(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】水不溶性高融点糖脂肪酸エステル(SFAE)
(51)【国際特許分類】
D21H 19/10 20060101AFI20241108BHJP
D21H 21/16 20060101ALI20241108BHJP
D21H 21/14 20060101ALI20241108BHJP
D21H 17/02 20060101ALI20241108BHJP
D21H 17/14 20060101ALI20241108BHJP
D21H 27/10 20060101ALI20241108BHJP
B65D 65/42 20060101ALI20241108BHJP
C09D 103/06 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
D21H19/10 B
D21H21/16
D21H21/14 Z
D21H17/02
D21H17/14
D21H27/10
B65D65/42 C
C09D103/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529788
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 IB2022061156
(87)【国際公開番号】W WO2023089562
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524188011
【氏名又は名称】ケムストーン, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スペンダー、ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】ビロドー、マイケル・アルバート
(72)【発明者】
【氏名】ミカイル、サミュエル
【テーマコード(参考)】
3E086
4J038
4L055
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD01
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3E086AD05
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3E086BB01
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3E086CA01
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3E086CA27
3E086CA28
3E086DA08
4J038BA011
4J038BA131
4J038JA57
4J038KA08
4J038MA13
4J038NA04
4J038NA08
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4L055AG34
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4L055AG99
4L055AH23
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4L055BE08
4L055EA10
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4L055EA20
4L055EA32
4L055FA19
4L055GA05
4L055GA47
4L055GA48
(57)【要約】
水不溶性、高融点糖脂肪酸エステルを含むバイオベースのコーティング剤及び/または組成物、ならびにその方法によって得られる製品を用いることにより、耐水性及び耐脂質性(OGR)などのバリア性能を、個別にまたは組み合わせて、特に高温で提供するための、セルロース系材料のような材料の処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系基材にバリア性能を付与する方法であって、
前記バリア性能を付与するべく、ある糖脂肪酸エステル(特定SFAE)を含む製剤を調製するステップと、
前記セルロース系基材に前記バリア性能を付与するべく、前記セルロース系基材の表面を前記製剤に接触させるステップとを含み、
前記バリア性能は耐水性の向上及び/または耐脂質性の向上を含み、
前記特定SFAEは25℃で水に不溶性であるように構成され、
前記特定SFAEは100℃より高い融点を有する方法。
【請求項2】
前記接触させるステップは、前記製剤及びセルロース繊維のスラリーを前記セルロース系基材として形成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記特定SFAEは、前記スラリー中に存在する全ての前記セルロース繊維の少なくとも0.025%(wt/wt)の総濃度で前記スラリー中に存在するよう構成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記スラリー中の前記セルロース繊維を脱水した後に前記バリア性能を有する固形の物品を形成するステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記物品は、紙、板紙、ベーコンボード、断熱材、食品貯蔵用カートン、堆肥袋、食品貯蔵用袋、剥離紙、輸送用袋、雑草防止/バリア布またはフィルム、マルチングフィルム、植木鉢、梱包用ビーズ、気泡緩衝材、ラミネート、封筒、ギフトカード、クレジットカード、手袋、レインコート、OGR紙、ショッピングバッグ、紙おむつ、膜、食器、ティーバッグ、コーヒーまたは紅茶用容器、温かい飲料または冷たい飲料を入れる容器、コップ、皿、炭酸液体保存用ボトル、非炭酸液体保存用ボトル、蓋、食品包装用フィルム、生ゴミ処理容器、食品取扱器具、布繊維、貯水及び運搬器具、アルコール飲料または非アルコール飲料の保存・運搬具、電子製品の外筐またはスクリーン、室内用または屋外用家具の部品、カーテン、室内装飾品、布地、フィルム、箱、シート、トレイ、パイプ、管、導水管、衣類、医療機器、医薬品包装、避妊具、キャンプ用品、成形されたセルロース系材料、及びそれらの組み合わせを含む群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記接触させるステップは、前記セルロース系基材の前記表面を前記製剤でコーティングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記特定SFAEが前記基材の前記表面に少なくとも0.05g/m
2の重量で含まれる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記セルロース系基材は、紙、板紙、ベーコンボード、断熱材、紙パルプ、食品貯蔵用カートン、堆肥袋、食品貯蔵用袋、剥離紙、輸送用袋、雑草防止/バリア布またはフィルム、マルチングフィルム、植木鉢、梱包用ビーズ、気泡緩衝材、吸油性素材、ラミネート、封筒、ギフトカード、クレジットカード、手袋、レインコート、OGR紙、ショッピングバッグ、紙おむつ、膜、食器、ティーバッグ、コーヒーまたは紅茶用容器、温かい飲料または冷たい飲料を入れる容器、コップ、皿、炭酸液体保存用ボトル、非炭酸液体保存用ボトル、蓋、食品包装用フィルム、生ゴミ処理容器、食品取扱器具、布繊維、貯水及び運搬器具、アルコール飲料または非アルコール飲料の保存及び運搬具、電子機器の外筐またはスクリーン、室内用または屋外用家具の部品、カーテン、室内装飾品、布地、フィルム、箱、シート、トレイ、パイプ、管、導水管、衣類、医療機器、医薬品包装、避妊具、キャンプ用品、成形されたセルロース系材料、及びそれらの組み合わせを含む群から選択される物品である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
ここで、前記セルロース系基材に付与される前記バリア性能は、前記耐脂質性の向上であり、前記耐脂質性の向上は、二次的な疎水性物質が存在しない状態において前記特定SFAEによって提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記製剤は、25℃で水に溶解する可溶性糖脂肪酸エステル(可溶性SFAE)をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記製剤が、本質的に前記特定SFAE及び可溶性SFAEからなる液体システムであるように構成される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記製剤は、1以上のグリセリド及び/または1以上の脂肪酸塩をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記バリア性能が付与された前記セルロース系基材は、3MグリースKIT試験値が約3~約12であるように構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記バリア性能が付与された前記セルロース系基材の前記表面は、90°よりも大きい水接触角を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記バリア性能が付与された前記セルロース系基材の前記表面は、少なくとも65秒のHST値を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記特定SFAEは125℃よりも高い融点を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記SFAEの糖部分は、ラクトース、マルトース、ラフィノース、またはトレハロースから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記SFAEの脂肪酸基は、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、またはパルミチン酸から選択される1以上であるように構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記SFAEには、1以上の糖モノエステル及び糖ジエステルのブレンドが含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記特定SFAEの糖部分はキトサンであるように構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~20のいずれかの方法によって得られた物品。
【請求項22】
前記物品は、紙、板紙、ベーコンボード、断熱材、食品貯蔵用カートン、堆肥袋、食品貯蔵用袋、剥離紙、輸送用袋、雑草防止/バリア布またはフィルム、マルチングフィルム、植木鉢、梱包用ビーズ、気泡緩衝材、ラミネート、封筒、ギフトカード、クレジットカード、手袋、レインコート、OGR紙、ショッピングバッグ、紙おむつ、膜、食器、ティーバッグ、コーヒーまたは紅茶用容器、温かい飲料または冷たい飲料を入れる容器、コップ、皿、炭酸液体保存用ボトル、非炭酸液体保存用ボトル、蓋、食品包装用フィルム、生ゴミ処理容器、食品取扱器具、布繊維、貯水及び運搬器具、アルコール飲料または非アルコール飲料の保存及び運搬具、電子機器の外筐またはスクリーン、家具の内部または外部の一部、カーテン、室内装飾品、布地、フィルム、箱、シート、トレイ、パイプ、管、導水管、衣類、医療機器、医薬品包装、避妊具、キャンプ用品、成形されたセルロース系材料、及びそれらの組み合わせを含む群から選択される、請求項21に記載の物品。
【請求項23】
前記物品の表面が約3~約12の3MグリースKIT試験値を示す、請求項22に記載の物品。
【請求項24】
前記物品の前記表面が、90°よりも大きい水接触角を示す、請求項22に記載の物品。
【請求項25】
前記物品の前記表面が、少なくとも65秒のHST値を示す、請求項22に記載の物品。
【請求項26】
セルロース系基材にバリア性能を付与するための製剤であって、
前記製剤が特定糖脂肪酸エステル(特定SFAE)を含み、
前記バリア性能は耐水性及び/または耐脂質性の向上であり、
前記特定SFAEは25℃で水に不溶性であり、かつ、100℃よりも高い融点を有し、前記基材に前記バリア性能を付与するのに十分な量で前記製剤中に含まれている、製剤。
【請求項27】
25℃で水に溶解する可溶性糖脂肪酸エステル(可溶性SFAE)をさらに含む、請求項26に記載の製剤。
【請求項28】
本質的に前記特定SFAE及び前記可溶性SFAEからなる液体システムであるように構成される、請求項27に記載の製剤。
【請求項29】
さらに1以上のグリセリド及び/または1以上の脂肪酸塩を含む、請求項26に記載の製剤。
【請求項30】
前記特定SFAEの融点が125℃より高い、請求項26に記載の製剤。
【請求項31】
前記特定SFAEの糖部分は、ラクトース、マルトース、ラフィノース、またはトレハロースから選択される、請求項26に記載の製剤。
【請求項32】
前記特定SFAEの脂肪酸は、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、またはパルミチン酸から選択される1以上であるように構成される、請求項26に記載の製剤。
【請求項33】
前記特定SFAEは、1以上の糖モノエステル、糖ジエステル、及び/または糖トリエステルのブレンドが含む、請求項26に記載の製剤。
【請求項34】
前記特定SFAEの糖部分がキトサンであるように構成される、請求項26に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、水不溶性の高融点糖類脂肪酸エステル(本明細書では「特定SFAE」と称する)を含むバイオベースのコーティング及び/または組成物を用いることにより、耐水性及び耐脂質性(OGR)などの改善されたバリア性能といった新規及び/または改善された特性の1つもしくは複数を、特に高温下において提供するために、セルロース系材料などの材料を処理する方法、ならびその方法によって得られる製品に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系材料は、増量剤、吸収剤、印刷成分として、産業界で幅広く用いられている。これらの材料は、高い熱安定性、良好な酸素バリア機能、及び化学的/機械的な耐久性を備えているため、他の材料源よりも好んで用いられる(例えば、Aulinら、Cellulose(2010)17:559-574を参照されたい。ここで参照することにより、その全体が本明細書に組み込まれる)。これらの物質は一度環境中に分散すると完全に生分解され、一般的に無毒であると考えられているという事実も非常に重要である。セルロース及びその誘導体は、食品や使い捨て商品の包装などの用途において、環境に配慮したソリューションとして選択されている材料である。
【0003】
一方、セルロースの多くの利点は、水や脂肪に対して高い親和性を示し、容易に水和される材料の親水性/親油性のために、生かされない結果となっている(例えば、Aulinら、Langmuir(2009)25(13):7675-7685を参照されたい。ここで参照することにより、その全体が本明細書に組み込まれる)。これは吸収体やティッシュのような用途では利点となる一方で、水分や脂質を含む材料(食品など)の安全な包装が要求される場合には問題となる。例えば、食品、特に多量の水分や脂肪を含む調理済みの食品をセルロースのトレイで長期保存すると、まず水が浸透し、最終的には破損するという問題が生じる。さらに、セルロース系材料は相対的に多孔質であるため、表面に十分なコーティングを維持する効率の低さを補うために複数回のコーティングが必要になる場合があり、その結果、コストが増加する。
【0004】
この問題は、業界では通常、セルロース繊維をフルオロカーボン、ワックス、シリコーンなどのある種の疎水性有機材料でコーティングすることによって対処されている。この疎水性有機材料は、繊維の隙間でのウィッキングの防止、折り目にグリースが流入することの防止、付加された材料が離脱することの防止など、下層の親水性セルロースを含有物中の水分/脂質から物理的に遮蔽する。例えば、PVC/PEI/PE、パラフィンワックスなどの材料は、この目的のために一般的に用いられており、処理される表面に物理的に付加(すなわち、スプレーコーティングまたは押し出し成形)される。
【0005】
産業界では、フルオロカーボンが物品の表面エネルギーを低下させる機能があるため、油脂の浸透に対する抵抗性が改善された物品を製造するために、長年にわたってフルオロカーボン化学に基づく化合物を利用してきた。パーフルオロハイドロカーボンの使用に関する新たな問題のひとつは、環境中における残留性が極めて高いことである。EPA及びFDAは最近、これらの化合物の発生源、環境の動向、毒性について調査を行っている。最近の研究では、学童から採取した血液サンプル中におけるパーフルオロオクタンスルホン酸の含有率が非常に高い(90%以上)ことが報告されている。これらの化合物のコスト及び潜在的な環境への負荷により、製造業者は油脂の浸透に対する耐性を有する物品を製造する代替手段を求めるようになった。
【0006】
表面エネルギーを下げると物品の耐貫通性が向上するが、表面エネルギーを下げることによるいくつかの欠点も存在する。例えば、フルオロカーボンで処理された繊維布地は良好な耐汚染性を示すが、一度汚れると、洗浄組成物が布地に浸透し、その結果、布地から汚れを除去させる能力が損なわれる恐れがあり、その結果として、布地が永久的に汚れたままになってしまい、布地の耐用年数が短くなる恐れがある。他の例としては、製造後に印刷されたり、接着剤でコーティングされたりするグリースプルーフ紙がある。この場合、必要とされるグリースプルーフの性質はフルオロカーボン処理によって達成されるが、紙の表面エネルギーが低いため、ブロッキング、バックトラップモットル、接着不良、レジスター(register)など、印刷インクや接着剤の受容性に関連する問題が発生する恐れがある。片面に粘着剤を塗布した感圧ラベルとしてグリースプルーフ紙を用いる場合、表面エネルギーが低いと粘着力が低下する恐れがある。印刷性、コーティング性または接着性を改善するために、低表面エネルギーによる物品は、コロナ放電、化学処理、火炎処理などのような成形後の処理によって処理することが可能である。ただし、これらのプロセスでは、物品の製造コストが増加し、他の欠点が生じる恐れがある。
【0007】
生分解性及び/またはリサイクル性を犠牲にすることなく、コストを低減しながら、紙の表面にコーティング剤を保持し、繊維の隙間へのウィッキングを防止し、またはセルロース表面への材料の付着を低減することを可能にするベースペーパー/フィルムを含む、疎水性や疎油性を有し、かつ、堆肥化可能である「環境に優しい(green)」バイオベースコーティングを設計することが望ましいであろう。
【0008】
もうひとつの問題は、プラスチックバッグ、プラスチックラップ、プラスチック容器などの合成フィルムは、しばしば透過性であり、耐油性もしくは耐グリース性及び/または耐水性を達成するため、及び/またはガス透過性を低減するために、1以上のコーティング層を必要とすることである。また、合成フィルムに所望のバリア性能を与えるために、通常はフルオロカーボン及び/または石油ベースのコーティングが用いられる。
【0009】
他の問題は、本明細書で指摘したフルオロカーボン及び石油化学コーティングを含む、疎水性及び/または疎油性バリア性能を付与するための従来のコーティングが、材料でコーティングされた物品の折り目やしわ(crease)などにおいてその性能が低下する傾向があることである。具体的には、これらの場所では、通常、物品の耐水性及び/または耐グリース性が低下する傾向がある。このような「グリースしわ効果」は、紙の構造体を折り曲げたり、押し付けたり、押しつぶしたりすることによって生じる紙の構造体のグリースの吸着として定義することができる。グリースのしわに対する従来の解決策は、ラテックス、ブタジエン、または同様の樹脂を塗料に添加して、これらの場所での塗膜の被覆性を向上させることである。しかしながら、この従来の解決策では、これらの場所の耐水性及び/または耐油性及び耐グリース性は、依然として物品の平坦な部分よりも低下することがある。この従来の解決策では、樹脂成分の添加によりコストが増加し、ラテックス及びブタジエンが合成であるか、及び/または容易にリサイクルできない恐れがあるため、この従来の解決策は完全なバイオベースではない。したがって、折り目やしわなどを有する複雑な形状もしくは単純な形状を有する立体物のバリア性能を向上させることが求められている。
【0010】
2020年8月4日に発行された米国特許第10,730,959号明細書(以下、「959号特許」)は、ここで参照することにより、その全体が本明細書に組み込まれるが、基材、特にセルロース系材料を、その生分解性を犠牲にすることなく疎水性及び/または親油性を増大させる組成物によって処理する調整可能な方法を開示している。例えば、959号特許では、セルロース系材料に糖脂肪酸エステル(または「SFAE」)を結合させることにより、より高い疎水性、疎油性、バリア性能、及び機械的特性を示す処理された材料を提供する方法を開示している。
【0011】
2021年11月11日に公開された米国特許出願公開第2021/0347999号明細書(以下、「999号公報」)(ここで参照することにより、その全体が本明細書に組み込まれる)も、その生分解性を犠牲にすることなく、耐水性及び/または耐OGR性などのバリア性能の向上を提供する組成物でセルロース系材料を処理する調整可能な方法を開示している。例えば、999号公報では、セルロース系材料に耐水性及び/または耐OGR性を付与するため、あるいは乳化剤の機能を付与するために、グリセリド及び/または脂肪酸塩のブレンドを、任意にSFAEと共に含む製剤を開示している。
【0012】
ここで参照することによりその全体が本明細書に組み込まれるPCT/US2020/014923(以下、「923号出願」という)は、耐水性及び/または耐油性/耐グリース性にすることを含む、表面の改質を可能にするスクロース脂肪酸エステル含有粒子(担体系)を用いて繊維状セルロース系材料を処理する方法を開示している。開示されている方法は、少なくとも1のSFAEをポリマー(例えば、ラテックス)と組み合わせることにより微小粒子を形成し、このような粒子を、繊維状セルロース系材料(例えば、パルプ)を含む基材に適用して、特に物品を形成する方法に関する。SFAE、ラテックス、及び任意にミネラルまたはその他の添加剤の組み合わせを含む組成物も開示されている。
【0013】
ここで参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願16/568,953(以下、「953号出願」という)は、セルロース系材料を、その生分解性を犠牲にすることなく、そのような材料に耐油性及び/または耐グリース性を向上させる、プロラミン及び少なくとも1のポリオール脂肪酸エステルを含むバリアコーティングを用いて処理する調整可能な方法を開示している。開示された方法は、セルロース系材料を含む物品及びそのような方法によって製造された物品を含む物品にバリアコーティングを塗布することを可能にする。このように処理された材料はより高い疎油性を示し、そのような特性が所望されるあらゆる用途に用いることが可能である。
【0014】
ここで参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願第16/456,499(以下、「´499出願」という)は、セルロース系材料を、その生分解性を犠牲にすることなく、そのような材料の耐水性、耐油性及び耐グリース性を向上させる、少なくとも2つのポリオール及び/または糖脂肪酸エステルを含むバリアコーティングによって処理する調整可能な方法を開示している。開示された方法は、セルロース系材料を含む物品、及びそのような方法によって製造された物品を含む物品に対してバリアコーティングを塗布する方法を提供する。このように処理された材料は、より高い疎水性及び疎油性を示し、そのような特性が所望されるあらゆる用途に用いることが可能である。
【0015】
ここで参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願第16/456,433(以下、「433号出願」という)は、セルロース系基材における無機粒子の保持力を高める組成物を用いてセルロース系材料を処理する方法を開示している。開示された方法は、SFAEをそのような無機粒子と組み合わせて、そのような組み合わせをセルロース系材料に適用することにより、製紙工程における充填剤に対して歩留剤またはバインダーを用いることを排除または削減する方法を提供する。このようなSFAE及び無機粒子の組み合わせを含む組成物も開示している。
【0016】
一方、発明者らは、従来のSFAEに基づくバリア製剤によってバリア性能を向上させるために誘導体化されたセルロース材料が、比較的高温の材料に接触すると溶出(migration)する恐れがあると判断した。例えば、処理されたセルロース材料が食品包装であり、その包装が比較的高温の食品と接触すると、SFAEが溶けて食品内に入り込んだり、別の方法で溶出したりすることにより、バリア性能が低下し、漏れ出てしまう恐れがある。
【0017】
したがって、特に高温下においてセルロースベースの材料のバリア性能を向上させる「環境に配慮した」バイオベースの製剤が依然として求められている。
【0018】
さらに、従来のSFAEは、水性媒体中では高度に陰イオン性であり、水性スラリー中のセルロース繊維の表面からはじかれる。このため、スラリーが繊維及びSFAEを排出することにより形成される繊維状のウェブまたは物品にSFAEを保持することが困難になる恐れがある。この点に関して、従来の解決策としては、荷電ポリマーなどの歩留剤を用いることが考えられる。しかしながら、これは「環境に配慮した」プロセスが求められる状況では欠点となり、追加の手順や材料が必要になることでプロセスが複雑になるという恐れもある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らの熱心な努力に基づき、本開示は、セルロース系材料に改善された耐水性及び/または改善された耐油性及び耐グリース性(OGR)を付与することが可能であり、この改善されたバリア性能を比較的高温でも維持することができる、水不溶性かつ高融点の糖脂肪酸エステル(以下、「特定SFAE」)を用いたバリア製剤及び方法を提供する。本開示はまた、バリア製剤によって処理または製造された物品及び製品を提供し、物品は、これらに限定されないが、耐水性及び/またはOGRを含む改善された特性を有する。
【0020】
いくつかの実施形態では、特定SFAEは25℃の水に溶解しない。
【0021】
いくつかの実施形態では、特定SFAEは100℃を超える融点を有する。いくつかの態様では、特定SFAEの融点は、110℃以上、120℃以上、130℃以上、140℃以上、または150℃以上であってもよい。いくつかの実施形態では、SFAEの融点は250℃未満、225℃未満、200℃未満、175℃未満、または150℃未満である。
【0022】
例えば、その溶解性についての特性(すなわち、特定SFAEは実質的に非極性かつ疎水性であり、したがって水に不溶性である)を考慮すると、特定SFAEがOGRを提供できることは驚くべきことであると考えられた。つまり、このような特性を有する材料が脂質をはじくとは考えられなかった。
【0023】
さらに、融点が比較的高いことを考慮すると、特定SFAEは、食品包装における溶出の問題にも対処できる可能性がある。すなわち、ある食品が比較的高い温度であっても、特定SFAEが溶け出す可能性は低くなる。言い換えると、特定SFAEは高温の食品包装及び再加熱用途において非常に望ましい、高温の油浸透に対する耐性を高める。
【0024】
また、特定SFAEなどの非フィルム形成材料を用いることにより、耐水性及びOGRを提供できることも驚くべきことであると考えられた。もちろん、いずれの特性も、一般的にはセルロース系材料のバリア製剤に、そして特に食品との接触を意図した物品に有利である。
【0025】
いくつかの実施形態において、本開示は、基材に疎水性及び/または疎油性バリア性能を付与する方法を提供し、該方法は、基材に疎水性及び/または疎油性バリア性能を付与するために有効な量の特定SFAEを含む製剤を調製するステップを含み、基材に疎水性及び/または疎油性バリア性能を付与するべく、基材の表面に製剤を接触させるステップを含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、この方法は、製剤に含まれる特定SFAEの量を事前に決定するステップを含む。いくつかの態様では、事前に決定するステップは、製剤を調製する前に実行されてもよく、または基材の表面に製剤を接触させるステップの前に実行してもよい。いくつかの態様では、事前に決定するステップは、所望の効果を達成するために実行される。いくつかの態様では、所望の耐水性レベル及び/または所望のOCRレベルを達成するために事前に決定するステップが実行される。
【0027】
いくつかの実施形態では、製剤を接触させる基材は、セルロース材料、合成ポリマー材料、または天然もしくは合成の織物材料である。いくつかの実施形態では、セルロース材料は、セルロース繊維、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)、ナノフィブリル化セルロース、セルロースナノファイバー(CNF)、またはセルロースナノ結晶であってもよい。
【0028】
いくつかの実施形態において、基材を製剤に接触させるステップは、製剤及びセルロース繊維のスラリーを形成することを含む。これは、ウェットエンドプロセス(すなわち、スラリー中の繊維を脱水する前であり、既に形成された成形品の表面をコーティングするのとは対照的)と称される。
【0029】
いくつかの実施形態では、製剤は乳剤の形態であってもよい。
【0030】
いくつかの実施形態において、特定SFAEは、全セルロース繊維の少なくとも0.025%(wt/wt)の濃度でスラリー中に含まれる。関連する態様において、特定SFAEは、全セルロース繊維の約0.05%(wt/wt)~約0.1%(wt/wt)、約0.1%(wt/wt)~約0.5%(wt/wt)、約0.5%(wt/wt)~約1.0%(wt/wt)、約1.0%(wt/wt)~約2.0%(wt/wt)、約2.0%(wt/wt)~約3.0%(wt/wt)、約3.0%(wt/wt)~約4.0%(wt/wt)、約4.0%(wt/wt)~約5.0%(wt/wt)、約5.0%(wt/wt)~約10%(wt/wt)、または約10%(wt/wt)~約50%(wt/wt)の濃度で含まれる。
【0031】
いくつかの実施形態において、水不溶性の特定SFAEを水中で可溶化または分散させるのを容易にするために、乳化物(emulsifiers)または乳化剤(emulsifying agents)の形態で水溶性糖脂肪酸エステル(以下、「可溶性SFAE」)をスラリーに添加してもよい。したがって、可溶性SFAEは25℃で水に溶解する。可溶性SFAEは、959特許に従って製造されたSFAEであってもよい。可溶性SFAEは室温で液体であってもよい。
【0032】
いくつかの態様では、可溶性SFAEはスクロースエステルである。
【0033】
いくつかの態様では、可溶性SFAEは、本質的に不飽和脂肪酸基からなるか、または不飽和脂肪酸基からなるものであってもよい。
【0034】
いくつかの態様において、可溶性SFAEはモノエステルであってもよい。いくつかの態様において、可溶性SFAEは、50重量%よりも多い、60重量%よりも多い、70重量%よりも多い、80重量%よりも多い、または90重量%よりも多いモノエステルを含んでもよい。
【0035】
いくつかの実施形態において、製剤は、例えば、本質的に特定SFAE及び可溶性SFAEからなる、またはこれらからなる液体システムであってもよい。すなわち、いくつかの態様において、製剤は、特定SFAE及び可溶性SFAEのみを含む(または実質的にのみ含む)液体であってもよい。
【0036】
いくつかの実施形態では、製剤は、特定SFAE及び可溶性SFAEの水エマルジョンを含んでいてもよい。
【0037】
いくつかの態様では、可溶性SFAEが特定SFAEの溶媒として機能する場合、繊維ウェブまたは基材全体における特定SFAEの分布が改善され、それによってバリア性能の生成における効率が改善される可能性がある。
【0038】
いくつかの実施形態において、製剤は、SFAE及び有機溶媒を含んでいてもよい。
【0039】
いくつかの実施形態において、スラリーを用いて形成された物品は、疎水性及び/または疎油性バリア性能を有する。溶液から形成される物品は、紙、板紙、ベーコンボード、断熱材、食品貯蔵用カートン、堆肥袋、食品貯蔵用袋、感圧接着剤などの接着剤用の剥離紙、輸送用袋、雑草防止/バリア布またはフィルム、マルチングフィルム、植木鉢、梱包用ビーズ、気泡緩衝材、ラミネート、封筒、ギフトカード、クレジットカード、手袋、レインコート、OGR紙、ショッピングバッグ、紙おむつ、膜、食器、ティーバッグ、コーヒーまたは紅茶用容器、温かいまたは冷たい飲料を入れる容器、コップ、皿、炭酸液体保存用ボトル、非炭酸液体保存用ボトル、蓋、食品包装用フィルム、生ゴミ処理容器、食品取扱用器具、布繊維、貯水及び運搬器具、アルコール飲料または非アルコール飲料の保存・運搬具、電子機器の外筐またはスクリーン、家具の内部または外部の一部、カーテン、室内装飾品、布地、フィルム、箱、シート、トレイ、パイプ、管、導水管、衣類、医療機器、医薬品包装、避妊具、キャンプ用品、成形されたセルロース系材料、及びそれらの組み合わせを含む。
【0040】
いくつかの実施形態において、基材に製剤を接触させるステップは、セルロースベースの基材の表面を、製剤を用いてコーティングすることを含む。いくつかの実施形態では、特定SFAEは、基材の表面に少なくとも約0.05g/m2のコーティング重量で含まれる。関連する態様において、特定SFAEは、セルロース系材料の表面に、約0.05g/m2~約1.0g/m2、約1.0g/m2~約2.0g/m2、約2g/m2~約3g/m2のコーティング重量で含まれていてもよい。関連する態様において、特定SFAEは、約3g/m2~約4g/m2、約4g/m2~約5g/m2、約5g/m2~約10g/m2、または約10g/m2~約20g/m2で含まれていてもよい。
【0041】
いくつかの実施形態において、基材をコーティングするために用いられる製剤は、可溶性SFAEを含んでもよく、または製剤は、本質的に特定SFAE及び可溶性SFAEからなる、または特定SFAE及び可溶性SFAEからなる液体システムであってもよい。
【0042】
いくつかの実施形態では、製剤と接触させる基材は、紙、板紙、ベーコンボード、断熱材、紙パルプ、食品貯蔵用カートン、堆肥袋、食品貯蔵用袋、感圧接着剤などの剥離紙、輸送用袋、雑草防止/バリア布またはフィルム、マルチングフィルム、植木鉢、梱包用ビーズ、気泡緩衝材、吸油性素材、ラミネート、封筒、ギフトカード、クレジットカード、手袋、レインコート、OGR紙、ショッピングバッグ、紙おむつ、膜、食器、ティーバッグ、コーヒーまたは紅茶用容器、温かい飲料または冷たい飲料を入れる容器、コップ、皿、炭酸液体保存用ボトル、非炭酸液体保存用ボトル、蓋、食品包装用フィルム、生ゴミ処理容器、食品取扱器具、布繊維、貯水及び輸送器具、アルコール飲料または非アルコール飲料の保存・運搬具、電子製品の外筐またはスクリーン、家具の内部または外部の一部、カーテン、室内装飾品、布地、フィルム、箱、シート、トレイ、パイプ、管、導水管、衣類、医療機器、医薬品包装、避妊具、キャンプ用品、成形されたセルロース系材料、及びそれらの組み合わせを含む群から選択される物品の表面である。
【0043】
いくつかの実施形態では、特定SFAEを顔料(顔料という語は、製紙技術の一般的な意味を有する)として用いてもよい。この実施形態では、未溶解の特定SFAEの微粒子を繊維状のウェブに組み込むことが可能であり、その後、セルロース系物品の製造中の乾燥熱/成形熱及び圧力により、特定SFAEが溶融し、流動することにより細孔を充填する。
【0044】
いくつかの実施形態において、特定SFAE(または可溶性SFAE)の脂肪酸鎖(単数または複数)は、油糧種子から得られる。他の実施形態において、脂肪酸鎖(単数または複数)は、自然界に存在する食用油脂の他の供給源から得られる。
【0045】
いくつかの実施形態では、特定SFAEは、糖部分の1以上のエステル化されたヒドロキシル基を有する。いくつかの態様では、特定SFAEは、例えば、モノエステル、ジエステル、またはトリエステルであってもよい。いくつかの態様において、特定SFAEは、50重量%よりも大きい、60重量%よりも大きい、70重量%よりも大きい、80重量%よりも大きい、または90重量%よりも大きいモノエステル及びジエステルを含んでいてもよい。いくつかの態様において、特定SFAEは、主要成分としてモノエステルを含んでいてもよい(本明細書で使用される場合、主要成分とは、使用される文脈において50wt%より大きいことを指す)。いくつかの態様において、特定SFAEは、主要成分としてジエステルを含んでいてもよい。
【0046】
いくつかの実施形態において、特定SFAEの脂肪酸基は、異なる炭素数、異なる不飽和度、及び/またはオレフィンの異なる構成及び配置を有していてもよい。すなわち、置換度が1以上の場合(例えば、サッカライドジエステル)、各脂肪酸基は、これらの特性の1以上が同一であっても異なっていてもよい。
【0047】
いくつかの実施形態では、脂肪酸基は、これらに限定されないが、例えば、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、及びパルミチン酸から選択されてもよいが、脂肪酸基はそれらに限定されない。
【0048】
いくつかの実施形態において、糖部分は、これらに限定されないが、例えば、ラクトース、マルトース、ラフィノース、またはトレハロースから選択される1以上であってもよい。
【0049】
いくつかの実施形態において、糖部分は、カチオン電荷を有する線状多糖であるキトサンであってもよい。キトサンは、貝類の骨格から単離されたものでもよく、正に荷電している。キトサンは、単純な二糖類と比較すると高分子量の糖類部分であり、商業的に生産されるキトサンの分子量は約3,800~約20,000ダルトンである。
【0050】
特定SFAEの糖類部分としてカチオン性キトサンを用いることにより、カチオン性SFAE及びアニオン性セルロース表面の間の静電引力が増大し、その結果、紙や成形パルプ製品を形成する際にSFAEの吸収性能及び保持性能が増大することがある。
【0051】
いくつかの実施形態では、製剤には2以上の特定SFAEが含まれ、特定SFAEの1種は二糖部分を有し、特定SFAEの1種はキトサン部分を有する。いくつかの実施形態では、この製剤は可溶性SFAEをさらに含んでもよい。
【0052】
いくつかの実施形態では、疎水性バリア性能は、二次疎水性物質が存在しない状態において製剤によって基材に付与される。
【0053】
いくつかの実施形態では、製剤は1以上の乳化物または乳化剤を含んでいてもよい。使用される場合、特定SFAEと1以上の乳化剤との重量比は、約0.1:99.9~約99.0:0.1、約10:90~約90:10、約20:80~約80:20、約35:65~約65:35、約40:60~約60:40、または約50:50である。いくつかの実施形態において、乳化剤は、水、可溶性SFAE、緩衝剤、糖脂肪酸エステル、ポリビニルアルコール(PvOH)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、乳タンパク質、小麦グルテン、ゼラチン、プロラミン、大豆タンパク質単離物、デンプン、アセチル化多糖類、アルギン酸塩、カラギーナン、キトサン、イヌリン、長鎖脂肪酸、ワックス、寒天、アルギン酸塩、グリセロール、ガム、レシチン、ポロキサマー、モノ/ジグリセロール、リン酸二水素ナトリウム、モノステアリン酸エステル、プロピレングリコール、洗浄剤、セチルアルコール、グリセロールエステル、(飽和)((ポリ)不飽和)脂肪酸メチルエステル、及びそれらの組み合わせから選択される。
【0054】
上述のように、いくつかの実施形態において、本方法に用いられる製剤はまた、1以上の可溶性SFAEを含む。用いられる場合、特定SFAEの可溶性SFAEに対する重量比は、約0.1:99.9~約99.0:0.1、約10:90~約90:10、約20:80~約80:20、約35:65~約65:35、約40:60~約60:40、または約50:50である。
【0055】
いくつかの実施形態では、本方法は、製剤に含まれる特定SFAEの含有量を事前に決定するステップを含む。いくつかの態様では、この事前に決定するステップは製剤を調製する前に実行することや、基材の表面を製剤と接触させる前に実行することも可能である。いくつかの態様では、この事前に決定するステップは、所望の効果を達成するために実行される。いくつかの態様では、事前に決定するステップは、所望のレベルの耐水性及び/または所望のレベルの耐油性もしくは耐グリース性を達成するために実行される。
【0056】
いくつかの実施形態では、用いられる製剤には、製紙業界で一般的に用いられる1以上の顔料が含まれてもよい。1以上の顔料は、製剤の全重量に基づいて、約0.1%~約90%の重量濃度で製剤中に含まれてもよい。他の態様において、顔料の濃度は、約1%~10重量%、約11%~20重量%、約21%~30重量%、約31%~40重量%、約41%~50重量%、約61%~70%重量%、約71%~80重量%、約81%~900重量%、または0.1重量%~約90重量%の間の他の範囲としてもよい。顔料を使用することは製紙業界ではよく知られており、最終製品の特性を変えるために顔料濃度を選択することができる。いくつかの実施形態において、1以上の顔料は、粘土、炭酸カルシウム、二酸化チタン、カオリン、タルク、またはプラスチック顔料から選択される。
【0057】
いくつかの実施形態では、1以上の顔料は、製剤に含ませる前に事前処理される。事前処理には、糖脂肪酸エステルを顔料と結合するのに十分な時間及び温度において顔料を糖脂肪酸エステルと接触させることが含まれる。例えば、ある態様では、特定SFAEを加熱し、無機粒子/顔料の表面において溶融させてもよい。事前処理された顔料は、(例えば、製紙原料に直接添加するように)ウェットエンドに含めてもよく、または本開示の製剤に添加してもよい。
【0058】
いくつかの実施形態では、製剤は完全にバイオベースである。いくつかの実施形態では、製剤はフルオロカーボンを含まない。いくつかの実施形態では、製剤は石油から得られる化合物を含まない。いくつかの実施形態では、製剤を用いて製造される物品は完全にバイオベースである。
【0059】
いくつかの実施形態では、製剤は、特定SFAEを基材において保持することを補助する1以上の荷電ポリマーを含む。1以上の荷電ポリマーには、1以上のカチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、非イオン性ポリマー、及び/または双性イオンポリマーが含まれてもよい。いくつかの実施形態では、荷電ポリマーは、比較的低分子量のカチオン性ポリマーと比較的高分子量のアニオン性ポリマーとの組み合わせが含まれてもよい。いくつかの実施形態では、製剤は荷電ポリマーを含まない。
【0060】
いくつかの実施形態では、荷電ポリマーは1以上のカチオン性ポリマーからなる。1以上のカチオン性ポリマーには、ポリアクリルアミドが含まれてもよい。ポリアクリルアミドには、ポリDADMAC(ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を含んでいてもよい。
【0061】
いくつかの実施形態では、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は500,000~10,000,000である。いくつかの態様では、重量平均MWは500,000~1,000,000、1,000,001~2,000,000、2,000,001~3,000,000、3,000,001~4,000,000、4,000,001~5,000,000、5,000,001~6,000,000、6,000,001~7,000,000、7,000,001~8,000,000、8,000,001~9,000,000、または9,000,001~10,0000である。いくつかの態様では、上記の範囲の任意のMWを有する荷電ポリマーの組合せを用いて「バイモーダル」タイプの重量平均MWを達成する(例えば、1,000,000未満の重量平均MWを有する第1の荷電ポリマーを、2,000,000を超える重量平均MWを有する第2の荷電ポリマーと組み合わせて用いる。ここで、第1の荷電ポリマーと第2の荷電ポリマーの重量比は10:90~90:10である)ために、荷電ポリマーのブレンドが用いられる。いくつかの実施形態において、製剤中のカチオン性ポリマーの濃度は、製剤の総重量を100%とした場合に、約0.01重量%~約5重量%、約0.01重量%~約3重量%、約0.05重量%~約0.1重量%、または約0.1重量%~約1重量%、または約1重量%~約3重量%である。いくつかの態様において、特定SFAEに対するカチオン性ポリマーの製剤中の重量比は、約0.1:99.9~約20:80、約0.5:99.5~約15:85、約1:99~約10:90、または約2.5:97.5~約7.5:92.5である。
【0062】
いくつかの実施形態では、製剤には、例えば、デンプン、タンパク質、プロラミン、ポリマー、ポリマーエマルジョン、PvOH、またはそれらの組み合わせから選択される1以上の結合剤が含まれてもよい。いくつかの実施形態では、製剤は結合剤を含まない。
【0063】
いくつかの実施形態において、疎水性及び/または疎油性バリア性能を付与された基材は、約3~約12の間の3MグリースKIT試験値を示す。いくつかの実施形態では、疎水性及び/または疎油性バリア性能が付与された基材の表面は、90°よりも大きい、100°よりも大きい、110°よりも大きい、または120°よりも大きい水接触角を示す。いくつかの実施形態では、疎水性及び/または疎油性バリア性能が付与された基材の表面は、少なくとも65秒のHST値を示す。
【0064】
いくつかの実施形態では、開示された方法によって得られた物品及び/または製剤によって処理された物品が提供される。
【0065】
本開示の追加の特徴及び利点は、以下にさらに記載される。本発明の概要は、単に本開示の特定の特徴を例示することを意図しており、本開示の範囲をいかなる形でも限定することを意図するものではない。本開示の特定の特徴または実施形態について説明していないこと、またはこの発明の概要において1以上の特徴を含めることは、特許請求の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【発明を実施するための形態】
【0066】
本組成物、方法、及び方法論をより詳細に説明する前に、本開示は、そのような組成物、方法、及び条件が変化することがあるため、記載される特定の組成物、方法、及び実験条件に限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲においてのみ限定されるため、限定を意図するものではないことを理解されたい。
【0067】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈において明確にそうでないことが指示されない限り、複数形に対しても使用される。したがって、例えば、「特定SFAE(a specific SFAE)」は、1または複数のSFAE、及び/または本開示等を読めば当業者にとっては明らかであるような本明細書に記載される種類の組成物を含む。
【0068】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと類似または等価である任意の方法及び材料は、本開示の実施または試験において用いることが可能であり、改変及び変形は、即座の本開示の精神及び範囲内に包含されることを理解されたい。
【0069】
特に記載がない限り、本明細書で開示される各範囲は、各個別の点及び範囲内のすべての可能な部分範囲を包含し、開示するものと理解されたい。
【0070】
本明細書で使用される場合、「約(about)」、「およそ(approximately)」、「実質的に(substantially)」、及び「大幅に(significantly)」は、当業者によって理解され、それらが使用される文脈に応じてある程度変化する。その用語が使用されている文脈から当業者にとって明確でない用語の使用がある場合、「約」及び「およそ」は、特定の用語の±10%未満を意味し、「実質的に」及び「大幅に」は、特定の用語の±10%超を意味する。「含む(comprising)及び「本質的に~からなる(consisting essentially of~)」は、当技術分野における慣用的な意味を有する。
【0071】
実施形態において、本開示は、例えばセルロース繊維などの基材の表面を特定SFAEで処理することによって、得られる表面が、特に、強く疎水性になる。例えば、セルロース繊維の場合には、セルロースのヒドロキシル基は嵩の大きい有機鎖によってマスクされることがある。さらに、特定SFAEは、例えば一度細菌酵素によって除去されると、それ自体容易に消化される。誘導体化された基材表面は、250℃もの高温に耐えることが可能な優れた耐熱性を示すことが示されており、その下部のベース基材よりもガスを通さないことがある。したがって、この材料は、例えば食品の包装など、セルロース系材料が採用される可能性のあるあらゆる実施形態において、例えばセルロースの親水性表面を誘導体化するという問題に対する理想的な解決策となる。
【0072】
本明細書に開示される製品及び方法の利点には、コーティング組成物が再生可能な農業資源、例えば、植物油から製造されること、生分解性であること、毒性が低く食品との接触に適していること、高いレベルの耐水性であっても基材の摩擦係数を低減するように調整できること(例えば、紙/板紙表面に関して、処理によって紙が滑りやすくなりすぎるために下流処理または最終用途に適さないということがない)、特殊な乳化装置または乳化剤と一緒に使用しても使用しなくてもよいこと、従来の紙リサイクルプログラムに適合すること(すなわち、ポリエチレン、ポリ乳酸、またはワックスコーティングされた紙のようにリサイクル作業に悪影響を与えないこと)などが挙げられる。
【0073】
本明細書で使用する「バイオベース」とは、生きている(またはかつて生きていた)生物に由来する物質から意図的に作られた材料を意味する。関連する態様において、このような物質を少なくとも約50%含む材料は、バイオベースとみなされる。しかしながら、上述したように、いくつかの実施形態において、本明細書に開示される物品は、そのような物質を100%まで含むことが可能である。
【0074】
本明細書で使用される「結合」とは、その文法上のバリエーションを含めて、本質的に単一の塊として凝集すること、または凝集させることを意味し、イオン結合、疎水性結合、ファンデルワールス相互作用、または共有結合、またはそれらの組み合わせを指すことがある。
【0075】
本明細書で使用する場合、「セルロース系」とは、構造的及び機能的にセルロースと類似した、例えば、コーティング剤及び接着剤(例えば、カルボキシメチルセルロース)であり、成形または押し出し成形を用いて物体(例えば、袋、シート)またはフィルムやフィラメントの製造に用いられることがある天然、合成または半合成材料を意味する。他の例では、ほとんどの植物の細胞壁の主成分を形成する、グルコース単位によって構成される複合炭水化物(C6H10O5)nであるセルロースはセルロース系である。
【0076】
本明細書で使用する「コーティング重量」とは、基材に塗布された材料(湿潤または乾燥)の重量である。指定された連(ream)当たりのポンドまたは平方メートル当たりのグラムで表される。
【0077】
本明細書で使用する「堆肥化可能」とは、これらの固形製品が土壌中で生分解されることを意味する。
【0078】
本明細書で使用する場合、「エッジウィッキング」とは、これらに限定されないが、繊維間の細孔における毛細管浸透、繊維及び結合を介した拡散、ならびに繊維上の表面拡散を含む1以上のメカニズムによって紙構造の外側の境界において紙構造内の水が吸着されることを意味する。関連する態様において、本明細書に記載のグリセリド及び/または脂肪酸塩含有製剤は、処理された製品におけるエッジウィッキングを防止する。ある態様において、同様の問題は、紙または紙製品に発生する可能性がある折り目に入り込むグリース/油においても生じる。このような「グリースしわ効果」は、紙構造を折り畳む、プレスする、または押しつぶすことによって生じる紙構造中のグリースの収着として定義することが可能である。
【0079】
本明細書で使用する「効果」とは、その文法上のバリエーションを含め、ある材料に独自の特性を付与することを意味する。
【0080】
本明細書において、「疎水性物質」とは、水を引き付けない物質を意味する。例えば、ワックス、ロジン、樹脂、糖脂肪酸エステル、脂肪酸塩、長い脂肪酸鎖を有するグリセリド、ジグリセリド及びトリグリセリド、ジケテン、シェラック、酢酸ビニル、PLA、PEI、油、脂肪、脂質、その他の撥水化学物質、またはそれらの組み合わせは疎水性物質である。
【0081】
本明細書で使用する「疎水性」とは、水をはじき、吸収しない性質、つまり撥水性があることを意味する。
【0082】
本明細書で使用する「耐脂性」または「疎油性」とは、脂質、グリース、脂肪などをはじき、吸収しない傾向がある、脂質をはじく性質を意味する。関連する態様において、耐グリース性は、「3M KIT」試験、TAPPI T559キット試験、またはCobbオイル試験によって測定することが可能である。
【0083】
本明細書において、「セルロース含有材料」または「セルロース系材料」とは、本質的にセルロースからなる組成物を意味する。例えば、そのような材料には、これらに限定されないが、紙、紙シート、板紙、紙パルプ、食品貯蔵用カートン、羊皮紙、ケーキボード、肉用の紙、感圧接着剤用剥離紙/ライナー、食品貯蔵用袋、ショッピングバッグ、輸送用袋、ベーコンボード、断熱材、ティーバッグ、コーヒーや紅茶の容器、コンポストバッグ、食器、温かい飲料や冷たい飲料を入れる容器、カップ、蓋、皿、炭酸飲料保存用ボトル、ギフトカード、非炭酸飲料保存用ボトル、食品包装用フィルム、生ゴミ処理容器、食品取扱器具、布繊維(綿や綿混紡など)、アルコール飲料または非アルコール飲料の保存及び運搬器具、電子機器の外筐またはスクリーン、室内用または屋外用家具、カーテン及び室内装飾品を含んでいてもよい。
【0084】
本明細書で使用する「剥離紙」とは、例えば感圧接着剤のように、粘着性表面が接着剤またはマスチックに対してすぐに付着するのを防止するために用いられる紙シートを意味する。ある態様において、本明細書で開示するコーティングは、低表面エネルギーを有する材料を製造するために、シリコンまたは他のコーティングの使用に置き換えてまたは低減するために用いることができる。表面エネルギーの測定は、接触角の測定(例えば、光学テンシオメーター及び/または高圧チャンバ、Dyne Testing社、Staffordshire、英国)または表面エネルギー試験ペンもしくはインク(例えば、Dyne Testing社、英国スタッフォードシャーを参照されたい)を用いて容易に行うことができる。
【0085】
特定SFAEに関して本明細書で使用する「離脱性(releasable)」とは、一度塗布された材料が、物理的特性を操作することなどにより、基材(例えば、セルロース系材料)から除去可能であることを意味する。本明細書において、特定SFAEに関連して使用される「非離脱性(non-releasable)」とは、一度塗布された材料が、化学的手段などによって、基材(例えば、セルロース系材料)に実質的に元に戻せない形で結合されることを意味する。
【0086】
本明細書において、「溶液中の繊維」または「パルプ」とは、木材、繊維作物または古紙からセルロース繊維を化学的または機械的に分離することによって調製されるリグノセルロース系繊維状物質を意味する。関連する態様において、セルロース繊維が本明細書に開示されるような方法によって処理される場合、セルロース繊維自体は、単離された実体として結合した特定SFAEを含み、結合したセルロース繊維は、遊離繊維とは別個の異なる特性を有する(例えば、パルプまたはセルロース繊維、またはナノセルロースまたはミクロフィブリル化セルロースグリセリド/脂肪酸塩結合物質は、結合していない繊維ほど容易に繊維間に水素結合を形成しないであろう)。
【0087】
本明細書で使用する「再パルプ化可能(repulpable)」とは、紙または板紙製品を、紙または板紙の生産で再利用するために、柔らかく形のない塊に粉砕するのに適したものにすることを意味する。
【0088】
本明細書で使用する「調整可能(tunable)」とは、その文法上のバリエーションを含め、所定の結果を達成するためにプロセスを調整または適応させることを意味する。
【0089】
本明細書で使用する「水接触角」とは、液体/蒸気界面が固体表面と接する、液体を通して測定される角度を意味する。これは、液体による固体表面の濡れ性を定量化する。接触角は、液体分子と固体分子とがどれだけ強く相互作用し、それぞれが同種の分子とどれだけ強く相互作用しているかを反映したものである。多くの親水性の高い表面では、水滴は0°から30°の接触角を示す。一般に、水の接触角が90°より大きい場合、その固体表面は疎水性であると考えられる。水の接触角は、光学式テンシオメーター(Dyne Testing,英国スタッフォードシャーなどを参照されたい)を用いて容易に求めることが可能である。
【0090】
本明細書で使用する「水蒸気透過性(water vapour permeability)」とは、通気性または湿気を移動させる織物の能力を意味する。これには、少なくとも2つの異なる測定方法がある。その1つは、ISO15496に準拠したMVTR試験(水蒸気透過度)であり、織物の水蒸気透過性(WVP)、したがって外気への汗の輸送の程度を示すものである。この測定は、24時間に1平方メートルの生地を何グラムの水分(水蒸気)が通過するかを測定するものである(レベルが高いほど通気性が高い)。
【0091】
ある態様では、TAPPI T 530ヘラクレスサイズ試験(すなわち、耐インク性による紙のサイズ試験)を用いて耐水性を測定することが可能である。ヘラクレス法による耐インク性は、浸透の程度を直接測定する試験として分類するのが最適である。また、浸透率試験に分類する人もいる。「サイジング測定」に最適な試験は1つに限定することができない。試験は最終用途や工場管理の必要性によって選択するものである。この方法は特に、サイジングレベルの変化を正確に検出するための工場管理用サイジング試験として用いるのに最適である。インクフロート試験の感度を有しつつ、再現性のある結果、短い試験時間、自動エンドポイント判定を提供する。
【0092】
サイジングは、水性液体の紙への浸透または吸収に対する抵抗力によって測定され、多くの紙において重要な特性である。代表的なものは、袋、段ボール用のベース紙、肉用ラップ、筆記用紙、及び一部の印刷用紙である。
【0093】
この方法は、試験値と紙の最終用途の性能との間に許容可能な相関性が確立されていれば、特定の最終用途の紙または板紙の生産をモニターするために用いることが可能である。試験及び浸透剤の性質上、すべての最終用途の要件に適用できるほど十分な相関性があるとは限らない。この方法は、浸透速度によってサイジングを測定する。他の方法では、表面接触、表面浸透、または吸収によってサイジングを測定する。サイズ試験は、最終用途における水の接触または吸収の手段をシミュレートする能力に基づいて選択される。この方法は、サイズ化学薬品使用コストの最適化にも使用可能である。
【0094】
本明細書で使用する「酸素透過性」とは、ポリマーが気体または流体の通過を許容する程度を意味する。材料の酸素透過度(Dk)は、拡散率(D)(すなわち、酸素分子が材料を通過する速度)及び溶解度(k)(または、体積当たり、材料中に吸収される酸素分子の量)の関数である。酸素透過性(Dk)の値は、通常、10-150×10-11(cm2 ml O2)/(s ml mmHg)の範囲に収まる。ハイドロゲルの含水率と酸素透過性(単位:Barrer unit)との間には、片対数の関係があることが示されている。国際標準化機構(ISO)は、圧力について、SI単位ヘクトパスカル(hPa)を用いて透水係数を規定している。したがって、Dk=10-11(cm2 ml O2)/(s ml hPa)となる。Barrer単位は、定数0.75を掛けることでhPa単位に変換することができる。
【0095】
本明細書で使用する「生分解性」とは、その文法上のバリエーションを含めて、生物の作用(例えば、微生物)によって特に無害な生成物に分解されることが可能であることを意味する。
【0096】
本明細書で使用する「リサイクル可能」とは、その文法上のバリエーションを含め、処理可能な材料、または当該材料を再利用に適する形になるように(使用済み及び/または廃棄物と共に)処理可能な材料を意味する。
【0097】
本明細書で使用する「ガーレー秒」または「ガーレー数」は、4.88インチの水(0.176psi)の圧力差で、100立方センチメートル(デシリットル)の空気が所定の材料の1.0平方インチを通過するのに必要な秒数を表す単位である(ISO 5636-5:2003)(空隙率)。さらに、剛性については、「ガーレー数」は、垂直に保持された材料の一部について、当該材料を所定量(1ミリグラムの力)たわませるのに必要な力を測定する単位である。このような値は、Gurley Precision Instrumentsのデバイス(ニューヨーク州トロイ)を用いて測定することが可能である。
【0098】
HLB、すなわち界面活性剤の親水性/親油性バランスは、それが親水性または親油性である程度の尺度であり、分子の様々な領域の値を計算することによって決定される。
【0099】
1954年に発表された非イオン性界面活性剤に関するGriffinの方法は次のように作用する。
【0100】
【0101】
ここで、Mhは分子の親水性部分の分子量であり、Mは分子全体の分子量であり、0から20のスケールで結果を与える。HLB値0は完全な親油性/疎水性分子に相当し、値20は完全な親水性/疎水性分子に相当する。
【0102】
HLB値は、分子の界面活性特性を予測するために用いることが可能である。
<10:脂溶性(水不溶性)
>10以上:水溶性(脂質不溶性)
1.5~3:消泡剤
3~6:W/O(油中水)型乳化剤
7~9:湿潤・展着剤
13~15:洗浄剤
12~16:洗浄剤O/W(水中油型)乳化剤
15~18:可溶化剤またはハイドロロープ
【0103】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される特定SFAE(または特定SFAEを含む製剤)のHLB値の範囲は、低くてもよい。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される特定SFAE(または特定SFAEを含む製剤)のHLB値の範囲は、中程度から高くてもよい。いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるような可溶性SFAEのHLB値の範囲は、低くてもよい。他の実施形態において、本明細書に開示されるような可溶性SFAEについてのHLB値の範囲は、中程度から高い範囲であってもよい。
【0104】
本明細書で使用する場合、「SEFOSE(登録商標)」は、Procter & Gamble Chemicals社(オハイオ州シンシナティ)から商品名SEFOSE 1618Uとして市販されている大豆油(soyate)から製造されたスクロース糖脂肪酸エステルを指し(以下のスクロース糖ポリソイエート(sucrose polysoyate)を参照されたい)、これは不飽和である1以上の脂肪酸を含有する。本明細書で使用する「OLEAN(登録商標)」は、Procter & Gamble Chemicals社から入手可能な、Cn+12H2n+22O13を有するスクロース糖脂肪酸エステルを示し、ここで全ての脂肪酸は飽和である。上述したとおり、参照により本明細書に組み込まれる959特許の実施例は、セルロース系材料を含む基材にバリア性を付与するためのSFAEとしてSEFOSEを採用している。
【0105】
本明細書において「大豆油(soyate)」とは、大豆油由来の脂肪酸塩の混合物を意味する。
【0106】
本明細書で使用する場合、「油糧種子脂肪酸」とは、これらに限定されないが、大豆、ピーナッツ、菜種、大麦、カノーラ、ゴマ、綿実、パーム核、ブドウ種子、オリーブ、ベニバナ、ヒマワリ、コプラ、トウモロコシ、ココナッツ、アマニ、ヘーゼルナッツ、小麦、米、ジャガイモ、キャッサバ、マメ科植物、カメリナ種子、マスタード種子、及びこれらの組み合わせを含む、植物由来の脂肪酸を意味する。本開示のSFAEの脂肪酸鎖は、油糧種子脂肪酸であってもよい。
【0107】
本明細書で使用する「湿潤強度」とは、紙(また他の三次元の固体のセルロース系の製品)をまとめている繊維のウェブが、紙が湿潤しているときに破断する力に対してどれだけ抵抗できるかの尺度を意味する。湿潤強度は、Thing-Albert Instrument Company社(ニュージャージー州ウェストベルリン)のFinch Wet Strength Deviceを用いて測定することが可能である。ここで、湿潤強度は、一般的に、キメン、カチオン性グリオキシル化樹脂、ポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂、エポキシド樹脂を含むポリアミン-エピクロロヒドリン樹脂などの湿潤強度添加剤によって効果を発揮する。実施形態において、本明細書に開示される製剤は、そのような添加剤が含まれていない場合に、そのような湿潤強度をもたらす。
【0108】
本明細書で使用する「濡れている」とは、水または他の液体で覆われている、または飽和していることを意味する。
【0109】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるプロセスは、特定SFAEを含む製剤をセルロース系材料の表面に接触させることによって、特定SFAEをセルロース系材料の表面に結合させるステップを含んでいてもよい。プロセスはまた、接触させたセルロース系材料を、熱、放射線、触媒、またはそれらの組み合わせに、特定SFAEをセルロース系材料に結合させるのに十分な時間曝すことを含む追加のステップを含んでいてもよい。関連する態様において、このような放射線は、これらに限定されないが、UV、IR、可視光線、またはこれらの組み合わせを含む。他の関連する態様において、反応は室温(すなわち、25℃)~約150℃、約50℃~約100℃、または約60℃~約80℃で実施されてもよい。
【0110】
実施形態において、セルロース系材料は、ポリビニルアルコール(PvOH)及び/またはプロラミンを製剤に添加することにより、疎油性にしてもよい。ある態様において、プロラミンは、例えば、ゼイン、グリアジン、ホルデイン、セカリン、カチリン及びアベニンを含む。関連する態様では、プロラミンはゼインである。
【0111】
いくつかの実施形態において、開示するような方法を用いることにより、材料が蓄積されないということも含め、(例えば、揮発性有機化合物などの)結合反応を実施するための触媒及び有機キャリアを必要としない。関連する態様において、反応時間は実質的に瞬間的(すなわち、1秒未満)である。さらに、得られる材料はブロッキング性能が低い。
【0112】
製剤を用いることにより、例えばクロロフルオロカーボン、シリコーン、及び石油ベースの化合物の従来の使用を回避し、改善された耐油性及び耐グリース性、耐水性、ならびにガス及び蒸気バリア性能の1以上を提供することが可能となる。
【0113】
特定SFAE
【0114】
本開示の製剤は、セルロース系材料に耐水性及び/または耐油性及び耐グリース性(OGR)を付与するために、水不溶性かつ高融点の糖脂肪酸エステル(「特定SFAE」)を用いる。
【0115】
本明細書において使用する「水不溶性」は、特定SFAEが25℃で水に溶解しないことを意味する。例えば、これは1000mg/L以下の溶解度に相当する。
【0116】
特定SFAEは100℃以上の融点を有する。いくつかの態様において、特定SFAEの融点は110℃以上、120℃以上、130℃以上、140℃以上、150℃以上、または150℃以上であってもよい。
【0117】
上述したように、より高温の油を保持するという用途のために、より融点の高い糖類エステルを設計することが可能である。
【0118】
本明細書で使用する「脂肪酸」は、一般的な意味を有し、飽和または不飽和の脂肪族鎖を有するカルボン酸を指す。本明細書で使用する脂肪酸という語は、エステル結合によって糖類に結合した脂肪酸基を指す場合がある(すなわち、糖類の1以上のヒドロキシル基がエステル化されている)。
【0119】
特定SFAEの脂肪酸基は、例えば、任意の公知の脂肪酸であってもよい。好ましい実施形態において、脂肪酸は、食品中に存在することが知られており、食用であり、及び/またはFDAによって認可されている。いくつかの実施形態において、脂肪酸基は、油糧種子から得られる。他の実施形態において、脂肪酸は、天然食用油脂源から得られる。
【0120】
脂肪酸基は、独立して、1以上の飽和脂肪酸、1以上の一価不飽和脂肪酸、及び/または1以上の多価不飽和脂肪酸から選択することが可能である。独立してとは、例えば、糖トリエステルが3つの異なる脂肪酸基を含んでもよいことを意味する。
【0121】
特定SFAEを形成する際に用いられる(すなわち、糖部分をエステル化する際に用いられる)飽和脂肪酸の例としては、例えば、酪酸(ブタン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、カプリン酸(デカン酸)、ラウリン酸(ドデカン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、アラキジン酸(イコサン酸)、ベヘン酸(ドコサン酸)、またはリグノセリン酸(テトラコサン酸)などが挙げられる。
【0122】
特定SFAEを形成するために用いられる一価不飽和脂肪酸の例としては、例えば、カプロレイン酸、(デカ-9-エン酸)、ラウロレイン酸((Z)-ドデカ-9-エン酸)、ミリストレイン酸((Z)-テトラデカ-9-エン酸)、パルミトレイン酸((Z)-ヘキサデカ-9-エン酸)、オレイン酸((Z)-オクタデカ-9-エン酸)、エライジン酸((E)-オクタデカ-9-エン酸)、バクセン酸((E)-オクタデカ-11-エン酸)、ガドレイン酸((Z)-イコス-9-エン酸)、エルカ酸((Z)-ドコス-13-エン酸)、ブラシジン酸((E)-ドコス-13-エン酸)、またはネルボン酸((Z)-テトラコス-15-エン酸)が挙げられる。
【0123】
特定SFAEの形成に用いられる多価不飽和脂肪酸の例としては、例えば、リノール酸(LA)((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン酸)、α-リノレン酸(ALA)((9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエン酸)、γ-リノレン酸(GLA)((6Z,9Z,12Z)-オクタデカ-6,9,12-トリエン酸)、コロンビニック酸((5E,9E,12E)-オクタデカ-5,9,12-トリエン酸)、ステアリドン酸((6Z,9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-6,9,12,15-テトラエン酸)、ミード酸((5Z,8Z,11Z)-イコサ-5,8,11-トリエン酸)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)((8Z,11Z,14Z)-イコサ-8,11,14-トリエン酸)、アラキドン酸((5Z,8Z,11Z,14Z)-イコサ-5,8,11,14-テトラエン酸)、エイコサペンタエン酸(EPA)((5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ-5,8,11,14,17-ペンタエン酸)、ドコサペンタエン酸(DPA)((7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,13,16,19-ペンタエン酸)、またはドコサヘキサエン酸(DHA)((4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,16,19-ヘキサエン酸)などが挙げられる。
【0124】
いくつかの実施形態では、特定SFAEの融点は、脂肪酸鎖を変更することによって変化させてもよい。例えば、不飽和側鎖を追加することで融点を下げてもよい。言い換えれば、特定SFAEの融点は、糖部分の選択や脂肪酸基の選択によって変更してもよい。
【0125】
いくつかの実施形態では、特定SFAEは、糖部分において1または複数のエステル化されたヒドロキシル基を有する。いくつかの態様では、特定SFAEは、例えば、モノエステル、ジエステル、トリエステル、またはより置換度が高いもの(例えば、ペンタエステル)であってもよい。特定SFAEは、例えば、置換度の異なる特定SFAEのブレンド(例えば、糖類モノエステル、ジエステル、及びトリエステルを含む特定SFAEのブレンド)であってもよい。いくつかの態様では、特定SFAEは、主成分としてモノエステル、主成分としてジエステル、または主成分としてトリエステルを有していてもよい。
【0126】
SFAEに適した糖類は、例えば、キシロース、グルコース、ラフィノース、マルトデキストロース、ガラクトース、グルコースの組合せ、フルクトースの組み合わせ、マルトース、ラクトース、マンノースの組合せ、エリスロースの組み合わせ、イソマルトース、イソマルツロース、トレハロース、トレハルロース、セロビオース、ラミナリビオース、キトビオース、及びそれらの組合せのような二糖類を含んでいてもよい。
【0127】
上述したように、他の適切な糖類部分はキトサンである。
【0128】
当業者であれば、SFAEの水溶性は、上記の特定SFAEのパラメータの1以上を変化させることによって選択できることを理解するであろう。この点に関し、複数の特定SFAEが用いられる場合、特定SFAEのそれぞれは、例えば、類似または異なるHLB値(例えば、高い範囲と組み合わせて用いられる低い範囲)など、類似または異なる特性を有するように選択されてもよい。
【0129】
いくつかの実施形態では、製剤は、特定SFAEの1以上のみを含む(すなわち、特定SFAEからなる)ものであってもよい。いくつかの実施形態では、製剤は本質的にSFAEからなり、製剤の基本及び物質的特性は、本明細書に記載されるバリア性能を導入するためのものである。
【0130】
いくつかの実施形態において、製剤は、特定SFAEを水中に分散させることによって得てもよい。いくつかの実施形態では、そのような分散体は、本質的に、特定SFAE及び水からなるものであってもよい。
【0131】
いくつかの態様において、製剤は、特定SFAEを有機溶媒に溶解または分散させることによって得てもよい。
【0132】
いくつかの実施形態では、製剤は、可溶性SFAEの溶液中の特定SFAEからなる液体システム(すなわち、可溶性SFAEは、液体システムを提供するための溶媒として機能する)であってもよい。上述したように、可溶性SFAEは25℃で水に溶解する。
【0133】
製剤が特定SFAE及び可溶性SFAEの両方を含有する場合、特定SFAEと可溶性SFAEとの重量比は、約0.1:99.9~約99:0.1、約10:90~約90:10、約20:80~約80:20、約35:65~約65:35、約40:60~約60:40、約45:55~約55:45、または約50:50であってもよい。
【0134】
理論に拘束されないが、特定SFAEとセルロース系材料との間の相互作用は、イオン性、疎水性、ファンデルワールス相互作用、共有結合、またはこれらの組み合わせによるものであってもよい。関連する態様において、セルロース系材料への特定SFAE結合は(例えば、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の組み合わせを含むグリセリドまたは脂肪酸塩を用いるもののように)実質的に不可逆的なものである。
【0135】
いくつかの態様において、疎水性バリア性能は、特定SFAEによって、いかなる二次疎水性も含まれない状態で基材に付与される。
【0136】
さらに、十分な濃度では、特定SFAEの結合のみで、接触した基材を疎水性にするのに十分である。すなわち、疎水性は、ワックス、ロジン、樹脂、ジケテン、セラック、酢酸ビニル、PLA、PEI、油、他の撥水化学物質、またはそれら(すなわち二次疎水性物質)の組み合わせの添加なしに達成され、特に、セルロース系材料の強化、剛性、及び嵩上げのような他の特性が特定SFAEの結合のみによって達成されることを含む。
【0137】
本開示の利点の1つは、複数の脂肪酸鎖がセルロースと反応することである。いかなる理論にも縛られることなく、これにより架橋ネットワークが生じ、紙、板紙、エアレイド不織布及びウェットレイド不織布、織物などの繊維ウェブの強度が向上すると考えられる。これは通常、他のサイズ剤や疎水性処理化学物質では見られない点である。本明細書に開示される特定SFAEは、他の多くの耐水性化学物質を用いる場合には有しない特性である湿潤強度を生成/増加させることもできる。
【0138】
実施形態において、疎水性を付与するために用いられるSFAEの量は、基材の形態(例えばセルロース系材料の形態)及び基材の表面に対して接触させる方法に依存する。
【0139】
ある態様では、特定SFAEが既知の方法によってセルロース系材料にコーティングされる場合、特定SFAEは、例えば、少なくとも約0.05g/m2~約1.0g/m2、約1.0g/m2~約2.0g/m2、約2g/m2~約3g/m2、またはより高い濃度のコーティング重量でセルロース系材料の表面に塗布される。いくつかの実施形態では、特定SFAEは、(例えば、紙またはセルロース含有物品全体をコーティングするように)セルロース系材料の外側表面全体を被覆してもよい。
【0140】
他の態様では、セルロース系材料がセルロース繊維を含有する溶液であり、製剤が製紙プロセス中のウェットエンドにおいて添加される場合、特定SFAEは、例えば、全繊維中の少なくとも約0.025%(wt/wt)の濃度で含まれていてもよい。関連する態様では、全繊維中の約0.05%(wt/wt)~約0.1%(wt/wt)、約0.1%(wt/wt)~約0.5%(wt/wt)、約0.5%(wt/wt)~約1.0%(wt/wt)、約1.0%(wt/wt)~約2.0%(wt/wt)、約2.0%(wt/wt)~約3.0%(wt/wt)、約3.0%(wt/wt)~約4.0%(wt/wt)、約4.0%(wt/wt)~約5.0%(wt/wt)、約5.0%(wt/wt)~約10%(wt/wt)、約10%(wt/wt)~約50%(wt/wt)の割合で含まれていてもよい。さらに関連する態様では、特定SFAEの量は、含まれる繊維の量に等しくてよい。
【0141】
他の実施形態では、製剤は、製剤の重量(wt/wt)中において、例えば、約0.9%~約1.0%、約1.0%~約5.0%、約5.0%~約10%、約10%~約20%、約20%~約30%、約40%~約50%の特定SFAEを含んでいてもよい。
【0142】
実施形態では、水に曝されても強度を保持する嵩の大きい繊維構造体を製造する方法が開示される。一般的に、乾燥した繊維状のスラリーは、水に曝されると容易に分解される高密度構造を形成する。開示した方法を用いて製造される成形繊維製品には、軽量でかつ強度があり、水やその他の液体に曝されても耐える紙皿、ドリンクホルダー(カップなど)、蓋、食品トレイ、包装材などを含んでもよい。
【0143】
実施形態では、特定SFAEをポリビニルアルコール(PvOH)と混合することにより、耐水性コーティング用のサイズ剤を製造することが可能で特定SFAEとPvOHとの相乗関係は過去に実証されている。PvOH自体は優れたフィルム形成剤であり、セルロースを用いて強力な水素結合を形成することが知られているが、水、特に高温の水に対する耐性はあまり高くない。PvOHは、特定SFAEがセルロース繊維に沿って架橋するためのOH基の豊富な供給源になることがあり、これにより、紙の強度、特に湿潤強度や耐水性がPvOHを単独で用いる場合よりも向上する。既知の架橋剤、例えばジアルデヒド(例えば、グリオキサール、グルタルアルデヒドなど)を用いてもよい。
【0144】
他の態様では、特定SFAEの効果は、959特許に記載されているような1以上の可溶性SFAE、及び/または999公報に記載されているような1以上のグリセリド及び/または脂肪酸塩を添加することによって高めることが可能である。
【0145】
SFAEを追加で用いることの利点は、セルロース繊維間の水素結合を制限し、繊維間の空間を広げることにより、重量を大幅に増加させることなく嵩を増やすことができるという点にある。
【0146】
製剤に使用される場合、可溶性SFAEは、脂肪酸のショ糖エステルを含むか、または本質的にショ糖エステルからなるものであってもよい。本発明のSFAEを製造または提供するために利用可能な方法は数多く知られており、そのような方法はすべて、本開示の広い範囲において用いることが可能である。例えば、特定の実施形態では、脂肪酸エステルは、これらに限定されないが、大豆油、ヒマワリ油、オリーブ油、キャノーラ油、落花生油、及びそれらの混合物を含む油種子から得られる1以上の脂肪酸部分を用いて糖類をエステル化することによって合成することが好ましい場合がある。
【0147】
実施形態において、可溶性SFAEは、これに限定されるものではないが、1以上のヒドロキシル水素がエステル部分によって置換されたスクロース部分を含む糖類部分を含んでいてもよい。関連する態様では、本開示で用いる二糖エステルは、参照により本明細書に組み込まれる959特許の式Iの構造を有していてもよい。
【0148】
可溶性SFAEに適した二糖類としては、キシロース、グルコース、ラフィノース、マルトデキストロース、ガラクトース、グルコースの組み合わせ、フルクトースの組み合わせ、マルトース、ラクトース、マンノースの組み合わせ、エリスロースの組み合わせ、イソマルトース、イソマルツロース、トレハロース、トレハルロース、セロビオース、ラミナリビオース、キトビオース、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0149】
SFAEは、959特許に開示されている方法を用いて製造することが可能である。例えば、SFAEは、既知のエステル化プロセスによって実質的に純粋な脂肪酸を用いてエステル化することにより作製されてもよい。これらはまた、例えば天然資源、例えば油種子から抽出された油、例えば大豆油中に見出される脂肪酸グリセリドの形態で、糖類及び脂肪酸エステルを用いたトランスエステル化によって調製することが可能である。脂肪酸グリセリドを用いてショ糖脂肪酸エステルを得るトランスエステル化反応は、例えば、米国特許第3,963,699号明細書、米国特許第4,517,360号明細書、米国特許第4,518,772号明細書、米国特許第4,611,055号明細書、米国特許第5,767,257号明細書、米国特許第6,504,003号明細書、米国特許第6,121,440号明細書、及び6,995,232号明細書、ならびに国際公開WO1992004361号公報に開示されており、ここで参照することにより、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0150】
実施形態では、セルロース系材料には、これらに限定されないが、紙、板紙、紙シート、紙パルプ、カップ、箱、トレイ、蓋、剥離紙/ライナー、コンポストバッグ、ショッピングバッグ、輸送用袋、ベーコンボード、ティーバッグ、断熱材、コーヒーまたは紅茶の容器、パイプ及び水道管、食品用の使い捨てカトラリー、皿及びボトル、テレビ及びモバイル機器のスクリーン、(例えば、綿または綿混紡の)衣類、包帯、感圧ラベル、感圧テープ、女性用品、ならびに避妊具、薬物送達デバイス、(例えば、錠剤、タブレット、座薬、ジェルなど)医薬品用の容器など、身体または身体内部において用いられる医療機器などを含む。また、本明細書で開示するコーティング技術は、家具や室内装飾品、屋外キャンプ用品などに用いてもよい。
【0151】
ある態様では、本明細書に記載するコーティングは、約3~約9の範囲のpHに対して耐性がある。関連する態様では、該pHは約3~約4、約4~約5、約5~約7、約7~約9であってもよい。
【0152】
実施形態では、セルロース含有(またはセルロース系)材料の表面を処理する方法が開示されており、この方法は、以下の式(II)または(III)を有するアルカン酸誘導体を含む組成物を表面に塗布することを含む。
【0153】
【0154】
【0155】
式中、Rは6~50個の炭素原子を有する直鎖、分枝鎖、または環状脂肪族炭化水素ラジカルであり、X及びX1は独立してCl、Br、R-CO-O-R、またはO(CO)ORであり、アルカン酸誘導体が式(III)を含む場合、XまたはX1は同一かまたは異なっており、本明細書に開示される特定SFAEは担体であり、この方法は有機塩基、ガス状HCl、VOC、または触媒を必要としない。
【0156】
ある態様では、製剤には、例えば、これらに限定されないが、(例えば、カゼイン、ホエータンパク質などの)乳タンパク質、小麦グルテン、ゼラチン、(例えば、コーンゼインといった)プロラミン、大豆タンパク質分離物、デンプン、アセチル化多糖類、アルギン酸塩、カラギーナン、キトサン、イヌリン、長鎖脂肪酸、ワックス、及びそれらの組み合わせを含む、タンパク質、多糖類ならびに/または脂質を含んでいてもよい。
【0157】
実施形態では、本開示の特定SFAE及び製剤を、例えば、これらに限定されないが、アガライト、エステル、ジエステル、エーテル、ケトン、アミド、ニトリル、(キシレン、トルエンなどの)芳香族化合物、酸ハロゲン化物、酸無水物、タルク、アルキルケテン二量体(AKD)、アラバスター、アルギン酸、ミョウバン、アルバリン、接着剤、炭酸バリウム、硫酸バリウム、二酸化塩素、粘土、ドロマイト、ジエチレントリアミンペンタアセテート、EDTA、酵素、ホルムアミジン硫酸、グアーガム、石膏、石灰、硫酸水素マグネシウム、石灰乳、マグネシア乳、ポリビニルアルコール(PvOH)、ロジン、ロジン石鹸、サテン、石鹸/脂肪酸、硫酸水素ナトリウム、ソーダ灰、チタニア、界面活性剤、デンプン、変性デンプン、炭化水素樹脂、ポリマー、ワックス、多糖類、タンパク質及びこれらの組合せなどによる紙の製造に用いられるコーティングまたは他の化学物質のために用いてもよい。
【0158】
いくつかの実施形態において、製剤は、基材における特定SFAEの保持を補助するために、1以上の荷電ポリマーを含んでいてもよい。荷電ポリマーは、特定SFAEの脂肪酸基を整列させることによって、(例えば、バリア性能OGR及び耐水性の)効果を付与することを補助することができる。
【0159】
1以上の荷電ポリマーには、1以上のカチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、非イオン性ポリマー、及び/または両性イオン性ポリマーが含まれてもよい。いくつかの実施形態では、製剤中のカチオン性ポリマーの濃度は、製剤の総重量を100%とした場合、約0.01重量%~約5重量%、約0.01重量%~約3重量%、0.05重量%~約0.1重量%、または約0.1%重量%~約1%重量、または約1重量%~約3%重量である。いくつかの態様では、カチオン性ポリマーと特定SFAEとの配合における重量比は、約0.1:99.9~約20:80、約0.5:99.5~約15:85、約1:99~約10:90、または約2.5:97.5~約7.5:92.5である。
【0160】
いくつかの実施形態では、荷電ポリマーの重量平均分子量は500,000~10,000,000である。いくつかの実施形態では、重量平均MWは、500,000~1,000,000、1,000,001~2,000,000、2,000,001~3,000,000などである。いくつかの実施形態では、荷電ポリマーは、バイモーダル型のブレンドを実現するために、異なる重量平均MWを有する2つのポリマーの組み合わせである。
【0161】
保持助剤として用いられるカチオン性ポリマーの例としては、例えば、ポリアクリルアミド(例えば、ポリDADMAC(ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド))、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ-l-(リジン)(PLL)、ポリ[2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルメタクリレート](PDMAEMA)、及びキトサンが挙げられる。
【0162】
実施形態では、処理されたセルロース含有材料(例えば、コーティングされたセルロース含有材料、またはウェットエンドにおいて製剤を加えることによって調製されたセルロース含有材料)は、処理されていないセルロース含有材料と比較して、より高い疎水性または耐水性を示す。関連する態様では、処理されたセルロース含有材料は、処理されていないセルロース含有材料と比較して、より高い疎油性またはOGRを示す。さらに関連する側面では、処理されたセルロース含有材料は、生分解可能、堆肥化可能、及び/またはリサイクル可能なものであってもよい。ある態様では、処理されたセルロース含有材料は、疎水性(耐水性)及び疎油性(耐油性)の両方の性質を併せ持つ。
【0163】
実施形態では、処理されたセルロース含有材料は、処理されていない同じ材料と比較して、改善された機械的特性を有することがある。例えば、本明細書に開示されたプロセスによって処理された紙袋は、破裂強度、ガーレー数、引張強度、及び/または最大負荷のエネルギーが向上している。一態様では、破裂強度は、約0.5倍~1.0倍、約1.0倍~1.1倍、約1.1倍~1.3倍、約1.3倍~1.5倍の倍数で増加した。他の態様において、ガーレー数は、約3~4倍、約4~5倍、約5~6倍及び約6~7倍の倍数で増加した。さらに他の態様では、引張強度は、約0.5倍~1.0倍、約1.0倍~1.1倍、約1.1倍~1.2倍、及び約1.2倍~1.3倍の倍数で増加した。また、他の態様では、最大負荷のエネルギーは、約1.0倍~1.1倍、約1.1倍~1.2倍、約1.2倍~1.3倍の間、及び約1.3倍~1.4倍の倍数で増加した。
【0164】
実施形態では、セルロース含有材料は、例えば、(ここで参照することにより、その全体が本明細書に組み込まれる)米国特許出願公開第2015/0167243号明細書に記載されているような、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)またはセルロースナノファイバー(CNF)を含むベース紙であってもよく、MFCまたはCNFは、成形プロセス及び製紙プロセス中に添加され、及び/または、ベース紙の透気度を低下させるために、成形プロセスまたは製紙プロセス中に添加され、及び/または、コーティングや第2の層として添加される。関連する態様では、上述したように、ベース紙に製剤を接触させる。
【0165】
さらに関連する態様では、接触させたベース紙は、例えば、ポリビニルアルコール(PvOH)とさらに接触させてもよい。実施形態では、結果として得られる接触させたベース紙は、調整可能な耐水性及び耐脂質性を有する。関連する態様において、結果として得られるベース紙は、少なくとも約10~15(すなわち、ガーレー空気抵抗(sec/100cc、20oz.cyl))、または少なくとも約100、少なくとも約200~約350のガーレー値を示してもよい。ある態様において、製剤は、1以上の層に用いるラミネートであってもよく、またはラミネートとして1以上の層を提供してもよく、または同一の性能効果(例えば、耐水性、OGR等)を達成するために1以上の層のコーティングの量を減らしてもよい。関連する態様では、ラミネートは、生分解性及び/または構成可能なヒートシールまたは接着剤を含んでいてもよい。
【0166】
実施形態では、特定SFAEは、限定されるものではないが、顔料(例えば、粘土、炭酸カルシウム、二酸化チタン、プラスチック顔料など)、結合剤(例えば、デンプン、大豆タンパク質、ポリマーエマルジョン、PvOH、カゼインなど)、及び添加剤(例えば、グリオキサール、グリオキサール化樹脂、ジルコニウム塩、ポリエチレンエマルジョン、カルボキシメチルセルロース、アクリルポリマー、アルギン酸塩、ポリアクリレートガム、ポリアクリレート、殺菌剤、油性消泡剤、シリコーン系消泡剤、スチルベン、直接染料及び酸性染料など)を含む、内部及び表面サイジングに用いるための1以上のコーティング成分と組み合わせてもよい。関連する態様において、そのような構成要素は、これらに限定されないが、微細な多孔性構造の形成、光散乱表面の提供、インク受容性の改善、光沢の向上、顔料粒子の結合、コーティングと紙との結合、ベースシートの補強、顔料構造内における細孔の充填、水感受性の低減、オフセット印刷におけるウェットピックの防止、ブレードによる傷の防止、スーパーカレンダにおける光沢の向上、粉塵の低減、コーティング粘度の調整、保水性の提供、顔料の分散、コーティング分散性の維持、コーティング/コーティング色の腐敗防止、発泡の制御、混入した空気及びコーティングクレーターの低減、白色度及び明るさの増加、ならびに色及び陰影の制御を含む、1以上の特性を提供してもよい。最終製品に求められる特性に応じて上記の組み合わせが変化することは当業者には明らかであろう。
【0167】
実施形態において、特定SFAEを含む製剤を用いる方法は、必要な特性(例えば、耐水性、低表面エネルギーなど)を示す材料の層を提供することにより、同一の特性を達成するために必要な一次/二次の層の量を減少させることによって、一次/二次コーティング(例えば、シリコーン系層、デンプン系層、粘土系層、PLA層、PEI層など)の塗布にかかるコストを低減するために用いられてもよい。一態様では、材料は、特定SFAE層(例えば、ヒートシール剤)の上から塗布されてもよい。実施態様において、組成物は、フルオロカーボン及びシリコーンを含まない。
【0168】
実施形態において、製剤は、処理された製品の機械的及び熱的安定性の両方を向上させる。ある態様では、表面処理により、約-100℃~約300℃の温度で熱的に安定する。さらに関連する態様では、処理された基材(例えばセルロース系材料)の表面は、約60°~約120°の水接触角を示す。他の関連する態様では、表面処理により、約200℃~約300℃の温度で化学的に安定する。
【0169】
塗布前に(例えば、約80~150℃で)乾燥させることができる基材は、例えば浸漬して表面を組成物に対して1秒未満曝すことにより、特定SFAEを含む改質製剤で処理してもよい。基材を加熱して表面を乾燥させると、改質された材料が使用可能となる。ある態様において、本明細書に開示される方法によれば、基材は、(例えば、ここで参照することにより、その全体が本明細書に組み込まれる、Smook,G.,Surface Treatments in Handbook for Pulp&Paper Technologists,(2016)、4th Ed.,Cpt.18, pp.293-309,TAPPI Press,Peachtree Corners,GA USAを参照されたい。)製紙工場において一般的に行われる任意の適切なコーティング/サイジング工程によって処理されてもよい。
【0170】
本開示の内容を実施する上でセルロース含有材料についての特別な調製は必要ないが、一部の用途では、処理前に材料を乾燥させることがある。実施形態では、開示された方法を、これらに限定されないが、フィルム、硬質の容器、繊維、パルプ、織物などを含む任意のセルロース系基材の表面に用いてもよい。ある態様では、本製剤は、従来のサイズプレス(垂直型、傾斜型、水平型)、ゲートロールサイズプレス、メータリングサイズプレス、カレンダーサイズ塗布、チューブサイジング、オンマシン、オフマシン、片面コーター、両面コーター、ショートドウェル、同時両面コーター、ブレードまたはロッドコーター、グラビアコーター、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、レーザー印刷、スーパーカレンダ、及びそれらの組み合わせによって塗布してもよい。
【0171】
供給源に応じて、本明細書の方法で処理されるセルロースは、紙、板紙、パルプ、針葉樹繊維、広葉樹繊維、またはそれらの組み合わせ、ナノセルロース、セルロースナノファイバー、セルロースウィスカーもしくはセルロースミクロフィブリル、ミクロフィブリル化セルロース、綿または綿混合物、セルロースナノ結晶、ならびにナノフィブリル化セルロースであってもよい。
【0172】
さらに、本明細書で開示するように改質された繊維及びセルロース系材料は、リパルプされてもよい。さらに、例えば、水は、低表面エネルギー障壁を越えてシートに容易に「押し込む」ことができない。
【0173】
実施形態では、製剤の量は、セルロース含有材料の少なくとも1つの表面など、基材の少なくとも1つの表面を完全に覆うのに十分な量である。例えば、実施形態において、製剤は、食品用容器のような容器の外面全体、容器の内面全体、またはそれらの組み合わせ、あるいはベース紙の片面または両面に塗布されてもよい。他の実施形態では、フィルムの上面全体が製剤によって覆われてもよいし、フィルムの下面全体が製剤によって覆われてもよいし、あるいはそれらの組み合わせであってもよい。いくつかの実施形態では、デバイス/器具の内腔がコーティングによって覆われてもよいし、デバイス/器具の外面が製剤によって覆われてもよいし、あるいはそれらの組み合わせであってもよい。
【0174】
実施形態において、適用される製剤の量は、セルロース含有材料の少なくとも1つの表面を部分的に覆うのに十分な量である。例えば、周囲の大気にさらされる表面のみが製剤で覆われることや、周囲の大気にさらされない表面のみが製剤で覆われる(マスキングなど)ことがあってもよい。当業者には明らかなように、塗布される製剤の量は、被覆される材料の用途に応じて決定されるとよい。ある態様では、一方の表面を製剤でコーティングし、他方の表面を、これらに限定されないが、タンパク質、小麦グルテン、ゼラチン、プロラミン、大豆タンパク質分離物、デンプン、加工デンプン、アセチル化多糖類、アルギン酸塩、カラギーナン、キトサン、イヌリン、長鎖脂肪酸、ワックス、及びそれらの組み合わせを含む薬剤でコーティングされてもよい。関連する態様では、製剤を備え付けの装備に添加することができ、ウェブにおいて得られる材料にグリセリド/脂肪酸塩の付加的なコーティングを施してもよい。
【0175】
本方法のこの態様を実施する過程において、さまざまな製剤のいずれかを送達するために、任意の適切なコーティングプロセスを用いてもよい。実施形態では、製剤をコーティングするプロセスには、例えば、浸漬、噴霧、塗装、印刷、及びこれらのプロセスの単独または開示された方法を実施するのに適した他のコーティングプロセスとの任意の組み合わせを含んでいてもよい。
【0176】
例えば、特定SFAEの濃度を増加させることにより、本明細書に開示されるような組成物は、処理される基材(例えば、セルロース)とより広範囲において反応し、その結果、撥水性/耐脂性特性が再び向上する。しかしながら、コート重量が増しても耐水性が向上するとは限らない。ある態様では、様々な触媒を用いることで、ある用途に適合するように特定SFAEの量を正確に調整して、迅速な「硬化」が可能になることがある。
【0177】
本明細書で詳細に説明する特定の範囲または組成物以外では、処理するセルロースの選択、特定SFAE、反応温度、及び暴露時間は、最終製品の特定の用途に適合するように、日常的な実験によって最適化され得るプロセスパラメータであることが、当業者には明らかであろう。
【0178】
本明細書に記載の誘導体化セルロース系材料は、当該技術分野で知られている適切な試験を用いて定義及び測定することが可能な変更された物理的特性を有する。疎水性の場合、分析プロトコルには、これらに限定されないが、接触角測定や水分吸収などを含む。その他の特性としては、剛性、WVTR、透気度、引張強度、基材の劣化の欠如、破裂強さ及び引裂強さなどがある。従うべき特定の標準化されたプロトコルは、米国材料試験協会(ASTMプロトコル)によって定義されている。
【0179】
水蒸気や酸素などの様々なガスに対する表面の透過性も、材料のバリア機能が強化されるため、特定SFAEプロセスによって変化する可能性がある。透過性を測定する標準単位はバーラー(Barrer)であり、これらのパラメータを測定するためのプロトコル(水蒸気についてはASTM規格F2476-05、酸素についてはASTM規格F2622-8)も公開されている。
【0180】
実施形態では、開示された方法に従って処理された材料は、微生物による攻撃を受ける環境での分解によって測定される完全な生分解性を示す。
【0181】
生分解性を定義及び試験する方法としては、シェイクフラスコ法(ASTM E1279-89(2008))やZahn-Wellens試験(OECD TG 302 B)など、さまざまな方法が利用可能である。
【0182】
堆肥化可能性を定義及び試験する方法としては、これに限定されないが、ASTM D6400 などの方法を含む。
【0183】
本開示のプロセスによる処理に適したセルロース材料は、これらに限定されないが、綿繊維、亜麻などの植物繊維、木質繊維、再生セルロース(レーヨン及びセロハン)、部分的にアルキル化されたセルロース(セルロースエーテル)、部分的にエステル化されたセルロース(アセテートレーヨン)、及び表面の大部分が反応/結合に利用できるその他の改質セルロース材料を含む。上述した通り、「セルロース」には、これらすべての物質と、同様の多糖構造を有し、同様の特性を有する他の物質を含む。これらの中でも、比較的新規な材料であるミクロフィブリル化セルロース(セルロースナノファイバー)(例えば、米国特許第4,374,702号明細書、米国特許出願公開第2015/0167243号明細書及び米国特許出願公開第2009/0221812号明細書を参照されたい。ここで参照することにより、その全体が本明細書に組み込まれる)は、本願に特に適している。他の実施形態では、セルロースとしては、これらに限定されないが、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース(セルロース硝酸塩)、セルロース硫酸塩、セルロイド、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースナノクリスタル、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0184】
本明細書に開示されるセルロースの改質は、疎水性を高めることに加えて、引張強度、柔軟性、剛性も高めることができ、それによってその使用範囲をさらに広げることが可能である。本出願で開示された改質セルロースから製造されるか、または改質セルロースを用いて製造されるすべての生分解性及び部分的生分解性製品は、リサイクル可能及び堆肥化可能な製品を含め、本開示の範囲内である。
【0185】
本明細書に開示されるコーティング技術の可能な用途は、これらに限定されないが、紙、板紙、紙パルプなどのあらゆる用途の容器、カップ、蓋、箱、トレイ、剥離紙/ライナー、コンポストバッグ、ショッピングバッグ、パイプ及び水導管、食品用の使い捨てカトラリー、皿及びボトル、テレビ及びモバイル機器の画面、衣類(綿または綿混紡など)、包帯、感圧ラベル、感圧テープ、女性用品、及び避妊具、薬物送達装置などの身体外部または身体内部に用いられる医療機器な度を含む。また、開示されたコーティング技術は、家具や室内装飾品、屋外キャンプ用品などにも用いることが可能である。
【0186】
例
【0187】
以下、本発明の実施形態を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0188】
例1
【0189】
実施例1では、以下の表1に示すように、特定SFAEを調製し、融点を測定した。
【0190】
【0191】
例2
【0192】
実施例2では、いくつかの特定SFAEを試験して、ベース紙にバリア性能を付与する能力を判定した。
【0193】
ベース紙としてサウスワース紙を選択した。このベース紙は、ガーレー透気度が約200秒の約40#シートであった。
【0194】
3種類の異なる特定SFAEを調製し、有機溶媒(70%のエタノールと30%のクロロホルムとの溶液)に溶解し、表2に記載したコーティング重量でハンドドローダウンによってベース紙に塗布した。コーティング重量は、有機溶剤が蒸発した後の特定SFAEの重量(ポンド/トン)である。紙を乾燥させて調整した後、SFAEコーティングされたベース紙の耐水性及び耐脂質性(OGR)を様々な試験によって試験し、その対照としてコーティングされていないベース紙と比較した。
【0195】
耐水性は、Tappi Standard Test Method T 441 om-20「Water Absorptiveness of Paper」から採用したウォーターコブテストを用いて試験した。
【0196】
油及びグリース耐性は、いくつかの試験によって試験した。
【0197】
(i)3M KITテスト(Tappi Standard Test T559「グリース耐性」)
【0198】
(ii)Folded KIT Testでは、紙を 180°折り畳んだ後、再度折り畳み、次いで、同じ 3M KIT Test に従って得られた折り目にグリースを塗布した。
【0199】
(iii)Tappi標準試験法T 441 om-20に準拠した植物油を使用し、室温約20~23℃及び100℃でオイルコブ試験を行った。
【0200】
(iv)100℃のオーブンでオイルドロップ試験を行った。
【0201】
表2のデータは、例えば、原紙の細孔を試験した特定SFAE品種で塗り潰した場合、原紙が高温のときに油を保持することが可能であったことを示している。
【0202】
この結果は、特定SFAEが、特に高温において、食品または包装製品に対してバリア製剤が溶け出す問題に対処できることを示している。
【0203】
【0204】
本開示の基本的な新規な特徴は、その好ましい実施形態や例示的な実施形態に適用されて示され、説明されているが、本開示の精神から逸脱することなく、当業者によって、本開示の形式及び詳細の省略、置換、ならびに変更が行われる可能性があることは理解されるであろう。さらに、容易に明らかなように、当業者には多数の修正及び変更が容易に生じることがある。例えば、1または複数の実施形態における任意の特徴(複数可)は、適用可能であり、1つまたは複数の他の実施形態と組み合わせてもよい。したがって、本開示を、図示及び記載された正確な構造や動作に限定することは望ましくなく、特許請求の範囲に記載された本開示の範囲内において、すべての適切な変更された等価物を利用することが可能である。言い換えれば、本開示の実施形態は、上記の例を参照して説明されてきたが、本開示の精神及び範囲内において修正や変形が包含されることが理解されるであろう。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0205】
ここに開示されたすべての参考文献は、ここで参照することにより、その全体が本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】