(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】神経変性障害の治療選択及び治療
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20241108BHJP
A61K 31/341 20060101ALI20241108BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241108BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20241108BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241108BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20241108BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
A61K31/341
A61P25/28
A61P25/16
G01N33/53 M
C12M1/34 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024530556
(86)(22)【出願日】2022-11-23
(85)【翻訳文提出日】2024-07-22
(86)【国際出願番号】 US2022050940
(87)【国際公開番号】W WO2023097029
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519448577
【氏名又は名称】アナベックス ライフ サイエンス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミスリング、クリストファー、ユー.
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4C086
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB11
4B029BB20
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4B029FA12
4B029FA15
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4C086AA01
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4C086MA01
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4C086NA05
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZA36
4C086ZA75
4C086ZC41
(57)【要約】
本開示は、治療前及び治療後の遺伝子発現の変化に基づいて、対象のシグマ-1受容体アゴニスト療法などの神経変性治療剤を使用した治療を、個別に選択し、監視する方法を提供する。本開示はまた、神経変性障害を発症している対象の現在の状態又はリスクを評価する方法を提供する。本方法を実施するためのキットも提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、及び心筋収縮に関連する障害から選択される疾患に罹患している対象のための治療剤を選択する方法であって、
a.前記対象から第1の生物学的試料を得るか又は得ていること、
b.前記対象にシグマ受容体アゴニストをある期間投与すること、
c.前記投与期間の終わりに、前記対象の第2の生物学的試料を得るか又は得ていること、
d.前記第1の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイル及び前記第2の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイルを決定すること、
e.前記第1の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルを前記第2の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルと比較して、差次的に発現している遺伝子及び過剰出現している(overrepresented)遺伝子クラスターを同定すること、
f.
(i)前記同定された差次的に発現している遺伝子のいずれかが、COX5B、COX7B、COX8A、NDUFB6、TXN、PSMA4、CLTB、PSMB3、POLR2F、NDUFA1、PSMD13、POLR2、NDUFA2、DDIT3、CYBA、AGER、MAPA2K2、PSENEN、若しくはNDUFB3を含む第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子であるか、又はCOX4I1、NDUFB11、PSMA7、COX6A1、NDUFB2、PSMB1、COX6B1、NDUFB7、PSMB4、COX6C、NDUFB8、PSMB5、COX7A2、NDUFB9、PSMB6、COX7C、NDUFC1、PSMB7、CYC1、NDUFC2、PSMD8、NDUFA11、NDUFS3、RPS27A、NDUFA12、NDUFS4、SLC25A6、NDUFA13、NDUFS5、TXN2、NDUFA3、NDUFS6、UQCR10、NDUFA4、NDUFS7、UQCR11、NDUFA7、NDUFS8、UQCRH、NDUFA8、PARK7、UQCRQ、NDUFB1、PSMA2、NDUFB10、CDK5、GAPDH、HRAS、HSD17B10、若しくはPSMA6を含む第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子である場合、又は
(ii)前記同定された過剰出現している遺伝子クラスターのいずれかが、前記第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子若しくは前記第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子と重複する場合、
前記シグマ受容体アゴニストを、前記対象のための治療剤として選択すること、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記シグマ受容体アゴニストが、ANAVEX2-73(A2-73)、A2-73遊離塩基、ANAVEX 19-144、ANAVEX1-41、AV1066、ANAVEX3-71、PRE-084、ドネペジル、フルボキサミン、アミトリプチリン、L-687、384、SA-4503、デキストロメトルファン、ジメチルトリプタミン、(+)-ペンタゾシン、並びにそれらの任意の結晶形、エナンチオマー、及び医薬的に許容可能な塩から選択される化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シグマ受容体アゴニストが、A2-73遊離塩基、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、又は(+)A2-73エナンチオマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(b)における前記期間が14週間以下である、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(b)における前記期間が、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、又は約14週間である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記シグマ受容体アゴニストが毎日投与される、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記シグマ受容体アゴニストがA2-73を含み、前記A2-73が、約40mg~約60mgの量で6週間~14週間の期間、毎日投与される、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記シグマ受容体アゴニストが結晶形態のA2-73を含み、前記A2-73が、約50mgの量で、最大11週間の期間、1日1回投与される、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記シグマ受容体アゴニストが結晶形態のA2-73を含み、前記A2-73が、約10mgで開始し約50mgで終了する漸増量で、11週間の期間、1日1回投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
神経変性治療法の有効性の評価を必要とする対象において、神経変性治療法の有効性を評価する方法であって、
a.前記神経変性治療法の開始前に、前記対象の第1の生物学的試料を得るか又は得ていること、
b.前記対象に前記神経変性治療法をある期間提供すること、
c.前記神経変性治療法期間の終わりに、前記対象の第2の生物学的試料を得るか又は得ていること、
d.前記第1の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイル及び前記第2の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイルを決定すること、
e.前記第1の生物学的試料の前記遺伝子発現プロファイルを前記第2の生物学的試料の前記遺伝子発現プロファイルと比較して、前記測定された遺伝子発現プロファイルから差次的に発現している遺伝子及び過剰出現している(overrepresented)遺伝子クラスターを同定すること、
f.
(i)前記同定された差次的に発現している遺伝子のいずれかが、COX5B、COX7B、COX8A、NDUFB6、TXN、PSMA4、CLTB、PSMB3、POLR2F、NDUFA1、PSMD13、POLR2、NDUFA2、DDIT3、CYBA、AGER、MAPA2K2、PSENEN、若しくはNDUFB3を含む第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子、又はCOX4I1、NDUFB11、PSMA7、COX6A1、NDUFB2、PSMB1、COX6B1、NDUFB7、PSMB4、COX6C、NDUFB8、PSMB5、COX7A2、NDUFB9、PSMB6、COX7C、NDUFC1、PSMB7、CYC1、NDUFC2、PSMD8、NDUFA11、NDUFS3、RPS27A、NDUFA12、NDUFS4、SLC25A6、NDUFA13、NDUFS5、TXN2、NDUFA3、NDUFS6、UQCR10、NDUFA4、NDUFS7、UQCR11、NDUFA7、NDUFS8、UQCRH、NDUFA8、PARK7、UQCRQ、NDUFB1、PSMA2、NDUFB10、CDK5、GAPDH、HRAS、HSD17B10、若しくはPSMA6を含む第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子である場合、又は
(ii)前記同定された過剰出現している遺伝子クラスターのいずれかが、前記第1の遺伝子クラスターの遺伝子若しくは前記第2の遺伝子クラスターの遺伝子と重複する場合、
前記神経変性治療法を前記対象に有効であると同定すること、又は
(i)若しくは(ii)のいずれも観察されない場合、前記神経変性治療法を前記対象にとって無効であると同定すること、
を含む、前記方法。
【請求項11】
前記神経変性治療法が(f)において無効であると同定された場合、前記方法が、
i.別の神経変性治療法への切替え、
ii.別の神経変性治療法による補充、
iii.前記神経変性治療法が薬物療法を含む場合、用量の調整、
iv.併用神経変性治療法への切替え、
のうちの1又は複数をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記対象が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、及びそれらの任意の組合せから選択される神経変性疾患を有するか又は有する疑いがあるヒト対象である、請求項10又は請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記神経変性治療法が、ANAVEX2-73(A2-73)、ANAVEX 19-144、ANAVEX1-41、AV1066、ANAVEX3-71、PRE-084、ドネペジル、フルボキサミン、アミトリプチリン、L-687、384、SA-4503、デキストロメトルファン、ジメチルトリプタミン、(+)-ペンタゾシン、並びにそれらの結晶形、エナンチオマー、及び医薬的に許容可能な塩のうちの任意のものから選択される薬物療法を含む、請求項10~請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記神経変性治療法が、A2-73遊離塩基、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、及び(+)A2-73エナンチオマーを含む薬物療法から選択される、請求項10~請求項13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記期間が最大14週間である、請求項10~請求項14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記期間が、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、又は約14週間である、請求項10~請求項15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記神経変性治療法が毎日施される、請求項10~請求項16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記神経変性治療法がA2-73薬物療法を含み、前記A2-73薬物療法が、A2-73又はA2-73遊離塩基を約40mg~約60mgの量で6週間~14週間の期間、毎日投与することを含む、請求項10~請求項17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記神経変性治療法がA2-73薬物療法を含み、前記A2-73薬物療法が、結晶形態のA2-73又はA2-73遊離塩基を1日1回、約50mgの量で、最大11週間の期間投与することを含む、請求項10~請求項17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記神経変性治療法がA2-73薬物療法を含み、前記A2-73薬物療法が、約10mgで開始し約50mgで終了する漸増量のA2-73の結晶形を1日1回、11週間の期間投与することを含む、請求項10~請求項17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
シグマ-1受容体アゴニスト療法に応答性の対象を同定する方法であって、
a.前記対象の第1の生物学的試料を得るか又は得ていること、
b.前記対象に前記シグマ-1受容体アゴニスト療法をある期間提供すること、
c.(b)の投与期間の終わりに、前記対象の第2の生物学的試料を得るか又は得ていること、
d.前記第1の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイル及び前記第2の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイルを決定すること、
e.前記第1の生物学的試料の前記遺伝子発現プロファイルを前記第2の生物学的試料の前記遺伝子発現プロファイルと比較して、差次的に発現している遺伝子及び過剰出現している(overrepresented)遺伝子クラスターを同定すること、
f.
(i)前記同定された差次的に発現している遺伝子のいずれかが、COX5B、COX7B、COX8A、NDUFB6、TXN、PSMA4、CLTB、PSMB3、POLR2F、NDUFA1、PSMD13、POLR2、NDUFA2、DDIT3、CYBA、AGER、MAPA2K2、PSENEN、若しくはNDUFB3を含む第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子、又は、COX4I1、NDUFB11、PSMA7、COX6A1、NDUFB2、PSMB1、COX6B1、NDUFB7、PSMB4、COX6C、NDUFB8、PSMB5、COX7A2、NDUFB9、PSMB6、COX7C、NDUFC1、PSMB7、CYC1、NDUFC2、PSMD8、NDUFA11、NDUFS3、RPS27A、NDUFA12、NDUFS4、SLC25A6、NDUFA13、NDUFS5、TXN2、NDUFA3、NDUFS6、UQCR10、NDUFA4、NDUFS7、UQCR11、NDUFA7、NDUFS8、UQCRH、NDUFA8、PARK7、UQCRQ、NDUFB1、PSMA2、NDUFB10、CDK5、GAPDH、HRAS、HSD17B10、若しくはPSMA6を含む第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子である場合、又は
(ii)前記同定された過剰出現している遺伝子クラスターのいずれかが、前記第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子若しくは前記第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子と重複する場合、
前記対象を前記シグマ-1受容体アゴニスト療法に応答性であると同定すること、
を含む、方法。
【請求項22】
前記シグマ-1受容体アゴニスト療法が、ANAVEX2-73(A2-73)、A2-73遊離塩基、ANAVEX 19-144、ANAVEX1-41、AV1066、ANAVEX3-71、PRE-084、L-687、384、SA-4503、ジメチルトリプタミン、(+)-ペンタゾシン、並びにそれらの結晶形、エナンチオマー、及び医薬的に許容可能な塩のうちの任意のものから選択される薬物療法である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記シグマ-1受容体アゴニスト療法が、A2-73遊離塩基、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、(+)A2-73エナンチオマー、又はそれらの任意の組合せの投与を含むA2-73薬物療法である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記対象が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、心筋収縮に関連する障害、及びそれらの任意の組合せから選択される障害を有するか、又は有すると疑われるヒト対象である、請求項21~請求項23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記期間が最大14週間である、請求項21~請求項24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記期間が、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、又は約14週間である、請求項21~請求項25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記シグマ-1受容体アゴニスト療法が毎日提供される、請求項21~請求項26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記シグマ-1受容体アゴニスト療法がA2-73薬物療法を含み、前記A2-73薬物療法が、約40mg~約60mgの量のA2-73又はA2-73遊離塩基を6週間~14週間の期間、毎日投与することを含む、請求項21~請求項27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記シグマ-1受容体アゴニスト療法がA2-73薬物療法であり、前記A2-73薬物療法が、結晶形態のA2-73又はA2-73遊離塩基を1日1回、約50mgの量で、最大11週間の期間投与することを含む、請求項21~請求項27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記シグマ-1受容体アゴニスト療法がA2-73薬物療法を含み、前記A2-73薬物療法が、約10mgで開始し約50mgで終了する漸増量で11週間の期間、1日1回、A2-73又はA2-73遊離塩基の結晶形を投与することを含む、請求項21~請求項27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
対象が疾患を有しているか又は有している疑いがあるかどうかを決定する方法であって、
a.前記対象の第1の生物学的試料を得るか又は得ていること、
b.前記対象にA2-73の組成物をある期間投与すること、
c.前記投与期間の終わりに、前記対象の第2の生物学的試料を得るか又は得ていること、
d.前記第1の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイル及び前記第2の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイルを決定すること、
e.前記第1の生物学的試料の前記遺伝子発現プロファイルを前記第2の生物学的試料の前記遺伝子発現プロファイルと比較して、差次的に発現している遺伝子及び過剰出現している(overrepresented)遺伝子クラスターを同定すること、
f.
(i)前記同定された差次的に発現している遺伝子のいずれかが、COX5B、COX7B、COX8A、NDUFB6、TXN、PSMA4、CLTB、PSMB3、POLR2F、NDUFA1、PSMD13、POLR2、NDUFA2、DDIT3、CYBA、AGER、MAPA2K2、PSENEN、若しくはNDUFB3を含む第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子又はCOX4I1、NDUFB11、PSMA7、COX6A1、NDUFB2、PSMB1、COX6B1、NDUFB7、PSMB4、COX6C、NDUFB8、PSMB5、COX7A2、NDUFB9、PSMB6、COX7C、NDUFC1、PSMB7、CYC1、NDUFC2、PSMD8、NDUFA11、NDUFS3、RPS27A、NDUFA12、NDUFS4、SLC25A6、NDUFA13、NDUFS5、TXN2、NDUFA3、NDUFS6、UQCR10、NDUFA4、NDUFS7、UQCR11、NDUFA7、NDUFS8、UQCRH、NDUFA8、PARK7、UQCRQ、NDUFB1、PSMA2、NDUFB10、CDK5、GAPDH、HRAS、HSD17B10、若しくはPSMA6を含む第2の遺伝子クラスターで列挙された遺伝子である場合、又は
(ii)前記同定された過剰出現している遺伝子クラスターのいずれかが、前記第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子若しくは前記第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子と重複する場合、
前記対象を前記疾患を有すると確認すること、
を含み、
前記疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、及び心筋収縮に関連する障害からなる群から選択される、
方法。
【請求項32】
前記A2-73の組成物が、A2-73遊離塩基、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、(+)A2-73エナンチオマー、又はそれらの任意の組合せを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記A2-73の組成物が経口組成物を含む、請求項31~請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記期間が最大14週間である、請求項31~請求項33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記期間が、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、又は約14週間である、請求項31~請求項34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記A2-73組成物が毎日投与される、請求項31~請求項35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記A2-73組成物が、約40mg~約60mgの量で、6週間~14週間の期間、毎日投与される、請求項31~請求項36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記A2-73組成物が、A2-73又はA2-73遊離塩基の結晶形を含み、約50mgの量で1日1回、最大11週間の期間投与される、請求項31~請求項36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記A2-73組成物が、A2-73又はA2-73遊離塩基の結晶形を含み、約10mgで開始し、約50mgで終了する漸増量で1日1回、最大11週間の期間投与される、請求項31~請求項36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、及び心筋収縮に関連する障害から選択される疾患を対象が発症するリスクを評価する方法であって、
a.前記対象の第1の生物学的試料を得るか又は得ていること、
b.前記対象にANAVEX2-73の組成物をある期間投与すること、
c.投与期間の終わりに、前記対象の第2の生物学的試料を得るか又は得ていること、
d.前記第1の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイル及び前記第2の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイルを決定すること、
e.前記第1の生物学的試料の前記遺伝子発現プロファイルを前記第2の生物学的試料の前記遺伝子発現プロファイルと比較して、差次的に発現している遺伝子及び過剰出現している(overrepresented)遺伝子クラスターを同定すること、
f.
(i)前記同定された差次的に発現している遺伝子が、COX5B、COX7B、COX8A、NDUFB6、TXN、PSMA4、CLTB、PSMB3、POLR2F、NDUFA1、PSMD13、POLR2、NDUFA2、DDIT3、CYBA、AGER、MAPA2K2、PSENEN、若しくはNDUFB3を含む第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子又はCOX4I1、NDUFB11、PSMA7、COX6A1、NDUFB2、PSMB1、COX6B1、NDUFB7、PSMB4、COX6C、NDUFB8、PSMB5、COX7A2、NDUFB9、PSMB6、COX7C、NDUFC1、PSMB7、CYC1、NDUFC2、PSMD8、NDUFA11、NDUFS3、RPS27A、NDUFA12、NDUFS4、SLC25A6、NDUFA13、NDUFS5、TXN2、NDUFA3、NDUFS6、UQCR10、NDUFA4、NDUFS7、UQCR11、NDUFA7、NDUFS8、UQCRH、NDUFA8、PARK7、UQCRQ、NDUFB1、PSMA2、NDUFB10、CDK5、GAPDH、HRAS、HSD17B10、若しくはPSMA6を含む第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子である場合、又は
(ii)前記同定された過剰出現している遺伝子クラスターのいずれかが、前記第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子又は前記第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子と重複する場合、
前記対象を、前記疾患を発症するリスクが高いとして同定すること、
を含む、方法。
【請求項41】
前記A2-73の組成物が、A2-73遊離塩基、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、(+)A2-73エナンチオマー、又はそれらの任意の組合せを含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記A2-73の組成物が経口組成物を含む、請求項40~請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記期間が最大14週間である、請求項40~請求項42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記期間が、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、又は約14週間である、請求項40~請求項43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記A2-73組成物が毎日投与される、請求項40~請求項44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記A2-73組成物が、約40mg~約60mgの量で、6週間~14週間の期間、毎日投与される、請求項40~請求項45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記A2-73組成物が、A2-73又はA2-73遊離塩基の結晶形を含み、約50mgの量で1日1回、最大11週間の期間投与される、請求項40~請求項45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記A2-73組成物が、A2-73又はA2-73遊離塩基の結晶形を含み、約10mgで開始し約50mgで終了する漸増量で1日1回、最大11週間の期間投与される、請求項40~請求項45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記疾患が、パーキンソン病又はプリオン病である、請求項1~請求項48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記第1の生物学的試料又は前記第2の生物学的試料が、それぞれ独立して、血清試料、血漿試料、又はトランスクリプトーム分析に適した試料を含む、請求項11~請求項49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
1)第1の生物学的試料を収容するための第1の容器、
2)第2の生物学的試料を収容するための第2の容器、
3)配列決定又は遺伝子発現の測定のための薬剤を保存するための第3の容器、
4)シグマ-1受容体アゴニストを含む組成物を保存するための第4の容器、及び
5)印刷媒体又はコンピュータ可読媒体での使用説明
を含む、医療用途のためのキット。
【請求項52】
前記医療用途が、
i)対象のための治療剤の選択、
ii)神経変性治療法の有効性の評価、
iii)シグマ-1受容体アゴニスト療法に応答する対象の同定、又は
iv)対象が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、及び心筋収縮に関連する障害からなる群から選択される疾患を有しているか、有していると疑われるか、又は発症するリスクが高いかどうかを決定すること、
のうちの1又は複数を含む、請求項51に記載のキット。
【請求項53】
前記疾患が、パーキンソン病又はプリオン病である、請求項52に記載のキット。
【請求項54】
前記シグマ-1受容体アゴニストが、ANAVEX2-73(A2-73)、A2-73遊離塩基、ANAVEX 19-144、ANAVEX1-41、AV1066、ANAVEX3-71、PRE-084、L-687、384、SA-4503、ジメチルトリプタミン、(+)-ペンタゾシン、又はそれらの結晶形、エナンチオマー、及び医薬的に許容可能な塩のうちの任意のものを含む、請求項51~請求項53のいずれか一項に記載のキット。
【請求項55】
前記組成物が、A2-73遊離塩基、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、(+)A2-73エナンチオマー、又はそれらの任意の組合せを含む経口組成物を含む、請求項51~請求項54のいずれか一項に記載のキット。
【請求項56】
ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、心筋収縮に関連する障害、又はそれらの任意の組合せから選択される障害の治療における医薬品として使用するためのシグマ-1受容体アゴニスト。
【請求項57】
神経変性障害の治療を必要とする対象において神経変性障害を治療する方法であって、前記対象に治療有効量のシグマ-1受容体アゴニストを投与することを含み、前記障害が、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、及び心筋収縮に関連する障害からなる群から選択される、前記方法。
【請求項58】
前記シグマ-1受容体アゴニストが、ANAVEX2-73(A2-73)、A2-73遊離塩基、ANAVEX 19-144、ANAVEX1-41、AV1066、ANAVEX3-71、PRE-084、ドネペジル、フルボキサミン、アミトリプチリン、L-687、384、SA-4503、デキストロメトルファン、ジメチルトリプタミン、(+)-ペンタゾシン、又はそれらの結晶形、エナンチオマー、及び医薬的に許容可能な塩のうちの任意のものを含む、請求項56~請求項57に記載の使用又は方法。
【請求項59】
前記シグマ-1受容体アゴニストが、A2-73遊離塩基、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、(+)A2-73エナンチオマー、又はそれらの任意の組合せを含む、請求項56~請求項57に記載の使用又は方法。
【請求項60】
前記治療有効量が、1日当たり0.5mg~100mgの量のA2-73を含む、請求項57に記載の方法。
【請求項61】
前記治療有効量が、1日当たり10mg~50mgの量のA2-73を含む、請求項57に記載の方法。
【請求項62】
前記障害がパーキンソン病であり、前記治療有効量が1日当たり10mg~50mgの量のA2-73を含む、請求項1~請求項48及び請求項57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記障害がプリオン病であり、治療有効量が1日当たり0.5mg~100mgの量のA2-73を含む、請求項1~請求項48及び請求項57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
前記対象が、ヒト対象又は非ヒト哺乳動物である、請求項1~請求項50及び請求項57のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月23日に出願された米国仮特許出願第63/282,615号及び2022年7月29日に出願された米国仮特許出願第63/393,573号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0002】
本開示は、一般に、個別化医療治療に関し、より具体的には、医療治療の個別化モニタリング及び治療剤の選択のための遺伝学的方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0003】
ゲノミクスは、ゲノムの構造、機能、進化、マッピング、及び編集に注目した生物学の学際的分野である。過去数十年にわたって、ゲノム分析及びプロファイリングは、疾患を診断、治療、及び予防するのに有用なツールとなってきた。しかし、治療の有効性を評価するため、又は特定の患者に適切な治療剤を選択するために、ゲノムプロファイリングをどのように使用するかについての報告はほとんどない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示のある態様は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、及び心筋収縮に関連する障害から選択される疾患又は障害に罹患している対象のための治療剤を選択する方法を包含する。この方法は、対象から第1の生物学的試料を得るか又は得ていること、対象にシグマ受容体アゴニストをある期間投与すること、投与期間の終わりに、対象の第2の生物学的試料を得るか又は得ていること、第1の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイル及び第2の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイルを決定すること、第1の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルを第2の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルと比較して、少なくとも1つの差次的に発現している遺伝子及び/又は過剰出現している(overrepresented)遺伝子クラスターを同定すること、並びに、以下の条件:(i)差次的に発現している遺伝子の少なくとも1つが、COX5B、COX7B、COX8A、NDUFB6、TXN、PSMA4、CLTB、PSMB3、POLR2F、NDUFA1、PSMD13、POLR2、NDUFA2、DDIT3、CYBA、AGER、MAPA2K2、PSENEN、若しくはNDUFB3を含む第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子であるか、又はCOX4I1、NDUFB11、PSMA7、COX6A1、NDUFB2、PSMB1、COX6B1、NDUFB7、PSMB4、COX6C、NDUFB8、PSMB5、COX7A2、NDUFB9、PSMB6、COX7C、NDUFC1、PSMB7、CYC1、NDUFC2、PSMD8、NDUFA11、NDUFS3、RPS27A、NDUFA12、NDUFS4、SLC25A6、NDUFA13、NDUFS5、TXN2、NDUFA3、NDUFS6、UQCR10、NDUFA4、NDUFS7、UQCR11、NDUFA7、NDUFS8、UQCRH、NDUFA8、PARK7、UQCRQ、NDUFB1、PSMA2、NDUFB10、CDK5、GAPDH、HRAS、HSD17B10、若しくはPSMA6を含む第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子である、又は(ii)同定された過剰出現している遺伝子クラスターが、第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子若しくは第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子と重複する、のうちのいずれか1つが観察される場合、シグマ受容体アゴニストを、対象のための治療剤として選択することを含む。いずれの方法においても、治療剤はシグマ受容体アゴニストを含み得る。シグマ受容体アゴニストは、ANAVEX2-73(A2-73)、A2-73遊離塩基、ANAVEX 19-144、ANAVEX1-41、AV1066、ANAVEX3-71、PRE-084、ドネペジル、フルボキサミン、アミトリプチリン、L-687、384、SA-4503、デキストロメトルファン、ジメチルトリプタミン、(+)-ペンタゾシン、それらの結晶形、エナンチオマー、及び医薬的に許容可能な塩のうちの任意のもの、又はそれらの任意の組合せを含み得る。任意の方法において、治療剤は、ANAVEX2-73(A2-73)、A2-73遊離塩基、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、若しくは(+)A2-73エナンチオマー、又はそれらの組合せから選択されるシグマ受容体アゴニストを含み得る。
【0005】
本方法において、治療剤は、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、又は約14週間など、最大14週間の期間投与され得る。また、治療剤は、例えば1日1回など、毎日投与される。
【0006】
本方法の様々な他の態様では、シグマ受容体アゴニストは、A2-73、A2-73遊離塩基、又はそれらの任意の組合せを含み得る。本方法の別の態様では、シグマ受容体アゴニストは結晶形態のA2-73を含み得、約40mg~約60mgの量で、1日1回、約6週間~約11週間投与される。例えば、結晶形態のA2-73は、1日約50mgの用量で、最大11週間投与される。あるいは、A2-73は、約10mgから開始して約50mgで終了する漸増用量で、6週間~11週間の期間、1日1回、毎日投与される。別の態様では、シグマ受容体アゴニストは、A2-73、A2-73遊離塩基、又はそれらの組合せを含む。ある態様では、A2-73又はA2-73遊離塩基は、約40mg~約60mgの量で6週間~14週間の期間、毎日投与される。さらに別の態様では、シグマ受容体アゴニストは、結晶形態のA2-73又はA2-73遊離塩基を含み、A2-73又はA2-73遊離塩基は、約50mgの量で、最大11週間の期間、1日1回投与される。さらに別の態様では、治療剤はシグマ受容体アゴニストであり、シグマ受容体アゴニストは結晶形態のA2-73を含む。A2-73結晶は、約10mgで開始し、約50mgで終了する漸増量で、11週間の期間、1日1回投与される。
【0007】
本開示の別の態様は、神経変性治療法の有効性の評価を必要とする対象において、神経変性治療法の有効性を評価する方法を包含する。本方法は、対象から第1の生物学的試料を得るか又は得ていること、対象に神経変性治療法をある期間投与すること、治療期間の終わりに、対象の第2の生物学的試料を得るか又は得ていること、第1の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイル及び第2の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイルを決定すること、第1の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルを第2の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルと比較して、差次的に発現している遺伝子及び過剰出現している(overrepresented)遺伝子クラスターを同定すること、並びに、以下の条件:(i)同定された差次的に発現している遺伝子が、COX5B、COX7B、COX8A、NDUFB6、TXN、PSMA4、CLTB、PSMB3、POLR2F、NDUFA1、PSMD13、POLR2、NDUFA2、DDIT3、CYBA、AGER、MAPA2K2、PSENEN、若しくはNDUFB3を含む第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子である、又は(ii)同定された差次的に発現している遺伝子が、COX4I1、NDUFB11、PSMA7、COX6A1、NDUFB2、PSMB1、COX6B1、NDUFB7、PSMB4、COX6C、NDUFB8、PSMB5、COX7A2、NDUFB9、PSMB6、COX7C、NDUFC1、PSMB7、CYC1、NDUFC2、PSMD8、NDUFA11、NDUFS3、RPS27A、NDUFA12、NDUFS4、SLC25A6、NDUFA13、NDUFS5、TXN2、NDUFA3、NDUFS6、UQCR10、NDUFA4、NDUFS7、UQCR11、NDUFA7、NDUFS8、UQCRH、NDUFA8、PARK7、UQCRQ、NDUFB1、PSMA2、NDUFB10、CDK5、GAPDH、HRAS、HSD17B10、若しくはPSMA6を含む第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子である、又は(iii)同定された過剰出現している遺伝子クラスターが、第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子若しくは第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子と重複する、のうちのいずれか1つを満たす場合、神経変性治療法が有効であると同定すること、上記の条件のいずれも満たされない場合、神経変性治療法が対象に無効であると同定されることを含む。
【0008】
本方法の別の態様では、神経変性治療法が対象に無効であると同定された場合、別の神経変性治療法への切替え、別の神経変性治療法による補充、神経変性治療法が薬物療法である場合の用量の調整、又は併用神経変性治療法への切替えなどのフォローアップ措置を行ってもよい。
【0009】
本方法のいずれかにおいて、対象は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、又はそれらの任意の組合せなどの神経変性疾患を有するか又は有する疑いがあるヒト対象であり得る。
【0010】
本方法のいずれかにおいて、神経変性治療法は、ANAVEX2-73(A2-73)、ANAVEX 19-144、ANAVEX1-41、AV1066、ANAVEX3-71、PRE-084、ドネペジル、フルボキサミン、アミトリプチリン、L-687、384、SA-4503、デキストロメトルファン、ジメチルトリプタミン、(+)-ペンタゾシン、又はそれらの結晶形、エナンチオマー、及び医薬的に許容可能な塩のうちの任意のものを含む薬物療法であり得る。例えば、神経変性治療法は、A2-73遊離塩基、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、又は(+)A2-73エナンチオマーを含む、A2-73薬物療法である。
【0011】
さらに別の態様では、神経変性治療法は、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、又は約14週間など、最大14週間の期間施され得る。治療剤は、1日1回又は1日2回など、毎日投与され得る。
【0012】
本方法のさらに別の態様では、神経変性治療法は、例えば結晶形態のA2-73を含む薬物療法であり、約40mg~約60mgの量で、1日1回、約6週間~約11週間施される。例えば、A2-73は、1日約50mgで、最大11週間投与される。あるいは、A2-73は、約10mgから開始して約50mgで終了する漸増用量で、6週間~11週間の期間、1日1回、毎日投与される。
【0013】
本開示のさらに別の態様は、シグマ-1受容体アゴニスト療法に応答性の対象を同定する方法を包含する。この方法は、対象から第1の生物学的試料を得るか又は得ていること、対象にシグマ受容体アゴニストをある期間投与すること、投与期間の終わりに、対象の第2の生物学的試料を得るか又は得ていること、第1の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイル及び第2の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイルを決定すること、第1の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルを第2の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルと比較して、差次的に発現している遺伝子及び過剰出現している(overrepresented)遺伝子クラスターを同定すること、並びに、以下の条件:(i)同定された差次的に発現している遺伝子が、COX5B、COX7B、COX8A、NDUFB6、TXN、PSMA4、CLTB、PSMB3、POLR2F、NDUFA1、PSMD13、POLR2、NDUFA2、DDIT3、CYBA、AGER、MAPA2K2、PSENEN、若しくはNDUFB3を含む第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子であるか、又はCOX4I1、NDUFB11、PSMA7、COX6A1、NDUFB2、PSMB1、COX6B1、NDUFB7、PSMB4、COX6C、NDUFB8、PSMB5、COX7A2、NDUFB9、PSMB6、COX7C、NDUFC1、PSMB7、CYC1、NDUFC2、PSMD8、NDUFA11、NDUFS3、RPS27A、NDUFA12、NDUFS4、SLC25A6、NDUFA13、NDUFS5、TXN2、NDUFA3、NDUFS6、UQCR10、NDUFA4、NDUFS7、UQCR11、NDUFA7、NDUFS8、UQCRH、NDUFA8、PARK7、UQCRQ、NDUFB1、PSMA2、NDUFB10、CDK5、GAPDH、HRAS、HSD17B10、若しくはPSMA6を含む第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子である、又は(ii)同定された過剰出現している遺伝子クラスターが、第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子若しくは第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子と重複する、のうちのいずれか1つが観察される場合、対象をシグマ-1受容体アゴニスト療法に応答性であるとして同定することを含む。
【0014】
本方法のいずれかにおいて、シグマ-1受容体アゴニスト療法を施されている対象は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達関連障害、又は心筋収縮に関連する障害などの障害又は疾患を有するか、又は有すると疑われるヒト対象である。
【0015】
本方法の様々な態様では、シグマ-1受容体アゴニスト療法は、ANAVEX2-73(A2-73)、A2-73遊離塩基、ANAVEX 19-144、ANAVEX1-41、AV1066、ANAVEX3-71、PRE-084、ドネペジル、フルボキサミン、アミトリプチリン、L-687、384、SA-4503、デキストロメトルファン、ジメチルトリプタミン、(+)-ペンタゾシン、又はそれらの結晶形、エナンチオマー、及び医薬的に許容可能な塩のうちの任意のものを含み得る。例えば、シグマ-1受容体アゴニスト療法は、A2-73遊離塩基、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、又は(+)A2-73エナンチオマーを含む、A2-73薬物療法である。
【0016】
方法の様々な態様では、シグマ-1受容体アゴニスト療法は、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、又は約14週間など、最大14週間の期間施され得る。また、治療剤は、例えば1日1回など、毎日投与される。
【0017】
本方法の様々な態様では、シグマ-1受容体アゴニスト療法は、A2-73又はA2-73遊離塩基の結晶形を含み得、約40mg~約60mgの量で、1日1回、約6週間~約11週間の期間施される。例えば、A2-73結晶又はA2-73遊離塩基結晶は、約50mg/日で、最大11週間投与される。あるいは、A2-73又はA2-73遊離塩基は、約10mgから開始して約50mgで終了する漸増用量で、1日1回、6週間~約11週間、毎日投与される。
【0018】
本開示の別の態様は、対象が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、若しくは心筋収縮に関連する障害から選択される疾患又は障害を有しているか若しくは有している疑いがあるかどうかを決定する方法、又はそのような疾患若しくは障害を対象が発症するリスクを評価する方法を包含する。方法は、対象から第1の生物学的試料を得るか又は得ていること、対象にANAVEX2-73の組成物をある期間投与すること、投与期間の終わりに、対象の第2の生物学的試料を得るか又は得ていること、第1の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイル及び第2の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイルを決定すること、第1の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルを第2の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルと比較して、差次的に発現している遺伝子及び過剰出現している(overrepresented)遺伝子クラスターを同定すること、並びに、以下の条件:(i)同定された差次的に発現している遺伝子が、COX5B、COX7B、COX8A、NDUFB6、TXN、PSMA4、CLTB、PSMB3、POLR2F、NDUFA1、PSMD13、POLR2、NDUFA2、DDIT3、CYBA、AGER、MAPA2K2、PSENEN、若しくはNDUFB3を含む第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子であるか、又はCOX4I1、NDUFB11、PSMA7、COX6A1、NDUFB2、PSMB1、COX6B1、NDUFB7、PSMB4、COX6C、NDUFB8、PSMB5、COX7A2、NDUFB9、PSMB6、COX7C、NDUFC1、PSMB7、CYC1、NDUFC2、PSMD8、NDUFA11、NDUFS3、RPS27A、NDUFA12、NDUFS4、SLC25A6、NDUFA13、NDUFS5、TXN2、NDUFA3、NDUFS6、UQCR10、NDUFA4、NDUFS7、UQCR11、NDUFA7、NDUFS8、UQCRH、NDUFA8、PARK7、UQCRQ、NDUFB1、PSMA2、NDUFB10、CDK5、GAPDH、HRAS、HSD17B10、若しくはPSMA6を含む第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子である、又は(ii)同定された過剰出現している遺伝子クラスターが、第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子若しくは第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子と重複する、のうちのいずれか1つが観察される場合、上記の障害若しくは疾患を有するとして、又はこのような障害若しくは疾患を発症するリスクが高いとして対象を同定することを含む。本方法の様々な態様では、疾患はパーキンソン病又はプリオン病である。A2-73組成物は、A2-73遊離塩基、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、(+)A2-73エナンチオマー、又はそれらの任意の組合せを含み得る。A2-73組成物は、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、又は約14週間など、最大14週間の期間投与され得る。A2-73組成物は、1日1回など、毎日投与され得る。A2-73組成物は、A2-73又はA2-73遊離塩基の結晶を含み得、約40mg~約60mgの量で、1日1回、約6週間~約11週間投与され得る。例えば、A2-73は、1日約50mgで、最大11週間投与される。あるいは、A2-73は、約10mgから開始して約50mgで終了する漸増用量で、6週間~11週間、1日1回、毎日投与される。
【0019】
本方法のいずれかにおいて、第1の生物学的試料及び第2の生物学的試料はそれぞれ、血清試料、血漿試料、又は本明細書に開示されるトランスクリプトーム分析に適した任意の生物学的試料から選択してもよい。
【0020】
本開示の別の態様は、医療用途のためのキットを包含する。キットは、いくつかの容器、例えば第1の生物学的試料を収容するための第1の容器;第2の生物学的試料を収容するための第2の容器;配列決定又は遺伝子発現の測定に必要な任意の試薬又は構成成分を保存するのに有用な第3の容器及び任意の追加の容器;並びに本明細書に記載の治療化合物又は治療組成物、例えば任意のシグマ-1受容体アゴニスト、例えばA2-73組成物を保存するのに有用な容器を含む。キットはまた、本明細書に開示される方法及び該方法を実施するためのキットの使用を記載する印刷媒体又はコンピュータ可読媒体での説明を含み得る。
【0021】
例えば、本明細書に開示されるキットは、対象のための治療剤の選択、神経変性治療法の有効性の評価、シグマ-1受容体アゴニスト療法に応答性の対象の同定、又は対象がアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、又は心筋収縮に関連する障害から選択される障害又は疾患を有するか、有する疑いがあるか、又は発症するリスクが高いかどうかを決定するなど、開示される様々な方法のいずれかに使用され得る。ある態様では、疾患又は障害はパーキンソン病又はプリオン病である。
【0022】
キットで使用されるシグマ-1受容体アゴニストを含む組成物は、ANAVEX2-73(A2-73)、A2-73遊離塩基、ANAVEX 19-144、ANAVEX1-41、AV1066、ANAVEX3-71、PRE-084、L-687、384、SA-4503、ジメチルトリプタミン、(+)-ペンタゾシン、又はそれらの結晶形、エナンチオマー、及び医薬的に許容可能な塩のうちの任意のものを含み得る。例えば、組成物は、A2-73遊離塩基、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、(+)A2-73エナンチオマー、又はそれらの任意の組合せを含む、A2-73経口組成物である。
【0023】
本開示の別の態様は、治療有効量のシグマ-1受容体アゴニストを投与することによって、対象の障害又は疾患を治療する方法を包含する。障害又は疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、心筋収縮に関連する障害、又はそれらの任意の組合せを含む。シグマ-1受容体アゴニストは、ANAVEX2-73(A2-73)、A2-73遊離塩基、ANAVEX 19-144、ANAVEX1-41、AV1066、ANAVEX3-71、PRE-084、ドネペジル、フルボキサミン、アミトリプチリン、L-687、384、SA-4503、デキストロメトルファン、ジメチルトリプタミン、(+)-ペンタゾシン、又はそれらの結晶形、エナンチオマー、及び医薬的に許容可能な塩のうちの任意のものを含み得る。例えば、シグマ-1受容体アゴニストは、A2-73遊離塩基、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、(+)A2-73エナンチオマー、又はそれらの任意の組合せを含む。また、A2-73の治療有効量は、1日当たり0.5mg~100mg、例えば1日当たり10~50mgの量でA2-73を含む。ある態様では、治療はパーキンソン病の治療を対象としてもよく、1日当たり約10mg~50mgで有効量のA2-73を投与することを含む。A2-73は、遊離塩基、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、(+)A2-73エナンチオマー、又はそれらの任意の組合せの形態であり得る。別の態様では、治療は、プリオン病の治療を対象としてもよく、1日当たり0.5mg~100mgの量でA2-73を投与することを含む。A2-73は、遊離塩基、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、(+)A2-73エナンチオマー、又はそれらの任意の組合せの形態であり得る。治療される対象は、ヒト対象又は非ヒト哺乳動物であり得る。
【0024】
カラー図面の参照
出願ファイルは、カラーで撮影された少なくとも1つの写真を含む。カラー写真付きの本特許出願公開のコピーは、請求及び必要な料金の支払いに応じて、特許庁によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】患者の選択、エンドポイント情報、及び分析方法を含む、パーキンソン病認知症(PDD)を治療するためのANAVEX(登録商標)2-73の第2相プルーフオブコンセプト(PoC)試験デザインの例示的な概要である。
【0026】
【
図2A】ANAVEX(登録商標)2-73治療の遺伝子応答パスウェイを同定するための集学的方法の例示的な概要である。遺伝子クラスター化では、WGCNA1(重み付き相関ネットワーク分析)を使用して遺伝子をクラスター化した。相関ネットワークは、試料間のTPM2発現(転写物/百万。TPM値は、試料間で同等であるべき相対発現レベルを表す)値の相関から出発して、大量の高次元データセットを分析するために、生物学において使用されており、WGCNAは17個のクラスターを作成した(サイズ:13~11,190遺伝子)。次に、クラスターの固有遺伝子3(試料間の遺伝子のmRNA又は遺伝子発現を集計する遺伝子マトリックスのセットの1つ)を、クラスターの発現レベルの要約として使用した。クラスターフィルタリングでは、3つの共変量である、用量、患者、及び時点を有する線形混合効果モデルの標的変数として、各クラスターに対して固有遺伝子を使用した。全ての時点で治療群とプラセボ群との間の有意な(Dunnett検定)対照(contrast)のないクラスターを除外した。クラスターサイズとパスウェイの数との比を計算し、上位2つのクラスターが最終的に保持された。クラスターの生物学的記載では、2つのアプローチが試験された。
図2Aは、クラスターの全ての遺伝子(全クラスター)、及び生物学的相互作用を有することが知られているクラスターの遺伝子(縮小クラスター)に特性評価及び分析を適用したことを示した。全クラスター分析では、フィッシャーの調整されたp値であるp<0.05(多重検定に対するBenjamini-Hochberg調整)及び最小パスウェイサイズ20のパラメータを有するEnrichRパッケージを使用して、過剰出現しているパスウェイを特定した。縮小クラスター解析では、クラスターの他の遺伝子と相互作用しない遺伝子を破棄し、クラスターを縮小した。これらの縮小クラスターに対してパスウェイ分析を行った。多重検定に対する調整(Benjamini-Hochberg法)による偽発見率を使用して、パスウェイの過剰出現を特徴付けた。クラスターの遺伝子間の既知の相互作用を、エッジスコア>0.150のパラメータ及びテキストマイニングエッジなしのSTRINGデータベースを使用して評価した。公知の相互作用は、KEGG、Panther、Allen、Brain Atlas、Gene Ontology、及びReactomeなどの公開データベースから得た。
【
図2B】ANAVEX(登録商標)2-73治療の遺伝子応答パスウェイを同定するための集学的方法の例示的な概要である。遺伝子クラスター化では、WGCNA1(重み付き相関ネットワーク分析)を使用して遺伝子をクラスター化した。相関ネットワークは、試料間のTPM2発現(転写物/百万。TPM値は、試料間で同等であるべき相対発現レベルを表す)値の相関から出発して、大量の高次元データセットを分析するために、生物学において使用されており、WGCNAは17個のクラスターを作成した(サイズ:13~11,190遺伝子)。次に、クラスターの固有遺伝子3(試料間の遺伝子のmRNA又は遺伝子発現を集計する遺伝子マトリックスのセットの1つ)を、クラスターの発現レベルの要約として使用した。クラスターフィルタリングでは、3つの共変量である、用量、患者、及び時点を有する線形混合効果モデルの標的変数として、各クラスターに対して固有遺伝子を使用した。全ての時点で治療群とプラセボ群との間の有意な(Dunnett検定)対照(contrast)のないクラスターを除外した。クラスターサイズとパスウェイの数との比を計算し、上位2つのクラスターが最終的に保持された。クラスター生物学的記載では、2つのアプローチが試験された。
図2Bは、クラスターの遺伝子間の各クラスターの機能的相互作用を、STRINGデータベース(エッジスコア>0.150;テキストマイニングエッジなし)を使用して評価したことを示した。クラスターの他の遺伝子と相互作用しない遺伝子を破棄し、クラスターを縮小した。これらの縮小クラスターに対してパスウェイ濃縮分析を行った。多重検定に対する調整(Benjamini-Hochberg法)による偽発見率(FDR、Benjamini-Hochberg法を用いた多重検定に対する調整)を使用して、パスウェイの過剰出現を特徴付けた。
【0027】
【
図3】混合モデルの推定周辺平均のlogP値プロットであり、P値はダネット検定からのものであり、線形混合効果モデルは3つの共変量である、実際用量、患者、及び時点を有する。
【0028】
【
図4A】213個の遺伝子を有するクラスター1中の遺伝子の相互作用プロットであり、p値はフィッシャー検定によって計算された。
図4Aは、パーキンソン病、プリオン病、及びハンチントン病の生物学的経路に関与する遺伝子を示す。FDRは、Benjamini-Hochberg法を用いた多重検定に対する調整である、偽発見率の略である。スコア>0.4のエッジのみが示された。
【
図4B】213個の遺伝子を有するクラスター1中の遺伝子の相互作用プロットであり、p値はフィッシャー検定によって計算された。
図4Bは、KEGG 2022 パスウェイの遺伝子をプロットしており、パーキンソン病、アルツハイマー病、及び他の神経変性疾患の生物学的パスウェイに関与する遺伝子を列挙している。これは、213個の遺伝子のうち、79%の遺伝子(169個)が生物学的相互作用を有することを示した。
【0029】
【
図5A】962個の遺伝子を有するクラスター2中の遺伝子の相互作用プロットであり、変性疾患の生物学的パスウェイに関与している。FDRは、Benjamini-Hochberg法を用いた多重検定に対する調整である、偽発見率の略である。
図5Aは、相互作用スコア>0.4の遺伝子を示し、列挙している。
【
図5B】962個の遺伝子を有するクラスター2中の遺伝子の相互作用プロットであり、変性疾患の生物学的パスウェイに関与している。FDRは、Benjamini-Hochberg法を用いた多重検定に対する調整である、偽発見率の略である。
図5Bは、962個の遺伝子のうち、70%の遺伝子(680個)がパーキンソン病、アルツハイマー病、及び他の神経変性疾患と相関する生物学的相互作用を有することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本開示は、対象がシグマ-1受容体アゴニストなどの治療剤をある期間投与された場合、選択された遺伝子のセットが差次的に発現されるという発見に部分的に基づく。さらに、これらの遺伝子は、特定の疾患及び障害に関与する異なる生物学的パスウェイに関与している。疾患治療と、治療前及び治療後の遺伝子プロファイルの変化(差次的に発現している遺伝子及び/又は過剰出現している遺伝子クラスターなど)との間の発見された相関関係は、治療に関する選択をさらに手助けするために使用してもよい。例えば、相関関係は、別の治療剤の治療有効性を評価するため、又は遺伝子プロファイリングにおいて誘導された変化に基づいて対象のための治療剤を選択するため、又は治療剤をプローブとして使用して対象の疾患状態又は疾患を発症するリスクを評価するために使用され得る。本開示は、シグマ受容体アゴニスト療法に注目しており、それは関連する疾患及び障害である。しかし、同じ原理及び方法を他の種類の治療剤及び疾患に同様に適用してもよい。
【0031】
シグマ-1受容体は、記憶及び認知を含む高次脳機能に関与することが示されている。したがって、シグマ-1受容体アゴニスト療法は、神経変性障害の患者など、記憶又は認知機能が低下した患者に処方されることが多い。対象がシグマ-1受容体アゴニストで治療された後、対象の遺伝子発現プロファイルが変化することが発見されており、選択された遺伝子のセットが差次的に発現し、それらの関連する遺伝子クラスターが過剰出現する。変更された遺伝子プロファイルは、別の治療剤の治療効果を評価するためのベンチマークとして使用してもよい。また、対象のためのシグマ-1受容体アゴニストを選択するために使用してもよい。さらに、対象がシグマ-1受容体アゴニスト療法に応答性であるかどうかを決定するために使用してもよい。最後に、シグマ-1受容体アゴニストをプローブに使用して、対象が変化した遺伝子発現プロファイルに関連する疾患を有するか、有することが疑われるか、又は有するリスクが高いかどうかを調べることができる。
【0032】
I.シグマ-1受容体アゴニスト療法に関連する遺伝子プロファイルの変化
本発明者らは、かなりの数の遺伝子がシグマ-1受容体アゴニスト療法の期間後に差次的に発現されることを発見した。これらの遺伝子は、2つのクラスターに分けられる。第1の遺伝子クラスターは、COX5B、COX7B、COX8A、NDUFB6、TXN、PSMA4、CLTB、PSMB3、POLR2F、NDUFA1、PSMD13、POLR2、NDUFA2、DDIT3、CYBA、AGER、MAPA2K2、PSENEN、及びNDUFB3を含む。第2の遺伝子クラスターは、COX4I1、NDUFB11、PSMA7、COX6A1、NDUFB2、PSMB1、COX6B1、NDUFB7、PSMB4、COX6C、NDUFB8、PSMB5、COX7A2、NDUFB9、PSMB6、COX7C、NDUFC1、PSMB7、CYC1、NDUFC2、PSMD8、NDUFA11、NDUFS3、RPS27A、NDUFA12、NDUFS4、SLC25A6、NDUFA13、NDUFS5、TXN2、NDUFA3、NDUFS6、UQCR10、NDUFA4、NDUFS7、UQCR11、NDUFA7、NDUFS8、UQCRH、NDUFA8、PARK7、UQCRQ、NDUFB1、PSMA2、NDUFB10、CDK5、GAPDH、HRAS、HSD17B10、又はPSMA6を含む。両方のクラスターは、神経変性疾患及び代謝障害など、様々な生物学的プロセス、機能不全、及び疾患に関連するいくつかの過剰出現しているパスウェイに出現する。例えば、第1の遺伝子クラスターは、9種類の疾患又は機能不全と相関を有することが見出され、そのうち5種類は神経変性疾患である。9種類の疾患又は機能不全は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、酸化的リン酸化機能不全、及びプロテアソーム機能不全である。第2の遺伝子クラスターは、14種類の生物学的機能、疾患、又は機能不全と相関を有することが見出され、そのうちの5種類は、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、コロナウイルス疾患、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、酸化的リン酸化機能障害、リボソーム機能障害、プロテアソーム機能、及び熱生成機能などの神経変性疾患である。
【0033】
神経変性疾患は、進行性の神経系機能不全を特徴とする遺伝性及び孤発性の症状を指す。これらの障害は、しばしば中枢神経系構造又は末梢神経系構造の萎縮に関連し、認知障害、記憶喪失、及び運動障害の形態での症状を有し得る。アルツハイマー病は、認知症の潜行性発症を特徴とする脳の変性疾患である。初期の症状には、記憶、判断、注意範囲、及び問題解決能力の障害が含まれる。後期段階では、重度の失行及び認知能力の全体的な喪失が起こり得る。この疾患は、重度の皮質萎縮、並びに老人性プラーク、神経原線維変化、及び糸屑状構造物の三主徴によって、病理学的に特徴付けられる。
【0034】
パーキンソン病は、安静時に最大となる振戦、後方突進(すなわち、後方に倒れる傾向)、硬直、前屈姿勢、自発運動の緩慢さ、及び仮面状表情を特徴とする進行性の変性神経疾患である。病理学的特徴には、黒質及び脳幹の他の色素性核におけるメラニン含有ニューロンの喪失が含まれる。レビー小体は、黒質及び青斑核に存在するが、様々な程度のパーキンソニズムと組み合わせて認知症を特徴とする関連症状にも見られ得る。パーキンソン病の症状としては、振戦及び振戦、筋硬直、シャッフル工程、前屈姿勢、動作開始困難、表情の欠如、及び認知症が挙げられ得るが、これらに限定されない。パーキンソン病認知症(PDD)は、パーキンソン病を患う一部の人々に発症する思考及び推理の技能の低下である。パーキンソン病患者は、パーキンソン病に関連する認知症の認知症状の前に運動の問題を有することがある。レビー小体型認知症では、運動の問題の前に、又は運動の問題と同時に認知症状が起こる。続発性パーキンソン病は、血管損傷、薬物、外傷、毒素曝露、新生物、感染症、及び変性症状又は遺伝性症状によって引き起こされるパーキンソニズムなど、既知症状又は疑われる症状によって引き起こされる原発性パーキンソン病に似た臨床症状を特徴とする症状を指す。臨床的特徴としては、動作緩慢、硬直、パーキンソン歩行、及び仮面状顔貌が挙げられ得る。一般に、振戦は、二次性パーキンソニズムでは一次形態よりも顕著ではない。本明細書で使用される場合、パーキンソン病は、病理学的特徴、臨床症状、症状、及び任意の二次性パーキンソン病を明確に組み込む。具体的には、本明細書で使用されるパーキンソン病は、パーキンソン病認知症(PDD)を明示的に組み込んでいる。
【0035】
ハンチントン病は、常染色体優性形質として遺伝し、40代又は50代で進行性の舞踏病及び認知症の発症を特徴とする家族性障害である。一般的な初期症状としては、妄想性障害、衝動制御不良、うつ病、幻覚、及び妄想が挙げられる。後期症状には、知的障害、微細運動制御の喪失、アテトーシス、並びに体軸及び四肢の筋肉組織が発達するびまん性舞踏病が含まれ、疾患発症の10年~15年以内に植物状態に至る。その若年性変異体は、発作、運動失調、認知症、及び舞踏病を含むより劇的な経過を有する。筋萎縮性側索硬化症は、脳の上部運動ニューロン、並びに脳幹及び脊髄の下部運動ニューロンを冒す変性障害である。疾患の発症は通常50歳以降であり、その過程は通常3年~6年以内に致死的である。臨床症状としては、進行性の衰弱、萎縮、線維束攣縮、反射亢進、構音障害、嚥下障害、及び最終的な呼吸機能の麻痺が挙げられる。病理学的特徴には、運動ニューロンの線維性星状膠細胞による置換、並びに前脊髄神経根及び皮質脊髄路の萎縮が含まれる。プリオン病は、異常型プリオンに関連する遺伝性、感染性、又は孤発性のヒト及び動物の変性神経系障害の群である。これらの疾患は、翻訳後プロセスを介した正常プリオンタンパク質の異常な構成への変換を特徴とする。ヒトでは、これらの症状は、一般に、認知症、運動失調、及び致死的な結果を特徴とする。病理学的特徴には、炎症の証拠のない海綿状脳症が含まれる。一部の古い文献は、これらを時折、非従来型の遅発性ウイルス感染症と称し得る。
【0036】
プリオン病は、「伝達性海綿状脳症」(TSE)とも呼ばれ、ヒトと動物の両方に影響を及ぼす稀な進行性の神経変性障害の一群を指す。それらは、長いインキュベーション期間、ニューロン喪失に関連する特徴的な海綿状変化、及び炎症応答を誘導できないことによって区別される。TSEの原因因子はプリオンであると考えられている。「プリオン」という用語は、伝達性であり、脳に最も豊富に見られるプリオンタンパク質と呼ばれる特定の正常な細胞タンパク質の異常な折り畳みを誘導することができる異常な病原体を指す。プリオンタンパク質の異常な折り畳みは、脳損傷並びに疾患の特徴的な徴候及び症状をもたらす。プリオン病は通常急速に進行し、常に致死的である。ヒトプリオン病は、少なくともクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー症候群、致死性家族性不眠症、及びクールーを含む。動物プリオン病は、少なくともウシ海綿状脳症(BSE)、慢性消耗病(CWD)、スクレイピー、伝達性ミンク脳症、ネコ海綿状脳症、及び有蹄動物海綿状脳症を含む。
【0037】
筋萎縮性側索硬化症又は「ALS」は、(ルー・ゲーリック病と診断された野球選手にちなんで)しばしばルー・ゲーリック病とも呼ばれる。これは、脳及び脊髄の神経細胞に影響を及ぼし、筋制御の喪失を引き起こす進行性の神経系疾患である。ALSは、多くの場合、筋肉の単収縮及び四肢の衰弱、又は不明瞭発語から始まる。その衝撃は、多くの場合、手、足、又は手足から始まり、その後、身体の他の部分に広がる。疾患が進行し、神経細胞が破壊されるにつれて、筋肉は弱くなる。これは最終的に、咀嚼、嚥下、発話、及び呼吸に影響を及ぼす。症状には、歩行又は通常の日常活動を行うのが困難であること、つまずくこと及び転倒すること、脚、足、又は足首の脱力感、手の脱力感又は不器用さ、不明瞭発語又は嚥下障害、腕、肩、及び舌の筋痙攣及び単収縮、不適切な叫ぶこと、笑うこと、又はあくび、並びに認知及び行動の変化が含まれるが、これらに限定されない。この致死的な疾患の治療法はない。
【0038】
糖尿病性心筋症(DCM)は、真性糖尿病を有する個体において、冠動脈疾患、高血圧、及び有意な弁膜症などの他の心臓リスク因子が存在しない、異常な心筋構造及び性能の存在によって定義される。代謝状態の変化、カルシウムホメオスタシス及びエネルギー産生の障害、炎症及び酸化ストレスの増加、並びに糖化最終産物の蓄積は、糖尿病性心筋症の病因に関与する機序の1つである。DCMの症状には、息切れ、疲労、眩暈又は失神、不整脈(心拍数又は心拍リズムの問題)、足及び足首の腫れ、並びに胸痛が含まれ得るが、これらに限定されない。DCMと診断される最小基準には、左室拡張機能障害及び/又は左室駆出率(EF)の低下、病理学的左室肥大、及び間質性線維症が含まれる。
【0039】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、一連の慢性肝障害であり、とりわけ非アルコール性脂肪肝(NAFL)及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を包含する。NASHは、慢性肝疾患の一般的な原因であり、線維症を伴う又は伴わない少なくとも5%の脂肪肝及び炎症を有すると定義される。時間の経過とともに、治療を行わないと、NASHは肝硬変、さらには肝細胞癌(HCC)に進行し得る。さらに、NAFLD/NASHは、共に米国人口の50%超に影響を及ぼす肥満及びII型糖尿病と強く関連しており、大きな経済的負担をもたらす。残念ながら、NASHの治療選択肢は依然として限られており、ビタミンE又はオベチコール酸治療からのわずかな利益しか観察されていない。NASHは慢性肝疾患及び肝硬変の主な原因であるが、現在、臨床的に承認された治療法はない。
【0040】
コロナウイルス疾患は、コロナウイルスによって引き起こされるウイルス障害である。それは、一般に、高熱、咳、呼吸困難、悪寒、持続性振戦、筋肉痛、頭痛、及びウイルス性肺炎を特徴とする。若年患者では、非定型川崎症候群、毒性ショック症候群、小児多系統炎症性疾患、及びサイトカインストーム症候群など、稀な炎症性症候群が起こり得る。COVID-19及びSARS(重症急性呼吸器症候群)は、コロナウイルス疾患の2つの重症型である。糖尿病性心筋症は、冠動脈アテローム性動脈硬化症及び高血圧の非存在下での心室リモデリングにより、心機能不全、通常は左心室機能不全がもたらされる、糖尿病合併症である。この変化はまた、耐糖能障害による、心筋肥大、心筋の壊死及び線維症、並びにコラーゲン沈着をもたらす。非アルコール性脂肪性肝疾患は、過剰なアルコール摂取を伴わない脂肪肝所見を指す。脂肪肝は、肝実質細胞の脂質浸潤であり、黄色の肝臓をもたらす。異常な脂質蓄積は、通常、単一の大きな液滴又は複数の小さな液滴としてのトリグリセリドの形態である。脂肪肝は、脂肪酸の代謝の不均衡によって引き起こされる。酸化的リン酸化機能不全とは、高エネルギーリン酸結合に変換される自由エネルギーを放出するチトクロム系を介した電子移動の過程における任意の機能不全又は欠損を指す。酸化的リン酸化機能不全は、乳酸塩の過剰産生及び/又は乳酸塩の代謝の減少を示す乳酸アシドーシスなど、核DNA中の病原性突然変異から生じる酸化的リン酸化の欠陥に起因する細胞エネルギーの欠如によって一般に定義される、一群の臨床的に不均一な疾患を引き起こし得る。リボソームは、2つの主要な機能、すなわち、メッセージの解読及びペプチド結合の形成を有する。リボソームは、適切なタンパク質合成に重要である。リボソーム機能不全は、遺伝子異常がリボソーム生合成及びリボソーム機能の障害を引き起こし、特定の臨床表現型をもたらす、障害の集合を構成する。プロテアソームは、細胞周期の進行及びアポトーシスを制御するタンパク質の調節において中心的な役割を果たす複数サブユニットの酵素複合体である。プロテアソームの障害は、がん及び広範囲の慢性神経変性疾患を含む多くの疾患を引き起こし得る。熱発生は、熱の生成によるエネルギーの散逸を指し、褐色脂肪組織及び骨格筋を含む特殊な組織で起こる。ノルエピネフリン及びレプチンなどのいくつかのホルモンは、交感神経系を活性化することによって体温産生を刺激し得る。発熱機能不全は、正常な脂質代謝及び脂肪調節に影響を及ぼす可能性があり、これは次にメタボリックシンドローム又は障害を引き起こす。
【0041】
本開示に包含される他の疾患又は障害には、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、及び心筋収縮に関連する障害が含まれるが、これらに限定されない。
【0042】
II.使用方法:シグマ-1受容体アゴニスト療法に関連する遺伝子プロファイルの変化
本開示のある態様は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、心筋収縮に関連する障害などの疾患又は障害に罹患している対象のための治療剤を選択する方法を包含する。本明細書に開示される方法のいずれにおいて、任意の合理的な順番又は順序で実行され得る動作を含むことを理解されたい。
【0043】
本方法のある態様は、対象から第1の生物学的試料を得るか又は得ていること、対象にシグマ受容体アゴニストをある期間投与すること、投与期間の終わりに、対象の第2の生物学的試料を得るか又は得ていること、第1の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイル及び第2の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイルを決定すること、第1の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルを第2の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルと比較して、差次的に発現している遺伝子及び過剰出現している(overrepresented)遺伝子クラスターを同定すること、並びに、以下の条件:(i)同定された差次的に発現している遺伝子が、COX5B、COX7B、COX8A、NDUFB6、TXN、PSMA4、CLTB、PSMB3、POLR2F、NDUFA1、PSMD13、POLR2、NDUFA2、DDIT3、CYBA、AGER、MAPA2K2、PSENEN、若しくはNDUFB3を含む第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子であるか、又はCOX4I1、NDUFB11、PSMA7、COX6A1、NDUFB2、PSMB1、COX6B1、NDUFB7、PSMB4、COX6C、NDUFB8、PSMB5、COX7A2、NDUFB9、PSMB6、COX7C、NDUFC1、PSMB7、CYC1、NDUFC2、PSMD8、NDUFA11、NDUFS3、RPS27A、NDUFA12、NDUFS4、SLC25A6、NDUFA13、NDUFS5、TXN2、NDUFA3、NDUFS6、UQCR10、NDUFA4、NDUFS7、UQCR11、NDUFA7、NDUFS8、UQCRH、NDUFA8、PARK7、UQCRQ、NDUFB1、PSMA2、NDUFB10、CDK5、GAPDH、HRAS、HSD17B10、若しくはPSMA6を含む第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子である、又は(ii)同定された過剰出現している遺伝子クラスターが、第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子若しくは第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子と重複する、のうちのいずれか1つが観察される場合、シグマ受容体アゴニストを、対象のための治療剤として選択することを含む。
【0044】
本開示の別の態様は、神経変性治療法の有効性の評価を必要とする対象において、神経変性治療法の有効性を評価する方法を包含する。この方法は、対象から第1の生物学的試料を得るか又は得ていること、対象に神経変性治療法をある期間施すこと、治療期間の終わりに、対象の第2の生物学的試料を得るか又は得ていること、第1の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイル及び第2の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイルを決定すること、第1の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルを第2の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルと比較して、差次的に発現している遺伝子及び過剰出現している(overrepresented)遺伝子クラスターを同定すること、並びに、以下の条件:(i)同定された差次的に発現している遺伝子が、COX5B、COX7B、COX8A、NDUFB6、TXN、PSMA4、CLTB、PSMB3、POLR2F、NDUFA1、PSMD13、POLR2、NDUFA2、DDIT3、CYBA、AGER、MAPA2K2、PSENEN、若しくはNDUFB3を含む第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子であるか、又はCOX4I1、NDUFB11、PSMA7、COX6A1、NDUFB2、PSMB1、COX6B1、NDUFB7、PSMB4、COX6C、NDUFB8、PSMB5、COX7A2、NDUFB9、PSMB6、COX7C、NDUFC1、PSMB7、CYC1、NDUFC2、PSMD8、NDUFA11、NDUFS3、RPS27A、NDUFA12、NDUFS4、SLC25A6、NDUFA13、NDUFS5、TXN2、NDUFA3、NDUFS6、UQCR10、NDUFA4、NDUFS7、UQCR11、NDUFA7、NDUFS8、UQCRH、NDUFA8、PARK7、UQCRQ、NDUFB1、PSMA2、NDUFB10、CDK5、GAPDH、HRAS、HSD17B10、若しくはPSMA6を含む第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子である、又は(ii)同定された過剰出現している遺伝子クラスターが、第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子若しくは第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子と重複する、のうちのいずれか1つが観察される場合、神経変性治療法が有効であると同定すること、又は条件(i)若しくは(ii)のいずれも観察されない場合、神経変性治療法が対象に対して無効であると同定されることを含む。
【0045】
本開示のさらに別の態様は、シグマ-1受容体アゴニスト療法に応答性の対象を同定する方法を包含する。方法は、対象から第1の生物学的試料を得るか又は得ていること、対象にシグマ受容体アゴニストをある期間投与すること、投与期間の終わりに、対象の第2の生物学的試料を得るか又は得ていること、第1の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイル及び第2の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイルを決定すること、第1の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルを第2の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルと比較して、差次的に発現している遺伝子及び過剰出現している(overrepresented)遺伝子クラスターを同定すること、以下の条件:(i)同定された差次的に発現している遺伝子が、COX5B、COX7B、COX8A、NDUFB6、TXN、PSMA4、CLTB、PSMB3、POLR2F、NDUFA1、PSMD13、POLR2、NDUFA2、DDIT3、CYBA、AGER、MAPA2K2、PSENEN、若しくはNDUFB3を含む第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子であるか、又はCOX4I1、NDUFB11、PSMA7、COX6A1、NDUFB2、PSMB1、COX6B1、NDUFB7、PSMB4、COX6C、NDUFB8、PSMB5、COX7A2、NDUFB9、PSMB6、COX7C、NDUFC1、PSMB7、CYC1、NDUFC2、PSMD8、NDUFA11、NDUFS3、RPS27A、NDUFA12、NDUFS4、SLC25A6、NDUFA13、NDUFS5、TXN2、NDUFA3、NDUFS6、UQCR10、NDUFA4、NDUFS7、UQCR11、NDUFA7、NDUFS8、UQCRH、NDUFA8、PARK7、UQCRQ、NDUFB1、PSMA2、NDUFB10、CDK5、GAPDH、HRAS、HSD17B10、若しくはPSMA6を含む第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子である、又は(ii)同定された過剰出現している遺伝子クラスターが、第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子若しくは第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子と重複する、のうちのいずれか1つが観察される場合、シグマ-1受容体アゴニスト療法に応答性であるとして対象を同定することを含む。
【0046】
本明細書に記載される方法のいずれかでは、対象は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、又は心筋収縮に関連する障害から選択される障害又は疾患を有するか、又は有すると疑われるヒト対象である。
【0047】
様々な態様では、神経変性治療法が対象に無効であると同定された場合、別の神経変性治療法への切替え、別の神経変性治療法による補充、神経変性治療法が薬物療法である場合の用量の調整、又は併用神経変性治療法への切替えなどのフォローアップ措置を行ってもよい。
【0048】
神経変性治療法は、シグマ-1受容体アゴニスト療法、又はNMDA療法、又は認知増強理学療法であり得る。例えば、神経変性治療法は、ANAVEX2-73(A2-73)、ANAVEX 19-144、ANAVEX1-41、AV1066、ANAVEX3-71、PRE-084、ドネペジル、フルボキサミン、アミトリプチリン、L-687、384、SA-4503、デキストロメトルファン、ジメチルトリプタミン、(+)-ペンタゾシン、又はそれらの結晶形、エナンチオマー、及び医薬的に許容可能な塩のうちの任意のものなどのシグマ-1受容体アゴニストを含む薬物療法であり得る。
【0049】
本明細書で使用される場合、ANAVEX2-73(A2-73)は、テトラヒドロ-N,N-ジメチル-2,2-ジフェニル-3-フランメタンアミン塩酸塩の化学名を有する。A2-73遊離塩基は、テトラヒドロ-N,N-ジメチル-2,2-ジフェニル-3-フランメタンアミンの化学名を有する。ANAVEX 19-144(A19-144)は、1-(2,2-ジフェニルテトラヒドロフラン-3-イル)-N-メチルメタンアミン塩酸塩の化学名を有する。ANAVEX1-41(A1-41)は、テトラヒドロ-N,N-ジメチル-5,5-ジフェニル-3-フランメタンアミン塩酸塩の化学名を有する。AV1066は、1-(3-4(((1R,3S,5S)-アダマンタン-1-イル)(フェニル)メチル)プロピル)-4-メチルピペラジンの化学名を有する。ANAVEX3-71(A3-71、AF-710B)は、1-(2,8-ジメチル-1-チア-3,8-ジアザスピロ[4.5]デカン-3-イル)-3-(1H-インドール-3-イル)プロパン-1-オンの化学名を有する。
【0050】
本方法の様々な態様では、神経変性治療法は、A2-73遊離塩基、非晶質形態のA2-73、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、又は(+)A2-73エナンチオマーの投与を含む、A2-73薬物療法である。本開示は、A2-73の結晶多形体を包含する。結晶多形体は、溶媒抽出又は超臨界流体抽出(SCE)によって調製され得る。溶媒抽出から調製された結晶形は、国際公開第2019200345号として公開されているPCT/US2019/027369(2019年4月12日出願)に記載されている。SCE抽出によって調製された結晶形は、国際公開第2017013498号として公開されているPCT/IB2016/001181(2016年7月19日出願)に記載されている。PCT/US2019/027369及びPCT/IB2016/001181の両方の全内容は、参照により本明細書に取り込まれる。本開示は、PCT/IB2016/001181において調製及び特徴付けられたA2-73結晶形I、A2-73結晶形II、及びA2-73結晶形IIIを明確に包含する。A2-73結晶形Iは、
図1に示すXRPDピークを有する結晶である。A2-73結晶形Iは、
図2~
図3に示す走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真によってさらに特徴付けられる。A2-73結晶形IIは、
図4に示すXRPDピークを有する結晶である。A2-73結晶形IIはまた、
図5に示されるようにFTIRを特徴とする。A2-73結晶形IIのSEM顕微鏡写真を
図7に示す。A2-73結晶形IIIは、
図8に示されるXRPDピークを有する結晶である。A2-73結晶形IIIは、
図9に示すFTIRを特徴とする。A2-73結晶形IIIは、
図11に示す走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真によって特徴付けられる。本開示はまた、A2-73遊離塩基の結晶多形体も包含した。A2-73遊離塩基の結晶多形体は、国際公開第2019200345号として公開されているPCT/US2019/027369(2019年4月12日出願)に記載されている。一例として、A2-73遊離塩基の結晶形は、
図16に示すXRPDパターンを特徴とする結晶形である。そのような結晶形は、
図15に示す粒子形状を有する。本開示は、A2-73のエナンチオマー又はそのようなエナンチオマーの混合物を包含する。エナンチオマーは、(+)又は(-)エナンチオマーであり得る。エナンチオマーは、光学的に純粋な実体又は実質的に光学的に純粋な実体を指す。実質的に光学的に純粋な実体とは、反対側の回転実体が、0.1%又は約0.1%、0.5%又は約0.5%、1%又は約1%、2%又は約2%、5%又は約5%、8%又は約8%、10%又は約10%、12%又は約12%、15%又は約15%、18%又は約18%、20%又は約20%など、20%以下の量で存在し得ることを指す。本開示は、米国特許出願公開第20180169059号明細書として公開されているPCT/IB2016/001158(2016年7月19日出願)に開示され、特徴付けられている(+)及び(-)エナンチオマーを明確に包含する。PCT/IB2016/001158の全内容は、参照により本明細書に明示的に取り込まれる。
【0051】
本開示のさらに別の態様では、神経変性治療法又はシグマ-1受容体アゴニストは、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、又は約14週間など、最大14週間の期間施され又は投与され得る。また、治療剤は毎日、例えば1日1回など、毎日投与される。
【0052】
本開示のさらに別の態様では、神経変性治療法は、A2-73、例えば結晶形態のA2-73を含む組成物を含む薬物療法であり、約40mg~約60mgの量で、1日1回、約6週間~約11週間施される。例えば、A2-73は、1日約50mgで、最大11週間投与される。あるいは、A2-73は、約10mgから開始して約50mgで終了する漸増用量で、6週間~11週間の期間、1日1回、毎日投与される。
【0053】
III.シグマ-1受容体アゴニストを使用する方法
本開示の1つの態様は、対象が疾患若しくは障害を有しているか若しくは有している疑いがあるかどうかを決定する方法、又はそのような疾患若しくは障害を対象が発症するリスクを評価する方法を包含する。当該障害又は疾患は、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、又は心筋収縮に関連する障害から選択される。ある態様では、方法は、対象から第1の生物学的試料を得るか又は得ていること、対象にANAVEX2-73の組成物をある期間投与すること、投与期間の終わりに、対象の第2の生物学的試料を得るか又は得ていること、第1の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイル及び第2の生物学的試料についての遺伝子発現プロファイルを決定すること、第1の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルを第2の生物学的試料の遺伝子発現プロファイルと比較して、差次的に発現している遺伝子及び過剰出現している(overrepresented)遺伝子クラスターを同定すること、並びに、以下の条件:(i)同定された差次的に発現している遺伝子が、COX5B、COX7B、COX8A、NDUFB6、TXN、PSMA4、CLTB、PSMB3、POLR2F、NDUFA1、PSMD13、POLR2、NDUFA2、DDIT3、CYBA、AGER、MAPA2K2、PSENEN、若しくはNDUFB3を含む第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子であるか、又はCOX4I1、NDUFB11、PSMA7、COX6A1、NDUFB2、PSMB1、COX6B1、NDUFB7、PSMB4、COX6C、NDUFB8、PSMB5、COX7A2、NDUFB9、PSMB6、COX7C、NDUFC1、PSMB7、CYC1、NDUFC2、PSMD8、NDUFA11、NDUFS3、RPS27A、NDUFA12、NDUFS4、SLC25A6、NDUFA13、NDUFS5、TXN2、NDUFA3、NDUFS6、UQCR10、NDUFA4、NDUFS7、UQCR11、NDUFA7、NDUFS8、UQCRH、NDUFA8、PARK7、UQCRQ、NDUFB1、PSMA2、NDUFB10、CDK5、GAPDH、HRAS、HSD17B10、若しくはPSMA6を含む第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子である、又は(ii)同定された過剰出現している遺伝子クラスターが、第1の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子若しくは第2の遺伝子クラスターに列挙された遺伝子と重複する、のうちのいずれか1つが観察される場合、上記の障害若しくは疾患を有するとして、又はこのような障害若しくは疾患を発症するリスクが高いとして対象を同定することを含む。
【0054】
本明細書に開示される全ての方法のように、A2-73の組成物は、A2-73遊離塩基、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、(+)A2-73エナンチオマー、又はそれらの任意の組合せを含み得る。
【0055】
任意の方法において、A2-73を含む組成物は、最大14週間、例えば2~3週間、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、又は約14週間の期間、対象に投与され得る。治療剤は、例えば、1日1回など、毎日投与される。
【0056】
本方法のいずれかにおいて、A2-73の組成物は、A2-73又はA2-73遊離塩基の結晶を含んでいてもよく、約40mg~約60mgの量で、1日1回、約6週間~約11週間の期間投与される。例えば、A2-73又はA2-73遊離塩基の結晶は、約50mg/日で、最大11週間投与される。あるいは、A2-73又はA2-73遊離塩基は、約10mgから開始して約50mgで終了する漸増用量で、1日1回、6週間~11週間、毎日投与される。
【0057】
本開示のさらに別のある態様では、本方法は生物学的試料を含む。生物学的試料は、対象から収集された固体、半固体、半流体、流体、組織、又は他の材料を含み得る。生物学的試料は、流体生物学的試料であり得る。流体生物学的試料は、流体と、流体中の細胞、粒子、結晶、及び他の成分の一部又は全部とを含み得る。生物学的試料の例には、血液、血清、血漿、骨髄、鼻スワブ、鼻咽頭洗浄液、唾液、尿、胃液、髄液、涙、便、粘液、汗、耳垢、油、腺分泌物、脳脊髄液、組織、精液、膣液、腫瘍組織に由来する間質液、眼液、髄液、喉スワブ、呼気、毛髪、指の爪、皮膚、生検、胎盤液、羊水、臍帯血、リンパ液、腔液、痰、膿、微生物叢、メコニウム、母乳、及び/又は他の分泌物又は排泄物が含まれるが、これらに限定されない。生物学的試料は、鼻咽頭洗浄液、又は対象の体腔若しくは表面を洗浄することによって、又はスワブを対象の体腔若しくは表面に適用した後にスワブを洗浄することによって得られる他の流体を含み得る。鼻スワブ、咽喉スワブ、便試料、毛髪、爪、耳垢、呼気、及び他の固体、半固体、又は気体試料は、抽出緩衝液中で、例えば一定時間又は可変時間処理してもよい。対象の組織試料の例としては、結合組織、筋肉組織、神経組織、上皮組織、軟骨、癌試料、又は骨が挙げられ得るが、これらに限定されない。試料は、ヒト又は動物から得てもよい。試料は、ラット、マウス、ブタ、類人猿、別の霊長類(ヒトを含む)、家畜、スポーツ動物、又はペットなど、脊椎動物、例えば、鳥類、魚類、又は哺乳動物から得てもよい。試料は、生きている対象又は死んだ対象から得られ得る。試料は、対象から新たに得られてもよく、又は何らかの形態の前処理、保存、又は輸送を受けていてもよい。「血液」及び「全血」という用語は、動物内に存在し、血液試料中の対象から直接得られる血液を指す。血液には、赤血球、白血球、アルブミン、グロブリンなどのタンパク質、凝固因子、塩類、水、及び他の成分が含まれる。血液試料は、流動性の生物学的試料である。ある態様では、生物学的試料は、懸濁細胞、細胞材料、真菌、抗原、生物学的因子、免疫原、タンパク質、及び一般に流体を含む分子のサイズよりも実質的に大きいサイズを有する生物学的起源の他の材料を含有する流体試料を指す。生物学的因子とは、生物によって作製された化合物又は生物に付随した化合物であって、生物学的活性又は生理学的活性を有する化合物を指す。生物学的因子としては、生物学的マーカー、抗体、サイトカイン、成長因子、並びに生物学的に産生される他のペプチド、タンパク質、脂質、及び炭水化物が挙げられるが、これらに限定されない。「血漿」及び「血漿」という用語は、血球の除去後に残る血液の液体部分(例えば、血液試料)を指す。赤血球及び白血球は、血液試料の遠心分離によって除去することができ、遠心分離チューブの底部のペレット化された細胞の上に血漿を残す。血漿は血液凝固因子を保持し、抗凝固血液試料から得られる。血漿の試料は、流体生物学的試料である。「血清」及び「血液の血清」という用語は、血液を凝固させ、凝固物を除去した後に残る血液の液体部分を指す。血清は、血清が凝固因子を欠くという点で血漿とは異なり、凝固にはフィブリン、トロンビン、及び血餅の一部を形成して残る他のタンパク質が必要であるため、血清はこれらのタンパク質を欠くが、血漿はそれらを含む。血清の試料は、流体生物学的試料である。本開示は、第1の生物学的試料及び/又は第2の生物学的試料を含む。第1の生物学的試料及び第2の生物学的試料は、同じ種類の生物学的試料であり得るが、異なる時間に採取され得る。第1の生物学的試料及び第2の生物学的試料は、同じ対象から採取された異なる種類の生物学的試料であり得る。第1の生物学的試料及び第2の生物学的試料は、同じ対象から異なる時間に採取された異なる種類の生物学的試料であり得る。第1の生物学的試料及び第2の生物学的試料は、同時に採取された同じ種類の生物学的試料であり、異なる対象からのものであり得る。第1の生物学的試料及び第2の生物学的試料は、それぞれ独立して、上に列挙した任意の生物学的試料である。ある態様では、第1の生物学的試料及び第2の生物学的試料は、それぞれ独立して、血清試料、血漿試料、又はトランスクリプトーム分析に適した生物学的試料を含む。トランスクリプトーム解析は、特定の状況下又は特定の細胞において、しばしばハイスループット法を使用して、ゲノムによって産生されるRNA転写物の完全なセットのトランスクリプトームの試験である。トランスクリプトーム解析は、遺伝子の機能の同定、及び/又は環境ストレスに応答する若しくは環境ストレスを改善するパスウェイの同定に有用である。RNA-Seqはまた、疾患関連遺伝子融合、一塩基多型、及び対立遺伝子特異的発現さえも同定してもよい。本開示は、トランスクリプトーム分析に適している及び/又はトランスクリプトーム分析に使用してもよい任意の生物学的試料を明示的に取り込む。
【0058】
IV.キット及び医療用途
本開示のある態様は、本明細書に開示される監視、評価、又は治療選択方法のいずれかによる医療用途のためのキットを包含する。そのような用途のためのキットは、異なる時点で採取され得る生物学的試料を収容及び保持するための1又は複数の容器と、遺伝子発現分析を実施するための試薬とを含む。例えば、キットは、開示される方法において使用されるような第1の生物学的試料を収容するための第1の容器;開示された方法で使用される第2の生物学的試料を収容するための第2の容器;配列決定又は遺伝子発現の測定に有用な試薬を収容及び/又は保存するための追加の1又は複数の容器を有し得る。安全で安定した耐久性のある方法で組成物を収容して保存するために、追加の容器を含めてもよい。組成物は、A2-73又はA2-73遊離塩基などのシグマ-1受容体アゴニストを含む組成物を含み得る。キットは、本明細書に記載の方法のいずれかを実施するためのキット構成要素の使用を説明する、ハードコピー印刷形態又はコンピュータ可読形態での説明を含むことができる。説明は、医師及び/又は患者を意図された読み手として書き込むことができる。
【0059】
本開示のある態様では、キットは、対象のための治療剤の選択、神経変性治療法の有効性の評価、シグマ-1受容体アゴニスト療法に応答する対象の同定、又は対象が障害若しくは疾患を有するか、有すると疑われるか、若しくは発症するリスクが高いかどうかの決定などの様々な目的に使用され得る。そのような障害又は疾患としては、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、又は心筋収縮に関連する障害が挙げられ得る。
【0060】
V.治療方法
本開示のある態様は、治療有効量のシグマ-1受容体アゴニストを投与することによって、対象の障害又は疾患を治療する方法を包含する。障害又は疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、心筋収縮に関連する障害、又はそれらの任意の組合せを含む。シグマ-1受容体アゴニストは、任意の形態のANAVEX2-73(A2-73)、ANAVEX 19-144、ANAVEX1-41、AV1066、ANAVEX3-71、PRE-084、ドネペジル、フルボキサミン、アミトリプチリン、L-687、384、SA-4503、デキストロメトルファン、ジメチルトリプタミン、(+)-ペンタゾシン、又はそれらの結晶形、エナンチオマー、及び医薬的に許容可能な塩のうちの任意のものを含み得る。ある態様では、治療はパーキンソン病又はプリオン病の治療である。
【0061】
これらの処理方法のいずれにおいても、シグマ-1受容体アゴニストは、A2-73遊離塩基の形態のA2-73、A2-73非晶質形、A2-73結晶形I、A2-73結晶形II、A2-73結晶形III、(-)A2-73エナンチオマー、(+)A2-73エナンチオマー、又はそれらの任意の組合せであり得る。また、A2-73の治療有効量は、A2-73を1日当たり0.5~100mg、例えば1日当たり10~50mgの量で含む。A2-73、A2-73の治療有効量は、約0.5mg~約20mg、約1mg~約60mg、約30mg~約50mg、又は約3mg~約5mgの範囲であり得る。A2-73の治療有効量は、約0.5mg/日~約100mg/日、約1mg/日~約60mg/日、約20mg/日~約50mg/日、約20mg/日~約30mg/日、又は約15mg/日~約25mg/日の範囲であり得る。抗神経変性有効量のA2-73を投与することにより、約10ng/ml、約12ng/mlのA2-73の血中レベルを提供してもよい。
【0062】
A2-73は、対象に毎日、又は1日1回より多く投与してもよい。さらに、A2-73は、2日、3日、4日、5日、6日、7日、14日、又は30日ごとに投与してもよい。A2-73は、約1日~約1年間、約1日~約1週間、約3日~約1ヶ月間、約2週間~約6ヶ月間、又は約2ヶ月~約4ヶ月間の範囲の期間にわたって投与されてもよい。A2-73はまた、約1日、約7日間、約30日間、約60日間、約120日間、若しくは約180日間、又はそれを超える期間にわたって投与されてもよい。いくつかの態様では、A2-73は、約6週間、8週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、57週間、約148週間、約208週間、無期限に、又は治療されている状態の解消までの期間にわたって投与される。
【0063】
A2-73を投与する他の方法は、例えば、米国特許第9750746号明細書、米国特許出願公開第20170360798号明細書、米国特許出願公開第20190022052号明細書、米国特許出願公開第20180360796号明細書、米国特許出願公開第20180169059号明細書、米国特許出願公開第20180177756号明細書、米国特許出願公開第20180169060号明細書、及び米国特許出願公開第20190117615号明細書に記載されており、これらの開示はその全体が本明細書に取り込まれる。
【0064】
VI.生物学的試料及び方法
トランスクリプトーム又は遺伝子分析に適した任意の生物学的試料を本開示で使用してもよい。適切な生物学的試料の非限定的な例としては、体液試料、生検試料、皮膚試料、及び毛髪試料が挙げられる。流体試料は、血液、血清、血漿、唾液、涙液、及びリンパ液を含み得る。いくつかの態様では、生物学的試料は、血液試料、血清試料、血漿試料、又は任意のトランスクロプトーム試料である。対象から生物学的試料を採取する方法は、当技術分野で周知である。
【0065】
遺伝子発現測定には、DNA測定及びRNA測定の両方が含まれる。それらは、ノーザンブロッティング、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)、核酸マイクロアレイ、Luminexミクロスフェア、及びヌクレアーゼ保護アッセイを含む様々な方法によって達成され得る。実質的に異なるレベルのRNA発現を決定する方法は当技術分野で公知であり、分布分析を含む。いくつかの態様において、実質的に異なるレベルのRNA発現が、RNA発現値をKilobase Millionあたりの転写物(TPM)として正規化することによって求められる。
【0066】
VII.医薬組成物
本開示のある態様は、神経変性剤及び/又はシグマ-1受容体アゴニストを含む医薬組成物を包含する。医薬組成物は、治療有効量の活性医薬成分、及び任意のその医薬的に許容可能な塩を含む。
【0067】
医薬的に許容可能な塩としては、酢酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、重酒石酸塩、クエン酸塩、ギ酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、グルタミン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、次亜リン酸塩、イソ酪酸塩、イソクエン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、メコン酸塩、臭化メチル、メタンスルホン酸塩、一水和物、ムチン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、フタル酸塩、プロピオン酸塩、ピルビン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テレフタラート、及び吉草酸塩などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
医薬的活性成分がA2-73である場合、組成物は、約1mg~約50g、約0.1g~約5g、約0.5g~約3g、約1mg~約55mg、約40mg~約60mg、約80mg~約120mg、約180mg~約220mg、約0.1g~約5g、又は約0.5g~約3gのA2-73を含み得る。A2-73を含む製剤は、例えば、米国特許第9750746号明細書、米国特許出願公開第20170360798号明細書、米国特許出願公開第20190022052号明細書、米国特許出願公開第20180360796号明細書、米国特許出願公開第20180169059号明細書、米国特許出願公開第20180177756号明細書、米国特許出願公開第20180169060号明細書、及び米国特許出願公開第20190117615号明細書に見出すことができ、これらの開示はその全体が本明細書に取り込まれる。
【0069】
活性な医薬的成分は、いくつかの異なる手段によって製剤化され、対象に投与され得る。例えば、組成物は、通常、非経口的に、腹腔内に、血管内に、経皮的に、皮下に、又は肺内に、従来の非毒性の医薬的に許容可能なアジュバント、担体、非薬効成分(excipienet)、及びビヒクルを所望に応じて含有する、投与単位製剤で投与され得る。本明細書で使用される非経口という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、髄腔内、又は胸骨内注射、又は注入技術を含む。医薬組成物の製剤は、例えば、Hoover, John E., Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, Pa.(1975), and Liberman, H.A.and Lachman, L., Eds., Pharmaceutical Dosage Forms, Marcel Decker, New York, N.Y.(1980)に記載されている。
【0070】
医薬組成物はまた、1又は複数の医薬的に許容可能な非薬効成分(excipienet)を含む。非薬効成分の非限定的な例としては、化学強化剤、保湿剤、感圧接着剤、酸化防止剤、可溶化剤、増粘剤、可塑剤、アジュバント、担体、賦形剤、ビヒクル、コーティング、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。1又は複数の非薬効成分は、経口、経皮、非経口、腹腔内、血管内、皮下、吸入スプレー、直腸、又は肺内投与のために選択してもよい。
【0071】
活性医薬成分は、一般に、患者のコンプライアンスを改善し、対象が薬物送達装置を取り外すのを防ぐために製剤化してもよい。例えば、シグマ-1受容体アゴニストは、長期間の送達のための製剤を提供することによって、患者のコンプライアンスを改善し、薬物送達装置の除去を防止するために製剤化してもよい。延長送達は、1日超から数ヶ月に及ぶ期間に及び得る。これは、認知及び/又は運動制御能力が低下した患者に特に関連し得る。期間にわたる延長送達は、約1日~約1年、約1日~約1週間、約3日~約1ヶ月、約2週間~約6ヶ月、又は約2ヶ月~約4ヶ月の範囲であり得る。
【0072】
持続放出製剤は、予め選択された速度での薬物の実質的に連続的な送達に使用してもよい。例えば、結晶性A2-73の場合、薬物は、約1mg/日~約100mg/日、約40mg/日~約60mg/日、又は約10mg/日~約30mg/日の速度で送達され得る。適切な量の結晶性A2-73は、例えば、他の要因の中でも、徐放性製剤による薬物の意図された投与期間、送達機構、特定の製剤、及び薬物の相対効力に基づいて、当業者によって容易に決定してもよい。
【0073】
結合剤
様々な態様の製剤に適した結合剤の非限定的な例としては、デンプン、アルファ化デンプン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルオキサゾリドン、ポリビニルアルコール、C12~C18脂肪酸アルコール、ポリエチレングリコール、ポリオール、糖類、オリゴ糖、ポリペプチド、オリゴペプチド、及びそれらの組合せが挙げられる。ポリペプチドは、約100~約300,000ダルトンの範囲のアミノ酸の任意の配列であり得る。
【0074】
結合剤は、これらに限定されないが、結晶、粒子、粉末、又は当技術分野で公知の任意の他の微細化された固体形態を含む固体形態で造粒される混合物に導入してもよい。あるいは、結合剤を溶媒に溶解又は懸濁させ、造粒中に結合剤流体として造粒装置内の混合物に噴霧してもよい。
【0075】
希釈剤
希釈剤(「充填剤」又は「薄め液」とも呼ばれる)の非限定的な例としては、炭水化物、無機化合物、及びポリビニルピロリドン(PVP)などの生体適合性ポリマーが挙げられる。希釈剤の他の非限定的な例としては、二塩基性硫酸カルシウム、三塩基性硫酸カルシウム、デンプン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、微結晶セルロース、二塩基性リン酸カルシウム、三塩基性リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、タルク、修飾デンプン、糖類、例えばスクロース、デキストロース、ラクトース、微結晶セルロース、フルクトース、キシリトール及びソルビトール、多価アルコール;デンプン;予め製造された直接圧縮希釈剤;並びに前述のいずれかの混合物が挙げられる。
【0076】
崩壊剤
崩壊剤は、発泡性又は非発泡性であり得る。非発泡性崩壊剤の非限定的な例としては、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、これらのアルファ化デンプン及び修飾デンプンなどのデンプン、甘味料、粘土、例えばベントナイト、微結晶セルロース、アルギン酸塩、デンプングリコール酸ナトリウム、ガム、例えば寒天、グアー、イナゴマメ、カラヤ、ペクチン、及びトラガカントが挙げられる。適切な発泡性崩壊剤としては、クエン酸と組み合わせた重炭酸ナトリウム、及び酒石酸と組み合わせた重炭酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
防腐剤
防腐剤の非限定的な例としては、アスコルビン酸及びその塩、パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、アノキソマー、N-アセチルシステイン、ベンジルイソチオシアナート、m-アミノ安息香酸、o-アミノ安息香酸、p-アミノ安息香酸(PABA)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、カフェイン酸、カンタキサンチン、α-カロテン、β-カロテン、β-カラオテン、β-アポカロテン酸、カルノゾール、カルバクロール、カテキン、没食子酸セチル、クロロゲン酸、クエン酸及びその塩、クローブ抽出物、コーヒー豆抽出物、p-クマリン酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)、チオジラウリルチオジプロピオナート、ジステアリルチオジプロピオナート、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、ドデシルガラート、エデト酸、エラグ酸、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、エスクレチン、エスクリン、6-エトキシ-1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン、没食子酸エチル、エチルマルトール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ユーカリ抽出物、オイゲノール、フェルラ酸、フラボノイド(例えば、カテキン、エピカテキン、没食子酸エピカテキン、エピガロカテキン(EGC)、没食子酸エピガロカテキン(EGCG)、ポリフェノールエピガロカテキン-3-没食子酸塩)、フラボン(例えば、アピゲニン、クリシン、ルテオリン)、フラボノール(例えば、ダチセチン、ミリセチン、デムフェロ)、フラバノン、フラキセチン、フマル酸、没食子酸、ゲンチアン抽出物、グルコン酸、グリシン、グアヤカム、ヘスペレチン、α-ヒドロキシベンジルホスフィン酸、ヒドロキシシナミン酸、ヒドロキシグルタル酸、ヒドロキノン、N-ヒドロキシコハク酸、ヒドロキシトリルゾル、ヒドロキシウレア、米ぬか抽出物、乳酸及びその塩、レシチン、クエン酸レシチン;R-アルファ-リポ酸、ルテイン、リコペン、リンゴ酸、マルトール、5-メトキシトリプタミン、没食子酸メチル、クエン酸モノグリセリド;クエン酸モノイソプロピル;モリン、ベータ-ナフトフラボン、ノルジヒドログアイアレチン酸(NDGA)、没食子酸オクチル、シュウ酸、クエン酸パルミチル、フェノチアジン、ホスファチジルコリン、リン酸、リン酸塩、フィチン酸、フィチルビクロメル、ピメント抽出物、没食子酸プロピル、ポリリン酸塩、ケルセチン、トランス-レスベラトロール、ローズマリー抽出物、ロスマリン酸、セージ抽出物、セサモール、シリマリン、シナピン酸、コハク酸、クエン酸ステアリル、シリング酸、酒石酸、チモール、トコフェロール(すなわち、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、及びδ-トコフェロール)、トコトリエノール(すなわち、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、及びデルタ-トコトリエノール)、チロソール、バニリン酸、2,6-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシメチルフェノール(すなわち、Ionox100)、2,4-(トリス-3’,5’-ビ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-メシチレン(すなわち、Ionox330)、2,4,5-トリヒドロキシブチロフェノン、ユビキノン、第3級ブチルヒドロキノン(TBHQ)、チオジプロピオン酸、トリヒドロキシブチロフェノン、トリプタミン、チラミン、尿酸、ビタミンK及び誘導体、ビタミンQ10、小麦胚芽油、ゼアキサンチン、又はそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
風味改変剤
適切な風味改変剤としては、風味剤、矯味剤、甘味料などが挙げられる。香味剤には、合成香味油及び香味芳香剤及び/又は天然油、植物、葉、花、果実及びそれらの組合せからの抽出物が含まれるが、これらに限定されない。フレーバーの他の非限定的な例としては、シナモン油、ウィンターグリーンの油、ペパーミント油、クローバー油、ヘイ油、アニス油、ユーカリ、バニラ、レモン油などの柑橘類油、オレンジ油、グレープ及びグレープフルーツ油、リンゴ、モモ、ナシ、イチゴ、ラズベリー、サクランボ、プラム、パイナップル、及びアンズを含むフルーツエキスが挙げられる。
【0079】
矯味薬としては、Klucel(登録商標)、Nisswo HPC及びPrimaFlo HP22などのセルロースヒドロキシプロピルエーテル(HPC);低置換ヒドロキシプロピルエーテル(L-HPC);Seppifilm-LC、Pharmacoat(登録商標)、Metolose SR、Opadry YS、PrimaFlo、MP3295A、Benecel MP824、及びBenecel MP843などのセルロースヒドロキシプロピルメチルエーテル(HPMC);Methocel(登録商標)及びMetolose(登録商標)などのメチルセルロースポリマー;エチルセルロース(EC)及びそれらの混合物、例えばE461、Ethocel(登録商標)、Aqualon(登録商標)-EC、Surelease;Opadry AMBなどのポリビニルアルコール(PVA);Natrosol(登録商標)などのヒドロキシエチルセルロース;カルボキシメチルセルロース及びカルボキシメチルセルロース(CMC)の塩、例えばAualon(登録商標)-CMC;ポリビニルアルコール及びポリエチレングリコールコポリマー、例えばKollicoat IR(登録商標);モノグリセリド(Myverol)、トリグリセリド(KLX)、ポリエチレングリコール、修飾食品デンプン、アクリルポリマー、及びアクリルポリマーとセルロースエーテル、例えばEudragit(登録商標)EPO、Eudragit(登録商標)RD100、及びEudragit(登録商標)E100との混合物;酢酸フタル酸セルロース;HPMCとステアリン酸との混合物、シクロデキストリン、及びこれらの材料の混合物などのセピフィルムが挙げられるが、これらに限定されない。他の態様では、企図される追加の矯味剤は、米国特許第4,851,226号明細書;米国特許第5,075,114号明細書;及び米国特許第5,876,759号明細書を含み、これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に取り込まれる。
【0080】
甘味料の非限定的な例としては、グルコース(コーンシロップ)、デキストロース、転化糖、フルクトース、及びそれらの混合物(担体として使用されない場合);サッカリン及びそのナトリウム塩などの各種塩;アスパルタームなどのジペプチド甘味料;ジヒドロカルコン化合物、グリチルリチン;ステビア(ステビオシド);スクラロースなどのスクロースのクロロ誘導体;ソルビトール、マンニトール、スリトール、水素化デンプン加水分解物、及び合成甘味料である3、6-ジヒドロ-6-メチル-1、2,3-オキサチアジン-4-オン-2、2-ジオキシドなどの糖アルコール、特に、これらのカリウム塩(アセスルファム-K)、並びにナトリウム塩及びカルシウム塩が挙げられる。
【0081】
潤滑剤及び滑剤
潤滑剤組成物は、医薬組成物を形成する成分を潤滑するために利用され得る。滑剤として、潤滑剤は、製造プロセス中の固体剤形の除去を容易にする。潤滑剤及び流動促進剤の非限定的な例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、水素化植物油、ステロテックス、モノステアリン酸ポリオキシエチレン、タルク、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、及び軽質鉱油が挙げられる。医薬組成物は、一般に、約0.01重量%~約10重量%の潤滑剤を含む。いくつかの態様では、医薬組成物は、約0.1重量%~約5重量%の潤滑剤を含む。更なる態様では、医薬組成物は、約0.5重量%~約2重量%の潤滑剤を含む。
【0082】
分散剤
分散剤としては、高親水性-親油性バランス(HLB)乳化剤界面活性剤としての、デンプン、アルギン酸、ポリビニルピロリドン、グアーガム、カオリン、ベントナイト、精製木材セルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、等非晶質ケイ酸塩、及び微結晶セルロースが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0083】
着色剤
本開示の態様に応じて、着色剤を含むことが望ましい場合がある。適切な着色添加剤としては、食品、薬物、及び化粧品の着色剤(FD&C)、薬物及び化粧品の着色剤(D&C)、又は外部薬物及び化粧品の着色剤(Ext.D&C)が挙げられるが、これら限定されない。これらの着色剤又は染料は、それらの対応するレーキ、及び特定の天然着色剤及び誘導着色剤と共に、本開示の様々な態様での使用に適し得る。
【0084】
pH調整剤
pH調整剤の非限定的な例としては、クエン酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、乳酸、リン酸、ソルビン酸、安息香酸、炭酸ナトリウム、及び重炭酸ナトリウムが挙げられる。
【0085】
キレート剤
酸化基を固定化するための賦形剤としてキレート剤を含めてもよく、これらの酸化基によるモルフィナンの酸化分解を阻害するための(これに限定されないが)金属イオンを含む。キレート剤の非限定的な例としては、リジン、メチオニン、グリシン、グルコン酸、多糖類、グルタミン酸、アスパラギン酸、及びエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(Na2EDTA)が挙げられる。
【0086】
抗菌剤
抗菌剤は、(これに限定されないが)細菌及び真菌を含む微生物剤による、本開示の化合物の分解を最小限に抑えるための非薬効成分として含まれ得る。抗菌剤の非限定的な例には、パラベン、クロロブタノール、フェノール、プロピオン酸カルシウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、Na2EDTA、及び亜硫酸塩(二酸化硫黄、亜硫酸水素ナトリウム、及び亜硫酸水素カリウムが含まれるが、これらに限定されない)が含まれる。
【0087】
放出制御ポリマー
放出制御ポリマーは、本開示の化合物を組み込んだ固体投与医薬組成物の様々な態様に含まれ得る。ある態様では、放出制御ポリマーを錠剤コーティングとして使用してもよい。(これに限定されないが)2層錠を含む他の態様では、放出制御ポリマーを顆粒及び他の賦形剤と混合してから、(これに限定されないが)錠剤型内での圧縮を含む公知の方法によって錠剤を形成してもよい。適切な放出制御ポリマーとしては、親水性ポリマー及び疎水性ポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
適切な親水性放出制御ポリマーとしては、これらに限定されないが、セルロースアセタート、セルロースジアセタート、セルローストリアセタート、セルロースエーテル、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶セルロース、ニトロセルロース、架橋デンプン、寒天、カゼイン、キチン、コラーゲン、ゼラチン、マルトース、マンニトール、マルトデキストリン、ペクチン、プルラン、ソルビトール、キシリトール、多糖類、アルギン酸アンモニア、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸プロピレングリコールアルギナート、アルギン酸ナトリウムカルメロース、カルシウムカルメロース、カラギーナン、フコイダン、フルセララン、アラビアガム、カラギーンガム、ガフチガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、オクラガム、トラガカントガム、スクレログルカンガム、キサンタンガム、ヒパンガム、ラミナラン、アクリルポリマー、アクリラートポリマー、カルボキシビニルポリマー、無水マレイン酸とスチレンとのコポリマー、無水マレイン酸とエチレンとのコポリマー、無水マレイン酸プロピレンのコポリマー又は無水マレイン酸イソブチレンのコポリマー、架橋ポリビニルアルコール及びポリN-ビニル-2-ピロリドン、ポリグルカンのジエステル、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアミド、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリラート)、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、アニオン性及びカチオン性ヒドロゲル、並びにそれらの組合せが挙げられる。
【0089】
コーティング
本開示による化合物を含む固体投薬量は、コーティングを含んでいてもよく、このようなコーティングは、化合物の放出を制御してもよく、水分バリアとして作用してもよく、又は緩衝剤として作用してもよく、又はpHを改変してもよい。本明細書で使用される「制御放出性コート」又は「制御放出性コート」は、例えば、少なくとも1つのpH非依存性ポリマー、pH依存性ポリマー(例えば、腸溶性又は逆腸溶性タイプのポリマー)、可溶性ポリマー、不溶性ポリマー、脂質、脂質材料、又はそれらの組合せを含むことができる機能性コートを意味すると定義される。コーティングは、剤形に適用されると、コーティングされていない剤形に適用されると、本開示による化合物の放出速度を遅くする(例えば、通常の放出マトリックス剤形に適用される場合)、さらに遅くする(例えば、制御放出マトリックス剤形に適用される場合)、又は改変してもよい。例えば、制御放出性コートは、制御放出性コートが剤形に適用される場合、制御放出性コートと組み合わせた剤形が、「放出調節」、「放出制御」、「放出持続」、「放出延長」、「放出遅延」、「放出延長」又はそれらの組合せなどの本開示による化合物の放出を示すことができるようにデザインしてもよい。「制御放出性コート」は、制御放出性コートの機能性を変化させ得る追加の材料を任意に含み得る。
【0090】
本明細書で使用される「水分バリア」という用語は、水分の吸収を妨げる又は遅延させるものである。本開示による化合物は吸湿性であり得、したがって、高湿度条件下で経時的に分解を受けやすい可能性がある。水分バリアの成分の割合及び制御放出コーティング上又はコア上に任意に塗布される水分バリアの量は、典型的には、水分バリアがUSPの定義及び腸溶コートの要件の範囲内に入らないようなものである。適切には、水分バリアは、腸溶性及び/又はアクリルポリマー、適切にはアクリルポリマー、任意に、可塑剤、及び透過促進剤を含み得る。透過促進剤は、コーティングを物理的に破壊することなく水が入ることを可能にする親水性物質である。水分バリアは、徐放性製剤の加工を改善し得る他の従来の不活性賦形剤をさらに含み得る。
【0091】
本開示に従って使用され得るコーティング及びマトリックス材料は、ポリビニルタイプの合成ポリマー、例えばポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル及びそれらのコポリマー、ポリビニルアルコール、並びにポリビニルピロリドン;ポリエチレン及びポリスチレンなどのポリエチレンタイプの合成ポリマー;アクリル酸ポリマー;バイオポリマー又は修飾バイオポリマー、例えばセルロースポリマー、シェラック及びゼラチン;脂肪、油、高級脂肪酸及び高級アルコール(すなわち、少なくとも10個の炭素原子のアルキル鎖を含有する酸及びアルコール)、例えば、モノステアリン酸アルミニウム、セチルアルコール、水素化牛脂、水素化ヒマシ油、12-ヒドロキシステアルアルコール、モノ-又はジパルミチン酸グリセリル;グリセリルモノ-、ジ-又はトリステアラート;ミリスチルアルコール、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ポリエチレングリコール;ワックス;糖及び糖アルコールなどの制御放出配合物に使用するための当技術分野で公知のものである。
【0092】
コーティングのpH緩衝特性は、制酸剤配合物に通常使用される化合物の群、例えば酸化マグネシウム、水酸化物又は炭酸塩、水酸化アルミニウム又は水酸化カルシウム、炭酸塩又はケイ酸塩;複合アルミニウム/マグネシウム化合物、例えばAl2O3・6MgO・CO2・12H2O、(Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O)、MgO・Al2O3・2SiO2・nH2O、重炭酸アルミニウム共沈物又は類似の化合物;又は他の医薬的に許容可能なpH緩衝化合物、例えばリン酸、炭酸酸、クエン酸、又は他の適切な弱酸、無機酸又は有機酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、及びアルミニウム塩;又は塩基性アミノ酸を含む適切な有機塩基;及びその塩又は組合せから選択される物質をコーティングに導入することによって強化され得る。
【0093】
pH依存性コーティングは、胃腸(GI)管の所望の領域、例えば胃又は小腸で薬物を放出するのに役立つ。pH非依存性コーティングが望まれる場合、コーティングは、環境流体、例えばGI管のpH変化に関係なく最適な放出を達成するようにデザインされる。コーティングが腸(特に上部小腸)に本開示の化合物を放出するように製剤化される場合、コーティングはしばしば「腸溶コーティング」と呼ばれる。pH依存性コーティングは、アクリル酸ポリマー及びコポリマー、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アンモニオメチルアクリラート、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチル(例えば、Eudragit(商標));ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、酢酸トリメリット酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロースポリマー;シェラック(精製ラック);ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸フタル酸ビニル(PVAP)、酢酸ビニル-クロトン酸共重合体、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体などのビニル重合体及び共重合体;ゼイン;並びにそれらの塩及び組合せから形成されるポリマーを含み得るが、これらに限定されない。口腔テーブル及びカプセルは、典型的にはコーティングを有する。
【0094】
定義
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。以下の参考文献は、当業者に、本開示で使用される用語の多くの一般的な定義を提供する: Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology (2nd ed.1994); The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker ed., 1988); The Glossary of Genetics, 5th Ed., R.Rieger et al.(eds.), Springer Verlag (1991); and Hale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991)。本明細書で使用される場合、以下の用語は、特に指定されない限り、それらに帰する意味を有する。
【0095】
本開示の要素又はその好ましい(1又は複数の)態様を導入する場合、冠詞「a」、「an」、「the」、及び「said」は、1又は複数の要素があることを意味することを意図している。「含む(comprising)」、「含む(including)」、及び「有する(having)」という用語は、包括的であることを意図しており、列挙された要素以外の追加の要素が存在し得ることを意味する。
【0096】
本開示の範囲から逸脱することなく上記の細胞及び方法に様々な変更を加えることができるので、上記の説明及び以下に示される例に含まれる全ての事項は、限定的な意味ではなく例示として解釈されるべきであることが意図される。
【0097】
用語「含む(comprising)」は、「含むが、必ずしもこれらに限定されない」を意味し、それは具体的には、そのように記載された組合せ、群、及びシリーズなどにおけるオープンエンドの包含又は所属を示す。本明細書で使用される「含む(comprising)」及び「含む(including)」という用語は、包括的及び/又はオープンエンドであり、追加の列挙されていない要素又は方法プロセスを排除しない。「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、「含む(comprising)」よりも限定的であるが、「からなる(consisting of)」ほどには限定的ではない。具体的には、「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、指定された材料又は項目、及び本開示の本質的な特徴に実質的に影響を及ぼさないものに所属を限定する。
【0098】
本明細書で使用される場合、「遺伝子」という用語は、プロモーター、エクソン、イントロン、及び発現を制御する他の非翻訳領域を含む、RNA産物の調節された生合成のための全ての情報を含むDNAのセグメントを意味する。本明細書で使用される場合、「発現」には、これらに限定されないが、前駆体mRNAへの遺伝子の転写;前駆体mRNAのスプライシング及び他のプロセシングによる成熟mRNAの産生;mRNA安定性;成熟mRNAのタンパク質への翻訳(コドン使用頻度及びtRNA利用可能性を含む);適切な発現及び機能のために必要とされる場合、翻訳産物のグリコシル化及び/又は他の修飾のうちの1又は複数を含む。本明細書で使用される場合、「差次的に発現している遺伝子」という用語は、2つの実験条件又は2つの試料における遺伝子の発現レベルが統計的に有意な差又は変化を有することを意味する。本明細書で使用される場合、「過剰出現している」遺伝子又は遺伝子クラスターという用語は、所定のセットからの遺伝子が予想よりも多く存在することを意味する。
【0099】
本明細書で使用される場合、「トランスクリプトーム解析」という用語は、転写活性(コーディング及び非コーディング)を特徴付けること、関連する標的遺伝子及び転写物のサブセットに注目すること、又は遺伝子プロファイルを作成するために一度に数千の遺伝子をプロファイルすることを意味する。本明細書で使用される場合、「変異体」という用語は、変異、例えば一塩基多型(「SNP」)及び挿入/欠失の結果である野生型からの任意の遺伝的変異を意味する。「変異体」という用語は、本明細書全体を通して「マーカー」、「バイオマーカー」、及び「標的」という用語と互換的に使用される。
【0100】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、修飾されていないか又は修飾されたRNA又はDNAであり得る任意のRNA又はDNAを意味する。ポリヌクレオチドとしては、これらに限定されないが、一本鎖及び二本鎖DNA、一本鎖及び二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖及び二本鎖RNA、一本鎖及び二本鎖領域の混合物であるRNA、並びに一本鎖又はより典型的には二本鎖又は一本鎖及び二本鎖領域の混合物であり得るDNA及びRNAを含むハイブリッド分子が挙げられる。さらに、ポリヌクレオチドは、RNA若しくはDNA又はRNAとDNAの両方を含む三本鎖領域を指す。ポリヌクレオチドという用語はまた、1又は複数の修飾塩基を含有するDNA又はRNA、及び安定性又は他の理由のために修飾された骨格を有するDNA又はRNAを含む。
【0101】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合又は修飾ペプチド結合、すなわちペプチドアイソスターによって互いに連結された2つ以上のアミノ酸を含む任意のポリペプチドを意味する。ポリペプチドは、一般にペプチド、糖ペプチド又はオリゴマーと呼ばれる短鎖、及び一般にタンパク質と呼ばれる長鎖の両方を指す。ポリペプチドは、20個の遺伝子コードアミノ酸以外のアミノ酸を含み得る。ポリペプチドには、天然のプロセス、例えば翻訳後プロセシング、又は当技術分野で周知の化学修飾技術によって修飾されたアミノ酸配列が含まれる。そのような修飾は、基礎的なテキスト及びより詳細な研究論文、並びに膨大な研究文献に十分に記載されている。
【0102】
本明細書で使用される場合、「疾患」、「障害」又は「機能障害」という用語は、本開示において互換的に使用される。それらは、治療が望ましい1又は複数の生理学的、物理的及び/又は心理学的症状又は機能不全として現れる任意の症状、障害、又は疾患を指し、任意の器官、組織又は生物学的活性に対する以前に同定された疾患、障害、又は機能不全及び新たに同定された疾患、障害、又は機能不全を含む。本明細書で使用される場合、「医学的使用」という用語は、対象の健康又は健康を回復、改善、又は保存することに関連する任意の使用又は手段である。
【0103】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、好ましくは対象がヒトなどの哺乳動物であるが、動物、例えば家畜(例えば、イヌ、ネコなど)、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)及び実験動物(例えば、カニクイザル、ラット、マウス、モルモットなど)であってもよいことを意味する。
【0104】
本明細書で使用される場合、対象又は患者への薬剤又は薬物の投与は、自己投与及び他者による投与を含む。記載されるような医学的症状の様々な治療又は予防様式は、「実質的」を意味することを意図しており、これは、完全な治療又は予防を含むが、完全な治療又は予防よりも少なく、生物学的又は医学的に関連する何らかの結果が達成されることも理解されるべきである。
【0105】
上記の刊行物は、本出願の出願日前のそれらの開示のためにのみ提供される。本明細書中のいかなるものも、本開示が先行開示によってそのような開示に先行する権利がないことの承認として解釈されるべきではない。
【0106】
実施例
以下の実施例は、本開示を実証するために含まれる。以下の実施例に開示される技術は、本開示の実施において良好に機能するために本発明者らによって発見された技術を表すことを当業者は理解すべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、本開示において多くの変更を行うことができ、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく同様又は類似の結果を依然として得てもよいことを理解すべきであり、したがって、記載された全ての事項は例示として解釈されるべきであり、限定的な意味で解釈されるべきではない。
【0107】
実施例1 ANAVEX(登録商標)2-73
シグマ-1受容体(SIGMAR1)のアゴニストであるANAVEX(登録商標)2-73(ブラルカメシン)は、アルツハイマー病、パーキンソン病、及び他の神経疾患に関連する新しい標的に機序的に注目してきた。SIGMAR1活性化は、慢性CNS疾患に対する代償機序である。SIGMAR1におけるANAVEX(登録商標)2-73の直接占有率は、定量的PETスキャンを使用して確立されている。パーキンソン病認知症(PDD)患者におけるANAVEX(登録商標)2-73-PDD-001第2相試験の完全ゲノム解析により、Precision Medicineアプローチの可能性を探索する応答のバイオマーカーを評価した。この試験の全体的な目標は、最も差次的に発現している遺伝子を同定し、関与するパスウェイを特徴付けることによって、ANAVEX(登録商標)2-73応答パスウェイを特定することであった。
【0108】
実施例2 パーキンソン病を治療するANAVEX(登録商標)2-73の試験デザイン
認知症を伴うパーキンソン病(PDD)患者の認知障害の治療におけるANAVEX(登録商標)2-73(ブラルカメシン)経口カプセルの安全性、忍容性、及び有効性を評価するために、「ANAVEX(登録商標)2-73-PDD-001試験」(
図1)とコードされる第2相試験を行った。この試験は、3群の多施設無作為化二重盲検プラセボ対照並行群であった。この試験には、2週間のスクリーニング/ベースライン観察期間及び14週間の治療期間(2週間の用量設定期間を含む)、並びに2週間の安全性追跡調査期間が含まれた。合計132人の患者が試験に登録され、3つの試験群に無作為に割り当てられた(
図1)。ANAVEX2-73高用量群では、44人の患者に、10mg、20mg、30mg、及び50mgの漸増用量で1日1回、ANAVEX2-73の経口カプセルを投与した。ANAVEX2-73中用量群では、44人の患者に、10mg、20mg、及び30mgの漸増用量で1日1回、ANAVEX2-73の経口カプセルを投与した。プラセボ群では、44人の患者にプラセボカプセルを与えた。転帰測定には、注意の連続性に関するCognitive Drug Research (CDR) Computerized Assessment System;注意の連続性に関するCognitive Drug Research (CDR) Computerized Assessment Systemによって測定される、注意の連続性におけるベースラインから治療終了までの変化;CTCAE v4.0によって評価した治療関連有害事象を有する参加者の数[時間枠:14週間];プラセボと比較したANAVEX2-73の安全性及び忍容性の評価;MDS-UPDRS Part III 総スコア(運動スコア);MDS-UPDRS Part III 総スコア(運動スコア)によって測定されるベースラインから治療終了までの変化;SDS-CL-25[時間枠:14週間];睡眠障害の症状の発生率(SDS-CL-25);及びDNA/RNA配列決定が含まれた。
【0109】
試験には、PDDを有する132人の成人(50歳~85歳)が登録され、2020年9月で首尾よく終了した。スペイン及びオーストラリアの複数の施設で募集された参加者を、14週間の期間、1日1回(詳細については
図1を参照されたい。)の、二つの用量群の一方(30mg又は50mgまでの漸増用量のANAVEX2-73経口カプセルを用いる)又はプラセボに無作為に割り当てた。試験の主な目的は、認知薬物試験のコンピュータ化評価システム(選択反応時間(類似の物体間の選択)、警戒、及びエピソード記憶(新しい個人的経験又は共有情報を記憶する)などの複数の認知技能を調べる試験)を使用して測定された、治療の安全性及び患者の認知機能の変化を評価することであった。二次目標は、患者の運動能力(Movement Disorders Society Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(MDS-UPDRS) Part IIIで評価される)及び睡眠の質の変化を含んでいた。以前に報告された結果は、ANAVEX2-73が一般に安全であり、いくつかの認知技能を有意に改善し、患者が夢を見ながら身体的に行動するレム睡眠行動障害を軽減することを示した。この睡眠障害は、より大きな認知障害及び認知症のより高いリスクに関連する。現在の試験から得られたデータは、これらの認知的利益及び睡眠の利益を確認し、治療の高用量(50mg)が、MDS-UPDRS総スコアで評価した場合に、運動パーキンソン症状及び非運動パーキンソン症状の統計的に有意で臨床的に意味のある低減をもたらしたことを示した。14週間後、MDS-UPDRS合計スコアは、高用量群では10.98ポイント低下し(疾患重症度の緩和を示す)、プラセボ群では3.53ポイント上昇した。これは、(確立された臨床的に意味のある7.1ポイントカットオフを上回る)14.51ポイントの調整平均改善、及び14週間にわたる18.9%の相対的改善を表した。これらの所見は、ANAVEX2-73がパーキンソン病において進行する症状を遅らせるだけでなく、逆転させる能力を強調しており、緊急の満たされていない医学的必要性を潜在的に満たすとAnavexはその発表で述べている。患者によるANAVEX2-73の使用はまた、SIGMAR1レベルの有意な増加、注意措置の改善と有意に関連した上昇、及びMDS-UPDRS合計及びMDS-UPDRS Part III(運動スコア)の両方の低減をもたらした。全体として、これらのデータは、治療の作用機序を確認し、SIGMAR1をANAVEX2-73に対する臨床応答のバイオマーカーとして支持した。PDD-001試験を完了した後、患者は、ANAVEX2-73-PDD-EP-001(NCT04575259)と呼ばれるその延長試験において、ほぼ1年間、ANAVEX2-73で治療される選択肢を有した。
【0110】
実施例3 患者のゲノム配列決定及びANAVEX2-73応答パスウェイ
ANAVEX2-73応答パスウェイへの洞察を得るために、第2相試験中に、患者のDNA配列決定及びRNA配列決定を分析した。高用量群又は中用量群のいずれかに登録された65人の患者のトランスクリプトーム試料をベースライン時及び治療終了時(14週目)に収集した。14,150個の遺伝子の発現を測定した。TPM値には変換を適用しなかった。RIN≦4.0のaに関連する値は破棄された。試験中に各患者に投与されたANAVEX2-73(ブラルカメシン)の実際用量を評価し、データベースに統合した。遺伝子調節不全を特徴付けるために、KEGG、Panther、Allen、Brain Atlas、Gene Ontology、及びReactomeを含む公開データベースの集合体を使用してパスウェイデータベースを構築した。
【0111】
具体的には、
図2Aに示すように、収集した130個の試料に対してRNA配列決定を行い、14,150個の遺伝子の発現を測定した。試料間のTPM発現値の相関から出発して、WGCNAを使用して遺伝子をクラスター化した。この遺伝子クラスター化により、13~11,190遺伝子の範囲のサイズを有する17個のクラスターが得られた。次いで、クラスター内の遺伝子のTPM発現値を、各クラスターについて単一の「固有遺伝子」に集約した。この固有遺伝子は、クラスターの全体的な調節不全の代表として機能した。第2に、混合効果モデルに基づいて患者の群及び用量の情報を考慮に入れたクラスターフィルタリングを行った。各クラスターについて、固有遺伝子を、3つの共変量である、実際用量、患者、及び時点を有する線形混合効果モデルの標的変数として使用した。各クラスターについて、対照実際用量、すなわち治療対プラセボを全ての時点にわたって評価した。Dunnett検定を用いてP値を得た。クラスター及びパスウェイにかかわらず、クラスターのサイズの大きな変動性及び各クラスターで同定されたパスウェイの数の対応する変動性を補償するために、クラスター内の4個未満の遺伝子を有するパスウェイを除去した。クラスターサイズとパスウェイの数との比を計算し、上位2つのクラスターを更なる分析のために保持した。クラスター1は213個の遺伝子(n1=213)及び37個のパスウェイを含み、クラスター2は962個の遺伝子(n2=962)及び317個のパスウェイを含んでいた。両クラスターは、ANAVEX2-73(ブラルカメシン)の最高用量に有意に関連する調節不全を有していた。第3に、2つの保持されたクラスターを特徴付け、パスウェイ分析を行った。クラスターの全ての遺伝子(全クラスター)及び生物学的相互作用を有することが知られているクラスターの遺伝子(縮小クラスター)に特性評価及び分析を適用した。全クラスター分析では、フィッシャーの調整されたp値であるp<0.05(多重検定に対するBenjamini-Hochberg調整)及び最小パスウェイサイズ20のパラメータを有するEnrichRパッケージを使用して、過剰出現しているパスウェイを特定した。縮小クラスター解析では、クラスターの他の遺伝子と相互作用しない遺伝子を破棄し、クラスターを縮小した。パスウェイ分析を、これらの縮小クラスターに対して行った。多重検定に対する調整(Benjamini-Hochberg法)による偽発見率を使用して、パスウェイの過剰出現を特徴付けた。クラスターの遺伝子間の既知の相互作用を、エッジスコア>0.150のパラメータ及びテキストマイニングエッジなしのSTRINGデータベースを使用して評価した。公知の相互作用は、KEGG、Panther、Allen、Brain Atlas、Gene Ontology、及びReactomeなどの公開データベースから得た。
【0112】
図3に示すように、治療と6個のクラスターの推定周辺平均発現との間に有意な関連が同定された。これらの平均は有意なクラスターでより大きく、これらのクラスターの発現に対するANAVEX(登録商標)2-73の影響を確認した。第1のクラスターでは、その37個のパスウェイのうち、10個のパスウェイが有意に過剰提示され、それらのうちの6つが神経発生疾患に関連していることが発見された。また、クラスター1に含まれる遺伝子のうち76%(クラスター1の213遺伝子のうち164遺伝子)が生物学的相互作用を有することが知られていた。これらの164個の遺伝子は、パーキンソン病、プリオン病、及びハンチントン病のパスウェイについて有意に濃縮されていた(FDR(1)=0.003)。クラスター2については、その317個のパスウェイのうち、10個のパスウェイが有意に過剰提示され、それらのうちの6個が神経発生疾患に関連していることが発見された。また、クラスター1に含まれる遺伝子のうち76%(クラスター1の213遺伝子のうち164遺伝子)が生物学的相互作用を有することが知られていた。これらの164個の遺伝子は、パーキンソン病、プリオン病、及びハンチントン病のパスウェイについて有意に濃縮されていた(FDR(1)=0.003)。
【表1】
【0113】
第2のクラスターでは、その317個のパスウェイのうち、15個のパスウェイが有意に過剰提示され、それらのうちの6個が神経発生疾患に関連していることが発見された(
図5A)。さらに、74個の脳領域が、第2のクラスターにおいて有意に過剰出現している(n2=962遺伝子)。これらの74個のうち11個の領域は、PD及びADの一般的な症状であることが知られている嗅球に関連していた。また、クラスター1に含まれる遺伝子のうち70%(クラスター2の967遺伝子のうち680遺伝子)が生物学的相互作用を有することが知られていた。これらの680個の遺伝子は、パーキンソン病のパスウェイが有意に濃縮されていた(FDR(1)<0.001)。
【表2】
【表3】
【0114】
実施例4 PDDの代償性パスウェイに対する治療の影響を特定するためのRNA配列決定分析
パーキンソン病認知症(PDD)患者の全血トランスクリプトミクス分析(RNA配列決定)を、2つの時点:ベースライン及び第14週(試験終了)でANAVEX(登録商標)2-73-PDD-001試験(
図1)のために行った。RIN≧41(130個の試料を使用したRNA Integrity Number)を有する全ての利用可能なRNA試料を分析した。これらの2つの時点での14,150個の遺伝子の発現をプラセボ及びANAVEX(登録商標)2-73治療患者の両方から分析した。
【0115】
上記方法を
図2Bに示すように行った。遺伝子クラスター化では、WGCNA1(重み付き相関ネットワーク分析)を使用して遺伝子をクラスター化した。相関ネットワークは、試料間のTPM2発現(転写物/百万。TPM値は、試料間で同等であるべき相対発現レベルを表す)値の相関から出発して、大きな高次元データセットを分析するために生物学において使用されており、WGCNAは17個のクラスターを作成した(サイズ:13~11,190遺伝子)。次に、クラスターの固有遺伝子3(試料間の遺伝子のmRNA又は遺伝子発現を集計する遺伝子マトリックスのセットの1つ)を、クラスターの発現レベルの要約として使用した。クラスターフィルタリングでは、3つの共変量である、用量、患者、及び時点を有する線形混合効果モデルの標的変数として、各クラスターに対して固有遺伝子を使用した。全ての時点で治療群とプラセボ群との間の有意な(Dunnett検定)対照(contrast)のないクラスターを除外した。クラスターサイズとパスウェイの数との比を計算し、上位2つのクラスターが最終的に保持された。クラスターの生物学的説明では、クラスターの遺伝子間の各クラスターの機能的相互作用を、STRINGデータベース(エッジスコア>0.150;テキストマイニングエッジなし)を使用して評価した。クラスターの他の遺伝子と相互作用しない遺伝子を破棄し、クラスターを縮小した。これらの縮小クラスターに対してパスウェイ濃縮分析を行った。多重検定に対する調整(Benjamini-Hochberg法)による偽発見率(FDR、Benjamini-Hochberg法を用いた多重検定に対する調整)を使用して、パスウェイの過剰発現を特徴付けた。
【0116】
パーキンソン病認知症(PDD)の132人の患者における無作為化プラセボ対照臨床試験には、応答の事前に同定されたバイオマーカー、並びに全エクソーム配列決定DNAデータ及び全RNAエクソーム発現データの収集が含まれた。この試験は、14週間の試験中、1日1回の高経口用量のANAVEX(登録商標)2-73で治療された患者について、認知症評価、ANAVEX(登録商標)2-73によるエピソード記憶の用量依存性の統計学的に有意な改善(p=0.003)、並びにパーキンソン病評価の有意な改善、MDS-UPDRS総スコア(p=0.034)を実証した。
【0117】
ANAVEX(登録商標)2-73トランスクリプトミクス分析(RNA配列決定)により、14週間の治療後にプラセボと比較して、ANAVEX(登録商標)2-73で治療されたパーキンソン病認知症(PDD)患者で差次的に発現している遺伝子ネットワークが同定された。この遺伝子ネットワークの生物学的関連性をパスウェイ分析によって評価し、神経変性疾患、特にアルツハイマー病及びパーキンソン病に関与するパスウェイに対するANAVEX(登録商標)2-73治療の影響を確認した。ANAVEX(登録商標)2-73によって影響を受ける遺伝子の2つのクラスターでは、遺伝子の70%超が生物学的相互作用を有することが知られている。パスウェイ濃縮分析により、
図4B及び
図5Bに示すように、アルツハイマー病及びパーキンソン病を含む複数の神経変性パスウェイが、これらの遺伝子について有意に濃縮された(調整されたp値<0.005)ことが明らかになった。両方の同定されたクラスターは、プラセボと比較して治療された患者で上方制御され、クラスター2の固有遺伝子発現は、プラセボと比較して、ANAVEX(登録商標)2-73高経口用量で治療された患者で有意に増加した(p=0.021)。これらの遺伝子は、アルツハイマー病及びパーキンソン病の両方の病態において下方制御されることが知られている。したがって、調節不全の神経変性遺伝子の発現レベルがANAVEX(登録商標)2-73の治療効果によって回復したと結論付けることは合理的である。
【0118】
要約すると、この試験では、ANAVEX2-73(ブラルカメシン)治療によって影響を受ける固有の遺伝子セットが同定された。遺伝子は差次的に発現され、それらのそれぞれの発現は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、心筋収縮に関連する障害などの様々な神経変性障害と相関していた。パスウェイ分析は、神経変性疾患に関与するパスウェイに対する治療の影響、並びにANAVEX2-73(ブラルカメシン)と複数の脳領域にわたって差次的に発現している遺伝子との間の関連を確認した。ANAVEX2-73(ブラルカメシン)応答パスウェイの特徴付けにより、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオン病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪性肝疾患、コロナウイルス疾患、熱産生に関連する障害、酸化的リン酸化に関連する障害、プロテアソーム機能障害に関連する障害、リボソーム機能障害に関連する障害、逆行性エンドカンナビノイドシグナル伝達に関連する障害、心筋収縮に関連する障害を含む、ANAVEX2-73(ブラルカメシン)の潜在的な適応症の並進的同定の機会が同定された。
【0119】
これらの結果は、ANAVEX(登録商標)2-73の第2b/3相アルツハイマー病臨床試験の今後の読み出し情報の文脈付けに関する指針及び促進を提供する。これらの知見は、パーキンソン病及びパーキンソン病認知症における中心的試験をさらに支持する。これらの所見はまた、ANAVEX(登録商標)2-73の追加の潜在的な治療適応症の並進的同定を可能にする。
【0120】
結果は、アルツハイマー病及びパーキンソン病では遺伝子が下方制御されているが、ANAVEX(登録商標)2-73は、アルツハイマー病(p<0.005)及びパーキンソン病(p<0.005)、並びに他の変性疾患(p<0.005)の両方における遺伝子の病理学的ダウンレギュレーションに対抗することによって、複数のパスウェイにおいてこれらの遺伝子の発現レベルに特異的に影響を及ぼし、これらは疾患の病態及び応答の更なる潜在的バイオマーカーを表し得ることを示した。
【国際調査報告】