(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】がんの処置のための化合物およびその組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 51/08 20060101AFI20241108BHJP
C07K 5/065 20060101ALI20241108BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
A61K51/08 100
C07K5/065
A61K51/08 200
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531086
(86)(22)【出願日】2022-11-24
(85)【翻訳文提出日】2024-07-12
(86)【国際出願番号】 AU2022051410
(87)【国際公開番号】W WO2023092184
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519156661
【氏名又は名称】クラリティー・ファーマシューティカルズ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【氏名又は名称】加藤 真司
(74)【代理人】
【識別番号】230111590
【氏名又は名称】金本 恵子
(72)【発明者】
【氏名】マキネス ラクラン アイオン
(72)【発明者】
【氏名】ハリス マシュー ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ダム エレン マリアンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ビギン コリン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA12
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085HH03
4C085KA09
4C085KA29
4C085KB07
4C085KB12
4C085KB82
4C085LL18
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、金属キレート剤とPSMAに結合可能な2個の断片とを含有する化合物、その組成物および処置方法におけるその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
式中、Mは以下:
【表1】
からなる群から選択される金属キレート剤の残基であり、各リンカーは同一であっても異なっていてもよく、下記の基:
【表2】
またはその断片のうち1つ以上を含有する]
の化合物またはその薬学的に許容される塩、錯体、異性体、溶媒和物もしくはプロドラッグ。
【請求項2】
式(Ia):
【化2】
[式中、Mは以下:
【表3】
からなる群から選択される金属キレート剤の残基である]
の化合物またはその薬学的に許容される塩、錯体、異性体、溶媒和物もしくはプロドラッグ。
【請求項3】
金属キレート剤が、Cu、Ga、Lu、F、Tc、In、Zr、Y、Rb、Ac、Rd、Re、Sm、Lu、Sc、Zr、Y、Ac、As、RaおよびIからなる群から選択される金属のイオンと錯体を形成する、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
イオンが放射性核種である、請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
Cu放射性核種と錯体を形成する、請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
Cu放射性核種が
60Cu、
61Cu、
62Cu、
64Cuおよび
67Cuからなる群から選択される、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
Ga放射性核種と錯体を形成する、請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
Ga放射性核種が
68Gaである、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
Lu放射性核種と錯体を形成する、請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
Lu放射性核種が
177Luである、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
90Y、
111In、
177Lu、
188Re、
211As、
212Pbおよび
225Acからなる群から選択される放射性核種と錯体を形成する、請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項12】
下記の構造:
【化3】
のうち1つを有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項13】
放射性核種と錯体を形成する、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の化合物と、1種以上の薬学的に許容される賦形剤とを含有する、組成物。
【請求項15】
がんのラジオイメージングを必要とする対象におけるラジオイメージングのための方法であって、該対象に請求項4から11および13のいずれか一項に記載の化合物を投与する工程を含有する、方法。
【請求項16】
がんがPSMAの過剰発現を特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
がんが前立腺がんである、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
がんの処置を必要とする対象におけるがんの処置の方法であって、該対象に請求項4から11および13のいずれか一項に記載の化合物を投与する工程を含有する、方法。
【請求項19】
がんがPSMAの過剰発現を特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
がんが前立腺がんである、請求項17または18に記載の方法。
【請求項21】
がんのラジオイメージングのための医薬の製造における、請求項1から13のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項22】
がんがPSMAの過剰発現を特徴とする、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
がんが前立腺がんである、請求項21または22に記載の使用。
【請求項24】
がんを処置するための医薬の製造における、請求項1から13のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項25】
がんがPSMAの過剰発現を特徴とする、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
がんが前立腺がんである、請求項24または25に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属キレート剤とPSMAに結合可能な2個の断片とを含有する化合物、その組成物および処置方法におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺がんは、男性におけるがん関連死の主因であり、現在では手術、放射線療法、化学療法およびホルモン療法から選択される1種以上の技術を使用して処置される。処置のための種々の潜在的な手段が存在するが、すべての選択肢が所与の患者に好適であるとは限らず、施されるすべての処置が成功するとは限らない。
【0003】
放射線療法および化学療法などの処置選択肢の欠点としては、望ましくない副作用を患者が経験する可能性が挙げられ、これは多くの場合、特定の化合物が有し得る標的がん部位に対する特異性に限界があることが理由である。このことは、処置の効率が低いことに加えて、患者がさらなる不快感を伴う治療レジメンを受ける必要がある可能性があることを意味する。さらには、健康な組織の損傷が生じるおそれがあり、これもやはり、施される治療が標的がん部位ではない部位において作用することが理由である。
【0004】
前立腺がんが、多くの場合、前立腺特異的膜抗原(PSMA)の過剰発現を特徴とすることが知られているが、投与される化合物が、標的抗原を(任意の自然に発現する抗原の存在下で)過剰発現するがん部位をインビボで標的化する能力には、多くの場合、限界がある。さらに、放射線療法剤または化学療法剤は、PSMAを特異的に標的化する能力を示す場合であっても、適切な保持性および代謝性も有さなければならない。
【0005】
PSMAを過剰発現する部位を同定および標的化することで前立腺がんを処置することに関して、がん部位に対する所与の化合物の結合性を向上させるための1つのアプローチは、該化合物のPSMAを標的化する部分を増加させることである。これは、化合物中のPSMAを標的化する部分の数を増加させることを含みうるが、これによって化合物の大きさが増し、したがって溶解性、保持性および代謝性などの特性(いずれも分子量に関連し得る)も改変され、潜在的には不都合に改変される。例えば、化合物は、生理的条件下で可溶性でなければならず、循環系中で輸送されなければならず、標的部位における十分な結合性を有さなければならず、好ましい代謝および毒性プロファイル(例えば、肝毒性を制限するために肝臓中での蓄積が最小限であること、腎毒性を制限するために腎臓中での蓄積が最小限であること)を有さなければならない。
【0006】
さらに、特に放射線療法剤(すなわち放射性医薬品)の場合、化合物は、適切な放射性核種を配位させ、保持し、がん部位に送達する能力も有さなければならない。
【0007】
PSMAを発現するがん部位に対する結合親和性の改善を示すことができて、意図する部位に対する放射線治療特性およびラジオイメージング(radioimaging)特性を示す能力を有することができる化合物が求められている。また、化合物が使用中に十分に安定であって分解されないというだけでなく、一定時間後に代謝および排出されるということも求められている。
【発明の概要】
【0008】
本発明の化合物は、金属キレート剤と、それぞれ別々のリンカーによって金属キレート剤に結合した2個のリジン-尿素-グルタミン酸(Lys-urea-Glu)部分とを含む。Lys-urea-Glu部分は、いくつかのがん、例えば前立腺がんの表面で過剰発現される前立腺特異的膜抗原(PSMA)に結合する。Lys-urea-Glu部分を金属キレート剤に結合させるリンカーは、2個のフェニルアラニン残基によって結び付けられた2個のアルキレン鎖を含有しており、介在する様々なアミド結合がこれらの基を一緒に結び付ける。Lys-urea-Glu部分と金属キレート剤とを連結するアルキレンリンカーおよびフェニルアラニン残基は、Lys-urea-Glu部分と金属キレート剤とを隔離するように機能する。これにより、Lys-urea-Glu部分および金属キレート剤の活性が互いに干渉し合わないことが確実になる。しかし、金属キレート剤とLys-urea-Glu部分との隔離は、Lys-urea-Glu部分が標的化する部位に金属キレート剤がその内側に含まれる金属を送達することができなくなる距離では隔離しないことが重要である。本発明者らは、PSMAに結合可能な2個の部分を含有する本明細書に開示の式(I)の化合物が、放射性核種と錯体を形成する式(I)の化合物を対象に投与する、ラジオイメージングおよび処置のより効率的な方法を実現することを発見した。
【0009】
本発明者らは、Lys-urea-Glu部分を1個含む化合物とは対照的に、本明細書に開示の化合物が、PSMAを発現する部位における結合性および保持性の向上、すなわち、投与される化合物が所望の部位に結合および保持される割合の増加を示すことを発見した。これにより、PSMAの過剰発現に関連するがんの処置および画像化(imaging)の効率が向上する。本明細書に開示の化合物が標的部位に対する結合性の向上を示すことから、対象に投与される本化合物の用量を必要に応じて少なくまたは多くすることができる。例えば、本明細書に開示の化合物は適切な放射性核種をキレートできるので、このことは、対象に投与される放射線量を少なくしても画像を提供できること、または、必要な標準的処置のために、対象に投与される放射線量を多くできることを意味する。投与される放射線量を少なくする場合、これにより、放射性核種の投与により生じる任意の望ましくない副作用、すなわちオフターゲットの放射線障害の可能性および/または重症度が減少する。
【0010】
本発明の化合物がラジオイメージングおよび放射線療法のための放射性核種を含むことから、本化合物は画像化または治療に十分な時間にわたって保持されなければならないが、本化合物は一定時間後には代謝および対象からの排出もされなければならない。本発明者らは、本発明の化合物が2個のPSMA結合部分を含み、したがってより大きな分子量を有するものの、本化合物が、PSMAを発現するがん部位におけるラジオイメージングおよび保持の間により良好な画像を提供するように結合性および保持性の改善を示し、また、本化合物が所望の時間枠内での代謝に必須の安定性および物理特性を示すということを発見した。
【0011】
第1の態様では、本発明は、式(I):
【化1】
[式中、各リンカーは同一であっても異なっていてもよく、
Mは以下からなる群から選択される金属キレート剤の残基である]
の化合物またはその薬学的に許容される塩、錯体、異性体、溶媒和物もしくはプロドラッグを提供する。
【表1】
【0012】
ある実施形態では、式(I)の化合物中のリンカーは同一である。他の実施形態では、式(I)の化合物中のリンカーは異なっている。ある実施形態では、各リンカーは下記の基またはその断片のうち1つ以上を含有する。
【表2】
【0013】
一部の実施形態では、式(I)の化合物は下記の構造のうち1つを有する。
【化2】
【0014】
ある実施形態では、式(I)の化合物中の金属キレート剤は、Cu、Lu、Ac、Tc、Gd、Ga、In、Co、Re、Fe、Mg、Ag、Rh、Pt、Cr、Ni、V、Ir、Zn、Cd、Mn、Ru、Pd、Hg、Ti、Lu、Sc、Zr、Y、Ac、As、RaおよびPbからなる群から選択される金属のイオンと錯体を形成する。
【0015】
一部の実施形態では、金属キレート剤中で錯体を形成する金属イオンは放射性核種である。
【0016】
一部の実施形態では、式(I)の化合物は、60Cu、61Cu、62Cu、64Cu、67Cu、68Ga、90Y、111In、177Lu、188Re、211As、212Pbおよび225Acからなる群から選択される放射性核種と錯体を形成する。
【0017】
第2の態様では、本発明は、第1の態様に定義の式(I)の化合物と、1種以上の薬学的に許容される賦形剤とを含有する、組成物を提供する。
【0018】
本発明者らは、放射性核種が配位された本化合物が所望の部位に十分に結合することができ、画像化または治療のために当該部位に放射性核種を送達することができれば、本化合物を放射性医薬品またはラジオイメージング剤として使用できると考える。
【0019】
第3の態様では、本発明は、がんのラジオイメージングすることを必要とする対象におけるがんのラジオイメージングのための方法であって、該対象に、放射性核種が配位した第1の態様の式(I)の化合物または第2の態様の組成物を投与する工程を含有する、方法を提供する。
【0020】
ある実施形態では、ラジオイメージングのための方法は、陽電子放出断層撮影(PET)または単一光子放出型コンピュータ断層撮影(SPECT)による画像化を含有する。
【0021】
第4の態様では、本発明は、がんの処置を必要とする対象におけるがんの処置の方法であって、該対象に、放射性核種が配位した第1の態様の式(I)の化合物または第2の態様の組成物を投与する工程を含有する、方法を提供する。
【0022】
特定の実施形態では、がんは前立腺特異的膜抗原(PSMA)の過剰発現を特徴とする。さらなる実施形態では、がんは前立腺がんである。
【0023】
第5の態様では、本発明は、がんをラジオイメージングするための医薬の製造における、放射性核種が配位した第1の態様の式(I)の化合物の使用を提供する。
【0024】
ある実施形態では、ラジオイメージングは、陽電子放出断層撮影(PET)または単一光子放出型コンピュータ断層撮影(SPECT)による画像化を含有する。
【0025】
第6の態様では、本発明は、がんを処置するための医薬の製造における、放射性核種が配位した第1の態様の式(I)の化合物の使用を提供する。
【0026】
ある実施形態では、がんは前立腺特異的膜抗原(PSMA)の過剰発現を特徴とする。
【0027】
他の実施形態では、がんは前立腺がんである。
【0028】
ここで本発明を、以下の非限定的な図面を参照しながら、単に例示として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】A)HBED-ビスPSMA前駆体およびB)[
68Ga]Ga-HBED-ビスPSMA試料のラジオHPLCクロマトグラムを示すグラフ図である。
【
図2】2つの組織生体内分布時点における
68Ga-HBED-CC-ビス(PSMA)、
64Cu-DOTA-ビス(PSMA)および
64Cu-NOTA-ビス(PSMA)の組織重量1グラム当たりの注入量(%)(%ID/g)の平均値±SEMを、各組織について示すものである。
【
図3】各組織について示される2つの組織生体内分布時点における
68Ga-HBED-CC-ビス(PSMA)、
64Cu-DOTA-ビス(PSMA)および
64Cu-NOTA-ビス(PSMA)の組織重量1グラム当たりの注入量(%)(%ID/g)の平均値±SEMを、分割されたy軸によって示すものである。
【
図4】2つの組織生体内分布時点における
68Ga-HBED-CC-ビス(PSMA)、
64Cu-DOTA-ビス(PSMA)および
64Cu-NOTA-ビス(PSMA)の組織重量1グラム当たりの注入量(%)(%ID/g)を各組織について示すものであり、各マウスのデータを平均値±SEMと共に示す(n=5または4)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下の本明細書および特許請求の範囲全体を通じて、文脈が別途必要としない限り、「含有する(comprise)」という用語、ならびに「含有する(comprises)」および「含有(comprising)」などの変形は、記載される整数もしくは工程または整数群もしくは工程群の包含を含意するが、他の整数もしくは工程または整数群もしくは工程群の排除を含意しないものと理解されよう。
【0031】
本明細書において使用される「約(about)」または「約(approximately)」という用語は、当業者が決定する特定の値に関して許容される誤差範囲内を意味するものであり、これは、値がどのようにして測定または決定されるか、すなわち測定システムの限界に部分的に依存する。
【0032】
別途定義されていない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。本発明に関して、以下の用語を下記に定義する。
【0033】
本明細書において使用される「残基」という用語は、1個以上の原子の除去により得られる化合物の部分を意味する。除去される1個以上の原子は水素原子であってもよい。当業者は、例えば、化合物がカルボン酸(-COOH)官能基を含有する場合、式(I)の化合物に見いだされる残基がアミノ酸のカルボキシレート(すなわち-COO-)を含有し、これが該化合物の残りに結合していることを理解するであろう。
【0034】
本明細書において使用される「薬学的に許容される塩」という用語は、上記の化合物の所望の生物活性を保持する塩を意味するものであり、薬学的に許容される酸付加塩および塩基付加塩を含む。式(I)の化合物の適切な薬学的に許容される酸付加塩は、無機酸または有機酸から調製してもよい。これらの無機酸の例としては塩酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、カンファースルホン酸、シュウ酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、ギ酸、臭化水素酸、安息香酸、酒石酸、フマル酸、サリチル酸、マンデル酸、および炭酸がある。適切な有機酸は脂肪族、脂環式、芳香族、複素環式カルボン酸およびスルホン酸クラスの有機酸から選択することができ、その例としてはギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、アルキルスルホン酸およびアリールスルホン酸がある。薬学的に許容される塩は、主化合物が酸として機能し、適切な塩基と反応することで例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、およびコリン塩を形成する、塩も含む。さらに、当業者は、酸付加塩を、いくつかの公知の方法のうちいずれかによる化合物と適切な無機酸または有機酸との反応によって調製することができることを認識するであろう。あるいは、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩を、種々の公知の方法によって化合物と適切な塩基とを反応させることで調製することもできる。以下は、無機酸または有機酸との反応によって得ることができる酸性塩のさらなる例である:酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、硫酸水素塩、酪酸塩、ショウノウ酸塩、ジグルコン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、パルモ酸塩(palmoate)、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩、メシル酸塩およびウンデカン酸塩。薬学的に許容される塩に関するさらなる情報はRemington’s Pharmaceutical Sciences,19th Edition,Mack Publishing Co.,Easton,PA 1995に見ることができる。固体である物質の場合、当業者には、本発明の化合物、物質および塩が異なる結晶形または多形として存在することができ、これらの形態がいずれも本発明および特定の式の範囲内にあるように意図されていることが理解されよう。
【0035】
本明細書において使用される「錯体」という用語は、配位子と該配位子の適切な部分が配位した金属とを含有する、部分を意味する。例えば、本明細書に開示の式(I)の化合物は1種以上の金属イオンの配位子として機能するものであり、該金属イオンは金属キレート剤を介して該配位子が配位している。
【0036】
本明細書において使用される「異性体」という用語は、本発明の化合物のすべての位置異性体および立体異性体を意味しかつ含む。立体異性体の例としては、適切な場合、ジアステレオマーおよび鏡像異性体が挙げられる。
【0037】
本明細書に開示の式(I)の化合物は、金属キレート剤(M)を含む。本発明の化合物中で使用される金属キレート剤(M)の例としては以下が挙げられる。
【表3】
【0038】
金属キレート剤の残基が、画像化または治療のためにかつ本化合物の意図する用途に照らして、意図する放射性核種に緊密に結合するように選択されることが理解されよう。同一の標的化化合物を含むが異なる大環状キレート剤を含有するコンジュゲートが異なる生体内分布プロファイルを有することを示した研究が存在する(von Witting,E.et al.European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics,2019,140,109-120;Bogdan,M.et al.International Journal of Oncology,2016,2124-2134)。放射性核種が同一の原子価を有する場合であっても、生体内分布の差が存在し得る。Heppeler,Aらは、DOTAとコンジュゲートしかつ67Gaまたは90Yと錯体を形成するソマトスタチン類似体を調査した(Heppeler,A,et al.Chemistry,1999,5,1974-1981)。67Gaと錯体を形成する類似体は、90Y錯体に比べて、ソマトスタチン受容体2型に対する親和性が5倍高く、腫瘍取り込み量が2倍多かった。これらの顕著な差は、DOTAに対する67Gaおよび90Yの配位幾何構造(coordination geometries)の差に起因し、その結果、コンジュゲートしたペプチドの立体構造に差が生じた。
【0039】
1つの実施形態では、本発明は、式(I):
【化3】
[式中、各リンカーは同一であっても異なっていてもよく、
Mは以下:
【表4】
からなる群から選択される金属キレート剤の残基である]
の化合物またはその薬学的に許容される塩、錯体、異性体、溶媒和物もしくはプロドラッグを提供する。
【0040】
別の実施形態では、本発明は、式(I):
【化4】
[式中、各リンカーは同一であっても異なっていてもよく;
Mは以下:
【表5】
からなる群から選択される金属キレート剤の残基である]
の化合物またはその薬学的に許容される塩、錯体、異性体、溶媒和物もしくはプロドラッグを提供する。
【0041】
式(I)の上記実施形態が、3個または4個の配位窒素原子を含有する大環状キレート剤および非環式キレート剤が代表的である、キレート剤を含有することが認識されよう。当業者は、他の大環状または非環式キレート剤を含有する本発明の実施形態が、これらの実施形態と同様の薬理特性を示すことを合理的に予想するであろう。
【0042】
金属キレート剤を含む本発明の化合物の例としては以下が挙げられる。
【化5】
【0043】
上記に示す構造は、式(I)の化合物の特定の位置異性体を表す。本発明はまた、リンカーが金属キレート剤に該キレート剤の異なる原子を介して結合し得る、本発明の化合物の異なる位置異性体をも企図する。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、特定の化合物の特定の位置異性体が、金属イオンによる該化合物の錯化により形成される錯体の安定性の向上、リンカーに結合した末端基の隔離の最適化ならびに該化合物全体の形状およびサイズの好ましさといった利点を提供し得ると考える。上記に示す構造は、特定の化合物のラセミ体(すなわち立体化学配置が未確定の形態)または特定の化合物の特定の立体異性体をも表す。本発明はまた、本明細書に記載の化合物の異なる立体異性体(鏡像異性体およびジアステレオマーを含む)をも企図する。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、本明細書に開示の化合物の特定の鏡像異性体がその対応するラセミ体に比べて大きな利点(例えば結合親和性および全体的有効性の向上)を提供し得ると考える。
【0044】
本発明の化合物と錯体を形成し得るイオンの例としては、Cu、Lu、Ac、Tc、Gd、Ga、In、Co、Re、Fe、Mg、Ag、Rh、Pt、Cr、Ni、V、Ir、Zn、Cd、Mn、Ru、Pd、Hg、Ti、Lu、Sc、Zr、Lu、Sc、Zr、Y、Ac、As、RaおよびPbからなる群から選択される金属のイオンが挙げられる。
【0045】
一部の実施形態では、金属キレート剤中の錯化される金属イオンは放射性核種である。
【0046】
一部の実施形態では、式(I)の化合物は、60Cu、61Cu、62Cu、64Cu、67Cu、68Ga、90Y、111In、177Lu、188Re、211As、212Pbおよび225Acからなる群から選択される放射性核種と錯体を形成する。
【0047】
本明細書に記載の金属キレート剤は1種以上の金属イオンと錯体を形成してもよく、ここで、特定の金属キレート剤は1種以上の金属イオンと好ましい錯体を形成してもよい。例えば、DOTAを金属キレート剤として含む本発明の化合物は、Luイオンと錯体を形成してもよい。ある実施形態では、本発明の化合物は、DOTAキレート剤およびLuイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAキレート剤および177Luイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAキレート剤およびAcイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAキレート剤および225Acイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAキレート剤およびInイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAキレート剤および111Inイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAキレート剤およびYイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAキレート剤および90Yイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAキレート剤およびReイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAキレート剤および188Reイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAキレート剤およびGaイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAキレート剤および68Gaイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAキレート剤およびCuイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAキレート剤および67Cuイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAキレート剤およびAsイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAキレート剤および211Asイオンを含む。
【0048】
他の実施形態では、本発明の化合物は、HBED-CCを、Gaイオンと錯体を形成し得る金属キレート剤として含む。ある実施形態では、本発明の化合物は、HBED-CCキレート剤およびGaイオンを含む。ある実施形態では、本発明の化合物は、HBED-CCキレート剤および68Gaイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、HBEDを、Gaイオンと錯体を形成し得る金属キレート剤として含む。ある実施形態では、本発明の化合物は、HBEDキレート剤およびGaイオンを含む。ある実施形態では、本発明の化合物は、HBEDキレート剤および68Gaイオンを含む。
【0049】
他の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAキレート剤およびAcイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAキレート剤および225Acイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAキレート剤およびInイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAキレート剤および111Inイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAキレート剤およびYイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAキレート剤および90Yイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAキレート剤およびReイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAキレート剤および188Reイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAキレート剤およびGaイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAキレート剤および68Gaイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAキレート剤およびCuイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAキレート剤および67Cuイオンを含む。
【0050】
他の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAGAキレート剤およびAcイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAGAキレート剤および225Acイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAGAキレート剤およびInイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAGAキレート剤および111Inイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAGAキレート剤およびYイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAGAキレート剤および90Yイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAGAキレート剤およびReイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAGAキレート剤および188Reイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAGAキレート剤およびGaイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAGAキレート剤および68Gaイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAGAキレート剤およびCuイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAGAキレート剤および67Cuイオンを含む。
【0051】
他の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAGAキレート剤およびAcイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、DOTAGAキレート剤および225Acイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAGAキレート剤およびInイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAGAキレート剤および111Inイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAGAキレート剤およびYイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAGAキレート剤および90Yイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAGAキレート剤およびReイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAGAキレート剤および188Reイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAGAキレート剤およびGaイオンを含む。一部の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAGAキレート剤および68Gaイオンを含む。他の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAGAキレート剤およびCuイオンを含む。一部の実施形態では、一部の実施形態では、本発明の化合物は、NOTAGAキレート剤および67Cuイオンを含む。
【0052】
本明細書において使用される「溶媒和物」という用語は、溶質および溶媒により形成される、様々な化学量論を示し得る化合物の複合体を意味する。溶媒和物中のこれらの溶媒は溶質の生物活性に干渉しないはずである。適切な溶媒の例としては水、エタノールまたは酢酸を挙げることができる。化合物の溶媒和の方法は当技術分野において一般に公知である。
【0053】
本明細書において使用される「プロドラッグ」という用語は、インビボで本発明の化合物に変換される誘導体を意味しかつ含む。これらの誘導体は、当業者には容易に想到されるものであろうし、例えば、エステル誘導体に変換される遊離ヒドロキシル基を含む化合物、またはN-オキシドに変換される環窒素原子を含む化合物が挙げられる。エステル誘導体の例としてはアルキルエステル、リン酸エステルおよびアミノ酸から形成されるエステルが挙げられる。
【0054】
本明細書において使用される「処置する」、「処置」、「予防する」、「予防」という用語および文法的等価物は、記載される神経内分泌腫瘍を治療するか、疾患の確立を予防し、遅延させもしくは延期するか、または疾患の進行を予防し、妨害し、遅延させ、もしくは逆転させる、あらゆる使用を指す。したがって、「処置する」および「予防する」などの用語は、その最も広い文脈で考えられるべきである。例えば、処置は、患者が完全回復まで処置されることを必ずしも意味しない。疾患が複数の症状を示すかまたは特徴づけれている場合、処置または予防は、必ずしも該症状のすべてを治療し、予防し、妨害し、遅延させ、または逆転させるものではないが、該症状のうち1以上を予防し、妨害し、遅延させ、または逆転させ得る。
【0055】
本明細書において使用される「がん」という用語は、身体の他の部分に浸潤または広がる(spread)可能性を伴う異常細胞増殖を特徴とする新生物疾患を広く包含する。がんは良性であることがあり、すなわち、身体の他の部分に広がらない。がんは悪性であることがあり、すなわち、がん細胞が循環系またはリンパ系を通じて広がることがある。本明細書において使用されるこの用語は、すべての悪性の、すなわち癌性の疾患状態を含む。がんは腫瘍として存在し得る。
【0056】
本明細書において使用される「がん」という用語は、身体の他の部分に浸潤または広がる可能性を伴う異常細胞増殖を特徴とする新生物疾患を広く包含する。がんは良性であることがあり、すなわち、身体の他の部分に広がらない。がんは悪性であることがあり、すなわち、がん細胞が循環系またはリンパ系を通じて広がることがある。本明細書において使用されるこの用語は、すべての悪性の、すなわち癌性の疾患状態を含む。がんは腫瘍として存在し得る。したがって、「腫瘍」という用語は、任意の悪性の癌性または前癌性の細胞増殖を定義するように一般的に使用され、白血病を含み得るが、特に固形腫瘍または固形癌、例えば黒色腫、結腸がん、肺がん、卵巣がん、皮膚がん、乳がん、膵がん、咽頭がん、脳がん、前立腺がん、肝がん、CNSがん、および腎がん(ならびに他のがん)などに関する。
【0057】
ある実施形態では、がんは前立腺特異的膜抗原(PSMA)の過剰発現に関連している。特定の実施形態では、がんは乳がん、結腸がん、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、頭部および/もしくは頸部がん、または腎がん、胃がん、膵がん、肝細胞がん(HCC)、脳がんならびに例えばリンパ腫または白血病などの血液悪性疾患からなる群から選択される。特定の実施形態では、がんは前立腺がんである。他の実施形態では、前立腺がんは転移性去勢抵抗性前立腺がんである。
【0058】
本発明は、対象におけるがんの処置のための、適切な放射性核種と錯体を形成する式(I)の化合物の使用を企図する。一部の実施形態では、放射性核種と錯体を形成する式(I)の化合物を、PSMAの過剰発現に関連するがんの処置に使用してもよい。他の実施形態では、放射性核種と錯体を形成する本発明の化合物は、乳がん、結腸がん、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、頭部および/もしくは頸部がん、または腎がん、胃がん、膵がん、肝細胞がん(HCC)、脳がんならびに例えばリンパ腫または白血病などの血液悪性疾患からなる群から選択されるがんの処置に使用される。特定の実施形態では、放射性核種と錯体を形成する本発明の化合物は、前立腺がんの処置に使用される。
【0059】
本発明はまた、対象をラジオイメージングするための、適切な放射性核種と錯体を形成する式(I)の化合物の使用を開示する。ある実施形態では、適切な放射性核種と錯体を形成する式(I)の化合物は、PSMAの過剰発現に関連するがんをラジオイメージングするために使用される。他の実施形態では、本発明の化合物は、乳がん、結腸がん、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、頭部および/もしくは頸部がん、または腎がん、胃がん、肝がん、膵がん、脳がんならびに例えばリンパ腫または白血病などの血液悪性疾患からなる群から選択されるがんのラジオイメージングに使用される。他の実施形態では、放射性核種と錯体を形成する式(I)の化合物は、前立腺がんのラジオイメージングに使用される。
【0060】
本明細書において使用される「対象」という用語は、哺乳動物を意味し、ヒト、霊長類、家畜動物(例えばヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ)、実験室試験動物(例えばマウス、ウサギ、ラット、モルモット)、パフォーマンスおよびショー動物(例えばウマ、家畜、イヌ、ネコ)、ペット動物(例えばイヌ、ネコ)ならびに捕獲された野生動物を含む。好ましくは、哺乳動物はヒトまたは実験室試験動物である。さらに好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0061】
「治療有効量」または「有効量」という用語は、有益なまたは所望の臨床結果を実現するために十分な量のことである。有効量は1回以上の投与で投与することができる。ラジオイメージングに関して、有効量とは、画像が、式(I)の化合物と錯体を形成する放射性同位体からの崩壊生成物の検出によって、対象に投与される該化合物の局在化を示すために十分な量のことである。処置に関して、有効量とは通常、がんの進行を緩和し、改善し、安定化し、逆転させ、減速させかつ/または延期するために十分な量のことである。
【0062】
本化合物は通常、所望の投与様式に応じて製剤化される医薬組成物の形態で使用される。本組成物は当技術分野において周知のやり方で調製される。
【0063】
上記の実施形態では、本発明の組成物はエタノールを成分として含有する。本組成物中で使用されるエタノールは無水エタノールであってもよい。あるいは、本組成物中で使用されるエタノールは乾燥プロセスに供されていなくてもよく、水和していてもよい。エタノールは、好ましくは医薬品グレードのエタノールである。本組成物に存在するエタノールは、式(I)の放射標識錯体の放射線分解を防止することに役立ちうる。
【0064】
上記の実施形態では、本発明の組成物はまた、塩化ナトリウムを成分として含有する。本発明の製剤中の塩化ナトリウムは、食塩水(a saline solution)として提供されてもよい。食塩水は塩化ナトリウムの水溶液として定義される。例えば、通常の食塩水(normal saline)は濃度0.9%(w/v)の塩化ナトリウム水溶液として定義される。本発明の1つの実施形態では、製剤の塩化ナトリウムは食塩水により提供される。
【0065】
上記の実施形態では、本発明の組成物はゲンチジン酸、またはその薬学的に許容される塩および/もしくは水和物を成分として含有する。ゲンチジン酸は2,5-ジヒドロキシ安息香酸、5-ヒドロキシサリチル酸またはヒドロキノンカルボン酸としても知られている。ゲンチジン酸の塩としてはナトリウム塩およびナトリウム塩水和物を挙げることができる。ゲンチジン酸に対する言及は、関連性がある場合、その塩に対する言及を含み得る。本組成物内のゲンチジン酸またはその塩が式(I)の放射標識錯体の放射線分解を防止または最小化することに役立ち得ることが、本発明者らによって確認された。
【0066】
他の実施形態では、本発明は、本発明の医薬組成物の1種以上の成分で充填された1個以上の容器を含有する、医薬パックまたはキットを提供する。このパックまたはキットには、薬剤の単位剤形を有する少なくとも1個の容器が見いだせる。便利なことに、キットにおいては、単一の剤形を滅菌バイアルとして提供することができるため、臨床医はバイアルをそのまま使用することができ、このバイアルは所望の量および濃度の化合物および放射性核種を有しており、これらを使用前に混合してもよい。この容器には、様々な文書資料、例えば、使用説明書、または、医薬品、イメージング剤もしくは生物学的製剤の製造、使用もしくは販売を規制する政府機関が定めた形式の、ヒト投与用の製造、使用もしくは販売に関する政府機関の承認を反映する注意書きを付随することができる。
【0067】
本発明の化合物を、上述の障害/疾患の処置のために、抗がん薬である1種以上のさらなる薬物および/または1種以上の手順(例えば手術、放射線療法)との組み合わせで使用または投与することができる。これらの成分は同一製剤で投与されても別々の製剤で投与されてもよい。別々の製剤で投与される場合、本発明の化合物は他の薬物と逐次投与されても同時投与されてもよい。
【0068】
本発明の化合物を、抗がん薬を含む1種以上の追加の薬物との組み合わせで投与することができることに加えて、併用療法において使用することもできる。この場合、化合物は通常、互いに組み合わせて投与される。したがって、所望の効果を実現するために、本発明の1種以上の化合物を同時投与しても(組み合わせ製剤として)または逐次投与してもよい。これは、2種の化合物のそれぞれの治療プロファイルが異なっており、2種の薬物の組み合わせ効果によって治療結果の改善が得られるような場合に特に望ましい。
【0069】
非経口注射用の本発明の医薬組成物は、薬学的に許容される滅菌の水性または非水性の溶液剤、分散剤、懸濁剤または乳剤、および使用直前に滅菌注射用溶液剤または分散剤に再構成される滅菌粉末剤を含有する。適切な水性および非水性の担体、希釈剤、溶媒または媒体の例としては水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、および適切なそれらの混合物、植物油(例えばオリーブ油)、ならびに注射用有機エステル、例えばオレイン酸エチルが挙げられる。例えば、レシチンなどのコーティング材料の使用により、分散剤の場合は所要の粒径の維持により、および界面活性剤の使用により、適切な流動性を維持することができる。
【0070】
これらの組成物は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、および分散化剤などの補助剤を含んでもよい。微生物の作用の防止を、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などを含めることで確実にすることができる。等張化剤、例えば糖、塩化ナトリウムなどを含めることが望ましいこともある。例えばモノステアリン酸アルミニウムやゼラチンなどの吸収を遅延させる薬剤を配合することで、注射用医薬形態の吸収の延長を実現することができる。
【0071】
所望により、そしてより効果的に分布させるために、本化合物を徐放性または標的化送達システム、例えばポリマーマトリックス、リポソーム、およびマイクロスフェアなど、に組み込むことができる。
【0072】
注射用製剤を、例えば、細菌保持フィルター(bacterial-retaining filter)を通して濾過することによって、または、使用直前に滅菌水もしくは他の滅菌注射用媒体に溶解もしくは分散可能な滅菌固体組成物の形態で滅菌剤を組み込むことで、滅菌することができる。
【0073】
別の態様では、本発明はまた、本明細書に定義される式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の調製のための方法を提供する。
【0074】
式(I)の化合物を、適切なアミンおよびカルボン酸誘導体を使用する一連のペプチドカップリング工程によって調製してもよい。カップリングパートナーは1個以上の保護基の導入を必要とすることがあり、その後、保護基はカップリング反応後に除去される。有機合成に適切な保護基のリストならびにそれらの導入および除去のための手順は、T.W.Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis,3rd Edition,John Wiley & Sons,1991に見いだせる。本発明の化合物またはその前駆体を調製するためにペプチドカップリング工程を使用する場合、反応を溶液相または固相条件下で、必要に応じて1種以上の塩基または他の試薬の存在下で行ってもよい。所与の反応工程において使用されるカップリングパートナーを、カップリング反応を促進する1個以上の適切な基、例えば脱離基で修飾してもよい。式(I)の化合物の調製は、必要とされる部位選択性を伴う成分のカップリングを容易にする、1個以上の保護基などの選択および導入を含んでもよい。
【0075】
例えば、式(I)の化合物を調製するために必要な工程は、1個以上のアミンまたはカルボン酸官能基における1個以上の窒素または酸素保護基の導入を含んでもよい。
【0076】
本明細書において使用される「酸素保護基」という用語は、保護された化合物のさらなる誘導体化の間に酸素部分が反応することを防止することができ、所望の場合に容易に除去できる基を意味する。1つの実施形態では、保護基は自然の代謝プロセスによって生理的状態で除去可能である。酸素保護基の例としてはアシル基(例えばアセチル)、エーテル(例えばメトキシメチルエーテル(MOM)、α-メトキシエトキシメチルエーテル(MEM)、p-メトキシベンジルエーテル(PMB)、メチルチオメチルエーテル、ピバロイル(Piv)、テトラヒドロピラン(THP))、ならびにシリルエーテル(例えばトリメチルシリル(TMS)基、tert-ブチルジメチルシリル(TBDMS)基およびトリイソプロピルシリル(TIPS)基)が挙げられる。
【0077】
本明細書において使用される「窒素保護基」という用語は、保護された化合物のさらなる誘導体化の間に窒素部分が反応することを防止することができ、所望の場合に容易に除去できる基を意味する。1つの実施形態では、保護基は自然の代謝プロセスによって生理的状態で除去可能であり、本質的には、保護された化合物は活性な非保護種のプロドラッグとして機能する。使用可能である適切な窒素保護基の例としてはホルミル、トリチル、フタルイミド、アセチル、トリクロロアセチル、クロロアセチル、ブロモアセチル、ヨードアセチル;ウレタン型ブロック基、例えばベンジルオキシカルボニル(CBz)、4-フェニルベンジルオキシカルボニル、2-メチルベンジルオキシカルボニル、4-メトキシベンジルオキシカルボニル、4-フルオロベンジルオキシカルボニル、4-クロロベンジルオキシカルボニル、3-クロロベンジルオキシカルボニル、2-クロロベンジルオキシカルボニル、2,4-ジクロロベンジルオキシカルボニル、4-ブロモベンジルオキシカルボニル、3-ブロモベンジルオキシカルボニル、4-ニトロベンジルオキシカルボニル、4-シアノベンジルオキシカルボニル、t-ブトキシカルボニル(tBoc)、2-(4-キセニル)-イソプロポキシカルボニル、1,1-ジフェニルエタ-1-イルオキシカルボニル、1,1-ジフェニルプロパ-1-イルオキシカルボニル、2-フェニルプロパ-2-イルオキシカルボニル、2-(p-トルイル)-プロパ-2-イルオキシ-カルボニル、シクロ-ペンタニルオキシ-カルボニル、1-メチルシクロペンタニルオキシカルボニル、シクロヘキサニルオキシカルボニル、1-メチルシクロヘキサニルオキシカルボニル、2-メチルシクロヘキサニルオキシカルボニル、2-(4-トルイルスルホノ)-エトキシカルボニル、2-(メチルスルホノ)エトキシカルボニル、2-(トリフェニルホスフィノ)-エトキシカルボニル、フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル、アリルオキシカルボニル、1-(トリメチルシリルメチル)プロパ-1-エニルオキシカルボニル、5-ベンゾイソオキサリルメトキシカルボニル、4-アセトキシベンジルオキシカルボニル、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル、2-エチニル-2-プロポキシカルボニル、シクロプロピルメトキシカルボニル、4-(デシルオキシ)ベンジルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、1-ピペリジルオキシカルボニルなど;ベンゾイルメチルスルホノ基、2-ニトロフェニルスルフェニル、ジフェニルホスフィンオキシドなどが挙げられる。使用される実際の窒素保護基は、誘導体化された窒素基が後続反応の条件に対して安定であり、任意の他の窒素保護基を含む分子の残りを実質的に損することなく必要に応じて選択的に除去することができる限りは、決定的に重要というわけではない。これらの基のさらなる例は、Greene,T.W.and Wuts,P.G.M.,Protective Groups in Organic Synthesis,Second edition;Wiley-Interscience:1991;Chapter 7;McOmie,J.F.W.(ed.),Protective Groups in Organic Chemistry,Plenum Press,1973;およびKocienski,P.J.,Protecting Groups,Second Edition,Thieme Medical Pub.,2000に見いだせる。
【0078】
本明細書に開示の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩をスキーム1に従って合成してもよい。
【化6】
【0079】
スキーム1には、金属キレート剤(M)が同時に2つのリンカー-PSMA尿素基の部分とカップリングされる、式(I)の化合物の合成が記載されている。反応は標準的ペプチドカップリング条件下で適切なペプチドカップリング試薬および塩基によって行ってもよく、リンカー-PSMA尿素基はアミン官能基を含み、金属キレート剤はカップリング反応に関与するカルボン酸官能基を含む。
【0080】
あるいは、本明細書に開示の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩をスキーム2に従って合成してもよい。
【化7】
【0081】
スキーム2にも、2つのリンカー-PSMA尿素基の部分と金属キレート剤(具体的にはサイクラム)とのカップリングが記載されているが、この合成経路では、カップリング反応に関与するアミン基は金属キレート剤にあり、一方、カルボン酸基はリンカー-PSMA尿素基にある。また、反応は標準的ペプチドカップリング反応条件下でペプチドカップリング反応および塩基によって行ってもよい。
【0082】
ある実施形態では、本発明は、上記の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩を調製するための方法であって、1つ以上のペプチドカップリング工程を含む方法を提供する。本方法は、適切であれば、1つ以上の保護工程および脱保護工程も含んでもよい。他の実施形態では、式(I)の化合物を調製するための方法は、溶液相条件下で1種以上のペプチドカップリング試薬および1種以上の塩基によって行われるペプチドカップリング工程を含む。
【0083】
キレート剤の構造の違い、それに続く1個以上の官能基の性質および位置の違いにより、式(I)の化合物を得るために必要な合成経路が自然に決定づけられる。例えば、金属キレート剤の末端基が酸素ベース、例えばカルボン酸である場合、保護基(必要であれば)および後続の反応は適合性があり、カップリングして式(I)の化合物を得ることができる必要がある。
【0084】
スキーム2に示される合成スキームは、リンカー-PSMA尿素基と、サイクラムの2個の窒素原子とのカップリングを示し、ここで2個の窒素原子は互いに隣接している。本明細書に開示される合成スキームは、式(I)の化合物の位置異性体の合成を可能にする改変を包含する。例えば、スキーム2における合成経路および合成条件を改変することで、サイクラムの隣接していない窒素原子にリンカー-PSMA尿素基が結合した式(I)の類似化合物を生成することが可能になる。
【0085】
本明細書における、いずれかの先行刊行物(もしくはそれから導かれる情報)に対する、または公知であるいずれかの事項に対する言及は、当該の先行刊行物(もしくはそれから導かれる情報)または公知事項が、本明細書が関連する事業分野における共通の一般的知識の一部を形成することの認知もしくは承認またはいかなる形態の示唆でもなく、また、そう解釈されるべきではない。
【0086】
当業者は、本明細書に記載の本発明が、具体的に記載される以外の変形および改変が可能であることを認識するであろう。本発明が、精神および範囲の内側にあるすべてのそのような変形および改変を含むということを理解すべきである。本発明はまた、本明細書において言及または指示されるすべての工程、特徴、組成物および化合物を個々にまたは集合的に含み、かつ任意の2つ以上の該工程または特徴のあらゆる組み合わせを含む。
【実施例】
【0087】
以下の実施例は、本開示を例示するものであり、本明細書全体にわたる記載の開示の一般的性質をいかなる形でも限定するものと解釈されるべきではない。
【0088】
(実施例1)
本発明の化合物の合成
本発明の様々な実施形態を、下記の反応経路および合成スキームを使用して、容易に入手可能な出発原料を用いる当技術分野において利用可能な技術によって調製することができる。本実施形態の特定の化合物の調製を以下の実施例において詳述するが、当業者は、記載される化学反応を、様々な実施形態のいくつかの他の薬剤を調製するために容易に応用することができることを認識するであろう。例えば、例示されていない化合物の合成を、当業者には明らかな改変によって、例えば、干渉基の適切な保護、当技術分野において公知である他の適切な試薬への変更、または反応条件の通常の改変によって、首尾よく行うことができる。有機合成に適切な保護基のリストはT.W.Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis,3rd Edition,John Wiley & Sons,1991に見いだせる。あるいは、本明細書に開示のまたは当技術分野において公知の他の反応は、様々な実施形態の他の化合物を調製するために適用可能であるものと認識されよう。化合物を合成するために有用な試薬は、当技術分野において公知の技術に従って取得または調製してもよい。
【0089】
1.1 PSMA(OtBu)2;H-D-Phe-D-Phe-wCap-Lys-CO-Glu(OtBu)-OtBuの合成
Fmoc-L-Lys(Dde)-OHを塩化2-クロロトリチル樹脂に固着させ、25%ピペリジン/DMFでFmoc脱保護した後、H-L-Glu(OtBu)-OtBuおよびカルボニルジイミダゾール(3当量)ならびにDIPEA(6当量)の予め活性化した溶液でカップリングした。Dde保護基をヒドラジン/DMFを使用して除去し、残りのペプチドを標準的な固相ペプチド合成法を使用して伸長させた。最終Fmoc保護基を除去し、ペプチド-樹脂を20%トリフルオロエタノール/DCMで終夜処理した。樹脂を濾過し、上澄み液を減圧濃縮し、得られた残渣を50% ACN/水から凍結乾燥させた。PSMA(OtBu)2中間体を粗収率80%で得た。MS-ESI:[M+H]+ 計算値:867.5、実測値:867.5。
【0090】
1.2 HBED-CC-ビス(tert-ブチルエステル)の合成
HBED-CC-ビス(tert-ブチルエステル)をMakarem et al.,Synlett 2008,“A Convenient Synthesis of HBED-CC-tris(tert-butyl ester)”に記載のように調製した。この方法を改変して対称ビス-tert-ブチル保護生成物;HBED-CC-ビス(tert-ブチルエステル)を生成した。簡潔にいえば、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸をメチルエステル保護し、2工程にわたってホルミル化して3-(3-ホルミル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチルエステルを生成した。この中間体をエチレンジアミンと反応させて対称ビス-イミンを形成し、還元して対称ビス-アミノ誘導体を生成した。最後に、アミンをブロモ酢酸tert-ブチルでN-アルキル化し、メチルエステル保護基を塩基性条件下で加水分解した。粗生成物を分取RP-HPLCで精製して生成物を純度98%で得た。MS-ESI:[M+H]+ 計算値:645.3、実測値:645.4。
【0091】
1.3 DOTA-ビス(PSMA)の結合
樹脂結合PSMA(OtBu)2を上記のように調製した。ペプチド-樹脂をDOTA(OtBu)2(1.5当量)、HATU(1.5当量)およびDIPEA(3当量)のDMF溶液で処理した。5時間後、樹脂の水けを切り(drained)、洗浄し、DICおよびOxymaPureのDMF溶液で30分間処理した。樹脂の水けを切り、1回洗浄し、直ちにPMSA(OtBu)2(2当量)およびDIPEA(4当量)のDMF溶液で処理した。4時間後、樹脂の水けを切り、DMFおよびDCMで洗浄し、乾燥させた。樹脂をTFA溶液(89.5% TFA、3%ジチオスレイトール、2.5%トリイソプロピルシラン、5%水)で処理し、4時間撹拌した。樹脂を濾過し、粗生成物を上澄み液からEt2Oで析出させた。析出物を遠心分離によりペレット化し、ペレットを50% ACN/水に溶解させ、凍結乾燥させて粗生成物を得た。ペプチドを分取RP-HPLCで精製して生成物を純度99%で得た。MS-ESI:[M-2H]-2 計算値:937.5、実測値:937.5、[M-3H]-3 計算値:624.6、実測値:625.5、[M-4H]-4 計算値:468.2、実測値:468.3。
【0092】
1.4 HBED-CC-ビス(PSMA)の結合
樹脂結合PSMA(OtBu)2を上記のように調製した。ペプチド-樹脂をHBED-CC-ビス(tert-ブチルエステル)(1.5当量、調製はセクション2に記載)、HATU(1.5当量)およびDIPEA(3当量)のDMF溶液で処理した。2時間後、樹脂の水けを切り、直ちにPMSA(OtBu)2(2当量)およびDIPEA(4当量)のDMF溶液で処理した。4時間後、樹脂の水けを切り、DMFおよびDCMで洗浄し、乾燥させた。樹脂をTFA溶液(92.5% TFA、2.5%トリイソプロピルシラン、5%水)で処理し、5時間撹拌した。樹脂を濾過し、粗生成物を上澄み液からEt2Oで析出させた。析出物を遠心分離によりペレット化し、ペレットを50% ACN/水に溶解させ、凍結乾燥させて粗生成物を得た。ペプチドを分取RP-HPLCで精製して生成物を純度98%で得た。MS-ESI:[M+2H]+2 計算値:1003.5、実測値:1004.2、[M+3H]+3 計算値:669.3、実測値:669.6。
【0093】
1.5 NOTA-ビス(PSMA)の結合
NOTA-(OH)3をHBTU(2当量)およびDIPEA(4当量)のDMF溶液で30分間活性化した後、PSMA(OtBu)2(NOTAに対して2当量、調製はセクション1に記載)およびDIPEA(NOTAに対して2当量)のDMF溶液で処理した。反応物を2時間撹拌し、減圧濃縮し、得られた残渣を撹拌しつつ、TFA溶液(92.5% TFA、2.5%トリイソプロピルシラン、5%水)で4時間処理した。生成物をEt2Oで析出させ、遠心分離によりペレット化し、ペレットを50% ACN/水に溶解させ、凍結乾燥させて粗生成物を得た。ペプチドを分取RP-HPLCで精製して生成物を純度99%で得た。MS-ESI:[M+H]+ 計算値:1776.9、実測値:1776.8、[M+2H]+2 計算値:889.0、実測値:889.0。
【0094】
(実施例2)
放射標識手順
2.1
68Ga-HBED-CC-ビス(PSMA)の調製
HBED-ビスPSMA化合物を食塩水(0.9%、Baxter)、HEPES(Sigma Aldrich)、エタノール(Merck)およびアスコルビン酸(Sigma)の水溶液中、室温で
68Gaによって放射標識した。濾過溶液は透明無色で微粒子を含んでおらず、
68Ga-HBED-ビスPSMAを収率95%超(ラジオHPLC、
図1)および放射化学的収率95%超(放射性ITLC)で生じさせた。
【0095】
2.2 64Cu-DOTA-ビス(PSMA)および64Cu-NOTA-ビス(PSMA)の調製
エッペンドルフに0.25M酢酸ナトリウム溶液(pH 5.5;Huayi)120μL、エタノール(Merck)20μL、0.5%(w/v)ゲンチジン酸(Huayi)水溶液20μLおよび前駆体化合物(約0.6mg/mL)80μL(50μg)を加えた。64CuCl2(Austin Health)を容量測定に基づいて(volumetrically)、エッペンドルフ中に目標活性(target activity)200MBqで分注した。溶液を45℃で20分間インキュベートした。得られた64Cu-DOTA-ビスPSMAおよび64Cu-NOTA-ビスPSMAの溶液の放射化学的純度は99%超であった。
【0096】
(実施例3)
68Gaまたは64Cuと錯体を形成する本発明の化合物に関する生体内分布試験
3.1 実験プロトコル
32匹の雄NSGマウスの右側腹部に600万個のヒトPSMA発現前立腺がん(LNCaP)細胞のPBS:マトリゲル(1:1)溶液を皮下接種した。マウスを体重測定し、腫瘍体積を電子ノギスを使用して週2回測定した。腫瘍体積(mm3)は長さ×幅×高さ×π/6として計算した。
【0097】
接種の51日後、10匹のマウスを生体内分布試験のグループ1にランダム化し、次に腫瘍体積が対応している2つのサブグループに分けた(腫瘍体積範囲:143~774mm3、サブグループ平均値355mm3および368mm3)。同日、HBED-CC-ビス(PSMA)を68Gaで標識し、グループ1のマウスの尾静脈に注射した。
【0098】
58日目に、各8匹のマウスを生体内分布試験のグループ2およびグループ3にランダム化し、次にそれぞれを腫瘍体積が対応している2つのサブグループに分けた(グループ2-腫瘍体積範囲:36~510mm3、サブグループ平均値231mm3および237mm3。グループ3-腫瘍体積範囲:51~429mm3、サブグループ平均値190mm3および212mm3)。同日、NOTAとコンジュゲートしたビス(PSMA)およびDOTAとコンジュゲートしたビス(PSMA)を64Cuで標識し、それぞれグループ2およびグループ3のマウスに注射した。
【0099】
3つのグループすべてについてそれぞれの日に、n=5(または4)の2つの対応しているサブグループを、注射の1時間後または3時間後に、組織生体内分布および心穿刺による血液のために捕獲した(harvested)。
【0100】
生体内分布組織を切除し、秤量し、Capintec(Captus 4000e)ガンマカウンターを使用してカウントした。データをWindows用Prism 9(GraphPad)を使用して解析した。
【0101】
3.2 結果
生体内分布の結果を
図2~
図4に示す。
68Ga-HBED-CC-ビス(PSMA)の注入活性はマウス1匹当たり6MBqを目標とし、実際の平均注入活性は6.17MBqであった。
64Cu-DOTA-ビス(PSMA)および
64Cu-NOTA-ビス(PSMA)の注入活性はマウス1匹当たり5MBqを目標とし、実際の平均注入活性はそれぞれ5.25MBqおよび5.04MBqであった。
【0102】
放射標識PSMAリガンドは、ガリウム放射標識HBED-CC-ビス(PSMA)と2種の銅放射標識DOTA-ビス(PSMA)およびNOTA-ビス(PSMA)化合物との間で、2つの時点にわたって、それぞれ異なる生体内分布プロファイルおよび生体内分布動態を示した。68Ga-HBED-CC-ビス(PSMA)が最も高い腫瘍取り込み量を示した。平均%ID/gは、各臓器/時点に関してグループ内で一貫していた。
【国際調査報告】