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特表2024-542511ヘキサフルオロリン酸リチウムの調製方法
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  • 特表-ヘキサフルオロリン酸リチウムの調製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】ヘキサフルオロリン酸リチウムの調製方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/10 20060101AFI20241108BHJP
【FI】
C01B25/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024530420
(86)(22)【出願日】2022-11-22
(85)【翻訳文提出日】2024-06-03
(86)【国際出願番号】 EP2022082772
(87)【国際公開番号】W WO2023094368
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】202121054321
(32)【優先日】2021-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524191882
【氏名又は名称】グジャラート フルオロケミカルズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GUJARAT FLUOROCHEMICALS LIMITED
【住所又は居所原語表記】Survey No.16/3,26,27,Ranjitnagar-Taluka Ghoghamba,Panchmahal Gujarat 389365 India
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】ソニ,ヴイ.ケー.
(72)【発明者】
【氏名】ガイトンドゥ,エス.ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ガングルドゥ,バプ ヴイ
(57)【要約】
【課題】本発明は、以下のステップを含む、高純度ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を調製するプロセスを開示する。
【解決手段】(a)高精製無水フッ化水素(AHF)ガスを固体五塩化リンと反応させて、純五フッ化リンと塩化水素ガスとの混合物を製造するステップ、(b)AHF溶液に溶解した高精製フッ化リチウムを、ステップ(a)で得た五フッ化リンと塩化水素ガスとの混合物と反応させて、AHFに溶解したLiPFである、LiPF母液を得て;静的結晶化装置内でLiPFを母液から結晶化させ、母液を分離し、生成物を乾燥してHFを除去し;その後、LiPFの結晶を乾燥及び粉砕してLiPF粉末を得るステップ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高純度ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を調製する方法であって、
(a)無水フッ化水素(AHF)ガスを固体五塩化リンと反応させて、高純度五フッ化リンと塩化水素ガスとを製造するステップ、
PCl+5AHF→PF+5HCl;
(b)AHFに溶解したフッ化リチウムを、ステップ(a)で得た五フッ化リンと塩化水素ガスとの混合物と反応させて、AHFに溶解したLiPFであるヘキサフルオロリン酸リチウム母液を得るステップ、
PF+LiF→LiPF;及び
(c)前記LiPFを前記母液から結晶化させ、前記結晶化LiPFを前記母液から分離するステップ、
(d)前記結晶化LiPFを乾燥して、結晶表面からHFを蒸発させ、その後溶媒支援乾燥するステップ、及び
(e)前記乾燥したLiPF結晶を粉砕し、任意選択で篩過してLiPF粉末を得るステップ、を含み、
前記無水フッ化水素(AHF)ガスは、前記プロセスで使用する前に精製されており、前記プロセスで使用される前記フッ化リチウムは炭酸水素リチウムとフッ化水素とから得られる、
方法。
【請求項2】
前記精製された無水フッ化水素(AHF)ガスは、0.1ppm以下のカチオン性(金属)不純物、又は1ppm以下のアニオン性不純物、又は0.1ppm以下の水分、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記精製された無水フッ化水素(AHF)ガスは、PCl固体層と反応する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記無水フッ化水素(AHF)ガスは、酸化剤としての純フッ素(F)又はフッ素(F)と窒素(N)との混合物で処理することによって精製される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(b)は、溶解槽又は反応器内で実施され、PF、HCl及びHFを含む前記溶解槽又は反応器からの排ガスは、第2段階の再吸収のために前記溶解槽へと経路変更される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(b)は、-5~5℃の範囲の温度、好ましくは0℃で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(c)におけるLiPFの前記結晶化は、真空又は減圧下、及び-45~-5℃、好ましくは-35℃の冷却下で、長時間、好ましくは24~36時間実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(c)におけるLiPFの前記結晶化は、静的結晶化装置内で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記静的結晶化装置は約48時間で1回転することから、結晶がゆっくりと大きなサイズに成長し、HF吸着の表面積を最小限に抑えることができる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(c)における前記母液は、-5~5℃、好ましくは0℃でLiFを添加することによって再利用される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(d)における前記結晶化LiPFの乾燥は、乾燥機ジャケット内の熱水循環によって、好ましくは60~70℃において、真空下で、約6時間実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(d)における結晶化LiPFの前記乾燥の後に、好ましくはメタノール、エーテル、及びジクロロメタンなどの溶媒を用いた溶媒支援乾燥が実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
乾燥したLiPF結晶の前記篩過は、90以下のメッシュサイズを通して行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記プロセスで使用される前記フッ化リチウムは、
(1)炭酸リチウムを二酸化炭素で処理して炭酸水素リチウムを得るステップ、
LiCO+HO+CO→2LiHCO
(2)前記炭酸水素リチウムを超純度フッ化水素と反応させてフッ化リチウムを得るステップ、
LiHCO+HF→LiF+CO+HO;及び
(3)前記フッ化リチウムを乾燥及び粉砕するステップ、
から得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記COがリサイクル及び再利用される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
PF、HCl、リンの酸化物及びHFを含む前記反応器からの排出物を、第2段階の再吸収プロセスのために前記母液に再誘導する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
HClとHFとを含む前記母液槽からのガス状排出物を、回収システムに再誘導する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも99.97%の純度を有する、超高純度ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)。
【請求項19】
-200ppm以下の量の不溶性材料、又は
-それぞれ1ppm以下の量で存在する、金属不純物、又は
-70ppm以下の量のフッ化水素、又は
-10ppm以下の量の硫酸イオン(SO 2-)、又は
-5ppm以下の量の硝酸イオン(NO )、又は
-5ppm以下の量の塩化物イオン(Cl)、又は
-10ppm以下の量の水/水分、又はこれらの組み合わせ
を含む、請求項18に記載の超高純度ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)。
【請求項20】
以下の金属不純物を含む、請求項18又は19に記載の超高純度ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)。
【表1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)の調製方法に関する。より具体的には、本発明は、電気自動車用電池の電解質として有用な高純度LiPFを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、他の電気エネルギー貯蔵手段と比較してエネルギー密度が高いことから、現在、携帯電話、ラップトップ、時計、イヤホン、音楽システムなどの家庭用電子機器に広く存在する。リチウムイオン電池は、広い温度範囲で良好な性能を有し、自己放電せず、急速に充電でき、軽量でもある。
【0003】
家電製品とは別に、化石燃料を使用する自動車から電気自動車への嗜好の変化により、電池への新たな関心が高まっている。Statista Research Departmentが発表した2021年7月23日付のレポートによると、世界的な電池需要は、2020年の185GWhから、2030年までに2,000GWh超へと増加すると予想される。同レポートは、この大幅な増加は主に、全エネルギー貯蔵容量の点で2030年の電池需要の大部分を占める、輸送システムの電化によるものであると予測している。
【0004】
ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)は、リチウムイオン電池に広く使用されている電解質塩である。Liの他の電解質塩は、LiAsF、LiBF、LiClOなどである。しかし、LiPFは、様々な溶媒中で卓越した溶解性と高い導電性を示し、電気的に安定であり、環境に優しく、電極において適切な固体電解質界面(SEI)膜を形成することができ、アノード集電体で不動態化を誘発してその溶解を防止できるという点で、他の電解質塩に勝る。
【0005】
リチウムイオン電池に広く使用されている電解質塩であるにもかかわらず、現在の高純度LiPFの製造プロセスは、電気自動車に使用するための最新の高強度電池の要件を満たすことができない。
【0006】
高強度電池は、例えば、サイクル数は3,000回を超える必要がある、7年以内の電池減衰率は75%未満であってはならない、充放電温度、極端な気候での電池の安全性、電解質酸性度(HF濃度)は低いほど良いなど、特定の条件を満足することが要求される。
【0007】
従来のLiPFの製造では、LiFのHF溶液にPFガスを通しLiPFを生成する。その後、HFを除去し、LiPFを結晶化する。しかし、従来の方法の欠点の1つは、大量の不純物が、HFなどの形態で、LiPF結晶の表面上に吸着されることである。更に、複雑な反応、手順、及び追加の精製ステップに頼ることなく、HFなどのLiPF中のこうした不純物の量を減らすことは非常に困難である。
【0008】
HFなどの形態の不純物は、電極の腐食を引き起こし、これは電池の容量及び性能に直接影響する。
【0009】
更に、遷移金属不純物などの種々の金属不純物が存在することは、電池性能に有害である。例えば、電解質に溶解した遷移金属イオンがアノード表面に付着する可能性がある。これはLiPFの分解、リチウムデンドライトの成長を引き起こす可能性があり、内部短絡を引き起こす。
【0010】
水は、リチウムイオン電池で問題となるもう1つの不純物である。水の存在は電池性能に悪影響を及ぼす。水はLiPFと反応し、それによって電池の容量を低減し得る。水の存在は、サイクル性能の低下と活物質の損失にも関係する。水は保護用の固体電解質界面層を破壊し、アノードで還元されてHガスを生成し得る。Hガスが存在すると、電池の内圧が上昇し、爆発の危険がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、上記の欠点の1つ以上に対処するLiPFの調製プロセスを開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様において、本発明は、電池の電解質として、好ましくは電気自動車用電池の電解質として有用な超高純度LiPFを調製するプロセスを提供する。
【0013】
更に別の態様では、本発明は、フッ化水素(HF)の濃度が最小限である、好ましくは70ppm以下である、超高純度LiPFを提供する。
【0014】
本発明の実施形態を参照し、その例を添付図面に示し得る。これらの図は例示を意図しており、限定を意図するものではない。本発明は、概してこれらの実施形態に関して記述されるが、本発明の範囲をこれらの特定の実施形態に限定することを意図しないことは理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】プロセスフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で使用されるとき、単数形「1つの」、「ある」、及び「当該」(「a」、「an」、及び「the」)は、内容による明らかに別段の指示がない限り、複数の参照物を包含することに留意されたい。したがって、例えば、「ある化合物」を含有する組成物への言及は、2種以上の化合物の混合物を包含する。なお、用語「又は」は、内容による明らかに別段の指示がない限り、「及び/又は」を包含する意味に通常は用いられることにも留意されたい。
【0017】
「%」又は「%w/w」に関する様々な量の表現は、特記のない限り、全溶液又は組成物の重量百分率を意味する。
【0018】
本発明は、高強度電池の電解質として、好ましくは電気自動車用電池の電解質として有用な超高純度LiPFを調製するプロセスに関する。
【0019】
実施形態の1つでは、超高純度LiPFを調製するプロセスは、
(a)無水フッ化水素(AHF)ガスを固体五塩化リンと反応させて、高純度五フッ化リンと塩化水素ガスとを製造するステップ、
PCl+5AHF→PF+5HCl;
(b)AHFに溶解したフッ化リチウムを、ステップ(a)で得た五フッ化リンと塩化水素ガスとの混合物と反応させて、AHFに溶解したLiPFであるヘキサフルオロリン酸リチウム母液を得るステップ、
PF+LiF→LiPF;及び
(c)LiPFを母液から結晶化させ、結晶化LiPFを母液から分離するステップ、
(d)結晶化LiPFを乾燥して、結晶表面からHFを蒸発させ、任意選択でその後溶媒支援乾燥するステップ、
(e)乾燥したLiPF結晶を粉砕し、任意選択で篩過してLiPF粉末を得るステップ、
を含み、
ここで、無水フッ化水素(AHF)ガスは、本プロセスで使用する前に精製されており、本方法で使用されるフッ化リチウムは炭酸水素リチウムとフッ化水素とから得られる。
【0020】
本発明の一実施形態では、精製された無水フッ化水素(AHF)ガスは、0.1ppm以下のカチオン性(金属)不純物、又は1ppm以下のアニオン性不純物、又は0.1ppm以下の水分、又はこれらの組み合わせを含む。
【0021】
更に別の実施形態では、精製された無水フッ化水素(AHF)ガスは、撹拌下でPCl固体床反応器と反応する。
【0022】
更に別の実施形態では、無水フッ化水素(AHF)ガスは、酸化剤としてのフッ素(F)ガスで処理することで精製される。
【0023】
好ましい実施形態では、ステップ(b)は反応器内で実施され、PF、HCl、及びHFを含む溶解槽又は反応器からの排ガスは、第2段階の再吸収のために溶解槽へと経路変更される。
【0024】
更に別の実施形態では、ステップ(b)は、-5~5℃の範囲の温度、好ましくは0℃で実施される。
【0025】
更に別の実施形態では、ステップ(b)は溶解槽内で実施され、PF、HCl、及びHFを含む溶解槽からの排ガスは、PFの再吸収のために溶解槽へと経路変更される。
【0026】
好ましい実施形態では、ステップ(c)におけるLiPFの結晶化は、真空又は減圧下、及び-45~-5℃、好ましくは-35℃の冷却下で、長時間実施される。
【0027】
更に別の実施形態では、ステップ(c)におけるLiPFの結晶化は、静的結晶化装置内で実施される。
【0028】
本発明の一態様は、特殊な結晶化装置構造を提供し、結晶化、濾過、及び一次乾燥の1台3役の装置により、従来の3つの化学プロセスを1つの装置へと簡素化する。これは、HF反応性物質が複数の動きをするリスクと、この操作を行うオペレータが直面する関連リスクとを大幅に低減する。
【0029】
好ましい実施形態では、静的結晶化装置は約48時間で1回転するため、結晶がゆっくりと大きなサイズに成長し、HF吸着の表面積を最小限に抑えることができる。
【0030】
別の好ましい実施形態では、ステップ(c)の母液は、-5~5℃、好ましくは0℃でLiFを添加することによって再利用される。
【0031】
好ましい実施形態では、ステップ(d)における結晶化LiPFの乾燥は、乾燥機ジャケット内の熱水循環によって、好ましくは60~70℃において、真空下で、約6時間実施される。
【0032】
更に別の実施形態では、ステップ(d)における結晶化LiPFの乾燥の後に、好ましくはメタノール、エーテル、ジクロロメタンなどの溶媒を用いた、溶媒支援乾燥が実施される。
【0033】
本方法の別の態様は、サイズが大きく、吸着HFが少ない結晶を、最終生成物として篩分けるようなメッシュサイズを使用することである。吸着HFが多い、小さな結晶は、母液を通して再循環する。これにより、最終生成物中のHFの総濃度が低減するとともに、LiPF結晶の回収により製造コストが削減される。
【0034】
好ましい実施形態では、乾燥したLiPF結晶の篩過は、90以下のメッシュサイズを通して行われる。
【0035】
別の実施形態では、本プロセスで使用されるフッ化リチウムは、次のステップから得られる:
(1)炭酸リチウムを二酸化炭素で処理して炭酸水素リチウムを得るステップ、
LiCO+HO+CO→2LiHCO
(2)炭酸水素リチウムを超純度フッ化水素と反応させてフッ化リチウムを得るステップ、
LiHCO+HF→LiF+CO+HO;及び
(3)フッ化リチウムを乾燥及び粉砕するステップ。
【0036】
好ましい実施形態では、COはリサイクル及び再利用される。
【0037】
別の実施形態では、PF、HCl、リンの酸化物及びHFを含む反応器からの排出物を、第2段階の再吸収プロセスのために母液に再誘導することで、プロセスの全体的な効率が向上する。
【0038】
別の実施形態では、HClとHFとを含む母液槽からのガス状排出物を回収システムに再誘導することで、プロセス全体の効率が向上する。
【0039】
本発明の別の態様は、純度が少なくとも99.97%の超高純度ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)に関する。
【0040】
本発明の好ましい実施形態では、超高純度ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)は、
-200ppm以下の量の不溶性材料、又は
-それぞれ1ppm以下の量で存在する、金属不純物、又は
-70ppm以下の量のフッ化水素、又は
-10ppm以下の量の硫酸イオン(SO 2-)、又は
-5ppm以下の量の硝酸イオン(NO )、又は
-5ppm以下の量の塩化物イオン(Cl)、又は
-10ppm以下の量の水/水分、又はこれらの組み合わせ
を含む。
【0041】
本発明の好ましい実施形態では、超高純度ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)は、以下の金属不純物を含む:
【0042】
【表1】
【0043】
本発明の方法によると、電池グレードの高純度PClは商業的供給源から得られる。ステップ(a)において、ガス状高純度無水フッ化水素(AHF)は固体五塩化リン(PCl)と反応して、五フッ化リン(PF)と塩化水素とを製造する。
【0044】
LiPF中の不純物は、主原材料、すなわちAHF及びLiF中に存在する不純物が直接の原因である。したがって、以下に述べるように、本発明で使用されるAHF及びLiFは、水分、不溶性不純物及び金属不純物を最小限に抑えるために精製される。言い換えれば、本発明では高純度のAHFとLiFのみが使用される。
【0045】
通常、PClをAHFに溶解して、PFを調製する。これは、AsF、BFなどの不純物を生じる。しかしながら、本発明では、ガス状AHFが充填層反応器において固体PClと反応する。その後、得られたPFをフィルターに通して、ガス流中に漂流している可能性のあるあらゆるPCl粒子を除去し、高純度のPFガスを得る。したがって、本プロセスは、高純度ガス状AHFを用いて充填層反応器で実施することにより、PFガス中の不純物と水とを除去すること又は最小限に抑えることができる。
【0046】
ステップ(b)において、ステップ(a)で製造したPFが反応器2に入り、そこでAHFに溶解したLiFと反応する。これは、母液とも呼ばれる、AHFに溶解したLiPFの形成をもたらす。好ましくは、ステップ(b)は、-5~5℃の範囲の温度、より好ましくは0℃で実施される。
【0047】
PF、HCl、リンの酸化物及びHFを含む反応器からの排出物を、第2段階の再吸収プロセスのために母液に再誘導する。これは特に、PFの回収効率を向上することで、反応の全体的な効率を向上する。
【0048】
結晶化は、結晶化槽内で母液から行われ、当該槽内で母液が冷却される。母液は、長時間冷却される。
【0049】
本発明で使用されている静的結晶化装置は、48時間で1回転する。LiPF結晶は、大きなサイズまでゆっくりと成長する。LiPFの結晶のサイズが大きいほど、HFがその上に吸着する表面積が小さくなり、HF含有量が最小のLiPFが得られる。結晶はメッシュ篩を通すことによって分離される。分離されたLiPFのうち比較的大きな結晶は、高純度粉末LiPFを得るために、60~70℃の温度において、真空下、約6時間、粉砕及び乾燥して、出来るだけHFを除去する。
【0050】
LiPFの比較的小さな結晶は、-5~5℃、好ましくは0℃で母液に特定量のフッ化リチウムを添加することで再利用され、プロセスを繰り返してより大きなサイズの結晶が得られる。
【0051】
静的結晶化装置の代わりに通常の回転結晶化装置を使用すると、150~250ppmの範囲のHF含有量を有する、より小さな結晶が生じる。より高い温度を乾燥に使用すると、分解とLiPF結晶からのHFの生成が起こる。
【実施例
【0052】
本発明のいくつかの代表的実施形態を以下に論じる。本発明は、より広い態様において、特定の詳細事項及び代表的方法に限定されない。例証的な例を、提供される実施形態及び方法に関連して、このセクションに記載する。
【0053】
以下の例は発明の例示であるが、その範囲を限定するものではない。
【0054】
図1は、本開示の実施形態に従って、LiPFを調製するためのプロセスフロー図を示す。このプロセスによれば、HF溶液(101)を蒸発器(V1)に通し、HFをガス状態(102)に変換する。蒸発器(V1)から得られたガス状態HF(102)を第1反応器(R1)内でPCl粉末(103)と反応させ、中間生成物であるPFと、HCl(g)と、未反応のHF(105)とを得る。中間生成物(105)をフィルター(F1)に通し、第2反応器(R2)へと送り、LiPFとHF溶液とを含む生成物溶液(106)を得て、これを滞留槽(V2)に移す。滞留槽(V2)からの生成物溶液(106)を結晶化装置(V3)に移し、そこで生成物LiPF(107)を回収し、母液(108)を分離する。生成物(107)を篩(S1)に通して所望のサイズの生成物LiPFを得て、残りを母液槽(V4)にリサイクルする。LiFとHF溶液とを含む母液(108)を母液槽(V4)に送り、母液槽でHF溶液とLiF(104)とを更に追加し、処理済母液(109)を第2反応器(R2)へリサイクルして、LiPFとHF溶液とを含む生成物溶液(106)を得る。HFガス(102)を再利用及びリサイクルするために母液槽(V4)からの排ガス(111)を回収システム(S2)に送り、未回収の排ガス(110)は、廃棄のため3段スクラバ(S3)に送る。
【0055】
LiPF中の不純物は、主原材料、すなわちAHF及びLiF中に存在する不純物が直接の原因である。したがって、以下に述べるように、本発明で使用されるAHF及びLiFは、水分、不溶性不純物及び金属不純物を最小限に抑えるために精製される。言い換えれば、本発明では高純度のAHFとLiFのみが使用される。
【0056】
市販のHFでは、合成反応容器内でFe、Ca、Mgなどの金属が活性なPFと反応してFeF、CaF、MgFを生成し、これがLiPF結晶中の不純物を増加させる。したがって、本発明で使用するAHFは、本発明の方法で使用する前に精製される。
【0057】
市販のAHFは、酸化剤としてのフッ素(F)で処理してAHF不純物をフッ素化し、ヒ素などの大部分の金属を除去することで、精製される。AHFをFと反応させることで精製しなければ、金属フッ化物、AsF及びBFなどのガス状不純物が母液を汚染し得る。本発明における精製AHFの使用は、本発明におけるLiPF結晶中の不純物を更に最小限に抑える。
【0058】
<実施例1>
実施例-1:高純度AHFの調製:純フッ素ガスを、0.2kg/cmの圧力、25℃の温度において、3分間、反応容器内の市販AHF中にパージする。不純物をフッ化物として沈殿させた後、純粋なAHFを反応容器から蒸留塔に移す。市販AHFと精製AHFとの不純物レベルを以下に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
Fe、Ca、K、Na、Ni、Pb、Zn、Cr、Mg、Cu、及びAlなどの金属のケイ酸塩、フルオロケイ酸塩、及び硫酸塩などの不溶性不純物が、LiF中に存在する。金属には、AHFに溶解せず、固体粒子として残るものがある。また、AHFと反応して、FeF、NaF、CaF、MgFなどのフッ化物材料を生成するものもある。この場合、フッ化物材料は、固体として結晶化装置の底に沈殿し、LiPF結晶と共に留まる。これがLiPFの不純物の主要原因である。これらの不溶性不純物はLiPFに到達し、それによってCa、Mg、Na、Kなどの合計レベルが100ppm以上に増える。したがって、高純度LiPFを製造するには、このプロセスで使用するLiFが上記の金属不純物を含んでいないことが必要である。
【0061】
<実施例2>
実施例-2:高純度LiFの調製:100L反応器内で、3.9kgの市販LiCOを78リットルの純脱イオン水と混合して、スラリーを調製する。純二酸化炭素ガス(純度99%)を、3kg/cmの圧力で6時間、反応器内のスラリーに通し、可溶性LiHCOを生成する。LiHCO溶液を2組のカートリッジフィルターに通すことで、不溶性不純物を濾過する。次いで、LiHCO溶液を陽イオン交換樹脂カラムに通すことで、可溶性不純物を除去する。
次いで、84kgの精製LiHCO溶液を、425リットルの50%HFと反応させて、LiFを得る。こうして生成したLiFを、濾過し、130℃で水を蒸発させることで乾燥する。精製LiFの不純物レベルを以下に示す:
【0062】
【表3】
【0063】
したがって、LiFの純度を向上するために、炭酸リチウムをCOガスで処理して水溶性の炭酸水素リチウム(LiHCO)を生成する。このプロセスは、重金属イオンと不溶性不純物を水で除去する。不溶性不純物は、2組の微細フィルターで濾過する。水に溶解したイオンは、陽イオン交換によって除去する。得られるLiHCOは、いかなる不溶性の重金属不純物も実質的に含まない。プロセスの効率をさらに向上するため、反応中に放出されたCOは、再利用する。
【0064】
<実施例3>
実施例-3:LiPFの調製-上記のように製造した930gの高純度AHFを、40~80℃の温度に維持した1500gの固体PClに添加する。この反応から生成するPF+HCl+HFの混合物を、LiF+AHF(171g+7800gのAHF)の溶液に-5~5℃で供給し、AHF溶媒中1kgのLiPFを製造する。この溶液からLiPFを結晶化し、濾過及び乾燥して、純粋な生成物を得る。本発明のプロセスによる超高純度LiPFの不純物レベルを以下に示す:
【0065】
【表4】
【0066】
上記プロセスによって得られたLiPFは、200ppm以下の量の不溶性材料を含み、及び/又はそれぞれ1ppm以下の量で存在する金属不純物を含み、及び/又は70ppm以下の量のHFを含み、及び/又は10ppm以下の量のSO 2-を含み、及び/又は5ppm以下の量のNO を含み、及び/又は5ppm以下の量のClを含み、及び/又は10ppm以下の量の水又はこれらの組み合わせを含む。
【0067】
本発明のプロセスで得られるLiPFの純度は、少なくとも99.97%である。
【0068】
AHF精製プロセス、高純度LiFの調製並びに結晶化及び乾燥ステップがない場合、金属不純物が持ち越され、最終生成物、すなわちLiPFの一部となる。その場合、LiPF不純物プロファイルは、全金属不純物が1ppm以下ではなく30~80ppmである。
【0069】
更に、本発明による超高純度LiPFの金属不純物は、下表に示すSIGMA-ALDRICH-MERCK社又はNANOSHEL社から市販されている電池グレードLiPFよりも大幅に低いことがわかる。本発明の開示のプロセスによって製造された超高純度LiPFは優れていると結論づけることができる。
【0070】
【表5】
【0071】
本発明の上記説明は、単に本発明を例証するためのものであり、限定を意図するものではない。本発明の本質及び実体を組み込んだ開示された実施形態の変更が、当業者に想起され得ることから、本発明は、本開示の範囲内のあらゆるものを含むと解釈されるべきである。
図1
【国際調査報告】