(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】核酸を白金電極に付着させること
(51)【国際特許分類】
G01N 27/327 20060101AFI20241108BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20241108BHJP
G01N 27/333 20060101ALI20241108BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20241108BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20241108BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20241108BHJP
G01N 33/553 20060101ALI20241108BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20241108BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20241108BHJP
C12M 1/42 20060101ALI20241108BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20241108BHJP
【FI】
G01N27/327 ZNA
G01N27/30 B
G01N27/333 331E
G01N27/416 336Z
G01N33/50 P
G01N33/483 F
G01N33/553
G01N37/00 101
G01N35/08 A
C12M1/42
C12Q1/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532328
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(85)【翻訳文提出日】2024-07-29
(86)【国際出願番号】 FR2022052201
(87)【国際公開番号】W WO2023099841
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】321004758
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・サクレー
(71)【出願人】
【識別番号】594016872
【氏名又は名称】サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス)
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100219988
【氏名又は名称】中島 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ガンビー
(72)【発明者】
【氏名】ジェレミー、ル、ギャル
(72)【発明者】
【氏名】ジャミラ、ケシュケシェ
(72)【発明者】
【氏名】クレール、プージュリー
【テーマコード(参考)】
2G045
2G058
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G045DA13
2G045FB05
2G058GA11
4B029AA07
4B029AA23
4B029BB20
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4B063QR32
4B063QR35
4B063QS31
4B063QS40
4B063QX04
(57)【要約】
本発明は、白金電極を核酸に付着させる方法であって、以下の工程、エチレンジアミン分子を電極に付着させる工程(S1)であって、工程(S1)は、サイクリックボルタンメトリーによるエチレンジアミン分子の第1級アミンの電解酸化を含んでなる、工程(S1)、4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸3-スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルのスルホSMCC分子をエチレンジアミン分子に付着させる工程(S2)、核酸をスルホSMCC分子に付着させる工程(S3)であって、核酸が、チオール官能基を含んでなるよう前もって修飾され、工程(S1)、(S2)および(S3)中に、電極が水溶液と、すなわち溶媒が水である溶液と、接触する、工程(S3)を含んでなる、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金電極(5、20)に核酸を付着させる方法であって、以下の工程、
エチレンジアミン分子(22)を前記電極(5,20)に付着させる工程(S1)であって、工程(S1)は、サイクリックボルタンメトリーによる前記エチレンジアミン分子(22)の第1級アミンの電解酸化を含んでなる、工程(S1)、
4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸3-スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルのスルホSMCC分子(26)を前記エチレンジアミン分子(22)に付着させる工程(S2)、
核酸(32)を前記スルホSMCC分子(26)に付着させる工程(S3)であって、前記核酸(32)が、チオール官能基を含んでなるよう前もって修飾され、工程(S1)、(S2)および(S3)中に、前記電極(5,20)が水溶液と、すなわち溶媒が水である溶液と、接触する、工程(S3)、
を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記水溶液が、生理溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電極(5,20)が、マイクロ流体チャネル中に少なくとも部分的に配置されている微小電極である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(S3)の後に、前記電極(5,20)を生理溶液に、20分間~40分間の間配置されている安定化工程(S4)であって、前記溶液が0.4モル~0.6モルからなるNaCl濃度を有する、安定化工程(S4)を含んでなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
標的核酸(36)を検出するための白金電極(20)であって、
前記電極(5,20)に付着したエチレンジアミン分子(22)を含んでなり、4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸3-スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルのスルホSMCC分子(26)を、サイクリックボルタンメトリーによる前記エチレンジアミン分子(22)の第1級アミンの電解酸化により前記エチレンジアミン分子(22)に付着し、プローブ核酸(32)が前記スルホSMCC分子(26)に付着し、前記プローブ核酸(32)がチオール官能基を含んでなり、前記プローブ核酸(32)が前記標的核酸(36)に相補的である、白金電極(20)。
【請求項6】
請求項5に記載の白金電極(5)、対電極(6)および前記白金電極(5)および前記対電極(6)に電気的に接続されている電気測定システムを備える標的核酸を検出する装置(100)。
【請求項7】
前記装置が、マイクロ流体チャネル(4)を更に備え、前記白金電極(5)が微小電極であり、前記白金電極(5)および前記対電極(6)が、前記マイクロ流体チャネル(4)中に少なくとも部分的に位置している、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の複数の装置(100)を備える標的核酸を検出するためのシステム(200)であって、前記システム(200)が、分析される溶液を受け入れるよう構成される入口を備え、前記入口が各装置の各白金電極に接続されている、システム(200)。
【請求項9】
前記複数の装置のうち2つが、2つの異なる標的核酸を検出するよう構成される、請求項8に記載の検出システム(200)。
【請求項10】
分析される溶液中の標的核酸を検出する方法であって、前記方法が、以下の工程、
作用電極を提供する工程(E1)であって、前記作用電極が、請求項5に記載の白金電極である、工程(E1)、
対電極を提供する工程(E2)、
前記作用電極および前記対電極との間の作用電圧を維持するよう前記作用電極および前記対電極を電気的に電圧を加える工程(E3)、
前記作用電極および前記対電極を分析される溶液と接触させる工程(E4)、
前記作用電極および前記対電極の間の測定された電流強度を決定する工程(E5)、
前記測定された強度に基づいて分析される前記溶液中の標的核酸の存在を決定する工程(E6)、
を含んでなる、方法。
【請求項11】
以下のサブ工程、
異なる濃度の標的核酸を有する2つの基準溶液を供給する第1のサブ工程(SE1)、
各基準溶液について前記作用電極および前記対電極の間の基準強度を測定する、第2のサブ工程(SE2)であって、前記電極が、前記基準溶液と接触し、前記電極が、前記作用電極および前記対電極の間の前記作用電圧を維持するよう電圧を加えられる、第2のサブ工程(SE2)、
分析される溶液の標的核酸濃度の関数としての前記作用電極および前記対電極間の電流強度の対応関係を決定する第3のサブ工程(SE3)、
を含んでなるこう正工程を更に含んでなり、
前記方法が、前記対応関係を使用して前記測定された強度から前記分析される溶液中の標的核酸濃度を決定する工程を含んでなる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記標的核酸が、病原体の核酸断片である、請求項10または11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸を白金電極に付着すること、特に水溶液中で核酸を白金微小電極に付着することに関する。
【0002】
本発明はまた、白金電極に関し、したがって、官能基化し、標的核酸の検出用のこのような電極の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
電気化学的技術による遺伝子検出は既知である。これらの技術では概して、自己組織化単層(SAMとしても知られる)を付着させた金電極を使用する。この単層の付着には、従来はチオール官能基を使用し、その理由は、チオール官能基は電極の金と強い親和性を有する硫黄原子を含んでなるからである。このような自己組織化単層の安定性は、化学的脱着プロセスのため充分ではないことが知られている。これは主に、約85kcal/molの強い炭素-炭素「C-C」型共有結合と比較して結合エネルギー~40kcal/molが非常に弱い金-硫黄「Au-S」結合の弱い性質のためである。更に、Au-S結合は、酸化(酸化度の変化)を受けやすい、または金電極が分極した場合影響を受けやすいことにより影響されてもよい。更に、水溶液中での金酸化プロセスは非常に速く、水溶液中で使用したこのような電極の安定性が減少する傾向にある。
【0004】
したがって、電極安定性が良好な電気化学的検出装置の必要性がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、先行技術と比較して電極の安定性が良好な電気化学的検出装置を提案することである。
【0006】
この目的は、核酸を白金電極に付着させる方法であって、以下の工程、
エチレンジアミン分子を電極に付着させる工程(S1)であって、工程(S1)は、サイクリックボルタンメトリーによるエチレンジアミン分子の第1級アミンの電解酸化を含んでなる、工程(S1)、
4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸3-スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルのスルホSMCC分子をエチレンジアミン分子に付着させる工程(S2)、
核酸をスルホSMCC分子に付着させる工程(S3)であって、核酸が、チオール官能基を含んでなるよう前もって修飾され、工程(S1)、(S2)および(S3)中に、電極が水溶液と、すなわち溶媒が水である溶液と、接触する、工程(S3)を含んでなる、方法によって、本発明の文脈で達成される。
【0007】
この方法により、白金電極を官能基化することが可能になる、すなわち電極中の材料が金より優れた電気化学的安定性を有する。このような電極に基づく電気化学的検出装置は、上述した問題を解決する。
【0008】
このような方法は、有利にはおよび任意で、以下の異なる特性を単独でまたは組み合わせて取り込むことにより補充される:
水溶液は、生理溶液であり;
電極は、マイクロ流体チャネル中に少なくとも部分的に配置された微小電極であり;
工程(S3)の後に、電極を生理溶液に、20分間~40分間の間配置されている安定化工程(S4)であって、溶液が0.4モル~0.6モルからなるNaCl濃度を有する、安定化工程(S4)。
【0009】
本発明はまた、電極に付着したエチレンジアミン分子を含んでなり、4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸3-スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルのスルホSMCC分子を、サイクリックボルタンメトリーによるエチレンジアミン分子の第1級アミンの電解酸化によりエチレンジアミン分子に付着し、プローブ核酸がスルホSMCC分子に付着し、プローブ核酸がチオール官能基を含んでなり、プローブ核酸が標的核酸に相補的である、標的核酸を検出するための白金電極に関する。
【0010】
本発明は更に、上述の白金電極、対電極並びに白金電極および対電極に電気的に接続されている電気測定システムを備える標的核酸を検出する装置に関する。
【0011】
このような装置は、有利にはおよび任意で、マイクロ流体チャネルによって補充され、白金電極が微小電極であり、白金電極および対電極が、マイクロ流体チャネル中に少なくとも部分的に位置している。
【0012】
本発明はまた、上で提示した複数の装置を備える標的核酸を検出するためのシステムであって、システムは、分析される溶液を受け取るよう構成される入口を備え、入口は、各装置の各白金電極に接続される、システムに関する。
【0013】
このようなシステムは、有利にはおよび任意で、複数の装置のうち2つが、2つの異なる標的核酸を検出するよう構成されてもよい。
【0014】
最後に、本発明は、分析される溶液中の標的核酸を検出する方法であって、方法が、以下の工程、
作用電極を提供する工程(E1)であって、作用電極が、上に提示した白金電極である、工程(E1)、
対電極を提供する工程(E2)、
作用電極および対電極の間の作用電圧を維持するよう作用電極および対電極に電気的に電圧を加える工程(E3)、
作用電極および対電極を分析される溶液と接触させる工程(E4)、
作用電極および対電極の間の測定された電流強度を決定する工程(E5)、
測定された強度に基づいて分析される溶液中の標的核酸の存在を決定する工程(E6)を含んでなる、
方法に関する。
【0015】
この方法は、有利にはおよび任意で、
以下のサブ工程、
異なる濃度の標的核酸を有する2つの基準溶液を供給する第1のサブ工程(SE1)、
各基準溶液について作用電極および対電極の間の基準強度を測定する、第2のサブ工程(SE2)であって、電極が、基準溶液と接触し、電極が、作用電極および対電極の間の作用電圧を維持するよう電気的に電圧を加える、第2のサブ工程(SE2)、
結果として作用電極および対電極の間の電流強度の、分析される溶液中の標的核酸濃度との対応関係を決定する第3のサブ工程(SE3)
を含んでなるこう正(calibration)工程を含んでなり、
方法は、対応関係を使用して測定された強度から分析される溶液中の標的核酸濃度を決定する工程を含んでなり、
標的核酸は、病原体の核酸断片である、ことによる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の他の特徴および利点は、以下の説明から明らかになり、説明は、単なる例示であり、限定するものではなく、添付の図面を参照して読む必要がある。
【
図1】
図1~3は、本発明の一実施形態による電極上に核酸を付着させる方法の工程の模式図である。
【
図2】
図1~3は、本発明の一実施形態による電極上に核酸を付着させる方法の工程の模式図である。
【
図3】
図1~3は、本発明の一実施形態による電極上に核酸を付着させる方法の工程の模式図である。
【
図4】
図4は、標的核酸のハイブリダイゼーション反応の模式図である。
【
図5】
図5は、標的核酸の検出用の電気化学的測定の模式図である。
【
図8】
図8~9は、標的核酸の検出用の電気化学的測定の模式図である。
【
図9】
図8~9は、標的核酸の検出用の電気化学的測定の模式図である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施形態による標的核酸検出システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
核酸を白金電極に付着させる方法
核酸を白金電極に付着させる、本発明の一実施形態に記載の方法を、
図1、2および3と関連して提示する。
【0018】
最初に白金電極20を提供する。白金電極は、この説明の文言では「作用電極」とも呼ばれる。任意の予備工程では、この電極を、表面状態および電気化学的特性を評価するよう特徴づけることができる。
【0019】
この目的で、2種類の測定、具体的にはサイクリックボルタンメトリー測定およびクロノアンペロメトリー測定を実装することができる。
【0020】
これら2つの測定値では、白金電極20を対電極の近くに配置し、鉄(III)イオン、例えばフェリシアン化カリウムを含んでなる液体を白金電極20および対電極と接触させる。例えば、フェリシアン化カリウムの水溶液を使用することができる。フェリシアン化カリウムを含んでなる溶液はまた、フェロシアン化イオン、Fe(II)も含んでなり、フェリシアン化/フェロシアン化混合物は等モルであっても(1/1)なくてもよい。フェリシアン化カリウムを含んでなる溶液の濃度は、3ミリモル/リットル以上および30ミリモル/リットル以下、例えば、20ミリモル/リットルに等しい濃度から選択される。鉄(III)イオンを含んでなる溶液は、0.1μL/秒以上および1μL/秒以下、好ましくは0.5μL/秒に等しい選択された流量で電極上を流れることができる。
【0021】
水溶液は、溶媒が水である溶液、すなわち溶液の大部分の成分が水である溶液として定義される。イオンがイオン電導率を確実にする塩は一般に、この溶液に溶解する。この集合体(溶液+塩)は概して、支持電解質と呼ばれる。
【0022】
白金作用電極20および対電極の間に電圧を印加し、それらの間の電流を測定する。
【0023】
サイクリックボルタンメトリーは、10ミリボルト/秒の走査速度で-200ミリボルト~+200ミリボルトの電圧を走査し、走査中に電流を測定する。
【0024】
クロノアンペロメトリーは、電圧を一定に、例えば-200mVoltに維持すること、および例えば2分間継続する、監視期間中に電極間の電流を測定することからなる。
【0025】
電気化学インピーダンススペクトロスコピー(EIS)測定を、定電圧モード(PEISと略される「定電圧電気化学インピーダンススペクトロスコピー」としても知られる)または定電流モード(GEISと略される「定電流電気化学インピーダンススペクトロスコピー」としても知られる)で実行することができることに留意されたい。典型的には、PEIS測定は、走査周波数1.0MHz~100mHzで実施して、電極の電気化学的特性を評価する。その際、白金電極および対電極間にゼロの電位差を連続的に印加し、同じく交流電圧10ミリボルトを連続的に印加し、交流電圧は、1.0MHz~100mHzの周波数で走査される。
【0026】
工程S1では、
図1に示すように、エチレンジアミンの分子(以下ではEDAと略す)22を電極20に付着させる。ある濃度のEDAを有する水溶液を白金電極20と接触させる。特に、水溶液は、生理溶液であることができる。
【0027】
生理溶液は、0.4モル/リットル以上および0.6モル/リットル以下、例えば0.5モル/リットルの濃度の塩化ナトリウム濃度を有する水溶液として定義される。
【0028】
EDA濃度は、1ミリモル/リットル以上および10ミリモル/リットル以下、例えば2ミリモル/リットルの濃度であってもよい。
【0029】
付着中は、EDA分子の第1級アミンNH2が白金と反応して白金+EDA生成物24を形成する。
【0030】
この付着反応は、EDA分子の第1級アミンの電解酸化を含んでなり、この電解酸化は、サイクリックボルタンメトリーにより監視される。電圧は、数サイクル、例えば10サイクル、0ボルト~+1200mVoltまで、掃引することができる。
【0031】
電解酸化は、電極の面上の特定の化学基を酸化または還元する電気化学的反応の結果、有機分子の層を共有結合的にグラフトすることからなる。ここで、白金電極の第1級アミンを電解酸化すると、エチレンジアミンのエレクトログラフトを行うことが可能となる。このように、共有結合は、エチレンジアミンの窒素および白金電極の面との間に作製される。
【0032】
工程S1の間に数個のEDA分子を電極20に付着させることができ、その結果電極の面上にEDA分子の自己組織化層が形成される。
【0033】
工程S1の最後に、白金+EDA電極24を特徴づける工程を実施することができ、前述した測定、サイクリックボルタンメトリーおよび/またはクロノアンペロメトリーのうちの1つを使用する。
【0034】
工程S2では、
図2に示すように、4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸3-スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルのスルホSMCC分子26を白金電極20に以前付着させたエチレンジアミン分子22に付着にさせる。
【0035】
より正確には、スルホSMCC分子26をEDA分子22の遠位端に付着させ、この遠位端は、白金電極20に付着するEDA分子の近位端と反対側である。
【0036】
スルホSMCC分子26は、N-ヒドロキシスクシンイミド官能基(一般に「NHS」と略される)を有し、この官能基は、白金+EDA+スルホSMCC28生成物を形成するように、EDA分子の第2のアミンと反応する。EDA分子の第2のアミンは、遠位端を成す。
【0037】
この工程S2では、ある濃度のスルホSMCC分子を有する水溶液を白金+EDA電極24と接触させる。特に、水溶液は、生理溶液であることができる。
【0038】
SMCCスルホ分子の濃度は、1ミリモル/リットル以上および100ミリモル/リットル以下、例えば10ミリモル/リットルの濃度であってもよい。
【0039】
この付着反応は、特にpH7.5以上および9以下で45分間以上および1時間15分間以下、好ましくは1時間に等しい期間、静的に実行することができる。本明細書の静的反応とは、スルホSMCC分子を含んでなるある量の溶液、単一ブロックおよび一定量を白金電極と接触させることを意味する。特に、白金電極上を流れる溶液の流れはない。
【0040】
工程S2では、いくつかのスルホSMCC分子は、電極20に付着したEDA分子と各々付着することができる。前述のEDA分子の自己組織化単層は、スルホSMCC分子と共に完成する。
【0041】
電極上に付着したEDA+スルホSMCC集合体は、
図2で30と参照されるリンカーと称される。
【0042】
工程S2の最後に、白金+EDA+スルホSMCC28電極を特徴づける工程を実施することができ、前述した測定、サイクリックボルタンメトリーおよび/またはクロノアンペロメトリーおよび/又PEISはのうちの1つを使用する。
【0043】
図3に示す工程S3では、EDA分子22を介して白金電極20と以前に付着させたスルホSMCC分子26に、核酸32を付着させる。
【0044】
より具体的には、核酸32をスルホSMCC分子26の近位端と反対側のスルホSMCC分子26の遠位端に付着させ、スルホSMCC分子26の近位端はEDA分子22の遠位端に付着する。
【0045】
核酸32は、一方の単部にチオール官能基、すなわち硫黄原子Sおよび水素原子Hを含んでなる-SH官能基を含んでなるよう前もって修飾される。核酸をスルホSMCC分子26に、より正確には、スルホSMCC分子26のマレイミド官能基に付着させるのは、チオール官能基である。
【0046】
この工程S3では、核酸濃度を有する水溶液を白金+EDA+スルホSMCC電極28と接触させる。特に、水溶液は、生理溶液であることができる。
【0047】
核酸分子の濃度は、0.1マイクロモル/リットル以上および10マイクロモル/リットル以下、例えば1マイクロモル/リットルの濃度であってもよい。
【0048】
工程S3のこの付着反応は特に、1時間45分間以上および2時間15分間以下、好ましくは2時間に等しい期間にわたり静的に実行することができる。
【0049】
一度核酸32が「リンカー」30に付着すると、白金+EDA+スルホSMCC+核酸生成物34が形成される。
【0050】
工程S3の付着反応は特に、静的に、すなわち核酸溶液の流れなしに、または準静的に、すなわちほとんどゼロ、例えば0.01μL/s以上および0.05μL/s以下の流量で実行することができる。
【0051】
工程S3の間に、EDA分子22を介して白金電極20と付着させたスルホSMCC分子26に、いくつかの核酸を付着させることができる。前述したスルホSMCC分子を補充したEDA分子の自己組織化単層に、次いで核酸を補充する。
【0052】
工程S3の後に、安定化工程S4を任意で実施することができる。この工程S4の間に、電極を生理溶液中に、20分間~40分間、理想的には30分間配置する。
【0053】
工程S3の最後に、また適当な場合には工程S4で、白金+EDA+スルホSMCC+核酸電極34を特徴づける工程を実施することができ、前述した測定、サイクリックボルタンメトリーおよび/またはクロノアンペロメトリーおよび/又PEISはのうちの1つを使用する。
【0054】
核酸を提示された白金電極に付着させる方法では、「リンカー」を白金電極に付着することを使用し、核酸をチオール官能基を介して付着させることができる。
【0055】
核酸を白金電極に直接付着させるためにチオール官能基を使用しても充分ではなく、白金およびこの官能基の間の親和性は低い。
【0056】
本明細書に記載される方法の工程全てを水溶液中で実行し、これにより核酸を取り扱い、核酸を電極に付着させることができる。特に、有機溶媒を使用しない、このような溶媒は核酸を分解することができ、核酸が白金電極に付着するのを妨害することができる。
【0057】
標的核酸を検出するための白金電極
標的核酸の検出では、標的核酸に相補的プローブ核酸のストランドを付着させる白金電極を使用することが可能である。
【0058】
この目的のために、本発明の目的はまた、電極に付着したエチレンジアミン分子22、エチレンジアミン分子22に付着した4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸3-スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルのスルホSMCC分子26、プローブ核酸32がスルホSMCC分子26に付着され、プローブ核酸32がチオール官能基を含んでなり、プローブ核酸32が標的核酸36に相補的である、白金電極でもある。
【0059】
このような電極は、付着した核酸が標的核酸36に相補的なプローブ核酸である場合に以前提示された核酸付着方法により作製することができる。
【0060】
白金電極は特に、微小電極であってもよい。
【0061】
微小電極は、寸法が少なくとも1000μm以下である電極として本明細書で定義される。
【0062】
上述した付着方法は、色々な種類の白金電極、特に微小電極で実施することができる。
【0063】
微小電極は、フォトリソグラフィーによって作製することができる。
【0064】
特に、白金は、クリーンルームでの堆積およびリソグラフィー工程後に得られるトラックの形態でガラス基材上に堆積させることができる。電極は、この白金トラックからなる。
【0065】
微小電極は、第1の方向にある長さおよび第1の方向とは垂直の第2の方向にある幅を有する。
【0066】
作用微小電極の寸法は、例えば幅30μmおよび長さ300μmであってもよい。
【0067】
添付の方法と組み合わせて前述した電極特徴付け工程では、対電極を白金電極の近くに配置することができる。この対電極は、クリーンルームでのリソグラフィーによりガラス基材上に堆積することにより白金電極と同時に製造することができる。
【0068】
対電極の寸法は、作用電極の寸法よりも大きく、例えば幅2000μmおよび長さ300μmに選択される。このような寸法によりその後対電極を微小電極にする。
【0069】
このような微小電極を少なくとも部分的にマイクロ流体チャネル中に配置することができる。
【0070】
マイクロ流体チャネルは、流体の流れを可能にし、流体の一般的な流れ方向を横切る平面に寸法を有し、この寸法は、100μm以上および500μm以下である。
【0071】
チャネルは、流体の一般的な流れ方向を横切る平面に、電極の平面の幅および電極に平面に垂直の高さを有する。
【0072】
核酸を少なくとも部分的にマイクロ流体チャネル中に配置した微小電極上に付着させる方法の工程全てを実施することが可能である。
【0073】
好ましくは、チャネルを、流れ方向が電極の長さと垂直になるように微小電極上に配置する。電極の長さがマイクロ流体チャネルの幅よりも大きい場合、電極の有効長さ、すなわちチャネル中を輸送される液体によって見られる長さは、チャネルの幅によって固定される。例えばチャネル幅300μmでは、作用電極の有効長さは幅30μmに対して300μmであり、対電極の有効長さは、幅2000μmに対して300μmである。
【0074】
より正確には、付着方法の工程全てを水溶液中で実行するという事実から、マイクロ流体チャネル中で処理することが可能になる。特に、有機溶媒を使用せず、もし使用すればマイクロ流体チャネル中での処理が妨げられ、後者の構造および液体供給に不可欠な接続は有機溶媒によって損なわれるおそれがある。
【0075】
マイクロ流体チャネルでの処理を行うと、制御可能な流動様式で処理することができ、特に対流を制御することができる。このことは、電極への拡散時間を低減することにより特定の反応をより迅速に得られるという利点を有する(電極の面上に作製された拡散層の厚さで起こる)。チャネルを流れる液体中に存在する標的核酸は、電極の面とより迅速に衝突し、白金電極に付着したプローブ核酸とハイブリダイゼーション反応を開始する。
【0076】
微小電極をマイクロ流体チャネルに少なくとも部分的に配置するために、マイクロ流体チャネルをPDMS樹脂中に、例えばPDMS樹脂部品の面上に開いた溝の形態で製造することができる。溝は、マイクロ流体チャネルの延長方向に延びる。
【0077】
この延長方向に垂直な平面では、溝は長方形部分を有することができる。この場合、溝は開いているので、PDMS樹脂は、長方形部分の長方形の3つの側面のみを画定する。
【0078】
ついでPDMS樹脂を、微小電極を搭載する基材、例えばガラス基材と結合させ、その結果基材はマイクロ流体チャネルと近接する。
【0079】
溝が長方形部分を有する場合、マイクロ流体チャネルは、3つの側面がPDMSにより形成され、残りの側面が基材により形成される長方形部分を有する。
【0080】
PDMS樹脂は、電極トラックがマイクロ流体チャネル内に部分的に存在するように位置を調整される。
【0081】
PMMA、PMP、PVDF、COC、PET、またはブロック共重合体などの、PDMS以外のポリマー材料を、マイクロ流体チャネル用に使用することができる。
【0082】
ガラス上への化学エッチング、成形、エンボス加工、または3-D印刷などの他の製造技術を使用して微小チャネルを製造することができる。
【0083】
上述の方法の異なる工程を実行するよう、試薬を提供する異なる溶液をマイクロ流体チャネルに挿入することができる。
【0084】
電極特徴付け工程では、予め対電極を白金電極に近接したマイクロ流体チャネルに配置することができる。
【0085】
標的核酸を検出するための装置
上で提示された標的核酸を検出するための白金電極は特に、標的核酸を検出するための装置中に設けられてもよく、この装置は更に、対電極並びに白金電極および対電極と電気的に接続された電気測定システムを備える。
【0086】
プローブ核酸が付着した白金電極を以下作用電極と呼ぶ。
【0087】
対電極と作用電極の間に電位差を印加し、それらの間の電流を測定することができるように、対電極を作用電極に充分に近接して配置する。
【0088】
この目的のために、装置は、電極間に電位差を印加し、この電位差を測定し、電極間の電流を測定するよう構成された電気測定システムを備える。
【0089】
装置は、分析される溶液を作用電極および対電極に同時に接触させることができるように構成される。
【0090】
図4に示すように、分析される溶液が標的核酸を含有する場合、標的核酸およびプローブ核酸の間のハイブリダイゼーション反応が作用電極上で起こる。
【0091】
作用電極は、
図4に示すように、官能基化集合体34白金+EDA+スルホSMCC+核酸電極を備える。この官能基化集合体34は、標的核酸36と相補的なプローブ核酸を含んでなる。
【0092】
官能基化集合体34が標的核酸36を含有する溶液と接触する場合、ハイブリダイゼーション反応が起こる。標的核酸36、および官能基化集合体34のプローブ核酸32がハイブリダイズする。
【0093】
このように、ハイブリッド38「プローブ核酸32+標的核酸36」が白金電極上に出現する。電極の電気化学的特性がこのハイブリダイゼーションにより変更され、その結果標的核酸36の存在を検出することができる。
【0094】
白金電極が複数のプローブ核酸を含んでなる場合、標的核酸36が存在すると1つまたは複数のハイブリッド38「プローブ核酸32+標的核酸36」が白金電極上に作製される。ハイブリダイゼーションを受けたい他のプローブ核酸は、ハイブリダイズしない基40のままである。電極の電気化学的特性は、ハイブリッド38およびハイブリダイズしない基40の割合に応じて、ハイブリダイゼーションにより変更される。これらの変更により、分析される溶液中の標的核酸の濃度を推定することが可能になる。
【0095】
このハイブリダイゼーション反応は好ましくは15分間以上および1時間以下、好ましくは30分間に等しい期間にわたり静的に実行される。
【0096】
電極の電気化学的特性の変更は、電気測定システムにより実証することができる。
【0097】
【0098】
グラフは、前述した標的核酸の検出用の白金電極を使用して実験に基づいて得られた。より正確には、それは、スルホSMCC分子を補充したEDA分子の自己組織化単層を有する電極および標的核酸と相補的なプローブ核酸である。
【0099】
電極は、記載される検出装置に使用される、すなわち対電極並びに白金電極および対電極に電気的に接続された電気測定システムを更に備える。
【0100】
それぞれ10-18、10-16、10-14、10-12、10-10、10-8および10-6モル/リットルに等しい標的核酸の濃度を有する異なる基準溶液を使用した。
【0101】
標的核酸を含んでならない中性の基準溶液も使用した。
【0102】
各溶液について、以下の電気化学的測定を実施した:電位差(VT-VCE)は、作用電極の電位差VTおよび対電極の電位差VCEの間で変動し、これらの電極間の電界強度を測定する。
【0103】
電位差(VT-VCE)を
図5の横座標軸に対してプロットし、電界強度を縦座標軸にプロットする。
【0104】
電位差(VT-VCE)を-200ミリボルト~+200ミリボルトで掃引する。
【0105】
最初に、電極を基準溶液と接触させて上述および曲線50によって示される電気化学的測定を実行する。
【0106】
【0107】
ついで、同じ装置で、他の基準溶液を使用する他の電気化学的測定を実施する。
【0108】
それぞれの曲線52、54、56、58、60、62および64は、基準溶液がそれぞれ10-18、10-16、10-14、10-12、10-10、10-8および10-6モル/リットルと等しい濃度の標的核酸を有する場合を表す。
【0109】
各電気化学的測定の後、電極を生理溶液、すなわち中性の基準溶液ですすぐ。
【0110】
作用電極の面が必要に応じて一方ではSAMによって修飾されており、他方ではプローブおよび標的核酸によって修飾されているのを確実にするために、Fe(II)/Fe(III)による測定を実行する。
【0111】
電極を生理溶液で再度すすぎ、ゼロではない標的核酸濃度を有する新しい基準溶液で電気化学的測定を実行する。
【0112】
基準溶液の核酸濃度が増加する順序で測定を実行することに注意する必要がある。
【0113】
各測定の間に2つの電極の組(作用電極および対電極)を変更することも可能である。
【0114】
曲線52、54、56、58、60および62も
図5の直線状曲線に類似して見え、この曲線の勾配は、標的核酸の濃度が増加するにつれてますます低くなる。換言すれば、電極の電気化学的特性は、標的核酸の存在下で変更され、変更は、標的核酸濃度が高くなるにつれはるかに顕著になる。
【0115】
以前提示された標的核酸を検出する装置では、装置の電極と接触する溶液中の核酸の有無を検出することが可能になる。
【0116】
この実験は、コードRNA標的(E,N,RdRp)を検出するためのプローブDNA配列、および陰性対照配列で実行した。表1は、使用した色々な配列を示す。
【0117】
【0118】
任意で、この装置は、マイクロ流体チャネルを更に備え、白金電極および対電極が微小電極であり、白金電極および対電極が、マイクロ流体チャネル中に少なくとも部分的に位置している。
【0119】
装置は、動作中に流体がマイクロ流体チャネルを流れ、作用電極および対電極に接触させることができるように構成される。
【0120】
図6は、標的核酸を検出するための装置100の例を模式的に示す。
【0121】
装置100は、作用トラック2および基準トラック3を含んでなる、2つの金属トラック2および3の形態で白金が堆積したガラス基材1を備える。この堆積は特に、前述した堆積工程およびクリーンルームでのリソグラフィーにより実行することができる。
【0122】
この作用トラック2は、作用電極5と呼ばれる金属製終端を有する。プローブ核酸が付着するのはこの作用電極5である。
【0123】
基準トラック3は、対電極6と呼ばれる金属製終端を有する。
【0124】
作用電極5および対電極6は、
図6の区域Aの拡大図である
図7に見える。
【0125】
長方形部分のマイクロ流体チャネル4は、PDMS樹脂をガラス基材1に結合することによって形成される。マイクロ流体チャネル4は、金属トラック2および3の金属終端の一部を組み込むように、基材に対して配置される。
【0126】
マイクロ流体チャネル4、作用電極5および対電極6の寸法は、作用電極5の一部のみおよび対電極6の一部のみがマイクロ流体チャネル中に含まれてなるように調整される。
【0127】
更に、チャネル4中の対電極6の面は、チャネル4中の作用電極5の面よりずっと大きい。これにより、対電極6を対電極としてだけでなく、偽の基準としても使用することができる。
【0128】
マイクロ流体チャネル4は、入口7および出口8を有する。入口7から導入された流体は、マイクロチャネル4を通って出口8に至る。この横断中に、流体は作用電極5および対電極6と接触する。流体は金属トラック2および3の残りの部分とは接触しない。
【0129】
この装置100は、電極間に電位差を印加し、この電位差を測定し、電極間の電流を測定するよう構成された電気測定システムを備える。
電気測定システムは特に、以下の要素から作製されてもよい。
-定電位型で、定電位計からなる装置9であって、装置9は、3つの出口、すなわち作用出口10、基準出口11および対電極出口12を有する、装置9、
-作用出口10を金属トラック2に接続する作用コネクタ13、
-基準出口11および対電極出口12を基準トラック3に接続する基準コネクタ14。
【0130】
複数の検出装置を備える検出システム
本発明の別の目的は、たった今提示した複数の核酸検出装置を備える標的核酸検出システムである。
【0131】
システムは、分析される溶液を受け入れるよう構成された入口を備え、この入口は、各装置の各白金電極に接続される。換言すれば、システムの入口に導入される分析される溶液は、各装置に入り、作用電極および対電極と接触するまで、システム中を移動する。
【0132】
この装置は好ましくは並列に配置される、すなわちシステムの入口が各装置の各白金電極に直接接続される。システムの入口に導入される分析される溶液は、各装置に同時に入り、作用電極および対電極と接触するまで、システム中を移動する。
【0133】
検出システムにより、いくつかの測定を同時に実行することが可能になる。例えば、各検出器は、同一の核酸を検出するよう構成されることができる。分析される溶液を導入すると、検出測定を実行することができ、または数回核酸濃度を測定することさえできる。このような検出システムにより、精度の高い測定値を得ることが可能になる。
【0134】
図10は、8つの検出用装置42を備える検出システム200の例を模式的に示す。各検出装置は、液体入口47および流体出口48を備える。入口47は各々、システム入口に直接接続して、並列配置になることができる。本明細書の各検出装置は、2組の50、52「作用電極および対電極」を備える。各電極は、電極を電気測定システムに電気的に接続することを可能にする電気接続区域46に接続される。
【0135】
検出システムは有利には、2つの異なる標的核酸を検出するよう構成された2つの装置を備えてもよい。この場合、検出システムにより、異なる核酸に関する測定を同時に実行することが可能になる。
【0136】
特に、システムの各装置は、他の装置が検出するよう構成された核酸とは異なる標的核酸を検出するよう構成されてもよい。この場合、検出システムにより、システムに存在する装置と同じくらい多い異なる核酸に関する測定を同時に実行することが可能になる。
【0137】
標的核酸を検出する方法
本発明の別の目的は、分析される溶液中の標的核酸を検出する方法であって、以下の工程、
作用電極を提供する工程(E1)であって、作用電極が、以前に提示した核酸を検出するための白金電極である、工程(E1)、
対電極を提供する工程E2、
作用電極および対電極との間の作用電圧を維持するよう作用電極および対電極を電気的に電圧を加える工程E3、
作用電極および対電極を分析される溶液と接触させる工程E4、
作用電極および対電極の間の測定された電流強度を決定する工程E5、
測定された強度に基づいて分析される溶液中の標的核酸の存在を決定する工程E6、を含んでなる、
方法である。
【0138】
検出方法の工程E1およびE2は、前述の標的核酸を検出するための装置を提供することにより実施することができる。
【0139】
工程E3は、電極間に電位差を印加し、この電位差を測定し、電極間の電流を測定するよう構成された電気測定システムを使用して実施することができる。
【0140】
典型的には、作用電極の電位差VTおよび対電極の電位差VCEの間の電位差(VT-VCE)は、-250ミリボルト以上および+250ミリボルト以下、好ましくは-250ミリボルト以上および-150ミリボルト以下、好ましくは-220ミリボルト以上および-180ミリボルト以下、好ましくは-200ミリボルトに等しい電位差から選択されることができる。
【0141】
作用電極および対電極を分析される溶液と接触させる工程E4は、静的にまたは動的に実行することができる。
【0142】
静的様式では、電極が溶液と電気的に接触するように、単一ブロックおよび一定量の溶液を電極と接触させる。
【0143】
動的には、電極が溶液の流れと電気的に接触するように、分析される溶液の連続流を電極と接触させて流す。この動的実施は特に、マイクロ流体チャネルを備える場合核酸を検出するための装置によって実行することができる。分析される溶液の流れは、チャネルを通過し、電極と接触することができる。典型的には、溶液の流れは、0.1μL/秒以上および1μL/秒以下、好ましくは0.5μL/秒に等しい選択された値でマイクロ流体チャネル中に生成することができる。
【0144】
全ての場合において、分析される溶液との接触は、分析される溶液による電極間の電気的接触を生じるよう適合される。
【0145】
分析される溶液は、水溶液であり、特に生理溶液であることができる。
【0146】
図4に関連して以前に提示したように、工程E4中に、分析される溶液が標的核酸を含有する場合、標的核酸およびプローブ核酸の間のハイブリダイゼーション反応が作用電極上で起こる。
【0147】
電極の電気化学的特性がこのハイブリダイゼーションにより変更され、その結果分析される溶液中の標的核酸36の存在を検出することができる。
【0148】
分析される溶液中による電極間の電気的接触が生じるように、作用電極および対電極が分析される溶液と接触する場合、工程E5が起こる。
【0149】
作用電極および対電極の間の測定された電流強度を決定する工程E5は、電気測定システムを使用して実施することができる。
【0150】
工程E5は特に、クロノアンペロメトリー測定により実施することができる。
図8は、クロノアンペロメトリー測定の例を示す。
【0151】
図8に示すグラフは、作用電極の電位差VTおよび対電極の電位差VCEの間の電位差(VT-VCE)を-200ミリボルトに設定し、これらの電極間の電界強度を経時的に測定することにより、異なる基準溶液で実験的に得られた。
【0152】
電極間の電界強度を、縦軸に対してプロットし、横軸は時間に対応する。
【0153】
曲線84は、分析される溶液が核酸を含んでならない基準溶液である場合を表す。
【0154】
曲線84の測定は、他のものより前に実行された。
【0155】
それぞれの曲線82、80、78、76、74、72および70は、基準溶液がそれぞれ10-18、10-16、10-14、10-12、10-10、10-8および10-6モル/リットルと等しい濃度の標的核酸を有する場合を表す。
【0156】
各電気化学的測定の後、電極を生理溶液、すなわち中性の基準溶液ですすぐ。基準溶液の核酸濃度が増加する順序で測定を実行することに注意する必要がある。
【0157】
図8は、測定強度の経時的な平均値により、異なる濃度の標的核酸を区別することができる、平均値が高いほど、濃度が高いことを示す。
【0158】
分析される溶液中の標的核酸の存在を決定する工程E6は、標的核酸を含有しない基準溶液について以前測定した基準強度またはプローブ強度に対して測定された強度を比較することによって実行することができる。測定された強度がプローブ強度と有意に異なる場合、標的核酸は分析される溶液中に存在する。有意な差とは、特定の閾値を超える差である。この閾値は、この種類の統計による尺度から評価することができ、標準偏差およびバックグラウンドノイズの評価を可能にする。閾値は例えば、1つの標準偏差またはいくつかの標準偏差、3つの例えば標準偏差と等しく選択されることができる。
【0159】
任意で、方法は、以下のサブ工程、
異なる濃度の標的核酸を有する2つの基準溶液を供給する第1のサブ工程SE1、
各基準溶液について作用電極および対電極の間の基準強度を測定する、第2のサブ工程SE2であって、電極が、基準溶液と接触し、電極が、作用電極および対電極の間の作用電圧を維持するよう電圧を加えられる、第2のサブ工程SE2、
分析される溶液の標的核酸濃度の関数としての作用電極および対電極間の電流強度の対応関係を決定する第3のサブ工程SE3、
を含んでなるこう正工程を更に含んでなり、
方法が、対応関係を使用して測定された強度から分析される溶液中の標的核酸濃度を決定する工程を含んでなる。
【0160】
第1のサブ工程SE1中に、異なる既知の濃度の標的核酸を有する2つの基準溶液を提供する。好ましくは、2超を表す数の基準溶液を提供し、この数が多いほど、こう正は良好になる。
【0161】
例えば、基準溶液は、10-18、10-16、10-14、10-12、10-10、10-8および10-6モル/リットルに等しい標的核酸濃度を有してもよい。
【0162】
第2のサブ工程SE2中、作用電極および対電極の間に電気的接触を生じさせるように、各基準溶液を連続的に使用して、作用電極および対電極を接触させる。
【0163】
作用電極および対電極の間に、例えば-200ミリボルトの作用電圧を維持するように、電極に電圧を加える。
【0164】
標的核酸検出方法の工程E5に関しては、電極間の強度を測定する。この強度は、核酸濃度が既知の基準溶液の1つについて決定されるので、基準強度と呼ばれる。
【0165】
決定は特に、クロノアンペロメトリーによって経時的に得られる平均強度の計算を含んでなる。
【0166】
前述した
図8は、8つの基準強度の決定に対応し、各々は既知の核酸濃度に関連する。
【0167】
第3のサブ工程SE3中、電流強度および核酸濃度の間の対応関係を決定する。
【0168】
この対応関係により、少なくとも特定範囲の強度および特定範囲の濃度にわたり、電流強度で核酸濃度を、および逆に核酸濃度で電流強度を関連付けることが可能になる。
【0169】
この対応関係は、例えば核酸濃度の関数として基準強度の線形回帰を実行することにより決定することができる。
【0170】
図9は、線形回帰を行う前に相対強度を決定する別の可能な対応関係を示す。
【0171】
この相対強度は、核酸を含有しない基準溶液についての基準強度として規定されるプローブ強度から構成される。
【0172】
相対強度は、基準強度およびプローブ強度の間の差の比率の絶対値として規定される。
【0173】
図8に関連する実験からの実験値を使用して
図9の点を描く。
【0174】
これらの点の線形回帰を実行して調整曲線90を得る。
【0175】
核酸濃度の関数としての相対強度をモデル化する調整曲線は、求められる通り対応関係を構成する。
【0176】
電流強度および核酸濃度の対応関係を得た場合、こう正工程は完了する。
【0177】
核酸検出方法は、対応関係により核酸濃度の推定値を提供するよう改良されることができる。
【0178】
核酸濃度が未知の分析される溶液について測定された強度は、対応関係の入口値を構成する。対応関係により、この入口値を核酸濃度である出口値と関連付けることが可能になる。この濃度は、分析される溶液中の核酸濃度の推定値を構成する。
【0179】
上述の検出方法は特に、標的核酸が病原体の核酸断片、例えばコロナウイルスをコードするRNA核酸断片である場合に実施することができる。このような方法は、緊急時の生物学の迅速診断の分野で有用であってもよい。記載された方法では、これらの断片を痕跡レベルで検出することが可能になり、金電極の使用に基づく電気化学的技術を使用しても不可能である。
【0180】
更に、記載された方法では、PCR技術、-ポリメラーゼ連鎖反応-これは、RNAからDNAへの逆転写-RT-、およびDNA鎖の増幅を含んでなり、RNA断片を検出可能な閾値にする、技術を用いることなく定量的および絶対測定を得ることが可能である。
【配列表】
【国際調査報告】