(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】多層環状孔ニッケルコバルトアルミニウム前駆体及び製造方法並びにその正極材料
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20241108BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241108BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/36 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514133
(86)(22)【出願日】2023-10-24
(85)【翻訳文提出日】2024-03-01
(86)【国際出願番号】 CN2023126291
(87)【国際公開番号】W WO2024088271
(87)【国際公開日】2024-05-02
(31)【優先権主張番号】202211319408.6
(32)【優先日】2022-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523288455
【氏名又は名称】河南科▲隆▼新能源股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100158920
【氏名又は名称】上野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼ ▲曉▼瑾
(72)【発明者】
【氏名】程 迪
(72)【発明者】
【氏名】徐 云▲軍▼
(72)【発明者】
【氏名】左 高峰
(72)【発明者】
【氏名】▲はお▼ 智敏
(72)【発明者】
【氏名】汪 文
(72)【発明者】
【氏名】文 万超
(72)【発明者】
【氏名】尹 正中
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
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5H050FA17
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA10
5H050GA12
5H050HA02
5H050HA09
5H050HA10
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、多層環状孔ニッケルコバルトアルミニウム前駆体及び製造方法並びにその正極材料を開示し、この前駆体のD50は8~20μmであり、断面図から、球形二次粒子構造に多層環状孔を有することが見られ、且つ1つの粒子又は複数の粒子の断面の平均値の孔隙率値は6~14%である。ニッケルコバルト混合塩溶液と、アルカリアルミニウム溶液と、錯化剤と、沈殿剤とを共沈反応させ、各段階におけるpH値及びアルミニウム溶液濃度を厳密に制御し、続いて固液分離、洗浄、オーブン乾燥、均一混合、篩い分け、消磁工程を行って、多層環状孔を有するニッケルコバルトアルミニウム前駆体を製造する。当該前駆体の緩くて多孔性の形態は、リチウムを混合して焼結して正極材料を得るのに役立つ。当該正極材料は、多層リチウムイオン拡散経路を有し、充放電中に材料に発生した結晶格子の機械的な歪み力を緩衝し、サイクルを改善することができる。高い初期放電比容量、低い内部抵抗、良いレート性能、及び良好のサイクル安定性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層環状孔ニッケルコバルトアルミニウム前駆体であって、
化学式がNi
MCo
NAl
1-M-N(OH)
2で、0.8≦M≦0.97、0.02≦N≦0.09、0.01≦1-M-N≦0.055であり、但し、D50は8μm~20μmであり、且つ、前記前駆体の球形二次粒子構造には多層環状孔を有し、1つの球形二次粒子又は複数の球形二次粒子の断面平均値である孔隙率値は6%~14%である、
ことを特徴とする多層環状孔ニッケルコバルトアルミニウム前駆体。
【請求項2】
請求項1に記載の多層環状孔ニッケルコバルトアルミニウム前駆体の製造方法であって、
硫酸ニッケル及び硫酸コバルト粉末を秤量して純水に溶解させ、ニッケルコバルト混合塩溶液を調製するS1と、
アルミニウム塩を秤量して、水酸化ナトリウム溶液に加え、アルカリアルミニウム溶液を調製するS2と、
S1の前記ニッケルコバルト混合塩溶液と、S2の前記アルカリアルミニウム溶液と、錯化剤とを同時に反応釜にポンプして、共沈反応を段階的に行うS3と、
反応終了後、反応から得られた材料に対して固液分離、洗浄、オーブン乾燥、均一混合、篩い分け、消磁の工程を行って、ニッケルコバルトアルミニウム前駆体を得るS4と、を含む、
ことを特徴とする多層環状孔ニッケルコバルトアルミニウム前駆体の製造方法。
【請求項3】
ステップS1において、前記ニッケルコバルト混合塩溶液の全金属イオンの濃度は1.0mol/L~2.0mol/Lである、
ことを特徴とする請求項2に記載の多層環状孔ニッケルコバルトアルミニウム前駆体の製造方法。
【請求項4】
ステップS2において、前記アルミニウム塩はメタアルミネートナトリウムであり、前記アルカリアルミニウム溶液中のAl
3+濃度は0.1mol/L~0.5mol/Lであり、前記水酸化ナトリウム溶液のモル濃度は5mol/L~10mol/Lである、
ことを特徴とする請求項2に記載の多層環状孔ニッケルコバルトアルミニウム前駆体の製造方法。
【請求項5】
ステップS3において、前記錯化剤の濃度は10mol/L~15mol/Lであり、前記錯化剤は、EDTA、アンモニア水、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムのうちの少なくとも1つである、
ことを特徴とする請求項2に記載の多層環状孔ニッケルコバルトアルミニウム前駆体の製造方法。
【請求項6】
ステップS3において、核が形成されてから目標値の25%≦D
150<目標値の40%のD
150まで生長させる第1段階と、反応釜内で球形二次粒子を目標値の40%≦D
250<目標値の60%のD
250まで生長させる第2段階と、反応釜内で球形二次粒子を目標値の60%≦D
350<目標値の90%のD
350まで生長させる第3段階と、反応釜内で球形二次粒子が目標値まで成長すると、直ちに生長反応を停止させる第4段階との4つの段階に分けて共沈反応を行い、
各段階において、前記ニッケルコバルト混合塩溶液の流量が1~3.5L/hで、アルカリアルミニウム溶液の流量が1~2L/hで、錯化剤の流量が0.5~1.5L/hであり、pHを10~12に制御し、各段階の反応温度を55~70℃に制御し、各段階の撹拌速度は500~1000rpmである、
ことを特徴とする請求項2に記載の多層環状孔ニッケルコバルトアルミニウム前駆体の製造方法。
【請求項7】
ステップS4において、前記洗浄は、具体的には、反応から得られた材料を、先にアルカリ溶液で洗浄してから、25℃~80℃の脱イオン水で洗浄し、洗浄後の洗浄水の抵抗率は0.02cm/μs未満であり、前記アルカリ溶液は、炭酸ナトリウム溶液及び水酸化ナトリウム溶液のうちの少なくとも1つであり、且つアルカリ溶液のモル濃度は4.0mol/L~5.0mol/Lである、
ことを特徴とする請求項2に記載の多層環状孔ニッケルコバルトアルミニウム前駆体の製造方法。
【請求項8】
請求項2の製造方法を用いてニッケルコバルトアルミニウム前駆体を得てから、得られた前記前駆体とリチウム源、添加剤とを均一に混合し、1次焼結、破砕、粉砕、水洗い・オーブン乾燥、コーティング、2次焼結及び篩分を行って正極材料を得る、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の正極材料の製造方法。
【請求項9】
前記リチウム源は、水酸化リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウムのうちの少なくとも1つであり、前記添加剤は、元素Zr、Sr、Ti、W、Mg、Y、La、B、Fのうちの1つ以上であり、コーティング時に使用されるコーティング剤は、元素D含有酸化物及び元素D含有リチウム化合物のうちの1つ以上であり、元素Dは、Co、Li、B、W、Ti、Ce、Zrのうちの1つ以上であり、Ni+CO+Al:Liのモル比は1:1.01~1.05であり、使用される添加剤と、前駆体及びリチウム塩の合計質量との質量比は0.1%~2%であり、1次焼結を行う際に、酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は650℃~800℃で、か焼時間は10h~15hで、雰囲気炉中の酸素含有量は85%~95%であり、1次焼結基質を獲得し、得られた1次焼結基質を粉砕して、脱イオン水で洗浄し、但し、1次焼結基質と水との質量比は1:1~3であり、脱イオン水の温度は20℃~30℃であり、遠心分離し、オーブン乾燥して、乾燥基質を獲得し、得られた乾燥基質とコーティング剤とを均一に混合し、但し、コーティング剤と乾燥基質との質量比は0.01%~5%であり、
その後、2次焼結を行い、酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は500℃~700℃で、か焼時間は6h~10hで、雰囲気炉中の酸素含有量は90%~95%であり、前記正極材料を得る、
ことを特徴とする請求項8に記載のリチウムイオン電池の正極材料の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9の製造方法を用いて製造されるリチウムイオン電池の正極材料。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、CN出願番号が202211319408.6で、出願日が2022年10月26日である中国出願を基に、優先権を主張し、このCN出願の開示内容は、再び全体として本願に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、リチウム電池の正極材料技術の分野に属し、具体的には、多層環状孔ニッケルコバルトアルミニウム前駆体及び製造方法並びにその正極材料に関する。
【背景技術】
【0003】
現在のところ、電気自動車の普及と発展は、動力電池における航行持続能力が不足で、充電速度が遅く、コストがやや高過ぎる等の問題によって制約され、電気自動車の市場普及程度は、動力リチウム電池の費用対効果に大きく影響される。正極材料は、動力リチウム電池の核心的なキー材料であり、正極材料のエネルギー密度の高さは、電気自動車の航行持続距離に密接に関連し、そしてそのコストがリチウム電池のセルのコストの約1/3を占めるため、高エネルギー密度、長寿命、高安全性、低コストの正極材料の開発は、動力リチウム電池、電気自動車の大規模な商用化にとって極めて重要である。
【0004】
NCA材料は、LiNiO2及びLiCoO2の長所を総合したものであるため、可逆比容量が高く、材料コストが低いだけでなく、アルミニウムをドープした後に材料の構造的安定性及び安全性も高め、さらに、材料の循環の安定性を向上させ、そのため、NCA材料は、現在商用化されている正極材料の研究において、最も人気のある材料の1つである。
【0005】
公告番号がCN113651372Aである特許に開示された技術的解決手段は、不連続方法を用いて球形度が高く双晶粒子がない前駆体を製造し、この解決手段は、前駆体表面の形態を改善しただけで、前駆体の内部空間構造についての言及がなく、前駆体から正極材料への焼結後の利点を効果的に説明することができない。
【0006】
公告番号がCN113697870Bである特許に開示された技術的解決手段は、リチウムイオン拡散経路及びリチウムイオン拡散速度を改善するための二核双晶構造の前駆体を提供し、提供された断面電子顕微鏡から見ると、当該前駆体は、内部構造が緻密であるため、リチウム塩との混合・焼結に不利であり、リチウムイオン拡散経路を複数形成し、且つ、コーティングで改質された元素が一次粒子の表面に入るのに不利であり、当該技術的解決手段も前駆体の改善後の利点を際立たせることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の問題に基づいて、ニッケルコバルトアルミニウム前駆体の研究中に、製造中に元素間の溶解度積定数が異なる点を利用して、各反応段階におけるpH及びアルミニウム溶液の濃度を厳密に制御して、前駆体粒子の内部構造における一次粒子の形態及び孔隙率を直接改善することができ、当該方法は、プロセスが簡単で、コストが安く、工業化生産が可能で、且つ、得られる生成物は焼結後に良好な性能を有することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、多層環状孔ニッケルコバルトアルミニウム前駆体であって、化学式がNiMCoNAl1-M-N(OH)2で、0.8≦M≦0.97、0.02≦N≦0.09、0.01≦1-M-N≦0.055であり、但し、D50は8~20μmで、且つ、前記前駆体の球形二次粒子構造には多層環状孔を有し、1つの球形二次粒子又は複数の球形二次粒子の断面平均値である孔隙率値は6~14%であることを特徴とする多層環状孔ニッケルコバルトアルミニウム前駆体を提供する。
【0009】
本発明は、さらに、上記前駆体の製造方法を提供し、
硫酸ニッケル及び硫酸コバルト粉末を秤量して純水に溶解させ、ニッケルコバルト混合塩溶液を調製するS1と、
アルミニウム塩を秤量して、水酸化ナトリウム溶液に加え、アルカリアルミニウム溶液を調製するS2と、
S1の前記ニッケルコバルト混合塩溶液と、S2の前記アルカリアルミニウム溶液と、錯化剤とを同時に反応釜にポンプして、共沈反応を段階的に行うS3と、
反応終了後、反応から得られた材料に対して固液分離、洗浄、オーブン乾燥、均一混合、篩い分け、消磁の工程を行って、ニッケルコバルトアルミニウム前駆体を得るS4とを含む。
【0010】
さらに、ステップS1において、前記ニッケルコバルト混合塩溶液の全金属イオンの濃度は1.0~2.0mol/Lである。
【0011】
さらに、ステップS2において、前記アルミニウム塩はメタアルミネートナトリウムであり、前記アルカリアルミニウム溶液中のAl3+濃度は0.1~0.5mol/Lであり、前記水酸化ナトリウム溶液のモル濃度は5~10mol/Lである。
【0012】
さらに、ステップS3において、前記錯化剤の濃度は10~15mol/Lであり、前記錯化剤は、EDTA、アンモニア水、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムのうちの少なくとも1つである。
【0013】
さらに、ステップS3において、核が形成されてから目標値の25%≦D150<目標値の40%のD150まで生長させる第1段階と、球形二次粒子を目標値の40%≦D250<目標値の60%のD250まで生長させる第2段階と、球形二次粒子を目標値の60%≦D350<目標値の90%のD350まで生長させる第3段階と、球形二次粒子が目標値に生長すると、直ちに生長反応を停止させる第4段階との4つの段階に分けて共沈反応を行う。各段階において、前記ニッケルコバルト混合塩溶液の流量が1~3.5L/hで、アルカリアルミニウム溶液の流量が1~2L/hで、錯化剤の流量が0.5~1.5L/hであり、pHを10~12に制御し、各段階の反応温度を55~70℃に制御し、各段階の撹拌速度は500~1000rpmである。
【0014】
さらに、ステップS4において、前記洗浄は、具体的には、反応から得られた材料を、先にアルカリ溶液で洗浄してから、25~80℃の脱イオン水で洗浄し、洗浄後の洗浄水の抵抗率は0.02cm/μs未満であり、前記アルカリ溶液は、炭酸ナトリウム溶液及び水酸化ナトリウム溶液のうちの少なくとも1つであり、且つアルカリ溶液のモル濃度は4.0~5.0mol/Lである。
【0015】
本発明は、リチウムイオン電池の正極材料の製造方法を提供し、上記製造方法を用いてニッケルコバルトアルミニウム前駆体を得た後、得られた前記前駆体とリチウム源や添加剤とを均一に混合し、1次焼結、破砕、粉砕、水洗い・オーブン乾燥、コーティング、2次焼結及び篩分を行って正極材料を得る。
【0016】
さらに、前記リチウム源は、水酸化リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウムのうちの少なくとも1つであり、前記添加剤は、元素Zr、Sr、Ti、W、Mg、Y、La、B、Fのうちの1つ以上であり、コーティング時に使用されるコーティング剤は、元素D含有酸化物及び元素D含有リチウム化合物のうちの1つ以上であり、元素Dは、Co、Li、B、W、Ti、Ce、Zrのうちの1つ以上であり、Ni+CO+Al:Liのモル比は1:1.01~1.05であり、使用される添加剤と、前駆体及びリチウム塩の合計質量との質量比は0.1%~2%である。1次焼結を行う際に、酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は650~800℃で、か焼時間は10~15hで、雰囲気炉中の酸素含有量は85%~95%であり、1次焼結基質を得た。得られた1次焼結基質を粉砕して、脱イオン水で洗浄し、但し、1次焼結基質と水との質量比は1:1~3であり、脱イオン水の温度は20~30℃であり、遠心分離し、オーブン乾燥して、乾燥基質を得た。得られた乾燥基質とコーティング剤とを均一に混合し、ここで、コーティング剤と乾燥基質との質量比は0.01~5%である。その後、2次焼結を行い、酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は500~700℃で、か焼時間は6~10hで、雰囲気炉中の酸素含有量は90%~95%であり、前記正極材料を得る。
【0017】
本発明は、さらに、上記製造方法で得たリチウムイオン電池の正極材料を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の有益な効果は次のとおりである。
1、NCA正極材料は、従来の正極材料LiNiO2及びLiCoO2に比べ、エネルギー密度がより高く、Al3+とCo3+とは、同じ原子価、類似のイオン半径(Al3+のイオン半径は0.535Åで、Co3+のイオン半径は0.545Åである)を有する。しかし、Al-O共有結合の結合エネルギーの方がより強いため、Alのドープによりリチウムニッケルが混ざって配列されることを低減することができ、材料の構造を安定化させるのに有利であり、また、Al3+のドープは、電解液の分解によって生成される熱の伝達に有利であるだけでなく、電解液に対する材料の酸化能力も低下させ、材料の熱安定性を向上させる。しかし、NCA前駆体の製造プロセスは技術的難易度が高い。元素Ni、Co、Alが沈降するpH値は大きく異なり、その溶解度積定数は、水酸化ニッケルである場合10-16で、水酸化コバルトである場合10-14.9で、水酸化アルミニウムである場合10-33であり、Al(OH)3は両性水酸化物であり、低いpH値では沈殿が発生しやすく、高いpH値ではAlO2
-1に分解しやすく、本発明は、3つの元素の各段階での共沈pH値及び共沈時間を厳密に制御して、多層環状孔を有するニッケルコバルトアルミニウム前駆体を製造でき、当該製造方法は、プロセスが簡単で、コストが安く、工業的生産が可能である。
【0019】
2、従来の前駆体に比べ、当該前駆体の球形二次構造において、一次粒子間に大きい内部空間を有し、正極材料が前駆体の形態構造及び物性指標を多く継承し、本発明で製造された正極材料は、ドープ及びコーティングされた元素は、球形二次粒子の表面だけでなく、環状孔まで浸透して、球形二次粒子を構成する一次粒子を保護する。電解液は、正極材料の多層環状孔に浸入して、正極材料と電解液との接触面積を拡大し、Li+の拡散経路を短縮して、リチウムイオンの吸蔵と放出速度を加速することができ、それにより、電池は、高い初期放電比容量を有するだけでなく、小さい電池内部抵抗を有し、出力性能が向上する。また、多層環状孔の存在により正極材料の充放電中の体積変化が緩衝され、構造を安定化させ、サイクル性能を改善する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例1の前駆体の断面走査型電子顕微鏡図である。
【
図2】実施例2の前駆体の断面走査型電子顕微鏡図である。
【
図3】比較例1の前駆体の断面走査型電子顕微鏡図である。
【
図4】比較例2の前駆体の断面走査型電子顕微鏡図である。
【
図5】実施例1、2、3、4及び比較例1、2、3、4で製造された正極材料のレート性能の比較図である。
【
図6】実施例1、2、3、4及び比較例1、2、3、4で製造された正極材料のサイクル性能の比較図である。 (表1)実施例1、2、3、4及び比較例1、2、3、4で製造された前駆体の孔隙率、正極材料の放電容量、DCR性能の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本願の構想、具体的な構造及び生成された技術的効果について、実施例を参照して明確且つ完全に説明する。
【0022】
(実施例1)
1.多層環状孔ニッケルコバルトアルミニウム前駆体の製造方法であって、以下のステップS1~S5を含む。
【0023】
S1において、硫酸ニッケル及び硫酸コバルト粉末を秤量して純水に溶解させ、0.875:0.09のNi:Coモル比に応じて、ニッケル及びコバルトの混合塩溶液を調製し、ニッケル及びコバルトの混合塩溶液中の全金属イオンのモル濃度は2.0mol/Lである。
【0024】
S2において、メタアルミネートナトリウムを秤量して、水酸化ナトリウム溶液に加え、Al3+モル濃度が0.1mol/Lであるアルカリアルミニウム溶液を調製した。
【0025】
S3において、S1の前記ニッケルコバルト混合塩溶液と、S2の前記アルカリアルミニウム溶液と、12mol/Lのアンモニア水錯化剤とを同時に反応釜にポンプして、撹拌しながら共沈反応を行った。共沈反応は4つの段階に分けられ、温度を全部55℃に制御した。第1段階では、流量が2.52L/hのニッケルコバルト混合塩溶液と、流量が1.8L/hのアルカリアルミニウム溶液と、流量が0.5~1.5L/hの錯化剤溶液とを反応釜にポンプし、pH値を11.89±0.1に制御し、撹拌速度を850rpmにし、反応釜内の粒子D50を4~6μmまで生長させた。第2段階では、流量が2.45L/hのニッケルコバルト混合塩溶液と、流量が1.5L/hのアルカリアルミニウム溶液と、流量が0.5~1.5L/hの錯化剤溶液とを反応釜にポンプし、pH値を11.62±0.1に制御し、撹拌速度を550rpmにし、反応釜内の粒子D50を6~9μmまで生長させた。第3段階では、流量が2.55L/hのニッケルコバルト混合塩溶液と、流量が1.65L/hのアルカリアルミニウム溶液と、流量が0.5~1.5L/hの錯化剤溶液とを反応釜にポンプし、pH値を11.45±0.1に制御し、撹拌速度を650rpmにし、反応釜内の粒子を9~13μmまで生長させた。第4段階では、流量が2.55L/hのニッケルコバルト混合塩溶液と、流量が1.65L/hのアルカリアルミニウム溶液と、流量が0.5~1.5L/hの錯化剤溶液とを反応釜にポンプし、pH値を11.65±0.1に制御し、撹拌速度を500rpmにし、反応釜内の粒子D50を15±1μmまで生長させて、停止した。
【0026】
S4において、S3での反応釜のオーバーフロー液を集めて濃縮し、反応から得られた材料を先に水酸化ナトリウム溶液で洗浄してから、25℃の脱イオン水で洗浄し、洗浄後の洗浄水の抵抗率は0.02cm/μs未満であり、前記アルカリ溶液のモル濃度は4.0~5.0mol/Lである。オーブン乾燥温度を105℃にし、水分を0.5wt%以下に制御する。前記前駆体中の磁性異物の含有量を100ppb以下に制御する必要がある。
【0027】
当該製造方法では、D50=15.097で、孔隙率が8.348で、多層環状孔を有する形態のニッケルコバルトアルミニウム前駆体Ni0.875Co0.09Al0.035(OH)2を取得できる。
【0028】
S5において、S4で得られたニッケルコバルトアルミニウム前駆体と、リチウム塩と、添加剤とを均一に混合し、S5に使用されるリチウム塩は水酸化リチウムで、使用される添加剤はZrO2で、(Ni+CO+Al):Liのモル比は1:1.03であり、ZrO2と、前駆体及びリチウム塩の合計質量との質量比は0.3%である。酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は720℃で、か焼時間は10hで、雰囲気炉中の酸素含有量は90%~95%であり、1次焼結基質を得た。得られた1次焼結基質を粉砕して、脱イオン水で洗浄し、但し、1次焼結基質と水との質量比は1:1.5で、脱イオン水の温度は25℃であり、遠心分離し、オーブン乾燥して、乾燥基質を得た。得られた乾燥基質とコーティング材である酸化セリウムとを均一に混合し、酸化セリウムと乾燥基質との質量比は0.1%である。その後、酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は650℃で、か焼時間は8hで、雰囲気炉中の酸素含有量は90%~95%であり、Li1.03Ni0.875Co0.09Al0.035Zr0.003O2@CeO2の正極材料を得た。
【0029】
アルゴンイオン断面プロッターを用いて、S4で得られたNi
0.875Co
0.09Al
0.035(OH)
2ニッケルコバルトアルミニウム前駆体を切断し、電界放出走査型電子顕微鏡で断面形態を観察し、テスト結果を
図1に示した。
【0030】
ImageJを使用して前駆体の断面図に対して粒子孔隙率分析を行い、粒子断面孔隙率の計算は、主に、粒子内での孔の割合に基づく。ImageJは、原図を1枚コピーし、原図が、孔面積を抽出するために用いられ、コピー図解が、孔を充填した後の粒子の面積を抽出するために用いられる必要があり、両者の割合が、粒子断面の孔隙率である。テスト結果を表1に示した。
【0031】
2.電気的性能テスト
全電池18650を組み立て、実施例1における正極材料の電気的性能をテストするために用いられ、正極材料(96.5%)、SuperP(1.2%)、CNT(0.5%)、PVDF(1.8%)であり、黒鉛を負極とし、黒鉛(94.8%)、CMC(1.7%)、SBR(2%)及びSuperP(1.5%)であり、全電池設計において、正極/負極の容量比は1/1.2である。
【0032】
1)グラム容量テスト:18650円筒型電池に組み立て、続いて、化成及び容量等級付けを行い、化成電圧は2.75~4.2Vであり、初回効率(初回効率%=0.2C放電容量/初回充電容量)、0.2C放電グラム容量をそれぞれ計算し、その結果を表1に示した。
【0033】
2)レート性能テスト:組み立てられた18650円筒型電池に対して化成及び容量等級付けを行った後、化成後の電池を、25℃の室温及び2.75~4.2Vの電圧範囲内で、異なるレートの放電テストを行い、充電レートは、いずれも0.5Cであり、放電レートはそれぞれ0.5C、1C、2C、3Cであり、異なるレートの放電容量維持率を計算し、その結果を表1に示した。
【0034】
3)サイクル性能テスト:組み立てられた18650円筒型電池に対して従来の化成及び容量等級付けを行った後に、化成後の電池を、25℃の室温及び2.75~4.2Vの電圧範囲内で、0.5Cレートで充電し、1Cレートで放電し、容量維持率の結果を
図6に示した。
【0035】
4)DCR性能テスト:組み立てられた18650円筒型電池に対して従来の化成及び容量等級付けを行った後に、常温DCRテストを行った。常温DCRテストの工程は、次のとおりである。化成後の電池を、25℃の室温及び2.75~4.2Vの電圧範囲内で、1Cレートでフル充電して静置し、その後、1Cレートでそれぞれ50%SOC及び10%SOCに放電して静置し、その後1Cで10sパルス放電し、パルス放電前後の電圧変化を記録し、計算式DCR=(静置終了電圧-パルス放電後の電圧)/パルス電流にしたがって、常温50%SOC及び10%SOCでのDCRデータを取得し、その結果を表1に示した。
【0036】
(実施例2)
S1において、硫酸ニッケル及び硫酸コバルト粉末を秤量して純水に溶解させ、0.92:0.03のNi:Coモル比に応じてニッケル及びコバルトの混合塩溶液を調製し、ニッケル及びコバルトの混合塩溶液中の全金属イオンのモル濃度は2.0mol/Lである。
【0037】
S2において、メタアルミネートナトリウムを秤量して、水酸化ナトリウム溶液に加え、Al3+モル濃度が0.5mol/Lであるアルカリアルミニウム溶液を調製した。
【0038】
S3において、S1の前記ニッケルコバルト混合塩溶液と、S2の前記アルカリアルミニウム溶液と、12mol/Lのアンモニア水錯化剤とを同時に反応釜にポンプして、撹拌しながら共沈反応を行った。共沈反応は4つの段階に分けられ、温度を全部55℃に制御した。第1段階では、流量が2.55L/hのニッケルコバルト混合塩溶液と、流量が1.85L/hのアルカリアルミニウム溶液と、流量が0.5~1.5L/hの錯化剤溶液とを反応釜にポンプし、pH値を11.92±0.1に制御し、撹拌速度を850rpmにし、反応釜内の粒子D50を4~6μmまで生長させた。第2段階では、流量が2.43L/hのニッケルコバルト混合塩溶液と、流量が1.45L/hのアルカリアルミニウム溶液と、流量が0.5~1.5L/hの錯化剤溶液とを同時に反応釜にポンプし、pH値を11.65±0.1に制御し、撹拌速度を550rpmにし、反応釜内の粒子D50を6~9μmまで生長させた。第3段階では、流量が2.5L/hのニッケルコバルト混合塩溶液と、流量が1.65L/hのアルカリアルミニウム溶液と、流量が0.5~1.5L/hの錯化剤溶液とを同時に反応釜にポンプし、pH値を11.48±0.1に制御し、撹拌速度を650rpmにし、反応釜内の粒子を9~13μmまで生長させた。第4段階では、流量が2.5L/hのニッケルコバルト混合塩溶液と、流量が1.6L/hのアルカリアルミニウム溶液と、流量が0.5~1.5L/hの錯化剤溶液とを同時に反応釜にポンプし、pH値を11.54±0.1に制御し、撹拌速度を500rpmにし、反応釜内の粒子D50を15±1μmに生長させて、停止した。
【0039】
S4において、S3での反応釜オーバーフロー液を集めて濃縮し、反応から得られた材料を先に水酸化ナトリウム溶液で洗浄してから、25℃の脱イオン水で洗浄し、洗浄後の洗浄水の抵抗率は0.02cm/μs未満であり、前記アルカリ溶液のモル濃度は4.0~5.0mol/Lである。オーブン乾燥温度は105℃であり、水分を0.5wt%以下に制御する。前記前駆体中の磁性異物の含有量を100ppb以下に制御する必要がある。
【0040】
当該製造方法では、D50=14.792で、孔隙率が9.465で、多層環状孔を有する形態のニッケルコバルトアルミニウム前駆体Ni0.92Co0.03Al0.05(OH)2を取得できる。
【0041】
S5において、S4で得られたニッケルコバルトアルミニウム前駆体と、リチウム塩と、添加剤とを均一に混合し、S5で使用されるリチウム塩は水酸化リチウムであり、使用される添加剤はZrO2であり、(Ni+CO+Al):Liのモル比は1:1.03であり、ZrO2と、前駆体及びリチウム塩の合計質量との質量比は0.3%である。酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は700℃で、か焼時間は10hで、雰囲気炉中の酸素含有量は90%~95%であり、1次焼結基質を得た。得られた1次焼結基質を粉砕して、脱イオン水で洗浄し、但し、1次焼結基質と水との質量比は1:1.5で、脱イオン水の温度は25℃であり、遠心分離し、オーブン乾燥して、乾燥基質を得た。得られた乾燥基質とコーティング材であるフッ化セリウムとを均一に混合し、フッ化セリウムと乾燥基質との質量比は0.2%である。その後、酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は650℃で、か焼時間は8hで、雰囲気炉中の酸素含有量は90%~95%であり、Li1.03Ni0.92Co0.03Al0.05Zr0.003O2@CeF4正極材料を得た。
【0042】
アルゴンイオン断面プロッターを用いて、S4で得られたNi
0.92Co
0.03Al
0.05(OH)
2ニッケルコバルトアルミニウム前駆体を切断して、電界放出走査型電子顕微鏡で断面形態を観察し、テスト結果を
図2に示した。
【0043】
前駆体の断面図孔隙率テスト方法は、実施例1と同じであり、その結果を表1に示した。
【0044】
18650円筒型電池の製造過程は、実施例1と同じであり、同じテスト条件で電気的性能をテストした。その結果を表1、
図5及び
図6に示した。
【0045】
(実施例3)
実施例1におけるS1~S4を参照して、D50=15.097で、孔隙率が8.348で、多層環状孔を有する形態のニッケルコバルトアルミニウム前駆体Ni0.875Co0.09Al0.035(OH)2を取得できる。
【0046】
S5において、S4で得られたニッケルコバルトアルミニウム前駆体と、リチウム塩と、添加剤とを均一に混合し、S5で使用されるリチウム塩は水酸化リチウムで、使用される添加剤はB2O3で、(Ni+CO+Al):Liのモル比は1:1.03であり、B2O3と、前駆体及びリチウム塩の合計質量との質量比は0.15%である。酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は720℃で、か焼時間は10hで、雰囲気炉中の酸素含有量は90%~95%であり、1次焼結基質を得た。得られた1次焼結基質を粉砕して、脱イオン水で洗浄し、但し、1次焼結基質と水との割合は1:1.5で、脱イオン水の温度は25℃であり、遠心分離し、オーブン乾燥して、乾燥基質を得た。得られた乾燥基質とコーティング材料であるジルコニアとを均一に混合し、ジルコニアと乾燥基質との質量比は0.1%である。その後、酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は600℃で、か焼時間は8hで、雰囲気炉中の酸素含有量は90%~95%であり、Li1.03Ni0.875Co0.09Al0.035B0.0015O2@ZrO2の正極材料を得た。
【0047】
前駆体の断面図孔隙率テスト方法は、実施例1と同じであり、その結果を表1に示した。
【0048】
18650円筒型電池の製造過程は、実施例1と同じであり、同じテスト条件で電気的性能をテストした。その結果を表1、
図5及び
図6に示した。
【0049】
(実施例4)
実施例2におけるS1~S4を参照して、D50=14.792で、孔隙率が9.465で、多層環状孔を有する形態のニッケルコバルトアルミニウム前駆体Ni0.92Co0.03Al0.05(OH)2を得た。
【0050】
S5において、S4で得られたニッケルコバルトアルミニウム前駆体と、リチウム塩と、添加剤とを均一に混合し、S5で使用されるリチウム塩は水酸化リチウムで、使用される添加剤はB2O3で、(Ni+CO+Al):Liのモル比は1:1.03であり、B2O3と、前駆体及びリチウム塩の合計質量との質量比は0.1%である。酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は700℃で、か焼時間は10hで、雰囲気炉中の酸素含有量は90%~95%であり、1次焼結基質を得た。得られた1次焼結基質を粉砕して、脱イオン水で洗浄し、但し、1次焼結基質と水との質量比は1:1.5で、脱イオン水の温度は25℃であり、遠心分離し、オーブン乾燥して、乾燥基質を得た。ホウ酸と乾燥基質との質量比は0.05%である。その後、酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度が350℃で、か焼時間が5hで、雰囲気炉中の酸素含有量は80%~95%であり、Li1.03Ni0.92Co0.03Al0.05B0.001O2@Li3BO3正極材料を得た。
【0051】
前駆体の断面図孔隙率テスト方法は、実施例1と同じであり、その結果を表1に示した。
【0052】
18650円筒型電池の製造過程は、実施例1と同じであり、同じテスト条件で電気的性能をテストした。その結果を表1、
図5及び
図6に示した。
【0053】
(比較例1)
1.従来の形態のニッケルコバルトアルミニウム前駆体の製造方法及び正極材料焼結であって、下記のステップS1~S5を含む。
【0054】
S1において、硫酸ニッケル及び硫酸コバルト粉末を秤量して純水に溶解させ、0.875:0.09のNi:Coモル比に応じて、ニッケル及びコバルトの混合塩溶液を調製し、ニッケル及びコバルトの混合塩溶液中の全金属イオンのモル濃度は2.0mol/Lである。
【0055】
S2において、メタアルミネートナトリウムを秤量して、水酸化ナトリウム溶液に加え、Al3+モル濃度が0.1mol/Lであるアルカリアルミニウム溶液を調製した。
【0056】
S3において、S1の前記ニッケルコバルト混合塩溶液と、S2の前記アルカリアルミニウム溶液と、12mol/Lのアンモニア水錯化剤とを同時に反応釜にポンプして、撹拌しながら共沈反応を行った。前駆体D50の生長過程に段階プロセスの調整を行わず、反応釜内の温度を全体的に55℃に制御し、反応全体のpH値を11.2~12.2に維持し、撹拌速度を600±100rpmにした。反応釜内の粒子D50が15±1μmに成長すると、反応を停止した。
【0057】
S4において、S3での反応釜のオーバーフロー液を集めて濃縮し、反応から得られた材料を先に水酸化ナトリウム溶液で洗浄してから、25℃の脱イオン水で洗浄し、洗浄後の洗浄水の抵抗率は0.02cm/μs未満であり、前記アルカリ溶液のモル濃度は4.0~5.0mol/Lである。オーブン乾燥温度は105℃であり、水分を0.5wt%以下に制御する。前記前駆体中の磁性異物の含有量を100ppb以下に制御する必要がある。
【0058】
当該製造方法では、D50=14.837で、孔隙率が2.12で、従来の緻密形態を有するNi0.875Co0.09Al0.035(OH)2ニッケルコバルトアルミニウム前駆体を取得できた。
【0059】
S5において、S4で得られたニッケルコバルトアルミニウム前駆体と、リチウム塩と、添加剤とを均一に混合し、S5で使用されるリチウム塩は水酸化リチウムで、使用される添加剤はZrO2で、(Ni+CO+Al):Liのモル比は1.01-1.05:1であり、ZrO2と、前駆体及びリチウム塩の合計質量との質量比は0.3%である。酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は720℃で、か焼時間は10hで、雰囲気炉中の酸素含有量は90%~95%であり、1次焼結基質を得た。得られた1次焼結基質を粉砕して、脱イオン水で洗浄し、但し、1次焼結基質と水との質量比は1:1.5で、脱イオン水の温度は25℃であり、遠心分離し、オーブン乾燥して、乾燥基質を得た。得られた乾燥基質とコーティング材である酸化セリウムとを均一に混合し、酸化セリウムと乾燥基質との質量比は0.1%である。その後、酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は650℃で、か焼時間は8hで、雰囲気炉中の酸素含有量は90%~95%であり、Li1.03Ni0.875Co0.09Al0.035Zr0.003O2@CeO2の正極材料を得た。
【0060】
アルゴンイオン断面プロッターを用いて、S4で得られたNi
0.875Co
0.09Al
0.035(OH)
2ニッケルコバルトアルミニウム前駆体を切断し、電界放出走査型電子顕微鏡で断面形態を観察し、そのテスト結果を
図3に示した。
【0061】
前駆体の断面図孔隙率テスト方法は、実施例1と同じであり、その結果を表1に示した。
【0062】
18650円筒型電池の製造過程は、実施例1と同じであり、同じテスト条件で電気的性能をテストした。その結果を表1、
図5及び
図6に示した。
【0063】
(比較例2)
S1において、硫酸ニッケル及び硫酸コバルト粉末を秤量して純水に溶解させ、0.92:0.03のNi:Coモル比に応じて、ニッケル及びコバルトの混合塩溶液を調製し、ニッケル及びコバルトの混合塩溶液中の全金属イオンのモル濃度は2.0mol/Lである。
【0064】
S2において、メタアルミネートナトリウムを秤量して、水酸化ナトリウム溶液に加え、Al3+モル濃度が0.5mol/Lであるアルカリアルミニウム溶液を調製した。
【0065】
S3において、S1の前記ニッケルコバルト混合塩溶液と、S2の前記アルカリアルミニウム溶液と、12mol/Lのアンモニア水錯化剤とを同時に反応釜にポンプして、撹拌しながら共沈反応を行った。
【0066】
前駆体D50の生長過程に段階プロセスの調整を行わず、反応釜内の温度を全体的に55℃に制御し、反応全体のpH値を11.2~12.2に維持し、撹拌速度を600±100rpmにした。反応釜内の粒子D50が15±1μmに成長すると、反応を停止した。
【0067】
S4において、S3での反応釜のオーバーフロー液を集めて濃縮し、反応から得られた材料を先に水酸化ナトリウム溶液で洗浄してから、25℃の脱イオン水で洗浄し、洗浄後の洗浄水の抵抗率は0.02cm/μs未満であり、前記アルカリ溶液のモル濃度は4.0~5.0mol/Lである。オーブン乾燥温度は105℃であり、水分を0.5wt%以下に制御する。前記前駆体中の磁性異物の含有量を100ppb以下に制御する必要がある。
【0068】
当該製造方法では、D50=15.167で、孔隙率が1.95で、従来の緻密形態を有するNi0.92Co0.03Al0.05(OH)2ニッケルコバルトアルミニウム前駆体を取得できた。
【0069】
S5において、S4で得られたニッケルコバルトアルミニウム前駆体と、リチウム塩と、添加剤とを均一に混合し、S5で使用されるリチウム塩は水酸化リチウムで、使用される添加剤はZrO2、(Ni+CO+Al):Liのモル比は1.01-1.05:1であり、ZrO2と、前駆体及びリチウム塩の合計質量との質量比は0.3%である。酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は700℃で、か焼時間は10hで、雰囲気炉中の酸素含有量は90%~95%であり、1次焼結基質を得た。得られた1次焼結基質を粉砕して、脱イオン水で洗浄し、但し、1次焼結基質と水との質量比は1:1.5で、脱イオン水の温度は25℃であり、遠心分離し、オーブン乾燥して、乾燥基質を得た。フッ化セリウムと乾燥基質との質量比は0.2%である。その後、酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は650℃で、か焼時間は8hで、雰囲気炉中の酸素含有量は90%~95%であり、Li1.03Ni0.92Co0.03Al0.05Zr0.003O2@CeF4正極材料を得た。
【0070】
アルゴンイオン断面プロッターを用いて、S4で得られたNi
0.92Co
0.03Al
0.05(OH)
2ニッケルコバルトアルミニウム前駆体を切断して、電界放出走査型電子顕微鏡で断面形態を観察し、テスト結果を
図4に示した。
【0071】
前駆体の断面図孔隙率テスト方法は、実施例1と同じであり、その結果を表1に示した。
【0072】
18650円筒型電池の製造過程は、実施例1と同じであり、同じテスト条件で電気的性能をテストした。その結果を表1、
図5及び
図6に示した。
【0073】
(比較例3)
比較例1にけるS1~S4を参照して、D50=14.837で、孔隙率が2.12で、従来の緻密形態を有するNi0.875Co0.09Al0.035(OH)2ニッケルコバルトアルミニウム前駆体を取得できた。
【0074】
S5において、S4で得られたニッケルコバルトアルミニウム前駆体と、リチウム塩と、添加剤とを均一に混合し、S5で使用されるリチウム塩は水酸化リチウムで、使用される添加剤はB2O3で、(Ni+CO+Al):Liのモル比は1.03:1であり、B2O3と、前駆体及びリチウム塩の合計質量との質量比は0.15%である。酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は720℃で、か焼時間は10hで、雰囲気炉中の酸素含有量は90%~95%であり、1次焼結基質を得た。得られた1次焼結基質を粉砕して、脱イオン水で洗浄し、但し、1次焼結基質と水との質量比は1:1.5で、脱イオン水の温度は25℃であり、遠心分離し、オーブン乾燥して、乾燥基質を得た。得られた乾燥基質とコーティング材料であるジルコニアとを均一に混合し、ジルコニアと乾燥基質との質量比は0.1%である。その後、酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は600℃で、か焼時間は8hで、雰囲気炉中の酸素含有量は90%~95%であり、Li1.03Ni0.875Co0.09Al0.035B0.0015O2@ZrO2の正極材料を得た。
【0075】
前駆体の断面図孔隙率テスト方法は、実施例1と同じであり、その結果を表1に示した。
【0076】
18650円筒型電池の製造過程は、実施例1と同じであり、同じテスト条件で電気的性能をテストした。その結果を表1、
図5及び
図6に示した。
【0077】
(比較例4)
比較例2におけるS1~S4を参照して、D50=15.167で、孔隙率が3.34で、従来の緻密形態を有するNi0.92Co0.03Al0.05(OH)2ニッケルコバルトアルミニウム前駆体を取得できた。
【0078】
S5において、S4で得られたニッケルコバルトアルミニウム前駆体と、リチウム塩と、添加剤とを均一に混合し、S5で使用されるリチウム塩は水酸化リチウムで、使用される添加剤はB2O3で、(Ni+CO+Al):Liのモル比は1.03:1であり、B2O3と、前駆体及びリチウム塩の合計質量との質量比は0.1%である。酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は700℃で、か焼時間は10hで、雰囲気炉中の酸素含有量は90%~95%であり、1次焼結基質を得た。得られた1次焼結基質を粉砕して、脱イオン水で洗浄し、但し、1次焼結基質と水との質量比は1:1.5で、脱イオン水の温度は25℃であり、遠心分離し、オーブン乾燥して、乾燥基質を得た。ホウ酸と乾燥基質との質量比は0.05%である。その後、酸素雰囲気炉内でか焼し、か焼温度は350℃で、か焼時間は5hで、雰囲気炉中の酸素含有量は80%~95%であり、Li1.03Ni0.92Co0.03Al0.05B0.001O2@Li3BO3正極材料を得た。
【0079】
前駆体の断面図孔隙率テスト方法は、実施例1と同じであり、その結果を表1に示した。
【0080】
18650円筒型電池の製造過程は、実施例1と同じであり、同じテスト条件で電気的性能をテストした。その結果を表1、
図5及び
図6に示した。
【表1】
【0081】
実験データは、実施例1と比較例1、及び、実施例2と比較例2の2セットに分けられ、実験データ結果から分かるように、前駆体の共沈反応過程について、段階を分けて反応中のPH値、回転速度、及び溶液の流量を厳しく制御することにより、多層環状孔の前駆体を取得でき、比較例における、反応段階を調整しないか又はこの方法に従わない調整によっては、当該形態の前駆体を取得できない。当該形態は、孔隙率指標に大きく影響する。ニッケルコバルトアルミニウム割合が同じの正極材料のうち、孔隙率値が相対的大きいものの初期放電グラム容量が高い。正極材料が前駆体の内部空間構造を継承することにより、より多くの電解液を浸透させ、より多くのリチウムイオン拡散経路を提供して、リチウムイオンの吸蔵と放出速度を加速することができ、そのため、実施例1、2は、比較例1、2に比べ、高い初期放電比容量、低い内部抵抗を有する。さらに、実施例3と比較例3、及び、実施例4と比較例4のこの2セットのデータを比較すると、異なる元素のドープやコーティングにより、正極材料の電気的性能をある程度改善することができるが、依然として前駆体構造自体から継承した長所を改善することはできないことを分かる。
【0082】
実験データ結果から、さらに、ニッケルコバルトアルミニウム割合が同じである正極材料のうち、孔隙率値が相対的大きいものがサイクル性能に優れ、正極が前駆体から一次粒子間の多孔質構造を継承し、前駆体をリチウム化焼結した後、一次粒子間に多くの空隙があり、二次焼結でコーティングされた元素も一次粒子の表面まで浸透して、正極材料を保護し、電解液によって正極材料に起こる副反応を改善することができる。形態の変化がニッケルリッチNCA正極のサイクル安定性に重大な影響を有し、充電終了付近の相変化により、正極に結晶格子収縮が発生することは知られいる。一次粒子間の適切な空隙により、相変化による内部歪みが均一に分布するようになって、歪み力を確実に消散させ、それによりサイクル特性が向上する。
【国際調査報告】