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特表2024-542261診療に寄与する新規ホウ素リポソーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】診療に寄与する新規ホウ素リポソーム
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/24 20060101AFI20241106BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 51/06 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 31/502 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 31/55 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 31/551 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 31/4184 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 31/5025 20060101ALI20241106BHJP
   C07F 9/10 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
A61K47/24
A61K9/127
A61K45/00 101
A61K51/06
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K31/502
A61K31/4439
A61K31/55
A61K31/551
A61K31/4184
A61K31/5025
C07F9/10 D CSP
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024530544
(86)(22)【出願日】2022-11-08
(85)【翻訳文提出日】2024-06-25
(86)【国際出願番号】 CN2022130606
(87)【国際公開番号】W WO2023088134
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】202111391620.9
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507232478
【氏名又は名称】北京大学
【氏名又は名称原語表記】PEKING UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.5, Yiheyuan Road, Haidian District, Beijing 100871, China
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 志博
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲紀▼元
(72)【発明者】
【氏名】郭 志▲浜▼
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4H050
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076CC27
4C076CC50
4C076DD63
4C076EE23
4C084AA17
4C084NA10
4C084ZB262
4C084ZC202
4C085HH03
4C085JJ05
4C085KB07
4C085KB74
4C085LL18
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC37
4C086BC39
4C086BC50
4C086CB05
4C086CB09
4C086CB11
4C086GA07
4C086GA12
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA24
4C086NA10
4C086ZB26
4C086ZC20
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB20
4H050AC90
(57)【要約】
本発明は、リン脂質の1つの脂質アームの末端にカルボラン基が導入された、カルボラン-リン脂質複合体を提供する。また、本発明は、カルボラン-リン脂質複合体を含むリポソーム組成物、及び、その少なくとも1つの治療剤及び/又は少なくとも1つの診断剤を送達するための使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
で表れる構造を有する、カルボラン-リン脂質複合体。
(式中、R1とR2の中には1つが-L-カルボラン基であり、もう1つが炭素数10~24の直鎖アルキル基又はアルケニル基であり、Lが二価連結基であり、Xが-H、-CHCHNH、-CHCH(CH、-CHCH(NH)COOH、-CHCH(OH)CHOH、又はシクロヘキサン-2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシ-1-基であり、YがOH又はOである。)
【請求項2】
前記-L-カルボラン基におけるカルボラン基が10B富化されている、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記Xが-CHCH(CHであり、前記YがOである、請求項1~2のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項4】
前記R1又はR2をそれぞれ含む脂質アームが、以下の条件を1つ、2つ、又は3つ満たし、好ましくは同時に3つの条件を満たす、請求項1~3のずれか一項に記載の複合体。
(1)長さの差が±1A以内であり、
(2)脂質アーム間の距離が5A以内であり、
(3)二面角が5度以内である。
【請求項5】
前記カルボラン基が1,2-C-、1,2-C-、1,2-C1011-、2,3-C-、7,8-C12-、又は5,6-C11-であり、好ましくは1,2-C1011-である、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項6】
前記Lが-(CHn+m-、-(CHn+m-S-、-(CHn+m-O-、-(CH-CH=CH-(CH-、-(CH-CH=CH-(CH-S-、-(CH-CH=CH-(CH-O-、-(CH-S-(CH-、-(CH-S-(CHm+1-S-、-(CH-O-(CH-、-(CH)n-O-(CHm+1-O-、-(CH-N(CH)-(CH-、又は-(CH-N(CH)-(CHm+1-N(CH)-であり、好ましくは-(CHn+m-S-であり、nが1~20の整数であり、mが0~20の整数である、請求項1~5のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項7】
下記の式:
【化2】
で表れる構造を有する、請求項6に記載の複合体。
(式中、Boがカルボラン基であり、nが1~20の整数である。)
【請求項8】
前記Boが1,2-C1011-であり、好ましくはcloso-ジカルバドデカボラン基であり、より好ましくはcloso-1,2-ジカルバドデカボラン基であり、nが3、7、11又は15であり、好ましくは11である、請求項7に記載の複合体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の複合体を含み、
前記複合体が脂質二重層の一部である、リポソーム組成物。
【請求項10】
コレステロールをさらに含む、請求項9に記載のリポソーム組成物。
【請求項11】
さらに、リン脂質を含み、好ましくはジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)又はジエライドイル(didaidoyl)ホスファチジルエタノールアミンを含み、より好ましくはDPPCを含む、請求項9又は10に記載のリポソーム組成物。
【請求項12】
さらに、ポリエチレングリコール化リン脂質を含み、好ましくはDLPE-PEG、DPPE-PEG、DMPE-PEG又はDSPE-PEGを含み、より好ましくはDSPE-PEGを含む、請求項9~11のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項13】
少なくとも1つの治療剤及び/又は少なくとも1つの診断剤をさらに含む、請求項9~12のいずれか一項に記載のリポソーム組成物。
【請求項14】
少なくとも1つの治療剤を含み、
前記治療剤が抗がん剤である、請求項13に記載のリポソーム組成物。
【請求項15】
前記抗がん剤がモノメチルオーリスタチンE、モノメチルオーリスタチンF、イブルチニブ、アカラブルチニブ、ザヌブルチニブ、ドキソルビシン、マイトマイシン-C、マイトマイシン-A、ダウノルビシン、アミノプテリン、アクチノマイシン、ブレオマイシン、9-アミノカンプトテシン、N8-アセチルスペルミジン、1-(2-クロロエチル)-1,2-ジメタンスルホニルヒドラジド、雲南マイシン(Yunnanmycin)、ゲムシタビン、シタラビン、ドラスタチン、ダカルバジン、5-フルオロウラシル、パクリタキセル、ドセタキセル(Docetaxel)、ゲムシタビン、シタラビン、6-メルカプトプリン、ビンクリスチン、シスプラチン、オキサリプラチン、PARP阻害剤から選択される、請求項14に記載のリポソーム組成物。
【請求項16】
前記抗がん剤がPARP阻害剤から選択され、好ましくはオラパリブ、ニラパリブ、ルカパリブ、フルゾパリブ、パミパリブ、ベリパリブ、タラゾパリブであり、より好ましくはオラパリブである、請求項15に記載のリポソーム組成物。
【請求項17】
少なくとも一つの診断剤を含み、
前記診断剤が64Cu-NOTA-PEG2000-DSPEである、請求項13に記載のリポソーム組成物。
【請求項18】
請求項9~17のいずれか一項に記載のリポソーム組成物の、医薬品に用いられる使用。
【請求項19】
請求項9~17のいずれか一項に記載のリポソーム組成物の、少なくとも1つの治療剤及び/又は少なくとも1つの診断剤を送達するための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2021年11月22日に出願された中国出願番号第202111391620.9号の優先権を主張し、その全開示内容は、参考により本願の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、医療及び診断分野に関し、具体的に診療に寄与する新規ホウ素リポソーム(boronsome)に関する。
【背景技術】
【0003】
Li J、Tu Z、Liu Zらは、An Unusual Direction Entering Dawn: A Brief Introduction to the Development History of Boron Carriers、Scientia Sinica Chimica. 2020, 50: 1296-1319の総説にはホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に用いられるホウ素担持剤を記載された。BNCTは、二次元、細胞スケール、強い標的性及び高エネルギー線密度の放射線療法であり、メラノーマ、神経膠腫及び再発性頭頸部癌等の局所侵襲性の悪性腫瘍に優れる殺傷作用を有する。BNCTの細胞殺傷力の由来は、非放射性同位体10Bが低エネルギー熱中性子を捕捉した後に核分裂反応を発生させてα粒子及び反跳Li核を生成し、これらは高い線形エネルギー移動と生物に相対する高い有効性を有し、細胞に致死性傷害を発生させることができ、且つ透過能力に限り(5~9μm、約1つ細胞直径)を有し、破壊力を単一細胞のスケールに制限することができる。致死性の10B(n、α)Li捕捉反応を維持するために、多量の10B原子が選択的に腫瘍細胞に蓄積され、十分な中性子を吸収すると、BNCTは悪性腫瘍に顕著な殺傷力を与え、近傍の正常組織にほとんど影響を与えない。悪性腫瘍に対する有効療法の1つは、腫瘍部位に十分な量のホウ素を送達し、中性子照射を実施することである。
【0004】
現在広く使用されているホウ素送達剤は、4-ジヒドロキシボリル-L-フェニルアラニン(BPA)であるが、ホウ素含有量が不足するなどの欠点を有し、その治療効果が制限され、異常なボランを選択することにより、生物毒性及び免疫原性をもたらすことがある。同時に、リポソームが薬剤を封入及び送達することは、封入構造が破損しやすいという問題がある。実際の治療過程において、医師は患者に対して適時の診断を行う必要があるが、現在のBNCT薬剤の機能が単一であり、治療のニーズを満たすことしかできず、臨床応用が制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような背景の下で、新しい原料を探して新しい構造の分子を合成し、上記問題の解決を実現することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、式(I)で表れる構造を有するカルボラン-リン脂質複合体を提供する。
【化1】
(式中、R1とR2の中には1つが-L-カルボラン基であり、もう1つが炭素数10~24の直鎖アルキル基又はアルケニル基であり、Lが二価連結基であり、Xが-H、-CHCHNH、-CHCH(CH、-CHCH(NH)COOH、-CHCH(OH)CHOH、又はシクロヘキサン-2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシ-1-基であり、YがOH又はOである。)
【0007】
本発明の一実施形態において、前記-L-カルボラン基におけるカルボラン基が10B富化されている。
本発明の一実施形態において、Xが-CHCH(CHであり、YがOである。
本発明の好ましい実施形態において、R1又はR2をそれぞれ含む脂質アームが、以下の条件を1つ、2つ、又は3つ満たし、好ましくは同時に3つの条件を満たす。
(1)長さの差が±1A以内であり、
(2)脂質アーム間の距離が5A以内であり、
(3)二面角が5度以内である。
【0008】
本発明の一実施形態において、カルボラン基が1,2-C-、1,2-C-、1,2-C1011-、2,3-C-、7,8-C12-、又は5,6-C11-であり、好ましくは1,2-C1011-である。
【0009】
本発明の一実施形態において、Lが-(CHn+m-、-(CHn+m-S-、-(CHn+m-O-、-(CH-CH=CH-(CH-、-(CH-CH=CH-(CH-S-、-(CH-CH=CH-(CH-O-、-(CH-S-(CH-、-(CH-S-(CHm+1-S-、-(CH-O-(CH-、-(CH)n-O-(CHm+1-O-、-(CH-N(CH)-(CH-、又は-(CH-N(CH)-(CHm+1-N(CH)-であり、ここで、nが1~20の整数であり、mが0~20の整数である。
例えば、式(I)で表れるカルボラン-リン脂質複合体が下記の構造を有する。
【化2】
式中、Boがカルボラン基であり、nが1~20の整数である。一実施形態において、Boが1,2-C1011-であり、好ましくはcloso-ジカルバドデカボラン基であり、より好ましくはcloso-1,2-ジカルバドデカボラン基である。この中に、nが3、7、11又は15であり、好ましくは11である。
【0010】
本発明の別の態様は、脂質二重層の一部である前記カルボラン-リン脂質複合体を含む、リポソーム組成物を提供する。
【0011】
本発明の一実施形態において、リポソーム組成物は、コレステロールをさらに含む。
【0012】
本発明の一実施形態において、リポソーム組成物は、さらにリン脂質を含み、好ましくはジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)又はジエライドイル(didaidoyl)ホスファチジルエタノールアミンを含み、より好ましくはDPPCを含む。
【0013】
本発明の一実施形態において、リポソーム組成物は、PEG化リン脂質をさらに含み、例えば、DLPE-PEG、DPPE-PEG、DMPE-PEG又はDSPE-PEGを含み、好ましくはDSPE-PEGを含む。
【0014】
本発明の一実施形態において、リポソーム組成物は、少なくとも1つの治療剤及び/又は少なくとも1つの診断剤をさらに含む。
【0015】
好ましい実施形態において、リポソーム組成物は、少なくとも1つの治療剤を含み、前記治療剤が抗がん剤である。例えば、前記抗がん剤がモノメチルオーリスタチンE、モノメチルオーリスタチンF、イブルチニブ、アカラブルチニブ、ザヌブルチニブ、ドキソルビシン、マイトマイシン-C、マイトマイシン-A、ダウノルビシン、アミノプテリン、アクチノマイシン、ブレオマイシン、9-アミノカンプトテシン、N8-アセチルスペルミジン、1-(2-クロロエチル)-1,2-ジメタンスルホニルヒドラジド、雲南マイシン、ゲムシタビン、シタラビン、ドラスタチン、ダカルバジン、5-フルオロウラシル、パクリタキセル、ドセタキセル(Docetaxel)、ゲムシタビン、シタラビン、6-メルカプトプリン、ビンクリスチン、シスプラチン、オキサリプラチン、PARP阻害剤から選択される。一実施形態において、抗がん剤がPARP阻害剤から選択され、好ましくはオラパリブ、ニラパリブ、ルカパリブ、フルゾパリブ、パミパリブ、ベリパリブ、タラゾパリブであり、より好ましくはオラパリブである。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、リポソーム組成物は、少なくとも一つの診断剤を含み、前記診断剤が64Cu-NOTA-PEG2000-DSPEである。
【0017】
本発明のさらに別の態様は、前記リポソーム組成物の、医薬品に用いられるの使用を提供する。
【0018】
本発明のさらなる態様は、前記リポソーム組成物の、少なくとも1つの治療剤及び/又は少なくとも1つの診断剤を送達するための使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の実施例について、より具体的に説明するために、以下、実施例の図面を簡単に説明し、明らかに、以下の説明における図面は、本発明のいくつかの実施例に関し、本発明の範囲に限定されない。
図1】新規ホウ素リポソームの構造及び薬剤の封入のストラテジーを示す。
図2】ホウ素リポソームに封入した異なる薬剤条件でマウスの腫瘍体積の変化(Dox:ドキソルビシンであり、PARPi:ポリアデノシン二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤オラパリブであり、N:中性子照射である)を示す。
図3】透過型電子顕微鏡(TEM)によるホウ素リポソームのイメージングである。
図4】4T1担腫瘍マウスの64Cu-NOTA-ホウ素リポソームを静脈注射した12h後の全身最大密度投影PET画像である。腫瘍は白い点線のコイルで囲まれている。
図5】分子動力学でシミュレーションされたBoP-1膜構造の断面を示す、
図6】分子動力学でシミュレーションされたBoP-2膜構造の断面を示す、
図7】分子動力学でシミュレーションされたBoP-3膜構造の断面を示す、
図8】分子動力学でシミュレーションされたBoP-4膜構造の断面を示す、
図9】分子動力学でシミュレーションされたDPPC膜構造の断面を示す、
図10】SRBを封入した条件でBoPs及びDPPCのUV-vis吸収を測定する結果を示す。
図11】50%ウシ血清タンパク質中で37℃の条件で24時間培養した後のSRBの漏れパーセンテージを測定する結果を示す。
図12】異なる濃度のホウ素リポソームと24時間インキュベーションした4T1細胞のホウ素摂取量を示す。
図13】異なる濃度のホウ素リポソームと24時間インキュベーションした4T1細胞の活性を示す。
図14】PARP阻害剤-ホウ素リポソーム及びPARP阻害剤-ホウ素リポソーム+Nで治療した群のマウスの平均腫瘍体積(n=9)(対応するt検定、**p<0.01)を示す。
図15】ホウ素リポソーム+N又はPARP阻害剤-ホウ素リポソーム+Nで処理した各群のマウスの平均体重(n=9)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施例の目的、技術的解決策及び利点をより明確にするために、以下、本発明の実施例の図面を参照して、本発明の実施例の発明を明確に完全に説明する。明らかに、説明される実施例は、本発明の一部の実施例であり、全ての実施例ではない。本発明の記載された実施例に基づいて、当業者は、創造的な労力を必要とせずに得られた他のすべての実施例も、本発明の保護の範囲内に含まれる。
【0021】
本発明は、本発明の基本的な特質から逸脱することなく、他の具体的な形態で実施することができる。本発明のいずれかの実施形態およびすべての実施形態は、矛盾しない限り、他の実施形態又は複数の他の実施形態における技術的特徴と組み合わせて追加の実施形態を得ることができる。本発明は、このような組み合わせで得られる追加の実施形態を含む。
【0022】
別途に定めがない限り、本明細書において使用される技術用語又は科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって理解される通常の意味を有するものとする。
【0023】
本明細書において、「含む」、「含有」又は「からなる」などの類似の単語の使用は、その単語の前に現れる要素が、他の要素を排除することなく、単語の後に列挙される要素およびそれらの等価物を含むことを意味する。
【0024】
実施例又は別途に定めがない限り、明細書及び請求の範囲に記載される材料の量、反応条件、持続時間及び材料の定量的性質などを示すのすべての数値は、あらゆる場合に「約」という用語により修飾されていると理解されるものとする。また、本発明に列挙される任意の数値範囲は、その範囲のすべてのサブ範囲及びその範囲又はサブ範囲の端点の任意の組み合わせを含むことを意図しており、例えば、1~20の整数には、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19及び20を含み、ならびにサブ範囲1~3、1~4、1~10、2~4、2~10なども含む。
【0025】
本発明は、化学結合の法則及び原理と一致すると解釈されるべきである。置換基を所定の位置に導入するために水素原子が除去される場合がある。
【0026】
本発明は、リン脂質とは、グリセロリン脂質であって、脂肪酸(例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸)、グリセロール及びリン酸などの化合物の誘導体であり、グリセロール中の2つのヒドロキシル基が脂肪酸で置換され、もう1つヒドロキシル基がリン酸及び他の基で置換され、親水性リン酸基と2つの疎水性脂質アーム末端とはグリセロール分子を介して結合されている。本発明において、リン脂質は、天然リン脂質であってもよく、合成リン脂質であってもよい。例示されたリン脂質としては、ホスファチジン酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール及びホスファチジルイノシトールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明において、カルボラン-リン脂質複合体とは、リン脂質の1つの脂質アームの末端にカルボラン基を導入したリン脂質誘導体を指す。
【0028】
本発明の一態様は、式(I)で表れるカルボラン-リン脂質複合体を提供する。
【化3】
R1とR2の中には1つが-L-カルボラン基であり、もう1つが炭素数10~24の直鎖アルキル基又はアルケニル基であり、Lが二価連結基であり、Xが-H、-CHCHNH、-CHCH(CH、-CHCH(NH)COOH、-CHCH(OH)CHOH、又はシクロヘキサン-2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシ-1-基であり、YがOH又はOである。
【0029】
本発明において、カルボラン-リン脂質複合体は、リン脂質の1つの脂質アームにカルボランを導入し、その構造が細胞のリン脂質構造と類似ているため、細胞との適合性が良好である。
【0030】
カルボランは、多面体のホウ素-炭素分子クラスター化合物の一種である。本発明において、カルボラン基とは、カルボランのC-H結合から水素原子が失われた基を指す。
【0031】
本発明は、一実施形態において、カルボラン基は、以下のようにカルボランのC-H結合から水素原子を失うことによって得られる。
【化4】
【0032】
言い換えると、カルボラン基は、1,2-C-、1,2-C-、1,2-C1011-、2,3-C-、7,8-C12-、又は5,6-C11-である。
【0033】
好ましい実施形態において、カルボラン基は、8~11つのホウ素原子を含むカルボランのC-H結合に水素原子が失われたにより得られる。より好ましい実施形態において、カルボラン基は、ジカルバ-クロソ-ドデカボラン(dicarba-closo-dodecaborane C1012)のC-H結合から水素原子が失うことにより得られる、すなわち1,2-C1011-である。
【0034】
本発明におけるカルボラン/カルボラン基中のホウ素原子は、天然に存在するホウ素元素から構成されてもよく、10B富化されてもよい。一実施形態において、カルボラン/カルボラン基中1つ又は複数のホウ素原子は、10B富化され、例えば、カルボラン/カルボラン基の10B存在比は、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%又は97%より高く、さらに98%又は99%より高い。10B富化されたカルボランは、10B富化されたホウ酸を原料として調製してもよく、又はKatchem spol.s r.o.,Czech Republic(http//:www.katchem.cz/en)から市販されてもよい。
【0035】
一実施形態において、カルボラン/カルボラン基中の少なくとも1つのホウ素原子は、10Bである。
【0036】
一実施形態において、カルボラン-リン脂質複合体中のホウ素原子は、10B富化されている。例えば、カルボラン-リン脂質複合体中の少なくとも1つのホウ素原子は、10Bである。
【0037】
一実施形態において、一般式(I)の10B富化された複合体中の1つ又は複数のホウ素原子の10B存在比は、30%、40%、50%、60%、70%又は80%より高く、好ましくは90%、95%、96%又は97%より高く、さらにより好ましくは98%又は99%より高い。なお、各ホウ素原子の10Bの存在比は、他のホウ素原子の10Bの存在比と同じであっても異なっていてもよい。
【0038】
一実施形態において、一般式(I)の10B富化された複合体中のホウ素原子当たりの10Bの存在比は、90%より高い。
【0039】
この中に、Xが-H、-CHCHNH、-CHCH(CH、-CHCH(NH)COOH、-CHCH(OH)CHOH、又は、シクロヘキサン-2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシ-1-基のカルボラン-リン脂質複合体は、それぞれホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトールの誘導体である。
【0040】
一実施形態において、Xが-CHCH(CHであり、YがOであり、すなわち、カルボラン-リン脂質複合体は、ホスファチジルコリン誘導体である。
【0041】
本発明において、脂質アーム間の長さの差とは、R1の先端のカルボキシル基CからR1の末端の非H原子までの距離から、R2の先端のカルボキシル基CからR2の末端の非H原子の距離を引いたものを指す。
【0042】
本発明において、脂質アーム間の距離は、一般式(I)の化合物におけるR1のグリセロール基の近傍に一番目のCとR2のグリセロール基の近傍に一番目のCとの距離である。
【0043】
本発明において、脂質アーム間の二面角とは、R1の末端の非H原子、R1の先端のカルボキシル基C、R2の先端のカルボキシル基C、R2の末端の非H原子からなる二面角を指す。
【0044】
本発明のカルボラン-リン脂質複合体の一実施形態において、R1又はR2をそれぞれ含む2つの脂質アームは、下記の条件の1つ、2つ又は3つを満たして:
【0045】
長さの差が±3A以内であり、
【0046】
脂質アーム間の距離が15A以内であり、
【0047】
二面角が15度以内である。
【0048】
本発明のカルボラン-リン脂質複合体の一実施形態において、R1又はR2をそれぞれ含む2つの脂質アームは、下記の条件の1つ、2つ又は3つを満たして:
【0049】
長さの差が±2A以内であり、
【0050】
脂質アーム間の距離が10A以内であり、
【0051】
二面角が10度以内である。
【0052】
本発明のカルボラン-リン脂質複合体の好ましい実施形態において、R1又はR2をそれぞれ含む2つの脂質アームは、下記の条件の1つ、2つ又は3つを満たして:長さの差が±1A以内であり;脂質アーム間の距離が5A以内であり;二面角が5度以内である。本発明のカルボラン-リン脂質複合体のより好ましい実施形態において、好ましくは同時に3つの条件を満たす。
【0053】
R1とR2の中には、1つが炭素数10~24の直鎖アルキル基又はアルケニル基である。一実施形態において、前記直鎖アルキル基又はアルケニル基は、11、13、15、17、19、21又は23個の炭素原子を含む。
【0054】
本明細書に「アルキル基」とは、n個の炭素及び2n+1個の水素原子のみからなる直鎖又は分岐鎖の飽和炭化水素鎖基を指す。例えば、C10-C24アルキル基とは、10~24個の炭素原子の直鎖又は分岐鎖の飽和炭化水素鎖基を指す。例えば、数値範囲「10~24個」とは、与えられた範囲内の各整数を指し、例えば、「10~24個の炭素原子」は、当該アルキル基が10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23又は24個の炭素原子を含むことを示す。直鎖アルキル基とは、分岐鎖を持たさないアルキル基を指し、例えば、デシル基(C1021-)、ラウリル基(C1225-)、ミリスチル基(C1429-)、パルミチル基(C1633-)、ステアリル基(C1837-)、エイコシル基(C2041-)、ドコシル基(C2245-)又はテトラコシル(C2449-)である。
【0055】
本発明において、アルケニル基とは、炭素と水素原子のみからなり、少なくとも1つの二重結合(例えば、1つ又は2つの二重結合)を含む直鎖又は分岐鎖の炭化水素鎖基を指す。例えば、シス-9-テトラデセニル基、トランス-9-テトラデセニル基、シス-9-ヘキサデセニル基、トランス-9-ヘキサデセニル基、シス-9-オクタデセニル基、トランス-9-オクタデセニル基、シス-11-オクタデセニル、シス,シス-9,12-オクタデカジエニル基、トランス,トランス-9,12-オクタデカジエニル基、シス-13-ドコセニル等である。直鎖アルケニル基とは、分岐鎖を持たさないアルケニル基を指す。
【0056】
Lは、2価の連結基である。好ましい実施形態において、Lは、柔軟な疎水鎖を有する基である。より好ましい実施形態において、Lは、カルボラン-リン脂質複合体におけるカルボランを含まない脂質アームの疎水性と柔軟性と同等である。例えば、Lが、-(CHn+m-、-(CHn+m-S-、-(CHnm-O-、-(CH-CH=CH-(CH-、-(CH-CH=CH-(CH-S-、-(CH-CH=CH-(CH-O-、-(CH-S-(CH-、-(CH-S-(CHm+1-S-、-(CH-O-(CH-、-(CH)n-O-(CHm+1-O-、-(CH-N(CH)-(CH-、又は-(CH-N(CH)-(CHm+1-N(CH)-であり、ここで、nが1~20の整数であり、mが0~20の整数である。1つ具体的な実施形態において、Lが-(CHn+m-S-であり、ここで、nが1~20の整数であり、mが0~20の整数であり、例えば、Lが-(CH12-S-、-(CH13-S-、-(CH14-S-、-(CH15-S-、-(CH16-S-、-(CH17-S-、-(CH18-S-、-(CH19-S-、-(CH20-S-、-(CH21-S-、-(CH22-S-、-(CH23-S-、又は-(CH24-S-である。
【0057】
好ましい実施形態において、Lは、分岐鎖を有さない。
【0058】
本発明の好ましい実施形態において、カルボラン-リン脂質複合体は、下記の構造を有する。
【化5】
ここで、Boはカルボラン基を示す。nは1~20の整数である。本発明のより好ましい実施形態において、Boが1,2-C1011-であり、好ましくはcloso-ジカルバドデカボラン基であり、より好ましくはcloso-1,2-ジカルバドデカボラン基であり、nが3、7、11又は15であり、好ましくは11である。
【0059】
カルボラン-リン脂質複合体の合成
【0060】
本発明は、カルボラン-リン脂質複合体は、脱水剤、例えばジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)の存在下で、触媒、例えば4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下で、C-置換カルボラン誘導体、例えばカルボラン基-L-COOHと、リゾリン脂質を合成し得られる。
【0061】
C-置換カルボラン誘導体の合成
【0062】
カルボランのケージ構造の強い電子求引性により、C-H結合のHは弱い酸性を示し、強塩基例えばアルキルリチウム試薬と反応することで、一連のC-置換カルボラン誘導体が得られる。例えば、カルボランは、ブチルリチウムの作用下で、オキセタン、エチレンオキサイド、又はホルムアルデヒドと反応し、それぞれ-CHCHCHOH、-CHCHOH、-CHOH基をカルボランに導入することができる。
【0063】
カルボラン基-L-COOHは、カルボラン基-L-CHOHを、CrOなどの酸化剤によって酸化されることで得られる。
【0064】
カルボラン誘導体は、モノ置換又は二重置換であってもよい。好ましい実施形態において、得られるカルボラン誘導体は、モノ置換である。
【0065】
カルボラン誘導体は、t-ブチルジメチルシリル(TBDMS)又はトリフェニルシリルを用いてC-Top保護基として合成することができる。例えば、C-Top保護基としてトリフェニルシリルを用いて、モノ置換又は二重置換のカルボラン誘導体を合成することができる。
【化6】
C-置換カルボラン誘導体の合成については、Juyou Luらの合成化学,2015,23(9):883の総説「Research Progress on Synthesis of Carborane Derivatives」及びHe Y T、Ager J、Clark Sらの「A new series of organoboranes III:Some reactions of 1,2-dicarbaclovododecaborane(12)and its derivatives、InorganiCChemistry」,1963,2:1097-1105。
【0066】
リゾリン脂質の合成
【0067】
本発明の合成方法では、市販又は自家製のリゾリン脂質を使用できる。リン脂質を酵素的加水分解することにより、リゾリン脂質を作製でき、1-位アシル基をリン脂質酵素Aによる加水分解し、2-位アシル基をリン脂質酵素Aによる加水分解できる。使用されるリゾリン脂質は、例えば、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジン酸、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルセリン、リゾホスファチジルイノシトール等を含む。一実施形態において、使用されるリゾリン脂質は、リゾホスファチジルコリン(Lyso-PPC)である。
【0068】
リゾリン脂質の具体的な調製方法は、Zhao Liらの総説ChiNaOils and Fats、2018、43(6):132-143を参照できる。加水分解用のリン脂質は、市販品で購入してもよく、必要に応じて合成してもよい。
【0069】
下記、化合物BoP 1-4を例にカルボラン-リン脂質複合体の合成を説明する。
【化7】
化合物BoPの化学合成経路
【0070】
リポソーム
【0071】
本発明の別の様態は、脂質二重層の一部である上記のカルボラン-リン脂質複合体を含むリポソーム組成物を提供する。
【0072】
本発明のリポソームは、単層リポソームであってもよく、すなわち単一の脂質二重層から構成され、かつ直径が約20nmから約400nmの範囲である。本発明のリポソームは、多層リポソームであってもよく、その直径が一般的に1μmから10μmの範囲である。
【0073】
本発明のリポソームは、細胞膜様構造を有するため、細胞に対する親和性が高く、活性成分(治療剤及び/又は診断剤)の細胞への透過性を向上させることができ、これにより、疾患部位における活性成分の濃度及び作用を改善することができる。活性成分がリポソームに封入されているため、組織中での拡散速度が低下し、血中への放出速度が遅くなり、活性成分が作用する時間が長くなる。リポーソム二重層の保護下で、活性成分は、酸化、分解、又は人体内の酸又は酵素による破壊から保護され、活性成分の安定性が確保又は持続できる。
【0074】
本発明の一実施形態において、リポソーム組成物は、コレステロールをさらに含む。コレステロールは、脂質二重層膜を強化し、リン脂質二重層膜の流動性を低下させ、膜の透過性を低下させ、有効成分の漏れを減少させることができると考えられる。同時に、脂質膜の一定の柔軟性を維持し、外部条件の変化に抵抗するリポソーム小胞の能力を強化できる。また、リン脂質の酸化に対して一定の保護作用がある。
【0075】
本発明の一実施形態において、リポソーム組成物は、リン脂質をさらに含み、飽和リン脂質が好ましい。リン脂質としては、例えば、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジエライドイル(didaidoyl)ホスファチジルエタノールアミン、水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)等が挙げられ、好ましくはDPPCである。好ましい実施形態において、リポソーム組成物に含まれるリン脂質は、式Iのカルボラン-リン脂質複合体中のリン脂質構造と類似し、即ち、同一又は類似のR1又はR2(例えば、1以内の炭素鎖長の差)、並びに同一又は類似のX及びYを有する。リン脂質を添加することにより、二重脂質分子の安定性を向上させ、カルボラン-リン脂質複合体の使用量を低減させることができると考えられる。
【0076】
本発明の一実施形態において、リポソーム組成物は、PEG化リン脂質をさらに含む。PEG化リン脂質は、PEG分子とリン脂質分子とを共有結合により結合してPEG誘導体化リン脂質を形成し得られ、リポソームの漏れ率を低下させ、その凝集と融合を減少させ、有効期間を延長させることができ、体循環において細胞接着を阻害し、RESによるリポソームの認識及び摂取を遮蔽し、リポソームの体内のサイクルタイムを延長させることができると考えられる。PEG化リン脂質におけるPEGの分子量は、通常、約500~約5000ダルトン(Da;g/mol)、例えば、750 Da、1000 Da、2000 Da又は5000 Daの分子量である。PEG化リン脂質におけるPEGは、直鎖又は分岐鎖構造を有していてもよい
【0077】
本発明の一実施形態において、PEG化リン脂質は、好ましくはDLPE-PEG、DPPE-PEG、DMPE-PEG又はDSPE-PEGであり、より好ましくはDSPE-PEGである、例えばDSPE-PEG2000及びDSPE-PEG5000である。
【0078】
本発明の一実施形態において、リポソーム組成物は、コレステロールとリン脂質を同時に含む。
【0079】
本発明の一実施形態において、リポソーム組成物は、コレステロール、リン脂質及びPEG化リン脂質を同時に含む。本発明の好ましい実施形態において、リポソーム組成物は、コレステロール、リン脂質及びPEG化リン脂質を同時に含み、リン脂質及びPEG化リン脂質の脂質アームの差が0、1、又は2個の炭素原子である。
【0080】
本発明のリポソームは、さらに、安定剤、酸化防止剤、pH調整剤、矯味剤、担体、希釈剤、賦形剤などの薬学的に許容される製剤助剤を含んでもよい。薬学的に許容されるとは、製剤助剤が製剤の他の成分と適合していなければならず、製剤を投与される被験者に無害であることを意味する。本発明において、被験者とは、哺乳動物を意味し、ヒト又はペットであってもよい。
【0081】
本発明の一実施形態において、リポソーム組成物は、少なくとも1つの治療剤及び/又は少なくとも1つの診断剤をさらに含む。前記治療剤又は診断剤は、リポソームの水コンパートメントに封入されていてもよく、又は脂質二重層に組み込まれていてもよい。図1に示すように、水溶性の化学療法剤は、ホウ素化リン脂質からなるリポソームの水コンパートメントに封入されてもよい。
【0082】
治療剤として使用できる適切な分子には、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプトイド、アミノ酸、酵素阻害剤、ホルモン、トキシン、抗生物質、抗炎症物質、抗がん剤、免疫阻害剤、気管支拡張剤等が含まれるが、これらに限定されない。
【0083】
好ましい実施形態において、リポソーム組成物は、少なくとも1つの治療剤を含み、前記治療剤が抗がん剤である。
【0084】
前記治療剤は、例えば、代謝拮抗薬(例えば、葉酸拮抗薬(例えば、メトトレキサート)、フルオロピリミジン類(例えば、5-フルオロウラシル)、プリン及びアデノシン類縁体、シタラビン)、インターカレーション性抗腫瘍抗生物質(例えば、アントラサイクリン類(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン(idarubicin)、マイセマイシンC(mitomycin-C)、ダクチノマイシン及びミトラマイシン(mithramycin)))、白金誘導体(例えば、シスプラチン及びカルボプラチン)、アルキル化剤(例えば、ナイトロジェンマスタード、メルファラン、クロランブシル、ブスルファン、シクロホスファミド、イホスファミド、ニトロソ尿素、チオテパ(thiotepa)、抗有糸分裂薬(例えば、ビンカアルカロイド類(例えばビンクリスチン)及びタキサン類(例えば、(パクリタキセル)、(ドセタキセル))及びより新規な微小管薬(microbtubule agent)(例えば、エポチロン(epothilone)類縁体、ディスコデルモリド(dispersmolide)類縁体及びエレウスロビン(eleutherobin)類縁体))、トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、エピポドフィロトキシン類(例えば、エトポシド、テニポシド、アンサコリン及びトポテカン))、細胞周期阻害剤(例えば、フラボピリドール(flavopyridol))、生体応答調節剤(biological response modifier)及びプロテアソーム阻害剤(例えば、ボルテゾミブ(bortezomib)))であってもよい。
【0085】
例えば、前記抗がん剤は、モノメチルオーリスタチンE、モノメチルオーリスタチンF、イブルチニブ、アカラブルチニブ、ザヌブルチニブ、ドキソルビシン、マイトマイシン-C、マイトマイシン-A、ダウノルビシン、アミノプテリン、アクチノマイシン、ブレオマイシン、9-アミノカンプトテシン、N8-アセチルスペルミジン、1-(2-クロロエチル)-1,2-ジメタンスルホニルヒドラジド、雲南マイシン、ゲムシタビン、シタラビン、ドラスタチン、ダカルバジン、5-フルオロウラシル、パクリタキセル、ドセタキセル(Docetaxel)、ゲムシタビン、シタラビン、6-メルカプトプリン、ビンクリスチン、シスプラチン、オキサリプラチン、PARP阻害剤から選択される。
【0086】
一実施形態において、抗がん剤は、PARP阻害剤から選択され、好ましくはオラパリブ、ニラパリブ、ルカパリブ、フルゾパリブ、パミパリブ、ベリパリブ、タラゾパリブであり、より好ましくはオラパリブである。
【0087】
本発明のリポソームは、診断剤を含んでもよい。本発明で使用される診断剤には、以下の参考文献によって提供されるような、当該技術分野でしられている任意の診断剤が含まれる:Armstrongら,Diagnostic Imaging,第5版,Blackwell Publishing(2004);Torchilin,V.P. 編,Targeted Delivery of Imaging Agents,CRCPress(1995);Vallabhajosula,S.,Molecular Imaging:Radiopharmaceuticals for PET and SPECT,Springer(2009)。診断剤は、γ-線放出信号、放射性信号、エコー源性信号、光学信号、蛍光信号、吸収信号、磁気信号、又は断層撮影信号を含むが、これらに限らない、検出可能な信号を提供及び/又は増強する薬剤を含む、様々な手段によって検出することができる。
【0088】
診断薬をイメージングするための技術は、単光子放射型コンピューター断層撮影法(SPECT)、磁気共鳴イメージング(MRI)、光学イメージング、陽電子放出断層撮影術(PET)、コンピューター断層撮影術(CT)、X線イメージング、γ線イメージング等が含まれるが、これらに限定されない。前記診断剤は、種々の方法によって治療性リポソームに結合することができ、例えば、前記リポソームに埋め込み又は封入を含む。
【0089】
いくつかの実施形態において、診断剤は、金属イオンに結合して複数の診断イメージング技術に使用されるキレート剤を含んでもよい。キレート剤の例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、[4-(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1-イル)メチル]安息香酸(CPTA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、エチレングリコールビス(2-アミノエチルエーテル)四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、クエン酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、イミノジ酢酸(IDA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン1,4,7,10-テトラキス(メチレンホスホン酸)(DOTP)、1,4,8,11-テトラアザシクロドデカン1,4,8,11-四酢酸(TETA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン1,4,7,10-四酢酸(DOTA)及びその誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0090】
放射性同位体は、本明細書に記載のいくつかの診断剤に組み込まれてもよく、γ線、陽電子、β及びα粒子、及びX線を放射する放射性核種を含んでもよい。適切な放射性核種としては225Ac、72As、211At、11B、128Ba、212Bi、75Br、77Br、14C、109Cd、62Cu、64Cu、67Cu、18F、67Ga、68Ga、H、123I、125I、130I、131I、111In、177Lu、13N、15O、32P、33P、212Pb、103Pd、186Re、188Re、47Sc、153Sm、89Sr、99mTc、88y及び90yを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、放射性試薬には、111In-DTPA、99mTc(CO)-DTPA、99mTc(CO)-ENPy62/64/67Cu-TETA、99mTc(CO)-IDA、及び99mTc(CO)トリアミン(環状又は直鎖)を含むことができる。他の実施形態において、前記試薬は、DOTA及び111In、177Lu、153Sm、88/90y、62/64/67Cu、又は67/68Gaを有する多様な類縁体が含まれる。いくつかの実施形態において、前記リポソームは、放射標識され、例えば、以下の参考文献に提供されるように、DTPA脂質などのキレート剤に結合した脂質を組み込むことによって放射標識されてもよく:Phillipsら、Wiley Interdisciplinary Reviews:Nanomedicine and Nanobiotechnology、1 (1): 69-83 (2008)、Torchilin、V.P. & Weissig、編、リポソーム第 2 版: Oxford Univ. Press、Eur.J.Med。 Mol.Imaging 33:1196-1205(2006);Mougin-Degraef、M.
【0091】
他の実施形態において、前記診断剤は、蛍光剤、燐光試薬、化学発光試薬などの光学試薬を含んでもよい。種々の試薬(例えば、染料、プローブ、標識又は指示薬)は、当技術分野で既知であり、本発明において使用することができる。(例えば、Invitrogen、The Handbook-A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies、第10版(2005)を参照する)。蛍光剤は、複数種類の有機及び/又は無機小分子又は複数の蛍光タンパク質及びその誘導体を含んでいてもよい。例えば、蛍光剤としては、特に限定されないが、シアニン、フタロシアニン、ポルフィリン、インジゴ、ローダミン、フェノキサジン、フェニルキサンテン、フェノチアジン、フェノセレナジン、フルオレセイン、ベンゾポルフィリン、スクアリウム、ジピロロピリミジンケトン、テトラセン(tetracenes)、キノリン、ピラジン、コリン(corrin)、クロコン酸(croconiums)、アクリドン、フェナントリジン、ローダミン、アクリジン、アントラキノン、カルコゲノピリリウム(chalcogenopyrylium)類縁体、クロリン、ナフタロシアニン、メチン染料(methinedyes)、インドレニウム染料(indoleniumdyes)、アゾ化合物、カモミールブルー、アザカモミールブルー、トリフェニルメタン染料、インドール、ベンゾインドール、インドールカルボシアニン、ベンズインドールカルボシアニン、及び4,4-ジフルオロ-4-ボロン-3a,4a-ジアザ-s-インダセン誘導体の一般構造を有するBODIPY TM誘導体、及び/又はこれらの複合体及び/又は誘導体が挙げられる。使用可能なその他の試薬としては、これらに限定されないが、例えば、フルオレセイン、フルオレセイン-ポリアスパラギン酸複合体、フルオレセイン-ポリグルタミン酸複合体、フルオレセイン-ポリアルギニン複合体、インディゴグリーン、インジゴ-ドアスパラギン酸複合体、インジゴ-ポリアスパラギン酸複合体、イソスルファンブルー、インドールジスルホネート(indoledisulfonates)、ベンズインドールジスルホネート、ビス(エチルカルボキシメチル)インジゴ、ビス(ペンチルカルボキシメチル)インジゴ、ポリヒドロキシインドールスルホネート、ポリヒドロキシベンゾインドールスルホネート、硬質ヘテロ原子インドールスルホネート、インジゴジプロピオン酸、インジゴビスカプロン酸、3,6-ジシアノ-2,5-[(N,N,’,N’-テトラキス(カルボキシメチル)アミノ]ピラジン、3,6-[(N,N,’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]ピラジン-2,5-ジカルボン酸、3,6-ビス(N-アゼチジニル(azatedino))ピラジン-2,5-ジカルボン酸、3,6-ビス(N-モルホリノ)ピラジン-2,5-ジカルボン酸、3,6-ビス(N-ピペラジノ)ピラジン-2,5-ジカルボン酸、3,6-ビス(N-チオモルホリノ)ピラジン-2,5-ジカルボン酸、3,6-ビス(N-チオモルホリノ)ピラジン-2,5-ジカルボン酸S-オキシド、2、5-ジシアノ-3、6-ビス(N-チオモルホリノ)ピラジンS,S-ジオキシド、インドカルボシアニンテトラスルホネート(indocarbocyaninetetrasulfonate)、クロロインドールカルボシアニン、及び3,6-ジアミノピラジン-2,5-ジカルボン酸が挙げられる。
【0092】
本発明の好ましい実施形態において、リポソーム組成物は、64Cu-NOTA-PEG2000-DSPEである少なくとも1つの診断剤を含む。
【0093】
本発明のリポソームは、当該技術分野で通常の方法、例えば、注入法(エタノール注入法及びエチルエーテル注入法)、薄膜分散法、逆相蒸発法、化学勾配法(pH勾配法、硫酸アンモニウム勾配法、酢酸カルシウム勾配法)、複エマルジョン法、凍結乾燥法などにより調製することができ、中国薬学雑誌、第46巻、第14号、1084~1088ページ、2011年を参照する。
【0094】
一実施形態において、エタノール注入法又は薄膜分散法によって硫酸アンモニウム溶液を含むブランクリポソームを調製し、その後、リポソーム膜の外部硫酸アンモニウムを除去した後に硫酸アンモニウムの勾配を形成し、硫酸アンモニウム勾配法によって治療剤又は診断剤を担持するリポソームを形成する。
【0095】
本発明のリポソームの粒子径は、熱力学的光散乱法、例えばZetasizer 3000SH レーザ粒子測定器(Malvern Instruments Ltd)により測定することができ、直径は主に約20から約150nmである。
【0096】
本発明のリポソームの封入効率は、遠心法、透析法、ゲルカラムクロマトグラフィー法などにより測定することができる。
【0097】
本発明によるリポソームは、必要に応じて、経口又は非経口の形態(例えば、静脈内、皮下、腹腔内又は局所)の注入を採用することができ、注入量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食事、注入時間、注入方法、排泄率及び疾患の重症度などの状況に応じて異なる。例えば、本発明のリポソームは、必要に応じて静脈内投与、肺投与(霧化吸入又は乾燥粉末吸入)、皮膚投与に供することができる。注入量は、上記リポソームに含まれる治療剤又は診断剤で約0.1-10mg/kg体重である。
【実施例
【0098】
実施例の出発材料は、市販されている及び/又は有機合成分野の当業者に周知の様々な方法で製造することができる。有機合成分野の当業者は、下記の合成方法の中で反応条件(溶媒、反応雰囲気、反応温度、実験の持続時間及び後処理を含む)を適宜選択する。有機合成分野の当業者あれば、分子の各部に存在する官能基が、提案された試薬及び反応と適合するはずであることを理解する。NMRは、Bruker AVANCE 400MHzスペクトロメーターを用いて記録した。高分解能質量スペクトルは、Bruker Fourier Transform Ion Cyclotron共振質量分析計を用いて測定した。使用されるLC/MSは、Waters e2695であり、Waters 2995 PDA及びWaters Acquity QDA 質量分析計を備えた。
【0099】
1 一連のBoPの化学合成
【0100】
一連のBoP(BoP 1-4)は、上記の合成経路を用いて合成され、そのうち、炭素鎖のメチレン基の数はn=3、7、11、15であり、対応する化合物の番号は小さい順から配置され、合計収率は11%~20%、純度>97%である
【0101】
BoP-3の具体的な合成手順と特性評価方法は次のとおりである:
【0102】
(1)カルボランメルカプトトリエチルアミン塩(1)の化学合成:
【0103】
基質(o-カルボラン、1.00g、6.93mmol)をTHF(30mL)に溶解させ、無水かつ酸素のない条件下で0℃まで冷却した。n-ブチルリチウム(4.4mL、6.93mmol)を溶液に15分間かけて滴下し、30分間撹拌した。次に、システムを30分間室温に戻した。昇華した硫黄(225mg,6.93mmol)を加え、氷水浴条件下で30分間反応させた。次に、システムを30分間室温に戻した。溶液をスピン乾燥させて、黄色の液体を得た。次いで、未反応のn-ブチルリチウムをクエンチングするための塩酸(1M、7mL)を添加した。溶液をn-ヘキサンで抽出し、水及び飽和食塩水で連続的に洗浄し、スピン乾燥させた。室温条件下で上記生成物のn-ヘキサン溶液(6mL)にトリエチルアミン(1mL、7.18mmol)を滴下し、15分間撹拌した。白色の沈殿物が形成された後、それを吸引濾過し、6mlのn-ヘキサンで3回洗浄し、空気中で乾燥させた。
【0104】
(2)カルボラン化脂肪酸の調製:1-HOOC(CH11Br(9.3mmol)のエタノール(50mL)溶液に濃硫酸5mLを滴下し、室温で15分間撹拌し、12時間加熱還流した。混合物を冷却し、スピン乾燥させた。酢酸エチル(30mL)と水(30mL)を加えて抽出し、純水と飽和食塩水で洗浄し、無水NaSOで乾燥し、スピン乾燥した。粗生成物を、溶離剤として石油エーテル及び酢酸エチルを使用するシリカゲルカラムでカラムクロマトグラフィーにより行った。溶媒を減圧下でスピン乾燥させた後、1-COC(O)(CH11Brを得た。1(1.86mmol)のエタノール(42mL)溶液に、Br(CH11C(O)OC(1.86mmol)を加え、室温で15分間撹拌して加熱反応16hを行った。反応混合物を冷却した後、スピン乾燥させた。残りを酢酸エチル(30mL)で抽出し、純水(30mL)で洗浄した。有機相を分離した後、それを水と飽和食塩水で洗浄し、無水NaSOで乾燥し、スピン乾燥した。粗生成物をシリカゲルカラムでカラムクロマトグラフィーを行った。溶媒を減圧下でスピン乾燥させた後、1-COC(O)(CH11S-1,2-C1011を得た。それを氷酢酸(29mL)に溶解し、無色透明の溶液を形成した。室温で15分間撹拌した後、純水(9.8mL)及び濃硫酸(9.8mL)を順次滴下して16時間加水分解し、1-HOOCC(O)(CH11S-1,2-C1011(2)が得られた。
【0105】
(3)BoP-3の調製:0.1Mカルボラン基脂肪酸(炭素数は12、2)(2.0当量)のクロロホルム溶液にジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、2.6当量)及び4-ジメチルアミノピリジン(DMAP、4.0当量)を加えた。溶液を室温で5分間撹拌した。Lyso-PPC(1.3当量)を加え、反応撹拌を24時間行った。ロータリーエバポレーターを用いて反応混合物を濃縮した。カラムクロマトグラフィー(65:25:4 CHCl:MeOH:HO)で精製して、BoP-3を得た。
【0106】
(4)BoP-3の特性評価:分子動力学シミュレーションにより、異なる炭素原子数のBoPs(BoP-1、BoP-2、BoP-3、BoP-4、)からなる膜構造の配座を観察し、BoP-3の配座が最も安定で、長鎖の折り畳み程度が最も小さく、DPPCによる膜構造に最も近いことが分かった(図5図9)。同時に薬剤担持効率のテストを行い、スルホローダミンB(SRB)を封入し、550nmでの吸収を測定し、BoP-3の吸収の程度が最も高いことがわかり(図10)、膜構造が最も完全であることを示す。同時に、SRBの漏れ状況を測定したところ、37℃の条件下で50%のウシ血清で24h培養し、BoP-3のSRB漏れパーセンテージが最も少ないことがわかった(図11)。同時に、核磁気共鳴水素スペクトルの手段により特性評価され、正確な構造を示す。BoP-3形成膜構造の情報をより直観的に取得するために、BoP-3、DPPC、コレステロール及びDPPE-PEG2000からなるホウ素リポソームを調製し、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した結果、押出機により粒子径及び透析精製を制御し、ホウ素リポソームが直径30-100nmの球形担体で、形状が規則的で、且つほとんど破損しなかったことがわかった(図3を参照する)。この球状担体の多分散指数とゼータ電位(ζ電位)を同時に測定し、ドキソルビシン(Dox)を包んだ後、電気的に中性は-3.1mVに達し、有効な薬剤担持性能を示す。
【0107】
BoP-1、BoP-2、BoP-4の製造:
【0108】
BoP-1、BoP-2、BoP-4は、最初にカルボラン化脂肪酸を合成するときに選択されるブロモカルボン酸の炭素鎖長を除いて、BoP-3の調製とほぼ同一である。このうち、BoP-1の基質は1-HOOC(CHBr、BoP-2の基質は1-HOOC(CHBr、BoP-4の基質は1-HOOC(CH15Brである。詳細は次のとおりである。
【0109】
(1)BoP-1:1-HOOC(CHBr(9.3mmol)のエタノール(50mL)溶液に濃硫酸5mLを滴下し、室温で15分間撹拌し、12時間加熱還流した。混合物を冷却し、スピン乾燥した。酢酸エチル(30mL)と水(30mL)を加えて抽出し、純水と飽和食塩水で洗浄し、無水NaSOで乾燥し、スピン乾燥した。粗生成物を、溶離剤として石油エーテル及び酢酸エチルを使用するシリカゲルカラムでカラムクロマトグラフィーにより行った。溶媒を減圧下でスピン乾燥させた後、1-COC(O)(CHBrが得られた。1(1.86mmol)のエタノール(42mL)溶液に、Br(CHC(O)OC(1.86mmol)を加え、室温で15分間撹拌して加熱反応16hを行った。反応混合物を冷却した後、スピン乾燥させた。残りを酢酸エチル(30mL)で抽出し、純水(30mL)で洗浄した。有機相を分離した後、それを水と飽和食塩水で洗浄し、無水NaSOで乾燥し、スピン乾燥した。粗生成物をシリカゲルカラムでカラムクロマトグラフィーを行った。溶媒を減圧下でスピン乾燥させた後、1-COC(O)(CHS-1,2-C1011が得られた。それを氷酢酸(29mL)に溶解し、無色透明の溶液を形成した。室温で15分間撹拌した後、純水(9.8mL)及び濃硫酸(9.8mL)を順次滴下して16時間加水分解し、1-HOOCC(O)(CHS-1,2-C1011(3)が得られ、0.1Mカルボラン基脂肪酸(炭素数は4、3)(2.0当量)のクロロホルム溶液にジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、2.6当量)及び4-ジメチルアミノピリジン(DMAP、4.0当量)を加えた。溶液を室温で5分間撹拌した。Lyso-PPC(1.3当量)を加え、反応撹拌を24時間行った。ロータリーエバポレーターを用いて反応混合物を濃縮した。カラムクロマトグラフィー(65:25:4 CHCl:MeOH:HO)で精製してBoP-1が得られた。
【0110】
(2)BoP-2:1-HOOC(CHBr(9.3mmol)のエタノール(50mL)溶液に濃硫酸5mLを滴下し、室温で15分間撹拌し、12時間加熱還流した。混合物を冷却し、スピン乾燥させた。酢酸エチル(30mL)と水(30mL)を加えて抽出し、純水と飽和食塩水で洗浄し、無水NaSOで乾燥し、スピン乾燥した。粗生成物を、溶離剤として石油エーテル及び酢酸エチルを使用するシリカゲルカラムでカラムクロマトグラフィーにより行った。溶媒を減圧下でスピン乾燥させた後、1-COC(O)(CHBrが得られた。1(1.86mmol)のエタノール(42mL)溶液に、Br(CHC(O)OC(1.86mmol)を加え、室温で15分間撹拌して加熱反応16hを行った。反応混合物を冷却した後、スピン乾燥させた。残りを酢酸エチル(30mL)で抽出し、純水(30mL)で洗浄した。有機相を分離した後、それを水と飽和食塩水で洗浄し、無水NaSOで乾燥し、スピン乾燥した。粗生成物をシリカゲルカラムでカラムクロマトグラフィーを行った。溶媒を減圧下でスピン乾燥させた後、1-COC(O)(CHS-1,2-C1011が得られた。それを氷酢酸(29mL)に溶解し、無色透明の溶液を形成した。室温で15分間撹拌した後、純水(9.8mL)及び濃硫酸(9.8mL)を順次滴下して16時間加水分解し、1-HOOCC(O)(CHS-1,2-C1011(4)が得られ、0.1Mカルボラン基脂肪酸(炭素数は8、4)(2.0当量)のクロロホルム溶液にジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、2.6当量)及び4-ジメチルアミノピリジン(DMAP、4.0当量)を加えた。溶液を室温で5分間撹拌した。Lyso-PPC(1.3当量)を加え、反応撹拌を24時間行った。ロータリーエバポレーターを用いて反応混合物を濃縮した。カラムクロマトグラフィー(65:25:4 CHCl:MeOH:HO)で精製してBoP-2が得られた。
【0111】
(3)BoP-4:1-HOOC(CH15Br(9.3mmol)のエタノール(50mL)溶液に濃硫酸5mLを滴下し、室温で15分間撹拌し、12時間加熱還流した。混合物を冷却し、スピン乾燥させた。酢酸エチル(30mL)と水(30mL)を加えて抽出し、純水と飽和食塩水で洗浄し、無水NaSOで乾燥し、スピン乾燥した。粗生成物を、溶離剤として石油エーテル及び酢酸エチルを使用するシリカゲルカラムでカラムクロマトグラフィーにより行った。溶媒を減圧下でスピン乾燥させた後、1-COC(O)(CH15Brが得られた。1(1.86mmol)のエタノール(42mL)溶液に、Br(CH15C(O)OC(1.86mmol)を加え、室温で15分間撹拌して加熱反応16hを行った。反応混合物を冷却した後、スピン乾燥させた。残りを酢酸エチル(30mL)で抽出し、純水(30mL)で洗浄した。有機相を分離した後、それを水と飽和食塩水で洗浄し、無水NaSOで乾燥し、スピン乾燥した。粗生成物をシリカゲルカラムでカラムクロマトグラフィーを行った。溶媒を減圧下でスピン乾燥させた後、1-COC(O)(CH15S-1,2-C1011が得られた。それを氷酢酸(29mL)に溶解し、無色透明の溶液を形成した。室温で15分間撹拌した後、純水(9.8mL)及び濃硫酸(9.8mL)を順次滴下して16時間加水分解し、1-HOOCC(O)(CH15S-1,2-C1011(4)が得られ、0.1Mカルボラン基脂肪酸(炭素数は16、5)(2.0当量)のクロロホルム溶液にジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、2.6当量)及び4-ジメチルアミノピリジン(DMAP、4.0当量)を加えた。溶液を室温で5分間撹拌した。Lyso-PPC(1.3当量)を加え、反応撹拌を24時間行った。ロータリーエバポレーターを用いて反応混合物を濃縮した。カラムクロマトグラフィー(65:25:4 CHCl:MeOH:HO)で精製してBoP-4が得られた。
【0112】
2 ホウ素リポソームの組成と調製
【0113】
総質量が20mgのジステアロイルホスファチジルコリン(DPPC)、コレステロール(Chol)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール2000(DSPE-PEG 2k)及びBoPを(BoP:DPPC:Chol:DSPE-PEG 2k=50:10:40:1、mol%)の割合で、60℃で1mLのエタノールに溶解させた後、60℃で硫酸アンモニウム緩衝液(4mL、250mM、pH=5.5)を注入した。その後、リポソーム溶液を60℃でリポソーム押出器に通し、膜孔径を200nmとし、計10回押圧した。その後、膜孔径100nmの膜に換え、計10回押圧を続けた。遊離した硫酸アンモニウムは、10%スクロースと10mMヒスチジン(pH=6.5)からなる溶液800mL中で透析除去され、12時間内に少なくとも2回透析液が交換された。
【0114】
3 ホウ素リポソームの薬剤担持
【0115】
スルホローダミン(SRB)を担持したホウ素リポソームに対して、前記製剤の脂質をエタノールに溶解し、50mM SRBと水和し、45℃で30min超音波処理した。ドキソルビシン(Dox)は、硫酸アンモニウム勾配法によって担持される。薬脂モル比が1:8のDoxをリポソーム溶液に添加し、60℃で1h培養し、SRB放出率(%SRB放出率=(Afinal-Ainitial)/(ATriton-X-100-Ainitial)×100%を吸光度とし、その安定性と封止能力を評価した。
【0116】
4 ホウ素リポソームの特性評価(動的光散乱、ζ電位解析、形態学的検査、三次元モデル構築)
【0117】
MalvernのZetasizer Nano ZSで動的光散乱及びゼータ電位解析を行った。ホウ素リポソームの形態学的検査は200kV(JEM-2100、JEOL、Japan)のTEMにより行った。リポソーム溶液の一滴を超薄炭素膜で被覆された銅メッシュに添加し、室温で10分間乾燥させた。酢酸ウラニル溶液(4%w/v)でネガティブ染色する前に過剰な溶液を除去した後、水で洗浄し、在密度汎関数法/Becke、三パラメータ、Lee-Yang-Parr及び6-31G*基底(DFT/B3LYP/6-31G*)で最適化を行った後、Spartan14ソフトウェアを用いてBoPsの三次員構造を予測した。炭素アームの長さI、ホウ素アームの長さΔl、脂質アームの長さ差d、脂質アームのピッチθ、脂質アームの二面角(°)などのパラメータを測定して評価した。
【0118】
【表1】
【0119】
5 ホウ素リポソームの放射性標識
【0120】
北京大学腫瘍病院から提供された64CuClを0.01M塩酸に溶解した。NOTA-ホウ素リポソームは、指定された成分(BoP-3:DPPC:コレステロール:DSPE-PEG2k-NOTA=50:10:40:1、mol%)に従って調製された。NaAcバッファー(1mL,pH=5.5,0.2M)をホウ素リポソーム溶液(100μL、0.5mg/mL)に加え、64CuCl(18.5MBq)とともに37℃で2時間インキュベートし、溶離剤としてPBSを使用する。PD-10サイズ排除クロマトグラフィーにより64Cu-NOTA-ホウ素リポソームを精製し、放射化学的な収率は90%以上である。
【0121】
ホウ素含有分子の選択において、リポソーム膜に結合するホウ素含有分子として、高疎水性かつ低求核性のカルボラン(C1012)を選択した。カルボランは、ホウ素含有量が多く、良好なBNCT効果を提供できる。したがって、リン脂質分子(Lyso-PPC)にホウ素化されたアシル基(カルボラン化脂肪酸)を結合させ、クリックケミストリーに代えてThiol-halo反応を利用してリン脂質の柔軟性を維持するために。しかしながら、三次元構造の分子としてカルボランが存在するため、立体障害による脂質二重層の形成安定性への影響を考慮する必要がある。したがって、異なる長さのカルボラン化脂肪酸(炭素鎖Cの原子数はそれぞれ4、8、12、16であり、実際の応用では上記炭素数に限定されない)を選別した。最初に、まず、異なる炭素原子数のBoPsの三次元構造を検証し、ジパルミトイルホスファチジルコリンDPPCをリファレンスとして、カルボラン化脂肪酸が異なる炭素原子数を有する条件における2本の脂質アームの長さを比較したところ、BoP-3の長さの差が最も小さく、さらにDPPCよりも小さく、これは最も安定な膜構造を形成するのに役立つことがわかった。他のパラメータ、例えば、脂質アーム間の距離、二面角などについて、BoP-3がDPPCに最も近いことがわかった。これに基づいて分子動力学シミュレーション(Molecular dynamics)の手段を結合し、128個のBoP-3とDPPC分子が形成する二層系を模擬し、BoP-3が形成する膜構造が規則的に整い、鎖の折り畳み変形程度が小さいことがわかった。同時に、実験面において、BoP-3薬剤担持能力の測定を行った、スルホローダミンB(SRB)を被覆することにより薬物担持効率を評価した。脂質を50mMの溶液で水和し、ゲルろ過してリポソームを得た。BoP-3では、550nmにおける吸収が最も高く、DPPC群に近いことが分かった。24時間培養後、37℃の50%ウシ血清中でSRBの放出を測定し安定性を評価した。結論として、BoP-3で形成されたナノ構造は、SRBに対して高い保留効力を有する。最終的に、BoP-3(炭素鎖C原子数12)を自己組織化の最適構造として得た。
【0122】
陽電子放出核種Cu-64のキレート剤としてDSPE-PEG2000-NOTAを適用してPETイメージングを行った。上記NOTA-脂質は、ホウ素リポソームに取り込まれた後、Cu-64イオンの水溶液とインキュベートされた。64Cu-NOTA-ホウ素リポソームをゲルろ過により精製した。放射性薄層クロマトグラフィーにより24時間の安定性を検証した。そして、放射性標識されたホウ素リポソーム(7.4MBq、150μL)を4T1担腫瘍マウスの体内に静脈注射し、PET-CTイメージングを行い(図4)、マウスの体内におけるホウ素リポソームの生物分布及び腫瘍特異性を評価し、このような新規なホウ素リポソームの体内における生物分布(腫瘍/正常部位の比)が許容できることをさらに実証した。臨床腫瘍治療の実践において、これにより、腫瘍における位置を判断し、治療効果をリアルタイムに評価し、さらに治療計画を策定することができる。
【0123】
ICP-OESにより、ホウ素リポソームとインキュベートした後の細胞のホウ素濃度を評価した。マウスの3陰性の乳癌4T1細胞と濃度が0.1-10mg/mLのホウ素リポソームを共に24時間インキュベートし、実験によりホウ素リポソームのインキュベーション量が増加することにつれて、細胞内のホウ素濃度が徐々に増加することがわかった(図12)。5mg/mLの用量で、4T1細胞におけるホウ素濃度は182.5ppm(n=4)に達し、臨床BNCTの要求を完全に満たす。
【0124】
次に、ホウ素リポソームの細胞毒性をCCK-8法で評価した。図13に示すように、4T1細胞と異なる濃度のホウ素リポソームとを24時間インキュベートした細胞活性を測定した。実験により、インキュベーション濃度が5mg/mLに達すると、細胞がホウ素リポソームに対して良好な耐性を示すことがわかった。
【0125】
以上の研究に基づいて、ホウ素リポソームを用いて4T1担癌マウスの中性子照射実験を行った。4T1担腫瘍マウスにPBS(400μL)、ホウ素リポソーム(500mg/kg)又はDox-ホウ素リポソーム(500mg/kg)を尾静脈注射し、12時間後にマウスを麻酔して遅い中性子ビームの流出口(@IHNI)に固定し、マウスの頭部を中心に指向させ、腫瘍が熱中性子の照射範囲内に露出してフルパワーで30分間照射し、肝臓、脾臓及び腸が照射野の外に位置し、不要な損傷を回避した。
【0126】
さらに、PARPi-ホウ素リポソーム-BNCTのインビボ抗腫瘍効果を検討した。実験により、PARPi@BLNP(即ち、ホウ素リポソームはPARPiを担持して、中性子照射を行っていない)群の腫瘍体積は、治療後日数の増加に伴って顕著に増大し、PARPi@BLNP+N(即ち、ホウ素リポソームはPARPiを担持して、中性子照射を行う)群の腫瘍平均体積は、原始体積の5分の1に縮小し(図14)、腫瘍抑制効果は残りの対照群より優れていることがわかった。
【0127】
化学療法一体化の側面において、封入された薬剤は、まず、ドキソルビシン(Doxorubicin)を選択し、一部の腫瘍が根絶できることを発見し、化学療法が補助するホウ素リポソーム-BNCT治療の効果を初歩的に検証した。次に、BNCTの原理から、DNA複製過程を破壊する個別薬剤を選択することができれば、その治療効果をさらに増強することが考えられる。そこで、ポリアデノシン二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤(オラパリブ)を選択した。γ-h2ax染色法によりDNA修復システムへの干渉を検証したと同時に、4T1担癌マウスの体内実験によりPARPi-ホウ素リポソームがドキソルビシン-ホウ素リポソームよりも良好な治療効果を有することがわかった(図2を参照する)。
【0128】
本発明の明細書において引用された全ての参考文献(文献の参考文献、公開された特許、開示された特許出願及び同時に審査を待つ特許出願を含む)の内容は、ここで参考として明示的に全文導入される。特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、当業者に一般的に知られている意味と一致する。
【0129】
また、本明細書に開示されている特徴の全てが、任意の組み合わせで組み合わされてもよい。また、本明細書に開示された各特徴は、同一、均等又は類似の目的を有する代替特徴に代替されてもよい。したがって、特に明記しない限り、開示される各特徴は、一連の同等又は類似の特徴の単なる例に過ぎない。
【0130】
以上説明したように、本発明の基本的な特徴は、当業者であれば容易に導き出すことができ、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な用途及び条件に適応するように、本発明を様々に変更及び修正することができる。したがって、他の実施例も添付の特許請求の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2024-07-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
で表れる構造を有する、カルボラン-リン脂質複合体。
(式中、R1とR2の中には1つが-L-カルボラン基であり、もう1つが炭素数10~24の直鎖アルキル基又はアルケニル基であり、Lが二価連結基であり、Xが-H、-CHCHNH、-CHCH(CH、-CHCH(NH)COOH、-CHCH(OH)CHOH、又はシクロヘキサン-2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシ-1-基であり、YがOH又はOである。)
【請求項2】
前記-L-カルボラン基におけるカルボラン基が10B富化されている、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記Xが-CHCH(CHであり、前記YがOである、請求項1に記載の複合体。
【請求項4】
前記R1又はR2をそれぞれ含む脂質アームが、以下の条件を1つ、2つ、又は3つ満たし、好ましくは同時に3つの条件を満たす、請求項1に記載の複合体。
(1)長さの差が±1A以内であり、
(2)脂質アーム間の距離が5A以内であり、
(3)二面角が5度以内である。
【請求項5】
前記カルボラン基が1,2-C-、1,2-C-、1,2-C1011-、2,3-C-、7,8-C12-、又は5,6-C11-であり、好ましくは1,2-C1011-である、請求項1に記載の複合体。
【請求項6】
前記Lが-(CHn+m-、-(CHn+m-S-、-(CHn+m-O-、-(CH-CH=CH-(CH-、-(CH-CH=CH-(CH-S-、-(CH-CH=CH-(CH-O-、-(CH-S-(CH-、-(CH-S-(CHm+1-S-、-(CH-O-(CH-、-(CH)n-O-(CHm+1-O-、-(CH-N(CH)-(CH-、又は-(CH-N(CH)-(CHm+1-N(CH)-であり、好ましくは-(CHn+m-S-であり、nが1~20の整数であり、mが0~20の整数である、請求項1に記載の複合体。
【請求項7】
下記の式:
【化2】
で表れる構造を有する、請求項6に記載の複合体。
(式中、Boがカルボラン基であり、nが1~20の整数である。)
【請求項8】
前記Boが1,2-C1011-であり、好ましくはcloso-ジカルバドデカボラン基であり、より好ましくはcloso-1,2-ジカルバドデカボラン基であり、nが3、7、11又は15であり、好ましくは11である、請求項7に記載の複合体。
【請求項9】
請求項1に記載の複合体を含み、
前記複合体が脂質二重層の一部である、リポソーム組成物。
【請求項10】
コレステロールをさらに含む、請求項9に記載のリポソーム組成物。
【請求項11】
さらに、リン脂質を含み、好ましくはジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)又はジエライドイル(didaidoyl)ホスファチジルエタノールアミンを含み、より好ましくはDPPCを含む、請求項9に記載のリポソーム組成物。
【請求項12】
さらに、ポリエチレングリコール化リン脂質を含み、好ましくはDLPE-PEG、DPPE-PEG、DMPE-PEG又はDSPE-PEGを含み、より好ましくはDSPE-PEGを含む、請求項9に記載のリポソーム組成物。
【請求項13】
少なくとも1つの治療剤及び/又は少なくとも1つの診断剤をさらに含む、請求項9に記載のリポソーム組成物。
【請求項14】
少なくとも1つの治療剤を含み、
前記治療剤が抗がん剤である、請求項13に記載のリポソーム組成物。
【請求項15】
前記抗がん剤がモノメチルオーリスタチンE、モノメチルオーリスタチンF、イブルチニブ、アカラブルチニブ、ザヌブルチニブ、ドキソルビシン、マイトマイシン-C、マイトマイシン-A、ダウノルビシン、アミノプテリン、アクチノマイシン、ブレオマイシン、9-アミノカンプトテシン、N8-アセチルスペルミジン、1-(2-クロロエチル)-1,2-ジメタンスルホニルヒドラジド、雲南マイシン(Yunnanmycin)、ゲムシタビン、シタラビン、ドラスタチン、ダカルバジン、5-フルオロウラシル、パクリタキセル、ドセタキセル(Docetaxel)、ゲムシタビン、シタラビン、6-メルカプトプリン、ビンクリスチン、シスプラチン、オキサリプラチン、PARP阻害剤から選択される、請求項14に記載のリポソーム組成物。
【請求項16】
前記抗がん剤がPARP阻害剤から選択され、好ましくはオラパリブ、ニラパリブ、ルカパリブ、フルゾパリブ、パミパリブ、ベリパリブ、タラゾパリブであり、より好ましくはオラパリブである、請求項15に記載のリポソーム組成物。
【請求項17】
少なくとも一つの診断剤を含み、
前記診断剤が64Cu-NOTA-PEG2000-DSPEである、請求項13に記載のリポソーム組成物。
【請求項18】
請求項9~17のいずれか一項に記載のリポソーム組成物の、医薬品に用いられる使用。
【請求項19】
請求項9~17のいずれか一項に記載のリポソーム組成物の、少なくとも1つの治療剤及び/又は少なくとも1つの診断剤を送達するための使用。
【国際調査報告】