(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】腱修復のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/16 20150101AFI20241108BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241108BHJP
A61P 19/04 20060101ALI20241108BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20241108BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
A61K35/16
A61P43/00 105
A61P19/04
A61K47/42
A61L31/04 100
A61L31/04 120
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529188
(86)(22)【出願日】2022-11-16
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 US2022050121
(87)【国際公開番号】W WO2023091497
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501083115
【氏名又は名称】メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100225598
【氏名又は名称】桐島 拓也
(72)【発明者】
【氏名】アッタ ベーファー
(72)【発明者】
【氏名】マシュー ティー.ホウデク
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4C076BB40
4C076CC26
4C076EE43
4C076FF68
4C081AB18
4C081CD12
4C081CE02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB35
4C087MA05
4C087NA14
4C087ZA31
4C087ZB21
(57)【要約】
組成物は、精製エクソソーム産物(PEP)と、支持マトリックスを含む薬剤的に許容できる担体と、を含む。この支持マトリックスは、コラーゲン足場、組織シーラント、又はフィブリンシーラントを含み得る。損傷した腱組織を修復する方法は、通常、PEPと薬剤的に許容できる担体とを含む組成物を損傷した腱組織に塗布することを含む。1又は複数の実施形態では、損傷した腱組織に塗布される組成物は支持マトリックスを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製エクソソーム産物(PEP)、及び、
支持マトリックスを含む薬剤的に許容できる担体、
を含む、組成物。
【請求項2】
前記PEPが300nm以下の直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記PEPが110nm±90nmの平均直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記PEPが110nm±50nmの平均直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記PEPが110nm±30nmの平均直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記PEPが、
1%~20%のCD63
-エクソソーム、及び、
80%~99%のCD63
+エクソソーム、
を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物:。
【請求項7】
前記PEPが少なくとも50%のCD63
-エクソソームを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記PEPが1×10
11個のPEPエクソソーム~1×10
13個のPEPエクソソームを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記PEPが1×10
12個のPEPエクソソーム~1×10
13個のPEPエクソソームを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記支持マトリックスがコラーゲン足場を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記コラーゲン足場がI型線維性コラーゲンを含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物を損傷した腱組織に塗布することを含む、損傷した腱組織を治療する方法。
【請求項13】
前記組成物なしで治療された損傷した腱組織と比較して、癒着発生を減少させるのに有効な量で前記組成物が塗布される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物なしで治療された損傷した腱組織と比較して、III型コラーゲンに対するI型コラーゲンの比率を増加させるのに有効な量で前記組成物が塗布される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物なしで治療された損傷した腱組織と比較して、より組織化されたコラーゲン構築をもたらすのに有効な量で前記組成物が塗布される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記損傷した腱組織が腱の破壊を含む、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記腱の破壊が腱の断裂を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記腱の断裂がアキレス腱断裂を含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月16日に出願された米国仮特許出願第63/279,839号の利益を主張するものであり、当該米国仮特許出願はその全体が参照によって本明細書に援用される。
【発明の概要】
【0002】
本開示は、1つの態様において、精製エクソソーム産物(PEP)と、支持マトリックスを含む薬剤的に許容できる担体と、を通常含む組成物を記載している。
【0003】
1又は複数の実施形態では、上記PEPは、300nm以下の直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む。
【0004】
1又は複数の実施形態では、上記PEPは、110nm±90nmの平均直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む。これらの実施形態のうちの1又は複数では、上記PEPは、110nm±50nmの平均直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む。これらの実施形態のうちの1又は複数では、上記PEPは、110nm±30nmの平均直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む。
【0005】
1又は複数の実施形態では、上記PEPは、1%~20%のCD63-エクソソーム、及び80%~99%のCD63+エクソソームを含む。これらの実施形態のうちの1又は複数では、上記PEPは、少なくとも50%のCD63-エクソソームを含む。
【0006】
1又は複数の実施形態では、上記PEPは、1×1011個のPEPエクソソーム~1×1013個のPEPエクソソームを含む。これらの実施形態のうちの1又は複数では、上記PEPは、1×1012個のPEPエクソソーム~1×1013個のPEPエクソソームを含む。
【0007】
1又は複数の実施形態では、上記支持マトリックスは、コラーゲン足場を含む。これらの実施形態のうちの1又は複数では、上記コラーゲン足場は、I型線維性コラーゲンを含む。
【0008】
別の態様において、本開示は、本明細書に記載の組成物を損傷した腱組織に塗布することを含む、損傷した腱組織を治療する方法を記載している。
【0009】
1又は複数の実施形態では、上記組成物は、上記組成物なしで治療された損傷した腱組織と比較して、癒着発生を減少させるのに有効な量で塗布される。1又は複数の実施形態では、上記組成物は、上記組成物なしで治療された損傷した腱組織と比較して、III型コラーゲンに対するI型コラーゲンの比率を増加させるのに有効な量で塗布される。
【0010】
1又は複数の実施形態では、上記組成物は、上記組成物なしで治療された損傷した腱組織と比較して、より組織化されたコラーゲン構築をもたらすのに有効な量で塗布される。
【0011】
1又は複数の実施形態では、上記損傷した腱組織は、腱の破壊を含む。これらの実施形態のうちの1又は複数では、上記腱の破壊は、腱の断裂を含む。これらの実施形態のうちの1又は複数では、上記腱の断裂は、アキレス腱断裂を含む。
【0012】
上記の概要は、開示された実施形態のそれぞれを説明することも、本発明のあらゆる実施を説明することも意図していない。以下の記述は説明を目的とした実施形態をより具体的に例示するものである。本願の随所で、例を挙げて手引きを行っているが、これらの例は様々な組み合わせで用いることができる。それぞれの場合で、上記の列挙は代表的な群としてのみ働き、排他的な列挙と解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1Aは、後肢に手術前準備とドレーピングを行なった腹臥位のウサギを示す外科的手法である。(A)踵骨結節から1.5cm近位を中心とする2センチメーター(cm)の切開を行なった。
図1Bは、後肢に手術前準備とドレーピングを行なった腹臥位のウサギを示す外科的手法である。(B)腱傍結合組織を切開し、浅指屈筋(FDS)を識別し、分離した。
図1Cは、後肢に手術前準備とドレーピングを行なった腹臥位のウサギを示す外科的手法である。(C)アキレス腱を識別し、分離した。
図1Dは、後肢に手術前準備とドレーピングを行なった腹臥位のウサギを示す外科的手法である。(D)腱切除術をアキレス腱に行なった。
図1Eは、後肢に手術前準備とドレーピングを行なった腹臥位のウサギを示す外科的手法である。(E)全ての群にケスラー主縫合変法を行なった。
図1Fは、後肢に手術前準備とドレーピングを行なった腹臥位のウサギを示す外科的手法である。(F)第2群と第3群においては、腱切除部位に足場を設置し、その後に最終縫合固定を行なった。
図1Gは、後肢に手術前準備とドレーピングを行なった腹臥位のウサギを示す外科的手法である。(G)切開部を吸収性縫合糸で閉鎖した。
図1Hは、後肢に手術前準備とドレーピングを行なった腹臥位のウサギを示す外科的手法である。(H)後肢を、股関節スパイカ様ギプス包帯で150°の角度で3~6週間固定した。
図1Iは、後肢に手術前準備とドレーピングを行なった腹臥位のウサギを示す外科的手法である。(I)後肢を、股関節スパイカ様ギプス包帯で150°の角度で3~6週間固定した。
【
図2】
図2Aは、腱修復の評価。(A)各群の3週間時点及び6週間時点での破断荷重。
図2Bは、腱修復の評価。(B)各群の3週間時点及び6週間時点での極限引張強度。
図2Cは、腱修復の評価。(C)PEP処置群では6週間までに断面積が減少した(p=0.04)。
図2Dは、腱修復の評価。(D)ヤング率はPEP処置群でより大きく(p=0.01)、経時的に増加した(p≦0.03)。
【
図3】
図3は、腱修復の評価。(左)各群の断面積(「CSA」と標識)に対するヤング率。(右)各群の断面積(「CSA」と標識)に対する極限引張強度。ヤング率及び断面積に関する有意な群間相互作用が見られ(p=0.03)、対照群と比較してPEP処置群で断面積当たりのスティフネスが高くなった。極限引張強度及び断面積に関しては有意な群間相互作用はなかった(p=0.84)。
【
図4-1】
図4Aは、各エンドポイントにおける各群の検体、及び正常な反対側の未処置腱のトリクソーム染色。
【
図4-2】
図4Bは、各エンドポイントにおける各群の検体、及び正常な反対側の未処置腱のヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色。画像は、PEP処置群において、コラーゲンがより組織化され、より高密度であり、周辺部の癒着がより少なく、正常腱により類似していることを示している。
【
図5】
図5Aは、腱修復の評価。(A)各群の3週間時点及び6週間時点の肉眼下での癒着グレード評価。
図5Bは、腱修復の評価。(B)各群の3週間時点及び6週間時点の顕微鏡下での癒着グレード評価。第3群は、肉眼下(p=0.0006)及び顕微鏡下(p=0.0062)の両方で有意に少ない癒着を示した。
【
図6】
図6は、6週間時点における切開後の腱の癒着を示す図である。癒着は、肉眼下では、PEP+コラーゲン群(右)と比較して、対照群(左)及びコラーゲン単独群(中央)においてより大きかった(p=0.0006)。
【
図7】
図7Aは、腱修復の免疫組織化学的評価。(A)各群及び正常な反対側の未処置腱から得られた検体のI型コラーゲンに対する免疫組織化学染色。
図7Bは、腱修復の免疫組織化学的評価。(B)各群及び正常な反対側の未処置腱から得られた検体のIII型コラーゲンに対する免疫組織化学染色。画像は、未処置の正常腱で観察される染色と類似した、PEP処置腱における、I型コラーゲンの染色強度の増加とIII型コラーゲンの染色強度の減少を示している。
【
図8】
図8は、PEP処置腱のP-セレクチン及びKi-67に対する免疫組織化学染色。画像は、Ki-67に対する免疫反応性を示しているが、P-セレクチンに対する反応性は示されておらず、このことは、全てのPEPエクソソームが、隣接細胞によって再吸収されたことを示している。
【
図9】
図9は、MTS試験の固定具の画像。腱の踵骨側端は近位端で溝入りプレートに据え付け、筋腱接合部は遠位にクランプした。遠位クランプをドライアイスで凍結させ、クランプと組織の摩擦を増加させた。FDS腱は、生体内では内部スプリントとして働くが、生体外では機械特性試験の妨げになるであろうことから、試験前に切断した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、損傷した腱組織の修復を改善するための組成物及び方法を記載している。通常、上記組成物は、損傷した腱組織に適用される精製エクソソーム産物(PEP)を含む。本明細書ではアキレス腱を含む例示的な腱修復モデルと関連付けて説明されているが、本明細書に記載の方法は、あらゆる身体部位のあらゆる損傷した腱を修復及び/又は治療するために実施されてよい。
【0015】
腱損傷(例えば、アキレス腱損傷)は、急性(外傷性)であることや慢性(変性)であることがある。腱組織は、筋肉や骨のような組織と比較して、代謝率が低く、細胞充実性が限定されており、且つ/又は血管分布が乏しいという傾向があることから、腱の治癒は典型的にはゆっくりとしたプロセスである。また、腱の損傷と修復後に形成された瘢痕は生来の腱よりも機械的に劣っていることが常であり、これは再断裂、持続痛、及び/又は機能的能力減少をもたらす可能性があり、患者の仕事やレクリエーション活動への復帰が遅れることに繋がり得る。
【0016】
現在の腱損傷の診療は非手術療法又は手術療法のいずれかを含む。例えば、アキレス腱裂傷の非手術療法は、早期可動域プロトコル及び荷重負荷プロトコルを伴う、静止尖足位での機能的装具療法やギプス療法を含む。手術療法は様々であるが、一般的には、縫合修復後に、軽く底屈させた状態で4~6週間固定し、その後、種々の早期可動域プロトコル及び荷重負荷プロトコルを行うことを含む。非手術的療法は手術的療法と比較して同等の機能的帰結をもたらすことができる一方で、非手術的療法は再断裂率がより高いことが繰り返し示されている。手術的療法と非手術的療法のどちらの選択肢でも、腱は、以下でより詳細に説明されるような、癒着形成を促す外因的過程を介して治癒する。
【0017】
腱の治癒は、内因的治癒、外因的治癒、又はこれら2つの組み合わせであり得る。内因的治癒(腱の中からの治癒)は、機械的強度の点でより優れた帰結をもたらし、生来の組織との組織学的類似性がより高い。外因的治癒は、定義では、周囲の腱鞘又は軟部組織から細胞が損傷部位に遊走することを必要とする。主に外因的治癒を起こしている組織は、未成熟線維やIII型コラーゲンの量が多くなったことから、より高い再断裂率を示した。新しく形成された組織内のII型コラーゲンに対するIII型コラーゲンの割合が増加した場合、典型的には、当該腱の機械的強度が減少することにより、再断裂のリスクが増加する。腱損傷の現行の治療法は、外因的治癒の加速と、早期運動プロトコルの最適化とに焦点を当てている。これらの治療法は有益であることが示されてはいるが、固有の本来備わっている治癒が不充分であるという根底にある問題に取り組んでいない。
【0018】
PEPは、従来法を用いて調製されたエクソソームとは異なる構造を有する生成物が得られる凍結乾燥(cryodesiccation)工程を用いて調製される精製エクソソーム産物である。例えば、PEPは、結晶構造ではなく、球状構造又は楕円体構造を典型的に有する。球状又は楕円体のエクソソーム構造は、通常、300ナノメートル(nm)以下の直径を有する。典型的には、PEP調製物は、比較的狭いサイズ分布を有する球状又は楕円体のエクソソーム構造を含有する。調製物によっては、PEPは、110nm±90nmの平均直径を有する球状又は楕円体のエクソソーム構造を含み、そのエクソソーム構造の大部分は、110nm±50nmの平均直径を有し、例えば、110nm±30nmなどの平均直径を有する。
【0019】
未改質のPEP調製(すなわち、当該調製物中のエクソソーム集団の選別や分離によりその特性が変化を受けていないPEP調製物)は、CD63+エクソソームとCD63-エクソソームの混合物を天然に含む。CD63-エクソソームは無制限の細胞増殖を阻害し得るため、CD63+エクソソームとCD63-エクソソームを天然に含む未改質PEP調製物は、傷の修復及び/又は組織の再生のための細胞増殖を刺激し、且つ、無制限の細胞増殖を制限することができる。
【0020】
さらに、CD63+エクソソームを選別することにより、自然に分離されたPEP調製物からCD63+エクソソームを取り出した後、望ましい量のCD63+エクソソームを戻すことで、PEP産物中のCD63-エクソソームに対するCD63+エクソソームの比率を調節できる。1又は複数の実施形態では、PEP調製物は、CD63-エクソソームのみを含むことがある。
【0021】
1又は複数の実施形態では、PEP調製物は、CD63+エクソソーム及びCD63-エクソソームの両方を含むことがある。CD63-エクソソームに対するCD63+エクソソームの比率は、少なくとも部分的には、特定の適用において望まれる細胞増殖の量によって異なり得る。例えば、CD63+/CD63-エクソソーム率は、CD63+エクソソームが誘導する所望の細胞増殖と、細胞接触阻止を介して達成されるCD63-エクソソームがもたらす細胞増殖阻害と、をもたらす比率である。非接着性細胞が存在する組織(例えば、血液由来成分)などの特定のシナリオでは、この比率は、治療されている組織にとって細胞増殖や細胞阻害のバランスが適切となるように調整される場合がある。例えば、非接着性細胞を含む組織においては、細胞間接触がきっかけとならないため、制御されない細胞増殖を回避するために、CD63+エクソソーム率を下げる場合がある。逆に、自家細胞ベースの治療法又は免疫療法などで、クローン細胞集団を増殖させることが望ましいのであれば、非常に少ない供給源から大きな細胞集団を得ることができるように、CD63+エクソソームの比率を上げればよい。
【0022】
よって、1又は複数の実施形態では、PEP調製物中のCD63-エクソソームに対するCD63+エクソソームの比率は、少なくとも1:1、少なくとも2:1、少なくとも3:1、少なくとも4:1、少なくとも5:1、少なくとも6:1、少なくとも7:1、少なくとも8:1、少なくとも9:1、少なくとも10:1、少なくとも11:1、少なくとも12:1、少なくとも13:1、少なくとも14:1、少なくとも15:1、又は少なくとも16:1である場合がある。1又は複数の実施形態では、PEP調製物中のCD63-エクソソームに対するCD63+エクソソームの比率は、高々15:1、高々16:1、高々17:1、高々18:1、高々19:1、高々20:1、高々25:1、又は高々30:1である場合がある。例えば、CD63-エクソソームに対するCD63+エクソソームの比率は、1:1~30:1、2:1~20:1、4:1~15:1、又は8:1~10:1である場合がある。1又は複数の特定の実施形態では、PEP産物は、CD63+エクソソーム:CD63-エクソソームを9:1比で含有するように配合される。1又は複数の特定の実施形態では、天然PEP、例えば、CD63-エクソソームに対するCD63+エクソソームの比率が未変更のPEP、が使用される場合がある。
【0023】
精製エクソソーム産物(PEP)の製造は、濾過及び遠心分離により、血液から血漿を分離し、分離された血漿からエクソソーム液を単離することを含む。PEPは充分な特徴付けがなされており、PEPを調製する方法は、各々のその全体が参照によって本明細書に援用される、国際特許出願番号PCT/US2018/065627(国際公開第2019/118817として公開)、米国特許公開第2021/0169812A1号、及び米国特許第10,596,123号に記載されている。
【0024】
インビボ実験
本明細書に記載の組成物及び方法は、任意の適切な動物モデルを用いて、腱修復における効力が測定され得る。本明細書で論じられているように、上記の組成物及び方法は、ウサギアキレス腱切除モデルの治療において効果的であることが示された。しかし、マウス、ラット、ウマ、ブタ、又は霊長類などの任意の好適な動物モデル(animal mode)が使用されてもよい。さらに、腱修復モデルはアキレス腱切除に限定されることはない。任意の好適な腱断裂モデルが使用されてもよい。
【0025】
外科的手法
ウサギは3つの群に分けられた。第1群では、アキレス腱切除が行われた後、標準的な縫合修復が行われた。第2群では、アキレス腱切除が行われた後、標準的な縫合修復が行われ、さらにI型コラーゲン足場が修復部位に塗布された。第3群では、アキレス腱切除が行われた後、標準的な縫合修復が行われ、さらに20%PEPを添加されたI型コラーゲン足場が修復部位に塗布された。
【0026】
44匹(98%)のウサギがそれぞれのエンドポイントまで生存した。1匹のウサギを疼痛のために術後8日目に安楽死させたが、剖検時に対側膝蓋骨脱臼があることが分かった。18匹(40%)のウサギにはギプス修正(12匹はズレのため、6匹は足指の膨れのため)が必要であった。第2群からの4匹のウサギは術後1日目に術後血尿があることが分かったが、自然に回復した。これらの4匹のウサギは、同じ日に手術された第2群の9匹のウサギ群の一部であった。平均体重減少は0.21±0.14グラムであり、治療群の間に有意差はなかった(p=0.49)。
【0027】
機械特性試験
断裂した腱の修復は、破断荷重(failure load)、引張強度、スティフネス、及びヤング率などの腱の機械的特性への変化によって測定される場合がある。1又は複数の実施形態では、異なる組成物を処置された動物における腱修復の進行を比較するために、例えば、PEP処置動物とPEP非処置動物を比較するために、機械特性試験が用いられる場合がある。1又は複数の実施形態では、PEPを含む、本明細書に記載の組成物及び方法は、PEPを含まない組成物及び方法と比較して、より迅速且つ/又はより完全に、断裂した腱の機械的特性を改善する場合がある。
【0028】
破断荷重及び極限引張強度は全ての群にわたって同様である(p≧0.15)ことが分かったが、コラーゲン群及びコラーゲン+PEP群では、6週間時点の引張強度が、3週間時点の引張強度よりも有意に高くなっていた(p<0.05)(表2、
図2A、
図2B)。MTS試験前に測定された断面積が、第1群又は第2群と比較して、第3群の検体では、6週間時点までにより小さくなっていることが分かった(p=0.04)(表1、
図2C)。ヤング率は全ての群で時間と共に増加した(p≦0.03)(表1、
図2D)。ヤング率及び断面積に関する有意な群間相互作用が見られ(p=0.03)、対照群と比較してPEP処置群で断面積当たりのスティフネスが高くなった。極限引張強度及び断面積に関しては有意な群間相互作用はなかった(p=0.84)。最も多く見られた故障モードは修復部位におけるものであった(65%、n=17)(表2)。他の故障モードとしては、踵骨裂離(n=6)及び遠位の歯付きクランプにおける滑り(n=3)が含まれた。
【0029】
組織学的解析
断裂した腱の修復は腱の組織学的分析によって測定されてもよい。測定される場合がある組織学的特性として、コラーゲン線維密度、コラーゲン線維組織化、並びに顕微鏡的及び肉眼的な癒着グレード評価が挙げられる。1又は複数の実施形態では、異なる組成物を処置された動物における腱修復の進行を比較するために、例えば、PEP処置動物とPEP非処置動物を比較するために、組織解析が用いられる場合がある。1又は複数の実施形態では、PEPを含む、本明細書に記載の組成物及び方法は、PEPを含まない組成物及び方法と比較して、断裂した腱の組織学的尺度を改善する場合がある。
【0030】
各群から6検体を、ヘマトキシリン・エオシン染色及びマッソントリクローム染色の両方による、組織学的解析にかけた。PEP処置を受けた腱は、平行な構成を有する高密度なコラーゲン線維を含み(
図4)、第1群と第2群によく見られた組織化されていない構造と比較して、正常な腱とより近く類似していることが分かった。PEP処置群では、時間の経過と共に、成熟した(扁平化した)核が見られ(
図4)、正常な腱の無細胞様の性質に近づいていった。
【0031】
PEPで処置した腱は、第1群及び第2群と比較して、肉眼下及び顕微鏡下の両方で、癒着グレードがより低い(p≦0.006)ことが分かった(表3、
図5、
図6)。顕微鏡法による癒着グレード評価を3人の医師により行ったところ、平均評価者間変動係数は-0.16であることが示された。
【0032】
免疫組織化学
断裂した腱の修復は、当該腱の免疫組織学的解析によって測定される場合がある。腱修復と関連した特定のタンパク質又は遺伝子の発現を検出するために、免疫組織化学が用いられる場合がある。腱修復と関連したタンパク質としては、I型コラーゲン、III型コラーゲン、又はKi-67が挙げられるが、これらに限定はされない。1又は複数の実施形態では、異なる組成物を処置された動物における腱修復の進行を比較するために、例えば、PEP処置動物とPEP非処置動物を比較するために、免疫組織学的解析が用いられる場合がある。1又は複数の実施形態では、PEPを含む、本明細書に記載の組成物及び方法は、PEPを含まない組成物及び方法と比較して、治癒中に断裂した腱の免疫組織化学的評価基準を改善する場合がある。
【0033】
複数の抗体組み合わせる免疫組織学的解析の場合で、各群から6検体を解析した。蛍光顕微鏡下で解析を行ったところ、I型とIII型コラーゲンの比率に関して、PEPで処置された腱は、第1群及び第2群と比較して、正常腱により類似して染まっていることが分かった(
図7)。Ki-67マーカーによって示されているように、全ての群で細胞増殖が顕著であったが、PEPの抗体マーカー(P-セレクチン)は第3群のいずれの時点においても可視化されず、このことは、エクソソームが3週間時点までに再吸収されてしまったことを示している(
図8)。
【0034】
すなわち、本開示は、PEPを添加した支持マトリックス(例えば、コラーゲン足場)を用いる損傷した腱の治療を記載している。コラーゲンで処置された、又は縫合修復単独で処置された腱と比較された場合、PEPを含んでいた処置は、他の群と比較してより程度の大きい内因的治癒をもたらした。この知見は機械的知見と組織的知見の両方によって裏付けられた。
【0035】
天然の腱は高いヤング率と極限引張強度を有している。具体的に、ヒトアキレス腱は100~110MPaの極限引張強度を有し得る。外因的治癒により形成される瘢痕組織は、正常な腱と比較して、一次縫合修復で処置したウサギアキレス腱において、外科手術の3週間後及び6週間後の両方で、例えば、破断荷重(load to failure)、極限引張強度、及びヤング率における有意な減少など、劣った物質特性を呈することが示されている。本試験において、全ての群にわたり破断荷重及び極限引張強度は同様であったが、PEP処置腱の断面直径はより小さく、このことは、PEP処置腱におけるスティフネスの増加を示唆している。加えて、ヤング率及び断面積に関する有意な群間相互作用が見られ(p=0.03)、PEP処置群で断面積当たりのスティフネスが高くなり、PEP処置群には癒着はほとんど認められなかった。これらの知見は全て、PEP処置腱修復には、外因的治癒に対して、内因的治癒の傾向があることを示唆するものである。
【0036】
組織学的に、生来の腱は、80%のI型コラーゲン、最大5%のIII型コラーゲン、2%のエラスチン、最小限の細胞充実性、及び最小限の血管分布からなる。外因的治癒の各期を通じて、生来の腱と比較して、III型コラーゲンの比率が高く、線維芽細胞の割合が大きく、コラーゲン構造が乱れていることが観察される。III型コラーゲンは瘢痕組織でより高い割合で存在するが、内因的治癒を起こしている腱ではI型コラーゲンの比率が高くなる。内因的治癒を起こしている腱は、I型コラーゲンが発現上昇しており、III型コラーゲンが発現減少している。本研究において、コラーゲン単独処置及び縫合単独対照と比較した場合、PEP処置腱の構造及び染色が生来の腱により類似していた。このことは、PEPは内因的治癒を促進し得るという仮説をさらに支持するものである。
【0037】
外因的腱治癒は癒着形成を生じやすい。癒着は腱修復を支えるが、動作の制限、腱滑走の減少、及び/又は疼痛を含む合併症をもたらし得る。腱修復後の癒着防止は数十年間にわたり活発な研究領域であった。癒着の防止及び/又は治療を助けるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、5-フルオロウラシル(5-FU)、及びバリアシース(barrier sheath)を含む、いくつかの治療法が用いられているが、いずれも完全には癒着形成を防止できていない。本研究において、肉眼下及び顕微鏡下で、PEPで処置された腱は周辺癒着が少ないことが示された。この知見は、PEPは内因的治癒を促進するという仮説を支持するものである。
【0038】
本開示は、PEPが、同等の破断荷重及び極限引張強度を維持しながら、癒着発生を減少させ、III型コラーゲンに対するI型コラーゲンの比率を増加させ、より組織化されたコラーゲン構築を示すことから、腱の内因的治癒を促進するというエビデンスを提供するものである。PEPは、腱再生を促進することができる無細胞系のオフザシェルフ製品であり、疼痛を低減し、機能的能力を改善し、それにより仕事及び/又はレクリエーション活動への復帰を促進するための実行可能な解決法を医師及び患者に提供するものである。腱に関連する損傷を有する患者に対する解決策が不足しているとすれば、本明細書における結果は、慢性身体障害性腱疾患を有する患者における、本技術の臨床への橋渡しを支持するものである。
【0039】
したがって本開示は、腱組織の修復を改善するための組成物及び方法を記載している。通常、上記組成物は、PEPと薬剤的に許容できる担体とを含む。外科手術の場面では、PEPは、例えば、外科用接着剤、組織接着剤、及び/又は支持マトリックス(例えば、コラーゲン足場)などの腱組織への塗布に適した担体と組み合わされる場合がある。本明細書で使用される場合、「コラーゲン足場」とは、ヒドロゲルなどのコラーゲンを含む、三次元ネットワークを指す。
【0040】
PEPをコラーゲンと組み合わせることで、再調製されたPEPが37℃でゲルを形成する速度を増加させることができる。実際に、再調製PEPがコラーゲン存在下でゲル化する速度は、少なくとも部分的には、コラーゲン濃度によって影響を受ける。ゲル化速度の増加は、より高濃度のコラーゲンを用いることで達成することができ、最大濃度は10mg/mlである。いくつかの実施形態では、PEPは、5mg/mLのコラーゲン濃度のコラーゲンと組み合わせて用いられる。トロンビン接着剤(例えば、TISSEEL、バクスター・ヘルスケア社、ディアフィールド、イリノイ州)、ヒアルロン酸、ポリビニルアルコール(PVA)、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)などを含む他のゲル化物質との組み合わせ。PEPがゲル+コラーゲンとして製剤化された場合、PEPエクソソームは、コラーゲン原線維に付着し、「数珠玉構造」の見た目を生じ得る。
【0041】
1又は複数の実施形態では、支持マトリックスは、少なくとも1つ(least one)の細胞外マトリックス成分を含む。好適な細胞外マトリックス成分としては、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、及びラミニンなどのタンパク質、プロテオグリカン、及びヒアルロン酸が挙げられるが、これらに限定はされない。上記組成物がコラーゲンを含む実施形態では、コラーゲンは、プロコラーゲン、I型コラーゲン、III型コラーゲンなどの線維性コラーゲン、又はこれらの組み合わせとして提供され得る。上記組成物がコラーゲンを含む実施形態では、コラーゲンは、コラーゲン足場として提供され得る。1又は複数の他の実施形態では、細胞外マトリックス成分は、精製された組換えタンパク質などの、任意の好適な形態で供給されてよい。1又は複数の実施形態では、上記組成物は、PEP及び1又は複数の支持マトリックス成分(例えば、コラーゲン)を、1:20~1:5(5v/v%~20v/v%)の比で含み得る。1又は複数(one or mor)の別の実施形態では、PEPと支持マトリックス成分の比率は、体積比で、1:100、1:500、1:1000、1:10、1:5、1:2、又は1:1であり得る。I型コラーゲン、II型コラーゲン、又はIII型コラーゲンなどの、任意の医学的に好適な形態のコラーゲンが上記組成物に含まれてよい。コラーゲンは、ウシ供給源又はヒト供給源などの哺乳類供給源に由来するものであり得る。コラーゲン原線維の構造は、天然構造、アテロコラーゲン構造、加水分解構造、又はいくつかの種類の組み合わせである可能性がある。典型的には、コラーゲン足場中のコラーゲンが10%以下であると、ゲル電気泳動を用いたとき、αよりも速い特性が示される。
【0042】
すなわち、上記方法は、上記組成物の有効量を修復を必要としている腱組織に投与することを含む。この態様において、「有効量」とは、未処置の腱組織又は支持マトリックス単独(PEPなし)で処置された腱組織と比較して、癒着発生を減少させ、III型コラーゲンに対するI型コラーゲンの比率を増加させ、且つ/又は、より組織化されたコラーゲン構築をもたらすために有効な量である。上記方法は、断裂した腱の少なくとも1つの組織学的尺度を改善し得る。例示的な組織学的測定値としては、PEPなしで処置された腱と比較した場合の、線維連続性の増加、線維の平行配向性の増加、コラーゲン線維密度の増加、血管分布の減少、又は細胞充実性の減少が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0043】
本明細書で使用される場合、「対象」とは、ヒト又は任意の非ヒト動物とすることができる。例示的な非ヒト動物対象としては、家畜動物又は伴侶動物が挙げられるが、これらに限定はされない。例示的な非ヒト動物対象としては、ヒト類動物(例えば、チンパンジー、ゴリラ、又はオランウータンが挙げられる)、ウシ類動物(例えば、ウシが挙げられる)、ヤギ類動物(例えば、ヤギが挙げられる)、ヒツジ類動物(例えば、ヒツジが挙げられる)、ブタ類動物(例えば、ブタが挙げられる)、ウマ類動物(例えば、ウマが挙げられる)、シカ科の構成種(例えば、シカ、エルク、ムース、カリブー、トナカイなどが挙げられる)、バイソン科(family Bison)の構成種(例えば、バイソンが挙げられる)、ネコ類動物(例えば、飼いネコ、トラ、ライオンなどが挙げられる)、イヌ類動物(例えば、飼いイヌ、オオカミなどが挙げられる)、トリ類(例えば、シチメンチョウ、ニワトリ、アヒル、ガチョウなどが挙げられる)、げっ歯類(例えば、マウス、ラットなどを含む)、ウサギ科の構成種(例えば、ウサギ又はノウサギが挙げられる)、イタチ科の構成種(例えば、フェレットが挙げられる)、又は翼手目の構成種(例えば、コウモリが挙げられる)が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0044】
PEPは、薬剤的に許容できる担体と配合して、医薬組成物を形成させてもよい。本明細書で使用される場合、「担体」としては、任意の溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング、希釈剤、抗細菌剤及び/又は抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤、緩衝剤、ヒドロゲル、担体溶液、担体懸濁液、担体コロイド、水などが挙げられる。薬剤的に活性な物質へのこのような媒体及び/又は薬剤の使用は当該技術分野において周知である。いかなる従来の媒体又は薬剤も、有効成分との相溶性がない場合を除き、治療用組成物中のその使用が企図される。追加の有効成分を上記組成物に組み込むこともできる。本明細書で使用される場合、「薬剤的に許容できる」とは、物質が、生物学的にもその他の点でも望ましくないものではないことをいい、すなわち、この物質は、望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく、且つ、この物質を含有する医薬組成物の他の成分のいずれとも有害に相互作用することもなく、PEPと共に、個体に投与され得る。上記で言及したように、外科手術の場面では、例示的な好適な担体としては、外科用接着剤、組織接着剤、又は支持マトリックス(例えば、コラーゲン足場)が挙げられる。
【0045】
PEPを含有する医薬組成物は、好ましい投与経路に適合させた様々な形態に製剤化されてよい。すなわち、医薬組成物は、公知の経路を介して投与することができ、例えば、経口経路、非経口経路(例えば、皮内経路、経皮経路、皮下経路、筋肉内経路、静脈内経路、腹腔内経路など)、又は局所経路(例えば、外科手術中に露出させた腱組織への塗布、鼻腔内経路、肺内経路、乳房内経路、腟内経路、子宮内経路、皮内経路、経皮経路、経直腸経路など)が挙げられる。医薬組成物は、粘膜表面に、例えば、鼻粘膜又は呼吸粘膜への(例えば、スプレー又はエアロゾルによる)投与などにより、投与することができる。医薬組成物は、持続放出又は遅延放出を介して投与することもできる。
【0046】
すなわち、医薬組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、スプレー、エアロゾル、又は任意の混合物形態を含むがこれらに限定はされない、任意の好適な形態で提供されてよい。医薬組成物は、任意の薬剤的に許容できる賦形剤、担体、又はビヒクルと配合して送達されてよい。例えば、製剤は、例えば、クリーム、軟膏、エアロゾル製剤、非エアロゾルスプレー、ゲル、ローションなどの、従来の外用剤形で送達されてよい。製剤は、1又は複数の添加剤をさらに含んでもよく、例えば、アジュバント、皮膚浸透促進剤、着色剤、芳香剤、香味剤、保湿剤、増粘剤などが挙げられる。
【0047】
好適な賦形剤としては、例えば、ヒト又はウシのコラーゲン、ヒアルロン酸系化合物、ヒトフィブリノーゲン、又はヒトトロンビンを挙げることができる。
【0048】
PEPを含む凍結乾燥組成物は、追加の賦形剤と組み合わせてもよく、それをさらに凍結乾燥してもよい。凍結乾燥組成物の成分は、共パッケージ化してもよいし、あるいは、別々に提供し、使用前に混合することで、PEP添加生体適合性足場を調製してもよい。凍結乾燥した賦形剤は、例えば、凍結乾燥したヒト又はウシのコラーゲン、ヒアルロン酸系化合物、ヒトフィブリノーゲン、ヒトトロンビン、又は体液(例えば、血液又は間質液)と接触した際に生体適合性ゲルを形成する他の凍結乾燥粉末であってもよい。
【0049】
1又は複数の実施形態では、本明細書に記載の組成物は、関節鏡視下で、又は観血的手術による修復の際に、腱中/腱上への注入を介して投与される。上記組成物は、単独で投与されてもよいし、あるいは、縫合やステープルなどの従来の外科的修復法に追加して投与されてもよい。上記製品は、腱損傷を修復するために用いられる腱縫合、アンカー、貼付剤、又は他のデバイスの生体適合性及び治療効果を増強することにも使用され得る。
【0050】
製剤は、好都合には、単位投与形態で提供されてもよく、また、薬学分野において周知の方法によって調製されてもよい。薬剤的に許容できる担体を含む組成物を調製する方法は、PEPと、1又は複数の副成分を構成する担体とを、互いに結び付いた状態にする工程を含む。通常、製剤は、PEPと、液体担体、微細固体担体、又はその両方とを、均一且つ/又は密接に、互いに結び付いた状態にし、その後、必要であれば、生成物を成形して所望の製剤にすることによって、調製され得る。
【0051】
PEPの投与量は、投与されるPEPの含有量及び/もしくは供給源、対象の体重、体調、及び/もしくは年齢、並びに/又は投与経路を含むがこれらに限定はされない、各種要因に応じて変わることがある。すなわち、所与の単位投与形態に含まれるPEPの絶対重量は大きく異なることがあり、対象の種、年齢、体重、及び体調、並びに/又は投与の方法などの要因に依存する。したがって、いずれの可能な適用にも有効なPEP量に当たる量を一概に記載することは実際的ではない。しかしながら、当業者であれば、そのような要因を充分に考慮して、適切な量を容易に決定することができる。
【0052】
1又は複数の実施形態では、一回量で送達されるPEPエクソソームの観点で、PEPの一回量を計ることがある。すなわち、1又は複数の実施形態では、上記方法は、例えば、1×106個のPEPエクソソーム~1×1015個のPEPエクソソームの一回量を提供するのに充分なPEPを対象に投与することを含むことがあるが、1又は複数の実施形態では、上記方法は、この範囲外の一回量のPEPを投与することで実施されてもよい。
【0053】
1又は複数の実施形態では、したがって、上記方法は、少なくとも1×106個のPEPエクソソーム、少なくとも1×107個のPEPエクソソーム、少なくとも1×108個のPEPエクソソーム、少なくとも1×109個のPEPエクソソーム、少なくとも1×1010個のPEPエクソソーム、少なくとも1×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも2×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも3×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも4×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも5×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも6×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも7×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも8×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも9×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも1×1012個のPEPエクソソーム、2×1012個のPEPエクソソーム、少なくとも3×1012個のPEPエクソソーム、少なくとも4×1012個のPEPエクソソーム、又は少なくとも5×1012個のPEPエクソソーム、少なくとも1×1013個のPEPエクソソーム、又は少なくとも1×1014個のPEPエクソソームの最小一回量を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。
【0054】
1又は複数の実施形態では、上記方法は、1×1015個以下のPEPエクソソーム、1×1014個以下のPEPエクソソーム、1×1013個以下のPEPエクソソーム、1×1012個以下のPEPエクソソーム、1×1011個以下のPEPエクソソーム、又は1×1010個以下のPEPエクソソームの最大一回量を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。
【0055】
1又は複数の実施形態では、上記方法は、上記の任意の最小一回量と、この最小一回量よりも多い任意の最大一回量とによって定義される、端点を含む範囲によって特徴付けられる一回量を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。例えば、1又は複数の実施形態では、上記方法は、1×1011~1×1013個のPEPエクソソームの一回量、例えば、1×1011~5×1012個のPEPエクソソームの一回量、1×1012~1×1013個のPEPエクソソームの一回量、又は5×1012~1×1013個のPEPエクソソームの一回量など、を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。1又は複数の特定の実施形態では、上記方法は、上記のいずれかの最小一回量又はいずれかの最大一回量に等しい一回量を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。すなわち、例えば、上記方法は、1×1010個のPEPエクソソーム、1×1011個のPEPエクソソーム、5×1011個のPEPエクソソーム、1×1012個のPEPエクソソーム、5×1012個のPEPエクソソーム、1×1013個のPEPエクソソーム、又は1×1014個のPEPエクソソームの一回量を投与することを含むことがある。
【0056】
あるいは、凍結乾燥された状態から再調製する際のPEPの濃度の観点から、PEPの一回量を計ることがある。すなわち、1又は複数の実施形態では、上記方法は、PEPを対象に、例えば、当該対象に対して0.01%溶液~100%溶液の一回量で、投与することを含むことがあるが、1又は複数の実施形態では、上記方法は、この範囲外の一回量のPEPを投与することで実施されてもよい。本明細書で使用されているように、100%PEP溶液とは、1バイアルのPEP(2×1011個のエクソソーム、すなわち75mg)を、1mlの液体又はゲル担体(例えば、水、リン酸緩衝生理食塩水、無血清培地、外科用接着剤、組織接着剤など)中に可溶化したものを指す。比較として、0.01%PEPの一回量は、およそ、標準的な細胞条件培地を用いたインビトロにおける細胞からのエクソソーム単離などの、エクソソームを入手する従来法を用いて調製されるエクソソームの標準的な一回量に相当する。
【0057】
1又は複数の実施形態では、したがって、上記方法は、少なくとも0.01%、少なくとも0.05%、少なくとも0.1%、少なくとも0.25%、少なくとも0.5%、少なくとも1.0%、少なくとも2.0%、少なくとも3.0%、少なくとも4.0%、少なくとも5.0%、少なくとも6.0%、少なくとも7.0%、少なくとも8.0%、少なくとも9.0%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、又は少なくとも70%の最小一回量を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。
【0058】
1又は複数の実施形態では、上記方法は、100%以下、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、9.0%以下、8.0%以下、7.0%以下、6.0%以下、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.9%以下、0.8%以下、0.7%以下、0.6%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、又は0.1%以下の最大一回量を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。
【0059】
1又は複数の実施形態では、上記方法は、上記の任意の最小一回量と、この最小一回量よりも多い任意の最大一回量とによって定義される、端点を含む範囲によって特徴付けられる一回量を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。例えば、1又は複数の実施形態では、上記方法は、1%~50%の一回量、例えば、5%~20%の一回量など、を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。ある実施形態では、上記方法は、上記のいずれかの最小一回量又はいずれかの最大一回量に等しい一回量を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。すなわち、例えば、上記方法は、0.05%、0.25%、1.0%、2.0%、5.0%、20%、25%、50%、80%、又は100%の一回量を投与することを伴うことがある。
【0060】
1回分を、全て一度に投与してもよいし、所定の期間に亘り継続的に投与してもよいし、あるいは、複数回に分けて投与してもよい。複数回投与が用いられる場合、それぞれの投与量は、同じであっても異なっていてもよい。例えば、所定の一日量を、1回分として投与してもよいし、24時間に亘り継続的に投与してもよいし、等しくても等しくなくてもよい2回の投与として投与してもよい。1回分を送達するために複数回投与が用いられる場合、投与間隔は同じであっても異なっていてもよい。1又は複数の特定の実施形態では、PEPは、例えば外科的処置中に、1回限りの投与から、投与されてよい。
【0061】
PEP組成物の複数回投与が対象に投与される1又は複数の特定の実施形態では、PEP組成物は、腱組織を所望の程度に再生するように必要に応じて投与されてよい。あるいは、PEP組成物は、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、又は少なくとも10回、投与されてよい。投与間隔は、少なくとも1日間を最小とすることができ、例えば、少なくとも3日間、少なくとも5日間、少なくとも7日間、少なくとも10日間、少なくとも14日間、又は少なくとも21日間などである。投与間隔は、6か月間以下を最大とすることができ、例えば、3か月間以下、2か月間以下、1か月間以下、21日間以下、又は14日間以下などである。
【0062】
1又は複数の実施形態では、上記方法は、上記の任意の最小間隔と、この最小間隔よりも大きい任意の最大間隔とによって定義される、端点を含む範囲によって特徴付けられる、1つの間隔(2回の投与の場合)又は複数の間隔(3回以上の投与の場合)で、対象へのPEPの複数回投与を含むことがある。例えば、1又は複数の実施形態では、上記方法は、1日間~6か月間、例えば3日間~10日間など、の1又は複数の間隔で、PEPの複数回投与を含むことがある。1又は複数の特定の実施形態では、上記方法は、上記のいずれかの最小間隔又はいずれかの最大間隔に等しい間隔で、PEPの複数回投与を含むことがある。すなわち、例えば、上記方法は、3日間、5日間、7日間、10日間、14日間、21日間、1か月間、2か月間、3か月間、又は6か月間の間隔で、PEPの複数回投与を伴うことがある。
【0063】
1又は複数の実施形態では、上記方法は、腱をサポートする独自のプロファイル(例えば、タンパク質組成及び/又は遺伝子発現)をそれぞれ有する、様々な種類の細胞から調製された、PEPのカクテルを投与することを含むことがある。このように、PEP組成物は、PEP組成物が単一の細胞種から調製された場合よりも広範囲の腱をサポートする活性を提供することができる。
【0064】
前述の説明及び後述の特許請求の範囲において、「及び/又は」という語は、列挙された要素のうちの1つもしくは全て、又は列挙された要素のうちのいずれか2つ以上の組み合わせを意味し;「含む」、「含むこと」という語、及びこれらの変形は、オープンエンドと解釈されるべきであり、すなわち、追加の要素又は工程が任意選択であり、存在しても存在していなくてもよく;特に記載がない限り、「a」、「an」、「the」、及び「少なくとも1つ」は、同義的に使用され、1つ又は2つ以上を意味し;端点による数値範囲の記述は、当該範囲内に包含される全ての数を包含する(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを包含する)。
【0065】
前述の説明では、明確さのために、特定の実施形態を分離して記載している場合がある。特定の実施形態の特徴が別の実施形態の特徴と両立しないと明示されない限り、ある特定の実施形態は、1又は複数の実施形態と関連している本明細書に記載の両立する特徴の組み合わせを含むことができる。
【0066】
別々の工程を含む本明細書で開示されるいずれの方法においても、これらの方法は実行可能な任意の順番で実行されてよい。また、必要に応じて、2つ以上の工程の任意の組み合わせが、同時に実行されてよい。
【0067】
本明細書中、「1つの実施形態」、「実施形態」、「ある特定の実施形態」、「1又は複数の実施形態」、又は「いくつかの実施形態」などと言う場合、実施形態に関連して記載された特定の特性、構成、組成、又は特徴が、本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。すなわち、そのような表現が本明細書中の様々な場所に登場しているが、必ずしも、本開示の同じ実施形態を指しているわけではない。さらに、特定の特性、構成、組成、又は特徴は、1又は複数の実施形態において、任意の好適な様式で組み合わされてもよい。さらに、特定の特性、構成、組成、又は特徴は、1又は複数の実施形態において、任意の好適な様式で組み合わされてもよい。すなわち、1つの実施形態の文脈で記載された特性は、それらの特性が必然的に相互に排他的である場合を除き、異なる実施形態の文脈で記載された特性と組み合わされてもよい。
【0068】
本明細書で使用される場合、「好ましい」及び「好ましくは」という語は、本発明の実施形態が、特定の状況下で特定の利点を与え得ることを言う。しかしながら、他の実施形態も、同じ状況又は他の状況下で好ましい場合がある。さらに1又は複数の好ましい実施形態の記載は、他の実施形態が有用でないことを意味するものではなく、本発明の範囲から他の実施形態を除外することを意図するものでもない。
【0069】
好ましい実施形態
実施形態1は、
精製エクソソーム産物(PEP)、及び、
支持マトリックスを含む薬剤的に許容できる担体、
を含む、組成物である。
【0070】
実施形態2は、前記PEPが300nm以下の直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む、実施形態1に記載の組成物である。
【0071】
実施形態3は、前記PEPが110nm±90nmの平均直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む、実施形態1に記載の組成物である。
【0072】
実施形態4は、前記PEPが110nm±50nmの平均直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む、実施形態3に記載の組成物である。
【0073】
実施形態5は、前記PEPが110nm±30nmの平均直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む、実施形態4に記載の組成物である。
【0074】
実施形態6は、前記PEPが、
1%~20%のCD63-エクソソーム、及び、
80%~99%のCD63+エクソソーム、
を含む、実施形態1~5のいずれか一項に記載の組成物である。
【0075】
実施形態7は、前記PEPが少なくとも50%のCD63-エクソソームを含む、実施形態1~5のいずれか一項に記載の組成物である。
【0076】
実施形態8は、前記PEPが1×1011個のPEPエクソソーム~1×1013個のPEPエクソソームを含む、実施形態1~7のいずれか一項に記載の組成物である。
【0077】
実施形態9は、前記PEPが1×1012個のPEPエクソソーム~1×1013個のPEPエクソソームを含む、実施形態1~8のいずれか一項に記載の組成物である。
【0078】
実施形態10は、前記支持マトリックスがコラーゲン足場を含む、実施形態1~9のいずれか一項に記載の組成物である。
【0079】
実施形態11は、前記コラーゲン足場がI型線維性コラーゲンを含む、実施形態10に記載の組成物である。
【0080】
実施形態12は、実施形態1~11のいずれか一項に記載の組成物を損傷した腱組織に塗布することを含む、損傷した腱組織を治療する方法である。
【0081】
実施形態13は、前記組成物なしで治療された損傷した腱組織と比較して、癒着発生を減少させるのに有効な量で前記組成物が塗布される、実施形態12に記載の方法である。
【0082】
実施形態14は、前記組成物なしで治療された損傷した腱組織と比較して、III型コラーゲンに対するI型コラーゲンの比率を増加させるのに有効な量で前記組成物が塗布される、実施形態12に記載の方法である。
【0083】
実施形態15は、前記組成物なしで治療された損傷した腱組織と比較して、より組織化されたコラーゲン構築をもたらすのに有効な量で前記組成物が塗布される、実施形態12に記載の方法である。
【0084】
実施形態16は、前記損傷した腱組織が腱の破壊を含む、実施形態12~15のいずれか一項に記載の方法である。
【0085】
実施形態17は、前記腱の破壊が腱の断裂を含む、実施形態16に記載の方法である。
【0086】
実施形態18は、前記腱の断裂がアキレス腱断裂を含む、実施形態17に記載の方法である。
【実施例1】
【0087】
本発明を以下の実施例によって説明する。特定の例、材料、含量、及び手順は、本明細書に記載されているような本発明の範囲と精神に従って、広く解釈されるべきであることを理解されたい。
【0088】
実施例1
本実施例では、ウサギアキレス腱切除モデルを用いて、腱修復に対するコラーゲン又はコラーゲン+PEPの影響を調べた。
【0089】
試験デザイン
本試験は、2.7kg~3.0kgの範囲の体重を有する若年成体(10~12週齢)のニュージーランドホワイト系雌ウサギにおいて実施した。試験デザインには、15匹のウサギからなる群が3つ含められ、合計45匹のウサギとなった。エンドポイントは外科手術の3週間後と6週間後としたが、これは、述語試験(predicate study)で示されたこれらの時点間の組織学的差異に基づくものである。III型コラーゲンからI型コラーゲンへの遷移はリモデリング期(6~10週間)まで始まらず、これが、選択された時点の裏付けとなる。
【0090】
第1群は対照群であり、アキレス腱切除後に標準的な縫合修復が行われた。第2群では、アキレス腱切除後に標準的な縫合修復が行われ、さらにI型コラーゲン足場が修復部位に塗布された。第3群では、アキレス腱切除後に標準的な縫合修復が行われ、さらに20%PEPを添加したI型コラーゲン足場が修復部位に塗布された。それぞれのウサギで、片方のアキレス腱のみに手術を行った。
【0091】
外科手術の3週間後、各群の6匹のウサギに鎮静剤を投与し、Fatal Plus(ボルテック・ファーマシューティカルズ社、ディアボーン、ミシガン州)の静脈内注射により屠殺した。各群で、3検体は組織試験に用い、残りの3検体は機械特性試験に用いた。未手術の反対側のアキレス腱も比較分析のために収集した。外科手術の6週間後、各群の残りの9匹のウサギを屠殺した。各群で、3検体は組織試験に用い、残りの6検体は機械特性試験に用いた。割り当てられた時点(3週間又は6週間)まで生存しきった全ウサギをデータ解析に含めた。
【0092】
足場の調製
第2群及び第3群に使用した足場は、研究グレードI型線維性pH中性コラーゲン(50mg/mL、コラーゲン・ソリューション社、エデン・プレイリー、ミネソタ州)から作製した。第2群の足場はコラーゲンのみからなり、一方、第3群の足場は、1×1012エクソソーム/mLのPEPエクソソーム濃度を達成するように、PEP(リオン社、ロチェスター、ミネソタ州)と組み合わせられた。PEPは、線維芽細胞増殖因子2(FGF-2)、血小板由来増殖因子BB(PDGF-BB)、インスリン様増殖因子1(IGF-1)、及びトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)を含有することが示されている。これらの実験で使用されたPEPは未改変のPEPであったが、これは、CD63-エクソソームに対するCD63+エクソソームの比率が改変されていなかったことを意味している。
【0093】
足場調製法は、予想される臨床シナリオを模倣するために、手術中に無菌操作を介して実施できるように設計された。第2群では、足場は、80:20比のI型線維性コラーゲン(コラーゲン・ソリューションズ社、エデン・プレイリー、ミネソタ州)及び生理食塩水を用いて作製した。第3群では、I型線維性コラーゲン(コラーゲン・ソリューションズ社、エデン・プレイリー、ミネソタ州)を80:20比でPEPと混合した。これにより、足場がペースト状となり、修復された腱切除部位を覆って塗布することが可能になった。
【0094】
外科的処置
本研究には、施設内動物管理使用委員会(IACUC)から承認を得た。ウサギは3つの群に分けられた。第1群では、アキレス腱切除が行われた後、標準的な縫合修復が行われた。第2群では、アキレス腱切除が行われた後、標準的な縫合修復が行われ、さらにI型コラーゲン足場が修復部位に塗布された。第3群では、アキレス腱切除が行われた後、標準的な縫合修復が行われ、さらに20%PEPを添加されたI型コラーゲン足場が修復部位に塗布された。
【0095】
外科手術の当日、ウサギには手術前に抗生物質と鎮痛剤を投与した。ウサギをイソフルランガス吸入で麻酔し、ガスは手順の全体を通じて供給し続けた。アキレス腱切開は、踵骨結節から0.5cm近位を起点とする2cmの縦切開で行った(
図1A)。剥離を浅指屈筋(FDS)に至るまで行った。FDS周囲の腱傍結合組織を切開した。FDSを分離し、側方に引っ込めて、アキレス腱を露出させた(
図1B)。アキレス腱束を分離し、踵骨結節から1.5cm近位で腱切除した(
図1C、
図1D)。FDSは修復部位の内部スプリントとして機能するため、FDSを切らないように注意を払った。腱の両端を、Kessler主縫合変法を利用して、150°の足底屈で修復した(
図1E)。目的は、縫合修復の強度ではなく、足場の効果を評価することであるが、縫合は初期の間隙形成を防ぐのに役立つであろうことから、縫合修復は最低限であることが望ましい。縫合修復は、5-0ポリジオキサノン縫合糸(PDS、エチコン社、ラリタン、ニュージャージー州)で、全ての群にわたり同様に行うことで、公正な組織検体評価をできるようにした。第2群及び第3群では、0.2mLの足場を腱切除部位に局所的に配置し、その後、縫合修復の最終的な締め付けを行った(
図1F)。溶液は塗布後に急速にゲル化した。腱傍結合組織は修復しなかった。皮膚を3-0吸収性バイクリル縫合糸(エチコン社、、ラリタン、ニュージャージー州)で閉鎖した(
図1G)。後肢を足の指から鼠径部の高い位置まで股関節スパイカ様ギプス包帯で固定し、足首は150度の足底屈に成形した(
図1H)。次に、ギプス包帯の上にVetWrapを、足指から脚の上方へ巻き、腹部周りは八の字に巻いた(
図1I)。
【0096】
44匹(98%)のウサギがそれぞれのエンドポイントまで生存した。1匹のウサギを疼痛のために術後8日目に安楽死させたが、剖検時に対側膝蓋骨脱臼があることが分かった。18匹(40%)のウサギにはギプス修正(12匹はズレのため、6匹は足指の膨れのため)が必要であった。第2群からの4匹のウサギは術後1日目に術後血尿があることが分かったが、自然に回復した。これらの4匹のウサギは、同じ日に手術された第2群の9匹のウサギ群の一部であった。平均体重減少は0.21±0.14グラムであり、治療群の間に有意差はなかった(p=0.49)。外科手術の3週間後、各群から6匹のウサギを屠殺した。各群で、3匹のウサギを組織試験に用い、3匹のウサギを機械特性試験に用いた。ウサギを屠殺した後、アキレス腱を、筋腱接合部の3cm近位部で後肢から切り離し、踵骨結節の遠位部で切断して遠位に1cm×1cmの骨ブロックを確保した。FDSは機械特性試験結果の妨げになるであろうと考えられたため、検体から除去した。各群の残りの9匹のウサギは外科手術の6週間後に屠殺した。各群で、3匹のウサギは組織試験に用い、残りの6匹は機械特性試験に用いた。割り当てられた時点(3週間又は6週間)まで生存しきった全ウサギをデータ解析に含めた。
【0097】
機械特性試験
試験は油圧サーボ試験機(MTSシステムズ社、エデン・プレイリー、ミネソタ州)で行った。MTSの固定具構成は、遠位側の歯付きクランプと、近位側の骨ブロック用の溝入りプレートとからなる(
図9)。遠位クランプをドライアイスで増強して、クランプと検体の摩擦を増加させた。各試験の前に、各検体の断面積を測定し、さらに初期長さも測定し、歪みとスティフネスを求めた。全ての手術後試料及び複数の未手術試料の、極限引張強度、破断方法、破断部位、応力、歪み、及びヤング率を記録した。
【0098】
破断荷重及び極限引張強度は全ての群にわたって同様である(p≧0.15)ことが分かったが、コラーゲン群及びコラーゲン+PEP群では、6週間時点の引張強度が、3週間時点の引張強度よりも有意に高くなっていた(p<0.05)(表2、
図2A、
図2B)。MTS試験前に測定された断面積が、第1群又は第2群と比較して、第3群の検体では、6週間時点までにより小さくなっていることが分かった(p=0.04)(表1、
図2C)。ヤング率は全ての群で時間と共に増加した(p≦0.03)(表1、
図2D)。ヤング率及び断面積に関する有意な群間相互作用が見られ(p=0.03)、対照群と比較してPEP処置群で断面積当たりのスティフネスが高くなった。極限引張強度及び断面積に関しては有意な群間相互作用はなかった(p=0.84)。最も多く見られた故障モードは修復部位におけるものであった(65%、n=17)(表2)。他の故障モードとしては、踵骨裂離(n=6)及び遠位の歯付きクランプにおける滑り(n=3)が含まれた。
【表1】
【表2-1】
【表2-2】
【0099】
組織学的解析
屠殺したウサギ検体の腱を10%ホルマリン溶液中に置き、その後パラフィン包埋した。組織試料を、回転式ミクロトーム(Cryocut 1800;ライカ・マイクロシステムズ社、バッファロー・グローブ、イリノイ州)で長軸方向に8~10μmに切り出し、スライドガラス上に固定した。脱パラフィン処理後、検体には、細胞充実性を評価するためのヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色と、コラーゲンの含有量及び組織化を評価するためのマッソントリクローム染色を行った。全てのスライドは光学顕微鏡法(Olympus DP25;オリンパスのアメリカ支社、メルヴィル、ニューヨーク州)による解析にかけ、デジタル画像を得た(cellSensバージョン1.9、オリンパスのアメリカ支社、メルヴィル、ニューヨーク州)。これらの染色から、腱の構造、コラーゲン密度、及び細胞充実性の特徴付けを行った。腱の癒着を、肉眼下及び顕微鏡下の両方で、妥当性が確認された癒着グレード評価尺度を用いて、グレード評価した。
【0100】
各群から6検体を、ヘマトキシリン・エオシン染色及びマッソントリクローム染色の両方による、組織学的解析にかけた。PEP処置を受けた腱は、平行な構成を有する高密度なコラーゲン線維を含み(
図4)、第1群と第2群によく見られた組織化されていない構造と比較して、正常な腱とより近く類似していることが分かった。PEP処置群では、時間の経過と共に、成熟した(扁平化した)核が見られ(
図4)、正常な腱の無細胞様の性質に近づいていった。
【0101】
PEPで処置した腱は、第1群及び第2群と比較して、肉眼下及び顕微鏡下の両方で、癒着グレードがより低い(p≦0.006)ことが分かった(表3、
図5、
図6)。顕微鏡法による癒着グレード評価を3人の医師により行ったところ、平均評価者間変動係数は-0.16であることが示された。
【表3】
【0102】
免疫組織化学
検体を準備し、パラフィン包埋し、切り出して、脱パラフィン処理を行った。抗原賦活化は、組織の完全性を大きく変えてしまうことが分かっていたため、行わなかった。一次抗体及び二次抗体は複数の組み合わせでアプライした。一次抗体としては、抗I型コラーゲン(マウスモノクローナル、1:400;AB90395、アブカム社、ケンブリッジ、マサチューセッツ州)、抗III型コラーゲン(ヤギポリクローナル、1:400;サザン・バイオテック社、バーミンガム、AL)、Ki-67(マウスモノクローナル、1:100;ノーバス・バイオロジカルズ社、センテニアル、コロラド州)、及びP-セレクチン(ヒツジポリクローナル、1:100;R&Dシステムズ社、ミネアポリス、ミネソタ州)が用いられた。二次抗体としては、Cy3(ヤギ抗マウスポリクローナル、1:100;A10521、インビトロジェン社、カールズバッド、カリフォルニア州)、Alexa Fluor 680(ロバ抗ヒツジポリクローナル、1:100;A21102、インビトロジェン社)、Alexa Fluor 555(ロバ抗ヤギポリクローナル、1:400;ab150130、インビトロジェン社)、及びAlexa Fluor 647(ヤギ抗マウスポリクローナル、1:400;ab150115、インビトロジェン社)が用いられた(表1)。スライドはDAPI添加型接着剤(ProLong Gold、インビトロジェン社)で封入した。スライドは、コントラスト蛍光顕微鏡(Axio Observer Z1、カール・ツァイス・マイクロスコピー社、ソーンウッド、ニューヨーク州)下、25倍の倍率を用いて解析を行った。これらのスライドから、I型コラーゲン及びIII型コラーゲンの染色強度、細胞増殖、並びにPEPの有無を特徴付けした。
【0103】
複数の抗体組み合わせる免疫組織学的解析の場合で、各群から6検体を解析した。蛍光顕微鏡下で解析を行ったところ、I型とIII型コラーゲンの比率に関して、PEPで処置された腱は、第1群及び第2群と比較して、正常腱により類似して染まっていることが分かった(
図7)。Ki-67マーカーによって示されているように、全ての群で細胞増殖が顕著であったが、PEPの抗体マーカー(P-セレクチン)は第3群のいずれの時点においても可視化されず、このことは、エクソソームが3週間時点までに再吸収されてしまったことを示している(
図8)。
【0104】
サンプルサイズ調整
サンプルサイズ調整は、生体力学試験結果の破断荷重と、類似の研究から得られたばらつき推定値に基づいて行った。本研究でも類似のばらつきがあると予想するならば、3週間時点で1群あたりn=3、6週間時点で1群あたりn=6のサンプルサイズとすると、3つの研究群のうち任意の2群間で、それぞれ少なくとも100N及び少なくとも171Nの差異の検出力が80%となる。6週間時点では、ばらつきの増加が予想され、サンプルサイズを増加すればばらつきが減少するため、組織学的解析よりも生体力学的試験により多くのウサギを選抜した。
【0105】
統計解析
統計解析は、主に、上記2つの時点のそれぞれにおいて別々に3つの研究群を比較することに重点を置いた。連続変数で構成されるデータは、一元配置分散分析(ANOVA)を用いて分析した。全体的なF検定が有意であった場合、全体的な第一種の過誤が起こる確率を維持するために、適切な多重比較手順を用いてさらなる分析を行った。カテゴリーデータはカイ二乗検定を用いて分析した。ヤング率と断面積、極限引張強度と断面積を調べる場合は、群間の交互作用分析を行った。全ての統計検定は両側検定で行い、0.05未満のp値を統計的に有意とみなした。
【0106】
本明細書で引用された全ての特許、特許出願、及び出願公開、ならびに電子的に入手可能な資料(例えばGenBank及びRefSeqにおけるヌクレオチド配列の提出物、並びに、例えばSwissProt、PIR、PRF、PDBにおけるアミノ酸配列の提出物、並びにGenBank及びRefSeqにおける注釈付きコード領域からの翻訳を含む)の完全な開示は、それらの全体が参照によって援用される。本出願の開示と、参照により本明細書に援用される文書の開示との間に矛盾が存在する場合には、本出願の開示が優先されるものとする。前述の詳細な説明及び実施例は、理解を明確にするためだけに与えられたものである。そこから不必要な限定が理解されるべきではない。本発明は、示され記載された正確な詳細に限定されるものではなく、というのも、当業者には明らかである変形形態は、特許請求の範囲によって定義される本発明に含まれるからである。
【0107】
特に記載がない限り、明細書及び特許請求の範囲において使用される成分の量、分子量などを表す全ての数値は、全ての場合において、「およそ」又は「約」という語によって修飾されていると理解されたい。したがって、特に反対の記載がない限り、明細書及び特許請求の範囲に記載される数値パラメーターは近似値であり、本発明が得ようとする所望の特性に応じて変化する場合がある。少なくとも、また、特許請求の範囲への均等論を限定しようとするものとしてではなく、各数値パラメーターは少なくとも、報告された有効数字の桁数を考慮し、通常の丸め法を適用して解釈されるべきである。
【0108】
本発明の広範な範囲を示す数値範囲及びパラメーターは近似値ではあるが、具体的な実施例で示された数値は、可能な限り正確に報告されている。しかし、全ての数値は、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる範囲を本質的に含んでいる。
【0109】
全ての見出しは読者の便宜のためのものであり、特に断りのない限り、その見出しに続く本文の意味を限定するために使用すべきではない。
【国際調査報告】