IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クレハの特許一覧 ▶ 呉羽(常熟)▲フッ▼素材料有限公司の特許一覧 ▶ 呉羽(中国)投資有限公司の特許一覧

特表2024-542370バインダー組成物、電極合剤、電極および非水電解質二次電池
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】バインダー組成物、電極合剤、電極および非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20241108BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241108BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241108BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241108BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C08L27/16
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/36 Z
C08K3/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524573
(86)(22)【出願日】2021-08-24
(85)【翻訳文提出日】2024-04-18
(86)【国際出願番号】 CN2021114329
(87)【国際公開番号】W WO2023023945
(87)【国際公開日】2023-03-02
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(71)【出願人】
【識別番号】524151211
【氏名又は名称】呉羽(常熟)▲フッ▼素材料有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】524151222
【氏名又は名称】呉羽(中国)投資有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】余 斐
(72)【発明者】
【氏名】青木 健太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏
(72)【発明者】
【氏名】蘆田 佳奈
【テーマコード(参考)】
4J002
5H050
【Fターム(参考)】
4J002BD141
4J002BD142
4J002DA016
4J002DA026
4J002DA036
4J002FD016
4J002FD116
4J002GQ02
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA24
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA10
(57)【要約】
集電体と電極合剤層との高い剥離強度を維持しつつ、電極合剤スラリーの増粘を抑制したバインダー組成物を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン重合体を含むバインダー組成物であって、
前記フッ化ビニリデン重合体として、フッ化ビニリデン単独重合体(A)と、前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)とは異なるフッ化ビニリデン単独重合体(B)とを含み、
前記バインダー組成物中の前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)および前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)の総量における前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)の割合が、25重量%以上55重量%以下であり、
前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)および前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)は、次の条件(i)~(iii)を満たす重合体である、バインダー組成物:
(i)前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)の5重量%N-メチル-2-ピロリドン溶液は、25℃、せん断速度3.83s-1における溶液粘度が30mPa・s以上500mPa・s以下となる
(ii)前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)の5重量%N-メチル-2-ピロリドン溶液は、25℃、せん断速度3.83s-1における溶液粘度が800mPa・s以上30000mPa・s以下となる、および
(iii)前記バインダー組成物における比率と同じ比率で混合されている前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)と前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)との混合物の5重量%N-メチル-2-ピロリドン溶液は、25℃における濁度が1以下となる。
【請求項2】
前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)および前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)は、次の条件(iv)をさらに満たすフッ化ビニリデン単独重合体である、請求項1に記載のバインダー組成物:
(iv)前記混合物の5重量%N-メチル-2-ピロリドン溶液は、25℃、せん断速度3.83s-1における溶液粘度が400mPa・s以上25000mPa・s以下となる。
【請求項3】
カーボンナノチューブをさらに含む、請求項1または2に記載のバインダー組成物。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載のバインダー組成物と、
一次粒子径が50nm以上600nm以下、ならびに体積基準粒度分布におけるD10が1μm以下およびD50が1.6μm以下である正極活物質とを含む、電極合剤。
【請求項5】
請求項4に記載の電極合剤から形成された電極合剤層を集電体上に備える、電極。
【請求項6】
請求項5に記載の電極を備える、非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダー組成物、電極合剤およびその用途に関し、詳細には、バインダー組成物、およびこれを用いて得られる電極合剤、電極ならびに非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術の発展はめざましく、小型携帯機器の高機能化が進んでいる。そのため、これらに使用される電源には小型化及び軽量化、すなわち高エネルギー密度化が求められている。高いエネルギー密度を有する電池として、リチウムイオン二次電池等に代表される非水電解質二次電池が、広く使用されている。
【0003】
非水電解質二次電池用の電極は、集電体と集電体上に形成される電極合剤層とを有する構造となっている。電極合剤層は、一般に電極活物質とバインダー組成物とを含む電極合剤が適当な溶剤または分散媒中に分散されたスラリー状態で集電体上に塗布され、溶剤または分散媒を揮散して形成される。
【0004】
電池の安全性および性能向上の観点から、非水電解質二次電池のバインダーには電極活物質および集電体との高い接着性が求められている。接着性の高さから、バインダー組成物中のバインダー(結着剤)としては、フッ化ビニリデン(VDF)由来の繰り返し単位を主として含むフッ化ビニリデン系重合体が主に使用されている。
【0005】
このようなバインダーの一例として、特許文献1には、重量平均分子量の異なる2種類以上のフッ化ビニリデンホモポリマーが混合された樹脂混合体が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、重量平均分子量が30~40万のポリフッ化ビニリデンを全結着材量を基準として50重量%以上含有する結着材が記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、インヘレント粘度が0.5~1.5dl/gであるフッ化ビニリデン単独重合体(A)と、インヘレント粘度が重合体(A)の1.4倍以上であるフッ化ビニリデン重合体(B)とからなり、重合体(A)と(B)との合計量に対する重合体(A)の割合が60~98重量%の範囲にある非水系電気化学素子電極形成用バインダーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-243643号公報
【特許文献2】特開2006-107753号公報
【特許文献3】特開2005-310747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らが検討した結果、正極活物質として粒子径の小さな活物質を用いた場合には、電極合剤スラリーの増粘という問題が見出された。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い接着性を維持しつつ、正極活物質として粒子径の小さな活物質を用いる場合であっても、電極合剤スラリーの増粘を抑制できるバインダー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るバインダー組成物は、フッ化ビニリデン重合体を含むバインダー組成物であって、前記フッ化ビニリデン重合体として、フッ化ビニリデン単独重合体(A)と、前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)とは異なるフッ化ビニリデン単独重合体(B)とを含み、前記バインダー組成物中の前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)および前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)の総量における前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)の割合が、25重量%以上55重量%以下であり、前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)および前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)は、次の条件(i)~(iii)を満たす重合体である、バインダー組成物:
(i)前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)の5重量%N-メチル-2-ピロリドン溶液は、25℃、せん断速度3.83s-1における溶液粘度が30mPa・s以上500mPa・s以下となる
(ii)前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)の5重量%N-メチル-2-ピロリドン溶液は、25℃、せん断速度3.83s-1における溶液粘度が800mPa・s以上30000mPa・s以下となる、および
(iii)前記バインダー組成物における比率と同じ比率で混合されている前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)と前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)との混合物の5重量%N-メチル-2-ピロリドン溶液は、25℃における濁度が1以下となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るバインダー組成物によれば、高い接着性を維持しつつ、正極活物質として粒子径の小さな活物質を用いた場合であっても、電極合剤スラリーの増粘を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るバインダー組成物、およびその利用の一実施形態について説明する。
【0014】
〔バインダー組成物〕
本実施形態に係るバインダー組成物は、電極活物質を含む電極合剤層が集電体上に形成されてなる電極において、電極活物質を集電体に結着させるために用いられる組成物である。本実施形態に係るバインダー組成物は、フッ化ビニリデン重合体を含有する。また、本実施形態に係るバインダー組成物は、導電助剤をさらに含有する構成であってもよい。
【0015】
(フッ化ビニリデン重合体)
本実施形態に係るバインダー組成物には、フッ化ビニリデン重合体として、溶液粘度が低粘度であるフッ化ビニリデン単独重合体(A)と、溶液粘度が高粘度であるフッ化ビニリデン単独重合体(B)とが含まれている。具体的には、フッ化ビニリデン単独重合体(A)は、当該重合体の濃度が5重量%となるようN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMP)に添加して、50℃で加熱撹拌して得られるNMP溶液を別途調製した場合に、当該溶液の25℃における溶液粘度が30mPa・s以上500mPa・s以下となる、フッ化ビニリデンの単独重合体である。一方、フッ化ビニリデン単独重合体(B)は、当該重合体の濃度が5重量%となるようNMPに添加して得られたNMP溶液を別途調製した場合に、当該溶液の25℃における溶液粘度が800mPa・s以上30000mPa・s以下となる、フッ化ビニリデンの単独重合体である。ここで、溶液粘度は、E型粘度計を用いて、25℃、せん断速度3.83s-1で測定される値である。
【0016】
以下では、このように測定される各重合体または後述する混合物のNMP溶液の溶液粘度を、「フッ化ビニリデン単独重合体(A)の溶液粘度」、「フッ化ビニリデン単独重合体(B)の溶液粘度」、および「混合物の溶液粘度」などと記載する。
【0017】
フッ化ビニリデン単独重合体(A)の溶液粘度は、30mPa・s以上500mPa・s以下であればよいが、電極接着性向上の観点から、好ましくは、40mPa・s以上であり、より好ましくは、60mPa・s以上である。フッ化ビニリデン単独重合体(A)の溶液粘度が30mPa・s以上であることにより、本バインダー組成物を用いて得られる電極の引張り強度が強くなり、高い電極接着性を得ることができる。また、スラリー増粘の抑制の観点から、好ましくは、450mPa・s以下であり、より好ましくは、200mPa・s以下である。
【0018】
このようなフッ化ビニリデン単独重合体(A)としては、市販のものを用いてもよく、新たに合成したものであってもよい。
【0019】
フッ化ビニリデン単独重合体(B)の溶液粘度は、800mPa・s以上30000mPa・s以下であればよいが、電極接着性向上の観点から、好ましくは、1000mPa・s以上であり、より好ましくは、2000mPa・s以上である。また、スラリー増粘抑制の観点から、好ましくは、25000mPa・s以下であり、より好ましくは、10000mPa・s以下であり、さらに好ましくは、7000mPa・s以下である。
【0020】
このようなフッ化ビニリデン単独重合体(B)としては、市販のものを用いてもよく、新たに合成したものであってもよい。
【0021】
本実施形態におけるバインダー組成物では、バインダー組成物中のフッ化ビニリデン単独重合体(A)およびフッ化ビニリデン単独重合体(B)の総量におけるフッ化ビニリデン単独重合体(A)の割合が、25重量%以上55重量%以下である。フッ化ビニリデン単独重合体(A)の割合が25重量%以上であることにより、スラリーの増粘抑制効果を得ることができる。また、フッ化ビニリデン単独重合体(A)の割合が55重量%以下であることにより、スラリーの増粘抑制効果を得ることができるとともに、接着性が向上し、得られる電極のひび割れを防止することができる。フッ化ビニリデン単独重合体(A)の割合は、スラリー増粘抑制の観点から、好ましくは、30重量%以上であり、より好ましくは、40重量%以上である。また、接着性向上の観点から、好ましくは、50重量%以下であり、より好ましくは、50重量%未満であり、さらに好ましくは、45重量%以下である。
【0022】
また、本実施形態のバインダー組成物の好ましい一態様におけるフッ化ビニリデン単独重合体(A)およびフッ化ビニリデン単独重合体(B)は、バインダー組成物におけるフッ化ビニリデン単独重合体(A)とフッ化ビニリデン単独重合体(B)との比率と同じ比率で混合されたフッ化ビニリデン単独重合体(A)とフッ化ビニリデン単独重合体(B)との混合物を別途調製した場合に、当該混合物の濃度が5重量%となるようNMPに添加して得られたNMP溶液の25℃における溶液粘度(混合物の溶液粘度)が400mPa・s以上20000mPa・s以下となる組み合わせで用いられる。混合物の溶液粘度は、好ましくは、400mPa・s以上7000mPa・s以下であり、より好ましく、500mPa・s以上2500mPa・s以下である。混合物の溶液粘度がこの範囲内となる比率で、フッ化ビニリデン単独重合体(A)およびフッ化ビニリデン単独重合体(B)がバインダー組成物に含まれていることにより、バインダー組成物として高い接着性を実現できる。
【0023】
また、フッ化ビニリデン単独重合体(A)およびフッ化ビニリデン単独重合体(B)は、バインダー組成物におけるフッ化ビニリデン単独重合体(A)とフッ化ビニリデン単独重合体(B)との比率と同じ比率で混合されたフッ化ビニリデン単独重合体(A)とフッ化ビニリデン単独重合体(B)との混合物を別途調製した場合に、当該混合物の濃度が5重量%となるようNMPに添加して得られたNMP溶液の25℃における濁度が1以下となる組み合わせで用いられる。
【0024】
ここで、濁度は、次のようにして測定されるものである。まず、重合体の混合物の濃度が5重量%となるよう当該混合物をNMPに添加して、50℃で加熱撹拌してフッ化ビニリデン溶液を調製する。得られたフッ化ビニリデン溶液について、濁度計を用いて積分球式光電光度法にて濁度を測定する。
【0025】
所定の混合比率における混合物の溶液粘度の濁度が1以下となるフッ化ビニリデン単独重合体(A)およびフッ化ビニリデン単独重合体(B)の組み合わせで用いることにより、バインダー組成物として高い接着性を実現できるとともに、得られる電極合剤スラリーの増粘を防止することができる。
【0026】
なお、本明細書において、「電極合剤スラリーの増粘を防止する」とは、電極合剤を調製した後48時間静置し、48時間経過後のスラリー粘度(B型粘度計、25℃で測定)が45000mPa・s以下となっていることを意味している。
【0027】
なお、バインダー組成物には、フッ化ビニリデン単独重合体(A)およびフッ化ビニリデン単独重合体(B)以外の重合体が実質的に含まれないことが好ましい。
【0028】
(導電助剤)
本実施形態に係るバインダー組成物は、得られる電極合剤層の導電性を向上する目的で、導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤としては、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、黒鉛微粉末および黒鉛繊維等の炭素質物質、グラフェン、ならびにニッケルおよびアルミニウム等の金属微粉末または金属繊維を用いることができる。なかでも、導電助剤としてはカーボンナノチューブが好ましい。導電助剤としてカーボンナノチューブを用いることによって、高い接着性を維持しつつ、スラリーの増粘抑制効果を得ることができる。
【0029】
(溶媒)
バインダー組成物は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒は、電極合剤における溶媒と同じであり得、水であってもよく、非水溶媒であってもよい。非水溶媒としては、例えば、NMP、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスフォアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチルウレア、トリエチルホスフェイト、トリメチルフォスフェイト、アセトン、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、nブタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン、シクロヘキサンおよびメチルエチルケトン等が挙げられる。
【0030】
(バインダー組成物の調製)
バインダー組成物の調製にあっては、各重合体における溶液粘度の条件を充足するフッ化ビニリデン単独重合体(A)およびフッ化ビニリデン単独重合体(B)をそれぞれ選択する。次いで、所望の割合での混合物における濁度を測定し、濁度の条件を充足するフッ化ビニリデン単独重合体(A)およびフッ化ビニリデン単独重合体(B)の組み合わせを選ぶことで、バインダー組成物に用いるフッ化ビニリデン単独重合体(A)およびフッ化ビニリデン単独重合体(B)を決定する。そのうえで、フッ化ビニリデン単独重合体(A)およびフッ化ビニリデン単独重合体(B)を所望の割合で混合することで、バインダー組成物を調製することができる。また、バインダー組成物に溶媒および導電助剤が含まれる場合、混合する際の順序は特に限定されない。例えば、フッ化ビニリデン単独重合体(A)およびフッ化ビニリデン単独重合体(B)の混合物を調製し、そこに溶媒を加えてもよい。あるいは、一方のフッ化ビニリデン単独重合体を溶媒に添加し、そこに、他方のフッ化ビニリデン単独重合体を添加してもよい。
【0031】
〔電極合剤〕
本実施形態に係る電極合剤は、本実施形態に係るバインダー組成物と電極活物質とを含有する。電極合剤はさらに溶媒を含んでいてもよい。
【0032】
本実施形態に係る電極合剤は、塗布対象である集電体の種類等に応じて活物質等の種類を変更することにより、正極用の電極合剤、または負極用の電極合剤とすることができる。本実施形態に係るバインダー組成物は、活物質として粒子径の小さな正極活物質を用いる場合に生じる電極合剤スラリーにおける増粘の問題を解決し得るものである。そのため、本実施形態の電極合剤は、正極用の電極合剤として好適に用いられる。
【0033】
(電極活物質)
正極活物質としては、リチウム複合金属酸化物が典型的に用いられる。リチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiMnO、LiMn、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1-x(0<x<1)、LiNiCoMn1-x-y(0<x<1、0<y<1)、LiNiCoAlZO(0.55≦x<1、0<y2<0.55、0<z<0.55であり、かつx/(x+y+z)≧0.55である。)、LiFePO等を挙げることができる。
【0034】
本実施形態に係るバインダー組成物は、活物質として粒子径の小さな正極活物質を用いる場合に生じる電極合剤スラリーにおける増粘の問題を解決し得るものである。より具体的には、一次粒子径が50nm以上600nm以下、ならびに体積基準粒度分布におけるD10が1μm以下およびD50が1.6μm以下である場合に、これらの問題が生じ得る。そのため、本実施形態の電極合剤では、一次粒子径が50nm以上600nm、ならびに体積基準粒度分布におけるD10が1μm以下およびD50が1.6μm以下の正極活物質が好適に用いられる。なお、正極活物質の粒子径は、同じ活物質でも調製方法により変化し得るものである。
【0035】
正極活物質の一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察によって測定される長軸径での平均粒子径である。また、体積基準粒度分布(D10およびD50)は、レーザー回折散乱法を用いて測定すればよい。
【0036】
負極活物質としては、炭素材料、金属・合金材料、および金属酸化物などをはじめとした従来公知の材料を用いることができる。例えば、炭素材料としては、人造黒鉛、天然黒鉛、難黒鉛化炭素および易黒鉛化炭素等を挙げることができる。
【0037】
(溶媒)
溶媒は水であってもよく、非水溶媒であってもよい。非水溶媒としては、例えば、NMP、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスフォアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチルウレア、トリエチルホスフェイト、トリメチルフォスフェイト、アセトン、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、nブタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン、シクロヘキサンおよびメチルエチルケトン等が挙げられる。これらの溶媒は電極合剤に1種または2種以上含まれていてもよい。溶媒は、バインダー組成物に添加されていてもよく、バインダー組成物とは別に添加されたものであってもよい。
【0038】
(他の成分)
本実施形態における電極合剤は、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば、ポリビニルピロリドンなどの顔料分散剤、および分散安定剤等を挙げることができる。
【0039】
(電極合剤の調製)
電極合剤は、例えば、本実施形態のバインダー組成物、電極活物質および溶媒を均一なスラリーとなるように混合すればよく、混合する際の順序は特に限定されない。さらにバインダー組成物として溶媒を含むバインダー組成物を用いる場合、バインダー組成物に当該溶媒を加える前に、電極活物質を加えてもよい。例えば、バインダー組成物に電極活物質を添加し、次いで溶媒を添加し、撹拌混合し、電極合剤を得てもよい。また電極活物質を溶媒に分散し、そこへバインダー組成物を添加し、撹拌混合し、電極合剤を得てもよい。あるいは、バインダー組成物として溶媒を含むバインダー組成物に電極活物質を添加し、撹拌混合し、電極合剤を得てもよい。また、混錬は複数回に分けて行ってもよく、例えば二次混錬を行ってもよい。
【0040】
電極合剤において、電極活物質の量を100重量部としたときに、フッ化ビニリデン単独重合体(A)およびフッ化ビニリデン単独重合体(B)の総量が1~5重量部含まれていることが好ましく、2~3重量部含まれていることがより好ましい。
【0041】
〔電極〕
本実施形態の電極は、電極合剤から形成された電極合剤層を集電体上に備えるものである。本明細書等における「電極」とは、特に断りのない限り、本実施形態の電極合剤から形成される電極合剤層が集電体上に形成されている、電池の電極を意味する。
【0042】
(集電体)
集電体は、電極の基材であり、電気を取り出すための端子である。集電体の材質としては、鉄、ステンレス鋼、鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、およびチタン等を挙げることができる。集電体の形状は、箔または網であることが好ましい。電極が正極である場合、集電体としては、カーボンコートアルミニウム箔とすることが好ましい。集電体の厚みは、5μm~100μmであることが好ましく、5~20μmがより好ましい。
【0043】
(電極合剤層)
電極合剤層は、スラリー状の電極合剤を集電体に塗布して、乾燥させることにより得られる層である。電極合剤の塗布方法としては、当該技術分野における公知の方法を用いることができ、バーコーター、ダイコーターまたはコンマコーターなどを用いる方法を挙げることができる。電極合剤層を形成させるための乾燥温度としては、50℃~170℃であることが好ましく、50℃~150℃であることがより好ましい。電極合剤層は集電体の両面に形成されてもよいし、いずれか一方の面のみに形成されてもよい。
【0044】
電極合剤層の厚さは、片面当たり通常は20~600μmであり、好ましくは20~350μmである。また、電極合剤層をプレスして密度を高めてもよい。また、電極合剤層の両面目付量は、通常は20~700g/mであり、好ましくは30~500g/mである。
【0045】
(電極の性質)
電極は、正極用の電極合剤を用いて電極合剤層が得られる場合には正極となり、負極用の電極合剤を用いて電極合剤層が得られる場合には負極となる。本実施形態に係る電極は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の正極として好適に用いることができる。
【0046】
〔非水電解質二次電池〕
本実施形態の非水電解質二次電池は、本実施形態の電極を備える。非水電解質二次電池における他の部材については特に限定されるものでなく、例えば、従来用いられている部材を用いることができる。非水電解質二次電池の一態様は、正極および負極の間にセパレータを配置積層したものを渦巻き状に巻き回した発電素子が、金属ケーシング中に収容された円筒形電池の構造を有する。非水電解質二次電池の別の態様としては、コイン形、角形またはペーパー形等の他の形状の非水電解質二次電池であり得る。
【0047】
非水電解質二次電池の製造方法としては、例えば、負極層と正極層とをセパレータを介して重ね合わせ、電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。
【0048】
〔まとめ〕
本実施形態に係るバインダー組成物は、フッ化ビニリデン重合体を含むバインダー組成物であって、前記フッ化ビニリデン重合体として、フッ化ビニリデン単独重合体(A)と、前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)とは異なるフッ化ビニリデン単独重合体(B)とを含み、前記バインダー組成物中の前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)および前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)の総量における前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)の割合が、25重量%以上55重量%以下であり、前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)および前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)は、次の条件(i)~(iii)を満たす重合体である、バインダー組成物:
(i)前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)の5重量%N-メチル-2-ピロリドン溶液は、25℃、せん断速度3.83s-1における溶液粘度が30mPa・s以上500mPa・s以下となる
(ii)前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)の5重量%N-メチル-2-ピロリドン溶液は、25℃、せん断速度3.83s-1における溶液粘度が800mPa・s以上30000mPa・s以下となる、および
(iii)前記バインダー組成物における比率と同じ比率で混合されている前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)と前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)との混合物の5重量%N-メチル-2-ピロリドン溶液は、25℃における濁度が1以下となる。
【0049】
また、本実施形態に係るバインダー組成物において、前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)および前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)は、次の条件(iv)をさらに満たすフッ化ビニリデン単独重合体であることが好ましい:
(iv)前記混合物の5重量%N-メチル-2-ピロリドン溶液は、25℃、せん断速度3.83s-1における溶液粘度が400mPa・s以上25000mPa・s以下となる。
【0050】
また、本実施形態に係るバインダー組成物において、カーボンナノチューブをさらに含むことが好ましい。
【0051】
本実施形態に係る電極合剤は、上述のバインダー組成物と、一次粒子径が50nm以上600nm以下、ならびに体積基準粒度分布におけるD10が1μm以下およびD50が1.6μm以下である正極活物質とを含む、電極合剤である。
【0052】
本実施形態に係る電極は、上述の電極合剤から形成された電極合剤層を集電体上に備える、電極である。
【0053】
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、上述の電極を備える、非水電解質二次電池である。
【0054】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例
【0055】
〔正極活物質の粒子径の測定〕
以下の実施例で用いる正極活物質であるLiFePO(以下、LFP)の一次粒子径は、SEMを用いた観察により測定した。
【0056】
また、LFPの粒径分布は次のように求めた。まず、LFP試料0.01gに対し、分散剤(カチオン系界面活性剤「SNウェット366」(サンノプコ社製))0.1gを加え、試料に分散剤を馴染ませた。次に、純水20mLを加え、超音波洗浄機で約5分間分散させた後、粒径分布測定装置(マイクロトラック社製:MT3300EXII)で、粒子径0.1~1000μmの範囲における粒径分布を求めた。なお、分散媒は純水とし、分散媒の屈折率は1.333とした。得られた粒径分布から、累積度数が体積基準で10%および50%となる粒子径を算出し、それぞれD10、D50とした。
【0057】
〔実施例1〕
(電極合剤の調製)
フッ化ビニリデン単独重合体である「KF#850(株式会社クレハ製)」(以下、ポリマー(A1))とこれとは異なるフッ化ビニリデン単独重合体(以下、ポリマー(B1))とを、ポリマー(A1)およびポリマー(B1)の混合比率(ポリマー(A1):ポリマー(B1)、重量比)が、25:75となるように混合することによって、ポリマー混合物を調製した。
【0058】
ここで、ポリマーB1は次のように調製したフッ化ビニリデン単独重合体である。まず、内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水950g、メチルセルロース0.2g、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート(IPP)0.4g、酢酸エチル1.3gおよびフッ化ビニリデン440gを仕込み、26℃まで昇温し重合を開始した。その後、最高圧から0.5MPa落圧したところで40℃まで昇温した。26℃到達から14時間で重合を終了した。得られた重合体スラリーを95℃で60分間加熱した後、脱水および水洗し、80℃で20時間乾燥を行った。結果、収率91%で粉末状のフッ化ビニリデン重合体を得た。得られたフッ化ビニリデン重合体のインヘレント粘度は3.9dL/gであり、5重量%のN-メチルピロリドン溶液の粘度は6800mPa・sであった。
【0059】
5重量%となるようにポリマー混合物をNMPに添加し、50℃で3時間加熱撹拌することによりポリマー混合物NMP溶液を調製した。導電助剤としてカーボンナノチューブ(CNT)の分散液(Cnano社製「LB107」、CNTの直径:13~25nm)に、当該ポリマー混合物NMP溶液を添加し、2000rpmで3分間、混錬を行った。そこへ、固形分濃度が57重量%となるように、LFP(一次粒子径:100~200nm、D10:0.7μm、D50:1.4μm、比表面積:19.9m/g)およびNMPを添加した。2000rpmで5分間二次混錬を行うことより、電極合剤を得た。得られた電極合剤における電極活物質、導電助剤、およびポリマー混合物の重量比は、この順で、100:2:2である。
【0060】
〔実施例2〕
ポリマー(A1)をフッ化ビニリデン単独重合体である「KF#1100(株式会社クレハ製)」(以下、ポリマー(A2))とし、ポリマー(A2)およびポリマー(B1)の混合比率を33:67とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0061】
〔実施例3〕
ポリマー(A2)とフッ化ビニリデン単独重合体である「KF#4300(株式会社クレハ製)」(以下、ポリマー(B2)とを、ポリマー(A2)およびポリマー(B2)の混合比率が33:67となるように混合することによって、ポリマー混合物を調製した。
【0062】
5重量%となるようにポリマー混合物をNMPに添加し、50℃で3時間加熱撹拌することによりポリマー混合物NMP溶液を調製した。実施例1で使用したのと同じLFPに、導電助剤としてカーボンブラック(Timcal社製「SuperP(登録商標)」)を加え、粉体混合を行った。この粉体混合物に、調製したポリマー混合物NMP溶液を添加し、2000rpmで3分間混錬を行った。そこへ、固形分濃度が57重量%となるように、追加NMPを添加した。2000rpmで5分間二次混錬を行うことにより、電極合剤を得た。得られた電極合剤における電極活物質、導電助剤、およびポリマー混合物の重量比は、この順で、100:2:2である。
【0063】
〔実施例4〕
ポリマー(B1)をポリマー(B2)とした以外は、実施例2と同様に電極合剤を調製した。
【0064】
〔実施例5〕
ポリマー(A2)およびポリマー(B2)の混合比率を50:50とした以外は、実施例3と同様に電極合剤を調製した。
【0065】
〔実施例6〕
ポリマー(A2)およびポリマー(B2)の混合比率を50:50とした以外は、実施例4と同様に電極合剤を調製した。
【0066】
〔比較例1〕
ポリマー(A1)をポリマー(A2)とし、ポリマー(B1)をフッ化ビニリデン単独重合体である「kynar(登録商標) HSV900(アルケマ社製)」(以下、ポリマー(B3))とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0067】
〔比較例2〕
2種類のフッ化ビニリデン単独重合体の混合物ではなく、1種類のフッ化ビニリデン単独重合体(ポリマー(B2))のみを用いた以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0068】
〔比較例3〕
ポリマー(A2)およびポリマー(B2)の混合比率を80:20とした以外は、実施例3と同様に電極合剤を調製した。
【0069】
〔比較例4〕
ポリマー(B2)を、ポリマー(B4)とした以外は、実施例6と同様に電極合剤を調製した。
【0070】
ここで、ポリマー(B4)は次のようにして調製したフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとマレイン酸モノメチルとの共重合体である。まず、内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1300g、メチルセルロース0.4g、IPP0.8g、フッ化ビニリデン380g、ヘキサフルオロプロピレン15gおよびマレイン酸モノメチル1.2gを仕込み、35℃まで昇温し重合を開始した。その後、最高圧から4.0MPa落圧したところで重合を終了した。重合時間は18hであった。得られた重合体スラリーを95℃で60分間加熱した後、脱水および水洗し、80℃で20時間乾燥を行った。結果、収率90%で粉末状のフッ化ビニリデン重合体を得た。得られたフッ化ビニリデン重合体のインヘレント粘度は3.0dL/gで、5重量%のN-メチルピロリドン溶液の粘度は2200mPa・sであった。
【0071】
〔比較例5〕
ポリマー(A1)をフッ化ビニリデン単独重合体である「KF#1300(株式会社クレハ製)」(以下、ポリマー(A3))とし、ポリマー(A3)およびポリマー(B1)の混合比率を20:80とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0072】
[評価例1.溶液粘度の測定]
各実施例もしくは比較例で用いたフッ化ビニリデン重合体、または各実施例もしくは比較例で得られたポリマー混合物を5重量%となるようにNMPに添加し、5重量%NMP溶液を作製した。作製した5重量%NMP溶液について、東機産業社製E型粘度計「RE-215型」を用いて、25℃、せん断速度3.83s-1で溶液粘度の測定を行った。なお、粘度は、作製したNMP溶液を測定装置に仕込んでから60秒待機し、その後ローターを回転させて、300秒後の値を溶液粘度とした。
各ポリマーおよびポリマー混合物(ポリマーブレンド)の溶液粘度の測定結果を表1に示す。
【0073】
[評価例2.濁度の測定]
各実施例及び比較例で調製したポリマー混合物を5重量%となるようにNMPに添加し、50℃で加熱撹拌して、5重量%NMP溶液を作製した。作製した5重量%NMP溶液25℃で撹拌し、撹拌停止直後に濁度計(NDH2000、日本電色工業社製)を用いて25℃で濁度の測定を行った。濁度の測定結果を表1に示す。
【0074】
[評価例3.スラリー粘度の測定]
電極合材のスラリー粘度は、B型粘度計(BROOKFIELD社製「DVS+」)を用いて、25℃で測定を行った。なお、一定量のスラリーを直径1.2cmのポリチューブに入れ、25℃、湿度10%以下で静置保存したものを測定サンプルとした。本測定ではスピンドルはNo.64を使用し、回転速度0.5rpmで1分間、続いて1rpmで2分間の予備攪拌を行った後、6rpmで30秒攪拌した時点での粘度をスラリー粘度とした。なお、粘度測定は、サンプル作製直後および静置保存開始から48時間の時点で行った。スラリー粘度の測定結果を表1に示す。表1中「初期」は、サンプル作製直後のスラリー粘度を示す。
【0075】
[評価例4.剥離強度の測定]
各実施例および比較例で得られた電極合剤をそれぞれ、厚み15μmのAl箔上にバーコーターで塗布し、110℃で30分加熱乾燥させた。さらに130℃で1時間熱処理し、片面目付量が150g/mの片面塗工電極を作製した。
【0076】
得られた片面塗工電極を、長さ50mm、幅20mmに切り出し、JIS K6854-1に準じて、引張試験機(AND社製「STB-1225S」)を使用し、ヘッド速度10mm/分で90度剥離試験を行い、剥離強度(gf/mm)を測定した。なお、本測定では、剥離強度が0.7gf/mm以上であるときに接着性が良好であると判断し、0.7gf/mm未満であるときに接着性が不十分であると判断した。剥離強度の測定結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

表1に示すように、実施例1~6の電極合剤では、電極活物質が粒子径の小さな活物質であるものの、得られる電極のける高い接着性を維持しつつ、48時間静置後の電極合剤スラリーの増粘を抑制することができた。
【0078】
一方、濁度が1を超える比較例1の電極合剤においては、48時間静置後ではスラリー粘度が増大した。また、比較例1の電極合剤を使用した電極では、接着性が十分ではなかった。また、2種のフッ化ビニリデン単独重合体の混合物ではない比較例2の電極合剤においては、48時間静置後ではスラリー粘度が増大した。また、低粘度のフッ化ビニリデン単独重合体の割合が55重量%を超えている比較例3の電極合剤を使用した電極では、接着性が十分ではなく、ひび割れも発生した。また、高粘度のフッ化ビニリデン重合体がフッ化ビニリデンの単独重合体ではなく共重合体である比較例4の電極合剤においては、48時間静置後では、測定できない程度にまでスラリー粘度が増大していた。同様に、低粘度のフッ化ビニリデン単独重合体の割合が25重量%未満である比較例5の電極合剤においても、48時間静置後では、測定できない程度にまでスラリー粘度が増大していた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、非水電解二次電池に利用することができる。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン重合体を含むバインダー組成物であって、
前記フッ化ビニリデン重合体として、フッ化ビニリデン単独重合体(A)と、前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)とは異なるフッ化ビニリデン単独重合体(B)とを含み、
前記バインダー組成物中の前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)および前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)の総量における前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)の割合が、25重量%以上55重量%以下であり、
前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)および前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)は、次の条件(i)~(iii)を満たす重合体である、バインダー組成物:
(i)前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)の5重量%N-メチル-2-ピロリドン溶液は、25℃、せん断速度3.83s-1における溶液粘度が30mPa・s以上500mPa・s以下となる
(ii)前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)の5重量%N-メチル-2-ピロリドン溶液は、25℃、せん断速度3.83s-1における溶液粘度が800mPa・s以上30000mPa・s以下となる、および
(iii)前記バインダー組成物における比率と同じ比率で混合されている前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)と前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)との混合物の5重量%N-メチル-2-ピロリドン溶液は、25℃における濁度が1以下となる。
【請求項2】
前記フッ化ビニリデン単独重合体(A)および前記フッ化ビニリデン単独重合体(B)は、次の条件(iv)をさらに満たすフッ化ビニリデン単独重合体である、請求項1に記載のバインダー組成物:
(iv)前記混合物の5重量%N-メチル-2-ピロリドン溶液は、25℃、せん断速度3.83s-1における溶液粘度が400mPa・s以上25000mPa・s以下となる。
【請求項3】
カーボンナノチューブをさらに含む、請求項1または2に記載のバインダー組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のバインダー組成物と、
一次粒子径が50nm以上600nm以下、ならびに体積基準粒度分布におけるD10が1μm以下およびD50が1.6μm以下である正極活物質とを含む、電極合剤。
【請求項5】
請求項3に記載のバインダー組成物と、
一次粒子径が50nm以上600nm以下、ならびに体積基準粒度分布におけるD10が1μm以下およびD50が1.6μm以下である正極活物質とを含む、電極合剤。
【請求項6】
請求項4に記載の電極合剤から形成された電極合剤層を集電体上に備える、電極。
【請求項7】
請求項5に記載の電極合剤から形成された電極合剤層を集電体上に備える、電極。
【請求項8】
請求項に記載の電極を備える、非水電解質二次電池。
【請求項9】
請求項7に記載の電極を備える、非水電解質二次電池。
【国際調査報告】