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特表2024-542283アミン-臭素二電子型レドックスフロー電池用電解液、その使用、及びレドックスフロー電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】アミン-臭素二電子型レドックスフロー電池用電解液、その使用、及びレドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
H01M8/18
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533103
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(85)【翻訳文提出日】2024-06-03
(86)【国際出願番号】 CN2022098184
(87)【国際公開番号】W WO2023103312
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】202111481099.8
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503190796
【氏名又は名称】中国科学院大▲連▼化学物理研究所
【氏名又は名称原語表記】DALIAN INSTITUTE OF CHEMICAL PHYSICS,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】李先鋒
(72)【発明者】
【氏名】徐岳
(72)【発明者】
【氏名】謝聰▲しん▼
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA10
5H126BB10
5H126GG11
5H126GG17
5H126JJ05
(57)【要約】
本発明は、アミン-臭素二電子型レドックスフロー電池用電解液、その使用、及びレドックスフロー電池を開示し、レドックスフロー電池の分野に属する。前記電解液は、アミノのオルト位が電子吸引性基であるアミノ化合物を用い、これを正価に充電した臭素と反応させてアミン臭素化合物を形成することにより、正価の臭素を安定化させ、臭素イオンのアミノ化合物への可逆的な二電子移動反応を実現する。アミン系化合物は、その置換基の違いによって、溶解度が異なり、異なる電圧を発生させるため、広範な調整性と適用性があり、酸性、中性、及び弱アルカリ性のレドックスフロー電池システムに用いることができる。この反応により調製された電解液を用いて組み立てられたレドックスフロー電池は、低コストで、エネルギー密度が高いという利点があり、長いサイクル寿命及び高い電池効率を達成させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レドックスフロー電池用電解液であって、
臭素イオンと、アミノのオルト位が電子吸引性基であるアミン系化合物と、支持電解質とを含み、前記アミノのオルト位が電子吸引性基であるアミン系化合物が、それ自体に電子伝導性基を有する場合、前記電解液は支持電解質を含まない、ことを特徴とするレドックスフロー電池用電解液。
【請求項2】
臭素イオンと、アミノのオルト位が電子吸引性基であるアミン系化合物と、支持電解質とからなり、前記アミノのオルト位が電子吸引性基であるアミン系化合物が、それ自体に電子伝導性基を有する場合、前記電解液は支持電解質を含まない、ことを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池用電解液。
【請求項3】
前記臭素イオン、アミノのオルト位が電子吸引性基であるアミン系化合物を正極の活物質とし、前記臭素イオン、アミノのオルト位が電子吸引性基であるアミン系化合物は、レドックスフロー電池のサイクル中に酸化及び/又は還元反応を起こす、ことを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池用電解液。
【請求項4】
前記臭素イオンは、臭化水素酸、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化亜鉛、臭化アンモニウム、臭化亜鉛、及びその他の臭素イオン含有塩のうちの1種又は2種以上を含む、ことを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池用電解液。
【請求項5】
前記アミン系化合物は、スルファミン酸、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸アンモニウム、スルホンアミド、スクシンイミド、アセトアミド、フタルイミド、サッカリン、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、バルビツール酸、ジシアノジアミン、メチルスルホンアミド、シアヌル酸、トリフルオロメタンスルホンアミド、及び2-アミノピリミジンのうちの1種又は2種以上を含む、ことを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池用電解液。
【請求項6】
前記支持電解質は、硫酸、酢酸、ヒドロキシ酢酸、ブロモ酢酸、塩化カリウム、酢酸カリウム、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、及び硫酸ナトリウムのうちの1種又は2種以上を含む、ことを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池用電解液。
【請求項7】
前記電解液は、臭素イオンと、アミノのオルト位が電子吸引性基であるアミン系化合物と、支持電解質とを含む水溶液であり、
臭素イオンの濃度は0~5mol L-1、好ましくは1~2mol L-1であり、アミン系化合物の濃度は0~5mol L-1、好ましくは1~2mol L-1であり、支持電解質の濃度は0~4mol L-1、好ましくは1~2mol L-1である、ことを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池用電解液。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池用電解液の正極電解液としてのレドックスフロー電池における使用。
【請求項9】
前記レドックスフロー電池の負極電解液の活物質は、硫酸チタン、ヘキサフルオロチタン酸、臭化チタン、硫酸カドミウム、臭化カドミウム、塩化カドミウム、塩化鉛、塩化第一スズ、臭化亜鉛、及び酢酸亜鉛のうちの1種又は2種以上を含む、ことを特徴とする請求項8に記載の使用。
【請求項10】
正極と、負極と、前記正極と前記負極とを仕切るためのセパレータと、を含み、前記正極側のキャビティ内には正極電解液が充填され、前記負極側のキャビティ内には負極電解液が充填され、前記正極電解液は、請求項1~7のいずれか1項に記載の電解液の少なくとも1種を含み、
負極電解液活物質は、硫酸チタン、ヘキサフルオロチタン酸、臭化チタン、硫酸カドミウム、臭化カドミウム、塩化カドミウム、塩化鉛、塩化第一スズ、臭化亜鉛、及び酢酸亜鉛のうちの1種又は2種以上である、ことを特徴とするレドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、レドックスフロー電池用電解液に関するものであり、具体的には、アミン-臭素二電子型レドックスフロー電池用電解液、その使用、及びレドックスフロー電池に関するものであり、レドックスフロー電池の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーは現代のエネルギーシステムにおいてますます重要になっているが、依然として不連続性と不安定性の問題があり、そのさらなる発展を制限してしまう。この問題は、エネルギー貯蔵技術を調整することによって効果的に軽減できる。多くのエネルギー貯蔵技術の中でも、レドックスフロー電池は、独自に設計された容量と出力、長いサイクル寿命、高い安全性などの利点を持ち、発電側の電網制御やユーザ側の太陽光発電制御などのシナリオで使用できる有望なエネルギー貯蔵技術である。しかし、現在のレドックスフロー電池のエネルギー密度は一般に低く、たとえば全バナジウムレドックスフロー電池の場合、エネルギー密度はわずか30~40 Wh L-1であり、その結果、その電解液とシステムのコストが比較的高くなる。臭素イオンは、通常溶解度が高く、その電気化学的活性が比較的良好であり、開発の可能性のある正極活物質である。臭素は、豊富な可変原子価を持ち、理論的には多電子移動反応を実現できるが、現在、臭素イオンと臭素単体との間の一電子移動反応のみが利用されており、さらに電子を失った生成物は、非常に不安定的であるので、そのエネルギー密度が制限されてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記技術的課題を解決するために、臭素に基づく二電子移動電解液の調製方法及びレドックスフロー電池におけるその使用を提供することを目的とする。本発明では、臭素イオンと臭素単体との間の一電子移動に基づき、臭素単体がさらに電子を失った後、電子吸引性基が連結されたアミン系化合物上のアミノと反応して、ニトロブロモアミン化合物を形成することを利用して、二段階の二電子移動反応を実現する。この反応は臭素の可逆的な原子価反応を拡大し、負の1価から0価への一電子反応から、負の1価から正の1価への二電子反応へと拡大し、エネルギー密度の倍増を実現した。また、この反応は、アミノ化合物の種類によって溶解度や電圧を柔軟に調整することができる。このような二電子反応電解液を用いて組み立てられたレドックスフロー電池は、高いエネルギー密度、高い充放電効率、及び高い安定性を実現でき、低コストであり、高いエネルギー密度が要求される分散型エネルギー貯蔵システムに適用することができる。以上の目的を達成するために、本発明が採用する技術的解決手段は以下のとおりである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
臭素イオンと、アミノのオルト位が電子吸引性基であるアミン系化合物と、支持電解質とを含み、前記アミノのオルト位が電子吸引性基であるアミン系化合物が、それ自体に電子伝導性基を有する場合、前記電解液は支持電解質を含まない、レドックスフロー電池用電解液。
任意選択で、前記電解液は、臭素イオンと、アミノのオルト位が電子吸引性基であるアミン系化合物と、支持電解質とからなり、前記アミノのオルト位が電子吸引性基であるアミン系化合物が、それ自体に電子伝導性基を有する場合、前記電解液は支持電解質を含まない。
【0005】
任意選択で、前記臭素イオン、アミノのオルト位が電子吸引性基であるアミン系化合物を正極の活物質とし、前記臭素イオン、アミノのオルト位が電子吸引性基であるアミン系化合物は、レドックスフロー電池のサイクル中に酸化及び/又は還元反応を起こす。
【0006】
任意選択で、前記臭素イオンは、臭化水素酸、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化亜鉛、臭化アンモニウム、臭化亜鉛、及びその他の臭素イオン含有塩のうちの1種又は2種以上を含み、好ましくは、臭化水素酸、臭化亜鉛である。
【0007】
さらに、前記臭素イオンの濃度は0~5mol L-1、好ましくは1~2mol L-1である。
【0008】
前記臭素イオンの濃度は、0.1 mol L-1、0.5 mol L-1、1 mol L-1、2 mol L-1、2.5 mol L-1、3 mol L-1、3.5 mol L-1、4 mol L-1、4.5 mol L-1、5 mol L-1のうちの任意の値又は任意の2つの値からなる範囲の値から選択される。
【0009】
さらに、前記アミン系化合物は、スルファミン酸、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸アンモニウム、スルホンアミド、スクシンイミド、アセトアミド、フタルイミド、サッカリン、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、バルビツール酸、ジシアノジアミン、メチルスルホンアミド、シアヌル酸、トリフルオロメタンスルホンアミド、及び2-アミノピリミジンのうちの1種又は2種以上を含み、好ましくは、スルファミン酸、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸アンモニウムのうちの1種又は2種以上である。
【0010】
さらに、アミン系化合物の濃度は0~5mol L-1、好ましくは1~2mol L-1である。
【0011】
前記アミン系化合物の濃度は、0.1 mol L-1、0.5 mol L-1、1 mol L-1、1.2 mol L-1、1.4 mol L-1、1.6 mol L-1、1.8 mol L-1、2 mol L-1、2.5 mol L-1、3 mol L-1、3.5 mol L-1、4 mol L-1、4.5 mol L-1、5 mol L-1のうちの任意の値又は任意の2つの値からなる範囲の値から選択される。
【0012】
アミン系化合物の濃度はそれ自身の溶解度に依存し、例えばスルファミン酸ナトリウムの溶解度は8mol L-1に達することができる。
【0013】
さらに、前記支持電解質は、硫酸、酢酸、ヒドロキシ酢酸、ブロモ酢酸、塩化カリウム、酢酸カリウム、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、及び硫酸ナトリウムのうちの1種又は2種以上を含み、好ましくは硫酸、塩化カリウムのうちの1種又は2種であり、それぞれ、酸性及び中性の環境下で使用される。アミノ化合物自体が導電性イオンをイオン化できる場合、支持電解質を別途添加しなくてもよく、例えば、スルファミン酸ナトリウムはそのまま支持電解質として機能してもよい。
【0014】
さらに、支持電解質の濃度は0~4mol L-1、好ましくは1~2mol L-1である。
【0015】
前記支持電解質の濃度は、0.1 mol L-1、0.5 mol L-1、1 mol L-1、1.2 mol L-1、1.4 mol L-1、1.6 mol L-1、1.8 mol L-1、2 mol L-1、2.5 mol L-1、3 mol L-1、3.5 mol L-1、4 mol L-1のうちの任意の値又は任意の2つの値からなる範囲の値から選択される。
【0016】
前記電解液は、臭素イオンと、アミノのオルト位が電子吸引性基であるアミン系化合物と、支持電解質とを含む水溶液である。
【0017】
本発明のさらに別の態様によれば、正極電解液としてレドックスフロー電池に適用される、上記のレドックスフロー電池用電解液の使用が提供される。
【0018】
さらに、前記レドックスフロー電池の負極電解液は、硫酸チタン、ヘキサフルオロチタン酸、臭化チタン、硫酸カドミウム、臭化カドミウム、塩化カドミウム、塩化鉛、塩化第一スズ、臭化亜鉛、及び酢酸亜鉛のうちの1種又は2種以上を含み、好ましくは硫酸チタン、硫酸カドミウム、及び臭化亜鉛のうちの1種又は2種以上である。
【0019】
本発明のさらに別の態様によれば、正極と、負極と、正極と負極とを仕切るためのセパレータとを含み、前記正極側のキャビティ内に正極電解液が充填され、前記負極側のキャビティ内に負極電解液が充填され、前記正極電解液は、前記電解液のうちの少なくとも1種を含み、
負極電解液活物質は、硫酸チタン、ヘキサフルオロチタン酸、臭化チタン、硫酸カドミウム、臭化カドミウム、塩化カドミウム、塩化鉛、塩化第一スズ、臭化亜鉛、及び酢酸亜鉛のうちの1種又は2種以上である、レドックスフロー電池が提供される。
【0020】
具体的には、前記レドックスフロー電池は、金属端板、集電体、液流枠、活性炭フェルト又は黒鉛フェルトを電極とし、正極と負極を仕切るためのセパレータ及び封止用のゴムガスケットを含み、正極集電体とセパレータとの間のキャビティ内に正極黒鉛フェルト又は炭素フェルト及び正極電解液が充填され、負極集電体とセパレータとの間のキャビティ内に負極黒鉛フェルト又は炭素フェルト及び負極電解液が充填され、電解液は、磁気遠心ポンプ又は蠕動ポンプのいずれかによりキャビティとタンクとの間に循環させ、正極電解液は任意選択で循環させずにキャビティ内に封入して単一のレドックスフロー電池としてもよい。
【0021】
具体的には、金属端板は、アルミニウム合金板、ステンレス板、及び他の耐酸腐食性金属板から選択され、好ましくはステンレス板であり、集電体は、黒鉛板、チタン板から選択されるいずれかであり、正極集電体は、チタン板であることが好ましく、セパレータは、パーフルオロスルホン酸膜、多孔質ポリオレフィン膜、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン膜、ポリベンズイミダゾール膜のいずれかであり、パーフルオロスルホン酸膜であることが好ましい。
【0022】
前記電解液は、アミノのオルト位が電子吸引性基であるアミノ化合物を用い、これを正価に充電した臭素と反応させてアミン臭素化合物を形成することにより、正価の臭素を安定化させ、臭素イオンのアミノ化合物への可逆的な二電子移動反応を実現する。アミン系化合物は、その置換基の違いによって、溶解度が異なり、異なる電圧を発生させるため、広範な調整性と適用性があり、酸性、中性、及び弱アルカリ性のレドックスフロー電池システムに用いることができる。この反応により調製された電解液を用いて組み立てられたレドックスフロー電池は、低コストで、エネルギー密度が高いという利点があり、長いサイクル寿命及び高い電池効率を達成させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本願による有益な効果は、次のとおりである。
1)本願によるレドックスフロー電池用電解液は、オルト位に電子吸引性基を有するアミノ化合物が水素イオンをイオン化して負に帯電する特性を利用して、臭素単体がさらに電子を失った正価の臭素中間生成物を安定化させ、もともと臭素イオンと臭素単体との間にあった一電子移動反応を、臭素イオンからアミン臭素化合物への二電子移動反応に拡大したものである。これにより、電池の理論容量と理論エネルギー密度を倍増することができる。4mol L-1臭素塩で換算すると、電子の濃度は8mol L-1に達し、電池の容量は214 Ah L-1に達し、亜鉛を負極とすると、放電電圧は1.6V、理論エネルギー密度は342 Wh L-1に達する。
2)本願によるレドックスフロー電池用電解液を用いて組み立てられたレドックスフロー電池は、より低い電池分極とより高い電圧効率を達成することができる。臭素系レドックスフロー電池に比べ、アミノ化合物を添加すると電解液の電気抵抗は著しく増加せず、従来の臭素系レドックスフロー電池と同様の電圧効率が得られた。
3)本願では、アミノ化合物と正価の臭素とで形成されるアミン臭素化合物は、共役構造の存在により臭素の正価性を低下させることができ、その安定性を向上させることができる。したがって、本願によるレドックスフロー電池用電解液を利用して組み立てられたレドックスフロー電池は、より高いクーロン効率を実現することができ、錯化剤を添加しない場合のクーロン効率は、錯化剤を添加した従来の臭素系レドックスフロー電池と同等であり、98%~99%に達することができる。また、いくつかのアミン臭素化合物については、分子体積が比較的大きいため、膜に対する要求も比較的低い。
4)本願に採用されたアミノ化合物は、広範な調整性及び適用性を有する。理論上、アミノのオルト位がカルボニルやアシルなどの電子吸引性基であれば、正価の臭素と結合する能力があるが、その他の位置での基の連結は制限されないので、選択できる範囲は広い。さらに、アミノ化合物の種類によって、溶解度が異なり、異なる電極電位を示すことができ、酸性、中性及び弱アルカリ性の環境に適用することができるので、様々な負極に対応することができる。
5)本願に採用された、いくつかのアミノ化合物は、安価で入手しやすいという特徴があり、そのために、調製された電解液は、価格が低いという利点がある。例えば、スルファミン酸は無機固体酸であり、他の分野に広く応用されており、よく見られる化学工業原料である。
6)本願に採用された電解液は、臭素単体の発生を減少させることができ、それによってその腐食性、拡散性及び揮発性を低下させることができ、電解液中に臭素錯化剤を添加する必要がなく、電池の封口及び材料に対する要求はそれほど厳しいものではない。臭素とアミノ化合物との反応は2電子反応であるため、同じ電子濃度で従来の臭素系レドックスフロー電池に使用される臭素の量を半分に抑えることができ、それによって、材料への腐食や環境への有害性を低減することができる。さらに、弱アルカリ性環境では、臭素イオンから臭素単体への変換は臭素の不均化の影響を受けて困難であるが、代わりに臭素イオンからアミン臭素化合物への一段階の二電子移動反応が起こり、臭素単体の生成を直接回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1と比較例1の電池の100サイクル後のクーロン効率を示す図である。
図2】実施例1と比較例2の電池の100サイクル後のクーロン効率を示す図である。
図3】実施例1と比較例3の電池の100サイクル後のクーロン効率を示す図である。
図4】実施例1と比較例4の電池の100サイクル後のクーロン効率を示す図である。
図5】実施例1と比較例5の電池の100サイクル後の電圧効率を示す図である。
図6】実施例1と比較例6の電池の100サイクル後のクーロン効率を示す図である。
図7】実施例1のレドックスフロー電池の充放電グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の実施例は、本願の範囲を限定するのではなく、本願の更なる説明である。特に断らない限り、本願の実施例及び比較例における原料は、市販品として購入されたものである。電池の特性試験には新威社の充放電機器を採用した。
【実施例1】
【0026】
レドックスフロー電池の組み立て
正極と負極の電解液の組成は、同じであり、両方ともに1mol L-1の臭化亜鉛、2mol L-1のスルファミン酸ナトリウム、2mol L-1の酢酸カリウムからなる。臭化亜鉛は、負極で使用される亜鉛イオンと正極で使用される臭素イオンの両方を提供する。
【0027】
単電池の組み立て
単電池の構成は、端板、集電体として黒鉛板、正極及び負極として6×8cm炭素フェルト、パーフルオロスルホン酸セパレータとしてNafion膜を用い、液流枠、シリカゲルガスケット、端板、正極電解液及び負極電解液貯蔵タンクとポンプ、配管から構成される。
【0028】
電池のテスト
定電流充放電モードが採用され、電解液の流速は60 mL min-1であり、充放電電流は40 mA cm-2であり、充電終止電圧は2.0Vであり、放電終止電圧は0.1Vである。充放電サイクルの最初の100サイクルにおけるクーロン効率CE、電圧効率VE、エネルギー効率EEの平均値を検出する。
【0029】
他の実施例及び比較例で組み立てられたレドックスフロー電池は、電解液の組成のみが実施例1と相違しており、具体的には、表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例1~5の電池の特性データから、適切な負極活物質、正極に必要な臭素源、電子吸引性基含有アミノ化合物、支持電解質を電解液に含有させると、レドックスフロー電池は、高いエネルギー密度、高いクーロン効率、高い電圧効率、高いエネルギー効率が得られることが分かった。
【0032】
実施例1と実施例2から、正極に必要な電解液は変わらない場合、負極活物質は、様々なものとしてもよく、Zn2+/Znを負極電極対としても、Cd2+/Cdを負極電極対としても、高い特性を発揮することができる。Cd2+/Cd負極電極対よりも、Zn2+/Zn負極電極対は、標準電極電位が低いため、電池の電圧が高くなり、電池の電圧効率とエネルギー効率が高くなることが分かった。
【0033】
実施例1と実施例3から、選択されたアミノ化合物の範囲内では、電池は高い特性を発揮することができることが分かった。アセトアミドのアミノのオルト位はカルボニルであり、スルファミン酸ナトリウムのアミノのオルト位はスルホン酸基であり、これらのいずれも電子吸引性基であるため、臭素と結合して二電子移動反応を起こすことができ、それによって、高いエネルギー密度を得ることができる。各アミノ化合物は、電子構造が異なり、臭素との結合能力も異なるため、異なる電池効率を示す。
【0034】
実施例1と実施例4から、アミノ化合物自体が導電性イオンをイオン化することができる場合、支持電解質を別途添加しなくても、高い電池効率を得ることができることが分かった。例えば、スルファミン酸ナトリウム自体がナトリウムイオンをイオン化するため、イオン伝導作用を持つ。もちろん、支持電解質を添加しない方が、支持電解質を添加するよりも溶液の導電率が低下し、電池の電圧効率は若干低下する。
【0035】
実施例1と実施例5から、選択された臭素イオン源の範囲内では、電池は高い特性を発揮することができることが分かった。実施例5と比較して、実施例1は、臭化亜鉛を臭素源として用いるとともに、負極活物質としても用いることができるので、原材料を節約することができ、一部のコストを低減することができる。
【0036】
図1は、実施例1と比較例1の電池の100サイクル後のクーロン効率を示す図である。図から分かるように、比較例1では、アミノ化合物の添加がないため、同じエネルギー密度の条件下では、電池のクーロン効率は81%にとどまっている。これは、主に、選択されたアミノ化合物の添加がない場合、臭素は可逆的に一電子反応しか起こせず、さらに充電すると、可逆性が悪い次亜臭素酸や臭素酸に充電され、副反応を起こし、クーロン効率が低下するためである。
【0037】
図2は、実施例1と比較例2の電池の100サイクル後のクーロン効率を示す図である。図から、比較例2では、アミノ化合物としてグリシンが添加されているにもかかわらず、グリシンのアミノのオルトは電子供与性のメチレン基であり、臭素と結合して可逆的な二電子移動反応を起こすことができないため、比較例1で起こる反応と同様に、クーロン効率が低下していることが分かった。
【0038】
図3は、実施例1と比較例3の電池の100サイクル後のクーロン効率を示す図である。図から、比較例3では、アミノ化合物としてエタノールアミンが添加されているにもかかわらず、エタノールのアミノのオルトは電子供与性のアルコール性水酸基であり、臭素と結合して可逆的な二電子移動反応を起こすことができないため、比較例2で起こる反応と同様に、クーロン効率が低下していることが分かった。
【0039】
図4は、実施例1と比較例4の電池の100サイクル後のクーロン効率を示す図である。図から、比較例4では、臭素源が添加されていないため、クーロン効率が非常に低いことが分かった。これは、アミノ化合物自体に酸化還元活性がなく、可逆的な電子移動反応を起こすために臭素と結合する必要があり、そうでなければ、正極でしか酸素発生反応が起こらず、クーロン効率が極めて低いことを示している。
【0040】
図5は、実施例1と比較例5の電池の100サイクル後の電圧効率を示す図である。図から、比較例5では、支持電解質が添加されておらず、アセトアミド自体が導電性イオンを提供できないため、溶液の導電率が低く、電圧効率が低いことが分かった。
【0041】
図6は、実施例1と比較例6の電池の100サイクル後のクーロン効率を示す図である。比較例6では、選択されたアミノ化合物が添加されておらず、一電子反応のみが可能であるため、実施例1の2電子反応に比べてエネルギー密度が半分以下である。また、充電後期に臭素単体が揮発・拡散するため、電池のクーロン効率が低い。
【0042】
図7は、実施例1のレドックスフロー電池の充放電グラフであり、この図から、電池は172 Wh L-1のエネルギー密度を得ることができることが分かり、これは、臭素の二電子移動反応に対応する。このエネルギー密度においても、電池は、高いクーロン効率、高い電圧効率、及び高いエネルギー効率を得ることができる。
【0043】
以上の分析を総合すると、本願の電解液の組成を用いることにより、臭素の二電子移動反応を実現することが可能となり、レドックスフロー電池を高いエネルギー密度で安定かつ効率的に運転することが可能となる。
【0044】
さらに、上記は、本願のいくつかの実施例及び対応する比較例に過ぎず、本願をいかなる形でも制限するものではない。本願は、より良い実施例をもって上記のように示されているが、これらの実施例は、本願を制限するために使用されていない。当業者であれば、本願の技術的解決手段から逸脱しない範囲内で、上記の技術的内容を利用して若干の変更又は修飾をすることは、等価な実施例と同等であり、いずれも技術的解決手段の範囲内に属する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】