(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】ドープセリアに基づく電歪材料
(51)【国際特許分類】
C01G 25/00 20060101AFI20241108BHJP
H10N 30/045 20230101ALI20241108BHJP
H10N 30/03 20230101ALI20241108BHJP
H10N 30/85 20230101ALI20241108BHJP
【FI】
C01G25/00
H10N30/045
H10N30/03
H10N30/85
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525437
(86)(22)【出願日】2022-11-21
(85)【翻訳文提出日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 IL2022051236
(87)【国際公開番号】W WO2023089619
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500018608
【氏名又は名称】イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】at the Weizmann Institute of Science,PO Box 95,7610002 Rehovot,Israel
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルボミルスキー、イゴール
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレニク、マキシム
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC01
4G048AD03
4G048AE05
(57)【要約】
本発明は、電歪特性を示すドープセリア系材料及びその製造方法を提供する。
【選択図】
図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Hf、Zr、及びTiから選択される金属Mがドープされたセリア系材料であって、
当該材料は、電場が印加されると、変位、応力、またはそれらの組み合わせを発生し、
当該材料の電歪係数が、0.1Hz~10
5Hzの範囲の周波数で、10
-15m
2/V
2~10
-18m
2/V
2の範囲である、材料。
【請求項2】
請求項1に記載の材料であって、
当該材料は、式:Ce
1-xM
xO
2-dで表される、材料。
上記の式中、
xは、0.02~0.7の範囲であり、
dは、0~0.03の範囲である。
【請求項3】
請求項1に記載の材料であって、
前記金属Mよりも低い原子価を有する金属が共ドープされる、材料。
【請求項4】
請求項3に記載の材料であって、
前記金属Mよりも低い原子価を有する前記金属は、Ca、Mg、Fe、Sc、Sn、Y、及びそれらの任意の組み合わせから選択される、材料。
【請求項5】
請求項3に記載の材料であって、
前記金属Mよりも低い原子価を有する前記金属は、ランタニドLを含む、材料。
【請求項6】
請求項5に記載の材料であって、
前記ランタニドLは、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuから選択される任意のランタニド、またはそれらの任意の組み合わせである、材料。
【請求項7】
請求項6に記載の材料であって、
当該材料は、式:Ce
1-x-yM
xL
yO
2-y/2-dで表される、材料。
上記の式中、
xは、0.01~0.7の範囲であり、
yは、0.01~0.7の範囲であり、
dは、0~0.03の範囲である。
【請求項8】
請求項7に記載の材料であって、
前記ランタニドLは、LaまたはYbである、材料。
【請求項9】
請求項8に記載の材料であって、
前記ランタニドLはLaであり、x=0.10±0.02であり、yは0.01~0.08の範囲である、または、
前記ランタニドLはYbであり、x=0.10±0.02であり、yは0.05~0.15の範囲である、材料。
【請求項10】
請求項1に記載の材料であって、
前記変位は、0.1ppm~500ppmの範囲である、材料。
【請求項11】
請求項1に記載の材料であって、
前記応力は、少なくとも0.01MPaである、材料。
【請求項12】
請求項1に記載の材料であって、
100GPa~250GPaの範囲のヤング率を有する、材料。
【請求項13】
請求項1に記載の材料であって、
前記電歪係数は、周波数に依存しない、材料。
【請求項14】
請求項1に記載の材料であって、
10~1000の範囲の誘電率を有する、材料。
【請求項15】
請求項1に記載の材料であって、
10
-9S/m~10
-5S/mの範囲の導電率を有する、材料。
【請求項16】
請求項1に記載の材料であって、
当該材料は、ディスク、フィルム、粉末、バー、ペレット、及びそれらの任意の組み合わせから選択される材料形態を有する、材料。
【請求項17】
請求項16に記載の材料であって、
当該材料は、ディスク、フィルム、バー、またはペレットの材料形態を有し、前記ディスク、フィルム、バー、またはペレットの厚さが0.1mm~10mmの範囲である、材料。
【請求項18】
請求項1に記載の材料であって、
当該材料は、単結晶または多結晶であり、
当該材料の密度が5~7.3g/mlの範囲である、材料。
【請求項19】
請求項1に記載のセリア系材料を製造する方法であって、
(a)Ceイオン、金属Mのイオン、及び任意選択で金属Lのイオンを含有する水溶液にアルカリ水溶液を加えるステップと、
(b)その結果得られた混合物を、任意選択で撹拌しながら、少なくとも25分間、高温に保つステップと、
(c)その結果得られた沈殿物を、任意選択で洗浄するステップと、を含む、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、
前記Ceイオン、前記金属Mのイオン、及び任意選択の前記金属Lのイオンの起源は、前記イオンの塩である、方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、
前記イオンの塩は、Ce(NO
3)
3・6H
2O、ZrO(NO
3)
2・6H
2O、及び任意選択でL(NO
3)
3・6H
2Oである、方法。
【請求項22】
請求項19に記載の方法であって、
前記アルカリ水溶液は、(NH
4)
2CO
3を含む、方法。
【請求項23】
請求項19に記載の方法であって、
前記アルカリ水溶液を加える前記ステップは、滴下によって行われる、方法。
【請求項24】
請求項19に記載の方法であって、
得られた前記沈殿物は粉末であり、
前記粉末は粉砕され、任意選択で焼成される、方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、
前記粉末は、モールドまたはダイ内でプレス成形され、その結果、ディスク、バー、またはペレットが形成される、方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法であって、
前記ディスク、バー、またはペレットの寸法は、直径または他の任意の横方向寸法が5~20mmの範囲であり、厚さが0.5~5mmの範囲である、方法。
【請求項27】
請求項25に記載の方法であって、
前記ディスク、バー、またはペレットの気孔率が、0.01%~5%の範囲である、方法。
【請求項28】
請求項25に記載の方法であって、
前記ディスク、バー、またはペレットは研磨され、任意選択で、前記ディスクまたはペレットの上面及び底面は互いに平行にされる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電歪特性を示すドープされたセリア系材料及びその製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
電場に応答して大きなひずみを発生させることができる材料は、アクチュエータ、センサ、またはトランスデューサとして微細加工に使用される。このような材料には、圧電材料(ひずみは電場に比例する)と、電歪材料(ひずみは電場の2乗に比例する)とがある。圧電材料は、より普及しているが、直接的な圧電効果に起因する電気システムのフィードバック、及び、ヒステリシスやクリープに起因する再現性の低さ、という短所がある。電歪材料は、そのような短所がないため、特定の用途で有利である。一般的に使用されている電歪セラミックの大部分は、ニオブ酸マグネシウム鉛をベースとしている。このような電歪セラミックは、最大で数kHzまでの周波数で、約10-16m2/V2という高い電歪係数を示す。
【0003】
しかしながら、このような電歪セラミックには、(1)誘電率が高いため(>10,000)、大きな駆動電流を必要とし、そのため、非常に大きな電気損失が生じること、及び、(2)薄膜シリコン微細加工技術と適合性が低いこと、という2つの大きな短所がある。さらに、PMN(ニオブ酸マグネシウム鉛)は鉛(毒性)を含むため、その使用が制限される。
【0004】
ドープセリア(doped ceria)は、非常に高い電歪係数(10-16m2/V2)を示し、古典的理論による推定値よりも高かった。また、セリアは、微細加工プロセスとの適合性が非常に高く、また、誘電率が非常に低い(約30)。残念ながら、高い電歪係数は、低周波数(<1Hz)でのみ達成される。加えて、このような低周波数では、ひずみは、約10ppmの値で飽和する(それ以上増加しない)。高周波数では、電歪係数は少なくとも1桁緩和し、10-18m2/V2~10-17m2/V2となる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
アリオバレントドープセリアは、大きなヤング率(約200GPa)及び低い誘電率(<30)を示すにもかかわらず、古典的な電歪素子についてのNewnhamのスケーリング則に基づく推定値よりも100倍以上大きい電歪係数を示す。この「非古典的な」挙動は、外部電場下で再配向する分極性の高い弾性双極子の形成に起因する。
【0006】
高周波電歪係数は、ドーパントのイオン半径が小さくなるにしたがって大きくなることがわかっており、イオン半径が最も小さいランタニド(Lu)の高周波電歪係数は、8・10-18m2/V2となる。ランタニド(Lu)よりもイオン半径が小さいドーパントは、これまで見つかっていない。
【0007】
本発明の一実施形態では、酸化された、10mol%Zr4+ドープセリアが、0.1Hz~3000Hzの周波数範囲にわたって、|M33|≒10-16m2/V2の電歪係数を示すことが見出された。しかしながら、このようなセラミックの実用化は、電子ホッピングを促進するCe3+の形成の結果である、比較的大きい室温導電率(10-10S/m)によって妨げられる。また、Ce3+が形成されると、誘電率は約200まで上昇する。共ドープ(例えば、セリアにZrをドープし、Yb、La、またはそれらの組み合わせなどの追加的なカチオンを共ドープする)によって、Ce3+の形成を抑制すると、誘電率は約30まで低下するが、電歪定数も約10-17m2/V2まで低下する。一実施形態では、本発明の主題は、セリア系固溶体の組成を系統的に調節することによって、シリコン微細加工に完全に適合する、技術的に有用な電歪材料の開発が可能であることを示唆する。
【0008】
したがって、一実施形態では、本発明は、200ppmまでのひずみに達する見かけのひずみ飽和がなく、0.1~150Hzの周波数範囲で10-16m2/V2を示す、10mol%Zrドープセリア材料(10mol%Zr4+)を提供する。しかしながら、(Ce4+からCe3+への)自発的な部分還元の結果として、誘電率及び導電率は共に1桁増加する(上記参照)。いくつかの実施態様では、このことは、ランタニドの共ドープによって部分的に改善することができる。いかなる理論にも拘束されるものではないが、本開示は、小さなドーパントによってセリアセラミックス中に誘起された弾性双極子が、高周波数(>10Hz)においてより強い電歪応答を与えることを示唆する。このような電歪応答は、ドーパントの電荷に関係なく、より大きなドーパントを使用した場合に得られる応答よりも高い。
【0009】
一実施形態では、本発明は、Hf、Zr、及びTiから選択される金属Mがドープされたセリア系材料であって、電場が印加されると、変位、応力、またはそれらの組み合わせを発生する、セリア系材料を提供する。
【0010】
一実施形態では、本発明は、Hf、Zr、及びTiから選択される金属Mがドープされたセリア系材料であって、電場が印加されると、変位、応力、またはそれらの組み合わせを発生し、電歪係数が、0.1Hz~105Hzの範囲の周波数で、10-15m2/V2~10-18m2/V2の範囲である、セリア系材料を提供する。
【0011】
一実施形態では、本発明のセリア系材料は、式:Ce1-xMxO2で表され、式中、xは、0.02~0.7の範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料は、式:Ce1-xMxO2-dで表され、式中、xは、0.02~0.7の範囲であり、dは、0~0.03の範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料は、金属Mよりも低い原子価を有する金属が共ドープされる。一実施形態では、金属Mよりも低い原子価を有する金属は、Ca、Mg、Fe、Sc、Sn、Y、及びそれらの任意の組み合わせから選択される。一実施形態では、本発明のセリア系材料は、ランタニドLが共ドープされる。一実施形態では、ランタニドLは、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuから選択される任意のランタニド、またはそれらの任意の組み合わせである。
【0012】
一実施形態では、本発明のセリア系材料は、式:Ce1-x-yMxLyO2-y/2で表され、式中、xは0.01~0.7の範囲であり、yは0.01~0.7の範囲である。一実施形態では、ランタニドLは、LaまたはYbである。一実施形態では、ランタニドLはLaであり、x=0.10±0.02であり、y=0.10±0.02である。一実施形態では、本発明のセリア系材料は、式:Ce1-x-yMxLyO2-y/2-dで表され、式中、xは0.01~0.7の範囲であり、yは0.01~0.7の範囲であり、dは0~0.03の範囲である。
【0013】
一実施形態では、本発明のセリア系材料が発生する変位は、0.1ppm~500ppmの範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料が発生する応力は、少なくとも0.01MPaである。一実施形態では、本発明のセリア系材料のヤング率は、100GPa~250GPaの範囲である。
【0014】
一実施形態では、本発明のセリア系材料の電歪係数は、10-15m2/V2~10-18m2/V2の範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料の電歪係数は、0.1Hz~105Hzの範囲の周波数で、10-15m2/V2~10-18m2/V2の範囲である。一実施形態では、電歪係数は、周波数に依存しない。
【0015】
一実施形態では、本発明のセリア系材料の誘電率は、10~1000の範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料の導電率は、10-9S/m~10-5S/mの範囲である。
【0016】
一実施形態では、本発明のセリア系材料の材料形態は、ディスク、フィルム、粉末、バー、ペレット、及びそれらの任意の組み合わせから選択される。一実施形態では、ディスク、フィルム、バー、またはペレットの厚さは、0.1mm~10mmの範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料は、単結晶、多結晶、または非晶質である。一実施形態では、本発明のセリア系材料の密度は、5~7.3g/mlの範囲である。
【0017】
一実施形態では、本発明は、本発明のセリア系材料を製造する方法であって、
Ceイオン、金属Mのイオン、及び任意選択で金属Lのイオンを含有する水溶液にアルカリ水溶液を加えるステップと、
その結果得られた混合物を、任意選択で撹拌しながら、少なくとも25分間、高温に保つステップと、
その結果得られた沈殿物を、任意選択で洗浄するステップと、を含む、方法を提供する。
【0018】
一実施形態では、Ceイオン、金属Mのイオン、及び任意選択の金属Lのイオンの起源は、上記のイオンの塩である。いくつかの実施態様では、金属Lは、ランタニドである。
【0019】
一実施形態では、上記のイオンの塩は、Ce(NO3)3・6H2O、ZrO(NO3)2・6H2O、及び任意選択でL(NO3)3・6H2Oである。
【0020】
一実施形態では、アルカリ水溶液は、(NH4)2CO3を含む。
【0021】
一実施形態では、アルカリ水溶液を加える上記のステップは、滴下によって行われる。一実施形態では、得られた沈殿物は粉末である。一実施形態では、得られた沈殿物である粉末は粉砕され、任意選択で焼成される。一実施形態では、得られた沈殿物である粉末は、モールドまたはダイ内でプレス成形され、その結果、ディスク、バー、またはペレットが形成される。
【0022】
一実施形態では、ディスク、バー、またはペレットの寸法は、直径または他の任意の横方向寸法が5~20mmの範囲であり、厚さが0.5~5mmの範囲である。
【0023】
一実施形態では、ディスク、バー、またはペレットの気孔率が、0.01%~5%の範囲である。一実施形態では、ディスクまたはペレットの気孔率は、5%未満である。一実施形態では、ディスク、バー、またはペレットは研磨される。一実施形態では、ディスクまたはペレットの上面及び底面は、研磨によって互いに平行にされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明と見なされる主題は、明細書の結論部分で特に指摘され、明確に主張されている。しかしながら、本発明は、構成及び動作方法の両方に関して、また、その目的、特徴、及び利点と共に、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明を読むことによって最もよく理解されるであろう。
【0025】
【
図1A】
図1Aは、比誘電率(ε
r、実部)を示すグラフであり、Zrドープセリア、Ybドープセリア、または、Zrと10mol%のYbとを共ドープしたセリアの導電率を、インピーダンス分光法によって測定したドーパント濃度の関数として示す。値は100Hzで測定した。
【
図1B】
図1Bは、導電率を示すグラフであり、Zrドープセリア、Ybドープセリア、または、Zrと10mol%のYbとを共ドープしたセリアの導電率を、インピーダンス分光法によって測定したドーパント濃度の関数として示す。値は100Hzで測定した。
【
図2A】
図2Aは、Zrをドープしたセリアの電歪係数の周波数依存性を示す。
【
図2B】
図2Bは、10mol%ZrとYbとを共ドープしたセリアの電歪係数の周波数依存性を示す。
【
図2C】
図2Cは、10mol%ZrとLaとを共ドープしたセリアの電歪係数の周波数依存性を示す。
【
図3】
図3は、Zrのドープ量と材料の酸化状態とを変化させた場合の飽和磁化測定値を2Kで測定したグラフである。10mol%または20mol%のZrをドープした試料を、還元「Red」状態の前と、酸化「Ox」状態の後に測定した。共ドープ試料は差を示さなかった。Mは、アンペア/メートル(A/m)単位の磁化であり、μ
0Hは、テスラ単位の磁場/磁束である。
【
図4A】
図4Aは、印加された圧縮圧力(-σ)を、様々な周波数で測定された真空誘電率(ε
0)で割った値に対する誘電率(ε)を示すグラフである。酸化させた、10mol%Zrドープセリアについて測定した。
【
図4B】
図4Bは、周波数の関数としての逆電歪定数及び直接電歪定数である。酸化させた、10mol%Zrドープセリアについて測定した。
【
図5A】
図5Aは、10mol%ドープセリア試料(様々なドーパント)について測定した高周波電歪係数を示すグラフである。
【
図5B】
図5Bは、Zrドープ試料について測定した高周波電歪係数を示すグラフである。
【
図5C】
図5Cは、様々な濃度及び酸化状態でYbまたはLaを共ドープした10mol%Zr試料(
図5C)について測定した高周波電歪係数を示すグラフである。
【
図6A】
図6は、
図3から作成された磁化曲線であり、
図6Aは、酸化試料の磁化曲線を還元試料の磁化曲線から差し引いたものを示す。
【
図6B】
図6Bは、10mol%Zrと0.5mol%Laとを共ドープした試料の磁化曲線を、還元/酸化試料の磁化曲線から差し引いたものを示す。各曲線のランジュバン曲線へのフィッティングパラメータを示す。
【
図7】
図7は、酸化させたCe
(1-x-y)Zr
xL
yO
(2-y/2)(Lは、YbまたはLa)セラミックの格子定数を、
【数7】
に従った10個の回折ピークの指標に基づく線形回帰によって算出した。
【
図8】
図8は、様々なドーパントをドープしたセリアセラミックディスクの周面のSEM顕微鏡写真である。(A)5mol%Zrドープ、(B)10mol%Zrドープ、(C)10mol%Zrと0.5mol%のYbとの共ドープ、(D)10mol%Zrと15mol%のYbとの共ドープ。スケールバーは1μmを示す。
【0026】
図示の簡略化及び明確化のために、図示されている要素は必ずしも一定の縮尺で描かれていないことを理解されたい。例えば、いくつかの要素の寸法は、明確化のために、他の要素と比較して誇張されている場合がある。さらに、適切と考えられる場合には、対応する要素または類似する要素を示すために、参照番号が図面間で繰り返し使用される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下の詳細な説明では、本発明の完全な理解を提供するために、多数の具体的な詳細が記載される。しかしながら、本発明は、これらの具体的な詳細を用いることなく実施してもよいことは、当業者には理解されるであろう。他の例では、よく知られている方法、手順、及び構成要素は、本発明を不明瞭にしないように、詳細に記載されていない。
【0028】
一実施形態では、本発明は、電歪特性を示すドープされたセリア系材料及びその製造方法を提供する。
【0029】
定義
【0030】
本発明の実施形態では、略語は以下の通りである。PMN-PTは、ニオブ酸マグネシウム鉛-チタン酸鉛である。ZrDC10は、ドープ量が10mol%のZrドープセリアである。10という数字は、10mol%を意味する。同様に、20という数字は、20mol%を意味する。M33は、電歪係数である。
【0031】
古典的な電歪器のNewnhamのスケーリング則は、誘電率と、機械的特性(ヤング率)と、電歪係数との間の経験的な相関関係である。
【0032】
本発明の実施形態では、電歪係数|M33|の単位は、m2/V2である。長手方向の電歪(すなわち、印加された電場に対して平行な方向の電歪)は、ppmの単位でu33と表記される。33という添え字は、電場の方向とひずみの方向とが同一であり、両方ともペレット/フィルム表面に対して直交する方向であることを示す。
【0033】
本発明の実施形態では、電歪とは、電場の印加下での材料の形状の変化を指す。本発明の実施形態では、「電気ひずみ係数」は「電歪係数」と互換的に使用される。本発明の実施形態では、電歪係数は、M33と互換的に使用される。一実施形態では、電歪係数は、|M|、M33、|M33|m2/V2などと表記される。長手方向の電歪(すなわち、印加電場に対して平行な方向の電歪)は、u33と表記される。
【0034】
本発明のセリア系材料への電場の印加は、様々な方法で実施することができる。一実施形態では、セリア系材料を電極間に配置し、セリア系材料の両端に電圧を印加する。いくつかの実施形態では、セリア系材料は、インピーダンス分光の測定手段に接続される。いくつかの実施形態では、電圧は、周波数の関数として測定される。セリア系材料は、電極間に配置される場合、例えば、ペレット、ディスク、バーなどの任意の形態で使用することができる。「電圧」及び「バイアス」という用語は、いくつかの実施形態では互換的に使用される。一実施形態では、電極は、金属からなる。いくつかの実施形態では、10Vの電圧が印加される。いくつかの実施形態では、5~50Vの電圧が印加される。いくつかの実施形態では、直流が使用される。いくつかの実施形態では、交流が使用される。いくつかの実施形態では、本発明のセリア系材料は、電圧/電場の印加により、10-15m2/V2~10-18m2/V2の電歪係数が得られる。
【0035】
一般的に、インピーダンス分光の測定には、周波数に依存した測定が必要とされる。そのため、本明細書で説明するように、電歪係数を測定するために交番電圧が一般的に使用される。一実施形態では、電極は、少なくとも1つの金属からなる。電極材料の例としては、これに限定しないが、アルミニウム、鋼、ステンレス鋼、鉄、銀、金、銅などが挙げられる。さらなる実施形態では、電極は、波形発生器に接続される。この波形発生器は、任意の周波数及び任意の波形形状の波形を印加する。いくつかの実施形態では、周波数は、150mHz~1kHzの範囲である。他の実施形態では、周波数は、1kHz~10kHzの範囲である。他の実施形態では、周波数は、50mHz~150mHzの範囲である。いくつかの実施形態では、周波数は、0.1Hz~105Hzの範囲である。いくつかの実施形態では、波形の形態は、正弦波、方形波、三角波、のこぎり波、パルス波、及びそれらの任意の組み合わせから選択される。一実施形態では、一方の電極は、バネ負荷される。いくつかの実施形態では、バネ負荷された電極は、変位測定手段に接続される。いくつかの実施形態では、電極は、誘電分析器及び力センサに接続される。
【0036】
セリア系材料に接続される電極は、本発明の実施形態によれば、様々な方法で適用される。一実施形態では、電極は、セリア系材料における互いに異なる部分に物理的に押し付けられる。いくつかの実施形態では、電極をセリア系材料に接続するために追加の結合材料が使用される。例えば、電極は、これに限定しないが、導電性グリース、導電性接着剤、導電性材料、導電性テープ、導電性ゲル、カーボンナノワイヤベースのテープ、クランプ、クリップまたはそれらの任意の組み合わせを用いて、セリア系材料に結合される。いくつかの実施形態では、電極は、既知の製造技術を用いて、セリア系材料上に堆積させられる。
【0037】
ランタニドは、希土類元素である。いくつかの実施形態では、ランタニドは「L」と表記され、他の実施形態では「RE」(希土類)と表記される。一実施形態では、「L」とは、ランタニド一般を表す(例えば、任意のイオン電荷のランタニド)。一実施形態では、「L」とは、3+イオン電荷のランタニドを表す。Lの表記は、当該技術分野で知られているように、与えられた材料式から明らかである。
【0038】
本発明の実施形態では、「セリア」とは、希土類金属セリウムの酸化物を指す。そのため、いくつかの実施形態では、「セリア系材料」とは、セリアを含む材料を指す。
【0039】
本発明の実施形態では、「単一ドープセリア」とは、単一の種類のドーパントがドープされたセリアを指す。本明細書で使用するとき、「共ドープ」とは、少なくとも2種類のドーパントをドープすることを指す。本発明のいくつかの実施形態では、「共ドープ」とは、Zr、Hf、及びTiのうちの1つと、ランタニドとをドープすることを指す。例えば、一実施形態では、ZrとYbとがドープされたCeは、共ドープCeである。
【0040】
一実施形態では、本発明の材料は、活性材料と呼ばれる。一実施形態では、活性材料は、電気機械的効果を示す材料である。一実施形態では、活性材料は、印加された電場に応答して機械的変化を発生する物質である。一実施形態では、活性材料は、電歪材料である。
【0041】
一実施形態では、変位は、活性材料またはその一部の位置の変化である。一実施形態では、変位は、活性材料またはその一部の位置の変化や、座標の変化を意味する。一実施形態では、変位は、電場を印加した結果としての活性材料またはその一部の移動を表す。一実施形態では、変位は、活性材料またはその一部の、長さの変化、曲率の増加または減少、曲げ、曲げの増加/減少、伸長、収縮、体積の変化、幅の変化、または、活性材料またはその一部の寸法や形状における他の変化として観察される。一実施形態では、活性材料は、電場の印加により力を発生する。一実施形態では、力は、活性材料内に発生する。一実施形態では、活性材料が電場の影響下にある場合、活性材料は外力に抵抗することができる。一実施形態では、本発明の活性材料は、機械力(機械的な力)を発生する。
【0042】
一実施形態では、変形は、材料の寸法の変化である。一実施形態では、変形は、本明細書で上述した変位と同等であるか、またはその変位を含む。
【0043】
一実施形態では、ひずみとは、応力に応答して材料が受ける、材料の元の長さの単位当たりの変形量である。一実施形態では、面内ひずみとは、薄膜の最小寸法に対して直交する方向における薄膜内のひずみである。一実施形態では、薄膜の面内ひずみは、次のように記述することができる:薄膜技術では、薄膜が他の2つの寸法よりもはるかに小さい1つの寸法を有するという事実により、ほとんどの特性は、面内及び面外の2つのクラスに大別することができる。面内パラメータとは、「薄膜」または薄膜の最小寸法に対して直交する方向のパラメータを指す。一実施形態では、面内ひずみは、薄膜内または活性材料内のひずみである。一実施形態では、長手方向の電歪は、セラミックペレットの変位と元の厚さとの比として計算される。
【0044】
一実施形態では、弾性率は、比例限界内における、応力とそれに対応するひずみとの比である。一実施形態では、弾性とは、材料の伸長または圧縮後に、材料が元の形状に戻る傾向のことである。
【0045】
一実施形態では、pmは、ピコメートルの単位を表す。一実施形態では、nmは、ナノメートルの単位を表す。一実施形態では、MPaは、メガパスカルの単位を表す。一実施形態では、Vは、ボルトを表す。一実施形態では、μmは、マイクロメートルを表す。一実施形態では、ppmは、100万分の1を表す。
【0046】
一実施形態では、応力は、材料の元の面積の単位当たりの、材料が受ける力である。一実施形態では、本発明の材料における応力は、印加される電圧(バイアス/電場)に依存する。
【0047】
いくつかの実施形態では、共ドープ材料は、Ce1-x-yMxLyO2-y/2で表される。一実施形態では、x、y、1-x-yは、材料中の様々なイオンの量/比を示す。Mは、4+の電荷を有するカチオンであり、Lは、3+の電荷を有するランタニドである。材料中の各原子/イオンの割合は、既知のx、y、z、1-x-y-zなどについて計算することができる。
【0048】
一実施形態では、Mは、イソバレント(等原子価)金属であり、Lは、アリオバレント(異原子価)金属である。一実施形態では、Mは、Zr、Ti、及びHfから選択され、Lはランタニドの群から選択される元素である。
【0049】
一実施形態では、活性材料は、Ce1-x-y-zMxLyNzO2-y/2-z-δで表される。一実施形態では、x、y、z、1-x-y-zは、結晶中の様々なイオンの量/比を示す。Mは、4+の電荷を有するカチオンであり、Lは、3+の電荷を有するランタニドであり、Nは、2+の電荷を有するカチオンである。δは、酸素分圧(通常、標準状態で約100ppm)に依存する自発的還元である。材料中の各原子/イオンの割合は、既知のx、y、z、1-x-y-zなどについて計算することができる。本発明の実施形態では、LまたはNのいずれか、またはそれらの組み合わせが、本発明の材料中に存在することができる。一実施形態では、Lの量を表すyは、0、または0~0.7の範囲であり、Nの量を表すzは、0、または0~0.7の範囲である。材料が単一ドープCe(例えば、CeZrO2)であるいくつかの実施形態では、y=0、及び、z=0である。一実施形態では、L及びNの両方がランタニドである。いくつかの実施形態では、L及びMは互いに独立して、特定のランタニドについて可能な特定の電荷のランタニドを表すことができる。化学式は、当該技術分野で知られているように、適宜調節することができる。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態では、δは非常に小さいため、酸素イオンの式では記載されない。一実施形態では、酸素イオンの量/比は、「2-y/2」または「2-y/2-z」と記載される。このような表記及びいくつかの実施形態では、量/比率は、0.01%または0.02%の値からの偏差、または、記載または計算された値の0.001%~0.07%の範囲の偏差を含むことに留意されたい。このような偏差は、還元された陽イオンが存在する場合には少量であり、それに対応して酸素イオンの量が変化することを説明する。一実施形態では、δの値は0.0001または0.0002であるか、または、δは00001~0.0007の範囲である。
【0051】
一実施形態では、金属イオンは、「金属」と略称される。いくつかの実施形態では、定数及び係数という用語は、互換的に使用される。一実施形態では、変位、変形、またはひずみと称する場合、100万分の1(ppm)とは、元の寸法/初期の寸法の1メートル当たりの1マイクロメートルの変化を表す。
【0052】
材料、寸法、及び値
【0053】
一実施形態では、本発明は、Hf、Zr、及びTiから選択される金属Mがドープされたセリア系材料であって、電場が印加されると、変位、応力、またはそれらの組み合わせを発生する、セリア系材料を提供する。一実施形態では、本発明のセリア系材料は、電場が印加されると、変位のみを発生する。別の実施形態では、本発明のセリア系材料は、電場が印加されると、応力のみを発生する。
【0054】
一実施形態では、本発明は、Hf、Zr、及びTiから選択される金属Mがドープされたセリア系材料であって、電歪性を有するセリア系材料を提供する。
【0055】
一実施形態では、本発明は、Zrがドープされたセリア系材料であって、電場が印加されると、変位、応力、またはそれらの組み合わせを発生するセリア系材料を提供する。
【0056】
一実施形態では、本発明は、Zrがドープされたセリア系材料であって、電歪性を有するセリア系材料を提供する。
【0057】
一実施形態では、本発明のセリア系材料は、式:Ce1-xMxO2で表され、式中、xは、0.02~0.7の範囲である。一実施形態では、xは、0.02~0.45の範囲である。一実施形態では、xは、0.05~0.3の範囲、0.02~0.20の範囲、または、0.08~0.12の範囲である。一実施形態では、xは、0.1±0.01、0.1±0.5、0.2±0.5、または、0.05±0.01である。
【0058】
一実施形態では、本発明のセリア系材料は、式:Ce1-xMxO2-dで表され、式中、「d」は、材料の自然的還元を表す。一実施形態では、「d」及び「δ」は、互換的に使用される。一実施形態では、xは、0.02~0.45の範囲である。一実施形態では、xは、0.05~0.3の範囲、0.02~0.20の範囲、または、0.08~0.12の範囲である。一実施形態では、xは、0.1±0.01、0.1±0.5、0.2±0.5、または、0.05±0.01である。一実施形態では、dは、0<d<0.03の範囲である。別の実施形態では、dは、0<d<0.01の範囲である。一実施形態では、dは、0<d<0.02の範囲である。一実施形態では、dは、0.01<d<0.02の範囲である。一実施形態では、dは、0.02<d<0.03の範囲である。一実施形態では、dは、約0.01である。一実施形態では、dは、約0.02である。一実施形態では、dは、約0.03である。
【0059】
一実施形態では、本発明のセリア系材料は、金属Mよりも低い原子価を有する金属が共ドープされる。別の実施形態では、金属Mよりも低い原子価を有する金属は、Ca、Mg、Fe、Sc、Sn、Y、及びそれらの任意の組み合わせから選択される。一実施形態では、共ドープ材料は、Ca、Mg、Fe、Se、Sn、またはYを含む。一実施形態では、共ドープ材料は、Ca、Mg、Fe、Se、Sn、またはYからなる。本明細書で使用するとき、「原子価」(または「価数」)とは、元素の原子が結合することができる他の原子の数を決定する、元素の特性を指す。
【0060】
一実施形態では、本発明のセリア系材料は、ランタニドLが共ドープされる。
【0061】
一実施形態では、ランタニドLは、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuから選択される任意のランタニド、またはそれらの任意の組み合わせである。
【0062】
一実施形態では、Lは、3+の電荷を有するイオンである。いくつかの実施形態では、Lは、2+または4+の電荷を有する。
【0063】
一実施形態では、本発明のセリア系材料は、式:Ce1-x-yMxLyO2-y/2で表される。一実施形態では、本発明のセリア系材料は、式:Ce1-x-yMxLyO2-y/2で表され、式中、xは、0.01~0.7の範囲であり、yは、0.01~0.7の範囲である。一実施形態では、x、y、またはそれらの組み合わせは、0.02~0.45の範囲である。一実施形態では、x、y、またはそれらの組み合わせは、0.05~0.3の範囲、0.02~0.20の範囲、または、0.08~0.12の範囲である。一実施形態では、x、y、またはそれらの組み合わせは、0.1±0.01、0.1±0.5、0.2±0.5、または、0.05±0.01である。
【0064】
一実施形態では、セリア系材料は、式:Ce1-x-yMxLyO2-y/2-dで表される。一実施形態では、セリア系材料は、式:Ce1-x-yMxLyO2-y/2-dで表され、式中、xは、0.01~0.7の範囲であり、yは0.01~0.7の範囲である。一実施形態では、x、y、またはそれらの組み合わせは、0.02~0.45の範囲である。一実施形態では、x、y、またはそれらの組み合わせは、0.05~0.3の範囲、0.02~0.20の範囲、または、0.08~0.12の範囲である。一実施形態では、x、y、またはそれらの組み合わせは、0.1±0.01、0.1±0.5、0.2±0.5、または、0.05±0.01である。一実施形態では、dは、0<d<0.03の範囲である。別の実施形態では、dは、0<d<0.01の範囲である。一実施形態では、dは、0<d<0.02の範囲である。一実施形態では、dは、0.01<d<0.02の範囲である。一実施形態では、dは、0.02<d<0.03の範囲である。一実施形態では、dは、約0.01である。一実施形態では、dは、約0.02である。一実施形態では、dは、約0.03である。
【0065】
一実施形態では、ランタニドLは、LaまたはYbである。
【0066】
一実施形態では、MはZrであり、LはYbであり、x=0.10±0.02であり、y=0.10±0.02である。一実施形態では、MはZrであり、LはLaであり、x=0.10±0.02であり、y=0.03±0.01である。一実施形態では、MはZrであり、xは0.001~0.2の範囲であり、LはYbであり、yは0.005~0.25の範囲である。一実施形態では、MはZrであり、xは0.001~0.2の範囲であり、LはLaであり、yは0.005~0.25の範囲である。一実施形態では、LはLaであり、x=0.10±0.02であり、yは0.01~0.08の範囲である。一実施形態では、LはYbであり、x=0.10±0.02であり、yは0.05~0.15の範囲である。
【0067】
一実施形態では、本発明のセリア系材料が発生する変位は、0.1ppmから500ppmの範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料が発生する応力は、少なくとも0.01MPaである。一実施形態では、本発明のセリア系材料のヤング率は、100GPa~250GPaの範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料のヤング率は、200GPa~250GPaの範囲である。
【0068】
一実施形態では、本発明のセリア系材料の電歪係数は、10-15m2/V2~10-18m2/V2の範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料の電歪係数は、10-15m2/V2~10-17m2/V2の範囲、10-16m2/V2~10-18m2/V2の範囲、または、10-16m2/V2~10-17m2/V2と範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料の電歪係数は、0.1Hz~105Hzの範囲の周波数で、10-15m2/V2~10-18m2/V2の範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料の電歪係数は、0.1Hz~103Hzの範囲、0.1Hz~4×103Hzの範囲、または0.1Hz~100Hzの範囲の周波数で、10-15m2/V2~10-18m2/V2の範囲である。一実施形態では、電歪係数は、周波数に依存しない。一実施形態では、電歪係数は、特定の周波数範囲で、周波数に依存しない。
【0069】
一実施形態では、本発明のセリア系材料の誘電率は、10~1000の範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料の誘電率は、100~500の範囲、20~50の範囲、20~400の範囲、または、100~200の範囲である。
【0070】
一実施形態では、本発明のセリア系材料の導電率は、10-9S/m~10-5S/mの範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料の導電率は、10-9S/m~10-8S/mの範囲である。
【0071】
一実施形態では、本発明のセリア系材料のひずみ(歪み)は、50ppm~500ppmの範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料のひずみは、50ppm~150ppmの範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料のひずみは、最大で200ppmである。
【0072】
一実施形態では、本発明のCeドープ材料または共ドープ材料中の還元Ceイオン(Ce3+)イオンの濃度は、50ppm~750ppmの範囲、50ppm~250ppmの範囲、または、50ppm~150ppmの範囲である。一実施形態では、還元Ceイオンの濃度は、約100ppmである。一実施形態では、還元Ceイオンの濃度は、約500ppmである。
【0073】
一実施形態では、本発明のセリア系材料は、ディスク、フィルム、粉末、棒、またはペレットの形態を有する。一実施形態では、ディスク、フィルム、バー、またはペレットの厚さは、0.1mm~10mmの範囲である。本発明のセリア系材料の他の形態は、モールド、ダイ、プレス、容器、容器、リング、または、当該技術分野で既知の他の従来のツールを使用して形成される。
【0074】
一実施形態では、本発明のセリア系材料は、単結晶または多結晶である。一実施形態では、本発明のセリア系材料は、非晶質材料である。一実施形態では、本発明のセリア系材料の密度は、5~7.3g/mlの範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料の密度は、7~7.7g/ml、または、5~7g/mlの範囲である。
【0075】
セリア系材料に関する本発明の実施形態は、トリウム(Th)系材料にも適用可能である。一実施形態では、本発明のドープ材料は、式:Th1-xMxO2で表され、4+、3+、または2+の電荷を有するイオンが共ドープされた共ドープ材料については、式:Th1-x-yMxLyO2-y/2、または、式:Th1-x-y-zMxLyNzO2-y/2-zで表され、還元イオンの量がδで表される共ドープ材料については、式:Th1-x-y-zMxNyLzO2-y/2-z-δで表される。Ceについて本明細書に開示したいくつかの実施形態は、CeをThに置き換えた材料に関連する。このようなTh関連の実施形態も、本発明に包含される。
【0076】
本発明のセリア系材料の製造方法
【0077】
一実施形態では、本発明は、本発明のセリア系材料を製造する方法であって、
Ceイオン、金属Mのイオン、及び任意選択で金属Lのイオンを含有する水溶液にアルカリ水溶液を加えるステップと、
その結果得られた混合物を、任意選択で撹拌しながら、少なくとも25分間、高温に保つステップと、
その結果得られた沈殿物を、任意選択で洗浄するステップと、を含む、方法を提供する。
【0078】
一実施形態では、本発明は、本発明のセリア系材料を製造する方法であって、
Ceイオン、金属Mのイオン、及び任意選択で金属Lのイオンを含有する水溶液にアルカリ水溶液を加えるステップと、
その結果得られた混合物を、少なくとも25分間、高温に保つステップと、
その結果得られた沈殿物を、任意選択で洗浄するステップと、を含む、方法を提供する。
【0079】
一実施形態では、高温は、室温より高い任意の温度である。別の実施形態では、高温は、30°C~50°Cの範囲である。別の実施形態では、高温は、50°C~70°Cの範囲である。別の実施形態では、高温は、70°C~100°Cの範囲である。別の実施形態では、高温は、100°C~200°Cの範囲である。
【0080】
一実施形態では、得られた混合物を、任意選択で撹拌しながら、高温に保つ時間(期間)は、25分間~1時間の範囲である。一実施形態では、得られた混合物を、任意選択で撹拌しながら、高温に保つ時間は、1~2時間の範囲である。一実施形態では、得られた混合物を、任意選択で撹拌しながら、高温に保つ時間は、2~5時間の範囲である。一実施形態では、得られた混合物を、任意選択で撹拌しながら、高温に保つ時間は、約25分間である。
【0081】
一実施形態では、Ceイオン、金属Mのイオン、及び任意選択の金属Lのイオンの起源は、上記のイオンの塩である。いくつかの実施形態では、金属Lは、ランタニドである。いくつかの実施形態では、金属Lは、少なくとも1つのランタニドを含む。
【0082】
一実施形態では、イオンの塩は、Ce(NO3)3・6H2O、ZrO(NO3)2・6H2O、及び任意選択でL(NO3)3・6H2Oである。
【0083】
一実施形態では、アルカリ水溶液は、(NH4)2CO3を含む。一実施形態では、アルカリ水溶液は、炭酸塩を含む。一実施形態では、アルカリ水溶液は、水酸化物を含む。
【0084】
一実施形態では、アルカリ水溶液を加える上記のステップは、滴下によって行われる。本明細書で使用するとき、「滴下」という用語は、いくつかの実施形態では、液滴の添加を指す。いくつかの態様では、滴下は、ピペットによって行われる。いくつかの態様では、滴下は、自動化される。
【0085】
一実施形態では、得られた沈殿物は粉末であり、形成された粉末は粉砕される。さらなる実施形態では、形成された粉末は、任意選択で焼成される。一実施形態では、得られた沈殿物である粉末は、粉砕されない。一実施形態では、得られた沈殿物である粉末は、粉砕されるが、焼成されない。一実施形態では、得られた沈殿物である粉末は、粉砕され、かつ、焼成される。
【0086】
本発明のペレット
【0087】
一実施形態では、本発明の方法によって形成された粉末は、モールドまたはダイ内でプレス成形され、その結果、ディスク、バー、またはペレットが形成される。いくつかの実施形態では、「ペレット」、「ディスク」、及び「バー」という用語は、互換的に使用される。
【0088】
一実施形態では、ディスク、バー、またはペレットの寸法は、直径または他の任意の横方向寸法が5~20mmの範囲であり、厚さが0.5~5mmの範囲である。
【0089】
一実施形態では、ペレット/ディスクの厚さは、500nm~1000nmの範囲である。一実施形態では、ペレット/ディスクの厚さは、500nmである。一実施形態では、ペレット/ディスクの厚さは、500nm~750nmの範囲、750nm~1000nmの範囲、100nm~1000nmの範囲、500nm~2000nmの範囲、400nm~4000nmの範囲、600nm~800nmの範囲、または、1000nm~10,000nmの範囲である。一実施形態では、ペレット/ディスクの厚さは、10,000nm~100,000nmの範囲である。
【0090】
一実施形態では、ディスク/ペレットの長さ及び幅は互いに等しい。一実施形態では、本発明のセリア系材料の長さは、該材料の幅よりも大きい。一実施形態では、本発明のセリア系材料の長さ及び幅は、該材料の厚さ(高さ)よりも大きい。一実施形態では、本発明のセリア系材料の長さは4cmであり、幅は0.8cmである。一実施形態では、本発明のセリア系材料は、円形の形状を有し、0.2cm~7cmの範囲の直径を有する。一実施形態では、本発明のセリア系材料は、楕円形の形状を有し、0.2cm~7cmの範囲の直径を有する。
【0091】
一実施形態では、本発明のセリア系材料の長さ、該材料の幅、またはそれらの組み合わせは、0.5cm~5cmの範囲である。一実施形態では、本発明のセリア系材料の長さ、該材料の幅、またはそれらの組み合わせは、0.1cm~1cmの範囲である。一実施形態では、活性材料の長さ、活性材料の幅、またはそれらの組み合わせは、1cm~10cm、10cm~100cm、0.01cm~0.1cm、10μm~100μm、または、1μm~10μmの範囲である。一実施形態では、本発明の活性材料は、ディスクの形態である。一実施形態では、ディスクの直径は、正方形/長方形の活性材料の幅/長さに関して上述した任意の値を含む。一実施形態では、ディスクの厚さは、活性材料の厚さについて上述した任意の値を含む。一実施形態では、活性材料は、任意の幾何学的形状を含む、または、定義されていない、または部分的に定義された幾何学的形状であってもよい。活性材料の幾何学的形状が十分に定義されていない場合、本明細書に記載された長さ/幅及び厚さの値は、活性材料の最大及び/または最小寸法を表す。一実施形態では、「活性材料」は本発明のセリア系材料を指し、逆もまた同様である。一実施形態では、本発明のセリア系材料について示した寸法及び値は、本発明のペレット/ディスク/フィルムを指す。ディスク及びディスクという用語は、本発明の実施形態では互換的に使用され、薄い円筒形(または略円筒形)の物体または形状を指す。
【0092】
一実施形態では、ディスク、バー、またはペレットの気孔率は、0.05%~5%の範囲である。一実施形態では、ディスク、バー、またはペレットの気孔率は、0.01%~5%の範囲である。一実施形態では、ディスク、バー、またはペレットの気孔率は、0.15%~0.25%の範囲である。いくつかの実施形態では、本発明のセリア系材料の気孔率は、2%未満である。いくつかの実施形態では、本発明のセリア系材料の気孔率は、5%未満である。
【0093】
一実施形態では、ディスク、バー、またはペレットは、研磨される。一実施形態では、ディスクまたはペレットの上面及び底面は互いに平行にされる。一実施形態では、ディスクまたはペレットの上面及び底面は、研磨によって互いに平行にされる。
【0094】
一実施形態では、「1つの(a、an、one)」という用語は、少なくとも1つを指す。一実施形態では、「2つ以上」という用語は、特定の目的に適合する任意の数であってもよい。一実施形態では、「約」または「およそ」という用語は、示された数値からの+1%、いくつかの実施形態では-1%、いくつかの実施形態では±2.5%、いくつかの実施形態では±5%、いくつかの実施形態では±7.5%、いくつかの実施形態では±10%、いくつかの実施形態では±15%、いくつかの実施形態では±20%、いくつかの実施形態では±25%の逸脱を含む。
【0095】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態をより完全に説明するために提示される。しかしながら、これらは、決して本発明の広範な範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0096】
実施例
【0097】
実施例1
試料の作製及び特性評価
【0098】
試料の作製
【0099】
RE=LaまたはYbの固溶体ZrxREyCe1-x-yO2-y/2を、前述のように急速焼結により合成した。簡単に説明すると、(NH4)2CO3(Acros Organics、超純度、99%)の水溶液を、C(NO3)3・6H2O(Strem、純度99.9%)を含有する水溶液に滴下した。硝酸セリウムをZrO(NO3)2・6H2Oと共沈させることにより、ドープセリアを作製した。硝酸セリウムを適当なRE(NO3)3・6H2O(Strem、純度99.9%)及びZrO(NO3)2・6H2Oと共沈させることにより、共ドープセリアを作製した。得られた混合物を、攪拌しながら、1時間にわたって80℃に保った。得られた沈殿物を、脱イオン水、次いでエタノールで洗浄して粉末を得た。その粉末を、粉砕し、焼成した。直径11mm、厚さ2mmの平らなディスクを、ポリウレタンのモールドで冷間静水圧プレス成形(300MPa)によって作製した。すべての焼結ペレットの気孔率を、従来のアルキメデス法で測定した質量密度から推定した。ペレットを炭化ケイ素研磨紙(最大で1600メッシュ)で研磨し、上面及び底面を互いに平行にした。炭化ケイ素の残留物は、超音波浴中で、100%エタノールで30分間洗浄することによって除去した。指定された場合には、焼結中に起こる酸素損失を補償するために、すべての試料を純酸素雰囲気中で500°Cで5時間加熱した。
【0100】
電歪
【0101】
長手方向(すなわち、印加電場に対して平行な方向)の電歪u33を、前述の装置を用いて測定した。簡単に説明すると、セラミックペレットを2つのステンレス鋼電極間に配置し、上側電極をバネ負荷した。電圧は、Keithley3390波形発生器と、Trek610E増幅器とを使用して印加した。プッシュロッドを使用して、電極から近接センサ(キャパシタンス、CPL190 Lion)に変位を伝達し、近接センサからの信号をロックインアンプ(DSP7265)で読み取った。長手方向の電歪は、ミツトヨ社製のスクリューゲージ(193-111、±2μm)で測定したセラミックペレットの変位と、セラミックペレットの元の厚さとの比として計算した。測定は、周囲条件下(24±2°C、相対湿度20%~55%)で行った。測定セットアップの較正には、銀金属接点付きPb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3(PMN-PT)の市販試料(TRS Technologies社製)と、スパッタ金属接点を追加していない100カットの水晶単結晶を使用した。文献値と一致する電気機械的値が得られた:PMN-PTの電歪M33=(1.5±0.5)・10-16m2/V2、水晶のピエゾ係数d33=2.3±0.2pm/V。測定は、150mHz~1kHzの周波数範囲で行った。
【0102】
インピーダンス分光法及び逆電歪
【0103】
室温インピーダンス分光測定は、Novocontrol Alfa誘電分析器を使用して、高電圧モードで行った。印加電圧は、10VAC、1MHz~1mHz、0VDCであった。インピーダンス測定値は、インピーダンスアナライザの精度1%の範囲内に収まった。
【0104】
また、電歪は、次のように定義することができる。
【0105】
【0106】
上記の式中、εrは、インピーダンス分光法を用いて測定した相対誘電率の実部である。σは、(万力を使用して)試料に加えられた応力であり、力センサと試料寸法とを用いて計算した。圧力を変化させたときの誘電率の変化を測定することにより、電歪定数を逆算して測定することができる。
【0107】
【0108】
超伝導量子干渉計(SQUID)
【0109】
セラミックペレットの温度依存性磁化を、SQUID(超伝導量子干渉計)磁力計MPMS3(Quantum Design Inc.社製)を使用して、VSM(振動試料磁気測定)モードで測定した。ロッド状(棒状)の試料を、ロッドの長軸が石英板の長軸と一致するようにして、ポリビニルアルコール接着剤を用いて石英板に取り付けた。磁化(M)値(A・m-1)を、格子定数から計算したロッド密度を用いて正規化した。一定の磁場(μ0H=0.5T)における磁化の温度依存性を、5K≦T≦300Kの範囲で測定した。ゼロ磁場冷却(ZFC)モードと磁場冷却(FC)モードとの両方を適用したが、両方のモードに観測可能な差は認められなかった。
【0110】
磁気飽和(M)プロットをランジュバン曲線にフィッティングした。
【0111】
【0112】
上記の式中、Nは、単位体積当たりの磁性種の数(m-3)であり;gは、ランデのg因子であり;μβは、ボーア磁子であり;J=|L±S|である。ランジュバン関数は、下記の式で表される。
【0113】
【0114】
上記の式中、ηは、熱エネルギーと磁気エネルギーとの比であり;
【0115】
【0116】
であり;μ0は、真空透磁率であり;kβは、ボルツマン定数であり;Tは、絶対温度(K)であり;Hは、磁場強度(A/m)である。
【0117】
磁化率(χ)のプロットを、キュリー・ワイスの法則に当てはめた。
【0118】
【0119】
上記の式中、Cは、キュリー定数であり、TCは、キュリー温度である。χ0は、反磁性及びヴァン・ヴレック磁化率を説明する温度に依存しない寄与である。
【0120】
結果
【0121】
様々な濃度のアリオバレントイオン(Yb、La)またはイソバレントイオン(Zr)をドープしたセリア固溶体セラミックペレットのX線回折パターンは、非組織化立方晶蛍石多結晶
【0122】
【0123】
として指数付けすることができる。格子定数は、ZrまたはYbをドープすると減少し、Laをドープすると増加した。格子定数の変化は、ドーパント濃度に比例する(
図7)。ペレットの周面のSEM(Zeiss Sigma 500)画像から、直線切片法で推定した粒径は約500nmであることが明らかになった(
図8(A)~(D))。すべての試料は、非常に低い気孔率(<2%)を示した。すべてのZrドープ試料では、USTOF(超音波飛行時間)で測定したヤング率は約200GPaであったが、共ドープ試料では200GPaであった。Zrドープセリアの焼結ペレットを酸素雰囲気中で500°Cで5時間加熱して還元し(暗緑色)、焼結後に酸化させた(黄白色に変化した)。還元Zrドープ試料と酸化Zrドープ試料は電歪係数に差が見られたが、他のペレット(共ドープ)では焼結の前後で測定パラメータに変化は見られなかった。
【0124】
電気インピーダンス
【0125】
図1Aに示すように、セリアにZrをドープすると、非ドープセリア(ε
rは約33)に比べて誘電率(ε
r、実部)が数桁増加した。また、導電率においても、1桁以上の増加が観察された(
図1B)。アリオバレントカチオン(例えば、YbまたはLa)を共ドープすると、導電率及び誘電率は、大幅に低下した。非ドープセリアとアリオバレントドープセリアの誘電率は、クラウジウス・モソッティの関係式の予測値に近かった(「Choy, T. C. (2015) Effective medium theory: principles and applications (Vol. 165). Oxford University Press. P. 5-9」参照)。Zrドープセリアの酸化ペレットと還元ペレットとの間で(すなわち、Zrドープセリア(10mol%及び20mol%)のペレットの酸化(純酸素中で500°C、5時間)の前後で)、誘電率/伝導率の大きな変化は観察されなかった。
図1の値は、酸化ペレットの値である(上記の還元対酸化、焼結対酸素雰囲気中での焼結も参照されたい)。
【0126】
電歪
【0127】
Zrドープセリアの電歪値はペレットの酸化状態に大きく依存する。還元ペレットは、酸化ペレットよりもはるかに低い電歪値を示した(
図2A)。酸化試料の電歪定数は、周波数に対する大きな依存性を示さなかった。加えて、10mol%ZrにYbまたはLaを共ドープしても、酸化処理の前後で大きな差は見られず、周波数に対する明確な依存性も見られなかった(
図2B)。ZrにYb(
図2B)またはLa(
図2C)を共ドープすると、電歪定数が減少し、一部の試料では緩和(周波数による電歪係数の減少)が誘導された。
【0128】
SQUID
【0129】
2Kでの飽和磁化(
図3)は、Zrドープ量の増加に伴い増加した。加えて、酸化された試料は、還元された試料と比べてはるかに低い値で飽和した。本発明の実施形態では、磁化結果を用いて、Ce
3+の濃度を測定した。
【0130】
逆電歪
【0131】
10mol%のZrをドープしたセリアの酸化ペレットに圧縮応力を加えると、誘電率が増加した(
図4A)。その傾きを用いて電歪係数を計算すると(上記の式2を参照)、直接電歪係数とよく一致した(
図4B)。
【0132】
考察
【0133】
ドープセリアの高周波電歪係数は、イオン結晶半径が小さくなるにしたがって増加することが観察された(
図5A)。これはランタニドで調べられ、10mol%Luドープ試料は、約10
-17m
2/V
2を示した。しかしながら、Luは商業的に使用するにはあまりにも高価であり、イオン半径が小さいランタニドは他に存在しない。しかしながら、本開示では、セリアに、Zr(0.98Å)などの他の非ランタニドイオンを容易にドープできることが見出された。10mol%のZrをドープしたセリアは、10
-16m
2/V
2という非常に高い電歪係数を示した。いかなる理論にも拘束されるものではないが、この結果は、ドーパント濃度が一定である場合、単一ドープセリアにおいて、電歪係数の大きさを決定する最も重要な因子はドーパントサイズであることを示している。この高い電歪係数は周波数に依存せず(0.15~3000Hz)、ひずみは飽和しない(すなわち、ひずみは、電場の2乗に比例したままである)。ひずみは、1MV/mで200ppmに達した。この高い電歪係数は、試料を酸化(純酸素環境で、500°C、5時間)した後、かつ、10mol%のZrをドープした場合にのみ達成された(
図4B)。酸化状態は安定したままである。
【0134】
Zrの濃度が高い場合または低い場合に、酸化後の電歪係数は非常に小さくなるが(
図5B)、還元試料の電歪係数は、Zrの濃度によって大きく変化しなかった。10mol%Zr試料にYbまたはLaを共ドープすると(
図5C)、ドープ量が低い場合は電歪係数が減少するが、Ybをさらにドープすると10mol%の共ドープが最適となる。Laとの共ドープは、顕著な濃度依存性を示さなかった。
【0135】
還元Zrの導電率が高いのは、Ce
3+イオンは、Zrの存在下で還元されやすいためである。Ce
3+イオンの濃度は、磁化測定から計算することができる。
図3の曲線は、妥当なパラメータの範囲内でランジュバン曲線に当てはめることができない。これは、おそらく、磁性不純物の濃度がCe
3+の濃度と同程度であり、約100ppmであるためだと思われる。しかしながら、各濃度のZr試料の酸化試料の磁化曲線を還元試料の磁化曲線から差し引くと(
図6A)、または、少量のLaをドープした試料の磁化曲線を、還元/酸化試料の磁化曲線を差し引くと(
図6B)、ランジュバン曲線に当てはめることができる曲線が得られる。このフィッティングにより、還元Zr試料中のCe
3+イオンの濃度は約500ppmであり、酸化によって約100ppmになることが(これは、非ドープまたは異価ドープセリア中の濃度である)、非常に高い統計的確実性で計算された。
【0136】
Zrドープが原因で誘電率は増加するが、電歪値はNewnhamのスケーリング則によって予測される値よりもはるかに高かった。これらの結果は、小さいドーパントによってセリアセラミック中に誘起された弾性双極子が、高い周波数(>1Hz)で、大きいドーパントよりも強い電歪応答を与えることを示唆する。還元セリアにZrをイソバレントドープした場合、Zr濃度が10mol%付近で最適になることから、Ce
3+の存在が大きな電歪定数を得るために不可欠であると考えられる(
図5B参照)。本開示は、Zr原子の近傍の還元に起因する局所分極の任意選択の機構を示唆する。Ce
4+からCe
3+への還元は、空孔の形成により立方晶の位置をひずませ、ポーラロンを生成する。ポーラロンの生成も、誘電率の増加を説明する。これらの弾性双極子の濃度がCe
3+の濃度と同程度であると仮定すると、クラウジウス・モソッティの関係式により、分極率は約8000・10
-24cm
3となり、これは、共役ポリマーでさえ観測されない非常に高い値である。
【0137】
Ce3+はLa3+とほぼ同じ大きさであることから、Zrをドープした還元型セリアで働く弾性双極子は、アリオバレントドープで観測されるものとは根本的に異なると結論付けることができる。
【0138】
【0139】
一実施形態では、本発明の材料は、従来の鉛ベースの材料よりも低い誘電率を有する。このような低い誘電率は、材料が動作するために必要な電流が少ないことを意味するため、有利である。従来の材料と比較して、セリアは、薄膜として堆積させたり、ペレットに形成したりするのが容易である。また、本発明の材料は、ポーリングを必要としない。一実施形態では、本発明の材料は、鉛を含まない。一実施形態では、本発明の材料は、高いヤング率を有する。
【0140】
結論
【0141】
一般的に使用される電歪セラミックの大部分は、ニオブ酸マンガン鉛をベースにしている。このような電歪セラミックには、最大で数kHzまでの周波数で、10-16m2/V2という高い電歪係数を示す。しかしながら、このような電歪セラミックには、誘電率が高いため(>10、000)大きな駆動電流を必要とすること、及び、薄膜Si微細加工技術への適合性が低いこと、という2つの大きな短所がある。アリオバレントドープされたセリアは、大きなヤング率(約200GPa)及び低い誘電率(<30)を示すにもかかわらず、古典的な電歪素子のNewnhamのスケーリング則に基づく推定値よりも100倍以上大きい電歪係数を示す。この「非古典的な」挙動は、外部電場下で再配向する分極性の高い弾性双極子の形成に起因する。本開示は、酸化された10mol%Zr4+ドープセリアが、0.1~3000Hzの周波数範囲にわたって、約10-16m2/V2の|M|を示すことを実証した。しかしながら、このようなセラミックの実用化は、電子ホッピングを促進するCe3+の形成の結果である、比較的大きい室温導電率(10-10S/m)によって妨げられる。また、Ce3+が形成されると、誘電率は約200まで上昇する。共ドープによってCe3+の形成を抑制すると、誘電率は約30まで低下するが、電歪定数も約10-17m2/V2まで低下する。これらの結果は、セリア系固溶体の組成を系統的に調整することによって、Si微細加工に完全に適合する、技術的に有用な電歪材料の開発が可能であることを示唆する。
【0142】
本明細書では、本発明の特定の特徴を図示し、説明してきたが、様々な改変、置換、変更、及び均等物が、当業者であれば想到し得るであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の要旨の範囲内に含まれるそのような全ての改変及び変更を包含することを意図していることを理解されたい。
【国際調査報告】