(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/08 20060101AFI20241108BHJP
C08F 210/02 20060101ALI20241108BHJP
C08F 236/06 20060101ALI20241108BHJP
C08F 236/08 20060101ALI20241108BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241108BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20241108BHJP
C08K 5/548 20060101ALI20241108BHJP
C08L 47/00 20060101ALI20241108BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C08L23/08
C08F210/02
C08F236/06
C08F236/08
C08K3/36
C08K3/38
C08K5/548
C08L47/00
B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024530562
(86)(22)【出願日】2022-11-14
(85)【翻訳文提出日】2024-05-22
(86)【国際出願番号】 EP2022081708
(87)【国際公開番号】W WO2023088817
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100168631
【氏名又は名称】佐々木 康匡
(72)【発明者】
【氏名】ピブル ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】デュモンテ リュディヴィーヌ
(72)【発明者】
【氏名】フェラン トマ
(72)【発明者】
【氏名】マムリ カーヒナ
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131BA07
3D131BA08
4J002BB051
4J002BL011
4J002DJ016
4J002EX087
4J002FD016
4J002GN01
4J100CA04
4J100DA25
4J100FA08
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA29
4J100JA29
(57)【要約】
本発明は、エチレンと1,3-ジエンとのコポリマーである高飽和ジエンエラストマーであって、コポリマーのモノマー単位の50モル%超を占めるエチレン単位を含む、高飽和ジエンエラストマー、加硫系、シリカを含有する補強用充填剤、並びに少なくとも1個のブロックされたチオール官能基、少なくとも1個のチオール官能基、及びヒドロキシアルコキシシリル基又は環状ジアルコキシシリル基である少なくとも1個の官能基を有する有機官能性シランカップリング剤を含むゴム組成物に関する。このような組成物により、硬化状態の破断特性が向上する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- エチレンと1,3-ジエンとのコポリマーである、高飽和ジエンエラストマーであって、前記コポリマーのモノマー単位の50mol%超を占めるエチレン単位を含む、高飽和ジエンエラストマー、
- 加硫系、
- シリカを含有する補強用充填剤、
- 並びに、少なくとも1個のブロックされたチオール官能基、少なくとも1個のチオール官能基、及びヒドロキシアルコキシシリル基又は環状ジアルコキシシリル基である少なくとも1個の官能基を含有し、式(1)に対応する有機官能性シランカップリング剤
(A)
p(B)
q (1)
(式中、A及びBはそれぞれ、式(2)に対応するブロックされたメルカプトシラン単位及び式(3)に対応するメルカプトシラン単位を表し、
【化1】
式中、
R
3は、水素原子、直鎖状又は分枝状のC
1-C
18アルキル、直鎖状又は分枝状のC
2-C
18アルケニルから選択され、
各R
4は、直鎖状又は分枝状の飽和C
1-C
6二価炭化水素ベースの基から独立して選択され、
各Z
bは、ある単位のケイ素原子と別の単位のケイ素原子との間に架橋構造を形成し(単位は同一であっても異なってもよい)、(-O-)
0.5及び[-O(R
0CR
0)
fO-]
0.5から独立して選択され、記号R
0は、同一であっても異なってもよく、それぞれ水素原子又はC
1-C
3アルキルを表し、fは2~15の範囲の数であり、
各Z
cは、ある単位のケイ素原子と環状構造を形成し、式[-O(R
0CR
0)
fO-]
0.5の基であり、R
0及びfは先に定義した通りであり、
各Xは、水素原子、ヒドロキシル基、C
1-C
6アルキル基、C
1-C
6アルコキシ基、及び式HO(R
0CR
0)
fO-の基から独立して選択され、R
0及びfは先に定義した通りであり、
u+v+2w=3であり、uは0、1、2又は3に等しい数であり、vは1、2又は3に等しい数であり、wは0又は1に等しい数であり、
pは1~20の範囲内の数であり、
qは1~20の範囲内の数である)、
を含むゴム組成物。
【請求項2】
前記1,3-ジエンが、1,3-ブタジエン、イソプレン、又は1,3-ジエンの混合物であってそのうちの1つが1,3-ブタジエンである前記1,3-ジエンの混合物であり、好ましくは1,3-ブタジエンである、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記高飽和ジエンエラストマー中のエチレン単位が、前記高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の少なくとも60mol%、優先的には前記高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の少なくとも65mol%、より優先的には前記高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の少なくとも70mol%を占める、請求項1及び2のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記高飽和ジエンエラストマー中のエチレン単位が、前記高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の90mol%以下、優先的には前記高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の85mol%以下を占める、請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記高飽和ジエンエラストマー中のエチレン単位が、前記高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の80mol%以下を占める、請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記高飽和ジエンエラストマーが統計コポリマーである、請求項1~5のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
シリカが、前記補強用充填剤の50質量%超、優先的には前記補強用充填剤の85質量%超を占める、請求項1~6のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項8】
式(2)中のR
3が、水素原子、C
1-C
10アルキル、及びC
2-C
10アルケニルから選択され、優先的には直鎖状のC
6-C
8アルキル、より優先的にはヘプチルである、請求項1~7のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項9】
式(2)及び(3)中の各R
4が、独立して、直鎖状のC
1-C
4アルキレン、優先的にはプロピレンである、請求項1~8のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項10】
式(2)及び(3)中の各Z
bが、式(-O-)
0.5、[-OCH
2CH
2CH
2O-]
0.5、[-OCH
2CH
2CH
2CH
2O-]
0.5、及び[-OCH
2CH(CH
3)CH
2O-]
0.5の単位からなる群から独立して選択され、優先的には式(-O-)
0.5又は[-OCH
2CH(CH
3)CH
2O-]
0.5を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項11】
式(2)及び(3)中の各Z
cが、式[-OCH
2CH
2CH
2O-]
0.5、[-OCH
2CH
2CH
2CH
2O-]
0.5、及び[-OCH
2CH(CH
3)CH
2O-]
0.5の単位からなる群から独立して選択され、優先的には式[-OCH
2CH(CH
3)CH
2O-]
0.5を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項12】
式(2)及び(3)中の各Xが、ヒドロキシル、メトキシ、エトキシ、メチル、エチル、3-ヒドロキシプロポキシ、3-ヒドロキシ-2-メチルプロポキシ、及び4-ヒドロキシブト-1-オキシからなる群から独立して選択され;優先的には、式(2)及び(3)中の各Xが、同一であり、ヒドロキシル、メトキシ、エトキシ、及び3-ヒドロキシ-2-メチルプロポキシからなる群から選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項13】
前記有機官能性シランが、20%~80%の範囲のブロックされたメルカプトシラン単位(A)のモル百分率及び80%~20%の範囲のメルカプトシラン単位(B)のモル百分率を有し、優先的には、前記有機官能性シランが、40%~60%の範囲のブロックされたメルカプトシラン単位(A)のモル百分率及び60%~40%の範囲のメルカプトシラン単位(B)のモル百分率を有し、より優先的には、前記有機官能性シランが、50%~55%の範囲のブロックされたメルカプトシラン単位のモル百分率及び50%~45%の範囲のメルカプトシラン単位のモル百分率を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のゴム組成物を含むタイヤ、優先的にはそのトレッドに請求項1~13のいずれか1項に記載のゴム組成物を含むタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、シリカ及び高飽和ジエンエラストマーを含み、特にタイヤ製造における使用を意図したゴム組成物の分野である。
【背景技術】
【0002】
シリカで強化され、高飽和ジエンエラストマーを含むゴム組成物は、国際公開第2014/114607号及び国際公開第2018/224776号により公知である。高飽和ジエンエラストマーは、エチレンと1,3-ブタジエンなどの1,3-ジエンとのコポリマーであり、エチレン単位の50mol%超を含有するという際立った特徴を有する。エチレン含有量が高く、ジエン単位含有量が50mol%未満と低いため、一般にジエン単位の50mol%超を含有するゴム組成物に従来使用されているジエンエラストマー、例えばポリブタジエン、ポリイソプレン、及び1,3-ブタジエン又はイソプレンとスチレンとのコポリマーとは大きく異なる。特に、ゴム組成物に、剛性とヒステリシスとの間で異なる特性の妥協をもたらす際立った特徴を有する。
このようなゴム組成物の硬化状態での破断特性をさらに改善する必要性がまだある。
【発明の概要】
【0003】
本発明者らは、破断伸び及び破断応力などの硬化状態での破断特性をさらに向上させた新規なゴム組成物を発見した。
したがって、本発明は、
- エチレンと1,3-ジエンとのコポリマーである、高飽和ジエンエラストマーであって、コポリマーのモノマー単位の50mol%超を占めるエチレン単位を含む、高飽和ジエンエラストマー、
- 加硫系、
- シリカを含有する補強用充填剤、
- 並びに少なくとも1個のブロックされたチオール官能基、少なくとも1個のチオール官能基、及びヒドロキシアルコキシシリル基又は環状ジアルコキシシリル基である少なくとも1個の官能基を含有し、式(1)に対応する有機官能性シランカップリング剤
(A)p(B)q (1)
(式中、A及びBはそれぞれ、式(2)に対応するブロックされたメルカプトシラン単位及び式(3)に対応するメルカプトシラン単位を表し、
【0004】
【化1】
式中、
R
3は、水素原子、直鎖状又は分枝状のC
1-C
18アルキル、直鎖状又は分枝状のC
2-C
18アルケニルから選択され、
各R
4は、直鎖状又は分枝状の飽和C
1-C
6二価炭化水素ベースの基から独立して選択され、
各Z
bは、ある単位のケイ素原子と別の単位のケイ素原子との間に架橋構造を形成し(単位は同一であっても異なってもよい)、(-O-)
0.5及び[-O(R
0CR
0)
fO-]
0.5から独立して選択され、記号R
0は、同一であっても異なってもよく、それぞれ水素原子又はC
1-C
3アルキルを表し、fは2~15の範囲の数であり、
各Z
cは、ある単位のケイ素原子と環状構造を形成し、式[-O(R
0CR
0)
fO-]
0.5の基であり、R
0及びfは先に定義した通りであり、
各Xは、水素原子、ヒドロキシル基、C
1-C
6アルキル基、C
1-C
6アルコキシ基、及び式HO(R
0CR
0)
fO-の基から独立して選択され、R
0及びfは先に定義した通りである、
u+v+2w=3であり、uは0、1、2又は3に等しい数であり、vは1、2又は3に等しい数であり、wは0又は1に等しい数であり、
pは1~20の範囲内の数であり、
qは1~20の範囲内の数である)
を含むゴム組成物に関する。
本発明はまた、本発明に従うゴム組成物を含むタイヤ、優先的にはトレッドに本発明に従うゴム組成物を含むタイヤに関する。
【発明を実施するための形態】
【0005】
「a~bの間」という表現で示される値の区間はいずれも、「a」より大きく「b」より小さい値の範囲(すなわち、限界値aとbは除かれる)を表し、一方、「a~b」という表現で示される値の区間はいずれも、「a」から最大「b」に及ぶ値の範囲(すなわち、厳密な限界値aとbを含む)を意味する。
略形「phr」は、エラストマー(幾つかのエラストマーが存在する場合はそのエストラマーの合計の)100部当たりの質量部を意味する。
本明細書で言及する化合物は、化石起源のものであっても、バイオベースのものであってもよい。後者の場合、それらは、部分的に又は完全にバイオマスに由来しても、又は、バイオマスに由来する再生可能な出発原料から得てもよい。同様に、言及した化合物は、使用前の材料のリサイクルを起源とすることもでき、つまり、それらは、部分的に又は完全にリサイクルプロセスから生じることができるか、そうでなければ、それ自体がリサイクルプロセスから生じる出発材料から得ることができる。
【0006】
本発明では、「タイヤ」という用語は、空気入りタイヤ又は非空気入りタイヤを意味すると理解される。空気入りタイヤは通常、リムと接触するように意図された2つのビード、少なくとも1種のクラウン補強材とトレッドとから構成されるクラウン、2つのサイドウォールを含み、タイヤは2つのビードに固定されたカーカス補強材によって補強されている。非空気入りタイヤは通常、その一部に対して、例えば剛性の高いリムに取り付けるために設計されたベースと、トレッドとの連結を確保するクラウン補強材と、スポーク、リブ、セルなどの変形可能な構造体とを含み、この構造体はベースとクラウンとの間に配置される。このような非空気入りタイヤは必ずしもサイドウォールを含まない。非空気入りタイヤは、例えば、国際公開第03/018332号及び仏国特許出願公開第2898077号に記載されている。本発明のあらゆる実施形態によれば、本発明に従うタイヤは、優先的には空気入りタイヤである。
別段の指示がない限り、本発明に有用なコポリマーなどのコポリマーへのモノマーの挿入によって生じる単位の含有量は、コポリマーの全モノマー単位に対するモル百分率として表される。
【0007】
本発明の目的に有用なエラストマーは、高飽和ジエンエラストマーであり、好ましくは統計的であり、エチレンの重合から生じるエチレン単位を含む。公知の方式では、「エチレン単位」という表現は、エラストマー鎖へのエチレンの挿入から生じる-(CH2-CH2)-単位を指す。高飽和ジエンエラストマーは、エチレン単位がエラストマーの全モノマー単位の50mol%超を占めるため、エチレン単位が豊富である。
【0008】
好ましくは、高飽和ジエンエラストマーは、少なくとも60mol%のエチレン単位、優先的には少なくとも65mol%のエチレン単位、及びより優先的には少なくとも70mol%のエチレン単位を含む。言い換えれば、高飽和ジエンエラストマー中のエチレン単位は、優先的には高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の少なくとも60mol%、より優先的には高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の少なくとも65mol%を占める。さらにより優先的には、エチレン単位は、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の少なくとも70mol%を占める。
好ましくは、高飽和ジエンエラストマー中のエチレン単位は、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の90mol%以下を占める。より優先的には、エチレン単位は、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の85mol%以下を占める。さらにより優先的には、エチレン単位は、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の80mol%以下を占める。
有利な実施形態によれば、高飽和ジエンエラストマーは、60mol%~90mol%のエチレン単位、特に60mol%~85mol%のエチレン単位を含み、該モル百分率は、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位に基づいて計算される。より有利には、高飽和ジエンエラストマーは、60mol%~80mol%のエチレン単位を含み、該モル百分率は、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位に基づいて計算される。
【0009】
別の有利な実施形態によれば、高飽和ジエンエラストマーは、65mol%~90mol%のエチレン単位、より特には65mol%~85mol%のエチレン単位を含み、該モル百分率は、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位に基づいて計算される。より有利には、高飽和ジエンエラストマーは、65mol%~80mol%のエチレン単位を含み、該モル百分率は、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位に基づいて計算される。
本発明のさらに別の有利な実施形態によれば、高飽和ジエンエラストマーは、70mol%~90mol%のエチレン単位、特に70mol%~85mol%のエチレン単位を含み、該モル百分率は、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位に基づいて計算される。より有利には、高飽和ジエンエラストマーは、70mol%~80mol%のエチレン単位を含み、該モル百分率は、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位に基づいて計算される。
高飽和ジエンエラストマーは、エチレンと1,3-ジエンとのコポリマーであるため、1,3-ジエンの重合から生じる1,3-ジエン単位も含む。公知の方式では、「1,3-ジエン単位」という表現は、例えばイソプレンの場合、1,4付加、1,2付加、又は3,4付加を介した1,3-ジエンの挿入から生じる単位を指す。1,3-ジエン単位は、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、又はアリール-1,3-ブタジエンなどの、4~12個の炭素原子を含有する1,3-ジエンの単位である。好ましくは、1,3-ジエンは、1,3-ブタジエン、又は1,3-ジエンの混合物であってそのうちの1つが1,3-ブタジエンである1,3-ジエンの混合物である。より優先的には、1,3-ジエンは1,3-ブタジエンであり、この場合、高飽和ジエンエラストマーは、エチレンと1,3-ブタジエンとのコポリマーであり、好ましくはエチレンと1,3-ブタジエンとの統計コポリマーである。
【0010】
高飽和ジエンエラストマーは、特に高飽和ジエンエラストマーの目標とするミクロ構造に応じて、当業者に公知の様々な合成法に従って得ることができる。一般に、これは、少なくとも、1,3-ジエン、好ましくは1,3-ブタジエンとエチレンとの共重合によって、及び公知の合成法に従って、特にメタロセン錯体を含む触媒系の存在下で調製することができる。メタロセン錯体をベースとする触媒系について言及することができ、この触媒系は、本出願人の名前で欧州特許出願公開第1 092 731号、国際公開第2004/035639号、国際公開第2007/054223号、及び国際公開第2007/054224号に記載されている。高飽和ジエンエラストマーは、統計的である場合を含め、国際公開第2017/093654号、国際公開第2018/020122号、及び国際公開第2018/020123号に記載されているものなどの事前成形型(preformed type)の触媒系を使用するプロセスを介して調製することもできる。有利には、ジエンエラストマーは統計的であり、国際公開第2017/103543号、国際公開第2017/13544号、国際公開第2018/193193号、及び国際公開第2018/193194号に記載されている、半連続プロセス又は連続プロセスを介して優先的に調製される。高飽和ジエンエラストマーは、窒素、酸素、ケイ素又はハロゲンなどの1個又は複数のヘテロ原子を含む官能基を保持してもよい。官能基は、例えば国際公開第2017/097831号に記載されているように、その合成中又は合成後に高飽和ジエンエラストマーに導入してもよい。本発明のいずれか1つの実施形態によれば、高飽和ジエンエラストマーは、優先的には炭化水素ベースのポリマー、すなわち、水素原子及び炭素原子のみからなる。
高飽和ジエンエラストマーは、好ましくは式(I)の単位又は式(II)の単位を含有する。
【0011】
【化2】
コポリマー中に式(I)の、飽和6員環単位である1,2-シクロヘキサンジイルの存在は、ポリマー鎖にその成長中にエチレンと1,3-ブタジエンとの一連の非常に特異的な挿入から生じる可能性がある。高飽和ジエンエラストマーが式(I)の単位又は式(II)の単位を含む場合、高飽和ジエンエラストマー中の式(I)の単位及び式(II)の単位のモル百分率は、それぞれo及びpであり、好ましくは以下の式(式1)又は式(式2)を満たし、o及びpは、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位に基づいて計算される。
0<o+p≦30 (式1)
0<o+p<25 (式2)
【0012】
好ましくは、高飽和ジエンエラストマーは、0%より大きく15%より小さい、より優先的には10mol%より小さいモル含有量で式(I)の単位を含み、該モル百分率は、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位に基づいて計算される。
高飽和ジエンエラストマーに加えて、ゴム組成物は第2のジエンエラストマーを含有することができる。「ジエンエラストマー」という用語は、ジエンモノマー単位(2つの共役又は非共役の炭素-炭素二重結合を保持するモノマー)から少なくとも部分的に誘導されるエラストマー(すなわち、ホモポリマー又はコポリマー)を意味する。ジエンモノマー単位はジエン単位として公知である。第2のエラストマーは、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマー、及びそれらの混合物からなる高不飽和ジエンエラストマーの群から選択することができる。高不飽和エラストマーは、ジエン単位の50%mol%超を含有するものである。
好ましくは、ゴム組成物中の高飽和ジエンエラストマーの含有量は、ゴム組成物のエラストマー100部当たり少なくとも50質量部(phr)である。より優先的には、ゴム組成物中の高飽和ジエンエラストマーの含有量は、80~100phrに及ぶ範囲で変化する。さらにより優先的には、90~100phrに及ぶ範囲で変化する。有利には100phrである。高飽和ジエンエラストマーは、単一の高飽和ジエンエラストマーであっても、又はそのミクロ構造若しくはマクロ構造という点で互いに異なる高飽和ジエンエラストマーの混合物であってもよい。ゴム組成物が、高飽和ジエンエラストマーのミクロ構造又はマクロ構造という点において互いに異なる幾つかの高飽和ジエンエラストマーを含有する場合、ゴム組成物中の高飽和ジエンエラストマーの含有量は、高飽和ジエンエラストマーの混合物を指す。
【0013】
使用されるシリカは、当業者に公知のあらゆる補強用シリカ、特に、BET比表面積及びCTAB比表面積がともに450m2/g未満、好ましくは30~400m2/g、特に60~300m2/gに及ぶ範囲のあらゆる沈殿シリカ又はヒュームドシリカであってもよい。本開示では、BET比表面積は、“The Journal of the American Chemical Society”, (vol. 60, page 309, February 1938)に記載されているBrunauer-Emmett-Teller法を使用したガス吸着によって決定され、より詳細には、2010年6月の規格NF ISO 5794-1、付録Eから得られる方法[多点(5点)容積法-ガス:窒素 - 真空下での脱気:160℃で1時間 - 相対圧p/poの範囲:0.05~0.17]に従って決定される。CTAB比表面積値は、2010年6月の規格NF ISO 5794-1、付録Gに従って決定した。このプロセスは、補強用充填剤の「外側」表面へのCTAB(N-ヘキサデシル-N,N,N-トリメチルアンモニウムブロミド)の吸着に基づく。
【0014】
あらゆる種類の沈殿シリカ、特に高分散性シリカ(HDS)を使用することができる。これらの沈殿シリカは、高分散性であってもなくてもよく、当業者には周知されている。例えば、特許出願国際公開第03/016215号及び国際公開第03/016387号に記載されているシリカを挙げることができる。市販のHDSシリカの中で、特に、Evonik社のUltrasil(登録商標)5000GR及びUltrasil(登録商標)7000GRシリカ、又はSolvay社のZeosil(登録商標)1085GR、Zeosil(登録商標)1115MP、Zeosil(登録商標)1165MP、Zeosil(登録商標)Premium 200MP、及びZeosil(登録商標)HRS 1200MPシリカを使用することができる。非HDSシリカとしては、以下の市販シリカを使用することができる:Evonik社のUltrasil(登録商標)VN2GR及びUltrasil(登録商標)VN3GRシリカ、Solvay社のZeosil(登録商標)175GRシリカ、又はPPG社のHi-Sil EZ120G(-D)、Hi-Sil EZ160G(-D)、Hi-Sil EZ200G(-D)、Hi-Sil 243LD、Hi-Sil 210及びHi-Sil HDP 320Gシリカ。
【0015】
補強用充填剤は、特にタイヤの製造に使用できるゴム組成物を補強することが可能であるとして公知である、シリカ以外のあらゆる種類の「補強用」充填剤、例えばカーボンブラックを含むことができる。好適なカーボンブラックは、すべてのカーボンブラック、特にタイヤ又はそのトレッドに従来使用されているブラックを含む。前記カーボンブラックの中で、より特に、100、200、及び300シリーズの補強用カーボンブラック、又は500、600、若しくは700シリーズ(ASTM D-1765-2017グレード)のブラック、例えばN115、N134、N234、N326、N330、N339、N347、N375、N550、N683及びN772ブラックが挙げられる。これらのカーボンブラックは、市販されている単離された形態で、又はあらゆる他の形態で、例えば、使用されるゴムエンジニアリング添加剤の幾つかの支持体として使用してもよい。カーボンブラックがゴム組成物中に使用される場合、好ましくは10phr以下の含有量で存在する(例えば、カーボンブラック含有量は、1~10phrの範囲であってもよい)。有利には、ゴム組成物中のカーボンブラック含有量は5phr以下である。示された区間内であれば、カーボンブラックの着色特性(黒色顔料剤)及びUV安定化特性が、シリカによって寄与される典型的な性能品質に悪影響を及ぼすことなく利用される。
シリカは、補強用充填剤の50質量%超を優先的に占める。言い換えれば、補強用充填剤中のシリカの割合は、補強用充填剤の総質量に対して50質量%より大きい。より優先的には、シリカは補強用充填剤の85質量%超を占める。
【0016】
補強用充填剤の総含有量は、例えば30phr~150phrの広い範囲で変化することができる。第1の実施形態によれば、補強用充填剤の総含有量は30phr~60phrの範囲である。第2の実施形態によれば、補強用充填剤の総含有量は60phr超~150phrの範囲である。第1の実施形態は、非常に低い転がり抵抗を有するトレッド中のゴム組成物の使用のために、第2の実施形態よりも好ましい。補強用充填剤の総含有量のこれらの範囲のいずれか1つは、本発明の実施形態のいずれにも適用することができる。
【0017】
シリカを高飽和ジエンエラストマーにカップリングさせるために、少なくとも二官能性である、カップリング剤(又は結合剤)であるシランを使用して、シリカとジエンエラストマーとの間の化学的及び/又は物理的性質の十分な連結を確実にする。本発明に従うゴム組成物は、カップリング剤として、少なくとも1個のブロックされたメルカプトシラン単位、少なくとも1個のメルカプトシラン単位、及びヒドロキシアルコキシシリル基又は環状ジアルコキシシリル基である少なくとも1個の官能基を含有する有機官能性シランを含む。有機官能性シランは、下記式(1)に対応する:
(A)p(B)q (1)
式中、
- Aは、式(2)に対応するブロックされたメルカプトシラン単位を表す記号であり、
【0018】
【化3】
- Bは、式(3)に対応するメルカプトシラン単位を表す記号であり、
【化4】
式(2)中、R
3は水素原子、直鎖状又は分枝状のC
1-C
18アルキル、直鎖状又は分枝状のC
2-C
18アルケニルから選択される。
式(2)及び(3)中、各R
4は、直鎖状又は分枝状のC
1-C
6飽和炭化水素ベースの二価の基から独立して選択され、各Z
bは、ある単位のケイ素原子と別の単位のケイ素原子との間の架橋構造を形成し(単位は同一であっても異なってもよい)、(-O-)
0.5及び[-O(R
0CR
0)
fO-]
0.5から独立して選択され、記号R
0は、同一であっても異なってもよく、それぞれ水素原子又はC
1-C
3アルキルを表し、fは2~15の範囲の数であり、各Z
cは、ある単位のケイ素原子と環状構造を形成し、式[-O(R
0CR
0)
fO-]
0.5の基であり、R
0及びfは先に定義した通りであり、各Xは、水素原子、ヒドロキシル基、C
1-C
6アルキル基、C
1-C
6アルコキシ基、及び式HO(R
0CR
0)
fO-の基から独立して選択され、R
0及びfは先に定義した通りであり、u+v+2w=3であり、uは0、1、2又は3に等しい数であり、vは1、2又は3に等しい数であり、wは0又は1に等しい数である。
pは1~20の範囲の数であり、qは1~20の範囲の数である。
【0019】
本発明の目的において、「有機官能性シラン」という用語は、少なくとも1個のブロックされた、すなわち保護されたチオール官能基、1個の保護されていないチオール官能基、及びヒドロキシアルコキシシリル基又は環状ジアルコキシシリル基である少なくとも1個の官能基を有するシラン又はシランの混合物を意味する。
「メルカプトシラン単位」という用語は、少なくとも1個のケイ素原子と、炭素原子に連結したチオール官能基(-SH)とを含有する単位を意味する。
「ブロックされたメルカプトシラン単位」という用語は、少なくとも1個のケイ素原子と少なくとも1個のブロックされたチオール官能基とを含有する単位を意味する。ブロックされたチオール官能基は、例えば、チオエステル基-S-(CO)-Rであることができる。
式(1)の化合物において、ブロックされたメルカプトシラン繰り返し単位(A)及びメルカプトシラン繰り返し単位(B)の配列は無差別である。特に、この配列は、交互(例えば、A-B-A-B-A-B)、ブロック(例えば、A-A-A-B-B-B)、又は統計的、すなわち、前記単位(A)及び(B)の連続分布が公知の統計法則に従うものであり得る。
【0020】
ヒドロキシアルコキシシリルという名称で使用される「ヒドロキシアルコキシ基」という用語は、ケイ素原子を置換する式HO(R0CR0)fO-の一価の基を意味し、R0及びfは先に定義した通りである。
「環状ジアルコキシシリル基」という用語は、ケイ素原子が2個の酸素原子に連結し、各々は同じアルキレン基の異なる炭素原子に結合している基を指す。
「架橋構造」という用語は、同一でも異なっていてもよい2個の繰り返し単位の連結を可能にする共有結合で構成される化学構造を意味する。
基であるCn-Cmの表記は、その基を構成する炭素原子の数を指し、n~m個の炭素原子を含有し、n及びmは整数であり、mはnよりも大きい。
好ましくは、式(2)中のR3は、水素原子、C1-C10アルキル、及びC2-C10アルケニルから選択される。より優先的な方式では、式(2)中のR3は、直鎖状のC6-C8アルキルである。さらにより優先的な方式では、式(2)中の記号R3は、ヘプチル(C7H15-)である。
【0021】
好ましくは、式(2)及び(3)中の各R4は、独立して直鎖状のC1-C4アルキレンである。より優先的には、各R4はプロピレンである。
好ましくは、式(2)及び(3)中の各Zbは、式(-O-)0.5、[-OCH2CH2CH2O-]0.5、[-OCH2CH2CH2CH2O-]0.5、及び[-OCH2CH(CH3)CH2O-]0.5の単位からなる群から独立して選択される。より優先的には、式(2)及び(3)中のZbは、式(-O-)0.5又は式[-OCH2CH(CH3)CH2O-]0.5を有する。
好ましくは、式(2)及び(3)中の各Zcは、式[-OCH2CH2CH2O-]0.5、[-OCH2CH2CH2CH2O-]0.5、及び[-OCH2CH(CH3)CH2O-]0.5の単位からなる群から独立して選択される。より優先的には、式(2)及び(3)中の各Zcは、式[-OCH2CH(CH3)CH2O-]0.5を有する。
【0022】
好ましくは、式(2)及び(3)中の各Xは、ヒドロキシル、メトキシ、エトキシ、メチル、エチル、3-ヒドロキシプロポキシ、3-ヒドロキシ-2-メチルプロポキシ、及び4-ヒドロキシブト-1-オキシからなる群から独立して選択される。より優先的には、式(2)及び(3)中の各Xは同一であり、ヒドロキシル、メトキシ、エトキシ、及び3-ヒドロキシ-2-メチルプロポキシからなる群から選択される。
非常に有利には、式(2)及び(3)において、R3はヘプチル(C7H15-)であり、各R4はプロピレンであり、各Zbは、式(-O-)0.5又は式[-OCH2CH(CH3)CH2O-]0.5を有し、各Zcは式[-OCH2CH(CH3)CH2O-]0.5を有し、各Xは、ヒドロキシル、メトキシ、エトキシ、及び3-ヒドロキシ-2-メチルプロポキシからなる群から選択され、u+v+2w=3であり、uは0、1、2又は3であり、vは1、2又は3であり、wは0又は1である。
(-O-)0.5及び[-O(R0CR0)fO-]0.5という表記は、それぞれシロキサン結合の半分及び架橋ジアルコキシ基の半分に関係する。これらの表記は、オリゴマーの繰り返し単位のケイ素原子と共に使用される。これらは、酸素原子の半分、すなわち繰り返し単位のケイ素原子に結合している酸素原子の半分、又はジアルコキシ基の半分、すなわち繰り返し単位のケイ素原子に結合しているジアルコキシ基原子の半分を表し、酸素原子の他の半分又はジアルコキシ基の他の半分は、それぞれ、オリゴマー構造の別の繰り返し単位の別のケイ素原子に連結していると理解され、繰り返し単位は同一でも異なっていてもよい。したがって、(-O-)0.5は、繰り返し単位にそれぞれ属する2個のケイ素原子間でシロキサン結合を形成する。[-O(R0CR0)fO-]0.5は、繰り返し単位にそれぞれ属する2個のケイ素原子間で架橋構造(この分子間構造はZbで表される)、又は環状構造(この分子内構造はZcで表される)のいずれかを形成してもよく、[-O(R0CR0)fO-]0.5の2個の酸素原子は、その単位のケイ素原子に連結される。当業者であれば、式(1)の化合物において、架橋構造は、繰り返し単位間で同一であっても異なってもよいことを理解するであろう。例えば、架橋構造は、-Si-O(R0CR0)fO-Si-型を有しても、又は-Si-O(R0CR0)fO-Si-と-Si-O-Si-との架橋構造の混合物であってもよい。
【0023】
優先的には、有機官能性シランは、20%~80%の範囲のブロックされたメルカプトシラン単位(A)のモル百分率及び80%~20%の範囲のメルカプトシラン単位(B)のモル百分率を有する。より優先的には、有機官能性シランは、40%~60%の範囲のブロックされたメルカプトシラン単位(A)のモル百分率及び60%~40%の範囲のメルカプトシラン単位(B)のモル百分率を有する。さらにより優先的には、有機官能性シランは、50%~55%の範囲のブロックされたメルカプトシラン単位のモル百分率及び50%~45%の範囲のメルカプトシラン単位のモル百分率を有する。有機官能性シラン中のブロックされたメルカプトシラン単位のモル百分率及びメルカプトシラン単位のモル百分率は、ブロックされているか否かにかかわらず、有機官能性シラン中のチオール単位の総数に対して計算され、当業者に周知のあらゆる方法、例えば、1H NMR分析を介して決定することができる。
【0024】
カップリング剤である有機官能性シランは、式(4)のジオール化合物と、式(5)の少なくとも1種のブロックされたメルカプトシラン化合物及び式(6)の少なくとも1種のメルカプトシラン化合物とのトランスエステル化反応の少なくとも1つのステップ(a)を含む合成プロセスを介して得ることができる:
HO(R0CR0)fOH (4)
(RO)3SiR4SC(=O)R3 (5)
(RO)3SiR4SH (6)
R0及びfは先に定義した通りであり、すなわち、同一でも異なっていてもよいR0は、水素原子、メチル、エチル、又はプロピルを表し、fは2から15の範囲の数である、
同一でも異なっていてもよいRは、直鎖状のC1-C6アルキル基を表す、
R3及びR4は先に定義した通りであり、すなわちR4は、直鎖状又は分枝状の飽和した二価のC1-C6炭化水素ベースの基を表し、R3は、水素原子、直鎖状又は分枝状のC1-C18アルキル、又は直鎖状若しくは分枝状のC2-C18アルケニルを表す。
【0025】
トランスエステル化反応は当業者に周知の反応であり、トランスエステル化触媒、例えば強酸の存在下で行うことができる。
優先的には、上述のプロセスにおいて、式(4)のジオール化合物は、HOCH2CH2CH2OH、HOCH2CH2CH2CH2OH、及びHOCH2CH(CH3)CH2OHから選択される。より優先的には、上述のプロセスにおいて、式(4)のジオール化合物は、HOCH2CH(CH3)CH2OHである。
優先的には、上記のプロセスで使用される式(5)及び(6)の化合物は、R基がメチル、エチル、プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、及びイソ-ブチルから選択されるものである。
優先的には、上述のプロセスで使用される式(5)の化合物は、R3が水素原子、直鎖状若しくは分枝状のC1-C10アルキル、又は直鎖状若しくは分枝状のC2-C10アルケニルを表すものである。より優先的には、上述のプロセスで使用される式(5)の化合物は、R3が直鎖状のC6-C8アルキルであるものである。さらにより優先的には、上述のプロセスで使用される式(5)の化合物は、R3がヘプチル(C7H15-)であるものである。
【0026】
好ましくは、上述のプロセスの実施において使用される式(5)及び(6)の化合物は、各R4が独立して、直鎖状のC1-C4アルキレンからなる群から選択される二価の炭化水素ベースの基であるものである。より優先的には、上述のプロセスの実施において使用される式(5)及び(6)の化合物は、各R4がプロピレンであるものである。
好ましくは、上述のプロセスの実施に使用される式(5)及び(6)の化合物は、R3がヘプチルであり、R4がプロピレンであり、Rが、同一であっても異なってもよく(好ましくは同一であり)、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、及びイソ-ブチルから選択されるものであり、上述のプロセスの実施に使用される式(4)の化合物は、HOCH2CH(CH3)CH2OHである。
式(5)の化合物の混合物及び式(6)の化合物の混合物を使用して、カップリング剤である有機官能性シランを合成することができる。
【0027】
カップリング剤を合成するプロセスは、以下を含むこともできる:
- ステップ(a)で得られた生成物を処理して、ブロックされたチオール官能基の一部を、ステップ(a)で得られた生成物中に存在する場合、チオール(-SH)官能基に変換する少なくとも1つのステップ(b)、並びに/又は
- ステップ(a)で得られた生成物を処理して、チオール官能基の一部を、ステップ(a)で得られた生成物中に存在する場合、ブロックされたチオール官能基に変換する少なくとも1つのステップ(c)、並びに/又は
- ステップ(a)で得られた生成物を、ステップ(b)が本プロセスで行われる場合はステップ(b)で得られた生成物を、及びステップ(c)が本プロセスで行われる場合はステップ(c)で得られた生成物を部分的に加水分解する少なくとも1つのステップ(d)。
処理ステップ(b)は、例えば、強塩基、例えばNaOEtを使用して、ステップ(a)で得られた生成物が保持するブロックされたチオール官能基をチオール官能基に変換するステップであってもよい。処理ステップ(c)は、例えば、ステップ(a)で得られた生成物のチオール官能基を、カルボン酸(特にC7H15COOH)又はアシルクロリド(特にC7H15COCl)を使用してエステル化し、それらをブロックされたチオール官能基に変換するステップであってもよい。部分的加水分解ステップ(d)は、ステップ(a)で使用された生成物及び試薬に対して過剰な水が存在する場合、並びにステップ(b)及び(c)で存在する場合は任意に、行ってもよい。部分的加水分解ステップにより、Zbは、(-O-)0.5又はOHを表す上述の化合物を得ることができる。
【0028】
当業者は、特に、有機官能性シランカップリング剤を製造するためのプロセスを記載した国際公開第2007/098120号を参照することができる。
有機官能性カップリング剤は、上述のプロセスの実施から生じる混合物の形態で得ることができ、この混合物の形態で本発明に従うゴム組成物に使用することができる。混合物は、有機官能性カップリング剤だけでなく、以下の化合物及びそれらの混合物のいずれか1種から選択される他のシランも含有する:
- 式(2)から誘導される式(2’)の化合物(式(2’)は、Zb
vがZa
tで置き換えられている点で式(2)と異なり、Zaは式(2)のX基と同じ定義を有し、tは、0、1、2又は3に等しい数であり、u+t+2w=3であり、u及びwは式(2)と同じ定義を有する)、
- 式(3)から誘導される式(3’)の化合物(式(3’)は、Zb
vがZa
tで置き換えられている点で式(3)と異なり、Zaは式(3)のX基と同じ定義を有し、tは、0、1、2又は3に等しい数であり、u+t+2w=3であり、u及びwは式(3)と同じ定義を有する)、
- 式(2)の2個のブロックされたメルカプトシラン単位からなる二量体、
- 式(3)の2個のメルカプトシラン単位からなる二量体、
- ブロックされたメルカプトシラン単位(2)及び式(3)のメルカプトシラン単位からなる二量体、
- 式(2)のブロックされたメルカプトシラン単位からなるオリゴマー、
- 式(3)のメルカプトシラン単位からなるオリゴマー。
【0029】
有機官能性シランカップリング剤は、例えば、Momentive社から商品名「NXT-Z」、特に「NXT-Z45」で市販されている。
本発明に従うゴム組成物において、有機官能性シランカップリング剤の含有量は、ゴム組成物に使用されるシリカの比表面積に応じて、及びゴム組成物中のシリカ含有量に応じて、当業者によって調整される。これは、優先的には1~15phr、より優先的には1.5~10phr、さらにより優先的には2~5phrの範囲である。
本発明に従うゴム組成物の別の本質的な特徴は、加硫系、すなわち硫黄ベースの架橋系を含有することである。硫黄は通常、分子状硫黄の形態又は硫黄供与剤の形態で、好ましくは分子状形態で提供される。分子状形態の硫黄は「分子状硫黄」という用語でも称される。「硫黄供与体」という用語は、加硫中に形成されるポリスルフィド鎖に挿入してエラストマー鎖を架橋することができる(ポリスルフィド鎖の形態で組み合わせてもよい)、硫黄原子を放出するあらゆる化合物を意味する。酸化亜鉛、ステアリン酸、及びグアニジン誘導体(特にジフェニルグアニジン)などの公知の様々な二次加硫促進剤又は加硫活性剤を加硫系に添加し、第1の非生産的段階中及び/又は生産的段階中に組み込む。硫黄含有量は、好ましくは0.5~4phrの間であり、一次促進剤の含有量は、好ましくは0.5~5phrの間である。これらの優先的な含有量は、本発明の実施形態のいずれか1つに適用することができる。
【0030】
(一次又は二次)加硫促進剤として、硫黄の存在下でジエンエラストマーを加硫する促進剤として作用することができるあらゆる化合物、特にチアゾール型の促進剤及びその誘導体、一次促進剤に関してはスルフェンアミド型の促進剤、又は二次促進剤に関してはチウラム型、ジチオカルバメート型、ジチオホスフェート型、チオ尿素型、及びキサンテート型の促進剤を使用することができる。一次促進剤の例としては、特に、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(「CBS」)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(「DCBS」)、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(「TBBS」)などのスルフェンアミド化合物及びこれらの化合物の混合物を挙げることができる。一次促進剤は、優先的にはスルフェンアミドであり、より優先的にはN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミドである。二次促進剤の例としては、特に、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド(「TBTD」)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(「TBZTD」)などのチウラムジスルフィド及びこれらの化合物の混合物を挙げることができる。二次促進剤は、優先的にはチウラムジスルフィドであり、より優先的にはテトラベンジルチウラムジスルフィドである。
【0031】
加硫は、一般に130℃~200℃の間の温度、例えば5分~90分の間の範囲であることができる十分な時間、特に硬化温度、採用される加硫系、及び考慮されている組成物の加硫速度論に依存して、公知の方式で行われる。
本発明に従うゴム組成物は、タイヤ製造を意図したエラストマー組成物に慣用的に使用される通常の添加剤、特に顔料、保護剤、例えばオゾン割れ防止ワックス、化学的オゾン割れ防止剤、酸化防止剤、又は可塑化油若しくは樹脂などの可塑剤のすべて又は一部を含むこともできる。
加硫前のゴム組成物は、当業者に周知の手順に従って、2つの連続した調製段階を使用して、適切な混合機で製造することができる:110℃~190℃の間、好ましくは130℃~180℃の間の最高温度までの高い温度での熱機械的作業又は混練の第1段階(「非生産的」段階と称されることもある)、続く、より低い温度、典型的には110℃未満、例えば40℃~100℃の間の機械的作業の第2段階(「生産的」段階と称されることもある)、この間に、仕上げ段階の硫黄又は硫黄供与体、及び加硫促進剤が組み込まれる。
【0032】
例として、第1(非生産的)段階は、単一の熱機械的ステップで行われ、その間に、加硫系を除くすべての必要な成分、任意選択の補助加工助剤及び他の様々な添加剤を、標準密閉式混合機などの適切な混合機に導入する。この非生産的段階における混練時間の合計は、好ましくは1~15分の間である。したがって、第1の非生産的段階の間で得られた混合物を冷却した後、加硫系を低温で、一般に開放式ミルなどの外部混合機に組み込み、次いで、全体を数分間、例えば2~15分の間混合する(生産的段階)。
ゴム組成物は、特に実験室特性評価のためにシート又は小板の形態で、又は、そうでなければ、タイヤに使用できるゴム半完成製品(又は輪郭のあるエレメント)の形態でカレンダー加工又は押出成形することができる。組成物は、未処理の状態(green state)(架橋又は加硫前)、又は硬化状態(架橋又は加硫後)のいずれかであってもよい。これは、特にトレッドを含む空気入り又は非空気入りタイヤ、特にタイヤトレッドでの使用を意図した半完成物品のすべて又は一部からなることができる。
要約すると、本発明は、以下の実施形態1~35のいずれか1つに従って有利に実施される:
【0033】
実施形態1:
- エチレンと1,3-ジエンとのコポリマーである高飽和ジエンエラストマーであって、コポリマーのモノマー単位の50mol%超を占めるエチレン単位を含む、高飽和ジエンエラストマー、
- 加硫系、
- シリカを含有する補強用充填剤、
- 並びに少なくとも1個のブロックされたチオール官能基、少なくとも1個のチオール官能基、及びヒドロキシアルコキシシリル基又は環状ジアルコキシシリル基である少なくとも1個の官能基を含有し、式(1)に対応する有機官能性シランカップリング剤
(A)p(B)q (1)
(式中、A及びBはそれぞれ、式(2)に対応するブロックされたメルカプトシラン単位及び式(3)に対応するメルカプトシラン単位を表し、
【0034】
【化5】
式中、
R
3は、水素原子、直鎖状又は分枝状のC
1-C
18アルキル、直鎖状又は分枝状のC
2-C
18アルケニルから選択され、
各R
4は、直鎖状又は分枝状の飽和C
1-C
6二価炭化水素ベースの基から独立して選択され、
各Z
bは、ある単位のケイ素原子と別の単位のケイ素原子との間で架橋構造を形成し(単位は同一であっても異なってもよい)、(-O-)
0.5及び[-O(R
0CR
0)
fO-]
0.5から独立して選択され、記号R
0は、同一であっても異なってもよく、それぞれ水素原子又はC
1-C
3アルキルを表し、fは2~15の範囲の数である、
各Z
cは、ある単位のケイ素原子と環状構造を形成し、式[-O(R
0CR
0)
fO-]
0.5の基であり、R
0及びfは先に定義した通りであり、
各Xは、水素原子、ヒドロキシル基、C
1-C
6アルキル基、C
1-C
6アルコキシ基、及び式HO(R
0CR
0)
fO-の基から独立して選択され、R
0及びfは先に定義した通りであり、
u+v+2w=3であり、uは0、1、2又は3に等しい数であり、vは1、2又は3に等しい数であり、wは0又は1に等しい数であり、
pは1~20の範囲内の数であり、
qは1~20の範囲内の数である)、
を含むゴム組成物。
【0035】
実施形態2:1,3-ジエンが、1,3-ブタジエンであるか、又は1,3-ジエンの混合物であってそのうちの1つが1,3-ブタジエンである前記1,3-ジエンの混合物である、実施形態1に記載のゴム組成物。
実施形態3:1,3-ジエンが1,3-ブタジエンである、実施形態1又は2に記載のゴム組成物。
実施形態4:高飽和ジエンエラストマーのエチレン単位が、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の少なくとも60mol%を占める、実施形態1~3のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【0036】
実施形態5:高飽和ジエンエラストマーのエチレン単位が、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の少なくとも65mol%を占める、実施形態1~4のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態6:高飽和ジエンエラストマーのエチレン単位が、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の少なくとも70mol%を占める、実施形態1~5のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態7:高飽和ジエンエラストマーのエチレン単位が、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の90mol%以下を占める、実施形態1~6のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【0037】
実施形態8:高飽和ジエンエラストマーのエチレン単位が、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の85mol%以下を占める、実施形態1~7のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態9:高飽和ジエンエラストマーのエチレン単位が、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位の80mol%以下を占める、実施形態1~8のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態10:高飽和ジエンエラストマーが、式(I)の単位又は式(II)の単位を含有する、実施形態1~9のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【0038】
【0039】
実施形態11:高飽和ジエンエラストマーが、0%より大きく15%より小さいモル含有量で式(I)の単位を含み、該モル百分率は、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位に基づいて計算される、実施形態1~10のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【化7】
実施形態12:高飽和ジエンエラストマーが、0%より大きく10mol%より小さいモル含有量で式(I)の単位を含み、該モル百分率は、高飽和ジエンエラストマーの全モノマー単位に基づいて計算される、実施形態1~11のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【化8】
【0040】
実施形態13:高飽和ジエンエラストマーが統計コポリマーである、実施形態1~12のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態14:高飽和ジエンエラストマーの含有量が、ゴム組成物のエラストマー100部当たり少なくとも50質量部(phr)である、実施形態1~13のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態15:高飽和ジエンエラストマーの含有量が80~100phrの範囲内で変化する、実施形態1~14のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態16:補強用充填剤の総含有量が30~150phrの範囲内で変化する、実施形態1~15のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態17:補強用充填剤の総含有量が30phr~60phrの範囲内で変化する、実施形態1~16のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【0041】
実施形態18:シリカが補強用充填剤の50質量%超を占める、実施形態1~17のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態19:シリカが補強用充填剤の85質量%超を占める、実施形態1~18のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態20:式(2)中のR3が、水素原子、C1-C10アルキル、及びC2-C10アルケニルから選択される、実施形態1~19のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態21:式(2)中のR3が、直鎖状のC6-C8アルキルであり、より優先的にはヘプチルである、実施形態1~20のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態22:式(2)及び(3)中のR4が、独立して、直鎖状のC1-C4アルキレンである、実施形態1~21のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態23:式(2)及び(3)中の各R4がプロピレンである、実施形態1~22のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【0042】
実施形態24:式(2)及び(3)中の各Zbが、式(-O-)0.5、[-OCH2CH2CH2O-]0.5、[-OCH2CH2CH2CH2O-]0.5、及び[-OCH2CH(CH3)CH2O-]0.5の単位からなる群から独立して選択される、実施形態1~23のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態25:式(2)及び(3)中の各Zbが、式(-O-)0.5又は[-OCH2CH(CH3)CH2O-]0.5を有する、実施形態1~24のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態26:式(2)及び(3)中の各Zcが、式[-OCH2CH2CH2O-]0.5、[-OCH2CH2CH2CH2O-]0.5、及び[-OCH2CH(CH3)CH2O-]0.5の単位からなる群から独立して選択される、実施形態1~25のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態27:式(2)及び(3)中の各Zcが、式[-OCH2CH(CH3)CH2O-]0.5を有する、実施形態1~26のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態28:式(2)及び(3)中の各Xが、ヒドロキシル、メトキシ、エトキシ、メチル、エチル、3-ヒドロキシプロポキシ、3-ヒドロキシ-2-メチルプロポキシ、及び4-ヒドロキシブト-1-オキシからなる群から独立して選択される、実施形態1~27のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【0043】
実施形態29:式(2)及び(3)中の各Xが、同一であり、ヒドロキシル、メトキシ、エトキシ、及び3-ヒドロキシ-2-メチルプロポキシからなる群から選択される、実施形態1~28のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態30:有機官能性シランが、20%~80%の範囲のブロックされたメルカプトシラン単位(A)のモル百分率及び80%~20%の範囲のメルカプトシラン単位(B)のモル百分率を有する、実施形態1~29のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態31:有機官能性シランが、40%~60%の範囲のブロックされたメルカプトシラン単位(A)のモル百分率及び60%~40%の範囲のメルカプトシラン単位(B)のモル百分率を有する、実施形態1~30のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態32:有機官能性シランが、50%~55%の範囲のブロックされたメルカプトシラン単位のモル百分率及び50%~45%の範囲のメルカプトシラン単位のモル百分率を有する、実施形態1~31のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態33:有機官能性シランカップリング剤の含有量が1~15phrの範囲である、実施形態1~32のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【0044】
実施形態34:有機官能性シランカップリング剤の含有量が、1.5~10phr、優先的には2~5phrの範囲である、実施形態1~33のいずれか1つに記載のゴム組成物。
実施形態35:実施形態1~34のいずれか1つに記載のゴム組成物を含むタイヤ、優先的にはそのトレッドに実施形態1~34のいずれか1つに記載のゴム組成物を含むタイヤ。
本発明の上述した特徴、及びその他の特徴も同様に、非限定的な例示として示した本発明の幾つかの実施例に関する以下の説明を読めば、より明確に理解されるであろう。
【実施例】
【0045】
破断特性:
引張試験を使用して破断特性を決定する。特に指示のない限り、この試験は、1988年9月のフランス規格NF T 46-002に従い、H2タイプの試験片を使用して、引張速度500mm/分で試験を行う。引張強さ(単位MPa)及び破断伸び(単位%)は、規格NF T 46-002に従って23℃±2℃で測定し、100℃±2℃でも測定する。
結果は、対照に対して100基準で表す。任意に100に設定した対照の値よりも大きい値は、改善された結果、すなわち対照の値より大きい測定値を示す。
核磁気共鳴(NMR)分析によるエラストマーのミクロ構造:
エラストマーのミクロ構造は、1H NMR分析によって決定し、1H NMRスペクトルの分解能ではすべての化学種の帰属及び定量ができない場合は、13C NMR分析と組み合わせる。測定は、ブルカー500MHz NMRスペクトロメーターを使用し、プロトン観測には500.43MHz及び炭素観測には125.83MHzの周波数で行う。
【0046】
溶媒中で膨潤が可能である不溶性エラストマーには、プロトン非結合モードでプロトン及び炭素を観測するため、4mmのz-grad HRMASプローブを使用する。スペクトルは、4000Hz~5000Hzのスピン速度で取得する。
可溶性エラストマーの測定には、プロトン非結合モードでプロトン及び炭素を観測するため液体NMRプローブを使用する。
不溶性試料の調製は、分析する物質と、膨潤を可能にする重水素化溶媒、一般的には重水素化クロロホルム(CDCl3)とを満たしたローターで行う。使用する溶媒は、常に重水素化されていなければならず、その化学的性質は当業者によって適合させることができる。使用する物質の量は、十分な感度及び分解能のスペクトルが得られるように調整する。
【0047】
可溶性試料は、重水素化溶媒(1ml中に約25mgのエラストマー)、一般的には重水素化クロロホルム(CDCl3)に溶解する。使用する溶媒又は溶媒ブレンドは、常に重水素化されていなければならず、その化学的性質は当業者によって適応させることができる。
両方の場合において(可溶性試料又は膨潤試料):
プロトンNMRには30°単一パルスシーケンスを使用する。スペクトルウィンドウは、分析する分子に属するすべての共鳴線を観測するように調整する。積算数は、各単位の定量に十分なシグナル対ノイズ比が得られるように調整する。各パルス間のリサイクル遅延は、定量的な測定を得られるように調整する。
炭素NMRでは、「核オーバーハウザー」効果(NOE)を回避し、定量性を維持するために、30°の単一パルスシーケンスを使用して、プロトンのデカップリングのみを取得中に行う。スペクトルウィンドウは、分析する分子に属するすべての共鳴線を観測するように調整する。積算数は、各ユニットの定量に十分なシグナル対ノイズ比を得るために調整する。各パルス間のリサイクル遅延は、定量的な測定を得るために調整する。
【0048】
NMR測定は25℃で行う。
ポリマーのガラス転移温度:
ガラス転移温度(Tg)は、規格ASTM D3418(1999)に従って示差走査熱量計を使用して測定する。
ムーニー粘度:
ムーニー粘度は、規格ASTM D1646(1999)に記載されている振動台式コンシストメーターを使用して測定する。測定は、以下の原理に従って行う:未硬化状態(すなわち硬化前)で分析した試料を、所与の温度(100℃)に加熱した円筒形のチャンバー内で成型(成形)する。1分間の予熱後、ローターは試験片内で2回転/分で回転し、4分間回転した後、この動きを維持するための作動トルクを測定する。ムーニー粘度(ML)は「ムーニー単位」(MU、1MU=0.83ニュートンメートル)で表す。
ゴム組成物の調製:
3種のゴム組成物C1~C3を調製する。これらの組成物は、以下の方式で製造する:
エラストマー、次いでシリカ、シランカップリング剤、及び加硫系を除く他の様々な材料を、初期タンク温度が約80℃の密閉式混合機(最終充填レベル:約70容量%)に導入する。次いで、熱機械的作業(非生産的段階)を1つのステップで行い、160℃の最高「落下」温度に達するまで、およそ5分~6分間継続する。こうして得られた混合物を回収して冷却し、次いで、硫黄及びスルフェンアミド型の促進剤を23℃の混合機(ホモフィニッシャー(homofinisher))に組み込み、すべてを適切な時間(例えば5~12分の間)混合する(生産的段階)。
【0049】
ゴム組成物C1~C3は、高飽和ジエンエラストマーであるエラストマーE1、加硫系、シリカ、及びシランカップリング剤をすべて含有する。これらは、シランカップリング剤の化学的性質において互いに異なる。
ゴム組成物C1において、シランカップリング剤は、ポリスルフィドシランである、TESPTと略されるビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドであり、式[(C2H5O)3Si(CH2)3S2]2を有し、Evonik社により「Si69」の名称で販売されている。
ゴム組成物C2において、カップリング剤は、Momentive社により「NXT」の名称で販売されているS-(オクタノイル)メルカプトプロピルトリエトキシシランである。
ゴム組成物C3において、シランカップリング剤は、Momentive社より販売されている「NXT-Z45」である。
【0050】
ゴム組成物C1及びC2は、シランカップリング剤が有機官能性シランの式(1)に適合しないので、本発明に適合しないゴム組成物である。ゴム組成物C3は、カップリング剤が式(1)に適合する有機官能性シランであるため、本発明に従うゴム組成物である。
ゴム組成物C1~C3の配合(単位phr)を表1に示す(表1)。
ゴム組成物C1の場合、カップリング剤「Si69」がエラストマーとの反応中に遊離硫黄を放出し、それは加硫に利用可能な硫黄の供給源、すなわち0.3phrに相当することを考慮に入れると、全硫黄含有量は各ゴム組成物について同一である。
他の3種のゴム組成物C4~C6を、組成物C1~C3に使用した同じ手順で調製する。これらはすべて、高飽和ジエンエラストマー(E1)、加硫系、シリカ、及び式(1)の有機官能性シランカップリング剤「NXT-Z45」をすべて含有するので、本発明に従う。組成物C4及びC5は、その「NXT-Z45」含有量によって組成物C3と異なる。組成物C6は、加硫促進剤がスルフェンアミドの代わりにチウラムジスルフィドであるので、加硫系という点において組成物C3と異なる。ゴム組成物C4~C6の配合(単位phr)を表2に記載する(表2)。
次いで、このようにして得られた組成物は、150℃での加硫後(硬化状態)、その物理的又は機械的特性を測定するために、スラブ(厚さ2~3mm)若しくは薄いゴムシートの形態、又は、例えばタイヤ用の半完成製品として、所望の寸法に切断及び/若しくは組み立てた後、直接使用できる輪郭のある形態のいずれかでカレンダー加工される。
【0051】
エラストマーE1は、高飽和ジエンエラストマーである、エチレン及び1,3-ブタジエンのコポリマーであり、以下の手順に従って調製される:
メチルシクロヘキサン(64L)、エチレン(5600g)、及び1,3-ブタジエン(2948g)を含有する70Lの反応器に、メチルシクロヘキサンに溶解したブチルオクチルマグネシウム(BOMAG)及び触媒系を添加する。Mg/Nd比は6.2である。導入される触媒系溶液の体積は840mLであり、触媒系溶液のNd濃度は0.0065Mである。反応温度を80℃に調節すると、重合反応が開始する。重合反応は8.3barの一定圧力で行う。反応器には、エチレン及び1,3-ブタジエンを73/27のモル比で重合中に供給する。重合反応は、冷却、反応器の脱気、及びエタノールの添加によって停止する。酸化防止剤をポリマー溶液に添加する。水蒸気蒸留及び一定質量までの乾燥後、コポリマーを回収する。重合時間は225分である。秤量した質量(6.206kg)から、ネオジム金属1モル当たり及び1時間当たりに合成されるポリマーのキログラム(kg/mol・時)で表される、触媒系の平均触媒活性を決定することができる。該コポリマーのML値は62に等しい値である。
該触媒系は、事前成形した触媒系である。これは、0.0065mol/Lのメタロセンである[Me2SiFlu2Nd(μ-BH4)2Li(THF)]、共触媒であるブチルオクチルマグネシウム(BOMAG)(このBOMAG/Ndモル比は2.2に等しい)、及び事前成形モノマーである1,3-ブタジエン(この1,3-ブタジエン/Ndのモル比は90に等しい)からメチルシクロヘキサン中で調製される。媒体は、5時間にわたって80℃で加熱する。これは、特許出願国際公開第2017/093654号の段落II.1に従った調製方法により調製する。
【0052】
ゴム組成物の硬化状態での破断特性の結果を表3及び表4にまとめる。
表3は、ゴム組成物C3が、23℃及び100℃の両方で最も優れた破断特性を有するゴム組成物であることを示す。ゴム組成物C3の破断伸び及び引張強さのどちらも、組成物C1及びC2の破断伸び及び引張強さよりも、それぞれ23℃及び100℃の両方で非常に高い。
表4は、組成物C3のものとは異なるシランカップリング剤「NXT-Z45」の含有量に対して、及び異なる加硫系に対しても、破断特性の向上が得られることを示す。
【0053】
【表1】
【表2】
(1)エチレン単位74mol%、1,2及び1,4単位の形態のブタジエン単位19mol%、並びに1,2-シクロヘキサンジイル単位7mol%を含有するエチレン-1,3-ブタジエンコポリマー、Tg -44℃。
(2)マイクロビーズ形態の、Solvay-Rhodiaの「Zeosil 1165 MP」
(3)Evonik社の「Si69」トリエトキシシリルプロピルテトラスルフィド(TESPT)液体シラン
(4)シラン3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン(「NXT」) - CAS 220727-26-4 - Momentive社
(5)シランメルカプト-チオカルボキシレートオリゴマー(「NXT-Z45」) - CAS 922519-17-3 - Momentive社
(6)ジフェニルグアニジン、Flexsys社の「Perkacit DPG」
(7)Sasol Wax社の「Varazon 4959」オゾン割れ防止ワックス
(8)N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、Flexsys社の「Santoflex 6-PPD」
(9)Uniqema社の「Pristerene 4931」ステアリン酸
(10)Umicore社の酸化亜鉛、工業用グレード
(11)N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、Flexsys社の「Santocure CBS」
(12)テトラベンジルチウラムジスルフィド(Flexsys社のPerkacit TBZTD) - CAS 10591-85-2
【0054】
【国際調査報告】