(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】乳製品の保水力を向上させる多糖類
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20241108BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20241108BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20241108BHJP
A23C 19/032 20060101ALI20241108BHJP
A23C 9/123 20060101ALI20241108BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20241108BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20241108BHJP
【FI】
C08B37/00 P
C12N1/20 A ZNA
C12N15/11 Z
A23C19/032
A23C9/123
C12Q1/04
A23K20/163
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531032
(86)(22)【出願日】2022-11-23
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 EP2022082940
(87)【国際公開番号】W WO2023094430
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503260310
【氏名又は名称】セーホーエル.ハンセン アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】ベラ クジナ ポールセン
(72)【発明者】
【氏名】ポーラ ガズパー
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン イェンセン
(72)【発明者】
【氏名】ルテ ネベス
(72)【発明者】
【氏名】アマド ザイダン
【テーマコード(参考)】
2B150
4B063
4B065
4C090
【Fターム(参考)】
2B150DC14
2B150DD12
4B063QA01
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4C090BB35
4C090BB36
4C090BB53
4C090BB62
4C090BC19
4C090BC24
4C090DA11
4C090DA27
(57)【要約】
本発明は、反復単位によって識別されるEPS構造、対応する eps遺伝子クラスター、及び、望ましい保水能力、食感、及び酸性化速度の組み合わせをもたらすそのような EPS を生成する菌株を提供する。本発明はさらに、食品を製造するために EPS 及びそのようなEPSを生成する菌株を使用する方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反復単位構造を有する多糖類であって、主鎖が、2:2:1:1の比率のラムノース、ガラクトース、グルコース、及びN-アセチルグルコサミンで構成され、ラムノースが任意でO-アセチル化される、多糖類。
【請求項2】
前記反復単位構造の主鎖が直鎖六量体であり、任意で少なくとも1つの糖を有する少なくとも1つの側枝を含む、請求項1に記載の多糖類。
【請求項3】
下記反復単位構造:
(i)
【化1】
、又は
(ii)
【化2】
を有する、請求項1又は2のいずれかに記載の多糖類。
【請求項4】
乳酸菌株であって、請求項1~3のいずれか1項に記載の多糖類を生産する活性eps遺伝子クラスターを含み、前記eps遺伝子クラスターが、配列番号1又は配列番号2と少なくとも95%の配列同一性を有する、乳酸菌株。
【請求項5】
前記乳酸菌株が、S.サーモフィルス(S.thermophilus)細菌である、請求項4に記載の乳酸菌株。
【請求項6】
前記乳酸菌株が、以下:
(i)DSM33981、
(ii)DSM33982、
又は保水能力が保持されているか又はさらに改善されたそれらの変異体から選択される、請求項5に記載の乳酸菌株。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の多糖類、及び/又は請求項4~6のいずれか1項に記載の乳酸菌株の少なくとも1つを含む、組成物。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載の多糖類、請求項4~6に記載の乳酸菌株、及び/又は請求項7に記載の組成物のうち少なくとも1つを含む、スターター培養物。
【請求項9】
発酵製品の保水能力の調節のための、請求項1~3のいずれか1項に記載の多糖類、請求項4~6に記載の乳酸菌株、請求項7に記載の組成物、及び/又は請求項8に記載のスターター培養物の使用。
【請求項10】
食品又は飼料製品の製造方法であって、請求項1~3のいずれか1項に記載の多糖類、請求項4~6に記載の乳酸菌株、請求項7に記載の組成物、及び/又は請求項8に記載のスターター培養物の少なくとも1つを使用する少なくとも1つの段階を含む、方法。
【請求項11】
前記食品が、例えばモッツァレラチーズ、ヨーグルト、ケフィア、サワークリーム、またはクワルクチーズなどのチーズであり、そして任意でさらなる乳酸菌を使用する段階をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
食品又は飼料製品であって、請求項1~3のいずれか1項に記載の多糖類、請求項4~6に記載の乳酸菌株、請求項7に記載の組成物、及び/又は請求項8に記載のスターター培養物の少なくとも1つを含む、食品又は飼料製品。
【請求項13】
前記食品又は飼料製品が、発酵させた植物由来の乳及び/又は哺乳類の乳を含む乳製品である、請求項12に記載の食品又は飼料製品。
【請求項14】
前記食品がモッツァレラチーズである、請求項13に記載の食品又は飼料製品。
【請求項15】
請求項4に記載の乳酸菌株の製造方法であって、寄託された株を出発材料として使用し、eps遺伝子クラスターをスクリーニングし、eps遺伝子クラスターを保持している細菌を選択することによって、変異株を得る、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳製品の保水能力を向上させる新規な細胞外多糖類及びそのような多糖類を生産する細菌株に関する。これらの多糖類及び菌株は、高い保水能力と組み合わせるのが難しい所望の剪断応力特性及び酸性化時間の保持も可能にする。
【背景技術】
【0002】
乳製品会社は、エネルギー最適化への投資、製品ミックスの変更、廃棄物の有効活用など、生産を最適化する方法を常に模索している。製品の収量を増やす、つまり一定量の牛乳からより多くの製品を得るための解決策の 1 つは、チーズにより多くの水分を保持できるスターター 培養物を使用することである。
【0003】
保水能力の向上により、チーズ製造業者は同じ量の牛乳からより多くのチーズを生産できるようになり、製品の二酸化炭素排出量を削減できるなどの利点がある。その結果、チーズ生産はより持続可能になり、顧客はコストと二酸化炭素排出量を削減できる。このように、保水能力の向上により、発酵乳製品の離液が減少し、チーズの収量が向上する。工業規模では、保水能力が比較的わずかに向上しただけでも、財務コストと環境コストの両方で大きな節約につながる。
【0004】
多糖類を生成するスターター培養物の使用は、発酵乳の保水能力を高めるのに役立ち、ヨーグルトのホエー分離(離漿)レベルの低下と、チーズの水分含有量と収量の増加につながる(Amatayakul et al.、2006)。
【0005】
その結果、業界では、高い保水能力をもたらし、同時に質感や酸性化速度など商業的に有用な菌株に関する他の全ての関連基準を満たす多糖類及びそのような多糖類を生産する菌株が緊急に必要とされている。
【0006】
多糖類の構造(反復単位で識別)には、糖の構成要素、アノマー構成、グリコシド結合、単糖類の非糖修飾、及び立体配座によって決まる、極めて多様な種類がある。
【0007】
発酵乳製品に使用するのに適した多糖類及び多糖類生産培養物の選択は、生産される多糖類の機能性、製品の種類、生産プロセスなどの多くの要因に依存する。例えば、本発明の文脈では、適切な多糖類は、望ましい保水能力を達成する必要があり、商業的に有用であるためには他の基準も満たす必要がある。重要なことには、高いテクスチャーをもたらす多糖類は、モッツァレラなどのチーズの製造には適していないということである。従って、適切な多糖類は、問題となるチーズ製造プロセス中の粘性ホエーを回避するために、高い保水能力と比較的低い剪断応力を兼ね備えていなければならない。さらに、このような多糖類を生成する菌株は、比較的迅速に牛乳を酸性化できなければならない。つまり、発酵中に迅速に pH4.5に到達できる必要がある。発酵が遅いと、待ち時間が長くなり、コストが高くなり、望ましくない微生物による汚染の可能性が高くなる。
【0008】
細胞外多糖類は、環境に排出される非付着物質(細胞外多糖類(EPS)と呼ばれることが多い)として、又は細菌の表面に付着したカプセル(莢膜多糖類又はCPSと呼ばれる)として生成される(Zeidan et al., 2017)。CPSは、ロープ状のEPSと比較してホエーの粘度を増加させる傾向が低いため、チーズ製造への応用に適している(Awad et al., 2005; Broadbent et al., 2001)。ロープ状のEPSはホエーの粘度が増加するため、チーズ製造ではあまり望ましくない。細胞外多糖類の生成を担う酵素をコードする遺伝子クラスターは、一般にeps遺伝子クラスターと呼ばれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
当該技術分野では、排出された EPS は、高い保水能力と低い粘度の望ましい組み合わせを達成するのに適していないと教示されていた。代わりに、CPS を使用する必要がある(Low et al.,1998 、Broadbent et al.,2001 )。CPS 又はEPSのどの特定の構造が、望ましい保水能力と低い粘度の組み合わせを達成できるかはまだ完全には理解されていないが、CPS を生成するさらなる菌株を調査し、EPS を回避する強い動機があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、驚くべきことに、本発明の排出型 EPS 構造を主に生成する菌株が、望ましい高い保水能力と低い剪断応力の両方を示すことを発見した。発明者らはまた、対応するeps遺伝子クラスターを特定し、このような多糖類の反復単位の構造を解明し、速い酸性化速度を維持しながら望ましいレベルの保水能力と質感を兼ね備えた細胞外多糖類を生成する菌株を提供する。
【0011】
本発明の細胞外多糖構造は、これまで報告されていない。さらに、EPS の存在、及び、水分保持能力、比較的低い剪断応力、及び酸性化速度というすべての望ましい特性を統合できるそのようなEPSを生成する細菌株の存在は、先行技術からは明らかではなかったため、望ましい結果を達成するために、主にCPSを生成するさらなる株の探索が促された。
【0012】
本発明はまた、このような細胞外多糖類及び/又は株を含む組成物及びスターター培養物、並びに食品の製造のために細胞外多糖類及び/又は株を使用する方法、並びに細胞外多糖類及び/又は株を含む食品に関する。
【0013】
配列表の簡単な説明
配列番号1は、S.サーモフィラス株DSM33981(又はその変異体)のeps遺伝子クラスターの完全な配列を示す。
配列番号2は、S.サーモフィラス株DSM33982(又はその変異体)のeps遺伝子クラスターの完全な配列を示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、DSM33981によって生成された多糖類の反復単位構造を示す。
【0015】
【
図2】
図2は、DSM33982によって生成された多糖類の反復単位構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本明細書に関連する用語のすべての定義は、本明細書に関連する技術的文脈に関連して当業者によって理解されるものに従う。
【0017】
本発明の文脈において、そのいずれの実施形態においても、「乳酸菌」(「LAB」)という表現は、炭水化物発酵の主な代謝最終産物として乳酸を生成する食品用細菌を指す。これらの細菌は、共通の代謝特性及び生理学的特性によって関連付けられており、グラム陽性、低GC、耐酸性、非胞子形成、桿菌又は球菌である。発酵段階の間、これらの細菌による炭水化物の消費により乳酸が形成され、pH が低下してタンパク質凝固物の形成につながる。従って、これらの細菌は牛乳の酸性化と乳製品の質感に関与している。本発明のS.サーモフィルス(S.thermophilus)株は乳酸菌に分類される。
【0018】
本明細書及び特許請求の範囲における「保水菌株」とは、下記及び実施例1に例示される条件下で、遠心分離及びホエー除去後のサンプル中に残る凝乳の割合として表される保水能力が85%以上、より好ましくは88%以上、又は91%以上である発酵乳を好ましくは生成する菌株を意味する。例えば、保水能力は85~100%、85~95%、又は85~90%であり得る。実施例1に例示される菌株は、保水能力が88~91%である。
【0019】
本発明の保水菌株は、任意の細菌株であってもよい。本発明の菌株は、例えば天然起源から単離された単離菌株であってもよく、又は例えば組み換えにより得られた非天然菌株であってもよい。組み換え菌株は、少なくとも母菌株を形質転換又はトランスフェクトするために使用される核酸構築物が存在する点で天然菌株と異なる。本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の保水菌株は乳酸菌である。本発明の最も好ましい実施形態によれば、保水菌株はS.サーモフィルス菌株である。
【0020】
「保水力(Water holding capacity)」は、発酵乳製品の製造効率にとって重要な要素である。発酵乳の質感は、発酵に使用する細菌とプロセスパラメータの両方に依存する。細菌によって生成される細胞外多糖類は、保水力にプラスの影響を与える可能性がある。
【0021】
発酵乳の保水力を測定するために、遠心分離、サイフォン法、排水法、核磁気共鳴法(NMR)など、いくつかの方法が実装されている(Amatayakul et al.、2006; Gilbert et al.、2020)。
【0022】
マトリックスに閉じ込められた水を推定するために使用される遠心分離は、保水能力を定量化するために最も一般的に使用される方法のようである。遠心分離法は、適用された高い外力 (遠心力) の結果として崩壊したゲルから分離されたホエーのレベル、つまりゲルの圧縮に対する抵抗を測定する。
【0023】
本発明では、「保水能力」は遠心分離によって測定され、遠心分離及びホエー除去後のサンプル中に残っているカードの割合として表される。
【0024】
「食感(Texture)」も発酵乳製品の重要な品質要因であり、消費者の受容は食感特性と密接に関係していることが多い。発酵乳の食感は、細胞外多糖構造、発酵に使用される細菌、プロセスパラメータ、及び乳組成に依存する。本発明の文脈では、粘度(viscosity)などの発酵乳製品のレオロジー特性(食感)は、以下で説明するように、発酵乳製品の剪断応力の関数として測定することができる。
【0025】
本発明に関連して、「剪断応力(shear stress)」は以下の方法によって測定することができる:発酵乳(例えば、哺乳動物由来又は植物由来の乳)のpHが、例えば40°C の培養温度で pH 約 4.55 に達したら、容器を氷水に移して発酵乳製品を冷却する。発酵乳サンプルは、サンプルが均質になるまで、穴あきディスクを取り付けた棒で手動で穏やかに撹拌する。サンプルのレオロジー特性は、ボブカップを使用してレオメーター(ASC、自動サンプルチェンジャー付き Anton Paar Physica Rheometer、Anton Paar(登録商標) GmbH、オーストリア)で評価した。測定中、レオメーターは 13℃の一定温度に設定された。設定は次の通りであった:
- 保持時間(ある程度元の構造に復元するため)
- サンプルに物理的なストレス(振動や回転)を加えずに 5 分間
- 振動工程(弾性係数 G’ と粘性係数 G’’ をそれぞれ測定し、複素係数 G* を計算する)
一定歪 = 0.3 %、周波数 (f) = [0.5・・・8] Hz
60 秒間に 6 つの測定ポイント(10 秒ごとに 1 つ)
- 回転工程 (3001/s で剪断応力を測定)
- 2 つの工程が設計された:
- 1)剪断速度 =[0.3-300] 1/s、及び 2) 剪断速度 = [275-0.3]1/s。各工程には、210 秒間 (10 秒ごと) にわたる 21 の測定ポイントが含まれている。3001/s(300s-1)の剪断応力は、発酵乳製品を飲み込むときの口の厚さと相関するため、さらなる分析のために選択された。
【0026】
約8時間以内で牛乳を酸性化できる菌株は、「高速酸性化(fast-acidifying)」菌株と呼ばれることがある。つまり、次のように測定すると、8 時間以内で pH が約 4.55 に達する菌株である。200mL の半脂肪乳 (脂肪分 1.5%) を 90℃ で 20分間加熱し、続いて接種温度まで冷却し、乳酸菌株の一晩培養物 2mL を接種し、接種温度でpHが4.55に達するまで放置する。接種温度は 40℃ である。
【0027】
「配列同一性(sequence identity)」という用語は、2 つのヌクレオチド配列間又は 2つのアミノ酸配列間の関連性に関する。本発明の目的のために、2 つのヌクレオチド配列間又は 2 つのアミノ酸配列間の配列同一性の程度は、例えば、標準パラメータを用いた多重配列アライメントツール Clustal Omega (https://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalo/; Sievers et al., 2011) を使用して決定される。
【0028】
本文脈において、「由来株(strains derived from)」、「派生株(derived strain)」又は「突然変異体(mutant)」という用語は、例えば遺伝子工学、放射線及び/又は化学処理、及び/又は選択、適応、スクリーニングなどによって本発明の株から派生した株として理解されるべきである。派生株は、機能的に同等の突然変異体、例えば、保水能力に関して母株と実質的に同じ、又は改善された特性を有する株であることが好ましい。このような派生株は、本発明の一部である。特に、「派生株(derived strain)」又は「突然変異体(mutant)」という用語は、本発明の株を、エタンメタンスルホン酸(EMS)又はN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトログアニジン(NTG)などの化学変異原、紫外線、又は自然発生的変異体による処理を含む、従来使用されている任意の突然変異誘発処理にかけることによって得られる株を指す。
【0029】
突然変異体は、複数の突然変異誘発処理にかけられていてもよい(単一の処理とは、1 つの突然変異誘発工程とそれに続くスクリーニング/選択工程と理解されるべきである)が、現在、20回以下、10回以下、又は5回以下の処理が実施されることが好ましい。現在好ましい派生株では、細菌ゲノムのヌクレオチドの 1% 未満、又は 0.1% 未満、0.01% 未満、0.001% 未満、又は 0.0001% 未満が、母株と比較して変更されている(置換、挿入、削除、又はそれらの組み合わせなどによる)。
【0030】
本明細書では、「発酵乳(fermented milk)」及び「乳製品(dairy)」という用語は互換的に使用される。本発明の文脈において、その実施形態のいずれにおいても、「発酵乳製品()」という表現は、乳酸菌による乳ベースの発酵を含む食品又は飼料製品を意味する。本明細書で使用される「発酵乳製品(Fermented milk product)」には、好熱性発酵乳製品又は中温性発酵乳製品などの製品が含まれるが、これらに限定されない。ここでの「好熱発酵(thermophilic fermentation)」という用語は、約 35°C を超える温度、例えば約 35°C から約 45°C の間の温度での発酵を指す。ここでの「中温発酵(mesophilic fermentation)」という用語は、約 22°C から約 35°C の間の温度での発酵を指す。
【0031】
本出願の文脈において、「ミルク(milk)」という用語は、その一般的な意味で広く使用され、動物(例えば、牛、羊、山羊、水牛、ラクダなど)の乳腺によって生成される液体、又は植物ベースを使用して生成される液体を指す。「ミルクベース(milk base)」又は「ミルク基質(milk substrate)」という用語は、本発明に従って発酵させることができる任意のミルク材料であり得る。従って、有用なミルクベースには、全乳又は低脂肪乳、脱脂乳、バターミルク、再構成粉乳、練乳、乾燥乳、ホエー、ホエーパーミエート、ラクトース、ラクトースの結晶化による母液、ホエータンパク質濃縮物、クリーム、又は植物ベースのミルクなどのタンパク質を含む任意のミルク又はミルクのような製品の溶液/懸濁液が含まれるが、これらに限定されない。ミルクベースは、任意の哺乳動物由来のものでよく、例えば、実質的に純粋な哺乳動物のミルク、又は再構成されたミルクパウダーである。ミルクの植物源には、大豆から抽出されたミルクが含まれるが、これに限定されるものではない。好ましくは、植物ベースのミルクは豆乳であり、好ましくは、0.5~5%のグルコース、好ましくは0.5~2%のグルコース、より好ましくは約2%のグルコースなどのグルコースを補充することができる。
【0032】
発酵の前に、乳ベースは、当該技術分野で既知の方法に従って均質化され、低温殺菌されてもよい。
【0033】
本発明の文脈において、その実施形態のいずれにおいても使用される「均質化(Homogenizing)」とは、可溶性の懸濁液又は乳濁液を得るために強力に混合することを意味する。発酵前に均質化を行う場合、乳脂肪をより小さなサイズに分解して、乳脂肪が乳から分離しないようにするために均質化が行われる場合がある。これは、高圧で乳を小さな開口部に押し込むことによって達成される場合がある。
【0034】
本発明の文脈において、その実施形態のいずれにおいても使用される「低温殺菌(Pasteurizing)」とは、微生物などの生きた生物の存在を減らすか、又は除去するための乳ベースの処理を意味する。低温殺菌は、指定温度を指定された時間維持することによって達成されることが好ましい。指定温度は通常、加熱によって達成される。温度及び期間は、有害細菌などの特定の細菌を殺すか、又は不活性化するように選択することができる。その後、急速冷却工程が続く場合がある。
【0035】
本発明の文脈における「発酵(Fermentation)」は、いずれの実施形態においても、微生物(LAB)の作用により炭水化物を酸又はアルコール、或いはその両方の混合物に変換することを意味する。乳製品などの食品の製造に使用される発酵プロセスは周知であり、当業者であれば、温度、酸素、微生物の量、及びプロセス時間などの適切なプロセス条件を選択する方法を知っているであろう。発酵条件は、本発明の達成をサポートするように、例えば、食品、好ましくは、本発明の第1の態様に記載されたような EPS 構造及び/又はそのような構造を生成する株の少なくとも1つを使用しない方法、又は、本発明の第2の態様に記載されたような組成物をその実施形態のいずれかで使用しない方法で製造された食品と比較して、改善された保水能力を有する食品を得るために選択される。
【0036】
本明細書で用いられる「乳製品(dairy product)」という用語は、ミルクから製造される食品を指す。上述のように、本出願の文脈では、「ミルク(milk)」という用語は、その一般的な意味で広く使用され、動物(例えば、牛、羊、山羊、水牛、ラクダなど)の乳腺又は植物によって生成される液体を指す。好ましい実施形態によれば、ミルクは牛乳である。本発明によれば、ミルクは加工されていてもよく、「ミルク」という用語には、全乳、脱脂乳、無脂肪乳、低脂肪乳、全脂肪乳、ラクトース低減乳、または濃縮乳が含まれる。無脂肪乳は、無脂肪乳又は脱脂乳製品である。低脂肪乳は、通常、約 1% から約 2% の脂肪を含むミルクとして定義される。全脂肪乳は、多くの場合、2% 以上の脂肪を含む。「ミルク」という用語は、さまざまな哺乳動物及び植物源からのミルクを包含することを意図している。哺乳動物源のミルクには、牛、羊、山羊、水牛、ラクダ、ラマ、雌馬、及び鹿が含まれるが、これらに限定されない。植物源のミルクには、大豆、エンドウ豆、落花生、大麦、米、オート麦、キノア、アーモンド、カシューナッツ、ココナッツ、ヘーゼルナッツ、麻、ゴマ、及びヒマワリの種から抽出されたミルクが含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態にyれば、ミルクは牛乳である。別の特定の実施形態によれば、ミルクは植物ベースのミルク、好ましくは豆乳であり、好ましくはグルコース、例えば 0.5~5% グルコース、好ましくは 0.5~2% グルコース、より好ましくは約 2% グルコースが補充され得る。
【0037】
本明細書において使用される「約(about)」(又は「約(around)」)という用語は、示された値±その値の 1% を意味するか、又は「約」という用語は、示された値±その値の 2% を意味するか、又は「約」という用語は、示された値±その値の 5% を意味するか、又は「約」という用語は、示された値±その値の 10% を意味するか、又は「約」という用語は、示された値±その値の 20% を意味するか、又は「約」という用語は、示された値±その値の 30% を意味する。好ましくは、「約」という用語は、正確に示された値(±0%)を意味する。
【0038】
本発明の説明及び請求項全体にわたって、「含む(comprise)」という単語及びその変形 (「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、「含有する(containing)」など) は、通常、限定するものではなく、従って、例えば技術的特徴、添加物、構成要素、又は工程などの他の特徴を排除するものではない。ただし、ここで「含む」という単語が使用されるときはいつでも、この単語が限定的であると理解される特別な実施形態も含まれる。この特定の実施形態によれば、「含む」という単語は「~からなる」という用語の意味を有する。
【0039】
本発明を説明する文脈(特に以下の請求項の文脈)における「a」及び「an」及び「the」という用語の使用及び類似の指示対象は、本明細書で特に断りのない限り、又は文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数形と複数形の両方を含むものと解釈される。本明細書における値の範囲の記載は、本明細書で特に断りのない限り、その範囲内にある各個別の値を個別に参照するための簡略な方法としてのみ意図されており、各個別の値は、本明細書で個別に記載されたかのように明細書に組み込まれる。本明細書で説明されている全ての方法は、本明細書で特に断りのない限り、又は文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行できる。
【0040】
本書で提供されるすべての例、又は例示的な言葉 (例えば、「など(such as)」) の使用は、単に本発明をよりわかりやすく説明することを目的としており、特に請求されない限り、本発明の範囲を制限するものではない。明細書のいかなる言葉も、請求されていない要素が本発明の実施に不可欠であることを示すものとして解釈されるべきではない。
【0041】
S. サーモフィラス株の細胞外多糖構造及びeps遺伝子クラスター
本発明の目的は、食品の製造に適した、保水能力の向上に寄与する、S. サーモフィラス株によって生産される細胞外多糖の構造を提供することである。本発明者らはまた、対応する eps 遺伝子クラスターを分析し、本発明の細胞外多糖の生産に関与する遺伝子配列を特定した。これらの細胞外多糖は、モッツァレラなどのチーズの生産に望ましい優れた保水能力および比較的低い剪断応力に関与している。実施例 1 に示すように、このような細胞外多糖を生産する菌株 (DSM33981 及び DSM33982) は、優れた保水能力を備えた発酵乳を生産する。
【0042】
DSM33981 株は、配列番号 1 の eps 遺伝子クラスターを持ち、図 1に示すような反復単位を持つ多糖類を生成する。DSM33982 株は、配列番号2の eps 遺伝子クラスターを持ち、
図2 に示すような反復単位を持つ多糖類を生成する。
【0043】
これらの多糖類を生産する株は、好ましくは、列挙された eps 遺伝子クラスターに対して 95% 以上の配列同一性、例えば95%、96%、97%、98%、又は 99% を有する。最も好ましくは、配列は 100% の同一性を有する。
【0044】
LAB は、異なるゲノム成分によってコード化された 2つの経路、すなわちスクラーゼ依存性経路と Wzy 依存性経路によって細胞外多糖類を生成することが示されている (Zeidan et al., 2017)。S. サーモフィラスにはスクロース依存性経路がなく、ここでは eps クラスターと呼ばれる遺伝子クラスターにコード化された Wzy 依存性経路によってのみ細胞外多糖類を合成する(Zeidan et al., 2017)。一般的に、eps クラスターは、糖転移酵素をコード化する生合成遺伝子の可変領域を挟む、よく保存された遺伝子の領域で構成されている。この可変性が多糖構造の多様性の根底にあり、糖転移酵素は、その後長いポリマーに組み立てられる反復単位の構築を担っている。反復単位は細胞内で合成され、新生グリコシドは脂質膜に固定される。プロセスの最初の工程はプライミンググリコシルトランスフェラーゼによって触媒され、通常はウンデカプレニルリン酸である脂質アンカーに糖モノマーを結合させてプライミングする (Islam et al., 2014)。最初の糖モノマーが結合した後、eps クラスターにコード化されたグリコシルトランスフェラーゼが残りの糖モノマーを順次追加し、反復単位全体が完成する。
【0045】
反覆単位が完成すると、細胞膜の外側に反転され、ポリメラーゼによって繰り返し単位の伸長鎖に追加される (Islam et al.、2014)。
【0046】
この構造は、さまざまな LAB 株の保水能力の違いに影響を与えると考えられている。
【0047】
細胞外多糖類及び/又はそのような細胞外多糖類を産生するS.サーモフィルス株を含む組成物
本発明はまた、記載した本発明の細胞外多糖類及び/又はS.サーモフィルス株を含む組成物及びスターター培養物も提供する。
【0048】
S. サーモフィルス種の細菌を含む LAB は、通常、バルクスターター増殖用の凍結 (F-DVS(商品登録)) 又は凍結乾燥 (FD-DVS(商品登録)) 培養物として、又は発酵乳製品などの乳製品の製造のために発酵容器又はバットに直接接種することを目的とした、いわゆる「ダイレクトバットセット」(DVS(商品登録)) 培養物として、乳製品業界に供給されている。このような乳酸菌培養物は、一般的に「スターター培養物(starter cultures)」又は「スターター(starters)」と呼ばれる。従って、本発明の組成物は、凍結又は凍結乾燥することができる。さらに、本発明の組成物は、液体の形で提供することができる。従って、1つの実施形態によれあ、組成物は、凍結、乾燥、凍結乾燥、又は液体の形態である。
【0049】
本発明の組成物又はスターター培養物には、凍結保護剤、凍結保護剤、抗酸化剤、栄養素、充填剤、香味料、又はそれらの混合物も追加で含まれていてもよい。組成物は、凍結保護剤、凍結保護剤、抗酸化剤及び/又は栄養素のうちの1つ以上を含むことが好ましく、凍結保護剤、凍結保護剤及び/又は抗酸化剤を含むことがさらに好ましく、凍結保護剤又は凍結保護剤、又はその両方を含むことが最も好ましい。凍結保護剤及び凍結保護剤などの保護剤の使用は、当業者に既知である。適切な凍結保護剤又は凍結乾燥保護剤としては、単糖類、二糖類、三糖類及び多糖類(グルコース、マンノース、キシロース、ラクトース、スクロース、トレハロース、ラフィノース、マルトデキストリン、デンプンおよびアラビアゴム(アカシア)など)、ポリオール(エリスリトール、グリセロール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、トレイトール、キシリトールなど)、アミノ酸(プロリン、グルタミン酸など)、複合物質(脱脂乳、ペプトン、ゼラチン、酵母エキスなど)、及び無機化合物(トリポリリン酸ナトリウムなど)が挙げられる。
【0050】
1つの実施形態によれば、本発明による組成物又はスターター培養物は、イノシン-5’-一リン酸(IMP)、アデノシン-5’-一リン酸(AMP)、グアノシン-5’-一リン酸(GMP)、ウラノシン-5’-一リン酸(UMP)、シチジン-5’-一リン酸(CMP)、アデニン、グアニン、ウラシル、シトシン、アデノシン、グアノシン、ウリジン、シチジン、ヒポキサンチン、キサンチン、ヒポキサンチン、オロチジン、チミジン、イノシン、及びこれらの化合物の誘導体からなる群から選択される1つ又は複数の凍結保護剤を含み得る。適切な抗酸化剤には、アスコルビン酸、クエン酸及びその塩、没食子酸、システイン、ソルビトール、マンニトール、マルトースが含まれる。適切な栄養素には、糖、アミノ酸、脂肪酸、ミネラル、微量元素、ビタミン(ビタミンB群、ビタミンCなど)が含まれる。組成物は、必要に応じて、充填剤(ラクトース、マルトデキストリンなど)及び/又は香料などのさらなる物質を含んでいてもよい。
【0051】
本発明の1つの実施形態によれば、凍結保護剤は、凍結保護機能に加えてブースター効果を有する薬剤又は薬剤の混合物である。
【0052】
「ブースター効果(booster effect)」という表現は、凍結保護剤が解凍又は再構成された培養物を発酵又は変換する培地に接種すると、その培養物に代謝活性(ブースター効果)が増加する状況を説明するために使用される。生存率と代謝活性は同義語ではない。市販の凍結又は凍結乾燥培養物は、代謝活性のかなりの部分を失っている可能性があるが、生存率は保持されている可能性がある。例えば、培養物は、保管期間が短くても酸生成(酸性化)活性を失う可能性がある。従って、生存率とブースター効果は、異なるアッセイで評価する必要がある。生存率はコロニー形成単位の測定などの生存率アッセイによって評価されるのに対し、ブースター効果は、培養物の生存率と比較して、解凍又は再構成された培養物の関連する代謝活性を定量化することによって評価される。用語「代謝活性(metabolic activity)」は、培養物の酸素除去活性、その酸生成活性、すなわち、例えば乳酸、酢酸、ギ酸及び/又はプロピオン酸の生成、又はその代謝産物生成活性、例えばアセトアルデヒド、(α-アセト乳酸、アセトイン、ジアセチル及び 2,3-ブチレングリコール (2,3-ブタンジオール)) などの芳香化合物の生成を指す。
【0053】
1つの実施形態によれば、本発明の組成物又はスターター培養物は、材料の重量%として測定された凍結保護剤又は薬剤の混合物を0.2~20%含む。しかし、凍結保護剤又は薬剤の混合物を、凍結材料の重量%として測定された凍結保護剤又は薬剤の混合物の2~5%の範囲内を含む、重量で0.2~15%、0.2~10%、0.5~7%、及び1~6%の範囲の量で添加することが好ましい。好ましい実施形態によれば、培養物は、材料の重量%として測定された凍結保護剤又は薬剤の混合物を約3%含む。凍結保護剤の約3%の量は、100mMの範囲の濃度に対応する。本発明の実施形態の各側面について、範囲は、記載された範囲の増分であってもよいことを認識すべきである。
【0054】
さらなる側面によれば、本発明の組成物又はスターター培養物は、細菌細胞、例えば S.サーモフィルス種に属する細胞、例えば (実質的) ウレアーゼ陰性細菌細胞に対するブースター (例えば、成長ブースター又は酸性化ブースター) としてアンモニウム塩 (例えば、有機酸のアンモニウム塩 (例えば、ギ酸アンモニウム及びクエン酸アンモニウム) 又は無機酸のアンモニウム塩) を含むか又は含む。「アンモニウム塩」、「ギ酸アンモニウム」などの用語は、塩又はイオンの組み合わせの供給源として理解されるべきである。例えば「ギ酸アンモニウム」又は「アンモニウム塩」の「供給源」という用語は、細胞培養物に添加されるとギ酸アンモニウム又はアンモニウム塩を提供する化合物又は化合物の混合物を指す。いくつかの実施形態によれば、アンモニウム源はアンモニウムを成長培地に放出し、他の実施形態によれば、アンモニウム源は代謝されてアンモニウムを生成する。いくつかの好ましい実施形態によれば、アンモニウム源は外因性である。いくつかの特に好ましい実施形態によれば、アンモニウムは乳製品基質によって供給されない。もちろん、アンモニウム塩の代わりにアンモニアを添加してもよいことは理解されるべきである。従って、アンモニウム塩という用語は、アンモニア(NH3)、NH4OH、NH4
+などを含む。
【0055】
1つの実施形態によれば、本発明の組成物は、ペクチン(例えば、HMペクチン、LMペクチン)、ゼラチン、CMC、大豆繊維/大豆ポリマー、デンプン、加工デンプン、カラギーナン、アルギン酸塩、及びグアーガムなどの増粘剤及び/又は安定剤を含んでいてもよい。
【0056】
食品又は飼料製品の製造方法
本発明はさらに、本発明の第1の態様で定義される少なくとも1つの細胞外多糖類及び/又はS.サーモフィルス株、及び/又は本発明の第2の態様で定義される組成物又はスターター培養物を使用する少なくとも1つの段階を含む食品の製造方法に関する。食品の製造は、当業者に知られている方法によって行われる。
【0057】
1つの側面によれば、本発明は、本発明の細胞外多糖類の少なくとも1つが使用される少なくとも1つの段階を含む食品の製造方法に関する。
【0058】
別の実施形態によれば、本発明は、乳酸菌株S.サーモフィルスDSM33981又はその変異体もしくは変種を使用する少なくとも 1 つの段階を含む食品の製造方法に関する。
【0059】
別の実施形態によれば、本発明は、乳酸菌株S.サーモフィルスDSM33982又はその変異体もしくは変種を使用する少なくとも 1 つの段階を含む食品の製造方法に関する。
【0060】
例えば、本発明の方法は、少なくとも 1x106CFU/mL、好ましくは少なくとも 1x108CFU/mL のS.サーモフィルスDSM33981株又はその変異体もしくは変種を含む組成物で乳基質を発酵することを含む。
【0061】
例えば、本発明の方法は、少なくとも 1x106CFU/mL、好ましくは少なくとも 1x108CFU/mL のS.サーモフィルスDSM33982株又はその変異体もしくは変種を含む組成物で乳基質を発酵することを含む。
【0062】
別の好ましい実施形態によれば、この方法は、本発明の第2の態様のいずれかの実施形態で説明した組成物を用いて乳基質を発酵させることを含む。
【0063】
好ましくは、食品は乳製品であり、そして方法は、その実施形態のいずれにおいても、少なくとも1つのS.サーモフィルス及び/又は本発明による組成物又はスターター培養物を用いて乳基質(本発明の文脈では「乳ベース」とも呼ばれる)を発酵させることを含む。
【0064】
好ましくは、食品は乳製品であり、そして方法は、いずれの実施形態でも、植物性乳基質(本発明の文脈では「植物性乳ベース」とも呼ばれる)、例えば豆乳、好ましくはグルコース(例えば、0.5~5%グルコース、好ましくは0.5~2%グルコース、より好ましくは約2%)を添加した豆乳を、少なくとも1つのS.サーモフィルス株及び/又は本発明による組成物又はスターター培養物(それぞれ第1及び第2の側面)で発酵させることを含む。
【0065】
本発明による食品は、有利には、ペクチン(例えば、HM ペクチン、LM ペクチン)、ゼラチン、CMC、大豆繊維/大豆ポリマー、デンプン、加工デンプン、カラギーナン、アルギン酸塩、及びグアーガムなどの「増粘剤」及び/又は「安定剤」をさらに含み得る。
【0066】
特定の実施形態によれば、食品は乳製品、肉製品、野菜製品、果物製品、又はシリアル製品である。好ましい実施形態によれば、食品は上記で定義した乳製品である。別の好ましい実施形態によれば、食品は発酵豆乳などの植物ベースの食品である。
【0067】
本発明の特定の実施形態によれば、発酵乳製品は、モッツァレラチーズ、ヨーグルト、ケフィア、サワークリーム、チーズ、クワルクからなる群から選択される。モッツァレラが特に好ましい。本発明の好ましい実施形態によれば、発酵乳製品には、フルーツ飲料、シリアル製品、発酵シリアル製品、化学的に酸性化されたシリアル製品、豆乳製品、発酵豆乳製品、及びそれらの混合物からなる群から選択されるさらなる食品製品が含まれる。別の好ましい実施形態によれば、発酵乳製品は、発酵豆乳などの植物ベースの発酵乳製品である。
【0068】
発酵乳製品には、通常、1.0~12.0重量%、好ましくは2.0~10.0重量%のタンパク質が含まれている。特定の実施形態によれば、サワークリームには、1.0~5.0重量%、好ましくは2.0~4.0重量%のタンパク質が含まれている。特定の実施形態によれば、クワルクには、4.0~12.0重量%、好ましくは5.0~10.0重量%のタンパク質が含まれている。
【0069】
好ましくは、食品は、本発明に記載の活性 eps遺伝子クラスターを有するS.サーモフィルス株、EPS の少なくとも 1 つを使用しない、及び/又は記載した組成物又はスターター培養物を使用しない同等の方法によって製造された食品と比較して、改善された保水能力を有する (本発明に記載の実施例 1 など)。
【0070】
本明細書に別途記載がない限り、又は文脈によって明らかに矛盾しない限り、上記の要素、側面、及び実施形態のあらゆる可能なバリエーションの任意の組み合わせは、本発明に包含される。本発明の実施形態は、例としてのみ以下に記載される。
【実施例1】
【0071】
実施例1:所望の細胞外多糖類を生成するS.サーモフィラス菌株を用いた発酵乳の保水能力の評価。
2%ラクトースを含む M17 ブロスで一晩培養した培養物は、剪断応力測定用の強熱処理脱脂乳 (SHT-SM) 及び保水力測定用の低温殺菌低脂肪乳 (past-LFM) でのミルクの酸性化 (接種量 1%) に使用された (例: モッツァレラ チーズへの応用)。SHT-SM は、38% タンパク質、53% ラクトース、S.サーモフィルスを含む脱脂粉乳を再構成して調製した(Derzelle、Bolotin、Mistou、& Rul、2005)。
【0072】
保水能力は遠心分離によって測定され、そして遠心分離及びホエー除去後のサンプルに残っているカードの割合として表された。
【0073】
脂肪分1.5%、タンパク質 3.8% を含むArla 産低温殺菌低脂肪牛乳を90℃で20分間低温殺菌し、40℃まで冷却し、S.サーモフィルスの増殖を刺激するために0.003%の Na+-ギ酸 (HCOONa) を添加した。
【0074】
滅菌した空のプラスチックボトルの重量を測り、1% の一晩培養物と0.003% の Na+-ギ酸を含む低温殺菌した低脂肪牛乳 200mLを加えた。サンプルはpH 4.55 になるまで 40℃で培養し、その後氷水中で 30 分間冷却し、4℃で一晩放置した。サンプルは 2325xgで3 分間遠心分離し、ホエーをプラスチックボトルから慎重に注ぎ出した。サンプルはホエー除去前と除去後に重量を計測した。保水能力 (WHC) は、ホエー除去後にサンプルに残ったカードの割合として表した。各サンプルを 4 回繰り返し、1回は pH 電極を使用して牛乳の酸性化をモニターし、残りの 3回は保水能力の測定に使用した。
【0075】
【0076】
請求された細胞外多糖構造を生成する所望のeps遺伝子クラスターを有する2つの例示株は、高い保水能力と低い剪断応力の組み合わせを明確に示している。
【0077】
実施例2:S.サーモフィラス株におけるEPS及びCPS産生の評価。
多糖類画分は、成長の定常期に収集されたサンプルからエタノール沈殿によって精製され、フェノール硫酸法によって定量化されて総糖含有量が決定された。成長は、2% ラクトース (CDMLac) を添加した化学的に定義された培地で、嫌気性条件下、一定の pH6.5、40℃で実施された。pH は NaOH の添加によって一定に保たれた。値は、少なくとも 5つの技術的反復の平均 ± 標準偏差である。
【0078】
【0079】
実施例の菌株は、本発明の排出型EPSを主に生成する。これまでは、EPSの量が増えると必然的に粘度が上昇し、つまり剪断応力が大きくなると考えられていた。特許請求された構造の EPS は、高い保水能力と比較的低い剪断応力の両方を統合することができる (実施例1)。
【0080】
実施例3: 細胞外多糖構造の決定
菌株は、嫌気条件下、化学的に定義された培地で40℃で24 時間培養された。その後、培養物を遠心分離し (10,000xg、1時間、4℃)、上清をトリクロロ酢酸 80%(w/v)で処理して最終濃度を20% にした。沈殿は4℃で 2 時間撹拌しながら進行させた。混合物を遠心分離し (10,000xg、1 時間、4℃)、上清に等量のアセトン (4℃) を加えて粗EPS を沈殿させた。軽く撹拌しながら 4℃で一晩沈殿させた後、サンプルを遠心分離しました (10,000xg、1 時間、4℃)。ペレットを50%アセトン(4℃)で3回洗浄し、得られたペレットを激しく撹拌しながら50mLの蒸留水に懸濁した。懸濁液を5分間超音波処理して透明な溶液を得た。最後に、この溶液を4℃の蒸留水(5L)に対して12時間透析した。透析は合計3回繰り返し、それぞれ新鮮な蒸留水に対して行った。透析バッグの内容物を凍結乾燥し、激しく撹拌し超音波処理することでEPS残留物を1mLのD2Oに溶解した。
【0081】
NMR による構造解明のために、パルス フィールド グラジエントを備えた 3 チャンネル逆検出プローブ (TXI) を装備した、陽子動作周波数800.33MHz で動作する AVANCE III 800 分光計 (Bruker、Rheinstetten、Germany) でスペクトルを取得した。構造解明のための2次元スペクトルは、Bruker の標準パルス プログラムを使用して 60oC で取得した。HSQC マップ内のすべての共鳴を完全に割り当てるために、陽子同核シフト相関分光法 (COSY)、全相関分光法 (TOCSY)、1H-13C 多重度編集異核単一量子コヒーレンス スペクトル (ed-HSQC)、及び2 次元 HSQC-TOCSY を使用した。1D 1Hスペクトルから直接測定された 3JH1、H2と、非分離HSQC スペクトルから測定された 1JC、H1を使用して、糖環の構成を確立した。異核多重結合接続スペクトル (HMBC) を取得して、グリコシド結合の位置を決定した。糖モノマーの同一性は、1H 及び 13C 化学シフト パターンによって確立され、可能な場合は、明確な 3JH、Hカップリングの決定によっても確立された。
【0082】
【0083】
実施例4:eps遺伝子クラスターの決定
eps クラスターは両端に保存された遺伝子を持っているため、クラスターの最初と最後の遺伝子の既知のタンパク質配列について注釈付きゲノムの翻訳された遺伝子配列を検索することにより、BLAST を使用して識別された。Zeidan et al. (2017) によってレビューされた LAB の eps クラスター内の遺伝子の構成は、個々の種の最初と最後の eps 遺伝子 (例:S.サーモフィルス の epsA とorf14.9) を決定するために使用された。最初と最後の遺伝子の両方で 90% を超える配列同一性と 90% を超えるカバレッジを持つ単一のヒットが見つかった場合、2 つのヒット間とそのヒットを含むすべての遺伝子が抽出され、eps クラスターとして使用された。
【0084】
寄託物
ストレプトコーカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)株DSM33981は、2021年8月18日、受託番号DSM33981として、DSMZ (Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbFI, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germany)で寄託された。
【0085】
ストレプトコーカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)株DSM33982は、2021年8月18日、受託番号DSM33982として、DSMZ (Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbFI, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germany)で寄託された。
【0086】
寄託物は、特許手続き上の微生物の寄託の国際承認に関するブダペスト条約の条件に基づいて行われた。出願人は、寄託された微生物のサンプルが出願人によって承認された専門家にのみ提供されることを要求する。
【0087】
参考文献
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【配列表】
【国際調査報告】