(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】バインダー、電極合剤、および電極
(51)【国際特許分類】
C08L 27/16 20060101AFI20241106BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241106BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241106BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241106BHJP
C08F 214/22 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C08L27/16
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/36 Z
C08F214/22
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024547804
(86)(22)【出願日】2021-12-28
(85)【翻訳文提出日】2024-04-23
(86)【国際出願番号】 CN2021142111
(87)【国際公開番号】W WO2023122967
(87)【国際公開日】2023-07-06
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(71)【出願人】
【識別番号】524151222
【氏名又は名称】呉羽(中国)投資有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】524151211
【氏名又は名称】呉羽(常熟)▲フッ▼素材料有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】青木 健太
(72)【発明者】
【氏名】余 斐
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
5H050
【Fターム(参考)】
4J002BD141
4J002BD142
4J002DA016
4J002DA026
4J002DA036
4J002DA086
4J002DA096
4J002DE057
4J002DH007
4J002EU020
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4J100AC24P
4J100AC27Q
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4J100CA04
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4J100DA09
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4J100DA40
4J100JA43
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050DA11
5H050EA24
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】
本発明のバインダーは、次の要件を満たす:濁度が5.0以下;バインダーの溶解率が10%以上70%以下;バインダー溶液の溶解成分のインヘレント粘度が0.5dL/g以上2.5dL/g未満;バインダー溶液の溶解成分のA1735cm-1/A3025cm-1が0.20以上0.80以下;バインダーのインヘレント粘度がバインダー溶液の溶解成分のインヘレント粘度よりも大きい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のフッ化ビニリデン重合体を含有するバインダーであって、
下記(A)~(E)の要件を満たす、バインダー:
(A)5質量%の前記バインダーを含むN-メチルピロリドン溶液の25℃における濁度が、5.0以下である;
(B)95質量%アセトン水溶液94質量部に前記バインダー6質量部を投入し、30℃で2時間攪拌して得られるバインダー溶液における、前記バインダーの下記式(1)の溶解率が、10%以上70%以下である;
溶解率(%)=((投入量-未溶解物質量)/投入量)×100・・・(1)
(C)前記バインダー溶液の溶解成分のインヘレント粘度が、0.5dL/g以上2.5dL/g未満である;
(D)前記バインダー溶液の溶解成分の1735cm
-1における赤外吸収スペクトルの吸光度A1735cm
-1と、3025cm
-1における赤外吸収スペクトルの吸光度A3025cm
-1との比、A1735cm
-1/A3025cm
-1が、0.20以上0.80以下である;および
(E)前記バインダーのインヘレント粘度が、前記バインダー溶液の溶解成分のインヘレント粘度よりも大きい。
【請求項2】
前記バインダーは、示差走査熱量計を用いて10℃/分の条件下で1回目の降温測定をしたときに、85℃以上125℃未満の範囲および125℃以上150℃以下の範囲それぞれに少なくとも1つの結晶化ピーク(Tc)がある、請求項1に記載のバインダー。
【請求項3】
前記バインダーに含まれるフッ化ビニリデン重合体の全構成単位を100質量%とした場合に、ヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位の割合が、3質量%以上15質量%以下であり、
前記バインダー溶液の溶解成分に含まれるフッ化ビニリデン重合体の全構成単位を100質量%とした場合に、前記バインダー溶液の溶解成分に含まれるヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位の割合が、5質量%以上40質量%以下である、請求項1に記載のバインダー。
【請求項4】
フッ化ビニリデンに由来する構成単位を主構成成分とし、任意でヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位を含む第1のフッ化ビニリデン重合体と、
フッ化ビニリデンに由来する構成単位、ヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位、および極性官能基を含有する構成単位を含む第2のフッ化ビニリデン重合体と、を含有し、
前記第1のフッ化ビニリデン重合体は、インヘレント粘度が2.5dL/g以上6.0dL/g以下であり、前記第1のフッ化ビニリデン重合体の全構成単位におけるヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位が0質量%以上0.5質量%未満であり、
前記第2のフッ化ビニリデン重合体は、インヘレント粘度が0.5dL/g以上2.5dL/g未満であり、前記第2のフッ化ビニリデン重合体の全構成単位におけるヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位が6質量%以上40質量%以下であり、
前記第2のフッ化ビニリデン重合体の1735cm
-1における赤外吸収スペクトルの吸光度A1735cm
-1と、3025cm
-1における赤外吸収スペクトルの吸光度A3025cm
-1との比、A1735cm
-1/A3025cm
-1が、0.20以上0.80以下であり、
バインダー中における、前記第1のフッ化ビニリデン重合体に対する前記第2のフッ化ビニリデン重合体の質量比(第2のフッ化ビニリデン重合体/第1のフッ化ビニリデン重合体)が、3/7以上7/3以下である、バインダー。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のバインダーと、正極活物質と、導電助剤とを含み、
前記正極活物質の平均粒子径Dv50が、6.0μm以下である、電極合剤。
【請求項6】
集電体と、
前記集電体の両面に、請求項5に記載の電極合剤から形成された電極合剤層と、を備える電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダー、電極合剤および電極に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の電極は、高容量化が求められている。例えば、結着性の高いバインダー(結着剤)を使用することにより、電極中のバインダー量を減少させることができる。また、電極中のバインダー量の減少に伴い、活物質の量を増加させることができるため、非水電解質二次電池の高容量化を図ることができる。
【0003】
現在、上記バインダーとして、フッ化ビニリデン(VDF)由来の繰り返し単位を主として含むフッ化ビニリデン重合体が主に用いられている。
【0004】
このようなバインダーの一例として、特許文献1には、フッ化ビニリデンと特定の化合物とを共重合することにより得られるフッ化ビニリデン重合体が記載されている。また、当該フッ化ビニリデン重合体は、金属箔との接着性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非水電解質二次電池の高容量化のために、電極の厚みを増加させて、電極に搭載する活物質の量を増やす方法も行われている。特許文献1に記載されているようなフッ化ビニリデン重合体を用いて厚みが増加された電極を作成する場合、電極が硬くなり易い。例えば、円筒形の缶体に納入するために電極を丸める等の変形を行ったとき、または、角形の缶体に納入するために捲回した電極にプレスを加えて変形を行ったときに、電極が割れるおよび/または集電体が破断するおそれがある。
【0007】
また、特許文献1に記載されているようなフッ化ビニリデン重合体を含む電極合剤のスラリーの粘度が増加し易く、集電体との塗工段階で当該フッ化ビニリデン重合体の粘度が高くなるおそれがある。電極合剤の粘度が高いと、電池の生産時におけるハンドリング性等に問題を生じ得る。
【0008】
したがって、バインダーに使用されるフッ化ビニリデン重合体のさらなる改善が求められている。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、電極合剤のスラリーの増粘を抑制し、さらに、柔軟性を有する電極を提供することができるバインダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、バインダーが所定の要件を満たすことにより、柔軟性を有する電極が得られることを見出した。また、当該バインダーを含む電極合剤のスラリーの粘度の増加が抑制されることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の一態様に係るバインダーは、少なくとも1種のフッ化ビニリデン重合体を含有し、下記(A)~(E)の要件を満たす、バインダーである:
(A)5質量%の前記バインダーを含むN-メチルピロリドン溶液の25℃における濁度が、5.0以下である;
(B)95質量%アセトン水溶液94質量部に前記バインダー6質量部を投入し、30℃で2時間攪拌して得られるバインダー溶液における、前記バインダーの下記式(1)の溶解率が、10%以上70%以下である;
溶解率(%)=((投入量-未溶解物質量)/投入量)×100・・・(1)
(C)前記バインダー溶液の溶解成分のインヘレント粘度が、0.5dL/g以上2.5dL/g未満である;
(D)前記バインダー溶液の溶解成分の1735cm-1における赤外吸収スペクトルの吸光度A1735cm-1と、3025cm-1における赤外吸収スペクトルの吸光度A3025cm-1との比、A1735cm-1/A3025cm-1が、0.20以上0.80以下である;および
(E)前記バインダーのインヘレント粘度が、前記バインダー溶液の溶解成分のインヘレント粘度よりも大きい。
【0012】
本発明の一態様に係るバインダーは、フッ化ビニリデンに由来する構成単位を主構成成分とし、任意でヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位を含む第1のフッ化ビニリデン重合体と、フッ化ビニリデンに由来する構成単位、ヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位、および極性官能基を含有する構成単位を含む第2のフッ化ビニリデン重合体と、を含有し、
前記第1のフッ化ビニリデン重合体は、インヘレント粘度が2.5dL/g以上6.0dL/g以下であり、前記第1のフッ化ビニリデン重合体の全構成単位におけるヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位が0質量%以上0.5質量%未満であり、
前記第2のフッ化ビニリデン重合体は、インヘレント粘度が0.5dL/g以上2.5dL/g未満であり、前記第2のフッ化ビニリデン重合体の全構成単位におけるヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位が6質量%以上40質量%以下であり、
前記第2のフッ化ビニリデン重合体の1735cm-1における赤外吸収スペクトルの吸光度A1735cm-1と、3025cm-1における赤外吸収スペクトルの吸光度A3025cm-1との比、A1735cm-1/A3025cm-1が、0.20以上0.80以下であり、
前記バインダー中における、前記第1のフッ化ビニリデン重合体に対する前記第2のフッ化ビニリデン重合体の質量比(第2のフッ化ビニリデン重合体/第1のフッ化ビニリデン重合体)が、3/7以上7/3以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様に係るバインダーは、電極合剤のスラリーの増粘を抑制し、さらに、柔軟性を有する電極を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0015】
<バインダー>
本実施形態に係るバインダーは、電極活物質を含む電極合剤層が集電体上に形成されてなる電極において、電極活物質を集電体に結着させるために用いられるバインダーである。本実施形態に係るバインダーは、少なくとも1種のフッ化ビニリデン重合体を含有する。
【0016】
(フッ化ビニリデン重合体)
柔軟性を有する電極が得られる点で、当該フッ化ビニリデン重合体はフッ化ビニリデンに由来する構成単位と他のモノマーに由来する構成単位との共重合体であることが好ましい。柔軟性を有する電極は、例えば、電極を折り曲げる等の力を加えたときに、電極に破断が生じるか否かで評価することができる。
【0017】
上記他のモノマーとして、一種でもそれ以上でもよい。また、他のモノマーは、フッ素を含有していてもよいし、含有していなくてもよい。他のモノマーの具体例としては、含フッ素モノマー(例えば、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル)、エチレン、不飽和二塩基酸誘導体(例えば、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル)、酢酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)ジメチルアクリルアミド、アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸アルキル化合物(例えば、(メタ)アクリル酸メチル)、カルボキシル基含有アクリレート化合物、(例えば、(メタ)アクリル酸、2-カルボキシエチルアクリレート、(メタ)アクリロイロキシプロピルコハク酸、(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸)、2-ヒドロキシエチルアクリレート、および、ヒドロキシプロピルアクリレートが含まれる。
【0018】
柔軟性を有する電極を得る観点から、他のモノマーとして、含フッ素モノマーまたは極性官能基を含有するモノマーが好ましい。含フッ素モノマーとしてはヘキサフルオロプロピレン(HFP)がより好ましい。極性官能基を含有するモノマーとしては不飽和二塩基酸誘導体がより好ましい。また、他のモノマーは極性官能基を含有するモノマーおよびHFPであることがさらに好ましい。
【0019】
HFP由来の構成単位を含むフッ化ビニリデン重合体を含む場合、本実施形態に係るバインダーに含まれるフッ化ビニリデン重合体の全構成単位を100質量%とした場合に、HFPに由来する構成単位の割合は、3質量%以上であることが好ましく、3.5質量%以上であることがより好ましい。また、当該構成単位の割合は15質量%以下であることが好ましく、6.5質量%以下であることがより好ましい。上記範囲内であると、電極の破断が生じ難い、柔軟性を有する電極を提供することができる。ここで、「バインダーに含まれるフッ化ビニリデン重合体の全構成単位」とは、HFP由来の構成単位を含むフッ化ビニリデン重合体の他に、HFP由来の構成単位を含まないフッ化ビニリデン重合体もバインダーに含まれる場合(すなわち、バインダーに複数のフッ化ビニリデン重合体が含まれている場合)には、HFP由来の構成単位を含まないフッ化ビニリデン重合体の構成単位も含めた、全てのフッ化ビニリデン重合体の構成単位の総和を意味する。
【0020】
フッ化ビニリデン重合体の各構成単位の割合は、フッ化ビニリデン重合体の1H NMRスペクトルもしくは19F NMRスペクトル、または中和滴定により求めることができる。
【0021】
HFP由来の構成単位を含むフッ化ビニリデン重合体を含む場合、バインダー溶液(95質量%アセトン水溶液94質量部にバインダー6質量部を投入し、30℃で2時間攪拌して得られる溶液)の溶解成分に含まれるフッ化ビニリデン重合体の全構成単位を100質量%とした場合に、当該バインダー溶液の溶解成分に含まれるHFPに由来する構成単位の割合は、5質量%以上であることが好ましく、6質量%以上であることがより好ましい。また、当該構成単位の割合は、40質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。上記範囲内であると、電極の破断が生じ難い、柔軟性を有する電極を提供することができる。本明細書において、バインダー溶液は、本実施形態に係るバインダーの物性を示すために、本実施形態に係るバインダーを用いて別途調製されるものである。
【0022】
電極合剤のスラリーの増粘がより抑制され、さらに、電極破断が生じ難い十分な柔軟性を有する電極を提供することができる点で、フッ化ビニリデン重合体の全構成単位中のHFPに由来する構成単位の割合は3質量%以上15質量%以下であり、バインダー溶液の溶解成分に含まれるフッ化ビニリデン重合体の全構成単位中のHFPに由来する構成単位の割合は5質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
フッ化ビニリデン重合体としては、市販のフッ化ビニリデン重合体を使用してもよい。フッ化ビニリデン重合体の製造方法としては、例えば、懸濁重合、ミニエマルション重合、および溶液重合等による重合方法が挙げられる。そのなかでも、不純物を少なくできる観点から懸濁重合が好ましい。
【0024】
(バインダーの物性)
本実施形態に係るバインダーは、以下の要件(A)~(E)を満たす。要件(A)~(E)を満たすことによって、電極合剤のスラリーの増粘を抑制することができる。また、要件(A)~(E)を満たすことによって、柔軟性を有する電極を得ることができる。
【0025】
[要件(A):バインダーを含むNMP溶液の濁度]
要件(A):5質量%の当該バインダーを含むN-メチルピロリドン溶液(NMP溶液)の25℃における本実施形態に係るバインダーの濁度が、5.0以下である。
【0026】
濁度が5.0より大きいと、電極合剤のスラリーの増粘を抑制することができない。そのため、当該観点から、濁度は4.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましい。
【0027】
バインダーの濁度は、濁度を測定する公知の方法によって求めることができる。例えば、積分球式光電光度法にて測定することができる。
【0028】
[要件(B):バインダーの溶解率]
要件(B):以下の測定方法によって得られる、本実施形態に係るバインダーの溶解率が10%以上70%以下である。
【0029】
(バインダーの溶解率の測定方法)
95質量%アセトン水溶液94質量部にバインダー6質量部を投入し、30℃で2時間攪拌してバインダー溶液を得る。バインダー溶液をろ過し、未溶解物と溶解液を分離する。その後、未溶解物に含有する溶媒を乾燥除去し、質量を計測する。そして、以下の式(1)によりバインダーの溶解率を算出する。
溶解率(%)=((投入量-未溶解物質量)/投入量)×100・・・(1)
【0030】
本明細書において、「バインダー溶液の溶解成分」とは、上記バインダー溶液をろ過等の処理によって未溶解物を除去した溶解液からフッ化ビニリデン重合体を再析出させることによって得られる成分を指す。
【0031】
上記溶解率が10%以上70%以下であることにより、電極の柔軟性を向上させることができる。当該観点から、バインダーの溶解率は、好ましくは30%以上である。また、当該溶解率は、好ましくは50%以下である。
【0032】
[要件(C):バインダー溶液の溶解成分のインヘレント粘度]
要件(C):バインダー溶液の溶解成分のインヘレント粘度が、0.5dL/g以上2.5dL/g未満である。
【0033】
上記インヘレント粘度が、0.5dL/g以上2.5dL/g未満であることにより、電極合剤のスラリーの増粘を抑制し、さらに、柔軟性を有する電極を提供することができる。当該観点から、バインダー溶液の溶解成分のインヘレント粘度は、好ましくは1.0dL/g以上である。また、当該インヘレント粘度は、好ましくは2.2dL/g以下である。
【0034】
インヘレント粘度は、例えば、ウベローデ粘度計等の公知の粘度計を用いて求めることが可能である。
【0035】
[要件(D):バインダー溶液の溶解成分のIRスペクトルの比]
要件(D):バインダー溶液の溶解成分の1735cm-1における赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)の吸光度A1735cm-1と、3025cm-1におけるIRスペクトルの吸光度A3025cm-1との比、A1735cm-1/A3025cm-1が、0.20以上0.80以下である。
【0036】
1735cm-1におけるIRスペクトルの吸光度はカルボニル基の伸縮振動に由来する吸光度である。3025cm-1におけるIRスペクトルの吸光度はCHの伸縮振動に由来する吸光度である。よって、A1735cm-1/A3025cm-1は、フッ化ビニリデン重合体中のカルボニル基の存在量を示す尺度となる。
【0037】
A1735cm-1/A3025cm-1が上記範囲内であることにより、電極合剤のスラリーの増粘を抑制することができる。当該観点から、A1735cm-1/A3025cm-1は、0.25以上が好ましい。また、A1735cm-1/A3025cm-1は、0.4以下が好ましい。
【0038】
バインダー溶液の溶解成分のIRスペクトルの吸光度は、例えば、赤外分光光度計を用いて公知の方法によって求めることができる。
【0039】
[要件(E):バインダーのインヘレント粘度]
要件(E):バインダーのインヘレント粘度が、バインダー溶液の溶解成分のインヘレント粘度よりも大きい。
【0040】
要件(E)によって、電極合剤のスラリーの増粘を抑制し、さらに、柔軟性を有する電極を提供することができる。
【0041】
バインダーのインヘレント粘度は、電極合剤のスラリーの増粘を抑制する観点から、2.0dL/g以上が好ましく、2.5dL/g以上がより好ましい。また、バインダーのインヘレント粘度は、5.0dL/g以下が好ましく、4.5dL/g以下がより好ましい。
【0042】
上記要件(A)~(E)以外のバインダーの物性の好ましい態様を以下に示す。
【0043】
本実施形態に係るバインダーは、示差走査熱量計を用いて10℃/分の条件下で1回目の降温測定をしたときに、85℃以上125℃未満の範囲および125℃以上150℃以下の範囲それぞれに少なくとも1つの結晶化ピーク(Tc)があることが好ましい。この構成によって、電極合剤のスラリーの増粘を抑制し、さらに、柔軟性を有する電極を提供することができる。
【0044】
Tcは、示差走査熱量計(DSC)により、10℃/分の条件下で昇温-降温サイクルを実施した時の1回目の降温過程におけるDSC曲線のピークの有無から確認することができる。
【0045】
<2種類以上のフッ化ビニリデン重合体を含有するバインダー>
別の本実施形態に係るバインダーは、2種類以上のフッ化ビニリデン重合体を含有する。以下、2種類以上のフッ化ビニリデン重合体を含有するバインダーを、「ブレンドバインダー」と示す場合がある。
【0046】
上記ブレンドバインダーは、フッ化ビニリデンを主構成成分とするフッ化ビニリデン重合体(以下、第1のフッ化ビニリデン重合体と示す場合がある)、および、第1のフッ化ビニリデン重合体と異なる、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と他のモノマーに由来する構成単位との共重合体(以下、第2のフッ化ビニリデン重合体)を含む。
【0047】
[第1のフッ化ビニリデン重合体]
本明細書において、「フッ化ビニリデンを主構成成分とする」とは、ポリフッ化ビニリデン樹脂がフッ化ビニリデンに由来する構成単位を50質量%以上含有することを指す。フッ化ビニリデンを主構成成分とするフッ化ビニリデン重合体は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位を実質的に100質量%含有するフッ化ビニリデンの単独重合体(ホモポリマー)であってもよい。また、フッ化ビニリデンを主構成成分とするフッ化ビニリデン重合体は任意でHFPに由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0048】
第1のフッ化ビニリデン重合体の全構成単位におけるHFPに由来する構成単位の割合は、0.1質量%未満であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましい。上記範囲内であると、電極合剤のスラリーの増粘がより抑制され、さらに、電極破断が生じ難い十分な柔軟性を有する電極を提供することができる。
【0049】
第1のフッ化ビニリデン重合体は、インヘレント粘度が2.5dL/g以上であり、3.0dL/g以上であることが好ましい。また、当該インヘレント粘度は6.0dL/g以下であり、4.5dL/g以下であることが好ましい。上記範囲内であると、電極合剤のスラリーの増粘がより抑制され、さらに、電極破断が生じ難い十分な柔軟性を有する電極を提供することができる。
【0050】
第1のフッ化ビニリデン重合体は、第1のフッ化ビニリデン重合体の全構成単位におけるHFPに由来する構成単位の割合は、0質量%以上0.5質量%未満であり、インヘレント粘度が2.5dL/g以上6.0dL/g以下である。この構成によって、電極合剤のスラリーの増粘がより抑制され、さらに、電極破断が生じ難い十分な柔軟性を有する電極を提供することができる。
【0051】
[第2のフッ化ビニリデン重合体]
第2のフッ化ビニリデン重合体中の他のモノマーの好ましい態様は上述のとおりである。フッ化ビニリデンに由来する構成単位、HFPに由来する構成単位、および極性官能基を含有する構成単位を含むことで、電極破断が生じ難い十分な柔軟性を有する電極を提供することができる。
【0052】
第2のフッ化ビニリデン重合体にHFPに由来する構成単位が含まれる場合、第2のフッ化ビニリデン重合体の全構成単位におけるHFPに由来する構成単位の割合は、6質量%以上であり、6.5質量%以上であることが好ましい。また、当該構成単位の割合が、40質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましい。上記範囲内であると、電極合剤のスラリーの増粘がより抑制され、さらに、電極破断が生じ難い十分な柔軟性を有する電極を提供することができる。
【0053】
第2のフッ化ビニリデン重合体は、インヘレント粘度が0.5dL/g以上であり、1.0dL/g以上であることが好ましい。また、当該インヘレント粘度は2.5dL/g未満であり、2.3dL/g以下であることが好ましい。上記範囲内であると、電極合剤のスラリーの増粘がより抑制され、さらに、電極破断が生じ難い十分な柔軟性を有する電極を提供することができる。
【0054】
第2のフッ化ビニリデン重合体は、第2のフッ化ビニリデン重合体の全構成単位におけるHFPに由来する構成単位の割合が、6質量%以上40質量%以下であり、インヘレント粘度が0.5dL/g以上2.5dL/g未満であるため、電極合剤のスラリーの増粘がより抑制され、さらに、電極破断が生じ難い十分な柔軟性を有する電極を提供することができる。
【0055】
第2のフッ化ビニリデン重合体の1735cm-1におけるIRスペクトルの吸光度A1735cm-1と、3025cm-1におけるIRスペクトルの吸光度A3025cm-1との比、A1735cm-1/A3025cm-1は、0.20以上であり、0.25以上であることが好ましい。また、A1735cm-1/A3025cm-1は、0.80以下であり、0.4未満であることが好ましい。上記範囲内であることにより、電極合剤のスラリーの増粘を抑制することができる。
【0056】
上記ブレンドバインダー中における、第1のフッ化ビニリデン重合体に対する第2のフッ化ビニリデン重合体の質量比(第2のフッ化ビニリデン重合体/第1のフッ化ビニリデン重合体)は、3/7以上であり、4/6が好ましい。また、当該質量比は7/3以下である。上記範囲内であることにより、電極合剤のスラリーの増粘がより抑制され、さらに、電極破断が生じ難い十分な柔軟性を有する電極を提供することができる。
【0057】
本実施形態に係るバインダーの形態は特に限定されず、粉状であっても、液状であってもよい。
【0058】
<電極合剤>
本実施形態に係る電極合剤は、本実施形態に係るバインダーと、正極活物質と、導電助剤とを含む。
【0059】
(正極活物質)
正極活物質としては、リチウム複合金属酸化物が典型的に用いられる。リチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiMnO2、LiMn2O4、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)、LiNixCoyMn1-x-yO2(0<x<1、0<y<1)、LiNixCoyAlZO2(0.55≦x<1、0<y2<0.55、0<z<0.55であり、かつx/(x+y+z)≧0.55である。)、LixNi1-yMyO2、LiFePO4、LiFexMn1-xPO4(0.05≦x≦0.40、1-x≧0)等を挙げることができる。
【0060】
正極活物質は、平均粒子径Dv50が、6.0μm以下である。当該数値範囲によって、柔軟性が高い電極を得ることができる。平均粒子径Dv50は体積基準の粒度累積線図において粒度累積率50%における粒子径をいう。粒度累積線図はJISK 1474に準じて作成すればよい。
【0061】
(導電助剤)
導電助剤は、LiCoO2等の電子伝導性の小さい活物質を使用する場合に、電極合剤層の導電性を向上する目的で添加するものである。導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛微粉末および黒鉛繊維等の炭素物物質、ならびにニッケルおよびアルミニウム等の金属微粉末または金属繊維を用いることができる。
【0062】
(他の成分)
本実施形態に係る電極合剤は、非水溶媒等の溶媒が含まれていてもよい。非水溶媒は、例えば、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスフォアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチルウレア、トリエチルホスフェイト、トリメチルホスフェイト、アセトン、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、n-ブタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートおよびシクロヘキサノン等を挙げることができる。これらの溶媒は1種単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
また、本実施形態に係る電極合剤は、他の成分としては、例えば、ポリビニルピロリドン等の顔料分散剤、および分散安定剤等を挙げることができる。
【0064】
電極合剤において、正極活物質の量を100質量部としたときに、フッ化ビニリデン重合体が0.2~15質量部含まれていることが好ましく、0.5~10質量部含まれていることがより好ましい。
【0065】
(電極合剤の調製)
電極合剤は、例えば、本実施形態に係るバインダー、電極活物質および溶媒を均一なスラリーとなるように混合すればよく、混合する際の順序は特に限定されない。例えば、バインダーに電極活物質を添加し、次いで溶媒を添加し、攪拌混合し、電極合剤を得てもよい。また電極活物質を溶媒に分散し、そこへバインダーを添加し、攪拌混合し、電極合剤を得てもよい。あるいは、バインダーに溶媒を添加し、次いで電極活物質を添加し、攪拌混合し、電極合剤を得てもよい。また、混錬は複数回に分けて行ってもよく、例えば二次混錬を行ってもよい。
【0066】
<電極>
本実施形態に係る電極は、集電体と、当該集電体の両面に、本実施形態に係る電極合剤から形成された電極合剤層と、を備える。本明細書等における「電極」とは、特に断りのない限り、本実施形態に係る電極合剤から形成される電極合剤層が集電体上に形成されている、電池の電極を意味する。
【0067】
(集電体)
集電体は、電極の基材であり、電気を取り出すための端子である。集電体の材質としては、鉄、ステンレス鋼、鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、およびチタン等を挙げることができる。集電体の形状は、箔または網であることが好ましい。
【0068】
(電極合剤層)
電極合剤層は、スラリー状の電極合剤を集電体に塗布して、乾燥させることにより得られる層である。電極合剤の塗布方法としては、当該技術分野における公知の方法を用いることができ、バーコーター、ダイコーターまたはコンマコーター等を用いる方法を挙げることができる。電極合剤層を形成させるための乾燥温度としては、50℃~170℃であることが好ましく、50℃~150℃であることがより好ましい。電極合剤層は集電体の両面に形成されてもよいし、いずれか一方の面のみに形成されてもよい。
【0069】
電極合剤層の厚さは、片面当たり通常は20~600μmであり、好ましくは20~350μmである。また、電極合剤層をプレスして密度を高めてもよい。また、電極合剤層の両面目付量は、通常は20~700g/m2であり、好ましくは30~600g/m2である。
【0070】
非水電解質二次電池等の電池の高容量化の点で、電極の厚みは、150μm以上が好ましく、170μm以上がより好ましい。また、270μm以下であることが好ましく、220μm以下がより好ましい。
【0071】
本実施形態に係る電極は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の正極として好適に用いることができる。
【0072】
<非水電解質二次電池>
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、本実施形態に係る電極を備える。非水電解質二次電池における他の部材については特に限定されるものでなく、例えば、従来用いられている部材を用いることができる。非水電解質二次電池の一態様は、正極および負極の間にセパレータを配置積層したものを渦巻き状に巻き回した発電素子が、金属ケーシング中に収容された円筒形電池の構造を有する。非水電解質二次電池の別の態様としては、コイン形、角形またはペーパー形等の他の形状の非水電解質二次電池であり得る。
【0073】
非水電解質二次電池の製造方法としては、例えば、負極層と正極層とをセパレータを介して重ね合わせ、電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。
【0074】
<まとめ>
本実施形態に係るバインダーは、少なくとも1種のフッ化ビニリデン重合体を含有し、下記(A)~(E)の要件を満たす、バインダー:(A)5質量%の前記バインダーを含むN-メチルピロリドン溶液の25℃における濁度が、5.0以下である;(B)95質量%アセトン水溶液94質量部に前記バインダー6質量部を投入し、30℃で2時間撹拌して得られるバインダー溶液における、前記バインダーの下記式(1)の溶解率が、10%以上70%以下である;(C)前記バインダー溶液の溶解成分のインヘレント粘度が、0.5dL/g以上2.5dL/g未満である;(D)前記バインダー溶液の溶解成分の1735cm-1における赤外吸収スペクトルの吸光度A1735cm-1と、3025cm-1における赤外吸収スペクトルの吸光度A3025cm-1との比、A1735cm-1/A3025cm-1が、0.20以上0.80以下である;および(E)前記バインダーのインヘレント粘度が、前記バインダー溶液の溶解成分のインヘレント粘度よりも大きい。
溶解率(%)=((投入量-未溶解物質量)/投入量)×100・・・(1)
【0075】
また、本実施形態に係るバインダーは、示差走査熱量計を用いて10℃/分の条件下で1回目の降温測定をしたときに、85℃以上125℃未満の範囲および125℃以上150℃以下の範囲それぞれに少なくとも1つの結晶化ピーク(Tc)があることが好ましい。
【0076】
また、本実施形態に係るバインダーは、上述のバインダーに含まれるフッ化ビニリデン重合体の全構成単位を100質量%とした場合に、ヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位の割合が、3質量%以上15質量%以下であり、上述のバインダー溶液の溶解成分に含まれるフッ化ビニリデン重合体の全構成単位を100質量%とした場合に、上述のバインダー溶液の溶解成分に含まれるヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位の割合が、5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。
【0077】
本実施形態に係るバインダーは、フッ化ビニリデンに由来する構成単位を主構成成分とし、任意でヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位を含む第1のフッ化ビニリデン重合体と、フッ化ビニリデンに由来する構成単位、ヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位、および極性官能基を含有する構成単位を含む第2のフッ化ビニリデン重合体と、を含有し、上述の第1のフッ化ビニリデン重合体は、インヘレント粘度が2.5dL/g以上6.0dL/g以下であり、上述の第1のフッ化ビニリデン重合体の全構成単位におけるヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位が0質量%以上0.5質量%未満であり、上述の第2のフッ化ビニリデン重合体は、インヘレント粘度が0.5dL/g以上2.5dL/g未満であり、上述の第2のフッ化ビニリデン重合体の全構成単位におけるヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位が6質量%以上40質量%以下であり、上述の第2のフッ化ビニリデン重合体の1735cm-1における赤外吸収スペクトルの吸光度A1735cm-1と、3025cm-1における赤外吸収スペクトルの吸光度A3025cm-1との比、A1735cm-1/A3025cm-1が、0.20以上0.80以下であり、上述のバインダー中における、上述の第1のフッ化ビニリデン重合体に対する上述の第2のフッ化ビニリデン重合体の質量比(第2のフッ化ビニリデン重合体/第1のフッ化ビニリデン重合体)が、3/7以上7/3以下である。
【0078】
本実施形態に係る電極合剤は、本実施形態に係るバインダーと、正極活物質と、導電助剤とを含み、上述の正極活物質の平均粒子径Dv50が、6.0μm以下である、電極合剤である。
【0079】
本実施形態に係る電極は、集電体と、上述の集電体の両面に、本実施形態に係る電極合剤から形成された電極合剤層と、を備える電極である。
【0080】
本実施形態に係る電極を含む非水電解質二次電池は高容量化を達成することができる。そして、安全性が高く長時間使用できる当該非水電解質二次電池によって、電気自動車(EV)の普及を促進し、それに伴うCO2排出削減に寄与する。また省資源、温室効果ガス排出削減による地球温暖化の緩和や産業の基盤、技術革新が期待される。これにより、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。
【0081】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0082】
以下の実施例中、特に記載がない限り、%は質量%を表す。
【0083】
[調製例1]VDF/HFP/MMM共重合体の調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1027g、メトローズSM-100(信越化学工業(株)製)0.8g、50%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート-フロンHFE-347pc-f溶液7.08g、フッ化ビニリデン(VDF)344g、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)54g、およびモノメチルマレイン酸(MMM)1.99gの各量を仕込み、29℃に加熱した。得られた重合体スラリーを脱水および乾燥させてフッ化ビニリデン共重合体(VDF/HFP/MMM)を得た。以下、50%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート-フロンHFE-347pc-f溶液を溶液Aと示す。
【0084】
[調製例2]VDF/HFP/MMM共重合体の調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1072g、メトローズSM-100(信越化学工業(株)製)0.62g、溶液Aを2.66g、VDF311g、HFP103g、およびMMM2.08gの各量を仕込み、29℃に加熱した。得られた重合体スラリーを脱水および乾燥させてフッ化ビニリデン共重合体(VDF/HFP/MMM)を得た。
【0085】
[調製例3]VDF単独重合体の調製
内容量14リットルのオートクレーブに、イオン交換水7614.5g、メトローズSM-100を1.755g、溶液Aを9.83g、VDFを3509g仕込み、26℃に温度調整した。得られた重合体スラリーを脱水、乾燥してフッ化ビニリデン単独重合体(pVDF)を得た。
【0086】
[調製例4]VDF/HFP重合体の調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1100.8g、メトローズSM-100(信越化学工業(株)製)0.22g、溶液Aを1.85g、VDF374g、HFP0.61g、の各量を仕込み、43℃に加熱した。得られた重合体スラリーを脱水および乾燥させてフッ化ビニリデン共重合体(VDF/HFP)を得た。
【0087】
[調製例5]VDF単独重合体の調製
内容量14リットルのオートクレーブに、イオン交換水7614.5g、メトローズSM-100を1.755g、溶液Aを6.32g、VDFを3509g仕込み、26℃に温度調整した。得られた重合体スラリーを脱水および乾燥させてpVDFを得た。
【0088】
[調製例6]VDF/HFP/MMM共重合体の調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1054g、メトローズSM-100(信越化学工業(株)製)0.62g、溶液Aを3.49g、VDF374g、HFP40g、およびMMM2.08gの各量を仕込み、29℃に加熱した。得られた重合体スラリーを脱水および乾燥させてフッ化ビニリデン共重合体(VDF/HFP/MMM)を得た。
【0089】
[調製例7]VDF/HFP/MMM共重合体の調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1061g、メトローズSM-100を0.62g、溶液Aを1.65g、VDFを370g、HFPを41g、およびMMMを1.24g仕込み、29℃に加熱した。得られた重合体スラリーを脱水および乾燥させてフッ化ビニリデン共重合体(VDF/HFP/MMM)を得た。
【0090】
[調製例8]VDF/HFP/MMM共重合体の調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1188g、メトローズSM-100を0.44g、溶液Aを3.96g、VDFを418g、HFPを22g、およびMMMを2.42g仕込み、43℃に加熱した。得られた重合体スラリーを脱水および乾燥させてフッ化ビニリデン共重合体(VDF/HFP/MMM)を得た。
【0091】
[調製例9]VDF単独重合体の調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1153.6g、パーフルオロオクタン酸(PFOA)2.06g、少量の酢酸エチル、103gのVDFを入れた。80℃に昇温後、過硫酸アンモニウム2.06g入れ重合し、更にVDF309gを添加した、得られた重合体スラリーを脱水および乾燥させてフッ化ビニリデン重合体(pVDF)を得た。
【0092】
[調製例10]VDF/HFP/MMM共重合体の調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1060g、メトローズSM-100を0.63g、溶液Aを2.35g、VDFを391g、HFPを20g、およびMMMを0.78g仕込み、29℃に加熱した。得られた重合体スラリーを脱水および乾燥させてフッ化ビニリデン共重合体(VDF/HFP/MMM)を得た。
【0093】
[調製例11]VDF/HFP/MMM共重合体の調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1060.7g、メトローズSM-100を0.63g、溶液Aを2.35g、VDFを391g、HFPを20g、およびMMMを0.41g仕込み、29℃に加熱した。得られた重合体スラリーを脱水および乾燥させてフッ化ビニリデン共重合体(VDF/HFP/MMM)を得た。
【0094】
[調製例12]VDF/HFP/AA共重合体の調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1071.2g、メトローズSM-100を0.58g、溶液Aを3.5g、VDFを82g、HFP41gをいれた。45℃に昇温後、更にVDF289gとアクリル酸(AA)2.06gを添加した。その際、AAは5質量%水溶液状態で用い、3.4g/hの条件にてAA水溶液を添加した。得られた重合体スラリーを脱水および乾燥させてフッ化ビニリデン共重合体(VDF/HFP/AA)を得た。
【0095】
[調製例13]VDF/HFP/MMM共重合体の調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1061g、メトローズSM-100を0.62g、溶液Aを2.27g、VDFを391g、HFPを19g、およびMMM1.03gを仕込み、29℃に加熱した。得られた重合体スラリーを脱水および乾燥させてフッ化ビニリデン共重合体(VDF/HFP/MMM)を得た。
【0096】
[実施例1]バインダーおよび電極合剤の調製ならびに電極の作製
表1に示す第1のフッ化ビニリデン重合体および第2のフッ化ビニリデン重合体を、表2に示す割合(質量比)で混合して、バインダーを得た。第2のフッ化ビニリデン重合体は、調製例1で調製したフッ化ビニリデン重合体を使用した。#4300は株式会社クレハ製のフッ化ビニリデン単独重合体(懸濁重合)である。
【0097】
上記バインダーをN-メチル-2ピロリドン(以下、NMPと示す)に溶解し、6質量%のフッ化ビニリデン共重合体を含む、フッ化ビニリデン重合体溶液を作製した。その後、当該重合体溶液に、導電助剤としてCNT(カーボンチューブ)分散液(管径7nm、比表面積300m2/gのMWCNT4.3質量%含むNMP混合溶液)およびNMPを添加し、1次混練を行った。次いで、表4に示すDv50を有する、正極活物質であるリン酸鉄リチウム(LFP)を添加して、固形分濃度を50%とした。そして、2000rpmにおいて5分間2次混練を行うことで、電極合剤を得た。得られた電極合剤における正極活物質、CNT、およびフッ化ビニリデン重合体の質量比は、この順で、100:2:3であった。
【0098】
得られた電極合剤をサンクメタル社製TH-C型コーターを用い、厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗工して、乾燥状態における電極合剤の片面目付量がおよそ190g/m2の電極を作製した。
【0099】
[実施例2~7]バインダーおよび電極合剤の調製ならびに電極の作製
表1に示す第1のフッ化ビニリデン重合体および第2のフッ化ビニリデン重合体を、表2に示す割合(質量比)で混合して、バインダーを得た。実施例2の第2のフッ化ビニリデン重合体、実施例3の第1のフッ化ビニリデン重合体、実施例4の第1フッ化ビニリデン重合体、実施例7の第1のフッ化ビニリデン重合体、実施例7の第2のフッ化ビニリデン重合体はそれぞれ、調製例2~6で調製したフッ化ビニリデン重合体を使用した。実施例3~6の第2のフッ化ビニリデン重合体は、調製例1で調製したフッ化ビニリデン重合体を使用した。
【0100】
また、実施例1と同様の手順で、表4に示すDv50を有するLFPを使用して、電極合剤を調製した。そして、調製した各電極合剤を使用して電極を作製した。実施例6で作製した電極の片面目付量はおよそ210g/m2であった。
【0101】
[比較例1~8および参考例1]バインダーおよび電極合剤の調製ならびに電極の作製
表1に示す第1のフッ化ビニリデン重合体および第2のフッ化ビニリデン重合体を、表2に示す割合(質量比)で混合して、バインダーを得た。比較例3、および5~8の第1のフッ化ビニリデン重合体はそれぞれ、調製例9、10、11、5および13で調製したフッ化ビニリデン重合体を使用した。比較例1および7の第2のフッ化ビニリデン重合体は、それぞれ調製例7および12で調製したフッ化ビニリデン重合体を使用した。比較例2および6の第2のフッ化ビニリデン重合体は調製例8、比較例3、4、および参考例1の第2フッ化ビニリデン重合体は調製例1で調製したフッ化ビニリデン重合体を使用した。比較例5および8では第2のフッ化ビニリデン重合体は使用しなかった。
【0102】
#1300は株式会社クレハ製のフッ化ビニリデン単独重合体(懸濁重合)である。
【0103】
また、実施例1と同様の手順で、表4に示すDv50を有するLFPを使用して、電極合剤を調製した。実施例7、比較例7および8で得られた電極合剤における正極活物質、CNT、およびフッ化ビニリデン重合体の質量比は、この順で、100:2:2.5であった。
【0104】
そして、調製した各電極合剤を使用して電極を作製した。
【0105】
[評価例1]フッ化ビニリデン重合体のインヘレント粘度(ηi)の測定
フッ化ビニリデン重合体80mgを20mLのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解することによって重合体溶液を作製した。作製した重合体溶液の粘度ηを、30℃の恒温槽内においてウベローデ粘度計を用いて測定した。そして、以下の式からインヘレント粘度(ηi)を算出した。
ηi=(1/C)・ln(η/η0)
上記式中、η0は溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミドの粘度、Cは0.4g/dLである。
【0106】
[評価例2]フッ化ビニリデン共重合体におけるHFP量の測定
PVDFサンプル約40mg、溶媒としてDMSO-d6を約750μL加え、マグネチックスターラーで40℃下、600rpmで約30分間攪拌した。溶解した試料を5mmのNMR測定管に移し、Bruker社製AVANCE-400を用いて19F NMR測定を行った。内部標準のピーク面積を6としたときの各ピーク面積の積分比から、VDFとHFPの導入量の合計を100mol%とした場合の、VDFに対するHFP比(mol比)を算出した。
【0107】
また、前記19F NMR測定と同様に1H NMR測定を行い、主として極性官能基を含有するモノマーに由来する4.19ppmに観測されるシグナルと、主としてフッ化ビニリデンに由来する2.24ppmおよび2.87ppmに観測されるシグナルの積分強度に基づき、VDF導入量とMMM導入量の合計を100mol%とした場合の、VDFに対するMMM比(mol比)を算出した。
【0108】
前記19F NMR測定によって得たVDFに対するHFP比と、前記19F NMR測定によって得たVDFに対するMMM比から、フッ化ビニリデン共重合体におけるVDF/HFP/MMMの組成比を算出し、次いでVDFとHFPとMMMの導入量の合計が100mol%とした場合の各組成の導入量[mol%]を求めた。得られた各組成の導入量[mol]にモル質量[g/mol]を乗じ、各組成の質量[g]を算出した。
【0109】
さらに、式(2)より、HFP量[質量%]を求めた。
HFP量[質量%]=(HFP質量/(HFP質量+VDF質量+MMM質量))×100・・(2)
【0110】
[評価例3]第2のフッ化ビニリデン重合体の吸光度比の測定
第2のフッ化ビニリデン共重合体を200℃で熱プレスして、30mm×30mmのフィルム状に成形した。赤外分光光度計FT-IR500(日本分光株式会社製)を用いて、1500cm-1~4000cm-1の範囲で上記各フィルムのIRスペクトルを求めた。そして、1735cm-1におけるIRスペクトルの吸光度(A1735cm-1)と、3025cm-1におけるIRスペクトルの吸光度(A3025cm-1)との比(A1735cm-1/A3025cm-1)を求めた。
【0111】
[評価例4]バインダーの示差走査熱量分析(DSC)による結晶化ピーク(Tc)の測定
10mgのバインダーをDSC用アルミパンに封入し、窒素雰囲気下で測定した。測定には、メトラー・トレド製DSC-1を用いて、以下の条件で測定を実施した。
<測定条件>
1回目の昇温:30℃から230℃まで毎分10℃の速度で昇温
(230℃に到達後、10分間230℃を維持)
1回目の冷却:230℃から30℃まで毎分10℃の速度で降温
(30℃に到達後、10分間30℃を維持)
2回目の昇温:30℃から230℃まで毎分10℃の速度で昇温
【0112】
測定後、1回目の冷却過程において検出された結晶化ピークのトップ温度をTcx(x≧1)とした。
【0113】
[評価例5]バインダーの濁度の測定
各バインダーを5質量%となるようにNMPに添加し、50℃で加熱攪拌して、5質量%NMP溶液を作製した。作製した5質量%NMP溶液25℃で攪拌し、攪拌停止直後に積分球式光電光度法にて濁度測定を行った。
【0114】
[評価例6]バインダー溶液の評価
12gのバインダーを、5%水を含むアセトン(95質量%アセトン水溶液)188gに入れ、30℃に加熱したマグネチックスターラーで2時間攪拌処理を実施することによってバインダー溶液を得た。その後、ろ過処理を実施し、未溶解物と溶解液を分別した。この未溶解物中に含有する溶媒を乾燥にて除去し、未溶解物の質量を計測した。そして、以下の式(1)によってバインダー溶液の溶解率を求めた。
溶解率(%)=((投入量-未溶解物質量)/投入量)×100・・・(1)
【0115】
上記未溶解物除去後の溶解液から、溶媒を加熱除去し、析出ポリマー(バインダー溶液の溶解成分)を得た。そして、評価例2および3と同様の手順で、得られた析出ポリマーにおけるHFPの量および吸光度比(A1735cm-1/A3025cm-1)の測定を行った。
【0116】
[評価例7]正極活物質の平均粒子径Dv50の測定
LFP試料0.01gに対し、分散剤(カチオン系界面活性剤「SNウェット366」(サンノプコ社製))0.1gを加え、試料に分散剤を馴染ませた。次に、純水20mLを加え、超音波洗浄機で約5分間分散させた後、粒径分布測定装置(マイクロトラック社製:MT3300EXII)で、粒子径0.1~1000μmの範囲における粒径分布を求めた。なお、分散媒は純水とし、分散媒の屈折率は1.333とした。得られた粒径分布から、累積度数が体積基準で50%となる粒子径算出しDv50を求めた。
【0117】
[評価例8]電極合剤のスラリーの粘度の測定
電極合剤のスラリー粘度は、B型粘度計(BROOKFIELD社製「DVS+」)を用いて、25℃で測定を行った。一定量のスラリーを直径1.2cmのポリチューブに入れ、25℃、湿度10%以下で静置保存したものを測定サンプルとした。本測定ではスピンドルはNo.64を使用し、回転速度0.5rpmで1分間、続いて1rpmで2分間の予備攪拌を行った後、6rpmで30秒攪拌した時点での粘度をスラリー粘度(mPa・s)とした。粘度測定は、サンプル作製直後および静置保存開始から24時間の時点で行った。
【0118】
[評価例9]電極の破断密度の測定
各電極を長さ5cm×2cmに切削し、未プレス電極サンプルを作製した。またロールプレス機を用いて0.4m/分、線圧1t/cmの条件にて未プレス電極サンプルをプレスし、電極合剤の密度が2.25g/cm3であるプレス電極サンプルを作製した。電極密度2.25g/cm3のプレス電極サンプルのそれぞれにおいて、試験片の短辺を重ならないように両面テープでつないで円柱状にした。円柱状にしたサンプルを圧縮速度30mm/分で押し潰した。そして、電極を開いて折り曲げ箇所を目視で確認し、光の透過が確認された電極は破断がある電極と判断した。光の透過が認められない電極は破断がない電極と判定した。
【0119】
各実施例、比較例および参考例で使用した第1のフッ化ビニリデン重合体および第2のフッ化ビニリデン重合体の詳細について表1に示す。表1中、ηiは各フッ化ビニリデン重合体のインヘレント粘度(dL/g)を示す。HFP量は、各フッ化ビニリデン重合体の全構成単位におけるHFPに由来する構成単位の割合(質量%)を示す。IRはA1735cm-1/A3025cm-1を示す。なお、比較例3の第1のフッ化ビニリデン重合体のインヘレント粘度は測定不可であった。
【0120】
【0121】
各実施例、比較例および参考例で得られたバインダーの評価結果を表2に示す。表2中、第1重合体/第2重合体は、バインダー中における、第1のフッ化ビニリデン重合体と第2のフッ化ビニリデン重合体との割合(質量比)を示す。ηiはバインダーのインヘレント粘度(dL/g)を示す。当該インヘレント粘度は、評価例1で測定した各フッ化ビニリデン重合体のインヘレント粘度およびバインダー中の第1重合体/第2重合体の割合を基に算出した値である。
【0122】
表2中、HFP量は、バインダーに含まれるフッ化ビニリデン重合体の全構成単位に対する、HFPに由来する構成単位の割合(質量%)である。当該HFP量は、評価例2で測定した各フッ化ビニリデン共重合体におけるHFPの量およびバインダー中の第1重合体/第2重合体の割合を基に算出した値である。
【0123】
表2中、Tc1は1回目の降温で得られる示差走査型熱量測定曲線において、低温側に検出される結晶化に伴う熱量変化のピーク温度である。Tc2は1回目の降温で得られる示差走査型熱量測定曲線において、高温側に検出される結晶化に伴う熱量変化のピーク温度である。比較例4~6および8については、Tc1は検出されなかった。
【0124】
【0125】
各実施例、比較例および参考例で得られたバインダー溶液および当該バインダー溶液の溶解成分の評価結果を表3に示す。
【0126】
【0127】
各実施例、比較例および参考例で得られた電極合剤および電極の評価結果を表4に示す。表4中、スラリーの粘度はサンプル作製直後の粘度である。また、増粘性(%)は下記式にて算出した、24時間静置後のスラリー粘度増加率を示す。また、「過大」は静置保存24時間後のスラリー粘度が100000mPa・s(測定上限)以上であったことを示す。電極密度の単位はg/cm3、目付量の単位はg/m2、電極の厚みの単位はμmである。
増粘性(%)=24時間静置後のスラリー粘度/サンプル作製直後のスラリー粘度×100
【0128】
【0129】
<結果>
表4に示すように、上記要件(A)~(E)を満たす、実施例1~7のバインダーによって得られた電極合剤は、スラリーの増粘が抑制されていた。また、当該電極合剤を使用して得られた電極は厚みがあるのにもかかわらず、破断が観察されず、屈曲に耐え得る柔軟性を有することが分かった。
【0130】
低HFP量である第1のフッ化ビニリデン重合体と高HFP量である第2のフッ化ビニリデン重合体とを含むバインダーを95質量%アセトン水溶液に溶解させた場合、高HFP量である第2のフッ化ビニリデン重合体が溶解する。したがって、バインダー溶液の溶解成分は第2のフッ化ビニリデン重合体に相当する。
【0131】
比較例2および6のバインダー溶液の溶解率が10%未満であった。これは、第2のフッ化ビニリデン重合体のHFP量が6質量%未満であったことによると考えられる。また、第1のフッ化ビニリデン重合体のHFP量およびバインダー中の第1のフッ化ビニリデン重合体の含有量にかかわらず、第2のフッ化ビニリデン重合体のHFP量が6質量%以上である必要があることが示唆された。
【0132】
比較例3の第1のフッ化ビニリデン重合体は乳化重合によって得られた重合体である。当該重合体を含むバインダーの濁度は5.0超となり、電極合剤のスラリーの増粘性が過大となった。
【0133】
比較例5および8のバインダーは第1のフッ化ビニリデン重合体のみであった。当該第1のフッ化ビニリデン重合体のHFP量を増やしても、バインダー溶液の溶解率が10%未満であった。比較例5および8の電極合剤のスラリーの増粘性が過大となり、電極には破断が観察された。これらの結果から、バインダー溶液の溶解成分(第2のフッ化ビニリデン重合体)の存在が必要であることが示唆された。
【0134】
また、バインダー溶液の溶解率が10%未満であると、DSC分析において、85℃以上125未満の範囲に結晶化ピークが観察されないことが分かった。
【0135】
実施例1~7のバインダーはいずれも、第1のフッ化ビニリデン重合体(低HFP量であり、高インヘレント粘度)と第2のフッ化ビニリデン重合体(高HFP量であり、低インヘレント粘度)とのバインダーである。しかしながら、上記評価例等から、上記要件(A)~(E)を満たす1種類のフッ化ビニリデン重合体を含む電極合剤のスラリー粘度の増粘が抑制されることは当業者であれば理解できる。また、当該電極合剤を使用して得られた電極が柔軟性を有することも上記評価例から当業者であれば理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、非水電解二次電池に利用することができる。
【国際調査報告】