(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】コーヒー、イチョウ及び高麗人参からのエクソソーム
(51)【国際特許分類】
A61K 36/74 20060101AFI20241108BHJP
A61K 36/16 20060101ALI20241108BHJP
A61K 36/258 20060101ALI20241108BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
A61K36/74
A61K36/16
A61K36/258
A61P25/28
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510259
(86)(22)【出願日】2023-05-24
(85)【翻訳文提出日】2024-04-18
(86)【国際出願番号】 TR2023050468
(87)【国際公開番号】W WO2023229562
(87)【国際公開日】2023-11-30
(32)【優先日】2022-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524062021
【氏名又は名称】アイ エクソキュア ティビ ウルンラー サナイ ヴェ ティカレット アノニム シルケッティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エシュメカヤ、アフメト ヤシャール
(72)【発明者】
【氏名】エシュメカヤ、メリス アルダ
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB02
4C088AB14
4C088AB18
4C088AC20
4C088CA12
4C088MA35
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA15
4C088ZA16
(57)【要約】
コーヒー、イチョウ及び高麗人参からのエクソソーム本発明は、コーヒー、イチョウ及び高麗人参の植物からエクソソームを得ること、及び、それらから錠剤を作成することに関する。本発明は、アルツハイマー病の治療及び症状の軽減において;認知機能障害、健忘症及び集中力低下障害の治療において、高い生体適合性、細胞取り込み、安定性、及び、血液脳関門を透過するための遥かに多くの能力を有する、コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得された植物由来のエクソソームの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー、イチョウ及び高麗人参の植物を用いることによる、エクソソームの取得。
【請求項2】
アルツハイマー病、認知機能障害、記憶障害及び集中力低下障害の治療におけるコーヒー、イチョウ及び高麗人参の植物から取得されたエクソソームの使用。
【請求項3】
植物由来の前記エクソソームが、アルツハイマー病の治療、及び、健忘症及び他の症状の軽減に使用される、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
植物由来の前記エクソソームが、認知機能及び集中力の改善に使用される、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
コーヒー、イチョウ及び高麗人参の植物を含む、アルツハイマー病、認知機能障害、健忘症及び集中力低下障害の治療に用いられるエクソソーム。
【請求項6】
薬剤的に使用可能な錠剤の形態である、請求項5に記載の植物由来のエクソソーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー、イチョウ及び高麗人参の植物からエクソソームを得ること、及び、それらから錠剤を作成することに関する。
【0002】
本発明は、アルツハイマー病の治療及び症状の軽減;認知機能障害、健忘症及び集中力低下障害の治療において、高い生体適合性、細胞取り込み、安定性、及び、血液脳関門を透過するための遥かに多くの能力を有する、コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得された植物由来のエクソソームの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
エクソソームは、ほぼ全ての細胞によって分泌される30~150nmサイズの天然ナノ粒子である。これらのナノ粒子は、二重脂質層を伴う膜、及び、当該膜に結合したタンパク質を有する。加えて、それらは、それらが由来する細胞の特性を伝達するmiRNA、DNA、タンパク質などの物質を含有する。特定の細胞に由来するエクソソームは、それらの膜に含有されるタンパク質に起因する、天然の標的化潜在能力を有する。遺伝物質は標的細胞の表現型及び遺伝子型の特徴を変化させ得るため、ヒト細胞から取得されたエクソソームの使用には限界及び欠点が存在する。こうした理由により、最近では植物由来のエクソソームに関する調査が強化されている。
【0004】
植物由来のエクソソームは、主に細胞間のコミュニケーション及び病原体の攻撃に対する免疫制御のために多維管束体によって放出される小さな小胞である。これらのナノ粒子は腸管マクロファージによって吸収され、複数のサイトカインを誘導することによって種間コミュニケーションを呈し得ることが、文献で行われた研究において示されている。植物由来のエクソソームの重要性は、それらの生体分子含有量(脂質、タンパク質、及びmiRNA)、哺乳類細胞によるそれらの容易な内在化、それらの抗炎症特性、免疫調節特性、及び再生特性から生じている。植物由来のエクソソームは、大規模生産、低毒性、免疫原性の低下、効率的な細胞取り込み、高い生体適合性及び安定性という利点を有する。これらの特徴に起因して、医療における潜在的応用に対する関心が高まり、この分野におけるインビトロ研究及びインビボ研究が行われている。
【0005】
最も一般的なタイプの認知症であるアルツハイマー病は、内側側頭葉及び新皮質構造におけるAβペプチドの蓄積の結果としての神経突起斑及び神経原線維変化を特徴とし、緩徐に進行する神経変性疾患として定義されている。Aβ斑がアルツハイマー病の原因であるか、又はその結果であるかについての調査が続けられているが、Aβペプチドの過剰産生及び蓄積に伴う毒性作用の増大が、神経変性及び認知機能障害の主な原因であると考えられている。
【0006】
コーヒーは、世界中で最も広く摂取されている飲料の一つである。コーヒーは、ポリフェノール、とりわけクロロゲン酸(chlorogenic acid:CGA)、コーヒー酸、アルカロイド(カフェイン及びトリゴネリン)、及びジテルペン(カフェストール及びカーウェオール)など、多くの生物活性化合物を含有する。コーヒーの摂取により、アルツハイマー病、パーキンソン病及び認知症などの神経変性疾患の発症リスクが低下することが、文献で行われた研究において示されている。動物及びヒトに対する実験研究において、様々なコーヒー抽出物がアルツハイマー病の症状を緩和し得ることが示されている。
【0007】
臨床研究では、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の産生を刺激するコーヒーの使用が支持されている。BDNFは、脳及び中枢神経系に対して強力な作用を有する。新たなニューロンの発生及び分化を制御することにより、BDNFはニューロンの生存を確実にし、安定した気分をサポートする。BDNFの産生は加齢に伴って減少し、アルツハイマー病と診断された患者では低レベルで観察される。或る研究においては、カプセル化された濃縮コーヒーの単回投与により、末梢血清BDNFが初期レベルと比較して60分で91%だけ、かつ120分で66%だけ増加することが示された。
【0008】
高麗人参は、伝統的に東洋医学(東洋伝統医学)において多くの疾患の治療に使用されている。文献で行われた研究において、高麗人参抽出物の摂取によりアルツハイマー病の症状が緩和され得、認知機能の向上をもたらし得ることが示されている。高麗人参抽出物は、認知機能不全を予防し得る生物学的に活性な成分を含有していることが知られている。高麗人参抽出物内の生物学的に活性な化学物質は、Aβの形成及び凝集を減少させることによって認知機能不全を予防し得ると述べられている。また、これらの抽出物がAβ誘発ミトコンドリア損傷を改善し、抗アポトーシスタンパク質レベルの低下に寄与することを示す、文献における研究が存在する。
【0009】
Parkらは、彼らの研究において、認知機能不全を有するボランティアにおける高麗人参の摂取に起因する認知機能の改善を報告した。
【0010】
イチョウはまた、標準化抽出物として、集中力の問題、記憶力、混乱、鬱病、不安、眩暈、耳鳴り及び頭痛など、様々な問題の治療のために使用されている。イチョウの主な用途は、脳機能障害の治療におけるものである。イチョウは、加齢性の認知低下、アルツハイマー病及び他のタイプの認知症などの神経変性疾患の進行を遅らせるために推奨されている。
【0011】
コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得された抽出物の大きいサイズに起因して、それらが血液脳関門を透過する可能性は低い。コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得された抽出物のこれらの特性は、アルツハイマー病の治療におけるこれらの抽出物の作用を制限する。
【0012】
アルツハイマー病の治療、及び、認知機能及び集中力の活性に対するコーヒー、イチョウ及び高麗人参の作用が、エッセンス及び抽出物を用いて探求されている。しかしながら、エクソソームレベルでのそれらの使用に関する研究は文献に含まれておらず、この分野において利用可能な特許は存在しない。従来の方法とは異なるアルツハイマー病の解決に革新的視点を提供するコーヒー、イチョウ及び高麗人参由来のエクソソームが、この疾患の病理学的症状であるAβ斑の形成を予防するという点において、当該疾患と闘う人々にとっての新たな希望の源となることは明らかである。この文脈において、コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得されたエクソソームを初めて使用していること、及び、それがこの文脈においてアルツハイマー病の治療の可能性を検討しているという事実が、この疾患の治療のためのコーヒー、イチョウ及び高麗人参に由来する他の特許とそれを区別するものである。
【0013】
その結果、上記で言及したマイナス面に起因して、及び、本主題に関する既存の解決策の不十分さに起因して、関連の技術分野における改善が必要となった。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得されたエクソソームに関し、これは上記で言及した要件を満たし、全ての欠点を排除し、かつ幾つかの追加的な利点を提供する。
【0015】
本発明の主な目的は、コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得されたエクソソームを用いることにより、アルツハイマー病患者における当該疾患の症状の軽減及びその治療を提供することである。
【0016】
本発明の主な目的は、コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得されたエクソソームを用いることにより、認知機能障害、記憶障害及び集中困難の治療を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、アルツハイマー病の治療において、合成分子の代わりに極めて低い毒性及び副作用を有する天然物の使用を提供すること、及び、認知機能及び集中力を高めることである。
【0018】
本発明の別の目的は、コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得されたエクソソームが、それらの小さいサイズに起因して血液脳関門を遥かに多く透過することを可能にすることである。
【0019】
上記で説明した目的を達成するために、本発明は、エクソソームの取得におけるコーヒー、イチョウ及び高麗人参の植物の使用に関する。
【0020】
上記で説明した目的を達成するために、本発明は、アルツハイマー病、認知機能障害、記憶障害(健忘症)及び集中困難障害の治療における、コーヒー、イチョウ及び高麗人参の植物から取得されたエクソソームの使用を含む。
【0021】
本発明は植物由来のエクソソームであり、これは、アルツハイマー病患者の治療におけるそれらの使用を含み、健忘症及び他の症状を軽減する。
【0022】
本発明は、植物由来のエクソソームであり、これは、認知機能及び集中力を高めるにあたってのそれらの使用を含む。上記で説明した目的を達成するために、本発明は、アルツハイマー病、認知機能障害、記憶障害(健忘症)及び集中困難障害の治療において使用されるエクソソームであり、それは、コーヒー、イチョウ及び高麗人参の植物を含む。
【0023】
本発明は、植物由来のエクソソームであり、それは、薬剤的に使用可能な錠剤の形態である。
【0024】
本発明の構造的及び特徴的な特徴及びその全ての利点は、以下で提示される図、及び、これらの図を参照することによって記述される詳細な説明によってより明確に理解されるであろうことから、これらの図及び詳細な説明を考慮して評価が行われるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】コーヒーから取得されたエクソソームのSEM画像である。
【0026】
【
図2】コーヒーから取得されたエクソソームの直径の分布グラフである。
【0027】
【
図3】高麗人参から取得されたエクソソームのSEM画像である。
【0028】
【
図4】高麗人参から取得されたエクソソームの別のSEM画像である。
【0029】
【
図5】高麗人参から取得されたエクソソームの直径の分布グラフである。
【0030】
【
図6】イチョウから取得されたエクソソームの別のSEM画像である。
【0031】
【
図7】イチョウから取得されたエクソソームの直径の分布グラフである。
【0032】
【
図8】HT-22細胞に異なる濃度で適用したコーヒーエクソソームの細胞生存率に対する作用を示すグラフである。
【0033】
【
図9】HT-22細胞に異なる濃度で組み合わせて適用した、コーヒー、高麗人参及びイチョウエクソソームの細胞生存率に対する作用を示すグラフである。
【0034】
【
図10】HT-22細胞の細胞生存率に対する、異なる濃度のAβ(1-42)の作用を示すグラフである。
【0035】
【
図11】確立されたAβ(1-42)毒性を伴って形成されたHT-22細胞に異なる濃度で適用したコーヒーエクソソームの、細胞生存率に対する作用を示すグラフである。
【0036】
【
図12】異なる濃度で適用した高麗人参エクソソームの、HT-22細胞の細胞生存率に対する作用を示すグラフである。
【0037】
【
図13】HT-22細胞に異なる濃度で組み合わせて適用した、高麗人参、コーヒー、及びイチョウエクソソームの細胞生存率に対する作用を示すグラフである。
【0038】
【
図14】確立されたAβ(1-42)毒性を有するHT-22細胞に異なる濃度で適用した高麗人参エクソソームの、細胞生存率に対する作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
この詳細な説明において、本発明の主題である、コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得された植物由来のエクソソームは、それらがいかなる限定効果も生じさせないような方法で、本主題のより良い理解のためにのみ説明される。
【0040】
本発明は、エクソソームを得るための、コーヒー、イチョウ及び高麗人参の植物の使用に関する。
【0041】
本発明はまた、アルツハイマー病、認知機能障害、健忘症(記憶障害)及び集中困難障害の治療における、コーヒー、イチョウ及び高麗人参の植物に由来するエクソソームの使用に関する。
【0042】
アルツハイマー病、認知機能障害、健忘症及び集中困難障害の治療に使用されるエクソソームは、コーヒー、イチョウ及び高麗人参の植物を含む。
【0043】
本発明の主題である植物由来のエクソソームは、とりわけアルツハイマー病患者における当該疾患の治療において、健忘症及び他の症状を軽減するために使用される。
【0044】
本発明の主題である植物由来のエクソソームは、認知機能及び集中力を高めるためにも使用される。本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の主題である植物由来のエクソソームは、薬剤的に使用することができる錠剤の形態である。
【0045】
本発明の主題であるアルツハイマー病患者における当該疾患の症状軽減及び治療のために使用されるエクソソームの生産方法においては、コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得されたエクソソームの単離のために分画遠心法が使用される。
【0046】
本発明の主題であるコーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得されたエクソソームの生産方法は、以下の工程段階を備える:
i. 植物抽出物の醸造又は混合、及び抽出液の取得、
ii. 異なる重力及び持続時間での段階的な様式における溶液の遠心分離、
iii. 各遠心分離工程後に得られる上清を除去することによるペレットの除去、
iv. 最後の遠心分離後に取得された、結果として得られたペレットを1mlのPBS内で緩徐に溶解させる、
v. 溶解させたペレットをチューブに移し、それらを約-80°Cで保存する。
【0047】
本発明の好ましい実施形態によれば、当該生産方法の工程段階(ii)において適用される分画遠心法ステージは、それぞれ以下の通りである:
a. サンプルを200gで約10分間にわたり遠心分離する、
b. 結果として得られた上清を2000gで約20分間にわたり遠心分離する、
c. 結果として得られた上清を10,000gで約30分間にわたり遠心分離する、
d. 結果として得られた上清を150,000gで約90分間にわたり遠心分離する。
【0048】
以下の表-1は、本発明の主題であるエクソソームの特性及び作用を示す。
【表1】
表1:エクソソームの特性
本発明に関する実験研究について、以下で詳細に説明する。
【0049】
分画遠心法によるエクソソームの単離:
【0050】
サンプルを200gで10分間にわたり遠心分離し、遠心分離後に得られた上清を採取することによってペレットを廃棄した。結果として得られた上清を2000gで20分間にわたり遠心分離し、遠心分離後に得られた上清を採取することによってペレットを廃棄した。結果として得られた上清を10,000gで30分間にわたり遠心分離し、遠心分離後に得られた上清を採取することによってペレットを廃棄した。結果として得られた上清を150,000gで90分間にわたり遠心分離し、遠心分離後に得られた上清を廃棄し、得られたペレットを1mlのPBSに緩徐に溶解させて、エッペンドルフチューブに移した。サンプルを-80℃で保存し、作業日まで保管した。
【0051】
SEM(走査型電子顕微鏡)分析及びエクソソームの直径分布の判定:
【0052】
コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得されたエクソソームの直径分布をSEMによって分析した。SEM分析は、多孔質構造に関する定量的及び定性的情報を取得するための最良の方法の一つである。それは、平均細孔径及び分布の判定において広く使用されている。まず、エクソソームをPBS溶液で洗浄し、2.5%のグルタルアルデヒド溶液で固定した。次に、サンプルをPBSで洗浄し、グルタルアルデヒドを除去した。サンプルを、30%から100%までにエタノール濃度を高めることで脱水した。次に、サンプルを室温で乾燥させ、適切な倍率により異なる位置で高解像度で撮影した。得られた画像におけるエクソソームの直径分布を、(SEMグリッド内で無作為に選択された)Image Jプログラムの助けを得て測定した。
【0053】
ブラッドフォードタンパク質定量法
【0054】
標準物質を、ブラッドフォードタンパク質アッセイキット手順に従い、エッペンドルフチューブ内で調製した。調製した標準物質のうち、コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得されたエクソソームサンプルから5μLを各ウェルに添加した。次に、200ΜLのブラッドフォード試薬溶液を各ウェルに添加し、ピペッティングを行った。標準物質及びサンプルを室温で15分間にわたりインキュベートした。標準物質及びサンプルの吸光値を、マイクロプレートリーダーを用いて570nmの波長で測定した。標準物質から取得された吸光値に従って標準曲線を描き、各サンプルについてタンパク質の量を計算した。
【0055】
HT-22細胞培養及びWST-1細胞生存率試験:
【0056】
飼料ヤードにおける湿度95%及びCO2 5%の環境内で、細胞を37℃で増殖させ、10%のウシ胎児血清(インビトロゲン)、2mmのグルタミン、100単位/mlのペニシリン及び100mg/mlのストレプトマイシンをDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地:Dulbecco's Modified Eagle's Medium)(pH:7.2-7.4)と併用した。細胞生存率及び細胞数を、0.4%トリパンブルー色素を用いた血球計数装置を用いて判定した。非生存細胞はトリパンブルー色素を吸収し、光学顕微鏡ではそれらの核が青く染まって見える。このようにして、非生存細胞を生存細胞と区別して計数することができる。全ての実験において、生細胞比率を、実験開始前に(生細胞比率(%)=色素を受容していない細胞の数/細胞の総数×100)として判定し、細胞生存率が95%になった値で実験を開始した。HT-22細胞を、コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得された1~50μg/mlの濃度のエクソソームと共に24時間にわたりインキュベートした。24時間にわたるインキュベーションの後に、HT-22細胞の細胞生存率をWST-1試験で分析した。WST-1生存率試験を行う前に、WST-1ストック溶液を調製し、ストック溶液から各ウェルに100μlの溶液を適用した。次に、細胞を2時間にわたりインキュベートした。2時間にわたるインキュベーションの後に、マイクロプレートリーダーを用い、450nmの波長で吸光値を測定した。
【0057】
Aβ(1-42)毒性を有するインビトロアルツハイマー病モデルの構築:
【0058】
凍結乾燥したAβ(1-42)ペプチドを蒸留水及びDMSOに溶解させ、1MMのストック溶液を調製した。異なる収縮(2.5μM、5μM、10μM、25μM及び50μM)でAβ(1-42)溶液を調製することにより、調製したストック溶液を系列希釈で希釈した。HT-22細胞を、各ウェル内に104細胞/mlとなるよう96枚のプレートに植えた。細胞を、異なる濃度(5μM、10μM、25μM、及び50μM)のAβ(1-42)ペプチドと共に24時間にわたりインキュベートした。インキュベーション後、WST-1細胞生存率試験を行って細胞の細胞生存率を判定し、Aβ(1-42)の有効投与値を判定した。HT-22細胞における有効投与値でのAβ(1-42)毒性を用いて本発明者らが作成したインビトロアルツハイマー病モデルにおいて、高麗人参及びコーヒーに由来するエクソソームと共に細胞を5~50μg/mlの濃度で24時間にわたりインキュベートし、24時間にわたるインキュベーションの後に細胞の細胞生存率を判定した。
【0059】
実験研究の結果については以下で説明する。
【0060】
異なる濃度(1~50μg/ml)のコーヒーエクソソームを単体で、又はイチョウ及び高麗人参エクソソームと組み合わせて適用した場合、エクソソームの適用を伴わない対照群細胞の細胞生存率と比較して、海馬ニューロン細胞の細胞生存率が統計的に有意に増加することが観察された(p<0.05)。同様に、異なる濃度(1~50μg/ml)の高麗人参エクソソームを単体で、又はコーヒー及びイチョウエクソソームと組み合わせて適用した場合、エクソソームの適用を伴わない対照群細胞の細胞生存率と比較して、海馬ニューロン細胞の細胞生存率が有意に増加することが観察された(p<0.05)。
【0061】
研究の第2ステージでは、HT-22細胞においてAβ(1-42)毒性を有するインビトロアルツハイマー病モデルを作成した。コーヒー及び高麗人参から取得された1~50μg/ml濃度のエクソソームを、Aβ(1-42)毒性が誘発された細胞に適用し、それらの細胞の生存率における変化を分析した。コーヒーから1~50μg/mlの濃度で取得されたエクソソームは、Aβ(1-42)毒性を有する細胞の細胞生存率を有意に増加させた(p<0.05)。高麗人参から10μg/mlの濃度で得られたエクソソームは、Aβ(1-42)毒性を有する細胞の細胞生存率を有意に増加させた(p<0.05)。
【0062】
要約すると、コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得されたエクソソームは、健康な海馬ニューロン細胞において、及び、Aβ(1-42)毒性が確立されている、記憶力に関連する脳の海馬領域内のニューロン細胞においての両方で、細胞増殖を有意に増加させた。
【0063】
これらの結果は、コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得されたエクソソームが以下の治療に使用できることを示している;
- アルツハイマー病における、当該疾患の治療及び症状の軽減、及び
- 認知機能障害、健忘症(記憶障害)及び集中困難障害
【0064】
コーヒー、イチョウ及び高麗人参から取得されたエクソソームは、それらの小さいサイズに起因して血液脳関門を透過するための遥かに高い能力を有する。これらの特性により、コーヒー、イチョウ及び高麗人参に由来するエクソソームは、抽出物などのサイズの大きい構造物よりも遥かに高い生物活性を示す可能性を有する。本発明の主題であるコーヒー、イチョウ及び高麗人参に由来するエクソソームは、アルツハイマー病の治療において、及び、認知機能障害、健忘症及び集中困難の治療において、既存のコーヒー、イチョウ及び高麗人参抽出物よりも遥かに有効性が高いであろう。
【国際調査報告】