(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】ディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜
(51)【国際特許分類】
G02B 1/111 20150101AFI20241108BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20241108BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241108BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20241108BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20241108BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20241108BHJP
C09D 183/08 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
G02B1/111
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/65
C09D4/02
C09D163/00
C09D183/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572754
(86)(22)【出願日】2023-02-28
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 CN2023078722
(87)【国際公開番号】W WO2024082511
(87)【国際公開日】2024-04-25
(31)【優先権主張番号】202211286869.8
(32)【優先日】2022-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523442817
【氏名又は名称】寧波甬安光科新材料科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】NINGBO YONGAN OPTICAL NEW MATERIAL TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】A1-1, Building 9, No.2, Lane 189 Canghai Road, Hi-Tech Zone, Ningbo City, Zhejiang Province 315105, China
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100175617
【氏名又は名称】三崎 正輝
(72)【発明者】
【氏名】徐 耀
(72)【発明者】
【氏名】鐘 傑
(72)【発明者】
【氏名】牟 桂江
(72)【発明者】
【氏名】韓 超
(72)【発明者】
【氏名】陳 瑜爽
【テーマコード(参考)】
2K009
4J038
【Fターム(参考)】
2K009AA06
2K009CC02
2K009CC03
2K009CC06
2K009CC09
2K009CC23
2K009CC24
2K009CC33
2K009CC34
2K009CC35
2K009CC42
4J038CC022
4J038CC062
4J038CG002
4J038CJ032
4J038DL032
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4J038GA12
4J038HA026
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4J038HA446
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4J038KA04
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA20
4J038KA21
4J038MA07
4J038MA09
4J038MA14
4J038NA11
4J038NA19
4J038PA17
4J038PB08
4J038PC08
(57)【要約】
下から上へ順に配置される、基材(10)、AGコーティング(20)、HRコーティング(30)、ARコーティング(40)を含むディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜であって、アンチグレアのAGコーティング(20)と、高屈折のHRコーティング(30)と、低屈折のARコーティング(40)とを、階層構造を限定する方式で複合させ、AGコーティング(20)において無機耐摩耗性粒子の成分及び形態を限定し、それをバインダー樹脂に分散させることによりアンチグレア、耐摩耗性能の向上などの作用を果たし、シリカの粒子径及び形態を限定し、凝集形態は部分的に硬化後のコーティング表面に凹凸の形態を形成し、部分的にコーティング内部に存在し、合わせてアンチグレア効果を向上させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下から上へ順に配置される、基材、AGコーティング、HRコーティング、ARコーティングを含み、
AGコーティングは、バインダー樹脂、シリカ粒子、有機粒子、無機耐摩耗性粒子を含み、前記シリカ粒子は、100nm-3000nmの凝集体粒子であり、前記有機粒子は、ポリメチルメタクリレート微粒子、ポリスチレン微粒子、ポリメチルメタクリレートポリスチレン共重合体微粒子、及びポリシルセスキオキサン微粒子のうちの1種又は複数種であり、前記無機耐摩耗性粒子は、ナノアルミナ、ナノジルコニア、ナノダイヤモンド、及び六方晶窒化ホウ素ナノシートのうちの1種又は複数種であり、前記無機耐摩耗性粒子は、50-200nmの凝集体粒子であり、
HRコーティングの屈折率は1.53-1.74であり、
ARコーティングの屈折率は1.2-1.48である、
ことを特徴とする、ディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜。
【請求項2】
HRコーティングは、バインダー樹脂と、屈折率2.0-2.8の無機金属酸化物粒子とを含み、無機金属酸化物粒子は、コーティング中で粒子径10-80nmの粒子状に凝集し、無機金属酸化物粒子は、ナノジルコニア又は酸化チタンであり、
ARコーティングは、バインダー樹脂と、屈折率1.15-1.40の中空シリカ粒子を含む、
ことを特徴とする、
請求項1に記載のディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜。
【請求項3】
AGコーティングは、質量部で、バインダー樹脂22-45部、シリカ粒子3-7部、有機粒子1-3部、無機耐摩耗性粒子1-3部を含み、
HRコーティングは、質量部で、バインダー樹脂40-200部、ナノジルコニア粒子20-75部を含み、
ARコーティングは、質量部で、バインダー樹脂9-25部、中空シリカ粒子30-80部を含む、
ことを特徴とする、
請求項1に記載のディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜。
【請求項4】
AGコーティング、HRコーティング、及びARコーティングにおけるバインダー樹脂は、いずれも6官能基以上の光硬化オリゴマー樹脂、3官能基以上の光硬化希釈モノマー樹脂を含み、
光硬化オリゴマー樹脂は、ポリウレタンアクリレートオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレート及びポリエーテルアクリレート、ポリアクリル酸樹脂オリゴマー、エポキシ樹脂ポリマー、酸素含有アクリレート、尿酸アクリレートのうちの1種又は複数種であり、
光硬化希釈モノマー樹脂は、エチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、スチレン、メチルスチレン、N-ビニルピロリドン単官能モノマー、ポリメチロールプロパントリメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレートのうちの1種又は複数種である、
ことを特徴とする、
請求項3に記載のディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜。
【請求項5】
ARコーティングは、含フッ素重合体2-8部、無機粒子5-30部、POSS 5-23部を含み、無機粒子は、フッ化マグネシウム、窒化ホウ素、シリカ、アルミナのうちの1種又は複数種であり、含フッ素重合体は、部分フッ素化アクリレートシリコーンコポリマー、部分又は完全フッ素化アクリル化合物、部分又は完全フッ素化ビニルエーテルのうちの1種又は複数種であり、POSSは、フェニルPOSS、アミノPOSS、ビニルPOSS、アクリルPOSSのうちの1種又は複数種である、
ことを特徴とする、
請求項3に記載のディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜。
【請求項6】
AGコーティングを形成するために用いられる塗布液は、質量百分率で、6官能基以上の光硬化オリゴマー樹脂18%-38%、3官能基以上の光硬化希釈モノマー樹脂4%-7%、シリカ粒子8%-12%、有機粒子1%-3%、無機耐摩耗性粒子1%-3%、助剤1%-5%、光開始剤1%-3%を含む、
ことを特徴とする、
請求項3に記載のディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜。
【請求項7】
HRコーティングを形成するために用いられる塗布液は、質量百分率で、6官能基以上の光硬化オリゴマー樹脂1%-3%、3官能基以上の光硬化希釈モノマー樹脂0.3%-1%、ナノジルコニア粒子1%-3%、助剤0.05%-0.2%、光開始剤0.1%-0.5%を含む、
ことを特徴とする、
請求項3に記載のディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜。
【請求項8】
ARコーティングを形成するために用いられる塗布液は、質量百分率で、6官能基以上の光硬化オリゴマー樹脂0.25%-0.5%、3官能基以上の光硬化希釈モノマー樹脂0.05%-0.1%、中空シリカ粒子0.3%-1.5%、中実シリカ粒子0.1%-1%、POSS 0.1%-1%、光開始剤0.1%-0.5%を含む、
ことを特徴とする、
請求項3に記載のディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜。
【請求項9】
AGコーティングを形成するために用いられる塗布液において、前記シリカ粒子が分散液として添加され、一次粒子径10nm-50nmで溶媒と混合処理して、二次粒子径100nm-2000nmのシリカ粒子分散液が得られ、
前記無機耐摩耗性粒子が分散液として添加され、一次粒子径10-50nmで溶媒と混合されて二次粒子径50-200nmの分散液が得られ、
前記有機粒子の粒子径は、1μm-10μmである、
ことを特徴とする、
請求項6に記載のディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜。
【請求項10】
ナノジルコニア粒子の平均粒子径はHRコーティングの厚さの5%-80%であり、中空シリカの粒子径は50-80nmであり、中実シリカの平均粒子径はARコーティングの厚さの30%-100%である、
ことを特徴とする、
請求項8に記載のディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜。
【請求項11】
前記無機耐摩耗性粒子は、六方晶窒化ホウ素ナノシートを前処理して形成されたものであり、前処理工程では、一次粒子径の六方晶窒化ホウ素ナノシートを溶媒と撹拌混合して超音波分散処理してコロイド液を得て、コロイド液を遠心処理して一次底部固体を取得し、
一次底部固体に対して上記前処理工程を繰り返して二次底部固体を取得し、
二次底部固体に対して上記前処理工程を繰り返して、得られた遠心分離液である無機耐摩耗性粒子の分散液を収集する、
ことを特徴とする、
請求項9に記載のディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜。
【請求項12】
ナノジルコニア粒子は、正方晶型、立方晶型のうちの1種又は2種以上の混合である、
ことを特徴とする、
請求項2に記載のディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜。
【請求項13】
ナノジルコニア粒子は、HRコーティングを形成するために用いられる塗布液に分散液として添加され、
ナノジルコニア粒子の分散液は、
まず、ジルコニウム含有化合物と、溶媒、有機酸の混合物とを所定の割合で混合し、250-320℃まで昇温し、一定温度で3-18時間反応させ、
次に、反応により得られた濾過物を複数回洗浄した後に、正方晶又は立方晶のナノジルコニア粒子を得て、
さらに、得られたナノジルコニア粒子、分散助剤を溶媒に加え、処理して透明なナノジルコニア分散液を得て、分散液中のナノジルコニア粒子は、二次分散粒子径10-50nmの凝集状態を形成する、
ように調製される、
ことを特徴とする、
請求項12に記載のディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜。
【請求項14】
AGコーティングの厚さは2-50μmであり、且つAGコーティングの表面の水接触角は80°未満であり、HRコーティングの光学的厚さは1/2λ
0であり、前記ARコーティングの光学的厚さは1/4λ
0である、
ことを特徴とする、
請求項1から13のいずれか1項に記載のディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜の技術分野に関し、具体的に、ディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、陰極線管表示装置(CRT)、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンス表示装置(ELD)及び液晶表示装置(LCD)のような表示装置には、通常、外光の反射によるコントラストの低下や外光の反射による画像への入射を防止するために、表示装置の外面に反射防止膜が設けられている。
【0003】
反射防止膜は、ARコートとも呼ばれ、光の波動性及び干渉現象を基礎とし、主な機能は、光学素子の表面の反射光を減少又は除去することで、これらの素子における光の透過率を増加させ、システムの迷光を減少又は除去することにある。反射防止膜は、光学薄膜産業において極めて重要な地位を占めている。
【0004】
一般的に、反射防止膜は、例えば従来の特許文献1のように、透明薄膜基材に、化学蒸着(CVD)法や、物理蒸着(PVD)法を用いることで、多層構造の反射防止層が形成される。高屈折率層と低屈折率層との組み合わせにより、広帯域の反射防止を実現することができる。この技術はドライコーティングにおいて実現されているが、ドライコーティングは真空中で成膜しなければならないため、生産設備の構造が複雑で、設備投資が高額となり、生産性が低いなどの欠点がある。そのため、近年、低コストで、大面積の塗布及び連続生産が可能であるウェットコーティング技術が注目されている。しかしながら、現在の従来技術は、例えば特許文献2~3のように、ウェットコーティングでは単層の反射防止膜が主流である。
【0005】
ウェットコーティングの分野では、膜層のヘイズが高く使用できないという問題がある。
【0006】
液晶表示装置自体が発する光と環境における光源の表示スクリーンでの反射光とは、互いに重なり合ってグレアを形成し、グレアが長期間にわたって人間の目に作用し、視覚上の違和感をもたらすだけでなく、強いグレアは視覚を損なうおそれがある。そのため、市販の各液晶表示装置の表面にはアンチグレア膜(AG膜)が貼り合わされており、このような硬化膜は、高い耐摩耗性も有する必要があり、例えば、電子黒板用アンチグレア硬化膜は、これに加えて、良好な引火点と書き込み効果を解決する必要がある。
【0007】
したがって、現在のディスプレイには、表面に反射防止機能を有する光学膜だけでなく、アンチグレア機能を有する光学膜も具備することが求められており、これにより、より優れた視認性を提供できる。また、ディスプレイカバープレートに適用されるコーティングは、高い硬度と良好な耐摩耗性能を有する必要があるが、現在、ウェットコーティング技術により製造された低屈折率層は、硬度が低く、最高で500g/1Hしか達成できず、耐摩耗性能も低く、100g/10回しか達成できない。このことも、反射防止膜のより広範な応用を制限している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】中国特許出願公開第104614787号明細書
【特許文献2】中国特許第1322338号明細書
【特許文献3】台湾特許第I515271号公報
【発明の概要】
【0009】
上記の少なくとも1つの技術的欠陥を解決するために、本発明は以下の技術案を提供する。
【0010】
本願のディスプレイ用のアンチグレア反射防止膜は、下から上へ順に配置される、基材、AGコーティング、HRコーティング、ARコーティングを含み、
AGコーティングは、バインダー樹脂、シリカ粒子、有機粒子、無機耐摩耗性粒子を含み、前記シリカ粒子は、100nm-3000nmの凝集体粒子であり、有機粒子は、ポリメチルメタクリレート微粒子、ポリスチレン微粒子、ポリメチルメタクリレートポリスチレン共重合体微粒子、及びポリシルセスキオキサン微粒子のうちの1種又は複数種であり、無機耐摩耗性粒子は、ナノアルミナ、ナノジルコニア、ナノダイヤモンド及び六方晶窒化ホウ素ナノシートのうちの1種又は複数種から形成され、無機耐摩耗性粒子は、50-200nmの凝集体粒子であり、
HRコーティングの屈折率は1.53-1.74であり、
ARコーティングの屈折率は1.2-1.48である。
【0011】
本案では、アンチグレアのAGコーティングと高屈折のHRコーティング、低屈折のARコーティングとを階層構造で複合し、アンチグレア、反射防止機能を統合している。
【0012】
AGコーティングにおいて、無機耐摩耗性粒子の組成及び形態を限定し、バインダー樹脂に分散させることにより、アンチグレア、耐摩耗性能の向上などの役割を果たす。粒子径及び形態が限定されたシリカが好ましく、凝集したシリカは部分的に硬化後のコーティング表面に凹凸の形態を形成し、一部はコーティング内部に存在し、合わせてアンチグレア効果を向上させる。好ましくは、有機粒子は、コーティング内部に存在し、内部ヘイズを向上させ、シリカ粒子の凝集体同士の再凝集を減少させる作用、充填樹脂を低減する作用、及び粒子と樹脂との間の屈折率差を調整する作用を有し、内外ヘイズのバランスを実現し、当該コーティングで製造された膜は、硬度、耐摩耗性などの性能が向上するとともに、膜層に高解像性、低引火点、良好な白化抑制性などの利点を持たせる。
【0013】
さらに、コーティングは、バインダー樹脂と、屈折率2.0-2.8の無機金属酸化物粒子を含み、無機金属酸化物粒子は、コーティング中で粒子径10-80nmの粒子状に凝集し、無機金属酸化物粒子は、ナノジルコニア又は酸化チタンであり、
ARコーティングは、バインダー樹脂と、屈折率1.15-1.40の中空シリカ粒子を含む。
【0014】
HRコーティングに形態が限定された無機金属酸化物を添加することにより、ヘイズを低下させ、膜層の解像性、力学的性能などの向上に寄与する。ARコーティングに中空シリカが添加されて屈折率などが調整され、上記階層、成分による膜層が安定に結合しているので、硬度、耐摩耗性などの性能において新たな進展がある。
【0015】
さらに、AGコーティングは、質量部で、バインダー樹脂22-45部、シリカ粒子3-7部、有機粒子1-3部、無機耐摩耗性粒子1-3部を含み、
HRコーティングは、質量部で、バインダー樹脂40-200部、ナノジルコニア粒子20-75部を含み、
ARコーティングは、質量部で、バインダー樹脂9-25部、中空シリカ粒子30-80部を含む。
【0016】
バインダー樹脂と機能性粒子の量比は、コーティングを構成する基本成分であり、潤滑剤、消泡剤、レベリング剤などの助剤及び硬化成形のための硬化剤などに対して必要に応じて自由に添加することができる。
【0017】
さらに、硬化成形AGコーティングの塗布液成分、硬化成形HRコーティングの塗布液成分、硬化成形ARコーティングの塗布液成分におけるバインダー樹脂は、いずれも6官能基以上の光硬化オリゴマー樹脂、3官能基以上の光硬化希釈モノマー樹脂を含み、
光硬化オリゴマー樹脂は、ポリウレタンアクリレートオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレート及びポリエーテルアクリレート、ポリアクリル樹脂オリゴマー、エポキシ樹脂ポリマー、酸素含有アクリレート、尿酸アクリレートのうちの1種又は複数種であり、
光硬化希釈モノマー樹脂は、エチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、スチレン、メチルスチレン、N-ビニルピロリドン単官能モノマー、ポリメチロールプロパントリメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレートのうちの1種又は複数種である。
【0018】
樹脂成分は、構造が限定されたものが好ましく、光硬化成形が便利であり、コーティングの硬度、柔軟性などの向上に寄与する。
【0019】
さらに、ARコーティングは、含フッ素重合体2-8部、無機粒子5-30部、POSS 5-23部を含む。無機粒子は、フッ化マグネシウム、窒化ホウ素、シリカ、アルミナのうちの1種又は複数種であり、含フッ素重合体は、部分フッ素化アクリレートシリコーンコポリマー、部分又は完全フッ素化アクリル化合物、部分又は完全フッ素化ビニルエーテルのうちの1種又は複数種であり、POSSは、フェニルPOSS、アミノPOSS、ビニルPOSS、アクリルPOSSのうちの1種又は複数種である。含フッ素重合体は、主に水接触角を増加させ、塗膜の耐摩擦性能を改良する役割を果たし、POSSはARコーティングの硬度を向上させる役割を果たし、無機粒子はARコーティングの耐摩擦性を向上させる役割を果たす。
【0020】
さらに、AGコーティングは、質量百分率で、6官能基以上の光硬化オリゴマー樹脂18%-38%、3官能基以上の光硬化希釈モノマー樹脂4%-7%、シリカ粒子3%-7%、有機粒子1%-3%、無機耐摩耗性粒子1%-3%、助剤1%-5%、光開始剤1%-3%を含み、AGコーティングにおける固形分率は42%-55%であることが好ましく、
HRコーティングは、質量百分率で、6官能基以上の光硬化オリゴマー樹脂1%-2%、3官能基以上の光硬化希釈モノマー樹脂0.3%-1%、ナノジルコニア粒子1%-3%、助剤0.05%-0.2%、光開始剤0.1%-0.5%を含み、HRコーティングにおける固形分率は、3%-6%であることが好ましい。
【0021】
ARコーティングは、質量百分率で、6官能基以上の光硬化オリゴマー樹脂0.25%-0.5%、3官能基以上の光硬化希釈モノマー樹脂0.05%-0.1%、中空シリカ粒子0.3%-1.5%、中実シリカ粒子0.1%-1%、POSS 0.1%-1%、光開始剤0.1%-0.5%を含む。ARコーティングにおける固形分率は、2.0%-5.0%であることが好ましい。
【0022】
上記成分比のコーティング材料は、光硬化成形処理されることが好ましく、使用時に、各コーティング材料がスリットコーティング、マイクログラビアコーティング、ブレードコーティング、ロールコーティングなどの既知のコーティング技術によってコーティングされ、その後、紫外線硬化、電子放射線硬化、熱硬化のうちの1種又は2種の組み合わせによって硬化される。紫外線硬化は、選択可能な原料の種類がより多いという利点を有するため、紫外線硬化方式が好ましい。
【0023】
助剤としては、例えば、湿潤レベリング剤、消泡剤、重合禁止剤、表面制御剤などが挙げられ、光開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテルが挙げられ、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、メタロセン化合物、ベンゾインスルホン酸エステルを用いる場合、活性を有する有機アミン、例えば、トリエチルアミン、n-ブチルアミンなどを補助開始剤として配合してもよい。
【0024】
上記各コーティングは、いずれも溶媒を用いて対応する成分を配合してなり、使用される溶媒には、例えば極性溶媒、非極性溶媒が含まれ、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、プロピレングリコールメチルエーテル、n-ブタノールから選択され、好ましくはメチルイソブチルケトン、プロピレングリコールメチルエーテル、イソブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチルから選択され、単一の溶媒でもよく、好ましくは3種以上の混合溶媒である。
【0025】
さらに、AGコーティングにおいて、前記シリカ粒子が分散液として添加され、一次粒子径10nm-50nmで溶媒と混合処理して、二次粒子径100nm-2000nmのシリカ粒子分散液を得る。
【0026】
前記無機耐摩耗性粒子が分散液として添加され、一次粒子径10-50nmで溶媒と混合されて二次粒子径50-200nmの分散液を得る。
【0027】
前記有機粒子の粒子径は、1μm-10μmである。
【0028】
粒子の形態及び添加形態を限定することで、検査によりさらなる膜層性能の向上に寄与することが分かった。
【0029】
さらに、ナノジルコニア粒子の平均粒子径はHRコーティングの厚さの5%-80%であり、中空シリカの粒子径は50-80nmであり、中実シリカの平均粒子径はARコーティングの厚さの30%-100%であり、膜層性能の向上に寄与する。
【0030】
さらに、前記無機耐摩耗性粒子は、六方晶窒化ホウ素ナノシートを前処理して形成されたものであり、前処理工程では、一次粒子径の六方晶窒化ホウ素ナノシートを溶媒と撹拌混合して超音波分散処理してコロイド液を得て、コロイド液を遠心処理して一次底部固体を取得し、
一次底部固体に対して上記前処理工程を繰り返して二次底部固体を取得し、
二次底部固体に対して上記前処理工程を繰り返して、得られた遠心分離液である無機耐摩耗性粒子の分散液を収集する。目的に応じて分散液の調製プロセスを設計することにより、均一な分布に寄与し、さらに膜層の性能が向上される。
【0031】
六方晶窒化ホウ素ナノシートは、公知の作製方法、例えばアーク放電法、ソルボサーマル法、蒸着法、液相法によって得ることができる。ナノ粒子は高い表面エネルギーを有し凝集しやすいため、例えば、ポリマー分散剤、カップリング剤などによりその表面を処理する必要があり、好ましくは、樹脂の反応に寄与できる、反応性官能基を有するシランカップリング剤が表面処理剤とされる。
【0032】
さらに、ナノジルコニア粒子は、正方晶型、立方晶型のうちの1種又は2種以上の混合である。晶型が限定されることは、膜層性能の向上に寄与する。
【0033】
さらに、ナノジルコニア粒子は、HRコーティングを形成するために用いられる塗布液に分散液として添加され、ナノジルコニア粒子の分散液は、以下のように調製される。
【0034】
まず、ジルコニウム含有化合物と、溶媒、有機酸の混合物とを所定の割合で混合し、250-320℃まで昇温し、一定温度で3-18時間反応させ、
次に、反応により得られた濾過物を複数回洗浄した後に、正方晶又は立方晶のナノジルコニア粒子が得られ、
さらに、得られたナノジルコニア粒子、分散助剤を溶媒に加え、処理して透明なナノジルコニア分散液を得て、分散液中のナノジルコニア粒子は、二次分散粒子径10-50nmの凝集状態を形成する。
【0035】
上記ナノジルコニアは、ソルボサーマルワンステップ合成法によって製造される結晶ナノジルコニアである。原材料は、ジルコニウム含有化合物と、有機溶媒、又は、有機溶媒と有機酸の混合物であり、ジルコニウム含有化合物は、ジルコニウムn-プロポキシド、ジルコニウムn-ブトキシド、ジルコニウムテトラtert-ブトキシドなどを含む有機ジルコニウム化合物でもよく、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウムなどを含む無機ジルコニウム化合物でもよく、好ましくは、有機ジルコニウム化合物であり、より好ましくは、ジルコニウムn-プロポキシドである。有機溶媒は、メタノール、エタノール、ブチルエーテル、ベンジルアルコールなどを含み、好ましくはメタノール、エタノール、ベンジルアルコールであり、有機酸は、ギ酸、デシル酸、ステアリン酸、オレイン酸などを含み、好ましくはギ酸、オレイン酸である。
【0036】
ナノジルコニア分散液に用いられる溶媒は、極性溶媒でも、非極性溶媒でもよく、例えば、n-ヘキサン、トルエン、エタノール、酢酸ブチル、酢酸エチル、イソプロパノール、イソブタノール、アセトン、ブタノン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールメチルエーテルなどであり、好ましくは、トルエン、酢酸ブチル、イソプロパノール、イソブタノール、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコール、メチルエーテルなどである。
【0037】
このナノジルコニア分散液を調製する際には、適量の分散助剤を加える必要があり、分散助剤は、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、表面親和性を有する高分子重合体、アクリレートモノマー及びアクリレートオリゴマーでもよく、表面親和性を有する高分子重合体及びアクリレートモノマーでジルコニア粉体を分散させることが好ましい。
【0038】
この工程で、工程フロー及び反応温度が限定されることで、所望の形態のナノジルコニアを得ることに寄与する。
【0039】
さらに、前記AGコーティングの厚さは2-50μmであり、且つAGコーティングの表面の水接触角は80°未満であり、前記HRコーティングの光学的厚さは1/2λ0であり、前記ARコーティングの光学的厚さは1/4λ0である。
【0040】
コーティングの光学的厚さの関係を限定することにより、反射率曲線がW型である広帯域反射防止膜が得られる。
【0041】
基材としては、トリアセチルセルロースフィルム(TAC)、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)、ポリノルボルネンフィルム(COP)、ポリメチルメタクリレートフィルム(PMMA)、ポリカーボネートフィルム(PC)、透明ポリイミドフィルム(CPI)などの基材のうちの一種でもよいが、透明性及び光学遅延性の点からは、トリアセチルセルロースフィルム(TAC)が好ましい。基材の厚みは、25μm-300μmが好ましく、偏光板表面保護フィルムとして使用する場合には、薄型化の点から25μm-80μmが好ましい。
【0042】
従来技術に比べて、本発明の有益な効果は以下のとおりである。
【0043】
本発明の膜層は、アンチグレア及び反射防止機能を統合しているとともに、膜層は、高解像性、低引火点、良好な白化抑制、高硬度、耐摩耗性などの利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
以下、本発明の実施例における技術案をより明確に説明するために、実施例の説明に用いられる図面を簡単に説明する。明らかに、以下の説明における図面は本発明のいくつかの実施例に過ぎず、当業者は、創造的な労働をせずに、これらの図面に基づき他の図面を得ることもできる。
【
図2】実施例1のAG1-HR1-AR1膜の透過率及び反射率のスペクトル。
【
図3】実施例2のAG2-HR1-AR1膜の透過率及び反射率のスペクトル。
【
図4】比較例1のAG1-HR1-AR2膜の透過率及び反射率のスペクトル。
【
図5】比較例2のAG1-AR1膜の透過率及び反射率のスペクトル。
【
図6】実施例1のAG1-HR1-AR1膜の走査型電子顕微鏡によるAG層の断面図。
【
図7】実施例1のAG1-HR1-AR1膜の走査型電子顕微鏡によるAG層の断面拡大図。
【
図8】実施例1のAG1-HR1-AR1膜の走査型電子顕微鏡によるAR層の断面図。
【
図9】実施例7の結晶ナノジルコニアの電子顕微鏡写真。
【
図10】実施例7の結晶ナノジルコニアのXRDパターン。
【
図11】実施例7のジルコニア分散液の粒度分布図。
【0045】
なお、符号は、以下のとおりである。
【0046】
10 基材、20 AGコーティング、21 有機微粒子、22 シリカ粒子凝集体、23 無機耐摩耗性粒子凝集体、30 HRコーティング、31 ナノジルコニア粒子凝集体、40 ARコーティング、41 中空シリカ粒子、42 中実シリカ粒子
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、図面及び具体的な実施例を参照しながら本発明をさらに説明する。
【0048】
1.結晶ナノジルコニア分散液の調製
例1.結晶ナノジルコニア分散液の調製方法:ジルコニウムn-プロポキシドとベンジルアルコールを質量比0.6:1の割合で釜に入れ(反応物の総体積は、釜の体積の60%を超えない)、回転速度を450回転/minに設定し、釜体の最高温度を275℃に設定する。反応終了後、得られた粉体をエタノールとプロピレングリコールメチルエーテルで複数回洗浄し(それぞれ3回洗浄し)、次にプロピレングリコールメチルエーテルを溶媒とし、高分子重合体(顔料親和基含有共重合体DISPERBYK2014、BYK社から購入)を分散助剤として、ジルコニア粉体を超音波分散して、固形分率20%のナノジルコニア分散液を得る。ナノジルコニアの分散粒子径は57nmであり、ナノジルコニアの一次粒子径は5-10nmであり、XRD測定により、ナノジルコニアの結晶型は正方晶と立方晶との混合型であることが分かる。
【0049】
例2.結晶ナノジルコニア分散液の調製方法:ジルコニウムn-ブトキシドとジアセトンアルコールを質量比0.56:1の割合で釜に入れ(反応物の総体積は、釜の体積の60%を超えない)、回転速度を450回転/minに設定し、釜体の最高温度を275℃に設定する。反応終了後、得られた粉体をエタノールとMIBK(メチルイソブチルケトン)とで複数回洗浄し(それぞれ3回洗浄し)、次にMIBKを溶媒とし、高分子重合体(顔料親和基含有構造化共重合体DISPERBYK-2013、BYK社から購入)を分散助剤として、ジルコニア粉体を超音波分散して、固形分率20%のナノジルコニア分散液を得る。ナノジルコニアの分散粒子径は42nmであり、ナノジルコニアの一次粒子径は8-12nmであり、XRD測定により、ナノジルコニアの結晶型は正方晶と立方晶との混合型であることが分かる。
【0050】
例3.結晶ナノジルコニア分散液の調製方法:塩基性炭酸ジルコニウムとn-ヘキサノールを質量比0.62:1の割合で釜に入れ(反応物の総体積は、釜の体積の60%を超えない)、回転速度を450回転/minに設定し、釜体の最高温度を275℃に設定する。反応終了後、得られた粉体をエタノールとMIBK(メチルイソブチルケトン)で複数回洗浄し(それぞれ3回洗浄し)、次にMIBKを溶媒とし、高分子重合体(顔料親和基含有構造化共重合体DISPERBYK-2013、BYK社から購入)を分散助剤とし、ジルコニア粉体を超音波分散して、固形分率20%のナノジルコニア分散液を得る。ナノジルコニアの分散粒子径は45nmであり、ナノジルコニアの一次粒子径は8-12nmであり、XRD測定により、ナノジルコニアの結晶型は正方晶と立方晶との混合型であることが分かる。
【0051】
例4.結晶ナノジルコニア分散液の調製方法:ジルコニウムn-ブトキシドとベンジルアルコールを質量比0.48:1の割合で釜に入れ(反応物の総体積は、釜の体積の60%を超えない)、回転速度を450回転/minに設定し、釜体の最高温度を275℃に設定する。反応終了後、得られた粉体を順序でエタノールとMIBK(メチルイソブチルケトン)で複数回洗浄し(それぞれ3回洗浄し)、次にMIBKを溶媒とし、高分子重合体(顔料親和基含有構造化共重合体DISPERBYK-2013、BYK社から購入)を分散助剤とし、ジルコニア粉体を超音波分散して、固形分率20%のナノジルコニア分散液を得る。ナノジルコニアの分散粒子径は45nmであり、ナノジルコニアの一次粒子径は8-12nmであり、XRD測定により、ナノジルコニアの結晶型は正方晶と立方晶との混合型であることが分かる。
【0052】
例5.結晶ナノジルコニア分散液の調製方法:硝酸ジルコニウムと、尿素と水との混合物を質量比0.48:1の割合で釜に入れ(反応物の総体積は、釜の体積の60%を超えない)、回転速度を450回転/minに設定し、釜体の最高温度を270℃に設定する。反応終了後、得られた粉体をエタノールとMIBK(メチルイソブチルケトン)で複数回洗浄し(それぞれ3回洗浄し)、次にMIBKを溶媒として、高分子重合体(顔料親和基含有共重合体DISPERSANT-2008、BYK社から購入)を分散助剤とし、ジルコニア粉体を超音波分散して、固形分率20%のナノジルコニア分散液を得る。ナノジルコニアの一次粒子径は20-25nmであり、XRD測定により、ナノジルコニアの結晶形は単斜晶と正方晶の混合型であることが分かる。反応は水溶液中で行われるため、後処理で完全に水を除去することが困難であり、得られる分散液は二次粒子径が100nmを超えて大きく、且つ分散液がやや濁って透明ではない。
【0053】
例6.結晶ナノジルコニア分散液の調製方法:ジルコニウムテトラtert-ブトキシドとベンジルアルコールを質量比0.6:1の割合で釜に入れ(反応物の総体積は、釜の体積の60%を超えない)、回転速度を450回転/minに設定し、釜体の最高温度を300℃に設定する。反応終了後、得られた粉体をエタノールとプロピレングリコールメチルエーテルで複数回洗浄し(それぞれ3回洗浄し)、次にプロピレングリコールメチルエーテルを溶媒とし、高分子重合体(顔料親和基含有共重合体UNIQ-SPERSE670U、ドイツのAllnexGroup社から購入)を分散助剤とし、ジルコニア粉体を超音波分散して、固形分率20%のナノジルコニア分散液を得る。ナノジルコニアの一次粒子径は15-25nmであり、XRD測定により、ナノジルコニアの結晶型は主に立方晶であることが分かる。高すぎる反応温度で調製されたナノジルコニアは、一次粒子径が大きく、且つより分散しにくく、この条件で調製されたナノジルコニアの分散液は、二次粒子径が100nmより大きく、且つ分散液がやや濁って透明ではない。
【0054】
上記実施例及び比較例の結果から分かるように、異なる原料と溶媒の選択は、ナノジルコニアの一次粒子径と結晶型に影響を及ぼし、且つ得られたナノジルコニアの分散粒子径がより大きいことを示す。このナノジルコニア分散液を選択してHRコーティングに添加すると、コーティングの透過率が低くなり、ヘイズが高くなり、且つコーティングの屈折率に影響を及ぼすことになる(以下の比較例3を参照)。
2.分散液の調製
シリカ粒子分散液:分散液は、市販の一次粒子径10-50nmの中実シリカ粒子(表面処理されていない)をエタノール溶媒中でボールミル法により粉砕し、二次分散粒子径が所定範囲にあるシリカ粒子分散液を得る。溶媒比、粉砕パラメータなどを調整することにより二次分散粒子径を調整することができるが、ここでは説明を省略する。
【0055】
無機耐摩耗性粒子分散液:まず、前処理工程では、脱イオン水とエタノールとを体積比1:1で混合し、市販の一次粒子径10-50nmの六方晶窒化ホウ素ナノシート(表面処理なし)を撹拌しながら加え、6-24hr撹拌し、10min程度超音波分散する。さらに、遠心分離機の回転数を6000-10000rpmとして、分散液を5-10minを遠心分離し、上澄み液を捨て、下層沈殿物(一次底部固体)を残す。
【0056】
次に、一次底部固体で、上記の前処理工程(溶媒との混合、撹拌、超音波、遠心)を繰り返し、二次底部固体を得て使用する。
【0057】
最後に、溶媒(プロピレングリコールメチルエーテル)と上記の二次底部固体に対して上記の前処理工程を行い、遠心コロイド液であるナノ六方晶窒化ホウ素分散液を得る。
【0058】
得られた底部沈殿に対して上記前処理工程を継続し、遠心コロイド液を回収し、底部沈殿がなくなるまで、遠心分離された底部固体沈殿に対して上記の前処理工程を行い、回収された遠心コロイド液はナノ六方晶窒化ホウ素分散液である。
【0059】
3.コーティングに用いられる塗布液の調製
コーティングに用いられる塗布液AG1の調製:塗布液10kgを調製する。ここでは、質量百分率で、10官能基のポリウレタンアクリレートオリゴマー(上海仰世実業有限公司から購入したJD8098)が28%を占め、6官能基のポリウレタンアクリレートオリゴマー(ドイツAllnex Groupから購入したEB1290)が3%を占め、3官能基のアクリレートモノマー(ペンタエリスリトールトリアクリレート)が3%を占め、6官能基のアクリレートモノマー(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)が3%を占め、チオール系重合禁止剤(ブチルチオペンタエリスリトール)が2%を占め、分散粒子径240nmのシリカが8%を占め、ポリシルセスキオキサン微粒子(長興特殊材料(蘇州)有限公司から購入したDF20A0)が0.5%を占め、分散粒子径80nmの六方晶窒化ホウ素ナノシートが2%を占め、光開始剤(光開始剤184、上海引昌新材料有限公司から購入)が2%を占め、酢酸ブチルとイソブタノールの混合溶媒(体積比で、酢酸ブチルが75%を占め、イソブタノールが25%を占める)が他の割合であり、各成分を酢酸ブチルとイソブタノールの混合溶媒に加え、各成分が完全に溶解するまで撹拌することで、固形分率51.5%の塗布液AG1を得る。
【0060】
塗布液AG2の調製:塗布液10kgを調製する。ここでは、質量百分率で、9官能基ポリウレタンアクリレートオリゴマー(常州喬潤新材料科技有限公司から購入したJR9929)が21.5%を占め、30官能基超分岐アクリレートオリゴマー(上海和盛実業集団有限公司から購入したBDT-4330)が2.8%を占め、3官能基アクリレートモノマー(ペンタエリスリトールトリアクリレート)が1.0%を占め、6官能基アクリレートモノマー(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)が2.4%を占め、チオール系重合禁止剤(ブチルチオペンタエリスリトール)が2%を占め、ポリエチレングリコール(武漢華翔科潔生物技術有限公司から購入した600DA)が1.9%を占め、分散粒子径350nmのシリカが8%を占め、架橋ポリスチレン微粒子(Sigma-Aldrich(上海)貿易有限公司から購入)が1%を占め、分散粒子径100nmのナノダイヤモンド粒子が2%を占め、光開始剤184が2.1%を占め、酢酸ブチルとプロピレングリコールメチルエーテルの混合溶媒(体積比で、酢酸ブチルが75%を占め、プロピレングリコールメチルエーテルが25%を占める)が他の割合であり、各成分を酢酸ブチルとプロピレングリコールメチルエーテルの混合溶媒に加え、各成分が完全に溶解するまで撹拌することで、固形分率44.7%の塗布液AG2を得る。
【0061】
塗布液AG3の調製:塗布液10kgを調製する。ここでは、質量百分率で、9官能基ポリウレタンアクリレートオリゴマー(嵩常貿易(上海)有限公司から購入したSU5039)が21.7%を占め、30官能基超分岐アクリレートオリゴマー(上海和盛実業集団有限公司から購入したBDT-4330)が3.1%を占め、3官能基アクリレートモノマー(ペンタエリスリトールトリアクリレート)が1.2%を占め、6官能基アクリレートモノマー(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)が2.4%を占め、チオール系重合禁止剤(ブチルチオペンタエリスリトール)が1.9%を占め、ポリエチレングリコール600DAが2%を占め、分散液の二次粒子径600nmのシリカが10%を占め、ポリメチルメタクリレート微粒子が1.5%を占め、分散粒子径80nmのナノアルミナ粒子が2%を占め、光開始剤184が2.1%を占め、酢酸ブチルとプロピレングリコールメチルエーテルの混合溶媒(体積比で、酢酸ブチルが75%を占め、プロピレングリコールメチルエーテルが25%を占める)が他の割合であり、各成分を酢酸ブチルとプロピレングリコールメチルエーテルの混合溶媒に加え、上記の成分が完全に溶解するまで撹拌することで、固形分率47.9%の塗布液AG3を得る。
【0062】
塗布液AG4の調製:塗布液3の調製方法において、相違点は、ポリメチルメタクリレート微粒子を添加しないことである。
【0063】
塗布液AG5の調製:塗布液3の調製方法において、相違点はナノアルミナ粒子を添加しないことである。
【0064】
塗布液HR1の調製:塗布液10kgを調製する。ここでは、質量百分率で、脂肪族ヘキサアクリレート(湛新樹脂(中国)有限公司から購入したEBECRYL 1290N)が1.24%を占め、15官能基ポリウレタンアクリレートプレポリマー(広州五行材料科技有限公司から購入したW991)が0.165%を占め、4官能基アクリレートモノマー(ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート)が0.245%を占め、3官能基アクリレートモノマー(トリメチロールプロパントリメタクリレート)が0.31%を占め、分散粒子径20nmのナノジルコニア(例1で調製した結晶ナノジルコニア)が1.4%を占め、レベリング剤(BYK社から購入したポリエーテル変性ジメチルポリシロキサンBYK-378)が0.11%を占め、光開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)が0.27%を占め、プロピレングリコールメチルエーテルが他の割合であり、各成分をプロピレングリコールメチルエーテル溶媒に加え、各成分が完全に溶解するまで撹拌することで、固形分率3.7%の塗布液HR1を得る。
【0065】
塗布液HR2の調製:塗布液HR1の調製方法において、例5で調製した分散粒子径が100nmより大きいジルコニア分散液を選択する。
【0066】
塗布液AR1の調製:塗布液を調製する。ここでは、質量百分率で、9官能基脂肪族ポリウレタンアクリレート(常州喬潤新材料科技有限公司から購入したJR9929)が0.314%を占め、2官能基エポキシアクリレート(広州五行材料科技有限公司から購入したG5100)が0.078%を占め、粒子径70nmの中空シリカが1.26%を占め、中実シリカが0.27%を占め、POSSが0.5%を占め、光開始剤が0.24%を占め、溶媒が他の割合であり、各成分をメチルイソブチルケトン、プロピレングリコールメチルエーテル、イソブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチルの混合溶媒(各成分の体積比は1:4:3:4:8)に添加し、各成分が完全に溶解するまで撹拌し、固形分率2.7%の塗布液AR1を得る。
【0067】
塗布液AR2の調製:塗布液AR1の調製方法において、相違点は、20nmの中空シリカを選択することである。
【0068】
塗布液AR3の調製:塗布液AR1の調製方法において、相違点は、中実シリカを添加しないことである。
【0069】
塗布液AR4の調製:塗布液AR1の調製方法において、POSSを添加しない。
【0070】
4.コーティングの調製
以下の各実施例における膜層構造を表1に示す。
【0071】
実施例1
まず、マイクログラビアロールコーターを用いて、塗布液AG1を厚み80μmのトリアセチルセルロースフィルムに塗布し、80℃で乾燥させた。その後、窒素雰囲気下、高圧水銀ランプを用いて600mJ/cm2の硬化エネルギーでコーティングを硬化させ、コーティング厚さ4μmの膜AG1を得た。対応するAGコーティングの表面の水接触角は80°未満である。
【0072】
その後、スリットコーターを用いて、塗布液HR1をAG1膜に塗布し、80℃で乾燥させた。その後、窒素雰囲気下、高圧水銀ランプを用いて600mJ/cm2の硬化エネルギーでコーティングを硬化させ、HRのコーティング厚さが(1/2)λ0である膜AG1-HR1を得た。
【0073】
最後に、スリットコーターを用いて、塗布液AR1を上記AG1-HR1膜に塗布し、80℃で乾燥させた。その後、窒素雰囲気下、高圧水銀ランプを用いて600mJ/cm2の硬化エネルギーでコーティングを硬化させ、ARのコーティング厚さが(1/4)λ0である膜AG1-HR1-AR1を得た。
【0074】
実施例2
実施例1の方法において、HRのコーティング厚さを1/4λ0に半減し、膜AG1-HR1(1/4λ0)-AR1を得た。
【0075】
実施例3
実施例1の方法において、塗布液AG1をAG2(表面の水接触角が80°未満)に替えて、膜AG2-HR1-AR1を得た。
【0076】
実施例4
実施例1の方法において、塗布液AG1をAG3(表面の水接触角が80°未満)に替えて、膜AG3-HR1-AR1を得た。
【0077】
実施例5
実施例1の方法において、塗布液AG1をAG4(表面の水接触角が80°未満)に替えて、膜AG4-HR1-AR1を得た。
【0078】
実施例6
実施例1の方法において、塗布液AG1をAG5(表面の水接触角が80°未満)に替えて、膜AG5-HR1-AR1を得た。
【0079】
比較例1
実施例1の方法において、塗布液AR1をAR2に替えて、膜AG1-HR1-AR2を得た。
【0080】
比較例2
実施例1の方法において、HR層を塗布せずに、膜AG1-AR1を得た。
【0081】
比較例3
実施例1の方法において、塗布液HR1をHR2に替えて、膜AG1-HR2-AR1を得た。
【0082】
比較例4
実施例1の方法において、塗布液AG1をAG2に替え、塗布液AR1をAR3に替えて、膜AG2-HR1-AR3を得た。
【0083】
比較例5
実施例1の方法において、塗布液AG1をAG3に替え、塗布液AR1をAR4に替えて、膜AG3-HR1-AR4を得た。
【0084】
5.試験
本発明の膜層の構造は、
図1に示すように、底部が透明な基板10であり、基板上には、AGコーティング20、HRコーティング30、ARコーティング40が順に配置される。AGコーティング20内には有機微粒子21、シリカ粒子凝集体22、無機耐摩耗性粒子凝集体23があり、表面に位置するシリカ粒子凝集体22があり、HRコーティング30内にはナノジルコニア粒子凝集体31があり、ARコーティング40内には中空シリカ粒子41、中実シリカ粒子42がある。
【0085】
試験評価方法の説明:
(1)反射防止膜の光学性能
測定機器:紫外分光光度計
測定方法:塗布後のフレキシブルフィルムに対して光学性能試験を行い、フィルムの透過率、反射率を測定する。試験範囲は、300-1100nmである。
【0086】
(2)反射防止膜の疎水機能
測定機器:接触角試験機
測定方法:塗布後のフレキシブルフィルムに対して水接触角試験を行う。水滴の体積は、2μLである。
【0087】
(3)反射防止膜の耐摩耗性
測定機器:耐摩擦試験機
測定方法:コーティング後のフレキシブルフィルムに対して耐摩擦性能試験を行い、異なる要求に応じて重りを置き、摺動回数及び速度を変更する。
【0088】
(4)反射防止膜の硬度
測定機器:電動鉛筆硬度計
測定方法:塗布後のフレキシブルフィルムに対して硬度試験を行う。試験条件は、500g、速度40である。
【0089】
(5)コーティング屈折率の測定:
測定機器:エリプソメーターSemilab SE-2000
測定方法:引き上げ塗布の方法により塗布液をシリコンシートに塗布し、シリコンシートをエリプソメーターに入れて測定する。
【0090】
(6)コーティング厚さ:
測定機器:厚さ計
測定方法:塗布後のフレキシブルフィルムを厚さ計に置いて測定する。
【0091】
(7)コーティングヘイズ:
測定機器:光電ヘイズメーターWGW
測定方法:塗布後のフレキシブルフィルムをヘイズメーターに置いて測定する。
【0092】
(8)アンチグレア膜の解像性及び白化抑制性試験
解像性:アンチグレア膜を通して蛍光灯のランプ輪郭を観察し、膜の透過拡散性を評価する。
【0093】
◎:ランプがはっきりと見え、輪郭がはっきりし、拡散効果がない。
【0094】
○:ランプが見え、輪郭がややぼやけている。
【0095】
×:ランプがはっきりと見えず、拡散効果が明らかである。
【0096】
白化抑制性:アンチグレア膜を黒色アクリル板に貼り付け、塗膜の白化具合を観察する。
【0097】
◎:白化抑制性が極めて良好である。
【0098】
○:白化抑制性が良好である。
【0099】
×:白化抑制性に劣る。
【0100】
【0101】
【0102】
実施例1と比較例1の結果から分かるように、ARコーティングが20nmの中空シリカ粒子を選択すると、耐摩耗性が向上するが、光学性能に影響を及ぼすため、適切な粒子径の中空シリカ粒子を選択する必要がある。
【0103】
実施例1と比較例2の結果から分かるように、HR層を追加すると、塗膜の硬度と耐摩耗性が共に向上し、透過率が増加し、反射率が低下するため、適切な粒子径の中空シリカ粒子を選択する必要がある。
【0104】
実施例1と比較例3の結果から分かるように、HRコーティングに分散粒子径が100nmより大きいナノジルコニア粒子を添加すると、塗膜の光学透過性能に影響を及ぼすため、分散粒子径が100nmより小さいナノジルコニア粒子が好ましい。
【0105】
実施例3と比較例4の結果から分かるように、ARコーティングに中実シリカ粒子を添加しないと、塗膜の耐摩耗性が低下する。
【0106】
実施例4と比較例5の結果から分かるように、ARコーティングにPOSSを添加しないと、塗膜の硬度及び耐摩耗性が共に低下する。
【0107】
実施例5の結果から分かるように、AG層に有機粒子を添加しないと、内部散乱が増加して内部ヘイズを得ることができないため、塗膜の全ヘイズが著しく低下する。
【0108】
実施例6の結果から分かるように、AG層に無機耐摩耗性粒子を添加しないと、塗膜のスチールウール耐摩耗性が著しく低下する。
【0109】
以上は本発明の好ましい実施形態に過ぎず、本発明の保護範囲は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の構想に属する技術案はいずれも本発明の保護範囲に属する。なお、当業者であれば、本発明の原理から逸脱しない限り、様々な改変又は改善を行うことができ、これらの改変又は改善も本発明の保護範囲と見なされるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0044
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0044】
以下、本発明の実施例における技術案をより明確に説明するために、実施例の説明に用いられる図面を簡単に説明する。明らかに、以下の説明における図面は本発明のいくつかの実施例に過ぎず、当業者は、創造的な労働をせずに、これらの図面に基づき他の図面を得ることもできる。
【
図2】実施例1のAG1-HR1-AR1膜
の走査型電子顕微鏡によるAG層の断面
図。
【
図3】実施例2のAG2-HR1-AR1膜
の走査型電子顕微鏡によるAG層の断面
拡大図の透過率及び反射率のスペクトル。
【
図4】比較例1のAG1-HR1-AR2膜
の走査型電子顕微鏡によるAR層の断面
図の透過率及び反射率のスペクトル。
【
図5】比較例2のAG1-AR1膜の透過率及び反射率のスペクトル。
【
図6】実施例1のAG1-HR1-AR1膜
の透過率及び反射率のスペクトル。
【
図7】実施例1のAG1-HR1-AR1膜
の透過率及び反射率のスペクトル。
【
図8】実施例1のAG1-HR1-AR1膜
の透過率及び反射率のスペクトル。
【
図9】実施例7の結晶ナノジルコニアの電子顕微鏡写真。
【
図10】実施例7の結晶ナノジルコニアのXRDパターン。
【
図11】実施例7のジルコニア分散液の粒度分布図。
【国際調査報告】