(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】電気音響変換器のラウドネスを制御するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20241108BHJP
G10K 15/04 20060101ALI20241108BHJP
H03G 9/02 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
H04R3/00 310
G10K15/04 302A
H03G9/02 025
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024528466
(86)(22)【出願日】2022-11-13
(85)【翻訳文提出日】2024-07-05
(86)【国際出願番号】 IB2022060901
(87)【国際公開番号】W WO2023084470
(87)【国際公開日】2023-05-19
(32)【優先日】2021-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524179307
【氏名又は名称】ヘビース インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】グレル,アクセル
【テーマコード(参考)】
5D220
5J030
【Fターム(参考)】
5D220AA50
5J030AA05
5J030AA06
5J030AA07
5J030AA08
5J030AC09
(57)【要約】
電気音響変換器のラウドネスを制御するシステム及び方法は、(a)電気的入力と(b)電気音響変換器の出力音圧レベル(SPL)との間の伝達関数を表す、伝達関数データ要素を受信すること、入ってくる電気信号に伝達関数を適用して、入ってくる電気信号に応じた電気音響変換器の期待SPLを表す、期待SPL信号を取得すること、期待SPL信号における少なくとも1つの音響基音を識別すること、識別された少なくとも1つの音響基音の音響倍音に対応する少なくとも1つの補償電気信号を生成すること、及び少なくとも1つの補償電気信号に少なくとも部分的に基づいて電気音響変換器のラウドネスを制御することを含み得る。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのプロセッサによって電気音響変換器のラウドネスを制御する方法であって、前記方法は、
(a)電気的入力と(b)電気音響変換器の出力音圧レベル(SPL)との間の伝達関数を表す、伝達関数データ要素を受信すること、
入ってくる電気信号に伝達関数を適用して、前記入ってくる電気信号に応じた電気音響変換器の期待SPLを表す、期待SPL信号を取得すること、
前記期待SPL信号における少なくとも1つの音響基音を識別すること、
前記識別された少なくとも1つの音響基音の音響倍音に対応する少なくとも1つの補償電気信号を生成すること、及び
前記少なくとも1つの補償電気信号に少なくとも部分的に基づいて電気音響変換器のラウドネスを制御すること、
を備える、方法。
【請求項2】
前記入ってくる電気信号と前記少なくとも1つの補償電気信号の関数として重畳電気信号を生成すること、及び
電気音響変換器のラウドネスを制御するべく、前記重畳信号を入力として電気音響変換器に提供すること、
をさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記期待SPL信号を、それぞれ或る周波数通過帯域又は周波数ギャップ帯域に関連付けられる複数の帯域固有SPL信号にセグメント化することをさらに備える、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの音響基音を識別することは、或る周波数通過帯域に関連付けられる少なくとも1つの帯域固有SPL信号について、前記少なくとも1つの音響基音を、関連する周波数通過帯域内の帯域固有のSPL信号によって表される優勢な音として識別することを備える、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
或る周波数通過帯域に関連付けられる少なくとも1つの帯域固有SPL信号について、
それぞれの周波数通過帯域に基づいて、識別された少なくとも1つの音響基音の1つ以上の音響倍音周波数を決定すること、
それぞれの周波数通過帯域に基づいて、前記1つ以上の音響倍音周波数に対応する1つ以上の音響振幅を決定すること、及び
前記1つ以上の対応する音響振幅での前記1つ以上の音響倍音周波数のSPLを表す、それぞれの少なくとも1つの倍音SPL信号を生成すること、
をさらに備える、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
或る周波数ギャップ帯域に関連付けられる少なくとも1つの帯域固有SPL信号について、それぞれの倍音SPL信号の生成を差し控えることをさらに備える、請求項4~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記補償電気信号を生成することは、少なくとも1つの倍音SPL信号に基づいて帯域固有の補償電気信号を生成するべく伝達関数データ要素を使用することを備える、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記補償電気信号を生成することは、
電気音響変換器の伝達関数の逆バージョンを表す、逆伝達関数データ要素を取得すること、及び
前記少なくとも1つの倍音SPL信号に前記逆伝達関数を適用して、(i)1つ以上の音響倍音周波数及び(ii)それぞれの倍音SPL信号の対応する1つ以上の音響振幅を表す、それぞれの補償電気信号を生成すること、
を備える、請求項4~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
各補償電気信号は、音響倍音周波数の固有のセットに対応し、重畳電気信号は、少なくとも1つの補償電気信号及び入ってくる電気信号の加重和関数として生成される、請求項5~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
各補償電気信号は、1つ以上の倍音SPL信号の固有のグループに対応し、重畳電気信号は、少なくとも1つの補償電気信号及び入ってくる電気信号の加重和関数として生成される、請求項5~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
重畳信号の入力に応じた電気音響変換器によって生成される音響パワーを表す時間的音響パワー値を取得すること、及び
得られた音響パワー値に基づいて加重和関数の1つ以上の重みを調整すること、
をさらに備える、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
所定の時間枠にわたって時間的音響パワー値を積分して、音響ドーズ値を取得すること、及び
前記音響ドーズ値にさらに基づいて加重和関数の1つ以上の重みを調整すること、
をさらに備える、請求項10~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
電気音響変換器の1人以上のユーザのIDを表す、1つ以上のIDデータ要素を受信すること、
前記少なくとも1つのIDデータ要素について、それぞれの音響ドーズ値を帰属させること、及び
前記IDデータ要素にさらに基づいて加重和関数の1つ以上の重みを調整すること、
をさらに備える、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
電気音響変換器のラウドネスを制御するためのシステムであって、前記システムは、補償モジュールと、重畳モジュールと、命令コードのモジュールが記憶される一時的でないメモリデバイスと、メモリデバイスに関連付けられ、命令コードのモジュールを実行するように構成されたプロセッサとを備え、前記命令コードのモジュールを実行すると、前記プロセッサは、
(a)電気的入力と(b)電気音響変換器の出力音圧レベル(SPL)との間の伝達関数を表す、伝達関数データ要素を受信し、
入ってくる電気信号に伝達関数を適用して、前記入ってくる電気信号に応じた電気音響変換器の期待SPLを表す、期待SPL信号を取得し、
前記期待SPL信号における少なくとも1つの音響基音を識別し、
前記識別された少なくとも1つの音響基音の音響倍音に対応する少なくとも1つの補償電気信号を生成し、
前記少なくとも1つの補償電気信号に少なくとも部分的に基づいて電気音響変換器のラウドネスを制御する、
ように構成される、システム。
【請求項15】
前記少なくとも1つのプロセッサはさらに、
入ってくる電気信号と少なくとも1つの補償電気信号の関数として重畳電気信号を生成し、
電気音響変換器のラウドネスを制御するべく、前記重畳信号を入力として電気音響変換器に提供する、
ように構成される、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記少なくとも1つのプロセッサはさらに、前記期待SPL信号を、それぞれ或る周波数通過帯域又は周波数ギャップ帯域に関連付けられる複数の帯域固有SPL信号にセグメント化するように構成される、請求項14~15のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項17】
前記少なくとも1つのプロセッサはさらに、或る周波数通過帯域に関連付けられる少なくとも1つの帯域固有SPL信号について、少なくとも1つの音響基音を関連する周波数通過帯域内の帯域固有のSPL信号によって表される優勢な音として識別することによって、少なくとも1つの音響基音を識別するように構成される、請求項14~16のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項18】
前記少なくとも1つのプロセッサはさらに、或る周波数通過帯域に関連付けられる少なくとも1つの帯域固有SPL信号について、
それぞれの周波数通過帯域に基づいて、識別された少なくとも1つの音響基音の1つ以上の音響倍音周波数を決定し、
それぞれの周波数通過帯域に基づいて、前記1つ以上の音響倍音周波数に対応する1つ以上の音響振幅を決定し、
前記1つ以上の対応する音響振幅での1つ以上の音響倍音周波数のSPLを表す、それぞれの少なくとも1つの倍音SPL信号を生成する、
ように構成される、請求項16~17のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項19】
前記少なくとも1つのプロセッサはさらに、或る周波数ギャップ帯域に関連付けられる少なくとも1つの帯域固有SPL信号について、それぞれの倍音SPL信号の生成を差し控えるように構成される、請求項16~18のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項20】
前記少なくとも1つのプロセッサは、少なくとも1つの倍音SPL信号に基づいて帯域固有の補償電気信号を生成するべく伝達関数データ要素を使用することによって、補償電気信号を生成するように構成される、請求項14~19のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項21】
前記少なくとも1つのプロセッサは、
電気音響変換器の伝達関数の逆バージョンを表す、逆伝達関数データ要素を取得し、
前記少なくとも1つの倍音SPL信号に逆伝達関数を適用して、(i)1つ以上の音響倍音周波数及び(ii)それぞれの倍音SPL信号の対応する1つ以上の音響振幅を表す、それぞれの補償電気信号を生成する、
ことによって、補償電気信号を生成するように構成される、請求項14~20のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項22】
各補償電気信号は、音響倍音周波数の固有のセットに対応し、重畳電気信号は、少なくとも1つの補償電気信号及び入ってくる電気信号の加重和関数として生成される、請求項15~21のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項23】
各補償電気信号は、1つ以上の倍音SPL信号の固有のグループに対応し、少なくとも1つのプロセッサは、少なくとも1つの補償電気信号及び入ってくる電気信号の加重和関数として重畳電気信号を生成するように構成される、請求項15~22のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項24】
前記少なくとも1つのプロセッサはさらに、
重畳信号の入力に応じた電気音響変換器によって生成される音響パワーを表す時間的音響パワー値を取得し、
得られた音響パワー値に基づいて加重和関数の1つ以上の重みを調整する、
ように構成される、請求項22~23のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項25】
前記少なくとも1つのプロセッサはさらに、
所定の時間枠にわたって時間的音響パワー値を積分して、音響ドーズ値を取得し、
前記音響ドーズ値にさらに基づいて加重和関数の1つ以上の重みを調整する、
ように構成される、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記少なくとも1つのプロセッサはさらに、
電気音響変換器の1人以上のユーザのIDを表す、1つ以上のIDデータ要素を受信し、
前記少なくとも1つのIDデータ要素について、それぞれの音響ドーズ値を帰属させ、
前記IDデータ要素にさらに基づいて加重和関数の1つ以上の重みを調整する、
ように構成される、請求項24~25のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる、2021年11月14日に出願された「電気音響変換器のラウドネスを制御するシステム及び方法」という名称の米国特許仮出願第63/279,128号の優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、一般に、ラウドネスの強化に関する。より詳細には、本発明は、ヘッドホン及びイヤホン用のサウンドドシメータ付きのラウドネスエンハンサに関する。
【背景技術】
【0003】
ヘッドホン又はイヤホンで音楽を長時間及び/又は大音量で聴くと、聴覚に損傷を来すことがある。このリスクに対処するために多くの国で法的規制が導入されている。そのような規制は、例えば、IEC62368-1規格及びIEC50332規格シリーズで詳述されている。これらの法的規制は、聴取者の聴覚を保護するために最大音圧レベル(SPL)を100デシベル(dB(A))に下げることを目的としている。
【0004】
音響ダイナミクス(例えば、楽曲の各部分間のラウドネスの差)が比較的小さい場合、この規格に従うことで満足のいくラウドネスの感覚が得られる可能性がある。例えば、ポップ音楽の音楽制作プロセスでは普通は動的ラウドネス範囲を小さくし、リスニングセッションの全体を通して単一の音量設定が可能である。しかしながら、クラシック音楽などの動的ラウドネス範囲が大きい(例えば、楽曲の各部分間のラウドネスの差が大きい)音楽は、通常、少なくとも楽曲の静かな部分で聴取者に十分な音量が得られないと知覚される。このような場合、100dB(A)の制限では低すぎると知覚される可能性があり、音楽愛好家はヘッドホンの音量を上げることになる。
【0005】
さらに、現在入手可能なサウンドドシメータ(例えば、IEC50332-3規格に記載されているもの)では、特定のヘッドホンを使用する1人の人の累積音響量の最大量を制限している場合がある。しかしながら、そのような方策は、同じヘッドホンのまだ最大音響量に達していない第2のユーザの音響レベルも制限する可能性がある。
【発明の概要】
【0006】
本発明の実施形態は、少なくとも1つのプロセッサによって電気音響変換器のラウドネスを制御する方法を含み得る。「電気音響変換器」及び「変換器」という用語は、例えば、ヘッドホンデバイス、ラウドスピーカ、ラウドスピーカのアレイ、電話などを含む、入ってくる電気信号に基づいて音を生成することができる任意の電気装置を示すために本明細書で交換可能に用いられる場合がある。
【0007】
この方法の実施形態は、(a)電気音響変換器への電気的入力と(b)電気音響変換器の出力音圧レベル(SPL)との間の伝達関数を表す、伝達関数データ要素を受信すること、入力電気信号に伝達関数を適用して、電気音響変換器の期待SPL周波数グラフを取得すること、SPL周波数グラフにおける少なくとも1つの音響基音を識別すること、識別された少なくとも1つの音響基音の音響倍音信号に対応する、補償電気信号を生成すること、入力電気信号及び補償電気信号に基づいて重畳信号を生成すること、及び電気音響変換器のラウドネスを制御するべく重畳信号を入力として電気音響変換器に提供することを含み得る。
【0008】
いくつかの実施形態によれば、SPL周波数グラフにおける少なくとも1つの音響基音を識別することは、SPL周波数グラフをいくつかの周波数帯域にセグメント化すること、及びSPL周波数グラフの特定の周波数帯域に関係するものとして少なくとも1つの音響基音を識別することを含み得る。
【0009】
いくつかの実施形態によれば、補償電気信号を生成することは、SPL周波数グラフの特定の周波数帯域に基づいて、識別された少なくとも1つの音響基音の1つ以上の音響倍音周波数を決定すること、SPL周波数グラフの特定の周波数帯域に基づいて、1つ以上の音響倍音周波数のそれぞれの1つ以上の音響倍音振幅を決定すること、及び伝達関数データ要素を使用して、帯域固有の補償電気信号を生成することを含み得る。補償電気信号は、それぞれの1つ以上の音響倍音振幅の1つ以上の音響倍音周波数を含む音響倍音信号に対応し得る。
【0010】
本発明の実施形態は、電気音響変換器のラウドネスを制御するためのシステムを含み得る。
【0011】
システムの実施形態は、補償モジュール、重畳モジュール、命令コードのモジュールが記憶され得る一時的でないメモリデバイス、及びメモリデバイスに関連付けられた少なくとも1つのプロセッサを含み得る。少なくとも1つのプロセッサは、命令コードのモジュールを実行するように構成され得る。
【0012】
これらの命令コードのモジュールを実行すると、プロセッサは、(a)電気音響変換器への電気的入力と(b)電気音響変換器の出力音圧レベル(SPL)との間の伝達関数を表す、伝達関数データ要素を受信し、入力電気信号に伝達関数を適用して、電気音響変換器の期待SPL周波数グラフを取得し、SPL周波数グラフにおける少なくとも1つの音響基音を識別するように構成され得る。補償モジュールは、識別された少なくとも1つの音響基音の音響倍音信号に対応する、補償電気信号を生成するように構成され得る。重畳モジュールは、入力電気信号及び補償電気信号に基づいて重畳信号を生成し、電気音響変換器のラウドネスを制御するべく重畳信号を入力として電気音響変換器に提供するように構成され得る。
【0013】
本明細書で(例えば、
図2、
図5に関連して)詳述するように、本発明の実施形態は、少なくとも1つのプロセッサによって電気音響変換器のラウドネスを制御する方法を含み得る。
【0014】
いくつかの実施形態によれば、少なくとも1つのプロセッサ(本明細書ではプロセッサ110として示される)は、(a)電気的入力と(b)電気音響変換器の出力音圧レベル(SPL)との間の伝達関数を表す、伝達関数データ要素を受信し、入ってくる電気信号に伝達関数を適用して、入ってくる電気信号に応じた電気音響変換器の期待SPLを表す、期待SPL信号を取得し得る。少なくとも1つのプロセッサは、期待SPL信号における少なくとも1つの音響基音を識別し、識別された少なくとも1つの音響基音の音響倍音に対応する少なくとも1つの補償電気信号を生成するべく専用回路(本明細書では補償モジュールとして示される)を制御し得る。少なくとも1つのプロセッサは、その後、少なくとも1つの補償電気信号に少なくとも部分的に基づいて、電気音響変換器のラウドネス(例えば、知覚される音量)を制御し得る。
【0015】
さらに又は代替的に、少なくとも1つのプロセッサは、入ってくる電気信号と少なくとも1つの補償電気信号の関数(例えば、加重和関数)として重畳電気信号を生成するべく電気回路(例えば、本明細書では重畳モジュールとして示される)を制御し得る。本発明の実施形態は、電気音響変換器のラウドネスを制御するべく重畳信号を入力として電気音響変換器に提供することを含み得る。
【0016】
いくつかの実施形態によれば、少なくとも1つのプロセッサは、期待SPL信号をそれぞれ或る周波数通過帯域又は周波数ギャップ帯域に関連付けられる複数の帯域固有SPL信号にセグメント化するべく回路(例えば、本明細書では分析モジュールとして示される)を制御し得る。次いで、少なくとも1つのプロセッサは、或る周波数通過帯域に関連付けられる少なくとも1つの帯域固有SPL信号について、関連する周波数通過帯域内の帯域固有SPL信号によって表される優勢な音(例えば、最高振幅及び/又は最小周波数を有する)として少なくとも1つの音響基音を識別し得る。
【0017】
さらに又は代替的に、或る周波数通過帯域に関連付けられる少なくとも1つの帯域固有SPL信号について、少なくとも1つのプロセッサは、それぞれの周波数通過帯域に基づいて、識別された少なくとも1つの音響基音の1つ以上の音響倍音周波数を決定し、それぞれの周波数通過帯域に基づいて、1つ以上の音響倍音周波数に対応する1つ以上の音響振幅を決定し、1つ以上の対応する音響振幅での1つ以上の音響倍音周波数のSPLを表す、それぞれの少なくとも1つの倍音SPL信号を生成し得る。相補的な様態で、少なくとも1つのプロセッサは、或る周波数ギャップ帯域に関連付けられる少なくとも1つの帯域固有SPL信号について、それぞれの倍音SPL信号の生成を差し控え得る。
【0018】
いくつかの実施形態によれば、少なくとも1つのプロセッサは、少なくとも1つの倍音SPL信号に基づいて帯域固有の補償電気信号を生成するべく伝達関数データ要素を使用することによって、補償電気信号を生成し得る。言い換えれば、少なくとも1つのプロセッサは、電気音響変換器の伝達関数の逆バージョンを表す、逆伝達関数データ要素を取得し、それぞれの補償電気信号を生成するべく少なくとも1つの倍音SPL信号に逆伝達関数を適用することによって、補償電気信号を生成し得る。この補償電気信号は、それぞれの倍音SPL信号の1つ以上の音響倍音周波数及び対応する1つ以上の音響振幅を表し得る。
【0019】
いくつかの実施形態によれば、各補償電気信号は、音響倍音周波数の固有のセットに対応し得る又は専用であり得る。さらに又は代替的に、各補償電気信号は、1つ以上の倍音SPL信号の固有のグループに対応し得る又は専用であり得る。少なくとも1つのプロセッサは、少なくとも1つの補償電気信号と入ってくる電気信号の加重和関数として重畳電気信号を生成するべく重畳モジュールを制御し得る。
【0020】
いくつかの実施形態によれば、少なくとも1つのプロセッサは、重畳信号の入力に応じた電気音響変換器によって生成される音響パワーを表す時間的音響パワー値を取得又は計算し得る。その後、少なくとも1つのプロセッサは、得られた音響パワー値に基づいて、(例えば、所定の音響パワー閾値を超えないように)加重和関数の1つ以上の重みを調整し得る。
【0021】
さらに又は代替的に、少なくとも1つのプロセッサは、所定の時間枠にわたって時間的音響パワー値を積分又は累積して、本明細書では音響ドーズ値とも呼ばれる音響エネルギー値を取得し得る。その後、少なくとも1つのプロセッサは、音響ドーズ値にさらに基づいて、(例えば、所定の音響ドーズ閾値を超えないように)加重和関数の1つ以上の重みを調整し得る。
【0022】
さらに又は代替的に、少なくとも1つのプロセッサは、電気音響変換器の1人以上のユーザのIDを表す、1つ以上のIDデータ要素を受信し得る。少なくとも1つのIDデータ要素について、少なくとも1つのプロセッサは、それぞれの音響ドーズ値を帰属させ、IDデータ要素にさらに基づいて、(例えば、所定のパーソナライズされた音響ドーズ閾値を超えないように)加重和関数の1つ以上の重みを調整し得る。
【0023】
本明細書で(例えば、
図2、
図5に関連して)詳述するように、本発明の実施形態は、少なくとも1つのプロセッサによって電気音響変換器のラウドネスを制御するためのシステムを含み得る。システムの実施形態は、本明細書で詳述するように、電気音響変換器のラウドネスを制御する方法を実施するように構成された分析モジュール回路、補償モジュール回路、及び/又は重畳モジュール回路を含み得る。さらに又は代替的に、システムの実施形態は、命令コードのモジュールが記憶される一時的でないメモリデバイスと、メモリデバイスに関連付けられ、命令コードのモジュールを実行するように構成されたプロセッサをさらに含み得る。
【0024】
前記命令コードのモジュールを実行すると、プロセッサは、(a)電気的入力と(b)電気音響変換器の出力音圧レベル(SPL)との間の伝達関数を表す、伝達関数データ要素を受信し、入ってくる電気信号に伝達関数を適用して、入ってくる電気信号に応じた電気音響変換器の期待SPLを表す、期待SPL信号を取得し、期待SPL信号における少なくとも1つの音響基音を識別し、識別された少なくとも1つの音響基音の音響倍音に対応する少なくとも1つの補償電気信号を生成し、少なくとも1つの補償電気信号に少なくとも部分的に基づいて電気音響変換器のラウドネスを制御するべく、分析モジュール回路、補償モジュール回路、及び/又は重畳モジュール回路を制御するように構成され得る。
【0025】
本発明とみなされる主題は、本明細書の結びの部分で特に指摘され、明確に主張される。しかしながら、本発明は、その目的、特徴、及び利点とともに、構成と動作方法の両方に関して、添付の図面と共に読まれるときに以下の詳細な説明を参照することで最もよく理解されるであろう。本発明の実施形態は、同様の参照符号が対応する、類似の、又は同様の要素を示す添付図に限定ではなく例として示される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係る、例示的なコンピューティングデバイスの高レベルブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る、電気音響変換器のラウドネスを制御するためのシステムを示すブロック図である。
【
図3A】本発明の実施形態に係る、(a)電気音響変換器への電気的入力と(b)電気音響変換器の出力SPLとの間の伝達関数を示す概略図である。
【
図3B】周波数の関数としての、典型的な電気音響変換器(例えば、ヘッドホン)の伝達関数H(f)の振幅(単位はdB(A))の限定ではない例を示すグラフである。
【
図3C】1ボルトの一定の入力電気信号を導入することで得られる、周波数の関数としての、典型的な電気音響変換器(例えば、ヘッドホン)のSPLグラフの限定ではない例を示すグラフである。
【
図4A】本発明の実施形態に係る、1つ以上の帯域固有補償関数モジュール及び重畳モジュールの実装の例を示す略ブロック図である。
【
図4B】本発明の実施形態に係る、帯域固有補償モジュールによって提供される帯域固有補償関数を示すグラフである。
【
図4C】本発明の実施形態に係る、電気音響変換器のラウドネスを制御するためのシステム100の機能の態様を示す概略図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る、電気音響変換器のラウドネスを制御する方法を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
説明を簡潔明瞭にするために、図面に示されている要素は、必ずしも正確に又は一律の縮尺に従って描かれていないことが理解されるであろう。例えば、明瞭にするために、一部の要素の寸法は他の要素に比べて誇張されている場合があり、又はいくつかの物理コンポーネントが1つの機能ブロック又は要素に含まれている場合がある。さらに、適切であると考えられる場合、対応する又は類似する要素を示すために図面間で参照符号が繰り返されている場合がある。
【0028】
以下の詳細な説明では、本発明の十分な理解をもたらすために多くの具体的な詳細が記載される。しかしながら、これらの具体的な詳細なしに本発明が実施され得ることが当業者には理解されるであろう。場合によっては、本発明を不明瞭にしないように、周知の方法、手順、コンポーネント、モジュール、ユニット、及び/又は回路は、詳細には説明していない。一実施形態に関して説明されたいくつかの特徴又は要素を、他の実施形態に関して説明された特徴又は要素と組み合わせることができる。明瞭にするために、同じ又は類似の特徴又は要素の説明は繰り返されていない場合がある。
【0029】
本発明の実施形態はこれに関して限定されないが、例えば、「処理する」、「コンピューティング」、「計算する」、「決定する」、「確立する」、「分析する」、「チェックする」などの用語を用いる説明は、コンピュータのレジスタ及び/又はメモリ内の物理(例えば、電子)量として表されるデータを、コンピュータのレジスタ及び/又はメモリ又は動作(単数又は複数)及び/又はプロセス(単数又は複数)を実行するための命令を記憶できる他の情報の一時的でない記憶媒体内の物理量として同様に表される他のデータに操作及び/又は変換する、コンピュータ、コンピューティングプラットフォーム、コンピューティングシステム、又は他の電子コンピューティングデバイスの動作及び/又はプロセスを指す場合がある。本発明の実施形態はこれに関して限定されないが、本明細書で用いられる場合の「複数の」という用語は、例えば、「多数の」、又は「2つ以上の」を含み得る。「複数の」という用語は、本明細書の全体を通して、2つ以上のコンポーネント、デバイス、要素、ユニット、パラメータなどを説明するために用いられる場合がある。本明細書で用いられるときのセットという用語は、1つ以上のアイテムを含む場合がある。明示的に述べられていない限り、本明細書で説明される方法の実施形態は、特定の順序又は順番に制約されない。加えて、説明される方法の実施形態又はその要素の一部は、同時に、同じ時点で、又は並行して発生し得る又は実行され得る。
【0030】
音圧レベル(SPL)という用語は、音源によって生成される圧力レベルの測定可能な物理値を指すために本明細書で用いられる場合がある。当該技術分野では公知のように、SPLレベル又は値は、普通は、デシベル(例えば、dB(A))の単位で表され、生成される音の増加又は減少を表す。
【0031】
「SPLグラフ」という用語は、周波数領域におけるSPLの分布(例えばdB(A)で表される)を表すデータ要素を指すために本明細書で用いられる場合がある。言い換えれば、SPLグラフは、音源によって生成される圧力レベルを音の周波数成分の関数として表し得る。
【0032】
「電気音響変換器」という用語は、入力電気信号を受信し、対応するオーディオ信号を生成するように構成されたヘッドホン又はイヤホンなどのデバイス又は装置を指すために本明細書で用いられる場合がある。
【0033】
「ラウドネス」という用語は、耳基準点(ERP)で電気音響変換器(例えば、ヘッドホンのセット)の聴取者又はユーザによって知覚されるオーディオ信号の強度を指すために本明細書で用いられる場合がある。知覚されるラウドネスは、ERPでの目標SPLレベルに対応し得るが、それにもかかわらず、特定の聴取者の聴覚の特徴や個人的な心理音響学的効果にも影響される可能性があることが理解されるであろう。
【0034】
「音量」という用語は、電気音響変換器(例えば、ヘッドホン)の聴取者又はユーザによって入力又は導入され得る数値データ要素又は信号を指すために本明細書で用いられる場合がある。入力音量は、例えば再生された楽曲の録音レベルを含む複数の因子に依存し得ることが理解されるであろう。したがって、音量レベルは、目標SPLレベルに直接対応しない場合がある。代わりに、音量レベルは、本明細書では、所望のラウドネスレベルを調整する(例えば、上げる又は下げる)ことへのユーザの要求とみなされる場合がある。
【0035】
人間の耳にはオーディオ信号のラウドネスの絶対的尺度はない。代わりに、人間の耳は、音源のラウドネスレベルを既存の既知の音源のラウドネスに関連付けることができる。ラウドネスレベルは、オーディオ信号に含まれる歪みのレベルに基づいて聴取者が分類することもできる。歪みのあるオーディオ信号は、一般に、歪みのない同じ総音圧レベルの信号よりも大きく知覚される。言い換えれば、可聴帯域幅(例えば、15Hz~20kHz)全体にわたって歪んだオーディオ信号は、歪んでいないオーディオ信号に比べてより歪んでいてあまりクリアではないにもかかわらず、より大きく知覚される場合がある。
【0036】
本明細書で詳述するように、本発明の実施形態は、知覚されるラウドネスに対する歪みの影響を利用して、所定のSPL制限を超えることなく、オーディオ信号のラウドネスを強化(例えば増加)することができる。
【0037】
さらに又は代替的に、本発明の実施形態は、オーディオ信号を複数の異なる周波数帯域(例えば、2、3、又は4つの異なる周波数帯域)に分割し、各帯域に異なる歪み関数を適用し得る。本明細書で詳述するように、そのような帯域固有の歪み関数により、オーディオ信号がクリアではない又は歪んでいると知覚されることを回避しながら、ラウドネスを強化することが可能になり得る。
【0038】
ここで、いくつかの実施形態に係る、電気音響変換器のラウドネスを制御するためのシステムの一実施形態に含まれ得るコンピューティングデバイスを示すブロック図である、
図1を参照する。
【0039】
コンピューティングデバイス1は、例えば、中央処理ユニット(CPU)プロセッサ、チップ、もしくは任意の適切なコンピューティング又は計算デバイスであり得るプロセッサ又はコントローラ2、オペレーティングシステム3、メモリ4、実行可能コード5、ストレージシステム6、入力デバイス7、及び出力デバイス8を含み得る。プロセッサ2(又は場合によっては複数のユニット又はデバイスにわたる1つ以上のコントローラ又はプロセッサ)は、本明細書に記載の方法を実施する、及び/又は様々なモジュール、ユニットなどとして実行又は機能するように構成され得る。本発明の実施形態に係るシステムには1つよりも多いコンピューティングデバイス1が含まれていてもよく、1つ以上のコンピューティングデバイス1は本発明の実施形態に係るシステムのコンポーネントとして機能し得る。
【0040】
オペレーティングシステム3は、コンピューティングデバイス1の動作を調整、スケジューリング、アービトレーション、監視、制御、或いは管理、例えば、ソフトウェアプログラム又はタスクの実行のスケジューリング、又はソフトウェアプログラム又は他のモジュール又はユニットの通信を可能にすることを含むタスクを実行するように設計及び/又は構成された、任意のコードセグメント(例えば、本明細書に記載の実行可能コード5に類似したもの)であり得る又はこれを含み得る。オペレーティングシステム3は市販のオペレーティングシステムであり得る。オペレーティングシステム3は随意的なコンポーネントであり得ることに留意されたく、例えば、いくつかの実施形態では、システムは、オペレーティングシステム3を必要としない又はオペレーティングシステム3を含む、コンピューティングデバイスを含み得る。
【0041】
メモリ4は、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、動的RAM(DRAM)、同期DRAM(SD-RAM)、ダブルデータレート(DDR)メモリチップ、フラッシュメモリ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、キャッシュメモリ、バッファ、短期メモリユニット、長期メモリユニット、又は他の適切なメモリユニット又はストレージユニットであり得る又はこれらを含み得る。メモリ4は、場合によっては異なる、複数のメモリユニットであり得る又はこれらを含み得る。メモリ4は、コンピュータ又はプロセッサの一時的でない読み出し可能媒体、又はコンピュータの一時的でない記憶媒体、例えばRAMであり得る。一実施形態では、メモリ4、ハードディスクドライブ、別の記憶装置などの一時的でない記憶媒体は、プロセッサによって実行されるときに本明細書に記載の方法をプロセッサに実行させることができる命令又はコードを記憶し得る。
【0042】
実行可能コード5は、任意の実行可能コード、例えば、アプリケーション、プログラム、プロセス、タスク、又はスクリプトであり得る。実行可能コード5は、場合によってはオペレーティングシステム3の制御下で、プロセッサ又はコントローラ2によって実行され得る。例えば、実行可能コード5は、本明細書でさらに説明されるように、電気音響変換器のラウドネスを制御し得るアプリケーションであり得る。明瞭にするために、
図1には実行可能コード5の単一のアイテムが示されているが、本発明のいくつかの実施形態に係るシステムは、メモリ4にロードされ、本明細書に記載の方法をプロセッサ2に実行させ得る実行可能コード5と同様の複数の実行可能コードセグメントを含み得る。
【0043】
ストレージシステム6は、例えば、当該技術分野では公知のフラッシュメモリ、当該技術分野では公知のマイクロコントローラ又はチップの内部にある又は組み込まれたメモリ、ハードディスクドライブ、CD記録可能(CD-R)ドライブ、ブルーレイディスク(BD)、汎用シリアルバス(USB)デバイス、又は他の適切な取り外し可能な及び/又は固定のストレージユニットであり得る又はこれらを含み得る。少なくとも1つの電気音響変換器に関するデータは、ストレージシステム6に記憶され、ストレージシステム6からメモリ4にロードされ、そこでプロセッサ又はコントローラ2によって処理され得る。いくつかの実施形態では、
図1に示されているコンポーネントの一部は省略されていてもよい。例えば、メモリ4は、ストレージシステム6の記憶容量を有する不揮発性メモリであってもよい。したがって、別個のコンポーネントとして示されているが、ストレージシステム6は、メモリ4に組み込まれ又は含まれていてもよい。
【0044】
入力デバイス7は、任意の適切な入力デバイス、コンポーネント、又はシステム、例えば、取り外し可能なキーボード又はキーパッド、マウスなどであり得る又はこれらを含み得る。出力デバイス8は、1つ以上の(場合によっては取り外し可能な)ディスプレイ又はモニタ、スピーカ、及び/又は任意の他の適切な出力デバイスを含み得る。任意の適用可能な入力/出力(I/O)デバイスが、ブロック7及び8によって示されるようにコンピューティングデバイス1に接続され得る。例えば、有線又は無線ネットワークインターフェイスカード(NIC)、汎用シリアルバス(USB)デバイス、又は外付けハードドライブが、入力デバイス7及び/又は出力デバイス8に含まれ得る。任意の適切な数の入力デバイス7及び出力デバイス8が、ブロック7及び8によって示されるようにコンピューティングデバイス1に作動的に接続され得ることがわかるであろう。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態に係るシステムは、限定はされないが、複数の中央処理ユニット(CPU)又は任意の他の適切な多目的又は特定のプロセッサ又はコントローラ(例えば、要素2と同様のもの)、複数の入力ユニット、複数の出力ユニット、複数のメモリユニット、及び複数のストレージユニットなどのコンポーネントを含み得る。
【0046】
ここで、本発明の実施形態に係る、少なくとも1つの電気音響変換器50のラウドネスを制御するためのシステム100を示すブロック図である、
図2を参照する。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態によれば、システム100は、ソフトウェアモジュール、ハードウェアモジュール、又はその任意の組み合わせとして実装され得る。例えば、システム100は、
図1の要素1などのコンピューティングデバイスであるか又はこれを含み、本明細書でさらに説明されるように、電気音響変換器140のラウドネスを制御するべく、実行可能コード(例えば、
図1の要素5)の1つ以上のモジュールを実行するように適合され得る。
【0048】
いくつかの実施形態によれば、システム100は、少なくとも1つの電気音響変換器50を含み、本明細書で詳述するように入力電気信号(例えば20、130A)に基づいて電気音響変換器50によってオーディオ信号50Aを生成し得る。
【0049】
さらに又は代替的に、システム100は、
図2に示すように少なくとも1つの電気音響変換器50に作動的に又は電気的に接続され得る。このような実施形態では、システム100は、少なくとも1つの電気信号130Aを少なくとも1つの電気音響変換器50に送信し得る。その後、少なくとも1つの電気音響変換器50は、本明細書で詳述するように、電気信号130Aに基づいてオーディオ信号50Aを生成し得る。
【0050】
図2に示すように、矢印は、システム100との間の及び/又はシステム100のモジュール又は要素間の1つ以上のデータ要素の流れを表し得る。明瞭にするために
図2では一部の矢印が省略されている。
【0051】
本発明の実施形態に係る、(a)電気音響変換器50への電気的入力と(b)電気音響変換器50の出力SPLとの間の変換を表す伝達関数を示す概略図である、
図3Aも参照する。周波数の関数としての、典型的な電気音響変換器(例えば、ヘッドホン)の伝達関数H(f)の振幅(単位はdB(A))の限定ではない例を示すグラフである、
図3Bも参照する。
【0052】
「伝達関数」という用語は、電気音響変換器に関連して、(a)電気音響変換器50への電気的入力と(b)電気音響変換器50の出力音圧レベルとの間の変換を指すために本明細書で用いられる場合がある。
【0053】
例えば、電気音響変換器50は、線形時不変(LTI)システムとみなすことができ、入力電気信号V(t)を受信し、以下の式1Aに従って出力信号SPL(t)を生成し得る:
式1A
SPL(t)=V(t)*H(t)
ここで、
V(t)は、電気的入力信号20の時間領域表現であり、
SPL(t)は、出力音圧レベル50A’の時間領域表現であり、
H(t)は、電気音響変換器の伝達関数50Hの時間領域表現であり、
「*」は、畳み込み演算子である。
【0054】
さらに又は代替的に、電気音響変換器は、以下の式1Bに従って出力信号SPL(f)を生成し得る:
式1B
SPL(f)=V(f)・H(f)
ここで、
V(f)は、電気的入力信号20の周波数領域表現であり、
SPL(f)は、出力音圧レベル50A’の周波数領域表現であり、
H(f)は、電気音響変換器の伝達関数50Hの周波数領域表現であり、
「・」は、点乗算演算子である。
【0055】
いくつかの実施形態によれば、システム100は、伝達関数データ要素50Hを受信するように構成された分析モジュール120を含み得る。伝達関数データ要素50Hは、(a)電気音響変換器50への電気的入力と(b)電気音響変換器50の出力音圧レベル(SPL)との間の伝達関数を表し得る。
【0056】
例えば、伝達関数データ要素50Hは、数値要素のベクトルであり得る又はこれを含み得る。数値要素のベクトルは、上記の式1Aに従って、インパルス電気的入力信号20に応答して電気音響変換器50によって出力されることが期待される経時的なSPL信号50A’の値を表し得る。
【0057】
いくつかの実施形態によれば、分析モジュール120はまた、入力電気信号20(例えば、式1AではV(t)として示される)を受信し得る。入力電気信号20は、入力電気信号20が電気音響変換器(例えば50)による入力として利用されて、対応するオーディオ信号(例えば50A)が生成され得るという意味で、それぞれのオーディオ信号に対応し得る又はこれを表し得る。
【0058】
システム100は、電気音響変換器と関連付けられた又は一体化されたアナログ回路及び/又はデジタル回路として実装され得ることが当業者には理解されるであろう。このような実装では、「信号」という用語は、アナログ電気信号及び/又はデジタル電気信号などの物理的信号を示すために用いられる場合がある。さらに又は代替的に、システム100は、少なくとも部分的に、関連する電気音響変換器50のラウドネスを制御するように構成されたソフトウェアモジュールとして実装され得る。そのような実装では、信号という用語は、デジタル電気信号及び/又はアナログ電気信号などの物理的信号を表す数値表現又はデータ要素を示すために用いられる場合がある。したがって、「信号」、「データ要素」、及び「グラフ」という用語は、本明細書では文脈に応じて交換可能に用いられる場合がある。
【0059】
分析モジュール120は、入力電気信号20に伝達関数50Hを適用して、期待SPL信号120A(本明細書では「期待SPLデータ要素120A」及び「期待SPL周波数グラフ120A」とも呼ばれる)を生成し得る。期待SPL信号120Aは、入ってくる電気信号20に応じた期待される電気音響変換器50のSPLを表し得る。言い換えれば、分析モジュール120は、その周波数領域における期待されるオーディオ信号を表すSPL信号120Aを生成し得る。
【0060】
「期待される」という用語は、この文脈では、入力電気信号20が電気音響変換器50への入力として使用された場合に電気音響変換器50によって出力され得る理論上のオーディオ信号を示すために用いられる場合がある。
【0061】
分析モジュール120は、入力電気信号20に伝達関数50Hを適用して期待SPL信号120Aを生成するためのハードウェアモジュールとソフトウェアモジュールの組み合わせとして実装され得る。例えば、信号20は、最初に必要とされる音響信号を表すアナログ電気信号であり得る。分析モジュール120は、所定の時間にわたって入ってくる信号20をサンプリングし、アナログ-デジタル変換器を使用して信号20のサンプルをデジタル化し、入ってくる信号20のデジタルバージョンを生成し得る。次いで、分析モジュール120は、処理ユニット110(
図1のプロセッサ2と同じであり得る)と協働して、入ってくる信号20のデジタル化されたサンプルに(例えば、式1A及び/又は式1Bに関連して詳述したように)伝達関数50Hを適用し、これにより、期待SPL信号120Aを生成し得る。
【0062】
1ボルトの一定の入力電気信号20を導入することで得られる、周波数の関数としての典型的な電気音響変換器(例えば、ヘッドホン)の期待SPL信号120Aの限定ではない例を示す周波数グラフである、
図3Cも参照する。そのような一定の入力は、式1Bに基づいて、
図3BのH(f)振幅グラフと同様の期待SPL信号グラフ120Aを生成し得ることが理解されるであろう。
【0063】
いくつかの実施形態によれば、分析モジュール120は、当該技術分野では公知のアナログ及び/又はデジタル帯域通過及び/又は帯域消去フィルタであり得る又はこれを含み得る1つ以上の周波数帯域フィルタモジュール121(又は略して「フィルタ121」)を含み得る。フィルタ121は、期待SPL信号120Aを複数の周波数帯域121Aに分割又はセグメント化するように構成され得る。周波数帯域121Aは、本明細書で詳述するように、システム100が期待SPL信号120Aを分析し得る周波数帯域を定義する1つ以上の周波数通過帯域121APと、システム100が期待SPL信号120Aの分析を差し控え得る周波数帯域を定義する1つ以上の周波数ギャップ帯域121AGとを含み得る。したがって、1つ以上のフィルタモジュール121は、期待SPL信号120Aを、それぞれの周波数通過帯域121AP(したがって、通過帯域SPL信号121BPと示される)又は周波数ギャップ帯域121AG(したがって、ギャップ帯域SPL信号121BGと示される)にそれぞれ関連付けられる複数の帯域固有SPL信号121Bにセグメント化又は分割し得ることが理解されるであろう。
【0064】
さらに又は代替的に、分析モジュール120は、入力電気信号20に1つ以上のフィルタモジュール121を適用して、入力電気信号20の複数の帯域固有成分を生成し、その後、入力電気信号20の複数の帯域固有成分に伝達関数50Hを適用して、複数の帯域固有SPL信号121B(例えば、121BG、121BP)を生成し得る。
【0065】
周波数通過帯域121APは、例えば、重低音の音響基音が検出される第1の周波数帯域(例えば、15Hz~50Hz)、(b)低音の音響基音が検出される第2の周波数帯域(例えば、50Hz~100Hz)、(c)低ボーカル音の音響基音が検出される第3の周波数帯域(例えば、100Hz~250Hz)、及び(d)中高ボーカル及び楽器音の音響基音が検出される第4の周波数帯域(例えば、250Hz~1kHz)を含み得る。
【0066】
「音響基音」という用語は、音のベース周波数又はコア周波数を示すために本明細書で用いられる場合がある。当該技術分野では公知のように、音響基音は、関連する音の最も低い周波数成分を含み、それに音響基音の整数積が加わる。音響基音のこれらの整数積は、当該技術分野では一般に「倍音」と呼ばれる。
【0067】
音響基音は、本明細書では、周波数122FR及び対応する振幅122AMPを有する要素122として示される。倍音は、本明細書では、倍音周波数値123FR及び対応する振幅123AMPを有する要素123として示される。
【0068】
いくつかの実施形態によれば、分析モジュール120は、期待SPL信号120Aにおける少なくとも1つの音響基音122の周波数122FRを識別し得る。いくつかの実施形態では、分析モジュール120は、特定の周波数通過帯域121APにおける少なくとも1つの音響基音周波数122FRを識別し、周波数ギャップ帯域121AGにおける少なくとも1つの音響基音周波数122FRの識別を差し控え得る。言い換えれば、周波数通過帯域121APに関連付けられる少なくとも1つの帯域固有SPL信号121BPについて、分析モジュール120は、少なくとも1つの音響基音122を、関連する周波数通過帯域121AP内の帯域固有SPL信号121BPによって表される優勢な音(例えば、最低周波数122FR及び/又は最高振幅122AMPを有する)として識別し得る。
【0069】
上記の例に関して、分析モジュール120は、(a)第1の周波数通過帯域121APにおける重低音の少なくとも1つの音響基音周波数122FR及び振幅122AMPを識別し、(b)第2の周波数通過帯域121APにおける低音の少なくとも1つの音響基音周波数122FR及び振幅122AMPを識別し、(c)第3の周波数通過帯域121APにおける低ボーカル音の少なくとも1つの音響基音周波数122FR及び振幅122AMPを識別し、及び/又は(d)第4の周波数通過帯域121APにおける中高ボーカル又は楽器音の少なくとも1つの音響基音周波数122FR及び振幅122AMPを識別し得る。
【0070】
図2に示すように、システム100は、1つ以上の帯域固有補償関数モジュール130を含み得る。いくつかの実施形態によれば、帯域固有補償関数モジュール130は、入力電気信号20を受信し、分析モジュール120と協働して、少なくとも1つの補償電気信号136Aを生成するように構成され得る。さらに、本明細書で詳述するように、1つ以上の帯域固有補償関数モジュール130は、重畳モジュール140と協働して、入力電気信号20の帯域固有補償又は調整を実行し、強化された電気信号140Aを生成し得る。
【0071】
本発明の実施形態に係る、1つ以上の帯域固有補償関数モジュール130(又は略して「補償モジュール130」)及び重畳モジュール140の動作を示す略ブロック図である、
図4Aも参照する。
【0072】
いくつかの実施形態によれば、分析モジュール120は、期待SPL信号120Aの特定の周波数通過帯域121APに関係するものとして少なくとも1つの音響基音122を識別し、識別された音響基音122の周波数122FR及び/又は振幅122AMPを、関連する帯域固有補償関数モジュール130に通信し得る。「関連する」という用語は、通信する補償関数モジュール130が、特定の周波数通過帯域121APのSPL信号121BPの処理専用である又はその処理に割り当てられるという意味で理解され得る。
【0073】
本明細書で詳述するように、その後、補償関数モジュール130は、識別された少なくとも1つの音響基音122の音響倍音123の周波数123FR及び/又は振幅123AMPに基づいて又はそれに対応して、入ってくる電気信号20の帯域固有の(例えば、通過帯域121AP内の)補償又は調整を実行し得る。
【0074】
いくつかの実施形態によれば、補償モジュール130(単数又は複数)は、識別された少なくとも1つの音響基音122の音響倍音123に対応する又はそれを表す、少なくとも1つの補償電気信号136Aを生成し得る。次いで、補償モジュール130(単数又は複数)は、重畳モジュール140と協働して、入ってくる電気信号20と少なくとも1つの補償電気信号136Aの関数として、本明細書では強化された電気信号140Aとも呼ばれる重畳電気信号140を生成し得る。例えば、重畳モジュール140は、入ってくる電気信号20に帯域固有補償電気信号136Aを加算又は累積するべく、入ってくる電気信号20と少なくとも1つの補償電気信号136Aに加重和関数を適用し、これにより、重畳電気信号140Aを生成し得る。
【0075】
重畳電気信号140Aは、電気音響変換器50の入力として作用して、後続の強化されたオーディオ信号50Aを生成し得るという意味で、強化された電気信号140Aと呼ばれる場合がある。「強化された」という用語は、この文脈では、オーディオ信号50Aが、電気音響変換器50の聴取者又はユーザに耳基準点(ERP)でのラウドネスレベルが増加したように知覚され、尚且つ、ユーザに歪んでいる又はクリアではないとは知覚されないことを示すために用いられる場合がある。
【0076】
本明細書で詳述するように、重畳モジュール140は、事前定義された要件及び/又はシナリオに従って、強化された電気信号140Aでの補償電気信号136Aの重みを修正し得る。言い換えれば、重畳モジュール140は、少なくとも1つの帯域固有補償電気信号136Aに少なくとも部分的に基づいて電気音響変換器50のラウドネスを制御するべく、重畳信号を入力として電気音響変換器に提供し得る。
【0077】
補償モジュール130は、本明細書で詳述するように、オーディオ信号50Aが歪んでいると知覚されることを回避するために、各周波数帯域121Aの識別された音響基音122周波数122FRが別々に又は帯域ごとに異なる様態で処理され得るという意味で「帯域固有」であり得る。
【0078】
いくつかの実施形態によれば、補償モジュール130は、音響基音周波数122FR及びそれぞれの音響基音振幅122AMPの値を(例えば、分析モジュール120から)受信するように構成された倍音補償モジュール134を含み得る。
【0079】
本発明の実施形態に係る、帯域固有補償モジュール130によって提供される帯域固有補償関数を示す概略的なグラフである、
図4Bも参照する。
【0080】
図4Bの例に示すように、期待SPL信号120Aは、複数のフィルタ121によって複数の通過帯域121AP及び/又はギャップ帯域121AGに分割され得る(したがって、帯域固有SPL信号121Bを生じる)。通過帯域1における音響基音122は、50Hzの周波数122FRを有する概略的なデルタ関数として表される。
【0081】
その後、倍音補償モジュール134は、受信した音響基音値122FR、122AMPに基づいて、それぞれの倍音周波数値123FR及び対応する倍音振幅値123AMPを有する1つ以上の倍音123を決定又は追加し得る。
【0082】
1つ以上の倍音値123FR、123AMPは、例えば、音響基音周波数122FRの倍音に対応する、1つ以上の倍音周波数値123FRを含み得る。言い換えれば、1つ以上の倍音周波数値123FRは、音響基音周波数122FRの整数積値であり得る。
【0083】
いくつかの実施形態によれば、周波数通過帯域121APに関連付けられる少なくとも1つの帯域固有SPL信号121BPについて、倍音補償モジュール134は、それぞれの周波数通過帯域に基づいて、識別された少なくとも1つの音響基音122の1つ以上の音響倍音123の周波数123FRを決定し得る。例えば、倍音補償モジュール134は、第1の周波数通過帯域121APにおける第1の基音122についての第1の数の倍音を決定し、第2の周波数通過帯域121APにおける第2の基音122の第2の異なる数の倍音を決定するように構成され得る。
【0084】
さらに又は代替的に、倍音補償モジュール134は、それぞれの周波数通過帯域121APに基づいて、1つ以上の音響倍音周波数123FRに対応する、1つ以上の音響振幅123AMPを決定し得る。例えば、倍音補償モジュール134は、第1の周波数通過帯域121APにおける第1の倍音についての第1の振幅123AMPを決定し、第2の周波数通過帯域121APにおける第2の倍音についての第2の異なる振幅123AMPを決定するように構成され得る。
【0085】
さらに又は代替的に、倍音補償モジュール134は、第1の周波数通過帯域121APにおける基音122に由来する第1の倍音についての第1の振幅123AMPを決定し、第2の周波数通過帯域121APにおける基音122に由来する第2の倍音についての第2の異なる振幅123AMPを決定するように構成され得る。
【0086】
例えば、
図4Bに示すように、倍音補償モジュール134は、通過帯域(121AP)1及び2における2次から4次(範囲Aで示される)の倍音123と、通過帯域(121AP)3における40次から80次(範囲Bで示される)の倍音を生じ得る。
【0087】
したがって、倍音補償モジュール134は、1つ以上の対応する音響振幅123AMPでの1つ以上の音響倍音123の周波数123FRのSPLを表す、少なくとも1つの倍音SPL信号124を生成し得る。
【0088】
さらに又は代替的に、倍音補償モジュール134は、ギャップ帯域121AGにおける、又はギャップ帯域121AGにおける基音122に由来する、倍音123の生成を差し控え得る。言い換えれば、周波数ギャップ帯域121AGに関連付けられる少なくとも1つの帯域固有SPL信号について、倍音補償モジュール134は、それぞれの倍音SPL信号の生成を差し控え得る。
【0089】
本明細書で説明されるように、1つ以上の倍音振幅値123AMPは、音響基音122のそれぞれの1つ以上の倍音周波数値123FRの振幅を表し得る。伝達関数50HとERPでのSPL120が既知であることから、倍音補償モジュール134は、事前定義されたルール又は構成に基づいて、音の印象に悪影響を及ぼすことなく、例えば、聴取者に歪んでいると知覚されることなく、オーディオ信号50Aのラウドネスが強化されるように、1つ以上の倍音値(例えば、倍音周波数123FR及びそれぞれの倍音振幅123AMP)を決定し得る。
【0090】
例えば、倍音補償モジュール134は、期待SPLグラフ120Aがピークを示す基音周波数122FRに対して、周波数123FRでの倍音成分123の追加を回避するように構成され得る。
【0091】
さらに又は代替的に、倍音補償モジュール134は、期待SPLグラフ120Aがトラフを示す倍音周波数123FRを有する倍音成分123を追加するように構成され得る。
【0092】
さらに又は代替的に、倍音補償モジュール134は、特定の倍音振幅123AMP(倍音振幅123AMPは、倍音周波数123FRでの期待SPLグラフ120の振幅に基づいて選択される)での倍音周波数123FR成分を追加するように構成され得る。
【0093】
さらに又は代替的に、倍音補償モジュール134は、(a)期待SPLグラフ120が(例えば、事前定義された閾値を下回る)低振幅を呈する又は含む周波数において高振幅123AMPを有する倍音周波数123FR成分を追加し、(b)期待SPLグラフ120が(例えば、事前定義された閾値を上回る)高振幅を呈する又は含む周波数において低振幅123AMPを有する倍音周波数123FR成分を追加し得る。
【0094】
さらに又は代替的に、倍音補償モジュール134は、期待SPL周波数グラフ120Aの特定の周波数帯域121Aに基づいて、識別された少なくとも1つの音響基音122の1つ以上の音響倍音周波数123FRを決定し得る。
【0095】
さらに又は代替的に、倍音補償モジュール134は、期待SPL周波数グラフ120Aの特定の周波数帯域121Aに基づいて、1つ以上の音響倍音周波数123FRのそれぞれの1つ以上の音響倍音振幅123AMPを決定し得る。
【0096】
音響倍音周波数123FR及びそれぞれの振幅のそのような帯域固有の決定により、強化されたオーディオ信号50Aを聞くときに歪みの感覚が生じるのを回避することができることが理解されるであろう。
【0097】
例えば、(a)第1の周波数帯域121A(例えば、15Hz~50Hzの121AP)について、倍音補償モジュール134は、それぞれの第1の振幅123AMPを有する音響倍音周波数123FRの第1の数又はセットを決定し、(b)第2の周波数帯域121A(例えば、250Hz~1KHzの121AP)について、倍音補償モジュール134は、それぞれの第2の振幅123AMPを有する音響倍音周波数123FRの第2の数又はセットを決定し、以下同様であり得る。
【0098】
いくつかの実施形態によれば、補償モジュール130は、倍音補償モジュール134から1つ以上の倍音周波数123FR及びそれぞれの1つ以上の倍音振幅123AMPを受信するように適合された補償信号発生器136を含み得る。
【0099】
補償信号発生器136は、伝達関数データ要素50Hを使用して帯域固有の補償電気信号136Aを生成するように構成された回路を含み得る。補償電気信号136Aは、それぞれの1つ以上の音響倍音振幅123AMPでの1つ以上の音響倍音周波数123FRを含む少なくとも1つの音響倍音SPL信号124に対応し得る又は基づき得る。
【0100】
言い換えれば、補償信号発生器136は、式1Bの伝達関数H(f)の情報(伝達関数データ要素50Hによって表される)を使用して、それぞれの1つ以上の音響振幅123AMPを有する1つ以上の音響倍音周波数123FR成分に対応する補償電気信号136Aを生成し得る。
【0101】
補償電気信号136Aが電気音響変換器50への入力として使用される場合、電気音響変換器50は、(伝達関数H(f)50Hに基づいて)それぞれの決定された倍音振幅123AMPでの決定された倍音周波数123FRを含むオーディオ信号50Aを生成するという意味で、補償電気信号136Aは、本明細書では、識別された少なくとも1つの音響基音122の音響倍音SPL信号124に「対応する」と言われる場合がある。
【0102】
補償信号発生器136が、識別された音響基音122と特定の周波数帯域121Aとの関連性に応じて異なる補償電気信号136Aを生成し得るという意味で、補償電気信号136Aは、本明細書では「帯域固有」と言われる場合がある。
【0103】
いくつかの実施形態によれば、補償信号発生器136は、少なくとも1つの倍音SPL信号124に伝達関数50Hの逆関数を適用してそれぞれの帯域固有補償電気信号136Aを生成するためのハードウェアモジュールとソフトウェアモジュールの組み合わせとして実装され得る。
【0104】
例えば、倍音SPL信号124は、必要とされる音響倍音123のデジタル信号又はデジタル表現であり得る。補償信号発生器136は、プロセッサ110(
図1のプロセッサ2など)と協働して、電気音響変換器の伝達関数50の逆バージョンを表す、逆伝達関数データ要素50’を生成(例えば、
図1の入力7を介して受信又は計算)し得る。次いで、補償信号発生器136は、少なくとも1つの倍音SPL信号124に逆伝達関数を適用して(例えば、式1Bと同様の様態で)、必要とされる補償電気信号136Aのそれぞれの帯域固有のデジタル表現を生成し得る。その後、補償信号発生器136は、デジタル-アナログ変換器を適用して、アナログの帯域固有の補償電気信号136Aを生成し得る。補償信号136Aは、(i)1つ以上の音響倍音周波数、及び(ii)それぞれの帯域固有の倍音SPL信号124の対応する1つ以上の音響振幅を表し得る。
【0105】
本発明の実施形態に係る、電気音響変換器のラウドネスを制御するためのシステム100の機能の態様を示す概略図である、
図4Cも参照する。
【0106】
図4Cに示すように、モジュール120は、フィルタ121を適用して、入ってくる信号20の処理を複数の帯域固有のチャネルに分割し得る。帯域固有補償関数モジュール130はそれぞれ、帯域固有補償電気信号136Aを生成し得る、したがって、複数の帯域固有補償電気信号136Aを生じる。重畳モジュール140は、入ってくる信号20に複数の帯域固有補償電気信号136Aを加算、合計、又は累積して(例えば、加重和関数によって)、単一の、統合された、強化された電気信号140Aを生成し得る。
【0107】
さらに又は代替的に、各補償電気信号136Aは、音響倍音123の周波数123FRの固有のセットに対応し、重畳電気信号140Aは、補償電気信号136Aと入ってくる電気信号20の加重和関数として生成され得る。さらに又は代替的に、各補償電気信号136Aは、1つ以上の倍音SPL信号124の固有のグループに対応し、重畳電気信号140Aは、少なくとも1つの補償電気信号136A及び入ってくる電気信号20の加重和関数として生成され得る。
【0108】
例えば、第1の帯域固有補償関数モジュール130の補償信号発生器136は、第1の周波数通過帯域121APに属する又は含まれるものとして識別される第1の音響基音122について、第1の帯域固有補償電気信号136Aを生成し、第2の帯域固有補償関数モジュール130の補償信号発生器136は、第2の周波数通過帯域121APに属する又は含まれるものとして識別される第2の音響基音122について、第2の帯域固有補償電気信号136Aを生成し、以下同様であり得る。
【0109】
いくつかの実施形態によれば、重畳モジュール140は、法的規制及び制限を遵守するべく複数の帯域固有補償電気信号136Aと入ってくる電気信号20の重畳又は加重和を実行して、重畳信号140Aを生成するように構成され得る。追加された倍音周波数成分123FRの周波数及び振幅と伝達関数H(f)は既知であるため、重畳モジュール140は、最大SPLの法的制限を決して超えないことを保証することができる。
【0110】
いくつかの実施形態によれば、システム100は、重畳信号140Aの入力に応じた電気音響変換器50によって生成される音響パワーを表す時間的音響パワー値140Cを取得し、得られた音響パワー値140Cに基づいて、加重和関数における倍音成分123及び/又は入ってくる信号20の1つ以上の重みを調整し得る。
【0111】
例えば、プロセッサ110は、伝達関数50H(例えば、式1BのH(f))を適用して、重畳信号140Aの期待SPLグラフ140Bを計算し得る。その後、重畳モジュール140は、例えば、可聴帯域幅にわたるSPLグラフ140Bの信号二乗積分として、重畳信号140Aのパワー140Cを計算し得る。すべてのSPL120A帯域121Aにおける倍音成分123のパワーの寄与によって重畳信号140Aのパワー140Cが事前定義された制限を超える場合、重畳モジュール140は、例えば、重畳信号140Aの生成において入ってくる信号20の重みを減少させ得る。例えば、(a)重畳信号140Aのパワー140Cの値が事前定義された制限に達しており、(b)すべてのSPL120A帯域における倍音周波数成分123の寄与が元の信号20の10%の合計割合になる場合、重畳モジュール140は、重畳信号140Aの生成において元の入ってくる信号20の一部を0.83dB(デシベル)だけ減少させ得る。
【0112】
いくつかの実施形態によれば、システム100は、重畳信号140Aを電気音響変換器50への入力として送信又は提供し得る。本明細書で詳述するように、元の入力電気信号20に補償電気信号136Aを追加又は重畳することにより、(a)安全規制を遵守する、(b)個人の累積音響量を考慮に入れる、(c)個々の聴取者にとって満足のいくラウドネスを提供する、及び(d)気付くほどの音の歪みの感覚を回避する様態で電気音響変換器のラウドネスを制御する、ことができる。
【0113】
いくつかの実施形態によれば、補償モジュール130は、必要とされる音響強化効果をもたらすために複数の動作モードで使用され得る。そのような各動作モードは、本明細書で詳述するように、特定の条件又はシナリオに関連し得る。
【0114】
例えば、第1の動作モードは、本明細書では「強化一定」動作モードと呼ばれる場合がある。強化一定動作モードでは、補償モジュール130は、必要とされる音量設定40に関係なく、倍音成分(例えば、倍音周波数123FR及びそれぞれの倍音振幅123AMPを有する成分)を追加し得る。言い換えれば、強化一定動作モードでは、補償モジュール130は、すべてのSPL周波数帯域121Aにおいて事前定義された量(例えば、総パワー140Cの10%)の倍音成分を追加し得る。
【0115】
別の動作モードは、本明細書では「音量強化増加」動作モードと呼ばれる場合がある。音量強化増加動作モードでは、補償モジュール130は、必要とされる総音量40が増加するにつれて、倍音成分123を追加し得る、及び/又は総パワー140Cにおける倍音成分123の一部(例えば振幅)を増加させ得る。例えば、1つ以上の(例えばすべての)周波数帯域121BPにおける追加の倍音成分123(例えば、倍音成分123及び/又はそれらの振幅123AMPの数)が寄与するパワーの量は、パワー140Cの0%で始まって最大音量設定での最大値(例えば10%)まで、音量要求40の増加に比例して増加し得る。
【0116】
別の動作モードは、本明細書では「音量強化最大」動作モードと呼ばれる場合がある。音量強化最大動作モードでは、補償モジュール130は、必要とされる音量40が事前定義された閾値又は制限値(例えば、最大値、最大値よりも10%、20%、30%低いなどの値、又は任意の他の事前定義された制限)に達したときに、倍音成分123を追加し得る、及び/又は総パワー140Cにおける倍音成分の一部(例えば振幅123AMP)を増加させ得る。例えば、ヘッドホンの必要とされる最大音量設定40に達すると、補償モジュール130は、パワー140Cにおける追加の倍音成分123の一部のみを例えば0%から10%まで増加させ得る。
【0117】
別の動作モードは、本明細書では「ドシメータ強化」モードと呼ばれる場合がある。いくつかの実施形態によれば、システム100は、時間的音響パワー140Cを受信し、所定の時間枠(例えば、移動時間枠)にわたってパワー140Cの総量を合計又は積分して、音響ドーズ値160Aを生成するように構成された、パーソナライズされたドシメータモジュール160を含み得る。言い換えれば、パーソナライズされたドシメータ160は、過去の事前定義された時間枠にわたるパワー140Cの積分を表す、ドーズデータ要素160Aを生成し得る。次いで、重畳モジュール140が、音響ドーズ値に基づいて(例えば、事前定義されたドーズ制限を超えることを回避するべく)、加重和関数における倍音成分123及び/又は入ってくる信号20の1つ以上の重みを調整し得る。
【0118】
いくつかの実施形態によれば、ドシメータ160は、特定の聴取者又はユーザの使用に合わせてパーソナライズされ得る。例えば、事前定義された時間枠は、1時間、1日、及び/又は1週間であってもよく、ドーズデータ要素160Aは、過去1時間、1日、及び/又は1週間にわたって特定の聴取者によって吸収された音響パワー(例えば、音響エネルギー)の積分を表し得る。ドシメータモジュール160は、特定のドーズ160Aを特定のユーザ又は聴取者に関連付け得る、したがって、音響信号50Aのパーソナライズされた強化及び/又は制限を容易にし得るという意味で、本明細書では「パーソナライズされた」と言われる場合がある。
【0119】
例えば、ドシメータモジュール160は、識別器モジュール150を含み得る又は識別器モジュール150に通信可能に接続され得る。識別器モジュール150は、例えば、電気音響変換器50(例えば、ヘッドホンセット)が使用されるときにはいつでも、電気音響変換器の1人以上のユーザのIDを表す1つ又は複数のIDデータ要素150A(例えば、名前、シリアルナンバーなど)を(例えば、
図1の入力デバイス7を介して)受信するように構成され得る。この文脈において、「使用される」という用語は、電気音響変換器又はヘッドホンが人の耳に配置される及び/又はオーディオ信号50Aが生成される状態を指す場合がある。したがって、ドシメータモジュール160は、移動時間枠にわたってパワー140Cを累積して、パーソナライズされたドーズ160Aを生成し、パーソナライズされたドーズ160Aを識別されたユーザと関連付け得る。
【0120】
ドシメータ強化動作モードでは、補償モジュール130及び/又は重畳モジュール140は、IDデータ要素150Aにさらに基づいて加重和関数の1つ以上の重みを調整し得る。例えば、補償モジュール130は、パーソナライズされたドーズ160Aに従って、倍音成分を追加し得る及び/又は総パワー140Cにおける倍音成分の一部(例えば振幅)を増加させ得る。
【0121】
例えば、パーソナライズされたドーズ160Aは、特定の聴取者が1日又は1週間の最大ドーズに達したことを示し得る。代替的に、パーソナライズされたドーズ160Aは、特定の聴取者が1日又は1週間のドーズの特定の割合(例えば、1日又は1週間のドーズの75%、1日又は1週間のドーズの90%など)に達したことを示し得る。このような実施形態では、補償モジュール130及び/又は重畳モジュール140は、(a)重畳信号140Aにおける倍音成分の割合を増加させ、(b)重畳信号140の全体の振幅を減少させ得る。このような設定は、パワー140Cを減少させ、尚且つ、特定のユーザ又は聴取者に満足のいくラウドネス感覚を提供し得る。
【0122】
図5は、本発明のいくつかの実施形態に係る、
図1のプロセッサ2(
図2のプロセッサ110と同じであり得る)などの少なくとも1つのプロセッサによって電気音響変換器(例えば
図2の要素50)のラウドネスを制御する方法を示す流れ図である。
【0123】
本明細書で詳述するように、プロセッサ2は、1つ以上のソフトウェアモジュール及び/又はハードウェアモジュール(例えば、
図2のシステム100の分析モジュール120、補償モジュール130、重畳モジュール140、ドシメータ160、及び/又は識別器150)を制御して又はこれらと協働して、
図2の重畳信号140Aを生成し得る。次いで、重畳信号140を電気音響変換器50の入力として使用して、強化されたオーディオ信号50Aを生成し得る。
【0124】
ステップS1005に示すように、少なくとも1つのプロセッサ2(例えば、110)は、(a)電気音響変換器50への電気的入力(例えば、
図2の要素20)と(b)電気音響変換器50の出力音圧レベル(例えば、
図3AのSPL50A’)との間の伝達関数(例えば、
図3A、
図3BのH(f))を表す伝達関数データ要素(例えば、
図2の要素50H)を受信し得る。
【0125】
ステップS1010に示すように、少なくとも1つのプロセッサ2は、分析モジュール120と協働して、入力電気信号に伝達関数H(f)を適用し得る。したがって、プロセッサ2は、電気音響変換器50の
図2及び/又は
図3Cの期待SPL周波数グラフ120Aを生成し得る。
【0126】
ステップS1015に示すように、少なくとも1つのプロセッサ2は、期待SPL周波数グラフ120Aにおける
図2の少なくとも1つの音響基音122を識別し得る。
【0127】
ステップS1020に示すように、少なくとも1つのプロセッサ2は、1つ以上の帯域固有補償関数モジュール130と協働して、1つ以上の帯域固有補償電気信号136Aを生成し得る。1つ以上の帯域固有補償電気信号136Aは、識別された少なくとも1つの音響基音122の音響倍音信号にそれぞれ対応し得る。
【0128】
例えば、(a)第1の周波数帯域121APに属する又は含まれるものとして識別される第1の音響基音120Bについて、第1の帯域固有補償関数モジュール130は、第1の帯域固有補償電気信号136Aを生成し、(b)第2の周波数帯域121APに属する又は含まれるものとして識別される第2の音響基音122について、第2の帯域固有補償関数モジュール130は、第2の帯域固有補償電気信号136Aを生成し、以下同様であり得る。
【0129】
ステップS1025に示すように、少なくとも1つのプロセッサ2は、重畳モジュール140と協働して、入力電気信号20と補償電気信号(単数又は複数)136Aに基づいて
図2の重畳140を生成し得る。
【0130】
ステップS1030に示すように、少なくとも1つのプロセッサ2は、重畳信号140を入力として電気音響変換器50に提供し、したがって、(a)安全規制を遵守し、(b)個人の音響量の累積を考慮に入れ、(c)個々の聴取者にとって満足のいくラウドネスを提供し、及び(d)気付くほどの音の歪みの感覚を回避する様態で電気音響変換器のラウドネスを制御し得る。
【国際調査報告】