(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】酸化ハフニウム(IV)ナノ粒子及びその水性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/02 20060101AFI20241108BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241108BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241108BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20241108BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241108BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20241108BHJP
A61K 33/244 20190101ALI20241108BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241108BHJP
A61K 49/18 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
A61K47/02
A61K47/10
A61K9/14
A61K47/69
A61K47/18
A61K9/10
A61K33/244
A61P43/00 121
A61K49/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531035
(86)(22)【出願日】2022-11-23
(85)【翻訳文提出日】2024-07-19
(86)【国際出願番号】 EP2022083006
(87)【国際公開番号】W WO2023094463
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2022-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512154932
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート・バーゼル
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAT BASEL
【住所又は居所原語表記】Petersgraben 35, 4001 Basel, Switzerland
(71)【出願人】
【識別番号】513008731
【氏名又は名称】ユニヴェルシテイト ヘント
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITEIT GENT
【住所又は居所原語表記】Sint-Pietersnieuwstraat 25, B-9000 Gent, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】デブロック,ローレン
(72)【発明者】
【氏名】デ ルー,ジョナサン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076AA29
4C076AA65
4C076AA95
4C076BB16
4C076DD21
4C076DD29
4C076DD52
4C076EE23F
4C076FF68
4C076GG21
4C085HH01
4C085JJ03
4C085JJ11
4C085KA16
4C085KB12
4C085KB28
4C085LL03
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA06
4C086HA21
4C086MA01
4C086MA43
4C086MA63
4C086NA13
4C086ZC75
4C086ZC78
(57)【要約】
本発明は、表面に付着した複数の分散剤分子により安定化された、直径15nm以下(≦)を含むか又は有する酸化ハフニウム(IV)(HfO2)ナノ粒子ナノ結晶に関する。分散剤分子は、カテコール又はガロール表面吸着部分と、オリゴ(エチレングリコール)部分とで構成される。本発明は、生理的pHにて安定なコロイド懸濁物であるそのようなナノ粒子の組成物と、医療処置及び診断用途、特に放射線療法の増強及びX線造影剤としての組成物の使用にさらに関する。さらに別の態様において、本発明は、本発明に従う組成物及びナノ粒子を製造する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.15nm以下の直径を有する酸化ハフニウム(IV)(HfO
2)を含むか又は該酸化ハフニウム(IV)から本質的になるナノ結晶と、
b.前記ナノ結晶の表面に付着した複数の分散剤分子であって、各々が、
i.カテコール又はガロールを含む群より選択される表面吸着部分、特に1,2-ヒドロキシ-4-ニトロフェニル部分と、
ii.オリゴ(エチレングリコール)部分と
を含むか又は該両部分からなる分散剤分子と
を含むナノ粒子。
【請求項2】
ナノ結晶が6nm以下の直径を有し、特に直径が4nm以下であり、より具体的には直径が3.5nm以下である、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
ナノ結晶が0.5~0.9のアスペクト比を特徴とする、請求項1又は2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
分散剤分子が500g/molの分子質量、特に400g/mol以下の分子質量を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項5】
分散剤分子が、
i.ニトロドーパミン、ニトロDOPA、DOPA、ドーパミン、ミモシンから選択される表面吸着部分と、
ii.(CH
2-CH
2-O)
nCH
3部分(式中、nは2、3、4及び5から選択される整数である)と
を含み、特に該両部分からなる、請求項1~4のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項6】
分散剤分子が、
【化1】
を含み、特に式(I)の化合物からなる、請求項1~5のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項7】
ナノ粒子が更なる分散剤分子を含み、前記更なる分散剤分子が、
【化2】
(式中、R
dyeは蛍光色素である)
からなる群より選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項8】
ナノ結晶上の分散剤分子の密度が0.5~5/nm
2である、請求項1~7のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項9】
光学的位置決定のための色素分子を含む請求項1~8のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項10】
複数の、請求項1~9のいずれか1項に記載のナノ粒子を含む組成物。
【請求項11】
安定水性懸濁物である請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
pH6~pH10のpH、特にpH6.5~pH8.0のpHを有する請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
ナノ粒子の80%が2.0nmと5.0nmとの間の直径を有し、特にナノ粒子の85%が2.5nmと4.5nmとの間の直径を有する、請求項10~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
医薬用の、請求項10~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
放射線療法増強剤(放射線増感剤)として用いるための、請求項10~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
コンピュータ断層撮影(CT)造影剤として用いるための、請求項10~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
a.水性媒体中でカルボン酸リガンド、特にMEEAAにより安定化された酸化ハフニウム(IV)(HfO
2)ナノ結晶の懸濁物を準備する工程と、
b.前記懸濁物に、分散剤分子のアルカリ性溶液を加える工程であって、前記分散剤分子が、
i.2つの芳香族水酸化物官能基を含む表面吸着部分であって、カテコール又はガロールを含む群より選択される表面吸着部分、特に1,2-ヒドロキシ-4-ニトロフェニル部分と、
ii.オリゴ(エチレングリコール)部分と
で構成され、両方の芳香族水酸化物官能基は前記アルカリ性溶液中で脱プロトン化される、工程と、
c.懸濁物のpHを生理学的pHに調整する工程と、
d.任意選択的に、組成物を、特にサイズ排除/スピンろ過により単離する工程と
を含む、請求項10~13のいずれか1項に記載の組成物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年11月23日出願の欧州特許出願第21210057.2号及び2022年5月24日出願の欧州特許出願第22175125.8号の優先権を主張し、これらはともに参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本発明は、表面に吸着したオリゴ(エチレングリコール)部分と組み合わされた酸化ハフニウム(IV)ナノ粒子に関する。本発明は、さらに、医薬又は診断薬として用いるための、本発明のナノ粒子を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
コロイドナノ結晶(NC)は、多くの生物医学的用途、例えばバイオイメージング、ドラッグデリバリー、光温熱療法及び放射線療法の増強のために考慮されてきている。これらのNCは、代表的には、有機リガンドでキャッピングされた無機コアからなるハイブリッド物である。リガンドは、NCと溶剤との間の相互作用、及びナノコロイドの安定性を決定する。生物医学的用途の場合、NC表面化学の制御は、重要である。なぜなら、これは、粒子凝集、細胞取り込み、タンパク質反発又は吸着、細胞傷害性、循環時間及び標的化アプローチにおいて役割を演じるからである。表面化学は全てのタイプのNC(カルコゲナイド、プニクタイド、ハライド及び金属NC)にとって重要であるが、全てのものに当てはまる1つの解決法は存在しない。例えば、チオレート及びチオールは、Au及びCdSe NCに強い結合親和性を有するが、金属酸化物NCとの相互作用は乏しい。
【0004】
金属酸化物NCは、ナノ医薬において特に成功している。3つのタイプの無機NCが、臨床への移行を達成し、そのうち2つは酸化物、酸化鉄及び酸化ハフニウムである(Min, Y. Chemical Reviews 2015, 115(19), 11147~11190)。これらの粒子は、しばしば、非極性溶剤中でまず合成され、(通常、カルボキシレート又はホスホネート頭基及び脂肪族のテイルを有する)界面活性剤により安定化される。カルボン酸(例えばオレイン酸)は、金属酸化物表面上で解離し、カルボキシレートが表面金属部位と結合し、プロトンが表面酸素原子と結合する。この結合モチーフは、NC(XX')と記載される。なぜなら、プロトン及びカルボキシレートの両方がX型リガンドであるからである。非極性溶剤中で、カルボン酸は、X対Xのリガンド交換プロセスにおいてホスホン酸と定量的に交換される。実際に、ホスホン酸は、酸化表面に対して非常に強いリガンドである。対照的に、カテコールは、むしろ弱いリガンドであることが見いだされており、オレイン酸のわずかな画分を交換できるだけである。よって、非極性溶剤中での結合強度には明らかな順序、すなわちカテコール<カルボン酸<ホスホン酸がある。
【0005】
水性(又は他の極性)環境中で、この順序はそれほど明確でなく、様々な因子、例えばpH及び塩濃度によりさらに複雑になる。例えば、カルボン酸は、水中の金属酸化物NCを安定化するために頻繁に用いられる。これらは、競合リガンドのいない静止系においてコロイド安定性をもたらすことができるが、リン酸緩衝液(PBS)又は細胞培養培地中ではそうではない。結合親和性は、多座配位のカルボキシレートリガンド、例えばポリマーについて著しく増加する。一般的に、文献での報告は、カルボン酸が水中で最も弱いリガンドであり、ホスホン酸又はカテコールよりも弱いことと一致している。文献は、しかし、ホスホン酸又はカテコールが最良のリガンドであるかについては確定的でない。金属酸化物NC官能化におけるホスホン酸及びカテコールの一般的な使用にもかかわらず、相対的結合親和性についての明確な共通認識はない。さらに、リガンド結合平衡とNCの最終的なコロイド安定性との間の直接的なつながりは、通常、ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の現状に基づいて、本発明の目的は、医薬用途のためのよりよいナノ粒子組成物を提供する手段及び方法を提供することである。この目的は、本明細書の独立請求項の主題と、さらに、本明細書の従属請求項、実施例、図面及び一般記載に記載される有利な実施形態により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、15nm以下の直径(直径≦15nm)を有する酸化ハフニウム(IV)(HfO2)を含むか又は該酸化ハフニウムから本質的になるナノ結晶であって、その表面に付着した複数の分散剤分子により安定化されているナノ結晶を含むナノ粒子に関する。
分散剤分子は、カテコール又はガロールを含む群より選択される表面吸着部分と、オリゴ(エチレングリコール)部分とを含むか又は該両部分から本質的になる。
【0008】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載するナノ粒子の組成物に関する。組成物は、生理学的pHにてナノ粒子を安定なコロイド懸濁物で提供する。
本発明の別の態様は、処置及び診断用途における、特に放射線療法を増強するため、及びX線造影剤としての、本明細書に記載するナノ粒子及び組成物の使用に関する。
【0009】
本発明は、本発明に従うナノ粒子又はナノ粒子懸濁物と、少なくとも1種の薬学的に許容される担体、希釈剤又は補形剤とを含む医薬組成物にも関する。
さらに別の態様において、本発明は、本発明に従う組成物及びナノ粒子を製造する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
用語及び定義
本明細書を解釈する目的のために、以下の定義を適用し、適切であればいつでも、単数形で用いる用語は、複数も含み、その逆も同様である。以下の定義が、参照により本明細書に組み込まれる文書と矛盾する場合、ここに示す定義が支配する。
【0011】
用語「含む(comprising)」、「有する」、「含む(containing)」及び「含む(including)」並びにその他の同様の形、並びにその文法的に等価な形は、本明細書で用いる場合、等価な意味であり、これらの語の後に続く事項が当該事項を網羅したリストを意味しないか、又は列挙された事項だけに限定されることを意味しないオープンエンドであると意図されている。例えば、成分A、B及びCを「含む」物は、成分A、B及びCからなる(すなわち、それらだけを含む)こともでき、又は成分A、B及びCだけでなく、1以上の他の成分も含むこともできる。よって、「含む」及びその類似の形、並びにその文法的に等価な形は、「本質的に・・・からなる」又は「・・からなる」の実施形態の開示を含むことを意図され、理解される。
【0012】
値の範囲が記載されている場合、当該範囲の上限と下限との間の各値(文脈がそうでないと明示していない限り、下限値の単位の10分の1までの値)及び当該記載された範囲内の他の記載されたか又は該範囲内に位置する値のいずれもが、当該記載された範囲内で明示的に除外されている限界値を除き、本開示に包含されることが理解される。記載された範囲が一方又は両方の限界値を含む場合、この含まれる一方又は両方の限界値を除く範囲も、本開示に包含される。
【0013】
「約」を付した値又はパラメータへの言及は、本明細書において、当該値又はパラメータ自体に向けられた変動を含む(かつ記載する)。例えば、「約X」との記載は、「X」との記載を含む。
添付の特許請求の範囲を含む本明細書で用いる場合、単数形「a」、「or」及び「the」は、文脈がそうでないと明示しない限り、複数への言及を含む。
【0014】
そうでないと定義しない限り、本明細書で用いる全ての技術的及び科学的用語は、(例えば細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術及び生化学の)当業者により一般的に理解されるものと同じ意味である。分子的、遺伝子的及び生化学的方法(一般的に、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第4版(2012) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.及びAusubelら、Short Protocols in Molecular Biology (2002)第5版、John Wiley & Sons, Inc.)及び化学的方法について、標準的な技術を用いる。
【0015】
用語「ニトロドーパミン」は、ドーパミン部分のジヒドロキシフェニル環上にニトロ官能基を有するドーパミン部分のことをいう。ニトロドーパミンの1つの具体的な例は、以下の式である。
【化1】
【0016】
用語「ニトロDOPA」は、DOPAのジヒドロキシフェニル環上(ジヒドロキシフェニルアラニン部分)にニトロ官能基を有するDOPA部分のことをいう。ニトロDOPAの1つの具体的な例は、以下の式である。
【化2】
【0017】
用語「ミモシン」は、以下の式の(2S)-2-アミノ-3-(3-ヒドロキシ-4-オキソピリジン-1-イル)プロパン酸のことをいう。
【化3】
【0018】
オリゴ-エチレングリコール部分とは、本明細書で用いる場合、式(CH2-CH2-O)nCH3(式中、nは1~15の整数であり、特にnは2~12であり、より具体的にはnは2~5である)により記載される鎖をいう。
【0019】
本明細書が基づく研究において、本発明者らは、結合親和性の順序を明確に確立し、ナノ医薬における最適な応用のための正しい表面化学を提供することを目指した。本発明者らは、2つの理由から、HfO2 NCをモデル系として選択した:(1)これは、ナノ医薬において適切な材料であり、(2)溶液核磁気共鳴(NMR)分光学と適合する。後者は、ナノ結晶表面化学の研究のための非常に強力なツールであることが証明されている。残念ながら、酸化鉄NCは磁場に干渉し、NMRで研究できない。よって、HfO2 NCは理想的な開始点であり、また、その表面化学は、NMR分光学を用いて非極性溶剤中で網羅的に既に研究されていることも理由である。まず、本発明者らは、1H及び31P NMR分光学を用いて、天然カルボン酸リガンドの、ホスホン酸及びカテコールリガンドに対するリガンド交換を評価した。重要なことに、本発明者らは、3つ全ての結合基について同じポリ(エチレングリコール)リガンド鎖を用いたので、結果を確実に直接比較することができる。次に、本発明者らは、リガンド結合に対する溶剤(メタノール 対 水)及びpHの影響を評価した。さらに、本発明者らは、NMR及び動的光散乱(DLS)を用いて、水性及び緩衝環境における異なるリガンドタイプによりもたらされるコロイド安定性を決定し、これをリガンド結合力学と直接相関させた。最後に、本発明者らは、どの結合基がpHの関数でコロイド安定性をもたらすかを示すコロイド安定性マップを構築した。この実務的な手引きは、将来の表面化学の設計において研究者の手助けとなる。
【0020】
発明の詳細な説明
本発明の第1の態様は、ナノ結晶コアと、該ナノ結晶コアに吸着した有機安定剤とを含むナノ粒子であって、有機安定剤が生理学的pHの水溶液中で該粒子の安定性を促進する、ナノ粒子に関する。
ナノ粒子は、15nm以下の直径(直径≦15nm)を有する酸化ハフニウム(IV)(HfO2)を含むか又は該酸化ハフニウムから本質的になるナノ結晶と、該ナノ結晶の表面に付着した複数の分散剤分子とで構成される。分散剤分子は、
i.カテコール又はガロールを含む群より選択される表面吸着部分、特に1,2-ヒドロキシ-4-ニトロフェニル部分と、
ii.オリゴ(エチレングリコール)部分とを含むか又は該両部分から本質的になる。
【0021】
このような分散剤分子の非限定的な一例は、ドーパミン-MEEAAアダクト(MEEAAは2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸である)である。
【化4】
【0022】
あるいくつかの実施形態において、ドーパミン-オリゴ(エチレングリコール)分散剤分子は、より一般的には、一般式:
【化5】
(式中、nは1、2、3、4、5、6から選択される)
と記載できる。
【0023】
あるいくつかの実施形態において、ドーパミン-オリゴ(エチレングリコール)分散剤分子は、より一般的には、一般式:
【化6】
(式中、nは1、2、3、4、5、6から選択される)
と記載できる。
【0024】
あるいくつかの実施形態において、粒子は、純粋な酸化ハフニウム(IV)(HfO2)からなる。これは、化学的に最も容易に入手できるナノ結晶である。しかし、HfO2が粒子の唯一の部分であると考えることができ、例えば、Hf金属がコアを構成し、酸化物が粒子の表面を構成し得る。より高いHf金属含量は、より高いコントラストをもたらすと期待される。
【0025】
あるいくつかの実施形態において、ナノ結晶は6nm以下の直径を有する。具体的な実施形態において、直径は≦4nmである。より具体的な実施形態において、直径は≦3.5nmである。直径が小さいほど、粒子が体内で容易に拡散する傾向が高くなり、腎クリアランスに供される。
【0026】
あるいくつかの実施形態において、ナノ結晶は15nm以下の直径を有する。本発明者らは、直径が約15nmまでの粒子は、CT造影剤として用いる本発明の利点をもたらすと考える。材料の安定性は、分散剤(オリゴエチレングリコール)鎖の長さに依存する。鎖が長いと、より大きい粒子を安定化できる。
【0027】
あるいくつかの実施形態において、ナノ結晶は、0.5~0.9のアスペクト比を特徴とする。本発明者らにより得られた粒子は、略米粒の形であった。形が均一な粒子は、生理的により受け入れられやすいと期待される。
【0028】
あるいくつかの実施形態において、分散剤分子は500g/mol以下の分子質量を有する。あるいくつかの特定の実施形態において、分散剤分子は400g/mol以下の分子質量を有する。
【0029】
あるいくつかの特定の実施形態において、分散剤分子は、
i.ニトロドーパミン、ニトロDOPA、DOPA、ドーパミン、ミモシンから選択される表面吸着部分と、
ii.(CH2-CH2-O)nCH3部分 (式中、nは2、3、4及び5から選択される整数である)とを含み、特に該両部分からなる。
【0030】
あるいくつかの特定の実施形態において、分散剤分子は、一般式:
【化7】
(式中、nは1、2、3、4、5、6から選択される)
で記載される。
【0031】
あるいくつかの特定の実施形態において、分散剤分子は、一般式:
【化8】
(式中、nは1、2、3、4、5、6から選択される)
で記載される。
【0032】
あるいくつかの実施形態において、ナノ粒子は、追加の分散剤分子を含み、ここで、追加の分散剤分子は、
【化9】
(式中、R
dyeは蛍光色素であって、場合によっては、共有結合によりニトロドーパミン部分に、原子番号(order number)12以上の原子を1~25個有するリンカーを介して連結された蛍光色素である)
からなる群より選択される。
【0033】
あるいくつかの特定の実施形態において、追加の分散剤分子は、一般式:
【化10】
(式中、nは1、2、3、4、5、6から選択され、R
Xは色素分子(特に蛍光色素分子)、色素分子との反応を容易にする化学官能基(特に、N
3、NH
2、OH、CCH (エチニル)から選択される化学官能基)からなる群より選択される))
で記載される。
【0034】
用語「蛍光色素」は、本明細書の文脈において、可視又は近赤外スペクトルにおいて蛍光を発することができる小分子に関する。可視色を示す蛍光色素分子又は標識の例は、それらに限定されないが、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、アロフィコシアニン(APC)、ペリジニンクロロフィル(PerCP)、フィコエリスリン(PE)、alexa Fluor(Life Technologies, Carlsbad, CA, USA)、dylight fluor(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)、ATTO色素(ATTO-TEC GmbH, Siegen, Germany)、BODIPY色素(4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセンベースの色素)、800CW色素(インドリウムベースの色素)などを含む。
【0035】
あるいくつかの実施形態において、分散剤は、
【化11】
である。
【0036】
本明細書で用いるオリゴエチレングリコール部分の代替は、それらに限定されないが、オリゴグリセロール及びオリゴオキサゾリン鎖を含む。
あるいくつかの特定の実施形態において、ナノ結晶上の分散剤分子の密度は、0.5~5/nm2である。
あるいくつかの特定の実施形態において、ナノ粒子は、光学的位置決め(局在化)のための色素分子を含む。
【0037】
本発明の別の態様は、上で論じた態様及び実施形態に従うナノ粒子を複数含む組成物に関する。あるいくつかの実施形態において、組成物は、安定水性コロイド懸濁物である。
あるいくつかの実施形態において、組成物はpH6~pH10のpHを有する。あるいくつかの特定の実施形態において、組成物はpH6.5~pH8.0のpHを有する。これは、本発明者の知る限り、このような極小HfO2粒子が生理学的pHの安定水溶液で提供された最初である。
あるいくつかの実施形態において、組成物は、中性又は塩基性のpH値、特にpH6とpH8の間で安定である。
あるいくつかの実施形態において、ナノ粒子の80%は、2.0nmと5.0nmの間の直径を有する。あるいくつかの特定の実施形態において、ナノ粒子の85%は、2.5nmと4.5nmの間の直径を有する。
【0038】
組成物は、そのサイズ不均一性に関して、その分布をガウス分布にフィットさせるために用いるサイズ分散又はシグマによって記述することができる。例示的なパラメータは、それらに限定されないが、平均直径=2.6nm、シグマ=0.2nm、サイズ分散=7.7%を含む。
組成物は、そのデータ電位により記述することができる。ゼータ電位は、pHの関数である。本発明者らは、該当するpH範囲について、ゼータ電位が常に負であることを見出した。
【0039】
本発明の別の態様は、医薬用の、任意の態様及び実施形態の本発明による組成物に関する。HfO2粒子についてのいくつかの使用が記載されており、顕著には、放射線療法増強剤(放射線増感剤)としての使用(Maggiorellaら、Future Oncol. 2012 Sep;8(9):1167~81)、及びコンピュータ断層撮影(CT)造影剤としての使用(McGinnity, Nanoscale, 2016,8, 13627~13637)である。
【0040】
あるいくつかの実施形態において、組成物中のナノ粒子の濃度(v/v)は、15μmol/L~1000μmol/Lの範囲である。あるいくつかの実施形態において、組成物中のナノ粒子の濃度(v/v)は、15μmol/L~500μmol/Lの範囲である。あるいくつかの実施形態において、組成物中のナノ粒子の濃度(v/v)は、15μmol/L~250μmol/Lの範囲である。
【0041】
本発明のさらに別の態様は、本発明に従う組成物を製造する方法に関する。この方法は、
a.水性媒体中でカルボン酸リガンドにより安定化された酸化ハフニウム(IV)(HfO2)ナノ結晶の懸濁物を準備するステップと、
b.前記懸濁物に、分散剤分子のアルカリ性溶液を加えるステップであって、本明細書に記載する分散剤分子が、
i.中性pHにて2つの芳香族OH水酸化物官能基を有する表面吸着部分であって、カテコール又はガロールを含む群より選択される表面吸着部分、特に1,2-ヒドロキシ-4-ニトロフェニル部分と、
ii.オリゴ(エチレングリコール)部分と
で構成される、ステップと
を含む。
分散剤分子のアルカリ性溶液のpHは、両方の芳香族水酸化物官能基が該アルカリ性溶液中で脱プロトン化されるように選択される。
c.その後、懸濁物のpHを生理学的pHに調整し、
d.任意選択的に、組成物を分離又は単離する。分離に特に有用なプロトコルは、サイズ排除/スピンろ過を含む。
e.別の任意選択的ステップは、凝集体を再懸濁する音波処理を含む。
【0042】
この方法の第1のステップにおける安定化剤として有用な1つのカルボン酸は、MEEAAである。このリガンドは、粒子との結合には乏しいが、最初に水中に粒子を分散させるためには充分に良好に結合する。
【0043】
一例において、スピンろ過ステップは、以下のように進める。2mlの溶剤に溶解した最大50mgの材料を含むNC懸濁物を、予め濯いだSartorius Vivaspin (30000 MWCO)スピンろ過チューブに、0.2μmシリンジフィルターを通して移す。懸濁物を、Milli-Q水で20mlの容量に希釈した後、溶液を遠心分離機中2100rcfにて30分間スピンさせる。Milli-Q水を用いて最少2回のスピンろ過サイクルを、ろ液が無色になるまで行う。濃縮物を回収し、蒸発させ、H2O中に懸濁し、30分間の音波処理を行って、全ての凝集体を確実に再懸濁させて不溶物が最小限になるようにする。
【0044】
医学的処置
同様に、上記に従う組成物を、処置を必要とする患者に投与することを含む、患者における放射線療法に感受性の病的状態、特に癌を処置する方法も、本発明の範囲内である。
【0045】
医薬組成物、投与施術/剤形及び塩
本発明に従う化合物の一態様によると、本発明に従うナノ粒子又はナノ粒子懸濁物は、医薬組成物、医薬投与/施術形態又は医薬剤形として提供される。
【0046】
本発明のあるいくつかの実施形態において、本発明のナノ粒子又はナノ粒子懸濁物は、代表的には医薬剤形に製剤化され、薬物の容易に制御可能な投薬を提供し、取り扱いがすばらしくかつ容易な製品を患者に与える。
同様に、本発明の上記の態様又は実施形態のいずれかに従うナノ粒子又はナノ粒子の懸濁物を含む、癌の予防又は処置のための剤形が提供される。
【0047】
さらに、本発明は、本発明のナノ粒子又はナノ粒子懸濁物と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を包含する。さらなる実施形態において、組成物は、少なくとも2種の薬学的に許容される担体、例えば本明細書に記載するものを含む。
【0048】
本発明のあるいくつかの実施形態は、非経口投与のための剤形、例えば皮下、静脈内、肝臓内又は筋内注射用の剤形に関する。任意選択的に、薬学的に許容される担体及び/又は補形剤が存在し得る。
【0049】
本発明の化合物についての投与レジメンは、既知の因子、例えば、特定の剤の薬力学的特徴並びにその投与の態様及び経路;レシピエントの種、年齢、性別、健康、医学的状態及び体重;症状の性質及び程度;併用処置の種類;処置の頻度;施術経路;患者の腎臓及び肝臓の機能;並びに所望の効果に依存して変動する。あるいくつかの実施形態において、本発明の化合物は、単回の日用量で投与できるか、又は総日用量を、1日2、3又は4回の用量に分割して投与できる。
【0050】
本発明による製造方法及び処置方法
本発明は、さらなる態様として、本明細書で特定するナノ粒子又はナノ粒子懸濁物の、上記で詳述したように、医薬の製造方法における使用のための使用をさらに包含する。特定の実施形態において、医薬は、放射線療法(特に癌の放射線療法)のために又は造影剤として提供される。
【0051】
分離可能な1つの特徴についての代替が本明細書において「実施形態」として言及されている場合、当該代替を自由に組み合わせて、本明細書に開示する発明の別個の実施形態を構成できることが理解される。
本発明は、さらに、以下の項目を包含する。
【0052】
項目
1.a.15nm以下の直径を有する酸化ハフニウム(IV)(HfO2)を含むか又は該酸化ハフニウム(IV)から本質的になるナノ結晶と、
b.前記ナノ結晶の表面に付着した複数の分散剤分子であって、各々が、
i.カテコール又はガロールを含む群より選択される表面吸着部分、特に1,2-ヒドロキシ-4-ニトロフェニル部分と、
ii.オリゴ(エチレングリコール)部分と
を含むか又は該両部分から本質的になる分散剤分子と
を含むナノ粒子。
2.ナノ結晶が6nm以下の直径を有し、特に直径が4nm以下であり、より具体的には直径が3.5nm以下である、項目1に記載のナノ粒子。
3.ナノ結晶が0.5~0.9のアスペクト比を特徴とする、項目1又は2に記載のナノ粒子。
【0053】
4.分散剤分子が500g/molの分子質量、特に400g/mol以下の分子質量を有する、項目1~3のいずれか1つに記載のナノ粒子。
5.分散剤分子が、
i.ニトロドーパミン、ニトロDOPA、DOPA、ドーパミン、ミモシンから選択される表面吸着部分と、
ii.(CH
2-CH
2-O)
nCH
3部分(式中、nは2、3、4及び5から選択される整数である)と
を含み、特に該両部分からなり、
特に、分散剤分子が、
【化12】
である、項目1~4のいずれか1つに記載のナノ粒子。
【0054】
6.ナノ結晶上の分散剤分子の密度が0.5~5/nm2である、項目1~5のいずれか1つに記載のナノ粒子。
7.光学的位置決定(局在化)のための色素分子を含む項目1~6のいずれか1つに記載のナノ粒子。
8.複数の、項目1~5のいずれか1つに記載のナノ粒子を含む組成物。
9.安定水性懸濁物である項目8に記載の組成物。
10.pH6~pH10のpH、特にpH6.5~pH8.0のpHを有する項目9に記載の組成物。
11.ナノ粒子の80%が2.0nmと5.0nmとの間の直径を有し、特にナノ粒子の85%が2.5nmと4.5nmとの間の直径を有する、項目7又は8に記載の組成物。
12.医薬用の、項目8から11のいずれか1つに記載の組成物。
13.放射線療法増強剤(放射線増感剤)として用いるための、項目8~11のいずれか1つに記載の組成物。
【0055】
14.コンピュータ断層撮影(CT)造影剤として用いるための、項目8~11のいずれか1つに記載の組成物。
15.
a.水性媒体中でカルボン酸リガンド、特にMEEAAにより安定化された酸化ハフニウム(IV)(HfO2)ナノ結晶の懸濁物を準備する工程と、
b.前記懸濁物に、分散剤分子のアルカリ性溶液を加える工程であって、前記分散剤分子が、
i.2つの芳香族水酸化物官能基を含む表面吸着部分であって、カテコール又はガロールを含む群より選択される表面吸着部分、特に1,2-ヒドロキシ-4-ニトロフェニル部分と、
ii.オリゴ(エチレングリコール)部分と
で構成され、両方の芳香族水酸化物官能基は前記アルカリ性溶液中で脱プロトン化される、工程と、
c.懸濁物のpHを生理学的pHに調整する工程と、
d.任意選択的に、組成物を、特にサイズ排除/スピンろ過により単離する工程と
を含む、項目8~11のいずれか1つに記載の組成物を製造する方法。
【0056】
本発明を、さらなる実施形態及び利点を引き出すことができる以下の実施例及び図面によりさらに説明する。これらの実施例は、本発明を説明することを意味するが、その範囲を限定することを意味しない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】(A)1当量のHf(O-tBu)
4及び88当量のベンジルアルコールから出発するHfO
2ナノ結晶のソルボサーマル合成を示す。(B)異なる溶剤中のMEEAA官能化HfO
2NCの(拡散フィルター処理した)1H NMRスペクトル。α及びβ共鳴は、それぞれメタノールの残存ヒドロキシ及びメチル基に属する。(C)合成HfO
2 NCについての透過型電子顕微鏡(TEM)画像及びデータ。略球状NCのNC直径を、少なくとも150個のNCの表面積を測定した後、円形と仮定して直径を算出した。平均:2.64±0.19nm。サイズ分布ヒストグラム及び単一NCの拡大画像を、それぞれ左下角及び右上角に示す。
【
図2】(A)MEEAA官能化NCとPA-PEGとの間で行ったリガンド交換を示す。(B)参照としての遊離リガンドの及びMEEAA官能化NCのPA-PEGでの段階的滴定の、MeOD中の
1H NMR参照スペクトル、当量は、存在するMEEAA全量に対する。共鳴*は未確認不純物である。(C)MEEAA官能化NCのPA-PEGでの段階的滴定のMeOD中の
31P NMRスペクトル(4096スキャン)。幅が広がったシグナルは、NC結合を示す。(D)1.3当量のPA-PEGを加えた後のMeOD中のMEEAA官能化NCの拡散フィルター処理1H NMRスペクトル。結合したMEEAAから生じるシグナルを赤色で表示し、PA-PEGから生じるシグナルを青色縞模様で示す。C
NC = 1210μmol.L
-1、0.5ml MeOD中の34mgのこのサイズのNCに対応する。
【
図3】1.6当量のPA-hex-PEGを加えたときの、MeOD中のNC懸濁物の拡散フィルター処理
1H NMRスペクトルを示す。
【
図4】(A)及び(B)異なるD
2O体積%でのPA-PEG及びPA-hex-PEG官能化NCの
31P NMRスペクトルを示す。(C)ピークデコンボリューションにより決定した、異なるD2O体積%でのPA-PEG及びPA-hex-PEGの遊離リガンド画分。
【
図5】(A)MEEAA官能化NCとニトロドーパミン-mPEGとの間で行ったリガンド交換を示す。(B)ニトロドーパミン-mPEGを用いてD
2O中で行ったリガンド交換滴定の前及び後の
1H NMRスペクトル。1.5当量のニトロドーパミン-mPEGを加え、添加中pHを常に5より高く保ち、精製ニトロドーパミン官能化NCスペクトルをpH=7.4にて測定した。C
NC = 128μmol.L
-1、2ml D
2O中の14.4mgのこのサイズのNCに対応する。
【
図6】PA-PEG、PA-hex-PEG及びニトロドーパミン-mPEGで官能化した精製NCについてのリガンド結合及び水中安定性に対するpHの影響を示す。(A)異なるpH値でのNMRピークデコンボリューションに基づくD
2O中の結合及び未結合リガンド画分。(B)異なるpH値でのDLS中のNCのZ平均値。(C)異なるpH値でのNCのゼータ電位。全ての測定は、一定のイオン強度(0.01mol.L
-1 NaCl)で25℃にて行った。
【
図7】pH7.4及び25℃にて異なる濃度のリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中の官能化NCの安定性を示す。(A)異なるPBS濃度にてDLS z平均値を用いて測定した官能化ナノ結晶のコロイド安定性。(B)pH7.4及び25℃での2×PBS中の官能化NCの経時的安定性。
【
図8】カルボン酸、ホスホン酸及びカテコールで官能化した金属酸化物ナノ結晶についてのコロイド安定性マップ。この具体例において、本発明者らは、HfO
2を、そのそれぞれの等電点(IEP)を有するNCモデル系として、MEEAAをカルボン酸として、PA-PEGをホスホン酸として、ニトロドーパミン-mPEGをカテコールとして用いた。マップ上の緑色は、良好なコロイド安定性と相関し、赤色に徐々に移行する領域は、コロイド安定性の減少を示し、赤色影付き領域は、コロイド安定性が悪いことを示す。
【
図9】H
2O中の異なるpH値での精製ニトロドーパミン-mPEG官能化NCのUV-VISスペクトルを示す。
【
図10】センチネルリンパ節検出のための現行の臨床ワークフローを、発明者らが提案するワークフローと比較して示す。共に1人の女性乳癌患者の例である。
【
図11】(A)HfO
2ナノ結晶のソルボサーマル合成を示す。(B)HfO
2NCのTEM画像。スフェロイド形NCの長径及び短径は、少なくとも400個の粒子を測定して決定した。サイズ分布ヒストグラムを挿入図の一角に示す。(C)D
2O中のニトロドーパミン-mPEG官能化HfO
2 NCの1H NMRスペクトル。(D)38℃にて動的光散乱により決定したPBS中のHfO
2 NCの体積サイズ分布。(E)CTにおいて測定したPBS中のHfO
2NC濃度系列。コントラスト強調は、ハンスフィールド単位(HU)で表す。
【
図12】(A)色素をNC表面と共有結合させる官能化ワークフロー。(B)上:PBS中のIRDye 800CW-DBCOの励起光及び発光スペクトル。励起光スペクトルは、805nmの発光を追跡しながら記録した。発光スペクトルは730nmで励起しながら記録した。下:PBS中のNC-色素コンジュゲートの励起光及び発光スペクトル。励起光スペクトルは、813nmの発光を追跡しながら記録した。発光スペクトルは764nmで励起しながら記録した。
【
図13】(A)左後肢足蹠に0.38mg NC/g体重のNC用量を皮下注射したマウスを異なる時点で撮影したCTスキャンの冠状及び矢状切片(スラブ厚0.2mm)を示す。(B)注射75分後のスキャンのボリュームレンダリング。SLN、骨格及び軟組織を別々にセグメント化した。
【
図14】左後肢足蹠に8.5MBqの線量のNanocollを皮下注射したマウスを異なる時点で撮影した重畳SPECT及びCTスキャンのボリュームレンダリングを示す。
【
図15】IRDye(登録商標) 800CW DBCOの完全構造を示す。
【実施例】
【0058】
実施例1 HfO
2-MEEAAモデルシステム
本発明者らは、ハフニウムtert-ブトキシド及びベンジルアルコールから220℃にて、確立されたソルボサーマルプロセス(Lauriaら、ACS Nano 2013, 7(8), 7041~7052)によりHfO
2ナノ結晶(NC)を合成した(
図1A)。HfO
2表面を、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(MEEAA、
図1Bを参照されたい)で官能化して、トルエン中のナノ結晶を安定化し、全ての未結合のリガンドを、以前に記載されたようにして除去した(De Rooら、Chem Mater 2018, 30(15), 5485~5492)。ナノ結晶は、TEMによると直径が2.64±0.19nm(μ±σ)であり(
図1C)、X線散乱分析によると単斜晶系の結晶構造を有する(データは示さず)。トルエン-d
8中のナノ結晶分散物の
1H NMRスペクトルは、広がった共鳴だけを示し、これを結合したリガンドに割り当てた(
図1B)。実際に、スペクトルの広がりは、均一な広がり(T
2緩和)及び不均一な広がり(リガンドシェルの不完全な溶媒和、Roo、前出を参照されたい)の両方による結合したリガンドの典型的な特質である。
【0059】
ナノ結晶は、エタノール、メタノール及び水にも分散でき、極性溶剤中でのリガンド結合挙動についての本発明者らの調査の理想的な開始点である。メタノール-d
4 (MeOD)中で、
1H NMRスペクトルは、幅広の共鳴に重なった鋭いシグナルを有して、著しく異なって見える(
図1B)。本発明者らは、鋭いシグナルを自己脱着したリガンドに割り当てるが、これは、拡散整列分光法(Diffusion Ordered Spectroscopy: DOSY)において2つの共鳴のセットが観察されることにより確証される。DOSYは、(オーバーラップする)NMR共鳴をそれらの拡散係数にしたがって分けて、(早く拡散する)遊離リガンドを(ゆっくり拡散する)NCと結合したリガンドから分けることを可能にする。本発明者らは、拡散フィルター処理スペクトルにおける結合リガンドを選択的に観察でき(
図1B)、厳重な検査により、メタノール-d
4中の結合したMEEAA共鳴が、トルエン-d
8中のものよりわずかにより鋭く、メタノール中でのリガンドの溶媒和がより良いことを示していることを観察している。全てのリガンドがトルエン中で結合したことに鑑みて、本発明者らは、例えばリガンドの溶解性を変化させることにより、溶剤が吸着脱着平衡において役割を明確に演じていると推論した。実際に、さらにより多くのMEEAAリガンドがD
2O中で脱着するが、ナノ結晶は、2~6の範囲のpHにて安定なままである。NCは、pH>6にて迅速に沈殿するので、MEEAAは、生理学的条件(pH=7.4)にて典型的に安定であることが要求される多くの生物医学的用途に適切なリガンドではない。
【0060】
主要なMEEAAシグナルの他に、本発明者らは、1Hスペクトルの芳香族領域における低い強度の幅広の共鳴も観察しており、ベンゾエートリガンドに割り当てたことに留意されたい。安息香酸は、ナノ結晶合成の副生成物として以前に同定され、ナノ結晶表面上に吸着されることが見い出された。合成後のMEEAAでの表面の官能化は、表面から全てのベンゾエートを明らかに除去せず、少量は残ったままである。
【0061】
実施例2 HfO
2ナノ結晶の合成及び官能化
本発明者らは、ハフニウム(IV)イソプロポキシドイソプロパノールアダクト及びベンジルアルコールから220℃にて、確立されたソルボサーマルプロセスを適合することによりHfO
2 NCを合成した(
図11A)。合成後に、NCを、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(MEEAA)で官能化して、それらをトルエン中で安定化し、全ての未結合のリガンドを、以前に記載したようにして除去した。重要なことに、およそ8nmの平均直径を有する臨床用
99mTc標識ナノ粒子(すなわちNanocoll)に匹敵するリンパ排出を達成するために、本発明者らは、腎クリアランス限界未満のままで、表面官能化後のサイズと同程度のHfO
2 NCを合成することを選択する。NCは、透過電子顕微鏡観察(TEM)によりそれぞれ5.04±3.73及び2.41±0.85nm(μ±3σ)の長径及び短径を有し(
図11B)、X線散乱により単斜晶系(P
21/c)結晶構造を有する。
【0062】
以前に報告されたようにしてニトロドーパミン-mPEGを合成し、精製し、リガンド交換を、次いで、水中でMEEAA官能化NCに対して行い、スピンろ過(限外濾過の一形態)による精製の後に、精製NC懸濁物を得る。ニトロドーパミン-mPEG官能化NCの1H NMRスペクトル(
図11C)は、幅広のピークのみを示す。ピークの広がりは、結合したリガンドに典型的な特質であり、不均一な線の広がり(リガンドシェル溶媒和に対応する)及び均一な線の広がり(T2緩和)の両方により引き起こされる。NC溶液は、動的光散乱(DLS)により、PBS中で12nmのZ平均値を有する(
図11D)。Z平均値は、溶液中の平均粒子サイズを表す単一値であり、凝集に非常に影響を受けやすく、DLSにおいて観察されるピークとこの低いZ平均値との間の一致から、懸濁物が凝集体を含まないことが確認できる。ニトロドーパミン-mPEGによりもたらされるコロイド安定性のおかげで、PBS中で高度に濃縮されたNC懸濁物を創出でき、
図11Eは、50kVの管電圧のCTを用いてスキャンしたPBS中の官能化NCの濃度系列を示す。NC濃度に伴うX線減弱の線形増加が観察でき、6000HU単位を超えるまで達する。これは、最も密度が高い骨より遥かに高い。
【0063】
本発明の色素分子においてペイロード(積載物;payload)をNC表面に共有結合させる方法を提供するために、本発明者らは、1-アジド-N-(4,5-ジヒドロキシ-2-ニトロフェネチル)-3,6,9,12-テトラオキサペンタデカン-15-アミド(ニトロドーパミン-PEG(4)-N
3)を合成した、
図10を参照されたい。ドーパミン塩酸塩から出発する一工程ニトロ化反応は、ニトロドーパミンヘミサルフェートの形成をもたらす。ニトロドーパミンヘミサルフェートと15-アジド-4,7,10,13-テトラオキサペンタデカン酸スクシンイミジルエステル(NHS-PEG(4)-N
3)との間のカップリングは、非求核性塩基として作用するN-メチルモルホリン(NMM)を用いて行った。最終のニトロドーパミン-PEG(4)-N
3リガンドを、分取高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて精製し、エレクトロンスプレーイオン化/高分解能質量分析(ESI-HRMS)及びNMR分光法を用いて完全に特徴決定した。
【化13】
【0064】
ニトロドーパミンPEG(4)-N3の設計は、以下の基準に基づいて決定した。リンカーは、この場合ではニトロカテコールアンカーを介して、NC表面と強く結合できる必要があると共に、NCの官能化及び精製の後にペイロードと共有結合できる官能基を含む必要もある。本発明者らは、末端アジドを導入することを選択した。なぜなら、この基は、シクロオクチン官能基を含む任意の分子と迅速な生体直交型銅フリークリック反応を行うことができるからである。PEGスペーサは、アジド官能基を混んだリガンドシェルの外側に位置させてペイロードカップリング中に生じる可能性のある立体障害を低減させる一方、NCの溶媒力学的直径を著しく増加させないように、ニトロドーパミン-mPEGよりわずかに長くなるよう選択した。
【0065】
本発明者らは、
図12Aに示すワークフローを用いて、NCと色素とのカップリングを行った。ニトロドーパミン-mPEGを用いる代表的官能化において、本発明者らは、水中のMEEAA安定化NCから出発し、1.2当量の脱プロトン化ニトロドーパミン-mPEGを加えて交換を行い、精製した後、TGA及びNMRに基づくNC結合有機質量は18.9m%であり、1.8nm-2及び60リガンド/NCのリガンド密度となる。算出法について、SIを参照されたい。ニトロドーパミン-mPEG及びニトロドーパミン-PEG(4)-N
3の両方を含む混合リガンドシェルの場合、本発明者らは、NC当たりおよそ1つのアジド官能基を有することを目標とした。この目標を念頭に、本発明者らは、1.18当量のニトロドーパミン-mPEG及び0.02当量のニトロドーパミン-PEG(4)-N
3の混合物を創出し、これを予備活性化し、水中でMEEAA官能化NCとのリガンド交換を行った。スピンろ過後に、
1H NMRにより幅広の結合ピークだけが観察でき、精製に成功したことを示した。残念なことに、ピークの幅広性及びニトロドーパミン-mPEGとニトロドーパミン-PEG(4)-N
3とのスペクトル重複により、NCと結合したアジドのERETICによる定量は不可能である。しかし、本発明者らは、この定量を、ワークフロー中の次工程である色素カップリングにより間接的な様式で行うことができる。本発明者らは、市販のIRDye(登録商標)800CW DBCOを、発明者らの選択した色素として選択した(
図15を参照されたい)。この色素は、近赤外(NIR)蛍光トレーサとして頻繁に用いられ、胸部、膵臓、頭頸部及び神経膠腫における悪性病変を標的とする複数の臨床試験で現在用いられている。この色素は、近赤外スペクトルの光を吸光及び発光するので、組織自己蛍光とのスペクトル重複を低減する。また、(前)臨床グレードの造影装置と適合する。(NCに付着していると考えられるアジドの量と比較して)1当量のIRDye(登録商標)800CW DBCOを、pH7にてエンドトキシンフリー超純水に溶解し、アジド官能化NCに加え、30℃にて2時間撹拌した後、懸濁物を、エンドトキシンフリー水を溶媒としてスピンろ過により再び精製した。UV-VIS分光法を用い、Beert-Lambert法則を適用して試料濃度及びろ過物を分析することにより、本発明者らは、結合色素及び残存未結合色素を定量できたので、色素カップリング効率を間接的に測定できた。本発明者らは、カップリング後に、およそ0.7個/NCの色素分子が共有結合していることを見出した。
図12Bは、共にPBS中で測定した自由拡散性色素分子(上)及びNC-色素コンジュゲート(下)の規格化励起光及び発光スペクトルを示す。NIR-色素は、代表的にはNIR領域で強い吸光を示すが、これは、当該領域での強い励起効率と必ずしも相関しない。本発明者らは、遊離色素の805nm発光を追跡すると、当該分子を励起する最も効率的な領域が実際には可視領域にあることを観察することができた。興味深いことに、NC-色素コンジュゲートの励起光スペクトルは、著しく異なるようであり、813nmの発光を追跡すると、最も効率的な励起領域はNIR中にある。この現象の正確な機構を明らかにすることは、本研究の範囲外であるが、本発明者らは、300-500nm領域でのニトロドーパミン-mPEGの吸光が、コンジュゲートした色素の励起に影響すると仮説を立てることができる。DLSを用いて、本発明者らは、色素コンジュゲーションがNCコロイド安定性に影響せず、官能化した混合シェルと比較して流体力学直径における著しい増加を引き起こさないことを観察した。
【0066】
実施例3 NC-色素コンジュゲートの蛍光最適化
次に、本発明者らは、濃度消光がNC-色素コンジュゲートの蛍光発光について生じるかを決定した。ナノ結晶濃度が蛍光強度に影響する可能性を排除するため、本発明者らは、各試料中のNCを等量に保持しながら、コンジュゲートした蛍光色素の濃度が減少する濃度系列を創出した。このことを達成するために、本発明者らは、色素とコンジュゲートしたNCの懸濁物を、ニトロドーパミン-mPEG官能化NCの懸濁物と混合し、各試料についてPBSで希釈した。インビボイメージングシステムを使用し、試料蛍光をそれぞれ710(±15)nm及び745(±15)nmのバンドパス励起フィルターを用いて視覚化する一方、発光はICGウィンドウ(810~875nm)内で観察した。コンジュゲートした色素濃度の増加と共に蛍光強度が増加し、約28μmol*L-1にて最適に達するという明確な傾向が濃度系列から観察できる。この濃度を超えると、消光の不利益な影響が蛍光シグナルを再び減少させる。より具体的には、コンジュゲートした色素の最低濃度14.4μmol*L-1は、最高濃度460μmol*L-1のおよそ2倍の平均放射効率(非均質励起光パターンを補償するために用いる単位)を示す。この傾向及び最適色素濃度は、両方の励起波長について見いだされ、唯一の差は、745(±15)nm励起フィルターを用いた各試料の平均放射効率の方が高いことである(表1)。よって、745(±15)nmフィルターは、さらなるインビボ実験のための最適な選択である。各蛍光試料が等量のNCを含んでいたことを示すために、CTスキャンを行った。
【0067】
【0068】
実施例4 予備的インビボCT最適化
マウスについて、皮下足蹠注入は、膝の後ろにある膝窩リンパ節をSLNとし、腸骨、鼠径部、坐骨及び腎臓LNを上位節(higher echelon)とするリンパ排出を達成するための標準的な注入経路と考えられる。LNの解剖学的領域は異なるCT切片で表示されるが、LN自体は、周囲組織と区別するのが困難又は不可能である。PBS中濃度291mg HfO
2/mlのNC懸濁物から開始して、本発明者らは、マウス左後肢に50μLをゆっくりと皮下注射した。50μLは、この部位でのマウスにおける最大限の許容される、そして実行可能な注入量であり、この動物について0.38mg NC/グラム体重の用量をもたらした。著しいことに、注入直後に、SLNにおける強いコントラスト強調(
図13)が観察できたが、より上層ではコントラスト強調は目視可能ではない。この時点にて、ほとんどの造影剤は、まだ足蹠にあることにも留意されたい。注入の75分後に、コントラスト強調は、SLN内で強いままであり、コントラスト強調のわずかな増加が、腸骨LNにおいて観察でき、注入の150分後により強くなる。マウスを24時間の期間にわたっていくつかの時点にて縦方向にスキャンし、この期間内のコントラスト強調は、SLNにおいて安定なままであるように見られ、腸骨リンパ節のコントラスト強調は、注入のおよそ4時間後に増加して安定化する。
【0069】
各時点について、本発明者らは、コントラスト強調が、LNへのリンパ液の進入点であるLN皮質に主にあることを見い出した。本発明者らは、この観察結果から、NCは、LNの髄質に長く保持されるのではなく、輸出リンパ管を介して次のLNに向かって迅速に出て、最終的には血流に入ると仮定した。さらに、本発明者らは、NCからの同側から対側へのスピルオーバーを観察せず、このことは、NCが、その注入位置に基づくよく定義された同側排出経路に従い、リンパ系から時期尚早にもれることはないことを示した。本発明者らによる経時的な観察の間に、動物は、NC注入後及び1回目の鎮静からの初期の回復の後に、痛み又は不快の徴候を示さなかった。しかし、薬物用量の低減及び全排出時間の低減のために、本発明者らは、異なるマウスにおいてさらに2種の投与量:0.19mg NC/g体重および0.28mg NC/g体重を試験した。両方の用量から、本発明者らは、最高で0.38mg NC/g体重と同様の排出結果を観察する。0.19mg NC/g体重についてのコントラスト強調は、最高用量よりも低く、SLNにおけるコントラスト強調は、注入後に直接認識可能であり、スキャンを正しい時間に行うならばSLN同定のために理論的に用いることができるが、さらなるスキャン点について、バックグラウンドと区別するためには、訓練された観察眼が必要になる。一方、0.28mg NC/g体重の用量は、全てのスキャン点についてSLNにおける強いコントラスト強調を創出しながら、上層部においてNCの出現において要求される時間的分離を維持するので、この用量を、コントラスト強調の増加とNC体積の最小限化との間の良好な妥協点として、以下の実験のために選択した。さらに、さらなる臨床用途のために、コントラスト強調、よってデュアルモダリティプローブのためのNIR-蛍光がより長い期間SLNにおいて十分に高いままであることも魅力的である。なぜなら、外科的手順は、完了までに数時間かかることがあるからである。また、処置される悪性病変のSLN位置に依存して、SLN位置を確認するために、CTの代わりに放射線写真を撮影することもある。この初期のCT最適化中に、本発明者らは、非近交系動物を用いるどんなタイプのインビボ実験でも予期されるように、マウス間のわずかな解剖学的変動の影響に気づいた。この例は、特定のリンパ節の排出挙動であり、0.28mg NC/g体重については、腎臓LNが240分のスキャン点にて目視可能になったが、0.38mg NC/g体重の用量を受けたマウスは、いずれの時点でもこのLNにおいてコントラスト強調を示さない。動物間でも特定のLNの解剖学的位置におけるこのわずかな変動が見い出され、例えば坐骨LNは、一般的にサイズが小さく、骨盤の近くにあり、この節におけるNCからのコントラスト強調は、代わりに骨盤の骨から生じるシグナルと容易に取り違えることがあることにも留意すべきである。この点に関して、この解剖学的接近がより著しいので、マウスについて特に注意すべきである。
【0070】
実施例5 ナノ結晶製剤アプローチ
濃度消光実験(表1)及び予備的なインビボCT実験から、本発明者らは、CT造影のための理想的色素濃度と理想的NC濃度との間にミスマッチがあることを学んだ。軟組織は、CTにおいて100~300付近のハンスフィールド単位の値を固有に有するので、リンパ節に存在するNCの最小限の量が、それらを可視化するために必要である。他方、軟組織は、(いくつかの例外があるが)NIRにおいて自己蛍光を示さず、高感度の蛍光イメージングと組み合わせて、必要な色素の量が非常に少ない。濃度消光実験は、各NCが1つのコンジュゲートした色素を含むNC懸濁物の注入が、最終蛍光強度に対して不利益であろうことを示し、さらに、NIRトレーサを用いる他のインビボ研究は、1μgほど少量の色素が、リンパ節を可視化するために充分であり得ることを示している。10両方のイメージングモダリティの必要性を満足するために、各NCが色素分子を含むNC懸濁物を注入する代わりに、本発明者らは、大多数のNCが結合色素を有さない製剤アプローチを行うことを決めた。よって、製剤は、ニトロドーパミン-mPEGだけで官能化されたNC(
図11Aを参照されたい)と、およそ1色素/NCをコンジュゲートしたNC(
図12を参照されたい)との混合物からなり、NCの注入容量はまだ0.28mg NC/g体重であるが、コンジュゲートした色素の濃度は、およそ28μmol*L-1だけである。色素を含まないNCと色素をコンジュゲートしたNCとの両方が同じリンパ排出を確実に示すようにするために、対照実験を行った。この対照実験において、マウスの右後肢足蹠に、0.28mg/mlの用量の色素を含まないNCと、左後肢足蹠に、およそ1色素/NCを含む0.28mg/mlの用量のNCを同時に注入した。本発明者らは、注入後に左右両方のSLNにおいて同時にコントラスト強調を観察でき、これは経時的に強くなっていった。このプロセスに伴って、左SLNは皮膚を通して検出できるNIR蛍光の明確な徴候を示したが、右SLN及び肢は、予期されたように示さなかった。注入の180分後以降に、二次的NIR蛍光シグナルが膀胱に現れ、NCの腎クリアランスの開始を示した。
【0071】
実施例6
99mTc-Nanocollとの比較
最後に、本発明者らは、本発明者らのNCの結果を、現在の臨床標準と比較し、本発明者らは、3匹のマウスに、後肢足蹠の1つに50μLの99m-Tc-Nanocollを皮下注入し、各注入は、6と9MBqの間の活性を有していた。前臨床SPECTスキャナーを用いて、マウスを、注入直後、及び注入の40分、160分、280分及び400分後にスキャンした。選択した時点は、SPECTの収集時間が固有に長いので、CTを用いるNCについてのものよりは、融通があまりきかなかった。許容できるシグナル対ノイズ比を得るために、本発明者らは、膝窩、腸骨、坐骨、鼠径部及び腎臓LNをカバーする領域に視野を狭め、30分間スキャンした。本発明者らは、注入した放射活性トレーサの半減期が6時間であるので、スキャンが400分を超えないように選択した。各スキャン点についてのボリュームレンダリングを
図14に示し、各SPECTスキャンをCTスキャンと共に記載したことに留意することが重要である。なぜなら、SPECTスキャンから解剖学的情報を得ることは難しいか、又は無理であるからである。
【0072】
NCと同様に、SLNは、99mTc-Nanocoll注入の直後に目視可能になる。活性は40分後に増加するが、膝窩LNだけがまだ認識できる。160分後に、膝窩及び腸骨LNだけでなく、坐骨及び腎臓LNも目視可能であった。さらに、
図5からわかるように、坐骨LNは、骨盤の近くにあり、このことにより、その領域においてLNコントラスト強調を骨から区別することは難しくなる。NCと同様に、LNにおける99mTc-Nanocoll活性は、そのあとの4時間にわたって安定なままであり、活性は、ほぼLN皮質にある。ほぼ24時間後に、ほとんどの生成物は減衰した。
【0073】
実施例7 ナノ結晶の臨床組込み
図10は、現在の臨床ワークフローを、本発明者らのデュアルモダリティNCをどのように利用可能なインフラストラクチャーを用いて組み込むことができるかと比較する。単回のNCの術前注入の後に、術前CTスキャンを行う。NCの非放射活性の性質と、SPECT/CTと比較して早いCTのスキャン時間とは、術前の注入のタイミングに関してより融通がきくようになるだろう。次に、SLNをCTにより一旦同定すると、術中NIR-蛍光を用いてSLNの位置を確認し、その完全な切除の手引きとする。それにもかかわらず、手術が初期注入の数時間後に行われる可能性があり、このことは、本発明者らがデュアルモダリティNC及び99mTc-Nanocollの両方について示したように、より上層部まで目視可能になる可能性が増加する。これは、しかし、問題にならないはずである。なぜなら、術前スキャンは、どの節がSLNであるかを同定するために具体的に時機に合わせているので、正しい節を除くために必要な情報が外科医に与えられるからである。さらに、手術室で利用可能であるならば、SLNの存在を術中に確認する手段としてCアームを用いることができる。
【0074】
等式(equation)から放射活性を除くことにより、本発明者らは、全体的な患者放射線曝露を低減し、費用が掛かるSPECTスキャナーの必要性を除き、代わりに、CT又は従来の放射線写真撮影のようなより広く利用可能で迅速な技術を用いてSLNを同定できる。第2のイメージングモダリティであるNIR-蛍光は、同じイメージングプローブの一部であるので、現在用いられている小分子色素のような望ましくない組織外漏出に苦しまない。
【0075】
実施例8 ホスホン酸の競合的結合
メタノール中のホスホン酸の結合強度を評価するために、本発明者らは、MEEAAに匹敵する構造を有するリガンドとして、(2-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)エチル)ホスホン酸(PA-PEG)を選択した(
図2A)。
1H NMRスペクトルにおいて、PA-PEGの共鳴1は、MEEAA共鳴からは明らかに分かれた2.05ppmのケミカルシフトを有しているので、本発明者らは、PA-PEGの結合を選択的にモニタリングできる(
図2B)。MEEAAは、メトキシ基を有し、PA-PEGは有さないので、共鳴fを用いて、MEEAAの結合に関する選択的な情報を得る。他の共鳴(2~6及びb~e)は、オーバーラップする。
【0076】
メタノール-d
4中のMEEAA安定化HfO
2ナノ結晶から開始して、本発明者らは、PA-PEGを逐次的に加えながら
1H NMRスペクトルをモニタリングする。
図1Bを参照されたい。滴定の間、本発明者らは、2.2ppm付近の広い共鳴が徐々に出現することを観察し、これを結合したPA-PEGの共鳴1に割り当てる。これに伴って、共鳴fはより狭くなり(
図2B)、このことは、ナノ結晶表面からMEEAAが除かれることを示す。芳香族領域内で、本発明者らは、安息香酸の脱着も観察する。本発明者らは、PA-PEGが、MEEAA及び安息香酸を効果的に置き換えると結論付ける。遊離のホスホン酸が存在しないことに鑑みて、ほとんどの滴定について交換は定量的である。1.3当量のホスホン酸を加えた後に、同じ領域に鋭いシグナルが出現し、このことは、遊離のPA-PEGが存在するようになったことを示す。
31Pスペクトルからも同じ結論が導き出され(
図2C)、ここでは、まず、広いシグナルの強度が上昇し、1当量を超えて添加した後に鋭い
31Pシグナルが出現する。興味深いことに、結合したPA-PEG共鳴は、1.3と1.6当量の間で強度がわずかにまだ増加する。本発明者らは、最終部分の交換が定量的に進まず、残りのカルボキシレートリガンドは除くのがより困難であると推論する。この観察結果は、結合親和性(ΔG
ads)が、CdSeナノ結晶について以前に示されたことと同様に、全てのMEEAAリガンドについて単一の固定値ではなく、むしろ分布であることを意味する。
【0077】
残念なことに、NMRスペクトルは、遊離及び結合したリガンドの重畳シグナルとともに、多くのスペクトルオーバーラップを特徴とする。滴定の最後に、遊離リガンドの共鳴がスペクトルにおいて優勢となる。この点でのリガンドシェルの組成についてのより深い洞察を得るために、本発明者らは、拡散フィルターを用いるスペクトルに目を向ける(
図2D)。共鳴2~6は共鳴b~eとオーバーラップするが、共鳴fの明確な存在は、表面上に残存MEEAAが存在することを示す。結合したMEEAAの拡散フィルターを用いたプロファイルに基づいて、本発明者らは、赤い影をつけた領域をMEEAAに属するスペクトルの部分に割り当てる。青い模様をつけた領域は、PA-PEGに割り当てる。領域間の比率は、リガンドシェル組成:10% MEEAA及び90% PA-PEGの大まかな推定を与えるが、この推定は、異なる共鳴の緩和挙動における差を無視している。正常1Hスペクトルにしたがって表面上にはまだベンゾエートも存在するが、これらの共鳴のシグナル対ノイズ比は、(堅固なこと及び表面に近いことを原因とする)早いT
2緩和のために、拡散フィルターを用いたスペクトルにおいて低すぎる。上の結果から、よって、カルボキシレートリガンドとPA-PEGとの間の交換が、メタノール中で完了しないことが確認される。この結論は、ホスホン酸が1:1の化学量論でカルボン酸を定量的に置き換える非極性溶剤中の脂肪酸とアルキルホスホン酸との相対的結合親和性とは対照的である。
【0078】
メタノール中のMEEAAの自己脱着は、リガンド溶解性が結合親和性を変化させ得ることを既に示している。実際に、リガンド結合は、それぞれの種の化学ポテンシャルに支配される平衡プロセスである:
【数1】
【0079】
よって、この吸着-脱着平衡は、遊離リガンドの化学ポテンシャル(及びよってその溶解性)に依存する。この概念を実際に探索するために、本発明者らは、疎水性及び親水性の両方のセグメントを有するミセルを模倣するリガンドシェル構造を設計した。このために、本発明者らは、リガンド(6-{2-[2-(2-ヒドロキシ-エトキシ)-エトキシ]-エトキシ}-ヘキシル)ホスホン酸(PA-hex-PEG)を選択した。
図3を参照されたい。本発明者らは、このリガンドが、ナノ結晶表面上でより容易に自己集合すると仮定した。なぜなら、疎水性領域が極性溶剤中での溶解性を減少させるからである。PA-hex-PEGを用いて、本発明者らは、以前と同じ滴定実験を行った。結果は、PA-hex-PEGについてカルボキシレートリガンドの交換を示す、おおむね同様のものである(示さず)。しかし、今回は、ほとんどのベンゾエートリガンドはPA-hex-PEGにより除かれ(完全ではないが)、拡散フィルターを用いたスペクトルにおいてMEEAA共鳴はほとんど検出できない(
図3)。最大で3%のMEEAAがリガンドシェルにまだ存在する。本発明者らは、競合的結合が、リガンド溶解性を変化させることにより実際に操作できること結論付ける。興味深いことに、安息香酸は、MEEAAより高い結合親和性を有するとみられ、このことは、メタノール中でのその酸性度がより高く、溶解性がより低いことに帰する可能性がある。
【0080】
実施例9 ホスホネートでキャッピングしたナノ結晶の精製及び水への移行
生物医学的用途のための安定な表面化学を提供するという本発明者らの最終的な目標を念頭において、本発明者らは、本発明者らの分散物を精製して、それを水性媒体に分散しようと試みた。沈殿-再分散のサイクルは、ナノ結晶を精製するために最も一般的な方法である。しかし、エチレングリコールセグメントの多機能性が高いために、広い範囲の溶剤におけるコロイド安定性がもたらされ、非溶剤、例えばヘキサンは、メタノールとうまく混ざらない。よって、本発明者らは、限外ろ過の一形態であるスピンろ過を用いて本発明者らの分散物を精製することを選択する。この技術は、小分子が孔を通過できるが、大きいナノ結晶は通過できない(透析のような)半透膜に基づく。分離を遠心分離機で行うことにより、精製が促進される。まず、ナノ結晶懸濁物をスピンフィルターに入れ、純粋メタノールでさらに希釈する。希釈は、リガンド脱着を引き起こさない。ろ過後に、ナノ結晶の濃縮分散物を回収する。3回の精製サイクルの後にほぼ全ての未結合の種が除かれたことが示されたので、精製は成功している。スピンろ過の前後での拡散フィルターを用いたスペクトルを比較すると、完全な一致が示され、このことは、精製がリガンドシェル組成を変化させなかったことを証明する。純粋メタノール-d
4からD
2Oに溶剤組成を徐々に変化させた場合に、PA-PEGとPA-hex-PEGとの間に興味深い差が観察された(
図4)。PA-PEGは、水の含量を増加させた場合に表面から徐々に脱着されるが、PA-hex-PEGは、固く結合したままである。このことは、PA-hex-PEGがミセル模倣物として挙動し、水と疎水性セグメントとの接触を回避するという本発明者らの仮説をさらに強調する。ナノ結晶表面を結合することにより、PA-hex-PEGリガンドは、アルキル-アルキル相互作用で疎水性内部シェルを、そして水分子についての水素結合アクセプターとしてのエチレングリコール部分で親水性外部シェルを創出する。他方、PA-PEGは、水溶性が高く、よって、酸化ハフニウム表面についての親和性は、水の含量を増加することにより減少する。
【0081】
【0082】
実施例10 カテコールの合成及び結合
本発明者らは、N-(4,5-ジヒドロキシ-2-ニトロフェネチル)-2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)アセトアミド(ニトロドーパミン-mPEG)を合成した。スキーム2を参照されたい。本発明者らは、非置換のカテコールの代わりにニトロカテコールを選んだ。なぜなら、ニトロ基はカテコールpKa値を減少させ、カテコールの酸化安定性を改善するからである。ドーパミン塩酸塩から開始して、1ステップニトロ化反応は、ニトロドーパミンヘミサルフェートの形成をもたらす。これとは別に、MEEAAを、活性化N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(MEEAA-NHS)中で、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)及び4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を用いて変換した。ニトロドーパミンヘミサルフェートとMEEAA-NHSとの間のカップリングは、非求核性塩基として作用するN-メチルモルホリン(NMM)を用いて行った。最終的なニトロドーパミン-mPEGリガンドを、分取HPLCを用いて精製し、ESI-HRMS及びNMR分光法を用いて完全に特徴決定した。
【0083】
本発明者らが以前と同様の競合的結合実験を行った場合(メタノール-d4中でMEEAAでキャッピングしたHfO2ナノ結晶にニトロドーパミン-mPEGを加える)、本発明者らは、1当量のニトロドーパミン-mPEGが、0.4等量のカテコールでさえナノ結晶表面について効果的に競合できず、自由に拡散するニトロドーパミン-mPEGシグナルが観察できたことを見出した。このような低い結合親和性は、カテコールでの表面官能化の成功についての多くの報告(Okadaら、ChemistrySelect 2018, 3(29), 8458~8461;Dragomanら、Chemistry of Materials 2017, 29(21), 9416~9428;Amstadら、The Journal of Physical Chemistry C 2011, 115(3), 683~691;Amstadら、Nano Letters 2009, 9(12), 4042~4048;Gillichら、Journal of the American Chemical Society 2011, 133(28), 10940~10950;Xieら、Adv. Mater. 2007, 19(20), 3163~3166;Baeら、Bioconjugate Chemistry 2010, 21(3), 505~512)に鑑みて、全く予期できなかった。しかし、これらの報告において、水又は生物学的緩衝剤が溶剤として用いられた。よって、本発明者らは、水の中で直接競合的結合実験を設計した。幸いなことに、MEEAA安定化HfO2ナノ結晶は、かなりの部分のMEEAAが脱着するが、D2O中で安定である。pH調整なしでの1当量のニトロドーパミン-mPEGの添加は、pH=2の濁った懸濁物をもたらす。pHをpH=5に調整すると、安定な懸濁物が得られる。系統化された段階的なニトロドーパミン-mPEGの添加を可能にするために、本発明者らは、2当量のNaODを含むニトロドーパミン-mPEGのストック溶液を調製して、カテコールを二重に脱プロトン化した。塩基の添加は、溶液の色を淡い黄色から濃いブルゴーニュワイン色に変える。本発明者らは、このストック溶液を、0.5当量ずつのステップで、MEEAA安定化HfO2の懸濁物に加え、標準的な1H NMR及び拡散フィルターを用いたNMRスペクトルを記録した。0.5当量の添加後に、本発明者らは、ニトロドーパミン-mPEGに属する鋭いシグナルを観察しないが、本発明者らは、脱着した安息香酸及び脱着したMEEAAを観察する。拡散フィルターを用いたスペクトルにおいて、本発明者らは、明確な変化も観察する。芳香族領域において、ベンゾエートの広いシグナルは、ニトロドーパミン-mPEGの広いシグナルで置き換えられる。領域3~4ppmのピークの形も変化する。さらなるニトロドーパミン-mPEGを加えるにつれて交換は継続し、1.5当量の添加までに、鋭い(未結合の)ニトロドーパミン-mPEGシグナルが検出される。懸濁物は、pHが10.3にもかかわらず安定なままであり、滴定のこの時点で、リガンド交換が成功したというさらなる証拠が得られる。なぜなら、MEEAA安定化ナノ結晶は、pH>6で沈殿するはずであるからである。本発明者らは、ニトロドーパミン-mPEGが、pH>5であるならばナノ結晶表面からMEEAAを定量的に置き換えることができると結論付ける。
【0084】
NCを、複数回のサイクルのスピンろ過を用いて、Milli-Q水を溶剤として用いて、ろ過物がほぼ無色になるまで再び精製した。濃縮物を蒸発させ、D
2Oに再分散させ、pHを7.4に調整した。
図5Bは、精製懸濁物の通常の
1H NMRスペクトルを含み、試料の純度は著しく、ニトロドーパミン-mPEGに関する広がった共鳴だけが観察される。定量
1H NMR及び25.79%のTGA質量損失に基づいて、本発明者らは、ナノ結晶表面でのニトロドーパミン-mPEG密度を1.53nm
-2と計算する。本発明者らは、ニトロドーパミン-mPEGが、脱着の徴候なしで、生理的pHにてナノ結晶上に固く結合したリガンドシェルを形成すると結論付ける。
【0085】
実施例11 リガンド結合のpH依存性
pHが水性環境におけるリガンド結合において重要な役割を演じることが明らかなので、本発明者らは、pHを3から10まで系統的に変動させ、
1H NMR、
31P NMR及び動的光散乱(DLS)を用いて、リガンド結合及びコロイド安定性を査定した(
図6)。NMRから、本発明者らは、ホスホン酸リガンドについての結合リガンド画分を
31P共鳴のピークデコンボリューションにより、そしてニトロドーパミン-mPEGについて芳香族
1H共鳴のピークデコンボリューションにより抽出する。DLS測定から、本発明者らは、Z平均値及びゼータ電位を得た。Z平均値は、平均粒子サイズを表す単一の値であり、凝集により最も影響を受ける。ゼータ電位は、ナノ結晶間の静電反発力の程度を示す(+25mVを超えるか又は-25mV未満のゼータ電位値は、安定懸濁物を示す)。
図6から、本発明者らは、結合リガンド画分が、PA-PEG及びPA-hex-PEGの両方についてpHの上昇と共に減少することを明確に観察する。エチルホスホン酸(pKa
1=2.43、pKa
2=8.05)のpKa値を参照にして、結合リガンド画分がpKa
2付近で最も急速に減少することは、著しいことである。本発明者らは、ホスホン酸の第2の脱プロトン化が、リガンドシェルにおいてリガンド間の反発を引き起こし、水中でのリガンドの溶解性を増加させると推論する。この効果はともに、結合リガンド画分の低減を導く。驚くべきことではないが、リガンドの損失は、コロイド安定性に対する不利益な影響を有し、Z平均値は、pH>pKa2について著しく増加する。まとめると、PA-hex-PEGは、PA-PEGよりもわずかによりよく挙動するが、その差は小さい。二重アニオンホスホネートが、短い疎水性セグメントを補償するというのがもっともらしい。
【0086】
リガンド脱着によりコロイド安定性の完全喪失が予期されるだろう。しかし、試料では濁度は目視で観察されず、Z平均値は100nm未満のままである。ゼータ電位は、pH>8にて-25mV未満に下落することに留意されたい。立体的安定化は、リガンド脱着の進行とともに失われるが、静電安定化がとってかわり、NCが完全に不安定になることを妨げる。負電荷は、ナノ結晶表面上の残存し、結合した二重脱プロトン化ホスホネートか、又はより高い可能性としては水酸化物吸着に由来し得る。実際に、水中では、複数の吸着-脱着平衡が同時に存在する。
【数2】
【0087】
酸塩基平衡も加えると、系の複雑なpH依存性が認識され始める。
図6によると、ホスホン酸は、静置系においてpH3と8の間でナノ結晶を安定に保つ。しかし、動的生物学的環境(例えば血管)において、多くの競合リガンドが存在し、脱着したリガンドは、迅速に除去される。平衡が調整され、よって、リガンドは表面から継続的に脱着し、最終的にコロイド安定性が失われる。生理的pHでの許容できるZ平均値にもかかわらず、この動的挙動は、単一ホスホネートリガンドが生理的媒体中でなぜ完全に凝集を防止するのに必ずしも成功しないかを説明し得る。
【0088】
興味深いことに、ニトロドーパミン-mPEGは、ほぼ完全に反対の挙動を示し、酸性条件下で安定なコロイド分散物を提供することができず、pH=5付近で非常に鋭い移行をする。このことは、Z平均値の急な増加により証明される(
図6)。pH5と10の間で、全てのニトロドーパミン-mPEGリガンドは結合したままであり、pH=11になってやっと、結合画分が100%から97%にわずかに減少する。このことは、pH5~11の範囲での優れたコロイド安定性と解釈される。本発明者らは、生理的pHでの水性用途について、ニトロドーパミン-mPEGが、PA-PEG及びPA-hex-PEGよりも性能がよいと結論付ける。一方、酸性pHでの水性用途について、ホスホン酸リガンドがより適している。官能化NC系の結合力学に温度依存性があるかを試験するために、本発明者らは、25℃と60℃の間でpH7.4にてD
2O中で可変温度NMR測定を行った。
1H NMRスペクトルは、ホスホン酸及びニトロドーパミン-mPEGの両方についてリガンド吸着/脱着平衡の変化を示さず、このことにより、本発明者らは、pH滴定からの結果も、生理的温度と解釈されると暫定的に結論付ける。
【0089】
ホスホン酸及びカテコールの相補的な挙動を説明するために、本発明者らは、D2O中の精製ニトロドーパミン-mPEG NCに対する競合的交換反応を行った。ニトロドーパミン-mPEGを用いてNCを官能化するために加えた元の量と比較して1当量のPA-PEGを加え、異なるpH値にてNMR測定を行った。結果は、酸性の値のpHにて、PA-PEGとの部分的交換が生じることを明確に示し、このことは、芳香族領域に鋭いニトロドーパミン-mPEGシグナル、及び3ppm付近にメチレントリプレットが出現することにより証明される。pH5未満で通常は完全に不安定化されるニトロドーパミン-mPEG NC懸濁物は、混合されたカテコール-ホスホネートリガンドシェルにより、pH2.22でコロイド安定性を保ったままであった。交換平衡は、pHが中性及び塩基性の値に向かって動くと、ニトロドーパミン-mPEGに向かってほとんどシフトして戻る。
【0090】
実施例12 リン酸緩衝液(PBS)中の安定性
最後に、本発明者らは、リン酸緩衝液(PBS)中のPA-PEG、PA-hex-PEG及びニトロドーパミン-mPEGで官能化したNCの安定性を評価した。PBS中の安定性は、生物医学的用途のための重要な必要条件である。なぜなら、多くのインビボ実験では、生理食塩水又はPBS中の所望の薬物又は造影剤を注入するからである。1×PBS緩衝液は、137mmol.L
-1 NaCl、2.7mmol.L
-1KCl、10mmol.L
-1 Na
2HPO
4及び1.8mmol.L
-1 KH
2PO
4を含み、標準的な濃度である。濃度が半分又は二倍になると、これらの緩衝液は、それぞれ0.5×PBS及び2×PBSと呼ばれる。PBSが比較的高濃度の塩及びホスフェートイオン(これは、表面について競合する)を含み、本発明者らの官能化ナノ結晶の安定性に真の試練をもたらすことが明らかである。まず、本発明者らは、PBS濃度を変動させ、DLSにより直ちにZ平均値を測定した(
図7A)。1.5×PBSまで、全てのリガンドは、ナノ結晶をコロイド安定に保つ。予期されたように、PA-PEGが最も弱いリガンドであり、2×PBS溶液中でナノ結晶の凝集の開始を防止できない。次に、全ての官能化NCの安定性を、2×PBS中で経時的にモニタリングした(
図7B)。明らかに、PA-PEG官能化ナノ結晶は迅速に凝集し、数時間後に沈殿が目視で確認される。PA-hex-PEG官能化ナノ結晶のコロイド安定性は、24時間にわたって着実に減少した後に、完全に凝集する。ニトロドーパミン-mPEG官能化ナノ結晶だけが、完全に安定なままである。48時間の経過中、凝集の徴候はなく、懸濁物は、少なくとも1か月間目視により澄明なままである。
【0091】
実施例13 考察
上の結果から、非極性溶剤から極性(例えば水性)溶剤に移行する場合に、表面化学がより複雑になることが明らかである。非極性溶剤では、荷電されたリガンド又はナノ結晶が、熱力学的に不安定であり、結合モチーフの限定されたセット及び明らかなリガンド交換規則を導く。例えば、オレエート(脱プロトン化オレイン酸)の自己脱着は、トルエン中では起こらない。PbS(PbX2)の結合モチーフについて、ルイス酸PbX2全体の除去が、クロロホルム又は配位溶剤、例えばTHFにおいて観察されている。同様に、HfO2(H,OOCR)について、オレイン酸の脱着は、カルボキシレートとプロトンとの再結合により可能である。しかし、これらの制限は、電荷が安定化され、プロトン及びカルボキシレートが独立した吸着/脱着平衡を有する極性溶剤中では消滅する。等式2~4も参照されたい。
【0092】
上のデータから、本発明者らは、どのリガンドが特定のpH範囲においてコロイド安定性をもたらすかを示すコロイド安定性マップを構築した。
図8を参照されたい。この安定性マップを、リガンドのpKaと相関づけることも興味深い。本発明者らは、エチルホスホン酸(pKa
1=2.43、pKa
2=8.05)のpKa値を、PA-PEG及びPA-hex-PEGリガンドの参照として採用する。(粒子が安定である)pH=3にて、本発明者らは、96%のホスホン酸が1つのプロトンを失う(mono-deprotonated)と計算する。ホスホネートは、この形でナノ結晶表面に結合すると仮定できる。pH>8(pKa
2より上)にて、結合したリガンド画分は迅速に減少し、粒子は凝集し始める(
図6)。二重の脱プロトン化(double deprotonation)は、2つの結果をもたらす。(1)リガンドの水への溶解性が高くなり、(2)水素結合を安定化する代わりに、静電的リガンド間反発が出現する。これらの両方の影響は、リガンド脱着を促進する。さらに、ハフニアの等電点はpH=8で生じ、pH>8で表面を負に荷電させるので、負に荷電したホスホネートリガンドの結合親和性がさらに減少する。
【0093】
同様の理由付けが、ニトロドーパミン-mPEG (pKa
1=6.6、pKa
2=11、ニトロドーパミンpKa値に基づく)の場合に当てはまる。(粒子が不安定である)pH=5にて、本発明者らは、およそ98%のリガンドが完全にプロトン化され、弱い水素結合によって表面と相互作用できるのみであると計算する。pH5より上では、より多くのニトロドーパミン-mPEGが1つのプロトンを失うようになり、表面金属部位と配位でき、結合状態をさらに安定するようにさらなる水素結合を提供する。このことは、HfO
2 NCと結合したニトロドーパミン-mPEGのUV-VISスペクトルを遊離リガンドの参照スペクトルと比較することにより確認される。
図9を参照されたい。5<pH<11では、本発明者らは、1つのプロトンを失った種を見い出す。pH>11では、本発明者らは、NMRにおいて遊離リガンド及びUV-Visにおいて二重に脱プロトン化された種の出現を再び観察する。上で述べた理由により、二重に脱プロトン化した種は、表面への結合親和性が低い。最後に、カルボン酸は、1つのプロトンを失うことができるのみであり、本発明者らは、MEEAA(pKa=3.4)が、pH=6までNCを安定に保つことを観察する。本発明者らは、これらが、リガンド間水素結合の欠如のために、ホスホネート及びカテコールよりも安定性が低いと仮定する。
【0094】
緩衝液中での安定性実験は、2つのさらなる変数、すなわち競合的リガンド及び塩について示す。リン酸緩衝液では、高い濃度のホスフェートが存在し、これは、表面について競合するが、立体的安定化をもたらさない。ホスホン酸(PA-PEG及びPA-hex-PEG)はpH=7.4(25%が脱着、
図6を参照されたい)にて脱着するので、これらは平衡にあり、よって、経時的にゆっくりと置き換えられる。本発明者らの競合実験から判断して、ニトロドーパミン-mPEGは固く結合しており(0%が脱着)、ホスホン酸に置き換えられない。よって、ニトロドーパミン-mPEGでキャッピングされた粒子の高い安定性。
【0095】
上の考察は、水性媒体中では、表面化学が複数の因子間の複雑な相互作用であることを示す。緩衝液中では、pH依存性の表面電荷、pH依存性のリガンドの脱プロトン化、及びホスフェートによる競合がある。よって、リガンドのpKa及びナノ結晶の等電点を利用可能にして、コロイド安定性マップ(
図8)を用いて、どのリガンドが特定のpHにてコロイド安定性をもたらすかを予測し始めることができる。
【0096】
実施例14 合成の詳細
(6-{2-[2-(2-ヒドロキシ-エトキシ)-エトキシ]-エトキシ}-ヘキシル)ホスホン酸及び(2-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)エチル)ホスホン酸は、SiKEMIAから購入した。N-ヒドロキシスクシンイミド(≧98%)及びドーパミン塩酸塩(≧99%)は、Acros Organicsから購入した。2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(>95.0%)は、TCI Chemicalsから購入した。Hafniumハフニウム(IV)イソプロポキシドイソプロパノールアダクト(99.99%)は、Fisher Scientificから購入した。IRDye 800CW-DBCOは、LiCorから購入した。ハフニウム(IV)tert-ブトキシド(99.99%)、N,N′-ジシクロヘキシルカルボジイミド(99%)、4-(ジメチルアミノ)ピリジン(≧99%)、4-メチルモルホリン(99%)、亜硝酸ナトリウム(≧99.0%)及び合成に用いた溶剤は、Sigma Aldrichから購入した。全ての購入した試薬は、さらなる精製なしで用いた。全ての重水素化溶剤は、Sigma Aldrich又はEurisotopから購入した。
【0097】
MEEAA-NHSの合成。
4mmol(0.7128g)の2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸及び4.2mmol(0.4828g)のN-ヒドロキシスクシンイミドを、予め乾燥させたバイアル中で8mlの乾燥THFに溶解し、0℃に冷却した。4.2mmol(0.866g)のN,N′-ジシクロヘキシルカルボジイミドを、別の予め乾燥させたバイアル中で4ml THFに溶解し、最初の混合物にエアフリー移動により滴下した。混合物を0℃にて15分間撹拌した後に、0.2mmol(0.024g)の触媒4-ジメチルアミノピリジンを加えた。混合物を室温にて一晩撹拌し、白く濁った混合物を得た。濁った溶液を50mlの遠心分離チューブに移し、5000rcfにて5分間遠心分離し、上清を、0.2μM PTFEシリンジフィルターを用いてフラスコに移し、白色固体を10ml THFで1回洗浄して、残存生成物を回収した。ロータリーエバポレーターを用いて溶剤を除いた後に、粘性の液体を12ml DCMに溶解し、有機相をMQ水で4回、及び塩水でさらに2回抽出した。有機相をMgSO4で乾燥し、ロータリーエバポレーターを用いて乾燥した。生成物は、83%の収率で無色の粘性の液体として回収した。
【0098】
1H NMR (500MHz, CDCl3): δ 4.5 (s, 2H) δ 3.8-3.76 (m, 2H) δ 3.7-3.66 (m, 2H) δ 3.65-3.6 (m, 2H) δ 3.55-3.51 (m, 2H) δ 3.36 (s, 3H) δ 2.82 (s, 4H). 13C NMR (500MHz, CDCl3): δ 168.73 (s) δ 166.02 (s) δ 77.24 (s) δ 71.91 (s) δ 71.37 (s) δ 70.607 (s) δ 70.602 (s) δ 66.55 (s) δ 59.06 (s) δ 25.58 (s). HRMS 275.26 [M]について計算値, 292.9 [M+NH4]+実測値.
【0099】
ニトロドーパミンヘミサルフェートの合成
8.753mmol(1.66g)のドーパミン塩酸塩及び35.219mmol(2.43g)のNaNO2を、100ml MQ水に溶解し、氷浴にて冷却した。8.33mlの予め冷却した20% H2SO4を、混合物に、激しく撹拌しながら滴下し、添加中に混合物は、茶色の気体を形成しながら黄色に濁った。混合物を氷浴から取り出し、室温にて12時間撹拌した。得られた黄色に濁った溶液を氷浴で再び冷却した後に、por4のフリットガラスフィルターを用いて吸引ろ過により固体を回収した。次に、固体を50mlの氷冷MQ水で2回、50mlの氷冷無水エタノールで1回、そして50mlの氷冷ジエチルエーテルで2回洗浄した。黄色の粉末を回収し、真空下で一晩乾燥させ、最終収率は50%であった。
【0100】
1H NMR (500MHz, DMSO-d6): δ 7.46 (s, 1H) δ 6.73 (s, 1H) δ 3.12-2.99 (m, 4H). 13C NMR (500MHz, DMSO-d6): δ 156.49 (s) δ 145.24 (s) δ 136.31 (s) δ 127.32 (s) δ 111.14 (s) δ 39.15 (s) δ 31.56 (s). HRMS 296.25 [M]についての計算値, 197.00 [M-H2SO4-H]-実測値.
【0101】
ニトロドーパミン-mPEGの合成
1.784mmol(491mg)のMEEAA-NHS及び2.854mmol(846mg)のニトロドーパミンヘミサルフェートを、予め乾燥させたフラスコ中で25mlの乾燥DMFに溶解して、濃いオレンジ色の溶液を得た。フラスコを密閉し、アルゴンでフラッシュし、氷浴で冷却した。785μLのN-メチルモルホリンを、混合物に、エアフリー法を用いて滴下し、およそ10分間撹拌した後に、溶液は濁った。混合物を室温にて48時間撹拌した後に、40℃にて真空下で一晩蒸発させてDMFを除き、濃い茶色の液体を得た。40mlの1M HClを粗生成物に加え、40mlのCHCl3で3回抽出し、濃い茶色の固体が液体界面にプロセス中に形成され、これが有機相に入らないように注意した。有機相を50ml塩水でさらに2回抽出し、Na2SO4で乾燥し、ロータリーエバポレーターを用いて蒸発させた。得られた固体を溶剤A(0.1% TFAを含むMQ水)から溶剤B(0.1% TFAを含むACN)まで勾配を用いて分取HPLCにより精製し、凍結乾燥した後に、最終生成物を、ふわふわとした白から黄色の固体として75%の収率で単離した。
【0102】
1H NMR (500MHz, MeOD): δ 7.54 (s, 1H) δ 6.7 (s, 1H) δ 3.93 (s, 2H) δ 3.62(s, 4H) δ 3.61-3.58 (m, 2H) δ 3.57-3.5 (m, 4H) δ 3.35 (s, 3H) δ 3.07 (t, 2H, J = 6.68Hz). 13C NMR (500MHz, MeOD): δ 173.05 (s) δ 152.4 (s) δ 145.53 (s) δ 141.06 (s) δ 129.39 (s) δ 119.61 (s) δ 113.56 (s) δ 72.97 (s) δ 72.07 (s) δ 71.4 (s) δ 71.39 (s) δ 71.24 (s) δ 59.21 (s) δ 40.47 (s) δ 34.14 (s). HRMS 358.35 [M]についての計算値, 357.35 [M-H]-実測値.
【0103】
ニトロドーパミン-PEG(4)-N3の合成
0.103mmol(40mg)のNHS-PEG(4)-N3(15-アジド-4,7,10,13-テトラオキサ-ペンタデカン酸スクシンイミジルエステル)及び0.1648mmol(48.8mg)のニトロドーパミンヘミサルフェートを、予め乾燥させたフラスコ中で2mLの乾燥DMFに溶解して、濃いオレンジ色の溶液を得た。フラスコを密閉し、アルゴンでフラッシュし、氷浴で冷却した。次に、45.3μLのN-メチルモルホリンを、混合物に、エアフリー法を用いて滴下した。混合物を室温にて48時間撹拌して、黄色から茶色の固体を含む濁った溶液を得た。DMFを30℃にて真空下で一晩蒸発させた。次に、粗生成物を3mlのMilli-Q水に溶解し、1mol*L-1 HCl溶液を用いて5mLに希釈して、およそ1のpHを達成することを目的とした。水性粗生成物を5mlのCHCl3で3回抽出し、濃い茶色の固体が液体界面にプロセス中に形成され、これが有機相に入らないように注意した。有機相を、ロータリーエバポレーションを用いて蒸発させ、30℃にて真空下で再び一晩乾燥させて、茶色から黄色のべとべとした固体を得た。得られた固体を3mLの50/50 ACN/Milli-Q水混合物に溶解し、0.2μmシリンジフィルターにより不溶物を除去した後に、溶液を、溶剤A(0.1% TFAを含むMilli-Q水)から溶剤B(0.1% TFAを含むACN)までの勾配を用いて分取HPLCにより精製し、凍結乾燥した後に、最終生成物を黄色から茶色の固体として70%の収率で単離した。
【0104】
1H NMR (400MHz, D2O): δ 7.66 (s, 1H), 6.82 (s, 1H), 3.76-3.44 (m, H), 3.07 (t, 2H, J = 6,4Hz), 2,45 (t, 2H, J = 6.11Hz). 13C NMR (100,6MHz, D2O): δ 173.86 (s), 150.5 (s), 142.85 (s), 140.19 (s), 129.4 (s), 118.83 (s), 113.18 (s), 69.58 (s), 69.55 (s), 69.5 (s), 69.48 (s), 69.44 (s), 69.18 (s), 66.71 (s), 50.11 (s), 39.12 (s), 36.04 (s), 32.51 (s). HRMS 471,2 [M]についての計算値, 470,12 [M - H]- 実測値.
【0105】
酸化ハフニウムナノ結晶の合成
NCを、ハフニウム(IV)tert-ブトキシド(4.8mmol、2.26g、1.94mL)及び無水ベンジルアルコール(40mL)から、Lauriaら(ACS Nano 2013, 7(8), 7041~7052)にしたがって合成した。合成後に、ジエチルエーテル(17mL)を反応混合物に加え、プラスチックの遠心分離チューブ中で遠心分離(5000rcf、3分)することにより、ナノ結晶を回収した。沈降物をジエチルエーテル(17mL)で3回洗浄した。2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)酢酸での官能化のために、沈降物をまず17mLのトルエンに分散させて、乳白色の濁った液体を得た。335μLの2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)酢酸(0.2885g、1.62mmol)を加えた後に30分間音波処理して、いくつかの不溶物がある透明な懸濁物を得た。不溶物を遠心分離(5000rcf、5分)により除き、澄明な上層を新しいプラスチックの遠心分離チューブに移した。NCを、1:2容量のヘキサン(異性体混合物)を加えることにより沈降させ、遠心分離(5000rcf、5分)の後に、上の有機相を除き、NCをトルエンに再懸濁した。この精製工程をさらに3回反復した後に、トルエンに最後に再懸濁した。トルエン中の精製NC懸濁物は、少なくとも1年間安定なままである。トルエン中の分散物は、乾燥させ、エタノールに分散でき、エタノールから、分散物を再び乾燥させて、MeOH又は水に再懸濁できる。
【0106】
TEM解析
(グリッド上のドロップキャスト懸濁物の)走査電子顕微鏡(TEM)画像はCsコレクターを備えたJEOL JEM-2200FS TEMで得た。
【0107】
動的光散乱解析
動的光散乱(DLS)及びゼータ電位測定は、Malvern Zetasizer Ultra動的光散乱システムで、後方散乱モード(173°)で行った。DLS及びゼータ電位測定は、それぞれ、ガラスキュベット及び使い捨て折り畳み式(folded)キャピラリーセルで行った。全ての測定は、システム内部を240秒間平衡化した後に25℃にて三重に行い、試料濃度は、システム減衰器の値が9~10の間を達成するように調整した。DLSデータ処理は、「汎用」分析モデルを用いるMalvern「ZS Explorer」ソフトウェアを用いて行い、ゼータ電位データ処理は、「モノモーダル」分析モードを用いて同じソフトウェアで行った。
【0108】
UV-vis分析
UV-VISスペクトルは、PerkinElmer Lambda 365で記録した。
【0109】
XRD測定。
X線回折(XRD)は、電動散乱線除去スクリーン、並びにAutochanger及びBragg-Brentanoθ-θジオメトリ(ゴニオメータ半径280mm)を備えたBruker D8 Advanceで行った。この装置は、KβフィルターなしでCu Kα放射(λ=1.54184Å)を用いる。検出器は、192チャネルのLynxEye XE-Tシリコンストリップライン検出器である。試料は、シリコンプレート上にNC懸濁物をドロップキャストすることにより作製した。測定は、15~60°の2θ範囲で、0.02°のステップサイズ及び0.5°/分のスキャン速度で行った。
【0110】
X線散乱分析
対相関関数(Pair Distribution Function:PDF)測定は、Hamburg、GermanyのDESYにてビームラインP21.1にて、高速収集モードで、Varex 2D検出器(2880×2880ピクセル及び150×150μmピクセルサイズ)を用いて、試料から検出器までの距離を800mmとして行った。X線の入射波長は、λ=0.122Åであった。実験セットアップの校正は、ニッケル標準物質を用いて行った。
【0111】
可変温度NMR測定
可変温度1H NMR測定は、600.13MHzプロトン周波数で運転するBruker Avance III NMR分光器で記録し、この装置は、間接5-mm BBIプローブを備えていた。プローブは、自己遮蔽z勾配を備える。318K未満で行う実験について、温度は、±0.2K内の精度を示すメタノール標準物質を用いて校正した。318Kを超える可変温度NMR測定のために、グリセロール標準物質を校正のために用いた。
【0112】
PA-PEG官能化NCについてのNMR測定
(2-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)エチル)ホスホン酸(PA-PEG)でのナノ結晶(NC)官能化についての核磁気共鳴(NMR)測定は、600.13MHzプロトン周波数で運転するBruker Avance III NMR分光器(PA-PEGでの滴定及び水への移行)で記録した。この装置は、直接観測5-mm BBFOスマートプローブ(31P NMR用)又は間接5-mm BBIプローブを備えた。これらのプローブはともに、自己遮蔽z勾配を備える。実験は、298Kで行い、温度は、±0.2K内の精度を示すメタノール標準物質を用いて校正した。
【0113】
PA-PEGでの官能化についての全ての他の1H NMR測定は、298Kの温度にて、600.13MHzプロトン周波数で運転するBruker Avance III HD NMR分光器で記録し、この装置は、極低温QCI-Fプローブを備えていた。PA-PEGでの官能化についての全ての他の31P NMR測定は、298Kの温度にて、500.13MHZプロトン周波数で運転するBruker Avance Neo分光器で記録し、この装置は、BBFOプローブヘッドを備えていた。両方の分光器のためのプローブは、自己遮蔽z勾配を備える。温度は、±0.2K内の精度を示すメタノール標準物質を用いて校正した。
【0114】
PA-hex-PEG及びニトロドーパミン-mPEG官能化NCについてのNMR測定
(6-(2-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)ヘキシル)ホスホン酸(PA-hex-PEG)及びN-(4,5-ジヒドロキシ-2-ニトロフェネチル)-2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)アセトアミド(ニトロドーパミン-mPEG)で官能化したナノ結晶(NC)についての核磁気共鳴(NMR)測定は、600.13MHzプロトン周波数で運転するBruker Avance III HD NMR分光器で記録し、この装置は、極低温QCI-Fプローブを備えていた。PA-hex-PEGでの官能化についての31P NMR測定は、298Kの温度にて、500.13MHZプロトン周波数で運転するBruker Avance Neo分光器で記録し、この装置は、BBFOプローブヘッドを備えていた。両方の分光器のためのプローブは、自己遮蔽z勾配を備える。温度は、±0.2K内の精度を示すメタノール標準物質を用いて校正した。
【0115】
合成リガンドについてのNMR測定
合成リガンドについての1H、13C{1H}、31P{1H}及び2D NMR測定は、298Kの温度にて、500.13MHZプロトン周波数で運転するBruker Avance Neo分光器で記録し、この装置は、BBFOプローブヘッドを備えていた。プローブは、自己遮蔽z勾配を備える。温度は、±0.2K内の精度を示すメタノール標準物質を用いて校正した。
【0116】
NMR実験パラメータ
定量的1D
1H測定について、64kデータ点を、20ppmに設定したスペクトル幅及び30sの緩和遅延でサンプリングした。濃度は、デジタルERETIC法を用いて得た。
2DOSY測定は、二重刺激エコー及び双極勾配パルス(double stimulated echo and bipolar gradient pulses)(dstebpgp2s)で行った。勾配強度は、拡散フィルターを用いた切片が必要ならば8ステップにおいて、又は疑似2Dスペクトルの創出が必要ならば32ステップにおいて、プローブの最大値の2~95%から二次的に変動させた。勾配パルス持続期間及び拡散遅延は、最終増加におけるシグナルの最終減弱が最初の増加に対して10%未満に確実になるように最適化した。拡散係数は、変形Stejskal-Tanner等式をシグナル強度減衰にフィットさせることにより得た:
【数3】
【0117】
Iは、シグナル強度であり、Dは、線形拡散係数であり、γは、研究した核の磁気回転比であり、gは、勾配強度であり、δは、パルス磁場勾配持続期間であり、Δは、拡散遅延である。δには、勾配パルスに用いた平滑化した方形のパルスの形のために、0.6の補正率を適用する。1D 31P{1H}測定のために、zgpg30パルスシーケンスにおいて、25000のデータ点を、270.81ppmに設定したスペクトル幅及び4kスキャンでサンプリングし、LBを、スペクトル後処理中に40Hzに設定した。1D 13C{1H}測定のために、zgpg30パルスシーケンスにおいて、120480のデータ点を、239.49ppmに設定したスペクトル幅及び4kスキャンでサンプリングした。
【0118】
MeOH及びH2O中のスピンろ過精製
2mlの溶剤に溶解した最大限で50mgの材料を含むNC懸濁物を、予めすすいだSartorius Vivaspin (30000 MWCO)スピンろ過チューブに、0.2μmシリンジフィルターを介して移す。懸濁物を、MeOH又はMilli-Q水で20mlの体積に希釈し、溶液を、次いで、2100rcfにて30分間遠心分離機中でスピンさせた。ホスホン酸NC官能化のために、試料当たり3回のサイクルのスピンろ過をMeOHを用いて、また、ニトロドーパミン-mPEG NC官能化のために、最小限で2回のスピンろ過をMilli-Q水を用いて、ろ過物が無色になるまで行った。濃縮物を回収し、蒸発させ、(重水素化)MeOH又は(重水素化)H2Oに懸濁し、30分間の音波処理を行って、全ての凝集体が確実に再懸濁され、不溶物が最小限になるようにした。
【0119】
PA-PEG及びPA-hex-PEGでの滴定。
少量の精製トルエンNCストック懸濁物を蒸発させて、およそ45mgの官能化物質を得た。NCを0.5mlの無水EtOHに懸濁し、30分間音波処理し、その後に溶剤を再び蒸発させた。NCを、次いで、0.5mlのMeODに懸濁し、30分間音波処理し、定量的1H NMR測定を、デジタルERETIC法を用いて行って、MEEAA濃度を決定した。MEEAAシグナルと部分的にオーバーラップするMeOH溶剤ピークを計算から注意して減じて、確実に正確な濃度を決定した。次に、少なくとも3当量のPA-PEG又はPA-hex-PEGを含むストック溶液を、MeOD中で創出した。滴定は、0.1当量のステップでPA-PEG又はPA-hex-PEGを加えることにより行ったが、各添加ステップにて、NMRチューブをはじき、ボルテックスの回転を用いて2分間混合した後に、数秒間音波処理した。
【0120】
PA-PEG及びPA-hex-PEGでのNC官能化。
典型的な官能化において、PA-PEG又はPA-hex-PEGを用いる滴定中と同じ方法を用いる。但し、ここでは、1.5当量のホスホン酸をMEEAA官能化NCに一度に加え、撹拌し、10分間音波処理した後に、スピンろ過を用いて精製して、精製PA-PEG又はPA-hex-PEG官能化NCを得る。
【0121】
D2Oでの滴定
PA-PEG又はPA-hex-PEGで官能化したNCは、上で記載したようにスピンろ過を用いて精製し、濃縮物を蒸発させ、500μLのMeODに再懸濁した。D2Oを段階的な様式で添加して、それぞれ25、50、75及び100%の最終D2O濃度を達成した。必要であれば、懸濁物を、測定の間に蒸発させて、試料体積が0.8mlを超えて増加しないように所望のD2O濃度を達成した。
【0122】
ニトロドーパミン-mPEGでの滴定。
少量の精製トルエンNCストック懸濁物を蒸発させて、およそ10mgの官能化物質を得た。NCを0.5mlの無水EtOHに懸濁し、30分間音波処理し、その後に溶剤を再び蒸発させた。NCを、次いで、0.5mlのMeOHに懸濁し、30分間音波処理し、その後に溶剤を再び蒸発させた。NCを、0.5mlのD2Oに懸濁し、定量的1H NMR測定を、デジタルERETIC法を用いて行って、MEEAA濃度を決定した。1.5当量のニトロドーパミン-mPEG (NC上のMEEAAの量と比較して)を、2当量のNaOD (ニトロドーパミン-mPEGの必要量と比較して)を加えることにより、D2O中で予め活性化した。予め活性化したニトロドーパミン-mPEGを、0.5当量ずつ加えたが、添加中にpHが確実に約5を超えたままであるようにし、各添加ステップの後に、NMRチューブをはじき、次いで、ボルテックスの回転を用いて2分間混合した後に、数秒間音波処理した。
【0123】
ニトロドーパミン-mPEGでのNC官能化。
典型的な官能化において、ニトロドーパミン-mPEGを用いる滴定中と同じ方法を用いる。但し、ここでは、1.5当量の予め活性化したニトロドーパミン-mPEGを一度に加えて、添加中常にpHが約5を確実に超えたままであるようにする。混合物を撹拌し、10分間音波処理した後に、スピンろ過を用いて精製して、精製ニトロドーパミン-mPEG官能化NCを得た。著者らは、この方法は、スピンフィルター当たりに許容される最大ローディングを超えない限り、より多い量のNCに比例して増やすことができることに留意する。
【0124】
リガンド結合に対するpHの影響
全ての測定について、2mlの溶剤が、マイクロpH電極がpH値を測定できるために必要な最小限の量であることを見出した。5M NaClストック溶液を用いて、0.01Mの試料塩濃度を達成し、pH値は、D2O中のDCl及びNaODの0.01Mストック溶液を用いて調整した。
【0125】
ホスホン酸:MeOH中の精製PA-PEG及びPA-hex-PEG官能化NCを、上の方法を用いて創出し、NC懸濁物を蒸発させ、D2Oに再懸濁した。31P NMR測定は、いくつかのpH値にて行った。31Pスペクトルにおける結合及び未結合リガンドの量は、多重ピークフィッティング法(ピークデコンボリューション)により定量した。
【0126】
ニトロドーパミン-mPEG:Milli-Q水中の精製ニトロドーパミン-mPEG官能化NCを、上の方法を用いて創出し、NC懸濁物を、蒸発させ、D2Oに再懸濁した。定量的1H NMR測定は、いくつかのpH値にて行った。1Hスペクトルにおける結合及び未結合リガンドの量は、多重ピークフィッティング法(ピークデコンボリューション)により定量した。
【0127】
動的光散乱安定性評価
全ての測定について、MeOH (ホスホン酸について)又はMilli-Q水(ニトロドーパミン-mPEGについて)中の精製官能化NCを、上の方法を用いて創出し、NC懸濁物を蒸発させ、Milli-Q水に再懸濁した。Z平均値及びゼータ電位測定のために、NC濃度を調整して、9~10の間のシステム減衰器の値を達成した。2mlの溶剤が、マイクロpH電極がpH値を測定し、Z平均値及びゼータ電位測定を行うことができるために必要な最小限の量であることを見出した。全ての測定は、システムの内部を240秒間平衡化した後に、25℃にて三重で行った。
【0128】
Z平均値及びゼータ電位に対するpHの影響。ろ過した5M NaClストック溶液を用いて、0.01Mの試料塩濃度を達成し、懸濁物を15分間音波処理し、0.2μM Suporシリンジフィルターを通してろ過して塵を除いた後に、滴定を開始した。pH値は、Milli-Q水中のHCl及びNaOHのろ過した0.01Mストック溶液を用いて調整した。
【0129】
2×PBS中の安定性懸濁物を、0.2μM Suporシリンジフィルターを通してろ過した後に、Milli-Q水中のHCl及びNaOHのろ過した0.01Mストック溶液を用いてpHを7.4に調整した。PBS濃度は、ろ過した10×PBSストック溶液を段階的に加えることにより増加し、pHは、各添加ステップの後に確認し、必要であれば7.4に再調整した。2×PBS測定における経時的な安定性は、閉鎖石英キュベットで行い、このキュベットは、安定性試験の期間中常に室温及び閉鎖条件に保った。
【0130】
CTスキャン
一般的な検討事項
インビトロ及びインビボCTスキャンは、50kVのチューブ電位にて内蔵高解像度スキャンプロトコールを用いてMolecubes X-cube卓上CTスキャナーで得た。得られたスキャンは、スキャナーの内蔵双方向再構成アルゴリズムを用いて、200、100又は50μmのボクセルサイズで再構成し、さらなるノイズ除去ステップは、データに適用しなかった。再構成データは、Amide又はHorosソフトウェアパッケージを用いて視覚化し、ウィンドウレベルは、そうでないと明記しない限り、各スキャンについて-1000から1000HUまでで一般的に設定した。
【0131】
インビボCTスキャン
インビボスキャンのために、誘導のために5%イソフルラン、及びスキャナー内に維持するために2%イソフルランを用いて、マウスを予め麻酔にかけた。誘導の後に、マウスをうつ伏せの姿勢で温めたスキャンベッドに置いた。平均して、全身スキャンのために、マウスは、スキャン当たりおよそ340mGyのX線量を受けた。インビボ実験のために、再構成は、全てのスキャン点にて200ミクロン解像度で常に行った。
【0132】
PBS中のHfO2 NC濃度系列のCTスキャン
スキャン及び再構成の後に、ハンスフィールド単位の値で表されるX線減弱を、1×1×1mmの球状関心領域測定を用いて各試料チューブにおいて定量した。ピクセル値の中央値を定量中に得て、異常値からの影響の可能性を回避した。X線減弱をNC濃度の関数としてプロットする場合、リガンド重量(18.9m%)をNC重量から予め減じた。なぜなら、リガンドは、純粋に有機であり、X線減弱に著しく寄与しないからである。
【0133】
近赤外蛍光イメージング
IVIS Lumina LTシリーズIIIインビボイメージングシステムを用いて、NC試料及びインビボリンパ節蛍光を可視化した。710(±15nm)及び745(±nm)バンドパス励起フィルター、並びにICGウィンドウ(810-875)nm内のバンドパス発光フィルターを用いて、イメージングを行った。蛍光画像は、典型的に、可視光写真と重ねた。
【0134】
カテコール官能化NCの調製
ニトロドーパミン-mPEG官能化NC
トルエン中の少量の精製MEEAA官能化NCストック懸濁物を蒸発させて、およそ20mgの官能化NCを得た。NCを重水素化ベンゼンに再懸濁し、リガンド濃度を、デジタルERETIC法を用いて定量的1H NMRにより決定して、1mgの官能化NC当たりのmol MEEAAとしてのMEEAA濃度を得た。次に、少量の精製トルエンストック懸濁物を蒸発させて、およそ50mgの官能化NCを得た。NCを2mlの無水エタノールに再懸濁し、30分間音波処理し、その後に溶剤を再び蒸発させた。NCを、次いで、2mlのMeOHに懸濁し、30分間音波処理し、その後に溶剤を再び蒸発させた。最後に、NCを2mlのエンドドキシンフリー超純水に懸濁し、30分間音波処理した。ニトロドーパミン-mPEG官能化NCについて、定量的NMRにより決定したMEEAA濃度に基づいて1.2当量のニトロドーパミン-mPEGを別のバイアルで秤量し、3mlのエンドドキシンフリー超純水に溶解した。ニトロドーパミン-mPEGの必要量と比較して2当量のNaOHを、ニトロドーパミン-mPEG溶液に加えて、濃いブルゴーニュワイン色になった。リガンド溶液を、次いで、激しく撹拌しながらNC懸濁物に迅速に加え、酸性から塩基性pHへの移行中の短い濁りが観察され、これは通常であり、リガンドを完全に加えた後に、透明な赤色からオレンジ色の液体を得て、これを15分間音波処理し、激しく撹拌した。音波処理及び撹拌の後に、懸濁物のpHをおよそ9に調整した後に、精製を開始した。精製ニトロドーパミン官能化NC懸濁物を、スピンろ過による精製の後に得た。
【0135】
ニトロドーパミン-mPEG及びニトロドーパミン-PEG(4)-N3官能化NC
大まかに98%のニトロドーパミン-mPEG及び2%のニトロドーパミン-PEG(4)-N3 (NC当たり約1のアジド)を含む混合カテコールリガンドシェルで官能化されたNCについて、1.18当量のニトロドーパミン-mPEG及び0.02当量のニトロドーパミン-PEG(4)-N3の混合物を用いた以外は上と同じ手順にしたがった。
【0136】
ナノ結晶の数及びリガンド密度
所定の量のNC重量についてのNCの数の近似値を計算するために、本発明者らは、材料密度(9.68g/cm
3)を分子量(210.49g/mol)で除することにより、材料のモル体積(21.745cm
3/mol)を計算することから始める。
【数4】
【0137】
次に、平均NC体積(15.33nm
3)を、長球形状、2.52nmの平均長軸半径及び1.205nmの平均短軸半径に基づいて計算する。
【数5】
【0138】
cm
3に変換した平均NC体積を、次いで、モル体積及びアボガドロ定数で除して、mol HfO
2/NC (7.05*10
-22mol/NC)を決定する。
【数6】
【0139】
最後に、NCの数(N
NC)を、グラムでのNC重量(リガンド重量は減じている)を分子量(210.49g/mol)及びHfO
2/NC (7.05*10
-22mol/NC)で除することにより決定する。
【数7】
【0140】
NC表面上のリガンド密度を計算するために、本発明者らは、長球の面積の公式を当てはめることにより、NCの平均表面積(A
NC、32.42nm
2)を計算することから始める。
【数8】
【0141】
次に、所定の量の精製官能化NCのTGA質量損失(m%)に基づいて、molでのリガンド量(n
リガンド、mol)を得る。
【数9】
【0142】
リガンド量(n
リガンド)にアボガドロ定数を乗じ、NCの数(N
NC)で除することにより、リガンド/NCが得られる。
【数10】
【0143】
最後に、リガンド/NCをNC表面(A
NC)で除することにより、nm
-2でのリガンド密度が得られる。
【数11】
【0144】
スピンろ過精製
20mlのSartorius Vivaspin (30000 MWCO)スピンろ過チューブを70%エタノールできれいにし、次いで、中性pHにて20mlのエンドドキシンフリー超純水で予めすすいだ。最大限で50mgの溶解された材料を含むpH8~9のNC懸濁物を、0.2mシリンジフィルターを通してスピンろ過チューブに移した。懸濁物を、中性pHのエンドトキシンフリー超純水で20mlの容量に希釈し、溶液を、次いで、2100rcfにて20分間遠心分離機中でスピンさせる。ニトロドーパミン-mPEG及び混合カテコールリガンドシェル官能化のために、ろ過物が無色になるまで、エンドドキシンフリー超純水を用いて最小限で5回のサイクルのスピンろ過を行った。濃縮物をスピンフィルターから回収し、35℃にて真空下で蒸発させた。乾燥NCは、室温にて粉末で貯蔵できるか、又はおよそ300mg HfO2/mlの最大NC濃度にて水若しくはpH7.4にてPBS中に再懸濁できる。後者の場合、有機リガンド重量(18.9m%)を、濃度計算において官能化NC重量から減じ、懸濁物は、滅菌0.2mシリンジフィルターを通してろ過し、滅菌バイアル中で貯蔵する。水又はPBS中のNC懸濁物は、高濃度でさえ少なくとも2か月間安定なままである。
【0145】
官能化NCへの色素コンジュゲーション
混合カテコールリガンドとのNCの官能化において、最終精製物は、NC当たり約1のアジドを有すると仮定する。典型的な色素カップリング反応において、10mgの混合カテコール官能化NCを、HPLCバイアル中でまず秤量し、pH7にて100μLのエンドドキシンフリー超純水に溶解する。18.9m% (TGA質量損失により確認された)のリガンド質量貢献度に基づいて、これは、8.11mgの裸のナノ結晶に相当し、これは次いで、5.04nmの平均長径、2.41nmの平均短径及び長球のNC形状に基づいて5.4662*10
16 NCに相当する。1.1当量のIRDye-800CW-DBCO (5.4662*1016分子、0.091μmol、0.12mg)を、化学天秤上でHPLCバイアル中で秤量し、pH7にて200μLのエンドドキシンフリー超純水に溶解した。色素分子濃度は、1cmの光路長及び240000L*(mol*cm)
-1の色素の吸光係数、774nmの波長で測定した吸光度でのLambert-Beerの法則を当てはめるUV-VIS分光法を用いて確認した。等式10を参照されたい。
【数12】
【0146】
色素溶液をNCに加え、300μLの容量までさらに希釈して、透明な黄色から緑色の懸濁物を得た。反応混合物を光から遮蔽して、30℃にて2時間撹拌した。NCを、次いで、連続3回のサイクルのスピンろ過により精製し、その後、濃縮物を単離し、光から遮蔽しながら30℃にて真空下で蒸発させた。およそ1個の色素分子/NCを含む、得られた濃い緑色のNC粉末を、アルゴン下で-20℃にて冷凍庫で貯蔵した。
【0147】
製剤調製
NC及び色素濃度がそれぞれ292mg NC/ml及び28μmol/Lである製剤を達成するために、官能化NC上の色素グラフト密度を決定することが最初のステップである。この点で、1mgの乾燥色素官能化NCを、4mlの1×PBSに懸濁し、UV-VISを用いて測定する。1cmの光路長及び240000L*(mol*cm)-1の色素の吸光係数、最大NIR吸収ピーク(±780nm)で測定した吸光度でのLambert-Beerの法則を用いて、色素濃度をmol*L-1で決定し、これを、次いで、mol色素/mg官能化NCに変換する。次に、ニトロドーパミン-mPEG官能化NCのストック溶液を、色素官能化NC粉末と混合し、15分間音波処理して、292mg NC/mlのNC濃度及び28μmol/Lコンジュゲート色素を達成する。この手順をよい例として、5.796*10-9mol色素/mg官能化NCを含む色素コンジュゲートNCバッチが利用可能であると仮定する。この色素官能化粉末0.199mg(18.9m%有機物重量、0.161mg裸のNC)を、40μLの288mg NC/mlの濃度のニトロドーパミン-mPEG NCストックと混合すると、所望のNC及び色素濃度が得られる。
【0148】
皮下足蹠注入
PBS溶液又はNC懸濁物の皮下注入の前に、マウスに、誘導のために5%イソフルランで麻酔をかけ、注入手順中の維持のために2%イソフルランに減らした。麻酔を一旦かけると、マウスを、温めたベッドに仰向けの姿勢で置き、後肢を赤外線ランプを用いておよそ30秒間温めた。足蹠皮膚を固定し、29G針を有する0.5mlインスリンシリンジを踵領域に皮下挿入し、足趾に向かっておよそ3mm進めた。プロセス全体にわたって、針は、足蹠の薄い皮膚層から目視可能であった。次に、最大容量50μLのPBS溶液又はNC懸濁物をゆっくりと注入し、同時に針をゆっくりと踵の方に向かって引っ張った。注入完了後に、針をさらに30秒間足蹠に維持し、その後、後肢から抜いた。針を抜いた直後に、5%キシロカインのたっぷりとした層を、鎮痛剤として注入した後肢に塗った。
【国際調査報告】