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特表2024-542471リチウムイオン電池のリサイクル方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池のリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/70 20220101AFI20241108BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20241108BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20241108BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20241108BHJP
   C22B 3/16 20060101ALI20241108BHJP
   B09B 3/80 20220101ALI20241108BHJP
   C01D 15/04 20060101ALN20241108BHJP
   C01G 51/08 20060101ALN20241108BHJP
   B09B 101/16 20220101ALN20241108BHJP
【FI】
B09B3/70 ZAB
C22B7/00 C
C22B23/00 102
C22B26/12
C22B3/16
B09B3/80
C01D15/04
C01G51/08
B09B101:16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529513
(86)(22)【出願日】2022-10-28
(85)【翻訳文提出日】2024-07-12
(86)【国際出願番号】 US2022048270
(87)【国際公開番号】W WO2023091287
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】63/281,424
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】グオ、ジュチェン
(72)【発明者】
【氏名】シー、ジアイェン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ジエン
(72)【発明者】
【氏名】ショジャラザヴィ、ナスタラン
【テーマコード(参考)】
4D004
4G048
4K001
【Fターム(参考)】
4D004AA23
4D004BA05
4D004CA07
4D004CA12
4D004CA37
4D004CA40
4D004CB01
4D004CC15
4D004DA03
4D004DA10
4G048AA06
4G048AB08
4G048AE02
4K001AA07
4K001AA34
4K001BA22
4K001DB11
4K001DB16
(57)【要約】
開示される様々な例は、リチウムイオン電池カソード材料をリサイクルするための方法に関する。本開示には、リサイクルのために、テトラクロロアルミネートアニオンを含むようなイオン液体、または塩化アルミニウムの有機溶液を使用する方法が含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池カソード材料をリサイクルする方法であって、クロロアルミネートイオンを含む液体で前記電池カソード材料を還元すること、前記電池カソード材料から材料を分離することを含む、方法。
【請求項2】
クロロアルミネートイオンを含む前記液体は、ルイス中性クロロアルミネートアニオンを有するイオン液体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
クロロアルミネートイオンを含む前記液体は、テトラクロロアルミネートアニオンを有するイオン液体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記クロロアルミネートイオンを含む前記液体は、塩化アルミニウムの有機溶液を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記電池カソード材料を還元することは、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラクロロアルミネートイオン液体を前記電池カソード材料に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記電池カソード材料を還元することは、テトラクロロアルミネートイオン液体を前記電池カソード材料に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記カソード材料を還元することは、テトラクロロアルミネートイオン液体を前記カソード材料に1:2のモル比で添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記カソード材料を還元することは、テトラクロロアルミネートイオン液体を前記カソード材料に1:10のモル比で添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記カソード材料を還元することは、テトラクロロアルミネートイオン液体をカソード材料に1:50のモル比で添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記カソード材料を還元することは、EtOH-AlCl溶液を前記電池カソード材料に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記電池カソード材料から材料を分離することは、前記電池カソード材料からコバルトを分離して除去することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記電池カソード材料から材料を分離することは、前記電池カソード材料からリチウムを分離して除去することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記電池カソード材料から材料を分離することは、遠心分離することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記電池カソード材料から材料を分離することは、コバルトをカチオンとして抽出することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記電池カソード材料から材料を分離することは、カソード活物質を抽出することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記電池カソード材料から材料を分離することは、排出物なしにカソード活物質を抽出することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記電池カソード材料から材料を分離することは、室温でカソード活物質を抽出することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
リチウムイオン電池カソード材料を還元することの前に、クロロアルミネートイオンを含む前記液体を調製することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
クロロアルミネートイオンを含む前記液体を調製することは、EMIMClにAlClを1:1のモル比で混合することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
クロロアルミネートイオンを含む前記液体を調製することは、無水AlCl粉末をEMIMClに徐々に添加することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
クロロアルミネートイオンを含む前記液体を調製することは、無水AlClをエタノールに添加することを含む、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
リチウムイオン電池(Lithium-ion battery,LIB)は、その高い比容量、高いエネルギー密度、および長いサイクル性により、ポータブル電源として人気がある。技術の急速な発展に伴い、LIBの使用は劇的に増加しており、そのリサイクルは、経済的にも環境的にも急務となっている。
【0002】
ネットゼロへの移行は、地球の将来にとって不可欠な取り組みである。この大掛かりな計画は、大気汚染および固体廃棄物管理、ならびにエネルギー使用量の低減を含むいくつかのサブブランチを有する。電気自動車(EV)の登場およびその改良は、前述の問題に対処するための有効なルートを予見する。国際エネルギー機関(IEA)は、最近、EVの需要増大に関する詳細な世界的見通しを示す報告を発表し、それによると、2012年に世界で12万台だった販売台数は、2022年第1四半期には200万台に増加するという。また、EVの総数は、2030年末までに2100万に達すると予測されている。
【0003】
しかしながら、これらの再充電可能な電源において電池セル構成物質は重要な役割を果たしており、これらの構成物質の世界的な資源が限られているためにボトルネックとなっている。特に、EV用の高エネルギーカソード材料に使用されるコバルト(Co)は、LIBサプライチェーンにおける制約になると予測されている。米国地質調査所(USGS)によれば、世界で確認されているコバルトの埋蔵量は、760万トンと推定されている。これらの埋蔵量の不均衡な分布に加えて、自動車産業の電化は、この遷移金属の需要を継続的に増大させており、その量は、2025年までに11万7,000トンに達すると推定される。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、テトラクロロアルミネートアニオン(AlCl )または有機溶媒上の塩化アルミニウム(AlCl)溶液を含むクロロアルミネートイオン液体を使用して、コバルト酸リチウム(LiCoO)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNiMnCo1-x-y)およびリチウム遷移金属酸化物を含む任意の関連材料などのリチウムイオン電池カソード材料をリサイクルするための戦略を提供する。
【0005】
LIBの不適切なリサイクルの場合、水との電解質反応は、危険なガスを生成する可能性があり、一方、Co、ニッケル(Ni)、またはマンガン(Mn)などのカソード中の重金属は、土壌または地下水中に深刻な汚染を引き起こす可能性がある。したがって、近い将来に著しい不足または環境問題に直面する前に、これらの電池材料をリサイクルすることが重要である。いくつかの工業的リサイクル方法は、効率を高め、異なる物理的特性を有する電池廃棄物のいくつかの部分を分離するための前処理ステップから開始する。前処理(化学的、機械的、熱処理、またはその他)の後、電池廃棄物の流れは様々な処理ルートに対応できる。多くの現場では、乾式冶金法が利用されている。この方法では、Co、Ni、またはCuなどの有価金属ではリサイクル効率は高いものの、リチウムが酸化物およびガスの形態で流出するか、またはスラグとして回収できないままであるので、リチウムをリサイクルすることができない。さらに、このプロセスの性質は、熱を多く使うため、高いエネルギー消費を必要とする。別の商業化されたリサイクルルートは、湿式冶金であり、有機または無機酸溶液を使用して、貴重なカソード材料をイオンとして浸出させて、比較的低いエネルギーで高いリサイクル効率を提供する。しかしながら、問題は、腐食性試薬が環境および作業者の両方に有害であるという事実にある。
【0006】
比較すると、クロロアルミネートイオン液体または有機溶媒中のAlCl溶液が反応媒体として作用する場合、酸に代わる、より環境に優しく、はるかに安全な方法が提供される。
【0007】
一例では、1:1のモル比の1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド(EMIMCl)および塩化アルミニウム(AlCl)から構成される室温イオン液体中に存在するテトラクロロアルミネートアニオン(AlCl )は、使用済みリチウムイオン電池中のコバルト酸リチウム(LiCoO)カソードからリチウム(Li)およびコバルト(Co)を効果的に抽出することができる。実験的分析によると、AlCl とLiCoOとの間の強い親和性により、LiCoOからリチウムを抽出して塩化リチウム(LiCl)を形成できることが示された。その結果、LiCoO中のCo(III)が酸化物によってCo(II)に還元され、酸素ガスが発生する。UV-VisおよびX線光電子分光(XPS)分析は、Co(II)が四塩化コバルト(CoCl 2-)アニオンとして存在し得ることを示す。AlCl は、酸化アルミニウムおよび塩化物(オキシ塩化アルミニウム)からなる非晶質化合物に変換される。リチウムおよびコバルトの抽出効率は、ともに100%に達し、オキシ塩化アルミニウムをAl酸化物に変換し、続いて水ですすぐことによってAl含有量(AlCl として)の99.4%を除去することができる。コバルトは、その後、99.7%の回収率で水酸化コバルト(Co(OH))として回収することができる。
【0008】
別の例では、エタノールに代表される有機溶媒中の塩化アルミニウム(AlCl)溶液は、使用済みLiイオン電池中のコバルト酸リチウム(LiCoO)およびLiNi0.6Mn0.2Co0.2カソードからリチウム(Li)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、およびマンガン(Mn)を効果的に抽出することができる。具体的には、エタノール中のAlCl溶液は、穏やかな加熱条件下でLiCoOおよびLiNi0.6Mn0.2Co0.2カソードを迅速に溶解することができる。UV-vis分光分析によると、遷移金属(Co、Ni、およびMn)四塩化物アニオンが溶液中で形成され、エタノールを蒸発させると、塩化リチウム、遷移金属塩化物、およびAlを含む非晶質化合物を含む固体生成物が得られることが示された。Al含有化合物は、150℃での穏やかな熱処理によって、水に不溶性である酸化アルミニウムに変換することができ、その後、水ですすぐことによって除去することができる。得られた水溶液は、カソード材料から抽出された遷移金属の99.5%を含み得る。
【0009】
クロロアルミネートイオン液体および有機溶媒中のAlCl溶液を使用してリチウムイオン電池をリサイクルするこれらの様々な例示的な方法は、他の技術を回避することによって、多くの利点および利益を有することができる。これらの方法は、リチウムイオン電池カソード材料から、コバルトなどの遷移金属を、低排出、低エネルギー消費でクリーンに抽出することを可能にし得る。
【0010】
一例では、リチウムイオン電池カソード材料をリサイクルする方法は、クロロアルミネートアニオンを含むイオン液体でリチウムイオン電池カソード材料を還元すること、リチウムイオン電池カソードから材料を分離することを含むことができる。
【0011】
別の例では、リチウムイオン電池カソード材料をリサイクルする方法は、AlClの有機溶液でリチウムイオン電池カソード材料を還元すること、リチウムイオン電池カソードから材料を分離することを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本特許または出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面を含むこの特許または特許出願公開の写しは、請求および必要な料金の支払いに応じて庁によって提供される。図面は、必ずしも一定の縮尺で描かれているわけではなく、同様の数字は、いくつかの図を通して実質的に同様の構成要素を表す。異なる添え字を有する同様の数字は、実質的に同様の構成要素の異なる例を表す。図面は、概して、本明細書で議論される様々な例を例として示すものであり、限定するものではない。
図1図1は、一例におけるリチウムイオン電池カソードリサイクルのXRDデータを示す。
図2図2は、一例におけるリチウムイオン電池カソードリサイクルのUV-Visデータを示す。
図3図3は、一例におけるリチウムイオン電池カソードリサイクルのNMRデータを示す。
図4図4は、一例におけるリチウムイオン電池カソードリサイクルのXRDデータを示す。
図5図5は、一例におけるリチウムイオン電池カソードリサイクルのXPSデータを示す。
図6図6は、一例におけるリチウムイオン電池カソードリサイクルのNMRデータを示す。
図7図7は、一例におけるリチウムイオン電池カソードリサイクルのUV-Visデータを示す。
図8図8は、一例におけるリチウムイオン電池カソードリサイクルのUV-Visデータを示す。
図9図9は、一例におけるリチウムイオン電池カソードリサイクルのXRDデータを示す。
図10図10は、一例におけるリチウムイオン電池カソードリサイクルのXRDデータを示す。
図11図11は、一例におけるリチウムイオン電池カソードリサイクルのNMRデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、開示される主題の特定の例について詳細に言及し、それらの例が、部分的に添付の図面に示されている。開示される主題は、列挙される特許請求の範囲と併せて説明されるが、例示される主題は、特許請求の範囲を、開示される主題に限定することを意図するものではないことが理解されるであろう。
【0014】
定義
本明細書を通して、範囲形式で表された値は、範囲の限界として明示的に列挙された数値を含むだけでなく、各数値および部分範囲が明示的に列挙されているかのように、その範囲内に包含されるすべての個々の数値または部分範囲も含むように、柔軟に解釈されるべきである。例えば、「約0.1%~約5%」または「約0.1%~5%」の範囲は、約0.1%~約5%だけでなく、示された範囲内の個々の値(例えば、1%、2%、3%、および4%)および部分範囲(例えば、0.1%~0.5%、1.1%~2.2%、3.3%~4.4%)も含むと解釈されるべきである。「約X~Y」という記述は、別段の指示がない限り、「約X~約Y」と同じ意味を有する。同様に、「約X、Y、または約Z」という記述は、別段の指示がない限り、「約X、約Y、または約Z」と同じ意味を有する。
【0015】
本明細書において、用語「1つの(a)」、「1つの(an)」、または「その(the)」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、1つまたは1つよりも多くを含むように使用される。「または」という用語は、別段の指示がない限り、非排他的な「または(or)」を指すために使用される。「AおよびBのうちの少なくとも1つ」という記述は、「A、B、またはAおよびB」と同じ意味を有する。さらに、本明細書で使用され、他に定義されていない表現または用語は、説明のみを目的としており、限定を目的としないことを理解されたい。セクション見出しは、本明細書の読解を助けることを意図して使用されており、限定するものとして解釈されるべきではなく、セクション見出しに関連する情報は、その特定のセクションの内部または外部に存在し得る。
【0016】
本明細書で説明される方法では、時間的なまたは動作の順序が明示的に記載されている場合を除いて、本開示の原理から逸脱することなく、行為を任意の順序で実行することができる。さらに、いくつかの指定された行為は、それらが別々に実施されることを請求項の文言が明示的に記載していない限り、同時に実施することができる。例えば、Xを実施するという請求項に記載された行為およびYを実施するという請求項に記載された行為は、単一の動作内で同時に行うことができ、結果として生じるプロセスは、請求項に記載されたプロセスの文言通りの範囲内に含まれる。
【0017】
本明細書で使用される「約」という用語は、例えば、記述された値または記述された範囲の限界の10%以内、5%以内、または1%以内など、値または範囲のある程度の変動性を許容することができ、記述された通りの値または範囲を含む。
【0018】
本明細書で使用される「実質的に」という用語は、少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、99.99%、または少なくとも約99.999%以上、または100%のような、大部分またはほとんどを指す。
【0019】
本明細書で使用される「有機基」という用語は、炭素を含む任意の官能基を指す。例としては、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、オキソ(カルボニル)基などの酸素含有基;カルボン酸、カルボン酸塩、およびカルボン酸エステルを含むカルボキシル基;アルキルおよびアリールスルフィド基などの硫黄含有基;ならびに他のヘテロ原子含有基を挙げることができる。有機基の非限定的な例としては、OR、OOR、OC(O)N(R)、CN、CF、OCF、R、C(O)、メチレンジオキシ、エチレンジオキシ、N(R)、SR、SOR、SOR、SON(R)、SOR、C(O)R、C(O)C(O)R、C(O)CHC(O)R、C(S)R、C(O)OR、OC(O)R、C(O)N(R)、OC(O)N(R)、C(S)N(R)、(CH0-2N(R)C(O)R、(CH0-2N(R)N(R)、N(R)N(R)C(O)R、N(R)N(R)C(O)OR、N(R)N(R)CON(R)、N(R)SOR、N(R)SON(R)、N(R)C(O)OR、N(R)C(O)R、N(R)C(S)R、N(R)C(O)N(R)、N(R)C(S)N(R)、N(COR)COR、N(OR)R、C(=NH)N(R)、C(O)N(OR)R、C(=NOR)R、および置換または非置換(C~C100)ヒドロカルビルが挙げられ、ここで、Rは、水素(他の炭素原子を含む例において)または炭素ベースの部分であってよく、炭素ベースの部分は、置換または非置換であってよい。
【0020】
本明細書で定義される分子または有機基に関連して本明細書で使用される「置換」という用語は、そこに含まれる1つまたは複数の水素原子が1つまたは複数の非水素原子によって置き換えられている状態を指す。本明細書中で使用される「官能基」または「置換基」という用語は、分子または有機基上に置換可能であるか、または置換されている基を指す。置換基または官能基の例としては、ハロゲン(例えば、F、Cl、Br、およびI);ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、オキソ(カルボニル)基、カルボン酸、カルボン酸塩、およびカルボン酸エステルを含むカルボキシル基などの基中の酸素原子;チオール基、アルキルおよびアリールスルフィド基、スルホキシド基、スルホン基、スルホニル基、およびスルホンアミド基などの基中の硫黄原子;アミン、ヒドロキシアミン、ニトリル、ニトロ基、N-オキシド、ヒドラジド、アジド、およびエナミンなどの基中の窒素原子;ならびに他の様々な基中の他のヘテロ原子が挙げられるが、これらに限定されない。置換炭素(または他の)原子に結合され得る置換基の非限定的な例としては、F、Cl、Br、I、OR、OC(O)N(R)、CN、NO、NO、ONO、アジド、CF、OCF、R、O(オキソ)、S(チオノ)、C(O)、S(O)、メチレンジオキシ、エチレンジオキシ、N(R)、SR、SOR、SOR、SON(R)、SOR、C(O)R、C(O)C(O)R、C(O)CHC(O)R、C(S)R、C(O)OR、OC(O)R、C(O)N(R)、OC(O)N(R)、C(S)N(R)、(CH0-2N(R)C(O)R、(CH0-2N(R)N(R)、N(R)N(R)C(O)R、N(R)N(R)C(O)OR、N(R)N(R)CON(R)、N(R)SOR、N(R)SON(R)、N(R)C(O)OR、N(R)C(O)R、N(R)C(S)R、N(R)C(O)N(R)、N(R)C(S)N(R)、N(COR)COR、N(OR)R、C(=NH)N(R)、C(O)N(OR)R、およびC(=NOR)Rが挙げられ、ここで、Rは、水素または炭素ベースの部分であってよく、例えば、Rは、水素、(C~C100)ヒドロカルビル、アルキル、アシル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、またはヘテロアリールアルキルであってよく、あるいは、窒素原子または隣接する窒素原子に結合した2つのR基は、1つまたは複数の窒素原子と一緒になって、ヘテロシクリルを形成することができる。
【0021】
本明細書で使用される「枯渇させる」という用語は、液体、気体、または溶質などの量または濃度の減少を指す。例えば、ガスAおよびBの混合物は、ガスBの濃度または量が減少した場合、例えば、ガスBを膜に選択的に透過させてガスBを混合物から除去することによって、または、例えば、ガスAを膜に選択的に透過させてガスAを混合物に添加することによって、ガスBを枯渇させることができる。
【0022】
本明細書で使用される「溶媒」という用語は、固体、液体、または気体を溶解することができる液体を指す。溶媒の非限定的な例は、シリコーン、有機化合物、水、アルコール、イオン液体、および超臨界流体である。
【0023】
本明細書で使用される「室温」という用語は、約15℃~28℃の温度を指す。
本明細書で使用される「標準温度および標準圧力」という用語は、20℃および101kPaを指す。
【0024】
様々な例において、正に帯電した対イオンを有する塩は、任意の適切な正に帯電した対イオンを含むことができる。例えば、対イオンは、アンモニウム(NH )、またはナトリウム(Na)、カリウム(K)、もしくはリチウム(Li)などのアルカリ金属であってよい。いくつかの例では、対イオンは、+1より大きい正の電荷を有することができ、これは、いくつかの例では、Zn2+、Al3+、またはCa2+もしくはMg2+などのアルカリ土類金属などの複数のイオン化基と錯体を形成することができる。
【0025】
様々な例において、負に帯電した対イオンを有する塩は、任意の適切な負に帯電した対イオンを含むことができる。例えば、対イオンは、フッ化物、塩化物、ヨウ化物、または臭化物などのハロゲン化物であってよい。他の例において、対イオンは、硝酸塩、硫酸水素塩、リン酸二水素塩、重炭酸塩、亜硝酸塩、過塩素酸塩、ヨウ素酸塩、塩素酸塩、臭素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩、シアン化物、アミド、シアン酸塩、水酸化物、過マンガン酸塩であってよい。対イオンは、酢酸塩またはギ酸塩などの任意のカルボン酸の共役塩基であってよい。いくつかの例では、対イオンは、-1より大きい負の電荷を有することができ、これは、いくつかの例では、酸化物、硫化物、窒化物、ヒ酸塩、リン酸塩、亜ヒ酸塩、リン酸水素塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、炭酸塩、クロム酸塩、二クロム酸塩、過酸化物、またはシュウ酸塩などの複数のイオン化基と錯体を形成することができる。
【0026】
反応機構
例示的な方法では、LiCoO、LiNiMnCo1-x-y、および任意の他の遷移金属含有物などのリチウム金属酸化物カソードを、提示されたEMIMAlClイオン液体に限定されず、AlCl アニオンを含む深共晶系によってリサイクルすることができる。AlCl を含む任意の深共晶系またはイオン液体が機能し得る。EMIMAlClイオン液体は、塩化アルミニウム(AlCl)と1-エチル-3-メチルイミダゾリウム塩化アルミニウム(EMIMCl)との1:1モル比の混合物であり、以下の反応に従って、EMIMカチオンとテトラクロロアルミネートアニオン(AlCl )とから構成される。
【0027】
EMIMCl+AlCl→EMIM+AlCl
実験から得られた元素比およびLiCl、CoCl 2-、およびOを含む生成物の同定に基づいて、リチウムは、AlCl アニオン中のClとの強い親和性によってLiCoOの結晶格子から抽出され得る。あるいは、LiCoO中の酸素空孔は、Alカチオンと酸化物との間の強い親和性によって生成される。その結果、Co(III)がLiCoO中の酸化物によってCo(II)に還元され、酸素ガスが放出され得る。LiCoOとAlCl との間の例示的な反応機構は、以下の通りであってよい。
【0028】
【化1】
【0029】
低いLiCoO/AlCl 比の反応からの提案された化合物AlClは、非晶質であり、高いLiCoO/AlCl 比の反応から得られるAlClおよびオキシ塩化アルミニウム(AlOCl)というより明確な化合物の化学量論的組み合わせである。
【0030】
これは、LiCoOからリチウムおよびコバルトを抽出する方法を示しており、この方法は、使用済みリチウムイオン電池をリサイクルするために使用することができる。この方法は、テトラクロロアルミネートAlCl アニオンとLiCoOとの間の反応に基づく。AlCl アニオンを含む試薬は、LiCoO、LiNiMnCo1-x-y、および関連材料を含むリチウム遷移金属酸化物カソードを使用するリチウムイオン電池からリチウムおよび遷移金属を抽出するために使用することができる。
【0031】
他の例では、有機溶媒中のAlClの溶液をリサイクル媒体として使用することができる。エタノールなどの有機溶媒が溶液の調製に使用される場合、以下の反応機構が起こり得る。
【0032】
【化2】
【0033】
ここで、AlCl およびAlCl2+は、アルミニウム-塩化物錯体カチオンであり、LiCoOと反応することができるエタノール中のAlCl溶液(EtOH-AlCl)中の代表的な活性種である。これらの反応機構は、以下の実施例のセクションを参照してサポートされ、議論される。
【0034】
方法
一例では、リチウムイオン電池カソード材料をリサイクルする方法は、クロロアルミネートイオン液体または有機溶媒中のAlCl溶液を含む液体でリチウムイオン電池カソード材料を還元すること、リチウムイオン電池カソードから材料を分離することを含む。
【0035】
クロロアルミネートイオン液体は、ルイス中性クロロアルミネートアニオン(AlCl )またはルイス酸性クロロアルミネートアニオン(AlCl )を含むことができる。
【0036】
有機溶媒中のAlCl溶液は、クロロアルミネートアニオン、塩化物アニオン、およびアルミニウム-塩化物錯体カチオンを含むことができる。
リチウムイオン電池カソード材料は、リチウムおよび遷移金属を含む任意のリチウムイオン電池カソード材料を含むことができる。リチウムイオン電池カソード材料は、例えば、コバルト酸リチウム(LCO)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リチウムマンガン酸化物(LMO)、リン酸鉄リチウム(LFP)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物-LiNi(1-y-z)Mn(y)Co(z)O2(NMC)、またはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0037】
リチウムイオン電池カソード材料を還元することは、例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラクロロアルミネートイオン液体をリチウムイオン電池カソード材料に添加すること、またはテトラクロロアルミネートイオン液体をリチウムイオン電池カソード材料に添加することを含むことができる。
【0038】
テトラクロロアルミネートイオン液体をリチウムイオン電池カソード材料中のコバルト(または他の遷移金属)に添加することは、1:20のモル比、1:10のモル比、1:5のモル比、または1:2のモル比で行うことができる。
【0039】
いくつかの場合には、リチウムイオン電池カソード材料を還元することは、EtOH-AlCl溶液をリチウムイオン電池カソード材料に添加することを含む。
リチウムイオン電池カソードから材料を分離することは、リチウムイオン電池カソードからコバルトを分離して除去すること、またはリチウムイオン電池カソードからリチウムを分離して除去することを含む。いくつかの場合には、リチウムイオン電池カソードから材料を分離することは、遠心分離することを含むことができる。いくつかの場合には、リチウムイオン電池カソードから材料を分離することは、コバルトおよび他の遷移金属をカチオンとして抽出することを含むことができる。
【0040】
リチウムイオン電池カソードから材料を分離することは、例えば室温で、例えば排出物なしに、カソード活物質を抽出することを含むことができる。
イオン液体を調製することは、リチウムイオン電池カソード材料を還元する前にクロロアルミネートアニオンを含めることができる。イオン液体を調製することは、EMIMClにAlClを1:1のモル比で混合することを含むことができる。いくつかの場合には、イオン液体を調製することは、無水AlCl粉末をEMIMClに徐々に添加することを含むことができる。
【0041】
AlCl溶液無機溶媒を調製することは、無水AlClをエタノールに添加することを含むことができる。
【実施例
【0042】
本開示の様々な実施形態は、例示として提供される以下の実施例を参照することによって、よりよく理解することができる。本開示は、本明細書に示される実施例に限定されない。
【0043】
実施例1:テトラクロロアルミネートアニオン(AlCl )を含むイオン液体によるLiCoOカソードからのリチウムおよびコバルトの抽出
実施例1では、テトラクロロアルミネートアニオンを含むイオン液体を使用してリチウムおよびコバルトを抽出することによって、リチウムイオン電池カソード材料をリサイクルした。実施例1では、LiCoOとEMIMAlClイオン液体との反応性を試験した。
【0044】
まず、LiCoOとEMIMAlClとの反応を行った。1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラクロロアルミネート(EMIMAlCl)イオン液体は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド(EMIMCl)(>98%、HPLC、TCI Chemicals社製)にAlCl(AlCl、無水、99.99%、Sigma-Aldrich社製)をモル比1:1(EMIMCl:AlCl)でゆっくり混合し、次いで使用前に室温で12時間撹拌することによって調製した。1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド(EMIMCl)(>98%、HPLC、TCI Chemicals社製)は、使用前にグローブボックス内で真空下、60℃で12時間乾燥させた。
【0045】
EMIMAlClイオン液体を調製した後、コバルト酸リチウム(LiCoO、99.8%微量金属ベース、Sigma-Aldrich社製)粉末を異なるLiCoO:EMIMAlClモル比(1:20、1:10、1:5、および1:2)で添加し、次いで、150℃で12時間撹拌した。反応フラスコは、上部に凝縮器を備え、10℃で水を循環させる。LiCoOはEMIMAlClに溶解し、反応により青色溶液および白色固体沈殿を生成するように見える。酸素の発生は、溶存酸素キット(Atlas Scientific社製)によって検出した。
【0046】
LiCoO/AlCl モル比が1:20、1:10、および1:5の反応では、反応後の上清および沈殿物を20,000gで5分間遠心分離することによって分離し、さらに分析した。
【0047】
粉末X線回折測定(XRD)を、Panalytical Empyrean Series 2を用いて行い、沈殿物を分析した。沈殿物をベンゼンで3回洗浄し、次いでアルゴンガスを充填したグローブボックス内で、室温で24時間乾燥させた。続いて、乾燥した粉末をプレスしてゼロ回折シリコンプレート上にパレットを形成し、次いで試料の空気との反応を防止し、吸湿を回避するために表面をカプトンテープフィルムで覆った。その後、XRD測定を行った。図1のXRDパターンは、沈殿物が塩化リチウム(LiCl)を含むことを示す。
【0048】
Agilent Cary 60 UV-Vis分光光度計を使用して、上清中のCo種を分析した。EMIMAlClイオン液体で希釈した3mlの上清液を10×10mmの水晶キュベットに入れ、キャップで密封した。ベースライン測定は、同じキュベット内のEMIMAlClイオン液体単独について、550~750nmの範囲で行った。図2は、反応後の上清のUV-Visスペクトルを示す。630nm、667nm、および696nmでの識別可能なピークは、四塩化コバルトアニオン(CoCl 2-)に対応する。
【0049】
上清に対して液相核磁気共鳴(NMR)も行った。液相NMRスペクトル(27AlおよびH)は、27Alおよび1H核についてそれぞれ104.26MHzおよび600.13MHzで動作する14.1T狭ボア超伝導磁石を備えたBruker Avance 600分光計によって取得した。試料と標準溶液との混合を避けるために、二重管アセンブリを使用し、試料を5mmのNMR管の内部に密封し、標準クロロホルム-dを3mmのNMR管に入れて、大きい方の管の内部に挿入した(試料:標準体積比は2:3)。すべての液相の27AlおよびH実験は、それぞれ20.8kHzおよび26kHzの無線周波数磁場強度で行われ、すべてのスピンが熱平衡に戻るまでのリサイクル遅延は12.0秒であった。27AlおよびHのNMRは、それぞれ110℃および25℃で行った。
【0050】
元のEMIMAlClと比較すると、異なるLiCoO/AlCl モル比での反応後の上清のH核磁気共鳴(NMR)スペクトル(図3)は、EMIMカチオンがそのまま残っていることを示す。LiCoO/AlCl モル比の増加に伴う低磁場化学シフトおよびピークの広がりは、Co2+の常磁性効果によるものである。純粋なEMIMAlCl27AlのNMRスペクトルは、104.1ppmに単一のピークを示し、これはAlCl アニオンを表す。1:20および1:10のLiCoO/AlCl モル比での反応後の上清の室温27AlのNMRスペクトルも、AlCl ピークのみであり、これは、反応中に可溶性のAl含有種が生成されなかったことを示唆している。しかしながら、1:5のLiCoO/AlCl モル比での反応後の上清の27AlのNMRスペクトルは、1:20および1:10の比からのものと比較して、さらに低磁場にシフトしたより広いピークを示す。1:5のLiCoO/AlCl モル比からの上清の27AlのNMRスペクトルが150℃で得られた。図3の挿入図に示されるように、スペクトルは、AlCl と、以下の反応に従ってAlCl とAlClとの間の反応から形成される新しいアニオン種AlCl とに対応する2つのピークを示す。
【0051】
AlCl +AlCl→AlCl
したがって、この結果は、高いLiCoO/AlCl モル比での反応からAlClが生成され得ることを示す。
【0052】
LiCoOとEMIMAlClイオン液体とを1:2のモル比で反応させたところ、沈殿物が多く含まれているためペースト状の生成物がもたらされた。このペースト状生成物は、X線回折(XRD)によって特性評価される。図4のプロジェクトのXRDパターンは、周囲環境からの接触を防ぐためにカプトンテープを使用して試料を密封したときのLiClのパターンを示す。テープが除去されると、XRDパターンは、AlCl・6HOの含有を示し、結晶水は、環境から吸収された可能性が高い。XRDは、EMIMClおよびCoClも示す。
【0053】
LiCoO:EMIMAlClのモル比が1:2の反応では、酸素ガスが確認された。反応は、O<0.01ppmのグローブボックス内に密閉して行われた。反応が完了したとき、反応フラスコに接続されたバルブが開かれ、その間に排気は、酸素の存在を証明する消えかけのマッチを再点火した。このことは、反応により酸素ガスが発生していることを示唆している。
【0054】
LiCl、CoCl 2-、およびOが生成物の3つであるという知見に基づくと、AlCl アニオンのClとの強い親和性によって、LiCoOの結晶格子からリチウムが抽出されると考えられる。あるいは、O2-とAl3+との強い親和性により酸素空孔が形成される。その結果、Co(III)がLiCoO中の酸化物によってCo(II)に還元され、酸素ガスが放出され得る。
【0055】
上記の分光分析に基づくと、LiCoOとAlCl との間の反応機構は以下の通りである。
【0056】
【化3】
【0057】
低いLiCoO/AlCl 比の反応からの化合物AlClは、非晶質であり、高いLiCoO/AlCl 比の反応から得られるAlClおよびオキシ塩化アルミニウム(AlOCl)というより明確な化合物の化学量論的組み合わせである。
【0058】
X線光電子分光法(XPS)分析を、1:2のLiCoO/AlCl モル比での反応からの生成物に対して行った。XPSデータは、UC Irvine Materials Research Institute(IMRI)でKratos AXIS Supra(Al Kα=1486.7eV)を用いて収集した。試料は、アルゴンで充填されたKFフランジシールを備えたステンレス鋼チューブ内でXPS設備に輸送された。試料は、XPS分析のために、Kratos AXIS Supraと一体化されたグローブボックス内の試料チャンバに装填された。XPSデータのすべてのピークは、Casa XPS52によって分析され、284.6eVにおけるC 1sの基準ピーク(外来炭素)で較正された。
【0059】
図5は、純粋なLiCoOおよび生成物のコバルト2p X線光電子分光(XPS)スペクトルを示す。純粋なLiCoOのコバルト2pスペクトルは、2p 1/2(790.4eV)と2p 1/2(780eV)とのサテライト間の結合エネルギー差が約10eVであることを示し、これは、コバルトイオンの価数が3+であることを示す。生成物のコバルト2p XPSスペクトルでは、2p 1/2(785.8eV)と2p 1/2(780.8eV)とのサテライト間の結合エネルギー差が5eVと顕著な変化があり、これは、生成物中のコバルトイオンの価数が2+であることを示す。XPSスペクトルの比較は、LiCoO中のCo(III)が反応中にCo(II)に変換されることを明確に示している。
【0060】
電池材料からのコバルトおよびリチウムの抽出の追加の実証が、目視検査で示された。1:2のLiCoO/AlCl モル比での反応からの生成物は、水に完全に溶解し、水和Co(II)を表す特徴的なピンク色を有する透明な溶液をもたらした。水溶液を70℃の周囲環境で一晩撹拌すると、白色沈殿が生成される。誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)分析は、沈殿物に含まれる金属はAlのみであることを示し、XRDによりその非晶質性が実証される。これは、AlOClおよびAlClの酸化から生成される酸化アルミニウム(Al)である可能性が高い。沈殿物を濾過した後、溶液から水を蒸発させる。得られた青色粉末をさらに150℃で一晩加熱した。加熱した粉末を水に添加すると、白色沈殿を有する桃色溶液が生成された。沈殿物は、加熱によりAlClから変換されたAlであり、これを濾過する。
【0061】
誘導結合プラズマ発光分析(ICP-OES)が、最終的なピンク色の上清および全沈殿物を含む試料に対して行われた。アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、およびリチウム(Li)の量は、Perkin-Elmer Optima 7300 DV ICP-OES装置によって測定された。上清および沈殿物中の金属の割合が表1に示される。
【0062】
【表1】
【0063】
元素分析の結果、(AlCl アニオンからの)Alの99.61%が沈殿物(Al)として除去され、コバルトの99.86%がCo2+カチオンとして水溶液中に抽出されたことが分かった。水溶液は、全Liの36.16%を含み、残りの63.82%のリチウムは、沈殿物中に存在する。
【0064】
これは、LiCoOからリチウムおよびコバルトを抽出する方法を示しており、この方法は、使用済みリチウムイオン電池をリサイクルするために使用することができる。この方法は、テトラクロロアルミネートAlCl アニオンとLiCoOとの間の反応に基づく。これらの結果に基づくと、AlCl アニオンを含む任意の試薬が、LiCoO、LiNiMnCo1-x-y、および関連材料を含むリチウム遷移金属酸化物カソードを使用するリチウムイオン電池からリチウムおよび遷移金属を抽出するために使用することができる可能性が高い。
【0065】
実施例2:塩化アルミニウムの有機溶液を用いたリチウムイオン電池リサイクル技術
実施例2では、エタノール中のAlCl溶液(EtOH-AlCl)を、リチウムイオン電池カソード材料のリサイクルに使用する。ここで、アルゴンを充填したグローブボックス(HOおよびO<0.1ppm)内で、10重量%のAlCl(98.5%、無水粉末、Thermo Fisher Scientific社製)を、10mlのエタノール(≧99.5%、200プルーフ、無水、Sigma-Aldrich社製)に、溶液を冷やしながらゆっくりと添加した。次いで、モル比2:1(Al:LiCoOまたはNMC622)でLiCoOまたはLiNi0.6Mn0.2Co0.2(NMC622)をEtOH-AlCl溶液に添加した。試料は、上部に凝縮器(10℃)を設置して75℃で12時間加熱した。LiCoOまたはNMC622は、反応中に完全に溶解する。
【0066】
EtOH-AlCl溶液およびLiCoOまたはNMC622との反応後の溶液を、いくつかの方法で特性評価した。液体状態の27AlおよびH NMRスペクトルは、Bruker Avance 600分光計によって取得された。分光計は、27Al核および1H核に対してそれぞれ104.26MHzおよび600.13MHzで動作し、14.1Tの狭いボアの超伝導磁石を用いて、それぞれ20.8kHzおよび26kHzの無線周波数磁場強度で実行され、全てのスパインは、12.0秒のリサイクル遅延で熱平衡に戻るように緩和された。実験では標準溶液は使用されておらず、すべての信号を室温で検出した。
【0067】
室温でのEtOH-AlCl(10重量%のAlCl)溶液についての27Al核磁気共鳴(NMR)スペクトル(図6)では、9.8ppmおよび12.8ppmにそれぞれ[AlCl(EtOH)2+および[AlCl(EtOH)カチオンに割り当てられた2つの異なる信号が明確に示されている。LiCoO(Co/Alのモル比は1:2である)が75℃で12時間後に溶液中に完全に溶解したとき、[AlCl(EtOH)2+および[AlCl(EtOH)ピークが、溶解したCo(II)カチオンからの磁気効果のために低磁場にシフトすることを除いて、新たな27Al NMRピークは観察されない(図6)。
【0068】
UV-可視分光法のために、Agilent Cary 60 UV-Vis分光光度計を使用した。350~750nmの範囲の純粋なEtOH-AlCl溶液のスペクトルをベースライン測定値として使用した。NMC622またはLiCoOとの反応後の溶液を、UV-Vis測定のためにEtOH-AlCl溶液で希釈した。試料を、プラスチックキャップで密封した10×10mmクォートキュベットに入れた。
【0069】
Co(II)カチオンの存在は、図7に示されるように、LiCoOとの反応後の溶液のUV-Visスペクトルによって証明される。スペクトルは、四塩化コバルトアニオン(CoCl 2-)の特徴的なピークを示し、図7の挿入図は、コバルトブルーに着色した溶液の写真を示す。同一の反応条件下でEtOH-AlCl中のNMC622の同じ溶解挙動も観察される。図8は、NMC622が溶解した後の溶液のUV-Visスペクトルを示し、CoCl 2-およびNiCl 2-アニオンの特徴的なピークを示す。MnCl 2-アニオンは、UV-Vis範囲では吸収しない。図8の挿入図は、EtOH-AlCl中のNMC622溶液の写真であり、Ni(II)の特徴的な緑色を示す。反応が完了した後、エタノールを蒸発させ、回転蒸発で収集して、青色(LiCoOから)および緑色(NMC622)粉末を得た。エタノールの回転蒸発は、真空下、120rpmの回転速度および80℃の温度で行った。
【0070】
粉末の結晶構造は、Panalytical Empyrean Series 2を利用してX線粉末回折測定(XRD)を用いて同定した。全ての試料を、アルゴンを充填したグローブボックス内で、真空中80℃で12時間乾燥させた。次いで、乾燥した粉末をゼロ回折シリコンプレート上でプレスして、平坦なパレットを形成した。空気および水分との接触を避けるために、表面をカプトンテープで密封した。走査範囲は10~90°であり、ステップサイズは0.013°であり、1ステップ当たりの時間は148.92秒であった。
【0071】
図9の青色粉末(LiCoOから)のX線回折(XRD)パターンは、塩化リチウム(LiCl)および塩化コバルト(II)(CoCl)の含有量を明確に示している。図10は、(NMC622からの)緑色粉末のXRDパターンを示し、LiCl、CoCl、塩化ニッケル(II)(NiCl)、および塩化マンガン(II)(MnCl)の含有量を示す。上記の分析は、カソード材料中の遷移金属がM(III)からM(II)に還元されることを示す。
【0072】
酸素ガス試験を試料に対して行った。ここで、酸素ガスは、LiCoOモル比が2:1=Al:Coの100gのEtOH-AlClバッチを使用して同定され、これは、O<0.01ppmでグローブボックス内に密閉された。ガス試験は、酸素ガスの発生を検出せず、したがって、カソード中の酸化物が還元試薬である可能性は低い。
【0073】
還元試薬としては、エタノールが考えられるが、これはアセトアルデヒドに還元できることが知られている。これを追跡調査するために、NMRによる追加の特性評価を行った。図11は、LiCoOの完全な溶解後のEtOH-AlClH NMRを示す(点線)。反応生成物としてアセトアルデヒドを同定するために、10体積%の無水アセトアルデヒドを添加した同じ溶液からもH NMRスペクトルを取得した(図11の実線)。この比較により、4ppmでの二重線によって示されるように、反応後のアセトアルデヒドの形成が証明された。
【0074】
上記の分析に基づいて、代表的な活性種としてAlCl およびAlCl2+を使用して、EtOH-AlClとLiCoOとの間の以下の反応機構が提案される。
【0075】
【化4】
【0076】
NMC622は、同じ反応機構に従う。
浸出および精製ステップの効率は、Perkin-Elmer Optima 7300 DV ICP-OES装置を利用して、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、およびリチウム(Li)の量を測定することにより、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-OES)によって測定した。既知量(mg)の試料を強酸性溶液に溶解し、次いで容量を100mlにした。
【0077】
ICP-OES測定によって、LiCoOからの青色粉末中のAl含有量が、150℃での熱処理後に水洗および濾過によって容易に除去できることが示された。加熱した粉末を脱イオン水に混合し、次いでピンク色の透明な上清と白色の沈殿物とを分離することができる。上清および沈殿物のICP-OESによる元素分析を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
これらの結果は、EtOH-AlClが、高効率、低温、および排出物なしにカソード活物質を抽出することができることを実証している。湿式冶金プロセスと比較した場合、Hなどの還元剤の添加と共に、浸出効率を高めるために、極めて酸性の溶液(ゼロ未満のpH)が利用された。ここで提案された溶液の低い酸性度は、エタノールが還元剤として作用するので、系にHを導入する必要がなく、遷移金属の抽出におけるアルミニウム錯体の重要性を示している。第一級脂肪族アルコールを含めて、この方法は、AlClを溶解する際に任意の種類のAlCl (3-n)(ここで、n=4、3、2、および1)イオンを形成する他の全ての溶媒に対して普遍的である。例えば、ジグリムおよびテトラグリム中のAlClは、AlCl アニオンおよびAlCl カチオンを形成し、またはテトラヒドロフラン(THF)中では、AlCl 、[AlCl(THF)および[AlCl(THF)2+と共にAlCl(THF)などのアルミニウム錯体が形成される。これらのAlCl溶液は全て、カソード材料に対して高い浸出効率を示す。有機溶媒中のAlClから構成されるこの新しいタイプの抽出試薬を使用して、任意のタイプのリチウム遷移金属酸化物カソードを備えた使用済みリチウムイオン電池をリサイクルすることができる。
【0080】
採用された用語および表現は、限定ではなく説明の目的で使用され、そのような用語および表現の使用において、示され説明される特徴またはその一部の任意の均等物を除外する意図はないが、本開示の実施例の範囲内で様々な変更が可能であることが認識される。したがって、本開示は、具体的な実施例および任意選択の特徴によって具体的に開示されているが、本明細書に開示される概念の修正および変形が当業者によって行われ得ること、およびそのような修正および変形は、本開示の実施例の範囲内であると見なされることを理解されたい。
【0081】
さらなる例
以下に例示的な実施例が提供されるが、その番号付けは、重要性のレベルを指定するものとして解釈されるべきではない。
【0082】
例1は、リチウムイオン電池カソード材料をリサイクルする方法であって、クロロアルミネートアニオンを含むイオン液体でリチウムイオン電池カソード材料を還元すること、リチウムイオン電池カソードから材料を分離することを含む、方法である。
【0083】
例2において、例1の主題は、イオン液体がルイス中性クロロアルミネートアニオンを含むことを任選択で含む。
例3において、例1~2のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、イオン液体がテトラクロロアルミネートアニオンを含むことを任意選択で含む。
【0084】
例4において、例1~3のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、イオン液体が塩化アルミニウムの有機溶液を含むことを任意選択で含む。
例5において、例1~4のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、リチウムイオン電池カソード材料に対する-メチルイミダゾリウムテトラクロロアルミネートイオン液体を任意選択で含む。
【0085】
例6において、例1~5のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、リチウムイオン電池カソード材料を還元することが、テトラクロロアルミネートイオン液体をリチウムイオン電池カソード材料に添加することを含むことを任意選択で含む。
【0086】
例7において、例1~6のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、1:2のモル比を任意選択で含む。
例8において、例1~7のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、1:10のモル比を任意選択で含む。
【0087】
例9において、例1~8のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、1:50のモル比を任意選択で含む。
例10において、例1~9のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、リチウムイオン電池カソード材料に対する溶液を任意選択で含む。
【0088】
例11において、例1~10のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、リチウムイオン電池カソードから材料を分離することが、リチウムイオン電池カソードからコバルトを分離して除去することを含むことを任意選択で含む。
【0089】
例12において、例1~11のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、リチウムイオン電池カソードから材料を分離することが、リチウムイオン電池カソードからリチウムを分離して除去することを含むことを任意選択で含む。
【0090】
例13において、例1~12のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、リチウムイオン電池カソードから材料を分離することが、遠心分離することを含むことを任意選択で含む。
【0091】
例14において、例1~13のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、リチウムイオン電池カソードから材料を分離することが、コバルトをカチオンとして抽出することを含むことを任意選択で含む。
【0092】
例15において、例1~14のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、リチウムイオン電池カソードから材料を分離することが、カソード活物質を抽出することを含むことを任意選択で含む。
【0093】
例16において、例1~15のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、リチウムイオン電池カソードから材料を分離することが、排出物なしにカソード活物質を抽出することを含むことを任意選択で含む。
【0094】
例17において、例1~16のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、リチウムイオン電池カソードから材料を分離することが、室温でカソード活物質を抽出することを含むことを任意選択で含む。
【0095】
例18において、例1~17のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、リチウムイオン電池カソード材料を還元することの前に、クロロアルミネートアニオンを含むイオン液体を調製することを任意選択で含む。
【0096】
例19において、例18の主題は、EMIMClにAlClを1:1のモル比で混合することを任意選択で含む。
例20において、例18~19のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、EMIMClに対する粉末を任意選択で含む。
【0097】
例21において、例18~20のうちのいずれか1つまたは複数の主題は、エタノールを任意選択で含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】