(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】構造的防火用の難燃性エラストマー組成物の成形部品、及び対応する成形部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/16 20060101AFI20241108BHJP
C08L 31/04 20060101ALI20241108BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20241108BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20241108BHJP
C08K 3/016 20180101ALI20241108BHJP
C09K 21/02 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C08L23/16
C08L31/04 S
C08K3/06
C08K5/14
C08K3/016
C09K21/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531138
(86)(22)【出願日】2022-11-14
(85)【翻訳文提出日】2024-05-23
(86)【国際出願番号】 EP2022081765
(87)【国際公開番号】W WO2023094198
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】102021130724.4
(32)【優先日】2021-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Hilti Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Feldkircherstrasse 100, 9494 Schaan, Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル フレーナー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング シュルツ-ハンケ
【テーマコード(参考)】
4H028
4J002
【Fターム(参考)】
4H028AA10
4H028AA12
4H028BA06
4J002AE054
4J002BB151
4J002BB152
4J002BF033
4J002DA047
4J002DE100
4J002DE146
4J002EK038
4J002FD024
4J002FD136
4J002FD147
4J002FD148
4J002GL00
4J002GQ01
(57)【要約】
本発明は、二重結合含有エラストマーと酢酸ビニル含有熱可塑性ポリマーとのポリマー混和物と、硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤及び過酸化物架橋剤を含む架橋剤系とを含み、少なくとも1種の難燃剤を含む、難燃性エラストマー組成物を加硫することによって製造され得る又は製造された、構造的防火用の成形部品であって、硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤が、架橋剤系において過酸化物架橋剤よりも多く存在する、成形部品に関する。本発明は更に、そのような成形部品を製造する対応する方法、及び最低承認使用温度が-40℃以下の用途のためのそのような成形部品の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃性エラストマー組成物を加硫することにより製造され得る又は製造された、構造的防火用の成形部品であって、
ポリマー成分としての、二重結合含有エラストマーと酢酸ビニル含有熱可塑性ポリマーとであって、前記ポリマー成分は均質なポリマー混和物として存在する、二重結合含有エラストマーと酢酸ビニル含有熱可塑性ポリマーと、
硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤及び過酸化物架橋剤の架橋剤系であって、前記過酸化物架橋剤の量が、前記硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤の量よりも少ない、架橋剤系と、
難燃剤又は難燃剤の組合せと、を含む成形部品。
【請求項2】
前記過酸化物架橋剤が、前記難燃性エラストマー組成物の前記ポリマー混和物中に、0.2~1.5phr、好ましくは0.5~1.2phrの割合で存在することを特徴とする、請求項1に記載の成形部品。
【請求項3】
前記硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤が、前記難燃性エラストマー組成物の前記ポリマー混和物中に、1~7phr、好ましくは2~5phr、特に好ましくは2.8~4.0phrの割合で存在することを特徴とする、請求項1又は2に記載の成形部品。
【請求項4】
前記難燃性エラストマー組成物中の前記二重結合含有エラストマーが、ジエンモノマー単位の又はそれぞれジエンモノマー単位を有する、ホモポリマー、コポリマー又はターポリマー、特にエチレン、プロピレン及びジエン含有ターモノマーからなるターポリマーであり、好ましくはターモノマー含有量が前記ターポリマーに対して少なくとも2重量%~12重量%であることを特徴とする、請求項1~3の少なくともいずれか一項に記載の成形部品。
【請求項5】
前記難燃性エラストマー組成物中の前記二重結合含有エラストマーが、不飽和ペンダント基を有するゴム、特にエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)であり、好ましくは、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン、1,4-シクロヘキサジエン、テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、エチリデンノルボルネン又は5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)、5-メチレン-2-ノルボルネン(MNB)、1,6オクタジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン、5-イソ-プロピリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン(VNB)からなる群から選択される非共役ジエンモノマー単位を有し、前記エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が、好ましくは、エチレン、プロピレン及び5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)又はジシクロペンタジエン(DCPD)のターポリマーであることを特徴とする、請求項1~4の少なくともいずれか一項に記載の成形部品。
【請求項6】
前記難燃性エラストマー組成物中の酢酸ビニル含有ポリマーが、酢酸ビニルのホモポリマー、コポリマー又はターポリマーであり、特にポリ酢酸ビニル(PVAc)又はエチレン酢酸ビニル(EVA)からなる群から選択されること、及び/又は前記酢酸ビニル含有ポリマーが、150℃未満、好ましくは100℃未満の溶融温度又は溶融範囲の開始点を有すること、及び/又は前記酢酸ビニル含有ポリマーの酢酸ビニル含有量が、40~75重量%であることを特徴とする、請求項1~5の少なくともいずれか一項に記載の成形部品。
【請求項7】
前記難燃性エラストマー組成物中の前記ポリマー成分が、5:1~20:1、特に6:1~12:1の比で前記エラストマー組成物中に存在することを特徴とする、請求項1~6の少なくともいずれか一項に記載の成形部品。
【請求項8】
前記難燃性エラストマー組成物中の前記過酸化物架橋剤が、ジアルキルペルオキシド、特にジクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチル-クミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)-ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)-ヘキシン-(3)、α,α’-ビス(t-ブチルペルオキシ)-ジイソプロピルベンゼン、ジ-t-アミルペルオキシド、1,3,5-トリス(2-t-ブチルペルオキシ-イソプロピル)ベンゼン、1-フェニル-1-t-ブチルペルオキシ-フタリドからなる群から選択されるジアルキルペルオキシド、及び/又はケタールペルオキシド、特に1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-シクロヘキサン、2,2’-ビス(t-ブチルペルオキシ)-ブタン、エチル-3,3-ビス(t-ブチルペルオキシ)-ブチラート、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)-バレラートからなる群から選択されるケタールペルオキシドの形態で前記組成物中に存在することを特徴とする、請求項1~7の少なくともいずれか一項に記載の成形部品。
【請求項9】
前記難燃性エラストマー組成物中の前記難燃剤が、特に水酸化マグネシウム及び/又は水酸化アルミニウムの形態の金属水酸化物、並びにホウ酸亜鉛を含む群から選択され、好ましくは水酸化アルミニウムとして存在することを特徴とする、請求項1~8の少なくともいずれか一項に記載の成形部品。
【請求項10】
前記難燃剤が、前記難燃性エラストマー組成物中に、前記エラストマー組成物における100~300phr、特に140~250phrの割合で存在することを特徴とする、請求項1~9の少なくともいずれか一項に記載の成形部品。
【請求項11】
前記難燃性エラストマー組成物が、特に1つ又は複数の顔料の形態の着色剤と、特に鉱油系の可塑剤と、特に熱安定性を改善するための老化防止剤と、架橋促進剤とを含む群から選択される少なくとも1種の添加剤及び/又は助剤を更に含むことを特徴とする、請求項1~10の少なくともいずれか一項に記載の成形部品。
【請求項12】
前記難燃性エラストマー組成物の前記ポリマー成分、特に前記組成物全体がハロゲンを含まないことを特徴とする、請求項1~11の少なくともいずれか一項に記載の成形部品。
【請求項13】
前記成形部品を形成する前記加硫された難燃性エラストマー組成物が、DIN ISO7619-1(2012)に従って測定された、65~85、特に70~83の範囲のショアA硬度、及び/又は最高-39℃、特に最高-41℃のガラス転移温度を有することを特徴とする、請求項1~12の少なくともいずれか一項に記載の成形部品。
【請求項14】
アスペクト比が最大10、好ましくは最大5であることを特徴とする、請求項1~13の少なくともいずれか一項に記載の成形部品。
【請求項15】
少なくとも1つの矩形支持フレームを有する、壁又はシャフトに配置された開口部を通る導管、ケーブル、チューブなどの耐火通路のための装置として設計され、前記装置は、前記矩形支持フレームの深さにわたって延在する弾性材料の経路を有する1つ又は複数のパッキン片(1)を有し、前記パッキン片は前記矩形支持フレームに挿入することができることを特徴とする、請求項1~14の少なくともいずれか一項に記載の成形部品。
【請求項16】
前記装置が対称に形成された、2つの封止要素(11)から形成された複数のパッキン片(1)を含み、前記封止要素(11)が、略半円筒形の凹部を有し、円筒形の凹部が形成されるように上下に配置され、前記装置が、好ましくは、同様に半円筒形の凹部が形成された2つの半円筒形インサート部(21)を更に有し、それにより、前記凹部が導管の挿入に適合した経路を形成することを特徴とする、請求項15に記載の成形部品。
【請求項17】
前記封止要素(11)の前記凹部を画定する前記壁に半環状リブ(12)が形成され、これらのリブの間に半環状溝(13)が形成され、前記溝のいくつかに、好ましくは前記半環状壁の一部のみに延在する凹部(14)が形成されてもよいことを特徴とする、請求項16に記載の成形部品。
【請求項18】
前記半円筒形インサート部(21)が、前記封止要素(11)を画定する前記壁の前記溝(13)及び前記凹部(14)に対応するリブ(23)と突起(24)とを備え、前記インサート部(21)が前記封止要素(11)内に配置されたときに、前記インサート部が、前記形成された経路の方向に変位することも、前記経路の周りを回転することもできないように、前記溝(13)及び前記凹部(14)に係合することを特徴とする、請求項17に記載の成形部品。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載の成形体の製造方法であって
請求項1に記載のポリマー成分を混合して均質な混合物を形成し、特に、続いて、架橋及び/又は加硫を回避しながら、前記架橋剤系、前記難燃剤及び任意選択の更なる添加剤及び/又は助剤を組み込む工程と、
前記混合物を成形型に導入する工程と、
続いて前記混合物を加硫する工程と、
c)で形成された前記成形体を離型する工程と、を含む方法。
【請求項20】
最低許容使用温度が-40℃以下の用途のための、特に、陸上及び海上セクターにおける建物、技術的及び工業的設備、風力及び太陽光設備、並びに船舶の壁又は天井の貫通孔、好ましくはガス配管のための、請求項1~18の少なくともいずれか一項に記載の成形部品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
本発明は、二重結合含有エラストマー及び酢酸ビニル含有熱可塑性ポリマーと、硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤及び過酸化物架橋剤を含む架橋剤系と、少なくとも1種の難燃剤と、を含む難燃性エラストマー組成物を加硫することによって製造され得る又は製造された、構造的防火用の成形部品であって、硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤が、架橋剤系において過酸化物架橋剤よりも多く存在する、成形部品に関する。本発明は更に、対応する成形部品を製造する方法、及び最低許容使用温度が-40℃以下の用途のための成形部品の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばゴム又は生ゴムから作製される弾性要素は、規格又は法規制に部分的に基づきいくつかの用途で必要とされる難燃性又は防火性をそれ自体は有さない。エラストマー又はゴム若しくは天然ゴムには、所望の難燃性を付与するために難燃剤又は防火剤を添加できることが知られている。しかしながら、そのような添加剤は、通常、弾性特性を低下させ、その結果、ゴム又は生ゴムからなるそのような要素が、所望の静的及び動的特性に関して必要な弾性特性を満たすことができないか、又はそれ以上満たすことができないという事実がしばしば生じる。したがって、例えば車両において、通常高い動的荷重を受けるばね要素若しくは減衰要素又は同様の要素として使用される場合に、要求される防火規則を十分に満たすことは不可能である。
【0003】
この問題のため、難燃剤を有するエラストマーで要素全体を作製すべきではなく、そのような要素には難燃剤コーティングのみを設けるべきであることが示唆された。そのような複合要素は、例えば、独国特許出願公開第3831894号明細書又は国際公開第2010/069842号に記載されている。
【0004】
エラストマーの特性にとって本質的に重要なのは、初期に流動性であるゴムを、典型的なエラストマー特性を有するエラストマー材料に変換するために使用される架橋剤系である。硬度、弾性率、強度、破断点伸び、引裂抵抗及び弾性などの特性は、架橋の種類及び架橋密度によって所望の水準に調整することができる。
【0005】
更に、例えばエチレン酢酸ビニルとエチレンプロピレンジエンモノマーゴムとの混合物から形成することができる、難燃剤を含有するポリマー組成物が従来技術から周知である。これらの混合物は、シランを用いて部分的に架橋されるが、大部分は過酸化物又は照射によって架橋される。
【0006】
このような混合物は、主にケーブル又は電線の被覆に使用される。例えば、欧州特許出願公開第2343334号明細書には、ジクミルペルオキシドをベースとする過酸化物架橋剤系で架橋されたEVA、EPDM及びLLDPEの難燃性組成物が記載されている。過酸化物は、二重結合を含有しないゴムを架橋する場合、及び/又は特に架橋密度が高く、メッシュの緊密な網目構造を達成する場合に架橋剤として使用されることが多く、ひいては、特に高温での圧縮永久ひずみなどの機械的特性に好影響を与える。一方、通常、架橋密度の高さ及び架橋ブリッジの短さは、同じ硬度の材料と比較して、破断点伸びが低い。生成物の表面をそれ以上処理しない場合、過酸化物架橋では、架橋プロセス中に大気中の酸素を排除することが必要となる。更に、特に組成物に大量の難燃剤も含有される場合、過酸化物架橋剤系は弾性及び動的特性に悪影響を及ぼす。最後に、周期的架橋剤は、特に架橋剤としての硫黄と比較した場合、比較的高価であるという欠点も有する。
【0007】
これらの問題を解決するために、欧州特許第2880093号明細書は、硫黄又は硫黄含有架橋剤系のみで加硫された、EPDMなどの二重結合含有エラストマーと、EVAなどの酢酸ビニル含有熱可塑性ポリマーとの混合物を提案している。硫黄架橋剤は、架橋に関与するのが二重結合含有エラストマーのみであることと、高い破断点伸びを有する材料が得られることとを確実にすることを意図している。
【0008】
構造的防火において、人は通常、主に煙ガスの通過、並びにある部屋から次の部屋への、又は異なる建物領域から隣接領域への火災による熱の伝達を防止しようと試みる。明らかに、ここでは防火のために、隣接する部屋又は建物領域の間に存在する壁又は天井の通路の閉鎖が考慮されなければならない。ここで特に重要なのは、電線及び配管又は換気フラップの通路である。
【0009】
ここで封止目的のために使用することができる従来のエラストマー材料は、硫黄架橋剤を使用することが多く、硫黄架橋剤は、有利な動的特性及び難燃剤による良好な充填性を提供すると言われている。ここでは、例として、前述の欧州特許第2880093号明細書を参照することができる。しかしながら、これらの材料は、ガラス転移温度に関して最適な特性を有していない。ガラス転移温度は、材料の潜在的な使用温度に影響を及ぼすが、この材料はガラス転移温度未満では可撓性がなくなり、もはや所望のエラストマー特性を提供することができなくなる。このような背景に対して、加硫状態においてガラス転移温度が可能な限り低い構造的防火用の成形体を製造するための材料を有することが望ましく、それにより、そのような構成要素によって対応され得る温度範囲を広げることができる。他の使用分野では、材料は、二重結合含有エラストマー及び酢酸ビニル含有熱可塑性ポリマーに基づく従来の材料と可能な限り同等の特性を提供すべきである。ガラス転移温度が低いことは、例えばシベリア又は北極地方のパイプラインシステムなどの、外気温が-40℃以下の範囲に低下し得る世界中の地域及び領域における用途において特に有利であろう。
【0010】
このような背景に対して、構造的防火用の成形体を製造するためのエラストマー化合物、及び市販の製品の機械的特性と可能な限り類似した機械的特性を示すが、これらよりもガラス転移温度が低く、より広い範囲の使用温度を包含する、対応する成形体が必要とされていた。本発明は、この必要性に対処する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本出願の基礎となる研究において、驚くべきことに、二重結合含有エラストマー及び酢酸ビニル含有熱可塑性ポリマーを含む組成物から成形体を調製し、この組成物を過酸化物架橋剤及び硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤の混合物で架橋した場合に、改善されたガラス転移温度特性並びに有利な弾性及び機械的特性を得ることができることが見出された。この場合、顕著に低いガラス転移温度を実現するために過酸化物架橋剤は少量で十分であり、その結果、過酸化物架橋剤は、硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤と混合して使用することができる。架橋成形体のガラス転移温度が低くなることにより、エラストマー特性を有した成形体を使用できる温度範囲を拡大することができる。
【0012】
したがって、第1の態様によれば、本発明は、難燃性エラストマー組成物を加硫することによって製造することができる、又は製造された構造的防火用の成形部品であって、エラストマー組成物が、ポリマー成分としてのi)二重結合含有エラストマーとii)酢酸ビニル含有熱可塑性ポリマーとであって、ポリマー成分が均質なポリマー混和物として存在する、二重結合含有エラストマーと酢酸ビニル含有熱可塑性ポリマーと、硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤及び過酸化物架橋剤からなる架橋剤系であって、過酸化物架橋剤の量が硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤の量よりも少ない、架橋剤系と、難燃剤又は難燃剤の組合せと、を含有する成形部品に関する。
【0013】
これに関連して、「構造的防火用の成形部品」という用語は、ある空間から別の隣接する空間への、又は異なる建物領域から隣接する領域への火災又はガス、例えば火災ガスの拡散が防止されるか、又は少なくとも減速される用途に使用される成形部品を指す。この種の成形部品は、通常、部屋又は建物領域の間の壁の開口部に密着する形状で挿入されるように設計され、開口部の断面は、円形、長方形又は正方形であり得る。対照的に、例えば、絶縁体自体の燃焼を防止することを主に意図されたケーブル絶縁体は、本明細書に記載される本発明の意味の範囲内の構造的防火用の成形部品ではない。構造的防火用の成形部品は、典型的には、それらの成形部品が使用される開口部の寸法に基づく寸法である、すなわち、成形部品の長さは、壁の厚さ以上であるが、有意に長くはない(例えば、壁の厚さの5倍以下、好ましくは2倍以下)。
【0014】
本明細書に記載される文脈において、「建物領域」という用語は、ガス交換を防止するために防火の目的で互いに分離される領域又はユニットを有する、陸上及び海上セクターにおける技術的及び工業的設備、風力及び太陽光設備を含む固定された不動構造(「建物」)の領域、並びに特に船舶などの可動構造の領域も包含する。
【0015】
「構造的防火用」という記載は、成形部品が、他の機能、例えばガス、水、音(音響を改善するため)又は細菌含有エアロゾル、カビ若しくはその胞子などの病原体の通過に対する封止などを実行することを排除しない。このような機能の想定は、本発明による成形部品にとって明らかに望ましく、好ましい。
【0016】
少量の過酸化物架橋剤のみを使用することは、架橋剤系の費用を最小限に抑えることができるという利点を有する。
【0017】
二重結合含有エラストマーは、好ましくはジエンモノマー単位の、又はジエンモノマー単位を有するホモポリマー、コポリマー又はターポリマーである。エチレン、プロピレン及びジエン含有ターモノマーからなるターポリマーが特に好適であり、好ましくは、ターポリマーに対するターモノマー含有量は、少なくとも2重量%~12重量%である。
【0018】
二重結合に含まれるエラストマーが、不飽和側基を有するゴム、特にエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)である場合、特に有利である。エチレン-プロピレン-ジエンモノマーゴム(EPDM)は、それらの煙濃度の低さ及び毒性の低さの点から火災の場合に大きな利点を有するが、それ自体は耐火性ではない。一方、EPDMゴムは、充填剤及び可塑剤で高度に充填可能であり、したがって、固体及び液体形態の難燃剤を高い割合で吸収することができる。したがって、EPDMゴムの硬度及び機械的特性を広範囲に調整することができ、ゴムは、風化、紫外線、オゾン及び熱に対する耐性に関して有利となる。
【0019】
本発明の成形体が形成される難燃性エラストマー組成物において特に有用なEPDMゴムは、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン、1,4-シクロヘキサジエン、テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、エチリデンノルボルネン又は5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)、5-メチレン-2-ノルボルネン(MNB)、1,6-オクタジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン、5-イソ-プロピリデン-2-ノルボルネン及び5-ビニル-ノルボルネンからなる群から選択される非共役ジエンモノマー単位を含む。エチレン-プロピレン-ジエンモノマーゴム(EPDM)が、エチレン、プロピレン及び5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)又はジシクロペンタジエン(DCPD)のターポリマーであり、好ましくはターポリマーに対するターモノマー含有量(ASTM D 6047に従う)が、少なくとも2~12重量%、特に4~12重量%である場合、特に有利である。EPDMゴムのジエン成分として最も好ましいのは、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)である。
【0020】
本発明の基礎となる研究において、EPDMが、一方のジエン含有量が8~12重量%の範囲であり、他方のジエン含有量が4~7重量%の範囲である2つのEPDMグレードの混合物から形成される場合に、非常に好ましい特性が得られることも見出された。更に、この場合、他のEPDMグレードも存在してもよいが、これらは、好ましくは、高ジエン含有及び低ジエン含有のEPDMの総量に対して、5重量%以下、特に2重量%以下の量で混合物中に存在する。混合物において、ジエン含有量が8~12重量%の範囲のEPDMは、好ましくは、EPDMの優勢な割合(すなわち、混合物中の全EPDMの50~95重量%、好ましくは60~80重量%)を構成する。
【0021】
本発明の成形体を形成するエラストマー組成物に含まれる熱可塑性酢酸ビニル含有ポリマーは、好ましくは酢酸ビニルのホモポリマー、コポリマー又はターポリマーであり、特に好ましくはポリ酢酸ビニル(PVAc)又はエチレン酢酸ビニル(EVA)である。エチレン酢酸ビニルコポリマーについては、酢酸ビニル含有量が40~75重量%の範囲、特に50~65重量%の範囲であることが好ましい。
【0022】
あるいは、又は更に、酢酸ビニル含有ポリマーの溶融温度又は溶融範囲の開始点が、150℃未満、好ましくは100℃未満であることが好ましい。
【0023】
本発明によるエラストマー組成物中のポリマー成分i)及びii)の比は、好ましくは5:1~20:1、特に6:1~12:1の範囲であり、すなわち、二重結合含有エラストマーは、酢酸ビニル含有熱可塑性ポリマーよりも多く存在する。
【0024】
当業者に公知の全ての過酸化物架橋剤は、本発明の架橋剤系における過酸化物架橋剤と見なすことができる。ジアルキルペルオキシド及びケタールペルオキシドが特に有用である。好適なジアルキルペルオキシドとしては、ジクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチル-クミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)-ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)-ヘキシン-(3)、α,α’-ビス(t-ブチルペルオキシ)-ジイソプロピルベンゼン、ジ-t-アミルペルオキシド、1,3,5-トリス(2-t-ブチルペルオキシ-イソプロピル)ベンゼン、1-フェニル-1-t-ブチルペルオキシ-フタリドが挙げられる。好適なケタールペルオキシドとしては、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-シクロヘキサン、2,2’-ビス(t-ブチルペルオキシ)-ブタン、エチル-3,3-ビス(t-ブチルペルオキシ)-ブチラート、n-ヌチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)-バレラートが挙げられる。本発明において特に好ましいのは、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)-ヘキサンの使用である。
【0025】
ポリマー混和物に対する過酸化物架橋剤の割合は、好ましくは0.2~1.5phr、より好ましくは0.5~1.2phrであり、ここで「phr」は、ポリマー混和物に含まれる二重結合含有エラストマー及び酢酸ビニル含有熱可塑性ポリマーの総量を指す。
【0026】
硫黄(例えば、粉砕硫黄の形態)架橋剤、若しくはビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]ポリスルフィドなどの硫黄含有架橋剤、又はそれらの混合物を、本発明のエラストマー組成物中の硫黄架橋剤として使用してもよい。
【0027】
ポリマー混和物に対する硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤の割合は、好ましくは1~7phr、特に2~5phr、特に好ましくは2.8~4.0phrの範囲である。
【0028】
本発明の目的のために、硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤が過酸化物架橋剤よりも多く存在することが必須であり、「多い」とは、硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤の総量の重量百分率が過酸化物架橋剤よりも高いことを表す。好ましくは、過酸化物架橋剤と、硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤とは、約1:1.5~1:5、特に1:2~1:4、特に好ましくは1:2.5~1:3.8の比で存在する。
【0029】
本発明による成形部品に含まれる難燃剤は、いかなる関連する制限も受けず、難燃剤は、例えば、膨張性難燃剤(膨張性グラファイトなど)又は水分解性難燃剤、例えば金属水酸化物などであり得る。材料特性への影響を可能な限り少なくしながら良好な防火特性を達成するために、水酸化マグネシウム(MDH)、水酸化アルミニウム(ATH)、三酸化アンチモン、ナノクレイ及び/又はホウ酸亜鉛、好ましくはそれらの2つ以上の相乗的に作用する混合物が、本発明によるエラストマー組成物中に含まれると有利であることが証明されている。好ましくは、本発明によるエラストマー組成物は、水酸化アルミニウムを単独で又は他の難燃剤と混合して含有する。特に、難燃剤(複数可)は、固体及び粉末状又は結晶性である。
【0030】
ほとんどの場合、難燃剤はエラストマー組成物中に比較的高い割合で存在する。好ましくは、エラストマー組成物は、難燃剤を100~300phr、特に140~250phrの割合で含有する。難燃剤含有量がこの水準を下回る場合、個々の場合において、もはや十分な難燃効果を保証することができなくなる可能性があり、一方で、難燃剤の割合がより高い場合、引張強度、破断点伸び、引裂抵抗、又は弾性などの機械的特性に対して著しく好ましくない効果を有する可能性がある。
【0031】
本発明による成形体を製造するためのエラストマー組成物は、上記成分に加えて、成形体の最終特性を望ましく制御するために更なる添加剤及び/又は助剤を含有してもよい。
【0032】
加硫又は架橋を制御するために使用することができるこのような添加剤の主要な種類は促進剤であり、その各々は硫黄架橋又は過酸化物架橋を特異的に促進することができる。硫黄架橋のために一般的に使用される促進剤としては、スルフェンアミド、例えば、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、チアゾール、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジチオカルバメート、例えば、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZBEC)、又はジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDBC)、グアニジン、例えば、ジフェニルグアニジン(DPG)、又はチオホスフェートが挙げられる。硫黄架橋を制御するために添加することができる好適な硫黄供与体としては、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMDT)又はテトラメチルチウラムスルフィド(TMTM)などのチウラム、カプロラクタムジスルフィド又はホスホリルポリスルフィドが挙げられる。そのような促進剤及び硫黄供与体は、好都合には、本発明によるエラストマー組成物中に1~5phrの合計割合で含まれ得る。
【0033】
2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン(TMQ)又は1,3-ジヒドロ-4(又は5)-メチル-2H-ベンズイミダゾール-2-チオンなどの酸化防止剤を使用して、過酸化物架橋を支援することができる。このような酸化防止剤及び硫黄供与体は、エラストマー組成物中に1~5phrの合計割合で存在してもよい。
【0034】
更に、エラストマー組成物は、例えばパラフィン系鉱油の形態の可塑剤、又は、例えば脂肪酸、脂肪アルコール又は低分子量ポリエチレン若しくはポリエチレングリコールのCa及びZn石鹸の形態の加工助剤を含有してもよい。更に、熱安定性を改善するためにZnO又はMgOなどの添加剤を添加することができ、及び/又はTiO2、UV安定剤又はカーボンブラックなどの、UV保護を着色又は付与するための顔料を添加することができる。可塑剤の割合は、好ましくは5~50phr、特に10~30phr、より好ましくは12~25phrの範囲である。他の助剤及び添加剤は、好都合には、20phr、特に15phrの最大割合で難燃性エラストマー組成物中に含まれる。
【0035】
本発明による成形体を製造するための本発明の文脈において特に好適な難燃剤組成物として、組成物を以下のように開示することができる:
二重結合含有エラストマーと酢酸ビニル含有熱可塑性ポリマーとの混合物、
130~250phrの、好ましくは水酸化アルミニウムの形態の難燃剤、
10~30phrの可塑剤、
それぞれ1~5phrの、硫黄加硫の硫黄供与体/促進剤及び酸化防止剤、
5~30phr、好ましくは8~15phrの他の添加剤及び助剤
硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤と、過酸化物架橋剤とを含む架橋剤系であって、過酸化物架橋剤の量が、硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤の量よりも少ない、架橋剤系。
【0036】
防火目的で使用するためには、難燃性エラストマー組成物から製造された本発明による成形体が、関連する量のハロゲンを含有しないことが好ましい。なぜなら、火災の際に、ハロゲン含有化合物から有毒なハロゲン化水素が放出され得るからである。したがって、本発明による成形体では、エラストマー組成物のポリマー成分、好ましくは組成物全体がハロゲンを含まないことが好ましい。
【0037】
本発明による成形体は、難燃性エラストマー化合物のみから形成することができ、又は更なる成分、例えば強化剤を含むことができる。一実施形態において、成形体の表面は難燃性エラストマー混合物のみから形成され、成形体の内側に別の材料が存在する。
【0038】
既に述べたように、本発明による成形部品は、構造的防火に使用することができる成形部品であり、その寸法は、通常、成形部品が使用される壁の厚さに適合される。ここで、本発明による成形部品は、最大10、特に好ましくは最大5のアスペクト比を有することが好ましい。ここでいう「アスペクト比」とは、成形部品の空間的な範囲の最大のものと最小のものとの比を指す。
【0039】
特に好ましい実施形態において、本発明による成形部品は、換気フラップ又はその構成要素である。別の特に好ましい実施形態では、本発明による成形部品は、少なくとも1つの矩形支持フレームで形成された、壁又はシャフトに配置された開口部を通る導管、ケーブル、チューブなどの耐火性通路のための装置である。この場合、装置は、矩形支持フレーム内に挿入することができる、矩形支持フレームの深さにわたって延在する難燃性エラストマー組成物の経路を有する1つ又は複数のパッキン片を含む。
【0040】
明確にするために、ここで、本発明による成形部品は、装置全体を指すが、複数の個々の部品(特に複数のパッキン片、及び適切な場合には更なる構成要素)から形成されてもよいことに留意されたい。この場合、矩形支持フレームは装置の一部ではない。
【0041】
好ましい実施形態において、装置は、2つの対称形状の封止要素から形成された2つのパッキン片の少なくとも1つのユニットを含み、封止要素は、1つ又は複数の略半円筒形の凹部を有し、1つ又は複数の円筒形の凹部が形成されるように上下に配置される。好都合には、この場合、装置は2つの半円筒形インサート部を有してもよく、各インサート部は半円筒形凹部で形成され、凹部が導管の挿入に適合された経路を形成するように互いに対向して配置される。
【0042】
装置は、正確に2つのパッキン片(=1対)、又は2の倍数のパッキン片を含むことができ、パッキン片は矩形支持フレームに挿入することができる(例えば、2×2、3×2、4×2、又は4×4の対配置で)。奇数対のパッキン片の場合、矩形支持フレームに対して空いている空間は、(「充填モジュール」として)空いている空間に寸法が正確に一致する成形体によって充填することができる。このような充填モジュールも、上述の難燃性エラストマー組成物から形成されることが好都合である。同様に、複数のそのような充填モジュールを矩形支持フレーム内に配置することができ、それはパッキン片と組み合わせて装置を形成する。
【0043】
上述の装置に関して、封止要素内の凹部を画定する壁に半環状リブが形成され、これらのリブの間に半環状溝が形成されることが更に好ましい。これらの溝のいくつかには、好ましくは半環状壁の一部のみにわたって延在する凹部が形成されてもよい。この実施形態では、半円筒形インサート部に、封止要素を画定する壁の溝及び凹部に対応する突起が設けられることが更に好ましく、この突起が溝及び凹部に係合して、インサート部が封止要素内に配置されたときに、インサート部が形成された経路の方向に変位することも、この経路の周りを回転することもできないようにする。このようにして、封止要素に挿入されたインサート部は、移動又は回転が防止される。このような封止要素は、例えば、欧州特許第1134472号明細書に詳細に記載されており、その関連する内容は、参照によりその全体が本出願に組み込まれる。
【0044】
装置が半円筒形インサート部を有する場合、装置は成形体構成要素を更に有してもよく、その寸法は半円筒形インサート部によって形成される経路の寸法に適合され、後にその経路をケーブルで占有するためのプレースホルダとして半円筒形インサート部に挿入されてもよい。好ましくは、これらのプレースホルダもまた、半円筒形インサート部内の対応する凹部に係合し、インサート部内のプレースホルダの位置を固定することができる突起を有する。好ましくは、プレースホルダもまた、前述の難燃性エラストマー組成物から形成される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
上述の装置は、
図1~
図5により詳細に示されている。図面では:
【
図1】2つの封止要素を有するパッキン片の正面図である。
【0046】
図1に示す立方体のパッキン片1は、対称に形成された2つの封止要素11からなり、封止要素11の各々は、略半円筒形の凹部を有して形成され、同様に半円筒形の凹部を有して形成される半円筒形インサート部21を受け入れるように機能する。これにより形成された貫通経路に導管3を挿入することができる。封止要素11及びその中に配置されたインサート部21は、火災ガスの通過に対する所望の安全性を確保するために、導管3を緊密に囲むように設計されなければならない。
【0047】
図2及び
図3は、封止要素11の上面図及び長手方向断面図を示しており、封止要素11は、リブ12及び溝13、並びに溝13とは異なり封止要素の半円形の内面全体には延在しない追加の凹部14を有する。
【0048】
図4及び
図5は、溝22及びリブ23並びに突起24を有するインサート部21の上面図及び側面図を示す。
図5はまた、インサート部の内壁上の半環状リブ25及びそれらの間の半環状溝26を示す。リブは、挿入されたケーブルの厚さの差を、リブが所与の可撓性によって押しのけ得る程度まで補償するために使用することができる。インサート部が封止要素に挿入されると、リブ23及び突起24は封止要素の対応する溝13及び凹部14に係合する。
【0049】
更なる態様では、本発明は、上記で詳細に説明したように、構造的防火用途のための成形部品の使用に関し、成形部品は、好ましくは、壁開口部又は2つの部屋の間の壁開口部に挿入され、成形部品と壁との接触領域においてこの開口部を密閉する。このような用途では、配管又は他の導管を成形部品に一体化又は挿入してもよい。
【0050】
更なる態様において、本発明は、上述の成形体の製造方法であって、
a)前述のポリマー成分を混合して均質な混合物を形成し、特に、続いて、架橋及び/又は加硫を回避しながら、架橋剤系、難燃剤及び任意選択の更なる添加剤及び/又は助剤を組み込む工程と、
b)前出の混合物を成形型に導入する工程と、
c)続いて前出の混合物を加硫する工程と、
d)c)で形成された成形体を離型する工程と、
を含む方法に関する。
【0051】
混合は、架橋又は加硫が起こらない条件下で、すなわち好ましくは110℃以下の温度で好都合に行われる。それに続く加硫は、高温で、例えば、130℃~200℃、特に130℃~170℃の範囲で、任意選択で加圧下で行うことができる。加硫中に、架橋剤の活性化の結果としてポリマー成分の架橋が起こる。
【0052】
本発明による成形体を製造するために使用されるエラストマー組成物は、好ましくは、加硫後に以下の特性の少なくとも1つを有する。
i)DSCによって測定された、最高-39℃、特に最高-40℃、特に好ましくは最高-41℃のガラス転移温度、
ii)DIN ISO815に従って70℃/24時間で測定された、10~40%、好ましくは15~25%の範囲の圧縮永久ひずみ、及び/又はDIN ISO 815に従って100℃/24時間で測定された45~75%、好ましくは55~68%の範囲の圧縮永久ひずみ、
iii)DIN ISO7619-1(2012)に従って測定された、65から85、好ましくは70から83のショアA硬度、
iv)DIN53504に従って測定された、200~600%、好ましくは300~500%の破断点伸び、
v)DIN ISO34-1Aに従って測定された、>2.5N/mm、好ましくは>3.5N/mmの引裂抵抗。
【0053】
本発明の更に別の態様は、最低許容使用温度が-40℃以下の用途のための上記の成形部品の使用に関する。この種の好ましい用途としては、特に、-40℃までの範囲の非常に低い屋外温度が生じ得る世界中の地域及び領域に配置された場合の、陸上及び海上セクターにおける建物、技術的及び工業的設備、風力及び太陽光設備、並びに船舶の壁又は天井の貫通孔、又はパイプライン及びケーブルの同様のものが挙げられる。
【0054】
本発明の更なる態様は、水、ガス、音又は病原体、特に細菌若しくはカビの形態の病原体に対して建物を封止するための、上記の成形部品の使用に関する。
【0055】
これらの態様に関して、本発明による成形部品に関連して説明した好ましい実施形態は、矛盾が生じない限り、類似の様式でも好ましいものとして適用される。
【0056】
以下において、本出願は、いくつかの実施形態によってより詳細に説明されるが、これらの実施形態は、決して本出願の範囲を限定するものと見なされるべきではない。
【実施例】
【0057】
以下の表1に示す組成物をミキサーで均質化し、次いで窒素雰囲気下で180℃の温度で10分間(厚さ2mmのシート)又は20分間(厚さ6mmのシート)加硫した。続いて、プレートの機械的特性を測定した。ガラス転移温度を測定するために、混合物を最初に-120℃で15分間平衡化し、次いで10K/分の加熱速度で250℃に加熱した。ガラス温度は、DIN 51007に従って中点Tgとして測定した。測定された機械的特性も以下の表1に示す。
【0058】
【0059】
表1から、他の点では同等の機械的特性にも関わらず、硫黄及び過酸化物促進剤と組み合わせた架橋について、約2.6℃のガラス転移温度の低下が観察されたことが明らかである。この変化により、非常に低い極端な温度での用途に適切なエラストマー配合物を使用することが可能になる。
【0060】
空気雰囲気中でのガラス転移温度の類似の測定において、E1について-41.5℃のTgが測定され、V1について-39.1℃のTgが測定された(2回の測定の平均値)。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃性エラストマー組成物を加硫することにより製造され得る又は製造された、構造的防火用の成形部品であって、
ポリマー成分としての、二重結合含有エラストマーと酢酸ビニル含有熱可塑性ポリマーとであって、前記ポリマー成分は均質なポリマー混和物として存在する、二重結合含有エラストマーと酢酸ビニル含有熱可塑性ポリマーと、
硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤及び過酸化物架橋剤の架橋剤系であって、前記過酸化物架橋剤の量が、前記硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤の量よりも少ない、架橋剤系と、
難燃剤又は難燃剤の組合せと、を含む成形部品。
【請求項2】
前記過酸化物架橋剤が、前記難燃性エラストマー組成物の前記ポリマー混和物中に、0.2~1.5phr、好ましくは0.5~1.2phrの割合で存在することを特徴とする、請求項1に記載の成形部品。
【請求項3】
前記硫黄架橋剤又は硫黄含有架橋剤が、前記難燃性エラストマー組成物の前記ポリマー混和物中に、1~7phr、好ましくは2~5phr、特に好ましくは2.8~4.0phrの割合で存在することを特徴とする、請求項1又は2に記載の成形部品。
【請求項4】
前記難燃性エラストマー組成物中の前記二重結合含有エラストマーが、ジエンモノマー単位の又はそれぞれジエンモノマー単位を有する、ホモポリマー、コポリマー又はターポリマー、特にエチレン、プロピレン及びジエン含有ターモノマーからなるターポリマーであり、好ましくはターモノマー含有量が前記ターポリマーに対して少なくとも2重量%~12重量%であることを特徴とする、請求項
1に記載の成形部品。
【請求項5】
前記難燃性エラストマー組成物中の前記二重結合含有エラストマーが、不飽和ペンダント基を有するゴム、特にエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)であり、好ましくは、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン、1,4-シクロヘキサジエン、テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、エチリデンノルボルネン又は5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)、5-メチレン-2-ノルボルネン(MNB)、1,6オクタジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン、5-イソ-プロピリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン(VNB)からなる群から選択される非共役ジエンモノマー単位を有し、前記エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が、好ましくは、エチレン、プロピレン及び5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)又はジシクロペンタジエン(DCPD)のターポリマーであることを特徴とする、請求項
1に記載の成形部品。
【請求項6】
前記難燃性エラストマー組成物中の酢酸ビニル含有ポリマーが、酢酸ビニルのホモポリマー、コポリマー又はターポリマーであり、特にポリ酢酸ビニル(PVAc)又はエチレン酢酸ビニル(EVA)からなる群から選択されること、及び/又は前記酢酸ビニル含有ポリマーが、150℃未満、好ましくは100℃未満の溶融温度又は溶融範囲の開始点を有すること、及び/又は前記酢酸ビニル含有ポリマーの酢酸ビニル含有量が、40~75重量%であることを特徴とする、請求項
1に記載の成形部品。
【請求項7】
前記難燃性エラストマー組成物中の前記ポリマー成分が、5:1~20:1、特に6:1~12:1の比で前記エラストマー組成物中に存在することを特徴とする、請求項
1に記載の成形部品。
【請求項8】
前記難燃性エラストマー組成物中の前記過酸化物架橋剤が、ジアルキルペルオキシド、特にジクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチル-クミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)-ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)-ヘキシン-(3)、α,α’-ビス(t-ブチルペルオキシ)-ジイソプロピルベンゼン、ジ-t-アミルペルオキシド、1,3,5-トリス(2-t-ブチルペルオキシ-イソプロピル)ベンゼン、1-フェニル-1-t-ブチルペルオキシ-フタリドからなる群から選択されるジアルキルペルオキシド、及び/又はケタールペルオキシド、特に1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-シクロヘキサン、2,2’-ビス(t-ブチルペルオキシ)-ブタン、エチル-3,3-ビス(t-ブチルペルオキシ)-ブチラート、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)-バレラートからなる群から選択されるケタールペルオキシドの形態で前記組成物中に存在することを特徴とする、請求項
1に記載の成形部品。
【請求項9】
前記難燃性エラストマー組成物中の前記難燃剤が、特に水酸化マグネシウム及び/又は水酸化アルミニウムの形態の金属水酸化物、並びにホウ酸亜鉛を含む群から選択され、好ましくは水酸化アルミニウムとして存在することを特徴とする、請求項
1に記載の成形部品。
【請求項10】
前記難燃剤が、前記難燃性エラストマー組成物中に、前記エラストマー組成物における100~300phr、特に140~250phrの割合で存在することを特徴とする、請求項
1に記載の成形部品。
【請求項11】
前記難燃性エラストマー組成物が、特に1つ又は複数の顔料の形態の着色剤と、特に鉱油系の可塑剤と、特に熱安定性を改善するための老化防止剤と、架橋促進剤とを含む群から選択される少なくとも1種の添加剤及び/又は助剤を更に含むことを特徴とする、請求項
1に記載の成形部品。
【請求項12】
前記難燃性エラストマー組成物の前記ポリマー成分、特に前記組成物全体がハロゲンを含まないことを特徴とする、請求項
1に記載の成形部品。
【請求項13】
前記成形部品を形成する前記加硫された難燃性エラストマー組成物が、DIN ISO7619-1(2012)に従って測定された、65~85、特に70~83の範囲のショアA硬度、及び/又は最高-39℃、特に最高-41℃のガラス転移温度を有することを特徴とする、請求項
1に記載の成形部品。
【請求項14】
アスペクト比が最大10、好ましくは最大5であることを特徴とする、請求項
1に記載の成形部品。
【請求項15】
少なくとも1つの矩形支持フレームを有する、壁又はシャフトに配置された開口部を通る導管、ケーブル、チューブなどの耐火通路のための装置として設計され、前記装置は、前記矩形支持フレームの深さにわたって延在する弾性材料の経路を有する1つ又は複数のパッキン片(1)を有し、前記パッキン片は前記矩形支持フレームに挿入することができることを特徴とする、請求項
1に記載の成形部品。
【請求項16】
前記装置が対称に形成された、2つの封止要素(11)から形成された複数のパッキン片(1)を含み、前記封止要素(11)が、略半円筒形の凹部を有し、円筒形の凹部が形成されるように上下に配置され、前記装置が、好ましくは、同様に半円筒形の凹部が形成された2つの半円筒形インサート部(21)を更に有し、それにより、前記凹部が導管の挿入に適合した経路を形成することを特徴とする、請求項15に記載の成形部品。
【請求項17】
前記封止要素(11)の前記凹部を画定する前記壁に半環状リブ(12)が形成され、これらのリブの間に半環状溝(13)が形成され、前記溝のいくつかに、好ましくは前記半環状壁の一部のみに延在する凹部(14)が形成されてもよいことを特徴とする、請求項16に記載の成形部品。
【請求項18】
前記半円筒形インサート部(21)が、前記封止要素(11)を画定する前記壁の前記溝(13)及び前記凹部(14)に対応するリブ(23)と突起(24)とを備え、前記インサート部(21)が前記封止要素(11)内に配置されたときに、前記インサート部が、前記形成された経路の方向に変位することも、前記経路の周りを回転することもできないように、前記溝(13)及び前記凹部(14)に係合することを特徴とする、請求項17に記載の成形部品。
【請求項19】
請求項
1に記載の成形体の製造方法であって
請求項1に記載のポリマー成分を混合して均質な混合物を形成し、特に、続いて、架橋及び/又は加硫を回避しながら、前記架橋剤系、前記難燃剤及び任意選択の更なる添加剤及び/又は助剤を組み込む工程と、
前記混合物を成形型に導入する工程と、
続いて前記混合物を加硫する工程と、
c)で形成された前記成形体を離型する工程と、を含む方法。
【請求項20】
最低許容使用温度が-40℃以下の用途のための、特に、陸上及び海上セクターにおける建物、技術的及び工業的設備、風力及び太陽光設備、並びに船舶の壁又は天井の貫通孔、好ましくはガス配管のための、請求項
1に記載の成形部品の使用。
【国際調査報告】