(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】エリグルスタットの薬学的に許容される塩及びその結晶形
(51)【国際特許分類】
C07D 319/18 20060101AFI20241108BHJP
A61K 31/4025 20060101ALI20241108BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20241108BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20241108BHJP
C07C 309/35 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C07D319/18
A61K31/4025
A61P3/00
A61P13/12
C07C309/35
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527575
(86)(22)【出願日】2022-11-11
(85)【翻訳文提出日】2024-07-05
(86)【国際出願番号】 CN2022131323
(87)【国際公開番号】W WO2023083293
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】202111342542.3
(32)【優先日】2021-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524175114
【氏名又は名称】曙方(上海)医葯科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SPEROGENIX(SHANGHAI)MEDTECH CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Floor2-A,No.420 Fenglin Road,Xuhui District,Shanghai,200032,China
(74)【代理人】
【識別番号】100112656
【氏名又は名称】宮田 英毅
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】劉漢蘭
(72)【発明者】
【氏名】呉燕昇
(72)【発明者】
【氏名】郭春哲
(72)【発明者】
【氏名】王曉暉
(72)【発明者】
【氏名】嚴知愚
【テーマコード(参考)】
4C086
4H006
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086BC07
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4C086ZC33
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB20
(57)【要約】
本発明は、ナフタレンジスルホン酸塩、シュウ酸塩、グルタル酸塩、ガラクタル酸塩、及びそれらの各種結晶形を含むエリグルスタットの様々な薬学的に許容される塩を提供しており、さらに、これらの塩及び結晶形を含む薬剤組成物、その調製方法、及びそのゴーシェ病、ファブリー病、多嚢胞性腎症の治療における用途も提供している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリグルスタットの薬学的に許容される塩において、前記薬学的に許容される塩の水及び擬似胃液中の溶解度が6.0mg/mL以下であることを特徴とする、エリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項2】
エリグルスタットの薬学的に許容される塩において、前記薬学的に許容される塩が、ナフタレンジスルホン酸塩、ガラクタル酸塩、グルタル酸塩であることを特徴とする、エリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項3】
エリグルスタットの薬学的に許容される塩において、前記ナフタレンジスルホン酸塩が1,5-ナフタレンジスルホン酸塩であることを特徴とする、エリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項4】
1,5-ナフタレンジスルホン酸とエリグルスタットのモル比が1:1または1:2である、請求項3に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項5】
前記薬学的に許容される塩が1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の水和物または非溶媒和物である、請求項4に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項6】
前記1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の水和物が半水和物、一水和物、二水和物である、請求項5に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項7】
前記塩は1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Dであり、4.9°、5.9°、18.7°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項8】
前記エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Dがさらに、7.0°、10.4°、24.7°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項7に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項9】
前記エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Dがさらに、14.2°、16.2°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項8に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項10】
前記エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Dが
図3Aとほぼ類似するX線粉末回折パターンを有する、請求項7に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項11】
前記塩は1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Bであり、7.3°、14.6°、6.5°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項12】
前記エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Bがさらに、22.8°、21.0°、20.8°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項11に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項13】
前記エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Bがさらに、13.1°、3.3°、15.1°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項12に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項14】
前記エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Bが
図4Aとほぼ類似するX線粉末回折パターンを有する、請求項13に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項15】
前記塩は1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Cであり、9.4°、13.6°、20.1°、12.1°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項16】
前記エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Cがさらに、24.3°、12.8°、19.6°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項15に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項17】
前記エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Cがさらに、6.2°、14.0°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項16に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項18】
前記エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Cが
図5Aとほぼ類似するX線粉末回折パターンを有する、請求項15に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項19】
エリグルスタットの薬学的に許容される塩であって、前記塩はシュウ酸塩の結晶形Aであり、7.5°、15.5°、19.0°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、エリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項20】
前記エリグルスタットのシュウ酸塩の結晶形Aがさらに、10.0°、22.3°、23.3°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項19に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項21】
前記エリグルスタットのシュウ酸塩の結晶形Aがさらに、12.8°、18.3°、20.70°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項20に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項22】
前記エリグルスタットのシュウ酸塩の結晶形Aが、
図6Aとほぼ類似するX線粉末回折パターンを有する、請求項19に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項23】
前記塩はグルタル酸塩の結晶形Aであり、5.1°、19.3°、21.3°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項1~2のいずれか1項に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項24】
前記エリグルスタットのグルタル酸塩の結晶形Aがさらに、15.5°、6.4°、10.6°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項23に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項25】
前記エリグルスタットのグルタル酸塩の結晶形Aがさらに、18.6°、21.9°、13.1°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項24に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項26】
前記エリグルスタットのグルタル酸塩の結晶形Aが
図7Aとほぼ類似するX線粉末回折パターンを有する、請求項23に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項27】
前記塩はガラクタル酸塩の結晶形Aであり、6.4°、8.4°、20.7°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項1~2のいずれか1項に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項28】
前記エリグルスタットのガラクタル酸塩の結晶形Aがさらに、5.3°、14.0°、12.4°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項27に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項29】
前記エリグルスタットのガラクタル酸塩の結晶形Aがさらに、17.0°、19.6°、17.9°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する、請求項28に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項30】
前記エリグルスタットのガラクタル酸塩の結晶形Aが
図8Aとほぼ類似するX線粉末回折パターンを有する、請求項27に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項31】
その中の化合物が、重量計算で少なくとも60%の単結晶形、少なくとも70%の単結晶形、少なくとも80%の単結晶形、少なくとも90%の単結晶形、少なくとも95%の単結晶形または少なくとも99%の単結晶形である、請求項7~30のいずれか1項に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩。
【請求項32】
薬剤組成物であって、請求項1~4のいずれか1項に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩、または請求項5~6のいずれか1項に記載のエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の水和物、または請求項7~10のいずれか1項に記載のエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形D、または請求項11~14のいずれか1項に記載のエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形B、または請求項15~18のいずれか1項に記載のエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形C、または請求項19~22のいずれか1項に記載のシュウ酸塩結晶形A、または請求項23~26のいずれか1項に記載のグルタル酸塩結晶形A、または請求項31~34のいずれか1項に記載のガラクタル酸塩結晶形A、及び薬学的に許容される担体を含む、薬剤組成物。
【請求項33】
エリグルスタット遊離塩基及び1~1.1当量の1,5-ナフタレンジスルホン酸をメチルtert-ブチルエーテルに溶解し、混合物系を室温下で1~3日間磁気撹拌した後、遠心分離を行い、得られた固体を室温条件下で一晩真空乾燥させることを特徴とする、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Dの調製方法。
【請求項34】
エリグルスタット遊離塩基と0.5当量の1,5-ナフタレンジスルホン酸をテトラヒドロフラン/正ヘプタン(1:9,v:v)に溶解し、20~40℃の温度下で持続的に懸濁撹拌し、かつ析出した固体を乾燥させることを特徴とする、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Bの調製方法。
【請求項35】
1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形BをH
2Oに加えた後、室温下で撹拌して固体を分離し、酸化カルシウムを用いて乾燥させることを特徴とする、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Cの調製方法。
【請求項36】
エリグルスタット遊離塩基と0.5当量のシュウ酸をメチルtert-ブチルエーテルに溶解し、15~50℃で持続的に懸濁撹拌し、析出した固体を乾燥させることを特徴とする、エリグルスタットシュウ酸塩結晶形Aの調製方法。
【請求項37】
エリグルスタット遊離塩基と0.5当量のグルタル酸を酢酸イソプロピル/正ヘプタン(1:5,v:v)に溶解し、20~40℃の温度下で持続的に懸濁撹拌し、かつ析出した固体を乾燥させることを特徴とする、エリグルスタットグルタル酸塩結晶形Aの調製方法。
【請求項38】
エリグルスタット遊離塩基と0.5当量のガラクタル酸をアセトン/正ヘプタン(1:9,v:v)中に分散させ、35~45℃の温度下で持続的に懸濁撹拌し、析出した固体を乾燥させることを特徴とする、エリグルスタットガラクタル酸塩結晶形Aの調製方法。
【請求項39】
請求項1~4のいずれか1項に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩、または請求項5~6のいずれか1項に記載のエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の水和物、または請求項7~10のいずれか1項に記載のエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形D、または請求項11~14のいずれか1項に記載のエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形B、または請求項15~18のいずれか1項に記載のエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形C、または請求項19~22のいずれか1項に記載のシュウ酸塩結晶形A、または請求項23~26のいずれか1項に記載のグルタル酸塩結晶形A、または請求項27~30のいずれか1項に記載のガラクタル酸塩結晶形Aの、ゴーシェ病、ファブリー病、多嚢胞性腎症の治療における用途。
【請求項40】
疾患のある患者が、CYP2D6の広範代謝者、中間代謝者または代謝不良者である、請求項39に記載の用途。
【請求項41】
前記ゴーシェ病は1型ゴーシェ病であり、前記多嚢胞性腎症は常染色体優性の多嚢胞性腎症である、請求項39または40に記載の用途。
【請求項42】
請求項1~4のいずれか1項に記載のエリグルスタットの薬学的に許容される塩、または請求項5~6のいずれか1項に記載のエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の水和物、または請求項7~10のいずれか1項に記載のエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形D、または請求項11~14のいずれか1項に記載のエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形B、または請求項15~18のいずれか1項に記載のエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形C、または請求項19~22のいずれか1項に記載のシュウ酸塩結晶形A、または請求項23~26のいずれか1項に記載のグルタル酸塩結晶形A、または請求項27~30のいずれか1項に記載のガラクタル酸塩結晶形Aの、ゴーシェ病、ファブリー病、多嚢胞性腎症を治療する薬剤の調製における用途。
【請求項43】
疾患のある患者が、CYP2D6の広範代謝者、中間代謝者または代謝不良者である、請求項42に記載の用途。
【請求項44】
前記ゴーシェ病は1型ゴーシェ病であり、前記多嚢胞性腎症は常染色体優性の多嚢胞性腎症である、請求項42または43に記載の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエリグルスタットの薬学的に許容される塩及びその結晶形、調製方法、並びに前記結晶形を含む薬剤組成物及びその用途に関し、医薬技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
エリグルスタット(Eliglustat)は化学名N-[(1R,2R)-1-(2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-6-イル)-2-ヒドロキシ-1-(1-ピロリジノメチル)エチル]オクタンアミドであり、効果の強力な、高度特異性セラミド類似物質阻害薬の1種であり、グルコシルセラミド合成酵素を標的とすることによって、グルコシルセラミドの生成を低下させる。エリグルスタットカプセル(サデルガカプセル)Cerdelga(登録商標)は2014年に米国FDAによって承認され、1型ゴーシェ病の成人患者の長期治療の第一選択治療に用いられている。臨床研究によると、エリグルスタットカプセル(サデルガカプセル)Cerdelga(登録商標)をCYP2D6及びCYP3A4阻害薬と併用すると、薬剤の曝露量が顕著に増加して、PR、QTc及び/またはQRSの心拍間隔を延長させ、不整脈を引き起こす可能性があることがわかっており、エリグルスタットの血漿中濃度が500ng/mLに達した場合、薬物動態/薬力学モデルでは、PR、QRS及びQTcFの間期が平均22(26)、7(10)及び13(19)ミリ秒増加すると予測されている。CYP2D6の広範及び中間代謝者に対しては84mgを1日2回内服するという用量であるのに対して、CYP2D6の代謝不良者に対しては、CYP2D6代謝不良者に不整脈の副作用が生じることを防ぐために、エリグルスタットカプセルの用量を引き下げて、84ミリグラムを1日1回内服することとしている。上記の要因により、発売中のエリグルスタットカプセル(サデルガカプセル)Cerdelga(登録商標)には、臨床での使用において多くの不便さが存在している。
【0003】
US6916802B2にはエリグルスタット及びその調製方法が記載されており、かつ“薬学的に許容される塩”、例えば硫酸、塩酸、リン酸などの無機酸、または酢酸塩などの有機酸について簡単に記述されている。しかし、薬学的に許容される塩の物理化学的性質は研究されておらず、塩の結晶形についても研究されていない。
【0004】
US7196205B2にはエリグルスタットの生理学的に許容される塩の種類については簡単に記載されているが、薬学的に許容される塩の物理化学的性質については研究されておらず、塩の結晶形についても研究されていない。
【0005】
エリグルスタット遊離塩基自体の性質の影響を受けるため、安定した固体形式の塩形及び結晶形を得ることは技術的に困難である。例えば、WO2011066325A1には、エリグルスタットの塩はクエン酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩及び酢酸塩を含むと記述されているが、これらの塩は固体形式で得ることはできない。固体形式で塩酸塩と1:1の酒石酸塩を得ることはできるが、両者はいずれも結晶形態ではなく、かつ製剤については吸湿性が強すぎる。エリグルスタット半酒石酸塩は、遊離塩基及び他の塩に比べて、より容易に調合及び合成することができる。該特許では、エリグルスタット半酒石酸塩及びその結晶形が、結晶で、非吸湿性で、水溶性であり、かつ流動性が相応の遊離塩基及びその他の塩より優れており、大規模な製造に適し、5.1°、6.6°、10.7°、11.0°、15.9°及び21.7°の2Θ部分に主なX線粉末回折ピークが存在することを具体的に開示している。CN107445938Aは、X線粉末回折では2Θ角の10.2°、12.4°、13.6°、14.9°、20.1°、22.1°の部分に主な特徴ピークがあり、DSCパターンが161℃~162℃で吸熱ピークがあることを示しているもう1つのエリグルスタットのL-半酒石酸塩結晶形について記述している。
【0006】
本発明では、安定した固体形式で存在することができる新しいエリグルスタット塩及びその結晶形を提供している。エリグルスタット半酒石酸塩の結晶形Aに比べて、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩及びその結晶形の吸湿性はさらに低く、しかも水、模擬胃液中の溶解度の差が小さいので、内服後の血漿薬物濃度がより緩やかで、薬剤暴露量の増加による不整脈の副反応を軽減することが見込まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、安定した固体形式で存在することができるエリグルスタットの薬学的に許容される塩、溶媒和物及びまたはその結晶形を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態では、エリグルスタットの薬学的に許容される塩、溶媒和物及びまたはそれらの結晶形の、水及び擬似胃液中の溶解度は6.0mg/mL以下である。
【0009】
いくつかの実施形態では、エリグルスタットの薬学的に許容される塩は、ナフタレンジスルホン酸塩、ガラクタル酸塩、グルタル酸塩である。
【0010】
いくつかの実施形態では、エリグルスタットのナフタレンジスルホン酸塩は、1,5-ナフタレンジスルホン酸塩、1,6-ナフタレンジスルホン酸、1,7-ナフタレンジスルホン酸、2,6-ナフタレンジスルホン酸塩または2,7-ナフタレンジスルホン酸塩から選択することができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸とエリグルスタットとのモル比は、1:1または1:2である。
【0012】
いくつかの実施形態では、エリグルスタットの薬学的に許容される塩は、1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の水和物または非溶媒和物である。1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の水和物は半水和物、一水和物、二水和物である。
【0013】
いくつかの実施形態では、4.9°、5.9°、18.7°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有するエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Dを提供している。エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Dはさらに、7.0°、10.4°、24.7°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する。エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Dはさらに、14.2°、16.2°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する。エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Dは、
図3Aとほぼ類似するX線粉末回折パターンを有する。
【0014】
いくつかの実施形態では、7.3°、14.6°、6.5°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有するエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Bを提供している。エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Bはさらに、22.8°、21.0°、20.8°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する。エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Bはさらに、13.1°、3.3°、15.1°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する。エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Bは、
図4Aとほぼ類似するX線粉末回折パターンを有する。
【0015】
いくつかの実施形態では、9.4°、13.6°、20.1°、12.1°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有するエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Cを提供している。エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Cはさらに、24.3°、12.8°、19.6°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する。エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Cはさらに、6.2°、14.0°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する。エリグルスタットの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Cは、
図5Aとほぼ類似するX線粉末回折パターンを有する。
【0016】
いくつかの実施形態では、7.5°、15.5°、19.0°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有するエリグルスタットシュウ酸塩の結晶形Aを提供している。エリグルスタットのシュウ酸塩の結晶形Aはさらに、10.0°、22.3°、23.3°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する。エリグルスタットの薬学的に許容される塩のうち、前記エリグルスタットのシュウ酸塩の結晶形Aはさらに、12.8°、18.3°、20.70°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する。いくつかの実施形態では、エリグルスタットシュウ酸塩の結晶形Aは、
図6Aとほぼ類似するX線粉末回折パターンを有する。
【0017】
いくつかの実施形態では、5.1°、19.3°、21.3°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有するエリグルスタットグルタル酸塩の結晶形Aを提供している。エリグルスタットのグルタル酸塩の結晶形Aはさらに、15.5°、6.4°、10.6°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する。エリグルスタットのグルタル酸塩の結晶形Aはさらに、18.6°、21.9°、13.1°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する。いくつかの実施形態では、エリグルスタットグルタル酸塩の結晶形Aは、
図7Aとほぼ類似するX線粉末回折パターンを有する。
【0018】
いくつかの実施形態では、6.4°、8.4°、20.7°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有するエリグルスタットガラクタル酸塩の結晶形Aを提供している。エリグルスタットのガラクタル酸塩の結晶形Aはさらに、5.3°、14.0°、12.4°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する。エリグルスタットのガラクタル酸塩の結晶形Aはさらに、17.0°、19.6°、17.9°±0.2°の2Θ角(±0.2°)でのX線粉末回折ピークを有する。いくつかの実施形態では、エリグルスタットガラクタル酸塩の結晶形Aは、
図8Aとほぼ類似するX線粉末回折パターンを有する。
【0019】
いくつかの実施形態では、本発明のエリグルスタットの薬学的に許容される塩の中の化合物は、重量計算で少なくとも60%の単結晶形、少なくとも70%の単結晶形、少なくとも80%の単結晶形、少なくとも90%の単結晶形、少なくとも95%の単結晶形、または少なくとも99%の単結晶形である。
【0020】
本発明はさらに薬剤組成物を提供しており、活性成分には、エリグルスタットの薬学的に許容される塩であるエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の水和物、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形D、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形B、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形C、エリグルスタットシュウ酸塩結晶形A、エリグルスタットグルタル酸塩結晶形A、またはエリグルスタットガラクタル酸塩結晶形A、及び薬学的に許容される担体が含まれている。
【0021】
本発明の前記組成物は、経口的に、非経口的に、吸入スプレーによって、局所的に、経直腸的に、経鼻的に、経口腔的に、経粘膜的に、または眼用製剤で投与することができる。本文で使用される“非経口的”という用語には、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑膜内、胸骨内、髄腔内、肝内、病巣内、及び頭蓋内の注射または輸注技術が含まれる。ある面において、本発明で提供する薬剤組成物は、経口的に許容される剤型で経口的に投与され、その中にはカプセル、錠剤、エマルジョン及び水懸濁剤、分散体及び溶液が含まれるが、これらに限らない。
【0022】
薬学的に許容される担体とは、共に調合される化合物の薬理活性に悪影響を及ぼさず、かつヒトに対して使用しても安全である、無毒の担体、補剤または担体を指す。
【0023】
ある実施形態では、本文で提供する薬剤組成物は、希釈剤、崩壊剤、結合剤、界面活性剤、流動促進剤及び潤滑剤の中から選択される1種または複種を含む。
【0024】
本発明はさらに、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Dの調製方法を提供している。いくつかの実施形態では、エリグルスタット遊離塩基及び1~1.1当量の1,5-ナフタレンジスルホン酸をメチルtert-ブチルエーテルに溶解し、混合物系を室温下で磁気撹拌した後、遠心分離を行い、得られた固体を室温条件下で一晩真空乾燥させて、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Dを得るというステップを含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Dの調製方法は、エリグルスタット遊離塩基及び1~1.1当量の1,5-ナフタレンジスルホン酸をメチルtert-ブチルエーテルに溶解し、混合物系を室温下で1~3日間磁気撹拌した後、遠心分離を行い、得られた固体を室温条件下で一晩真空乾燥させるというステップを含む。前記1,5-ナフタレンジスルホン酸は非溶媒和物または水和物であってよく、具体的にはいずれも1,5-ナフタレンジスルホン酸四水和物を選択する。
【0026】
本発明はさらに、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Bの調製方法を提供している。いくつかの実施形態では、エリグルスタット遊離塩基と0.5当量の1,5-ナフタレンジスルホン酸をテトラヒドロフラン/正ヘプタンに溶解し、持続的に懸濁撹拌し、かつ析出した固体を乾燥させてエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Bを得るというステップを含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Bの調製方法は、エリグルスタット遊離塩基と0.5当量の1,5-ナフタレンジスルホン酸をテトラヒドロフラン/正ヘプタン(1:9,v:v)に溶解し、20~40℃の温度下で持続的に懸濁撹拌し、かつ析出した固体を乾燥させてエリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Bを得るというステップを含む。
【0028】
本発明は、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Cの調製方法を提供している。いくつかの実施形態では、1,5-ナフタレンジスルホン酸の結晶形BをH2Oに投入した後、室温下で撹拌して固体を分離し、酸化カルシウムを用いて乾燥させて、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸の結晶形Cを得るというステップを含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Cの調製方法は、1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Bを10倍の重量のH2Oに加え、室温下で一晩撹拌して固体を分離し、酸化カルシウムの入っている乾燥器内で24時間乾燥させて、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形Cを得るというステップを含む。
【0030】
本発明はさらにエリグルスタットシュウ酸塩結晶形Aの調製方法を提供している。いくつかの実施形態では、エリグルスタット遊離塩基と0.5当量のシュウ酸をメチルtert-ブチルエーテルに溶解し、15~50℃で持続的に懸濁撹拌し、かつ析出した固体を乾燥させて、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩シュウ酸塩の結晶形Aを得るというステップを含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、エリグルスタットシュウ酸塩結晶形Aの調製方法は、エリグルスタット遊離塩基をメチルtert-ブチルエーテルに溶解し、撹拌しながら数回に分けて0.5当量のシュウ酸を投入し、かつ40℃で懸濁撹拌し、一晩反応させた後、固体を吸引ろ過し、分離して、室温で真空乾燥させ、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩シュウ酸塩結晶形Aを得るというステップを含む。
【0032】
本発明はさらに、エリグルスタットグルタル酸塩結晶形Aの調製方法を提供している。いくつかの実施形態では、エリグルスタット遊離塩基と0.5当量のグルタル酸を酢酸イソプロピル/正ヘプタン(1:5,v:v)に溶解し、20~40℃の温度で持続的に懸濁撹拌し、かつ析出した固体を乾燥させてエリグルスタットグルタル酸塩結晶形Aを得るというステップを含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、エリグルスタットグルタル酸塩結晶形Aの調製方法は、エリグルスタット遊離塩基と0.5当量のグルタル酸を酢酸イソプロピル/正ヘプタン(1:5,v:v)に溶解し、室温で1日懸濁撹拌し、40℃で2日間懸濁撹拌して、析出した固体を乾燥させ、エリグルスタットグルタル酸塩結晶形Aを得るというステップを含む。
【0034】
本発明はさらにエリグルスタットガラクタル酸塩結晶形Aの調製方法を提供している。いくつかの実施形態では、エリグルスタット遊離塩基と0.5当量のガラクタル酸をアセトン/正ヘプタン(1:9,v:v)に溶解し、35~45℃の温度で持続的に懸濁撹拌し、かつ析出した固体を乾燥させてエリグルスタットガラクタル酸塩結晶形Aを得るというステップを含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、エリグルスタットガラクタル酸塩結晶形Aの調製方法は、エリグルスタット遊離塩基をアセトン/正ヘプタン(1:9,v:v)中に分散させ、撹拌しながら数回に分けて0.5当量のガラクタル酸を投入し、かつ50℃~5℃の温度で2~4回循環させ、固体を分離して正ヘプタンで洗浄し、室温で真空乾燥させてエリグルスタットガラクタル酸塩結晶形Aを得るというステップを含む。
【0036】
本発明はさらに、エリグルスタットの薬学的に許容される塩、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩水和物、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形D、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形B、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形C、エリグルスタットシュウ酸塩結晶形A、エリグルスタットグルタル酸塩結晶形A、エリグルスタットガラクタル酸塩結晶形Aの、ゴーシェ病、ファブリー病、多嚢胞性腎症の治療における用途を提供している。
【0037】
本発明はさらに、エリグルスタットの薬学的に許容される塩、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩水和物、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形D、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形B、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形C、エリグルスタットシュウ酸塩結晶形A、エリグルスタットグルタル酸塩結晶形A、エリグルスタットガラクタル酸塩結晶形Aの、ゴーシェ病、ファブリー病、多嚢胞性腎症を治療する薬剤の調製における用途を提供している。
【0038】
いくつかの実施形態では、疾患のある患者はCYP2D6の広範代謝者、中間代謝者または代謝不良者である。
【0039】
いくつかの実施形態では、ゴーシェ病は1型ゴーシェ病であり、多嚢胞性腎症は常染色体優性の多嚢胞性腎症である。
【0040】
定義
単独で使用する際に、エリグルスタットの薬学的に許容される塩を説明する場合、用語の“形式A”、“形式B”、“形式C”は、それぞれエリグルスタットの薬学的に許容される塩の結晶形A、B及びCを指す。本文では、“形式A”と“結晶形A”、“形式B”と“結晶B”、及び“形式C”と“結晶形C”を互いに入れ替えて使用することができる。
【0041】
本文で用いられる“結晶”とは、エリグルスタットまたはその薬学的に許容される塩の固体形態を指し、その中には原子配列の長範囲規則が存在する。固体の結晶性質は、例えばX線粉末回折パターンを調べることによって確認することができる。XRPDがXRPD中の鋭い強度ピークを示した場合、前記化合物は結晶である。“結晶”とは、完全に結晶化した、または部分的に結晶化した固体であり、かつ重量計算で少なくとも80%、85%、90%、95%結晶化した、及び99%結晶化した固体を含む。
【0042】
用語の“溶媒和物”とは、化学量論または非化学量論の溶媒または溶媒混合物が結晶構造内に導入されていることを指す。
【0043】
用語の“水和物”とは、化学量論または非化学量論の水が結晶構造内に導入されていることを指す。水和物とは、結晶構造内に結合している溶媒が水である溶媒和物のことである。用語の“無水の”は、化合物に関して使用される場合、基本的に結晶構造内に結合されている溶媒がないことを指し、例えばTGA、カールフィッシャー分析、単結晶データによって確定される場合、0.1重量%を下回る。無水の化合物を、本文中では“無水物”と呼ぶ。
【0044】
用語の“主要ピーク”は、XRPDデータパターンの中の3つの最強ピーク、または最強ピークの100%相対強度の少なくとも50%を有するピークを指す。
【0045】
本文の各結晶形XRPDリスト中の具体的な°2Θの数値は小数第4位を保留し、各データが保留する小数第1位、第2位、第3位または第4位の数値はすべて本願で開示する具体的なデータと見なし、かつ本願の開示内容に組み入れる。本文に記載されている結晶形のX線粉末回折パターンの2-Θ値は、機器の違いによって若干異なる可能性があり、また試料調製の差異及びバッチ間の差異によっても決定される。したがって、別途定義されていない限り、本文に記載されているXRPDパターン及び/または2-Θピーク値は絶対的なものと解釈されるべきではなく、かつ±0.2度は変化してもよい。本文で提供する2-Θ値は、CuKα1放射を用いて得たものである。
【0046】
温度値(例えば、DSCピーク値温度及びDSC開始温度)は機器によって若干異なる可能性があり、また試料調製の変化、実験過程での温度の上昇速度、材料のバッチ間変動及びその他の環境要因によっても決定される。よって、別途定義されていない限り、本文に記載する温度値は絶対的なものと解釈されるべきではなく、かつ±5°は変化してもよい。
【0047】
“ほぼ同一のXRPDパターン”または“ほぼ類似するX線粉末回折パターン”とは、目的を比較しやすいように、表示されたピークの少なくとも90%が存在することを指す。さらに、目的を比較するために、2-Θピーク値の位置と示されている位置との間に、例えば±0.2度といった一定の変異が許容されることを理解しておかなければならない。“2Θ角(±0.2°)において特徴づけられるX線粉末回折ピーク”の後に±0.2°の2-Θピーク位置リストが続く場合、列挙されている各ピーク位置に適用されることを理解しておかなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1A】
図1Aは、エリグルスタット酒石酸塩結晶形AのXRPDパターンである。
【
図1B】
図1Bは、エリグルスタット酒石酸塩結晶形AのTGA/DSC曲線である。
【
図1C】
図1Cは、エリグルスタット酒石酸塩結晶形Aの
1H HMRパターンである。
【
図2A】
図2Aは、エリグルスタット遊離塩基結晶形AのXRPDパターンである。
【
図2B】
図2Bは、エリグルスタット遊離塩基結晶形AのTGA/DSC曲線である。
【
図2C】
図2Cは、エリグルスタット遊離塩基結晶形AのTGA/DSC曲線である。
【
図3A】
図3Aは、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形DのXRPDパターンである。
【
図3B】
図3Bは、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形DのTGA/DSC曲線である。
【
図3C】
図3Cは、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形Dの
1H HMRパターンである。
【
図4A】
図4Aは、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形BのXRPDパターンである。
【
図4B】
図4Bは、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形BのTGA/DSC曲線である。
【
図4C】
図4Cは、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形Bの
1H HMRパターンである。
【
図5A】
図5Aは、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形CのXRPDパターンである。
【
図5B】
図5Bは、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形CのTGA/DSC曲線である。
【
図5C】
図5Cは、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形Cの
1H HMRパターンである。
【
図6A】
図6Aは、エリグルスタットシュウ酸塩結晶形AのXRPDパターンである。
【
図6B】
図6Bは、エリグルスタットシュウ酸塩結晶形AのTGA/DSC曲線である。
【
図6C】
図6Cは、エリグルスタットシュウ酸塩結晶形AのXRPDパターンである。
【
図7A】
図7Aは、エリグルスタットグルタル酸塩結晶形AのXRPDパターンである。
【
図7B】
図7Bは、エリグルスタットグルタル酸塩結晶形AのTGA/DSC曲線である。
【
図7C】
図7Cは、エリグルスタットグルタル酸塩結晶形Aの
1H HMRパターンである。
【
図8A】
図8Aは、エリグルスタットガラクタル酸塩結晶形AのXRPDパターンである。
【
図8B】
図8Bは、エリグルスタットガラクタル酸塩結晶形AのTGA/DSC曲線である。
【
図8C】
図8Cは、エリグルスタットガラクタル酸塩結晶形Aの
1H HMRパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下の実施例で述べているように、以下の一般的な手順に基づいて結晶及び非晶質の形式を調製する。
本発明で使用する典型的な溶媒の略語を以下に概述する。
【表1】
【0050】
溶液
模擬胃液の調製(SGF)
0.2gの塩化ナトリウムと0.1gのトリトンX-100を100mLのメスフラスコに量り取り、純水を加えて溶解し、固体が完全に溶解するまで撹拌した後、約1.632mLの塩酸(1M)を加え、1Mの塩酸または1Mの水酸化ナトリウムでpHを1.8に調整し、最後に純水を用いて定容する。
【0051】
模擬絶食状態の腸液の調製(FaSSIF)
0.34gのリン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4、無水)、0.042gの水酸化ナトリウム、0.62gの塩化ナトリウムを100mLのメスフラスコにそれぞれ量り取り、約48mLの純水を加えて溶解し、1Mの塩酸または1Mの水酸化ナトリウムを用いてpHを6.5に調整し、純水で定容して保存液を得る。50mLのメスフラスコに0.11gのSIF粉末を加え、上記保存液を用いて溶解して定容し、超音波で粉末を完全に溶解させる。
【0052】
XRPD
XRPDパターンはPANalytacal社製のX線粉末回折分析装置により採集しており、表2にはXRPDパラメータを列記している。
【表2】
【0053】
TGA及びDSC
TGA及びDSCのパターンはそれぞれTA Q5000/Discovery 5500熱重量分析計及びTA Q2000/Discovery 2500による。
【0054】
差動走査熱量計で採集する。詳細なパラメータは表3の通り。
【表3】
【0055】
動的水分吸着DVS
動的水分吸着(DVS)曲線はSMS(Surface Measurement Systems)のDVS Intrinsic上で採集したものである。25℃時点の相対湿度をLiCl、MG(NO
3)2及びKClの潮解点で補正した。表4にはDVS試験のパラメータを列記している。
【表4】
【0056】
液体核磁気(Solution NMR)
液体核磁気パターンは、Bruker 400M核磁気共鳴装置で採集したものであり、DMSO-d6を溶媒としている。
【0057】
イオンクロマトグラフィー/高速液体クロマトグラフィー(IC/HPLC)
試験での純度テスト、動的溶解度及び安定性テストはアジレント1260高速液体クロマトグラフによって行われ、イオンの塩形成モル比テストはイオンクロマトグラフィーによって行われ、分析条件は表5及び表6の通りである。
【表5】
【表6】
【0058】
実施例1 エリグルスタット酒石酸塩結晶形Aの調製及びキャラクタリゼーション
市販のエリグルリスタット酒石酸塩を入手し、そのXRPDパターンを測定した。該エリグルスタット酒石酸塩のXRPDパターンは
図1Aの通りであり、試料が結晶態であることを示しており、WO2011066325A1の明細書図面の
図1のXRPDパターンデータと一致しており、本発明ではエリグルスタット酒石酸塩結晶形Aと記述されている。TGA/DSC結果(
図1B)は、試料を150℃まで加熱した時に0.2%の重量減少があることを示しており、かつ165.9℃(ピーク値温度)で吸熱ピークが観察された。
1H NMRはDMSO-d
6中で測定され、その結果は
図1Cに示す通りであり、結果から、酒石酸とAPIのモル比は約0.5であり、明らかな有機溶媒の残留は見られないことがわかった。
【0059】
実施例2 遊離エリグルスタットの調製及びキャラクタリゼーション
遊離態結晶形Aは以下の方法で調製される。ビーカーに約200mgの開始酒石酸塩結晶形Aを量り取り、2mLの脱イオン水を加えて溶解し、該溶液に20mLの飽和NaHCO
3溶液を急速投入し、かつ室温下で1.5時間撹拌し、得られた固体を吸引ろ過して収集し、室温で一晩真空乾燥させた後、得られた試料のXRPDを測定した。
図2Aは試料が結晶態を呈することを示しており、遊離態結晶形Aと命名し、そのXRPD結果は
図2Aに示す通りである。TGA/DSC結果(
図2B)は、試料を80℃まで加熱した時に0.8%の重量減少があることを示しており、かつ88.9℃(ピーク値温度)で急熱ピークが観察された。
1H NMRはDMSO-d
6中で測定され、その結果は
図2Cに挙げており、明らかな有機溶媒の残留は見られなかった。
【0060】
実施例3 塩形スクリーニング
調製した遊離態結晶形Aを原料とし、28種の酸性リガンドを選択して、3段階に分けて計154の塩形スクリーニング試験を設定した。スクリーニング試験の具体的なステップは以下の通りである。約20mgの遊離態結晶形A試料と相応のリガンドをHPLCバイアルの中に量り取り、0.5mLの溶媒を加えて混合し、懸濁液を得る。室温で2日間懸濁撹拌した後(第3段階のスクリーニング試験は40℃で実施)、固体を遠心分離し、室温下で真空乾燥させた。室温で撹拌した後、得られた上澄み溶液を5℃にして撹拌し、または反溶媒(正ヘプタン)を添加して固体の析出を誘導し、まだ上澄みがある場合は室温に移して口を開けて揮発させ、固体を得る。得られたゲル状物を50℃~5℃の温度に移して循環させる(1サイクル:4.5℃/分で50℃まで温度を上げ、50℃で2時間保持し、0.1℃/分で温度を5℃まで下げ、5℃で2時間保持する)。テストにより得られた固体のXRPDの結果によると、3段階XRPDスクリーニング試験で計11種の塩形が得られ、その中には、1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形AまたはB、シュウ酸塩結晶形A、ガラクタル酸塩結晶形A、リンゴ酸塩結晶形AまたはB、グルタル酸塩結晶形A、コハク酸塩結晶形A、リン酸塩結晶形A、塩酸塩結晶形A及びフマル酸塩結晶形Aが含まれている。11種類の塩結晶形のXRPD、TGA、DSC及び
1H NMRまたはIC/HPLCのキャラクタリゼーションを行った結果を表7-1~表7-4にまとめた。
【表7-1】
【表7-2】
【表8】
【表9】
【表10】
【0061】
結晶形スクリーニング
実施例4 1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形Dの調製及びキャラクタリゼーション
49.6mgのエグルリスタット遊離塩基及び45.7mgの1,5-ナフタレンジスルホン酸四水和物(1.1当量)を2.0mLのMTBE中に溶解し、混合物系を室温下で約3日間磁気撹拌(約750rpm)した後、遠心分離(10000rpm、2分)を行い、得られた固体を室温条件下で一晩真空乾燥させ、エリグルスタット1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形Dを得た。
【0062】
試料のXRPDの結果は
図3Aの通りである。TGA/DSC曲線は
図3Bの通りであり、結果から、130℃まで加熱した場合の重量減少は9.82%であり、かつ114.7及び159.8℃(ピーク値温度)で吸熱信号が観察されたことがわかる。
1H NMRパターンはDMSO-d
6中で測定され、
図3Cに挙げており、結果から、リガンド酸とAPIのモル比が約1.0であることがわかる。
【表11】
【0063】
実施例5 1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形Bの調製及びキャラクタリゼーション
遊離態結晶形Aと0.5当量の1,5-ナフタレンジスルホン酸をTHF/正ヘプタン(1:9、v:v)中で室温で1日懸濁撹拌し、40℃で2日間懸濁撹拌して固体を遠心分離し、真空乾燥させて遊離態結晶形Aを得た。
【0064】
試料のXRPDの結果は
図4Aの通りである。TGA/DSC曲線は
図4Bの通りであり、結果から、150℃まで加熱した場合の重量減少は1.5%であり、かつ75.9及び167.9℃(ピーク値温度)で吸熱信号が観察されたことがわかる。
1H NMRパターンはDMSO-d
6中で測定され、
図4Cに挙げており、結果から、リガンド酸とAPIのモル比は約0.5であり、残留溶媒は観察されなかったことがわかる。
【表12】
【0065】
実施例6 1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形Cの調製及びキャラクタリゼーション
119.9mgの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形B試料を3-mLガラス瓶に量り取り、2mLのH20を加え、室温下で一晩磁気撹拌し(~750rpm)、固体を遠心分離し、酸化カルシウムを入れた乾燥器内で24時間乾燥させた後、固体を収集してキャラクタリゼーションテスト及び研究に用いた。
【0066】
XRPDの結果は
図5Aの通りである。TGA及びDSCの結果は
図5Bに列挙しており、TGAの結果から、室温から150℃まで加熱すると6.6%の重量減少があり、DSC曲線は73.5及び171.4℃(ピーク値温度)で吸熱ピークが観察されたことがわかった。
1H NMRはDMSO-d
6中で測定され、結果を
図5Cに列挙しており、試料中のリガンド酸とAPIのモル比は0.5で、明らかなTHF及び正ヘプタンの残留は検出されなかった。加熱試験を通して、1,5-ナフタレンジスルホン酸結晶形Cの鑑定を行った。1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形Cを窒素保護下で100℃まで加熱し、かつ室温まで冷却すると、1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形Bに変わる。TGA曲線の重量減少、液体核磁気の結果及び加熱試験の結果を結びつけると、1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形Cは二水和物である。
【表13-1】
【表13-2】
【0067】
実施例7 シュウ酸塩結晶形Aの調製及びキャラクタリゼーション
300.4mgの遊離態結晶形A試料を20-mLガラス瓶に量り取り、15mLのMTBEで溶解した。磁力撹拌(~750rpm)下で33.0mgのシュウ酸(約0.5当量)を数回に分けて加え、40℃下で懸濁撹拌した。一晩反応させた後、固体を吸引ろ過して分離し、室温で真空乾燥させ、キャラクタリゼーションテスト及び研究に用いる固体を収集した。
【0068】
XRPDの結果は
図6Aの通りである。TGA及びDSCの結果は
図6Bに列挙しており、TGAの結果から、室温から150℃まで加熱すると7.4%の重量減少があり、DSC曲線は90.1及び116.0℃(ピーク値温度)で吸熱ピークが観察されたことがわかった。
1H NMRはDMSO-d
6中で測定され、その結果は
図6Cに示す通りであり、試料中に明らかなMTBEの残留は検出されなかった。IC/HPLCテストの結果から、試料中のリガンド酸とAPIのモル比が0.5であることがわかる。
【表14】
【0069】
実施例8 ガラクタル酸塩結晶形Aの調製及びキャラクタリゼーション
500.8mgの遊離態結晶形A試料を20-mLのガラス瓶に量り取り、15mLのアセトン/正ヘプタン(1:9、v:v)を加えて分散させた。磁力撹拌(~750rpm)下で129.8mgのガラクタル酸(約0.5当量)を数回に分けて加え、50℃で反応させた。一晩反応させると、その上部の溶液は澄み、底部の固体は粘りのあるゲル状を呈した。系を温度サイクル(50℃~5℃)に移し、2回循環させると、反応系は白色懸濁液に変わった。一晩反応させた後、固体を吸引ろ過して分離し、かつ正ヘプタンで洗浄し、室温で2日間真空乾燥させた後、キャラクタリゼーション及び研究に用いる固体を収集した。
【0070】
XRPDのテスト結果は
図8Aに挙げている。TGA及びDSCの結果は
図8Bに挙げている。
1H NMRはDMSO-d
6中で測定され、結果は
図8Cに挙げており、試料中に明らかなMTBEの残留は検出されなかった。
【表15】
【0071】
実施例9 リンゴ酸塩結晶形A/Bの調製及びキャラクタリゼーション
遊離態結晶形Aと0.5当量のL-リンゴ酸をEtOAc中で1日、室温で懸濁撹拌し、固体を遠心分離し、真空乾燥後にリンゴ酸塩結晶形Aを得た。試料は室温条件下で明らかに潮解したため、その他のキャラクタリゼーションデータは収集していない。
【0072】
遊離態結晶形Aと0.5当量のL-リンゴ酸をIPAc/正ヘプタン(1:5、v:v)中で室温で1日懸濁撹拌し、40℃で2日間懸濁撹拌した後、固体を遠心分離し、真空乾燥させてリンゴ酸塩結晶形Bを得た。試料は室温下で激しく吸湿したため、後続のキャラクタリゼーションは行っていない。
【0073】
実施例10 グルタル酸塩結晶形Aの調製及びキャラクタリゼーション
グルタル酸塩結晶形Aは、遊離態結晶形Aと0.5当量のグルタル酸をIPAc/正ヘプタン(1:5,v:v)中で室温で1日懸濁撹拌し、40℃で2日間懸濁撹拌して得られた。固体を遠心分離し、真空乾燥後に後続のキャラクタリゼーションに用いた。
【0074】
試料のXRPDの結果は
図7Aの通りである。TGA/DSC曲線は
図7Bの通りであり、結果から、150℃まで加熱した場合の重量減少は3.7%であり、かつ86.7、101.4及び177.4℃(ピーク値温度)で吸熱信号が観察されたことがわかる。この結果から、それがグルタル酸塩結晶形Aと遊離態結晶形Aの混合物であると推測される。
1H NMRパターンはDMSO-d
6中で測定され、
図7Cに挙げており、結果から、リガンド酸とAPIのモル比は約0.7で、残留溶媒は観察されなかったことがわかる。
【表16】
【0075】
実施例11 コハク酸塩結晶形Aの調製及びキャラクタリゼーション
遊離態結晶形Aと0.5当量のコハク酸をIPAc/正ヘプタン(1:5,v:v)中で室温で1日懸濁撹拌し、40℃で2日間懸濁撹拌した後に得られた固体は遊離態結晶形Aである。余分に0.25当量のコハク酸を加えた後、引き続き40℃で一週間懸濁撹拌し、遠心分離して得られた固体を真空乾燥させ、後続のキャラクタリゼーションに用いた。
【0076】
試料のXRPDの結果は表14の通りである。TGA/DSC曲線は、120℃まで加熱した場合の重量減少は7.3%であり、かつ83.7及び169.9℃で吸熱信号が観察されたことを示している。
1H NMRパターンはDMSO-d
6中で測定され、結果から、リガンド酸とAPIのモル比は約0.6であり、残留溶媒は観察されなかったことがわかる。
【表17】
【0077】
実施例12 リン酸塩結晶形Aの調製及びキャラクタリゼーション
遊離態結晶形Aと1当量のリン酸(85%)をMTBE中で室温で1日懸濁撹拌し、固体を遠心分離し、真空乾燥させた後、後続のキャラクタリゼーションに用いた。
【0078】
試料のXRPD結果は表15の通りである。TGA/DSCは、100℃まで加熱した場合の重量減少は4.4%であり、かつ79.7、106.4及び131.5℃(ピーク値温度)で吸熱信号が観察されたことを示している。
1H NMRパターンはDMSO-d
6中で測定され、結果から、残留溶媒は観察されなかったことがわかる。IC/HPLCテストの結果から、試料中のリガンド酸とAPIのモル比が1.4であることがわかる。
【表18】
【0079】
実施例13 塩酸塩結晶形Aの調製及びキャラクタリゼーション
遊離態結晶形A試料と等当量の塩酸をEtOAc中で室温で懸濁撹拌して得られた上澄み溶液に、さらに正ヘプタン反溶媒を添加してゲル状物を形成した。該ゲル状物試料を50℃~5℃の温度サイクルに移し、2日後に得られた固体試料を遠心分離し、かつ真空乾燥させて後続のキャラクタリゼーションに用いた。
【0080】
試料のXRPDの結果は表16の通りである。TGA/DSCの結果から、150℃まで加熱した場合の重量減少は11.7%であり、かつ48.6及び93.0℃(ピーク値温度)で吸熱信号が観察されたことがわかる。スクリーニングで得られた試料は量が足りないため、核磁気テストは行っていない。試料のIC/HPLCテストの結果から、試料中のリガンド酸とAPIのモル比が1.0であることがわかる。
【表19】
【0081】
実施例14 フマル酸塩結晶形Aの調製及びキャラクタリゼーション
遊離態結晶形A試料と0.5当量のフマル酸をEtOH/正ヘプタン(1:1、v:v)中で室温で懸濁撹拌して得られた上澄み溶液に、さらに正ヘプタン反溶媒を添加して油状物を得、室温で開口して揮発させて得られた固体を真空乾燥させ、後続のキャラクタリゼーションに用いた。試料のXRPDの結果は表17の通りである。TGA/DSC曲線は、100℃まで加熱した場合の重量減少は9.1%であり、かつ54.6、86.8及び134.1℃(ピーク値温度)で吸熱信号が観察されたことを示している。
1H NMRパターンはDMSO-d
6中で測定され、結果から、リガンド酸とAPIのモル比が約0.5であり、残留溶媒は観察されなかったことがわかる。
【表20】
【0082】
実施例15 動的溶解度テスト
1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形B/結晶形C、シュウ酸塩結晶形A、酒石酸塩結晶形A及び遊離態結晶形Aの、水と3種類の生物溶媒中での動的溶解度について評価を行った。
【0083】
試験では、~10mg/mLの固体投入濃度(4mLの溶媒中に~40mgの固体を投入)で37℃下で回転混合し、かつ異なる時間点(1、4及び24時間)で各試料の水、SGF、FaSSIF及びFeSSIF1の4種類の体系における溶解度を測定した。各時間点でサンプリングした後、遠心ろ過(0.45μmのPTFEフィルタヘッド)を行い、ろ液中の遊離態濃度及びpH値を測定し、遠心後の固体試料のXRPDを測定した。溶解度試験の結果を表18にまとめた。
【表21】
【0084】
実施例16 吸湿性評価
DVSにより1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形B/結晶形C、シュウ酸塩結晶形A、酒石酸塩結晶形A及び遊離態結晶形Aに対して吸湿性評価を行った。
【0085】
結果から、25℃で湿度が80%RHより高い場合、1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶Bには明らかな吸湿増量が発生し、かつDVSテスト後に結晶形Cに変わることがわかった。1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形Cの25℃/80%RHでの吸湿増量は0.33wt%で、かつDVSテスト後に結晶形の変化は現れなかった。シュウ酸塩結晶形Aの25℃/80%RHでの吸湿増量は7.64wt%であり、湿度が10%RHより低い場合に明らかな重量減少が観察され、かつDVSテスト後に結晶形の変化は見られなかった。酒石酸塩結晶形A試料はやや吸湿性があり、25℃/80%RHでの吸湿増重は1.11wt%であり、遊離態結晶形A試料はほとんど吸湿性3がなく、かつDVSテスト後は両試料ともに結晶形の変化は発生しなかった。DVSテストの結果を表19に挙げる。
【表22】
【0086】
実施例17 固体安定性評価
1,5-ナフタレンジスルホン酸結晶形Cを25℃/60%RH及び40℃/75%RHの条件下で1週間、3週間及び4週間、開口して放置した後、XRPD及びHPLCにより試料の物理的及び化学的安定性を検査し、かつ酒石酸結晶形A及び遊離態結晶形Aの1週間、2週間及び4週間の安定性データを参照とした。同時に、1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形B及びシュウ酸塩結晶形Aについて、25℃/60%RH及び40℃/75%RHの条件下で1週間、開口放置した場合の安定性を考察した。その結果、1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形C、酒石酸塩結晶形A及び遊離態結晶形Aの試料を対応する条件下で4週間、開口放置しても、結晶形の変化やHPLC純度の低下は見られないことがわかった。1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形B及びシュウ酸塩結晶形Aの試料では、対応する条件下で1週間開口放置しても、HPLC純度の低下は見られなかったが、1,5-ナフタレンジスルホン酸塩結晶形Bは、40℃/75%RHの条件下で1週間開口放置すると、一部が結晶形Cに変化した。
【0087】
実施例18 薬効研究
グルコシルセラミド(GL-1)の血漿レベルは、ゴーシェ病患者における基質合成抑制療法(SRT)のバイオマーカ、及びファブリー病患者のSRTの代用バイオマーカとして認識されており、これにより新たに発見された塩の前臨床種における生物学的効果を評価する。
【0088】
多くの実施形態を記述してきたが、本開示の範囲は、例示方式で表された特定の実施形態ではなく、添付の特許請求の範囲によって限定される。本願で全文を引用しているすべての参考文献(文献参考、公開済み特許、公開済み特許出願及び共同未決特許出願を含む)の内容は、引用によってすべて本願に明確に組み込まれている。別途定義されていない限り、本願で使用されるすべての科学技術用語は、当業者が熟知している意味を有する。
【国際調査報告】