーステナイトを残留させるのに有利な元素である。上記Siの含有量が0.004%未満であると、炭化物の形成を遅延させる効果が十分でなくオーステナイトを残留させることが難しい上に、Si含有量を制御する工程コストも過度にかかる。上記Siの含有量が0.4%を超えると、熱間圧延時に鋼板表面にSiによる赤色スケールが形成され鋼板表面品質が極めて悪くなるだけでなく、曲げ性と材質均一性も低下し、結局、形状矯正性も劣化するという問題点がある。従って、上記Siの含有量は0.004~0.4%の範囲を有することが好ましい。上記Si含有量の下限は0.01%であることがより好ましく、0.03%であることがさらに好ましく、0.05%であることが最も好ましい。上記Si含有量の上限は0.25%であることがより好ましく、0.18%であることがさらに好ましく、0.15%であることが最も好ましい。
【0019】
Mn:0.8~2.0%
Mnは、Siと同様に鋼を固溶強化させるのに効果的な元素であり、鋼の硬化能を増加させ、冷却中にマルテンサイト及びベイナイトのような低温変態組織の形成を容易にする。但し、上記Mnの含有量が0.8%未満であると、上記効果が過度に低く、不足した硬化能を他の元素で補充するため合金の原価上昇の負担が大きくなる。一方、上記Mnの含有量が2.0%を超えると、連続鋳造工程においてスラブ鋳造時に厚さ中心部で偏析部が大きく発達し、冷却時には厚さ方向への微細組織を不均一に形成して材質均一性が悪くなり、形状矯正性も劣化する。また、粒界を弱化して鋼の脆性を過度に増加させる。従って、上記Mnの含有量は0.8~2.0%の範囲を有することが好ましい。上記Mn含有量の下限は0.9%であることがより好ましい。上記Mn含有量の上限は1.8%であることがより好ましく、1.7%であることがさらに好ましい。
【0020】
Al:0.01~0.05%
Alは、主に脱酸のために添加する成分であり、その含有量が0.01%未満であると、上記効果が不十分になる。一方、上記Alの含有量が0.05%を超えると、窒素と結合してAlNが形成され、連続鋳造時にスラブにコーナークラックが生じやすく、介在物の形成による欠陥が発生しやすい。併せて、形状矯正性にも悪影響を与える可能性がある。従って、上記Alの含有量は0.01~0.05%の範囲を有することが好ましい。上記Al含有量の下限は0.015%であることがより好ましく、0.02%であることがさらに好ましい。上記Al含有量の上限は0.045%であることがより好ましく、0.04%であることがさらに好ましい。
【0021】
Cr:0.05~1.0%
Crは、鋼を固溶強化させ、冷却時に鋼の硬化能を増加させてフェライトの形成を抑制すると同時に、マルテンサイト及びベイナイトのような低温変態組織の形成を助ける役割を果たす。上記Crの含有量が0.05%未満であると、上記効果を得られないか又は過度に小さくなる。一方、上記Crの含有量が1.0%を超えると、Mnと同様に厚さ中心部での偏析部が大きく発達し始め、厚さ方向への微細組織が不均一となって材質均一性及び形状矯正性が劣化する。また、本発明が目標とするテンパードマルテンサイトよりもベイナイトの形成をより助長するようになり、強度確保が難しくなる。従って、上記Crの含有量は0.05~1.0%の範囲を有することが好ましい。上記Cr含有量の下限は0.07%であることがより好ましく、0.1%であることがさらに好ましい。上記Cr含有量の上限は0.9%であることがより好ましい。
【0022】
Mo:0.001~0.3%
Moは、鋼の硬化能を増加させ、マルテンサイト及びベイナイトのような低温変態組織の形成を容易にし、このような効果はMnと類似する程度に強いことが知られている。しかし、Mnとは異なり、粒界を強化させて脆性を抑制しながらも強度を増加させる役割を果たす。上記Moの含有量が0.001%未満であると、上記効果を十分に得ることができず、0.3%を超えると、熱間圧延後の巻取中に形成されたCと結合して析出物が粗大に成長することにより、材質均一性及び形状矯正性が一部劣化する領域が生じる可能性がある。また、高価な元素であるため製造コストの側面からも不利であり、溶接性にも有害である。従って、上記Moの含有量は0.001~0.3%の範囲を有することが好ましい。上記Mo含有量の下限は0.03%であることがより好ましく、0.05%であることがさらに好ましく、0.07%であることが最も好ましい。
【0023】
P:0.001~0.05%
Pは、固溶強化効果が高いものの粒界偏析による脆性が発生して材質均一性及び形状矯正性を阻害する元素である。上記Pの含有量が0.05%を超えると、前述したように粒界偏析による脆性のために形状矯正時に突然の破断などが発生し、形状矯正性が劣化する可能性がある。上記Pは、できるだけ少なく含有するように制御することが有利であるが、0.001%未満に製造するためには製造コストが多くかかり、経済的に不利である。従って、上記Pは0.001~0.05%の範囲を有することが好ましい。上記P含有量の下限は0.002%であることがより好ましく、0.003%であることがさらに好ましく、0.005%であることが最も好ましい。上記P含有量の上限は0.03%であることがより好ましく、0.02%であることがさらに好ましく、0.015%であることが最も好ましい。
【0024】
S:0.001~0.005%
Sは、鋼中に存在する不純物であって、その含有量が0.005%を超えると、Mnなどと結合して非金属介在物を形成し、鋼の曲げ時に微細なクラックが発生しやすく、耐衝撃性を大きく低下させるという問題点があり、材質均一性及び形状矯正性を損なうようになる。一方、上記Sは、できるだけ少なく含有するように制御することが有利であるが、0.001%未満に製造するためには製鋼操業時に時間及びエネルギーが多くかかり、生産性が低下する。従って、上記Sの含有量は0.001~0.005%の範囲を有することが好ましい。上記S含有量の下限は0.002%であることがより好ましい。上記S含有量の上限は0.004%であることがより好ましい。
【0025】
N:0.001~0.01%
上記Nは、Cと共に代表的な固溶強化元素であり、Ti、Alなどと共に粗大な析出物を形成することもある。一般的に、Nの固溶強化効果は炭素よりも優れていることが知られている。但し、上記Nの含有量が0.01%を超える場合には、靭性が大きく低下する問題点がある。一方、上記Nの含有量を0.001%未満に製造するためには製鋼操業時に時間が多くかかり、生産性が低下する。従って、上記Nの含有量は0.001~0.01%の範囲を有することが好ましい。上記N含有量の下限は0.002%であることがより好ましく、0.003%であることがさらに好ましく、0.004%であることが最も好ましい。上記N含有量の上限は0.009%であることがより好ましく、0.008%であることがさらに好ましい。
【0026】
Nb:0.001~0.05%
Nbは、Ti、Vと共に代表的な析出強化元素であり、熱間圧延中に析出し、再結晶遅延による結晶粒の微細化効果を通じて強度と衝撃靭性を向上するのに効果的である。また、特定の冷却条件でオーステナイトを残留させるにも有利である。このような物性増加によって形状矯正性を改善することができる。上記Nbの含有量が0.001%未満であると、上記効果を得られない。一方、上記Nbの含有量が0.05%を超えると、粗大な複合析出物に成長して材質均一性を劣化させる問題点がある。従って、上記Nbの含有量は0.001~0.05%の範囲を有することが好ましい。上記Nb含有量の上限は0.03%であることがより好ましく、0.02%であることがさらに好ましく、0.01%であることが最も好ましい。
【0027】
Ti:0.001~0.05%
Tiは、Nb、Vと共に代表的な析出強化元素であり、Nとの強い親和力で鋼中にTiNを形成する。TiNは、熱間圧延のための加熱過程で結晶粒の成長を抑制する効果があり、固溶Nの安定化を通じた硬化能向上のために添加するBを活用するのに有利である。また、窒素と反応し残ったTiが鋼中に固溶し炭素と結合することでTiC析出物が形成され、鋼の強度を付加的に向上させるのに有用な成分である。上記Tiの含有量が0.001%未満であると、上記効果を得ることができず、一方、0.05%を超えると、粗大なTiNの発生及び熱処理中の析出物の粗大化により材質均一性を劣化させるという問題点がある。従って、上記Tiの含有量は0.001~0.05%の範囲を有することが好ましい。上記Ti含有量の下限は0.005%であることがより好ましく、0.01%であることがさらに好ましく、0.02%であることが最も好ましい。上記Ti含有量の上限は0.04%であることがより好ましく、0.03%であることがさらに好ましい。
【0028】
B:0.001~0.005%
Bは、鋼中に固溶状態で存在する場合に硬化能を向上させる効果があり、結晶粒界を安定させて低温領域での鋼の脆性を改善する効果があり、微量でも結晶粒界を強化させる効果がある。上記Bの含有量が0.001%未満であると、上記効果を得ることが難しく、一方、0.005%を超える場合には、熱間圧延中に再結晶挙動を遅延させ、硬化能が大きく増加して成形性が劣化し、粗大なBNなどの析出物を形成する場合があるため、むしろ鋼の脆性が増加するようになる。従って、上記Bの含有量は0.001~0.005%の範囲を有することが好ましい。上記B含有量の上限は0.004%であることがより好ましく、0.003%であることがさらに好ましい。
【0029】
一方、本発明の熱延鋼板は、前述した合金組成を満たすと同時に、下記関係式1(以下、下記関係式1の左辺を「T」ともいう)を満たすことが好ましい。このとき、下記関係式1において、それぞれの合金元素含有量は重量%である。
【0030】
[関係式1](10[C]+[Si]+2.5[Mn])/(1.5[Cr]+2.0[Mo]-3.2[Nb])≦20
【0031】
上記関係式1は、微細組織を制御するための成分関係式である。上記Tの値が20を超える場合には、十分な低温組織を得る一方で、Mn偏析帯と残留オーステナイトの不均一な分布が増加して均一な物性を得られなくなり、このため、十分な形状矯正効果を得られなくなる。従って、上記Tの値は20以下であることが好ましい。上記Tの値は19以下であることがより好ましく、17以下であることがさらに好ましく、16以下であることが最も好ましい。一方、上記Tの値は小さければ小さいほど均一な微細組織及び物性確保に有利であるため、本発明では上記Tの値の下限について特に限定していない。
【0032】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入する可能性があるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも分かるものであるため、その全ての内容を特に本明細書では言及しない。
【0033】
このとき、上記不可避不純物はNi:0.01%以下を含むことができる。上記Niは高価な元素であって、本発明では上記Niを投入しなくても優れた形状矯正性を確保できるため、経済性にも優れるという利点がある。上記Niの含有量は0.008%以下であることがより好ましく、0.006%以下であることがさらに好ましく、0.005%以下であることが最も好ましい。
【0034】
本発明の熱延鋼板は、レベリングによる形状矯正前の微細組織が、面積%で、オーステナイト:5~15%、オートテンパードマルテンサイト:80%以上、残部ベイナイト及びフェライトのうち1種以上を含むことが好ましい。上記オーステナイトは、降伏強度を低くして形状矯正がうまくなされるようにすると同時に、レベリング後はマルテンサイトに変態して強度を向上させる効果を発揮する。上記オーステナイトの分率が5%未満である場合には、上記効果を十分に得ることが困難であり、15%を超える場合には、十分な低温組織を確保できず、最終的に得られる鋼板の強度が低下するという欠点がある。上記オーステナイトの分率の下限は6%であることがより好ましく、7%であることがさらに好ましい。上記オーステナイトの分率の上限は13%であることがより好ましく、11%であることがさらに好ましく、10%であることが最も好ましい。上記オートテンパードマルテンサイトは、形状矯正のように局部的かつ限定される変形に有利な延性を有すると同時に高い強度を有するようにする効果を発揮する。上記オートテンパートマルテンサイトの分率が80%未満である場合には、最終的に得られる鋼板の強度が過度に低くなるという欠点がある。上記オートテンパートマルテンサイトの分率は82%以上であることがより好ましい。上記オートテンパートマルテンサイトは、できるだけ多量形成されるほど強度確保に有利であるが、製造工程上不可避にベイナイト及びフェライトのうち1種以上が形成されることができる。一方、オートテンパードマルテンサイトは別途の焼戻し処理を施さなくても、低温で短時間の焼戻し処理を通じて形成されるテンパードマルテンサイトとほぼ同じ組織を有し、ラス内に微細なイプシロンカーバイドが形成されたことを特徴とする。
【0035】
本発明の熱延鋼板は、レベリングによる形状矯正後の微細組織が、面積%で、オートテンパードマルテンサイト:80%以上、残部フレッシュマルテンサイト、ベイナイト及びフェライトのうち1種以上を含むことが好ましい。レベリング前のオーステナイトがレベリング後のマルテンサイトに変態することにより、形状矯正性だけでなく、より優れた強度を確保することができる。
【0036】
また、レベリング後の本発明の熱延鋼板は、鋼板の長さ方向への波高が10mm以下と優れた形状矯正性を有する。このとき、上記波高とは、鋼板が長さ方向にウェーブ(wave)形状を有するとき、谷から山までの高さを意味する。
【0037】
前述したように提供されるレベリング前及び後の上記熱延鋼板は、旧オーステナイト平均結晶粒の大きさが10~30μmであることが好ましい。上記旧オーステナイト平均結晶粒の大きさが10μm未満である場合には、焼入性が低下して十分な低温組織を確保できないという欠点があり、30μmを超える場合には、過度に大きくなった焼入性により鋼板内に残留オーステナイトを形成できず、延性が大きく低下するという欠点がある。上記旧オーステナイト平均結晶粒の大きさの下限は12μmであることがより好ましく、15μmであることがさらに好ましく、17μmであることが最も好ましい。上記旧オーステナイト平均結晶粒の大きさの上限は28μmであることがより好ましく、26μmであることがさらに好ましい。
【0038】
併せて、レベリング後の上記熱延鋼板は、降伏強度が900MPa以上と優れた強度を有することができる。
【0039】
以下、本発明の一実施形態による熱延鋼板の製造方法について説明する。一方、本発明の一実施形態による熱延鋼板の製造方法は、連続鋳造及び熱延工程が直結化したプロセスを用いることもできる。
【0040】
まず、前述した合金組成と関係式1を満たすスラブを1200~1350℃で再加熱する。上記再加熱温度が1200℃未満であると、析出物が十分に再固溶されず、熱間圧延以降の工程で析出物の形成が減少し、粗大なTiNが残存するようになり、連鋳時に生成した偏析を拡散により解消することが難しい。一方、1350℃を超える場合には、オーステナイト結晶粒の異常粒成長(Abnormal Grain Growth)により強度低下及び組織ムラが発生するため、上記再加熱温度は1200~1350℃の範囲を有することが好ましい。上記再加熱温度の下限は1220℃であることがより好ましく、1230℃であることがさらに好ましく、1250℃であることが最も好ましい。上記再加熱温度の上限は1330℃であることがより好ましく、1310℃であることがさらに好ましく、1300℃であることが最も好ましい。
【0041】
その後、上記再加熱されたスラブを800~1200℃で下記関係式2を満たすように熱間圧延して熱延鋼板を得る。上記熱間圧延温度が1200℃を超える場合には、熱延鋼板の温度が高くなって結晶粒の大きさが粗大となり、熱延鋼板の表面品質が劣化する。一方、800℃未満である場合には、終了すると過度な再結晶遅延により延伸した結晶粒が発達して異方性が激しくなり、成形性も悪くなって、結局、材質均一性及び形状矯正性が悪くなる。上記熱間圧延温度の下限は810℃であることがより好ましく、820℃であることがさらに好ましく、830℃であることが最も好ましい。上記熱間圧延温度の上限は1180℃であることがより好ましい。
【0042】
一方、本発明では、熱間圧延時に下記関係式2(以下、下記関係式2における右辺を「FDTL」ともいう)の条件を満たすことが好ましい。下記関係式2において、FDTは熱間圧延終了時の熱延鋼板の表面温度を意味する。
【0043】
[関係式2]FDT≧896-251[C]+37.5[Si]-31.6[Mn]-7.16[Cr]+29.5[Mo]+129[Ti]-107[Nb]
【0044】
上記FDTがFDTLよりも低い場合には、鋼板の厚さ中心部よりも温度が低い鋼板の表面にフェライトが一部形成されるにつれて、冷却後に十分な分率のマルテンサイトを形成できなくなり、これにより中心部と表面部の材質ばらつきが発生し、結局、形状矯正性も劣化するという問題がある。すなわち、関係式2を満たせば、高強度と優れた形状矯正性とを同時に得ることができる。
【0045】
その後、上記熱延鋼板を下記関係式3~6を満たすように1次冷却、2次冷却及び巻き取る。このとき、下記関係式3~6において、MTは1次冷却終了及び2次冷却開始時点で熱延鋼板の表面温度を意味し、MTLは430-380[C]-13.4[Si]-47.3[Mn]-16.0[Cr]-24.2[Mo]を意味し、MTUは481-358[C]-16.6[Si]-45.6[Mn]-15.2[Cr]-24.1[Mo]を意味し、ICRはFDTからMTまでの熱延鋼板表面の1次冷却速度を意味し、CRLは10[2.9-(0.1[C]+0.9[Mn]+0.5[Cr]+1.2[Mo])]+10を意味し、TCRはFDTからCTまでの熱延鋼板表面の平均冷却速度を意味し、CTは巻取温度を意味する。
【0046】
下記MTがMTUを超える場合には、マルテンサイトを形成できなくなり、MTL未満である場合には、微細且つ一様に分布するオーステナイトを形成できなくなる。ICRがCRLよりも低い場合には、十分なマルテンサイトを形成することができず、フェライトやベイナイトが意図とは異なって多量形成されて高強度が得られなくなり、これによりオーステナイトの形成も抑制され、形状矯正性も劣化する。一方、本発明では、ICRの値が極めて高いとしてもマルテンサイトの強度には大きな変化がないため、その上限については特に限定していない。TCRが80℃/秒を超える場合には、オーステナイトが安定化する前に低い温度に露出されて消滅するという問題が発生する。CTがMTL-100未満である場合には、コイルの温度が過度に低くなり、工程上巻取に困難がある。また、過度に硬くて脆性の悪いマルテンサイト相が多量に生成する過程で形成された微細な残留オーステナイトが消滅し、圧延板の材質が不均一になり形状が悪くなる。一方、本発明では、上記巻取温度の上限について特に限定していないが、強度確保の側面からその上限は350℃であってもよい。すなわち、冷却と巻取工程を適切に制御することで形成される微細且つ一様に分布したオーステナイトは、レベリングによる形状矯正時に矯正がより容易になるようにすると同時に、矯正以降は全て消滅するようにすることを特徴とする。前述した工程の制御を通じて製造される熱延鋼板は、形状矯正性に優れながらも高い降伏強度を有することができる。
【0047】
[関係式3]MTL≦MT≦MTU
[関係式4]CRL≦ICR
[関係式5]TCR≦80℃/秒
[関係式6]MTL-100≦CT
【0048】
その後、上記巻き取られた熱延鋼板をレベリングする段階を含むことができる。上記レベリングは形状矯正のためのものであり、本発明では、上記レベリング工程について特に限定しておらず、当該技術分野で用いられる通常の技術をいずれも用いることができる。一方、上記レベリングは鋼板に圧下が加わらない形状矯正法であり、これにより、0.1~2.0%の圧下量が加わる調質圧延(skin pass rolling)とは区別されることができる。
【実施例
【0049】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は本発明を例示して具体化するためのものであって、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【0050】
(実施例)
下記表1に記載の合金組成を有するスラブを、下記表2に記載の条件を用いて熱延鋼板を製造した。このとき、スラブの再加熱温度は1250℃であり、熱間圧延直後の熱延板の厚さは4mmであった。その後、テンションレベラーを通じてレベリングを行った。レベリング前・後の熱延鋼板について、微細組織、旧オーステナイト平均粒径、波高及び機械的物性を測定した後、その結果を下記表3及び4にそれぞれ示した。一方、本実施例ではNiを添加しなかったにもかかわらず、微量の不純物が検出された。
【0051】
微細組織は電子顕微鏡のElectron Back-Scattered Diffraction(EBSD)試験装置を通して測定した。
【0052】
旧オーステナイト平均粒径は、上記製造された熱延鋼板から採取した試験片を過飽和ピクリン酸水溶液200mlと10%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液10mlとを混合し、10%塩化第二鉄水溶液10mlを添加して混合した溶液に10分間浸漬腐食させた後、光学顕微鏡で測定した。
【0053】
波高は熱延コイルを解いた後、鋼板長さ2mに対して谷から山までの差が最も大きい値で示した。
【0054】
降伏強度(YS)、引張強度(TS)及び破壊伸び率(El)は、熱延コイルから圧延方向に平行な方向にJIS5号規格の試験片を採取して測定した。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
上記表1~4に示すように、本発明が提案する合金組成、関係式及び製造条件を全て満たす発明例1~6の場合には、本発明が目標とする機械的物性と形状品質を確保していることが分かる。
【0060】
比較例1の場合には、本発明の製造条件は満たしているものの、本発明のC含有量範囲を超えて且つ関係式1を満たしていないことから、高い強度及び低い形状矯正性によってレベリング後の波高が高い水準であることが分かる。
【0061】
比較例2の場合には、本発明の製造条件は満たしているものの、本発明のC含有量範囲に達していないことから降伏強度が低い水準であることが分かる。
【0062】
比較例3の場合には、本発明の製造条件は満たしているものの、本発明のMn含有量範囲を超えて且つ関係式1を満たしていないことから、偏析及び脆化度の増加による形状矯正性の劣化につながり、レベリング後の波高が高い水準であることが分かる。
【0063】
比較例4の場合には、本発明の製造条件は満たしているものの、本発明のC及びCr含有量範囲に達しておらず、関係式1を満たしていないことから、降伏強度が低く、レベリング後の波高が高い水準であることが分かる。
【0064】
比較例5の場合には、本発明の合金組成は満たしているものの、1段冷却を用いる既存の熱延工程を採用しただけでなく、MTが本発明の条件を満たしていないことから、レベリング前の適正分率のオーステナイトを確保できず、降伏強度も低い水準であることが分かる。
【0065】
比較例6の場合には、本発明のC含有量範囲を超えて且つFDTがFDTLよりも低いことから、圧延間に形成されるフェライトにより異方性が大きくなり、材質不均一性で降伏強度が低く、レベリング後の波高が高い水準であることが分かる。
【0066】
比較例7の場合には、本発明の合金組成は満たしているものの、CTが本発明の条件を満たしていないことから、レベリング前の適正分率のオーステナイトを確保できず、レベリング後の波高が高い水準であることが分かる。
【0067】
比較例8の場合には、本発明の合金組成は満たしているものの、ICRがCRLよりも低いことから降伏強度が低い水準であることが分かる。
【0068】
比較例9の場合には、本発明の合金組成は満たしているものの、TCRが本発明の条件を超えることから、レベリング前の適正分率のオーステナイトを確保できず、レベリング後の波高が高い水準であることが分かる。
【0069】
比較例10の場合には、本発明の製造条件は満たしているものの、関係式1を満たしていないことから、レベリング後の波高が高い水準であることが分かる。
【0070】
図1は、発明例1~6と比較例1~10に対するレベリング後の降伏強度と波高との関係を示すグラフである。図1から分かるように、発明例1~6の場合には、900MPa以上の降伏強度と10mm以下の波高を同時に有していることを確認することができる。
【0071】
図2は、発明例16について、レベリング前(左)・後(右)の微細組織をそれぞれEBSDと電子顕微鏡で観察した写真である。図2から分かるように、発明例16の場合、レベリング前に形成されたオーステナイトがレベリング後には消滅し、本発明が得ようとする微細組織が形成されていることを確認することができる。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-05-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0057
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0057】
【表3】
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0058
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0058】
【表4】
【国際調査報告】