(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-14
(54)【発明の名称】EVOCプローブを合成するための方法
(51)【国際特許分類】
C07H 1/00 20060101AFI20241107BHJP
C07H 15/04 20060101ALI20241107BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C07H1/00
C07H15/04 A
A61K49/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522365
(86)(22)【出願日】2022-10-14
(85)【翻訳文提出日】2024-06-11
(86)【国際出願番号】 GB2022052621
(87)【国際公開番号】W WO2023062386
(87)【国際公開日】2023-04-20
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2022-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521092373
【氏名又は名称】アウルストーン・メディカル・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マックス・オールスワース
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアーン・ラブシャグネ
【テーマコード(参考)】
4C057
4C085
【Fターム(参考)】
4C057AA12
4C057AA30
4C057BB02
4C057CC03
4C057CC05
4C057DD01
4C057EE03
4C057JJ03
4C057JJ13
4C057JJ14
4C085HH17
4C085HH20
4C085JJ02
4C085JJ03
4C085JJ17
4C085KA30
4C085KB38
4C085LL18
(57)【要約】
配糖体を合成するための方法であって、水中で塩基の存在下、メチルエステル配糖体を加水分解して、配糖体を形成する工程を含み、ここで、メチルエステル配糖体が再形成しようとする傾向は減少する。本発明は、前記方法によって得られた配糖体を使用するがんの検出又は予後のための方法にも及ぶ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配糖体を合成するための方法であって、
水中で塩基の存在下、メチルエステル配糖体を加水分解して配糖体を形成する工程を含み、
ここで、前記メチルエステル配糖体を再形成しようとする傾向は減少する、方法。
【請求項2】
前記塩基が、NaOH、LiOH、KOHである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記配糖体が、グルクロニド、イズロニド(iduronide)、マンノシド、グルコサミド(glucosamide)、ガラクトサミド(galactosamide)、グルコシド、ガラクトシド、ラムノシド、リボシド、アラビノシド、フルクトシド、キシロシド、フコシドから選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記配糖体が、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記グリコシド結合が、O-、N-、S-、C-グリコシド結合から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記揮発性官能基が、標識されている、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記標識が、12C、13C、14C、2H、14N又は18Oから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記揮発性官能基が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、メチル-D3、エチル-D5、又はプロピル-D7から選択される、請求項4から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記加水分解工程の後にイオン交換工程を更に含み、好ましくは、前記イオン交換が酸性陽イオン交換樹脂を使用して行われる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記加水分解工程の後に、溶媒蒸発工程を更に含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
1H NMRを使用して、前記メチルエステル配糖体の加水分解により、前記配糖体を形成することを監視する工程を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記加水分解工程の後、前記メチルエステル配糖体が前記配糖体の1%未満存在する、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記加水分解が18~30℃の温度で行われる、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記加水分解が、25℃(298.15K)の温度及び101.325kPaの圧力の周囲条件下で行われる、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記メチルエステル配糖体がD5-エチル-βD-グルクロニド-メチルエステルであり、前記配糖体がD5-エチル-βD-グルクロニドである、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の方法により得られた配糖体。
【請求項17】
請求項16に記載の配糖体を含む組成物。
【請求項18】
揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含む配糖体を含む組成物であって、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含むメチルエステル配糖体を1wt%未満含む組成物。
【請求項19】
揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含むメチルエステル配糖体の1wt%未満が、
1H NMRを介して決定される、請求項17又は18に記載の組成物。
【請求項20】
請求項16に記載の配糖体又は請求項17から19のいずれか一項に記載の組成物を対象に投与することを含む、がんの診断又は予後に使用のための請求項16に記載の配糖体。
【請求項21】
前記配糖体が0.05~10mg/kgの濃度で投与される、請求項20に記載の使用のための配糖体。
【請求項22】
投与が静脈内投与であって濃度が0.5~10mg/kgである、又は投与が吸入投与若しくは経口投与であって濃度が0.05~10mg/kgである、請求項20又は21に記載の使用のための配糖体。
【請求項23】
配糖体の代謝物の濃度が、前記配糖体の投与後300分まで測定される、請求項20から22のいずれか一項に記載の使用のための配糖体。
【請求項24】
配糖体に基づく外因性揮発性有機化合物(EVOC)プローブの細胞透過性を低下させる方法であって、
メチルエステル配糖体の配糖体への変換を促進する条件を適用する工程を含み、
ここで、前記配糖体の形成を促進する条件は、水中での塩基の存在下での前記メチルエステル配糖体の加水分解を含む、方法。
【請求項25】
疾患状態の検出又は予後のための呼吸試験における、請求項16に記載の配糖体又は請求項17から19のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項26】
呼吸検査が、がん、任意選択的に肺がんの検出のためのものである、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
がんの検出又は予後のための方法であって、がん特異的酵素に対する外因性基質の濃度の測定及び/又は対象の生物学的マトリックス中の前記基質の代謝物の濃度の測定によって、前記がん特異的酵素の活性を評価する工程を含み、前記外因性基質が、請求項16に記載の配糖体である、方法。
【請求項28】
請求項16に記載の配糖体又は請求項17から19のいずれか一項に記載の組成物を対象に投与する工程を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
酵素の活性を決定するための方法であって、
酵素のための外因性基質を対象に投与する工程と、
前記対象から得られた生物学的試料中の前記基質の代謝物の濃度を測定する工程と
を含み、
ここで、前記外因性基質は、請求項16に記載の配糖体である、方法。
【請求項30】
がんと診断された対象のがんの進行を監視するための方法であって、
対象に外因性基質を投与する工程と、
前記対象から得られた生物学的試料中の前記基質の代謝物の濃度を測定することによって、がん特異的酵素の活性を評価する工程と
を含み、
ここで、前記外因性基質は、請求項16に記載の配糖体である、方法。
【請求項31】
がんと診断された対象の治療効果を決定するための方法であって、
外因性基質を対象に投与する工程と、
抗がん治療を受けた前記対象から得られた生物学的試料中の前記基質の代謝物の濃度を測定することによって、がん特異的酵素の活性を評価する工程と、
を含み、
ここで、前記外因性基質は、請求項16に記載の配糖体である、方法。
【請求項32】
前記配糖体がD5-エチル-βD-グルクロニドである、請求項27から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記代謝物がD5エタノールである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記がん特異的酵素がβ-グルクロニダーゼである、請求項27から33のいずれか一項に記載の方法、
【請求項35】
前記生物学的マトリックスが、血液、尿又は呼気、例えば呼気から選択される、請求項27から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記配糖体が0.05~10mg/kgの濃度で投与される、請求項27から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記配糖体の投与後300分まで代謝物の濃度を測定する、請求項27から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
投与が、静脈内投与であって濃度が0.5~10mg/kgである、又は吸入投与若しくは経口投与であって濃度が0.05~10mg/kgである、請求項27から37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記濃度が1mg/kg~5mg/kg、例えば約2mg/kgである、請求項27から38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記代謝物の濃度が、前記配糖体の投与後10~30分間測定される、請求項27から39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
請求項21から23のいずれか一項に記載の使用のための配糖体、又は請求項27から40のいずれか一項に記載の方法であって、前記結果と、例えば免疫組織染色(IHC)によって測定される、β-グルコロニダーゼの発現とを相関させる工程を含む、配糖体、又は方法。
【請求項42】
請求項16に記載の配糖体又は請求項17から19のいずれか一項に記載の組成物、及び任意選択的に使用説明書を含む、キット。
【請求項43】
患者から生物学的マトリックス試料を捕捉するための装置を更に含み、好ましくは、前記装置が血液、尿又は呼気の試料を捕捉するのに適している、請求項42に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EVOCプローブを合成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
はじめに
肺がんは、がんに関連した世界的な死亡原因の第一位である。肺がんの早期発見は患者の生存にとって極めて重要であるが、初期段階では臨床症状がないため、依然として非常に困難であり、より良いスクリーニング方法が求められている。数十年にわたる熱心な研究努力にもかかわらず、肺がんの5年生存率は19%と依然として悲惨である(Siegelら、2019)。その主な理由は、患者の75%超が治癒を目的とした処置が不可能な進行期疾患と診断されることである(Waltersら、2013)。ステージIの場合、1年生存率は約80%であるのに対し、ステージIVではわずか20%である。したがって、生存率を向上させるためには、肺がんの早期発見が最も重要である。
腫瘍細胞は、その発生の最も初期の段階における代謝の変化を特徴とする。したがって、これらの代謝変化に関連する生化学物質を測定することは、がんの早期発見に有用な診断バイオマーカーをもたらすことができる(Muthu & Nordstrom,2019)。これらのバイオマーカーは、呼吸、尿、血液等の生体マトリックスで検出できる。これらの代謝物を検出するための魅力的なマトリックスは呼吸であり、治療現場で完全に非侵襲的にアクセスできるため、スクリーニングへの参加の敷居を下げることができる(Hakimら、2012)。
【0003】
最近、外因性揮発性有機化合物(EVOC)プローブ手法が開拓され、疾患特異的経路を活発に調査できるようになった。この手法では、外因性代謝プローブ化合物が患者に投与され、疾患特異的経路によって代謝され、患者の呼吸中に揮発性生成物が放出される(Gaudeら、2018)。
【0004】
そのため、非侵襲的治療現場で使用できるEVOCプローブの一貫した生成方法を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2017/187120
【特許文献2】WO2017/187141
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Czalgoszerski, Edward J., "Reactions of Synthesis of Methyl D-Glucuronide"(1934)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
最近、EVOCプローブを使用して呼吸分析によりマウスの腫瘍を検出できることが実証された。この研究では、腫瘍特異的細胞外β-グルクロニダーゼによって代謝されてD5-エタノールを放出する代謝プローブ、D5-エチル-βD-グルクロニドを健常マウスと腫瘍マウスに投与した結果、腫瘍マウスの呼吸中に識別可能なD5-エタノールシグナルが検出された(Langeら、2019)。腫瘍の微小環境では、細胞外に高レベルのβ-グルクロニダーゼが存在することが知られている(FISHMAN & ANLYAN,1947; Youngら、1976)が、正常組織ではこの酵素は細胞質内のリソソームにしか存在しない(Bossletら、1998)。ヒトとマウスにおける研究では、腫瘍微小環境における細胞外β-グルクロニダーゼの起源として、腫瘍壊死と腫瘍微小環境におけるマクロファージと好中球のリソソームからのβ-グルクロニダーゼの放出の組み合わせが指摘されている(Bossletら、1998; Juanら、2009)。したがって、グルクロニドとD5-エタノールのような揮発性分子との複合体は、腫瘍微小環境において切断され、その結果、グルクロン酸塩と排出されやすい揮発性分子であるD5-エタノールが生成される。グルクロニド複合体は、血液中に低濃度で存在する場合、細胞内に容易に取り込まれることはない。したがって、細胞外腔や生体マトリックス中にD5-エタノールが存在することは、腫瘍の存在を示す証明であると考えられる。D5-エチル-βD-グルクロニド(及び他のグルクロニド複合体)が低濃度で細胞内に拡散しないことは、健常組織と腫瘍組織をうまく識別するために不可欠である。
【0008】
しかしながら、グルクロニドに基づくプローブを調製する標準的な方法では、メチルエステル不純物(D5-エチル-βD-グルクロニド-メチルエステル)が生成されることが本明細書で実証されている。このメチルエステルは細胞透過性を変化させ、その結果プローブが細胞内に取り込まれる。細胞内ではメチルエステルを切断することができ、腫瘍の存在の結果ではないD5エタノールの放出が起こる。その結果、D5エタノールのバックグラウンドレベルが高くなり、偽陽性となる可能性がある。
【0009】
そこで本発明者らは、メチルエステル不純物の生成を低減したグルクロニドの生成方法を開発した。
【0010】
したがって、本発明の一態様は、配糖体を合成するための方法に関し、この方法は、
水中で塩基の存在下、メチルエステル配糖体を加水分解して配糖体を形成する工程を含み、
ここで、メチルエステル配糖体を再形成しようとする傾向は減少する。
【0011】
本発明の一態様は、本発明の方法によって得られる配糖体に関する。
【0012】
本発明の一態様は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含む配糖体を含む組成物に関し、組成物は揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含むメチルエステル配糖体を1%未満含む。
【0013】
本発明の一態様は、本発明の方法により得られる配糖体、又はグリコシド結合を介して揮発性官能基に連結された配糖体を含む組成物と、ここで、この組成物はグリコシド結合を介して揮発性官能基に連結されたメチルエステル配糖体を1%未満含む、及び任意選択的に使用説明書と、を含むキットに関する。
【0014】
本発明の一態様は、配糖体に基づく外因性揮発性有機化合物(EVOC)プローブの細胞透過性を低下させる方法に関し、
メチルエステル配糖体の配糖体への変換を促進する条件を適用する工程を含み、
ここで、配糖体の形成を促進する条件は、水中での塩基の存在下でのメチルエステル配糖体の加水分解を含む。
【0015】
本発明の一態様は、本発明の方法によって得られる配糖体、又はグリコシド結合を介して揮発性官能基に連結された配糖体を含む組成物であって、組成物がグリコシド結合を介して揮発性官能基に連結された配糖体メチルエステルを1%未満含む組成物の、診断的呼吸試験における使用に関する。
【0016】
一態様において、本発明は、がんの検出又は予後のための方法に関し、対象の生物学的マトリックス中のがん特異的酵素のための外因性基質の濃度及び/又は前記基質の代謝物の濃度を測定することによって、前記酵素の活性を評価する工程を含み、ここで、前記外因性基質は、本発明に従って得られる配糖体又は本発明に従う組成物である。
【0017】
一態様において、本発明は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含む配糖体を含む組成物に関し、ここで、組成物は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含むメチルエステル配糖体を1%未満含み、対象の生物学的マトリックス中のがん特異的酵素のための外因性基質の濃度を測定すること、及び/又は前記基質の代謝物の濃度を測定することによって、前記酵素の活性を評価する工程を含むがんの検出又は予後のための方法において使用するための組成物であり、ここで、前記外因性基質は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含む配糖体を含む組成物であり、組成物は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含むメチルエステル配糖体を1%未満含む。
【0018】
他の態様において、本発明は、がんの検出又は予後のための方法に関し、対象の生物学的マトリックス中のがん特異的酵素に対する外因性基質の濃度及び/又は前記基質の代謝産物の濃度を測定することにより、前記酵素の活性を評価する工程を含み、ここで、前記外因性基質は配糖体であり、配糖体は0.05~10mg/kgの濃度で投与され、代謝産物の濃度は配糖体の投与後300分まで測定される。
【0019】
他の態様において、本発明は、がんの診断又は予後に使用するための配糖体に関し、対象に配糖体又は配糖体を含む組成物を投与する工程を含み、ここで配糖体は0.05~10mg/kgの濃度で投与される。
【0020】
本発明は、以下の非限定的な図で更に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】D5-エチル-βD-グルクロニド(D5-EG)又はD5-エチル-βD-グルクロニド-メチルエステル(D5-EG-ME)に曝露された血液試料中のD5エタノールの放出レベルを決定するアッセイの概略図。
【
図2】D5-EG又はD5-EG-MEとインキュベートした血液細胞からのD5-エタノール生成。
【
図3】標準条件下で生成された生成物の
1H NMR。3.7にある一重項ピークはメチルエステル基に帰属する。
【
図4】メチルエステル含量を減少させる条件下で生成した生成物の
1H NMR。
1H NMR(396MHz,D2O,ppm),δH4.54(d, J=7.9Hz,1H),4.00(d,J=9.7Hz,1H),3.59(t, J=9.1Hz,1H),3.54(t,J=9.1Hz,1H),3.32(t, J=8.8Hz,1H).
【
図5】β-グルクロニダーゼによるD5-エチル-βD-グルクロニドの代謝の模式図。
【
図6】呼吸中で検出されたD5エタノールのピーク面積。
【
図7-1】ヒト肺がん及び正常肺組織におけるβ-グルクロニダーゼの発現。 (A)β-グルクロニダーゼ発現について染色した組織マイクロアレイコア試料の代表画像。腫瘍微小環境(TME)におけるβ-グルクロニダーゼ発現は、ステージ1を含む肺がんの全ステージで観察された。健常組織にはβ-グルクロニダーゼの細胞外発現はみられなかった。
【
図7-2】(B+C)腫瘍マイクロアレイによる肺がん及び正常肺がん組織におけるβ-グルクロニダーゼ発現の定量化。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について更に説明する。以下の節や句において、本発明の異なる態様をより詳細に定義する。このように定義された各態様は、反対のことが明確に示されない限り、任意の他の態様又は態様と組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利であると示された特徴は、好ましい又は有利であると示された他の特徴又は特徴と組み合わせることができる。
【0023】
本発明は、配糖体を合成するための方法に関し、
水中で塩基の存在下、メチルエステル配糖体を加水分解して配糖体を形成する工程を含む。
【0024】
本明細書に記載されているように、本発明者らは、水中で塩基の存在下でメチルエステル配糖体の加水分解を行うことにより、メチルエステル配糖体を再形成する傾向が減少することを見出した。配糖体化合物は、配糖体が腫瘍特異的細胞外β-グルクロニダーゼによって代謝され、検出可能なアグリコン分子を放出することができるので、がんの検出における代謝プローブとして使用することができる。しかしながら、メチルエステル配糖体から配糖体を調製する従来の方法は、メタノール中で塩基の存在下で加水分解を行う工程を含んでいる。本明細書において、この加水分解法で生成された配糖体はメチルエステルを再形成できることが示されている。不純物としてのメチルエステル配糖体の存在は、最終的な配糖体の細胞透過性を増加させる。そのため、メチルエステル配糖体は細胞内に入り、細胞内のβ-グルクロニダーゼによって切断される。この切断は腫瘍特異的ではないため、がんの検出において偽陽性を引き起こす可能性がある。そのため、メチルエステル配糖体を再形成しない生成法を開発することで、代謝プローブとしての配糖体の信頼性を高めることができる。
【0025】
メチルエステル配糖体の加水分解は、メタノールの非存在下で行うのが好適である。
【0026】
メチルエステル配糖体の加水分解は、水中で塩基の存在下で行われる。塩基は、NaOH、KOH、又はLiOHから選択することができ、好ましくは、塩基はNaOHである。加水分解は、18~30℃、又は20~29℃、又は22~28℃、又は23~27℃、又は24~26℃の間の温度で行うことができる。加水分解は、約25℃で行われてもよい。約25℃は、23~27℃、又は24~26℃、又は24.5~25.5℃の間の温度を包含してもよい。加水分解は、95~105kPa、又は98~102kPa、又は100~102kPaの間の圧力で実施されてもよい。加水分解は、約101kPaで行われてもよく、ここで、約101kPaは、100~102kPa、又は101~102kPa、又は100.5~101.5kPaの間の圧力を包含し得る。加水分解は、約101.325kPaで行われてもよく、ここで、約101.325kPaは、101.0~101.5kPaの間の圧力を包含する。加水分解工程は、周囲条件下で実施されてもよく、ここで、周囲条件は、25℃(298.15K)の温度及び101.325kPaの圧力を包含する。
【0027】
本明細書で使用する「配糖体」という用語は、当該技術分野における通常の意味を有し、グリコシド結合を介して非糖分子に連結した、通常、糖分子又はウロン酸分子からなる炭水化物部分を含む化合物を指す。糖部分又はウロン酸部分は「グリコン」と呼ばれることがあり、非糖部分は「アグリコン」と呼ばれることがある。配糖体は、6員、5員又は4員の糖又はウロン酸から構成されていてもよい。配糖体は、単糖、二糖、又は多糖を含んでいてもよい。一実施形態において、配糖体はカルボン酸基を含む。適切な配糖体の例としては、グルコシド、ガラクトシド、ラムノシド、リボシド、アラビノシド、フルクトシド、キシロシド、フコシドが挙げられるが、これらに限定されない。他の適切な配糖体としては、アルロン酸(alluronic acid)、アルトルロン酸(altruronic acid)、アラビヌロン酸(arabinuronic acid)、フルクチュロン酸(fructuronic acid)、グルクロン酸、ガラクツロン酸、グルロン酸、イズロン酸、リキスロン酸(lyxuronic acid)、マンヌロン酸、プシクロロン酸(psicuronic acid)、リブロン酸(riburonic acid)、リブルロン酸(ribuluronic acid)、ソルブロン酸(sorburonic acid)、タガツロン酸(tagaturonic acid)、タルロン酸(taluronic acid)、キシルルロン酸(xyluluronic acid)、キシルロン酸(xyluronic acid)の配糖体を含むウロン酸の配糖体が挙げられる。ウロン酸の配糖体は、イズロニド(iduronide)、マンノシド、グルコサミド(glucosamide)、ガラクトサミド(galactosamide)とも呼ばれることがある。好ましい実施形態において、グリコンはグルクロン酸の配糖体であり、グルクロニドとも呼ばれる。
【0028】
配糖体は、グリコン(糖又はウロン酸)とアグリコン(糖以外の分子)とを連結するグリコシド結合を含む。メチルエステル配糖体もグリコンとアグリコンとを連結するグリコシド結合を含む。一実施形態において、アグリコンは揮発性化合物である。このような配糖体としては、揮発性官能基と連結したグリコシド結合を含んでいてもよい。メチルエステル配糖体は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含んでいてもよい。適切な揮発性官能基としては、ケトン、アルコール、カルボン酸が挙げられるが、これらに限定されない。グリコンに結合した官能基は揮発性でないが、アグリコンがグリコンから放出されると揮発性になる。アグリコンは、例えば酵素切断や酸切断によって放出することができる。
【0029】
「メチルエステル配糖体」という用語は、グリコン分子のヒドロキシル基又はカルボン酸基の代わりにメチルエステル置換基を含む配糖体を指す。好ましい実施形態において、グリコン分子がグルクロニドである場合、メチルエステル基はグルクロニド分子のC6に結合している。
【0030】
前述のように、配糖体にはグリコシド結合を含む。グリコシド結合は配糖体のグリコン分子とアグリコン分子を連結する。多様な種類のグリコシド結合が存在し得、例えば、グリコシド結合はO-、N-、S-、C-グリコシド結合から選択される。一実施形態において、グリコシド結合はO-グリコシド結合である。グリコシド結合は、糖又はウロン酸分子のヘミアセタール基又はヘミケタール基とアグリコンとの間に形成される。グリコシド結合はα又はβの立体化学をとる。メチルエステル配糖体はグリコシド結合を含む。
【0031】
特定の条件下、例えば特定の酵素の存在下や酸性pH等の環境条件下で、揮発性官能基は配糖体から放出され得る。配糖体ががんの検出プローブとして使用される場合、検出されるのは揮発性官能基である。そこで、揮発性官能基の検出を向上させるために、揮発性官能基を標識することができる。揮発性官能基は、化合物中の単一の位置を標識することもできるし、化合物中の複数の位置を標識することもできる。適切な標識の例としては、12C、13C、14C、2H、14N又は18Oが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、揮発性官能基は、配糖体から切断されたときに、揮発性ヒドロキシル含有基を生成する任意の化合物から選択される。例えば、揮発性官能基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、メチル-D3、エチル-D5、プロピル-D7から選択される。揮発性官能基が配糖体から切断されると、検出可能な揮発性レポーターが生成する。揮発性レポーターはヒドロキシル基を含む化合物である。揮発性レポーターは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ブチルアルコール、2-メチル-3-ブテン-2-オール、1-ペンテン-3-オール、イソアミルアルコール、アミルアルコールから選択される。揮発性レポーターは、例えばD3-メタノール、D5-エタノール、D7-プロパノール、D7-イソプロピルアルコール等、上述したように標識することができる。揮発性レポーターは、揮発性官能基が配糖体からグリコシド結合の開裂を介して切断されるときに生成する。例えば、揮発性官能基エチル-D5が配糖体から切断されるとD5-エタノールが生成する。
【0032】
本発明による方法は、更なる工程を含んでいてもよい。例えば、この方法は、イオン交換工程を更に含んでもよい。イオン交換は、加水分解工程が完了した後に実施されてもよい。イオン交換は、酸性カチオン交換樹脂、好ましくは強カチオン交換樹脂を使用して行うことができ、適切な樹脂は、例えばDowex(登録商標)50WX8のように当技術分野で公知である。この樹脂交換は、水中のNaOHのような溶媒中で行うことができる。この方法は、溶媒蒸発工程を含んでいてもよい。溶媒蒸発工程は、加水分解が完了した後に実施することができる。溶媒蒸発工程は、樹脂交換の工程の後に実施されてもよい。一実施形態において、この方法は、樹脂交換工程及び溶媒蒸発工程の両方を実施することを更に含んでもよい。一実施形態において、この方法は、
水中で塩基の存在下、メチルエステル配糖体を加水分解して配糖体を形成する工程と、
加水分解により得られた配糖体をイオン交換樹脂に適用し、イオン交換を行う工程と、
固体を得るため、イオン交換後に得られた配糖体から溶媒を蒸発させる工程と、
を含む。
【0033】
加水分解が完了したかどうかを判断するために、様々な技法を使用して反応を監視することができる。例えば、1H NMR等の技法を使用して加水分解反応を監視することができる。配糖体を形成するためのメチルエステル配糖体の加水分解を監視することにより、配糖体への変換が完了したとき、例えば、メチルエステル配糖体の存在を検出することがもはや不可能になったときを決定することが可能である。このように、本発明による方法は、配糖体を形成するためのメチルエステル配糖体の加水分解を、1H NMRを使用して監視する工程を含んでいてもよい。
【0034】
本発明による方法で使用されるメチルエステル配糖体は、任意の合理的な経路で得られる。メチルエステル配糖体が揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含む場合、メチルエステルグリコシドは、メチルエステルグリコシドを揮発性官能基に共役させることによって得ることができる。例えば、メチルエステルは、ヘキスロン酸とメチルアルコールとの共役によって、又は未置換のアルドヘキスロン酸と乾燥塩化水素を含むメチルアルコールとの反応によって得ることができる。適切な方法は、Czalgoszerski, Edward J., "Reactions of Synthesis of Methyl D-Glucuronide" (1934)に概説されている。修士論文。21。一実施形態において、メチルエステル配糖体は、
炭酸銀を使用して、D6エタノールをブロモ糖1でグルクロニド化し、グルコピラノシド2を得る工程と、
【0035】
【0036】
ナトリウムメトキシドを使用して、グルコピラノシド2を脱アセチル化し、D5-エチル-βD-グルクロニドメチルエステル3を得る工程と、
【0037】
【0038】
によって得られる。
【0039】
一実施形態において、配糖体を合成するための方法は、
メチルエステル配糖体を任意の適切なルートで準備する工程と、
水中で塩基の存在下、メチルエステル配糖体を加水分解して配糖体を形成する工程と、
を含む。
【0040】
本発明によれば、メチルエステル配糖体の加水分解は、配糖体及びメチルエステル配糖体を1%未満含む最終生成物を生成することが示されている。一実施形態において、加水分解が行われた後、メチルエステル配糖体は、配糖体の2%未満、1.9%未満、1.8%未満、1.7%未満、1.6%未満、1.5%未満、1.4%未満、1.3%未満、1.2%未満、1.1%未満、1%未満、0.9%、0.8%未満、0.7%未満、0.6%未満、0.5%未満、0.4%未満、0.3%未満、0.2%未満、0.1%未満存在する。好ましくは、メチルエステル配糖体は配糖体の1%未満存在する。加水分解が行われた後の最終生成物中にどれだけのメチルエステル配糖体が存在するかは、日常的な実験室技術、例えば1H NMRを使用して決定することが可能である。一実施形態において、メチルエステル配糖体は、1H NMRによって決定されるように、配糖体の1%未満、0.9%未満、0.8%未満、0.7%未満、0.6%未満、0.5%未満、0.4%未満、0.3%未満、0.2%未満、又は0.1%未満存在する。メチルエステル配糖体の%は、組成物の重量%を指してもよい。メチルエステル配糖体の%は、配糖体の量に対する相対的な%を指してもよい。
【0041】
好ましい実施形態において、メチルエステル配糖体は、D5-エチル-βD-グルクロニド-メチルエステルである。好ましい実施形態において、配糖体は、D5-エチル-βD-グルクロニドである。そのような好ましい実施形態において、本発明は、D5-エチル-βD-グルクロニドを合成するための方法に関し、この方法は、
水中で塩基の存在下、D5-エチル-βD-グルクロニドメチルエステルを加水分解して配糖体を形成する工程
を含む。
【0042】
一態様において、本発明は、上記で定義したような方法によって得られる配糖体に関する。本発明の方法から得られる配糖体は、メチルエステル配糖体中間体を再形成する傾向が減少していることが示されている。好ましくは、本発明の方法により得られる配糖体には、揮発性官能基/化合物に連結したグリコシド結合が含まれる。
【0043】
一態様において、本発明は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含む配糖体を含む組成物に関し、ここで、この組成物は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含むメチルエステル配糖体を2%未満含む。好ましくは、この組成物は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含むメチルエステル配糖体を1%未満含む。
【0044】
この組成物中に存在する配糖体は、本明細書中に定義される配糖体の特徴のいずれを有してもよい。この組成物中に存在するメチルエステル配糖体は、本明細書中に定義されるメチルエステル配糖体の特徴のいずれを有してもよい。
【0045】
一実施形態において、組成物はD5-エチル-βD-グルクロニドを含み、ここで、組成物は1%未満のD5-エチル-βD-グルクロニド-メチルエステルを含む。
【0046】
この組成物は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含むメチルエステル配糖体を2%未満、1.9%未満、1.8%未満、1.7%未満、1.6%未満、1.5%未満、1.4%未満、1.3%未満、1.2%未満、1.1%未満、1%未満、0.9%未満、0.8%未満、0.7%未満、0.6%未満、0.5%未満、0.4%未満、0.3%未満、0.2%未満、0.1%未満含む。揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含む2%未満、1.9%未満、1.8%未満、1.7%未満、1.6%未満、1.5%未満、1.4%未満、1.3%未満、1.2%未満、1.1%未満、0.9%未満、0.8%未満、0.7%未満、0.6%未満、0.5%未満、0.4%未満、0.3%未満、0.2%未満、0.1%未満のメチルエステル配糖体は、任意の適切な技術を使用して決定することができ、例えば、1H NMRを介して決定することができる。メチルエステル配糖体の%は、組成物の重量%を指してもよい。メチルエステル配糖体の%は、配糖体の量に対する相対的な%を指してもよい。
【0047】
本発明の組成物又は本明細書に記載の配糖体は、がんの検出におけるプローブとして使用できる。このような組成物は、任意の合理的な経路、例えば任意の非経口経路又は経腸経路による投与に適している。例えば、任意の好都合な経路としては、経口、局所、非経口、舌下、直腸、膣、眼、鼻内、肺、皮内、硝子体内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、脳内、経皮、経粘膜、吸入によるものが挙げられるが、これらに限定されない。非経口投与としては、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、動脈内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、直腸内投与、膀胱内投与、皮内投与、局所投与、又は皮下投与が挙げられる。一実施形態において、組成物は、経口経路又は吸入による投与のために処方され得る。一実施形態において、組成物は、静脈内投与のために処方され得る。
【0048】
組成物は、薬学的に許容される担体又はビヒクルを含み得る。これは、例えば、組成物が錠剤又は粉末の形態であるように、微粒子でもよい。「担体」という用語は、配糖体を投与する際の希釈剤、アジュバント又は賦形剤を指す。このような医薬担体としては、水、油等の液体が挙げられ、油としては石油、動物、植物又は合成由来のもの、例えばピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等が挙げられる。担体としては、生理食塩水、アカシアガム、ゼラチン、糊化デンプン、タルク、ケラチン、コロイダルシリカ、尿素等が挙げられる。加えて、補助剤、安定化剤、増粘剤、滑沢剤、着色剤等を使用することができる。生理食塩水、デキストロース及びグリセロールの水溶液も、液体担体として、特に注射液用の液体担体として採用できる。適切な医薬担体は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等の賦形剤も含む。組成物は、所望により、少量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含有できる。組成物は、液体、例えば、溶液、エマルション又は懸濁液の形態でもよい。液体は、注射、注入(例えば、静脈内注入)又は皮下投与による送達に有用であり得る。経口投与用の固体組成物として、組成物は、粉末、顆粒、圧縮錠剤、丸薬、カプセル、チューインガム、ウエハース等の形態に製剤化できる。
【0049】
組成物は、1種又は複数種の投与単位の形態をとることができる。様々な経口用量剤形を使用することができ、錠剤、カプセル剤、液剤、顆粒剤、散剤等の固形剤を含む。錠剤は、圧縮されていてよく、粉薬錠剤、腸溶コーティング、糖コーティング、フィルムコーティング、又は多重圧縮とすることができ、適当な結合剤、滑沢剤、希釈剤、崩壊剤、着色剤、香味剤、流動化誘導剤、及び融解剤を含有する。液体経口用量剤形は、水溶液、エマルション、懸濁剤、非発泡性顆粒から再構成した溶液及び/又は懸濁剤、並びに発泡性顆粒から再構成した発泡性製剤を含み、適切な溶媒、保存剤、乳化剤、懸濁化剤、希釈剤、甘味剤、融解剤、着色剤及び香味剤を含有する。
【0050】
組成物は、液体、例えば、溶液、エマルション又は懸濁液の形態でもよい。液体組成物は、溶液、懸濁液、又は他の同様の形態であるかどうかにかかわらず、水、生理食塩水、好ましくは生理的食塩水、リンゲル液、等張塩化ナトリウム等の無菌希釈剤、合成モノ又はジグリセリド、ポリエチレングリコール、グリセリン、又は他の溶媒等の固定油;ベンジルアルコール又はメチルパラベン等の抗菌剤;及び塩化ナトリウム又はブドウ糖等の張力調整剤のうちの1種又は複数種を含むこともできる。組成物は、ガラス、プラスチック又は他の材料でできたアンプル、使い捨て注射器又は多回投与バイアルに封入できる。
【0051】
組成物は吸入用に製剤化されてもよく、その結果、組成物は適切な粒子径及び空気力学的直径で製剤化されてもよい。本発明の配糖体プローブは、通常、吸入用に製剤化することを可能にするために十分に小さい粒子サイズを有する。言い換えると、本発明の配糖体プローブの粒子径が小さいことは、吸入による投与に適している可能性があることを意味する。組成物はエアロゾル化のために最適化されてもよい。噴霧乾燥及び噴霧凍結乾燥のような技術は、吸入組成物として使用するのに十分な粉末分散性及び低凝集性を有する組成物を生成するために使用されてもよい。
【0052】
方法は、対象によって実施されてもよいし、臨床医等の第三者によって実施されてもよい。一実施形態において、方法は、非臨床環境において対象(又は第三者)によって実施されてもよい。「非臨床環境」とは、訓練された医療専門家でない人が、方法の工程の一部又は全部を実施することを意味する。例えば、方法の1工程又は複数工程を対象が自宅で実施してもよい。例えば、組成物を投与する工程及び生物学的試料を得る工程は、対象(又は第三者)によって、自宅等の非臨床環境で実施されてもよい。例えば、生物学的試料は、臨床的環境における(訓練を受けた医療専門家等による適切な)外部分析のために送付されてもよい。このような実施形態において、組成物は吸入用に製剤化されてもよい。
【0053】
一実施形態において、方法は、臨床医(又は他の適切な訓練を受けた医療専門家)によって実施してもよい。そのような実施形態において、組成物は、静脈内投与のために処方してもよい。
【0054】
本発明の一態様は、本発明の方法により得られる配糖体又は本明細書に記載の組成物、及び任意に使用説明書を含むキットに関する。
【0055】
一実施形態において、キットは、対象から生物学的マトリックス試料を捕捉するための装置を含む。生物学的マトリックスは、次いで、本発明の方法によって得られた配糖体の代謝物について分析されてもよい。生物学的マトリックス試料を捕捉するための装置は、血液試料、尿試料又は呼吸試料を捕捉するための装置でもよい。適切な装置は当該技術分野で公知である。
【0056】
一実施形態においては、キットは患者から呼気試料を捕捉するための装置を更に含む。呼吸を捕捉するための装置は、WO2017/187120又はWO2017/187141に記載されているようなものであってもよい。WO2017/187120の装置は、使用時に、対象の口と鼻を覆うように配置され、対象から吐き出される呼吸を捕捉するマスク部分を含む。呼気試料は、吸着材を含むチューブに供給され、目的の化合物が吸着される。十分な試料が得られた後、吸着剤チューブはサンプリング装置から取り出され、吸着された化合物は(通常は加熱により)脱着され、特定の化合物又は他の目的の物質の存在及び/又は量を同定するための分析に供される。好ましい分析技術は、電界非対称イオン移動度分光法(「FAIMS」と略される)である。WO2017/187120に記載された方法を改良した方法がWO2017/187141に開示されている。この文献では、実質的にWO2017/187120に記載された種類の呼吸サンプリング装置を使用するが、対象の呼気の所望の部分を選択的にサンプリングするような方法で使用することが教示されており、その理論的根拠は、特定のバイオマーカー又は目的の他の分析物が呼気の1個又は複数個の画分に相対的に濃縮され、その画分自体が対象の身体の異なる部分(例えば、鼻孔、咽頭、気管、細気管支、肺胞等)から吐き出される空気で相対的に濃縮されたものであるということである。
【0057】
本明細書に示すように、メチルエステル配糖体を配糖体に加水分解するために使用される標準条件は、メチルエステル配糖体を再形成する傾向を有する最終生成物をもたらし、そのような生成物はより高い細胞透過性を有することが示されている。標準的な条件は、メタノール中で塩基の存在下での加水分解を含む。対照的に、本発明者らは、メチルエステル配糖体を加水分解して配糖体にする際の条件であって、配糖体がメチルエステル配糖体を再形成する傾向が減少した条件を特定した。メチルエステル配糖体を水中で塩基の存在下で加水分解して得られる最終生成物は、標準的な条件で得られる配糖体と比較して細胞透過性が低下している。
【0058】
したがって、一態様において、本発明は、配糖体に基づく外因性揮発性有機化合物(EVOC)プローブの細胞透過性を低下させる方法に関し、
メチルエステル配糖体の配糖体への変換を促進する条件を適用する工程を含み、
ここで、配糖体の形成を促進する条件は、水中で塩基の存在下でのメチルエステル配糖体の加水分解を含む。
【0059】
「外因性揮発性有機化合物」という用語は、様々な経路で対象に投与され、体内で代謝と分布を受け、呼吸を介して排出される化合物を指す。加えて、がん特異的酵素によるEVOCの代謝により、呼吸中にも検出される揮発性化合物が生成されることがある。
【0060】
一態様において、本発明は、診断呼吸試験における、本発明の方法によって得られる配糖体又は本明細書に記載の組成物の使用に関する。一実施態様において、本発明は、対象の疾患状態を検出又は予後できる呼吸試験における、本発明の方法によって得られる配糖体又は本明細書に記載の組成物の使用に関する。一実施形態において、本発明は、対象の疾患状態を検出又は予後できる呼吸試験における使用のための、本発明の方法によって得られる配糖体又は本明細書に記載の組成物に関する。疾患状態は、がん、好ましくは肺がん、又は肺炎症から選択され得る。
【0061】
配糖体又は配糖体を含む組成物は、0.05~10mg/kg、例えば0.5~10mg/kg、例えば0.5~5mg/kg、例えば1~3mg/kg、例えば約2mg/kgの濃度で投与できる。一実施形態において、投与は静脈内投与、吸入又は経口投与である。一実施形態において、投与は静脈内投与であり、0.5~10mg/kg、例えば0.5~5mg/kg、例えば1~3mg/kg、例えば約1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10mg/kgである。一実施形態において、投与量は2mg/kgである。一実施形態において、投与は吸入又は経口投与であり、0.05~10mg/kg、例えば0.5~5mg/kg、例えば1~3mg/kg、例えば約1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10mg/kgである。一実施形態において、投与量は2mg/kgである。
【0062】
呼吸試験は、本発明の方法により得られた配糖体又は本明細書に記載の組成物を対象に投与することを含み、投与された配糖体は疾患特異的酵素により生体内変換される。配糖体の生体内変換は、グリコシド結合の切断を伴い、したがって揮発性化合物の放出を伴う。揮発性化合物は、対象の呼吸から検出できる。
【0063】
本明細書で使用される「対象」とは、試験対象、例えば哺乳類の対象、好ましくはヒトを指す。一実施形態において、呼気の試料は、疾患の有無を診断又はスクリーニングする目的で得られる。対象は、男性であっても女性であってもよい。対象は、乳児、幼児、小児、若年成人、成人又は老人であってもよい。一実施形態において、対象はがん患者、例えば肺がん患者、例えばステージIIAの肺がん患者である。
【0064】
疾患特異的酵素は、がん特異的酵素であってもよい。本明細書で使用される「がん特異的酵素」とは、その酵素ががん組織には存在しないが、非がん組織には存在する;その酵素ががん組織には存在するが、非がん組織には存在しない;その酵素が非がん組織と比較してがん組織で差別的に発現する、又は酵素が非がん組織と比較してがん組織で差別的に活性である;のうちの1種又は複数種から選択される酵素である。例えば、この酵素は非がん組織での発現と比較して、がん組織では高いレベルで発現、又は低いレベルで発現していてもよい。発現は、例えばmRNAの定量やcDNAの測定等、当技術分野で公知の技術によって測定することができる。非がん組織とは、例えば、健康な組織を指す。組織は特定の臓器、例えば肺、結腸、乳房、前立腺等に由来してもよい。
【0065】
例えば、酵素は、がん組織では非がん組織とは異なる場所に局在している場合があり、例えば、酵素はがん組織の細胞外腔に存在するが、非がん組織ではこの酵素は細胞外腔には存在しない。腫瘍の壊死とマクロファージ及び好中球からのリソソーム酵素の放出との組み合わせにより、腫瘍微小環境の細胞外腔に特定の酵素が存在する。一実施形態において、外因性基質は、固形腫瘍の細胞外腔に存在する酵素の基質である。酵素は、細胞外リソソーム酵素であってもよい。「細胞外リソソーム酵素」とは、リソソームから細胞外腔に放出された酵素のことである。リソソームから細胞外腔に放出され得る酵素の具体例としては、β-グルクロニダーゼ、β-ガラクトシダーゼ等が挙げられる。特に、細胞外腔におけるβ-グルクロニダーゼの存在は、がんの徴候である。一実施形態において、がん特異的酵素は、β-グルクロニダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-L-アラビノフラノシダーゼ、N-アセチル-β-D-ガラクトサミニダーゼ、N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ、ヘキソサミニダーゼ、α-L-フコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、α-L-イズロニダーゼ、α-マンノシダーゼ、β-マンノシダーゼ、リパーゼ、ホスファターゼ、サルファターゼから選択される。好ましい実施形態において、がん特異的酵素は、β-グルクロニダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-L-アラビノフラノシダーゼ、N-アセチル-β-D-ガラクトサミニダーゼ、N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ、ヘキソサミニダーゼ、α-L-フコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、α-L-イズロニダーゼ、α-マンノシダーゼ、β-マンノシダーゼから選択される。
【0066】
一実施形態において、呼吸検査は、がん、任意選択的に肺がんを検出するための検査であってもよい。
【0067】
一態様において、本発明は、がんの検出又は予後のための方法に関し、対象の生物学的マトリックス中のがん特異的酵素のための外因性基質の濃度及び/又は前記基質の代謝物の濃度を測定することによって、前記酵素の活性を評価する工程を含み、ここで、前記外因性基質は、本発明に従って得られる配糖体又は本発明に従う組成物である。
【0068】
一態様において、本発明は、がんの検出又は予後のための方法に関し、対象の生物学的マトリックス中のがん特異的酵素に対する外因性基質の濃度及び/又は前記基質の代謝産物の濃度を測定することによって、前記酵素の活性を評価する工程を含み、ここで、前記外因性基質は配糖体であり、配糖体は0.05~10mg/kgの濃度で投与され、代謝産物の濃度は配糖体の投与後300分まで測定される。
【0069】
配糖体は、0.5~5mg/kg、例えば1~3mg/kg、約1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10mg/kgの濃度で投与することができる。一実施形態において、投与量は2mg/kgである。一実施形態において、投与は静脈内投与、吸入投与又は経口投与である。
【0070】
一実施形態において、投与は静脈内投与であり、0.5~10mg/kg、例えば0.5~5mg/kg、例えば1~3mg/kg、例えば約2mg/kgである。一実施形態において、投与は吸入投与又は経口投与であり、0.05~10mg/kg、例えば0.5~5mg/kg、例えば1~3mg/kg、例えば約1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10mg/kgである。一実施形態において、投与量は2mg/kgである。
【0071】
一実施形態において、代謝物の濃度は、配糖体の投与後10~30分、10~120分、10~180分、30~120分又は30~180分に測定される。一実施形態において、代謝物の濃度は、配糖体の投与後、5分、10分、20分、30分、40分、50分、60分、70分、80分、90分、100分、110分、120分、130分、140分、150分、160分、170分、180分、190分、200分、210分、220分、230分、240分、250分、260分、270分、280分、29分又は300分に測定される。
【0072】
一実施形態において、方法は、結果と、例えば免疫組織化学によって測定されるような、試料中のβ-グルコロニダーゼ発現とを相関させる工程を含む。試料は、検査された対象、又は参照試料を形成する対象、例えばがんと診断された個人又は健康な対象に由来してもよい。
【0073】
配糖体は、揮発性官能基に連結されたグリコシド結合を含む配糖体を含む組成物として提供してもよく、ここで、組成物は、本明細書に記載されるような、揮発性官能基に連結されたグリコシド結合を含むメチルエステル配糖体を1%未満含む。一実施形態において、配糖体は、配糖体を合成するための方法によって得られ、この方法は、
水中で塩基の存在下、メチルエステル配糖体を加水分解して配糖体を形成する工程を含み、
ここで、メチルエステル配糖体が再形成しようとする傾向は、本明細書に記載されているように減少する。
【0074】
一態様において、本発明は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含む配糖体を含む組成物に関し、ここで、組成物は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含むメチルエステル配糖体を1%未満含み、対象の生物学的マトリックス中のがん特異的酵素のための外因性基質の濃度を測定すること、及び/又は前記基質の代謝物の濃度を測定することによって、前記酵素の活性を評価する工程を含む、がんの検出又は予後のための方法において使用され、ここで、前記外因性基質は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含む配糖体を含む組成物であり、組成物は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含むメチルエステル配糖体を1%未満含む。一実施形態において、配糖体は、0.05~10mg/kg、0.5~10mg/kg、0.5~5mg/kg、1~3mg/kg、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10mg/kgの濃度で投与されてもよい。一実施形態において、投与量は2mg/kgである。
【0075】
一実施形態において、投与は静脈内投与であり、0.5~10mg/kg、例えば0.5~5mg/kg、例えば1~3mg/kg、例えば約1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10mg/kgである。一実施形態において、投与量は2mg/kgである。一実施形態において、投与は吸入投与であり、0.05~10mg/kg、例えば0.5~5mg/kg、例えば1~3mg/kg、例えば約1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10mg/kgである。一実施形態において、投与量は2mg/kgである。一実施形態において、代謝物の濃度は、配糖体の投与後10~30分、10~120分又は10~180分に測定される。
【0076】
一実施形態において、代謝物の濃度は、配糖体の投与後10~30分、10~120分、10~180分、30~120分又は30~180分に測定される。一実施形態において、代謝物の濃度は、配糖体の投与後5分、10分、20分、30分、40分、50分、60分、70分、80分、90分、100分、110分、120分、130分、140分、150分、160分、170分、180分、190分、200分、210分、220分、230分、240分、250分、260分、270分、280分、29分又は300分に測定される。
【0077】
疾患特異的酵素は炎症特異的酵素であってもよい。特定の実施形態において、酵素は肺炎症に特異的でもよい。それによって、呼吸検査は肺炎症の検出又は予後に使用することができる。一態様において、本発明は、肺炎症の検出又は予後のための方法に関し、対象の生体マトリックス中の肺炎症特異的酵素のための外因性基質の濃度及び/又は前記基質の代謝物の濃度を測定することによって前記酵素の活性を評価する工程を含み、ここで、前記外因性基質は、本発明に従って得られる配糖体又は本発明による組成物である。
【0078】
一態様において、本発明は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含む配糖体を含む組成物に関し、ここで組成物は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含むメチルエステル配糖体を1%未満含み、肺炎症の検出又は予後のための方法において使用するための組成物であって、方法は対象の生物学的マトリックス中の肺炎症特異的酵素のための外因性基質の濃度を測定すること及び/又は前記基質の代謝物の濃度を測定することによって、前記酵素の活性を評価する工程を含み、ここで、前記外因性基質は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含む配糖体を含む組成物であって、組成物は、揮発性官能基に連結したグリコシド結合を含むメチルエステル配糖体を1%未満含む。
【0079】
「肺炎症」という用語は、慢性又は急性の肺炎症を指し得る。肺炎症は、例えばインフルエンザ等の呼吸器感染症等の感染症や、喘息、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患、肺がん等の呼吸器疾患によって引き起こされ得る。
【0080】
生物学的マトリックスという用語は、目的の分析物を含む生物学的試料を指す。一実施形態において、生物学的マトリックスは、血液、尿、呼気から選択される。一実施形態において、生物学的マトリックスは呼気である。生物学的マトリックスが血液である場合、これは血漿又は血液細胞を指してもよい。生物学的マトリックスの試料は、任意の合理的な手段で得ることができる。
【0081】
上述したように、グリコシド結合は開裂可能であり、それにより配糖体から揮発性官能基が放出される。そのため、基質(本発明の配糖体又は組成物)の代謝産物は、揮発性官能基であってもよい。基質及び/又は代謝物の濃度は、当該技術分野で公知の方法を使用して測定することができる。本明細書で使用される濃度とは、呼気中の基質及び/又は代謝物の含有量又は質量を意味し、例えばグラム/リットル(g/l)で表される。一実施形態において、濃度は、例えばクリアランスの動態を測定することによって経時的に測定される。例えば、濃度は、生体マトリックス試料からの基質のクリアランスの動態プロフィールを評価することによって測定され、このプロフィールは次いで読み出し値として使用される。加えて、又は代替的に、基質から誘導されうる代謝産物の分泌を経時的に測定することができる。例えば、生物学的マトリックス試料からの基質のクリアランス及び代謝産物の分泌は、共に同じ生物学的マトリックス試料で同時に又は異なる時間に測定できる。
【0082】
方法は、外因性基質、すなわち本発明による配糖体又は組成物を対象に供給する工程を含み得る。したがって、一実施形態において、方法は、基質を対象に投与する工程を含む。投与は、使い勝手の良いいかなる経路でもよく、経口、局所、非経口、舌下、直腸、膣、眼、鼻内、肺、皮内、硝子体内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、脳内、経皮、経粘膜、吸入による、又は局所、特に耳、鼻、目、又は皮膚への、又は吸入による投与を含むがこれらに限定されない。非経口投与としては、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、動脈内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、直腸内投与、膀胱内投与、皮内投与、局所投与又は皮下投与が挙げられる。好ましくは、組成物は経口投与される。当業者であれば、試験される酵素及び疾患に投与経路が依存することは知っているであろう。例えば、標的酵素が消化管に存在する場合は経口投与が好ましく、肝発現の場合は経口投与又は静脈内投与のいずれかが実行可能な選択肢となる。
【0083】
一実施形態において、基質及び/又はその代謝物の濃度又は量は、複数の生物学的マトリックス試料において絶対的に又は相対的に決定してもよく、例えば、呼気試料において濃度を決定する場合、第1の呼吸試料(第1の時間帯に収集)及び第2の呼吸試料(その後の第2の時間帯に収集)において決定してもよく、したがって、経時的な濃度の動態又は変化率の分析が可能となる。
【0084】
呼気の試料は、例えば、対象に、バッグ、ボトル又は他の任意の適切なガスサンプリング製品のようなガスサンプリング容器に空気を吐き出すように依頼して、対象から呼吸を収集することによって得られる。好ましくは、ガスサンプリング容器は、バッグ内外へのガス透過に抵抗し、及び/又は化学的に不活性であり、それにより試料の完全性が保証される。呼気は、呼吸収集装置を使用して収集することもできる。好ましくは、呼気の試料の収集は、低侵襲的又は非侵襲的な方法で行われる。
【0085】
対象からの呼気試料中の基質(すなわち、本発明による配糖体又は組成物)及び/又は代謝物の量の決定は、ガスクロマトグラフィー法(GC)、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)、イオンモビリティースペクトロメトリー/質量分析法(IMS/MS)、プロトン移動反応質量分析法(PTR-MS)、電子鼻装置(Electronic Nose device)、水晶振動子マイクロバランス、又は化学的に感度の高いセンサーを含むがこれらに限定されない、少なくとも1種の技法の使用により行うことができる。
【0086】
対象からの呼気の試料中の基質(すなわち、本発明による配糖体又は組成物)及び/又は代謝物の量は、熱脱離-ガスクロマトグラフ飛行時間型質量分析法(GC-Tof-MS)を使用して決定できる。特定の実施形態において、対象の呼吸を不活性バッグに収集し、標準化された条件下でバッグの内容物を脱着管に輸送し、管の内容物を熱脱着してVOCを分析し、キャピラリーガスクロマトグラフィーで分離する。その後、揮発性有機ピークをMSで検出し、例えば国立標準技術研究所のようなライブラリを使用して同定する。熱脱着はGC入口で、例えば約200~350℃の温度で行うことができる。すべてのクロマトグラフィーでは、試料混合物が移動相に導入(注入)されると分離が起こる。ガスクロマトグラフィー(GC)では、通常、ヘリウム等の不活性ガスを移動相として使用する。GC/MSは、生物学的試料から個々の成分の分離、同定、及び/又は定量を可能にする。本発明で使用できるMS法として、電子イオン化、エレクトロスプレーイオン化、グロー放電、電界脱離(FD)、高速原子衝撃(FAB)、熱スプレー、シリコン上の脱離/イオン化(DIOS)、リアルタイムでの直接分析(DART)、大気圧化学イオン化(APCI)、二次イオン質量分析(SIMS)、スパークイオン化、熱イオン化(TIMS)等が挙げられるが、これらに限定されない。マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF-MS)は、対象の呼気試料から1種又は複数種のVOCを決定するために使用することができる質量分析法の一例である。
【0087】
一実施形態において、方法は、異なる選択された呼気試料又はその分画を単一の呼吸試料捕捉装置で収集する工程を含み、方法は、
(a)吸着材料を含む捕捉デバイスに試料を接触させることにより、第1の呼気試料を収集する工程と、
(b)第2の試料を前記捕捉デバイスに接触させることにより、第2の呼気試料を収集する工程であって、ここで、第1及び第2の呼気試料は、空間的に離されて捕捉デバイス上に捕捉される工程と、
を含む。
【0088】
いくつかの実施形態において、捕捉装置は、多孔性ポリマー樹脂の形態の吸着剤材料を含む。適切な吸着剤材料としては、Tenax(登録商標)樹脂及びCarbograph(登録商標)材料が挙げられる。Tenax(登録商標)は、2,6-ジフェニル-p-プロピレンオキシドモノマーに基づく多孔性ポリマー樹脂である。Carbograph(登録商標)材料は黒鉛化カーボンブラックである。一実施形態において、材料は、Tenax(登録商標)TAと30%のグラファイトの混合物を含むTenax GRである。Carbograph(登録商標)吸着剤の1種は、Carbograph 5TDである。一実施形態において、捕捉装置はTenax GRとCarbograph 5TDの両方を含む。捕捉装置は都合にいいことには吸着剤チューブである。これは中空の金属円筒であり、通常は、標準的な寸法(長さ3 1/2インチ、内径1/4インチ)で、適切な吸着材が充填されている。
【0089】
一実施形態において、本発明の方法は、1種又は複数種の基質及び/又は代謝物濃度の対象値を規定することを更に含む。
【0090】
一実施形態において、本発明の方法は、対象値を1個以上の基準値と比較することを更に含む。一実施形態において、前記基準値は健常な対象からのものである。別の実施形態において、前記基準値は、疾患と診断された対象からのものである。
【0091】
一実施形態において、基準値は、健常対象から算出された値に対応する健常対象値である。一実施形態において、健康対象値の範囲のそれぞれよりも大きい量の1種又は複数種の対象値の存在は、試験対象における疾患状態の実質的な可能性を示す。
【0092】
一実施形態において、適切な基準が、対象が疾患を有さないことを示す場合、疾患の特徴付け又は診断を必要とする対象から決定された値と適切な基準との間の検出可能な差(例えば、統計的に有意な差)は、対象における疾患を示す場合がある。一実施形態において、適切な基準が疾患を示す場合、疾患の特徴付け又は診断を必要とする対象から決定された値と適切な基準との間の検出可能な差の欠如(例えば、統計的に有意な差の欠如)は、対象における疾患を示す場合がある。
【0093】
したがって、一態様において、方法は、対象からの生体マトリックス試料中の基質及び/又は代謝物の濃度を検出する工程、及び基質及び/又は代謝物の1種又は複数種のレベルが健常対象値と異なる場合、対象を疾患状態の可能性があると診断する工程を含む。
【0094】
本発明の方法は、前記疾患の治療法を選択する工程を更に含み得る。方法は、前記対象に前記治療法を施す工程を更に含み得る。
【0095】
本明細書において定義されない限り、本開示に関連して使用される科学用語及び技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。前述の開示は、本発明を製造及び使用する方法、並びにそれらの最良の様式を含む、本発明の範囲内に包含される主題の一般的な説明を提供するが、以下の実施例は、当業者が本発明を実施することを更に可能にし、書面による完全な説明をするために提供される。しかしながら、当業者は、これらの実施例の具体的内容が本発明を限定するものとして読むべきではなく、その範囲は本開示に添付された特許請求の範囲及びその均等物から理解すべきであることを理解するであろう。本発明の様々な更なる態様及び実施形態は、本開示の観点から当業者には明らかであろう。
【0096】
本明細書で言及されるすべての文書は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0097】
本明細書で使用される「及び/又は」は、2種の指定された特徴又は構成要素の各々について、他方の有無にかかわらず、具体的に開示されているものとみなされる。例えば、「A及び/又はB」は、(i)A、(ii)B、及び(iii)A及びBのそれぞれの具体的な開示とみなされ、それぞれが本明細書に個別に記載されているかのように解釈される。文脈が別様に指示しない限り、上記に記載された特徴の説明及び定義は、本発明の特定の態様又は実施形態に限定されず、記載されたすべての態様及び実施形態に等しく適用される。
【実施例】
【0098】
本発明を以下の非限定的実施例で更に説明する。
【0099】
(実施例1)
D5-エチル-βD-グルクロニド及びD5-エチル-βD-グルクロニド-メチルエステルの血液実験プロトコールにおける用量範囲
目的-以下の実験は、D5-エチル-βD-グルクロニドとD5-エチル-βD-グルクロニド-メチルエステル不純物の両方から血液細胞によって生成されるD5-エタノールのレベルを比較するために行われた。プローブがヒト血液中でどのように作用するかを理解する。プローブ(D5-エチル-βD-グルクロニド)とメチルエステル(D5-エチル-βD-グルクロニド-メチルエステル)の異なる濃度における血液中のバックグラウンド切断を決定する。切断されたD5-エタノールは、血液のヘッドスペースから抽出され、D5-エタノール分析法で測定された。
方法-6.1 D5-エチル-βD-グルクロニドをPBSで1ug/ulに希釈する。
・この10μlを90μlのPBSで100ng/ulに希釈し、少量投与に使用する。
・当日採血された血液は、スクリーニング後OMLに送られる。
・600μlの血液をITEXヘッドスペースバイアルに等分する。バイアルはプローブ試料用に10本、メチルエステル試料用に10本。
・D5-エチル-βD-グルクロニドTable 1((表1))及びD5-エチル-βD-グルクロニドメチルエステル(Tabel 2(表2))を各バイアルに指示濃度で添加する。
・すべての試料を37℃の水浴で2時間インキュベートする。
・2時間後、各ITEXバイアルの隔壁から100μM D-サッカリン酸-1,4-ラクトンをシリンジで添加し、β-グルクロニダーゼの活性を阻害するために穏やかに混合し、氷上(4℃)に置く。
・試料をITEXオートサンプラーに置き、D5-エタノール分析法でD5-エタノールを測定する。
【0100】
【0101】
【0102】
結果-β-グルクロニダーゼは血液細胞内にのみ存在すると予想される。D5-エチル-βD-グルクロニド(D5-EG)は細胞透過性ではないため、細胞内に侵入してβ-グルクロニダーゼによって切断され、D5-エタノールが生成されることはない。したがって、D5-エチル-βD-グルクロニドとインキュベートした場合、血液中のD5-エタノール濃度は低くなると予想される。
【0103】
D5-エチル-βD-グルクロニド-メチルエステル(D5-EG-ME)は細胞透過性が高いと予想される。もしそうであれば、D5-EG-MEは細胞内に侵入し、細胞内のβ-グルクロニダーゼによって切断され、その結果D5-エタノールの生成が増加することになる。
【0104】
実際、血液細胞をD5-EGとインキュベートした場合、試験した最高濃度では少量のD5-エタノールしか生成されなかった(
図2)。対照的に、血液細胞をD5-EG-MEとインキュベートした場合、試験した最高濃度と2番目に高い濃度で、はるかに高いD5-エタノールレベルが生成された(
図2)。
【0105】
したがって、メチルエステルが存在すると、正常細胞によりD5-エタノールが生成されることになり、これは肺がんを検出するプローブとしては好ましくない。
【0106】
(実施例2)
メチルエステル含量を低下させる条件の特定。
D5-EG-MEをD5-EGに変換する条件は、以下に示すように、メタノール中で塩基の存在下でのD5-EG-MEの加水分解を含む:
【0107】
【0108】
反応は、プロトンNMRを介して監視され、生成物(D5-EG)中に残留D5-EG-MEが残っていないことを確認する。陽イオン交換及び一連の水とメタノールの共蒸発の後、D5-EGは白色固体として単離された。これらの方法条件下では、逆反応が可能であり、メチルエステルを再形成できることが分かった。このように、D5-EG中に不純物としてメチルエステルが存在すると、プローブとして使用した場合、D5エタノールの放出レベルが高くなるが、これはD5-EG-MEの細胞透過性が高いためである。このため、この生成物を肺がん検出のためのEVOCプローブとして使用した場合、D5エタノールのバックグラウンドレベルが高くなり、偽陽性を引き起こす可能性がある。
【0109】
1HNMRを使用して、加水分解、樹脂交換、水とメタノールの共蒸発後の生成物の特性を決定した。その結果、D5-EG-MEは最終製品中に1%のレベルで存在することが示された。
図3のNMRスペクトルは、3.7にメチルエステルを示す一重項ピークを示している。
【0110】
そのため、D5-EG-MEの改質を抑える条件の特定が行われた。その結果、周囲条件下、水中で塩基の存在下、D5-EG-MEを加水分解することにより、以下に示すことが、驚くべきことに分かった。
【0111】
【0112】
生成物に残留INT_005_0012が残留していないことを確認するため、プロトンNMRで反応を監視した。樹脂交換と水溶媒の蒸発後、生成物は白色固体として単離される。この方法条件下ではメタノールは存在せず、生成物の単離中にメチルエステルが再形成されることはない。これにより、メチルエステル不純物をプロトンNMRで1%未満のレベルに制御することができる。
図4の
1H MNRスペクトルは、3.7にメチルエステルを示す一重項ピークがないことを示している。
【0113】
(実施例3)
大規模加水分解
手順
D5-EG-MEを水(22mL)に懸濁し、室温で5分間撹拌し、透明な淡黄色溶液を形成した。次に、水中のNaOH(22mL)を滴下して加え、濃い黄色の溶液を形成した。
反応混合物を約3時間撹拌した。
反応混合物を1H NMRで分析した。
1H NMR:試料50μLを採取し、約25mgのDowexとともに水(100μL)に加えた。15分間放置し、試料を濃縮した。
約3.73ppmにあるはずのメチルピークがないことから、D5-EG-MEの証拠はない。
反応混合物に予備洗浄したDowex(登録商標)50WX8 50-100 (H)(18g)を加えた。
室温で2.5時間撹拌し、ろ過した。ろ液のpH:3.8、黄色溶液。Dowexを水(2×30mL)で洗浄した。ろ液に予備洗浄したDowex(登録商標)50WX8 50-100(H)(18g)を加えた。室温で90分間撹拌し、ろ過した。ろ液のpH:2.2(pH計のpHはまだ低下している)薄い黄色の溶液。
Dowexを水(2×30mL)で洗浄した。
ろ液を濃縮乾固(55℃まで、2時間まで)し、クリーム状の固体を得た。収量=7.94g(95%)
【0114】
(実施例4)
D5-エチル-βD-グルクロニド-メチルエステルの調製
出発物質D5-エチル-βD-グルクロニド-メチルエステルは、以下の方法に従って調製した。
【0115】
工程1-炭酸銀を使用して、D6エタノールをブロモ糖1でグルクロニド化し、グルコピラノシド2を得る。
【0116】
【0117】
工程2-ナトリウムメトキシドを使用して、グルコピラノシド2を脱アセチル化し、D5-エチル-βD-グルクロニド-メチルエステル3を得る。
【0118】
【0119】
メチルエステルが調製されると、本発明に従ってメチルエステルの加水分解を実施することができる。
【0120】
(実施例5)
プローブの投与
D5-エチル-βD-グルクロニドを2mg/kgの濃度で健常対象及び肺がん患者に投与した。投与は静脈内投与で行った。
【0121】
その後、呼吸試料中の代謝物濃度を測定した。呼吸試料は、プローブ投与後、指定された時間にReCIVA(登録商標)ブレスサンプラーを使用して収集された。呼吸収集後、吸着チューブがReCIVA(登録商標)から取り出され、締めくくられ、分析のためにOwlstone Medical社に送られた。Owlstone Medical社で、吸着チューブはTD-GC-MSを使用してD5-エタノールを分析した。
【0122】
プローブ投与後、健常対照でD5-エタノールは検出されなかった。肺がん患者(ステージIIA)ではD5エタノールのシグナルが検出された。
図6に示すように、代謝物はプローブ投与から10分後という早い段階で検出される。
【0123】
(実施例6)
免疫組織染色を使用して、β-グルクロニダーゼの発現をヒト肺がん組織と正常肺組織で測定した。その結果を
図7に示す。
(参考文献)
【国際調査報告】