(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】真菌細胞におけるタンパク質生産を増強するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/15 20060101AFI20241108BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20241108BHJP
C12N 15/56 20060101ALN20241108BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20241108BHJP
C12N 9/42 20060101ALN20241108BHJP
【FI】
C12N1/15 ZNA
C12N15/113 Z
C12N15/56
C12N15/31
C12N9/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531680
(86)(22)【出願日】2022-11-11
(85)【翻訳文提出日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 US2022079686
(87)【国際公開番号】W WO2023102315
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509240479
【氏名又は名称】ダニスコ・ユーエス・インク
(74)【代理人】
【識別番号】110003579
【氏名又は名称】弁理士法人山崎国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【氏名又は名称】朴 志恩
(72)【発明者】
【氏名】コザック、バーバラ ウルシュラ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラエフ、イゴール
(72)【発明者】
【氏名】パルマー、ジョナサン エム
(72)【発明者】
【氏名】バーエンド、シャリーフ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA57X
4B065AA70X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BD50
4B065CA41
4B065CA43
4B065CA47
4B065CA60
(57)【要約】
本開示は、一般に、目的タンパク質(ポリペプチド)の商業規模生産に使用するための組換え真菌株に関する。特定の実施形態は、本開示の1つ以上の天然の(内因性)調節タンパク質の生産及び/又は1つ以上の調節タンパク質を過剰発現が欠損した組換え真菌株に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表1に記載の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質の生産が欠損している組換え真菌細胞。
【請求項2】
表10に記載の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質を過剰発現する組換え真菌細胞。
【請求項3】
表1に記載の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含み、表10に記載の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質を過剰発現する1つ以上の調節タンパク質の生産が欠損している組換え真菌細胞。
【請求項4】
前記細胞が、表1に記載のDNA結合ドメイン(DBD)と少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質の生産が欠損している、請求項1又は請求項3に記載の組換え真菌細胞。
【請求項5】
目的タンパク質を発現する、請求項1~4のいずれか一項に記載の組換え真菌細胞。
【請求項6】
表10に示されるタンパク質に対して少なくとも80%の配列同一性を含む調節タンパク質をコードする下流(3’)核酸に作動可能に連結された上流(5’)プロモーターを含むポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項6に記載の少なくとも1つの導入ポリヌクレオチドを含む組換え真菌細胞。
【請求項8】
請求項6に記載の少なくとも1つの導入ポリヌクレオチドを含み、内因性目的タンパク質(POI)を発現する組換え真菌細胞。
【請求項9】
請求項6に記載の少なくとも1つの導入ポリヌクレオチドを含み、異種目的タンパク質(POI)をコードする少なくとも1つの導入カセットを発現する組換え真菌細胞。
【請求項10】
前記導入カセットが、前記異種POIをコードする下流(3’)核酸に作動可能に連結された上流(5’)セルラーゼ遺伝子プロモーターを含む、請求項9に記載の組換え真菌細胞。
【請求項11】
表1に示される調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質の生産において前記組換え細胞に欠損させる遺伝子改変をさらに含む、請求項7~10のいずれか一項に記載の組換え真菌細胞。
【請求項12】
前記内因性POIがセルラーゼである、請求項8に記載の組換え真菌細胞。
【請求項13】
前記異種POIが、酵素、ペプチド、抗体、受容体タンパク質、動物飼料タンパク質、ヒト食品タンパク質、タンパク質生物製剤、治療用タンパク質及び免疫原性タンパク質からなる群から選択される、請求項9に記載の組換え真菌細胞。
【請求項14】
セルラーゼの生産を増強するための方法であって、
(a)セルラーゼを発現する親真菌細胞を取得し、前記親細胞を遺伝子改変して、表1に記載の調節タンパク質と少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の天然調節タンパク質の生産が欠損した組換え真菌細胞を取得することと、
(b)前記組換え細胞を培養することと、を含み、
工程の前記組換え細胞が、同じ条件下で培養された前記親細胞に対して増加した量のセルラーゼを生産する、方法。
【請求項15】
前記組換え細胞が、表10に記載の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質をコードする1つ以上の導入ポリヌクレオチドをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
セルラーゼの生産を増強するための方法であって、
(a)セルラーゼを発現する親真菌細胞を取得し、前記親細胞を遺伝子改変して、表10に記載の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質を過剰発現するその組換え真菌細胞を取得することと、
(b)前記組換え細胞を培養することと、を含み、
工程の前記組換え細胞が、同じ条件下で培養された前記親細胞に対して増加した量のセルラーゼを生産する、方法。
【請求項17】
前記組換え細胞が、表1の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の天然調節タンパク質の生産において前記細胞に欠損させる遺伝子改変をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記セルラーゼが、セロビオヒドロラーゼ、ヘミセルラーゼ、エンドグルカナーゼ及びβ-グルコシダーゼからなる群から選択される、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
目的タンパク質(POI)の生産を増強するための方法であって、
(a)POIをコードする発現カセットを親真菌細胞に導入し、前記親細胞を遺伝子改変して、表1に記載の調節タンパク質と少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の天然調節タンパク質の生産が欠損した組換え真菌細胞を取得することと、
(b)前記組換え細胞を培養することと、を含み、
前記組換え細胞が、同じ条件下で培養された前記親細胞に対して増加した量の前記POIを生産する、方法。
【請求項20】
前記POIをコードする前記カセットが、前記POIをコードする下流(3’)核酸に作動可能に連結された上流(5’)セルラーゼ遺伝子プロモーターを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記POIが、酵素、ペプチド、抗体、受容体タンパク質、動物飼料タンパク質、ヒト食品タンパク質、タンパク質生物製剤、治療用タンパク質及び免疫原性タンパク質からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月1日に出願された米国仮特許出願第63/284,875号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般に、分子生物学、生化学、調節タンパク質、工業発酵、タンパク質生産、糸状真菌などの分野に関する。本開示の特定の実施形態は、目的タンパク質の生産増強に使用するための変異真菌細胞及びその方法に関する。
【0003】
配列表
ここで提出する配列表のテキストファイルには、2022年11月11日に作成されたファイル「NB41575-WO-PCT_SequenceListing.xml」が含まれており、サイズは228キロバイト(KB)である。この配列表は、37C.F.R.§1.52(e)に適合しており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、リグニナーゼ、ペクチナーゼなどの加水分解酵素を分解するバイオポリマーの多くは、食品、飼料、繊維、パルプ及び紙産業などにおけるその潜在的な用途のために注目されている。例えば、工業用糸状真菌生産株、特にアスペルギルス(Aspergillus)及びトリコデルマ(Trichoderma)株は、これらの細胞外酵素を大量に生産することができる。同様に、過剰分泌株及びセルラーゼ(遺伝子)プロモーターなどの強力なプロモーターの存在は、糸状真菌細胞を異種タンパク質生産に特に適したものにする。
【0005】
したがって、糸状真菌は、天然の及び異種タンパク質を高レベルで発現することができ、工業、医薬品、動物の健康、及び食品及び飲料用途などのための酵素及び他のタンパク質の大規模生産によく適している。糸状真菌株に関する当技術分野における現在の知識にもかかわらず、目的タンパク質の生産に使用するための改良された菌株が当技術分野において連続的且つ継続的に必要とされている。本明細書に記載されるように、本開示の組換え糸状真菌株は、目的の内因性及び/又は異種タンパク質の生産を増強するための工業規模の発酵プロセスにおける使用によく適している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載されるように、本開示は、とりわけ、特定の天然調節タンパク質の生産が欠損した組換え(遺伝子改変)糸状真菌株、天然調節タンパク質をコードする特定の遺伝子を過剰発現する組換え真菌株、特定の天然調節タンパク質の生産が欠損し、天然調節タンパク質をコードする特定の遺伝子を過剰発現する組換え真菌株、目的タンパク質を生産する組換え真菌株などを構築、取得、スクリーニング、同定するための組成物及び方法を提供する。したがって、特定の実施形態は、とりわけ、表1に記載の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質の生産が欠損した組換え真菌細胞(株)、表10に記載の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質を過剰発現する組換え真菌細胞、表1に記載の1つ以上の調節タンパク質の生産が欠損し、表10に記載の1つ以上の調節タンパク質を過剰発現する組換え真菌細胞などに関する。
【0007】
他の態様では、組換え真菌細胞が目的タンパク質を発現する。特定の実施形態では、目的タンパク質は、酵素、ペプチド、抗体及び/又はその機能的抗体断片、受容体タンパク質、動物飼料タンパク質、ヒト食品タンパク質、タンパク質生物製剤、治療用タンパク質、免疫原性タンパク質などを含むが、これらに限定されない。したがって、本開示の特定の他の態様は、とりわけ、増強されたタンパク質生産特性/表現型、例えば総タンパク質生産、酵素活性、セルロース(PASC)加水分解、タンパク質生産速度などを含む組換え真菌株を構築、取得、スクリーニング、同定する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A-1H】
図1は、特定のトリコデルマ(Trichoderma)種、以下の実施例のセクションに記載の糸状真菌調節タンパク質欠失ライブラリーで同定された調節タンパク質のアミノ酸配列を示す。より具体的には、
図1Aに示されるように、調節タンパク質「Trire2_4933」は、配列番号3に示されるように、配列番号2の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDNA結合ドメイン(以下、「DBD」という)部分配列を含む;調節タンパク質「Trire2_5675」は、配列番号6に示されるように、配列番号5の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;調節タンパク質Trire2_48438」は、配列番号9に示されるように、配列番号8の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;及び調節タンパク質「Trire2_49232」は、配列番号12に示されるように、配列番号11の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む。
図1Bに示されるように、調節タンパク質「Trire2_55105」は、配列番号15に示されるように、配列番号14の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;調節タンパク質「Trire2_60565」は、配列番号18に示されるように、配列番号17の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;及び調節タンパク質「Trire2_60931」は、配列番号21に示されるように、配列番号20の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む。
図1Cに示されるように、調節タンパク質「Trire2_67209」は、配列番号24に示されるように、配列番号23の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;調節タンパク質「Trire2_68097」は、配列番号27に示されるように、配列番号26の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;及び調節タンパク質「Trire2_68425」は、配列番号30に示されるように、配列番号29の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む。
図1Dに示されるように、調節タンパク質「Trire2_69695」は、配列番号33に示されるように、配列番号32の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;調節タンパク質「Trire2_71823」は、配列番号36に示されるように、配列番号35の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;及び調節タンパク質「Trire2_72993」は、配列番号39に示されるように、配列番号38の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む。
図1Eに示されるように、調節タンパク質「Trire2_76705」は、配列番号42に示されるように、配列番号41の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;調節タンパク質「Trire2_76872」は、配列番号45に示されるように、配列番号44の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;及び調節タンパク質「Trire2_77291」は、配列番号48に示されるように、配列番号47の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;及び調節タンパク質「Trire2_78162」は、配列番号51に示されるように、配列番号50の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む。
図1Fに示されるように、調節タンパク質「Trire2_103122」は、配列番号54に示されるように、配列番号53の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;調節タンパク質「Trire2_105239」は、配列番号57に示されるように、配列番号56の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;及び調節タンパク質「Trire2_105849」は、配列番号60に示されるように、配列番号59の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;及び調節タンパク質「Trire2_108013」は、配列番号63に示されるように、配列番号62の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む。
図1Gに示されるように、調節タンパク質「Trire2_108775」は、配列番号66に示されるように、配列番号65の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;調節タンパク質「Trire2_119986」は、配列番号69に示されるように、配列番号68の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;及び調節タンパク質「Trire2_120428」は、配列番号72に示されるように、配列番号71の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む。
図1Hに示されるように、調節タンパク質「Trire2_120597」は、配列番号75に示されるように、配列番号74の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;調節タンパク質「Trire2_121757」は、配列番号78に示されるように、配列番号77の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む;及び調節タンパク質「Trire2_122783」は、配列番号80に示されるように、配列番号81の予測される全長アミノ酸配列及びその中の予測されるDBD部分配列を含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
生物学的配列の簡単な説明
配列番号1は、「Trire2_4933(PID 4933)」と名付けられた調節タンパク質をコードするトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)核酸(DNA)配列である。
【0010】
配列番号2は、配列番号1の核酸配列によってコードされるTrire2_4933(PID 4933)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0011】
配列番号3は、配列番号2のTrire2_4933(PID 4933)調節タンパク質に存在する推定DNA結合ドメイン(以下、「DBD」という。)のアミノ酸配列である。
【0012】
配列番号4は、「Trire2_5675(PID 5675)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0013】
配列番号5は、配列番号4の核酸配列によってコードされるTrire2_5675(PID 5675)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0014】
配列番号6は、配列番号5のTrire2_5675(PID 5675)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0015】
配列番号7は、「Trire2_48438(PID 48438)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0016】
配列番号8は、配列番号7の核酸配列によってコードされるTrire2_48438(PID 48438)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0017】
配列番号9は、配列番号8のTrire2_48438(PID 48438)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0018】
配列番号10は、「Trire2_49232(PID 49232)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0019】
配列番号11は、配列番号10の核酸配列によってコードされるTrire2_49232(PID 49232)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0020】
配列番号12は、配列番号11のTrire2_49232(PID 49232)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0021】
配列番号13は、「Trire2_55105(PID 55105)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0022】
配列番号14は、配列番号13の核酸配列によってコードされるTrire2_55105(PID 55105)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0023】
配列番号15は、配列番号14のTrire2_55105(PID 55105)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0024】
配列番号16は、「Trire2_60565(PID 60565)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0025】
配列番号17は、配列番号16の核酸配列によってコードされるTrire2_60565(PID 60565)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0026】
配列番号18は、配列番号17のTrire2_60565(PID 60565)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0027】
配列番号19は、「Trire2_60931(PID 60931)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0028】
配列番号20は、配列番号19の核酸配列によってコードされるTrire2_60931(PID 60931)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0029】
配列番号21は、配列番号20のTrire2_60931(PID 60931)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0030】
配列番号22は、「Trire2_67209(PID 67209)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0031】
配列番号23は、配列番号22の核酸配列によってコードされるTrire2_67209(PID 67209)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0032】
配列番号24は、配列番号23のTrire2_67209(PID 67209)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0033】
配列番号25は、「Trire2_68097(PID 68097)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0034】
配列番号26は、配列番号25の核酸配列によってコードされるTrire2_68097(PID 68097)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0035】
配列番号27は、配列番号26のTrire2_68097(PID 68097)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0036】
配列番号28は、「Trire2_68425(PID 68425)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0037】
配列番号29は、配列番号28の核酸配列によってコードされるTrire2_68425(PID 68425)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0038】
配列番号30は、配列番号29のTrire2_68425(PID 68425)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0039】
配列番号31は、「Trire2_69695(PID 69695)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0040】
配列番号32は、配列番号31の核酸配列によってコードされるTrire2_69695(PID 69695)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0041】
配列番号33は、配列番号32のTrire2_69695(PID 69695)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0042】
配列番号34は、「Trire2_71823(PID 71823)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0043】
配列番号35は、配列番号34の核酸配列によってコードされるTrire2_71823(PID 71823)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0044】
配列番号36は、配列番号35のTrire2_71823(PID 71823)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0045】
配列番号37は、「Trire2_72993(PID 72993)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0046】
配列番号38は、配列番号37の核酸配列によってコードされるTrire2_72993(PID 72993)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0047】
配列番号39は、配列番号38のTrire2_72993(PID 72993)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0048】
配列番号40は、「Trire2_76705(PID 76705)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0049】
配列番号41は、配列番号40の核酸配列によってコードされるTrire2_76705(PID 76705)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0050】
配列番号42は、配列番号41のTrire2_76705(PID 76705)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0051】
配列番号43は、「Trire2_76872(PID 76872)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0052】
配列番号44は、配列番号43の核酸配列によってコードされるTrire2_76872(PID 76872)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0053】
配列番号45は、配列番号44のTrire2_76872(PID 76872)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0054】
配列番号46は、「Trire2_77291(PID 77291)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0055】
配列番号47は、配列番号46の核酸配列によってコードされるTrire2_77291(PID 77291)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0056】
配列番号48は、配列番号47のTrire2_77291(PID 77291)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0057】
配列番号49は、「Trire2_78162(PID 78162)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0058】
配列番号50は、配列番号49の核酸配列によってコードされるTrire2_78162(PID 78162)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0059】
配列番号51は、配列番号50のTrire2_78162(PID 78162)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0060】
配列番号52は、「Trire2_103122(PID 103122)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0061】
配列番号53は、配列番号52の核酸配列によってコードされるTrire2_103122(PID 103122)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0062】
配列番号54は、配列番号53のTrire2_103122(PID 103122)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0063】
配列番号55は、「Trire2_105239(PID 105239)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0064】
配列番号56は、配列番号55の核酸配列によってコードされるTrire2_105239(PID 105239)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0065】
配列番号57は、配列番号56のTrire2_105239(PID 105239)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0066】
配列番号58は、「Trire2_105849(PID 105849)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0067】
配列番号59は、配列番号58の核酸配列によってコードされるTrire2_105849(PID 105849)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0068】
配列番号60は、配列番号59のTrire2_105849(PID 105849)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0069】
配列番号61は、「Trire2_108013(PID 108013)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0070】
配列番号62は、配列番号61の核酸配列によってコードされるTrire2_108013(PID 108013)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0071】
配列番号63は、配列番号62のTrire2_108013(PID 108013)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0072】
配列番号64は、「Trire2_108775(PID 108775)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0073】
配列番号65は、配列番号64の核酸配列によってコードされるTrire2_108775(PID 108775)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0074】
配列番号66は、配列番号65のTrire2_108775(PID 108775)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0075】
配列番号67は、「Trire2_119986(PID 119986)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0076】
配列番号68は、配列番号67の核酸配列によってコードされるTrire2_119986(PID 119986)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0077】
配列番号69は、配列番号68のTrire2_119986(PID 119986)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0078】
配列番号70は、「Trire2_120428(PID 120428)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0079】
配列番号71は、配列番号70の核酸配列によってコードされるTrire2_120428(PID 120428)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0080】
配列番号72は、配列番号71のTrire2_120428(PID 120428)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0081】
配列番号73は、「Trire2_120597(PID 120597)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0082】
配列番号74は、配列番号73の核酸配列によってコードされるTrire2_120597(PID 120597)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0083】
配列番号75は、配列番号74のTrire2_120597(PID 120597)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0084】
配列番号76は、「Trire2_121757(PID 121757)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0085】
配列番号77は、配列番号79の核酸配列によってコードされるTrire2_121757(PID 121757)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0086】
配列番号78は、配列番号80のTrire2_121757(PID 121757)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0087】
配列番号79は、「Trire2_122783(PID 122783)」と名付けられた調節タンパク質をコードするT.リーゼイ(T.reesei)核酸配列である。
【0088】
配列番号80は、配列番号79の核酸配列によってコードされるTrire2_122783(PID 122783)調節タンパク質の予測されるアミノ酸配列である。
【0089】
配列番号81は、配列番号80のTrire2_122783(PID 122783)調節タンパク質を提示する推定DBDのアミノ酸配列である。
【0090】
配列番号82は、「Trire2_1941(PID 1941)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0091】
配列番号83は、「Trire2_2148(PID 2148)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0092】
配列番号84は、「Trire2_3605(PID 3605)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0093】
配列番号85は、「Trire2_4748(PID 4748)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0094】
配列番号86は、「Trire2_5664(PID 5664)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0095】
配列番号87は、「Trire2_5927(PID 5927)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0096】
配列番号88は、「Trire2_21997(PID 21997)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0097】
配列番号89は、「Trire2_22774(PID 22774)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0098】
配列番号90は、「Trire2_22785(PID 22785)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0099】
配列番号91は、「Trire2_36703(PID 36703)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0100】
配列番号92は、「Trire2_44290(PID 44290)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0101】
配列番号93は、「Trire2_44781(PID 44781)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0102】
配列番号94は、「Trire2_45866(PID 45866)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0103】
配列番号95は、「Trire2_48773(PID 48773)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0104】
配列番号96は、「Trire2_49918(PID 49918)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0105】
配列番号97は、「Trire2_52438(PID 52438)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0106】
配列番号98は、「Trire2_52924(PID 52924)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0107】
配列番号99は、「Trire2_53106(PID 53106)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0108】
配列番号100は、「Trire2_53484(PID 53484)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0109】
配列番号101は、「Trire2_55274(PID 55274)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0110】
配列番号102は、「Trire2_56214(PID 56214)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0111】
配列番号103は、「Trire2_58130(PID 58130)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0112】
配列番号104は、「Trire2_59353(PID 59353)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0113】
配列番号105は、「Trire2_59609(PID 59609)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0114】
配列番号106は、「Trire2_60558(PID 60558)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0115】
配列番号107は、「Trire2_61476(PID 61476)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0116】
配列番号108は、「Trire2_65070(PID 65070)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0117】
配列番号109は、「Trire2_65895(PID 65895)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0118】
配列番号110は、「Trire2_68028(PID 68028)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0119】
配列番号111は、「Trire2_70414(PID 70414)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0120】
配列番号112は、「Trire2_70991(PID 70991)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0121】
配列番号113は、「Trire2_71080(PID 71080)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0122】
配列番号114は、「Trire2_71689(PID 71689)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0123】
配列番号115は、「Trire2_72076(PID 72076)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0124】
配列番号116は、「Trire2_73417(PID 73417)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0125】
配列番号117は、「Trire2_73559(PID 73559)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0126】
配列番号118は、「Trire2_73689(PID 73689)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0127】
配列番号119は、「Trire2_76039(PID 76039)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0128】
配列番号120は、「Trire2_76590(PID 76590)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0129】
配列番号121は、「Trire2_77878(PID 77878)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0130】
配列番号122は、「Trire2_1057844(PID 105784)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0131】
配列番号123は、「Trire2_105880(PID 105880)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0132】
配列番号124は、「Trire2_105917(PID 105917)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0133】
配列番号125は、「Trire2_105980(PID 105980)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0134】
配列番号126は、「Trire2_105989(PID 105989)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0135】
配列番号127は、「Trire2_106009(PID 106009)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0136】
配列番号128は、「Trire2_106720(PID 106720)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0137】
配列番号129は、「Trire2_109277(PID 109277)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0138】
配列番号130は、「Trire2_110901(PID 110901)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0139】
配列番号131は、「Trire2_119826(PID 119826)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0140】
配列番号132は、「Trire2_121164(PID 121164)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0141】
配列番号133は、「Trire2_121310(PID 121310)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0142】
配列番号134は、「Trire2_121602(PID 121602)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0143】
配列番号135は、「Trire2_122457(PID 122457)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0144】
配列番号136は、「Trire2_123713(PID 123713)」という名称の調節タンパク質の予測アミノ酸配列である。
【0145】
I.概要
本明細書に記載されるように、本開示の特定の実施形態は、目的タンパク質の商業規模生産に使用するための変異(組換え)真菌細胞(株)に関する。したがって、特定の態様は、目的タンパク質を発現する組換え真菌株を構築及び取得するための組成物及び方法に関する。特定の態様では、本明細書に記載されるように、本開示は、とりわけ、特定の天然調節タンパク質の生産が欠損した組換え(遺伝子改変)糸状真菌株、天然調節タンパク質をコードする特定の遺伝子を過剰発現する組換え真菌株、特定の天然調節タンパク質の生産が欠損し、天然調節タンパク質をコードする特定の遺伝子を過剰発現する組換え真菌株、目的タンパク質を生産する組換え真菌株などを構築、取得、スクリーニング、同定するための組成物及び方法を提供する。
【0146】
II.定義
本株、組成物及び方法をさらに詳細に説明する前に、以下の用語及び語句を定義する。定義されない用語は、使用され、且つ当業者に知られている通常の意味と一致すべきである。
【0147】
本明細書に引用されている全ての刊行物及び特許は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0148】
ある範囲の値が示されている場合、文脈上別段の明確な指示がなければ、その範囲の上限と下限の間にある下限値の単位の10分の1までの各介在値、及びその範囲内の任意の他の記載された値又は介在値は、本組成物及び方法の範囲内に包含されると理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立して、より小さい範囲に含まれ、また、記載された範囲における任意の具体的に除外された限界に従うことを条件として、本発明の組成物及び方法に包含される。記載された範囲が限界の一方又は両方を含む場合、それらの含まれた限界の一方又は両方を除く範囲もまた、本発明の組成物及び方法に含まれる。
【0149】
本明細書において、いくつかの範囲は、「約」という用語が先行する数値で示される。本明細書においては、「約」という用語は、これが先行する正確な数、及び、この用語が先行する数に近い数又は近似する数に対するリテラルサポートを提供するために使用される。数字が具体的に挙げられた数に近い又は近似するかを決定する際に、挙げられていない近い又は近似する数は、それが提示される文脈において、具体的に挙げられた数の実質的に等価な数を提供する数であり得る。例えば、数値に関連して「約」という用語は、その用語が文脈において特に明確に定義されていない限り、その数値の-10%~+10%の範囲を指す。別の例では、語句「約6のpH値」は、pH値が別途具体的に定義されていない限り、5.4~6.6のpH値を意味する。
【0150】
この発明を実施するための形態によると、以下の略語及び定義が適用される。文脈が明白に他のことを指示していない限り、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、複数の対象を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「酵素(an enzyme)」という言及は、複数のそのような酵素を含み、「用量(the dosage)」という言及は、1つ以上の用量及び当業者には既知のその同等物を含むなどである。
【0151】
特許請求の範囲が任意選択的な要素を排除するように記載され得ることにもさらに留意されたい。したがって、この記述は、請求項の構成要素の列挙に関連して「唯一(solely)」、「~のみ(only)」、「~を除いて(excluding)」、「~を含まない(not including)」などの排他的な用語の使用、又はその「否定的な」限定若しくは条件の使用のための先行文として機能することを意図している。例えば、特定の実施形態では、「培地が誘導基質を含まない」という条件は、セルロース、ラクトース、ゲンチビオース、ソホロースなどの誘導基質を除外するために使用され得る。
【0152】
さらに、「~を含む(comprising)」という用語は、本明細書で使用されるとき、「~を含む(comprising)」という用語の後の成分を「含むが、それに限定されない(including,but not limited to)」ことを意味することに留意されたい。用語「含む」の後の成分は必要とされ、又は必須であるが、この成分を含む組成物は、その他の非必須又は任意選択の成分をさらに含み得る。
【0153】
「~から構成される(consisting of)という用語は、本明細書で使用されるとき、「~から構成される(consisting of)という用語の後の成分を「含み、且つそれに限定される(including and limited to)」ことを意味することに留意されたい。したがって、用語「からなる」の後の成分は必要とされ、又は必須であり、その他の成分はその組成物中に存在しない。
【0154】
本開示を読めば当業者には明らかなように、本明細書に記載及び例示する個々の実施形態のそれぞれは、本明細書に記載する本組成物及び方法の範囲又は精神から逸脱することなく、他の一部の実施形態のいずれかの特徴から容易に分離又は組み合わせることができる別個の構成要素及び特徴を有する。記載した方法はいずれも、記載した事象の順序で、又は論理的に可能な他の任意の順序で実施することができる。
【0155】
本明細書で使用されるとき、「子嚢菌真菌細胞」という用語は、菌界における子嚢菌門(Ascomycota)の任意の生物を指す。子嚢菌真菌細胞の例には、トリコデルマ属(Trichoderma)種、アスペルギルス属(Aspergillus)種、ミセリオフトラ属(Myceliophthora)種、及びペニシリウム属(Penicillium)種などのチャワンタケ(Pezizomycotina)亜門内の糸状真菌が含まれるが、それらに限定されない。
【0156】
本明細書で使用されるとき、「糸状真菌」は、真菌植物(Eumycota)亜門及び卵菌類(Oomycota)亜門の全ての糸状真菌形を指す。例えば、糸状真菌には、限定されないが、アクレモニウム属(Acremonium)、アスペルギルス属(Aspergillus)、エメリセラ属(Emericella)、フサリウム属(Fusarium)、フミコーラ属(Humicola)、ムコール属(Mucor)、ミセリオフトラ属(Myceliophthora)、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、スキタリジウム属(Scytalidium)、チエラビア属(Thielavia)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)、及びトリコデルマ属(Trichoderma)の種が含まれる。
【0157】
特定の実施形態では、糸状真菌には、限定されないが、トリコデルマ・ハルジアナム(Trichoderma harzianum)、Trichoderma koningii、Trichoderma longibrachiatum、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)及びTrichoderma virideを含むトリコデルマ属(Trichoderma)種細胞(株)が含まれる。当業者に知られているように、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)は、以前に「Hypocrea jecorina」として分類された。
【0158】
他の実施形態では、糸状真菌は、Aspergillus aculeatus、Aspergillus awamori、Aspergillus clavatus、アスペルギルス・フラーブス(Aspergillus flavus)、Aspergillus foetidus、Aspergillus fumigatus、Aspergillus japonicus、Aspergillus nidulans、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、Aspergillus terreus等のアスペルギルス属(Aspergillus sp.)細胞(株)である。
【0159】
本明細書で使用されるとき、「野生型」及び「天然の」という用語は、互換的に使用され、そして天然に見出されるような遺伝子、タンパク質、真菌細胞又は菌株を指す。
【0160】
本明細書で使用されるとき、用語「組換え」又は「非天然」は、少なくとも1つの遺伝子改変を有する、又は異種核酸分子の導入によって改変された生物、微生物、細胞、核酸分子、若しくはベクターを指すか、又は異種若しくは内因性核酸分子若しくは遺伝子の発現を制御できるように改変された細胞(例えば、微生物細胞)を指す。組換えはまた、非天然細胞に由来するか、又は1つ以上のそのような改変を有する非天然細胞の子孫である細胞を指す。遺伝子改変には、例えば、タンパク質をコードする発現可能な核酸分子を導入する改変、又は細胞の遺伝物質の他の核酸分子の付加、欠失、置換若しくは他の機能的変化が含まれる。例えば、組換え細胞は、天然の(野生型)細胞内で同一又は相同な形態では見られない遺伝子又は他の核酸分子を発現し得るか、又は内因性遺伝子の変化した発現パターン、例えば過剰発現される、過少発現される、最小限発現される、又は全く発現されないなどを提供し得る。
【0161】
「組み換え」、「組み換える(こと)」又は「組み換え」核酸を生成することは、一般に、2つ以上の核酸断片の集合体であり、この集合体は、キメラ遺伝子又はポリヌクレオチドを発生させる。
【0162】
本明細書で使用されるとき、用語「遺伝子」は、タンパク質又はRNAの発現をコード且つ指示する核酸を指す用語「対立遺伝子」と同義である。糸状真菌の栄養型は一般に一倍体であり、このため特定の表現型を付与するには、特定の遺伝子の単一コピー(即ち、単一の対立遺伝子)で十分である。
【0163】
本明細書で使用されるとき、「遺伝子」という用語は、ポリペプチド(タンパク質)鎖の産生に関与するDNAのセグメントを意味し、コーディング領域の前後の領域(例えば、5’非翻訳(5’UTR)又は「リーダー」配列、3’UTR又は「トレーラー」配列、プロモーター配列、ターミネーター配列など)並びに個々のコーディングセグメント(エクソン)の間の介在配列(イントロン)を含んでも含まなくてもよい。例えば、目的の遺伝子(DNA)配列(GOI)は、調節タンパク質、構造タンパク質、商業的に重要な工業用タンパク質又はペプチド、例えば酵素(例えば、プロテアーゼ、マンナナーゼ、キシラナーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ、オキシダーゼ、フィターゼ、リパーゼ)などをコードし得る。目的遺伝子は、天然に存在する遺伝子、変異(改変)遺伝子又は合成遺伝子であり得る。
【0164】
本明細書で使用されるとき、「プロモーター」という用語は、下流の遺伝子コーディング配列(CDS;又はオープンリーディングフレーム(ORF))の転写を指示するように機能する核酸配列を指す。プロモーターは一般に、標的遺伝子が発現している宿主細胞(例えば、真菌細胞)に適切である。プロモーターは他の転写及び翻訳調節核酸配列(「制御配列」とも呼ばれる)と共に、所与の遺伝子を発現させるために必要である。一般に、転写及び翻訳調節配列には、コアプロモーター及びエンハンサー又は活性化因子又はリプレッサー配列を含むプロモーター及びターミネーター配列、転写及び翻訳開始及び停止配列が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、プロモーターは、誘導性プロモーター、構成的プロモーター、調整可能なプロモーター、合成プロモーター、タンデムプロモーター及びそれらの組み合わせである。ある特定の実施形態において、誘導性プロモーターは、誘導性セルラーゼ遺伝子プロモーターである。
【0165】
本明細書で使用されるとき、「プロモーター活性」という用語は、核酸が宿主細胞中の下流(3’)ポリヌクレオチドの転写を指示する能力である。プロモーター活性を試験するために、(プロモーター)核酸を下流ポリヌクレオチドに作動可能に連結して組換え核酸を産生することができる。組換え核酸を細胞に導入し、ポリヌクレオチドの転写を評価してもよい。ある特定の場合において、ポリヌクレオチドは、タンパク質をコードしてよく、ポリヌクレオチドの転写は、細胞におけるタンパク質の生産を査定することによって評価され得る。
【0166】
本明細書で使用されるとき、「作動可能に連結された」という用語は、2つ以上の核酸配列間の機能的連結を指す。したがって、核酸配列は、別の核酸配列と機能的関係に置かれたときに作動可能に連結される。例えば、プロモーター配列又はターミネーター配列は、それがCDSの転写に影響を及ぼす場合、遺伝子コーディング配列(CDS)に作動可能に連結される。リボソーム結合部位は、翻訳を促進するように配置されている場合、コーディング配列に作動可能に連結されている。分泌リーダー(すなわち、シグナルペプチド)をコードする核酸配列は、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、ポリペプチドをコードする核酸配列(例えば、ORF)に作動可能に連結される。一般に、「作動可能に連結された」は、連結されるDNA(核酸)配列が隣接しており、分泌リーダーの場合には、隣接し、且つリーディング期にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは、隣接している必要はない。2つ以上の核酸配列(すなわち、作動可能に連結する)を連結することは、当業者に対する方法のいずれかを使用して達成される。
【0167】
本明細書で使用されるとき、例示的な親トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)株には、T.リーゼイ(T.reesei)株QM6a(ATCC(登録商標)13631)、T.リーゼイ(T.reesei)株RL-P37(NRRL寄託番号15709)及びT.リーゼイ(T.reesei)株RUT-C30(ATCC(登録商標)56765)が含まれるが、これらに限定されない。例示的な親アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)株としては、限定されないが、A.ニガー(A.niger)株ATCC(登録商標)1015が挙げられる。例示的な親アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)株としては、限定されないが、A.オリゼー株RIB40(ATCC(登録商標)42149)が挙げられる。及び例示的な親マイセリオフィソラ・サーモフィル(Myceliophthora thermophila)株としては、限定されないが、M.サーモフィル(M.thermophila)株ATCC(登録商標)42464が挙げられる。
【0168】
例えば、トリコデルマ(Trichoderma)株Rut-C30及びRL-P37は、トリコデルマ(Trichoderma)自然分離株QM6a(Le Crom et al.、2009;Sheir-Neiss及びMontenecourt、1984年)の変異誘発誘導体であり、NG14株は最後の共通祖先である。本開示の特定の態様では、例示的な糸状真菌株は、T.リーゼイ(T.reesei)株RL-P37から誘導/得られ、Sheir-Neiss及びMontenecourt(1984)並びに国際公開第2011/153449号パンフレットによって一般的に記載されているように、T.リーゼイ(T.reesei)pyr2遺伝子(以下、「Δpyr2」と略す)の欠失を含む。
【0169】
本明細書で使用されるとき、「リグノセルロース分解酵素」、「セルラーゼ酵素」、及び「セルラーゼ」という語句は、互換的に使用され、セルロース(ヘミセルロース)のグリコシド結合を加水分解して糖(例えば、グルコース.、キシロース、アラビノース等)を生成する、セロビオヒドロラーゼ、キシラナーゼ、エンドグルカナーゼ、及びβ-グルコシダーゼなどのグリコシドヒドロラーゼ(GH)酵素を含む。
【0170】
本明細書で使用されるとき、「エンドグルカナーゼ」タンパク質は「EG」と省略されてもよく、「セロビオヒドロラーゼ」タンパク質は「CBH」と省略されてもよく、「β-グルコシダーゼ」タンパク質は「BG」と省略されてもよく、「キシラナーゼ」タンパク質は「XYL」と省略されてもよい。したがって、本明細書で使用されるとき、EGタンパク質をコードする遺伝子(又はORF)は「eg」と省略されてもよく、CBHタンパク質をコードする遺伝子(又はORF)は「cbh」と省略されてもよく、BGタンパク質をコードする遺伝子(又はORF)は「bg」と省略されてもよく、XYLタンパク質をコードする遺伝子(又はORF)は「xyl」と省略されてもよい。ある特定の実施形態において、セロビオヒドロラーゼには、酵素委員会番号(EC3.2.1.91)に分類される酵素が含まれ、エンドグルカナーゼには、EC3.2.1.4に分類される酵素が含まれ、エンド-β-1,4-キシラナーゼには、EC3.2.1.8に分類される酵素が含まれ、β-キシロシダーゼには、EC3.2.1.37に分類される酵素が含まれ、β-グルコシダーゼには、EC3.2.1.21に分類される酵素が含まれる。
【0171】
本明細書で使用されるとき、「セルラーゼ遺伝子プロモーター」には、セロビオヒドロラーゼ(cbh)遺伝子プロモーター配列、エンドグルカナーゼ(例えば)遺伝子プロモーター配列、β-グルコシダーゼ(bg)遺伝子プロモーター配列、キシラナーゼ(xyl)遺伝子プロモーター配列などが含まれるが、これらに限定されない。
【0172】
本明細書で使用されるとき、用語「改変」及び「遺伝子改変」は互換的に使用され、以下を含む:(a)遺伝子における1つ以上のヌクレオチドの導入、置換若しくは除去、又は遺伝子の転写若しくは翻訳に必要とされる調節エレメントにおける1つ以上のヌクレオチドの導入、置換若しくは除去、(b)遺伝子破壊、(c)遺伝子変換、(d)遺伝子欠失、(e)遺伝子の下方制御及び/若しくは上方制御、(f)本明細書に開示される任意の1つ以上の遺伝子/DNA配列の特異的突然変異誘発及び/又は(g)ランダム突然変異誘発。
【0173】
本明細書で使用されるとき、「改変糸状真菌細胞」、「変異糸状真菌細胞」、「組換え真菌細胞」、「改変糸状真菌株」などの語句は、互換的に使用され得、Pezizomycotina subphylumに属する親糸状真菌細胞に由来する(すなわち、得られる)糸状真菌細胞を指す。例えば、「改変された」糸状真菌細胞は、親糸状真菌細胞から誘導(得)されてよく、改変された細胞は、親細胞には見られない少なくとも1つの遺伝子改変を含む。
【0174】
本明細書で使用されるとき、「機能性遺伝子」は、活性な遺伝子産物、すなわち、一般的にはタンパク質を生産するために、細胞成分が使用し得る遺伝子である。対照的に、「非機能性遺伝子」は、活性遺伝子産物(すなわち、機能性タンパク質)を生産するために細胞成分によって使用することができないか、又は活性遺伝子産物(すなわち、機能性タンパク質)を生産するために細胞成分によって使用される能力が低下している。
【0175】
本明細書で使用されるとき、「機能性タンパク質」は、酵素機能/活性、結合機能/活性(例えば、DNA結合)、表面活性特性などの機能又は活性を有し、その機能/活性を消失又は減少させるように変異誘発、切断又は他の方法で改変されていないタンパク質である。
【0176】
本明細書で使用されるとき、「調節遺伝子」は、その機能が真菌宿主によるタンパク質の生産に影響を及ぼす遺伝子である。本開示の特定の態様では、調節遺伝子(調節タンパク質をコードする)の過剰発現は、糸状真菌(宿主)細胞によるタンパク質生産に影響を及ぼす。「調節遺伝子」は、「調節タンパク質」をコードする。
【0177】
本明細書で使用されるとき、「調節タンパク質」には、転写因子タンパク質、プロテインキナーゼ、ホスファターゼ、ヒストン改変又はクロマチンリモデリングに関与するタンパク質、及び遺伝子又はタンパク質活性の調節に関連する同様の機能が含まれるが、これらに限定されない。
【0178】
より具体的には、本明細書で使用されるとき、用語「調節遺伝子」、「調節タンパク質」及び/又は他の「遺伝子転写調節タンパク質」は、限定することを意味するものではなく、むしろ本開示の例示的な遺伝子及び/又はタンパク質を分類、特徴付け及び/又は同定するのを助けるために本明細書で使用される。したがって、以下のセクションIII及び以下の実施例でさらに特定されるように、本開示のDNA及び/又はタンパク質(PRT)配列は、全体的なタンパク質機能にかかわらず、本明細書では特に調節遺伝子及び/又は調節タンパク質と呼ばれる。例えば、表1、表10及び/又は表16に記載の調節タンパク質は、1つ以上の代謝経路活性などに関与するタンパク質(例えば、酵素)を(例えば、経路のボトルネックを緩和するなどのために)含んでよく、そのようなタンパク質(酵素)は、全体的なタンパク質機能にかかわらず、本明細書では調節タンパク質と呼ばれ得る。
【0179】
さらに詳述し、以下に記載するように、本開示の特定の態様は、変異真菌細胞を本開示の1つ以上の調節タンパク質の生産において欠損させる遺伝子改変に関する。より具体的には、以下の実施例2~4(表1を参照されたい)に記載されるように、表1の1つ以上の調節タンパク質の生産が欠損した変異真菌細胞は、タンパク質生産特性/表現型の増強を含む(例えば、総タンパク質生産、酵素活性、セルロース(PASC)加水分解、タンパク質生産速度など)。
【0180】
さらに詳述し、以下に記載するように、本開示の特定の態様は、調節タンパク質をコードする特定の調節遺伝子の過剰発現(過剰発現)に関する。本明細書で使用されるとき、調節タンパク質をコードする遺伝子の「過剰発現」(略して「OE」)は、例えば、調節タンパク質をコードする特定の遺伝子の追加のコピー(又は複数のコピー)を真菌宿主に導入することによって、又は調節タンパク質をコードする遺伝子を異種プロモーターの制御下で発現させて遺伝子の発現を増加させることによって、又はそうでなければ遺伝子がより豊富に発現される及び/又は遺伝子産物の活性が増加するように真菌宿主を遺伝子改変することによって、行うことができる。調節タンパク質をコードする遺伝子の過剰発現(OE)の影響は、タンパク質生産に適した条件下で改変宿主を培養することによって研究することができる。内因性タンパク質又は異種タンパク質の生産に対する効果は、例えば、特異的酵素活性を決定すること、総タンパク質の量を決定すること、又は生産された特異的内因性又は異種タンパク質の量を決定することによって研究することができる。
【0181】
より具体的には、実施例5及び6(表10を参照されたい)に記載されるように、(表10に提示される)1つ以上の調節タンパク質の生産が欠損した変異真菌細胞は、タンパク質生産特性/表現型の減少を含む(例えば、総タンパク質生産、酵素活性、セルロース(PASC)加水分解、タンパク質生産速度など)。したがって、本明細書に記載及び熟慮されるように、特定の態様では、本開示は、とりわけ、表10の1つ以上の調節タンパク質を過剰発現する変異真菌細胞を提供する。
【0182】
本明細書で使用されるとき、「遺伝子の破壊」、「遺伝子破壊」、「遺伝子の不活性化」及び「遺伝子不活性化」は、互換的に使用され、宿主細胞が機能性遺伝子産物(例えば、機能性タンパク質)を生産することを実質的に妨げる任意の遺伝子改変を広く指す。遺伝子破壊の例示的な方法には、ポリペプチドコーディング配列、プロモーター、エンハンサー、又は別の調節エレメントを含む遺伝子の任意の部分の完全又は部分的欠失、或いはそれらの変異誘発(ここで、変異誘発は、標的遺伝子を破壊/不活性化し、機能性遺伝子産物(すなわち、機能性タンパク質)の生産を実質的に減少又は阻害する置換、挿入、欠失、逆位、並びにそれらの任意の組み合わせ及びバリエーションを包含する)が含まれる。
【0183】
本明細書で使用されるとき、「遺伝子の欠失」は、宿主細胞のゲノムからの遺伝子の除去を指す。遺伝子が遺伝子のコーディング配列に直接隣接して位置していない制御エレメント(例えば、エンハンサーエレメント)を含む場合、遺伝子の欠失は、コーディング配列の欠失を指し、及び任意選択的に、例えば、プロモーター配列及び/又はターミネーター配列を含むがこれらに限定されない隣接エンハンサーエレメントの欠失を指す。
【0184】
本明細書で使用されるとき、「異種遺伝子」は、配列の少なくとも一部が、それが導入及び/又は発現される細胞にとって天然ではないか又は天然の形態で存在するポリヌクレオチド(DNA)配列を指す。
【0185】
本明細書で使用されるとき、「異種核酸コンストラクト」又は「異種DNA配列」は、それが発現される細胞にとって天然ではないか又は天然の形態で存在しない配列の一部を有する。
【0186】
本明細書で使用されるとき、「異種タンパク質」は、異種遺伝子、異種核酸(ポリヌクレオチド)配列、異種DNA配列などによってコードされる。
【0187】
したがって、一定の実施形態では、目的タンパク質(POI)をコードする異種遺伝子、異種核酸コンストラクト、異種DNA配列などを糸状真菌細胞(株)に導入する(例えば、変換される)。例えば、POIをコードする異種遺伝子コンストラクトは、本明細書に記載の他の遺伝子改変の実施前、実施中、又は実施後に糸状真菌細胞(株)に導入され得る。
【0188】
異種とは、制御配列に関して、その発現が現在調節しているのと同じ遺伝子を調節するように自然界で機能しない制御配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター)を指す。一般に、異種核酸配列は、それらが存在する細胞又はゲノムの一部に対して内因性ではなく、感染、トランスフェクション、形質転換、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどによって細胞に加えられたものである。「異種」核酸コンストラクトは、天然の細胞に見出される制御配列/DNAコーディング配列の組み合わせと同一であるか、又は異なる制御配列/DNAコーディング配列の組み合わせを含み得る。
【0189】
本明細書で使用されるとき、「コーディング配列」(略して「CDS」)という用語は、その(コードされた)タンパク質産物のアミノ酸配列を直接指定するポリヌクレオチド配列を指す。CDSの境界は、一般に、通常は開始コドン(ATG)で始まるオープンリーディングフレーム(ORF)によって決定される。コーディング配列には、一般的に、DNA、cDNA及び組換えヌクレオチド配列が含まれる。例えば、ORFは、一般に、(i)開始コドン、(ii)コードされたタンパク質産物のアミノ酸を表す一連のコドン、及び(iii)終止コドンからなる連続するリーディングフレームを含み、5’から3’方向に読み取られる(又は翻訳される)ポリヌクレオチド配列(天然に存在するか、天然に存在しないか、又は合成であるかにかかわらず)を指す。
【0190】
本明細書で使用されるとき、「DNAコンストラクト」又は「発現コンストラクト」という用語は、少なくとも2つのDNAポリヌクレオチド断片を含む核酸配列を指す。DNA又は発現コンストラクトを用いて、核酸配列を真菌宿主細胞に導入することができる。このDNAはインビトロで(例えば、PCRで)又は任意の他の好適な手法によって生成し得る。いくつかの実施形態では、DNAコンストラクトは、目的の配列(例えば、目的タンパク質をコードする)を含む。ある特定の実施形態において、目的のポリヌクレオチド配列は、プロモーター及び/又はターミネーターに作動可能に連結される。いくつかの実施形態では、DNAコンストラクトは少なくとも1つの選択マーカーをさらに含む。さらなる実施形態では、DNAコンストラクトは、宿主細胞染色体に相同な配列を含む。他の実施形態では、DNAコンストラクトは、宿主細胞染色体とは非相同な配列を含む。
【0191】
本明細書で使用されるとき、「フランキング配列」は、考察対象の配列の上流又は下流にある任意の配列を指す(例えば、遺伝子A-B-Cでは、遺伝子BがA及びCの遺伝子配列にフランキングされている)。特定の実施形態では、入来配列は、両側で相同ボックスにフランキングされている。また別の実施形態においては、入来配列及び相同ボックスは、両側でスタッファー配列によってフランキングされている単位を含む。いくつかの実施形態では、フランキング配列は、一方の側(3’又は5’)にのみ存在するが、好ましい実施形態では、フランキングされている配列の両側に存在する。各相同ボックスの配列は、糸状真菌染色体中の配列と相同である。これらの配列は、糸状真菌染色体のどこに新しいコンストラクトが組み込まれる、もしあれば、染色体のどの部分が入ってくる配列によって置き換えられるかを指示する。
【0192】
本明細書で使用されるとき、遺伝子発現の用語「下方制御」語は、機能性遺伝子産物のより低い(下方制御された)発現をもたらす任意の方法を含む。
【0193】
「ベクター」という用語は、本明細書では、1つ以上の細胞型に導入する核酸配列を保有するように設計されたポリヌクレオチドとして定義される。ベクターには、クローニングベクター、発現ベクター、シャトルベクター、プラスミド、ファージ又はウイルス粒子、DNAコンストラクト、カセットなどが含まれる。発現ベクターには、プロモーター、シグナル配列、コーディング配列及び転写ターミネーターなどの調節配列が含まれ得る。
【0194】
本明細書で使用される「発現ベクター」は、好適な宿主中でタンパク質を発現させることができる好適な制御配列に、作動可能に連結されたコーディング配列を含むDNAコンストラクトを意味する。そのような制御配列には、転写を生じさせるプロモーター、転写を制御する任意選択的なオペレーター配列、mRNA上の好適なリボソーム結合部位をコードする配列、エンハンサー、並びに転写及び翻訳の終了を制御する配列が含まれ得る。
【0195】
本明細書で使用されるとき、「分泌シグナル配列」という用語は、より大きなポリペプチドの成分として、そのより大きなポリペプチドに、それが合成された細胞の分泌経路を通過させるポリペプチド(すなわち、「分泌ペプチド」)をコードするDNA配列を意味する。より大きなポリペプチドは、通常、分泌経路を通る過程で切断され、分泌ペプチドが除去される。
【0196】
本明細書で使用されるとき、「単離(された)」又は「精製(された)」という用語は、天然に結合している少なくとも1つの成分から除去された糸状真菌細胞、核酸又はポリペプチドを指す。
【0197】
本明細書で使用されるとき、「目的タンパク質」又は「POI」という用語は、糸状真菌細胞において発現することが所望されるポリペプチドを指す。そのようなタンパク質は、酵素、基質結合タンパク質、表面活性タンパク質、構造タンパク質などであり得、高レベルで発現させることができ、商業化を目的とすることができる。例えば、下記に一般的に記載されるように、POIとしては、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ポリエステラーゼ、ペクチナーゼ、ケラチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナーゼ、マンナナーゼ、α-グルカナーゼ、β-グルカナーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッカーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、アセチルエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、アラビナーゼ、アラビノシダーゼ、アラビノシダーゼ、アラビノフラノシダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、ヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、エピメラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルカンリアーゼ、エンド-β-グルカナーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルクロニダーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ等が含まれるが、これらに限定されない。
【0198】
目的タンパク質(POI)は、「内因性」遺伝子によってコードされ得る。例えば、特定の実施形態では、POIは、天然のセルラーゼ群(例えば、セロビオヒドロラーゼ、キシラナーゼ、エンドグルカナーゼ及びβ-グルコシダーゼ)をコードする上述の野生型遺伝子など、糸状真菌細胞(株)に内因性の遺伝子によってコードされる。
【0199】
本明細書で使用されるとき、「増加した生産」という用語及びその変形は、培地組成、温度、pH、細胞密度、溶存酸素、及び調節タンパク質を過剰発現しない親(対照)糸状真菌細胞と同じ条件下で培養した場合の、本開示の調節タンパク質をコードする調節遺伝子を過剰発現する改変(変異)糸状真菌細胞による目的タンパク質の生産における少なくとも0.5%、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、又は少なくとも20%(例えば、20%超)の増加を意味する。
【0200】
本明細書で使用されるとき、組換え細胞が「『増加した量』の目的タンパク質を産生する」などの語句で使用される場合、「増加した量」という用語及びその変形は、培地組成、温度、pH、細胞密度、溶存酸素、及び調節タンパク質を過剰発現しない親(対照)糸状真菌細胞と同じ条件下で培養した場合の、本開示の調節タンパク質をコードする調節遺伝子を過剰発現する改変(変異)糸状真菌細胞によって産生された目的タンパク質の量における少なくとも0.5%、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、又は少なくとも20%(例えば、20%超)の増加を意味する。
【0201】
本明細書で使用されるとき、用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」(及び/又はそれらのそれぞれの複数形)は、互換的に使用され、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基を含む任意の長さのポリマーを指す。本明細書では、アミノ酸残基に対する従来の1文字コード又は3文字コードを使用する。ポリマーは直鎖状であっても分枝状であってよく、改変アミノ酸を含むことができ、さらに非アミノ酸によって中断されてもよい。これらの用語はまた、天然に、又は介入(例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、又は標識成分との結合などの他の任意の操作若しくは修飾)によって改変されているアミノ酸ポリマーを包含する。また、この定義の範囲には、例えば、アミノ酸の1つ以上のアナログ(例えば、非天然アミノ酸などを含む)を含有するポリペプチド、及び当該技術分野において知られる他の改変も含まれる。
【0202】
本明細書で使用されるとき、機能的及び/又は構造的に類似するタンパク質は、「関連タンパク質」であると見なされる。そのようなタンパク質は、属及び/又は種が異なる生物、或いは異なる分類の生物(例えば、細菌及び真菌)に由来し得る。関連タンパク質はまた、一次配列分析によって決定されるか、二次又は三次構造分析によって決定されるか、又は免疫学的交差反応性によって決定される相同体を包含する。
【0203】
本明細書で使用されるとき、「実質的に活性を有しない」という語句、又は類似の語句は、特定の活性が混合物中で検出できないか、又は混合物の意図する目的を妨害しない量で存在することを意味する。
【0204】
本明細書で使用されるとき、「誘導ポリペプチド」という用語は、N末端及びC末端のいずれか又は両方への1つ以上のアミノ酸の付加、アミノ酸配列中の1つ又は多数の異なる部位での1つ以上のアミノ酸の置換、タンパク質の一方若しくは両方の末端での、又はアミノ酸配列中の1つ以上の部位での1つ以上のアミノ酸の欠失、並びに/或いはアミノ酸配列中の1つ以上の部位での1つ以上のアミノ酸の挿入によって、タンパク質から得られるか、又は得ることができるタンパク質を指す。タンパク質誘導体の調製は、天然のタンパク質をコードするDNA配列を改変し、そのDNA配列を好適な宿主に形質転換し、その改変DNA配列を発現させて誘導タンパク質を形成することによって達成することができる。
【0205】
関連(及び誘導)タンパク質には、「変異タンパク質」が含まれる変異タンパク質は、少ない数のアミノ酸残基における置換、欠失及び/又は挿入によって、参照/親タンパク質(例えば、野生型タンパク質)とは異なる。変異タンパク質と親タンパク質との間の異なるアミノ酸残基の数は、1個以上、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50個又はそれ以上のアミノ酸残基であり得る。変異タンパク質は、参照タンパク質と少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、若しくは少なくとも約99%、又はそれ以上のアミノ酸配列同一性を共有し得る。変異タンパク質はまた、選択されたモチーフ、ドメイン、エピトープ、保存領域等において、参照タンパク質と異なっていてもよい。
【0206】
本明細書で使用されるとき、「相同」タンパク質という用語は、参照タンパク質と同様の活性、機能及び/又は構造を有するタンパク質を指す。相同体が必ずしも進化的に関連しているということではない。したがって、この用語は異なる生物から得られる(即ち、構造及び機能に関して)同一の、類似の、又は対応するタンパク質を包含することが意図されている。いくつかの実施形態では、参照タンパク質に類似の四次、三次及び/又は一次構造を有する相同体を同定することが望ましい。例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)及び/又はThermothelomyces thermophilus(すなわち、本開示の全長T.リーゼイ(T.reesei)調節タンパク質に対する実質的なアミノ酸配列同一性を含む)由来の調節タンパク質ホモログは、実施例10(表6を参照されたい)に記載されている。
【0207】
配列間の相同性の程度は、当該技術分野で周知の任意の好適な方法を使用して決定し得る(例えば、Smith and Waterman,1981;Needleman and Wunsch,1970;Pearson and Lipman,1988;Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computer Group,Madison,WI)のGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTAなどのプログラム;並びにDevereux et al.,1984を参照されたい)。本発明の目的のために、2つのアミノ酸配列間の同一性の程度は、EMBOSSパッケージ(Rice et al.、2000)、好ましくはバージョン3.0.0以降のNeedleプログラムで実施されるNeedleman-Wunschアルゴリズム(Needleman及びWunsch、1970年)を使用して決定される。使用される任意選択のパラメータは、ギャップオープンペナルティ10、ギャップ伸長ペナルティ0.5、及びEBLOSUM62(BLOSUM62のEMBOSSバージョン)置換マトリックスを含み得る。「最長同一性」とラベル付けされた(-nobriefオプションを使用して取得された)針の出力は、同一性パーセントとして使用され、以下のように計算される。
(同一残基×100)/(アラインメントの長さ-アラインメントの総ギャップ数)
【0208】
本発明の目的のために、2つのデオキシリボヌクレオチド配列間の同一性の程度は、EMBOSSパッケージ(上記のRice et al.、2000)、好ましくはバージョン3.0.0以降のNeedleプログラムで実施されるNeedleman-Wunschアルゴリズム(上記のNeedleman及びWunsch,1970)を使用して決定される。使用される任意選択のパラメータは、ギャップオープンペナルティ10、ギャップ伸長ペナルティ0.5、及びEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックスである。「最長同一性」とラベル付けされた(-nobriefオプションを使用して取得された)針の出力は、同一性パーセントとして使用され、以下のように計算される。
(同一デオキシリボヌクレオチド×100)/(アラインメントの長さ-アラインメントの総ギャップ数)
【0209】
本明細書で使用されるとき、語句「実質的に類似」及び「実質的に同一」は、少なくとも2つの核酸若しくはポリペプチドとの関連では、通常、ポリヌクレオチド若しくはポリペプチドが参照(即ち、野生型)配列と比較して少なくとも約40%の同一性、少なくとも約50%の同一性、少なくとも約60%の同一性、少なくとも約70%の同一性、少なくとも約75%の同一性、少なくとも約80%の同一性、少なくとも約85%の同一性、少なくとも約90%の同一性、少なくとも約91%の同一性、少なくとも約92%の同一性、少なくとも約93%の同一性、少なくとも約94%の同一性、少なくとも約95%の同一性、少なくとも約96%の同一性、少なくとも約97%の同一性、少なくとも約98%の同一性、又は少なくとも約99%以上さえの同一性を有する配列を含むことを意味する。配列同一性は、標準的なパラメータを用いて、BLAST、ALIGN及びCLUSTAL等の公知のプログラムを使用して決定することができる。
【0210】
本明細書で使用されるとき、用語「インデューサー」、「インデューサー(複数)」又は「誘導基質」は互換的に使用され、糸状真菌細胞に総タンパク質の「増加した量」を産生させる任意の化合物を指す。誘導基質の例には、ソホロース、ラクトース、ゲンチビオース及びセルロースが含まれるが、これらに限定されない。
【0211】
本明細書で使用されるとき、用語「誘導」は、「インデューサー」(すなわち、誘導基質)の存在に応じて、極めて大きい速度で糸状真菌細胞中での目的タンパク質の合成をもたらす遺伝子の転写の増加を指す。
【0212】
目的タンパク質(POI)をコードする目的の遺伝子(GOI)の「誘導」を測定するために、改変された糸状真菌細胞に候補誘導基質(インデューサー)を補充し、同じ誘導基質(インデューサー)を補充した親糸状真菌(対照)細胞と比較する。したがって、親(対照)細胞には100%の相対タンパク質活性値が割り当てられ、改変宿主細胞におけるPOIをコードするGOIの誘導は、活性値(すなわち、対照細胞に対して)が、100%超(例えば、100.1%~100.9%)、101%超、105%超、110%超、150%超、200~500%(すなわち、対照に対して)超、又はそれを超える場合に達成される。
【0213】
本明細書で使用されるとき、「好気性発酵」は、酸素の存在下における増殖を指す。
【0214】
本明細書で使用されるとき、「細胞ブロス」という用語は、液体培養/液内培養における培地及び細胞を集合的に指す。
【0215】
本明細書で使用されるとき、用語「細胞集団」は、液体/液内培養中に存在する(インタクト細胞及び溶解細胞を含む)細胞成分を指す。細胞量は、乾燥重量又は湿潤重量で表すことができる。
【0216】
本明細書で使用されるとき、語句「高温発酵(培養)温度」は、実施例に記載される標準発酵条件よりも高い発酵温度である。
【0217】
本開示の方法は、改変(変異)糸状真菌細胞(株)を得るための特定の順序に限定されないことが理解されよう。遺伝子の改変は、内因性目的タンパク質(POI)の生産及び/又は異種POIの生産のための株のコンストラクトにおける任意の工程で親株に導入することができる。
【0218】
III.調節タンパク質
当業者によって一般に理解されるように、調節タンパク質は、DNAをRNAに転写するプロセスを含むがこれに限定されない様々なレベルで細胞恒常性の調節に関与する。例えば、転写因子と呼ばれる多くの調節タンパク質は、典型的には、(調節された)遺伝子のプロモーター領域中の特定の(標的)部位に結合することによって遺伝子転写の速度を制御、調節、媒介などする配列特異的DNA結合タンパク質である(Latchman、1993年)。より具体的には、転写因子の1つの異なる特徴は、エンハンサー又はプロモーター配列と呼ばれるDNAの特定の配列に結合する能力をそれらに与えるDNA結合ドメイン(DBD)を有することである。したがって、いくつかの調節タンパク質は、転写開始部位の近くのDNAプロモーター配列に結合し、転写開始複合体の形成を助ける。他の調節タンパク質は、エンハンサー配列などの調節配列に結合し、関連遺伝子の転写を刺激又は抑制することができ、これらの調節配列は、転写される遺伝子の上流(5’)又は下流(3’)の数千塩基対(bp)であり得る。
【0219】
プロテインキナーゼは、リン酸をそれらに(共有結合的に)付加することによって他のタンパク質を選択的に改変すること(すなわち、リン酸化)ができる調節タンパク質である。ヒストンアセチラーゼ/脱アセチル化酵素は、それぞれアセチル基(COCH3)の共有結合的付加/除去を介してヒストンタンパク質を改変することができる調節タンパク質である。例えば、転写の調節は、遺伝子制御の最も一般的な形態であり、調節タンパク質の作用は、遺伝子発現パターンの独特の時空間的調節を可能にする。
【0220】
セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、リグニナーゼ、ペクチナーゼなどの生産は、主に糸状真菌の転写レベルで調節されると考えられている(Aro et al.、2005)。例えば、Stricker et al.、(2008)は、XlnR及びXyr1の作用を含む、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)及びトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)におけるセルラーゼ及びヘミセルラーゼの発現の転写調節の類似性及び差異を記載した。Kubicek et al.(2009)によって記載されているように、いくつかの調節成分が、T.リーゼイ(T.reesei)におけるセルラーゼ調節に陽性(Xyr1、Ace2、Hap2/3/5)又は陰性(Ace1、Cre1)のいずれかで関与している。タンパク質の生産に対するいくつかの調節遺伝子の作用が記載されているが、内因性及び異種の目的タンパク質の生産を増強することができる改良された糸状真菌株が依然として必要とされている。
【0221】
当技術分野で一般的に知られているように、糸状真菌株は、典型的には、とりわけ、培養培地(すなわち、発酵ブロス)に酸素及び栄養素を導入及び分配し、最適なpH及び温度を維持するように適合されたバイオリアクター内で菌糸体液内培養として増殖される。特に、発酵ブロスを混合、曝気、冷却などするのに必要な電力は、生産コストを大幅に増加させ、モーター、電源、冷却装置などの点でより高い資本支出を招く可能性がある。例えば、発酵プロセス中の熱の発生は、炭素及びエネルギー源の利用に密接に関連している(Wang et al.、1979)。Wang et al.(1979)によって一般的に記載されているように、熱量は成長及び生成物形成の化学量論に関連するが、熱発生率はプロセスの速度論に比例し、熱発生への関心は発酵プロセス中にそれを除去する必要性から生じる(例えば、最適な生成物形成を維持するため)。したがって、プロセスをより高い温度で実行することは、発酵時間を短縮し、発酵能力を放出することができるので有益であり得る。
【0222】
一般に、ほとんどの糸状真菌は、約20℃~40℃の温度範囲内でのみ成長し、タンパク質又は他の代謝産物を効率的に生産する。例えば、発酵温度は多少変動し得るが、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)などの糸状真菌の場合、温度は一般に約20℃~40℃の範囲内、一般に好ましくは約25℃~34℃の範囲内である。したがって、タンパク質の生産のために高温で糸状真菌株を発酵させる能力は、タンパク質生産の時間及びコストを低減する上で特に興味深い。以下に記載されるように、本開示の変異真菌細胞(株)は、目的タンパク質の生産を増強するための工業規模の発酵プロセスでの使用によく適している。
【0223】
より具体的には、本明細書に記載され、実施例のセクションで以下に記載されるように、出願人は、JGIデータベース(Nordberg et al.、2014)から野生型トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)QM6a株(ATCC第13631号)を使用してバイオインフォマティクスツールを介して予測された400個を超える調節タンパク質を最初に同定した。実施例1に記載されるように、本出願人は、調節タンパク質欠失コンストラクトのライブラリーを(融合PCRによって)作製し、このライブラリーでは、合計343個の調節タンパク質欠失(欠損)株が得られ、改善された特性についてスクリーニングされた。出願人は、タンパク質生産特性/表現型の変化について343個の調節タンパク質欠損株をさらにスクリーニングした(例えば、総タンパク質生産、酵素活性、セルロース(PASC)加水分解、タンパク質生産速度など)。より具体的には、実施例のセクション(実施例2~4を参照されたい)に記載されているように、特定の条件下でタンパク質生産表現型が改善されたT.リーゼイ(T.reesei)調節タンパク質消去株を以下の表2~9に示す。
【0224】
実施例のセクションにさらに記載されるように、表10の1つ以上の調節タンパク質の生産が欠損した変異真菌株は、実施例5及び6に指定された条件下でのタンパク質生産特性/表現型の減少を含む(表11~15)。したがって、特定の態様では、本開示は、表10の1つ以上の調節タンパク質を過剰発現する変異真菌株に関し、OE変異株は、指定条件下で改善されたタンパク質生産表現型を含む。
【0225】
ある特定の態様において、親真菌株は、表1、表10及び/若しくは表16に記載される調節タンパク質、又はそのDNA結合ドメイン(DBD)部分配列と少なくとも約50%以上の配列同一性、少なくとも約55%以上の配列同一性、少なくとも約60%以上の配列同一性、少なくとも約65%以上の配列同一性、又は少なくとも約70%以上の配列同一性を含む調節タンパク質をコードする天然の遺伝子を含む。一定の実施形態では、親真菌細胞が、表1、表10及び/又は表16に記載の調節タンパク質、又はそのDBD部分配列と約70%~99%のアミノ酸配列同一性を含む機能性調節タンパク質を含む。
【0226】
実施例7に一般的に記載されるように、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)及びマイセリオフィソラ・サーモフィル(Myceliophthora thermophila)由来の真菌調節タンパク質ホモログを表16に示す。ある特定の態様において、本開示の調節タンパク質は、表16に示される調節タンパク質ホモログに対する少なくとも約50%又はそれを超える配列同一性(例えば、約51~99%の同一性又は100%の同一性)を含む。
【0227】
したがって、特定の態様では、親真菌株は、表1~16のいずれか1つに記載の調節タンパク質、又はそのDNA結合ドメイン(DBD)部分配列と少なくとも約50%以上の配列同一性、少なくとも約55%以上の配列同一性、少なくとも約60%以上の配列同一性、少なくとも約65%以上の配列同一性、又は少なくとも約70%以上の配列同一性を含む調節タンパク質をコードする天然の遺伝子を含む。
【0228】
一定の実施形態では、親真菌細胞が、表1~16のいずれか1つに記載の調節タンパク質又はそのDBD部分配列と約70%~99%のアミノ酸配列同一性を含む機能性調節タンパク質を含む。
【0229】
一定の実施形態では、本開示のポリヌクレオチド配列(又はその部分配列)、及び/又は本開示のタンパク質配列(又はその部分配列)及び/又はそのDNA結合ドメイン(DBD)部分配列、又はその断片を使用して、当技術分野で周知の方法に従って異なる属又は種の株由来の調節タンパク質をコードするDNA(ポリヌクレオチド)を同定及びクローニングするための核酸プローブを設計することができる。特に、そのようなプローブは、その中の対応する遺伝子を同定及び単離するために、標準サザンブロッティング手順に従って、目的の真菌細胞のゲノムDNA又はcDNAとのハイブリダイゼーションのために使用することができる。
【0230】
そのようなプローブは、配列全体よりもかなり短くてもよいが、少なくとも15、例えば、少なくとも25、少なくとも35、又は少なくとも70ヌクレオチド長でなければならない。好ましくは、核酸プローブは、少なくとも100ヌクレオチド長、例えば、少なくとも200ヌクレオチド、少なくとも300ヌクレオチド、少なくとも400ヌクレオチド、少なくとも500ヌクレオチド、少なくとも600ヌクレオチド、少なくとも700ヌクレオチド、少なくとも800ヌクレオチド、又は少なくとも900ヌクレオチド長である。DNAプローブ及びRNAプローブの両方を使用することができる。これらのプローブは、通常、対応する遺伝子を検出するために(例えば、32P、3H、35S、ビオチン又はアビジンを用いて)標識される。したがって、そのような他の株から調製されたゲノムDNA又はcDNAライブラリーを、上記のプローブとハイブリダイズし、且つ調節タンパク質をコードするDNAについてスクリーニングすることができる。そのような他の株からのゲノムDNA又は他のDNAは、アガロース若しくはポリアクリルアミドゲル電気泳動法又は他の分離手法によって分離することができる。ライブラリー由来のDNA又は分離したDNAは、ニトロセルロース又は他の好適な担体材料に移して固定化され得る。配列番号1、4、7、10、13、16、19、22、25、28、31、34、37、40、43、46、49、52、55、58、61、64、67、70、73、76、若しくは79とハイブリダイズするクローン又はDNA、又はその部分配列を同定するために、担体材料はサザンブロットで使用される。
【0231】
したがって、一定の実施形態は、本明細書に開示の1つ以上の真菌調節タンパク質に対して少なくとも約50%の同一性を含むアミノ酸配列を含む1つ以上の機能性調節タンパク質をコードする天然の遺伝子を含む親真菌株に由来する変異真菌株に関し、調節タンパク質をコードする遺伝子は、本明細書に記載されるように遺伝子改変されており、それにより変異真菌細胞を1つ以上の機能性調節タンパク質の生産において(すなわち、親細胞に対して)欠損させる。関連する態様では、本開示の変異真菌株(1つ以上の機能性調節タンパク質の生産が欠損している)は、同じ条件下で培養した場合、親真菌株に対して増加した量の目的タンパク質を生産する。
【0232】
下記の表1及び表10に一般に示されるように、DNA結合ドメイン(DBD)は、全長調節タンパク質の一次(1°)アミノ酸配列に存在するアミノ酸(サブ配列)である。しかしながら、本明細書中に提示される特定のDBDアミノ酸部分配列は、限定的であることを意味するのではなく、むしろ、本明細書中に記載される遺伝子改変に適した例示的なアミノ酸部分配列(すなわち、DBDドメイン/モチーフ)を提供することを意味する。例えば、本明細書で熟慮及び記載されるように、調節タンパク質は、典型的には、(調節された)遺伝子のプロモーター領域中の特定の(標的)部位(すなわち、DBD)に結合することによって遺伝子転写の速度を制御、調節、媒介などする配列特異的DNA結合タンパク質である。したがって、特定の実施形態では、変異株は、親真菌株から誘導/取得され、変異株は、1つ以上の調節タンパク質(表1を参照されたい)のDBDを破壊、欠失、又は他の方法で変異させる遺伝子改変を含み、それによって変異株を(親株に対して)1つ以上の調節タンパク質の生産において欠損させる。特定の他の実施形態では、変異細胞は、親真菌株から誘導/得られ、変異株は、表10に記載される1つ以上の調節タンパク質を過剰発現する導入された核酸(例えば、発現カセット)を含む。例えば、ある特定の実施形態において、変異細胞は、1つ以上の機能的調節タンパク質(すなわち、親株に対して)の1つ以上のコピーをコードする導入された発現カセットを含む。関連する態様では、本開示の変異真菌細胞は、とりわけ、表1の少なくとも1つの調節タンパク質の生産が欠損しており、表10の少なくとも1つの調節タンパク質を過剰発現する。
【0233】
IV.組換え核酸及び分子生物学
上記のセクションIIIに記載されるように、特定の態様は、本開示の1つ以上の調節タンパク質をコードする天然の遺伝子を含む親株に由来する変異真菌株に関し、変異株は、天然の遺伝子によってコードされる1つ以上の調節タンパク質の生産において変異株に欠損させる遺伝子改変を含む。特定の他の態様は、本開示の1つ以上の調節タンパク質を過剰発現する1つ以上の導入された核酸(例えば、発現カセット)を含む変異真菌株に関する。関連する態様では、変異真菌株は、変異株が1つ以上の調節タンパク質の生産において欠損させるようにする遺伝子改変を含み、本開示の1つ以上の調節タンパク質を過剰発現する1つ以上の導入された核酸を含む。これらの実施形態のいずれにおいても、変異株及び/又は親株は、本明細書に記載のさらなる遺伝子改変を含み得る。
【0234】
特定の態様では、出願人は、タンパク質生産特性/表現型の増強について300個を超える調節タンパク質欠損(変異)株をスクリーニングした(実施例1~4を参照されたい。表2~9)。特定の他の態様では、出願人は、指定された条件下で低下したタンパク質生産特性/表現型を含む、1つ以上の調節タンパク質の生産が欠損した変異真菌株を同定した(表10)(実施例5~6、表11~15を参照されたい)。特定の実施形態では、本開示は、表10の1つ以上の調節タンパク質を過剰発現する変異真菌株を提供し、OE変異株は、(特定の条件下で)タンパク質生産特性/表現型の増強を含む。したがって、特定の実施形態は、組換え微生物株、組換えポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、発現カセットなどに関する。特定の態様では、本明細書に記載の変異(組換え)糸状真菌株は、1つ以上の(異種又は内因性の)目的タンパク質を発現する。
【0235】
本明細書に簡単に記載されるように、実施例に以下に記載されるように、本開示は、一般に、組換え遺伝学の分野における日常的な技術に依存し、記載される組換えポリヌクレオチド、糸状真菌株などは、当技術分野で公知の日常的な方法(例えば、Sambrook et al.、1989;2011;2012;Kriegler 1990及びAusubel et al.、1994)を使用して構築することができる。
【0236】
したがって、ある特定の態様において、1つ以上の遺伝的エレメント、例えば、プロモーター配列、遺伝子CDS、5’-UTR配列、ベクター、ポリヌクレオチドなどは、当業者によって一般に理解されるように、遺伝子改変され得る。特定の実施形態では、遺伝子改変には、(a)遺伝子内の1つ以上のヌクレオチドの導入、置換若しくは除去、又は遺伝子の転写若しくは翻訳に必要な調節エレメント内の1つ以上のヌクレオチドの導入、置換若しくは除去、(b)遺伝子破壊、(c)遺伝子変換、(d)遺伝子欠失、(e)遺伝子の下方制御、(f)遺伝子の過剰発現(OE)、(g)特異的突然変異誘発及び/又は(h)本明細書に開示した任意の1つ以上の遺伝子のランダム突然変異誘発が含まれるが、これらに限定されない。
【0237】
特定の実施形態では、改変(変異)糸状真菌細胞は、CRISPR-Cas9編集を介して構築され得る。例えば、目的遺伝子は、DNA上の標的配列にエンドヌクレアーゼを動員するガイドRNA(例えば、Cas9及びCpf1)又はガイドDNA(例えば、NgAgo)に結合することによってそれらの標的DNAを見出す核酸誘導型エンドヌクレアーゼによって、改変、破壊、欠失、又は下方制御されてもよく、エンドヌクレアーゼは、DNAにおいて一本鎖又は二本鎖切断を生成することができる。この標的化DNA切断は、DNA修復のための基質となり、遺伝子を破壊又は欠失又は改変させるために提供された編集鋳型と再結合し得る。例えば、核酸誘導エンドヌクレアーゼをコードする遺伝子(この目的のために、化膿レンサ球菌由来のCas9)又はCas9ヌクレアーゼをコードするコドン最適化遺伝子は、真菌細胞において活性なプロモーター及び真菌細胞において活性なターミネーターに作動可能に連結され、それにより、真菌Cas9発現カセットを生成する。同様に、目的遺伝子に固有の1つ以上の標的部位は、当業者により容易に同定される。例えば、関心対象の遺伝子内の標的部位に向けられたgRNAをコードするDNA構築物を構築するためには、可変ターゲティングドメイン(VT)は、そのヌクレオチドが、S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9(CER)に対するCas9エンドヌクレアーゼ認識ドメインをコードするDNAに融合している、(PAM)プロトスペーサー隣接モチーフ(NGG)の5’側である標的部位のヌクレオチドを含むであろう。VTドメインをコードするDNAとCERドメインをコードするDNAとの組合せは、それによりgRNAをコードするDNAを生成する。したがって、gRNAのための真菌細胞発現カセットは、真菌細胞において活性なプロモーター及び真菌細胞において活性なターミネーターにgRNAをコードするDNAを作動可能に連結することによって、作製される。
【0238】
特定の実施形態では、エンドヌクレアーゼによって誘導されたDNA切断は、入来配列を用いて修復/置換される。例えば、上述したCas9発現カセット及びgRNA発現カセットによって生成されたDNA切断を精密に修復するためには、細胞のDNA修復機構が編集鋳型を利用できるように、ヌクレオチド編集鋳型が提供される。例えば、標的遺伝子の約500bpの5’は、標的遺伝子の約500bpの3’に融合して編集鋳型を生成することができ、その鋳型は、RNAガイドエンドヌクレアーゼ(RGEN)によって生成されたDNA切断を修復するために真菌宿主の機構によって使用される。二本鎖又は一本鎖DNAの形態のヌクレオチドのさらに短いストレッチを編集鋳型として使用することができる。
【0239】
Cas9発現カセット、gRNA発現カセット及び編集鋳型は、多くの異なる方法(例えば、PEG媒介プロトプラスト形質転換、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、バイオリスティック)を用いて糸状真菌細胞に同時送達され得る。形質転換細胞を、フォワード及びリバースプライマーを用いて標的遺伝子をPCR増幅することによってスクリーニングする。これらのプライマーは、野生型遺伝子座又はRGENによって編集されている改変遺伝子座を増幅させることができる。
【0240】
当業者は、本開示の真菌宿主細胞を形質転換するために、糸状真菌の形質転換及び真菌の培養のための標準的な技術(当業者に周知である)が使用される、ポリヌクレオチドを糸状真菌細胞(例えば、アスペルギルス属(Aspergillus)種、トリコデルマ属(Trichoderma)種等)に導入するための適切な方法を十分に承知している。したがって、真菌宿主細胞へのDNAコンストラクト又はベクターの導入法には、形質転換、エレクトロポレーション、核マイクロインジェクション、形質導入、トランスフェクション(例えば、リポフェクション媒介及びDEAE-デキストリン媒介トランスフェクション)、リン酸カルシウムDNA沈殿物とのインキュベーション、DNA被覆微粒子を用いる高速銃、遺伝子銃又はバイオリスティック形質転換、プロトプラスト融合などの手法が含まれる。一般的な形質転換技術は当該技術分野で知られている(例えば、Ausubel et al.,1987、Sambrook et al.,2001及び2012、並びにCampbell et al.,1989を参照されたい)。トリコデルマ属(Trichoderma)内での異種タンパク質の発現は、例えば、米国特許第6,022,725号明細書;同第6,268,328号明細書;Harkki et al.,1991及びHarkki et al.,1989に記載されている。アスペルギルス属(Aspergillus)の株の形質転換については、Cao et al.(2000)も参照されたい。
【0241】
他の特定の実施形態では、組換え核酸(又はそのポリヌクレオチド発現カセット若しくはその発現ベクター)は、1つ以上の選択マーカーをさらに含む。糸状真菌に使用するための選択マーカーとしては、alsl、amdS、hphB、pyr2、pyr4、pyrG、sucA trpC、argB、ブレオマイシン耐性マーカー、ブラストサイジン耐性マーカー、ピリチアミン耐性マーカー、ネオマイシン耐性マーカー、アデニン経路遺伝子、チミジンキナーゼマーカーなどが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、選択マーカーはpyr2であり、その成分及び使用方法は、国際公開第2011/153449号パンフレットに一般的に記載されている。
【0242】
一般に、トリコデルマ属(Trichoderma)種細胞の形質転換は、通常、105~107/mL、特に2×106/mLの密度で透過性処理を施したプロトプラスト又は細胞を使用する。適切な溶液中(例えば、1.2Mソルビトール及び50mM CaCl2)の100μLの容量のこれらのプロトプラスト又は細胞を、所望のDNAと混合する。一般に、高濃度のポリエチレングリコール(PEG)が取り込み溶液に添加される。ジメチルスルホキシド、ヘパリン、スペルミジン、塩化カリウムなどの添加剤もまた、形質転換を促進するために取り込み溶液に添加し得る。同様の手順は、他の真菌宿主細胞についても利用可能である。例えば、米国特許第6,022,725号明細書及び同第6,268,328号明細書を参照されたい(これらは両者とも参照により組み込まれる)。
【0243】
特定の態様では、変異株は、本開示の天然調節タンパク質をコードする内因性遺伝子の天然のプロモーター配列を異種プロモーター配列で置換(置換)する遺伝子改変を含む。例えば、特定の実施形態では、変異株は、天然調節タンパク質をコードする内因性遺伝子の発現を駆動するノックイン異種プロモーター配列を含む。他の態様では、変異株は、機能性調節タンパク質をコードする内因性遺伝子のノックアウト(又は変異)天然のプロモーター配列を含み、それによって変異株を天然調節タンパク質の生産において欠損させる状態にする。
【0244】
他の態様では、変異(又は改変)株は、本開示の1つ以上の調節タンパク質を過剰発現する1つ以上の導入核酸を含む。例えば、特定の態様では、変異株は、本開示の調節タンパク質をコードする下流(3’)核酸に上流(5’)及び作動可能に連結された異種プロモーター(pro)配列を含む導入ポリヌクレオチド(発現カセット)を含む。調節タンパク質の発現又は過剰発現を駆動するのに適した異種プロモーター(プロ)配列には、当業者に公知の任意のプロモーター配列が含まれ、特に好ましいプロモーターには、所望の真菌細胞における調節タンパク質の発現を増加させることができる任意のプロモーター配列が含まれる。関連する実施形態では、カセットは、遺伝子CDSに作動可能に連結された下流(3’)転写ターミネーター配列をさらに含み得る。
【0245】
例えば、調節遺伝子CDSに作動可能に連結された上流プロモーターを含む調節遺伝子発現カセットが以下に概略的に示され(スキームA)、プロモーター[pro]及び調節遺伝子CDS[reg_gene]配列は、5’から3’方向に作動可能な「-」の組み合わせで示される。
【0246】
スキームA:5’-[pro]-[reg_gene]-3’
同様に、下流ターミネーター配列に作動可能に連結された調節遺伝子CDSに作動可能に連結された上流プロモーターを含む調節遺伝子発現カセットを以下のスキームBに概略的に示し、プロモーター[pro]、調節遺伝子CS[reg_gene]及びターミネーター[term]配列は、5’から3’方向に作動可能な「-」の組み合わせで示されている。
【0247】
スキームB:5’-[pro]-[reg_gene]-[term]-3’
スキームA又はBに示されるように、プロモーター配列及び/又はターミネーター配列は、限定することを意図するものではなく、むしろ所望の真菌細胞/株において機能的であるように選択される。例えば、プロモーター配列は、変異体/変異体プロモーター、切断型プロモーター、タンデムプロモーター、ハイブリッドプロモーター、合成プロモーター、誘導性プロモーター、調整プロモーター、条件発現系及びそれらの組み合わせを含む、糸状真菌細胞において転写活性を示す任意のヌクレオチド配列であり得る。多くの場合、適切なプロモーターは、糸状真菌細胞にとって天然の又は異種(外来)の細胞外又は細胞内ポリペプチドをコードする遺伝子から得ることができる。本開示の1つ以上の調節遺伝子の発現を駆動するのに適したプロモーターの例としては、限定されないが、Fitz et al.に記載されているトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei) cDNA1プロモーター、eno1プロモーター、pdc1プロモーター、pki1プロモーター、tef1プロモーター、rp2プロモーター、及び他のT.リーゼイ(T.reesei)プロモーターが挙げられる。2018(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae) thiAプロモーター、A.nidulans gpdAプロモーターなど。
【0248】
特定の実施形態では、本開示は、糸状真菌宿主細胞に対して内因性である1つ以上の目的タンパク質の発現/生産に関する。他の実施形態では、本開示は、糸状真菌宿主細胞に対して異種である1つ以上の目的タンパク質を発現/生産することに関する。
【0249】
ある特定の実施形態において、異種遺伝子は、発現のために糸状真菌(宿主)細胞に形質転換される前に、中間ベクターにクローニングされる。これらの中間ベクターは、例えば、プラスミド又はシャトルベクターなどの原核生物ベクターであり得る。発現ベクター/コンストラクトは、通常、異種配列の発現に必要な全ての追加のエレメントを含む転写ユニット又は発現カセットを含有する。例えば、典型的な発現カセットは、POIをコードする異種核酸配列に作動可能に連結した5’プロモーターを含有し、転写物、リボソーム結合部位、及び翻訳終結の効率的なポリアデニル化に必要な配列シグナルをさらに含み得る。カセットの追加のエレメントには、エンハンサーと、ゲノムDNAが構造遺伝子として使用される場合には、機能性スプライスドナー部位及びアクセプター部位を有するイントロンが含まれ得る。
【0250】
プロモーター配列に加えて、発現カセットはまた、効率的な終結を提供するために、構造遺伝子の下流に転写終結領域を含み得る。終結領域は、プロモーター配列と同じ遺伝子から得てもよく、又は異なる遺伝子から得てもよい。本発明では、任意の真菌ターミネーターが機能的である可能性が高いが、好ましいターミネーターとしては以下が挙げられる。トリコデルマ属(Trichoderma)cbhI遺伝子由来のターミネーター、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)trpC遺伝子(Yelton et al.,1984;Mullaney et al.,1985)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)若しくはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)グルコアミラーゼ遺伝子(Nunberg et al.,1984;Boel et al.,1984)、及び/又はムコール・ミエヘイ(Mucor miehei)カルボキシルプロテアーゼ遺伝子(欧州特許第0215594号明細書)。
【0251】
遺伝子情報を細胞に輸送するために使用される特定の発現ベクターは、特に重要ではない。真核細胞又は原核細胞における発現に使用される、従来のベクターのいずれも使用し得る。標準的な細菌発現ベクターとしては、バクテリオファージλ及びM13、並びにプラスミド、例えばpBR322ベースのプラスミド、pSKF、pET23D、及び融合発現系、例えばMBP、GST及びLacZ、並びに酵母2μプラスミド及びセントロメア酵母プラスミドが挙げられる。便宜的な単離方法を提供するために、組換えタンパク質にエピトープタグ、例えば、c-mycを添加することもできる。
【0252】
発現ベクター中に含むことができるエレメントには、また、レプリコン、組換えプラスミドを保有する細菌の選択を可能にする抗生物質耐性をコードする遺伝子、又は異種配列の挿入を可能にするためのプラスミドの非必須領域における固有の制限部位があり得る。当該技術分野で知られている多くの耐性遺伝子のいずれもが好適であり得るため、選択された特定の抗生物質耐性遺伝子は確定的ではない。原核生物配列は、好ましくは、真菌宿主におけるDNAの複製又は組み込みを妨げないように選択される。
【0253】
本開示の形質転換方法は、形質転換ベクターの全部又は一部を糸状真菌のゲノムに安定に組み込むことをもたらし得る。しかしながら、自己複製する染色体外形質転換ベクターの維持をもたらす形質転換も考えられる。外来(異種)ヌクレオチド配列を宿主細胞に導入するための公知の手順のいずれかが使用され得る。これらには、リン酸カルシウムトランスフェクション法、ポリブレン法、プロトプラスト融合法、エレクトロポレーション法、バイオリスティックス法、リポソーム法、マイクロインジェクション法、及び宿主細胞にクローン化ゲノムDNA、cDNA、合成DNA又は他の外来遺伝子物質を導入する方法として知られる他の任意の方法の使用が含まれる(例えば、上記のSambrook et al.を参照されたい)。米国特許第6,255,115号明細書に記載されているような、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)媒介トランスフェクション法も有用である。
【0254】
発現ベクターが細胞に導入された後、トランスフェクトされた細胞は、セルラーゼ遺伝子プロモーター配列の制御下で遺伝子の発現を促進する条件下で培養される。形質転換細胞の大きなバッチは、本明細書に記載されるように培養することができる。最後に、標準的な手法を用いて培養物から生成物を回収する。
【0255】
V.目的タンパク質
上記のように、一定の実施形態は、目的タンパク質(POI)をコードする遺伝子を発現する遺伝子改変を含む、遺伝子変異及び/又は改変(組換え)真菌細胞に関する。より具体的には、特定の実施形態は、本開示の改変(変異)真菌細胞におけるそのような目的タンパク質の発現/生産のための組成物及び方法に関する。したがって、特定の実施形態では、組換え真菌細胞は、酵素、抗体、受容体タンパク質、動物飼料タンパク質、ヒト食品タンパク質生物製剤などを含むがこれらに限定されない目的タンパク質の量を増加させた。
【0256】
特定の態様では、目的タンパク質には酵素が含まれる。特定の実施形態では、目的タンパク質は、アミラーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、ポリエステラーゼ、フィターゼ、ペクチナーゼ、ケラチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナーゼ、マンナナーゼ、α-グルカナーゼ、β-グルカナーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッカーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、アセチルエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、アラビナーゼ、アラビノシダーゼ、アラビノシダーゼ、アラビノフラノシダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、ヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、エピメラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルカンリアーゼ、エンド-β-グルカナーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルクロニダーゼ、インベルターゼ、及びイソメラーゼからなる群から選択される酵素である。
【0257】
目的タンパク質(POI)は、内因性POI又は異種POIであり得る。
【0258】
特定の実施形態では、POIは、EC1、EC2、EC3、EC4、EC5又はEC6からなる群から選択される酵素委員会(EC)番号から選択される。
【0259】
例えば、特定の実施形態では、POIは、EC1.10.3.2(例えば、ラッカーゼ)、EC1.10.3.3(例えば、L-アスコルビン酸オキシダーゼ)、EC1.1.1.1(例えば、アルコール脱水素酵素)、EC1.11.1.10(例えば、塩化物ペルオキシダーゼ)、EC1.11.1.17(例えば、ペルオキシダーゼ)、EC1.1.1.27(例えば、L-乳酸脱水素酵素)、EC1.1.1.47(例えば、グルコース1-脱水素酵素)、EC1.1.3.X(例えば、グルコースオキシダーゼ)、EC1.1.3.10(例えば、ピラノースオキシダーゼ)、EC1.13.11.X(例えば、ジオキシゲナーゼ)、EC1.13.11.12(例えば、リノール酸l3S-リポキシゲナーゼ(lipozygenase))、EC1.1.3.13(例えば、アルコールオキシダーゼ)、EC1.14.14.1(例えば、モノオキシゲナーゼ)、EC1.14.18.1(例えば、モノフェノールモノオキシゲナーゼ)、EC1.15.1.1(例えば、スーパーオキシドジスムターゼ)、EC1.1.5.9(以前のEC1.1.99.10、例えば、グルコース脱水素酵素)、EC1.1.99.18(例えば、セロビオース脱水素酵素)、EC1.1.99.29(例えば、ピラノース脱水素酵素)、EC1.2.l.X(例えば、脂肪酸還元酵素)、EC1.2.1.10(例えば、アセトアルデヒド脱水素酵素)、EC1.5.3.X(例えば、フルクトシルアミン還元酵素)、EC1.8.l.X(例えば、ジスルフィド還元酵素)及びEC1.8.3.2(例えば、チオールオキシダーゼ)から選択されるEC1酵素(酸化還元酵素)を含むがそれらに限定されない酸化還元酵素である。
【0260】
特定の実施形態では、POIは、EC2.3.2.13(例えば、トランスグルタミナーゼ)、EC2.4.l.X(例えば、ヘキソシルトランスフェラーゼ)、EC2.4.1.40(例えば、アルテマスクラーゼ)、EC2.4.1.18(例えば、1,4アルファ-グルカン分枝酵素)、EC2.4.1.19(例えば、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ)、EC2.4.1.2(例えば、デキストリンデキストラナーゼ)、EC2.4.1.20(例えば、セロビオースホスホリラーゼ)、EC2.4.1.25(例えば、4-アルファ-グルカノトランスフェラーゼ)、EC2.4.1.333(例えば、1,2-ベータ-オリゴグルカンリントランスフェラーゼ)、EC2.4.1.4(例えば、アミロスクラーゼ)、EC2.4.1.5(例えば、デキストランスクラーゼ)、EC2.4.1.69(例えば、ガラクトシド2-アルファ-L-フコシルトランスフェラーゼ)、EC2.4.1.9(例えば、イヌロスクラーゼ)、EC2.7.1.17(例えば、キシルロキナーゼ)、EC2.7.7.89(以前のEC3.1.4.15、例えば、[グルタミンシンテターゼ]-アデニリル-L-チロシンホスホリラーゼ)、EC2.7.9.4(例えば、アルファグルカンキナーゼ)及びEC2.7.9.5(例えば、ホスホグルカンキナーゼ)から選択されるEC2(トランスフェラーゼ)酵素を含むがそれらに限定されないトランスフェラーゼ酵素である。
【0261】
他の実施形態では、POIは、EC3.1.X.X(例えば、エステラーゼ)、EC3.1.1.1(例えば、ペクチナーゼ)、EC3.1.1.14(例えば、クロロフィラーゼ)、EC3.1.1.20(例えば、タンナーゼ)、EC3.1.1.23(例えば、グリセロールエステルアシルヒドロラーゼ)、EC3.1.1.26(例えば、ガラクトリパーゼ)、EC3.1.1.32(例えば、ホスホリパーゼA1)、EC3.1.1.4(例えば、ホスホリパーゼA2)、EC3.1.1.6(例えば、アセチルエステラーゼ)、EC3.1.1.72(例えば、アセチルキシランエステラーゼ)、EC3.1.1.73(例えば、フェルロイルエステラーゼ)、EC3.1.1.74(例えば、クチナーゼ)、EC3.1.1.86(例えば、ラムノガラクツロナンアセチルエステラーゼ)、EC3.1.1.87(例えば、フモシンB1エステラーゼ)、EC3.1.26.5(例えば、リボヌクレアーゼP)、EC3.1.3.X(例えば、リン酸モノエステル加水分解酵素)、EC3.1.30.1(例えば、アスペルギルス(Aspergillus)ヌクレアーゼS1)、EC3.1.30.2(例えば、セラチア・マルセセンスヌクレアーゼ)、EC3.1.3.1(例えば、アルカリホスファターゼ)、EC3.1.3.2(例えば、酸性ホスファターゼ)、EC3.1.3.8(例えば、3-フィターゼ)、EC3.1.4.1(例えば、ホスホジエステラーゼI)、EC3.1.4.11(例えば、ホスホイノシチドホスホリパーゼC)、EC3.1.4.3(例えば、ホスホリパーゼC)、EC3.1.4.4(例えば、ホスホリパーゼD)、EC3.1.6.1(例えば、アリールスルファターゼ)、EC3.1.8.2(例えば、ジイソプロピルフルオロホスファターゼ)、EC3.2.1.10(例えば、オリゴ-1,6-グルコシダーゼ)、EC3.2.1.101(例えば、マンナンエンド-1,6-アルファ-マンノシダーゼ)、EC3.2.1.11(例えば、アルファ-1,6-グルカン-6-グルカノヒドロラーゼ)、EC3.2.1.131(例えば、キシランアルファ-1,2-グルクロノシダーゼ)、EC3.2.1.132(例えば、キトサンN-アセチルグルコサミノヒドロラーゼ)、EC3.2.1.139(例えば、アルファ-グルクロニダーゼ)、EC3.2.1.14(例えば、キチナーゼ)、EC3.2.1.151(例えば、キシログルカン特異的エンド-ベータ-1,4-グルカナーゼ)、EC3.2.1.155(例えば、キシログルカン特異的エキソ-ベータ-1,4-グルカナーゼ)、EC3.2.1.164(例えば、ガラクタンエンド-1,6-ベータ-ガラクトシダーゼ)、EC3.2.1.17(例えば、リゾチーム)、EC3.2.1.171(例えば、ラムノガラクツロナン加水分解酵素)、EC3.2.1.174(例えば、ラムノガラクツロナンラムノヒドロラーゼ)、EC3.2.1.2(例えば、ベータアミラーゼ)、EC3.2.1.20(例えば、アルファ-グルコシダーゼ)、EC3.2.1.22(例えば、アルファ-ガラクトシダーゼ)、EC3.2.1.25(例えば、ベータ-マンノシダーゼ)、EC3.2.1.26(例えば、ベータ-フルクトフラノシダーゼ)、EC3.2.1.37(例えば、キシラン1,4-ベータ-キシロシダーゼ)、EC3.2.1.39(例えば、グルカンエンド-1,3-ベータ-D-グルコシダーゼ)、EC3.2.1.40(例えば、アルファ-L-ラムノシダーゼ)、EC3.2.1.51(例えば、アルファ-L-フコシダーゼ)、EC3.2.1.52(例えば、ベータ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ)、EC3.2.1.55(例えば、アルファ-N-アラビノフラノシダーゼ)、EC3.2.1.58(例えば、グルカン1,3-ベータ-グルコシダーゼ)、EC3.2.1.59(例えば、グルカンエンド-1,3-アルファ-グルコシダーゼ)、EC3.2.1.67(例えば、ガラクツラン1,4-アルファ-ガラクツロニダーゼ)、EC3.2.1.68(例えば、イソアミラーゼ)、EC3.2.1.7(例えば、1-ベータ-D-フルクタンフルクタノヒドロラーゼ)、EC3.2.1.74(例えば、グルカン1,4-グルコシダーゼ)、EC3.2.1.75(例えば、グルカンエンド-1,6-ベータ-グルコシダーゼ)、EC3.2.1.77(例えば、マンナン1,2-(1,3)-アルファ-マンノシダーゼ)、EC3.2.1.80(例えば、フルクタンベータ-フルクトシダーゼ)、EC3.2.1.82(例えば、エキソポリアルファガラクツロノシダーゼ)、EC3.2.1.83(例えば、カッパカラギナーゼ)、EC3.2.1.89(例えば、アラビノガラクタンエンド-1,4-ベータ-ガラクトシダーゼ)、EC3.2.1.91(例えば、セルロース1,4-ベータ-セロビオシダーゼ)、EC3.2.1.96(例えば、マンノシル糖タンパク質エンド-ベータ-N-アセチルグルコサミニダーゼ)、EC3.2.1.99(例えば、アラビナンエンド-1,5-アルファ-L-アラビナナーゼ)、EC3.4.X.X(例えば、ペプチダーゼ)、EC3.4.11.X(例えば、アミノペプチダーゼ)、EC3.4.11.1(例えば、ロイシルアミノペプチダーゼ)、EC3.4.11.18(例えば、メチオニルアミノペプチダーゼ)、EC3.4.13.9(例えば、Xaa-Proジペプチダーゼ)、EC3.4.14.5(例えば、ジペプチジルペプチダーゼIV)、EC3.4.16.X(例えば、セリン型カルボキシペプチダーゼ)、EC3.4.16.5(例えば、カルボキシペプチダーゼC)、EC3.4.19.3(例えば、ピログルタミルペプチダーゼI)、EC3.4.21.X(例えば、セリンエンドペプチダーゼ)、EC3.4.21.1(例えば、キモトリプシン)、EC3.4.21.19(例えば、グルタミルエンドペプチダーゼ)、EC3.4.21.26(例えば、プロリルオリゴペプチダーゼ)、EC3.4.21.4(例えば、トリプシン)、EC3.4.21.5(例えば、トロンビン)、EC3.4.21.63(例えば、オリジン)、EC3.4.21.65(例えば、サーモミコリン)、EC3.4.21.80(例えば、ストレプトグリシンA)、EC3.4.22.X(例えば、システインエンドペプチダーゼ)、EC3.4.22.14(例えば、アクチニダイン)、EC3.4.22.2(例えば、パパイン)、EC3.4.22.3(例えば、フィカン)、EC3.4.22.32(例えば、茎ブロメライン)、EC3.4.22.33(例えば、フルーツブロメライン)、EC3.4.22.6(例えば、キモパパイン)、EC3.4.23.1(例えば、ペプシンA)、EC3.4.23.2(例えば、ペプシンB)、EC3.4.23.22(例えば、エンドチアペプシン)、EC3.4.23.23(例えば、ムコルペプシン)、EC3.4.23.3(例えば、ガストリクシン)、EC3.4.24.X(例えば、メタロエンドペプチダーゼ)、EC3.4.24.39(例えば、デューテロリシン)、EC3.4.24.40(例えば、セラリシン)、EC3.5.1.1(例えば、アスパラギナーゼ)、EC3.5.1.11(例えば、ペニシリンアミダーゼ)、EC3.5.1.14(例えば、N-アシル脂肪族-L-アミノ酸アミドヒドロラーゼ)、EC3.5.1.2(例えば、L-グルタミンアミドヒドロラーゼ)、EC3.5.1.28(例えば、N-アセチルムラモイル-L-アラニンアミダーゼ)、EC3.5.1.4(例えば、アミダーゼ)、EC3.5.1.44(例えば、プロテイン-L-グルタミンアミドヒドロラーゼ)、EC3.5.1.5(例えば、ウレアーゼ)、EC3.5.1.52(例えば、ペプチド-N(4)-(N-アセチル-ベータ-グルコサミニル)アスパラギンアミダーゼ)、EC3.5.1.81(例えば、N-アシル-D-アミノ酸脱アシラーゼ)、EC3.5.4.6(例えば、AMPデアミナーゼ)及びEC3.5.5.1(例、ニトリラーゼ)から選択されるEC3(ヒドロラーゼ)酵素を含む加水分解酵素を含むがそれらに限定されないヒドロラーゼ酵素である。
【0262】
他の実施形態では、POIは、EC4.1.2.10(例えば、マンデロニトリルリアーゼ)、EC4.1.3.3(例えば、N-アセチルノイラミン酸リアーゼ)、EC4.2.1.1(例えば、炭酸脱水酵素)、EC4.2.2.-(例えば、ラムノガラクツロナンリアーゼ)、EC4.2.2.10(例えば、ペクチンリアーゼ)、EC4.2.2.22(例えば、ペクチン酸三糖リアーゼ)、EC4.2.2.23(例えば、ラムノガラクツロナンエンドリアーゼ)及びEC4.2.2.3(例えば、マンヌロン酸特異的アルギン酸リアーゼ)から選択されるEC4(リアーゼ)酵素を含むがそれらに限定されないリアーゼ酵素である。
【0263】
特定の他の実施形態では、POIは、EC5.1.3.3(例えば、アルドース1-エピメラーゼ)、EC5.1.3.30(例えば、D-プシコース3-エピメラーゼ)、EC5.4.99.11(例えば、イソマルツロースシンターゼ)及びEC5.4.99.15(例えば、(1 4)-a-D-グルカン1-a-D-グルコシルムターゼ)から選択されるEC5(イソメラーゼ)酵素を含むがこれらに限定されないイソメラーゼ酵素である。
【0264】
さらに他の実施形態では、POIは、EC6.2.1.12(例えば、4-クマリン酸塩:補酵素Aリガーゼ)及びEC6.3.2.28(例えば、L-アミノ酸アルファ-リガーゼ)から選択されるEC6(リガーゼ)酵素を含むがそれらに限定されないリガーゼ酵素である。
【0265】
タンパク質の生産の最適条件は、宿主細胞の選択及び発現されるタンパク質の選択によって変化する。そのような条件は、ルーチンの実験及び/又は最適化によって、当業者には容易に確かめ得る。
【0266】
目的タンパク質は、発現後に精製又は単離することができる。目的タンパク質は、どのような他の成分が試料中に存在するかによって、当業者に知られた様々な方法で単離又は精製し得る。標準的な精製方法には、電気泳動手法、分子的手法、免疫学的手法、クロマトグラフィー手法、例えば、イオン交換、疎水性、親和性、及び逆相HPLCクロマトグラフィー、並びにクロマトフォーカシングが含まれるが、これらに限定されない。例えば、目的タンパク質は、標準的な抗目的タンパク質抗体カラムを用いて精製し得る。タンパク質濃度と関連して、限外ろ過及びダイアフィルトレーション手法もまた有用である。必要な精製の程度は、目的タンパク質の使用目的により異なる。ある場合には、タンパク質の精製は不要である。
【0267】
特定の他の実施形態では、本開示の遺伝子改変真菌細胞が高レベルの目的タンパク質を産生することを確認するために、様々なスクリーニング方法を実施することができる。発現ベクターは、検出可能な標識として機能する標的タンパク質へのポリペプチド融合物をコードし得る、又は標的タンパク質自体が選択可能な若しくはスクリーニング可能なマーカーとして機能し得る。標識タンパク質は、ウェスタンブロッティング、ドットブロッティング(Cold Spring Harbor Protocolsウェブサイトで入手可能な方法)、ELISA、又は標識がGFPである場合、全細胞蛍光法及び/若しくはFACSによって検出し得る。例えば、6-ヒスチジンタグは標的タンパク質への融合体として含まれ、そしてこのタグはウェスタンブロッティングによって検出される。標的タンパク質が十分に高いレベルで発現する場合、クマシー/銀染色と組み合わされたSDS-PAGEを、変異宿主細胞において親(対照)細胞を越える発現の増加を検出するために実施することができ、この場合は標識を必要としない。さらに、目的タンパク質の改善されたレベルを確認するために他の方法、例えば、クーマシーブルー又はBCA試薬に基づくタンパク質分離又は標準的な総タンパク質測定のHPLC方法を使用した、細胞当たりのタンパク質量又は発酵培地1ミリリットル当たりのタンパク質量の増加の検出を使用してもよい。比生産性の検出は、タンパク質の生産性を評価する別の方法である。比生産性(Qp)は、次式により求めることができる:
Qp=gP/gDCW・hr
(式中、「gP」はタンク内で生成されたタンパク質のグラム数であり、「gDCW」はタンク内の乾燥細胞重量(DCW)のグラム数であり、「hr」は、生成時間並びに増殖時間を含む接種時点からの発酵時間(時間)である)によって決定できる。最終的に、目的タンパク質が酵素活性を有する場合、その発現レベルは酵素アッセイから計算することができる。
【0268】
VI.発酵
特定の実施形態は、本開示の改変(変異)糸状真菌細胞を増殖、培養又は発酵させることを含む、目的タンパク質を産生するための組成物及び方法に関する。一般に、当技術分野で周知の発酵方法は、真菌細胞を発酵させるために使用される。いくつかの実施形態では、真菌細胞は、バッチ、フェドバッチ又は連続発酵条件下で増殖させる。古典的なバッチ発酵は、発酵の開始時点で培地の組成を設定して、発酵の間それを改変しない閉鎖系である。発酵の開始時に、培地に所望の生物を接種する。この方法では、系にいかなる成分も添加することなく発酵が行われる。典型的には、バッチ発酵は栄養素の添加に関して「バッチ」であると見なされ、pH及び酸素濃度などの因子は制御される。バッチ系のブロス及び培養組成物は、発酵が停止するまで絶えず変化する。バッチ培養物内では、細胞は静的誘導期を経由して高増殖対数期へ進行し、最終的には増殖率が低下若しくは停止する静止期に進む。未処置の場合、細胞はアポトーシスに進行し、最終的に死滅する。一般に、バッチ段階では、生成物の生産の大部分は、対数期の間に起こる。
【0269】
標準バッチ系に関する好適な変形形態は、「フェドバッチ発酵」系である。典型的なバッチ系のこの変形例では、対数期が終了した後、発酵が進行するにつれて基質が徐々に添加される。異化物質抑制を回避するために、フェドバッチ系がしばしば使用される。基質の連続供給は、プロセスがその濃度を細胞代謝及びタンパク質生産の阻害をもたらし得る臨界レベル未満に保つことを可能にする。バッチ発酵及びフェドバッチ発酵は、当該技術分野において一般的であり、よく知られている。
【0270】
連続発酵は、規定の発酵培地がバイオリアクターに連続的に加えられ、処理のために等量の馴化培地が同時に除去される系である。連続発酵は、一般に、培養物を一定の(高い)密度に維持し、細胞は主に対数期増殖に保たれる。他の系では、培地の濁度によって測定される細胞濃度を一定に保ちながら、増殖に影響を及ぼす多数の因子は連続的に変化させることができる。連続系は、定常状態の増殖条件を維持しようとする。したがって、培地を取り出すことによる細胞損失は、発酵中の細胞増殖速度に対して平衡が保たれなければならない。連続発酵プロセスで栄養素及び増殖因子を調節する方法、並びに生産物形成速度を最大化するための手法は、工業微生物学の技術分野においてはよく知られている。
【0271】
本開示の特定の実施形態は、真菌を培養するための発酵手順に関する。セルラーゼ酵素の生産のための発酵手順は、当該技術分野で知られている。例えば、セルラーゼ酵素は、バッチ、フェドバッチ及び連続フロープロセスなどの、固体又は液内培養によって産生することができる。培養は一般に、水性無機塩培地、有機増殖因子、炭素及びエネルギー源物質、分子状酸素、及び、当然に、使用される糸状真菌宿主の出発接種材料を含む増殖培地中で行われる。
【0272】
適切な微生物増殖を確実にし、微生物変換プロセスで細胞による炭素及びエネルギー源の吸収を最大にし、発酵培地において最大細胞密度で最大細胞収率を達成するには、炭素及びエネルギー源、酸素、吸収可能な窒素、並びに微生物接種材料に加えて、好適な量の無機栄養素を適切な割合で供給する必要がある。
【0273】
水性無機培地の組成は、当該技術分野で知られているように、使用する微生物及び基質に部分的に依存して、広範囲にわたって変えることができる。無機培地は、窒素に加えて、好適な量のリン、マグネシウム、カルシウム、カリウム、硫黄、及びナトリウムを、好適な可溶性の吸収可能なイオン性の複合形態で含み、銅、マンガン、モリブデン、亜鉛、鉄、ホウ素、及びヨウ素などのいくつかの微量元素を、やはり適切な可溶性の吸収可能な形態で含み、これらはすべて当技術分野で知られている。
【0274】
発酵プロセスは、微生物種が盛んに増殖するのを助けるのに有効な好適な酸素分圧で、発酵槽の内容物を維持するために提供される、空気、酸素富化空気、又は実質的に純粋な分子状酸素などの分子状酸素含有ガスによって必要な分子状酸素が供給される好気的プロセスであり得る。
【0275】
発酵温度はいくらか変えることができるが、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)などの糸状真菌の場合、温度は一般に約20℃~40℃の範囲内、一般に好ましくは約25℃~34℃の範囲内である。
【0276】
微生物はまた、吸収可能な窒素源を必要とする。吸収可能な窒素源は、任意の窒素含有化合物、又は微生物による代謝利用に好適な形態で窒素を放出することができる任意の化合物であり得る。タンパク質加水分解物などの、様々な有機窒素源化合物を使用することができるが、通常、アンモニア、水酸化アンモニウム、尿素などの安価な窒素含有化合物、及びリン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、塩化アンモニウム、又は他の様々なアンモニウム化合物などの各種アンモニウム塩を利用することができる。アンモニアガス自体は、大規模な操作に便利であり、好適な量で水性発酵物(発酵培地)をバブリングして使用することができる。同時に、そのようなアンモニアは、pH制御を助けるために用いることもできる。
【0277】
水性微生物発酵物中のpH範囲は、約2.0~10.0の例示的な範囲であるべきである。糸状真菌では、pHは、通常、約2.5~8.0の範囲であり、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)では、pHは、通常、約3.0~7.0の範囲である。微生物の好ましいpH範囲は、使用される培地及び特定の微生物にある程度依存し、したがって、当業者によって容易に決定され得るようにいくらか調整することができる。
【0278】
制限因子として炭素含有基質を制御することができるようなやり方で発酵を行うことが好ましく、それによって炭素含有基質の生成物への良好な転換が提供され、相当量の未変換基質による細胞の汚染が回避される。後者は、水溶性基質では、微量の残存物は容易に洗い流せるので、問題にならない。しかしながら、非水溶性基質の場合には問題となる可能性があり、好適な洗浄工程などの追加の生成物処理工程が必要になる。
【0279】
上記のように、このレベルに到達する時間は重要ではなく、特定の微生物及び実施する発酵プロセスによって変化し得る。しかしながら、発酵培地中の炭素源濃度の決定方法、及び所望の炭素源レベルが達成されているか否かの決定方法は、当該技術分野ではよく知られている。
【0280】
発酵はバッチ又は連続操作として行うことができ、流加操作は、制御の容易さ、均一な量の生成物の生産、及び全ての装置の最も経済的な使用という点で非常に好ましい。
【0281】
必要ならば、水性無機培地を発酵槽に供給する前に、炭素及びエネルギー源物質の一部又は全部及び/又はアンモニアなどの吸収可能な窒素源の一部を水性無機培地に加えることができる。
【0282】
反応器に導入される流れの各々は、所定の速度に制御するか、炭素及びエネルギー基質の濃度、pH、溶存酸素、発酵槽排ガス中の酸素又は二酸化炭素、乾燥細胞重量により測定可能な細胞密度、透光度などの、モニタリングによって決定可能な必要性に応じて制御することが好ましい。様々な材料の供給速度は、最大生産速度及び/又は最大収率を得るように変化させることができる。
【0283】
バッチ又は好ましい流加操作においては、全ての装置、反応器、又は発酵手段、槽又は容器、配管、付随する循環又は冷却装置などは、最初に、通常、蒸気を使用して、例えば、約121℃で少なくとも約15分間、滅菌する。次いで、酸素を含む必要な栄養素の全て、及び炭素含有基質を存在下で、滅菌した反応器に選択された微生物の培養物を接種する。使用する発酵槽の種類は重要ではない。
【0284】
発酵ブロスからの酵素(例えば、セルラーゼ)の回収及び精製も、当業者に公知の手順によって行うことができる。発酵ブロスは、一般に、細胞残屑、例えば、細胞、種々の懸濁固体及び他のバイオマス混入物質、並びに所望のセルラーゼ酵素産物を含み、これらは、当該技術分野で知られた手段によって発酵ブロスから除去することが好ましい。
【0285】
そのような除去に好適なプロセスには、無細胞ろ液を生成するための、例えば、遠心分離、ろ過、透析、精密ろ過、回転真空ろ過、又は他の知られたプロセスなどの従来の固液分離手法が含まれる。結晶化の前に、限外ろ過、蒸発又は沈殿などの手法を使用して、発酵ブロス、又は細胞を含まないろ液をさらに濃縮することが好ましい。
【0286】
上清又はろ液のタンパク質成分の沈殿が、塩、例えば硫酸アンモニウム又はアセトンなどの有機溶媒によって行われ、続いて、各種のクロマトグラフィー法、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、又は類似の分野で認められている方法によって精製が行われ得る。
【0287】
VII.例示的な実施形態
本明細書に開示される組成物及び方法の非限定的な実施形態は以下の通りである。
【0288】
1.表1に記載のトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)調節タンパク質と少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の天然調節タンパク質の生産が欠損している組換え真菌細胞。
【0289】
2.表16に記載の調節タンパク質ホモログと少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の天然調節タンパク質の生産が欠損している組換え真菌細胞。
【0290】
3.表10に記載のトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質を過剰発現する組換え真菌細胞。
【0291】
4.表1に記載のトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含み、表10に記載のトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の天然調節タンパク質を過剰発現する1つ以上の調節タンパク質の生産が欠損している組換え真菌細胞。
【0292】
5.表16に記載の調節タンパク質ホモログに対して少なくとも80%の同一性を含み、表10に記載のトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質を過剰発現する、1つ以上の天然調節タンパク質の生産が欠損している組換え真菌細胞。
【0293】
6.細胞が、表1に示されるDNA結合ドメイン(DBD)と少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質の生産が欠損している、実施形態1、2、4又は5のいずれか1つに記載の組換え真菌細胞。
【0294】
7.目的タンパク質を発現する、実施形態1~6のいずれか1つに記載の組換え真菌細胞。
【0295】
8.表10に記載のタンパク質(例えば、5’-[pro]-[reg_protein]-3’)に対して少なくとも80%の配列同一性を含む調節タンパク質をコードする下流(3’)核酸(reg_protein)に作動可能に連結された上流(5’)プロモーター(pro)を含むポリヌクレオチド(例えば、発現カセット)。
【0296】
9.上流プロモーターが構成的プロモーター又は誘導性プロモーターである、実施形態8に記載のポリヌクレオチド。
【0297】
10.調節タンパク質をコードする核酸(reg_protein)に作動可能に連結された下流(3’)のターミネーター(用語)配列をさらに含む、実施形態8に記載のポリヌクレオチド。
【0298】
11.実施形態8の少なくとも1つの導入ポリヌクレオチドを含む組換え真菌細胞。
【0299】
12.実施形態8の少なくとも1つの導入ポリヌクレオチドを含み、内因性目的タンパク質を発現する組換え真菌細胞。
【0300】
13.実施形態8の少なくとも1つの導入ポリヌクレオチドを含み、異種目的タンパク質(POI)をコードする少なくとも1つの導入カセットを発現する組換え真菌細胞。
【0301】
14.導入カセットが、異種POI(例えば、5’-[proCel]-[POI]-3’)をコードする下流(3’)核酸(POI)に作動可能に連結された上流(5’)セルラーゼ遺伝子プロモーター(proCel)配列を含む、実施形態13に記載の組換え真菌。
【0302】
15.表1に記載のトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の天然調節タンパク質の生産において組換え細胞に欠損させる遺伝子改変をさらに含む、実施形態11~14のいずれか1つに記載の組換え真菌細胞。
【0303】
16.表16に記載の調節タンパク質ホモログに対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の天然調節タンパク質の生産において組換え細胞に欠損させる遺伝子改変をさらに含む、実施形態11~14のいずれか1つに記載の組換え真菌細胞。
【0304】
17.内因性POIがセルラーゼである、実施形態12に記載の組換え真菌細胞。
【0305】
18.セルラーゼが、セロビオヒドロラーゼ、キシラナーゼ、エンドグルカナーゼ及びβ-グルコシダーゼからなる群から選択される、実施形態17に記載の組換え真菌細胞。
【0306】
19.異種POIが、酵素、ペプチド、抗体(及びその機能性抗体断片)、受容体タンパク質、動物飼料タンパク質、ヒト食品タンパク質、タンパク質生物製剤、治療用タンパク質、免疫原性タンパク質などからなる群から選択される、実施形態13に記載の組換え真菌細胞。
【0307】
20.セルラーゼを発現する親真菌細胞を取得し、親細胞を遺伝子改変して、表1に記載の調節タンパク質と少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の天然調節タンパク質の生産が欠損した組換え真菌細胞を取得することと、組換え細胞を培養することと、を含み、組換え細胞が、同じ条件下で培養された親細胞に対して増加した量のセルラーゼを生産する、セルラーゼの生産を増強するための方法。
【0308】
21.組換え細胞が、表10に示される調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質をコードする1つ以上の導入ポリヌクレオチドをさらに含む、実施形態20に記載の方法。
【0309】
22.セルラーゼを発現する親真菌細胞を取得し、親細胞を遺伝子改変して、表10に記載の調節タンパク質と少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質を過剰発現する組換え真菌細胞を取得することと、組換え細胞を培養することと、を含み、組換え細胞が、同じ条件下で培養された親細胞に対して増加した量のセルラーゼを生産する、セルラーゼの生産を増強するための方法。
【0310】
23.組換え細胞が、表1の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の天然調節タンパク質の生産において細胞に欠損させる遺伝子改変をさらに含む、実施形態22に記載の方法。
【0311】
24.セルラーゼが、セロビオヒドロラーゼ、ヘミセルラーゼ、エンドグルカナーゼ及びβ-グルコシダーゼからなる群から選択される、実施形態20~23のいずれか1つに記載の方法。
【0312】
25.POIをコードする少なくとも1つの発現カセットを親真菌細胞に導入し、親細胞を遺伝子改変して、表1に記載される調節タンパク質と少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の天然調節タンパク質の生産が欠損した組換え真菌細胞を取得することと、組換え細胞を培養することと、を含み、組換え細胞が、同じ条件下で培養された親細胞に対して増加した量のPOIを生産する、目的タンパク質(POI)の生産を増強するための方法。
【0313】
26.POIをコードするカセットが、POIをコードする下流(3’)核酸に作動可能に連結された上流(5’)セルラーゼ遺伝子プロモーターを含む、実施形態25に記載の方法。
【0314】
27.POIをコードするカセットが、真菌細胞のゲノムに組み込まれる、実施形態25に記載の方法。
【0315】
28.POIが、酵素、ペプチド、抗体(及びその機能性抗体断片)、受容体タンパク質、動物飼料タンパク質、ヒト食品タンパク質、タンパク質生物製剤、治療用タンパク質、免疫原性タンパク質などからなる群から選択される、実施形態25に記載の方法。
【実施例】
【0316】
以下の実施例は本開示の実施形態を示しているが、それらは例示としてのみ与えられていることを理解されたい。上記の議論及びこれらの実施例から、当業者は種々の使用及び条件に適合させるために、本開示の種々の変更及び修正を行うことができる。このような修正もまた、特許請求の範囲に記載された発明の範囲に含まれるものとする。本明細書で使用される標準的な組換えDNA技術及び分子クローニング技術は当分野で公知である(Ausubel et al.、1987;Sambrook et al.、1989)。
【0317】
実施例1
真菌細胞における調節タンパク質欠失LIBRARYの構築及びスクリーニング
概説
【0318】
詳細な説明において上記で一般に記載されるように、調節タンパク質は、細胞遺伝子発現の重要な調節因子であり、そのような調節タンパク質は、典型的には、(調節された)遺伝子のプロモーター領域中の特定の(標的)部位に結合することによって遺伝子発現を調節する。例えば、その標的プロモーター部位への調節タンパク質の結合は、様々な細胞機能、プロセスなどに関与する遺伝子の転写を上方制御又は下方制御することができる。
【0319】
本実施例では、出願人は、Joint Genome Institute(JGI)データベース(Nordberg et al.、2014)からトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei) QM6a株を使用してバイオインフォマティクスツールを介して予測された400を超える調節タンパク質を同定した。より具体的には、実施例及び以下に提示されるデータ(表1~15を参照されたい)において、野生型T.リーゼイ(T.reesei)株(QM6a;ATCC(登録商標)13631)を分子生物学的操作のための研究全体を通して使用した。さらに、遺伝子欠失の効率を改善するために、非相同末端結合(NHEJ)機構が損なわれたku80破壊(Δku80)変異体を、ku80遺伝子をpyr4マーカーで置き換えることによって構築した(例えば、NHEJにおいて損なわれたそのようなΔku80真菌変異体の構築を記載する国際公開第2016/100272号パンフレットを参照されたい)。したがって、ある特定の局面において、調節タンパク質欠失コンストラクトのライブラリーが、真菌の形質転換及び遺伝子ノックアウトの選択のために使用されたハイグロマイシン選択マーカー(hphB)によって隔てられるおよそ2kbの長さの遺伝子特異的な上流側(5’)及び下流側(3’)のフランキング領域の間での融合PCRアプローチによって作製された。形質転換コロニーを、50μg/mlハイグロマイシンを補充した2%麦芽抽出物、0.2%ペプトン、2%グルコース、1Mソルビトール、5mMトリス(pH5.0)を含有する寒天プレート上で選択し、続いて特定の遺伝子座における破壊カセットの正しい組み込みのためのコロニーPCR分析を行った。合計で343個の調節タンパク質欠失(変異)株を得て、以下の実施例に記載される改善された特性についてスクリーニングした。
【0320】
B.接種材料の調製
【0321】
10μLの胞子懸濁液を、2%麦芽抽出物寒天培地(Oxoid)を含む24ウェルマイクロタイタープレート(MTP)に蒔き、光の存在下、30℃でインキュベートした。胞子形成が観察されたとき、胞子を回収し、同じOD600nm値に正規化した。50μLの正規化胞子溶液を生産プレートの接種に使用した。
【0322】
C.タンパク質生産及び試料の調製
【0323】
T.リーゼイ(T.reesei)液体培養物を、グルコース/ソホロース混合物を含有する培地、又はラクトース若しくはグルコースを固体多孔質マトリックスから放出するように構成されたプレートを含む24ウェルポリスチレンプレート(Corning(登録商標)Costart(登録商標)CLS3527)中で増殖させた。より詳細には、各ウェルは1.2mLの生産培地(9g/Lのカスアミノ酸、10g/L(NH4)2SO4、4.5g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4・7H2O、1g/LのCaCl2・2H2O、33g/LのPIPPS緩衝液(pH5.5)及び0.25%のT.リーゼイ(T.reesei)微量元素[175g/L C6H8O7、200g/L FeSO4・7H2O、16g/L ZnSO4・7H2O、3.2g/L CuSO4・5H2O、1.4g/L MnSO4・H2O及び0.8g/L H3BO3])を含有していた。ポリスチレンプレートの場合、2%(w/w)の最終濃度のグルコース/ソホロース混合物を炭素源として使用した。グルコース及びラクトース放出プレートの場合、1.6%(w/w)グルコースを生産培地に添加した。プレートを28℃又は34℃、湿度80%で200rpm(50mMスロー)でインキュベートした。
【0324】
インキュベーションの72時間後及び120時間後にサンプリングを行った。200μLの培養物を収集し、0.2μM Corning FILTREX(商標)CLS3505でろ過した。得られた上清を総タンパク質測定及び酵素活性測定に使用した。
【0325】
D.ブラッドフォード及びHPLCによるタンパク質決定
【0326】
培養上清中の総タンパク質濃度は、標準としてウシ血清アルブミン(BSA)を使用するバイオラッド・ブラッドフォード・アッセイによって決定した。セロビオヒドロラーゼ1(CBH1)レベルを、Acquity UPLC BEH200 SEC1.7μm(4.6×150mM)カラム(Waters#186005225)を備えたアジレント1200 HPLCを使用してHPLCによって測定した。25μLの試料を75μLの脱ミネラル化水と混合した。4倍希釈した試料10μLをカラムに注入した。試料を溶出するために、25mM NaH2PO4(pH6.7)及び100mM NaClを5分間均一濃度で流した。性能指数(PI)を算出するために、同一条件における、QM6a(Δku80)株の欠失変異体が産生する(平均)総タンパク質と、野生型QM6A(Δku80)株が産生する(平均)総タンパク質との比率を比較した。
【0327】
E.リン酸膨潤セルロース(PASC)加水分解アッセイ
【0328】
リン酸膨潤セルロース(PASC)は、Wood(1971)の公開された方法に従ってAvicelから調製され、国際公開第2014/093275号パンフレットに記載されている。この物質を緩衝液及び水で希釈して0.5%(w/v)混合物を得て、酢酸ナトリウムの最終濃度が50mM(pH5.0)になるようにした。CBH1活性は、96ウェルマイクロタイタープレート(Costar Flat Bottom PS 3641)中の140μLの反応混合物(0.36% PASO;29.4mM NaOAc(pH5.0);143mM NaCl)に5μL、10μL、20μL及び40μLの上清(C参照)を添加することによって決定した。マイクロタイタープレートを密封し、900rpmで連続的に振とうしながら50℃で2時間インキュベートした後、氷上で5分間冷却した。100μLのクエンチ緩衝液(100mMグリシン緩衝液;pH10)を加えることによって、加水分解反応を停止させた。加水分解反応生成物を、以下の修正を加えて、Lever(1972)によるp-ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド(PAHBAH)アッセイで分析した。
【0329】
PAHBAHアッセイ:PAHBAH還元糖試薬150μLのアリコート(試薬100mLの場合:1.5gのp-ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド(Sigma番号H9882)、2% NaOHに溶解した5gの酒石酸ナトリウムカリウム四水和物)を、空のマイクロタイタープレートのすべてのウェルに添加した。10μLの加水分解反応上清をPAHBAH反応プレートに添加した。すべてのプレートを密封し、900rpmの連続振とう下、69℃でインキュベートした。1時間後、プレートを氷上に5分間置き、室温で720×gで5分間遠心分離した。プレートの吸光度(終点)を分光光度計において410nmで測定した。セロビオース標準を対照及び適切なブランク試料として含めた。性能指数(PI)を計算するために、野生型QM6a(Δku80)株によって産生された(平均)全糖を、QM6a(Δku80)株の調節タンパク質欠失変異体によって産生された(平均)全糖で割った。
【0330】
実施例2
28℃でのタンパク質生産の改善
166個の調節タンパク質欠失変異体のサブセットを、様々な条件下でのタンパク質生産の改善についてスクリーニングした。例えば、以下の表1に、本明細書に記載の特定のT.リーゼイ(T.reesei)調節タンパク質欠失変異体のT.リーゼイ(T.reesei)遺伝子(DNA)配列(配列番号)、予測タンパク質配列(配列番号)、予測DNA結合ドメイン(DBD)配列(配列番号)を示す。
【表1】
【0331】
より具体的には、総タンパク質決定及び酵素活性アッセイ(実施例1)によってタンパク質生産性を測定し、その欠失が28℃での総タンパク質生産の増加をもたらした調節タンパク質を以下の表2~4に記載する。
【0332】
例えば、欠失が120時間のインキュベーション後にラクトース放出プレートにおける28℃でのタンパク質生産の増加をもたらした調節タンパク質を表2に記載し、数値は、対照(野生型)株QM6aΔku80に対して、PASC酵素アッセイ、CBH1のHPLC測定、及びブラッドフォードによって測定された総タンパク質について計算された性能指数(PI)を表す。
【表2】
【0333】
表2に示されるように、調節タンパク質Trire2_76872(配列番号44)の欠失を含む変異細胞は、ラクトース放出(誘導)条件下、28℃で発酵させた場合、増強されたタンパク質生産性表現型(すなわち、親細胞に対して)を含み、調節タンパク質Trire2_76872(配列番号44)の生産が欠損した変異細胞は、増加した量の総タンパク質及び増加した量のCBH1を生産し、これにより、(親株に対してPASCアッセイによって例示されるように)より高い糖化活性がもたらされる。
【0334】
同様に、欠失が120時間のインキュベーション後にグルコース放出プレートにおける28℃でのタンパク質生産の増加をもたらした調節タンパク質を表3に記載し、数値は、対照(野生型)株QM6aΔku80に対して、PASC酵素アッセイ、CBH1のHPLC測定、又はブラッドフォードによって測定された総タンパク質について計算された性能指数(PI)を表す。
【表3】
【0335】
例えば、表3に示されるように、調節タンパク質Trire2_76872(配列番号44)、Trire2_120428(配列番号71)、Trire2_76705(配列番号41)、Trire2_78162(配列番号50)又はTrire2_105239(配列番号56)の欠失を含む変異細胞は、グルコース放出条件下28℃で発酵させた場合に、(親細胞に対して)タンパク質生産性表現型の増強を含む。より具体的には、上述の調節タンパク質の生産が欠損したそのような変異細胞(表3)は、そのようなグルコース放出条件下で(親細胞に対して)増加した量の総タンパク質及び/又は増加した量のCBH1を生産した。
【0336】
さらに、以下の表4に記載されるのは、調節タンパク質であり、その欠失が120時間のインキュベーション後に炭素源として2%(w/w)グルコース/ソホロースを含むポリスチレンプレートにおいて28℃でのタンパク質生産の増加をもたらし、数値は、対照(野生型)株QM6aΔku80に対して、PASC酵素アッセイ、CBH1のHPLC測定、又はブラッドフォードによって測定された総タンパク質について計算された性能指数(PI)を表す。
【表4】
【0337】
上記の表4に示されるように、調節タンパク質Trire2_69695(配列番号32)、Trire2_76705(配列番号41)、Trire2_78162(配列番号50)、Trire2_105849(配列番号59)、Trire2_71823(配列番号35)、Trire2_60931(配列番号20)、Trire2_48438(配列番号8)、Trire2_108013(配列番号62)、Trire2_68097(配列番号26)、Trire2_4933(配列番号2)、Trire2_72993(配列番号38)、Trire2_119986(配列番号68)、Trire2_55105(配列番号14)、Trire2_68425(配列番号29)、Trire2_103122(配列番号53)、Trire2_5675(配列番号5)、Trire2_121757(配列番号77)又はTrire2_77291(配列番号47)の欠失を含む変異細胞は、炭素源として2%(w/w)グルコース/ソホロースを用いて28℃で発酵させた場合に(親細胞に対して)タンパク質生産性表現型の増強を含む。例えば、上述の調節タンパク質の生産が欠損した変異細胞(表4)は、そのようなグルコース/ソホロース(誘導)条件下で(親細胞に対して)増加した量の総タンパク質及び/又は増加した量のCBH1を生産する。
【0338】
実施例3
34℃でのタンパク質生産の改善
本実施例では、出願人は、166個の調節タンパク質欠失ライブラリー変異体(実施例2)をスクリーニングして、調節タンパク質欠失のいずれかが、34℃のより高い培養温度(例えば、表5及び表6を参照されたい)でタンパク質生産の改善をさらにもたらすかどうかを決定した。タンパク質生産性は、総タンパク質決定及び酵素活性アッセイによって測定した(実施例1)。例えば、欠失が120時間のインキュベーション後にラクトース放出プレートにおける34℃でのタンパク質生産の増加をもたらした調節タンパク質を表5に記載し、数値は、対照(野生型)株QM6aΔku80に対して、PASC酵素アッセイ、CBH1のHPLC測定又はブラッドフォードによって測定された総タンパク質について計算された性能指数(PI)を表す。
【表5】
【0339】
上記の表5に示されるように、調節タンパク質Trire2_76872(配列番号44)、Trire2_67209(配列番号23)又はTrire2_122783(配列番号80)の欠失を含む変異細胞は、ラクトース放出条件下、34℃で発酵させた場合、(親細胞に対して)タンパク質生産性表現型の増強を含む。例えば、上述の調節タンパク質の生産が欠損した変異細胞(表5)は、そのようなラクトース(誘導)条件下で(親細胞に対して)増加した量の総タンパク質及び/又は増加した量のCBH1を生産する。
【0340】
同様に、欠失が120時間のインキュベーション後にグルコース放出プレートにおける34℃でのタンパク質生産の増加をもたらした調節タンパク質を表6に記載し、数値は、対照(野生型)株QM6aΔku80に対して、PASC酵素アッセイ、CBH1のHPLC測定又はブラッドフォードによって測定された総タンパク質について計算された性能指数(PI)を表す。
【表6】
【0341】
したがって、上記の表6に示されるように、調節タンパク質Trire2_76705(配列番号41)、Trire2_120597(配列番号74)、Trire2_49232(配列番号11)、Trire2_108775(配列番号65)又はTrire2_60565(配列番号17)の欠失を含む変異細胞は、グルコース放出条件下34℃で発酵させた場合に(親細胞に対して)タンパク質生産性表現型の増強を含む。例えば、上述の調節タンパク質の生産が欠損した変異細胞(表6)は、(親細胞に対して)誘導基質の非存在下、34℃で増加した量の総タンパク質及び/又は増加した量のCBH1を生産する。
【0342】
実施例4
タンパク質生産速度の改善
本実施例では、欠失がより高いタンパク質生産速度をもたらす調節タンパク質を、72時間の早い時点でのタンパク質生産の比較、続いて120時間での最終タンパク質生産測定によって決定した。より具体的には、以下の表7~9に示すように、欠失が72時間でより高い生産をもたらし、対照(野生型)株QM6aΔku80と比較して120時間で同等又は改善されたタンパク質生産をもたらす調節タンパク質のみを選択した。
【0343】
例えば、欠失が28℃又は34℃で72時間のインキュベーション後にラクトース放出プレートにおけるタンパク質生産速度の増加をもたらした調節タンパク質を以下の表7に記載し、数値は、対照(野生型)株QM6aΔku80に対して、PASC酵素アッセイ、CBH1のHPLC測定又はブラッドフォードによって測定された総タンパク質について計算された性能指数(PI)を表す。
【表7】
【0344】
上記の表7に示されるように、調節タンパク質Trire2_76872(配列番号44)の欠失を含む変異細胞は、ラクトース放出プレートにおいて28℃で72時間培養した後、(親細胞に対して)タンパク質生産速度の増強を含む。さらに、表7に示されるように、調節タンパク質Trire2_76872(配列番号44)の欠失を含む変異細胞は、ラクトース放出プレートにおいて34℃で72時間培養した後、(親細胞に対して)タンパク質生産速度の増強を含む。したがって、上に例示したように、上述の調節タンパク質の生産が欠損した変異細胞(表7)は、(親細胞に対して)タンパク質生産速度の増加を示す。
【0345】
同様に、欠失が28℃又は34℃で72時間のインキュベーション後にグルコース放出プレートにおいてタンパク質生産速度の増加をもたらした調節タンパク質を以下の表8に記載し、数値は、対照(野生型)株QM6aΔku80に対して、PASC酵素アッセイ、CBH1のHPLC測定、又はブラッドフォードによって測定された総タンパク質について計算された性能指数(PI)を表す。
【表8】
【0346】
上記の表8に示されるように、調節タンパク質Trire2_76872(配列番号44)の欠失を含む変異細胞は、グルコース放出プレートにおいて28℃で72時間培養した後に、増強されたタンパク質生産速度(すなわち、親細胞に対して)を含む。同様に、表8において上記で示されるように、調節タンパク質Trire2_76872(配列番号44)又はTrire2_78162(配列番号50)の欠失を含む変異細胞は、グルコース放出プレートにおける34℃での72時間の培養後に、増強されたタンパク質生産速度を含む。したがって、上に例示したように、上述の調節タンパク質の生産が欠損した変異細胞(表8)は、(親細胞に対して)タンパク質生産速度の増加を示す。
【0347】
さらに、欠失が、28℃で72時間のインキュベーション後に炭素源として2%グルコース/ソホロースを含むポリスチレンプレートにおけるタンパク質生産速度の増加をもたらした調節タンパク質を以下の表9に記載し、数値は、対照(野生型)株QM6aΔku80に対して、PASC酵素アッセイ、CBH1のHPLC測定、又はブラッドフォードによって測定された総タンパク質について計算された性能指数(PI)を表す。
【表9】
【0348】
上記の表9に示されるように、調節タンパク質Trire2_78162(配列番号50)又はTrire2_105849(配列番号59)の欠失を含む変異細胞は、炭素源として2%(w/w)グルコース/ソホロースを含む培地中、28℃で72時間培養した後のタンパク質生産速度の増強を含む。したがって、上に例示したように、上述の調節タンパク質の生産が欠損した変異細胞(表9)は、(親細胞に対して)タンパク質生産速度の増加を示す。
【0349】
実施例5
28℃でのタンパク質生産の減少
166個の調節タンパク質欠失変異体のサブセットを、様々な条件下でのタンパク質生産の改善についてスクリーニングした。タンパク質生産性は、総タンパク質決定及び酵素活性アッセイによって測定した(実施例1)。例えば、以下の表10に、その調節タンパク質欠失が総タンパク質生産の減少をもたらしたT.リーゼイ(T.reesei)調節タンパク質欠失変異体の予測タンパク質配列(配列番号)を示す。
【表10-1】
【表10-2】
【0350】
例えば、欠失が120時間のインキュベーション後にラクトース放出プレートにおける28℃でのタンパク質生産の減少をもたらした調節タンパク質を以下の表11に記載し、数値は、対照(野生型)株QM6aΔku80に対して、PASC酵素アッセイ、CBH1のHPLC測定、及びブラッドフォードによって測定された総タンパク質について計算された性能指数(PI)を表す。
【表11】
【0351】
表11に示されるように、調節タンパク質Trire2_3605(配列番号84)、Trire2_4748(配列番号85)、Trire2_44781(配列番号93)、Trire2_48773(配列番号95)、Trire2_53484(配列番号100)、Trire2_58130(配列番号103)、Trire2_59609(配列番号105)、Trire2_65070(配列番号108)、Trire2_65895(配列番号109)、Trire2_71080(配列番号113)、Trire2_71689(配列番号114)、Trire2_72076(配列番号115)、Trire2_73559(配列番号117)、Trire2_73689(配列番号118)、Trire2_76039(配列番号119)、Trire2_119826(配列番号131)、Trire2_121164(配列番号132)、Trire2_121602(配列番号134)又はTrire2_122457(配列番号135)の欠失を含む変異細胞は、ラクトース(誘導)条件下で28℃において発酵させた場合、低下した(減少した)タンパク質生産性表現型(すなわち、親細胞に対して)を含む。例えば、上述の調節タンパク質の生産が欠損した変異細胞(表11)は、総タンパク質の量を減少させ、CBH1の量を減少させ、(親株と比較してPASCアッセイによって例示されるように)より低い糖化活性をもたらす。
【0352】
同様に、欠失が120時間のインキュベーション後にグルコース放出プレートにおける28℃でのタンパク質生産の減少をもたらした調節タンパク質を表12に記載し、数値は、対照(野生型)株QM6aΔku80に対して、PASC酵素アッセイ、CBH1のHPLC測定又はブラッドフォードによって測定された総タンパク質について計算された性能指数(PI)を表す。
【表12】
【0353】
例えば、表12に示されるように、調節タンパク質Trire2_1941(配列番号82)、Trire2_2148(配列番号83)、Trire2_5664(配列番号86)、Trire2_5927(配列番号87)、Trire2_21997(配列番号88)、Trire2_22785(配列番号90)、Trire2_36703(配列番号91)、Trire2_48773(配列番号95)、Trire2_49918(配列番号96)、Trire2_52438(配列番号97)、Trire2_52924(配列番号98)、Trire2_53106(配列番号99)、Trire2_55274(配列番号101)、Trire2_56214(配列番号102)、Trire2_59353(配列番号104)、Trire2_59609(配列番号105)、Trire2_60558(配列番号106)、Trire2_61476(配列番号107)、Trire2_65895(配列番号109)、Trire2_70414(配列番号111)、Trire2_70991(配列番号112)、Trire2_71689(配列番号114)、Trire2_73417(配列番号116)、Trire2_76590(配列番号120)、Trire2_77878(配列番号121)、Trire2_105784(配列番号122)、Trire2_105880(配列番号123)、Trire2_105917(配列番号124)、Trire2_105980(配列番号125)、Trire2_105989(配列番号126)、Trire2_106009(配列番号127)、Trire2_106720(配列番号128)、Trire2_109277(配列番号129)、Trire2_110901(配列番号130)又はTrire2_121310(配列番号133)の欠失を含む変異細胞は、グルコース放出条件下で28℃で発酵した場合、(親細胞に対して)低下した(減少した)タンパク質生産性表現型を含む。例えば、上述の調節タンパク質の生産が欠損した変異細胞(表12)は、そのようなグルコース放出条件下で(親細胞に対して)減少した量の総タンパク質又は減少した量のCBH1を生産する。
【0354】
さらに、以下の表13に記載されるのは、120時間のインキュベーション後に炭素源として2%(w/w)グルコース/ソホロースを含むポリスチレンプレートにおいて28℃でのタンパク質生産の減少をもたらした欠失調節タンパク質であり、数値は、対照(野生型)株QM6aΔku80に対して、PASC酵素アッセイ、CBH1のHPLC測定、又はブラッドフォードによって測定された総タンパク質について計算された性能指数(PI)を表す。
【表13】
【0355】
表13に示されるように、調節タンパク質Trire2_1941(配列番号82)、Trire2_22785(配列番号90)、Trire2_44290(配列番号92)、Trire2_44781(配列番号93)、Trire2_45866(配列番号94)、Trire2_48773(配列番号95)、Trire2_72076(配列番号115)又はTrire2_76590(配列番号120)の欠失を含む変異細胞は、炭素源として2%(w/w)グルコース/ソホロースを用いて28℃で発酵させた場合、(親細胞に対して)タンパク質生産性表現型の減少を含む。例えば、上述の調節タンパク質の生産が欠損した変異細胞(表13)は、そのようなグルコース/ソホロース条件下で(親細胞に対して)減少した量の総タンパク質又は減少した量のCBH1を生産する。
【0356】
実施例6
34℃でのタンパク質生産の減少
本実施例では、出願人は、166個の調節タンパク質欠失ライブラリー変異体(実施例2)をスクリーニングして、調節タンパク質欠失のいずれかが34℃のより高い温度でタンパク質生産の減少をさらにもたらすかどうかを決定した(例えば、表14及び表15を参照されたい)。タンパク質生産性は、総タンパク質決定及び酵素活性アッセイによって測定した(実施例1)。例えば、欠失が120時間のインキュベーション後にラクトース放出プレートにおける34℃でのタンパク質生産の減少をもたらした調節タンパク質を表14に記載し、数値は、対照(野生型)株QM6aΔku80に対して、PASC酵素アッセイ、CBH1のHPLC測定又はブラッドフォードによって測定された総タンパク質について計算された性能指数(PI)を表す。
【表14】
【0357】
したがって、上記の表14に示されるように、調節タンパク質Trire2_4748(配列番号85)、Trire2_21997(配列番号88)、Trire2_22774(配列番号89)、Trire2_22785(配列番号90)、Trire2_36703(配列番号91)、Trire2_44290(配列番号92)、Trire2_44781(配列番号93)、Trire2_59609(配列番号105)、Trire2_68028(配列番号110)、Trire2_71689(配列番号114)、Trire2_72076(配列番号115)又はTrire2_77878(配列番号121)の欠失を含む変異細胞は、ラクトース放出条件下で34℃で発酵した場合に(親細胞に対して)低下した(減少した)タンパク質生産性表現型を含む。例えば、上述の調節タンパク質の生産が欠損した変異細胞(表14)は、そのようなラクトース誘導条件下で(親細胞に対して)総タンパク質の量が減少し、CBH1の量が減少する。
【0358】
同様に、欠失が120時間のインキュベーション後にグルコース放出プレートにおける34℃でのタンパク質生産の減少をもたらした調節タンパク質を表15に記載し、数値は、対照(野生型)株QM6aΔku80に対して、PASC酵素アッセイ、CBH1のHPLC測定又はブラッドフォードによって測定された総タンパク質について計算された性能指数(PI)を表す。
【表15】
【0359】
したがって、上記の表15に示されるように、調節タンパク質Trire2_22774(配列番号89)、Trire2_22785(配列番号90)、Trire2_44290(配列番号92)、Trire2_44781(配列番号93)、Trire2_48773(配列番号95)、Trire2_72076(配列番号115)、Trire2_106009(配列番号127)又はTrire2_123713(配列番号136)の欠失を含む変異細胞は、グルコース放出条件下34℃で発酵した場合に(親細胞に対して)タンパク質生産性表現型の減少を含む。例えば、上述の調節タンパク質の生産が欠損した変異細胞(表15)は、(親細胞に対して)そのようなグルコース放出条件下で、減少した量の総タンパク質及び減少した量のCBH1を生産する。
【0360】
実施例7
真菌調節タンパク質オルソログ
本実施例では、出願人は、真菌種アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger) ATCC 1015 v4.0、マイセリオフィソラ・サーモフィル(Myceliophthora thermophila)(スポロトリカム・サーモフィル(Sporotrichum thermophile))v2.0、及びアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)RIB40に対する36個の調節因子の相同性に基づく検索を行った。以下に示すように、表16は、これらの選択された真菌種群について同定されたオルソログを列挙している。
【表16-1】
【表16-2】
【表16-3】
【0361】
参考文献
欧州特許第0215594号明細書
国際公開第2021/102238号パンフレット
国際公開第2008/097619号パンフレット
国際公開第2005/056772号パンフレット
国際公開第2008/080017号パンフレット
国際公開第2011/151512号パンフレット
国際公開第2011/151513号パンフレット
国際公開第2011/151515号パンフレット
国際公開第2011/153449号パンフレット
国際公開第2013/102674号パンフレット
国際公開第2014/093275号パンフレット
国際公開第2016/100272号パンフレット
米国特許第6,022,725号明細書
米国特許第6,255,115号明細書
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【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-07-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表1に記載の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質の生産が欠損している組換え真菌細胞。
【請求項2】
表10に記載の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質を過剰発現する組換え真菌細胞。
【請求項3】
表1に記載の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含み、表10に記載の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質を過剰発現する1つ以上の調節タンパク質の生産が欠損している組換え真菌細胞。
【請求項4】
前記細胞が、表1に記載のDNA結合ドメイン(DBD)と少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質の生産が欠損している、請求項1又は請求項3に記載の組換え真菌細胞。
【請求項5】
目的タンパク質を発現する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組換え真菌細胞。
【請求項6】
表10に示されるタンパク質に対して少なくとも80%の配列同一性を含む調節タンパク質をコードする下流(3’)核酸に作動可能に連結された上流(5’)プロモーターを含むポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項6に記載の少なくとも1つの導入ポリヌクレオチドを含む組換え真菌細胞。
【請求項8】
請求項6に記載の少なくとも1つの導入ポリヌクレオチドを含み、内因性目的タンパク質(POI)を発現する組換え真菌細胞。
【請求項9】
請求項6に記載の少なくとも1つの導入ポリヌクレオチドを含み、異種目的タンパク質(POI)をコードする少なくとも1つの導入カセットを発現する組換え真菌細胞。
【請求項10】
前記導入カセットが、前記異種POIをコードする下流(3’)核酸に作動可能に連結された上流(5’)セルラーゼ遺伝子プロモーターを含む、請求項9に記載の組換え真菌細胞。
【請求項11】
表1に示される調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質の生産において前記組換え細胞に欠損させる遺伝子改変をさらに含む、請求項7~10のいずれか一項に記載の組換え真菌細胞。
【請求項12】
前記内因性POIがセルラーゼである、請求項8に記載の組換え真菌細胞。
【請求項13】
前記異種POIが、酵素、ペプチド、抗体、受容体タンパク質、動物飼料タンパク質、ヒト食品タンパク質、タンパク質生物製剤、治療用タンパク質及び免疫原性タンパク質からなる群から選択される、請求項9に記載の組換え真菌細胞。
【請求項14】
セルラーゼの生産を増強するための方法であって、
(a)セルラーゼを発現する親真菌細胞を取得し、前記親細胞を遺伝子改変して、表1に記載の調節タンパク質と少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の天然調節タンパク質の生産が欠損した組換え真菌細胞を取得することと、
(b)前記組換え細胞を培養することと、を含み、
工程の前記組換え細胞が、同じ条件下で培養された前記親細胞に対して増加した量のセルラーゼを生産する、方法。
【請求項15】
前記組換え細胞が、表10に記載の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質をコードする1つ以上の導入ポリヌクレオチドをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
セルラーゼの生産を増強するための方法であって、
(a)セルラーゼを発現する親真菌細胞を取得し、前記親細胞を遺伝子改変して、表10に記載の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の調節タンパク質を過剰発現するその組換え真菌細胞を取得することと、
(b)前記組換え細胞を培養することと、を含み、
工程の前記組換え細胞が、同じ条件下で培養された前記親細胞に対して増加した量のセルラーゼを生産する、方法。
【請求項17】
前記組換え細胞が、表1の調節タンパク質に対して少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の天然調節タンパク質の生産において前記細胞に欠損させる遺伝子改変をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記セルラーゼが、セロビオヒドロラーゼ、ヘミセルラーゼ、エンドグルカナーゼ及びβ-グルコシダーゼからなる群から選択される、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
目的タンパク質(POI)の生産を増強するための方法であって、
(a)POIをコードする発現カセットを親真菌細胞に導入し、前記親細胞を遺伝子改変して、表1に記載の調節タンパク質と少なくとも80%の同一性を含む1つ以上の天然調節タンパク質の生産が欠損した組換え真菌細胞を取得することと、
(b)前記組換え細胞を培養することと、を含み、
前記組換え細胞が、同じ条件下で培養された前記親細胞に対して増加した量の前記POIを生産する、方法。
【請求項20】
前記POIをコードする前記カセットが、前記POIをコードする下流(3’)核酸に作動可能に連結された上流(5’)セルラーゼ遺伝子プロモーターを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記POIが、酵素、ペプチド、抗体、受容体タンパク質、動物飼料タンパク質、ヒト食品タンパク質、タンパク質生物製剤、治療用タンパク質及び免疫原性タンパク質からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【国際調査報告】